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シアタァインフェルノ

#サクラミラージュ #逢魔が辻

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#サクラミラージュ
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#逢魔が辻


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●シアタァ最後の日
 帝都のとある一角に、内山田シアタァなる劇場がある。
 この劇場は老朽化が進んでおり、近々取り壊される予定になっていた。シアタァの支配人である内山田伊助は最後の公演を開く為に、中堅どころの歌劇団を招いた。
 長年、内山田シアタァに慣れ親しんできた近所の住民らは、最後の公演を観劇する為に知人友人を誘い合わせて、続々とシアタァに足を運んできた。
 ところが、この最後の公演がまさかの獄炎地獄と化そうとは、この時、誰も予測していなかった。

 数時間後、燃え盛るシアタァを前にして、内山田支配人は呆然と立ち尽くしていた。
 周囲は帝都警察や消防が全ての道という道を完全封鎖し、消火活動に取り掛かろうとしている。だが巨大な炎に包まれたシアタァ内には、まだ大勢の観客が逃げ遅れたまま、取り残されていた。

「何とか……何とか、皆さんを助けてあげて下さいッ!」

 消防団員に取りすがる内山田支配人。しかし、その消防団員もどうすればこの劫火の中から、大勢の観客を救い出すことが出来るのか、到底分からない。
 内山田支配人も、そして消防団員達も、ただ絶望の中で消火活動を進めるしかなかった。

●ひとびとを救出せよ
 グリモアベースの狭いブリーフィングルーム内で、アルディンツ・セバロス(ダンピールの死霊術士・f21934)は小難しい顔を猟兵達の前で披露していた。

「火災の中からひとびとを助けながら、影朧の群れと戦う。こりゃあ、中々面倒な話だよ」

 曰く、劫火に呑まれた内山田シアタァの観客席には、二十名近い観客やスタッフが取り残されているとの由。彼らを救出する為に、炎に包まれるシアタァ内へ猟兵を送り込むこと自体は然程に難しくはないらしい。
 寧ろ問題は、その後であろう。

「珍しいケースだけど、炎に巻き込まれたことで初めてこのシアタァは逢魔が辻と化したみたいだね」

 その為、外部で消火活動に勤しんでいる消防団員らはシアタァ内部に影朧の群れが出現していることなど、全く知らないだろうということである。
 もし逢魔が辻化が分かっていればもっと違った手段を取っただろうと、セバロスは付け加えた。

「だから、君達にやって貰いたいことは避難路の確保と避難誘導。それから、避難を妨害しようとする影朧の撃退……いうのは簡単だけど、実際にやってみるとなると、相当に厄介だと思うよ」

 それでも、行って貰わなければならない。
 セバロスの神妙の声音に、猟兵達も覚悟を決めるしかなかった。


革酎
 こんにちは、革酎です。

 ちょっと間が空きましたので、シンプルな内容で、と思ったのですが、逆に面倒臭いギミックを用意してしまいました。
 状況は、本文に書かれた通りです。
 火災に呑み込まれたシアタァ内からひとびとを避難させつつ、影朧を撃退して下さい。逢魔が辻と化している為、若干脱出し難い状態になっていることを追記しておきます。

 第一章は、避難経路を造りながら影朧の撃退。
 第二章は、避難誘導しながら影朧の撃退。
 第三章は、崩れ落ちるシアタァ内でのボス戦です。
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第1章 集団戦 『夢散り・夢見草の娘』

POW   :    私達ハ幸せモ夢モ破れサッタ…!
【レベル×1の失意や無念の中、死した娘】の霊を召喚する。これは【己の運命を嘆き悲しむ叫び声】や【生前の覚えた呪詛属性の踊りや歌や特技等】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    私ハ憐れナンカジャナイ…!
【自身への哀れみ】を向けた対象に、【変色し散り尽くした呪詛を纏った桜の花びら】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    ミテ…私ノ踊りヲ…ミテ…!
【黒く尖った呪詛の足で繰り出す踊り】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。

イラスト:前田国破

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

椿・サザンカ
内山田シアタァ殿にはわたくしもずいぶんとお世話になりました。この一大事を放っておくことはできませんわ。
【存在理由】で以て、対象「炎」に問う。「貴殿、いずこから生まれ来た?」。手にした書物(海洋冒険譚)の中から召喚するのは津波。冒険者の船を飲み込まんとする役割を与えられた大波がシアタァを包む炎に覆い被さって消し去ってくれますよう。対象以外に効果はないから中にいる方々は大丈夫。これで避難経路は確保できたかな……。炎の消え方や残滓で問いの答え(火元)も判りませんかしら。
続いて対象「影朧」に問う。「貴女方の心残りは何?」。同じく召喚した大波で影朧の身動きと攻撃を阻害しますわ。



