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【動画配信】死闘！あらたなるフォーミュラとの戦い！

作者：雲鶴

●オブリビオン・フォーミュラって自称できるんです？
　キマイラフューチャーの片隅で、オブリビオン『パスト・フォーサイス』は悩んでいた。
「でてこないなぁ新しいオブリビオン・フォーミュラ。なんでなんだろう？」
　パストの言葉に相棒のドラゴンも首をかしげる。
「ひょっとして、実はオレが……？
　そうか。きっと……。オレが新しいオブリビオン・フォーミュラなんだ！」
　いやいや無い無いそれは無い、って感じで首を振るドラゴン。パストはその背中に飛び乗って拳を突き上げる。
「ようしそうと決まれば、頑張ってこの世界を滅ぼすぞー！」

●閑話休題、つまりこっちが本題です
「さて今度キマイラフューチャーで動画配信コンテストがあってね。
　みんなに招待チケットが届いている」
　グリモアベースで集まった猟兵たちにディスターブ・オフィディアンが説明する。
「それで、もちろん怪人との戦闘動画の配信を期待されているわけだけれど。
　コンテストだからね。なるべく盛り上がる動画を配信してほしい」
　例えば、チームで出場し怪人役と猟兵役に分かれて実力の拮抗した戦いを繰り広げる。さらに解説役が混じって怪人役の危険さと猟兵の強さを実況する――といった形になると、ディスターブが補足する。

「そうこうするうちに、紫御殿やパスト・フォーサイスといった怪人連中が乱入してくる訳だけど。彼らとの戦いも配信してしまえばいいんじゃないかな？」
　もちろんそこでも激戦を演じて見せれば、それだけキマイラ達は喜ぶだろう。
「ま、キマイラのみんなが変に勘違いして、怪人を怖がらなくなっちゃうよりはぜんぜんいいからね。それに君たちの実力を理解しちゃうと、敵が逃げだしかねない」
　配信を盛り上げる演出でもあり、敵を誘い出す策でもあるのさ、とディスターブが笑う。

「みんな君たちの配信を楽しみにしているからね。一つよろしく頼むよ」

第1章 日常 『猟兵だけど動画作ってみた件』

POW   :    怪人に扮して大暴れ（やられ役担当ですが派手にお願いします） SPD   :    猟兵役として怪人役を倒す（ただしすごく苦戦して下さい） WIZ   :    怪人がどれだけ危険か解説（多少大げさでも構いません） 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

●放送開始5秒前！　3、2、1、
「はーい、どうもこんにちはー。皆様、いかがお過ごしでしょうか」
　スタジオの放送席、白皙の美青年がニコニコと愛想よくカメラへ手を振る。その映像に被るように『8888888』『きたー！』『は―い元気でーす！』等のコメントが流れていく。

「今回は動画配信コンテストって事でね。
　総合司会を務めさせて頂きます、ルドルフ・エルランゲン（黄昏に抗う白梟・f03898）でーす。どーぞ宜しくですよ」
『みんな頑張れー！』『Uesamaが埋蔵金1000Pを投げ銭しました』
「ポイント有難うございますー、ナンデ　ココニ　ウエサマガー。
　お、さっそく盛り上がっている配信があるようです、覗いてみましょう」
　ルドルフの言葉と共にスタジオから街中へと映像が切り替わり、大写しになったのはオブリビオン、パスト・フォーサイトの後頭部。
「えーっと配信内容は……”怪人をからかって遊んでみた”？」
　ルドルフが言い終えぬうち、パストの頭部に誰かが投げた小石が命中した。
「痛ってぇ！？　なんだお前！　オレ様はオブリビオン・フォーミュラーだぞ！」
「へへーんそんなの知らないもんねー」
　振り向くパストをからかうように熊耳のキマイラが囃し立てる。
「オレ様を舐めやがって、後悔させてやる！」
　続けて投げつけられた小石に向けて、パストが武器を一閃。その背後に両断された石がカラリと落ちる。キマイラが息を呑んで動きを止め、盛り上がっていたコメントが一気に消えた。映像の中、パストが武器を構えて走り出す。
　動いたのはルドルフ、咄嗟に熊耳のキマイラとの通信Chを解放。
「合図でしゃがんで！　3、2、1、今！」
　画面の中、キマイラに向けて振るわれるパストの一撃、瞬間ルドルフの言葉に弾かれるようにキマイラは身をかがめてこれを回避。パストは武器に振り回されるようにたたらを踏んで、その隙に熊耳のキマイラが逃げ出す。

　無事振り切ったのを確認してルドルフが胸をなでおろし、画面をスタジオへ戻す。
「いやぁ危機一髪でしたねぇ」
『怪人こわーい』『無事でよかったー』『あの時しゃがんでなかったら……（汗』などなど、流れるコメントをルドルフが読み上げていく。
『でもオブリビオン・フォーミュラーって倒してなかった？』
「そうなんですよね、もう半年前ですね、あの時はホント大変でしたよね。フードバトルや巨大ロボバトルがあったり」
『移動が大変だったー』
「あはは、キマイラフューチャーが真っ二つに割れていましたからね。
そんな大戦争を制した猟兵さん達も一緒に参加して、このコンテストを盛り上げてくれるって事でね。いやー、期待に胸が膨らみますねぇ！！」
『え、猟兵が配信するの！？』『やったー！』『怪人を倒すところが見たーい！』と、猟兵の雄姿を望むコメントが、たちまち画面を埋め尽くす。
「猟兵の活躍はもう間もなく！　ではでは、コンテストクルーズに出発しましょう！」
　狙い通りキマイラ達の期待を盛り上げられたことに満足しながら、ルドルフはそう締めくくるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

●元気なバイオモンスターちゃんの誕生だよ、ハピバースディ！
　画面が切り替わった先、映し出されたのは無人の公園。
『まだ準備中？』『なんか地鳴りしない？』『右のブランコ！　勝手に動いてるよ！？』
　不思議がるコメントが増える中、公園の中央で地面が割れ、そこから一つの巨体が立ち上がる。その姿はさながら土の巨人。赤子が産声を上げるように巨人が天へと咆哮を上げる！
「GaGyaaaaaaaaaaarrrr!!」
　同時におどろおどろしくデ～ンデーデーデ～ン♪とSEが鳴り響き画面が暗転。
　赤地に巨人のシルエットが表示され、”土塊怪獣ソルドイラ・アイルー(f19468)、出現！”の文字が浮かんだ。
『怪獣だーーー！？』
　悲鳴じみたコメントが画面に躍る。
　その反応にソルドイラは、「やはりこういう時は真面目にふざけなくては」と満足げに頷くのであった。

「ぎゃおー、悪い子は食べちゃうぞー」
　物騒なことを言いながら公園から街へゆっくりと歩いていくソルドイラ。
　何かを察したように右手を上げ――不意に振るわれた褐色の大剣を弾く。
　剣の持ち主は弾かれた勢いのままトンボを切って着地。再び切っ先をソルドイラへ向ける。拷問器具を模した大剣を構える彼女の姿に、したりと解説が声を上げる
≪おっと、ここで怪獣退治に乗り出したのは炎獄の執行人！　仇死原・アンナ（f09978）！　この土塊怪獣にどう立ち向かうのか≫
　アンナは大剣を下段に構えて疾走、それをソルドイラが両手でもって迎え撃つ。一つ二つと打ち合ううちに、ソルドイラの体の土が削られて周囲に散る。
　三合目、アンナが放った跳ね上げるような一撃がソルドイラの左手を切り落とし、同時に怪獣がにやりと笑った。
『すっげー！』『あれ、まだ余裕そう？』『あっ、あの左手。まだ生きてる！？』
　どさりと落ちたソルドイラの土の左手。それが蠢き見る間に小型の土人形となって立ち上がる。
　さすがに驚くアンナの周り、まき散らされたソルドイラの土から次々と土人形が立ち上がっていく。
「なら先に……親玉のアンタを倒す！」
　再び間合いを詰めようとするアンナ、彼女が肉薄する寸前、ソルドイラが右手を上げ同時に地面からせり出した岩の壁が、その一撃を阻んだ。そして次々とせり出す壁が彼女を取り囲んでいく。そして土人形たちアンナへと襲い掛かっていく。
≪これは！　ソルドイラが生み出した迷宮にアンナが取り込まれてしまったー！？
　しかも空気がゆらぎ蜃気楼ができている。内部はかなりの暑さになっているぞ！≫
「ふはは！　夢幻の迷宮と無限の同胞、果たして出口にいる吾輩にたどり着けるかな！？」
　配信画面の中でソルドイラが低く含み笑いを上げた。

