●眞白の惨華
――願いを。希いを。そして、望みを。
灯籠の火が点ったちいさな祠の傍。
そぼ降る雪の最中、真白の影は言葉もなく微笑む。
凛と鈴を鳴らすような笑い声を響かせ、社を見つめた其の神は双眸を細めた。
――ひとの願望を。果てなき夢を、叶えよう。
両手を広げた白き神はただ静かに笑う。
伸ばした掌の上に、祠の傍らに咲く紅梅の花がひらりと落ちてくる。花を受け止めた仕草は穏やかだ。しかし、猩々緋の彩を宿すその瞳だけは笑っていない。
其の身に纏う水母めいた羽衣はゆらゆらと、降りゆく雪片の中で揺れていた。
●願いの絵馬と初詣
年が明け、嘉すべき祝いの日々が巡る。
初詣に訪れる参拝客で賑わう神社には、旧年と変わらぬ平穏が満ちている――はずだったと告げたグリモア猟兵のひとり、ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)は魑魅魍魎が現れる未来が視えたと語る。
「華やかな神社の裏手に小さな祠があるんです。祀られていないわけではないのですが、ひっそりとしたところにあるから参拝する方は少ないみたいで……」
其処に時折、オブリビオンが現れる。
現時点では特に誰への被害も出ていないが、もし参拝客が偶然にもそれと出遭えばどうなるかはわからない。それゆえに現地に向かって倒して欲しいのだと願い、ミカゲは詳しい状況を話していった。
「そのひとは……いえ、敵は――神様のような雰囲気を纏っていました」
真白な髪に白い肌。
雪のような美しさを宿すその存在は言葉を語ることはないようだ。雪の中に紛れて消えてしまいそうな儚さがありながらも、赤い瞳が印象的な存在感を覚えさせる。そんな不思議な者だったと少年は語った。
だが、祠に行けばすぐに敵に会えるというわけではない。
「どうしてか敵は人の願いを集めているようなんです。白い鳥の配下に命じて、表の神社に奉納された願いの絵馬を祠に運ばせています」
真白の神は神出鬼没。
真夜中に白い鳥が絵馬を持っていくときにしか姿を見せないので、まずは配下から誘き寄せていく必要がある。
「だから、皆さんにはまず普通に初詣に行ってもらいたいんです」
神社にお参りをして、御神籤を引いたりお守りを買ったりと普通に過ごした後、昼の間に絵馬に自分を願いや思いを記して境内に奉納する。
そうすれば夜になった頃に白い神の使いが絵馬を取りに来るだろう。
その後をつけていき、敵の配下を倒してから祠に向かう。そうすればオブリビオンを屠る機会が訪れる。
しかし、真白の神の力はかなり特殊だ。
対面すれば相手はまず対象を幻の世界にいざなう。
いざなわれる場所は『その人が無意識下で望む世界』だという。其処には望むものが何でもある。もう会えない人に会えるかもしれない。想いが伝わらなかった大好きな人と過ごせるかもしれない。もう戻れない場所があるかもしれない。
そして、その空間にいると元の世界に帰らなければならないと思う気持ちが徐々に削がれていってしまう。
されど惑いに負けず、内部に現れる真白の神の分体を屠れば外に出られるだろう。
「敵が何を目的としているのか、僕にはわかりませんでした」
けれど、と少年はちいさく俯いた。魑魅魍魎がこの世に顕現している以上、猟兵としてそれを倒さねばならない。
ひとの願いを集め、望む世界に誘う。
雪の如く白き、眞白の惨華が導くものは果たして――。
犬塚ひなこ
今回の世界は『サムライエンパイア』
初詣を楽しみ、オブリビオンを倒すことが目的となります。
こちらのシナリオは【1月4日 8:31】からプレイングを受付致します。それ以前に頂いたプレイングは流れてしまいますのでご注意ください。
●第一章
日常『初詣に行こう』
雪が積もった神社へお参りに行きましょう。
敵に会うためにはここで絵馬に『自分の願い』を書いておく必要がありますが、それ以外は警戒しすぎることなく楽しくお過ごしください。
普通に初詣のひとときとしてお楽しみください。
一章のみのご参加も歓迎致します。敵について一切触れていなければごく普通の日常として描写します。どなた様も遠慮なくお越しください。
●第二章
集団戦『ぶんちょうさま』
夜になると、仕える神の為に絵馬を盗りに訪れる文鳥型の配下オブリビオン。
追いかけていくと途中で気付かれて戦闘になります。シナリオ内での🔴の数が『奪われて神に届けられてしまった絵馬』の数となります。🔴の数が多いほど、三章での敵の力が増加します。
●第三章
ボス戦『眞白の惨華』
無性別。言葉を発することはなく、ただ鈴のように笑う神様のような存在。
特殊空間内での一対一の戦いとなります。
お連れ様が居たとしても、一時的に別々の空間に連れ込まれます。
空間には皆様が望む世界の光景が映し出され、徐々に『此処から帰りたくない』という思いに支配されていきます。其処からどのように脱却し、敵を倒して帰還するかが見せ場となります。
お手数ですがプレイングに皆様にとっての理想の世界や、思い描く風景、会いたい人などの詳細をお書き添えください。ご本人はその記憶を覚えていない、という体でも大丈夫です。
その世界に疑問を感じたり拒絶したりすると眞白の惨華が現れるので、そこで戦う流れとなります。
何もない場合は真っ白な雪景色に紅の花が咲く空間で戦うことになります。
第1章 日常
『初詣に行こう』
|
POW : お守りを受ける。おみくじを引く
SPD : 絵馬に願い事や目標を書く
WIZ : お賽銭を入れて、拝礼する
イラスト:kokuzu
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
雅楽代・真珠
綾華(f01194)と
かみさま、か
想像も付かない
だって僕は、かみを名乗ることがあるのだ
家では守り神扱いだし、それに―
昔―15年くらい前に綾華と会った事がある
僕はその時『かみさま』と名乗った
僕の名を教えるのは次に会った時に
それまでお前のかみさまで居る、約束
その約束はちゃんと果たした
例えお前が覚えていなくとも
僕から告げる事ではないから告げない
綾華は理想の神様像とかあるの?
そう
ふぅんと游いでいくよ
甘酒もお汁粉も魅力的だね
僕は甘酒の気分
かみは白いみたいだしね
小さな笑みとともに飲み干した
悩む綾華の隣でさらりと筆を走らせよう
僕の願いは決まっている
『幾久しく健やかに』
この世界全ての弥栄を願い、祈ろう
浮世・綾華
真珠さん(f12752)と
かみさまに会えるんだって
さて、一体どんなやつなのか
真珠さんはかみさまってどんな人だと思いマス?
(不安が一切ないわけじゃないが…
忘れていた記憶は思い出したはず
――だからきっと、もう大丈夫だ)
うーん、どうだろ
理想…やっぱ綺麗なんじゃないですかネ?
なんて適当なことを言って笑い
さて、お参りも終わったし
甘酒でも飲みマス?それともお汁粉?
じゃあ俺も
あ、絵馬
書かないとなんだよな
――どうしよー…
誰に向けたものか
かみさまにしか意図が謀れぬよう
絵馬に書く言葉
『どうか、安らかに』
思い出した記憶はあれど
未だ開かぬ記憶もある
いつかかみさまと呼んだ美しい人
その彼がすぐとなりにいるなんて、知らず
●いつかのかみさま
白い、白い、眞白な神。
参拝客で賑わう神社の境内。その更に奥にひっそりと佇む祠。其処に姿を現すという真白き神は果たして、何を求めて願いを集めているのか。
かみさま。
そう呼ばれるものを思い、雅楽代・真珠(水中花・f12752)は尾鰭を揺らがせた。
少しだけ親近感めいた思いを抱く。何故なら自分は、かみを名乗ることがあるのだ。家では守り神扱いをされているし、実際に愛し愛され、望まれている。
それに――。
巡らせた視線の先には、傍を歩く浮世・綾華(千日紅・f01194)の姿がある。
真珠にとってはほんの少し昔。
そう、十五年ほど前。夏の夜、少年だった綾華と真珠は出逢ったことがあった。
真珠はその時に『かみさま』だと名乗った。あどけなく幼かった少年は今、こうして青年へと成長している。時が経つのはなんと早いことか。
己の名を教えるのは、次に会った時に。
それまでは彼のかみさまで居る約束をした。その約束は今、果たされている。
(例えお前が覚えていなくとも、)
然し自分から告げることではないから告げてはいない。
そんな真珠の思惑を知ることなく、綾華は境内から続く拝殿への道を歩んでいく。
かみさまに会える。
さて、それは一体どんなやつなのか。そう考える中で彼は真珠に問う。
「真珠さんはかみさまってどんな人だと思いマス?」
「かみさま、か。想像も付かない」
花唇から零れ落ちたのは率直な思い。魑魅魍魎の類だと聞いているがゆえ、それ以上を深く考えることもしない。
伝え聞いた話によると、その神は思い描く理想を魅せてくれるという。
「綾華は理想の神様像とかあるの?」
「うーん、どうだろ。理想……やっぱ綺麗なんじゃないですかネ?」
「……そう」
彼が答えた言葉に、ふぅん、と頷いた真珠はゆるりと游いでいく。彼もまた適当に、敢えて神について考えることを止めているのだと分かった。
綾華は表面上では軽く笑いながら、己の裡に浮かぶ思いを押し込めている。
不安が一切ないわけじゃない。
けれど、忘れていた記憶は思い出したはず。
(――だからきっと、もう大丈夫だ)
自らに言い聞かせるように胸中で独り言ち、綾華は真珠と共にお参りを済ませた。
昼間の間は平穏だ。
少し逸れた参道では甘酒茶屋での振る舞いがされていた。
「さて、お参りも終わったし、甘酒でも飲みマス? それともお汁粉?」
「どちらも魅力的だね。僕は甘酒の気分」
かみは白いみたいだし、と真珠がちいさく笑み、茶屋の方に游いでいった。じゃあ俺も、と続いた綾華も甘酒の盃を受け取りに向かう。
仄かにあたたかな甘酒を飲み干せば、ふわりとした心地が巡る。
このまま茶屋の長椅子に座って件の時間まで待とうと思っていた綾華だが、もうひとつやらねばならぬことを思い出して立ち上がる。
「あ、絵馬。書かないとなんだよな」
「そう思って如月に持ってこさせているよ」
すると真珠は絡繰人形を呼び、綾華に絵馬を渡した。流石、と感心する彼に如月が筆を渡し、同様に真珠も絵馬を手に取る。
「――どうしよー……」
「大いに悩むのも悪くないよ」
考え込んでいる綾華の隣、真珠はさらりと筆を走らせていった。
もう願いは決まっている。
『幾久しく健やかに』
この世界全ての弥栄を願い祈る。それが己の裡にある思いだ。
真珠は許してくれているが、綾華はいつまでも悩んでいるのもいけないと考える。そして、かみさまにしか意図が謀れぬよう、絵馬に書く言葉は――。
『どうか、安らかに』
それは追憶にも似た思い。
思い出した記憶はあれど、未だ開かぬ記憶もある。それでもわずかに掴んだ記憶を頼りに記した願いだ。
「それじゃあ、奉納に行こうか」
「あっちでしたっけ?」
真珠は絵馬を片手に境内を示す。
ふと、彼の背を見ていつかの記憶が過った気がしたがそれもたった一瞬だけ。綾華はその尾鰭を見つめたあと、真珠の傍らに並んで歩き出した。
いつかかみさまと呼んだ美しい人。
その彼がすぐとなりにいるなんて、知らぬまま――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴィリヤ・カヤラ
【雪梅】
カーキ色のダウンのロングコート、白のニットワンピ、
マフラー、手袋と防寒バッチリのモフモフの格好。
おめでとう、今年もよろしくね。
私、初詣って初めてなんだけどお参りするんだよね?
よく分からないから二人の様子を見ながらお参りするね。
願い事もするんだっけ?
えっと、色んな仕事が出来ますように、かな。
絵馬を書くんだよね、何にしようかな。
……「吸血」と最初に書いた文字を二重線で消して、
『食事に困りませんように』
願い事だからストレートに書いた方が良さそうだけど、
食事には変わりないからこれで良いかな。
グウェンさんのは美味しそうだけど量が凄そうで、
ジェイさんのは、ジェイさんらしい感じかな。
ジェイ・バグショット
【雪梅】
グレーチェックのPコートに黒のタートルネックニット、くるぶし丈の黒トラウザーズで防寒対策
参拝とか久々…、どうすんだっけか。
なんとなく見様見真似で参拝
とりあえず体調の安定を願っておいた
絵馬とか初めて描くんだけど…。
願い事をと言われてしばし悩んだのち
『金が欲しい』
煩悩の塊のような願い事を書く
どうせ書いても書かなくても自分で稼ぐことに変わりはないと信仰心はゼロ
お前ら何書いたんだ?
グウェンの絵馬を見て
…何、食いたいってこと?
和牛一頭かァ、いくらだよ。高そう…。
ヴィリヤも食い気か…俺は金だし、
三人揃って煩悩だらけじゃん。
まぁ俺ららしいか?と薄ら笑い
グウェンドリン・グレンジャー
【雪梅】
(青い振袖の初詣スタイル)
ニューイヤー……に、一年の、合計額が、実際決まる
この、世界の、コトダマ……に、そういった、もの、が、あるときいた
金枝篇、にも、そう、書いて……ある
まずは、お参りして、この、神社の神様……に、挨拶
今年……の、仕事運……とか、高く、なりますように……と、お祈り、する
敵……に、合う、には、絵馬に、今年の願い……書かないと、いけない、けど
ジェイ、ヴィリヤ、何て書いた?
(『和牛一頭』と、決断的にショドーした絵馬を見せながら)
ヴィリヤ、それ、大事
ジェイ……のも、ちょー重要
……煩悩、も、生きる、原動力……って言えば、素晴らしく、聞こえてくる……気が、する
●其々の願い
「おめでとう、今年もよろしくね」
新年の挨拶を交わし、ヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)は参道を歩く。
その装いは白のニットワンピースの上にカーキ色のダウンのロングコート。更にマフラーを巻き手袋をはめた、防寒対策ばっちりなモフモフスタイル。
彼女の隣をゆくのはジェイ・バグショット(幕引き・f01070)とグウェンドリン・グレンジャー(鳥籠・f00712)だ。
ジェイは黒のタートルネックニットにグレーチェックのPコート。くるぶし丈の黒トラウザーズで同じく寒さの対策をしている。
「参拝とか久々……、どうすんだっけか」
「ニューイヤー……に、一年の、合計額が、実際決まる」
ジェイに答えたグウェンドリンは青い振袖を身に纏った初詣スタイル。するとヴィリヤも興味深そうに問う。
「私、初詣って初めてなんだけどお参りするんだよね?」
「この、世界の、コトダマ……に、そういった、もの、が、あるときいた。金枝篇、にも、そう、書いて……ある」
グウェンドリンは自分達よりも幾許か初詣に詳しいらしい。
そう感じたジェイとヴィリヤは彼女についていく。賽銭箱と本坪鈴が並ぶ場に着けば、グウェンドリンが両手を合わせる。
「願い事もするんだっけ?」
ヴィリヤも倣って手を重ね、軽く首を傾げた。
「まずは、お参りして、この、神社の神様……に、挨拶」
それから自分の決意を祈るように願うのだと話したグウェンドリンの言葉を聞き、ジェイは見様見真似で参拝を始めた。
無言のまま、とりあえず体調の安定を願ってみるジェイ。彼に続き、ヴィリヤとグウェンドリンは思いを言の葉に乗せる。
「えっと、色んな仕事が出来ますように、かな」
「今年……の、仕事運……とか、高く、なりますように……」
お祈りは静かで厳かに。
参拝が終われば、次は絵馬に願いを書くひととき。
木札型の絵馬を巫女から受け取ったヴィリヤは筆を手にして、何を書こうかと考え始める。ジェイも筆で書くのかと感心しつつ思いを巡らせる。
「絵馬とか初めて描くんだけど……」
「願いを書くんだよね、何にしようかな」
そして、ヴィリヤは『吸血』と書く。しかし些か率直過ぎた。すぐに首を振った彼女はそれを二重線で消してから文字を書き直していった。
『食事に困りませんように』
願い事であるゆえにストレートに書いた方が良さそうだったが、吸血よりは此方のほうが穏やかに見えるはず。
「食事には変わりないからこれで良いかな」
「ん……これでいいか」
その傍ら、ジェイは暫し悩んだ後にこう記していた。
『金が欲しい』
煩悩の塊のような願い事だったが、どうせ書いても書かなくても自分で稼ぐことに変わりはない。信仰心はゼロであるがゆえの素直さだ。
その間にグウェンドリンはさらさらと筆を絵馬に滑らせていく。
書道スタイルで其処にどーんと書いたのは――。
『和牛一頭』
一見、何のことかは分からないが食べたいという意味らしい。
グウェンドリンはちいさく頷くと、自分と同様に書き終わったらしい二人の絵馬を覗き込む。その際に自分が記した決断的絵馬もしっかりと見せていた。
「ジェイ、ヴィリヤ、何て書いた?」
「お前らも何書いたんだ、っとグウェン。……何だよその願い」
「量が凄そうだね」
目に入った絵馬の文字に軽く目を見開くジェイに、ヴィリヤもくすりと笑む。そしてヴィリヤはジェイの絵馬を見て、なるほど、と納得した。
「ジェイさんらしい感じで良いね」
「和牛一頭かァ、いくらだよ。ヴィリヤも結局は食い気か」
ジェイも改めてヴィリヤの絵馬を見て、薄く笑う。グウェンドリンはこくこくと頷き、悪くない願いだと肯定した。
「ヴィリヤ、それ、大事。ジェイ……のも、ちょー重要」
「俺は金だし、三人揃って煩悩だらけじゃん。まぁ俺ららしいか?」
「煩悩は切り離せないからね。良いということにしよう」
ふっと口許を緩めるジェイにヴィリヤが答え、グウェンドリンも金の双眸を細める。
「……煩悩、も、生きる、原動力……って言えば、素晴らしく、聞こえてくる……気が、する。だから、いいこと……」
そういうことにしておけば万事問題ない。彼女の言葉におかしそうに笑ったヴィリヤは境内の先を示す。
「さて、絵馬を奉納しにいかないといけないんだっけ?」
「らしいな、行くとするか」
「かみさま……に、会うためにも、ね……」
ほんの少しだけ形は違っても、これが自分達らしさをあらわす願いのかたち。
そして、三人は並んで歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
吉備・狐珀
ただ純粋に願いを叶えてたくて集めているのなら良いですけど…。
魑魅魍魎が現われるなら阻止しなければ。
まずは土地の神様にご挨拶を。
この裏手に小さな祠があるんですよね。
ミカゲ殿の仰るとおり今は神様のような姿は見えませんし、神社に比べて参拝する方も少ないようです。
願いを集めているのはこの祠に祀られた神様なんでしょうか…、そんな事を考えながら手を合わせその場を離れ、神社に戻り絵馬に願いを。
沢山のご縁に恵まれて支えられて、こうして笑顔で新年を迎えられる感謝とその方々の幸せを願って。
今度は私が支えられるようにと決意も込めて絵馬に書く願いは『 諸縁吉祥』。
神様に仕える身として私の願いも、ここの願いも必ず守る。
●強き願いと決意
薄く降り積もった雪道を歩けば、穏やかさが満ちる。
されど、この神社に密かに潜むのは悪しき存在と化したもの。
願いを集める神。
吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)はこの神社に現れるという魑魅魍魎のことを考え、思いを巡らせていた。
「ただ純粋に願いを叶えてたくて集めているのなら良いですけど……」
しかしきっとそれだけではないのだろう。
猟兵としての敵が現われるならば、阻止しなければならない。そっと気を引き締めた狐珀は参道を歩いてゆく。
戦いへの気持ちもあるが、まずはこの土地の神様にご挨拶を。
本殿を通り抜けた狐珀は裏へと続いている細い道の方に歩を進めていった。
「この裏手に小さな祠があるんですよね」
聞いていた通り、其処には静かな祠が見える。
しかし今は神様のような姿は見えず、表の神社に比べて参拝する者も少ない――寧ろ、今は狐珀以外に人影はない。
「願いを集めているのはこの祠に祀られた神様なんでしょうか……」
一度はそう思ったが違う気がした。
相手はオブリビオンとして顕現している神のような存在だ。きっと偶然に此処に辿り着いただけなのだろうと感じ、狐珀は祠に向けて手を合わせた。
そして、狐珀はひとまずその場を離れる。
決戦は夜だと聞いているゆえ、神社の本殿に戻って絵馬に願いを書くことにした。
「何を書きましょうか」
少しだけ考え込んだ狐珀はこれまでのことを懐う。
沢山の縁に恵まれ、支えられて、こうして笑顔で新年を迎えられること。その感謝と皆の幸せを願った狐珀は想いを記していく。
「今度は私が支えられるように……」
そんな決意も込めて、絵馬に書く願いは『諸縁吉祥』。
身の回りの人間関係が良好であるように。
確かな願いを込めた絵馬には狐珀が抱く思いも宿っている。
神様に仕える身として己の願いも、ここの願いも、必ず守ってみせると決めた。
決意は静かに、けれども強く――奉納する絵馬と共にある。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
新年明けましておめでとうございます。
・・・あの、アヒルさん、その視線はなんですか?
もしかして、和服と帽子が合っていないと言いたげですね。
そんなことないと思います。
和服にも帽子は合うんですよ。
それにしても、アヒルさんのその格好は何ですか?
ふぇ、神様の使いが白い鳥だから、他の猟兵さんに間違われない為にって、羽織袴着てくるなんて。
でも、私はいいと思いますよ。
せっかくの初詣ですから、しっかりおめかししないとですよね。
えっと、絵馬にお願いをっと、
ふえぇ、アヒルさん、何で勝手に書いちゃうんですか。
しかも、勇敢なるアヒルの魂って、こんなに大きく書いたら私が書くスペースがないじゃないですか。
●ハッピーダックイヤー
「新年明けましておめでとうございます」
神社に訪れたフリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は恭しく、去年もずっとお世話になっていた相棒ガジェット――アヒルさんに告げる。
しかし、アヒルさんから返ってきたのは怪訝な雰囲気。
「……あの、アヒルさん、その視線はなんですか?」
問いかけてみるがガジェットは何も言わない。されどフリルは何となくその視線の理由がわかっていた。
「もしかして、和服と帽子が合っていないと言いたげですね」
今の彼女の出で立ちは和装にハットを合わせた様相だ。お正月と初詣ということから選んだ服なのだが、フリル自身は割と気に行っている。
「そんなことないと思います。和服にも帽子は合うんですよ」
だからそんな目で見ないでください、とフリルはアヒルさんに告げた。
そうしてフリルは逆にガジェットを見つめる。
「それにしても、その格好は何ですか?」
アヒルさんは現在、神様の使いが白い鳥だからという理由で他の猟兵に間違われぬよう羽織袴を着用していた。
どうだ、と誇るように胸を張るアヒルさんは自信満々だ。
「でも、私はいいと思いますよ」
せっかくの初詣なのだからしっかりおめかししなければ損な気もする。それに和装と羽織袴の組み合わせも新年らしくて良い。
それから参拝を終えたフリルは絵馬を貰いに社務所へと向かった。
「えっと、絵馬にお願いをっと……」
何を記そうか考えている間にフリルの絵馬にアヒルさんが何かを書いてしまう。
「ふえぇ、アヒルさん、何で勝手に書いちゃうんですか」
――勇敢なるアヒルの魂。
そう大きく書かれた絵馬はもういっぱいいっぱいになってしまっている。
「ふぇ……私が書くスペースがないじゃないですか」
涙目になったフリルは何とか隙間に書けないかと考え、小さく『幸せ』と絵馬の隅っこに願いを記した。
どうやら新年早々、アヒルさんに振り回される日々が始まったようだ。
前途は多難。
頑張れフリル。負けるなフリル。
幸せはきっとすぐ傍にある。多分、きっと――。
大成功
🔵🔵🔵
輝夜・星灯
ヒトが願いを捧げる時期に限って現れるなんて
厭なものだね
それを踏みにじることしかしないというのに
曲がり為りにも神の末席に座すモノとして
普段、宗教的な場所は意図的に避けているんだが
悪辣な怪異を討つためならば仕方がない
捧げる祈りもないけれど
――否
其奴に叶えてもらうような願いなんか、何処にもないけど
願わなければ、文句ひとつも言えないのなら
嗚呼、心底からの願いをひとつ、くれてやろうか
筆を執って書く言ノ葉は『倖せでありますように』と
誰とも云わぬ大切なひとたちが
誰とも云えぬ大事なひとが
災うことのないようにと
絵馬を掛けたらその辺で昼寝でもかますさ
済まないけど、悪華の影があるような社は
参拝する気も起きないんでね
●願いの絵馬
白い、不可思議なかみさま。
それが現れたのは新たな年の始まりという、ヒトが願いを捧げる時期。
「こんなときに限って現れるなんて――」
厭なものだね、とつぶやいた輝夜・星灯(迷子の星宙・f07903)は参道をゆく。
それを踏みにじることしかしないというのに。
続く思いは言葉にせず、星灯は胸中だけにそれを沈めた。
曲がり為りにも神の末席に座すモノとして、星灯は普段から宗教的な場所は意図的に避けていた。
しかし今だけは別だ。
悪辣な怪異を討つためならば仕方がないとして、星灯は此処に来ていた。
(捧げる祈りもないけれど――否、)
其奴に叶えてもらうような願いなんか、何処にもないのだと独り言ちる。
星灯は複雑な思いを抱きながら社務所に向かった。
其処で手にしたのは件の神が集めているという願いを記す絵馬。そうだ。願わなければ、文句ひとつも言えないのならば。
「嗚呼、心底からの願いをひとつ、くれてやろうか」
そういって星灯は筆を執り、或る言ノ葉を其処に書いていく。
『倖せでありますように』
それは自分に対するものではない。
誰とも云わぬ大切なひとたちが、誰とも云えぬ大事なひとが災うことのないように。
これが今の星灯に記せることだ。
それ以上には願いや祈りめいた思いは籠めず、星灯は絵馬を適当な奉納場所に掛けた。そうすれば後は適当に待つだけ。
「済まないけど、悪華の影があるような社は参拝する気も起きないんでね」
そう言葉にした星灯は辺りを見渡す。
見れば、脇の茶屋で甘酒や汁粉の振る舞いがあるようだった。彼処の長椅子ならばゆっくりと座っていられるだろうか。
片隅で昼寝でもするのも悪くはない。そんなことに思いを巡らせながら、星灯は参道を遡って歩いていった。
昼日中の神社になど、もう用事はない。
己が真に会うべきもの――魑魅魍魎との邂逅はこの先、夜にこそあるのだから。
大成功
🔵🔵🔵
碧海・紗
アンテロさん(f03396)は
絵馬というものをご存知で?
祈願するものだそうですが…
生きた馬を奉納する代わりに馬の絵が描いてあるそうですよ?
折角です
私たちも書いてみましょう
とはいえ願い事…
いろんなお菓子に出会いたい?
可愛い鞄が欲しい?
ペン先を宙に漂わせて
バレないように彼の横顔を盗み見る
…よし。
『打倒アンテロさん』
の文字と
前衛的な文鳥の白と黒を描いて
アンテロさんは何をお願いしたんですか?
あなたには負けません
これからも、何度でも
挑みますから、ね?
ということで隙をついて雪玉を彼に向かって投げましょう
って、えええっ?!
………もうっ、すぐそうやって!
あとこれは記号じゃなくて文鳥の白と黒ですっ
アドリブ歓迎
アンテロ・ヴィルスカ
碧海君(f04532)は物知りだねぇ、伊達に本の虫はしていない訳だ。“エマ”と言うのは知らないが、生贄みたいなものだろうか?だとしたら、これ一枚捧げればいいのはとても合理的でいい。
ふむふむと手順にならうも、俺には大した願いがない…困った。
迷って書き上げたのは『今日の敵が面白い相手でありますよう…』
碧海君の願い事は一つでは済まないんだろうなぁ。
雪玉を振りかぶるタイミングに合わせ彼女の足元をUCで、ほんの少しだけ凍結させて…
ふふ、今年も足元には気を付けながら頑張っておくれ。
……ところでその白と黒の不可思議な記号もエマに書くものなのかい?
アドリブ歓迎
●二人の勝負はじめ
境内の最中、厳かな雰囲気が満ちる参道。
碧海・紗(闇雲・f04532)は隣を歩くアンテロ・ヴィルスカ(黒錆・f03396)を軽く見上げ、これから記すものについて問う。
「アンテロさんは絵馬というものをご存知で?」
「“エマ”と言うのは知らないが、生贄みたいなものだろうか?」
アンテロは軽く首を傾げ、自分なりの意見を言葉にしてみた。すると紗はそれが祈願するものだと告げ、言い得ていると話す。
「生きた馬を奉納する代わりに馬の絵が描いてあるそうですよ?」
「碧海君は物知りだねぇ、伊達に本の虫はしていない訳だ。だとしたら、これ一枚を捧げればいいのはとても合理的でいい」
成程、と頷いたアンテロは絵馬を扱う授与所へ歩を進める。ありました、と絵馬を手にとった紗は社務所で筆を借りた。
「折角です、私たちも書いてみましょう」
そういってアンテロを誘う紗だが、いざ願いを書くとなると悩んでしまう。
「……ふむ」
アンテロも手順にならおうとするも、自分には大した願いがないことに思い当たる。困った、と彼が考えを巡らせる中で紗も暫し絵馬を見つめた。
――願い事。
いろんなお菓子に出会いたい?
可愛い鞄が欲しい?
思い浮かぶのは日常生活の中で思うことばかり。筆先を宙に漂わせながら、紗は彼にばれぬようにその横顔を盗み見てみる。
アンテロは迷っている様子だったが、暫ししてから絵馬に文字を記す。
『今日の敵が面白い相手でありますよう』
そのように書いた願いを確かめ、アンテロは傍らの紗を見遣った。慌てて視線をそらした紗が自分を見ていたと気付きながらも、彼はそれについて何も言わなかった。
「碧海君の願い事は一つでは済まないんだろうなぁ」
「どういうことですか?」
そんな風にアンテロが言うものだから、紗は思わず問い返す。
そして紗は彼に倣って絵馬に願いを書き綴った。
「……よし」
――『打倒アンテロさん』
そんな文字と共に前衛的な白と黒のくしゃくしゃした何かを描く紗。アンテロさんは何をお願いしたんですか、と尋ねるついでに紗は宣言する。
「あなたには負けません。これからも、何度でも挑みますから、ね?」
だから、と紗は足元の雪を拾いあげた。
その狙いは隙をついて雪玉を彼に向かって投げること。だが――。
「ふふ、言ってくれるね」
アンテロは彼女が雪玉を振りかぶるタイミングに合わせ、その足元を自らの力でほんの少しだけ凍結させた。
「ということで……って、えええっ?!」
「今年も足元には気を付けながら頑張っておくれ」
その所為で思わず滑る紗。
何とか転ばずに立て直したが、どうやら今年はじめての勝負は余裕綽々のアンテロの勝利のようだった。
「もうっ、すぐそうやって!」
「ところでその白と黒の不可思議な記号もエマに書くものなのかい?」
「これは記号じゃなくて文鳥の白と黒ですっ」
「……え?」
意表を突かれたような表情を浮かべたアンテロ。それに軽いショックを受けながらも紗は丸めていた雪玉を思いきり投げた。
「そんなに驚かなくても! でも隙ありっ!」
投擲された雪玉がアンテロの胸に当たり、勝負の二本目は紗が僅かにリード。
そんな遣り取りを交わしながら、二人は絵馬を奉納しに向かう。
願いはささやかに。
けれども確かな思いとなって、冬の色に染まる神社に巡ってゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
五条・巴
神様みたいな人、新年早々会えたらそれはとても喜ばしいことだと思うけれど
オブリビオン、…そうか
かみさま、ね
どこか聞いた覚えのある特徴
何かを感じて、目的地へ
今は神社でお参りするのがメインだね
今年も大病無く元気に、色んな縁が紡がれることを祈って
礼をして向かうのは絵馬が飾られている所
書くのは先程の願いとは異なるもの
月に近づけますように。
(もっと自分を見て貰えますように)
月になれますように。
小さな頃からの飽くなき夢
今年こそは、なんて言わない
一生掛けて魅せ続ける
死してなお、どこかの記憶に、本に、歌に、記録に残り、永遠となる、
"月"
になるために
仕事始め。
気を引き締めて、絵馬に思いを込めよう
●月に謳う
「かみさま、ね」
参道を歩き、降り始めた雪に手を伸ばす。
五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)は指先に触れた白い雪がとけていく様を見下ろしながら、この神社の祠に現れるという神を思う。
神様みたいな人。
新年早々にそんな人と会えたならば、それはとても喜ばしいことだ。
けれども――。
「オブリビオン、……そうか」
どこかで聞いた覚えのある敵の特徴を思い返した巴は何かを感じていた。
その予感が当たっているのかは分からない。ただ、この直感を信じていれば縁は手繰り寄せられると信じた。
雪道には人々の足跡が刻まれている。
その軌跡を眺めた巴は歩を進めていった。此処にはきっと数多の思いが宿る場所だ。だからこそ、今は自分も参拝をするべき時。
参道の先にある拝殿へ歩を進めた巴はお参りの作法に則っていく。二礼二拍。そして一礼。手を合わせた巴は願う。
今年も大病無く元気に、色んな縁が紡がれることを。
社の神様に思いを伝えたあと、礼をしてから向かうのは絵馬が飾られている所。
其処には様々な人々のたくさんの願いがあった。
社務所で自分が書く絵馬を受け取った巴は其処に己の願いも重ねたいと思う。
絵馬に記すのは先程の願いとは異なるもの。
『月に近づけますように』
もっと自分を見て貰えますように――月になれますように、という願いだ。
これは小さな頃からの飽くなき夢。
自らが今の職を生業とするのもこの夢を追い求めるためだ。
今年こそは、なんて言わない。この年だけと限って願うのは自分らしくない。
一生掛けて魅せ続ける。
死してなお、どこかの記憶に、本に、歌に。そして、人々の記憶に。数多の記録に残り、永遠となる“月”になるために――。
これは今年の仕事始め。
気を引き締めた巴は自らを律してそっと胸を張り、絵馬に思いを込めた。
件の神も、この雪のように白く儚いのだろうか。
何気なく考えた思いもまた、仄かな雪景色の中に静かに混ざり消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
お賽銭して御神籤引きましょうか
こんな身なりですみません、
作法はしっかりやりますんで許してください
(※籤結果はお任せ)
絵馬って初めて書くかも
願い事と名前と住所を書くんでしたっけ
あれ、私別世界の出身ですけどそこの住所で良いんですか?
まぁ嘘を書くのもなぁ……素直に現住所で書いておこう
名前は書きやすい方でいいや
――願い。
無病息災でもいいんですかね
すでに業病患ってますけどね
超個人的な願いを此処の神様に託すのは、ちょっと気が引けるので
いや寧ろあっちから引かれそう
まともな神様は絶対叶えてくれません、"まとも"ならね
矛盾だらけの怪奇人間の願いなんてそんなもんです
だから今ぐらいは、"只の人間"として過ごします
●或る人間として
鳴り響く鈴の音。賽銭が快い音を立てて箱に収まる音。
それらが心地良い冬の空気の中に響く。
二拝、二拍手、一拝。
賽銭箱の前、本例鈴を鳴らしたのは、黒包帯で身を覆うスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)だ。
「こんな身なりですみません」
作法はしっかりやりますんで許してください、と告げたスキアファールは参拝を済ませ、御神籤が売られている授与所に向かった。
今年一番の運試しとして引いた籤は八十二番。
示された番号の棚に入っていた御神籤を開けば、其処には『中吉』と書かれていた。
大吉、吉の次に良い結果だ。
総合運には、慎ましく努めれば幸あり、とある。
そこそこに良いことが記されている内容に目を通し、スキアファールは静かに頷く。
そして彼は御神籤を木の枝に括り、次は絵馬を書きに向かってゆく。そういえば、とスキアファールはふと思い立つ。
「絵馬って初めて書くかも」
確か願い事と名前と住所を書くのだったか。作法には則りたいが、スキアファールにはひとつ気にかかることがある。
「あれ、私別世界の出身ですけどそこの住所で良いんですか?」
根は真面目であるが故に浮かんだ疑問。
きっと他の者ならば其処まで気にはしないのだろうが、それもスキアファールの個性のひとつでもあるのだろう。
「まぁ嘘を書くのもなぁ……素直に現住所で書いておこう」
名前は書きやすい方でいいや、とした彼は真境名・左右の名を絵馬に記した。
そして、次に考えるのは願いのこと。
「――願い」
思わずそう口にしながら、スキアファールは『無病息災』と書く。
すでに業病を患っているが、他に抱く超個人的な願いを此処の神様に託すのは少しばかり気が引けてしまった。
「いや寧ろあっちから引かれそう」
そんな感想を零したスキアファールは、本当の願いなどまともな神様は絶対に叶えてくれないだろうと考えた。そうだ――“まとも”なら。
きっと、矛盾だらけの怪奇人間の願いなんてそんなものだ。
だから今は普通の願いを。
絵馬を奉納したスキアファールは雪の色に染まった参道を歩いてゆく。
今このひとときだけは只の人間として過ごそう。そう、心に決めて――。
大成功
🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
人の願いを集める、かみさま……みたいなひと
そのひとの願いは何なのかな
とても静かな所ね……かみさまが居ても不思議じゃない
先ずはお参りをきちんと
今年はじめて覚えたハツモウデ
手を洗って、ええと……一礼二拍手、だったかしら
教わった事を思い出して、マナー通りに
絵馬?も書きにいきましょう
願い事をここに書くのね?ルーシーのお願いは……
「お友だちみんなが笑顔で過ごせます様に」
うん、これでよし
……
…
…………それと。
「ママにあいたい」
隅の方に、小さく
もういないって知っているのに
つい、どうしても
かみさまが居たら……って思うのは、こんな時なの、かも
●本当の願い
参拝客が行き交い、賑わう神社の境内。
その奥にひっそりと佇むちいさな祠。そのふたつの光景を眺めてきたルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)はそっと思いを零す。
「人の願いを集める、かみさま……みたいなひと。そのひとの願いは何なのかな」
願いを知ること自体が願いなのか。
それとも、叶えることが望みなのか。
考えれば考えるほど、その真意は計り知れなくなってくる。ルーシーは息を吐き、白く染まった空気をぼんやりと見つめた。
今、立っている祠の前はとても静かなところだ。
「……かみさまが居ても不思議じゃない」
そんな風に感じたルーシーは踵を返し、皆が参拝する本殿の方へと歩んでいった。
夜にかみさまが現れるという場所は確かめられた。
だからお参りをきちんとしようと決めた少女は、初詣を今年はじめて覚えたばかりだ。先ずは鳥居の近くの手水舎に趣き、そうっと手を清める。それから賽銭箱と本例鈴のあるところへと向かい、柏手を打つ。
「ええと……二礼二拍手、だったかしら」
ルーシーは教わった事を思い出し、マナー通りに参拝を進めていった。これは神様への挨拶だと知っているからまだお願い事はしない。
胸に秘めた思いはあるが、それは絵馬に込めれば良い。
ぺこりと礼をして参拝は終わり。
そうして社務所へと絵馬を受け取りにいく。四角い不思議な形をした板を両手で持ったルーシーは興味深そうにそれを眺めた。
「願い事をここに書くのね? ルーシーのお願いは……」
借りた筆を手にした少女はほんの僅かだけ考え込み、ゆっくりと文字を記していく。
『お友だちみんなが笑顔で過ごせます様に』
「うん、これでよし」
青の片目を眇めたルーシーは暫し絵馬を見つめた。
しかし、まだ少し足りない。
此処にもうひとつのお願いを書き記しても良いのか。悩む様子のルーシーは無言のままじっと絵馬を見下ろしていた。
「…………それと、」
そして、ちいさな決意を抱いたルーシーはそうっと文字を書き足した。
『ママにあいたい』
隅の方に加えられた願いこそ、少女が心の奥底で望むこと。
――もういないって知っているのに。
それでもつい、どうしても願ってしまう。少女に課せられた期待は大きく、それを受け入れながらも未だ捨てきれない思いがある。
叶わない。願っても仕方ないと識っていても、尚思う。
「かみさまが居たら……」
そう思うのはきっとこんな時なのかもしれない。
願いの証である木札を握り締めたルーシーは微かに俯き、瞳を閉じた。
大成功
🔵🔵🔵
鎹・たから
ヴィルジール(f13490)と
頂いた振袖ですよ
似合っていますか(くるり
こうしてお披露目することが出来て嬉しいです
艦長、鳥居をくぐる時は端を通るんですよ
神様が真ん中を通りますから
お参り後、二人で絵馬を
ヴィルジールは何を書きましたか
たからは「より多くのこども達を救えますように」と
学業成就も考えましたが、優先度がありますからね
いえ、どちらも励んでいるつもりですよ(きり
補習の時間はほとんど減りませんが
…教えてくれるのですか、それは助かります
祠の神様は
どうして願いごとを集めているのでしょう
ふむ
きらきらしているものはオシャレですからね
集めたくなるのもわかります
悪いことに使うのならば
止めなくてはいけませんね
ヴィルジール・エグマリヌ
たから(f01148)と
嗚呼、其の振袖、着てくれたんだね
とてもよく似合っているよ
――ひと足早い春が此処に訪れたみたいだ
おや、真ん中を歩いてはいけないのだね
神様の通行の邪魔をしてはいけないな
教えてくれて有難う、じゃあ端を歩いて行こう
お参りの後は絵馬を書くとしようか
私はもちろん「商売繁盛」を願ったよ
たからは立派なことを願ったのだね、とても偉い
……勉強、苦手なら今度教えようか
君の役に立てるなら幸いだよ
うーん、こういう願い事ってキラキラしているから
つい集めたくなったとか……
けれど違うかな、私じゃあるまいし
そうだね、縁起物とはいえ
絵馬には人々の願いが込められているんだ
オブリビオンにあげる訳にはいかないな
●願いは此処に
薄く積もった雪の参道を進み、くるりと回る。
鎹・たから(雪氣硝・f01148)が身に纏う振袖は艶やかで、白の世界に彩りを与えているかのように思えた。ヴィルジール・エグマリヌ(アルデバランの死神・f13490)はその姿を見つめ、双眸を細める。
「嗚呼、其の振袖、着てくれたんだね」
「似合っていますか」
「とてもよく似合っているよ」
もう一度、くるくると身を翻すたからは両手を軽く掲げた。
「こうしてお披露目することが出来て嬉しいです」
「――ひと足早い春が此処に訪れたみたいだ」
ヴィルジールは感じたままの思いを言葉に変え、少し先をゆくたからを追って歩を進めていった。そうして、二人は鳥居の前に訪れる。
たからはヴィルジールの袖を軽く引き、中央から端に行くように願った。
「艦長、鳥居をくぐる時は端を通るんですよ」
「おや、真ん中を歩いてはいけないのだね」
「神様が通る場所ですから」
「教えてくれて有難う、じゃあ端を歩いて行こう」
神様の通行の邪魔をしてはいけないのだと知り、ヴィルジールはたからに礼を告げた。静々と、参道を歩いていく二人は雪色に足跡をつけてゆく。
からん、と本例鈴の鳴る音。
そして誰かが打った柏手の音が聞こえてくれば、其処はもう拝殿前だ。
参拝客に倣って厳かなお参りを終えた後、たからとヴィルジールは件の絵馬を記しに向かうことにした。
社務所の巫女から絵馬を受け取ったたからは、筆をさらさらと滑らせていく。ヴィルジールも少し考えてから筆を取り、己の願いを書いていった。
「ヴィルジールは何を書きましたか」
「私はもちろん『商売繁盛』を願ったよ」
自らが艦長を務める宇宙船のことを気にかけるヴィルジールらしい願いだと思える。たからはちいさく頷き、絵馬に書いた自分の願いを見せた。
「たからは『より多くのこども達を救えますように』と書きました」
「立派なことを願ったのだね、とても偉い」
褒めてくれたヴィルジールに対し、たからは『学業成就』も考えたのだと話す。しかしそれよりも高い優先度がある願いを、と考えたらしい。
「どちらも励んでいるつもりです、が……」
きりりと表情を引き締めるたからだが、補習の時間はほとんど減らないとも零した。ヴィルジールは少し考え、軽い提案を投げかけてみる。
「……勉強、苦手なら今度教えようか」
「教えてくれるのですか、それは助かります」
「君の役に立てるなら幸いだよ」
申し訳無さに少し俯くたからに対し、ヴィルジールは何のことはないと伝えた。
そして二人は絵馬を奉納しに向かう。
境内を歩く最中。たからはふと今回の敵であるという、かみさまを思った。
「祠の神様はどうして願いごとを集めているのでしょう」
「うーん、こういう願い事ってキラキラしているからつい集めたくなったとか……」
ふとした疑問にヴィルジールは首を捻る。
ふむ、と彼の仕草を真似るたからは、一理あると感じた。
「きらきらしているものはオシャレですからね」
「けれど違うかな、私じゃあるまいし」
「それでも、たからは集めたくなる気持ちがわかります」
光り輝くものは美しい。
そう感じるのはきっと誰でも同じだと思うから。でも、とたからは首を横に振る。
「悪いことに使うのならば、止めなくてはいけませんね」
「そうだね、縁起物とはいえ絵馬には人々の願いが込められているんだ」
自分達はともかく、純粋に参拝に訪れている人達の願いまでオブリビオンに差し出す訳にはいかない。
頷きを交わした二人は絵馬を奉納所に掲げる。
願わくは、この思いが正しき神のもとに届けられるように――そっと、祈った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▼心情
人の願望を集める神、か。
意図が分からない以上、迂闊な願いは避けるべきだろうか…?
だがまあ、新しい年の始まりでもある。
初詣も兼ねて願掛けぐらいはしてもいいのかもな。
元の世界に戻るための手掛かりが掴めますように――。
▼SPD
先ずは神社を散策しながら戦場になりそうな
場所は一通り確認しておこう。
適当なタイミングで絵馬を書いて奉納するが、
お守りや破魔矢が売っていれば記念に購入を。
猟兵界隈はキナ臭い動きも多いし、気休めではあるが…。
もし道中の境内で、巫女や神主に会う事があれば
件の小さな祠について、伝承や神について聞いてみよう。
お供えが必要なら出店で何か果物や饅頭でも。
▼他
連携、アドリブ歓迎
●破魔矢と小道
「人の願望を集める神、か」
アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は参拝客で賑わう境内を見つめ、薄く降り積もった雪を踏み締める。
神の意図が分からない以上、迂闊な願いは避けるべきだろうか。
軽く考え込んだアネットは鳥居から続く参道を眺めた。現時点で怪しい雰囲気は感じられない。何処にでもある極々普通の神社の景色が其処にあった。
「だがまあ、新しい年の始まりでもあるからな」
今はきっと警戒しすぎるのもいけない。
初詣も兼ねて願掛けぐらいはしてもいいのかもしれないと感じ、アネットは境内の奥を目指していった。
本例鈴がからからと鳴り響く音が続いている。
此処に訪れた者みながそれを鳴らして願いを神に伝えているのだろう。
アネットは暫しその光景を見ていたが、ふと思い立って絵馬を貰いに社務所へと歩を進めた。確かこれを書いておけば件の神との繋がりが出来るのだったか。
そう考えたアネットは少し悩み、絵馬に文字を記していく。
『元の世界に戻るための手掛かりが掴めますように――』
その願いは純粋な思い。
そして、絵馬を奉納場所に結んだアネットは散策を始める。
このままぼんやりと夜を待つのも勿体ない。
戦場になりそうな場所は一通り確認しておこうと決めた彼はゆっくりと歩いていった。怪しまれぬように参拝客として散歩をしている風を装う。
そうしていると、開けた場所や細い道が見えてきた。
敵がどのように現れ、何処で襲ってくるかはわからないが土地を知っておくことは良いことだ。そんな中でアネットはお守りや破魔矢を扱う授与所に辿り着く。
「ひとつ記念に買ってみるか」
猟兵界隈はキナ臭い動きも多い。気休めではあると分かっていても、験担ぎとして持っているのも悪くない。
破魔矢を片手に参道をゆくアネットは辺りを見渡した。
先程見た細い道の奥にちいさな祠があるのがみえる。きっとあれが例の神がときおり現れるという場所なのだろう。
今は未だ何もなく、誰の気配も感じられない場所。
其処で巡るであろう戦いを思い、アネットは静かに気を引き締めた。
大成功
🔵🔵🔵
菱川・彌三八
新年早々ご苦労なこった
神とやり合うか、神を騙るか
罰当りは何方だろうな
マ、聞いた話じゃあそのまま神隠しと成りそうで、ちいと物騒だが
「何が」「如何して」は野暮ってモンよ
さて願い、ねェ
こう、と問われちまうとまごつきやがる
だが俺ァ日々程々に生きれりゃあ不足ねェヨ
そねェな時に誂え向きな文言も知ってら
『心願成就』
大なり小なり、善き事がありゃあそれでエエ
一通り終えたら折角だ、此の神社の事ちいと聞こうか
表で奉る神や謂れなんかだが…なに、大いそれたこたねェ、只知りてぇのサ
幾分と雑な願いか知れねぇが、知ると知らぬじゃ気持ちが違わァ
序でに札も貰うか
何に縁があろうとも、心願にゃ屹度変わらねえさ
●標す心願
片手を口許に当てて欠伸をひとつ。
吐く息が白く染まっていく様を何気なく眺め、菱川・彌三八(彌栄・f12195)は静謐な空気が満ちる参道の奥を見遣った。
人々が行き交う本殿や拝殿前とは違い、小道の奥に行こうとする者は少ない。
其処にはちいさな祠があるのだが、訪れる者は猟兵くらいだろう。
「新年早々ご苦労なこった」
神とやり合うか、神を騙るか。罰当りは何方だろうか。
彌三八は答えのない思いを巡らせ、静かな祠を見遣った。未だ何の気配もない場所だが、何れ願いが運ばれればひとたび戦場となる。
下見はこの程度かと感じた彌三八は踵を返し、参道を戻ってゆく。
「マ、聞いた話じゃあそのまま神隠しと成りそうで、ちいと物騒だが――」
其の神が何故、何が、如何してと考えるのは止めた。
「理由を問うってのは野暮ってモンよ」
例えば、己が何故に絵を嗜むのかと聞かれても総てを語り尽くすことは出来ない。語れることは確かにあるが感覚的な部分だってある。
一概に自分と偽りの神とを比べられるものではないと識っているが、彌三八はそういうものであるのだと確り理解していた。
そして、彌三八は絵馬を扱う社務所へと歩を進めていく。
「さて願い、ねェ」
巫女から絵馬を受け取った彼は自前の筆を執り、暫し考えていた。
願いがないわけではない。されど、こう、と問われてしまうとどうにもまごつく。どうしたものかと日々を思い返す彌三八だが、矢張りこれといったものが浮かばない。
「俺ァ程々に生きれりゃあ不足ねェからなァ」
しかし、そういった時に誂え向きな文言も知っていた。
よし、と一度だけ頷いた彌三八はさらさらと筆を走らせていく。
『心願成就』
浪の絵と共に記された文字。
それは大なり小なり、善き事があればそれで佳いという思いが込められていた。
絵馬をしかと奉納した彌三八は暫し辺りをぶらつくことにする。
「折角だ、此の神社の事ちいと聞こうか……と、思ったがこりゃいけねェな」
辺りを見渡してみるが、それを尋ねられそうな巫女や神主達は誰も彼も忙しそうにしている。そりゃそうかと初詣の時期である今を思い、彌三八は肩を竦めた。
ならば後は序でに神札でも貰っておこうか。
授与所で手にした祈祷神符を手に、彌三八は薄く笑みを浮かべる。
「何に縁があろうとも、心願にゃ屹度変わらねえさ」
そして、彼が目指していく場所は参道の外れにある茶屋。
どうやら甘酒の振る舞いをやっているらしい。其処で過ごすのもまた悪くないと感じて、彌三八はゆるりと歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵
樹神・桜雪
※絡み、アドリブ歓迎
初詣、初詣。
こういうの初めてだから楽しいな。
せっかくだから、相棒も呼んで一緒にお参りしよう。
お賽銭入れて、柏手うって、ぺこりと頭を下げる。
…聞いていたお参りのやり方ってこう…だったよね?間違えてないよね?