 椿・サザンカ(散華の召喚癒士・f24088)にとって、内山田シアタァは憩いの場でもあった。
 桜の精の割には神秘性を伺わせるオーラを放つこともなく、人間的な生活の中で、自身の存在意義に疑問を抱くことも少なくなかった。
 そんなサザンカにとって、内山田シアタァで過ごすひと時は、本当に心休まる空間だった。
 その思い出のシアタァが今、紅蓮の劫火に包まれている。サザンカの胸中には先ず、悲しみの念が込み上げてきた。だが彼女は猟兵でもある。この事態を放置しておく訳にはいかなかった。
「おぉ、サザンカちゃんッ!」
 観客席内に突入した時、サザンカを呼び止めた者が居る。舞台調整係の金山爺さんだ。よく観劇に訪れていたサザンカのことを知る人物のひとりだ。
「金山さん、お怪我はありませんか?」
 他の観客やスタッフらは観客席の中央に寄り集まっていたが、金山爺さんは脱出路が無いか、あちこち走り回っていたらしい。深い皺が刻まれた額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
「外は一体、どうなっておるんじゃね?」
「余り大きな声ではいえませんが、もう完全に火の海です……ですが、ご安心下さいませ。わたくしが何としてでも、皆様を外へお連れして進ぜましょう」
 それだけいい残して、サザンカはロビーへと走り出た。玄関ホールは猛火に覆われ、とてもではないが走り抜けられるような状況ではない。
 サザンカは手にした書物を開き、さざ波の様に声を震わせた。
「貴殿に問う……貴殿、いずこから生まれ来た?」
 開いているのは、海洋冒険譚だ。開け放たれた項から、白く泡立つ飛沫が迸り、大量の水が巨大な蛇の如くのたうち、真紅に燃える灼熱の壁や天井を一気に舐めた。
 それは冒険者の船を呑み込む大海原の、絶対的な力。大波の連続がシアタァ全体を包む炎に襲い掛かり、全てを消し去ってくれる筈。
 ロビーから玄関ホール一帯を埋め尽くしていた炎の壁は、確かに消え去った。
 これでいける──そう思った次の瞬間、どういう訳か、再び炎の壁が左右から噴き出し、サザンカの目の前に劫火という名の猛獣が立ちはだかった。
 だがこれで、サザンカは確信した。この炎は既に逢魔が辻そのものと一体化している。一度消しても、逢魔が辻自体を消滅させない限りは完全には消すことが出来ない。
 その時、背後に何かが蠢いた。サザンカは振り向きざまに問いかけた。
「貴女方の心残りは、何?」
 サザンカはそこに影朧の群れが居ることを、咄嗟に見抜いていた。夢見草の娘が、そこに居た。
 おぞましい姿の敵は花吹雪を迸らせ、サザンカに多少の打撃を与えたが、しかしサザンカは仁王立ちのまま、びくともしない。
 サザンカは再び、問いかけた。大波が目の前の夢見草の娘を一気に押し流した。だが、夢見草の娘は、ひとりではない。左右からじわりじわりと、宙空から滲み出るように数を増やしつつある。
「サザンカちゃんッ! 何か、化け物が出てきたぞぉッ!」
 観客席の方から、金山爺さんの悲痛な叫びが響く。
 サザンカはぐっと奥歯を噛み締めた。敵の数が多すぎる上に、炎がいよいよ、観客席内に侵入し始めていたのである。
 事態は、一刻の猶予も無かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アイ・リスパー
「逢魔が辻と化した燃えるシアターですか。
これは一筋縄ではいきませんね」

劫火に包まれるシアターに転移し次第、
【マックスウェルの悪魔】で氷の壁を展開。
シアターの外に向かってトンネル状に氷壁を作り避難経路としましょう。

あとは影朧の討伐ですね。
この逢魔が辻にあらわれている影朧は転生するほどの理性はなさそうです。
ならば遠慮はいりません。
人々に害為すオブリビオンは骸の海に還すまで!

【マックスウェルの悪魔】による炎の矢で影朧を攻撃します!

「哀れみですか……
残念ですが、あなたたちのように意思も持たずに暴れるだけの
オブリビオンにかける情けなど持ってはいません!」

敵が放ってきた花びらごと焼き尽くします!


