#アリスラビリンス
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さらさらとした真白の粒が、眼前の世界を覆っている。風吹けば軽やかに舞い踊り、世界の彩に煌めきをもたらした。
きらきらとした鮮やかな雫が、眼前の世界に降り注いでいる。青の境界線を越えれば赤の世界が待っていた。左を見れば、熟れた柿のようなオレンジの雫が地面に当たり僅かに跳ねる。右を見れば、春の訪れを告げるかの如く桜色のカーテンが揺れていた。
相反する要素が混在する世界。
そんな世界に訪れたのは、人でもあり動物でもある愉快な仲間たちだった。
時に四足で大地を駆け、時に両の翼で空を飛ぶ。天裂く遠吠えは遥か先まで鳴り響いた。しかして夜には揃って体毛の少ない体に毛布をかけて「おやすみなさい」と囁くのだ。
新天地へと訪れた彼らは、世界の無色さに、そして鮮やかさに見惚れて定住することを即決した。まだ誰もいないまさらの受け皿。オウガの脅威からも遠い静けさは彼らの歓喜の声で塗りつぶされた。
そんな世界の片隅で、大地にはじめての靴跡をつけた男がひとり。転移の名残らしきグリモアの彼岸花を散らして立っていた。
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夢かと思ったら現実だった。
イェルクロルト・レイン(叛逆の骸・f00036)の第一声がそれだった。グリモアの彼岸花を咲かせては枯らしながら、気怠げな眼は話を聞いて集まった猟兵たちへと向けられていた。時折こぼれる欠伸は、彼を知る者ならばいつものことかと呆れる事だろう。
「一緒に"くに"を作って欲しいんだって」
ぼうっとしてたら愉快な仲間たちに引っ掴まれたのだとイェルクロルトは言う。そうしてあれよあれよと言う間に、オウガが来ても大丈夫な不思議な国にする手伝いを言い遣わされてきた訳だ。
必要な技術は彼らがなぜか持っている。しかし猟兵たちがその技術を習得するのはかなりの時間を要するだろう。彼らが言うには、なんとなくこうすればこれができる、というのを感覚で知っているらしい。言葉で説明するのも難しいようだ。
ではなぜ猟兵たちが必要なのかといえば、防衛の観点で彼らは初心者だからだ。そのことを自覚しているからこそ、幾度と訪れた猟兵たちの噂を聞いた彼らの選択が今である。猟兵たちに任せてしまおう、と。
つまるところ、そんな彼らにアドバイスをしながら立派な国に仕立て上げる手伝いをするのが今回の任務となる。彼らは人の言葉を理解するため、そう難しいものではないだろう。
それはそれとして、だ。
「実質的な手伝いはアドバイスぐらいだから、あいた時間はぶらついてて」
暇つぶしはいくらでもあると、イェルクロルトはつい先日見た光景を思い浮かべながら口にした。
なににも染まらぬ真っ白な大地。色彩豊かな雨。騒がしい仲間たち。
「依頼、だけど息抜きみたいなもんだよ」
どこか投げやりな口調で雑な説明を締めると、ため息混じりに赤い彼岸花を一輪咲かせた。はらはらとこぼれる赤はしばらく枯れそうにない。
そんな真新しい花を、イェルクロルトの枯れた手が、躊躇いもなく握り潰した。その瞬間、猟兵たちに襲いくるのは浮遊感。あ、と思ったところでもう遅い。
「じゃ、よろしく」
ひらひら揺れる赤に濡れた指先を最後に、視界は白く閃いた。
驟雨
初めましての方は初めまして。お久し振りの方はこんにちは。
驟雨(シュウウ)と申します。
マイペースにご案内していきます。締め切るまでは再送歓迎です。
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世界 :アリスラビリンス
分類 :日常/戦闘
難易度:EASY(失敗はほぼしません)
●第一章『天涙の彩』
空より色鮮やかな雫が降り注いでいます。場所によって明度や彩度、純度が違うようです。
舞台は真っ白な世界。山も湖も森も、よくあるようでなにもない。無色に満ちた世界です。銀世界と言い換えることもできます。
雫が地面に落ちればわずかに色が広がって、すぐに消えてしまいます。手や瓶に溜めましょう。瓶は愉快な仲間たちからもらえます。
集めた雫は空のインク屋と呼ばれる烏男が特別なインクに仕立ててくれます。(このシーンの描写がなくてもインクにします)
色探し、世界散歩、インク作り……お好きなシーンを想像しながらプレイングをお書きください。
●第二章『おかしなウォーゲーム』
空のインク屋こと烏男が突如開催を宣言しました。インクを使った陣地取りゲームの開幕です!
より多く自分の色で真白の世界を染めた人の勝ちですが、明確なルールはありません。とにかく楽しんだもん勝ち!
インクはお菓子モチーフのペンや筆、水鉄砲などのアイテムを使ってばらまくことができます。どこかで見たことがあれば大体それです。
人にインクを付けても害はありません。モチーフアイテムと同じ味がします。
●第三章『力に溺れた少年』
!CAUTION!
ウォーゲームエンジョイ勢を狩るのがお好きなようです。武器の使用を許可します。
●ご注意
同行者がいる場合は名前とIDをご記載ください。名前は呼び名でも構いません。
プレイングの受付状況などはマスターページの自己紹介トップでお知らせしております。お手数ですが、「全部見る」を押してご確認ください。
第1章 日常
『天涙の彩』
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POW : 出来うる限り高い所へ登り滴を集める
SPD : 彼方此方様々な場所を巡り滴を集める
WIZ : 木々や植物を伝って落ちる滴を集める
イラスト:由季
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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靴裏が何かを踏み締めたと感じたその瞬間に、真白の世界が色付いた。
降り立ったその場所は広い平原の只中だ。ちょうど色付きの雨の境目になるのだろう、体の左側は透明度の高い夕陽のような赤色の雨に、体の右側は赤と白が混じりあったようなマーブルに輝く雨に打たれている。
なんとも奇妙な体験だ。ヘンテコな色がついていると言うぐらいで、雨に変わりはないのだが。
一歩、踏み出すその前に。
「ようこそ、リョーヘイサン!」
ぱたぱたと肩を打つ雨粒の音を遮って、待ってましたとばかりに聞き取りづらいが辛うじて言語になってる言葉が鼓膜を打つ。見れば、黒い翼をわさわさと揺らした烏男が立っていた。
まるでオウムだ、なんて感想を持った者もいるかもしれない。何やら説明してるらしい言葉も、なんだかオウムが覚えた言葉を自慢げに披露しているように聴こえてくる。
彼の説明によると、この世界は山岳地帯と湖畔地帯、それから今立っている平原地帯に分かれているようだ。
山岳地帯は少し肌寒いようで、そんな気候を表しているのかやや寒色の雨が多いらしい。透明度の高いものもこちらに多いと言う。
湖畔地帯は穏やかな場所で、広い湖を囲うように連なる木々は様々ゆえに伝い落ちる雫を集めるには丁度いいのだとか。仲間たちの多くはここで木登りをして遊びながら過ごしているらしい。
それぞれ特徴があるのだから、平原地帯はというと。
「ナンデモあるヨー」
……の一言で片付けられていた。まあつまり、文字通り、だ。目的の色にこだわりがあるのなら、平原地帯が探しやすいのではないだろうか。
猟兵たちはこれこれこうするといいなんていうアドバイスを各々言い渡す。現地にいた愉快な仲間たちは、人狼やキマイラにも似た姿形をとっている者もあれば、最近発見されたとかいう世界の賢い動物のような者もある。皆それぞれウンウンと頷いてすなおに聞いていた。
質問や軽い会話ぐらいは出来るかもしれない。作業に向かう者あれば、そのまま留まり興味深げな視線を送る者もある。
鮮やかで無色な世界での、とある一日の始まりであった。色付かぬ世界を彩るため、猟兵たちは動き出す。
ケルスティン・フレデリクション
ぽたぽた、ぽたぽた
持っている白い傘に数多の色が乗って落ちていくのを見てわぁ、わぁ、と嬉しくて声を上げる
「すごい、すごーい!」
それを適度に表す語彙が無くにこにこ笑いながら白い大地を歩いていく
可愛い瓶を愉快な仲間達から貰うと色を探す為に歩き回る
植物がある森を探す
「んー…ない…」
「ちがうー」
空から降る色を見ながら不満そうに口尖らせて
透き通る青色が降る湖にやって来るも
「むむ、ちがう…」
色々探してみるも
己の好きなオレンジの色は太陽と夜の間、夕焼け色、地平線が見える場所にあって
ぽたりぽたりとインクを瓶に落とした
「きれい!すごい!」
想像した通りの色に満足げに頷いた
◇◎
●#FFA200
ぽたぽた、ぽたぽた。
時折ぱたたっと短い音を挟みながら、カラフルな雨の重奏がケルスティン・フレデリクション(始まりノオト・f23272)の傘の上で繰り広げられる。彩溢れるオーケストラは、ケルスティンの持つ白い傘に綺麗な川をいくつも作っては大地に落ち、わずかな色彩だけ残して溶けていった。束の間の音楽は、その奏者の多さから、絶えず演奏されている。
わあ、とケルスティンから溜息にも似た賞賛が零れるのも無理はない。幻想的という言葉だけに収まらない美しさがあるのだから。
「すごい、すごーい!」
知識豊かな少女とは言え、彼女の辞書にこの情景を表す語彙は存在しない。代わりに出てきたのは、年頃の少女に見合う言葉と笑顔だった。
見渡す限りの白に彩。景色をよくよく見てみれば、雨が落ちた一瞬だけ雨の色に染まり白に還る。絶対的な白はきっと今のうち。こんなに鮮やかな雨が降っているのだから、いつかきっと、素敵な色あふれる世界に染まっていくだろう。この世界の時間は動きだしたのだから。
はたはたと、小さな翼を動かして、ケルスティンのそばへ寄ってきたのは雀の子。出会った烏男も宛ら、こちらも器用に言葉を繰った。地に足をつけたまま、ケルスティンは貰った瓶を手に雀を見送る。意識はすぐに、煌めく雨が攫っていった。
軽やかな足取りで向かった先は森の中だ。湖が遠目に見えるのか、時折ちかちかと光を反射して輝いている。
「んー……」
ひょこりと草をかき分けて。
「ちがうー」
うんしょと根っこを乗り越えて。
それでも目当ては見つからない。傘をくるりと回して遊びながら空を見上げてみるも、ケルスティンの不満げな口元は尖ったままだ。
濡れては困るからと今日の足元はパンプスから可愛いブーツに。跳ね飛ばす水滴が雨と同じ色に輝くものだから、ケルスティンの視線は少し下。そうこうしているうちに、空がそのまま落っこちてきているかのような、広い湖にたどり着いた。
「むむ、ちがう……」
すごい、けれど。ケルスティンの冒険はまだまだ続きそう。
さて、日も傾き始め、そろそろ終幕にしたい頃。
「わあ……!」
もしかしたら、世界はこの時を待っていたのかもしれない。目的の色が見つからなかったのも、ただ意地悪がしたかったわけではなくて、きっと。
「きれい! すごい!」
黄昏時。逢魔時は世界の境界線が曖昧になる。それは太陽が支配する昼と月が佇む夜の狭間の時間だ。しかしそれぞれ反発し合うのではなく、互いに、解け合う。そうして生まれた色は、息を呑むほど美しい。
地平線の先からあたたかな陽が見守っている。ぽとりと、瓶の中にお裾分けを閉じ込めた。
大成功
🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
なんだか不思議なところだね…。アリスラビリンスは何度か来た事あるけど、ここは一層不思議なトコロかも…(ミラ達は色の付いた雨や雨の境目でぴょんぴょん遊んだり、不思議な光景に目を輝かせたり)
ミラ達仔竜を引き連れて参加…。
一応、オウガが来ても大丈夫な国のアドバイスって事だけど…。
そうなると防壁とか侵入を察知・撃退する為のトラップとか作るのが良いかな…。
後は国の入口をカモフラージュするとか…。
一応、呪力を使った罠や幻術【呪詛、高速詠唱、呪殺弾、残像】なら符に籠めて渡せるから協力できるかな…。
後はミラ達と湖周辺をふらふらと…。
貰った瓶に雫を溜めて気の向くまま歩いてどんなインクが出来るか試してみたり…
● #F0F6DA
雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は瞬いた。その世界の異様さに、その世界の優美さに。
アリスラビリンスは数多の世界から織りなすところだと言うのは知っていた。実際、璃奈はいくつもの世界に訪れ活躍の足跡を残していたのだから。そんな璃奈にとっても、この世界の有り様は不思議という言葉が真っ先に出てくるほどだった。
「こんなに不思議なトコロは、初めてかもしれないね……」
感嘆の言葉に被せるように、おそらく返事らしい人ならざる声が隣であがる。ギィだとか、ギュイーだとか、ぴゅるるだとか、三者三様とはこのことだ。
落ち着いて見える璃奈の横、少し成長しただろうか、ひとまわり大きくなった仔竜たちがまだまだ子どもらしくはしゃいでいた。色のついた雨は初体験。ちょうど赤色と青色の境目で行ったり来たりを繰り返し、自身を染める雨色の違いを楽しんでいる。かき氷のシロップでも想像したのか、あんぐりと大口をあけて雨を飲み込む姿もあった。結果はまあ、ただの雨なのだから味などないのだが。小首を傾げる姿は可愛らしい。
始まったばかりの不思議の国は、出来上がる前から不思議でいっぱいの様子。
「リョーヘイサン、りょーへいサン」
その国の住人となるべく頑張っている愉快な仲間たちは、流暢とは遠い言葉で話しかけてくる。璃奈へ声をかけたのも、いまいちカタコトな誰かさんだった。
「どこにいるのかな……」
「コチラです、シタですシタ」
視線を下げ、足元を見ればチロチロ赤い舌を出したりしまったりする大蛇がじいと璃奈を見上げていた。ふんふんと仔竜たちが興味深げに鼻を鳴らして囲んでいる。なんとなく、大蛇は困っているように見えた。
ミラたちを腕の中に回収した璃奈は、大蛇との会話を試みる。どうやら熱心に不思議の国作りをしているようで、アドバイスを求めにきたらしい。
「オウガ、怖いもんね……」
「ハイです。せっかくキレイなのに、モッタイナイ」
張り切る大蛇の求めに応じて、璃奈は持ち寄った知識を授けた。国造りに長けているのなら、きっと設置型のトラップ作りも簡単にこなせるだろう。自分も手伝うからと付け加えると、大蛇はしきりに感謝の言葉を口にした。
「使い方、教えるから……応援してるね……」
「アリガとうございマス!」
くるりと巻いた体に符を載せて、ゆらゆら上機嫌に頭を揺らす。良ければ現場で示教してほしいとの求めにも、璃奈はふたつ返事で応じた。
道すがら、大蛇は烏男の話をしてくれた。どうやらインクを作って真っ白な世界を自分たちの色に染める計画を立てているらしい。そのために必要なのは、今まさに降っている色彩豊かな雨なのだとか。
「私たちも参加しよっか……」
是非と勧める大蛇の言もあったが、なによりミラたちがキラキラと、それはもう太陽にも負けないぐらい輝いた瞳を向けてきたので、璃奈は時折瓶の中に雫を溜めてみるのであった。
どんな色になるのかは、出来てからのお楽しみ。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
◇◎
アドバイスがすんなり終わったからだいぶ時間が余ってしまったな…
このまま平原地帯を歩いてみるか
バディペット「仔竜【ライ】」を連れて散策
確か、アリスラビリンスに連れてくるのは初めてだったな
今は危険は無さそうだが、あまり遠くへ行くなよ?
空き瓶をもらって、散策ついでに雫を集める
集める雫の色に特にこだわりは無いが…そうだな、ライが選んだものを集めるか(色はお任せ)
まだ時間はある、あちこち見て回って色を選ぶ事にしよう
この世界も色のついた雨も最初は驚いたが、今は少し慣れて楽しむ余裕すらある
雫を集めたらインク屋に渡し、インク作りを見学
雫だけで作るのか…?
