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あまりにもよくある、絶望のおはなし

#アポカリプスヘル

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#アポカリプスヘル


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●とある拠点でのよくあるおはなし
 ショッピングモールの屋上、数十人の人々がその体を寄せ合って夜を過ごしていた。ぼろきれのような毛布で体を包み、なけなしの布やビニールシートを風よけにして、彼らは寒さをしのいでいる。
 外から奪還者たちがかき集めた資材で扉を固く閉ざした安全地帯、“拠点”。アポカリプスへルの様々な箇所に点在するそれのひとつが、この屋上である。かつてはショッピングモールそのものが拠点であったが、以前にゾンビたちの襲撃に遭い人々は屋上へ追いやられた。多くの犠牲を出した撤退戦は人々の希望を喰いつぶし、すぐそばで闊歩するゾンビたちの声が生存者たちの精神をひどく削る。それでも彼らは生存を諦めない。武器を持てる者は奪還者として、そうでないものは拠点内の居心地を少しでも高め、無理矢理にでも笑って生き長らえていた。
「………………」
 サバイバルゴーグルをつけ座ったまま眠る青年もまた、若い奪還者のひとりであった。傍らには幼い少女が縋るように寄り添い、小さく寝息を立てている。少女は両親を亡くし、唯一の顔見知りである青年に縋る他なく。また青年も、元々なぜか懐かれていた少女を突き放すことはできなかった。奇妙な縁で寄り添うふたり。しかし、こんな荒廃した世界ではそんな関係性は珍しいものでもない。
「…………ん……?」
 風の音でかき消されてしまうような小さな音。それによって青年は、浅い眠りから目を覚ました。少女の安らかな寝息を確かめ、まだ寝ず当番の交代時間に至っていないことを首を回して確認する。休まらない眠りだが、とっておかねば生き残れない。青年が再度、目蓋を降ろそうとしたその刹那。
 ―――パンッ、と確かに、発砲音が響いた。
「っ!? なにが……ッ!」
「がぁ、ァァッあああああッッ!!!」
 目に飛び込んできたのは唸りを上げる一匹のゾンビ。そしてそれに銃を向ける一人の女。
 どうしてバリケードの中にゾンビが、いやそれよりも目の前にいる女性が危ない。そうとっさにショットガンをとった青年だったが、彼が動くより前にそのゾンビが悲鳴を上げて爆発を起こした。
 何が何だかわからぬまま混乱が拠点内を支配した。上がる悲鳴に無数の発砲音。それをかき消すゾンビたちの唸り声。視界が悪くなった屋上を青年は少女を担ぎ上げ、なんとか駆け抜けた。梯子を上って、屋上のさらに上へ。緊急避難場所としてみんなと決めたここに昇ってこれたのは、青年と少女のたったふたりだけだった。屋上にはもう、ゾンビといずれゾンビになるであろう死体だけが、転がっていた。
「みんな……クソッ」
 これからどうしたらいいのだろうか。下に降りればゾンビの餌。かといってもたもたしていれば餓死するだけだ。階下を眺めながら青年は、歯を軋ませた。
「リクおに、いちゃん」
「……! もう大丈夫だ、ユイ。ゾンビどもは梯子を上れないし、隙を見て脱出を……っ!」
 振り返った青年は息を飲んだ。ユイと呼ばれた少女の口から、ぼたぼたと赤黒い血が漏れ出している。あれは、ゾンビになりかけている者が見せる、ゾンビ化の初期症状。
 青年は素早くショットガンを少女に向けた。青年の持つ最も威力の高い銃。祈りと共に、青年は引き金を引いた。
 どうか、苦しまず、一瞬で死ねますように。
「……あ、ああああ……ああああああああああああアアアッッッ!!!」
 乾いた銃声のあとに響き渡ったのは、撃ち殺された少女の悲鳴ではなく、残された青年の慟哭だった。

●ハッピーエンドと行かずとも
「アポカリプスヘルの拠点。そのひとつの崩壊を覆してほしい」
 予言書をペラペラとめくりながら、アメーラ・ソロモンは端的に任務内容を告げる。ダークセイヴァーと並ぶ絶望の世界、アポカリプスヘル。そこでの予知を臨場感たっぷりに語り終えたアメーラは、一度紅茶を口にした。
「どうやら避難者たちの中に、人間に擬態したオブリビオン、『屍商人』が紛れ込んでいるようだ。問答無用で生存者をゾンビ化するあの爆弾は間違いなく彼女の仕業だ」
 奴隷商人として人間、またはゾンビを使役する『屍商人』は、ゾンビ化爆弾やゾンビ化薬などの厄介な武器を持つ。その力は強力で、一般人には太刀打ちができない。
「とりあえずの目的は『屍商人』の排除。彼女の力で周囲の一般人がゾンビにならないよう、気を配りながら戦っておくれ。なに、数々の戦争を乗り越えてきた君たちならば問題ないだろう?」
 そしてできたら、と彼女は言葉を繋ぐ。
「ショッピングモールぎりぎりまで迫っているゾンビたちの群れを一掃してほしいかな。ショッピングモール自体の完全奪還は、まだ難しいだろう」
 完全なハッピーエンドとはまだ行かずとも、明日への道を繋げることが重要だから。拠点内の潜伏者さえいなければ、拠点内の奪還者たちが力になることもできるだろう。予知に登場した青年を始め、この拠点には腕利きの戦車乗りやサバイバルガンナー、ソーシャルディーヴァたちがいる。彼らを上手く指揮すれば、屋上付近のゾンビを掃討すること自体はそんなに難しくはないだろう。
「ただ、妙に嫌な予感がするというか……このタイミングで『屍商人』が仕掛けてきたのがきになるのだよね。これは勘だが、一般人の奪還者には手に負えないリーダー格が、ゾンビたちの中にいる気がするんだ。それが姿を現したら奪還者たちには逃げてもらって、猟兵だけでそいつを狩ってほしい」
 こういうときのアメーラの勘は妙に当たる。確実にリーダー格が居るとみていいだろう。
 準備を終えた猟兵たちはアメーラの手引きでテレポートを開始する。その光が止めば、猟兵たちはすでに、拠点である屋上のコンクリートを踏んでいることだろう。


夜団子
 はい、おまたせしました新世界です! こういう世紀末な世界観大好きです。

●今回の構成&注意事項
 第一章 潜入しているオブリビオン、『屍商人』を倒そう。猟兵が見ればオブリビオンは一発でわかるので、即殴り掛かって大丈夫です。周囲の人たちも猟兵を信頼しているので止めたりとかはしません。
 ただし、オープニングで述べている通り、屍商人は一般人を巻き込む攻撃を行ってきます。どのように一般人を守るか・もしくは攻撃を防ぐかの描写がなければ一般人に被害がでますので悪しからず。

 第二章 屋上のすぐそばまで来ているゾンビを倒そう。バリケードを一時外して、ショッピングモール内に突入する形です。さらに下の階とかに行こうとすると拠点の守りが手薄になるので奪還者たちが嫌がります。屋上のすぐそばまで来てしまっている大量のゾンビを掃討してください。
 また、オープニングにも登場した青年(NPC名:中園・リク。サバイバルガンナー)を始めとする奪還者たちが協力してくれます。うまく指示を出せれば効率的にゾンビを狩れるでしょう(プレイングボーナス)。

 第三章 ゾンビのリーダー格との戦闘です。こちらは猟兵のみでの戦闘となります。

 それでは、皆さまのプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『🌗屍商人』

POW   :    【屍商の調教】貴様は私の商品よ
【皮膚を抉り、ゾンビ化薬を注入する特殊弾丸】【戦意を削り折る、鞭による鋭い高速殴打】【心を犯し、自身への隷属と服従を強いる首輪】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    【屍商の遊戯】あぁ、なんて心地よいのでしょう
戦闘力のない【ゾンビ化爆弾を体内に仕込まれた奴隷たち】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【自動で爆弾が起爆し、奴隷たちの悲鳴と絶望】によって武器や防具がパワーアップする。
WIZ   :    【屍商の命令】ご主人様の言うことには絶対服従よ
【商品の中】から【敵のレベル体の奴隷と戦闘用大型ゾンビたち】を放ち、【調教による狂気染みた忠誠からくる攻撃】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は高橋・湊です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

終夜・還
あっは、大分既視感あってあんまり笑えねぇなこの状況

いやなに、俺の若かりし頃の失敗がダブルパンチみたいな…あの頃は俺の非常識が酷かったし、墓あるからってゾンビ量産して怒られたよねェ
俺自身も先走ってぜーんぶパァしちゃってさ


だからかな、絶望してる奴見てると放っとけねぇ

この世界は利用できるものが多いし存分に喚べそうだ
ほら、還っておいで
まだ生きてる人達を護ってあげな

UCで喚び出すのはこの世界の死人達

死体が利用されてようと魂は、残滓は別だろう?俺は其れを利用するだけ
呼び掛けるだけ

俺に向かってきたゾンビは怪力で吹き飛ばし、そのまま範囲攻撃として捌くよ
地形の利用も忘れない
技能も駆使して一般人には手を出させねぇ



「あっは、大分既視感あってあんまり笑えねぇなこの状況」
 アポカリプスヘルの拠点内、屋上へと降り立って第一声。終夜・還(終の狼・f02594)はぽつりとそうつぶやいた。
 ふと、向けられた視線に勘づいて還はそちらを向く。ショットガンを構えた青年が還を見ていた。ゴーグル越しに見える瞳には案ずるような光が宿っており、独り言を聞かれちまったか、と還はうっすらと笑みを深める。
「いやなに、俺の若かりし頃の失敗がダブルパンチみたいな……あの頃は俺の非常識が酷かったし、墓あるからってゾンビ量産して怒られたんだよねェ」
 あっはっは、と声を上げて笑う還に青年の困惑したような表情が向けられる。ゾンビの量産、という言葉にビクリと肩を揺らすも、彼が還を敵視する様子はない。
「俺自身も先走って、ぜーんぶパァにしちゃってさ」
 還は改めてぐるりと周囲を見渡し、魔導書を取り出した。人々の眼に映るのは恐怖と、絶望だ。光を失いながらも必死に生きているのは、生まれ故郷の世界も同じ。すべてを失った、あの日の自分とも、同じ。
「だからかな、絶望してる奴見てると放っとけねぇ」
「―――チィッ!」
 どうやら誰も騙されない状況に女がしびれを切らしたようだ。その手に鞭を呼び出し、その姿を変える。現れたのは、女王様のような姿をしたオブリビオン、『屍商人』。
「あと一歩と言うところで邪魔が入るなんて……この際だから、貴方がた猟兵たちも私の商品にしてあげるわ」
「そういうのはホント、お断りなんだよねェ。俺にはもう飼い主っていうか帰る場所があるし? っつーわけで、ご退場願おうか!」
 魔導書を開き詠唱を始めた還に対し、屍商人はバシンッと鞭で床を打った。すると彼女の背後に現れた商品箱から多くのゾンビが現れる。そのうちの一体に優雅に腰掛けながら、屍商人はそれらを解き放った。周囲に悲鳴と、恐怖が一気に広がる。だが、彼らがパニックを起こすより先に、還は行動を終わらせた。
「ほら、還っておいで。まだ生きてる人達を護ってあげな」
 その言葉に呼応するように、魔導書から無数の死霊たちが唸り声をあげながらゾンビたちに襲いかかった。そこにあるのは怒りか怨みか、否、未練か。彼らは、この世界で命を落とした者たちだ。目を凝らせば、青年の仲間も少女の両親も、その中にいるかもしれない。
「この世界は利用できるものが多いし存分に喚べる。死体が利用されてようと魂は、残滓は別だろう? 俺は其れを利用するだけ呼び掛けるだけだ」
 怒り狂う彼らは元凶たる屍商人へと向かい、その周囲を穢れで満たす。朽ちた体から放たれる乱舞は屍商人の体を引き裂き、彼女は苛立たしそうに鞭を振るった。
「早く人間たちを襲いなさい! 何をもたもたしているの!」
 ゾンビたちの動きは緩慢で、とても忠誠心に突き動かされているとは思えない。屍商人による調教で刻み込まれたはずの忠誠心は、死霊たちの振りまいた穢れによって無効化されてしまっていた。ただ唸り彷徨うだけの木偶の棒ならば、還の敵ではない。
「ほらお前ら、ちゃんと護れたじゃねえか」
 怪力でゾンビたちを吹き飛ばし、屋上の外へ投げ出しながら還は笑う。その言葉は奪還者たちではなく、死しても人々を護る死霊たちに向けられていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月守・咲凛
戦えない人を巻き込むのはダメなのです!
みんなは私が守るのです。

アジサイユニットで敵の周囲を囲んで、一般人の方に近付けないようにチェーンソーで威嚇しつつ攻撃開始、逃げ出させないようにムラサメユニットで近接戦闘を挑みます。
敵がゾンビ爆弾を召喚したらこちらもユーベルコード発動、気紛れな迷路で周囲を囲んで一般人のひとに被害が出ないように守るのです。
爆発で自分がダメージ受けそうですけど気にしていられません。ダメージが大きくて動けなくなりそうなら、
武装ユニットを念動力で動かして間接的に自分の身体を動かして、身体をブランブランさせながら、力尽きて気を失うまでは戦闘を続けます。
私はお姉ちゃんなのです!



