グリモアベースはその一角。
青灰色のコートにファーハットがトレードマークの猟兵、リリィ・リリウムは白い呼気を漏らす。
「ふう、冷えるな。故郷を思い出すよ。まあそいつはそうと、新年を迎えたばかりで悪いんだがね、お仕事の話だ」
シニカルな言い回しをするものの、リリィの雰囲気はいつも以来の話をするときよりもいくらか穏やかである。
「まあ、お仕事と言っても、荒事にはならない。オブリビオンと戦うものでないから、さしあたり直接的に人命に関わるという訳でもない。
だから、化物退治を期待しているなら、その血の気を別の情熱に回してもらう事になる。
……あまり回りくどい話をしても仕方ないな。詳しく話そうか」
自身でも冗長と感じたのか、自嘲気味に笑うと、説明をし始める。
今回の舞台は、サムライエンパイアの雪深い田舎だという。
米所で知られるその村では、新年を祝う行事として村はずれの社でささやかなお祭りをするようだ。
ところが、ここ数日で例年に見ない降雪を記録した村には、社までの道が閉ざされるほどの雪が積もった。
村人総出で雪かきに出るも、なかなか雪が減らないらしく、このままではお祭りに間に合わないとの話である。
「まあ、ここまで話せば、何をしてほしいかってのも、わかると思う。雪かきの手伝いだ。
こらこら、そんな嫌な顔をするんじゃない。異世界くんだりまで雪かきをしに行くのがしんどいのは解るよ。私も一応、雪国出身だからな。だが、報奨もあるんだよ」
雪国の人間にとって、雪かきは死活問題じゃないのか?
そんな声はひとまず置いておいて、リリィは話を続ける。
「そこは有数の米所という話をしたな。雪かきの参加者にはもれなく、うまい甘酒が振舞われるそうだ。まあ、それだけでは労力に見合わないとは思うが……まぁなんだ。片田舎での初詣というのも、いいものかもしれないぞ」
雪国の過酷さ、冬を楽しむというには少しばかり労働力に傾いている気がするが、冷え切った体に温かい甘酒は至上のものとなるに違いない!
最後に注意事項として、雪かきのノルマは特にないという事。そして、道具は支給するが、特にそれに囚われる必要は無く、手段は問わないという事。
ただし、多少ならば問題ないが、周辺を著しく破壊する行為は控えたほうがよさそうである。
また、猟兵にわざわざ言う事でもないが、この件において自然災害や滑落事故などの二次被害は起こさないようお願いする。
「田舎の人間は、何かと排他的だというが、この村の連中は割と開放的だ。できれば力になってやってほしい。
ああ、それから、今年もいい年になる事を願うよ」
みろりじ
どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
新年、サムライエンパイアの冬を楽しむ依頼という事で、急遽作ってみました。難易度が低く、貰える経験値も多くはないですが、交流や初詣のついでに利用してみてはいかがでしょうか。
……ほぼ雪かきじゃないのこれ? とか言われると、そうだよ。(正直)としか言えないのですが。
普通の遊びには飽きた。仕事をさせろ。甘酒が飲みたいんや。というちょっと変わったお方向けのお話になるのではないでしょうか。
プレイング受付期間などは特に設けておりませんので、貰った先からお返しするという感じになると思います。
皆さんと一緒に楽しいリプレイをつくっていきましょう。
第1章 日常
『サムライエンパイアの冬を楽しもう』
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POW : 体力の限りを尽くし、力いっぱい、サムライエンパイアの冬を楽しむ
SPD : 遊びに参加したり、料理や作品を作ったり、クリエイティブに冬を楽しむ
WIZ : 恋人や友達と一緒に、サムライエンパイアの冬を幸せに過ごす
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ポノ・エトランゼ
甘酒
すっごく気になるわ、お酒っていう文字だけど、お酒じゃないの?
美味しい甘酒?のために、雪かき、頑張るわ
とはいえ、雪かきのやり方を知らないから住人の方に色々教えてもらいたいわ
雪庇で屋根の雪を落として、雪の落ちる場所も注意しなきゃね
大きなスコップで雪かき――け、結構重労働ね、これ……!
ものすごーく疲れてきたら、ギブアップして、UCを使ってみる
雪に強い植物……『ザゼンソウ』をたくさん生やしてみるわね
深い雪に埋もれていても、まあ大丈夫でしょう
呼吸速度を倍増させて、溶けても問題の無いところの雪を溶かして助力出来たらと
初詣のやり方を教わって、甘酒をいただくわ
どんな飲み物なのかしら、わくわく
アドリブ歓迎
天気は快晴。昨夜までの激しい降雪が嘘のように雲一つ無い青白い朝の空気は、人工物の少ない片田舎も手伝って、とても澄んでいるように感じた。
森の民とも言われることもあるエルフの一族出身であるポノ・エトランゼ(エルフのアーチャー・f00385)も、自然の息吹を感じる空気は懐かしくすらあった。
ただ、踏み込めば沈み込むほどに積もり積もった一面の銀世界は、知識としては知っていても、あまり馴染みのある光景ではなかった。
「ふぅ~……息が白い。でも日差しはポカポカしてるな」
グリモアベースで支給されたスコップを担いで意気揚々と歩くのは、よく踏み固められた道沿いだ。
山奥に社を構える米所という話だけあって、少し山道を歩けば開けた窪地と文明の煙が上がる家々が目に入った。
色々と目移りはしたものの、やがて山間に差し掛かろうというところで大きな焚火を囲う村人の集団を発見し、ポノは息を弾ませて声をかけた。
「こんにちはー! 甘酒……じゃなかった、雪かきのお手伝いに来たわ!」
元気のいい年若い少女の黄色い声に、村人たちはぎょっとした顔を向けたものの、その装いを見るとどこか納得したようにほーうと物珍しいものを見る目を向けてくる。
「ああ、話に聞いとった猟兵さんちゅう人たちかねぇ。こらあ、めんこいお嬢さんが来たもんじゃのう」
奇異の視線を向ける中で、親しげな声を向けるのは、ちっこいお婆さんだった。
老婆とはいえ、背筋はピンとしていて、柔和な声色とは裏腹にきびきびとした印象だ。
聞けば、その老婆は村長に嫁いだ人で、社で行う祭の祭司のような役割を担うらしい。
「じゃあ司祭様なのね。敬語を使うべきかしら」
「ほほ、そんなもんと違うよ。ただのババでええ。それで、お手伝いっちゅうことは、雪かきの事じゃのう。まま、ついてきなされ」
手慣れた様子で木のスコップのようなものを手に取ると、老婆は肩を揺らして笑いながらポノを現場へと案内する。
え、けっこう偉い人が直々に案内してくれるのか。と多少面食らったものの、なんとなく親しみやすい老婆に誘われるままついて行くことに。
「まあ、毎年お参り祭をせんでもええ気もするけども……みんな楽しみにしちょるし、やっぱ、これが無いと一年が始まった気がせんからのう」
