●絢爛にして剣呑なる城
――大人しい良い子でないと、空のお城に連れて行かれて磔にされてしまうからね?
それはこのヒュム村の常套句、悪童を嗜める時に使われる脅し文句にしか過ぎない。その日までは村人の誰しもがそう思っていたのだ。
「おい、空を見ろ!」
「何だよ、あれ……」
「し、城が浮いている…」
空を指差す者、驚愕に目を瞠る者、お伽噺の再来かと身を震わせる者。村人たちの反応はそれぞれであったが、誰しも目前の現実を受け止めきれないでいる事は確かだった。
天陽を遮るかの様に空に鎮座する建造物――それはお伽噺に語られる威容の城と似通っていたのだ。
「『翼』が…!」
そう悲鳴に似た驚嘆を発したのは誰であったか。
揃って空を見上げていた村人達の眼差しは地に戻り、けれど同じ位の驚愕に包まれる。何故ならば、つむじ風を巻き起こし、空へと舞い上がらんとする数多の外套の姿が目に入ったからだ。
それは村の秘宝、魔法で編まれた布が起こした羽ばたきの風であった。焦がれる様に、惹かれるように、外套は羽ばたき続ける。まるで城に未練があるかの様に、ずっと、ずっと。城より這い出た異形に村が蹂躙されるその時まで、ずっと。
●天を駆ける翼
「やあ皆、先の世界防衛戦でお疲れだとは思うのだけれど……済まないが、頼まれてくれるかい?」
申し訳なさそうな顔で集まった猟兵達を窺い見るのはヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)だ。
何時もの様に自分の作った菓子(今回は蜜のたっぷり入った林檎が手に入ったのでアップルパイだ)と紅茶を猟兵達に振る舞いながら、男は魔術で編んだ電光板に自身の見た光景を投影していく。
「皆がクラウドオベリスクを数多く破壊してくれた事で、帝竜ヴァルギリオスが世界に掛けていた、群竜大陸の所在地を隠す巨大幻術に綻びが見え始めている。この城はその魔術から零れた一つ、というワケさ」
それは率直に言って非現実的な光景であった。牧歌的な村の遥か上空、岩々に取り囲まれた白亜の城が鎮座しているのだから。瀟洒な白の城壁、七耀の輝きを放つステンドグラスだけを見れば、良く手入れされた趣味の良い古城……といった趣かも知れない。けれど、それが空に浮いているとなれば別だ。
「この世界の各地には、かつて戦乱に明け暮れていた古代帝国が、魔力の暴走により天空に放逐された……なんてお伽噺が残っているようだけれど、それをまるで裏付ける様だね」
ヴォルフガング曰く、その物騒な逸話に見合う様な惨劇がこの村に巻き起こるのだと言う。
「俺が見たのはこの城に種類や数は分からないがオブリビオンが潜んでいる事、それから村が炎に包まれる光景……恐らくだけれど現実になるまでの猶予は左程ない。この城の調査と巣食う者達の殺害をお願いしたい」
城は遥か天空に座するが、有翼種族やそれに準ずる異能を持つ者は飛行で、それ以外の者は周囲に浮遊する巨岩を上手く利用すれば入口まで辿り着く事は出来るだろう。
しかし、上空から吹き付ける自然風に加えて魔術の気配を孕む強風も常に吹き荒れる事から、飛行する事が出来ても攻略は容易ではないだろう。
「助けになるかは分からないが……今回行って貰う村では秘宝と呼ばれる外套があるよ。何でも、自身の魔力の有無に関わらず望めば自由に空を羽搏く事が出来る代物らしい。「比翼の絆」という名前らしいが、由来は長い時の中で喪われてしまった様だ」
村人は突如現れた天空の城に加え、急に動き回る様になった外套に怖れを為しているようだ。猟兵達があの城を攻略するのに貸して欲しいと頼めば、むしろ押し付ける様な勢いで手渡してくれるだろう。
「浮かぶ城がどんな物かは不明だ。だが幻術に守られていた以上、この城の攻略は必ず俺達に益を齎すだろう。…「架刑城」なんて物騒な名前が付けられた場所だ、胸の悪くなる光景も見えるかも知れないが……済まない、君達にしか頼めないんだ」
狼はそう頭を下げると掌の三華を輝かせ、猟兵達を異界へと導くのであった。
冬伽くーた
空に浮かぶ城ってロマンですよね。
6度目まして、新人MSの冬伽 くーたです。
今回の舞台はアックス&ウィザーズ、突如として長閑な村の上空に現れた天空城の捜索・オブリビオンの撃破をお願い致します。
第一章では巨岩群を移動、或いは飛行によって天空城までの侵入をお願い致します。OPにもあります通り、希望する猟兵の方は村から空を飛べる外套を借り受ける事が出来ます。(尚、描写は巨岩群の入口からとなります為借りるとプレイングにご記載頂ければ無条件で借り受けられたものとします)
飛行の方が多少楽にはなりますが、風が吹き荒れている為どのみち侵入は容易ではないでしょう。
第二章は集団戦、第三章はボス戦となります。該当章の開始時、断章を投下し詳細な情報を追加させて頂きます。
全編とも受付開始はtwitter、及びMSページにて告知致します。尚、第一章に関しては【12/4 8時30分】より受付させて頂きます。
皆様のプレイング、心よりお待ち申し上げております。よろしくお願い致します。
第1章 冒険
『天空城をめざして』
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POW : 気合や体力で気流に耐え、巨岩を足場に進む
SPD : 素早く気流を切り抜け、巨岩を足場に進む
WIZ : 気流を見極め、回避したり利用したりしながら巨岩を足場に進む
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ヴォルフガングの転移は未だ混乱を来す村の入口――ではなく、村を束ねる長の家の前へと行われた。
城の巨影に遮られつつも、それでも十分な日の光が降り注ぐ町は決して寒くはない筈であるのに、まるで氷原の只中に置き去りにされたかの様な冷感が付き纏う。尋常の事態で無い事は、この地の空気からも感じ取る事が出来た。
周囲の村人達は逃げ出すべきか、様子を見るべきか――或いは城を攻めるべきか。喧々囂々と言葉をぶつけ合う熱狂の最中にあり、静かに現れた猟兵達に気付くものはいない。目配せを交わし、樫の扉を叩く。
突然の来客に目を瞠った老爺――ヒュム村の村長も、彼等の真摯な言葉を聞けば決して冷やかしでない事は分かったのだろう。猟兵達を屋敷へと招き入れる。
通された居間は広々としつつも木々の温もりを感じられるものだ。けれど、煌々と灯る暖炉の傍に通されても尚、猟兵達の心身寒からしめる冷気は緩む気配を見せない。
今日は特段と冷える、と猟兵達に差し出した茶に自らは手を付ける事無く、急き立てられるように老爺は身を乗り出す。
「お前さん方、本当に空を目指すと言うのかい?」
頷き返す彼等の眼差しを老爺は真偽を見極める様に眺める。けれど、其処に確かな意志を感じ取れば溜息を一つ、家の奥へと引っ込んでいく。
布地の擦れる音を響かせ、さして間もなく現れた老爺の手には人数分の外套が折り重なっていた。
「それは秘宝の……」
「何じゃ、この事も知っておるのか。ほんに不思議な客人じゃの」
「借り受けても?」
「構わん、我らでは「架刑城」まで往くのは荷が重すぎるじゃろうて」
――見ての通りの有様じゃしの
呆れと嘆かわしさを等分に含んだ老爺の視線の先には、未だ狂乱の中に在る村人達の姿。怒鳴る者も、耳を塞ぐ者の目にも怯えの色は隠せない――隠しようのない様子であった。
「この「翼」も呪いだ、呪いだと騒いで儂に押し付けていきおった位じゃ」
「この紋様には何か意味が?」
早速外套を借り受けた猟兵は、まじまじと眺めては眉を顰める。グリモア猟兵の映し出した画像では分からなかった細部を改めて検分すれば、緋色の外套を彩る様に縫い綴られた刺繍は飾りではなく土着の魔術紋様ではないかと窺い知れた。
「ああ、それはこの地域に伝わる古代魔術言語じゃの。そこにはこう書かれているのじゃ」
――我らが子よ、遺志を継ぐ者よ
――汝、大いなる空を目指せ
――この身は翼
――この身は縁
――愛しき魂の元へと導かん
――我らの愛、彼の者を磔より解き放たん
――幾百の刻過ぎようと
――幾千の刻過ぎようと
――とこしえは決して訪れぬ
――愛し骸、抱くその時まで
「…まじないにしては強い言葉じゃとは思っていた、まるで呪いの様じゃとも。だがな、あの城を見た時に思ったのじゃ。ひょっとして我らが継いだこの外套も、語り継いだ伽話も時のよすがに埋もれた真実なのではないか、とな」
、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
この呪言はな、神にも身近な存在たる精霊にも魂の安寧を祈らないのじゃ
まるで、祈り縋るだけでは救われないと知るかの様に。
未だ魂は天の御園に招かれてはいないと知るかの様に。
それは推測でしかない、けれど十分に気を付けて欲しいと老爺は苦悩に満ちた言葉を継ぐ。
「儂も魔術師の端くれ、あの様な巨大な建造物が何の代償もなしに浮く筈などない事くらい分かる。ならば、その動力とは一体何なのじゃろうな……?」
すっかりと冷えたティーカップを縋る様に両手で握り締め、小さく零された言葉に確たる答えを持つ者はいない。
全ての真実は――「無数の神の生贄が磔にされる」と語り継がれる城の中に。
テラ・ウィンディア
御爺さんありがとうな
(本当は必要はないし…何より「風」と相性は良くないけど…それでも外套を羽織る。天空に行きたいという願いを遂行する為に
おれはこれでも大地と炎の属性には相応の自信はあるんだ
それに…天に浮かぶ城に憧れる乙女でもあるんだぞ
だから…目指してやろう
…ちょっと怖いけどな
【空中戦】とユベコを利用して飛び上がり巨岩も利用して空を目指すぞ
周囲の状況と城の伝承を思い出しながら観察も継続
落っこちそうな人が居たら助けたりもしようかな
呪言を思い出す
あれはこうしてくれってお願い事だよな
警告でも導きでもない
誰かの願いと言った奴か
それは正しいのかな?(外套に何となく聞かせるように
ま、おれは天を目指すだけだ!
木常野・都月
…………
岩を登って城に行きたい。
あまりヒトに知られていない事だけど、木の上で寝る位、木登りは狐の得意とする所。
岩も多分大差ない。
強風が吹いてるらしいから、風の精霊様の助力で風を弱めて貰いつつ岩を登りたい。
地の精霊様にも助力してもらって、岩に張り付かせて貰いたい。
これで多少は落ちにくくなるかな。
[野生の感、第六感]も使って、黙々と登りたい。
本当は。
空が飛びたくて、そのために任務に参加した位、空飛ぶのが楽しみだったんだけれど……
マント見て、話聞いたら、気が変わった。
気のせいだと思う。
本当に何もないと思うんだ。
狐の警戒心が強い部分が出たのかも…
狐は、好奇心旺盛と同時に、結構臆病者だからな。
●
「御爺さんありがとうな」
平素は威風堂々とした森人の少女――テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)は、今は遠く離れた老爺に届かせるように、静やかに謝辞を告げた。
大地と炎の魔に愛される少女は、己の実力と重力を従える異能を駆使すれば秘宝を用いずとも空を飛ぶ事が出来る身だ。
むしろ、風の魔力を多分に含む外套は相反し、自由なる少女自身の枷となりかねない。
現に、外套を羽織るだけでも体内を巡る魔力の乱れをつぶさに感じ取る事が出来た。
怖くないと言えば嘘になってしまう。それでも小さな竜騎士は躊躇わない。
その背に負うのは自らの宿命だけではない、老爺の懺悔にも似た祈り――何よりも外套に込められた想いそのものだと思うが故に。
風にはためく外套の裾、一糸、一糸へと込められた祈りに添うかの如くなぞる。
「あれはこうしてくれってお願い事だよな…それで正しいのかな?」
少女の問い掛けに外套は黙して語らない。けれど是であると告げるかの如く、指先に微かな熱が灯る。
警告でも、導きでもない。それは切なる願いの形。
その全ては分からずとも異郷の少女は縁を辿る事を選んだ。気の遠くなるような歳月の果て、知る人もなく静かに絶える運命にあった糸は――幾つもの偶然と猟兵達の尽力により、誇り高き騎士の元へと、確かに繋がったのだ。
「だから、目指してやろう」
遥かなる天空の城を。
決意を高らかなる詠唱へと込められ、謳い上げられる。
「グランディアよ…全ての存在がもつ原初の力よ。我が身に宿り力と成せ…!」
――グラビティフィールド…展開!
意志は世界の理すらも掌握するに至る。地を蹴れば、まるで鳥の如く少女は空へと突き進んでいく。
地上からも相応の大きさを持ち合わせる事が見え、存在感を示していた巨岩群。間近で見つめれば小さな村一つは優に囲い込める程の大きさである事が分かる。
城と比べればちっぽけに見えた岩ですらこの大きさであれば、城は小国を擁する事すら出来るかも知れない。
(城とは言っているが、ひょっとしたら本当に国そのものかもな)
古の伝承は、伝承であるが故に連綿と語り継がれるものであるが――それは何処かで取りこぼす事にも繋がりかねない。白亜城に乙女らしく、幾らかの憧憬を抱いていた少女は、その威容を目にする時を心待ちにもしていた。
同時にもし困っている人がいるのなら手を差し伸べよう、そう算段していたテラは城以外にも目配りを忘れない。自分と同じ位に昇り始めた猟兵の青年はまだ下の巨岩を渡っているようだが、危なげはないようだ。
一先ず助けはいらないかな――そう安堵したのも束の間、空を飛ぶ身であるからこそ感じる違和感に少女は眉を顰める。
(風の流れがあまりに単純すぎる……?)
侵入者を阻む為にせよ、魔力を伴う風はあまりに明白に吹き荒れているかのように見えた。
「そうか、あの十字から一定の方向にしか吹いていないんだ」
中心を赤く輝かせる十字は侵入者撃退用の装置だろうか。岩塊の幾つかに、不格好な蝋燭の様に突き立っている様だ。
しかしそこから吹く風は少しずつ、少しずつ弱まっているように思えた。――まるで、魔力が途切れるかの様に。
――刹那、外套は激しく羽ばたく。まるで其処に焦がれるかの如く、手を伸ばすかの様に。
「一体、あれは何なんだ…?」
テラの声に応える者は、未だいないまま。
●
「…………」
(本当は。空が飛びたくて、そのために任務に参加した位、空飛ぶのが楽しみだったんだけれど……)
精霊達に助力を請いながら、黙々と岩を飛び移る木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)の顔には幾許かの未練と――それを上回る警戒感が色濃い。
猟兵の予知だけであれば、外套を纏い空を目指す事に些かの迷いもなかっただろう、むしろ心待ちにしていた程だった。
翼を持たぬ者が一度は夢見るだろう、空の旅。その魅力的な誘いは都月の心を弾ませるには十分なものだった。
けれど、老爺の独白めいた言葉が都月の耳から離れない。その心に鑢を直に当てられたかのような、不快な薄気味の悪さが立ち込めるのだ。故に青年は外套の力を借りず、己が力で空の頂を目指す。
ごうごうと風は吹き荒れ、都月の森色の外套を揺らす。その強さは青年の痩躯を容易く吹き飛ばしてしまいそうな程だったが、彼を祝ぐ精霊達がそうはさせない。
「精霊様、頼んだよ」
青年の声に任せろ、と言わんばかりに伸ばされた土の蔓草は彼の足に這い、絡みつく。地の精霊は空浮く巨岩であろうと、例外なく宿り根付いていた。
都月は彼等に語り掛け、暫し自分の足をしっかと留め置いて貰ったのだ。後は風の流れを読み、弱まる時機を見て跳ね上がるだけ。蹴り上げた土葉は堅く、青年を宙へと押し上げていく。
けれども、何処か空を羽搏く事にも似た滑空の最中でも「何か」が都月の心を晴らさせはしない。
「気のせいだと思う。本当に何もないと思うんだ」
自分にそう言い聞かせる。裏腹に騒ぎ立てる心の臓を押さえながらも、獣としての生が培った警戒心の発露がそうした感情を擁かせるのだと繰り返し己に語り掛ける。
狐は好奇心旺盛であるのと同時に、野生を生き抜く慎重さを持つ生き物だからと。
――オォォォォォォ!!
けれど、その言葉は振り切る非現実を前に脆くも崩れ去る。
4度飛び移り、辿り着いた風が一際強まる地、そこで逆巻く風を巻き起す魔術を紡いでいたのは。
「磔の――男の人――」
ひりつく喉から絞り出された都月の声は、掠れて風に消えていく。
磔にされた男は若いのか、年老いているのかすら分からぬ程にその瞳に、肢体は乾きやつれていた。足元に咲いた夥しい赤は――恐らく、彼の流した血。
けれど操り人形の様に不自然に、その乾いた指先は呪紋を描き、罅割れた唇は聞き慣れぬ詠唱を紡ぐのだ。
死臭すらかき消されるその光景は――出来の悪い悪夢のようであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
泉・星流
無数に浮かぶ巨岩群…吹き荒ぶ強風に…
流石に帝竜やら群竜大陸やらが絡む依頼だ…結構困難な状況ではあるかもしれない…
行動
『ハーレー』で岩と岩を短距離間で渡りながら進んでいく
まず気流の流れを調べ、可能な限り勢いが小さいところ(浮遊岩で風がせき止められる…などの理由)を探し、【オーラ防御】を風防に使い【力溜め・騎乗・空中戦】で風に流されないよう、しっかりと勢いをつけて(魔力を溜め、一気に解き放つ)岩と岩の間を渡る…というより、次の岩へと突っ込むぐらいの勢いで飛ぶ(その為、【オーラ防御】を指定UCを使用して防御力を上げておく)
熟達の魔法と星の海を征く機術、異なる双界の技術を駆使した飛行用魔導機で空を駆けるのは泉・星流(人間のマジックナイト・f11303)だ。
その手に愛用の箒を携えながら、少年は亡者の苦鳴の如く唸る俱風に紅玉の瞳を眇める。
(無数に浮かぶ巨岩群…吹き荒ぶ強風に…流石に帝竜やら群竜大陸やらが絡む依頼だ…結構困難な状況ではあるかもしれない…)
その瞳の先、徐々に巨大な全容を明らかにしていく巨岩群はその呼称に恥じぬ威容を示す。その岩塊を越える事は元より、嵐の様に吹き荒れる風を突き進む事は決して容易ではない。
嘗てこの世を蹂躙した竜達の封じられた伝説の大陸、その足掛かりとなる場所ですらこれ程の困難が付き纏うのであれば、群竜大陸は如何程の障害が待ち受けるのか――その正体は未だ厚く覆われた幻想の先だ。
――ひゅごう!!
