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聖夜来たれり~Schneeschlossにて~

#UDCアース #お祭り2019 #クリスマス #挿絵 #ハートフル

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●雪に染まりし古城
 普段は緑豊かな地に立つその古城は、今の時期は雪に染まるのだという。
 石造りの壁やそびえる尖塔を見れば、まるで中世の城へと迷い込んだかのよう。
 豪奢なシャンデリア、精緻な細工の柱に階段、麗しい壁紙に毛足の長い絨毯。調度品も室礼も、ロイヤルな雰囲気に整えられている。

 ここは、ドイツにある古城を使用したホテル。
 いつもはこの時期予約を取るのが難しい……なんて噂もあるけれど。
 天蓋付きのキングサイズのベッドが置かれた部屋からセミダブルベッドふたつのツインの部屋まであり、それぞれソファとテーブルも置かれている。事前に伝えておく、または到着してからでもルームサービスでクリスマスメニューを用意してもらうことができ、室内でプライベートなクリスマスパーティーを開けるようになっていた。
 泊まる部屋は別であっても、誰かの部屋でパーティーを行うことも出来る。少人数向けではあるが、個室でパーティをして酔ったり疲れたりしたら自室ですぐに休めるなんて、素敵ではないか。

 暖炉を模したヒーターの保つ心地よい室温の部屋が、猟兵たちを迎え入れしくれるはずだ――。

●クリスマスの誘い
「クリスマス、ですね……」
 集まった猟兵たちにそう告げたのは、和洋折衷のドレスを纏った金髪のグリモア猟兵――ヒャーリス・ノイベルト(囚われの月花・f12117)だ。
「UDCアースの、ドイツの古城を利用したホテルで、クリスマスを過ごしてみませんか?」
 彼女曰く、いつも予約がいっぱいのその古城ホテルを、UDC組織が猟兵たちのためにと確保してくれたのだという。
「お城の雰囲気はそのままですので……非常にロマンティックな時間が過ごせると、思います」
 天蓋付きのキングサイズのベットは、夫婦や恋人同士、小さい子どものいる家族や人間と比べて小さな種族ならば二人以上でも休むことは出来るだろう。
 もちろんセミダブルベッドふたつのツインもある。
 どの部屋も、ソファとテーブルが置かれており、食事や飲み物も部屋まで運んでもらえるので、プライベートなクリスマスパーティーにはうってつけだ。
 必ずしも同じ部屋に泊まる必要はないからして、泊まる部屋は別でも誰かの部屋に集まってパーティーをしてもいいだろう。特に希望があれば、宿泊設備のついていない部屋をパーティー用として借りることも出来るという。
「どの部屋にもクリスマスツリーが飾られていて、窓の外は雪景色だそうです」
 ロマンティックな部屋の雰囲気に酔って、大切な人に酔って。
「賑やかなパーティーには向きませんが、しっとりとゆったりと過ごすには適していると思います」
 いかがでしょうか――そう告げてヒャーリスは、ティアラ型をしたグリモアを出現させた。


篁みゆ
 こんにちは、篁みゆ(たかむら・ー)と申します。
 UDCアースのドイツ、雪の降る古城ホテルで素敵なクリスマスを過ごしてみませんか。

 宿泊できるお部屋は『天蓋付きのキングサイズベッドのある部屋』と『セミダブルベッドふたつの部屋』の二種類です。
 必ずしも全員が同じ部屋に泊まる必要はありませんので、誰かの部屋に集まってパーティーみたいなことも出来ます。
 4名様以上の場合、宿泊設備のない部屋をパーティー用として借りることが出来ますが、基本的にあんまり賑やかに騒いだりしないパーティー向けです。

 料理や飲物はクリスマスディナーっぽいものから軽食、スイーツまで色々対応します。
 飲酒・喫煙はステシ年齢二十歳以上の方のみとさせていただきます。

●いろいろなことをするプレイングよりも、したいことを絞ったプレイングのほうが濃い描写ができると思います。
 部屋の指定がある場合は
  ・キングサイズベッドの部屋=K
  ・セミダブルふたつの部屋=S
  ・パーティールーム=P
 の記号をご使用下さい。

 また、時間の指定がある場合は『夕方』『夜』『明け方』などご指定下さい。
 どちらもプレイング内容で部屋の種類や時間が判断できる場合は、記入は不要です。
 指定がない場合は具体的な描写をしないか、こちらで判断させていただきます。

●ご注意
 お返しは年明けになります。
 一度プレイングをお預かりし、年明けに再送していただいてお返しする予定です。
 すぐにリプレイがほしい方や再送が好きではない方には、申し訳有りませんが向きません。
 プレイングの受け付けは、OP公開と同時に行います。

 提示されているP/S/Wの選択肢は気にせず。
 ただし公序良俗に反したり著作権的なものに触れるようなものは採用できないことがあります。
 年齢制限のかかるようなラブラブは直接的な描写はいたしませんが、らぶらぶな雰囲気をマシマシ予定です。

●同席について
 お誘いがあった場合には篁の手持ちのキャラが同席させていただきます。
 面識がなくても大丈夫ですが、過度な確定ロールには内容次第で対応できない場合もあります。
 話し相手、一緒にお酒を飲む相手、悩みを聞いて欲しいなど、おひとりの方でも必要であればお声掛け下さい。

●お願い
 単独ではなく一緒に描写をして欲しい相手がいる場合は、お互いにIDやグループ名など識別できるようなものをプレイングの最初にご記入ください。
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第1章 日常 『UDCアースでクリスマス』

