2
大山鳴動、妖兵雲霞

#アックス&ウィザーズ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アックス&ウィザーズ


0




●アックス&ウィザーズ・月夜の山砦
 刺々しい灌木がこびり付くようにして茂る、砂煙舞う白褐色の山脈。
 豊富な鉱石と魔力とを宿すこの峰々では、古より多くの魔物が跋扈し、その度に人々が暮らす山地が侵されてきた。
 それを防ぐ為の砦が山脈外縁に築かれたのは、今から随分と昔の事である。

 『白き鋼』に覆われた外壁を美しく煌めかせ、切り立つ山頂より周囲を睨む白銀の城。外見の威圧感に違わぬ堅牢さで、幾度となく魔物の襲撃を退けてきた歴戦の雄である。
 輝く胸壁、より高く聳える円や方形の塔、それらに規則正しく穿たれた狭間を守る鎧戸。内には引き絞られた弓やバリスタが潜み、足下の鞍部に作られた主要山道や迂回する悪路も含め、外の鉱山都市へと続くあらゆる道を視界に収めていた。
 今宵も砦は明るい月光を一身に浴び、刃物の如くぎらついた光を周囲に投げ掛けている。
 しかしそれは、言うなれば――風前の灯火が放つ、最期の閃きになりつつあった。

●グリモアベース
 空高く浮かぶ『群竜大陸』の制圧が急ピッチで進むアックス&ウィザーズ。ラヴェル・ペーシャ(ダンピールのビーストマスター・f17019)が予知したのは、その探索とは関わりの薄い地上での事件だった。
「皆さん、探索でお疲れの所申し訳ありませんが、こちらにも手を貸して頂けないでしょうか」
 そんな言葉と共に、何かの挿絵ページと思しき紙片が差し出される。薄褐色の紙上には雲の切れ目に聳え立つ、光沢ある山砦が描かれていた。にわかには信じ難いが、ほぼ全面に地域特産の特殊な鋼板があしらわれている、という注釈付きだ。
「この砦の名は『ゴルツ砦』。見ての通り特徴的な外見ですが、話ではこの山脈を時折襲う熱波と砂嵐の為に……と、それはさておき。ここが現在、オブリビオンの襲撃を受けています」
 敵は30㎝前後の人型オブリビオン。ごく一般的に知られる妖精、フェアリーと呼ばれる種族である。ただし、森では無く山岳を飛び、揃いの軍服と銃火器を備え、隊伍を組んでいなければ、の話だが。

 より正確に言えば、現在砦を襲っているのはその手先、霊体たる召喚兵である。夜陰に乗じて突如出没した彼らは瞬く間に内部へと侵入し、今や至る所で狼藉を働いているという。
「奴ら、階段に油を撒いたり、篝火で火事を起こそうとしたりと、とにかくやりたい放題です。今のところ大きな被害は出ていませんが、それも長くは続かないでしょう」
 ラヴェルによれば、これはまだ陽動に過ぎないのだという。こうしている今も、数十倍を超える数の本隊が、山脈方面から着々と歩を進めているというのだ。
「このまま放置しておけば砦はもちろん、その先に広がる街も無事では済みません。少なくとも、都市機能が停止する程の災厄がもたらされるのは確実です」
 その言葉に、猟兵の幾人かが訝しむような表情が浮かべる。いくら数が多かろうと、小さな妖精が街ひとつを破壊すると聞けば無理もない。当のラヴェルさえも半信半疑の様子で顎を撫でている。
「確かに不自然です。何か裏が……いや、まずは態勢を整えるのが先決、ですね」
 ともあれ。敵にどんな企みがあるにせよ、転送先であるこの砦が鍵となるのは間違いない。ならば今は一刻も早く城内の敵を排除し、迎撃の準備を進めるのが最善だろう。

 敵は体躯の小ささ故か、肉弾戦や単独行動よりも魔法や銃などの遠距離、かつ集団での攻撃を得意とするそうだ。
 召喚兵についても同様の事が言えるが、彼らに限ってはその『小ささ』こそが何よりの脅威と呼べるかもしれない。
「逃げたか隠れたか、城内に召喚者の姿は見られませんでした。その代わり、兵達には予め行動指針が与えられているらしく、正面での戦闘は避け、奇襲と攪乱を徹底して行っているようです」
 夜の城内。火が焚かれているとは言え、小さな彼らが隠れる場所には事欠かない。速さに自信が無い限り、単純に追い回すのは非効率的である。待ち伏せ、罠、挟み撃ちなどの工夫も必要になるかもしれない。
 考えを巡らせ始める猟兵達に、ラヴェルが言いにくそうに注文を加える。
「ええと、それから、守備兵もあちこちで対処に追われているはずです。無茶を言いますが、巻き添えを出す可能性にも気を配って頂けると……」
 何と言っても屋内の乱戦。あまり気にし過ぎる必要はないだろうが、配慮ができるならそれに越したことはない。
 中には深手を負って動けない者もいるだろう。戦闘に参加せず、彼らの救護に専念する事もまた、迅速な作戦行動の一助となるはずだ。

「作戦を共有して動き、守備隊を翻弄するだけの知略を持つ敵です。華奢な見た目とは裏腹に、侮れない戦いになるかもしれません。……現地は既に戦場です、お気を付けて」
 ラヴェルはそう念を押し、転送の門を開いた。


ピツ・マウカ
 そーらにーそびえるーしろがねの城ー。という訳でピツ・マウカと申します。アックス&ウィザーズ初挑戦です、よろしくお願い致します。本シナリオは『群竜大陸』とは無関係ですのでご注意ください。

 設定の概要はオープニング通りですが、要約すると『山頂にある砦に襲撃があり、既に侵入を許していて中は混乱状態。敵本隊が到着する前に内部の敵を排除し、迎撃態勢を整えましょう』となります。
 一章のポイントは『逃げ隠れする小さな敵を上手く仕留める』です。敵に応戦の意思はほとんどなく、霊体と言っても物理攻撃も可能ですので、この点さえ押さえれば優位に進めるでしょう。
 もう一つ、『巻き添えを出さないように立ち回る』は必須ではありません。悪影響はありませんので、性格に応じて自由にご活躍下さい。また、『味方の負傷や気絶』をトリガーにするユーベルコードなどにも活用可能です。
 上手く第二章に進めた場合、砦内部から敵軍を見下ろす形となります。隙の多い攻撃等もノーリスクで行えるかもしれません。是非狙ってみて下さい。
 それでは、ご参加をお待ちしております。
28




第1章 冒険 『月夜の反撃戦』

POW   :    前線に立ち戦線を押し上げる

SPD   :    罠を仕掛け敵の侵攻速度を遅らせる

WIZ   :    通路を確保し負傷者の後送を行う

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「クソ、あいつら眼を撃ちやがった!畜生、痛ってえ!」
「落ち着け、傷は浅いぞ。早く手当を!」
「そっち行ったぞ!囲い込め!」
「やばい、ここにも火が!おい、こっちにも水持って来い!」
 転送を終えた猟兵達の眼と耳が初めに捉えたのは、走りあるいは苦痛に転げ回る人々、けたたましい足音と怒声、悲鳴、ひっきりなしに物が倒れ壊れる音と、壮絶極まる戦いの前線だった。
 時折、淡く発光する物体群がひゅんひゅんと飛び回っているのが見える。その動きは無秩序ながら迷いが無く、右往左往する兵士達とは対照的だった。
寺内・美月
アドリブ・連携歓迎
・先遣として亡霊兵士のRCT(連隊戦闘団)を派遣(美月は主力を率いて後ほど合流)、細部行動は指揮官たるトゥルパが指示する。
・歩兵五個中隊(約千人)を砦内部に投入。短銃身散弾銃や各種手榴弾を用いる等、あらゆる手段を以い至短時間にて一掃する。
・装甲車化歩兵中隊と戦車中隊は火力・機動力を以て砦周囲の敵を一掃し警戒網を構築。
・砲兵中隊は敵主力を観測しつつ、攻勢転移の準備を行う。
・高射砲兵中隊は敷地内にVADSを設置、上空から侵入する敵を迎撃。
・工兵隊は破砕部分を最低限修復し本隊の攻撃に備え、物資の搬入等も併せて行う。
・衛生隊は野戦病院を設置し、負傷した砦の人員の応急処置を行う。



 そこへ、新たな軍勢が現れた。襲撃者と同じく銃を構え、揃いの制服を纏う亡霊の軍団。ただし、大きさは人と同じではあるが。
「な、何だお前たち!?どこから入ってきた!」
 彼らは驚きと警戒を露わにする守備兵には一瞥も与えず、次々に湯水の如く湧き出ては整然と散開してゆく。
「案ずるな。援軍だ」
 振り向いたそこには、まだ少年と言っても良い白衣の指揮官が立っていた。

 時は少し遡る。
 黒衣の猟兵、寺内・美月(霊軍統べし黒衣の帥・f02790)はグリモアベースにて、亡霊兵士たちに大まかな指示を下しながら次々と現地へ送り出していた。
 その指揮官として送り込まれたのが、彼の五感を共有した分身であり、先程姿を見せた分身、『トゥルパ』である。
 差配を下し終えた彼は、砦の医務室へと足を運んでいた。今も利用されている軍事施設だけあって広さは十分、野戦病院としても機能するだろうと判断を下し、衛生隊に伝達する。
 そして、ひときわ深手を負って昏睡している人物。無数のへこみといくつかの貫通痕、そして真黒な煤で覆われた鎧を着た男性が、砦の守備隊長『代理』なのだという。守備隊長が所用で不在というのも、この男だけが真っ先に集中砲火を浴びたというのも、到底偶然とは思えなかった。
 ともあれ、美月のトゥルパは彼が所持していた砦の略地図を借り受け、全体を見渡しやすい塔の上で陣取り本格的な指揮を執り始める。
 物資の搬入先、損傷の確認、敵本隊の到着予想。現地で考える事は戦闘以外にも山ほどあったが、幸いにして隠密は彼の得意技である。喧噪から切り離されたように、静かに佇む彼を気に掛ける者は、不思議なまでに現れなかった。

