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極めろ厨二病!? 滅せよ厄災、仄暗キヱ潜ム者!

#サクラミラージュ #不退転浅鬼

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#サクラミラージュ
#不退転浅鬼


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●罪人の奏でる断末摩(オペラ)の如く、それは正しく惨劇だった。
 薄暗く、じっとりと湿り気を帯びた部屋の一角。
 どこぞの建物の地下室か、決して広くはないその部屋に集まる五人の少年。
 部屋の最奥には所々錆びた、どこにでもあるような安物のパイプ椅子。それに少女は座る。
 まだ十二、三、否、十四才程の年齢だろう。妙に自信たっぷりのその顔には眼帯がはめられ、逆向けの五芒星が雑に描かれている。
 黒々とした右目は前方に集う若者へ向けられていた。
「くっ、右手がっ……右手が疼くっ……」
「どうした相棒。まだ影に生きる同胞の血を吸いたりないのか?」
「不用意に近づくな惨汰老(さんたろう)、奴は今、己の前世との記憶と戦っているのだ。分かるな?」
 いやわかんね。
 ひとまずそんな会話で盛り上がる彼らだが、深く相手の様子を知るようにも見えず、時折「あー、ね?」「そ、そうそう、そういうことだ!」などと言った台詞もちらほら聞こえてくる。
 端から聞けば思わず赤面しそうな会話の内容も、中心に立てば楽しいものだ。
「! お、思い出した。あの日、俺を封印したのはお前だな波瑠轢煌(はるひこ)!」
「えっ、惨汰老じゃなかった?」
「えぇ? 違くね?」
 訪れる沈黙、気不味い雰囲気。
 記憶違いかはたまた設定の相違か、黙りこんでしまった彼らの間を抜ける含み笑い。
「……クッ、ククククク……混乱するのも無理はない。その記憶を封じたのは俺だからだ」
「!? や、耶麻堕(やまだ)?」
「何を驚く?
 知っての通り、この俺と田中(クロス・イン・ザ・スクヱア)はかつて、天を賭けて決闘した身。何の不思議もあるまい」
 いや知らんけど。
 自信たっぷりの耶麻堕に、後へ続けとばかりに眼鏡をかけた坊主頭が手を挙げた。
「ちなみに記憶を戻したのはこの僕、血塗之男(レッド・マン)さ。
 僕たちはもう、同じ運命(スタア)によって集いし戦士、血の宿命を越えた仲間(クラン)だからね」
 くい、とメガネをあげる。
 沈黙。だが先程と違い気不味い雰囲気ではない。照れ臭そうに鼻を掻く田中や誇らしげな耶麻堕、そして血塗之男は力強い握手をした。
 こうやって友情は深まるんだなー。
「ふふふ。そう、全ては僕の手の中さ」
 響くしたり顔の少女の声に僅かな沈黙。
 白けた表情の田中に、惨汰老はまあまあと肩を揉む。
「たく、なんなんだよーあいつよー、いっつもマウント取ろうとしやがってよぉー」
「でもこの場所探せたのもあの子のお陰だしさぁ。催眠術? 的な?」
「だからって毎回あの態度はないわ。マジウゼヱわ」
 ひそひそ、ひそひそ。
 少女は小言など知る由もなく。彼らのテンションの高まりだけを感じ取り、こちらもお調子が上がっているようだ。
 椅子から立ち上がると右手の包帯を剥ぎ取り、眼帯と同じ五芒星が描かれたそれを掲げ、腰に差していた扇を開く。
 黒地に舞い散る桜の花弁と、袈裟斬りされた日輪。
「雌伏の時は過ぎ、雄飛に至るぞ、僕の眷属たち。手始めに、そう──、この帝都に住まう無知蒙昧な輩を一掃し、自らの力を無駄に浪費する桜學府へ知らしめよう。
 僕らが立ったのだ、と!」
『はああぁ~』
 同時に沸き立つ特大の溜め息に、少女は目を丸くした。
「あのさァ」
「俺たちは魔界からやって来た戦士なワケ。でももう人間に転生しちゃったから? 人の世界の平和を守ろうと考えてるワケよ」
「そりゃ今の政治や国家権力に対して思うことはあるよ?」
「でもだからって市民に手を出すとかテロリストじゃんさぁ」
「ちょっと空気読んで欲しいよねー」
「えっ、えっ?」
 慌てふためく少女。その姿は少年たちに利を悟らせるに十分であり、ここぞとばかりに今までの不満を爆発させる。
「そもそも名前負けなんだっけ? ホノキーちゃん?」
「忘れるなよ、仄暗キヱ潜ム者ちゃんだろ?」
「『僕は影と織り成す水底より来る者』だっけ?」
「魚人かよ」
「かっけーっ、俺たちとはセンスが違うっすよ!」
 自分たちのことを棚に上げ、えげつない煽り連打。
 遂には少女も、もう止めてと叫び真っ赤な顔を隠して蹲まってしまう。ちょっと男子ー!
 さすがに彼らもやり過ぎたかと、ばつも悪く互いの顔を見合わせる。
「その、悪かったよ。言い過ぎた」
「ま、待て惨汰老!」
 叫ぶ血塗之男。
 彼の目には暗がりの中、少女の影からたちのぼる鬼火が如き暗い炎を見つめていた。
 それは影から這い出て、複数の形を成すと、少年たちへ敵意を目を向けたのだった。

●眠れる記憶を呼び覚ませ!
 予知した内容に、タケミ・トードー(鉄拳粉砕レッドハンド・f18484)はうんざりとした様子を見せた。
 気が乗らない、思わずぼやいた言葉を咳払いひとつで払いのけ、こんな内容でも集まって下さった猟兵たちに向き直る。
「先に言っておく。これは帝都に蔓延しようとするバイオテロを止めるための重大な任務だ。失敗は許されない」
 予知内容と比べ余りにも重い内容に彼女の言葉を疑う猟兵たち。タケミもまた、気持ちは分かるとしながら事件の中心となる影朧の解説を行う。
「この少女は病魔を操る角のない傾国の鬼、桜學府に対して敵対心を持っているようだ。
 で、メンタルがトイレットペーパー並な訳なんだが」
 夢見がちなこの影朧、恥をかいて現実に引き戻されてしまうと呼び出してしまうのが、かの病魔だ。
 恥をかかせた対象を追いかけ攻撃する。この小鬼自体が強いのではなく、問題は疫病を拡めてしまうということだ。
「こいつらが解き放たれると、待っているのはこの世の地獄。奴は人心を操る力もあるようだが完全じゃあない。
 ガキどもも洗脳が解けたようだしな」
 そこで猟兵のすべきこと。
 指を二本立てて彼らの顔を見回す。
「厨二病を極めろ! 宿屋に泊まってるガキどもにそれらしく演じて情報を引き出すんだ。
 そして何より、奴と戦うときに恥はかかせるな! 奴が気持ちよく負けることに全力を尽くし、なんかその、エターナルフォースなんとかいう、そんなノリで乗り切れ!
 以上!」
 むしろ解説を勢いで乗り切ったタケミは、質問を受け付けることもなく踵を返す。
 と、数歩踏み出したところで動きを止め。
「この疫病が拡まれば帝都に甚大な被害をもたらす。病魔の排除はもちろん、ユーベルコードの治療も確実でないなら感染したと考えられる人間は全て処分しちまうってのが、確実な解決法だ」
 それが嫌なら、病魔を発生させないよう尽くすしかない。
 重い決断だ。彼女がのらないとするのも理解できる。
 特に洗脳が解けかけている少年らの対処を急がなくてはならないだろう。
 でもこれ、要は厨二的な発言と行動をしていればいいってことなんだよね?
 集まる猟兵の中には赤面する者もいる反面、すでにノリノリの笑みを見せる者の姿もあった。


頭ちきん
 頭ちきんです。
 サクラミラージュの厨二病患者を倒してください。
 グリモア猟兵の言葉通りにいけば、特段注意すべきことはありません。が、帝都が危機的状況に陥らないよう救ってください。

 一章では田中、惨汰老、波瑠轢煌、耶麻堕、血塗之男のいる旅館で枕投げしつつ情報を集めましょう。
 選択に合わせた部屋に彼らが振り分けられており、その名を呼べば本人でなくても反応します。
 彼らは魔界から転生したとはいえ、現在はただの一般市民なので、締め上げて情報を得ようにもトラウマになる恐れがあります。平和的な解決をお願いします。
 彼らの封じられた記憶を呼び出すような会話をすればべらべら喋ってくれるでしょう。
 二章では彼らから得た情報を頼りに影朧の潜む秘密基地を探ります。
 怪しい場所です。そこにいる人々は大人なので、厨二病が面倒と感じたなら思う存分に締め上げてください。
 三章は影朧との決戦となります。五人の少年の口を封じておかないと大変危険ですので、どんな手段を取ってでも無力化してください。
 影朧自身は傾国に対して強い思い入れもなく、案外簡単に説得・転生ができるかも知れません。

 注意事項。
 アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合があります。
 その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
 ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
 これらが嫌な場合は明記をお願いします。
 グリモア猟兵や参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
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第1章 日常 『旅館で枕投げ』

POW   :    大胆に大振りで投げる

SPD   :    素早く連続で投げる

WIZ   :    狡猾に立ち回って投げる

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アリス・セカンドカラー
おまかせ☆

帝都を裏から護る半吸血鬼(ダムピール)設定。
時間凍結☆二人だけの時間の中でネオタントラ(奉仕/限界突破/封印を解く/吸血/捕食/祈り)の儀式を施すことで情報収集するわ♡枕投げのポーズで停止した人達の中で行われる非現実的な儀式は彼らの口を軽くするでしょう。なお、特に必要はないけど順番に全員に儀式を施すわ、ほら、仲間外れはよくないし♪

なお、過去視遠隔視読心術の複合的透視の超能力アストラルプロジェクションリーリング(第六感/情報収集/視力/聞き耳/盗み攻撃)で透視すれば、儀式どころか接触すら不要だったりするけど、儀式した方が中二っぽいでしょ?趣味と実益も兼ねてるけど♡


紅月・美亜
「クックックッ……この大いなる始祖の末裔にして世界を改竄するスーパーハッカー、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットに歯向かうつもりか……我が策謀は常に完璧だが、ヒトがここまで愚かだとは計算違いであった。この間違いは私自らの手で正すとしよう。これから貴様は何の成果を得る事も無くただ、只管に死ぬだけだ。どこまで足掻き藻掻くか楽しませてもらう。では……死ぬが良い」
 まあ、投げるのは枕なので死なないだろうが。うん、気付かれない様にハッキング用のワイヤーも投げておく。そこまでする必要もなさそうだが念の為だ。知っている事は洗い浚い聞き出すさ。


紅葉・智華
※アドリブ・連携歓迎

つまり、【演技】すればいいんだね、わかるでありますよ、わかるとも。大体、普段からキャラ作り意識している私からすれば、何かになりきるのは朝飯前。――まあ、それはそれとして【選択UC(コスプレ衣装コレクション・初期技能・演技)】(変装)でそれっぽい格好……メイド服とかでいっか。そう、彼らの内の一人の従者『供(トモ)』として、過去に一緒に、というか露払いをしていた、という体で話せばいいんじゃないカナ。

それとなく、「態々主の手間を増やす事もありません。私に、お任せ下さい」という従者ムーブ(礼儀作法)をキメて、【情報収集】する感じで。



●オペレーション・セカンドディジーズ!
 それはどこにでもある旅館のひとつ。
 寒空の下、各窓から漏れる光と楽しげな声に、耶麻堕は笑みを浮かべた。
「……ククククク……う、羨ましいものだ、な。こ、こここの帝都の栄光と衰退を、しら、知らずにむむ……無邪気な……」
「ももっ、も、戻れるもののなら、戻り、戻りたいものだ、なっ……耶麻堕……っ」
 …………。
 寒空の下、うっすい寝間着姿で凍える少年二人。田中と耶麻堕である。
 体験学習に地元宿泊施設に訪れた彼らの所属する学級。夕食を終え、風呂も済ませ、体が暖かいからと薄着でのこのこ外に出たお馬鹿さんの姿がこちらである。
 風呂上がりは体を冷やすなって言われなかったかな?
「おーい、田中、山田。とっとと戻って来いよ、そろそろセンセの見回り来ちまうだろ」
「あ、はーい」
「い、いまま、戻りまーす」
 窓からひょっこりと顔を出す同じ部屋の学友に呼ばれて愛想笑いを見せる田中と山田、もとい耶麻堕。
 仕方ない、戻ってやるかと言わんばかりの表情で顔を見合せ、そそくさと部屋に向かう。途中、二人が別れた所を見ると一人はトイレか。
「ふむ」
 二人の後ろ姿を見送って、小さく頷いたのは紅葉・智華(紅眼の射手/自称・全サ連風紀委員・f07893)だ。
 ひとまず標的である五人の内、二人を確認できたと続くアリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の魔少女・f05202)と紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)へ振り返る。
「とりあえず、あの子たちから話を聞き出すとして」
 ふむふむ。
 頷く二人。
「大事なのは設定であります!」
『異議なしであります!』
 智華の言葉を真似て笑みを見せる。
 すべきことは、結局は演技だ。常日頃からキャラクターを作り、意識し、演じている智華にその心配はない。
(そう、何かになりきるのは朝飯前。問題なのは設定!)
 グリモア猟兵の予知にもあったが、設定同士が噛み合わない事故が発生してしまうと現実に引き戻されるトリガーとなる。熱し易く冷め易い今日日の中学生では、一度のミスが命取りとなるのだ。
(本当は過去も見通せる【星幽体投射透視術(アストラルプロジェクションリーリング)】を使えば接触する必要すらないけれど。設定作りなら儀式も施そうかしら。そうしたほうが厨二っぽいし、何より楽しいのよね♡)
 口許を押さえる手の下で、くすりと笑うアリス。
(設定作りなら簡単だが、大事な要素に演出もある。クックックッ、『大いなる始祖の末裔』の力に驚愕するといい、非力な人間たちよ!)
 邪な笑みを隠そうともしない美亜。
 二人の少女と一人の御姉さんによる、厨二病男子攻略作戦の開始です。