POW   :    美味しいパーティー料理を楽しむ

SPD   :    クリスマスイベントに参加したり、観光を楽しむ

WIZ   :    恋人や友人との時間を大切に過ごす

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

火神・臨音
【比翼連理】でK・夜

ベッドの上でアイナと二人
シーツに包まってピロートーク
結っている髪は解いて枕にはらりと

クリスマスライブ終わって直で移動したけど
疲れてないか?到着した後少し寝てたし

無理させたかと心配したけど
大丈夫、と応えるアイナの声と笑顔に
よかったと頭を撫でて


目の前の彼女を見て思う
仕事も任務も日常も手を抜かず
何時だって一生懸命
そんな所、俺は凄く好きだなって

でも、な

ぎゅ、とアイナを抱き寄せて囁く
『二人きりの時は全部忘れて俺に甘えて?』
歌姫でもなく猟兵でもない一人の女に戻ってと

よく出来ました、の代わりにキスひとつ

頑張ったアイナにはご褒美あげなきゃな、と
さっきよりも甘い時間へのお誘いを

アドリブ可


美星・アイナ
【比翼連理】でK・夜

ベッドの上で臨音と二人で
シーツに包まってピロートーク
髪を解いた目の前の想い人の姿に頬染めて

え、寝てた?
確かにライブ終わった後の熱量が強くて
一寸うとうとしてたかも

でも今は大丈夫よ
臨音の温もりが凄く心地よいわ
心配してくれてありがと、嬉しいわ

『俺に甘えて?』
彼の一言に張り詰めてた物がホロホロ崩れる
どんなに困難な状況に陥ったとしても
この先も変わらない【日常】があるのだと

それなら存分に甘えさせて貰うわ
これまでも、これからも

キスの後自分も伝える
この先もっと大変な事もあるけど
その時は二人で話しあって
乗り越えていこうと

甘い時間へのお誘いにはハグで応えて
二人もう一度シーツの海へ

アドリブ可



●比翼連理の誓いは永劫に
 窓の外は真白く染まり、豊かな緑はしばし白いシーツにくるまれて眠りにつく。
 そんな地に立つ白い壁の城の一室。暖炉を模したヒーターの設定温度は少し下げてある。だって――……。
「アイナ」
 天蓋付きのキングサイズのベッドの寝心地よりも、愛する人の肌のぬくもりのほうが、記憶に深く刻まれている――隣で横になっている彼に名を呼ばれて、美星・アイナ(解錠の音は新たな目覚めの音・f01943)は「ん?」と声を漏らした。
 枕に預けた頭をもぞりと動かす。気だるさの残る身体ごとそっと彼の方を向ければ、視界には紫紺の海。
 それが普段結っている彼の髪がほどけて広がったものだと思うと、目の前の彼の中身は変わっていないと知っているはずなのに、いつもと違うその容貌に胸が跳ねて頬が熱くなるから不思議だ。
「疲れてないか?」
 隣の彼女が身じろぐ気配がした。そして、視線が絡む。乱れたままの赤い髪の彼女に、火神・臨音(火神ノ社ノ護刀・f17969)は優しい微笑みを浮かべて。
「到着したあと、少し寝てたし」
 彼女のクリスマスライブが終了したあと、直接空港へ向かい、ドイツまでのフライト。機内ではライブ時の高揚が覚めやらぬ様子で、彼女は仮眠を取るどころではなかった。
 現地に到着して安心したのか、室内を一通り見たあとにバスルームへ向かうと、彼女はバスタブの中で臨音に身体を預けてしばし夢の中へ。
「え、寝てた?」
 驚いたように目を見開くアイナ。お湯と彼のぬくもりが心地よくて。それに背後からいだくように触れる彼が、絶対に守ってくれるという安心感もあった。
「確かに、ライブが終わったあとの熱量が強くて……ちょっとうとうとしてたかも」
 瞳は閉じていたかもしれない。けれども頭の中では、終わったばかりのライブのこと、そこからの移動のこと、お城の佇まいや調度に心弾んだこと、これから過ごす時間のこと――色々なことを考えていたつもりだった。
 ほんの少しの時間、瞳を閉じていただけだと思っていたけれど――現実では、アイナが自覚しているよりも時間が経っていたのかも知れない。思い出していた、考えていたと思っていたのは、夢の中だったのかもしれない。

「でも、今は大丈夫よ」
「そうか? なら良かった」

 のぼせたりお湯が冷める前に臨音が彼女を起こそうとしたら、彼女が目覚めたから。それ以上何も言わずに、何事もなかったかのようにバスルームから出たけれど。
 やっぱりふたりきりのクリスマスを楽しむ前に、ゆっくり眠らせてやるべきだったか――無理をさせてしまったかと心配していた。
「臨音のぬくもりが、すごく心地よいわ」
 そう言って、彼女は子猫のように臨音の胸板に頬を擦り寄せる。
「……心配してくれてありがと、嬉しいわ」
「……ん」
 そっと、彼女の髪に触れる。細く艷やかなその糸をほどくようにしながら、頭を撫でていく。
 さらさら、さらさら、さらり……髪を梳く音が、窓の外の雪音と混ざって聞こえてくるようだった。
(「アイナは、いつだって一生懸命だ。仕事や任務はもちろん、日常生活さえも」)
 そんな彼女が凄く好きだ、改めて思うけれど。
(「でも、な」)
 目の前の彼女が普通の少女でもあると、誰よりも知っているから。
 臨音は自身の胸板へと顔を寄せている彼女の背に、手を回して。
 ぎゅ、と抱き寄せた。
 そっと寄せた唇が、彼女の耳朶に触れるか触れないかのところで紡ぐ。

「ふたりきりの時は、全部忘れて俺に甘えて?」

 囁きは、続く。
 それは臨音の『願い』であると同時に、彼女を大切に思う心から生じたもの。

「俺の前では歌姫でもなく、猟兵でもない、『アイナ』というひとりの女に戻って――」
「――!」

 シーツの中。抱きしめられれば自然と、彼に直に触れる部分が多くなる。
 触れた部分から伝わってくるのは優しさと心配と――ほんの少しの独占欲(わがまま)。
 そのわがままが、自身を思ってくれるがゆえのものだと、アイナにはわかるから。
 え? 自惚れかもしれない? 自惚れ上等――!

「それなら、存分に甘えさせて貰うわ」

 不満も不安もない。
 ありのままの、歌姫でも猟兵でもない自分を見せたとしても、たとえどんな弱い部分を、醜い部分を見せたとしても、彼はそれを受け止めて、優しく包み込んでくれると知っている。

「これまでも、これからも、ね?」

 腕の中からそっと彼を見上げれば、降ってきたのはキスがひとつ。
 よくできましたとばかりに下されたご褒美に、アイナは彼の赤をじっと見つめて。

「この先、もっと大変な事もあるだろうけど……」

 未来はわからない。けれどもひとつだけ確かなのは、不可視の未来の中であっても、彼と共にいるだろうこと。

「その時はふたりで話し合って、乗り越えていきましょう?」
「ああ、もちろん」

 臨音もまた彼女と同じく、ただひとつの、未来永劫揺らがぬ確かなことを実感しているから。

「頑張ったアイナには、ご褒美あげなきゃな」

 骨ばった大きな手で彼女の頬を包み、誘うように指先で撫でる。
 彼女からの答えは、背中に回された細い腕。

 ふたりが再び潜りゆくのは、シーツの海の中。
 先刻よりももっともっと甘く蕩けるような、ふたりだけの海。
 控えめに設定した室内の温度でさえ、暑く感じるような――長い長い夜。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アウレリア・ウィスタリア
馨子はいますか?
馨子とまた話したい

ボク…いえ、私は会えました
馨子に導いて貰い、その先で思い出した本当の家族、私の半身と

思っていたよりずっと大きくて、ずっと生意気で
兄なのか弟なのか、私にはわからないけど
でも私の大切な人
私が愛されていた証

だから馨子に報告したかった
お礼を言いたかった
ありがとう

貴女が導いてくれたから
私は出会うことができました

それで彼に、ルフに何かしてあげたいのですが、私は何もできない
ここの料理みたいな素敵なものを作ったりもできない
こんな私に彼へ「ありがとう」の想いを伝える術はあるのでしょうか…

それにルフに会えたのだから
いつか本当の両親にも会って「ありがとう」を伝えたいんです

アドリブ◎



●辿り着きし喜びと、これからのありがとう

 ――馨子には会えますか?
 ――馨子と、また話したいです。

 部屋の扉を叩く音がして、アウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)はそれに応えた。すると。
「ルームサービスをお届けにあがりました」
 聞こえたその声に、聞き覚えがあったものだから。
 間違うはずはない。『歌』でなくとも『音』を、アウレリアが間違えるはずはないのだ。
 扉を開けるのとどちらが早いか――アウレリアはその名を呼ぶ。

「馨子!!」

 果たして扉の向こうには、見覚えのある長い黒髪をもつ彼女が、スーツ姿で微笑みを浮かべながら立っていた。

 * * *

 荷物を空いている方のベッドへと置いた紫丿宮・馨子(仄かにくゆる姫君・f00347)は、料理や飲物の乗ったワゴンをソファの前のテーブルへと押してゆき、丁寧に並べてゆく。
 ふたりきりの小さなパーティーディナーの準備が整うと、アウレリアは導かれるままにソファーへと腰を下ろした。その隣に座った馨子が差し出したのは、仄かに黄金(きん)色を纏った液体で満ちたグラス。
「この度は、お誘いありがとうございます、アウレリア様」
「馨子、来てくれてありがとう」
 メリークリスマス、告げてそっとグラスを掲げて乾杯。
 アウレリアのグラスの中身は、馨子のグラスの中身と同じ色に見えるけれど――ひとくち含んでみれば、それは何か知れた。
「ぶどうのジュース、ですか?」
「ええ」
 微笑んで彼女が手に取った瓶には、白ぶどうの描かれたラベルが貼られている。
「お酒はまだ駄目でございますから……果実系のジュースであれば他の世界と大きくは変わらないでしょうし、アウレリア様も飲みやすいかと思いまして」
 馨子は酒を飲める年齢だが、今日はアウレリアと同じものを飲むようだ。
「うん、おいしい……」
 果実水よりももっと濃くて。果実を絞ったものと比べれば、何か加工されている感はあるけれど。大きな違和感はない。
 気遣いに感謝しつつジュースをもう一口。その間に豪奢な絵付けのされた白磁の皿へと、馨子は料理を盛り付けて、アウレリアの前へと置いた。

