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鈴の音は熾火の如く

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●幕裏
 ───ずぐ。ずぐ。ずぐ。
 雪を踏みしめる藁靴の音が、斜面に積もった雪に吸い込まれてゆく。ここ数日降り続いていた雪は漸く止んだものの、葉の落ちた梢から覗く空は、どんよりと重たい灰色のままであった。
 ───ずぐ。ずぐ。ずぐ。
 かじかむ両手に吐息をあてて、山門へ続く山道をひた進む。今は身を切る冬の空気よりも、胸中に燻る昏い焔が、何よりこの身を苛んでいた。
 ───ずぐ。ずぐ。ずぐ。
 雪の積もった石段を上る。一歩踏みしめるごとに、脳裏に蘇るあの日の光景。何故だろう、この町に流れ着いてから、必死に忘れようと日々を過ごしてきたというのに。時間が解決してくれた筈なのに───あの鈴の音を聴いてから、どうにもこうにも気が滅入る。
 朽ちかけた山門を潜ると、半ば半壊した破れ寺が、雪に埋もれて佇んでいた。
「───御坊。」
 白い吐息と共に擦れた声を投げかけると、その男はゆっくりと振り向いた。
「‥‥‥おや、こんな時分に客人とは。如何なされましたかな。」
 白い雪景色に一滴、墨汁を落としたようであった。薄墨色の衣を翻すその姿は、旅の行脚僧を思わせる。未だ年若くも見えるその男は、しかし存外に静かな声音でそう問うた。
「‥‥‥、‥‥‥、‥‥‥人を、殺した」
「なんと」
 唐突な客人の告白に、言葉面だけは驚いたような声を、黒僧は返す。
「殺して───逃げた。金子が必要だった。仕方がなかった。ずっと昔のはなしだ。今日まで‥‥‥今日まで、誰にも話さなかった。女房にも、棟梁にも、ずっと黙っていた。けど、もう───」
 駄目だ。そう口にして、客人は雪の上に膝を折る。その身体は、寒さ以外のもので震えていた。
「‥‥‥ここのところ毎晩、あの日の光景を夢に見る。振り下ろした玄能の感覚も、あの旅人の悲鳴も、酷く生々しい。俺は、俺は───なんてことを、してしまったのだろう。俺は、俺は‥‥‥!」
 食い縛った歯の隙間から嗚咽を漏らし、彼は黒僧を睨むように、或いは縋る様に見上げる。
「‥‥‥アンタなら、アンタなら───助けてくれると聞いた。アンタなら、望んだ答えをくれると‥‥‥!教えてくれ、御坊。俺は、どうすべきなのだ」
 どさり、と。枯れ枝から雪の落ちる音が聞こえた。這い蹲る客人を前に、黒僧は朱色の瞳を落とす。
「───拙僧は何もしませぬよ。助けもしなければ教えもしませぬ。此処に来た時点で、貴方は自分がどうしたいのか、どうすれば救われるのか、理解っている筈でしょう。」
 諭すような声音で、黒僧は静かに微笑みを浮かべた。
「貴方が成したいこと、其れこそ即ち、苦しみ乍ら巡り続ける今世の六道を脱却する唯一の術。自信を持ちなさい、『貴方の考えていることは正しい』のですから」
 ポカンとした表情を浮かべ───次いで何かを覚悟したように、客人が立ち上がる。
 ───リン、と。季節外れの風鈴が、崩れた軒先で音を立てた。

●プロローグ
「‥‥‥ははあ。いやはやどうして、これは根が深いようで───と、いらっしゃいましたか、皆さま方!」
 思案顔でグリモアたる白い烏の目を覗き込んでいた紳士人形───ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)は、招集に応じた猟兵たちの気配に顔を上げる。
「サムライエンパイアで事件発生です。雪深い山と山に囲まれた、奥羽地方のとある宿場町。この小さな町でここ数日、自殺者が立て続けに発生しております。10日間で24名‥‥‥およそ尋常な事態ではありますまい。」
 珍しく胡乱気な表情を浮かべつつ、どこからか取り出した筆と硯、半紙に向かってサラサラと、ヘンペルは若い男性の似顔絵を描いてみせる。
「おそらくですが───この男が、今回出現したオブリビオンです。残念ながら、潜伏場所は掴み切れていません。ですが、妙なことにこの男‥‥‥」
 直接的には事件に関与していないようなのです、と言う彼の言葉に、何人かの猟兵が訝し気に眉をひそめた。
「なにか、この一連の自殺事件に纏わる大事なピースが抜けている。それを解決しない限り、この事件は収束しないでしょう。‥‥‥ですので、皆さまに置かれましては転移した後、オブリビオンの捜索と並行して自殺騒ぎの原因究明にもあたっていただきたいのです。」
 常の如くシルクハットから大型の地図を取り出して、杖先でなぞりはじめる紳士人形。一体誰の作か、酷く古ぼけたその地図は、件の宿場町とその周辺を書き記したものであった。
「小さな宿場町ではありますが、それなりに人の往来はあります。旅人の集う旅籠や木賃宿などであれば、情報収集は比較的容易かと。逆に、この町に普段から住んでいらっしゃる方々は、うわべは友好的でもどこか余所よそしい人物が多いようです。情報を得るためには、何らかの工夫が必要になるでしょう」
 ステッキをクルリと回して、紳士はカツンと地面を打った。
「‥‥‥これは勘ですが、事態は想像以上にデリケートなようです。こと、情報収集には神経を使うべきでしょう。町の人々を敵に回してしまえば、最悪事態の収拾自体がつかなくなる場合もあります‥‥‥どうぞ、ご一考ください。」
 そう言って腰を折ったヘンペルの左腕から、白い烏の姿を問ったグリモアが飛び立つ。雪のような白い羽がハラリ、ハラリと舞い踊る中、猟兵たちの転移がはじまった。
「‥‥‥この寒さを越えれば、暖かい春がやってきます。どうか冷え切った町に、暖かな季節の到来を。頼みましたよ、イェーガー。」

 そう呟いた紳士の言葉が、聴こえたかどうか。猟兵たちは白い光に呑まれ───冷たい冬が、肺を満たした。


信楽茶釜
 罪と罰は天秤にかけるべきなのか───。
 どうも皆様はじめまして、信楽茶釜と申します。陶器製です。
 心情描写多めのシナリオになるかと思います。
 以下補足です。

●最終目的
 黒幕オブリビオンの討伐。

●第一章の目的
 オブリビオンの捜索と連続自殺事件の原因究明。

●現在開示可能な情報
「宿場町の主な施設について」
『旅籠屋』多くの旅人が泊ってゆく、サムライエンパイアにおけるホテル。
『問屋場』宿場町に欠かせない、人馬の手配所。茶屋が併設されている。
『商店』旅人向けの日用雑貨を売る商店。新しい店舗から老舗まで様々。
『民家』表通りから一本入った場所に並ぶ居住区域。住民は非友好的。
『寺院』町はずれに佇む、この町の旦那寺。住職は最高齢の99歳。

 どの場所で情報収集をしても、判定に成功すれば一定の情報を得ることが出来ます。『天下自在符』の利用はある程度の効果を発揮できるものの、利用のタイミングによっては状況の膠着を招きますので、ここぞという場面で使うことをお勧めします。

●予知による断片的な情報
 『罪人』『悔恨』『漂着』『鈴』『門』『大怨』『啓蟄』『地獄』

 それではどうぞ、よろしくお願い致します。
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第1章 冒険 『妖孽』

POW   :    現場を力尽くで調査し、情報の収集を行います。

SPD   :    付近の人物に聞き込み、情報の収集を行います。

WIZ   :    残された文献などから、情報の収集を行います。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間

 ───この町を作ったこと。それ自体が、最初の間違いだったんだ。
彩瑠・姫桜
SPD
『問屋場』の茶屋で
お店の人や訪れる人達に話しかけてみるわ

具体的な質問とかの話はせずに、見処とか、最近よく耳にする話とか、気になる事とか
当たり障りのない話の中から少しずつ【情報収集】していきたいわね
雑談はあまり上手な方ではないけれどできるだけ【コミュ力】意識ね
【礼儀作法】にも気をつけて丁寧さを心がけるわ

それにつけても
茶屋のお茶も、お茶菓子もすごくおいしい
素朴だけど、食べていると凄くホッとするのよね

…って、別に食い気に負けて仕事そっちのけとかそういうのじゃないわよ?

美味しいもの食べると、親友や家族に作りたくなるから…つい、ね(目を逸らし
可能ならお店の人のお手伝いしながら作り方を聞いてみたいわ



●第一幕 -1-

 雪混じりの泥を蹴立てて、荷を引く馬が嘶きをあげる。どんよりとした寒空に、太陽は千々に砕けてはいたが───陰鬱な冬の下にあって尚、商人達の声は快活であった。
「───さぁさぁ丁度御昼時、あったかい蕎麦で腹ァ満たしてはいかんかね!」
「蓑に編み笠、藁靴かんじき、壊れちゃこの先凍え死にだ!うちのは一等丈夫だよ!」
「だんごォ!焼きたてのォ───だんごォ!!」
「ちょっと、お父ちゃん!あ、おだんご売ってまーす!ぜひ一本どうぞ!」
「うちの木賃宿は格安だァ!隣の宿はぶったくりよ!ささ、そちらの旅人さん───」
「あっ、テメェ!うちの宿は快適ですぜ旦那ァ、そんなボロ宿よりも───」
 宿場町の中心を貫く街道は、交通の要所たる宿場町だけあって、今日も賑やかだ。そんな町の昼下がり。
「───すごい活気。ホントに事件なんて起きてるのかってくらい平和じゃない、この宿場町‥‥‥!」
 茶屋の長椅子に腰かけて、彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は流れる人波を眺めていた。パクり、と焼きたての団子を頬張る。
「あつっ!?ハッ‥‥ハフ‥‥‥あ、これ美味しい‥‥‥!」
 口内に広がる香ばしい醤油の風味に、思わずそんな一言が漏れる。もっちり、というよりはサクッ、とろっ‥‥‥という絶妙な焼き加減。なんだか自然と笑顔がこぼれるような、そんな一本であった。
「フフ、ありがとうございますっ。ちょうどお茶も淹れたので、良かったら!」
 姫桜の感想を聞いていたのだろう、嬉しそうな顔で湯気立つお茶を持ってきたのは、この茶屋の看板娘と思しき少女だった。まだ十二、三といった年頃だろうか、短く切り揃えた黒髪の下から、愛嬌のある顔がのぞいている。
「あら、お茶も良いの?ありがとう。‥‥‥えっと、このお団子はあなたが?」
「多恵です!あ、ううん、お団子を焼いたのがお父ちゃんで、作ったのがお母ちゃん。私はまだまだ修行中なんだぁ‥‥‥あ、なのです!」
 エヘヘと小さく頬を掻いて、多恵と名乗った少女は「敬語敬語‥‥」とつぶやいた。
 湯気立つお茶に吐息をあてて、姫桜は静かに茶を啜る。
「‥‥‥うん、お茶も、お茶菓子もすごくおいしいわ。なんて言うか───素朴だけど、食べていると凄くホッとする、そんな味よ。作った人の人柄かしらね。」
「わ、お姉ちゃんたらお上手!でも嬉しいなぁ‥‥‥自慢のお父ちゃんとお母ちゃんなのですっ!」
「べ、別にお世辞とかじゃないのよ!?本心だから!‥‥‥そっか、多恵さんは大好きなのね、家族のこと。私も家族は好きよ。こうして美味しいものを食べると、作ってあげたくなるくらいには、ね。」
 パパの溺愛っぷりはちょっと困るけど‥‥‥と呟けば、多恵も同じような表情で頷いた。どうやら同じような境遇らしい。
「うん、お父ちゃんたら心配性で、何年か前までは店先にも立たせてくれなかったんだから‥‥‥あ、そんなことよりも!」
 黒髪を快活に跳ねさせて、少女はぐいと身を乗り出す。金髪碧眼という姫桜の容姿に、興味津々といった風情であった。
「お姉ちゃん、とってもきれいね‥‥‥!異人さんなの?‥‥あ、なんですか?」
 目をキラキラさせて無邪気に首を傾げる少女に、対する姫桜はどこか照れ臭そうに視線を彷徨わせる。
「いえ、一応あなたと同じ『国』の出身ではあるのだけれど───この髪と眼はママから受け継いだの。確かにこの辺じゃ、ちょっと珍しいわよね‥‥‥。」
「そうなんだ───きっとお姉ちゃんに似てきれいな人なのね、お母さん!うん、珍しい色だと思うな。最近この辺りに越してきた御坊様も、珍しい髪と眼の色をしているけれど‥‥‥」
「───御坊様?」
 団子の串が、ピクリと跳ねた。内心動揺しつつも、悟られないようゆっくりと視線を移す。
「うん、ひと月くらい前からかなぁ。お店にもよく顔を出すの。とっても良い人よ!」
「‥‥‥そ、そうなの。ちなみに、その御坊様は何をしにこの町に?」
「───さぁ?でも、みんなの悩みをよく聞いてくれるの。説法するでも、諭すわけでもなくって、ただ静かにじっと、お話を聞いてくれるんです。私もこの間お母ちゃんと喧嘩しちゃったとき、お話聞いてもらったんだぁ‥‥‥あ、もらったんです!」
 多恵の表情に、嘘はなかった。この少女は少なくとも、件のオブリビオンと思しき仏僧のことを、本気で『良い人』と断じている。
(ホントに直接事件に関わっていない?‥‥‥だとしたら、目的は一体何?)
 未だ真意の見えぬ敵に眉をひそめ、姫桜はもう一口茶を啜る。
「ねね、お姉ちゃん。もしよかったら、一緒にお団子作りの練習しない?」
「───え?あぁ‥‥‥え?良いの?」
 思考中断。思ってもなかった申し出に、姫桜が青い目をパチクリさせる。
「うんっ、今日は少し早めに店じまいだけど───うちの団子の味、家族にも食べさせてあげてほしいな!」
 そう言って茶屋の少女は、屈託なく笑うのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​


●幕間

 ───長らく、私たち夫婦の間には子どもが出来ませんでした。だからあの日、生まれたばかりの隣の家の子を───。この娘は今、ちゃんと幸せだろうか。もしもあのまま、もとの親元にいたならば、或いは‥‥‥。
 最近、そんな事ばかりを考える。
 
大河・回
自殺者か。勝手にすればいいとは思うがオブリビオンが関わっているのなら話は別だ。
しかし、サムライエンパイアは不便だな。
電脳情報がある世界ならそれで調べられるのだが。
まあいい、足を使って調べるとしよう。
それも私の担当分野だからな。

旅籠屋を調べに行こう
旅人が多いということはそれだけ情報も多いからな
雑多な情報の中に有益な情報があるだろう
事前に誘惑効果を持った香水を作成し使用しておく
その後は天下自在符を使用せずただの旅人を装って話を聞いて回る
普段の口調でなく敬語も使いお淑やかな演技をして聞き出そう
男相手で口が固ければ色仕掛けも辞さない
手に入れた情報は他の猟兵と共有する

※アドリブ歓迎


空雷・闘真
闘真は【影の追跡者の召喚】で出した【影】を、『民家』へと走らせた。
住民達の噂や生の声を、陰から収集する為だ。

一方で、闘真自身は『旅籠屋』へと赴き、【コミュ力】を使って旅人から情報収集を試みる。
話をしている最中でも≪心眼≫【第六感】【野生の勘】を常時働かせ、僅かな違和感も見逃さないよう【覚悟】を決める。
そしてもし怪しい人物がいたら【影】を呼び戻して、【追跡】させるつもりだった。

「己の罪業から逃げる弱者共のことなど知ったことではないが……自らの手を汚すことなく、死へと誘うような輩も同じくらい気に食わねぇな……」

不機嫌そうな表情を浮かべ、闘真は情報収集先へと向かった。



●第一幕 -2-
 
「───しかし、サムライエンパイアは不便だな‥‥‥電脳情報が一般化している世界なら、指先ひとつでチョチョイのチョイだというのに‥‥‥。」
 泥濘を踏みつけて、世界征服を企む悪の組織「デスペア」情報戦担当幹部・プロフェッサーTこと大河・回(プロフェッサーT・f12917)は、髪と同じ色の溜息をついた。足を使って地道に情報収集というのも担当分野ではあるが、手間は手間である。
 傍らを通る荷馬をスルリと避けて、向かう先は街道沿いに建つ立派な木造建築。この宿場町で一番大きな旅籠屋へと、回は迷わず足を運ぶ。人が集うところ、其れ即ち情報が流れ込む場所であることを、情報戦担当幹部はよく知っていた。

「御免ください」

 大戸を潜ると、檜の香りが僅かに鼻腔をくすぐる。余所行きの声音で回が声をかけると、すぐに奥から帳面を持った中年男性がパタパタと出てきた。
「へへぇ、どうもお客サン、足元悪ィ中よくぞおこし下さいまして。お二人様でご宿泊ですかね?」
「えぇ、二人で───二人?いやいやいや、私は一人だぞ?」
「は?そいじゃあ、そちらのお客サンは───」
「───俺も一人だ。」
 突如背後から聴こえた太い声に、回が思わず振り向く。いつの間にやら、およそ二メートル近い体躯の、筋骨隆々とした男───空雷・闘真(伝説の古武術、空雷流の継承者・f06727)が、大戸を背にして立っていた。今の今まで気が付かなかったのが不思議なほどの、強烈な存在感がその身から放たれている。
「‥‥‥とは言え知らぬ顔でもない。久しいな、大河。」
「ミスター闘真‥‥!来ていたのか!」
 依頼のみの間柄ではあったがこの二人、互いに顔見知りの猟兵であった。
「まぁな。己の罪業から逃げる弱者共のことなど知ったことではないが‥‥‥自らの手を汚すことなく、死へと誘うような輩も同じくらい気に食わねぇ。故に俺は此処に居る。」
「ハハッ、相も変らずストイックな武人だ。‥‥‥ま、右に同じく、自殺なんて勝手にすればいいとは思うけどね。ただ、オブリビオンが関わっているのなら話は別だ。そうだろう?」
「相違なし。願わくば此度の敵も、俺が死合うに値する強者であれば良いのだがな‥‥‥裏で糸を引くしか能のない臆病者でないことを願うばかりだ。」
「物好きだなぁ、ミスターは。私としてはサクッと片付くなら、それに越したことはないのだけれどね。」
 親子ほどの歳の差はあるが、話の内容は大差ない。なにやら玄関口で物騒な話を始める二人を前に、しかし受付の男はどこか慣れたような、あるいは諦めたような様子で一つ、溜息をついた。
「あのぅ‥‥お部屋の方は───」
「「別々で。」」
「かしこまりやした」
 この程度の『物騒な話』は、この町では日常茶飯事なのだろうか。珍客二人は木札を受け取り、旅籠の客間へと足を進める。



「───何、この旅籠でも自殺があったと言うのか?」
「わわっ、しーっ!しーっ!頼みますよ旦那ァ、なにしろ大っぴらにされてねぇ話だ」
 数日前から滞在しているという男性客を前に、闘真は訝し気に顎をさする。
「で、あれば。なぜお前がそれを知っている?」
「そら嫌でも気付きますよぅ、何たって隣の部屋だったんだ。一昨日の真夜中だったかなァ、妙に眠れなくってチビチビ酒を煽ってたら、どこからか鈴の音が聞こえてきたワケです。なんか、こう───妙に気味の悪ィ音で。それから程なくしてさね、隣の部屋でなにか台みてぇなモン蹴ッ倒す音に続いて、うめき声が聴こえてきやがったのは。」
 で、翌朝となりの部屋でちょっとした首吊り騒ぎよ。そう小声で言ってから、男は真昼間だというのに酒をグイッと飲んだ。闘真の奢りである。
「むぅ‥‥‥その自殺者と面識は?」
「あるわけねーさ、厠で一度か二度、顔を合わせた程度さね。ちょうど旦那みてぇに、顔に目立つ切り傷がついてたから覚えちゃいるが‥‥‥ありゃどう考えても堅気じゃねぇな」
 そう口にしてから、男は慌てて「旦那は別ですぜ」と両手を振る。闘真は己が『心眼』でもって、男が少なくとも嘘をついていないことだけは看破した。手短に礼を済ませ、闘真は足早に自室へと戻る。
「奇妙な鈴の音と自殺騒ぎ、か。未だ情報が足りんな‥‥‥行ってこい、【影】。」
 闘真の身体から滲みだした『影の追跡者』が、音もなく扉から出てゆく。この事件の全体像を掴むには、まだまだ多くのピースが必要だった。
「‥‥‥さて、大河のやつも首尾よく情報を手に入れていると良いがな。」



 薄暗い旅籠の廊下に、妙な雰囲気の男女が二人。ゆらりと揺れる行燈の火が、昼なお暗い冬の廊下に影を映す。
「まぁまぁ、そんな堅いコト言わずに教えてくださいよぅ、おにーさん?」
 普段とは違う甘ったるい声。上目遣いと共に回がしな垂れかかると、旅籠の従業員たる青年は顔を真っ赤にして視線をあらん方向へ向けた。
「な、なにを言っているのかサッパリ分からない。当旅館では自殺などおこってはいない‥‥‥!」
「えぇー?ホントですかぁ‥‥‥?」
 フワリと。青年の鼻腔を、檜の香りではない匂いが掠める。その甘く、脳髄をゆっくりと痺れさせるような香りは、目の前の少女から放たれていた。回お手製の、誘惑効果をもった香水である。
「ホントのコト、教えてくれたら───良いコト、してあげちゃうんだけどなぁ」
 つつつ、と。青年の胸板を人差し指がなぞる。僅かに視線を落とせば、艶やかに光る少女の瞳。ゴクリ、と青年の喉が音を立てた。なるほど悪の大幹部、己の武器は熟知している様子であった。
「ねぇ、おにーさん───」
 耳にかかる湿った吐息。蠱惑的な声音。据え膳喰わぬはなんとやら、されど喰いつく勇気はナシ。しかして堅物な青年は、真っ赤な顔を全力で背けるや否や、まさかの逃げの一手をとった。
「とっ、ととととと兎に角っ!自分は知らないぞぅ!十日前から既に『三人もこの旅籠で自殺者が出ている』だなんて!そんなことは知らないっ!し、し、失礼しゅるっ!!」
 なかば絶叫する様にして逃げていった初心な青年を、しかし回は負わなかった。
「さ、三人‥‥‥?」
 予想外の数に、流石のプロフェッサーTも唖然とした声を漏らす。この旅籠は、この町は、思った以上の厄ネタを抱えているようであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


●幕間

 ───今日もまた、血生臭い客が来た。‥‥‥まぁ、それも仕方のない事だろう。何しろこの町は『そういう場所』だ。先代からこの旅籠を受け継いだ頃の俺も、同じような臭いをプンプンさせていたに違いない。それは良い、誰だって見せたくないものくらいある。過去は変えられないし、それでも俺たちは生きていく。
 ‥‥‥けれど、或いは。あの日、あんな真似をしなければ───。
 最近、そんなことばかりを考える。
 
ステラ・アルゲン
オブリビオンと連続自殺事件……まったく無関係とはいえないが、証拠がないというわけですか

【POW】
とりあえずその連続自殺事件について調べてみましょう
自殺者の24人に何か共通点はないか。またどの場所でどういった方法で死んでいるのかを調べたいと思います

商店にて物を買うついでに現場となった場所を【情報収集】

私はこう見えて作家なもので。趣味が悪いとは思いますがそういった事件は話の種になりそうで気になるんですよ

女性の店員に怪しまれないよう【礼儀作法】と【優しさ】を持って話しかけ、少し容姿を利用して【誘惑】

自ら命を断つとは。彼らはどうしてそう思ったのでしょうか
その意味を知るためにも現場に何か情報があれば……


メタ・フレン
何ともキナ臭い事件ですね。
相当に胸糞悪い真実が待ち受けてるのかも…

まずは毎度の如く【地縛鎖】【情報収集】で調べてみますが、今回はこれだけだと表層的なことしか分からないでしょうね。
というわけで、【迷彩】で見えにくくした【グッドナイスブレイヴァー】を【操縦】して、宿場町を【撮影】します。
隠し撮りしてるみたいで気が引けますが…
もしR18っぽいシーンが撮れちゃったらどうしよう…

機会任せにしてばかりでなく、私自身も『民家』や『寺院』に赴きます。【医術】で病人を診たり境内を『掃除』したりして、住民の信頼を得ながら聞き込みしてみますよ。
場合によっては【鍵開け】で、怪しい施設に忍び込んでみてもいいですね。



●第一幕 -3-

 東西を険しい雪山に囲まれ、ちょうど谷間に位置する場所に建つこの宿場町は、当然ながら南北を行き来する旅人にとって重要な交通拠点の一つだ。ゆえに昼下がりの街道を往来する人々も様々で、飛脚や荷馬だけでなく瓦版売りや行商人、流れの薬師に辻占いと、実に多種多様である。
 そんな人ごみの中にあって、その男性───否、男装の麗人は、尚のこと人の目を引いた。物語に登場する白馬の騎士然とした彼女はステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)。流星剣のヤドリガミである。その一挙一動は凛々しさに溢れ、思わず振り向いてしまうほどの眉目秀麗さ、なのだが───
「ステラ様ーっ!こっち向いてくださいまし!」
「ステラ様の国のお話が聞きたいわ!」
「ちょっと、なに抜け駆けしてんのサ!先にアタシが───」
「あらやだイイ男!うちの旦那に爪の垢でも飲ましてやりたいねぇ」
「あ、この甘酒、良ければ!ウチの自信作ですっ」
「ちょ、ちょっと君たち、そんなに押さないで───」
 両手を振って、たじたじとステラは後ずさる。今回に限っては、その見目麗しさが効果を発揮しすぎていた。情報収集のためにと、商店を中心に聞き込みを行っていた彼女だったが、三件目を回るころには「とんでもない美青年が町に来ているらしい」という噂を聞きつけた町の女性が大挙して集まってくるという事態に陥っていた。
「参ったなぁ‥‥これじゃマトモに話も聞けなさそうだ‥‥‥」
「‥‥‥モテモテ、というやつですね。」
「そんなに良いもんじゃ───て、えぇ!?」
 いつの間にやらステラの傍らに、青い髪の幼い少女がテン、と立っていた。バーチャルキャラクターの電脳魔術師、メタ・フレン(面白いこと探索者・f03345)である。
「メ、メタ殿!?いつの間に───」
「‥‥‥電脳忍法バーチャル迷彩です」
 にんにん、と嘘かホントか絶妙に解り辛い無表情で、青い少女は印を組む真似をする。
「ちょっと、どこの子かしら、この子。迷子?」
「でもステラ様のお知り合いみたいですし───」
「ま、まさかステラ様の娘さん‥‥‥!?」
「あらまぁ子持ちだったのかい!」
 先程とは別のベクトルでザワつきはじめる女性たちを前に、メタがビシリと人差し指を突き付けた。
「こんにちわ。メタ・フレンです。医者をやっています。どうぞよろしく。小説作家の兄がお世話になったようで。」
「そ───そうなんですよこう見えて妹のメタは凄腕の医者でして!たまにこうして、私の作家活動の手伝いをしてくれるんですよ。よければ皆様にも、その手伝いをしていただけたら嬉しいのですが‥‥‥!」
 ステラがどこか困ったような笑顔で両手を合わせると、女性陣のざわめきが徐々に収まっていくのが分かる。咄嗟の判断で話を合わせてみたが、上手く混乱を統制することができたようだ。傍らのメタにウィンクをして、ステラは本題を切り出す。
「‥‥‥ここのところ、この町で連続自殺事件が密かに起きていると風の便りで聞きました。‥‥‥不謹慎、且つ大変趣味が悪いとは自覚してはいますが、そういった事件は話の種になりそうで気になるんですよ。何かご存知の方、いらっしゃいませんか?」
 女性陣のざわめきが、一転してヒソヒソ声に変わる。話すべきか、話さないべきか───そんな小声のやり取りが暫く交わされて、ようやく一人の町娘がおずおずと右手を挙げた。
「どれくらいの人が亡くなってるのか、私たちにも正確には分からないんですけど‥‥‥私たちの知っている範囲では、金物屋の浩三おじいちゃんと宮大工の金之助さん。はす向かいの百草さんに、三号長屋の忠吉と藤枝。あとは吉村さん家のおじいちゃんと、一昨年越してきた亀丸家のご夫婦でしょう───」
「‥‥‥今、迷彩処理を施したグッドナイス・ブレイヴァーで現場を撮影中ですが、今のとこ現場の位置関係に法則性はなさそうです。」
 メタが小声で耳打ちする。次から次へと出てくる名前に、ステラはじわりと嫌な汗をかいていた。今のところ、年齢や性別、住んでいる場所に共通点はないように思える。それが尚更不気味だった。一体何が呼び水となって、彼らは自ら死を選んだのだろうか。
「あれ?二軒隣りの茉莉ちゃんは?」
「バカ、あの娘は死んじゃいないよ。ギリギリのところで勝氏おじさんが助けたんだ。」
「え───せ、生存者が、いらっしゃるんですか!?」
 ステラが身を乗り出すと、町娘は頬を染めて視線を宙に彷徨わせる。
「は、はい!首を吊っていたところを何とか助けてもらった娘がいて‥‥‥」
 ステラとメタは顔を見合わせ、小さく頷く。
「その娘の家に、案内してください」



「‥‥‥お医者様?」
 首周りについた痣痕も痛々しく、自殺未遂の少女───杉村茉莉は布団から身を起こした。
「えぇ。幼く見えますが、実際の年齢は貴方よりも少し上くらいだ。信頼してくれていいですよ、茉莉さん。」
 急場しのぎの設定ではあるが、今はこれで押し通すしかない。力強く頷くステラに続いて、、メタもまた静かに頷いてみせた。
「‥‥‥よろしくお願いします、茉莉さん。まだ後遺症が残っているのだとか。」
「‥‥‥はい。身体の痺れがとれなくて───」
 小刻みに震える茉莉の手を取って、メタが小さく目を閉じる。『医学』の知識を脳裏に呼び出して、彼女のバイタルからこの先の容態までを読み取ってみせる。
「‥‥‥うん、これなら一週間くらいで元に戻りそうですね。助けてくれた人に感謝です」
「はい‥‥‥私、どうして自殺なんて───」
「なにか、思いつめての行動ではなかったのですか‥‥‥?」
 メタの問いに、少女は静かに押し黙る。話そうか話すまいか、迷っているような素振りであった。繋いだメタと茉莉の手に、そっとステラの手が重なる。
「‥‥‥話していただけませんか、茉莉さん。」
 偽りのない、ステラ本来の優しさ。今しばらく逡巡して、少女はおずおずと口を開いた。
「‥‥‥お母さんの形見の櫛を、川に投げて捨てたの。お義父さんが、勝氏お義父さんが嫌だったから。お母さんが死んでから、必死にお仕事してくれてるのは分かってた。でも、やっぱりソリが合わなくて、喧嘩して───それで、お義父さんが大切にしてた櫛を、捨てたの。」
 少女の眦に、だんだんと涙が溜まり始める。
「お義父さん、怒るわけでもなく、ただ凄い悲しそうな顔をして───私、わたし、すっごく後悔して、川を捜した。でも見つからなくって‥‥‥」
 涙が静かに頬を伝う。この少女は、心の底から悔やんでいるのだろう。
「‥‥‥『死にたい』って気持ちで家に帰ったら、どこからか鈴の音が聴こえてきて───気がついたら、お義父さんが泣きながら私を抱きしめてた。」
 鼻を啜る音が、冬の床の間に響く。少女をあやすように、メタが静かに茉莉の頭を抱いて撫でていた。
「‥‥‥『死にたい』。そう、思ったのですね?」
 ステラの問いに、少女はコクリと頷いた。
「‥‥‥メタ殿。」
「はい。」
「どうやら、敵は想像以上に悪辣なようだ」
 そう言って、流星騎士はキツく眉に皺を寄せる。宙を睨むその双眸は、尻尾を見せ始めた敵を射貫くようであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●幕間

 ───母を殺しました。
 ───火を放って逃げました。
 ───墓を暴いて身銭を稼いでいました。
 ───沢山の人を蹴落として生きてきました。
 ‥‥‥嗚呼。何故。あんな事を。もし、あの時、或いは───。
 最近、そんなことばかりを考える。
 
セイス・アルファルサ
SPD
自殺、それが悪いとは言わないよ。そうするしかない人も中にはいる
だけど、何かに追われるように皆が「そうするしかない」と死ぬ
それはおかしい。それは救われない。この町自体が死んでしまう
だからこの事件必ず解決しよう


僕は『民家』の井戸端会議から情報を集るよ

ここは小さな宿場町。噂の広がりも早い。
だから遅かれ早かれ僕らのことは噂になる。自殺事件について余所者が調べていると。
だから井戸端会議でも僕らの話をしてそこから自殺事件の話題に繋がる可能性は十分ある。その中には外部へ伝えたくない情報もきっとある

方法は地中へ潜らせたスビマリーノに装着させているクリオーゾで気づかれないよう【情報収集】

連携・アドリブ歓迎


エスタシュ・ロックドア
罪人、大怨、地獄……
地獄を抱えた獄卒系羅刹としちゃ仕事しねぇといけねぇ気配がビシバシしやがる
仕方ねぇ、行くか

民家で情報収集するぜ
住民は非友好的だって?
直接聞く訳じゃねぇさ
ホントは使いたくねぇんだが今回そーいう仕事っぽいからな
民家から適当に離れた物陰に潜んで『大鴉一唱』発動
配下の烏三十七羽を放って普通のカラスを装い様子を探らせる
小さな宿場町で24人も死ぬとか一大事だろ
他所モンの目があったら口を噤むような事でも、
身内モンだけが寄り集まりゃ何か話さずにはいられねぇはずだぜ
逆に何も話さなかったらそれはそれで収穫だ
戻って来た烏の報告は【動物と話す】で聴いて、
他の猟兵と共有……うるせぇお前ら、一羽ずつ喋れ


鏡島・嵐
判定:【SPD】
田舎町、かぁ。なんか故郷を思い出すな。町の人がよそよそしいってのは似てねぇけど。
こういう異常事態なら、それを解決しようって相手には協力するもんだろ。
そうじゃねぇってことは……内輪だけの秘密でもあるんか?