どんなインクに変わるのか少し…いや、かなり興味がある
●#87CEFA
日が高い。それもそうだ、猟兵がやるべき仕事はアドバイスだけで、実質的な作業はこの国に住う愉快な仲間たちが行うのだから。
つまり、今この時は暇人である。
「思った以上に余ったな……」
さくさくと白い大地に靴跡をつけながら、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は平原を往く。アックス&ウィザードからシキについて飛び出した仔竜のライは、シキがつけた靴跡をなぞるようにぴょこぴょこと後ろに続いていた。見るからに楽しそうな雰囲気を醸し出している。
そんなおともをチラリと見やり、数歩進んではまた振り返る。今のところオウガの気配もなく、自然の脅威のようなものも存在しないため、少しくらいは好き勝手にしていても良いものではあるのだが。
「あまり遠くへ行くなよ?」
「きゅう〜」
自由人、いや自由竜なライがいつ好奇心に任せて跳んでいくかは分からない。世話のかかる奴だ、なんて思うものの緩んだ口元は気を許している証拠でもあった。
進む度に微細に色が変わる雨はなんとも奇妙な感覚を生み出した。貰った空き瓶は未だに空のままだ。散策のついでに集めようとは思いはすれど、どんな色にするかはなにも考えていない。
「きゅう」
「ん……どうした?」
さてどうしようかと悩んでいたせいか眉間にシワが寄っていたらしく、くるくる喉を鳴らしたライがひょこりと覗き込んでくる。視界一杯に夜色が占め、そこでぴこりと閃いた。
抱っこしろ、なんて要求してくるライを抱え、片手は瓶の空き口を空へと向ける。
「こうやって雨水を溜めるんだそうだ。ライ、お前はどの色が良い?」
そう語りかけてやれば、じいと瓶を見つめていたライはぱっと顔を上げ、あっちと指し示すようにぱたぱた尻尾を揺らした。
早くと急かす相方を抱え、シキは困ったようにため息を溢す。そう焦るなと撫でやれば、ライは嬉しそうにきゃうと応えた。
雨の中の散策は、驚きの連続だった。慣れてきたと思ったら、今度は虹色のような雨が降ってきて目を瞠る。しかし訪れた頃と比べれば馴染んだもので、色を見る余裕も生まれてきていた。
「リョーヘイサン、ココはめずらシイ?」
「そうだな……不思議の連続だ」
かたかたとフラスコのようなものを揺らす烏男が首を傾げる。集め終わった雫はインク屋に渡せば良いと言っていたが、どんな原理かと眺めていてもいまいち理解できなかった。
一度蒸発させた雫は、冷えて再び水となる。色合いは変わらないが、ほんの少し粘性が上がっただろうか。そこに何か透明なものを入れているのだが、なにかと聞けばこれも雨なのだという。透明な雨は降っていただろうかと首を傾げていれば、キギョーヒミツだとどこで覚えたかわからぬ単語が返ってきた。見た目は蒸留にも似ているが、不思議の国は端々まで不思議というわけだ。
シキが興味津々に雨がインクへと変わっていく様を眺めている隣で、冒険疲れしたライはすぴすぴと寝息を立てているのであった。
出来たインクは、ライがいつもよく見る色。大好きな色だった。
大成功
🔵🔵🔵
ヴォルフガング・ディーツェ
ふむ、まるで絵本の中の様な不思議な光景だね
想像力溢れる幸せな子どもが夢見る様な――そう考えるなら、さしずめオウガは嫌な事、怖い事の象徴ってトコかな?
山岳地帯を中心に彩を集める、寒色の方がオレ好みなんだよね
蒼、銀鼠、灰、その他
集めて、納めて、じっくりと眺める
何処から降って来たのだろう、何処からやってきたのだろう
現実感のない美って好きだよ、後に残るモノしか価値が無い、なんてつまらないもの
この世界も見て回ろう
UCで空を飛んで、山を、湖を、森を見て回るんだ
目に焼き付けて、大事に仕舞い込もう
色のない世界に息づく命は、どんな思いでいるのだろうか
愉快な仲間達に聞けば分かるかもだけど――今は、想いを巡らせて
●#89C3EB
覚えているだろうか。
昔々、開いた本から飛び出すお話に心惹かれ、夢中になった遠い日のことを。
まるで、絵本だ。靴先をほのかに染める白や移り変わる鮮やかな彩が視界の中に飛び込んで、その奥に眠るこころに訴えかけてくる。不思議の国のお話は、おとぎ話で知りはすれど、この世界はまた違う魅力に溢れていた。
けれど、幸せな絵本とは違う、ひどく冷たく酷な現実が息を潜めて待っている。
「幸せな夢はそのままで。邪魔するのはいけないね」
わずかに白い息を吐いたヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)はゴツゴツとした岩場を越えて空を見る。
想像力溢れる幸せな子どもが夢に見るような、真白くも鮮やかな世界。夢の中では都合の良いように存在することも可能だが、生憎この世界は現実のものなのだ。今はまだその気配は感じられないが……。
「さしずめオウガは嫌な事、怖い事の象徴ってトコかな」
いずれ来たる厄災に備えるべきなのは違いない。
――とはいえ、猟兵にできる事は限られていて、空いた時間までヤキモキするのは勿体無いというものだ。楽しむべき時は楽しみ、真面目に努めるべき時は気を引き締める。今は、前者の時間である。
ひとつの瓶に混ぜてしまうのもいいけれど、折角の色差を楽しめないのも惜しいところ。そんな欲張りに応える小瓶セットのひとつにぽたりぽたりと蒼天を閉じ込めた。
すでにいくつかの小瓶には雫が満たされている。野に逞しく生きる鼠のような銀色に、全てを焼き焦がし後に遺る煤けた灰色。反して、あらゆる生命の源たる海を映した深い藍色や瑞々しい春の訪れを告げる新緑などもヴォルフガングの手中にある。
ガラス越しに見る雨溜まりは、その色合いもあってか小さな海にも見えた。今にも魚が群れをなして泳ぎ出し、世界を生み出すのではないかと思わせられる。
とは、言い過ぎだが。
「不思議だが、そう感じさせる輝きがあるように見えるなあ」
手のひらの上のアクアリウムを眺めながら、ヴォルフガングはまた違う色彩を求めて歩み続ける。
全ての小瓶が満たされれば、ヴォルフガングの心も多少は満たされる。すべてと表現しないのは、まだまだやりたいことがあるからだ。
落とさぬように小瓶セットを大事にしまい、うんと背筋を伸ばせば呼吸をひとつ。ト、と軽い音ののち、ヴォルフガングの体は空の只中に浮いていた。
常に移り変わる世界を、今この時しか感じられない"今"をその目に焼き付けに、自由気ままな旅に出る。色のない世界に生きづく命は、生きづこうとしている命は、どんな思いでいるのだろうか。
そう夢想する時間も一興というもの。答え合わせは、またいずれ。
大成功
🔵🔵🔵
エンジ・カラカ
◇◎
まーっしろしろ。
賢い君、賢い君、シロだシロ。
綺麗ダネー。
相棒の拷問器具に話しかけて進め進め。
アァ……シロ以外もある。
賢い君、賢い君、何色がイイ?
うんうん、アカ。そうだアカ。
君とおんなじイロ!
アカ、アカ、アカ
アカはどーこだ。これはアオ。
コッチはキイロ。
平原地帯でイロ探し。
ありそうで見つからないアカ。
アァ……行く場所が悪かったカ……?
君にはやっぱりシロツメクサのイロも似合うと思うンだ。
でもやっぱりアカがイイ?
うんうん、そうかそうか……頑張って探すカ……。
おーい、愉快な仲間たちー
アカはどこ?賢い君のアカ。
アカ、アカ、アカ
今日は君のイロ探し。
●#B94047
咲いた、咲いた。あか、しろ、きいろ。
そんな歌が聞こえたような。
賢い君をともに連れて、エンジ・カラカ(六月・f06959)は白に染まった平原を歩く。ハロー、ワールド。生まれたての世界にこんにちは。
「賢い君、賢い君、シロだシロ」
ねえ見てと語り掛けるかのように、歩む足は軽やかに白銀を爪弾いた。ふわりと舞った白銀は、空から零れるとりどりの色にきらきらと染まりながら再び白へと還っていく。
先ほど見かけた白い雨。そこから少し踏み出せば、彩色豊かな世界へと早変わり。
瓶に滴を溜めて、烏男に渡してみれば、ステキなインクが出来上がるそう。渡された空の瓶を眺めた後に、さあてどうしようかとエンジは賢い君に話しかける。
賢い君、賢い君、何色がイイ?
うんうん、アカ。そうだアカ。
君とおんなじイロ!
ひとりと君の掛け合いは、不思議な世界においても不思議に見えたかもしれない。けれどもそれを気にすることなんてありはしない。エンジにとってはいつものこと。当たり前のことだから。
相も変わらず白を蹴って、赤色探しの旅路を巡る。
ぽとりと一瞬地を染めるのは、青空がそのまま落っこちてきたかのような澄んだ色。
それから人魚姫が運んできた、深く静かな海底の、暗い昏い寂しい藍色。
似た色が降り注ぐ大地を進み、エンジは次なる新天地を求めて歩く。これはアオ、コッチはキイロ。なかなか目当ての色は見つからないようだ。
平原地帯はどんな色も溢れている。広く、どこまでも続きそうな地平線が伸びているのだから。なんでもあるといえば聞こえはいいが、どこにあるかがわからなければ途方もない時間がかかるだろう。
エンジの巡り合う色は、どれもこれも綺麗ではあるが赤くはない。陽だまりを溶かした橙色を見つけたときはもう少しと思ったけれど、どうやら近くにはありそうもなかった。
行く場所が悪かっただろうか。今から踵を返して逆方向に……それはそれで、来た道を思えば悪手のように思える。
「君にはやっぱりシロツメクサのイロも似合うと思うンだ」
どうだろう、と別案を示してみるものの、返ってくるのは随分と頑固な手ごたえだ。
「うんうん、そうかそうか……頑張って探すカ……」
心なしか、エンジの肩ががくりと下がった気がした。
さて、猫の手も借りたいとはこのことだ。君と気ままな旅もいいけれど、終わりのある旅なれば、訊ねてみるのもいいだろう。
エンジの状況に天が手を差し伸べたか、どこからどう見ても猫な獣人たちが遠目に見えた。なにやら猟兵からのアドバイスを受けて制作中らしいが、声をかけない手はない。
やんややんやと取り囲まれながら、無事にアカを見つけた頃には、とっぷりと日が暮れていたのだとか。
アカ、アカ、アカ。今日は君のイロ探し。
大成功
🔵🔵🔵
レイブル・クライツァ
◎◇
…えっと
手伝いで来たからには、色々な色を集めたい所だわ。
ほら、選択肢が多い方がきっと良くなると思うのだけれど
(持てる限りの瓶を持ち)
確認が出来たらなのだけれども…確保した色は、インクにしてしまったら後から色の調合は出来ない感じなのかしら?
重ねての色合いがまた、趣があると言えばそれはそれで良いのかもしれないけれども
種類を確保するなら、お勧めされた何でもある平原地帯なら、困らずに済みそうよね
自分が身に付けないともなれば、多彩な色選びは楽しいわ
黒だと、滲ませないと暖色寄りか寒色寄りで作られてるか判らないし
それに、アリスラビリンスは暗めの色より明るい色合いのイメージが強いから
そこも気を付けたい所ね
●
小さな瓶の中に、オレンジ色の海が出来る。丁寧にコルクの蓋をして、すっぽり収まる木枠のケースに置いてやればコレクションの仲間入り。
愉快な仲間たちが見つけたまさらの世界。これからみんなで作り上げていく素敵な場所の手伝いで来たからには、できる限りを尽くして最良を求めていくところだ。
「次は何色がいいかしら……」
たくさんの色を集めたいと相談したところ、レイブル・クライツァ(白と黒の螺旋・f04529)に渡されたのは小さい丸がいくつか空いた木枠のケースと、丸にぴったり収まるサイズの蓋つきの小瓶だった。小さく割った鉱石をしまう用途に使われるそうだが、ひっくり返さない限りは使えるだろうとのことだ。
レイブルの目的にはこれ以上ないセットである。目的を果たすために、両手の指の間に挟めるだけ瓶を挟んでいくぐらいし兼ねない彼女の外面はひっそりと保たれた。
集め始める前に出会った烏男曰く、インクにした後の調整は難しいそうだ。できなくはないが、生み出したときの透明さや、雨とインクの狭間だからこそ存在するなんとも言えぬ美しさは損なわれるらしい。
とはいえ、難しく考える必要はなかったようで、自然由来の美しさも良いが、人工的に生み出されるものもまた美しい、なんていう価値観を愉快な仲間たちは共通して持っている。あらゆる物事を前向きにとらえ、どれもこれも肯定していく性質らしい。
どんな結末になろうとも、彼らは喜んでくれる。その事実は覆らない。
であれば、お固く考える必要もない。レイブルは目についた色をあれもこれもと小瓶に詰めて閉じ込めた。種類が多いほうが、きっと良い。
「赤に青、黄色にオレンジ。それから……緑と、紫も」
休憩がてら、適当に置いた小瓶を並べ替えて色を整理する。普段身に着けるような白や黒は見当たらなかった。心なしか、レイブルの指先は軽やかに小瓶を摘まんで楽しげだ。自分が身に付けないともなれば、色の選択肢は大幅に広がるのだから。
翡翠に藤、椿といった和色から、アクアマリンにラズベリー、キャラメルといった洋色まで取り揃える。見たままに暖色か寒色かわかりやすいのはありがたい。黒ではこうも簡単にはいかないのだ。
「それに、暗いイメージは、この世界には似合わないもの」
時折見かける明度の低い色も気になりはするものの、数は少なめに抑えてある。アクセントに使うぐらいはいいが、こればかりに偏ってしまうと、せっかくの新しい世界の門出に見合わない。ふと暗いあの世界のことを思い出して、ため息が零れた。
一瞬飛びかけた思考を引き戻し、レイブルは再び色集めを再開する。残った小瓶はあといくつか。どんな色で満たそうか、無彩の体を彩りの雨に染めながら、空の小瓶を空へと掲げた。
大成功
🔵🔵🔵
リリヤ・ベル
まっしろなのに、色がたくさん。ふしぎです。
よいくにになるよう、おてつだいをいたしましょう。
オウガがきてもあんしんな国にするためには、
ちゃんとおうちがあったほうがよいでしょうか。
木登りがとくいでしたら、木の上のおうちも素敵です。
見張り台もあるとよいのかも。
かいらんばん、……れんらくもう?