 野外に設置されたトイレで用を足す田中。余りの寒さに膝にも震えがくる中で、間に合ったことにほっとしながら手を洗う。
 当たり前のように冷たくて半べそである。
「ついに見つけましたわ、我が主」
「えっ、誰っ!?」
 慌てふためく田中の後ろで礼儀正しく頭を垂れる。
「ちょっ、ここ男子トイレなんですけど!」
「正確には外の手洗い場ですわ」
 語るのは闇に溶け込む黒のワンピースを着た智華。夜に一人いたところを、急に背後を取られては美人さんが相手でも緊張してしまうのが少年心だ。
 警戒心を炸裂させる田中に、むしろこれが相手の心を掴む術なのだとほくそ笑む智華。
「落ち着いて下さい、私は貴方の味方です。そう、田中(クロス・イン・ザ・スクヱア)様!」
「!?」
 なぜその名を。
 驚きに目を瞬くよりも早く、どこからともなく不可思議怪奇な目映い閃光が放たれ、直後には智華は黒いワンピースからメイド服へと、更に言えばその黒髪は金の毛髪へと変じていた。
 変身と言わざるを得ないその光景。ユーベルコードを使用した電脳魔術【即着(ラピッド・イクイップ)】だ。
 一秒にも満たぬ時間の中でコスプレをした訳だが、超常を目の当たりにした少年は驚きと興奮と、不安も見せていた。
(……こ、これは一体……我が主とか言ってたけど……ま、まさか、来てしまったというのかっ……? 俺の運命に、『運命の日』が!)
 もう少し表現を頑張ってもらいたい。
 感動を覚えて寒さを忘れ、涙ぐむ田中を智華は僅かに憐れむ目を見せたが、気を取り直して。
「改めまして、供(とも)です。貴方が魔界の戦士として光の者どもを悉く殲滅していた頃、いつも傍にお仕えさせていただいておりました。
 今の貴方の立ち位置は理解しているつもりです、ですが再び私をお連れしていただきたいのです!」
「あふぅ」
 自らの妄想通りの展開が起きていることに恍惚として悶える田中。
(ゲロキモいんですけど)
 ドン引きの光景であるが凛とした表情を崩さない智華の演技力は百点満点だ。
 田中はふらりと揺れて、壁にもたれかかると腕を組み。小さく笑みを浮かべて髪をかきあげる。
 トイレの壁でなにしとんのじゃ。
「そうか、思い出したよ、……トモ……。君は俺の剣となり、またある時は盾となり戦った。だが俺は君の傷つく姿に耐えられなかった。
 だから宿命の宿敵(ライバル)と天を賭けた最後の決闘で、俺を守ろうとした君を守り、そして俺は敗れてしまった。
 …………、ふっ、笑うがいいさ、俺は奴との決闘よりも、天界よりも君を選んでしまったんだ」
(ドやかましいわ)
 男子トイレの壁で格好をつける田中のどや顔を心の中でぶん殴りながら、智華は悲しげに俯く。
 これぞ名優。
「我が主、今は昔話に花を咲かせている場合ではありません。貴方の宿命の宿敵の耶麻堕様に危機が迫っているのです!」
「え、あいつもなの?」
 俺だけじゃないのか、と露骨にがっかりした顔を見せた田中であったが、すぐに気を引き締めると左手を握りにやりと嗤う。
「ならば行こうか、再び我らの覇道を征く為に」
「はい!」
 寒さにぶるりと震えて宿に向かう。
 メイドとしてはその格好に気遣うべきであったが、少年のプライドを傷つけないようにあえて行動はしない智華。
 決して彼のキモさに仕返ししてやろうと言うみみっちい考えからではないのだ。

「食らえッ、究極の必殺レジェンド奥義! そばがら枕!!」
「いってぇ! ふざけんなよてめえ!」
 そこには田中がいないのに枕投げを楽しむ三人の姿。
 そばがら枕でリアルファイトに発展しそうな雰囲気に、まあまあと間に割って入る耶麻堕。そんな彼に、二人は意地の悪い笑みを浮かべてバックステップ、そばがら枕を高々と放る。
「スカしてんじゃあねーぞぉー、山田ァーッ!」
「てめえのおトボけた面にも食らわしてやるぜッ、このそばがらの痛みをよォ~!」
 やだめたくそガラ悪いわこの子たち。
「俺と!」
「お前で!」
『熱血のツープラトンシュートォオオ!!』
 やだめたくそ仲が良いわこの子たち。
 完璧な交差から、上下に別れて打ち出されたシュートに情けない声をあげて目を瞑る耶麻堕。
 しかし、いくら待っても恐怖の瞬間は訪れない。そっ、と目を開く少年の視界一杯に広がる枕に、思わず仰け反って尻餅をつく。
 驚愕する彼の目の前には、虚空で静止し悪魔のような形相でキックを放ったまま固まるルームメイトの姿があった。
(…………。えっ、えっ? ええっ!?)
 二度見三度見四度見て、目をかっぴらく耶麻堕は異様な光景に寒気を覚えた。
「何これ何これ何これ怖い怖い怖い怖い! 知らない、こんなの知らないっ!」
 慌てすぎだぞ少年。むしろ田中よりは常識的な反応かも知れない。
 耶麻堕はしばらく震えていたが、落ち着きを取り戻すと枕の上下左右に手をかざして完全に浮いていることを確認すると、どう見ても静止しているルームメイトに考えが及ぶ。
(時が止まった……ヱロビの設定じゃない……なぜ俺だけ……俺が時を……?
 そんな馬鹿な、時を操る程度の能力はただの設定──!)
 否。
 浮かんだ否定の言葉を否定する。
「違うのか? 俺の考えた設定が現実になったのではなく……俺の『過去』が……俺は俺の過去に導かれて設定を作った……?
 それならこの現象はこの俺が巻き起こしたのか!?」
「いえいえ、わたしです♪」
「うひぃ!?」
 耳許で囁かれて、再び情けない悲鳴をあげる。
 振り返った先でにまにまと笑っているのはアリスだ。恥ずかしい姿を見られていたと赤面する耶麻堕を初々しいと笑ったものの、そうやって愛でる対象ではない。
「時を、止めた? あんたが?」
「私の超能力は時さえ支配するわ☆『夜(デモン)』の王女様はきまぐれに時を凍えさせ、あるいは、加速させるのよ♪」
 誇らしげに語るアリスに呆けて大口を見せる耶麻堕。
 ユーベルコード【不可思議な『夜』の王女様はきまぐれに時を支配する(ワンダータイムプリンセス)】。特定の対象を除き、限定的とはいえ止めた時の中に閉じ込めたのだ。
 少女は左手を広げて芝居がかったお辞儀をする。
「ごきげんよう、耶麻堕。わたしはこの帝都を影より護る半吸血鬼──、ダムピールのアリス・セカンドカラーよ♡」
 ダムピールとはダンピールの別の読み方である。間違えたとかではない。勉強不足だぞ耶麻堕、首を傾げるんじゃない!
 吸血鬼とは古来の物語で言えば悪役だ。それこそ別の世界では強大な力で君臨し、民草に圧政を敷いている。
 そんな存在が混じり者とは言え人々の為に活躍する。非常に心をくすぐられるシチュエーションである。
 にやけた口をばしりと叩き、耶麻堕は顔を引き締めた。
「それで、どうしたのだアリスとやら。前世においては天をも喰らったこの耶麻堕に、何か用があるのだろう?」
「そう! 耶麻堕、あなたの前世の功績を讃え、同じく帝都を護る同士として笑い者(スカウト)に来たのよ☆」
 読みがおかしい。
 しかし無邪気に邪悪な笑みを耶麻堕は一切疑うことなく両の手を開き天を仰ぐ。そこ電灯しかありません。
「そうか。永きに渡った我が日常が、そして惜しむらくは短き俺の日常か。
 人としての衣を捨て、また天を喰らう修羅になれねばならんとは、なんたる皮肉ッ!」
 なにが皮肉なんだろうか。背景設定がよく分からない部分はさらりと流し、アリスは笑みのままに耶麻堕へ近づく。
 ならば覚悟は出来ただろう。人の常世を捨てる覚悟を。
 耶麻堕はその圧に耐えかねて後退りする耶麻堕。ちらりと固まるルームメイトに目を向ける。酷い顔だ。
(こんな感じでワケわからん内にやられるのは嫌だ! 俺は、『特別』になるんだ!)
 了承の言葉を。語る前に部屋のドアがノックされる。
 来たか。
 ドアにアリスが向き直って数秒後、どうぞと声をかけた所で漸くとドアが開く。お邪魔しますとばかりに律儀に頭を下げたその少女は、病的に青白い肌を持つ。
「……クックックッ……急いで来て正解だったよ。
 この大いなる始祖の末裔にして世界を改竄するスーパーハッカー、『レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット』に歯向かうつもりか」
 目を細める美亜に、耶麻堕はごくりと喉を鳴らす。
 アリスは耶麻堕を庇うように前に立ち、不適な笑みを見せた。
「あなたの時代はもう終わる、そういうことよ。この耶麻堕の手によって、ね♡」
 振り返り可愛らしいういんくを見せれば慌てるのは耶麻堕だ。
「えっ!? ちょまっ、えっ、聞いてない聞いてないですから! まだなんもやってないし!」
「ほう、随分とその人間を買っているようだな、アリス・セカンドカラー!」
「もしもしぃ!? 聞いてます!?」
 少女に掴みかからん勢いで、しかしやはり恐怖が勝るのかアリスの影に隠れる耶麻堕。情けないぞ耶麻堕。
 必死の形相の少年の訴えなどどこ吹く風で、美亜の背後から【アンカー付き光学式チェーン】が現れ、そこらに転がる枕へと突き刺さる。
 ユーベルコード始動、【Operation;INVADED(オペレーションインベイド)】。
 周囲の光源を引き込むように枕へと光が集い、部屋を照らし出す。
「これこそ世界を改竄する我が能力。これはもう枕ではない、『TDNMK;plasma cluster』だ!」
「現実改変だとぉ!? 俺ですらケンカの種になるから封じていた無敵設定じゃないか!」
 地団駄を踏む耶麻堕。気にするべきはそこじゃないと思う。
 そんな彼であるが、実際にハッキングしたのは彼の聴覚と視覚である。枕に刺したアンカーはただの囮で、本命は回り込み耶麻堕の足下にぶっ刺さった代物だ。
 つまり、これはただの枕だ。
「……な、なんてパワーなのっ……!」
「我が策謀は常に完璧だが、ヒトがここまで愚かだとは計算違いであった」
「ねえ、日本語、俺、日本語で話してるでしょ? ねえってば!」
 この間違いは私自らの手で正すとしよう。
 美亜の目がぎらりと光る。遂には涙ぐむ耶麻堕に一切の慈悲も容赦もない雰囲気で少女は枕を掴んだ。
 否、『TDNMK;plasma cluster』だ。
「これから貴様は何の成果を得る事も無くただ、只管に死ぬだけだ。どこまで足掻き藻掻くか楽しませてもらう。
 ……では……、死ぬが良い」
 激しい閃光。再び開くドア。
 雪崩れ込む智華と田中。彼らの目には、ぽいっ、と下手投げで放たれた太陽の如き力が映っていた。
「──耶麻堕ァァァーッ!」
 田中の叫び声。
 全ての光が収まった時、そこには半べそで頭を抱える耶麻堕の姿があった。
「あ、あれ? なんともない?」
 枕だからね。
「そ、そうか。記憶が戻った時点でこの俺の身体能力は、前世の我へと至っていたのか!」
「ずっこいぞ耶麻堕ァァァーッ!」
 田中の叫びに余裕綽々の笑みで返し、耶麻堕は後退る美亜を睨み付ける。
「残念だったな、大いなる始祖の末裔にして世界を改竄するスーパーハッカー、『レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット』!
 もはや覚醒した我が力の前に、敵はいない。征くぞぉ!」
「ならばこの俺もともに至ろう、この世界の高みへと!」
 同時に踏み出す少年二人の足を、智華とアリスが払い転倒させる。
 綺麗にひっくり返った少年たちだが、敷かれたお布団のお陰で大した怪我はない。
「ちょっ、何すんの!」
「態々主の手間を増やす事もありません。私に、お任せ下さい」
「大体同じく♪」
 智華の構えた室内用の箒が光と共に身の丈を超える巨大な銃器へと変化する。
 アリスの構えた雑巾もまた光に包まれると、暴力的な刃を従えた巨大手裏剣へ。
「百三十六のメイド兵器術がひとつ、『HOKI-blast.HIGH LASER CANNoN』!」
「むうう!」
 それっぽく適当な名前を叫び引き金を。
 同時に暴れ出た光の奔流は部屋の壁を吹き飛ばし、障壁を張る美亜を押し流す。
「ふふん♪」
 力比べの構図に、横槍を入れたのはアリスだ。
「喰らいなさい、『夜の帳を落とす者』!」
 小さな手を、自ら飛び立つ巨大な刃は唸りをあげて美亜の障壁を破壊、美亜は光へと飲み込まれた。

●抵抗できると思うなよ?
 凄まじい光景を前に、尻餅をついたまま何もできずにぽかんと眺めていた二人は、心に誓う。
 こいつらには逆らわんとこ、と。
「ぐ、くうっ」
「! まだ生きていたとは、さすが大いなる始祖の末裔にして世界を改竄するスーパーハッカー、……『レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット』……!」
「敵にするには惜しいわね、大いなる始祖の末裔にして世界を改竄するスーパーハッカー、『レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット』♡」
 クドい。
 しかしこの名、これで彼らの脳に十二分に刻みつけられただろう。
「ふっ、クククククッ、ハッハッハッハッハッ!
 素晴らしい力だアリス・セカンドカラー、トモ、そして耶麻堕と、……あと……」
『…………』
「また会おう、我が覇道を阻む者たちよ!」
「おい! このクロス・イン・ザ・スクエアを忘れるな!」
 田中の方が覚え易くって。
 美亜は申し訳なさそうな顔を見せたが、すぐに気を取り直すと闇へと消える。
 もちろん、戦いの中で破壊された部屋や少女が消えたのは全て二人の視界をハッキングしたが故だ。
「さて、それでは我が主」
「ヤ・マ・ダ♡」
『…………、えっ?』
 教えて貰おうか、厄災の居所を。
 従者として、同士として。
 この世界を護る者として。威を誇る笑みを見せた二人の言葉に、二人は今度こそ、力強く頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「私は経験を積んできちんと幻朧桜に転生したいので、前世をお持ちの先輩方から是非ともお話を伺いたいと思いましたの」

憧れのスタアを目にした時のような尊敬の眼差しで大真面目に傾聴(本気
影朧の居処や役を確認

「…?」
枕投げは未経験で理解度が低かったため、手にした枕で打ち返すカウンター攻撃発動
何人かを打ち倒したら、回復兼ねUC「桜の癒し」使用
まとめて彼ら5人を眠らせて回復させつつ、影朧の部屋から遠そうな部屋へまとめて放り込む
「これで彼らも回復しますし夢だったと思い込ませて有耶無耶にしやすくなりますし、ついでに影朧に影響を与える可能性も減りますから一石三鳥ですの」目を反らす
「…ごめんなさい、やりすぎました」


御形・菘
はっはっは、行けるところまで行けば良い、何を躊躇うことがある!
妾が厨二病をディスるとか、そんな無粋な真似をするはずがなかろう?
詳細は省略するが、むしろ世界(※キマフュ)に広める側よ!

とゆーことで、邪神が会談を望んでおるぞ!
はっはっは、枕を投げつつ異世界交流を行おうではないか

この手のトークの基本は相手を肯定することよ
ありったけ持ち上げて、好きに語らせるのがポイント! 聞いていて妾も楽しいしな?
情報は後で整理すればよかろう

そういえばお主ら、転生を無事成し遂げたようであるが、記憶の引継ぎにはどれほど成功をしておるのだ?
妾は転生未経験なのでな、魔界でお主らが成し遂げた所業の数々、語ってはくれんかのう?