 その指揮下。展開した兵士達は塔へ、階段へと、制圧範囲を広げる中途で予想通り妖精兵との邂逅を果たしていた。敵の対応はおおよその場合決まっており、照準を攪乱しようと無秩序な軌道を描きながら逃走を図るのが常套手段のようだった。
 ただの飛び道具であればそれで十分だったろう。だが彼らに誤算があるとすれば、それは彼我の武器を同様に考えた事だった。
 展開した亡霊兵の銃口から吐き出された弾はたちまち花開くように四散し、至近距離にある物全てを分け隔てなく蹂躙する。同時に空気の壁が速やかにその勢いを殺し、無用な被害を抑えてくれる。ある種、彼らにとっては天敵とも呼べる武器だった。
 予想外の被害に動揺した敵が態勢を整えようとすれば、その行く先も大抵は一つに絞られる。人間の手が届かない場所、天空である。
 だがそこは最早安全圏では無く、弾丸吹き荒れる嵐の中心部だった。屋外や塔上に並ぶ、銃を束ねたような姿の対空機関砲――VADSが瞬き程の間に無数の弾をばら撒き続け、夜空へ弾幕のヴェールを掛けていたのだ。
 下から噴き上げる鉛の雨に吹き散らされるようにして、発光体は胸壁の外へと逃れ行く。狭間辺りから再び内部へ侵入するつもりなのだろうが、そこには更なる別動隊が待ち受けていた。
 彼らを観測するなり、戦車隊を筆頭とした鉄の車両群が激しく身を震わせながら悪路を駆ける。驚くべき速度で砂礫を超えて接近すれば、砦を揺るがすような轟音と共に銃弾と砲弾を次々に見舞っていく。

 ――隣塔の回廊より上階へ突入、上下から攻め立てて燻り出せ。
 ――砦南方に敵戦力集中、急行せよ。
 ――命令。――報告せよ。――命令。
 それらを見下ろしている美月のトゥルパは殆ど口と耳を同時に働かせるようにしながら、矢継ぎ早に通信を行っていた。盤上を見下ろすように戦況の変化を把握し、手駒である部隊を的確に動かす、その役割を果たす為に。
 そしてそれこそが、敵との決定的な差でもある。情報を共有し策を練る指揮官を持たず、下された命令を律義に守る妖精兵達。
 それはさながら札の読まれた骨牌のように不公平な戦いであり、しかもその差は刻々と広がり続けていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

太宰・寿
姿が小さくて捉えにくいのは厄介ですね
怪我をしている人がいるのも心配です

絵本から小人たちを呼び出して、必要な物資の運搬で兵士さんたちの補助と
敵を抑えるための罠を運搬してもらいます
罠を運んでもらうのは、油を撒いて足を取るのに適した場所
坂になっている箇所や階段、光の当たらず視界を奪われやすいとのろに
それから、隠れるのに適した隙間など

追い回すには向かないので、私は兵士さんたちの手当てを
魔法が使えないので、すぐに治してあげられないのが申し訳ないです
敵が姿を見せるなら距離がある場合、Polarisで
近ければ虹霓で叩き落とします
当たれば儲け物ですよね
勿論、兵士さんたちには当てないように狙いはしっかり定めます



 敵もさるもの、銃や爆破魔法の陽動と隠密を使い分け、難を逃れている妖精兵は未だ多く残っているようだった。
 敵のものか味方のものかも分からぬ悲鳴と銃撃、爆破音。塔や壁がそれらを跳ね返し、城内にはくぐもった喧噪が絶え間なく響く。それに少々耳を痛めつつ、太宰・寿(パステルペインター・f18704)はきょろりと周囲を見渡した。
 手にはモップほどの大きな絵筆、小脇には厚表紙の絵本。戦場とは余りにも不似合いな出で立ちの彼女だが、いずれもれっきとした武器である。と言っても、彼女の目的は戦う事では無かったが。

 とその時、探すまでも無く第一の目標が見つかった。手近な建物の中、薄暗い階段の横で一人の兵士が伸びている。大方、足を滑らせて転落したのだろう。
「……!それじゃあみんな、お願い。足元には気を付けてね」
 彼女が呼び掛けた相手は、文字通り彼女の絵本から『飛び出して来た』小人たち。背丈は敵と同じ位だろうか、彼らよりもやや頭身が低く、目鼻立ちはくりくりとあどけない。
 『まかせろ』とばかりに小さな胸を張ってから、三々五々にわらわらと走ってゆく彼ら。それを横目に、寿も負傷者の元へ駆けつける。
 胴体の一部をのみ守っている金属の鎧は殆ど役に立たなかったと見え、全身に痛々しい落下の痕が刻まれていた。さらに、落ちる時に切れたらしき頭の傷口からはどくどくと血が溢れ出している。命に別状は無いようだが、このまま放置していれば話は別だろう。
「う、あ……クレリック、か?」
「いいえ。けれど、手当てなら出来ます」
 呻く男の口を手で制しながら、道具を取り出して手早く応急処置を施していく。ありふれた薬と清潔な以外何の変哲もない布も、今は命を繋ぐ品々へと変わっていた。

 だが、与えた損害を癒してしまう治療者は、敵からすれば邪魔な存在。まして兵士とはかけ離れた装いの彼女は、遠目からでも無防備に見られたらしい。通り掛かった妖精兵達が向きを変え、一直線に彼女の方向へと飛び来った。
 しかし、彼女の腰に一丁の銃が下がっている事までは見えなかったらしい。寿は素早くそれ――拳銃『Polaris』を抜き、振り返りざま両手で構える。気付いた敵が軌道を変えるよりも早く狙いを定め、数度引き金を引いた。
 百発百中、とは行かないが、そもそもが小さな的。当たれば儲け物程度にしか期待していなかった彼女は、その結果を確認する気など初めから無く。十分接近した敵に肉薄すると、巨大な絵筆を振り下ろした。
 思わぬ反撃に一瞬の硬直を見せた彼らはその一撃をまともに食らい、地面へと叩き付けられる。ようやく寿が『安全に狩れる獲物』ではないと判断したらしく、残りは牽制の射撃と共にふらふらと飛び去った。
 その背を見送ってから、彼女は再び負傷者の処置に当たる。
(魔法を使えれば、すぐに治してあげられるのに)
 歯がゆい思いが焦りに変わらぬよう、慎重に手を動かして。

 一方。散らばった小人たちは、煙の上がる兵舎の中で。
「こんな所にまで火が!早く、水か何か、を……!?」
『はい、どうぞ!』
 窓の破れた塔の会堂で。
「どうにかアレを塞げれば楽になるんだが……」
『木の板、持ってきたよ!』
 敵に劣らず息の合った動きで、素早く物資を運んでいた。幸いと言うべきか、兵達が怒鳴りあっているお陰で、彼らが求める物は幾分容易に判断がついた。
 それ以外の小人たちは、主に階段の上や傾斜のある床と言った足を滑らせやすい場所や、灯りの届かない屋内、通気の為に開けられた小さな孔等、敵の通り掛かりそうな箇所を見つけては『罠』を仕掛けていた。
 例えば、蜘蛛の糸のように細い霞網。粘着性の樹液と思しき液体。人には平気だが非力な妖精兵には脅威となる程度の仕掛けを、あちらこちらに施していった。
 疑心暗鬼を生ず。それらの罠は例え仕留め損ねたとしても、無遠慮に飛び回る敵を警戒させ、速度を鈍らせる。きっと物理的以上に精神的な意味で、彼らは着実な戦果を挙げてくれるだろう。

「すみません、少しここで休んでいて下さい」
「ああ……。あり、がとう」
 彼らが奮闘している頃、寿も一人目の治療を終えていた。すぐには動けない彼が再び襲われる事も考え、近くの倉庫のような建物に寝かせる事にし、彼女は先を急ぐ。
 この砦にはあとどれ程の怪我人がいるのだろうか。思考を巡らせる彼女の前方を、襲って下さいと言わんばかりに足を引きずる丸腰の兵士が横切って行った。
 またしても、探す必要は無かった。ほうと短く息を吐いて気合を入れ、寿は次なる負傷者の元へと駆けてゆくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘザー・デストリュクシオン
敵とたくさん壊しあえそうね!わくわくするの!

聞き耳で兵士の人たちの話を聞いて、敵がどの辺にいるか情報収集しながら野生の勘であたりをつけてダッシュで移動するの。
襲われてる人を見かけたらリボンを解いて速さを上げてダッシュで一気に近づいて攻撃!
戦えないなら下がって!じゃまなの!
速さに自信あるから、敵がかくれる前に力溜めして捨て身の一撃でかくじつに壊していくの。
もしも速さが足りなければさらにショートパンツも脱ぐし、それでも足りなければ上着も脱ぐし、なんなら下着も脱いでもいいの!
楽しく壊しあえるならハダカになってもいいの。見られてはずかしい体してないし。

これで終わりなの?ほら、もっと楽しませてよ!