 彼女は何も聞かない。
 なぜ、アウレリアが彼女をここへ呼んだのか。
 何か話したいことがあるだろうとは察していてもおかしくないのに、無理に急かそうとはしない。
 だからアウレリアは、皿の上のアイスバインをザワークラウトと共に口に運んで、自分の中でそれを伝えるタイミングをはかることにした。

 柔らかく煮込まれたアイスバイン。数日漬け込んだ上にことことと炊かれた豚すね肉は、口の中でほろほろと崩れて。
 さっぱりとした、けれどもしっかりと味のついたザワークラウトが口の中をすっきりさせてくれた。
「美味しゅうございますね」
「こっちはローストチキン……? 柔らかい……」
 削ぎ切って乗せられたチキンもまた、味が染み込んでいて。
 ふたりで料理に舌鼓を打つことしばらくして。

「馨子、ボク……」

 アウレリアは、ぼつりと言葉を紡いだ。視線は、皿の上で半分になったソーセージとポテトに向けているけれど。

「いえ、私は会えました」

 報告を、したかったから。

「馨子に導いてもらい、その先で思い出した本当の家族、私の半身と……」
「まぁっ……それは……とても素晴らしいことにございますね」

 彼女は報告書を読んで知っていたかもしれない。でもそれを告げないということは、アウレリア自身の口から聞きたいということだろう。
「どんな方か、お聞きしても?」
「うん」
 だからアウレリアは、彼女の問いに視線を上げて、頷いてみせた。今日は黒猫の仮面をつけてはいない。だって彼女とふたりきりで話すのに、それは必要ない、から。
「思っていたよりずっと大きくて、ずっと生意気で……」
 思い出した記憶にあったその姿は、自分と変わらないくらいの大きさだったのに。
 実際巡り会った彼は、アウレリアより軽く頭一つ分は大きくて。
 まさか自分の半身が、あんな風に成長しているとは思わなかった。
「兄なのか弟なのか、私にはわからないけど……」
 互いに自分が兄だ姉だなんて、再会早々言い合いもしたけれど。

「でも、私の大切な人。私が愛されていた証」

 それだけは、確かなこと。
 魂(こころ)が、本能がそれを知っているから。
「だから馨子に、報告したかった」
「……、……」
「お礼を言いたかった――ありがとう」
 しっかりと、彼女の夜色の瞳を見つめて告げる。
 失った記憶を、魂(こころ)の奥底で眠りについていたそれを思い出したのは、彼女の予知した依頼がきっかけだったから。

「貴女が導いてくれたから、私は出会うことができました」

 そう告げたアウレリアの口元には、無意識のうちに笑みが浮かんでいて。
 それを見た馨子は、隣に座すアウレリアへと手を伸ばし、彼女の白い両の手を自身の手で包み込んだ。
「いいえ。わたくしはほんの少し、お手伝いをしただけにございます」
 柔に、穏やかに馨子は言葉を紡ぐ。

「巡り会えたのは、再会できたのは、アウレリア様ご自身のお力です。
 あなた様が生きることを、諦めなかったから。歌い(生き)続けたから――……」

 だから、ご自身を褒めてあげて下さい――そう紡いだ彼女に、アウレリアは戸惑いを隠せなかった。すると、彼女はその戸惑いを捉え、付け加える。
「もしよろしければ、でございますが……」

 ――この先も、これからのおふたりのお話を、聞かせて頂けますか?

 その願いに、アウレリアが首を振る理由はなかった。

 * * *

「それで彼に、ルフに何かしてあげたいのですが、私は何もできない」
 シュトーレンを食べながら、ぽつり、アウレリアは呟いた。
「ここの料理みたいな素敵なものを作ったりもできない」
 自分は無力だ。ここに来るまでに色々と考えたけれど、良い案は浮かばなかった。
「こんな私に、彼へ『ありがとう』の想いを伝える術はあるのでしょうか……」
 伝えたい想いはとてもとても大きいのに、どうやってそれを示したらいいのか、伝えたらいいのかわからない。
「それにルフに会えたのだから、いつか本当の両親にも会って『ありがとう』を伝えたいんです」
 未来へと向かうアウレリアの道は、視界がひらけて繋がったばかりだ。今近くにある存在だけでなく、その先に見える存在に対面できた時に、きちんと気持ちを伝えられるようになっていたい。
 けれどもアウレリアは、感情を表すのが苦手だ。彼女にとって、歌が感情を表す手段であった。
 記憶を取り戻す前に両親だと信じていた人たちには、悪魔と呼ばれ、故郷ぐるみで幽閉された。そんな彼女は物心ついたときから、愛すること、愛されること、好意、謝意を示すこと――そんな、日常にあるありふれた感情の動きやそれを体現している人々を、目にする機会を与えられなかった。
 常であれば自分がされて、近しい人がしているのを見て学ぶそれ。だが彼女には、そんな機会は一片もなかった。
 ただ魂の奥に、確かに愛された記憶があったはずなのだけれど。
 塗りつぶされてしまったから。
 辛い、悲しい、苦しい、痛い――幼子が体験するにはあまりに過酷な記憶に。
「そうでございますね……」
 だから、馨子にアドバイスが貰えたら、そう願った。けれども彼女が思案した様子を見せたのは、ほんの一瞬。

「なにも特別なことをする必要はないと思いますよ」

 にこりと笑んだ彼女は、そう告げたのだ。
「ただ手を繋いだり、ただ抱きしめてその存在と温もりを確かめあったり……互いが本当に傍にいる、それを確かめ合うのが、今一番必要で、そして喜んでもらえる感謝の仕方ではないでしょうか?」
 それは、ふたりが再会してまだ間もないから。アウレリアの半身は長いこと、妹である半身を探していたという。ならば、これが現実なのか、また別れ別れになってしまうのではないか、そんな思いを抱えているだろうと馨子は言う。
「もちろん、ご両親に出会えた時も同じですよ。アウレリア様がここにいる、それを示すのが、一番だと思います」
 自身を大切な人として認識してくれる――それは感謝に値しませんか?
 その問いに、否とは答えられないけれど。
「あとは、アウレリア様は歌がお得意ですから、感謝の歌を聞かせて差し上げるのも良いかと思います」
「歌……」
 確かに、感情表現の代わりに歌を歌っていたアウレリアだ。それならば、実行に移しやすいだろう。
 けれども。
「もし」
 何となく足りない、と思っていたのが伝わったのだろうか。馨子は続けて口を開く。
「感謝の想いをなにか形あるものにしたいのでしたら、いつでもお声掛け下さいませ。わたくしこう見えて、伊達に千年以上の時を過ごしておりませぬ」
 永き時を過ごす間に、様々な事を学び、様々な事を試したのだと彼女は微笑った。
「馨子にはクッキーの作り方を教えてもらいました。料理もできますか?」
「はい。得意でございますよ」
「裁縫とか、手作りの……工作のようなものは」
「裁縫もハンドメイドも、なんでしたらDIYもおまかせくださいませ?」
 胸もとに手をあててにこりと笑む彼女の頼もしさよ。
「今晩まだ、相談に乗ってもらえますか?」
「もちろんでございます。せっかく同じ部屋に宿泊するのですから、もっとお話いたしましょう?」
 巡り会えた彼の人のことも、もっと教えて下さいませ――そう乞われてアウレリアもまた、笑みを浮かべて頷いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【WIZ】
【S】
葎ちゃん(f01013)と。
パジャマパーティー、楽しみだねぇ!
よくよく考えたらアタシも初めての海外旅行なんだよなー、これ……
スマホで事前に『情報収集』をしておいて、
粗相をしないように気を付けないとね。
ま、二人でのパーティみたいなもんだから肩ひじ張らなくてもいっか!
アタシはちょっと強めのキルシュヴァッサーを用意!
お菓子作りにも良いけど、たまにこうして直で味わうのもいいだろ。
アタシが話したい事はバイクを始めいっぱいあるし、
葎ちゃんの話も聞いてみたいし……
『コミュ力』全開だと夜が明けても終わらなさそうだよな!
写真撮影ももちろんOK!
「メリークリスマス、葎ちゃん!こちらこそヨロシク!」