天花院・祝
炎に呑まれて
逢魔が辻と化すとはな

……人は嫌いだ
だが見捨てる理由にはならん
拾ってやろう その命

シアタァに入り込み
逃げ遅れた一般人を探す
観客席以外に逃げ隠れているかもしれん
声を掛け所在を探る

一般人を保護したら
外套を被せてやってから
『悪魔召喚「アスモデウス」』

火には火を、だ
悪魔に行く手を阻む炎を操らせ
且つ一般人に火の手が及ばぬよう
最短ルートの避難路を確保する
…安心しろ 後で好きなだけ暴れさせてやる

現れた娘には櫻狩を抜いて応戦
どんな踊りを舞うにせよ足は二本
見切って躱し
呪詛を乗せた刃で斬り返す
私にその程度の呪詛が効くと思ったか

複数人に囲まれたら
貴様の出番だ、アスモデウス
娘たちと好きなだけ火遊びするがいい



 ひとは、嫌いだ。
 天花院・祝(病ミ櫻・f22882)はオレンジ色に炙られる廊下をひとり静かに歩みながら、静かにかぶりを振った。
 嫌いではあるが、しかし、それだけで無力なひとびとを見捨てる理由にはならない。
 左右でぱちぱちと火花が爆ぜる。どこかに、逃げ遅れた一般人が隠れているかも知れない。無数の影朧が出現した中であれば尚のこと、恐れをなして姿を隠そうとするだろう。
 それは当然の心理だ、と祝は思う。
 色白の肌が炎を浴びて、僅かに赤みがさしている。美しさを通り越して、艶やかでさえあった。そんな祝の容貌に吊り出されたのか、楽屋に通じる廊下の奥から少年がふたり、飛び出してきた。
「た、助けにきてくれたのッ!?」
 子供らの弾んだ声に、祝は黙然と頷き返す。廊下の奥に、影朧の姿が見えた。
 祝は漆黒の外套を脱ぎ、子供らの頭に被せてやった。同時に、黒鉄の脇差を抜き放つ。
「来たれ、獄炎の悪魔」
 祝の静かな声音とは相反するように、全身を煉獄の炎に包んだ恐るべき魔神が宙空から滲み出るようにして姿を現した。
 子供らは一瞬怯えた様子を見せたが、目の前の魔神が自分達を襲わないことを知ると、すぐに目を輝かせ始めた。
 祝がさっと左手を伸ばすと、魔神はきらりと真紅の瞳を煌めかせた。すると、それまで廊下の前後左右でのたうち回っていた炎の群れが、一斉に後退し始めた。
「……安心しろ。後で好きなだけ暴れさせてやる」
 祝の声は、行く先を捻じ曲げられた炎に向けて放たれたものであったが、子供らには何のことかよく分からなかったらしい。
 その間にも影朧が、祝との間合いを詰めてくる。たった一体ならば魔神の手を借りるまでもない。
「どんな踊りを舞うにせよ、脚は二本」
 影朧よりも更に速く、祝は駆けた。夢見草の娘が呪詛を纏った桜の花びらを振り撒くよりも先に、祝の刃が妖しく煌めく。その直後には、夢見草の娘は甲高い悲鳴を残して消滅していた。
「……私にその程度の呪詛が通じるとでも思ったか」
 冷淡なまでに無表情な祝。その瞳には一切の感情が浮かんでいない。
 その時、背後で凄まじいばかりの蒸発音が鳴り響いた。振り向くと、巨大な氷の壁が天井を形成していた。
「あ、そこにも誰か、居たんですねッ!」
 氷のトンネルの向こうから、アイ・リスパー(電脳の天使・f07909)が弾んだ声を響かせた。アイは祝が召喚した魔神が炎を操ることが出来ると即座に理解したらしい。氷のトンネルからなるべく炎を遠ざけてくれるようにと、祝に頼み込んだ。
 祝としても、断る理由は無い。アイの言葉に従い、更に炎の勢いを左右に退けていった。
「金山さんっていうお爺さんに聞いたんですけど、ここからなら楽屋裏の廊下を通って裏口に出た方が早いんだそうですッ!」
 アイは更に、ロビーの方も見て廻ってきたらしいが、あちらは炎だけでなく、崩れ落ちた天井や壁材等が行く手を阻んでおり、脱出には到底向かない、ということであった。
 不意に、横合いの扉が激しく開け放たれた。夢見草の娘が二体、同時に出現したのである。
「どうやら、転生する程の理性は無さそうですね」
 アイはほとんど瞬間的に、判断を下していた。その分析に祝も異論は無い。夢見草の娘共は、どう見ても獣の本能の如き思念だけで動いているように思われた。
 ならば、アイとしても遠慮は要らなかった。
「哀れみですか……残念ですが、あなた達のように意思も持たずに暴れるだけの影朧にかける情けなど、持ってはいませんッ!」
 アイの宣戦布告に反応するように、夢見草の娘共は奇怪な動作で踊り狂いながら、アイとの間合いを詰めてきた。これに対し、アイは炎の矢を虚空から出現させた。
 それらは、電脳空間のプログラム制御で造り出した灼熱の炎。逢魔が辻が造り出す炎とは全く異質の炎熱だ。如何に夢見草の娘といえども、アイの放つ炎には耐性などあろう筈も無かった。
 まず、一体が倒れた。
 次いで二体目──こちらは、呪詛を乗せた花びらを炎の勢いに乗せて撃ち放ってくる。だが、その程度の攻撃はアイも予測済みだ。
「骸の海に、還りなさいッ!」
 アイの放った炎の矢は、桜の花びらもろとも夢見草の娘を焼き尽くした。
 ひとまず、目の前の敵は始末した。後は脱出路を更に裏口まで伸ばす必要がある。同時に、観客席に残っているひとびとの無事を確保する必要があった。
 影朧の群れは、まだまだ尽きる気配を見せていないのである。
「観客席には、私が向かおう。お前は脱出路の確保を」
「了解ですッ!」
 互いにそれぞれが向かうべき方向に足を向けた時、またもや影朧の群れが現れた。
 祝は冷淡な表情を崩さず、魔神にちらりと視線を向けた。
「やれやれ、面倒だ……アスモデウス、貴様の出番だ。娘達と好きなだけ火遊びに興じるが良い」
 一方、アイは氷の天井と壁を確保しつつ、同時に炎の矢を何本も創り出すという芸当をやってのけた。
「逢魔が辻と化した燃えるシアター……本当に、一筋縄ではいきませんね」
 心底呆れる思いではあったが、アイは一切の容赦も無く、炎の矢を連弾で叩き込んだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シラ・クロア
そうね……すぐに火は消えないようだし、ここにいる方々の保護を優先しようかしら。【ホーリー・ガーデン】を使って、私の指輪の中に皆を匿うわ。
大丈夫、怖くないから。指輪の中の世界は安全な場所。とても綺麗で、あなたたちを襲うような存在もいないわ。シアターを愉しむみたいに、ちょっとした異世界を体験してみない? 心配しなくても、無事に火事から避難できたら、すぐに中から出られるの。だから、この指輪に触れてみて。
皆を指輪に吸い込んだあとは、影朧の攻撃範囲に入らないように飛んで、第六感にも頼りながら安全圏に身を隠すわ。私くらいのサイズなら相手も狙いにくいでしょうし。
他の猟兵とも協力できたら心強いわ。