●突然ですがここでCMです？
　画面が切り替わり、コマーシャルが始まった。CMの中で金髪赤眼のキャラクターが「シュバルツローヴェッ！」と叫んで敵を圧倒していく。
　たちまちあふれる不満のコメント。『えっCMあるの？』『配信なのに……』『早く戻してよー』
≪申し訳ありません、ただいま映像が乱れているようで。この配信にCMは入りません≫
　不測の事態に慌てて謝罪する解説者。そしてなおも流れる不満のコメントに応えるように、CM画面の中のバーチャルキャラクターが口を開いた。
「いやぁ、わりぃね。おもしろそうなことをやってたから、つい乱入しちまった」
　CMから配信動画に戻り、アンナが棘鉄球で土人形たちを倒す姿が映し出される。だが金髪の男だけは画面に残り、視聴者へ向けて喋っていた。
「ホント楽しそうだよなー。でもさ、ここでもう一人怪人が乱入したら、もっと楽しくなると思わないか？　こんなふうに、さっ！」
　金髪の男が大きく跳躍し、画面の上に消える。直後、彼は実体をもってアンナの背後に着地、ビームカノンを発砲！　空を切り裂く光線をアンナは後向きのまま、未来を見ていたかのように躱してのける。
　男がヒューッと口笛を吹き、笑みを浮かべた。解説者の驚きの声が響く。
≪な、なんと！　CMに出ていたキャラクタ―が突然実体化！　アンナに襲いかかる！
　彼はいったい何者なのか！≫
　おどろおどろしいSEが再び流れる。赤く染まった画面に男のシルエットが映し出され、"虚数怪人ジェイ・ランス(f24255)、出現！”と字幕が浮かびあがる。
「あれ？　虚数(かなた)より来たりし無能(バカ)じゃないのか？」
　視聴中のキマイラさんがずっこけるので怪人ネームは変更しました。仕方ないね。

　周囲の土人形を棘鉄球で一掃し、アンナがジェイへと向き直る。
「アンタも怪人なのね」
「ああ、そういう事だ。このオレもまぜてくれよ！」
　言葉と同時、ジェイはシュバルツローヴェを発動させようと自身のユーベルコードを検索。直後、彼の頬につぅっと汗が流れる。
　(あれ？　えれくとろれぎおん……？　オレのシュバルツローヴェは、どこに消えたの？　え、自分で作るの？　いちから？　マジで？)
　全てを悟りジェイはおもむろに手を上げて宣言する。
「タイム」
　彼の言葉に、アンナはにこやかに棘鉄球を振りかぶった。
「ノーカン！　ノーカンだから！　あーっ！？　え、エレクトロレギオン！」
　目の前で空を切る棘鉄球にジェイが悲鳴をあげてダッシュ。慌てて虚空から数十の小型メカを召喚、それを囮に間合いを取る。
　向かい来る小型メカをアンナが手当たり次第に叩き飛ばす。そうして彼女によって高く打ち上げられた一体の小型メカが、ジェイに向けて落下し後頭部に命中！
「痛い！？　ええい、ならこっちやってみっか、ヘビーアームド・ウェポナイズ！」
　言いながらもジェイは装備を重武装モードに変形させ、アンナへ向けて乱射！　砲弾が直撃する寸前、アンナは迷宮の横道に飛び込んで回避。そのまま彼女の足音が遠ざかっていく。軽く息を吐きジェイが独り言ちる。
「やっべ、おれ思いの外弱くね……？　まあいっか、練習練習！　早いとこ、この世界に慣れないとな！」
　そしてジェイはゆっくりと移動を始めていった。

●怪人と猟兵を隔てる物は
「暑い……」
　蜃気楼の立ちこめる迷宮の中、アンナは足元をコンコンコンと叩き、飲み物が出てくることを祈る。しかし出てきたのは手榴弾。
「また外れ」
　アンナは溜息と共に安全ピンを抜き、目の前に立ちはだかった土人形たちに投げつける。爆風と共に吹きとぶ土人形たち。そしてそこへ上空から砲弾が落下してくる。
≪爆発音をめがけたジェイの長距離砲撃！　そして熱気と土人形がアンナの体力を削る！
　果たして彼女に打つ手はあるのか！？≫
　未来予知じみた身のこなしでアンナは砲弾を見切って躱し、あるいは武器で打ち返し、なんとか彼女は迷宮を進んでいく。そして再び足元をコンコンコン、出てきたものを見てアンナが顔を綻ばせた。
≪おっと、これは運がいい！　ペットボトルを引き当てた！≫
　蓋を開けて水を飲むアンナへ再び土人形が歩み寄る。先ほどまでよりもゆっくりと。
　視聴者もそれに気付いたようだ。『あれ、何か動きがおかしいよ？』『怯えているみたい』『――水が怖いとか？』と、コメントが流れていく。
　アンナはしばし考え、土人形に向けてペットボトルの水を撒く。その水滴を躱すように土人形が逃げた。逃げ遅れた一体が水をまともに浴び、形を保てずに崩れ去る。
『やったー！』『アイツら水が弱点なんだ！』『それならさっき、消火栓を通りすぎなかった？』
　最後のコメントが消えぬ内に、アンナは迷宮を駆けだしていた。

　迷宮の出口、ソルドイラはアンナを待ち構えていた。
「ふはは！　どうした、どうした。迷宮の中で熱中症になって干からびてしまったかー！？」
　そんな彼の元に響く轟音。迷宮の中、アンナが開いた消火栓。そこから吹き出した水が、濁流となって迷宮の内部を満たし、出口にいたソルドイラに襲い掛かる。
「あっ、水はダメです。地面タイプに水は効果抜群！？　ぬわーっ！？」
　ソルドイラの巨体が大量の水に押し流される。

　一方、迷宮の中。
「あああああ！？」
　迫る濁流から逃れるようにジェイが重武装モードでガッショガッショと走っていく。しかしその走りは水の流れよりはるかに遅く。
「あああガボボボボボボ！？」
　すぐに濁流に飲み込まれ、水の中に沈んだ。

　そうして、吹き出した水が引いたころ、アンナが迷宮の出口に姿を現した。
「迷宮の出口は一つ。つまり水の流れる先が迷宮の出口」
「くっ見事な攻略法であります」
　よろめきながらソルドイラが立ち上がり、アンナへと声をかける。
「どうだ私たちと一緒に来ないか？　君は呪われた出生を持つ身だろう？」
「そう、確かにこの身は呪われているかもしれない。この力さえも、けれど」
　アンナが再び拷問器具アイアンメイデンを模した大剣を構える。そして彼女の纏う鎧のそこかしこから青白い地獄の鬼火が吹きあがる。
「アタシは世界を呪わない。アタシは人を救う、たとえこれが呪われた力であろうとも！」
　言葉と同時にアンナが疾走、ソルドイラがそれを迎え撃とうと腕を振り下ろすより早く、彼の懐に飛び込みその体を存分に切り裂く。
「で、電気タイプなら無効化できたのに……ぐふっ！？」
　爆発四散するソルドイラ(のダミー人形)。その爆音を背に構えを解くアンナに向けて。
『さっすが猟兵！』『かっけーー！』『88888888!』
　配信画面には弾幕のように賞賛のコメントが流れ続けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●輝ける黄金の王者
≪さぁそれでは次の配信に行ってみましょう！≫
　言葉と共に、キマイラフューチャーの街中の風景が画面に映し出され、蹄の音が響き渡る。金の鎧を纏った騎兵が馬を駆り、立ち並ぶビルとビルの合間を駆け抜ける。
「待ちなさい！　オブリビオン！　これ以上の狼藉はさせないよ！」
　言葉と同時、飛来した三つの手裏剣が騎兵の行く先を阻むように道路に突き立つ、騎兵が足を止めて見上げた先、高台で腕を組み、仁王立ちをしたミリィ・ライジング（煌めく白銀・f05963）の姿。
『猟兵キターッ！』『アイエエエーッ、ニンジャ！？　クノイチ！？』『カワイイヤッター！』、ミリィの登場に沸き立つコメント。画面の中ではミリィと騎兵が戦いを繰り広げる。
≪さあ一進一退の攻防、しかしミリィにはまだまだ余裕があるか！　騎兵の突進を、ぎりぎりで躱す！　掠り傷ばかりに放つ、反撃の手裏剣！　騎兵はこれを盾で防ぎ――なんと手裏剣が燃え上がったぁ！？≫
　盾に突き立ったミリィの手裏剣、そこから放たれた炎が金の鎧をとかし、騎兵の全身に燃え移る。
「火よく金に剋つ。炎の力を込めた特別性よ。あなたの鎧では防げないわ」
「おのれ。申し訳ございません……ビリ……オンさ……ま……」
　勝ち誇るミリィの前で黄金の騎兵はそう言い残し風に溶けるように消えていく。
『ゴウランガ！』『これぞ火遁の術だ！』『最後に言っていたビリオンが親玉？』
　ミリィの目の前で黄金の軍馬が断末魔の様に嘶きを上げ――同時に、周囲でけたたましく鳴り響く蹄の音！
「なっ！？」
　驚くミリィを取り囲む十数騎の黄金の騎兵たち。五騎ほどが彼女の後ろに回って退路を断ち、隊列を整える。そしてミリィの前方、二列に並んだ騎兵たちの間から黄金の光が差した。姿を現したのはひときわ輝く黄金を身に纏った一人の青年、ビリー・ライジング（輝く黄金・f05930）。。
　臣従の礼をとる騎兵たちの間を、彼は堂々と軍馬を歩ませ、ミリィの前に立ちはだかる。
「我が配下が倒れたから来てみれば、お前のような小娘とはな」
「ええ、そうよ。そしてその小娘に、あなたは負けるの！」
　言うや否や、ミリィは周囲の黄金騎兵とビリーへ向けて手裏剣を乱れ撃ち！　ある騎兵は躱しそこねて火に巻かれ、また別の騎兵は剣で弾いてこれを防ぐ。
　そしてビリーは無防備にその手裏剣を受け、彼の全身を炎が包む！
『やったか！？』
「無駄だ」
　言葉と同時にビリーの剣が青く輝き、彼を包んでいた炎を打ち消してしまう。
「水よく火に剋つ、だ。そして……」
　パチリとビリーが指を鳴らした瞬間、火に焼かれ数を減じたはずの黄金騎兵が再び現れ、ミリィへと刃を向ける。その光景にミリィの顔から血の気が引く。
『オブリビオンを増やした……？』『これってひょっとして』『やばいやばいやばい』
　キマイラ達の怯えたコメントが流れる中、ビリーが宣言する。
「我が名はビリオン。新たなるオブリビオン・フォーミュラだ」
　キマイラフューチャーのビル街で、ヒョウヒョウと風が哭いていた。