お参りが終わったら絵馬を書くよ。
書く願いは当然『ボクの記憶が戻りますように』
欠片でも良いから、なにか手掛かりが得られますように。
少し、神様にすがりたくなっちゃった。
だってあまりにも何も思い出せないんだもの
こんな願いでも、真白の神は集めるのかな?
叶えてくれるのかな。神様
なーんて、大丈夫。すがる神様は選ぶよ。ちゃんとにね
さ、相棒、夜を待とう。少し話していればすぐ、だよ。きっと
●縋る思い
新たな年の幕開け。
肩に相棒を乗せ、参道を歩く樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)の足取りは軽い。
「初詣、初詣」
ぴぴ、ぴぴぴ。
桜雪の声に合わせてシマエナガが鳴いた。相棒も楽しいと思っているのだと感じた桜雪は境内に積もる雪の先を見つめる。
行き交う人々はすべて参拝者だ。彼らは皆、新年の挨拶と祈願をしに訪れている。
自分もそのひとりだと思うと、皆と一緒であることが嬉しくなった。
「こういうの初めてだから楽しいな」
ね、と桜雪が呼び掛けると相棒が反対の方にぴょこんと飛び乗る。どうやら相棒も同意しているようだ。
そして、拝殿前についた桜雪は周囲の人々に倣ってお参りを始めた。
お賽銭を入れて、柏手を打ち、ぺこりと頭を下げる。
「お参りのやり方ってこう……だったよね? 間違えてないよね?」
少しだけ不安になって相棒に問いかけてみると、シマエナガのちいさな頭もぺこっと下げられた。きっと大丈夫、合っている。そんな風に言っているらしい。
桜雪は静かに双眸を細め、本例鈴をからからと鳴らした。その音も心地よく、桜雪は暫し響く音の余韻を感じていった。
お参りが終われば次は絵馬を書く時間。
筆を借りて其処に記す願いはもう当然、決まっている。
『ボクの記憶が戻りますように』
たったひと欠片でも良い。なにか手掛かりが得られますように。
勿論、それは自分で探すべき過去(たからもの)だ。けれども、ほんの少しだけ――。
「神様にすがりたくなっちゃった。これくらい、いいよね?」
だって、あまりにも何も思い出せないから。
桜雪が僅かに俯くと相棒がそっとその顔を覗き込む仕草をした。平気だよ、と答えた桜雪は顔をあげて境内の奥を見遣る。
「こんな願いでも、真白の神は集めるのかな?」
そして――叶えてくれるのかな。
神様、とちいさく口にした桜雪はその奥にあるという祠を思った。
しかしすぐに首を振る。
「なーんて、大丈夫。すがる神様は選ぶよ。ちゃんとね」
絵馬を奉納場所に収めた桜雪は参道の先を見遣った。あそこ、と指差した先には茶屋があり、甘酒を振る舞ってるようだ。
「さ、相棒、夜を待とう。少し話していればすぐ、だよ。きっと」
ふたりならこんな時間も楽しい。
行こうと告げた桜雪に相棒がぴぴっと鳴いて応え、ゆっくりと歩みが進められていく。
大成功
🔵🔵🔵
サン・ダイヤモンド
【森】
初めての神社や風景に瞳を輝かせる初初詣
事前に調べた作法通りにお参りをして
人々の様子を見る
「たくさん愛されているんだね」
ここの神様は
たくさんの人々に敬われ、頼りにされて
また神様も人々を大事に見守っていると感じた
そして
「ねえ、これから会う神様って――」
寂しいのではないかと
だけど
「ブラッド、……どこにも行っちゃヤだよ」
彼の手と言葉が僕の不安を笑顔に変える
『家族』と言う言葉には笑顔で応えて
でも嬉しいような、恥ずかしいような
少し物足りないような、複雑な気持ち
絵馬に書く願いは【強くなりたい】
でもブラッドには内緒なの
僕達が帰る場所A&Wで日に日に濃くなる戦争の気配
だから、皆を護れるぐらい、もっともっと
ブラッド・ブラック
【森】
神に縋った事がある
一族で唯一変身も満足にできぬ落ち零れとして生まれ/
銀河帝国の奴隷として死よりも辛い日々を送り/
人の血肉を啜らねば生きていけぬ体になった
『救けて下さい』と何度も祈った
全部、どうにもならなかった
「望む世界に誘う神か。……大層な救いだな」
何と甘美な蜜だろう、だが
傍らのサンを見遣り其の白い頭に触れる
「俺がお前を置いて行くと思うか?」
今の俺の希望は此処にある
絵馬には【家内安全】と書く
「家族皆が病気や怪我をせず、元気でいられますように、と言う意味だ
お前や、森の精霊達(鎧から這い出てきたピクシーが「もきゅ!」と鳴く)そう、ピクシーもだったな」
皆が元気であるだけで、俺はこの上無く幸せだ
●希うもの
初めて訪れる神社の雪景色。
それはサン・ダイヤモンド(甘い夢・f01974)にとって、とても新鮮なものだ。
瞳を輝かせ、赤い鳥居や朱色の建物を眺めるサン。その隣にはブラッド・ブラック(VULTURE・f01805)が静かに控えている。
はしゃぐ様子のサンに対し、ブラッドは此処に祀られる神――ひいては、かつて自分が縋った神のことに思いを馳せていた。
一族で唯一、変身も満足にできぬ落ち零れとして生まれた。
銀河帝国の奴隷として死よりも辛い日々を送り、人の血肉を啜らねば生きていけぬ体になった。それゆえに、祈った。
――『救けて下さい』
何度も、何度も。然しすべてどうにもならなかった。
「…………」
「ブラッド?」
過去を思い返した彼の名をサンが呼ぶ。何でもない、と答えたブラッドは意識を目の前の神社に引き戻した。
今は違う。此処には賑わいがあり、何よりも大切なサンが傍にいる。
サンは少しばかり心配だったが、視線で平気だと示している彼を信じることにした。そして、サンはブラッドと共にお参りに向かう。
二拝二拍手、一拝。
事前に調べた作法通りに神に参り、サンは人々の様子を見る。
「たくさん愛されているんだね」
ここの神様は、と言葉にした彼は穏やかな微笑みを湛えた。
たくさんの人々に敬われ、頼りにされて、また神様も人々を大事に見守っていると感じられた。されど、これは本殿に祀られている神様への思い。
夜になれば裏手の祠に現れるという白いかみさまとは違うもの。
サンがその神について考えているのだと察し、ブラッドも思いを巡らせた。
「望む世界に誘う神か。……大層な救いだな」
それは何と甘美な蜜だろう。
先程、思い返した過去にそんな神が居たならば。ふと過った思いは言葉にはせず、ブラッドは人々の往来を静かに見守っていた。
そんなとき、ふとサンが口をひらく。
「ねえ、これから会う神様って――」
寂しいのではないかと呟いたサンの声を聞き、ブラッドはどうだろうかと首を振る。神の感情など分からない。
サンは俯き、ブラッドの隣にそっと身を寄せた。
「ブラッド、……どこにも行っちゃヤだよ」
「俺がお前を置いて行くと思うか?」
対するブラッドはサンに視線を向けて其の白い頭に触れる。寂しい神のことを考えて自らも寂しさを覚えてしまったサンだが、彼の手と言葉が不安を笑顔に変えてくれた。
「今の俺の希望は此処にある。だから、な」
「……ブラッド」
嬉しい、と告げたサンの口許が嬉しげに綻ぶ。
そうして二人は願いの絵馬を記しに向かうことにした。
筆を執り、ブラッドが書いていくのは『家内安全』という文字だ。
「それは?」
「家族皆が病気や怪我をせず、元気でいられますように、と言う意味だ。お前や、森の精霊達……」
サンが問うと、ブラッドは意味を答えようとする。しかしその瞬間、彼の鎧から這い出てきたピクシーが「もきゅ!」と鳴いた。
「そう、ピクシーもだったな」
「ふふ、そうだね」
サンは家族という言葉を聞き、笑顔で応える。けれど嬉しいような、恥ずかしいような、それから少し物足りないような複雑な気持ちもあった。
それを声に出すことはしなったが、サンはそっと自分の絵馬に思いを描く。
『強くなりたい』
自分達が帰る世界では日に日に戦の気配が強くなっている。だから、皆を護れるぐらい、もっともっと――。
ブラッドには内緒だと告げられた絵馬は奉納場所に静かに飾られた。
彼もまた絵馬を奉納し、サンと共に在れる日々を思う。
「皆が元気であるだけで、俺はこの上無く幸せだ」
「うん、僕もだよ」
何よりもブラッドが一緒に居てくれるから。
何処にも行かない。独りにしない。その言葉と思いはきっと、これからもこの胸にあたたかさを宿し続けてくれるはず。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻沫
アドリブ歓迎
雪と君の桜が舞って朝日が輝る
纏う晴着は君が選んだ真紅の振袖
新年を君と迎えられた幸福に泪が滲みそうになる
何でもないっ
絵馬?
神様へのお手紙みたい
ヨルと一緒に絵馬に書く願いを考える
ヨルは大きなお魚の絵
食べたいのかな
願い事
去年はなかった
僕は随分と慾張りになったんだよ
今の僕はこれ以上ないくらい幸せなのにもっと
願ってもいいのかな
願うのは君のこと
悪夢に苛まれないように
君が傷つけられないように
一緒にもっと色んな世界を泳ぎたい
隣で愛を歌えますように
『櫻宵が怪我なく、元気で笑顔で
しあわせでありますように』
愛しくて戀しくて
櫻がいなければダメなんだ
神様は沢山の願いを聴くけど
神様に願い事はないのかな
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
アドリブ歓迎
朝日が心地いいわね
晴れ着もよく似合ってるわ
あたしはリルが選んでくれた黒に桜舞う振袖よ
あら?瞳が潤んでる…陽の光が眩しかった?
絵馬に神様へのお手紙を書くのよ
祈りと想いを一緒に届けるの
ヨル…あんなにご飯食べたのに!
いいに決まってる
リルが慾張りだったらあたしはどうなるの
リルに願いが出来たことが嬉しいわ!
去年よりずっと笑うようになったもの
あたしの願いは一つ
『愛し子に善きひととせを』
愛と笑顔と色彩溢れる年とするのは
リルを幸せにするのは神ではなく私だもの
私がこの手で幸を咲かせるの
殺ししかしらなかった、私の手で
噫、咲き誇る愛が幸せよ
なんて美味
神様に?
あるわよきっと
神様は意外と慾張りなのよ
●願いは決意に
雪の白、君の桜の淡い紅。
ふたつの彩が舞って、薄い朝日が輝る。
リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)は真紅の振り袖を身に纏い、宙を游ぎながら袖をぱたぱたと振った。
「櫻宵、こっち!」
「朝日が心地いいわね。晴れ着もよく似合ってるわ」
リルに呼ばれ、誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)はその後ろを歩む。
晴着は櫻宵が選んだものだ。純白の人魚を彩る紅はやはりよく映える。見立ては間違っていなかったと頷く櫻宵が纏うのは、その正反対の色。
黒に桜が舞う振袖姿もまたリルが選んだものだ。その姿は麗しく、振り返ったリルは緩やかに眸を細めた。
新年を君と迎えられること。それが一番の幸福。
思わず泪が滲みそうになり、リルはぐっと堪える。彼の瞳が潤んでいる様子に気が付いた櫻宵は首を傾げた。
「あら? 陽の光が眩しかった?」
「何でもないっ」
ただ嬉しかった。けれど今が嬉しいだけなのだとは気恥ずかしくて言えなかった。
櫻宵は何となくリルの思いを感じ取り、淡く微笑む。
そして、黒と白の晴着を軽やかに揺らしたふたりは境内へと向かってゆく。
参拝者が柏手を打つ音に、本例鈴が鳴らされる音。からんからんと鳴る鈴の大きな音を仔ペンギンのヨルと楽しげに聞くリルの傍ら、櫻宵は冬の穏やかさを感じていた。
「ヨル、ヨル、あの鈴鳴らしてみたいね」
「ふふ、お参りをしたらたくさん鳴らしていいのよ」
そんな遣り取りも快く、楽しいひとときになっていく。そうして櫻宵は、いらっしゃい、とリルを手招く。
誘ったのは境内の授与所。絵馬を扱う場所だ。
「一緒に絵馬を書きましょうか」
「絵馬?」
「神様へのお手紙を書くのよ。祈りと想いを一緒に届けるの」
「お手紙……いいね、書きたい!」
櫻宵はリルとヨル、そして自分の分の絵馬を巫女から受け取り、筆を借りる。何を書こうかと悩み始めるリルの横でダイナミックに筆を振るうヨル。
「ヨル、それはお魚かしら?」
「祈るくらい食べたいのかな」
「あんなにご飯食べたのに!」
仔ペンギンの願いに驚く櫻宵とくすりと笑うリル。
リルは去年の今頃を思い、こんなに自分の日々が楽しくなると思ってはいなかったのだと櫻宵に話した。
「願い事ね、去年はなかったんだ。でも僕は随分と慾張りになったんだよ」
これ以上ないくらい幸せなのに。
もっと、たくさんを願ってもいいのかな。
リルがぽつりと零した思いを聞き、櫻宵は満面の笑みを浮かべてみせた。
「いいに決まってるわよ!」
「ほんとに?」
「ええ、リルが慾張りだったらあたしはどうなるの」
「ごうよく、かなあ」
「リル……言うようなったわね。とにかく、リルに願いが出来たことが嬉しいわ!」
彼が去年よりずっと笑うようになったのは、櫻宵が一番知っている。
ずっと傍で見ているのだから当たり前だ。
微笑みを交わしあった二人は絵馬に向き合い、其々の思いを記していく。
リルが願うのは櫻宵のこと。
愛しくて、戀しくて、きっと櫻がいなければダメだと思えた。
どうか、悪夢に苛まれないように。君が傷つけられないように。
一緒にもっと色んな世界を泳ぎたい、隣で愛を歌えますように。そんな思いをたくさん込めて――。
『櫻宵が怪我なく、元気で笑顔で、しあわせでありますように』
そして、櫻宵も己の裡に抱く思いを文字へと変えてゆく。
櫻宵の願いは一つ。
『愛し子に善きひととせを』
愛と笑顔と色彩が溢れる年とするのも、リルを幸せにするのは神ではない。
それは他ならぬ自分自身。神様になんて任せられない。共に過ごす中で咲き誇る愛が幸せ。噫、なんて美味なのだろう。
(だから、私がこの手で幸を咲かせるの)
殺ししかしらなかった、私の手で――きっと、今なら出来るはずだから。
ふたりは互いの願い、もとい決意にも似た言の葉を綴った絵馬を奉納した。リルはお手紙が届きますようにと願いながらふと思う。
「神様は沢山の願いを聴くけど、神様に願い事はないのかな」
「あるわよ、きっと」
神様と呼ばれるものだって意外と慾張りだ。
そうに違いないと話した櫻宵はリルとヨルに微笑みかけた。
そうして暫し二人は共に並び、賑わう境内と神聖な神社の雰囲気を感じていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
桜屋敷・いろは
ゆき。
白くて、美しい、自然が産んだ結晶
触れるのは初めてで、少し新鮮
雪のように白く、美しいかみさまは
……すこしだけ、寂しいのかも知れません
賑やかな、楽しそうなみなさんを眺めながら、境内を散策しましょう
みなさん、良い表情をしていらっしゃいますね
うん、決めました
絵馬を頂いて、書き込みましょう
みなさんの笑顔を守れますように。
わたしの歌には、まだチカラはありません
戦うために作られたイノチではありませんから
でも、守りたい。
そう願います。
……マスター
これは、貴方が望んだ事とは、違うことでしょうか?
…自我というのは、怖いです
しかし、ただの機械人形の頃よりも
…楽しいと、感じてしまうのです
……マスター。
●生まれた望み
――ゆき。
それは白くて、美しい、自然が産んだ結晶。
桜屋敷・いろは(葬送唄・f17616)は目の前にあるものを確かめるように手を伸ばし、冷たい感触を覚えた。
こうして触れるのは初めてで、少し新鮮に思える。
けれどもその冷たさは何だか不思議だ。
「雪のように白く、美しいかみさまは……すこしだけ、寂しいのかも知れません」
指先に残るひやりとした感覚から想像したのはそんな思い。
参道の片隅に屈んでいたいろはは立ち上がり、境内の奥を目指していく。行き交う人々は皆、明るい顔をしている。
賑やかで楽しげな参拝客を眺めたいろははそのまま境内を散策した。
「みなさん、良い表情をしていらっしゃいますね」
お賽銭はどうする?
願い事、決めた?
お守りってどれがいいのかなあ。
そういった遣り取りと声が聞こえてきて、いろはは眼鏡の奥の双眸を緩めた。この場所に満ちているのは冬や雪の冷たさだけではない。
新たな年に抱く思いや心が巡っている。そう感じたいろははちいさく頷いた。
「うん、決めました」
自分も絵馬を頂いて書き込もう。
筆を執り、さらさらと記していくのは自然に胸に浮かんだ思いだ。
『みなさんの笑顔を守れますように』
いろはは一文字ずつ、願いを籠めながら絵馬に記す。その文字は歌う詩のように、穏やかな気持ちが籠められている。
わたしの歌には、まだチカラはない。
そう、戦うために作られたイノチではないのだから。
「――でも、守りたい」
近しい人。見知らぬ人。名も知らない誰かであっても、其処に笑顔があるのなら。
そっと、けれども強い思いがいろはの裡に宿っている。
そうして絵馬を奉納場所へと掛けたいろははゆるりと境内を歩いていく。参道の端には祝いの甘酒を振る舞う茶屋や、其処で憩う人々の姿が見えた。
その光景を見守りながら、いろはは不意にある人の呼び名を口にする。
「……マスター」
こう思うのは、貴方が望んだ事とは違うことでしょうか。
祈り、願う。
それを成すことが出来る自我というものは怖くもある。しかし、ただの機械人形であった頃よりも――楽しい、と感じている自分がいた。
「……マスター」
もう一度、かの人を呼ぶ。
傍には誰もおらず、応えるものはいない。
ただ、静謐で真白な雪の色だけがいろはの瞳に映り込んでいた。
大成功
🔵🔵🔵
マリス・ステラ
華乃音(f03169)の側に
「華乃音はどのような願いを?」
彼はそうした行為を忌避する
それでもこれは任務です
私はというと、
「華乃音が幸せになれますように、と」
微笑みかける
絵馬を奉納すると祠に向かう
華乃音と手を恋人繋ぎにして、ひんやりとした彼のぬくもりを感じながら
もっとも私達は恋人じゃない
少なくとも彼にその意思はなく、つまりは私の我儘
それを彼が赦してくれるまで、私はこうしていたい
「どう思いますか?」
何故願いを集めるのか
その意味を問いかける
願いは必ずしも美しいとは限らない
欲望そのもの、都合のいい話という事もあるでしょう
けれど、だからこそ
「"光"を求めているのでしょうか……」
夜を照らす灯火、ぬくもりを
緋翠・華乃音
マリス・ステラ(f03202)と共に
絵馬に願いを書こうとする手が止まる。
何かを願うなんて事が無かったから、一体何を願えば良いのか分からない。
彼女に向けられた微笑みと絵馬の内容に、気取られぬほど微かに瞳を伏せた。
叶わない願い。
――いや、叶う願いなら別に願いである必要も無いのか。
それとも、叶わないからこそ願うのだろうか。
絵馬に筆を走らせる。
俺の願いは―――
「……どうしてだろうな」
はっきり言って興味は無い。
絵馬なんて好きにすれば良いとも思う。
「……光?」
だから彼女の言葉の意味は分からなかった。
彼女と繋がる手以上に冷めた心は、人の気持ちを解する事はない。
溜息を吐く。
幸せを願われる価値なんて無いのに。
●望みは遠く
参拝客が行き交う境内。
薄く積もった雪は新たな年を言祝いでいるようだ。
白く染まった景色の中、神社の授与所の片隅にて――マリス・ステラ(星を宿す者・f03202)と緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)は絵馬を受け取り、願いを記していた。
しかし、いざ絵馬に書こうとすると華乃音の手が止まる。
何かを願い、それを形にする。
そんなことは今までに無かったから一体何を願えば良いのか分からなかった。
「華乃音はどのような願いを?」
「いや、まだ書いていない」
隣のマリスから問いかけられた華乃音は首を横に振る。
マリスはそっと頷き、ゆっくりで良いですよと微笑んだ。けれどもマリスは、彼がそうした行為を忌避することを知っている。
それでもこれは任務だからと伝え、自分が書いた絵馬を彼に見せた。
『華乃音が幸せになれますように』
そのように記された絵馬にはマリスの心からの思いが書かれている。
華乃音は彼女に向けられた微笑みを受け、そして瞳に映した絵馬の内容を見て、気取られぬほど微かに瞳を伏せた。
叶わない願い。
(――いや、叶う願いなら別に願いである必要も無いのか)
それとも叶わないからこそ願うのだろうか。
言葉にはしない思いを胸に抱き、華乃音は絵馬に筆を走らせていった。
「俺の願いは――」
そして、二人は記し終わった絵馬を奉納場所へと掛ける。
其処から向かうのは境内の奥にある、ひっそりと佇む祠だ。マリスは華乃音へと手を伸ばし、いつものように彼の手に指先を絡める。
未だこうすることを彼は許してくれていた。
ひんやりとしていながらも、幽かに感じる彼のぬくもりを確かめたマリスは緩やかに歩を進めていく。
もっとも自分達は恋人ではない。
少なくとも彼にその意思はないことを知っているので、これは自分の我儘であるとマリスはよく解っていた。
――それを彼が赦してくれるまで、私はこうしていたい。
そっと己の裡に願いを抱いたマリスは静かな祠を見遣った。昼間であるがゆえに其処には悪しき者の気配は感じられない。
しかし、表の本殿や拝殿付近とは違って訪れる者のいない祠は少し寂しく思えた。
マリスは此処に現れるという白いかみさまを思い、華乃音に問う。
何故、彼の神は願いを集めるのか、その意味を。
「華乃音はどう思いますか?」
「……どうしてだろうな」
対する華乃音は、はっきり言って興味は無いのだと答えた。先程の絵馬も好きにすれば良いとも感じている。願いは人の胸の中にあるのだから、木の札でしかないそれを奪われようが何にもならないはずだ。
彼の答えを聞いたマリスはそういった考えも分かると頷いた。
願いは必ずしも美しいとは限らない。
欲望そのもの、都合のいい話という事もあるだろう。実際に見てきた奉納場所の絵馬にも私利私欲めいた願いが書かれているのが見えた。
けれど、だからこそ。
「皆、“光”を求めているのでしょうか……」
昏い夜を照らす灯火。
そして、ぬくもりを――。
マリスが零した言の葉を拾い、華乃音はちいさく首を傾げた。
「……光?」
彼女が紡いだ言葉の意味は分からなかった。
まだ繋がれている手。マリスは其処にぬくもりがあると言ってくれるが、華乃音は己の手が冷たいままだと感じている。そして、繋がる手以上に冷めきった心は人の気持ちを解する事はない。
華乃音は溜息を吐いた。
彼の吐息が白く染まっていく様を見つめ、マリスは祠の前で瞼を閉じる。静謐さを宿す仕草には、祈るような思いが籠められていた。
華乃音はそんな彼女の横顔を見遣り、音もなく肩を落とす。
――幸せを願われる価値なんて無いのに。
奉納された絵馬に記された願いを思い、華乃音もまた静かに双眸を閉じる。
二人の間を、冷たく静かな冬の風が吹き抜けていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朝日奈・祈里
真白い、かみさま、ね
何をしたいのか、何をするかはわからんが
ぼくがすべき事はわかる。
さぁ、はじめよう
おみくじを引こうか
結果は開けるまでわからん
まあどんな結果であれ、結び所には結ばず、持ち帰ろう
教訓が書いてあるからな。
おみくじって、おもしろい。
何事も戒めであり、教えである。
ざっとお守りを見て回る
たしか、自分で買うよりも貰う方が御利益あるんだっけかな
んー
絵馬か
願い事、と言うものはあまり思い浮かばん
叶えるのはぼくさまだし
…地味に悩むなぁ
【あたらしいとっきょのしゅとく】
これ、決意表明?
まあいいか。
頑張るから見ててくださいな、っと
高い所に括りたいからぴょこぴょこ
…うん、むりだ。
背伸びしてできる所に掛けよう
●伸ばした手の先に
雪のように白い、真白いかみさま。
伝え聞いた存在を思いながら雪の路を踏み締め、朝日奈・祈里(天才魔法使い・f21545)は参道を進む。今はもう、これまで馴染みのなかった雪の上を歩くのもそこそこ慣れてきている。
そして祈里は境内を見渡し、軽く肩を竦めた。
「何をしたいのか、何をするかはわからんが、ぼくがすべき事はわかる」
さぁ、はじめよう。
落とした言葉と共に祈里は歩を進め、拝殿へと向かってゆく。
先ず手始めに参拝を終わらせ、引くのは御神籤。六角形の箱を振り、出てきた棒に書かれている番号を見る。
「四十五番?」
その数字を授与所の巫女に告げると同じ数が記された棚から御神籤の紙が取り出された。結果はどうだろうかと覗き込んだ、其処には――。
中吉。
選んだ道を信じれば拓けるものあり。戸惑うことなかれ。
失せ物は出難し。然しいつか見つかる。学問は安心して勉学に励め。
そのようなことが記されている紙を眺め、祈里は感心する。
「これが教訓。おみくじって、おもしろい」
悪い結果ならば木の枝に結んでいくものらしいが、祈里は御神籤を結び所には結ばずに持ち帰ることにした。
何事も戒めであり、教えである。そう知っているからだ。
それから祈里は授与所に並べられているお守りを見て回った。
「たしか、自分で買うよりも貰う方が御利益あるんだっけかな」
高めに作ってある販売台に微妙に背が届かず、よいしょと顎を乗せる幼女。んー、と少し考え込む様子はとても愛らしく、参拝者が微笑ましげにその様子を見守っていた。
やがて祈里は絵馬を手に取る。
これは願い事を記すものだ。だが、そうは言うもののあまり思い浮かばない。
「叶えるのはぼくさまだし……地味に悩むなぁ」
筆を借りた祈里は暫し悩み、幼く歪な文字で絵馬に願いを書いた。
『あたらしいとっきょのしゅとく』
よし、と一度は頷いた祈里だが、不意に首を傾げる
「これ、決意表明?」
されど元々の絵馬は神様に自分の思いを報せるためのものだ。まあいいか、と気を取り直した祈里は奉納場所へと駆けていき、腕を伸ばす。
「頑張るから見ててくださいな、っと」
皆が掛けている場所に絵馬を飾りたかったが、どうにも位置が高い。
ぴょこぴょことジャンプしてみても届かない。何度か挑戦してみた祈里だが、幾度目かで諦めた。
「……うん、むりだ」
いくら天才でも物理的なものは覆せない。
祈里は思いきり背伸びをして、自分の手が届くせいっぱいの場所に絵馬を掛けようと頑張る。その姿を見ていた巫女が彼女を手伝いにくるのは、もう少しだけ後の話。
大成功
🔵🔵🔵
グァーネッツォ・リトゥルスムィス
真白の神が気になるが今は初詣を楽しむぞ
スタートダッシュの初手で一年の大半が決まるといっても過言じゃないからな
服装もエンパイアの一般的な着物に着替えて郷に入るぜ
初詣と言ったらやっぱりお御籤、度胸試しだぞ
いい結果には周りに迷惑かけないように静かにガッツポーズしちゃうぞ♪
悪い結果には感情を表に出さず表向きは冷静に、でもなるべく迅速に
その結果用のお守りを買っちゃうぜ
弱点も補ってこその戦士だからな
決しておみくじの結果にビビってないからな?(ドキドキ
一通り楽しんだらもう一つの目的の絵馬を書くぞ
色々願いたい事があるけど、一番叶えたい『帝竜に必ず勝つ』を
オレの名前と一緒に力強い筆跡で書いて奉納するぜ
●吉日に抱負を
真白の神は気になれど、今は賑わう祝いのひととき。
グァーネッツォ・リトゥルスムィス(超極の肉弾戦竜・f05124)は紅く艶やかな華が描かれた振り袖に身を包み、人々が行き交う参道を歩く。
「よし、今は初詣を楽しむぞ!」
年の初め、スタートダッシュで一年の大半が決まるといっても過言ではない。
そのことをよく心得ているグァーネッツォは明るい気持ちを持っている。始まりの日にいだく抱負や思いがきっと今年を彩る。
それゆえに暗い思いや後ろ向きな感情は持たないことにしている。
尤も、普段からのグァーネッツォも前だけを見ているのだけれど――。
そうして境内に入った彼女はお参りを行う。
二礼二拍、一礼。
周りの参拝客に倣ってしっかりと手を合わせ、本坪鈴を鳴らしたグァーネッツォは不思議と快い気持ちを覚えていた。
「うん、良い音だ」
きっと神社に鳴り響く柏手と鈴の音色にはたくさんの思いが宿っているからだ。
グァーネッツォは大きく頷き、次はお守りやお御籤を扱っている授与所へと歩を進めた。見れば様々な人が籤を引いて一喜一憂している。
初詣といえばやはりお御籤。
「度胸試しだぞ。ええと、結果は……?」
御神籤の箱を振って出てきたのは二十四番の棒。
その数字と同じ棚に入っている紙が巫女からグァーネッツォに渡されていく。どきどきとした気持ちを覚えながら、彼女はそっと紙を覗き込む。
大吉。
総合運、すべて好し。周囲の状況を確かめながら行動すれば吉が訪れる。
旅行は春先の旅立ちが良し。健康運は大いに問題なし。
「大吉って一番良いやつだよな。よしっ!」
振り袖が大きく揺れるほどに元気よくガッツポーズをしたグァーネッツォはとても嬉しげだ。もし悪い結果なら耐え忍ぼうと思っていたが、その必要もないほどに良い結果が訪れてくれた。
そうして上機嫌のまま、グァーネッツォはお守りを見に行く。
運は最高のようだが願掛けを重ねておくのも悪くない。それに此処で扱っているお守りに施された刺繍は、今着ている振り袖の華によく似ていた。
「今日を忘れないために買っておくのもいいかな」
御神籤の結果を忘れないためにも。きっとこのお守りを見れば一年の始まりの日のことを思い出すだろう。
グァーネッツォは一通り楽しんだ後、もうひとつの目的である絵馬を書く。
願いたいことはたくさんあるが、一番叶えたいのは――。
『帝竜に必ず勝つ』
自分の名前と共に力強い筆跡で記したグァーネッツォは強く頷いた。
そして、奉納された絵馬は一番高いところに掲げられる。
この思いが届き、自らの力で叶えられるように。願いは決意となり、グァーネッツォの胸に宿ってゆく。
大成功
🔵🔵🔵
絆・ゆい
くろば/f10471
漂わす苺香は常とたがわぬもの
甘やかな其れはあなたへの標となろう
一片の歌留多を託したあなた
あなたならば伝わるだろう
此処におるよ
この香を手繰り寄せてお出でませ
くろば
いつぞや以来、ね
なんと久しいこと
円月が眠らぬ夏季のこと
黎明を迎える頃合に邂逅したかしら
仄暗い視界にて映した濡羽色は陽光の元でいっとう輪郭を成す
あなたの名にふさわしいこと
よき色を宿しておるね
返書に宛てたのは一枚の歌留多
己が魂の一片をあなたとの契りとした
はら、大事にしてくださったの
ありがとさん
戻りし其れを己の内へと還す
祈願の絵馬へと何を記そか
この世の憂いは持ち合わせておらんの
ならば、ひとつ
――合縁奇縁
ぼくに相応しいでしょ
華折・黒羽
ゆいさん/f17917
一枚の歌留多と絵馬を手に
境内への道辿る
鳥居を潜ってからずっと鼻を掠める苺の香は
手招きするよに次第に強く
そして見つけた二度目ましてのカミサマ
ゆいさん
初めて遇った宵のあの時よりも
陽の下で見る笑みははっきりとその色を捉えることが出来る
神様の居る所であればまた遇えるだろうかと
小枝に結んで届けた文
まさか届くとは思わなかったけれど
側へと歩み進め持っていた歌留多を渡す
邂逅の証として
相手の手に握られた絵馬見れば
何を書いたのかは気になるけれど問いはせず
境内へ歩き出したその背についていこう
握る絵馬
記した綴は願いに非ず
己に誓った変わらぬ決意
過る笑顔は桜の下の、
─強くなって
あなたに必ず会いに行く
●逢縁
手にしたのは一枚の歌留多と絵馬。
境内への道を辿り、華折・黒羽(掬折・f10471)は歩みを進めていく。
鳥居を潜ってからずっと鼻を掠める苺の香は、手招きをするように次第に強くなっていた。そして、見つけたのは――二度目ましてのカミサマ。
絆・ゆい(ひらく歳華・f17917)は顔をあげ、彼の名を呼ぶ。
「くろば」
「ゆいさん」
黒羽も同様にその名を呼び返した。
漂わす苺香は常とたがわぬもの。それゆえに甘やかな香は彼を導く標となった。黒羽が、いつかに託した一片の歌留多を持っていることにゆいは目を細める。
「ああ、此処におるよ。いつぞや以来、ね。なんと久しいこと」
香を手繰り寄せて訪れた黒羽を歓迎するようにゆいは其方に歩み寄っていった。
白い雪の路。
あの日と違って今は昼日中。
陽の下で見るゆいの笑みは目映い。初めて遇った宵のあの時よりも、はっきりとその色を捉えられている。
そう、あれは円月が眠らぬ夏季のこと。
黎明を迎える頃合の邂逅。仄暗い視界にて映した黒羽の濡羽色もまた、今降り注ぐ陽光の元で輪郭を増していた。
「あなたの名にふさわしいこと。よき色を宿しておるね」
「いいえ、ゆいさんこそ」
黒羽は緩く首を振り、ゆいの抱く色も綺麗だと答える。
神様の居る所であればまた遇えるだろうか。小枝に結んで届けた文がまさか届くとは思っていなかったが、こうして出逢えたのもまた縁。
ふたたびの邂逅の証として、黒羽は持っていた歌留多を渡す。
返書に宛てられた歌留多は己が魂の一片。彼との契りとしたものだ。
「はら、大事にしてくださったの」
ありがとさん、と告げたゆいは戻りし其れを己の内へと還していった。そしてふと、黒羽はゆいの手に絵馬が握られていることに気がつく。
聞けば既に思いを記したのだという。
何を書いたのかは気になる。けれど今は問いはせず、黒羽は境内へ歩き出したゆいの背についていった。
薄く積もった雪の上を歩けば、二人分の足跡が刻まれる。
共に歩んでいることは不思議ではあったが、こうしているだけでも何故だか心地良い。それはきっとしんと冷えた冬の空気が快いからか。それとも、と考えた黒羽はゆいがひらひらと手招いていることに気が付いた。
「あなたも、願いを書いていかれるでしょ」
ゆいに誘われ、祈願の絵馬を掌に乗せた黒羽は僅かに俯いた。
「……何を、」
記すべきかと考える黒羽。するとゆいが手本を見せるように己の絵馬を示した。
「この世の憂いは持ち合わせておらんの。だから、ひとつ」
――合縁奇縁。
ぼくに相応しいでしょ、と見せた願いはとてもゆいらしい。
黒羽は双眸を穏やかに細め、自らも筆を絵馬に走らせていった。
――強くなって、あなたに必ず会いに行く。
書き終え、握る絵馬に記した綴は願いに非ず。己に誓った変わらぬ決意として持つものだ。其処に過る笑顔は桜の下の――。
「そ、ね。せっかくだもの、奉納していきましょ。目の届くところがいいかしら」
「はい、あちらに」
ゆいは黒羽の抱く決意を感じ取り、ゆるりと歩みはじめる。
頷きを返した彼もまた、静かな思いを抱きつつ奉納へと向かった。これが終われば、参道端の茶屋で振る舞われている甘酒でも頂こうか。
そんな風に語り、言の葉を紡ぎ乍ら――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
倫太郎殿と初詣に行きます
オブリビオン絡みのものであれ、新年のお参りは大事ですからね
彼と共にお参りを終え、次は件の絵馬
それにしても……願い事、ですか
エンパイアで何度も年を迎えているというのに
思い返せば、それらしい事をあまりしていなかったような気がして
いざ願い事を考えようにも、なかなか浮かばないものです
暫し考えた末に、筆を手に取って書くは
『家族にとって幸多き年になりますように』
今までの私では願えなかったものにしました
改めて文字にすると少し照れるものですね
倫太郎殿は何にされたのでしょう
おや、内緒ですか?
少し残念ですが、貴方の事ですから
私と同じく自分以外にも幸せを齎してくれるものなのでしょうね
篝・倫太郎
【華禱】
雪、結構積もってんだな……
夜彦と手を繋いでのんびりとお参りしてから
絵馬を書く
は!これ、人生初絵馬かも……!
夜彦!俺、初めてだわ、絵馬書くの
っと、思わずはしゃいだ……
うん、落ち着く
望むことなんて、まぁ……平凡な事になるのかな
『出来るだけ長く、大切な家族と一緒に居られますように』
家族、って書くと
なんかちょっと気恥ずかしいような気もするけど
事実だし……
俺以外は皆、ヤドリガミだから……
生きてきた時間、生きていく時間
その違いはどうやったってあるけど
出来るだけ長く
夜彦や子供達と一緒に過ごせたらいい
そう思うから
んー?俺の願い事は内緒
っと、お守り買ってこうぜ?
土産ないと子供達ががっかりするだろうし……
●想いは一緒に
共に並び歩き、参道をゆく。
冬特有の澄み切った空気を感じながら、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)と月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は繋いだ手を握りあう。
「雪、結構積もってんだな……」
「初詣に相応しい雰囲気ですね」
倫太郎が辺りを見渡すと、夜彦がそっと同意を示す。
此度のお参りはオブリビオン絡みのものだが、それはそれとして新年の挨拶も大切なものだ。のんびりと参道の先を目指した彼らは、軽くお参りをしてから絵馬を扱う授与所に向かっていった。
「それにしても……願い事、ですか」
夜彦はふと思う。
故郷でもあるこの世界で何度も新たな年を迎えているというのに、思い返せばそれらしい事をあまりしていなかったような気がする。
いざ願い事を考えようにもなかなか浮かばないものだ。
倫太郎は絵馬を受け取り、不意にはっとする。
「は! これ、人生初絵馬かも……!」
「おや、それは記念すべきことですね」
「夜彦! 俺、初めてだわ、絵馬書くの」
「ふふ、嬉しそうで何よりです」
「っと、思わずはしゃいだ……うん、落ち着く」
子供のように目を輝かせて絵馬を胸の前に掲げる倫太郎を見つめ、夜彦は微笑ましい気持ちを覚えた。普段は護り守られあう彼も、ひとたび平穏のなかに居ればこうして無邪気な面を見せてくれる。
ささやかなことだが、それはとても尊いことだ。
そして夜彦は暫し考えた末に筆を手に取り、絵馬に願いを書いていく。
『家族にとって幸多き年になりますように』
これは今までの自分では願えなかった事柄。改めて文字にすると少し照れる気もしたが、紛れもない願いだった。
同じく倫太郎も筆を手にして考える。
「望むことなんて、まぁ……平凡な事になるのかな」
そうして、記したのは――。
『出来るだけ長く、大切な家族と一緒に居られますように』
家族。
そう書くと気恥ずかしいような気もするが、これも事実だ。自分以外は皆ヤドリガミであるからこそ思う願い。
生きてきた時間、生きていく時間。たとえヤドリガミではなくても個人として過ごす時間の長さの違いはどうやったってあるだろう。
だから、出来るだけ長く。
夜彦や子供達と一緒に過ごせたらいい。そう、思うから。
倫太郎が裡に抱く思いには気付かぬまま、夜彦は傍らに問いかける。
「倫太郎殿は何にされたのでしょう」
「んー? 俺の願い事は内緒」
「おや、内緒ですか? 少し残念ですが……」
貴方の事ですから、自分以外にも幸せを齎してくれるものなのでしょう。そういって穏やかに微笑んだ夜彦は彼と共に絵馬を奉納しに向かった。
そして、倫太郎は授与所の方を振り返る。
「っと、奉納し終わったらお守り買ってこうぜ?」
「ええ、そうしましょうか」
「土産ないと子供達ががっかりするだろうし……」
そんな言葉を交わしながら、二人は歩いていく。この先もこうしてずっと、出来る限りの時間を過ごせるように――そっと、願い乍ら。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
水標・悠里
願いを集める神様
集めて叶えるのでしょうか
でも、どこか不思議な神様ですね
まずは本殿へ参拝
何分初めての参拝の手順は知らなかったので、事前に勉強してきました
うまくできるはず
ですが、まだ自信がありません
近くの参拝者の方に合わせながら、辿々しく礼をしたり柏手を打つちます
うまくできていると良いのですが……。
次は絵馬へ
願い事は『皆さんが幸せでありますように』
私の願い、欲は分かりませんでしたので
絵馬を描き終わったら少し離れて敵を警戒、という名目で境内の参拝者がどのように過ごしているかを眺めています
皆さん真剣に願い事をしている……。
気になるので絵馬を見に行きます
ありきたりな幸せを、私が願っても良いのでしょうか
●己の願いは
鳥居の朱色と雪の白。
そのふたつの色が混じりあう参道の景色は、何だかめでたいものに思えた。
水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)はゆっくりと雪を踏み締め、境内をゆく。
――願いを集める神様。
雪道を進みながら思うのは、この神社の裏手の祠に現れるという白い神のこと。
「集めて、叶えるのでしょうか」
悠里はちいさく呟き、何故に彼のひとがそうするのかを考える。
おそらくあの存在はこの神社に縁などないのだろう。偶然にも其処に顕現しただけのもの。何となくそう思えた。
でも、どこか不思議な神様だと思える。
されど此処で考えていても答えが出るわけでもない。悠里は気を引き締めながら、先ずは本殿へと参拝に向かう。
お参りは何分、初めての経験。
事前に勉強してきたので手順は大丈夫なはず。水場で手を清めてから、賽銭箱と本坪鈴の前に立った悠里は再拝二拍手一揖に則って参拝する。
「うまくできた、でしょうか」
まだ自信がないが近くの参拝者に合わせているのできっと大丈夫。辿々しい礼や柏手ではあったが、その心は社の神に伝わったはずだ。
そして、次は絵馬を受け取りに授与所へと歩を進める。筆と木札を手に取り、悠里は胸に懐く思いを記していく。
『皆さんが幸せでありますように』
その願い事は此処に集うたくさんの人々や、仲間へと向ける思いのかたち。自分の願いや欲はよく分からないので、願うのは皆のこと。
悠里は奉納場所に絵馬をそっと掛け、その片隅に佇む。
行き交う人々。
賑わう神社内には柏手や鈴の音がたえず鳴り響く。
皆が其々に違う思いを抱き、願っているのだと思うと尊く感じられた。参拝者がどのように過ごしているかを眺めているだけで実に興味深い。
「皆さん真剣に願い事をしている……」
何を願い、どんなことを祈ったのだろう。それがきっと記されているのだと感じた悠里は、改めて境内に奉納された絵馬を眺める。
家内安全。健康祈願。恋愛成就。
たくさんの思いが此処に集っている。それらは自分や近しい者のために願われているものが多く、悠里は不意にぽつりと零した。
「……ありきたりな幸せを、私が願っても良いのでしょうか」
鬼である自分が幸福を望む。それは――。
悠里は頭を振り、天を振り仰いだ。冬の空は澄んでいる。けれども何故か、自らの心の奥を示しているかのような空虚さも宿っているように思えてならなかった。
大成功
🔵🔵🔵
メリル・チェコット
ここがジンジャだね!
本物を見るのは初めてだなあ…変わった造りの建物…(キョロキョロと興味深げに辺りを見回して)
オブリビオンが出るって話だけど、夜までお仕事ないみたいだし、せっかくだから楽しんじゃおうっと。
あっ、おみくじ!おみくじ引きたい!
たしか大吉を当てるまで引けばいいんだっけ。がんばるぞ!
さて、絵馬には何を書こうかな。
特に叶えたいことも欲しいものもないなぁ……。
ここは普通に……今年も一年、わたしもお父さんもヒツジ達も、健康で元気に過ごせますように。
簡単なイラストも描いちゃおう。ネズミ耳のヒツジさん。
神様、よろしくお願いしますっ。
●光射す願い
「ここがジンジャだね!」
鳥居をくぐり鮮やかな紅いの建物に視線を巡らせる。
初めての場所、不思議な建物。
めずらしいものばかりの世界に瞳を輝かせ、メリル・チェコット(コットンキャンディ・f14836)は薄く積もった雪の参道を歩いていく。
「本物を見るのは初めてだなあ……変わった造りの建物……」
朱塗りの柱は白い雪景色の中でよく映えていた。
くるくる、きょろきょろと興味深げに境内の様子を眺めたメリルは楽しげだ。行き交う参拝者から軽く会釈をされると、メリルも笑顔でぺこりと頭を下げた。
知らない人であっても、こうしてちいさな挨拶が交わせることが嬉しい。
メリルは不思議と足取りが軽くなることを感じながら、皆が向かっている拝殿の方へ歩を進めていった。
「せっかくだから楽しんじゃおうっと」
オブリビオンが出るという話は聞いているけれど今は昼間。夜まではお仕事がないと思うとわくわくした気持ちの方が大きくなる。
メリルは参拝者が紙を広げて眺めている光景に気付き、わあ、と口許を綻ばせる。
「あっ、おみくじ! おみくじ引きたい!」
巫女がいる授与所へとぱたぱたと駆けていったメリルは興味津々。周囲の人に倣って六角形の御神籤箱を振ると、番号が描かれた棒が出てくる。
其処に書いてあったのは三十六番の数字。
「たしか大吉を当てるまで引けばいいんだっけ。がんばるぞ!」
番号の紙を巫女から受け取り、メリルは意気込む。
どきどきしながらひらいた紙に記されていたのは――。
大吉。
健康運は上々。待ち人は遅けれど来る。何事も善意を尽くせば幸は開かれる。
「やった、最初から大吉!」
幸先が良いと感じたメリルは大切に御神籤を眺めた。確か良い結果であれば境内に結んでいかなくてもいいらしい。
持って帰ろうと決めたメリルは、次に絵馬を書きに向かう。
「さて、何を書こうかな。特に叶えたいことも欲しいものもないなぁ……」
逼迫していないことは幸せの証。
メリルは、ここは普通にとこれからを思った願いを絵馬に記す。
『今年も一年、わたしもお父さんもヒツジ達も、健康で元気に過ごせますように』
書いた文字の横にネズミ耳がついたヒツジを描くメリル。その双眸が楽しげに緩められていく。うん、可愛い。そんな言葉と共に頷いた彼女は明るい笑顔を湛えた。
「神様、よろしくお願いしますっ」
メリルは空に向けて絵馬を掲げて願いを奉納する。
冬の日差しが雪上に降りそそぎ、反射する光はきらきらと煌めいていた。
大成功
🔵🔵🔵
フィオリーナ・フォルトナータ
神社へ赴き、お参りを
雪に足を取られぬよう気をつけながら、静謐な気配に触れてはため息ひとつ
とても…うつくしい場所ですね
ですが、この地を穢すオブリビオンには…ご退場頂かなくては
折角ですので運試しに御神籤を(結果お任せ)
神様にお会いするには、自分を願いを絵馬に書くのですよね?
まっさらな絵馬に書き込む願いはほんの少し考えて、やがて筆を走らせる
綴るは異国の言語。今は失われたわたくしの故郷の言葉
『世界を守るために何度でも、この剣を振るうことが叶いますように』
…願いというよりは、抱負になってしまったかしら?
けれど、想いは籠めたつもりです
指定の場所に奉納してからそっと手を合わせ
それから、散策を再開しましょう
●記す言の葉
冬の空気には静謐さが宿っている。
吐息まで透き通るように白く、足元も雪の色に染まっていた。
フィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)は淡い日差しに照らされた鳥居を振り仰ぎ、溜息を零す。
「とても……うつくしい場所ですね」
感嘆の言の葉を紡ぐフィオリーナは空色の眸を幾度か瞬いた。
雪の景色に映える紅い鳥居と社殿。
紅と白の組み合わせはハレの彩であり、新たな年を祝うこの時期に相応しい色合いに思えた。だが、此処にはこの地を穢すオブリビオンが潜んでいるという。
「……悪しきものなら、ご退場頂かなくてはいけませんね」
そっと決意を胸に抱く。
フィオリーナは進む先に見えてきた手水舎に寄り、拝礼の前に身を清めた。掌に触れる冷たい水もまた気を引き締めてくれるようで心地良い。
そして、向かう先は拝殿。
降り積もった雪に足を取られぬように。静かに歩んでいったフィオリーナは周囲の参拝客に倣って手を合わせた後、本坪鈴に手を掛けた。
からん、と鳴る鈴の音からも神聖な響きが感じられる。
参拝を終えたフィオリーナは社務所から続く授与所へと歩いていった。折角だから運試しに御神籤を、と考えた彼女は御神籤棒の入った箱をからからと振る。
「五十番ですね。ええと……」
出てきた棒に書かれていた番号を告げると、巫女が棚からその番号の御籤を取り出した。そっと受け取ったフィオリーナは神妙に頷き、記されている文字に視線を落とす。
末吉。
願い事はあわてねば叶う。旅立ちは差し支えなく、往くならば春先が佳い。気を強く持てば何事も上手く巡る。
「――良かった」
そのように書かれていた御神籤の内容が悪いものでなかったことにほっとして、フィオリーナはこれから巡る春に思いを馳せた。
それから、彼女は願いを記すために絵馬を受け取る。
未だまっさらな絵馬に書き込む願いは何にしようか。ほんの少し考え込んだフィオリーナは暫し後、筆を走らせはじめた。
其処に綴るは異国の文字。
今は失われた――フィオリーナの故郷の言葉。
『世界を守るために何度でも、この剣を振るうことが叶いますように』
それが今の願いだ。
「抱負になってしまったかしら?」
けれども、きっとこれで良い。想いを籠めた文字を見つめたフィオリーナはちいさく頷き、奉納場所へと絵馬を掛けた。
不意に吹き抜けた風を受けて揺れる、願いの証。其処にそっと手を合わせて祈る。
そうしてフィオリーナは歩き出した。
今は暫し、白と紅が彩る心地を確かめながら散策をしよう。
そうすればきっとこの身も心も、願う未来に向けて進める気がするから――。
大成功
🔵🔵🔵
鶴澤・白雪
初詣っていつまでだったかしら
まぁいいわ、参拝の作法とかもう忘れたけどせっかくだし純粋に楽しむわ
去年はバタバタしてて初詣なんてしてる暇なかったのよね
ちゃんとした神社で初詣って初めてだわ
神社なら二拝二拍手一拝よね、確か
お賽銭を入れて1年無事過ごせたことを感謝する
作法は適当だけど神様なら大目に見てちょうだい
あとは絵馬ね
こっちが本命だから忘れちゃダメだわ
自分の願い
いつだってこれしかないわ
『あたしに幸せをくれる人達が幸福な世界でありますように
また1年無事に過ごしてくれますように』
これを奉納しに行けばいいわけね
神様への願いの届け方って色々あるのね
七夕の短冊みたいだわ
あとは夜になってからのお楽しみね
●願いが重なるところ
初詣。
それは年が明けてから初めて、神社や寺院などに参拝すること。一年の感謝を捧げて新年の無事と平穏を祈願する行事だ。ということは――。
「初めて参ればそれが初詣で良かったかしら」
鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)は雪に彩られた参道を歩き、首を傾げる。そして、まぁいいわ、と雪景色を眺めた白雪は拝殿へと向かっていく。
思えば参拝の作法も忘れてしまった。
けれども折角だ、純粋に楽しむ時間として今を過ごそうと思える。
「ちゃんとした神社で初詣って初めてだわ」
確か去年はバタバタしていて初詣なんてしている暇はなかった。旧年の今頃と比べると今はなんと穏やかなことか。
白雪は敢えてゆっくりと歩を進め、参拝客が行き交う姿を眺めていた。
やがて拝殿前に着き、白雪は本坪鈴を軽く振り仰ぐ。
「神社なら確か……」
二拝二拍手一拝よね、と思い返した白雪はお賽銭を入れ、一年を無事過ごせたことへの感謝を抱く。作法は適当ではあるがこの気持ちに偽りはない。
柏手と鈴の音は快く、辺りに響き渡った。
「神様なら大目に見てちょうだいね」
いいでしょ、と双眸を細めた白雪は参拝を恙無く終える。
そうすれば後は願いを記しに行くだけ。
授与所にいた巫女から絵馬を受け取った白雪は筆を借り、ちいさく頷く。
「こっちが本命だから忘れちゃダメだわ」
願いを集めるという神に逢う為にも多くの願いを奉納したほうが良い。そうすればきっと道は開ける。
自分の願いはいつだってこれしかない。
――あたしに幸せをくれる人達が幸福な世界でありますように。
――また一年、無事に過ごしてくれますように。
筆を置いた白雪は軽く息を吐く。
白く染まった空気も今は何だか心地よく思える。そう感じたのはきっとこの胸の思いがいつも揺らがぬままだからだ。
「これを奉納しに行けばいいわけね」
先程は祈祷。今度は奉納。
神様への願いの届け方は様々だ。その違いもまた面白いものだと思い、白雪はたくさんの絵馬が掛けられた奉納場所を見つめる。
様々な願いが記されている光景が何かに似ていると思い、白雪ははたとする。
「七夕の短冊みたいだわ」
数多の願いが重ねられている風景はきっと良いこと。
あとは夜になってからのお楽しみだとして、白雪は境内の散策へと踏み出した。
大成功
🔵🔵🔵
泉宮・瑠碧
【🍪】ユヴェンと
シンプルな振袖を着て初詣
…初めて着たが
この服なら僕が並んでも大丈夫だと良いな…
羞恥で顔が見られないけれど…あ、ありがとう…
僕はA&W出身だが参拝はした事がある
鳥居は入り口らしいぞと前で一礼し
中央は歩かない様にユヴェンの裾を引こう
…裾は名残惜しみつつ離す
手水舎へ誘い
柄杓を示して手と口を清め
賽銭を納めて鈴を鳴らせば
二礼二拍手一礼は先にやってみる
人々を見守ってくれる感謝を籠めて
終えたら絵馬へ
願いが思い付かない…ユヴェンは?
