Sieg heil viktoria
●勝利万歳
「なるほどな……我々は敗北した、か。戦闘、戦術、戦略。なによりも戦争そのものに」
帝都近郊、打ち捨てられた廃墟。辛うじて屋根と壁があるだけのあばら屋の中、鉄仮面の軍人は無感動に手元の紙束へと視線を落としていた。そこへ記されていたのは最早歴史に分類されている、或る戦争についての新聞や書籍の切り抜きだ。
部隊全滅、戦線崩壊、首都陥落。そうした文字が紙面に踊っている。それに何を思うか、画面越しに窺い知ることは出来ない。
「で、その戦いより幾星霜……世界は極東が帝都の元に統一。以降、まともな戦争らしい戦争は起きておらず、世はなべてことも無し。全く、実に結構なことじゃないか」
平和、万歳。そうどうでも良さげに吐き捨てながら、軍人はばさりと書類を放る。はらはらと舞い散る紙束の下には、一糸乱れず整列した兵士たちが佇んでいた。
「この世界はそれで良いのだろうさ。過程はどうあれ、これが歴史の答えだ。それに否やはない……だからこれは、飽く迄も我々の我儘だ」
立ち上がった鉄仮面は、傍らの壁に立て掛けられていた斧槍を手に取る。カツンと石突きで地面を叩くと、側に控えていた副官に問い掛ける。
「戦争がなくなったとは言え、兵も全て消えた訳ではあるまい。我らが挑むに相応しき相手は?」
「帝都が桜學府、ユーベルコヲド使いが好敵手足り得るかと。また昨今、猟兵なる超弩級戦力が現れたとの報告もまた……」
配下の兵は上官ほど自我が濃くないのだろう。受け答えは淡々としている。しかし、その声音の奥には鉛の如き重みがあるように思えた。
「それは重畳。して、我が方の残存兵力は」
「一個擲弾兵大隊、定数完結。士気、装備に不足無し」
「ヴァルハラ行きを拒んだ馬鹿者がそれだけいるのか。喜ぶべきか、呆れるべきか……私が言えた義理ではないがな」
兵士たちが手にするのは、StG44突撃小銃、MP40短機関銃にMG42重機関銃などの慣れ親しんだ銃火器群。足元には各種弾薬やパンツァーファウストの収められた木箱が積み上げられている。求め始めれば切りがないが、歩兵用装備としては最低以上に十二分。
「さて、諸君。敗残兵たる戦友諸君。負けたままは嫌だと、死後の高殿より背を向けた未練者の大隊員諸君ーー久方ぶりに、戦争の時間だ」
ザッと響くは軍靴が床を擦る音。戦争という言葉に、兵士たちは不動の姿勢を取って指揮官の言葉に耳を傾ける。
「死後の安寧を蹴り飛ばし、転生の望みすら要らぬと放り捨て、蘇っても尚私に付き従う古強者よ。我らが求めるモノは寸分の狂いなく同じであると、私は信ずる。即ち、勝利を」
ーーSieg、Sieg、Sieg heil viktoria!
その叫びは正に、彼らが過去の亡霊たる影朧である証左に他ならない。どれだけの時間が経とうとも、兵士たちの眼に映る光景は過去の延長戦でしかないのだから。
「よろしい。ならば勝ちに行こうか、今度こそな」
さぁ、 出撃せよ。大隊指揮官の号令の下、兵士たちは一斉に作戦行動を開始するのであった。
●
「明けましておめでとう、みんな。今年もどうか宜しく頼むよ? と言う訳で新年早々、依頼のお願いだ」
年明けの挨拶もそこそこに、ユエイン・リュンコイスは猟兵たちへとそう口火を切った。
「今回の舞台となるのはサクラミラージュの帝都。そこで影朧として蘇った軍隊が、桜學府へ戦争を仕掛けようとしているようだ」
戦争という穏やかならぬ単語に眉を潜める猟兵たちへ、ユエインは心配しないでほしいと言葉を続ける。
「勿論、戦争と言ってもフォーミュラがどうこうというレベルじゃない。単に相手が軍隊だからそう呼称しているだけだ。とは言え、放置すれば甚大な被害が出る事は間違いないね」
影朧が他世界のオブリビオンと比べそこまで強力でないとは言え、銃火器で武装した人間はそれだけで脅威となる。しかし、手が無い訳でもなかった。
「ただ、彼らは単に破壊を振り撒くわけじゃない。相手の狙いはユーベルコヲド使い。強い相手と戦い、そして勝利する……単純だが、それだけに業の深い欲求に取り憑かれているようだ」
狙いは分かったが、とは言え桜學府のユーベルコヲド使いを事前に避難させるのも上策ではない。目標が居なくなったと察知されれば、彼らの動きもまた変化し再補足が難しくなるだろう。だが幸いにも、相手が行動を起こすまでに若干の余裕がある。
「それまでに桜學府のユーベルコヲド使いへ訓練を施し、彼らの練度を上げて迎撃態勢を整えて欲しいんだ」
ユーベルコヲド使いたちを適切に指導できれば、ボス格である指揮官は兎も角として配下の隊員と渡り合える程度にはなるはずだ。練度は元より相手の数も馬鹿には出来ない状況、彼らの戦力化は決して小さくはないだろう。
「敵戦力の戦術は奇手奇策を弄するよりも、ある種堅実な手を選ぶ傾向が強いらしい。奇を衒ってない分、予想は立てやすいだろうね。ただし、それは隙が無いという事でもある。注意は十分に必要だよ」
訓練を施したユーベルコヲド使いと共に敵部隊を突破し、指揮官を討ち取る。言葉にすればそれだけだが、わざわざこの世に這い上がってくる相手だ。いう程容易くは無いだろう。
「……どうやら、相手は誰も彼も転生に興味が無いらしい。求めるのは勝利ただ一つ。全ては過ぎ去った出来事だけど、彼らにとってはそうじゃないようだ」
くれぐれも注意してほしい。そう話を締めくくると、ユエインは猟兵たちを送り出すのであった。
月見月
どうも皆様、明けましておめでとうございます。月見月でございます。今年もどうぞよろしくお願い致します。
さて、今回はサクラミラージュで純戦系シナリオとなります。
それでは以下補足です。
●最終勝利条件
指揮官級オブリビオンの撃破。
●第一章開始状況
まずは帝都の桜學府にて、所属しているユーベルコヲド使いへ訓練指導を行って頂きます。単純に体を鍛えて頂いても良いですし、剣や銃の扱い方の習熟、敵の行って来るであろう戦術を想定した講義、心構えを伝えるなど自由に行動して頂いて問題ございません。
この章での成果次第によって、二章でユーベルコヲド使いによる支援を受けることが出来ます。
●第二章以降について
桜學府の校庭を戦場として、指揮官オブリビオンに率いられた部隊が攻勢を仕掛けてきます。まずはユーベルコヲド使いと協力して、敵部隊を撃破してください。その後、指揮官オブリビオンとの戦闘となります。
指揮官級への転生説得は難易度高めとなっております。一切なくても問題ありません。ただ、プレイング内容如何によっては変化があるかもしれません。
●プレイング受付につきまして
1月3日(金)朝8:30~。
断章は投下する予定ですが、上記時間に間に合わない可能性があります。ですが投下を待たずにお送り頂いて問題ありません。開始状況としては、OPとMSコメントに記載の通りです。
それではどうぞよろしくお願い致します。
第1章 日常
『よく学び鍛えるべし』
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POW : 基礎体力の向上訓練や近接戦闘術の訓練など、肉体面の訓練を行う
SPD : 射撃訓練や騎乗戦闘の訓練など、技術面の訓練を行う
WIZ : 戦術の講習など、知識面の訓練を行う
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●軍人は學徒兵に何を想ふか
年が明け、どこか浮かれた気分が世間に満ちる正月時。しかし、影朧の救済機関である桜學府のユーベルコヲド使い達に休む暇はなかった。救いを求める影朧に盆暮れ正月の区別などないのだから。帰省等々で故郷へ帰っている者も無論少なくないが、それでも相応の数の生徒が桜學府へと詰めていた。猟兵たちが指導監督することを考えれば、多過ぎず少な過ぎず丁度良い人数であろう。
彼らへは事前に連絡を入れており、猟兵たちの到着を待ちうけていた。既に己の得物を腰へと吊り下げ、各々の戦闘装束へと袖を通している。胸元にはメモとペンを刺している者もおり、伝えられた内容を書き記す準備も万端。指示さえ受けられれば、すぐに行動を起こす事が可能だろう。
体を鍛えて少しでも体力をつけるか、体の動かし方を伝授するか。
剣の振り、銃の構え方、呪文の精神集中に、治療や支援のノウハウを指導するか。
はたまた、戦術や戦略についての講義、戦いへの心構えを説いても良いだろう。
変わり種でいえば、景気づけに食事を振る舞ったり、激励を掛けるのもありだ。
それぞれの考える方法で、ユーベルコヲド使い達を鍛えて欲しい。
その一つ一つが、勝利に取りつかれ、それ以外を削ぎ落してしまった亡霊たちに対する、何よりの武器となるはずなのだから。
鞍馬・景正
強敵との死闘、そして勝利を。
ふむ、共感を覚えますが実際どの程度の戦巧者か。
◆訓練
白兵戦を得手とする方々の鍛錬を担当しましょう。
まず敵は集団、そして銃火器を使うと情報があります。
校庭のような見通しの効く場所では、ただ切り込んでも蜂の巣。
故に突出はせず、敵が猟兵と衝突している隙に側面へ回り込む浸透強襲と、押し込まれた場合は逆に肉薄して勢いを挫く陣前突撃などを伝授しましょう。
乱戦に持ち込めば指揮は届かず、誤射の恐れから迂闊に発砲出来ずと混乱は必至の筈。
言うは易し。
実際に校庭で動いてみて、進退の呼吸を体に覚えて貰いましょう。
流した汗が多い程、流れる血も少なくなるでしょうからな。
春乃・結希
私、戦いで一番大事な事は『自分を信じる事』やと思うんです
勇気付けるよう、胸を張り、自信たっぷりに話します
私なんて、ここにいる誰よりも強いと思ってますからね
…とにかくそれくらいの気持ちでいきましょう
みなさんも普段から訓練して、影朧と戦って、絶対に強いです!
自信を持って戦ってください
それに、心折れそうになった方がいたとしても、自分なら勝てると信じて奮闘してる仲間を見たら、きっとまた立ち上がれる…
絶対的自信は、仲間まで勇気付ける事が出来ます
…あ、もしこの中に大剣使いの方がいれば後で戦い方について語りあえると嬉しいですっ
…みなさんの事、凄く頼りにしてます
この戦争、絶対に勝てます
だって私達は…強い!
●太刀斬り会うに覚悟を抱いて
得物と戦装束を整え、校庭へと集合した桜學府のユーベルコヲド使いたち。集まった面々をざっと一瞥しながら、鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)は顎に手を当てて思案する。
「強敵との死闘、そして勝利を……ふむ、その望みに共感は覚えますが、実際どの程度の戦巧者か。予知によれば、元が本職の軍人と言う話ですが」
「ならば、多少高めに見積もっておいて損は無いでしょう。相手を侮って慢心するのは、その時点で半ば負けているようなものですからね。とは言え、過大評価し過ぎて緊張してしまうのも困り者ですし」
景正の言葉に相槌を打ったのは、春乃・結希(寂しがり屋な旅人・f24164)だ。相手の力量など、実際に交戦するまで正確なレベルは分からない。であれば、取りあえずは強敵と想定して動くのが無難であろう。
ただかと言って、相手を恐れすぎてもそれはそれでよろしくない。ならばと彼女は一歩前へ歩み出ると、訓練を始める前に學徒たちへ言葉を掛けてゆく。
「私、戦いで一番大事な事は『自分を信じる事』やと思うんです。私なんて、自分がここにいる誰よりも強いと思ってますからね!」
胸を張り、自信に満ちた口調でそう告げる結希。自信過剰とも思える内容に若者たちは思わず目を丸くするも、少女は微苦笑を浮かべて言葉を続ける。
「……とにかくそれくらいの気持ちでいきましょう、という心構えです。みなさんも普段から訓練して、影朧と戦って、絶対に強いです! だから恐れずに、自信を持って戦ってください」
幾ら体力と武器が在ろうとも、意思が折れてしまえば人は動けなくなる。逆説的に言えば極論、意思さえあれば人は戦い続けられるのだ。基礎にして最後の頼みの綱、それを胸に刻み込んだユーベルコヲド使いたちは自然と背筋を伸ばし、居住まいを正していた。
「さて。それでは気合も新たに入ったところで、訓練を始めるとしましょう。私たちは白兵戦を得手とする方々を担当しますので、該当する皆さんはこちらに来てください」
景正が佩く大小二振りの太刀や、結希の手にする漆黒の大剣から分かる通り、二人は得物を使った近距離戦に長けている。であれば、似たような戦闘方法を取る者たちを指導するのが効率的だろうという判断であった。
そうして若武者の言葉に応じて集まってきたのは、太刀や槍、戦鎚などを手にした學徒たち。彼らを前に、景正は口火を切る。
「まず敵は軍集団、そして銃火器を使うと情報があります。校庭のような見通しの効く場所では、ただ切り込んでも蜂の巣となるだけ。敵の弾幕に圧倒されるのが明白でしょう」
交戦距離の差は大きな有利不利を生む。古くは長篠の合戦を筆頭に、その手の実例は枚挙に暇がない。近接武器で相手を打ち倒すには当然接近する必要があるが、銃火器はその間に数十数百の弾丸を叩き込むことが可能なのだ。
「故に突出はせず、敵が我々と衝突している隙に側面へ回り込む浸透強襲を主軸に立ち回ってください。守勢時も同様に、肉薄して勢いを挫く陣前突撃が最適でしょう」
しかし、超弩級戦力である猟兵ならば話は別。如何な弾丸の嵐とて突破することは可能だ。そうして猟兵が注意を惹いている間、攻勢時には側面からの敵陣切り込みを、守勢時には敢えて前へと出て敵の機先を潰す攻性防御を行うこと。それがユーベルコヲド使いたちへと伝授された戦術であった。
「乱戦に持ち込めば指揮は碌に届かず、誤射の恐れから迂闊に発砲は出来ずと、混乱は必至の筈です。一度士気が乱れれば、統制を取り戻すのは容易い事ではありません」
「相手の装備も銃がメインみたいですし、白兵戦に使えるのは銃剣やナイフ、シャベルが精々でしょうね。少なくとも、銃火器を相手にするよりは戦いやすいはずですよ?」
指折り数える結希の言葉通り、それらも脅威と言えば脅威ではあるが、飽く迄も白兵戦も行えるというレベルだ。いざ立ち合えば、其れに特化した桜學府側に軍配が上がるだろう。
得心がいったのか、講義を聞いていた學徒たちはふむふむとしきりに頷いていた。
「ただ、言うは易し行うは難し。話だけでは実感も湧きにくいと思います。実際に校庭で動いてみて、進退の呼吸を体に覚えて貰いましょう」
理屈を理解できれば、後は実践あるのみ。景正は學徒たちを改めて整列させると、号令を掛けて彼らを動かし始める。一瞬の迷いが死を招くのが戦場だ。進むべき時には思い切り踏み込み、退くべき時には躊躇なく下がる。その肌感覚を染み込ませるべく、繰り返し繰り返し反復練習を重ねてゆく。
「すぐ側には仲間がいます。だから決して慌てず、恐れないでください。例え心折れそうになった方がいたとしても、自分なら勝てると信じて奮闘してる仲間を見たら、きっとまた立ち上がれる……絶対的自信は、仲間まで勇気付ける事が出来ますから」
景正が全体を見渡す一方、結希は學徒の間を廻って声を掛けていた。彼女は一人一人の動きへ細かく目を配り、直すべき個所や姿勢の助言を行っている……時たま、同じ大剣を武器とする學徒と話が弾んでしまうのはご愛嬌だ。
「みなさんの事、凄く頼りにしてます。この戦争、絶対に勝てます。だって私達は……強い! 嘘やお世辞でなく、本当にですよ!」
はいッ、と。學徒たちが応ずる声には自信と気力が満ち溢れている。身体を動かし適度な疲労も覚えているだろうが、比例するかのように彼らの士気も高まっていた。それを証明するように、訓練を経るうちに動きからは迷いが消え、キレや鮮やかさを帯び始めてゆく。
「うむ、それで良し。いま流した汗が多い程、これから流れる血も少なくなるでしょうからな」
そんな學徒たちの姿へ、満足げに頷く景正。心構えと戦術、それらを覚えた學徒たちの面構えは確かに逞しく変化していたのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
陰樹・桧
今日が仕事始め、まずは訓練ですね。
私が教えられるのは射撃関連だけですが、生徒さん達の技量を見て訓練内容を変えたいです。
射撃の経験自体が不足なら、使用する銃に応じた安定する姿勢の追求と単発での射撃訓練を重点的に。
ある程度経験があるなら、桜學府に敵集団が侵攻してきた状況を想定し、最適な行動と連携についての考察を含めた訓練を重点的に。
他に戦術について教える猟兵がいらっしゃるなら、生徒さん側が訓練内容を総合して分かりやすくなるように気を付けたいです。
時間の許す限り、生徒さん達には教えられることを全て教えたいですが。
味方の全員生還のため私も全力を尽くすこと、必ず伝えておきたいです。
※連携アドリブ歓迎
シキ・ジルモント
◆SPD
射撃訓練に協力する
まず射撃姿勢を直して反動によるブレを軽減し命中精度を上げたい
その後、直した射撃姿勢を体に覚えさせる為に繰り返し練習させる
その練習の中で自分の射程距離、攻撃可能な範囲を理解させる
極端に遠くの敵に当てようと思わなくていい
自分の技量で無理なく当てられる射程距離を見極め、そこに入った敵を狙え
更に命中率を上げるなら、自分に注意を向けていない敵を探せ
例えば、別の味方に攻撃しようとしている敵だ
射撃のタイミングを味方の突撃に合わせれば、敵の迎撃体勢を崩して被害の軽減も期待できる
大切なのは冷静さを保つ事だ
後衛が混乱して崩れれば、前衛も危険に晒される
仲間の背を預かっている事をよく意識しろ
●弾丸一発、命一つ
白兵戦を得意とする猟兵たちがそれについての教練を始めたと来れば、当然ながら遠距離武器を得物とする學徒たちへも同様に指導を行わねばなるまい。ならばとその役目を買って出たのは陰樹・桧(要撃射手・f21490)とシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の二人であった。
「お正月の三ヶ日も終わって、今日が仕事始め。まずは訓練からですね」
「メインアームはどっちも拳銃だが、射撃の要点ってのはそう変わらない。まずは命中精度の向上からだな」
小柄な少女はその掌に収まる黒鉄の銃を、銀の人狼はギリギリまで威力を上げた白銀の銃を、それぞれ愛用している。突撃銃や狙撃銃、機関銃などとはまた勝手も違うだろうが、それでも相通ずる部分は多々存在するはずだ。幸い、二人とも幾度か依頼を共にしており、互いの力量もある程度は把握していた。
「となれば、まずは単発射撃で姿勢をみるべきでしょうか。もし経験や練度がある程度あれば、連携や戦術的な動きの訓練に移る、と」
「だな。時間はあるが、それも十分とは言えない。付け焼刃だろうと、使える手は在るに越したことはないだろう」
訓練内容を手早く打ち合せる二人の前では、緊張した面持ちで學徒たちが整列している。ぱっと見た限り、銃口は常に下へ向けられ、引き金に軽々しく指を掛ける者は見受けられない。少なくとも、銃を扱う上での怖さを最低限知っている様であった。
「それではまず、それぞれの銃で点検射を行って貰います。流れ弾が怖いですし、校庭の端で撃ちましょうか」
桧は校庭の端、お誂え向きに背丈ほどの生垣が整えられている場所を見つけると、的と射撃位置を示す線を手早く設置してゆく。射撃距離はざっと百メートル、欲を言えば更にその倍は欲しかったが贅沢は言えない。
「それでは私とシキさんがそれぞれ横につきますから、順番に二人ずつ射撃してください」
そう促され、生徒たちは射座へ入るとそれぞれの銃へ弾倉を籠め、薬室へと初弾を送り込む。射撃開始の号令が掛かると安全装置を外し、各個に射撃をし始めた。
「……全体的に若干、弾道が右にずれますね。見出しは悪くなさそうですし、少しクリック修正をしてみましょうか」
桧はまず、學徒たちの使用する銃の微調整から手をつけてゆく。銃器の照準が合っていなければ、そもそも姿勢の良し悪しも分からない。三射撃ごとの集弾を確認しながら照門を動かし、その上で射撃姿勢そのものに指摘を入れてゆく。
「銃本体は右手と肩で保持しろ、左手は極論下から支えるだけでいい。射撃時の衝撃は体全体で受け止め、銃口は縦軸を移動するように。左右へ動くのは姿勢が悪い証拠だ」
その横では、突撃銃を扱う學徒へシキが姿勢についてのアドバイスを行っている。二人の言動からも分かる通り、射撃は一にも二にも姿勢が命だ。握り、頬付け、見出し、肩付け。格闘技と同じように正しい型を体へ覚え込ませ、いつでもそれを構えられるのが理想である。
「極端に遠くの敵へ当てようと思わなくていい。自分の技量で無理なく当てられる射程距離を見極め、そこに入った敵を狙え。弾丸は有限だ、当てられると思った時にだけ撃て」
時間は足りずとも、一つでも要点を身につける。その上で、今の己の力量を把握すべきだとシキは考えていた。何が出来て何が出来ないのか、正しく理解する。もしそれが過大でも過小でも、見誤れば文字通り致命的な結果を齎すことを彼は知っていた。
暫し、散発的な発砲音と地面に転がる薬莢の金属音が校庭に響く。そうして三順ほど射撃訓練を終えたころには、各々の力量と改善点について概ね把握することが出来ていた。
「皆さん、思ったよりも射撃の腕自体は悪くはありませんね」
「影朧退治自体はこれまでもやってきていた訳だしな。直すべき点は勿論あるが、下地自体は元々あったか……とは言え、だ」
「ええ、これは飽く迄も静止射撃。実戦ではこうも静かに狙えませんからね」
荒削りではあるが、學徒たちの腕前は及第点と言えるだろう。桧とシキは訓練を次のステップへと移すことにした。即ち、実戦を想定した演習である。
小走りに駆けながらの射撃、不意の突発的遭遇、仲間との臨機応変な協力。やる事と考える事が一気に増えた途端、射撃にも粗が目立ち始めてゆく。
「こういう状況だからこそ、考えなくても反射的に銃を正しく構えられる事が大きな意味を持ってくる。その上で更に命中率を上げるなら、自分に注意を向けていない敵を探せ」
それに対し、シキは學徒に追従しながら着眼点を一つ一つレクチャーしていた。
「例えば、別の味方に攻撃しようとしている敵だ。射撃のタイミングを味方の突撃に合わせれば、敵の迎撃体勢を崩して被害の軽減も期待できる。機を逃さないためにも、常に周囲の状況に目を配れ」
「そうして得た情報は、逐次仲間と共有するのが第一です。銃声に負けない大きさで声を出す事。単純ですが、死角を補い合う為にも重要な事ですから」
注意が廻らぬ、手が足りぬ。だからこそ仲間に頼るのが大切であると、桧も説明を引き継ぎつつ解説する。學徒たちもまた、それを頭に叩き込もうと熱心に耳を傾けていた。
「情報不足は恐怖と不安を呼ぶ。大切なのは冷静さを保つ事だ。後衛が混乱して崩れれば、前衛も危険に晒される……仲間の背を預かっている事をよく意識しろ」
覚えて実行せねばならぬ事は山積みだ。だがそれは全て、仲間の安全を確保するために必要な事。シキの厳しさも、それを理解しているからこそ。そしてそれは桧も同様だ。
「時間の許す限り、教えられることは全て教えるつもりです。味方の全員生還のため、私たちも全力を尽くします。だからどうか、最後まで気を抜かずについて来てください」
いまは一分一秒が何よりも貴重だ。それを有効活用する為にも、出来る事は全てやらねばならない。學徒たちもまた、より一層真剣さを増してゆく。そうして彼らは時間ぎりぎりまで、訓練に勤しむのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ジフテリア・クレステッド
※アドリブ・連携歓迎
訓練と言っても…私よりも勉強できそうな人たちに何を教えれば…そうだ。
とりあえず、私が銃で襲い掛かるから。あなたたちはそれを防いで私を倒してください。弾はゴム弾を使うから死なないでね。
ここまで言った瞬間に【目立たない】ように気配と足音を消して【忍び足】、私の姿を見失った人から【暗殺】していく。
(10分後)はい、訓練ここまで。私のUCの種を掴んで、私の存在の補足を最優先にしたあなたたちは合格。ただ闇雲に暴れただけの人はダメです。死にます。
UCを使った戦いはまず相手のUCの種を掴むことです。できなきゃ死にます。死にそうだと思った人はもう今日にでも帰ってね。え?無理?なら頑張って。
ペイン・フィン
さてさて
敵がくるというのもあるけど
鍛えておいて、損は無し
……大丈夫。気負わずに行こう
ただ、気を抜く、と言う意味では無いから
そこだけ注意、ね
何人か集めて、コードを使用
スマホのバベルが変化して、機械の翼になる
強化する技能は、見切り、第六感、空中戦
やることは、単純
自分は、ひたすら、避けまくるから
皆で、どうにかして、攻撃を当てること
攻撃手段は、任せるよ
ただ……。本気で来ない攻撃なら、まず避けるから、ね
あ、複数人で来るも良いよ
その場合は、ある程度連係して、ね
そしたら、後は、攻撃を避け続ける
感で、攻撃を避けたり
見切って、受け流したり
軽く飛んで、遠距離攻撃を促したり
一切手を抜かず、本気で避けようか
●痛みこそ最良の教師なり
「訓練と言っても……私よりも勉強できそうな人たちにいったい何を教えれば……」
連携訓練に勤しむ學徒たちを眺めながら、ジフテリア・クレステッド(ビリオン・マウスユニット・f24668)はうんうんと首を捻っていた。生まれが生まれである以上、知識や教養という点では學徒と比較して若干怪しい部分がある。だがさりとて、何もしないのも座りが悪い。さてどうしたものかと暫し思案していたが、嗚呼と唐突に手を叩いた。
「……そうだ。とりあえず、私が銃で襲い掛かるから。あなたたちはそれを防いで私を倒してください。弾はゴム弾を使うから死なないでね?」
そうしてガスマスク越しに発せられた言葉に、學徒たちはえっと驚愕に目を剥く。唐突な宣言に加え、ゴム弾とは言え生身の人間と撃ち合うのに慣れていないのだろう。しかし、だからこそこの訓練に意味があると彼女は考えていた。
(突発的な出来事に対して、どう対処するか。いつもいつも想定内とは限らないですからね、戦場って。まぁ、それが日常になっているアポカリプスヘルもそれはそれでどうかと思いますが)
事前に全てを把握済み、何が起こっても予想通り。確かにそうであれば理想的だが、実現困難であるからこそ理想なのである。寧ろ兵士に求められるのは、一瞬でも早く衝撃から立ち直り、危機へと立ち向かう能力だ。
(それをいきなり求めるのは酷ではありますけど、出来なければその時点で御仕舞ですしね)
ジフテリアは靴裏で地面を擦って土煙を巻き起こすと、其れに紛れて學徒たちの視界外へと姿を消す。校庭に障害物は無く、身を隠せる場所は見受けられない。しかしやりようは幾らでもあるというもの。元々小柄なため姿勢を低くすれば視線を切る事は容易く、なまじ學徒たちも固まっているがゆえに、互いの身体そのものが遮蔽物と化していた。
(状況がまだ飲み込めていない、と。それはちょっと頂けないですね……まず一人)
そうしてまごつく學徒の一人へ狙いを定めると、膝へゴム弾を叩き込んで無力化する。銃声で位置を気取られる前に移動し、次の獲物へ。余計に混乱し狩り取られる者が居る一方、仲間と背中を預け合い、ジフテリアを捕捉せんと視線を巡らせる學徒も少なからず存在した。
「――はい、訓練ここまで」
そして、襲撃予告からきっかり十分後。ジフテリアは訓練終了を宣言する。その時点で、立っていられた學徒は三分の一程度。残りは昏倒するか痛みでのた打ち回っていた。
「私のユーベルコヲドの種を掴んで、こちらの存在の補足を最優先にしたあなたたちは合格。ただ闇雲に暴れただけの人はダメです。死にます」
彼女の寸評はにべもないものだが、決して冗談でも脅しでもない。これが実弾であれば、痛みを感じる間もなく永遠に地へ伏していただろう。
「ユーベルコヲドを使った戦いは、まず相手の異能の種を掴むことです。できなきゃ死にます。戦場に次はありませんから」
影朧の使う異能はどれも千差万別。初見で仕掛けを見抜けるかどうかは死活問題だ。本来であれば時間を掛けて目を養うべきだが、そんな余裕ここにはない。
「今ので死にそうだと思った人は、もう今日にでも帰ってね。え? 敵の目的上それは無理? そう、なら……」
もう一回襲うから、死ぬ気で頑張って。道理を崩すには無理を通すほかない。再びジフテリアが姿を消すと、學徒たちの切羽詰った叫びが再び木霊するのであった。
「……あっちは、中々にスパルタなよう、だね。敵がくるというのもあるけど、鍛えておいて、損は無し……大丈夫。気負わずに行こう」
一方、離れた場所からその様子を眺めていたペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)は、苦笑を浮かべつつ自身の担当する學徒たちへ向き直る。彼の言葉に學徒たちも安堵したように息を吐くが、安心するのはまだ早いと釘を刺す。
「ただ、気を抜く、と言う意味では無いから……そこだけ注意、ね?」
本番では練習の半分も実力を出せれば上々、と言うのはありふれたフレーズだが、それだけ的を得ているということでもある。実戦で十全に動きたければ、練習は二十や三十の量をこなさねばならないのだ。一瞬弛緩しかけた空気が、ペインの一言で引き締められる。
「……うん、それで、よし。それじゃあ、はじめよう、か……頼んだよ、バベル?」
準備は整ったと赤毛の青年は判断すると、懐からスマホを取り出す。無論、ただのスマホではない。それは主の呼びかけに応ずると、一瞬にしてツバメの翼を思わせる形状へと変化。ペインの背へと収まるやその体を浮かせ、軽やかに宙を舞わせてゆく。滑らかな絡繰り変化に、思わず學徒たちも感嘆の溜息を漏らした。
「やることは、単純。自分は、ひたすら、避けまくるから……皆で、どうにかして、攻撃を当てること。飛行も織り交ぜる、つもりだから、攻撃手段は、任せるよ?」
トントンとつま先で地面を叩くペイン。彼の身長もそこまで小さくは無い上に、翼によって表面積自体は更に増えている。一見すればそこまで難易度は高くないようにも思えた、が。
「ただ……。本気で来ない攻撃なら、まず避けるから、ね? あ、複数人で来るのも良いよ。その場合は、ある程度連係して、ね」
しかし、続く言葉に學徒たちは認識を改めた。武器問わず、人数問わず、その上で生半な攻撃には当たらぬと言っているのだ。超弩級戦力たる猟兵の言葉を、ただの大言壮語とだと甘く見る者はいなかった。
「それじゃあ……始めよう、か」
開始の合図へまず真っ先に反応したのは、銃火器を装備した者たち。先手必勝とばかりにペインへ目掛け弾丸を撃ち込むが、それらは全て虚しく地面へ突き刺さる。手足だけでなく鋼翼を使った重心移動によって、五体のみでは行えぬ機動で避けたのだ。
「思い切りは、良いけど……それだけじゃ、たりない、ね」
ならばと続いて挑みかかってきたのは、刀剣や拳を頼みとする學徒たちだ。地面を舐める様に走る剣閃と顔面目掛けて軌跡を描く拳撃、上段下段の同時攻撃でペインを追いこもうとするも。
「……いいね、それ。でも、こっちには、翼があるんだよ」
体を捻り、翼に風を受けて揚力を生み出すと、まるで体操選手の跳躍が如く体を中空に浮かばせる。ちりりと攻撃が掠めて前髪が数本散るも、被弾と呼ぶには程遠かった。
落下時を狙い槍衾で待ち受ける一団には穂先の隙間を見切って切り抜け、矢の雨は加速によって着弾前に潜り抜ける。こうまで当たらなければ、學徒側も意地が出てくるというもの。彼らは互いに声を掛け合い、何とか一撃当てようと知恵と身体を働かせてゆく。
(うん、それで良い……考え続ける事は、力になるはず、だから)
そんな様子を内心微笑ましげに観察しながら、ペインは學徒たちの体力が尽きるまで攻撃を避け続けるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
勘解由小路・津雲
(単独参加)ふむ、予知で見たという獲物から推測するに、相手の武装はUDCアースでいうところの第二次世界大戦あたりの水準のようだな【世界知識】。その辺りの戦史をひもとけば何かヒントでもとも思ったが、本職の軍人相手に付け焼刃の知識では太刀打ちは難しかろう。それならば……。
【訓練】戦術訓練
相手は戦争のプロ、なかなか素人ではかなうまい。だが、プロだからこそかかる罠もあるだろう。例えば撤退するときに通信機を残す。相手はこちらの作戦を傍受できるかもと期待する。そこに【ショウ・マスト・ゴー・オン】を流したら?