サリア・レヴァイア
【SPD】

影と織り成す水底より来る者、魚人……私の事かしら
一応、事前に調べて来たわ…厨二病、について
私自身に、そんなつもりは全く無いけど…運命という言葉は、その病を患っている層には良く響きそうね

私は、運命を視通す占術士─設定でも何でも無い本当の事だけど、そう名乗ろうかしら
枕投げでも会話でも、UC:【-】運命の波を存分に生かすわ
枕の軌道を予測して完全に避け、尚且つ相手の動きを読んで当てる
相手の言って欲しい事を先読みして口にし、さも同類…しかも、自分よりも格上の存在と認識させる
…こんな感じかしら
槍を投げるのに比べたら、枕を投げるのなんて簡単な事ね
怪我人も死者も出ない、素敵な遊びだわ

※アドリブ歓迎



●転生者へと至る為。
「私は経験を積んできちんと幻朧桜に転生したいので、前世をお持ちの先輩方から是非ともお話を伺いたいと思いましたの」
 胸に両の拳を握り、ずずいと顔を寄せる御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)に丸刈り坊主頭は、構えた枕を頭上に上げて挙動不審だ。
「え、あ、はい?」
「なんだよ赤城ー、知り合い?」
「い、いや、知らな──」
「血塗之男としての前世のお話を、お伺いしたいのです!」
「!?」
 桜花の言葉に目をかっぴらく。
 憧れのスタアを目にした時のような尊敬の眼差しで、少年からすれば危険なほどの大真面目な視線に焦りを爆発させた。
「レッドマ、なに?」
「ちょーっとこっち、こっち来ようねお姉さん!」
 きょとんとする桜花の腕を引き、部屋の外へと出た赤城こと血塗之男。
 彼はルームメイトがついてきていない事を確認すると、血塗之男は先程とは逆に桜花へ詰め寄る。
「なんなんだあんた!? あの仄暗キヱ潜ム者の仲間か?
 僕の学校生活(スクールデイズ)を崩壊させる気か!」
「何の話です?」
 素直に首を傾げたふんわりとした女性の雰囲気に、思わずたじろいで先程までの剣幕が止まる。
 その所作にこちらをたばかる様子は見えず、血塗之男は、何の用なのだと言葉を繋ぐ。
「それはもちろん、貴方の過去について伺う為です」
「ほ、本気なのか……仕方ないなァ……!」
 男とは単純なものだ。明らかに不自然なことも、目の前の異性の笑顔には些末な事なる。
 血塗之男からドキドキ思春期赤城くんとなった。彼の口から語られる前世の内容を大真面目に聞き取り、メモする桜花であるが、まるで無関係なので割愛する。ごめんよ赤城くん。
 そして話は遂に核心、影朧の居処へと至る。
「あの子はなにか不思議な空気を持っていて、あの娘の前だとすらすらと前世の記憶を思い出してたんだ。なにか心地好くて……ただ……、最近は何か居心地が悪くなってきて、皆、不満を持っているよ」
「その娘は一体どこに?」
「この宿屋から正面の道を進んで突き当たり、脇道に入った所さ。なんか、怖い大人たちがいて──いや、僕には全く関係ないけどね?」
 強がって見せるどや顔の赤城くんには構わず、頭の中で地図を組み立てる桜花は、大体、必要な情報は出揃ったかと頷く。
「ところで、その枕でなにをしていたんですか?」
「枕? あっ」
 先程、慌てて出てきた際にそのまま持ってきてしまっていたのだ。ここで赤城くん、邪な笑み。
「これは枕投げ、枕を投げて遊ぶのさ。日本の伝統的な遊びで寝る前にエキサイトするのさ!
 一緒にやろうよ!」
「? え、ええ」
 腕を引かれて再び部屋に戻った赤城くんを、ルームメイトたちはやはり知り合いだったのかと桜花を見つめる。
 流れで集まる羨望の視線に、ぞくぞくと身を震わせる。
 良い趣味してるよ赤城くん。
「ほらほら、枕を持って。いきますよ~、そうれっ」
「…………?」
 軽く投げられたそれに、カウンターの一閃。
 枕投げの不十分な知識により、未経験も合間って桜花は手にした枕で赤城くんの枕を打ち返した。
 放物線を描き迫るそれは、高速一直線で赤城くんの顔に直撃した。
 寄りによってそばがら枕だ。
「お、おい、赤城? …………!」
「気絶してやがるっ、畜生、なんだってこんなことを!」
「この人でなし! 天使! メイドっ!!」
 最後の人おかしくない?
(す、素晴らしいですの、これが……枕投げ……! 血塗之男さんの言葉通り、凄く盛り上がってるし寝てる!)
 天よ裂けよ、地よ割れよとばかりの怒りの咆哮は隣の部屋から壁が蹴られるが、お馬鹿な思春期男子はもはや止まらない。
 赤城くん人望ありすぎである。
「受けろ、天羅爆裂掌!」
「それっ!」
「ああっ、賀間部~! おのれ超必殺、ウインドミル投法!」
「なんのっ!」
「山野辺明ァ! くそっ、くそっ、くそうっ、なんなんだよ、俺たちが何をしたって言うんだぁ!」
「最後ッ!」
 赤城くんだけでなく、全てを打ち討った桜花は、やがて紅潮した頬も落ち着き死屍累々の部屋の有り様に、う、と呻く。
 赤城くんは幸せな顔だが、他の少年たちの表情にやり過ぎたのでは、という考えが過る。
「仕方ありません」
 ユーベルコード、【癒しの桜吹雪(イヤシノサクラフブキ)】を発動する。
 鼻血を流していた少年もいたが、吹雪く桜が彼らにまとわりつくとその傷を見る見る間に回復していく。
 苦しそうな唸り声から安らかな寝息へと変わった彼らを、桜花は疲れた体で引きずって別の部屋へと押し込める。
「これで彼らも回復しますし、夢だったと思い込ませて有耶無耶にしやすくなりますし。
 ついでに影朧に影響を与える可能性も減りますから一石三鳥ですの」
 冷や汗をひとつ、目を反らす女。
「……ごめんなさい……、やりすぎました」
 言いつつ戸を閉じる桜花。生徒の失踪に翌朝は軽い事件になるが、帝都を巻き込む事件に比べれば遥かに小さいことだ。
 さらば赤城くん。
 桜花は彼から聞き出した場所へと向かった。


●見ろ、これこそ完全無欠の厨二病!
「おーい、早く枕投げしようぜー」
「ふっ。なんだ、子犬ども、……きゃんきゃんと……!
 この俺と遊んでもらいたいのか?」
「おいコーゾー、こいつにパイルドライバー食らわせてやろうぜ」
「よっしゃ」
「ふ、ふふふ、『強硬せし鉄槌(ボディーランゲージ)』はノー・サンキューだ」
 上下逆さにされても態度を崩さない波瑠轢煌。
 その光景を見ながら惨汰老はにやりと笑う。
「おい、とりあえず春彦を寝床にぶっ刺したら、三田の奴にフライング・ボディアタックすんぞ」
「オーケー、シノブゥ!」
「おいおい、君の体格でそんなことされたら、内蔵をゲロっちまうぜ? まあ俺の魔爪を持ってすれば」
 髪をかきあげた惨汰老に問答無用のビンタを見舞う。
「おうふぅ!」
「よっしゃ、枕投げしようぜ、枕投げ──、!?」
 女の子のように崩れ落ちた惨汰老にシノブは枕を投げつけて、更なる枕を補充しようもした少年は驚きに動きを止めた。
 部屋の中央に現れた女性、二人の猟兵が彼らを見つめている。
 一人は挑発的な笑みを浮かべる御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)と憂い気な表情を見せるサリア・レヴァイア(魔歌・f17984)。どちらも蛇の半身を蠢かせているその姿は、猟兵としての特性が無ければ転生者のひしめくサクラミラージュでも目を引いただろう。
 否、もうひとつ目を引く部分がある。
「ん~? なんだ、どうしたのだ?」
 少年たちの反応に首を傾げると、シノブとコーゾーはあわあわと目を反らす。
 かと思えば、脱兎の如く部屋から抜け出した。
「そ、そんな格好は~!」
「僕たち子供には刺激が強すぎますぅ!」
 少年らの捨て台詞を鼻で笑い、菘とサリア暴力に屈した少年たちへ向き直る。
「な、なんだ? 誰だ、お前たちは!?」
「まさか、奴らの……刺客……!」
 身構えた二人は警戒の色を見せたものの、僅な間に瓦解する。
 そんな刺客など、ただの男子中学生たる彼らの前に現れるはずがない。
 折れた夢追い人のように俯く波瑠轢煌と惨汰老。そう、どれだけ設定を練ろうと、詳細を詰めようと所詮は空想。コーゾーやシノブのように打ち崩されるのがオチだ。だからこそ彼らは、あの場所に恋い焦がれるのだ。
「はっはっは、何をしょげているのか! 行けるところまで行けば良い。何を躊躇うことがある!
 妾が厨二病をディスるとか、そんな無粋な真似をするはずがなかろう?
 二人の少年の絶望を、豪快な笑いではね除ける。驚いた二人に、菘はにんまりと笑うと、自らの唇に人差し指を当てる。
「詳細は省略するが、むしろ妾は世界に広める側よ!
 いつまでもしょげた顔をするな、邪神が会談を望んでおるぞ!」
 邪神。ごってりとした装飾に挑発的な衣装と、その言葉を肯定するに難しくない説得力だ。
「よ、ようし、俺の深淵(ディープ)な設定(デスティニイ)に挑むなら、相手をしてやろうじゃないか!」
「はっはっは、ならばここに枕もあることだ。その熱き想い、枕を投げて妾に伝えてみせよ!
 異世界交流を行おうではないか!」
 スポ根である。
 この手のトークの基本は、相手を肯定することにある。波瑠轢煌の想いの丈を受け止め、ありったけ持ち上げて、好きに語らせるのだ。
(聞いていて妾も楽しいし、必要な情報は後で整理すればよかろう!)
「お主ら、転生を無事成し遂げたようであるが、記憶の引継ぎにはどれほど成功をしておるのだ?
 妾は転生未経験なのでな。魔界でお主らが成し遂げた所業の数々、語ってはくれんかのう?」
「ふっ、いいとも。あれは二十七万八千五百年前の、第百回タケノコ戦争の時だ」
 法外な時の流れに対して随分と可愛らしい戦争名である。
 如何に凄惨な戦いだったか語る波瑠轢煌だが、聞けば聞くほどファンシーな内容しかない。
 やれ筍が槍を構え兵士になった、やれ筍の王が世界を支配した、など。君、筍が嫌いだからそんなこと言ってるんじゃないの?
「そして俺は前世の記憶が戻った頃、あの『仄暗キヱ潜ム者』に出会ったんだ」
「…………」
 それは、本当に記憶が先だったのか。
 影朧に出会ったことで、昔、彼らの設定していた記憶が甦ったのではないか。
 一方、サリアもまた惨汰老との枕投げを行っていた。素早い投擲は惨汰老の避ける先を的確に捉え、乱れ打つ枕が少年を襲う。
「ば、馬鹿なっ!? なぜっ、なぜだ!」
 苦し紛れの枕の投擲は掠りもせず、惨汰老は信じられないとばかりの表情だ。
 そう、まるで心を読まれているかのような、そんな感覚。
(まさか、そんな、有り得るのか、そんな能力が!)
「有り得るわ。なぜなら私は、運命を視通す占術士。この程度のこと、造作もないわ」
「…………!?」
 『影と織り成す水底より来る者』、『魚人』。まるで自分のことのようだとサリアは未来に彼らの語る言葉を転がした。
 それほ口にしないまでも、確かに惨汰老が胸の内に秘めていた言葉だった。
「一応、事前に調べて来たわ。……厨二病……、について。
 私自身に、そんなつもりは全く無いけど、運命という言葉は、その病を患っている層には良く響きそうね」
「くっ、ならば──」
「──俺の過去はどうだ。そう、貴方が語ろうとしたのは第三百十二回の茸戦争……」
「!?」
 ユーベルコード、【『-』運命の波(ウェイブ・オブ・フォーチュン)】。常に彼女を中心に発せられるその力が、惨汰老の全てを視通すのだ。
「『運命』──、それは、寄せては返す波。……視えるの、聴こえるの……。波間に沈む、貴方の姿が、……声が……」
 運命を視通す占術士。設定でも何でも無い本当のことだ。
 自らの言葉や語ろうとした内容を先に当てられ、惨汰老はがっくりと膝をつく。
 勝てない、と。圧倒的優位にあることを、サリアから感じたのだ。
「槍を投げるのに比べたら、枕を投げるのなんて簡単なことね。
 怪我人も死者も出ない、素敵な遊びだわ」
 それは単に、そのような場であったならとっくに生死を決定されていたと言うこと。
 正に運命を握られた惨汰老は、サリアへ全面降伏を申し出た。
「俺の、俺の敗けだ。これ以上は戦えねえ、降参だ。だからこの俺を──、弟子にしてくれないか!?」
 決意を見せる少年の瞳に対して、サリアは言葉を返すことはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『帝都の闇を往く』

POW   :    犯罪者から情報を引き出す

SPD   :    貧民窟で情報を集める

WIZ   :    娼婦から情報を聞き出す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 そこは帝都のスラム通り、などと呼ばれる通りの一画。
「よう兄ちゃん、持ってんだろ? 影朧を導きしタリズマンをよう!」
「な、何のことですぅ!?」
「ああ、そこの旅のお方、どうか哀れなるこの乞食に慈悲を──、ほう、気づいたようだな?
 この俺がただの乞食でない、と!」
「はぁい坊や♡ 私の背中に封印されし魔王の刻印、見てみない?」
 何かおかしい。
 猟兵が少年たちより得た情報の場所は、治安も悪くカツアゲも横行している。
 だけど何かおかしい。
 彼らは皆、脛に傷を持つ身だ。おそらく影朧の影響下にあるのだろうが、いい大人のため締め上げてもトラウマになることはないだろう。
 帝都の闇を往き、影朧の場所までたどり着こう。
・少年たちは精神制御を受けているのか、目的地付近までの道のりしか語れませんでした。
・帝都の闇を生きる人々から情報を引き出し、影朧の潜む場へと辿り着いてください。
・御園・桜花が二章に参加する場合、ユーベルコードにより僅かに疲弊していますが、戦闘もかいため現状、特に問題にはなりません。
紅月・美亜
「ふ……子供相手のお遊びはここまでだ。情報収集はハッカーの得意分野よ。Operation;MULTIPLY、発令!」
 私の周囲にミクロサイズを展開し、ゆっくりと歩く。カツアゲマンに絡まれたら体内潜航。何か怪しい奴を見つけては体内潜航。何、死ぬ事は無いさ。加減は出来る。
「先に言っておくが嘘はつかない方が身の為だ。さて、貴様は影朧に付いて何か知っているか?」
 嘘かどうかは相手の反応で分かる。二択を迫り続け情報を引き出そう。MULTIPLYはいくらでも出せるからな。
「拷問だ、とにかく拷問にかけるぞ! 拷問されたくなければ素直に全部喋るのだな! 喋っても拷問はするがな!」
 おっと、本音が漏れた。


紅葉・智華
※アドリブ・連携歓迎
口調・語尾は可変式

方針:POW

締め上げても良いとは思うけど、騒ぎを大きくしたくないのも事実。可能な限り、武力は使わないようにしよう。

引き続き金髪メイド姿のまま(誘惑,おびき寄せ)で行けば、向こうからアレコレ仕掛けてくるだろうし、そこを【カウンター】。……武力を使わないと言ったなアレは嘘だ。
まあ、正当防衛なら、騒ぎとしては最小限の筈というだけの打算だけども。