ユヴェンの絵馬を見て、つい笑う
そうだな、それは僕も嬉しい
自分は『頑張って守る』と書こう
…今なら小さな祠の方も行けるかな
寂しいのは悲しいから
お祈りだけでもしたくて…
ユヴェン・ポシェット
【🍪】泉宮と初詣
泉宮の普段とは異なる装いが新鮮でじっと見つめる
その様な格好もするんだな…と。
その、よく似合っている
神社に来る事はあったが、こうして参拝とやらをするのは初めてだ
泉宮はよく知っているのな
鳥居の前で一度頭を下げるとは知らなかった
裾を引かれ少し驚きつつ、彼女に沿う様に道の端へ
手水舎や参拝でも泉宮の流れる所作に感心しつつ見様見真似で自身もやってみる
二礼二拍手一礼…?この動きは見た事があるな
絵馬な…願いなど無いのだが
俺もだ。何と書くか悩んでしまうな
暫し考え、書いたのは『元気に生きる』
ミヌレ達仲間と元気であるのが一番だな、と。
…祠か、そうだな
そちらにも行ってみようか。
俺も気になるしな
●静けさの中で
雪道に映える彩は淡い青を基調とした振り袖。
泉宮・瑠碧(月白・f04280)が身に纏う着物に目を向け、ユヴェン・ポシェット(Boulder・f01669)は双眸を細めた。
「その様な格好もするんだな」
「ええと、似合わないだろうか……?」
共に初詣に訪れている現状、瑠碧は胸がそわつくような感慨を覚えていた。ユヴェンの声は聞こえているが、羞恥で顔が見られない。
(初めて着たが……この服なら僕が並んでも大丈夫だと良いな……)
けれども彼の声は柔らかく、否定の意思を持っているようには聞こえなかった。寧ろその逆、ユヴェンは彼女の装いを新鮮に感じている。
「その、よく似合っている」
「……あ、ありがとう……」
彼の言葉に対し、頬を押さえた瑠碧は礼を告げた。似合っていないわけではないのなら一安心だ。照れてしまいそうな気持ちを切り替え、瑠碧はユヴェンと共に神社の鳥居前へと向かっていった。
「神社に来る事はあったが、こうして参拝とやらをするのは初めてだ」
「僕は参拝をしたことがある。鳥居は入り口らしいぞ」
そういって瑠碧は一礼する。
「なるほど、泉宮はよく知っているのな」
ユヴェンも倣って頭を下げ、次はどうすれば良いのかと問うように瑠碧を見遣った。すると瑠碧はユヴェンの袖を引き、こっちだ、と端を示す。
「中央は神様の通り道だから端を通るんだ」
「ああ、わかった」
裾を引かれ少し驚きはしたが、ユヴェンは彼女に沿って道の端へ向かった。通り終えた後、瑠碧は少しだけ名残惜しく感じながらも袖を離す。
参道を歩く二人の間に流れる空気は穏やかだ。
そして瑠碧はユヴェンを手水舎へ誘う。
「ここではこうするんだ」
「そうか、これがお清めというものか」
柄杓を示し、手と口を清めれば神様への挨拶の準備は万端。ユヴェンは見様見真似ながらも丁寧に身を清め、先をゆく瑠碧の後についていく。
それから賽銭を納めて二拝二拍手一礼。
本坪鈴を鳴らせば快い音が辺りに響く。この動きは見たことがあると感じたユヴェンも、瑠碧と一緒に手を合わせた。
この地に祀られた神へ。
此処で人々を見守ってくれている感謝を籠めて祈願する。それはとても神聖で大切なことのように思えた。
「さあ、次は絵馬に願いを書きに行こう」
「絵馬な……願いなど無いのだが」
この後に巡る事柄を思えば書いておくに越したことはない。授与所でそれぞれに巫女から絵馬を受け取った二人は暫し、記す願いについて考え込む。
「願いが思い付かないな……ユヴェンは?」
「俺もだ。何と書くか悩んでしまったが、一応は決めてみた」
瑠碧の問いに首を振ったユヴェンは筆を手に取り、さらさらと思いを書いていった。
『元気に生きる』
それは願いというよりも宣言だ。
されど絵馬は自分の志を神に報告するものでもある。ユヴェンの絵馬を見てつい笑ってしまった瑠碧だが、それも素晴らしいことだと感じた。
『頑張って守る』
瑠碧は彼に倣い、自分の中にある思いをそのように記す。
「ミヌレ達も仲間も元気であるのが一番だと思ってな」
「そうだな、それは僕も嬉しい」
微笑みを交わしあった二人は絵馬を奉納場所に収め、参道の奥に向かった。その目的は白き神が現れるという祠に行くためだ。
「……今なら小さな祠の方も行けるかな。まだ何も起こらないだろうけれど」
「そうだな。そちらにも参ってみようか」
寂しいのは悲しいから、お祈りだけでもしたくて――。
そんな風に語る瑠碧に頷きを返したユヴェンは、俺も気になる、と伝えた。
そうして二人は共に歩いていく。
ひっそりとした寂しげな祠の前で何を思い、その先にどのような思いを巡らせたのか。それはその場に向かった二人だけが知ることだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花剣・耀子
お参りに行きましょう。
拝殿の前で二礼二拍手。
今日はただいまのご挨拶をしに来ただけよ。
それと、元気でやっていますのご報告。
……他に言う宛もないもの。かみさまに聞いて貰いましょう。
おうちが別の世界にあったって、生まれ故郷であることに変わりは無いもの。
この世界に帰る場所がなくたって、里帰りなのだわ。
一礼して、おしまい。
願い。思い。……うぅん。
叶えられることは、自分で叶えるもの。
だから、願を掛けるならあたしの手に及ばないことを。
来年度の予算――……、……、…………否。
もうちょっとくらいは夢のあることにしましょう。
そうね。みんな元気であると良い。
絵馬に認めるのは一筆、『無病息災』
佳い一年でありますよう。
●畫く願い
二礼二拍手の後、瞼を閉じる。
――ただいま。
胸の裡だけでそんな言葉を紡いだ花剣・耀子(Tempest・f12822)は瞳をひらいた。今日のお参りはそのご挨拶と、元気でやっていますというご報告。
本坪鈴は敢えて何度も鳴らさず、一礼しておしまい。
「……他に言う宛もないものね」
だから、かみさまに聞いて貰っただけ。
こういった挨拶でも許されることは知っているし、耀子もそれで良いと思っている。
「おうちが別の世界にあったって、生まれ故郷であることに変わりは無いものね」
そう、この世界に帰る場所がなくたってこれは里帰り。
耀子はそっと拝殿から離れ、絵馬やお守り、御神籤を扱う授与所に向かっていく。
そのときちょうど前の人が大吉を引いているのが見えた。
何となく気になった耀子は絵馬を書くついでに御神籤でも引いてみようかと思い立つ。以前に別の世界の廃神社で貰った御神籤もあったが、これは今年の分だ。
引いたのは二十二番と書かれた棒。
その番号と同じ数字が振ってある棚から取り出された紙をそっと覗き込む。
中吉。
待ち人は必ず来る。願望は途中に困難あり。旅行はおこないを慎めば吉。
「これが今年の運勢ね。少し良くなったのかしら」
そこそこね、と双眸を緩めた耀子は御神籤を境内の枝に結んだ。
引き終わったならば次は絵馬だ。
願い。思い。
「……うぅん、いざとなると難しいものね」
叶えられることは、自分で叶える。
願掛けが悪いことだとは思っていないが、今の耀子は手の届く願いを叶えてくれる対象を必要としていない。
だから、願を掛けるなら自分の手に及ばないことが良い。
「来年度の予算――……、……、…………」
否。
借りた筆で文字を書きかけ、耀子は首を横に振った。確かに土蜘蛛内での予算は己の及ばぬところであり、ある種の望みだが、これでは金銭を要求していることになる。
「そうね、もうちょっとくらいは夢のあることにしましょう」
耀子は去年の出来事を思い返す。
思えば色々なことがあった。皆と過ごし、仲間と戦った日々。だから、みんなが元気であると良いと感じた思いをそのまま願いにしようと思えた。
そして、絵馬に認めるのは一筆。
『無病息災』
託す願いはただひとつ。
どうか、みんなにとって佳い一年でありますように――。
大成功
🔵🔵🔵
ノイ・フォルミード
新年をサムライエンパイアで過ごすのも
初詣をするのもはじめてだ
それにこれが雪か
噂通り、センサーが摂氏0度以下を示しているね
白くてキラキラ……綺麗だな
機械の私に信じる神はいないが
それでも機体がピンと伸びる様な、そんな気配がある
先ずはお参りを
確か、縁担ぎに5円を入れたりもするんだってね?
ちゃあんと用意しておいたよ、ふふふ
その後はカチカチと拍手……あれ、2回?3回?
まあ、きっと気持ちが大事だ
絵馬には先ほどの願いと同じ事を
『「彼女」がはやく目覚めます様に』
此処はとても綺麗な所だよ
君も起きたら、きっと気に入ると思うんだ
この地に住まう神ならば、この願いも叶えられるのかな
●ただ、君のことを
新年に初詣。
そしてこの世界で過ごすこと。
今という時は初めてと新しいことばかりに囲まれているのだと感じながら、ノイ・フォルミード(恋煩いのスケアクロウ・f21803)は神社の鳥居をくぐる。
「綺麗な色だ」
朱色の建造物は鮮やかながらも和を思わせる落ち着いた色合いだ。それに、と地面に双眼を向けたノイは降り積もった雪を見つめる。
「なるほどね、これが雪か」
噂と情報通り、センサーが雪の温度を示していた。しかしそれ以上に感じたのは熱の有無ではなく、冬の薄い日差しを反射して光る雪の彩。
「白くてキラキラ……綺麗だな」
さくり、さくりと機械の脚で雪を踏み締めて歩くノイは不思議な思いを抱えていた。
機械の自分に信じる神はいない。
だが、それでもこの静謐さと賑わしさを同時に宿す神域にいると機体がピンと伸びる様な、そんな気配を覚えた。
不思議だと感じながらもノイは歩を進めていく。
何よりも先ずはお参り。
「確か、縁担ぎに五円を入れたりもするんだってね?」
ご縁と五円。
円の貨幣がある世界では験担ぎにそうするのだという。ノイはこの世界の貨幣を手にして、賽銭箱の前に向かう。
「ちゃあんと用意しておいたよ、ふふふ」
そっと投げ入れれば、ちゃりんと快い音がした。
その後は両の手を合わせて拍手をしようと試みる。しかし、肝心の何回分だけ手を叩くかを忘れてしまった。
「……あれ、二回? 三回? まあ、きっと気持ちが大事だ」
ゆらりと麦藁帽を揺らし、ノイはカチカチと手を鳴らす。そうして本坪鈴をからからと鳴らしてお参りは終わり。
境内の授与所で絵馬が貰えると聞き、ノイは其方に歩みを進めていく。
筆を借り、記すのは先ほどの参拝の時に籠めた願いと同じこと。
『「彼女」がはやく目覚めます様に』
ご縁があるように、と願ったのも彼女のことを思ったからだ。ノイは奉納場所の少し高いところに腕を伸ばし、絵馬をそっと掛けた。
そして、参道を行き交う人々や紅の建物、足元の雪を見回してみる。
「此処はとても綺麗な所だよ」
――君も起きたら、きっと気に入ると思うんだ。
彼女への思いを抱いたノイは暫し境内の光景を眺めていた。
何処か遠い目をしたような雰囲気を纏ったノイは、彼女のことを考えてから足元の雪に手を伸ばしてみる。
この地に住まう神ならばこの願いも叶えられるのだろうか。
何処か寂しいようなこころを懐い乍ら、そっと――。
大成功
🔵🔵🔵
呉羽・伊織
景近f10122と
物好きなのはお互いサマだろ?
お前こそよくついてくる気になったなーって話になるぜ
…って何その余計なお世話!
兎も角だ!
まぁ偶にゃ良いだろ、こーいうのも
(ソレ言ったらオレも曰く付きのシロモノだしな~、なんて軽く笑いつつ、雪化粧纏う朱塗社殿や紅梅を楽しみ――)
そう、コレもシゴトの内――華やぐ晴着や清い千早に目移りするのも英気を養う一環
オレは至って真面目にシゴトに励む準備を…まって今のは半分冗談だからそんな笑顔ヤメテ!
(気を取り直して存外静かに参拝終え)
で、絵馬なー
願掛けなんて性分じゃないが、さて――
いやだから余計なお世話は良いっての!
でも、そーだな――何か示すなら
(縁を、大事にする)
百鬼・景近
伊織f03578と
――このハレの場に俺みたいなのを連れようなんて、君も本当に物好きだね
あぁ、ついてきた理由?
何となく一人放っておくのは可哀想だったから…あと君の素行監視を頼まれたのもあるね
正直、不吉染みた俺が訪れて良いものかと悩みもしたけど――あぁ、こういう空気に触れるのも悪くないな
(華やぐ境内や紅白の彩にそっと目を細め)
それにこの空気を護る大事な仕事もあるし、ね
(続く伊織の言葉には、可哀想なものでも見る様に静かに笑顔向け)
…半分?
(何はともあれ参拝済ませ)
俺も神頼みという性格ではないけど…そうだな
強いて何か願うなら――伊織の縁結び?
…駄目?
…なら
“今年もぼちぼち、気楽な日々を”としておこうか
●気楽な縁
「このハレの場に俺みたいなのを連れようなんてね」
新年を祝い、願いを掛けに訪れる神社の参道にて、百鬼・景近(化野・f10122)は傍らを歩く呉羽・伊織(翳・f03578)の横顔を見遣った。
君も本当に物好きだね、なんて言葉が彼から聞こえ、伊織は軽く片目を閉じた。
「物好きなのはお互いサマだろ?」
だから気にすることはないと言いながら伊織は景近へ更に言葉を続ける。
「それなら、お前こそよくついてくる気になったなーって話になるぜ」
「あぁ、ついてきた理由? 何となく一人放っておくのは可哀想だったから……あと君の素行監視を頼まれたのもあるね」
「何その余計なお世話!」
対する景近の返答は予想外のものだった。素行かぁ、と項垂れた彼は気を取り直し、兎も角だ! と人々が行き交う境内に目を向ける。
「まぁ偶にゃ良いだろ、こーいうのも」
「正直、不吉染みた俺が訪れて良いものかと悩みもしたけど――あぁ、こういう空気に触れるのも悪くないな」
景近は華やぐ境内や、神社が宿す紅と雪の白き彩にそっと目を細めた。
そうそう、と伊織もめでたき景色を眺めてから軽く告げる。ソレ言ったらオレも曰く付きのシロモノだしな、なんて笑った彼は、雪化粧を纏う朱塗りの社殿を瞳に映す。
遠くには紅梅も見える。
好い雰囲気だと感じていると、景近も良いものだと同意を示す。
「それにこの空気を護る大事な仕事もあるし、ね」
「そう、コレもシゴトの内!」
華やぐ晴着や清い千早に目移りするのも英気を養う一環。そんなことを伊織が言っているものだから、景近は肩を竦めた。
まるで可哀想なものでも見るような、静かに笑顔が向けられている。
「オレは至って真面目にシゴトに励む準備を……まって今のは半分冗談だからそんな笑顔ヤメテ!」
「……半分?」
景近は返ってきた言葉に疑問を覚えたが、これ以上は突っ込まないでおいた。それがいま示すことができる最大限の優しさだったからだ。
そんな遣り取りをしてから暫く。
手水舎に寄り、拝殿に辿り着いた二人は参拝を終えた。
気を取り直した伊織は存外に大人しく作法に則ってお参りを行い、景近も静かに手を合わせてから拝殿から離れる。
其処から目指すのは絵馬やお守りを扱う社務所だ。
「で、絵馬なー」
「願いを書いておくんだったか」
「願掛けなんて性分じゃないが、さて――」
絵馬を渡してくれた巫女さんに笑みを向けた伊織。だが、巫女は特に何も気はないようで極々普通に流れ作業的な雰囲気で景近に絵馬を手渡す。
そんな伊織を見た景近はふと思い立った。
「俺も神頼みという性格ではないけど……そうだな、決めた。強いて何か願うなら――伊織の縁結び?」
「いやだから余計なお世話は良いっての!」
「……駄目?」
「あ、いや願ってくれるなら吝かではないケド。もっと他にあるだろ!」
「……なら、どうするか」
伊織に止められたので一先ず縁結びの願いは止めておいた。だが、景近が考えを巡らせる中で伊織はそっと頷く。
「でも、そーだな――何か示すなら」
景近の隣で伊織は筆を絵馬に走らせていく。そんな中で景近も書くことを見つけたらしく、さらさらと文字を書いていった。
敢えて願いを記すならば、そう――。
『縁を、大事にする』
『今年もぼちぼち、気楽な日々を』
ふたつの願いは形となり、やがて数多の絵馬が掛かる場所へと奉納された。
願いではなく、これは志を記すもの。
はからずして絵馬本来の使い方をした彼らは何気なく歩き出した。その先には茶屋があり、どうやら新年を祝う甘酒の振る舞いを行っているらしい。
言葉はなくとも景近と伊織が歩を進める先は同じ。
快い笑みと視線を重ね、彼らは暫しの穏やかなひとときを楽しみに向かった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蘭・七結
悪しき噂を耳にしたの
和国に降り立った眞白の彩が
あなたの残滓が、暗躍をするのだと
ある日突然柘榴の彩が爆ぜた
眼前で散り散りに砕けたの
その時、その瞬間から
あなたを降ろす能を失った
あなたの聲がきこえない
あなたの姿がみえなくて
ずうとずうと求めていたの
やっと、みつけた
あなたの手掛かりを
ナユは心の奥底から歓喜する
“どうしたいか”
そんな事は、わからない
心に燃ゆる想いはひとつ
あなたはわたしを焦がし続ける
この戀はナユを突き動かすの
幾度季節が廻ろうと
ずうと変わらない想い
『あなたがすき それが全て』
想い綴った絵馬は胸の中へ
“神様”にあげない
この想いはナユだけのもの
ねえ、あなたに逢いたいわ
あなたの元へと導いてちょうだい
●盲戀
薄紅が咲き、藤色が連なり舞うあの日、あの場所で戀に堕ちた。
胸に残る記憶のいろは、“あか”。
蘭・七結(戀紅・f00421)は今も焼き付いて離れぬ鮮烈で眞白な俤を思い、雪色に染まった路を歩いてゆく。この心に在るのは、いまも『あなた』のことばかり。
然れど悪しき噂を耳にした。
和国に降り立った眞白の彩が――あなたの姿が、視えたのだと。
ある日、突然に柘榴の彩が爆ぜた。
嘆願はあかくひずみ、散り散りになった。指輪がこわれたのもまた予兆だったのかもしれない。眼前で砕けたその時、その瞬間から、あなたを降ろす力を失ってしまった。
「――さま、」
七結は戀したひとを呼ぶ。こたえてくれる者はまだ、何処にもいない。
あなたの聲がきこえない。
あなたの姿がみえない。
ずうとずうと求めていたのに、ずうと――。
けれど。やっと、みつけた。
金糸雀の彩がもう何処にもみえなくても、其れはあなたの残滓。
「ナユはね、嬉しいの」
あなたは誰なの、と問いたい心もあった。
それでも手掛かりを見つけたことが何よりも先に立ち、心の奥底から歓喜する気持ちが深く巡った。
あなたに逢って“どうしたいか”。そんな事は、未だわからない儘。
心に燃ゆる想いはひとつしかない。
今も、あのあかい血を慾の儘に喰らい、貪ったときから。
否、戀をしたときからあなたはわたしを焦がし続ける。
雪のように白く、すべてを包み込むような微笑み。最期まで戀鬼へと笑んだあの瞳も、聲も、忘れたことなんて一度もなかった。
七結はいつかの時のように、爆ぜた柘榴石を閉じ込めた小瓶をぎゅうと握る。
「この戀はナユを突き動かすの」
其れは幾度季節が廻ろうと揺るがず、変わらない想い。
境内に佇み、絵馬を手にした七結は唯一つの懐いを其処に記した。
『あなたがすき それが全て』
想いを綴った絵馬を奉納などしない。己の胸の中へ仕舞い込み、七結は眸を閉じる。
“神様”にはあげない。
未だほしいと想うが故。この想いは自分だけの、ナユだけのもの。
そう独り言ちた七結は朱色の境内を瞳に映し、今は遠き『あなた』を呼ぶ。
「ねえ、あなたに逢いたいわ」
嘗ての渇欲が蘇り、花嵐を懐わせる幽かな笑みが其処に咲いた。
どうか導いてちょうだい。
わたしは、ナユは、今だってあなただけを求めているのだから。
いつしか刻は逢魔が時を過ぎていた。薄い夕色を宿しはじめた空には徐々に宵の帳が落とされてゆく。絵馬を仕舞い込んでから両手で握っていた掌上の鳥籠。其処から片手を離し、伸ばした掌は天に向けられる。
その先には、暮れなずむ空を翔けていく鳥の影が視えた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『ぶんちょうさま』
|
POW : 文鳥三種目白押し
【白文鳥】【桜文鳥】【シナモン文鳥】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD : 文鳥の海
【沢山の文鳥】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 魅惑の視線
【つぶらな瞳】を向けた対象に、【嘴】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:橡こりす
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●願いを持ち去るもの
逢魔ヶ刻が訪れ、宵の帳が下りていく。
昼間の賑わいは既になく、人気のなくなった拝殿の横。奉納場所に掛けられた願いの絵馬が夜風を受けて微かに揺れた。
其処に現れたのは白くてまあるい何かの影。
ちゅちゅん。
そんな鳴き声が響いたかと思うと奉納場所に更なる影が幾つもが飛んできた。その正体は件の神の配下である『ぶんちょうさま』と呼ばれる鳥型の魑魅魍魎だ。
文鳥たちは絵馬を台から取り外し、嘴で咥える。
其処には猟兵達が書いた絵馬もあれば一般の参拝客が記した絵馬もある。
ちいさな羽を羽ばたかせ、絵馬を何処かに運ぶ為に飛び立った。きっとあの願いの絵馬を眞白の神に届けに行くのだ。猟兵達はぶんちょうさまたちを止めるべくして、その後を追う。
そして――。
眞白の神性が現れるという祠の手前。
まだ祠には届き得ぬ細い道の最中、猟兵達は文鳥と対峙することになる。
ちゅんちゅん、と威嚇の声をあげたぶんちょうさまたちは連携して猟兵に攻撃を仕掛けてくるだろう。
それと同時に、隙を見て絵馬を運ぼうとすることも予想できる。
咥えられた絵馬が神の元に届けられればその力が強くなることが分かっていた。そうさせぬためにも猟兵は文鳥達を此処で阻止して倒さねばならない。
そうして今、神に仕える彼らとの戦いが始まる。
蘭・七結
宵の帳が降りる
嗚呼、もう直ぐ
あなたに逢うことが出来るわ
眞白い御遣いたちが視える
存在を秘めることも隠れることもしない
遣いを追って、かの社の方へと
この胸を占めるのは――羨望
あの御方に遣えるあなたたちを
心の奥底から羨慕する
“天からの奪略”
『かみさま』の御遣いさん
願いの依代を返してちょうだいな
両の手には彼岸と此岸の残華
嘗てあなたが守護をした護刀
生命力吸収の能を付与し峰打ちを
残った御遣いの元へと寄って
交換しましょう、と交渉を
絵馬に代わってこれをあげるわ
ナユの想いすべてを綴ったもの
“神様”ではなくて
ナユの『かみさま』へあげる
辿り着くまで見届けましょう
あの御方へと伝えてちょうだい
ナユは、あなたに逢いに来たと
●御遣いの意思
彼のひとは、『あの子』の慾を叶えた。
やさしく微笑んで願いを成したから。
きっとそれが彼のひとの望みであり願いだった。
けれども、今の彼のひとは微笑んではいても笑っていない。
あかいあかい、その眸だけはつめたいまま。
だから願いを集めよう。望みを叶える手伝いをしよう。
そうすれば彼のひとは――『かみさま』は、本当に笑ってくれるはずだから。
●戀情の炎
宵の帳が降り、昏く染まる夜の最中。
其処に飛ぶ鳥の色はとても際立ってみえる。七結はその後を追いながら、『かみさま』への想いを馳せていた。
嗚呼、もう直ぐ。
もう直ぐで、あなたに逢うことが出来る。
何処か逸る気持ちが胸の裡に宿り、仄かな熱がその身に巡っていた。
七結は眞白い御遣いたちを見据える。
彼らを追う際に、存在を秘めることも隠れることもしない。かの社の方へ、その心が導くままに七結は進む。
細い道に差し掛かったとき、文鳥たちが七結の方に振り返った。
――邪魔するなら、きみであっても容赦はしない。
そのような雰囲気を感じさせる御使いたちの眼差しと、七結の視線が交錯した。絵馬を眞白の神に運ぶ彼ら、その姿を見た七結の胸には或る感情が宿っている。
裡を占めるのは羨望。
あの御方に遣える彼らへ、心の奥底から羨慕する七結は双眸をゆるやかに細めた。
穏やかな佇まいながらも彼女の中には戀の炎を懐わせるほどの熱がある。そして、掌を御使いに伸ばした七結はその力を発動させてゆく。
「ねえ、『かみさま』の御遣いさん」
そう呼びかければ、牡丹の花が見る間に周囲に咲く。
果てたココロを寄せて集めて、夜の底でうまれかわる華。そう――この一華は、いのちよりも重いもの。
「願いの依代を返してちょうだいな」
七結の両の手には彼岸と此岸の残華が握られている。
それは嘗て彼のひとが守護した護刀、鬼殺しの双刀。其処に命を吸い取る力を宿して振るえば、文鳥たちが次々と倒れていく。
だが、敢えて七結は一体を仕留めずにいた。
ちいさく鳴いた御使いの元に歩み寄った七結はそれが持っていた絵馬を拾いあげる。
「交換しましょう」
その絵馬の代わりに七結が御使いに渡したのは自分が記した木札。
己の想いすべてを綴ったもの。
“神様”ではなくて、七結自身の『かみさま』へと――。
すると、七結の思いが記されたそれを咥えた文鳥は翼を広げ、ふらふらと飛び立っていった。その後はもう追わない。
なぜなら持ち帰らせることが今の七結の目的だからだ。
遠くに見えるちいさな社を目指して飛んでいく御使いの翼は白。彼の人と似た彩を視線だけで追い、七結はその姿を見届ける。
ねえ、どうか――。
あの御方へと伝えてちょうだい、と七結はそっと囁く。
「ナユは、あなたに逢いに来たの」
未だ巡る戦いの中、七結は社に瞳を向け続ける。そのとき幽かに社の方で白い影が揺れたように思えた。
此処に桜は咲いていないけれど、其処に元あったあなたの彩はないけれど。
春は未だ、遠いけれども。
また、逢える。
もう少し、あと少しで――。
成功
🔵🔵🔴
フリル・インレアン
ふえぇ、絵馬を持って行かせる訳にはいきません。
ガラスのラビリンスで逃げ道を塞ぎましょう。
ふえぇ、そんなつぶらな瞳で見つめられても逃がす訳にはいかないんです。
ところでアヒルさん、さっきから何で私のことを嘴でつつくんですか。
ガラスのラビリンスがあるから、ぶんちょうさまの攻撃はこちらには届か・・・。
あのもしかして、つぶらな瞳が向けられたからアヒルさんの嘴で攻撃されているんですか。
アヒルさん、勇敢なるアヒルの魂はどうしたんですか。
そんな洗脳なんて振りほどいてください。
●阻む迷路
「ふえぇ、絵馬を持って行かせる訳にはいきません」
絵馬を咥えて羽ばたく白い鳥を追い、フリルは駆けていく。
細い道の向こう側、遠くに見える祠のところまで白文鳥を辿り着かせてしまうのは避けたかった。
フリルはくるりと振り向いた文鳥達を見つめ、ぐっと掌を握り締める。
「ふえぇ、そんなつぶらな瞳で見つめられても逃がす訳にはいかないんです」
あまりの可愛さに怯みそうになってしまう。けれども気を確かに持とうと決めたフリルは自らの力を展開していった。
それはガラスのラビリンス。
フリルが片手を掲げると、境内に透明な硝子で出来た迷路が作り上げられていく。
飛んでいこうとした文鳥は壁に当たって行く手を阻まれた。この迷宮めいた硝子の道に出口はひとつしかない。
これで逃げ道を塞げたと喜ぶのも束の間。
「ふぇ……たいへんです。アヒルさんが突かれています」
はっとしたフリルは絵馬を落とした文鳥達がガジェットを突っついている現場を目撃してしまった。
すると何とか敵を追い払ったアヒルさんがフリルの元にやってくる。
「アヒルさん、やめ……やめてください。何で私のことを嘴でつつくんですか。助けなかったからですか」
ぎゅっと桜柄の帽子を深く被って身を守るフリル。
だが、アヒルさんの嘴攻撃は止まない。
「アヒルさん、勇敢なるアヒルの魂はどうしたんですか。八つ当たりはやめてくだ――」
言葉が途切れるほどの激しい突っつきにフリルは何とか逃れようとして駆け出した。彼女の行動は戦闘においては其処までだった。
だが、フリルは最大の功績を残していくことになる。
ガラスのラビリンス、発動中。
これ以降、ぶんちょうさま達は迷路に囚われ、ちょっとやそっとでは眞白の神に絵馬を届けることはできなくなった。
ただひとつ、敢えて届けられた想いのかたちを除いては――。
大成功
🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
あれがぶんちょうさま……かわいい
で、でも見とれてちゃダメね
絵馬は渡さない
あれは願いの一片
何も知らない人が無くなったと思ったら
きっと悲しむわ
【WIZ】
あなたたちはただ、努めを果たそうとしているのでしょう
ルーシーたちも、そう
だからゴメンナサイは無しよ
『妖精花の舞』
指定する対象はぶんちょうさま、
特に逃げようとするぶんちょうさまよ
花弁をに周囲にも散らしておくわ
少し視界を遮るけれど、多少はつぶらなあなたの瞳を隠してくれるはず
その分さえずりや羽音にはよく耳をすまして避け
なお近づくものは花弁を刃に変えお応えしましょう
遠くへいく羽音、絵馬のカラコロする音が聞こえたならば
花弁でとおせんぼ
ここはもう、かごの中よ
メリル・チェコット
昼間は賑わってたけど、夜はこんなにしんとした空気になるんだね。
夜のジンジャも一層神秘的できれい……。
わ、白くて丸い可愛いのがいっぱいきた!
かわいい、雪みたい!でも、倒さなきゃなんだよね。
祠までこっそりついていって。
絵馬はたしかに神様に奉納するものだけど、その神様はダメだよ!
思ったよりもいっぱいいて、一体一体まともに射るのは追いつかないかも。
絵馬を運ばれれば運ばれるほど不利になるようだし、ここは援護に徹した方がいいかな。
他の人が仕留め損ねた敵を確実に倒していこう!
●花舞う弓射
「あれがぶんちょうさま……かわいい」
「昼間は賑わってたけど、夜はこんなにしんとした空気になるんだね」
夜の神社に舞う白い翼。
絵馬を奪って飛んでいった文鳥たちを追い、ルーシーとメリルはそれぞれの思いを言葉にした。近くから聞こえた声にはたとした二人は、互いに同じ目的を持って此処に来たことを悟る。自然に頷きあった少女達は共闘することを心に決めた。
「で、でも見とれてちゃダメね」
「ね、白くて丸い可愛いのがいっぱい! みんな可愛くてまんまるで雪みたいだけど、倒さなきゃなんだよね」
夜の景色もまあるい鳥も気になるが、今は猟兵としての務めを果たすべきとき。
絵馬は渡してはいけない。
あれは願いの一片。何も知らない人が無くなったと思ったらきっと悲しむから。
ルーシーが思いを抱く中、メリルは文鳥たちに宣言する。
「絵馬はたしかに神様に奉納するものだけど、その神様はダメだよ!」
「あなたたちはただ、務めを果たそうとしているのでしょう。ルーシーたちも、そう。だからゴメンナサイは無しよ」
いくら可愛くとも容赦はしない。
ルーシーが解き放った釣鐘水仙が周囲に広がる。それはまるで花の嵐のように、敵である文鳥たちを穿っていく。
其処へメリルが角突弓を構え、花を避けた標的に矢を放った。
「思ったよりもいっぱいだね!」
「援護をお願いできるかしら」
「任せて!」
メリルはルーシーからの願いに頷いて勿論だと答えた。きっとメリルも、この数を一体ずつ射るとなると手が追いつかない。
絵馬を運ばれるほど後が不利になるのならば援護は願ったり叶ったりだ。
靱やかで力強い曲線を描く羊の角弓が引き絞られ、飛翔する矢が文鳥を一体ずつ射抜く。鋭く確かな一閃はルーシーが解き放ち続ける花の軌跡と重なり、確実に相手を地に落としていった。
そして、ルーシーは周囲にも花弁を散らす。
その狙いは敵の視界を遮ること。
迷いなく攻撃をすると決めていても、あのつぶらな瞳を見ていると罪悪感めいた思いが浮かんでくる。それゆえの目眩ましだ。
「お花、綺麗で素敵だね」
「ありがとう。少し見え辛いけれど、射られるかしら?」
「平気だよ。花が導いてくれてるみたいだから!」
花の流れを視線で追い、メリルは頼もしさを感じながら微笑む。ルーシーは彼女が自分の力を褒めてくれたのだと感じてこくりと頷いた。
そうして、二人は文鳥のさえずりや羽音にはよく耳を澄ませて嘴攻撃を見切り、うまく避けていった。
ルーシーはメリルに近付こうとする相手に対して花弁を刃に変えて切り裂く。その間にメリルは鋭い矢を放つことで標的を倒した。
花の嵐と羊の弓。
ふたつの力が重なり、奪われた絵馬は次々と回収されていく。
「ここはもう、かごの中よ」
「絶対に逃さないからね。覚悟して!」
そして、少女たちは自分達の役目をしっかりと果たしていった。
この先に巡る、眞白き神との対面を思いながら――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マリス・ステラ
華乃音(f03169)の側に
「主よ、憐れみたまえ」
『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯り全身に輝きを纏う
「皆の願いを眞白の神に捧げるわけにはいきません」
それは天に還るものだと思います
華乃音に告げて敵に向き直る
【光をもたらす者】を使用
蝶の姿をした星霊達が羽ばたく
弓で『援護射撃』放つ矢は流星の如く
同時に星霊達が光線を『一斉発射』
光の奔流となって降り注ぐ
華乃音を『かばう』
彼が攻撃されないよう、全身の輝きの『存在感』で敵を『おびき寄せ』る
「灰は灰に、塵は塵に」
絵馬を持ち去ろうとする敵を優先
弓を扇に持ち替えて舞うように斬り払う
「オブリビオンは骸の海に還します」
絵馬の中に華乃音の想いもあるのでしょうか
緋翠・華乃音
マリス・ステラ(f03202)と共に
「……このまま願いを得た神に興味が無い訳でもないが」
けれど、今の俺は傍観者ではなく猟兵として此処に居る。
全ては巡り合わせだ。
敵として相対したから戦う、ただそれだけの事。
彼女が星の輝きを纏うのなら、俺はその光に翳る影として。
光が強くなれば闇もまた深くなる。
反響定位を活用。
例え眼を瞑っていても味方や敵の位置くらいは容易く把握出来る。
絵馬を運び去ろうとする個体から "弥終の穿" で狙撃。
"to be silence(静かに)" と命じて静寂を取り戻す。
●未だ見ぬ願いは
「――主よ、憐れみたまえ」
マリスが祈りを捧げると星辰の片目に光が灯り、全身に輝きが満ちる。
星の煌めきを身に宿す彼女の隣で華乃音も銃を構えた。彼女が星の光を纏うのなら、己はその光に翳る影として在るのみ。
しかし、光が強くなれば闇もまた深くなる――。
言葉にはせず、そのように考えた彼は銃口を標的に差し向けた。
マリスは星霊を呼び出し、絵馬を持ち去っていった文鳥たちに呼びかける。
「皆の願いを眞白の神に捧げるわけにはいきません」
するとくるりと振り向いた文鳥がつぶらな瞳を向け返し、一斉にマリスたちに襲いかかってきた。気をつけろ、と視線だけで示した華乃音は敵を迎え撃つ。
「……このまま願いを得た神に興味が無い訳でもないが」
「それは天に還るものだと思います」
華乃音に告げ、敵に向き直ったマリスは蝶の姿をした星霊達を羽ばたかせ、文鳥たちへと解き放った。
ひらりと舞う蝶が文鳥を阻み、光となって散っていく。
その光景を瞳に映した華乃音は発砲する。同時に一閃が着弾したのは、それが滞空時間の無い銃弾であるからだ。
今の華乃音は傍観者などではなく、猟兵として此処に居る。
全ては巡り合わせ。
敵として相対したから戦う、ただそれだけの事でしかない。それゆえに相手がどれほどつぶらで愛らしい瞳で見つめてこようとも華乃音は怯みなどしなかった。
マリスは蝶の星霊に敵の迎撃を任せ、自らは星屑の弓を構える。
華乃音の援護になるよう、引き絞る弦が緩やかに撓る。
其処から放つ援護射撃の矢は流星の如く。そして、それと同時に星霊達が光線を一斉発射することで、ふたつの軌跡が光の奔流となって降りそそいでいった。
「華乃音、来ます」
「……ああ」
それでも防ぎきれぬ相手はマリスが自ら前に立ち塞がり、華乃音を庇う。彼が攻撃されぬよう、マリスは全身の輝きを存在感に変え、敵を誘き寄せていった。
その好意と行為をうまく利用するべく、華乃音は耳を澄ませる。
音の反射を聞き取れば、たとえ眼を瞑っていたとしても敵や味方の位置が手に取るように分かる。絵馬を運び去ろうとする敵の動きを逸早く感じ取り、華乃音はいやはての銃弾で以て相手を貫いていった。
更にマリスが弓を扇に持ち替え、飛び去ろうとする敵を狙う。
「灰は灰に、塵は塵に」
「――to be silence」
彼女の言葉に合わせる形で華乃音は、静かに、と命じた。まるでその声が通じたかのように文鳥たちは地に落ち、激しく鳴いていた声が静まる。
されど未だ鳥は多い。
「オブリビオンは骸の海に還します」
そのように宣言したマリスはふと思う。まだ回収されていない絵馬の中に、華乃音が記した想いもあるのだろうか。
彼の願いを聞くことも、見ることも叶わなかった。
ほんの少しだけ気にかかる思いを押し込めながら、マリスは彼と共に戦い続ける。
そして――敵は次々と倒れ伏し、辺りには静寂が取り戻されていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
碧海・紗
アンテロさん(f03396)、どうしましょう
ぶんちょうさまが可愛らしい…!
ああ、でも
絵馬をお渡しするわけにはいきません…
辛いけれど、戦わなければ。
随分いるようです
市松を発動、白と黒に絵馬を持って飛んでもらい
誘惑して誘き寄せる試みを
二手に分かれれば一層良いかと
ぶんちょうさまが減れば
あとはアンテロさんにお任せです
からくり人形の可惜夜を操って
白、黒…アンテロさんの作戦が
スムーズに行くように
フォローの為援護射撃を
アンテロさんの無差別攻撃には
第六感で躱すようにして…
けれど
できれば優しく…優しくお願いします!
って言ってるそばから…!もうっ!
アドリブ歓迎
アンテロ・ヴィルスカ
本当。白と黒にそっくりで可愛らしいねぇ、碧海君(f04532)。同じ種類の鳥なのかな?
彼女の作戦に乗り、手近な場所の絵馬を市松のどちらかに放る
さぁ出来るだけ沢山、彼らを【誘惑】し【おびき寄せ】て来ておくれ。
ぶんちょうさまの群れが俺の間合いに入ればUCを発動。
小鳥を捉えやすいサイズに変えた短剣状の十字架を、重力に任せ余す事なく降らせよう。
無論、攻撃は無差別に…しっかり数を減らさなければね。
碧海君の勘なら余裕で避けられるだろう?なるべく優しく、手早く片を付けるよ。
アドリブなど、ご自由に
●十字の刃と文鳥達
まるくてふんわり、つぶらなひとみ。
まるでお餅のようなフォルムをした神の使いはとても愛らしい。
良からぬことを行うとして追いかけてきたはいいものの、いざ対面するとなると紗の心は大いに揺らいだ。
「アンテロさん、どうしましょう。ぶんちょうさまが可愛らしい……!」
「本当。白と黒にそっくりで可愛らしいねぇ。同じ種類の鳥なのかな?」
二人が敵と見比べたのは紗の文鳥達。
白と黒という名を持つ二羽を可愛がる紗としては見過ごせない敵だ。
深い夜の色に染まりゆく景色の中、白い文鳥たちはよく目立つ。ただ単に願いを届けるという存在であるならば見送りたくもあった。
されど相手は魑魅魍魎。
眞白の神とてオブリビオンである以上、このままにしてはおけない。
「ああ、でも絵馬をお渡しするわけにはいきません……」
辛いけれど、戦わなければ。
強く掌を握り締めた紗が身構えるとアンテロも頷きを返す。
随分いるようです、と周囲を確かめた紗は市松――白と黒を呼び寄せる力を発動させ、二羽に絵馬を持って飛んで貰った。
それは敵を誘惑して誘き寄せる試み。白と黒が二手に分かれて飛ぶ中、アンテロも彼女の作戦に乗る。
手近な場所の絵馬を白に放ち、誘き寄せの援護を行った彼は身構えた。
「さて、おいたをする子は眠ってもらおう」
そういってアンテロが放ったのは短剣状に変化させた八端十字のロザリオ。巨大化した刃はひといきに振るわれ、文鳥を穿つ。
その間に紗も絡繰人形の可惜夜を操って応戦した。白と黒、そしてアンテロの動きがスムーズに働くように、と努める紗は援護射撃を行う。
刹那、アンテロが無差別に振るう刃が白と黒にも当たりそうになった。
気をつけて、と呼びかけた紗は自分の文鳥達を庇うように立ち回り、アンテロの攻撃を幾度も避けていった。
アンテロは彼女に信頼を抱き、短剣十字架を容赦なく重力に任せながら余すことなく降らせてゆく。
「無差別だけど……しっかり数を減らさなければね」
数に対するは圧倒的な力。
アンテロの振るう幾重もの攻撃によって、文鳥たちは地に落ちていった。紗はその度に攻撃を躱し、既のところで刃に当たりそうになりながらも懸命に戦う。
「数が少なくってきています! けれど、できれば優しく……優しくお願いします!」
「何か言ったかい?」
息が切れそうになっている紗はアンテロに嘆願する。しかしアンテロは首を傾げ、更なる無差別攻撃を解き放っていた。
無論、その矛先は白や黒、紗にまで至ってしまっている。
「って言ってるそばから……! もうっ!」
白と黒を護り、紗は自分の頬ギリギリを掠めた十字の刃から逃れた。良かった、と頷くアンテロは穏やかに口許を緩める。
「碧海君なら余裕で避けられるだろう?」
「そうですけど……! いいですか、優しくですよっ!」
「わかったよ。なるべく優しく、手早く片を付けるから」
実に二人らしい言葉と遣り取りを交わしながら、彼らは戦い続けていく。
愛らしくとも骸の海から蘇った存在ならば元ある場所に還すのみ。
そう、心に決めて――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
(アドリブ・連携OK
……かわいい。
いやでもオブリビオン……
えー、と(頬ぽりぽり
こっそり敵の死角の無機物を影に変換しときます
視界の確保と逃げた敵への奇襲の為です
夜なんである程度闇に紛れるとは思います
嘴はオーラ防御で防ぎつつ
自分の周囲で変換させた影で攻撃
逃げる素振りがあれば呪瘡包帯で捕らえるか
死角の影で攻撃ですね
しかしすっごくモチモチしてそうな……
ちょっと捕らえた序に触ってみていいですか
そういえば。
無機物って酸素も含まれるんですよね
だから範囲内であれば空気中の酸素も影に変換できる筈
包帯や死角の影で届かなければ
そっちを変換して攻撃し絵馬を落としてもらいましょう
勿論絵馬は影でしっかりチャッチします
●願いの姿
「……かわいい」
スキアファールが思わず呟いたのは、目の前の敵があまりにも愛らしかったから。
ちゅん。
そんな声で鳴く文鳥たちは本当に可愛い。でも、とスキアファールは首を振る。
「いやでもオブリビオン……えー、と」
頬を掻き、見渡した文鳥は此方に敵意を向けてきていた。戦いは避けられないのだと察したスキアファールは静かに身構える。
――伝染れ、伝染せ。
それと同時にこっそりと敵の死角にある無機物――この場合、境内に設置されていた燈籠を影へと変換していく。
対する文鳥はつぶらな瞳をスキアファールに向けてくる。
一瞬だけ怯みそうになったが、嘴攻撃が放たれるのだと感じ取ったスキアファールはとっさに身を翻した。
影は視界の確保にもなり、自分を標的とする敵へと奇襲を行う役割も果たす。
突撃してきた文鳥の嘴攻撃を防護陣で受け止め、スキアファールはそのまま後ろに下がった。同時に闇に紛れさせた影を移動させて反撃に移る。
「次はこちらの番です」
スキアファールは影を操り、敵の死角から鋭い一閃を見舞った。同時に、それを避けようとした敵に向けて黒包帯を放つ。
一瞬で標的に巻き付いた呪瘡包帯はその動きを捉え、逃走を防いだ。
「しかしすっごくモチモチしてそうな……」
ふよん、という擬音が聞こえて来そうなぶんちょうさまのフォルムを見遣り、スキアファールは興味を抱く。
そして、包帯で敵を手繰り寄せた彼は徐ろに手を伸ばした。
「ちょっと捕らえた序に触ってみていいですか」
「ちゅぴ!」
しかし怒った文鳥にその手を嘴で突かれ、スキアファールは腕を引っ込める。愛らしくとも彼らとて真剣なのだ。
ならば此方も気を緩めてはいけけないと感じた彼は更なる攻撃に入っていく。
影は揺らぎ、文鳥を貫く。
その度に絵馬が地面に落ちそうになったが、それもまた影でキャッチした。同様に文鳥たちも次々と地に伏して戦う力を失ってゆく。
「願いの形は色々ですが、この絵馬はあの場所にあってこそなんです」
スキアファールは、謎多き神に願いを届けようとした文鳥たちに己の思いを落とした。やがて彼らの姿は薄れ、かの存在は骸の海に還っていく。
その姿を見送り、スキアファールは手の中の絵馬をそっと見下ろした。
大成功
🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
暗視の技能を活用、行動時の視界を確保する
人の願いが込められた絵馬によって強化されていくのですね
そういえば人々だけで無く、私達の絵馬も
可哀そうですがあの豆大福……いえ、文鳥を倒さなければなりませんね
敵を確認後、春暁を召喚
春暁は祠側にて倫太郎殿の神霊と協力して迎撃
私と倫太郎殿はその場で戦いましょう
2回攻撃を重視し、早業のなぎ払いにて複数の敵を攻撃
文鳥三種の攻撃は視力・見切りにて動きを確認
残像にて躱してカウンターによる斬り返す
躱し切れないものは衝撃波にて吹き飛ばす
落ちてきた絵馬は後で纏めておきましょう
それに願い事を見るのは、野暮というものですね
願い事の面は伏せておきましょう
篝・倫太郎
【華禱】
暗視で視界の確保をして行動
絵馬、祠の中に持ってかれると厄介だ……
つーか、俺やあんたの絵馬もあんのかな?