「ユーベルコヲド」は奇跡の技、プロの戦争屋の硬直した頭に、アマチュアの柔軟な発想を見せつけてやれ!
落浜・語
訓練、指導…。正直、何をどうやればいいか…
奏剣の扱いは我流だし人形の方は口伝だけど半ば我流だし。
まぁ…戦い方だなんだは他の人たちも教えているだろうから、それ以外かな
最初に言っておくけれど、俺の本業は天狗連だから、弱いよ。でも、弱いなりにやり方ってのがある。
戦争なんだ、勝てば官軍ってな。
一対一で当たる必要はない。一人で勝てそうにないなら、複数人で。
そうだな。一人に対して四人組で、わかり易く前と後を二人づつとしようか。前に出た二人が消耗してきたなら、後ろにいた二人が交代する。相手は一人なんだ。複数人の分、手数は増える。相手の隙を見逃さないこと。
まぁ、一番は死なないことだけどな
特攻が多い?何の事やら
芥子鴉・芙蓉
勝利を求める過去の亡霊かぇ?
ふむ。ふむ……いや、こわ……。
わらわじゃったらそれ以上頑張らないで次の人生にワンチャンかけるがのぅ。あいつらに幸せになれるハッパ渡したらそのまま成仏したりせん?あ、せんの。じゃよね。
まぁ既に死んだ筈の者に生者の命が奪われるのは夢見が悪い。ならば少しでもユーベルコヲド使いらの生存能力を上げるため、簡易的かつ実践的な【医術】の心得を伝授するんじゃよ。
傷が軽度か重度かの判断方法、治療対象の優先順位、その他諸々。
まぁ訓練そっちのけでみなと一緒に合法阿片で幸せになりたいところじゃが、生憎と手持ちを切らしておってのぅ……あと怒られそうじゃし。怒られたらわらわ泣くもんね
●三者三様、力無き者の戦い方
戦闘技巧に長けた猟兵が知識や技術の伝授を進める中、そう言った指導に不向きな者もまた存在していた。扱う技術が特殊だったり、そもそも切った張ったが得意でなかったりなど、その理由は様々である。
「訓練、指導……。正直、何をどうやればいいか……奏剣の扱いは我流だし、人形の方は口伝だけどこっちだって半ば我流だ。人様に教えられるかと言えば、なぁ?」
さてどうしたものかと頭を掻く落浜・語(ヤドリガミのアマチュア噺家・f03558)など、その筆頭であった。噺家として言葉を弄し、時には人形や妖物を操り敵と渡り合う技量は確かなものだが、技術としては独特な系統と言える。生兵法は怪我の元、自己流混じりのそれらを伝えても却って危険度が上がる可能性があった。
「まぁ……戦い方だなんだは他の人たちも教えているだろうから、それ以外かな。何事も、強い奴が必ず勝つって訳じゃない」
とは言え、どんな物事も見方次第だ。真っ当な内容については他の猟兵へ任せるとして、語はそれらとはまた違った角度から知識を伝える事にした。彼が指導する相手に選んだのは支援や妨害などを担う、正面切ってのぶつかり合いが不得意な學徒たち。
「あー、最初に言っておくけれど、俺の本業は天狗連だから、正直に言って弱いよ。でも、弱いなりにやり方ってのがある。戦争なんだ、勝てば官軍ってな。どんな奇策珍策だろうと、当たれば上策だ」
前衛は基本的にそれ向きの者たちが担うが、いざとなれば彼らも敵と対峙しなければならない。その際、相手よりも個々の力が劣っているのであれば、どうするべきか。
「一対一で当たる必要はない。一人で勝てそうにないなら、複数人で……そうだな、一人に対して四人組で、わかり易く前と後を二人ずつとしようか」
答えは単純、相手よりも多勢で当たればよい。戦いは数だよというのは有名な台詞だが、それは戦略でも戦闘でも変わらない。語は手近な者同士を班に組ませると、それぞれに役割を振ってゆく。
「前に出た二人が消耗してきたなら、後ろにいた二人が交代する。戦線が崩壊したとかじゃなけりゃ、抜けてくる敵の数もそう多くは無いはずだ。相手一人に複数人で当たれば、その分手数が増える。重要なのは相手の隙を見逃さないこと」
必ずしも相手を倒す必要はない。足を止め、時間を稼ぐだけでも上出来と言えるだろう。その間に仲間の救援を受けることが出来れば、それも立派な勝利なのだ。
ふむふむと、學徒たちは語の言葉に納得したように頷く。攻撃力こそ乏しいが妨害に徹し、互いに支援しあえば十分に抗しえるだろう。
「勿論、倒せるならそれに越したことは無いが……まぁ、一番は死なないことだけどな」
命を落としさえしなければ、次の機会へ繋げられる。そもそも過去の妄執に若者たちが巻き添えを喰らうなど、笑い話にもなりゃしない。
(……特攻、無茶ぶり、寿命削っての殴り合い? 果てさてなんのことやら)
一瞬、己が過去に行った所業の数々を思い起こすも、さらっと横に置いて流してしまう。仲間に見られたらまたぞろ何か言われそうであるが、幸い彼らも各々訓練中だ。内心、ふっと苦笑を漏らしながら、語もまた指導を続けるのであった。
「ふむ、予知で見たという得物から推測するに、相手の武装はUDCアースでいうところの第二次世界大戦あたりの水準のようだな」
語が指導を進めているのと同じころ。勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)もまた、指導内容について思案していた。見て分かる通り彼は陰陽師。専門分野は呪術風水であり、近代的な軍組織についてそこまで精通している訳では無い。
「大正が続いているとは言え、共通する内容もありそうではある。その辺りの戦史を紐解けば何かヒントでもとも思ったが……本職の軍人相手に付け焼刃の知識では、太刀打ちは難しかろう」
相手は文字通り、歴史そのものを体験している専門家だ。今更書物や記録を引っ張り出したところで、なまじ付け入られる隙を増やすだけになりかねない。だがさりとて、先の語同様に彼の技術も一朝一夕で伝授できるものではなかった。
「それならば……ああ、済まない。通信や伝令を担当する學徒を呼んで貰えないか?」
だが現実的な軍事とは正反対に位置する呪いや神霊という、超常の力に触れてきた『経験』そのものならば、津雲に一日の長がある。何も体系だったもののみが力を発揮するとは限らないのだ。
そうして津雲が手近に居た學徒へ声を掛けると、数分も経たないうちに情報分野に長けた學徒たちが彼の周りへと集まってくる。
「これから対峙する相手は戦争のプロ、なかなか素人では敵うまい。俺とて、すぐに役立つようなものを教える事は出来ないが……発想であれば、多少の助言は出来る」
発想とは、と疑問符を浮かべる學徒たち。例えばな、と津雲は彼らの装備である通信機を手に取る。
「例えば撤退するときにこの通信機を残す。それは見つけた相手は、こちらの作戦を傍受できるかもと期待する。その機を見計らって【ショウ・マスト・ゴー・オン】を流したら?」
上手く嵌れば、敵軍を長時間その場へ釘付けにすることが可能だろう。無論、そう上手く事が運ぶ確証はない。手榴弾等の置き土産を警戒し、無視する場合だってある。だが、津雲の伝えたい肝はそういう事ではない。
「これは飽く迄も一例だ。相手は常に警戒心をむき出しにする手練れ、こちらは経験乏しい素人。だが知らぬからこそ、常道から外れた一手を生み出すことだって可能なはずだ。きっとその中には、プロだからこそかかる罠もあるだろう」
戦争と夜鷹は素人の方が大胆だ、というのは半ば揶揄混じりの一節だが、あながち間違いではない。手持ちの札を組み合わせ、周囲にある物を利用し、常に創意工夫を行う事。それこそが津雲が伝えたい『発想』であった。
「『ユーベルコヲド』は奇跡の技、そしておまえ達はその扱いだけは連中よりも先んじている。プロの戦争屋の硬直した頭に、アマチュアの柔軟な発想を見せつけてやれ!」
情報を一手に預かるという役目上、その源となる手札は他の學徒たちよりも多いはず。津雲の言葉を受けた彼らはメモや書類を取り出すと、俄かに頭を突き合わせて議論を始める。情報と発想と言う武器を手に、學徒たちは己の戦術を構築してゆくのであった。
「勝利を求める過去の亡霊かぇ? ふむ、転生はおろか自らの生き死にすら度外視じゃと? ふむ、ふむ……いや、こわ……こわくない?」
適当な木箱に腰を降し、すぱりと煙管より紫煙をひとつ上らせて。敵についての資料に目を通していた芥子鴉・芙蓉(ラリBBA・f24763)はそんなにべもない感想へといきついていた。
「わらわじゃったらそれ以上頑張らないで、次の人生にワンチャンかけるがのぅ。あいつらに幸せになれるハッパ渡したらそのまま成仏したりせん? ……あ、せんの。じゃよね~」
闇とは言え命を扱う医者、その上六十を超える年月を生きてきた桜の精である。人生既に折り返し、始まりよりも終わりの方が近い身の上なのだ。そこら辺の死生観は割と達観している。
ただ、相手は合法どころか今では違法となっている『ビタミン剤』を割と気軽に摂取出来た連中だ。彼女が煙管の先に詰めている楽しい葉っぱになびく可能性は低いだろう。
「……まぁ、既に死んだ筈の者に生者の命が奪われるのは流石に夢見が悪い。丁度手持ちも吸い切ってしもうたし、ちぃとばかし手解きをするのも一興かのぅ。さてさて、ご同輩はどこじゃろなっと」
カンと煙管を一叩きし灰を取り出しながら視線を巡らせると、目的の場所はすぐに見つかった。白地に映える鮮やかな赤十字。戦闘に備えて設置された臨時の救護所である。治癒の異能持ちを始めとした學徒たちが、医薬品や器具の詰まった箱を抱えて忙しなく走り回っていた。
その中へ足を踏み入れると、學徒たちも一旦手を止めて芙蓉を見やる。
「おー、ユーベルコヲド使いの本拠地だけあって、それなりに量が揃っとるの。となれば、簡易的かつ実践的な医術に……そうさな、鉄火場の凌ぎ方とか知りたいじゃろ?」
内部をざっと見渡した芙蓉の提案に、一も二も無く學徒たちは頷いた。本職の指導を受けられるのであれば、彼らにとってこれほど心強いものは無いだろう。うむと頷くと、闇医者は時間は惜しいとばかりに早速講義を始めてゆく。
「本格的な治療は後送してから、前線での応急手当はそこまで持たせることを主眼に置くべきじゃな。特に止血は重要だのぅ。布を当てても血が止まらぬ時は紐等で体幹側を縛り、そこへ棒を差し込んで……捻じる!」
即効性のある止血方法の展示。棒を使うことにより、単に縛るよりもよりきつく圧迫することが可能となる。長時間やり過ぎると末端が壊死するから注意するようにと付け加えれば、忘れぬようにと學徒たちがメモにペンを走らせて行く。
「あとは傷の軽重や治療優先順位の判断方法とかかのぅ。色紙があれば、一先ずはそれで代用できるじゃろ」
また、トリアージ法のノウハウの伝授も続けて行ってゆく。それぞれの判断基準をフローチャート式に書きだしながら、何を以て重篤と判断するかを図解する。一見冷たくも思えるこの判別こそが、効率の良い治療を支える柱となるのだ。
「ふぅ。改めて他人に教えるとなると、予想以上に疲れるもんじゃのぅ……まぁ、本当なら訓練そっちのけでみなと一緒に合法阿片で幸せになりたいところじゃが、生憎と手持ちを切らしておってのぅ」
慣れ親しんだ事柄でも、他人へ理解させようとするのは労力が掛かるもの。あれはこれはと矢継ぎ早に質問を浴びせられればなおさらだ。芙蓉も思わず煙管に手を伸ばし掛けるが、もう薬が無い事に気付き肩を落とす。
(……あと、さぼるなと怒られそうじゃし。尤もじゃけど、怒られたらわらわ泣くもんね)
ぼやきの一つも零したいところだが、學徒たちがそんな暇を与えてくれそうにない。へらりと苦笑を浮かべながら、闇医者は質問へと応じてゆくのであった。
大成功
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ファン・ティンタン
【WIZ】戦争屋の何たるか
アドリブ協力可
さて、戦闘要員の調整はある程度進んでるみたいだね
なら、私は戦わせる者の方を見ようかな
相手は戦争屋、ただの戦闘狂じゃない
個の勝利ではなく、群れとしての勝利を至上としている
そんなイカれた敵の精神を、まず念頭に置くこと
その上で、私達は奴らの狂気を正気と理性をもって上回らなければならないよ
戦いは、前線で刃と鉄火を交えるだけじゃない
敵群の動きを把握、味方への周知
戦局の傾きを理解、脆弱への対応
前線で殴り蹴るのは? 手だ、足だ、戦闘要員だ
それらを動かすのは? 脳、つまりあなた達だよ
まず、手足の動かし方を覚えよう
脳はどっしり構えて動かず、しかして貪欲に、体の無事を考えろ
トリテレイア・ゼロナイン
騎士とは主の命を遂行し弱者を護るもの
戦闘兵器は論理的に己が戦術目標を達成するもの
どちらの視点でも戦略・戦術目標を見失い、只の「勝利」に固執する軍人など私の所感ではナンセンスの極み
妄執に學徒兵の皆様の血を徒に流させはしません
戦闘自体は慣れている以上、「軍人」と相対する心構えを指導
普段相対している影朧と違い、相手は「殺し殺され」に慣れています
同僚が斃れても攻撃を続行する姿に血も涙もない相手と気圧されるかもしれません
ですがそう振舞えるのは訓練を積んでいるから
恐れる必要はありません
皆様の実力を発揮できれば必ず勝てます
最後は私を仮想敵とした模擬戦
巨体の私と相対しUCを中断しない胆力を身に着けて頂きます
●人統べる者の責務を知るべし
遠近の基礎訓練、索敵や命中の指導に集団連携、支援や奇策の伝授。駆けつけた猟兵たちによってユーベルコヲド使いたちの練度は着実に上昇している。そうして兵卒として教えるべき事が充実してくれば、今度は指揮方面へと手を伸ばすのは自然な事であった。
「さて、戦闘要員の調整はある程度進んでるみたいだね。なら、私は戦わせる者の方を見ようかな。下が精強でも上層部が……って話は、それこそごまんとあるからね」
他の人手は十分足りていると判断し、その役を買って出たのはファン・ティンタン(天津華・f07547)だ。どれだけ目の前の敵を打ち倒そうと、戦術で事態を引っくり返されることはままあるもの。況や、此度の戦いが戦争と銘打たれているのであればなおさら。
また、その傍らには同じように教官役を志願したトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が、思案気に腕を組んでいた。
「……騎士とは主の命を遂行し弱者を護るもの、戦闘兵器は論理的に己が戦術目標を達成するもの。どちらの視点でも戦略・戦術目標を見失い、只の『勝利』に固執する軍人など私の所感ではナンセンスの極みです」
此度、戦火を交える相手は暴力装置としての軍人でありながら、誇り高き騎士の側面も持っていたという。それ自体は本来であれば寧ろ好ましい。しかし、今ではかつての戦況末期の頃同様、どちらの在り方も失われている。戦争と勝利は手段であり、目的などではないのだ。その点が、どうしても彼とは相いれなかった。
「過去の妄執に、未来ある學徒兵の皆様の血を徒に流させはしません。出来うる限り被害を抑えられるよう、尽力しましょう」
「ただ、相手は腐っても戦争屋、ただの戦闘狂じゃない。個の勝利ではなく、群れとしての勝利を至上としている。彼らにはそんなイカれた敵の精神を、まず念頭に置いて貰わないとね」
トリテレイアの懸念にファンも同意する。通常の軍であれば、被害や損耗と言った引き時がある。だが相手は死人同然だ、文字通り全滅しない限り戦闘を辞めはしないだろう。話によれば転生とて、一顧だにしていないそうだ。その前提条件の違いから、まずは叩き込む必要があった。
「……その上で、私達は奴らの狂気を正気と理性でもって上回らなければならないよ」
そう言って視線を横に映せば、そこにはやや年長の學徒が立ち並んでいた。彼らが他の學徒たちを指揮する役割を担うのだろう。猟兵のやり取りを聞いていたのか、その表情には緊張が見て取れた。脅威を認識するのは大事であると、トリテレイアは頷く。
「戦闘には慣れていると思いますが、『軍人』という存在は良くも悪くも異質です。普段相対している影朧と違い、相手は『殺し殺され』に慣れています……ましてや此度の相手は、既に一度死んでいるのですから」
そう言う意味では、これから戦う相手は極めてドライであるとも言える。仮に傍らの戦友が斃れたとしても、それは以前経験した事の焼き直し。動揺を期待するのは無理だろう。対して、桜學府の學徒たちはどうか。ファンはそっと、別の場所で訓練に勤しむ実働担当の學徒たちを指し示す。
「だけど戦いは何も、前線で刃と鉄火を交えるだけじゃない。敵群の動きを把握、味方への周知。戦局の傾きを理解、脆弱への対応……戦闘ではなく、戦術や戦略レベルで決断を下す必要がどうしても出てくる」
前線で敵を殴り蹴るのは? 手だ、足だ、つまりは戦闘要員だ。
それらを動かすのは? 五体五感より集まった情報が届けられる頭脳、つまりは。
「――あなた達だよ?」
後方に居るから、直接敵と顔を合わせぬから、だから安全である……とは限らない。兵卒は目の前の敵だけを見れば良いが、指揮官は良くも悪くも全体が見えてしまう。それこそ、知りたくもない現実までも時として突きつけられる。
その職責の重さを再度提示され、思わず學徒たちはごくりとつばを飲み込んだ。
「仲間が傷つけば動揺するのが当然、それは人として必要な感情です。ただ自らと比較した際、同僚が斃れても攻撃を続行する姿に血も涙もない相手と気圧されるかもしれません。ですが、そう振舞えるのは訓練を積んでいるから」
だが彼我の力量に差は在れど、決して隔絶しているという訳では無いと騎士は告げる。今でこそ影朧と化してはいるが、相手も元々同じ人間なのだ。我も人、彼も人。もしそこに違いがあれば、それは経験の差である。
「恐れる必要はありません。相手は未知の化け物でも、強大な怪物でもない。同じ人間です。であれば皆様の実力を発揮できれば、必ず勝てます」
そして経験は必ず埋められる。埋められる以上、対抗できる。トリテレイアは激励と共に講義を締めくくった。ここからは実際に行動する時間だ。
「さぁ、その為には一にも二にも訓練だ。いま伝えたことを念頭に入れて、まずは手足の動かし方を覚えよう。幸い、君たちだけでも相応に人数は居るからね。順番に指揮官役を交代しながら動いてみようか」
パン、とファンは一つ手を打つ。人を動かす為にも、まずは動かされる側の意識を知るのも必要だ。自らの役目を自覚した状態であれば、ただ漫然と指示を出すよりも効果的に訓練できるであろう。
仮想敵役として立ちはだかるトリテレイアを前に、學徒たちは利益と損失を天秤に掛けつつ、最善だと信じる指示を下してゆく。
「集中を切らしてはなりません、上の混乱は瞬く間に下へも伝播します。何があっても動じぬ胆力、それが肝要です」
「脳はどっしり構えて動かず、しかして貪欲に、体の無事を考えろ。それがあなた達の、あなた達だけにしか出来ない戦いだ」
幾度も響き渡る剣撃音に、繰り返し紡がれる詠唱の声。斯くして頭脳を鍛える一時は、刻限を迎えるまで続けられるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
秋津・惣次郎
この帝都で戦とは…第三帝国の亡霊共が。
本来であれば戦は我ら帝都軍の所掌だが、櫻學府が標的となり手ずから防衛するというのなら手を貸そう。
先ずはUCで部隊を召集、學徒兵の練度が如何なものか検分だ。
影朧を鎮めるのは得意でも戦は領分ではない故致し方ないか。基本教練と銃の扱いから行う!