硲・葎
【WIZ】多喜さん(f03004)と!Sのお部屋でパジャマパーティーしちゃうよ!折角だから世界知識で仕入れた現地の美味しいワイン、ピーロート・ブルーを買い込んでおこう!おつまみは玉ねぎのキッシュとソーセージとザワークラウトを! 食べながらゆっくり多喜さんの話を聞きたいな!女子トーク的な?コミュ力頑張って使って、やっぱりバイクの話かな?多喜さんが良ければうさたゃんリュックからカメラ出して撮影してみたいな! 「メリークリスマス、多喜さん!来年も仲良くしてね!」



●聖夜のパジャマパーティーは夜を超え
 城内の豪奢な廊下を歩いてたどり着いた部屋には、セミダブルのベッドが2つ。暖炉を模したヒーターによって室温はちょうどよく保たれており、窓際に飾られたツリーの傍にはソファーとテーブルが置かれていた。
「わぁ……ベッド大きいね!」
「さすがお城。下手なホテルより豪華だなー」
 ベッドのそばにそれぞれスーツケースを置いた硲・葎(流星の旋律・f01013)と数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)。
「このサイズにひとりで寝るの、なんだかもったいない気がするねぇ」
「滅多にできない経験だよね!」
 ためらいがちにベッドを見つめる多喜を横目に、葎は遠慮なくその身体を横たえてみせる。その柔らかなスプリングは、長時間のフライトに耐えた身体を優しく受け止めてくれた。
「わ、やわらかーい!」
「じゃあ、アタシも遠慮なく……」
 成人した女性がベッドに飛び込むのもどうなのか――多喜はそんな思いと戦っていたが、ここにいるのは葎だけ。そんな細かいことをいう者はいない。それに初めての海外旅行。滅多にできない体験なのだから、我慢するなんてもったいない!
「えいっ」
 思わず掛け声を発して飛び込めば、多喜の身体は想像よりも何倍も柔らかく受け止められて。
 ああ、このまま身を任せて眠ってしまいたい――なんてちらっと思ったけれど。
「多喜さん、着替えようよ!」
「そうだ! パジャマパーティーするんだった!」
 葎の声に当初の目的を思い出す。
 到着が夕方を過ぎて宵の口になるとわかっていたから、ホテルに到着したらパジャマに着替えてのびのびと過ごそうと決めていたのだ。
 せっかく事前に下調べをして美味しい食べ物を買い込んだのだから、眠ってしまうのはもったいない。
 着替えようとしたところにちょうど、チェックイン時にオーダーしたルームサービスが届いたのて、それを受け取ってふたりは持参したナイトウェアに袖を通した。

 * * *

 ソファーに向かい合って座ったふたりの前には、買い込んできたお酒と料理の他に、先ほど届いたルームサービスも並んでいる。
 多喜が選んだのは、さくらんぼを発酵させた蒸留酒、キルシュヴァッサー。製菓用として使用されることが多いが、ドイツ内ではストレートで飲用する地域もある。
「お菓子作りにもいいけど、たまにはこうして直で味わうのもいいだろ」
 ルームサービスの料理と一緒に持ってきてもらったグラスへと注げば、透明な液体からは爽やかな香りが立ち上る。
 葎が選んだのは、ピーロート・ブルー。美しい青のボトルの中には、淡い麦藁色の白ワインが。
 ワイングラスに注げば、フルーツの華やかな香りが漂う。
 おつまみにと買ってきたのは、玉ねぎのキッシュにソーセージ、そしてザワークラウトだ。中にはケチャップベースのソースとカレー粉をかけたソーセージ『カリーヴルスト』もあって、日本ではなかなかお目にかかれない。ノンスモークの『チューリンガーブラートヴルスト』も気になる。

「かーんぱーい!」
「乾杯!」

 軽くグラスを掲げて、互いに一口。
 キルシュヴァッサーは香りはさくらんぼのものであるが、他の果実酒に比べると甘ったるくない。料理との相性も良さそうでついつい進んでしまうが、アルコール度数が30~45度あるというので飲み過ぎには注意だ。
 ピーロート・ブルーはフルーツだけでなく、スパイスや紅茶のような風味もあるが、蜂蜜のようなまろやかさがある。けれども後味がすっきりとているからして、これもまたどんな食事にも合いそうだ。
「ソーセージうまっ!?」
 さすが本場。ヴルスト(ソーセージ)は種類も多いが、どれもがそれぞれ特徴があって、それでいて美味しい。次々と試したくなるから不思議だ。
「ポメスも美味しいよ! っていうか、ソースだけで10種類って凄い!!」
 多喜の様子を見て葎が手を伸ばしたのは、ルームサービスで頼んだポメス――いわゆるフライドポテトだが、ついてきたソースは専門店に負けず劣らずの10種類。ホクホクサクサクだけでなく、じゃがいもの味がしっかりしているけれど、ソースを付けても美味しい。
 定番のケチャップやマヨネーズの他に、チーズやカレー、チリソースやマスタード、そしてピーナツソースなんていうのもあった。
 試しにと頼んだドイツ風ケバブサンドは肉の他に野菜がたっぷり詰まっていて、思った以上のボリューム。
 ザワークラウトで口内をスッキリさせれば、いくらでも食べられる気がしてくるから不思議だ。
 けれども女子同士。食欲に負けず劣らず話に花が咲くというもの。
「何から話そうか。アタシはバイクのことをはじめ、話したいことはいっぱいあるし、葎ちゃんの話も聞いてみたいし……」
 現在多喜が愛用しているのは『宇宙カブJD-1725』。出会いは偶然というか、まあ押し付けられたのだが、今は良き相棒だ。変形させてパワードアーマーとして纏うことすらある赤い機体。
 対する葎もまた、『スターライドシューティングシューズ』という大型バイクを愛用している。こちらはエンジンつきローラーブレードへと変形が可能だ。それに通称『バイクさん』というAI搭載付きの大型バイクの召喚などもできるのだ。
「夜は長いんだし、たくさん多喜さんの話を聞きたいな!」
「あはは。バイクの話だけで、余裕で一晩過ぎそうだけどね」
 笑いあったふたりは、どちらからともなくやはりバイクの話を始めて。
 適度に食べつつ飲みつつ、必ずどちらかが口を開いている――そんな夜は更けていく。