 観客席の中央付近に、ちょっとしたひとだかりが出来ている。
 救出を待つひとびとは、消防や警察などの突入を今か今かと心待ちにしていたのだが、彼らの前に現れたのは予想外の小さな影だった。
「大丈夫……心配しないで。私も猟兵のひとりだから」
 30cmにも満たない、小さな体躯。クロアゲハの如き繊細な黒翅と、艶やかな長い黒髪を持つ淑やかな妖精が、そこに居た。
 ひとびとの目の高さの空間に、ゆらゆらと漂うように宙空を舞うシラ・クロア(夜を纏う黒羽のフェアリー・f05958)。彼女の特異な姿が、ひとびとから炎に呑まれそうになる恐怖を僅かな時間ながら取り除いていた。
「皆、よく聞いて……今、この場には影朧が無数に蔓延っているの。とても危険な状態だわ」
 シラの落ち着いた声音を受けて、微かな悲鳴に近しい声がそこかしこから持ち上がる。でも大丈夫と、シラは穏やかな笑顔を浮かべた。
「私の力で、一時的にあなた達をこの指輪の中に匿うわ」
 いいながらシラは、小さな手を掲げて、豆粒の様に小さな指輪をかざした。
 彼女の能力を使えば、この指輪の中に避難することが出来るのだという。その中は完璧に安全に、且つ非常に美しく、ひとびとを襲うような不埒な輩は全く存在しない。
 いわば、シアターを愉しむような、ちょっとした異世界への旅を体験することが出来るのだ。
「心配しなくても、無事にここから避難出来たら、すぐに外から出られるの。だから、この指輪に触れてみてくれるかしら」
 シラが差し出した小さな手に、最も近くに居た老齢の婦人がそっと指先を触れた。すると、その老婦人は宙空に溶け込むようにして姿を消した。
 無事に、シラの聖なる庭園へと避難を完了したのである。
 ひとびとの間からは軽いどよめきのような声があがった。だが、シラにはのんびりしている時間は無い。全員を一度に、そして一瞬で指輪の中へ匿うことが出来れば良いのだろうが、矢張り能力を駆使する以上は精神の集中や手順が必要であり、そう簡単には事は運ばない。
 更に小さな子供や老人といった、脱出の際にどうしても助けを借りなければならない弱者を先に匿う必要があった。
「さぁ、急いで……」
 次いでふたりの幼児を指輪の中へと匿ったその時。不意にひとびとの背後で、甲高い嬌声が響いた。
 とうとう夢見草の娘が、観客席内へと雪崩れ込んできたのである。
 拙い──シラは軽く奥歯を噛み締めた。彼女の体躯は小さいから、少し隠れれば敵をやり過ごすことも出来るだろうが、そうすれば逆に、まだ指輪の中へと隠し切れていないひとびとが影朧共の格好の的となってしまう。流石にそれだけは、避けなければならない。
(何とか、他の猟兵と連携出来れば……)
 シラは更に指輪への誘導を急いだ。
 全員を収容するのは、無理かも知れない。シラは、腹を括るしか無かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ハロ・シエラ
そうですね、確かに厄介です。
ですが避難経路を切り開く事も、オブリビオンを斬る事も、私にとっては同じ様なものです。