戦で大切なのは規律と命令系統の遵守、これらが欠ければ戦列は崩壊する!
一挙手一投足、陸軍式を叩き込む!覚悟せよ!
部下の兵と共に學徒兵を戦に耐えうる兵士とするべく教練を行う。大和魂は亡霊如きに敗れぬと奴らに教えてやらなければ。
可能ならその合間に校庭に防御陣地を構築する。塹壕と土嚢の陣地だけでも歩兵相手には効果を発揮するだろう。
九重・灯
グリモア猟兵の言うとおり、戦争ですね。
普段から訓練をしている桜學府の皆さんに助言できることは多くは無いかも知れませんが……。
UC【世界図書館】。手の中に地図が現れる。
影朧……いえ、「敵軍」の狙いはここ、桜學府です。
『世界知識』『情報収集』『地形の利用5』『戦闘知識1』から地形情報を把握。敵軍の進攻ルートを予想し、一般市民の避難の手はずを整えます。
実際に帝都中を走り回っている桜學府の皆さんと意見交換してより確実にしましょう。警察や陸軍に避難協力の要請も必要ですね。
學府の皆さんに、相手が転生に応じる可能性が低いことを伝えないといけませんね。
どうか帝都市民と自分の身を守ることを優先してください。
寺内・美月
アドリブ・連携歓迎
・戦い方は伝統的な戦闘群戦法を踏襲。
・帝都の衛戍部隊(第一師団?)から機関銃、柄付手榴弾、擲弾銃、擲弾筒、狙撃砲(機関銃破砕用平射砲)、土嚢袋を借り受ける。出来れば教官となり得る人物を招聘。
・保安部隊、衛戍部隊と共に会敵予想地点を選定。近隣住民を退避させ、付随して観測点や射撃陣地を設置。
・突撃隊(接近戦が得意な学徒兵)は戦闘隊形として基本である傘型隊形(移動)と散開隊形(待機)の迅速な展開、上記の供与武器を使用した状況の訓練を行う。
・支援隊(突撃に適さない学徒兵)は、擲弾筒と狙撃砲の砲撃予習やUC等で前衛(壁)となる悪魔などの大量召喚訓練、併せて大量の土嚢作成と弾薬の搬入。
●規律で兵を、装備で陣地を整えん
教官役の猟兵たちによって着々と訓練が進められる中、並行して別の作業を進める者も現れていた。それはつまり、戦場把握と陣地構築である。
「この帝都で戦とは……第三帝国の亡霊共が。本来であれば戦は我ら帝都軍の所掌だが、櫻學府が標的となり手ずから防衛するというのなら手を貸そう。學徒であっても兵は兵だ」
「ですが、ユーベルコヲド使いでないとしても、正規軍の経験と装備が利用できれば戦力の大幅な底上げになるでしょう。そちらへ協力を取り付ける事は?」
「無論、可能だ……こういう時、同期の櫻ほど心強いものはないな」
厳めしい雰囲気を纏った軍人二人が、戦場となるであろう校庭を見渡しながら手早く打ち合わせを行っている。片や、暗緑の軍服に身を包む秋津・惣次郎(憲兵隊中尉・f23978)。もう一方は漆黒の外套を羽織った寺内・美月(亡霊の将を統べしは生者の帥・f02790)。生まれ育った世界は異なれど、共に軍事に深く携わる者たちであった。
現地部隊の助力は仰げるかと問う美月に対し、伝手で多少の無理は効くと惣次郎が頷いた傍から、校庭へと軍用トラックが車列をなして入ってくる。停車したそれらから降りてくるのは要請を受けた増援の人員だ。彼らはテキパキと各種装備や弾薬、土嚢袋を積み下ろし始める。
「補給の心配をしなくても良いのは重畳です。私は物資の内容を一通り確認してから陣地構築を進めるので、そちらは先に學徒たちを」
「了解した。増援の兵卒は自由に使ってくれて構わんので、そちらは任せたぞ」
猶予に限りがある以上、役割分担は必定。美月は美月で己が部下である保安要員を招集し物資を紐解き始める一方、惣次郎は自分が担当する學徒たちへと向き直った。
「……さて。私は帝都軍憲兵隊中尉の秋津惣次郎である。訓練を始める前に、まずは諸君らの練度が如何なものか検分させて貰う!」
他の猟兵たちが武人や傭兵の様な者が多かったこともあり、學徒たちの目には彼の憲兵らしい厳めしさがより際立って映っていた。びくりと背筋を伸ばす彼らを一瞥しながら、惣次郎は部下と共に細かな所作や振る舞いを見定めてゆく。
「兵と名がつくが、同時に學徒でもあるからな。影朧を鎮めるのは得意でも戦は領分ではない故、不足は致し方ないか。ならばまずは、基本教練と銃の扱いから行う! 一挙手一投足、陸軍式を諸君らに叩き込むぞ!」
ユーベルコヲド使いたちの主軸は飽く迄も學生。対峙する相手も異形の影朧とあって、求められる資質は軍人とはまた違ってくる。しかし此度の相手が軍隊である以上、軍の規律を最低限身につける必要があった。惣次郎は号令の順守やその際に定められた動作など、手足の先まで厳しくチェックし修正してゆく。
「一人が発した怯懦と恐慌は瞬く間に伝播し、容易く統制が乱れよう。戦で大切なのは規律と命令系統の遵守、これらが欠ければ戦列は崩壊する!」
ただ、何も意味もなく厳しい訳では無いのだ。他の猟兵が伝えていた自信や冷静さと同様、規律もまた全体を危険に晒さぬ為の鉄則である。教官役が憎まれ役を買って出るのも、恐怖と言うものが手っ取り早くそれを覚え込ませるのに有用だと知るが故だ。
「大和魂こそ、亡霊如きに敗れぬ為の最上の武器である! 時間の限り伝授する故、覚悟せよ!」
だからこそ、惣次郎は決して手を緩める事無く指導を進めるのであった。
「この短時間でどれだけ準備を整えられるか。陣地の完成度が兵員の損耗率に直結する以上、手は抜けません」
「おおぉ……グリモア猟兵の言うとおり、正に戦争ですね。普段から訓練をしている桜學府や軍隊の皆さんに助言できることは、そう多くは無いかも知れませんが……」
一方、美月は着々と陣地構築を進めていた。保安要員が黙々と袋へと土を詰め、幾つもの土嚢を積み上げている。単純な作業ではあるが、何分数が要る。限られたリソースをどう配置すべきかと思案する彼の横合いから、九重・灯(多重人格者の探索者・f17073)が声を掛けてきた。どうやらそれまで桜學府から離れて帝都を回っていたらしく、きょろきょろと周囲を物珍しげに見渡している。
「防衛用の陣地を作っているんですよね? 実は私、桜學府だけでなく、ここを中心とした街の地形を調べていました。そして、それに加えて……っと」
現在の状況を把握した灯がぱちりと指を鳴らすと、手の中に一冊の本が現れた。この世のどこか、時の狭間に存在するという全知なる世界図書館。そこへと繋がる端緒がこの古ぼけた書物なのである。それはぱらぱらと独りでに頁を捲ると、求める知識を読み手へ提示する。
「影朧……いえ、『敵軍』の狙いはご承知の通り此処、桜學府です。敵の現在位置までは流石に分かりませんが、もし大軍を送り込もうとするのであれば、必然的に侵攻経路は限られてきます」
「成程、まずはそちらを想定して守りを置くべきだと。経路の絞り込みは?」
「大まかには出来ています。ただ、私もこの世界出身ではありませんからね……正確なところは、桜學府の皆さんと相談して精度を上げた方が確実だと思います。それに加えて、少し問題がありまして」
手近な木箱を引き寄せて、その上で地図を広げる灯。彼女は足を運んで収集した情報を書き込みながら、ペンで敵の予測侵攻経路に線を引いてゆく。それを見ていた美月は、灯の言う『問題』とやらに気が付いた。
「……人口密集地に面した道が多いですね。大軍を移動させるという行動上、幅の大きな道路を選ぶのはある意味必然ですか。加えて間の悪い事に、この桜學府の回りも學徒向けの商店が立ち並んでいる」
「相手の狙いは飽く迄も桜學府とユーベルコヲド使い。仮にも軍人ですから、一般市民に意図して危害を加えるとは思いたくありませんが……流れ弾にまで気を配れると考えるのは、ちょっと楽観的に過ぎるかなって」
ここに来て新たな問題の浮上。時間が刻々とすり減ってゆく現状では、些か以上に深刻なマイナス要素と言える。だが不幸中の幸いか、人手だけならば十分過ぎるほどに確保できていた。美月は増援に来た部隊の中から、手早く人員を抽出し始める。
「この時点で気付けたのは幸いでしたね。手隙の兵卒を動員し該当地域に避難勧告を、時間が足りなければ室内から出ないよう呼びかけましょう」
「學徒の皆さんにも避難協力をお願いしますか?」
「……いえ。彼らには訓練に集中して貰うべきですね。ただ、共有できる情報も可能な限り汲み上げておきたい。學徒とのやり取りはお願いしても?」
「ええ、勿論です!」
そうと決まれば話は早かった。美月は陣地構築を急がせつつ、抽出した人員を各地へ割り振って向かわせてゆく。その一方では灯が學徒たちの間を廻って、猟兵側が予測した侵攻経路の適宜修正を行う。各道路の工事や路面の状態、付近に住んでいる住民についてといった『生きた』情報は、やはり文字を追うよりも直接話を聞くのが一番であった。
斯くして急ピッチで作業を開始してから暫くの後、陣地も大まかな形が完成し終わったころ。一通りの教育を施し終えた惣次郎が、學徒たちを連れて陣地へと姿を見せていた。
「こちらは一区切りついたが、そちらはどうだ?」
「陣地も八割方は構築完了済みです。勿論、求め始めれば切りはありませんが……住民の退避も目途が立ちましたし、取りあえず最低限の戦闘準備は整ったかと」
身を隠す為に土嚢が胸元程度にまで積み上げられ、また土を掘りだした後は塹壕として利用。借り受けた武器弾薬も各地点へと配置され、機関銃座や観測点も設けられている。美月の言うように更に手を加えるべき要素は多々あるが、それでも戦力として換算できるだけのものに仕上げることが出来ていた。
「残りの時間は、この陣地を使っての集団演練を行うべきでしょうね。最低限、形状と何処に何があるかを把握しておかねば、いざ実戦となって上手く機能しません。突撃と支援、役割ごとで分けて効率的に動かしましょうか」
「であれば、一方の指導は私が受け持とう。装備一式も元々こちら側の物だからな、勝手は分かっている」
残るは陣地そのものへの慣熟だ。支援向きの學徒たちへ各種砲の扱いや塹壕内の動線については惣次郎が、突撃を担う學徒への移動用や防衛向きの陣形実習は美月が、それぞれ担当して最後の調整を進めてゆく。
対して灯は、演習の邪魔にならぬよう気を付けながら學徒たちの間を走り回っている。彼女は軍事こそ疎いが、それでも自らの得た情報を少しでも伝えるべく、激励と共に声を掛けていた。
「相手は影朧ですが、転生に応じる可能性は限りなく低いようです。ですから、今回は相手よりも帝都市民と自分の身を守ることを優先してくださいね。くれぐれも、無理は禁物ですよ?」
そういう意味では、恐らく普段と勝手が違うはずだ。救うのではなく、ただただ純粋な闘争。下手に仏心を出してしまえば、逆に危険が及ぶ可能性が高いだろう。過去の亡霊に未来ある若人の命が散らされるなど、あってはならない。
徐々に高まりつつある緊張の中、猟兵と學徒たちは時間の許す限り、最後の詰めを埋めてゆくのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
第2章 集団戦
『名も忘却されし国防軍擲弾兵大隊』
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POW : 戦車殺しは我らが誉れ
【StG44による足止め牽制射撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【パンツァーファウスト】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 弾はイワンの数だけ用意した
【MP40やMG42による掃討弾幕射撃】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : コチラ防衛戦線、異常ナシ
戦場全体に、【十分な縦深を備えた武装塹壕線】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
イラスト:nii-otto
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
※マスターより
2章断章及びプレイング受付告知は8日(水)頃を目途に投下予定です。
引き続きどうぞよろしくお願い致します。
●意義なく、命なく、名もなく、ただ欲するは勝利のみ
――敵影見ゆ。
その一報が校庭外周に設置された観測点より齎された瞬間、配置についていた各員に緊張が走った。ジリジリとした焦燥感の中、想定侵攻経路へと視線が集中する。
果たして、灰褐色の軍服にフリッツヘルムと防毒面で全身を包み込んだ兵士たちが、軍靴を打ち鳴らしながら隊伍を組んで姿を見せた。手には銃器、腰には弾帯、肩に対戦車爆弾を担ぐその姿は、記録映像などに残る軍隊そのものだ。
彼らは下士官と思しき者の号令で停止すると、三々五々に隊列を崩してゆく。そしてその奥から現れた鉄兜の軍人。一人だけ斧槍を手にしたその姿から、この人物こそが大隊の指揮官であると察せられた。傍らに付き従っていた下士官が、そっと上官へ耳打ちをする。
「……學徒と聞いたときは、もしプロパガンダ塗れの国民突撃隊のようなものではと危惧していましたが、いやはやなんと。緒戦の東部どころかマジノでしょうか、此処は」
「幾年月を経たにも関わらず、時代遅れの我らに合わせてくれているのだろうさ。全く、有難いことではないか。慣れ親しんだ戦場の臭いがするようだ」
校庭に展開された迎撃陣地。自らの襲撃を未然に察知され、こうして万全の態勢で待ち受けられているというのに、彼らに焦りや驚きの様子は無かった。寧ろその言動に滲むのは――歓喜と期待。
「かつての戦場であれば最も避けるべき状況だというのに、我らが大隊長殿は楽しんでおられるようで」
「それは貴様も、貴様らも同じだろう? 自ら進んでヴァルハラから背を向け、惨めたらしく現世にへばり付いてきた敗残兵……それが我々だ。だのに、いざ此処に至って粗末な児戯で持て成されては満足など出来ようはずがない。だから、これで良いのだ」
そうして、指揮官はゆっくりと前へ歩み出る。身を晒す危険を承知した上で尚、それが戦の作法であると確信した迷いのない動きであった。
「さて、桜學府のユーベルコヲド使い諸君。遠路はるばるやって来た義と勇溢るる猟兵(イェーガー)諸君。お初に御目に掛かる、私がこの国防軍が擲弾兵大隊を率いる指揮官だ。生憎、部隊名はおろか己が銘すら忘れ去った亡霊故、名乗れぬ無礼を許し給え」
緑の外套をなびかせ、金の長髪をうち払いながら、指揮官は手にした斧槍を猟兵と學徒たちへ差し向ける。
「さて、この陣容を見た限り、我らの狙いも望みも全て承知の上だと思う。ならばこちらも虚飾は省こう……我らは戦争をしに来た。殺し、殺される為にやって来た」
指揮官がサッと手を挙げると、兵士たちは一糸乱れぬ動きで各々の武器を構える。弾倉を、弾帯を得物へと叩き込み、棹桿を引いて初弾を薬室へと送り込む。
「たが、ただ殺せばよいという訳では無いのだ。ただ、蹂躙すればよいという訳では無いのだ。我らはかつて、勝ち、進み、ぶつかり、跳ね返され、追い立てられ、負けて、そして死んだ。その末路が認められぬと、終わるのであれば勝者として終わりたいと、そう望んだ」
最期の枷である安全装置は外され、引き金に指が掛けられる。その意味を彼らは誰よりも理解し、理解した上で淡々と実行し続けてゆく。
「確かに勝ったのだと。我々は勝利したのだという実感。それが欲しいのだ。もはや意味も意義も無いはずのそれを、どうしても手にしたいのだ。諸君らからしたら迷惑やもしれんがね。……嗚呼、認めよう。眼前の相手はそれに足りうる敵手であると」
それは改めて突きつけられた、明確な宣戦布告。敵と敵がぶつかり合う前に交わす、最後の理性的な言葉。
それが終われば、あとはもう戦うのみ。指揮官の傍らにいた下士官が、頭上へ銃口を向けて引き金を引く。響き渡る一発の銃声、それは紛れもない開戦の号砲であった。
「で、あれば。猟兵と學徒諸君、そして大隊各員……さぁ」
――戦争を始めよう。
※マスターより
プレイング受付は10日(金)朝8:30より開始致します。
一章の各種訓練や陣地作成の成果により、學徒たちの練度は兵士相手であれば十分に対抗出来るレベルとなっております。その為、猟兵側が望めば彼らから支援を受けることが可能です。そこまで大がかりな内容でなければ、問題なく実行してくれるでしょう。
それではどうぞよろしくお願い致します。
春乃・結希
大隊を見回し深呼吸、學徒達に振り返る
よく、訓練について来てくれました、ありがとう…ここからが本番です
大丈夫、みなさんは前よりもっと、強い
仲間達、猟兵、そして自分を信じろ
行こう!勝利を掴もう!
訓練時の作戦通り、白兵戦を行う學徒さん達に、浸透強襲を行ってもらう為、私は前に出て、敵を引きつけます
UCを発動させ、オーラ防御で弾丸の威力を減衰、激痛耐性で痛みを無視しつつ前線へ暴風とともに突撃、一瞬で接近します
withとwandererで大暴れしつつ、學徒さんが上手く回り込めたら強襲して貰います
恐れるな!踏み込め!切り裂け!叩きつけろ!
相手もこちらも、目指すのはひたすら勝利
敬意を表し、全力で迎え撃ちます
シキ・ジルモント
◆POW
學徒達との共闘を意識
実戦不足から来る焦りがあれば声をかけるが、落ち着いて対処すれば敵兵に引けを取らない力はあるはずだ
射撃を行う學徒と共に白兵戦を行う味方を『援護射撃』で支援
援護中、敵の持つパンツァーファウストが目に付き警戒、無力化を狙う
これを狙う事を學徒へ伝え、敵の体勢を崩す為に一斉射撃での攪乱を依頼する
攪乱の依頼後、特注弾入りの弾倉に入れ替え敵陣の横合いから接近
体勢が崩れた所を狙い、ユーベルコードでパンツァーファウストを狙撃(『スナイパー』)、破壊を試みる
何度も撃てばこちらの位置はバレるだろうが、それを利用し敵の目を引き付ける
そのまま注意を引いて、學徒や味方猟兵との挟撃に持ち込みたい
●斬り結び、撃ち交わせ
宣戦布告直後、まず真っ先に動いたのは大隊側であった。
「弾幕を張るにも、まずはそれ相応の下準備が必要だ。敵陣を撃ち崩しつつ、火点を確保しろ。必要な犠牲と無為無策の犬死は別物だからな、確実に行くぞ」
「重砲や機甲戦力を出せれば話が早いが……まぁ、先陣の誉れと思っておこうか。パンツァーファウスト及び柄付き手榴弾用意。『擲弾兵』の名、虚仮脅しではないと教育してやる」
侵攻する側として、防御陣地を攻略する困難さは身に染みているのだろう。まずは機関銃等による射撃地点を確保する為、小銃兵による射撃支援を受けた擲弾兵が吶喊してきた。彼らの構えるパンツァーファウストの射程は大凡六十メートル、その射程圏内に入られれば二百ミリの装甲すら貫徹する火力が解き放たれるだろう。
「これがかつての大戦に生き、そして散った兵士たち……!」
迷いも躊躇いも無く、戦争機械と化し勝利への最適解を突き進む軍勢。それを目の当たりにした結希は一瞬気圧されかけるも、静かに深呼吸をして精神を研ぎ澄ませてゆく。彼女は迫り来る敵群をさっと一瞥するや、背後に居並ぶ學徒たちへと向き直る。
「よく、訓練について来てくれました、ありがとう……ここからが本番です。大丈夫、みなさんは前よりもっと――強い」
時間の許す限り、打てる手は全て打った。それが無意味であるはずなど在り得ない。故にこそ、結希は強固な確信を以て學徒たちへ檄を飛ばす。
「傍らの仲間達、私たち猟兵、そしてなにより自分自身を信じろっ! さぁ、行こう! 勝利を掴もう、一緒に!」
――オオオオオオッ!
上がる鬨の声に恐れはなく、駆け出す姿に怯えは無い。浸透強襲を実行すべく戦場を迂回するように移動し始めた學徒たちと別れるや、彼女は相手の注意を一身に引き受けるべく前へと飛び出した。
「敵はきっと強い。質も、数も、装備も……でも、その上で」
私の方が、もっと強いッ!