「メイドなら簡単に倒せると思った? 残念だったでありますね」

必要であれば【選択UC】(早業)で武器を取り出す。
「さあ、吐くでありますよ……! これが見えないと言わせないであります」



●帝都スラムストリイトのキング、キング・スラム!
「帝都の暗部、治安の悪い犯罪通り、といったところでありますか」
 紅葉・智華(紅眼の射手/自称・全サ連風紀委員・f07893)は華々しい表通りと違い、ひどく汚れたスラム通りと呼ばれるその場所に顔をしかめた。
 服装は宿舎を訪れた時と同じくメイド服姿だ。
「クックックッ。相手がならず者ならば子供相手のお遊びは、もう必要あるまい」
 智華と行動をともにするのは、先程と同じく紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)だ。
 彼女のお遊び、という言葉に智華は反応し、難しい顔をする。
「締め上げてもいいとは思うでありますが、騒ぎを大きくするのも得策と言えないでありますよ」
「ふむ、一理あるな」
 可能な限り、武力は使わない。智華の提案を受け入れる美亜だが、それではどうやって情報を引き出すのか。
 やはり宿舎の一件と同じようにすべきかと思案する。
「こんな格好をしていれば、向こうからすれば鴨がネギを背負ってきたようなものに見えるはずでありますよ。なので、向こうが仕掛けてきたところを──」
「ようお嬢さん方。なにやら怪しい話してるじゃねぇか、ええ?」
 現れたのはオールバックの男。金縁の細長いサングラスをかけて、黒いスーツに派手な赤シャツと開いた胸元には金のネックレス。
 見るからにアレな男だ。
「何しに来たのか聞く気はねぇ、何しろここは風の吹き溜まり。集まるのは皆、この帝都──、いいや魔都に魅入られちまった人間ばかり。
 この風の哭くスラムストリイト、これ以上、吹き溜まらせるのも具合が悪い。大人しく帰れば何もしねえ。ただ、帰らねえってんなら」
 最後の二文だけでいいだろおっさん。
 前後の細道から、二人を囲うようにチンピラ姿がぞろぞろと現れる。
 下卑た笑いを浮かべてナイフやハンガー、バット、ゴルフクラブに栓抜きといった凶器を手にこちらを見つめている。種類が豊富ですね。
「私たちは争いにきた訳ではないのであります。話し合いを求めるのであります」
「見てわかんねぇのかガキども。こっちはそのつもりなんてないんだよ。
 ……それとも……やはりお前たちも、風に喚ばれたクチだってのかい? だがなこれ以上、このスラムストリイトを哭かせるワケにはいかんのよ。
 おい、警察に来られても面倒だ。ほどほどにダンスしてやりな!」
『ヘイっ!』
 どうしようもないやられ役っぷりをただの一言で表した男たちが迫り、身構える二人。
 そこへ制止の言葉がかかる。三下どもの咆哮よりも大きな声に、棒付キャンディの包装を剥がしていた男はぎょっとして振り返った。
「……あ、……兄ィ……!」
 そこには、ヤンキー座りで背中越しにこちらを睨み付ける黒髪特盛リーゼントの姿があった。
「おい、あれって!?」
「ま、間違いねえ、……単車もないのに白の特攻服(ヱースアタッカァ)、重力(インベヱション・トゥ・ヘル)にも敗けねえ大鑑超巨砲主義(イキリイゼント)……!」
「若頭(サブギルドマスタァ)が兄ィと呼ぶ唯一の男!」
「初代帝都健康促進夕日出走徐吟愚組! 元祖・釜梨茶狗(プリティドッグ)の武闘派、子犬好き(パピィラバー)の与太郎サンだぁーっ!」
 長い・クドい・読みづらい。三拍子揃った駄文であるが早口で言い切った彼らの紹介にはかつらを忘れた部長でさえ脱帽せざるを得ない勢いだ。
「うるせえぞ三下(キティ)どもぉ! 背負ってる看板(ヱンブレム)見てから口を開きやがれィ!」
 文面はともかく、あれだけの神対応をしてくれたチンピラに向かって鬼のようなガン飛ばしを行い、ぐいと自らの背中を右手の指で指し示す。
 親指を下にするのは止めなさい。
 そこには『帝都退廃道・参帝』の文字が刺繍されていた。
「馬鹿野郎お前ら下がれッ。この方こそ現世(イマ)はこのスラムストリイトに君臨する参帝(ヘッド・ザ・ケルベロス)、キング・スラム様よ!」
 ざわっ。
 沸き立つチンピラ。恐怖に震え、尻餅すらつくほどに圧倒される彼ら。そして置いてきぼりにされる智華と美亜。
 だがさすがはキングと呼ばれる男、二人の女性をそのような立ち位置で済ませるはずもない。若頭の言葉を受けて立ち上がると特攻服を翻し、天を貫くようなイキリイゼントを戴き智華を見下ろす。
「おう、女のクセにとか言うつもりはねえぜ。いい度胸だと誉めてやる。だがなぁ」
 ぽん。
 肩に乗せられた手。その瞬間に智華の目がぎらりと光る。
「自己防衛権の積極的行使ーッ!」
「うおおおおおお!?」
 キングの手に己の手を当てて、肩から外すと同時に内がけで足を払い、引き倒す。
 同時に絡めた腕が男の背面へと回り、がっちりと関節を固定する。
 極まりである。
「さあさあ、吐くでありますよ!」
「いや何を? 俺様何で組み敷かれてるのかも分かってないんだけど?」
 不満そうなキング。まあ気持ちは分かるよね。
 美亜としても唐突な智華の行いについていけていないようで、視線で問う。彼女はキングから油断なく目を離さずとも気配に気づいたようだ。
「明らかなリーダー格、逃す訳にはいかないであります。即座の無力化かつ、内容はともかく我々の目的を敵対勢力に知らしめ、更に頭を先に潰すことで集団の戦意を削る、基本的な兵法であります」
「それはいいが、残りが質問の内容を知らなかったらどうするんだ?」
「そしたらそいつらを殲滅してリーダーを起こし、脅しの材料にするでありますよ」
 素っ気ない台詞になるほどと美亜。顔を青ざめさせたのはキングだ。まあ気持ちは痛いほどわかるよね。
 必死の形相で智華を睨み付ける。
「待てやコラァ! 普通ここは俺様を使って平和的に解決しようとするところ、だっ、だだだだだだだ!」
「兄ィィィーッ!」
『キングゥゥウ!』
 無言で腕を捻る角度を上げる。
 浮き足立つ子分たちの中から、怒りを顔に滲ませて智華へと詰め寄る者が一人。
 金髪を刈り込んだような髪型に対してまだあどけなさの残る顔は、彼の若さを物語っていた。
「俺のこの『五感(ファイブセンシズ)』にはしっかりと刻まれてるぜッ……てめえが武力の行使を避けるッ……て語っていたのをよォオ!
 仲間(ギルドメンバー)に嘘ぉぶっこいたってのか、ええ? このアマぁ!」
「聞いていたでありますか」
 詰め寄る男に智華は寂しげな笑みを見せる。
 何か理由があるのだろうか。心配そうな視線を下から向けるキングから離れ──るように見せて腕の関節は足で踏んでしっかりと固定したまま、智華はユーベルコードを始動する。
 【電脳世界の倉庫(サイバーアーマリー)】。いわゆる異次元収納術と自称するそれは電脳魔術によって生じる空間の歪みへと格納された、巨大な倉庫へとアクセスするものだ。
 それは一瞬の早業。チンピラたちからすれば目に映ることすらなかったであろう刹那の間にその手へ現れたのは【04-MVアサルトウェポン[MOMIJI's CUSTOM]】。
 智華の改造したライフル状の銃火器である。もう一度記しておくが銃火器である。
「アレは嘘だ」
「ただの圧倒的武力思考(カチコミ)じゃねえか!」
 叫ぶ若頭。しかし帝都の暗部に住まう彼らが、そんなものに屈するはずがない。
 どーせニセモンだろー、と呑気なことを考えながら突撃する。君たちはユーベルコヲドを手品か何かと勘違いしているのではないのかね?
 しかし、さすがに発砲するのは不味いと感じたか。
「せい!」
 銃床でキングの後頭部を打ち気絶させると、迫るチンピラーズに向き直る。銃口を向けるような真似をしない彼女に、やはり偽物と侮ったか彼らの勢いが強まった。
「淨滅(ブッコン)で逝くんでィ世露死苦ゥ!」
『世露死苦ぅぅーっ!!』
 逝ったら駄目じゃん?
 しかしそんな事など彼らにとっては関係がなく、襲い来る男たちに智華は目を細めた。
 構えたライフルを半回転、銃床によるアッパースイングが先頭の顎先をはね上げ、がら空きの腹へ鋭い蹴りを見舞う。
 後続を巻き添えに倒れ込む仲間に構わず左右へと展開し、ハンガーや栓抜きを構える男らの攻撃。
 智華は素早くライフルを手元に戻し、同時に二撃を受けて前後へ受け流す。
「シッ!」
 正面の男の膝を銃床で打ち崩し、戻す勢いをそのままに背後の男の鳩尾を銃身で貫く。
 膝を押さえて頭の位置の下がった男の顔面に、気持ち優しめのフルスイングを決めた。
 瞬く間に第一陣を沈め、後続へ余裕の笑みを見せ。
「メイドなら簡単に倒せると思った? 残念だったでありますね」
「……く、ぐ……!」
 後方では後方で、美亜の放つアンカー式光学チェーンに足を取られて転ぶ者たちがいた。
 傭兵であった経歴を持つ智華と違い一般人程度の戦闘能力しか持たない少女にとって、このような直接戦闘は普段なら避けるべき展開だ。
 しかし、今回は少し勝手が違うのだ。
「クックックッ、我が策謀の前には児戯に等しい」
「あ、あのパツキンメイドだけじゃねえ、こいつもやりやがるぞ!」
「一体何者なんだ!」
「ほう、何者だ、と問うのか。この私に?」
 良いだろう。
 足を止めた男たちを睥睨し、美亜は凛として声を張り上げる。
「良く聞くといい、無知蒙昧なる愚劣な輩よ。私こそは大いなる始祖の末裔、世界を改竄するスーパーハッカー、その名も『レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット』!
 このような場所に我が真名を知る者もおるまいが、耳にした言葉を功績として、冥府の番人に渡すのだな」
「…………! ぜ、全然っ、覚え……らんねえ……!」
「良くわかんねーけど冥府(ヘル・カオス)の番人(ガーディアン)に渡せねえよっ!」
 己の鳥頭っぷりに絶望するチンピラーズ。
 反射的に凶器の鉛筆で地面に書こうとした者もいるようだが、間に合わずに記録できなかったようだ。書くのは甘え。空で暗記したまえ。
 このように、普段ならば不利なはずの状況も、簡単に自分のペースに持っていけるだけの下地があるという訳だ。この点に関しては影朧の洗脳術に感謝すべきかも知れない。
 そして、優位に立ったとあればすべきことも確定する。反撃だ。
「貴様ら、情報を渡すことはしないと言っていたな?」
「言ったっけ?」
「さあ?」
 そうやって知らばっくれるのも良かろう。
 沈み行く夕陽のように真っ赤な瞳が鋭く光る。
「貴様らの態度など関係がない。情報収集はハッカーの得意分野よ。
 【Operation;MULTIPLY(オペレーションマルチプライ)】、発令! 我が問いに答えるがいい、虚偽の答えは罰則を与えよう。不答もまた罰則とする!
 いいな?」
「そもそも質問すらされてねえから──、ユーベルコヲドだと!?」
 ユーベルコード使いか、と今更ながら身構えるチンピラたち。本当に今更であるが分かりやすい事象を見ていなかっただけに当然かも知れない。
 現に今も、何の変化も見られない美亜とスラムストリイトに肩透かしを食らったような、そして脅しだったかと笑う者も。
「くっ、なんでえ、虚仮脅しかよ」
「遊びは終わりかい、次はなんだ? 降伏(ダンス)でもしてくれるのかい?」
 にやりと笑う彼らへ、その通り、遊びは終わったと美亜は嘯いた。
 掲げた掌に、まるで見えない小鳥が止まったように愛しげな視線を向ける。
「私は星の数にも匹敵するユーベルコヲドを使役する。その中のただのひとつに過ぎないが、それでも恐れるべき力を持っているのだ。
 そう、貴様ら如きに直接、目に見える形のユーベルコヲドを使わなくても、目に見えぬ程の小さな戦闘機を作ることも出来るのだ」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる、さっさと俺と戦いやがれっ」
「言っただろう、もう終わったと」
「……何を……?」
 美亜の語る目に見えぬ程の戦闘機。それは今、彼らの体内へ入り、奥へ奥へと。
 そして事象は発生する。
 美亜がぱちんと指を鳴らすと、呻き声を上げて全ての男たちがその場に蹲った。脂汗を額に浮かべて、ぶるぶると震える男たち。
 質問は当にされていた。質問に対する罰則のルールを理解したか否か。それに答えなかった為に、彼らは今倒れているのだ。
「……ぐ、ぐおお……」
「は、腹が、腹がいてえッ」
「この感覚ッ! 『学校で用を足す』という選択肢がなかった『あの頃の俺(フェアリィボウイ)』がッ! 志(ハウス)半ばにおいて心折れかけているッ!
 思い出すッ! 『あの頃の俺』をッ!」
 体内潜航する戦闘機の攻撃。簡単な質問に反するほど威力を高める傾向にあるが、そこはしっかりと手加減している。
「先に言っておくが嘘はつかない方が身の為だ。クックックッ、既に手遅れだがな」
 嘘だと言ってよ。
 人間社会に生きる者へ過剰なる制裁を課した美亜。おそらく本人もこのような効果は考えていなかっただろう。
「貴様らは影朧について何か知っているか?」
「…………、知らねえなぁ」
 しかし、誰も立ち上がれないと見えたその中で、一人の青年が再び顔を上げた。ゆっくりと身を起こし、そして──立ち上がる。
「ほう?」
 面白がる視線の美亜へ、顔面蒼白、唇も紫色っぽく変色した男は内股で膝を震わせながらもファイティングポーズを見せる。
「なにがスーパーハッカーだ、舐めんじゃねえぜ。こちとらよう。
 ──悪魔(デイモン)の父と! ──天使(エンジヱイル)の母! 最強の混合種(ハイブリッド)! 『神々に祝福されし子』の意味を持つ!
 鈴木・愛祝(アイス)だぞこの野郎ぅうう!!」
 野郎ではない。
 愛する父母の元に産まれキラキラネームを授かった彼。仲間に馬鹿にされたこともあった。仲間外れにされたこともあった。それでも彼が道を違えずに進んでこれたのは。そして今この瞬間も立ち上がれたのは。
 彼にかけられた両親の愛が本物だったからに他ならない。
 あれ、でもぐれたからここにいるのでは?
「父よ、母よ、ただの一撃でいい、この世界に破滅をもたらさんとする悪魔に必殺の拳を! 我が愛に救いの導きを!」
「カツアゲマンが、言ってくれるじゃないか」
 熱く、否、暑く燃える男が走る。
「ならば我が問いに答えよ、愛の戦士! 貴様の愛する女の名を!」
「言えるか馬鹿野郎っ、げぼあ!?」
 激しい体内からの攻撃に耐えることなく、今度は完全にストリイトに沈む青年。
 誰もが恐れる事態にならなかったことを見るに、やはり美亜による加減が為されているのだろうか。
 さて。
 彼女は残る者どもへ視線を走らせる。
「貴様らの態度は理解した。ならば、拷問だ。
 とにかく拷問にかけるぞ! 拷問されたくなければ素直に全部喋るのだな! 喋らなくてもいいぞ! どうせ喋っても拷問はするからな!」
 おっと、本音が漏れた。
 ぴしゃりと自分の口を塞ぐ美亜。愛によって立ち上がった者さえ悪魔の問答で捩じ伏せた少女、そして多数に襲われても軽々と制圧したメイド。
 二人の驚異を前に、チンピラーズの答えなどひとつしかなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「それはいわゆる、背中に大海賊のお宝の地図的な、美事な刺青があるのでしょうか?」
「是非お姉さまとの親睦を深めさせていただきたいです」

可能なら腕を引いて飲み屋へ
無理そうなら酒屋まで走って戻って酒の一升瓶何本も買って戻る

「さあお姉さま、お近づきに一献どうぞ」
お酒をがんがん振る舞って、仄暗キヱ潜ム者ちゃんの情報集め
「まあお姉さま、流石博識ですわ」
「仄暗キヱ潜ム者…通称魚ちゃんですわね」
「流石お姉さま、美事な刺青ですわ」

女性の裸は自分含めお風呂屋さんで見慣れてる!
話を聞いたらお酒とUC「桜の癒やし」で寝させて確認
その後凍えないところに移動させ服もきちんと整え夢と思わせ去る
「これで覗いた証拠は隠滅です」