少々申し訳ないですが、まずは経路を塞ぐ物をユーベルコードで斬って【怪力】で排除しましょう。
手当たり次第ですが、斬ったら建物が崩れそうな物は【第六感】で察知して避けるとします。
第六感は生存者を探し、【救助活動】を行うのにも役立つでしょう。

オブリビオンに対してですが、召喚された霊やその呪詛には【破魔】の力が効くでしょうか。
【ダンス】や【歌唱】の心得は私にもありますし、多少は敵の攻撃を【見切り】回避する役に立つでしょう。
霊をいなし、祓った隙を突いてオブリビオンを斬る事とします。



 大胆にも、ハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)は炎と瓦礫に埋め尽くされたロビーから、シアタァ内へと足を踏み入れた。
 この状況は、確かに厄介ではある。
 だが、避難経路を切り開くことも、そして影朧を斬ることも、ハロにとっては似たような話であった。
 ただやるべきことを、やり遂げる。影朧討伐も、ひとびとの救助も、結局は同じ結末を導き出す為の手段に過ぎないのだ。
 ハロは、ある意味では相当に割り切った性格の猟兵かも知れない。
 だからこそ、目の前に横たわる瓦礫の山を容赦無く排除し、蹴散らし、そして突き進む。流石に全部が全部を斬るような真似はしない。迂闊な場所を斬ったが為にシアタァが崩壊してしまっては、元も子も無い。
 進むときは大胆に、それでいて斬るべきところは慎重に選ぶ。
 一見相反する様に見えて、実は一本筋の通った行動原理。それが、ハロを突き動かす心情的エネルギーとなっているのだろう。
 観客席以外にも、逃げ遅れたひとが居るかも知れないと神経を研ぎ澄ましていたが、幸か不幸か、変なところに誰かが気絶して倒れている様子も無い。
 であれば、後はこのまま観客席を目指せば良さそうであった。
 観客席に入ると同時に、甲高く耳障りな声がそこかしこで響いた。影朧の群れが、中央に寄り集まったひとびとに襲い掛かろうとしていたのである。
 ハロは足早に通路を駆け抜け、まず一体、夢見草の娘を斬り伏せた。
「成程……破魔の力は十分過ぎる程に効くようですね」
 更に加えて、ハロには舞踊と歌唱の心得もある。
 周囲を固めようとしている夢見草の娘共の動きは、或る程度はハロの予測の範囲内に収まることだろう。
 事実、背後から近づいてきた敵に対して、ハロはほとんど一瞬でその攻撃を完全に見切ることが出来た。
「そんな程度じゃあ、まだまだです」
 ハロの振るった刃に、目の前の敵は声無き悲鳴を残して、その場で消滅した。
 この観客席内ではハロこそが最大の敵と見做したのか、夢見草の娘共は一斉にハロ目掛けて殺到してきた。それはハロ自身にとっても都合が良い。敵がハロだけを目指してくれれば、ひとびとがそれだけ、敵の脅威から逃れることが出来る、というものである。
 ハロは、薄闇の中で白刃を煌めかせた。
 夢見草の娘共は、次から次へと斬り伏せられてゆく。
 やがて、敵の姿は完全に消えた。観客席を出るならば、まさにこの瞬間こそがチャンスだ。
「さぁ皆さん、行きましょう」
 ハロは観客席の出口に、歩を向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『怪奇『隙間女』』

POW   :    怪奇『隙間女』
肉体の一部もしくは全部を【隙間女】に変異させ、隙間女の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
SPD   :    いつもみています
【隙間からのぞき込む視線】を披露した指定の全対象に【目が離せないという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
WIZ   :    いっしょにいきましょう
小さな【隙間の中の自分】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【隙間空間】で、いつでも外に出られる。

イラスト:透人

👑11
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種別『集団戦』のルール
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 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

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 シアタァ裏口から、ひとびとを脱出させるという話を伝え聞いた内山田支配人は、消防団の面々と共に、シアタァの燃え盛る壁面を伝うようにして裏口へと走った。
 確かに、猟兵が用意した脱出路がぽっかりと口を開けている。
「皆さん大丈夫ですかッ!?」
 内山田支配人が呼びかけると、裏口の奥から聞きなれた皺枯れ声が返ってきた。
「支配人さんですかッ! わしです、金山ですッ! 今から脱出を……」
 ところが、そこで声が途切れた。その直後、金山老人の悲鳴が内山田支配人の鼓膜を叩いた。
 どうやら何かに捕らえられているらしい。
「ひゃああああッ! な、何じゃあッ! は、離せぇッ!」
「金山さん、どうしたんですかッ!」
 内山田支配人は消防団員らと共に、裏口内へと走り込んだ。
 そこで、思わぬものを目撃した。
 壁の隙間から、女の手が伸びている。その手が、金山老人の襟首を掴み、そのまま狭い空間の中へ引きずり込んでいってしまったのだ。
「か、金山さ……ッ!」
 しかし、内山田支配人もそれ以上声をあげることが出来なかった。
 何故なら彼も、金山老人と同じく、別の隙間から伸びてきた手によって、どこかへ引っ張り込まれそうになっていたからである。
天花院・祝
一難去ってまた、というやつか
やれ々々……