ダンッと力強く踏み込んだ瞬間、剣士の全身を暴風が包み込んだ。黒鉄の脚甲が蒸気を噴き上げ、掌に巻かれた呪布が意思を増幅させる。それは己が強さへの信仰を基点とした、突撃術式であった。
「単騎で来るだと……見え透いた囮だが相手は猟兵、放置も出来ん。火力を集中させ、速攻で潰せ!」
相手も結希の行為に裏があると気付きつつも、さりとて捨て置けぬと判断。StG44による猛烈な射撃を浴びせかけ始める。風の流れによって銃弾を弾きつつも、尋常でない加速によって彼我の相対速度は跳ね上がり、守りを突破した攻撃が肩や脇腹を掠め、射抜いてゆく。
「痛いことは痛い……せやけど、耐えられないほどじゃない!」
「まるでMe163か、この娘はっ、があっ!?」
苦痛をねじ伏せながら擲弾兵へと肉薄するや、すれ違い様に切り捨てる。だがそれを喜ぶ暇もない。相手は大隊規模、倒すべき敵は膨大なのだ。
「この速度では逃げ切れんか……だがなぁ!」
斃れた仲間に横目に、それでも前進を試みる擲弾兵。彼女もまた、次なる目標をその兵士へと定めた。
「その戦意には敬意を表します。ですが、無為無策の犬死はしないのではなかったのですか!」
「ああ、そうだ。だからこれは無意味な勝利を手にする為の……意味ある犠牲だ」
漆黒の重刃によって胴を真一文字に断ち切られる、寸前。兵士は対戦車爆弾の照準装置を起こし、発射レバーを押し込んでいた。結希と交錯するように飛び出した弾体は、陣地目掛けて飛翔する。
「っ、不味い!?」
狙いは敵の撃破ではなく、後方の陣地破壊。咄嗟に急制動を掛けるも、彼女には遠距離装備が無い。今から駆け出して間に合うかと歯噛みした、その時。
「……悪いが、戦争は前衛部隊だけでやるものじゃないんでな」
宙空の弾頭を、一発の弾丸が撃ち抜いた。撒き散らされる爆煙を突き破り、姿を見せたのはシキ。その手には硝煙を昇らせる自動拳銃が握られていた。彼は武器を構え直しながら、ちらりと背後を見やる。
「敵の主攻である擲弾兵は俺たちが相手をする。だから焦らなくていい。落ち着いて訓練通りにやれば、敵に引けを取らない力を発揮できるはずだ」
爆煙を突き破ってきたのは彼だけではなかった。大気を引き裂き、雨あられと降り注ぐは無数の弾丸。それは陣地に残った學徒たちによって形成された弾幕射撃である。彼らは猟兵が十全に戦えるよう、相手の動きを止めるべく引き金を引いてゆく。
「すみません、助かりました……!」
「礼は大丈夫だ。それより、大玉を使うためにもう少し距離を詰めたい。前を頼めるか?」
「ええ、勿論です! 切り込みならお任せを!」
學徒たちによって敵の動きが鈍った今、機先を制する為に黒剣士と銀狼が戦場を駆け抜ける。進路上の敵を撃破しつつも突破を優先とし、距離を詰めてゆく。シキは弾倉が空になったことを確認するや、頃合いと見て通常とは色の異なる弾倉を得物へと叩き込む。
「この距離なら届くか……限界まで威力を高めた特注弾だ」
長く足を止めれば、その瞬間に蜂の巣となるだろう。シキは今まさに対戦車爆弾を構えんとする兵士へと瞬時に狙いを定めると、しっかりと地に足を付けて人差し指へ力を籠める。
「反動がキツいのが玉に疵だが……これなら、どうだ?」
刹那、重砲撃も斯くやと言う轟音が戦場へと響き渡った。全身の骨が軋みを上げ、右腕の筋肉に鈍い痛みが広がってゆく。だが、その反動に見合う威力は十二分。特注弾は構えた武器ごと相手を撃ち抜くや、誘爆した火薬の爆発すらも追い風に周囲一帯を破壊で満たす。ごっそりと削り取られた一角を見る限り、二桁に届く兵士を巻き込んだのは確実だろう。
「威力は確かに驚異的だが、不用意に近づきすぎだぞ。Feuer!」
だが威力も派手な分、敵からも見つかりやすい。距離を詰めていた事も相まって、相手は逃がさぬとばかりに残弾も気にせずフルオート射撃を浴びせかけてきた。多重方向からの火線でこちらの動きを縛りつつ、じりじりとにじり寄ってくる。
「本隊近くとあって敵の数が多い。視界を潰して連携を乱すか……いや、あれは」
状況打破の為に、閃光手榴弾で仕切り直しを。そう考えていたシキだったが、敵陣の動きに変化を見つける。それはこちらへ向けられていた敵意が別方向へばらけるような感覚。
「別働隊!? Scheiße、これが狙いだったか。距離が近い、MP40で押し返せ!」
見ると、戦場を迂回していた強襲部隊が敵陣へ取りつくことに成功し、刀や槍を手に浸透戦を開始していたのだ。懐近くまで潜り込まれたとあって、敵もそちらへの対処に迫られているらしい。
「あれは……みなさん、うまく回り込めたんですね!」
「のようだな。こっちへの圧力も弱まった、これならまだやれそうだ」
「ええ、ですね……さぁ、恐れるな! 踏み込め! 切り裂け! 叩きつけろ! 流れを一気にこちらへ引き寄せろ!」
相手も馬鹿ではない、寧ろ強者揃いのはず。この混乱もそう間を置かずに治めるだろう。それまでに出来る限りの敵戦力を削るべく、結希とシキは強襲部隊と連携して敵と渡り合ってゆく。
斯くして開戦のぶつかり合いは、猟兵側優位にて幕を上げるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
鞍馬・景正
戦と勝利への渇望、国も世界も違えど武人の心に相違無しと見た。
存分に争いましょう。
◆戦闘
愛馬に【騎乗】し、【鬼騎乗崩】で先鋒を担わせて頂く。
疾駆しながら敵前列を【視力】で注視。
銃口が揃えられ、発射する瞬間を【見切り】、跳躍。
滞空中に下士官や通信兵らしき者を騎射で仕留めて攪乱。
そのまま彼らの頭上より突入し、間髪入れず斬撃の【衝撃波】で四方の兵を【蹂躙】致しましょう。
反撃はその兆しを【第六感】で察して躱すか、刀による【武器受け】で防御か払い落し。
そうして暴れ回って狙いを集めた隙に、學徒らに切り込みを指示。
後は衝力の続く限り進撃していきましょう。
敵兵諸君、我が首を奪えば殊勲ぞ。
――いざ参れ。
トリテレイア・ゼロナイン
學徒兵の皆様の奮戦で戦線は維持出来ているようですね
趨勢を傾ける為、為すべきを為しましょう
戦争の所望にはお応えしましょう
SSW流なので戦闘教義の違いにはご容赦願いますが
機械馬に●騎乗しUCで敵陣に突撃
バリアの●武器受けと●盾受けで牽制射撃を意に介さず防備を破壊、対戦車擲弾持ちの兵士を一瞬で●踏みつけたり槍で●串刺し
そのまま敵陣で●怪力任せに槍を振り回し、格納銃器での●なぎ払い掃射で一掃
コアマシン確保の為、突入からの白兵戦は亡き帝国の十八番
長年相対した以上真似事くらいは
強襲を立ち直ったと●見切れば●防具改造で装備した煙幕を起動
●目潰しし味方戦陣へ離脱
學徒の皆様には離脱支援と再突撃前の補給を頼みます
●若武者と鋼騎士、双騎駆け
緒戦の衝突は、陽動を買って出た猟兵とそれを活かした學徒による連携で優位に運ぶことに成功していた。だが、相手も戦争のプロだ。浸透強襲に来た學徒たちを短機関銃やシャベルでの白兵戦で跳ね返し、戦線の統制を取り戻しつつあった。
「火点確保、急げ! 守りに回れば、こちらが不利になる。前へ、前へ!」
彼らとしても、このまま後ろへ下がることなど望んでいないのだろう。突撃小銃を手にした兵士たちが小集団となって駆け出し、その後ろより擲弾兵が追従、分散進撃を試みてゆく。
「戦と勝利への渇望、国も世界も違えど武人の心に相違無しと見た……よろしい、ならば存分に争いましょう」
「學徒兵の皆様の奮戦で、戦線も無事に維持出来ているようですね。趨勢を傾ける為、私達も為すべきを為しましょう」
そんな敵前へ悠然と歩み出る二人……否、二騎。片や、藍染の甲冑に身を包み、昼夜を駆け続ける名馬へ跨った景正。片や、白蒼の装甲を纏い、天翔ける機馬を駆るトリテレイア。若武者と鋼騎士、二人の威風堂々とした姿は否が応にも、敵味方問わず視線を惹きつけていた。
「戦争の所望にはお応えしましょう。SSW流なので戦闘教義の違いにはご容赦願いますが……生ぬるい戦いでは物足りないとのこと。然らば全力で参ります」
群れなし迫る敵軍に恐れる事無く二騎は挑みかかってゆく。まず先を行くはトリテレイア。脇に構えた超大型の突撃機械槍後部より、猛烈な勢いで推進剤が吐き出される。それは分厚い航宙戦艦の装甲すら撃ち貫く、今は無き銀河帝国軍の『突撃強襲戦法』である。道中の小集団を蹴散らしつつ、目指すは敵本隊。
「V2ラケーテの後継か何かか、あれは……!?」
「StG44じゃ埒が空かん、MGとパンツァーファウストだ! 早くしろ、一直線に突っ込んで来るぞ!」
それが何か分からずとも、脅威であることは相手も直感したのだろう。最も高火力な兵装で迎撃を試みる。7.92mmモーゼル弾や成型炸薬の破壊力であれば、本来人馬なぞ諸共に肉片へと変えるだろう。しかし、此度は流石に相手が悪かった。展開されたエネルギー力場に身の丈ほどの大盾、生まれ持った装甲は旧時代の兵器を物ともせずに突き進んでゆく。
「コアマシン確保の為、突入からの白兵戦は亡き帝国の十八番。長年相対した以上、真似事くらいは当然出来ましょう……さて、こちらの装甲を抜ける可能性があるのは対戦車擲弾頭くらいですか。ならば、まずはそれを優先して討ち果たしましょう」
擲弾兵が肩に担いだパンツァーファウストの発射レバーを押すよりも早く、トリテレイアは敵陣へ突入すると、繰り出した槍がその胸板を貫いた。その横で咄嗟にMG42の銃口を向けてきた兵士も機馬の蹄で蹂躙しながら、縦横無尽に暴れ回る。
「くそっ、懐まで入り込まれたか! 同士討ちなぞ馬鹿らしいからな、総員着剣! 銃が無ければシャベルを持て! 白兵戦用意、鎧の隙間や関節部を狙え!」
友軍誤射を嫌った兵士たちは小銃の先へ銃剣を取りつけ、或いはシャベルを構えて迎撃態勢を整える。それは差し詰め、中世の槍衾を思わせた。そんな超至近戦へと移行した戦場へ。
「……ならばこちらもサムライエンパイアで鍛え上げた技の冴え、弓馬刀槍すべてが合わさった武士の神髄をお見せしよう」
夙夜に跨った景正が第二の矢と化して飛び込んできた。速度と耐久性に長けたトリテレイアが戦線をこじ開けた突破点を駆け抜けてきたのである。
「今度は生身の馬だと……そんなもの、時代遅れのブジョンヌイだけで十分よ!」
未来技術の塊であった鋼騎士は兎も角、この若武者に後れを取るのは矜持が許さぬのだろう。銃剣での刺突という受けではなく、そのまま発砲し今度こそ鏖殺せんと殺意を迸らせる、が。
「練り上げられた武威に時代の新旧は関係なし。強いものはただ強い、それだけだ」
斉射に一拍先んじて騎馬を跳躍させるや、景正は弾雨を文字通り飛び越えた。呆気に取られる敵兵を見下ろしながら、彼は弓へ矢をつがえる。狙うは前線の頭脳たる下士官や、軍の耳目である通信兵。五人張りの剛弓より鎮西八郎も斯くやという迅矢を次々放つと、余りの威力に相手は地面へ縫い止められたまま絶命した。
「火縄に槍衾如き何するものぞ、武家の戦を見縊るな!」
そのまま相手の兵士を数名纏めて踏み潰しながら着地すると、得物を大小二振りの刃へと持ち替える。左手で片切刃造の脇差を振るえば突撃銃剣を半ばより寸断し、右手の濤乱刃造りの太刀を鞘走らせれば防毒面ごと兜首が舞い落ちてゆく。愛馬へは両足の踏ん張りで指示を出し、その動きには些かの乱れも無かった。
「敵兵諸君、我が首を奪えば殊勲ぞ――いざ参れ」
刃を振って血糊を振り払う若武者。その姿に、兵士たちも旧時代の遺物と言う認識を改める。彼らは似たような手合いを見たことがあった。
「ちぃっ! こいつ、単なる騎兵崩れではない……ジャック・チャーチルのような手合いか! かは、はははっ! 全く、どこまでも忌々しく懐かしい!」
突撃銃剣を破壊された兵士が、シャベルへと得物を持ち替えて挑みかかってくる。単なる工具と侮るなかれ、鋭い先端は斧や槍に劣らぬ威力を持ち、長柄としての取り回しやすさも折り紙つきだ。リーチを生かしつつ、兵士は甲高い金属音を響かせて景正と打ち合ってゆく。
「立ち直りの速さは敵ながら見事。適度な所で後退も視野に入れるべきでしょうか……そちらも、援護は必要ですか?」
内臓銃器で当たるを幸いに敵をなぎ倒しながら、トリテレイアは傍らの景正へそう問いかけた。奇襲や電撃戦の肝は速度以上にその衝撃力に在る。そしてそれは時間経過と共に失われゆくもの、引き際を見誤れば包囲されかねない。
「気遣い痛み入りますが、心配ご無用です。射撃戦であれば兎も角、この間合いで後れは取りません。それに……援軍も来たようです」
だが、若武者は兵士と切り結びつつ問題ないと返す。その視線は自らの後方へ。果たして、戦場へ第三の矢が到着する。鬨の声を上げて飛び込んできたのは、近接戦を主体とする學徒たちであった。
「ここに来て敵の増援、しかも真正面から!? 観測班は何をしていた、こちらには情報が何も……そうか、貴様ぁッ!」
兵士の表情に浮かぶのは驚愕、次いで赫怒。景正が初手に行った狙いが情報の寸断であると気付いたものの、時すでに遅し。突入してくる學徒たちによって、敵兵は次々と討ち取られてゆく。
「いまの彼らならば一方的に打倒される恐れも無いはず。ここは一度退いて、再度衝力を得るべきでしょうか」
「ならば、最後に少しばかりの支援を。學徒の皆様であれば無駄なく活かせましょう」
馬首をめぐらして後退を開始しながら、トリテレイアは外付けされた煙幕弾を一斉に展開、相手の視界を奪いながら戦線を後にする。ややもすれば同士討ちを引き起こしかねないが、いまの學徒であればそのようなミスは犯さないと確信を以て断言できた。
「相応の数を討ち取れましたが、それでもなお相手の戦力は多い。戦いも長引くでしょうし、こちらは一度補給を受けます」
「ええ、その方がいいでしょうね。私も矢の残数が心許ないですし……それに、戦術的にはまだ大きな傾きも無い。引っくり返される余地はまだまだ大きいでしょう」
陣地目指して駆けるトリテレイアと景正はちらりと背後の戦場を見やる。局所的勝利を収めてはいるが、敵の本体戦力は未だ健在。戦術如何によっては切り返されてしまうだろう。
まだまだ予断は許されないと気を引き締めながら、二人は後方へと舞い戻るのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
九重・灯
人格が「オレ」に替わる。
少人数でのバケモノ退治だったら手慣れたもんだが、戦争は専門外だ。
さてどう攻め込む?
(『いいえ、わたし達には他にできることがあります』)
頭の中にもう一人の自分の声が響く。
……派手な活躍はお預けか。まあ、たまには良いだろ。
UC【まどろむ仔猫の匣】。かたわらに匣が浮かび上がり、蓋が開く。
「匣の中で視る夢は、時に現を書き換える」
陣地が築かれる所を「オレ達」は視ていた。
いくらでも直せるし作り出せる。多少荒いが必要十分だろう。
『地形の利用5』『戦闘知識1』
陣の前面で破損部の修復や増設。新たに弾よけの壁なんかも設置してやる。
「踏ん張れよ學徒共! オマエらが帝都を守るんだろうが!」
秋津・惣次郎
戦慣れしている…流石だな。
しかし凄まじいものだな、猟兵の一騎当千ぶりとは。
1章に引き続きUCにて部隊を召集、今回は陣地に野砲を配置して効力射にて敵を叩く。防衛戦における火砲陣地の力を教えてやる。
砲兵、12時の方向敵集団!弾種榴弾!一斉射、撃てぇッ!
火砲の一斉射撃を受けて後退する連中とは思えない。ならば堪らず前進してきた連中を打ちのめす為に學徒と連携して機関銃、小銃一斉射撃、弾幕を張る。
総員撃ち方始め!敵兵の突出を許すな!火砲の効果範囲に押し留めよ!
とにかく分厚い正面火力で押す。火砲と弾幕で敵の戦列が瓦解したなら一斉突撃、白兵戦へと持ち込み殲滅する。
総員着剣、喇叭吹鳴「突撃」!総員突撃!
●砲兵は神なり、工兵は使徒なり
「……ほぉう、學徒たちも存外上手くやってるな?」
戦線後方、遠距離戦や支援を担当する學徒たちが詰める陣地本陣。そこから身を乗り出し前線の様子を見ていた灯の口調は、戦闘前と打って変わって荒々しい男性的なものへと変化している。ひょんなきっかけから生まれた、もう一人の別人格。それが表へと出ている証左に、掛けられていた眼鏡は胸元へと仕舞われていた。
「オレたちも少人数でのバケモノ退治だったら手慣れたもんだが、戦争は専門外だ。さて、どう攻め込む?」
(――いいえ、わたし達には他にできることがあります。わたし達だからこそ取れる一手が)
「オレたちだからこそ?」
敵の動きを見つめながら、攻め手を考えていた灯の脳内に声が響いた。それは体の支配権を譲り、己が裡へと潜った主人格の意識である。もう一人の自分の言葉に眉を潜める別人格だが、続けて流れ込んできた思念にああと腑に落ちた様に頷く。
「……派手な活躍はお預けか。まあ、たまには良いだろ。それに、いつまでもここが安全って訳でもないだろうしな」
肩を竦めつつも、灯の顔に浮かぶのは不敵な笑み。傍らにそっと二十センチ四方の箱を生み出すと同時に、陣地全体を揺るがす様な轟音が響き渡るのであった。
「動きに迷いが見られん。実に戦慣れしている……流石だな。しかし、それにも増して凄まじいものだな、猟兵の一騎当千ぶりとは」
――時は少し巻き戻り。
惣次郎もまた、陣地より戦場を見やっていた。敵の動きは彼の目をしても見事と呼べるものだ。機械じみた正確さを発揮している一方、なまじ死の恐怖が無い為か大胆さも兼ね備えている。
だが、それを圧倒するのが猟兵の働きであった。前衛の學徒たちと共同しての切り込みや騎兵突撃による敵陣蹂躙など、まさに八面六臂の働きと言える。だが如何せん、一度に相手取れる敵数は十余りが精々。敵数に殲滅速度が追い付いていないのだ。
「相手は大隊規模。点で攻めていても埒が空かんな……であれば、やはり面制圧が必要か。良いだろう、防衛戦における火砲陣地の力を教えてやる」
惣次郎がさっと軍刀を抜き放つと、金属同士の擦り合う音が無数に上がる。それは巨大な二輪に据え付けられた野戦砲であった。陣地作成時、運び込ませた装備の一つだ。上官の指揮の元、集った兵卒が弾薬箱より砲弾を取り出し、砲身内へと手早く装填し閉鎖機を閉じてゆく。
「砲兵、目標は十二時の方向、敵集団! 弾種榴弾! 一斉射……撃てぇッ!」
準備が整えばもはや躊躇う必要などない。切っ先が振り下ろされるや、野戦砲が文字通り火蓋を切る。轟音と共に砲身が後退し勢いを吸収、その先端より硝煙と共に砲弾を解き放った。それらはひゅるひゅると風切り音を響かせながら、放物線を描いて敵本隊へと降り注ぐ。
「っ、敵砲撃ィッ! 固まるな、纏めて消し飛ばされるぞ! 散開だ、散開し……がぁああああっ!?」
『砲兵は戦場の神である』というのは有名な一節であり、それだけ味方に頼られ、敵に恐れられた存在であることを示している。当然、敵部隊も砲撃を素早く察知し互いに距離を取るも、身を隠す掩体や塹壕の無い校庭では出来る事などたかが知れていた。着弾と共に吹き荒れる破壊の嵐に、為す術もなく兵士たちは呑み込まれてゆく。
「油断するな、次弾装填ッ! 火砲の一斉射撃を受けたとしても、それで容易く後退する連中とは思えない……否、寧ろ」
共に守りについていた學徒たちがその威力に感嘆の声を上げるも、惣次郎は決して楽観視していなかった。相手にとってこの砲弾雨こそが日常だったのだ。その脅威が身に染みている以上、次に取る一手は明白だ。
「前へ、前へ、前へッ! 砲を放置すれば、その時点でこちらの勝ち筋は消える!」
「何としてでも破壊せよ、何としてでもだッ!」
濛々と立ち込める土煙を突き破り、血と埃に塗れた兵士たちが次々と飛び出して来る。彼らの狙いは当然、陣地の野戦砲群。MG42本体と弾薬箱を抱えた兵士が砲弾痕へ飛び込むや身を隠しながら射撃を開始し、その支援を受けた兵士が短機関銃で銃弾をばら撒きながら吶喊してくる。
「総員撃ち方始め! 敵兵の突出を許すな、狙いは野砲の破壊だ! 火砲の効果範囲に押し留めよ!」
土嚢へ吸い込まれた弾丸が鈍い音を放ち、思わず學徒たちが首を竦める。だが惣次郎の厳声が訓練で叩き込まれた動作を思い出させ、彼らもまた応戦を開始した。一人、また一人と兵士が斃れてゆく、が。
「むぅっ、誰も彼も始めから決死の心積もりか! それは貴様らが忌み嫌った共産主義者の所業そのものだろう!」
「かっは、はははは! 生憎と我々は国防軍だ、武装親衛隊ほど政治信条に染まっちゃいない! 使えるものは何でも使うさ!」
相手はそもそも、端から自らの命を計算に入れていなかった。弾丸を一身に浴びながらも、点火した柄付き手榴弾を陣地内部へと投げ込んでゆく。立て続けに炸裂する爆発こそが、彼らの成果であった。
「っ、被害報告急げ!」
「學徒側の被害は軽微。ですが、今ので野砲に破損が……予備部品も爆破の余波で損傷!」
報告を受けた惣次郎が見たものは、幾つかの部品が破損した野砲。大破とまでいかないが、このままでは射撃能力が大幅に落ちてしまうだろう。部品も無くどうすべきかと歯噛みする彼の元へ。
「お困りの様だな、憲兵中尉殿? ここはオレに任せて貰おうか」
陣地奥から声を掛けたのは、混乱を聞きつけ急行してきた灯であった。彼女は素早く野砲へと駆け寄ると、破損個所と壊れた予備部品へと素早く視線を走らせる。
「陣地が築かれる所を『オレ達』は見ていた。当然、この野砲が運び込まれるところだってな」
(大きさはギリギリだけど、箱の中に納まるサイズ。これなら幾らでも直せるし、作り出せます)
破損した部品は重要な部分であるものの、幸いにもそこまで大きくない。であれば問題は無いと、彼女達は判断する。身体は一つなれど、宿る心は二つ。見る物、記憶する光景も常人の倍だ。故にこそ、より正確にそれらを再現することが出来る。
「匣の中で視る夢は、時に現を書き換える……微睡む仔猫よ、重なり合う可能性を結べ」
灯の傍らに浮かび上がっていた箱、それがゆっくりと展開してゆく。揺蕩う輝きに満ちた底から転がり出て来たものは、破損した部品とそっくりそのまま同じ姿をしていた。
「これならどうだ。新品同前、品質も問題ないはずだぜ?」
「済まない、助かった。これならば……學徒諸君、野砲修理の時間を稼いでほしい! 幸い相手の陣形は乱れている! 総員着剣、喇叭吹鳴『突撃』! 総員突撃、押し返せ!」
部下がそれらを使い早速修理を始める横で、惣次郎は學徒たちへ切り込みを命ずる。部品を取り換え、組み立て直す時間をどうしても生み出す必要があったのだ。野砲火力をその目で見た學徒側もその重要性を理解し、一も二も無く前へと飛び出してゆく。
「こっちも出来る限り支援してやるから、踏ん張れよ學徒共! オマエらが帝都を守るんだろうが!」
一通りの修理部品を出し終えた灯もまた、學徒に続いて陣地の前面へと飛び出す。彼女の狙いは直接敵と矛を交える事ではない。目的は陣地そのものへ手を加える事だ。
「また野砲を狙われちゃ堪らないし、學徒共の安全だって不十分だ。物がデカい分多少作りも荒いが、取り急ぎならこれで必要十分だろう」
取り出されたのは鉄条網が巻かれた木杭の束や、のぞき穴のついた複数枚の鋼板。灯はそれを前面へと打ちつけ、土嚢に備え付けてゆく。これならば手榴弾を投げ込める位置までの進軍を鈍らせ、投擲されたモノを弾き返すことも可能なはずだ。
「オレたちが手塩にかけたこの陣地、そう易々と落とさせやしないぜ?」
修復を終え、砲撃を再開した野砲群。その轟音を聞きながら、灯は誇らしげに胸を張るのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
芥子鴉・芙蓉
さて、ついに始まってしまったが……まぁ、わらわの本文は医者じゃ。そして幸いにも猟兵としてそれなりの戦闘能力も備えておる。ならば、本来ならば厳しいであろう前線での医療活動を行おう。
[見切り][残像][第六感][武器受け][激痛耐性]を総動員しながら流れ弾などを捌きつつ医療活動が行えるギリギリのラインまで出張り、負傷している学徒や猟兵を相手にわらわの[医術]が大活躍!してくれれば御の字なんじゃがの。
負傷者の数が多い場合、フィトンチッドが届く範囲の対象にUCを使って傷の治療じゃ。戦闘力の増加はおまけじゃよ。
まぁこんな感じで、継戦能力っていうのかの?そんな感じのヤツの維持に少しでも貢献できれば幸いじゃ
●誓いを守り、約定を破らず
銃弾が飛び交い、砲弾が地面を耕し、雄叫びが響き渡る。砲撃を契機に戦局は猟兵側優位に傾きつつあったものの、さりとて全くの無傷で事が運んでいる訳では無かった。
「さて、ついに始まってしまったが……まぁ、わらわの本分は医者じゃ。そして幸いにも猟兵としてそれなりの戦闘能力も備えておる。本来ならば厳しいであろう前線での医療活動も行えるからの」
互いに殺意を持った者同士の殺し合い、無血で事が済むなど在り得ない。幸い桜學府側は未だに死者こそ出ていないものの、それでも斬傷銃創、打ち身に火傷など様々な怪我を負った學徒が前線より後送され続けている。
そんな中、後方での治療は衛生兵だけで賄えると判断した芙蓉は単身前線へと赴いていた。彼女とて猟兵、學徒らであれば危険すぎる戦場もこの闇医者であれば踏破できる。