一際強く吹く風は、正に殴り付ける様な勢いであった。あらぬ方角に吹き飛ばされそうになるのを、星流は咄嗟に張った防御術で受け流す。時間を掛ける事は得策ではないだろう、天空の路を進んだ先にはこの自体の元凶――オブリビオンが潜んでいるのだろうから。
物思いに耽る傍らも、少年の視線は観察を怠る事はない。吹き荒れる風が一定の法則性を持っている事を察した星流は、比較的風の流れが弱い地点を探し出すと、練り上げた魔力を収束・解放し、正に弾丸の如く飛び出していく。
巨岩にぶち当たれば、未だ成長途中の少年の身もただでは済まないだろう――無論、魔術に秀でた身でその様な愚策は犯さない。
――ドォォォン!!
巨岩に一矢の如く突き刺さった星流は、けれどその身に傷の一つも負う事はない。周囲の魔力を収束し、己の力とする異能を用いて強化された防御術は言うなれば「動く城塞」だ。如何なる神秘の地であろうと、その身を易々と害する事など出来はしまい。
だが。そうした物理的な衝撃とは別とした違和感が少年の全身を駆け巡る。
(これは――)
原因は恐らく周囲に浮遊する魔力そのものだ。そう、例えるのであれば――
「――悍ましい」
命を弄ぶ事を躊躇わない、蜘蛛の糸の如く練り上げられた悪意。その片鱗を魔力を通じて感じ取る事が出来た。この空域は最早お伽噺の世界ではない。世界に牙剥く者、邪悪の潜む巣窟である。
その事を年若くも優秀な魔法使いは、誰に教えられるでもなく察していく。近付く城に、箒を握る手に一層の力が籠った。
成功
🔵🔵🔴
灰神楽・綾
◎
A&Wに降り立つのは初めて
この世界は空が澄んでいて綺麗だね
少なくとも、俺の故郷よりずっとね
あの空にもっと近づけるのなら
頑張って登ってみようかな
行った先に何が待っているのかは…
あんまり考えたくないけど
外套も気になりつつも使い慣れてる
【オクスブラッド・エンペラー】の
自前の羽根で上を目指す
でもあくまでこれは移動補助や
落ちない為の保険という感じで
基本は巨岩を使って地道に移動
こういうのも冒険って感じで楽しいじゃない?
Emperorを岩に突き刺して支えにしたり
岩に飛び移る前にUCの紅い蝶を飛ばして
風の向きや強さを測ったりしながら進む
時々岩の上から地上を見下ろして
適度に休憩や気分転換しつつマイペースにね
カーバンクル・スカルン
バサバサ勝手に動く外套に架刑城ねぇ……まさか持ってる村に全くと言っていいほど情報が残ってないとは思いませんよ。色々と調査すべきことが山積みだねぇ。
とりあえず外套を借りて、【断罪変形】を使って外套と一体となってから巨石群に突入しますか。
自分の足だけじゃ届かないところは外套の力や自前のワイヤーを使ってどんどん飛び移っていきましょう。
外套よ、あそこに行かせてあげるから私に少しだけ力を貸しなさい!
さあ磔の城とやらは、どんな代物だろうね?
シン・バントライン
クロウさん(f04599)と
◎
神にも精霊にも祈りを捧げないのは諦めに似ています。
宗教とは考え方そのものですから…架刑城に何が隠されているのか気になりますね。
呪言によればこの外套が目的地まで連れて行ってくれるのは間違いがなさそうです。
外套を借り受け着用。身を任せて飛翔。
途中、風に煽られて飛ばされそうになったらクロウさんの八咫烏に便乗させてもらう。
そういえば八咫烏も神の遣いだなと思いつつ、艶々の羽毛に嬉しくなる。
第六感と野生の勘で風を読み、上昇気流が流れている様ならそれに乗るよう提案。
風に流される前に気流を利用しませんか。
城に近付きさえすれば呪言が我等を導くのでしょう。
ならば真っ直ぐ参りましょう。
橙樹・千織
魂の安寧を祈らない呪…
けれど、誰かを解放しようとしている??
此処で考えていても仕方ありませんねぇ
外套をお借りして上へと参りましょう
あの風をこの翼で捌くには…少し心許ないですからねぇ
辿り着く前に何かに当てられてしまっては元も子もありませんから、ね
【破魔】による【オーラ防御】や各種【耐性】の準備を整えてから出発
気流を【見切り】巨岩を盾に回避するなど、【地形を利用】して城を目指しましょう
バランスを崩すことがあれば【空中戦】の要領で体勢を立て直します
解き放つべき“彼の者”とは何者か…
この空の城は何のための物か…
何を代償に彼処にあるのか……この目で見て判断しましょう
杜鬼・クロウ
シン◆f04752
◎
呪いの伝承ねェ…
愛し骸…一体”誰”を探してる?
魂が天へ召さないのもそれが関わるのか?
侵入を阻む風…つまり寄せ付けたくない何かがあの城に
全ての答えは架刑城にあり
贄…此れ以上の犠牲は御免だ(阿修羅城で見た人柱の光景思い出し顔曇らせ
城へ行く前に一服し神妙な顔で考察
一応外套は借りて腰に巻く
俺が天空城までの案内役を買って出てヤんよ(口笛吹き【杜の使い魔】使用
折角の広大な景色をゆっくり拝めるような優雅な空の旅とは行かねェだろうが(強風見て
安全且つ最短経路を往く(第六感・見切り
シンが風に巻き込まれたら八咫烏へ乗せて城を目指す
風の方向に注意し紅の十字観察
他、気になる物あれば情報収集・聞き耳
水標・悠里
呪いとは些か不吉が過ぎますね
招かれる時は赦しを得るその日まで、でしたでしょうか
呪言と架刑状の曰くを聞いて思うところはありますが、あまり考えないようにしておきたい
何より村の方々を守らねばなりません
外套を借りて城を目指します
気流に乗り一気に上へと飛び上がりましょう
空を飛べるだなんて、考えもしなかったことが叶うのですね
ああ、空はなんて自由な場所なのでしょう
あまりにも自由で、怖い
自由は良い物だと思っていました
きっとそうなのだと思います
ですが何かすれば全て自分へと跳ね返る
あの日から私は選択を誤り続けているのではないかと思ってしまう
愛し骸、抱くその時まで
再びその時が、来るのでしょうか
私はそれが恐ろしい
桜雨・カイ
◎外套お借りしますね。
風の精霊に気流を読んでもらい、上手く風に乗りながら飛び
不安定な所は風に支えてもらいます
足が地につかないのは慣れませんが、精霊達を頼りにしてますので…ちょ、ちょっと張り切りすぎですっまずは落ち着いて下さい!
生贄…この人はどれだけの時間ここにいるんでしょうか?
この身は翼であり縁…あなた(外套)は愛しき魂の所に行きたいんですよね。では行きましょう。
この風を作り出す装置があるようですが、動力は生贄の彼…?
できる限り近づいて【念糸】で手を絡めて呪紋の動きを止められないかやってみます。
風が弱まれば、他の人たちも近づきやすいはず。
生贄の彼を助け出せないかやってみます。
「降り立つのは初めてだけど…この世界は空が澄んでいて綺麗だね」
――少なくとも、俺の故郷よりずっとね
追憶と重ねた空は、けれど全く違う色を成して灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の目に映っていた。如何なる花の物か、無数の白い綿毛が空の彼方へと吸い込まれていく。牧歌的、と言って良い光景だった。
「あの空にもっと近づけるのなら頑張って登ってみようかな、行った先に何が待っているのかは…あんまり考えたくないけど」
翳した掌をも透けて降り注ぐ光は暖かくて――心から堪能したいところであったが、行く手をちらつく影が浸らせてはくれない。
溜息は自ずと零れる。それでも、青年には昇らないという選択肢はなかったのだけれども。
「翼」は気になりつつも、未知なる果てを目指すのであれば己の「翼」の方が都合が良い。
翳したままの掌に、肩に、そこかしこに――ひらり、紅い蝶が舞い集う。それは空の蒼をも塗り潰さんばかりの紅、紅、紅で――青年の体を覆おうかの様だった。
はらり、戒律に割れ従うかの如く蝶が退けば青年も常と異なる姿へと変貌を遂げていた。【オクスブラッド・エンペラー】の異能は問題なく発動し、その背に大蝙蝠の翼を擁くに至る。
この姿は綾自身あまり好きではないけれども、安全を得る為には致し方のない事だった。
指先を向ければ、意を汲んだ紅い蝶は我先へと巨岩に飛ぶ。その軌跡、そして蝶自身に問題ないと判断すれば、風を読み、空へと踏み出す。多少凪いでも未だ強い力を保つ轟風は、けれど翼で受け流し、安定は己が腕で取り戻す。
ガァァァン!!
錨の如く突き刺したEmperorは、火花を散らして、けれど異能にて強化された力は岩盤を抉り突き立つ。鍛え抜かれた青年の膂力を持ってしても強い衝撃が伝わるが、綾自身は慣れたもの。
「気分転換は大事だよね」
そう、地上を見下ろした張り詰めた緊張の糸を適度に緩めもする。豊かな稜線を描く山々は薄ら雪化粧を纏い、見る者の目を楽しませるものだ。
丁度巨岩群も中腹、他の猟兵達の行く先は知る由もないが、綾自身が選んだ道のりは特に血腥いものもなく、至って平穏そのものだ。
遮るものはなしと、四方を見渡し心行くままその眼差しを緩める――が、其処で視界に入った村に微かな違和感を覚える。
(――あの村、良く見るとおかしな建物が多い)
猟兵の転移がピンポイントだった事もあり、村全体を見渡して歩く時間はなかったのだが――改めて観察すれば天にも届けよと言わんばかりの、背の高い建物がそこかしこに見られる。村人達の住居は平屋建てという事も異様さを感じる一因であろう。
まるで、空へと手を伸ばさんと言う様な。
天の星すらも此処へ落とさんと叫ぶ様な。
(――いや、まさかね)
ふと浮かんだ感想を笑って流そうにも、綾の頭にはその景色が色濃く焼き付くのだ。
●
「バサバサ勝手に動く外套に架刑城ねぇ……まさか持ってる村に全くと言っていいほど情報が残ってないとは思いませんよ」
そう肩を竦めるのはカーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)だ。その仕草に追従するかの如く、じゃらりと巨大な輪――カタリナの車輪も音を立てる。
「色々と調査すべきことが山積みだねぇ」
城は子ども騙しの言い伝え、「比翼の絆」に至っては昔からの宝物である事以外は殆ど分からないという有様だ。
記憶も、そして記録もまた長い年月の中で喪われてしかるべきものであるが、それを踏まえても余りに「原型を留めていない」とは思うのだが――今はその手掛かりへと向かう時であろう。
『断罪変形(コード・エクスキューション)』――無機物と一体となるUCは少女が羽織る件の外套を取り込み、ロボットと化す。
実身長の優に二倍に到達せんとする身を維持するには、外套だけでは些か質量の不足があるものの、その分は岩塊を取り込む事で事なきを得る。
跳躍する体が強風に傾けば、カーバンクルは器用にワイヤーを用いて立て直す。外套自身の力も使おうと考えたが、一体化する中で呪紋に変化が生じた為か、空を飛ぶ力は十全には発揮できない様だった。
けれど、逆に一体化する事で鮮烈になった感覚もある――それは外套自身に込められた、術者の気持ちだ。
(焦燥と、憔悴と――これは)
――死の恐怖、否、その感情をも上回る絶望感。
その原因を探ろうにもどうにもぼやけて掴み所がない。城と同年代の物であるならば、気が遠くなる程の歳月を経たものであろう、致し方ないのかも知れない。けれお、執着にも似た城への渇望、先導は揺ぎ無い。
「外套よ、あそこに行かせてあげるから私に少しだけ力を貸しなさい!」
磔の城とやらはどんな代物か、何処か面白げな響きを帯びるカーバンクルの言葉に応える様に、外套はぐんと力を与える。目指す先はきっとそう遠くはない。
●
「魂の安寧を祈らない呪…けれど、誰かを解放しようとしている??」
橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)が引っ掛かりを覚えたのは、先ほど村長が読み上げた言葉――その肩を覆う外套に込められた呪紋だった。
それは一見矛盾した内容だ。大凡は等記号で繋がれるべき概念は、けれど敢えて並び立つ言葉として記されている。
無論、時代の経過で文法や言葉の意味が変化していてもおかしくはないのだが――
「此処で考えていても仕方ありませんねぇ」
推論を述べようにも、余りにその元となるべきカードが足りていない。ならば、真実は危険に飛び込む中で探っていくしかないだろう。切り替えた千織は外套と共に空を征く。
その背にはたおやかな娘に良く似合っているトビの翼が存在するものの、この轟風の最中において羽ばたくのは些か不安を覚える――それが千織の出した結論であった。
代わりに、外套に意識を傾ける。その紋様の導く道筋を見失わないように、何より吹き荒れる風の盾として千織は魔を祓う力を振るう。
ぶつり。
その刹那、清浄なる力で『何か』が周囲一帯から断ち切れるのを娘はつぶさに感じる事となる。
(これは…!)
恐らく城の中に潜む何者かの巧妙に隠蔽された遠視魔術、その張り巡らされた魔術構成式を知らず破ったのだろう。魔力が退いていくのが分かる。
暫く周囲を警戒したものの、再び魔術の糸が伸ばされる気配がない事に張り詰めた息を吐いた。実に悪趣味な企みであったが、これではっきりした。
城に潜む何者かは猟兵達の存在に気が付いている、そうした上でわざと誘っているのだ――「この城まで来てみせろ」、と。
「――私達はお前を満たす玩具ではない」
思わず口を突いて出た言葉は何時の日か、やはり人命を弄ぶ外道に向けて放たれた決別。
再び娘の唇より毀れた言葉に呼応するかの様に、外套もまた羽ばたく。空へと吸い込まれるかの様に、華奢な娘の体はぐんぐんと青へと溶けていく。
吹き荒れる風の流れを読み、時に足場となる岩塊さえも利用して安全な気流の道を選んでは羽ばたき進む。
千織の周囲を包む破魔の力は、魔力を孕む風――否、その射出口となってい筈の「何か」をも浄化した様であった。最早千織自身の意識も越えて加速する外套の為、まじまじと見つめる事は難しいのだが。
「解き放つべき“彼の者”とは何者か…この空の城は何のための物か…何を代償に彼処にあるのか……この目で見て判断しましょう」
娘の正しき審判が下る時――戦いの火蓋が斬って落とされるのは何時か、それは未だ誰も知らぬ、そう遠くない未来の話。
●
「呪いとは些か不吉が過ぎますね。招かれる時は赦しを得るその日まで、でしたでしょうか」
不穏を極めた言葉に水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)はその繊細な美貌を曇らせる。続く言葉は老爺が語り、少年の華奢な肩を飾る外套に刻まれた誓言。
多くの憎悪と虚無の果てに築き上げられたであろう幻想(ものがたり)、その往き先が気にならないと言えば嘘になる。けれど、今為すべき事は生者達を、村人を守る事。
頭を振り、一度頭の隅にその事を追いやった悠里は、外套の止め紐を結び直す。目指すは蒼穹の彼方――架刑の城だ。
と、と爪先で軽く地を蹴れば、外套は迷いなく包んだ少年を空へと押し上げていく。上がれば上がるほどまた風も強まるが、その流れを読み追い風として利用する事で少年は更に加速していく。
(空を飛べるだなんて、考えもしなかったことが叶うのですね)
けれど、想いを馳せる悠里の頬は興奮に赤まる事はなく、むしろ青ざめ、その白磁の如き肌を思い知らせるだけだ。
夢の中をたゆたうが如く、常日頃は何処か現実みを水底に沈めた少年は、けれど今はその顔に恐怖を佩く。
戒めるものも、責めるものもいない空は何処までも広く、自由で――それが恐ろしいのだと震えるのだ。
(自由は良い物だと思っていました、きっとそうなのだと思います)
けれど何かをすれば、その分全てが自分へと跳ね返ってくるのだ――それこそ、まるで呪いが返されでもしたかのように。
(あの日から私は選択を誤り続けているのではないかと思ってしまう)
繰り返し、繰り返し。何度も自問自答を繰り返すのだ。
この道は正しいのか。この選択で良かったのか。
けれど、自分にとっての指針はもうこの世にはない。
探しても、探しても、もう見つかりっこないのだ。何故なら、あの日――。
だから、恐ろしい。確証はもう息絶え、その輪郭すら喪ってしまったのだから。
(愛し骸、抱くその時まで――再びその時が、来るのでしょうか)
答えは、分からない。それが恐ろしいのだ。
冷えた躰は空を征く、それだけが原因でないのは明らかだった。
己の体を掻き抱く。得られるものなどないと知っていても、それだけが正気のよすがだった。
●
「呪いの伝承ねェ…愛し骸…一体”誰”を探してる?魂が天へ召さないのもそれが関わるのか?」
岩場に足を掛ける前、命の洗濯にと紫煙をくゆらせる杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)の胸中を占めるのは、その腰に巻かれた外套の呪い。
魂が召されぬと言うのならば、その行く先は何処になるのか――異眸が眇められる先は、己はまるで清浄であると言わんばかりに純潔の白を湛える牙城。
「神にも精霊にも祈りを捧げないのは諦めに似ています。宗教とは考え方そのものですから…架刑城に何が隠されているのか気になりますね」
独白を受け止めるシン・バントライン(逆光の愛・f04752)の声音は努めて平静なものだ。その表情は厚い黒布の下、窺い知る事は出来ない。
信じる事は日々の安寧を求める事にも繋がる、そしてその中で生み出される戒律は自ずと信徒達の考えの規範となるもの。
その全てを遺棄する様に、祈りは途絶えているのだ。大きな「何か」があっての結果であろうとシンは推察する。
全ての解となるべき事柄は、隣に立つクロウが見据える場所にこそあるのだろうとも。
「全ての答えは架刑城にありってか…」
答えは最初から分かっていた事だ、何処か血腥さを伴う伝承を耳にしたその時から。覚悟もあった、背を預けられる友もいる。ただ、あの日の残影――阿修羅城の惨劇が目前をちらつくだけだ。
噎せ返るような血の臭いが、生々しく折れ曲がるにくの色が。
顔を曇らせるクロウを労る様にシンはその肩を叩く。なンだよ、と僅かに見上げて笑う姿は常の生気に満ちたものだ。
「いえ。呪言によればこの外套が目的地まで連れて行ってくれるのは間違いがなさそうです」
「なら俺が天空城までの案内役を買って出てヤんよ、折角の広大な景色をゆっくり拝めるような優雅な空の旅とは行かねェだろうが」
外套を羽織るシンの傍ら、クロウは高く口笛を鳴らす。
――ブォウ!!