このまま引き摺り込まれて
奴らに好き勝手されても面倒だな
返してもらうぞ

櫻狩を抜き
一般人に伸びた女の手を
容赦なく斬り落とし
引き摺り込まれるのを阻止

既に隙間に連れ込まれかけている者は
手を取り引き摺り戻すとしよう
手を離すなよ

人々を背後に庇ったら
惡魔召喚「蝶々夫人」
隙間女どもの認識を捻じ曲げ
我々の姿が忽然と消える幻覚を見せよう

認識出来なければ引き摺り込むことも出来まい
さぁ好きに弄べ 蝶々

あとは奴らを片付けるだけ
一般人に近づかせぬように立ち回りつつ
生命力吸収の呪詛を載せた刃で刻んでやろう

隙間から姿を見せるのならば分かりやすい
逃がさんよ


椿・サザンカ
か、金山のおじいさま、支配人殿……!
何ですかあの隙間は。冗談じゃありませんわ。
反射的に取り出した小さな金時計の針を『彼』――天狗の少年を示す時刻に合わせ、口許に寄せ。
「Vere ac libere loquere」
詠唱のあとに、秘密の真名を囁く。他の誰にも聞こえぬように。「……迅」
ともかく狭い隙間を、正確には隙間を作っている周囲のモノを排除。雷を操る彼に、落雷で壊してもらいましょう。あ、建物が崩れ落ちないように、皆が怪我しないように加減して。
隙間それ自体が失くなるか広がれば、金山のおじいさま達も救えるし影朧達も弱体化するのでは。
攻撃を受けたら抵抗、迅の援護も期待してますわ。