「流石に敵が近いと攻撃も激しいのぅ。じゃが、こんな場所に負傷者を放置なぞ出来んじゃろ。相手も陣地を作るような余裕も無いようじゃし、移動はそこまで苦でも……」
ないのぅ、と芙蓉が言いかけたその時。
「余りこの手は使いたくなかったが、野戦砲まで持ち出されては是非も無し」
「ただ、えっちらおっちらシャベルや鶴嘴を振るう必要が無いのだけは助かるな……総員傾注、塹壕展開に備えよ!」
敵軍の警告と共に、ズンと戦場に地響きが広がる。すわ何事かと目を剥く彼女の眼前で地面が見る間に落ち窪むや、一瞬にして複雑な塹壕線が構築されたのだ。
「これは不味いのぅ、今ので學徒の部隊が幾つか巻き込まれたようじゃ!?」
塹壕内は敵の領域、その内部で孤立すれば死は避けられぬだろう。芙蓉は内部へと飛び込み、出口への道順を記憶しながら友軍の救助へと急行する。
果たして、突入より程なくして彼女は傷だらけの部隊と合流することに成功した。どうやら敵部隊を振り切ったものの、傷を負って動けなくなってしまったらしい。
「これはまた数が多い。じゃが幸い、まだ手遅れではないようだの。これなら……」
彼女は手持ちの医療器具で手早く応急処置を施しつつ、体から草花の甘くも爽やかな香りを醸し出してゆく。それは傷を癒し、肉体を賦活させる自然の恵みであった。
「わらわ印のドーピングじゃよ。さぁ、これなら自力で動けるかの? 出口までの道を教える故、一度後退するのじゃ」
學徒たちは礼を述べつつ、芙蓉の元来た道を辿って離脱してゆく。これで一先ずは安心かと一息つくも、彼女の嗅覚が鉄錆の様な匂いを嗅ぎ取る。それは慣れ親しんだ血の臭い。発生源を辿ると、夥しい量の血を流した學徒が塹壕の片隅で蹲っていた。どうやら仲間とはぐれたところを狙われたらしい。
「これは酷いの……応急手当てじゃ間に合わん! 陣地で本格的な治療を行わねば」
応急の止血を施し、肩を貸して立ち上がらせる芙蓉。覚束ない足取りで出口を目指し進む彼女の前へ。
「貴様、猟兵かっ!」
「っ、不味い!?」
最悪のタイミングで敵兵士が現れた。咄嗟に銃口を向けられるも、負傷者を背負った状態では回避はおろか防御も儘ならない。絶体絶命かと思われた――が。
「Scheise!」
がちん、と。引き金が半ばで止められたことによって、弾詰まりを起こした小銃が軋んだ金属音を響かせた。兵士は槓桿を引いて排莢すると、そのまま銃口を下ろす。
「……射たんのかや?」
何故と訝しげに問いかける芙蓉へ、兵士は首を振る。
「流れ弾に当たるのは仕方がない、そこまでの保証はせん。だが、視認したのであれば衛生兵を撃つべきではない。条約違反だからな……ま、イワンどもは批准していなかったのできっちり撃ったが」
「こちらとしては助かるが、死んでからも律儀じゃのぅ。もちっと息を抜けんかったんか。そんな堅苦しくては昔も生き難かったじゃろ」
「ああ、然り。だからこそ、こうして彷徨い出ているのだろうさ……さぁ、とっとと行け!」
そうして走り出す敵兵とすれ違いながら、芙蓉は無事に塹壕出口まで辿りつく。彼女はそのまま陣地へ向かいつつ、ちらりと背後を見やった。
「……本当に不器用な連中じゃな。全く、戦争なぞするもんじゃないのぅ」
そんな彼女のボヤキは、戦場の騒音に溶けて消えるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
陰樹・桧
勝利の実感、譲るわけにはいきませんね。
生き残るのは私達だけです。
敵の機関銃による弾幕を止める必要がありますね。
火点の側面へ回り込みMG42の射手を優先して狙い【霊木徹甲弾】で撃ち抜きます。
敵がこちらへ射撃を集中してきたら遮蔽物を盾に応射しつつ、味方の射手に敵を側面から狙ってもらいます。
逆に味方に敵の射撃が集中してしまう状況なら、私が敵の火点へ接近し攻撃。
対処の隙を与えないように敵戦力を一気に切り崩してしまいたいですね。
拳銃の一発が機関銃の掃射より脅威となり得ること、証明してみせます。
※連携アドリブ歓迎
ジフテリア・クレステッド
※アドリブ・連携歓迎
はい、皆さん。本番ですね。そしてなんか色々言ってましたが全部無視してください。全て負け犬の身勝手な遠吠えです。世の中、会話する価値のない相手がいるということは私の方が皆さんよりよく知っています。さくさくと駆除していきましょう。ハッキリ言って私を相手にするより楽だと思うよ。
【忍び足】で気配を消して建物に隠れたりしながら【スナイパー】ライフルで敵を【暗殺】していく。【毒使い】である私謹製の汚染毒弾でね。【サバイバル】は得意なので見つかりそうになったら場所を変えて同じことを繰り返す。學徒兵の援護、【救助活動】も忘れない。
矜持とか知らない。殺しに来る相手は殺す。それだけだよ。
●戦場の死神は亡者を射抜く
「なるほど……あんなものまで引っ張り出してきましたか。これはちょっとばかり面倒ですね」
火砲による面制圧射撃を受け、堪らず縦深武装塹壕線を展開した擲弾兵大隊。こうなれば戦線が膠着すると厭いながらも、敗北よりかはマシであると使用に踏み切った様である。そんな相手の塹壕線を一通り眺めると、ジフテリアはさてどう攻めたものかと考えあぐねている學徒たちへと向き直った。
「はい、皆さん。本番ですね。そして相手がなんか色々言ってましたが全部無視してください。全て負け犬の身勝手な遠吠えです」
にべもなく相手の望みも願いもばっさりと切り捨てるジフテリアだが、それもさもありなん。勝利だのなんだのと、それは全て相手の言い分に過ぎない。何もかも既に終わった事なのだ、斟酌する必要はないと彼女は言う。
「世の中、会話する価値のない相手がいるということは、私の方が皆さんよりよく知っています。あの手の連中は本質的に脳筋です、さくさくと駆除していきましょう……ハッキリ言って私を相手にするより楽だと思うよ?」
「とは言え、塹壕を真正面から突破するのは相応に困難です。まずはこちらが先行しましょうか……勝利の実感、みすみす彼らに譲るわけにはいきませんね。生き残るのは私達だけです」
塹壕線へ立ち向かい、屍山血河を築いてきたのは歴史の通り。流石にそのまま挑ませるのは酷だ。ジフテリアの言葉を継いだ桧は、威力偵察を行うことに決める。敵陣容の把握と脅威の排除は必須だ。二人はそれぞれの得物へと初弾を装填し、學徒たちへ牽制射を頼みながら行動を開始する。
「まずは敵の機関銃による弾幕を止める必要がありますね。可能であれば下士官なども無力化しておきたいところですが」
「そうですねー。ただ、真正面から突撃して無駄な傷を負うのも馬鹿らしいし、こちらも少しばかり臆病にいきましょうか」
桧とジフテリアの得物は共に銃器、加えて二人とも非常に小柄である。となれば、有効な手は一つ……狙撃戦である。彼女らは塹壕展開によって生じた地面の起伏や戦闘の余波によって打ち捨てられた残骸に身を隠しながら、ジリジリと塹壕線へとにじり寄ってゆく。
「十時方向、兵士をどやしつけている奴が居ますね。恐らく、あれが分隊レベルの指揮官かな?」
ジフテリアは土嚢が積み上げられた一角で、身振り手振りで部下を動かしている下士官を発見する。その態度と周囲の様子から察するに、彼女の見立てはまず間違いないだろう。
「そのすぐ側には機関銃手も居ます。私の射撃は特性上隠密には向きませんから、ここは一度二手に分かれましょう。狙撃方向を誤認させられれば、相手の混乱も狙えますし」
「オーケー、それでいきますか」
スッと起伏より銃口を覗かせて射撃体勢に入るジフテリアを横目に、桧は再び移動を開始する。狙うは丁度、互いの射線が垂直に交わる地点。十字砲火は古今数多の敵を屠った黄金手だ。彼女は適切な位置に陣取ると、遠方のジフテリアと視線を交わし合い射撃のタイミングを合わせる。
「……矜持とか知らない。殺しに来る相手は殺す。こっちはただ、それだけだよ」
「拳銃の一発が機関銃の掃射より脅威となり得ること、証明してみせます」
響く銃声は一発、飛翔する弾丸は二発。緑光を曳く拳銃弾と、大気を裂く無音なる死が、それぞれの獲物へと牙を剥いた。
「撃て、撃て! 守勢に回るのは業腹だが、数そのものはこちらが勝る! 金剛石で津波は止められん、着実に削りと……」
着弾の際、悲鳴すら上がらなかった。鋼鉄製のフリッツヘルムを貫き、狙撃銃の弾丸が頭蓋の中身をまき散らさせる。またそれと同時に緑の輝きが視界を焼いたかと思うや、ピタリと機銃射撃が停止する。はっとそちらを見やった兵士の見たモノは、握把を握ったままぐったりと倒れ伏した仲間の姿。
「これは……狙撃だ! 狙撃手が居るぞ、弾はどの方向から来た!」
「一発は見えた、ありゃあ目立つからな! 頭を上げさせるなよ!」
上が斃れたとしても、すぐその次が指揮を取れるのが階級社会の強みだ。別の兵士が機関銃へ飛びつくや、弾道が分かりやすかった桧の居る方角へと銃弾をばら撒いてゆく。身を隠す起伏が瞬く間に7.92mmモーゼル弾に削り取られてゆく、が。
「そうやって何かに固執して、分かりやすい動きをするってのは減点かな。さっさと損切りするのも、時には必要だよ」
再びの狙撃が機関銃手へと吸い込まれる。今度の射手はジフテリアだ。使用した弾丸も自らの発する毒を凝縮した汚染弾。それらは着弾と共に毒素をまき散らし、MG42の使用そのものを封じてしまった。
「毒ガス、それも防毒面で防げぬ類だと……! ええい、StG44でも狙撃は出来る。カウンタースナイプだ! あちらにスコープの反射が見えたぞ!」
「おや、見つかったか。だけど狙撃合戦に付き合う必要もなし。臆病なのが長生きの秘訣ってね?」
スコープも無しに距離のあるジフテリアを狙い撃てるのは流石ではあるものの、それに応じてやる義理は無い。彼女は地面を這いつつ後退すると、別の場所へと移動を開始する。
対する桧も後ろへ退きながら、ハンドサインで後方へと合図を出していた。塹壕攻略のネックであった機関銃を潰すことに成功したいま、學徒を投入する状況が整ったのである。
「敵はこちらへの警戒にリソースを割いています。今ならば、塹壕へ接近することも可能なはず。皆さんは側面からの侵攻をお願いしますね」
指示を受け、それまで待機していた學徒たちが一斉に動き出した。小銃火器を手にした部隊が側面より弾幕を張り、敵の頭を上げさせぬよう連携し合いながら攻勢を強めてゆく。また弓やクロスボウといった武器も原始的ではあるものの、静音性と曲射弾道によって塹壕内で身を潜める相手を頭上より射抜いていった。
「……訓練の成果が出ているようでなによりです。心配だった連携もしっかりと取れていますね」
「あれだけスパルタでやったからには、そうでなくては困りますよ。痛みは死ぬ程苦しいけど、死そのものよりは断然マシですから。まぁ、それでも援護は必要だろうけど」
一度合流し、戦況を見定める桧とジフテリア。こうも横合いから殴られれば、相手も狙撃手狩りにばかり人手を割り振り続ける事も難しいだろう。だが塹壕と言う地の利は依然として相手側に在る。押し返されたり、孤立する者とて当然出てくるはずだ。
「私は引き続き狙撃を続けるつもりだけど、そっちはどうする?」
「こちらはもう少し距離を詰めて、味方との連携を密にしようと思います。塹壕内に入れば交戦距離も縮まりますし、この勢いで敵を突き崩してしまいましょう」
そうして彼女らは再び別れ、それぞれの戦闘へと舞い戻る。塹壕には、無数の銃声が響き渡るのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ペイン・フィン
【路地裏】
敵、来たね
あいつらが、相手か……
まあ、なんとかなるよ
コードを使用
負の感情を食べて、怪我しないように、しっかり護る
……学生達、訓練したとは言え、まだまだ、不安だからね
ついでに、不安とか、恐怖も食べて軽減しようか
……?
あれ、この感情は……
食べ、感じた感情は、焦げ付いた"悔悟"
不安や恐怖に混じって、かすかに、でも確かに感じる
認められない悔しさを
終わりたくなかった苦しさを
ああ、そう、そうか……
負の感情を食べる範囲を、戦場全体まで拡大
彼らからも、負の感情を食べよう
護る対象には、しないけどね
……余計なお世話だけど
消えるにしても、行くにしても
その先に、要らないものを、持って行かないように……、ね
勘解由小路・津雲
【路地裏】4名
ついに来たか。ふむ、戦士の誇りと戦場の狂気のはざまにたゆとうておるな。
狂気にとらわれたあんたらを勝者にするつもりはないが、誇りに応えて手加減抜きでお相手しよう。
【戦闘】
【八陣の迷宮】を使用。霊符は事前に戦場に散らばらせておく、あるいは學徒たちに持たせておく。
そして迷宮は、防壁としてではなく、ファンの水攻め・電撃攻めのあとから、塹壕に蓋をする形で使用。(の予定だが使用タイミングアドリブOK)
……いいや、単なる蓋ではない。塹壕にたまった水そのものを【属性攻撃】で敵ごと凍らせる形で、結界の迷宮を展開しよう。
「ヴァルハラ? どうかな。むしろほら、ニヴルヘイムがお前達を待っているようだぞ」
ファン・ティンタン
【WIZ】温故知新
【路地裏】4名
アドリブ可
さて、頭の螺子の外れた諸君、ヴァルハラは彼方だ
寄り道で生者に構ってなんぞいないで、さっさと逝きたまえ
実は、私、近代戦争の素人なんだよね
あれこれ言ってはみたけれど、ほとんどハッタリだったり
でも、旧来の兵法も割と捨てたモノじゃないよ?
敵位置が地表面より低いなら、古来より水攻めの出番
【精霊使役術】
ウンディーネ、手を貸して頂戴、奴らを過去の栄光に溺水させるよ
っと、味方被害が出ないよう指揮系統への連絡は密に
水源の無い場所で水攻めは卑怯?
知るか、どこからともなく塹壕戦線伸ばし来るあなた達も大概だよ
水を介し【生命力吸収】
【歓喜の細剣】も【投擲】、雷【属性攻撃】で追撃
落浜・語
【路地裏】
やー…まだ鏡開きしたばかりで、盆は先だってのに気の早いこった
なんて軽口でも叩いていた方が、学生さんらの空気も重くならなくていいかなぁと
UC『誰の為の活劇譚』を使用。
「桜の花散る 帝都にて、繰り広げられますは、かつての再現。
不要な戦は求めてないと 迎撃しますは 桜學府と猟兵方
此度語るは 帝都を護る方々の 話にございます」
味方を強化することも目的なんだが、大分前にやった応用だ。
【情報収集】をして戦況を周囲に知らせる事も多少なりとも考えながら語る。
士気が下がることはないとは思いたいが、そうなりそうなら少々大袈裟な【パフォーマンス】の要領で、騙り【鼓舞】する。
プロパガンダは怒られそうだけどな
●今再び、縦横無尽の穴倉へ
「第三、第四分隊連絡途絶! 第二中隊指揮官戦死、副長が指揮継続! 中央本隊より小隊戦力を抽出し、戦線崩壊地点へ向かわせます!」
「各隊損耗率、四割超える! はっ、影朧になって怪我だのなんだのに縁は無いはずなのにこれか……次の戦術予備で空ッ欠だ、精々上手く死んでこい!」
砲撃が土煙を上げ、硝煙と共に空薬莢が地面を埋め尽くす。塹壕線を展開した敵陣地へ猟兵に率いられた學徒たちが次々と突入し、戦況は混沌を極めつつあった。
「ついにここまで来たか。趨勢もいよいよ佳境と言ったところ、幾多の魂が戦士の誇りと戦場の狂気のはざまにたゆとうておるな」
「やー……まだ鏡開きしたばかりで、盆は先だってのに亡者共も気の早いこった。ま、一回同じような戦場を体験しているし、少しばかり気は楽だがね」
前線が押し上げられ、敵の塹壕近くまで進んでいた津雲はそこへ満ち満ちる思念の渦を如実に感じとる。兵士の規律、騎士の道、人間の闘争心。それらが一体となった混沌が渦を巻いている。
一方、横で肩を竦める語はそれを聞いたうえで気軽げなものだった。その仕草には肩を並べる學徒たちの緊張を解すという意味合いも当然あるが、既に一度似た戦場、近しい敵と渡り合っていた経験にも由来しているのだろう。
「敵、来たね。あいつらが、相手か……以前の武装兵よりも、練度と装備は、高そうだけど……まあ、なんとかなるよ」
そして、それはペインも同じ事であった。鉄風雷火が待ち受けようとも、やるべき事は変わりなし。寧ろ人間の持つ負の側面と言うのであれば、彼はより陰惨な黒を知っているのだから。
怒声と幾つもの足音が遠くより聞こえ始める。恐らく、物見の兵が彼らを見つけたのだろう。数瞬もせずに現れるであろう敵群を予感しながら、ファンは戦場の空気そのものへと決別を告げる。
「さて、頭の螺子の外れた諸君、ヴァルハラは彼方だ。亡者の道行きなど、一人で歩むものだからね。寄り道で生者に構ってなんぞいないで、さっさと逝きたまえ」
刹那、途切れぬ事のない銃声が四人へと襲い掛かかるのであった。
「まずは、守りを固めようか。数的には、こっちが不利、だし……学生達、訓練したとは言え、まだまだ、危ういからね。ついでに、不安とか、恐怖も食べて軽減しようか」
「軍歌軍楽、戦の華ってな。士気を上げるってんなら、こいつも有効だろ?」
そこかしこで木端や土煙を上げて着弾する弾幕を掻い潜りながら、まずペインと語が行ったのは防御能力の底上げであった。物理的に攻撃を防げるようになればそれだけで損耗率は低下し、戦意が向上すればより粘り強い戦い方が出来るようになるだろう。
呼吸するように戦場を満たす濃密な感情を取り込み始める青年を横目に、噺家は断続的な砲音に負けじと声を張り上げ言の葉を紡ぎ始める。
「桜の花散る帝都にて、繰り広げられますはかつての再現。不要な戦は求めてないと、迎撃しますは桜學府と猟兵方。来りし敵は鉄十字を背負いし亡者の大隊。此度語るは帝都を護る方々の話にございます!」
敵中で大声を上げるなど、本来であれば狙ってくれと喧伝している様なもの。だがそうして身を晒す姿は騙りの内容も相まって、學徒たちの背を押し上げてゆく。
「あとは、學徒たちの恐れも、取り除ければ……? これは」
その様子を見届けながら、ペインはふと自らの取り込んだ負の感情に微かな引っ掛かりを覚える。痛みへの恐怖や死に対する不安。そう言ったある種見慣れた想いに混じるのは、硝煙の如く焦げ付いたような香り。それはきっと――悔悟。
(ああ、そう……そうか)
彼はそれがいったい誰のものなのか、直感できてしまった。何故、彼らはこうして現世に転び出たのか。何故、勝利に固執するのか。それに意味などないと、自らの口で幾度も発しているにも拘らず。それは兵士たちがそうせざるを得なかった、遥か昔に終わってしまった始まりの残滓なのだろうか。
「認められなかった、終わりたくなかった。それが勝敗なのか、命なのか、戦争なのかは、本当の意味で理解はできない、けど……」
其処へ少しでも近づくために、赤髪の青年は感情を汲み上げる範囲を広げてゆく。そしてそれは、影朧である敵の動きも大まかではあるが読み取れることも意味していた。
「その手の厄介さは、ゲッペルス宣伝相でよく理解している。言葉は時に百の弾丸よりも脅威となることをな。だが、些か以上に目立ち過ぎだ!」
物陰から飛び出して来た数名の兵士が、腰だめに構えた短機関銃から分間五百発の勢いで弾丸をばら撒いてゆく。本来であれば数人纏めて打ち倒すに十分な威力、だが。
「……来ることは、分かっていたから、ね。いま動けないから、相手を、頼めるかな?」
「勿論。あれじゃあ銃剣だって取り付けられないだろうし、すぐに片を付けようか」
語は当然、周りの面々へも吸い込まれた弾丸はかすり傷すら付ける事無く弾き返された。ペインによる護りの効果、それも来ると事前に分かっていれば抜かれる事など在り得ない。彼は自らが動けぬ代わりに攻め手を仲間へと託し、白き刃がそれを快諾し飛び出してゆく。
「……実は、私、近代戦争の素人なんだよね。さっきは物知り顔であれこれ言ってはみたけれど、ほとんどハッタリだったり。でも、旧来の兵法も割と捨てたモノじゃないよ?」
「近っ、ぐ、ぉおおおおっ!?」
塹壕内は兵員の行き来が出来るとはいえ、到底広いとは言い難い。ファンは相手の銃撃を護りで強引に押し退けながら、取り回しの良い小太刀を抜き放って斬り掛かる。銘無き刃は同じ名も失われた兵士たちの命を穿ち、沈黙させていった。
「ああー、声を届かせようとすれば見つかるし、息を潜めれば聞こえないし……こればっかりは痛し痒しだな」
「どうやら先の連中だけでなく、他の戦線からも敵が向かってきているようだな。このままでは乱戦は免れん。となれば、そろそろ頃合いだろう……すまないが、學徒たちに一つ頼みごとがある」
届かぬと分かっているものの冷や汗を一筋垂らす語。ともあれ護りがあるとはいえ、敵に包囲されれば物理的に身動きが取れなくなる。それを危惧した津雲は袂より霊符の束を取り出すと、それを學徒たちへ分配してゆく。
「これを塹壕の各所へと張り付けて欲しい。出来る限り広範囲へ大量に、だ。ペイン、相手の大まかな位置は分かるか?」
「……うん。兵士たちの、感情を辿れば、おおよその経路は、推測できるかな……それで、大丈夫?」
「ああ、助かる。さて、これらを張りつけ終わり次第、可能な限り塹壕の外縁に退避してくれ。こちらも注意するが、敵味方の区別がつけられない手を使うのでな」
地形そのものを把握できずとも、常にそこを敵味方が動き回っている。そこから感情を得ているペインであれば、動きから内部形状を把握することも可能だった。津雲は仲間の得た情報を纏め、學徒たちを幾つかの部隊へと分けるや次々と送り出してゆく。
「少しばかり心配だが、ペインの護りが効いているうちは致命的な事態にはなるまい……ファン、そちらはどうだ」
「ん……まだ冬だし、ちょっと精霊たちの動きも硬いようだね。少しばかり量を集めるのに時間が掛かりそうだけど、學徒たちの動きを考えると寧ろ丁度いいかな」
津雲の問いに答えるファンは、袖口より幾条も鉄鎖を引き延ばして地面へと潜り込ませていた。それは人ならざる神体や精霊と交信する為の繋がりだ。彼女はふむと思案しつつも、問題は無いと頷く。
「ならば、あとは時間との勝負か」
「ま、こっちの位置自体はもうバレているからな。こうなりゃ、とことんまで騙ってやりますかね」
錫杖を構える陰陽師の横では噺家が喉の調子を確かめ、赤髪の青年を庇うように白い刃が得物を握る手に力を籠める。果たして、猟兵を討つべく敵の第二陣が現れるのであった。
「Scheiße! 敵はたかだか四人だぞ、何故抜けん! 幾らなんでも硬すぎる!?」
「奥の若造が要らしいことは分かるんだが、射線を切るのが上手い。これが超弩級戦力と呼ばれる由縁か……!」
學徒たちと別れて暫しの後、塹壕突入より数えて一刻ほどが経とうという頃合い。彼らは第二波を退け、続けて投入された第三波と交戦を続けていた。流石に相手もペインが護りの発生源だと見抜いていたものの、他の三人が攻撃を決して通そうとはしなかった。
「途切れること無く現れる、地獄の戦鬼も斯くやの兵士たち! 右翼に分隊が爆弾抱けば、左翼に重機関銃を構える者あり! されど桜學府の勢いに押され、その悉くは中央付近へ身を寄せる! 亡者の眠りはもう間もなくと相成るか!」
「このっ、ベラベラと喧しい!」
銃火に晒されながらも、語は依然として活劇譚を叫び続けていた。銃弾が命中した衝撃や手榴弾の炸裂に吹き倒されながらも、騙り続ける必要が彼には在ったのである。
「さて、そろそろ捌き切れない数になってきたな……潮時か。二人とも、準備は良いか?」
霊符を投擲し兵士たちを無力化しつつ、津雲は相手の手からごろりとパンツァーファウストが転がるのを見て眉を潜める。幾ら攻撃に耐性があるとはいえ、壁を崩して生き埋めにされてはたまらない――それはこれから『こちらがやる』のだから。
「うん……みんな、距離を取ってくれた、みたい」
「水量も十二分、押し流されないうちに高所へ移動しておいてね? それじゃあ……いくよ」
手筈は整ったとの返答が来た瞬間、猟兵たちは両脇の壁を無理やり這い上り地表面へと離脱してゆく。敵を前にして隙を晒す行為を見逃すはずもなく、兵士たちは一斉に殺到するや下方より銃撃を放ち叩き落そうと試みる……が、しかし。
「ウンディーネ、手を貸して頂戴、奴らを過去の栄光に溺水させるよ」
「なんだ、一体何を狙って、がぼ、ごおおっ!?」
兵士たちの足元が一気に爆発した。だがそれは火薬に由来するものではない、寧ろ逆だ。膨大な量の水が塹壕内へと溢れ出し、鉄砲水と化して全てを押し流しているのである。これこそがファンが準備を進めていた目論見、水妖の力を借り受けた水攻めだ。
相手も一通りの装備を整えているとて水中用のものなど在るはずもなく、例えあったとしてもつける暇などない。なまじ密集していたことも災いし、部隊まるごと飲み込まれる場所も少なくなかった。
「馬鹿な、水計だと!? そんな時間や予兆、どこにも……!」
「水源の無い場所で水攻めは卑怯とでも? 知るか、どこからともなく塹壕戦線を伸ばして来るあなた達も大概だよ」
抗議の叫びは瞬く間に水の中へ。これだけでも十二分に大打撃だが、彼らはここで手を緩めるつもりなど毛頭なかった。この程度であれば乗り越えてくるだろうという、ある種の信頼感があったのだ。