その音色に反応するように、太陽を背に向かってくるのは正しく濡れ羽色を纏う巨鳥――クロウの呼び出した八咫烏だ。
神の使いたる鴉は、その神格故にか荒れ狂う轟風の中も物ともしないようだった。ひらりクロウはその背に飛び乗り、シンは外套の呪紋を一撫で空へと飛び立っていく。
空へと向かえば向かう程、風はその勢いを強めていく。遮るものがなければ吹き荒れる事は当然とも言えるが――それだけではない、魔の気配を感じる事もまた確かであった。
その中をクロウは今までの経験で培った第六感と見切りの技術を駆使し、乗りこなしていく。使いたる大鴉はともかく、流石に人間である自分は風の只中を突き進む事は難しい。
その横を追走するシンの目には鴉の羽に斬り裂かれ、逆巻く風が見える様だった。
自身もまた研ぎ澄まされた直感を働かせて風を避け、時に利用できる気流があれば追い風として受ける。気流に従い、ふわふわと乱れる鴉の艶々の羽毛に思わず嬉しくなっていると、ぐらり、僅かにその長身が傾く。
「――おっと」
「あっぶねェ!」
咄嗟に伸ばしたクロウの手に支えられ、事なきを得たシンは表面上は変わらず冷静そのものだったが、その内心は流石に平静とはいかなかっただろう。体の動きが硬い。
安堵の息を洩らした青年は、いっそタンデムはどうだと鴉の背を叩く。
「今なら羽毛にも触り放題だしな」
「――喜んで」
丁度体も冷えて来たところに、その魅力的な提案は抗い難い。
いそいそと乗り込むシンにしっかり掴まっていろと言わんばかりに声を上げ、2人の指示に従い更に加速し、複雑なルートを進んでいく。
見渡すクロウの視線の先、風を吐き出す紅十字は無数に乱立する。それはまるで。
(誕生日ケーキみてェだな、いや「そのもの」に見立てていやがるのか)
成功
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第2章 集団戦
『貴族令嬢の戯れ』
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POW : 運命の強制力
【(一般人が対象)断罪劇が弱点の無敵化魔法】が命中した対象を爆破し、更に互いを【悪役令嬢(一般人)とその取り巻きロール】で繋ぐ。
SPD : 悪役令嬢と取り巻き
【予め催眠指導した悪役令嬢(一般人)に】【高笑いや悪役ロールをさせることにより】【悪役令嬢とその取り巻きの共鳴効果】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ : 暗躍する令嬢
対象の攻撃を軽減する【舞台を召喚し、偽悪役令嬢や目立たない影】に変身しつつ、【誰にも気づかれない程、高威力の嫌がらせ】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:ゆりちかお
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「外套、お借りしますね」
今は背にした村々、その秘宝を羽織った桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は空を征く。
途中行き会った顔馴染みの猟兵と情報交換を行えば、吹き抜ける風の中でも異質なもの――魔術によって引き起こされた轟風は、磔の生贄達が紡いでいるものであるらしかった。
彼等は一体いつからこの地に留め置かれているのだろうか。ヒュム村の人々が知り得なかっただけで最近の出来事なのか、或いは――気の遠くなる程昔、それこそお伽噺が生々しい現実であった古代からなのか。
「調べてみましょう、あなたが行きたい愛しき魂であるかも知れないのだから」
その言葉にあなた、と呼び掛けられた外套は応える様にはためいた。言葉も表情も分からない以上、どのような感情から発せられた行動かはカイにも分かりかねるが――それは肩を震わせ、泣き啜る仕草に似ているように感じられた。
ごうと吹き荒ぶ風はその勢いを緩めない。真っ直ぐに突き進む事が難しいのなら、信頼出来る友の力を借り受けよう。青年の長い髪にじゃれつくように纏わりつく風の精霊に呼び掛け、地を蹴る。
独特の浮遊感は物慣れない類のものであるが、不安はない。それだけ精霊を信用しているのだから――その感情を読み取った精霊達は大はしゃぎだ。
なら期待を裏切らない!そう言いたげに、気流を読む事に加え、外套の力に合わせて自身の風の力を吹かせもするのだ。
……少々、いや、相当空回り気味な程に。
「ちょ、ちょっと張り切りすぎですっまずは落ち着いて下さい!」
あまりの勢いに縦に横に、空中でくるくると変わる姿勢に目を回し掛けたカイは思わず制止する。
その言葉に慌てて精霊達が力を緩める光景は、とても和やかなものであったが当事者は堪らないだろう。
此処は何処かとまだ幾らか回る目を向ければ、其処には佇むのは――先程までの空気を塗り潰す様な、陰惨の形。
「彼が生贄の…」
――風を生み出す詠唱は、呪紋は、未だ留まる事を知らない。その胸元に光る赤が不気味に脈動し続けているのがカイには見て取れた。
生きているのか、死んでいるのか――それすらも分からないが、急き立てる様に外套は羽ばたくのだ。
どうか、どうか、彼の傍にと。
「…やってみましょう」
頷き、出来る限り近付いていく。距離が詰まる事によって鮮明になる贄の表情は、憤怒と痛苦に歪んだものだ。
今にも叫び出しそうな剥き出しの憎悪とは裏腹に、理路整然と動く指先に背筋が凍る。少なくとも、磔の彼の意志でない事だけは明白であった。
想い糸は慎重さを以て贄の四肢に絡む、壊さない様に、壊れない様に。過度といっても言い繊細な作業は青年の心根を映し出したかのようだ。
その緻密な努力は遂に戒めより贄を解き放つ。ぐらり、傾いた体をカイが支えれば――青年は思わず項垂れる。
贄は疾うに事切れていた様だった。瞳の濁りが、鼓動しない心臓がそれを証明していた。
そしてその胸に輝いていた赤は――禍々しい緋石は解放と共に罅割れ、それと共に呪紋を描いた指はくたり、力を無くす。せめて瞼を閉じさせようと手を伸ばした刹那。
ヒィィィン――!
鈴虫の音にも似た、澄んだ音を立てて外套より抜け出した魔術紋様は贄を囲う。陽炎の如く揺らぐ、実体のない光はそのまま優しい音を立て続ける。
まるで、母が謡う子守歌の様に。愛を囁く恋人の様に。そうして、ゆっくりと共に空へと昇っていった。
その光景を目の当たりにする青年は死霊を視る者ではない、けれどはっきりと確信する事が出来た。――先程の幻想的で、何処か空虚な光景には贄と外套、互いの魂は宿ってはいないのだと。
数の限られた外套で魂を救うには――外套を誂えた者達の魂を込めるわけにはいかなかったのだと、分かった。分かってしまったのだ。
●命の価値、人の価値
―これは昔、そのまた昔の話。そしてとりもなおさずいえば有り触れた、よくある悲劇話だ。
城の下に佇む村がまだ村ではなく、大領主と小領主に統括されていた時代。小競り合いこそありながらも平和を享受していた都市に、突如として白亜の城は我らが空に現れた。
そこから現れた「王」は瞬く間に都市を蹂躙した。多くの兵が、住民が殺され、大地は瞬く間に炎と血に汚された。
…守り手のいなくなった都市が降伏するのは自明の理だった。勿体ぶって空から現れた「王」は、屈辱と恐怖に震えながら頭を垂れる領主達に悪辣に微笑みながら告げたのだ。
力ある「贄」を差し出せと。
先ずは生き残った魔術師達が犠牲になった。
大切な者の為、従順に受け入れる者もいた。
どうして自分が犠牲にならなければならない、と逃げ出す者がいた。
…けれど皆、等しくその手に楔を打たれ、魔力を奪う十字に吊るされた。
魔術師達の、彼らを愛おしく思う者達の絶叫が、悲鳴が、憎悪が、今も耳にこびりついて離れない。
都市を守り、発展させた者達は、多くの命の踏み台として尊厳すら奪われた。
次に犠牲になったのは魔術師にはなれずとも魔力を持つ者達。
足を砕かれ、まるで家畜の様に荷馬車に詰め込まれたのだ。…私はその中の1人だった。
共に詰め込まれた仲間達の多くは、城を維持する「磔」か「家具」となった。ひしゃげる骨の音、床に落ちる臓物の音…それは私の心を折るのには十分だった。
けれど私は死にたくなかった。
少しでも生き永らえたかった。
だから「王」に、あの悪魔に魂を売ったのだ。
仲間も、都市の人間も全て好きにしていいから助けてくれと。
――そうして私は「王」のお飾りの「王妃」となった。
その醜さが気に入った、精々俺を楽しませろと、
ぼきり。
ぶつり。
仲間の腕を引き千切りながら「王」は嗤ったのだ。
だから、だから私は。「王」に貰った力で彼等を「お人形」に変えて今日も踊る。
自分が生き残る、唯それだけの為に。
私を醜いと罵るのなら喜んで笑おう。悪役として笑おう。
虫唾の走る正論など唾棄してやろう。
命など、自分以上に大事なものがあるわけがないのだから。
――猟兵達が突入した城は瀟洒な造形であった。
四季の花々で分けられた庭、人魚が抱えた壺から滔々と流れる水に彩られた噴水。其処は空中庭園の様だった。
噎せ返る様な花の匂いだけなら、そこは綺麗な庭園と言えただろう。
けれど、虫の声一つしない静寂の中で感じ取られるのは――「瘴気」
多くの怨念と怨嗟、そして邪悪なる者の魔力の混合物。
その気配の一部は目前の女から発せられている様だった。
庭に降り立った客人を迎えるように慇懃に、けれど不快な嘲弄を顔に乗せ、女はドレスを摘み上げる。
「ようこそ招かざるお客人方、わたくしは「王妃」アニェーゼと申します。――早速でごめんなさいね、目の前から、この世から消えて頂きたいんですの」
語り合う言葉など不要、そう告げる様に女は踵を鳴らす。
――ヌジュリ
重く、湿った音を立てて影から這い出すのは女と同じ年頃…10代後半と思しき少年少女達――一様にその顔は土気色、青白い唇、生気に乏しいものだ。衣類に飛び散った真紅は――その身から流れ出た血の末路か。
人形の様に不自然な動きながら、異様な機敏さで彼等はアニェーゼの元に集う。
「皆さま、お人形遊びの心得はありまして?わたくし、少しばかり得意ですのよ」
――嗚呼、でもこのお人形、「生きている」かも知れませんので、手荒に扱わないで下さいませね?
女はそう、悪辣に微笑むのだ。
□■□■□
成功条件 :「王妃」アニェーゼの撃破
※彼女が引き連れている「お人形」は魔力ある人間を素体にした戦闘人形であり、ユーベルコードの発動条件(一般人)として使用。猟兵の攻撃からの肉壁にも使用します。僅かながら生命反応有。
プレイングボーナス:「お人形」の無力化
受け付け期間:断章投下以降
※なるべく頂いた期限内でリプレイ作成したく存じますが、再送をお願いさせて頂く可能性も御座います
泉・星流
人形遊び…に
そういう趣味は持ってないんで…特にそんな悪趣味なのは…
指定UCを使用して「お人形」の動きを封じる
口元を狙ってお喋りとかも出来ないようにする…一応、呼吸の為に鼻は塞がないでおく
【属性攻撃・スナイパー・(単純に動きを封じる為に)全力魔法】
暗躍する令嬢
【全力魔法・オーラ防御】で高威力の嫌がらせに耐えつつ(回避出来るなら回避もする)
偽悪役令嬢に指定UCで攻撃【範囲攻撃・属性攻撃・制圧射撃】
(拘束により)全滅させたら影からの攻撃に警戒
自分の周囲の床を指定UCで【乱れ撃ち】で粘着液塗れに…あとは何処からか飛び掛かってくるのに警戒
あえて長期戦に持ち込む(二章OPより…寿命が削られるのは痛いはず)
「お人形」達の四肢は奇奇怪怪にねじ曲がり、見るに堪えない姿を晒していた。王妃を騙る女がまるで花弁であるかの様に寄り添い、四方にその手を伸ばす仕草は――さながら肉色の花びらであるかの様だ。
女――アニェーゼの表情はかつての同胞達の境遇にも僅かも変わる事無く、花の如くドレスの裾を捌き、嘲弄の笑みを浮かべた醜悪な儘。
醜悪を極める光景を目の当たりにした多くの猟兵達は嫌悪を露わにしていた。それも当然であろう、到底人の心を持つ者の所業とは思えない――正に悪魔の、としか表現のし様がないものなのだから。
その中にあって、一見冷静な面持ちであるのは泉・星流(人間のマジックナイト・f11303)だ。けれど、少年の瞳は雄弁にその気持ちを伝える。
「そういう趣味は持ってないんで…特にそんな悪趣味なのは…」
悪辣にして悪趣味を極めた女の戯言を、星流は静かに、けれどきっぱりと斬って捨てる。
笑みを深めたアニェーゼの返答はその整った指先だ。指差す様にひたり、人差し指を向けた女は高らかに嗤う。
「残念ですわね、ならば予定通り――消えて下さるかしら?」
余韻が消える間もなく、ざわり、空気は動き出す!
奇妙な仕草のまま微動だにしなかった「お人形」達は一斉に行動を開始する。
少女の「お人形」達はけたけたと虚ろに嗤い、少年の「お人形」達は取り巻きとして、主を守るべく腰に佩いた長剣を抜き放つ――その行動はばらばらであるが、糸で手繰られるかの様に不自然な動きである事は統一されていた。
そして、同時に庭園は「歪められていく」。
恐らく城の中を模しているのであろう、豪華なシャンデリアの連なるダンスホールへと瞬く間に変貌を遂げれば、アニェーゼの姿は瞬く間に「お人形」達に紛れ消える。
攻撃を予見し、片時も目を離さなかった星流の目をもってしても、天井灯の齎した明暗に身を潜めた女の姿を捉える事は容易ではない。
けれどその事も織り込み済みだ。自らの命に執心する女はその灯を削り、繰り出す魔術を長くは留めておけまい――そう考えた少年は己の身に防護の魔を纏う。持久戦を想定していた。
魔術を展開し、その身を障壁が覆った刹那に響くのは甲高い音――何処に潜むアニェーゼが作り出したであろう、氷のナイフが付き立つ音だ。
(これが…彼女の嫌がらせ…)
眉を顰める。元の性格を知る由もないが、この魔術は相手の命を軽々と奪うような類のもの――それも、人体の急所を正確に狙ったものだ。
女は最早、取り返しの付かない場所にいる事を暗に告げていた。
ならば、より手を抜けはしまい。
急襲の失敗を悟った女の指示であろう、その嗤いを一層高らかなものとした少女の「お人形」達を制圧すべく、少年の唇は呪を紡ぐ。
星流の目前に現れたものは非殺傷性の魔術――鞠の如く精密に編まれたそれを射撃術の力で撃ち放つ!
攻撃を悟った女は幾人かの「お人形」を動かすが――回避するには遅すぎた。
ドチュリ!!
鈍い音を立てて魔力弾は展開する。弾けた弾丸は粘液となって降り注ぐ。蜘蛛糸に囚われた獲物の如く「お人形」達は蠢くも、その粘液から逃れる術はない。
「忌々しい…忌々しい!奪ってしまえば良い、だって貴方達猟兵はそうやって世界とやらを守ってきたのでしょう!!」
少年の目論見通り、アニェーゼは長く隠匿の術を使う事は好まない様だった。再び現れた女は瞳を憎悪に濁らせ、悪罵をぶつける。
その罵声に、けれど星流は静かに首を振る。
「壊したり傷つけたりするばかりじゃ無い…それではオブリビオンと変わらない…」
救うべきを救う、それは決して容易い事ではない。女が金切り声を上げる様に全てを壊してしまう方が遥かに容易い道だろう。
けれど、年若くとも戦場に立つ少年は険しい道を選ぶ。
それは、己の為に全てを擲った女の目にはあまりに眩いものだった。
成功
🔵🔵🔴
カーバンクル・スカルン
お人形ねぇ……どっからどう見ても奴隷です、本当にありがとうございました。
とりあえず、その成金貴族特有の下品な笑い声をやめてもらおうか。
目立たないように抜き足差し足で接近してからお人形も王妃も関係なく【咎力封じ】で拘束して戦場から離脱させるといたしましょう。
いくら彼らが王妃を守る盾だとしてもその関わりを絶ってしまえば、あなたはただの裸の王妃様よ。
……さて、あの磔にされている人が何なのか吐いてもらいましょうか。私だって似たようなことは出来るんでね? 今からでも体験してみるかい?