 更にもうひとり、中年の女性が隙間に吸い込まれそうになっていた。
 が、それよりも早く天花院・祝(病ミ櫻・f22882)の櫻狩が一閃し、中年女性の肩を掴んでいた影朧の手を容赦無く斬り落とした。
「やれやれ……一難去ってまた、というやつか」
 漸くひとびとを観客席から連れ出し、裏口への脱出路へと導いたのも束の間、今度は別の影朧の群れが立ちはだかった。しかも目に見える敵ではなく、どうやら隙間から攻撃を仕掛けてくるらしい。
 祝にとっては然程の難敵でも無かったが、今は大勢の無力なひとびとを護衛対象として抱えている。この状況では最もやり難い相手だといわなければならなかった。
 そんな祝のすぐ後ろで、椿・サザンカ(桜散華の召喚癒士・f24088)が呆然と立ち尽くしている。つい先程、金山老人と内山田支配人が隙間に吸い込まれるのをサザンカ自身、目撃してしまったのだ。
(か、金山の御爺様、支配人殿……ッ!)
 すぐにでも駆け出して問題の隙間に駆け寄りたい衝動を、サザンカはぐっと堪える。今ここでサザンカが隙間の敵に引きずり込まれたら、祝ひとりにひとびとの護衛と誘導を任せっきりにしなければならない。
 それは拙い、ということはサザンカもよく理解していた。だからこそ、敢えて私情を押し殺し、何とかその場で耐えたのだ。
 しかし、このまま金山老人と内山田支配人を見殺しにするつもりも無かった。
(何ですか、あの隙間は……冗談じゃありませんわ)
 サザンカは懐から小さな金時計を素早く取り出すと、息を吹きかける様な調子で口元に寄せる。その針は彼、即ち天狗の少年を示す時刻にぴたりと重なっていた。
「Vere ac libere loquere」
 焼け落ちる壁や天井の音が、背後で響いた。ひとびとが不安に駆られて、低い呻き声のような悲鳴をさざ波の如く響かせる。その瞬間が、サザンカにとっての好機だ。
 音が音を消してくれる。その瞬間、サザンカは誰の耳にも触れぬ程の小さな声音で小さく呟いた。
「……迅」
 直後、サザンカの正面に端正な面の少年が静かに佇んでいた。風雷の術を操る悪魔である。
 これを見た祝も、成程と小さく頷きながら煙管をさっと横薙ぎに振った。
「お出で、蝶々」
 矢張り祝の目の前にも、麗しき夫人姿の悪魔が艶然と佇んでいた。祝は煙管の先で蝶々夫人の肩を軽くとんとんと叩いた。その振動を合図として、蝶々夫人は右手を前方に掲げる。
 特に、何かが起きたというような現象はひとびとの目に映らなかったが、その直後から不思議と、隙間から伸びる手がただ虚しく宙を掴むばかりで、誰の体にも触れる様なことは無かった。
「隙間女共の空間認識を捻じ曲げた。これでしばらくは、奴らも我々に触れることは出来まい」
 祝の不敵な笑いを受けて、サザンカは腹を決めた。
 吸い込まれたふたりを救うのは、今しかない。
「隙間を、潰して差し上げて下さいませ」
 サザンカの声に応じ、天狗の美少年は扇をさっと横薙ぎに振った。その仕草に合わせて、天井付近から生じた小さな落雷が壁という壁を次々に伝い、薄い隙間をこじ開けてゆく。全ての隙間が、人間の体が漸く通れる程度の窪みとなるまで削られた。
 隙間女は狭い空間内を自在に移動するようだが、引きずり込まれた人間は同じ隙間に留まっているらしい。サザンカが風雷の悪魔に破壊させた隙間跡から、金山老人と内山田支配人が転げるようにして吐き出された。
「金山の御爺様ッ! 内山田支配人殿ッ!」
 サザンカが駆け寄ると、ふたりは驚いた様子でサザンカの可愛らしい面をじっと見つめた。どうやら、状況を理解出来ていないらしい。
「さぁ、危ないですから後ろに退がっていて下さいませ」
「あ、あぁそうじゃな。サザンカちゃんも、怪我をせんようにな……」
 サザンカに促され、金山老人は風雷の悪魔を避けるようにして、ひとびとの間に溶け込んでゆく。内山田支配人も、ここで下手に動き回って迷惑をかけるのは下策だと理解した様子で、金山老人と同じく誘導された避難民と合流した。
 こうなると、祝にとっては非常に動き易い。彼は、自分の思ったように刃を振るうことが出来るのだ。
「隙間から姿を見せるのならば分かり易い。片っ端から刻んでくれよう」
 一体たりとも逃がさぬという気迫を静かに轟かせ、祝は壁沿いを悠々と歩いた。隙間から伸びる手を軽やかに躱しつつ、その薄い空間に刃を走らせる。
 呪詛が力を発揮し、隙間女共の生命力を存分に吸い上げた。
 勿論、この間にひとびとを裏口に走らせることも忘れない。祝は蝶々夫人に先導させる形で、避難民を裏口へと向かわせる。が、決して走らせない。足音で、隙間女に正確な位置を悟らせる訳にはいかないのだ。
 その為、どうしても避難誘導には多少の時間がかかった。
(この先にも、まだ隙間女の群れは潜んでいるやも知れぬ)
 サザンカがひとびとの前進に合わせて雷撃で隙間を潰してくれてはいるが、全ての隙間をこの短時間で完全に消し切るのは不可能であろう。
 矢張り、いささか面倒ではあったが、兎に角少しずつ前へ進むしかなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ハロ・シエラ
隙間と言う物はどこにでもあるので厄介ですね。
ですがその隙間にいると言う事さえ分かれば逃がしません。

まずは堂々と歩き、敵を【おびき寄せ】ます。
場合によっては襲われそうな一般の方を【かばう】事も必要かもしれませんね。
隙間からの敵の攻撃を【第六感】で察知したら動きを【見切り】、【カウンター】のユーベルコードにて対処します。

敵が人を隙間に引きずりこんでいなければ隙間を構成する物体ごと斬ってしまいますが、そうでなければ物体の方を斬って隙間を無くしてしまうしかないでしょうか。
どちらにしてもやっぱり斬る事には変わりありません。
引き摺りこまれる前に引き摺り出して、すべて斬り捨ててしまいます。


氷咲・雪菜(サポート)
 人間のサイキッカー×文豪、13歳の女です。
 普段の口調は「何となく丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、
 独り言は「何となく元気ない(私、あなた、~さん、ね、よ、なの、かしら?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

氷や雪が好きな女の子で、好きな季節は冬。
性格は明るく、フレンドリーで良く人に話しかける。
困っている人は放ってはおけない。
戦闘は主にサイコキャノンを使って戦う。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