「以前も有効だったのだ、此度も使わん手は無かろう。あの時は思いつきを実行した程度だったが、今回は違うぞ……単なる蓋ではない、此処を死にきれぬ貴様らの墓標としてくれよう!」
次いで発動するのは、津雲の計略。彼が印を結び錫杖を地面へ突き立てるや、學徒の手によって塹壕各所に配置された霊符が一斉に起動する。それらは塹壕の上から蓋をするように障壁を展開し、相手を内部へと閉じ込めた。それどころか、それらを介して呪力を伝達すると、内部に満ちた水を瞬時に凍結させる。以前、邪教団の武装部隊相手に行った戦術をより洗練した形で実行したのだ。
これで大隊の大半を壊滅させることに成功しただろう。だがまだ『壊滅』であって『殲滅』ではなかった。
「よくもやってくれたな……まるでメシヌの戦いにおける坑道戦だ、大仰過ぎて笑いが出てくる。ああ忌々しい、これでヴァルハラは戦友で満杯だッ!」
塹壕外縁に居た者、最初の鉄砲水でそのまま外へ流された者、運よく高所に居たか目敏く退避した小集団。そういった兵士たちが辛うじて虎口を逃れていたのである。
銃器を失ったのであろう、シャベルを手にしたずぶ濡れの兵士が、殺意も露わに歩み寄ってくる。
「ヴァルハラ? どうかな。むしろほら、ニヴルヘイムがお前達を待っているようだぞ」
「そんなもの、シベリアの凍土で散々味わったわ! それに、先ほどから散々喚いていたプロパガンダもこの為だろう!」
兵士の睨むような視線は語へと向けられていた。問いかけに対し、彼はその通りだと肯定する。
「流石に気づく、か。ああ、そうさ。下手に無線とかを使えば傍受されかねなかった。事前に気付かれたら水の泡なんで、活劇譚にそれとなく織り交ぜて伝えていたんだよ。プロパガンダって言われるのは、ちと心外だがな」
語が騙り続けていたのは士気高揚の為だけではなかった。戦闘しながら知り得た敵情報を活劇譚に載せ、學徒だけに分かるよう伝えていたのである。これにより、彼らは無事に安全圏まで逃れることが出来たのだ。
「……認めよう、戦術面では完敗だ。戦略的な意味でも、もう逆転は望めまい。大隊長殿であれば話は別だが、少なくとも俺たちはな」
遠くから雄叫びが聞こえてくる。塹壕が埋め立てられ、敵戦力が居なくなったことによって學徒たちが一斉に攻勢を開始したのだろう。それを耳にしながら、兵士はシャベルを構える。
「だが、戦闘の勝敗までも諦めるつもりは無いッ! せめて目の前の貴様らにだけは、勝つ!」
本来であれば、付き合う義理など無い。だがファンは細剣を抜き放ちながら、それに応じて一歩前へと歩み出た。ちらりと背後へ視線を向けると、ペインが小さく頷く。
「……余計なお世話だけど。消えるにしても、逝くにしても。その先に、要らないものを、持って行かないように……、ね」
「という訳さ。嫌だ厭だと駄々をこねるなら、否定しようのない敗北をくれてあげるよ」
「傲慢極まりないな…………だが、感謝する」
相対する真白と灰色、それはまるで決闘の如き光景。勲章にわざわざ騎士と冠する国の者として、感じ入る状況だったのだろう。兵士は礼を述べながら駆け出すと、鋭い先端を槍の如く繰り出し、そして。
「満足は、したかい?」
「はっ。する訳が、ないだろう……嗚呼、ちくしょう。今度ばっかりは」
勝ちたかったなぁ。心臓を細刃に貫かれた兵士は、迸る雷撃によって呆気なく絶命した。今際の際に漏れ出た言葉は、そっとペインに吸い込まれてゆく。その想いを噛み締めながら、彼は近づきつつある學徒へ目を向けた。
「……彼らを護りつつ、前へ進もう。戦争は、まだ終わって、いないから」
「そう、だね。残党となにより、まだ親玉が残っている」
得物を引き抜き、兵士の身体を地面へと横たえるファン。そっと見下ろしたその死に顔は、少しばかり穏やかさを取り戻しているように思えるのであった。
大成功
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寺内・美月
アドリブ・連携歓迎
編成は一個ヘリ連隊基幹。自身は〖龍馬(ブロズ)〗に乗って前線後部を指揮監督。
・敵第一線を奪取後、支援隊は供給武器と共に前進。肉壁(悪魔)を限界まで充足しつつ射撃開始。
・突撃隊は第二線以降の市街地を鑑み、支援隊の砲撃と悪魔(肉壁)の突撃に追従し接近、戦闘群戦法(編成)にて白兵戦に持ち込む。
・観測点からの報告を元に〖黒鞘誘導レーザー〗にて、大隊の防御縦深に誘導弾(今回は低威力弾頭)に制圧射撃を発動。
・損害が許容できない範囲に迫るなら〖白鞘治療レーザー〗にて一括治療。
・ヘリ隊は制圧射撃後の陣地を銃撃によって掃討(ある映画のキルゴ○中佐みたく音楽を流すのも一興)。
●斯くして落陽の大隊は終焉す
「畜生が……だがまだだ、まだ終わらんぞ! 残った兵と弾薬を掻き集めろ、徹底抗戦だ!」
「少しでも良い、僅かでも良い! 敵戦力を削げ、大隊長殿へと繋げるのだ!」
展開された塹壕線は見るも無残に水没し、もはやその能力を完全に失っている。兵士たちは地上へ打ち上げられた魚の如く泥中を藻掻きながらも、それでも戦闘の意思を失っていなかった。元より帰る場所も、待つ者も居ない。戦場だけが彼らの棲家……そんな、正真正銘の敗残兵へ。
「投降の意思が無いというのであれば、こちらとて是非もない……學徒諸君らの攻撃精神(エラン・ヴィタール)に期待する」
それほどまで大きくないにも拘らず、不思議と良く通る怜悧な声。その源は戦線後方、軍馬へと変じた龍に跨った美月。彼の死刑宣告にも似た宣言と共に、頭上よりは砲弾が、前方よりは弾幕が、情け容赦なく残党へ解き放たれた。咄嗟にその場へと伏せることが出来た者は半分、残りの半分は反応する間も許されず地面ごと耕されてゆく。
「クソッ、流石に容赦がないなっ。勝率は無視しろ! 一兵でも良い、敵陣へ取りつき消耗させ……」
砲撃の間隙を見計らい、突撃銃を手に立ち上がる兵士たち。自らの身を顧みず、肉弾戦を仕掛けんとする彼らの言葉が途切れる。砲撃後の土煙が濛々と立ち込める中、隊伍を組んで無数の影が迫って来ていたからだ。
「支援部隊は悪魔による肉壁後方より引き続き射撃を継続。突撃部隊も召喚悪魔を先鋒として戦闘群単位で順次突撃を開始……数の有利は既に逆転している、危険を冒す必要はない。包囲し、殲滅せよ」
それは人ならざる悪魔の軍勢であった。學徒や美月麾下の悪魔召喚士によって呼び出された、替えの効く消耗品。再召喚に幾ばくかの代償が必要ではあるものの、人の命と比べれば安い物だ。
それらを文字通りの盾としつつ、支援部隊は各種遠距離武器を撃ち鳴らし、突撃部隊は擲弾兵と機関銃兵が互いをカバーし合いながら吶喊を敢行してゆく。
「イワン共じゃあるまいし……無尽蔵に続くわけでもないだろうがあああっ!」
対する敵も残存する全戦力を投入し、それに応じてきた。彼らに戦術はない、そもそもそれを実行できるだけの頭数がもう居ないのだ。僅か三十二名で四千人を撃退したという戦いもかつての同時代にあったが、それは地の利と敵の不備に助けられた要素が大きい。況や、ここにはそのどちらも無いのだ。奇跡の起きる余地は無い。
「遅滞戦闘を行ったところで援軍の当てもない! 死ぬまでに一発でも多く弾丸をぶち当てろ! 弾が尽きればシャベルでも棒切れでも石でも良い、道連れにしてやれ!」
残弾も気にせず銃弾をばら撒き、虎の子のパンツァーファウストで邪魔な悪魔を吹き飛ばす。そうして生まれた間欠へ数名の兵士が飛び込もうと駆け出した瞬間、か細い光の糸が彼らを照らし出し……。
「自分から纏まってくれるのであれば、こちらとしてはむしろ好都合だ。目標を捕捉、撃て」
続いて着弾した誘導弾が、地面ごと彼らを吹き飛ばした。ローターの重低音を響かせながら、地面を舐める様に匍匐飛行を行うのは一小隊五機からなるヘリ連隊。弾薬をしこたま腹に抱えたそれらは、ゆっくりと敗残兵たちを睥睨する。
「少しばかりやり過ぎかもしれんが、士気を折るには丁度良いだろう……鳴らせ」
美月の指示の元、響き渡るは優美にして熾烈な旋律。奇しくもそれは、勇者をヴァルハラへと導く戦乙女を讃えるもの。呆気に取られる兵士へ、振り下ろされる投槍が如く機銃掃射が降り注ぐ。
「少しばかり過剰だったが、下手に損害を出すより余程良い。築陣と並行しつつ、書類を処理した甲斐があったというものだ」
尻で椅子を磨くのも、高級将校の仕事の一つ。彼が満足げに頷く眼前では、今まさに最後の敵兵が斃れた所であった。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『名も喪われし大隊指揮官』
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POW : 極天へ至り、勝利を掲げよ
【槍先より繰り出される貫通刺突】【斧刃による渾身の重斬断】【石突きの錘を振るう視界外殴打】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD : ヴァルハラに背くは英雄軍勢
戦闘用の、自身と同じ強さの【完全武装した精鋭擲弾兵大隊】と【戦車・重砲を備えた混編機甲部隊】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ : アーネンエルベの魔術遺産
対象のユーベルコードを防御すると、それを【魔術兵装で分析し、性能を強化した状態で】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
イラスト:弐壱百
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ユエイン・リュンコイス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
※マスターより
断章及びプレイング受付告知は15~16日頃を想定。
暫しお待ち頂けますと幸いです。どうぞよろしくお願い致します。
●勝利を掲げんがために
千を数えた敵を屠り、幾条もの塹壕線を踏破し、前へ、前へ、ひたすら前へ。そうして突き進んだ敵陣最奥にはやはりと言うべきか、鉄兜の軍人が悠然と待ち受けていた。
「諸君らが来たということは……なるほど。全員、逝ったか」
大隊指揮官は悠然と猟兵たちを睥睨する。表情は当然、鉄兜に隠れて窺い知ることはできない。しかし、そこより注がれる視線に込められた感情はまざまざと感じ取ることが出来る。
それは懐まで踏み込まれた驚愕でも、劣勢を目の当たりにした焦燥でも、ましてや部下を失った憎怒でもない。
「……我らは良き敵に恵まれたものだ」
それは隠しようのない喜びであった、穏やかさすら感じる安堵であった。指揮官はいまこの状況を、心の底より寿いでいたのだ。
「こうで無ければならない。こうも困難でなければ、勝利という充足を浴びられようはずもないのだ」
場違いにも思えるなだらか声音。だが逆にそれが、相手の異常さと底知れなさを醸し出していた。指揮官は浅く息を吐くと、ヒュンと風を斬りながら斧槍を一振りする。先端が重い長柄物にも関わらず、体の軸は些かもブレていなかった。
「個としての武を極めんとした。突き、断ち、打ち据えることの出来るこの斧槍は、正にその為の得物として最適だった」
空いていたもう片方の手は、そっと胸元へと差し伸ばされる。そこに嵌っていたのは、深緑に輝くブローチ。知識のある者ならば、それが強力な魔力を帯びたものである事が分かるだろう。
「生憎、オカルト方面に素養はなかったが、それなりに伝手があったのでな。遺産管理局に無理を言って、この護りを取り寄せた」
武技と魔導、その二つを兼ね備えているだけでも、相手はかなりの脅威と呼べる。しかし、指揮官はどうやらそれだけではまだ不十分らしかった。
「私単騎でも、諸君ら全員の相手は務められると自負しているがね。しかし、私は武人であると同時に指揮官でもある。それが供周りの兵も事欠くようでは、格好が付かないと思わないか?」
そう述べる指揮官の背後へ、インクがじわりと滲む様に半透明の人影が現れる。それは先程散々見た国防軍の擲弾兵たちだ。しかし、姿を見せたのはそれだけではなかった。
「彼らには、先ほどの大隊要員の様な個々の自我はほとんど無い。私に染み付いた過去の記憶、残滓の様な物だ。だがその分、私とは文字通りの一心同体。僅かなズレもなく我が命令を遂行するだろう」
軋む無限軌道、射角を取る砲身。次いで出撃したそれらは紛れもない、戦車と重砲を兼ね備えた機甲部隊である。戦車の防御力と機動力はそれだけで敵を蹴散らし、重砲の脅威は先ほど猟兵たち自身が示した通りだ。
「我が部下は例え消滅したとしても、私がいる限り何度でも蘇る。差し詰め此処こそが彼らの高殿の館、私は隻眼の神といったところか」
まぁ、そんなものが似合う様な柄では無いがね。語った内容は軽口じみではいるが、どれも笑える様なものではない。武を極めた個にして寸遅もなき群を束ね、常道のみならず魔導にも精通す。軍とは完結した存在であるとよく評されるが、目の前の鉄兜は正にそれを体現していた。
「さて、前口上もこの程度にしておこう。我が部下たちの献身により、諸君らの能力や装備、戦術はある程度把握出来た……此処より先は、全力で勝ちにいかせて貰おう」
そう告げた瞬間、指揮官の纏う雰囲気が一気に鋭さを増す。敵意、戦意、そして殺意。それらを目の当たりにした瞬間、猟兵たちは確信する。この先の戦いに學徒を踏み込ませてはならぬと。首を突っ込めばむざむざ死ぬだけであると。
亡者の大隊、その頂点に立つ者に対抗出来るのは、超弩級戦力たる猟兵を置いて他には居ないのだと。
「さぁ、勝つか負けるか二つに一つ。願わくば、この闘争の果てに……」
――勝利よ、在れ(ジークハイル・ヴィクトーリア)。
さぁ、猟兵たちよ。この幾星霜を経てもなお続いてしまった戦争へ、終結の幕を引くのだ。
※マスターより
プレイング受付は18日(土)朝8:30より開始いたします。
第三章は大変恐縮ですがスケジュールの都合上、再送をお願いする可能性がございます。もしその際は、別途ご連絡させて頂きますので、ご協力頂けると幸いです。
それでは引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
鞍馬・景正
敵ながら実に美事。
元亀天正の頃には彼ほどの戦人が山といたと思えば、関ヶ原や大坂帰りの老武者が我ら若者を惰弱と喝破されるも道理。
では、決するとしましょう。
◆戦闘
馬上より降りて二刀を抜刀。
間合の差がありますが――ならば詰めるまで。
一、刺突は挙動を【視力】で注視し、起こりを【見切り】回避。
二、斬撃は勢いが乗る前に交叉させた二刀で挟み込む形の【武器受け】で防御し、払い流し。
三、石突からの一撃は、刃を引くか握りを変えた瞬間に懐に飛び込み、【怪力】の一刀を打ち込んで封じさせて頂く。
そのまま肉薄すれば【乗打推参】で組み伏せ、脇差にて一閃を。
勝利への執念は武門ならば当然――だが私は、相討ちでも構わぬぞ。
シキ・ジルモント
◆SPD
敵陣を突破し指揮官を狙う
敵陣に接近、足を止めず『ダッシュ』で前へ
改良型フック付きワイヤーを敵戦車等の障害物に射出、引っ掛けて巻き取る力で素早く進み
更に狼に変身し敵の足元へ潜り込んで先へ抜ける
敵がこちらの速度に慣れたらユーベルコードで速度を上げ
その少し後に真の姿を解放し、もっと速く(※月光に似た淡い光を纏う。犬歯が牙のように尖り瞳が輝く)
段階的に速さを引き上げ敵の目測を誤らせ、被弾を防ぎたい
銃の射程範囲まで負傷覚悟で突き進み、敵指揮官を狙撃する(『スナイパー』)
真っ向から仕掛けてあの指揮官の満足する戦いが出来れば、少しは未練を晴らせるか…
…なんにせよ奴は倒さなければならない、そのついでだ
●先駆けよ、終の闘争の火蓋を切れ
泰然と佇む指揮官。その所作は静かなれど、纏う闘気は苛烈そのもの。そんな練り上げられた技量を感じさせる立ち振る舞いに、しかして景正は警戒ではなく賛辞を向けていた。
「その在り様、敵ながら実に美事。元亀天正の頃には彼ほどの戦人が山といたと思えば、関ヶ原や大坂帰りの老武者が我ら若者を惰弱と喝破されるも道理。されど、劣るつもりも毛頭なし。いかな軍勢、どれ程の武技とてただ打ち破るのみ」
「ああ、そうだ。そうでなくてはな。互いの技量、その高低など枝葉末節。己が裡に戦意の意思を宿すからこそ、闘争は闘争足りえる。そこに時代は問われんよ、この過去なりし我が身のようにな」
対する指揮官も銃砲最盛期を生きたであろうにも関わらず、若武者を侮ることは決してない。そのどこまでも期待し、楽しむかのようなスタンスをシキは眼光も鋭く観察する。
(あれも影朧。本人が望んでこそいないものの、転生の可能性があるにはある。真っ向から仕掛けてあの指揮官の満足する戦いが出来れば、少しは未練を晴らせるか……?)
相手の望みは勝利を手にすること。当然、負けてやるつもりなど毛頭なかったが、戦いの果てにある種の納得を得られれば慰めになるやもしれない。だが、そんな余裕が許される相手でないのも事実。
「なんにせよ奴は倒さなければならない、そのついでだ。余計なことを考えて勝てる相手でもなさそうだからな……まずは距離を詰めさせてもらうぞ」
前傾姿勢をとるや否や、地面を擦らんばかりの体勢で駆け出すシキ。その背後を駿馬に騎乗した景正が続く。そんな敵手の先駆けを見るや、指揮官も素早く号令を下す。
「これは闘争であり、戦争でもある。こちらもそう易々と斬首戦術を許すつもりはない……この程度、乗り越えて来ると信じているがね」
現れるは鏃と化して突撃してくるⅣ号中戦車と、後に続く擲弾兵の大隊。それらはまるで堰を切った濁流が如く溢れ出し、猟兵を飲み込まんと戦場を埋め尽くしてゆく。
「この連中と真正面からやりあうのは流石に骨が折れる。となれば、多少の無茶は必要か」
相手は文字通りの無尽蔵。それを止めるには指揮官を狙い撃つ必要がある。シキはこちらをひき潰さんと迫る戦車めがけてフックを射出するや、ワイヤーを巻き上げる反動を利用し跳躍、戦車を足場として強引に前へと進んでゆく。だが当然、その背後に待つのは敵の群れだ。放たれ始めた弾幕が頬を掠めるに及んで、彼もまた更なる段階へと己を引き上げることに決めた。
「確かに脅威だが、似たような手合いはアトランティスで一度経験している……そして業腹だがあの時同様、手を選べるような贅沢はないらしい」
バキリと、シキの骨格が軋みを上げて変形する。人の姿は、四つ足の獣の姿へと。銀の大狼は相手の足元を縫いながら、ひたすら前へと駆け続けてゆく。
「ほう。戦狼の名を冠する部隊は数あれど、実物を見るのは初めてだ。ここはブリテンのキツネ狩りに倣ってみるとしよう……獣を追い立てよ」
命令が下された瞬間、擲弾兵たちは柄付きの手榴弾を点火し投擲を開始する。猛烈な速さで疾駆するシキを銃器で狙い撃つのは至難の業、であれば爆発という範囲で削り殺す。自身の被弾すら計算に入れず敵の撃破のみを狙い、爆炎と鉄片が銀狼の毛並みを黒朱に染めてゆく。焼けるような痛みを感じつつも、しかしてシキに焦りはなかった。
(ここまでなら相手も予想は出来ただろう。だが……その先はどうだ?)
猛る本能を理性で制御しながら、彼は冷静に状況を分析する。こちらの動きに狙いがつけられないが為に、爆発へ攻撃手段を切り替えた。であれば、もしより速くなればどうなるか。解き放たれた獣性は肉体の限界を超え、手榴弾の起爆よりも速く敵陣を通り抜けてゆく。
「これは……動きが読めても、我が兵の反応速度が追いついておらぬというのか! どこまで加速するつもりだ、限界が見えん!」
驚愕に目を剥く指揮官の眼前で、銀狼が跳ねた。中空で元の人型へと戻るものの、全身は月光の如き燐光に包まれ、口元より覗く犬歯と爛々と輝く瞳は、まさしく。
「人狼(ヴェーアヴォルフ)、これ程とは……ッ!」
「驚いてくれたようで何よりだ……この間合い、取ったぞ」
白銀の拳銃より放たれし弾丸。指揮官も咄嗟に弾き落そうとするも僅かに間に合わず、肩口を食らいつくように抉り取られていった。瞬間、指揮を受けられなくなった軍勢が消滅する。
「ふ、ふふふ。幾ら武装しようとも、獣というのは斯くも恐ろしきものだな」
「軍馬然り、軍用犬然り。人以上の力は脅威であり、有用だろう。されど人間と闘争を行えるのは、いつだって同じ人間だけだ」
止血帯代わりに傷口へ外套を宛がう指揮官へ、景正の凛とした声が届く。軍勢の消失した戦場を進んできた彼は、下馬すると大小二振りの刃を鞘走らせて指揮官と正対する。相手もその意図を察せぬほど鈍くはなく、油断なく斧槍を両手に構えた。
「我が名は鞍馬景正。武門の末席へ身を置くものとして……尋常なる勝負を所望する」
「良かろう。性も名もなき身なれども、騎士の武にてお相手する。いざ参れ、極東の若武者よ」
間合いという点において、斧槍は太刀を優越する。遠間が相手の領域なれば、まずはそれを潰すまで。ダンッと地面を踏みしめて、景正は一気に前へと出た。対する指揮官は懐に入り込ませまいと刺突を繰り出してくる。
(流石に速く、鋭い……なれど、必殺の威は飽くまで点。その切っ先を見極める)
時間感覚が引き延ばされた、刹那の思考。景正は相手が技を繰り出す起こり、重心の移動、筋肉の動きに至るまで具に読み取ると、僅かに体を沈めて初撃を回避する。射干玉の髪を数本散らしながら、一歩前へ。
(続く斬撃は、勢いが乗り切る前に払い流す。もし受け損なえば、そのまま体ごと命を持っていかれかねん……!)
チャキリと響く金属音。それは穂先の下に備え付けられた斧刃が、水平に構えられた証左だ。間髪入れず叩き込まれた二撃目を、若武者は二刀を以て挟み込むように受け止める。振りかぶる寸前であったにも関わらずその一撃はどこまでも重く、ぎちりと刀身が嫌な軋みを上げた。刃が頬を撫ぜ、じわりと朱が浮かぶも、勢いを別方向へ流すことによって切り抜け、二歩目を刻む。
(先の二撃とは違い、打撃を繰り出すには数瞬遅れるはず。その間に詰め切らねば、こちらの刃はどのみち届かぬ)
ぐるりと、斬撃の勢いを利用して斧槍自体が指揮官を中心として半回転する。石突の錘があるのは穂先・斧刃と違って丁度反対側。そのぶん三撃目が放たれるまでに僅かな猶予があった。零よりも小さな石火の瞬きであろうとも、景正にはそれで十二分……だが。
(っ、流石にそう易々と通してはくれぬか……だが、ここまで踏み込みさえすれば)
半回転する間に若武者に合わせて柄の長さを調整、狙いをつけた打撃が必中の軌跡を描いて迫りくる。だがもしここで回避を行えば、ようやく詰めた間合いが再び開いてしまうだろう。故にこそ、彼は覚悟を決める――肉を切らせて骨を断つと。
「勝利への執念は武門ならば当然……だが私は、相討ちでも構わぬぞ。それに惜しくはない敵手であるが故にな」
「く、ははははっ! 何と忌々しくも誉れ高き言葉だ。これぞまさしく殺し文句というのであろうな!」
打突を受けた肋骨がめきりと悲鳴を上げ、耐え切れずに不快な破砕音を響かせた。凄絶な痛み、だがそれを意志で抑え込むと景正は相手へ組み付き、そのまま地面へと引き倒す。
「御身は既に我が下に伏せり。その御首級、頂戴する!」
「良いや、残念ながらまだだッ!」
首筋を狙った脇差による一閃。だがそれは相手の鉄兜によって軌道を逸らされ、胸板を切り裂くに留まった。吹き出した血による滑り、そして砕かれた脇腹を殴りつけられたことも相まって、強引に拘束を解かれてしまう。
「今のはかなり危うかったが……防具の意義ここに果たせり、だな」
「こちらの鎧越しに骨を砕いておいて良く言う。だが痛み分けと考えれば、この結果も悪くはないか」
そうして立ち上がり、再び得物を構え合う指揮官と景正。二人とも、その口ぶりにはまだまだ余力が見て取れる。緒戦の立ち合いは両者ともに互角。勝負は互いに手傷を負わせつつも、仕切り直しと相成るのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
春乃・結希
ここまで来れたのは皆のおかげ
本当にありがとう
最後まで皆と戦いたかったけど…今日は私達に任せて下さい
貴方たちの未来をここで終わらせる訳には行きませんから
周りの猟兵との連携を意識
召喚された戦車や兵士達の壁をこじ開け
他の猟兵の、指揮官への攻撃の機会を作ります
自分が指揮官へ近付くことが出来たらUCを発動
勇気と自信を持って一歩も引かず、全身全霊を掛けてwithで斧槍と打ち合います
自分が倒れても、ここまで一緒に戦って来た猟兵達が必ず討ち倒してくれると信じて
私達猟兵と対等以上の強さ…憧れます
でも、どれだけ刻まれた記憶を再生しようと、『今』を確かに生きている私達が負けるはずがありません
勝利は、私達に在るのです
トリテレイア・ゼロナイン
(小回り利かぬ騎馬から降り)
私の「護るべき対象の保護」が貴方にとっての「勝利」なのでしょう
その執着、理解できると同時に受け入れ難し…問答は不要でしょう
いざ勝負!