●白銀の旋風
　ビリーの宣言を聞いてエリィは微笑みで返す。青ざめていた顔に生気が戻っていた。
「そう。あなたがそうなのね。だったら今ここで倒すだけの事。
　あなたが世界を滅ぼそうとする限り、このミリィ・ライジングは決して許さないよ！」
『か、格好いい……』『よーし、そんな奴やっつけちゃえ！』『GoGoGo！』
「生意気な小娘が……やれ！」
　ミリィへと切っ先を向けて号令を下すビリー。そしてミリィへと殺到する黄金騎兵達。ミリィは咄嗟に後方の騎兵たちへ跳躍し、同時に手裏剣を連続で投擲。
　一騎、二騎と手裏剣で仕留めて三騎目。騎兵が手裏剣を盾で弾いて、その腕にミリィが着地。騎兵の額に護符を貼り付けると、その頭を足場にして彼女は再び跳躍。そのまま空中で印を切り――。
「急急如律令！」
　ミリィの掛け声と同時に張り付けられた護符から火柱が上がり、複数の騎兵をまとめて焼き尽くす。
『これで六騎！』『行ける行ける！』『あっ、危ない！』
　着地の瞬間、ミリィ目掛けて騎兵が突進！　突き出される剣にミリィは身を翻すが、避けきれない。彼女の肩口が切り裂かれ、赤い血がパッと宙に舞う。
　ミリィは苦悶の表情を浮かべながらも、騎兵の背中に手裏剣を投げつける。
≪これで七騎目を撃破！　しかしこの被弾は痛い！　手当の間もなく、次の騎兵が、次の次の騎兵が襲い掛かる！≫
　耐え目なく続く騎兵たちの攻撃をミリィは躱し逸らし手裏剣や護符で反撃していく。着実に減っていく黄金の騎兵たち。しかし彼らの命がけの猛攻は決して無傷では凌ぎきれず、二度三度と赤い血が舞う。
『ううっ痛そう』『でもさっきので騎兵は最後の筈』『いよいよ決戦……！』
　最後の一騎を仕留めて、ミリィがビリーへと向き直る。
「もう打ち止めかしら。なら、後はあなただけね……」
「小娘の割にはなかなかやるな。だが、もはや立っているのがやっとであろう。
　それで我に勝てるつもりか？」
　ビリーの問いにミリィは不敵な笑みで答えた。最後の手裏剣に己の血で紋様を描き呪を紡ぐ。
　ビリーもまた迎え撃つように魔剣を構える。その刃に青、赤、緑と三色の輝きが生じて交じり合い黄金の輝きとなって彼の全身を包み込む。
　睨みあう二人、彼らの気迫に視聴者も固唾をのみコメントを流すのも忘れて画面に見入る。解説者がゴクリと喉を鳴らす音がやけに大きく響いた。
　瞬間、弾かれたようにミリィが疾走。ビリーへ向けて一直線に駆け、すれ違いざま叩きつけるように手裏剣を放ち、同時にビリーが切り上げるように魔剣を揮う。ミリィの血が宙に舞った。
　ビリーの背後、右肩を抑え膝から崩れ落ちるミリィの姿に、視聴者から悲鳴が上がる。
「……見事だ、猟兵よ」
「……私の勝ちよ、ビリオン」
　魔剣を下ろし構えを解くビリー。その胸元にミリィの手裏剣が突き立っていた。
　倒れ伏すビリーと立ち上がるミリィ。その姿に惜しみなく賞賛のコメントが送られる。
『ワザマエ！　ワザマエ！』『最後めっちゃドキドキした～』『ホント、怪人ってこんなに強いんだ……』
　画面の中、流れる賞賛のコメントの向こうで、ミリィは笑顔で手を振るのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

第2章 集団戦 『紫御殿』

POW   :    仮面合身の術でござる！ 無機物と合体し、自身の身長の2倍のロボに変形する。特に【男子がカッコいいと思うもの】と合体した時に最大の効果を発揮する。 SPD   :    仮面手裏剣の術でござる！ 【懐】から【自動追尾する真っ白な仮面】を放ち、【相手の視界を塞ぐこと】により対象の動きを一時的に封じる。 WIZ   :    仮面狼群の術でござる！ 【仮面を被った狼の群れを召喚、爪や牙】が命中した対象を切断する。 👑7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●飛び入り参加の配信者
　画面にノイズが走り画像が切り替わる。そこに映ったのは怪人パスト・フォーサイスと相棒のドラゴン。そして彼に従う仮面の忍者達。
「オレはパスト、オブリビオン・フォーミュラー、パスト・フォーサイスだ！」
　そういう彼の後ろで一人の忍者が肩をすくめ、別の忍者は首をかしげる。それに気づかずパストは言葉を続ける
「この動画配信コンテスト、オレも参加させてもらうぜ。
　内容はもちろん、怪人と猟兵のバトルだ！
　待ってろよ猟兵！　オレと部下たちがぎったんぎったんにしてやるからな！」
　パストの言葉と同時に、忍者達が一斉に跳躍、街中に散っていく。
　そこに『返り討ちにされちゃえー！』『猟兵負けるなー』等のコメントが重なった。

「――勝ち目がなさそうだったら、逃げよーっと」
　マイクのスイッチを切ってこっそりつぶやくパストに、ドラゴンが同意の鳴き声を上げる。

　この先の配信、キマイラ達は紫御殿を倒す所を期待しているだろう。しかしパスト達を逃がさないためにも、なるべく苦戦を演じる必要がありそうだ。


●パストにはもっとカリスマや威厳を出してほしかったbyルドルフ
≪勝ち目がなさそうだったら、逃げよーっと≫
　画面は再び動画配信コンテストの総合スタジオへ。ルドルフ・エルランゲン（黄昏に抗う白梟・f03898)は、パストのもとへ送っていたセンサードローンを通じてパストの独り言を受信、放送していた。
　そして、そのあまりに逃げ腰な内容に内心頭を抱えるルドルフ。
　彼が見守る前で、『なんか、馬鹿っぽい？』『どう見てもビリオンの方がやばそう』『フォーミュラーって王様でしょ？　王様が逃げる？』と、パストを軽く見るコメントが流れ始める
（このままだと、また配信者の誰かがちょっかいをかけますよねー。さっきみたいな綱渡りは御免ですし、少し釘を刺しておきますか）
　ごほん、とルドルフは咳ばらいを一つして話し始める。
「……などと、自称フォーミュラ―、パストは供述しているわけですが、仮にもオブリビオン。しかも見ての通り幾人もの忍者を従えて、指揮系統が一本化されています
　姿は子供ですが決して油断してはいけないわけです」