民家の集まってる周辺にいる犬・猫など動物を探し出し、〈動物と話す〉技能で情報を収集できねぇか試みる。
抽象的でもいいから怪しい奴の人物像とか、人間目線では気付かねぇ情報とかが拾えるといいけど。
情報の対価にこの世界では珍しい食べ物でも用意しておく。
町の人に目くじら立てられたくねぇから、行動中は〈目立たない〉ように動き、必要に応じて〈コミュ力〉を駆使して切り抜ける。自在符は最終手段。



●第一幕 -4-

 町の中心となっている街道から一本外れると、途端にひなびた街並みが姿を現すのは、どこの宿場町にもよくあることだった。この宿場町も例に漏れず、表通りとは一変して閉鎖的な、よそ者には刺々しい雰囲気の充ちた空間が広がっている。木造の平屋が並ぶ居住区域は、重く垂れこめる灰色の空も手伝って、どこか陰鬱な印象を与えずにはいられない。そんな、場所だった。
「───田舎町、かぁ。なんか故郷を思い出すな。」
 町の人がよそよそしいってのは似てねぇけど。怪訝な顔で目線を寄越す住民から視線を逸らし、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は小さく独り言ちる。自分の故郷の暖かさとは無縁の冷たさを、少年は住民の視線から感じ取っていた。
「‥‥‥気持ちは分かるけどね。生憎と小さな宿場町、閉鎖的になるのは自己防衛本能の現れだ。良くも悪くも、変化という劇薬はよそ者が持ち込むものだからね。」
 嵐の呟きが聴こえていたのだろう、一歩前を行く青年───セイス・アルファルサ(瓦落芥弄りの操り人形・f01744)が、どこか他人事のようにそう返す。軒先のつららから零れた水滴をスルリと避けて、セイスは背後に目を向けた。
「───きっと怖いんだよ。変化がもたらす、不可逆の結果が。」
「‥‥‥それが今より良いものだったとしても、か?」
 納得いかなさげな表情で、嵐がつららの雫を左手で受けとめる。針のような冷たさが、掌を刺した。
「うん。現状維持のためなら、より良い未来を投げ出してもいい───そんな人間は、意外と多いよ。」
「───ハッ、何にせよ、辛気臭ェ話じゃねーか。締め出そうが投げ出そうが、それでも来るときゃ来んのが変化ってモンだろ。」
 バキリ、とつららを圧し折って、最後尾を歩いていたエスタシュ・ロックドア(ブレイジングオービット・f01818)が口の端を歪める。明朗快活を是とするこの男からしてみれば、この町の閉鎖的で陰鬱な雰囲気は酷く肌に合わなかった。
「獄卒系羅刹的に因縁めいたモノ感じてなきゃ、こんな町とはさっさとおさらばしてェ所だっての。幸か不幸かこの辺の山は、ツーリングに最適みてーだしよ」
 愛車たるバイクのシンディーちゃんに思いを馳せ、獄卒の騎手は東西に屹立する雪山に目を向ける。聳え立つ山の頂は雪雲に呑まれて、その全容を伺い知ることは出来そうになかった。
「あ、あの道もなさそうな雪山をツーリングすんのかよ!?」
「‥‥‥一緒に来るか?」
 冗談だろ、という顔で振り向く嵐に、エスタシュは揶揄うように二ッと笑う。首をぶんぶか左右に振る少年の肩を叩いて、羅刹は「さてと」と一言呟いた。
「この辺でどうだ、人目もだいぶ少ねェだろ。」
「うん、僕も賛成だ。どの建物からもここは死角だし───」
「おぅ、都合よく野良猫も何匹かいるしな。情報収集の拠点には打って付けだと思う」
 そう言って三人が身を滑り込ませたのは、廃屋化した長屋と家屋の間にできた、デッドスポットと言うべき空き地だった。ぽっかりと覗く灰色の空が、今にも白い欠片を地上に使わさんと身構えている。
「雪が降り始めたら厄介だな」
「うん、家の中に籠られると面倒だ。」
「んじゃあ、とっとと片付けようぜ」
 三者三様に、居住区域での情報収集がはじまった。



「───自殺、それが悪いとは言わないよ。そうするしかない人も、中にはいる。だけど、何かに追われるように皆が「そうするしかない」と死ぬ‥‥‥それは、おかしい。」
 それは、救われない。小さくそう呟いて、セイスは静かに瞼を閉じる。自ら命を絶った人々に思いを馳せて───ではない。かつての兵士時代、自身に搭載された機能の一つ、即ち探査装置『クリオーゾ』とのリンクをもってして、セイスは情報収集にあたっていた。
(───エラー、なし。ノイズ、極小。リンク、クリア。いいよ、スビマリーノ。そのまま二時の方向へ向かってくれ)
 地中を往く己が相棒に、セイスは脳裏で指示を飛ばす。探しているのは、よそ者の介在しない、この町の住民だけが集まる座談の場。即ち───井戸端会議である。
(‥‥‥見つけた。)
 セイスたちの潜伏する拠点から、500メートルほど離れた民家の軒先。数名の住民が、集まって何やら話し込んでいた。彼らは知るまい───その足下、地中深くに、探査装置を装着した鮫型の人形が潜んでいることに。
「───町のことを嗅ぎまわっている連中?」
「あぁ、街道の方で見たことねぇよそ者たちが、例の自殺騒ぎについて嗅ぎまわってるらしい。」
「自殺騒ぎなぁ‥‥‥『解決できるならしてほしい』モンだ。」
「まったくだ。浩三さんだけじゃなくって、金之助まで逝っちまうたァ‥‥‥」
「‥‥‥むしろ二人とも、今までよく耐えてきたって、そう思うぜ。俺は」
(おや‥‥‥?)
 その言葉を意外に感じて、セイスは無意識の内に首を傾げる。彼らの口にしたニュアンスは、未知の脅威に対する恐怖などではなく、既知の道理に対する諦念のようなものであったからだ。
「───この町も、潮時なのかもなぁ」
 その言葉を最後に、住民たちは散会していったようであった。
「‥‥‥潮時、ね。」
 クリオーゾとのリンクを解除して、セイスはゆっくり目を見開く。その一言に込められた計り知れない絶望と諦観を、舌の上で転がして───セイスは人知れず、唇をぐっと引き結んだ。
 この町が死んでしまう前に。この事件、何としてでも解決しよう。



「‥‥‥いやにカラスが多いねェ、今日は。」
「仕方ないさね。これだけ死人が出てるんだ、死肉の臭いに釣られでもしてるんだろうさ」
 気味の悪そうな顔で屋根を見上げる人々は、矢張り知るまい。居住区域の屋根と言う屋根に留まるカラスたちが、地獄にて罪人を苛む獄卒の眷属だということに。
「‥‥‥にしても今年は死に過ぎだ。何かおかしな事が起こってるのは確かだろう?」
「たしかにねぇ‥‥‥本番の『啓蟄』は今晩なのに、十日以上前からこれはハッキリ言って異常さね。」
「今晩の『忌籠り』中に何人連れていかれることやら‥‥‥」
「去年までは、多くたって一人か二人だったじゃないかい」
「だから今年は普通じゃないってんだよぅ」
「くわばらくわばら───」

『‥‥‥ってことがあったッス!』
『ケーチツってなんスか!』
『カラアゲ食べたいッス!マヨネーズたっぷりかけて食べたいッス!』
『イミゴモリとかいうのは毎年やってるみたいッスよ!』
『カラアゲ!』
『カラアゲ!』
『タツタアゲ!』
「───煩ェなお前ら一羽ずつ喋れ!むしろお前らをカラアゲにすっぞ!」
 聖徳太子も耳栓をするレベルで喋りまくるカラスたちを前に、エスタシュが怒鳴り声を上げる。変わらずカラスたちは姦しいが、広域をカバーしただけあって幾つか新しい情報を持ってこれたようだ。『啓蟄』、そして『忌籠り』。しかもそれは、気の早いことに今晩だという。
「思ったよりも事態は切迫してるみてーだな‥‥‥」
 今にも振り出しそうな雪雲を見上げて、エスタシュはカラスを地獄へと追い返し始めた。



「───おぅ、お帰り。情報収集ご苦労さんな」
 するりと返ってきた野良猫の喉元を撫でて、嵐は動物会話を使いそう言った。
『吾輩は報酬を所望する。先払いである。』
「はいはい、ちょっと待ってなって」
 苦笑気味に懐から取り出すのは、このサムライエンパイアでは決してお目にかかれないであろうオーパーツ。即ちUDCアースで市販されている(ちょっとお高い)猫缶であった。
「あいよ、好きなだけ食べな。」
 返事もせず猫缶にがっつく野良猫を前にして、嵐は静かに思索にふける。
 この小さな宿場町でこれだけの数の人間が自殺に走っている以上、これは明確に異常事態だ。であれば、それを解決しようという相手には協力するのが大衆心理と言うものだろう。ところが、実際はその協力にも消極的で、この期に及んでもよそ者が踏み込むのを忌避している節さえある。
(‥‥‥内輪だけの秘密でもあるんか?)
 胸中で呟いて、住民たちから向けられた視線の冷たさを思い出す。あれは───拒絶だ。何人たりとも接近を赦しはしないという、明確なまでの意思表示。ある種の信念じみたその頑なさに、嵐は眉を顰める。
『───なに、踏み込まれたくない事の一つや二つ、ヒトにもネコにもあるだろうさ』
 口の周りをベロリと嘗め上げ、野良猫は空っぽの猫缶から顔を上げる。
『さて、報告である。まずはヒトの様子であるが───みな怯えておるな。まぁ毎年この時期はヒトもネコも良い気分ではないが。』
「そりゃ、なんでだよ?」
『‥‥‥『這い出てくる』からよ。捕まれば連れていかれる。』
「は?───な、なんだよソレ‥‥‥何が出てくるってんだ?」
『さぁな。吾輩たちにはアレが何なのかはトンと分からぬが‥‥‥今晩に限ってはオマエらヒトも出歩かぬ方が良いぞ。』
 未練がましく空の猫缶に舌を這わせ、なおも野良猫は続ける。
『次いで怪しいヒトの調査、であるが───居たぞ、オマエの言っていた風体のヒトが。』
「ほ、本当か!?」
 思わず身を乗り出した嵐に、野良猫はびくりと毛を逆立てた。
『落ち着け。赤髪朱眼、黒い毛皮───フク、と言ったか?のオスだったな。確かに居たぞ、大きなヒトの道を挟んで太陽の沈む側だ。しかし‥‥‥アレは本当にヒトなのか?まぁ、吾輩にはどうでもよい事だが』
「向こうからお出ましかよ‥‥‥何を企んでやがる」
 思案顔で硬直する嵐に、野良猫は尻尾を振って踵を返した。
『報告は以上だ。吾輩は山で一晩過ごすとしよう。オマエらも今晩は此処を離れた方が懸命だと進言しておく。ではな』
「ぁ───ありがとよ!‥‥‥おぉ?」
 手を振る嵐の鼻先に、白い花弁がひとひら乗った。それはすぐさまジワリと溶けて、雫となって顔を伝う。
「‥‥‥降ってきやがったか」
 灰色の曇天から、無数の薄片が舞い降り始めていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​


●幕間

 ───子供を川に流して捨てました。
 ───泣き叫ぶ少女を組み敷いて、無理やりに犯しました。
 ───会う人すべてに嘘をついて生きてきました。
 ───つまらない問答で、親友を手にかけました。
 ‥‥‥嗚呼。何故。あんな事を。もし、あの時、或いは───。
 最近、そんなことばかりを考える。
 
リューイン・ランサード
開示済の情報を見ると、この宿場町の住民は脛に傷持つ人が多そうです。
なぜそんな状況になったのか、この宿場町が形成された経緯を記す文献
を当たってみたいです。
まずは老齢の住職のいる『寺院』で調べるべきなのでしょう。

そこで住職に「諸国の歴史を学んでいる書生」として礼儀正しく
挨拶して、寺の書物を読ませてほしいと天下自在符を提示して
お願いする。

そして宿場町の歴史に関する書物中心に【世界知識】で調査。
住職から禁止された区域には、住職や他の人の不在時に
ユーベルコード:存在希薄化、かつ【第六感】【忍び足】【迷彩】
【目立たない】を組み合わせて情報収集を行い、秘密事項が
記された書物の内容や証拠等を把握して立ち去る。


ミアス・ティンダロス
サムライエンパイア、ですか?
実際に行ったことありませんけど、そこは過去のUDCアースに似ていると聞きました。一体どんな風景でしょう――
っと、こんなことを言う場合じゃありません。
人を自殺させるオブリビオンですか……なんだか、不気味ですね。一体何を狙っているのでしょうか……
一人で考えても無駄ですから、聞き込みに行きましょう。さあ、貴婦人さん。

ビヤーキーを交通手段として召喚し、『寺院』に向かいて行きます。
「黒幕の企みを阻止したい」「人々を救いたい」と住職さんに伝え、自殺事件と関わりがありそうな情報・伝説・文献について尋ねようとします。
天下自在符は誰かに妨げられるか、実力が疑われる時に使います。


三原・凛花
自殺出来るなんて羨ましい。
私も何度死にたいと思ったか…
まあ、今はそんなこと考えてても仕方ないね。

手始めに【コミュ力】を使って情報収集してみるけど、多分重要な情報があるのは『民家』『寺院』だろうね。

『民家』では、男達を【恥ずかしさ耐性】【誘惑】【おびき寄せ】で篭絡して、情報を引き出してみようかな。
『寺院』では、自殺志願者を装って住職さんと話をしつつ、オブリビオンを【おびき寄せ】ることが出来ないか試してみるよ。

いずれの場合も、言葉だけの情報じゃ足りないと感じたら、【愛し子召喚】で息子と娘を呼んで、相手に取り憑かせて記憶を読み取らせる。
そして私自身に子供達を取り憑かせて、その記憶を共有するよ。



●第一幕 -5-

 板張りの床は、シンと冷えていた。
 座布団越しに正座した両足を、冬の空気が這い上ってくる。薄暗い寺院の中で、リューイン・ランサード(今はまだ何者でもない・f13950)は、幾分緊張した様子で藍色の瞳を瞬かせた。
「‥‥‥はじめまして、ご住職。リューインと申します。まだまだ若輩ではありますが、諸国の歴史を学ぶ書生をしております。」
 よろしくお願いします、と折り目正しく礼をして、リューインはゆっくりと顔を上げる。
「‥‥‥。‥‥‥。‥‥‥。」
「‥‥‥ご住職は『若いのに感心だ』と言っておられる。』
 むにゃむにゃと呟くような声を追う様にして、厳めしい声が本堂に響き渡る。リューインが相対しているのは、座布団にちょこん、と正座する枯れ果てた小さな老人と、対照的に二メートル近い体躯を僧服に押し込めた、岩山の如き男であった。
「‥‥‥。‥‥‥。‥‥‥。」
「ご住職は『儂は天斎だ』と言っておられる。申し遅れた、拙僧は玄宋と申す。よくぞ参られたな、リューイン殿。」
「い、いえ‥‥‥このあたりの歴史に興味があったものですから。そんな折、天斎ご住職が長年こちらでお勤めなさっているという話を耳にしまして、こちらにお邪魔した次第です。」
 未だ緊張は解けず。なにしろ自分は、『この町の禁忌』に触れるためにこの寺院へとやってきたのだから。もしも真意がバレでもすれば、叩き出されるだけでは済まないかもしれない。と、いうか───ハッキリ言ってこの玄宋という男がおっかない。
「‥‥‥つきましてはこの寺院に保管されている書物を、閲覧させてはもらえないかと。無論、歴史的価値のある資料であることは明白です、しかしこちらも───」
「‥‥‥。‥‥‥。‥‥‥。」
「ご住職は『良い。好きなだけ勉強しなさい』と言っておられる。」
「へ?」
 天下自在符を出す前に、あっさりと許可が下りた。なんだか拍子抜けした気分で、リューインは頭を下げる。
「あ、ありがとうございます‥‥‥!」
「講堂に案内しよう。ついて参れ、リューイン殿。」



 重たい扉の軋む音と共に、古びた講堂の内側から古い紙の匂いが漂ってきた。壁の燭台に玄宋が次々と火を点けてゆくと、ぼんやりとした光の中、凄まじい数の巻物が保管されているのが見て取れた。
「す、すごい───!」
「これでも一般的な講堂よりも小さいのだがな。さ、好きに読むが良い。拙僧はここにおるのでな。」
「えっ?」
 思わず口をついた疑問符に、玄宋は右の眉をピクリと上げた。
「どうした。拙僧が居るとなにか問題でも?」
「え、あ───いやいやいやそんなことありませんとも!むしろ頼もしいくらいです!」
 アハハと後頭部を掻きつつも、リューインの脳髄は恐ろしい速度で回転を始めていた。
 これだけの書物の中から宿場町の歴史を読み取るだけでも一大事なのに、さらに重要な文献を探るためにはこの大男を出し抜かなければならないらしい。マズイ。できるのか、この僕に‥‥‥?
 七変化するリューインの表情をどうとったのか、玄宋は禿頭をツルツルと撫でつつ、一本の巻物を手に取った。
「‥‥‥まぁ、ここにある書は記録の種類、年代によって事細かく分かれているのでな。この町の歴史をかいつまんで知りたいというのであれば、これをお勧めしよう。」
「え───あ、ありがとうございます!」
「なに、構わん。これだけの量の記録だ、面食らうのも無理はない。ささ、少しばかり寒いだろうが───む?」
 唐突に言葉を切って、玄宋が講堂の扉に目を向ける。否、実際は扉の更に向こう、この寺院の山門に、新たな来客を感じてのことであった。
「‥‥‥むぅ。すまない、リューイン殿。来客のようだ、拙僧は少しばかり席を外す。」
「‥‥‥あ、はい!ごゆっくり!」
 降って涌いたチャンスに内心小躍りしつつ、少年はぺこりと頭を下げるのだった。



 板張りの床は、シンと冷えている。
 白い素足を座布団に晒して、三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)は、背筋を伸ばして天斎住職と相対していた。
「‥‥‥。‥‥‥。‥‥‥。」
「ご住職は『如何用で参られた』と言っておられる。」
「───死にたい。」
「なに‥‥‥!?」
 唐突に放たれた凛花の一言に、玄宗が思わずと言った態で声を上げる。
「死にたいのです。私は。」
 死にたがりにしては、余りに迷いのない言葉であった。しかし彼女の瞳に宿る昏い昏い絶望は、彼女の言葉に説得力を持たせて有り余るほどの闇をのぞかせている。
「な、何を言われるのだ三原殿!?まだまだ未来ある若き少女がそのようなこと、戯れでも言うべきではない!」
「フフ‥‥‥若い、ね。こう見えて私、ご住職様よりもおばあちゃんよ?」
「なにを馬鹿な!!斯様な迷い事なぞ───」
「‥‥‥。‥‥‥。‥‥‥。」
「なっ───!?」
 一喝を遮った天斎の呟きに、玄宗が言葉を失う。天斎は「すべて事実だ」と。そう玄宗に告げたのだった。
「‥‥‥。‥‥‥。‥‥‥。」
「ご、ご住職は‥‥‥『貴方の内に良くないものが見える。それを追い出さない限り貴方は死ねないし、それを貴方もわかっているはずだ』と‥‥‥そう、言っておられる。」
 玄宗は信じられないといった表情で、凛花を見つめている。一方で凛花もまた、驚いたような表情で天斎を見ていた。
「びっくり‥‥‥あなた本物なのね、天斎住職。」
「‥‥‥。‥‥‥。‥‥‥。」
「‥‥‥ご住職は、『死ねないことを分かっていながら、どうして此処へ来たのだ』と言っておられる。」
「‥‥‥。これは、腹を割った方が好さそうね。実は───」
 凛花が口を開いたのと、本堂の外から凄まじい轟音が鳴り響いたのは、殆ど同時であった。



「な、何事だっ‥‥‥!?」
 慌てて本堂を飛び出した玄宗が目にしたのは、本堂前の伽藍に、たったいま降り立ったと思しき奇妙な怪物と、その背からヒョイと降り立った小柄な少年の姿だった。
「ごめんなさいごめんなさい!ホントはお寺の外で降りる筈だったのに『翼の貴婦人』さんが言う事きかなくって!もう、どうしたのさ貴婦人さん!」
 眉を八の字にして怒る少年と、あらぬ方向をむいて嘶き声を上げる異星の生命体。玄宗はと言えば、最早目を白黒させる他ない。
「───あれ、ミアスくん?」
「え‥‥‥り、凛花さん!来てたんですか!?」
 驚いたように凛花に相貌を向けて、ミアス・ティンダロス(夢を見る仔犬・f00675)は声を上げた。依頼上での間柄だが、顔見知りの二人である。
「えぇ。ミアスくんは、どうしてここに‥‥‥?」
「え?あ───そうです!そうでした!」
 ピコン、と人狼特有の耳を立てて、ミアスは今だ目を白黒させる玄宗へと走り寄る。
「ご住職さん!町が自殺者で溢れて大変なんです!このままじゃ、沢山の人が犠牲になる‥‥‥!一刻も早く、黒幕の企みを阻止しないと!力を貸してください、ご住職!」
「えっ、いや、その、拙僧は───」
「ミアスくん」
 こっちこっち、と凛花が、傍らにちょこん、と立つ枯れ果てた老人を指さした。
「‥‥‥え?ええええええええ!?ご、ごめんなさい!僕、勘違いしちゃって───」
「‥‥‥フォ。フォッフォッフォ。───構わぬよ、心優しい少年。お主の真っすぐな気持ちは、しっかりと伝わったでな」
「え───」
 今度は凛花が目を白黒させる番だった。
「‥‥‥喋れたんですか、天斎ご住職。」
「まぁ、の。───これ玄宗、呆けている場合ではないわ!まったく修業が足りておらん」
 棒立ちになった玄宗の尻をペチンと叩き、天斎住職は二人に向き直る。
「お主らの危惧は最もじゃ。『啓蟄』の日以前から多発する自殺───これはこの町が『蓋』としての役目を全うできなくなっているという証左。此度の『忌籠り』、間違いなく多数の犠牲者が生まれるじゃろうて。」
 顔の皺をこれ以上ないほどに深くして、天斎住職はそう言った。
「あの‥‥‥そのケイチツ、とかイミゴモリ、っていうのは、一体なんなのでしょうか。」
 ミアスがおずおずと手を挙げる。さもありなん、殆どの人間になじみのない言葉であろう。ミアスの言葉に、住職は雪の降り始めた空を見上げて口を開く。
「まずは、この町の成り立ちから説明せねばな‥‥‥」



「なるほど、この町が宿場町として建てられたのが、およそ二百年前か───」
 玄宗から渡された巻物に目を通しつつ、リューインは秘匿されているであろう情報が記された書物を捜していた。
「南北の国と国を繋ぐ交通の要所として発展していった‥‥‥一方で、この町の建設において優先的に派遣されたのは、各国で重い罪を犯した罪人であった───って、えぇ!?」
 思わず声を上げる。この一文だけでも、十分に秘匿事項として扱われておかしくない。
「───町が完成してからも、この宿場町はある種の更生施設として一定の需要を得ていた。これにより各国の援助がなくなった後も、罪を犯し、居場所の無くなった人間が流れ着く場所となった‥‥‥なんだよ、これ」
 そんな成り立ちを持つ町が、曲がりなりにも各国の支援を受けて存続していたわけだ。更生施設といえば聴こえはいいが、結局のところは国が持て余した罪人を捨てるための、態のいいゴミ捨て場に他ならない。握りしめた拳が、小刻みに震えるのが分かる。
「‥‥‥しかして、危惧されていたこの町の犯罪率は、未だ以てとてつもなく低い。毎年三月の五日、ないし六日に起こる『啓蟄』と、それに伴う『忌籠り』が原因だろう。」
 それ以降、巻物に目を通してみても、『啓蟄』と『忌籠り』に関する文章は出てこなかった。
「‥‥‥そうだ。そもそも、何故町の建設において優先的に罪人が派遣されたんだろう。『啓蟄』、『忌籠り』‥‥‥この巻物じゃ駄目だ。この町が『出来る前』の資料を捜さなきゃ」
 目を皿のようにして捜す。講堂の外がなにやら騒がしいが、気にしている場合ではない。いつ玄宗が戻ってくるのか分からないのだから。
「───あった」
 巻物の山から、一等古びた巻物を抜き出す。題名の部分には酷く擦れた文字で『穢地谷の事』と書かれていた。



「───お主らの疑問はこうじゃろう、なぜ宿場町建設において、優先的に罪人が使われたか。‥‥‥簡単な話じゃとも、その作業が限りなく危険だったからに他ならんわな。」
「危険‥‥‥?」
 首を傾げるミアスに、住職はコクリと頷く。
「この土地は、宿場町が建つより前は『穢地谷(ケガチダニ)』と呼ばれた忌地じゃった。現世と常世の境が曖昧で、常にして地獄の窯の蓋が空いている───少なくともそんな伝承が残る程度には、荒れ果てた酷い土地だったらしいの。」
「穢地谷───」
 その不吉な名を、凛花が小さく呟く。
「‥‥‥うむ。実際、町の建設中に行方不明になる人間は後を絶たなかったらしい。それでも、この土地に宿場町が出来れば、南北の経済は大きく発展を遂げる───故に各国は自身の国から排出される『死んでもいい労働力』の供給を惜しまなかった。」
「そ、そんな‥‥‥!」
「あぁ、酷い話じゃとも。しかして無数の犠牲の果てに、この宿場町は完成を迎えた。この町に課せられた役目は三つ。一つ目は交通の要所として機能すること。二つ目は罪人の更生施設として各国の罪人を受け入れること。そして三つめは───地獄の窯の『蓋』になることじゃった。」
 


 古びた巻物が崩れることのないように、慎重にひも解いて解読してゆく。内容を追うごとに嫌な汗が背中を伝うのを、リューインは感じていた。
「宿場町の存在により、行方不明者や原因不明の死者の発生は一応の終焉を迎えた。しかし何の因果か、毎年三月五日、ないし六日の『啓蟄』の日に限り、地獄の窯の蓋をこじあけて無数の亡者が這い出す夜がやってくる。この穢れを好む亡者たちに連れ去られることのないように、『啓蟄』」の夜を一晩寝ずに朝まで過ごす『忌籠り』が行われるようになった───おいおい、冗談だろう‥‥‥?」
 総身が震え始める。啓蟄の夜。それは即ち───今晩だ。
「‥‥‥万一地獄の窯の蓋が壊れるようなことがあれば、この地は亡者に埋め尽くされ速やかに滅びるであろう───」
 巻物を持つ手が震える。増加する自殺者。それが指し示す最悪の事実を、リューインは否応なしに理解してしまった。まずい。不味い。拙い‥‥‥!
 最早一刻の猶予もない。太陽が沈み切ったとき、地獄の窯は蓋を開ける。
「聞いてないよ、こんな厄ネタ‥‥‥!!」
 涙目で絶叫して、リューインは講堂から走り出すのだった。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​