 * * *

「確かに、夜が明けても終わらなそうだよな! って言ったけど」
 気がつけばカーテンの向こうがじわり明るくなり始めていて、多喜はお喋りをして夜を越してしまったことに気がついた。
 お酒が入っているせいかお喋りの時間が楽しかったからか、なんだかわけがわかけない笑いがこみ上げてくる。
 しかし経過した時間を否応なく自覚されられたことに加えてアルコールの力と旅の疲れもあって、忘れていた眠気が顔を出しかけていた。
「多喜さん、一緒に写真撮ろうよ!」
「いいねぇ!」
 寝てしまう前に、と葎はベッド脇に置いた『うさたゃんリュック』からカメラを取り出し、多喜の座すソファの後ろに回る。そして多喜の顔に自身の顔を近づけて、自撮りの要領で撮影っ!
「あはは、うまく撮れた!」
「どれどれ?」
 ふたりで撮影したばかりの画像を覗き込んで。
「これはいい記念になるね! あとでアタシにも画像くれるかい?」
「もちろん!」
 笑んで視線を合わせれば、ちょうど昇りはじめた朝日が差し込み、ふたりを照らす。

「メリークリスマス、多喜さん! 来年も仲良くしてね!」
「メリークリスマス、葎ちゃん! こちらこそヨロシク!」

 交わされる挨拶と来年への希望。
 時を経ても仲良く有りたいから。

 ふたりがふかふかのベッドに沈むまで、あと――……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エイミ・メルシエ


ふ〜んふんふふ〜ん♪
待ちに待ったクリスマス!それをお城で過ごせるだなんて、なんて素敵なのでしょう!
わたし、お姫様に憧れる女の子、ですので!

……というワケで。お城慣れしてそうなセルジュくん、一緒に来てもらえませんか?
美味しいマカロンがあれば、視察にもなりますからね!
ええ、ええ、マカロンを探して持ってきてください!他のデザートでもOKですが!

……キミってやたらお城が似合いますね、さすが王子様。手際がいいのも流石うちの従業員(予定)です
でも、そのキラキラスマイル、こちらに向けるくらいなら、うちに来たお客さんに向けてくださいな……
王子様ムーヴしてほしくて呼んだわけじゃ……ああいや、何でもないです……



●姫(雇用主)と王子(従業員)

「ふ~んふんふふ~ん♪ 待ちに待ったクリスマス!」
 城内に入るなり嬉しさが隠せなくなった彼女は、本人も気づかないうちにスキップで部屋へと向かっていた。
「それをお城で過ごせるだなんて、なんて素敵なのでしょう!」
 そして案内された客室に入り、ふかふかベッドに大きなツリー、猫脚の上品なテーブルとソファー、飾られている絵画や小物――部屋の隅々までピンク色の波打つ髪を揺らして見て回ったエイミ・メルシエ(スイート&スウィート&プリンセス・f16830)は、とぉーってもご機嫌である。
「ありがとうございまーす!!」
 ディナーをワゴンに乗せて運んできただけでなく、テーブルセッティングまでしてくれた従業員さんに、にこにこ笑顔で明るくお礼を告げて。
(「うん、同じサービス業として見習うところがたくさんありました……っていけないいけない、今日はクリスマスを楽しむための休暇です!」)
 自身の器物の飾られていたマカロン専門店を再興するという夢を持つエイミは、ついついもてなす側の視線で見てしまっていたけれど。
(「視察はスイーツだけにして、後は休暇なのですよ!!」)
 休むことも必要だ。肉体的にも精神的にも余裕がなくなるのは良くない。うんうんとひとりで頷いたのちにテーブルを見れば、色とりどりの料理は二人分。
「遅いですねぇ……レディを待たせるなんて、王子様失格です!」
 連れがまだ来ない事を思い出したエイミだが、心の中で訂正を入れる。
(「いや、彼が私の王子様というわけではなくてですね、一般的な王子様論として――」)
 そこまで紡いだちょうどその時、来客を示すベルが鳴った。

「待たせてしまったかな?」

「遅いですよー。早く入って下さい。折角の料理が冷めちゃいます!」
 扉の外で穏やかな表情を湛えていてる青年――セルジュ・ロンザード(白翼のプリンス-無自覚色男風味-・f19227)に告げて、エイミは彼を招き入れる。
 着くなりそうそう、こんな会話を繰り広げたことを忘れてはいないけれど。

『ずいぶんと楽しそうだね?』
『わたし、お姫様に憧れる女の子、ですので!』
『なるほど』
『それに美味しいマカロンがあれば、視察にもなりますからね!』
『マカロン、か……』
『ええ、ええ、マカロンを探して持ってきて下さい! きみ、お城慣れしてそうですし。他のデザートでもOKですが!』

 つまり到着早々、荷物を自室にさっさとおいて、マカロンかそれに代わるスイーツを探してこいと命れ……お願いしたのだ。

「待たせて済まなかったね、プリンセス」
「わたしはきみのプリンセスじゃありませんよー!」
 くるりと振り返る。だが視線の先には彼の顔はない。
 エイミは、視線を上げて上げて上げて――彼の顔は随分上の方にある。だって身長差約40cmだもの。 
「相変わらず背が高いですね。首が痛くなります」
 小さく息をついてエイミはソファーへと座る。てっきりそれに倣って彼も向かいに座るものだと思っていたのだが。

「それは失礼いたしました、レディ」
「……」

 彼はテーブルの横、つまりエイミの斜め前に片膝を付く形で跪いて。

「レディの首に負担をかけては男として申し訳が立ちません。これならば、いかがでしょう?」
「……」

 きらーん☆
 天然物の王子様オーラが眩しい。目が、目がー!!

「そしてこちらがご所望のスイーツです。僕からレディへのクリスマスプレゼントですよ」
 きらーん☆

「……きみってやたらお城が似合いますね。さすが王子様。でもその甘いセリフとキラキラオーラはわたしでなく、お客さんに向けて下さい」
「キラキラオーラ?」
 ちょっと真顔で告げるエイミ。しかしセルジュ自身はキラキラオーラを発している自覚はないようだ。なにせ彼は、幼い頃に神隠しにあってたどり着いた先の国で、本物の王子様として過ごしてきたのだから。恐らく全ては素である。
「ともかく、レディのために盛り付けましょう」
 にっこり王子様スマイルで謎単語をスルーしたセルジュは、何処から取り出したのか三段のティースタンドをサイドテーブルへと置いて、持参した箱の中身をテキパキと並べ始める。
「手際はいいのはさすがうちの従業員(予定)です」
 並べられていくのはエイミの希望したマカロンにとどまらず、クリスマスの定番シュトーレンにレープクーヘン、バウムクーヘンにチョコや粉砂糖を絡めた種類豊富なシュネーバル、ケシの実を使ったケーキであるモーンクーヘン、さくらんぼのケーキであるシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ。忘れちゃいけないお隣の国のザッハトルテ。
「……えっ、きみ、この短時間にこれだけ用意したんですか?」
「お気に召しませんでしたか? プリンセ――レディ」
「いやいやいや、そういう意味じゃないのわかってますよね!?」
 あっという間に三段のティースタンドはいっぱいである。でも雑多に並べられているわけではなく、見た目も美しく盛り付けられていて。彼の従業員としての有能さを感じずにはいられない、けれど。
「……なんでまたわたしの前に跪いてるんですか」
「飲み物のサーブをしようと思いまして。それにこうして高さを合わせた方が、レディのその素敵なチョコレート色の瞳が僕を見つめてくれますから」
 きらーん☆
「……、……」
「料理の味を邪魔しない、炭酸水をお入れいたしましょう」
 王子様なのにサーブ姿が似合う。奥のシャンデリアと彼のキラキラオーラが相まって、眩しい。目が潰れそうだ。ここはホストクラブだろうか――行ったことないけど。
「さあレディ、どうぞ」
 きらーん☆
「……だからそのキラキラスマイル、こちらに向けるくらいなら、うちに来たお客さんに向けてくださいな……」
 とりあえず差し出されたグラスを受け取ったエイミだったが、彼のキラキラで目が潰れそうで――否、その天然の王子様っぷりにちょっと引いて、瞳のハイライトが消えかかっている。
 対するセルジュは彼女のそんな様子を気にするでもなく、向かいのソファに腰を掛けて自分のグラスを手にして。