ごきんじょさんとの意志疎通も、たいせつなのですよ。
このくにに、地図はあるのでしょうか。
なければ、愉快な仲間の皆様とつくりにゆきましょう。探検隊ですよ。
お山の方、たかいところなら、とおくまで見えそうです。
きっとそちらには、ほしい色もあるのです。
透明な、しずかな青いいろ。
頂いた瓶に色をあつめてゆきましょう。
●#00A1E9
まっしろなのに、あざやかで。あざやかなのに、まっしろで。
不思議の国は、始まりの時から不思議の国だった。なんでもあるようで何もない国を、これから素敵に作り上げていこうとする愉快な仲間たちの力になれるなら、たくさん頑張ってあげたいとリリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)は思う。
この先もずっと、よい国であるように。
「みなさま、おうちはありますか? かくれられるところはひつようです」
「おうち、オウチ! どんなオウチがいいデスか?」
雨に濡れたしわしわの紙を広げて、もっふりと大きなクマがふすふす鼻を鳴らしている。木陰に逃げ込んだお陰でそれ以上シワになることは防げているが、こんな場所にいるからにはおうちはまだないのだろう。
オウガが来ても安心な国。そのための第一歩は、やはり心休まる我が家の存在だと思う。
ううんと悩んだリリヤは愉快な仲間たちの姿を見る。リリヤとお話ししているクマはさておき、鳥やリスといった地上よりも木の上に住まう動物のような姿をしたものも多い。
それならきっと、木の上も。ツリーハウスの響きはなんとなく惹かれるものがある。
提案自体は快く受け入れられた。クマは首を傾げていたが、背に翼を生やしたワシ男は大賛成していた。ついでに見張り台も兼ねれば一挙両得……というものである。たぶん。
「かいらんばん、……れんらくもう? も、たいせつなのですよ」
どちらも求めるものは、ご近所さんとの意思疎通。ひとりでは出来ないことも、ふたりなら出来ることは知っている。それならもっと、ふたりよりもたくさんいれば、出来ることだって増えていくはず。
電子機器のような類は今は存在しないため、各おうちにポストをつけることになった。ひとまず緊急時にはベルを鳴らすことにして、まずはお互いの連絡手段に慣れるところから始めよう。
紙が必要かな、というところではたとリリヤは気付く。
「このくにに、地図はあるのでしょうか」
そんな疑問の答えは揃ってノーだった。
リリヤの言に賛同した愉快な仲間たちたるクマと猫娘、ワシ男は背中にリュックを背負ってえいえいおーと息を揃える。その輪の中にはリリヤの小さなこぶしもあった。ベル探検隊の結成である。
まずは高いところからこの世界を俯瞰しようということで、目指す場所はお山の上。リリヤの欲しいものも一緒に探せるだろう。
残り火の青、あなた色。
静謐に満ちる青を求めて、リリヤは小瓶を胸に抱いた。
大成功
🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
◇◎
愉快な仲間たちさんともなかよくなれたらいいな
ぼうえい、壁と門はどうかなって
くぐるときわくわくするような
花や虹を彫ったりして
わあ、いろのついた雨っ
わたしね、雨がすきなんだ
ぱたぱたぽとぽと
たのしいきもちになれるからっ
じめんにおちるととけちゃうんだ
ふしぎ
でもきれい
あつめるならなにいろがいいかな
すきないろ、たくさんあるけど
うーんうーん
地面に滲んで消える色を見ながら悩むのも楽しくて
うん、きめたっ
ともだちの姿思い出して
あさやけのやさしい青を切り取って羽のかたちを模した瓶にいれたなら
きっと青い鳥みたいに見えるって思ったから
青は山岳地帯というけれど
ともだちはさむいのがにがてだもの
あたたかい場所であつめよう
●#2CA9E1
どこかの不思議な国へと続く門の傍。平原地帯の隅っこに、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)と愉快な仲間たちが寝そべっていた。何かを囲むように円陣を組んだ状態で、ここはこうだあっちはああだと話し合っている。
オズが提案したのは、オウガがやってきてもすぐにめちゃくちゃにされないための壁や門だった。入口を限りあるものにすることで、防衛機能を高めようというものだ。
ただそれを、無機質な物体でとどめておくのは勿体ない。折角こんなに綺麗で不思議なところなのだから!
「くぐるとき、わくわくするようなものがいいな」
「ソウだなソウだな! オズはなにガすき?」
片言のウサギがぴょこぴょこ長い耳を揺らして問いかける。その頭の上には大男の拳ぐらいはありそうな、緑のカエルがケロケロと歌っていた。こちらも同じく愉快な仲間たちのうちのひとりだというのだから驚きだ。
オズたちが囲んでいるのは、こうしたいという願いが詰まった未来図だ。みんなでいろんなものを書き足して、みんなが好きなものを作り上げる。そのための、第一歩。
オズはそこへ、花のイラストを書き添える。こんなのはどうかなとちらりと上目遣いに伺えば、器用に兎の耳がまるを描いていた。
ちょっぴり煮詰まり休憩タイム。話には聞いていたけれど、こうやって改めて見るとなんとも不思議で綺麗な光景だろうか。
「わたしね、雨がすきなんだ」
「ぼくもすき」
言葉は真上から降ってきた。あれ、と思って見上げてみても誰もいない。と思いきや、けろけろけろけろ歌がする。
いつの間にやら移動してきたか、カエルのコンサートが開かれていた。雨の日にはふさわしい一曲だ。なんだかいつもよりも楽しい気持ちになって、一緒にリズムをとってみたり。
カラフルな雨は白い世界にとてもよく映えて見えた。これだけ降っているのだから、その色に染まってしまってもおかしくはないのに、世界はまだまだまっさらなまま。これから始まるみんなに合わせてくれたのだろうと、オズは思う。科学的な根拠とか、今はどうだっていいのだ。
地面に落ちて溶けていく雫。じんわりと広がる模様は一瞬だけれど優しくて、ずっと見ていても飽きないだろう。
「そうだ、わたしもあつめなきゃ」
景色に見とれて忘れていたけれど、インク屋さんがいるんだとか。何色がいいかなあとカエルの合唱を聞きながら、ふと思い浮かべるのはともだちの姿。綺麗な景色、おいしいもの。たのしい記憶は誰かと共有したくなるものだ。
「うん、きめたっ。きみもいっしょにいく?」
「うんうん、いっしょにいこう」
それから翼の小瓶を受け取って、あさやけのやさしい青を探しに出る。おんなじ色で満たしたなら、きっとこの小瓶は誰かの願いを叶えるような、素敵な物語を紡ぐだろう。
「さむいところはにがてだから、ここらへんにあるといいな」
「それならいいところをしっているよ」
ケロケロ鳴いたカエルの調べに従って、オズの冒険は始まりを告げた。
大成功
🔵🔵🔵
イトゥカ・レスカン
ぽたぽた、あちらこちらに跳ねる雫は異なる色に滲んで咲いて
これは、他の世界ではそうお目に掛かれない景色ですね
澄んだ色に惹かれるまま歩けばいつの間にか山岳に
肌寒さに震えるのも一瞬
足元にぱっと広がった空の色に思わずほころび
雫を集める、のでしたね
いっぱい混ぜると濁ってしまわないのでしょうか?
気にはなるも、視界を横切る色がどれも綺麗なら瓶を掲げる手は四方に伸びて
水底の様な深い青も薄荷の様な澄んだ緑も、ぽたぽた
果実を絞った透明の紫、花弁の鮮やかな青、それから……
おや、もう瓶がいっぱいになってしまいましたね
透かして覗いた瓶の中はなんとも不思議な色をしている様で
どんなインクになるのでしょう、楽しみですね
◇◎
●#00885A
白銀の世界に咲く雨花は、どこの世界にも負けないぐらい華やかな色彩に溢れていた。あちらこちらに軽やか踊って、見るもの全てを楽しませる。予測なんて出来ようもない。みなみな一様に気紛れな雫たちなのだから。
雨降り模様は変わらねど、空気の感じ方は場所によって違ってくる。澄んだ色に惹かれるまま、イトゥカ・レスカン(ブルーモーメント・f13024)が歩みついた先は細く白い息が出る山岳地帯だ。肌を刺す寒さ――というほどではないが、思わず身を縮こませたくなるような心地だ。
それも、一瞬。
「……あ、」
ぱっと足元に広がった空色が、イトゥカの心を攫っていった。いつも見る空は澄んだ青に浮かぶ雲。けれど今イトゥカの袂にあるのは真逆の空。白に吸い込まれていく青だ。
「雫を集める、のでしたね」
ぽたぽたと落ちては染めて消えていく雫をしばし眺め、ふと渡された瓶の存在を思い出す。お洒落な香水の瓶にも似たそれは、蓋を回せば空へと向けて口を開けた。
ぱたぱた瓶の中へ吸い込まれていく雫たち。おんなじ色で染めたなら、綺麗なままで閉じ込められるのだろうけれど。
「濁ってしまわないのでしょうか……」
あれもこれも、欲しくなる。どれもこれも、綺麗だから。
うんうん唸った末に、ひとつの結論に導いたのは視界を横切るコバルトブルー。欲しいという気持ちに素直になって、イトゥカはそれも瓶の中に落とし込んだ。
それからたくさん、イトゥカの心の赴くままに色付く雨を探していく。水底のような深い青も、薄荷のような澄んだ緑も、瓶の泉に仲間入り。果実を絞った透明の紫が足元を染めて、冷たさも気にせず指先で掬う。
ふうと一息ついて空を見上げれば、いくつもの花弁が咲いてすぐにでもまた雫集めをしたくなる。なんて素敵な時間なのだろう。
そうこうしているうちに瓶の中身はもういっぱい。暗がりの中で出来てた波紋がすっかり陽の元にお出ましだ。
くるりとフラスコでも振るように回してみれば、中で溶け合いなんとも不思議なマーブル模様を描いていく。青を大目に入れたような気もするが、すっかり夢中でどのくらいなんてものは覚えていない。
「どんなインクになるのでしょう」
思わず零れた胸中に、雨水はどう応えてくれるのだろうか。未だひとつの色に定まらぬ瓶の海を、今はしばし楽しむとしよう。
大成功
🔵🔵🔵
夕時雨・沙羅羅
ランさん(覧/f18785)と
◎
生まれたての国、まだ安全な国
少しでも故郷の平和が保たれるならば
うん、良い国にする
突然のダッシュに驚きつつ、空游ぎ追う
呆れるも、楽しそうなのは何より
仲間から瓶受け取りつつ、僕の国で実践してる防衛法を教えておこう
見張りの巡回、罠の設置、協力体制
遊園地……罠が仕込みやすそう
へえ、触れた対象の本来の色を写したりするんだろうか
ならばと探すのは、咲いた花
どうせなら明るい色が良いだろう
あちらこちら眺め、探して
木登りしてる仲間にひらめいて木の上まで游げば、凛とした花
…うん、この空に近い花を伝う雫にしよう
きっと未来光るような色になる
ランさんはどうする?木の上のが良いなら手伝うけど
遊星・覧
◎シャラクン(沙羅羅 / f21090)と!
すっげ、マジでぜーんぶまっさら
色のない世界ってこんな感じなのネ
つま先で地面をさくさく掘ってみる
土の下にもやっぱ色ないんだァ
テンション上がるなァ!シャラクン、イイ国作ろーネ
◆
上がったテンションのまま湖畔にダッシュ
目的はココに国を作る愉快な仲間!
雨集めに使う瓶を下さいナ
ところで国にはどんなの建てる予定?
遊園地とか建てない?
カラフルなお城に遊具、オススメヨ
◆
木から垂れた雨を瓶の中に
シャラクン見て見て、この雨黄緑だヨ
葉っぱに当たったからかなァ
春みたいな色、コレ集めよっと
木の上のシャラクンに手を振る
アリガト手伝ってー
そのまま軽く木、揺すってチョーダイ!
●#FF0033 / #7CFC00
「すっげえ」
それが、遊星・覧(夢・f18785)の第一声だった。
生まれたての国はまだオウガの脅威からは遠く、健やかにいのちを育もうとしている。これから愉快な仲間たちと猟兵で色付けてゆくであろう世界は、まだまだ真白き純白を保っていた。
「色のない世界ってこんな感じなのネ」
踏み締める大地の色もまっしろで、むくりと擡げた好奇心のまま覧はザクザクと地面を穿り返す。普通ならば黄土色にでも染まるような状況だが、靴先は見事な白で包まれていた。無論、掘り返した地面も白である。
不思議な世界だ。体感したことのない体験は、胸の奥底を熱くする。
「テンション上がるなァ! シャラクン、イイ国作ろーネ」
隣に立っていたならバシバシ背中を叩いていたであろう高いテンションで呼びかけた相手――夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)は降り立った場所から動かぬままに世界を眺めていた。思い馳せるのは遥か故郷か。この国も故郷の枠なれど、生い立ち生きた国はまた別だ。
「うん」
吐息混じりの返事が出る。細めた双眸は愛おしげに真白の世界の輪郭をなぞった。
「良い国にする」
平和で安全な国になれば良い。世界を繋ぐ穴を潜って辿り着いた誰かが、安らげられるような。
そんな沙羅羅の視界を、高速の物体が過っていく。その正体は、つい先刻まで土いじりに勤しんでいた筈の覧だ。ヒャッホウみたいな声が聞こえたような気もしないでもないが、雨の音が包み隠して確信を得られない。
ふるりと尾を漂わせ、ひとまず沙羅羅は覧の後を追うことにした。呆れ半分ではあるが、楽しそうなのは良いことだ。
湖畔に向けて猛ダッシュをかました覧は、形だけが移り変わる景色の中に、雨とは違って形を成した色の塊を見つけて進路を変えた。恐らく、いや絶対に、この国を作ろうと計画立てている愉快な仲間たちだ。仲間たちも覧の足音に気が付いたか、口々にリョーヘイサンなどと声にした。
ふゆりと沙羅羅も追いついて、二人は雨を集めるための瓶を手に入れる。その際に猟兵としての仕事もちゃあんとこなすのだ。
沙羅羅は自国の経験談から見張りの巡回や罠の設置、いざという時の協力体制についてアドバイスをしていった。実際に行われているものは参考にもしやすい。
「僕の国で実践しているから、保証はするよ」
「アリガトーアリガトー」
「ところで国にはどんなの建てる予定?」
一方、覧はと言えば。
「マダきまってナイぞ」
「それなら遊園地とか建てない?」
ちゃっかりダイマも欠かさなかった。「カラフルなお城に遊具、オススメヨ」とその場の責任者らしき狼男に売り込む様は、なんとなくインチキしてそうな商人を彷彿とさせる。
丸め込まれてうーんと考え込む狼男の傍で、呆れているであろうと推測された沙羅羅がひっそり、罠が仕込みやすそうだなと感心していた。
結局、持ち帰って相談するといかにも仕事ができそうな発言を最後に、狼男は二人を森の中へと送り出した。曰く、遊園地ほどではないが、遊び場になっているところがあるらしい。
道すがら、移り変わる雨の色を気にかけて、獣道を進んでいく。その途中、覧が小さくあっと零した。
「シャラクン、見て見て」
心なしか小声になった覧は、巨木の枝から垂れた雨粒を瓶で受け止めた。ぽとりぽとりといくつか溜めてやれば、うっすらと色が透けて見える。
「この雨黄緑だヨ。葉っぱに当たったからかなァ」
「へえ、触れた対象の本来の色を写したりさるんだろうか」
ひとつの推測にたどり着き、そう意識して見てみると、確かに元の色を写すような法則性があるような気もしてくる。全てが全てそうだとは言えないが、参考に探すというのも乙なもの。
ならばと沙羅羅は探す対象を色付きの雨から咲いた花へと変えてみる。無差別に当てもなく探すより、何かしらの目的があった方が探しやすいのもあるが、花はどれも華やかに色付いて咲くからだ。明るい色を求めるならば丁度いい。
「コレ集めるからチョット待ってネ」
覧は偶然見つけた黄緑を気に入ったようだ。穏やかな風のなか、暖かさで溶け出した雪の中からひそりと芽吹いて出迎える。新緑はどうしたって新しい季節の始まり、春を彷彿とさせた。
ぽたぽたと、地道に溜める覧の上、あちらこちらを眺めて探す沙羅羅は競うように木登りしていく仲間の姿を目にしてひらりと游ぐ。狼男が言っていた遊び場が近いのだろう。
仲間たちとは別の道、空に近いところまで漂い往けば、凛とした花が出迎えた。伝う雫の色は、艶やかな赤。少し違えば血にも見えるその雫は、いのちの輝きをたっぷり含んで輝いて見えた。
瓶を寄せてしばし訪れる待ちの時間、泳ぐ沙羅羅は視界の端に揺れるものを見つけてふと止まる。見れば覧が沙羅羅に向けて手を振っていた。
「どうかした? 木の上のが良いなら手伝うけど」
「アリガト、そのまま軽く木、揺すってチョーダイ!」
「ああ、なるほど」
得心ともに沙羅羅がえいやと揺らせば、想像以上に溜め込んでいたか、だばあと滝よりはマシ程度の雨粒が落ちた。
元より雨に濡れているとは言え、川にでも飛び込んだかと疑うぐらいに覧はびっしょりと濡れ鼠になったのだが、それはまた別のお話。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 日常
『おかしなウォーゲーム』
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POW : 勇敢な兵士役として力闘する
SPD : 有能な斥候役として奮闘する
WIZ : 優秀な参謀役として敢闘する
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
黄昏時の不思議の国は、相も変わらず真っ白だった。
そんな世界を空のただなかから見下ろした烏男が満足気に口の端を吊り上げる。実際にはクチバシなためにあまり変化は見られなかったのだが。
「時は来たれり!」
急に流暢に喋りだすなこいつ。
ともあれなんだか仰々しい文句と共に、お菓子でおかしなウォーゲームの開幕が告げられたのである。
コーション! コーション!