●幕間

 ───嗚呼。もう、疲れてしまった。もう、いいんじゃないだろうか。
 最近、そんなことばかりを考える。
 
●第一幕 -6-

 降り始めた雪に顔を顰めて、ガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)は小さく舌打ちをした。
「‥‥‥こりゃあ、暫く止みそうにねぇな」
 少しだけ、故郷の凍空を思い出す。極寒の地を出身とする彼からしてみれば、この程度の寒さは訳ないのだが───どうにも、この陰鬱とした空には気が滅入る。うっかり思い出したくないものまで思い出しそうで、ガルディエはただでさえ鋭い眼光をキツく眇めた。
「ヒッ───」
 道行く町の住民たちが、慌てて道を空けてゆく。別に怒っちゃいねェよと唇をへの字にして、どう見ても不機嫌な少年は平屋の角を曲がった。
「アイツらの話じゃ、たしかこの辺に被害者の自宅が───あ?」
 仲間から聞いた被害者宅の目の前に、先客の姿を見とがめる。人影は二つ、淑女然とした雰囲気を纏う少女と、如何にも『探偵』といった服装の少女だ。瓜二つのその顔に、ガルディエは見覚えがあった。
「───シャイアじゃねぇか!なにしてんだ、こんな所で」
「‥‥‥うん?あれっ、ガルディエくんじゃないか久しぶり!」
 ハンチング帽が元気よく跳ねて、キマイラの少女シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)は思わぬ再開に声をあげる。いつぞやの冒険で、共に旅をした仲であった。
「ハハッ、なんだよその探偵っぽい服装?意外とサマになってるじゃねぇか!」
「ふっふっふー、『ぽい』じゃなくって、今日の僕は『探偵勇者』なのだよ、ガルディエくん。」
「なんだそりゃ、コンセプトが迷子になってんぞ。」
 えへん、と胸を張るシャイアに肩をすくめて、ガルディエは傍らに視線を落とす。
「んで‥‥‥そっちの瓜二つのお嬢ちゃんは?」
「モチロン『僕』さ。『無色多職の夢幻未来』で、理想の『僕』が増えたからね。調査をするなら───ほら、二人の方が何かと便利でしょ?」
「‥‥‥そういう事情なのです。お察しくださいませ、ガルディエ様。」
「お、おぅ‥‥‥理想のシャイアが意外と淑女でビックリだ。可能性に満ちてんな、お前。」
「───え?あ、えっと‥‥‥うふふ、誉めても何も出ませんわよ?」
 上品に口元を押さえて笑うもう一人のシャイアに、どこか調子の狂った様子でガルディエが頬を掻く。
「そういや、お前らもここの家に───」

「───どなた?」

 カラカラカラ、と引き戸の開く音がして、妙齢の女性が顔を出す。玄関口の向こうから、線香の匂いがプン、と鼻をついた。



 ──────。

 澄んだ音が、和室の空気に静かにとける。小リンの余韻に目を閉じて、ガルディエと二人のシャイアは両手を合わせて黙祷していた。
 薄い布団の上に横たわる、冷たくなった男の身体。なんとなく顔に被さった布を取る気になれず、三人はしばし無言で男の亡骸を見つめていた。
「‥‥‥主人が、生前お世話になったとか。」
 亡骸───竹元金之助の妻サチエが、静かに口を開く。酷くやつれた横顔には、痛々しいまでの哀しみが宿っていた。
「‥‥‥いや、その逆だ。金之助さんには、ウチの親父が本当に世話になった。名代として礼を言いにきたんだが‥‥‥な。」
「うんうん、僕たち姉妹も小さな頃に、とってもお世話になったんだよ。」
「えぇ、だから驚いていますの。その‥‥‥金之助さんが‥‥‥」
 自ら命を絶っただなんて。その言葉に、サチエ夫人は力なく首を振る。
「私は‥‥‥主人の苦悩に気が付くことができませんでした。───いぇ、気が付いていたのに、何もしてあげられませんでした」
「それって───」
「金之助さんが命を絶った原因に、思い当たる節があるってこと?」
 シャイアたちの問いに、サチエ夫人は曖昧な表情で黙り込む。
「‥‥‥病床の親父に、事の顛末を伝えなきゃならねぇ。頼む、なにか心当たりがあるなら教えてくれ。サチエさん」
「‥‥‥‥‥‥。」
 どこか迷ったような素振りで口を閉ざす彼女を前に、三人は速やかに視線を交わす。ここは、切り札の切時かもしれない。そんなガルディエの視線に、二人のシャイアは頷きを返した。
「‥‥‥サチエさん」
 畳の上にスッ、と一枚の紙札を差し出して、ガルディエは慎重に言葉を選ぶ。
「‥‥‥一連の連続自殺は知ってると思う。金之助さんの自死は、もしかしたら何者かの手による『殺害』かもしれない。だったら見逃すことはできねぇ───頼むよ、アンタも知りたいはずだ、金之助さんの死の真相を」
 差し出された紙札───『天下自在符』を前にして、サチエ夫人の双眸が驚きに見開かれる。その符の意味するところは、彼女もよく知っていた。

「頼む。」

 ガルディエの真っすぐな視線に気圧されたように、サチエ夫人は小さく、しかしハッキリと頷いて、ポツリ、ポツリと事の顛末を語り始めた。
「‥‥‥主人が昔から、私に『隠し事』をしているのは気付いてました。その『隠し事』が、何時も主人を苦しめていたことにも。真夜中、隣でうなされる主人の言葉を何度も聴きました。『すまなかった』『許してくれ』『赦さないでくれ』『いっそ俺も殺してくれ───』そんな譫言を繰り返す主人を、私は抱きしめることしか出来ませんでした」
 淡々と、しかし酷く重たい気持ちを載せて、彼女は言葉を吐き出す。
「それでも昼間は、この町唯一の宮大工として真面目に明るくやってたんです。‥‥‥でも十日くらい前、夜中に気味の悪い鈴の音を聴いてから、主人の様子が一変しました。毎日塞ぎ込んで、声をかけても上の空。食事もとらないような有様で───」
「その鈴の音に関して、他に覚えていることはあるかい?」
「‥‥‥えっと、その───庭先から聴こえてきたのですが、怖くて確かめられなくて‥‥‥」
 そう言って目を伏せる彼女を前に、シャイアは小さく頷いて立ち上がる。
「‥‥‥わかった。少し席を外すね。あとをよろしく頼むよ」
「あぁ。」
「お任せくださいまし」
 和室から出ていくシャイアを見送り、もう一人のシャイアが話を戻す。
「‥‥‥それで、金之助様がお亡くなりになった当日は、なにか変わったことはありませんでしたの?」
「えぇ、それが───あの日、お昼過ぎにに帰ってきた主人は、晴れ晴れとした顔をしていたんです。だから私、聞いたんです。『もう大丈夫なの?』って。そしたらあの人、『もう、いいんだ』って───」
「え?」
 その言葉にゾクリとしたものを感じて、シャイアとガルディエは思わず姿勢を正した。なんだそれは。それじゃ、まるで───
「‥‥‥肩の荷が下りたような、そんな顔をしてました。だから私、すっかり安心して夕食の買い物に出かけたんです。それで、帰ってきたら───」

 あの人が、首を吊っていたのです。

 そう言って、サチエ夫人は静かに涙をこぼしたのだった。



「‥‥‥胸糞悪ぃ話だ。」
 八重歯を剥き出しにして、ガルディエが唸る。金之助邸を後にした三人は、古びた空き家の軒先で意見を交わしていた。サチエ夫人の語った金之助氏自殺の顛末は、決して見過ごせるものではない。
「君たちが話している間、こっそり家の中を見て回ったけれど‥‥‥ビックリするくらい『何もなかった』よ。」
「‥‥‥つまり、他殺でないことは最早疑い様がない、ということですのね。」
「すると結局、どうやって被害者を自殺にまで追い込んでるのかって問題が出てきやがるが‥‥‥」
「‥‥‥これは勇者探偵的な仮説なんだけれど───」
 ハンチング帽を目深にかぶり、シャイアは静かに推論を述べる。
「ヘンペルくんの見た予知の場面は、金之助氏のものだったんじゃないかと思う。つまり、金之助氏は『奇妙な鈴の音』を聴いて精神が弱っていたところを、件のオブリビオンに焚きつけられた。結果、衝動のままに金之助氏は自殺を慣行した───と、そんなところな気がするな。どうしてそんな遠回しな方法をとっているのかは、イマイチわからないけれど‥‥‥」
「‥‥‥確かに辻褄は合うな。他の仲間からの報告とも、何点か一致する。」
「バラバラに出揃っていた情報が纏まっただけでも僥倖ですわ───とと、そろそろ時間切れのようですわね。」
「あ?時間切れって───」
「うん、『無色多職の夢幻未来』がそろそろ解ける。お別れの時間だ。」
「そうか‥‥‥短い間だったが世話になったな。お前みたいな淑女になる未来もあるんだ、こっちのシャイアにゃ頑張ってもらわねーとな!」
 ガルディエの軽口にキョトン、として、淑女然とした姿のシャイアは、可笑しそうにクスクスと笑った。
「‥‥‥ガルディエ様。理想の『僕』はそちらでしてよ?」
「───は?」
 淑女然としたシャイアの指さす方を振り向けば、どこか悪戯っぽい表情でハンチング帽の鍔を下げる『名探偵のシャイア』が、ふわりと姿を消すところだった。黒竜騎士が、あんぐりと口を空けて視線を元に戻す。
「‥‥‥マジかよ」
「‥‥‥えへへ。ごめーんねっ」
 いつもの口調に戻ったシャイアは、やはり悪戯っぽい表情で笑う。北風がゆるりと、雪の花を散らして舞った。
シャイア・アルカミレーウス
姿を現さないオブリビオンに連続自殺って気味が悪いね。慎重かつ大胆に捜査を進めよう!今日の僕は探偵勇者さ!

(wiz)
この連続自殺がオブリビオンの仕業として、どうやって自殺させているんだろう?何か被害者達に共通点があるかもしれないし、痕跡から犯人を辿れるかもしれないね!

無色多職の夢幻未来で「名探偵の僕」を呼び出して現場に向かうよ!
僕は「優しさと礼儀作法」で「昔被害者にお世話になった双子のお嬢さん」を演じるよ。
僕が人の対応をしている間に、探偵の僕に怪しいものがないか探してもらおう。
現場を何軒か回って共通してある物があったら「物を隠す」で回収してもらおう。
回収出来たらものの出所を探ろうか!


ガルディエ・ワールレイド
ちと気が引けるが、虚偽を述べつつ情に訴える方向で行くか

【SPD】自殺者を訪ねて来た態で聞き込み。行先は自殺者の縁者がいる「民家」(縁者無しの場合は寺院)

・昔、俺の親父が自殺者に世話になった
・親父は病身であり名代として礼を述べに来た。自殺は、つい先程知った
って設定で聞き込みだ

冥福を祈らせて欲しいと頼み込み、許可が出れば黙祷を捧げる
親父に報告したいから、故人の事を教えて欲しいとも頼む
相手は非友好的らしいが、ある程度は根気勝負だ
特に死ぬ直前の様子を聞く
不自然な連続自殺の噂は聞いており事件なら見逃せねぇとも述べる

あまりにも手応えが無い場合は突っ込んだ話はせず
ギリギリで迷ってそうな場合のみ天下自在符だ



●第一幕 -6-

 降り始めた雪に顔を顰めて、ガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)は小さく舌打ちをした。
「‥‥‥こりゃあ、暫く止みそうにねぇな」
 少しだけ、故郷の凍空を思い出す。極寒の地を出身とする彼からしてみれば、この程度の寒さは訳ないのだが───どうにも、この陰鬱とした空には気が滅入る。うっかり思い出したくないものまで思い出しそうで、ガルディエはただでさえ鋭い眼光をキツく眇めた。
「ヒッ───」
 道行く町の住民たちが、慌てて道を空けてゆく。別に怒っちゃいねェよと唇をへの字にして、どう見ても不機嫌な少年は平屋の角を曲がった。
「アイツらの話じゃ、たしかこの辺に被害者の自宅が───あ?」
 仲間から聞いた被害者宅の目の前に、先客の姿を見とがめる。人影は二つ、淑女然とした雰囲気を纏う少女と、如何にも『探偵』といった服装の少女だ。瓜二つのその顔に、ガルディエは見覚えがあった。
「───シャイアじゃねぇか!なにしてんだ、こんな所で」
「‥‥‥うん?あれっ、ガルディエくんじゃないか久しぶり!」
 ハンチング帽が元気よく跳ねて、キマイラの少女シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)は思わぬ再開に声をあげる。いつぞやの冒険で、共に旅をした仲であった。
「ハハッ、なんだよその探偵っぽい服装?意外とサマになってるじゃねぇか!」
「ふっふっふー、『ぽい』じゃなくって、今日の僕は『探偵勇者』なのだよ、ガルディエくん。」
「なんだそりゃ、コンセプトが迷子になってんぞ。」
 えへん、と胸を張るシャイアに肩をすくめて、ガルディエは傍らに視線を落とす。
「んで‥‥‥そっちの瓜二つのお嬢ちゃんは?」
「モチロン『僕』さ。『無色多職の夢幻未来』で、理想の『僕』が増えたからね。調査をするなら───ほら、二人の方が何かと便利でしょ?」
「‥‥‥そういう事情なのです。お察しくださいませ、ガルディエ様。」
「お、おぅ‥‥‥理想のシャイアが意外と淑女でビックリだ。可能性に満ちてんな、お前。」
「───え?あ、えっと‥‥‥うふふ、誉めても何も出ませんわよ?」
 上品に口元を押さえて笑うもう一人のシャイアに、どこか調子の狂った様子でガルディエが頬を掻く。
「そういや、お前らもここの家に───」

「───どなた?」

 カラカラカラ、と引き戸の開く音がして、妙齢の女性が顔を出す。玄関口の向こうから、線香の匂いがプン、と鼻をついた。



 ──────。

 澄んだ音が、和室の空気に静かにとける。小リンの余韻に目を閉じて、ガルディエと二人のシャイアは両手を合わせて黙祷していた。
 薄い布団の上に横たわる、冷たくなった男の身体。なんとなく顔に被さった布を取る気になれず、三人はしばし無言で男の亡骸を見つめていた。
「‥‥‥主人が、生前お世話になったとか。」
 亡骸───竹元金之助の妻サチエが、静かに口を開く。酷くやつれた横顔には、痛々しいまでの哀しみが宿っていた。
「‥‥‥いや、その逆だ。金之助さんには、ウチの親父が本当に世話になった。名代として礼を言いにきたんだが‥‥‥な。」
「うんうん、僕たち姉妹も小さな頃に、とってもお世話になったんだよ。」
「えぇ、だから驚いていますの。その‥‥‥金之助さんが‥‥‥」
 自ら命を絶っただなんて。その言葉に、サチエ夫人は力なく首を振る。
「私は‥‥‥主人の苦悩に気が付くことができませんでした。───いぇ、気が付いていたのに、何もしてあげられませんでした」
「それって───」
「金之助さんが命を絶った原因に、思い当たる節があるってこと?」
 シャイアたちの問いに、サチエ夫人は曖昧な表情で黙り込む。
「‥‥‥病床の親父に、事の顛末を伝えなきゃならねぇ。頼む、なにか心当たりがあるなら教えてくれ。サチエさん」
「‥‥‥‥‥‥。」
 どこか迷ったような素振りで口を閉ざす彼女を前に、三人は速やかに視線を交わす。ここは、切り札の切時かもしれない。そんなガルディエの視線に、二人のシャイアは頷きを返した。
「‥‥‥サチエさん」
 畳の上にスッ、と一枚の紙札を差し出して、ガルディエは慎重に言葉を選ぶ。
「‥‥‥一連の連続自殺は知ってると思う。金之助さんの自死は、もしかしたら何者かの手による『殺害』かもしれない。だったら見逃すことはできねぇ───頼むよ、アンタも知りたいはずだ、金之助さんの死の真相を」
 差し出された紙札───『天下自在符』を前にして、サチエ夫人の双眸が驚きに見開かれる。その符の意味するところは、彼女もよく知っていた。

「頼む。」

 ガルディエの真っすぐな視線に気圧されたように、サチエ夫人は小さく、しかしハッキリと頷いて、ポツリ、ポツリと事の顛末を語り始めた。
「‥‥‥主人が昔から、私に『隠し事』をしているのは気付いてました。その『隠し事』が、何時も主人を苦しめていたことにも。真夜中、隣でうなされる主人の言葉を何度も聴きました。『すまなかった』『許してくれ』『赦さないでくれ』『いっそ俺も殺してくれ───』そんな譫言を繰り返す主人を、私は抱きしめることしか出来ませんでした」
 淡々と、しかし酷く重たい気持ちを載せて、彼女は言葉を吐き出す。
「それでも昼間は、この町唯一の宮大工として真面目に明るくやってたんです。‥‥‥でも十日くらい前、夜中に気味の悪い鈴の音を聴いてから、主人の様子が一変しました。毎日塞ぎ込んで、声をかけても上の空。食事もとらないような有様で───」
「その鈴の音に関して、他に覚えていることはあるかい?」
「‥‥‥えっと、その───庭先から聴こえてきたのですが、怖くて確かめられなくて‥‥‥」
 そう言って目を伏せる彼女を前に、シャイアは小さく頷いて立ち上がる。
「‥‥‥わかった。少し席を外すね。あとをよろしく頼むよ」
「あぁ。」
「お任せくださいまし」
 和室から出ていくシャイアを見送り、もう一人のシャイアが話を戻す。
「‥‥‥それで、金之助様がお亡くなりになった当日は、なにか変わったことはありませんでしたの?」
「えぇ、それが───あの日、お昼過ぎにに帰ってきた主人は、晴れ晴れとした顔をしていたんです。だから私、聞いたんです。『もう大丈夫なの?』って。そしたらあの人、『もう、いいんだ』って───」
「え?」
 その言葉にゾクリとしたものを感じて、シャイアとガルディエは思わず姿勢を正した。なんだそれは。それじゃ、まるで───
「‥‥‥肩の荷が下りたような、そんな顔をしてました。だから私、すっかり安心して夕食の買い物に出かけたんです。それで、帰ってきたら───」

 あの人が、首を吊っていたのです。

 そう言って、サチエ夫人は静かに涙をこぼしたのだった。



「‥‥‥胸糞悪ぃ話だ。」
 八重歯を剥き出しにして、ガルディエが唸る。金之助邸を後にした三人は、古びた空き家の軒先で意見を交わしていた。サチエ夫人の語った金之助氏自殺の顛末は、決して見過ごせるものではない。
「君たちが話している間、こっそり家の中を見て回ったけれど‥‥‥ビックリするくらい『何もなかった』よ。」
「‥‥‥つまり、他殺でないことは最早疑い様がない、ということですのね。」
「すると結局、どうやって被害者を自殺にまで追い込んでるのかって問題が出てきやがるが‥‥‥」
「‥‥‥これは勇者探偵的な仮説なんだけれど───」
 ハンチング帽を目深にかぶり、シャイアは静かに推論を述べる。
「ヘンペルくんの見た予知の場面は、金之助氏のものだったんじゃないかと思う。つまり、金之助氏は『奇妙な鈴の音』を聴いて精神が弱っていたところを、件のオブリビオンに焚きつけられた。結果、衝動のままに金之助氏は自殺を慣行した───と、そんなところな気がするな。どうしてそんな遠回しな方法をとっているのかは、イマイチわからないけれど‥‥‥」
「‥‥‥確かに辻褄は合うな。他の仲間からの報告とも、何点か一致する。」
「バラバラに出揃っていた情報が纏まっただけでも僥倖ですわ───とと、そろそろ時間切れのようですわね。」
「あ?時間切れって───」
「うん、『無色多職の夢幻未来』がそろそろ解ける。お別れの時間だ。」
「そうか‥‥‥短い間だったが世話になったな。お前みたいな淑女になる未来もあるんだ、こっちのシャイアにゃ頑張ってもらわねーとな!」
 ガルディエの軽口にキョトン、として、淑女然とした姿のシャイアは、可笑しそうにクスクスと笑った。
「‥‥‥ガルディエ様。理想の『僕』はそちらでしてよ?」
「───は?」
 淑女然としたシャイアの指さす方を振り向けば、どこか悪戯っぽい表情でハンチング帽の鍔を下げる『名探偵のシャイア』が、ふわりと姿を消すところだった。黒竜騎士が、あんぐりと口を空けて視線を元に戻す。
「‥‥‥マジかよ」
「‥‥‥えへへ。ごめーんねっ」
 いつもの口調に戻ったシャイアは、やはり悪戯っぽい表情で笑う。北風がゆるりと、雪の花を散らして舞った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


●幕間

 ───人を、殺しました。私は、生きています。

 
セリエルフィナ・メルフォワーゼ
自殺、か。
自ら死を選ぶなんて、その人達はどれだけ苦しかったんだろう…

とりあえずここは寒いよね。
【オーラナイトダンサー】(以下ADK)で、この宿場町の人達を暖めてあげよう。
ついでに【ADK】達をバックダンサーにして、【パフォーマンス】【歌唱】も使って、ちょっとした辻ライブでも開いてみようかな。
町の人達に喜んでもらえたら、そのときにそれとなく情報を引き出してみるよ。

欲を言えば、このライブで問題のオブリビオンを【おびき寄せ】たいね。
もしそいつが自殺を仕向けているとしたら、人に生きる力を与える歌や踊りをする催しを放っておけないと思うし。
もしそいつが現れたら、【ADK】を他の猟兵に飛ばして報告するよ。


キキ・ニイミ
『てぶくろ』で連携するよ。

自分を死なせるなんて、人間じゃないボクには良く分からない。
死んだら大切な人にも会えなくなっちゃうのに。

情報を集める為には、まず町の人達と仲良くなるのが先決だよね。
だったらここは『サーカス団てぶくろ』の出番だよ。
【バトルキャラクターズ】で、動物のゲームキャラを出して芸をさせるね。
ボクの【操縦】と、遥さんの【犬笛】があれば、動物達に細かい指示も与えられる。
芸以外にも、子供達と動物を遊ばせたり、力持ちの動物に町の人達の仕事を手伝ってもらうね。

町の人達と仲良くなれたら、何が起こってるのかを聞いてみよう。
内気なボクはそういうの苦手だから、【コミュ力】のある遥さんに任せるけど。


如月・遥
『てぶくろ』で連携するね。

気が滅入る事件だけど、命を扱う仕事に付いてる身としては放っておくわけにはいかないよね。

まあここは『サーカス団てぶくろ』の出番だね。
キキが【バトルキャラクターズ】で出した動物達に、【アーク・パーク飼育員用犬笛】で指示を出して芸をさせるよ。

後、【サモニングティアーズ】でアフリカゾウのティアーズ(UDCオブジェクト『女神の涙』で人間の少女になった動物の事。元の動物の特徴を受け継いでいる)の花子を呼んで、その娘にも芸をしてもらおう。
力持ちだし、町の人達の仕事を手伝ってもらってもいいかもね。

町の人達の信頼を得たら、【コミュ力】【優しさ】で情報を引き出してみるよ。



●第一幕 -7-

 灰色の空から、無数の雪片が舞い降りる。東西の山から吹き降ろす山颪は寒気を乗せて、身を切るような冷たさが宿場町へと雪崩れ込む。夕刻も近いこの時節、殆どの住民は家の中へ引っ込んでいった───と思いきや。

「みんなーっ!ボクたちのライブに集まってくれてありがとーっ!」

 雪よ溶けよと言わんばかりに、天を突くような歓声が上がる。宿場町の街道は、凄まじいまでの熱気に包まれていた。人ごみの中心で情熱的なステップを踏んでいるのは、オラトリオのスカイダンサー、セリエルフィナ・メルフォワーゼ(天翔ける一輪の君影草・f08589)。幻想的な焔の踊り子『オーラナイトダンサー』たちを背に舞う彼女は、力強い歌声を宿場町に響かせている。
「───さぁさぁ皆さんお立合い!サーカス団『てぶくろ』、一日限りの特別興行!」
「紳士淑女に坊ちゃん嬢ちゃん、おじいちゃんおばあちゃんも寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
 バーチャルチックな輝きを纏う動物───『アニマルGO!』のキャラクターたちが、見事なまでに統率の取れた動きでパフォーマンスを披露する。こちらの輪の中心で動物たちに指示を飛ばすのは、サーカス団『てぶくろ』所属の少女、如月・遥(『女神の涙』を追う者・f12408)と、その相棒のキキ・ニイミ(人間に恋した元キタキツネ・f12329)だ。遥が絶妙な息遣いで犬笛を吹き鳴らし、息のあった細かい芸をキキが仕込んでゆく。普段は見ることの出来ない動物たちの華麗なパフォーマンスに、観客がワッと歓声を上げた。

(───自殺、か。自ら死を選ぶなんて、その人達はどれだけ苦しかったんだろう‥‥‥)
 自ら命を絶った人々に思いを馳せながら、セリエルフィナは焔と共に舞い踊る。きっとこの歌声が、この踊りが、この熱が、苦しみ凍える魂に届きますように───そう願って、少女はより一層テンポを上げてゆく。

(自分を死なせるなんて、人間じゃないボクには良く分からない。死んだら大切な人にも会えなくなっちゃうのに───)
 動物たちに指示を出しながら、キキは『あの人』の顔を思い出す。きっと、生きていれば、或いは───。生きることは、即ち出会いと別れの繰り返し。で、あればこそ『再開』という奇跡もまた、生きてさえいれば起こり得る。願いにも似た気持ちを込めて、キキは動物たちと共に観衆に笑顔を振りまいてゆく。

(‥‥‥気が滅入る事件だけど、命を扱う仕事に付いてる身としては放っておくわけにはいかないよね。)
 『サモニングティアーズ』で召喚した花子と動物たちの華麗な連携で、観衆を沸かせる遥もまた、『アーク・パーク』で帰りを待つ友人たちの顔を思い浮かべる。自分にも大切な友人たちがいるように、自ら命を絶った人々にも大切な人はいたはずだ。遺された人々の嘆きを思って、遥はギュッと犬笛を握る。自分にできることは、目の前の人々を元気づけてあげることだ。

 三者三様のパフォーマンスが、旅人だけでなく街道沿いの住民たちをも引き付けてゆく。未だかつて、この宿場町がここまでの熱気に包まれたことがあっただろうか。降り続く雪などどこ吹く風で、少女たちは陰鬱な空に活気と笑顔───即ち『生きる力』を振りまいてゆく。
「───やるね、そこのお二人!ボクはセリエルフィナ!よろしくっ」
「ボクはキキ!キミこそ一人なのに凄いなぁ」
「遥だよ。ねぇセリエルフィナさん、よかったら一緒にどう?」
 互いの健闘を称える彼女たちは、しかして打ち解けるのも早かった。笑いかけるキキと遥に、セリエルフィナが目を丸くして翼を羽ばたかせる。
「───わわっ、願ってもない申し出!いいね、やろうやろう!」
「打ち合わせの時間はないけどね?」
「アドリブ全開でいきましょう!その方がきっと素敵なショウになるわ!」
「よーし!」
「じゃあ───」

「「「いっくよーっ!!」」」

 焔の踊り子が散開する。
 揺らめく陽炎に舞う動物たちは、観衆をも巻き込み大きな円を作り出す。その中心、犬笛の音に合わせて踊る花子と、翼を広げて宙を舞うセリエルフィナ。
 踏み下ろす足がビートを刻み、ヒトと動物の大合唱が宿場町を包んでゆく。これなるは正しく原初の舞踏、だれもが分け隔てなく踊り明かす、肝胆相照の融和の輪‥‥‥!
 気が付けば、辛気臭い顔で彼女たちを眺めていた宿場町の住人さえ、踊りの輪に加わり笑みを浮かべていた。
 ‥‥‥だからだろうか。

 ───リン、と。

 唐突に耳朶を打った忌まわしい音に、誰もが固まる様にして動きを止めた。
「───え?」
 音の鳴った方向にキキが目をむけると、泥濘の上、降り止まぬ雪の花を背景に、薄墨色の男が立っていた。
「‥‥‥間も無く啓蟄の時なれば、誰も彼もが家に籠っているとばかり思っておりましたが───驚いた。よもや黄昏時まで乱痴気騒ぎを続けていようとは‥‥‥流石に拙僧にも見抜けなんだ。」
 降り積もる雪にも似た、静かな声音であった。赤髪から覗く朱色の瞳が、慈しむ様に弧を描く。
「───まぁ、それも仕方ありますまい。何しろ現世は責め苦の車輪、偶には外れて傾きたくなる心もありましょうや。」
 ───御坊、と。観衆の誰かが呟く声が聴こえた。目つきを鋭いものに変えて、遥が黒き仏僧を睨みつける。
「あなたね───この一連の自殺騒ぎの裏で、糸を引いているのは」
 遥の言葉に、一泊おいて観衆にどよめきが走る。しかして件の黒僧は、さして動揺した素振りもなく静かに首を傾けた。
「‥‥‥はて。何を勘違いしているのかは存じ上げませぬが、拙僧は『何もしておりませぬ』よ。飽くまで拙僧は見届けにやって来ただけのこと。」
「見届けに来た‥‥‥?この人たちの絶望する顔が見たいならお生憎様、絶望なんてボクたちのパフォーマンスで、何度だって吹き飛ばしてやるんだから!」
 ビシリと指を突き付けたセリエルフィナに、黒僧は「ほぅ」と唇を歪める。
「人界の絶望に興味なぞありはしませぬが───この町の絶望を組み伏せて見せると。そう仰せか」
「もちろんだ‥‥‥!」
「ほぅ‥‥‥左様で御座いますか。是は何とも───面白い。」
 くつ、くつ、くつ、と。黒い編み笠が揺れて、白い雪片がハラリと零れる。嗤っているのだ、この男は。
「───では日が沈む前に、小手調べと参りましょうや。なに、そろそろ湧き出す頃合い故に。」

 ───リン。

 再び響く鈴の音に、観衆の何人かが小さく呻く声が聴こえた。
「・・・・‥っ!なにをする気!?」
「何もしませぬよ。『蓋』は壊れているのです、隙間から漏れ出るだけのこと。」
 鋭く制止するキキに、黒僧は静かな眼差しを向ける。

「───お出ましです。」

 じわり、と。白く霞む街道の一部が、黒く歪む。ぐずぐずと燻る様にして姿を現したのは、生首ほどの大きさの、黒く煤けた本坪鈴であった。
「‥‥‥なに、あれ───」
 観衆の騒めきに呼応するように、至る所で空間が歪み始める。
「───『黄泉の本坪鈴』。地獄に袖引く幽世の使者です。‥‥‥さて、それでは見せてもらいましょうか『猟兵』の皆々様。彼らの抱える絶望を───振り払って見せてください」

 ───リィィィィィィン───!!