 砦に満ち満ちる戦闘の気配。針で刺すかの如く剣呑な空気に、一人胸をときめかせる者がいた。
「敵とたくさん壊しあえそうね!わくわくするの!」
 彼女の名前はヘザー・デストリュクシオン(白猫兎の破壊者・f16748)。兎の耳をぴくぴくと小刻みに震わせ、周囲で起こる争いの音を聴き分けている。
 単なる足音、無為な絶叫、けたたましい衝突音、時に皮膚が震える程の爆音。反響し混じりあうその雑音を手掛かりに、敵の所在を突き止めると言うのだった。
『――し、追い詰めろ!』
(……っ!)
 ヘザーの聴覚が兵士の声を捉えると同時に、半ば反射的に両脚が地を蹴りその方向へと身体を運ぶ。風を切りながら縦長の瞳が素早く動き、事後的に音の発生源を探り当てた彼女はさらに勢いを増して戦地を駆ける。行く先は、より殺気の濃密な――より『わくわく』する方へ。
 その先にあった塔の内部へと入り込むと、そのまま螺旋階段を直線的に飛び越え、瞬く間に数階上の現場へと辿り着く。

 そこは、長い回廊。奥の方で、半透明の妖精達を追い掛ける守備兵達の背中が見えた。途中の矢狭間と出口の扉は閉じられており、一見すれば袋小路である。しかしよく見れば、篝火の届かない陰で何体もの伏兵が待ち構えていた。
 射線上に兵士達が誘い込まれる寸前。リボンをしゅるりと解いたヘザーは、それを空中に置き去りにして彼らの横をすり抜ける。敵味方双方の意表を突いて飛び掛かった彼女の猫爪は、敵の一体を見事に切り裂いた。
「戦えないなら下がって!じゃまなの!」
「なっ……!?」
 瞠目する兵士達へ背中越しに呼び掛け、敵の出方に目を走らせる。想定外の状況にあっても彼らの反応は早く、既に次の行動へと移っていた。
 鍵を外されていたらしい鎧戸が手早く押し開かれ、殿の兵員が銃口を並べて追手を阻むように隊列を組む。そこには潰走とは違う、計画に裏打ちされた冷静さを感じ取る事ができた。
 だが、ヘザーもそれを黙って眺めていた訳では無い。数秒かけて大腿部に込められていた圧力が解き放たれ、バネのように一気に反発する。あたかも射出機がごとく、敵の態勢が整う前に彼女の身体をそのただ中へと送り込んだ。
 勢い良く飛び込んできたヘザーに陣形を掻き乱され、退路を潰された敵にようやく焦りの色が浮かぶ。
 しかし、まだ彼らには手段が残されていた。
 崩された隊列をあえて立て直さず、兵達はそのまま散開隊形に移る。攻撃の回避に専念しつつ、隙を突いて逃げ出す機を伺っているのだろう。
 事実、四方八方で無秩序に飛び回る飛行体を漏らさず撃破するのは至難の業である。それを悟った彼女の次の行動は――履いていたショートパンツを脱ぎ捨てる事だった。
 ただそれだけで、ヘザーの肉体は更なる加速を可能にする。宙に躍り上がるとまず一体、壁を蹴って急回転、逃げようとするもう一体の背を切り裂いた。無闇に放たれた応戦の魔法を紙一重で避け、さらに一体。空いた片手はジャケットのボタンを外し、彼女はなおも速度を増していく。
「これで終わりなの?ほら、もっと楽しませてよ!」
 夜空から吹き込む風が火照る体をくすぐり、回廊に満ちた殺気が滾る血を一層沸き立たせる。露わになった素肌はこの場の空気を敏感に感じ取り、あらゆる刺激が彼女の闘争本能を掻き立てていた。
 そこにはもう壁も天井も無く、ヘザーは狭い廊下を縦横無尽に跳ね回る。狙いなど到底付けられないその動きを前にしては、もはや敵の魔法も銃弾も『壊しあい』を楽しませる為の演出に過ぎなかった。

 電光石火の戦いが繰り広げられている間、守備兵達は呆気に取られつつ遠巻きに見守っていたが、やがて。
「おい、俺達も他を回るぞ。まずは窓の封鎖だ!」
「だが、彼女を放っておいて平気だろうか?」
「見れば分かるだろう、ここにいても邪魔にしかならん。それに……」
 ちらと奥の方を見れば、そこにはあられもない姿で跳び回るうら若い娘の姿。瞬く間に衣服を脱いでゆき、辛うじて残っているのは下着のみ。
「……これ以上、この場に留まるのは道義に反する」
「……確かに」
 目を伏せた守備兵達はそれ以上の問答を止め、そそくさと立ち去るのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

青原・理仁(サポート)
人間
年齢 17歳 男
黒い瞳 金髪
口調 男性的(俺、呼び捨て、だ、だぜ、だな、だよな?)

性格面:
やさぐれ、ぶっきらぼう
積極的な人助けはしないが、見捨てきれずに手を貸してしまう

戦闘:
武器は使わず、殴る・蹴る・投げる・極めるなど、技能「グラップル」「怪力」を生かしつつ徒手空拳で戦う
構え方は古武術っぽい

雷属性への適性があり、魔力やら気やらを雷撃に変換し、放出したり徒手空拳の際に纏わせたりする



「はぁ、殴り甲斐の無さそうな連中だぜ」
 星空を背景に飛び交う妖精兵の隊列を遠目に、一人の猟兵、青原・理仁(青天の雷霆・f03611)が呟く。物足りなさげに両手の拳を軽く合わせると、青白いスパークがパチリと弾けた。
 大儀そうな態度ながら、彼の足もまた、近くから鳴り響く騒音の元へと向いていた。

 その発生源、ごく薄暗い建物の陰では、やはり複数の守備兵が騒いでいた。一人は流血する顔を手で押さえ、残りの複数人は彼を運ぼうとしたり、あるいは扉や備品を燃やそうとする敵を追い掛けたりしているようだが、自由自在に飛び回る敵に上手く弄ばれてしまっている。
「……ったく、しょうがねえな!」
 そして、その現場に辿り着いてしまった理仁は観念したように軽く息を吐き、腕を振り上げ気を込めた。
 たちまちその拳に広がった電光が、空気を殴り付けるような動作と共に眼前で広がり、大量の光の筋となって空中を舞う妖精兵達の背中に突き刺さる。
「な、なんだ!?」
「話は後だ、死にたくないなら隠れてろ」
 統制された彼の雷撃は敵だけを貫き、金属を身に着けている兵士には掠りもしていない。それは彼の粗暴な口調とは裏腹に、確かな気遣いがなされている証拠に他ならなかった。

 事情を呑み込めない兵士達をやや強引に建物の中へと退避させていると、運の悪い敵の新手がそこを通り掛かる。理仁の拳が再び合わされ、先ほどよりも強く、激しい閃光が起こった。それは手に留まらず、肩そして全身へと広がり、周囲を眩く照らし出していく。
 今度は、手加減無し。電撃を纏った両脚は迅雷のような速度で動き、踵を返そうとする敵を容易に捉える。その内の一体に向けて振るわれた拳は激しい明滅と共に落雷のような放電を巻き起こし、手の届くよりも遥か遠方にいる敵までも焼き尽くした。

 夜の城内。轟く雷鳴と、密集する建造物の間で瞬く光。まるで雷雲がこの場所だけを覆ってしまったかのような凄まじい景色。そしてその中心で、理仁の拳は飽く事無く獲物を食らい続けるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

富井・亮平(サポート)
【解説】
オブリビオンと戦うという設定のヒーローマスク。
マスクを被るとボディの人格が変わるような感じ。

謎のオブリビオン文明の話とか、地球侵略を狙うオブリビオン星人の話とか、適当な事を言いながら頑張る。
関係なくてもオブリビオンのせいにして行動する。

行動そのものはマトモ。

【行動】
ヒーローっぽい行動であれば何でもします。
戦闘は主に魔法剣士スタイルですが、機械も扱えます。
ガジェット形状は固定していません、必要に応じ自由に変なメカを使わせて下さい。

UCを使うと「黒幕が出てきて敵を改造する」「謎のお助けキャラが登場する」などのヒーローっぽいイベントも発生させられます。

「このイェーガーレッドに任せておけッ!」


ルイズ・ペレンナ(サポート)
『お代は結構ですわよ。けれど懐には注意なさいませね?』
ブラックタールのシーフ × スターライダー
特徴 金目の物が好き 錠前マニア グルメ 快楽主義者 実は恋をしていた
口調 貴婦人(わたくし、あなた、~さん、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)
敵には 高慢(わたくし、あなた、呼び捨て、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)

・金目の物をお宝と認識し獲得するのが行動理念
 直接の機会でなくても獲得出来るかも知れないと思えば動きます

・愛情や人助けのような金銭にならない価値は興味ないですが
 それを大事にする人を貶めもしません。趣味の相違

・利害が一致すれば他人との共闘やサポートはむしろ積極的です



「ふぅん、やっぱりシルバーには劣りますわね」
 宇宙バイクに跨ったルイズ・ペレンナ(怪盗淑女・f06141)はつまらなさそうに呟く。望遠鏡の先には山砦を覆う『白き鋼』。素材としては価値ある品だが、やはり宝飾品には及ばない。
 けれど、これだけ立派な砦が要るほどの危険な土地。それでも多くの人々が集まってくるからには、この山脈は余程の利益を生み出しているに違いない。
 となれば、背後に広がる鉱山都市とやらにも相応の財が蓄えられているはずだ。
 ――壊してしまうなんて、勿体ない。
 獲物を狙うような眼差しを一度だけ街に注いで、ルイズは操縦桿を操り、喧騒に揺れる山頂へ向けて降下を開始した。

「ミクロオブリビオン星人よ、お前達の悪事もここまでだッ!イェーガーレッド、ただいま参上ッ!」
 一方、真っ赤に燃えるスーツに劣らず熱い名乗りを上げたのは、富井・亮平(イェーガーレッド・f12712)である。砦を荒らしていた妖精兵の亡霊部隊に向けて指を突き付ける――が。
 敵はちょっと訝しむような様子を見せた後、すぐに背を向けて四方に逃げ始めてしまった。
「ムッ……おのれ卑怯者めッ!正々堂々私と勝負しろッ!」

「――あら、ごめんあそばせ」
 しかしその頭上から、ルイズの駆る宇宙バイクが襲い掛かる。重力を無視するかのような驚異的な軌道で亡霊の体を次々に引き裂いたかと思うと、勢いを緩めること無く砦中央へ舵を取る。
 林立する塔の合間を縫いながらも殆どトップスピードで駆け抜けながら、意表を突かれた敵を粉砕していく。
 手の届かないような物陰に潜んでいた敵も木霊する排気音に驚いたのか、次々と広い上空に逃げ出して行くのが横目に見える。
 それならそれで大いに結構と、ルイズはさらにアクセルを回す。呼び掛けに応えるように、相棒のエンジンが一際高い唸りを上げた。