●
「お人形ねぇ……どっからどう見ても奴隷です、本当にありがとうございました」
四季の庭園から城の外観にそぐう瀟洒なダンスホールへ。
変わりゆく戦場に動じる様子はなくとも、思索を巡らせるカーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)の表情は異なる理由から鋭く、険しい。
虚ろに、それでいて邪悪に哄笑を響かせる少女の「お人形」達の表情は血の気もなく、また精気にも乏しい様子が窺い知れた。
女の人形との呼称通り、其処には少女達の自由意志は一片たりとも介在してはいないだろう。その有様はまるで腐りに繋がれた様で――正に隷属している、と評するに相応しい有様だ。
何よりクリスタリアンの娘が気掛かりなのは、庭園に侵入するまでの至る所に見えた磔の囚人達。
仲間の猟兵達と簡潔に交わした情報交換の結果、進路を妨害してきた風の一部を造り出したのは彼等であったようだが――その為だけにしては余りに多くの生贄が捧げられ、そしてその「使い方」も杜撰であったという。
自分達は何か見落としがあるのではないか――それを確かめる為にも、先ずは目障りに羽ばたく虚ろな蝶達を留め置く事から始めねばならないだろう。
「とりあえず、その成金貴族特有の下品な笑い声をやめてもらおうか」
鳴り響く高笑いは一糸の乱れもなく、故に不愉快さを際立てる。
迫りくる少年の人形達、彼等の閃かせる刃をボディ・サスペンションを壁に突き立て、己の体を空に舞わせる事で回避する。
(ただの幻にしては強度が高い…?)
サスペンションを通して伝わる感触に、クリスタリアンの娘は眉をしかめる。
アニェーゼの魔術によって形作られたホールは質量を持ったまるで本物そのもの。突き立つ感覚は通常の石造りの壁を叩く感触と相違ないものだ。
疑問は敢えて頭の隅に追いやり、「カタリナの車輪」に手を掛け一気に撃ち放つ。目標は――自分に向かい、魔術を放とうとするアニェーゼ。
「な…!?」
――ガァァァァン!!
巨大で重量のある車輪を、四方や不安定な空中から投げ放たれるとは露にも思わなかったのだろう。
驚愕に憑りつかれた女は咄嗟に躱す事も出来ず囚われる。苦痛の呻きが上がった。
その衝撃は編み上げた魔術を崩壊させるには十分なもの、手にした氷のナイフがからからと音を立てて滑り落ちて行く。
主を救うべく動き出した人形達もまた、縛鎖の例外ではない。カーバンクルに手繰られ、変幻自在に動く拘束ロープは人形達の四肢を地に留め置く。
――逃げ場は、ない。
「……さて、あの磔にされている人が何なのか吐いてもらいましょうか。私だって似たようなことは出来るんでね? 」
――何なら、今からでも体験してみるかい?
殊更ゆっくりと歩み寄り、一際低く落とされた囁きは物騒なもの。耳にした囚われの女は、自覚なく込み上げた唾をのみ込む。
一見は快活な少女であるカーバンクルであったが、彼女もまた歴戦の猟兵である。意図を持って発せられる言葉は聞く者の恐怖を掻き立てる力を有していた。
長く生きようとも、戦場に身を置いた経験に乏しい女もまた例外ではない。
晒されたアニェーゼは空気の不足した魚の様に忙しなく口を開いては閉じ――言葉を発する事も出来ない様だった。
けれど、それでも為した抵抗は最早意地であっただろう。
出せぬ声の代わりに震える指を揮えば、作り出された氷のナイフで自らが傷付く事も厭わず己の枷を斬り裂いた。
血の花が飛び散る。心までをも悪魔に売り渡した女とて、その色は鮮やかな真紅のまま。
流れる血もそのままに、アニェーゼは鬼気迫る顔で嗤う。
「知りたいのなら教えて差し上げます。――彼等は囚われた魔術師の成れの果て、この城を動かす「薪」です。そしてわたくし達の力を補助するもの」
油断なくカーバンクルを見据えながら、吐き出された言葉は無情そのもの。
先程感じた違和感の正体――様々な異能を操る猟兵の力を以てしても容易には創造出来ない強固な幻、その発端であった。
成功
🔵🔵🔴
木常野・都月
生きる為に他者の命を奪う。
強者に屈し弱者を糧にする。
それ自体、野生なら極当たり前。
例え残酷でも、生きる為に必要だからだ。
でも、命を弄ぶ行いを、ヒトの心は良しとしない。
ヒトの心…俺の心も、自分の心なのに…難しい。
人形達も邪魔するなら倒す所なのに…なんでだろう?
でも、猟兵として、少なくとも王妃は倒さないといけない。
それが一番分かりやすい。
敵全体を[範囲攻撃、催眠術、闇の属性攻撃]で眠らせたい。
眠らないならUC【雷の足止め】で無力化したい。
後は王妃に接敵、人形に阻まれない位の至近距離で杖を突きつけて[全力魔法、属性攻撃]で攻撃したい。
攻撃後は速やかに離脱したい。
何かあれば[オーラ防御]で対処したい。
●
「生きる為に他者の命を奪う。強者に屈し弱者を糧にする。それ自体、野生なら極当たり前」
木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)はその業を否定しない。
成熟した文化を築くヒトは、ともすれば忘れがちではあったが――本来、生き残るという事は小さな戦争を繰り広げている事と同義だ。
賭けるものは己が命、その先に連綿と続く種の繁栄。
その為には、本来生物は持てる力を振り絞らねばならないのだ。
「でも、命を弄ぶ行いを、ヒトの心は良しとしない」
青年の黒々と立派な尾は戸惑いにぱたりと揺れる。都月の育ちは長い間、獣の家族と共に在った。
されど青年は同時にヒトであり、その在り様もまた徐々に、しかし確実にヒトへと歩みを進めていたのだ。
仲間との交流の中で、或いはこうしてこなす依頼の中で、知らなかった感情を幾つも知ってきた。
齎された萌芽は確かにその気持ちを動かしてはきたが――
「ヒトの心…俺の心も、自分の心なのに…難しい。人形達も邪魔するなら倒す所なのに…なんでだろう?」
以前の自分であれば其処に躊躇いはなかっただろう。自分自身が生き残る為に、それは獣として当然の生存戦略だ。
けれど、確実に。獣と人の境界にあった青年の心は変貌を遂げていて――それが故に不可解なノイズにも悩まされる事となった。
(でも、猟兵として、少なくとも王妃は倒さないといけない。それが一番分かりやすい)
頭を振り、木の温もりを伝える魔杖を握り直す。
仲間との交戦で苛立ち、気を吐く女は決して見逃せない害悪。ならば為すべき事は一つだ。
都月の唇より魔力を帯びた旋律が零れ落ちる。
それは闇の力、あらゆる者を安息へと導く黒の帳。
青年の足元、伸びた影から枝葉が茂る様にその手を四方に、八方へと伸ばしていく。
もう良いのだという様に、この腕で眠りなさいと告げる様に。
都月の穏やかな旋律がその安らぎを後押しする――言葉としては易々と聞き取れないそれは、何処か子守歌に似た響きを帯びていた。
気付いたアニェーゼが「お人形」達を動かそうにも、逃げ場は何処にもない。
一人、また一人と「お人形」達は糸が切れたかのように倒れ伏す。焦燥に満ちた面持ちの女がどれだけ手繰ろうとも、彼等は微動だにしないのだ。
それはきっと、命持つ者には永遠にも感じられる程の果てに漸く、漸く訪れた安息だ。
間隙を縫う様に青年は疾駆する。その杖に集まるのは先ほどとは似て非なる黒の力。
冥府の果てにて降される裁きが如く、その先に集う純粋にして峻厳なる闇は見る者の背筋を凍て付かせる。
同じく魔術を手繰るアニェーゼにも、その威容は充分に伝わったのだろう。そうはさせじと放たれるのは毒を孕む枝葉の槍。
自らが纏う瘴気も込めた樹槍は一直線に都月の喉元を狙うが、青年の足元より伸びあがった魔蔓に絡まれ、砕け消える。
――シャアアアン
森羅を友として育った魔術師に向けるには、余りに拙い選択を女は取ったのだ。
遮るものの無き動線に青年の足を止める力はない。宙に呪紋を描こうとした女の指をいっそ柔らかとも言える仕草で抑え、代わりに向けるのは魔杖、そして更に凝縮された無明。
――ブン
「…あ?」
――オオオオオオオオ!!
「あああああああ!!」
アニェーゼの体内に闇は静かに溶けて、その刹那、女の身を喰い破らんと牙を剥く。悲鳴の様な音を立てて渦巻く闇は、その臓腑を握り潰していく。
女の口から再び鮮血が飛び散り、その荒れ狂う余波は瞳に走る毛細血管も爆ぜさせ、瞳を赤く染め上げる。絶叫がホールの静寂を斬り裂き、響き渡った。
成功
🔵🔵🔴
テラ・ウィンディア
……この外道!
命を弄ぶお前は許さない!
絶対にやっつけてやるぞ!
【戦闘知識】で冷徹に陣形と敵の動きを捕捉把握
【第六感・見切り・残像】を駆使しての回避
【空中戦】で飛び回りながらも今回は武器を抜かず
UC発動
人形たちの精神にダメージを与え気絶を試みる
幽霊であれば強制成仏になっちまうが…肉体が生きてるならまだ希望はある
…なぁお前
戦ってて思ったが
なんでそんなに悪ぶってるんだ?
まるで自ら罰を受けたがってるように見えるぞ?
まぁいい
きっとそれさえお前の望むもんじゃねーだろ
だから…おれは唯我が武をぶつけるだけだ
【属性攻撃】で闇を付与する事により破壊力を増強し精神を直接攻撃する猛攻を仕掛け続ける
橙樹・千織
◎
これは…この、瘴気は…
人形、遊び…
本気で言っているのですか
【オーラ防御】及び各種【耐性】で防御態勢を整える
全ての攻撃に【破魔・呪詛】を付与
【歌唱・全力魔法】の言霊、【なぎ払い】の【衝撃波】で王妃と人形との繋がりを祓い、新たな呪で上書きし主導権の奪取を試みる
奪取できれば戦闘範囲外で待機させ、出来なければ人形の動きを【見切り】、峰打ちか薙刀の柄で【マヒ攻撃】するかユーベルコードを使用
生と死への固執は破滅への一本道
貴女の言うお遊びは終わり
還りなさい、在るべき場所へ!
【高速詠唱】で発動したユーベルコードで魔力回路とあらゆる神経を断ち切り
【戦闘知識・野生の勘】を活かして立回り、撃破へと攻撃を畳み掛ける
桜雨・カイ
……怖かったんですね。
あなたを怖がらせるものを今から止めに行きます。
だからここを通してください
二つ間違いがあります。
この「お人形達」は人です。これ以上傷つけないでくさい。
そして…人形は人を喜ばせる為にいるんです。
お人形遊びで、あなたにもそんな(怨嗟や嘲弄)表情はさせたくないです。
彼女の前に立つ人形達を「念糸」で拘束、彼女への道をつくり器物で攻撃をしかけます
でもこれは囮です。
彼女の攻撃をあえて受け【柳桜】発動
生きているかもしれないのなら、やることは一つです
受けた攻撃を人形達への回復に使います
彼女と戦う事は避けられなくても、これ以上苦しんでほしくはありません。
杜鬼・クロウ
シン◆f04752
◎
お前は自分が弱いと理解していた
だからどうすれば生き残れるかも
畏れは正常心を歪める
俺はテメェだけを責められねェ
ココで全部終いにしようや
悪を演じきると言うのならその過ち、真っ向から俺が糺す
人の命を軽々しく扱っていいコトには、ならねェンだよ(悲痛の表情
王妃が人形と呼ぶガキ共はまだ生命反応がある
…救えるのなら
最後まで諦めたくねェンだ
シン、頼む
あの憐れな女は、俺が殺る(気迫増し
人形に【魔除けの菫】使用
動き封殺
玄夜叉に大地の精霊宿す
砂塵纏わせ硬化
王妃のみ狙う
属性攻撃で地道に体力削る
大地に炎を合わせ灼熱の熔岩で部位破壊
敵の攻撃は剣で武器受け・かばう
見切り・フェイントで低姿勢からの2回攻撃
シン・バントライン
クロウさん(f04599)
◎
命を捨てられると豪語する人間ほど簡単に人の命を奪うから好きではない。
「命懸け」という言葉に意味などない。
そう思っていたのですが、貴女を見ると少し心が揺らぎます。
人を犠牲にして自分だけ助かる…死にたくないというのはある意味真理だと思いますが、ただただ醜い。
残念です。
クロウさんに彼女曰くところの「お人形」の動きを封じてもらい、攻撃して気絶させる。命は奪わないよう注意。その後、一か八かUCで回復を。
大事なことは何があっても生き延びることだと…私は信じたいのです。
どうか戻って来てください。
アニェーゼとの戦闘はクロウさんに任せ回復に専念。
危ない時、一度だけ剣を敵に向けて投擲。
水標・悠里
あら、良いお人形さんですね
他人の命を奪い利用することに意を唱えるつもりはありません
ですが王妃様の心意気は腹立たしく思います
「さあ、遊びましょう」
生憎と私は遊び方を知らないので、教えていただけますか
うまくお相手ができるといいのですが
死霊の気配を辿れば判別がつくでしょうか
鬼業『贄餐』
さあ、あの子たちを彼女から奪いましょう
【黒翅蝶】で死霊を導き従えます
邪魔をするなら全て食べて仕舞えば問題ないでしょう
悪食ですか? 生憎と食べるものは選り好みする方なのですよ
その生き方を否定しません
ですが悪と振る舞うあなたに引き返す道はない
自らの足で行かぬというなら助けましょう
その思いごと黄泉路へと送って差し上げます
●
「……この外道!命を弄ぶお前は許さない!絶対にやっつけてやるぞ!」
怒りはごうごうと、炎の様にテラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)の身の裡で燃え盛る。その黒曜の瞳にもまた、闘志の焔が音を立てて爆ぜる様だった。
アニェーゼの所業は正に人の道を外れたもの、到底見過ごせるものではなかった。
悪辣に微笑む彼女の傍ら、控える「お人形」達は施された化粧で分かり難くはあるものの、テラよりも幾らか年嵩なだけ――幼いと評しても問題のない年頃に見えた。爪を握り込む手にも、一層の力が入る。
騎士たる少女は、けれど気を吐く様とは裏腹に冷徹に戦場を見据える。
激情の儘に飛び込むのは愚策、ならば先ずは彼等を――囚われの人形達を開放する。決まれば、動き出すのは早かった。
女の手により作られたダンスホール、その堅牢な壁さえもテラにはお誂え向きの舞台に過ぎない。
少女の身の周りを大地の魔力が、重力が覆う。地の軛より解き放たれた躰はまるで空を舞う鳥であるかのようだった。
少年の「お人形達」が閃かせる刃、横薙ぎの刀身を踏みつけ軽やかに舞い上がり躱す。
続いてテラを襲う氷の破片はアニェーゼの命を奪わんとする「嫌がらせ」。けれど、その無数の氷刃は壁を蹴り上げ、更なる高みへと至るテラを捉えるには至らないのだ。
「――ちょこまかと、鬱陶しいですわね!貴女の前世は蝶かしら、それとも蜂かしら!」
「…なぁお前、戦ってて思ったがなんでそんなに悪ぶってるんだ?」
「…戦いの最中にお喋りとは余裕ですのね、応える必要が一体何処にありまして?」
「…まるで自ら罰を受けたがってるように見えるぞ?」
「―――!!」
アニェーゼより憎々し気に放たれる悪罵や振る舞いは正に悪役そのものであるが、テラの観察眼はその僅かな違和感を見逃さなかった。
まるで着慣れぬ服を纏う様な女の言動は、どこか露悪的であり――そして自罰的でもあった。
「まぁいい、きっとそれさえお前の望むもんじゃねーだろ」
―――だから…おれは唯我が武をぶつけるだけだ
誇り高き騎士は、今までの戦いの中でも決して武器を抜く事はなかった。
それは臆病ではない。
それは傲慢ではない。
ただ、無辜なる命を無用に傷付けぬ為に。
例えその命を歪められようとも、息があるのなら諦めはしない。
テラは決意の儘に今度こそその剣を抜く。
「輝きの対極に在りし精霊たちよ、集いて宵闇となりて、心の光を切り裂け!」
――オォォォォォン!!
軋むように、厳かな音を立てて闇は顕現する。けれど、その刃は命を絶つ鋼ではなく精霊の力を借りた霊能の剣。
テラの呼び声に応えて現れたのは漆黒の刃。陣を汲む人形達の多くを捉えられる地点を割り出した少女は一転、鷹の如く地に舞い降りて刃を振り抜く!