 鈴の音が宿場町を埋め尽くす。
 その余韻も消えきらぬうちに───押し殺したような絶叫が、町の至る所から上がり始めた。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『黄泉の本坪鈴』

POW   :    黄泉の門
【黄泉の門が開き飛び出してくる炎 】が命中した対象を燃やす。放たれた【地獄の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    人魂の炎
レベル×1個の【人魂 】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
WIZ   :    後悔の念
【本坪鈴本体 】から【後悔の念を強制的に呼び起こす念】を放ち、【自身が一番後悔している過去の幻を見せる事】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※マスターより参加者様方への連絡

第二章幕間公開・及びプレイングの受付は3/2のAM8:00からとなります。皆さまにご迷惑をおかけします事を、この場を借りてお詫び申し上げます。
また、操作ミスで第一幕 -6- が二重投稿されており、大変読みづらいかと思います。重ねてお詫び申し上げます。
●幕間

 灰色の空から剥がれ落ちる様に、雪片が舞う。ゆっくりと、崩壊するように。

 ───リィィィィィィン───

 罅割れた音に致命的な毒を潜ませて、鈴の音が響き渡る。鼓膜を錆びたヤスリで削るような、脳神経系を塩酸に浸すような───心の内側を掻き乱さずにはいられない、酷く不快な音だった。
「ア‥‥ガ‥‥‥ッ!!」
 先程まで楽し気に踊っていた男性が、顔を歪めて蹲る。
 べしゃり、という音を立てて、傍らの旅人が倒れ伏した。
 啜り泣きをあげながら首を掻き毟る女性。
 おもむろに頭部を民家の壁に打ち付け始める青年。
 蛇の目傘で喉を突く少女。
 井戸に身を投げ出さんと縁に縋る老婆。
 見れば、そからかしこで狂奔に陥る人々の姿があった。

「‥‥‥嗚呼、是程までに膿み爛れていましたか。」
 阿鼻叫喚の地獄絵図にあって、黒僧は尚も静かにそう嗤う。
「この町は余りに業を、穢れを、負債を、溜め込み過ぎた。『蓋』がその重さに耐え切れなくなる程に‥‥‥。で、あればこそ───」
 薄い唇が弧を描く。
「地獄とは、いったい何処にあるのでしょうね?」
 鈴の音が響く。昏い思い出を引き摺り出して。悔恨の念を揺さぶって。
「‥‥‥人を救うとは如何なりや。それを見せて貰いましょう。」
 心の奥で燻り続けていた火種を焚き付けて、鈴の音は熾火の如く燃え盛る。響き渡る苦悶の叫びに、黒僧は朱色の目を細めるのであった。

※マスターより、第二章の補足

 一章に参加して下さいました皆さま、大変にお疲れ様で御座いました。第二章は『黄泉の本坪鈴』との集団戦となります。一体一体の戦力はそれほどでもありませんが、宿場町中に出現しており殲滅には時間を要するかと思います。
 また『黄泉の本坪鈴』が放つ【後悔の念】により衝動的に自殺に走る住民が多数発生しております。猟兵によっては同じように、心揺さぶられる方も居るかもしれません。章クリアには関係ありませんがご一考ください。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します。
ミアス・ティンダロス
こ、これは一体?!
やめてください!このままじゃ、町のみんなが……みんなが死んちまうよ!
僕たちが止めなくちゃ……!

ユーベルコードを高速詠唱し、吹雪を放って敵の行動を封じようとする。

鈴に影響されると、色んな記憶が蘇るだろう。
無辜な一般人を救えなかったこと。止むを得なくてもUDC達を倒さなければならないこと。そして何よりも悔しているのは、あの時、人狼病を発病し、両親も妹も村民全員を自分の手で殺したことでだろう。
でも、後悔するだけじゃ何も変わらない。自分が猟兵になるのは理想を叶えるため、理不尽を潰し、最高最善の結果を得るためなんだ。例えその夢は鏡花水月のようなものであっても、頑張らない理由なんかない。


リューイン・ランサード
(宿場町に戻って)うわぁ、もう、地獄のような状態に
なっている。

ここは皆さんと一緒に頑張るしかありません。
本坪鈴を倒しつつ、自殺しようとする人々を助け、家屋の延焼を
消火します。

相手は炎を使うので水の力が有効と判断しました。
UC:トリニティ・エンハンスで【水の魔力】を身体に纏って
攻撃力強化。

霊符を複数枚右手に持って【高速詠唱】【全力魔法】により
【水の属性攻撃】【破魔】の力を霊符に籠めて放ち、
【範囲攻撃】で本坪鈴複数体を纏めて攻撃!

周囲に自殺しようとする人がいれば行為を止めさせ、
危険物を取り上げたり、危険な場所(井戸など)から
離れさせる。

火事については、水の魔法で消火します。

アレンジ・連携歓迎です。



●第二幕 -1-

 時は少しばかり遡る───。
「だ───だったら教えてくださいご住職!どうすれば『地獄の蓋』を元通りに出来るのです!?このままでは町のみんなが死んでしまう‥‥‥!」
 雪の降り積もる伽藍にて、人狼の少年ミアス・ティンダロス(夢を見る仔犬・f00675)が、小さな拳を握って老僧に問う。老僧───天斎住職の言葉通りであれば、壊れかけの『蓋』を突き破り、数多の亡者が這い出るのは今晩のことだ。すでに雪雲の向こうで、日輪は西へ大きく傾いている。最早一刻の猶予もない。
「ふむ‥‥‥救うと言うのか、この町を。」
「それ以外に何があるというのです!」
 真っすぐそう答える少年を、枯れ果てた老僧は眩しそうに見つめた。
「‥‥‥正直。儂はもう、終わってしまっても良いかと思っとった。」
「住職!?」
 驚いたように声を上げる玄宋を左手で制し、天斎住職は尚も言葉を続ける。
「この町は、誰も彼もが膿み爛れた古傷を耐え忍び、廻り続ける現世の地獄たるが故に。じゃが───」
 小さく笑みを浮かべ、老人は禿頭をペチリ、と叩いた。
「───儂もまだまだ修行が足りんな。危うく仏道から諦念の外道へ逸れるところじゃったわい‥‥‥良いか、この町を基盤として作られた『地獄の蓋』の劣化は、即ち転じてこの町の人間すべての『心の疲弊』の現れじゃ。」
「疲弊‥‥‥?」
「左様。この町はあまりに長く、暗い感情を内に溜め込み過ぎた。『生きる活力』『明日への希望』『未来へ進もうという強い意志』───そういった心を、『不安』や『後悔』、『無気力な絶望』が呑み込み始めておる。この町と共に作られた大結界、『地獄の蓋』とは即ち───」

 ───リィィィィィィン───

 住職が口を開きかけたその瞬間、心の内側を酷く掻き乱すような鈴の音が、山門を超えて響き渡る。何事かと状況を把握する間も無く、冷たい風に乗って身も凍るような苦悶の声が、街から聞こえ始めた。
「───はじまりおったかッ!!」
 鈴の音に顔を歪め、天斎住職が空を見上げる。
「‥‥‥っ!!き、貴婦人さん!!」
 叫ぶようなミアスの声に、伽藍にて膝を折っていた『星間の駿馬』が、翼を広げ嘶き声を上げる。
「───行こう、途方もなく嫌な予感がする‥‥‥!」
 切迫した表情でそう呟き、ミアスがその背に跨る。離陸する寸前、伽藍の隅に建つ講堂から、転がり出すようにして一人の少年が飛び出した。
「ま、待って!僕も、僕も一緒に乗せていってはもらえないでしょうか!」
 時を同じくして忌々しい事実へと辿り着いた竜人の少年、リューイン・ランサード(今はまだ何者でもない・f13950)は、肩で息をしながら右手を挙げる。突然の同乗者に鼻を鳴らす『星間の駿馬』の背で、ミアスは力強く頷いてその手を取った。
「───よろしく。僕はミアス。」
「リューインです。どうぞよろしくお願いします‥‥‥!」

 異形の生命体が離陸する。雪片舞う空へと消えてゆく少年たちの後ろ姿を目に、住職は枯れ果てた両手を強く握りしめた。
「‥‥‥たのむぞ、若人。必ずや、皆に『希望』を‥‥‥!」



「こ、これは一体‥‥‥!?」
「うわぁ、もう、地獄のような状態になってる‥‥‥!?」
 眼下に広がる町の惨状に、少年たちは目を見張る他なかった。
 苦悶の叫びに満たされた町の至る所で、泥と雪に塗れた住人たちが、狂気の内に自身を傷つけ死に至らしめようとしている光景があった。それに加えて、滲みだすようにして現れた穢れた鈴の怪異───『黄泉の本坪鈴』が、酷く不快な音を撒き散らしながら、手あたり次第に火を放っている。
「ミアスくん!あの広場がマズそうです!」
「うん、助けよう、僕たちで!」
 泥雪を蹴散らして『星間の駿馬』が着陸する。『黄泉の本坪鈴』が放った地獄の炎は、早くも民家に憑りつき延焼を始めていた。
「まずいっ‥‥‥!六大元素の名のもとに、その清らかなる衣を貸し与え給へ───水よ!」
 トリニティ・エンハンス。リューインは転げ落ちるようにして地上に降り立つと同時、水の魔力を全身に纏い戦闘力を増した。炎を使う敵である以上、水属性の攻撃はこの上なく有効だ。しかして両手に広げた霊符に水の魔力を篭め、魔導騎士の卵は眼前の敵たちに加えて炎上する家屋へと、その符術を解き放つ。
「どうかハズしませんように‥‥‥いけっ!!」
 破魔の力すら籠った清浄なる水の奔流が、『黄泉の本坪鈴』たちを呑み込む。鎮火に成功した家屋を背に、ズブ濡れでフラフラと宙を漂う本坪鈴たちの姿があった。
「よし!もう一撃───」
「───その小さな祈祷(ささやき)に耳を傾けてください、最も気高い翼をもつ者よ――今こそ、嵐(おもい)が吹き荒れるのです!」
 隙のない高速詠唱。再び霊符を構えたリューインの真横に、突如巨大な魔法陣が展開する。舞い散る雪すら巻き込んで、ミアスのユーベルコード『激凍極嵐・風に乗りて歩むもの(ブリザードベント・イタクァ)』が、極大の寒波をズブ濡れの本坪鈴たちへと解き放った。
 リ、リリリ、リ‥‥‥。
 『黄泉の本坪鈴』たちは力なく音を失い、次々と落下しては砕け散ってゆく。
「───す、すごい威力‥‥‥!うん、僕の霊符で勢いを削いだ敵を、ミアスくんのユーベルコードで止めを刺す‥‥‥良い作戦かもしれません!」
「それなら、住民を吹雪に巻き込まないで済みそうです!でも、まだまだ敵が───」
 ───リィィィィィィン───
「あぐっ‥‥‥!」
「ミアスくん‥‥‥!?」
 路地から現れた増援から放たれた鈴の音に、ミアスが頭を抱えて顔を歪める。心の内から湧き出る後悔の念が、少年を激しく揺さぶっていた。
 ‥‥‥無辜の一般人を救えなかったこと。止むを得ず、共存を願うUDC達を倒さなければならないこと。そして───何より脳裏を引掻き回すのは、あの日、人狼病を発病し、両親も妹も村民全員を自分の手で殺した瞬間の記憶であった。
「ぐぅ‥‥‥ぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」
 人狼が咆哮する。自らを鼓舞するように。少年が吠える。後悔するだけじゃ何も変わらない、と。自分が猟兵になったのは、師より受け継いだ理想───即ちUDCとの共存を、叶えるためだ。理不尽を潰し、最高最善の結果を得るためだ。例えその夢が鏡花水月のようなものであっても───頑張らない理由なんかない‥‥‥っ!
 頭を滅茶苦茶に振り回し、人狼の少年は後悔を振り払う。見れば鈴の音に感化された住人が、自傷行動をより凄烈なものへと変え始めていた。
「くっ‥‥‥!リューインくん!」
「えぇ、任せてください!あまり、無理はしないようにお願いします‥‥‥っ!」
 ミアスの眼差しを受け、竜人の少年は雪片の中を走る。自身の頭部を漬物石に叩きつけようとしていた男性の首筋に手刀を落とし、井戸に身を投げようと身を躍らせた少女の手を掴んで引っ張り上げる。手首に食い込む少女の爪の感触に顔を歪めて、少年は小さく苦鳴を漏らした。
 ───嗚呼、正しく此処は地獄だ。死と隣り合わせの戦場となんら変わらない、本音を言えば足すら踏み入れたくない、そんな場所。手首が痛い。酷く寒い。次々と路地から姿を現す敵の姿に、心が折れそうになる。けれど───
「‥‥‥参ったなぁ。今、昔みたいに逃げ帰ったら───僕は僕じゃ、なくなる気がする‥‥‥!」
 再び両手に霊符を広げ、魔導騎士の卵は歯を食い縛る。雪降る町の防衛線は、未だ幕を上げたばかりであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セリエルフィナ・メルフォワーゼ
とりあえずあの男の事は後回しだ。
まずは自殺しようとしてる町の人達を止めないと!

【シンフォニック・キュア】で皆纏めて正気に戻せればいいんだけど…
これ多分前の『ややこ島』の時と同じで、回復系のUCは効かないだろうね。

となると仕方ない、手荒なことはしたくなかったんだけど…
町中を【ダッシュ】で駆け回りながら、町の人達を見つけ次第、【早業】【先制攻撃】で自殺する前に蹴り飛ばして気絶させるよ。

その一方で、この狂気を生み出しているオブリビオンの集団も何とかしないと。
【オーラナイトダンサー】を22体出して、一気に敵を焼き尽くす作戦でいくよ!
鈴の音が聞こえないように、耳の穴に【オーラ防御】を纏っておくね。


彩瑠・姫桜
住民の自殺を出来る限り阻止するわ

最初に【咎力封じ】で動きを封じてから話をするわ
【礼儀作法】【優しさ】【第六感】もひっくるめて私の出来る限りで向き合うわね
敵の攻撃が及ぶようなら【かばう】わね

私にも、貴方ほどではないけど
ずっと悔やんでた事があったわ
でもね、親友が言ったのよ
『立ち止まってもいいんだよ。その分前を向いて、一緒に戦おう』
だから、私も貴方に言うわ

死にたいくらいの想いがあるなら、その想いを背負って生きて戦いなさい
手にかけた、踏み躙った過去を悔やむならその悔いとともに生き抜きなさい
死ぬなんて絶対に許さないんだから

(言いながら思い出すのはややこ島の村瀬トモヤ
アイツだって、生き抜く事を頑張ってる)



●第二幕 -2-

 響き渡る穢れた鈴の音と、あちこちから聞こえる苦悶の叫び。ただ事ではない雰囲気に、茶屋の中から表へと飛び出した彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)が目にしたのは、自傷行為に走る人々と宙を舞う怪異の群れ。そして炎上する旅籠を背に街道に立つ、一人の黒い仏僧の姿であった。
「たああああああああああああああ!!」
 銀色の閃光が奔る。先程までライブパフォーマンスを繰り広げていたオラトリオのスカイダンサー、セリエルフィナ・メルフォワーゼ(天翔ける一輪の君影草・f08589)が、裂帛の気合と共に鋭い蹴りを黒僧へと見舞っていた。
「───ほぅ、是は何とも恐ろしい。そのように猛られては其命、修羅道へと堕ちましょうぞ、うら若き踊り手。」
 言葉とは裏腹に余裕ある表情で、黒僧は手にした錫杖を斜に構える。直撃したセリエルフィナの蹴りはしかし、錫杖に阻まれ届くことはなかった。
「セリエルフィナさんっ‥‥‥!」
 姫桜が叫ぶと同時、銀翼の少女が後退する。雪煙を上げ着地したその横顔には、ひどく悔しそうな表情が浮かんでいた。
「姫桜ちゃん、アイツ、アイツ‥‥‥!」
「えぇ、黒幕って言われてたオブリビオンね‥‥‥間違いない、アイツは───」

 途轍もない邪悪だ。

 愉悦に細められた朱色の瞳を睨み返し、姫桜は拳を握りしめる。こんな状況にあって尚、嘲笑を浮かべる人間が正道を歩んでいようはずもない。その飄然とした立ち姿の裏に秘められた莫大な悪意を、少女の第六感は一瞬で看破して見せた。
「───ははぁ、真に恐ろしきはその慧眼。今すぐにでも潰してしまいたいところではありますが───」
 それでは真なる絶望をお見せできますまい。そう呟いて、黒僧はくつくつと肩を震わせる。
「‥‥‥これは全部、アンタの仕組んだこと?答えなさい、オブリビオン!」
「───否。舞台は最初から整っておりました。拙僧は何もしてはおりませぬ。まぁ、強いて言うのであれば───そう。背中を少し、押しただけの事。」
「それって───」
 黒僧が嗤う。その一言に秘められた真意を理解して、二人の少女は髪の毛が逆立つような激情をその胸に抱いた。
「この、卑怯者‥‥‥!!」
「なに、拙僧はただ、彼らの願いを『是』としたに過ぎませぬ。歪んでいようと、地獄に墜ちようと願いは願い。よもやその歳にもなって、願いというものが綺麗なものばかりだと思ってはおりますまい?」
 まるで、毒。この男から発せられる一言一句その全てが、裏側に致命的な毒を潜めて嗤っている。
「時に───のんびりしていて宜しいのですかな、御二方。」
 背にした茶屋から聴こえてきた幼い悲鳴にハッとして、姫桜は大きく振り返る。茶屋の暖簾を燻らせ、穢れた炎が中へ入ってゆくのが見えた。
「ダメ!そっちは───待ちなさいっ!!」
「この‥‥‥っ!!」
 一も二もなく茶屋の中へと引き返す姫桜を後目に、セリエルフィナは歯噛みして黒僧を睨みつける。
 ‥‥‥今はこの敵を相手にしている場合ではない。そう自分に言い聞かせ、銀翼の歌姫は翼を広げた。



 茶屋に飛び込むとそこには、気を失って倒れた看板娘の多恵と、嗚咽しながら薄刃包丁を首に当てがわんとする団子屋の夫婦の姿があった。壁際で浮遊する『黄泉の本坪鈴』が、嘲うかのように穢れた鈴の音を響かせている。
「やめて───ッ!」
 半ば絶叫じみた姫桜の声に呼応して、彼女の右手から複数の拘束具が放たれる。『咎力封じ』───狂奔に陥った人間を無傷で捕らえるには、この上なく有効なユーベルコードであった。ギリギリのところで夫婦の両手を縛り上げ、拘束することに成功する。
「ヴァイス!」
 ニョロリと姫桜の右腕に、白蛇の如き竜が顕現した───瞬間。
 リ‥‥‥リリ‥‥‥リ。
 断末魔にもにた音を漏らし、『黄泉の本坪鈴』がパラパラと崩れ落ちる。瞬時に槍へと変じた白き蛇体が、穢れた鈴を一閃の下に串刺しにしていた。
「骸の海に帰りなさい、オブリビオン‥‥‥!」
 穢れた鈴が消滅する。槍型に変形したヴァイスを再び蛇体に戻し、拘束されて尚、嗚咽を上げて自害しようとする夫婦へと姫桜は歩み寄る。
「解けっ!解いてくれ、頼む‥‥‥!俺は、俺たちは‥‥‥!」
「後生だよぅ姫桜ちゃん、私らはもう、耐えられない‥‥‥っ!この娘に、この娘の『本当の親』に、私らは‥‥‥!」
「え───?」
 姫桜の足が止まる。先程まで自分に団子作りを教えてくれていた気さくな夫婦の言葉は、信じたくもないような残酷な事実を克明に示していた。
「‥‥‥本当の子じゃ、ないんですか?」
 冷えた茶屋の中に、啜り泣きが響く。嗚咽まじりの声で、団子屋の主人が口を開いた。
「‥‥‥俺たちの間には、長らく子が出来んかった。どんなに願っても、どんなに祈っても、子を授かることはなかった‥‥‥。だから、あの日───魔が差したんだ」
「隣の家に越してきた若い夫婦の間に‥‥‥赤ん坊が出来たのサ。初めての子供でねぇ、それはもう、あの二人は喜んで喜んで───それが、妬ましくて恨ましくて、あんまりにも羨ましくって‥‥‥!私は、私らは───!」
 赤ん坊だったこの娘を、多恵を───拐して逃げた。
 姫桜は言葉を失う。人の業に。その現実に。彼らの溜め込んできた、後悔の重さを知って。
「‥‥‥あの若い夫婦の気持ちを考えるたび、気が狂いそうになる。当たり前だ、俺たちだったら『気が触れる』。ずっと、ずっと、隠してきた。この娘の幸せのために、何に代えても守り、生きるつもりだった。でも、でも‥‥‥!」
 泣き崩れる夫婦を前に、凄まじい嵐が姫桜の胸の内で荒れ狂っていた。この二人の行いは、決して許されるべきではない。一方で、自らが犯した罪から目を背けず、今日まで娘の幸せを願って生きてきた彼らを、攻めることも出来そうになかった。
「‥‥‥、‥‥‥、‥‥‥」
 立ち竦む。気の利いた一言が出ない。自分の口下手さが今更ながらに厭になる。ドン詰りのこの二人に、自分は何というべきなのだろう。
 答えが、でなかった。
「だから頼むよ‥‥‥!死なせてくれっ!」
「死んだ方がきっと、この娘の為に───」

「───そんなことないっ!!」
 
 キンと澄んだ耳鳴りが、穢れた残響を打ち払う。思わず言葉を失った夫婦を前に、脊髄反射でそう怒鳴り返した姫桜自身が、誰よりも驚いていた。
 心中で焔が渦巻いている。焔───蒼い、母の瞳にも似た、凄烈な焔だった。
「‥‥‥、‥‥‥私にも、貴方たちほどではないけど、ずっと悔やんでた事があったわ。でもね、親友が言ったのよ。『立ち止まってもいいんだよ。その分前を向いて、一緒に戦おう』って。」
 ───だから、私も言うわ。蒼い瞳を二人に合わせ、少女は静かに告げる。
「死にたいくらいの想いがあるなら、その想いを背負って、生きて戦いなさい。踏み躙った過去を悔やむならその悔いとともに生き抜きなさい。死ぬなんて、絶対に許さないんだから‥‥‥!!」
 何故か脳裏に在りし日の、慟哭する青年を思い出す。
『───いつかアイツに頭を下げられるように、頑張るよ。いつか、アンタらみたいになれるように、生き抜くよ』
 己の罪と向き合い続けるのは、苦痛だ。
 けれど、それでも、何がなくとも、人は生きていくのだ。己が結果を背負って、忘れないように、生きていかねばならぬのだ。
 そうして残った一握りの思いこそがきっと、───なのだ。
「‥‥‥多恵ちゃんね、貴方たちのこと、大好きだって。だから、お願いします───この子から、二度も親を奪わないでください。」
 深々と頭を下げた少女の言葉に、夫婦の瞳から涙があふれだす。

 ───瞬間。魂癒す歌声が、彼らの耳朶を打った。



「‥‥‥シンフォニックキュアが、効果を発揮してる‥‥‥!?」
 凍空に翼を広げ、セリエルフィナは驚いたように歌声を中断した。かつて似たような地獄に直面した時は、自分の歌声が効果を発揮することはなかったのだが───。
 以前は根底から狂ったオブリビオンそのものに使用したが故の不発。しかして今回の対象は、オブリビオンによって精神を乱された人々が相手、故に効果は覿面であった。
「‥‥‥、よし!」
 在りし日の無力さを噛みしめて、気合を入れなおす。自分の歌声が響いている間だけ、眼下に見える街道の住人は正気を取り戻したかに見えた。しかしその彼らも、『黄泉の本坪鈴』たちが撒き散らす穢れた鈴の音によって、再び正気を失ってゆく。
「‥‥‥うん、どちらにしろ、この狂気を生み出してるオブリビオンの群れを何とかしないとねっ」
 誰にともなく頷いて、銀翼の歌姫は右手を掲げた。
「いくよ───情熱的に踊ろう、『オーラナイトダンサー』!」
 再び響く歌声と共に、セリエルフィナを囲むように都合二十二体もの焔の踊り子が顕現する。吹きすさぶ雪風を切り裂いて、踊子たちは一斉に地上へと突貫した。

「いっけええええええええええええええええ!!」
 ───リィィィィィィン───!!

 澄んだ歌声と穢れた鈴の音が、天上の焔と地獄の炎が、正面から激突する。
 ある種神話にも迫る光景に、地上にて黒僧は驚いたように目を丸くした。
「───ほぅ、是が猟兵。是が『生命体の埒外』‥‥‥!成程、侮れませぬなぁ」
 掃討されてゆく『黄泉の本坪鈴』を後目に、黒僧が嗤う。雪雲の上で太陽は、すでに危険なほどの傾きを見せていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
判定:【WIZ】
ああ、あの時の光景が見える。
猟兵としての初陣の時。
突如心に湧き上がった、濁流のような恐怖に呑まれて動けねえおれ。
そんなおれを庇って仲間の一人が大怪我をした。

ああ、おれ、また泣いてる。あの時みてぇに。
恐怖で身体ががたがた震えてる。後悔で視界を塞ぎたくなる。自責でみっともなく叫びたくなる。
悔しいし、情けねえ。零れる涙を堪えられねえ。

ちくしょおっ……今はそんなのに囚われてる場合じゃねえんだ……!

《笛吹き男の凱歌》を発動して、〈楽器演奏〉〈鼓舞〉〈覚悟〉で過去の幻影を振り切ろうとする。
これで鈴の音を打ち消して、同じように後悔に苛まれてる他の仲間や町の人を助けられれば……!


シャイア・アルカミレーウス
勇者に向かって救って見せろだなんて、お坊さんなのにシャカにセッポーって言葉を知らないのかな?地獄なんて、どこにもなくしてあげるよ!

(pow)
グレア・ガヴァンで強化した視力で捉えた敵を、「勇者の心得」で攻撃力を強化した魔弾の一斉射撃で撃ち落とすよ!

悲しいのは間に合わなかったこと。ややこ島、終末病棟、今回も僕達が来る前に助からない人がいた。
小さい頃の私は病気がちで辛かったから、苦しい事や理不尽を振り払える人になりたかった。
だから勇者の剣を抜いたんだ。だから僕はそういう勇者になるんだ!勇気を出して間に合う人になるんだ!
「勇者の心得その0!今日の涙は明日の勇気!昨日の絶望になんて負けないんだからね!」



●第二幕 -3-

 鈴の音が聴こえる。誰かがおれの脳髄を、焼けた火箸で引っ掻き回している。泥雪の上についた両膝が酷く重い。寒い。寒い。寒い。総身がガタガタ震えるほどに、寒い。
『──────ッ!!』
 誰かが叫んでいる。うるさいな。こっちは今、それどころじゃないんだ。
『──────ッ!!』

 ───あぁ。あの時の光景が見える。

 猟兵としての初陣だった。駆け出しの自分は、まだ何もわかっちゃいなくって。ただ寝物語に聞いていた『戦い』を、『命の奪い合い』だと知ってはいても、まるで理解出来ちゃいなかったのだ。
『──────ッ!!』
 あぁ、あの時の光景が見える。動けなかった。気が付けば足が竦んでいた。突如心中に湧き上がった『恐怖』は加速度的に膨張し、濁流となって縮こまった心臓を呑み込む。
『──────ッ!!』
 あぁ、あの時の光景が見える。視界が霞む。気が付けば呼吸を忘れていた。恐怖のあまり膝をつき、動けないおれを庇って───アイツは大怪我を負った。
『──────ッ!!』
 誰かが叫んでいる。頬を伝う自責の念だけが、妙に現実感を孕んでいた。悔しさと情けなさが、胸中で黝い腕を伸ばしている。
『──────ッ!!』
 誰かが叫んでいる。誰かが───否。これは。この声は。叫んでいるのは。

 おれか。

 『あの日の光景』と降り注ぐ雪の帳が涙の中で混ざり合って、モノクロの景色が陰鬱な檻を作り出す。記憶の独房に蹲って、昏い闇の底へと視線を落とした。
 嗚呼。こんな思いをするくらいなら、いっそのこと───

「なーにやってんのさ」

 突如左肩に走った衝撃に、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は夢から覚める様に琥珀色の瞳を見開いた。世界が、急速に色を取り戻してゆく。降り注ぐ雪片の中、見覚えのある少女の姿が、目の前にあった。
「シャイ‥‥ア‥‥‥?」
「───うんっ」
 どこか呆けたような嵐の呼びかけに、シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)はニカッと笑って頷いた。
「シャイア、おれ、おれ‥‥‥!」
 思い出してきた。『笛吹き男の凱歌(ラッテンフェンガー・パラード)』で町の人たちの精神汚染を解除していたその途中、現われた黒僧に気をとられた隙に『黄泉の本坪鈴』の群れから放たれた炎弾の集中砲火を浴びて、召喚した『道化師』が一時的に消滅したのだ。
「ちくしょお‥‥‥っ!!」
 過去の記憶に呑まれかけていた自分に腹が立つ。今は、そんなものに囚われている場合じゃないというのに‥‥‥!

「───おや、立ち直りましたか。」

 視界の先、薄墨色の衣が揺れている。苦悶の叫びと鈴の音が響き渡る中、変わらず真意の読めない薄ら嗤いを浮かべて、黒僧は阿鼻叫喚の地獄絵図に立っていた。
「意外や意外、完全に呑まれたとばかり思っておりましたが───中々どうしてよく耐える。この町を救って見せるという大言壮語も、強ち絵空事ではないやもしれませぬな」
「テメェ‥‥‥!」
 頭を左右に振って立ち上がった嵐を前に、黒僧が編み笠の雪を払う。炎上する家屋に煽られて、溶け逝く雫が綺羅綺羅と舞った。
「ふふんっ、勇者に向かって救って見せろだなんて、お坊さんなのにシャカにセッポーって言葉を知らないのかな?町一つ救うくらい、朝飯前でやってのけるさ!」
「ふふ、それが大言壮語というのです。この地上の地獄を、真に救えると?」
「地獄なんて、なくしてやるさ。36の世界から、ひとつ残らずね‥‥‥!」
 大風呂敷も大風呂敷、愛用の杖を突き付け大見えを切る半熟勇者に、さしもの黒僧も暫し言葉を忘れたようであった。
「───ハハッ、飛んだビッグマウスだと思ってんだろ、オブリビオン。でもな───コイツならやるかもしれねぇ。少なくともおれは、そう信じてる」
 シャイアの隣で小さく笑い、嵐は左手を広げる。その動きに反応して、周囲の『黄泉の本坪鈴』たちが一斉に臨戦態勢をとった。
「───魔笛の導き、鼠の行軍、それは常闇への巡礼なり。来い、吹き鳴らせ『笛吹き男の凱歌』‥‥‥!」
 嵐の呼び声に応じて再び現われた笛吹きの道化師が、滑稽にお辞儀する。
「‥‥‥耳を塞ぐなよ?」
 穢れた鈴の音と高らかな笛の音が響き渡ったのは、ほぼ同時であった。
「──────っ!!」
 音と音が拮抗する。絶望へ誘う鈴と、戦いへの覚悟を秘めた笛。後悔の記憶に唇の端を噛む。血が流れても尚、噛みしめる。負けられない。過去の自分には、負けられない‥‥‥!心の底に湧き上がった在りし日の言葉を、気が付けば嵐は叫んでいた。
「───勇者の心得その1!泣かないめげない諦めない!危なくなったらすたこら逃げる!!!」
 大気が揺れる。絶望と覚悟はついに拮抗を崩し───勝利の凱歌が溢れ出す。
「───シャイア、今だっ!!」
「うんっ!勇者の心得その0!今日の涙は明日の勇気!昨日の絶望になんて、負けないんだからね───!!」
 周囲に連続展開した魔弾が、星空の如き輝きを放つ。
 鈴の音の残響に、在りし日の光景が次々と浮かぶ。悲しいのは間に合わなかったこと。ややこ島、終末病棟───今回も、僕達が来る前に助からない人がいた。小さい頃の私は病気がちで辛かったから、苦しい事や理不尽を振り払える人になりたかった。だから、勇者の剣を抜いたんだ。だから───
 
「だから、僕はそういう勇者になるんだ!勇気を出して間に合う人になるんだ───ッ!」
 
 強化された視力が、視界内の穢れた鈴たちを補足する。心臓を鼓舞し続ける笛の音が、魔弾の輝きを煌々としたものに変え───流星群が如き魔弾の掃射が、群れる『黄泉の本坪鈴』たちを薙ぎ払っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ステラ・アルゲン
……まずいな、この状況
敵のことは後回し、まずは住民を助けるために行動する

満月よ、どうかその聖なる月光にて、この地獄を祓ってくれ!