「わかる気がするわ。そういう文化って、やっぱりどこにでもあるものね」
ほのぼのとしたお話に付き合いながら、しばらく歩いて辿り着いたのは、
山道を切り開いて、荷車が通れる程度には足場も踏み固めて整備したという……そんな形跡がよくわからなくなる程度には雪に埋もれた場所だった。
「うわぁ、すごいわね。何処まで道だか、よくわからないわ」
「んだなぁ、村のもんである程度はやっておいたんだども、まあ、ジジババどもじゃこれが関の山ちゅうことじゃの」
入口のほんの数メートル程度が、ようやく綺麗に片づけてある程度の努力の痕跡には、涙を誘うものがある。
戦続きだったサムライエンパイアである。過疎地ともなれば、若者は戦の為に引き抜かれ、戻って来る者は稀であるという。
しかし、大きな戦も終わりを迎え、今年の厳しい冬が抜けたら、幾らか戻ってくるかもしれない。
「じゃあ、尚更お手伝いしなきゃね」
「ところで、立派な道具さ持ってきてるけども、雪かきやったことあるんかの?」
「ないわ! よければ、コツを教えてもらえるかしら?」
「うーん、コツっちゅうほどのもんでもないが……まぁ、みちょりなさい」
小首を傾げつつも、手慣れた様子でサクッと新雪に切れ目を差し込んでから、救い上げるようにスコップを入れ、柔らかい雪を塊のまま掘り上げる動作から、そのまま放り捨てるように振り抜く一連の動作は、流石に雪国の人間というべきか、堂に入っていた。
「なるほど……こう、かしら?」
「ほほ、その調子じゃ。さすが、若い子は覚えがええのう」
「教えの賜物だわ。そーれ、っと!」
老婆をはじめ、他の村人たちの動きに倣うようにしてスコップを使って雪かきを始めるポノは、元気よく掘りぬいた雪を放り投げる。
周囲の空気は雪に囲まれているだけあって寒気を覚えるものがあったが、黙々と作業を続ける村人を追いかけるようにして作業を続けるうち、その吐息には熱が混じるようになる。
しばらくすると、スコップを握るポノの細腕はぷるぷると震え始めていた。
いくらか作業は進んだような気もするが、先が見えないというのは、思った以上に気が滅入る。
戦うための力、鍛錬によって筋力は人一倍あると思っていたが、これは何か違う筋肉を使わされている気がする。
「け、結構重労働ね、これ……!」
ここにきて初めての弱音を漏らし、曲げ続けた腰を伸ばすついでにスコップを傍らに突き刺して、周囲を見回す。
そういえばお婆さんの姿がない。
来たときはまだ朝だったと思っていたが、もう日がずいぶん高い。
お婆さんもお婆さんで色々とやる事があるのだろう。そういえば、他の村人も交代で雪かきをしているようだった。
額に浮かんだ汗を拭うと、さてもう一仕事とばかりにスコップのハンドルに手をかけたところ、
「おやまあ、随分と頑張ったのう。ちょいと休憩にせんか?」
「あ、オババさん」
なにか竹の水筒と包みを持って現れた老婆に声をかけられて、ポノは少しだけ慌てる。サボっているように見られただろうか。
自分ではそれなりに頑張ったつもりだったが、やはり女手一つではたかが知れていると思われたのではないか……。
というのは、杞憂だった。
「ほほほ、鼻も耳も赤くして、寒かったろう。さあおいで」
「? わかった、ちょっとまってね」
柔和な笑みを向ける老婆に手招きされるのを小首を傾げて疑問に思うものの、自分だけ休憩するわけにもいかないと思い、ポノは先の山道にちょっとした仕掛けを施しておく。
手招きされるまま再び老婆について行くと、すぐ近くで火がたかれていて、村人が休憩しているのが見えた。
こんな近くにあったろうか。と思ったが、ポノたちの頑張りによってある程度掘り進めたため、休憩地点として焚火を用意したらしかった。
それに気づかないほど作業に没頭していたらしい。
「疲れるわけだわぁ……」
「お疲れさん。ささ、うちの甘酒をお上がり。温まるからの」
焚火の近くに用意された丸木に脱力した様子で腰かけるポノに、老婆が竹筒を手渡す。
切り出した青竹を水筒に加工したそれは、熱い何かが入っているのだろう、手荷物と寒気に痺れた手にじわりと温かかった。
「甘酒! すっごく気になってたの。お酒っていう文字だけど、お酒じゃないの?」
「うーん、どぶろくとはちょっと違うのう。子供でも平気じゃよ」
「そうなんだ……あ、甘い匂い」
木のキャップを外すと、中から湯気に交じって甘みのあるお米の香りが立ち上がった。
甘酒は、酒かすを使うものと、米麹を使うものとで分かれるが、米麹と炊いたお米を水に溶いて遠火で長時間置いたものは、アルコール分が少なく、アレルギーでもない限りは酔っぱらう事はないらしい。
竹筒に入っているのは熱湯で割ったもののようで、口に含むとずいぶん熱く感じたものの、甘く柔らかい口当たりが優しく感じるものだった。
はちみつを入れたジンジャーティーのようなものだろうか。
似ているけれど、違う部分も多い。この世界ならではの素朴な味わいだった。
「うん、これは温まるかも……甘い」
「気に入ったかい?」
「けっこう好きかも! お参りしたら、もう一杯もらいたいわ」
「ほほ、なんぼでも御馳走してあげるよ」
思わず頬がほころぶポノの様子に、老婆も朗らかな顔をせずにはいられないようだ。
そうと決まれば、と休憩もそこそこに立ち上がると、ポノはスコップを担いで現場に戻る。
「あ、もう咲いてる」
「おや、ザゼンソウだね。ちょっと季節には早い筈じゃけど……」
山道に沿うように、積もった雪がくぼんで、その中央に卵を半分に割ったような形状の濃い赤紫の鼻が顔を出していた。
休憩に入る前に、ポノがユーベルコード【エルフ・プラント】で植え付けておいたザゼンソウが顔を出していたのだ。
この植物は、芽吹く際にその赤紫のつぼみから発熱し、雪を溶かすという。
等間隔に生えた、多くのザゼンソウは、社に続く山道の灯篭のようにその道を示しているかのようだった。
もう少しいっぱい咲かせてもよかったのだが、後片付けの事を考えると、雪かきよりも面倒な気がしたので、自然な景観を壊さぬ程度にとどめておいたのだが、この調子ではもう少し人力に頼る事となりそうだ。
「まあでも、道はできたわ。お参りに向けて、もうひと頑張り!」
「ほほ、元気な娘じゃの。ところで、お参りの作法はわかるのかい?」
「あ、よければ教えてほしいわ。時間はたっぷりあるもの」
「そうじゃのう。お参りには決まり事があって……」
老婆とほのぼのとした会話を重ねながら、ポノは甘酒でいくらか温まった体でスコップを振るうのだった。
大成功
🔵🔵🔵
館野・敬輔
ダークセイヴァー出身だけど、サムライエンパイアには親近感があるんだ
僕の故郷の隠れ里、文化はサムライエンパイア寄りだったからな
しかしこれは見事に…積もっているな
なかなか大変そうだ、手伝うよ
力仕事は慣れているけど、もう少し効率的に雪かきができる道具があればいいか?