――とさり、軽い音を立てて文字通り「糸が切れたかのように」人形達は倒れ伏す。その躰からは、テラの目論見通り血の一滴も流れない。
人形達を戒める、災いのみを断ち切ったのだ。
ならば再びと呪を編む女の姿が目に入り、その漆黒の瞳は鋭く細まる。地を蹴り、がら空きとなった射線を詰めていく――もうこれ以上、命を弄ばせはしない。
「させるかぁ!」
斬撃は嵐の様だった、幾重にも渡って繰り出される影色の閃きは咄嗟に作り出された女の氷の盾すら素通りし、刃はその身を、心のみを断ち切る。
アニェーゼの絞り出す苦悩の声は言葉にならない、けれどその瞳に浮かぶのは――
(――贖罪)
その様に、テラには感じられたのだ。
●
「これは…この、瘴気は…」
庭園とダンスホール、命惜しむ女の気紛れで移り変わる戦場の中、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)の唇は戦慄く。
守護神子として日頃は清浄を慈しみ、手ずから抱える娘の感覚に澱んだ空気は一層重く伸し掛かるのだ。
発せられているのはアニェーゼからだけではない、「お人形」達からも些少ながら――人として生きるには難い程の瘴気が立ち昇るのを感じ取っていた。
「人形、遊び…本気で言っているのですか」
「ええ、当然でしてよ。だって「中身」をくり抜かれて、自分では動く事も儘ならない存在だなんて――」
――最早ヒトではないでしょう?
女の唇は弧を描く。言葉通りに受け取るのであればその根本は嘲り。
けれど、女は恐らく自分自身では気付いてはいないのだろう、口ほどにその瞳は歪んではいない事を。
凍て付いた湖面で在るかの様にその瞳の奥を探る事は容易ではない。それ故に女自身も何処か人形めいて感じられるのだ。
けれど、加工の過程をつぶさに知っているという事は、嘗ての知己が「お人形」とされる場面に立ち会い――そして今も尚、彼等を弄んでいる事に他ならない。
交わす言葉は不要、嘲りへの応えもまた。
千織の口から零れるのは痛罵ではなく、己が信ずる者への祝詞。
飛びかかる少年をその薙刀でいなし、振るわれる刃はまた刃にて鍔ぜり弾く。
女より紡がれる風の刃はその身に纏う森羅の守護の前に、唯の風となって散らされていく。
その風が呼んだかの様に、空より舞い落ちるのは一片の山吹。
ふわり、舞い落ちた花は千織の持つ武器に吸い込まれるように消えて――
――リィィィン
静かに光を放つ。
神聖、そう呼んで差支えのないだろうその光には、けれど表裏一体を為す呪いの気配もまた感じられるものだ。
一振り、娘は裂帛の気合と言霊を乗せてその刃を振るう。
一陣の風と共に吹き抜けた斬撃は清浄であり苛烈。人形達に絡みついた無数の操り糸を斬り飛ばす――!
文字通り糸が切れた様に倒れ伏していた人形達は、暫しの静寂を経て再び立ち上がる。けれどその主はもう、かの邪悪な女でありはしないのだ。
千織の指示に従い、人形達は速やかに離脱していく。その動きはやはり精気は感じられないものの――けれど、女の手足となっている時よりも何処か穏やかであるように感じられた。
アニェーゼの顔が醜く歪む、唇が戦慄き震える。離れていても音が聞こえそうな程にその生には不要な歯を軋ませ、戻っておいでと闇雲に手を動かすも、空しく空を切るのみ。
誰からも振り返られる事はない。顧みられる事はない。
「――なんで!!」
「――生と死への固執は破滅への一本道、それだけの事です」
実際に、自身の命に執心した女は自分以外の猟兵達にも出し抜かれている。
狭まった視野で受け止められる程、猟兵達の力は――何より覚悟は容易いものではない。勝敗を分けたのはただそれだけの事だ。
怒りに駆られた女の怒号は、獣の唸り声にも似て。
足元より密かに伸ばされた影の鎌は、けれど見えていたかの様に千織の薙刀で打ち返される。
「貴女の言うお遊びは終わり――還りなさい、在るべき場所へ!」
――内なるものを刺し留めるは柘榴の荊。汝を縛りて断ち切らん
閃くは愛刀・藍焔華、込められるは「剣舞・柘榴霹」。
肉の器を傷付けず、ただその身に流れる魔力回路を断ち切る業は過たず女を斬り裂いていく。
「駄目。駄目、奪わないで!!わたくしの力を、存在意義を奪わないで――!」
力のない者は、甚振られるのが役割なのだから。あの暗黒の日々が舞い戻ってしまう。
間髪入れず振り絞られる悲鳴が、娘の目論見が成功した事を告げていた。
●
「……怖かったんですね」
桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は女の過去を想う。
力無き身で唐突に晒された恐怖は如何程の物であったか、仲間が容易く屠られる有様を眺める気持ちはどんなものであったのか。
過去は決して変えられない。けれど今は変える事が出来る。
「あなたを怖がらせるものを今から止めに行きます。だからここを通してください」
「貴方は「王」を知らないからそんな事が言えるのです、ここでわたくしとお人形に殺された方がまだ――」
頭を振る女を痛まし気に眺めて、けれど青年は「二つ間違いがあります」――そう切り込んでいく。
傷つけたくはなかった、けれど言わねばならないと思ったのだ。
人形とされた無辜の者達の為に。そして……その貌に偽悪を張り付けるアニェーゼの為に。
「人形は人を喜ばせる為にいるんです、けれどあなたのお人形達は――人です」
「……!!知っているわ、嫌と言う程知っていてよ!!どの子もみんな、みんな――わたくしの幼馴染だもの!!」
女の声は最早絶叫だった、悲愴に満ちた声色だった。今までの戦いでぼろぼろになった身と心は、深淵を留める事すら叶わなくなっていた。
自分がただの人間であった頃、共に笑い、喜びを分かち、時に喧嘩もしたけれど、ずっとずっと続くと思っていた大切な友人達だった。
優しい記憶は、けれど死の恐怖の前に屈した。折ってはならないものを、手ずから折ってしまったのだった。
せめて形を残したいと「お人形」にした、許される筈などないと知っていても、それでも。
どんな事が好きか、何が苦手だったか、誰が好きだったのか――将来はどうなりたい思っていたのか。ぜんぶ、ぜんぶ覚えている。忘れたくなかった、けれどそれ以上に忘れる事さえもう出来ないのだ。
忘却の許しはもう、人ならざる自分の身には降っては来ないのだから。
アニェーゼの表情から正気が喪われていく、代わりに表出するのは恐怖。あらゆるものへ、そして自分自身への畏れ。
声なき痛みをカイは静かに引き受ける。自身もまた、形は違えど遺された者の痛みを知るが故に。
その揺ぎ無き慈愛は、想いは青年の力となる。手繰る想糸は全てを受け止めんと人形達へと伸びる。
それは絡め取る蜘蛛の糸ではない、力強く、優しく人形達の四肢に絡み動きを止める。
まるで道を作る様に、糸に導かれて左右へと分かれる彼等の頬を伝う水滴は――きっと、涙だ。幾年の時も流す事の出来なかった痛みだ。
その様子に呆然とするアニェーゼにカイは器物を差し向ける。人とまるで変わらぬ動きで走り、攻撃を仕掛けるが――それは囮。
絶叫しながら氷のナイフを振り翳す女の前で、敢えてその刃を受け止める。
ぞぶり、刃が突き立つ感覚に痛みと本能的な恐怖が押し寄せるが、それすらも力に換えて。
「この力…みんなを癒やす力とさせてもらいます」
咲き誇るは「柳桜」――負った傷を対価とし、自らと周囲に癒しの力を振り蒔く、青年の優しさを凝縮したような異能。
全てではなかった。けれど、けれども、幾人かの血の気の引いた頬には赤みが差す。いのちが、動き出す。
女は唇を戦慄かせる。どうして、そう続けられた言葉の先は――目前の奇跡か、はたまたそれ以外の何かかへと向けられたのか。分かりはしないものだけれども。
「これ以上苦しんでほしくはありませんから」
誓いは果たされる。救いは人の形を取って、そう告げるのだ。
●
「命を捨てられると豪語する人間ほど簡単に人の命を奪うから好きではない。「命懸け」という言葉に意味などない」
シン・バントライン(逆光の愛・f04752)の言葉は静謐に満ち満ちていた。
命を比較対象とする事、それは即ち命を軽んじている事に他ならない。だからこそ容易に奪う事も出来るのだと。
けれど、その考えも目前の女――肩で息をしながらも、こちらを睨み据える事を忘れないアニェーゼを前にすれば些少の揺らぎを覚える。
「人を犠牲にして自分だけ助かる…死にたくないというのはある意味真理だと思いますが、ただただ醜い。残念です」
「そう、光栄ですわね。わたくしも限りある命に縋る者を醜いと思いますもの」
静かな、けれど決然とした決別にも女は言葉通りの心境であるかの様に笑み返す。
けれど、相棒と同じくする思いもありつつも、アニェーゼの過去を、異形へと堕ちた転機を杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は想う。
「お前は自分が弱いと理解していた、だからどうすれば生き残れるかも」
抗う事の出来ぬ身で、何をすればいいのか。極限の状況でそれを探ったのだろうと語り掛ける。
畏れは正常心を歪める、正しき道を選ぼうとする心を容易く砕いてしまうものだと――クロウは知っているのだ。
アニェーゼの仮面の様な笑みに一筋、罅が入る。真摯な友人の言葉にシンは視線を送るも、口を挟む事はない。
気の置けない付き合いを続ける中で、友人はそうした言葉を手向ける事を何処かで勘付いていたからでもあるし――思想が異なるからという理由で、縁を断ち切る様な狭量さも、断ち切ってしまう様な薄い縁も互いに持ち合わせてはいないのだ。
其処には言葉にしない信頼が確かに横たわっていた。
「ココで全部終いにしようや。悪を演じきると言うのならその過ち、真っ向から俺が糺す」
黒の魔剣を構えるクロウの表情は悲愴、けれど剣先は僅かたりともぶれる事はない。言葉だけで解決出来るものではない事は明白であった――ならば取るべき道は一つしかないのだ。
青年の耳飾りは謡う、果て得ぬ愛を、絡む想いを。その菫を軸に発動するのは縛鎖の呪言。
「片割れの鏡像、写し映して古の力を揮え。我が掌中に囚われよ──全部、俺のモノだ」
言葉と共に人形の身に伸し掛かるのは自然界の力、重力だ。正に逃がさない、そう体現するかの如く掛かる力は人形達が佇む事すら許しはしない。
たまらず倒れ伏す人形達に目を見開き、アニェーゼはクロウの集中を解こうと氷の刃を撃ち放つも、大地の力を纏う剣に易々と打ち払われる。
そのままアニェーゼに切り込んでいく友人を尻目に、シンは囚われた人形の傍に膝を突く。人形が腰より抜こうとする剣を放り、意識を落とせば事前準備は完了だ。
クロウが人形の捕縛と女の撃破、シンが人形達の治癒に最善を尽くす――短い遣り取りの末に決めた役割分担を実行する為、シンは万が一にも殺害に至る事のないよう、丁寧に落としていく。
「星は瞬いて笑う。星は転がって笑う。今夜、月のかげに入る」
紡がれる言葉と共にちかり、ちかり、星の様に光は瞬く。黒を基調とした平服に身を包むシンは、まるで切り取られた星空の様にも見えた。
その身より発せられる温かな光は導き星の様に人形達を照らし、癒していく。他の猟兵から齎された癒しもあり、その治癒は一見順調に見えたが……
改めて、この城の罪深さを感じ取る。
厚い布の下、唇を噛み締める。
人形達は、女がまた別の猟兵達に零していた様に、体内を――生存に必要な器官の大半をくり抜かれていた。
ヒトは、それでは生きていられない。であれば人形達が生き永らえて来た理由は釈然としないが、何らかの超常的な力――魔力が関与しているのだろう。
共通で無事なのは治癒の手応えからして心臓、脳くらいか。腹回りなどは特に「治癒のスピードが速い」。
それは納められたものの少なさを物語っていた。けれど、その中に於いても幾人か――ほんの僅かではあるが、臓器の多くが無事な個体も存在していた。
「大事なことは何があっても生き延びることだと…私は信じたいのです」
――どうか戻って来てください
人形の友も、家族ももう疾うに死に絶えただろう。
けれど、それでも。生きてさえいれば、生きようという意志があれば。
亡くした欠片は埋まらなくても、救われるものもある筈なのだと――シンは信じたいのだ。
それは人形達の為でもあり、そして。
――王妃が人形と呼ぶガキ共はまだ生命反応がある…救えるのなら最後まで諦めたくねェンだ
――シン、頼む
――あの憐れな女は、俺が……
慈悲に翳った瞳を、悲愴な決意に塗り替えた友人の為に。
「余所見とは随分余裕じゃねェか!」
女の逸れた視線の先、友人にも人形達にも手出しはさせぬとクロウは距離を詰め剣を振るう。
銀髪を風に散らせたアニェーゼの表情が露わになる、そこに浮かぶのは――
(安堵…?)