だとしたら、豆大福(ぶんちょうさま)どもから
ぜってー取り返さねぇと……
弐式使用
召喚した神霊に拘束と攻撃で先制攻撃させる
同時に俺も華焔刀でなぎ払い
刃先返して範囲攻撃の二回攻撃
以降はフェイント入れつつ対応
弐式、距離は不問だから
祠側で奮闘してくれる春暁のフォローも神霊達に任せる
敵の攻撃は見切りと残像で回避
防げない場合はオーラ防御で防ぐ
倒した敵が落とした絵馬を踏んだりしねぇよう
足元に注意して立ち回り
戦闘後
絵馬はひとまず何処かに一纏めにしとく
誰かの願いだ、後で戻しとこうぜ
願いは見えないようにして
●振るう刃と願いの裏側
状況は理解した。
成程、と頷く夜彦は夜の景色を見据える。
其処には真白な羽毛を持つ文鳥たちが居り、奪った絵馬を懸命に運ぼうとしていた。
「人の願いが込められた絵馬によって強化されていくのですね」
「絵馬、祠に持ってかれると厄介だ……」
倫太郎は頬を掻き、彼らに絵馬を運ばせてはいけないと首を振る。そして、ふと或ることに気が付いた。
「つーか、俺やあんたの絵馬もあんのかな?」
「そういえば人々だけで無く、私達の絵馬もあるのですね」
「だとしたら、豆大福どもからぜってー取り返さねぇと……」
「可哀そうですがあの豆大福……いえ、文鳥を倒さなければなりませんね」
絵馬を奉納したのならばそれも当然。
決意を抱いた二人は身構え、此方に気付いた文鳥達へと其々の得物を差し向けた。
夜彦は春暁を召喚し、倫太郎は弐式の神霊を呼ぶ。
神霊と狗鷲を先ず敵に差し向けた二人は共にその場で戦うことを決めた。
「やってやるぜ」
「ええ、蹴散らしましょう」
頷きを交わす彼らが放つのはいつもの攻撃と連携。二回攻撃からの早業でのなぎ払い。そして、振るった華焔刀の刃先を返しての範囲攻撃。フェイント入れつつ敵を切り裂いていく彼らの動きは実によく慣れたものだ。
対する文鳥達は白文鳥をはじめ、桜文鳥やシナモンめいた色の文鳥を呼び出してきた。だが、夜彦はその視力と見切る力によって動きを確認し、残像を纏って躱す。
其処から斬り返す刃に衝撃波を乗せ、敵を吹き飛ばす夜彦。
彼に合わせて動いた倫太郎は春暁のフォローも神霊達に任せ、自らも夜彦と同じ見切りと残像で回避していく。
それでも防げぬ場合はオーラ防御で凌ぎ、華焔刀を振るい返した。
その際、気を付けていたのは倒した敵が落とした絵馬を踏まぬこと。足元に注意して立ち回る彼らは真剣だ。
夜彦も落ちてきた絵馬は後で纏めておこうと決め、素早く立ち回っていく。
それに――。
「他の方の願い事を見るのは、野暮というものですね」
「そうだな、誰かの願いだ、後で戻しとこうぜ」
願い事の面は伏せておこうとして、二人はしっかりと頷きあった。
本来、絵馬は決意や願いを敢えて誰かに見てもらえるように表に掛けて奉納するものである。だが、今は奉納場所から外されて地面に落ちているだけ。
それゆえに願いは此処では見てはいけないのだと判断したのだ。
「さて、まだまだ敵は多いな」
「参りましょう、倫太郎殿」
夜禱と華焔刀。其々の刃の切っ先を敵に向け、二人は巡る戦いを思う。
これ以上は決して、願いの絵馬を祠に届けさせはしない。抱く決意は強く、得物を握る手にも力が入った。
そして――戦いは続いてゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
吉備・狐珀
何の目的で絵馬に書かれた願いを集めているのか存じ上げませんが…。そこにある願いはオブリビオンが持ち去って良いものではありません。
そんな愛らしい姿をしていても許しませんよ。
UC【協心戮力】使用。
私の氷(属性)の霊力で冷やした外気をを人形の炎(属性)で水蒸気に変え、再度私が冷やし霧を発生させる。
相手の視界を悪くして【つぶらな瞳】を向けることを防ぎつつ、発生させた霧の中に忍ばせたのは(毒)と(マヒ)。
体が痺れて動けなくなれば絵馬を持ち去ることもできないでしょう。
難を逃れようとするものがいたら、月代、貴方の雷で私の(援護)をお願いします。
人々の願いも私の願いも何一つ渡しません。
必ず守ります。
●在るべき処
絵馬を咥えて飛び去る文鳥たち。
彼らが何の目的で記された願いを集めているのかは未だ謎のまま。
「理由は存じ上げませんが……」
狐珀は此方に気付き、振り返ったぶんちょうさまを見据えてから首を横に振る。その嘴にぶら下がっている絵馬は彼らの好きにしていいような物ではない。
「そこにある願いはオブリビオンが持ち去って良いものではありません」
「ちゅちゅん!」
狐珀がそう告げると、絵馬を咥えていない文鳥が激しく鳴いた。
声も仕草も実に可愛いが相手は魑魅魍魎。狐珀は身構え、己の力を解き放ってゆく。
「そんな愛らしい姿をしていても許しませんよ」
其処から巡るのは協心戮力。
周囲は見る間に視界が閉ざされ、靄めいた白さに包まれた。
狐珀自身が宿す氷属性の霊力が周囲の空気を瞬く間に冷やし、絡繰人形が持つ炎で水蒸気へと変える。そして更に狐珀がそれを冷やすことで霧を発生させたのだ。
夜であるうえに霧。視界は悪い。
こうすれば相手が向けてくるつぶらな瞳を防ぎつつ、発生させた霧の中に毒と麻痺の効果を齎すことが出来る。
その狙い通り、何体かの文鳥が毒を受けて揺らいだ。
「どうですか。体が痺れて動けなくなれば絵馬を持ち去ることもできないでしょう」
狐珀が語る声を聞き、文鳥たちは苦しげに呻く。
されど、中には難を逃れようとして羽ばたくものがいた。その動きを察した狐珀は月白色の仔竜を呼び、文鳥を穿っていくように願う。
「月代、貴方の雷で援護をお願いします」
その言葉に応えた仔竜は鋭い雷撃を解き放ち、文鳥の翼を打ち貫いた。
ぴ、と響く鳴き声。
その声を最期に地面に落ちていくぶんちょうさま。彼らが骸の海に還っていく様を見送りながら、狐珀は己の思いを言葉へと変えていった。
「人々の願いも私の願いも何一つ渡しません」
――必ず、守ります。
願いも思いも、本来あるべき場所へ。
名も知らぬ神になど渡せはしないとして、狐珀は更に戦い続けるべく己を律した。
大成功
🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▼心情
三大欲求…という言葉を聞いた事があるだろうか?
通常、人が活動する上で食事は欠かせない。
例外はあるがこれは猟兵も同様だ。
では――神の配下はどうなのか?
見た目は文鳥。
神の使命が優先されるのか。
本能的欲求が勝るのか。
今回は少々、確かめさせてもらおう。
▼POW
一先ず、物陰から敵を確認。
懐から屋台で買った果物や文鳥の餌を取出し、
奉納場所付近にコソッと転がして様子を見る。
量が減ってきたら更に投入。
これが只の文鳥なら餌付けしたい所だが…。
効果の有無に限らず、折を見て【流水戟】で攻撃開始。
運ぼうとしている敵を優先し
手刀で攻撃すると同時に絵馬を回収しよう。
脅威度が高ければ霽刀で一閃を。
連携、アドリブ歓迎
●文鳥観察と絵馬の行方
三大欲求。
その中でも多くを占める食欲。通常、人が活動する上で食事は欠かせない。
例外はあるが、これが生きるものである以上は猟兵も同様だ。そう考えているアネットには確かめたいことがあった。
では――神の配下はどうなのか?
目の前で威嚇するように鳴いている魑魅魍魎。その見た目は文鳥だ。
果たして、神の使命が優先されるのか。本能的欲求が勝るのか。
「今回は少々、確かめさせてもらおう」
ちいさく呟いたアネットは現在、戦いが巡っている祠前の物陰に身を隠していた。
今、戦場は他の猟兵が巡らせたガラスのラビリンスの中にある。この迷宮は出口がひとつしかなく、ぶんちょうさまたちは容易に逃げ出すことは出来ない。
それもまた好都合だと感じたアネットは自らの作戦に出る。
懐から取り出したのは屋台で買った果物。
そして、文鳥の餌だ。こっそりと、されど戦場内の目の付く場所に、果物と餌を転がしたアネットはじっと敵の様子を見ていた。
だが、餌はまったくもって見向きもされていない。
「あれも神性ということか」
おそらく何処かに食事を好む個体もいるのだろうが、この文鳥達は餌に興味がないようだ。何よりも彼らは奪った絵馬を咥えている。
もし食欲があったとしても、それを放り出して餌に向かうことはしないようだ。
納得したアネットは霽刀を抜く。
「これが只の文鳥なら餌付けしたかったが……魑魅魍魎なら致し方ないな」
此処からは真剣勝負だ。
地を蹴り、手近な文鳥に刃を向けたアネットは己の力を解き放った。
――弐式・流水戟。
流れるような剣戟が戦場に広がり、絵馬を運ぼうとしていた敵が次々と斬り裂かれていく。大きく揺らいだ敵を視認したアネットは即座に其方に駆け、ぶんちょうさまに目掛けて鋭い手刀を打ち込んだ。
途端に均衡を崩し、咥えていた絵馬を取り落とす文鳥。
動きを見極めたアネットは手を伸ばし、絵馬が地面に落ちてしまう前に受け止める。
「こんなものか」
残りもこの調子で取り返していこうと決めたアネットは更に刃を構えた。
夜の狭間に白い翼が舞う。
その向こうに待つ眞白の神に辿り着くまで、あと少し――。
大成功
🔵🔵🔵
グァーネッツォ・リトゥルスムィス
(いつもの戦士スタイルに着替え済)
目的地まで道案内ありがとな
絵馬も返してくれると嬉しいが、そうもいかないか
降っている雪を活用してトーメントトルネードする時に
回転するオレも竜巻も雪を混ぜた白い竜巻に見せかけて
どれがオレなのか分からなくするぜ
文鳥達の放つ三種の文鳥達に対抗する為にUCで攻撃回数重視で本体もUC文鳥も迎撃しつつ
徐々に文鳥達を竜巻で包囲して祠まで逃げなくさせてやる
絵馬を奪い返す時は幾つかの白竜巻を先行させて
『本物のオレが白竜巻に紛れて接近してる』と錯覚させて
白竜巻で視界を遮ってからオレが急接近して奪還するぞ
オレの書いた絵馬を取り返したいが、それよりも人々や他猟兵の分を先に返して貰うぞ!
●奪還する思い
振り袖から普段着に着替え、準備は万端。
絵馬を奉納場所から奪っていった文鳥たちを追い、グァーネッツォは件の祠の前まで来ていた。既に周囲では戦いが始まっている。
グァーネッツォはちゅんちゅんと鳴くぶんちょうさまを見つめ、笑みを浮かべた。
「目的地まで道案内ありがとな」
「ちゅん?」
何故に礼を言われたのか分からないらしい彼らはこてりと首を傾げる。
グァーネッツォは竜骨を構え、羽ばたく文鳥たちを見据えた。見た目は愛らしくとも相手は魑魅魍魎。決して気は抜けない。
「絵馬も返してくれると嬉しいが、そうもいかないか」
皆の願いが書かれた絵馬は決して渡してはいけないもの。たとえ彼の神が願いを叶えるといっても、絵馬が奉納されたのはこの神社だ。
グァーネッツォは絵馬を咥えたぶんちょうさまに狙いを定め、一気に地面を蹴りあげた。其処から繰り出す回転攻撃はそのままでも十分に威力のあるものだ。だが、今は降り積もった雪を巻き込むことで更なる効果を生んでいる。
「どうだ、白い竜巻だ!」
雪で自分の姿を隠して一気に敵に迫ったグァーネッツォ。
その刃がぶんちょうさまを穿ち、悲鳴めいた鳴き声があがる。それによって絵馬を咥えていた嘴がひらき、札が地面に落ちそうになった。
「おっと!」
咄嗟に手を伸ばしたグァーネッツォは既の所で絵馬をキャッチする。
よし、と大切に絵馬を仕舞い込んだ彼女は敵の攻撃に備えて身構えた。ぴぴぃ、と鳴いた文鳥は白文鳥に加え、桜文鳥とシナモン文鳥を呼び出すことで突撃してくる。
対するグァーネッツォは得物を振り被り、攻撃の回数を重視する鋭い回転を行った。文鳥を振り払い、弾き飛ばしたグァーネッツォは竜巻を起こし続ける。
そして、出来る限りたくさんの絵馬を取り返すべく白竜巻を先行させてゆく。
「――貰った!」
白竜巻で視界を遮られた敵。其処へ一気に急接近したグァーネッツォは即座に絵馬を奪い取り、回収していった。
「これはオレの書いた絵馬じゃないな。でも、こっちが先だ!」
自分の絵馬も気になるが、先ずは人々や他の猟兵の分を。どの願いも思いも奪われたままにはしない。そう決めたグァーネッツォは強い意志を抱き、周囲に飛び交う文鳥達を瞳に映した。
そして、文鳥たちとの戦いは続いていく。
大成功
🔵🔵🔵
鶴澤・白雪
……可愛いわね
クッソ可愛いわね。つぶらな瞳でこっち見ないで
ちゅちゅんじゃないわよ、滅茶苦茶やりにくいわ
全く気が進まない
全く気が進まないんだけど仕方ないのよ、お仕事だから
纏めてかかってくるなら纏めて焼き鳥に……するわ…
絵馬ごと燃やさないように注意しながら深紅の焔華を使う
心苦しいんだけど絵馬を届けられると困るのよ
UCの射程が届かない敵の方が多ければ精霊銃とガンブレードを両手に構えて乱れ撃ちで落とすわ
心苦しくても何度も可愛いのと戦ってたら心を鬼にする術も身につくのよ!(ヤケクソ
それに貴方達は可愛いけど人の願いで誰かが不幸になる様なんてゴメンよ
幸せを願うための絵馬を人を捕らえるためのものにはさせないわ
●咲き誇る焔
愛らしい声と丸い身体、ちいさくて白い翼。
「……可愛いわね」
ぶんちょうさまと呼ばれるものを見た白雪は愛らしさでどうにかなりそうだった。しかしそれが今、敵として立ち塞がっている。
まんまるな目をぱちぱちと瞬いた文鳥たちは直視できそうにない。
何故なら、今から白雪は絵馬を奪った彼らを倒さなければならないからだ。
「クッソ可愛いわね。つぶらな瞳でこっち見ないで」
「ちゅちゅん?」
「ちゅちゅんじゃないわよ、滅茶苦茶やりにくいわ」
ぶんちょうさまは白雪に向けて首を傾げる。絵馬がそれに合わせて揺れていた。
ああ、全く気が進まない。
「全く気が進まないんだけど仕方ないのよ、お仕事だから」
胸中に浮かんだ思いをそのまま言葉に変えた白雪は肩を落とす。すると文鳥たちは白雪に向けて嘴攻撃を放とうと迫ってくる。
絵馬を咥えたまま突撃してくる文鳥を仕方なく見据え、白雪は黒の銃剣を構えた。
――紅に輝け。
白雪が銃剣を掲げるとアマリリスの花がまるで焔のように周囲に広がっていく。
「纏めてかかってくるなら纏めて焼き鳥に……するわ……」
したくないけど、と付け加えた白雪は舞う華で以て嘴攻撃をいなす。その際に絵馬ごと燃やさぬよう心掛ける白雪は真剣だ。
舞え、焔華。
続けて告げた言の葉と同時に鮮烈な緋色の彩が燃えあがった。
「心苦しいんだけど絵馬を届けられると困るのよ」
そして、白雪は己を律する。
両手に黒い銃を構えた彼女は銃口をそれぞれの敵に差し向けた。舞う焔華に負けぬほどの乱れ撃ちは弾丸の花を咲かせ、白文鳥を穿っていく。
そう、心苦しくとも何度も可愛いものと戦っていれば徐々に慣れてくる。
「見てなさい、心を鬼にする術も身についてるんだから!」
本当は慣れたくはないのだがもうヤケクソだ。
白雪は容赦なく銃弾を放ち、焔を揺らがせて対抗していった。それに――。
「貴方達は可愛いけど人の願いで誰かが不幸になる様なんてゴメンよ」
幸せを願うための絵馬。
それを理想という名の世界に人を捕らえるためのものにはさせない。ぶんちょうさまを屠りたくないという心は揺らいでも、その思いだけは揺らがない。
白雪が巡らせる花は星のように誇り高く、未来を護る為に咲き誇ってゆく。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻沫
ヨルがきゅっきゅと威嚇してる…
あっ!もふもふが、ヨルの絵馬を!
櫻、取り返して
持っていかせちゃだめだ
この願いは、僕らの大切な願い
……櫻の願いだ
渡さない、奪わせない
歌唱に誘惑添えて彼らを絡めとる「魅惑の歌」を歌い響かせ縫い止める
ほら、聴き惚れて
的が止めてあげる
これで仕損じる事なんてないだろ?櫻宵
歌声に君への鼓舞を混ぜる
呪殺の桜が吹雪いて、龍の瞳が神の下僕を捕えれば
また君に美しい桜が咲く
君の桜になれるなんて
…少し妬きながら
水泡のオーラ防御を絵馬の方へ揺蕩わせ文鳥達を防いで歌い落とすよ
櫻となら僕はできる
もふもふは好きだけど、だめ
櫻の願いを奪うのは例え神だって許さないよ
どの願いも大切なものだから
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
あらあら
ヨルも勇ましいこと
はぁい、取り返すわね
衝撃波放ち鳥落とし、ヨルの絵馬を渡す
そうねぇ、リルがやっと抱けた願いだもの
神などに渡しはしないわ
だって、私のものだもの
ええ応えるわ
可愛い人魚の期待にね
リルの歌が響けば駆け、衝撃波に呪殺弾の桜花添えて2回攻撃…薙ぎ払い、斬り裂いて鳥を撃ち落とすわ
残った鳥は生命力吸収の呪詛「喰華」
睨み喰らって私の翼の桜にしてあげる!
オーラ防御の桜花で攻撃いなして、見えなければ空中戦で飛んで。増えでも全て睨み捉えて桜花に変える
ここは桜獄、大蛇と人魚の桜海
1つたりとも奪わせはしない
リルの好きなもふもふだけどいいの?
うふふ、ごめんね神様
あなたに食べさせる願いはないの
●戀願い、希うこと
ちゅちゅん!
きゅっきゅ!
祠を前にした参道の外れ、響くのは文鳥と仔ペンギンの声。絵馬を奪ったぶんちょうさまを追ってきた櫻宵とリルは彼らの威嚇を聞き、ただならぬ気配を感じていた。
「あらあら、ヨルも勇ましいこと」
「あっ! もふもふが、ヨルの絵馬を!」
見て櫻宵、と文鳥を示したリルはヨルがこれほどに威嚇する理由を知る。
其処には魚の絵がおおきく描かれた絵馬があった。自分の願いを書いた絵馬が取られたことを知り、ヨルは怒っているのだ。
リルにもその気持ちがよく分かる。まだ自分の絵馬が何処にあるかはわからないが、自分だって複雑な思いを抱えている。それゆえにリルは櫻宵に願った。
「櫻、取り返して。持っていかせちゃだめだ」
「はぁい、取り返すわね」
リルの声に応えた櫻宵は屠桜を抜き放つ。同時に振るった刃から衝撃波を解放して、ヨルの絵馬を持つ鳥を打ち落とした。
その動きには迷いも衒いもなく、瞬く間に絵馬が取り返される。
「この願いは、僕らの大切な願いだもの」
そして、櫻の――櫻への想いだ。
だから渡さない、奪わせない。
リルが身構え、文鳥達を見つめる中で櫻宵はそっと頷く。
「そうねぇ、リルがやっと抱けた願いだもの。神などに渡しはしないわ」
だって、私のものだもの。
そういってくすりと笑んだ櫻宵にとって、絵馬自体は奪われたとて問題ない。だが、大切なリルが思いのかたちを取り返したいと願っているのならば力を尽くすのみ。
尚もちゅんちゅんと威嚇する文鳥。
対するヨルはリルの腕の中で両羽をぴんと張って自分を大きく見せている。
大丈夫だよ、と仔ペンギンに告げたリルはそっと花唇をひらいた。其処から紡ぐのは文鳥たちをいざなう魅惑の歌。
透き通った歌声は戦場に響き渡り、敵の魂を惹き付けて離さない。ゆらりと揺らいだ文鳥の姿を捉えたリルは双眸を僅かに細める。
「ほら、聴き惚れて」
「流石はリルね」
見る間に敵の動きが止められて行く様子を瞳に映しながら、櫻宵は駆ける。
「これで仕損じる事なんてないだろ? 櫻宵」
「ええ、応えるわ。可愛い人魚の期待にね」
リルの呼びかけには勿論だと答え、櫻宵は刃を振るった。一閃、宙をなぞるように刀を滑らせば瞬く刃。呪いの力に桜花が添えられ、薙ぎ払う一撃が文鳥を斬り裂いた。
前線は彼に任せ、リルは歌を謳っていく。
その聲に戀心と鼓舞を乗せ、リルは桜が吹雪く光景を見つめ続けた。龍の瞳が神の御使いを捉えれば、また君に美しい桜が咲く。
――君の桜になれるなんて。
斬り伏せられる鳥にまで妬いてしまう自分の気持ちを自覚しながら、リルは歌う。
櫻宵に斬られて伏す文鳥。其処から取り落とされた絵馬は泡沫を揺蕩わせて受け止め、ヨルに持っても貰う。
櫻となら、何だって出来る。リルは自分にしか出来ないことを担おうと決め、更なる歌声を響かせていった。
そして、櫻宵は周囲を見渡した。次々と敵が倒れ、辺りの鳥は数えられるほどになっている。その中にリルが記した絵馬があると気付き、櫻宵は戦場を駆け抜けた。
「睨み喰らって私の翼の桜にしてあげる!」
宣言と共に桜花で相手からの攻撃をいなし、全て捉えて桜花に変える。
想愛絢爛。ここは桜獄、大蛇と人魚の桜海。
たったひとつたりとも奪わせはしないとして、櫻宵は地に落ちそうになったリルの絵馬を掌で受け止めた。
「はい、リル」
「僕のお願い……ありがとう、櫻」
そう微笑みながら渡した絵馬は無事に主の元に戻る。そして、ヨルもちゃっかりと櫻宵の絵馬を回収していた。
「それにしても、リルの好きなもふもふだけど倒しちゃっていいの?」
「もふもふは好きだけど、だめ。櫻の願いを奪うのは例え神だって許さないよ」
「そう、わかったわ」
櫻宵が問うとリルは首を振り、骸の海に還そうと告げた。その声を聞いた櫻宵は屠桜を構え、それならば後は容赦なく敵を屠るだけだとして薄く笑む。あのまんまるな身体の首との境界は曖昧だが、とにかく斬ってしまえばいい。
リルは再び刃を振るいはじめた櫻宵の背を見つめ、自分の絵馬を大切に握り締める。
「僕たちのだけじゃなくて、どの願いも大切なものだから」
「ええ。うふふ、ごめんね神様。あなたに食べさせる願いはないの」
ただひとつを除いては。
そして――櫻宵の淡い微笑みと共に、紅い刃が煌めく。
彼がゆっくりと太刀を下ろした時。周囲にはもう、動くものはいなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雅楽代・真珠
綾華(f01194)と
こんなにいるの
餅みたいな鳥だね
好きにおやりよ、綾華
…食べるのだけは駄目だよ
風起こす綾華は働き者だ
僕より小さかった綾華がこんな風に戦えるようになるなんてね
成長したお前の高い背を見るのは少し好き
少しだけ
眺めながら
僕と綾華にオーラ防御の泡沫
鳥が突いていいのは泡だけだよ
うん、絵馬は如月が預かろう
僕たちの願いも、あげはしないよ
綾華の攻撃から逃げようとする鳥も居るだろう
見逃さず、僕の煌めきを与えてあげる
宵闇の中でこそ、光は強く輝くことだろう
ほら、お前たちはもう逃げられない
逃してなんてあげないよ
可愛い僕に恋をして
叶わぬ想いを嘆いて消えて
さ、お終い
お前は泡になるような玉ではないでしょ
浮世・綾華
真珠さん(f12752)と
真っ白い子がいっぱい
ネ、ちょっと通してくんない?
って、聞くわけねえか
とりあえず好きにやってい?
やった…って、そんなに食い意地はってないデスって
扇の範囲攻撃で風を起こし
絵馬を手放させその瞬間に回収しながらも
一定の距離を保ち花びらで敵に攻撃を重ねていく
――よっと
誰かの大切な願いだろ
骸から出でたかみさまには渡せねーな
あ、集めた絵馬、どうしよ
如月さんに預けてへーき?
じゃあ任せました、お願いしまぁす
彼の攻撃をみて、眩しさに目を細め
ふ、お前も愛らしい瞳だケドさ
真珠さんのひかりには敵わないでしょ、多分
おーすげ、俺は泡にしないでネ
うん、まだまだ真珠さんと戦わないといけないですしネ
●風花と泡沫
白い羽を羽ばたかせ、文鳥たちは此方を威嚇する。
絵馬を奪った彼らを追って祠の前まで訪れた真珠と綾華は今、十数羽のぶんちょうさまに囲まれていた。
「へえ、こんなにいるの」
餅みたいな鳥だね、と真珠が花唇をひらけば綾華もちいさく頷きを返した。そして彼は文鳥たちに問いかけてみる。
「ネ、ちょっと通してくんない? って、聞くわけねえか」
「ちゅちゅん!」
「聞く耳を持ってないようだね」
真珠は絵馬を咥えていない文鳥が激しく鳴いたことで、軽く肩を竦めた。綾華も話は通じないと察して闇夜と金の彩を抱く扇を構える。
「とりあえず好きにやっていい?」
「自由におやりよ、綾華。……食べるのだけは駄目だよ」
「やった……って、そんなに食い意地はってないデスって」
そう言いながら綾華は風を起こしてゆく。その狙いは敵が咥えている絵馬を取り落とさせる為。ぴっ、と声があがったかと思うと文鳥が風に翻弄される。
その背を見遣った真珠は、働き者だと綾華をそっと褒めた。そして、少しばかりの感慨を覚える。
自分より小さかった綾華がこんな風に戦えるようになるなんて。
(成長したお前の高い背を見るのは――)
少し好きだ。本当に、少しだけ。
真珠は裡に抱く思いを言葉にしないまま、指先を軽く掲げた。其処から生まれたのは泡沫の防御陣。
綾華は風を巻き起こしながら立ち回り、文鳥が落とした絵馬を拾っていく。
「――よっと」
其処に襲い来る文鳥を綾華自身も避けている。だが、敵からの攻撃を完全に防ぐ為に真珠も力を揮っていった。
「鳥が突いていいのは泡だけだよ」
嘴で突撃してくる文鳥が其処に衝突し、ぱちん、と泡が割れる音が響く。しかしすぐに真珠が新たな泡沫を作り出した。
その間に綾華は白菊の花弁を周囲に散らし、敵を穿ちながら絵馬を回収する。
「誰かの大切な願いだろ。骸から出でたかみさまには渡せねーな」
「願いを叶えるとはいってもね」
綾華の思いに真珠も同意を示し、文鳥たちに視線を向けた。
「あ、集めた絵馬、どうしよ」
綾華の手の中でぶつかり、からからと鳴った絵馬はそれなりの数になっていた。それなら、と眼差しを彼に向けた真珠は絡繰の如月を向かわせる。
「うん、絵馬は如月が預かろう」
「じゃあ任せました、お願いしまぁす」
軽いやり取りを交わしながらも、花弁を散らして敵を穿つ手は止めない。綾華の働きに双眸を細めた真珠はこくりと首を縦に振った。
人々の願いもそうだが、文鳥たちが持つ絵馬の中には自分のものもある。
「僕たちの願いも、あげはしないよ」
真珠が狙うのは綾華が舞わせる花から逃げようとする対象。それを見逃すことなく真珠は光彩の力を向ける。
僕の煌めきを与えてあげる。宵闇の中でこそ、光は強く輝くから。
ほら、お前たちはもう逃げられない。
そんな風に囁いた真珠が的に眼差しを向けた刹那、煌めきを浴びた文鳥がふわりと浮いた。そう見えたのも一瞬、水泡と化したいのちは骸に還る。
「ふ、お前も愛らしい瞳だケドさ。真珠さんのひかりには敵わないでしょ」
綾華はその眩しさに眸を細め、口端を緩めた。
光が満ち、鳴き声と共に弾ける泡。
逃してなんてあげない。
可愛い僕に恋をして、叶わぬ想いを嘆いて消えて。
「さ、お終い」
真珠の言葉が紡がれ終わった刹那、からん、と音を立てて絵馬が落ちる。その札を拾い上げた綾華は周囲の文鳥がすべて消えていることを確かめた。
「おーすげ、俺は泡にしないでネ」
「お前は泡になるような玉ではないでしょ」
「うん、まだまだ真珠さんと戦わないといけないですしネ」
絵馬を如月に預け、綾華は真珠を見つめた。
そして二人はこの先に待っている白き彼の神を思う。きっと間もなく件の神との対面が叶う。それは果たしてどのような邂逅になるのだろうか。
尤も、彼のひとは自分達の神などではないのだけれど――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オルハ・オランシュ
お店の仕事が長引いて遅くなっちゃった……!
神社には過去2回ほど来たことがあるけれど、
絵馬を書いたことってそういえばなかったな
願い事を書くって話だっけ
つまり、あの絵馬一つ一つに人の願いが籠められているんだ
奪わせるわけにはいかないよ
【早業】を活かして疾さで上回りたいな
逃がさないよ
可愛い威嚇に少しだけ気持ちが揺れる
私、鳥好きなんだよね……でも、でも
請けた依頼に手を抜くわけにはいかないから!
【範囲攻撃】でなるべく多くの個体を巻き込もう
ただし咥えられた絵馬を傷付けることのないように、狙いは慎重に
文鳥の群れは【武器受け】で凌いでから反撃に転じる
守りきれた絵馬は台に戻しておかなくちゃ
フィオリーナ・フォルトナータ
綴られた願いや想いは善き神への祈り
決して悪しき神に捧げられるためのものではありません
どれほど愛らしい見目をしていても、魑魅魍魎ならば迷いはなく
…おいたはいけませんよ
トリニティ・エンハンスで攻撃力を重視しての強化を
向こうが連携するならば、こちらも他の猟兵の方達と協力しつつ
積極的に前に出て、風の属性を伴う衝撃波の一振りで白き小鳥達を纏めて吹き飛ばします
彼らが口に咥えている絵馬を一つでも落とせれば…いえ、
かの神の元へ届くより先に、骸の海にお帰り頂きます
色や模様の異なるお友達も愛らしいですが
力を封じられることがないよう油断はせずに
落とした絵馬は踏まぬよう気をつけながら、一羽ずつ確実に倒して行きましょう
●風の刃と願いのかたち
それぞれの思いが記された絵馬。
其処に綴られた願いや想いは善き神への祈りの証であり、確かな形。決して悪しき神に捧げられるためのものではない。
フィオリーナは金装飾の剣を構え、願いを持ち去った文鳥たちを見つめた。
返ってくる視線もまた愛らしい。
だが、どれほど愛らしい見目をしていても魑魅魍魎ならば迷いなどなかった。
「……おいたはいけませんよ」
フィオリーナは静かに告げ、金色を編み上げた剣柄を強く握り締める。その切っ先から広がるように巡ったのは風の魔力。
ちいさくて丸い鳥を吹き飛ばしてしまうかのように、鋭い軌跡を描いた風はフィオリーナに力を与えていく。しかし、ちゅん、という鳴き声が聞こえたかと思うと様々な色の文鳥が此方に向かって突撃してきた。
フィオリーナは怯まず、文鳥たちを迎撃する姿勢を取る。
だが、予想以上に敵の動きが速かった。受け止めても捌ききれないと感じたフィオリーナは多少の傷みを覚悟するべきかと考える。
「いけません。数が多いですね……」
しかし、そのとき。
「――大丈夫だよ、任せて!」
オルハ・オランシュ(六等星・f00497)の声が響き、フィオリーナに向かっていた文鳥の突撃を三叉槍で弾いた。
はっとしたフィオリーナは彼女が助けてくれたのだと察し、ふわりと微笑む。
「ありがとうございます」
助かりました、とフィオリーナが告げるとオルハは明るい笑みを返した。
「ううん、当たり前のことをしただけだよ。お店の仕事が長引いて遅くなっちゃったから、絵馬は書けなかったけど……願いが取られたなら放っておけないよね!」
神社の奉納台にはもうほとんど絵馬が残っていなかった。
オルハは自分が通ってきた社の様子を思い、ふるふると首を横に振った。あの絵馬ひとつひとつに誰かの願いが籠められていたことはとてもよく分かる。だから、見過ごすわけにはいかない。
オルハの言葉に頷き、フィオリーナは視線で合図を送った。
向こうが連携をするなら此方も、という意思だ。
「参ります」
「分かったよ、合わせるね!」
フィオリーナが地を蹴り、風を纏った刃を振り下ろす。其処に続いたオルハがウェイカトリアイナの槍を振るいあげて一気に敵の動きを止めた。
それはたった一瞬のこと。
ぶんちょうさまが抵抗する暇すら与えず、瞬く間に一体が骸の海に還された。
そして、フィオリーナは更に前に出ると全周囲に衝撃波を散らす。その一振りで以て白き小鳥たちを纏めて吹き飛ばした彼女は、咥えられている絵馬に視線を向けた。
「お願いします、絵馬を――」
「落ちる前に奪い返すね」
フィオリーナの言葉を次ぐようにしてオルハが素早く駆ける。文鳥たちとは正反対の色を宿す羽をなびかせ、オルハは風によって舞い上がった絵馬に手を伸ばした。
素早く絵馬を掴んだ彼女はさっとそれを仕舞い込み、側面から迫ってきた文鳥にウェイカトリアイナを振るう。
「逃がさないし、もうこれを持っては行かせないよ」
ちゅちゅんという可愛い威嚇に少しだけ気持ちが揺れてしまったが、此処で手を抜くわけには行かない。
確かに鳥は好きだけれど、でも――それが自分の矜持だから。
オルハが無事に絵馬を回収した姿を確かめたフィオリーナは安堵を抱く。そして、周囲にいる文鳥たちを見渡した。
「かの神の元へ届くより先に、骸の海にお帰り頂きます」
願いを仕える神に伝えるために運ぶ。
その行為に悪意などないのかもしれない。それでも、フィオリーナは相手がオブリビオンであることを知っている。
彼の神と共に彼らが此処に留まることが平和を乱す要因になるとも理解していた。
「このまま一羽ずつ確実に倒して行きましょう」
「うん! 皆が祈った気持ちも思いも、全部守ってみせるから!」
フィオリーナが静かに告げた言葉に同意を示し、オルハは槍を構え直す。フィオリーナも未来を切り開く刃を敵に向け、その瞳に希望を映した。
そして、二人は再び地を蹴る。
風のように疾く、鋭く。願いを取り返すための戦いが其処に巡っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
菱川・彌三八
この形の鳥は一体ェどんだけ居るのやら
俺ァ其方が不思議でならねェヨ
何時もよりちいと大きな筆を一閃
墨の筋より出るは無数の千鳥
此方は俺の意志じゃねェ、手前ェをどこまでも追って喰らうのさ
前より、或いは逃げるものの後ろから
尚掻い潜る奴ァ平常の通り、絵筆ひとつで群れの千鳥を操りひき潰す
マ、俺を狙うなら動きもわかり易かろう
飛んでくる奴らなるべく見切るか、咄嗟の構えから鉄手甲で弾き飛ばすが…
着物が裂けたらちいと容赦は出来ねェな
生憎俺ァ、てめえらを愛らしいと思った試しがねえんだ
ちゅんゝゝゝと喧しいったらねェや
…あゝ、此の風景は、初めてではない
然りとて、同じではない
一体ェ何度繰り返すのやら
なんて、詮無きことだな
ノイ・フォルミード
先ほどの雪も白かったけれど
君もまた白いね
参ったな
本来、種を運ぶ鳥は嫌いじゃないんだけど……
君達は祈りを持ち去るというのなら、……ごめんよ
鍬をもって文鳥を薙ぎ払い、応戦しよう
近くで襲われている人がいたら庇おう
機械だからね。あまり痛みは分からないし
とはいえ錆びた所を狙われたら困ってしまうからね、
しっかり鍬で受け止めよう
飛び立ちそうな文鳥を見つけたら【ルブルム】を使う
音の波が翼が風をうつより疾く届くといい
そして最後は心地よい夢をみてくれるといい
殺められる側にとっては関係ないだろうが、それでも、せめて
●白き御使い
雪がちらほらと残る参道の外れ。
絵馬を持って飛び去っていった文鳥を追っていたノイは立ち止まる。その理由は文鳥たちがくるりと振り返り、此方をちゅんちゅんと威嚇しはじめたからだ。
「先ほどの雪も白かったけれど、君もまた白いね」
「ちょいと隣に邪魔するぜ、案山子の兄さんよ」
ノイが彼らへの感想を言葉にする中、その傍らに彌三八が歩み寄った。
どうやら目の前の文鳥たちは此方を攻撃する気でいるようだ。そう察した二人は束の間の共闘を決めた。
「参ったな。本来、種を運ぶ鳥は嫌いじゃないんだけど……君達は祈りを持ち去るというのなら、……ごめんよ」
「やれ、この形の鳥は一体ェどんだけ居るのやら」
ノイは愛らしい存在に少しの戸惑いを覚え、謝罪を伝える。俺ァ其方が不思議でならねェヨ、と零した彌三八は銀色の煙管をとんと片腕で叩いた。
そして、彼らは鍬と筆を其々に構える。
「どれ、やっちまうかねェ」
彌三八が振るうのは普段よりも少しばかり大きな筆。宙に描いた墨の筋、其処から出るは無数の千鳥。
その間にノイは敵陣に踏み込み、鍬で以て文鳥を薙ぎ払った。
ノイの一閃を避けようと羽ばたいた文鳥。その動きを追う形で千鳥が迫る。鋭く舞う墨の鳥は見る間に文鳥を穿った。
されど、耐えた文鳥はつぶらな瞳をノイ達に向けてくる。
敵の動きに気付いたノイは嘴攻撃が来ると悟り、即座に彌三八の前に立ち塞がった。
「……!」
きん、と錆びかけた機械の体と嘴が衝突する音が響いた。
「おぉっと、大丈夫か?」
「平気だよ。この身体では、あまり痛みは分からないし……とはいえ、このまま受け続けるつもりもないんだ」
彌三八の呼びかけに頷いて答えたノイは次の一閃をしっかりと鍬で受け止めた。そのまま鍬を振るい、文鳥を振り払った彼は反撃に入る。
――使用承認完了、行きます。
ヒトには聞こえない高周波数の音が周囲に広がり、文鳥たちを眠りに誘った。この力は対象の負傷を癒す力がある。だが、ノイとてただ単に何も考えずに力を使ったわけではない。
「さァて、本当の眠りを与えちまうかね」
彌三八はあとは自分に任されたのだと気付き、更なる千鳥を描いてゆく。
それは己の意志とは別に、標的をどこまでも追って喰らう。眠りに落ちた文鳥を覆い尽くすかのように翼を広げた千鳥が迸った。
絵筆ひとつで群れの千鳥を操り、彌三八は敵をひき潰す。
「マ、こんなモンか」
「すごいね。みんな骸の海に還されていく」
彌三八の力に感心めいた思いを抱いたノイは周囲の様子を確かめる。彌三八は自分を守るように立ち回ってくれるノイに向け、粋に片目を瞑ってみせた。
しかし、未だ他の文鳥たちが此方に向かってきている。
ちゅん。そんな声が聞こえたことで二人はふたたび身構え直した。
「まだ増えやがるときたか。生憎俺ァ、てめえらを愛らしいと思った試しがねえんだ。ちゅんゝゝゝと喧しいったらねェや」
「そう感じるヒトもいるんだね。けれど確かにこれは騒々しいかも」
ちゅちゅんちゅん。
彌三八の言葉に対し、ノイは文鳥たちのざわめくような声を聞いて頷く。
そして、ノイは音の波を響かせていった。
翼が風をうつより疾く届くといい。そして最後は心地よい夢をみてくれるといい。きっと、殺められる側にとっては関係ないだろうけれど。
それでも、せめて――。
ノイが願う中、彌三八は千鳥を舞い飛ばしていく。
あゝ、此の風景は初めてではない。然りとて、同じではない。そんなことを考えながら、彌三八は次々と文鳥を打ち倒していった。
落ちた絵馬はノイが回収することで人々の願いは守られている。
「この辺の文鳥は一掃出来たね」
「そうみてェだな。だが、一体ェ何度繰り返すのやら」
なんて詮無きことだ。
彌三八が落とした言葉は静かに、夜の狭間に紛れて消えていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
泉宮・瑠碧
…彼らは神使でもあるのだろうか
僕は彼らも好きなのだが
絵馬を運ぶ務めは見過ごせない…すまない
暗視で配置や動きも見つつ
僕は杖を手に属性攻撃
隙を突かれたり視角外は第六感で察知出来る様に
眠りの精霊へ願い
覚めぬ深い眠りにより躯の海へと還る様に
眠りが駄目なら氷の精霊で氷漬けへ
祠への道を塞ぐ位置を取りつつ
隙を見て絵馬を運ぼうとする子や
連携を崩す際には光輪晶壁
属性攻撃もUCも
巻き込めるなら範囲攻撃で
嘴は他愛無いなら敢えて受けるが
攻撃な程に強いならオーラ防御
…君達があの神自身に仕えるのか、祠にもなのかは分からないが
神も歪みはあれど全てを悪とは思わないし
祠へは絵馬とは違うものを奉納しよう
…だから、もう、おやすみ
ユヴェン・ポシェット
何故、人の願いを集めるのだろうな…
まずは闇に溶ける黒の上着を羽織り、目立たない様にそっと敵たちに近づき、先手必勝と言わんばかりに【先制攻撃】や【早業】の技能を生かし、敵の絵馬を奪う。
…それにしても、可愛いな。と、
そっと思う。
迂闊に口に出してしまわない様に。
どんな理由があるのかわからないが、それを持っていかれる訳にはいかないな。テュット、彼らを止めるんだ。
そちらが数でくるならば…ロワ、頼むぞ。
闇の中から現れたダークネスクロークのテュットに足止めを命じる。テュットはマントを広げ敵の動きを阻む。
そして呼び出した、ロワ(ライオン)が軽く敵をなぎ払い、その隙に槍の姿のミヌレを振り回し絵馬を取り返す。
●願いの在り処
祠が遠目に見える参道の外れ。
昼間に見た場所が何故かとても遠いような気がして、瑠碧とユヴェンは先を見据える。
だが、その目の前には白い文鳥たちが立ち塞がっていた。
「何故、人の願いを集めるのだろうな……」
「彼らは神使でもあるのだろうか」
ユヴェンは絵馬を咥えた鳥たちを見渡し、瑠碧も疑問を抱く。瑠碧としては彼らが直接人に危害を加えるようなものには思えなかった。
仕える神に願いを届けるという点だけを見るならば甲斐甲斐しい。だが、絵馬を運ぶ務めは見過ごしてはおけない。
ユヴェンは息を潜めて敵の死角に回り、瑠碧は杖を構えて敵の前に踏み出す。
――先手必勝。
その言葉を体現するかのように、ユヴェンは一気に敵に槍を向けた。相手の意識は瑠碧に向いているがゆえの先制奇襲だ。
闇に溶ける黒の上着をなびかせ、文鳥を穿った彼は絵馬を奪う。
(……それにしても、可愛いな)
絵馬が奪われ返されぬよう大切に仕舞い込みながら、ユヴェンは思う。迂闊に口に出してしまえば心が揺らぎそうだった。
ちゅん、と鳴いた愛らしい声に耳を傾けすぎないよう心掛け、ユヴェンは次なる標的を狙ってゆく。
それと同時に瑠碧が光輪を顕現する。
戦いの最中、他の猟兵がガラスのラビリンスを発動させていた。それによって文鳥たちは容易に逃げられないでいた。
それでも瑠碧は相手が出口から抜けてしまわぬよう、祠への道を塞ぐ位置を取る。
刹那、輪の内側へ向けて描かれた魔法陣が解き放たれた。光輪の圧迫、そして攻撃を外へ通さない不可視の檻が標的を包み込む。
ぴぃ、と苦悶の鳴き声が上がったが、瑠碧は聞こえていないふりをした。
彼女が心苦しさに押し潰されそうになっているのだと気付き、ユヴェンは大丈夫だとそっと告げた。
自分も同じく、彼らを苦しめている。
ゆえに罪を背負うのは瑠碧だけではないのだ、と――。
「どんな理由があるのかわからないが、それを持っていかれる訳にはいかないな。テュット、彼らを止めるんだ」
闇の中から現れたダークネスクロークに足止めを願い、ユヴェン自身は金獅子のロワを呼び出す。獅子に騎乗したユヴェンは次々と迫ってくる文鳥を見つめた。
その数は多く、テュットだけでは防ぎきれそうにない。
「そちらが数でくるならば……ロワ、頼むぞ」
爪を掲げた金獅子が文鳥達を引き裂き、薙ぎ払った。次の瞬間、竜槍を振りかざしたユヴェンは絵馬を掠め取る。
彼が絵馬を集めてくれていると察し、瑠碧は氷の精霊を呼ぶ。
眠りの精霊の力は抵抗されてしまっていた。それゆえに氷結の力で敵の動きを止めていく。そんな中で瑠碧はちいさく思いを零す。
「……君達があの神自身に仕えるのか、祠にもなのかは分からないが――」
歪みはあれど、全てが悪ではない。
神にもきっと願いがあり、それを叶えるために文鳥たちも力を尽くそうとしているのだろう。そう思うと瑠碧には誰も憎むことなど出来なかった。
「祠へは絵馬とは違うものを奉納しよう……だから、」
もう、おやすみ。
瑠碧が祈るように両手を重ねると光輪の晶壁が周囲に巡った。
ユヴェンは周囲の文鳥が光に包まれていく様を見守り、槍を強く握り締めた。
覚めぬ深い眠りにより、躯の海へと還るように――。願われた思いと共に文鳥たちは静かに息を引き取り、夜の狭間にとけきえていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
水標・悠里
先日も似たようなオブリビオンに遭遇しましたが、またこの愛らしい鳥の方なのですね
今回も手は抜きません。神様のもとへと行かねばならないので
「少々手荒くなってしまいますが、どうかご容赦を」
【黒翅蝶】から呼び出した死霊の蝶と戯れつつ旋風を呼ぶ為に舞いましょう「絵馬を返していただきますね」
攻撃で気を逸らした隙に、奪われた絵馬を取り返します
もし取れなくても数を減らしてこの先運ばれる枚数を少しでも減らせれば
か、可愛い鳴き声には惑わされません!
しっかり、そう、ちゃんとやらないと。
その円らな眼はやめてください……
その絵馬は眞白の神へかけられた願いではありません
あるべき場所、捧げられた場所へと戻していただきます
樹神・桜雪
【WIZで判定】
※絡み・アドリブ歓迎。
わあ、可愛いなあ。ボク、あのフォルムに弱いんだ…。
…可愛いけど、絵馬は持っていったらダメ。
『先制攻撃』で、お札氷の刃に変えてをUCを『2回攻撃』で撃つよ。可能な限り沢山巻き込みたいな。
相手の攻撃には『カウンター』で対処。
なんなら『捨て身の一撃』で行ってもいい。神様に絵馬を持っていかれるくらいなら多少痛いのは我慢する。
…隙を見て絵馬を運ぼうとするぶんちょうさまには、UCで牽制しながらぺちっと殴るよ。
持っていったらダメだってば。手癖…じゃなくて、嘴癖の悪いぶんちょうさまにはお仕置きだよ。凍っちゃおう?
●抱くは己の役目
似ている。けれど、違う。
悠里が目の前の敵――ぶんちょうさまへと感じたのはそんな思いだ。
「またこの愛らしい鳥の方なのですね」
以前の鳥と比べながらも、悠里は絵馬を咥えた文鳥を見つめる。御神籤を放ってきたあの鳥と似てはいるが、同一視してはいけない。
そう思う悠里の傍ら、同様にぶんちょうさまを追ってきた桜雪が呟きを落とした。
「わあ、可愛いなあ。ボク、あのフォルムに弱いんだ……」
だって相棒に似ているから。
そんな可愛い見た目に反して、文鳥は桜雪達を威嚇してきている。
きっと彼らは彼らなりの意思を持って動いてるのだろう。その愛らしさは認めるが、悠里は決して手は抜かないと決めた。
「これから、神様のもとへと行かねばならないのです」
それが猟兵としての己の務め。
悠里がそう宣言すると、桜雪もぐっと拳を握って決意する。
「可愛いけど、絵馬は持っていったらダメ」
「少々手荒くなってしまいますが、どうかご容赦を」
二人は暫しの共闘を行うことを確かめあい、其々の力を紡ぎはじめた。
桜雪は札を氷の刃に変え、更に氷の花弁を周囲に広げる。対する悠里は黒い蝶のオーブを掲げた。淡く燐光を放つ其処から死霊の蝶が羽ばたいていく。
指先で蝶と戯れつつ、悠里は旋風を呼ぶ為に舞う。
死者を導く導の如く、ひらりと宙に舞った蝶々。それらと共に一閃を見舞った悠里は文鳥が咥えていた絵馬に手を伸ばした。
「絵馬を返していただきますね」
先ずは一枚。
彼が絵馬を手にしたことを確かめ、桜雪も氷華と刃を解き放っていく。
相手の数は多い。それゆえに可能な限りたくさんの文鳥を巻き込むべく、桜雪は懸命に力を奮っていった。
つぶらな瞳が向けられ、桜雪に嘴の一閃が見舞われる。
鋭い衝撃が巡ったが、彼はカウンター攻撃で対処していった。
「神様に絵馬を持っていかれるくらいなら、少しくらい痛くたって……!」
痛みを堪え、桜雪は果敢に立ち回った。
彼が攻撃を受けてくれていると察し、悠里も呪扇を広げて舞い続ける。荒波が巻き起こり、文鳥達をひといきに穿った。
その波が戻ってくる際に引き寄せた絵馬を手に取り、悠里はその無事を確かめる。
そんなとき――。
「ちゅん……」
いたいけで弱々しい鳴き声がぶんちょうさまからあがった。それはどうやら苦しんでいる声のようだ。はっとした二人は思わず動きを止める。
可愛い。
言葉にはしなかったが、彼らの中にある思いはとてもよく似ていた。
「か、可愛い鳴き声には惑わされません!」
「ダメ、ダメだよ。可哀想だとか思っちゃいけないよね」
「しっかり、そう、ちゃんとやらないと。その円らな眼はやめてください……」
「うん、負けないよ。負けちゃいけないんだ……!」
悠里と桜雪は首を横に振り、自分の中にある思いを振り払う。そして、頷きを交わしあった彼らは身構え直す。鬼神楽を、そして氷の花を其々に舞わせる二人は真剣だ。
「その絵馬は眞白の神へかけられた願いではありません」
悠里がそう告げると、桜雪も凛とした口調でぶんちょうさまに宣言する。
「持っていったらダメだってば。手癖……じゃなくて、嘴癖の悪いぶんちょうさまにはお仕置きだよ。凍っちゃおう?」
桜雪によって放たれた氷華の一閃が標的を貫いた。
悠里も静かに双眸を細め、次々と地に落ちていく文鳥達を見つめる。
願いの絵馬は渡さない。
あるべき場所、捧げられた場所へ――戻していただきます、と彼が口にした刹那、伏していた鳥たちは跡形もなく消え去り、骸の海に還っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朝日奈・祈里
ふわふわと、長杖にまたがり、浮かんでぶんちょうさまを追うぞ
なあ、それを返してくれ
ぼくのものだろ?
ほかの人のだろ?
お前らに見せる為のものじゃねーし
ましてやお前らが仕えるかみさまのものじゃねぇんだ
大人しく置いてったほうが合理的だぞ?
…じゃ、力ずくで行こうか
身体強化魔法を施し、ルーンソードを使って戦うぞ
視野は広く、敵軍を全て視界内に収めて戦う
隙を突いて絵馬を持ち出そうとする個体を見つけたら即座に精霊クロノスを召喚
対象の時を止めて、攻撃だ
……ああ、きっと、あれだなぁ
トランプに興じたあの時間
あれは、楽しかったもんなぁ
……なにかの、喪失感
まあいい
ぼくの、すべき事をこなそう
さあ鳥ども
遊んでやるよ
●忘却
夜の狭間を舞う白い翼を追い、空を飛ぶ。
長杖に跨った祈里はふわふわと浮遊しながら、ぶんちょうさまを捉えた。
「なあ、それを返してくれ」
振り向いて威嚇してくる文鳥に向けて、祈里は手を伸ばす。
其処に咥えられている絵馬は偶然にも昼間に祈里が記したものだった。祈里とて物理的なものがただ無くなるだけなら何とも思わない。
しかし絵馬が別の神に届けられ、剰え妙な形で叶えられようとしているなら別だ。
「それ、ぼくのものだろ? ほかの人のだろ?」
決して、それらは文鳥や謎の神に見せる為に書いたものではない。
金眸で敵を見据えた少女は携えていた剣を抜き放つ。そして、最終通告めいた言葉を文鳥達に差し向けた。
「それはお前らが仕えるかみさまのものじゃねぇんだ。ここで大人しく置いてったほうが合理的だぞ?」
「ちゅちゅん!!」
されど文鳥は激しく鳴いて、渡すものかと言わんばかりに威嚇を続ける。
「……じゃ、力ずくで行こうか」
溜息をついた祈里は身体強化魔法を自らに施していく。構えたルーンソードの切先を標的に向け、少女はひといきに浮遊する杖に魔力を込める。
瞬時に近付く敵との距離。
振るった刃で文鳥の羽を切り裂けば、その嘴から絵馬が転げ落ちた。杖を操って落下する絵馬へと飛んだ祈里はしかとそれをキャッチする。
これで自分の絵馬は取り返せた。
だが、その隙に別の絵馬を持った文鳥が飛び立とうとしていることに気が付く。
「――コード:クロノス!」
祈里は考えるよりも先に詠唱を紡ぎ、精霊クロノスを召喚した。
烏の濡れ羽色のメッシュが浮かんだかと思うと時の魔力が迸り、対象の動きを止める。その瞬間、祈里の中から何かが零れ落ちていった。
(……ああ、きっと、あれだなぁ)
トランプに興じたあの時間。あれは楽しかった。皆が一喜一憂する姿を見て、珈琲を飲んで、笑いあったひととき。
その記憶が力の行使の代償として奪われ、消えていく。
とても、とても楽しかった。
――でも、何が?