【レプリカクラフトツール】で雪かき用のスコップや運搬用のそりをいくつか作成
…多少不格好でも許してほしいけど
作った道具は必要なら他の人にも貸すよ
後は社までの通路を優先して雪かき
怪力を発揮して黙々とかいて
少しでも村人が楽をできるように
終わった後の甘酒は有難くいただくよ
美味しいお米で作った甘酒、絶品だろうな
※アドリブ、他者との勝手な絡み歓迎
日も高くなる時刻、里の人間を多数動員しているといってもそれほどの数を用意できているわけではなく、それでも交代で雪かきを続け、実質的には休まずに作業が進んでいる。
のだが、働き盛りの若者は国を離れ、里に残るのは小さな子供と老人ばかりという現状では、どうしても作業に遅れが出てくる。
「ふう、ここが件の里か……なんだか、懐かしい気分になる」
そんな雪かき現場を見上げる黒い鎧の青年が、白い吐息と共に目を細めた。
剣呑な過去を思わせる具足にはやや不釣り合いにも見える優しげな面差しは、どこかうっすらと故郷に印象の重なる片田舎の情景に思いを馳せているかのようだった。
館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)はダークセイヴァーの出自ではあるが、彼の故郷の文化圏は、サムライエンパイアに似たところがあるようだ。
「しかしこれは……見事に積もっているな」
肌に感じる冷気は、雪国特有の厳しいものだが、陽があるためかそれほど厳しいものには感じない。とはいえ、積雪が溶けるのを待つには、雪の方が多すぎる。
「これはなかなか、大変そうだ。ご老体、僕も手伝おう」
襟元を僅かに緩め、敬輔は雪かき作業に興じる老人たちに声をかける。
「おお、あんた様は……話に聞いとる猟兵さんかい!」
「また若いのを寄越してくだすったのう!」
「はは、頑張るよ」
いかつい鎧姿にも気にすることなく、笑顔で迎えてくれる年老いた男衆に柔和な笑顔で返すと、敬輔はさっそく手伝いを始めることにする。
が、その手に雪かきの道具はない。
「はて、道具はあるんかい? こっちの品でよけりゃ、使うかい?」
「いやいや、必要なものは今から用意する。ご心配なく」
雪かき用の木製のスコップのようなものと、竹で編んだどじょう掬いのような籠を融通しようと気を回す老人たちをやんわりと制して、敬輔は自身のユーベルコードで雪かき用の道具を用意しようと試みる。
【レプリカクラフトツール】。それは複製品を作り出す能力だが、調理器具や工具類に関しては、その精度は高い。
しかしさて、用意するもののモデルはどうするか。
ミリタリー知識にも造詣のある敬輔による工具の認識は広い。それこそ、塹壕掘りに適した携行用多目的軍用シャベルから、極寒の地で用いられるような塩化カルシウム散布や除雪に用いられる広口シャベル……いろいろ思いつくが、それだけではダメだろう。場所によっては、掘り返した雪を運搬しておく必要もある。それようのそりも用意しよう。
ひとまず自分用に広口の除雪スコップとそりを作り出すと、敬輔は老人たちを押しのけるようにして作業を開始する。
一見すれば優男にも見える敬輔だが、人並外れた怪力を有する彼にとって、それ自身がそりにもなりそうな除雪スコップはたいした重量ではない。
馬車馬の様に猛然と雪を掻き進め、そりに積み込むと、
「すまないが、僕がどんどん掻きだすから、そりの雪を運んでほしい」
「ほおお、こりゃあ働きもんじゃあ! ほいほい、運ぶほうはジジイどもに任せておけい」
テンポよく掘り進んでいく敬輔の働きぶりに驚嘆する老人たちは、喜んで敬輔の積み上げる雪の詰まったそりの紐を引いていく。
アルミ製の軽合金で作られた頑丈で軽いそりは、大量の雪を乗せて引いても、ほとんどその重さを感じさせない。
少なくとも雪を掻く作業よりかはずいぶん楽であろう。敬輔なりの気遣いである。
そうして老人数人分の作業量を一手に担った敬輔は、黙々と作業を続ける。
道を整備するよりかは、社までの道を最優先で掘る方針に切り替えたためか、進行はとても速い。
この分ではおそらく、社の方も激しい積雪であろう。お祭りをするには、道を拓くだけでなく、社の整備も必要になる筈だ。
そうなったら、先に道を作っておいて、山道を広げるのと社の雪下ろしも同時に行った方が効率がいいだろう。
村人の方法も悪くはないのだが、時間短縮を思えば効率性を重視せざるを得ない。
とはいえ、だ。
「ふう……これは、重労働だ」
故郷でも積雪が無いではない。だが、それにしても、凄まじい量だ。
山道にはザゼンソウで溶けた道があるため迷うことは無いものの、陽を浴びて溶けかかったみぞれの様な雪は、本来より重く感じる。
いや、それだけ疲労してきたという事なのか。
尚更、老人たちだけには任せておけないな。
湯気の様な汗が滲む感覚を覚える頃には、雪の冠をたっぷりと被った社が視界に入る程度には掘り進んでいた。
それを見上げるようにして傍らにスコップを突き立てると、主に両腕と腰が随分と重くなっていた。
「おお、にいさん。随分進んだようだのう。社の様子も、まぁ無事なようじゃ」
「あれはあれで、また雪かきというか、雪下ろしが必要そうだけど」
「それもおいおいやらんとのう。まあ、ひとまずはここいらで休憩にしとかんか?」
作業を止めるのを待っていたらしい老人に声をかけられて、敬輔は改めて自分が掘り進んできた道を振り返る。
人一人が通れる程度ではあるが、道としては十分だろう。社の手前まで掘り進めれば、道の拡張と社の整備とで作業も分担できて、効率も上がる事だろう。
「……わかった。ちょうど、疲れてきたところさ」
「そうじゃろうとも。ようやってくれたわい」
敬輔としてはまだまだ限界という訳ではないのだが、老人の厚意を無下にするのも悪いので、休憩に移る事にした。
そうと決まれば老人の動きは素早く、慣れた様子で火を起こすと、その火にかざすようにして青竹を突き刺す。