目を細め、まるでこの世の幸福全てを詰め込んだかの様な顔を、女はしたのだ。
けれどその表情は一瞬の事、クロウへの応酬は今まで通りの陰湿極まりないものだ。
距離を離さんとする女が放つのは水の魔術、獰猛な咢を開き喰い破らんとする水蛇だ。
慌てず半歩下がったクロウは今は意識を切り替え、更なる魔力を剣へと込める。
堅牢なる大地の隙間より漏れ出るのは炎――溶岩の如くぐらぐらと煮えたぎる複合術。
大地は脈動する、炎は走る。鋭い一閃で斬り裂かれた水の蛇とクロウの術が反応し、周囲は水が蒸発した事での霧へと包まれる。
――けれど、その黒刃は獲物を見逃す事はない。
「――もう、眠れ!」
腰を落とし、返す刀で伸びあがる様に振り抜かれた一閃は女の右肩から先を斬り飛ばし、高々と舞い上げる。
肉の焦げる音とタンパク質の焦げる臭いが立ち込めた、けれど女も易々と膝は折らぬ。
残された腕で、青ざめた唇で紡がれた魔術は青年の死角、その従える影から伸びる黒の槍。
心の臓を貫かんと伸ばされた槍は必殺の間合いであっただろう、けれどその槍は彼方より投擲された剣に霧散する。
クロウを案じ、見守っていたシンの手によって。
助かったと笑うクロウに返されたのは安堵の溜息だ。
万策は女の手から滑り落ちた。その滑稽さに、自らを嘲る笑みがこみ上げる。
「わたくし、貴方達の事が嫌いよ。心からそう思うわ」
ただ、憎ませてくれたのなら楽だったのに。
無神経に正義の刃を振り翳すのなら、自分は揺ぎ無く「悪役」のまま散る事が出来たのに。
「でも貴方達は識っているのね。思いも、祈りも、永遠であれと願うものにこそ……永遠などありはしないのだと」
応える声はない、けれど2人からは否定の声も上がりはしなかった。
自らの過去を想ったクロウに目を向け、こぽり、込み上げる血を口の端より垂れ流しながら女は微笑う。
「――わたくしを哀れと思えるその優しさはいつか、黒髪さん、貴方を殺すでしょう。差し出した手を裏切られ、無慈悲な刃が喉元に迫るでしょう」
「――いいえ、そうはならない」
何の力も籠らない言葉は、けれど女の人生を賭した呪いだ。
それを阻むかのようにシンはクロウと女の前に立ちはだかり、同じ言葉を繰り返した。
なぜなら、
「私が、周りがいます」
シンとクロウは正しく友人であるのだから。
静かな応えに孤独な女は笑みを深めて。
「――わたくし、やっぱり貴方達が嫌いだわ」
そう、吐き捨てた。
●
歪なダンスホールでの戦が始まり既に幾時かが流れていた。
多くの猟兵達は女の凶行に怒りを露わにしその力を振るった。
幾人かの猟兵はアニェーゼの境遇を想った。少女が魔に堕ちる過程、その苛烈なる恐怖を。
共通している事は誰もが「お人形」を良しとせず、向き合っていた事だ。
その中にあってただ一人、異なる反応を示したのは水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)だ。
「あら、良いお人形さんですね」
倒れ伏し、或いは絡め取られた人形達は満足に身動きする者は少ない。その有様を横目に毀れた一言は不思議と凪いでいて。女は目を見開く。
露悪的である事を己に課したアニェーゼは罵倒には慣れていた、むしろ心の何処かでそれが当然であるとも感じていた。
しかし、その悪行を肯定したのが年若い少年であった事に知らず、知らずその背を冷たい汗が伝う。
――否、本当に自分が相対しているのは少年であろうか。そんな疑問すら頭に浮かぶのだ。
(他人の命を奪い利用することに意を唱えるつもりはありません――ですが王妃様の心意気は腹立たしく思います)
一方の悠里は、人形の在り様にではなく女の在り方に身の裡より湧き上がる苛立ちを感じていた。
悪であるのならば、悪として歩むのであるのならばそれはそれで良かろう。
なれどそれは覇道、ようよう昏き先細る道でしかない。その自覚が、女には足りていないのだ。
生きるという事、それは砂糖菓子で出来たものではなく血腥さを孕むものだ。
綺麗な手で生きる事の難しさを悠里は知っている。もう充分な程に、知り得ている。
だからこそ少年は鬼道を選んだのだから。
だから、だから。その道を邪魔するのであれば、
その痛みも、
その恐怖も、
「――全てすべて私達が食べてしまいましょう!」
穏やかな笑みを張り付けた儘、悠里は女と従える人形達に牙を剥く。
人形達に込められた僅かな魂、救いの届かなかった儚い命は少年の抱く【黒翅蝶】――魂導くスカルオーブに惹かれ、集う。
とさり、いのちが倒れるには余りに軽い音を立てて残っていた人形達は転がっていく。真に虚ろなもの――人の形をしたモノと成り果てて。
集う魂を変わらぬ穏やかな笑みで眺める少年は、正に伝承に語られる鬼の様で。
アニェーゼの歯はかたかたと恐怖で打ち鳴らされる。やはり少年は尋常の存在ではなかった、そう確信したのだ。
「――なんて、何て悪食なの」
「生憎と食べるものは選り好みする方なのですよ」
だから、貴方は要らない。
鬼業『贄餐』――少年の身を彩る黒は遍くを薙ぎ払い、その足を韋駄天と化す為に己の命を削る所業。
異能より導き出されたのは先程のオーブにも似た、けれど夥しい数の黒蝶。少年に纏う様に集った魂の運び手達は、そのほっそりとした指に導かれ今度は女へと群がる。
アニェーゼが咄嗟に編んだ氷刃の魔術は、蝶達を撃ち落とす事すら叶わない。「嫌がらせ」をする事すら出来ないのだ。
「自らの足で行かぬというなら助けましょう――その思いごと黄泉路へと送って差し上げます」
命を惜しむ女とは対極的に、悠里は止まらない。燃え盛る灯に魂の薪をくべる事を躊躇わない。
蝶が群れる、覆う。まるで女が砂漠の只中の水で在るかの様に、そのいのちを啜り取る。多くの苦痛を伴って。
絶叫は幾重にも木霊して――そして唐突に残響は途絶える。
女の命の灯は未だ尽きてはいないようだった、けれどその魔術によって維持されていたダンスホールを保つ程の力は最早残されていない。
舞い戻った光注ぐ庭園に、女の倒れ伏す音がやけに鮮明に響いた。
●
永遠とも思える時間、繰り広げられた陰惨なる演目に幕が降りる。
アニェーゼの四肢から力が抜けていく、死相は隠し切れなくなっていく。けれど幾人もの猟兵が纏う外套は反応する事はない。――女は疾うに魔性に堕ちていたのだ、救うべき魂ではないと、弾き出されていた。
言い残す事は、そう告げたのは誰であったか。
しかし女は満足げな顔で笑って、首を振る。これ以上遺す事など何もありはしないと。
「――わたくしが負けたのは弱かったから、それだけよ」
けれど、そう続けた言葉は弱々しく、惑いに揺れる。眼差しの先には赤み差す頬のまま眠る2人の「お人形」だ。
多くの猟兵達が傷付かぬよう注意を払い、そして懸命に癒したものの――生き残る事が出来たのはその中でも最も年下であっただろう、少年と少女のみ。
その他の人形達には生き残るだけの生命力と――何より臓器が足りなかった。生死を分けたのは誰の咎でもなく、ただその残酷な事実だったのだ。
「その子達はもう唯の「ヒト」ではない。けれど――わたくし達の「希望」だった。どうか、生かしてあげて――」
荷馬車に詰められた時、死を免れ得ない事は分かっていた。けれど、僅かでも望みがあるのならば。せめて最も若い2人だけは守ろうと、そう仲間達で――幼馴染達で決めたのだ。
自分は結局、我が身可愛さで誓いを裏切ってしまったけれど――その思いだけは本当だった。
「加工」の時に手を抜いたのは単なる憐れみでしかなかったが――悠久の時を越えて、その感傷は意味を為した。他ならぬ猟兵達の手によって。
感謝するでもなく、淡々とその事実を告げて――それきり女の瞼は二度と開く事はない。
けれどその貌は、何処か安らいだ――まるで母の胸に抱かれる幼子の様に、穏やかなものに見えたのだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
第3章 ボス戦
『覇竜皇帝ガイエス』
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POW : 我が覇道よ、全てを根絶せよ
【Lv*百人の自分と同等能力を持つ軍団兵 】の霊を召喚する。これは【高速突撃】や【騎獣による踏み潰し】で攻撃する能力を持つ。
SPD : 人よ、野望に狂え
【投射攻撃無効の炎竜憑依状態 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ : 砕けよ、脆弱なる魂
【竜の呪い 】を籠めた【高命中高威力のハルバート】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【魂、及びそれに類するもの】のみを攻撃する。
イラスト:V-7
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「プリンセラ・プリンセス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「……そうか、死んだのか」
かさついた玉座に腰掛ける男は、常人であれば発狂しそうな瘴気の中で静かに囁きを落とした。その手には壊れた懐中時計――自らが「王妃」とした女、その命の形が握られていた。
その外見はまるで狂気に憑りつかれた彫刻家が一心に彫った悪魔の様な見目。遍く世界の幻想譚に精通している者なら、半人半馬の種族――ケンタウロスが最も近いと評したかも知れない。
なれど、男は竜に連なる者。そしてこの架刑城の「王」たる者だ。
その頭上に浮かぶのは頭蓋を象った宝玉。霧の様に貪った者達の魂を纏う玉を通じ、男は全てを見ていた。猟兵達が城に至る過程も――女が彼等と戦い、物言わぬ屍になる過程も、全て。
女を「王妃」に据えたのは、単なる気紛れだった。「王」とは一国の主を差す言葉、男の本来の立場を呼称するモノではない。
その事を知らない女は、自分の事を王と呼んだのだ――勘違いを訂正してやる義理もない、そのままにしていたが、その後直ぐに忌々しい勇者達に封じられ、間違った呼称ではなくなったのは業腹であった。
封じられてからの日々は単調だ。忌々しい勇者達に、何より己の未熟さに苛立ち結界を破らんとする試行錯誤の毎日。
庭を造ったのはその中の一環でしかない。地中に封印の大元があれば破壊してくれる――その為に土壌を抉り、目論見外れて放置しておいたら、何を血迷ったのかアニェーゼは庭の手入れを始めたのだ。昔、自分の家でもこうして花を植えて育てていたのだと。
女よりも更に長い間、異形としての生を紡いできた男にはその感傷は分からないものであったが――ただ、隣に女が居て、静かに吹き抜ける風を感じる時間は、悪くはなかった。
言葉は交わさなかった、けれどただ隣に女は在った。
怖れと怒りに満ちたアニェーゼの顔に、それ以外の表情が浮かぶようになったのは何時からか。
隣に座っても怯えなくなったのは、
控え目に笑い返す様になったのは、
一体、何時からだったのだろうか。
その答えをもう知る事は出来ない――永遠に喪われた、それだけの事だ。
下半身に連なる竜が高く、鋭く哭く。近付く足音を告げる様に。自らの耳にも飛び込んできた多くの音に顔を上げ、男は嗤う。
「来い、脆弱なる魂共よ。精々俺を楽しませろ」
この胸にこみ上げる、形容し難い怒りを受け止める玩具となれ。
靴音は高らかに残響する。猟兵達が遂に侵入を果たした王の間は多くの死と怨念が渦巻くものだった。
壁や天井に整然と並ぶのは飾りでも甲冑でもない。十字に処された哀れな磔の贄達。
木乃伊の様にからからに乾いた四肢は、顔は、まるで亡者の様であったが――幽かに上下する胸が、その躰から立ち昇り、「王」へと吸い寄せられる魔力が僅かながらの生の気配を伝えていた。
間の最奥、悠然と腰掛ける異形は王座――良く見ればこれもまた亡者達だ。手足をまるで人形の様に畳み折られ、組まされその巨躯を受け止める「椅子」にされているのだ――から立ち上がる。
「ようこそ、脆弱にして勇敢なる魂共。この俺直々に出迎えてやろう――何だ、このインテリアが気に入らんのか?情緒が無いな」
多くの命を蝕み自らの糧とする悪行に顔を顰め、或いは怒りを露わにする一部の猟兵達に「王」は嗤う。
それがどうしたと。人が獣の命を奪い、毛皮を狩る事と何の違いがあるのかと。
「生きる為に命を奪うか?――違うだろう、貴様らは己を飾る為だけにも無辜なる獣を散らす。これは生命の連鎖に過ぎん」
何より――そう続け、宙に留まる宝玉から映像を映し出していく。
それはヒュム村の光景。猟兵達が突入した後も、尚諍いを続ける村人たちの姿。仲介に入った村長はあえなく突き飛ばされ、方々より悲鳴が上がる。
「ヒトは、醜くはなかったか?」
彼の村の住民達は、アニェーゼの言葉が正しければ「生贄を差し出し生き残った者」達の末裔。知らず、祖霊に胡坐を掻く者達。
「ヒトは、脆くはなかったか?」
助けられた2人の子どもに異形の目は注がれる。今も尚、深い、深い眠りより醒める気配の無い彼らを守る様に外套は彼等の身を結界で包み込む。
即ち、
命はあれども、その焔が燃え盛るか定かではない者達。
志はあれども、その身は土に還りし姿はない者達。
「――ヒトは、愚かではないか?」
映像は映らない、名前は出されない。けれど猟兵達はそれが誰を差すのかが分かった。――今は庭園に眠る「王妃」を名乗った者。
「貴様らの同胞は、貴様らが命を賭して守る価値はあるのか?」
王は告げる、その価値がないと断じるが故にこの「城」にヒトは不要であると。
「その脆弱さを憐れんでやろう、儚んでやろう。――来い、脆き魂共!そして散るが良い!」
「我は『覇竜皇帝ガイエス』!この身の位は「王」に堕ちども、我が覇気未だ衰えんものと知れ!」
巨大なハルバードを振い構える、それだけで巻き起こる俱風は――異形の強さが向上だけではない事を告げる。
戦いの火蓋が、斬って落とされようとしていた。
***
受け付け開始:断章投下後~
プレイングボーナス:魔力供給を行う「磔の贄」への対処、皇帝の問い掛けへの返答
※尽力しますが、一旦プレイングお返しとなる可能性が御座います。全採用させて頂きますので気にせず一度お送りください。リプレイ執筆完了後、弊猟兵よりお連絡させて頂きます
木常野・都月
俺は狐。
ヒトに狩られる立場だ。
野生の狐の寿命は約10年。
ほぼ100%が3年経たず死ぬ。
天敵である、野生動物と…ヒトに狩られるからだ。
貴方の言い分は凄く理解出来る。
でも、ヒトはそれだけじゃないんだ。
醜さも、脆さも、俺が貰ったよく分からないモノも、全て含めて「ヒト」なんだ。
いつか、俺が毛皮にされる日が来ても、それは別の問題なんだ。
既にヒトである貴方には難しいか?
でも、あまりヒトを馬鹿にするな。
UC【精霊の矢】を氷の精霊様の助力で使用したい。
敵のUCは[野生の勘、第六感]と[逃げ足]で回避を、ダメなら[オーラ防御、呪詛耐性]で凌ぎたい。
余力は[全力攻撃、属性攻撃]で追撃したい。
●
いつもは穏やかに揺れる狐尾が、ぶわり総毛立つのを持ち主である都月は抑える事が出来なかった。
それほどまでに、彼の異形の言葉は青年の心を逆撫でるものであったのだ。
「俺は狐。ヒトに狩られる立場だ」
絞り出された声は、知らず血が滲むような愛切の響きを帯びた。閉じた瞼の裏、込み上げる熱さを瞬きで散らす。
知恵を操り、鉄を武器とする人の前に、獣は脅かされる。それは認めよう。
「野生の狐の寿命は約10年。ほぼ100%が3年経たず死ぬ。貴方の言い分は凄く理解出来る」
俊敏な足と警戒心を持つ狐の命は、それでも尚瞬きのように一瞬だ。
人によって、或いは天敵である獣によって。彼らはその貴い命を奪われる。
その事を都月は、知識としてではなく、現実として知っている。
けれど――『それがどうした』
「醜さも」
宝玉を通し、争い合う人が見える、罵り合う人が見える。
「脆さも」
突き飛ばされたまま動かぬ人が見える、呆然とする人が見える。
それは、異形が言うように唾棄すべきものかも知れない。救いがないものかも知れない。
されど――人はそれだけではないと、都月は同じように現実として知っているのだ。瞼を開く。その瞳には――迷いの色はない。
「――俺が貰ったよく分からないモノも、全て含めて「ヒト」なんだ」
想い、思い出す。
優しい声、眩い笑顔、自分を友と、仲間と呼ぶ者達。あの日一緒に食べた屋台の味。
他にも、もっともっと、多くのもの。それらを何と呼ぶのか、都月は未だ知らない。
それでも宝物の様に、この胸の奥で確かに息衝いているのだ。
「いつか、俺が毛皮にされる日が来ても、それは別の問題なんだ」
きっと恨まない。
きっと後悔しない。
それほどまでに――大樹の様に根付き、揺ぎ無い思いなのだから。
「既にヒトである貴方には難しいか?」
「この俺をヒトと呼ぶか、貴様こそ舐めた真似をしてくれる――焼払ってやろう、骨の一片すら残らぬ様に!!」
「出来るものなら」
異形は嗤う、劫火の様に。その手に握るハルバードに炎の眼窩を持つ邪悪なる竜が寄り添う。
その異形なる足を曲げ、高く飛び上がったガイエスは裂帛の気合を持って斧鉾を振り抜く。
空気すら斬り裂くような一撃を、都月は前に走り出し身を投げ出す事で躱す。
その頬を掠めた斧鉾は都月に傷一つ付けない、けれど魂を削り取られるような虚脱感が青年を襲う。
けれど、その心は森の加護の前に守られる、それは獣として生きたが故の護り。
ぐらり、傾き掛けた躰を気力で立て直し、異形が振り向く前にその背に杖を差し向ける。
「精霊様、ご助力下さい」
逆巻く魔力は精霊の力強い返答。
―-ギィィィン!!
空気を軋ませる鋭い音と共に生み出されたのは優に300を超える氷の矢。
振り向いた異形は目を見開き、吹き散らさんとハルバードを振り上げるが――遅い。
斧鉾を振るう手に氷矢は殺到し、その身を凍て付かせる。噛み殺した悲鳴が異形から立ち昇った。
猛追は止まらない、時間差を伴い射出された矢の何本かを咄嗟に身を捻って躱すも到底全てを見切る事は出来ない。
「ああああああああああああ!!!」
針鼠の様に突き立つ氷の矢を前に、異形は今度こそ噛み殺せぬ悲鳴を上げる。
痛みに身を捩るガイエスに、更に都月は杖を構えて突撃する。その先に宿るのは先程、アニェーゼに向けて放たれた力――けれどそれよりも強く、揺ぎ無い虚無の闇。
「――あまりヒトを馬鹿にするな」
青年はその力を――人たる魔術師の全力を開放する。異形の身は闇の球体に包まれ、押し潰された。ぐじゅり、何かが砕け、漏れる生々しい音だけが響き渡った。
都月からは清涼な森の香りと――汗ばむヒトの体臭が交じり合う。
獣として生きた魔術師は、けれど確かにヒトの心もまた芽吹き、育っているのだと告げる様に。
成功
🔵🔵🔴
橙樹・千織
◎
目の前の光景に、瘴気に、玩具という言葉に
体内の霊力が暴れ回る
確かにヒトは醜く、脆く、愚かだ
だが、それだけではない
暖かく、優しく、愛おしい
傍にいるだけで安堵する存在にだってなり得る
穿った見方しかしなければ見える訳も無し
護る価値があるかどうかは知らぬ
ただ…放っておけば我が愛し子達に害をなす者は早々に潰す
攻撃には破魔を付与
知識を活かし、状況を見て時折空中戦へ
不要…ならば今繋がりを絶つ
高速詠唱で霊力の衝撃波を磔へ放つ
痛みに怯む暇は無い、一瞬の隙も許されない
多数の敵は範囲攻撃でなぎ払う
マヒ攻撃、呪詛も含む歌唱で隙を作り、急所を突く
お前のその怒りは…彼女を少なからず愛していたからでは?
魂の昇華を祈り歌を
●
千織は見渡す、遍くを。この城に眠るる邪悪を。
痛みと恐怖で悲鳴を上げたまま固まる磔の贄。
泥の様に濁り全てを穢す瘴気。
そして――その遍くを嘲笑う異形の皇帝。
無残で、残酷で、怒りで目の眩むような光景だった。
神子たる娘の身に宿る霊力もまた、その怒気に呼応するかのように揺らぎ、荒ぶる。蛍の様に霊力は舞い、空へと立ち昇っていくのが感じ取れた。
踏み出す足音は、固く鋭い。
「確かにヒトは醜く、脆く、愚かだ」
その事を知らぬ程、千織は無垢ではない。その業を知る機会もまた、残念ながら娘にはあった。
――けれど、それだけが人の一面でない事も知っている。
「暖かく、優しく、愛おしい……傍にいるだけで安堵する存在にだってなり得る」
――御前はその事を知っている筈だ、そう言外に告げる厳しい声音は、虚実を許さない。
巫女として、何より先の戦いで異形の縁を「視た」者として、千織には確信があった。
異形が今も懐に抱く懐中時計――その千切れ、空を彷徨う縁糸は、彼の王妃の瞳と同じ色をしているのだから。察するには充分だった。
「…分かったような口を叩くな、娘」
――その口、封じてくれる
どろり、濁った怒りを吐き出すと共にガイエスは指を打ち鳴らす。
――オォォォォォン!!
呼び声に応えるのは無数の兵、彼の者の覇道を踏み固める者達――その姿に千織は顔を歪める。兵達の顔は磔にされた者達と同一、魂を弄ばれる事が見て取れた。
血の涙を流す兵達は異形と同じハルバードを構え、一斉に突進する――真正面から打ち合えば娘の華奢な躰は瞬く間に肉片と化しただろう。
、、、、、 、、、、、、、、、、、、
――ならば、地を這う事を辞めれば良い
風がある浮遊岩ではその力を存分に発揮する事は出来なかった、けれども無風である今ならば、その背の羽は地の軛を物ともしない。
くんと開いた艶やかな鳶の羽根が羽ばたけば、娘の躰は空を征く。ハルバードが易々と届かぬ間合いまで飛び上がり、
「破!」
斬、斬、斬斬斬――!