喪失感を覚えてはいたが、祈里は先程まで思い浮かべていたことを忘れていた。
まあいい、と首を振った少女は剣を構え直す。
いまはぼくの、すべき事をこなそう。そう感じた祈里は文鳥達を見渡した。
「さあ鳥ども、遊んでやるよ」
願いも祈りも、確かなものは持っていない。すべて消えてしまうけれど――それでも、戦う理由は己の裡に残っているのだとして、少女は不敵な笑みを浮かべた。
大成功
🔵🔵🔵
輝夜・星灯
嗚呼――耳障りだ
普段なら微笑ましいだろうに
とおく、みえない場所から聴こえるだけの微かな聲が
何故こんなにも腹立たしいのだろう
眞白の鳥どもに見つかる前
射程ぎりぎりから気配を隠して、仮初の灯火(いのち)を刈る
手段は選ばない
連ね通して焼鳥串にするのも美味そうだが
あいにく生き血に飢えていてね
生きるために、その血を啜る
私の礎になってくれ
盗られていた絵馬は拾って――後で返しに行く心算だ
得体の知れぬナニカになぞ、ヒトの想いを渡すものか
ニセモノだろうが、こっちも『カミサマ』なんでね
矜恃くらいは、ある
さて、その有無くらいは
かたれる『かみさま』ならいいのだけど
……期待は出来ないかな
それでもいいさ
溟渤へ還すだけだから
●果てしなき闇の底へ
嗚呼――耳障りだ。
昏く染まった夜の最中、響く鳴き声に星灯は思わず耳を塞ぎたくなった。
小鳥の声は普段なら微笑ましいだろうに。とおく、みえない場所から聴こえるだけの微かな聲が何故こんなにも腹立たしいのか。
眞白の鳥。彼らに見つかる前に星灯は身を潜め、物陰から祠に向かう文鳥達を見据えていた。そして、射程ぎりぎりから狙いを定める。
刈るのは仮初の灯火――いのち。
飢餓めいた感情を抱く星灯は今、手段など選ばない。そうして一瞬で文鳥が貫かれ、絵馬と共に地面に落ちた。
「連ね通して焼鳥串にするのも美味そうだが、あいにく生き血に飢えていてね」
其処に歩み寄った星灯は弱りきった文鳥を拾い上げる。
掌より少し大きい程度のそれに口許を近付け、星灯はそっと囁く。
「私の礎になってくれ」
生きるために、その血を啜る。それが何であっても飢えを少しでも満たしてくれるのならば容赦はしない。
星灯は戦う力を完全に失った魑魅魍魎を地に転がした。
周囲を見遣れば、他の猟兵によって文鳥たちの数が徐々に減らされている。そしてどうやら、ガラスのラビリンスが展開されていることで敵はこの周囲から逃げ出せないでいるようだ。
盗られていた絵馬を拾い、星灯は顔をあげる。
これは後で奉納場所に返しに行く心算でいる。幾ら届け先が神の分類にある者だといえど、それは謎の多い存在だ。
「得体の知れぬナニカになぞ、ヒトの想いを渡すものか」
ぽつりと呟いた星灯は絵馬を裏返しにしてから、そっと仕舞い込む。
それに、ニセモノだろうがこっちも『カミサマ』だ。
相手が望みを叶えると云われる存在であろうとも、自身にも矜恃くらいはある。
星灯は透き通った硝子迷宮の先を見遣った。
少しばかり遠い祠。
其処に一瞬だけ、真白き影が揺らいだ気がした。あれが件の『かみさま』の気配なのかもしれない。
「さて、その有無くらいはかたれる、かみさまならいいのだけど」
星灯は思いを言葉に変えながら、静かに首を横に振った。
けれど、期待は出来なさそうだ。しかし星灯にとってはそれでも構わない。何故なら、そう――相手が何であったとしても、溟渤へ還すだけなのだから。
大成功
🔵🔵🔵
絆・ゆい
くろば/f10471
漂う苺煙が揺らぎを見せる
どうやらお出ましのよう
眞白き神格の遣いたち
良しも悪しもわからぬけども
あれらはひとの子たちの嘆願
くべることは見過ごせぬよ
この器を使役するのはヒトとしての情
祈願より誕生せし宿神としてではなく
只々ぼくの、わらわの興の赴く儘
そら、往こうか
見目も囀りも愛いもの
惑うことなく向かわねば、ね
祈願を集わす理由なぞ知らぬけど
愛いものを殺めるのは本望ではないの
その依代だけ置いておくれ
鋭利な嘴は念動力にて軌道曲げて
金赤の煙管を爪弾いて唄いあげよ
『華合』
遣いを囲うひととせの乱舞
あなたの氷桜片と交わりて
ほうら、唄えや踊れ
気絶する鳥は樹木の元へ
眠っておくれ
眞白き主と邂逅果たすまで
華折・黒羽
ゆいさん/f17917
絵馬が宵風受ける度奏でる木の音
その音色に不和が雑じれば弾かれたように耳揺らし
ゆいさんの呟きに頷きひとつ
遣いの鳥達を越えたならば其処には神が居るというのに
語らいも意思も身の運びも
己の目の前には既にカミサマが居るようで
往こうかと誘う声に脚は勝手についてゆく
神隠し、とは…こういった心地なのだろうか
なんて思いながらも
あなたが風に乗せる唄に導かれる様生み出すは
氷で織り成す桜の夢
四季の花に交ざり舞う幾片は
此の身の内で咲いては散り続ける「唯一」
─ねむれ、ねむれ、今は只
花舞う中で神手に留まり、歌い遊ぶ姿を夢に見ながら
菫の眸向けられたなら夢心地から覚めたよに
…俺も無闇な殺生は嫌いなので
●花氷の夢唄
夜の最中、漂う苺煙が揺らぎを見せる。
絵馬を奪った鳥達を追い、祠に続く参道の外れを往くゆいはそっと顔をあげた。
「どうやら気付かれたよう」
眞白き神格の遣い。飛んでいた彼らはゆい達に向けて振り向き、威嚇をはじめた。
――邪魔をしないで。
そのように語る眼差しが向けられ、黒羽は身構える。
耳に届くのは絵馬が宵の風を受ける度に奏でる木が擦れ合う音。幾つもの絵馬を咥えた文鳥は、なんとしてもそれを祠の神に届ける心算だ。
ゆいの言葉に頷きを返し、黒羽は遣いの鳥達を瞳で捉える。
願いを運ぶこと。
そして、祠に御座すかみさま。その良しも悪しも未だ、わからぬけども――。
「あれらはひとの子たちの嘆願。くべることは見過ごせぬよ」
そら、往こうか。
始まる戦いを示したゆい。その声に導かれるように黒羽も踏み込む。
この鳥達を越えたならば其処には神が居るというのに、語らいも意思も身の運びも其方には惹かれない。己の目の前には既にカミサマが居る。だから、往こうかと誘う声に脚は勝手についてゆく。
ゆいも黒羽を伴い、つぶらな瞳を向けてくる文鳥達と対峙する。
この器を使役するのはヒトとしての情。
祈願より誕生せし宿神としてではなく、只々ぼくの、わらわの興の赴く儘に。
――色は匂へど、散りぬるを。
華合の力を振るえば、四季を司る花々の乱舞が戦場を彩る。
敵の見た目も囀りも愛いものだが、それに惑わされてはいけない。ゆいには祈願を集わす理由なぞ解らぬが、鳥達を殺めるのは本望ではない。
ゆえに、その依代だけ置いておくれと告げながら花を舞わせていく。
つられて連れられた戦場。
神隠しとは、こういった心地なのだろうか。そんなことを思いながらも、黒羽はゆいが風に乗せる唄と共に紡いだ花を見つめる。
そして更に彼が其処に生み出したのは氷で織り成す桜の夢。
四季の花に交ざり舞う幾片。
それは此の身の内で咲いては散り続ける、唯一。
攻防が巡る中、ゆいは差し向けられた鋭利な嘴を念動力で以て逸らす。そして、金赤の煙管を爪弾き、更なる詩を唄いあげていった。
遣いを囲うひととせの乱舞。
黒羽が散らせる氷桜片と交わったそれは戦場を淡く彩っていった。
「ほうら、唄えや踊れ」
「――ねむれ、ねむれ、今は只」
花舞う中で神手に留まり、歌い遊ぶ姿を夢に見ながら、安らかに。
二人が齎していく心地は文鳥達を静かな眠りにいざない、その身体を地に落としていく。そして、黒羽は菫の眸が自分に向けられていることに気が付き、夢心地から覚めたように幾度か瞬いた。
「ここで、眠っておくれ」
「……俺も無闇な殺生は嫌いですが、どうか還ってください」
ゆいが骸の海に還る鳥は樹木の元へと葬った後、黒羽も静かに頷いた。
さあ、後は眞白き主と邂逅を果たすのみ。
そうして彼らは祠に瞳を向け、来たるべき時へと思いを馳せた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
サン・ダイヤモンド
【森】
彼の首へ腕を回し、彼に抱えられて鳥達を追う
「うん」
こうやって共に跳ぶのは久しぶりで
少し胸の中が擽ったくて
抱えられたままそっと甘えるように頬を寄せた
先回りできたら気を取り直し
「だめだよ、勝手にひとのものをとったりしたら!」
でもつぶらな瞳に「うう、」と勢いを殺がれてしまう
遣り難いにはとても同意
「ブラッド、この子達強敵だよ……でも、でも、やらなきゃ……!」頭ぶんぶん
鳥にピクシーの催眠術がかかったら神様のふり
両手を差し出し絵馬を回収する
「ありがとう。お疲れ様。あとは、ゆっくり休んでね」
鳥の周りの空気(無機質)を破魔を込めた陽光に変える
それはぽかぽかで、きっとお昼寝には最適な
優しく、おやすみなさい
ブラッド・ブラック
【森】
「しっかり掴まっていろ」
サンを抱えバウンドモード発動
文鳥を追い、その群れを跳び越え
神の許へ行こうとする鳥がいるならば更にその先まで跳び、サンと共に立ち塞がろう
タールの体で『貪婪の腕(巨大腕武器』を形成し圧を掛ける
「此処から先は通さんぞ」
「もきゅ!」
ピクシーがサンの言葉に同意するように跳ね、それから戦場を縦横無尽に駆け回り、尾の先の花から幻惑の花粉(催眠粉)を撒いていく
サンが危なければ武器受けで庇い、増えた鳥は貪婪の腕で大食い薙ぎ払う
「……しかし遣り難いな」
「もきゅー!もきゅきゅー!」活を入れるようなピクシーの合図に催眠術を発動させ
鳥に白いサンを神と思い込ませる
「さあ、お前達の主は此処だ」
●唯一の白
「しっかり掴まっていろ」
「うん」
言葉を交わした後、景色が流れるように速く進んでいく。
サンは今、ブラッドの首へと腕を回し、彼に抱えられながら鳥達を追っていた。
こうやって共に跳ぶのは久しぶりだ。
少し胸の中が擽ったくて、抱えられたままそっと甘えるように頬を寄せる。ブラッドはサンが身体を預けてくれる感覚を確かめながら、優しく彼を抱き続けた。
そして、数瞬後。
文鳥の姿を捉えたブラッドは、前に回り込む形で着地した。
神の許へ行こうとする鳥の群れを飛び越えた彼はサンを下ろし、共に立ち塞がる。
すると同時に周囲に硝子の迷路が張り巡らされはじめた。どうやら他の猟兵が力を使い、文鳥たちが祠に行けぬように障壁を作ったようだ。
透き通った壁が広がってゆく中、ブラッドとサンは文鳥たちを見据える。
「此処から先は通さんぞ」
「だめだよ、勝手にひとのものをとったりしたら!」
「ちゅんちゅん!」
すると文鳥はそんな声を上げて威嚇してきた。声は鋭いが、その瞳はつぶらだ。「うう、」と思わず呻いたサンはブラッドを見上げる。
「ブラッド、この子達強敵だよ……」
対峙する勢いを殺がれてしまったように感じたが、サンは頭をぶんぶんと振って気を取り直す。ブラッドも遣り難いと零しながら、身構える。
そして、其処から形成していくのは貪婪の腕。
文鳥たちに圧を掛け、ブラッドはサンを庇う形で布陣していく。サンはぐっと拳を握り、文鳥からの敵意を受け止めた。
「でも、でも、やらなきゃ……!」
「もきゅ!」
するとピクシーがサンの言葉に同意するように跳ねる。そうして、ピクシーは戦場を縦横無尽に駆け回り、尾の先の花から幻惑の花粉を撒いていった。
それは催眠の力を持つ粉。
サンはブラッドの狙いを感じ取り、ピクシーの動きをしかと見守った。彼は白い神とサンを混同させて敵を惑わせようとしているのだ。
「もきゅー! もきゅきゅー!」
活を入れるようなピクシーの合図から、催眠術が発動されていく。
サンはそっと微笑み、文鳥に向けて両手を差し出した。対する文鳥は不思議そうな顔をしていたが、そのままサンに近付いていく。
これでいい。
後は自分が神として絵馬を回収するだけ。
「さあ、お前達の主は此処だ」
「ありがとう。お疲れ様。あとは、ゆっくり休んでね」
「ちゅん!?」
だが――ブラッドとサンが口をひらいた刹那、文鳥が物凄い勢いで其処から離れた。
かみさまは、しゃべらない。
ぼくたちに話しかけたりなんてしない。
それに、そんなにやさしい目をしない。
文鳥たちはそんなことを言っているかのように喚き散らし、更なる警戒を抱いてしまった。催眠が掛かっていようとも、かみさまとは違う行動から偽物だと悟ったらしい。
ブラッドは作戦が失敗したのだと気付く。
だが、サンはその理由に納得した。
もし自分達の片方が催眠にかけられ、何者かに互いを偽られたとしたら。最初は惑わされたとしても絶対に本物と間違えるはずなどない。
大切に思うものなら特に――。つまりはそう、文鳥たちにとって白き神はそれほどに大事な存在なのだ。
サンは鳥の周りの空気に破魔を込め、それを陽光へと変えていく。
惑わせられなかったことに後悔はない。何故なら、彼らもまた大切な者の為に動いているのだと知れたからだ。
「ブラッド、彼らを眠らせよう」
「――ああ」
サンの呼びかけにブラッドが頷き、貪婪の腕を大きく振り上げた。振るわれた一閃が文鳥を薙ぎ払う中、サンは陽光を解き放つ。
その光はぽかぽかで、きっと眠るには最適なはずで――。
「優しく、おやすみなさい」
サンの言葉が落とされた次の瞬間、光りに包まれた文鳥たちが骸の海に還されていく。
その光景を双眼で見つめたブラッドは静かに見送る。
彼らにとっての唯一が白き神であるのと同様に、己にも唯一の存在がいる。それこそが隣に立つサンなのだと改めて確かめ、ブラッドは先を見据えた。
硝子迷宮の出口はすぐ其処。
あの祠の前にあるのだとして、ブラッドたちは気を引き締めた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴィルジール・エグマリヌ
たから(f01148)と
文鳥……ふわふわしてて、可愛いよね
自然が残っている世界は良いなあ
それでも、絵馬を盗むなんて見過ごせない
悪い文鳥には仕置きが必要だね
嫌悪感のままに頸無し騎士を召喚
お前たち、あの鳥を追いかけておくれ
道中、たからを隠す壁に成りながら移動を
距離が開きそうな時は、騎士の馬に相乗りさせて貰おう
敵に気づかれたら
先鋒として騎士たちを嗾け範囲攻撃
彼らに紛れながら暗殺の技能活かし接近して
処刑剣で二回攻撃しながら格個撃破して行こうか
つぶらな視線は騎士に遮らせるか
迫る嘴を剣で武器受けして耐え凌ごう
庇ってくれて有難う、たから
君を傷つけた悪い子は、せめて私が切り伏せよう
不意打つように捨て身の一撃を
鎹・たから
ヴィルジール(f13490)と
あれが神様の使いですか
…小鳥ですね
丸いです、ふわふわです
とても小さな文鳥です
はい、彼らはオブリビオン
たから達がほろぼしましょう
艦長の騎士の背後や物陰に潜み移動
背が小さいのは悩みですが
大きな騎士に隠れるには良いですね
素早く敵へ接近
見つかった際も残像で回避
【ダッシュ、忍び足、早業、残像
間近まで近付いて拳をふるいます
一羽ずつ確実に仕留めましょう
【暗殺、鎧砕き、グラップル、2回攻撃、気絶攻撃
艦長に危険及べば素早くかばい
たからは大丈夫ですよ
ふわふわの小鳥がくっつくのは
少し気が咎めますが
【かばう、オーラ防御
たから達の絵馬だけでなく
一般人の絵馬まで奪わせる訳にはいきませんから
●騎士と拳と刃の一閃
奉納台から飛び去った白い翼。
その軌跡を見つめ、ヴィルジールとたからは後を追う。
あれが神様の使いですか、と声を潜めたたからは隣のヴィルジールを見上げた。
「……小鳥ですね。丸いです、ふわふわです」
「文鳥……ふわふわしてて、可愛いよね」
自然が残っている世界は良いなあ、としみじみとヴィルジールが呟いたのは故郷には星の海だけが広がっているゆえ。
確かに文鳥たちは愛らしい。それでも、絵馬を盗むとあれば見過ごせなかった。
「悪い文鳥には仕置きが必要だね」
「はい、彼らはオブリビオン。たから達がほろぼしましょう」
二人は互いの意思を確かめあう。そして、ヴィルジールは其処に抱いた嫌悪感のままに頸無し騎士を召喚していく。
「お前たち、あの鳥を追いかけておくれ」
「いきましょう」
ヴィルジールが呼んだ騎士の影にたからが隠れ、彼もまた彼女を隠す壁になりながら移動していく。たからはヴィルジールに頼もしさを感じながらふと思う。
背が小さいのは悩みだが、大きな騎士に隠れるには丁度良い。だからこの身長も少しは悪くないのではないか、と。
そうして二人は文鳥たちに気付かれぬように祠への道を辿り、ふと気付く。
「向こうも気が付いたみたいだね」
「ここからが戦いですね、艦長」
ヴィルジールがたからに呼びかけると、こくりと頷きが返ってきた。そして先鋒として騎士たちを嗾けたヴィルジールは処刑剣を構える。
対する文鳥たちは威嚇してきていた。
つぶらな瞳が騎士に向けられ、鋭い嘴攻撃が迫る。
されど、たからとてそれをただ見ているだけではない。文鳥の側面から回り込むように駆けた彼女は拳を握り締めた。
刹那、其処に氷を纏ったたからの一閃が文鳥を激しく穿つ。
更に騎士に紛れて気配を消していたヴィルジールが其処に刃を振り下ろすことで、相手の動きを完全に止めた。
その間に騎士たちが纏う闇を揺らめかせ、別の文鳥を相手取っていく。
それによって咥えられていた絵馬が地面に取り落とされそうになった。たからは即座に身を翻し、落下していく絵馬に手を伸ばした。
「つかまえました」
「大切な願いだろうからね、傷付かなくて良かった」
彼女が願いの証を取り返したのだと感じ、ヴィルジールは静かに笑む。
だが、敵意を向けてくる文鳥も黙ってはいなかった。
ちゅちゅん、と激しい鳴き声をあげた彼らは連携し、桜文鳥やシナモン文鳥が白文鳥と一緒になって突撃してくる。
騎士の背に回り込んで回避しようとしたヴィルジールだが、その死角からも別の文鳥が近付いてきていた。
たからはそのことに気付き、咄嗟に彼の元へと駆けていく。
鋭い嘴をその腕で以て受け、たからは痛みに耐えた。
「――艦長」
「たから?」
思わず呼び名を口にしたたからの声を聞き、ヴィルジールもその名を呼び返す。無事で良かった、と口にした彼女はゆっくりと息を吐いた。
「たからは大丈夫ですよ。ふわふわの小鳥がくっつくのは、少し気が咎めますが」
「有難う、たから」
処刑剣を構え直したヴィルジールは心からの礼を告げ、文鳥たちに向き直る。
一羽ずつ確実に仕留めましょう、と呼びかけた彼女の声に同意を示し、ヴィルジールは刃を振り上げた。
「君を傷つけた悪い子は、せめて私が切り伏せよう」
相手からも再び嘴攻撃が行われようとしているが、そんなことなど構わない。
ヴィルジールは不意打つように身を翻し、ひといきに剣を振り下ろした。嘴が腕を掠めたが、刃を切り返してもう一閃。
斬り裂かれた文鳥は苦しげな声をあげ、その場に伏す。
これで仇――というには些か大袈裟だが、たからの分をお返しすることが出来た。ヴィルジールの思いを嬉しく感じながら、たからも身構え直す。
絵馬は何枚か取り戻せているが、まだ咥えられたままのものも多い。
「たから達の絵馬だけでなく、皆さんの絵馬まで奪わせる訳にはいきませんから」
「ああ、取り戻す為に力を尽くそう」
たからとヴィルジールは視線を交わし、此処から巡る戦いへの思いを抱いた。
白き神の御座す祠まで、あと少し。
それまでは共に戦い続けるのだと決め、二人は其々の力を揮ってゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
グウェンドリン・グレンジャー
【雪梅】
(じーっ……っと、ぶんちょうさまを見つめる)
イケな……イケるかも
ほら、私、一応、カラスだし
(バリッと着物を割くように腰から黒い翼が生えてきて)
一番、落とせるか……の、勝負?おっけー
ジェイ、ヴィリヤ、がんばろー
【空中戦】で、飛んで、ぶんちょうさま達の、上をとって……翼を広げて、【捕食】【生命力吸収】を乗せたFeather Rain……
ぶんちょうさま達、【第六感】で、避ける
一撃で、倒せなかった、やつ、Imaginary Shadow……黒い、虚数の影に、そーっと、しまっちゃう
自分の力……で、作った影、の、中に、入れる……のは、実質、食べたと、同じ
……これは、しろあん、桜あん、シナモン
ヴィリヤ・カヤラ
【雪梅】
飼いたいくらいの可愛さだね。って言っても
倒せないなんていわないけどね。
グウェンさんあれ食べるの?
小さめだから身が少なそうだけど。
私は吸血するなら人の方が良いからパスかな。
飛んでるなら落とせば良いよね。
【四精儀】でダウンバーストを起こして落とすね、
四方に散っちゃったらゴメンね!
落とす=倒すだよね、
それなら鋼糸の刻旋を地面に網状にして広げて、
落ちてきた敵を投網の要領で捕まえて刻むね。
食事は大事だしもし食べるなら
控えめしようかなって思ったけど大丈夫そうかな?
って!グウェンさんもジェイさんも倒すの早いから私も頑張らないと!
ジェイ・バグショット
【雪梅】
また随分と可愛らしい敵が来たもんだ。
言葉とは裏腹に攻撃に遠慮など微塵もない
あの鳥って食えんのかな。
なぁ?グウェン。と声をかける
鉄輪に棘のついた拷問器具『荊棘王ワポゼ』を空中に複数出現させる
高速回転しながら自動で敵を追尾し攻撃
【早業】により速度アップ
誰が一番落とせるか勝負でもするか?
ヴィリヤの問いにはもちろんだと返して
鳥を刻むヴィリヤに
挽き肉製造だなァ。なんて呑気に言って
…多数を相手取るのは得意なんだ。
影のUDC『テフルネプ』は変幻自在
どこからでも敵を攻撃可能
ヴィリヤとグウェンの後方から全体的を見てサポートと討ちもらしを追撃
さて、誰が一番だ?
遊びの勝敗を聞くように、どこか楽しげですらある
●勝負の果てに
「また随分と可愛らしい敵が来たもんだ」
「飼いたいくらいの可愛さだね。って言っても倒せないなんていわないけどね」
祠に至る参道の外れにて、ジェイとヴィリヤは此方を威嚇しているまんまるな文鳥を見据えた。その傍ら、グウェンドリンはじっとぶんちょうさまを見つめている。
その様子に気が付いたジェイはふと彼女に声を掛けた。
「あの鳥って食えんのかな。なぁ?」
「イケな……イケるかも」
「グウェンさんあれ食べるの? 小さめだから身が少なそうだけど」
最終的にイケそうだと答えたグウェンドリン。対するヴィリヤは、吸血するなら人の方が良いからパスかな、と首を横に振る。
「うん……ほら、私、一応、カラスだし」
グウェンドリンがそう告げると、着物を割くように腰から黒い翼が生えてきた。
そりゃ頼もしいと話したジェイは二人を見遣る。来るぞ、と彼が言葉にした瞬間、ぶんちょうさまたちが突撃してきた。
ジェイはそれらを迎え撃つべく、拷問器具を空中に出現させる。
「誰が一番落とせるか勝負でもするか?」
鉄輪の棘で以て敵の軌道を防いだジェイはヴィリヤ達に呼びかけた。軽い言葉とは裏腹に、彼が荊棘王から放つ攻撃に遠慮など微塵もない。
「勝負? おっけー……ジェイ、ヴィリヤ、がんばろー」
「いいよ、飛んでるなら落とせば良いよね」
グウェンドリンは、おー、と片腕を上げてから空に舞いあがった。ヴィリヤは彼女が翼で華麗に羽撃く姿を軽く見上げてから、自らも力を紡ぎはじめる。
――この地を構成するモノよ、その力の一端を示せ。
詠唱と共に四精儀の力が巡った。
「四方に散っちゃったらゴメンね! 落とすって倒すだよね?」
「ああ。しかし、挽き肉製造だなァ」
下降気流を起こしたヴィリヤの問いにはもちろんだと返し、ジェイは鳥が刻まれる様を呑気に眺めた。
その間にグウェンドリンが空中から攻める。
ぶんちょうさまよりも高く飛び、頭上を取ったグウェンドリンは翼を広げる。其処から滑空した彼女は黒い翼のブレードで敵を切り裂き、瞬く間に小鳥を捕食した。
翼には生命を吸い取る力を乗せているゆえ、その一閃はグウェンドリンの力になっていく。そして、彼女は攻撃を避けた文鳥が近くに迫っていることを悟った。
はっとしたグウェンドリンは咄嗟に避ける。其処にジェイが解き放ったワポゼが飛び交ってゆく。
「これでまた一体、っと」
死角から穿たれた文鳥は回転する拷問器具に巻き込まれて地に落ちた。
グウェンドリンやジェイに負けてはいられないとして、ヴィリヤも再びダウンバーストを巻き起こす。ばらばらに散った文鳥に対して、ヴィリヤは鋼糸の刻旋を地面に網状にして広げていく。
其処に落ちてきた敵を投網の要領で捕まえ、容赦なく刻んでいった。
「どうかな、二人共」
たくさん刻んだよ、と双眸を細めて問うヴィリヤは少しばかり得意げだ。しかし、グウェンドリンも自分なりの食事をするために力を揮っていった。
「もっと、倒して……ここ、に、入れて、あげる……」
翼を広げて宙を舞うグウェンドリンは黒い虚数の影に文鳥を捕らえる。
しまっちゃおう、と呟いた彼女は思う。自分の力で作った影の中に入れるのは実質、食べたことと同じ。
食事は大事。それゆえに少し控えようと思っていたヴィリヤだが、どうやらグウェンドリンは大丈夫そうだ。
その様子を片目を眇めて見ていたジェイは軽い称賛の言葉を送る。
「なかなかやるじゃねェか。だが、こっちも多数を相手取るのは得意なんだ」
影のUDC、テフルネプを解き放ったジェイは手近な文鳥を鋭く穿った。拷問具と変幻自在の影を用いれば、どこからでだって敵を貫ける。
ジェイは前線に出るヴィリヤとグウェンドリンの後方から全体的を確かめ、そのサポートを行いながら討ち零しを浚っていた。
そして、戦いは巡りゆく。
「……これは、しろあん、桜あん、シナモン」
「グウェンさんもジェイさんも倒すの早い! 私も頑張らないと!」
甘い物の話だというのに何処か不穏な言葉を並べるグウェンドリンの傍ら、ヴィリヤは激しい風で敵を貫いていた。
その際に舞い上がった絵馬は三人がそれぞれにキャッチして回収している。
やがて彼女たちの周囲に居た敵がすべて地に伏した。
「さて、誰が一番だ?」
ジェイは遊びの勝敗を聞くかのように何処か楽しげに問いかけた。辺りを見渡したグウェンドリンは残っている小鳥を影で包み、その姿を覆い隠す。
「……あ」
そうした後にグウェンドリンはしまったというように口許を押さえた。これでは残っていた数が分からないからだ。
「数えられなくなっちゃったね。でも、いっか」
勝敗は結局は決まらなかったのだと気付き、ヴィリヤはくすりと笑んだ。ジェイも肩を竦め、仕方ないかと答える。
そうして彼らは先に進むことを決めた。
参道の向こう側――眞白の神が御座すという祠の方へ。その歩みは普段と変わらず、まるで遊びの続きにでも向かうような足取りだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
呉羽・伊織
【花守】
ああ、お陰でシゴトの準備は万端――此処からはそう、鬼になるだけだ
(鳥達とうっかり目が合わないようにして)
…そんな顔したって泥棒は駄目だぞ!
景近と左右に別れ、鳥の退路を断ちに
UCは夜に溶ける(目を斯き不意打つ)闇属性と痺れ齎す毒属性を混ぜ使用
足りぬ手数は早業と二回攻撃で補い、景近の手から逃れた(特に逃げを優先する)鳥を優先
鳥の動向や攻撃は常に観察し見切り図り
フェイントや残像で動作欺きいなす
…最悪、目潰しで被害軽減も!
その願いをお前達の糧にする訳にゃいかない――そしてお前達の願いを叶える訳にもいかない
仲良く眠りな
カミサマにまで余計なお世話なんぞされちゃ敵わない
己の示した其は、己の手で果たす
百鬼・景近
【花守】
さて、仕事の時間だね
昼の空気は実に新鮮で良かったけれど、やはり俺には此方が馴染む
それじゃ、本領発揮といこうか――心を鬼にして、ね?
(愛らしいと思いこそすれ、常の笑顔浮かべたまま、特に躊躇う素振りも見せず)
左右に展開し退路遮断へ
鳥達囲う鳥籠の様にUCで炎壁形成
炎には自由許さぬ呪縛と生命力吸収の呪詛込め、飛立てぬよう更に戒めを
特に勢いが強い鳥や逃げんとする鳥には炎を合体強化し対抗
伊織と声掛けや手分けし、一体たりとも逃さぬよう警戒
また此方に攻撃が来る際も炎を壁とし妨害
君達とかみさまの目的が何であれ――それを届けられては、きっと俺の気楽な日々は続かなくなる
災いを齎しかねぬものは、阻ませて貰うよ
●焔と闇
昼の空気は実に新鮮で良かった。
けれど、と顔をあげた景近は夜の色に染まりゆく空を振り仰ぐ。やはり自分には此方が馴染む。そう考えた景近は隣の伊織に視線を移した。
「さて、仕事の時間だね」
「ああ、お陰でシゴトの準備は万端――此処からはそう、鬼になるだけだ」
答えた伊織は静かに頷き、行く先に目を向ける。
其処には絵馬を咥え、祠に行かせまいと立ち塞がるぶんちょうさまたちがいた。
鳥達とうっかり目が合わないように視線を逸しながら、伊織はぐっと堪える。かわいい。とてもかわいい。実にかわいい。
「ちゅん?」
「……そんな顔したって泥棒は駄目だぞ!」
こてりと首を傾げるぶんちょうさまに既に負けそうになりながらも伊織は身構える。そんな彼の様子を可笑しげに見遣った景近は常と変わらぬ笑顔を浮かべていた。
「それじゃ、本領発揮といこうか――心を鬼にして、ね?」
伊織とは違い、愛らしいと思いこそすれど景近は躊躇う素振りは見せない。
そして、二人は互いに合図を送りながら地を蹴った。
景近は右に。伊織は左へ。
文鳥たちの退路を断つが如く、彼らは挟撃体制を取る。
右からは炎の壁。左からは闇と毒を宿す暗器。それぞれに展開された攻撃は一瞬で敵の行く手を阻み、視界を塞ぐ。
夜に溶けるような闇が広がる中、鳥籠のように形成された炎が迸った。
呪縛、そして吸収されていく生命。
景近は敵が飛び立てぬように力を奪い取り、更なる焔を巻き起こしていく。伊織は早業からもう一閃を叩き込み、景近の手から逃れようとする文鳥を穿った。
景近の戒めに囚われたぶんちょうさまはじたばたと暴れる。
それによって絵馬が転げ落ち、地面に落下しそうになった。はっとした伊織は其方に向けて即座に駆け、腕を伸ばす。
既の所で絵馬を掴んだ伊織はちいさく安堵した。
この間に景近が炎を合体強化させ、足掻く文鳥を焼き焦がしていく。ぴぴぃ、と苦しげな声があがったことで伊織が思わず二の足を踏む。
そのうえ、つぶらな瞳が此方に向けられるものだから怯みそうにもなった。
されど伊織は心を強く持つ。
「最終手段だ。その目――潰せて貰う!」
「心を鬼に、とはよく言ったものだね」
非情にも映る行動を取る伊織とて必死なのだろう。心苦しさがまったくないわけではないだろうと感じながら、景近も次々と敵を穿っていった。
一体たりとも逃さぬように。
そう心掛ける二人は愛らしい文鳥を容赦なく屠ってゆく。
落ちる絵馬は都度、拾い上げて仕舞い込む。
伊織は願いの証を手に取り、残り少ないぶんちょうさまたちを見つめる。
「その願いをお前達の糧にする訳にゃいかない――そしてお前達の願いを叶える訳にもいかない。だから、」
仲良く眠りな――と告げた瞬間、伊織の放った暗器が文鳥を地に落とした。
景近も頷き、これこそ必要なことなのだとして己を律する。
「君達とかみさまの目的が何であれ――それを届けられては、きっと俺の気楽な日々は続かなくなる。災いを齎しかねぬものは、阻ませて貰うよ」
迸る狐火。
それは戦場を紅く染めあげ、白き翼を持つ者たちを骸の海に還した。
やがて周囲には動くものが居なくなっていく。
伊織は景近と共に辺りを見渡し、回収した絵馬を確かめる。そして少し遠くに見える祠に目を向けた。
「カミサマにまで余計なお世話なんぞされちゃ敵わない」
己の示した其は、己の手で果たす。
裡に抱いた決意を胸に彼らは歩を進めていく。その先に何が待っていようとも構わぬとして、凛と静かに――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
五条・巴
ふわふわ、眞白のかわいい小鳥
君たちは熱心だね。
自分の仕事に一生懸命だ。いい子。
でも、僕の絵馬は持っていかなくていいよ。
悪いね、叶えて欲しくて書いたんじゃないんだ。
自分の気持ちの再確認として。
君たちの慕う神様も、君たちも、僕は視てはいない。
それに、僕はもうひとつ、見届けなきゃ行けないものもあるんだ。
それが美しく輝いた頃から壊れて、そしてその後まで。
あの子に言わないといけないこともあるんだ。ちゃんと僕らしくおかえりって言えるようにね。
返してもらうね。
"明けの明星"
神鳴が聞こえるかい?
君達の神とは異なる音だ。
聞こえたらもう夢見心地、
さあおやすみ。
暫しの休息、ゆっくり休むといいよ。
●夜に月と神鳴を
目の前には、ふわふわとした眞白のかわいい小鳥。
巴は絵馬を盗んでいった彼らを追い、祠に続く参道の外れに訪れていた。
「君たちは熱心だね」
絵馬を咥えながら此方を威嚇するぶんちょうさま。
そんな彼らを見つめる巴の声は穏やかだった。熱心だと褒めたのは文鳥たちが祠に潜む神のために懸命に動いていると感じたからだ。
「自分の仕事に一生懸命だ。いい子」
「ちゅん?」
対する文鳥たちは不思議そうに首を傾げた。まさか褒められるとは思っていなかったのだろう。だが、其処から滲む敵意は消えていない。
首を振った巴は、咥えられた絵馬の中に自分のものがあることを察する。
「でも、僕の絵馬は持っていかなくていいよ。悪いね」
それは叶えて欲しくて書いたものではない。
絵馬本来の用途そのままに、自分の気持ちの再確認として記したのだ。それゆえに叶える願いではないのだと伝え、巴は手を伸ばす。
「君たちの慕う神様も、君たちも、僕は視てはいない」
だから返して。
そう告げた巴の声を聞きながらも、ぶんちょうさまたちは抵抗の意志を見せた。そんな彼らに巴は言葉を掛け続ける。
「それに、僕はもうひとつ、見届けなきゃ行けないものもあるんだ」
それが美しく輝いた頃から壊れて――そして、その後まで。
あの子に言わないといけないこともある。
ちゃんと僕らしくおかえりって言えるように。
最後の言葉は殆ど独白のようなものだった。されど巴は凛と顔をあげ、その胸に宿る思いを確かめる。そして、巴は宣言めいた言の葉を紡ぐ。
「返してもらうね」
其処から解き放たれたのは明けの明星。雷を纏う彗星の如き一閃だ。
響く神鳴。煌めく夢を魅せるかのような閃輝。聞こえるかい、と問いかけた巴は双眸を緩く細め、貫かれていく文鳥達を見つめた。
「君達の神とは異なる音だよ。さあ、おやすみ」
次の雷鳴が聞こえたらば、もう夢見心地。
与えるのは暫しの休息。ゆっくり休むといいよ、と告げられた言葉と共に文鳥は穿たれ、からん、と音を立てて絵馬が地に落ちた。
それを拾い上げた巴は改めて自分が記した文字に視線を落とす。
奪われてはいけない思い。そのことを再確認した巴は祠を見据えた。彼の神は、そしてそのひとを求める子が織り成す顛末は――。
続く未来へと密かな思いを馳せ、巴は歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵
朧・ユェー
【紅華の保護者】
えぇ、可愛らしい神の使いですねぇ
他人の願いや自分の願いなど興味は無い
でもあの子が心に留まる存在が気になるこの気持ちが何なのか今はまだわからないが
踊りを誘われて彼女の手を取る
合わせて踊るように
漆黒ノ鏈のチェーンで動きを封じる
ごめんねぇ、あの子が哀しむ事は嫌なんだ
絵馬を一つ一つ回収していく
おやおや、月の鬼なんて酷いなぁ
でも確かに血に染まって美味しそう
言う事聴かない子は喰べちゃおうかな?
あぁ、あの子が姫なら彼女は女王
彼女の一言一言が綺麗な華の棘
姉妹ともどうして僕を愉しませる
そうだねぇ、行こうか
『かみさま』に逢いに
そしてあの子を見届け、笑顔を護る為に僕達は居るのだから
蘭・八重
【紅華の保護者】
あらあら、神様の遣いって可愛らしいのねぇ
その嘴に咥えてるのが絵馬…皆様の願いかしら
ふふっ、いつも貴方はあの子と舞い戯れるのでしょう?
今日は私と踊って下さるかしら?
【紅薔薇荊棘】のムチを彼のムチと交差するように踊るように舞う
ぶんちょうさまの身体を絡ませ動かせないように
ふふっ捕まえた
ぶんちょうさまをそっと両手で包み
悪い子は月の鬼に食べられてしまうわよ
それとも私のキスがお好み?
この絵馬はダメよ?
だってこれはあの子の願いじゃないもの
貴方達が運んでいいのはあの子の願いだけ、きっとそれが貴方達の大切な人の願いでもあるのだから
ねぇ良い子は聞いて下さるかしら?
さぁ、行きましょう
あの子を迎えに
●君を迎えに
「あらあら、神様の遣いって可愛らしいのねぇ」
「えぇ、可愛らしい神の使いですねぇ」
蘭・八重(緋毒薔薇ノ魔女・f02896)と朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は絵馬を咥えて持っていった文鳥たちを追い、その姿を目の当たりにしていた。
彼の傍ら、八重は棘の荊を文鳥たちに差し向けていた。
「その嘴に咥えてるのが絵馬……皆様の願いかしら」
奪われた願いは誰かにとって大切なものだ。八重が取り返すと決める最中、ユェーも文鳥たちを見据える。
彼にとって他人の願い、そして自分の願いなどに興味は無い。
けれど、と首を振ったユェーはあの子のことを考えていた。心に留まる存在。彼女が気になるこの気持ちが何なのか、今はまだわからない。
それでもこうして八重と共に此処に来たのは、あの子を迎えに行くため。
ユェーが漆黒ノ鏈を構えれば、八重が其処に微笑みかける。
「ふふっ、いつも貴方はこうしてあの子と舞い戯れるのでしょう? 今日は私と踊って下さるかしら?
伸ばされた手を取り、ユェーは静かに頷いた。
そして八重が紅薔薇荊棘を振るう動きに合わせ、ユェーも優雅に踊るかのようにチェーンを撓らせていった。
「ごめんねぇ、あの子が哀しむ事は嫌なんだ」
弾いた絵馬をひとつひとつ、しかと回収していくユェーは文鳥を容赦なく穿つ。
戦場に躍る鞭と鎖。
ぶんちょうさまの身体を絡ませ、動けぬように封じた八重は鞭を引き寄せる。
「ふふっ、捕まえた」
「ぴ……」
穏やかに笑む八重に対し、文鳥が怯えたような声をあげた。そっと両手で包み込んだ八重はそのままくすくすと笑う。
「悪い子は月の鬼に食べられてしまうわよ」
「おやおや、月の鬼なんて酷いなぁ」
彼女の言葉が自分を示しているのだと知り、ユェーは苦笑した。されど其処に宿っているのは冗談めいた思いだ。
ユェーは八重と共に得物を振るい、敵からの攻撃をいなしながら語る。
「でも確かに血に染まって美味しそう。言う事聴かない子は喰べちゃおうかな?」
「それとも私のキスがお好み?」
八重が艶めいた笑みを湛える最中、ユェーはふと思った。
あぁ、あの子が姫なら彼女は女王だ。
彼女の一言一言は綺麗な華の棘であり、姉妹とも自分を愉しませてくれる。実に快い。それでいて、あの子が置かれている状況を思うと胸の奥がざわついた。
そうして八重は手の中の文鳥から絵馬を取りあげる。
「この絵馬はダメよ?」
だって、これはあの子の願いじゃないから。
真にあの眞白の神に届けられるべきは、ただひとつだけ。
「貴方達が運んでいいのはあの子の願いだけ、きっとそれが貴方達の大切な人の願いでもあるのだから――ねぇ、良い子は聞いて下さるかしら?」
静かな声色でありながらも、脅すような言の葉が紡がれていく。
文鳥は竦みながらも抵抗の意思を示す。
すると八重は、残念ね、と告げて荊の棘で白い鳥をひといきに葬った。やがて彼女達の周囲に文鳥は居なくなり、絵馬もすべてが回収された。
ユェーは肩を竦め、他の猟兵によって周囲に張り巡らされていたガラスのラビリンスが解除されていく様を見守った。
「……終わったねぇ」
これで神の御使いはすべて倒し、祠までの道もひらかれたことになる。
ユェーに頷きを返した八重は先を示し、歩みはじめた。
「さぁ、行きましょう」
「そうだねぇ、行こうか」
あの子を迎えに。『かみさま』に逢いに。
そして、あの子を見届けよう。
そう――彼女の笑顔を護る為に、自分達は此処に居るのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『眞白の惨華』
|
POW : ムゲン
小さな【陶酔を齎し、対象の強化を解除する雪片】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【対象が無意識下で望む世界】で、いつでも外に出られる。
SPD : カイキ
【対象が無意識下で望む世界】から【生命力を剥奪する羽衣】を放ち、【帰巣願望の喪失】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : ムクイ
戦闘中に食べた【他者の望夢】の量と質に応じて【生命力を吸収し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
イラスト:山神さやか
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「蘭・七結」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●戀紅と白の彩
文鳥達に奪われた絵馬はたったひとつを除き、猟兵達の手によって取り戻された。
祠への路はひらかれ、後は眞白の神と対面するのみ。
足元に薄く積もった雪を踏み締め、君たちは『かみさま』が待つ祠へと向かう。
祠の傍らに咲く紅梅の花がひらり、ひらりと舞い落ちる。
其処に立っていたのは白い影。
散りゆく花に手を伸ばしていた彼のひとは緩やかな動作で此方に振り返る。
――眞白の惨華。
そう呼ぶに相応しい神性が感じられた。
絵馬をたったひとつだけ手にしている彼のひとは何も語らない。
想いの言の葉が記されたそれを見下ろし、猩々緋の眸を僅かに細めただけ。
そして鈴を鳴らすような声で笑ったかと思うと、周囲に雪片が舞い散らせはじめた。あれは普通の雪ではない。そう感じた瞬間にはもう雪が触れ――君の視界と世界は、真白く染まっていた。
雪片に吸い込まれた先。
此処は、君が『無意識下で望む世界』だ。
それまで同行者が居たとしても、周囲には誰も居なくなっていた。
かわりに目の前に見えはじめたのは君にとっての、理想の場所。
其処は懐かしい故郷かもしれない。其処は美しい景色が広がる世界かもしれない。望んだ人が現れ、思い描いたままの言葉を掛けてくれているかもしれない。
視えているものは人それぞれ。
この世界からはその気になればいつでも出られる。だが、雪片によって齎された陶酔めいた思いがそうすることを拒ませている。
また、たとえすぐに脱出したとしても、この世界に潜む眞白の神と対峙しなければ根本的解決には至らない。
君たちはこの世界で何を思い、どのような決別と選択をするのだろうか。
その答えはきっと、ひとりひとりの胸の中にしかない。
オルハ・オランシュ
無意識に息を呑んでしまう
神様――
見たこともない存在なのに、一目でわかってしまったから
白い世界に誘われたはずだった
でも、気付けば深い深い森の中
この森を知っている――
地下研究室に長らく行っていないから
今はこの森にも足を踏み入れてはいないけれど
あそこに立っているのは……、
手を差し出す彼の表情は優しい
その言葉だって胸に沁みて
歩み寄って手を重ねようとして、――首を振る
きっと溜息吐かれちゃうよね
まがいものの手を取ろうとした、なんて言ったら
……ねぇ、神様
私は『言わせたい』わけじゃないの
こんなの、間違ってる
疾さを活かして立ち回ろう
交戦しながら想うこともある
私にとっての彼のような
神様にも、特別な誰かがいるのかな
●あの森で逢いましょう
彼のひとを見た時、無意識に息を呑んだ。
――神様。
見たこともない存在だというのに、神性を宿すひとだと一目でわかってしまった。
ひらりと舞い落ちる雪の欠片。
それが触れた瞬間、オルハの視界が光に満ちる。
真白な白い世界に誘われた。そう思っていたのに。気が付いたときには、オルハはそれまでのことも忘れて森の中に立っていた。
深い深い森の中。
意識が霞むような感覚の中、オルハは緑が揺れる景色を見渡した。
私は、この森を知っている。
そうだ、此処は。
考えるよりも先に足が動いた。樹々に誘われるようにオルハは歩く。
あの地下研究室に長らく行っていない。だからこの森にも足を踏み入れてはいないけれど、間違いない。この場所はあの森だ。
駆け出した。尾羽根を揺らして、翔け出したいくらいに羽を広げて。
ああ、あそこに立っているのは――。
懐かしい姿があった。
おいで、と掛けられる優しい声と表情があった。
あの時と変わらぬ『彼』が自分に手を差し伸べている。その言葉も、声も、仕草だって胸に沁みるようにあたたかいと思えた。
彼の数歩前で立ち止まったオルハは高鳴る胸を抑える。
嬉しい、嬉しい。
この森でまた会えたことが。また言葉を聞けたことが、嬉しい。
裡に巡る気持ちに心地良さを覚えながら、オルハはゆっくりと彼に歩み寄った。
そして、その手を伸ばしかけたオルハは首を横に振る。
――また?
自分の中に浮かんだ思いに疑問が湧く。その途端に霞がかっていた心がひといきに晴れた気がした。
違う、これはまやかしだ。
そう気付いたとき、オルハの目の前から『彼』が消えていた。
「そうだね、きっと溜息吐かれちゃうよね」
まがいものの手を取ろうとした、なんて言ったら。独り言ちたオルハの前に白い影がぼんやりと現れた。
未だ景色は深い森の中。
本来なら此処に居てはいけない者が目の前にいる。
「……ねぇ、神様」
眞白の惨華に語りかけたオルハは哀しげな瞳を向けた。確かに自分の中ではこれが望みだったのかもしれない。疑問さえ抱かなければ、自身が無意識下で思い描いていた世界にずっと居られたのだろう。
けれど。
「私は『言わせたい』わけじゃないの。こんなの、間違ってる」
三叉槍を手にしたオルハは地を蹴った。
思い描く世界はとても素敵だ。それでも、今の自分がいるべき場所は別にある。
この深い森。地下研究室の外側。
鋭い一閃が白い影を斬り裂き、貫く。そうして辺りは再び真白な光に包まれ、オルハは元の世界に戻っていく。
眩いほどの光が収まっていく中で、オルハはそっと想う。
私にとっての『彼』のようなひと。
あの神様にも、そういった特別な誰かがいるのかな、と――。
大成功
🔵🔵🔵
ルーチェ・ムート
アドリブ◎
艶やかな黒髪
燃える真紅の瞳
薄く甘い微笑
かつてボクを捕らえていた彼の人
迎えに来たよ、僕の駒鳥(かみ)
やっと
やっと約束を果たしに来てくれたの?
歌しか知らない檻中
無知と引き換えに苦痛もない
幸せだったように思う
なんで、なんでボクに名前をくれなかったんですか?