火打石とほぐして乾かした木の皮。なるほど、観察する限り老人は山での生活に慣れているらしい。
突き刺した青竹はなんだろう。
迂闊に竹を火にくべるのは、宙空部分の空気が膨張して破裂する危険があるのだが、わざわざ地面に突き刺す為に尖らせた竹には、なにか仕掛けがあるらしい。
「ご老体、これは?」
「ふふふ、これは、寒い山中でのほんの楽しみさ」
覗き込めば、空気が溜まらないよう節から切り詰められている青竹の中には白く濁る液体がぐつぐつと煮立ち始めていた。
この甘い香りは、なるほど甘酒だ。
甘酒は本来、発酵を促すため60℃前後で長時間温めるもので、煮立たせると麹菌が死ぬのだが、こういうのもまぁ、なんというか、ワイルドだ。
ちなみに、青竹は炊飯にも使える。甘酒を温めるのは応用なのだろう。
「おお、もういいようじゃのう。田舎の粗野な贅沢じゃが、始めるとしよう。ほれ、あんたの分じゃよ」
「ああ、ありがとう……このまま飲むのか」
火にあぶられてわずかに変色し始めた竹筒を抜き取った老人は、その一方を敬輔に手渡してきた。
まさか温めた青竹がそのままカップになるとは思わなかったが、それでも気にせず飲み始める老人に倣い、敬輔も甘酒を頂くことにする。
「うん……甘いな」
「温まるじゃろう」
「疲れたところには、たまらないな。生き返る」
「ほっほっほ、じゃろうて」
煮詰めた甘酒は、随分甘く感じたが、流石に米所というだけあって、米の味を強く感じる。
それに、疲労した身体に糖分はとても助かる。
火にあたっていると、そういえば随分、身体が冷えていたらしいことにも気付いた。
動いている分には問題ないだろうが、体の表面は痺れるような感覚の遠さがある。
やはり休憩は必要だったかもしれないな。
一人納得し、男二人、特に会話もないながら充実した時間を過ごすと、体をほぐすように肩を回して、敬輔は立ち上がる。
「もういいのか? まったく、よく働くもんじゃな」
「うまい甘酒も貰ったからなぁ。その分は頑張らなきゃな」
変わらずの柔和な笑顔を向けて、敬輔はスコップを担いで作業を再開する。
大成功
🔵🔵🔵
フィラメント・レイヴァス
【ラボ】で参加
お正月っぽいこと…と思って来てみたけど……なるほどね、雪かきかあ 美少女的にちょーっと重労働…
(高笑いするシェスカの愉しそうな様子を見て)
わたしも技術者だからね!所長ちゃんの気持ちはよ~く分かるよ
自分で作ったものが動いて活躍するのを見るのは最高なの
ついつい要らないギミック付けちゃうくらい凝る!
……ああー……止まった!!何となくそんな気してた ん、まあ…ガルディエがいかにも頼もしそうだから何とかなるなる…! ふあ~、甘酒美味しい~
まあまあ、雪かきマシン(シェスカ作)はよく頑張ったよ
わたし的には、もっとかっこよく改造した方が素敵だけど ガルディエは色々と大活躍だったね!お疲れ様~
ガルディエ・ワールレイド
【ラボ】で参加
「俺は極寒の辺境で育った人間でな。雪かきの類は慣れている。任せな」
《怪力》を活かして効率良く雪かきをする為に、最初に【騎士の覚醒】を使用しておく。
その後は、過去の経験も活かし特に大変そうな場所を担当するぜ。
途中でシェスカの要請に従って機械の修理(という名の殴打)を行う。
(※ガルディエはただでさえ機械音痴なのに、UCの解除もしておらず……)
「了解だ。こんな感じか……あっ」
最後は甘酒を貰って休憩だ。
他意は無いんだが……何も他意は無いんだが、まるで亡くなった戦友に手向けるかのように、シェスカ作の雪かきマシンの前にも一杯の甘酒を供えるぜ。……尊い犠牲……じゃなくて素晴らしい活躍だったな。
秋吉・シェスカ
【ラボ】
アドリブ歓迎
「いい?科学って言うのは人々の生活をより豊かにする為にあるの。
手洗いしなくて済むように洗濯機があるし、
団扇で扇ぎ続ける事のないよう扇風機があるわけ」
何が言いたいかっていうと、
私自作の雪かきマシンが活躍する場面ってことね!あははは!
高笑いしながらリモコンで遠隔操作、除雪
あら?止まった…
ガルディエ、ちょっと機体の側面叩いてくれる?
え、ちょ…
ちょっとー!!?
ふう、知的労働の後の甘酒は美味しい
未成年でも飲めるのがありがたいわね
お菓子も欲しくなってくるけど…
折角だし、お祭りも見て行きましょうか
自分達の貢献の成果を確認するのも大事なことだわ
(動かない雪かきマシンは横目に、そっとスルー
八十神・詩歌
【ラボ】で参加
「ほーほーなるほどぉ、それなら動かなくても雪かき出来る手段もあるんだねぇ」
年明け早々重労働なんて、例えヤドリガミでもあの世行きだよぅ…(ぐてー)
うん、甘酒につられて来てみたけど考えただけでめんどくさい
ここは詩歌も科学(?)の力で任務に貢献するとしようかー
おひいさま(からくり)、後はよろしくなんだよぅ
(※傍から見るとサボってるようにしか見えないが、糸を繋いだ指先だけは忙しなく動いている)
あれガルディエ、さっきのびっくりパワーで叩いたらいくら頑丈でも壊れ(どかん)
…見てない、詩歌は何も見てない…。
あー、労働の後の一杯は染みるねぇ
見た目がこんなだから、合法的に飲める甘酒はいい文明だよぅ
ティーシャ・アノーヴン
【ラボ】の皆さんと。
まあまあ、雪掻きと言うのですか?
私、雪がこんなに積もっているのは初めて見ました。
少しだけ、普通にやってみますね。
ええっと、スコップをこうして・・・?
よいしょ・・・!
あらあら、これは確かに重労働ですわね。
これは皆様、お困りになるのも頷けます。
皆さんを見てみると、なるほどなーですわ。工夫を凝らして効率良くなさっておいでですね。
でしたら、私も。
わにさんを呼び出して、食べて貰いましょう。
冷たくて美味しい・・・か、どうかは解りませんけれども。
甘酒と言うのは初めて飲みます。
お酒ではないのですか?