幾重にも薙刀を振るう。放たれる刃は光の一閃。破魔の力を宿し、淡く輝く。
空をも揺るがす一撃は呪詛に縛られた兵達には救いであり、猛毒でもあった。斬撃で泣き別れた胴は繋がらず、唯溶けて消えるのみ。
「護る価値があるかどうかは知らぬ」
羽ばたきが止まり、地に戻りかけた足で手近な壁を蹴り上げ、乙女は再び空を舞う。その姿は戦巫女のそれであり――天女の様に幻想的ですらあった。
「ただ…放っておけば我が愛し子達に害をなす者は早々に潰す」
常はたおやかに微笑む千織の顔は、この城に踏み入ってからというもの柔らかさを得る事はない。
普段の彼女を知る者であればそれは驚きに値するだろう。けれど、普段の柔和な立ち振る舞いも、守護者として刃を取る事を躊躇わぬ姿も――そのどちらもが千織であるのだ。
ヒトは一つの側面だけを持つ者ではない、その事を体現し、娘は戦場に立つ。
そうして多面性を持つヒトの全てに守る意味があるかは分からぬ。けれど――自分が得た大事なものは、決して奪わせない。瞼の奥、ひらり桜が舞った気がした。
決意は、力だ。その身に誓いを擁く千織は地へと駆け降りる。風を切る中、その唇から滑らかに漏れる言の葉は不倶戴天の敵を戒める呪言。
「――お前のその怒りは…彼女を少なからず愛していたからでは?」
「違う、違う違う違う!愛なぞという弱き思いなど、我が身には要らぬ!!」
そして、異形の心をかき乱すもの。
動揺するガイエスは術中より逃れる術はない、その動きは僅かな時なれど岩の様に固くなる――戦場においては致命的なものだ。
薙刀を構え、舞い降りる千織の周りに椿花の様に淡く開く炎が寄り添う。
【剣舞・燐椿(ケンブ・リンツバキ)】で呼び出された炎は浄化の灯、急所を凪ぐ一閃に纏い、邪悪を焼き尽くさんと、一層花開く。異形の絶叫が響き渡った。
ふわり、落下の衝撃で舞い上がった千織の長い髪が外套に落ちる。ぬばたまから黎明へ――千織の色為す髪の様に、城を覆う暗がりが消えるまでは恐らく、もう少しだ。
成功
🔵🔵🔴
泉・星流
「磔の贄」への対処
どこまで出来るか分からないけど…
想像力が力の根源のユーベルコード…実現は可能と信じる
指定UCを使用…属性は【結界】
空飛ぶ箒を「磔の贄」へと放ち…周辺へと配置
【念動力】【オーラ防御】【拠点防御】【属性攻撃】(可能なら【範囲攻撃】も『範囲防御』…という形で使用)
無数の箒で魔力の結界を張り魔力供給を遮断
(【掃除】で結界内の「磔の贄」からの魔力を一掃し続ける)
十数本程、自分の周囲にも同様の結界を張り防御に専念
返答
確かに…人は醜く脆く愚かだと思う
(自分も守りたいモノ(妹達)の為なら、他者を犠牲にするかもしれない)
だから僕は醜く愚かでも守りたいモノを守る
それに人はそれがすべてじゃないしね
●
「確かに…人は醜く脆く愚かだと思う」
ヒトの醜さをあげつらうガイエスの言葉を、星流もまた否定しない。
綺麗事だけでは守れないものもある事を少年は知っている。そう自覚する自身もまた、守りたい家族に危機が迫るのであれば――あらゆる手段を講じてでも守る事は想像に難くない。
「僕は醜く愚かでも守りたいモノを守る」
それが例え、多くの人から認められない誓いだとしても。
それが例え、多くの人から謗られる誓いだとしても。
この手が血に塗れようとも――守りたいという想いは決して譲らない。
自分のみが価値の椅子に座る異形と、其処に大切な家族達を座らせる星流。
その在り様は似ている様で――決定的に異なるものだ。異形自身もその解離を感じたのだろう、詰まらぬと吐き捨てる。
「それに、人はそれがすべてじゃないしね」
「――もう良い。詰まるところ、貴様は大事な者の為に人理に立つのだろう。ならば俺の敵、それだけの事よ」
ならば、殺すか殺されるか――命の遣り取りの他に道はない。異形は疾駆する。その足に絡むように少年を睥睨する竜が唸る。怨嗟の声と共に腰だめに構えたハルバードより放たれるは魂を砕く一撃。
――ガァァァァン!!
まともに受ければひとたまりもない一閃を見切った少年は、愛用の箒に跨り、空を駆ける。先程まで留まっていた場所に降り降ろされた一撃は正確であり、強靭。火花が散り、異形の手元を一瞬、照らし出した。
それだけの衝撃を受けても尚、床には傷一つ付ける事はない。その異様な光景は魔力によってもたらされたものであろう。そしてその源は――
(――やっぱり磔の「贄」達か)
異形自身も語った通り、その力強さの一端は間違いなく哀れな犠牲者達の力。たなびく煙の如く、今も彼等から魔力は立ち昇り――異形の元へと集っているのだ。
魔術師である少年には、その流れが色付いて見えている。それほどの高純度の魔力の遣り取りは早々に断つべきだ、少年の勘はそう告げていた。
ならば、打つ手は。
(どこまで出来るか分からないけど…想像力が源のユーベルコードの力で…実現は可能と信じる)
『駆け巡れ…僕の変幻自在の箒達…』
紡がれる詠唱と共に現れたのは数百もの箒。少年の愛用する武器にも似た想像の使者達は、その意に従い贄達の元へと展開していく。
「何をするつもりか知らんが、無駄よ――!?」
「それこそ無駄…この力は…そんな生易しいものじゃない…」
異形の目が驚愕に見開かれる。箒を押し斬る、その確信を持って振り降ろされたハルバードは高い音を立てて弾き返される。その光景は、確か稀有であろう。
思い描く幻想を魔力によって現実たらしめるユーベルコードの力は、信じ続ける限り決して折れる事のない――正に魔法なのだ。
そしてその目的は魔力の隔絶だ。
最初の下準備を終えた星流は頬を伝う汗を拭う。散らばった箒達、それぞれを所定の場所に念動力で飛ばす作業は、数が数故に少年の体に少なからぬ負担を強いるものだった。
けれど、此処からが本番といっても過言ではない。少年は想像のかじ取りを変えていく――今度目指すのは云わば「結界の構築」。
今は未だ点と点に過ぎない箒より、光の糸を広げていく。流れ星の尾の様に煌き、それぞれが絡み合い回路を形成しているのだ。
眩暈がする、視界が霞む。その規模、緻密さは最早単なる魔術の域を超えたモノ――拠点魔術と言っても過言ではない。それをただの1人で行おうと言うのだ、そして糸を、更なる魔力で染める――四元魔術、防護術、それぞれが糸を通して融合していく。込み上げる熱いものは、鉄錆の味がした。
――結果は、見事実りを見せた。
ガイエスが箒の衝撃から立ち直り、星流を仕留めんと動き出す僅か数十秒の間に、少年は大規模魔術を行使し終えたのだ。
立ち昇る光の柱はあらゆる害悪を弾く力、それは異形の手で染め抜かれた者達から立ち昇る魔力もまた例外ではない。
リィィィィン……!
魔力は弾かれ、まるで鈴を奏でたかの様な音を立てて結界の内を彷徨い、反射する。邪悪なる魔力から解放された亡者達が月日の重さに崩れ、砂に還る様が見えた。
「貴様ァ!!」
猛り狂う異形が再び放つ、魂砕く刃は展開を見通して星流が残した箒達に阻まれ、届かない。
少年は汗で張り付いた髪を流し、薄く微笑んで見せる。
それは、少年の矜持が停滞する異形の意地を凌駕した事を示していた。
成功
🔵🔵🔴
テラ・ウィンディア
…何が正しいか解らねぇ
だが…怖いから逃げちまうのも解るよ
醜いって言うより弱さってのは誰だってあるもんだ
おれも蟲怖いしな!
脆いか
愚かかぁ…
昔さ…物凄い強い星々に覇を唱える騎士に何も考えず無策無謀に挑んだ阿呆がいたよ
そいつは無様に切り刻まれて地面に堕ちた
そんな阿呆が人を愚かと思うなんて事こそ愚かって奴だ
価値なんぞ知らん
そいつはおれらが決める事じゃない
そうだな
おれはあんたのような強者に挑み勝ちたいだけだ!
【戦闘知識・見切り・第六感・残像・空中戦】で飛び回り動きを把握して剣と太刀で暴れまわる
その上で多猟兵や己の斬撃が周囲に満ちた時
消えざる過去の痛み発動
これが…おれを打ち破った技だ!
斬斬斬斬斬斬斬斬!!
●
「…何が正しいか解らねぇ。だが…怖いから逃げちまうのも解るよ。醜いって言うよりさ、弱さってのは誰だってあるもんだよ」
幼くして戦場に立つ騎士――テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)は、けれどヒトの醜さ――その基盤となる弱さを糾弾しない。
戦う事の出来る者にも、怯え戸惑うしかない者にも弱さがある。そう告げる声は何処か優しい。
おれも蟲怖いしな、そう笑ってみせるテラに異形は嘲笑を返す。唯変わらぬ事、怯え惑う事も罪なのだと。
「奴らは生贄を差し出せば生き残れる、その事に馴染んでしまった。誰もが皆黒い羊である事に安堵し、否やを唱えた白い羊を贄とした――度し難い愚かさであろうよ」
「昔さ…物凄い強い星々に覇を唱える騎士に何も考えず無策無謀に挑んだ阿呆がいたよ」
――そいつは無様に切り刻まれて地面に堕ちた
「そいつ」が誰であるかは明かさぬ儘、テラは滔々と語る。今はない傷が疼く様で、けれど少女はひたりとガイエスに定めた視線を逸らす事はない。
「そんな阿呆が人を愚かと思うなんて事こそ愚かって奴だ」
「とどのつまりは傷のなめ合い、という事か?」
感傷なぞ無価値だ、そう斬り捨てる異形に少女は牙剥く笑みを見せる。
とん、と軽く地を蹴った足は瞬く間に加速し、異形の目前へと迫る。引き抜いた星の刃は鼓動の如く脈打ち、大剣へと姿を変える。
「価値なんぞ知らん、そいつはおれらが決める事じゃない!」
ガァァァン!!
咄嗟に異形が翳した斧鉾と星刃は打ち合い、火花を散らす。そのままテラは異形の腕を蹴り付け、空へと舞い上がる。
「おれはあんたのような強者に挑み勝ちたいだけだ!」
ギィィィン!!
返す手で抜かれた太刀は躊躇わずガイエスの首を狙うが、傾けられた斧の面で受け止められる。異形も歯を剥き笑う。
昂る血の、沸き起こる本能の儘に。目前の小さき勇者の胴を断つ、そう言わんばかりに。
「武人としてその意気や良し!ならば先ずはその命、奪うとしよう!」
返礼とばかりに振り抜かれた斧鉾は、刃を振り抜く勢いを利用してその身を逃がしたテラの前で空を切る。まるで暴風、余波で巻き起こる風に長い髪を散らされながら、テラは更に切り込んでいく。
ガン、ガン、ガァァァン!!
太刀、剣、剣、太刀、剣――斬撃は躍る様だった。角度を変え、死角をも活用し上から、横から叩き込まれる毛色の異なる刃は、異形の超常的な五感を持ってしても捉える事は難しい。苦渋を見せつつ、器用にハルバードを取り回して回避していたガイエスはしかし、遂に決定的な隙を晒す。
最後に叩き込まれたグランディアの形状を元の小剣へと戻し、繰り出された斬撃。今まで捌いてきた剣閃とは重心の異なる一撃を捌く事の出来なかった異形の手から、斧鉾が吹き飛ぶ。
機は熟した、争乱は充分に紡がれた。テラは意識を研ぎ澄ませ、異能を呼び起こす。それは先まで交わされた刃の軌跡、消え得ぬ後悔、その全て。
「これは我が悔恨…我が無念…おれを打ち破った技だ!」
斬、斬斬斬斬斬斬斬斬!!
嵐の如く吹き荒れる刃の前、異形の絶叫が、血飛沫が飛び散る――!!
成功
🔵🔵🔴
カーバンクル・スカルン
ああ、醜いね。村の先祖も奥さんも、自分たちがいかにして生き残れたのかに目を瞑って耳を塞いで口を閉ざして伝えないで……その結果がこれでしょう。みーんな自分勝手よ。
でも私の依頼主はそいつらじゃなくて外套の方さ。「ここに連れて行って欲しい」そして「あの子供達を助けたい」。ならそれを邪魔しようとするあなたを倒す、それだけの話。
【高速組立】で作った車輪を高速で走らせて敵の注意を引いているうちにこっそり、捕まっている人の拘束を破壊工作、部位破壊、メカニックで解きにかかる。もし通用しなかったら猿轡を噛ませて呪文を言えないようにして魔力の供給を断つ。
それが終わったら一転攻勢に移らせるよ。逃げてるだけと思うな?
●
「ああ、醜いね」
厳しい表情を浮かべるカーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)の言葉は端的だ。
「村の先祖も、奥さんも。自分たちがいかにして生き残れたのかに目を瞑って、耳を塞いで、口を閉ざして――伝えないで。……その結果がこれでしょう。みーんな自分勝手よ」
真にヒトであるのならば。良識を持つ存在で在りたいと願うのなら。
決して踏み外してはいけなかった道を逸れた者に、少女は心寄せる事はない。関わった誰も彼もが己の命惜しさに真実を隠蔽した。無辜なる命を見捨てた――其処に如何なる理由があろうとも、その醜さは許容されて良いものであるはずがない。
「ではヒトの娘よ、この結末を何とする。それでも醜き者の盾になろうといのうか?」
「――は、勘違いしないで。私の依頼主はそいつらじゃなくて外套の方さ」
嘲笑う異形に失笑を返し、カーバンクルはとん、とその華奢な背を覆う外套を指で叩く。「ここに連れて行って欲しい」そして「あの子供達を助けたい」――形は違えども、物を形作る者として。
少女はその声なき声を聴き、切なる願いを背負うと決めたのだ。
「ならそれを邪魔しようとするあなたを倒す、それだけの話」
「ならば――叩き斬ってくれる!!」
炎を纏う王は駆ける。己の正気を代償に踏み出したガイエスは、その巨躯を感じさせない俊敏さで少女へと迫る。けれど、知性無き獣に堕ちた身はむしろ少女の掌の上。
背負った道具箱の蓋をぱちんと外し、その手は幾つもの工具を視る事もなく取り出す。指は神速、技巧の儘縦横無尽に動き出す。
「スクラップビルダーの手際をなめんな!」
吼える少女の前に生み出されたのは己が背負う車輪の拷問具、その模倣。
――ギィィィィィ!!
宙に幾つも浮かぶ車輪は回転し、四方へと散らばっていく。止まった時間を動かすかの様に――否、事実カーバンクルの狙いは贄達、幾年の時を経ても尚囚われたもの達。吼え狂う獣の振るう斧鉾の前に幾つかの車輪は砕かれ、光となって消える。けれど、その数を上回る車輪が駆け回る。苛立ちに満ちた咆哮が響き渡った。
しかし、それは唯の陽動。気を取られる獣の傍らをスライディングし駆け抜けた少女は贄を掲げる枷へと取り掛かる。
(錆びても痛んでもいない――封印は時間を止めていた?)
そのまだまだ真新しいと思われる手応えに眉を顰める。けれど手は止まる事はない、金属板すら易々と断ち切る金切鋸は瞬く間に枷を解体していく。その手際は正にスクラップビルダーといった風情であった。
その卓越した技術の出所は不明、けれど培った力は決して持ち主を裏切らない。瞬く間に四肢全てを解き放たれた贄は――けれど、その鼓動を止めた様だった。地に崩れる事すら叶わず、塵へと変わり風に吹かれ消えていく。
戦時においては致命的とも成り得る数秒、けれどカーバンクルは黙とうを捧げた。その結果は予見し得た事だ、けれど誰かが為すべき事でもあった。
今更嘆きに目を曇らせはしないが――想いを背負う者として、払うべき敬意であると感じたのだ。
獣は吼える、自分の力が弱まる事を確かに感じたのだろう。その原因である少女を本能的に察し、少女を駆逐せんと斧鉾を構え突撃してくる。
けれど、カーバンクルは無力な贄ではない。高らかに鳴らした指と共に、残った車輪はガイエスへと殺到する。
「いがあああああああああああ!!!」
「――逃げているだけだと思うな?」
車輪が為した事は四肢の拘束でなかった。異形の身に喰い込み、その肉を貪る事――その切れ味は血の華を咲かせ、内側に納められた桃色の肉を空へと晒す。
獣の口から零れる夥しい血が降り注ぐ、びしゃりと湿った音が鼓膜を揺らしていく――!!