「おおブラック、来てくれたのかッ!これは私も負けてはおれんッ!」
 颯爽と走り去った彼女の活躍に発奮した亮平は拳を握りしめ、一つのガジェットを取り出した。
 メガホンに似たそれの引き金を引けば、ラッパ型の口から指向性を持った強烈な『音』が放出された。
 奔流とでも呼ぶべき音の波は密集する建造物に乱反射し、壁をびりびりと震わせながら周囲へと広がっていく。
 通り掛かったらしい砦の守備兵達も足を止め耳を塞いでおり、出所を探る余裕も無いようだ。
 勿論、それだけと言ってしまえばそれまでの事。特にダメージを与える訳でも無く、あくまで一時的に動きを止めているだけである。
 ただし、体の小さな妖精兵に限って言えば、話は別だった。

 全方位から脳を揺さぶられるような衝撃を受けた彼らの意識は爆音に塗り潰され、混乱の内に統率は崩壊する。
 それでも作戦行動に則り退避を図っているようだが、もはや飛行という高度な運動を続ける余裕などあるはずも無い。
 壁や床にぶつかりながら空しく逃げ惑う妖精兵。燃える剣と高速のホイールがそれらを一匹残らず仕留めるのは、間も無くの事だった。



●ゴルツ砦・医務室
「こんな格好で恐縮ですが、まずは礼を述べさせて下さい、冒険者殿。いや全く、我々のみでは事態の収拾にいつまで掛かったことか……」
 襲撃を退けた猟兵達は、必死の看病の甲斐あってどうにか意識を取り戻したという砦の隊長代理との合流を果たしていた。
 まだベットから起き上がれないとは言え、彼の復帰によって守備隊も平静を取り戻していた。救護、補修、哨戒、施錠と、復旧に向けた準備が並行して進められている。
 だがそれと同時に、思わぬ被害も明らかになっていた。人的被害はさほどでも無いが主装備である弓矢が集中して毀損されており、予備を搔き集めても砦全体を守るには遠く及ばないのだという。
 間も無く敵の本隊が現れるという話を聞いた彼は、少しの逡巡を経た後、改まった様子で頭を下げた。
「……恥を承知でお頼みします。その次の襲撃ですが、主力を引き受けては頂けないでしょうか」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『謎の空兵』

POW   :    妖精の奮闘
敵を【爆破魔法】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。
SPD   :    妖精の早撃ち
見えない【マスケット銃の弾丸】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
WIZ   :    小さいからと甘く見るな!
【敵合計レベル×5の謎の精兵(妖精)】の霊を召喚する。これは【マスケット銃を使った弾丸】や【魔法】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:Moi

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●騒乱を運ぶ妖精の軍隊
 光の届かない山脈奥地から湧き出るように姿を見せる妖精の軍勢。
 鉱夫や冒険者の小隊が用いる程度の山道には到底収まりきらず、左右の山腹上空にまたがって広がる、点描画のようにも見える極小の影。
 大方こちらの士気を挫く腹積もりなのだろう、敵は月光を避けるどころか、まるで軍容を見せつけるように堂々と行進し、おもちゃの兵隊さながらに軍楽隊までも引き連れていた。
 騒々しい鼓笛の音は木霊や吹き荒ぶ風と混じり合い、幾千の足音や怪鳥の奇声を思わせる響きとなって大気を振動させる。
 今はまだ遠く聞こえるその狂騒に耳をそばたて、胸壁の裏や塔の中で、あるいは攻め手の不意を突く為に設けられた抜け穴の傍で、猟兵達は敵の軍勢を待ち受けていた。
 隊列は、未だ闇から吐き出され続けていた。
寺内・美月
アドリブ・連携歓迎
・指揮は未だトゥルパが代行。
・RCT砲兵中隊は敵前衛基幹部隊への攻撃を開始。長時間の準備射撃により敵主力を前線に誘い出す。
・装甲車化中隊及び戦車中隊は所属小隊を四個歩兵中隊に一個ずつ増強編成、各中隊の突破力を底上げする。
・要塞には一個歩兵中隊(非増強)、高射砲兵中隊を残置。
・敵主力が前線に集まりだしたら航空部隊による対地攻撃を発動。月光下の敵を粉砕し、指揮系統を麻痺させる。
・対地攻撃が終わり次第、空挺部隊(空挺戦車含む6個軍団)を敵主力上空、後方、右翼、左翼に降下。退路および指揮系統を完全に破壊する。
・RCT主力は火力支援の元に敵前衛を強行突破。空挺部隊と共同し敵を殲滅する。



 砦に並ぶ、銃器を備えし亡霊の兵士達。その主、寺内・美月(霊軍統べし黒衣の帥・f02790)は未だ姿を見せず、彼のトゥルパはなお指揮を執り続けていた。
 スコープ越しの視線の先には、乾いた大地へ降り注ぎ続ける、砲弾の雨。

 妖精が打ち鳴らす不気味な行進曲を掻き消すように、並んだ砲門が重厚なリズムを奏でながら次々と煙火を吐き、整然と並んだ敵軍の鉾先を捻じ曲げる。
 ごく小さな敵も、絨毯のように敷き詰められていては直撃を免れ得ない。加えて着弾時に生まれる衝撃波は地表近くの敵を巻き込んで、塵芥の如く四方へと吹き散らす。

 とは言え、無尽蔵にも思える敵の群れは進軍速度を落としつつも、確実にこちらへと迫っていた。
 それでも、その質は明らかに変わっていた。敵の先鋒を務めていたらしき召喚兵、先ほど砦の中で嫌という程見かけた亡霊の兵士は瞬く間に数を減らし、実体を持つ兵士が最前線へと引きずり出されていたのである。
 肉眼では捉えられぬ程のその変化は、紛れもなく、戦況が次の段階へと進んだ事を意味していた。

 無線に乗って、美月の厳かな声が響く。
『全航空部隊に発令…『叢雨』発動』
 前触れもなく、山岳の夜をけたたましいエンジン音が包み込む。星空を切り裂き疾駆する航空機の隊列が、妖精にも手が届かぬ程の遥か天空に現れた。
 一瞬遅れて、山々が激震に包まれる。意識を奪うほどの激しい熱と光と音が、岩盤を容易く打ち砕き大地を覆す程の爆発が至る所で巻き起こる。
 唐突に、前衛と後衛の区別も無く降り注いだ破壊の嵐に、敵は意思疎通の術を失い一つの群れへと化しつつあった。
 その機を逃さず、後続の航空機から白い傘を括り付けた軍団が次々に舞い降りる。脇腹、背後、そして内部から、僅かに残った秩序を徹底的に破壊していく。
 それに呼応して突撃を開始した重装備の車両が敵の正面に楔を打ち、供の歩兵がその傷口を広げ、寸断する。
 安全な『退路』はもうどこにもありはしなかった。

 それでも、敵の戦意は潰えていなかった。部隊とは到底呼べない無数の固まりとなってなお、砦を目指すという方針は揺るぎもしないらしい。
「……まだ来るか。各員、警戒を怠るな」
 ――その中で、更なる部隊が号令を待っているとも知らずに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘザー・デストリュクシオン
ふふふ、楽しくなってきたの!
あんなにたくさんいるなら、たくさん壊しあえるよね?
ああ、わくわくするの!

塔のまどから敵が近づいてくるのを見て飛び下りて、敵のど真ん中に敵を踏んづけて着地するの。
素早くダッシュやジャンプ、スライディングで敵の間を動き回って、数が多いからこっちも攻撃回数重視のUCで攻撃。
わたしが敵をおびき寄せているうちに、他の人たちが攻撃できればいいかな。
敵のまほー?こんなところで使ってだいじょうぶ?自分も味方もまきこむんじゃない?
避けられる攻撃は避けるけど、軽いケガなら気にせず突っ込むの。
あははは!楽しいね!ほら、もっともっと壊しあうの!
ボスもいるんでしょ?早く壊しあいたいの!



 難を逃れた妖精兵は統率を失いながらも行軍を続け、辛くも砦への接近を果たしていた。その数は未だ多く、先程砦を荒らしていた部隊の比ではない。
「ふふふ、楽しくなってきたの!」
 そんな光景にも顔を綻ばせて笑うのは、ヘザー・デストリュクシオン(白猫兎の破壊者・f16748)。
 どうやら、数を見せつけて士気を削ぐという敵の目論見は、少なくとも彼女に限っては失敗だったと言えるだろう。
「あんなにたくさんいるなら、たくさん壊しあえるよね?ああ、わくわくするの!」
 何しろ、ヘザーは敵が姿を見せ始めた時から、その接近を今や遅しと待ちわびていたのだから。顔を紅潮させ、窓の傍でぴょんぴょんと飛び跳ねる姿は、まるでプレゼントを目の前にした子供のよう。
 やがて窓枠に『兎の』足を掛けた彼女は、月下に放物線を描きながら敵のど真ん中に飛び込んだ。

 ヘザーは飛行とも呼べる程の滞空時間の後、狙い通り敵の一体を地面に叩きつけながら着地する。
 それは一見すれば、敵の包囲に自ら飛び込んだようなものだったろう。彼女がぐるりと見渡せば、近くにも遠くにも、前も後ろも左右も、さらに上にも敵の姿。
 しかし、それが敵の有利にばかり働くとは限らない。
「さあ、始めるの!」
 数は十分。にっこりと笑いかけた彼女は意表を突かれた傍の一体を空中で蹴飛ばして、『壊しあい』の第二幕を開けた。