●帝都スラムストリイトのクイーン、クイーン・スラム!
「はぁい坊や♡ 私の背中に封印されし魔王の刻印、見てみない?」
「ぼっ、ぼぼっ、ぼっくんには早すぎると思いましゅうう!」
 路地裏からの声に、我を忘れて逃走するおっさん。おいおっさん。
 今日は客の入りが悪いと長い髪に櫛を入れるのは、目に見えるのではないかと疑うほど濃密なフェロモンを放つ女だった。
 背中のぱっくりと開いた服は、艶のある長い漆黒の髪に包まれている。
 両手に大量のポケットティッシュの入ったかごを持つ、彼女は何者なのか。
「アネさーん!」
「あら、魔浬亞(マリア)」
 こんな所にいたんすか、と息を切らせた女は頭の上にタワーの如き見事な盛りヘアーを魅せる。
 彼女は、ティッシュ配りは自分がやると息を巻くものの、女はやんわりとそれを拒絶した。
「どうしてなんすか! アネさんはノルマが達成できず……今や両手にカゴ、どうやってティッシュを配ればいいかもわからない始末……!
 戻るっすよアネさん! アネさんの居場所はここじゃないっす!」
「駄目よ魔浬亞。私が戻っても皆、私を避けてしまうわ」
「くっ、……何でなんすか……! 銀行員がデーハーな格好で背中を見せようとするからイケナイって言うんすかっ」
 その通りだよ鉄塔頭。どこに疑問の余地がある。
 深刻な顔で解決策がすでに提示されている問題に頭を抱え蹲る魔浬亞と、彼女を慰めようにも両手がふさがり悲しげに立ち尽くすアネさん。
 とりあえずカゴを置きたまえよ。
「…………、背中に封印されし魔王の刻印」
 風にそよぐように流れ着いた声に、魔浬亞ははっと立ち上がる。
「それはいわゆる、背中に大海賊のお宝の地図的な、美事な刺青があるのでしょうか?」
「ナニモンだ、てめえ!」
 自らのごつ盛りヘアーで威嚇する魔浬亞へ、友好的な笑みを見せてスカートの裾を広げ、上品にお辞儀をする。
「自己紹介が遅れて申し訳ありませんの。
 私は御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)。是非お姉さまとの親睦を深めさせていただきたいです」
「あぁん? 私におめーみてーな可愛い妹なんざいねぇぞオラァ!」
「魔浬亞、黙って。話が進まない」
 アネさんの言葉にしゅんとする魔浬亞。桜花は一抹の罪悪感を払いつつ、親睦を深める為に近くの飲み屋へ行くのはどうかと提案する。
 しかしアネさんの答えはノウ。なぜなら彼女はティッシュ配りという業務中であるからだ。
「余りにも配れない私の不手際にオウナアがノルマを一日ひとつに変えてもこの有り様。それでも私は、私を解雇しようとしない彼の為にティッシュ配りを辞める気はないわ。
 そして背中も見せ続けるわ♡」
 それやっておっさんに逃げられてたろ。
 アネさんの健気な言葉に胸を締め付けられる魔浬亞と桜花。これそういう話じゃないから。
 しかし、ならばとここで諦めないのが猟兵だ。
「でしたら、お酒を買って参ります! こちらで飲むのはどうでしょう?」
 そういう問題じゃないと思う。
「もちろん、構わないわ」
 そういう問題だったよ。
 近くの酒屋へひた走り、一升瓶を何本も抱えて戻ってくるとすでに魔浬亞の姿はなく、相変わらず両手にカゴの女性が立つのみ。
「さあお姉さま、お近づきに一献どうぞ」
「あら、ありがとう。気が利くわね♡」
 カゴで手の塞がるアネさんの為に、せっせとグラスに氷とお酒を注いでは飲ませてあげる桜花さん。要介護者への立ち振舞いである。
 数杯ほど用意をしたものの顔色ひとつ変えずに男も真っ青の一気飲みを続ける女へ、桜花はひとまずの手探りとばかりにその名を問う。
「そう言えば、まだ名乗っていなかったわね。ヒック!」
 効いてる効いてる!
「私はね~ぇ、うふっ。この帝都のぉ、ヒック! 『万年ティッシュ配り(ラッキー・ブリンガー)』のアネーゴ・ブラックウィドウよ。
 今ではスラムストリイトの参帝、クイーン・スラムと呼ばれているわぁ♡」
「……ヘッド・ザ・ケルベロス……お姉さまの他にも同じような方が?」
「ええ、ヒック! そうよぉ。私の他はね~ぇ、うふっ、キングとぉ、ジャックがいるのぉ。ヒック!」
 桜花は新しいお酒を作りつつ、頑としてカゴを離そうとしないアネーゴのプロ意識の高さに思わず唸る。
 だが悲しいかな、その情報は桜花には不要なものだ。
 酒の酔いを再確認しつつ、彼女はアネーゴから影朧、仄暗キヱ潜ム者の情報を引き出す頃合いだと見繕う。
「お姉さまはいつから参帝と呼ばれるようになったんですの? 何かきっかけがあったんじゃありません?」
「ヒック! そうねぇ。丁度、一週間前よぉ。芋臭い少年を五人連れた、桜學府の子かしらぁ?
 それっぽい服を着た子がやってきてえ、ヒック! ここの皆とお話していたのよぉ」
 予想を超えて実に最近のお話である。
 もしかしなくともそれが件の影朧だろう。
「仄暗キヱ潜ム者、通称お魚ちゃんですわね。一体どんなお話を?」
「あらぁ、せっかちさん。ここから先はタダとは言えないわ♡」
 タダ酒飲ましてもらっておいてなんて言い種だ。
 アネーゴは色気たっぷりの笑みを浮かべてこちらに背中を向けると、挑発的に肩越しの視線を送る。
「貴方がこの帝都に闇をもたらす魔を祓う者かどうか。勇気ある者であれば出来るはずよ、私の背中に封印されし魔王の刻印を見ることが」
 むしろ今まで見られなかったのが奇跡だと思います。
 一体、その背中に何が眠るのか。桜花も女、女性の裸自体は見慣れたものだが、このような言い回しを受けては初な男性諸君含め女性も緊張するというもの。
「あんっ♡」
 喘ぐな。
 喉を鳴らした桜花が意を決して豊かな黒髪を掻き分けたその背中には、憤怒の形相を見せる閻魔大王とそれを敬うように囲い立つ阿修羅像の如き鬼の姿。
 閻魔大王の座る机には罪人が寝かされ、長蛇の列まで見事に描かれたあの世の一風景画だ。
 マジモンじゃねーか。
 子供であれば失禁間違い無し、大人であってもこれを背中に描き入れるのがどんな人種か知っていれば失禁間違いなし、である。
 そもそも髪の毛掻き分けたら閻魔大王に睨み付けられるとかハニートラップだからねこれ。
 しかし桜花の唇から転がるのは感嘆の溜め息と感動の言葉。
「……綺麗ですわ……」
 白い女の柔肌をキャンバスとし、色鮮やかに、一入れずつ入念に、丹精込めて描き上げたであろうそれは日ノ本文化の芸術品として語るに相応しい。
 恐ろしげな絵の内容も、仔細を知らぬ桜花であるからこそ、ただ絵として受け入れることができたのだろう。
「さすがお姉さま、美事な刺青ですわ」
「うふふっ。いいわぁ、貴方には資格があるようねぇ。この帝都のヒック! 闇とぉ、戦う資格がぁ」
 髪を戻して振り返る。名残惜しげな桜花の様子にも優しげな笑みを見せて、アネーゴは影朧の名を取り上げた。
 仄暗キエ潜ム者。自らを影と織り成す水底より来る者と称し、そのお陰で魚人と罵倒されそうになっている少女。桜花も魚ちゃんと通称しており、アネーゴも真名(フルネーム)がめんどっちいのでそれに倣う。
「お魚ちゃんと話してるとねぇ、ヒック! なぜか、『過ぎ去りし日々(ブルー・スプリング)』を思い出したものよぉ。
 そして、ん、……ふぅ……。なぜか皆、昔に戻って、あの子の言うことを聞いてしまうのぉ」
 恐ろしい力を持っている。
 少女に誘われるままに参帝としてこの帝都スラムストリイトに君臨するアネーゴであったが、鉄塔頭の暑っ苦しい心によって正気に返ったというのだ。
 お前正気でそんなことしてんのかよ。
 とろんとした目で、うつらうつらと船を漕ぎ始めるクイーン・スラム。彼女は最後に、彼女たち参帝の力によって用意した影朧の住処を桜花へ伝えた。
「あの子は強いわぁ。気をつけなさいね、勇者……様……♡」
 静かに寝息を立てるアネーゴ。
 それでもカゴを離さず立つことを諦めない彼女の姿に、ティッシュ配りのプロフェッショナルとしての風格を胸に刻んだ桜花。
 さすがに邪魔なのでカゴはその辺に置きつつも、風の当たらない所へ彼女を移動させ、風に吹かれて集まった段ボールや新聞紙を巻いてやる。
 最終出た後に見たことある光景だ。
 桜花は最後に、ユーベルコード【桜の癒し】を始動、舞い散る桜の花弁を呼び寄せて、吹雪と化したそれがアネーゴを更に深い眠りへと誘う。
「これで覗いた証拠は隠滅です」
 満足げな桜花。彼女も朝になれば桜花の記憶も曖昧となっているだろう。
 桜花はぺこりとアネーゴに頭を下げて、魚ちゃんの元へ向かう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・セカンドカラー
ワンダフォーランドにようこそ♡
分身たるリトルアリス(範囲攻撃)が触れた者を私の妄想世界にご招待よ♪あ、罠使いで脱出条件を薄い本みたいな頭のおかしいものに設定しておくわ☆
とりま、気になるのは背中に封印されし魔王の刻印とか言ってる女の人ね。寄生触手マーラ様を寄生させてー、女性では味わえない快楽を教えてあげる♡
と、そんな感じで帝都の闇に生きるもの達を捕食していくわ♪こうして限界まで搾ってあげるとみんないい声で哭いて許しを乞うて口を軽くしてくれるのよね☆はぁ、情報収集のついでにおなかと欲望を満たせて一石三鳥だわ♪
ついでだし、何人か篭絡して宿主になってもらおっと☆ふふ、たっぷりと貢がせてあげるわ♡


サリア・レヴァイア
【SPD】

貧民窟…明日をも知れぬ者達が寄り集う、帝都の闇
そうね、知っているわ…こういった人達は、占いを馬鹿にする
そんなものの言う通りになるなら、こうなっていないと
…でも、心のどこかで、もしかしたらと縋る思いも捨てきれない

面倒な病気を患っているみたいだけど、対処はさっきの三太郎…惨汰老だったかしら?あの彼と同じで良さそうね
占いを通し、UC:【-】運命の波で行動や思考の先読みをして揺さぶりをかけ、情報を聞き出す
でも、利用するだけじゃない
どうすれば、日向の生き方に戻れるのか…そういった話も真摯にして、交流を図りたいわね
警戒心を緩めてくれれば、更に有益な情報も喋ってくれるかもしれない

※アドリブ歓迎


御形・菘
妾は慈悲深いので、一般人を物理的に傷つけることはせんよ
そんなオーバーキル、大人げないことをする必要は無い!

皆を楽しませるトークは得意であるが、脅したりするのは尚更に容易く可能でな
尻尾を相手の身体に巻き付け、頭を鷲掴み、舌でぺろりと顔でも舐めてやろう
お主の秘めた力も、邪神の前では可愛らしいものよ
さて悪の巣窟、秘密基地について何か知らんかのう?
更に妾の存在感を以て、殺気を僅かでも見せてやれば…失神せんように調整はするがな

安心せい、お主らが恐怖を感じるのは、格の違いを本能が正しく理解した故であるぞ?
といっても、一人に訊くだけでは情報の裏付けまでは取れんな~
次々に襲撃…もとい、質問をしていこうかのう?