「メリー・クリスマス。この聖なる日を貴女と過ごせる幸せを、僕は神に感謝します。可憐で美しいレディ――」
「……王子様ムーヴしてほしくて呼んだわけじゃ……ああいや、何でもないです……」

 メリー・クリスマス、と小さな声で乾杯に応えたエイミであるが、彼のその天然な王子様っぷりに完全に圧されていた。
 きっと王子様ムーヴと言っても本人には伝わらないだろう。だって彼にとってそれは、『普通』の、意識して行っているわけではないふるまいなのだから。とすれば、ツッコむだけ無駄である。
(「うん、とりあえずセルジュくんのアレに耐性つけなきゃ……」)
 彼を店の従業員(主に接客)として雇うことはほぼ決まっているのだが、まずは自分がそのキラキラオーラと王子様ムーヴを受け流す方法を身につけるのが先だと気がついたエイミ。
(「おいしい食事とスイーツに罪はないので、そっちはたっぷり楽しませてもらいますよー!」)
 気分を新たに食事と向き合えば、ドイツ特有の料理やお菓子が新しい知識とインスピレーションを与えてくれるだろう。
 それがエイミにとって何よりの、クリスマスプレゼントである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と
・アドリブ歓迎

部屋=K

まるで童話のような幻想的な世界……この世界にもこのような場所があったのですね。
昼の銀世界、美味しい食事、歴史の刻まれた城内……

そして夜。わたくしは愛するヴォルフと初めて褥を共にする。

密やかに願っていた。彼と身も心もひとつになりたいと。
だけど同時に恐れてもいた。穢れを知らぬ頃の自分に戻れなくなることを。
男は狼だ、安易に身を任せるなと教えられてきたけれど。

だけどその不安は、彼の温もりに溶けて消える。
優しさも力強さも全て受け止めて。
こんなにも確かな絆をこの胸に刻み込んだなら、もう何も怖くはない。

ヴォルフ、わたくしは本当に幸せです。
これからも、永遠に…


ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と
・アドリブ歓迎

部屋=K

古城のホテルの一室で、ヘルガと二人、寝所を共に。
二人の絆を確かめる、その大切な記念日を、最高のものにしたくて。

俺の中の獣性が彼女を壊してしまわぬように
白絹のような肌にそっと触れる。
これは悪いことでも、恐ろしいことでもないと、彼女に知ってほしいと願いながら。

隔てるものも何もない、一番近い距離で、彼女の鼓動を、吐息を感じる。
俺を信じて身を委ねる彼女が、たまらなくいとおしい。

ヘルガ、お前に後悔などさせない。
決してお前を悲しませはしない。
騎士として、そして一人の男として
俺はお前を全身全霊かけて守ると誓おう。
これからもずっと……。



●聖なる夜に生まれし誓い

 白銀に覆われた森は静かに眠りについて、まるで絵本の中のような光景が視界に広がっていた。
 その中を歩けば、自分たちもおとぎ話の中の住人になったかのよう。
「まるで童話のような幻想的な世界……この世界にもこのような場所があったのですね」
 ぽつりと感嘆の声を漏らしたのはヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)。己の持っていたUDCアースのイメージとはだいぶ違うその風景は、例えるならばアックス&ウィザーズのよう。
「ああ。いい場所だな」
 応えるのは、彼女を守るようにしながらゆっくりと歩いていたヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)だ。
「寒くないか?」
 銀世界の中を歩く彼女は、ともすれば雪にとけてしまいそうで。ヴォルフは応えよりも早く、そっとその肩を抱いた。

 * * *

 歴史の刻まれた城内を散策し、天蓋付きの大きなベッドのある部屋で食べる美味しい食事。
 ふたりの時間を邪魔する者は無く、カーテンの向こう、窓の外からは雪が降り積もる音が聞こえた。

「ヘルガ」

 天蓋から下りる白いレースのカーテンの向こう。シーツにくるまる彼女にそっと呼びかける。

「……ヴォルフ……」

 部屋の明かりは落とされ、ベッドサイドの仄かなライトだけが、夜闇に包まれた室内を照らしている。
 彼女が名を呼ぶその声を承諾と取ったヴォルフは、ゆっくりとカーテンを開けた。
「っ……」
 薄明かりの中、白いシーツの海に座した彼女は、胸元をその白で押さえてこちらを見つめている。
 白がこぼれた場所から覗くのは、彼女の、陶器のような白い肌。
 その蒼の中に恐怖の色はないか――普段はしっかりと隠されている彼女の素肌に跳ねた己の心を抑えるようにしながら、ヴォルフは注意深く窺う。
 己の中に存在する獣性で、彼女を怖がらせたくはない。
 これからすることが悪いことでも、恐ろしいことでもないと、彼女に知ってほしいから。
 鍛え上げた上半身を隠そうともしないヴォルフがベッドに腰を掛けると、ギシッとスプリングが音を立てて揺れた。
 ビクリ……思わずヘルガが肩を震わせたのは、彼を恐れてのことではない。その揺れに体勢を保てなかったからだ。
 淡い明かりに照らし出される彼の身体に見とれていて――これまでも、治療の際などに何度も見たはずなのに。
 どうしてだろう、息が詰まりそうなほど胸が苦しい。
「大丈夫か?」
「……ええ」
 だから傾いた体を彼が自身の体で受け止めてくれたその時、ほっとしたのだ。
 緊張はしている。鼓動は早い。けれども息ができる――肌と肌が触れ合った部分から広がったのは、彼のぬくもりによる安堵。
 そっと、壊れ物を扱うような優しい手つきで、ヴォルフはヘルガを白の海へと横たえる。
 覆いかぶさるようにして自分を見つめる彼――熱を帯びたその蒼に思うのは、遠のいた恐怖。
(「ヴォルフ……」)
 ヘルガは密やかに願っていた。彼と身も心も、ひとつになりたいと。
 けれども同時に恐れてもいた。この一線を越えてしまえば、自分が変わってしまうだろう予感があったから。穢れを知らぬ頃の自分には、もう戻れないとわかっていたから。
 男は狼だ。安易に身を任せてはいけない――領主の娘として生まれ、『天使の歌声を持つ歌姫』として大切に育てられてきたヘルガは、そう厳しく教えられてきたから。
 けれどもヘルガは、籠の中にいてはわからぬ色々なことを識った。その殆どが、彼の庇護のもとであったけれど。
 否、だからこそこうして――その骨ばった大きな手が優しく触れるのを感じて、安心が広がってゆくのだ。
 不安など、紅茶に落とした角砂糖のようにさらりと溶けた。
「ヘルガ……」
 愛しい彼女の名を呼ぶその声は、吐息は、熱を帯びている。一瞬でも気を抜いてしまえば、本能の赴くままに彼女を貪ってしまいそうで。
 そっと、そっと。優しく彼女の白絹の肌へと指をあてる。
 自分の無骨な指に触れられるのを、彼女は厭わないだろうか――そんな事も考えていたけれど、彼女のなめらかな肌に触れたら、吹き飛んでしまった。
 そっと、唇を重ねて。その口唇を舌で割って彼女の中へ。嗚呼、彼女の舌がそれを受け入れてくれる。
 口づけは唇から首筋へ、胸元からその双丘へと下りていく。
 吐息混じりの悩ましげな彼女の声が、ヴォルフの本能を刺激して止まない。
 隔てるもののなにもない、一番近い距離で感じる彼女は、柔らかくて、温かくて、甘くて、蕩けるようで。
「ヴォル、フ……」
 優しさも力強さも、隠すことができなくなって垣間見えた獣性をもすべて受け止めてくれる彼女。
 ひとつになる鼓動、甘く熱を帯びた吐息。名を呼ぶその声の色が、これまでと変わった――。
 自分を信じて身を委ねる彼女を、いとおしいと思わずにいられるだろうか。
「ヘルガ……」
 たまらなく愛おしい、愛おしい、愛おしい――目元に浮かんだ泪をそっと唇ですくいとって彼女の様子を伺えば、やめないでと小さな呟きと共に首を振るものだから。
 ああ理性など、愛しさに飲み込まれてしまった。