名は未来永劫ボクに刻まれ今尚あなただけの所有物だったのに
答えは無い
ボクの無意識で成り立つ世界
ボクの中に答えがなければ当然
落胆
落涙
あなたは
この世界は、偽物だ
漸く会えたね、本物の神さま
一時の夢を見せてくれたお礼
歌う為だけに存在するボクの彼の人への想いを歌ってあげる―教えてあげる
覚悟と優しさ含む鎖の串刺しは葬送の敬意
眞白の神
幸福な幻をありがとう
●その戀獄に名前は無く
ひとひらの雪が幻想の世界にいざなう。
ルーチェ・ムート(无色透鳴のラフォリア・f10134)は眼を閉じ、誘われるがままにまやかしの世界へと降り立った。
ルーチェの目の前。其処に立っていたのはひとつの人影。
艶やかな黒髪に燃える真紅の瞳。
薄く甘い微笑みを湛える、そのひとは――嘗てルーチェを捕らえていた彼の人。
「迎えに来たよ、僕の駒鳥」
かみ、と呼ばれる。
手を伸ばして甘やかに囁く彼の人は微笑を浮かべ続けていた。
その手を取りたくとも、今のルーチェには腕を伸ばし返すことは出来なかった。
どうしてだろう。
やっと。
やっと約束を果たしに来てくれたのに。
籠の鳥だったとしか表せない嘗て。歌しか知らない檻の中で、何も知らずに笑っていたあの頃を思い出す。
無知と引き換えに苦痛もなく、ただ幸せだったように思う。
いつしかルーチェは蹲っていた。ぺたんと座り込んで、痛いほどに掌を握り締めながら彼の人を見上げる。
「なんで、なんでボクに名前をくれなかったんですか?」
漸く言葉に出来たのは疑問の声。
名前をくれれば。その証を記してくれればよかったのに。
そうすれば其の名は未来永劫この胸に刻まれて、今も尚、ボクはあなただけの所有物だったのに――。
ルーチェの視線を受けた彼から、答えは無い。
だって、そうだ。
ルーチェの意識から生まれた世界に彼の人の思いは何処にもない。
涙が溢れた。
やっと逢えたのに。やっと、その手を取れるかもしれなかったのに。
落胆と共に零れ落ちた雫が地面を濡らす。ルーチェは彼から視線を外し、溢れ出る涙すら拭わぬまま、はっきりと宣言した。
「あなたは……」
――この世界は、偽物だ。
そして、ルーチェが顔をあげた瞬間。それまでの景色は一変し、白い雪の世界が現れた。ゆっくりと立ち上がったルーチェは真白の神に紅い眸を向ける。
「漸く会えたね、本物の神さま」
対する神性は何も答えず、其処に在るだけ。
それでもルーチェは構わずに身構えた。それは一時の夢を見せてくれたお礼代わりに紡がれる、彼の人への想いを謳う歌。
「歌う為だけに存在するボクの想い、歌って――教えてあげる」
歌声と共に蝶を纏う紅鎖が迸り、葬送の敬意となって神性を打ち貫く。
それが偽りの世界の幻だと知っても、ルーチェは歌声を止めることはなかった。消えゆく眞白の神に贈るのは感謝の思い。
――幸福な幻を、ありがとう。
大成功
🔵🔵🔵
浮世・綾華
真珠さん(f12752)と
俺は閉じ込められていた
そして閉じ込める為のものだった
愛した籠の鳥が愛しげに撫でる花
それを見つけたと楽し気に語る相棒
迷い込むのは、君が手を引いてくれていたあの頃
15年前の、外の世界を知った日
――忘れていた日
かみさまに会ったんだ
語れば相棒は嬉しそうに笑う
世界には面白いことがたくさんあるねと
…ここはなんだ
かみさまってなに
…眞白の惨華、ちがう
初めて土に咲く花を見た
紅い千日紅の花畑で契りを交わした人
会いに、行かなければと
気づけば貴方のもと
ただいま
あんたが神だろうが俺には関係ない
ここでさよならだ
紅零し複製する鳥籠
鉄屑と花びらを舞い吹雪かせ一気に
真珠さん
いや――言ってよ
俺のかみさま
雅楽代・真珠
綾華(f01194)と
てんてん手毬
幼い声の童歌
少女の手が伸ばされる
ひめねえさま
びいどろの僕が愛でられる
愛でる声に僕もと返す
けれど声が届かない事を知っている
彼女が没した数十年後に身を得た僕は
何度も同じ夢を見てきた
ただの、過去
懐かしむ事はあっても囚われはしない
巡る命を信じている
育つ命を愛している
あなたの命が巡るのを待つ間
幼くて小さな子が
逞しく育った姿も見られたんだ
故に、信じられる
未来であなたを待っているね
だから僕は一足先に待たないとね
おかえり、綾華
白いかみ
お前に興味はないけれど
望夢を暴いて壊してあげる
…そう、思い出したの
言ったでしょ
お前のかみさまで居てあげる、って
神は
心の支えであり
見守るものだから
●空ろの鍵は過去を視る
一片の雪が触れる。
今まで見ていた景色が白に染まり、違う世界が綾華の眼前に広がった。
「これは――」
それは閉じられた世界。
閉じ込められ、そして閉じ込める為のものだったあの頃の、お屋敷の光景。
十五年前。
まるで過去に迷い込んだように、『君』が手を引いてくれていたあの頃のままの世界がいま此処にある。
そうだ、これは外の世界を知った日。
これまで、忘れていた日のこと。
無意識下で理解していても、今の綾華はその頃のままの心になっている。幼い姿で相棒に語りかける綾華は無邪気な笑顔を浮かべた。
「かみさまに会ったんだ」
屋敷の縁側。隣に座ってそう話すと、相棒は嬉しそうに笑ってくれる。
「世界には面白いことがたくさんあるね」
「うん。それで、かみさまとね――」
綾華は相棒に語っていく。
和傘を差した不思議な人魚のかみさまと、珍しいものを探そうといって千日紅を見つけにいったこと。宝探しの最中に彼の在り方を少しだけ知ったこと。自分を大切にするようにと告げてもらったこと。
たくさんのことを相棒に話せる、いつも通りだけれど特別な日。
あのまま変わらずに時が過ぎて行けばよかった。大切なものは失ってから思い知るということすら識らぬまま。そして、記憶を忘れることもないまま――。
子供の頃の気持ちで話す最中、綾華はふと思う。
(……ここはなんだ。かみさまって、なに)
自分が語っていることだというのに疑問が浮かんだ。
かみさま。
ぼんやりと朧気にしか覚えていない、それでも心の奥底に引っかかっていたもの。その記憶が少しずつ蘇ってきた。
「――真珠さん」
ああ、自分はもうあのかみさまの名を知っていた。
約束は果たされていた。
初めて土に咲く花を見た、紅い千日紅の花畑で契りを交わした人。自分は、先程までそのひとと共に居たのだと知る。
「……ここは、ちがう」
そう呟いた後、気付けば屋敷の景色も相棒の姿も消えていた。
求めているかみさまは彼の眞白の神性ではない。だから、会いに行かなければ。
そう思った瞬間、視界が再び光に包まれた。
●びいどろ金魚は夢を見る
てんてん、手毬。
幼い声で紡がれていく童歌が聴こえる。
雪が触れたと思ったのに、目の前にあったのは少女の手が伸ばされる光景。
――ひめねえさま。
声は出ず、けれども愛おしい気持ちが巡った。
びいどろの真珠が愛でられる。その声に、僕も、と返す。けれどもその思いが届かず、伝わらないことを知っている。
夢だ。
これは夢なのだとすぐに分かってしまった。
それでも真珠は夢に浸る。何度も、幾度も見てきた夢は心地好い。
彼女が既に没していると知っていても、分かっていても、夢を見ることまでは止められない。そう、誰かに見せられている夢だとしても。
けれど、これはただの過去。
懐かしむ事はあっても囚われはしない。望むものは過去ではなく、未来にある。
巡る命を信じている。
育つ命を愛している。
だから待ち続けようと決めた真珠は永き時を生きている。
幾年も、幾星霜もあなたのいない日々を過ごした。
そうして或る時に見つけた。
あなたの、ひめねえさまの命が巡るのを待つ間。未だ幼くて小さかった子が逞しく育った姿を。それを感じた時に改めて思った。
命の巡りはとても、とても愛おしいものなのだと。
故に、信じられる。
「ひめねえさま」
びいどろ金魚は愛でる手に頬擦りをして、その主に言の葉を向ける。幻だと知っていたけれど、本当には届かないと解っていた、けれど――。
「未来であなたを待っているね」
ふわりと微笑むやわらかな眼差しは、あなたにだけ向ける想いのあらわれ。
真珠は目を閉じ、偽りの世界に別れを告げた。
そして、ゆっくりと顔をあげた真珠はあの子の元に戻ろうと決める。
「だから僕は一足先に待たないとね」
今は行くべきところがある。自分をかみさまと呼んでくれた、あの子の傍に。
●ゆめはうつつに
世界は混ざりあい、白い景色が広がる。
其処は未だ雪片に誘われた世界の中だ。真白な雪の上に紅い花を咲かせる樹が揺れる、不可思議な空間。
「おかえり、綾華」
「ただいま」
真珠が傍に游いでいることに気付き、綾華は静かに頷いた。
そして二人は此処にいる自分達以外の存在――眞白の惨華へと目を向ける。彼のひとは樹の傍から動かず、ただ微笑んでいた。
「白いかみ。お前に興味はないけれど、望夢を暴いて壊してあげる」
「あんたが神だろうが俺には関係ない。ここでさよならだ」
綾華が鳥籠を複製して周囲に浮かばせれば、真珠もいとけない笑みを白の神に向ける。彼のひとは動かず、綾華が吹雪かせた鉄屑と花に穿たれた。
真珠の操る泡沫の力が巡り、眞白の惨華の分体を散らしていく。それによって幻の世界が揺らぎ、景色の向こう側に神社の光景が見えはじめた。
その最中、綾華は真珠の名前を呼ぶ。
「真珠さん。いや――言ってよ、俺のかみさま」
「……そう、思い出したの」
「どうして今まで……」
黙っていたのかという言葉が飲み込まれたことに気付き、真珠は双眸を細めた。
「言ったでしょ、お前のかみさまで居てあげる、って」
そう、神は心の支えであり見守るもの。
役目は果たしたでしょ、と告げる真珠に綾華は肩を竦める。けれども其処に宿っているのは不思議な快い感情だった。
そして――まやかしの世界は真白に輝き、景色が元に戻った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フィオリーナ・フォルトナータ
望む世界などわかっていたのです
在りし日の王都
主として慕っていたかの御方や、主様に仕える皆々様
既に失われてしまった、わたくしの世界
わかっていたのです
わかっていたからこそ、決して惑わされたりはしないと
なのに優しい言葉が、懐かしい風景が
すぐにここを出ることを拒ませる
それでもわたくしは決めているのです
あなたが見ることが叶わなかった多くの世界を知り、そして守ると
…主様、どうか命令を
ただ一言、行きなさいと
わたくしが憶えている、あなたの声で
偽りの優しき世界に別れを告げて
眞白の神との対峙が叶ったならば
聖煌ノ剣の一撃を
神を斬るなど烏滸がましいでしょうか
ですがあなたが過去の残滓ならば、わたくしは斬ってみせましょう
●主命を果たすべく
賑わう都。
通りに人々が行き交う景色がフィオリーナの目の前に広がっていた。
歩を進めていくと様々な光景が見える。よく立ち寄っていた店。たまに擦れ違っていた人の良さそうな御老人。
耳を澄ませば元気よく駆けていく子供達や客を呼ぶ露天商の声が聞こえた。
それは在りし日の王都。
フィオリーナは大通りを抜け、懐かしき世界を逍遥した。
――これが、わたくしの望む世界。
穏やかな日常に浸りながらも、フィオリーナは心の何処かでこれがまやかしなのだと解っていた。
しかし、目の前に現れた影を見ればまるで本物のようだと錯覚してしまう。
主として慕っていた、かの御方。自分と同じように主様に仕える皆。嘗ては傍にいて当たり前だった人々がすぐ傍にいる。
――これは既に失われてしまった、わたくしの世界。
わかっていた。
わかっていたからこそ、決して惑わされたりはしないと決めていた。それなのに、此処に居続けたいと思ってしまう。
フィオリーナ、と懐かしい声が自分の名を呼ぶ。
返事をしそうになった。その声にあの頃のように応えたくなってしまったが、フィオリーナは敢えて堪える。
優しいその声に返答をすれば戻れなくなってしまう。そんな気がしたからだ。
皆の姿や懐かしい風景、すべてがすぐにここを出ることを拒ませる。それでも、フィオリーナにはもうひとつ決めていたことがあった。
「わたくしは――」
主を見つめ、フィオリーナは宣言していく。
幻だと解っていても理想の世界に現れた人に、己の気持ちを伝えたかった。
「あなたが見ることが叶わなかった多くの世界に踏み出し、多くのことを知り、そして守る。そう決めているのです」
空色の瞳はただ真っ直ぐに主を映している。
誓いの証として剣を抜いたフィオリーナはそっと願う。これが自分の望む世界だというのならば、かの御方は願った通りの言葉を紡いでくれるはず。
「……主様、どうか命令を」
願わくは、己が望むただ一言を。
自分が憶えている、あなたの声で。新たな決心を抱く為に。
『――行きなさい』
その声が耳に届いた刹那、フィオリーナの世界は真白な光に包まれた。
掲げた剣は未来を切り開くもの。
偽りであっても主の声と言葉が聞けたなら、この刃で先を拓いていける。
優しき世界に別れを告げたフィオリーナの目の前にはもう王都や懐かしき人々の姿はなく、眞白の神が立っていた。
彼の神性は其処から動かず、ただ微笑んでいる。
剣を構えたフィオリーナは聖なる光を刃に満たした。対峙する神は不思議な雰囲気を纏っている。神を斬るなど烏滸がましいかもしれない。だが、フィオリーナの裡にある決意はもう揺らがない。
「あなたが過去の残滓ならば、わたくしは斬ってみせましょう」
宣言と共に振り下ろされた刃。
それは眞白の神を真正面から貫き、分体であるその姿を散らした。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふぇ、ここは教室ということは学園に戻ってきていたんですね。
ふ、ふええぇ、あれは何ですか?
窓の外に見えるのはド、ドラゴンさん。
ダークネスさんではなくデウスエクスさんってどういうことなんですか?
それにドラゴンさんと戦っているあのピンクの髪のドワーフさん(同背後証明:旅団幻武道場の旅団紹介+αにて)が持っているモノは・・・。
攻撃がなかなか当たらないみたいです。
実力がはるかに上の相手と戦うには足止めが必要です。
サイコキネシスで押さえつけている今の内です、アヒルさん。
さっきの夢はほとんどアヒルさんの夢ですよね。
さっきと同じように雪片はサイコキネシスで押さえますから、アヒルさんお願いしますね。
●不可思議な光景
「ふぇ、ここは教室……?」
フリルが目を開けた時、景色は一変していた。
もしかして学園に戻ってきていたのかと感じた彼女はふと窓の外を見る。
「ふ、ふええぇ」
驚くのも無理はなかった。其処に見えたのはドラゴンの姿だったからだ。そして、フリルが驚いたのはそれだけが理由はない。
「あれは何ですか? どうしてあの人は戦っているんでしょうか?」
ドラゴンと戦っているのはピンクの髪のドワーフのような人影だ。彼女が手にしているものが気になり、フリルはじっと目を凝らした。
だが、気になったのは戦いの動向。
「攻撃がなかなか当たってないみたいです……」
竜とドワーフ。
遥かに大きさの違う二つの影は互角ではなかった。徐々に押されていくドワーフの手伝いをしなければいけないと感じ、フリルは自分の力を揮おうと決める。
実力がはるかに上の相手と戦うには足止めが必要だ。
それは戦術における基本事項。
両手を掲げたフリルはサイコキネシスの力を顕現させ、ドラゴンの動きを僅かでも押さえつけようと狙う。
「今の内です、アヒルさん」
フリルの呼びかけと同時に、世界が真白な光に包まれた。
はっとしたフリルは自分達が元の世界に戻っていることに気が付く。放り出されてしまったのだろうか。
「さっきの夢はほとんどアヒルさんの夢ですよね」
傍らのガジェットに問いかけても答えは返ってこなかった。
そして、フリルは夢を思う。
あれは一体なんだったのだろう、と――。
大成功
🔵🔵🔵
マリス・ステラ
華乃音(f03169)の側に
雪降る白い世界にいるのは彼ひとり
「華乃音」
呼びかける私を穏やかな瞳で見つめる
諦観とは違う、"あの時"のような暖かい静謐
──あの時だけの瞳の色
それが彼を幻だと悟らせる
寂寥と孤独を厭いながら、静謐の瞳には諦観が横たわっているから
わかっていても、彼の手が私を抱き寄せれば抗えない
無意識のうちに抱擁してる
幽かに甘い匂いは彼の纏う香り
このまま雪のように溶けてしまいたい
「……華乃音が待っているんです」
唇が重なる前に、そっと彼の唇に触れる
"置いていかないで"
華乃音に二度と言わせたくない
心に灯った想いが甘い夢から目覚めさせて
現実の華乃音と指を絡めるように恋人繋ぎ
「魂を還しましょう」
緋翠・華乃音
マリス・ステラ(f03202)と共に
何も無い。本当に何も無い。
光を排他する純粋な "闇" だけが空間と時間を覆っていた。
――ああ、そうだろうな。
無意識下ですら望む世界が無いのだから。
いや、或いはこの "何も無い世界" を望んでいるのだろうか。
痛みも苦しみも、楽しさや喜びも。
――何か、視える。
闇に揺蕩うのは無数の硝子球のようなもの。
意識を向ければその中に何か映っているのが視えた。
友人と笑い合う誰かが居た。
戦場を駆ける誰かが居た。
星空を見上げる誰かが居た。
日向に微睡む誰かが居た。
後悔に泣く誰かが居た。
復讐を誓う誰かが居た。
大切な人の手を取る誰かが居た。
――ああ、俺が本当に望んでいるものは。
●やさしい瞳
雪降る白い世界。其処にいたのは彼ひとり。
「華乃音」
マリスは彼の名を呼び、その傍に寄り添っていた。彼は呼びかけるマリスを穏やかな瞳で見つめ、ああ、と頷く。
それは諦観とは違う、あたたかな静謐の色彩を宿していた。
――あの時だけの瞳の色。
そのように感じたマリスは思わず一歩、距離を置く。
違う、彼ではない。
その色が彼を幻だと悟らせる要因だった。彼をよく知りたいと思っているからこそ分かる、偽りの存在だという証。
寂寥と孤独を厭いながら、その瞳には諦観が横たわっている。
だから本当の彼ではないと分かってしまった。しかし、目の前の彼はマリスに優しく手を伸ばし、その身体を抱き寄せる。
抗うことは出来ず、無意識のうちにマリスは抱擁を受け入れた。
幽かに甘い匂いは彼の纏う香りそのものだ。
叶うなら、このまま雪のように溶けてしまいたいと思えた。優しくて穏やかな、すべてを赦し続けてくれる彼の傍に居られればどれほど幸せだろう。
マリスは暫し彼と共にいた。
雪の冷たさも覆い隠してくれるような熱が其処にあった。此方からではなく、向こうから差し伸べてくれる手。ただ心地良さだけが巡る世界。
理想とするものは此処にある。否、此処にしかないのかもしれない。
マリスは瞳を閉じ、彼の腕の中で首を振った。
分かっている。
解っているがゆえに、離れがたい。それでもマリスは心を決めた。
「……華乃音が待っているんです」
本当の、と告げる。
そして彼から近付けてきた唇が重なる前に、そっと彼の唇に指先で触れる。
――置いていかないで。
それは華乃音に二度と言わせたくない言葉だ。
マリスは彼から離れ、己を律する。心に灯った想いが甘い夢から目覚めさせてくれたような気がした。
そして、幻と偽りに満ちた白い世界は反転する。
●無の世界
何も無い。本当に何も無い。
華乃音が送られた世界には暗闇ばかりが満ちていた。
光を排他する純粋な『闇』だけが空間と時間を覆い尽くし、静謐を作り出している。
――ああ、そうだろうな。
胸中で独り言ちる。
自分の裡に希望や望みがないことを華乃音はよく解っていた。無意識下ですら望む世界が無いのだから、こんな景色が広がっていることも当たり前だ。
しかし、華乃音はふと思う。
何もなければ、世界は彼の神が望んだ白に包まれる。ならば己はこの何も無い世界を望んでいるのだろうか、と。
痛みも苦しみも、楽しさや喜びも。何もかもが無い。
このままこの場所に揺蕩っていれば何も考えず、何も感じずに済むのだろう。だが、そのとき。何も有り得ない世界の向こう側に揺らぐものが出現した。
――何か、視える。
深い闇の奥に揺蕩うのは無数の硝子球のようなもの。
其処に意識を向ければ、硝子の中に様々な景色や光景が映っている様が見えた。
例えば、友人と笑い合う誰かが居た。
違う硝子の中には、戦場を駆ける誰かが居た。
静かな世界で、星空を見上げる誰かが居た。
穏やかな場所で、日向に微睡む誰かが居た。
後悔に泣く誰かが、復讐を誓う誰かが。そして、大切な人の手を取る誰かが居た。
数多の光景をひとつずつ見つめた華乃音。言い表せない感慨めいた感情――ただ、そうとしか表せないものが彼の裡に浮かんでいた。
其処で漸く華乃音は気付く。
――ああ、俺が本当に望んでいるものは。
そのように感じた刹那、暗闇の世界が白い世界と交ざり始める。それがマリスの描いた世界だということは、何となく分かってしまった。
そして――。
●帰るべき場所へ
並び立つマリスと華乃音の前には眞白の神が現れていた。
彼の神性は二人に何を呼びかけるでもなく、ただじっと此方を見つめているだけ。
マリスは隣の彼が現実の華乃音だと確かめ、指を絡めるように手を繋ぐ。
「魂を還しましょう」
華乃音、とマリスが名を呼べば彼は普段通りに何も拒むことなくその手を預けた。
「ああ」
そうして、二人は幻の世界から抜け出すために其々の神を穿つ。
確かに理想の世界は見せて貰った。
それでも、今の自分達が戻るべき所はあの現実の世界なのだとして――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
絆・ゆい
薄桜舞いし己が国
麗らかなるとこしえの春
眼前の姿を忘るるはずもない
我が器に生命を注いだもの
果敢ない憧憬を抱いた村むすめ
冬に攫われ眠りについた、きみ
亜麻の髪結いて白を纏う姿
きみは焦がれた春を迎えたの
花嫁の粧を纏うことが叶ったの
きみの貌がゆるびをみせる
其の光景を見映すことが叶うとは
なんと、倖せなこと
けれど、ね
まことのわらわは紙歌留多
いにしえの恋を継ぐ唄物語
器物であるわらわがひとがたを成したまま
それは可笑しなことでしょ
きみの倖せこそ、わらわのさいわい
偽りなれどきみはきみよ
祝福を乗せて
一片の歌留多を手に唄いあげよ
春麗
左様なら、わらわの春
僅かなれどよい夢を見た
ありがとさん、眞白の神格よ
あなたも、眠りなされ
●春に別れを
ゆいが視ている世界。
それは薄桜が舞う己が国の景色。
麗らかなるとこしえの春。眼前の姿を忘るるはずもなく、ゆいは双眸を緩めた。
我が器に生命を注いだもの。
果敢ない憧憬を抱いた村むすめ。そして――冬に攫われて眠りについた、きみ。
視るものすべてがゆいの記憶にあるものだった。
亜麻の髪を結いて白を纏う姿。
きみは焦がれた春を迎え、花嫁の粧を纏うことが叶ったのだろう。
ゆいがその姿を見つめていると、その貌がゆるびをみせた。
其の光景を見映すことが叶うとは思ってもみなかった。それゆえにゆいのかんばせも淡く綻んでゆく。
(嗚呼――なんと、倖せなこと)
このまま、きみの姿を眺めていられるのならばどれだけ良かっただろう。
此の景色を見守っていられたならば、何も憂うことはない。
「けれど、ね」
緩々と瞼を瞬いたゆいは、そうと首を横に振る。
まことのわらわは紙歌留多。
いにしえの恋を継ぐ唄物語。
器物であるわらわがひとがたを成したまま。それは屹度、可笑しなことでしょ。
ねえ、と誰に語りかける訳でもなくゆいは瞼を閉じた。
そうして、ゆるりと瞳をひらく。
「きみの倖せこそ、わらわのさいわい」
偽りなれどきみはきみ。
まぼろしと分かっていても、偽りだと識っていても、この言の葉に祝福を乗せよう。一片の歌留多を手にして、ゆいは想いを唄いあげてゆく。
――けふ九重に、匂ひぬるかな。
春の麗らかさを詠う聲が言祝ぎとなって世界に巡っていく。
別れを告げるには惜しい幸福が此処に在った。ゆいが望む儘の倖せが在った。けれども、この場所に浸っているわけにはいかない。
左様なら、わらわの春。
ゆいが完全に別れを伝えたとき、その目の前に白き神が現れた。
似ているけれども確かに違う、不可思議な神性を宿す双方の視線が交錯する。
「僅かなれどよい夢を見た」
ゆいは眞白の神に微笑みを向けると相手もゆいに笑みを向けた。その瞳が全く笑っていなくとも、互いに抱く思いは不思議と通じた気がする。
「ありがとさん、眞白の神格よ」
どうか――あなたも、眠りなされ。
静かに落とされた言の葉と共に、薄紅桜の花が白む世界に廻っていった。
大成功
🔵🔵🔵
樹神・桜雪
※アドリブ歓迎
望む世界は記憶の欠片
大きな図書館で誰かを待っていた
普段は思い出す事も叶わないけれど、今なら分かる
とても大切な人を待っていた
待ち続けたけれど、会うことは出来なかった親友
ボクずっと待っていたかったんだ
なんで忘れちゃったんだろう
ここにいれば、もっともっと思い出せるのかな
君に会うことが出来るのかな
…待つ事は出来ないって分かっている
もう、会いたかった人には会えないんだよ
人の願いを覗いてる神様、満足した?
これ以上は見せてあげない
UCですべてを凪ぎ払って脱出するよ
そのまま『捨て身の一撃』とUCで神様を攻撃するね
攻撃にはカウンターで対処
全力で攻める
欠片でも、思い出せた事には感謝するよ。少しだけね
●君の姿を虚空に探す
桜雪が望む世界。それは無くした記憶の欠片。
深い、深い眠りの底に導かれるように桜雪は落ちていく。まるで夢を見ているような、不思議な心地の中で桜雪は瞼をひらいた。
桜雪は大きな図書館で誰かを待っていた。
普段は思い出す事も叶わない記憶だけれど、今なら何故か分かる。
そうだ、とても大切な人を待っていたんだ。
それは待ち続けたけれど、会うことは出来なかった――親友。
「ボクは、ずっと待っていたかったんだ。でも……」
待ち続けた時間に比例するようにそのことすら忘れてしまっていた。どうして忘れていたのかは自分でもわからない。
桜雪は図書館の景色を見渡し、ぽつりと呟く。
「ここにいれば、もっともっと思い出せるのかな……」
この理想の世界に居続ければ、君に会うことが出来るのだろうか。
君の顔を思い出して、君の声を聞いて。
探し続けていた大切な宝物を取り戻すことが叶うのかもしれない。
だったらずっと此処に居ようか。
外の世界は戸惑うことばかりだ。やさしいものに触れたとしても、すぐに悲しいものを見つけて俯いてしまう。
そんな苦しいことが多い世界でしかないのなら、ただ君を待ち続けられるこの場所に留まっていた方が随分と楽に違いない。
でも、と桜雪は俯く。
「わかってる……待つ事は出来ないんだよね」
心の片隅では理解していた。もう、会いたかった人には会えない。
理想の世界が形作られているのだとしても、自分が奥底でそう思ってしまっているのだからきっと親友とは出逢えない。
それに幻と会ったとしても本当に満たされるかなんて分からない。
「ねえ、神様」
人の願いを覗いてる神様、と呼びかけた桜雪は空を見上げた。其処には彼の心を表すかのような曇天が広がっている。
「満足した? これ以上は見せてあげないよ」
何処かで視ているだろう眞白の神に呼びかけた桜雪は己の力を発動する。
――おいで、冷たきもの。その身を覆い凍てつかせて。
氷の花を喚んだ桜雪は図書館の景色ごとすべてを薙ぎ払い、自らが望み、理想とした世界を壊していく。
気付けば桜雪は元の場所に居た。
きっと氷花は眞白の神性の分体ごと、あの幻の世界を穿ったのだろう。
悲しみとも、虚しさとも取れぬ思いを抱いた桜雪はそっと呟く。
「欠片でも、思い出せた事には感謝するよ。少しだけね」
大成功
🔵🔵🔵
グァーネッツォ・リトゥルスムィス
全ての世界が平和になってもう随分経つな
おかげで今日も闘技大会でいっぱい戦えるぜ
勝って負けて、悔し涙流したり辛勝で優勝出来て嬉しかったり
オレの戦闘欲を満たせて最高だ
……いや違う
対戦相手の姿は皆違うのに使ってくる技は
どれも過去に見た事あるものばかりだ
オレの理想の場所
逆に考えればオレの貧相な想像力しか存在しない
世界は分からないものでありふれている
その分からないものと出会い戦い助け合うのが楽しいんだ
白い神様、お前と会えたのも楽しかった
でもオレはもっと限界を超えたい、分からないものの先へ進みたいんだ
バーバリアンとして矛盾鎧の境地を発動して
もう神様の雪片一つも当たってやらないぞ
現実は理想よりも面白いってな
●未知なる冒険へ
――全ての世界が平和になってからもう随分経つ。
グァーネッツォは穏やかな街を歩きながら、肩に背負った竜骨斧の柄を撫でる。
「昨日もよく戦ったな。けど、今日だってもっと戦えるぜ!」
世界に平穏が満ちたおかげでグァーネッツォは各街で行われている闘技大会に精を出すことが出来ていた。
勝って負けて、悔し涙を流すこともある。
けれども辛勝ながらも優勝できて嬉しいことだって往々にあった。
平和だからこそ、ああやって全力で戦える。真剣勝負を観戦しに来てくれる人々だってたくさんいた。
脅威がなくなったからだろう、純粋な強さに磨きを掛ける者も増えた。
襲い来る不幸に対抗するためではなく、自分の限界を試す為に鍛えるというのは実に良いものだ。それにグァーネッツォ自身も戦闘欲を満たせて最高だった。
そして、彼女は今日も闘技場で戦う。
魔法で立ち向かってくる魔術師。屈強な身体で大剣を振り回して力技で攻めてくる戦士。素早い動きを活かして手数で攻めてくる双剣使い。
そんな相手を自らのスタイルで薙ぎ倒し、攻略していく。それはグァーネッツォにとって、とても充実した時間だ。
そうしてグァーネッツォは今日も優勝を勝ち取った。
決して余裕の戦いではないことが更に彼女を燃えさせ、負けるものかという闘争心を湧きあがらせてくれる。
賞金と観客からの惜しみない拍手と喝采を受け取ることもまた心地良い。
このまま、日々研鑽を積む生活が続けば――。
闘技場からの帰り道、グァーネッツォはそんなことを思っていた。だが、ふとしたときに疑問を感じてしまう。
「あの魔術師、前にも戦わなかったか……?」
それだけではない。
戦士や双剣使いの動きだって何度も見たことがある。顔は違っても繰り出してくる手は似ていた。流派が同じなのかとも思ったが、どうにもしっくり来なかった。
「……いや違う」
どれも過去に見たことがあるものばかりだ。
そう気付いたとき、グァーネッツォは此処が現実ではないことを思い出した。
「これはオレの理想の場所だ」
思いきり戦いに明け暮れることができる世界。
だが、逆に考えれば此処は自分の貧相な想像力からしか巡らない場所。だから戦う相手がいつも同じ動きであり、過去をなぞったものでしないのだ。
グァーネッツォは知っていた。
世界は未知で溢れている。知らないものや分からないものと出会い、戦い、助け合うことこそが楽しいということを。
はっきりと自覚した途端、闘技場も平和な世界も消えていた。その代わりにグァーネッツォの前には眞白の惨華が現れている。
「白い神様、お前と会えたのも楽しかったぜ。でも、オレはもっと限界を超えたい」
あの世界だって楽しかった。
しかし、それ以上に未知の先へ進みたいと思える。
身構えたグァーネッツォは地を蹴り、幻を生み出す者を穿つために駆けた。もう神様の雪片ひとつだって当たってやらないと意気込むグァーネッツォ。目の前の神を倒して戻るべき場所はしかと分かっている。
何故なら――。
「現実は理想よりも面白いってな!」
明るいグァーネッツォの声が響いた刹那、白の影は竜骨斧によって両断された。
大成功
🔵🔵🔵
菱川・彌三八
…何時もの長屋、俺の部屋の前じゃねえか
此れが俺の
否
予感がない訳じゃねえ
雑に名の書かれた戸をひらくと、奥の戸が放たれて縁側が見えていた
気配が、する
当然と否、安堵と不安
知ってゐる、知りたくない
然し軋む板を踏み近付く
桜の木があるからと、選んだ長屋
部屋を抜ける風に春の香が乗ってゐる
―あゝ、矢張りお前か
違えば如何程善かった事か
顔は滲んで見えやしねえが、開こうとした其の口を手で塞いだ
やめてくれ
これ以上は、
*
…こんなもの、集めて如何する
認められやしめえが、神紛いにやっちまうのも癪だ
為れば、墓迄持っていくサ
さァ、消えつくんな
一閃
白に染み込む万寿菊
戻ったとこで何方も現世
望もうが望むまいが、役者は変わりやしめえよ
●滲む桜
触れた雪片が光を齎し、思わず目を瞑る。
次に彌三八が瞼をひらいたとき、眼前に広がっていたのは見慣れた風景だった。
此処は何時もの長屋。
「何だ、俺の部屋の前じゃねえか」
これまでのことが夢幻だったのかと錯覚させるほどに馴染んだ場所。神隠しにでも遭っていたのかとも過ったが、彌三八は首を横に振る。
違う。妙な違和感がある。
「此れが俺の――」
何か予感めいた思いを抱き、否、ともう一度頭を振った。
此処は理想を映す世界。ならば、この戸の奥には何かが在るはずだ。
彌三八は雑に名の書かれた見慣れた戸をひらく。奥の戸は開け放たれており、縁側が見えていた。
その奥に自分以外の気配が、する。
其れが当然であるような気もした。だが、安堵と同時に不安も裡に巡る。
知ってゐる。
知りたくない。
相反する思いを抱きながら、其れを確かめるために軋む板を踏んで縁側に近付く。
そうだ、此処は桜の木があるからという理由で選んだ長屋。
部屋を抜ける風に春の香が乗っていた。
その香りは未だ、この季節には感じられぬはずだというのに。
彌三八は縁側の脇に腰掛ける影を見つけた。
「――あゝ、矢張りお前か」
想像通りの顔が其処にあった。詳しく云うならば、顔は見えなかったのだけれど。
違えば、如何程も善かった事か。
滲んで見えぬ顔。それでも、お前だと解る。その人影――敢えてそう表すしかない者が口を開こうとしている。
屹度、嗚呼、屹度。
その唇からは望む儘の言葉が紡がれるのだろう。そう解っていたからこそ、彌三八は其の口を手で塞いだ。
「やめてくれ。これ以上は、」
穏やかであるというのに彌三八はその景色と影を拒絶する。
再び目映い光が辺りを包んだかと思うと、桜の香も長屋の景色も消えていた。代わりに彼の前に立っていたのは白き神。
「……こんなもの、集めて如何しやがる」
問いかけてみても彼の神性からは答えなど返ってこない。
それでも構わず、彌三八は言葉を並べていく。そうしなければ心が掻き乱された儘になりそうだったからでもあった。
「認められやしめえが、神紛いにやっちまうのも癪だ。為れば、墓迄持っていくサ」
――さァ、消えつくんな。
その言葉と共に彌三八は敵である彼の人を一閃した。
途端に其の白に染み込む万寿菊。咲いた花は呪となり、分体を覆い尽くす。
ふ、と息を吐いた彌三八は肩を竦める。
戻ったとこで何方も現世だ。其れ故にあの世界に思うことはもう、屹度無い。
「望もうが望むまいが、役者は変わりやしめえよ」
景色が元の世界のものへと変わっていく最中、ちいさな呟きが落とされた。
大成功
🔵🔵🔵
ノイ・フォルミード
ホワイトアウトの先
色とりどりの花畑と……君だ、ルー!
あの日
ひどく病んで、弱って、動かなくなった君が
昔の様に笑っている!
駆け寄るちいさな君を抱き上げて
金の髪も青い瞳も笑顔も、何も変わっちゃあいない
そうだ君の好きなケーキを焼こう
そして今度こそ君に、花を
君が呼ばうぼくの名前
「ノイ」
……そうか
これは正しくぼくが望む世界なんだな
だって君、ぼくの名前を知らない筈
いつも「案山子さん」って
現世に動けぬ君が居るのなら
ぼくは戻らなきゃ
今の君の様に笑ってもらう為に
君が神様
ぼくに昔のルーを見せてくれてありがとう
でも、ねえ
何故か目の前がチカチカする
回路が異常を訴える
【ベルセルクトリガー】
この衝動に体を明け渡すのは
2度目
●君を思うが故に
真白に染まった視界。ホワイトアウトの先。
それまで見ていた光景から一変した世界には、やさしい彩が満ちていた。
色とりどりの花畑。
その中に佇むちいさな人影。
ノイは双眼を凝らし、そのひとが誰であるのかを認識する。しかし一目見たときから誰であるかは分かっていた。
ほんの少しだけ信じられなくて、確かめてみたけれどやっぱりそうだ。
「……君だ、ルー!」
機械の脚を軋ませて、花を踏まないように気をつけながらノイは駆け出す。
花に囲まれるように立っている彼女はとても元気だ。向けてくれている微笑みだって明るくて、どんな花よりも彩りに満ちているように思えた。
良かった。
あの日。ひどく病んで、弱って、動かなくなった君が。
ああ、あの君が昔のように笑っている。
「ルー! もう身体は大丈夫なのかい? 痛くはない?」
自分に駆け寄ってくるちいさな君を抱き上げて、ノイはくるくると回る。抱き締められ、大丈夫だというようにノイにしがみつくその腕はちいさいけれど、確かに力を込めてくれていることが分かった。
あんなに、あれほどに弱っていたのに。
太陽のように輝く金の髪も、澄み渡った空のように青い瞳も、目映い笑顔も、何もかも変わっちゃあいない。
あの頃のまま、ノイが見守ってきた彼女がそのまま此処にいる。
これまでのこともすっかり忘れたように、ノイは彼女をやさしく抱いていた。
「そうだ君の好きなケーキを焼こう」
ノイがそう告げると彼女は嬉しそうに頷いた。どんなケーキを焼こうか。キャロットケーキにパウンドケーキ。クリームがたっぷり乗った豪華なケーキだって、今の彼女ならぺろりと平らげてくれるかもしれない。
嬉しい。
嬉しくて、嬉しくて、心臓もないはずなのに胸が高鳴る。
ノイは足元の花を見下ろし、そうだ、と思い立ったことを言葉にした。
「そして今度こそ君に、花を」
「ありがとう、ノイ」
彼女の声を聞いた瞬間、ノイは気付いてしまう。そっと少女を花畑の最中に下ろした彼は哀しげに呟いた。
「……そうか」
これは正しく、ぼくが望む世界なんだ。
だってそうだ。君は、ルーは、ぼくの名前を知らない筈なのだから。
案山子さん。
彼女はいつもそう呼んでくれていた。それでも名前を呼んで欲しいと願っていたことが、この理想の世界の中で実現してしまった。
「駄目だね。ぼくはここには居られないよ。ごめんね、ルー」
現世に動けぬ君が居るのなら、戻らなきゃいけない。
今の君のように笑ってもらう為に。
そう考えた刹那、目映い光と花に満ちた世界の光景が揺らぎ、彼女は消えた。代わりに現れた眞白の神に向けてノイは告げてゆく。
「君が神様だね。ぼくに昔のルーを見せてくれてありがとう」
先ず伝えたのは感謝。
しかし、ノイの双眼は怪しく危なげにチカチカと光っていた。回路が異常を訴え、自分が自分でなくなるような感覚が走る。
「でも、ねえ」
ノイは何かを告げようとしたが、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
ああ、この衝動に体を明け渡すのは二度目だ。
そう感じた瞬間、ノイの意識はブラックアウトする。終わったのだと思った時にはもう彼の周囲からは何もかもが消え去り、現実に戻されていた。
ただ、妙な喪失感だけがココロの片隅に残っていた。
大成功
🔵🔵🔵
メリル・チェコット
かみさまに視せられた世界は、幼い頃の風景
母が生きていた頃のあたたかな家族の一時
写真の中のままの姿の母と、まだ若い父、幼い自分
お母さんが、己を呼ぶ声
そっか、わたしは……本当はまだこんな光景を望んでいたんだね
UCであの子を召喚し、大きな身体をぎゅうっと抱きしめて
お母さん
メリルにはね、みんながいてくれるから
お父さんもこの子達もいてくれるから
だから、お母さんがいなくても……さみしくないよ
ひとつだけ伝えたいことがあるの
生きてる間に、いっぱい愛してくれてありがとう
おやすみなさい、大好きだよ
分体が現れたら
後ろ髪引かれる想いを断ち切るように、精一杯敵意を振り絞って弓を引く
少しでも夢をみさせてくれて、ありがとう
●やさしいこえ
雪に触れ、連れられたのは真白な世界。
其処が次第に懐かしい風景に変わり、メリルは幾度も瞳を瞬いた。
それは幼い頃の風景。父と自分と、そして――生きていた頃の母。あたたかな家族のひとときがその景色の中にあった。
「おかあ、さん……」
「――メリル」
写真の中のままの姿の母が自分を呼ぶ声がした。
その隣にはまだ若い父がいて、メリルの姿は幼い頃のものになっている。
(そっか、わたしは……本当はまだこんな光景を望んでいたんだね)
胸中で独り言ちた。
けれども身体は勝手に動き、メリルは呼ばれた方に駆けていった。
お母さん。
両手を伸ばして大好きだった母に抱きつこうとする幼いメリル。だが、その動きはぴたりと途中で止まった。
どうかしたの、といった様子で嘗ての母は首を傾げる。
そのあたたかな陽だまりのような笑顔に身を任せたいと思った。何も考えずにあの頃のままの無邪気な自分として在れば、ずっと此処にいられる。
けれどもメリルは知っている。
この世界は偽物。本物の母はもう、とうに居なくなっていることを。
「……来て」
呼ばうのはあの子――忠実なヒツジ。
子供だったメリルの姿は今の容姿に戻り、傍にはヒツジが寄り添う。その大きな身体をぎゅうっと抱き締めたメリルは覚悟を決めた。
此処は自分の望む世界。
だけど、だからこそお別れを告げなければならない。
「お母さん」
「なあに、メリル」
呼びかければ、母は変わらぬ優しい微笑みを向けてくれていた。メリルはそっと胸に手を当て、自分の思いを伝えていく。
「メリルにはね、みんながいてくれるから。お父さんもこの子達もいてくれるから」
もう大丈夫だよ。
心配しないで。
「だから、お母さんがいなくても……さみしくないよ」
震えそうになる声で、それでもメリルはしっかりと思いを言葉にしていく。そして、ひとつだけ伝えたいことがあるのだと話す。
「生きてる間に、いっぱい愛してくれてありがとう」
――おやすみなさい、大好きだよ。
感謝と別れの言葉を伝えたメリルは瞼を閉じる。
次に瞳をひらいたとき、彼女の目の前には白い影が現れていた。其処にはもう懐かしい光景はない。メリルは彼の神を穿つべく角突弓を構える。いつのまにか傍には牧羊犬のララもついてくれていた。ララはヒツジと共に寄り添い、大丈夫だよ、と告げてくれている気がした。
「ごめんね、わたしはもう行かなきゃ」
後ろ髪を引かれるような想いを断ち切るように、メリルは精一杯の敵意を振り絞って弓を引いていく。そして――。
「とてもやさしい夢をみせてくれて、ありがとう」
言葉と共に放たれた矢は、眞白の惨華の分体を雪のように儚く散らした。
大成功
🔵🔵🔵
桜屋敷・いろは
真白に目が眩む
ぎゅうと瞑った眼を開くと
そこには
嗚呼そこには
マスター!
お気に入りの真白いシャツ
蘇芳のベスト、同じ色の蝶ネクタイ
野暮ったくて大きな丸いレンズの眼鏡
染まりきらない白髪を見上げて、駆け寄ります
会いたかったわ
ただ使われていた頃にはわからなかった感情と言うものが
マスターが〇くなってからわかるようになったの
ポケットで、カタリと何かが鳴った
…煙草ケース?
何故こんなに錆びて…?
…そうだ
死んだんだ
使われず、錆びていったんだ
死者には、会えない
さよなら
すきよ
その真白い衣を、髪を
……こころを
燃やして、骸の海へ送ります
祈りにも似た、この焔で
さよならさよなら、愛しきみよ
なゆさん…
貴女のチカラになれたかしら?
●さよならの祈り
真白な光は眩みそうになるほど目映い。
思わずぎゅうと瞑った眼をひらくと、いろはの目の前に影が現れた。
次第に眩しさに目が慣れていく。
眼鏡の奥の瞳を瞬き、その人影を見つめる。
其処には――嗚呼、其処に居たのは。
「マスター!」
その呼び名を言葉にすると同時にいろはは駆け出していた。
お気に入りの真白いシャツ。
蘇芳のベスト、同じ色の蝶ネクタイ。野暮ったくて大きな丸いレンズの眼鏡。
染まりきらない白の髪。
間違いない。
マスター。あの頃と変わらないマスターが此処に、すぐ目の前にいる。あまりの嬉しさに自分がどういった状況かもすっかり忘れてしまっていた。
ただ、マスターの傍に。
手を伸ばして、駆けて、その姿を見上げる。
「会いたかったわ」
本当に、本当に会いたくて仕方がなかった。何故なら自分が『こうなって』から、初めて逢うのだから。
ただ使われていた頃。あのときにはわからなかった感情というものが、マスターが〇くなってからわかるようになった。それを伝えたかった。
心からの笑顔が浮かべられるようになったのだと、あなたを思って寂しくなることがあるのだと、話したかった。
「マスター、顔をよく見せ――……え?」
精一杯に腕を伸ばして主に語りかけようとするいろは。
だが、其処で不意に疑問を抱く。
ポケットの中で何らかの事を報せるように、カタリと何かが鳴った。不思議そうに手を伸ばしたいろはは其処に煙草ケースが入っていることに気が付いた。
「この煙草ケース、何故こんなに錆びて……?」
はっとする。
ケースとマスターを見比べた後、いろはは俯く。
そうだ、死んだんだ。
事実を思い出したいろははこの場所が自分の理想を映す世界なのだと知った。
使われず、錆びていった煙草ケース。
それは彼の人の形見。
本当は解っていた。これは幻で、まやかしに過ぎないのだと。それでも縋りたかったのは自分の中に心が生まれているから。
死者には、会えない。理解しているからこそ伝える。
「さよなら、すきよ」
いろはは淡く微笑み、マスターから静かに離れた。
途端に世界は一変し、いろはの目の前には眞白の神が現れる。
その真白い衣を、髪を。そして、こころを。燃やして、骸の海へ送るのが今の自分の務めだと思えた。
――さよならさよなら、愛しきみよ。
最後にもう一度、思い描く世界に別れを告げたいろはは浄化の焔を解き放つ。
祈りにも似た力が巡る中、静かに瞼を閉じたいろはは思いを言葉にした。
「なゆさん……貴女のチカラになれたかしら?」
大成功
🔵🔵🔵
篝・倫太郎
【華禱】
年頃に育った娘、俺達の背を追い抜きそうな息子
成長した子供達という経過した時間
今と変わる事ない夜彦という静止画のような時間
穏やかな日常
他愛のない家族の団欒に笑いながら観た窓ガラス
そこに映ったのは今と全く変わらない、俺
なるほど
これは夜彦と同じ寿命で生きる世界
俺が無意識下で望んだモノ
寿命の違いについちゃ話し合って、納得して
後悔ないつもりだったんだけどな
子供達が来た事で、欲が出たか
悪かなかったさ
あんたの見せてくれた理想の場所も
心地良かったさ
でも、悪ぃな
子供達が……あの人が、待ってるから
俺は、帰らなきゃ
いずれは離別が訪れる事になっても
そこが俺のいる場所だ
拘束術と華焔刀で眞白の神を断ち斬って帰ろう
月舘・夜彦
【華禱】
皆で暮らす世界
愛しい者達と永遠を過ごす、不変の世界
願ってはいけない夢を見ている
一年も十年も、百年も……どんなに時が流れても
子供達が大人になり、巣立つ時が来てしまったとしても
私に寄り添うのは、彼
そう、夢
これは夢なのだ
幾つもの別れを知っているからこそ「それ」が叶わない事を
穏やかに過ごす時を愛しく思うからこそ手放すのが苦しい事も
全部、全部分かっている
それでも、悲しみを呑み込みながら私は彼と生きる事を選んだ
私はそれから目を逸らして生きていくつもりはありません
私の生きる世界は悲しく、苦しくもあれば
幸せで、愛おしくも思える世界なのですから
だから私の居る場所は「そちら」、戻らなくてはなりません
●夢見た世界は遥かに遠く
年頃に育った娘、自分達の背を追い抜きそうな息子。
成長した子供達の姿が経過した時間を教えてくれていた。倫太郎の傍らには今と変わることのない、夜彦という静止画のような時間がある。
それは穏やかな日常。
他愛のない家族の団欒に笑いながら観た窓ガラスには、本当なら歳を取った自分が見えるはずだった。だが――。
そこに映ったのは今と全く変わらない、自分。
「なるほど」
これは夜彦と同じ寿命で自分が生きる世界なのだと理解してしまった。
「これが、俺が無意識下で望んだモノか。寿命の違いについちゃ話し合って、納得して、後悔ないつもりだったんだけどな」
きっと子供達が来たことで欲が出たのだろう。
倫太郎は溜め息をつき、目の前にある幻想をかき消すように腕を振った。
同じ頃、夜彦も似た幻を見ていた。
皆で暮らす世界。
子供達と倫太郎。愛しい者達と永遠を過ごす、不変の世界が此処にあった。
けれども夜彦は分かっている。
願ってはいけない夢を見ているのだ、と。
一年も十年も、百年も――どんなに時が流れても、子供達が大人になり、巣立つ時が来てしまったとしても、自分に寄り添うのは彼だ。
そう、夢。
これはただの夢なのだと分かる。
幾つもの別れを知っているからこそ、それが叶わないことを夜彦は理解している。穏やかに過ごす時を愛しく思うからこそ手放すのが苦しいことだって、全部、全部が分かっているというのに。
悲しみを呑み込みながら夜彦は彼と生きることを選んだ。だから、それから目を逸らして生きていくつもりはなかった。
二人が己の見た夢から敢えて目を逸らしたとき、ふたつの世界が混じり合う。
倫太郎は自分達が並び立っていることを確かめ、幻想の世界の代わりに現れた眞白の神の姿を見つめた。
「悪かなかったさ。あんたの見せてくれた理想の場所も心地良かったさ」
「ええ、とても幸せな夢でした。ですが、夢は夢です」
「悪ぃな。子供達が……夜彦が待っててくれたから。俺は、一緒に帰らなきゃ」
「私は……いえ、私達が居る場所は此の世界の外です」
いずれは離別が訪れる事になっても、共に生きる世界が自分のいる場所だ。
倫太郎が白き神へと宣言すると、夜彦も頷きを返す。
「戻ろうぜ、夜彦」
「はい、倫太郎殿」
自分達の生きる世界は悲しく、苦しくもある。しかし同時に幸せで、愛おしくも思える世界なのだから――。
そして、二人は華焔刀と夜禱で以て眞白の神を断ち斬った。
共に同じ世界へ。
まぼろしや夢などではない、確かな場所に帰ろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユヴェン・ポシェット
目の前に現れたのは1人の紅い髪の女騎士
正直、驚いた
俺の名が長いと“ユヴェン・ポシェット”と呼び、俺の親友を“ロワ”と名付けた友の姿。
ミヌレを俺に託した人物でもある
彼女の元へ喜び飛び込むミヌレ。
心のどこかで再会を望んでいたのかもしれないが、これはミヌレの望みでもあるのだな
マドレーヌ。
彼女の名を呼ぶと、ミヌレへ向けていた笑みを此方に向けた
…違う。
無愛想なアイツは俺を見て笑わない。ましてや名前を呼ぶと睨むからな
これは…違う。
お前も、判っているんだな…帰ろう?ミヌレ。
偽りのものなど必要ない。
俺の望みなどはいい。見せなくていい。
アンタの望みはなんだ?
戦う事でしか解決が出来ないのならば…いくぞ、ミヌレ
●彼女の微笑み
雪片が誘うまやかしの世界。
それまでの景色が光に包まれながら一変していく中で、ユヴェンは眼前に見覚えのある人影が現れ始めたことに気が付く。
其処に立っていたのは、紅い髪をした女騎士。
「……!」
思わず息を呑んだユヴェンは一歩だけ後退った。
しかし、彼に相反するように槍竜のミヌレが彼女の元へと飛び込んでいく。
「まさかまた会えるとはな」
驚いているユヴェンに対し、彼女は久しいということと元気だったかという旨を話しかけてきた。だが、何故だか霞がかったようにぼんやりとした声だった。
彼女は自分の名が長いと言って“ユヴェン・ポシェット”と呼び、親友である獅子を“ロワ”と名付けた友だ。
そして、腕の中に抱いているミヌレをユヴェンに託した人物でもある。
彼女に擦り寄るミヌレはとても嬉しそうだ。
きっと自分も心のどこかでこういった再会を望んでいたのかもしれない。しかし何となく分かることもある。これはミヌレの望みでもあるのだろう、と。
彼女は微笑んでいる。
ミヌレも、もう離れたくはないというように身体を寄せていた。
ユヴェンはその姿を暫し、そっと見守っている。穏やかな光景でしかなかった。この世界には何の危険も不安もないのだと思える。
誘われるように彼女達の傍に歩み寄ったユヴェンは静かに口をひらく。
「――マドレーヌ」
呼んだのは彼女の名前。
するとマドレーヌはミヌレに向けていた笑みをそのまま此方に向け、どうかしたのかと穏やかに問い返した。
「…………」
「ユヴェン?」
黙り込んでいると彼女が微笑んだまま名を呼び返してきた。
「……違う」
「何が――」
違うのかとマドレーヌが言い切る前にユヴェンは首を横に振り、その言葉を遮る。
こんなものは彼女ではない。
ユヴェンが断じたと同時にミヌレがマドレーヌの腕の中からするりと抜けた。そう、ミヌレだってもう気付いているのだろう。
――無愛想なアイツは俺を見て笑わない。ましてや名前を呼ぶと睨む。
「来い、ミヌレ」
帰ろう、とユヴェンが呼びかけると鉱石竜は翼を羽ばたかせた。そして、槍の姿となってその手に収まる。
あの笑顔も優しさも理想のものだった。
だが、自分だけが思い描く偽りのものなど必要ない。
ユヴェンが偽りの世界を拒絶したとき、目の前にあったマドレーヌの姿が掻き消えた。名残惜しく、後ろ髪を引かれるような気持ちが巡ったが敢えて無視をする。
「俺の望みなどはいい。見せなくていい。アンタの望みはなんだ?」
振り返り、問いかけた先には眞白の神がいた。
されど彼のひとは何も答えない。
槍を構えたユヴェンはその切っ先を差し向け、倒すべき相手を見据えた。きっともう、戦うことでしか解決が出来ない。
「――いくぞ、ミヌレ」
普段通りの言葉を紡ぐ。自分でも聞き慣れた呼びかけだが、それでいい。
それこそが現実に帰る為の一歩となるのだとして――ユヴェンは強く地を蹴った。
大成功
🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
あなたがかみさま
きれい
瞬きひとつ
あなたは
ルーシーのママじゃない
同じ髪と目の色のおんなのひと
…そう
あなたが
わたしを産んだひと
あなたが手放さなかったら
わたしは「ルーシー」にならなくても良かったかもしれない
今さら優しく抱きしめて
愛していたなんて言わないで
ああでも
なんてあたたかい
全て忘れて
このままでも
薄ら開く目に映るのは己の指先
小さな爪を彩るアオ
ルーシーだから得た色
これを無かった事に?