剣を縦に掲げて、【全力魔法】と【高速詠唱】にて光【属性攻撃】の癒やしの月光を出現させ、住民たちの傷を癒やしつつ後悔の念を打ち払う
攻撃されそうだったら【オーラ防御】にて耐える

あぁ、またお前か

過去の幻、黒い騎士が目の前に現れる。剣だった私の目の前で我が主を殺した黒騎士。だが、その光景は先の宇宙の戦にて見てきた。【勇気】を持ってその幻さえも光にて消し去ってくれる!

さぁ、覚悟しろ

住民の救助が終わったら敵を倒しに行く
人を死に導くお前たちを許してはおけない!

(アドリブOK)


エスタシュ・ロックドア
地獄の裏口が開きっぱじゃねぇか、ちゃんと閉めろよ
俺が閉めろってか
しょうがねぇ、まずはおイタが過ぎる連中を折檻するぜ

『大鴉一唱』発動……おい、生者を突くな
突くのはあっちだ、OK?
後でカラアゲやっからよ!
烏を数羽ずつ敵に取りつかせて動きを阻害
かつ、一所にまとまる様に誘導するぜ
まとまったら烏は退避させて【怪力】【なぎ払い】
鉄塊剣フリントで一気にぶった斬る

敵の炎系攻撃は【火炎耐性】で耐えて【カウンター】
構わず突っ込みフリントを振るうぜ

鈴が煩ぇな、耳が腐るぜ
俺は後悔なんかしちゃいねぇ
里を飛び出し、ヒデェ目に遭って、挙句地獄を抱える事になろうともな
振り向かせんな、俺が求めるモンはそこに無い


セイス・アルファルサ
これは……参ったね。僕には彼らを止められない。止める術を持ってない。だけどこの音を止める術はある
様子を見るにこの音に念を込めて飛ばしてるのだろう? ならこれ以上被害は拡大はさせないよ

【早業】でUCで増やした人形達を町へと散開させて敵、或いは人々を人形から放出した【属性魔法】と【オーラ防御】を掛け合わせて作った真空と魔力の膜で囲って音と念を遮るよ
これが念を防げないなら敵の殲滅に移るよ

僕自身はこの作業に集中すると他の行動できないけど……頼んだよ、みんな

人を救う?それは僕(人形)の役目じゃない。それは人が手を伸ばす行いだ
だから僕はその為の土台を作る。それが"僕"……いや、セイスができることなんだ


メタ・フレン
どうやらこの町の住民達は皆大なり小なり脛に瑕があるようですね。
だからって見捨ててはおけません。
可能な限り、助けてみせますよ。

①【レプリカクラフト】で合計して20㎥分の『睡眠薬とそれを入れる容器』を複数作る。残り2㎥分でガスマスクを作り、他の猟兵達に渡す。
②【バトルキャラクターズ】でSTGの戦闘機を22機出し、【ロープワーク】で『睡眠薬入りの容器』を戦闘機に括り付ける。
③戦闘機を【操縦】して町中に飛ばし、【範囲攻撃】で睡眠薬を散布し、住民達を眠らせる。可能ならオブリビオン達も。

生憎生まれたばかりの私には後悔してることなんてほとんどありませんよ。
だからこのまま前を向いて、ガンガン突き進むだけです!



●第二幕 -4-

「‥‥‥まずいな、この状況───」
 苦鳴、狂奔、破壊音。いよいよ本降りとなった無数の雪片に混じって、数棟の家屋が黒煙と共に火柱を上げている。混乱極まる宿場町の中にあって、男装の麗人───ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)は己が本体たる流星剣を抜き放ち、臨戦態勢をとっていた。相対するは、群れを成して穢れた鈴の音を撒き散らす『黄泉の本坪鈴』。魔炎による攻撃に加え、精神汚染による劣悪な妨害をしてくる厄介な相手ではあったが───
(一体一体の戦闘力は、それほどでもない‥‥‥。)
 油断のない構えで、敵の戦力を冷静に計る。数の暴力を抜きにすれば、攻撃力、耐久力ともに決して高い方ではないだろう。主の剣であった頃からの戦闘経験から照らし合わせてみても、それは明白な事実だ。であれば、そう。何よりも厄介なのは───
「あああああああああああああああああああああ!!!!」
「ぅ、ぅぅぅぅぅ‥‥‥!!」
「くっ‥‥‥やめないか、君たち‥‥‥!!」
 精神汚染に耐え切れず自害に走る、この町の住人であった。
「は、放せ!放せよぉ!!俺みたいな、俺みたいなクズ、殺せば───」
「ぅ‥‥ぅぅあああああああああああああ!!!!」
 狂ったように頭を地面に叩きつけていた青年の首筋に手刀を叩き込み、混乱のあまり薪割り鉈を振り翳して迫ってくる男性の鳩尾に右の拳が埋まる。二人の住民の無力化にステラの動きが止まった直後、狙いすましたように放たれた地獄の炎が、彼女のもとへと殺到した。
「おのれ‥‥‥ッ!!」
 咄嗟に展開したオーラ防御で、己が身を楯に住人を庇う。燻る炎に顔を歪めつつ、ステラは歯噛みするように『黄泉の本坪鈴』たちを睨みつけた。
 先ほどからこの繰り返しだ。遠距離からの炎弾を避けて接近しようとすれば、狂奔する住民を楯にされ逃げられる。住民を見捨てるわけにもいかず無力化に動けば、凄まじい数の炎弾が雨霰と降り注ぐ。精神汚染解除のユーベルコードも戦闘中に捻じ込んでみたが、詠唱中の隙を狙った炎弾の掃射で中断されてしまった。自前のオーラ防御だけでは、到底防ぎきれない程の数であった。
「やはり策を巡らせる必要があるか‥‥‥!メタ殿!守備の方はどうです!?」
「‥‥‥芳しくありませんね。現状だと作戦の成功率は五割を切ります。ハッキリ言って遂行しない方がマシな数値です」
 ステラの声に民家の屋根上からそう答えたのは、蒼い髪の幼い少女、メタ・フレン(面白いこと探索者・f03345)である。電脳ゴーグルに隠れてはいたが、その下の表情は苦り切っているのがありありと分かる声音だった。
「あと一手‥‥‥いや、あと二手あれば───」
 そう呟いて、メタが唇を引き結んだ───その時であった。

「───おぅおぅ、地獄の裏口が開きっぱじゃねぇか、ちゃんと閉めろよ!それともなんだ、俺が閉めろってか?オイ!!」

 轟音と共に、『黄泉の本坪鈴』が敷いていた包囲網の一部が爆散する。宙を舞う穢れた鈴。しかして間髪入れずに殺到する地獄の炎を切り裂いて、陽炎の中から姿を現したのは───地獄の鬼たる黒き羅刹、獄卒鬼エスタシュ・ロックドア(ブレイジングオービット・f01818)であった。
「‥‥‥待たせたな。助っ人参上、ってヤツだ」
「───そういうことになるのかな。久しぶりだね、二人とも」
 次いで空から落ちてきた声に目を向ければ、絡繰り仕掛けの飛竜から民家の屋根へと降り立つ青年の姿。セイス・アルファルサ(瓦落芥弄りの操り人形・f01744)であった。
「‥‥‥セイスさん!」
「セイス殿!!」
 真紅のクロークを靡かせる兵士人形に、メタとステラが驚いたような声を上げる。
「なんだァ、セイス。知り合いか?」
「まぁね。彼女たちが居れば百人力だ。」
「ほぉん。───エスタシュだ。よろしく頼むぜ、お二人さん」
 未だ以て敵に包囲を固められ、狂奔する住民たちが跋扈する苦境ではあったが───勝ちの目が見えてきた、と。屋根の上でメタが呟いたのを、三人は聞き逃さなかった。
 群れ為す『黄泉の本坪鈴』が、次の攻撃へ移らんと不吉な音を立てる。
「‥‥‥さて、ここまで決定打を欠いていましたが───作戦会議といきましょうか」
 流星剣を正眼に構え、流星の騎士が片眼を瞑る。
「‥‥‥はい。まずは手札を開示するところから始めましょう。」
 蒼い髪を靡かせて、電脳魔術師が次々とウィンドウを展開する。
「───つっても敵さん、呑気に待ってくれそうには見えねぇぜ?」
 鉄塊の如き巨剣を突き付けて、獄卒鬼が不敵に嗤う。
「だったら簡単な話さ。蹴散らしながら固めていこう。慣れているだろう?君たちも。」
 静かな微笑みを浮かべて、かつての兵士人形が地上を睥睨する。
 数にしておよそ二十倍近くの戦力差。しかして不遜にもまるで怯まぬ猟兵たちを前に、穢れた鈴たちは一斉に地獄の炎を解き放った───!



「さて、まずは僕の手番な訳だけれど‥‥‥この作業に集中すると、僕は一切他の行動がとれなくなる。あとは頼むよ、お三方。」
「任された。主の名に懸けて、必ずやこの作戦、成功させましょう。」
「構いません。私はずっとここにいますので。」
「おぅ、四の五の言わずにとっとと始めようぜ」
 三者三様の返事に唇を綻ばせ、セイスは静かに眼を瞑る。雪降り止まぬ民家の屋根。その遥か上空にて旋回・待機していた相棒の絡繰り人形、機竜イダーデへと、人形兵士は念を送る。
(───出番だよ、イダーデ。なに、賑やかに行こう。一人ぼっちじゃ寂しいからね)
 ゆっくりと、セイスの両腕が持ち上がる。その姿はさながら壇上の指揮者の如し。しかしてその十指から伸びる不可視の糸を繰り、見た目とは裏腹に凄まじいスピードで機竜が複製されてゆく。その数、実に二十体。凍空を舞う群竜は円を成し、指揮者たるセイスの指示を待っていた。
「───複製完了。はじめようか」
 その言葉を受けるや否や、上空を旋回する機竜達が四方八方へと散開する。運の良いことに宙を舞う無数の雪片が、機竜の姿を敵に気取らせることなく覆い隠していた。
「北部、配置完了。南部、配置完了。東部、配置完了。西部───」
 配置完了。そう呟いて、セイスは極限の集中力の中に身を置く。これよりは、ヒトの手で蜘蛛の巣を編み上げるに近い作業。要求されるのは最上級の繊細さと最大限の速やかさ。セイスの十指が、これ以上ないほど精密に空を走る。
「属性付与:風。属性転用:真空。例外設定:呼吸。生存活動。会話。定義完了。オーラ防御展開。全機竜接続開始‥‥‥!」
 人形の筈の彼の額を、滝のような汗が流れてゆく。否、これは触れた端から溶け逝く雪の花か。熱暴走しかける演算領域をフルに回転させて、セイス・アルファルサは最初の一手を編み上げる。
 人を救う、か───。
 白熱する思考の片隅で、僕は静かに独り言ちる。
 ‥‥‥それは人形の役目じゃない。それは、人が手を伸ばす行いだ。‥‥‥だからこそ。で、あれば───僕は、その為の土台を作ろう。それが"僕"‥‥‥いや、セイスに出来ることなのだから。
 ───眼を、見開く。
「構築完了。其───『無音円錐領域(コーンオブ・サイレンス)』‥‥‥!!」
 瞬間。宿場町のおよそ半分から、『音』が消失した。



「‥‥‥分割制御した絡繰りを媒介とした、風属性魔法による真空領域の発生。これを複数個所で同時に展開し、オーラを転用した魔導被膜で覆って疑似的な無音領域を作り出す───恐れ入りますよ、まったく。」
 無表情気味にそう呟いて、メタ・フレンもまた、己に託された任務の遂行を開始する。
「───レプリカクラフト。」
 小さく呟くと同時、奇妙な液体に満たされた身の丈ほどもある巨大な容器が、メタの傍らに形成される。
「‥‥‥。」
 これは賭けであった。この、中身の液体を含めた巨大な容器が、用途・使用状況を含めて『仕掛け罠』として判定されるのかという、些か分の悪い賭け。
「‥‥‥よし。」
 しかして中身の液体に試験紙を浸し、蒼い少女は小さくガッツポーズをする。成功だ。レプリカクラフトによって次々と形成される巨大な容器に、民家の屋根が悲鳴を上げる。既定の数を生産したメタは左手を掲げ、新たなユーベルコードを発動した。
「来て、私のバトルキャラクターズ‥‥‥!」
 雪雲を切り裂いて、都合二十二機もの戦闘機型バーチャルキャラクターが、メタの作り出した巨大な容器をロープで括りつけて飛び立ってゆく。仕込みは上々、あとは仲間を信じて待つだけだ。
「コッチは使い物にならなかったかぁ‥‥‥」
 妙にチープな出来のガスマスクを屋根の上にポソリと置いて、蒼色の少女は凍空を見上げるのだった。



「‥‥‥おい、生者を突いてねぇだろうな」
『モチのロンッス!』
『むしろ鈴の上に居座ってるヘンなヤツ!あれ美味しいッス!』
『自分の口には合いませんでした!カラアゲを要求するッス!』
『カラアゲ!』
『カラアゲ!』
『ヘンなヤツ!』
「だー分かった分かった!マヨネーズ付きで進呈してやらぁ!ちゃんとポイントまで誘導出来たらな!」
 『大鴉一唱』───獄卒の眷属たる地獄のカラスたちを呼び出し使役する、エスタシュのユーベルコードである。配下のカラスたちに敵のおびき寄せを任せ、エスタシュとステラは居住区域の一画を走っていた。
「───賑やかな友人だな、エスタシュ殿。」
「おぅ、賑やかすぎんのが玉に瑕だが───あれで可愛い子分どもだ。労いくらいはしてやるさ」
「ふふ‥‥‥部下思いは優れた指揮官の証です。頼もしい味方を得たものだ」
「ハッ!誉めても何も出ねーぞ騎士サマ!あとでカラアゲ一個進呈だ」
「カラアゲよりはマカロンたべたい───」
 瞬間。強烈な耳鳴りにも似た沈黙が、辺り一帯を覆う。セイスの発生させた『無音円錐領域』であった。
「ハハッ!セイスの野郎、上手くやったみてーだな」
「えぇ。となれば次はメタ殿の番。エスタシュ殿、ご用意を。」
 走りながら白いマントをぐるりとはためかせ、ステラが口元を覆う。一方のエスタシュは、ひらひらと左手を振って大丈夫だ、と答えた。
「俺ァ毒に体制がある方だからな。あの嬢ちゃんが余程強烈なモン撒かなきゃ平気だ」
「な、なるほど‥‥‥と、来たようです」
 それは、雪に混じってジワジワと。頭上を通り過ぎていった戦闘機から散布されていた。
狂奔状態に陥っていた人々が次々と倒れてゆく。致死性の猛毒───などでは決してない。バーチャルキャラクターの戦闘機から宿場町へと散布されているのは、即効性の睡眠薬であった。
「‥‥‥ったく、セイスといいメタの嬢ちゃんといい、よくこんなテ思いつくな」
「同感です。ですがこの可能性の広さこそ、我々猟兵の神髄なのでしょう。さて───」
 新たに狂気を生み出す鈴の音は、無音円錐領域によって絶たれた。遠距離から攻撃を加えてくる敵の群れは、エスタシュのカラスたちによって一ヵ所に誘導されている。そして自らを死に至らしめようと抵抗を続けていた住民たちは、軒並み睡眠薬で気を失っている。
「狂気を打ち払うは、今が好機───!夜の闇を照らし導く満月よ。どうか手を貸してくれ。その聖なる月光にて、この地獄を祓ってくれ‥‥‥!」
 掲げた流星剣の蒼き刀身が、清浄な月の光を満たして輝きを放つ。
「───『天満月』───!」
 道々に倒れ伏した人々へと、聖なる月光が次々に放たれる。その光は狂気を打ち払い、睡眠薬による薬効をも中和して人々の目を覚まさせる。
「スゲェな、それ‥‥‥!殆ど万能の回復手段じゃねぇか」
「ハハハ、今回に、かぎっては、なかなか、使うタイミングが───」
「でも無制限じゃねえだろ、それ。息上がってんぞ?」
「‥‥‥、‥‥‥、‥‥‥なんのこれしき、大したこともない。私は騎士だ、侮ってもらっては困るな、エスタシュ殿。」
 疲労の色濃く、しかし気丈にも笑って見せる男装の麗人に、獄卒鬼は暫しポカン、として───それからどこか嬉しそうに、ニカッと笑った。
「───ハッ!そうかよ。そんじゃ最後までしっかり着いて来いよ、騎士サマ!」「言われるまでもない‥‥‥!」
 居住区域を駆け抜ける。静寂の内に響き渡るカラスたちの声を追って、二人は遂に誘導ポイントたる袋小路へとたどり着いた。
 ──────。
 凄まじい数の『黄泉の本坪鈴』が、二人へ向けて穢れた鈴の音を放つ。常であれば精神を掻き毟らずにはおかないその大音量も、無音円錐領域に呑まれてまるで聴こえることはなかった。
「───生憎と、私の後悔する過去は宇宙船の中で清算済みだ。我が主より受け継ぎし勇気をもって、その邪音、一片残らず消し去ってくれる‥‥‥!覚悟しろ、下郎ッ!!」
 目蓋の裏に因縁の黒騎士を一瞬映し、流星の騎士は満月を湛える剣を突き付ける。
「鈴が───煩ェな。耳が腐るぜ」
 聴こえないはずの鈴の音に顔を歪め、エスタシュは深く息を吐く。
「‥‥‥生憎と俺は、後悔なんかしちゃいねぇ。里を飛び出し、ヒデェ目に遭って、挙句五臓六腑を地獄に置き換えるハメになってもな。」
 その比類なき剛力によって手にした鉄塊剣『フリント』の剣先が、雪の降りしきる中天を指す。その銘からは想像もつかない程の莫大な熱量を秘めて、獄卒鬼は左目を見開いた。
「‥‥‥振り向かせんな、俺が求めるモンはそこに無い。行くぜ───折檻の時間だ」
 最期の反撃に出た『黄泉の本坪鈴』たちが、強烈な地獄の炎を渦巻かせる。迫る熱量に一歩も引かず、二人の剣士は裂帛の気合と共に敵陣へと突撃していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ガルディエ・ワールレイド
死でしか償えねぇ罪も有るかもしれねぇ……だが、それを決めるのは現在を生きる人々だ
過去が干渉して良い話じゃねぇんだよ!

◆方針
一般人を最優先
ヤバイ状況では《かばう》し《武器受け》で食い止める
味方戦力の薄い所に見当が付くならそっちへ《ダッシュ》
一般人を鼓舞し自殺行動は《念動力》で止める

「気をしっかり持て!悔いが有るなら生きて償う事を考えろ!」
故郷が滅んだ日を思い出す……
だが、それでも生きて、戦い抜くしかねぇだろ!

◆戦闘
武装は《怪力》《2回攻撃》を活かすハルバードと長剣の二刀流
《属性攻撃》《マヒ攻撃》を乗せ強化した【竜神の裁き】使用
雪の濡れで周囲に感電する可能性は考慮し、一般人の至近には雷撃を飛ばさず


大河・回
いや、私は別に人は救わんぞ。我が野望を成就する為には単純にお前達が邪魔だから消しに来ただけだ。人助けとかそういう善行とは縁遠いしな。

相手が集団ならこちらも集団で対抗する
戦闘員共(昭和特撮風全身タイツ)を召喚し戦わせよう
戦力は高くないが数は多いしAIだから後悔の念に苛まれることもない
敵一体につき複数であたらせる
倒せればよし、倒せなくても私や他の猟兵が敵を倒す為の役に立てばそれで良しだ
私自身は姿を隠しながらこまめに移動し射撃による攻撃を行う

後悔?ふん、私の後悔は一度生きる目的を見失ったことだ
むしろ、その記憶は私に野望達成への活力を与えてくれる

※アドリブ歓迎



●第二幕 -5-

「ほぅ、是は予想外に過ぎる‥‥‥!よもやあの黄泉からの遣いの三分の二を沈黙させるとは───いやはや何とも末恐ろしい。貴方がたの持つ『未来への執念』は、ともすれば無間地獄すら食い破る可能性を秘めている‥‥‥!」
「───そうかよ。とりあえず骸の海に帰れ、外道坊主‥‥‥!」
 複合魔槍斧をブン回し、ガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)は嫌悪感も顕わに八重歯を剥き出した。
「死でしか償えねぇ罪も有るかもしれねぇ‥‥‥だが、それを決めるのは現在を生きる人々だ!過去が干渉して良い話じゃねぇんだよ!」
 錫杖と魔槍斧が激突するたび、白い帳に火花が散る。夜を目前にして山から吹き降ろす風は、強烈な冷気を伴って宿場町へと雪崩れ込んでいた。
「ましてやテメェみてぇな卑怯者が、後悔背負って歩いてるヤツに水差すなんざ───言語道断だろうが!!」
 叩き潰すように繰り出された振り下ろしの一撃をフワリと躱し、黒僧が鐘楼の上に降り立つ。
「───これまた異な事を。後悔とは担ぎ背負う荷ではなく、足下に絡みつき歩みを妨げる枷と鎖。引き摺り歩む苦しみを省みれば、解き放つことをこそ是とすべきでしょう?」
「うるせぇ降りてきやがれ三枚舌!煙に撒くようなことばっか言いやがって‥‥‥ッ!」
「生憎と出来ない相談です。ヒトのカタチをした竜が相手となれば、流石に拙僧も分が悪い。まぁ、直に日が沈みますので、あと少しだけ───っ!?」
 トスッ、と。黒僧の肩口に矢玉が突き刺さった。整った顔立ちを苦痛に歪め、朱色の瞳が地上を走る。降りしきる雪に混じって背後から飛来した矢玉を間一髪叩き墜とし、黒僧は民家の屋根へと飛び移った。
「馬鹿な、何処から───!?」
 死角から次々と飛来する矢玉を回避して、黒僧は不愉快そうに眉を顰める。
「黄泉の使者よ‥‥‥!」
 黒僧の呼び声に応じて空間が歪む。姿を現した数体の『黄泉の本坪鈴』が、索敵のために散ったと同時、はじめからそこに居ましたよという顔で、『彼女』はガルディエの背後から姿を現した。
「───なんだ。意外と肝が小さいらしいね、オブリビオン。器が知れるよ?」
「うぉ!?」
 思わず仰け反るガルディエに軽くウィンクして、悪の女幹部───大河・回(プロフェッサーT・f12917)はフラリと姿を顕わにした。
「回テメェ、いつの間に───」
「いやーゴメンゴメン、完全に鎧を着込んだ君はちょっとした遮蔽物並みの大きさだからね。ちょっと利用させてもらったよ」
 ニンマリと笑う回に、調子が狂ったようにガルディエが頬を掻く。しかして調子が狂ったのは、ガルディエだけではなかった。
「‥‥‥成程、思わぬ伏兵が居たものです。拙僧の動きに合わせ、死角から射撃していた、というわけですか。」
「‥‥‥アチャー、バレたか。もうこの策は通じそうもない」
「ほぅ。良く頭の回るお嬢さんのようだ。ですが───詰めが甘い」
 背後で何度目か知れない、苦悶の叫びが上がる。見れば逃げ遅れたと思しき親子の姿。喉を掻き毟り始めた母親を、幼い息子が必死に止め縋っている。その親子に向かって数体の『黄泉の本坪鈴』が、穢れた鈴の音を響かせ群がっていくのが見えた。
「テメェ‥‥‥!!」
 最早脊髄反射かという速度で、黒竜騎士の立っていた地面が爆ぜる。咄嗟に掲げた左腕に、真の姿の権能たる赤雷を纏わせた───が。
(ダメだ‥‥‥ッ!)
 親子は敵の直ぐ傍だ。感電の恐れを考慮すれば、『竜神の裁き』は放てない。敵が親子と接触するまであと二秒。どうする、いや、この場面であれば───

 リリ‥‥‥リ‥‥‥。

 ドスリ、という鈍い音と共に、穢れた鈴が一つ、地に墜ちる。
 死の恐怖の中で幼い少年が目にしたのは、『一人でに宙を舞い怪物を次々薙ぎ払う長剣』と、剣を投擲したポーズのまま全神経を集中させて『見えない何かを繰る』黒い騎士の姿であった。
「‥‥‥騎士的に武器ブン投げるのはどうかと思うけどよ。」
 どうにか間に合ったみてーだ。投擲した長剣を念動力で手元に引き戻し、黒竜騎士は親子の下へと駆け付ける。
「お、お、おっかぁが!おっかぁが!」
「わかった、落ち着け───大丈夫だ。」
 己が首を掻き毟っていた両手は先程の剣投擲時、一緒に念動力で固定化していた。
「あ、あぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
 母親と思しき女性は嗚咽を上げ、なおも自ら首を掻き毟らんと身を捩る。
「おっかぁ!」
「気をしっかり持て!悔いが有るなら生きて償う事を考えろ!ガキを───子供を遺して、先に逝くんじゃねぇよ!!」
 少しだけ、あの日を思い出す。あの終末を。その苦さを。
「‥‥‥ッ!いい加減目ェ覚ませよ、『母さんっ』!!」
 ビリビリと、空気が震える。強烈な気迫と共に叩きつけられたガルディエの言葉は、穢れた鈴の呼び起こした昏い記憶を、打ち払うことに成功したようであった。ハッとしたような顔で、母は己が息子の身体を強く抱きすくめる。
「‥‥‥もう大丈夫だな、良かった───。」
 少しだけ笑顔を見せてから、黒竜騎士は黒僧へと向き直る。転じてその双眸には悪鬼の如き、強烈なまでの憤怒が宿っていた。
「‥‥‥決めたぞ。お前は、絶対に───。」
 その三文字を吐き捨てて、黒竜騎士は刃を剥くのであった。



 時は少しだけ遡る。
「───おや。助けには入らぬのですか、お嬢さん」
 電光石火の如く走り出すガルディエを後目に、回はさも面倒そうな顔で右手をヒラヒラと振った。
「いや、私は別に人は救わんぞ。我が野望を成就する為に、単純にお前達が邪魔だから消しに来ただけだ。」
 人助けとかそういう善行とは縁遠いしな。そう嘯いて、プロフェッサーTは愛銃の『アローガン』を掌の上でクルクル躍らせる。矢張り調子が狂うとばかりに、黒僧は少しばかり表情を歪ませて───しかして数舜後には、薄ら笑いを浮かべなおしていた。
「で、あれば貴方は独りきり。はてさて多勢に無勢、どうやってこの窮地を凌ぎますかな」
 空間を歪ませて、黒僧の周囲から『黄泉の本坪鈴』たちが新たに姿を現す。その数、およそ二十体。
「うん?相手が集団ならこちらも集団で対抗する。基本だろう?」
 パチン、と。回が指を鳴らすと同時、懐かしの昭和特撮風全身タイツに身を包んだ戦闘員たちが、右手を掲げて声を上げる。その数───およそ百と五人。
「えっと、多勢に無勢、だっけ?キミはどうするんだい、オブリビオン」
「───その珍妙な張りぼての存在が酷く希薄なのを、拙僧が見抜いていないとでも?」
「これもバレてるかぁ‥‥‥ま、それでも数の暴力は有効だ。いけ、私の敵を倒せ!」
『イーッ!!』
 戦闘員たちが走り出す。『黄泉の本坪鈴』の放つ炎弾に、脆い戦闘員たちは悲しいほど簡単に爆散させれられてゆく。が───
「ま、本丸はコッチだよね。」
 戦闘員たちの陰に隠れ、或いは紛れ、回は黒僧に向けて次々とアローガンからの射撃を打ち込んでゆく。それでも殆どを回避されたが───何発かは確実に、命中していた。
「厄介ですねぇ、実に厄介‥‥‥!」
 薄ら笑いを張り付けて、朱色の瞳を凍らせた黒僧が左手を上げる。
「ですが───終わりだ。お嬢さん」
 生き残った本坪鈴たちの放つ穢れた鈴の音が、回へと殺到する。複数体の鈴の音による強烈な精神汚染。どんな些細な後悔であろうと燃え上がらせ、必ずや死に至らしめる致死の魔音。しかして抵抗する間も無く、回は鈴の音を全身に受け───まるで堪えた様子もなく、アローガンを黒僧の腹へと撃ち込んだ。
「な───馬鹿な‥‥‥!?」
「馬鹿は君だろうオブリビオン。後悔を火種に育つ感情が自傷だけだと、どうしてそう思うんだい?」
 心底理解できないと言った顔で、回はくるりと愛銃を回す。
「私の後悔は、一度生きる目的を見失ったことだ。そしてその記憶はむしろ、私に野望達成への活力を与えてくれる。うじうじ悔やむなんて時間の無駄だよ、無駄。」
「ハハ‥‥ハハハハハハハ‥‥‥!!───悪いヒトですね、貴女。」
「よく言われるよ」
 黒僧の目が本気になったのを、悪の女幹部は敏感に感じ取っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

空雷・闘真
「気に入らねぇ…あぁ気に入らねぇな」

不機嫌を通り越して怒りにまで達した表情で、闘真は自殺しようとしている町の住民達を睨め付ける。

「この程度の精神攻撃に屈して死に逃げようとするなど惰弱の極み。己の罪業位まともに背負ってみせろ、この軟弱者共が!」

そう言って闘真は【怪力】と≪神如き握力≫で握り締めた拳を振り上げる。
拳を【武器】とした【グラウンドクラッシャー】を思い切り地面に叩き付け、その爆音と振動で自殺しようとしている者達に喝を入れるつもりなのだ。

「後悔など、それこそ弱者のすることよ。俺は罪も憎悪も全てこの身で受け止め…そして死ぬまで生き抜いてみせる。それが強者たる俺の義務であり、そして【覚悟】だ」


三原・凛花
お腹の≪打撲跡≫が酷く痛む。
≪しゃれこうべ≫が私の方を見ている。
≪臍の緒≫が何だか重い。
【水子召喚】を使ってない筈なのに、子供達が出て来て私を取り囲んでいる。

私は…
この子達を守れなくて本当に悲しかったのだろうか。
心の奥底では、死んでくれて清々したなんて思っていたんじゃないだろうか。
「凌辱されて出来た子供なんかさっさと流れちまえ」って。
もしそうなら…私は最低の屑だ。

子供達が私を睨んでいる、怒っている(ように見える)。

私の中の『聖霊』が笑っている。
今の私の感情を喰らって悦んでいる。
ああ、いっそ死ねたら楽なのに、この『聖霊』のせいでそれすら出来ない。

今の私は『何も出来ない』
ただ怯えて赦しを乞うしか…



●第二幕 -6-

 鈴。
 音。
 後悔。
 啜泣。嗚咽。
 絶叫。発狂。狂笑。
 自虐。嘲笑。逃避。鬱屈。
 忘我。虚無。返我。失意。自棄。 
 自傷。再生。自暴。再生。自殺。再生。自害。再生。自決。再生‥‥‥絶望。

 ───嗚呼。私はどうして、膝をついて呆けてなどいるのだろうか。

 悔恨の念に苛まれ地を這う人々の中で、三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)もまた、泥濘に膝をついて我を失っていた。
 ───リィィィィィィィン───
 ‥‥‥鈴の音が脳髄を揺さぶっている。分かっている。これは精神攻撃だ。強制的に呼び起こした後悔の念に火を点けて、爆発延焼させるユーベルコード。分かっている。脳裏に浮かび上がった最悪の記憶の数々も、心の内に涌いたこのどうしようもなく昏い感情も、すべて敵の攻撃によるものだ。抗わなくては。戦わなければ。

 ───なんのために?