お酒だけどお酒ではない、不思議な飲み物ですわね。
ふふ、皆さん、お疲れ様でした。
なんでこんな集まっちゃったんだ。
誰かの妄言が聞こえた様な気がした。あくまでも気がしただけであるが、つまりはそれくらいの静けさを覚えるほどの快晴だった。
雪の晴れた次の日というのは、異様に静かに感じる。
まあ、答えを言ってしまえば、降雪するほどの冷え込みの中で能動的になる動物が少ないというのが一番の理由であるだろう。
全ての動植物が動きを止める季節。そんな中でも越冬する手段として長期の休眠を必要としない人間だけが、その季節の静けさを堪能できるというわけである。
それはそれとして、静けさの中で静けさ以外を担うとすれば、それは即ち人間ないし、それに類する知性を有した存在という事になるのだろう。
「さっむ……なんなのよもー、インドアなんだから、こんな表に出さなくったっていいじゃないの……」
「そうか? 俺ぁ、なんだか懐かしい気分になるけどなぁ」
「お正月っぽいこと……と思って来てみたけど……なるほどね、雪かきかあ」
新たに雪かきの手伝いにやってきた5人の猟兵たちは、同じ旅団に所属する仲間同士、連れ立っての参加のようだったが、その誰もがやる気を見せているという訳ではないらしい。
秋吉・シェスカ(バビロンを探して・f09634)が身を刺すような冷気に羽織った白衣を抱きしめるも、元より防寒には適していない上着ではあまり効果が無さそうだ。
ガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)は、そんなシェスカの来て早々の悪態にも気にせず、寒気をむしろ堪能するかのように大きく深呼吸する。肉体労働の意気込みは十分そうだ。
フィラメント・レイヴァス(シュピネンゲヴェーベ・f09645)は、そんなやる気満々のガルディエの意気を組んで、自分は遠慮がちに、というか、あんまり重労働に意欲的な感じではない。やばいぞ、美味しいところだけもっていく腹積もりだぞ。
「うえー、すごい積もってるよぅ。年明け早々重労働なんて、例えヤドリガミでもあの世行きだよぅ……」
「まぁまぁ……私、雪がこんなに積もっているのは初めて見ました」
ティーシャ・アノーヴン(シルバーティアラ・f02332)は自ら掟を破って故郷の森から出るまで、外の世界を知ることが無かった。それ故に一面の銀世界を見る機会も無かったようである。
そしてすらっとしたティーシャにしなだれかかるようにして、明らかに寒いの嫌ですアピールしている、ちっこい少女の姿をしたヤドリガミこと八十神・詩歌(月に叢雲・f00590)は、そもそも寒いのとか関係なく動きたくなさそうである。
皆一様に、雪に対する感想はそれなりに寒いという感じなので、のんびりする道理もない。
思い出作りにしては少し過酷な依頼であったろうか。
いやいや、何事も体験。一部の仲間なんて、こんな機会でもなきゃ働かないかもしれないのだ。
ここでこそ、ラボのラボと名のついたるその所以を示さねば。
寒さに負けじと、ぐっと拳を握ると、シェスカは雪かきの現場に到着するなり、こんな日も来ようかと、数日のうちに突貫工事で制作したリモコンで動く除雪マシンを引っ張り出す。
個人で持ち運べるサイズと小回りなどを加味して、手押しの耕運機を参考に最大限に小型化した自慢の作である。あとは初起動を迎えるだけだ。
「いい? 科学って言うのは人々の生活をより豊かにする為にあるの。
手洗いしなくて済むように洗濯機があるし、団扇で扇ぎ続ける事のないよう扇風機があるわけ」
ひとまず寒いのを我慢しながら、ぴっと指を立てちょっぴり婉曲的な演説を始めるシェスカを、フィラメントをはじめラボのメンバーは興味深そうに聞き入る。
とはいえ、あんまり熱く語ったところで体温が上がるわけではないため、今日のところは簡潔にまとめておくことにする。
「何が言いたいかっていうと、私自作の雪かきマシンが活躍する場面ってことね!」
そうして色々じらすことも今回は我慢して、起動エンジンをかける。のだが、
「あれ、かかんないな……」
スターターをいくら回しても、空回りするような音が聞こえるだけで、いっこうにエンジンのかかる兆しが無い。
どうやらエンジンの暖気が足りていないらしく、うまく動かないらしい。雪国あるあるである。
「あらあら、困ったわねー」
「うーん、予算ケチってガスタービンなんかにしたのがまずかったわね。それに、小型化したのも、完全に裏目に出た。携行できるように小さくしたら、エンジンが冷えやすくなっちゃったのかも……」
初起動に失敗してご機嫌ナナメな除雪マシンを前に、ぶつぶつと考察をし始めるシェスカとそれを楽し気に眺めるフィラメント。
なんだかんだで実地試験を行いながら試行錯誤するのが楽しいのか、二人とも寒さを忘れてあれこれ弄り始めるのを傍目に、
「うん、甘酒につられて来てみたけど考えただけでめんどくさい」
冷え込む肩をさすりながら、なかなか仕事が始まらないのを離れたところから眺める詩歌は、自分の出番が来ないことを祈りながら身を縮める。ただ、それでも、準備だけはしておこうと、手の内に絡繰り糸をはめ込んでおくのだが。
「まったく、しょうがねぇ……まあ、こっちはこっちで原始的な方法をとるかね」
そこで声を上げたのは、唯一の男手ガルディエである。
グリモアベースで借り受けたスコップを地面に突き立てると、目の前に積もる雪を見やる。
「ガルディエさんは、ご経験が?」
「ああ、俺は極寒の辺境で育った人間でな。雪かきの類は慣れている。任せな」
同じようによたよたとスコップを持ってくるティーシャに力強く答えると、ガルディエは躊躇なくユーベルコードを使用する。
【騎士の覚醒】によって身体能力を引き上げたガルディエにとって、雪かきなど朝飯前である。
「うおおっ!」
素早く、正確に、無駄なく、踏みしめれば容易に沈む雪を、力任せに掘り起こしては、山道の脇道に放っていく。放っていく。放って……あれ、他にメンバーは働いてないのでは?
「なるほど……では、私も少しだけ普通にやってみますね」
猛然と雪を彫り進めていくガルディエに倣うようにして、ティーシャもスコップを振るうも、絶大な身体能力で力任せに肉体を行使するガルディエの動きは、一般的なエルフのクレリックには、なかなか過酷なようで、
「ええと、スコップを、こうして……よいしょ! ……ふう、ふう……なるほど、これは重労働ですね……」
数度、雪かきの動作を真似るようにして掘り進んだところで、その柔和な顔はすぐに上気し、珠の様な汗が浮かぶ。
あまりにも誇張表現かもしれないが、なるほど確かにこれならば住民が困るのもうなずける。
皆には悪いが、少しだけ休憩させてもらおう。
ティーシャがそんな風に罪の意識をほんのり感じている頃、
「かかったー! かかったぞー!」
「うーん、やったねー」
シェスカの除雪マシンもようやく機嫌を取り戻したらしく、侍世界には似つかわしくないようなドルンドルンというエンジンの咳払いが鳴り響いた。
「お、ようやくかよ。別に俺一人でもやれんことはないけどな」
「はあ? ひょっとしてケンカを売っているわけ? そんな安い挑発に乗るわけ……メカニック舐めんじゃないわよ、この機械音痴」
「ええ……ちなみに言うと、それが動かなかったのは俺のせいじゃないからな?」
「そんなことわかってる! いい、見てなさいよ。除雪開始!」
なんだか乗せられたように不必要に声を荒げつつ、シェスカはさっそく除雪マシンを前進させていく。
中型の成犬ほどの大きさもある除雪マシンは、そのサイズに見合わないハイパワーでもりもりと雪を刈り取っては上部の排雪管から山道脇へと雪を送りながら進んでいく。それこそ、肉体を強化したガルディエのペースに迫る勢いだ。
「うお、やるな、こいつ!」
「どうよ、このパワー! あはははは!」
雪国出身のガルディエをして驚愕させる性能を見せる除雪マシンの躍進に、シェスカも思わずテンションが上がって笑い声が上がる。
そんな超楽しそうなシェスカを、若干恍惚としたような微笑みを浮かべて嬉しそうにフィラメントは見つめる。
「わたしも技術者だからね! 所長ちゃんの気持ちはよ~く分かるよ。
自分で作ったものが動いて活躍するのを見るのは最高なの。
ついつい要らないギミック付けちゃうくらい凝る!」
自分の気に入ったものをついつい贔屓してしまいたくなるフィラメントは、今もってこの場では喋る以外にはなんにもしていない。この人、何しに来たの……?