●帝都スラムストリイトのベガア、ジャック・スラム!
 そこは帝都の暗部、風の吹き溜まり帝都スラムストリイト。カツアゲか横行し娼婦が嗤い乞食が蔓延る、そんな場所。
 そんな所にも関わらず、否、そんな所だからなのか、何も知らない人間がやって来るのだ。
 ほら、また今日も。
(乞食ング・タイムの始まりと言うワケさ!)
 汚れたボロを纏い、男は何も知らぬ風に歩く二人の女性の前に転がり出た。
「ああ、お嬢さん方! どこぞからいらしたのかは存じませぬが、この哀れなる乞食に救いの手、を──?」
 下から二人を見上げて息を呑む。
 それは、戦わずしてもわかる見事な戦闘能力。娼婦もかくやと思えるほどの刺激的な服装に、乞食の思考が加速する。
(なんだこの服装は──、一般人(ノウサギ)においてはありえない──、正に狩人(ビギナズ・スレイヤー)──、逃走よりも狩られることを望まずにはいられない、そんな男として悲しき血の滾りを感じる──!)
 乞食の男はボロを抱くようにして立ち上がると、女二人へ鋭い視線を向けた。
 何者だ、と。
 彼女たちからしたら、お前こそ誰だよといった所ではあるのだが、その反応を見ればここいらでも情報を多く持つ人物であること、想像に難くない。
「尋ねるなら、まずは自分から名乗るのが礼儀というものよ」
「うむ、違いあるまい。一体、何者だ?」
 勘の良さが仇となったか。
 サリア・レヴァイア(魔歌・f17984)、御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)両名の問いに、皮肉なものだと唇の端を吊り上げる。
「バレては仕方あるまい。そう、俺はただの乞食ではないのだ。
 ──とうっ!」
 気合一声、高々と後方へ回転跳躍、凄まじい音をたてて右膝から落下、もとい、着地する。
『…………』
 気不味い沈黙。やはりあれは着地ではなく落下ではないのか。
「あ、あのあの。大丈夫ですか?」 
 思わず素で心配の声を上げた菘へ片手を上げる男。ゆっくりと立てた人差し指を左右に振り、無事をアピールする。
 嘘こけ顔あげたら絶対涙目だろ。
 その答えはあまりの不憫さに視線をそらすサリアこそ知る。
 やがて、しばしの間を置いた男は自らの足に気合を入れつつ、ゆっくりと立ち上が──、ろうとして崩れ落ちる。
 蹲る男。慌てる菘。もはや顔すら背けるサリア。
 長い時を経て、漸くと立ち上がった男は真っ赤に血走った目と脂汗で顔中をどろどろにしながらも言葉を振り絞る。
「この俺こそは、この帝都スラムストリイトが参帝の一人、『胡麻擂りの魔術師(ザ・グレート・グラインダー)』ジャック・スラム!」
「そんなことより膝のお皿は大丈夫ですか?」
「黙れ小娘! 膝小僧がお皿の五枚や十枚を割ったとて、腐ってもこの参帝! 心配されるほどやわな作りではぬぁい!」
 膝小僧は一人につき一枚しかお皿を持ってねえよ。
 足を引き摺るような歩き方は明らかに無事には見えないが、繰り返し強がるジャックに案外本当に大丈夫なのではないか、と考えついた菘も余裕と落ち着きを取り戻したようだ。
 サリアとともに自らの名を語ると、にやりと威圧的な笑みを浮かべてジャックへ顔を寄せる。
「ジャックとやら、悪の巣窟、秘密基地について何か知らんかのう?」
「悪の巣窟だと? ふっ、何を聞きたいのか分かったぞ。だが、そう簡単に教えると思っているのか」
 ジャックは指をくわえると鋭い音を鳴らし、口笛を聞き付けて路地裏、ベンチの下、ゴミ箱にポスターの裏や植木鉢に隠された穴から乞食姿がぞろぞろと姿を現す。
 忍者もびっくりの変態ぶりである。
「くっくっくっ、我らは言わば帝都スラムストリイトの斥候部隊!
 影朧の存在するこの帝都の影を行き闇を生き、多くの情報を集めている。無論、我らがスラムストリイトなど目をつぶっていても散歩(ブンメルン)できるほど!」
「でもさっき膝小僧さんがお皿を割って」
「過去に縋るな未来を見ろ! 小娘、そこに生きる場所はない!」
「人は過去には生きれない、けれど過去を学ばなければ今を歩けない。そうして未来へ備え、生きていくものだと思うけど?」
「正論を吐くな!」
 格好をつけたところを追い詰めないであげて。
 やはり膝の具合を心配する菘とジャックの言葉に正論(マジレス)をぶっこむサリア。
 戦う前から心折れたように見えたものの、参帝を名乗るだけありこの男、まだ負けを認めてはいないようだ。
「ともかくだ、貴様らが何者かはじっくり聞かせて貰うとしよう。行けい、我が眷属たちよ!」
『オールセット!』
 返事にしては間違っている気がしないでもないが、気分の良くなる整列と一斉に放たれた声。
 迫る乞食姿に対してしかし、菘の笑みは止まらない。
(妾は慈悲深いので、一般人を物理的に傷つけることはせんよ。
 ──そう、そんなオーバーキル、大人げないことをする必要は無い!)
「見せてやるぜ、禁じられし力! ツーシン・カラテカパンチ!」
「こちらも解放しよう、魔の力を! スイミング・スクール・バタキック!」
 襲いかかる攻撃をぬるりとかわし、人とは異なる動きに乞食たちも対応できずにいるようだ。
 菘はその隙を突き、足下へ伸ばした尾で男らの踏み込んだ足を払い体勢を崩す。崩れ落ちる男の体に素早く自らの体を巻き付けて拘束、その動きを止める。
「むむぐ、動けん!」
「……クックックックックッ……」
 含み笑い。
 長く鋭く、大きな左手の爪先が男の顔を優しく撫でる。
「ひっ、…………!?」
「お主の秘めた力も、邪神の前では可愛らしいものよ」
「じ、邪神!?」
 長い舌がずるりと男の顔を舐めた。その視界に、存在という穴が開いていくように。菘の顔が男の視界一杯に広がり、まるで闇の中に浮かび上がるように、それしか見えなくなる。
 菘の存在が、他の全てを塗り潰す。男は心臓を直接握りこまれたかのような錯覚に襲われた。
「影朧や子供たちの潜んでいた、秘密基地について、教えて貰おうかのう」
「ひ、ひえ、……ひえぇひひ……」
「クククッ、安心せい。お主らが恐怖を感じるのは、格の違いを本能が正しく理解した故であるぞ?」
 その殺気に完全に戦意を挫かれた乞食姿を睥睨し、菘はおどろおどろしい笑みを深くしていく。
 数多く現れたのは彼女にとっては好都合。蛇に睨まれた蛙の如く、動けなくなった乞食たちへ次々と襲撃、もとい、ぐるりと巻き付いて質問を行う。
「一人だけでは信憑性も薄い、裏付けにもならん。聞かせて貰うぞ、お主らの魂の奥底から叫ぶ答えをな!」
 サリアは躍動的に情報を集める菘を横目に、彼女の活躍のお陰で攻めあぐねる乞食姿へ意識を集中させる。
 帝都スラムストリイト。貧民窟とでも言い換えられるだろうか、明日をも知れぬ者達が寄り集う、帝都の闇だ。
「そうね、……知っているわ……こういった人達は、占いを馬鹿にする。そんなものの言う通りになるなら、こうなっていないと」
「な、なんだと?」
「でも、心のどこかで、もしかしたらと縋る思いも捨てきれない」
「何を言ってやがる!?」
 サリアの言葉に思う所があるのか、激昂して迫る乞食姿。
 しかし、『-』運命の波を始動する彼女にとって彼らの動きは手の中にあるように視通されている。
 攻撃を繰り出す前から、するりするりと軸上を抜ける彼女の動きに、乞食姿は攻撃の手立てすら失ってしまったようだ。
「ば、馬鹿な、どうやってこんな動きを?」
「よく知らねえが、達人は目線や肩、足の動きで察するという話だ」
「! そうか、つまり!」
 嫌な予感しかしない流れで打開策を思いついた乞食ーズは、自分たちのボロをすっぽりと被ると、これで挙動を見切ることは出来まいと豪快に笑う。
 所詮はぽっと出の策、自分の視界を潰すなど愚考の極み。
「そして、こうだ!」
 互いの両手をがっちりと組んで列を作り、通りを塞ぐ。邪魔である。
 しかし、これで視界が塞がれても列による範囲攻撃でサリアを捕らえようというのだ。
 中々の考えである。しかし愚策である。
『突撃ーっ!』
 希望に燃えて突貫するボロたちを、寂しげに見つめてサリアは街灯に体を巻き付けて上へと逃れれば。
 そのまま通りの外へ走り過ぎる男たちの姿があるのみだ。彼らは一体、どこまで駆け抜けて行くのだろうか。
「さて」
 街灯から滑り降りて、一瞥。
 自らの戦力をものの十分とかからずに無力化した二人の猟兵を見つめて、ジャックはごくりと生唾を飲み込んだ。半分は自滅でしょ?
 しかし、後退はない。
「例え我が眷属を退けたとてジャック・スラムこと胡麻擂りの魔術師、大見得・乞太郎、斥候部隊の誇りに賭けても後退はぬうぅうあい!」
 多分それ斥候部隊として間違っていると思います。
「バレヱを殺人の域にまで鍛え上げたこの芸術的裏通り喧嘩殺法、受けるるか童どもぉ!」
「でもお膝の具合は大丈夫なんですか?」
「発汗量、声の震え、立ち方に目の動き恫喝的な態度、どれを取っても自らを鼓舞するための態度と見れるわね」
「…………」
 菘に心配され、サリアに看破され。
 思わず顔を背けたジャックに、サリアは優しく声を紡ぎ出す。
「大見得さん。確かに貴方は、貴方たちは素晴らしい技術を持っているわ。この帝都中の情報を集め、更に先ほど私たちに見せた擬態術、一級品だわ。
 それらの力を、こんな所で燻らせるのは勿体ないと、私は思うの」
 日陰に身を落とした者たち。だが、それでも日向を見つめる羨望の瞳を、彼らから見出だしていたのだ。
 陰に生きるための彼らの技術は、陽の下でも十分に通用するはずだ。サリアはそう考え、そして本心を言葉に乗せた。
 その真心を受けて、ジャックは。
「…………、いやぁ~、アネさんっ、お目が高い!
 あっしらもそうなんじゃーないかと常々思ってたんですがねっ、やっぱり自分の尺度じゃ分からないものじゃないですか?
 しかしねぇ、そのあっしらをあっという間に畳んじまうアネさんらの言葉だぁ、そら信じるってもんですよ、へえ!」
 頭ぺこぺこ両手すりすり。
 怒涛の勢いで胡麻を擂り始めた。あまりの豹変ぶりに菘は目を点にするが、これも彼らの処世術なのだろう。
 こちらを信じているかは分からない。だが、長いものには巻かれろと、彼らはこちらを長いものと判断し、協力する姿勢を見せたのだ。
 サリアは小さく笑い、菘の質問を繰り返す。
「それでは教えて貰いましょうか。悪の巣窟、その場所を」
「へえ! すぐにお教えしますんで、へえ!」
 小気味の良い返事がスラムストリイトに響いた。


●そして、参帝は滅びスラムストリイトに平和が訪れ……ない。
 帝都スラムストリイト。
 猟兵と、帝都の闇を生きる犯罪者集団、参帝との死闘はこうして幕を下ろした。
 死屍累々と転がる犯罪者たちも、各々の帰るべき我が家へ向かった頃、キング・スラムは人影の無くなった我が覇道をゆったりと進む。
 そのとさかのイキリイゼントは相変わらず天へ突き上げられていたが、帝都ステゴロ最強を自負する彼は、為す術もなく地べたへ這いつくばった事実を受け入れられず、気の抜けた顔をしている。
「…………、……おっぱい……」
 訂正しよう。
 敗北とかどうでも良く、今の彼には青い春が到来しているようだ。歳を考えろ与太郎。
 重い溜め息を吐いた彼が次に目にしたのは、幸せそうな顔で『冥土地獄尽くし』と書かれた一升瓶を抱き締め眠るクイーン・スラムの姿であった。
 新聞紙や段ボールに囲まれ、暖かそうではあるが胸の痛くなる光景である。
 傍らに添えられた大量のポケットティッシュ入りカゴ二つに、キングは我へと返る。
「ティッシュを捨てて惰眠を貪るなど、あのクイーンが敗けたというのか?」
「クイーンだけではない」
 路地裏の奥からやって来たジャックは、使い捨てのカイロをクイーンの寝床に押し込む。
 彼の言葉を受けて、キングは漸くと参帝の惨敗を知ったようだ。闘いとも呼べなかったぜ、お前らの活躍は。
 キングは汚い道にどっかと腰を下ろして笑う。自嘲ではない、むしろ肩の荷が降りたとでも言うような、晴れやかな笑みであった。
「ティッシュを手放した以上、クイーンは表の世界に戻るかも知れないな。ジャック、お前はどうするつもりだ?」
「こんな俺でも、俺たちでも日向を歩けると言ってくれたお人がいる。どこまでやれるかは分からないが、どうせ脛に傷を持つ身、頑張ってもどうにもならないなら、それこそもう一度ぐらい頑張ってみてもいいんじゃないかと思えてな」
「……そうか……」
 頷く。
 アネーゴは背中見せるの止めさせてよね。そんな当たり前の言葉を誰も口にしないのはどうなの。
 色々と吹っ切れたのか、ジャックは立ち上がり、表参道へ顔を向けた。希望に満ちた朝陽の燃え立つ目映い道を。
「キングはどうする?」
「俺か? 俺は所詮、半端な半グレ、タリズマンのカツアゲしか能のない男だ。このスラムストリイトでキングとして、カツアゲを続けていく」
 タリズマンに拘る強い意志が何の為にあるのか分からないが、それもまた宿命(デスティニー)だろうとジャックは親指を立てる。
「幸運を(グッドラック)、血を超えし家族たち(マイ・ファミリィ)」
 ひょこひょこ。
 痛む足を引き摺る後ろ姿。まずは病院にいけよな、とキングの暖かな祝福(エール)を受け取り、彼ら参帝は彼らなりの再出発を。
「お待ちになって、皆さん。素晴らしい世界へのご招待よ♪」
『!?』
 突如として響く声。
 ご招待よ、ご招待だ、とそれらの言葉を繰り返し、物陰から小人たちが現れる。
 少女の姿をしたそれらは嬉しそうな表情でわらわらと、参帝へ突撃していく。
「な、なんだ、なんだこれは!」
「ええい、離せ! キング、クイーンを!」
「だ、駄目だ、間に合わん!」
 千切っては投げ、千切っては投げども幼児が親に遊んでもらっているが如く、喜声を上げててこてこと走り寄る。
 やがて、彼らの体が小さな少女たちに埋め尽くされ抵抗も出来なくなった時、急に視界が開けた。
 一体何が起きたというのか、その場所は彼らの良く知る帝都スラムストリイトに良く似て、しかし明らかに違う場所だった。
 小綺麗な通りにはゴミひとつなく、無骨な鉄筋コンクリートの壁にはフリルのついたリボンや可愛らしい落書きが施され、ファンシイな外観へと変じている。
 このような短期間でここまでの変化が起こるはずはなく、やはり別の場所だと顔を見合わせたキングとジャックは身構える。クイーンは寝てるなぁ。
「うふふふ、ワンダフォーランドにようこそ♡」
 そして、身構える彼らの前に、この異空間へと招待した黒幕が正体を現す。
 アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の魔少女・f05202)、猟兵だ。
 分身たるリトルアリスにより彼らを連れて来たのは、彼女の妄想世界。ユーベルコード【腐敗の果てに成り立つ楽園(ワンダフォーランド)】が参帝たちを閉じ込めたのだ。
「……子供……?」
 訝しげに呟くジャックに、アリスは微笑みかけた。
「皆さん、素晴らしい夢の国へようこそ。心行くまで存分に愉しんでいただくように、この世界から抜け出すための条件として、この世界にご招待した皆さん全員が『あっは~ん♡』なくんずほぐれつお色気相撲をこなした場合のみ解放されるよう造っておいたわ☆」
 びしりと指を突きつけるアリスに、ジャックとキングは互いに顔を合わせる。
 男同士で『あっは~ん♡』など冗談ではないが、しかし。
(……この局面を抜ければ……)
(あるいはクイーンと『あっは~ん♡』?)
 やらねばなるまい。
 表参道を目指したはずの男たちが、再び闇に生きる者の目へと変わる。
 ゲロい友情の『あっは~ん♡』を我慢さえすれば、恍惚たる愛欲の『あっは~ん♡』を迎えることができる。
 だが果たして、本当にそう上手くいくのだろうか。野望に輝く男の眼光に、アリスは笑う。
「答えは決まったようね。覚悟はいいかしら?
 お色気相撲開始よ、マーラ様~♪」
 道が、壁が、全てがうねり変化する。現れたのは粘液を纏う桃色の触手、それが壁と言わず道と言わず、のたうち伸びる。
 寒気に身を反らせた二人が見たのは、天へと持ち上げられた彼らの部下──、粘液に包まれとろんとろんになり、描写するも憚れるような程に噴き出す格好、もとい痛ましい姿となっていた。
「なっ、なぁあにぃいいいい!?」
「……なぜ我が眷属がっ……! ま、まさかっ?」
「うふふふふっ、察しの良いコは大好きよ。さあ、唄い奏でましょう、皆さんの愛を!」
『……ひえっ……』

 小さな唸り声。
 段ボールの中からぬくぬくしつつ身を起こしたアネーゴは、眠気に開かぬ瞼をひとこすりふたこすり。
 大きく伸びをして立ち上がる。
「あら、ようやくお目覚めね、眠り姫♡」
「?」
 アリスに呼び掛けられたアネーゴは、周囲を見渡しはっとする。
 視界一杯に広がる、男だらけの『あっは~ん♡』なくんずほぐれつお色気相撲大会。
 キングもジャックも、兄ィも弟ォも関係ない。男たちがただひたすらに『あっは~ん♡』しているのだ!
 何ともおぞましくショッキングな光景か。クイーンと唱われど女性のアネーゴは口許を手で押さえ。
「まあ、素敵♡」
 そんなこったろうと思ったよ。
 アネーゴの反応に、流石は見込んだだけはあるとアリスは笑みを深くして、そこらで暇をしていたマーラ様の一群体を引っこ抜く。痛そう。
「魔王を封じし刻印を持つ貴方には、こちらのリトルマーラ様をプレゼントするわ♪」
「リトルマーラ様?」
「ええ、女性では味わえない快楽を教えてあげる♡」
 ははーん、理解した。
 アネーゴは何の躊躇もなくそれを受け取り、自らの体内に宿す。それがどんな意味を指し、結果を生むのかは男たちの『アッは~ん♡』が全てを物語るだろう。
 アリスの妄想世界において、その毒牙に全ての人々が屈した。
 誰かが呟く、助けてと。その言葉は伝播するように、お色気相撲を行う男たちの口から、悲痛な叫びとして世界を染め上げる。
 ならばそれで許されるのか。答えは否、断じて否なのだ。
「そうやって許しを請う人たちから、どれだけのタリズマンをカツアゲしたのかしら?」
「も、もうそんなことはしない、天地神明に誓う!」
「そうだ、俺たちは心を入れ替えたんだ!」
「ゆ、……許してくれ……おっほ♡ 許して……くれ……!」
 どうしたものか。
 悩むしぐさを見せながら、アリスは影朧についての情報を求めた。藁にも縋る想いで我先にと声を上げる男たちを嘲笑し、情報を集めていく。
「はぁ、情報収集のついでにおなかと欲望を満たせてく一石三鳥だわ♪」
 男たちとついでに女一人が生み出す快楽エナジーを搾り取ったアリスは、艶やかな唇を小さな舌で舐め上げて、満足そうに呟く。
 その呟きに救いの光を見た彼らへ、少女は嗜虐的な光を双眸に灯した。
「ついでだし、何人かには宿主になってもらおっと☆
 ふふ、たっぷりと貢がせてあげるわ♡」
「ひいっ」
「嫌だ、もう嫌だぁ」
 男たちの慟哭の上に胡座を組むように、幼き姿の魔は満たされ、夢心地に溜め息を吐いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『不退転浅鬼・仄暗キヱ潜ム者』

POW   :    さあ、行こうか。宵闇を啜り、地獄を食む僕の奴隷。
【竹光】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    もう止めてーッ!
自身が【羞恥】を感じると、レベル×1体の【疫病を拡める災厄の病魔】が召喚される。疫病を拡める災厄の病魔は羞恥を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ   :    僕は影と織り成す水底より来る者。
【記憶の再生と人格支配を行う言霊】を籠めた【痛々しい台詞】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【黒き過去を呼び覚まし服従させ、精神】のみを攻撃する。