これより陣地取りゲームを始める!
使用できるのは愉快な仲間たちが作り上げたお菓子なシューターと、自分で探した色のインクのみ。
トクベツなインクは真っ白な世界すらも染め上げることができるのだ。
いざいざ、我らのトクベツで不思議な世界の幕開けだ!
そんな感じの挨拶だった。
ちなみにシューターと言いつつも、中にインクを入れれば先端がその色に染まる鉛筆で書いたり、バケツにたっぷり注いで筆を使ったり、水風船の中に入れて投げたり自由だ。
しかもインクをぶちまけて陣地を主張するのもあり、元の世界の白さを活かしつつ自分だけのマークを書いて主張するのもあり、もう本当になんでもありだ。
陣地取ゲームと銘打っているが、「世界が色付けば」何でもいいらしい。
とにもかくにも楽しんだもん勝ちのこの世界。今は戦いのことなど忘れてはしゃいでみてもいいかもしれない。
プディングのバケツに、チョコペンの鉛筆。クリームの筆にケーキのシューター。マカロンの消しゴムなんかも取り揃えていて、お菓子とのコラボレーションは無限大だ。陣地取ゲームを傍目にあまーいインクを楽しんでいる愉快な仲間たちもちらほらと見える。あんまり過ぎると烏男につつかれてしまうのだが。
余談だが、インク屋こと烏男に細かい色はわからない。分からないが作れるのだからまあいいとして、青系の色は全部青、みたいな大雑把な枠組みになっている。近しい色の猟兵や愉快な仲間たちとペアを組んだり、まったく反対の色の誰かと個人的に勝負したりしても面白いのかもしれない。
無限大の遊び方が存在するウォーゲーム。はてさて猟兵たちはどう動くのだろうか?
オズ・ケストナー
◇◎
わあ、わあっ
さっきあつめた色にそめたらいいんだね
カエルさんもウサギさんもいっしょにやろうよっ
くるり見まわし
よーし、これにしようかな
身長と同じくらいの筆
おおきいものを振り回すのは慣れているから
筆を地面につけたまま走り回って
振り返れば地面に大きく描かれるカエルさん
みんなで作った壁にはウサギさんを描いて
描いていた花も塗り
シュネー、よろしくね
屋根に向けて放った人形が風船を飛ばしたら
弾けた風船が空を染める
白の世界もきれいだけど
いろんな色にそまっていくのがたのしい
さっきはとけたのにねっ
それからね
みんなの色で虹がかけたらいいな
なないろよりたくさんの色が空にかかるでしょう?
それってすごくわくわくするものっ
●
トンテンカンテン、素敵な門造りにいそしんでいればそんな声。ぱちぱち瞬いたオズの瞳が、きらりと輝いたような気がした。
「わあ、わあっ」
思わず上がった声は、ぱっと振りまかれた橙色が空を染めたから。空を染める黄昏色は一瞬で、雨と一緒に落ちていったけれど、地面を染めればそのまま色付いて咲いた。
オズの手にはあおいとり。この子と一緒ならば、世界を染め上げることができるのだ。
独り占めなんてとんでもない! 旅のお供の合唱隊と、それから器用なウサギさんもお誘いして、オズの冒険はまだまだ続く。くるりとお菓子を見回して、手を伸ばしたのはホイップクリーム飾りの筆ひとつ。長さはオズの身長ほどもありそうだが、オズは気にした風もなく手慣れた様子で振り上げた。
ちゃぷちゃぷ筆にインクを付けて。そうれと一緒に駆け回る。
真っ白な地面は鮮やかな青色の線を覚え、何やら模様をその身に着けた。
ケロケロ再びカエルが鳴く。なんだか上機嫌そうなその声は、オズの描いたものを見たからだろうか。ふうっと一息つけば、拳サイズのカエルがたっくさん入りそうな大きな大きなカエルのできあがり。ぴょこんと跳ねた小さなカエルが、大きなカエルの頭の上に落ち着いた。
「次はどうしようかな?」
「あのね、あのね、今度はアッチ!」
愉快な仲間たちに導かれるまま、壁を画用紙に見立ててえいやと青いインクを走らせる。ウサギさんの希望により、今度はかわいいウサギの絵。周りで見ていた仲間たちも、描いてほしいと願う盛況ぶりだ。
リスさんを描いて花を塗り、狼男に苦戦して、仲間たちと似顔絵大会。
すっかり仲良くなったみんなともっと楽しみたいから、オズは世界のように白い髪のお友達にお願いを託す。
「シュネー、よろしくね」
そんなオズの言葉に応えるように、まあるい風船が空を飛ぶ。中にはとっておきが込められていた。
耳に届いた小さな破裂音。びっくりしてしまいそうなそんな音も、目の前に広がる光景を前に霞んで消えた。一面の花畑の中にあるような錯覚に陥る。遠くにある太陽のおかげか、きらきらと眩しい。
白の世界もきれいだけれど、いろんな色に染まっていくのが楽しくて。
まるで雲ひとつない青空のように、青色花火は咲き誇る。
陣地取ゲームだと烏男は言っていたけれど、自分の色だけで染めるのは勿体ないとオズは思う。だから。
「アカいろあるヨ!」
「ぼく、紫、作ってくるです」
みんなの色で虹をかけよう。なないろなんてこだわらずに、みんなの作ったたくさんの色で。これはきみ、あっちはあのこ、こっちはわたし。
ねえ、すっごくわくわくするでしょう?
大成功
🔵🔵🔵
エンジ・カラカ
陣地取りだって賢い君。
人よりオオカミの方が速く走れる走れる。
口に咥えた筆は真っ赤な色、君の色
アァ、この世界ならそうだなァ……。
いちごジャム!
うんうんきっとそうだ。
真っ黒な毛も真っ赤な色に染めて
全身モップのように扱って走り回る。
転がってみたり足跡をつけてみたり。
そうだ、いちごジャムならいちごを描いてみよう。
ぺたぺたと足跡でイチゴの輪郭を作って作って
アァ……いちごは白の上に描きたい。
やっぱりコッチ、やっぱりコッチの色。
ぺたぺた歩くよりモップになる方が楽しいなァ……。
走って走ってスライディング
他の色も混ざって面白い面白い。
賢い君、賢い君、今度はアッチに行こう。
走れ走れ。
●
愉快な仲間たちに紛れて黒色狼は走る走る。陣地取りなら速さが大事。咥えたキャンディケインの筆は真っ赤な色に染まっていた。駆け抜けた跡は、過酷な戦場を抜けてきた猟兵であればぎょっとするような風景にも見える。しかし場所が場所なだけに、レッドカーペットを連想する人の方が多いだろう。
そしてエンジはくるりと返り、自身が塗り上げた地面を見やればうんうん頷く。
真っ赤な色は君の色。
ここならそうだ、いちごジャム!
満足げなエンジの顔は常に笑っている犬のように楽しげ……とまではいかないが、常の彼よりは感情も表立って見えるような気もした。白い大地を駆ける爽快感、振り返れば自分の足跡がくっきりと残り、達成感も込み上げてくるものだ。
再び駆け出したエンジの背後、赤色は段々と薄れていく。そのグラデーションもまた美しいけれど、立ち止まり気付いたエンジは思案する。道具も何も、全てが自由なウォーゲーム。それならばとエンジは肉球のある手を見つめた。
賢い君がくすくす嗤う。真っ黒な毛にまだらを載せて、エンジは体を地面に転がした。まるでモップだ。遠目から見たらそうとしか見えないのだが、色付けに勤しむエンジは全く気にしない。まばらな濃淡を残したり、白いキャンバスに真っ赤な足跡を残したり。
お菓子な筆を見ていれば、もやもや頭の中にショートケーキが浮かんでくる。いちごジャムないちごのケーキ。それもいい。
思い浮かぶがままに、エンジは真っ白な広い大地に君色のインクを踊らせた。
真っ赤な中に浮かぶいちごがひとつ。真っ白な中に転がるいちごがたくさん。
アァ……いちごはやっぱりコッチ。白の上。
口にしても味はしないであろうことは分かるけれど、今だけはなんだかこの白も極上のクリームに見えてくる。
すっかり置いてけぼりにされた筆を傍目にエンジは走る走る。体に載せたインクを振りまいて、よその色にもお邪魔して、元の毛色が埋もれて見えない。
「コッチ、コッチ! アカいろ!」
「ここはあお!」
言い争う愉快な仲間たちに混ざってみれば、マーブル模様はさらに混迷を極めていった。口の端についたカラメルをぺろりと舌で掬い取り、知らぬ声が聞こえた方へ狼の耳は反応する。
賢い君、賢い君、今度はアッチに行こう。
返事は待たずに走れ走れ。エンジの足跡はまだまだ遠く続いていく。
大成功
🔵🔵🔵
ケルスティン・フレデリクション
◇◎
じんとりげーむ?
ふんふん、と烏男さんの説明を聞いて納得し参加決定
「おもしろそう!いっぱい、いっぱいゆうやけいろに、すればいいんだね!」
選んだシューターはお絵描き用の太い筆
がんばる!っと気合いいれつつ色塗り塗りしてるとお絵かきに夢中になっておひさまとか烏男さんとかお菓子とか周りにいるみんなの事を描いちゃう
そんなことをしてると美味しそうなお菓子の匂いに釣られてお菓子食べに行っちゃうかも
「おおきなプリン!」いただきます!ともぐもぐ。
色んな色に染められていく白い世界を楽しげに見つめながら
「からすさんはプリンたべないの?」あーんとしつつ
おこられたら、また筆を持ってお絵かき…違う、じんとりゲームするね
レイブル・クライツァ
◎◇
さてさて問題よ
こんなに多数の色を集めてしまっては、他に比べて統一性が無いって思うでしょう?
今から始まるのは絵が無い塗り絵だから、私は背景が欲しいなんて思った訳で
他の方の素敵な作品を邪魔しない程度に、それを可能にするには多色が必要だった
…あまり自身を主張し過ぎない様にかつ、欲張るならこれが一番良いと思うのよ
エアブラシで柔らかく薄めの色を吹き付けたり
同じ太さの筆を7本並べて、それぞれに違う色を染み込ませて
此処だけの虹を描いて、輝かしくなりますようにと願うわ。
残りの瓶の確認をしながら、ふと
――世界はこんなにも可能性に満ち溢れていて眩しい、と
勝負の事を見事に忘れてしまっているとかそんな事は、あって
●
「じんとりげーむ?」
天にも響く烏男の宣言を聞いて、ケルスティンは首を傾げた。おおよそしたことがない遊びだろうか。烏男の流暢な説明をふんふんと、おそらくこの世界で一番真面目に聞いている。
お手製のインクと、お菓子なアイテムを使って、世界を染める。
簡単に言えばそんな感じのゲームの感想は。
「おもしろそう!」
この一言に集約した。
「いっぱい、いっぱいゆうやけいろに、すればいいんだね!」
よいしょと持ち上げたシューターは、お絵かき用の太い筆。毛の部分がほんのりベージュに色付いているが、持ち手の部分はチョコレート色だ。クッキーにチョコレートをまぶしたらこんな感じのお菓子になるだろうか。配色はどことなく見たことがある。
気合をいれて真っ白い世界を夕暮れ色に染めていく。作り上げた黄昏色を筆の後ろにくっつけてみれば、筆先はたちまち夕焼け色に滲んでいった。足りなくなるかもしれないという心配は杞憂らしく、ぺたぺたケルスティンが白を橙に変えていっても減ることはない。
最初のうちは綺麗に隙間なく塗ろうとしていた筈なのだが、気が付けば小さな世界が出来上がっていた。不思議の国の中の不思議の国。ケルスティン作のおひさまや、インク屋の烏男にお菓子の家。夢中になって、みんなのことを描いていく。
そんなケルスティンの傍で、こっそり見守っている影があった。
「とても上手ね。私も良いかしら」
「うん!」
楽し気なケルスティンの応えを聞いて、レイブルは目元を緩ませた。お絵かきを邪魔しないように少し下がって、ケルスティンが塗り上げた小さな世界を眺めてみる。
自分だけの色を作って陣取りゲームをするという趣旨からは、レイブルの集めた雫は外れていた。というのも、レイブルはたくさんの色を集めたわけで、陣地を主張するには統一性がなさすぎた。
それでも、烏男がNOと言わなかったのだから、きっとこれでも良いのだと思う。
突然始まった絵の無い塗り絵。皆が皆、主体となる絵を描いていくのなら、欲しくなるものがある。レイブルの作ったインクたちは、それを可能としていた。
背景だ。素敵な絵や文字、作品を邪魔しない程度に、かつ引き立てるためには単色では難しい。きっと、皆でいろんな色を持ち寄って世界を色付けていくことが、烏男の考えていたことなのかもしれない。レイブルの欲張りセットは、レイブルの考えを実践するには丁度良かった。幸い、カセットを入れ替えて色を変えるタイプのチョコペンもある。
「わあ、いっぱいいろがあるの?」
「ええ。折角だもの、こっちの色も使ってみない?」
はい、とチョコペンを差し出せば、ケルスティンはお礼を言って持ち替えてみる。それからレイブルにもお裾分けと、夕焼け色の筆を交換こ。背景も良いけれど、レイブルの絵も見てみたい。
「どうしようかしら……」
二人並んでお絵かきタイム。たくさんたくさん描いたケルスティンは周りを見る余裕も他を気にする暇もあって、漂うあまーいお菓子の匂いをキャッチした。地面とにらめっこするレイブルの横、きょろきょろ周りを見渡して、見つけたお山に目を輝かせた。
「おおきなプリン!」
きちんといただきますをして、ケルスティンはプリンをぺろり。お菓子なアイテムに紛れ、本物のお菓子もあったようだ。いろんな色に染められていく世界を見ながらプリンを摘まんでいれば、ぬっとケルスティンの上に影がかかる。
「ツマミグイですカー?」
「わあ!」
どことなく不満そうな、拗ねているようにも見える烏男がぷんぷんと腰に翼を当てて見下ろしている。ごめんなさいと素直に謝りつつも、ケルスティンは烏男にプリンを差し出した。
「からすさんはプリンたべないの?」
あーん。
「ムム。……しかたナイですネェ」
ぱくり。
それはそれとして頂くのでした。
そんなほのぼのを背景に、レイブルは眉間にしわを寄せつつエアブラシで色付けることに勤しんでいた。近くから吹き付けてしまうと絵よりも目立ってしまうし、あんまり遠くから吹き付けたところで白色は染まらず風に乗って飛んでいく。この微妙なラインを見極めようと唸っていた。
「いっしょに、どーぞ?」
ふうと一仕事終えたレイブルの前に、にゅっとプリンが生えてくる。ぱちくり瞬いた蜂蜜の瞳が、プリンを差し出すケルスティンに向けられた。
「あら、ありがとう」
いつの間にプリンを、と思ったものの、厚意はありがたく受け取ることにして。それから遅くなったけれど自己紹介。
「レイブル、にじがきれい!」
「ふふ、あなたの仲間たちも可愛らしいわ」
カラフルな色があるからこその虹を描いたレイブルだが、その虹の一本はケルスティンのインクからもらったものだ。こうやって溶け合って成り立つ虹のように、この世界に住む者たちが力を合わせて迎える未来が輝かしくなりますようにと願いを込めた。
次はどんな絵を描こうかと相談しながら、ちかりと光った瓶の反射光に目を奪われる。まだまだ生み出せるのだと、主張してくるようだ。
ああ、世界はこんなにも可能性に満ち溢れていて眩しい。
陣取りゲームなんだけどナーなどと、微笑み混じりの小言を言われるのは、もう少し先のこと。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
◇◎
陣取りゲーム?急に何を言い出すかと思えば…
…まぁライもやる気のようだし、やってみるか
アイスクリームがモチーフのように見える水鉄砲型シューターを使う
ライに水鉄砲は扱いにくいだろうから…お前はこっちだ
インク入りの水風船をライに渡し、投げさせる。どうだ、悪くないだろう?