格納銃器の射線をちらつかせ動きを制限させ●見切り、●怪力の●武器受けで刺突を逸らし
斧刃●は●盾受けで受け流し
錘はセンサーでの●情報収集で探知しアンカー射出
●操縦●ロープワークで迎撃●武器落とし
武装も限界…
武装を犠牲に斧槍を封じUC発動限界突破
速度差に慣れる前の刹那
フレーム前腕部伸縮機構と鉄爪起動
貫手による●だまし討ちで臓腑を●串刺し
背負う物が勝敗を決める等戯言は申しません
ですが、私達の背に學徒が…未来ある限り
ここを終戦の地として頂きます
●鉄風雷火の戦場を、越えよ刃
呼び出された軍勢と、それに切り込む猟兵たちの交錯。そんな光景を目の当たりにした結希は、戦士としての直感で相手の力量を理解してしまう……己自身は元より、共に肩を並べてきた学徒たちとの差を。彼らを教導したがゆえに、このままあそこへ飛び込んでしまえばどうなるのかが、まざまざと想像できてしまった。
「ここまで来れたのは皆のおかげです。本当にありがとう。できれば、最後まで皆と戦いたかったけど……今日は、私達に任せて下さい」
だからこそ、彼女は學徒たちへ一時の別れを告げねばならなかった。彼らから異を唱える声は上がらない。學徒たち自身も結希と同じことを思い浮かべていたのだろう。だがそれでもと、彼らは視線に祈りを籠めて彼女を送り出さんとしていた。
「貴方たちの未来をここで終わらせる訳には行きませんから、ね?」
「私の『護るべき対象の保護』が、あの指揮官にとっての『勝利』なのでしょう。戦争とは手段であり、勝利とはその結果。ですが一番重要なのがそれで何を成さんという目的のはず。彼らは悉く、その順序を間違えているように思えます」
彼女と肩を並べるトリテレイアもまた、學徒を背後に庇いながらそう首を振る。彼我の勝利前提がそもそもからして異なるのだろう。何を犠牲にしてでも敵を打ち破ることと、自らを盾としてでも民草を守ること。『僚機を失った者は戦術的に負けている』とは彼の国が誇る撃墜王の言葉だが、どうやら彼らは違うらしかった。
「その執着、理解できると同時に受け入れ難し……ここから先に、問答は不要でしょう」
そう言って、騎士は機馬より身を下す。騎兵とは破城槌のようなもの、速度と衝撃はあれど柔軟さをやや欠く。敵の群れの中を踏破するならば、徒歩の方がまだ最適だろう。彼の装甲であれば生なかな攻撃に揺らぐこともない。目指すは首魁ただ一つ。
「……そんなに不安な顔をしないでください。大丈夫ですよ。私は……私たちは『強い』ですから」
不安げな眼差しに後ろ髪を引かれながらも、断ち切るように前へ向き直るや剣士と騎士は戦場めがけて飛び出した。雑兵などに構ってはいられない、最初から最高速度を叩き出してゆく。
「ふむ、先は速度によって強引に突破された。手榴弾の起爆すらも遅いとなれば……」
思案気に戦術を練りながら、指揮官の命により再び現れる大軍勢。此度は初めから手榴弾や戦車の砲撃を前面に押し出し、行き足を鈍らせることに主眼を置いているようであった。
「砲弾は私が受け流しますので、そちらは兵員の対処を願います!」
「ええ、任せてください! 何としてでも、道をこじ開けますッ!」
次々と放たれる75mm主砲は確かに脅威であるが、頑強さであればトリテレイアも負けてはいない。可能であれば内蔵銃器で撃ち落とし、間に合わなければ傾斜させた重盾で別方向へと軌道を変え、集中砲火を一手に引き受けている。その隙に結希は爆発を掻い潜りながら敵兵士を突破し、活路を切り開いてゆく。
「この調子なら、なんとか前に進め……」
「頃合いだな。手榴弾や戦車砲弾でも足りぬというのであれば、次はこれしかあるまい」
これならば突破にそう時間もかからない。そう思いかけた瞬間、響き渡るのは甲高い風切り音。それはこれまでの戦闘で既に聞き慣れた、重砲弾の飛翔する音であった。
「部下に足止めさせてから、諸共に砲撃制圧……!? 幾ら蘇るからといって!」
「だが、戦術的には正しい。騎士であると同時に軍人なのだよ、私は」
トリテレイアの抗議はそのまま爆炎に飲み込まれる。戦場を覆う業炎は、たった二人の敵に対し過剰とも呼べる火力。だがそれは、そうしなければ打ち倒せないという評価の裏返しでもあった。
「通常であれば肉片すら残らん威力だが……」
焔と土煙に覆われる戦場。吹きすさぶ爆風に、思わず兜越しにも関わらず小手を翳す指揮官。だが、ここで軍人には見誤った点が二点あった。砲撃によって友軍を巻き込むということは、一時的にせよ敵への圧力が弱まるということ。そして猟兵の耐久力は指揮官の想定以上だということ。更に付け加えるとするならば。
「ぉぉぉぉぉおおおおおおッ!」
――『己は強い』という結希の信仰を、浅く見積もった点である。全身に火傷を負い、無数の石塊や鉄片による傷を刻みながらも、彼女は爆炎を突き破って姿を見せた。猛る咆哮と共に握りしめられた拳は、周囲の残火すらも束ねて焔を纏う。
「私たちは、こうして辿り着きました。あとはどちらが先に倒れるか……勝負です!」
「か、はは、はははははは! 来るとは予想していたが、よもやこうまで猛々しいとは! なんと麗しくも力強きお嬢さん(フロイライン)か!」
真正面から叩き込まれた神速の炎拳を、指揮官は真正面から受け止めた。爆発とともに紡がれるは炎の鎖。長柄を振るうに近く、黒剣を突き立てるに最適な距離を保つそれは、例え再び軍勢を展開しても指揮官を捕らえて離さぬだろう。
「ようやく、私たちの剣が届く場所まで辿り着けましたね……いざ、勝負!」
次いで現れたトリテレイアもまた、決して無傷ではなかった。真白き装甲は煤けて罅割れ、関節を駆動させる度に軋みを上げる。仲間の突破を援護するため、砲撃を真っ向から受け止めたのだ。満身創痍、なれどその戦意には些かの陰りもなかった。
「是非もなし、二人纏めて参られよ。手負いと侮るつもりも、無勢を恐れるつもりも毛頭なければ!」
焔鎖で束縛されているとは思わせぬほど、指揮官は自由自在に斧槍を操り黒剣と重盾に渡り合ってゆく。火花を散らし、高速で得物を回転させながら猟兵たちを追い立てる。
「死合いに飛び道具は邪道と心得てはおりますが、いまは全力で挑むことこそ礼儀です!」
剣と盾のみでは手が足りぬと判断、トリテレイアは内蔵銃器も総展開し射線という不可視の刃にて相手の動きを制限せんとする。
「はははッ、銃火砲撃の場へ斧槍を手に飛び込んでいるのは私の方だ。気にする必要はない……尤も、それだけ見慣れているということでもあるがな!」
だがそれを踏まえた上で尚、突いては剣の鎬を削り、断てば盾を割り、叩いては装甲を打ち砕いてゆく。咄嗟にアンカーを射出し斧槍を迎撃せんと試みるも、引き寄せる力を遠心力へと転化され、深々と前面装甲を切り裂かれる。
「もう、武装も限界ですか……!」
「ならば、まず一つ!」
度重なる戦闘で、トリテレイアの各種装備も耐久限界に達していた。そこへ間髪入れずに振るわれる必殺の一撃。だが対峙している者は一人にあらず。
「っ、させません! 今度は、私が!」
炎鎖を引いて相手の体勢を崩し、両者の間へ結希が割り込んだ。極至近距離で鍔迫り合いを演じつつ、彼女は兜越しに相手の瞳を見据える。
「私達猟兵と対等以上の強さ……正直に言えば、憧れます。でも、どれだけ刻まれた記憶を再生しようと、『今』を確かに生きている私達が負けるはずがありません。勝利は、私達に在るのです」
「何故、そうも力強く言い切れる」
「それは……ええ、そうです。だって私たちは」
誰よりも強いですから。繰り返し、繰り返し口ずさみ続けてきた一節。相手の得物を蹴り上げて斬撃を叩き込みながら、彼女はその言葉を証明せんがために叫ぶ。
「……今ですッ!」
「助力、感謝します。格納銃器強制排除、リミット解除、超過駆動開始……これが私の騎士道です……ッ!」
瞬間、トリテレイアの各種武装が強引にパージされた。それは兵装の破棄と継戦能力を代償とした、鋼鉄なる騎士道の体現。加速に加え、前腕部が伸縮すると同時に隠し鉄爪が起動。不意を打つ一撃に指揮官も対応しきれず、深々と脇腹を穿たれた。
「なるほど、隠し武器か……! 未来技術と古き騎士道の共存、侮れんな」
「騎士道や軍事大義など、背負う物が勝敗を決める等戯言は申しません。ですが、私達の背に學徒が……未来がある限り、退くことは決してありません。ここを終戦の地として頂きます」
「その意気やよし。だが、今はまだその時ではない!」
鉄爪を無理やり引き抜くや指揮官は斧槍を振るい、炎鎖を引き千切りながら二人を弾き飛ばす。結希とトリテレイアも士気軒昂なれど負傷の度合いが酷く、これ以上の無理は命に関わりかねなかった。
「戦場に砲火は満ち、君たちは眼前に立ち、そして私は此処に在る。ならば、まだだ。まだ終わらんよ」
それは相手とて同じ。血に濡れ傷つきながら、しかして指揮官は未だ斃れる事を拒絶するのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
寺内・美月
アドリブ・連携歓迎
「さすがにこれ以上学生や市街地に被害を与えるわけにはいきませんね……。一気に片をつける、予備部隊行動開始」
対英雄軍勢戦主体
・前線と学生を下げて〖予備部隊〗を召喚。
・〖予備部隊〗は三個機甲旅団戦闘団【ABCT】、歩兵連隊【IR≧三個IBn】、C-RAM(砲弾迎撃システム)運用高射砲兵連隊【AAR】を基幹とする。
・前線は前衛をIR配下の三個IBnでいなしつつ、少しずつ後退。学生は撤退。
・後衛もAARは前線IRを砲弾から守りつつ後退。
・適当な位置でABCTを敵の後方(市街地方面)と左右から進撃させ包囲、AARは引き続き敵砲弾を迎撃。
・UCがコピーされた場合は更に3倍の戦力を投入。
陰樹・桧
指揮官がいる限り蘇り続けるのなら、やるべきことは一つです。
敵集団に応戦しつつ指揮官を狙える機会を窺います。
障害となる戦車や重砲は【霊木徹甲弾】で排除、指揮官を視認できる状況に持ち込みたいです。
一方向から攻撃を続けるよりも味方と連携して多方向から火力を指向、敵を心理的にも追い詰めていきます。
それでも隙を見せてくれないなら、敵の擲弾による攻撃に合わせて壊滅を偽装。
至近に落下する擲弾のみを撃ち落とし、爆発に紛れて敵指揮官を狙える射撃位置へ移動、気付かれる前に狙撃を試みます。
生存してこその勝利、絶対に譲るわけにはいきません。
※連携アドリブ歓迎
●軍勢対軍勢、掻い潜るは遊撃の一射
「武の頂を極めたつもりではあったが、世も変わればまた別の強者が現れるか。武技の競い合いも中々に心が躍る。下手に魔術を撃ってこぬのも、気を遣われている証左なのだろうな」
決して浅くはない手傷を負いながらも、指揮官はどこまでも楽しそうであった。軍勢を踏破し、己と互角に打ち合う猟兵たちは生前求めてやまなかった好敵手なのだろう。だが軍人はふと、自嘲気味に笑みを浮かべる。
「しかし、軍を率いるのはこちらばかり。軍略にて鎬を削るのも、また興味深いものではあったが……」
「……ほう、個ではなく群での勝負を望むか。であれば、こちらとしても是非はない」
武人としてに加えて、指揮官としてもぶつかり合いたい。そんな贅沢な悩みに対し、応える声があった。言葉の主は美月。だが、その姿を黙視することは叶わない。
「さすがにこれ以上、学生や市街地に被害を与えるわけにはいきませんしね……。ここは軍隊同士の勝負で一気に片をつける――予備部隊、行動開始」
砂塵を巻き上げて姿を見せるはM1エイブラムス戦車及びM2ブラッドレー戦闘車を中核とする三個機甲旅団戦闘団。その脇を固めるのは敵軍の三倍を擁する機械化歩兵大隊。そして背後に控えるは対重砲迎撃を専門とする高射砲兵連隊。敵軍を圧する兵力の中心に、黒衣の軍人は座していた。
「これだけの数を予備と謳うか。確かに、我が麾下を圧倒する戦力だ……だが物量差であれば、かつての東部戦線で飽くほど経験している。全軍、死を恐れず進撃せよ!」
先ぶれとして展開する美月麾下の三個大隊へ、重砲の支援を受けた一個擲弾兵大隊が攻撃を仕掛けてゆく。三倍もの戦力差なれど、彼らはそれ以上の戦を幾度も経験しており、安堵することなど決して出来はしなかった。
「数は劣れども、諸君らは死しても斃れ伏す事なし! 砲兵は弾を絶やすな、機甲戦力を鏃とし、不死者の梯団で敵陣を突き崩せ!」
「LPWS起動、敵榴弾砲の迎撃を開始。歩兵大隊は遅滞戦闘に徹し、學徒が安全圏に退避するまでの時間を稼げ。機甲旅団戦闘団は順次迂回軌道に移り、別命を待て」
宙を舞う榴弾を機関砲弾が迎撃し、梯団を形成した無尽なる機甲戦力へ大隊要員が無反動砲による射撃を浴びせかける。戦場は俄かに、秩序だった混沌とでも呼ぶべきぶつかり合いへと移行してゆくのであった。
「これこそ正に、戦争といった有様ですね……指揮官がいる限り相手の軍勢が蘇り続けるのなら、やるべきことは一つです」
そんなかつての戦争の再現とも呼ぶべき場に、桧は身を潜めていた。頭上では弾丸が飛び交い、すぐ側では歩兵同士の銃撃戦が繰り広げられる中、彼女は狙いをただ一つに絞り込む。
「撃つべきはあの指揮官……ですがこの大乱戦の中、そう易々と狙えはしないでしょう。真正面から打ち破れるだけの力があれば別ですが、無いものを求めてもしょうがありません。ここは一つずつ潰しながら進みましょう」
幸いにも、味方部隊が敵の注意を引き付けている。遊撃手と化した桧が動くには絶好の状況。彼女は戦場の混乱に紛れながら、まずは己の障害となる敵戦力の排除に乗り出した。
「装備の差は歴然とはいえ、戦車が脅威であることには変わり在りませんね。頭上の敵砲撃は高射砲部隊が上手いこと撃ち落としてくれているようですし、まず狙うべきはあれですか」
桧が愛銃を構え、照星越しに視線を注ぐは快足で戦場を駆け抜けてゆくⅣ号戦車である。指揮官と美月の軍では装備の技術差は隔絶しているものの、戦車が陸戦の王者であることに変わりはない。対戦車ミサイルや無反動砲ならば打ち倒せるが、裏を返せばそれを持たぬ者に対抗手段はないということでもあった。
「ミサイルは高価ですし、無反動砲とて連射性が良いとは言えません。尽きることない軍隊相手に長期戦を行えば、いずれ弾薬が尽きるのは必定……それに加えて」
放たれる深緑の弾丸は敵の側面装甲を貫き内部より爆破、擱座炎上させる。味方部隊への圧力を減らして戦況を優位に進めるという狙いも当然ある。だが桧にとってはそれよりも、撃破した後についてが重要であった。
「……戦車が蘇るのは指揮官の付近である可能性が高いはず。戦場の流れを見れば、必然的に相手の居場所も知れましょう」
この混戦の中で目標の位置を把握すること、それが彼女の主目的だった。如何な威力の銃弾とて、相手を視認できねば意味がない。そうして桧は蘇りの起こりを見逃すまいと、素早く戦場全体を見渡し……。
「――あれは、まさか」
驚愕に目を見開くのであった。
「第一、第二機甲旅団戦闘団は敵左右側面より攻撃。第三は裏をとれ。敵梯団を包囲しつつ砲兵部隊を殲滅、前衛部隊との連携を断つ事を優先せよ」
一方の美月は順調に作戦を進めていた。突破を優先した敵梯団を歩兵大隊で受け止めつつ、左右と後方に迂回させた機甲戦力で包囲。ネックだった敵砲兵陣地を制圧し戦場全体への圧力を軽減しながら、敵残存戦力を削り取ってゆく。順調、実に順調……そう。
(……妙だな、敵の抵抗が脆すぎる。経験豊富な指揮官が側面への攻撃をみすみす見逃すものか?)
順調すぎたのだ、不自然すぎるほどに。そもそもとして敵の梯団を包囲し、後方の陣地を鎮圧したにも関わらず、あるべき姿が見受けられないのだ。
「――指揮官は何処へ行った?」
その疑問を口にした瞬間、美月の眼前で二つの事象が発生した。一つは、それまで出現していた敵軍が一斉に消えたこと。そしてもう一つは、包囲網の一角が吹き飛ばされたこと。爆発ではない、より原始的な近接武器による打ち崩し。そうして生まれた僅かな間隙から飛び出してきたのは、件の指揮官だった。
「指揮官の単騎駆け……自らの動向を悟らせぬために戦闘へ参加せず、前線部隊へ同行しギリギリまで隠密に徹していたのか!」
「ご明察。古典的ではあるが、将が先陣を切るのもまた戦術の一つだ。そして我が大隊へと戦力を回していた分、それらが消えれば貴公の配下は短時間ながらも遊兵と化す。必然、本陣の守りも薄くなるッ!」
そうして自由の身となった指揮官は、手にした斧槍を美月めがけ全力で投擲する。咄嗟に佩いた白鞘より刃を抜き放ち弾き返すも、瞬時に距離を詰めていた指揮官は跳ね上がった得物を再度手中に収めるや、間髪入れず斧刃による二の太刀を叩き込まんと狙う。
「敵将、取ったり!」
「……ッ!」
美月とて近接戦に自信はある。だが、この大部隊を動かすまでの過程で蓄積された睡眠不足と疲労が、その動きを鈍らせた。紙一重の差で、逆手に引き抜いた黒刃が間に合わない。そうして刃が若き将官の脳天へと吸い込まれる……。
「隠密行動は何もそちらの専売特許ではありませんよ。全員が生存してこその勝利、それだけは絶対に譲るわけにはいきません」
寸前、深緑の弾丸が横合いより指揮官の腕を射抜いた。堪らずもんどりうって地面へと転がる相手が見たものは、硝煙を立ち昇らせる拳銃を手にした桧の姿であった。
「伏兵に対して、更なる伏兵だと……!?」
「こちらも発見できたのは偶然でしたが、それを踏まえても迂闊と言わざるを得ません。指揮官自ら不意を衝くという点では悪くはありませんでしたが、戦力の逐次投入は避けるべきでしたね」
先の戦闘の最中、指揮官の位置を探っていた桧は敵集団の中心で戦車が蘇るのを発見していたのだ。それにより標的の位置に当たりをつけると、彼女は相手と同様、爆発に紛れて移動しながら狙撃の好機を窺い続けていたのである。
「たった一発の銃弾が、戦況を変えることもある……例え指揮官や兵卒であろうとも、弾丸の前ではみな平等ですから」
「これは、情報の収集を怠ったこちらのミスか……!」
己の失敗に歯噛みする指揮官へ銃口を向け続けながら、桧は小首を傾げて問いを投げる。
「ところで良いのですか? 相手の指揮官の前で無防備に身を晒していて」
「こちらの軍勢はいずれも致命的な損耗はなく……戦場を駆けるのに、この会話程度の時間さえあれば十分だ」
疑問に答えたのは指揮官ではなく美月。凛とした声音の裏に気迫を滲ませ、彼は敵を見下ろしていた。奇襲を受けた瞬間より、当然麾下の軍勢へと命令は下されている。そしてむざむざと言葉を交わして時間を浪費している間に、全戦力の照準は既に定められていた。
「全軍に命ず……全火力を敵指揮官へ向けて投射せよ!」
「っ! 大隊、防御陣形を組……!」
防御を命じてももう遅い。120mm滑空砲、各種携行火器による一斉射が微塵の躊躇もなく叩き込まれた。地面ごと抉り飛ばす威力に、周囲一帯が粉塵に包まれる。
「やったのでしょうか?」
「手ごたえはあった……が、戦車を盾にして稼いだ僅かな時間で脱出したようだ。とは言え、無傷とは言えまい」
目を細める桧の呟きに、美月は無念そうに首を振る。だが、決して小さくない傷を与えることに成功しているはずだ。決着の時まで、そう長くはかからない。美月は土煙の向こう側を睨みつけながら、そう判断するのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
九重・灯
この手の輩には祈りも、慰めの言葉もいらねえだろう。
諦めきれずに化けて出てきたなら、全力で叩き潰して諦めさせてやるだけだ!
剣、アザレアを抜く。
UC【朱の王】。契約印が光を放ち、皮膚が裂ける。流した血を代償に魔炎を喚び、四肢と剣に纏う。
「“我ら”、狂気を以て狂気を討つ!」
剣で敵の攻撃を弾き、カゲツムギで足下の影から刃を形成して反撃する。
『武器受け5』『だまし討ち2』『カウンター5』
隙をこじ開けて、魔炎に燃える剣の一撃を叩き込む。
『属性攻撃8』『呪詛4』『鎧砕き6』『部位破壊5』
猟兵は、オブリビオン相手に負けてられないんだよッ!
契約印に自分の血をさらに注ぎ込み(『生命吸収2』させて)火力を上げる。
ジフテリア・クレステッド
※アドリブ・連携歓迎
そろそろ先生役だってことで被ってた猫を捨てようかな…敬語とかやっぱり慣れない…。
偽神細胞をライフルに侵食させて偽神兵器起動。一般人の避難は完了してるから全力でいくよ!
呼び出される敵の部隊も敵のボスも【毒使い】の私が偽神兵器から撃ち出す【範囲攻撃】の【一斉発射】で【蹂躙】してあげる!私の毒は全てを侵食する【鎧無視攻撃】。どんな重武装だってドンドン【部位破壊】して中身も毒殺していくよ。ボスを倒すまで【継戦能力】を活かして戦い続けてやる。
戦争だなんて資源の無駄遣い、反吐が出るね。情けない理屈で贅沢を続ける甘えん坊を生かしておく道理なんて、私が生きてきた荒野には一切ないんだよ!