イラスト:FMI

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ブライアン・ボーンハートです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●そして遂に現るは。
「ふんふんふーん、ふふんふーん」
 ご機嫌な鼻歌が響くのはじっとりとした暗き廃屋。
 パイプ椅子の上の滴を払い、上機嫌な様子の影朧、仄暗キヱ潜ム者は、まさか自らの名を魚ちゃんなどと縮められているなど思うはずもなかった。
 椅子の上で腕を組み替え足を組み替え、そわそわと五人の少年の到来を待つ。
(むふふ、この前は田中の記憶が戻りそうって話をしてたし。今日も上手く皆の設定──、前世に入って仲良くなろうっと!)
 …………。
 なんか平和的じゃね?
 まさか魚ちゃん、五人の少年に疎まれていると思う素振りもなく、上手く取り入っていると考えているようだ。可哀想。
 そんな影朧少女の想いに惹かれるように集まったのは四人の少年。
「! ふ、ふん、遅いぞお前たち。血塗之男はどうした?」
 赤城くんは正座させられてます。
 しかし、魚ちゃんの想いなど少年たちも同じく知らず、その目には正義と敵意を乗せていた。
 猟兵との出会いが、彼らの洗脳を解除したのだ。もはや、一刻の猶予もない。急ぎ彼らを無力化するのだ。


・手段を問わず、四人の少年を無力化してください。
・影朧との決戦になる廃墟は崩れた地下室です。広範囲や地形を破壊する効果をもった攻撃を行うと地下室が崩壊する恐れがあります。敵の攻撃も同じくなので、上手く受け止めるか無力化してください。
・影朧は羞恥を感じると疫病を拡げる病魔を召喚します。恥を与えないようにしましょう。与えてしまった場合もちょろいので、すぐさまフォローを与えればどうにかなるかも知れません。
・影朧は不退転を名乗り、角を持たない傾国の鬼ですが、特に傾国に対する思い入れはなく、果てしなくちょろいのであっさり転生させることが出来るかも知れません。
・影朧のUC、【僕は影と織り成す水底より来る者。】は古の歴史に封じなければならないような過去がなければ、特に影響を受けません。逆に操られた振りをすることも可能です。
紅月・美亜
 私に封じるべき過去など無い、全て今の私の力だ。
「案内ご苦労だった……と、言いたい所だが諸君には消えてもらう。貴様らの知る由も無いが、我が策謀は既に完遂している。これから貴様は、ただ只管に死ぬだけだ……大佐ネタはさっきも使ったが、今度は遊びではない。Operation;ASTERISK、発令。来い、蒼星の騎士!」
 硝子のように空間を切り裂き、星の改竄者が姿を現す。
「これも現実改竄装置のちょっとした応用だ」
 存在と無を改竄する事によるワープ移動で次々と少年達を光の鎖で縛り上げて無力化。
「この最終鬼畜兵器により私自らが処罰を下す。過去へと還るがよい」
 締めるのはこの機体の本分たる大剣による斬撃だ。


サリア・レヴァイア
【WIZ】

…痛々しいわね、色々な意味で
でも、それなりの確率で十代が通る道
大人になれば、笑い話になる…と良いわね

…まずは、あの4人の無力化からね
崩れた地下室なら、小石程度はある筈
投擲と誘導を活かし、それを死なない程度に後頭部にぶつけて気絶させるわ
上手くいけば物陰に、時間があれば地上に放り出しておきたいわね

さて…魚同士が戦うのに丁度良い場所を、整えてあげる
UC:【XXI】世界─この海で溺水するのは、貴方ただ独り
そうすれば、恥ずかしい言葉を喋る必要も無い
私には、黒い過去なんて無いから…ご愁傷様ね
念の為、地下室を支える柱や壁以外の無機物を…床に転がっている廃材等を選んでUCを使っておくわ

※アドリブ歓迎


御園・桜花
「昨日の敵は今日の友。つまり彼等は前世に支配され過ぎて、貴女の敵に戻っただけですの。そして此度の戦にロートルは不要。ですから退場していただきましたの」

UC「桜の癒やし」使用
若人4人が仄暗キヱ潜ム者魚ちゃんが悶絶するような台詞を吐く前に即眠らせる

他の猟兵と共闘
流れ弾が4人に当たらないよう仁王立ち
制圧射撃で魚ちゃんの移動や行動を阻害
魚ちゃんからの攻撃は見切りや第六感使用
4人に当たりそうだと思った攻撃だけカウンターからのシールドバッシュで弾く

「貴女の前世が仄暗キヱ潜ム者なら、今の私は幻朧桜の前世ですの(思い込み)。前世対決で負けられませんの」

「転生、していらっしゃい。来世では私も前世からの友達です」



●語り明かせぬ程の深い闇を紡ぐ為、我らが同胞を奪いし者を伐さんが為。
 現れた少年たちの敵意を感じ取ったのか、影朧・仄暗キヱ潜ム者は戸惑いを見せていた。
「仄キー、お前には言いたいことが一杯あるんだよ」
「誰よホノキー」
 お前だよ仄キー。
 しかしそこは影朧、やはり少年たちの感情を見抜いたのか、すぐに視線を逸らした。言い募ろうとする田中へ、心の準備が整っていないことを正直に白状した。
 いつもは傲慢な態度の少女のしおらしい姿に面食らう少年たちは、素直に彼女の準備が整うのを待つ。
「お前とはそれなりに付き合った仲だ、待ってやるさ」
「あ、ありがとう。それで、なんだけど」
 心の準備とやらが整ったのか、しかし影朧少女の視線は田中に向けられたり逸らされたりと忙しなく。
 頭に疑問符を見せた田中へ、少女は意を決したように口を開いた。
「ごめんなさい! わ、私、皆のことを大事に考えてるけどそういう対象とは見れないから、田中の想いには答えられないよ!」
「は? いや待て、なんでそんな……いやお前らも『あ、ふーん』みたいな顔するなよ……!」
 まじかよ田中ー、だからお前仄キーに冷たいのかよー、とばかりの仲間の視線に一瞬で優位を失う少年。思春期の子供にしてはいけない対応である。
「い、いい加減にしろよこの野郎~!」
「そこはアマだぞ田中」
「うるせえ! 耳かっぽじって良く聞きやがれ、お前らもだタコ!」
 田中の古臭い暴言はすでに厨二病とは無縁のセリフ。耶麻堕はにやりと笑いつつも、気取った仕草で耳穴をかく。殴り合いになる煽り方じゃん。
 しかし田中、青筋を浮かべつつそれを流し、怨敵たる影朧へ狙いを定めた。
『ん?』
 その直後、壁から乾いた音が響き全員の視線が他所へと動いた。
 その度し難い隙を貫くが如く、飛来した石くれが田中の後頭部に突き刺さる。
「!」
 気づいたのは仄暗キヱ潜ム者のみ。倒れた少年へ心配よりも驚きの声を彼らが上げる中、影朧の少女は石くれの飛んできた方向へ目を向けて、威嚇する猫のように目を吊り上げた。
 影の中から現れるのは、この事件を解決する為にやって来た者たちだ。
「……猟兵か……!」
 己が天敵、見紛うはずもなく。現れた者どもを怨敵と睨み付けるのは、田中などは比べ物にならない圧を発する。
 だがそれもまた、猟兵にとっては微風と変わらない。常に受けてきたその敵対の意志に心を乱される程、彼女たちは戦場に不馴れな存在ではない。
 サリア・レヴァイア(魔歌・f17984)は廃墟の崩れた壁の一部、石くれのようなそれを手にしながら溜め息を吐く。
「……痛々しいわね、色々な意味で……。
 でも、それなりの確率で十代が通る道。大人になれば、笑い話になる、と良いわね」
 ボタンの掛け違いのような彼らの想い。それがしっかり解消されていたなら、もしかすると影朧による事件は予知されなかったのかも知れない。
 少年少女の感情をつぶさに読み取ったサリアの言葉。
「し、師匠!? なぜここにっ!」
「弟子をとった覚えはないけ、ど」
 驚愕を見せた惨汰老を即座に切り捨てて、放つ石くれでその額を打ち抜く。
 為す術もなく昏倒する仲間の姿に、漸く彼女が襲撃者と認識した波瑠轢煌であったが、やはり信じられずに惨汰老と同じく何故と言葉を転がす。
 その問いに含み笑いと共に答えたのは。
「……クックックックッ……案内ご苦労だった……と、言いたい所だが諸君には消えてもらう。貴様らの知る由も無いが、我が策謀は既に完遂しているのだ」
「馬鹿なっ、貴様っ?
 『レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット』!」
 紅月・美亜(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)です。
「……レイ、リ……? 知っているのか耶麻堕!?」
「ああ。レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット、大いなる始祖の末裔を名乗る世界を破滅へと導く改竄者、ヤバイ級スーパーハッカーが彼女の正体だ!
 だが、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットは俺と田中、二人の縁者(サーヴァント)によって打ち倒されたはずなのに、こうも早く蘇るとは!」
「? このレミィ? さん? と他に知り合いがいる感じなの?」
「大いなる始祖の末裔にして世界を改竄するスーパーハッカー、『レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット』だ! 敵だよ!」
 ええ、覚えられないよ。
 とばかりの波瑠轢煌。根性が足らんのよ。当の美亜は自らの名乗りをしっかり暗記してくれた耶麻堕にそこそこ嬉しそうな顔をしたが、それで話を終わらせる訳にはいかない。
 誤魔化しに咳払いしつつ、表情を引き締めてユーベルコードを始動する。
「【Operation;ASTERISK(オペレーションアスタリスク)】、発令。来い、蒼星の騎士!」
 美亜の叫びに答え、現実世界へと顕現するのは鋼鉄の大剣を持ちし星の改竄者。
「!? えっ、えっ、嘘、えっ!」
「うそうそうそ、マジで?」
「……カッコいい……!」
 虚空を切り裂き、空間を割り砕くようにして現れた来訪者に三者三様の反応ながらも目を輝かせる少年少女の瞳。
 羨望の眼差しに再び弛む頬を抑え、美亜は召喚した騎士に命じる。
「彼らを捕らえるのだ!」
 騎士はその存在を現実世界から完全に消失させるとほぼ同時に、耶麻堕の背後に現れ光の鎖で縛りあげる。
「!?」
 反応など出来る暇もなく、次いで波瑠轢煌の背後に現れた騎士は彼をも縛り上げた。
「これも現実改竄装置のちょっとした応用だ」
「貴様っ、良くも我が同胞を! 許さんぞ猟兵ども、我が聖域を土足で踏み荒らすには飽き足らず!」
 憤慨する魚ちゃん。
 ちらりとサリアが縛られた少年たちへ目を向けると、非常に申し訳なさそうな顔をしている。当然だろう、弾劾しようとした相手が自分たちのためにここまで怒っているのだから。
「昨日の敵は今日の友。つまり彼等は前世に支配され過ぎて、貴女の敵に戻っただけですの。
 そして此度の戦にロートルは不要。ですから、退場していただきましたの」
 舞う桜吹雪が少年たちを包み込む。
 妙なことを口走る前にとユーベルコード桜の癒しを使用した御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、影朧少女の敵意を和らげるように笑みを浮かべた。
 だが所詮は影朧と猟兵、決定的なまでの存在の相違が両者にはある。
(時間があれば地上に連れて行きたいけど、無理そうね)
 右腰に差した得物に手を伸ばす仄暗キヱ潜ム者。油断なくこちらを見つめる隻眼に、サリアはちらりと少年たちへ目を向ける。
 その意思を察した桜花は彼らの元へと、影朧少女を刺激しないようゆっくりと移動する。
「これから貴様は、ただ只管に死ぬだけだ。大佐ネタはさっきも使ったが、今度は遊びではない。
 そう、魚は海を泳ぐ者、天を泳ぐなど有り得ん!」
「? ど、どういうこと?」
「つまり、天足る私には通用しないということだ!」
 傲慢なるその態度。魚ちゃんはなぜ魚の話をされたのか全く理解している様子ではなかったが、雰囲気にはご満悦である。
 にまにまにまにまと、隠し切れないにまにまをにまにまさせながら、格好をつけて右手の包帯を剥がす。
「ふ、ふん。よくぞ言ってくれたな、改竄する者、レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットよ!
 大いなる始祖の末裔などと、古き呪縛に囚われているような貴様では我が星を砕くことは出来ない!」
 左目の眼帯に並べるように、右手の五芒星を掲げる。何やらマーカーで描いたような雑な仕上がりであるが、あのように解呪(アピール)するのだからきっと特別な意味があるのだろう。
 美亜が魚ちゃんの注意を惹き付けている間に少年たちの元へたどり着いた桜花を見届けて、今度はこちらの番だとサリアはユーベルコードを始動する。
「さて。魚同士が戦うのに丁度良い場所を、整えてあげる」
「だから魚ってなに! て、わっきゃあ!?」
 突如として地下室に溢れだした水が大量の質量を持って魚ちゃんへ叩きつけられる。
 重い音が部屋を揺らし、天井から細かなコンクリートの破片を落とす中、美亜は嗤う。
「本当に砕けぬ星ならば書き換えるのが我が力。さあ、戦いを始めよう!」
 その後ろでは桜花が少年たちが濡れないように、せっせと壊れた机や高台に移動させるのを蒼星の騎士が手伝っていた。
 さあ、戦いを始めよう。その言葉は彼にはまだ届いていない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

紅葉・智華
※アドリブ・連携歓迎
口調:可変

――さて、後は本命を叩くのみ。普段の格好、普段のやり方でやらせてもらうでありますよ。

「――『供』は既に死んだ。此処にいるのは、猟兵、紅葉智華であります」

『刹那』を使った連続攻撃(2回攻撃、クイックドロウ)、近接攻撃(串刺し)を中心に、【選択UC】(スナイパー)で敵オブリビオンを叩く。他の少年たちは……まあ、銃声が威嚇、牽制になればそれで。

「――恨みはないでありますが、放置する訳にもいかない……無力化させて頂くでありますよ!」

敵からの攻撃は直感(第六感、見切り)で回避。場合によっては【ダッシュ】、【ジャンプ】も駆使する。


アリス・セカンドカラー
ふぅ、おなかいっぱい。
でもでも、デザートは別物だわ♡と、いうわけで魚ちゃんいただきます☆
非戦闘行動に没頭してる間、顕現した星辰(アストラル)界において私と私の仲間への攻撃は遮断される。この特性を利用し分身(範囲攻撃)によるネオタントラ(奉仕/捕食)で四人の承認を守りましょう。
魚ちゃんへと盗み攻撃で唇を奪いそのままグラップルで『夜』の寝技(非戦闘行動)に持ち込むわ
病魔も私の妄想世界で男の娘に萌擬人化して分身達で捕食するのみ☆
ねぇ、魚ちゃん、あなたのすべてが欲しいの♪その身も、その心も、その魂すらもアリスのモノになって?と限界突破した快楽で蹂躙して誘惑するわ♡
精力吸収は捕食行為なので非戦闘行動よ☆