 上空から降り注ぐ爆破魔法を瞬発的なスプリントで避け、銃弾を宙返りで飛び越えると、狙いを定めんと構えている敵の股下をスライディングで潜り抜ける。
 曲芸のように妖精兵の間を縫うように跳び回りながら、流れるように強烈な蹴り技へと繋げていく。
 その予測困難な動きも、ヘザーが敵の集中砲火を免れている一因ではあるだろう。だが、それだけではない。
 四方八方に敵があれば、同士討ちの可能性もまた高い。まして俊敏な彼女の動きを前にすれば、その可能性は否応なく頭をよぎる。
 射線を考慮した敵の狙いは半ば無意識に絞り込まれ、そこには空白の道筋が作り出されていた。
 勿論、上手くいくばかりとは限らない。例えば跳躍したその先に、逃れようのない包囲が敷かれているような場合も。
 けれどそんな時、ヘザーの体は昂ぶりの赴くまま、思考するよりも早く敵の眼前へと躍り出る。避けられない攻撃を無理に避けようとするよりも、むしろ迎え撃つようにして。
「あははは!楽しいね!ほら、もっともっと壊しあうの!」
 戦いが長引くにつれて、彼女の体には次第に傷が刻まれていく。だがそれらがもたらす微かな痛みは闘争の実感へと変換され、ヘザーの心は遥かに大きな歓喜に満たされていた。
 それが増えれば増えるほど、ヘザーの躍動はより早く激しく、また艶やかに、あたかも舞踏のような色彩を得る。その舞台たる戦場は今、彼女のものであった。

 そして、この戦いを目一杯楽しんでいる最中にもなお、ヘザーの胸中にはまた別の昂揚が渦巻いていた。
 間近に感じる、より強大な敵への期待が。

成功 🔵​🔵​🔴​

漆山・秀久(サポート)
 悪徳貴族です。基本的に全てのモノを見下し、息をするように他のモノを罵倒します。
オブリビオンは全て『死にぞこない』であり慈悲の心を持ちません。
身内(使役する悪魔や従者等)にはやや寛容。

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に戦います。
しかし仕事に対する熱意はそれほどありません。(雑用系は特に)
基本的に悪役気質なので、なんの躊躇もなく影朧も倒そうとしますが、罪人や影朧の行く末に然程興味も執着もない為、
正義の味方(影朧を救おうとしている猟兵ら)の迷惑になることはしません。
また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
後はお任せ。宜しくお願いします!



 陣形と進軍路をかき乱された妖精兵の軍は組織的な侵攻を封じられ、結果として兵力の分散を余儀なくされていた。
 一気呵成の攻撃を免れた砦は若干の余裕を得たものの、敵の数はまだ多い。限られた矢玉で防ぎ切れる量ではなく、猟兵の活躍でやっと凌いでいるような状況に変わりはなかった。

 そんな中、医務室の一隅に留まっている男の姿もあった。酷く不機嫌な様子で頬杖を付き、時々高そうな衣服の裾に付いた埃をさも汚らわしげに払っている。
「何だ、その面は。『貴様ら』の不手際で危機に陥った『貴様ら』の砦を、『貴様ら』の為に。この私が救ってやる義理がどこにある?」
「そ、それは……」
 守備隊の隊長代理をじろりと横目で睨み付け、漆山・秀久(悪徳貴族・f25988)はようやく開いた口で彼を詰る。相手の落ち度を強調するように抑揚を付けたその言葉は確かに正論であり、隊長代理はぐっと言い淀む。
「無論、謝礼は十分にさせて頂きます。我が名誉に懸け……」
「この一大事に今まで呑気に寝こけていた男の、か?ハッ、信用ならぬな」
 間髪入れず、今度は嘲笑混じりに否定の言葉を飛ばす。そうして口ごもる彼をひとしきり眺めた秀久は、突然満足したように口の端を歪めてにやりと笑った。
「まあ、このむさ苦しい穴蔵にもそろそろ飽きた。外の空気を吸うついでに、喧しい羽虫共を始末してやるとするか。……先の話、ゆめゆめ忘れるな」

 移動した秀久は鎧戸の隙間を覗いて接近までの猶予を確認し、獄炎の悪魔『アスモデウス』を呼び寄せる。
「アスモデウスよ、見るがいい。あの雲霞の如き敵の山、貴様ならば一切合切焼き尽くしてしまえるだろう?」
 ところが、ごく小さな敵の姿はこの悪魔の眼鏡に叶わなかったのか、彼は興味なさげに首を振る。だが秀久は焦りも見せず、煽るように二の句を継いだ。
「……いや、蟻集まって樹を揺るがすという諺もある。いくら貴様でもこの数は厳しいか?なんなら帰っても構わんぞ」
 今度は、確かにアスモデウスの気分――自尊心かそれとも闘争心か、いずれにせよ心を動かしたらしい。異議を唱えるように、小さな唸り声を上げる。
「良し、ならば行け。ここから見渡す限り全てが、貴様の獲物だ」

 アスモデウスはごうと火を吐き体に纏わせると、間近に迫っていた敵の一団に向かっていく。
 広げた翼、捻じれた角、刺々しい尾を生やし、見る者の恐怖を喚起する獄炎の悪魔。その姿は、まさしく。
『ど、ドラゴン!?』
『なぜ龍がここに!?しかもこれはっ……』
 この世界においても伝説的な力の象徴であるドラゴン。突然現れたその威容に、敵は驚愕と畏怖で動きを止める。
 そして、彼らが再び動き出すよりも早く。口から吐かれた灼熱の火球は軽くその全てを包み込み、一瞬にして火だるまに変えた。

 一つの赤い塊が高速で飛び回る度、その周囲で鬼火のような灯がともり、微かに瞬きながらゆらゆらと墜ちてゆく。
 それを足下遠くに見下ろしながら、秀久はただ悠然と眺めるのであった。
 まるで、花火でも見るように。

成功 🔵​🔵​🔴​

太宰・寿
とても賑やかですね。
暗いところで視界に捉えるのは、少し厳しそうでしょうか。
それに、なるべく動かずに戦いたいです。
あぁ、それじゃあこうしましょう。
月も出ていることですし、お花見なんていかがですか?

UC花散里で謎の空兵も霊もまとめて攻撃します。
こちらへの攻撃は見切りによる回避。
避けきれなければ、弾丸や魔法は虹霓を振るう衝撃波で逸らしたり、ちくたくに捕食させましょう。
なんでも食べるはず……多分。

とにかく数が多いようですし、なるべくまとめて倒すよう立ち回ります。



『くそっ、何としても扉を破れ!』
『攻めろ!魔力も弾もすべてぶち込んでやれ!』
 組織としてはとうに瓦解した妖精の軍隊、それでも敵は離合集散を繰り返しながらとうとう山頂に登り詰め、砦のあちこちに纏わりついていた。
 しかし、状況は先刻までとは真逆の厳戒態勢。敵が近付いた戸口は即座に閉ざされ、自慢の『鉄壁』を遺憾なく発揮している。
 蟻一匹通さぬその堅守を破るには策も無く兵も足りず、欠けた兵力を召喚兵で補いながら、それでも彼らは呪縛されているかのように執拗な攻撃を加え続けていた。

 それを眼下に臨むは、太宰・寿(パステルペインター・f18704)。凹凸の形に縁取られた塔上から、そこかしこに偏在する敵影に目を凝らし、騒ぎに耳を傾けていた。
 細い腕にはめられた『ちくたく』――腕時計状の、硝子の花――からは透き通る蔦が伸び、先刻現れた敵の散兵が数体絡め捕られている。

 ふと口元を緩めた彼女は、おもむろに右手を宙に伸ばす。すると空に向けて翳された掌から、花びらがふわりと舞い上がった。
 花弁を纏った風はさらさらと流れ、四方へと降りながら広がっていく。

 ――月も出ていることですし、お花見なんていかがですか?

 誰ともなく発せられた、寿の囁きを乗せて。

 花吹雪は意のままに空を滑り、ゆるゆると、けれどたちまち砦を取り巻いて、月光に白く照らされた荒涼な景色に彩りを添えた。
 そして、それと同時に。柔らかげな姿に油断し、接触を許した者の体を切り裂いていく。静かに穏やかに、その瞬間には本人でさえ気付かぬ程に。
 一呼吸遅れて、自分達を襲った異変に気付いたらしき妖精兵は一斉に身を翻し、身を守る為の弾幕を作り出す。
 しかし、それはまるで風に遊ぶかの如くひらひらと舞い踊り、変幻自在な動きで銃火を受け流してしまう。
 さらにその間も別の花弁が音も無く忍び寄り、撃ち落とす事はおろか却って数を減らす始末。
 迎撃は不可能、となれば残る選択肢はただ一つ。敵は力の限りその小さな羽を動かし、全速力で振り払いに掛かる。けれどそれに合わせ、花びらも速度を増してなお追い縋っていく。

 行く当てもなくひたすらに逃げる彼らの間には、もう意思疎通などとうの昔に失われている。
 そう。もう気付くだけの余力も残されていなかった。あたかも箒で掃き清めるかのように、自らが一か所に誘導されている事に。
 左右から衝突した敵群は混乱と錯綜の最中、罠に嵌められた事を知っただろう。それを悔いるだけの時間があったかどうかは、分からないが。

 ――『左様なら』。

 寿の唇が言葉を紡いだその瞬間。花色の鋏は閉じられ、こだまする敵の悲鳴が彼女の呟きを掻き消した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ギャレット・ディマージオ(サポート)
●設定等
ダークセイヴァー出身の冷静沈着な黒騎士です。
かつてオブリビオンに滅ぼされた都市で自分一人だけ生き残ってしまった過去を悔いており、人々を守り、被害を防止することを重視して行動します。

●戦闘において
「露払いは私が努めよう」
(敵に)「貴様らの技で、私が倒せるのか……試してみるがいい」

・牽制攻撃
・敵の攻撃から他の猟兵や一般人を守る
・敵の攻撃を回避してカウンター
・ついでに敵の強さを解説する
など、防御的・補助的な行動を主に得意とします。

メイン武器は「黒剣」です。

他は全てお任せします。
別の猟兵との交流や連携等も自由に行ってください。
どうぞよろしくお願いします。



 最早攪乱の為に兵を分散させるだけの数も無く、妖精の兵達がどうにか活路を見出さんと血眼になっていた、その時。
 突然、一室の戸が開け放たれる。明らかな罠、と言って外に留まっていれば全滅は必至。一か八かとばかり、敵の残党は吸い込まれるかのようにその中へ飛び込んでいく。
 いざ中に入ってみれば、果せるかな扉の前にはバリケードの山。彼らには知る由も無いがその奥も無人、連絡通路まで完全に封鎖されている。
 やはり誘い込まれたか、と歯噛みする敵の後方で、月光を遮る一つの影が。
 そこでは黒鎧の騎士、ギャレット・ディマージオ(人間の黒騎士・f02429)が月を背に、鎧同様の黒き剣を輝かせていた。