　画面は再びパストが石を両断したシーンへ。その動きがスローモーションで映し出される。
「空中に浮かせた石を真っ二つにするというのは、簡単なことではありません。パスト一人でもこれだけのことができ、今はドラゴンと忍者まで従えています。
　もしまた襲われたら、今度は逃げきれるかわかりませんね？」
　ルドルフは朗々とした声で丁寧に、犠牲者を出さずに勝利に至る戦術を告げる。
「からかって遊んだらダメですよ。餅は餅屋、オブリビオンは猟兵にご用命を。
　もし怪人を見かけたら、すぐに逃げてください――我々も絶対に勝てるとは限りませんからね」
『はーい！』『ちょっと戸締りしてこよ』『この配信見てる方が楽しいし、しばらく家にこもろーっと』
　コメントの読み上げをソフトに任せて、ルドルフは参加中の猟兵たちへとの通信回線に向き直る。先程のような、キマイラが襲われる状況に綱渡り抜きで対処するためルドルフが追加で準備したものだ。

「さて、皆さん聞こえていますね。いまからパストの居場所と忍者の目撃情報があった場所はこちらで随時連絡していきます。
　まずは忍者の数を減らしながら、包囲網を狭めていきましょう。なるべくパスト達が油断してくれるように、苦戦や敗北を装いながら、ですね」
　そうしてパスト達の周辺の地形や、人目につかない道、仲間たちが立案した作戦に適した場所などを伝えていく。

　仲間達との通信を終えるとルドルフは再びカメラに向き直り笑顔を見せた。
「それでは引き続き仮面忍者vs猟兵連合をお楽しみください」

大成功 🔵​🔵​🔵​

●猟兵と怪人の共同戦線？
　正面から投擲されたクナイ、その切っ先に向けて仇死原・アンナ（炎獄の執行人・f09978）が疾走する。クナイが耳元を掠めて、ヒュッと風を切る音が聞こえた。
　次のクナイを構える紫御殿に肉薄し、横薙ぎに鉄塊剣を叩きつける。切り裂いた紫御殿が倒れ伏すより先に、アンナは大きく前方に跳躍。寸前まで彼女が立っていた地面に別の紫御殿が放ったクナイが突き立った。
≪鮮やかな横一閃！　しかし紫御殿も負けていない。彼女の周りを取り囲んでの波状攻撃！≫
　次々に放たれるクナイをアンナはヒラリヒラリとかわし、ビル街広場の中央に着地。周囲を取り囲む紫御殿たちへ視線を走らせる。
（さっさと叩きのめしたいけど、苦戦してる様子を見せないと駄目か……。
　ボスに逃げ出されるよりは楽だし、できる限りやってみよう……）
　拷問器具を模した鉄塊剣を構え、飛来するクナイを防ぐアンナ。その背後に足音を殺して近づく紫御殿。アンナの背中めがけて忍者刀を振りかざし――。

「おっとそうはいきません」
　言葉と共にアンナの近くの土が起き上がり、紫御殿の体を弾き飛ばした。起き上がった土がうごめき人とも竜ともつかぬ姿となって構えをとる。姿を隠して潜んでいたソルドイラ・アイルー（土塊怪獣・f19468）だ。
『怪獣が復活した！？』『でも忍者に攻撃してる……？』『ってことは味方？』
　彼自身はあくまでも怪人役をしていただけではあるが、そうとは知らない視聴者たちが困惑のコメントを残す。
（ふっふっふ、ヴィランがヒーローの味方をする展開、燃えますねえ。張り切っちゃいますよ吾輩）
「Gyaaaaoooon!」
　視聴者たちの困惑も知らぬげに、ソルドイラはノリノリで咆哮を上げて紫御殿へ突進。
振るわれる刃を土の体で飲み込み、紫御殿の腕を掴んで投げ飛ばす。
≪土塊怪獣、片手で忍者を持ち上げて、放り投げたーっ！　これはすごい怪力だ！
　だがしかし敵か、それとも味方なのか、土塊怪獣！≫

「おおー。忍者かっけぇ！　いいなぁ……。けど、オレの方がかっこいいし？」
　言いながら紫御殿の包囲網へと飛び込んできたのはジェイ・ランス（電脳(かなた)より来たりし黒獅子・f24255）、そして彼が率いるエレクトロレギオン。さながら鳥の群れのように編隊を組み、頭上から紫御殿達に襲い掛かっていく。
　小型兵器の一つに掴まっていたジェイはその混乱に紛れて、アンナ、ソルドイラと合流。
「いや、おぼれて死ぬかと思った、マジで」
『二人とも味方なのかな？』『でもなんでだろう？』
　視聴者の疑問に応えるようにジェイが言う。
「で、パスト・フォーサイス？　オブリビオン・フォーミュラー？　もしかして、あいつ叩いたらオレ有名人じゃね？」
　生憎パストは自称なので、倒した所で有名にはなれないのだが……。
≪ここでジェイも合流！　どうやらパストを倒して名前を売り、新たなブームを起こそうとしているようだ！≫と、解説のフォローが入る。

　画面の中、アンナが揮う鉄塊剣が紫御殿を真っ二つ、ソルドイラが拳で紫御殿を殴り飛ばす、そしてジェイのガトリングが紫御殿を撃ち抜く。見る間に紫御殿たちを倒していく三人。
　そしてそこに『なるほどブーム狙い』『だったら応援しよーっと！』『三人とも頑張れー』と、視聴者たちのコメントが流れていった。

●土塊怪獣VS巨大ニンジャロボ！
「さてこれだけ数を減らしたら、パストを狙って移動していきたいところね」
「とは言え素直に通しちゃくれねーよなぁ」
　言いながら鉄塊剣を振るうアンナに、ジェイは別の紫御殿にガトリングを連射しながら答える。彼の視界の端で一人の紫御殿が近くに止まっていたスーパーカーと合体変形、忍者を思わせる巨大なロボットに変身する。
　スーパーカーの流線型のフォルムを残し、鼓動のようにエンジン音を響かせるその姿に沸き立つコメント。
『ニンジャロボだー！？』『目つき悪！？』『でもまあこれはこれで……』
「ああーーー！　カッコイイ！」
　視聴者の言葉を代弁するように声を上げたのはソルドイラ。玩具を見せられた子供のように仮面ロボに駆け寄り、ウロチョロとその周りを駆け回る。
「カッコイイ！　スーパーカーと合体とか、ズルいですよそれ！！
　吾輩も乗せてください、寝返ります！　味方になりますよ！
　……えっだめ？」
　がっくりと肩を落とすソルドイラ。ジェイとアンナの冷たい視線に気づくと一つ咳ばらいをし、ロボに向けてファイティングポーズをとる。
「ではこの仮面ロボは吾輩が対処しましょう。お二人は先に行ってください」
　言葉と同時にソルドイラの体が盛り上がり巨大化。ジェイとアンナは一瞬の躊躇の後、目の前の紫御殿を倒して包囲網を抜ける。仮面ロボが彼らを追おうと踏みだした所へ、巨大化したソルドイラが地響きをとどろかせながら疾走、ぶちかましをかける。
　巨体同士の格闘によって揺れるビル街に、キマイラ達の悲鳴が響く。
　アンナとジェイがその場を立ち去るように走り出し、それを追うように紫御殿達が駆けた。彼らの後ろで土塊怪獣ソルドイラと仮面ロボのぶつかり合いが続くのであった。

●ガンファイトwithニンジャ
　ビル街を抜けた先、狭い裏路地へとアンナとジェイは駆け込んでいく。彼らの後を追う紫御殿たちに対し、二人はビルの影に体を隠し火炎弾やレーザー砲を放つ。応戦するようにクナイや仮面手裏剣を投擲する紫御殿たち。
≪アンナとジェイの攻撃が一人また一人と紫御殿たちを倒していく！　しかし敵の数が多い！　さすがは忍び流石は忍者、味方がやられても物怖じすることなく二人に向けて攻撃を続ける！≫
（言われてた通り、場所としちゃ悪くないな。オレはここで仕掛けるとすっかね）
　肚を決めてジェイは飛来した仮面手裏剣をわざと顔に受ける。ガポッという音と共にジェイの顔に張り付く仮面。
「もががー！？　あ！？　前が見えねえ！？　これ仮面か！？　前見えねえのはやべえ。
　……わりぃけどオレはここまでだな。行ってくれ……足止めくらいはするさ」
　ジェイの言葉に頷き、駆け出すアンナ。姿を晒した彼女へ紫御殿たちがクナイを投擲しようとするが、そこへジェイが放ったエレクトロレギオンが突っ込んでいく。
「オレの視界が塞がれてても、こいつらの自動誘導には関係ねー、吹っ飛べ。
　あん？　なんだこの気配は？」
　真っ暗の視界の中、遠く聞こえるソルドイラの足音に混じって、ひたひたと近づいてくる足音、風に混じる獣の匂い。仮面をかぶった狼たちが吠え声一つ立てぬままジェイのもとへ駆け寄り、鋭い牙をむき出しにして彼に向けて飛び掛かり――それをジェイがガトリングの連打で迎え撃つ。
「視界をふさがれても数撃ちゃ当たる！！　さあ、いくらでも来な！」
（――それができるように、この路地を選んだんだしな）
　仮面の下でほくそ笑みながら、ジェイは紫御殿たちへガトリングとエレクトロレギオンを放つのだった。