「戦えない人を巻き込むのはダメなのです! みんなは、私が守るのです!」
 背中を守る機甲の翼。それを念動力で操り空を舞いながら、月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)は武装ユニットを切り離した。放たれた円盤状の遠隔操作ユニットは、アジサイと名付けられた武器にも盾にもなる代物。それを敵へと飛ばし囲うことで、人々に近寄らせない障壁を作り上げる。
「みんなには近づけさせないのです! 大人しくお縄につくのです!」
「あら、可愛らしい猟兵さん。でもその力があれば、ここから出た後も簡単に奴隷を集められそうね。たっぷり調教して、私を崇める奴隷のひとりにしてあげるわ」
 咲凛は近接攻撃用ビーム兵装ユニット、ムラサメを手に屍商人へ接敵する! 二本一対のそのビームチェーンソーはその内部に複数のビームダガーが仕込まれ、斬りつけたものを傷口ごと焼き斬るもの。武装ユニットを念動力で操り、間接的に体を強化している咲凛にとって、その重量はスピードを損なわせる枷にもならない。
 対する屍商人の武器は鞭。先端の刃は人知を超えたスピードを出すが、その本懐は遠心力を乗せた打撃、そして拘束することにある。
 咲凛のビームチェーンソーが屍商人を容赦なく襲う。屍商人は振り下ろされたそれを奴隷のゾンビを盾にして防ぎ、一瞬止まった咲凛の腕めがけて鞭を振るった。
「かかったわね」
 腕を鞭にとられ咲凛の動きが止まる。その瞬間、屍商人は己を包囲するアジサイユニットの外側に、爆弾を内蔵した奴隷たちを召喚した。猟兵の動きを止め、護るべき者たちから破壊する。それが心を壊す上で最も効率的だと知っているからだ。
「私の勝ちよ、猟兵―――!」
 しかし。
「みんなは、やらせません。私は―――お姉ちゃんなのです!」
 その咲凛の言葉とほとんど同時に、彼女と屍商人と奴隷たちすべてをまとめて捕える迷宮が出現した。柔らかくも強固な壁は人々と咲凛たちを切り分け、戦闘の余波を遮断した。これで屍商人は人々を狙うことも、逃げることもできない。
 咲凛にとって『お姉ちゃん』は『弱者を守る者』という意味。その誓いの通り、彼女は確実に人々を護れる手段を取った。
「……っ!」
 己の奇襲を読まれていた上に防がれたことで屍商人の心に動揺が走る。その動揺を感知してか、奴隷に仕込まれていた爆弾が自動的に起動した。起動音の代わりに、奴隷が金切り声を上げる。
 ―――ドォォォォンッッ!
 ゾンビ化爆弾が破裂し、狭い迷宮内を爆風が襲う。その威力は収まることなく周囲の奴隷たちにも襲い掛かり、傍にいた咲凛と屍商人も例外ではなかった。
 爆発が爆発を呼び、吹き飛ばされる二人。同じように被害を被った二人だったが、強化される分屍商人の方が損傷が少なかった。それでも、咲凛は動かなくなった体を装備ユニットで支え、それを念動力で操ることで、まだ戦場に立ち続けていた。
「まだです……!」
 体をぶらん、と垂れさせながら咲凛は戦う。その力が尽きるまでに、少しでも多くのダメージを屍商人に与えるために。
「お姉ちゃんは、あきらめません……!!!」
 咲凛の気迫に屍商人がたじろく。それを逃がさないとばかりに、彼女はまた敵へと飛びかかるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リュアン・シア
無慈悲な予知の現実を防げるというなら――頑張らないといけないわね。

あれが屍商人ね。あら、女王様? 隷属は強いるものではなくて悦んでしてもらうものよ?
まぁこちらも能力行使の誘導だけれど。考える前に動いてほしいから。一般人の皆に向き合って、【ひとときの誘惑】。微笑みかけて全員に告げるのは、「隣の人の手を取って全力で避難なさい。障害物の陰に隠れて、ゾンビが接近してきたらすぐに言うのよ」。予知の青年、あなたもよ。少女を連れて下がって。爆弾から距離を取るのは大事。
次いで、屍商人とゾンビ達を対象に同じく【ひとときの誘惑】。「動くな」と言い放って、憐花切で速やかに斬り込むわ。ご主人様の乗り換えなんていかが?


ベルベナ・ラウンドディー
●時間稼ぎ・団体行動・救助活動
ユーベルコードで結界…計260の光柱を展開
民間人の退避を優先
敵の位置と進行方向から予測される攻撃対象から優先的に着手
光柱でゾンビ群を包囲して足止めし、敵の数を逆手に交通渋滞の誘発を期待する
複数を並べ、退路のように配列する誘導策も次善策として想定



●串刺し・破魔・おびきよせ
…乱戦を予想します
操作の難しい範囲攻撃は厳禁か
近接攻撃手段で敵群の配列をすり抜け敵ボスを狙います
ただし避難を完全に終えた空間なら避難行動への影響は軽微と見ました
可能ならおびきよせ、爆弾で一網打尽にする戦法です


…戦闘は私の専門から少し外れます
よって人的損失の軽減と牽制行動に終始します 



「隣の人の手を取って全力で避難なさい。障害物の陰に隠れて、ゾンビが接近してきたらすぐに言うのよ」
 声を高らかに上げて、リュアン・シア(哀情の代執行者・f24683)は集う人々に警告する。狭い屋上が戦場とはいえど、爆弾を召喚する敵とはできるだけ距離をとった方がいい。絶望の未来を、防ぐためにも。
「そこの青年、あなたもよ。少女を連れて下がって」
 少女を背に庇い、負けじとショットガンを構えていた青年に、リュアンはぴしゃりと言い放つ。この状況でもなお猟兵の力になろうとしていた彼は、優秀で勇敢なサバイバルガンナーなのだろう。しかし、猟兵でない以上、この戦いでは足手纏いにしかならない。
「大丈夫よ、あなたたちには指一本触れさせないわ。無慈悲な予知の現実を防げるというなら――頑張らないといけないし。ねぇ?」
ゆっくりと妖艶な微笑みを湛えながらリュアンは人々を誘導し、つい、と視線を空中に向けた。そこに佇む翡翠の竜人は視線を受けて、小さく目を細めた。
「……戦闘は私の専門から少し外れます。よって人的損失の軽減と牽制行動に終始します」
 避難する人々を見て、屍商人が自身の商品から多数のゾンビたちを解放する。その中には大きく肥大化した腕や体を持つ、明らかな敵意を宿した個体もいた。戦闘に特化するよう改造された彼らと正面から戦えば、猟兵であろうと数の差で不利になってしまうだろう。
 屍商人がその凶悪なしもべたちを人々へ仕向ける前に、竜人―――ベルベナ・ラウンドディー(berbenah·∂・f07708)は動いた。その手をかざし、魔力の隔壁を呼び出す。
「現れろ。囲め。そして―――守れ!」
 その声に呼応するように、二六〇もの光の柱が人々とゾンビの間に突き刺さり、それらを支点として聖属性のバリアが展開された。半透明の光の壁に囲まれたゾンビたちは己が捕らえられたことも気づかず、ただ唸り声をあげているのみ。
 その強度もさることながら、聖属性となるとゾンビたちにとっては分が悪い。何人かのゾンビがバリアの先の人々に襲い掛かろうとするが、あっけなく弾かれその四肢を失った。戦闘特化のゾンビがその自慢の大腕を振り上げ叩きつけるも、大きな破裂音と共に弾き飛ばされてしまう。殴りかかり、弾かれ、を繰り返しているうちにその大腕は酷く損傷し、最後には拳を握ることもできなくなって活動を停止した。
「商品の数が多いのがあだになりましたね」
 バリアで囲まれたゾンビたちはそれでも愚直に主の願いをかなえようと人々やリュアンとベルベナの元へ近寄ろうとする。それを利用し、ベルベナは光柱を配置した。———つまり、先に進めば進むほど狭く、身動きが取れなくなるように。渋滞を起こしたゾンビたちは互いに互いの行動を阻害し、まともな身動きもとれずに蠢いている。知能が満足にない相手は御しやすく、罠に嵌めやすいものだ。
「私の仕事は終えましたよ」
「ふふ、上出来ね」
 直接戦闘は専門外と主張するベルベナ。彼と交代で戦場に躍り出るのは艶やかで、可憐な姿の執行者だ。
「あら、しもべはどうしたのかしら、女王様?」
 くすくすと笑うリュアン。しもべを奪われた屍商人は彼女を忌々しそうに睨みつけ、苛立ちのままに鞭を振るった。しかし、リュアンはその軌道を読み軽々とそれを避けてしまう。それがまた、屍商人の癇に障った。
「みじめね。でも、それだけじゃ許してあげない。あなたたち、ご主人様の乗り換えなんていかが? さぁ―――私を見て」
 蔑みの冷笑を消したリュアンの顔に浮かぶのは、麗しくも優しい至高の微笑み。催眠効果のあるそれは屍商人、そしてゾンビたちに向けられた。支配する側であるはずの屍商人ですら一時的に支配されてしまうほどの誘惑。そんな強力なそれに、もはや意思など残っていないゾンビが打ち勝てるはずもない。
「動くな」
 命令は端的に、明瞭に。唸ることさえできなくなったゾンビたちはぴたりと動きを止めた。指先ひとつ動かせなくなった屍商人も、喚くことすらできなかった。それでもなんとか命令に抗おうとしているのか、その腕はプルプルと震えている。
「隷属は強いるものではなくて悦んでしてもらうものよ?」
 表情を美しくも冷たい、執行者のものへと戻しながらリュアンは刀を手にする。彼女自身の力を結晶化した、白菊のごとき一刀。それを手にした彼女がすることはたったひとつ。
 一閃。素早く斬りこんだその太刀筋を屍商人は見ることができなかった。腹を捌かれ、カハッ、と血を吐き出す。その血はすでに赤黒く、屍商人自体も死人であるということを表していた。
「流石はオブリビオン、過去の存在。でも痛みはあるのね」
 リュアンが笑って振り返る、その瞬間。
 ドガアアアアンッッ! と大きな、爆発音が轟いた。
 同時に、リュアンは大きく後ろに跳び、迫っていた鞭を回避した。リュアンの支配を破った屍商人の不意打ちは決まらず、しかし両者に距離ができる。一時撤退、とリュアンは爆発の元凶のもとまで後退した。
「……操作が難しい範囲攻撃は厳禁じゃなかったの?」
「避難を完全に終えた今ならば、避難行動への影響は軽微と見ました。実際、屋上の床にも結界は張ってあるので木端微塵になったのはゾンビたちだけですよ」
 手製の衝撃爆弾をまたひとつ結界の中に放り込みながらベルベナは嘯く。また轟音が鳴り響き、千切れたゾンビの腕が文字通りの粉々になる。この世界の死体は放っておくとゾンビになってしまう。炎を射かけられないのならば、確かに爆破は処理に有効だろう。
 動かなくしていただいたので処理は楽ですね、と淡々と付け加えられて、リュアンはこの戦場に降り立って初めての苦笑を浮かべるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジング・フォンリー
まずはゾンビを使役する『屍商人』の排除だな。
救助対象に紛れられては困るが我々猟兵には区別がつくというのはありがたい。
懸念が一つ減るからな…。

ゾンビの対処はアサルトウエポンでの【援護射撃】を中心に行う。
救助対象を発見しだい救出し安全な場所へ。
救助対象への攻撃を発しだい【かばう】
そのまま至近距離からの功夫での攻撃及びアサルトウエポンでの【零距離射撃】
『屍商人』を発見しだい救出対象がいないか確認後。
接近しUC発動。敵攻撃は【第六感】で【見切り】
敵UCにはそうだな…【気合い】で耐えるか。