撃ち出されるインクは澄んだ青色
他の猟兵が獲得した青系統の陣地を広げるようにインクを撃ち出したり、ライが水風船を落とした場所を起点にインクを撒いてみたり
青いインクでついた足跡も陣地になるだろうか
…いつのまにかライだけでなく、自分もこのゲームを楽しんでいる
インクをかぶっても気にしない
こんな甘いインクなら、むしろライは喜ぶかもしれないな
イトゥカ・レスカン
陣取りゲーム、ですか
手当り次第染めていけばいいと思えば気楽ですね
本気の争いごとではないようですし
ええ、のんびり楽しむといたしましょう
手に取ったのはお酒の代わりにインクが詰まったキャンディボンボン
どうやら水風船のように使えばいい様子
大雑把な狙いでも良いなら、私にも扱いやすそうです
えいやと放った一投はのたのたと
……機敏に動くのは苦手、なんですよねぇ
遠く駆けゆく猟兵や愉快な仲間たちを横目に見送りつつ
マイペースにボンボンをまだ白い地面へ転がせば、豊かに伸びる青い色は鮮やかで
ゲームのこともついつい忘れて見惚れてしまう
青に赤に黄色に、誰かが染めた色も重なって
ああ、どれも本当に綺麗な色
◇◎
●
「きゅー!」
いの一番にやる気の声を出したのは、シキが連れてきた仔竜のライだ。飽きれたような呆けたような顔をしていたシキの視線は、滞空する烏男から足元へ落ち、ふんすふんすと鼻を鳴らし尻尾をたしたしさせるライを見た。
「急に何を言い出すかと思えば……まあ、ライもやる気だし、やってみるか」
仕方ないなとばかりの声音にも、ライの瞳の輝きは衰えなかった。
シキが選んだのはアイスクリーム。……ではなく、アイスクリームモチーフの水鉄砲だ。持ち手がコーンの色合いと模様になっており、銃身が白く染められている。構造はそう難しくなく、子供でも扱えるようにカートリッジにインクを入れたボトルを差し込めばすぐにでもインクの弾が発射できる。銃使いのシキの手にはよく馴染んだ。
一方で、人工の銃は自然豊かな場所が出身のライには合わない。そもそも人が使うように作られた武器を、仔竜が上手に扱えるわけもなかった。
「お前はこっちだ」
「きゅ!」
そう手を伸ばした先にあったのは、キャンディボンボン型の水風船。シキの手は空を掴み、ライの視線は別の手に取られていったボンボンを見上げていた。
「おや」
水鉄砲を最初に選んだシキと違い、初めから水風船のようなキャンディボンボンを選んだイトゥカがお隣さんに気がつく。
イトゥカもまた陣取りゲームに参戦する心算であった。本気の争い事であれば少し思うところもあったのだが、烏男の言うところではあくまでゲームなので、のんびり楽しもうというわけだ。気楽に参加できるのだから、参加しない理由はない。
「やあ、あなたもゲームの参加者でしょうか?」
じーっと見やるライへとイトゥカがボンボンを差し出せば、ライは猫撫で声の返事と共に受け取った。
「いいのか?」
「ええ、たくさんありますから」
言葉の通り、イトゥカの両手にはまだまだキャンディボンボンが残っていた。水風船のように使うのだから、消耗品であることは一目瞭然。そのためか、水鉄砲や筆よりもたくさん用意されているようだった。
えいやと投げるイトゥカに合わせて、ライを見様見真似でひょいと投げる。ふたつの水風船は弧を描いて飛んでいき、地面に当たったところでぱっと青い花を二輪咲かせた。
奇しくも二人とも青である。顔を見合わせたシキとイトゥカだが、なんとなくおかしくなって笑みが零れた。真下ではライが次のボンボンを抱えておねだりの声を上げている。
「それでは世界を染めていきましょうか」
「ああ。陣地取りゲーム開始、だな」
撃ち出されるインクは澄んだ青色。線状に伸びる青は水鉄砲使いのシキのもの。遠くに散らばる花びらの青はライが投げたボンボンだ。二人と一匹の足元の青は、機敏に動くのは苦手と曰うイトゥカのもの。
踏み出せば自分たちの足跡も青く、それに気付いたライが全身にインクを浴びてばたばたと地面を転がり回って楽しげな声を上げた。後できちんと拭いてやらないと、と思うシキも跳ねっ返りや攻めに来た緑色チームのインクに塗れて無事とは言えない。
マイペースなイトゥカもまた同じ様相だ。豊かに伸びる青の鮮やかさに目を奪われていれば、いい獲物を見つけたとばかりに赤色の襲撃を受けていた。たまたま口に入ったインクはミルクチョコレート味。思った以上にしっかりお菓子の味がして、手元のキャンディボンボンにも興味が唆られる。
気がつけばすっかりゲームの虜だ。青ばかりの世界から、訪れた赤に黄色に様々入り混じり、賑やかな場所へと変わっていこうとしている。色と色が重なり合えば、また違う色が生み出され、無限の可能性に満ちていた。
この先の、世界のようだと思う。
「ああ、どれも本当に綺麗な色」
ついと溢れたイトゥカの声に、呼応するようにライが鳴いた。
「まだまだ、沢山色がありそうだぞ?」
新たに参戦した紫軍団のインクを指先につけたシキが、僅かに口の端を吊り上げ笑った。ゲームは未だ続いている。賑やかな声が空に満ちた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リリヤ・ベル
◇◎
陣取りゲーム。なるほど。
ご助力いたしましょう。
おおきなえんぴつをお借りします。
集めてきた、少しずつ色味の違う青色をセット。
グラデーションのいろえんぴつは、しましまな持ち手のキャンディケイン。
青は青ですもの。青組なのです。
せかいにいろをつけるのは、とてもふしぎでおもしろい。
どんないろになるのでしょう。
何色に染まっても、きっとすてきです。
……けれど、勝負ならまけません。まけませんとも。がんばります。
青色の陣地をひろげてゆきましょう。
さかなの絵。とりの絵。おはなの絵。
えいえいと大きく、白いせかいに青色のらくがき。
空も海も大地も、どんどん描いてゆきましょう。
せかいはにぎやかな方が、たのしいのです。
●
烏男のご高説をしっかり姿勢を正して聞いていたのは彼女ひとりだけだったかもしれない。これが学校ならば校長先生の話を聞く礼儀正しいお嬢さまみたいなものだ。とてもえらい。
「なるほど、なるほど。ご助力いたしましょう」
ぽんと手を叩いてリリヤは早速陣取りゲームの準備に取り掛かる。愉快な仲間たちが用意してくれたお菓子風アイテムはたくさんで、あれもこれもと目移りしてしまいそうだ。
シュトーレンのロケットペン、フルーツ盛り合わせバケツ、シュークリームの水風船などの中からリリヤはよいしょとおおきな鉛筆を取り出した。鉛筆の後ろはくるりと曲がり、杖のような形をとる。しましまな持ち手が特徴的な、キャンディケインのようだ。
そこに集めてきた、少しずつ色味の違う青色をセットする。本来なら芯がある部分にとろりとインクを流し入れてみれば、たちまち先端が青に染まった。
一筆描けば色が変わる。グラデーションの色鉛筆は、しましま模様もグラデーション。
「あおはあおですもの。あお組なのです」
準備が終わればゲームスタート! 一面真っ白な世界を染めるのは、なんだかドキドキする。最初の一手は殊更だ。
世界に色をつけるのは、とても不思議で面白い。
「どんないろになるのでしょう」
大地に青を広げながら、リリヤはいずれ来たる先を想像する。ここにいるのは自分だけではないのだ。赤色を好んだ人もいるし、黄色や緑、オレンジなんかもたくさんある。見たことのない色ももしかしたらあるだろう。
そんなたくさんの色がこのゲームで混じり合い、白い世界に広がって、世界はようやく鮮やかに芽吹く。そんな未来が待ち遠しい。
何色に染まっても、きっと素敵な世界になる。
けれど、とリリヤは息を吸った。
「……勝負なら、まけません。まけませんとも」
世界の未来を担う一員として励むのは勿論だが、それはそれ。これはこれ。ひっそり負けず嫌いなのであった。
えいえいと大きく、白いせかいに青色のらくがき。
さかなの絵。とりの絵。おはなの絵。
柔らかな水色に染まることもあれば、水底のような深い藍色で描かれることもある。描けば描くほど不思議なインクに、時間も忘れて夢中になった。
母なる海。穏やかな空。包み込む大地。
せかいはにぎやかな方がたのしいのですとは、頬にインクをくっつけたまま得意げなリリヤの言であったとか。
大成功
🔵🔵🔵
遊星・覧
◎シャラクン(沙羅羅 / f21090)と
陣取り合戦!ドンパチも楽しそうネ
どうしよっかなァ
集めたインクにお菓子の道具
キャンバスはこの世界でショ、よし決めた
ランはココでお絵かきしまっす!
◆
気になってたプディングのバケツ
中になみなみインク注いで準備オーケー!
道具は筆でもエンピツでも
ほい、シャラクンも好きなの持って!
なに描こうかなァ、お花畑?遊園地……
海?イイじゃん!
◆
ランの黄緑でメロンゼリーのお魚
シャラクンの赤でタルトみたいなウミウシ
思いつくまま海の生きもの泳がせて
お水はシャラクンの透明感を参考にしまショ
ホントに食べられそうなお菓子の海
……お腹空いてくるネ
夕時雨・沙羅羅
ランさん(覧/f18785)と
◎
へえ、インクを撒くのか
色を付けたいなら確かに効率が良い
けれど、白いままなのも今だけ
なら、絵を描くのも楽しいか
お菓子の道具、かわいい
1個くらいくれないかな
アイスクリームの筆?に、ロリポップのローラー
この広さなら、海も描けそう
バケツのインクに浸して、いざ
絵の描き方はランさんを見様見真似
作った色はあんまり鮮やかで、賑やかになりそうだ
僕のインクは飴のような珊瑚
ランさんのインクは白と合わせてしましまカップケーキの海月
大きなカラフルケーキの鯨も描きたい
きらきらで飾り付けてさ
森から取ったインクがお菓子な海に化けていく
なんだか感慨深い…
…何か食べる?今のこの国、食べ物あるかな…
●
ルール無用の陣取りゲーム。勝ち負け気にせず楽しもう、だなんて宣言されては待ったなしの様子の覧は、そわそわとお菓子の道具を見渡していた。
「ドンパチするのも楽しそうネ。どうしよっかなァ」
「インクを撒くなら相応のものが良いんじゃないか?」
マカロンの弾にインクを込めて打ち出せる、アフターヌーンティーなシューターを片手に沙羅羅が覧の手元を覗く。目移りする道具たちを抱え、覧は未だ決めかねている様子だ。
沙羅羅の言うことももっともだとわかる。そして効率を求めるなら、選ぶ道具も絞られてくる。……が。
「コレ気になってたんだよネ!」
どどーんと真ん中を陣取るプディングのバケツ。中にたっぷりインクを注いで、筆でも万年筆でもちょんとつければ問題なく使えるだろう。
「よし決めた! ランはココでお絵かきしまっす!」
相棒に筆を選んだ覧は、プディングバケツになみなみインクを注いで準備開始。インクの色合い的にプディングとは似ても似つかないが、そこはご愛嬌だ。
覧が新緑のインクを注ぐ傍で、沙羅羅は道具を物色していく。折角なら揃って描いていく方が良い。お絵かきならば、先の細いものや、広い範囲を塗れるものがあれば便利だろうか。
「……うん。これにしよう」
くるくるとぐろを巻くようなデザインをした、おそらくアイスクリームらしき筆を一本。それから包紙もセットなロリポップのローラーを一本。
どれもこれもポップでキュートなデザインをしており、見ているだけでも目を楽しませてくれる。さすが建国すらちょちょいのちょいか、出来栄えはどれも素晴らしいものだった。
「一個くらいくれないかな……」
「怒られるんじゃなァい?」
早速筆先をインクに染め、真白のキャンバスに線を描き始めた覧が軽い調子で沙羅羅を揶揄う。今だけの白さを堪能し始めた覧に視線をやり、その途中で目を光らせている烏男と目が合って、内心がくりと肩を落とした。どうやらダメらしい。
「ほい、シャラクンも好きなの持って!」
励ますわけではないのだろうが、凹んだ様子の沙羅羅へ覧がずずいと空のプディングバケツを押しつけた。
「なに描こうかなァ、お花畑? 遊園地……」
「海」
先の覧に倣うように、なみなみインクを注ぎ始めた沙羅羅が囁くように二音を零す。覧がそれを聞き逃すことはなく、繰り返し口を動かした。
「海。……イイじゃん!」
言うが早いか、覧はすいすい絵を描いていく。海にいるといえば、魚に貝に、昆布に鳥に。チョイスに妙なのが混じっているのは気にしてはいけない。
まずは黄緑。メロンゼリーのお魚一匹泳がせて。
次は赤。イチゴタルトみたいなウミウシ一匹転がして。
続々と増えていく海の生きものたちを、沙羅羅はバケツのインクに筆をちゃぷちゃぷ漬けて遊びながら見ていた。今度は沙羅羅の番だ。
まずは赤。りんご飴のように鮮やかな珊瑚が一塊。
次は薄緑。青リンゴのカップケーキはクラゲの体。
覧の見様見真似で描いていく絵は、お世辞にもとても上手とは言えないが、今日は描くこと自体に意味がある。
「イイネ、イイネ!」
「ランさん、鯨も描こう」
すっかりお絵かきに夢中な二人は次々と海の生きものを生み出した。鮮やかなインクは混ざり合ってもその輝きを保ち、なんだか眩しい。
仕上げとばかりにお水を増やしていく覧は、時折ちらちらと沙羅羅を見て、大地の白を加えて薄く色をまぶしていった。魚たちとは違う透明感が内包されてメリハリが出る。
細かい作業は覧に任せ、傍で休む沙羅羅は全体を眺めてほうとひとつため息を吐いた。心地よい疲れは確かにある。それ以上に、森から取ったインクがお菓子な海に化けていく様が感慨深かった。命は巡ると言うが、その言葉の通りの縮図が繰り広げられていた。
少し遅れて仕上げを終えた覧が一息つく。沙羅羅と同じように全体を見て、一言。
「……お腹空いてくるネ」
絵の感想ではあるけれど。思わず笑ってしまう言葉に釣られ、沙羅羅は時計揺蕩うはらをそうと撫でた。
「……何か食べる?」
腹が空いてはなんとやら。食べ物があるのか怪しい不思議の国で、二人が真っ先に見たのはたっぷりインクが詰まったバケツプディングだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
◇◎
引き続きミラ達を連れて参加中…。
【unlimited】で展開した魔剣にインク入りの水風船を括りつけて射出し、空中で破裂させて広範囲に降り注がせたり、空中から括り付けた水風船を落として空爆したりして広範囲を自分のインク色(ホワイトリリー)に染め上げるよ…。
ミラ達もバケツ持ったり水風船抱えたりで行ったり来たり…(そしてお腹が空いてプディングのバケツやケーキのシューターをもぐもぐして次々と食べちゃったり)
ひゃん…!しっぽにインクが…!あ、ミラ、しっぽに絵筆でイタズラしないで…くすぐったい…
●
烏男の演説が終われば、璃奈の足元でインクの入った瓶を転がし遊んでいた仔竜のミラたちが揃って吠えた。狼の遠吠にも似ているが、まだまだ成熟しきっていない子供たち故可愛らしさも内包する。どうやらすべきことを理解して、やる気を出しているようだ。
ミラたちが参加するとなれば、璃奈も参加しない理由はない。周りにちらほらと愉快な仲間たちや猟兵らがいるが、魔剣を展開しても邪魔にはならなさそうだ。万が一が起こる心配もない。
「わたしに、力を……!」
今日のこの場合は戦う力ではないけれど。揃えた魔剣にはインクがたっぷり詰まった、クリスマスツリーによくぶら下がっているようなまあるいは玉をくくりつける。ひとつひとつがリンゴやモモ、洋梨といったフルーツの形を象っていた。
璃奈の足元には、ほんの少し前に選んだ透明な器が置いてある。スイーツで例えるならば、恐らくフルーツポンチとか。元々はこの中にカラフルで美味しそうなフルーツがたくさん入っていた。どれもこれも、水風船と同じように使えるものだ。
すぐには解けないようにしっかりと紐をくくりつけていれば、アイが璃奈の手元を覗き込んでいることに気がついた。
「ん……どうしたの?」
撫でて欲しいのかなと手を伸ばすも、するりとアイはすり抜けていく。その代わり、璃奈の見様見真似で魔剣にフルーツな水風船を取り付けようと試みた。どうやら真似っこしたかったらしい。小さく指の少ない竜の手ではなかなか難しい作業のようで、ひとつくっ付けるのも大変だ。
アイと同じく水風船を手に取り、璃奈はアイに見えるようにゆっくりとお手本を見せる。うんうんと頷くアイは、それからしばらくして上手に出来たと璃奈へアピール。よく出来ました!