……いいえ、いいえ!
もう遅い
ルーシーにアナタはいらない
あっち行って!
瞬きひとつ
滲んだ視界に
もうあのひとは居ない
頬が熱いのは悲しいからじゃない
あなたを倒して帰って
笑顔でおかえりって言うためよ
「来て、ララ」
うそよ
本当は、ママ
●わたしがわたしであること
対峙した眞白の神性を見つめ、ルーシーは不思議そうに呟く。
「あなたがかみさま」
きれい、と言葉にするとひらりと雪片が舞ってきた。ちいさな冷たさが掌に触れ、思わず瞬きをひとつ。すると次の瞬間にはもう世界の色が変わっていた。
同じ髪と目の色。
知らないけれど、知っているおんなのひと。
いつの間にか目の前に立っていた人物を見上げながら、ルーシーは自分が先程とは違う世界に飛ばされたのだと察していた。
――あなたは。
ルーシーの、ママじゃない。そんなことを思ったが何となく理解する。
「……そう。あなたが、わたしを産んだひと」
育ての親ではなく生みの親。
彼女に対して思うことは確かに色々とあった。
あなたが手放さなかったら、わたしは『ルーシー』にならなくても良かったかもしれない。そんな複雑な思いが胸中に巡る中、彼女は少女に腕を伸ばした。
ふわりと包み込むような優しい抱擁。
『――愛しているわ』
彼女は愛しい我が子にそっと告げた。
少女はそんな言葉など今更だと感じていた。何もかもが遅いというのに、どうして今になってこんなことを告げるのか。もう、ルーシーはルーシーであるというのに。
それでも少女はその腕を振り払うことが出来なかった。
(ああでも、なんてあたたかい)
このぬくもりに身を委ね続ければ、辛いことなどひとつもなくなるのだろう。
全て忘れて、このままでも。
少女はそっと目を閉じた。やさしい腕、縋るようにくっつけた身体のあたたかさ、耳元で囁かれる慈愛に満ちた言葉。どれもが少女の求めているものだった。
そして少女は薄らと瞼をひらく。もう一度、彼女を見たくてあけた瞳。
そのとき、不意に己の指先が瞳に映った。
小さな爪を彩る、アオ。
それは自分が『ルーシー』だからこそ得た色だと気が付いた。
――これを無かった事に?
そう感じた瞬間、ただ母に抱かれていただけだった少女はルーシーに戻った。
「……いいえ、いいえ!」
もう遅い。
今の自分――ルーシーに、アナタはいらない。
「あっち行って!」
勢いのままに彼女を突き飛ばし、ルーシーは数歩後ろに下がった。その拒絶が偽りの世界を壊したのだろう。来たときのように瞬きをひとつすれば、視界が滲む。
もうどこにも、あのひとは居なかった。
代わりに背後に立っていたのは先程に邂逅した白いかみさま。ゆっくりと振り向いたルーシーはその姿を見つめた。
この頬が熱いのは悲しいからじゃない。
「これは、あなたを倒して帰って笑顔でおかえりって言うためのものよ」
ルーシーは眞白の神性にしかと視線を差し向け、溢れる涙を代償にして力を顕現していく。その手に瑠璃色の小刀が現れてゆく最中、ルーシーはそっと囁いた。
「来て、ララ」
――うそよ。本当は、ママ。
裡に抱いた思いを言葉にすることはなく、ルーシーである少女は刃を振り下ろす。
眞白の神の分体が花の如く散る。
やがて偽りの世界は白みはじめ、元居た場所の景色が見えてくる。元の世界に戻るまでにはこの涙を拭っておこうと決め、ルーシーは静かに俯いた。
大成功
🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
🌸櫻沫
春うらら
誘七の屋敷の縁側で息子と戯れ過ごす一時の幸せな事
私を呼ぶ女の声に振り向けば
やや子を抱き朗らかに笑う美しい羅刹の女
サクヤ
私を支えてくれる愛する人
良妻賢母とはこの事ね
彼女の協力と叱咤激励のおかげでここまでやってこれた
妻と子のいる穏やかな幸せ
珍しい魚を見つけたの
微笑むサクヤの持つ小瓶の中に揺蕩う白い闘魚
噫
かえらなきゃ
有り得たかもしれない未来
こういうのも良かったけれど
私を昂らせる、甘く蕩ける愛(歌)が足らない
桜吹雪を狂わせて白も全て薄紅に塗り替えて喰らい尽くす
在るべき桜獄に帰るの
どんなに痛くても苦しくても
神様なんて私にはいらないわ
必要なのは
ただいま、リル
よかった
あなたが私を選んでくれて
リル・ルリ
🐟櫻沫
公演後の常闇
豪奢な部屋のバスタブが僕の定位置
隣に座る座長が笑う
よく出来たと褒めて撫でる手
ノア様との秘密
恐怖のない穏やかな
僕だけが知る舞台外の君
お前の為の歌を作った
僕の為に生まれる歌
君が綴る歌が好き
君の歌を歌う一時が好きだった
何で忘れてたんだろう
花を見せてやると君が見せてくれた桜枝
美しく正しくそうあるよう咲くことを強要された花
嗚呼
違う
帰らなきゃ
僕の心に死に至る花咲かせた桜龍の元へ
咲く薄紅
花の名は「戀」
僕を殺す美毒の名
白の神に歌うは
ノア様が最後にくれた「春の歌」
僕の春を教えてあげる
ノア様…わからぬ想い風に散らす
嗚呼
また逢う日までには
おかえり櫻
柔い桜に少しの痛みが解ける
君の腕の中が僕の居場所
●此の華が咲くならば
うららかな春の陽射しが目映い。
桜の花がやさしい風に乗って、澄んだ青空に舞い上がっていく。
此処は誘七の屋敷内。縁側に腰掛けている櫻宵の視線の先には、桜の花弁を追いかけながら庭を駆けていく息子の姿があった。
「父様!」
「どうしたの、一華」
「なかなか花が掴まえられないんだ。父様も手伝ってくれないか?」
息子は無邪気な笑顔をみせ、こっちだ、と櫻宵の着物の裾を引っ張る。頷いた櫻宵は大切な息子と共に桜の樹の傍へ向かった。
花が舞う。
嫋やかな花が示してくれているのは幸せの証。そのように感じた櫻宵は胸を満たす幸福を愛おしく想う。
そんなとき、背後から聞き慣れた声が響いてきた。
――櫻宵。
自分を呼ぶ声に振り向けば、やや子を抱いた羅刹の女が立っていた。
サクヤ、と呼び返せば彼女は朗らかに笑う。妻である彼女は誘七の当主となった櫻宵をこれまでずっと支えてくれた、愛する人だ。
聞けば誘七の家に関する連絡を預かってきたらしく、櫻宵は礼を告げた。
良妻賢母とはこのこと。彼女の協力と叱咤激励のおかげで今までやってこれた。噫、これが正しい世界。妻と二人の子がいる穏やかな幸せが此処に在る。
穏やかな時間が流れていた。
妻から赤子を受け取り、そっと抱いた櫻宵は双眸を細める。するとサクヤが見て欲しいのだといって小瓶を差し出してきた。
「珍しい魚を見つけたの」
微笑むサクヤの持つ瓶の中には揺蕩う白い闘魚がいた。
揺れる尾鰭は月光のヴェールのように見える。何かが心の奥で煌めいた。何処かで哀しげで、儚げな歌が聞こえた気もする。
(噫、かえらなきゃ)
どうしてかそう思った。そして、はっとした櫻宵は此処が幻の中なのだと知る。
これは在り得たかもしれない未来。
心の奥底で望んでいた世界。
気付けば腕の中のやや子も、息子の姿も、彼女の存在すら掻き消えていた。誰も居なくなり、深い夜の色に染まった誘七の家にひとり、櫻宵は静かに佇んでいた。
「そうね、こういうのも良かったけれど……」
足りない。
私を昂らせる甘く蕩ける愛が、歌が、此処にはない。
「待っていてね、私の……」
いまの自分が一番に想う愛しい子の姿を思い浮かべ、櫻宵は桜吹雪を狂わせてゆく。辺りの景色も白も全て薄紅に塗り替えて、抱いた幻想ごと世界を喰らい尽くした桜龍は月光の先へと向かっていった。
在るべき桜獄に帰ろう。
それがどんなに痛くても苦しくても、神様なんて自分にはいらない。
そう、必要なのは――。
●享楽に謳う音
雫が跳ね、静かな部屋に水音が響く。
今宵の公演を終えた後。
常闇に包まれた豪奢な部屋に置かれたバスタブが彼の人魚の定位置だ。尾鰭を揺らせばバスタブに満たされた水に波紋が浮かぶ。
其処に伸ばされた男の手が人魚の髪に触れた。彼の指先は濡れた髪をなぞり、人魚の頬を擽るように指先が動く。
「今宵もよく出来たな」
いつものように見世物小屋で唄った歌のことを褒めてくれているのだろう。
人魚は彼の男――座長の掌に頬を寄せる。
このひとときは彼との秘密。
舞台には血飛沫が舞い、悲鳴が歌のように響いて、畏怖と歓喜が満ちる。
けれども今は自分達以外には誰も知らない、恐怖のない穏やかな時間が流れていた。
――僕だけが知る舞台外の君。
ふふ、と人魚は笑う。けれどもその笑みは傍から見れば何処か空虚だ。されどそのことを指摘する者は今、何処にも居ない。
「さあ、お前の為に新しい歌を作ったんだ」
そういって男が示したのは音譜が綴られた楽譜。その曲をなぞって秘色の人魚が歌を紡げば、ふたりだけの世界に甘やかな音が広がる。
これが僕の為に生まれた歌。
君が綴る曲が、歌詞が、音が好き。
そして君の歌を唄うひとときが、何よりも好きだった。
(何で、忘れてたんだろう……)
ノア様。
自分の為に綴られた曲を歌いながら、人魚は彼の名前を胸の奥で繰り返す。
君のこと以外は何も考えなくていい。
穏やかに揺蕩う匣舟に身を委ねていれば、それだけで満たされる。これこそが僕の居た世界。僕が居るべき唯一の場所だ。
「……ノア様」
その名を呼ぶ人魚の聲には畏れも交じっていた。けれども、彼が撫で続けてくれている手に嫌悪を感じることはない。
そうして或る時。男は花を見せてやると告げ、手折られた枝を差し出した。
それは桜の枝。
美しく正しくそうあるよう咲くことを強要された、儚げながらも強い花。人魚は男が手にしている枝に何気なく手を伸ばす。
その指先が花に触れた、刹那。
(嗚呼、違う)
人魚は――リルは首を横に振った。
だってグランギニョルはもうない。あの都市だって水に沈んだ。このバスタブも、頬を撫でてくれる手も、自分の為に新しく作られる歌だって、もう遠いものだ。
「帰らなきゃ」
リルが言の葉を紡いだとき、目の前にあったものは消えていた。
手の中には桜の枝だけが残っている。僕の櫻、と口にしたリルは自分の心に死に至る花を咲かせた桜龍の元へ游いでいこうと決めた。
咲く薄紅。
その花の名は、『戀』――己を殺す美毒の名だ。
●薄紅と白
在り得たかもしれない未来。もう手の届かない過去。
その両方が緩やかに拒絶されたとき、ふたつの世界が僅かに混ざりあった。
桜の花が咲く屋敷で巡った家族の光景。常闇に響いた歌聲と人魚を慈しむ男の姿。リルは前者を、櫻宵は後者の風景を垣間見た。
それが互いが視た望夢なのだと分かったが、今は何も云うことは出来ない。
歪んだ世界は次第に白い景色へと変わる。其処には眞白の神が立っていた。自然に寄り添うように並んだ二人は彼の神性を見つめ、それぞれに身構える。
「あなたね、私達に夢を魅せたのは」
「ねえ、かみさま。僕の春を教えてあげる」
櫻宵が屠桜の刃を抜き放つ傍ら、リルは思い出したばかりの彼がくれた最後の歌を贈ろうと決めた。
――どうか君よ、忘れないで。嗚呼、また逢う日までには。
白の世界にリルの歌声が響き渡る中で、櫻宵は駆ける。振るいあげた刃で偽りの神を屠り、散らす為に。一閃に桜の花吹雪が重なり、神性の欠片が跡形もなく消えた。
まやかしの世界は更に揺らぎ、元の景色が見えはじめる。
「ただいま、リル」
「おかえり、櫻」
リルが彼の傍に游ぎ寄ると、櫻宵は月光のように儚い人魚の身体を抱きしめる。柔い桜に少しの痛みが解け、リルは瞼を閉じた。
思い出したこと。忘れられないこと。たくさんあったけれど、今はそう。君の腕の中が僕の居場所だから。
「……もう少し、このままで居ていい?」
「勿論よ。たとえ嫌だって言われても離さないわ」
リルが甘えるように強請ると、櫻宵はその髪を優しく撫でた。
――よかった。あなたが私を選んでくれて。
耳元で囁かれた櫻宵の言の葉。其処に偽りなんてひとつもなくて。嗚呼、この胸に咲く戀は赦されているのだと――そう、思えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
グウェンドリン・グレンジャー
【雪梅】
……パパ、ママ
それに、ここは……廃墟、に、なってない、私の家
私は……(ちらりと鏡を見て、赤毛に緑色の目なのを確認して)
……元の色
この服……は、ハイスクールの、制服だね
ああ、そっか。私が、望んでた……から、か
……うん、本当に、こうだったら……よかったのに、な
私が、壊しちゃった、のが、いけないんだけど
Imaginary Heaven、虚数の蝶、放って、本物じゃない、パパと、ママ……飲み込む
あったはずの、幸せを、壊した……この力
パパの過ちで、得た力だけど……今は、敢えて、この力を、振るう
……ごめんね。まだ、私、立ち止まれない、から
ヴィリヤー、ジェイー、大丈夫……?
私は、大丈夫
ジェイ・バグショット
【雪梅】
亡くした二人がいる世界
おはよう。
声の先には金髪の青年と天使の少女
…アズーロ、クィンティ…おはよう。
少女は記憶より随分と大人になっていた
何の変哲もない日常
……俺が望む世界…、確かにそうかもな。
痛みも無い穏やかな時間が過ぎる
自分に似合わない現状にゾッとした。
…ユエント。
呼び慣れたUDCは本物のアズーロを召喚する
…これが俺の理想だとよ。
自嘲を含んだ溜め息と共に一歩
少女へさよならを言うために
クィンティ…
また、殺しちまうな…悪い。
首筋へ牙を立て再び少女を手にかける
…アズーロ、頼むわ。
白の魔術師が放つ、幻想の全てを破壊する雷
理想なんだか悪夢なんだか…
グウェンとヴィリヤの様子を見て
…お前ら大丈夫か?
ヴィリヤ・カヤラ
【雪梅】
広がる光景はダークセイヴァーで
猟兵になるまで暮らしていた城。
父様と私が猟兵になる前に病気で亡くなった母様。
両親がいて幸せだった頃。
この頃に戻れたら、また家族で暮らせるのかな。
……って、ここにいて良いんだっけ?
そうだ、私は父様の願いを叶えないといけないんだった。
ここは幸せだけど、もう出ないとね。
幸せだった頃を思い出させてくれてありがとう。
貴女を殺したらここから出られるんだよね。
影の月輪で地面から噛み付かせつつ、
【ジャッジメント・クルセイド】で上から攻撃するね。
相手の攻撃は『第六感』で避けられたら良いな
ジェイさんとグウェンさんと合流出来て
行けそうならご飯食べに行きたいな。
あ、普通のご飯ね!
●平穏は遠い過去に
目映い陽射しを感じてグウェンドリンは瞼を開けた。
おはよう、という聞き慣れた声が耳に届く。その声は二人分。自分がよく知っている声を発する人影に目を凝らすと、思いがけない人物が其処に居た。
「……パパ、ママ」
おはよう、と言葉を返す。
これまでは夜の神社に居たはずだと云うのに、今立っているのは自分の家だ。それもまだ廃墟になっていない頃の綺麗な室内だった。
早く朝食を食べて、という旨のママの声が聴こえる。グウェンドリンはぼんやりとしたまま、顔を洗ってくると無意識に返した。
夢を見ている気がする。違う、その逆で夢を見ていたのかもしれない。
向かった鏡の前。
其処に映っていたのは赤毛で緑の瞳をした自分自身。
「……元の色」
そして、グウェンドリンが身に纏っていたのはハイスクールの制服だ。此処には思い描いた普通の生活があった。
胸元のタイを直したグウェンドリンは二人がいる場所に戻る。
パパがもうすぐ病院に出かけるといって、ママは研究がもう少しで纏まりそうだと話していた。その声を聞きながらグウェンドリンはこくんと頷く。
このままこの時間に身を委ねてしまえば、ずっと夢見ていたこんな世界で暮らしていけるのだろう。
グウェンドリンはどうしてこのような光景が見えるのかを考えた。
(ああ、そっか。私が、望んでた……から、か)
両親が健在で、身体に何の不安もなく、穏やかに過ぎていく学校生活。
自分の好きなことがいっぱい出来て、友達がたくさんいて、時には喧嘩をして、それでも仲直りができる。年頃だから恋だってするかもしれない。好きな人ができたとママに相談していたら、パパにバレてしまったりして――。
そんな『普通』の日々。
(……うん、本当に、こうだったら……よかったのに、な)
普段は自分でも口に出すことすらない思いが分かった。本当はあって欲しかった世界。けれど、望んではいけないものだとも知っていた。
(私が、壊しちゃった、のが、いけないんだけど)
グウェンドリンはゆっくりと息を吐く。
違う。此処は、違う。
――Imaginary Heaven.
掌を幻の世界に差し向けたグウェンドリンは虚数の蝶を解き放った。その先に居るのは決して本物などではないパパとママ。
飲み込まれた幻影は散っていく。これはあったはずの幸せを壊した力。パパの過ちで得た力でもある。けれど、今は敢えてこの力を振るうと決めた。
「……ごめんね」
まだ、私、立ち止まれない、から。
幸せな世界に別れを告げ、グウェンドリンは更なる蝶の群れを放つ。羽撃く蝶が向かうのは白き神。この幻想を魅せた、眞白の影――。
●突き立てる牙と別れの証
此処はまた別の世界。
薄い朝陽が窓辺から差し込む気配を感じ、ジェイは薄らと瞼をひらいた。
「おはよう」
「よく眠れた?」
二人分の声が聞こえる中、ジェイはベッドから身体を起こす。
ああ、と頷いて顔を上げた。その視線の先には金髪の青年と天使の少女がいた。
「……アズーロ、クィンティ……おはよう」
驚きも何もなく、ジェイはごく自然に挨拶を返す。
少女は記憶より随分と大人になっていたが、何故か違和感は覚えなかった。朝食ができているのだと誘われ、別室に向かう。
外の光が傍らを歩く青年の金の髪を照らしていた。
眩しいな、と片目を眇めたジェイは、はやく、と手招きする少女の後を追う。その背に生えた翼は手を伸ばせば届きそうだったが、ジェイは敢えてそうしなかった。
――今日は何をしようか。
――そういえば、前に言っていたあそこに行くのはどう?
そんな他愛のない会話が巡る。
落ち着いたこの空間に流れていくのは何の変哲もない日常。
(……これが、俺が望む世界……。確かにそうかもな)
痛みも無い。
苦しみも、不安も、心を乱すものは何も無い。ただ穏やかな時間だけがある。
このままこの場所と心地に身を委ねてしまおうか。
ふと浮かんでしまった思いに対して、ジェイはゾッとした。
「似合わねぇな」
独り言ち、自嘲する。己が心の奥底でこんな平穏を望んでいたと思うと虫酸が走るような感覚が巡った。
ジェイは此方を笑顔で見つめる二人の顔をもう一度見つめ返す。
そして、白い靄に呼びかけた。
「……ユエント」
呼び慣れたUDCは声を掛けられた途端に視認できるほどの色を宿し、ジェイが望む霊を実体化させてゆく。それは偽りの世界に作られたものではなく、本物のアズーロだ。
「なぁ、これが俺の理想だとよ」
ジェイは浅い溜め息と共に一歩を踏み出す。
光溢れる魔術師が雷を纏い、偽りの世界を壊すべく黒魔法を唱えてゆく。そして、ジェイ自身は天使へと歩み寄った。
嘗て殺した少女へ、さよならを言うために。
「クィンティ……」
名を呼んで引き寄せても少女は抵抗しなかった。ただ、目の前で微笑んでいる。
「また、殺しちまうな……」
悪い、と耳元で囁いたジェイはその首筋へ牙を立て、少女を手にかけた。
力なくジェイの身体に凭れ掛かった少女の身体が霞のように消え去る。腕の中で消失した彼女のぬくもりを捨て去るように、ジェイは告げた。
「……アズーロ、頼むわ」
白の魔術師が放つのは幻想の全てを破壊する雷。
そして、まやかしの世界は罅割れ――思い描く幸福は再び手の届かぬ所へ消えた。
●その願いのために
目の前に広がっていたのは夜と闇に覆われた光景。
ヴィリヤは城の門を潜り、見慣れた景色を確かめていく。そうだ、この場所は自分が猟兵になるまで暮らしていた城だ。
「父様、それに母様も……」
城の中では両親が自分を待ってくれていた。
おかえりなさい、と告げてくれた母はとうに病気で亡くなっていたはずだった。立ち上がることすら出来ずに床に臥せっていたこともある。そんな母が元気に、けれども穏やかに佇んで自分を呼んでくれていた。
しかし、今のヴィリヤはそのことを疑問にすら思わなかった。
向かったのは食卓。
今日は遅かったな、と父がヴィリヤに話しかける。今日はね、と話しはじめたヴィリヤは城に帰る前にしていたことを語っていく。
それは、これまで居た夜の神社での出来事ではない。ヴィリヤが語る話にはジェイやグウェンドリンの話は一切出なかった。
何故なら、ヴィリヤはいつの間にかこの理想の世界に入り込んでいたからだ。
猟兵になる前。ただの少女だった頃。
あの頃に戻れたら、また家族で暮らせるのかな。そんな風に思った心の奥底で願った世界がこの場に広がっている。
静謐で、けれどもあたたかな家族の団欒。
「じゃあ、今日はもう休むね」
両親と過ごす楽しい時間を終え、ヴィリヤは自室に向かおうとする。
待って、と母が呼び止めてきた。どうかしたのかと振り返ると、母はヴィリヤの身体を抱き締める。もう子供ではないというのに、幼子を抱くような優しさと慈しみで。
おやすみなさい。
少し気恥ずかしかったが、そう告げられると安らぎの気持ちが巡った。
明日も、明後日も平穏な時間が過ぎていくのだろう。父と母、自分の三人で――。
「……って、ここにいて良いんだっけ?」
だが、ふとしたときにヴィリヤの裡に疑問が浮かんだ。
確かに此処は平和だ。
思い描いた通りの日常がこれからも続いていくのだということが漠然と分かる。しかし、何かが違う。
「そうだ、私は父様の願いを叶えないといけないんだった」
思い出す。
ヴィリヤにはこの場所に留まっていてはいけない理由があった。だからもう幻に浸る時間は終わり。確かに幸せだけれど、もう此処に用はないと思えた。
気付けば城の景色は消えている。
「そうだね、でも……幸せだった頃を思い出させてくれてありがとう」
振り返れば、ヴィリヤの背後には眞白の神が立っていた。
彼のひとを殺したら幻想から出られるのだと分かり、ヴィリヤは影の月輪を迸らせて白の神に噛み付かせる。同時に天からの光を放つことで標的を貫いた。
そうして、偽りでしかない世界は揺らぐ。
●現在の居場所
それぞれの世界から脱却し、破壊した三人は現実世界に戻ってきていた。
ジェイはもう一度溜め息をつき、白く染まる吐息を見つめる。
「理想なんだか悪夢なんだか……」
大きくゆっくりと伸びをしたグウェンドリンは、傍にいる二人に呼びかけた。
「ヴィリヤー、ジェイー、大丈夫……?」
「お前らこそ平気か?」
「少し惑わされそうになったけどね、問題ないよ」
「うん……私も、大丈夫」
ヴィリヤは頷き、皆が無事にまやかしの世界から抜け出せたことを安堵する。未だ敵の気配は消えていないが、きっと他の猟兵が上手くやってくれるだろう。
「ん……後は、任せれば、いいかな……」
「だな、本当にあのカミサマとやらに会いたい奴もいるんだろ」
「うん、じゃあこれからご飯食べに行きたいな。あ、普通のご飯ね!」
三人は自分達の役目は果たしたとして、その場から踵を返していく。こんなときでも食い気が勝っているのは三人らしさの表れ。
そして、彼らは在るべき日々へ――今、自分がいる現実へと踏み出していった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
サン・ダイヤモンド
【森】記憶喪失以前の人格が望む世界
見覚えの無い神殿のような場所
僕には翼が無いのに
今は何故か、白く輝く美しい6枚の翼があって
それをヴェールのように靡かせながら
ウエディングロードを歩むかのように進み行く先
僕を待ち受けるのは
神様のような神威を湛えた見知らぬ男性
彼が手を差し伸べる
陶酔じみた僕の声が
「我が主よ」【違う】
彼の傍に侍り、縋り、彼が望むままに囀った
彼の手が触れ、歓喜に打ち震え
彼の寵愛を受ける
――ずっと、貴方のものになりたかった
【違う!違う!違うッ!】
牙を剥き出し咆哮する
【僕が欲しいのはブラッドだけだッ!!】
全て衝撃波で破壊して
幻が消える間際
僕を睨め付ける彼の口が動いた
――『無価値なもの』め、と
ブラッド・ブラック
【森】
此処は…UDCアースか?
サン、サン、何処だ!
サンを探し、ふと硝子に映った己の姿
『普通の人間の男性』だ
黒く醜い肉塊なんかじゃない
嗚呼――、そうだ
俺は人間として生まれ
両親に愛され、友人を得て
奴隷になる事も無く、何不自由無く暮らし
ましてや人を喰う怪物等では決してない
だから、俺等を気に掛けてくれた優しい女性が死ぬ事も無く
白い翼を持つ彼女と幸せな家庭を築いている
子供はきっと彼女に似て可愛らしい
白くて、天使のような
――サンの声が聞こえた気がした
「…やめてくれ
これ以上惨めにさせないでくれ」
此の身体でなければ、俺でなければいけない
彼奴の翼になってやれるのは俺だけだッ!
UC:巨大な醜い怪物の姿で神を喰らう
●欲しいものは
サンが佇んでいたのは神殿めいた場所。
どうして此処にいるんだろう。今まで自分は何をしていたのだったか。
何故か思い出せない、霞がかった記憶。見覚えのない場所に立っていることが不思議で、サンは首を傾げた。
それに妙なことがもうひとつある。
自分には翼が無いはずなのに、今は何故か白く輝く美しい六枚の翼が背にあった。
サンは神殿の奥へと誘われるように歩いていく。
ふわりと靡く翼はヴェールの如く、まるでウエディングロードを歩むかのように進み行く先。其処には人影があった。
神様。
そう称えるに相応しい神威を湛えた男性がサンに手を差し伸べてきた。
サンは穏やかに、そして陶酔しきっているかのように彼へと微笑みを向けた。
『我が主よ』
自然に紡いだ声は甘やかだ。
――違う。
されど心の裡ではこの状況に対する否定の思いが渦巻いていた。
しかしサン自身は彼の傍に侍り、縋り、彼が望むままに囀る。甘い言葉を強請られれば口にして、触れることを求められたならば素直に従った。
指先に、首元に、その身に。
彼の手が触れれば、サンは歓喜に打ち震える。
彼のひとの寵愛を受けるこの時間が何よりも愛おしいとまで感じていた。
『――ずっと、貴方のものになりたかった』
サンは、否、サンであってサンではない自分が蕩けるような声で彼に伝える。
彼もまたその言葉を受け入れ、更に触れようとしてきた。
だが、その瞬間。
サンの中で激しい感情が弾けた。我に返ったサンは伸ばされた手を振り払い、後ろに下がって距離を取る。そして、サンは咆えた。
「違う! 違う! 違うッ!」
翼は散り、牙を剥き出したサンは威嚇する獣のように鋭い眼差しを向ける。
我が主。そんなものは要らない。
彼の寵愛など欲しくはなかった。たったひとときであってもそれを受け止め、歓びに身体を震わせた自身が許せない。
サンは自分に言い聞かせるように、声の限り叫ぶ。
「僕が欲しいのはブラッドだけだッ!!」
神殿も、この世界も、全てを衝撃波によって破壊していくサン。すると幻は瞬く間に塵になっていった。そうして、幻が完全に消えていく間際。
サンを睨め付ける彼の口が微かに動いた。
――『無価値なもの』め、と。
●望んだものは
「此処は……地球か?」
妖しい雪片に誘われ、辿り着いた先は別の世界だった。ブラッドは傍から居なくなったサンを探し、街中を駆けていく。
「何処だ、サン。サン……!」
自分にとっての太陽を探すのはブラッドにとって当然のことだ。
どれほど探しただろうか。
街の何処にも彼の姿は見えなかった。しかし、諦めはしない。
サンを探し続ける中でブラッドはふとショーウィンドウに映った自分の姿を見咎める。そして、はっとした。
――この姿は『普通の人間の男性』だ。
思わず驚き、立ち止まったブラッドは自分の胸元に触れてみる。黒く醜い肉塊などではない。ごく普通のありふれた身体があった。
(嗚呼――、そうだ)
其処でブラッドは思い出した。
この世界では自分は人間として生まれ、両親に愛されていた。友人を得て、奴隷になることなども無く、何不自由無く暮らしていた。それが望んだ世界だったからだ。
ましてや人を喰う怪物等では決してなかった。
だから、自分達を気に掛けてくれた優しい女性が死ぬこともなく、白い翼を持つ彼女と幸せな家庭を築いている。
子供は彼女に似て可愛らしいはずだ。
白くて、天使のような――。
其処まで考えたとき、ブラッドはふと誰かの声を聞いた気がした。
「……ブラッド」
そうだ、これこそがサンの声だ。
ブラッドは耐えきれずに俯いた。人間の身体を望み、偽りの世界であっても願うものを手に入れたというのに、心は激しく揺らいだ。
魅せられている世界だと知った今は、余計に胸が苦しくて堪らない。
「……やめてくれ」
己が持つ人間の体を掻き抱くようにブラッドは崩れ落ちた。言い表せず、言い知れぬ感情がぐるぐると巡っている。
「これ以上惨めにさせないでくれ!」
何とか声を絞り出したブラッドは叫ぶ。力の限り、思いを言葉にしていく。
「駄目なんだ。此の身体でなければ、俺でなければいけない……」
嗚呼、夢が崩れていく。
心の奥底で願っていた理想は棄てなければいけない。何故なら――。
「彼奴の翼になってやれるのは俺だけだッ!」
叫びと共にブラッドの身体は元の巨大な醜い怪物の姿となった。拒絶された世界は罅割れ、その最中に眞白き神が現れた。
そして、孤独な怪物は神を喰らう。
真に望んだものに手を伸ばし、傍に引き寄せるために。
●太陽と暗闇
それぞれの世界から抜け出した二人は暫し俯いていた。
今だけはどうしてか互いに顔を合わせて笑いあうことは出来ない。互いに求めているというのに、互いに望んで傍にいるというのに。
サンは自分が夢の中で出逢った彼を。ブラッドは自ら望んでしまった理想を思って。
裡に宿った己への疑念と戸惑い。
眞白の惨華が齎したのは希望などではなく、きっと――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アンテロ・ヴィルスカ
おや、碧海君(f04532)が消えた?と思えば何だこれは…素晴らしいベッドメイキング。
見えた世界は清潔で仄暗く、人気の一切無い上等なベッドルーム
ヤドリガミとして仮体を得る前、丁寧に磨かれた本体が収められていたジュエリーケースを思わせる癒しの空間
邪魔な眼帯はその辺にポイと放る
寝よう。これだけ猟兵がいたら誰かが頑張って倒すだろう……しかしなんだ、この鼻をつく臭いは。
彼女の炎に叩き起され夢のひとときが終われば、神様に八つ当たり
鎧を纏い【武器改造】で巨大な戦斧と化した黒剣を振り下ろす
……神はいつでも気紛れだね?酷い仕打ちをしてくれる。
絶対に許さない、絶対に、だ。
アドリブなど、ご自由に
碧海・紗
アンテロさん(f03396)は
どこかしら
人影を見つけ
(ぁ、)
共にしていた彼とは違う
背丈は似ているけど
その雰囲気は馴染みのある
囚われていた頃の記憶
Yシャツの似合う黒髪の彼
私を不吉と言わずに接してくれた世話係
あなたにはもっと
色々教えてもらいたかった
出来ることも増えた
自由になった今
一緒に行きたいところだって
…嗚呼、けど
私の所為で
この人は消えてしまったの
いるはずが無い
黒百合を発動
サヨナラ、ーー。
人を弄ぶのは程々に…
幾つかを合体させて大きめにした炎を複数個
目立たないよう立ち回り敵を攻撃
さぁ、アンテロさん
寝ている場合ではありません
起きて戻りますよ?
永眠するにはまだ
あなたに勝てていないのだから…
アドリブ歓迎
●静謐の底
「おや、碧海君が消えた?」
確かこれまで神社に居たはずだった。
ひらりと舞ってきた雪片が自分に触れたかと思うと、紗が居なくなった。というよりも周囲の景色が変わってしまったといった方が正しい。
「何だこれは……」
素晴らしいベッドメイキングだと感じてアンテロが近付いていったのは清潔なベッド。其処は静謐でかつ綺麗で仄暗く、人気の一切無い上等なベッドルームだった。
懐かしい。
そう感じたのはきっと、仮体を得る前のことを思い出したからだ。
ヤドリガミとして顕現する以前。丁寧に磨かれた本体――銀の八端十字架が収められていたジュエリーケースを思わせる部屋。
まさに癒しの空間だと感じたアンテロは左目の眼帯に手を掛けた。
「何だか邪魔だな」
眼帯をその辺に放り投げた彼はベッドに腰掛ける。
そういえば自分は何をしていたのだったか。何か大切なことをしようとしていた気もするが、記憶に霞が掛かったように思い出せなくなっていた。
寝よう。
ただそれだけの思いが今のアンテロの中にあった。自然に訪れた眠気に身を委ねていけば、心地良さが巡っていく。
「あれだけ猟兵がいたら、誰かが頑張って倒すだろう……」
寝言めいた言葉を紡ぎながらアンテロは目を瞑った。微睡みに落ちていく最中にアンテロはふと疑問を抱く。
――しかしなんだ、この鼻をつく臭いは。
されど意識は暗闇の中に落ちていく。そしてアンテロは完全に思考を手放した。
心地好い、眠りの中へ。
●もう会えないあなたへ
「アンテロさんはどこかしら」
同じ頃、紗も雪片に触れた後にアンテロを見失っていた。
詳しくいうならば違う世界に飛ばされたと表した方が良い。不思議な白い世界を歩いていると、紗は前方に或る人影を見つけた。
(――ぁ、)
思わず立ち止まった紗はそれが共にしていた彼とは違うことに気付く。
背丈は似ている。けれど、その雰囲気は馴染みのある――囚われていた頃の記憶の影そのものだった。
ワイシャツの似合う黒髪の彼。
そのひとは紗を不吉だと言わずに接してくれた世話係だ。
アンテロを探していたことをひとときだけ忘れ、紗は彼に駆け寄っていった。また会えた。そのことが嬉しくて、少しだけ切なかった。
どうしたのかと問う彼の声が聞こえる。
懐かしいような不思議な感覚の中、紗は彼へとそっと手を伸ばした。
「あなたにはもっと、色々教えてもらいたかった……」
過去を慈しみ、今と比べる。
あの頃を思うと出来ることも増えた。囚われではなく、自由になった今ならば一緒に行きたいところだって――。
そう考えて話しかけようと思ったが、紗は口を噤む。
(……嗚呼、けど――)
彼と共に居られればどれだけ良かっただろう。しかしはっとして我に返った今、それが叶わないことなのだと分かってしまった。
私の所為でこの人は消えてしまったのに、此処にいるはずがない。
だから、これは幻。
自分自身が作り出した都合の良い理想。
紗は彼に触れられなかった掌を静かに広げ、黒百合を発動させてゆく。
「サヨナラ、――」
自分にだけ聞こえる声で彼の名前を呼んだ紗は紅混じりの黒炎を解き放った。きっとこの幻を見せているのは白き神なのだろう。自ら望んだものとはいえ、なんて優しくて残酷なのだろうと感じた。
「人を弄ぶのは程々に……ですよ」
紗は幾つかの炎を合体させた力を浮遊させ、周囲に解き放った。
その瞬間、世界が罅割れる。
●魅せられた夢
「――さん、……さん!」
「ん……何だ……?」
誰かが呼ぶ声が聞こえた。眠り続けていたアンテロは目を擦りながらも、ベッドに深く潜り込もうとする。しかしそのシーツを声の主が引っ剥がした。
「さぁ、アンテロさん。寝ている場合ではありません!」
「……おや、碧海君?」
叩き起こされたと表すに相応しい状況。
やっと目を覚ましたアンテロは少しばかり寝ぼけていた。しかしすぐに今の状態を理解する。此処は居心地の良いベッドルームだが、幻の世界だ。
そして紗は自分の望夢世界をぶち壊して、此方の世界に割り込んできたのだ。
「アンテロさん、起きて戻りますよ?」
ベッドから起き上がったアンテロに紗が落ちていた眼帯を手渡した。いつも通りに眼帯を装着したアンテロは立ちあがる。
その頃にはもうすっかり眠気は覚めていた。
「……神はいつでも気紛れだね? 酷い仕打ちをしてくれる」
「本当ですよ。こっちもなかなかのものでした」
紗はちいさく溜め息をつく。正直を言えばこのベッドルームが彼の望む世界なのだと思うと不思議だったが、深く詮索するつもりは今はない。
永眠するにはまだ早い。
あなたに勝てていないのだから、と独り言ちた紗の傍らでアンテロは前を見据えた。その視線の先には薄く微笑む眞白の神が現れている。
「あのひとを倒して、帰りましょう」
「ああ。絶対に許さない、絶対に、だ」
紗が白き彼の神性に放った炎にあわせ、アンテロは鎧を纏う。
夢のひとときに別れを告げたアンテロは、神様へと八つ当たりするが如く巨大な戦斧と化した黒剣を振り下ろした。
二人の一閃によって白き影は揺らぎ、分体であったものが掻き消える。
周囲の景色が元いた神社のものに変わっていく中、紗とアンテロは頷きあった。心の奥底で望んでいたもの。それを静かに確かめながら――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
吉備・狐珀
心地よい木漏れ日を生み出す神木。
根元には薄紫の桔梗が風に流れて揺れて。
私が過ごした大切な場所。
そこで過ごした対の狐像、兄と慕った大切な人。
村の五穀豊穣を願いながら、取り留めない話をするのが好きだった。
貴方の声を聞けるなんて、こんなに嬉しいことはない、けれど。
けれど貴方は偽者。
なぜなら兄の魂はここにある。私が人形に封じ込めたから。
笑うことも話すこともないけれど。
UC「破邪顕正」使用。
ここにいれば以前のように過ごせるかもしれない。
私はそれを望まない。悪い夢から覚めなくては。
貴方の力を貸して下さい
眞白の神に破魔の力を増した御神矢を広範囲に全力で一斉発射する。
人形の放つ炎で追撃し、この世界ごと燃やす。
●優しい偽りと哀しい現実
ひらりと舞う、雪片がいざなった望夢の世界。
いつの間にか狐珀が立っていたのは心地よい木漏れ日を生み出す神木の傍だった。
「ここは……」
自分がそれまでとは違う光景の中にいるのだと気付き、狐珀は辺りを見渡す。
神木の根元には薄紫の桔梗が咲いていた。
やさしく流れる風を受けて揺れる花はとても穏やかに思える。狐珀はこの場所が何処であるのかを思い出し、懐かしさを胸にいだいた。
此処は大切な所。
対の狐像――兄と慕った大切な人と過ごした、かけがえのない場所。
気が付けば、隣には兄が居た。
狐珀の目を見て、笑いかけてくれる兄の姿はあの日とまったく変わっていない。
いつしか狐珀はそうあることが当たり前だと感じるようになり、神木の傍に腰を下ろした彼の隣に座った。
語り、願うのは村の五穀豊穣。
其処から巡るのは取り留めない話だ。或る家に巣を作った燕がすべて巣立った話。村に迷い込んできた子猫が随分と大きくなった話。お供えの饅頭や、村人が祝い事で振る舞った料理の話。
たくさん、たくさんの話をした。
それが幸せなことだった。他人から見れば大きな幸福だとは呼べぬものかもしれないが、狐珀にとっての幸いとはあの日々のことだ。
(また貴方の声を聞けるなんて――)
こんなに嬉しいことはないと感じた瞬間。狐珀は疑問を覚えた。
また、という感慨。
それは一気に狐珀を現実に引き戻す切欠となった。何故なら、これが本当に当たり前の日々であるならば感じる必要がないことだからだ。
「そうでした……貴方は、偽者」
目の前で笑う兄を見つめ、狐珀は首を横に振る。
何故なら兄の魂はここにある。自分が人形に封じ込めたからだ。偽物の彼と違って、笑うことも話すこともないけれど。それでも、この人形に宿る魂こそが本物だ。
狐珀は立ち上がり、破邪の力をもつ御神矢を番える。
此処にいれば、以前のように過ごせるかもしれない。だが――。
「私はこのような閉じた世界は望みません」
だから、悪い夢から覚めなくてはならない。貴方の力を貸して下さい、と狐珀が告げればあたたかな力が宿った。
そして、現れた眞白の神に御神矢をひといきに解き放つ。
更に其処へ人形の放つ炎が続き、穏やかな理想の世界が見る間に崩れ落ちた。
いつしか狐珀は元いた場所に戻っていた。
あれは束の間の夢。
戻ることは叶わぬのだと自分に言い聞かせ、狐珀は人形の兄をそっと見上げた。
大成功
🔵🔵🔵
泉宮・瑠碧
理想…
僕…私とは正反対の
明るく勝気で金の髪をした太陽の様な姉と
傍に居たい宝石の彼が
私の未来と同じに永く生きる
緑豊かな地
姉の姿に泣いて縋り
…姉様…!
ずっと…寂しかった、怖かったよ…
夢なら彼へ伝えても良いのかな
一秒でも、長く生きて…私を、置いて逝かないで
大切な人達が傍に
私は未来に怯えない…
…でも
此処では姉の「生きて」という最期の願いが叶えられない
私の勝手な望みが偽りの彼らを生む事も赦せないから
夢を拒絶する
神と対峙したら僕は郷愁総奏
デバイスを解放し
皆の生命力が回復出来る様に
夢から覚めた世界でも
誰もが生きて幸せを見付けます様にと祈りつつ歌唱
…姉の姿を、幸せな夢を、ありがとう
終えたら
祠へポプリを供えよう
●理想は残酷に
不思議な雪片に触れ、思わず閉じた瞼をひらく。
其処に広がっていたのは緑豊かな穏やかな地。瑠碧はこの場所が何処であるのかが一瞬わからず、辺りをゆっくりと見渡した。
小鳥たちが囀り、森の生き物が自由に過ごしている。
何処にも危険はなく、警戒する必要などまったくない緑の大地。
「僕は……ううん、私は――」
此処に居ていいのだろうかと呟きかけたとき、瑠碧の視線の向こう側にふたつの人影が現れた。目映い光の中、先ず見えたのは懐かしい顔。
彼女は自分とは正反対のひと。明るく勝気で金の髪をした太陽の様な姉。
そしてもうひとりは傍に居たいと願う宝石の彼。
おいで、と二人が森に誘う。
瑠碧は伸ばされた手を取り、二人と一緒に平穏に満ちた森に向かった。
彼女が望んだのは、自分が進む未来で愛しいひとと共に永く生きる世界。
「……姉様!」
大きな樹の傍に辿り着いたとき、瑠碧の瞳からは堰を切ったように涙があふれた。どうしたんだ、と優しい声が聞こえる。
久方振りに対面することが出来た姉に縋り、瑠碧はもう離したくないというように泣きじゃくった。
「ずっと……寂しかった、怖かったよ……」
「そうか、よく頑張ったな」
瑠碧の口調は姉を真似るものではなく、元あった祈りの娘として在ったときのものに戻っていた。
「姉様、姉様……」
「もう泣かなくていい。ずっと一緒にいよう。ほら、彼もそう言っている」
瑠碧の背を撫でた姉は傍らを示す。
顔を上げた瑠碧は宝石の彼が優しく微笑んでいることに気が付いた。涙する自分を見守ってくれていたのだろう。頬を拭った瑠碧は彼を見つめる。
心の何処かで、此処は夢なのだと理解していた。
それならば彼へ伝えても良いのかもしれない。この気持ちを、この想いを――。
「お願い。一秒でも、長く生きて……私を、置いて逝かないで」
「……ああ」
彼はしかと頷き、瑠碧の心に添ってくれた。
瑠碧は淡い笑みを浮かべ、大切な人達が傍にいてくれる幸せを感じる。
これなら、きっと自分は未来に怯えない。
この穏やかで美しい緑の世界で大切な人達と共に過ごしていける。外の世界にある苦しみや悲しみを感じなくてもいい。ずっと此処に居たい。
そう思えた。だが――。
「……でも」
瑠碧は俯き、優しい姉達から敢えて一歩距離を取る。
そうだ、この世界では姉の『生きて』という最期の願いが叶えられない。
それに自分の勝手な望みが偽りの彼らを生むことも赦せない。そう感じたとき、瑠碧は夢を拒絶した。
その瞬間、優しい景色は消え去る。姉の姿や微笑む彼はもう何処にもない。
代わりに眞白の神が目の前に立っていた。
風精の飾りに触れた瑠碧は彼のひとを倒し、この世界から出ることを決めた。
――争いは悲しくとも、『僕』が居るべき世界は此処じゃない。
祈り、願う。
夢から覚めた世界でも、誰もが生きて幸せを見つけられますように。
「……姉の姿を、幸せな夢を、ありがとう」
瑠碧は次第に世界と共に消えゆく神に告げ、そっと思う。
全て終えたら祠へポプリを供えよう。
きっと、そうすることくらいは許されるはずだから――。
大成功
🔵🔵🔵
華折・黒羽
眸開けば既に連れの姿は無く
広がるは白の草揺れる草原のよな
居るのはあの子だと思っていた
いつも俺の裡に居続けていたあの子
けれど、違った
白の世界の中不釣り合いな程黒く染む一点
大きな黒尾、立派な黒耳、違うのは四肢が人のそれというだけ
果てなく冷たい瑠璃の眸が俺を捉える
嗚呼何故どうして
此処に居るんだ─父、さま
久しいなと声がする
大きくなったなとその手が撫でて
私の元に帰っておいで愛しい子、と抱き締める
酷い、夢だ
だってあなたはそんな事
一言だって言ってくれる様な人じゃなかった
俺はこんな起こり得ない世界を望んでいた?
笑い種だ
なんて愚かな夢
帰ろう…黒帝
本物の光待つあの場所へ
一刻も、早く
怯える様に縋る様に、獅子を喚んだ
●偽りの優しさ
眸をひらくと、既に共に居た連れの姿はなかった。
神社の祠が見えていた景色の代わり、広がっていたのは白の草が揺れる草原。
黒羽は幾度も瞳を瞬く。
こういった世界に引き込まれるとき、必ずといっていいほど居るのは――あの子。
此度も何となくそうであるのだと思っていた。何故なら、あの子はいつも自分の裡に居続けていたのだから。
けれど、今はどうしてか違った。
白の世界の中、不釣り合いな程に黒く染む一点がある。
その影の正体を確かめるために目を凝らす。
大きな黒尾に立派な黒耳。己と違うのは四肢が人のそれというだけ。
その眸は果てなく冷たい。瑠璃の双眸が此方を捉えたことで、黒羽は立ち止まる。
それまでその影に向けて歩いていたというのに、動けなくなった。
嗚呼、何故。畏れのような感慨が巡る。
「久しいな」
「どうして此処に居るんだ――父、さま」
掛けられた声に対して何とか絞り出した声に対し、そのひとはそっと手を伸ばした。動けぬ黒羽の頭に掌が触れ、やさしく撫でられる。
「大きくなったな」
「……はい」
慈しむような声に妙に他人行儀な返事をしてしまう。それでも彼は撫でる手を止めず、黒羽を抱き寄せて腕を回した。
「私の元に帰っておいで、愛しい子」
「…………」
耳元でやさしく囁かれた言葉に黒羽は俯く。
酷い、夢だ。
その言葉がこの場所が現実ではないのだと教えてくれる。何故なら、彼はそんなことを一言だって言ってくれるような人ではなかったからだ。
(――俺はこんな起こり得ない世界を望んでいた?)
偽りの父に抱き締められたまま、黒羽は自嘲めいた思いを抱く。
笑い種だ。
なんて愚かな夢なんだろう。
複雑な気持ちを覚えた黒羽は後ろに下がり、偽の父の腕から逃れた。そして、代わりに呼びかけたのは漆黒の獅子。怯えるように、そして縋るように。
「帰ろう……黒帝」
獅子が黒羽に寄り添うと、目の前にいた影が揺らいで消えた。
黒羽は現れた白き神と共にまやかしの世界を斬り裂き、帰るべき所を目指す。
本物の光が待つ、あの場所へ。
一刻も、早く――。
大成功
🔵🔵🔵
鶴澤・白雪
白い白い
これは本物の雪なのかしら
目を開けたら故郷の宇宙船の中にいた
皆が笑う平和な世界
妹が幸せに生きている世界
そこにあたしはいない
定められた通りあたしが贄となって妹が生き延びる
望んでいた未来の形
知ってたわよ
あたしを助けようとせずに生き延びて妹が幸せになる未来が欲しかった
その為ならあたしは壊されても悔いはなかったもの
この世界はホッとする
こっちが本当の世界だったら良かったのに
舞え、深紅の焔華
破魔を込めてこの世界を溶かしに行くわ
素敵な夢を見せてくれてありがとう
此処はあたしの望む世界だけど誰かの願いを全て捨てた世界よ
だから受け入れない
貴方も雪なら水に還って春に咲く花の一部になりなさい
貴方の世界に焔の華を
●贄の宝石
白い、何処までも白い雪。
これは本物なのかしら。そう思った次の瞬間に冷たい雪片が肌に触れた。
ひやりとした感覚。
思わず瞑ってしまった瞼をひらけば、白雪は故郷の宇宙船の中にいた。
其処は皆が笑っている平和な世界だ。
されど白雪自身はその中にいない。神の視点にでもなったかのように遠い場所から幸せな光景を見守っている感覚だ。
この場所は、この世界では、妹が幸せに生きている姿が見られる。
妹がいるということは白雪はいてはいけない。
何故なら此処は定められた通りの世界。
(そうよ、あたしが贄となって妹が生き延びる――望んでいた未来の形だもの)
白雪は胸中で独り言ちる。
もし思いを言葉にしたとしても、この場所で笑っている人々に声が届くこともないだろう。自分はもう、此処では贄に捧げられたものなのだから。
知っていた。
心の奥底では分かっていた。
たとえ自分がいなくなったとしても、真に望んだのはこんな光景だ。自分を助けようとせずに生き延びた妹が幸せになる未来が欲しかった。
(その為ならあたしは壊されても悔いはなかったもの……)
妹は遠い世界の中で幸福そうに笑っていた。
この光景を見守っていたい。
ほっとするような世界の様相は白雪の理想の形だ。
――こっちが本当の世界だったら良かったのに。
だが、心の中でそう思っていることこそが目の前の景色が偽物でしかないことを教えてくれている。白雪が世界を偽りだとはっきりと認識したとき、妹やその周りで笑う人々の幸せな光景が揺らぎはじめた。
気付けば白雪は誰も居ない宇宙船の中に立っていた。
妹の姿はもう記憶の中にしかない。理想を描いた世界の最中に咲いた、煌めく宝石のような微笑みを忘れないでおこう。
白雪は僅かな感慨を抱き、地を踏み締める。
そっと上げた顔。その視線の先には眞白き神性の姿があった。彼のひとがあの幻を見せたのだと分かり、白雪は身構える。
「舞え、深紅の焔華」
白き神ごと、この世界を溶かそうと決めた白雪は力を揮う。アマリリスの花が周囲を染めあげていく中、白雪は眞白の神に向けて思いを紡いだ。
「素敵な夢を見せてくれてありがとう」
あの場所はあたしの望む世界。けれど、誰かの願いを全て捨てた世界。
だから、礼は告げても受け入れはしない。
「貴方も雪なら水に還って春に咲く花の一部になりなさい」
さあ、貴方の世界に焔の華を。
花が舞い、まやかしの光景と神の分体を穿ち貫いた。
どれだけ願っても変えられない過去。帰れない場所。ひとときだけでもその光景が見られたことに思いを馳せ、白雪は瞼を閉じた。
次に目をひらいたときには在るべき場所に戻っているのだろう。
そう感じながら――。
大成功
🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
望んだ世界。
望み、は――
世界に怪奇も業病も無くて
自分は本当の意味で"人間"の儘で
この身を包帯で縛ることもなくて
身体を被験体のように弄られることも
虚ろな賞賛もあらゆる罵倒もなくて
あぁ、この世界なら
ただ好きなことを、歌を歌い続けて……
――くだらない
遅いんだよ
こんな望み、今更叶っても
救いにすらならない
……だから過去の残滓は嫌いだ
こうやって、程よく傷つけてくるんだから
耳を塞げ
周囲の声なんて聞くな
己への精神攻撃だけを聴け
身体中の"口"で叫べ!