俺の力が役に立てれば嬉しいのだが。
俺の力が必要とされる世界があるというのは少し悲しいな。

アドリブ歓迎。


西条・霧華
「今を懸命に生きる方々を、絶望に沈めなんてさせません。」

その為に私は、【覚悟】を決めて守護者を目指したのですから…

流れ弾が怖いので一般人が居ない側へと立ち位置を調整し続けますけれど…
我が身を盾として立ち続ける事も【覚悟】しています

『無名・後の先』で攻撃を誘います
攻撃は基本的に【残像】を利用して【見切り】ますが、一般人に害が及ぶなら【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止めます
特に鞭と首輪には【覚悟】と【破魔】の力で対抗
油断を誘いつつ纏う【残像】で敵を乱し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて【カウンター】
…私自身の攻撃力が減らされても、サポートする事位はできます



 屍商人へのダメージも積み重なり、女王に始めのころのような余裕はもはやない。この場にいるのが猟兵だけならば簡単に畳みかけられるかもしれないが、一般人が戦場にいる以上、猟兵たちの行動を慎重にならざるを得ない。
 人々は足手纏いにならないよう必死に姿を隠そうとし距離をとっているが、場所が悪かった。バリケードの向こうにはゾンビが闊歩しているために外へ逃れることもできず、身を隠せるものもあり合わせで建てた風よけ程度しかない。そんなものはオブリビオンにとって障害にもならないのだから。
「手駒が減ったから、補充しなくちゃならないわね……あら、いい素材がこんなにもたくさん」
「やらせん!」
 ぐるりと人々を見まわし、手頃な相手を『商品』にしようと振るわれた鞭は、ジング・フォンリー(神躯108式実験体・f10331)によって阻まれた。強靭な体で防がれた鞭は一度弾かれるが、すぐに勢いを取り戻し返す力でジングへ撃ち込まれる。
「貴様でもいいのよ? その力を私のために振るいなさい」
「断る! 俺の力をまた人々を虐げるために使われてたまるものか」
「強情なのね……でも、」
 酷薄に笑った屍商人はその懐から一丁の拳銃を取り出した。鈍く光るそれを見てジングは瞬時に理解する―――あれは、予知の話に出てきたゾンビ化薬を仕込んだ銃!
「ゾンビになっても同じことが言えるかしら?」
「ぐっ……!」
 ただ拳銃を向けられただけならば臆することはない。ジングの身体能力であれば弾丸を避けることも可能だろう。ではなぜ、屍商人は不意を打たずに拳銃を向けて見せたのか?
 ジングが避けないことを、わかっているからだ。
「ブ、奪還者さん……」
 子を抱く母が震える声でそう呟く。ジングの背後には数人の逃げ遅れた人々がいた。銃口がこちら向いている以上、彼らは動けないのだ。下手に動けば特殊弾丸の餌食になることが分かり切っているから。
 そしてまた、ジングも動けない。撃たれた弾丸を避ければ、被弾するのは後ろに庇う人々になってしまう。猟兵にゾンビ化薬が効くかどうかはわからない。が、少なくとも大きなダメージを追うことにはなってしまうだろう。
「あはは哀れね、守護者というのは。耐えられるものなら耐えてみなさい。まあもっとも、ゾンビ化した状態で首輪の呪いに打ち勝てるとは思えないけれど」
 パンッ、と乾いた銃声が響いた。ジングは動かない。ゾンビ化の薬を気合いで乗り越えてみせんと弾丸を強く睨みつけ、そして。
 その弾丸は、目の前で弾け散った。
「仲間を、ゾンビになんかさせません。どれだけ撃ち込んでも、私がすべて弾きます!」
 ジングの前に現れた黒き影。西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)はその手の籠釣瓶妙法村正をもって、特殊弾丸を斬り捨てていた。
 屍商人の拳銃から数発の銃弾が放たれる。それらすべてを斬り捨てながら霧華は人々の盾となっていた。その間にジングは背後の人々をかばいつつ移動させ、また物陰に隠れさせる。また隠れ場所が壊される可能性はあるが、これによって人々へ直接銃弾を撃ち込まれる危険はなくなった。
「小癪な……わかったわ、ふたりともたっぷりと調教して私のしもべにしてあげましょう!」
 拳銃を当てることを諦めた屍商人は鞭を振るう。襲い掛かるそれを霧華はまた刀で弾こうとするが、鞭は弾かれるのではなくむしろ刀へと絡みついた。まずい、と霧華の意識が刀に向いた瞬間、霧華の首元へなにかが飛来した。
 ガシャンッ!
「! しまっ……!」
 霧華の首にとりついたのはつるりとした黒い首輪。それを認知した瞬間、霧華の頭にズキリと強い痛みが走った。思わず頭を抱え膝を折った霧華に、追い打ちの鞭が振るわれる。迫りくるそれを避難誘導を終えたジングが飛び込み、功夫で弾き返した。
「間に合わずすまない、大丈夫か」
「私は、大丈夫です……くっ!」
 心を犯され、今にも屍商人に服従をしてしまいそうになる洗脳に、霧華は唇を噛んで耐え続ける。刀を握る手は力がこもりすぎて白くなってしまっていた。
「抗わず私に従えばいいのよ。苦しいでしょう、つらいでしょう? 頑張る必要なんてないのよ」
「負け、ません……! 私は、守護者だから……!」
 ジングの背に庇われながらふらふらと霧華は立ち上がる。彼女をそこまで突き動かすのは守護者の覚悟ゆえんか。洗脳に苛まれながらも彼女は力強く屍商人を睨みつける。
「今を懸命に生きる方々を、絶望に沈めなんて―――させません!」
 その言葉とほぼ同時に霧華は床を蹴った。そのスピードは残像を生み、屍商人の瞳に複数の霧華が映る。子供だましね、と屍商人は笑う。彼女はその鞭を大きく振るい、霧華を残像ごとすべて薙ぎ払った。
 確かに、手ごたえはした。しかしそれと同時に屍商人は気が付いた。霧華がうずくまっていた場所、そこにいたはずのジングがどこにもいない!
「鳳凰……天昇撃ッ!!」
「グハッ!!」
 霧華の作り出した反撃の機会をジングは見逃さなかった。拳を敵の腹へとぶち込み、その拳から鳳凰を呼びだして火の手をあげる。燃え盛る炎の鳥に襲われた屍商人は甲高い悲鳴をあげて火に巻かれた。
「無事か?」
「はい、なんとか……」
 鞭に打たれ地面を転がった霧華が壊れた首輪を手に起き上がった。振るわれた鞭を首輪に当て、その衝撃を持って首輪を破壊するという無茶な芸当。さすがの霧華も洗脳の後遺症もあり、一時撤退を余儀なくされた。
 屍商人を倒しきるまであと少し、トドメは最後の猟兵たちに託された。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鎧坂・灯理
【竜偵】
新年早々クソ野郎のおいでとはな
まあこの世界では祝賀など望むべくもないか
さっさと片付けましょう、イリーツァ殿

さて。私は怪物だが、あの竜は本当に真性のバケモノだ
掠めただけで何人死ぬ事やら
とはいえ、それをさせんための私だがな
起動――【千視卍甲】 守護対象は自分と連れと一般人
私は戦えなくなるから、念動力で空の上にでも浮かんでおこう
それだけではなんだし、観測手代わりに動こうか
戦いはしないから問題ないだろう

あとは任せましたよ、ミスタ
敵が哀れになる勢いで殺し尽くして下さい


イリーツァ・ウーツェ
【竜偵】
“祝賀”という概念が、私には解りません
一年という区切りは、人間の物ですね
はい、鎧坂殿

殲滅だ
UCを使い、杖で薙ぎ払う
奴隷が上げる声で強化されるなら
召喚された傍から頭を砕く
私の力が有れば容易だ
UCの効果も有る
私の前では強化は無に帰す

奴隷同様潰してやろう
跡形も残さん



「新年早々クソ野郎のおいでとはな。まあこの世界では祝賀など望むべくもないか」
「“祝賀”という概念が、私には解りません。一年という区切りは、人間の物ですね」
 屋上よりさらに上、宙に悠々と浮きながら、鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)とイリーツァ・ウーツェ(負号の竜・f14324)は屍商人を見下ろしていた。淡々と言葉を返すイリーツァに灯理は呵々と笑う。
「そういう話ではないんですが。まあいい、さっさと片付けましょう、イリーツァ殿」
「はい、鎧坂殿」
 広げた翼をはためかせ屍商人へと急行するその背を見下ろしながら、灯理はふうと息をつく。その切れ細の瞳をすい、すいと流してみれば屍商人から遠巻きになって震えている人々が映りこんだ。
 自らの身を護ることができない人々。守ってやらねばならぬ人々。それは敵からか、それとも敵よりよっぽど人外なそこの竜種からか。
「……さて。私は怪物だが、あの竜は本当に真性のバケモノだ。掠めただけで何人死ぬ事やら」
 人間は襲わない信条で、理性的でこそあるがその思考回路は人の論理で測れない。暴れているうちに周りの人々が巻き込まれて拠点が崩壊してしまった、なんて本末転倒はごめんだ。
「とはいえ、それをさせんための私だがな。……起動――千視卍甲」
 指定する守護対象は己、イリーツァ、そして一般人。
 目の前に突然、薄い膜のようなものが現れた人々は驚き声を上げた。それは思念力と魔力による二重の防壁。か弱き人々をゾンビや爆弾、竜の猛攻から守る完璧なバリアだ。守られている間ならば生命維持活動も不要の優れもの―――ただし、灯理はそのバリアの維持のために戦闘に介入できなくなるが。
「私の仕事はここまで。あとは任せましたよ、ミスタ。敵が哀れになる勢いで殺し尽くして下さい」
 ―――これで心置きなく暴れられるでしょう?
「ああ―――殲滅だ」
 竜が、屍商人の前へと君臨する。眼光は鋭く、存在感は圧倒的。一目で負けを悟る生物的本能に屍商人が後ずさる。
 屍商人がこれほどまでに追い詰められていなければそんな様子を見せることはなかっただろう。女王としてしもべたちを調教し支配する彼女にとって、怯えを見せるというのは致命的なミスだ。もし今もしもべたちに囲われ、体も醜く傷ついていなかったなら。しかし、そんな彼女の嘆きに同情するものなどひとりもいない。
 果たしてゾンビ化薬は竜に効くのか? ゾンビ化爆弾は竜に効果を及ぼすのか? わからない。わからないが、屍商人にはそれ以外の手が残っていなかった。
「貴様がゾンビ化すれば御の字よ……! 来なさい、私の奴隷たち!」
 より可能性があり盾としても使える奴隷召喚を屍商人は選択した。屍商人とイリーツァの間に何人もの奴隷が召喚される。体にゾンビ化爆弾を仕込まれた彼らは虚ろな表情のまま、ふらふらとイリーツァの元へと近寄り始める。
 対してイリーツァは、その無感動な表情を変えることはなかった。ただ淡々と彼は杖を抜く。かの深海の妖姫が封じ込められたその杖は怪しく輝いた。
「いざ、尋常に」
 音を置き去りにしてイリーツァは地を蹴った。爆弾、ならば爆発させなければいい。接敵したイリーツァは特に何かを構えるわけでもなく、ただ無造作にその杖を振るった。竜の膂力を受けた奴隷たちの頭が弾け飛ぶ。文字通り頭は粉々となって、残された躰はびくんと波打ち地へ伏した。それに一瞥もくれることなくイリーツァは奴隷たちの頭を砕いていく。
 またひとり、またひとりと徒花が咲く戦場。守護対象を気にしなくていいのならば戦場はただ強きものが蹂躙できる。なんの感動も感傷もなくそれらを打ち砕くその姿は、まさに暴竜のそれ。
「イリーツァ殿、上だ」
 天から降った観測手の声に、イリーツァは目を向ける前に手をかざした。パシッと音を立ててその鞭を掴み、その主を見やる。奴隷たちを砕いている間の鞭の奇襲は、失敗した。
「……死角を狙ったか。助かりました、鎧坂殿」
「たまには観測手のまねごとでもやってみるものだな。まあ当たったところでイリーツァ殿にも私の防壁が張られているのですがね」
 無駄なあがきを、と嗤う灯理。ギリ、と屍商人が歯を軋ませる。
 鞭を掴まれそれを手放せない屍商人は身動きが取れなくなってしまった。爆弾も通らず、そもそも攻撃は無駄だと宣告される。こんな絶望的な状況になるなんて。おかしい。自分は蹂躙する側の存在だったはずだ。これから、この拠点を悲劇の真っ只中に堕とすはず、で。
「っ、はは」
 追い詰めた屍商人の笑い声に二人の猟兵が警戒の色を瞳に乗せる。ここから巻き返せるなどとは思わないし、自爆特攻されたとして最も危ない一般人はすでに守護済み。最悪はここから取り逃がしてしまうことだが……ここの出口はバリケードでふさがれたままだ。
「……まんまとやられました。私はここで終わり……ですが、勝ったと思わないでくださいね」
 一度の消滅を覚悟した屍商人はその口端を釣り上げてニイと笑った。逃げ出す様子はない。
「……イリーツァ殿」
「ああ」
 終わらせろ、という言外の指示にイリーツァがまた地を蹴る。屍商人に依然逃げ出す素振りはなかったが、彼女は最後に、鞭の持ち手をイリーツァへ投げつけた。
「私がいなくともこの拠点はいずれゾンビたちが支配するわ! だってあの子たちにはもっともっと強くて、頼りになる私の最高傑作がいるもの! 貴様らも終わりよ、猟兵!」
「戯言に耳を貸す気はない。奴隷同様潰してやろう。跡形も残さん」
 哄笑が屍商人の最期の声となった。気になることを言い放った屍商人はイリーツァに真正面から叩き潰され、その体を無残に散らせた。彼女をただのシミへと変えたイリーツァは相変わらず表情を変えることなく。杖にこびりついた血をただぬぐっていた。
「やれやれ、負け犬はよく吠える。まあ、まだ暴れる場所があるというのなら、歓迎だがね」
 ドン、ドン、と音を鳴らし、軋む悲鳴を上げ始めたバリケードを一瞥して、灯理も変わらず笑みを浮かべていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ゾンビの群れ』