●プラモデルファイト
　裏路地を抜けて走るアンナ。駆け抜ける道の先に紫御殿の姿を見て、彼女は地下街への階段へ飛び込む。立ち並ぶ店の中を駆け抜けて目当ての看板を探す。
「あった、玩具屋！」
　彼女が陣取ったのは、プラモデルやフィギュアが所狭しと並んだ玩具屋の前。追いついてきた紫御殿を鉄塊剣で一人二人と切り捨てて三人目、振り下ろした切っ先を紫御殿が後方に跳躍して躱し、店の中に飾られていたプラモデルと合体――アニメに出てくるような巨大ロボへと変身。ビームサーベルを振り下ろす。その一撃をアンナは横っ飛びに回避。
≪おっと、ここは！？　無機物と合体できる紫御殿にとっては絶好のポジションか？
　あっ一人、また一人と紫御殿がプラモデルと合体していく！　その巨体でアンナを追い詰める！　アンナにここから反撃の策はあるのか！？≫
　ビームサーベルの薙ぎ払いに、アンナは自ら踏み込み懐へと潜り込む。その脇を抜けるように鉄塊剣を振り抜き、プラモロボの脚部を両断。その勢いのまま切っ先を地面に突き立て、別のロボットの拳を鉄塊剣で防ぐが――勢いを殺しきれず吹き飛ばされる。

　傷つき血を流しながらも立ち上がるアンナ。懐からペストマスクの如き黒い仮面を取り出す。
「この手は使いたくはなかったが仕方ない」
　言ってアンナが処刑人の仮面をかぶった瞬間、彼女の流す血が燃え盛る炎と変わり、プラモロボ達のプラスチックの機体を焼く。
　後ずさるプラモロボたちの前で、アンナが噴き出す炎が火勢を増し、彼女の全身を包む。
「地獄の炎よ、私の命と引き換えだ……、こいつらを焼き、みんなを救う力を寄こせ！」
　言葉と共にアンナは火だるまのまま疾走、巨大ロボたちへ向けて炎をまき散らし焼き尽くしていく。そしてその炎のうちの一つが、配信用カメラを直撃し――。画面が消える。
≪アンナさんからの通信……途絶しました≫
　暗い画面の中、解説の沈痛な言葉が響く。
『大丈夫かな……』『お願いだから無事でいて』『平気、きっと平気だよ、うん』と、コメントが流れる。
　その裏でアンナは一人立ち上がる。近くの紫御殿の全員倒せたようだ。
「狙い通り、火に弱いプラモロボになってくれて助かった」
　解説を務める猟兵にだけ無事を伝え、配信を停止させたまま、アンナは目立たないようにその場を立ち去る。
「嘘を吐くようで悪いけど、敵をだますにはまず味方から――。しばらく生死不明のままにさせてもらう」

●黒獅子、忍者を食らう
　切り替わった画面の中で傷ついたジェイがばたりと倒れこんだ。周囲には機能停止したエレクトロレギオンと幾人かの紫御殿と倒れていて――たった一人、生き残った紫御殿がジェイのもとへと忍び寄っていき、倒れたジェイに向けて忍者刀を向けて振り下ろした。
　瞬間、跳ね起きを間一髪でかわすジェイ、紫御殿の右手を掴んでエレクトロレギオン達に指令を下す。
「捕まえた――これでオレごと攻撃すれば逃げられねぇだろ？」
　ジェイたちの元へ高速飛行する小型兵器たち。お互いに衝突しあい爆発、白い輝きが画面を包み――直後ブラックアウト。
　配信を停止した裏でジェイが起き上り、張り付いたままだった仮面を地面に放った。

●土塊怪獣の最後？
　そして画面はソルドイラの元へ。地面には数体に仮面ロボが倒れており、新たな仮面ロボにソルドイラがぶちかましをかけるが、仮面ロボに受けきられ、反撃のパンチが決まる。
「ぐはっ、ガチでピンチですねこれ！？
　あー誰か吾輩を応援してくれたらなー。元気な声援を耳にすればなー！？」
　その言葉に応えるように画面上に応援のコメントが溢れていく。『頑張れー！』『負けないでー』『行っけー、ソルドイラ！』
「もっちろん、吾輩、張り切りますよー！」
　応援コメントを貰ったテンションのままにソルドイラは自爆特攻、仮面ロボと相打ちになって倒れていく。配信の最後、キマイラフューチャーの大地に沈んでいく彼の右手はサムズアップをしていたという。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●ネタバラシタイム
「何も、紫御殿が来るまで素直に待つことはないわよね」
　ミリィ・ライジング（煌めく白銀・f05963）は、ビル街を抜けて商店街へ。
(迎撃しやすいところまで、何事もなく着けばいいけど……)

「そううまくは行かないか……。見つけた」
　ミリィは電気屋の壁に張り付いて息を潜め、カメラの向こう視聴者にも、静かにするようにとジェスチャーで示す。
　壁の角から慎重に顔を出し、様子をうかがうミリィ。商店街には幾人かの紫御殿たちが周囲を警戒しながら、誰かを探しているようだった。
(一人、二人……この場にいるのは五人ね)
　手裏剣を取り出し、機会を待つミリィ。彼女の真剣な気配に呑まれるように、コメントが消える。――ミリィはいつ仕掛けるのか？　――紫御殿たちはそれまで気付かないか？　――仕掛けたとして数で負けていて勝てるのか？　キマイラ達がミリィの配信を見守る中、全ての紫御殿がこの場を離れようとした瞬間。
　ミリィが壁の影から飛び出し手裏剣を投擲。それが紫御殿の頭部に突き立つ寸前、奇襲に気付いた別の一人が狙った紫御殿を突き飛ばす。
「くっ、躱された！？」
　ミリィは即座に次の手裏剣を構え、紫御殿たちは仮面狼を召喚。狼たちがミリィへ四方から飛び掛かり――そこへ金色の炎の雨が降り注いだ。
　全身を焼かれ悲鳴と共に消えていく仮面狼たち。炎の雨は紫御殿たちにも襲い掛かり、骸の海へと返していく。
「くっ、このままでは済まさんぞ！」
　唯一、炎の術を逃れたのは最初に突き飛ばされて距離の放れていた紫御殿。捨て台詞を残し商店街の奥へと消えていく。
　入れ替わるようにゆっくりとカメラの目に姿を現したのは、ビリー・ライジング（輝く黄金・f05930）。
『ビリオン……？』『さっきミリィが倒したはず』、画面にあふれる困惑のコメント、そこへカメラの向こうからビリーが指を突き付ける。
「……画面の前の貴様らは次に『オブリビオンが蘇った！？』と言う」
『『『オ、オブリビオンが蘇った！？』』』

『ハッ』
　キマイラ達の驚きに追い打ちをかけるようにビリーがネタバラシ。
「我はオブリビオンではない……俺はミリィの兄、そして猟兵だ！」
「ビリオンの正体は、私のお兄ちゃんでした～」
　ビリーの隣で『ドッキリ大成功』のプラカードを持ったミリィが笑顔で手を降る。
　金髪、赤目よく似た顔立ちの二人の姿に、キマイラ達も事情を飲み込み。
『な、なんだってー！ΩΩΩ』『完全に騙された―！？』『二人ともすごい演技力……』と賞賛のコメントを送るのだった。