 この身に刻まれるのは確かな絆。もう、何も怖くない。
 これが穢れる行為だなんて、誰が言ったの?
 愛を、絆を確かめ、深め合うことのどこが穢れるというの?
 彼と肌を合わせるのが、滲む汗が混ざり合うのが、吐息が絡むのが――こんなにも幸せなことだなんて知らなかった。

「ヘルガ、お前に後悔などさせない。決してお前を悲しませたりしない」

 重なる吐息の中、紡がれる言葉。

「騎士として、そして一人の男として、俺はお前を全身全霊かけて守ると誓おう」

 これからもずっと――捧げられた言葉への答えは、とっくに決まっている。

「ヴォルフ、わたくしは本当に幸せです」

 これからも、永遠に――彼の大きな背中へ手をのばす。

 今夜その身に刻まれたのは、ひとつの尊い誓い――……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
悟郎(f19225)と

天蓋付ベッドを見たいなと思って。いや案内の主旨とはズレてるのはわかってんだけど興味の方が…。普通だとそんなでかいベッドなんて見ないし、まして天蓋付だろ?おとぎ話でしか見た事ないぞ。
ざっくりとは天蓋については調べたが、元々実用的なもので几帳・屏風と同じような用途とか。天井付になったのは気候風土による建物の違いからかね。

好奇心を満たしたら呑む。
ドイツは地域にもよるけどビールだけじゃないんだと。あとつまみはないらしい。
でも一番気になったのは生薬の酒か。薬酒っぽいみたいだけど。
マークの鹿にまつわる伝説が面白そうだと思ってな。

40度ウィスキー700mlで眠くはなる体質。


薬師神・悟郎
瑞樹(f17491)
K

そうだな…天蓋付きのキングサイズベッドなんて見る機会はないからな
俺もUDCのテレビとやらで見たことあるぐらいだ

古城のホテルとは、瑞樹もよく見つけてくれた
誘ってくれて感謝する
これだけ豪華だと予約を取れないのも納得だし、今を逃せば金銭的な理由からも後々泊まれる機会はないだろう

軽食ぐらいは用意して、酒を口にすればいつも以上に口が回る
几帳、屏風と同じような用途とは何処も同じように工夫してるんだな
薬酒に興味があるとは、どこか気になるところでも?
彼の話に相槌を打ち、グラスが空になれば注ぐ
夜は長いんだ、まだ飲めるだろう?

瑞樹が船を漕ぐようであれば、無理せず休ませよう
おやすみ、良い夢を



●好奇心と伝統と友と

「おぉー……」
 宿泊する客室に案内された黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は、視界に入った天蓋付きベッドに声を上げた。
「でかいな」
 キングサイズのそれは普通の布団やベッドと比べるとかなり大きく、しかも城の一室に置かれているものだから、室内の他の調度品や飾りなども相まって、非現実感を強くさせた。
「やはりテレビとやらで見るのとは迫力が違うな」
 荷物を置いた薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)もベッドの傍まで歩み、その存在を確かめる。
 天蓋付きベッドを見たい――もちろんグリモア猟兵の案内の趣旨とずれているのはわかった上で、瑞樹は悟郎を誘ってここを訪れた。興味のほうが勝ったのである。
 普通に暮らしていてはキングサイズのベッドなんてお目にかかる機会はまずないし、更に天蓋付きときた。瑞樹はおとぎ話の中でしか見たことがない。
 対する悟郎もまた、UDCアースのテレビで見たことがあるくらいで。こんな機会は次があるかわからないと同行したのだった。
「俺が横に寝ても余裕って……どんだけ」
 柔らかなスプリングに体重を預けた瑞樹は、ベッドに対して横向きに寝転んだ。しかしシングルベッドでは確実に膝から先が出てしまうのに対して、このキングサイズのベッドは瑞樹の身体がすっぽりおさまってしまうだけの幅がある。
「寝心地はどうだ」
「悪くない。身体がしっかり受け止められる感じがして、安心できる」
 悟郎の問いに答えた瑞樹は、正しくベッドに寝直して。その隣に悟郎が寝転ぶ。
 スプリングは柔らかすぎず硬すぎず、悟郎が体重をかけても極端に傾くことはなかった。成人男性二人で横になっても、窮屈さはない。シングルベッドで横になっているのとあまり変わらないだけの余裕がある。
 仰向けになった状態で見上げるのは、天蓋の天井部分。このベッドの天井には、華やかな刺繍絵が広がっており、天蓋の外枠には飾りとして刺繍絵の施されたフリンジつきの布飾りが幾重にも重ねられていた。
 柱にくくりつけられたカーテンは、フリルがふんだんに使われたレース。
「……なあ、悟郎」
「……ん?」
 今更なんだがと前置きして、瑞樹は続ける。
「俺たち、どんな関係だと思われたんだろうか」
「……、……」
 この豪奢なベッドに横になり、その細工を見ることで好奇心が満たされたところで浮かんできた疑問。
 グリモア猟兵は瑞樹と悟郎が天蓋付きのベッドが見たくてこの部屋を選んだと知っているが、ホテルの人間はどうだろう?
 考えるのやめよう――そう瑞樹が告げようとしたその時、来客を知らせるベルが鳴ったので、瑞樹は文字通り跳ね起きた。

 * * *

 ルームサービスで届けられたのは、ディナーというより軽食だ。
 本場のヴルスト(ソーセージ)各種を始めとして、ザワークラウトに10種類のソースが付属したポメス(フライドポテト)。薄く削ぎ切られたローストチキンに一口サイズのファラフェル。ファラフェルは中東のコロッケのような食べ物だが、ドイツでも好んで食べられているらしい。
 用意したのはドイツワインの他に、生薬を使用した薬酒に近いもの。
 乾杯をして酒を口にし、軽食をつまみ始めれば、ほっと人心地がついた。
「古城のホテルとは、瑞樹もよく見つけてくれた。誘ってくれて感謝する」
「いや、俺は好奇心が抑えられなかっただけだしな」
「これだけ豪華だと予約を取れないのも納得だし、今を逃せば金銭的な理由からも後々泊まれる機会はないだろう」
 むしろ感謝するのはこっちだよと告げる瑞樹に、悟郎は緩く首を振って応えた。
「そういえば、ざっくりとだけど天蓋については調べたんだ。元々実用的なもので、几帳や屏風と同じような用途らしい」
「几帳、屏風と同じような用途とは、何処も同じように工夫しているんだな」
 どこも、いつの時代も、プライベートな空間を維持するための工夫をして、ヒトは暮らしてきたのだろうと感じる。
「天井つきになったのは、気候風土による建物の違いからかね」
 グラスに注いだ薬酒をもう一口流し込んだ瑞樹を見て、悟郎は彼が飲んでいる酒について問うた。すると。
「ドイツは地域にもよるけど、ビールだけじゃないんだと。あとつまみはないらしい」
「ほう」
 告げて手に取ったポメスを口に入れれば、ほくほくなのにさくさくした食感と共にじゃがいものしっかりとした味が口内へと広がる。
「これは、生薬の酒だよ。50種類以上の生薬や草根木皮、フルーツから作られている有名な酒らしい」
 鹿のマークの付いたラベルのその酒の名前は、猟兵としてはちょっと気になるもので。
「薬酒に興味があるとは、どこか気になるところでも?」
「この鹿のマークにまつわる伝説が面白そうだと思ってな」
 空になった瑞樹のグラスに、悟郎は鹿のマークがついたラベルの瓶から酒を注ぐ。
 瑞樹はソーセージを口に運ぶ悟郎に、その伝説を語って聞かせた。