POW   :    ゾンビの行進
【掴みかかる無数の手】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    突然のゾンビ襲来
【敵の背後から新たなゾンビ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    這い寄るゾンビ
【小柄な地を這うゾンビ】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※OP公開まで少々お待ちください。1/9中に公開する予定です。OP公開後、プレイングを募集いたします。
 ドン、ドン、とバリケードが叩かれる音。耳を澄ませばその向こう側から、生者を食らわんとするゾンビたちの唸り声が聞こえてくることだろう。
「非戦闘員はバリケードから離れろ! ユイ、危ないからみんなと一緒にいてくれ」
「うん……気を付けてね、リクお兄ちゃん」
 屍商人の撃破。それとほぼ同時に拠点のバリケードをゾンビたちが一斉に襲い始めた。屍商人には太刀打ちできなかった拠点の奪還者たちだが、ゾンビたちであればある程度相手ができる。しかし、彼らだけでは多くの犠牲者が出てしまうことだろう。
「あんたたちも奪還者なのか? 屍商人を倒してくれて本当に助かった、ありがとう。俺、中園・リクって言います。図々しいかもしんないけど、また力を貸して欲しいんだ。俺たちだけじゃ、力不足だから……!」
 屍商人を倒した猟兵たちにサバイバルゴーグルの青年が頭を下げる。青年と少女の悲惨な未来は、猟兵たちによって覆された。だが、まだ脅威は去っていない。このまま放置していればバリケードは破れ、拠点に少なくない被害が出るだろう。
「もちろん、俺たちも戦う! あんたらに頼りっぱなしにはならねぇ。でも、どうか今だけは……」
 異常襲来をしているゾンビさえ倒せばリクたち奪還者が、この拠点を維持していくことはできるだろう。この戦いの中で彼らに指示を出して経験を積ませれば、その確率はもっとあがるはずだ。
 了承した猟兵たちにリクは笑顔を浮かべ、また礼を述べた。他の奪還者たちも武器を構えながら、次々と礼を述べる。
「俺の手榴弾でバリケードごと最前のゾンビを吹き飛ばす! その間に中に入って、ゾンビどもを駆逐してくれ!」
 各々の武器を構え、唯一の入り口を取り囲む奪還者たち。ピンを取り外したリクの手榴弾が、放られた。
 けたたましい轟音と共にバリケードが吹き飛ばされる! ゾンビたちが一部吹きとびひるんだすきに猟兵と奪還者たちは中へと滑り込んだ。
 腐臭に満たされる戦場、口からぼたぼたと赤黒い血をたらすゾンビたち。戦いの火蓋が切って落とされた。


※PL情報※
 第二章について(再掲)
 屋上のすぐそばまで来ているゾンビを倒そう。バリケードを一時外して、ショッピングモール内に突入する形です。さらに下の階とかに行こうとすると拠点の守りが手薄になるので奪還者たちが嫌がります。屋上のすぐそばまで来てしまっている大量のゾンビを掃討してください。
 また、オープニングにも登場した青年(NPC名:中園・リク。サバイバルガンナー)を始めとする奪還者たちが協力してくれます。うまく指示を出せれば効率的にゾンビを狩れるでしょう(プレイングボーナス)。

 すでに中に入った状態からのスタートとなります。背後に守るべき拠点の人々がいる状態で、進軍するイメージです。
 中は店舗がならぶごく普通のショッピングモールですが、今はゾンビたちで満たされています。この階のゾンビたちさえ倒せれば拠点の人々の脅威も減り、生活範囲も広げられることでしょう。
 NPCたちは放っておいても死にませんし問題はありませんが、明らかに広範囲を巻き込んだり無差別な攻撃をすると犠牲が出るかもしれません。逆に、指示を出せば従順に従い、判定的にはボーナスがつきます。彼らをどのように扱うかは皆様次第です。
 それでは皆様のプレイングをお待ちしております。
リュアン・シア
ゾンビを詰め込んだ棺桶みたいになってるわね、このショッピングモール……。
立ってるだけで腐臭に耐えられなくなりそうだから、動くわ。
犇めいてるゾンビの中に道を作れば、そこからどの方向にも掃討していけそうよね。
リク、道を切り拓くから、そこを起点に仲間と背中合わせに死角を無くして、ゾンビと一定の距離を取りながら攻撃して。囲まれないように、頭上や足元にも注意してね。
いい? 絶対に一人になっちゃダメよ。お互いに、お互いをいつもサポートして。
じゃ、行くわよ。
憐花切を手に、【執着解放】。高速でゾンビの群れへ舞うように斬り込み、衝撃波で周囲のソンビを吹き飛ばす。同行の猟兵や奪還者にも目を配って協力するわ。



 鼻のひん曲がりそうな腐臭。どこか酸っぱい、不快な匂いに満たされたショッピングモールには、魂を失った抜け殻たちが生者を求めて彷徨っている。
 最前に詰め寄っていたゾンビたちは吹き飛ばされ、ばらばらに砕かれた。その爆発から逃れたゾンビたちもよろよろとふらつき、明らかな隙ができている。そして、彼らが体勢を立て直す前、一筋の疾風がゾンビたちを斬り裂き吹き飛ばした。

「リク、私が道を切り拓くから、そこを起点にゾンビと一定の距離を取りながら攻撃してちょうだい。仲間同士で背中合わせに死角を無くしつつ、よ」
 突入前、リュアン・シア(哀情の代執行者・f24683)は初動についてリクたち奪還者へ指示を出していた。
 手榴弾で入り口を吹き飛ばすとはいえ、ゾンビたちもいつまでも待ってはくれないはずだ。初動はできるだけ素早く、効果的に進めた方がいい。圧倒的に数で負けているのならばなおさらだ。
「囲まれないように、頭上や足元にも注意してね。相手は脆弱だけど、囲まれたらどんな強い武器を持っていてもおしまいよ」
 リュアンの言葉にリクが深くうなずく。彼らも何度かゾンビたちと交戦したことがある。過去に少なくない犠牲を出している彼らは、大勢のゾンビに囲まれた仲間の最期をよく知っているのだ。
「いい? 絶対に一人になっちゃダメよ。お互いに、お互いをいつもサポートして。分断されそうなら声をあげなさい」
 ゾンビたちになくて奪還者たちにあるもの、それは知能だ。天才的な策を思いつかずとも、ちょっとしたことを徹底し連携するだけでも生存率は爆発的に上がる。それをリュアンたち猟兵がいなくとも編み出せるように。かつての皇女は彼らを導く。
「いいこね。じゃ、行くわよ。あまり深追いもし過ぎないように」
 最後にそっと微笑んで、リュアンは憐花切を手に取った。奪還者たちも各々銃を持つ。
 バリケードが爆音を立てて崩されるのはその数分後のこと。

(ゾンビを詰め込んだ棺桶みたいになってるわね、このショッピングモール……)
 腐臭に顔をしかめながらリュアンは刀を振るう。白菊の花を思わせる結晶の刀身が、赤黒い液体で汚れていく。近寄ってくる大勢のゾンビがその白磁の肌に触れる前に、リュアンは衝撃波で彼らを撃ち払った。
「解放してあげるわ、哀れな人々――死してなお操られる、不憫な躰ね」
 リュアンの切り開いた道にはリクを筆頭に多くの奪還者が入り込んでいた。背中を仲間に預け、互いに声をかけあいながらゾンビを掃討していく。教えたことを徹底している様に、リュアンの表情にも笑みが浮かぶ。初動は完璧、このままいけば第一陣のゾンビたちは問題なく殲滅できるだろう。
「今のところ順調、ね」
 背後に現れたゾンビを逆手に持った刀で刺し殺しながら、リュアンは呟いた。このまま何事もなく粛々と殲滅が終わればいい。そんな思いを胸に宿しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・還
ふふ、昔は俺一人でどうにかしようだとか無茶したっけなぁ…
昔の俺にもうちょい協調性があったら良かったのに


UC発動。さ、帰っておいで。この世界に再び干渉させてあげよう
羨むほど大好きな人達に害を成すゾンビの群れだ、その無念を少しでも晴らすために一緒に戦っておいで

奪還者達に喚び出した亡者を数体ずつ付けてやる
亡者達にはゾンビの攻撃から護ったり、呪殺弾等でサポートする様に最初から指示しとくよ

俺は【情報収集】と【地形の利用】で戦況が分り易い所を見つけて其処から追加の指示を
死霊伝いに奪還者に伝われば幸い
無理なら率先して進ませて判るように動かす

亡者も生者もいつの日か安心できる日が来ると良いなぁ、なんて。ふふふ。



「ふふ、昔は俺一人でどうにかしようだとか無茶したっけなぁ……」
 力を貸してほしいと頭を下げた青年の姿を思い出して、つい過去の自分を重ね合わせてしまう。ああできたらよかったんだろうな、と今ならわかる。そんなことを考えながら終夜・還(終の狼・f02594)は記憶の書を開いた。
「昔の俺にもうちょい協調性があったら良かったのに……なんてね」
 過去を思い返す時間は終わりだ。イフを考えていても、未来は切り開けない。
 後悔するくらいならその想いを今を生きる糧にする。それが還の選んだ道だ。
「さ、帰っておいで。この世界に再び干渉させてあげよう」
 喚び出すのはまたアポカリプスヘルの亡者たち。ゾンビが魂のない抜け殻ならば、死霊たちは躰を失った嘆きの塊だ。躰は地へと、魂は天へと。無念を晴らして、還してやるのが還にできる最良のこと。
「羨むほど大好きな人達に害を成すゾンビの群れだ、その無念を少しでも晴らすために一緒に戦っておいで。以前は肩を並べて戦ったんだろ?」
 還の力を借りて、非業の死を遂げた人々が現世へと姿を現した。本来、死霊はゾンビと同じように生者を蝕むものだ。しかしあえて、還は死霊たちを奮闘する奪還者たちに同行させた。彼らが奪還者たちに害をなさないことをよくわかっているからだ。
 突然傍に死霊たちを憑けられた奪還者たちは思わず悲鳴をあげる。しかし、死霊たちの姿を見ればすぐに、怯える必要などないのだと気が付いた。そこにいるのは、かつて亡くした盟友や家族たちの姿なのだから。
「今は現世に干渉できるんだ、存分に守れよ! んで、大切な人に手ェ出そうとするゾンビ共なんざ呪殺しちまえ!」
 目を光らせて見つけた、戦場を見渡せる開けた場所から還は指示を飛ばす。それを受けて死霊たちは声にならない雄叫びをあげた。もはや大切な人と会話することもできない。それでも、護ることができるのならば!
 死霊たちに守られ我に返った奪還者たちは、こみあがってきたものを飲み込んで顔を引き締めた。各々の武器を構え、亡き戦友たちと共に戦う。その士気は、先ほどまでとは段違いだ。
「そこの赤髪、あんま突っ走んな孤立するぞ! 右側が手薄だ回り込め!」
 指示を死霊伝いに飛ばしながら還もついに飛び出し接敵する。そして、地面から這い寄り奪還者たちを襲おうとしていた這いずりゾンビを、勢いのまま豪快に踏みつぶした。
 奪還者たちの一斉掃射でゾンビはどんどん減っていく。やれんじゃねぇかと還は笑みを深めた。ここの連中にはどうか、強く生き残ってほしい。
「亡者も生者もいつの日か安心できる日が来ると良いなぁ、なんて。ふふふ」
 還の張り付いた笑顔がほんの少しだけ、緩んだ。
 すぐには無理でも、いつかはきっと。完璧なハッピーエンドがこの世界にも微笑みますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イリーツァ・ウーツェ
【竜偵】
(人間より鼻が利く為、腐臭が辛い)
少々、匂いが……鎧坂殿は平気なのですか?
然様ですか
宜しい事です
申し訳有りませんが、急がせて頂きます