「くっ……これが、文明の利器の力だっていうのか……!」
「あははは、恐れるがいいわ。科学の力を!」
「ほーほーなるほどぉ、それなら動かなくても雪かき出来るんだねぇ……にしても、二人とも楽しそうだよぅ」
猛然と独力で雪かきを行うガルディエと、それに追随するシェスカのマシン。両社のデッドヒートをやや後ろの方で、なんだか生暖かい視線で見守る詩歌と、休憩から復帰したティーシャ。
「なるほどなーですね。皆さん、工夫を凝らして効率良くなさっておいでですね」
口元に手を当て、なにやら感心した様な得心した様な、普段から柔和な表情を崩さないだけにその真意を汲み取りにくいティーシャは、しかし、何かを思いついたらしい。
そうして、5人でわいわいと騒がしくしながらも、雪かきは順調に進み、社までの道はあともう少しという辺りまで開拓することに成功した。
さああと一頑張り、といったところであった。
「うん? どうした、相棒!?」
最初に異変に気付いたのは、もっとも近くで作業をしていたガルディエだった。
熾烈を極める雪かきデッドヒートの中、共闘意識のようなものが芽生えたガルディエは、しかし唐突に動きを止めた除雪マシンの不調の正体が掴めない。
「あら? 止まった?」
「ああー……なんとなくそんな気はしてた。ん、まあ……ガルディエがいかにも頼もしそうだから何とかなるなる……! ふあ~、甘酒美味しい~」
雪が飛ぶので離れていたシェスカとフィラメントも除雪マシンの異常を察知する。
どうでもいいが、早くも一人既におっぱじめているが、それはいいのだろうか。
「どうするんだ?」
「ガルディエ、ちょっと機体の側面を叩いてみてくれる?」
「叩けばいいのか? 了解だ」
もしかしたらまたエンジンがぐずっているのかもしれない。外から刺激を加えてシリンダーの稼働を促してやればまた動き出すかもしれない。
叩けば治るというのは、割と理にかなった行為なのである。まあ、やらないほうが良いのは、やらないほうが良いのだが。
しかし、なにか嫌な予感がしたのか、大事なことを見落としているのに気付いたらしい詩歌が思わず口を挟もうとする。
「……こんな感じか」
「え、あれガルディエ、さっきのびっくりパワーで叩いたらいくら頑丈でも壊れ」
詩歌が言い終えるよりも先に、除雪マシンにガルディエの拳が打ち込まれる。
小柄ながら数トンの雪の重量にも耐え得る強度を確保したという除雪マシンだったが、ガルディエは現在、戦闘用のユーベルコードで身体能力が跳ね上がっている。
思ったより体重の乗ったパンチは、除雪マシンの装甲をひしゃげさせ、内部機構を著しく破損させていた。
その結果、ぼんっという鈍い爆発音と共に内燃機関のどこかから黒煙が漏れて噴き上がった。
「え、ちょ……ちょっとー!!?」
「あっ……相棒……!」
完全御釈迦を示すかのような黒煙を見上げ、シェスカは素っ頓狂な悲鳴を上げ、ガルディエはやっちまったという顔でがっくりと膝を折る。
「うーん、流石に二人ばっかりに任せ過ぎたよぅ……あんまりにもあんまりだから、ここは詩歌も科学(?)の力で任務に貢献するとしようかー」
「でしたら私も」
落ち込む二人をフォローするようにして、詩歌とティーシャが、残りの雪をどうにかしようと、ついに本格的に雪かきに参戦する算段を立てたようである。
ただし、先ほどのようにただスコップを用いてではない。
「おひいさま、後はよろしくなんだよぅ」
「お出でなさい、獰猛にして気高き大鰐霊」
詩歌の操る女性型のからくり人形と、ティーシャのユーベルコードによって呼び出された巨大なワニの霊によって、先ほどよりかは幾分かペースは落ちるものの、比較的すぐに社までの雪は除去された。
途中、変温動物のワニが雪を食べ過ぎて眠りについたりというアクシデントがあったものの、これまでの猟兵の仕事と、ガルディエとシェスカの働きも手伝い、ようやく村から社までの道は拓いたことになる。
とはいえ、ようやくたどり着いた社は、まだ深く雪が積もっている。
これはこれで、また作業が必要になりそうだ。
できればお祭りも、と思っていた一同だったが、もうひと頑張りだろうか。
とはいえ、
「まあ、まずは休憩だな……皆、甘酒を貰ってきたぜ」
鉄製のやかんを手にガルディエが、一同に甘酒を振舞う。
米所謹製の米麹を原料とする甘酒を水などで割り、わずかに米の質感がのこる薬湯のようにして飲むという文化は、どちらかというと夏の文化であった。甘酒というのは夏の季語であるという。
ところが、これを茹で割って冬に頂くというのもなかなか乙なものである。
糖分を多く含む甘酒は、身体を温めるというのもあるが、それ単体で滋養が高い。
「あー、労働の後の一杯は染みるねぇ。
見た目がこんなだから、合法的に飲める甘酒はいい文明だよぅ」
甘酒を啜りながら、簡易的に焚いたかがり火に当たりながら詩歌はぐでーっと頬を緩ませる。
じつはサボっていたようにも見えていたかもしれない詩歌だったが、からくり人形を操るのはそれなりに体力を使うのである。使う、筈だ。
「ふう、知的労働の後の甘酒は美味しい。未成年でも飲めるのがありがたいわね。
お菓子も欲しくなってくるけど……」
眼鏡をほのかに曇らせつつ甘酒に舌鼓をうつシェスカだったが、その発言にはやや首を傾げる人間も少なくなかった。どうやら、頭脳労働がブドウ糖を不足としがちになるのが高じて、シェスカはなかなかの甘党のようである。
「甘酒と言うのは初めて飲みます。お酒ではないのですか?」
ティーシャがおっかなびっくりという具合に甘酒に口を付ける。
敬虔なクレリックにとって、刺激物に分類されるお酒はちょっと敬遠すべきなのかもしれないが、慣れ親しんだ穀物の風味を感じさせる味わいは、悪くなかったらしい。
ちなみに、酒かすから作る甘酒と比べ、米麹から作る甘酒は、子供でも飲める程度のアルコール分しか含まないようである。
「お酒だけどお酒ではない、不思議な飲み物ですわね。ふふ、皆さん、お疲れ様でした」
仲間と共に、甘酒の話で見聞を広げつつ、自分も仲間の労をねぎらうことも忘れず、ティーシャはほんのり頬を上気させて微笑みを浮かべる。
「まあまあ、雪かきマシンはよく頑張ったよ。
わたし的には、もっとかっこよく改造した方が素敵だけど ガルディエは色々と大活躍だったね! お疲れ様~」
最後まであっけらかんとした調子を崩さず、道化かあるいは傍観者のように振舞って、その実、裏で何かをしていた……というわけでも特になく、本当にフィラメントは一緒に楽しみに来ただけのようである。なんなんだこの人。
そして、一同があんまり見ないようにしている一角、そんな片隅に、ガルディエは腰を下ろし、甘酒を軽く掲げる。
その視線の先には、動かなくなった除雪マシンが壊れっぱなしで置かれていて、その傍らには悼むかのように甘酒が一杯供えられていた。
「さらば、戦友よ……」
甘く、疲れた身に染みる甘酒は、ほんのり苦いような風味も感じた。それは感傷だろうか。
まあ、叩いたら機械は壊れるよね。
そんな無粋な突込みはひとまず置いておいて、尊い犠牲……いや、素晴らしい活躍を見せた除雪マシンに乾杯しつつ、ラボの一同はひと時の休憩をとるのであった。
大成功
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山梨・玄信