 それは動物を殺すことにまったく抵抗を感じない野蛮な猟師、ウベルトゥスの話。
 ある日彼は白い鹿と出会い、その堂々たる佇まいとあまりの神々しさにこれは神のお告げだと感じ、これまでの行いを悔い改め、死去するまで償ったという。
 数世紀ののち、この伝説によりウベルトゥスはハンターの聖人として崇め奉られるようになり、その伝説を元にしてラベルに鹿が描かれているのだとか。
 ドイツのハンターの世界にはこの酒の名と同じ、『狩の達人』『狩人の守護聖人』という意味の称号があるという。

「なるほど。古い伝説なんだな」
 瑞樹の話に相槌をうっていた悟郎は、彼のグラスが空になるとすぐに気がついて、酒を注いだ。
「夜は長いんだ、まだ飲めるだろう?」
 最初のうちは瑞樹も悟郎のグラスへとワインを注いでいたが、そのうち段々と話の速度が落ち、言葉数が少なくなっていった。
「瑞樹、無理するな」
「……あー……寝てた、か……?」
 彼が船を漕ぎだしたのを見て、悟郎は声をかける。睡魔に絡め取られている彼の問いに頷くと同時に、肩を貸して立ち上がらせた。
「だいじょ……」
 大丈夫、と言いたかったのだろう。最後まで続かなかったその言葉を無視して、悟郎は瑞樹をベッドに寝かせる。
 寒くないようにとそっと布団をかけて、完全に落ちた彼の寝顔に告げた。
「おやすみ、良い夢を――」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【狼兎】K

ほわぁー…流石に豪華だねぇ…
天蓋付きなんて王子様みたい

紫崎君の言葉に頬を膨らませ
あー、また女扱いする!失礼な
弄られてるだけなのは知ってるけど

ふと心に引っかかるものがあり考える素振り

んー…いや、記憶違いかもだけどさ
今のやり取り、前にしたことなかったっけ…?

もふっとベッドに腰掛け仰向けに

ここもなんとなく覚えがある気がしてさ
まぁそうなんだけどねー

そのまま考え込みそうになるが
紫崎君が横に寝転んだ事で中断
咄嗟に背を向けるように寝返り

わ、わかってるけど!
……なんか、恥ずかしいんだもん…
恋人…う、うぅ~…
も、もういいから寝よ?(恥

顔を見ながらは寝れないけど
撫でられるのは気持ちよくて受け入れうとうと


紫崎・宗田
【狼兎】K

2人分の上着を片付けながら
王子様という言葉に意地悪な笑みを零しからかう

なにが王子様だよ。お前どっちかっつったら姫だろ

こいつも知ってて乗ってくれてることも知ってるが
突然考え込み始めたチビの様子に隣に腰掛け

どうした?
あ?今のやり取り?

…ここに来るのは初めてだろ
似たやり取りもしょっちゅうだし

チビの疑問を流すように答えるが
正直…俺も同じような事は考えた
前世の記憶っつーやつでもあるのか
ただ…俺にとって大事なのは今だ

チビが過去に捕らわれる前に隣に横になり
いいから寝るぞ

…なに照れてんだよ
添い寝くらい散々してきただろ
恋人になったら違うか?(ニヤニヤ

今まで通り完全に寝るまでは
起きたまま髪を撫でてやる



●過去も今もこれからも

 城の外観だけでなく、客室までの道のりも豪奢で格式高かった。そして、通された客室も、また――。
「ほわぁー……流石に豪華だねぇ……」
 上着を脱ぎかけたままで、腰掛けたベッドに目を奪われているのは、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)。その瞳の琥珀が、きらきらと輝いている。
「天蓋つきなんて、王子様みたい」
 脱ぎかけの澪の上着を脱がせ、自身の上着とともにハンガーにかけた紫崎・宗田(孤高の獣・f03527)は、澪のその言葉に意地悪な笑みを浮かべた。
「なにが王子様だよ。お前どっちかっつったら姫だろ」
 ゆったりとした足取りで澪の元へと戻った宗田。彼の言葉に、澪はぷーっと頬を膨らませて。
「あー、また女扱いする! 失礼な!」
 宗田のそれが悪意あるものではなく、愛のある弄りであると知っている澪。もちろん宗田も、澪が知っていて乗ってくれていることを理解している。
「……?」
 けれどもなんだか、澪の様子がおかしい。何かを考えるように口をつぐんだ彼。
「どうした?」
「んー……いや、記憶違いかもだけどさ」
 隣に腰を掛けた宗田の問いに、澪は彼を見つめて続ける。
「今のやり取り、前にしたことなかったっけ……?」
「あ? 今のやり取り?」
 もふっとベッドに仰向けになった澪は、まるで何かを思い出そうとするかのように記憶をたぐるけれど。
「ここもなんとなく、覚えがある気がしてさ」
 正解と思しきものは見つからない。
「……ここに来るのは初めてだろ。似たやり取りもしょっちゅうだし」
「まぁ、そうなんだけどねー」
 澪の疑問を流すように答えた宗田だったが、正直、彼も同じようなことを感じ、考えた。
(「前世の記憶っつーやつでもあるのか?」)
 そのようなものの存在を、完全に否定することはできないけれど。
(「ただ……俺にとって大事なのは今だ」)
 それは変わらないから。澪が過去に囚われてしまう前に――宗田もベッドに横になる。
「いいから寝るぞ」
「っ……!?」
 彼が突然横に寝転んだものだから、そのまま思考に埋もれそうになった澪はそれどころではなくなり。とっさに宗田に背を向けるように寝返りを打った。
「……なに照れてんだよ。添い寝くらい、散々してきただろ」
「わ、わかってるけど!」
 背中に降り注ぐ彼の声。きっと、また意地悪な感じでニヤニヤしているだろうことは想像に難くない。
 でも。だって。
「……なんか、恥ずかしいんだもん……」
「あ? 恋人になったら違うか?」
「!?」
 恋人――その言葉が持つ特殊な意味を、澪が感じているそれを、宗田も感じているのだろうか?
「恋人……う、うぅ~……」
 恥ずかしくて、むず痒くて、頬が熱を帯びる。嬉しいのは確かだけれど。
 これまでと違って『恋人』という名前のついた特別な関係となったことで、なんだか、彼をこれまで以上に意識してしまう不思議。
「も、もういいから寝よ?」
「はいはい」
 顔を見ながらはまだ寝れない。澪のそんな恥ずかしがり屋なところをわかっているから、宗田は手を伸ばし、優しく彼の髪へと触れる。
 その柔らかい髪に指が絡んでしまわぬように、そっと、そっと頭を撫でる。
 澪が完全に寝るまで頭を撫でてやるのは、今までと変わらない。
(「……きもち……い……」)
 頭を撫でる彼の手付きは、これまでと変わらなくて。とても、気持ちよくて。安心からか、澪の意識は睡魔に絡め取られて――……。
(「相変わらず、照れ屋だな」)
 穏やかな寝息が規則正しいそれであることを確認するまで、宗田は澪の小さな頭を優しく撫で続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年01月29日


挿絵イラスト