 退路を断たれた格好の妖精兵だが、彼が構える剣を目にした途端、冷静さを取り戻したようだ。
 距離を取れば恐れるには及ばない、そう言いたげな笑みを一様に浮かべ、小さなマスケット銃を並べて構える。
『放て!』
 一斉射撃。室内に煙がぱっと開き、透明な銃弾がギャレットに襲い掛かる。不可視、かつ高速のそれらを躱すのは至難の業。けれど、彼は見事に全てを躱し切ってみせた。
『軌道を読んだか。だが、これならどうだ!』
 それでも敵の態度は崩れない。何故なら外れたはずの弾丸は彼の周囲であり得ない軌道を描き、再び彼に飛び掛かっていたのだから。
 しかし――。
 キ、ィィィン。小気味良い金属音と共に悲鳴を上げたのは、妖精兵の方だった。
『な、何っ!』
「弾丸に魔力を込め隠蔽すると同時に、発射後の操作を可能にしている……と、言った所か」
 ギャレットはまたしてもそれらの奇襲を回避したのみならず、捻った体の反動を利用してその内の一発を黒剣で弾き返したのである。
『偶然だ、奴に見えるはずは無い!』
 確かに、ギャレットにも見えてはいないはずだった。だが事実、彼は予測不能に乱れ飛ぶ弾丸の嵐を全て避け、あるいは黒剣で受け止めている。
 その様はまるで、どこから来るかが初めから分かっているかのようでさえあった。

「覚悟は良いか、今度はこちらの番だ!」
 敵が二度目の射撃体勢を整えるよりも早く。取り囲む弾の勢いが衰えた頃を見計らい、ギャレットは力強く床を蹴って瞬時に間合いを詰める。
 横薙ぎに払われた黒剣は並ぶ妖精兵のか細い身体を容易に断ち、返す刀で逃れようとする敵の背を斬り裂いた。
 逃走する間際、悪足掻きのように放たれた銃弾はやはり眼前に翳された剣の腹に防がれ、動じる隙さえ無いままに斬り伏せられる。
 僅か数秒で兵の半数を失った敵の顔からは、先ほどの笑みは完全に失せていた。
 ギャレットは窓の間近に立ち返ると、震える銃口の列を前に、息切れ一つない冷然たる調子で言い放つ。
「さあ、その引き金を引くが良い。それが最後となるだろう」

 ――無論、貴様らの。
 それもまた、現実となった。

成功 🔵​🔵​🔴​


●狂騒の雲は晴れて
 天地を覆うかのように跋扈していた妖精の軍は潰え、山懐に久方ぶりの静寂が戻る。
 皆が安堵の一息を漏らし、身構えを解いたその時だった。騒ぎに掻き消されていた振動が、誰の耳にも明確に届き始めた。
 規則的に、数秒置きに届く短い揺れと低い地響き。まるで大砲か、あるいはそう、巨人の足音のような――。

『……来たか』
『ク、クク、もう間に合わんぞ』
 今わの際に呟く妖精達の顔には、死の影にも隠れ得ない勝利の確信がありありと浮かんでいた。
「た、大変ですっ!山が!」
 聞こえた声に従って山脈へと眼をやると、星空を塗り潰す黒い稜線が。

「山が!こちらへ向かって来ています!!」
 ――その一つが、ゆっくりと蠢いていた。


第3章 ボス戦 『『山龍』カルパディア』

POW   :    踏み込み
単純で重い【体重を活かした強烈な踏み込み】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    咆哮
【三つの口】から【広範囲に大音量の咆哮】を放ち、【その衝撃波】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    火炎放射
【三つの首から、広範囲に超高温の炎を吐く事】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。

イラスト:小日向 マキナ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●大山鳴動、暴圧の巨龍
「何だよ、あの化物は……」
 月明かりの下に現出した三つ首の怪物、山龍『カルパディア』。
 文字通り山の如き巨躯を揺らしながら、本物の山々の間を一歩一歩と進み続ける。
 円塔の如き脚はしっかりと地面を捉え、不安定な足場では首の一つが山肌に食らいつき、図体に似合わぬ器用さで狭路をも難無く乗り越えていた。

 辛うじて損害を免れた数基のバリスタは死に物狂いで射掛けてはいるが、峰のように隆起した甲羅は見た目通りの堅固さで矢を弾き、首はゆらりゆらりとうねり狙いを翻弄する。
「覚悟を決めろ!弓が無い者は剣を持て!背に飛び乗ってでもここで食い止めるんだ!」
 怪我を押して復帰した隊長代理の号令が飛び、守備兵達は手持ちの弩や剣を構えている。
 たとえそれが蟷螂の斧に過ぎないとしても、逃げる事は許されない。
 何故なら彼らの唯一の逃げ場は、今踏み潰されようとしている背後の街なのだから。

 万が一、猟兵が必要とするならば、今の彼らは喜んで指示に従い、如何なる協力をも惜しまないだろう。
 例えばその代償に、彼らの命が危険に晒され、砦そのものが潰える事があろうとも。
ヘザー・デストリュクシオン
だめよ、生きて大切な人のところに帰らないとゆるさないから!
攻撃するときは首止まるだろうから、そのときにとおくから口の中とか目とか狙って!
兵士の人たちに叫びながら敵にダッシュで近づくの。
だってせっかく勝っても大切な人が帰ってこなかったら意味ないの。
せっかく強そうな敵なんだから、楽しく壊しあうの。

敵が踏みこもうと足を上げたときに一気に速さを上げて体の下にもぐりこむの。
やわらかそうなおなかをUCで思いきり蹴り上げるの!
ここなら敵は攻撃できないだろうし、敵が動けなくなるまで何度も蹴り上げるの。
敵が動けなくなったら、みんなでいっせいに攻撃してもらうの。
わたしも力溜めして捨て身の一撃を食らわせるの!



「街さえ残れば我々の勝利だ!死を恐れず立ち向かえ!」
 聞こえてくる勇ましい語気とは裏腹に、兵士達の心は逃れられない破壊に対する絶望が支配していた。
 立ち向かう、というよりはむしろ心中するかのような面持ちで、血の気の失せた唇は震えがちな祈りの言葉を繰り返し呟いている。

「だめよ、生きて大切な人のところに帰らないとゆるさないから!」
 遮る声に顔を向ければ、そこにはヘザー・デストリュクシオン(白猫兎の破壊者・f16748)の駆け出す後ろ姿があった。
「攻撃するときは首止まるだろうから、そのときにとおくから口の中とか目とか狙って!」
 その小さな、傷ついた背中は止める間もなく遠ざかっていく。カルパディアの巨躯の前に、それは見失ってしまいそうな程に小さく見えて。

 そんな少女が、あの怪物の矢面に立とうと言うのだった。
「……っ!総員聞こえたな、ボウガン構えっ!!」
 一瞬遅れて内容を理解した守備隊は今まで浸っていた無力感も忘れ、必死の形相で狭間にかじりつく。
 死を思う余裕さえ、ヘザーの速力は与えてくれなかった。

 背後の士気が改まったのを感じ、今までの激闘で無数の凹凸が生まれた悪路を行くヘザーは微かに笑みをこぼす。
(せっかく勝っても大切な人が帰ってこなかったら意味ないの。せっかく強そうな敵なんだから、楽しく壊しあうの)
 兵士達の一人一人が、『誰か』にとっての大切な『誰か』であると。失えば勝利も敗北と変わらぬ苦みを生むと、彼女は知っていた。
 その『誰か』が生きて戻って来る事が、どれだけ掛け替えの無い喜びであるか、という事も。

 カルパディアは、オブリビオンとしての本能かそれとも獣の勘か、眼下に走り来るヘザーを敵として認めたようだ。
 頑健な後ろ足に体重を掛け、月が沈み始めた空に向けて体を聳やかす。
 言わば、それは予備動作。力のベクトルが移り変わるまでの僅かな間、カルパディアのあらゆる動作が静止する。
『――今だ、放てッ!』
 その瞬間。砦より角笛が響き、無数の矢が一斉に降り注いだ。

『グルルゥ……』
 初めて甲羅以外の部位に矢が届き、厚い皮膚に多数の刺傷が刻まれる。
 とは言え、それらは負傷と呼ぶには余りに小さく、せいぜい針先で突かれた位の痛みしか与えていないようだ。
 カルパディアは面倒そうに首をぶるりと振るったかと思うと、再び攻撃の構えに戻り。
 初めはゆっくりと、しかし急速に力を増しながら、両の前脚が雪崩を打って落ち始めた。

 だが。まだ遠くに見えていたはずのヘザーの姿は、既にそこには無い。
「遅いの!」
 声の元はカルパディアの死角、即ち。
『ギャオォ……ッ!』
 持ち上がった体の下に飛び込んだ彼女は、あらん限りの力で覆い被さる腹部を蹴り上げた。
 その衝撃を物語るかのように、ブーツがめり込む一点に留まらず、周囲の皮膚までもがクレーターの如く大きく撓む。
 それが戻らぬ内に、二度、三度と、ヘザーは地面と敵との間を、弾丸めいた速度と強靭な脚力で跳び交いながら追撃を加えていく。

 重力を超えた力を以て圧し潰そうとするカルパディアとヘザーとの、力と力の真っ向勝負。
 傾いだ山が、幾度となく天地を行き来した末。
 先に勢いが尽きたのは、巨龍の方であった。

 ヘザーの猛攻により体勢が大きく揺らぎ、空中で横倒しに崩れ掛けるカルパディア。
 左方の山腹へ前足を掛けるが、超重量が一旦得た慣性はそう簡単には止まらない。
 火花を散らしながら滑り落ちる最中、右の頭を懸命に伸ばして山に食らいつき、どうにか勢いを止める事に成功した。