【狐屋】で参加
ふむ、雪かきか…寺にいた頃にやったのう。
【POWを使用】
力仕事なら、アースジャイアントさんを召喚じゃ。
力を合わせて…雪をかくのはいいんじゃが、集める場所を合わせるのが難しいのう。
ここは零殿に手伝ってもらうとするか。
粗方片付いたら、月凪殿の雪下ろしも手伝うぞい。
流石にアースジャイアントさんは連れて行けないので、わしが単独で行くぞい。
雪かきが終わったら、2人がかまくらを作っている間に、汁粉でも作るぞい。もちろん、皆にも振る舞えるくらい大量にの。
アドリブ歓迎じゃ。
高柳・零
【狐屋】で参加
POW
雪かきですかあ…。
道路や駐車場の雪かきはやった事があるんですが、屋根の雪おろしはやった事が無いんですよねえ…。
雪から人々の生活を守るという想いを胸に、ゴッドハンドを発動させます。
強化された身体能力で、月凪さんが召喚したゴーレムの手伝いをして回ります。
移動は飛行して行ない、雪量が多い所の雪かき、かいた雪の運搬、誤って雪に埋まってしまったゴーレムの救助などを担当します。
月凪さんと一緒にかまくらを作った後まだ雪が残っていたら、大きなロボットの雪像を作ります。男の子の夢ですよね!
アドリブ歓迎です。
月凪・ハルマ
【狐屋】
雪かきって重労働だからなぁ。しかもこの降雪量。
俺らに手伝えって言ってくるのも無理ないわコレ
さて、それじゃ零君、玄信君。俺達も始めるとしよう
それじゃ、まずは【魔導機兵連隊】でゴーレム召喚
こういう仕事は手が多くて困る事はないからな
ゴーレム各機に村中の雪かきの指示を出してから、
俺は主に家の屋根の上の雪を降ろして回ろう
どかした雪は村人の邪魔にならない、広い場所に集める
で、どうせだからその大量の雪を有効活用しよう
具体的にはかまくらとか、村の子供たちが遊べる雪の滑り台を
ゴーレム達の手も借りつつ作成する
ああコレ?一仕事終えた後、この中でぬくぬくしながら
雪見甘酒ってのも悪くないんじゃないかと思ってさ
辺境の社へと向かう大雪かきも、残すは社および境内を残すまでとなった頃、さああと一頑張りとやってきたのは、【狐屋】の三人組。
「うーん、この積雪量。雪かきって重労働だからなぁ。俺らに手伝えって言ってくるのも無理ないわコレ」
愛用の帽子がおっこちないよう抑えつつ見事に雪の積もった社を見上げるのは月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)。グリモアベースでの要請を受けて、仲間を誘ってやってきたはいいが、思った以上の積雪に呆れてしまう。
なるほど、これは確かに猟兵向けかもしれないな。
「ふむ、寺に居た頃を思い出すのう。よくやったわい」
「自分も、道路や駐車場の雪かきはやった事あるんですが、屋根の上の雪下ろしはやったことが無いんですよねぇ……」
ハルマの呼びかけに応じて手伝いにやってきたのは、一見するとおっさん口調の子供に見えるドワーフで、実際にその通りの山梨・玄信(ドワーフの破戒僧・f06912)と、パステルカラーのテレビウム少年、高柳・零(テレビウムのパラディン・f03921)。
二人ともハルマと同じようにして積雪の凄まじい社を見上げる。雪の重さで潰れてしまわないか心配になってしまう。
雪国の屋根というのは、雪が落ちやすいよう角度がきつめに作られていたり、室内の煮炊きですぐに崩れるように作られているらしいが、人のなかなかいつかないこういった施設などは、壊れてしまわないのだろうか。
実際に形を保っているのだから、そこは問題ないのかもしれないが、流石にこの上に乗っていくのは勇気がいる。
「さて、それじゃ零君、玄信君。俺達も始めるとしよう」
細かい事はさておいて、ひとまず体を動かさないと、このままでは日が暮れてしまうし、何より動いていないと身体が冷え込みそうだ。
十代半ばとはいえ、3人の中では年長者であるハルマは二人に声をかけて、ひとまず手分けして作業することを提案する。
山道は、既にこれまでに手を貸してくれた猟兵たちの手によってきれいに整備されている。
雪かきが必要な場所は、残すところ社の境内及び、社の屋根に積もったところの雪下ろしだけである。
「社の上に乗っかるのは、危なそうだな……重さをかけないよう作業する方法なら、いい手があるぞ」
「ふぅむ、ならばわしは境内のほうじゃな。まぁ、寺とそう変わらんじゃろ」
「それじゃあ、自分は二人のお手伝いに回りましょう」
手早く役割を決めると、それぞれに行動を開始する。
今回は明確な力技よりも、手数が物を言いそうだ。
そうと決まれば、ハルマは手始めにユーベルコード【魔導機兵連隊】によって、魔導機械式ゴーレムを呼び出す。
「よーし皆、出番だ。……っても、社一つにはちょっと多いかな」
60余体の戦闘ゴーレムは、指示を与えれば思った通りの作業をしてくれるには違いないだろうが、ハルマは流石に過剰戦力と判断したか、半数に別命を与えると残りの者たちには、社の雪下ろしを命じる。
それでも余ったので、境内を担う玄信の手伝いにも回るよう指令を出す。
作戦によって適した装備に換装できるゴーレム隊は、今回は重力軽減装置及びホバーパックを用いた浮遊仕様である。
「ほほう、始まったようじゃ。ではわしもはじめるとしよう。力仕事とくれば、アースジャイアントさんじゃな!」
大地の巨人を呼び起こすユーベルコードによって召喚されたそれは、玄信の動きをトレースする、身長の二倍もある巨人……なのだが、玄信の体格がそもそも小さいので、巨人と言っても長身の人間ほどの大きさ程度に収まっている。
とはいえ、規模としては小さな社の境内を歩き回るには然程苦労はしない体格なので、今回は都合がいい。
岩塊を接ぎ合わせたような武骨な【アースジャイアント】は、温度も痛みも感じないその長い両腕を目一杯広げて、ブルドーザーのように力技で以て、境内に積もった大量の雪をもりもりと押しやっていく。
運ぶ先は、境内の隅っこにあるため池のほうだ。この冷え込みで池には厚い氷が張っているが、ここに置いておけばいずれ雪が溶けても池の水に還ることだろう。
「すごい! もう粗方境内が片付いちゃいました! でも……」
あまりの力技、あまりの迅速っぷりに零は思わず感嘆の声を漏らす。が、
それにしても、その作業はまさしく粗方であった。
「なんというか、雑ゥ!」
「うーむ、細かいところは流石にわしがやらんといかんようじゃ。すまんが手伝っとくれ」
力技で豪快に全てを解決、というわけにはいかないようで、壊しちゃまずそうな場所はあらかじめ避けて、粗方を力ずくで片付けると、玄信は零に助けを求めるのだった。
「もちろんですよ! 雪から、皆さんの生活を、護るぞっ!」
人々を護る為の力。それを望めば、零にはそのためのユーベルコードが発動する。
【ゴッドハンド】。その小さな身体を覆う神聖な光は、人々を護る想いが強いほど、その能力高める。
神秘的な力によって飛翔する能力すら得た零は、熊手とスコップを手に、それこそ社のあちこちを飛び回って、玄信の掘り残した雪や、ゴーレムが屋根から降ろした雪の運搬、果てはうっかり雪に埋もれてじたばたしているゴーレムの救助まで、
輝きを帯びながら飛び回るテレビウムの姿は、ちょっとだけ目に痛い!