●金色の刃と白い巨人
　2人の背後に映る紫の影、咄嗟に解説役の猟兵が声を上げる。
≪おっと危ない！　2人の背後から紫御殿が襲い掛かる！≫
　忍者刀の一撃にミリィとビリーは左右に跳躍して回避。直後、ビリーが反転、ルーンレイピアを抜いて紫御殿へ連続で刺突を放つ。
≪ビリーの連続突き！　目にも止まらぬ猛攻で紫御殿へ反撃だ！　紫御殿、忍者刀でこれをしのぐが――受けきれない！　ビリーのレイピアが紫御殿の肩を、首筋を抉っていく！　さあ、このまま押し切れビリー！≫
　頭部を狙った突きの途中、ビリーはくるりと手首を返し、紫御殿の右手を切り裂く。忍者刀を取り落として、後方に跳ぶ紫御殿、ビリーが追撃の一撃を仕掛けようと構えると同時、紫御殿がレーザーポインターを掲げて、変形合体。巨大なロボットに変身する。
≪なんと追い詰められた紫御殿が、レーザーポインターと合体！　両手に煌めく光学レンズはレーザーの発射口か！　果たしてその装甲にビリーのレイピアは通じるか！≫
　危惧の言葉を証明するように、ビリーはレイピアでの連続突きを放つが――、貫けない。
　お返しとばかりに放たれた熱線をビリーはギリギリでかわしていく。熱線を受け彼の背後にあった街路樹が燃え上がる。
≪ビリー防戦一方、これはピンチ！　ビリー、ピンチだ！≫
（まあ苦戦を演じるには、これくらいの事はしておかないとな）
　レーザー砲を前転でかわし、起き上がったビリーの周りに白い霧がかかった。

「下がってお兄ちゃん！」
　言葉と同時に電気屋から飛び出す白い巨人――ミリィが加湿器を元に生み出した巨大ロボだ。ロボットは絶え間なく霧を吹き出し続け辺りを白く染めていく。
　霧に紛れるビリーに向けて忍者ロボがビームを放つが、立ちこめる霧がレーザーを反射させて、その威力をそぐ。
　レーザー攻撃をあきらめて殴り掛かろうとする忍者ロボ、そこへミリィのロボットが飛び込む。
≪さあ、巨大ロボット同士の格闘戦だ！　ミリィロボットのドロップキックが命中！　忍者ロボ吹っ飛んだー！　すぐさま立ち上がって、忍者ロボが突進！　ミリィロボット足を踏ん張ってこれを耐える！
　おや、忍者ロボが右手をミリィロボの脇腹に当てて……？　いけないこれはっ！　レーザーキャノンのゼロ距離射撃だーっ！≫
　放たれた赤い光に機関部を貫かれガクリと膝をつくミリィロボ、忍者ロボへ突き出した右手も装甲に当たって止まる。

　止めを刺そうと忍者ロボが再びレーザーキャノンを構えた瞬間、ミリィロボの右手の中から金色の光が溢れた。光に圧されるように指が開き、掌から光の源――ビリーが飛び出す。
「さあ、見せてやる。オレの切り札を……このレイピアの本当の姿を！」
　溢れていた金の光がビリーの持つレイピアに収束、炎を纏う日本刀へと姿を変える。ビリーは飛び込みざまに一閃、忍者ロボの右手のレーザキャノンを切り落とす。
　後ずさる忍者ロボに、ミリィロボットが最後の力で突撃。
　壁に押し付けて抑え込んだところへ、ビリーがミリィロボを足場に大きく跳躍、忍者ロボに向け日本刀を上段から振りかぶり――。
「行っけぇーっ！　お兄ちゃん！」
　ロボを脱出したミリィの声援と同時、ビリーの振り下ろした刃が忍者ロボを真っ向から二つに切り裂いて――。
　ビリーの着地と同時、その背後で忍者ロボが爆発。
≪ミリィとビリーの逆転勝利！　これはまさに兄妹でつかんだ勝利だ！≫
　2人の活躍に視聴者たちのコメントは大いに沸いたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

第3章 ボス戦 『パスト・フォーサイス・おん・ざ・どらごん』

POW   :    全部ブッとばしちまえ！だいうるごす・ふぁいあー！ 自身の【跨っている、どらごんの口の中】が輝く間、【ブレス攻撃】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。 SPD   :    これがフォーミュラの力だ！だいうるごす・ふれあ！ 戦場全体に、【必ず先制攻撃となる、どらごんの吐く炎弾】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。 WIZ   :    俺様こそ次のフォーミュラだ！力を貸しやがれぇ！ 【前章の敵、またはギミック】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。 👑7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

●慢心のパスト
「はーっはっはっは！
　苦戦しているようだな猟兵！」
　配信画面に再びパスト・フォーサイスが割り込み、高笑いをする。その横顔をイルミネーションが照らした。
　パストがいるのは駅前の広場。日も暮れ出した空の元、色とりどりに輝くデコレーションツリーに囲まれて、パストは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「どーだ、オレ様の部下たちの活躍は！　猟兵たちを倒せるほど強いんだぜ！
　そして、こいつらを従えるオレ様はもっと強い！」
　胸を張るパストの下で相棒のドラゴン――だいうるごすが威嚇するようにチロチロと火を噴き、彼らの後ろに控える紫御殿たちも不承不承といった風情でうなずく。

「残りの猟兵たちも降伏するなら今のうちだぜ！
　このオブリビオン・フォーミュラ、パスト・フォーサイス様にな！」
　ビシッと画面に指を突き付け宣言するパスト。そして暗転した画面にキマイラ達の反論のコメントが流れていく。
『Booooooooooo！』『皆まだ負けてないもん、立ち上がってくれるもん！』『フォーミュラだったらもっと威厳があるって絶対！』

　パストは幾人かの猟兵を倒したと思い込み、完全に油断している。彼がいる広場は、いくつもの路地や地下通路から行き来が可能で、ビルやデコレーションツリーなどの遮蔽物があり奇襲しやすい場所だが、そこから移動するつもりはないようだ。

　最後の配信、もはや苦戦を演じる必要はない。
　キマイラ達が期待しているものを、思う存分見せつけよう――君達猟兵の勇姿を。




●最後の決戦へ
　画面は再びスタジオへ。司会実況の席に座ったルドルフ・エルランゲン（黄昏に抗う白梟・f03898）が、画面正面を見据え向けて真剣な面持ちで言葉を紡ぐ。
「長く苦しい戦いの果て、猟兵達は仮面忍者の多くを討ち取りました。
　けれどその代償は決して小さくはなく、猟兵達も一人また一人と脱落していきました」
　画面に映し出されるのは、最後の敵を自身諸共攻撃しようとしていたジェイ・ランス（電脳(かなた)より来たりし黒獅子・f24255）の姿。
　そして他の仲間達が倒れ、あるいは傷つきながらも、紫御殿たちと戦う姿。

「この動画コンテストもいよいよ佳境を迎えました！
　遂にパスト・フォーサイス――フォーミュラを自称する怪人との直接対決が始まります！　ドラゴンを従えた怪人に猟兵達は果たして勝てるのか？
　確実に言えることは二つ。彼らオブリビオンが活動する限りこの世界に未来はないという事。
　そして猟兵達は、視聴者のみなさんの声援があれば、どんな奇跡も現実にしてくれる事。
　といわけで皆様、最後までお付き合いください！」
　ルドルフの言葉に、『もっちろん』『みんな頑張ってー！』等のコメントが流れ、再び画面にノイズが走った。

●蘇る黒獅子
　新たに映し出されたのは黒獅子のロゴと『SchwarzLowe』のテロップ、そして高層ビルの屋上でにこやかに手を振るジェイの姿。
「よっはろー！　イエーイ、みんな見てるー？」
『あっさっきの！』『よっし生きてた！』『味方、なんだよね？』
「おう、味方も味方、オレも実は猟兵でしたとさ。ってことで、こっから……私の本気モードと行きましょう」
　キマイラ達のコメントに答えて、ニッっと悪戯げに笑うジェイ。その赤い瞳が虹色に輝けば、纏っていた軽薄な雰囲気が消えて、機械じみた無表情へ。同時にジェイは電脳魔術を起動、空間に部品のフレームが描かれ、組み合わさって巨大な砲塔となって実体化。
「630ｍｍBlitzKanoneレディ」
　巨大な砲身を操って、パストへと照準を合わせるジェイの姿にコメントが盛り上がる。
『何アレかっけぇ！』『ホントに猟兵なんだ』『勝ったな、風呂入ってくる』
（射角は取れますが、いくつかの建物を巻き込みますね。どうせこの一帯は避難終了してますし――）
「少々派手に行きましょうか」
　ジェイがトリガーを引いた瞬間、プラズマ弾が高速でビル街を飛翔、街中のモニュメントや街頭モニターを掠めて、一瞬にしてパストのもとへ到達し、彼が乗るドラゴンを直撃、巨大な爆発をおこす。
　直後、音速の弾丸に切り裂かれた空気が轟音を響かせ、破損したモニターが火を噴いて崩れ落ちる。