●魚ちゃんと呼ばないで! 不退転浅鬼、仄暗キヱ潜ム者!
 ユーベルコード【『XXI』世界(ザ・ワールド)】。それは敵を溺水させ自らを強化する超自然の海原を召喚するものだ。
 対象となる無機物を変化し操作する効果を持ち、サリアは建物が崩壊しないよう、崩れた残骸を変化させている。
「この海で溺水するのは、貴方ただ独り。そうすれば、恥ずかしい言葉を喋る必要も無い」
 水底へと沈んだ少女へ言葉を向けるが、届くはずもなく。
 よもやこれにて決着と美亜が肩の力を抜いた所で水面が割れた。やはり、そう簡単にはいくまいかと気合を入れ直す猟兵たちの前に、全身を濡らした仄暗キヱ潜ム者は笑みを見せる。
「僕はげっへぇ! 僕は、影と織り成すごほっ、水底より来る者っ!
 水攻めなど、げふぅっ、効くものか!」
 めっちゃ効いてる。
 幾らか飲んでしまったのだろう魚ちゃんの涙目、咳き込みながらの強がりは見ていて可哀想に思えてくるが。
「──殺気!?」
 向けられた鋭い感情を鋭敏に察知した影朧少女は振り向き様に手にした竹光を一閃する。
 竹光と侮るなかれその威力、これこそサリアの操る海原を打ち砕いた彼女の武器である。魚ちゃんは再び水面を割り、水の壁を作ると突如として飛来する銃弾の盾とする。
 もちろん、これだけで防げるはずもないが、僅かとはいえ速度と威力を減衰したそれらを見つめる隻眼は、返しの一撃でもってそれらを弾き飛ばした。
 他愛ない。
 得意気な顔をする少女の前に、水の壁を切り裂いて現れたのは紅葉・智華(紅眼の射手/自称・全サ連風紀委員・f07893)だった。
「迷わずに逝け、オブリビオン」
 その手に抱く【04-MV[P/MC]マルチロールアサルトウェポン】『刹那』は銃身下部を刃に置き換えることで近接攻撃手段を増した、突撃性能の高い兵器だ。
 いつもの黒い軍服ワンピースへと着替えた彼女は黒き銃とともに、まるで一羽の鴉の如く戦場へと舞い降りた。銃弾を防ぎ、得物を振り払い隙の出来た少女の腹へ刹那の突端が容赦なく突き刺さる。
「ぐ、がっ? がぁぁあぁ!」
 突進の勢いをそのままに、走り抜けて壁へと串刺しにした智華に影朧は咆哮し、竹光を振りかざした。
 その一撃を上体を反らして紙一重で見切りつつ、引き抜いた刹那で零距離射撃を敢行する。
 薄暗い地下室で華々しく散る発火炎だが、即座に反応した影朧少女が竹光を斜めに構えて銃弾をいなしつつ、水面を蹴り散らして視界を塞ぐ。
「くっ!」
「おおおおおっ!」
 雄叫び。
 死角からの振り下ろしを後方に跳躍してかわしたものの、水面と共に床を砕いた一撃は地下室を揺さぶり、智華の足を奪う。
 その一瞬の隙に、お返しとばかりに八相の構えからその切っ先を智華へ向けた影朧少女。放つは風の如き点の一撃。
 最早、竹とは思えぬ凄まじい衝撃音の攻撃を防いだのは、蒼星の騎士。
 鋼鉄の大剣を盾の如く、受け止めた衝撃にその身を傾ぐ。
「レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレットの傀儡か!」
 歯噛みする仄暗キヱ潜ム者。
「この期に及んでフルネームとは、律儀な奴だ」
「同感だわ」
 美亜の言葉にサリアは頷くと、使役する水面に渦を発生し少女の足を固定する。
 動きを封じた影朧の前に、その剣を振り上げた騎士が大きな影を作った。
「この最終鬼畜兵器により私自らが処罰を下す。過去へと還るがよい」
「……う、動けない……! 待ってこれ本当に鬼畜じゃない!?」
 聞く耳持たん。
 焦る少女に慈悲はなく、容赦ない一撃を今度は彼女が受け止める番だった。
 強大無比な冷光を湛えた巨刃を竹光とは名ばかりの竹光で受け止め──、否、打点を逸らしてその刃を滑らせ、手元で回した竹光を刃の背へと打ち込む。
 撃ち落とし。
(予想以上の腕前だ!)
 普段の態度や武器を差し置いてもその反応速度、技術とも非常に高い能力を見せる敵に態度を改める美亜。
 床へと一撃を流された刃は、地下室を再び揺らす轟音と化す。影朧少女がその背に当てた竹光を支点に水面から脱すると同時に、薄暗い部屋を一条の光が貫いた。
 予備動作もなければ影朧の動きへ対応する為の僅かな遅延もなく、放たれた弾丸は正確に少女の右肩を撃ち抜く。
 【紅眼の射手(クリムゾン・シューター)】。それは紅葉・智華の異名である。
「……と、供……?」
 部屋を揺るがす戦いに、始めに気を失った田中が気付いたようだ。戦士としての、否、猟兵としての顔を見せる彼女に戸惑っている様子である。
「──『供』は既に死んだ。此処にいるのは、猟兵、紅葉・智華であります」
 智華は少年へ視線も送らずに、努めて平静に言葉を絞る。それは、自らとは生きる場所の違う少年への、はっきりとした拒絶の色であった。
「ごめんなさいっ!」
 少年の後頭部へ二度目の打撃。メイドならば刀より銀盆だろうとばかりに製作された、【破魔の銀盆】である。退魔刀と同じ工程で作られているのだが、そこはまあ、今は関係あるまい。
 謝罪しながらの桜花の攻撃は少年を再び深い眠りへ落とすに相応しく、メイドは再び彼らの壁となるべく前へと立つ。
 そんな彼女の視線の先には、地下室の水溜まりに赤い血を浮かべる少女の姿だった。
「ふ、ふふふっ、……こうだ……こうこなくっちゃ……!」
 右肩を押さえて立ち上がった影朧は、左目の眼帯を剥ぎ取る。青く染まる眼光が猟兵たちを一瞥し、懐から取り出した扇子を広げる。
 黒地に浮かぶ真っ赤な日の丸は袈裟に斬られ、血の如く舞う桜吹雪が痛々しい。
「僕は不退転浅鬼、仄暗キヱ潜ム者。退路も無ければ退く意志も無い。僕は、僕たちはただ、進むだけだ」
 傷ついた腕を上げて、強がるように竹光を構える。
 ──さあ、行こうか。宵闇を啜り、地獄を食む僕の奴隷。
 言葉を転がしてもいないのに聞こえた台詞は、その強き意志の現れか。
 疾走する影朧を捕らえるべく発生した渦を、読んでいたとばかりにかわし、傷ついた壁を足場にさらに駆ける少女。
 だが、それは誘導だ。
「桜花さん!」
「はいっ!」
 サリアの言葉を受けて桜花が構えたのは【軽機関銃】。智華とは違い、点の精度ではなく面の制圧射撃を行う。
「貴女の前世が仄暗キヱ潜ム者なら、今の私は幻朧桜の前世ですの。前世対決で負けられませんの!」
 少年らの言動から勘違いを起こしてしまったようだが、影朧少女は自らを転生者として扱っていない。桜花の勘違い、思い込みである。
 彼女の前世についてもただの思い込みだ。だが、思い込みであろうと、意志の力は行動の強さに直結する。
 しかし意志の強さならば少女も負けてはいない。少女は自らへ飛来する鉛の礫を見切り、直撃するものだけを扇子で受け止めるのみ。
 向かうは、気絶した少年たち。
 落ちぬ速度にその覚悟を読み取った美亜の傀儡が、空間を引き裂き影朧の前に立ちはだかる。
「どぉけぇええッ!」
 一閃。
 縦と横の一撃が正面からぶつかり、火花を散らす瞬間に騎士たる人型機動兵器から無数のビットが放たれる。
 取り囲まれる殺意に仄暗キヱ潜ム者は顔を歪め、切り結ぶ竹光から力を抜き、得物を引かせて騎士の体勢を崩す。
 その体を盾とするが、すでに取り囲まれている状態だ。一斉に放たれた攻撃の全てを防ぐことは難しく、外気に晒された羚羊のような足にも痛々しい朱が散るも。
 やはり仄暗キヱ潜ム者は止まらない。
「…………」
 智華は尚も少年たちの元へ向かう少女へ何かを感じ取ったようであったが、こと戦場において無駄な感情を持ち寄らないのが傭兵であった彼女の性分だろう。
 その背に向けて引かれた弾丸は、少女の胸を貫いた。致命傷だ。
 遂には動きを鈍らせた少女を、サリアの生み出した水が取り囲む。
「『世界』─、それが示すのは『完全なる勝利』。そう、もう終わりなの。諦めて」
 静かに言葉を転がすサリア。だが少女は、その眼に曇りなく、血反吐を吐きながらも猟兵たちを睨み付ける。
「……ぼ、くは……影と……織り成す……水底、より……来る……者……!
 ……不退転浅鬼っ……、この、傾国の、想い、は、…………っ、消える、こと、なきっ、鬼の言霊! 僕たちは腐ったこの国を食み、そして、世界へ羽化する蛹となるっ!」
 その傷でまだ吠えるか。
 少女の言葉は猟兵たちの胸をざわつかせる力を持っていたが、彼女たちに影響はないようだ。
「……私には、貴方に服従すべき黒い過去なんて無いから……ご愁傷様ね」
「どうやら過去の記憶を遡らせるユーベルコードのようたが、私に封じるべき過去など無い、全て今の私の力だ」
 哀れむサリアと勝ち誇る美亜。智華と桜花もまた影朧の力が及ばず、平常心を保ったままだ。
「貴方たちと違って、私たちは今まで歩いてきた道の総てが力となっているのであります。負けるはずがないのでありますよ」
「……ぐうう……」
 唸る仄暗キヱ潜ム者。
 その姿を見て、桜花は後ろに転がる少年たちへ視線を送る。戦闘の開幕でも彼らを気遣っている様子であった。彼らの元へ向かったのも、同胞と認めた彼らを助ける為だったのかも知れない。
 だが、影朧の存在は人の精神をも脅かす。彼らと少女の心が繋がらなかったのは、単にその特性が、疫病を撒くためにそうさせたのかも知れないと。
「転生、していらっしゃい。来世では私も前世からの友達です」
 思えば不憫な影朧に、桜花は心からの言葉を送る。
 それは慈愛に満ちて、少女の心に暖かななにかを注ぎ込んだ。冷たい水に囚われる中、理由もわからぬ暖かな存在に触れながら少女は意識を手放していた。


●悪いがもうちょっとだけ続くんじゃ。
「? ……こ、ここは……?」
 次に少女が目覚めた時、周りに人の姿はなく、いつもの地下室であった。
 夢だったのだろうか。そう考えた影朧少女は、自らの体に深く刻まれた傷に戦慄する。
「…………。そうか、僕、死んじゃったのか」
 痛みも感じぬ有り様に、自嘲気味に笑う。
 敵は強かった。歯が立たぬ程に。少年たちは無事だろうかと、守ることが出来なかった己の不甲斐なさを嘲る。
「何が不退転浅鬼だ。何も出来なくて、僕は──」
「ふぅ、おなかいっぱい。でもでも、デザートは別物だわ♡」
「!? だ、誰だっ。猟兵だな!」
 薄暗い部屋の中で響く声に振り返る影朧少女。
 彼女の前に現れたのは、同年代の少女。──そう、アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の魔少女・f05202)だ。
 誰じゃいとばかりに警戒する魚ちゃんへ、アリスは妖しい笑みを浮かべて近づいていく。
 痛みを感じないとは言え、本来ならば致命傷。まともに動けず震える少女の姿は正にまな板の上の鯉。
「アリスと遊びましょ♡」
「だ、誰がお前なんかと──んぐぅ!?」
 絡み付く幼い体、冷えた肌を暖める体温。僅かな隙を逃さぬように唇を盗む、というかもう強奪するアリスに魚ちゃんの言葉も止められる。
 全年齢対象として描写できない卑猥な効果音と息遣いが部屋を満たし、時折響く魚ちゃんの、すっかり弱気になった拒絶の言葉も埋もれていく。
 魚ちゃんをネコちゃんにしてどうする気だ! もっとやれ!
 致命傷にもあんなことやそんなことをしているので非常にアブノーマルな光景である。全年齢対象としてHもGも描写しないよ!
「も、もう止めてーっ!」
 遂には降参とばかりの悲鳴を涙目で叫ぶ影朧少女。しかし羞恥が限界突破して耳朶まで真っ赤な彼女の影から、黒い霧が滲み出た。
 それは燃え立つように黒き炎となり、鬼の形を。
「がおーっ」
「がおがおーっ」
 失礼。
 鬼ではなく複数の少年が現れた。やたらとメス臭い格好をしているがアリスの趣味であろうか。健全を売りにする全年齢対象の本文では詳しい描写を避けるため、皆さんの心に響く男の娘を挿入していただきたい。
 そう、ここは彼女の顕現した『星辰(アストラル)界』。ユーベルコードにより培われたこの世界では、アリスは快楽と精力を貪ることでエネルギーを吸収し、サイキックヴァンパイアとしての特性を活かして生命維持活動さえ不要とする無敵の結界を構築するのだ。
「さあ皆、こっちにおいでー♪」
「うふふふっ」
 妖しい笑みを浮かべる分身体のアリスたちにしょっぴかれるショタたち。ユーベルコードって凄いや。
 余りの変貌に驚くよりも先に恐怖を感じ、怯える魚ちゃんへ再び寄り添うアリス。
「ねぇ、魚ちゃん、あなたのすべてが欲しいの♪」
「魚ちゃんって誰っ? 僕!?」
「うふふっ♡ その身も、その心も、その魂すらもアリスのモノになって?」
「……ひっ……!」
 耳元で息吹を注ぎ、甘い愛を囁く。だがその愛は、自己の為の身勝手なものに過ぎず、愛とすら呼べないものだ。
 だからこそ、あるいは猟兵と呼べるのかも知れない。蜜のような蜘蛛の糸に絡め取られた魚ちゃんは、ただか細く震えていた。


●騒動の終わり。
 気絶したままの少年たちの傍に佇む猟兵たち。星辰界から少し不満そうに帰還したアリスは、彼らにぺこりと頭を下げた。
「説得に失敗したよ。あのコ、桜の花弁になって消えてしまったのよね」
「…………? それって、幻朧桜による転生が成功したのではないでしょうか?」
 小首を傾げた桜花。どうやら魚ちゃんは猟兵の魔の手から逃げ出せたようだ。事の顛末を識るサリアは無言であったが、智華は僅かに安心した笑みを見せた。
(恨みはない相手ですし、上手く解決できて良かったであります)
「所で、この少年たちはどうするんだ?」
 美亜の言葉は、気絶し寝息を立てる彼らに向けられた。
「一先ず、地上まで連れて行きましょう。スラムストリイトも崩壊したし、危険はないはずよ」
 サリアの言葉になるほどと頷く。
 すでにユーベルコードを解除し水はないが、このまま地下室に寝かせていては成長期の子供には悪影響だ。
 智華や蒼星の騎士がせっせと彼らを地上に連れて行き、一息。
「皆様、こちらをどうぞ」
 スラムストリイトでは何処から調達したのか、煎れ立ての珈琲を銀盆に用意した桜花がにこやかに猟兵たちへと配る。
 今回の事件、結果を見れば人的被害と呼べるものもなく、全ては丸く治まった。風は未だに冷たいが、顔を出す太陽の光が空気を暖めていく。
 夜からの彼らの任務も、もう終わりだ。
 風に流れる幻朧桜の花弁を見つめて、アリスは立ち上がる。
「このままここにいてもしょうがないし、わたしは戻るとするね。ご縁があれば、また♡」
 手を振りながら、愉しげにスキップをするアリス。
「私も行くであります。珈琲、美味しかったでありますよ」
「ああ。今日は、暖かくなりそうだ」
 頷き、銀盆に空のカップを返す智華とサリア。桜花は受け取ったそれらを後ろ手に、二人へ微笑んだ。
「また、お会いしましょう」
 広がる風の中で、少年たちもじきに目を覚ますだろう。各々の猟兵が帰途につくように、少年たちも家へと帰るはずだ。
 僅かな、青い春の夢を胸に。
 サクラミラージュの桜が花吹雪く頃、少年だった彼らと一人の少女はまた出会うかもしれない。そんな淡い期待を胸に、猟兵たちは自らを待つ世界へと向かう。
 幻朧桜は、今日も人々を見送っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月19日


挿絵イラスト