UCを発動し、片端から杖で殴り消す
空気中の匂いも消す
人間に当てない為には、離れる必要があり
詰りは、腐乱死体の集団に突っ込む形になる
鼻が痛い
暫く呼吸を止めておこう
私は根本的に生き物と違う
呼吸せずとも動ける

人間の使い方は解らない
全て鎧坂殿に任せる
私は唯、排除する


鎧坂・灯理
【竜偵】
とんでもない大群だな。掃除のしがいがある
イリーツァ殿はどうされます?また突撃…うわ
どうしました?臭い?ああ、なるほど
私はそこまで鼻が利きませんし、索冥で覆っているので平気です
ええ、それは全くかまいませんが…

びっくりした……あんな顔は初めて見たぞ
大変そうだし さっさと終わらせようか
起動――【分子崩壊】
中園をはじめとしたガンナーたちの射線を開く
撃てるものを撃て 弾切れしたら後列と交代
あの暴れてる男は撃つなよ 弾丸を弾き返されて死ぬぞ

自分たちも戦えると自覚させるのは大事だ
「勝ち癖を付ける」と言うやつだな
手足を狙って切断し、とどめは彼らに刺させよう



「はははは、とんでもない大群だな。掃除のしがいがある」
 ゾンビたちが跳梁跋扈するショッピングモール内を見て鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)は笑い声をあげた。数の多さは厄介だが所詮は脆弱な歩く腐乱死体。恐れる理由などない―――それは背後に控える竜も同じだろうと灯理は彼へと振り返る。
「それで、イリーツァ殿はどうされます? また突撃……うわ」
 いつもと同じ顔がそこにあると思っていた灯理は、思わず声を漏らして固まった。無感動で平坦で無機質な男の顔はそこになく、むしろこれでもかというくらい眉間に深いシワが寄っていた。明らかに「不快」を表すイリーツァ・ウーツェ(負号の竜・f14324)の表情に流石の灯理も戸惑う。
「…………どうしました?」
「……少々、匂いが……」
「臭い? ああ、なるほど」
 匂い、と聞いて戸惑いが納得に変わる。確かにこの戦場は腐臭に満ちていて人間でも顔をしかめるほどだ。より感覚が鋭利で五感に優れているイリーツァにとっては、我慢ならない匂いだろう。
「鎧坂殿は平気なのですか?」
「私はそこまで鼻が利きませんし、索冥で覆っているので平気です」
「然様ですか。宜しい事です。…………申し訳有りませんが、急がせて頂きます」
 一刻の我慢もできなくなってきたのかいつもより少しせっかちに、歩幅を大きくあけて匂いの元凶へと向かっていくイリーツァ。その珍しい姿を眺めつつ、灯理はしっかりと釘を刺した。
「ええ、それは全くかまいませんが……気を付けてくださいね、色々と」
 その言葉にピクリと肩を揺らしてイリーツァが止まる。「もちろんです」と返した竜は改めてその手に杖をとった。

(……鼻が痛い)
 片っ端からゾンビを杖で殴りつけ、その存在ごと消滅させながらイリーツァは顔をしかめた。先ほどよりも強くなった腐乱臭。当然だ、人間に当てないためには死体たちの中に突入する必要があるのだから。
(煩わしい。暫く呼吸を止めておこう)
 根本的に生き物とは在り方が異なるイリーツァにとって、呼吸は生命活動に必須ではない。不快な思いをするくらいなら吸い込まなければいい。息を止めながら淡々とその杖を振るう。
 杖が直撃したゾンビはぐちゃりと嫌な音を立てて飛び散った。しかし、飛び散ったはずのその断片は地面や壁を汚す前に跡形もなく消え失せる。
 存在そのものを否定する異能、『天稟性・正号滅失』。静謐を齎すその攻撃はイリーツァに“触れる”だけで効果を発する。つまり。
「が、ァァァアアアッ!!!」
「!」
 一斉に掴みかかろうとするゾンビたちの無数の手。そのいくつかがイリーツァの肩にかかったその瞬間。嘘のように触れた死体たちの躰が掻き消えた。
 ゾンビたちに触れないでイリーツァを害する手段は存在しない。それでも知能のない彼らは怯えることもためらうこともしないのだ。イリーツァにとって、これは戦いですらない。淡々と匂いの元を消す作業だ。
(……人間の使い方は解らない。全て鎧坂殿に任せる)
 消えたゾンビたちの先に人間たちを率いる灯理が見える。ああいう分野は不得手だ。ならば自分は目の前の作業に集中するのみ。
「私は唯、排除する」

「びっくりした……あんな顔は初めて見たぞ」
 イリーツァの新たな顔を見た灯理はがりがりと頭を掻き、奪還者たちへと向き直った。大変そうだし さっさと終わらせようか、と呟いて彼らに指示を出す。
「私が射線を開こう。ガンナーたちは二列に分かれて準備をしておけ」
「はい!」
 いい返事だ、と灯理は笑いながら己の思念力を指先に集める。起動――【分子崩壊】。対象は射線を遮るすべてのもの。
「撃てるものを撃て。弾切れしたら後列と交代だ。間違ってもあの暴れてる男は撃つなよ。弾丸を弾き返されて死ぬぞ」
 ただ腐乱死体どもを一掃するのは簡単だ。容赦なく暴れまわり、殲滅してやるだけでいい。だが、それでは一時しのぎができるだけで根本的な解決にはならない。ならば、ここの者たちだけで戦えるよういくらか教育してやらねば。
「自分たちも戦えると自覚させるのは大事だ。『勝ち癖を付ける』と言うやつだな」
 生き残りたいのなら、恐れは大切だ。だがそれだけでは勝つことはできない。相手を恐れながらも向き合って武器を向けることができる者だけが、敵に打ち勝ちなにかを護ることができるのだ。
 響き渡る銃声の音。交代を頻繁にすることで絶えることのない弾幕は、奪還者たちにゾンビたちを近づけさせない。それでも手を伸ばして掴みかかろうとする幸運な死体は、灯理の思念力でその手足を捥いでやる。そのとどめも敢えて彼らに任せて、灯理は戦場を広く俯瞰し続けた。
(上々だな。このあたりは、これで掃除し終わるだろう)
 暴れる竜と、弾幕を張る奪還者たちを交互に見やりながら、灯理は耳と目を注意深く光らせる。
 想定外、が起こらぬよう。今更盤面をひっくり返されるなど、絶対に御免だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイ・ランス
【WIZ】
わあおゾンビうじゃうじゃ。オブリビオンってわかっててもやっぱ怖いわ~…
まあでも依頼だしなー、しかたないよな~……

はいっ、じゃあこうしよう。オレがおとりになってゾンビを引き離す。で、ダマになったやつを分散させていくから、君ら(NPC)は伸びた部分を確保撃破してくれ。もち、無理すんなよ?俺にも武器はあるからな。

さて、せっかく色んな通路があるんだ。エレクトロレギオンとオレで通路を封鎖して【時間稼ぎ】、有利な地形を【情報収集】して、そこに友軍を配置と。まあ、それでいいかな?
ダマになったところは…対戦車/対化物用30mmガトリング砲と630mm電送砲(ブリッツカノーネ)の【一斉発射】かな~



「わあおゾンビうじゃうじゃ。オブリビオンってわかっててもやっぱ怖いわ~……」
 ショッピングモール内の惨状をぐるりと眺めまわしてジェイ・ランス(電脳(かなた)より来たりし黒獅子・f24255)はそうひとりごちた。嫌だ、という表情を隠すこともなく、少々大袈裟に肩を落とす。
 オカルト系は嫌いなのだ、演算はうまく行かないし、理論的な説明もありはしないし。『オブリビオンだから』という情報を得たことでなんとか噛み砕けてはいるが、元々の苦手意識が即座に改善されるわけもない。
 とはいえ、苦手だから嫌いだからと避けていたら、猟兵失格だろう。
「まあでも依頼だしなー、しかたないよな~……はいっ、じゃあこうしよう!」
 ばちん、と自らの頬を打って、ジェイは勢いよく振り返った。後ろで控えていたのは、うだうだと管を巻くジェイの姿を、心配そうに眺めていた奪還者たち。ジェイに気合いが入ったのを感じたか、全員が素早く姿勢を正した。
「まず、オレがおとりになってゾンビを引き離す。で、ダマになったやつを分散させていくから、君らは伸びた部分を確保撃破してくれ。色々考えてたんだけど、やっぱりこの作戦がいいかなって」
「一人でおとり……いや、ジェイさんの力を疑うわけではねぇけど……」
 嫌な思い出でもあるのか言葉を濁したリクに、ジェイは安心させるようにニッと笑った。緊張でこわばっているその肩をぽん、と優しく叩いて大丈夫だと伝えてみせる。
「大丈夫大丈夫! 俺にも武器はあるからな。もち、無理すんなよ? ゾンビたちの狙いがそっちに向いたら一目散に逃げてくれ」
 俺にはこいつらもいるしな、とエレクトロレギオンを召喚して見せれば、奪還者たちは信頼を瞳に映してゆっくりと頷いた。

「さて、せっかく色んな通路があるんだ。利用させてもらうぜ」
 固まってダマになっていたゾンビたちの元へ一人で近づき、彼らの気を引いて通路へと駆けこむ。他の通路は敢えてエレクトロレギオンに封鎖させ、奪還者が受け持てない分のゾンビを一本道へと引き込んだ。
 ゾンビたちはどうやら、最も近い生存者を襲うようにできているらしい。鼻も耳も目も機能しているようにも見えないが、ジェイの存在に気が付くのだから不思議なものだ。誘われていることを察する知能もないようなので、誘導自体はどんな敵よりも容易であった。
「ようし、良い感じに伸びた部分は殲滅できてるっぽいし、あとは俺についてきたこいつらくらいかな」
 辿りつかれず、しかしゾンビが見失わない程度のスピードで逃げていたジェイが、くるりとその体の向きを変えた。迫りくるゾンビを見、ニヤッと笑みを浮かべる。
「んじゃ、派手に行こうか!」
 その掛け声に応えるように、二つの銃口がジェイの両脇に現れた。一つは戦車についているような巨大な機関銃。もう一つは高密度プラズマを発射する兵装。どちらも対群に優れた効果を発揮する武器だ。
「なぎはらえ! ってな!」
 二つの銃口から発された二種類の弾幕がゾンビたちを焼く。あるゾンビは粉々に、あるゾンビは跡形も残らず、始末されていく。這い寄るゾンビだろうが奇形化したゾンビだろうが関係なく、すべては弾幕の元に炭となっていった。
 横道を封鎖された一本道。最後に立っていたのは、ケラケラと笑うジェイだけであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジング・フォンリー
『屍商人』の排除に成功したな。
後はゾンビの群れを倒すのみだ。
援護をしてもらえるのはありがたい。
しかし猟兵の攻撃に巻き込むわけにはいかないからな。
できるだけ遠くからの援護射撃を希望する。

これだけの数を相手にするのは大変だが。
なに味方もいる。存分に頼らせてもらおう。

数も多いまずは内蔵兵器での攻撃がいいだろう。
UC【ヴァリアブルウェポン】(攻撃回数重視)を発動。
【遠距離射撃】で数を減らし。弾が当てにくくなった接近して功夫攻撃。