●戦線に踊り、死線に嗤え
「ぐ、かはっ!? 軍勢を一度収めて再出撃出来る様にしていなければ、あの時点で詰められていたな……」
爆炎の中から転がり出た指揮官は、ぜいぜいと荒い息を吐いていた。大部隊による包囲からの集中砲火を、一度己の裡へ撤収させていた部隊を展開することによって凌いだとは言え、無傷で切り抜けられてはいなかった。外套や軍服はあちこちが燃え焦げ、手足の皮膚は焼け爛れている。
「我ながら単騎突撃とは無茶をしたものだ。ここは一度部隊を再度展開し直し、戦線を整理せねば……」
「そう思い通りにはさせませんよ? ……うーん、學徒の皆さんも退避したし、そろそろ先生役だってことで被ってた猫を捨てようかな……敬語とかやっぱり慣れない……」
兵士を呼び出し警戒線を張り直そうとした指揮官へ、次なる敵手より声が掛かった。はっとその方向へ視線を向けた途端、手近にいた兵士の頭部が吹き飛ばされる。弾丸の主は硝煙の立ち上る狙撃銃を油断なく構えたジフテリアであった。
「なるほど、狙撃手か。態々姿を晒すなど増上慢の極み……と、言う訳でもあるまい。後衛が居れば、当然前衛もいるというもの」
「はっ、指揮官らしくお見通しか。だが、その方が話が早いってもんだ」
反射的に兵士たちが突撃銃による掃射を行うも、弾丸の悉くは少女へ着弾する前に叩き落される。狙撃手の前で赤刃を手に不敵な笑みを浮かべるのは、引き続き別人格を表に出している灯であった。
「アンタらみたいな輩には祈りも、慰めの言葉もいらねえだろう。諦めきれずに化けて出てきたなら、全力で叩き潰して諦めさせてやるだけだ!」
「何度でも蘇る不死身の軍隊なんだよね? 良いよ、どれだけ頭数を繰り出しても。その全部を何度だって撃ち抜いてあげるから」
彼我の距離はそう離れていない。全力で駆け抜ければ、十も数えぬ間に相手へ手を届かせることができるだろう。指揮官は未だ部隊を展開しきれておらず、守りは手薄だ。猟兵が射程圏内に捉えるか、指揮官が部隊を展開し終えるか。それによって勝敗が決するだろう。
「骸の海に沈み眠る朱の王よ、その力の一端を顕現せよ――“我ら”、狂気を以て狂気を討つ! さぁ、行くぜ亡者ども!」
「参られよ。土台、戦争など正気の沙汰ではありはすまい!」
まず真っ先に状況を動かしたのは灯であった。左腕に刻まれた烙印から鮮血が溢れ出したかと思うや、それらを燃料に魔なる焔が吹き上がる。己が得物と四肢に紅蓮を纏わせると、首魁目掛けて飛び出してゆく。
「敵の武器は片刃剣、近づけさせねば脅威はない。倒すのではなく足を止める事に注力せよ、時間はこちらの味方である!」
兵士が突撃銃で牽制射を放つ背後より、呼び出された機関銃手が伏せの姿勢で弾丸をばらまき始める。例え猟兵ならば一息に駆け抜けられる距離とて、分間千五百発による弾幕は正しく壁となり行く手を阻むだろう。だが、後方の狙撃手が焦りを見せることは決してない。
「数が多いね。一人ひとり悠長に狙っていたら間に合わない……なら、ここはそっちの流儀に合わせてあげるよ。確か、率先してコレを実戦投入したのはあなた達だったよね?」
ぞるりと、彼女の体から伸びた細胞群が狙撃銃の銃身を包み込んでゆく。一回り大きさを増し、自らの身長に伍する長さとなったそれを構えるとすかさず引き金を引いた。立て続けに放たれた数多の弾丸は灯を追い越し、敵陣中央へ到達するや宙空で炸裂する。すると途端に、兵士たちが悶え苦しみ始めた。
「これは、毒ガスか……不味い、この毒には兵士たちの防毒面が意味を成さぬ!?」
「加えて、ガスはその場に滞留する。幾ら兵士を出しても、呼んだ端から斃れていくよ」
指揮官は上位の存在だけあってまだ抗せているようだが、生身の兵卒はそうもいかない。現れては消え、消えては現れてを繰り返し、まともに戦闘を行えるような状態ではなかった。
「毒物は消毒だ、って訳じゃないがな。魔炎なら自分の近くにある毒ガス程度は焼き払える、こっちには何の問題もないんだよなぁっ!」
一方、必然的に巻き込まれる形となる灯だが、その程度は織り込み済みだ。体に纏った炎の熱が大気を搔き乱し、毒素が体を蝕むのを阻んでいた。それをみた指揮官は、瞬時に手駒を切り替える。
「密閉された空間であれば、多少は持ち堪えよう。そのまま砲撃で毒ガスごと敵を吹き散らしてくれる!」
指揮官を守る壁と為すように現れるは、幾両ものⅣ号中戦車だ。完全密閉とは言い難いが、それでも外気との接触は大きく抑えられる。射撃による爆発で毒ガスを拡散させ、逆に灯を踏み潰しジフテリアの元まで肉薄せんと試みる、が。
「甘いね! 私の毒は例え分厚い鋼板だって貫通する。寧ろ大きくなった分、良い的だよ!」
十全な準備と戦略を以て運用するなら兎も角、場当たり的にぶつけたところで効果は薄いというもの。ジフテリアは先頭車両へ狙いを定めると、腐食性の毒素を籠めた弾丸を放つ。それは弾丸そのものの威力ではなく溶解によって装甲を貫徹するや、内部の兵員を纏めて消滅させた。
「戦車ってのは前の装甲は厚くても、横や真上は薄いんだよな? だったら当然、下を厚くする道理だってねぇよなぁ!」
先頭が動きを停止したことにより後続の車両も動きが乱れ、反応しきれなかったものは玉突き事故を起こして立ち往生してしまう。そんな行く手を阻む障害物へ、灯は下方からの攻撃を叩き込む。肉体へ寄生し、闇と同化している呪具。影を紡ぐという名の通り、それは車体下の暗闇へ滑り込むや、そそり立つ刃と化して戦車を貫き吹き飛ばしていった。
「ぐ、むぅうっ、敵の殲滅速度に出撃の間隔が追いついておらなんだか! これでは数の利が活かせぬ! 戦力の逐次投入は下策だが……!」
「なまじ復活できてしまうことが仇となったね。戦場に必要なのは勇猛さでも大胆さでもない、臆病すぎるくらいの注意深さだよ。どうせ蘇る、だなんて生ぬるい。増上慢はどっちかな?」
呼び出すたびに、ジフテリアによる狙撃によって兵士も戦車も即撃破されてゆく。狙撃の間隙を見出そうにも、弾丸の素材は彼女そのもの。弾切れなど、それこそ息の根を止めでもしなければあり得ない。
「人も物も無尽蔵の飲み込んでゆく……戦争だなんて資源の無駄遣い、反吐が出るね。あなたは死ぬこと、死なせることを軽んじた。情けない理屈で贅沢を続ける甘えん坊を生かしておく道理なんて、私が生きてきた荒野には一切ないんだよ!」
「……これは、耳が痛いな。不死を誇りながらその実、最も重んずるべきものを軽視していたとは。坊やの誹りも免れまい……だがっ!」
兵士は碌に展開出来ず、既に灯は眼前にまで迫っている。であるならば、これ以上数の有利不利に拘泥すべきでない。そう判断した指揮官は配下を消し、自分自身で打って出た。斧槍で弾丸を叩き落しながら、軍人は叫ぶ。
「死してなお縋り、無為であろうと求めたこの願いだけは。真実本当であると私は胸を張ろう……否定されようとも、退くことなどありえはしない!」
「退けないのはこっちも同じだ。猟兵は、オブリビオン相手に負けてられないんだよッ!」
そうして、短くも長き道程を踏破し、灯と指揮官は真っ向からぶつかり合った。指揮官の刺突が灯の肩口を切り裂くや、彼女も溢れ出した血潮をそのまま炎へと変じさせ逆に相手を焼き滅ぼさんとする。
「ッ、カゲツムギ!」
「その手妻、既に見切ったぞ!」
手にした斬鎧剣で切り結びながら、灯は足元より影刃を射出し不意打ちを試みるも、一度見せた技が通じるほど甘い相手ではない。だが、彼女の真の狙いはカゲツムギに対応させることによって一瞬の猶予を得る事だった。
「契約印よ、もっとだ。もっと燃え上がれ!」
「これは、閃光による目潰し……!?」
刻印へ過剰に注ぎ込まれた血液が発火し、一気に燃え上がる。そこに生じた強烈な輝きによって指揮官の視界が白く染め上げられた。その絶好の機を、猟兵側が逃す訳がない。
『その鉄兜、叩き切る/狙い撃つ!』
奇しくも、共に狙いは急所である頭部。炎を纏った斬撃と毒纏う弾丸が、黒鉄の兜へと吸い込まれていった。防具は己の役目を果たすも、これまでの戦闘による傷も蓄積していたのあろう。びきりとヒビを走らせると、右目の部分の眉庇が砕けて落ちる。
「……たまさか、ここまで追い詰められようとはな。だが不思議なものだ。諦念よりも寧ろ、高揚感を感じようとは。我ながら度し難い」
着実に追い詰めてはいる。だが、そこから覗く瞳は顔を伝う鮮血に濡れながらも、いまだ尽きぬ戦意を湛えているのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ペイン・フィン
【路地裏】
さて……
決着、だね
それにしても
……一切、怨念が、無いね
いっそ、清々しいよ
真の姿を解放
数歳程度幼くなり、周囲に血霧のようなモノを展開する
そして、コードを使用
8種の拷問具全てを複製し、展開
部隊も、兵器も、関係なく
潰し、切り裂き、砕き、引っ掻き
電気で、熱で、重さで、毒で
数も、質も、関係ない
全部纏めて……。地獄へ、叩き込もうか
……最も、そこが、本当にあるかは知らない
案外、貴方も含め……。何処かであっさり、転生するかもね
貴方たちの罪は、今こうして、罰として、償わせたわけだし……、ね
ファン・ティンタン
【POW】誉れ無き闘争の果てに
【路地裏】
津雲とペインが軍勢を散らした後、指揮官と一騎打ち
敵の斧槍の3撃へ、【番い燕】の【2回攻撃】で真向勝負する
勝利に酔いたいなら、同じ穴の狢を探してやり合いなよ
……あなた達は、戦う世界を、間違えたんだよ
斧槍は斬突打可能な複合武器であるが故に、一つの芸に特化しきれない
ある意味、軍隊を率いたあなたを象徴しているのかもね
一介の武人であったなら……いや、詮無きことかな
径の太くなる槍先の刺突を、一の太刀で刀身に沿わせて反らし
斧刃の斬撃を振るわれる前に神速の二の太刀を胴へ突き入れ【串刺し】を狙う
防具の厄介さは、見てたよ
敵を知らば……ね
結局、あなたは何が欲しかったんだろうね
落浜・語
【路地裏】
やぁ、これは一周回ってすがすがしいなぁ。
遠慮なく叩き潰せばいいってのは気が楽でいいやな。
引き続き、UC『誰の為の活劇譚』で後方から支援を。
「現へ帰った軍人たちをあるべき場所へと還した後に、向かってきますは大隊長。
平穏無事なこの時代、戦乱戦火は求めてないと立ち向かいますは猟兵方
此度語りますは、再現された戦争へ終焉を突き付ける噺にございます」
今この場、この時において求められてない物ばかりなんだ。そもそも、俺は噺が出来なくなるから戦争とか嫌いでね。
早いところお帰り頂こうか。平和に馴染めるようになってから、帰ってくればいいんじゃないかな。
勘解由小路・津雲
【路地裏】4名
ひとりでこの戦況をどうひっくり返すつもりかと思えば、そういうことか。やれやれだ。
ここはひとつ、どこぞの世界の戦史にある「バルバロッサ」の再演でもしてもらうとするか。
サクラミラージュでも同じことが行われたかはしらんがな。
【戦闘】
ロシアの冬とまではいかないが【氷術・絶対零度】を使用。指揮官の相手は任せて、おれは部隊の相手をするとしよう
無差別攻撃ゆえ、まずは仲間たちからは地形を利用してすっと離れ、ほどよい場所に陣取るとしよう。
戦車に重砲、擲弾と、狙われてはひとたまりもないな。仲間の攻撃とタイミングを合わせ、時宜をはかろうか。
これでもはや、指揮をとる相手も残るまい。安心してゆくがいいさ。
●孤高なる者、紐帯堅き物たち
度重なる猟兵との戦闘により、大隊指揮官の体力も底が見え始めている。血と煤に塗れ、薄汚れた姿は正しく敗残兵と呼ぶにふさわしい。しかし劣勢と反比例するかのように、その全身から滲み出る闘気は濃度を増してゆくように思えた。
「やぁ、これは一周回ってすがすがしいなぁ。小難しい理屈抜きに、戦いたい競いたい勝利したい、ね。遠慮なく叩き潰せばいいってのは気が楽でいいやな」
「さて……だけどそれも、此処で決着、だね。ここまで、追い詰められて、いるのに……一切、怨念が、無いね。確かにこれは、いっそ、清々しいよ」
ある意味何よりも単純で、分かりやすい望み。願いも目的もはっきりしている分、語やペインの言う通り後顧の憂いなく戦うことができるだろう。そしてそれはきっと、相手の求める事でもあるはずだった。姿を見せた路地裏の同盟者たちを、指揮官は兜越しに見やる。
「此度は四人、か。であれば、こちらも数を揃えさせてもらおう。先ほどは碌に展開を許されなかったが、こちらの意図を汲んでいるのならば話は早い……最期まで付き合って頂こう」
隊伍を組み、戦列を成して現れたのは完全武装した擲弾兵たち。その前面ではⅣ号中戦車がエンジンを唸らせ、無数の重砲群が背後より戦友たちを支援すべく照準を調整している。その威容に、津雲は思わず舌を巻く。
「ひとりでこの戦況をどうひっくり返すつもりかと思えば、そういうことか。本体を叩かねば消えぬと考えれば、やれやれだな」
「ただ、これだか頭数が居るのに、感じられる意志が一つだけというのもなんだかね……手の一つや二つ、用意があるんだろう?」
「まぁ、な。ここはひとつ、どこぞの世界の戦史にある『バルバロッサ』の再演でもしてもらうとするか。いやま、サクラミラージュでも同じことが行われたかは知らんがな」
自我無き軍に立つ孤独な指揮官。その光景に僅かな感傷を覚えつつも、ファンは津雲へどうするかと問いかける。なにやら腹案があるのだろう、陰陽師は不敵な笑みを浮かべつつ頷いた。
そうして四人が段取りを整え終えるのを見届けてから、指揮官は確認の声を上げる。
「……さて。作戦会議は済んだかね」
「わざわざ待っていてくれたの? 追い詰められているというのに、随分と余裕なんだね」
「ははは、言っただろう。私がしたいのは蹂躙でも虐殺でもない――戦争なのだよッ!」
ファンの皮肉気な返しに、指揮官は呵呵と嗤いながら配下たちへと号令を下した。途端に砲声が鳴り響き、無限軌道を猛回転させた戦車が歩兵を随伴させながら突撃してくる。
「さって、相手が変わってもこっちのやれることは変わらないからな。騒音に負けないよう、引き続き語るとしますかね!」
塹壕戦でも語り通した上、土煙の舞う空気も相まって喉の調子は万全とは言い難い。しかし語はこの山場でこそ言葉を紡がねばならぬと、腹の底より声を張り上げてゆく。
「現へ帰った軍人たちをあるべき場所へと還した後に、向かってきますは彼等の上官である大隊長。平穏無事なこの時代、戦乱戦火は求めてないと立ち向かいますは猟兵方。此度語りますは、再現された戦争へ終焉を突き付ける噺にございます!」
「魔力を帯びた演説か? これは良い、心が躍る。それに生憎と我が隊に軍楽隊は居なかったからな。軍歌の行進は戦の華、こちらも負けてはいられまい!」
それは味方を鼓舞する芝居仕立ての活劇譚。自らが敵役とされていても、その声音に感じ入るものがあったのだろう。指揮官が胸元のブローチを握りしめるや、増幅された勇ましい軍曲が鳴り響き始める。それは鋼を謳うパンツァー・リートだった。
「いざ、進めや戦車よ! 暴嵐の中、風雪の中を、迅雷の如く進むべし!」
「敵も味方も、なかなかに派手だな。だがその分、こちらも動きやすくなるというもの……指揮官の相手は皆に任せ、下準備を進めようか」
戦場交響曲の調べに、誰も彼もが次第に熱狂を帯びてゆく。そんな中、津雲は仲間たちからそっと離れて単独行動を開始し始めていた。この騒乱の中、身を潜めて迂回路を往く陰陽師を見つけられる敵などそうはいない。彼は仲間の戦いを横目に、目的の場所を目指して進むのであった。
「勇ましく、雄々しく、そして楽しそう、だね……でも、その進む先は、地獄、だよ。かつても、いまこの時も、ね?」
一方、鉄十字の軍勢が津波と化して迫りくる主戦場。その眼前へ、赤髪の青年は単身飛び出してゆく。その姿は一歩踏み出すたびに背丈が縮み、周囲に血の如き紅の霧が溢れ出す。瞬く間に少年といっても差し支えない外見となるも、相手が躊躇する様子は微塵もない。猟兵の実力は、既に十分すぎるほど指揮官の身に染みているのだろう。
「支援砲撃の着弾後に突撃せよ! くれぐれも十全な状態の敵を相手取るな!」
「……そんな、待ちの姿勢で、いいの? 時間が、有利に働く、のは……何もそっちだけじゃ、ないのに」
口笛のような風切り音が迫る中、血霧の中より無数の拷問具が飛び出す。即ち、鋭刃、膝砕、電撃棒、焼鏝、猫鞭、石塊、毒湯、そして指潰しの計八種。都合五百を超える夥しい数の拷問具は一人でに宙を舞うと、まずは降り注ぐ砲弾を叩き落とした。
「部隊も、兵器も、関係なく。数も、質も、関係ない。全部纏めて……。地獄へ、叩き込もうか」
弾雨砲雷、破壊の渦に身を削られながらもペインは怯まず器物を手繰ってゆく。兵卒に出血を強い、兵器を食い破ってゆく拷問具たち。偶然ではあるが、相手の性質にこの『拷問』という属性が覿面に効果を発揮した。
「彼らは不死不滅の軍、死してもまた蘇る……が、殺傷でなく無力化に長けているとはな! この期に及んで負傷兵の扱いに苦慮するとは予想もしなかったぞ!」
拷問の主目的は苦痛を与えること。故に殺傷を狙ったものであれ、死へ至るまでにタイムラグがあった。それはじわじわと敵の蘇生速度を鈍らせ、継戦能力を削り取ってゆく。
「……さて。ペインのお陰で良い感じに敵が釣れているね」
数を相手取った戦闘は少年の得意分野だ。例え単騎であろうとも、兄姉たちと共に危なげなく渡り合ってくれるだろう。しかし、それでも天秤が不利に傾かぬという保証はない。後方で戦局を見守っていたファンは、ちらりと戦場から視線を外す。
「ただ、相手も軍曲の影響で勢い付いている。このまま削り合うのも良いけど、大分手間が掛かりそうだ……だから」
――とびっきりの冷や水を浴びせてあげなよ。
まるでその呟きが契機であったかのように、ひゅるりと冬を思わせる寒風が戦場へと流れ込む。それは冷たさを感じたと思った瞬間、まるで吹雪と見紛うばかりの氷雪を以て敵軍全体を蹂躙し始めた。
「戦車に重砲、擲弾と。万が一狙われてはひとたまりもなかったが、こうなればもう此方のものだ。シベリアの寒波以上とまではいかないが、今一度味わってゆけ」
シャンと涼やかな錫杖の音を響かせ、吹雪と共に津雲は姿を見せる。彼が仲間の元を離れていたのは、全てはこの一手のため。対象の区別をつける事の出来ぬ術に輩を巻き込まぬよう、敵だけを飲み込める位置を探っていたのである。
「正しく、あの忌々しき冬将軍の再来か……っ」
水中用装備同様、防寒着や寒冷地装備の類などが十分とは言い難い。積もりゆく雪に足を取られ、油すらも凍り付く冷気に戦車も重砲もその動きを停止させていった。辛うじて抵抗を行えた者もいたが、雪に混じった氷刃によって瞬時に沈黙させられてしまう。そうして斃れた骸は、瞬く間に雪化粧の中へと埋もれてゆく。
「っ、これは……まさか貴君の狙いは!?」
「流れる血すら凍り付き、兵士は残らず雪の中。こうも閉じ込められれば、貴様という拠点へも舞い戻れんだろう。これでもはや、指揮をとる相手も残るまい……安心して逝くがいいさ」
「なにを、っむぅ!?」
津雲の言葉の意味を推し量ろうとした指揮官は、氷雪の中に一つの影を見た。雪に溶ける白い装束の中、紅の瞳だけが鮮やかに浮かび上がっている。咄嗟に斧槍を振るって迎撃できたのは、これまで積んできた経験の成せる業か。金属の擦れる音を響かせながら鍔迫り合うのは、白刀を手にしたファン。
「雪に紛れて肉薄してきたか……そちらの得物は刀とはな、面白いっ!」
「生憎だけど、勝利に酔いたいなら、同じ穴の狢を探してやり合いなよ……あなた達は、戦う世界を、間違えたんだよ」
体重を乗せて相手を押し退け、切り払いながら距離をとって仕切り直す。指揮官は得物を構えなおしながら、不思議そうに小首を傾げる。
「世界を、間違えたとは?」
「時代、と言い換えても良いかもしれないけどね。もう、あなたの生きた一瞬が歴史になるほどの時間が経っている。世界そのものがとっくに変わっているんだよ」
「あんたらの求める全ては、今この場、この時において求められてない物ばかりなんだ。そもそも、俺は噺が出来なくなるから戦争とか嫌いでね。天下泰平万々歳、ってな」
ファンの言葉を継いだ語は、軽く肩をすくめて首を振る。娯楽の類など、戦争によって追いやられ、歪めさせられるものの典型だ。だからこそ、彼は決して指揮官の在り方を是としない。
「てなわけで、早いところお帰り頂こうか。まぁ、ちょっと物騒だけど音楽とかは嫌いじゃないみたいだし、平和に馴染めるようになってから帰ってくればいいんじゃないかな」
とは言え、完全に否定することもまたしなかった。僅かばかりとは言え、相通ずることの出来る部分も見つけられたのだ。であれば、次に繋がる何かがあるかもしれない。
ペインもまた、仲間の言葉に小さくうなずく。
「あなた達が向かうのは地獄の底か、ヴァルハラの館か……最も、そこが、本当にあるかは知らない。でも案外、貴方も含め……いつか何処かであっさり、転生するかもね」
「なるほど、な。理解はした。その言も開戦当初であれば戯言と切り捨てただろう。しかしながら、貴公らとの戦いの中で充足感を得たのもまた事実ではある」
対する指揮官は意外にも、猟兵たちの言葉に肯定を返す。その言葉に混じる感情に嘘偽りはない。
「――――だが、いまだ答えは否だ」
しかしそれでも、指揮官は構えを解かなかった。身に宿す戦意に翳り無く、闘争の意志は揺るがず軍人を支え続けている。その一点だけは微塵もぶれることがないのだ。
「私は今生でまだ勝利を得てはいない。成すべきこと、行うべきことを果たしていないのだ。今目の前の刹那を駆け抜けられぬ者が、どうして次の生へと向かえよう」
「……そう。なら、もうやるべきことは一つだけだね」
もう、これ以上の問答は野暮なのだろう。もはや残された時間は幾ばくも無い。その最期を飾るのは、やはり最も原始的な語らいが相応しいと両者は悟っていた。ファンと指揮官は互いに得物を構え、そして。
「いざ、尋常に――」
「――勝負ッ!」
刃を以て、最後の闘争が始まった。
先手を取ったのは指揮官。左足で地面を割り砕かんばかりに踏み込み、右手に握りしめた斧槍を神速の速度で繰り出す。捻りを加えた威力を増した刺突へ、ファンは刃を当てるのではなくただ静かに沿えた。
「万能だと言えば、聞こえはいいけどね。斧槍は斬突打可能な複合武器であるが故に、一つの芸に特化しきれない。ある意味、軍隊を率いたあなたを象徴しているのかもね」
「つまり器用貧乏だと? 見縊るなと言いたいところだが、こうも鮮やかに凌がれては言い訳がましいだけかっ!」
必殺の威力を籠めた突きがいなされる。火花を散らしながら軌道を逸らされるも、指揮官は瞬時に重心を後ろに引くや、僅かな溜めを作り斧刃による斬撃を狙う。だがファンは臆せず前へと踏み出し、後の先を取るべく霞の構えを取った。
「もしも単なる一介の武人であったなら、或いは……いや、詮無きことかな」
「ぐっ、させるかぁああああっ!」
空を切る斧刃、迫る白刀の切っ先。指揮官は空振った勢いを利用して石突の錘を叩き込まんとするが、紙一重の差で間に合わない。そしてその刹那を、少女は永遠に埋めさせてやるつもりなどなかった。
「防具の厄介さは、見てたよ。百戦、己を知り敵を知らば……ね」
指揮官の胸を深々と貫く、白き刀身。二撃決殺の絶技、番い燕は此処に相成った。一拍の静寂の後、力の抜けゆく指揮官の手より斧槍が零れ落ちる。相手を串刺しにしたまま、ファンは囁くように問いを漏らす。
「――結局、あなたは何が欲しかったんだろうね」
「はっ、そんなもの決まっているだろう……勝利、ただそれだけだ。ああ、だがその望みが絶たれたとなれば」
最後の灯と呼べばよいのだろうか。指揮官は瀕死とは思えぬ動きでファンを振り払い、刃を引き抜く。途端に滂沱と溢れ出した深紅の血潮に、軍人はもう頓着しなかった。
「老兵は死なず、ただ消え去るのみ。おめおめと骸を晒すのも恥だろう。此処はこの一節に倣わせて貰おうか……なに、あと数分の命だ。安心し給え、自棄は起こさんよ」
さらばだ、我が好敵手たちよ。
脱ぎ捨てた外套をファンへと叩きつけ視界を塞ぎながら、相手は体に鞭を打って後退してゆく。外套を振り払った時には、既に軍人の姿は視界より消え去っていたのであった。
「追うべき、ではないのだろうね。きっと」
「だろうな。外国人だし武士は食わねど高楊枝って訳じゃないだろうが、見栄ってもんを張りたいんだろうよ」
得物を収めるファンへ、語は呆れと共感をない混ぜにした複雑な表情を浮かべている。だが少なくとも、そこに悪感情は混じっていないように見えた。
「なんてったって、ここはあちらさんの一世一代の晴れ舞台なんだしな。こっちとしちゃ迷惑甚だしいが……ま、分らんでもないさ」
噺家足るもの、一度高座に上がれば見っともないところなど見せられない。きっと、それと同じ気持ちなのだろう。それも相手が己にとって重んずるべき相手であればなおさら。
「執念で現世へしがみつき、望みを抱いたまま消えてゆく。あの者らは果たして、何処へ向かうのだろうな」
「転生を受け入れるか、どうかは、分からないけど。きっと、悪い方には、いかないよ。彼らの罪は、今こうして、罰として、償わせたわけだし……、ね」
相手の行く末を案ずる津雲に対し、ペインはきっと大丈夫だと告げた。少なくともこの戦場に満ちている感情は、決して仄暗いものなどではなかったのだから。
「であれば良いのだがな。となればあとは彼らの心持ち次第、か」
小さくついた溜め息が、静かに溶けては消えてゆく。四人は戦争の終わりを感じながら、刃を交わした者の行く末に僅かでも救いがあることを祈るのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
芥子鴉・芙蓉
──先刻、わらわ達を見逃したあの兵は逝ったのであろうか。
いや、逝ったのじゃろうな。
……さて。雌雄が決したタイミングで、わらわは指揮官の前へ出る。
この場に桜の精がおり、そして影朧が在るのであれば。彼の指揮官には、転生への癒しを受け入れる権利がある。じゃがどう選択するかはヤツの自由じゃ。
此度の戦いにおいて、悔いなどないのであればそれでよかろう。
勝利は出来ずとも、充足を得られたのならばそのまま逝け。
しかし。それでも尚。勝利に憧れ、欲し、ひたすらに手を伸ばすというのなら……次なる人生で、それを為すが良い。
(選択を任せ、転生に応じるというのであれば桜の癒やしを使用し、穏やかな眠りへ誘うと共に転生を施す)
●落桜流水、ただ全ては過ぎ去りて
「……全くもって、酷い有様じゃの」
パキリ、と。先の戦闘の名残である氷雪を踏みしめながら、戦場へ姿を見せたのは芙蓉。先ほどまで鳴り響いていた銃声も、砲音も、剣戟の響きもない。ただただ静けさの満ちる荒地を、彼女はゆっくりと歩いてゆく。
「──先刻、わらわ達を見逃したあの兵は逝ったのであろうか。いや、逝ったのじゃろうな、きっと」
砲弾痕を越え、砕け散った鉄骸を過ぎ、荒れ果てた地面を後にする。元より、芙蓉は前線で切った張ったを得手とする性質ではない。先の集団戦とて、専ら學徒の救護活動に徹していた。そんな彼女がこのタイミングで出てきた意味。それは芙蓉でなくては成せぬ役目を果たす為であった。
そうして彼女は、探し求めていた者の前へと辿り着く。
「……おお、おったのう。まだ生きていたようでなによりじゃ」
「は、はは。この有様で、それはないだろう、ご婦人殿?」
桜學府が校庭の片隅。一本だけぽつんと生えた幻朧桜へ背を預けながら、鉄兜の指揮官は力なく腰を下ろしていた。全身は余すことなく火傷を負い、夥しい数の刀傷銃創から流れ出た血によって、軍服は赤黒く染め上げられている。満身創痍どころか、もはや死に体。医者としての経験がもはや助からぬと告げながらも、問いかけに応える相手の声はどこまでも気軽かった。
「のう、お前さん。此度の戦は、満足出来たかや?」
この場に影朧が居て、桜の精が居る。であれば芙蓉は自らの性として、彼の者に転生への癒しを受け入れるかどうかを問い質さなければならなかった……例え、その可能性が低いと分かっていても。
「此度の戦いにおいて、悔いなどないのであればそれでよかろう。勝利は出来ずとも、充足を得られたのならばそのまま逝け。それもまた救いじゃろうしな……しかし」
芙蓉はそっと腰を落とし、視線の高さを相手へと合わせる。指揮官が最後の力を振り絞って襲い掛かってくる可能性は、もちろん零ではない。だがその様な考えが入り込む余地など、今の彼女には僅かばかりも存在していなかった。
「それでも尚。勝利に憧れ、欲し、ひたすらに手を伸ばすというのなら……次なる人生で、それを為すが良い。勿論、どれを選ぶかはお前さんの自由じゃがの」
選択を迫るのではない。飽くまでも自身の意思で選び取ることを尊重する。それは医者として、猟兵として、そして全力でぶつかり合った人間として、相手に手向けられる最大の敬意であった。
「……満足など、出来ようはずもないだろう。私は、我らは負けたのだ。また、今度も。次に賭けると言えば聞こえはいい。だが我々は、我々として勝ちたいんだ。勝ちたかったんだ」
訥々と、漏れ出る言葉は未練そのもの。しかし内容とは裏腹に、その声音は穏やかさを帯びていた。
「……と思っていたのだが、な。満足は出来ずとも……納得は、あるのだ」
黒剣の剣士や極東の若武者、星界の鋼騎士と真っ向からぶつかり合った。
銀の人狼の疾駆を追い、幼き狙撃手たちの弾丸を掻い潜り、双心の少女の叫びを聞いた。
今世の軍人と大軍の軍略を競い合い、器物が人となった者たちの連携に目を見張った。
「未練はある。あるさ、ああ在るとも。勝ちたかったさ……だが、この戦場は至高と呼べるものだった。こちらも手加減などしなかったし、諸君らだってそうだろう。影朧となり、超常の力を振るい、その全力の上で負けたのだ。なら、受け入れるしかなかろうさ」
「そう、かの。であればそれで良いのじゃろ。お前さんが良いというのであれば、きっと」
「ああ、そうだ……これで、良いのだ」
ふわりと風が吹く。冬の寒さを徐々に消し去り、春の暖かさをもたらす風だ。はらはらと桜の花びらを乗せながら、ゆっくりと風が吹き抜けてゆく。
「このまま消えるも良し。次世を歩むのも一興だろう。なに、時間だけは幾らでもある。ヴァルハラで戦友たちと語らいながら、暫し考えてみよう……」
まるで誘われるかのように指揮官の体が崩れ、風の中に消えてゆく。砂のように、夢のように、それはどこまでも穏やかな旅立ちだ。
「嗚呼、本当に良い敵だった。良き戦争だった。勝てはしなかったけれど、実に……」
楽しかったなぁ。追い求めた夢の残滓は過ぎ去り、カラリと音を立てて鉄兜が地に落ちた。その様を見届けた芙蓉は、目を細めながら苦笑を浮かべる。
「こうも周りを巻き込んで大騒ぎを起こしておきながら……まったく」
遊び疲れた童の様な顔で逝きおってからに。そうぼやく彼女の表情もまた、どこか満足気であったのは、きっと気のせいではないだろう。
永きに渡る戦争は此処に幕を閉じた。血が流れ、物資を飲み込みながらも、命だけは一つとして落ちることが無かったのは果たして偶然であろうか。
斯くして猟兵、學徒ともに何がしかの意味を胸に得ながら、日常という平和へと帰ってゆくのであった。
大成功
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