空へと打ち出す準備は万全。プディングのバケツを抱えたクリュウとお菓子な道具を齧っているミラを近くへと呼び寄せる。
いよいよ本番だ。いつになくカラフルで可愛らしくなった魔剣を空へと放ち、装飾のない魔剣も追って放つ。水風船へと擦ればたちまちその風圧で、いくつものゴムに亀裂が入った。
パッと空に花が咲く。ホワイトリリーの花火があちらこちらに咲き誇り、雨に混じって降り注ぐ。花火のような儚さはなけれど、満ちる生命力は今より始まる世界にこそ相応しい。地に落ちた後も色づき染まる様は、末長く息づく事の証明にも見えた。
「きれい、だね……」
門出を担うインクたち。璃奈の周りは白き花に染まってはいるが、遠くではまた違う色があちらこちらで芽吹いているのだろう。
しかし情緒や風流などというのは、仔竜には縁遠いことらしい。
「ひゃん……!」
突如襲いくる冷たさに、思わず変な声が出る。遅れて口を塞いでみるものの、過去は変えられないのである。ぞわりと走った悪寒の正体は、尻尾の先にべっとり付着したインクだった。
どうやら甘いインクを食べ飽きたミラが悪戯して回っているらしい。足元ではクリュウがインクに足を滑らせひっくり返っていた。
「もう、イタズラいないで……くすぐったい……」
「きゅう〜」
とはいえ、叱ったところで反省はしないのだが。まだまだ子供な仔竜たちに振り回される日々である。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『力に溺れた少年』
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POW : ドラゴンの力を秘めた、無双の魔剣
無敵の【魔剣『ドラグカイザー』】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD : 魔法創造
無敵の【魔法】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
WIZ : 魅了の魔眼
【両眼】から【レベル10未満の女性だけを魅了する呪詛】を放ち、【自身に対して、強い恋愛感情を抱かせる洗脳】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:テル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「フェル・カーモルト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
わいわいざわざわ。祭りのにぎやかさそのままに、不思議の国は楽し気な声で満ちていた。
オウガの侵入を防ぐための門と壁は、動物や花、風景の彫り物がなされ、その上にみんなで作ったインクを塗って完成も間近。協力して架けた虹はこの国の入り口を飾り、一大モチーフになりそうだ。
ただの白い地面だった世界は、あちらこちらに海が出来、空が出来、森が出来、色彩溢れる豊かな世界へと変わっていった。到底見ないような鮮やかな魚が大地を泳ぎ、そのまま飛び出してきそうな躍動感を醸し出している。生命力漲るカラーリングはこの世界にこそふさわしい。
真面目に陣取りゲームに勤しむ者あれば、お絵かき大会を開いてインクの交換会を始める者もある。三者三様、十人十色。ゲームとは違うことをしていても、烏男からのお咎めはなしだった。色付けることが目的ゆえ、多少は目を瞑るということらしい。
「うーん、アオ! アオがユウセイ!」
朝を告げる鶏のように、時折ちゃんと審判の役割をこなしているのだからとてもえらい。
そんな烏男が一息つきに、見張り台兼住居になる予定である大きな木の枝に足をかけた。枠組みだけはしてあるが、住処というにはまだ心許ない。よっこらせと腰を下ろし、目論見通りに色付き始めた世界を見渡し、その向こう側に一面真っ赤な世界を見つけた。
「ンン? ンー?? おかしいナ」
あそこは、あんな色ではなかったはず。
わずかな休憩を終え、烏男が飛んでいく。近づけば近づくほどに、にぎやかな声からは遠ざかり、代わりに冷たい空気だけが周りに満ちた。地面に転がるのはスイーツな道具を手に持ったままの愉快な仲間たち。ぐったりとした姿はどうも塗り疲れたなんて様子ではない。
辛うじて立っているクマ男が烏男へぶんぶん手を振る。その後ろから、迫るのはどうも異様な空気を纏った少年だった。
「アアッ、ヤダー! モー!」
事態を悟った烏男が器用に空中で暴れて返る。バタバタと翼を広げ、ゲームの開幕を告げた時とおんなじように世界へ、猟兵へ告げた。
「オウガ! オウガがきたヨ!」
やっつけちゃってーと軽い調子の発言ではあるが、常より緊迫感は乗っていた。
「フッ……この世界もまたひとつのゲームか」
眩しくもない太陽光を遮るように、スナップを利かせて瞼の上に手をかざす。多分本人はキマった……と内心思っているだろう。腰に吊った黄金の剣は、どう見ても愉快な仲間たちが用意した代物ではない。べたりとインクがついてはいるが、中でも粘性の高い赤色が目についた。
陣取りゲームがどうのこうのという声は少年の元まで届いていた。これもまたゲームというなら、自分なりのやり方で自分の陣地を広げてやろうとヘビーゲーマーな少年は思ったわけだ。生きることさえもゲームな少年は手段を択ばない。
「陣地を取るにはまず敵を殺す! そして誰もいなくなったところを塗ればいい。簡単な話だな」
目指せ全タテノーデスだ。ついでに美女を侍らせて我が色に染め上げるのもやぶさかではない。従順なしもべがいれば、陣地取りも捗るものだ。遮るものは――何もない!
……今のところは。
ケルスティン・フレデリクション
オウガがきたの?
一緒に遊んでた仲間達が傷ついてるのを見るとむうっとして。
せっかくみんなであそんでたのに!
みんなをいじめちゃ、めっ、なんだよ!
あくまで彼のしてることはゲームでは無く、弱い物イジメだと主張して
お絵かき筆は横に置いて自らの短刀【いのり】を構える
えーいっと容赦無く全力魔法使うよ。
だってみんなを傷つけたもん。
それなら、躊躇しなくていいよね?
敵からの攻撃は基本避けるね
幼い自分に攻撃をかわされることが自分の能力への疑念になればいいな
あとは、ひかりのしらべを使うね!
敵を倒したら怪我した皆のお手当てするね。
だいじょぶー?
それがおわったらまた、あそぼうね!
オズ・ケストナー
どうしたの?
あたまがいたいの?
ポーズに首傾げ
うん。ゲーム、してたよ
みんなでたのしいゲーム
きみがやりたいゲームとはちがうよ
ガジェットショータイム
アナライザー付のデバイスから宙に表示される魔法陣
画面に出てる数字はよくわからないけど
ダメージ受けてる場所はわかる
そっちがドラゴンなら
こっちだってドラゴンだよっ
現れたドラゴンの幻影から吐き出される炎
傷を負っている場所を狙い
ふぁいあーっ
攻撃は武器受けとオーラ防御で
ドラゴンが魔法を払ったかのように見せる
ありがとうと触れないドラゴンを撫で
きみのドラゴンのちからはそんなものなの?
わたしのドラゴンのほうが、つよいよっ
みんなとなかよくあそべないなら、たおしちゃうからね
リリヤ・ベル
◇◎
ゲームは、みんなでたのしくしないとだめなのです。
つよくなるのは、わるいことではなくとも。
ルールをまもらず、あそぶひとを直接攻撃するわるいひとには、おかえりねがいます。
カランカランと鐘の音が呼ぶのはインクの津波。
そのあかいろでは、この世界を塗り潰させはいたしませんとも。
おおきな波で壁をつくり、彼を向こうへと押し流して、こちらの陣地をまもりましょう。
……やたらとキラキラしていますが、わたくしにはよくわかりません。
うぅん。……あれは……かっこいいのです……?
愉快な仲間のみなさまの保護を最優先に。
息があるなら、おたすけしなくては。
治療は少々おまちくださいましね。
みんなでおうちにかえりましょう。
●
一般に、カラスは不吉を運ぶという。ヒトの目には真っ黒に映るカラスは、彼らの生きるための知恵からくる行動によって、ますます嫌われ者になっていた。
不思議の国でカラスが鳴く。彼が連れてきた訳ではないオウガの訪れを告げる声は、陣取りゲームを楽しんでいた愉快な仲間たちを恐怖のどん底へと突き落とした。どこからか現れたオウガは自らの欲のままに荒れ狂い、すでに始まりの国へ被害を出している。
「せっかくみんなであそんでたのに!」
駆け付けたケルスティンがまず目にしたのは、地面にうつぶせになったまま動かないオオグマの姿だった。暗いゴワゴワの毛には、明度の低い赤色がべとりとくっついている。それが赤いインクでないことぐらい、ケルスティンにだってわかった。
赤に濡れることも厭わず、リリヤがそっとオオグマに寄り添う。担いで運ぶにはあまりに大きいクマを、リリヤは運んであげられない。
「だいじょうぶ。だいじょうぶですよ」
まだ彼の息はある。毛に埋もれたルビー色の瞳がゆるうりとリリヤを見上げ、同じ速度で閉ざされた。一瞬息を飲むが、幼い人狼の耳は確かに呼吸の音を捉えている。そう長くはもたないけれど、まだ、まだ、だいじょうぶ。
若草の双眸が、腕を組んで仁王立ちしていた男を捉えた。
『これは、これは……なかなか興味深い……』
じろじろと猟兵たちを見やるオウガ、名もなきことをカッコいいとする精神の名無しことナナシ――この時点で名前がついてしまっていることに触れてはいけない――は手首のスナップを利かせ、自らを照らす大自然のスポットライトを遮った。
「これもまた試練。これもまたゲーム。この俺様に不可能は……ないッ!」
「……どうしたの? あたまがいたいの?」
おそらくキマった……と内心ガッツポーズをキメているナナシの前で、平坦な声が発せられる。
「ゲーム、してたよ」
オズの瞳が真っ直ぐにナナシを見据えていた。二人の間にあるのは、――いるのは、ぐったりとしたままの子供たちだった。足元はちょうど無事な世界と赤だけの世界の境目で、塗りつぶされた濃い赤の下に手を繋いだふたりの似顔絵だろうものが片側だけ埋まっていた。繋いだ手の、手首だけが見えている。ひとりぼっちに残された、ウサギの子供。壊されてしまった、楽しい世界。
みんながやりたいゲームは、やっていたゲームはこんなものではなかった。楽しい声ばかりが響いて、時々おこりん坊が悪戯っこを追いかけまわして、それでも笑い声が絶えなかったのだ。
こんなの、違う。
「きみがやりたいゲームとはちがうよ」
「ルールをまもらないひとには、おかえりねがいます」
オズが幕開けを告げれば、まるで魔法のようにガジェットが組み立て上げられていく。この世界にあるものを使って、あるいはよく馴染んだものを使って、召喚されるガジェットは、今日はウェディングケーキの形をしていた。見れば近くに転がっていたたくさんのお菓子の道具たちがなくなっている。
使っていたものは違うけれど、使い方はようくわかる。今さっきまで、みんなで遊んでいたものだから。
オズがガジェットへ触れれば瞬く間に展開されていく。準備にはもう少しかかりそうだが、一人きりのナナシと違ってこちらは隙を埋めてくれる仲間がいる。
開幕を告げたのはなにもオズの言葉だけではなかった。リリヤの鐘の音が空気を揺らす。
――カラン、カラン。
呼び声交えて鐘は鳴る。ナナシに対して怒り悲しんでいるのは、猟兵や愉快な仲間たちだけではない。この色付き始めた世界だっておんなじだ。ナナシの剣は大地を抉り、木々を傷つけ、雨を汚す。制御の難しい自然現象だが、今のリリヤには容易く導いてあげられる気がした。
「おいで、おいで」
広げられた大地から、あるいはオズのガジェットの元となった道具から、溢れ出たインクがリリヤの声に応えて津波となる。大きな波は、あらゆるものを飲み込む強大な質量を持ち、使い方を誤ればすべてを壊してしまうだろう。しかし今、この力は守るために。
「みんなをいじめちゃ、めっ、なんだよ!」
やっちゃって、とばかりにケルスティンがナナシへ向かって指先を向ける。まずはナナシを向こう側へ、愉快な仲間たちのいないところを押し込めなくては。リリヤの津波を援護するように、一人だけ押し流せる位置までケルスティンのひかりが閃いた。
『くっ……やるな!』
ダメージは、……与えられていない。ケルスティンのひかりはナナシの黄金の剣、魔剣『ドラグカイザー』が弾き返していた。ダメージを受け流したとて、かかる力は変わらない。ナナシの体は一人奥へと押し込められ、そこへ加えられたリリヤの津波がさらに奥へと押しやった。
これならばもう、陣地を侵されることはない。近くの愉快な仲間たちはまともに動くことは出来なさそうだが、自分たちが押されなければ危険が及ぶことももうないだろう。
『なぜだ、なぜ当たらない……! フン、だがドラグカイザー、コイツならどうかな!?』
ケルスティンたちに躊躇いはない。ダンスを踊るように軽やかにナナシの魔法をかわして見せれば、必要以上にそのことを見せつける。当たらぬ攻撃、受けるダメージ、それらが積み重なっていけば自らの能力に疑念を抱くはずだから。
しかしすべての攻撃を避けきれる訳ではない。仮にもオウガの少年は、重そうな魔剣を軽々と振り回してケルスティンの肌を裂いた。血の珠が弾けるが、致命傷には程遠い。
だいじょうぶですか、と声をかけたリリヤにケルスティンは頷いた。仕返しとばかりに迸るのは天からのまばゆきひかり。強まった光を受けて、ナナシの魔剣もまた輝いた。
「……やたらとキラキラしていますが、わたくしにはよくわかりません……」
「うーん、わたしもわからないかな」
愉快な仲間たちに及ぶ害がなくなったことで、リリヤたちにも余裕が出る。癒す必要はまだなさそうなダメージを見送り、ようく敵を観察し、その挙動を予測して、戦いを有利に運んでいく。時折インクの防御壁を組み立てながら、リリヤはケルスティンとオズの援護をしていた。
アナライザー付きのデバイスから表示される魔法陣は、オズの前でチカチカと激しく明滅する。攻撃が通ったときや仲間がダメージを受けたときにデバイスは強く反応し、画面に数字を表示させた。オズにその意味は分からないけれど、どこを狙えばいいかぐらいはわかる。今は、それさえわかればいい。
「そっちがドラゴンなら、こっちだってドラゴンだよっ」