敵攻撃は【第六感】で【見切り】できれば【カウンター】も決めたい。

アドリブ連携歓迎。



「厄介者の排除に成功し、後はゾンビの群れを倒すのみだ。援護をしてもらえるのはありがたい」
 奪還者たちを引き連れジング・フォンリー(神躯108式実験体・f10331)は広い戦場を駆ける。多くの猟兵たちの活躍、そして奪還者たちの奮闘により、ゾンビたちとの戦いは優勢を保っている。しかし戦場の趨勢などたったひとつの銃弾で変わってしまうもの。油断は許されない。未だ、数だけでいえば敵の方が圧倒的に勝っているのだから。
 とにかくゾンビの数が多い。ジングの体ひとつでは補いきれないほどに。だからこそ、奪還者たちとの連携が重要だ。
「……だが。猟兵の攻撃に巻き込むわけにはいかないからな」
 サイボーグの自分や猟兵の仲間たちと違い、武装した一般人でしかない奪還者たちはあまりにも簡単に、命を落とす。それはゾンビからの攻撃だけではなく、猟兵たちの攻撃だって同様だ。
「できるだけ遠くからの援護射撃を頼む。存分に頼らせてもらおう」
 だからジングは、遠くからの援助を受けるにとどめることにした。そちらの方がジングも己の特性を活かせる上、奪還者たちの安全性も高い。特に遠距離射撃を得意とする奪還者たちが集まって、ジングの援護部隊ができあがった。
「敵は数も多い。まずは遠距離で散らしていくぞ」
 その身に内蔵された兵器を装填し、うごめくゾンビたちへと銃口を向ける。攻撃回数を増幅したアサルトウェポンが、一度に十人分以上の弾幕を撃ち放った。
 ジングの一斉掃射と共に奪還者たちも各々の銃器でゾンビたちを減らしていく。確実に当てる奪還者たちと数の暴力を振るうジングの弾幕に曝され、ゾンビたちは次々と頭を吹き飛ばされていった。
 ある程度的の数が減ってくると、銃弾数に任せた弾幕は広い戦場では当たりにくくなってくる。そこでジングは予定通り、前に出ることにした。内蔵兵器をしまい、射撃は奪還者たちに任せて、近距離戦へ。射線の邪魔にならぬよう気を付けながら、ジングは一人目のゾンビへと接敵した。
 功夫の心得があるジングにとって接近戦は決して不利な戦いではない。数の差が大きすぎれば話は別だったかもしれないが、既に減らしてある上に援護射撃のおかげでゾンビたちはまともな身動きもとれない。包囲さえ気をつければこの戦場でジングに敵はいないだろう。
 掴みかかろうとするゾンビの手を素早く弾き、向かってくる勢いを利用して両手を胴へ叩き込む。胸をぶち抜かれたゾンビはふらふらと後ずさり、ジングにその頭を蹴りぬかれた。
「やはり頭を砕かないと止まらないか……」
 周囲に奪還者がいないのならば遠慮する必要はない。一度大きく息を吸ったジングはその険しい表情をさらに深めた。
 戦場に白き猟兵が舞う。自由に暴れられる戦場は、ジングにとってひどくしっくりと、馴染むものであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ベルベナ・ラウンドディー
●ユーベルコード使用・該当技能・医療・奉仕を使用
非戦闘員と共に後方待機
前線部隊の期待し負傷者の治療および補充と改造を展開

サボりではありません
退路の確保の観点では安心感も戦力の1つです
数で対処できる敵は奪還者に任せ、温存しますよ
…「最高傑作」グリモア猟兵の勘どおりになってきましたね

即席でやるのが密偵式
手持ちの爆弾一式と諜報道具一式、バイクの部品も流用して現地改修
銃の精度なり戦車の旋回性なりレシピは使用技能に準拠
今我々だけで奮戦しても一時的な消耗が抑えられるに過ぎません
依頼後も生き抜く資源を有効に消耗できる装備も必要でしょう

戦い方を知らずとも戦力にはなれるものです、ユイさん
だからサボりでは(略



「……『最高傑作』、ですか。どうやらグリモア猟兵の勘どおりになってきましたね」
 多くの猟兵が奪還者たちを引き連れ戦場を駆ける中、ベルベナ・ラウンドディー(berbenah·∂・f07708)はひとり後方支援に徹していた。決してさぼりではなく、退路を確保し、戦線をすり抜けたゾンビを拠点へたどり着かせないための見張りである。
 戦場を確認する限り、勝利は猟兵・奪還者たちに傾いてきている。しかしその分前線は広範囲となり、すり抜けられる危険性がでてき始めた。
 戦場において、退路を断たれることほど危険なことは無い。退路を塞がれたとき、どんなに士気をあげようとも兵士たちの頭にその絶望感はちらつき続ける。死にそうになっても撤退することができないという恐怖は、人が思うより兵士を蝕むのだ。
 なにより、後ろには非戦闘員たちが控えている。彼らが犠牲になっては、ゾンビを全滅させたとしても勝利とは言えないだろう。
「ですので、サボりではありません」
「そっかぁ」
 とはいえ、前線で戦っている猟兵たちもそのことは百も承知だ。結論から言うと、最終防衛ラインを護るベルベナは、暇なのである。ベルベナが暇ということは戦いがうまくいっているということ。それ自体は歓迎すべきことだが……。
「このあとにまだなにかがいるようですし、温存しますよ。この状況でも、私にできることはありますからね」
「竜のお兄さん、なにするのー?」
 がちゃがちゃと部品を広げるベルベナの手元を、ユイが興味深そうにのぞき込んだ。そんな彼女を横目に、手持ちの爆弾一式と諜報道具一式、バイクの部品を使ってベルベナは装備を改修し始めた。その装備は、拠点で奪還者たちを待つ非戦闘員が集めたもの。どうせ暇なら、この拠点が自らやっていけるように手を加えてやろうということである。
「お兄さんたちの装備を作るのですよ、ユイさん。今我々だけで奮戦しても一時的な消耗が抑えられるに過ぎませんからね。抗うにしても資源は有限ですから、有効に消耗できる装備も必要でしょう」
 難しい言葉にユイは首をかしげつつもうんうんと頷く。どうやら、リクのためになるということは理解できたようだ。
「例えばこの銃は、改造したことで反動を抑え狙いがぶれにくくなりましたし、この壊れかけたサバイバルベストは、この鉄板を入れて縫い直すことでもう一度使うことができます。そして壊れた銃弾の火薬は……」
 そう言いつつベルベナは、ぽい、と手に持った爆弾を背後に放り投げた。するとちょうどこちらに向かってきていたゾンビに着弾し、その頭を爆散させる。倒れこんだその死体を確認し、周囲に他のゾンビが来ていないかを見渡してベルベナは息をついた。おそらくは猟兵たちの意識の隙間を縫って、戦線をすり抜けてきたのだろう。一体だけなら優秀な方だ。
「……と、言うわけで戦い方を知らずとも戦力にはなれるものです、ユイさん」
「お兄さんすごい! ひとりで遊んでいたわけじゃないんだね!」
「だからサボりではありませんって」
 集まってきた非戦闘員の人々に改修の方法を教え、改造の簡単なレシピを与える。時折すり抜けてくるゾンビたちはその都度爆殺しながら、ベルベナの後方支援講座は、新たな敵が現れるまで続いていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

西条・霧華
「生きる為…いえ、生き続ける為に…。」

未来に繋ぐその為にも、今は守護者の【覚悟】を以て護ります

奪還者の方々と話をしつつ私が前衛を務める形で戦闘
少しでも経験を積んで頂けたらと思います

私が近接戦闘を担当しますので援護や観察をお願いしますね
こう言った場合、一番大切なのは連携です
お互いに死角と隙を補い合うだけで生存確率を高める事ができます
あとは…油断をしない事でしょうか?
…こんな風に、背後から突然襲われる事もありますからね

【残像】を纏って眩惑し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』
相手の攻撃は【見切り】、【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止め【カウンター】



 ゾンビたちの掃討終了まであともう少し。猟兵たち率いる奪還者たちは屋上に最も近い、ショッピングモール最上階のフロアを奪還する一歩手前まで来ていた。猟兵の圧倒的な力だけではなく、奪還者たち自身の手でフロアを取り返そうとしている。その感動と達成感が奪還者たちの誇りと自信となり、そして油断ともなろうとしていた。
「生きる為……いえ、生き続ける為に……」
 籠釣瓶妙法村正を手に、西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は最前線で戦っていた。攻撃を受ける可能性の高い前衛を受け持ち、援護と観察を持って奪還者たちに学んでもらう。
 ただ刀を振るい守るだけでは、この拠点の人々の未来を護ることにはならない。自分たちがいなくなったあとも、ここの人々だけで生き残っていけるように彼らに戦い慣れてもらわねばならない。
 敵の数が多いうちはとにかく、観察して学んでもらうことにしていた。前線を受け持つ者として、敵を通させるわけにもいかず流石に手が回らなかったのだ。
 しかし、相手の数がだいぶ減らされた今ならば話は別だ。そばにいたゾンビを斬り倒し、周囲にもうゾンビがいないことを確認してから霧華は奪還者たちへ向き直った。
「どうですか? なにか、掴めましたか?」
「ああ! 俺たちも隙さえ見せなきゃ、ゾンビどもも怖くねぇな!」
 猟兵たちの指示のもと、敵を倒し学んだ奪還者たちの士気は高い。かつて大勢のゾンビたちに襲われ仲間を失って絶望に晒されたように、仇敵を倒せるという経験は奪還者たちにとってなによりの希望となるだろう。今回の戦いで学んだことも多い。彼らは着実に経験と力を積んでいる。
「……ええ。こう言った場合、一番大切なのは連携です。お互いに死角と隙を補い合うだけで生存確率を高める事ができます」
 ゾンビなどの一体一体の力は弱いが数が多い敵は、死角を気を付けるだけで犠牲になる確率がぐんと下がる。目に映らない場所や弾込めの瞬間、ひとり孤立している者などを狙って、あっという間にゾンビたちは迫ってくるのだ。ひとりでは注意するにも限界がある。複数人で連携しあって犠牲を最小限にするのが望ましい。
「あとは……油断をしない事でしょうか?」
 こて、と首をかしげた霧華の後ろに、ゆらりとゾンビが立ち上がる。先ほど斬られたゾンビたちに混ざって転がっていたそのゾンビは、ふらつきながらもその腕を霧華へと伸ばし、口を大きく開けた。
「ちょ、後―――」
 リクが声を上げる前に、霧華はするりと刀を抜いた。掴みかかる腕、それを残像で空ぶらせ、ゾンビが大きくバランスを崩す。その瞬間を逃さず、霧華はすばやく刀を翻していた。
 一閃。
 まっすぐに首を叩き斬られ、ゾンビの頭と体が二つに切り離される。足元に転がったゾンビの生首が、虚ろな目で奪還者たちを見つめていた。
「……こんな風に、背後から突然襲われる事もありますからね。油断は禁物ですよ、皆さん」
「は、はい!」
 いつになくいい返事をした彼らは気を引き締め、改めて姿勢を正した。取り返しのつかないことになる前に、彼らの油断は摘み取られた。ゾンビの掃討はアクシデントもなく、粛々と進む。
 そんな戦勝ムードの中で、一匹の“大物”が、目を覚ました。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ゾンビジャイアント』

POW   :    ライトアーム・チェーンソー
【右腕から生えたチェーンソー】が命中した対象を切断する。
SPD   :    ジャイアントファング
【無数の牙が生えた口による捕食攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    レフトアーム・キャノン
【左腕の砲口】を向けた対象に、【生体レーザー】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「グォォオオオオオオオッッ!!!!!!」
 突如、ショッピングモール内に大きな咆哮が響き渡った。エスカレーターの階下から聞こえたそれは、そこらのゾンビとは格段に違う、死を感じさせる叫び声だ。アレには叶わない、戦おうとすれば一口に食われてしまう。そんなふうに感じさせる恐怖の声。
「な、なに、が……!?」
 震える手でリクはエスカレーターへショットガンを向けるが、猟兵たちは即座に察知するだろう。“コレ”は、一般人の手に負えるものではない、と。
 徘徊するゾンビを狩っていた奪還者たちに避難を呼びかけ、拠点へと帰す。逆に猟兵たちはそれぞれの戦場からエスカレーター前へと集結し、這い上がってくるその“なにか”を待ち構えていた。
 数人の猟兵の頭の中に、ある言葉がよぎる。
 ―――だってあの子たちにはもっともっと強くて、頼りになる私の最高傑作がいるもの! 貴様らも終わりよ、猟兵!
 それは消滅を悟った屍商人が、最期に喚いた言葉。“最高傑作”。コレがおそらく、屍商人の言っていたものなのだろう。
 ズシン、ズシン、と腹に響く音を立てながら、それは姿を現した。もはや死体の姿さえしていないたくさんのゾンビの集合体型奇形―――ゾンビジャイアントが、猟兵たちをぎょろりと睨みつける。
 一体化した右腕のチェーンソーがけたたましい音を上げ、中央の捕食口はちろちろと舌を揺らす。見るからに醜悪な見た目をしたその最高傑作は、猟兵たちを正しく“敵”と認識したようだった。
「グギャオオオオオオォォッ!!!!!!」
 雄たけびを上げてゾンビジャイアントが猟兵たちに襲い掛かる!
 奪還者たちの避難は十分に済んだ。後は目の前のデカブツを黙らせてやるだけである。もう周囲を気にする必要もない。存分に、猟兵の力を見せてやるときだ!
ジェイ・ランス
【POW】
おーおーおー、こいつが大ボスかい?ここまでくると逆に怖くもないもんだな。