 けれどそれは、第二の静止。

『発射ッ!』
 待ち構えていた数基のバリスタから発射された巨大な鏃がその頭部へ次々に突き刺さり眼を掠める。
『グギャオォォッ!』
 急所への奇襲に怯んだか、カルパディアは激震と大量の砂煙と落雷のような轟音と共に、今度こそ完全に崩れ落ちた。
 砦に腹を見せる格好で転倒した龍の腹に向けて、再び長大な弧を描きながら大量の弓矢が飛来し始める。

 そして、身を返そうと激しくうねる三つ首の内、今最も上に来ている右の頭。
 そこに生え揃い不規則に上下する、人間の胴より太く鋭い牙を恐れぬ者の一撃が。
「――やあぁーっ!」
 押し勝ったと見るや跳び上がり、今までの間上空にあったヘザーの、その踵が右眼を貫いたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

羽生・乃々(サポート)
●設定
UDCアース出身の極普通の女子高生
バイト感覚で仕事を安請け合いしては散々な目に遭い
涙目で切り抜けています

●口調補足
「きゃあ!」「いやぁ!」等の悲鳴の類が
何故か「こゃ!」「こゃぁ!」になってしまいます

●戦闘
「こゃ!あんなの当たったら、死んじゃいます…!」
「わぁん、た、助けてぇ!」
「管狐さん、お、おおお、お願いしますっ」

・涙目でどたばた逃げ隠れ
・他の猟兵等に助けを求める
・追い詰められたり助けに入って貰えた時は震えつつも頑張って交戦

使役UDC「管狐」の祟りで敵を不幸にします
あらゆる行動を上手く行かなくして
その隙に逃げたり、上記効果で仲間を援護します

他は全てお任せです
交流や連携等も歓迎です!


アラン・スミシー(サポート)
基本突然現れて仕事を終えたら去っていく人物です。

基本的に【乱戦】か【銃撃戦】での援護がメインとなります。
他の猟兵の手の足りない所に現れては銃で攻撃し、気を引いたり足止めをしたり敵の頭数を減らしたりします。
また既存のPCでトドメを刺しにくい時は【最終局面】を使って下さい。逆転の隙を作ったり、心情的に殺せないタイプのPCがいた際にどうぞ。

説得や交渉等が必要ならなんか良い感じの言葉を言います。
例:君の正義は分かった。しかしその正義は君を救ったかい?

ユーベルコードのセリフを参照し、MSの言って欲しい都合の良い言葉をアレンジしてやってください。
大体無意味に格好いいこと言ってます、割と適当に。



 苦痛に慄く『カルパディア』の巨体。
 横たわったまま四肢と三つの首をばたつかせていたが、一つが足掛かりを捉えるや否や似つかわしくない機敏さで身を反転させる。
 立ち上がったカルパディアは深く息を吸い込み、直後その三つ首全てから、意識を遠のかせる程の凄まじい咆哮を上げた。
 質量を持っているとすら思えるその暴力的な叫びは遠く、重く響き渡り、砦を含め見渡す限りにいる者全ての動きを封じ込める。
 沈黙した四方を満足げに眺め回し、カルパディアは悠然と歩を進め始めた。

「こゃ!凄い大声……!」
 羽生・乃々(管使い・f23961)は両手でその狐耳を抑え、射竦められたように岩陰でうずくまった。
 猟兵と言えど、彼女はあくまで普通の女子高生。目にはもう涙が浮かび、心の中は恐怖で一杯になっている。
 それでも今は逃げ出したい気持ちを必死に堪え、砦から離れた敵の傍にひとり潜んでいた。
 本来なら、これほど大胆な行動に出る事など考えもしなかっただろう。だが、『死角のある右側から近付けば比較的安全』という言葉、そして有無を言わさぬ『彼』の妙な落ち着きに呑まれ、つい援護を引き受けてしまったのである。
「言われた通り近付きましたけど……ほんとに大丈夫なんですかぁ?」
 結果、気付けば最前線。胸の動悸を抑えつつ、手にしたタンブラーをぎゅっと握り締めた。

 その頃、巨大な山龍が行く道の先には、ふらりと現れた痩身の男が影を落としていた。
「近くで見るとなおさら大きいねぇ。おまけに頭は三つと来た。何を食べればそれだけ立派になるのやら」
 トレンチコートに身を包み、緩やかに伸ばした片手には一丁の拳銃。
「だが、大事なのは体の大きさじゃない。要はハートだ……そうだろう?」
 この怪物に相対するには酷く頼りなく見えるそれらの武器と共に、アラン・スミシー(パッセンジャー・f23395)は静かに狙いを定めていた。

 今しがた屈辱を被ったカルパディアの方も油断なく足を止め、出方を伺うように首を左右にくねらせながら再び息を吸う。
 上空まで伸びる喉頚が蛇腹の如く大きく波打って、その分厚い皮膚の下で猛烈な気流が生まれている事を窺わせる。
 しかし、アランの方は未だ動かない。まるで何も見えていないかのように落ち着き払って、しかし僅かも目を逸らさずに、真正面に聳える敵へ向けた銃口を微かに上下させていた。

 やがて脈動が三つ首の喉奥までせり上がる。直後吐き出されるは咆哮にあらず、超高熱を秘めた炎の噴流。
 ところが、目前の男目掛けて放たれたはずの三本の火柱は空中で不可解な軌道を描いたかと思うと、見当はずれの方向に転がっていた大岩を赤熱させた。
 信じ難い結果に、カルパディアはさらにもう一度空気を吸引する。けれども今度は火炎が生み出される事さえ無く、突き出された首は空しく息を吐くばかり。
 そしてその首元をよくよく見れば、白き管狐達が纏わりついていた。

「せ、成功ですっ!」
 少し離れた場所から、乃々が半身を乗り出して呼び掛けを送った。手には管狐が飛び出した後の、空になったタンブラー。
 彼女の使役する管狐の呪いはカルパディアを完全に縛り、今や一挙一動をことごとく空振りに導いている。
 早い話、今の山龍はどうしようもない程『不幸』になっていた。
「はぁぁ、上手く行って良かったぁ……」
 身を引っ込めた乃々は震える声で呟き、背にした岩陰に体重を預けるのであった。

 一方、異変の原因に気付かぬカルパディアは火炎放射を諦め、巨大な顎による裁断に切り替えたらしい。
 しかし、不運な事に。踏み出した先の岩肌は薄く剥落し、足を滑らせたカルパディアは前のめりに転倒する。
 そしてその首の一つはアランの前方に、まるで銃口の前に差し出されるかのように倒れ込んだ。
 無論、巨躯にとってはほんの僅かの距離。数秒あれば、鋭い鋸状の歯は彼に届き、その肉体はあっけなく引き裂かれていただろう。
 だがそれだけあれば、引き金を引くには十分だった。
「二人分の覚悟――ハートが乗っているんだ、外す訳にはいかないさ」
 乾いた銃撃音と共に放たれた銃弾は、吸い寄せられるかのように目標へ――右眼を失った頭部へと迫り、そして残った左眼の視界を奪い去ったのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

寺内・美月
アドリブ・連携歓迎
『砦の健在を確認。全打撃部隊攻撃開始』
・トゥルパとRCTは城内から観測や妨害に専念(空挺軍団は後退)。
・砦後方の安全地帯に布陣。第一・第二・第三軍は右翼、第四・第五・第六軍は左翼に展開(編成はそれぞれ戦車・砲兵・高射の三個軍団)。
・第一・第四軍は山龍正面から首付根にかけて、第二・第五軍は前脚、第三・第六軍は後脚を攻撃。
・山岳地帯を考慮しつつも戦車軍団は前線で火力と機動力を発揮し出血を強要。砲兵軍団と高射軍団は曲射・水平射を状況によって切り替えつつ攻撃。
・航空軍団は一時帰投し補給を受け、山龍の行動が緩慢になり次第航空攻撃を発動。反撃に警戒しつつ、上空から十分な火力を投下する。



 右端の首に、視力消失という浅からぬ傷を負ったカルパディア。しかし体力はまだ限界に達していないらしく、むしろ怒りに速度を上げて前進を始める。
 他方、その行く手にある砦のさらに奥では、整然と並ぶ陣列が巨龍を待ち受けていた。
 それらを率いる将、寺内・美月(霊軍統べし黒衣の帥・f02790)。城内で見受けた時とは反対に黒衣を纏うその出で立ちは、彼が正真正銘の本人である事を示していた。
『砦の健在を確認。全打撃部隊――』
 作戦が順調に進んでいる事を確認した、指揮官たる彼の一言により。
『――攻撃開始』
 麾下の軍隊は、一斉に牙を剥いた。

 山の切れ間から覗く砲門と山龍との間に、水平線のような砲弾の軌跡が描かれていく。
 一方、天を仰いだ長身の砲からは巨大な山型の放物線に沿って、山龍の雲を衝く巨躯のさらに頭上から次々と砲撃を加える。
 頭部、前脚、後脚。明確に区分された三つの目標に沿って、それぞれの砲群が競って暴威を振るい、瞬く間にカルパディアの巨体は高速で飛来する砲弾、そして灼熱と金属片を撒き散らす爆煙に覆い隠される。

 そして二つの弾道は、たとえ標的の体が山間に隠れようとも、決して逃れ得ない運命にある事を意味していた。
 何故なら、全ての山道を見据える砦の中にはもう一人の指揮官――美月の分身がいるのだから。

 矢では貫けない頑丈な鱗にも無数の亀裂が形成され、そこから血肉が顔を見せ始める。
 それらと時を同じくして、いくつもの集団に分かたれた戦車の軍団が山道を越え、カルパディアの下へと辿り着く。