おまえは誰だ
おまえは『怪奇人間』だろう、
"スキアファール・イリャルギ / 真境名・左右"!
怪奇を恐れ、戒め、誇り、愛せ!!
――こんな世界、眞白と共に燃えてしまえ!!
●叫べ、己を
雪片が導くのは自身が望んだ世界。
眩むような感覚をおぼえたスキアファールは一度、目を閉じる。
望み、は――。
そして瞼をひらいたとき、彼の前にはこれまでと違う光景が広がっていた。
其処は自由で平穏な場所。
世界に怪奇も業病も無く、自分は本当の意味で『人間』の儘だった。
この身を包帯で縛ることもない。
それだけではない。身体を被験体のように弄られることも、虚ろな賞賛も、あらゆる罵倒すらなく、何処までもやさしい世界であるのだとすぐに分かった。
ごく普通の人間になった彼は穏やかな街を歩いていた。
桜の花が咲く通りをゆっくりと進む。
花の薫り、行き交う人々の賑わう声。カフェのオープンテラスでお茶を楽しむ人々。この和やかな景色に自分が混ざっても何の問題もない世界。
(あぁ、この世界なら――)
スキアファールは穏やかな気持ちを覚えながら街をゆく。
此処でならただ好きなことを、歌を歌い続けられる。この場所こそが理想であり望んだものだ。そう考えるスキアファールだが、不意に拒絶の気持ちが生まれた。
――くだらない。
自分の思いを拒絶するかのような独白。
ああ、と頷いたスキアファールは首を横に振った。
「遅いんだよ」
呟いた言葉には自嘲が宿っている。人間になったとして、歌を歌い続けたとしてもそれが何になるというのか。
「こんな望み、今更叶っても……救いにすらならない、だろ……」
自分に言い聞かせるように夢を振り払う。
このまま偽りの理想の中に留まり続けたとしても、きっといつか惨めになるだけだ。何故なら、この身体はもう真に人間などではない。
(……だから過去の残滓は嫌いだ)
こうやって、程よく傷つけてくるんだから。
再び胸中で独り言ちたスキアファールは頭を押さえ、耳を塞ぐ。周囲の幸せそうな光景も、ただの人間である自分の姿も否定する。
違う。違う。
本当の自分は此処には居ない。居てはいけない。
ただ己への精神攻撃だけを聴け。
身体中の“口”で叫べ!
おまえは誰だ。おまえは『怪奇人間』だろう。
「“スキアファール・イリャルギ――真境名・左右”――!」
彼は叫ぶ。
怪奇を恐れ、戒め、誇り、愛せと。
そしてスキアファールは周囲の景色が崩れていくことを確かめていく。其処に眞白の影が現れたことに気付き、彼は衝動の儘に炎を巻き起こす。
「――こんな世界、眞白と共に燃えてしまえ!!」
宣言と共に死有の焔が迸った。己をも焼却せんと暴走していく炎は白き影を包み込み、唾棄すべき世界ごとすべてを葬った。
確かに現実は苦しい。何もかもを否定したくもなる。
それでもスキアファールは今の自分を選び取った。これこそが己なのだと認め、本来あるべき世界に戻るために。
大成功
🔵🔵🔵
朝日奈・祈里
視界が染まる
真白に染まる
なんだこれ?
みんなと遊んで、笑って
失うものは無くて
喪失感に怯えることもなく
ただ日々を面白おかしく過ごす
嗚呼、なんて素晴らしい日々なんだろう
次は何しようか?
どこに遊びに行こうか?
身を乗り出して提案
さらり、真白の髪が顔にかかる
……真白?
おかしい
あれ?
服も、へんだ
なんで白衣着てない?
魔導水晶の指輪も、イヤリングも、なんで無い?
ゾッとした
君たちは変わらずぼくに笑いかけるけど
きっと君たちは偽者だ
メッシュ、無いけど来てくれるかな
燃やしたくない
怖い苦しい
でも、帰らねーと
ひとときでも、楽しかったぜ
あったかもしれない、可能性
あり得ない未来
それがどうした
天才はそれをも飲み込んで笑うんだ!
●天才の矜持
ひらりと舞い落ち、額に触れた雪片。
途端に視界が真白に染まり、祈里の意識がおおきく揺らいだ。
いつの間にか瞑ってしまっていた瞼をひらくと不思議な光景が広がっていた。
「なんだこれ?」
「あれ、どうかしたの?」
祈里が――否、少女が首を傾げると、隣にいた同じ年頃の女の子が問いかけてくる。ううん、と首を振った少女は何を考えていたのか忘れてしまった。
そうだ、いままでみんなと遊んでいたんだ。
追いかけっこをして、楽しくて笑って、他愛ない話をして過ごす。
ただ穏やかな時間が流れる。
失うものは無い。喪失感に怯えることもなく、面白おかしく過ごせる時間。
嗚呼、なんて素晴らしい。楽しくて幸せであることが極々当たり前の日々。
「次は何しようか?」
「ねえねえ、どこに遊びに行く?」
皆と話す言葉が自然に出てくる。此処には怖いものも恐ろしいものだってない。望めば快く答えてくれる皆がいる。
「それじゃあ……」
少女は皆に微笑みを向け、身を乗り出して行きたいところを告げようとした。
そのとき。
さらりと真白の髪が顔にかかった。自分の髪だ。それは決しておかしいことなんてないはずなのに、何かが足りないと思えた。
――真白?
疑問が浮かんだ。
色がない。あるべきはずの色彩が何処にも見えない。
「……おかしい。あれ?」
不可思議な感覚にとらわれた少女は自分を見下ろしてみた。これまで考えてもみなかったが服も変だ。
「なんで白衣を着てないんだ?」
それだけではなかった。
魔導水晶が煌めく指輪も、月を象るイヤリングも、どうして身に付けていないのか。
気付いたときにゾッとした。
周りで笑っている皆だけは変わりがない。もっと遊ぼうと呼びかけてくれているというのに遠い存在のように思えた。
「そうか……皆、ぼくの理想だったんだ。ぼくの描いた、幸せな……」
君たちは偽者だ。
心の中ではっきりと断じたとき、ただの少女に戻っていた彼女は今の自分――朝日奈・祈里という存在を取り戻した。
このまま此処に居続けるのも悪くはなかった。しかしあの契約も決意も、誓いだって無かったことになど出来ない。
「メッシュ、無いけど来てくれるかな……」
ちいさく呟いた祈里は指で髪先を弄りながら静かに頷く。
燃やしたくはない。
現実は怖くて苦しい。後悔だってある。
「でも、帰らねーと。……ありがとう皆。ひとときでも、楽しかったぜ」
――コード:イフリート。
召喚と共に真白だった髪に色彩が宿り、現れた赤いメッシュがふわりと浮き上がった。
「幻想が、届かぬ理想がどうした。いいか……」
目の前に現れた眞白き神を見据えた祈里は指先を差し向けた。
術者の魔力と血液を奪いながらイフリートは紅蓮の焔を迸らせてゆく。屠るべき敵の分体を炎が激しく穿っていく光景を見つめ、祈里は高らかに宣言する。
「天才は――それをも飲み込んで笑うんだ!」
炎が収束していく光景の向こう側に現実の世界が見えた。
背を向けたのは、あったかもしれない可能性。
あり得ない未来。
笑顔を向けてくれる皆がいる世界に別れを告げ、祈里は歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵
水標・悠里
桜散る鄙びた集落
きっと会うだろうと思っていた
ねえ、姉さん
僕は貴方になら、絞め殺されても良かったんですよ
生きる望みも喜びも持たされること無かった僕なら兎も角
ひとつひとつ丁寧に、生き肌を断つようにして
心を殺されるのはどんな心地でしたか
それは私のもの、私が受ける筈だった痛み
だから今、頂戴な
『幸せに生きて』だなんて願い事、僕には叶えられないから
息絶える程に激しい
生きていくための種火になる痛みと苦しみを最後に下さい
斬奸帳
彼女を写したこの死霊で眞白の神を斬る
この夢は私だけのもの
渡さない、食べたのなら貴方を斬らなければ
共に参りましょう姉さん
然様なら、地獄まで
痛みと苦しみと愛おしさを
悲しみをくれて、ありがとう
●写し身と影
それまで見ていた夜の景色が揺らぐ。
雪片に誘われるように歪んだ視界の先に違う光景が見えはじめた。
其処は桜の花が散る鄙びた集落。
悠里は近くに舞い落ちてきた桜に手を伸ばした。掌の上に収まった花を握り込んだ悠里は一度だけ瞼を閉じる。
景色が変わったときから自分の目の前には人影があった。
きっと会うだろうと思っていた。
状況を確かめるように頷いた悠里は瞼をひらき、そのひとの姿を瞳に映す。
「ねえ、姉さん」
呼びかける悠里の声は穏やかだ。
頷く影は記憶の中にある姉の姿そのままだった。そのことが、この世界が悠里自身が思い描く理想であることを教えてくれている。
「僕は貴方になら、絞め殺されても良かったんですよ」
悠里は静かに告げていく。
本物ではないと分かっていても語りかけずにはいられない。
生きる望みも喜びも持たされることのなかった自分ならば兎も角。ひとつひとつ丁寧に、生き肌を断つようにして、心を殺されるのはどんな心地だっただろう。
だが、彼女は何も答えない。
その理由も分かる。悠里の心が反映されただけの世界では姉の思いや苦しみが紡がれるはずがないのだ。
「……姉さん」
もう一度、呼びかける。
あの苦痛は自分のもの。悠里が受ける筈だった痛みだった。そうでしょう、と悠里は姉に問いかける。しかしやはり返答はなかった。
「だから今……」
俯いた悠里は、頂戴な、と続ける。
――『幸せに生きて』
彼女が告げてくれた願い事は叶えられない。それゆえに、代わりのものを。
息絶える程に激しい、生きていくための種火になる痛みと苦しみを――。
「最後に、下さい」
悠里は一歩だけ後ろに下がり、姉の姿を見つめる。
黄泉語り――羅刹斬奸帳。
映されてゆくのは、とある羅刹の復讐劇。哀哭と涙に塗れた悲劇の姿。
攻撃の意思を見せ、この世界を壊そうとしたことで眞白の神が其処に現れた。悠里は敵を見据え、彼女を写した死霊を眞白の神性へと向かわせた。
「この夢は私だけのもの。渡さない。だから、貴方を斬らなければ」
宣言した悠里は羅刹が神を斬り裂く様を見つめる。
まやかしならば要らない。
告げた言葉は真意ではあるが、これがただの夢であるのなら留まる必要もなかった。やがて神の分体は消え去り、花が散る世界も薄れていく。
「共に参りましょう姉さん」
悠里は懐かしい景色に背を向け、死霊を伴って歩き出した。
然様なら、地獄まで。
痛みと苦しみと愛おしさを。そして――悲しみをくれて、ありがとう。
大成功
🔵🔵🔵
花剣・耀子
またたいた、先のこと。
土の地面。遠くに煙。微かな血のにおい。どこかの戦場。
――それでも空は青く。青くて。
そんな景色を見ていたのは、十年もむかしのこと。
このせかいに、暮らしていたときのこと。
望む世界?
……、……そう。そうね。
あたし帰る場所は、もうここではないのよ。
帰るところの判らない迷子ではないけれど。
それでもきっと、帰れるものなら、帰りたかったのだわ。
あたしの居場所は、あたしが決めるの。
帰る場所だって自分で決められるわ。
懐かしくて、苦しくて、あの背中を探したくなったって、それでも。
あたしは、過去に立ち返る事を赦さないのよ。
だからこのゆめは、ここで終わり。
すべて斬り果たして帰りましょう。
●あの人の背中を
雪片が触れた後。それは一瞬のこと。
これまで見えていた祠の景色が消えたかと思うと、違う景色が見えてきた。
耀子は瞼を瞬かせる。
土の地面。遠くには立ち昇る煙。
そして、微かな血のにおい。此処は何処かの戦場だと分かった。
こんなにも血腥い場所だというのに。それでも――見上げた空は青くて、蒼くて。透き通るようなその色は懐かしいものでもあった。
そう、懐かしい。
裡に浮かんだ思いを改めて繰り返す。
こんな景色を見ていたのは十年もむかしのこと。このせかいに確かに暮らしていたときのことを考えると耀子の胸に感慨が巡った。
もう一度、空を見上げる。
風が吹きぬけ、黒耀石を思わせる彩を宿す髪を揺らした。
焦げた匂い。消えぬ血と僅かな死臭。これが自分が望んだ世界なのだろうか。
「……望む世界?」
ふと思い立ち、疑問の残る声で呟く。
かみさまが見せてくれる世界は此方を直接傷つけるようなものではない。ただ此方の願いを叶えようとしているだけなのだろう。
「……、……そう。そうね」
確かに望んでいたのかもしれない。嘗ては帰る場所だった世界が目の前にある。今だって行けないことはないが、十年前の景色となると容易には戻れない。
耀子は俯き、土の地面を見つめた。
帰るところの判らない迷子ではないけれど。
それでもきっと――自分は此処に帰れるものなら、帰りたかったのだろう。
此処から歩いていけば嘗ての生活に戻れるのかもしれない。今とは違う未来を選び取ることだって出来るのかもしれない。
耀子は掌を握る。
この場所は望めば何だって許される世界だ。でも、と頭を横に振った耀子はゆっくりと顔をあげた。それから自分に語りかけるように言葉を紡いでいく。
「あたし帰る場所は、もうここではないのよ」
戻るべきところはもう別にある。
偽りの世界で選び取るものは本当の道ではない。
「あたしの居場所は、あたしが決めるの。帰る場所だって自分で決められるわ」
懐かしくて、苦しい。
あの背中を探したくなったって、此処でそれを行うのは絶対に違う。耀子は剣の柄を握り、鞘から刃を抜き放つ。
「あたしは、過去に立ち返る事を赦さないのよ」
――だからこのゆめは、もうここまで。
振り返れば戦場の真ん中に不釣り合いな存在が現れていた。眞白の神に刃を差し向けた耀子は地を蹴る。後はいつものようにするだけ。
さあ、終わらせましょう。
すべてを斬り果たした先、自分が選び取った本当の未来へ。
大成功
🔵🔵🔵
鎹・たから
(怪訝な表情の人狼と、快活そうに笑う大男
男二人の散らかったマンション
慣れない女の子との暮らしの為に
用意してくれた家具や服
あなた達は、いつもそうでしたね
たからの為に、なんでもしてくれました
正義を見誤らぬように
マガツの力に溺れぬように
優しい人であれと
だから、たからはこの魔の力を使います
この夢を終わらせて
人々の夢を守ります
(大男をまっすぐ見て
あなたが居なくなって
なびきはあなたの分まで
たからを愛してくれていますよ
どうか
なびきを守ってあげてくださいね
脱出した瞬間素早く身を翻し
神様にフォースセイバーを振るいます
【ダッシュ、忍び足、早業、暗殺、2回攻撃、鎧砕き】
艦長、たからは大丈夫ですよ(零す涙はそのままに
ヴィルジール・エグマリヌ
私の望む世界、か
基本的には今の生活や送ってきた人生に
十分満足しているのだけれど……
嗚呼、動物や自然に囲まれた生活
……というものには憧れて仕舞うな
美しい草原に腰を下ろして
鹿とか兎とかリスに囲まれながら
日がな一日絵を描けたら素敵かも
….…嗚呼、本当に出てくるんだ
お前たち可愛いね、描かせておくれ
……宝石みたいなキャンディや
甘く蕩けるソフトクリームとか
そういうのも無限に湧いて来ると良い
うん、最高じゃないか
永遠に此処に居たいな……
でも、守ってくれた女の子を
置いて来てしまったからなあ
戻らないといけないね
幻想から醒めたらドローンで自己強化
剣で傷口抉りながら、たから(f01148)と合流
……君、泣いてるの
●三人の日常
目覚めたのは散らかったマンションの一室。
ゆっくりとベッドから起き上がってのそのそと着替え、別室に向かうと其処には二人がいた。怪訝な表情の人狼と、快活そうに笑う大男。
おはよう、と大男の方から声が掛かり、たからはこくりと頷いた。慣れない女の子との暮らしの為に彼らは家具や服を用意してくれていた。
そのことを思うと感謝の思いが募る。
たからは暫し、其処で二人との生活を送っていった。それまで自分が神社にいたことも、猟兵として戦いを重ねてきた日々も、不思議と思い出すことはなかった。
何気ない日常が其処にあった。
戸惑いながらも優しくて、共に暮らす者同士の繋がりがあって、きっと――次第に絆のようなものだって芽生えていった。
マンションが綺麗に片付いた試しはなかったけれど、それこそがこの場所だ。
しかし、その生活の中でふと懐かしくなることが多々あった。
(あなた達は、いつもそうでしたね)
たからの為に、なんでもしてくれた。慈しむように浮かぶ思いはすべて過去形。
途中から、たからは気付いていた。
目の前のことは現実ではない。二人と買い物に出掛けた日も、料理に失敗したあの日のことも、三人で眺めたあの夕日の景色だって、全部が過ぎ去った日の記憶をなぞっているだけだ。
彼らはあの日々の中で教えてくれた。
正義を見誤らぬように、マガツの力に溺れぬように。
そして、優しい人であれと。
これはただの追憶。居心地は良いけれど、もう戻ることが出来ない場所。つまりは望んだ夢の世界。
たからは立ち上がり、たったひとりで扉に向かう。
このマンションのドアを開けば外の世界、即ち夢の外側に出られる気がした。しかし、いつしかその背後には男が立っていた。
自分を呼ぶ声に振り向けば、大男が心配そうな眼差しを向けていた。
行ってしまうのかと視線で告げられた気がする。ちいさく頷いたたからは、もう決意しているのだと伝えた。
「たからはこの魔の力を使います」
そして、自分の夢を終わらせて人々の夢を守る。
大男をまっすぐに見つめる、たからの瞳からは自然に涙が溢れていた。それでもたからは扉に手をかける。もうひとりの彼、人狼の姿はもうこのマンション内にはない。何故なら、本当の彼は現実世界にいると知っているからだ。
「あなたが居なくなってから、なびきはあなたの分まで、たからを愛してくれていますよ。だから、どうかあなたは、」
――なびきを守ってあげてくださいね。
もう一度振り向いたたからは最後の言葉を彼に伝え、懐かしい日々に別れを告げた。
扉をひらく。
其処にはマンションから見える景色が広がっている。だが、たからの目の前には其処にいるはずのない存在――白き神が現れていた。
咄嗟に身を翻したたからは眞白の影に向け、玻璃の花剣を振るった。
零れた涙が地面を濡らす。
その瞬間、やさしい世界は神様と共に崩れ落ちていった。
●緑の彩と描いた理想
雪の欠片が触れた途端、それまでの景色がおおきく揺らいだ。
誘われたのは違う世界だ。
そう気付いたとき、ヴィルジールの口許が微かに綻ぶ。その理由は周囲に豊かな自然と、其処で生き生きと過ごす動物たちの姿があったからだ。
その景色は普段、彼が暮らしている艦にはないものばかり。
決してヴィルジールはこれまでの生活や日々に不満を持っているわけではない。送ってきた人生だって悪いものではなかった。
今という時間や境遇に十分に満足しているといっても過言ではない。
それでも、夢見る世界はある。
その景色はヴィルジールにとっての理想の場所だ。
風がそよぐ草原。
緑の匂いは心地好く、草の上に腰を下ろす。藍色の長い髪を撫でていく風はやさしくて、ヴィルジールの双眸が穏やかに緩められた。
次第に彼の周囲には様々な動物が集まってくる。
角が美しい鹿。長い耳を愛らしく揺らすウサギ。ふわりとした尻尾が可愛いリス。肩に登ってくるリスに目を向け、寄り添う鹿の角に触れる。ウサギはヴィルジールの傍で穏やかに眠り、更なる心地良さを感じさせてくれた。
「そうだね、こういったところで日がな一日絵を描けたら素敵だ」
ヴィルジールがふとした思いを落とすと、目の前にキャンバスと筆が現れた。絵の具まで出現したことで、ヴィルジールは幾度か瞼を瞬かせる。
「……嗚呼、本当に出てくるんだ」
驚きはしたが、彼はすぐにそのことを受け入れた。
そうしたいと思ったことが出来る。望めば何だって叶う。そんな世界に居られることがとても嬉しかった。
「お前たち可愛いね、描かせておくれ」
やさしく呼びかければ、まるで絵のモデルになってくれるかのように佇む鹿。
緑の草原に立つ鹿の絵を描き、筆を走らせる。
こんなにゆっくりとした時間はこの場所でしか過ごせないと思えた。
「宝石みたいなキャンディや、甘く蕩けるソフトクリームとか、そういうのも――」
少し欲を出してみれば、やはりそれらも無限に湧いて来る。うん、と頷いたヴィルジールは甘い心地に身を委ねた。
「最高じゃないか」
永遠に此処に居たい。素直な思いが胸に満ちていた。
そして、ヴィルジールは絵を描き終える。草原と動物を記したキャンバスに広がる彩はまさに理想と表すほかない。
でも、と顔を上げたヴィルジールは絵の隅にサインを記してから立ち上がる。
「守ってくれた女の子を置いて来てしまったからなあ」
このサインは確かに此処でひとときの夢を見た証。穏やかで甘い時間は決して忘れないだろう。そして、自分がこんな世界を望んでいたということも。
「さて、戻らないといけないね」
ヴィルジールは静かに目を閉じてから、ゆっくりと瞼をひらく。
もう、幻想からは醒めた。
緑の最中に佇んでいた白い神の影に剣を向けたヴィルジールは一気に地を蹴った。
斬り裂く刃は世界を壊す。
そして――。
●君が望む夢は
戻ってきたのは雪が薄く積もった神社の奥。
ヴィルジールは傍らにたからが立っていると気付き、無事で良かったと安堵した。まやかしの、それでいて理想を映す世界から二人共が帰ってこれたのだ。
だが、彼女の頬には雫が伝っていた。
「……君、泣いてるの」
ヴィルジールからの問いかけに、たからは頷く。
とても良い夢を見ていたのだと。懐かしい幻想を見せてもらったのです、と。
「艦長、たからは大丈夫ですよ」
零す涙はそのままに、たからはヴィルジールを見上げた。
「そうか、私も――」
素晴らしい夢を見ていたと語った彼はそれ以上を詮索することはなかった。ただ、胸にやさしい気持ちが満ちている。
たった僅かでも彼の神は自分達の望みを叶えてくれたのだろう。
どうしてか、そう思えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
百鬼・景近
【花守】
(眼前で微笑む人こそ、在りし日の――
未だ夢見る愛しい微笑――何より守りたかった光景
此は俺が壊した、叶わぬ筈の夢幻
暫し見つめるも、言葉は出ず
涙すらも、もう溢れず
どうしたの?と笑いかけられ
漸く一歩だけ歩み寄りかけ――踏み止まり)
…君さえいてくれれば、他に望むものはない
その気持ちは今も変わらない
だけど
どれ程願い、望んでも
俺達が迎えた結末も、変わりはしない
御免ね
俺が向き合うべきは、夢の中の君じゃないんだ
この腕の中で冷たくなった、あの日の君こそが――目を背けてはならない現
だから、君には寄り添えない
そう――こんな神意には添えないよ、神様
(疼く刀で幻断ち――何事もなかったかの様に)
さて戻ろうか、伊織
呉羽・伊織
【花守】
目の前には最後の持主
俺なんかを拾い大切にしたばかりに
報われぬ最期を迎えた人
――そんな人がいつかの様に
微笑みながら手を差し伸べる
――どうして優しくするの
どうして諦めてくれないの
どうしてまた笑いかけてくれるの
掴んではいけない
でも掴みたい
葛藤すらもあの時と同じ
一緒に生きたかった
逝きたかった
…でも、俺は
今度こそ、その手を振り払わなきゃならない
此処で再びその手にすがれば
嘗ての望みは叶う
でも此処に囚われ立ち止まっては
貴方が真に繋いでくれた道を
貴方のお陰で繋がった縁を
捨てる事になる
それは出来ない
望まない
…お節介は懲り懲りだ
世話は無用って言ったろ――カミサマ
誓願を果たしに、俺は帰る
(景近に笑って応じ)
●君を抱く腕
景近の眼前で微笑む人。
その人こそ、在りし日の――。
其れは未だ夢に見る愛しい微笑。景近が何より守りたかった光景そのものだ。
雪片に導かれて辿り着いた世界にはすべてがあった。
(此は俺が壊した、叶わぬ筈の夢幻)
分かっていた。あの頃に帰って来れたのではないということは痛いほどに。
暫しかの人を見つめる景近だったが、明確な言葉は出なかった。涙すらも、もう溢れずにただその姿を瞳に映すだけ。
「どうしたの?」
不意に笑いかけられ、景近がはたとする。
其処で漸く一歩だけ、ほんの少しだけ近付けた。そのままもう一歩、と歩み寄りかけた景近だったが寸前で踏み止まる。
君さえいてくれれば、他に望むものはない。
その気持ちは今も変わらず、きっと言葉にだって出来る。だが、景近は目の前の人に対して敢えて何も伝えなかった。
知っている。
どれほどに願い、望んだとしても叶わないことを。
自分達が迎えた結末も決して変わりはしない。それを理解しているからこそ近付けない。あの時のように声をかけることも出来ない。
そうしてしまうことで、過去を汚してしまう気がしたからだ。
「御免ね」
たった一言、景近は告げる。
そうすると堰を切ったように言葉が溢れてきた。されどそれは過去の君に告げる思いではなく、偽りの君を拒絶する言の葉だ。
「俺が向き合うべきは、夢の中の君じゃないんだ」
君はこの腕の中で冷たくなった。
あの日の君こそが――自分が目を背けてはならない現の証。
だから、と景近は首を横に振る。
君には寄り添えない。自分の幻想が作ったものでしかない、虚ろな存在には。
「そう――こんな神意には添えないよ、神様」
疼く刀を手に取れば、眞白き神が景近の前に現れた。
幻は消え去り、世界は揺らぐ。一閃を振るえば分体である神も崩れ落ち、何事もなかったかのようにすべてが戻っていった。
●のぞまぬ冀望
目の前には最後の持ち主が立っていた。
沸々と伊織の裡に浮かんでいくのは後悔めいた思い。
自分なんかを拾い大切にしたばかりに、報われぬ最期を迎えた人――そんな人がいつかのように、微笑みながら手を差し伸べてくれている。
「――どうして優しくするの」
伊織はその腕に手を伸ばし返すことが出来ないでいた。
代わりに問いを投げかけるが、かの人はただ優しい微笑みを向けるだけ。
「どうして諦めてくれないの」
もう一度、訪ねてみる。
しかし、その眼差しはひたすらに穏やかなだけ。
「どうしてまた笑いかけてくれるの」
答えはない。
分かっている。自分の中の幻想であるその人が、伊織の知らない答えを持っているわけがないということを。
けれども手は伸ばされ続けている。
掴んではいけない。でも、掴みたい。その葛藤すらもあの時と同じだ。
一緒に生きたかった。
逝きたかった。
「……でも、俺は」
伊織が絞り出した声は震えていた。
今こそ決意しなければならない。この理想の世界でその手を取れば、望むままの未来が掴み取れる。だが、だからこそ手を振り払わなければならない。
それでも。
此処で再び、その手に縋れば。
揺らぐ思いはなかなか消えてくれない。嘗ての望みは叶い、生きることも逝くこともすべてが思いのまま。
「駄目なんだ」
此処に囚われて立ち止まってはいけない、と伊織は思い直す。
貴方が真に繋いでくれた道を、貴方のお陰で繋がった縁を捨てることになるから。
そうなれば望みは意味をなさない。
それは出来ない。望まないことを引き寄せる結果になるのだと己を律する。
伊織は俯いていた顔を上げ、幻想を睨みつける。
「……お節介は懲り懲りだ」
そう断じた瞬間、目の前にいた主の姿は砂が崩れるかのように消え去っていった。
そして、伊織は背後に視線を向ける。
其処にはこの場所にいてはいけない者が静かに佇んでいた。
「世話は無用って言ったろ――カミサマ」
俺は、誓願を果たしに帰る。
宣言と共に妖刀を振るった伊織は一刀のもとに白き神を屠った。分体であるがゆえに一閃で散ったそれを見送り、伊織は踵を返した。
気が付けば二人は白い世界の最中にいた。
「さて戻ろうか、伊織」
隣から掛けられた景近の声に応じ、伊織はいつものように笑った。
そして彼らは歩き出す。共に過ごした現実に、在るべき場所に帰るために――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
五条・巴
知らないうちに夜に?
神社に居たはずなんだけどな
これはどうしたものか、いつもと同じように空を見上げる
快晴、星の瞬く美しい夜
視線を元に戻す
通り過ぎる人々は皆、僕を見ていく
そこに見えるのは親愛か困惑か、嫌悪か
感情の色を乗せて、僕を見る
見回した中でレンズがこちらを向いていた
そちらに視線を移せばシャッターの音がした
変わりない、いつもの日常
本当に?
もう一度、空を見上げる
──無い。
必ずあるはずの、僕が焦がれ続ける
月
月が無い。
ヒトは僕を見る。
愛おしさを感じているのか、美しく感じているのか?
違う
返してと、言った筈だ。
巫山戯るな
僕は僕の力で魅せる。
月があっても、僕を残す。
余計なことするなよ。
●月は耀く
雪片に触れたと感じたその直後、巴は夜の街に立っていた。
「……神社に居たはずなんだけどな」
辺りを見渡し、巴は頬を軽く掻いた。されど巴は焦ることはなく、これはどうしたものかといつもと同じように空を見上げてみる。
天は澄み渡っている。
今宵は星の瞬く美しい夜だ。
視線を元に戻せば、通り過ぎる人々が皆、自分を見ていくことに気が付いた。
其処に見えるのは親愛か困惑か、それとも嫌悪か。様々な感情の色を乗せて、巴を見つめる人々の視線を感じる。
その中でレンズがこちらに向いていた。
気配に気付いて振り向けば、カシャカシャとシャッターの音が響いていく。巴は嫌な顔ひとつせずに爽やかな笑みを浮かべ、人々の期待に応える。
これは変わりのない、いつもの日常だ。
でも、本当に?
不意に疑問が胸を衝いた。巴はもう一度、空を見上げる。
「――無い」
思わず呟き、静かな驚きの声を落とす巴。あるべきものが其処には無かった。
必ずあるはずの、自らが焦がれ続ける――月。
月が無い。
ヒトは僕を見る。
愛おしさを感じているのか、美しく感じているのか?
掻き乱されるような思いが胸中に巡り、巴は首を横に振る。焦がれたものが無い世界が己の世界だとでも云うのだろうか。
違う。
「返してと、言った筈だ」
否定の思いが裡に満ちていく。望んだ世界などではないと断じる。
巴は決して声をあげたり、取り乱すようなことはなかった。それでも心の奥に燻る何かがあるということだけはしっかりと感じている。
「……巫山戯るな」
掌を強く握り締めた巴は空から視線を外し、雑踏の奥に現れた白い影を見据える。
違う。違う。
この世界は、こんな場所は要らない。
「僕は僕の力で魅せる。月があっても、僕を残す。だから――」
巴の眼差しが白の彩を捉える。
無意識下で発動した雷気を帯びた牝鹿が駆け、偽りの神を穿ちに向かう。そして、その雷撃は神性を宿す分体を穿った。
「余計なことするなよ」
冷たく落とされた言葉と同時に、巴が送り込まれた世界が罅割れる。
僕は僕が在るべき場所に居なければいけない。
巴は握った掌をひらき、歩き出した。
あの月がある処へ。そして、あの月のように輝き続けられる場所に――。
大成功
🔵🔵🔵
朧・ユェー
おや?ここは
何も無い、人も建物も…いや自然や風景も何も無い、真っ白な世界
そう昔に望んだ世界
僕には何も無い、何も要らない。
アイツの血が流れているというだけで吐き気がする
僕…俺其の物を消し去りたいと…
声が聞こえる。あぁ、あの子の声が
最初に出逢った時からあの紅に魅入った
その時誓った、彼女の傍で護ると
ここはあの子が居ない…今望む世界ではない
やぁ、君が彼女の想い人かな?
白い世界に白い君は良くはえる
【暴食のグール】が君の首筋を齧る
【美喰】が発動する、君の行動、君の心が見える
あぁ、君は彼女を…
でもごめんねぇ。彼女は君にはあげれない
彼の行動を知りつつ【蒼穹のミゼリコルデ】で刺す
僕は彼女の月
紅く染まった紅月
●紅い月
「おや? ここは……」
雪片に触れたと思った刹那、ユェーは周囲の景色が一変したことを知る。
其処には白が満ちていた。
何も無い。人も建物も、自然や風景すら、何も無い――真白な世界。
そうだ、此処は昔に望んだ場所だ。
自分には何も無い。
それゆえに何も要らないと思っていた頃の記憶がユェーの脳裏に蘇ってくる。
――アイツの血が流れているというだけで吐き気がする。
そんな声が聞こえた気がした。
自分そのものを消し去りたいと願った、嘗ての声が。
しかし、ユェーはすぐにこんな世界は偽りでしかないと断じた。すると幻想世界の輪郭が揺らぎ、現実世界と混ざりあいはじめる。
そう、最初に出逢った時からあの紅に魅入った。
そのときに誓ったことを思い出す。彼女の傍で護るのだ、と。
だから、こんな場所に意味はない。ここにはあの子が居ない。今、望む世界ではないのだとユェーは首を振る。
すると彼の前には白い世界に溶け込むような眞白の影が現れた。
「やぁ、君が彼女の想い人かな?」
ユェーが問いかけても彼のひとは何も答えない。静かに其処に佇んでいるだけだ。
相手の様子を気にすることなくユェーは更に声を掛けてゆく。
「白い世界に白い君は良く映えるね」
そんなことを告げた刹那、暴食のグールが彼のひとの首筋を齧った。美喰の力が発動した――そう思ったが、何かが垣間見えたのはたった一瞬だけ。
「あぁ、君は彼女を……」
それでもユェーには何となく分かった気がした。ただ、自分がそうであるからと彼のひとに己の想いを重ねただけかもしれない。
分体を喰らっただけではすべてが分かるはずもない。それも理解していた。
「でもごめんねぇ。彼女は君にはあげれない」
ユェーは銀装飾を遇った月白の短剣を手にして、ひといきに神の分体を刺し貫く。
蒼穹のミゼリコルデは白の影を散らし、作られた世界を完全に破壊した。
僕は彼女の月。
紅く染まった紅月なのだから――。
何もない真白き世界になど、もう用はない。夙く、疾く、彼女の元へ。
大成功
🔵🔵🔵
輝夜・星灯
気付けば件の祠の前
嗚呼。此れが、私の望む世界、とやらか
てっきり今は亡き故郷かと思っていたが
そこにあるのは、現世と寸分違わぬ夜空
無いのは、六花のかけらと眞白き影だけ
知ってる、此処は
大切な人が倖せにわらえる世界
戀を忘れて欲しいわけじゃない
ただ、きみの想い出うつくしいまま
誰にも汚されない、ただそれだけの
だからお前が邪魔なんだ
出てこいよ、贋物の『かみさま』
あの子が求める本者でもないのに
どんな気持ちで、ソコに居るんだ
目障りだ、――葬ってやる
〝遺物の匸刃〟
喉元食い千切ってやりたいが
其れを口にするのは私じゃない
この手で爪で、首を掻き切る
……此度こそ行儀よく眠っておくれよ
弐度目の今際は、私も覚えていてやるから
●戀を結び、咲き誇るひとへ
或る望夢の彼方。
ひとひらの雪が導くのは自らが思い描く世界。
冷たい雪の感触に天色の瞳を細めた星灯は、辺りの景色があまり変わっていないことに気が付いた。立っていたのは件の祠の前。
嗚呼、と零した溜め息混じりの声が妙に滲んだ世界に落とされる。
「此れが、私の望む世界、とやらか」
星灯はただ淡々と、冷静に自分が置かれた状況を確かめていた。送られるとしたら、形作られるとするならばてっきり、今は亡き故郷だと思っていた。だが、目の前にあったのは現世と寸分違わぬ、見慣れた夜空だ。
ただひとつ、其処に無いのは六花のかけらと眞白き影だけ。
これは星灯自身が自分のためにだけ望んだ世界ではない。そのことは故郷の景色が見えないことから既に分かっていた。
「知ってる、此処は――」
そうだ、大切な人が倖せにわらえる世界そのものだ。
彼女は戀をしていた。
否、今も戀をしつづけている。
だからこそ、その想いを忘れて欲しいわけではなかった。
星灯はいとおしいとすら思えるそのひとのことを考え、赤い花が散る祠を見つめる。
いま願うことはひとつ。
ただ、きみの想い出がうつくしいまま――誰にも汚されないこと。
ただそれだけの幸福。
はらはらと雪が降ってきている。その欠片はまるで桜の花弁のようにも見えた。
星灯は暫し、その光景を瞳に映していた。
一体何が本当の幸いで、何が最善なのだろうか。きっと本人だって今も想い悩み、戀こがれ、答えを探し続けているはずだ。
だが、もしかすれば答えなどないのかもしれない。
安易に答えや言葉になどしてはいけないほどに、想いは深く根差しているのか。
星灯は僅かに俯き、二度目の溜め息をつく。
そして、徐ろに祠を見据えた。
「……だから、」
己の中の感情を整理していくかのように星灯は言葉を紡いだ。在るが儘の世界であの子が、大切なひとが笑えていればいいのに。
そう思ったとき、自然に次の言葉が零れ落ちた。
「お前が邪魔なんだ。出てこいよ、贋物の『かみさま』――」
星灯の声が夜の静寂に響いたとき、その眼前に眞白の神性が現れる。彼のひとは此方を紅い瞳で見つめ、微笑んでいるだけだ。
「あの子が求める本物でもないのに、どんな気持ちで、ソコに居るんだ」
眞白の神は答えない。
その答えなど持っていないのだというように、ただ佇み続けるだけ。
星灯はこの影もまた自分の思いが作り出したものなのだと理解していた。それでも、この世界を拒絶するために力を揮うことを決める。
「目障りだ、――葬ってやる」
彼女が戀をしたその身を、そのひとを、そのものを裡に刻むために。
異物の匸刃と表すに相応しい異形と化した星灯が白き影に襲いかかる。其処から薙がれた一閃は鋭く、眞白の神性を散らせた。
喉元を食い千切ってやりたくもあった。けれど、其れを口にするのは自分ではないことも痛いほどに理解している。
「……此度こそ行儀よく眠っておくれよ」
消えゆく影。揺らぐ世界。
星灯は大切なひとを想いながら瞼をそっと閉じた。そして、星灯は決して届かぬ言の葉を抱き、思いを零す。
――弐度目の今際は、私も覚えていてやるから。
大成功
🔵🔵🔵
蘭・八重
なゆちゃん
誰よりも愛おしい子
あの子が微笑む
ヒールを鳴らし包み込む
貴女はだぁれ?
だって愛おしく無いんですもの
貴方があの子の『かみさま』
ドレスの裾を持ち挨拶する
あの子の姉の八重と申します
ずっと貴方に逢いたかったの
あの子に殺された貴方
嗚呼何て羨ましい
あの子に殺されるなんて
幸せ以外何もでもないもの
【紅薔薇荊棘】で身体を絡め
ふふっ可哀想な人
貴方はあの子を愛してたのに
あの子は貴方に戀をしただけ
想いは奪っても心は奪えなかった
そっと唇を近づけ…止める
貴方に口づけするのはあの子
【薔薇の毒移し】唇に塗った毒紅を指で拭い貴方の唇に
堪能しなさい、私とあの子の甘い毒
あの子を独占した貴方の罪
逢いなさい
あの子が待ってるわ
●愛と戀
彼女は誰よりも愛おしい子。
嘘も偽りも無く心からそう想う八重は今、雪片によってつくられた異空間――姉妹しかいないふたりきりの紅い世界に導かれていた。
あの子が微笑む。
――あねさまだけが、大好きよ。
あの子が囁く。
八重は甘い笑みを返し、ヒールを鳴らして腕を絡め、その身体を包み込む。
けれども、それは愛おしさを伝えるためではない。
「貴女はだぁれ?」
問いかける声は静かで、冷たい。
――あねさま。
もう一度、あの子の姿をした何かが八重を呼ぶ。然し八重は首を横に振る。貴女はあの子じゃないと告げるように否定する。
「違うわ。だって愛おしく無いんですもの」
途端に世界は崩れ落ち、あの子の形を成していただけだったものも消え去った。
きっとあれが無意識下で望む世界だったのかもしれない。それでも、八重は現実のあの子と居ることを選んだ。
理想はただの理想。儚い夢に過ぎないのだと識っているから――。
そして、八重は白い世界に佇む。
目の前に立っていたのは眞白の惨華。そう呼ばれている存在だ。
「貴方があの子の『かみさま』ね」
ドレスの裾を持ちあげ、カーテシーめいた仕草で挨拶をした八重はそっと告げる。
「あの子の姉の八重と申します」
恭しく告げるのは確かな敬意を払っている証。
そして、八重は彼のひとに自分が抱く思いを伝えるために語りかけてゆく。
「ずっと貴方に逢いたかったの」
貴方は一度、あの子に殺された。嗚呼、それは何と羨ましいことだろう。
八重にとっては羨望を抱くに相応しい相手だ。
何故なら、あの子に殺されることは幸せ以外の何もでもないと思えるのだから。
一歩、八重は眞白の神に近付く。不動の儘の彼のひとは八重の眼差しを受けて尚、静かに微笑んでいた。
白薔薇の鋭い棘でその身体を絡め取り、八重は微笑を浮かべた。
「ふふっ可哀想な人」
貴方はあの子を愛していたのに。
あの子は貴方に戀をしただけ。
きっと、想いは奪っても心は奪えなかった。
紡がれる言葉を聞き、眞白の神は僅かに双眸を細める。そして、八重はそっと唇を近付け――ぴたりと止まる。
「いいえ、貴方に口づけするのはあの子」
花唇に塗った薔薇色の紅毒を拭い、八重は彼のひとの唇に指先を乗せた。
堪能しなさい、と告げた八重は瞼を閉じる。羨ましいという思いは隠しはしないが伝えもしない。
「これは私とあの子の甘い毒。あの子を独占した貴方の罪」
実体を失っていく彼の神から身体を離し、八重は薄れゆく真白の世界を瞳に映した。
其処へ告げるのは切なる思い。
さあ、逢いなさい。
あの子が待っているわ。
他の誰でもない、貴方のことだけを。
大成功
🔵🔵🔵
蘭・七結
神と鬼ではなく
同じ人間であったなら
和国で笑み交わす日々を
心の何処かで思い描いていた
視せないで
魅せないで
欲しくて堪らなかった
叶わないと理解っていたの
嗚呼
やっと、逢えた
『かみさま』
槐さま
ずうと、ずうと
あなたがすきだった
ふたつが交わることはない
その現実が刺し続ける
あなたにこいをした
あまいあかを識った
その生命をひずめた
この想いは
わたしは
屠り喰らう悪鬼だった
ゆるしてと
あいしてと願わない
幾度と廻ろうとも
あなただけを求めてしまう
緋の彩を宿しても
あなたは、あなたよ
あなただけにおくる
手向の葬華
あなたがすき それが全て
その彩で、聲で
もう一度だけ
わらって
名を、よんで
涙が溢るる
――逝かないで
そう願うことも、罪でしょう
●こひくれなゐに君想ふ
戀は奪うもの、愛は与えるもの。
見返りを求めるのは戀、求めないことは愛。
赦せぬのは戀、赦せるものは愛。
受け取るものが戀、与えることが愛。
それが世で語られる戀と愛の違いだ。
然し、そのことにどれほどの意味があるのだろうか。
少女は彼のひとに煩うほどの戀をした。彼のひとは少女に惜しみない愛をそそいだ。
其処に在ったのは唯それだけの事実。
これは或る華のもとで廻った、戀鬼の物語のひとひら。
●戀弔
嗚呼、譬えば――。
神と鬼ではなく、同じ人間であったなら。
ふたりは普通に出逢い、恋をして、愛を識り、穏やかな言の葉を交わしたのだろう。
春は淡い桜の下で。夏は揺れる向日葵の傍で。
秋は色付く紅葉の路で。冬は降り積もる雪の上で。
ひととせが巡っても再び廻りゆく、和国で過ごすふたりの日々がその世界にはあった。きっとそう、この光景は心の何処かで思い描いていたこと。
彼のひとと過ごす幻想の日々から目を逸らし、七結は瞼を閉じる。
視せないで。
魅せないで。
唯、平穏な日々が欲しくて堪らなかった。
叶わないと理解っていたからこそ考えなかったこと。そんな残酷で幸せな世界が形作られていた。
奥底でだけ望んだのは、その未来が永劫に訪れないと識っているから。
眸を閉じたまま七結は拒絶する。
世から見ればありふれた幸福な光景が崩れ落ちていく。ただのひとである少女と眞白の君が結ばれた、倖せな結末など決してないのだと示すように――密やかに望んだ偽りの世界は静かに壊れていった。
されど、それは漸く巡り訪れた邂逅の機でもあった。
きつく閉じていた瞼をひらいた七結は、すぐ傍に懐かしい気配を感じる。
瞬いた眸。其処に映ったのは眞白の――ほんものの、彼のひと。
「やっと、逢えた」
蕾が綻ぶような聲が七結から零れ落ち、こころからの微笑みが咲く。その表情は他の誰にも見せたことのない満ち足りた貌だ。
「……『かみさま』、――さま」
七結は双眸をいとおしげに緩め、眞白の神を見つめ続ける。
彼のひとの手には一枚の絵馬があった。
そして、その傍では白い小鳥が事切れている。きっとあの鳥は唯一得られた絵馬を彼のひとに届けたあとに死を迎えたのだろう。
かみさまに仕え、その使命を全うした彼の鳥に羨望を覚えもした。されど七結の願いは彼のひとの傍で死を迎えることなどではない。
眞白の神は手にした絵馬に視線を落としていたが、やがてゆっくりと顔をあげる。
七結と彼のひとの視線が重なる。
嗚呼。
ずうと、ずうと、あなたがすきだった。
けれど、ふたつが交わることはない。その現実が胸を刺し続けていた。
だから喰らった。
あなたにこいをした証として。あまいあかを識ったから、その生命をひずめた。
この想いは唯一。
他の誰にも向けたことのない、ただひとつきりの戀心。
「――さま、わたしは……」
如何してか彼のひとを呼ぶ聲が揺らいだ。やっと、やっとまた巡り逢えたというのにうまく言葉が紡げない。
七結は震えそうになる腕を伸ばす。
彼のひとは微笑み、自分に触れる腕をそっと受け入れた。触れ合う肌は冷たい。けれどもあたたかな心地が七結の裡に宿る。
ゆるしてと、あいしてとは願わない。願えない。
でも、幾度と廻ろうとも、あなただけを求めてしまう。
ふたりの眼差しが交差する。その眸はそれぞれに、あかいいろを宿していた。
嘗てのあなたとは、違う色。
けれども、七結の抱く彩によく似ていた。七結はただその眸だけを視ている。
あかい、あかい、いろ。
夢幻に揺蕩い、回帰して、望夢を喰らう化生に成り果てたひと。
以前の彼のひとではない。そう断じることも出来ただろう。然しこうして邂逅した今、七結にとってはすべてが些細なことのように思えた。
「緋の彩を宿しても、あなたは、あなたよ」
また、逢えた。
そのことだけが今はただ嬉しい。
『あなたがすき それが全て』
七結は自ら記した想いの言の葉を聲にして紡ぐ。
たったそれだけ。
もう心も想いも既に決まっていた。
すると、眞白の君がそっと七結の背に腕をまわす。ささやかな抱擁だった。けれどもそれは、想いを聞き届けた証でもあった。
「……槐さま」
七結は、はっきりと彼のひとの――槐の名を呼ぶ。
途端に思いがあふれる。
その彩で、聲で、もう一度だけ本当にわらって。名を、よんで。
すると槐は目を閉じた。
七結へと抱く想いを伝えるかのように、互いの額同士をそっと重ねあわせる。
願いを。希いを。そして、望みを。
叶え続けたかった。
きみの願望を。果てなき夢を。それから、戀を。
ただ、もう一度だけ逢いたかった。
数多の望みを集わせれば、いつかはきみに逢えると想っていた。
きみが戀をしてくれたから、愛し続けたかった。
譬えこの身体を形作るものが変わっても、きみのいろを今一度だけ視たかった。
忘れ得ぬ、きみの“あか”をこの身に宿して。
「……七結」
言の葉を紡がぬはずの唇がひらき、愛した者の名を呼んだ。ふたたび瞼をひらいた彼のひとの眸はわらっていた。絵馬に記した想いが、そして七結が伝えた偽りのない言葉が、嘗ての槐としての記憶を呼び起こしていったのだろう。
その聲を聴いた七結の眸から涙の雫が零れ落ちる。
「――槐さま」
そして、七結は己がすべきことを理解した。
槐は過去より滲む其の力を使い、出来得る限り多くの者の望む世界を紡ぎあげた。ひとを傷付けぬよう、悪意だけに染まらぬように心を殺していたけれど、それを制する力すら使い果たしてしまった。
後はもう、世界に害を成すものにしかなれない。
だからもう一度その手で葬って欲しい。槐の眸はそう語っていた。
七結もまた、そうすることしか出来ないと悟っている。この戀は褪せることを知らぬ焔でもある。きっと、願われなくとも自らこうしただろう。
彼のひとの胸元に顔をうずめた七結は、やがてその首筋に牙を突き立てた。
あかい花が咲く。
あの日、あのときと同じように。そのすべてを奪い取るが如く、あかを喰らう。
槐は今にも力が抜けそうな腕をあげ、七結の髪に触れる。糸髪を梳く指先はやさしく、慈しみが籠もっていた。
次第にその身体が薄れていく。眞白の惨華としての生命が終わるときが訪れたのだ。
白に紅が咲いてゆく最中、槐は七結の耳元で何かを囁いた。そして、彼のひとは真白と緋に滲む世界の底にとけきえてゆく。
「――逝かないで」
戀をしたことも、そう願うことも、きっと罪だ。
解っていたが七結は手を伸ばさずにいられなかった。然し掌は空を切るだけ。残滓を掻き抱くように座り込んだ七結の頬には涙が伝い続けていた。
そして、七結は思い返す。
最期に告げられた言葉を。果てなき想いに応えてくれた、彼のひとの答えを。
あかくひずんでいたけれど、確かに聴いた其の聲は――。
『きみをあいする それが全て』
●結
こうして、眞白の惨華は散った。
彼のひとが望みを集めていた理由はひとりの少女が知っている。けれど、それを知るのはたったひとり、その本当の名を識る彼女だけでいい。
眞白の神が見せた望夢。
其処に抱いたそれぞれの感情は様々で、視たものに対してどのような折り合いを付けていくかもまた、そのひと次第。
祠にはもう何も宿っていない。災いは起こらず、社には正しき平穏が戻った。
そして、祠の傍の樹に咲く花が風に揺れる。
その花弁がひらり、ひらりと遥かな空へと舞いあがっていった。
宛ら、手向の葬華の如く――。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年01月26日
宿敵
『眞白の惨華』
を撃破!
|