 小刻みに震える視界の中で、己が死霊魔術の媒介たる『しゃれこうべ』が、泥に塗れてカタリと嗤う。
 ‥‥‥なんのためだろう。猟兵だから、だろうか。
 下腹部の『打撲跡』が酷く痛む。あの日々を思い出せと言わんばかりにギリギリと、締め付ける様な疼痛が神経を灼く。
 …‥‥それは、閾ェ??逕溘″繧■■э蜻ウ繧定ヲ九■縺代k縺溘aだ。
 ───駄目だ。分からない。レーゾンデートルがグロテスクに文字化けしている。どうして私は、この場所に居るのだろうか。
 懐に大事にしまっていた『臍の緒』が、何だか重たい。哭いている。赤ん坊が、哭いている。赤ん坊───私の、子供たちが。
「ぁ‥‥‥。」
 ボコリ、ボコリ、と。『水子召喚』を使ってなどいないのに、湧き上がる様にして子供たちが私を取り囲む。助けられなかった、私の子。守ってあげられなかった、私の子。
 嗚呼。私は───この子達を守れなくて、本当に悲しかったのだろうか。心の奥底では、死んでくれて清々したなんて、思っていたんじゃないだろうか。『凌辱されて出来た子供なんか、さっさと───』なんて。
 もしそうなら‥‥‥私は最低の屑だ。
「‥‥‥、‥‥‥、‥‥‥、」
 嗚咽を漏らす。突き刺さるような我が子の視線を全身に受けて、少女は唯々首を垂れる。‥‥‥私の中で『聖霊』が嗤っている。この感情を喰らって悦んでいる。嗚呼、いっそ死ねたら楽なのに───『聖霊』のせいで、それすら出来ない。
「‥‥‥赦して。ごめんなさい。赦して───。」
 呟く。何度も、何度も、呟く。目の前が暗くなってゆく。無数の赤子の哭く声と、どこか歪んだ鈴の音。

 嗚呼。私は───

 凛花の精神が、絶望の底に沈む───寸前。獣の如き怒号と凄まじいまでの衝撃が、彼女を攻め立てる幻影を悉く打ち払った。



 阿鼻叫喚の地獄絵図であった宿場町の一画に、張り詰めた静寂が訪れる。突如全身を打ち据えた強烈な衝撃波に、狂奔に陥っていた誰もが、呆然と『それ』を見ていた。
 街道の一部が爆散し、巨大なクレーターを描いている。その中心に───たったの今、振り下ろした拳を引き抜いて、『それ』は怒りも顕わに屹立していた。

「気に入らねぇ───あぁ、気に入らねぇな‥‥‥!!」

 ───それは、まさしく鬼神であった。
 怒髪天を衝くとはこの事か。強烈な怒気と莫大な気迫を撒き散らし、聳え立つ一人の男───空雷・闘真(伝説の古武術、空雷流の継承者・f06727)が、最早怒りを通り越した表情で眼前の人々を睨みつけていた。
「この程度の精神攻撃に屈して死に逃げようとするなど、惰弱の極み‥‥‥!!己の罪業くらい、まともに背負ってみせろ───この軟弱者共がァ!!」
 再びの怒号に、冬の空気がビリビリと震える。一歩一歩、憤怒を迸らせて迫り来る闘真に、人々は腰を抜かして後ずさる。彼らの心中に、自害を促していた後悔は最早欠片もない。あるのは、目の前の男に対する圧倒的な畏怖の感情だけだった。
「後悔など、それこそ弱者のすることよ!罪も憎悪も全てその身で受け止めろ!!死ぬまで生き抜け!!覚悟もなしに───命を捨てるな、大馬鹿野郎共めがッ!!」
 憤怒を以て救い難き衆生を力づくで正しい道へ導くこの男は、この時この瞬間、正しく地上に顕現した明王そのものであった。叩き込まれた闘真の一喝に、後悔に惑っていた筈の人々が、弾かれた様に次々と立ち上がってゆく。その中で───なおも膝をつき虚空を見上げる少女の姿を、闘真はその目に認めた。

「───三原、凛花。」

 泥雪を踏みしめて、闘真はその名を口にする。幾度も戦場で肩を並べ、その背を預けた規格外の死霊術師の、その名前を。
「───空雷、さん‥‥‥」
 呆けた様に呟いた凛花の胸倉を、闘真がグイと掴み上げる。痩せた少女の身体は、驚くほど簡単に宙に浮いた。
「‥‥‥なんて顔、してやがる。」
「‥‥‥、‥‥‥空雷さん。私は、私は───」
 どうすればいいの?と。そう問うた凛花の瞳は、未だ昏い虚空に惑っていた。喉まで出かかった怒声を押し止め、闘真は努めて静かに告げる。
「‥‥‥俺は、罪も憎悪も受け止める。それが強者たる俺の責務だ。お前は───どっちだ?」
 言葉以上に、その瞳が問いかけていた。ドサリ、と凛花の身体が落ちる。
「‥‥‥思い出せ。お前の、最も強い『思い』を。何を犠牲にしてでも叶えたかった、他でもないお前自身の『願い』を。思い出せ。俺は先に行っている───。」
 そう言い残して、歴戦の武人は踵を返す。泥濘の中でただ一人、少女は降り注ぐ雪の花を眺めていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

如月・遥
『てぶくろ』で連携するよ。

まずは住民を沈静化させないと。
丁度いいって言ったらアレだけど、至る所で『負の感情』が湧いている。
【魔王の心臓】は負の感情に反応して血管を飛ばす。
血管を触手代わりに、【手をつなぐ】で自殺志願者達をどんどん捕まえてくよ。

元気な自殺志願者に対しては、≪記憶消去銃≫で直近の記憶を消して落ち着かせる。
怪我人に関してはキキの【アニプラズマヒール】に任せるけど…
キキは相当疲れる筈だから、【鼓舞】で元気づけてやらないと。
【サモニングティアーズ】でホルスタイン牛のモー美を呼んで、新鮮な牛乳をキキに飲ませてもいいかも。

私には守る者がある。
だから…後悔なんてしてる暇はないんだよ!


キキ・ニイミ
『てぶくろ』で連携するよ。

とにかく今は傷付いてる町の人達を何とかしないと。
急いで処置すれば助かるかもしれない。

遥さんが【魔王の心臓】で集めてくれた怪我人を、【アニプラズマヒール】で纏めて治療するよ。
複数同時治療は凄く疲れるけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
【祈り】で疲労を押し殺して、何としても皆助けるよ!

後悔してることは…そりゃあるさ。
人間じゃないボクが、人間を好きになってしまったこと。
それはきっと凄く罪深いことなんだろうと思う。

だからこそ、ボクは人間を助けるんだ。
いつかまたあの人に会えた時に、誇らしく胸を張れるように!



●第二幕 -7-

 猟兵たちの奮闘によって、次々と『黄泉の本坪鈴』たちが殲滅されてゆく。一方で狂奔する人々もまた、彼らの手によって徐々に正気に戻りつつあった。
「こいつはあんまり使いたくないんだけど───ねっ!」
 ドクン、と。自身に寄生したUDCオブジェクト『魔王の心臓』が、鼓動と共に無数の血管を放つ。その絵面の醜悪さに顔を顰めつつ、如月・遥(『女神の涙』を追う者・f12408)は自殺志願者たちを次々と拘束していった。
「な、なんだいコレ!?放しなよっ!アタシは、もう───」
「逃げても無駄だよ、『魔王の心臓』は負の感情に反応する。あなた達がその根暗な考え方を改めない限り、どこまでも追いかけて捕まえる‥‥‥!」
「こ、殺して───」
「出来ない相談だ!」
 記憶消去銃から放たれた光線が、拘束された自殺志願者の意識を吹き飛ばす。これで一時間以内の記憶は消えた筈だ、後悔のモトは消えずとも、狂気に陥ることはないだろう。
「───キキ!怪我人の具合は?」
「大丈夫だよ遥さん、みんな無事!」
 遥の声に応えて、相棒のキキ・ニイミ(人間に恋した元キタキツネ・f12329)が笑顔を返す。その様子に安堵したのも束の間、キキの額に浮いた尋常でない汗の量に、遥は思わず駆け寄った。
「ちょ、ちょっとキキ!あなたの方は大丈夫なの!?」
 血相を抱えてキキの手を握れば、伝わってくる細かな震え。よく見れば笑顔を浮かべたその顔も、疲労の色が濃く浮き出ていた。
「だ、大丈夫だよ遥さん。少し、ほんの少し疲れてるだけだから‥‥‥!」
 慌てて取り繕うキキに、遥は厳しい表情を浮かべる。疲労するのも当然だろう、キキは自身の力の源であるアニプラズマを癒しの力に変換するユーベルコード『アニプラズマヒール』を、遥が拘束した怪我人全てに行使し続けて居るのだから。
「だ、大丈夫なわけないだろう!?やっぱり土台無茶だったんだ、一度休憩を───」
「ダメっ!」
 強い口調で遥の言葉を遮って、キタキツネの少女は金色の瞳を相棒へと向ける。
「ボクだけ休んでるわけにはいかないよ!それに疲れてるのは、遥さんだって同じでしょう?」
「キキ‥‥‥。」
 金色の瞳に宿る確固たる決意に、遥はギュッと唇を引き結び───溜息を一つ吐いて、困り顔で笑った。
「まったく‥‥‥こうなったら強情だもんね、キキは。はい、これ。」
「え───?」
 遥から手渡されたのは、一本の牛乳瓶だった。
「モー美からだよ。急場だけど、さっき拵えてもらったんだ。」
「モー美が‥‥‥?」
「うん。忘れないで、みんながキキの事を応援してる。もちろん、私もね。」
「───うんっ‥‥‥!」
 友人たちの気遣いに心から感謝して、キキは一息に瓶の中身を飲み干す。新鮮な牛乳が全身に活力を漲らせ、身体の奥底から力がふつふつと湧き上がってくるのを、キタキツネの少女は感じていた。
「何としてでも、みんなを助けよう」
 力強く頷き合って、二人の少女は怪我人たちのもとに赴く。



「痛ェ、痛ェよぉ‥‥‥!」
「あ、足が‥‥‥畜生、どうして俺は、あんな───」
「‥‥‥。‥‥‥。‥‥‥。」
「おとう!しっかりして‥‥‥!」
 遥が拘束した自傷行為の犠牲者たちは、依然として相当な数にのぼっていた。それだけではない、治療の噂を聞きつけて、町中から怪我人たちが押し寄せてきているのである。
「‥‥‥遥さん。」
「うん。キキ、手を。」
 少しだけ震えるキキの右手を、遥の左手がキュッと握りしめた。なんだか繋いだ手から勇気が流れ込んでくるような気がして、キキは迷わず声を張った。
「───みんな、大丈夫だよ。きっと、きっと治してあげるから‥‥‥!」
 決意を新たにしたキキの身体から、強力なアニプラズマが輝きとなって溢れ出す。それは彼ら怪我人の瞳に、正しく希望の光として焼き付く光であった。
「最初から全開でいくよ‥‥‥!『アニプラズマヒール』!!」
 目も眩むような強烈な輝きが、金色の少女から迸る。春の暖かな日差しを思わせるその光は、殺到する怪我人たちの傷を次々と癒し、苦痛を拭い去ってゆく。
「く、ぅ‥‥‥っ!!」
 凄まじい勢いで流れ出していくアニプラズマと、徐々に白く染まっていく視界。遥と繋いだ右手の感覚だけが、なんとかキキの精神を繋ぎとめている。
「ぅ、ぅ‥‥‥ぁ‥‥‥!!」
 ふと、あの日のことを思い出す。あの人に出会った、あの場所を。時が止まったような気さえした、あの瞬間を。
 ───あぁ、そうだ。後悔してることは‥‥‥そりゃあるさ。人間じゃないボクが、人間を好きになってしまったこと。それはきっと、凄く罪深いことなんだろうと思う。
「ぅ、ぅ───!!」
 ───だからこそ、ボクは人間を助けるんだ。いつかまたあの人に会えた時に、誇らしく胸を張れるように。キミが、キミのことが───だって、言えるように‥‥‥!!
 ギュッ、と。右手が、強く握られた。
「───ぅぅぅぁぁぁぁああああああああああ!!!!」
 かつてキタキツネだった少女が咆える。限界まで放出された癒しの輝きが、辺り一帯を眩く照らし出し───苦痛に喘ぐ人々の傷を、完膚なきまでに癒し尽くして見せる。
「キキっ!!」
 ふらりと倒れ込む少女の身体を、遥が両手で受け止めた。顔色は紙のように真っ白で、呼吸も酷く浅くはあったが───キタキツネの少女は満ち足りたような顔で、譫言のように呟く。
「へへ‥‥‥これで、あの人に‥‥‥胸を張って会えるかなぁ‥‥‥?」
「───うん、うんっ。勿論だよ、キキ‥‥‥!」
 遥の言葉に満足げな笑みを浮かべて、キキは暫し気を失った。
「キキっ!?‥‥‥、‥‥‥、大丈夫、か。良かった‥‥‥。」
 命に別条がない事を確認し、遥が安堵の溜息をつく。見渡せば、苦痛から解放されたことで人々の顔に、少しずつ気力が戻り始めているのが見て取れた。
「‥‥‥お手柄だね、キキ。」
 誇らしい気持ちで親友の頭を撫でつつ、遥が笑みを浮かべた───その瞬間であった。

 ───リン。

 ───リン。

 ───リン。

 ───リン。

 空から降り注ぐようにして、再び鈴の音が鳴り響き始める。見上げれば凍空に円を組み、生き残った本坪鈴たちがその身を震わせていた。慌てて耳を塞ごうとして、遥はすぐさまその変化に気が付く。
「‥‥‥なんとも、ない?」
 鈴の音は心を掻き乱すことなく、ただ規則的に鳴り響いているだけであった。先程まで『黄泉の本坪鈴』が放っていた精神汚染攻撃とは、趣を異にする鈴の音。螺旋を描くその鈴の音は、どこか荘厳さすら覚える。
 
 ───リン。

 ───リン。

 ───リン。

 ───リン。

 不安そうに空を見上げる人々にも、目立った影響は見られない。先程までの鈴の音とは違い、実害はないようだ。だというのに。だと、いうのに───
「やめて‥‥‥やめてっ‥‥‥!」
 胸中で膨れ上がる凄まじいまでの『厭な予感』に、気が付けば遥はそう呟いていた。
 何だ、これは。何だ。何かが、何かが───『鈴の音目掛けてやって来る』。

 ───リン。
 ───リン。
 ───リン。
 ───リン。

 鈴の音の感覚が短くなる。鼓動が早い。来る。何か、途轍もなく『悪いもの』が、来る。

 ─── ヲ ン ───

 何かが静かに開いたその音を、聴いた気がした。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『黒幕の助言者』

POW   :    死灰復然(しかいふくねん)
【Lv体の武者】の霊を召喚する。これは【刀】や【弓矢】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    含沙射影(がんしゃせきえい)
【無数の影の刃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    電光雷轟(でんこうらいごう)
【錫杖】を向けた対象に、【激しい雷光】でダメージを与える。命中率が高い。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠犬憑・転助です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 
●幕間

 ───リン。

 ───リン。

 ───リン。

 ───リン。

 炎上する町並みに、火の粉と雪片とが舞い踊る。突如として凍空に螺旋を描く『黄泉の本坪鈴』の群れに、朱色の瞳が瞳が弧を描いた。
「───さて、遊びは終わりと致しましょうや」
 猟兵たちと打ち合いを続けていた黒僧はそう言うなり、ふわりと民家の屋根に飛びずさる。降り注ぐ鈴の音に唇を歪め、黒僧が静かに西の空を錫杖で指し示した。
「‥‥‥刻限です。是よりは生者の歩む真昼に非ず。死者の這いずる暗夜也。はてさて今宵は啓蟄の候。本来は冬籠りをしていた蟲が這い出す春の前触れの日ですが───この穢れた土地において、這い出すのは蟲だけではない。」
 じわり、じわり、と。足下に滲みだした薄黒い靄に、数人の猟兵が訝し気な顔を向ける。踝を浸して揺らぐ其れは、一見して背の浅い湖面を思わせた。しかして其れは靄に非ず。さりとて夜気にも非ず。街道を、路傍を、路地裏までもを覆い尽くす其れは、幽世から滲み出す瘴気に他ならなかった。

「‥‥‥!」

 一人の猟兵が声を上げる。瘴気から這い出る様にして、酷く朧げな影法師が次々と、その姿を顕わしはじめていた。フラフラと頼りない指先からはしかし、底冷えするような『死』の気配が漂っている。
「さぁ‥‥‥這い上がるのです、地獄の亡者たち。時は充ちました───壊れかけの忌々しい『蓋』を、無尽の絶望にて砕きましょうや」
 
 ───リン。

 ───リン。

 ───リン。

 ───リン。

 鈴の音に呼応して、無数の亡者が瘴気からその身を起こす。炎上する町並み。降りしきる雪の帳。蠢く亡者の軍勢。酷く悪夢じみたその光景に、しかして更なる絶望の影が産声を上げる。

「───嗚呼。」
 
 ───リン。
 ───リン。
 ───リン。
 ───リン。

「漸くして御出ましか、『我らが神』よ‥‥‥!!」

 ─── ヲ ン ───
 
 地獄の蓋を突き破り、『ソレ』は天高く伸び上がる。白い闇をドス黒い瘴気で穢して屹立するその威容に、誰もが一様に言葉を忘れた。
 其は罪人を縛る『朽ち縄』にして悪逆を呑み干す『蟒蛇』。この世界の神話に語られる、数多生まれし神々の一柱。黄泉から戻った父より生まれ出でた、穢れの神にして災厄の神。ありとあらゆる穢れと悪逆を司り、同時にあらゆる穢れと悪逆を憎む、根底から破綻した神。
 その名を───

「八十禍津日神‥‥‥!!」

 這い出づる大怨、ヤソマガツヒノカミ。蛇体として顕現した災厄の具現は、東西の山も斯くやと言わんばかりの巨体をもたげ、赤黒く濁った瞳を見開いた。
「‥‥‥是なるは具現化した無間地獄の現身。地上に真なる地獄を齎す救済の神。なに、心配はいりませぬ、現世も幽世も地獄ならば、そもそも惑う必要がないでしょう‥‥‥?」
 強烈なまでの悪意と狂信。裂けるほどに唇の端を歪め、黒僧はその瞳を猟兵たちへ向ける。

「───この町に朝(みらい)はない。さぁ、始めましょうか、猟兵の皆々様‥‥‥!!」

 亡霊の軍勢と屹立する災厄を背に、黒僧は高らかに哄笑を上げるのであった。


※マスターより第三幕の補足
 お待たせいたしました、『鈴の音は熾火の如く』最終章、開幕です。
 この章における主な戦場は以下の四つとなります。

①黒僧と亡霊の軍勢の攻略
 無数に湧き出す死者を従えた黒僧との戦闘です。亡霊は基本的に、生者を自らの仲間にしようと行動します。黒僧を倒した時点で、依頼の判定自体は【成功】となります。

②八十禍津日神の攻略
 地獄より顕現した邪神との戦闘です。耐久力、制圧力共に規格外の数値を誇ります。穢れに反応する習性をもち、基本的には町の住人を優先して狙います。

③生き残った住民の避難
 町中に散った、住民たちの護衛と避難誘導が主となります。避難先は町はずれの寺院です。猟兵たちの尽力により、殆どの住民が正気を取り戻しています。

④寺院防衛線
 住職が強力な結界を張り守護している、避難所の防衛が主となります。住民の避難が終わり次第、①と②は寺院への侵攻を開始します。
  
 戦場にとらわれず、自由にプレイングしていただいて構いません。
 基本的には『朝日が昇るまで』持ち堪えれば亡霊の軍勢・八十禍津日神は共に地獄へ退去します。また、『なんらかの方法で人々に希望を抱かせる』ことに成功すれば、地獄の蓋の強度が上昇しその数値分だけ敵の戦力が低下します。ご一考ください。
 最後に。住民の生死、町の存続は依頼の成功・失敗には関わりません。皆様のプレイングをお待ちしております。
ミアス・ティンダロス
『邪神』と『狂信者』、ですよね。まさかこの世界にも……
ならば、僕のやるべきことは1つだけ。
『真の共存』に至るため、この世を荒らす悪意を払うだけです。
一緒に行きましょう――翼の貴婦人さん!

ビヤーキーと共に真の姿を解放します。
自分は特に変わったところないが、胸元の黒曜石に白き炎が灯され、それを囲むように歪んだ五芒星が浮かび出します。
ビヤーキーはより大きくなり、六枚の翼の姿になります。
それから、八十禍津日神を牽制し、住人達を庇おうと動きます。UDCであるビヤーキーはそもそも穢れそのものに近い、邪神に狙われやすいかもしれません。
住民達の避難が終わり次第、避難所の防衛または黒僧の攻略へ向かいます。


シャイア・アルカミレーウス
朝はないだって?だったら僕たちがその朝を作ってやろうじゃないのさ!

(pow)真の姿を開放・戦場2
「無色多職の夢幻未来」で「魔法使いの私」を呼び出すよ!
「魔術師の咆哮」の制御を私に任せて、「勇者の心得」で魔法攻撃力を強化して僕はありったけの魔力を注ぎ込むよ。
真っ暗な雪空の真っ暗な神様に、絶望してる人だって思わず上を向くようなでっかい太陽、名付けて「魔術師の陽光」(ウィザードリィ・フレアマギア)をぶつけてやるんだ!

「勇者の心得その50!冒険は最低でもハッピーエンドで!みんな昨日なんかに負けるな!死にたいほど苦しいなら、僕たちが作る明日で、苦しい時に優しくできる人に生まれ変われ!」


エスタシュ・ロックドア


神を相手取るたぁくっそ心惹かれるんだが
亡者とかどう見ても俺の仕事だな
畜生!

亡者共にゃこれ以上娑婆の空気は吸わせねぇ
指笛でシンディーちゃんを呼び【騎乗】【操縦】
『ブレイズフレイム』でスカーレット・フレアドレスに点火
火炎弾になりながら【ダッシュ】の高機動で亡者共を囲う様に【範囲攻撃】
業火の壁で行動を阻害するぜ
ついでに町の火災も上書きして俺の配下に置けねぇかぁね
火は味方を傷付けない様調整するわ
それでも突っ込んでくる亡者は【怪力】【なぎ払い】【吹き飛ばし】載っけたフリントで折檻な

隙あらば黒僧は轢く、業火の車輪で念入りに轢く
なーにが現世も幽世も地獄だこの野郎
余計な仕事増やしやがって生臭坊主が!


セイス・アルファルサ
誘導にも時間がいる。
だから僕は夜明けまでの時間を稼ぐとするよ

人に希望を持たせるのは人形(僕)じゃない。ヒトの言葉が行動が魂へ火を灯す
何、君達ならできるさ

邪神の姿を認識したらすぐに人形達をこちらへ戻し【エラーコード】による真の姿の解放と【リンクコード】で僕と【封印を解いた】イダーデと複製を含めた人形全てを合体させる
現れるは赤い燐光を身に纏わせた巨大竜

空中から【タキオン属性】の【衝撃波】で注意をこちらに向けさせて敵の行動から町を守る為に身を持って【庇う】よ
敵の動きを【見切り、フェイント】による誘導
時間が経てば経つほど敵の行動を【学習】し、【戦闘知識】と合わせてより長い間【時間稼ぎ】ができるよね


セリエルフィナ・メルフォワーゼ
やっぱりボクの読みは正しかった。
あいつが何より恐れていたもの、それは皆の「生きる希望」だ。

なら尚更、あいつに邪魔されて中断してたライブを再開させないと!

その前にまずは避難誘導だね。
背中の翼と【空中戦】で空を飛んで、町の人達を寺院まで先導するよ。
暗闇でも見えるように【オーラ防御】で発光して【存在感】を出しておくね。

そして皆が寺院に集まったら、スペシャルライブ開催だ!
【オーラナイトダンサー】をバックダンサーにして、【歌唱】【パフォーマンス】【シンフォニック・キュア】と、ボクの持てる全てを使って皆を楽しませるよ!
お寺でこんなことするのは罰当たりな気もするけど、仏様も今回だけは勘弁してくれるよね?


ガルディエ・ワールレイド
穢れを好むなら見せてやるよ。
死を呼び続けた赤き雷の災厄が持つ業を。
荒ぶる太古の神の気配を!

開けた場所で【黒竜嵐装】使用
八十禍津日神を引きつけながら戦い避難や寺院防衛を助けるぜ。奴に対抗出来る事を示して希望を齎す。
敵は今の俺よりも更に巨大だが、やりようは有る
《空中戦》によるヒット&アウェイが基本。
全ての攻撃に《怪力》《衝撃波》が乗り、纏う雷は《属性攻撃》と化す。
爪の《なぎ払い》を蛇身の胴体へ、また頭部へ《踏みつけ》気味の蹴りも。

一般人や仲間を《かばう》為なら牙の《生命力吸収》で正面激突も視野に

切り札は《全力魔法》《衝撃波》《属性攻撃》でのドラゴンブレスだが、他所に被害が出ねぇよう射線に気を使う


キキ・ニイミ
『てぶくろ』で連携するよ。

ダメだ…
疲れ切ってまともに歩く事も出来ない。
戦うのは無理となると、今のボクに出来るのは…

さっき同様【バトルキャラクターズ】で動物達を出すよ。
と言っても、今のボクは動物を操って芸をさせる力も残ってないから、遥さんの≪犬笛≫に任せるよ。
一度に18体までなら同時に出せるから、珍しい動物をたくさん出して皆を楽しませよう。
ここをちょっとしたバーチャル動物園にするんだ。

最後に、皆が『希望を抱ける』ように【祈り】を捧げておくよ。
きっと人それぞれ色んな事情があるんだろうけど…
少なくとも生きてさえいれば楽しいことだって必ずある。
これだけは人間じゃないボクでもはっきりと断言出来るから。


如月・遥
『てぶくろ』で連携するよ。

まずはキキと町の人達を避難させないと。
【サモニングティアーズ】でトナカイのカナコを呼んで、皆を乗せたソリを引かせて寺院まで運んでもらおう(トナカイは雪原を時速80キロで長距離移動する)。
丁度ここは雪国だしね。

寺院ではキキがバーチャル動物園を作るってことだから(全く、無理せず休んでればいいのに)、私もそれに協力しないと。
≪アーク・パーク飼育員用犬笛≫を使って動物達に芸をさせつつ、飼育員らしく【コミュ力】で動物解説もしてみよう。
それと一緒に【優しさ】で住民を励まして、尚且つ『希望を抱かせる』為に【鼓舞】もしてみよう。

キキの必死の頑張りを、絶対無駄にはさせないよ。


メタ・フレン
この世で最も希望を抱かせるものなんて、美少女以外あり得ません!

というわけで【バトルキャラクターズ】で美少女を23人出し、住民を寺院に避難させます。

そしてここからが本番!
①23人をアイドルグループにし、境内でライブを開き、歌って踊らせる。
②曲は【情報収集】でDLし、≪ゲームデバイス≫から大音量で流す。
③【レプリカクラフト】で(チープでもいいので)サイリウムやクラッカーをありったけ作り、住民達に配って一緒に応援させる。
④演出として、炎の【属性攻撃】と【衝撃波】で花火を打ち上げ。

天岩戸神話の通り、皆で不幸を笑い飛ばして太陽を呼び寄せてやりますよ!

あ、終わったらちゃんと境内を【掃除】しておきますね。


大河・回
ほう、元からあった下地を利用して労力少なく事を成したのか。オブリビオンでなければ配下に勧誘したい所だな。

いや待てよ、そもそもなぜ私が黒幕の優男と最前線で戦っているんだ。私はもっとこう後ろで指示を出したりするタイプだったはず、他の猟兵も多分来るな……おっと、急用が入った!残念だがグッバイ、優男!悪の幹部は戦うべきでない時の撤退は素早いんだ!