●感情演算――、一時停止
≪直撃ーっ！　ジェイの630ｍｍ電送砲が火を噴いた！
　630ｍｍという、まさに戦艦の主砲にも匹敵する一撃！
　これは決まったかーっ！≫
　ルドルフは解説と同時に、センサードローンを操作、着弾地点付近を配信画面に映し出す。
≪おっとパスト、煤まみれになりながらも立ち上がった！
　彼の指示を待たずして、幾人かの紫御殿たちがジェイのもとへ向かう！　――迎え撃つ準備を！≫

「……雑魚がでますか。まあ問題はありません」
　応えてジェイが取り出したのは、巨大なガトリング砲。
≪アレは！　ジェイの愛銃30ｍｍ口径の対戦車、対モンスター用のガトリング砲！≫
　言い終えた瞬間、ビルの屋上へと飛び上がる紫御殿たち。
「ようこそ皆さん、それではどうぞ……召し上がれ」
　トリガー。鳴り響く発砲音と共に屋上のコンクリートに銃痕が刻まれ、紫御殿が蜂の巣になって吹き飛ばされる。一人二人と撃ち倒し三人目、屋上の渕に手をかけたまま、銃撃の切れ目を待とうとする紫御殿、彼の頭上、空中で銃弾が曲がりその体を撃ち抜いた。
「誘導付きの、毎秒200発の暴力――逃がしませんよ」
　淡々と告げるジェイの姿に、『この男には凄味がある！』『さっきまでの態度が嘘みたい』『クールでかっけぇ！』と盛り上がるキマイラ達のコメント。
　不意にジェイは銃撃を止めてあたりをうかがう。
「後続が止まった……？　パストの所で何かありましたかね」

●孤独の王座
　パストの呼びかけに応えた残りの紫御殿十余名。
　彼らの前にルドルフが立っていた。本人ではない。ドローンが投影する立体映像だ。
「あなたたち、このまま彼に従っていていいのですか？
　いいえそもそも、彼が本当にオブリビオン・フォーミュラだと？」
「なんだと！？」
　声を荒らげるパストの姿に、きらりと眼鏡を光らせるルドルフ。
「自らの強さに思い上がり、慢心して敵の生死も確認しない。成果にばかり目を向けて、散った部下を見ようともしない。そもそも！」
　パチリとルドルフが指を鳴らせば、流れ始める録音データ。
≪勝ち目がなさそうだったら、逃げよーっと。≫
　反射的に口を抑えるパストに紫御殿たちのは冷ややかな視線をむける。
「死地に陥って部下を捨てて逃げようとする者が、次期フォーミュラなぞおこがましい！
　紫御殿らが仕える器に非ず！」
　いつしか紫御殿たちは、お互いのうちに視線を向けて――。
「スナイパーのもとに向かったお仲間は全滅しましたよ？」
　ルドルフの言葉がとどめになった。紫御殿たちはあるものはビル街へ、またある者は地下へと散り散りに立ち去って行った。
『言葉だけで、敵を追い払った……』『あとはパストとドラゴンだけ！』『もう忍者の心配しなくていいんだ！』と喜ぶキマイラ達。

「ちっくっしょーーー！」
　腹いせとばかりにパストが刃を振るって、投影ドローンを両断。ルドルフのホログラフが消えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●忍び寄る処刑人
　パストの叫びの残響が消える間もなく、その場に忍び寄る一人の猟兵がいた。仇死原・アンナ（炎獄の執行人・f09978）だ。
（取り巻きは消えた。そろそろ出てきてもいい頃かな……。
　それじゃあ、叩き潰そうか）
　アンナの体がドロリと溶けて赤黒い血と肉片へと変わり、明滅するイルミネーションの影で闇に紛れてゆっくりとパストの足元へと近づいていく。
　彼女は音もなくパストの背後に這いよると、その表面を膨らませるように立ち上がり、流体じみた体のまま武器を構える。パストはそれに気づいていない。
「まあいい、オレはフォーミュラ、王様なんだ。もう一度、適当な奴を捕まえて――」
　イルミネーションの明かりが切り替わってパストを背後から照らし、地面に彼の影を作った。そしてもう一つ、そしてパストの後ろで鉄塊剣を振りかぶる彼女の影も。
　驚いたパストが振り向くより早く、振り下ろした切っ先が彼の背中を切り裂いた。

「王様ね、その傲慢な自惚れは……捨てたほうがいいよ……坊や」
　言いながら、アンナは人型に戻って処刑人のマスクを装着。
　彼女の姿にヒッっと短く悲鳴を上げて立ち竦むパスト。だいうるごすもまた彼女の姿に怯えてファイアブレスをまき散らす。イルミネーションと周辺に飾られた新年飾りに燃えうつっていく。
『ああ、燃えちゃってるぅぅ』『頑張って飾りつけしたのに』『まあ、また一緒にコンコンコンしよーぜ』、配信される光景にキマイラ達が悲しみのコメントを記し、仮面の下に除くアンナの目に怒りを宿らせた。

「これ以上、好きにさせない……！」
　放たれた火炎弾をジャンプでかわし、アンナは空中で鎖の鞭を振るう。棘鉄球付きの鞭がだいうるごすの顔を打つ。
≪アンナの鎖の鞭がだいうるごすのの顔を直撃！　おっと鎖は勢いのまま、だいうるごすの口に巻き付いて――。これは口を開かせないようにする作戦か！≫
　そしてアンナは妖刀を逆手に振りかざして疾走、だいうるごすがわずかに開く口で吐いた炎へ踏み込み、上顎から下顎までをつきとおすように、呪われた妖刀を突き立てる。
　だいうるごすが悲鳴を上げて倒れ込む。
　入れ替わるようにアンナへと切りかかるパスト、振り下ろされる刃の一撃をアンナは拷問器具を模した鉄塊剣の一振りで弾き飛ばし、尻餅をついたパストへ切っ先を向け宣言する。
「散っていった忍者達も許すつもりはない。降伏させたりはしないよ……。
　放っておけばまた誰かが泣くことになる。そこまでワタシは優しくはないから……。
　そして貴様らはここで……叩き潰されて死なせてやる！」
　鉄塊剣を怪力で振り回し、パストとだいうるごすを圧倒するアンナの姿に、視聴者のキマイラ達は『いっけーーーっ！！』『お正月飾りの仇だー！』と声援のコメントを送るのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

●月下に移ろう蜃気楼の迷宮
「はぁ……はぁ……。何とか撒けたか。
　って、なんだあれ？」
　命からがら逃げ延びたパスト・フォーサイスとどらごん。
　辿り着いたビル街の広場、差し込んだ月明かりが、倒れたソルドイラ・アイルー（土塊怪獣・f19468）と、彼が倒した忍者ロボたちを照らしていた。
「しめた！　これだけ居れば少しくらい無事な紫御殿がいるはず！
　……コイツ動かないよな」
　パストはソルドイラの土の体を軽くつつき、動かないことを確認。そばで倒れていた忍者ロボのハッチを解放して中の紫御殿に声をかける。
「おーい、起きろ！　もう一働きしてもらうぞ！
　この世界とキマイラ達を滅ぼすためにな」
　その言葉に、倒れていたソルドイラの目が薄く開き、そしてまた閉じていった。

　一つまた一つ、とハッチを開けて紫御殿たちを蘇生させていくパスト、その姿にキマイラ達が不安のコメントを記していく。『こいつらまた暴れるつもりかな』『ううっ、もう壊されたくないよー』
『起きてよ、土塊怪獣っ！』
　応えるようにソルドイラが目を見開いた。
　そして跳ね起きざまに杖剣を一閃！　パストを弾き飛ばす。
『土塊怪獣！』『やったぁ、生きてた！』『助けてくれるん、だよね？』
　最後のコメントにソルドイラは力強くうなずき、口を開く。
「いや～すみませんな、次期フォーミュラ殿。
　吾輩キマイラたちの明るい声援のおかげで猟兵に目覚めちゃいました！」
「ええい、何をふざけたことをっ！　行くぞお前たち！」
　パストの掛け声に応じソルドイラを取り囲む紫御殿たち。忍者刀をすっぱ抜いて切りかかってくるのをソルドイラは杖剣で一人二人と受け流し、三人目を受けると同時、後ろに大きく飛び退る。
「う～ん、これは困りましたな。吾輩、本当は後衛でだらだらするスタイルなので殴り合いとか苦手であります」
『『『えっ？』』』、画面に弾幕のように流れる疑問のコメント。
『さっき思いっきり怪獣バトルしてなかった？』
「……え。な、なんのことやらさっぱり。
　か弱い吾輩が怪獣バトルで大暴れしていた？
　ええ～、本当でござるか～」
　のらりくらりと紫御殿の攻撃を受け流しながら、おどけてみせるソルドイラ。くるりと視線を巡らせて、パストとどらごん、紫御殿達の位置関係を確認。
「さて、それではサマナーパラディンの本領発揮と参りましょう」
　ソルドイラは杖剣でもって地面を一突き。たちまち地が揺れ無数の壁がせりあがり、パストの元から紫御殿やどらごんを分断。1人取り残されたパストへソルドイラは杖剣を構えて告げる。
「これなるは、土塊怪獣の築きし王子を攫う砂の城。さて家来は助けに来てくれるでしょうかな？」
「くそっ、覚えてろ！」
　捨て台詞を残してパストが逃げ出す。熱気が立ち込め蜃気楼に揺らぐ迷宮の中、小さくなっていくパストの背中を、ソルドイラはゆったりと追いはじめる。
「どうぞどうぞお逃げなさい。
　逃げた先は果たして己を守る要塞なるか。砂漠を脱するはお前の知恵次第。おっと」
　曲がり角の影、死角から振り下ろされた忍者刀を躱して、ソルドイラは杖剣を一突き。奇襲をかけた紫御殿を叩き伏せ、何事もなかったかのようにパストを追い始める。
「さあさあ、熱は頭上からか地表からか。はやく抜けねば頭がゆだるぞ足が焼けるぞ」