成功
🔵🔵🔴
水標・悠里
人は醜く、脆く、愚かです
ですが命を賭して守る価値はあります
人殺しの分際でどの口が言うのかとお思いですか
ですがこれが私なのです
他の方が救出に当たられるのなら可能な限りガイエスの注意を引きましょう
痛みなら多少は耐えられます
回復などはお気になさらず
王の位に飽き足りないのなら、地獄の王にご挨拶なさっては如何でしょう
はて、その攻撃で私に傷を負わせられますか
悪鬼羅刹と罵られるのは慣れております
どうも私は壊す方が得意なようです
だから何も残らなかったのでしょう
呼び寄せた死霊達が消えた時は呪殺の魔弾で攻撃します
何よりも悪戯に人の命を奪う輩は腹に据えかねますので
この身に納めた祈りは、王妃共々彼の世へと送りましょう
「人は醜く、脆く、愚かです」
――ですが命を賭して守る価値はあります
水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)の足音も、告げる音もさやかで。けれど異形には随分はっきりと聞こえた様だった。その口から洩れるのは苛立ちを含んだ呼気だ。
ガイエスは全てを視ていたわけではない、けれど悠里を取り巻く魔力の残滓には覚えがある――あまりにも馴染み過ぎていた女のそれだった。罵声はない、最早怒りを象る事すら出来ない程に、異形の心は逆巻き波立っていたのだ。
「人殺しの分際でどの口が言うのかとお思いですか」
その表情を見て取る少年の顔は静かだ。異形が思い起こした女をまた、少年も思いを馳せる。異なる信義を持った彼女は今、何処へと向かっているだろうか。その道に随伴する者はいるのか、それすら分かりはしないけれど――
「ですがこれが私なのです」
慙愧の念に囚われる程、弱い意志ではないのだ。眼差しは凪いで、獣の覇気を前にしても揺らぐ事はない。
燃え盛る様な呼気は吐き出された。ガイエスは牙を剥き、その身には炎の化身の如き竜を纏う。
「――ならば!その信念の儘果てるが良い!!」
正気は手放された、代わりに尋常ならざる力を得た異形は駆ける、駆ける――憎き少年の元へ!その心臓を抉り取る為に!
対する少年の口元に浮かぶは微笑――けれど、鎧う様に釣り上げられた弧をたおやかと呼ぶ者はいないだろう。
「王の位に飽き足りないのなら、地獄の王にご挨拶なさっては如何でしょう」
腹に据えかねているのは悠里とて同じ事。血臭漂う肉色の玉座が目に入る。
幾つもの腕が折り重なっていた。
幾つもの足が絡まり合っていた。
幾つもの顔が――苦痛に歪んでいた。
まるで木々を組むかの様に捻じ曲げられたヒトは、かつてはそんな未来が待ち受けるとも知らず、幸福の儘に微笑んでいたのだろう。
無辜なる生を歪めた代償は、必ず支払わせる。意を決す少年の口から紡がれる呪言は魂呼ばう言ノ葉。
ゆらり、蝶は揺らぐ。羽搏くかの様に巻き起こる黒の鱗粉――否、燐光から生まれ居づるのは2人の鬼剣士。
ガイエスの踏み出す勢いで流麗な赤の床は砕ける。巻き起こる石片を物ともせずに突っ込んでくる異形を迎え撃つのは羅刹の妖剣士。高速で振り下ろされる刃を屈んで躱し、膝突く姿勢から高速の抜刀。鍔鳴る涼やかな音と同時に噴き出す血は噴水の様。
苛立ちの儘、叩き潰すかの様に下段に振り降ろされた一撃に応じるのはもう一柱の霊――羅刹の剣豪だ。
振り下ろされた刃を真っ向から受け止め、弾き返せばがら空きとなった胴を返す刃で袈裟斬りにする。二度、抉り込むような白刃を受けた異形は胴の半ばまでを露出するに至った。湿った音を立てて、収められていた筈の内臓が滴り落ちる。
「悪鬼羅刹と罵られるのは慣れております――どうも私は壊す方が得意なようです」
――だから、この手には何も残らなかったのでしょう
すり抜けたモノは自分の柱。人という文字さながら支え合ったあのひとがいなくなった時から、この手は滅びを謡うのだ。
大成功
🔵🔵🔵
杜鬼・クロウ
◎
王討伐最優先
磔の贄は絶対見殺しにせず
脅威を最短で片付け救助
王の言葉に王妃の最期を浮かべ軽く目を伏せ
再び王見据え
俺の力は誇示する為に有る訳じゃねェ
俺が人の器を得た起源に誓って
テメェの物差しで人の価値を、無限の可能性を否定すンじゃねェよ
お前の目には醜く脆く映るか
確かに人もまた諍を繰り返し皆が皆相容れる訳じゃねェ
簡単に散る儚い命
だが俺は有限の美をも感じる
人の尊さを…故郷で教えて貰ったから
故に其の問いと共にお前を俺の剣が打ち砕く
比翼の絆を着用
【沸血の業火】使用
数多の軍勢より速く潜り抜けジャンプ・見切り
力のぶつかり合い
火と大地の精霊属性の混合技で砂嵐舞う灼熱の焔を玄夜叉に宿し2回攻撃
王の鎧ごと部位破壊
シン・バントライン
◎
人は醜く、脆く、愚かで、なのに儚く哀しい生き物だ。
でもだからこそ愛しくも思う。
隣に居る友人はどうだろうか。ツクモガミとは儚く哀しい生き物が託す唯一の希望の様にも思う。
「私も醜く愚かで非情な…そんな生き物です。どうかお赦しを」
赦しを請うのは当然ガイエスに対してでは無い。
UCで宝珠を牡丹の花弁に。
贄と亡者、花弁で盾を作りながら助かる見込みがあるかどうか、先程の経験を信じて見極める。
助からないという判断をした者は剣で首を飛ばし介錯を。
これ以上、魂が傷付く事はあるだろうか。
最後は剣も花弁に変え、ガイエスの死角で剣に戻し心臓を狙う。
全部終わったら花を愛する人の元へ帰りたい。…これは過ぎた望みだろうか。
●
(人は醜く、脆く、愚かで、なのに儚く哀しい生き物だ)
――でもだからこそ愛しくも思う
それがシン・バントライン(逆光の愛・f04752)の答えだ。人の魂、その全てが清らかであるとは言えず、時に想像を絶する残虐さを発揮する事も珍しくはない――けれど、100年も経てば罪人も、聖人も、それ以外の者も、等しく墓標の下だ。
偏に風の前の塵に同じ。正に諸行無常だ、けれどその儚さも含めて――愛おしいと感じるのだ。
しかしそれはシンの気持ちだ。隣に立つ友人、険しい顔を隠さない杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)の答えは如何なる程かと横目に窺う。
どんな答えも又、この縁を揺らしはしないが――心優しい友の重荷になりはしないか、それだけが気掛かりであった。
欠けたる皇帝の問答を受けたクロウは、彼の者の面差しに過ぎる憎悪に一時、痛みを堪えた表情を見せる。瞑った眼差しの下、大嫌い、そう吐き捨てた女の哀しい笑みが過ぎった。
――けれど、再び開いた眼差しに過ぎるのは強く、固い決意。巨躯である異形に一切の怯懦を見せる事はない。その整った顎をくんと上げ、睥睨する。
「俺の力は誇示する為に有る訳じゃねェ、俺が人の器を得た起源に誓って。テメェの物差しで人の価値を、無限の可能性を否定すンじゃねェよ」
人の手で大切に奉納され、やがて人の姿を得るに至った者――ヤドリガミの青年はその在り様に背く事なく、眩い程に真っ直ぐだ。
静かに、けれど相反する苛烈なまでの意志を伴って吐き出された言葉に、真っ直ぐ駆け出す姿に、今度はシンが目を伏せる番だ。
ヒトは朽ちる、程度の差こそあれどもそれは覆せぬ定めだ。けれど、それでも遺せるモノはある。
朽ちて倒れた木から、また花が芽吹くように。星がやがて、巡る様に。
友人はその体現であるのだと、そう伝わったから――ならば自分もヒトとして為すべき事を為さねばならない。
「東風不爲吹愁去、春日偏能惹恨長…我が心を春嵐と成す」
シンの言葉が零れた刹那、自らの宝珠は綻ぶように、無数の椿へと姿を変える。触れる者全てを斬り刻む春の訪れは、けれど贄達と異形を隔絶する為に舞う。その在り様はまるで春の嵐の様だ。
椿の向こう、激しく切り結ぶ異形と友に踵を返し、向かうのは贄達の元――救える者を救い、救えぬ者を救済する為に。
「お前の目には醜く脆く映るか」
「嗚呼、むしろ醜いとしか形容出来ぬではないか!弱く、醜悪で無数に蔓延る――害虫よりも尚性質が悪いわ!」
ギャアアアアアアン!!
降り注ぐ椿の中、クロウの玄夜叉とガイエスの斧鉾は激しくぶつかり合い、火花を散らす。その膂力は拮抗し、咬み合った刃は激しく震える。手首を柔く捻り、異形の刃を撫ぜる様にずらし、いなした青年は再び正眼に剣を構える。
「確かに人もまた諍を繰り返し皆が皆相容れる訳じゃねェ、だが俺は有限の美をも感じる」
――それは図らずしも、シンの出した結論と同じ物。
醜く、愚かでありながらも裡に可能性を秘めたヒトを肯定する。口にする事は簡単だ。けれどそれを芯から信じ、実践出来る者は一握に過ぎない。
簡単に散る儚い命、けれどそれこそが美しいのだと――そう思えるような人の尊さを、故郷で教えて貰ったから。クロウは揺るがない。
「所詮は貴様もヒトよな、ならばその幻想を擁いた儘――死ね!!」
「やってみろよ、「裸の王様」!!」
その魂、砕けよと異形は無数の亡霊を呼び出す。幽谷を吹き抜ける風の様な、おどろおどろしい声が命無き者達から零れ落ちた。
命弄ぶ業に対抗するのは「沸血の業火」。喪われる血に眩暈を感じるも、クロウに刻まれし年月が彼を超克たらしめ、眠る迅を喚び覚ます!
駆ける様は韋駄天、縮地の踏法で瞬く間に異形の前に現れた青年は砂嵐舞う灼熱の焔を玄夜叉に宿し、一閃を見舞う。滾る溶岩の如き力は、異形の身に喰い込み、その肉を断つ傍ら傷口を焼き尽くす――最早再生は出来まい。
異形の絶叫に呼応する様に、周囲の兵士もまた牙を剥く。突き出された槍は無数――けれど、その穂先がクロウに届こうとした刹那、そうはさせないと言うかの様に空へと彼を押し上げるのは比翼の外套。
その身に魂は無い筈だった、ならば外套を突き動かしたモノは――驚愕に目を瞠る青年の目には、けれど周囲を漂っていた筈の魂が宿っているのを感じた。
助けてと、救ってくれと願う祈りは届いた。空へと舞い上がったクロウは再び地を目指す、強靭なる矢の如く。
「――此れがお前が軽んじた、ヒトの力だ!!」
「あがあああああああああああああ!!!!!」
再び振り抜かれた剣は、異形の腕を斬り飛ばす!
(この人もあかんかった……)
シンは覆面の下、歯噛みする。これまで幾柱かの贄を磔から解放したシンであったが、今のところその全ては最早手の施しようがない状態であった。
「私も醜く愚かで非情な…そんな生き物です。どうかお赦しを」
どうか、せめて来世では幸福な生を。祈り込めて振るわれる剣は速やかに贄の命を刈り取る。
シンには覚悟があった。救うべきを救う事にも、助からざる命に責任を持つ事にも。贄が単に囚われただけであれば、彼の祈りは間違いなく届いたでろう。
けれど、気の遠くなるような歳月を過ごした贄達には最早、彼等自身の力で命を繋ぎ止めるだけの生命力が残されていなかったのだ。明暗を分けたのは、年月という残酷な現実。或いは、治癒の奇跡を齎す力があれば――だが、そうすれば救命に赴く事すら敵わなかったであろう。歯噛みは止まらない。
救いがあるならば、シンの手で介錯された者達が一様に穏やかであった事だ。誰もが怨んでなどいなかった、むしろ苦痛から解き放たれた事を喜ぶ様であった。
(後は――)
ちらりと振り返れば、苛烈極まりないクロウと異形の切り結びに横槍を入れる者――無数の呼び出された兵士たちが目に入った。椿の花を彼等の元へ向かわせ切り刻む。
クロウが練達の猟兵であるとはいえ、戦い通しである事も加味すれば、恐らく単独で戦うのはそろそろ厳しいだろう――同じ様に贄の救援に動く猟兵の姿が目に入った、後は彼に任せるより他にないだろう。
(これ以上、魂が傷付く事はあるだろうか)
弄ばれ、そして親しい者に見送られる事もなく消える――目に余る魂の冒涜であった。
煮えたぎる様な怒りは、シンの思考を研ぎ澄ませる。異形は友人との戦いで手傷を負っている様であった。最早花弁に頓着する余裕さえない、ならばそれこそが好機。
剣を花弁に変え、異形の元へと舞わせる。慎重に狙いを定める、恐らく機会は一度きり。戦況を見守るシンの前で、遂に事態は大きく動き出す。
クロウの裂帛の気合を込めた2撃目を受けた異形はぐらり、大きく傾く。刹那、その頭上で花弁を再び剣へと戻す。加速度的に剣は落ちる、ガイエスの心の臓を狙って!
重い物を突き破る湿った、鈍い音が辺りに響き渡った。異形は大きく痙攣し、ずううんと大きな音を立てて地に臥せる。
(全部終わったら花を愛する人の元へ帰りたい。…これは過ぎた望みだろうか)
愛おしい人が微笑んでくれる、そうすればこの胸の蟠りも消えるような気がして。シンの目の前、椿が柔らかに降り注いだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
桜雨・カイ
できるだけ贄の人は助けよう動く、けれど…
自分が出会った人は皆優しくて
人は優しい存在だと、そう思っていた
でもそれだけではないのだと、気付きはじめてしまった
返す言葉が思いつかない
それでも…それでも…
王妃が教えてくれました
確かに人は綺麗なだけの存在ではない
でも…暗闇のような中に、光を宿すこともあるのだと
例え愚かでも脆くても
守りたいと思う人の願いを、守りたいと思うんです
真の姿解放し【援の腕】発動
(きっと王妃が世話していた)庭をみて
あえて、あなた(王)に問います
「ヒトは、温かくはなかったですか?」
贄や王座の人達を浄化し王への魔力を断ち切ります
自分がしなければ誰かが代わりに
ならば覚悟をきめて自分がやります
●
仲間達は異形を恐れない。勇敢に、或いは果敢に戦いを挑んでいくのが桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)には良く見えた。
剣閃が、光が、無数の亡霊たちの呻きが交差する。玉座を揺るがす程の衝撃に足を取られながらも目指すのは磔の贄達。戦うのとは別に、助ける為に動く仲間がいるのが目に見えた。カイもまた手近な贄を磔から外そうと十字架に取り付く。
しかし澱みなく器用に動く指先とは裏腹に、その心には重苦しい霧の様な感情が付き纏う。
(自分が出会った人は皆優しくて、人は優しい存在だと、そう思っていた)
暖かく降り注ぐ陽光の様な、いつまでも浸っていたくなる温もり。そんな気持ちばかりを友は、仲間は差し出してくれたから。
信じていたのだ、ヒトはその全てが綺麗なもので出来ていると――けれど、それだけが真実ではない事に気付いたのだ。気付いてしまった。
それは衝撃的で、異形に返す言葉も咄嗟には出てこなかった。崩れた世界の片隅、自分は未だ其処に立てるべき御旗を見い出せずにいる。
けれど、けれども。この戦いの中で気付いた真実は必ずや伝えねばならない。その源は――彼の王妃であるのだから。
「駄目、なのですか――」
枷から解き放たれた贄は――けれど、最早1人で息をする事すら儘ならない様だった。四肢を解き放たれた刹那、巡る魔力もまた消え失せて――静かに息を引き取っていく。
青年は項垂れる。この手はまた救えないのか、そう悔む気持ちは安息だ。気持ちよく浸ってしまえば浮かんでは来られない自己憐憫の闇。
――だからこそ、浸るわけにはいかない。
握った掌の痛みで己を鼓舞した青年がその頭を上げれば、目の前には静かに、己の中の命のほとんどを失いながらも佇むガイエス。その身に戦う力は殆ど遺されていないのだろう、けれど異形は――執念としか言えぬ意地で立ち続けていた。
「まだ、戦うのですか」
「……一矢報いる事も叶わず、ただ全てを喪えと言うのか!脆弱なる魂共に負けて!何一つ残す事も叶わずに!――報いる事も出来ずに!!」
(嗚呼、やはりあなたは……)
魂を燃やす様な異形の叫び、その言葉尻は哀惜に揺れて――きっと、彼の者は断ち続けるのは自分の為ではなかった。決して矢印は向き合う事はなかったのだろうけれども。
今までの戦いの蓄積、その全てを己へと差し向ける。真の姿で降り立ったカイは光を纏う。全てを許し、抱き締める様な光の腕を。
「ヒトは、温かくはなかったですか?」
今は遠き、王妃の眠る庭に視線を遣って。静かに問う声に異形はびくりと肩を震わせる。
「知らぬ、知らぬ――知るわけには、いかぬ!!」
例え知ったところで、もうこの手に抱く事は叶わないのだから。
その答えでは、誰もが浮かばれぬ。だから青年は、危険を承知で異形の傍へと一歩、一歩、歩みを進め、掲げる光の手を異形に添える。
「王妃が教えてくれました。確かに人は綺麗なだけの存在ではない。でも…暗闇のような中に、光を宿すこともあるのだと」
異形は目を見開く。自分と同じ高みに誰もいないという事は――恐ろしい程の孤独だ。けれど異形はその事を知る事のなかった。生まれながらにして孤独と共に在った異形は、その事を自覚する事はなかった。
けれど、王妃は違った。怖れ、慄き、王を嫌悪しながらも――それでも王自身を知ろうとした。だから、満たされたのだ。皇帝でいられなくなっても、窮屈な箱庭の中でも。
――王妃が、アニェーゼが笑っていたから。光は瞬く、優しく、けれども激しく。カイの表情が苦痛に歪む。掌を通して伝わる、今死に至らんとする彼の者の肉体の痛みが、心の痛みが彼を蝕んだ。けれど――その手は決して離れる事はなかった。
光の中、異形は嗤う。口の端から零れる血を感じながら。
「嗚呼、そうか――ヒトは、温かかったのだな」
その事を教えたのはカイ――そして、自らが戯れに隣に据えた――。
異形は目を閉じたまま、二度とは起き上がる事はなかった。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年01月02日
宿敵
『覇竜皇帝ガイエス』
を撃破!
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