その後は姿を隠してドローンを飛ばして八十禍津日神を情報収集
試作型衛星砲を召喚しておき寺院への進行を阻止する為の攻撃を行おう
町の住人などどうでもいいのだがやられるとなにか影響が出るかもしれんし
手間にならない範囲でなら逃げる援護もしてやろう

※アドリブ歓迎


鏡島・嵐
判定:【WIZ】
③生き残った住民の避難を手伝う。
UCは状況に応じて使用。

町の人には、言っておきてぇことがある。
おれは――弱ぇ、ただの人間だ。だからアンタたちの気持ちは想像できねぇ。
罪を犯すほどの絶望なんて知らねえ。誰かを蹴落とすほど何かを渇望したことも無ぇ。ずっと罪悪感に苛まれる苦しさもわからねぇ。
でも、だからこそ! おれはハッピーエンドを望んでるんだ! 臆面も無く、恥知らずって言われても! 凡人だからこそそれを願い、努力するんだ!
だから……アンタたちには今まで通り、頑張って前向いて生きていってほしい。
諦めねぇでほしい。これは猟兵としてじゃねぇ、一人の人間としての、ごく個人的な願いだ。


彩瑠・姫桜
③生き残った住民の避難を中心に
もし余力があるなら④の支援をするわね

【血統覚醒】とともに真の姿を解放するわ
真の姿は血統覚醒時に変身するヴァンパイアの姿と変わらないけれど
通常時よりも力を増してる事は自分でもわかるから
多少の無茶もできるはず

先に茶屋の親子を、そしてその近隣の住民を
見かけ次第寺院へ避難するよう声かけながら誘導するわね
先導はシュバルツにお願いし、私はできる限り殿として
背中からの攻撃に備えて住民の後ろを守るわ
必要なら積極的に【かばう】わね

未来は、誰かに決めつけられるものじゃない、自分で決めるのよ
自分の事は自分でしか救えないんだから
私も諦めないし、頑張る
だから、皆も一緒に頑張って、生き抜くの


リューイン・ランサード
②八十禍津日神の攻略

(八十禍津日神を見て)危ない!恐くて漏らしてしまう所
でした<汗>。
僕がどうこうできる相手じゃないけど、せっかく助けた人達が
死ぬのは嫌です。
と泣きそうになりつつ戦う。

トリニティ・エンハンスによる水の魔力で攻撃力強化。
翼で空を飛んで『空中戦』。

八十禍津日神は禊によってイザナギから分離したので、
『水の属性攻撃、破魔、全力魔法』による清らかな高圧水流
で八十禍津日神の穢れを流して弱体化狙い。

防御は『空中戦、第六感、見切り』で攻撃を躱し、
受けた時もビームシールドの『盾受け』と『オーラ防御』
で凌ぐ。

できるだけ自分に注意を向けて寺に向かわせない。
他の猟兵が罠作ってたら誘導する。

連携歓迎


ステラ・アルゲン
【ヤド箱】の四人で

この街に隠されていた謎はとんだ大物だったようだな。まさか神とは
だが神だろうがこの街の脅威に変わりないな

しかしまさか知り合いに巡り会えるとは頼もしい限りだ
丁度先の戦闘にて魔力を消耗したのもある
だから前線に出ず私は寺院にて防衛戦に回る

敵にはフェイントを織り交ぜた攻撃を用いて2回攻撃のなぎ払いで纏めて倒す
攻撃は見切り、武器受け。受けそうならオーラ防御

生きたいと願うならその願いを全力で叶えよう
私は流星の剣。人の願いを叶える剣だ
だから願え。あなたたちの未来を、この街の未来を願え

残りの魔力と仮初の体を維持する力さえ行使して全力魔法にて流星雨
願いを乗せた流星を神と黒幕に落としてくれよう!


ペイン・フィン
【ヤド箱】で参加

友の危機を察知して、やってきた、よ。

それにしても、破綻した神……ね。

コードを使用。
地獄からあふれ出る、苦しみ死んでいった者の怨念を。
死に怯え、苦しみ、今なお虐げられる者の憤怒を。
そしてそれらの、悲劇に対し無力な者の悲哀を。
制御仕切れないそれを、それでも身に宿し、神に挑む、よ。
穢れに反応する習性が在るなら、死者の怨念と、生者の憤怒、悲哀を宿した自分は、さぞ汚れているだろうね。
なるべく自分が狙われるように立ち回って、防御優先に戦うよ。

自分は、100年、人の指を潰してきた。
そしてそれを嫌悪し、しかし、歓喜してきた。
“指潰しのヤドリガミ”
……皮肉だね。自分もまた、破綻したカミだよ。


出水宮・カガリ
【ヤド箱】指潰しの(ペイン)と、ステラと、ファンと

はっはっは、守りは城門の仕事だ こちらは任せろ、流星剣!

指潰しのが、頑張ってくれている
汀の脅威を押し留めるのが城門の役目だが…今は、優先すべき事がある

ファンと協力して街中へ
【鉄門扉の盾】に破魔の力を宿し、更に【不落の傷跡】【拒絶の隔壁】で強化して住人への脅威を退けつつ、逃げ遅れている住人を見つけファンに任せる
【希烽城壁】を展開して、目を凝らしながら(視力)探すな
一通り避難が済んでいる所や、建物が込み入っている所、邪神や亡霊の攻撃が向く先を重点的に

誰か、ここにいるか!
声を出さなくていい、助けてくれと、ただ願え!
必ず助けてやる、諦めるな!(鼓舞)


ファン・ティンタン
【ヤド箱】で参戦

戦況が急変したって聞いたから駆けつけてみたけれど…
何かヤバイモノが出たみたいだね
詳細は知らないけど、手伝えること、やっていこうか

道中【力溜め】をしつつ、カガリ(f04556)と協力して住人の避難へ
捜索の術はカガリに任せ、自分は見つけた住民を落ち着かせ、収容する
【コミュ力】と【優しさ】を駆使して住民を落ち着かせ、話を聞ける状態を作る
説得の上で【緑の夢】に収容、安全に寺院まで送り届ける

貴方達を助けに来たよ
私達は、街で奔走してた人達の仲間
この翡翠輝石に触れば安全な場所にいける
出ようとせず、私の合図を待ってね

寺院についたら結界維持を補助
住職へ道中溜めた力を与えつつ【鼓舞】
頑張れ、頑張れ


空雷・闘真
「下らん茶番にうんざりしていたところだが…やっと面白くなってきやがった」

八十禍津日神を見上げ、闘真の表情は怒りから凶暴な笑みに一変する。

「邪神などとは違う、本物の神話の神…血が滾るぜ」

闘真は【宇宙バイク】に【騎乗】し、八十禍津日神に向かってフルスロットルの【ダッシュ】で突進する。

「まるで八岐大蛇に立ち向かう素戔嗚にでもなった気分だぜ。尤も俺は酒で眠らせるなんて姑息な真似はせんがな」

【宇宙バイク】を武器とし、【捨て身の一撃】を用いての【グラウンドクラッシャー】。
即ち肉弾。
闘真は己の五体を、そのまま神へと突貫させるつもりなのだ。

「ドン・キホーテで終わるか、素戔嗚になるか。試させてもらうぜ、神よ!」


三原・凛花
自分のやりたかったこと…やっぱり分からないや。
けどたった今、やりたいことが出来た。

今ここで最も穢れているのは間違いなく私。
【誘惑】【かばう】で八十禍津日神の狙いを私一人にして、黒僧の元まで【おびき寄せ】る。
八十禍津日神と黒僧が接近したら、【大罪喰らい】で私の憤怒を喰わせて活性化。
私が直接黒僧を抑え込み…私ごと黒僧を八十禍津日神に喰わせる!

そして【激痛耐性】で耐えつつ、体内で全力の【呪詛の篝火】を使う。
何度願っても私を助けてくれなかった神様に「私は今までこんなに辛かったんだぞ!」って教えてやるんだ。

今の私の願い。
それは神様すらにも、頭を下げさせてやることだ!
私の一世一代の八つ当たりを受けてみろ!



●第三幕 -1-

「な、な───なんですかアレはあああああああああああ!?」
 東西の山も斯くやと言う八十禍津日神の巨体を目の当たりにしたリューイン・ランサード(今はまだ何者でもない・f13950)の悲鳴が、炎上する町へと響き渡る。
「あ、危ない漏らす寸前だった‥‥‥!あんなのと戦うんですか!?」
「‥‥‥戦うしかないよ。アレを放っておいたら、住職の言った通りこの町は終わってしまう‥‥‥!」
 半泣き状態のリューインの隣で、ミアス・ティンダロス(夢を見る仔犬・f00675)が額の汗をぬぐう。『邪神』そして『狂信者』───故郷のUDCアースで幾度となく対峙してきた、世界を荒らす悪意。ミアスの望むUDCとの『真の共存』の為には、決して避けては通れない相手だ。で、あれば───
「僕のやるべきことは一つだけ‥‥‥!行こう、翼の貴婦人さん!」
 ミアスの胸元の黒曜石に、純白の焔が宿る。同時に浮かび上がった歪んだ五芒星が、彼を根底から別の生き物へと書き換えてゆく。
「真の姿‥‥‥!?」
 リューインの驚いたような声に、ミアスはコクリと頷いた。真の姿の開放によって、更なる異形化を成した翼の貴婦人───『星間の駿馬』が、高らかに嘶き声を上げる。
「君はどうする?リューインくん」
「ぅ───」
 ミアスの問いに、竜人の少年は暫し言葉に詰まった。
 どうしよう。怖い。当たり前だ。相手は下手すれば山よりも大きな怪物、もはや戦う戦わない以前に、自分にどうこう出来る気がしない。息が苦しい。自分のちっぽけさを、否応なしに理解する。自分は、自分は───

「‥‥‥あ、あのっ」

 背中越しにかけられた言葉に、ハッとして振り返る。先ほどリューインが井戸から助け出した、町娘であった。今にも恐怖の底に沈んでしまいそうなギリギリの表情で、少女はリューインを見つめる。
「‥‥‥も、もう、駄目なんでしょうか‥‥‥やっぱり私たち、今まで悪いことしてきたから───これは、天罰なんでしょうか‥‥‥!」
 見れば、ミアスと二人で助け出した人々も、皆一様に不安げな顔で聳え立つ蛇体を見上げていた。
「‥‥‥っ!」
 瞬間、理解する。みんな怖いのだ。否、自分たち猟兵のように力がない分、彼ら彼女らの方が、何千倍も怖いのだ。
「私たち、みんな、ここで死───」

「大丈夫っ!!」
 
 気が付けば、そう宣言していた。心中に湧き上がる「言ってしまった」という後悔を蹴り飛ばし、竜人の少年はやせ我慢も顕わに声を張る。
「君たちは死なないし、あの怪物も僕らが倒す‥‥‥!だから、だから───諦めないでください。せっかく自死から踏みとどまったんです、明日(みらい)を夢見なきゃ、嘘でしょう‥‥‥!!」
 半ば自分に言い聞かせるようにして、リューイン・ランサードは竜翼を広げる。
「‥‥‥ミアスくん」
「うん。まずは彼らを、安全な場所に避難させましょう。きっと、ご住職の居るあの寺院なら安全なはずです。」
「えぇ。彼らを送り届けるまで───」
 二人の少年は、決意も新たに拳を握る。

「「指一本触れさせやしない‥‥‥!!」」

●第三幕 -2-

「遥さん、その先は亡者が群れてる!次の角を右に曲がって!」
「了解!カナコ、そこの角を右だよ!」
 泥雪を蹴散らして、燃え盛る町並みに蹄の音が木霊する。上空から指示を出すセリエルフィナ・メルフォワーゼ(天翔ける一輪の君影草・f08589)の声に従って、如月・遥(『女神の涙』を追う者・f12408)は己が友人たるトナカイのティアーズにそう告げる。大型の雪ぞりにありったけの人員を乗せて、トナカイのカナコは雪上を時速80キロで駆けていた。
「キキ、身体の具合はどう‥‥‥?」
「あはは‥‥‥まだ少し、しんどいかも」
 親友の遥の問いに、キタキツネの少女、キキ・ニイミ(人間に恋した元キタキツネ・f12329)が弱々しい笑みをソリの上で浮かべる。先の戦闘で凄まじい数の怪我人をユーベルコードで治療した彼女は、もはや立っているのもおぼつかない程に疲弊していた。
「‥‥‥待っててね。出来るだけ早く避難場所まで到着できるようにするから‥‥‥!セリエルフィナさん、次はどっちの方向!?」
「今はそのまま真っすぐ進んで!」
 降りしきる雪の中、銀翼を広げてセリエルフィナは町を見渡す。炎上して倒壊した家屋に塞がれた道や、無視できない数の亡霊が涌いている道を避けて寺院へ到達するのは、一筋縄ではいかない道程であった。
「‥‥‥何としてでも皆を、安全な場所まで送り届けないと‥‥‥!」
 淡いオーラの燐光を纏って遥たちを誘導しながら、セリエルフィナは独り言ちる。
 どうやら自分の読みは間違っていない。『潜伏場所が特定されていない』という絶対的なアドバンテージを捨ててまで、黒僧がこの町に姿を現した理由。姿を隠して暗殺するのではなく、わざわざ自分たちのライブを中断させるために目立つ行動をしたのは何故か。
「あいつは恐れてるんだ‥‥‥この町の人々が『生きる希望』を取り戻すことを‥‥‥!」
 そのためにも、まずはこの状況を打破しなければ。冷たい風を切り裂いて、銀翼の踊り子は白い帳に目を凝らす。凄まじい速度で走る雪ぞりに追い縋る様にして、影の如き無数の亡者が彼女たちに近づきつつあった。
「マズイ‥‥‥!遥さん、200メートル先の角を左!そこからなら寺院まで一直線だから、全速力で駆け抜けて!」
「角を曲がればラストスパートか‥‥‥了解だよ!行こう、カナコ!」
 慣性の法則を極限までコントロールした、急激な方向転換。追い縋る亡者の群れを振り切り、住民たちを乗せた雪ぞりが炎上する町を駆け抜ける。降りしきる雪の向こう側、漆喰の壁に囲われた寺院の山門が、微かに姿を見せていた。
「‥‥‥見えてきたよ、キキ、町のみんな!もう少しの辛抱だから!」
「うん‥‥‥!」
 雪ぞりに乗った人々の間に、ホッとしたような空気が広がったのも束の間。上空のセリエルフィナが、悲鳴にも似た声で静止を叫んだ。
「───うそ!?ダメだ止まって!!このままじゃ‥‥‥!!」
 空を行くセリエルフィナだけに、それは見えていた。山門へと一直線に続く道の、その途中。唯一道と道が交差する四つ辻へと、左右の道から無数の亡者が殺到していく光景が。
「止まって!遥さん!!」
「そ、そんな急に‥‥‥!!」
 時速にして凡そ80キロ。加えて極めてブレーキの聞き辛いぬかるんだ足場。四つ辻到達まであと僅か。両脇の道からぞわりと、黒く揺らぐ無数の腕が溢れ出す。
「‥‥‥っ!!」
 万事休す。閉じようとした遥の瞳を、高速でよぎる影があった。

「どけどけ邪魔だあああああああああああああああ!!!!」
 
 ───火炎弾。遥の目には、少なくともそう見えた。右から左へと、今にも道を塞がんとしていた黒い影が、悉く吹き飛ばされて宙を舞う。 
「な───」
 言葉を失う遥の目の前を、さらにもう一つの影が高速で通り過ぎた。最早トドメの一撃といわんばかりに、落下してくる亡者達を片っ端から轢き潰し、疾風は火炎弾を追う様に右から左へ駆け抜けていった。
「い、今のは‥‥‥!?」
 突然のことに目を白黒させつつ、遥たちは四つ辻を通り過ぎる。山門はもう、目前に近づいていた。

●第三幕 -3-

「だーもう!どれだけ涌いてやがんだ亡者ども!俺ァ、とっととアッチの大物を相手取りてーんだよ!!」
 地獄の炎を身に纏い、エスタシュ・ロックドア(ブレイジングオービット・f01818)は、愛するバイクのシンディーちゃんと共に町を駆けていた。火炎弾と化した獄卒鬼を前に、立ちはだかる亡者たちが次々とブッ飛んでいく。点火した『スカーレット・フレアドレス』を後目に、エスタシュは前を向いたまま声を張り上げた。
「ハハッ!しっかし良くついてこれんな空雷のおっさん!中々のライディングテクニックじゃねーか!!」
「───フン、武を極めれば即ち、遍く道具を己が手足として自由自在に操るなど造作もなし。人馬一体の極地、亡者どもには些か勿体ないが───」
 エスタシュの轢き漏らした亡者たちを容赦なく砕き、相棒たる宇宙バイクを駆る男───空雷・闘真(伝説の古武術、空雷流の継承者・f06727)は、全身に強烈な闘気を漲らせてエスタシュの後を追う。
「下らん茶番にうんざりしていたところに、漸く死合うに値する強者が出てきやがった。死合いの途中に水を差されるくらいなら、先に蹂躙しておくが道理よな‥‥‥!」
 ギラギラとした闘真の視線が、遠く聳える八十禍津日神へと向けられる。強者との闘いに歓喜するその横顔は、エスタシュとはまた違った意味での『鬼』に他ならなかった。
「───アンタ、良い獄卒になれるぜ?」
「生憎と、既にして修羅道に墜ちたる身だ───」
「───地獄でも戦い続けるってか?」
「それが俺にとっての天井楽土であるが故に───」
「───頼もしいじゃねぇか!勧誘のし甲斐があるってモンだ!」
 炎上する町並みを、二匹の鬼が駆け抜ける。夜明けまで残り10時間。地獄の乗り手を前に亡者たちは、抵抗する間も無く蹴散らされて往くのであった。

●第三幕 -4-

『みなさんコッチでーす!』
『押さない、めげない、慌てない!二列でどうぞー!』
『私たちの誘導に従ってくださいねー!』
 降りしきる雪の中、住民たちの避難が着々と行われてゆく。避難誘導を行っているのは、全身にバーチャルチックな燐光を纏った沢山の美少女たち。電脳魔術師メタ・フレン(面白いこと探索者・f03345)によって具現化された、バーチャルキャラクターである。
「‥‥‥非難は順調です。私たちも行きましょう、鏡島さん」
「あ、あぁ‥‥‥」
 メタの言葉をうけ、躊躇いがちに頷いたのは若き旅人、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)だった。着々と数を増す亡者の軍勢を前に、褐色の額を冷や汗が伝う。
「ほ、本当に大丈夫なのか、姫桜‥‥‥!」
「───えぇ。きっと、今の私にできる最善が、これだから。」
 嵐の問いに、碧眼の少女───彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は静かに、しかしキッパリと頷いた。
「お、お姉ちゃん、やだよ、一緒に行こう‥‥‥?」
「アンタ一人で殿務めるなんて無茶も良いトコだよ、姫桜ちゃん!」
「そ、そうだ、アンタぁ俺たちの命の恩人。万一のことがあっちゃ───」
「───ありがとう。」
 必死に訴える茶屋の一家にふわりと笑って、少女は白き槍を執る。
「でも駄目。避難する人の数を考えたら、私が殿に居ないと。鏡島くんもメタさんも、それぞれ中継地点に居てもらわなくっちゃだし。さっきそう決めたじゃない」
「そ、そうだけどよ‥‥‥!」
 嵐の視線の先には、黒い津波の如き亡者の群れ。姫桜はアレを一人で食い止めると言っているのだ。
「お前、言ってたじゃねぇか。『私も戦うのは怖い』って‥‥‥!やっぱり作戦変更して、多少速度が遅くなっても殿を複数人で───」
「鏡島さん。」
 ポスン、と。嵐の腰のあたりを、メタの小さな拳が叩いた。
「‥‥‥心配なのはみんな一緒です。でも、姫桜さんの言う通り、この作戦が一番最善に近いんですよ。私たちが覚悟を決めないでどうするんですか。」
「‥‥‥っ!」
 唇を噛む少年に、青色の少女がふっと笑う。
「───大丈夫ですよ。こういう時の姫桜さんは、ちょっとビックリするくらい、強いんですから。ね、姫桜さん?」
「えっ?───え、えぇ!勿論よ!あんなヘナヘナした影法師、百だって二百だって大したことないんだから!だから───皆を頼むわよ、嵐くん。メタさん。」
 強張った笑顔を隠すように背を向けて、少女は愛槍を構える。
「───行って。早く‥‥‥早く行きなさいっ!」
 姫桜の声に弾かれた様に、足音が遠ざかって逝く。震える膝に力を籠めて、少女は迫りくる亡霊を見据えた。‥‥‥怖い?怖いに決まってる。自分の過ごしてきたこれまでの日常に、あんな悍ましいものと対峙する機会など、微塵もありはしなかった。否、そもそも戦場に身を置くという事を、考えたことすらなかった。
(それでも───)
 自分は此処に居る。幾多の悲劇を乗り越えて。数多の思いに身を寄せて。だから、そう。どんなに怖かろうと、『覚悟が決まっていない訳がない』。
「───力を、勇気を貸して、ママ‥‥‥っ!!」
 ギュッと眼を瞑る。身体の内に響く、心臓の鼓動を、血潮の流るる音を、聴く。ドクン。ドクン。血管を奔る鮮烈な紅が、思いを受けて脈動する。
「あ───あああああああああああああ‥‥‥!!」
 咆哮と共に少女の身体から、強烈な力を帯びた真紅のオーラが漏れ出している事に、果たして亡霊たちが気付いたかどうか。
 明滅する視界。早鐘を打つ心臓。真の姿を開放した姫桜の内側で、秘められし血統が遂に覚醒を果たす‥‥‥!
「───嗚呼。なるほど」
 真紅に染まった瞳を見開いて、夜の血族は静かに唇を湿らす。浅い深度の開放ではあったが、普段の自分からは想像できない程の力が全身に漲っているのが知覚できた。

「多少の無茶は出来そうね。───跪け亡者共。今宵はお前らが串刺しよ‥‥‥!」

 夜明けまで残り9時間。純白の槍を突き付けて、串刺し嬢の再来が夜を奔る‥‥‥!

●第三幕 -5-

「───ほぅ。これまた罪人がよく足掻くものだ。あれだけ死を欲していながら、いざ地獄が目の前に顕れてみればこの有様。浅ましい‥‥‥実に浅ましや罪人の生!そうは思いませぬか?」
「興味ないね。理解する気もないよ」
 ───電光轟雷。黒僧の錫杖より放たれた強烈な雷光を間一髪で躱し、悪の組織の幹部こと大河・回(プロフェッサーT・f12917)は、肩をすくめてそう返した。
「まぁ、キミに関して言えば、元からあった下地を利用して労力少なく事を成したっていうのは評価できるよ。オブリビオンでなければ配下に勧誘したいくらいさ」
 冗談かそうでないのか、微妙に判断のつき辛い表情で回が嗤う。
「───あいや、魅力的な申し出では御座いますが、拙僧も神仏に仕える身。ましてや我らが神の御前で鞍替えする訳にもいきますまい?」
 対する黒僧もまた真意の見えない表情で、薄ら笑いを浮かべる。次から次へと涌き出る地獄の影法師たちに、回は着々と包囲されつつあった。
「‥‥‥そうか、それなら安心だ。万が一にも勧誘に乗られたら、どうしようかと思っていた。」
「ご心配なく。貴女が死した後にその骸、我が配下として存分に使役します故に」
「ゾッとしないね。」
 瞬間。回の周囲一帯を狙い、幾条もの光の柱が天より降り注いだ。回のユーベルコード『プロトサテライトカノン』による、超上空からのレーザー掃射。舞い上がった泥雪と消えゆく亡者の残骸に紛れ、悪の女幹部プロフェッサーTは全力で───逃走を図る。
「おっと、急用が入った!残念だがグッバイ、優男!悪の幹部は戦うべきでない時の撤退は素早いんだ!あとは任せたよ他の猟兵諸君!」
「なっ───」
 そのあまりに思い切りの良い逃げ足に、呆気にとられるも束の間。突如上空より飛来した鉄の鈎爪が、黒僧へと容赦なく振り下ろされた。
 ガキリ、と。鉄と鉄の軋み合う音が、燃え盛る町に響き渡る。
「───へぇ、これを受け止めるか。手ごわいね、キミ。」
「絡繰り人形‥‥‥!?」
 鈎爪の持ち主───機竜イダーデが、力に任せて黒僧を押し飛ばす。赤いクロークを翻し、セイス・アルファルサ(瓦落芥弄りの操り人形・f01744)は、イダーデの背からふわりと舞降りた。
「思った以上に余裕だね、黒幕。住民の殆どが避難を始めてるのに、追いもせずに小競り合いを続けてるだなんて。」
「‥‥‥クク、追うまでもないという事ですよ、絡繰り人形。何せ今宵この地では、無限無数に亡者が涌き出でるが故に‥‥‥!」
 ぞわりと、黒僧の足元から次々と黒い影が身を起こす。
「無尽の兵力を前に何時まで持ち堪えられるのか、いや全く見ものですなぁ‥‥‥」

「───涌いたら涌いた分だけ消し飛ばす。そんだけの話だろ?」

 強襲。黒い旋風が、戦場に風穴を開ける。出現した亡者を片っ端から斬り飛ばし、ガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)が、威圧感も顕わに屹立する。
「テメェの方こそ、何時までヘラヘラしてられるのか見ものだぜ‥‥‥シャイア!!」
「がってんしょーち!」
 舞い散る雪を掻き消して、降り注ぐ魔弾が亡者たちの数をさらに削り取ってゆく。白い夜空に翼を広げ、シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)は愛杖たる『ワンド・オブ・マジックミサイル』を、ビシリと黒僧に突き付けた。
「観念しろ黒幕!悪だくみはそこまでだ!」
「クク───クハハハハハハハ!!いやはや愉快!実に愉快!この期に及んで未だ状況が理解できていないと見える!言ったでしょう、この町に朝はないと‥‥‥!」
「───だったら僕たちが、その朝を作ってやろうじゃないのさ!」
「よく言ったぜシャイア!おいコラ外道坊主、テメェの思い通りにゃさせねぇぞ!」
「僕たちは最初から負けるつもりなんてないのさ、黒幕。少しは危機感を覚えるべきだ」
 手練れ三人を目の前にして、黒僧の肩がくつくつと震える。無論、恐怖から、ではない。
「───嗚呼、滑稽也や未来の走狗。此処まで貴方がたが相手取ってきたのは、羽虫に過ぎぬ地獄の亡者。しかして我らが神が侮られるのは少々不愉快だ───見せてあげましょう、我らが神のその暴威を‥‥‥!」
 黒僧が、ゆっくりと錫杖を掲げる。同時───これまで微動だにしなかった八十禍津日神が、その巨体をずるりと宙に這わせた。赤黒く濁った双眸が、地を這うヒトの仔へと向けられる。

「───神威を、此処に。」

 瞬間。グパリと開かれた巨大な口腔から、凄まじい瘴気の颶風が吹き荒れた。
「───散開ッ!!」
 怒声にも似たガルディエの絶叫に、各々が咄嗟の判断で遮蔽物へと身を隠す。地上へと叩きつけられた強烈な瘴気の吐息(ブレス)が、直撃線上にあった有機物を軒並みグズグズに腐敗させてゆく。永遠にも思える30秒間。町の一角を毒気充ちたる死地へと塗り替え、八十禍津日神はその吐息を唐突に収めた───次の瞬間。巨体による雪崩の如き叩き付けが、炎上する宿場町に激震を巻き起こした。
「こ、これは───!」
「成程、どうして───」
「ハンパねぇな‥‥‥!」
 激震による衝撃波と、その巨体から滲み出る強烈な瘴気。なんとか受け身をとりつつも、一瞬で腐り果て瓦礫の山と化した町の光景に、流石の三人も冷や汗をかかずにはいられなかった。
「───如何です、我らが神の神威を目の当たりにした気分は。さぁ、絶望なさい。諦念なさい。さすれば安楽なる死は訪れましょうぞ‥‥‥!」
 瓦礫の上で黒僧が嗤う。夜明けまで残り7時間。鎌首をもたげた八十禍津日神は、唯々、己に歯向かう小さな存在を、高みより睥睨するのみであった。

●第三幕 -6-

 夜も深まり、降りしきる雪はいよいよ勢いを増すばかり。純白の闇の中、なお浮かび上がるような白さを以て、一振りの刃が瓦礫の山を駆けていた。ファン・ティンタン(天津華・f07547)‥‥‥少女の姿をとる、護刀のヤドリガミである。
「戦況が急変したって聞いたから駆けつけてみたけれど───」
 ヤバイモノ、もとい、途轍もない厄ネタが現われていたらしい。藪を突いて蛇を出す───文字通りだが、それどころの騒ぎではない。
「───カガリ。この辺は特に崩落が酷い。捜索できる?」
「無論だ。助けを求む声があれば、カガリはいつでも駆け付ける準備が出来ている」
 金砂の髪が雪風に踊る。紫紺の瞳に強い感情を宿し、城門のヤドリガミ───出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)が瓦礫を踏み砕く。あらかた避難の完了した区域ではあったが、だからこそ逃げ遅れた住民が存在する可能性を、この二人は捨てていなかった。
「また性懲りもなく涌いて出てきたか、亡霊め‥‥‥」
 ぞわりと身を起こす亡霊たちに臆することなく、ファンが鮮やかに白刃を振るう。鋭い一閃が容赦なく影法師の首を刈り、返す刃で二体目の袈裟がザックリと裂ける。
「手応えのない‥‥‥」
「今はその方が有り難かろうさ───と、この辺で良いだろう。『危うきを報せ。烽火をあげよ。我が守るべき城を報せよ』‥‥‥!」
 己が現身たる『鉄門扉の盾』を瓦礫に叩きつけ、カガリが大きく息を吸った。雪降る夜空を遮って、青年の周囲にロートアイアンの鉄柵が展開する。
「───誰か、ここにいるか!声を出さなくてもいい、助けてくれと、ただ願え!必ず助けてやる、諦めるな!俺が、カガリが、お前たちを助けに来た‥‥‥!!」
 ───キン、と。空気の張り詰めるような音と共に、ロートアイアンの鉄柵から分離した鉄のダーツが、夜を切り裂き飛翔する。突き立つ場所は二か所。本数は五本。それ即ち───
「ファン!」
「はいよ。」
 ダーツに向かって少女が走る。『希烽城壁(シグナルフォーウォール)』───『助けて』という感情に反応して威力のない鉄の矢を飛ばす、救助現場において凄まじい捜索効率を発揮する出水宮・カガリのユーベルコード。
 ファンが倒壊した家屋の梁を切り捨てると、外に出られなくなっていた三人の親子が震えながら出てきた。
「‥‥‥急なことで混乱していると思うけど。貴方達を助けに来たよ。私達は、街で奔走してた人達の仲間。」
 目線を合わせ、努めて優しく、ファンは言の葉を重ねる。静かに差し出した彼女の掌には、いつの間にか小さな翡翠輝石が乗っかっていた。「この石に触れば安全な場所にいける。勝手に出ようとせず、私の合図を待ってね。いいかな‥‥‥?」
 頷きと共に親子が翡翠輝石に触れるや否や、三人は柔らかな光に包まれて姿を消した。『緑の夢』‥‥‥翡翠輝石に触れた対象を内部に隔離・収容する、とある少女の夢の最果て。
「‥‥‥流石の手際だ。いつもより愛想が良いじゃないか、ファン。」
「大きなお世話だよ。‥‥‥ほら、あっちの路地から亡霊が来てる。まだ一ヵ所残ってるんだから、アッチは任せたよ、カガリ」
「あぁ、任された。」
 阿吽の呼吸とはこのことか。友の窮地に駆け付けたヤドリガミ達は、しかして白い闇を奔走する。夜明けまで、あと6時間───。