「よーし、だいぶ雪も降ろせたな。そろそろ、俺が乗っても大丈夫かな……。後は俺がやるよ。ゴーレムたちは下がって、境内の手伝いを頼む」
社の屋根の雪下ろしがある程度進むと、ハルマはゴーレムたちを下がらせ、自分が屋根に上って作業を引き継ぐ。
ゴーレムに任せないのは、別に彼らを信用していないわけではない。
戦闘用に作られたゴーレムは、浮遊仕様といってもハルマ一人分よりはるかに重いのである。万一にでも屋根の上に降り立つような事があれば、その重さで屋根を突き破ってしまわないとも限らない。
それに加え、浮遊パックもなんだかんだでエネルギーを食うため、長時間は飛んでいられない。飛ばすにしても、しばらくは地上作業を手伝わせた方がいいだろうと判断したようだ。
「ふぅ……頑丈なつくりで助かったな。屋根も傷んでる様子はない……お、別部隊もそろそろ仕事を終えたかな?」
トンファー型ガジェットを変形させた折り畳みスコップで雪下ろしを行いつつ、集落の方を見下ろすと、先ほど別命を与えたゴーレムたちが帰ってくるところのようだった。
ゴーレム数十体では多すぎると判断したため、残りのゴーレムに与えた別命とは、社ではなく、集落の雪かきの手伝いだった。
生活の根付いている集落の方の雪かきはすぐに終わったらしく、ゴーレムたちは集落が処理に困っていたらしい大量のおろした雪を広場にまとめ、かまくらや戯れに雪像を作ったりする余裕もあったらしい。
「なかなかいい仕事だな、我ながら。零君、俺たちも雪を有効活用しよう!」
「はい? おおー、あれは! わっかりましたー!」
雪下ろしも大体終えたところで、ハルマはあっちゃこっちゃ駆け回る零に声をかけて集落の方を指さして簡潔に説明すると、零の方も同意したようにびしっと敬礼のポーズで辺りの雪を掻き集め始めた。
「んん? 二人で何か悪だくみかのう? ふふふ、ならばわしも一つ、隠し玉をよういするかのー?」
雪かきももう終わるころになって、慌ただしくし始めたハルマと零の二人を見て何かを悟ったのか、玄信も二人とは別にニヤッと笑みを浮かべて、お鍋とおたまを用意するのだった。
かくして、猟兵を巻き込んだ辺境の大雪かきは、終始大騒ぎのもとで幕を閉じた。
集落の祭事は恙なく行われ、略式的ではあるものの、大雪にもめげず新年と豊年を祝い祈念するお参りが終わると、村を上げてのささやかな祭りが催される。
今年は、ちょっとだけその装いが異なる。
「わーいわーい」
境内には子供たちのはしゃぐ声が響く。
それを見下ろす白い巨大ロボ……を模した雪像である。
「やっぱり巨大ロボは、子どもの夢ですよね!」
いい仕事をした! とばかり、諸手を上げて雪像を見上げて喜ぶ零。たぶん、サムライエンパイアの世界の子供には伝わらないかもしれないが、やたらと鋭角で強そうな井出達は、鎧を着込んだ侍のように見えなくもない。大丈夫、きっとカッコいい。
境内のみならず、山道や集落には、彼らが余った雪で作った雪像が、あちこちに置かれている。
図らずもそれは、集落のささやかなお祭りに華を添えることになった。
そして雪で作られたのは雪像だけでなく、かまくらや滑り台などの遊具にもなるものもあちこちに設置されていた。
これは主に子供たちが喜んだようだ。
「あー、汁粉ー、汁粉はいらんかーい? 寒い冬を乗り越えるために、皆で温まろうぞーい」
境内で鍋を手に声を張り上げるのは玄信。彼もまた集、雪かきに集まった村人や猟兵たちを労おうと、他の二人が雪像やかまくらをこさえている間に汁粉を作って振舞っていた。
村人と一緒についたお餅も入っているらしい。
「お、ハルマ殿。ここにおったか。子供たちに交じってなにしとるんじゃ?」
境内を渡り歩いていた玄信は、やがてこぢんまりとした鎌倉の中で火鉢を焚いてぬくぬくとしているハルマの姿を見つける。
「ああコレ? 一仕事終わったことだし、雪見甘酒ってのも悪くないんじゃないかと思ってさ。一緒にどうだい?」
「そりゃあ、乙じゃのう。ようし、零殿も呼んでこよう!」
子供らしからぬ豪快な笑いと共に、玄信は零を呼びに駆けていく。
そんな小さな背中を見送りながらハルマは、そういえばお参りまだだったなぁと、ぼんやり思い出す。
それもあとでいいか。
何をお願いするかも、今のうちに決めておくほうが良いかもしれない。
まあ何を願うにしても、今年もいい年であることを、きっとこの雪かきに参加した誰もが思うであろうことは、間違いないとは思うのだが。
子供たちのはしゃぐ声が、どこからか聞こえてくる。
雪も季節も明ければ、きっともっと多くの若者も、それに交じるに違いない。
大成功
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