だがまあ、みんなの所には行かせねえ、一本道で決着つけるぜ。
【スナイパー】【一斉発射】【制圧射撃】で【時間稼ぎ】だ。
【激痛耐性】があっても痛いものは痛いからな、接近戦で行くならUC発動だ。
オレの獅子の牙(シュトースツァーン)と630mm電送砲(ブリッツカノーネ)の【零距離射撃】、食らってみな。

あ、俺死んだわ。
ばかめ、そいつは本体だ!オレも本体だけどな!
悪いが残機無限なんだ。お前さんがくたばるまで、オレとワルツを踊ってもらうぜ。



「おーおーおー、こいつが大ボスかい? ここまでくると逆に怖くもないもんだな」
 あまりに肥大化した体、現実離れし過ぎたその姿を、ジェイ・ランス(電脳(かなた)より来たりし黒獅子・f24255)はいっそ清々しい気持ちで見上げていた。
 うじゃうじゃいるゾンビたちは人の姿をしていた分、得体の知れない恐怖があった。しかしここまで大きく奇形化してしまうと、ただの怪物として認識してしまう。そうなると演算から飛び出たものである『オカルト的』恐怖から大きく外れるため、ジェイにとっては「なんかでっかい大ボス」以外の何物でもなくなってしまったのである。
 無論、普通の人間は……否、それが猟兵であったとしても、命を簡単に消しとばすであろうゾンビジャイアントに恐怖を覚えるのが当たり前だろう。それがジェイに無いのは、彼の特異性に起因している。
「だがまあ、みんなの所には行かせねえ、ここで決着つけるぜ」
 後ろに行かせてしまえばこのゾンビジャイアントは無抵抗な人々に、虐殺の限りを尽くすだろう。それだけは防がなくてはいけない。こいつを倒せば、この階層は取り返したも同然なのだから。
 両腕を硬く、鋭く尖らせ、電脳魔術により仮想砲塔を展開する。遠くからちまちま撃つのではなく、選択したのは接近戦だ。猟兵たちの中で、誰よりも早く駆けだしたジェイはひとつの躊躇もなくゾンビジャイアントへと飛びかかった。
「グガァァッ、アァ!?」
 恐れるでもなく怯えるでもなく、飛びかかり斬りつけて来たジェイにゾンビジャイアントは驚愕の声を上げる。攻撃は皮を裂いた程度であったが、それでもこちらに注意を向けさせるには十分だった。
「へへっ、これも食らってみな!」
 宙に体を翻したジェイはその勢いのまま、プラズマ砲を展開する。高密度のプラズマはゾンビジャイアントの分厚い皮脂さえも焼き斬り、びりびりとその肌を焦がした。
 口から泡を飛ばし怒りの咆哮を上げるゾンビジャイアント。その肉と肉の間から覗く赤い目が、ぎょろりとジェイを捉えた。
「……あ、俺死んだわ」
 怒りのままに振るわれるチェーンソー。宙に体を投げ出し戦っていたジェイに勢いよくそれが迫る。己の反応速度より速いそれを、ジェイが避けられるはずもなく。
 グチャッ。
 ジェイだったもの、がチェーンソーの勢いのまま壁へと叩きつけられる。ゾンビたちのそれよりも鮮明な赤色が、壁を彩った。
「……なーんてね、ばかめ、そいつは本体だ! オレも本体だけどな!」
 目障りな敵をひとり始末したと油断したゾンビジャイアントの後方から、今やられたはずの男の声が響く。先ほどまでと全く変わらない、ジェイ・ランスそのものが鋭い両腕を振り上げてゾンビジャイアントの首筋へと迫る!
「悪いが残機無限なんだ。お前さんがくたばるまで、オレとワルツを踊ってもらうぜ」
 獅子の牙は首に深々と突き刺さり、その痛みでゾンビジャイアントが暴れまわる。その目にはもはや目の前の猟兵たちしか映っておらず、奥へと逃げていったより弱い人間たちなど頭の隅にもない。
 時間は稼いだ、あとはこいつを倒すのみ。ゾンビジャイアントに振り回されながら、ジェイは次の一手のためその牙を引き抜くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・還
こりゃスゲェ!確かにこれはイイ!俺も欲しい!なんなら買いたいし研究したいし作りたい!…っていう本音は置いといて
仕事しねーと(スンッ

ガチで殴り合いたいけど俺貧弱な術士だし手堅く行こうかね

UC発動
さ、コイツを倒せば無念も大分晴れるだろ
あのリクっつーガキや、ユイちゃんや此処に遺した奴らの生きる道を護ってやろうぜ

【戦闘知識】と【情報収集】で敵の動きを【見切り】、敵の攻撃を躱すよ
勿論、穢を撒くのも忘れない

敵に向ける死霊に動きを封じさせ、俺は別途【高速詠唱】【早業】【クイックドロウ】で【呪殺弾】を【一斉発射】!蜂の巣にしてやんよ

必死に生きる奴らの邪魔はさせねぇ…!

っと、柄にもねぇ事ほざいちまったな
てへぺろ



「こりゃスゲェ! 確かにこれはイイ! 俺も欲しい! なんなら飼いたいし研究したいし作りたい!」
 知的好奇心に瞳を輝かせた終夜・還(終の狼・f02594)が興奮気味に声をあげる。猟兵である前に死霊術士な還にとって、この魔改造されたゾンビジャイアントはあまりにも魅力的だった。許されるのならば、このまま生け捕りにして、飼って、死なせないよう解体して、調べ尽くしてから自らの手で造ってみたい―――。
「……でも仕事しねーと」
 スンッと現実に帰ってきた還はそれでも少し名残惜しそうに記憶の書を開いた。仕事と趣味はキチンと分けるタイプだ、そこに私情は挟まない。
「視てる限り、近寄るのは結構リスキーだな。ガチで殴り合いたいところだけど俺貧弱な術士だし手堅く行こうかね」
 それに、ここまで来て俺だけでぶっ飛ばしたら浮かばれないしなァ。そう嗤って還は魔導書へ込める魔力を強めた。
 喚ばれくるは非業の死者。この世界で命を落とした魂たち。さあ最終決戦だぞと、彼らは呼びかけに応じ戦場へと姿を現す。黒々とした穢れを現世へ齎しながら、人の容を失った死霊たちがうなりをあげて記憶の書から飛び出した。
「さ、コイツを倒せば無念も大分晴れるだろ。あのリクっつーガキや、ユイちゃんや此処に遺した奴らの生きる道を、護ってやろうぜ」
 死霊に死の恐怖は通じない。現に、喚び出された死霊たちは一欠片の躊躇いも怯えもなく、ゾンビジャイアントへと飛びかかっていく。
 それを振り払うようにゾンビジャイアントは躰を揺すり両腕を振り回すが、実体のない死霊に物理攻撃が効くわけがない。己の拳が届かぬ相手に、ゾンビジャイアントこそが怯えるように暴れ回った。
 まとわりつく死霊はその身に穢れを纏い、ゾンビジャイアントの動きを阻害する。鈍る躰に焦れたゾンビジャイアントは、死霊たちを喚び出した還に目を付けた。
 きっとあいつさえ殺せばこの鬱陶しい亡霊共は姿を消すはずだ。ゾンビジャイアントの思考は悲しいくらい稚拙でわかりやすいものだった。
「そりゃあ俺にくるよね……っと!」
 しかし鈍間になったゾンビジャイアントの攻撃に被弾する還ではない。向けられた砲口の向きから逆算し、焼き焦がす範囲を予想して地面を蹴る。体を翻した還の背中を、生体レーザーが走り抜けた。
「んでもって……オラッ!」
 そして体を宙に預けたまま、還は別の詠唱を始める。黒紫の魔力が弾丸を形作り、呪いの力が込められ……還は、呪殺弾の弾幕を作り上げた。そして即座に、ゾンビジャイアントへと一斉発射される!
「グガオオオオァァァァアアアア!!!!!」
「必死に生きる奴らの邪魔はさせねぇ……!」
 弾丸がゾンビジャイアントの躰へ次々と突き刺さり、赤黒い血がいくつも噴き出した。込められた呪いは傷口からゾンビジャイアントの躰を蝕み、白い肌に呪いの刻印を残していく。
「……っと、柄にもねぇ事ほざいちまったな。てへぺろ?」
 ゾンビジャイアントの悲鳴とは対称的に、どこか誤魔化すような還の白々しい言葉がぽつりと呟かれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュアン・シア
最高傑作、ねぇ……。
あの屍商人、ホントに趣味悪かったのね。

あまり喚きながら近寄られても何だから、【生命調律:グリフォン】でグリフォンを召喚して、少し離れた位置からゾンビに石化ブレスを浴びせるわ。主に足元に。まずは動くのを止めてもらいましょう。
あら、無理して動こうとすると石の脚が割れて失くなるわよ?
モール内でグリフォンを飛ばすわけにもいかないから、ここからは私一人で行動。ゾンビに向かって高速移動し、とても縦に裂きやすそうなソンビの牙口を、上から下へ憐花切で一気に斬り下ろすわ。もう何も食べられないわね。

戦いの後で必要なら、拠点の荷運びとかグリフォンがお手伝いするわよ。子供達が乗って遊んでもいいし。


ベルベナ・ラウンドディー
左右正面、いずれも凶悪な武装が見えますが…一先ず左から封じます




●見切り・串刺し
ユーベルコード使用
レーザーを"掴んで"投げ返し、串刺しにします
無理に張り合う算段はなく、レーザーの無効化を認識させれば充分
左に死角と死荷重を作り出せる優位性の使い方は他の猟兵にお任せ…
…とは温存させてもらった手前、いきませんね
戦闘は専門外ですが仕方がない
左腕ごと獲ります


●気合い・勇気・ダッシュ・スライディング
近接展開は姿勢を低く、銃口の先を外すようにそこまで接近
ユーベルコードで掴みあげ、仰向けにひっくり返せば攻撃範囲も狭まりそうですね
バケモノ、背中に口はありませんね?床でも食べてなさい
エスカレーターから叩き落します



「これが最高傑作、ねぇ……。あの屍商人、ホントに趣味悪かったのね……」
 私のセンスとは合わないわ、とリュアン・シア(哀情の代執行者・f24683)は冷ややかに言い放った。いくつもの死体をごちゃごちゃに混ぜた醜悪な姿に低い知能、そして吠えることと喰らうことしかできない口。リュアンには、ただただ醜い化け物としか思うことができなかった。
「しかし、兵器としては優秀でしょう。左右正面、いずれも凶悪な武装が見えますが……一先ず左から封じましょうか」
 ゴキリ、と己の片腕を鳴らし冷静に銃口を観察するベルベナ・ラウンドディー(berbenah·∂・f07708)。彼の言葉にリュアンは名案ね、と笑った。
「じゃあ私はあの大きな口をいただくわ。嬲り甲斐がありそうだもの。……でも、喚きながら近づかれるのも不快ね」
 さあ、いらっしゃい。リュアンの呼びかけにどこからか猛々しい鷲の声が響き渡る。あまりに場違いな鳴き声だが、誰もそれを疑問に思うことはなかった。なぜなら、その声が響き渡った時にはリュアンのすぐそばにその声の持ち主、グリフォンが現れていたのだから。
「いいこね。じゃあ、まずは動くのを止めてもらいましょう?」
 リュアンの倍はある巨大なグリフォンは、そのくちばしを開き一息に石化のブレスを吐き出した。狙いはゾンビジャイアントの足元。一点に絞ったその攻撃は範囲の代わりに即時性を示し、一瞬でゾンビジャイアントの両足を石化させた。
「グギャオォ!?!? アア゛ッッ!!」
「あら、無理して動こうとすると石の脚が割れて失くなるわよ? ……って、言っても無駄なのね」
 ミシミシ、と音を立ててゾンビジャイアントの両脚にヒビが入る。石化された影響か脚の痛覚はなくなっているらしく、無謀にも自分の脚を砕いて前進する気のようだ。両脚を失った後の不利など、考える知能もないらしい。あるのは、目の前にいる敵への殺意だけ。
「ううむ、レーザーを掴んで投げ返し、レーザーが効かないことを認識させようと思ったのですが……それほどの知能さえなさそうですね」
「あら、じゃあまた後方に下がってる?」
 にっこり、と笑うリュアンに、「温存させてもらった手前、そうもいきませんね」とベルベナは肩をすくめた。狙いは変わるがやることはそう変わらない、とその手に力を籠める。
「戦闘は専門外ですが仕方がない。右を、腕ごと獲ります」
「なら、私も共に行かせてもらうわ」
 一方はその腕を、一方は愛刀を、それぞれ構えて一気に間合いを詰める。ゾンビジャイアントの脚はまだ砕けていない。ゾンビジャイアントは、動ける上半身のチェーンソーを振り上げベルベナへと叩きつけた。
「残念……でしたね!」
 しかし、ベルベナの体が真っ二つになることはなかった。ぎりぎりで身体を滑らせたベルベナのすぐ横にチェーンソーは突き刺さり、動きを止める。その瞬間を逃さず、ベルベナは腕部分を掴み、動かぬよう握り込めて固定してしまった。つう、と汗がベルベナの額を通る。
「あら、よそ見?」
 上半身の動きをベルベナが止めたところで、リュアンがゾンビジャイアントの口へと飛びかかった。刀を振り上げ迫りくる執行者に、ゾンビジャイアントは口を大きく開いて対抗する。そのまま喰らってしまわんとするその動作に、リュアンは口端を吊りあげた。
「とても縦に裂きやすそうな口だこと」
 開かれた口を端から端の先、大きく縦に斬り裂く。衝撃波を持って口の中を滅茶苦茶にしてやれば、喰らうはずだった口はむしろズタズタにされて舌を巻く。斬り裂かれた口端は赤黒い液体を垂れ流し、それをまき散らせながらゾンビジャイアントは怒号をあげた。みしり、と石の脚が悲鳴をあげているがそれに気づく様子もなく。
「で、りゃあ!!」
 ゾンビジャイアントの意識が完全にリュアンに向いたその瞬間、受け止めているだけだったベルベナが動いた。受け止めた右腕を握りこみ、そのまま勢いよく振り上げる。ひび割れていたゾンビジャイアントの両脚はその勢いで大きな亀裂を作り、砕けて破片を飛び散らせた。
 その巨体を宙に持ち上げられたゾンビジャイアントは、自分の体勢の変化についていけず、その赤い目を白黒させる。
「バケモノ、背中に口はありませんね? 大きくなったその口で、床でも食べてなさい」
 ぐるんとゾンビジャイアントの躰を振り回し、思い切り階下へと叩き落とす。エスカレーターに躰をぶつけ、落ちていくゾンビジャイアントからは情けない声があがるばかり。
 猟兵たちから与えられた傷口を抉られながら、ゾンビジャイアントは滑り落ちていく。しかし、完全に落ちてしまう前にその牙をエスカレーターへ突き立て、その体躯を支えて見せた。
「流石にまだ耐えますか」
「グリフォンで斬りに行きたいところだけれど、狭いモール内で飛ばすわけにはいかないわね」
 階下から唸り声をあげ続けるゾンビジャイアント。耐える化け物に引導を渡すべく、猟兵たちは彼の元へと飛び込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