●第三幕 -7-

「山門内部は結界で保護されています!押し合わず、迅速に!」
 次々と寺院へ非難してくる人々を誘導しながら、ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)は己が現身たる流星剣を一閃する。生者へと手を伸ばす亡者の影を一刀のもとに斬り伏せて、流星騎士は静かに額を拭った。
 ここまでの疲労が、着実にステラを蝕んでいるのである。当たり前だ。個体戦闘力は相当に低くても、数の暴力は当たり前に個の強さを押し潰す。ましてや敵は無尽蔵に涌き続ける地獄の亡者。彼女一人であれば、ここまでの継戦は殆ど不可能であった。
「無理しちゃ、駄目だよ‥‥‥ステラ。」
「あぁ、ありがとう、ペイン殿‥‥‥!」
 そう、『彼女一人であれば』だ。友たる彼女の危機を察知して、駆け付けたヤドリガミは三人。現在救助活動中のファンとカガリ、そして目下ステラと共闘中の、指潰しのヤドリガミである少年、ペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)だ。
「しかし、まさか知り合いに巡り会えるとは‥‥‥頼もしい限りだ。感謝する」
「ん‥‥‥お礼は、必要ない、よ‥‥‥。ステラが困ったときは、力を貸す、から」
「‥‥‥いえ、礼の言葉は必要だ。貴方に、貴方たちに心からの感謝を。私は良い友人に恵まれた。心底そう思う。」
「‥‥‥そう、かな。だったら、少し───」
 嬉しいな。そう淡く笑って指潰しの少年は、容赦なく背後に迫っていた亡霊たちを、巨大な膝砕きで纏めて砕き潰した。
「朝まで、持つ、かな‥‥‥?」
「何としてでも持たせて見せよう。我が主の名に懸けて‥‥‥!」
「───良い心意気だ、流星剣!」
「待たせたね。これで住民の避難は、殆ど完了だよ」
「カガリ殿、フィン殿!戻られましたか!」
 泥雪を蹴散らして、ヤドリガミたちは合流を果たす。フィンが翡翠輝石を翳すと同時、山門の側にこれまで救助してきた人々が石の外へと現れた。
「みんな、山門の中へ‥‥‥!」
 住民の避難完了に伴い、希望の焔が微かに燃え上がり始める。夜明けまで残り6時間弱。
「‥‥‥邪神がこっちまで攻めてこないのが僥倖だね。」
「えぇ、おそらく仲間たちが、上手い事引き留めているのでしょう‥‥‥!」
「大丈夫、かな、邪神と、戦ってる、ひとたち、は‥‥‥」
「そこは信じるしかあるまい、指潰しの。なんにせよカガリ達のやることは一つだ」
 降りしきる雪の中、際限なく涌き出す亡霊の影に、器物の精たちは誇りを賭けて対峙する。夜更けの空気は凍えるほどに冷たく、しかして頬を切るような熱さを秘めていた。
「───覚悟しろ、亡霊。私たちが居る限り、生者には指一本、触れさせてなどやらん。地獄の底に戻るがいい‥‥‥!」
 流星剣が輝きを放つ。それは希望の星にも似て───直後。

 寺院の側から天高く噴き上がったドス黒い瘴気が、その輝きを覆い隠した。

●第三幕 -8-

「なっ‥‥‥!?」
 戦場から離れた瓦礫の陰。多機能ドローンで戦況を俯瞰・解析していたプロフェッサーTこと回は、その光景に目を見張る。
 八十禍津日神と猟兵たちが対峙する戦場とは真反対の方角───即ち住民たちの避難した寺院から程なく近い位置に、『八十禍津日神と同規模の存在』が出現していた。
「な、なんだこれ計器の故障じゃあるまいな!?」
 カメラをズームする。白い闇を背に負って、巨大な蛇体が黝い眼を滾らせて屹立しているのが、否応なしに確認できた。

『───おや。漸くお目覚めですか、『ご兄弟』‥‥‥!』

 ドローンのマイクが、そんな声を拾った。間違いない、黒僧のものだ。
『我らが神が一柱だと、何時誰が言いましたかな?』
 愉悦に満ちたドス黒い声が、スピーカーから流れ出す。
『もとより我らが神は二柱より成る兄弟神。黄泉より帰還せしイザナギの穢れより生れ落ちたのは、我らが『八十禍津日神』と『大禍津日神』‥‥‥!さて、既にして手も足も出ない貴方がた猟兵は、如何にしてこの夜を超えるおつもりですかな───?』
 スピーカーから、聴くに堪えない哄笑が流れ出す。マイクのスイッチをオフにして、回は思わず震え出した両肩を抱いた。
「‥‥‥冗談だろ?」
 夜明けまで残り5時間。カメラには寺院へ牙を剥く、巨大な邪神の姿が克明に映っていた。

●第三幕 -9-

 亡霊が、私を素通りしてゆく。
 当たり前だ、今の自分は、とても生者に見えないだろう。
 泥の上に跪いたまま、降りしきる雪を払いもせず、白く汚れていく、この私を。
 一体だれが、生者と呼ぶのだろうか‥‥‥?
 考えて、考えて、考えて───。
 結局、自分が本当にやりたかったことなんて、なかったのだと思い知った。
 私の中で、聖霊が嗤っている。
 とうに食い尽くした、私の悲嘆ではなく。
 空気を伝って流れ込んでくる、この町の人々の絶望を喰らって、嗤っている。
 遠く、昼間訪れた寺院の側に、巨大な蛇体が鎌首をもたげる姿が見えた。
 嗚呼。どうやらアレは、神様なのだそうだ。
 アレが。あんなモノが、神様。
 ふつふつと、ドス黒い感情が、胸の奥から湧き上がってくる。
 神様‥‥‥。神様‥‥‥!神様‥‥‥!!

 何故、お前はそんな場所で、『私以外を見ているのか』───!

 嗚呼。自分の『やりたかったこと』は、ついぞ見つからなかったけれど。
 自分の『やりたいこと』は、今見つかった。

 斯くして灰色の少女───三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)は立ち上がる。莫大な呪詛で亡霊たちを捻じ伏せて。吐息すらも凍らせて。少女はフラリと足を進める。
 一世一代の、八つ当たりをするために。

●第三幕 -10-

「クソッタレ!テメェ、全部分かってて住民の避難を見過ごしてやがったのか‥‥‥!」
「だから言ったでしょう、『追うまでもない』と。さぁ───どうします?このまま我らが神に背を向けて、罪人たちの救出にでも向かいますか?」
 激昂するガルディエを嘲笑し、黒僧が亡者の群れを召喚する。瓦礫の山を覆いつくさんばかりの影法師が、縋る様に両手を広げて涌き出でる。
「‥‥‥いいや、それは下策だ。ここで背を向ければ打開策を打つ以前に、背中からパクリ、だろうね」
 イダーデを駆り空中へ離脱したセイスが、静かに瞳を瞬かせる。
「───ねぇ、ガルディエ。そろそろだと思うよ」
「‥‥‥チッ、わーったよ。時間もねーしな。」
「‥‥‥何?」
 セイスとガルディエ、二人の雰囲気が変わったのを、黒僧は敏感に感じ取っていた。
「何を企んでいるのかは知りませんが───そう簡単にいく道理もありますまい!我らが神よ!」
 黒僧が叫ぶと同時、八十禍津日神が大きく瘴気を吸い込み始める。放たれれば最後、周囲一帯を腐れ果てた荒れ地へと変貌させる絶大なる吐息(ブレス)。しかしてその予備動作を見計らい、その巨体へと飛来する二つの影があった。
「あああああああああああああああああああああああ!!!!」
 その場に居た誰もが、その声を雄叫びだと信じて疑わなかった。
(ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!)
 その実、それが悲鳴であることは、当の本人───リューイン・ランサードしか知り得ない事実であった。
「み、み、み、水よ!そ、その清浄なる加護を以て、彼の穢れを悉く祓い清め給へ!」
 破魔の力が込められた、水の全力魔法。清らかな高圧水流の一撃が、穢れに覆われた八十禍津日神の喉元へと炸裂する。
 ───実際、この勤勉な少年は物事をよく熟知し、解析する術に長けていた。神話において、八十禍津日神は『禊』‥‥‥即ちイザナギが清流にて身を清めることで生れ落ちた神である。転じて清らかなる水の一撃は、『穢れ』そのものたるこの神に、絶大な効果を以てその威力を齎した。
「い、いまですミアスくんっ!」
「はい!行きますよ、翼の貴婦人さん!!」
 炸裂した水流の一撃に大きく仰け反った蛇体の喉元へと、追い打ちをかける様に六枚羽の異形を駆るミアスが突撃を仕掛ける。本来であれば蛇体の纏う強烈な穢れに侵され、ダメージを与えることなく撃墜されるはずであったが───
「ば、馬鹿な!?ありえん…‥‥!!」
 そのまま後方にひっくり返った蛇体の姿に、黒僧が気色ばむ。清流によって一時的に穢れを打ち消され、喉元に限り八十禍津日神の防御力は大きく下がっていた。
「おのれ───!」
「───ありがとよ、ミアス、リューイン。」
「あぁ。おかげで真の姿を開放する時間が取れた」
 強大な力の放出に、思わず黒僧は目を剥いた。

「───穢れを好むなら見せてやるよ。死を呼び続けた赤き雷の災厄が持つ業を。荒ぶる太古の神の気配を‥‥‥!!」
 八重歯を剥いて、闘気も顕わに黒竜騎士が告げる。白い雪を蹴散らして、騎士に集うは漆黒の風。嵐が咆える。赤雷が嗤う。是より姿を現すは、この世界にない神話の再現。異端の歴史に綴られた、絶大なる太古の暴威の証‥‥‥!
「───解錠コード【Viagem da morte】封印を解くよ、idade『error…このコードは許可されれrrr…強制申請了解』───!」
 赤いクロークをはためかせ、かつての人形兵士が本来の機能を取り戻す。舞い散る焔を吹き散らし、兵士に集うは無数の機竜。タキオン粒子が加速する。莫大なエネルギーがその身を覆う。是より姿を現すは、遥か未来に描かれし異形の怪物。戦場にて語り継がれる、最新にして最終の兵器のカタチ‥‥‥!

『───行くぜ外道。地獄に帰る時間だぜ』
『さぁ、征こうか。操り人形と千匹の瓦落芥が、お相手仕ろう』
 
 片や赤雷を纏う漆黒の竜神。片や赤き燐光を纏いし機械仕掛けの巨竜。莫大な力の発露を前に、身を起こした八十禍津日神が舌を鳴らして目を見開く。
 夜明けまで残り4時間。穢れし神との戦いは、いよいよ佳境に迫りつつあった。

●第三幕 -11-
 
 衝撃。暗転。轟音。
 突如出現した巨体が叩きつけられたのは、正しく一瞬の出来事であった。
「───っ!?ペ、ペイン殿、カガリ殿‥‥‥!?」
 蛇体に押し潰される寸前───指潰しと鉄門扉のヤドリガミが、凄まじい軋みを全身から上げて、その巨体をギリギリのところで止めていた。
「‥‥‥みん、な、無事‥‥‥?」
「‥‥‥はは、なんて顔だ流星剣。もとより守りは城門の仕事、こちらに任せるがいいさ」
「し、しかし‥‥‥!」
「ステラ!私は結界の維持に回る!このままじゃ持たない!」
 ビリビリと、大気の震える音がする。ファンの言葉に振り向けば、寺院を覆う様にして展開された結界が、今にも砕けそうな悲鳴を上げていた。
 グン、と。蛇体が急に身を起こす。黝い瞳を地上へ向けて、もう一柱の穢神───『大禍津日神』が、まるで値踏みでもするかのように、その巨大な鎌首を揺らして屹立していた。

 ───もう一度おなじ攻撃が来たとき、果たして私たちは耐えられるのだろうか。

 ステラの心を、静かに畏れが蝕んでゆく。ここまで救ってきた人たちが、駆け付けてくれた友人が、共に戦ってきた仲間が斃れ伏す、そんな未来。その底知れない絶望に、暫し我を忘れる。黝い瞳だけが、ユラユラと視界を埋め尽くしていた。
 青い。
 蒼い。
 黝い。
 ───呑まれる。そう思った瞬間。ステラの視界を、紅い閃光が切り裂いた。 

●第三幕 -12-

「も、もうお終ェだぁ‥‥‥!」
「ごめんなさい、ごめんなさい‥‥‥!」
「やっぱり死ぬしかなかったんでねぇか!」
「こんなことになるくらいなら、いっそのことあの時───」
「い、いやだ‥‥‥いやだ!やっぱり、やっぱり俺ァまだ───死にたくねェ!!」
 軋みを上げる寺院の伽藍で、人々は再び狂奔状態に陥っていた。今回は精神汚染でもなんでもない、明確な形をもった『死』を目の前にしての、純然たるパニックであった。
「み、みなさん落ち着いて‥‥‥!」
「そうだよ!騒いだって解決するわけじゃないんだよ!?」
 遥とセリエルフィナの静止も虚しく、人々は絶望と嗚咽に沈んでゆく。凡そ思いつく限り最悪の状況であった。
「ぐっ‥‥‥!?うぅ‥‥‥!!」
「天斎住職っ!?」
 印を組み、顔を真っ赤にした住職が苦悶の唸り声を上げる。大結界『地獄の蓋』の起点は、紛れもなくこの寺院。この寺院の結界が破られれば最後、この周辺一帯は昼も夜もなく亡者の跋扈する、文字通りの死地と化すだろう。
「最悪だ‥‥‥!この結界の源は人々の『希望』。ただでさえ弱体化した結界に、もう一度あんな攻撃が来ようものなら‥‥‥っ!!」
 噛みしめた唇から血を流し、玄宗が大禍津日神を見上げる。
「‥‥‥っ!」
 メタもまた、今度ばかりは過去の記憶を想起せずにはいられなかった。絶望に膝をつき、明日を見ることが出来なくなるその心理を───彼女はよく知っていた。
 狂乱。嗚咽。自棄。
 人々の心が急速に死へ向かっているのが、手に取るようにわかる。どうすれば。どうすれば───思わず思考を放棄しかけた、その時だった。

『───♪』
 
 それは、阿鼻叫喚の混乱の渦の中で、ひどく静かに流れていた。
『───♪』
 この世界においては、誰一人として馴染みのない歌。馴染みのない言葉。馴染みのない物語。だと、言うのに───。
『───♪』
 それがひどく悲しい歌だと、それが彼方の誰かを思って歌う声だと、此処に居る誰もが理解した。
『───♪』
 その調べは哀しく。その詞は切なく。その末期は儚く。恐怖に震える心を、狂気に墜ちそうな心を、なにもかも諦めそうになる心を、その痛みを───遙かに運び去る。
「‥‥‥ありがとよ。なんとか抑えられそうだ」
 ピチャン、という音と共に、空間に広がった波紋へと魚の尾びれが返っていくのが見えた。『大海の姫の恋歌(シレネッタ・アリア)』‥‥‥歌を聴いて共感した者を治療する、鏡島・嵐のユーベルコード。先程とは一転、水を打ったように静まり返った伽藍に、少年は足を一歩、踏み出した。
「アンタたちに、言っておきてぇことがあるんだ。聴いてくれ」
 もう一歩、前へ。「おれは――─弱ぇ。弱ぇ、ただの人間だ。だから、アンタたちの気持ちは想像できねぇ。罪を犯すほどの、絶望なんて知らねえ。」
「───鏡島さん」
 さらに一歩踏み出す臆病な少年の後ろ姿に、メタが小さく息を呑む。
「誰かを蹴落とすほど何かを渇望したことも無ぇ。ずっと罪悪感に苛まれる、その苦しさもわからねぇ───」
 でも。だからこそ。少年は拳を握る。その言葉を伝えるために。誰よりも不器用に。誰よりも実直に。彼は言葉を紡ぐ。
「おれは───おれは!ハッピーエンドを望んでるんだ!臆面も無く、恥知らずって言われても!凡人だからこそ、それを願い、努力するんだ!」
 狂奔に陥っていた人々が、どこか目の覚めたような顔で嵐を見ていた。「だから‥‥‥アンタたちには今まで通り、頑張って前向いて生きていってほしい。諦めねぇでほしい。これは猟兵としてじゃねぇ、一人の人間としての、一回の凡人としての、ごくごく個人的な、ちっぽけなおれの願いだ‥‥‥!」
 ───頼む。大きく頭を下げた少年の姿は、居並ぶ彼らの目に、途轍もなく眩しいものとして映った。その願いを、無視できない程に。その願いを、どうにかして叶えたいと、そう思えるほどに。

「───笑って。」

 親友の制止を振り切って、キタキツネの少女がおぼつかない足取りで嵐の横に立つ。
「みんな、笑おうよ。こんな時だからこそ、笑うんだ‥‥‥!」
 人々が、俄かにざわつき始める。この少女が身を削って治療に当たっていたことを、この場に居る誰もが知っていた。この少女が本来、立って歩くことさえ苦痛であることを、この場に居る誰もが知っていた。
 その少女が───笑っている。
 フラつく足を無理やりに支えて。引き攣りそうな笑顔を、それでも柔らかに湛えて。
「‥‥‥もう。無理は止めないから───せめて頼ってよ、キキ。友達でしょ?」
 倒れそうになるキタキツネの少女を、遥が横から支える。
「───みんな、聴いて。目の前に聳える、あのでっかい怪物も、町をうろついてる黒い影たちも、みんなの笑顔でどうにか出来るかもしれないんだ‥‥‥!」
 セリエルフィナの訴えに、人々のざわめきが大きくなる。それは本当だろうか。いやでもしかし、たかが笑顔で───。
「本当だよ。そうでしょう、天斎ご住職。」
 鋭く通るような声。見れば住職の隣でファンが、住職を鼓舞しながら右眼を瞑って人々を見つめていた。彼女の言葉に、真剣な顔で住職が頷く。
「‥‥‥皆さんの笑顔が、応援が、外で戦ってくれている私たちの仲間全ての力になります。お願いします、力を貸してください‥‥‥!皆で不幸を笑い飛ばして、太陽を呼び寄せてやりましょう‥‥‥!!」
 最期に告げたメタの言葉に、人々の顔が真剣身を帯びた。もしも、仮に、この話が丸っきり嘘なのだとしても。泣きながら死ぬより、苦しみながら死ぬより、笑顔であの世に行きたいと、この場に居る誰もが、そう思ったのだ。

「───じゃあみんな、準備はいい?」

 静かに、けれど凄まじい熱量をその身に秘めて、人々が一斉に頷く。夜明けまで残り二時間。ここにサムライエンパイア史上、もっとも真剣な馬鹿騒ぎが、始まろうとしていた‥‥‥!

●第三幕 -13-

「な、なにが起きている‥‥‥!?」
 突如、急速に強度を取り戻し始めた大結界『地獄の蓋』に、黒僧は半ば苛立ち交じりの表情で寺院前へと飛ぶ。彼が目にしたのは、数を大きく減じた地獄の亡者たちと、復活した結界によって動きの鈍った大禍津日神に全力攻勢を仕掛ける猟兵たちの姿だった。
「き、貴様ら、一体何をした‥‥‥!!」
 激昂のあまり口調の乱れた黒僧に、真紅の閃光───真の姿を開放した彩瑠・姫桜が、静かに紅い瞳を向ける。
「ようやく化けの皮が剥がれたわね、オブリビオン。ずっと思ってたのよ、胡散臭い喋り方だな、って。」
「何をしたのか聞いているっ!!」
「貴方風に言えば『なにもしてない』わよ。ただ少し───みんなが背中を押しただけ。」
「ぐっ───!!」
 あくまで静かに返す姫桜に一瞥をくれて、黒僧は大禍津日神へと視線を向ける。
「ま、まだだ!まだ結界は完全に修復されてはいない‥‥‥!我らが神よ!こんな羽虫どものことは放っておいて、結界の起点たる寺院の完全破壊を!さすればこのような塵芥、どれだけ時間をかけて殺しても───」
「無駄だよ‥‥‥!今の自分を、コイツは、絶対に、無視できない‥‥‥!」
 鈍った邪神の一撃を軽々と回避して、全身から強烈な負のエネルギーを放つペインが、血涙を流しながら片目を瞑る。地獄からあふれ出る、苦しみ死んでいった者の怨念。死に怯え、苦しみ、今なお虐げられる者の憤怒。そしてそれらの悲劇に対し、無力な者の悲哀。制御仕切れないそれら全てを、それでも身に宿し───指潰したる少年は神に挑む。
「‥‥‥自分は、100年、人の指を潰してきた。そしてそれを嫌悪し、しかし、歓喜してきた。“指潰しのヤドリガミ”それが自分だ。‥‥‥皮肉だね、オオマガツヒノカミ。自分もまた、破綻したカミだよ。」
 そう静かに呟く少年の隣に、鉄門扉のヤドリガミたるカガリが肩を並べる。
「はっはっは、お前ひとりに背負わせやしないさ、指潰しの!そうだろう、流星剣!」
「───あぁ、無論だ!お前は此処で終わりだ、黒幕。私は流星の剣。人の願いを叶える剣だ。生きたいと願うならその願いを全力で叶えよう!この町の未来を、彼ら全ての未来を、願われたその悉くを、叶えて見せよう‥‥‥!」
 ステラの掲げた流星剣が、目も眩むほどの輝きを携える。其はヒトの願い。其はヒトの祈り。残り少ない魔力をかき集め、人間体を維持するための力さえ注ぎ込んで、流星剣は今、窮極の輝きを放つ───!

「───征くぞ!降り注げ、流星雨───ッ!!」

 ステラの放つ輝きを導とし、雪雲を突き破り、青き星々が地上へと飛来する。天の光はすべて星。即ち闇を、影を、絶望を切り裂き薙ぎ払う、雨過天晴の光の矢!
 凄まじい数の流星にその身を打ち抜かれ、地獄より屹立する邪神が悲鳴を上げる。降り注ぐ流星は地を抉り、泥雪を巻き上げ、その一切を白い闇へと完膚なきまでに沈めて見せた。
「ぐっ‥‥‥」
「流星剣!」
 全力の一撃を放って倒れかけたステラの身体を、寸でのところでカガリが支える。受け止めたステラの存在濃度は、亡者の影もかくやと言う程、擦れ切っていた。
「無理をするからだ‥‥‥!」
「アハハ‥‥‥すまない。もう少しだけ、肩を───」

 ゴゥ、と言う音と共に、一挙に視界が晴れ渡る。吹き出す穢れの焔。血走った黝い瞳。白い帳の中に屹立していたのは、全身の至る所に風穴を空けながらも、未だ絶命せず牙を剥く大禍津日神の姿であった。

「なっ───!!」
「馬鹿な‥‥‥!?」

「ク───クハハハハハハハハハハ!!無駄!まったくの、無駄ァ!!此処におわす神をどなたと心得る!?穢れと罪を司る我らが神、大禍津日神に在らせられるぞ!!この穢れに満ちた地に座している時点で、我らが神を殺しきることなど不可能!何度殺そうと、我らが神は黄泉帰る‥‥‥!さぁ、絶望せよ!跪け!首を垂れろォ!!」

「───そう。だったら死ぬまで殺せばいいんだね」

 突如燃え上がった莫大な呪詛に、誰もがその目を彼女に向けた。
「凛花、さん‥‥‥!?」
 姫桜の口から、呆然としたような声が漏れる。いつからこの機会を伺っていたのだろうか。この千歳一隅の好機───即ち黒僧と大禍津日神が間近に位置するタイミングを狙い、彼女は姿を現した。
「き、貴様‥‥‥なんだ?その穢れと汚濁に満ちたその目は‥‥‥!貴様、何故、何故───生きていられる‥‥‥!?」
 黒僧のその問いに、凛花の華奢な体がバクン、と。一瞬膨れ上がったように見えた。否。実際に彼女の身体は、白い肉塊のようなもので徐々に覆われて変質を開始していた。
「───喰え」
「く、来るな‥‥‥!貴様、一体───」
「‥‥‥私の心を喰らって嗤え!『聖霊』‥‥‥ッ!!」
 『大罪喰らい』───凛花の体内に巣食う聖霊に負の感情を喰らわせ、肉体を変質させるユーベルコード。おぞましい肉塊は膨大な穢れを放ちながら、黒僧の身体をバクリと拘束する。
「放せ!貴様、一体何を考えている‥‥‥!?」
「‥‥‥単なる八つ当たりだよ。」
 満身創痍の大禍津日神の双眸が、穢れの塊たる凛花に向けられる。
「喰えよ、私を‥‥‥!首を垂れろよ、神様ッ!!」
 凛花の絶叫に、大禍津日神はガパリと口を開き───一飲みに嚥下した。
 だれも、止められなかった。彼女の見せた凄まじい憤怒の焔に、誰もが動けずにいた。
「‥‥‥凛花殿!!」
 我に返ったステラがその名を叫んだ瞬間。舞い踊る雪片を吹き散らかして、邪神へと突貫する疾風の姿があった。闘真だ。
「───あの大馬鹿者。」
 それは俺も一緒だが、と独り言ちて、歴戦の傭兵は風になる。
 宇宙バイクを武器とした、捨て身の特攻。即ち肉弾。この男は己の五体を、そのまま神へと突貫させるつもりなのだ。
 自然と心が昂る。唇が歪に吊り上がるのが分かった。
「‥‥‥まるで八岐大蛇に立ち向かう素戔嗚にでもなった気分だぜ。尤も俺は酒で眠らせるなんて姑息な真似はせんがな」
 今しがた凛花と黒僧を呑み込んだ蛇体が、再び口腔を空けて迎え撃つ。
「ドン・キホーテで終わるか、素戔嗚になるか。試させてもらうぜ、神よ!」
 砲弾と化した闘真と、邪神が接触する───寸前。その口腔、否、体中の傷と言う傷口から、漆黒の焔が噴き出した。
「────!?」
 戸惑いが一瞬なら、理解も一瞬だった。嗚呼、獲物を先に獲られたか───!
 闘真の捨て身の一撃が、遂に邪神の巨体のド真ん中に風穴を空ける。邪神を貫通した闘真の両手には、全身から漆黒の呪詛焔を纏った、凛花が抱きかかえられていた。
 夜明けまで、残り───。

●第三幕 -14-

 東の山の裾野が白んでいる。雪はいつの間にか止み、地平線が青く輝き始めていた。透明な風が頬を撫ぜる。そんな風のさらに上。幾分動きの鈍くなった八十禍津日神を見下ろして、彼らは各々羽ばたいていた。
『もうじき夜明けだ───準備は出来てるぜ。』
『あぁ。僕も準備はオーケー。いつでもいいよ』
「ほ、本当に上手くいくんですかねぇ‥‥‥!?」
「頑張りましょう、リューインくん。命運は僕たちの手にもかかってるんですから!」
『おぅ、頼りにしてるぜ、お二人さん。よし───シャイア!』
「うんっ!」
 ガルディエの言葉に、半熟勇者は力強く頷く。巨竜と化したセイスの背中に、二人のシャイアが肩を並べて立っていた。片方は膨大な魔力を湛えた杖を正面に構え、もう片方はその杖先へとさらに魔力を充填し続けている。
『あんだけ長い時間、セイスの背中で魔力を充填してたんだ、ブチかませるな?』
「うん、今の僕なら───いや、僕たちなら、きっと朝を作り出してみせる!」
『ふふ、大きく出たね。そういうの、“僕”は嫌いじゃないよ』
「へへっ、ちょっと大口叩くくらいが、ちょうどいいのさ!───いこう、みんな!」
 朝の風を切り裂いて、少年少女は降下する。再び接近を開始した彼らに八十禍津日神は、致死の吐息を見舞おうと口を大きく開いた。
「リューインくん!」
「りょ、了解っ!!」
 浄化された水による、強烈な高圧水流が連続で放たれる。口を閉じて回避行動に移った八十禍津日神を揶揄うように、ミアスを乗せた『星間の駿馬』が、その鼻先をグルグルと旋回した。
「こっちにおーいで、です!」
 滅茶苦茶に頭を振り回し、ミアスを追いかける八十禍津日神を後目に、ガルディエ、セイス、シャイアの三人は、東の山の裾野へと降り立った。
『───行くぜ』
『───あぁ。』
「───うんっ」
 ガルディエの咢に赤雷が、セイスの全身からタキオン粒子が、シャイアの杖先から太陽の如き魔弾が───それぞれ極大のエネルギーを以て混じり合い、凄まじい輝きを放つ───!

 ───瞬間。音という音が、消え去った。

 閃光。耳鳴。轟音。東の山へと向けて放たれた莫大な破壊エネルギーは、その中腹に完膚なきまでの風穴を開け───その隙間から顔を出すようにして、真の太陽が姿を顕わにした。

 ──────ッ!!

 輝く朝の日を浴びて、八十禍津日神が末端から灰になって逝く。街に溢れかえっていた亡者の群れも例にもれず、その姿を跡形もなく消滅させた。

●第三幕 -15-

「おのれ、おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ま、まだ生きてるの!?貴方‥‥‥!!」
 降り注ぐ朝日によって、完全に塵となった大禍津日神の残骸から、黒僧がフラフラと立ち上がる。その姿は最早怨霊、拭い去れぬ執念をその身に宿した、死にきれない悪霊そのものであった。
「よくも、よくも我らが神を、地上に地獄を顕現さしめる、我らが悲願を‥‥‥!!」

「───なーにが地上に地獄をだこの野郎。余計な手間増やしやがって生臭坊主が」

「なぐッ───!?」
 突如背後から業火の車輪に轢き倒され、黒僧はあえなく泥濘に沈む。愛車のシンディーちゃんから降り立った漆黒の獄卒鬼───エスタシュは、苛立ちも顕わに巨剣フリントを黒僧に突き付けた。
「言い残すことは?」
「我らの‥‥‥彼岸は、不滅也───」
「そうかよ。残りは地獄で聞いてやる。」
 ───往生しな。鉄塊の如き剣が、朝日を浴びてニヤリと嗤った。

●エピローグ

 ───朝が来る。すべての人々に、平等に暖かさを振りまいて。
 街の復興に汗を流す人々の顔は、どこか晴れやかだ。
 罪が消えることはない。一生背負って、彼らは生きていくのだろう。
 それでも、春は来る。
 どかした瓦礫の下に小さな新芽を見つけて、少女はニコリと笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月11日


挿絵イラスト