　その後、襲いかかる紫御殿を全滅させ、逃げたパストを見つけては叩きのめすソルドイラの活躍に、大いに喝采のコメントが寄せられるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

●ビヨンド・ザ・ファイア
「うううぅ、なんだよ。あいつらさっきの配信の時よりも強くなってないか」
　何度も叩きのめされながらも迷宮を抜け、パストと相棒のだいうるごすは、裏路地を抜けて商店街へ。彼らと共に行く紫御殿はもはや一人もいない。
「あー、東の方がすっかり明るく。もう夜明け……」
　パストの言葉をかき消すように無数の蹄の音が響き渡った。
　曙光と見えたのは光り輝く騎兵隊、およそ60騎がパストに穂先を定めて命令を待ち構えていた。
　先頭で彼らを率いるのは二人。額に”1”と刻印された軍馬に騎乗し、陰陽師の化身を従えたミリィ・ライジング（煌めく白銀・f05963）。
「ここで決着をつけるわ。サポートお願いね」
　そして輝光の騎兵隊の主、ビリー・ライジング（輝く黄金・f05930）もまた、軍馬に騎乗し、騎兵隊たちへと号令を下す。
「さあ、これで最後だ！　蹴散らすぞ！　全員突撃！」
　ビリーの掲げたレイピアの刀身が放った宝石のごとき煌めきが合図となった。
　先陣を駆ってパストへと切り込むビリーとミリィ、雪崩を打つように駆け出す黄金の騎兵隊たち。

「う、うわーーー！？　だいうるごす！　ふれあだっ！」
　パストの言葉に相棒のどらごんが炎のブレスを吹き、辺り一面に火を放つ。
　火は周囲の建物やオブジェなどに燃え広がり、周囲はさながら炎の迷宮。
「くっそ、俺より速いだと！？　ならば、戻れお前たち！」
≪さあ決戦に向かった二人の前に、最後の難関、炎の迷宮が牙を剥く！≫
　盛り上げ所とばかりにこえを張り上げる解説役。
≪炎の迷宮にとらわれた騎兵隊へ、ビリーが何事かを叫んでいます！
　その呼び声にこたえて、騎兵隊たちが次々にビリーとミリィの元へ向かい――消えていく？　いやこれは、合体だ！
　騎兵が姿を消すたびにビリーたちの軍馬が輝きを増していく！
　額の数値は強さのバロメータか！？　二人の軍馬の刻印は今20を超え、30に到達！
　ミリィもまた、したがえていた陰陽師に指示を出しているぞ≫
「お願い、私たちの向うべき道を――、この世界の敵へと続く道を教えて！」
　ミリィの言葉に陰陽師はふわりと宙を舞い、上方から迷宮の構造を見とり、脱出経路を導いていく。
『すっげー、浮いてるよ』『半透明で向こう側が透けてる』『あれって、守護霊？』、視聴者のキマイラ達が見守る中、陰陽師が通路の奥を指さす。
「行こう、お兄ちゃん、こっちだよ！」
　陰陽師のナビゲートに従い軍馬を走らせるビリーとミリィ。燃え盛る炎の合間を駆け抜けて、一つ二つと角を曲がり、三つ目のT字路を抜けた先。迷宮の壁から一本の柱が音を立てて倒れ込み、ミリィ達の行く手を遮った。
　おののく騎馬の手綱を引き、暴走させぬようなだめるビリー達。落ち着かぬ様子の軍馬にまたがったまま、ビリーがフレイムロッドを構えて呪を唱える。
　杖の先端から生まれた淡い光が、ビリーとミリィそして彼らの騎馬を包み込むにつれ、馬たちが落ち着きを取り戻していく。
「火炎耐性の付与呪文――さあ、行くぞっ！」
　言ってビリーは馬を巧みに駆け出させ、横倒しになった燃える柱へ一直線。ひらり柱を飛び越えさせて、迷宮の先へと駆けていく。ミリィもまたビリーの後を追って駆け出していく。
「見えたっ、出口！」
「げっ早い！　しかもほとんど無傷じゃねーか！？」
『とーぜん！　だって猟兵だもん！』『もう逃げられないぞ』『二人とも、やっちゃってー！』、キマイラたちの声援の元、ビリーはパストへ向けてさらに軍馬を加速させる。レイピアを構えての突進、その切っ先をパストが薄皮一枚で回避。赤い血が宙に舞った。
「痛ってぇーーー！？　ええい、反撃だ、だいうるごす！　ふぁいやーっ！」
　駆け抜けたビリーの背後に向けて火炎弾を連射するどらごん。ビリーの火炎耐性が無ければ、至近距離での火炎弾の着弾に軍馬が暴れ出していただろう。火炎弾をかわしながら駆け抜けるビリーと、隙をうかがうパスト。
「私の武器が手裏剣だと思ったら、大間違いだよッ！　急々如律令」
　そこへ飛来するミリィの護符。札が触れると同時、破魔の光に打たれてパストとどらごんが悲鳴を上げる。思わず動きを止めたところへビリーが突撃を仕掛ける。
≪さあ、いよいよ決戦！　決戦の時です！　もはやパストに逃亡の余力はない！
　我らがビリーとミリィが軍馬を駆って、ドラゴンライダー、怪人パストを追い詰める！
　突進するビリーを迎え撃つように、パストのドラゴンがファイヤブレス！
　おっと、開いた口へミリィの護符が飛び込んで――暴発ーーっ！！
　放ちかけたファイヤブレスが、ドラゴン自らの口を焼いたっ！　暴発っ、ドラゴンが白目をむく！
　さあ、この隙を逃すビリーではない！
　全速力で駆け抜けて、今、ビリーのレイピアが、パストの胸を捕えたー！！≫
「ち、ちっくしょーっ！　オレは……次のフォーミュラーに……」
　ドラゴンの背から落ちて倒れるパスト、同時に相棒のどらごんも力を失ったようにうずくまる。
「お前は王者の器じゃない。コメントでもあったぞ。『どう見てもビリオンの方がやばそう』ってな」
　ビリーの言葉に悔しそうに眼を閉じるパスト。直後、彼らの体が爆縮し、骸の海へと帰って行った。
≪決着ーー！　今、この死闘に終止符が打たれました！
　動画配信コンテストへと乱入した新たなるオブリビオン・フォーミュラー！　怪人パスト・フォーサイスが！　世界の危機が打ち破られたのです！
　そして～――≫
　配信画面はスタジオへ。鳴り響くドラムロールとともに中央に表示される巨大トロフィーと優勝旗。
≪動画配信コンテスト、栄えある優勝者は、ビリー＆ミリィ！　ライジング兄妹のお二人でした！ 皆さん改めて優勝者へ拍手とコメントを！≫
『おめでとー！』『二人ともかっこよかった―！』『888888888!』
　よせられる喝采のコメントにこたえるようにビリーとミリーはカメラに向けて笑顔で手を振り続けていた。

●お祭り騒ぎは、続いていく
　エンディング画面に切り替わった後も、キマイラ達のコメントは続いていき――。
『楽しかった～！　タイムシフトでもう一度見よーっと』『あ、オレ友達に布教してくる』『ホントみんなすごい、すごい』
、動画配信コンテストは、大盛り上がりの内にその配信枠を終えるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

最終結果：成功 完成日:2020年01月01日