西条・霧華
「正念場ですね。この拠点に生きる方々の道程を未来へ繋ぐ為にも…」

私は守護者の【覚悟】を以て、目の前の驚異に立ち向かいます

それにしても…
死者を弄ぶだけじゃなく、ここまで冒涜するなんて…絶対に赦せません

<真の姿を開放>し右腕と武器に蒼炎を纏います

纏う【残像】で眩惑し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』
敵の攻撃は【見切り】、【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止め、返す刀で【カウンター】

…きっと、望んでそうなったわけじゃないでしょうから
地獄の主・閻羅法皇が司る死者裁定の焔には及ばなくとも…
私の宿す地獄の炎で冥府へと送ります
どうか来世では、より良き営みを…



 ボロボロのエスカレーターにしがみつくゾンビジャイアント。どうにかして上へ戻ろうと、その爪を突き立ててゆっくり登攀を開始した。その動きは緩慢だが放っておけば元の階へと登りきり立ち戻ってくることだろう。
 敵の足場が悪くなっている今を逃すわけにはいかない。引導を渡さんとする猟兵たちの中から、黒い人影が一足先に飛び出した。ショッピングモールの床を蹴り、恐れることなくゾンビジャイアントの元へと飛び込む。
「正念場ですね。この拠点に生きる方々の道程を未来へ繋ぐ為にも……!」
 眉間にしわを寄せ、エスカレーターの手すりを縦に駆け下りながら西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は籠釣瓶妙法村正を抜き放つ。
 その瞳に宿るのは揺るがぬ守護者の覚悟―――そして、死者を冒涜した者への沸き上がる怒り。
「……絶対に赦せません」
 霧華の蒼炎が右腕と刀身へまとわりつく。轟轟と燃える地獄の炎はその意思に応えるように、霧華を包み込んでいた。
「ガァァアアアウゥッッ!!」
 迫りくる蒼き炎の女にゾンビジャイアントは威嚇するように吠える。その裂かれた口を大きく開いて、霧華を食い殺さんと噛み付いた!
 しかし、ゾンビジャイアントが喰らいついたはずの霧華の姿は跡形もなく掻き消える。残像だ。霧華の本体は壁を蹴り空中を舞い……逆側の壁にとん、と足を付けた。
「……きっと、望んでそうなったわけじゃないのでしょう」
 屍商人はこのゾンビジャイアントを『最高傑作』と呼んでいた。彼女が、人々を捕えゾンビにして使役するに飽き足らず、その躰を掛け合わせてこんな化け物を作りだしたのだ。死者を愚弄するにも程がある。
 屍商人の手によって化け物に変えられてしまった人々の躰。救えずとも解放だけでもできたなら。
 残像を喰らい大きな隙ができたゾンビジャイアントの脳天へ目がけ、霧華は思い切り壁を蹴る。先ほどまでよりもさらにスピードをあげて、彼女は飛びかかった。妖しく光る蒼炎の籠釣瓶妙法村正。その刀身に一度ゾンビジャイアントの姿を映りこむ。
「地獄の主・閻羅法皇が司る死者裁定の焔には及ばなくとも。私の宿す地獄の炎で冥府へと送ります……! ……どうか来世では、より良き営みを……」
 想いと共に、その刀は振るわれる。完全に隙を突いた霧華の斬撃はゾンビジャイアントの背中を一文字に斬り裂いた。脂と赤黒い血が周囲へ飛び散り、即座に焼け焦げる。
 斬り裂かれ傷口を焼かれたゾンビジャイアントは悶え苦しみながらその体を振り回した。振り回される巨体に瓦礫は耐えることができず、ずるずるとゾンビジャイアントの躰がずり落ちていく。
 全身から血を垂れ流すゾンビジャイアント。その息の根が止まるまであともう少し。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鎧坂・灯理
【竜偵】
ははあ、あれがねぇ
ふむ……どう思われますか、ミスタ
ははは
まあ、あなたはそうでしょうとも

どうぞ、思う存分手加減抜きで殴り倒してやってください
我々の前では最高傑作も雑兵同然だと教えてあげましょう
私も全力で協力しますよ

起動、【普都大神】
右腕を切り落とすなんて生ぬるい
チェーンソー自体をバラバラにしてやる
どうせ再生するんだろ?
つまり何度だって解体できるってわけだ
ハハハ!楽しいなァ、ええ?

まあなんだ、運が悪かったよおまえ
あの化け物が居るときに出てくるなんてな
哀れんでやるよ ほんの少しだけな


イリーツァ・ウーツェ
【竜偵】
如何、と言われましても
何も思いません
何も感じません
彼れは敵です 故に殺します

手加減をせずとも良いとの事
ならば、武器は置こう
手袋も外し、封印を解く
革の枷は外せないが、十分だろう

――鎧袖一触だ
竜の暴威を刻め

痛みも、傷も無視
全力で踏み込んで、全力で殴る
奴が、地の染みと為るまで
延々と



「ははあ、あれがねぇ」
 最高傑作―――そう確かに聞いた。屍商人と呼ばれたオブリビオンは喀血と共にそう言い残した。だからまだ愉しめそうだと、期待したものだが。
「ふむ……どう思われますか、ミスタ」
「如何、と言われましても」
 ゾンビジャイアントが落ちる直前、鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)は不意に、隣の竜へそう尋ねた。
 答えは考えずともわかっている問い。故にイリーツァ・ウーツェ(負号の竜・f14324)も当然のように……いっそ不思議そうに、答えた。
「何も思いません。何も感じません。―――彼れは敵です。故に殺します」
 興味も恐怖も。情も憐憫も怒りも殺意も。負号の竜にはなにもない。ただ、淡々と坦々と敵を殺すのみだ。
「ははは、まあ、あなたはそうでしょうとも。私は少し、憐れに思えてきましたがね」
 無駄話はここまで。そう言うように灯理はイリーツァの肩を叩いた。その意味を正しく受け取ったイリーツァの脚が、グッと踏み込まれる。
「ここは広い。どうぞ、思う存分手加減抜きで殴り倒してやってください。我々の前では最高傑作も雑兵同然だと教えてあげましょう。私も全力で協力しますよ」
 駆け出すのは同時。エスカレーターへ到達したのは灯理が先だった。背後で何かが振り落とされる音がする。恐らくは武器を捨てたのだろうと灯理は笑った。全力を出すのならば、武器などイリーツァにとっては枷にしかならないのだ。
 ずり落ちるゾンビジャイアントの上空から、畳みかけるように敵が降ってくる。瀕死の化け物はそれに気が付き、小さく唸り声をあげた。その赤い瞳に憎悪と殺意を滾らせながら、血をまき散らしチェーンソーを振りかぶる。耳障りな駆動音がエスカレーターの吹き抜けへ響き渡った。
 真っ先に降りてきた、黒髪の探偵にその刃が迫る。回転する刃でその腸をグチャグチャに砕いてやろうと、殺意を乗せた一撃が灯理に襲い掛かった。
「起動―――普都大神」
 その刹那、敵対者に襲い掛かるはずだったチェーンソーがバラバラに砕け散った。硬度もスピードも関係なく。あまりのことにゾンビジャイアントは痛みさえ感じなかった。
 失った躰を取り戻そうと、ぼこぼこという音と共に傷口が泡立つ。それが再生しきる前に、またそこへ念刃群が襲い掛かった。
「どうせ再生するんだろうと思ったさ。つまり何度だって解体できるってわけだ」
 何度その超再生で容を取り戻そうと。何度そのチェーンソーを振りかぶろうと。いくらでもバラバラにしてやろう、おまえが力尽きるその時まで!
「ハハハ! 楽しいなァ、ええ? だが、メインディッシュは私じゃない」
 霊亀越しにその瞳を細め、灯理は嗤う。自分がトドメならば死体ぐらいは残っただろうか? だが、あの暴竜相手にそれは望めないだろう。
「まあなんだ、運が悪かったよおまえ。他の猟兵たちに加えて、あの化け物が居るときに出てくるなんてな。……哀れんでやるよ ほんの少しだけな」
 目前の女傑しか捉えることのできなかったゾンビジャイアントには、気が付けなかっただろう。己のすぐそばまで、封印を解いた竜が到達していたことに。
「――鎧袖一触だ。竜の暴威を刻め」
 瞳を赤く爛々と輝かせ、封印を解いた竜が牙を剥く。
 手加減をせずとも良いと言われた。ならば、武器は置こう。手袋も外し、封印も解いた。革の枷は外せなくとも、十分だ。猟兵たちの猛攻で弱った、この程度の相手ならば!
 それはイリーツァの力の中でも極めてシンプルな術技。ただ竜の力に任せて敵を屠る暴威だ。
 小細工はいらぬ。武器も道具も。拳と全身に走る痛みも、傷も無視。全力を出した竜の通った跡に、肉片のひとつでも残っていたら僥倖だ。
「グ、ガァッ、アアアアアアアッ!!!!」
 かろうじてゾンビジャイアントを支えていた壁が、衝撃に負けて砕け散った。支えを失ったゾンビジャイアントは宙に投げ出される。それを見逃すイリーツァではない。
「―――終わりだ」
 全力で振りかぶったイリーツァの一撃が、ゾンビジャイアントを地へと叩き落とした。最期の時までイリーツァの猛攻は止まない。下階へ叩きつけられたゾンビジャイアントへ、イリーツァの拳が迫る。
 無感情、ゆえに容赦も油断もなく。延々と叩き込まれる拳はゾンビジャイアントの巨体を抉り、ただの赤黒いシミへと変えた。
 最後にはゾンビジャイアントは悲鳴を上げることさえできなかった。残ったのは無感動にそこに立つ竜と、軽やかに降り立った電脳探偵と、赤黒く広がった床のシミだけだった。

 かくして、脅威は滅された。人々の中に潜んだ崩壊の刺客は倒され、ショッピングモール最上階を満たしていたゾンビ群は殲滅され、人々を蹂躙したであろう最高傑作は跡形もなく消し飛んだ。一時的とはいえ、この絶望の世界に希望の光が灯る。
 ハッピーエンドとはまだ行かずとも。この世界ではあまりにもよくある、絶望のおはなしは、猟兵たちの手によって防がれたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年01月18日


挿絵イラスト