 これまでの戦いによってそこら中が砕け、掘り返され、事によってはまるで石垣か何かが倒壊したかのように岩石が散らばっている。
 この世界で広く用いられる木製の車輪では走行困難なその悪路を、堅牢な車体は自在に駆け回り、乗り越え、踏み砕く。
 筋状に隆起した山々の間を縫い、しかも決して一所に留まらず常に流れ続け、備えた砲より暗夜の礫を食らわせて。
 炎を吐こうと、脚を動かそうと、必ず砲火がその機先を制し、高熱と激痛で動きを鈍らせる。

 月の輝きも半ば失せて暗闇はさらに濃く、辺り一面には遮蔽物の数々。後背に隆起した甲羅を持ち、周囲では鋼鉄が踊り狂う。そこに加えて、大きく失った視野。
 今の山龍に彼らを捉えるなど、不可能に近い芸当である。

『グルァアアアアッ!!』
 それでも、カルパディアの意思は折れてはいなかった。憤怒に満ちた叫びを上げながら、一息にその巨体を跳ね上げる。
 砕けた砂礫の残骸を空中に撒きながら、そそり立った雄姿。およそあらゆる人工物を容易に打ち砕く大槌の裏側を思わせる、非常識なまでの威圧感。
 吹き上がり降り注ぐ砲弾をまともに受け体勢を崩しながら、それを憎悪で堪えているかのような捨て身の攻勢だった。
 
 まるで倒れ込むようにして振り下ろされる二つの脚。雷の如き一撃が大地に突き刺さり、凶悪な振動が一帯を襲う。
 立つこともままならぬ程に揺れ動く大地。射撃、砲撃、機動、全てが中断を余儀なくされ、不自然な静寂が辺りに訪れる――かに思われた。
 しかし、音は。美月の攻勢は、止んでいない。

 唯一、平穏に広がる暗き空。そこに再び舞い戻った銀翼の部隊は、大地に沈み込んだ山龍の、身動き取れないその巨体に目掛け、大量の爆撃を叩き込む。
『ギャオ、ォ、ォ……!』
 それに悶える暇さえ与えず、他の軍団も再び動き出す。
 万策尽きたカルパディアはあたかも座礁した船の如く、この嵐をただ受け続ける外は無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クレア・フォースフェンサー
あれほどの攻撃を受けてまだ倒れぬとは、龍の名を冠するだけのことはあるのう
こと頑丈さに関しては、かの帝竜に匹敵すると言えるかもしれぬ

しかしそれだけに、この砦を落とすためには大仰に過ぎぬかの
いや、先の妖精も含め、こやつらを指揮している者はそれほどまでに余裕がないということなのかもしれぬな
十分に戦力を整えたつもりだったのであろうが、わしらの力を見誤ったのが運の尽きじゃ
その目論見、ここで潰えさせようぞ

皆のお陰であやつの動きは鈍っておる
また、核を見切る時間も十分に確保できた
最後の最後に爆発し、火焔を撒き散らされたりしてはたまらぬ
一矢で消滅させよう

選択UCの力を込めた光弓をもって敵の核を貫き、破壊する


太宰・寿
規格外の大きさですね。
踏まれたら危ない……では済まないでしょうから、
守備兵の方々には距離を取って戦うようにお願いします。
彼らがいなければ、街を守る人がいなくなりますもんね。
こちらはお任せください。

虹霓を手に、カルパディアと対峙。
踏み潰されるのは避けたいので、距離を取ります。
たくさんの星を、
白、黄、赤、青……たくさんの色で描きます。
さぁ、奔って。
衝撃波はカルパディアの挙動を見ながら、避けるよう動きます。

たとえ私が動けなくなっても、星がカルパディアに降り注ぐように。
虹霓を振るいます。



 鉄と火薬の責め苦を抜け、ようやく自由を取り戻した山龍カルパディア。背負った峰も無残に折れ、焼け爛れた外皮はもはやバリスタはおろか手持ちの弩にさえ貫かれる程に脆くなっていた。
 それでも地面に描かれた血の筋が方向を変える事は無く、それに伴い砦からの矢が描く弧はいつしか斜め下の直線へと変わっており。
 そしていよいよ、カルパディアは人界との境、即ち砦が築かれている外端の山脈に到達せんとしていた。

(あれほどの攻撃を受けてまだ倒れぬとは、龍の名を冠するだけのことはあるのう。こと頑丈さに関しては、かの帝竜に匹敵すると言えるかもしれぬ)
 まるであと少し、あと少しと、目前にある希望――砦の破壊に縋るようなその巨体を眺める、クレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)。
 構えた弓と矢は眩いばかりの光を放ち、彼女が纏った衣服の白、長髪の金色を夜陰の中で一層際立たせている。
(しかし――この砦を落とすためには、ちと大仰に過ぎぬかの)
 狙いをつけながらも僅かに感嘆する一方、クレアの胸中には疑念が湧き上がっていた。

 高度に訓練された妖精の兵団は潰え、かの巨龍も死に瀕している。
 此度の襲撃を企てた者がこの砦、ひいてはその先の都市を滅ぼす為に投げうった戦力は、その成果に比して余りに不釣り合いに思えてならなかった。
 万全を期しているのか、それとも群竜大陸のヴェールが剥がされた今、目先の勝利に飢えているのか。
(いずれにせよ。十分に戦力を整えたつもりだったのであろうが、わしらの力を見誤ったのが運の尽きじゃ。その目論見、ここで潰えさせようぞ)
 クレアが光弓を引き絞ろうとした時。その金の瞳に、砦下方の山裾より歩み出る、もう一人の猟兵の姿が映った。


 それは、太宰・寿(パステルペインター・f18704)の姿。大きな絵筆、『虹霓』を携えて、ひとり山道にて巨龍を待ち受けていた。
 手負いとは言え、体格差は依然圧倒的。歩行でさえ脅威となる以上、距離を取って戦える内に、敵が接近する前に仕留めるというのだ。
 自分に、そして。この先も街を守らねばならない、砦の兵達に。

 寿はカルパディアの姿が浮かぶや否や絵筆を掲げ、小刻みな動きを交えながら流れるように周囲を巡らせる。
 先が白、黄色、赤や青と、瞬きする程の間に色を変え、その絵具は空中で留まり形を成す。
 そして彼女の周囲に描き出されたのは、星。おとぎ話に出てくるような、地上に在ってなお暖かく照る、七色の星々であった。

 ――さあ、奔って。
 振り上げられた絵筆と共に、暗い夜道を照らしていた星々は光の河となって夜空へ還ってゆく。
 そしてひと時中空に留まったかと思うと、それらの輝点は再びゆっくりと落下を始める。
 ただし、敵を打ち滅ぼす流星として。

『グギャ、グッ……!』
 色とりどりの光の雨は見た目以上の質量と速度を秘めたまま山龍の周囲に降り注ぎ、その太い首を叩き伏せ、背甲に亀裂を走らせる。
 果てしない重圧に負け、カルパディアの四肢は平伏するように徐々に折れ曲がっていく――が。
『グ、ルルォオォォォォン!!』 
 苦悶の叫びが突如勢いを増し、憤怒の絶叫へと豹変した。
 礫を巻き上げながら疾駆する不可視の壁は、音の速さで山道を薙ぎ払う。
 今しがた見られた威嚇交じりの咆哮では無く、たった一人の標的に向けた、破壊的な衝撃波であった。
 その一方、指向性を持つが故に進路を躱せば威力は大きく減退する。攻撃の予兆をいち早く見切った寿は既に岩陰に身を潜めており、硬直する時間を最小限に留める事に成功していた。


 苦し紛れの攻撃をいなされたカルパディア。
 その間も乱れ落ちる星々に打たれ、脚は歪に捻じ曲がり、三つ首は地表すれすれにだらしなく垂れ下がり、けれどまだ、死してはいなかった。
 さらには皮膚の下がぼこぼこと隆起し、なにがしかの変化を起こしているようである。
 その最後の試みを果たさんと、カルパディアが何らかの挙動を起こそうとした――かに見えた、その刹那。

「まったく、ほんに頑丈じゃのう」
 暗く沈んだ山頂の砦に、星のように燦然と輝く人影が揺らぐ。クレアの光弓が戒めから解き放たれ、その矢は閃光の如く重力も気流も切り裂き空を翔ける。
 その軌道は初めこそ僅かに逸れたかに見えた。だがカルパディアの身じろぎが始まるにつれて、その差は縮まってゆき。
 予め定められていたかのように、山龍の三つ首が交わる一点、喉首の中心を違わず射貫いたのである。
 その矢は一滴の血も垂らさず、外見上には何ら変化をもたらさない。しかし超常の『力』の核を貫き、破壊する能力を持っていた。

 最後の原動力を失ったカルパディアの巨体は、ようやくにして力を失い。
 そして、二度と動き出す事は無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●エピローグ・銀の砦の夜明け
「いくら重ねた所で足りはしませんが、改めて御礼を述べさせて下さい。あれだけの魔物相手に死者が出なかったのは奇跡……いや、皆様方のお陰と言う外はありません」
 猟兵達の姿を見つけた隊長代理が、晴れ晴れとした声で話しかけてくる。勝利の高揚感と解放感に、疲れも痛みも吹き飛んでしまっている様子だ。

 ふと、高らかな蹄の音が山脈の反対側から響く。遠目に慌ただしく山道を駆け上がって来るのは、どうやら街からの伝令のようだ。昨夜の凄まじい音と振動に、夜明けを待たず走ってきたに違いない。
「どうやら、随分と心配を掛けたようですな。あの様子では増援も既にこちらへ向かっている事でしょう。はは、この有様を見て腰を抜かさねば良いですが」
 そう見やる先には、無数に散らばる妖精達、そして山の合間を埋めるように鎮座する山龍の屍。曙が訪れた今、桁外れの多さと巨大さが改めて見て取れた。

 だがその中にはもう、蠢く影は一つも残ってはいない。戦いは、今度こそ終わったのだ。



 いつものように、砦の鐘が朝を告げる。

 だが今日は、その音は少しばかり荒々しく、そして長かった。

 砦の無事と、街の平和と、そして。

 不思議な冒険者達の、栄光ある勝利を伝える為に。

最終結果:成功

完成日:2020年05月16日


挿絵イラスト