オズの背後から沸き立つ影は、通常の影とは違い色付いていた。天より降るひかりを昇るかのように、カラフルに色付いたドラゴンがその姿を陽の元に晒す。口から溢れる炎の、あまりのリアリティさにナナシの額から汗が流れた。
「ふぁいあーっ」
ドラゴンの持つ凶悪さからはかけ離れた掛け声がオズからあがる。
『まだまだあ! 俺様だってそれぐらいなあ!』
いまだ自信崩れぬ少年が叫び、対抗するかのように魔法のドラゴンを召喚した。互いに食い合うドラゴンは相殺され、ひとたび主の元へと帰る。力比べはこれからだ。
「きみのドラゴンのちからはそんなものなの? わたしのドラゴンのほうが、つよいよっ」
オズの言葉に応えるように、降りかかる火の粉を払い飛ばしてみせる。実際のところはオズが自身で躱しただけだが、そう見せることが大事なのだ。触れられないドラゴンの顎を撫で、オズは再びナナシを見据えた。時間は、稼いだ。心身ともにダメージもそれなり。
『ぐっ……いや、そんなことは、俺様が……』
「ひとは、ひとりぽっちでは、つよくはなれないのですよ」
渦巻くインクを背に付けて、リリヤが旋律を紡ぐ。ラルルルラ・ラルララ・ラル。高らかに鐘の音が響き渡り、呼応してインクの波が激しく唸る。四方八方うねるインクの台風の中心部に閉じ込められたナナシは揺れ始めた心のせいで剣先がブレる。
『俺様は……つよい……そのはず……!』
ブツブツとつぶやく間もインクの檻は狭まっていく。逃げ道はもう、上しかない。
『フゥーハハハ! 詰めがあまぁーい!』
「それはね、こっちのせりふなのよ」
今まで散々天から降るひかりに焼かれたのをもう忘れてしまったのだろうか。初めから、こうするつもりでいたのだ。空を仰いだナナシの網膜を、百万ルーメンにも及ぶ光が瞬時に焼いた。
「ばいばい」
さよならを告げるケルスティンの声は、無情にもナナシに届くことはなかった。
●
「だいじょぶー?」
インクが晴れ、消滅を確認した三人はそれぞれ愉快な仲間たちの元へとそれぞれ駆け寄っていく。しっかりと壁役を果たしたケルスティンたちのお陰で、軽傷の仲間たちが重傷だった仲間たちのフォローに入り、なんとかいのちを繋いでいるようだった。
治療は後回しに、としたリリヤがほっと胸をなでおろす。保護を最優先に選び、壁を作り続けるために常に気を張ってきたリリヤの行動に、きちんと結果はついてきてくれた。
「みんなでおうちにかえりましょう」
「よくなったら、またあそぼうね!」
口々に送られるお礼の言葉に応え、リリヤたちは陣地の片隅を後にする。塗られた赤はいつの間にか色彩の雨が押し流し、仲良く手を繋ぐ子供たちの絵やインクの街だけが残っていた。
遠く遠く、雷の音が鳴り響く。
『まだッ! 俺様は最強! なんたって残機を持っているからなあ!』
覚えてろよ猟兵ども。
あおーんと負け犬の遠吠えが雨音に紛れて溶けた。脅威はまだまだ油汚れのようにしつこいらしい。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
シキ・ジルモント
◇◎/SPD
オウガの対応に向かう
今回もやる気のライを連れていく
ライなりにこの国を守ろうと考えている…のかもしれないからな
だが、無理はするなよ
敵の魔法は回避を試みる
避けた魔法が国へ被害を出さない位置へ挑発しながら誘導する
「無敵の魔法も当たらなければ形無しだな」
ライには属性ブレスと陣取りゲームで使ったインク入りボンボンでの攪乱を頼む
インクも頭から被れば目くらましになるだろう
気が逸れたら一気に接近。自慢の魔法で反撃してこようが既に何度も見ている、発動の前兆を『見切り』回避する
逃がさないよう『零距離射撃』の間合いで射撃を見舞う
慢心や動揺が負けに繋がるのはゲームも実戦も変わらない
その隙、利用させてもらう
雛菊・璃奈
ミラ達は下がってて…。
世界はゲームじゃないし、人の命はゲームで奪って良いモノじゃない…。
わたしの家族やここの人達には指一本触れさせないよ…。
【九尾化・魔剣の媛神】封印解放…。
神速と凶太刀による高速化で二重加速して敵の魔剣や魔法を回避しつつ攻撃を加えて翻弄…。
敵の剣や魔法に対する疑念を深めてUCを弱体化させて追い込んでいくよ…。
魔眼はその程度の呪詛じゃわたしには効かないよ…。
逆に【呪詛、高速詠唱、全力魔法】で呪詛の縛鎖を放って動きを封じたり…。
後は【呪詛、衝撃波、早業、力溜め】バルムンクの一撃で弱体化した魔剣ごと撃ち砕くよ…
可哀想な人だね…。全てをゲームでしか考えられないなんて…。
●
重なり合う警戒の音は、同郷の仔竜たちのものだった。常よりもやや高い音域の威嚇はシキと璃奈の前方、つい先刻一条の雷が落ちた場所からそう遠くはない場所へ立つ男へと向けられている。
今にも飛びかかっていきそうなライの鼻頭をシキが掌で軽く押さえてやれば、不満を示すように吠えていたライが口を閉ざしてシキを見る。子供なりに、どうすべきかを理解しているのだ。シキのことを振り回してばかりの――とはいえ、本竜にその自覚は薄いだろうが――仔竜とて、指示を仰ぐべき時は分かっている。
「いいこだ」
やる気十分なライを危ないからと後方に下がらせるのは愚策だろう。こう見えても立派なドラゴン種なのだ、ただの非力な存在ではない。ライはライなりにこの国を守ろうと考えているのかもしれなかった。
シキの言いつけを守ったり守らなかったりは、ライのその日の気分で左右される。それでも、絶対に守るべき時はしっかりと守ってきた。今日もまた、無理はするなよと声をかければ、応える声が威嚇に混じった。
一方で、璃奈はミラたちを下がらせる。あまり好戦的ではない仔竜たちを無理に前線に送り出す必要はないからだ。よそはよそ、うちはうち。シキと共に戦う意志を見せたライならば駄々をこねているであろうところを、ミラたちは素直に後退した。
とはいえ、感化されたのかただ闘いの場から退いて終わるだけではなかった。はたはた小さな翼を動かして、璃奈たちが背にした愉快な仲間たちへと寄り添う。何かがあれば、ご主人の代わりに僕たちが守るとでも言わんがばかりの行動だ。それぞれの双眸はしっかりと戦場へ向けられていた。
「世界はゲームじゃないし、人の命はゲームで奪って良いモノじゃない……」
ここに来るまでに沢山の傷付けられた仲間たちを見てきた。彼らの赤で塗られたこの大地は、みんなで描いた未来からは遠くかけ離れている。
これ以上、好きにさせてはいけない。
「わたしの家族やここの人達には、もう、指一本触れさせないよ……」
『それを決めるのは俺様だが?』
璃奈の言葉を遮り、グラグラと揺れていた少年は弾かれたように顔を上げて地を蹴った。黄金に輝く魔剣を手に、纏わせたドラゴンの気を最大限まで膨らませて解き放つ。大地を抉り、螺旋を描いて迫るオーラの龍は、ぼやりと翳る璃奈の人影を切り裂いた。
封印、解放。
ナナシの名を持つオウガの速度を上回り、即座に反応して見せた璃奈の姿は一時的に四足の獣の形を取った。呪力を纏い、蜃気楼のように映し出される妖の狐。高速をさらに加速して、乗倍したスピードは光速にも迫る。
誰が光を捉えられるだろうか。
速いはずの剣技も、迫る魔剣を避ける動作も、何もかもが璃奈に劣る。剣先が空気を裂き、地面に掠るたびにナナシはハッキリと舌打ちした。
『ちょこまかと……女狐が!』
剣撃での攻撃を諦めたか、垂直に半ばまで地面に魔剣突き立てれば、早口に何やら詠唱を始める。途端、ナナシの体が眩く光り、幾つものラインが解き放たれた。
点を穿てなければ線を、線を裂けなければ面を。いくらスピードを上げたとて、実体ある体なれば面での攻撃は避けられない。一瞬のうちに展開された魔法のドームに肌を焼かれながらも離脱した。
は、と短い呼気が漏れる。いのちを削る力は体を確かに蝕んでいく。
「防戦一方だな」
ここで余裕を与えては、揺るぎない自信にヒビを入れることなど出来やしないだろう。目配せだけでライとの意思疎通を終え、シキは璃奈と入れ替わるように前へ出た。
面の弱点は、点だ。
ドーム状に展開された、攻撃でもあり防御陣でもある魔法の球に銃口を向ける。ただ一人の力では成し遂げられる可能性も低い賭けも、手助けする誰かがいたなら勝率も上がるというものだ。
「頼むぞ、ライ」
「きゅう!」
月色がきらりと輝き魔力が増幅する。ライの体内に蓄えられた熱が反応を示し、口内が赤く染め上げられた。
射出された銃弾は、ブレスの属性を絡め取り、ドームを穿つ。亀裂の入る音と共に、仮の城は崩された。
『クソッ、生意気なんだよ! 猟兵風情があッ!』
再び光がライン状に伸びる。無敵を冠する魔法とはいえ、こうも馬鹿の一つ覚えでは回避もたやすいというものだ。頭に血が上っているのか、軌道も予測しやすいものが多い。
「無敵の魔法も当たらなければ形無しだな」
距離感およそ数メートル。踏み込み駆ければ容易く牙の射程圏内だ。後はこの数メートルを埋める一手が欲しいところ。
そして場は、既に整えられている。
『ン……?』
ナナシから上がる疑念の声。シキの目から見ても一瞬、ナナシの動きがブレて見えた。思うように体が動かない時に起こるような痙攣だ。
圧倒的な存在感がありながら、離脱したあの時より息を潜めていた狐が首を擡げる。人を呪わは穴二つとは、ようく言ったものだ。ただし穴は一つだけでいい――共死には御免だ。
傷口から入り込んだ璃奈の呪詛がナナシの体を巡る。各器官に支障をきたし始めたナナシは、しかしその事実すらも認識できない。グラグラと体を不規則に揺らして浅く呼吸を繰り返した。
糸一本かろうじて繋がっていたナナシの意識が、パッと咲いたインクの花に持っていかれた。
『な、』
好機だ。この一瞬にも満たない隙でチャンスを手繰り寄せるべく、シキはナナシの懐へと潜り込む。零距離。まさしく撃てば即届く間合いに入ることを前提にトリガーから着弾までの時間を瞬時に計算、潜り込んだその時にはもう勝敗は決していた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
エンジ・カラカ
殺す?殺す?イイヨー。
賢い君、賢い君、やろうやろう。
薬指の傷を噛み切って君に食事を。
コレは支援に徹する。
顔も髪も色んな色に染まっているケド気にしなーい。
属性攻撃は君の毒。
じわじわと苦しめる。
お前はどれだけ強い?陣取りにたーっくさん勝ってきた?
ふーん。
アァ……でも結局は賢くないヤツなンだろう。
安直ダ。
賢い君、イイヨ。行こう。
目立たないで味方の中に隠れて隙をつく。
狼の足はとーっても速い。
ここだってトキに敵サンに糸を絡ませて、床に叩きつける
そのまま毒の餌食に。
賢くないンだよなァ……。
もっと楽しく陣取りをしよう。
うんうん、あーそーぼ。
●
走る、奔る、走る。
『チクショウ、計画的撤退ってヤツだ!』
心臓への一撃をギリギリのところで致命傷から避けてナナシは戦線を離脱した。体の節々が痛いし体力ゲージは黄色だしピコンピコンとピンチですよと示すように音が鳴り響いているような気もする。
現実もゲームだ。しかしこんなクソゲーだとは聞いていない。きっと何かフラグを立てるのを忘れていて、だからこんな負けゲーが発生しているのだ。
時折体が痺れたように動かなくなるのを叱咤して、ナナシは走る。自らの作り上げた陣地、ホームであれば一先ずあんな奴らに負ける理由などないからだ。塗り上げた陣地に帰るため、全力疾走をかましていた。
「ハァイ」
誰も追いつけないスピードと思われたナナシの逃亡は、その一言で呆気なく遮られた。ナナシの視界に映ることなく、姿を現すつもりのなかった狼がナナシの足を取る。
『アッ……?』
絡みついた赤い糸が一瞬ナナシを地面へ固定して、動かぬ足にも関わらず前に行こうとした力も利用し顔面から叩きつけた。おおよそ人間から発せられてはいけないような、カエルの潰れた鳴き声が出る。歯の一本や二本が欠けていてもおかしくない。
起き上がろうとするナナシ。その背をぎゅむりと獣の足が踏み潰した。
『ふざけンな、ぶっ殺してやる!』
「殺す? 殺す? イイヨー」
会話は成り立っているように見えて実はズレている。狼化を解いたエンジは再び、追撃前と同じように薬指の傷を噛み切った。
賢い君へ、贈る食事。
インクの大地を駆け回った体はあっちもこっちもインクだらけだが、エンジがそれを気にすることはない。むしろ好都合だった。赤の大地に入れば目立ってはしまうが、ナナシが一歩外へと出ていれば身を隠し放題だ。カラフルに色付いた世界がエンジを隠してくれる。
そうして隠れてじわじわ毒を撒いてはいたが、逃げられては堪ったものではない。逃げ足だけは随分と速いが、狼の足とて速いのだ。
「うーん、賢くないんだよなァ……」
『あぁ"?』
「賢い君、賢い君、どう思う?」
未だナナシの背に馬乗り状態になったまま、猛毒を操るエンジがことんと首を傾げる。ともかく逃れようと踠いたナナシは不意になくなった重さをこれ幸いにと立ち上がり、愚かにもエンジに背を向けて走り出そうとした。
戦場で敵に背を向けてはならない。そんな、簡単で基本的なこと。陣取りにたくさん勝ってきたような強者を想像していたのにガッカリだ。負けそうになれば文句を吐き捨て逃亡し、ただただ遊びのゲームを破壊し愉悦に浸るだけの愚か者だったとは。ならばもっと楽しく陣取りをするべきだ。
「うんうん、あーそーぼ」
一人でに納得し結論に辿り着いたエンジは逃げ出すナナシを再び捉える。陣取りゲームをしてくれないなら次は鬼ごっこか。赤い糸は虎視眈々とオウガを狙う。
ナナシの体を蝕むエンジの毒は、着実にナナシの体力を奪っていっま。戯れに飛びかかる狼と、逃げる獲物の両名は、ネズミとそれを痛ぶる猫の関係にも見えた。
大成功
🔵🔵🔵
ヴォルフガング・ディーツェ
力に溺れたか
愚かと断じるには余りに若い、若いが……さて、その剣の赤は何の色か
【調律・魔獣の咆哮】で幻想の獣を生成し共に攻め立てよう
牙を剥け「ジェヴォーダンの獣」、腸を食い千切れ
オレ自身は獣に騎乗
牽制を兼ねて鞭に炎と風の属性を纏わせその肉を焼き払おう
近づいたなら獣から飛び降り、少年の攻撃をかわしつつ「ハッキング」「メカニック」「全力魔法」「精神攻撃」を駆使
機構魔術による精神汚染を試みる
元いた世界での日常を毒の如く脳裏に再現しよう
…さて、君は本当に特別な力があったのかな?
信じる事が強さなら打ち崩し、その剣を砕く
全ての目論見が上手くいかずとも、どれかが貫き通せるなら…少年を死に至らしめるなら上出来だ
●
同族の脚力は決して劣ってはいない。違いと言えばその形と性格の差ぐらいなもので、老獪さに由来する余裕の幅が速度に出ていたようだ。やや遅れてオウガたるナナシの元へと到着したヴォルフガングは善戦する味方を見据え、最適な立ち位置を模索した。
ここから先はオウガの領域。オウガに汚された赤い世界。
一歩踏み込めば靴裏が真っ赤に染め上げられる。インクを踏んだ時の感触とは違う、些細ではあるが確かな違いに端正な顔立ちがやや歪められた。
「愚かと断じるには余りに若い、若いが……それで許されぬものもある」
黄金の剣を彩る赤は、一体何の色なのか。問答をしてやるつもりは欠片もないが、道中に見えた小さな塊たちが何なのかをヴォルフガングは知っている。つい先刻まで円になって語らい遊んでいた愉快な仲間たちの声を憶えている。遥か遠方にいても届くほどの喝采は、もうどこにもない。
『待たせたなあ! ショータイムだぜ!』
赤の領域へと入った途端、ナナシは鬼気を纏い踵を返す。漲る力を手にすれば、もう誰にも負けないとばかりに猛々しく吠えた。錐揉み戦っていた狼が、音の魔法に怯んで止まる。傍観タイムはそろそろ仕舞だ。
ああいう類は最高のコンディションを、根っこからへし折ってやるのが適切だろう。そう断じたヴォルフガングは数ある手から獣を選ぶ。大地のインクをややに体に映しこんだ、幻想の獣が彼の背後に現れた。
「やあ、オレとも遊んでよ」
『援軍か? イイぞ、全員ぶっ殺してやる!』
不意打ちという手段は使わない。正々堂々、真正面から相対してやろう。
「牙を剥け、ジェヴォーダンの獣」
ジェヴォーダンの獣は姿形のない幻だ。かつて明確な被害を出しながらも、その姿を目視出来たものはない。何者にも捕らわれぬ獣は鋭い爪で大地を傷つけ、目にも止まらぬ速度でナナシのはらわたへと喰い付いた。
太い牙が、血濡れた黄金に阻まれて止まる。速度の乗った突進はナナシの体を奥へと押し込めど、致命傷を与える一撃にはならなかった。まあ、目的は果たしたので問題はない。
色濃い幻想へと変貌した獣へと、ヴォルフガングは走り出す。手にした鞭は紅蓮の赤と蒼天の碧の螺旋を従え、ナナシの腕を絡めとる。ジュッと肉の焦げる音がして、鼻の奥を刺すような嫌なにおいが立ち込めた。致命的な一打にはならないと判断したヴォルフガングは瞬時に力比べから離脱する。
地を駆ける獣へ騎乗したヴォルフガングと、力漲るフィールドに入り自信過剰になったナナシの睨み合いが始まった。牽制に繰り出される魔法は、牽制と表現するには余りに強く、一撃でもまともに食らえば決定打になりかねない。緊張の糸は張り詰めたまま、二人の体力を緩やかに削っていった。
ふ、と短く息を吐く。長期戦をすればするほど不利になるのはこちらの方だ。接敵する前に積み重ねられたダメージを回復する時間を与えるのは愚策というもの。
「……さて、君は本当に特別な力があったのかな?」
『……はあ?』
距離が一段と縮まった一瞬を見逃さず、狼の脚力を活かしヴォルフガングは零距離まで潜り込む。打ち込む魔法はとっておき。ヴォルフガングだけが知っているあの日々を、ナナシにもお裾分けしてやろう。
はっとした顔は綱渡りから落ちた男のものであった。
「おやすみ、」
ヴォルフガングの声を、ナナシは最期まで聞くことはない。獣を前に、獣の咆哮を上げ、緩やかな死への階段を下って行った。その先はもう、躯の海だ。
大成功
🔵🔵🔵
イトゥカ・レスカン
ゲーム好きは結構ですが、斯様な荒っぽい遊び方は感心できませんね
殺伐としたのはあまり好きではないのですが……
この地を荒らし、彼らを傷付けられる方が一等好きではありませんので
手のひらにひらり、咲いたブルーエルフィンに
残っていたインクをぽとりと一滴
あなたが赤で染め上げると言うのなら、塗りつぶすはやはり青が適任でしょう
お往きなさい、青の散花
ひらひら舞い飛ぶ花の蝶は少年だけでなく、赤く染まった地面や壁へも向けて
物量による陣取りならお任せください。花とインクはまだいっぱいありますので
体を動かすのこそ苦手ですが、魔法は私よりずっと機敏に動いてくれます
さぁ、降参なさるなら今のうちですよ
◇◎
レイブル・クライツァ
(凄く拗らせてるなと、温度の無い視線で見)
…如何見ても、折角の雰囲気を壊してしまう様な敵で何よりよ?
調和が取れない空気になれないのは駄目ね、さっさと退場してもらうわ
…折角の場所だから、哭白ノ夢で切り込みましょうか
空中にぶっ飛べば、少しは見栄えが良くなるのではなくて?
あら、図星だったかしら?
敢えて避けた方が、私の攻撃は辛くなるのだけれども……
この綺麗な景色を祝福する為に、踊ってくれると言うなら張り切らせてもらうわ
住人達に手を出すだなんて野暮は、まさかしませんよね?
そんなに余裕でしたら、もっと――私と戯れて下さるのでしょう?
有言実行は大事だわ
殺すって言ったのでしょう?なら、止まるまで踊りましょう?
●
二度あることは三度ある。
仏の顔も三度まで。
ともあれ三という数字は何やら色々と使われやすい、具合の良い数字らしい。ナナシの名を冠する、矛盾を孕んだオウガもまた三にまつわるモノだった。
誰が言ったか、三乙と。三回死んだお疲れさまの略だとか諸説はあるが、この世の全てをゲームとして生きてきたナナシも三乙までは許されるという揺るがざる根底を持っていた。どれだけ信念が揺らごうとも、二回乙るぐらいはまだ許される。そしてこれがラストチャンス。
『はあ……はあ……こうまで追い詰められるとはな……』
やるじゃん、猟兵。
鼻の下を擦り余裕綽々のように軽い調子で言葉を吐くが、やれ光やらやれ毒やらで散々ボコボコにされたナナシの足は小鹿のように震えていた。
残機は回復するものらしい。それを知るのはナナシただ一人だが、仕組みは知らずとも眼前にオウガがリポップしてきたのなら、猟兵のすべきことは決まっている。過去は過去へと押し戻すだけだ。
二度聞こえた勝鬨で、イレギュラーが起こっていることはイトゥカも感じていた。何処かで討ち取ったはずのオウガが再度出現しているのだろうという予想は、目の前のインクからにょきりと生えた小鹿、もといナナシの出没で確信へと変わる。ぱちりと目があった瞬間にナナシが大層罰の悪い顔をした。
「この地を荒らす、不届き者はあなたですね」
探す手間が省けてよかった。
イトゥカの言葉は文字にすれば綺麗な音で綴られるだろうが、内包する感情はそれらを激しく歪ませるだろう。平和で気楽なゲームが一番良い。皆で手を取り合い楽しんでいた、これから日常になる非日常を壊した少年の罪は重い。
殺伐としたのはあまり好きではないが、だからといってのらりくらりと避けてばかりでは平穏の地がなくなってしまう。
「ゲーム好きは結構ですが、斯様な荒っぽい遊び方は感心できませんね」
「……如何見ても、折角の雰囲気を壊してしまう悪者のようね」
ぽたりと咲いた、プルーエルフィン。イトゥカの掌の中で青が生まれようとしている横で、レイブルは温度のない眼差しをナナシへと向けていた。
たくさんの色を集めたレイブルとは反対に、原材料も不明な――いや、理解したくはない赤単色をナナシは扱う。さまざまな色のインクをあちらこちらへ付けた猟兵たちとて同じようにひとつの色から始まったが、彼とは違って他の色も受け入れている。この色しか認めない、排他する、なんていう有り様はこの世界においては間違っているのだ。
調和を乱す存在を、放ってはおけない。
「さっさと退場してもらいましょう」
「これが最期となれば良いのですが」
たぷりと一滴赤へと落ちた青色は、波紋のように広がっていく。魔法が込められたインクの花は、全てを飲み込まんとする無彩の赤の中でも鮮やかに咲いた。
「お往きなさい、青の散花」
狭まっていく赤の陣地は、まるでオウガのいのちそのものを表しているようだった。彼が抗わんと暴れ狂い傷つければ僅かに拡がり、イトゥカやレイブルが遮らんと鮮やかな青や無垢の白で対抗すれば消えていく。
閃くレイブルの斬撃は、無数の白となり大地を浄化した。狙いをナナシへと向けてはいるが、まともにダメージを与えられた一撃は少ない。少ない、が、それでも全く問題ないのは、散る魔力がレイブルを補佐する場を少しずつ作り上げてくれるからだ。
そのことにナナシが気付ける余裕はなく。
『どいつもこいつもしつけえんだよ!』
などと悪態を吐いて、眼前の処理に一杯一杯になる。レイブルの剣戟だけならばまだしも、油断した瞬間に頬に触れる花の蝶がナナシの機嫌を大いに損ねていた。
舞い遊ぶ蝶は少年を捉えるだけでなく、赤く染まった世界を少しずつ塗り替えていく。戦いながらに陣地も取るだなんてチートにも等しい技だが、先にルール違反をしたのは向こうだ。遠慮なく物量作戦に出させてもらう。
「さぁ、降参なさるなら今のうちですよ」
そうしたからと言って、タダで生きて帰せる訳ではないのだが。世界が、そして愉快な仲間たちが、ナナシによって傷付けられた。今はまだ猟兵がいるから良いとしても、世界を破滅に導く運命を背負った存在を野放しのままにしてはおけない。
せめて、これ以上世界が傷つくことのないように、イトゥカは最大限譲歩した。それを汲むオウガではなかったことが残念でならない。
『……っ俺様に指図するなあ!!』
最強の人間は他人をアゴで使うことはあっても、決して使われることはない。同様に、他人に選択を迫られることも、許しを与えられることも、決してあってはいけないのだ。
力に溺れた少年は、より力を得ようとして魔剣の声に耳を傾ける。力ある武器は時として使い手すらも呑み込むというが、ナナシの使う魔剣もまたナナシを取り込まんとした。
煌々と輝き始める瞳は赤く、紅く、後戻りはできない。ナナシもそれだけ必死で、裏を返せば死がいよいよ近いと言うことだ。
「それがあなたの答えなら、いいわ。止まるまで踊りましょう?」
悪夢にしてはあまりに眩い白き夢をレイブルは紡ぐ。長きに渡り振りまいた祝福は、レイブルの体を軽くした。常よりも速く、常よりも鋭く、レイブルの斬撃はナナシを捕らえる。
その回数が、増えてきた。
体に無数の赤を刻まれながら、ナナシは獣のように吼える。音に込められた魔力が目に見えぬ波動となってレイブルの体を強かに打つが、怯んでばかりもいられない。キィンと甲高い耳鳴りに気を取られぬよう、意識を集中させて雑念を捨てた。
「もっと私と戯れてくださいな」
いつしか青と白ばかりが占めるダンスホールで、瞬きひかりがナナシの体を貫いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
遊星・覧
◎シャラクン(沙羅羅 / f21090)と
お絵かきは一旦おしまい
でもまだまだ描きたいからあとで続きやろーネ
筆から自前のウォーターガンに持ち替え
行こシャラクン、オウガやっつけちゃお
◆
いつもならひとりで突っ込んで撃ちまくるトコ
でも今日はふたり
シャラクンの歌が手助けしてくれるもんネ、狙いつけやすいワ
うわ超イイ声 油断してたらランもやられちゃう
聴き惚れないようにお仕事、オウガを狙撃!
周りの地面もインクまみれにしよ
塗れば塗るほど強くなるヨ
◆
楽しいゲームに血なまぐさいのは絶対ダーメ
つかオウガなんていちばんダメ!
ココは超イイ国になんの
無粋なお客サマはご退場お願いしまース!
夕時雨・沙羅羅
ランさん(覧/f18785)と
◎
…オウガ、滅ぶべし
せっかく綺麗に色付いてきたのに、相変わらず邪魔な奴らだ
了解、全てのオウガは僕の敵
いつもは僕ひとりで飲み込むけど、
今日はひとりじゃない
なら、僕はランさんのサポートをしよう
この国での戦いなら、ランさんの活躍こそが相応しい
la-lulalilala
唄うは意識蕩かす陶酔、霧の歌
対象は自分に酔ってる自己愛のオウガ
ああいうやつの心を震わせるなら、ゲームみたいな曲調が良いんだろうか
前ランさんがやってたのを参考に
色取り取りの調和を、オウガはいつも自分勝手に壊す
でも今回はご愁傷様
この国は僕らが守る、きっと託した知恵で強い国になる
だから、もっと鮮やかに彩り讃えよう
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始まりはいつも順風満帆、とはいかない世の中だ。三十六もあるという世界のひとつですらそんな言葉の通りの展開になるのだから世知辛い。
お絵かきタイムは終わりを告げた。強制終了という、なんとも後味の悪い終わり方に覧の表情は明るくない。なにをどれだけ描くかは自分で決めて、いつ終わるかも自分で決めたい。ウォーターガンのグリップを握りしめる手に力が篭り、微かにゴムが擦れる音がした。
「折角色付いてきたのに、相変わらず邪魔な奴らだ」
「そーネ」
太陽を溶かして固めたかのような、沙羅羅の双眸がオウガを見る。名をナナシといったその少年は、青空色の猛攻を受けて残り僅かな陣地へと逃げ込んでいた。肩で息をしているが、まだまだ赤い眼に闘争心は宿っている。
あのエリアが、最後の赤だ。こんな禍々しい赤色は、この世界に存在してはいけない。
「行こシャラクン、オウガやっつけちゃお」
「了解、すべてのオウガは僕の敵だ」
呼吸を合わせて二人は進む。いつもなら互いにひとりで立ち向かっていくところだが、今日は同じ道に立っている。背を預けられる相手がいるというのは、なんとも不思議な感覚だ。けれど、……悪くない。
ウォーターガンを構えて一歩先ゆく覧の後ろて、沙羅羅は半透明のはらをやや膨らませる。カチカチと鳴る筈だった懐中時計のメトロノームに合わせ、紡ぐは揺蕩う霧の歌。
沙羅羅の旋律は甘く蕩ける果汁のように、意識を蕩けさせていく。抵抗する術はなく、むしろ自ら望んで聴き惚れる様はまさしく陶酔の一言に尽きた。la-lulalijaja……歌を贈られた相手はたまったもんじゃないだろう。が、そんなものを自覚する前に酔い痴れるのだ。
「うわ超イイ声」
背から沙羅羅の旋律を受けた覧がぼそりと零す。対象外かつ仲間と判定された覧でさえ意識が持って行かれそうになるのは沙羅羅の美しい声ゆえか。油断する暇は元からないが、これはますます油断などしていられない。
『な、なんだ、このウタ……!』
ようやく闖入者に気付いたか、殺気立つナナシは眉間にシワを寄せる。ともすれば持っていかれそうな意識をなんとか繋ぎ、覧と沙羅羅の存在を認知した。
緩やかな旋律を刻みながら、沙羅羅はナナシの特性に合わせて転調していく。自己愛に酔ってるオウガならば、いわゆるボス戦のような盛り上がりのある曲の方が良いだろうか。
思い出すのは、以前覧がやっていたゲーム。確かこんな感じだったような、とうろ覚えながらに違和感なく再現していく。アレンジの効いた曲調は容易くゲーム脳に染み込んだ。
『う、ウウ……グ……』
歌を止めようと踏み出した足が止まる。ただ音源を止めるだけならば苦戦しながらも可能だったかもしれないが、今日の沙羅羅はひとりじゃない。
「ランもイイとこ見せなくちゃネ」
聞き惚れて動かないならいないのと変わらない。覧はアップテンポな歌に乗り、ウォーターガンをナナシへ向けた。ウインクのように片目を閉じた一瞬で、銃口を合わせ引き金を引く。射出されたインクの弾は、寸分違わずナナシの足にヒットした。
ただ倒すだけでなく陣地も奪う。自信に満ち溢れ無敵でいられるというのなら、無敵の証である陣地を奪って仕舞えばイイ。理屈ではなく感覚で、覧は赤を若葉色に染め上げた。どちらも生命満ちる色だが、宿す彩は圧倒的に覧に采配が上がる。当然だ、この赤は失われるだけの終わりの色で、覧の翠はこれから芽吹いていく色なのだから。
「楽しいゲームに血なまぐさいのは絶対ダーメ」
『ヒッ……来るな!』
ガムシャラに放たれた魔法は放物線を描いて呆気なく地に落ちた。ぷすぷすと少しだけ煙が上がる様を見れば、おそらく炎の魔法の類なのだろうが、威力は蚊に刺された程度のものだ。残った火傷がちょっと痒いぐらいだろう。
わがまま放題してしたオウガの命乞いは、沙羅羅の歌声がかき消した。勝手に暴れて、危険になれば棄権するだなんて許されるものではない。いつだってそうだ、オウガは気ままに積み上げてきた数々のものを容易く壊していく。
「……でも、今回はご愁傷様」
「無粋なお客サマは御退場お願いしまース!」
初めてとは思えぬ息の合いっぷりを見せつけて、覧がにっこり笑顔でウォーターガンを突き付けた。何やら言うために口を開きかけたナナシの言葉を遮って、沙羅羅は旋律の合間に語りを載せる。
「この国は、壊させない。オウガの勝手にはさせない」
「そーヨ、ココは超イイ国になんの」
だから、さよならだ。タン、と軽い音がして、同時に沙羅羅の歌も終わりを告げる。あまりにあっけない終わり方だが、自己中で周りの見えない少年には、まだ豪華すぎるエンディングだったかもしれない。
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鮮やかに、世界は染まってゆく。
始まりの世界は波乱こそあれど、長く永く続いていくことだろう。いつか、アリスが訪れるその時までは、愉快な仲間たちの愉快なゲームは終わらない。
大成功
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