 裏口へと続く薄暗い通路を、ハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)は肩で風を切るような威風堂々たる姿勢で突き進んでいった。
 来るなら来い──まさに敵を真正面から挑発するかの如く、眼光を煌めかせてど真ん中を歩いてゆく。
 じんわりと、汗が頬を伝い落ちた。火の勢いはいよいよ、この裏口方面にも迫ってきていることが、周囲を覆い尽くす熱気や焦げた臭いから十分に察することが出来た。
「いやもう、ホントに暑いですねぇ……」
 ハロの傍らを冬大好き人間の氷咲・雪菜(晴天の吹雪・f23461)が、左掌で首筋をしきりと扇ぎながら、くたびれたような顔色を浮かべていた。
 真冬の寒い時期でも氷菓子を平気でかっ喰らうような雪菜にしてみれば、この灼熱地獄のような火災現場等は最悪の立地といって良い。
 それでも文句を垂れながらこうしてひとびとの救出に駆けつけたのは、矢張り猟兵としての責任感が全てを上回っていたからに他ならなかった。
 だが、今ふたりが相手に廻そうとしているのは炎の眷属等ではなく、闇と隙間を根城とする隙間の中の影朧共であった。
 ハロはひとびとを楽屋前の広場に待機させ(既にそこは、猟兵達の手によってあらかたの隙間女を討伐済みである)、自らは雪菜を伴って裏口までの通路を掃討する腹積もりだった。
 そして実際、数歩も歩かないうちに左右の板張りの壁の隙間から、次々と女の手が伸びてくる。ハロはそれらを片っ端から斬り薙いでいった。斬り漏らした分は、雪菜が手にした氷の銃で凍てつかせ、その動きを封じている間に再びハロが刃を振るって斬り落とす。
 そういった作業を地道に続けていたのだが、裏口に行けば行く程、崩れている箇所が多くなり、隙間の数が爆発的に増えてきていた。
 途中、雪菜が一度だけ隙間女の手に捕まり、危うく引きずり込まれそうになった。その時も瞬間的に気づいたハロが刃を振るって事無きを得たが、この隙間の多さは少々厄介であった。
「もういっそのこと、全部潰しちゃいます?」
「そう出来れば良いのですが……」
 流石にもううんざりといった表情で雪菜が問いかけるも、ハロは慎重な姿勢を崩さなかった。既にハロは何箇所か壁を破壊し、隙間そのものを削り取っていた。
 だが、これ以上壁を破壊するのは、炎に焼かれて全体が脆くなっているシアタァの強度を更に弱めることに繋がり、崩落の危険性があった。
 そのことを告げると、雪菜も納得はしたようだが、矢張りこの暑さは相当に彼女の体力を奪っているらしく、頷く顔色にも憔悴の色が浮かび始めていた。
 だが、そうこうするうちに裏口の開け放たれた扉が見えてきた。暑さと暗さの為に結構な距離に感じていたのだが、実際には然程でもないようだった。
「先が見えましたね。皆さんを呼んでまいりましょう」
 いいながら踵を返したハロだったが、そこで思わず息を呑んだ。
 楽屋前までの通路の左右の壁から、再び隙間女の腕が無数に伸びていたのである。
 一体どれだけ始末すれば良いのだろう。ハロも雪菜も思わず目の前が真っ暗になりそうになった。
「はぁ……また全部、ごりごり削っていきますか……」
「そうしないと、皆さんのところへ戻れませんしね」
 ふたりは腹を括ると、先程までと同じようにそれぞれの得物を構えて、来た道を引き返しにかかった。
「隙間というものはどこにでもあるだけに厄介ですが、居場所さえ分かっていれば、怖い敵ではありません……さぁ、逃がしませんよ」
 ハロは今一度、気合を入れ直した。
 雪菜も大きく息を吸い込んで、氷の破壊力を叩きつける準備を整えていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アイ・リスパー
「人々を隙間に引きずり込んでいくなんてっ!?
これが影朧の能力ですか!」

ですが、とにかく今は影朧を倒して避難路を確保しないと。

【チューリングの神託機械】で演算能力を向上。
【ラプラスの悪魔】で敵の動きをシミュレートしてどの隙間から現れるかを予測します。
その上で【マックスウェルの悪魔】で攻撃です!

「隙間から目が離せなくさせる能力ですか……
確かに厄介ですが、あなたがたの動きはすでにシミュレート済み。
目を使う必要もありません」

敵の出現予測地点に向けて氷の弾丸を発射。
氷で隙間を埋めながら敵を倒していきましょう。
ついでに崩れそうになっている建物も凍らせて補強です。

「凍らせれば多少の時間は稼げるはず……」



 ひとびとを楽屋前の広場で待機させ、彼らを庇うような格好で通路口に立っているアイ・リスパー(電脳の天使・f07909)は、他の猟兵達の戦いぶりに見入ると同時に、隙間女の脅威的な奇襲戦術にもじっと目を奪われていた。
「ひとびとを隙間に引きずり込んでいくなんて……これがあの隙間女とやらの能力ですかッ!」
 いつものアイなら自身の好奇心を満たす為にもっとじっくりと隙間女共の行動を観察していたかも知れないのだが、今は場合が場合だ。そうそうのんびりとしていられない。
 振り向くと、火の手がじわじわと観客席の方から追いかけてきている。この楽屋前の広場も、そう長くは持たないだろう。
 アイは、裏口までの進路が確認されたことを受けて、自らも打って出ることにした。ここはもう、残った隙間女共を全て蹴散らし、ひとびとを一気にシアタァの外へと誘導するしかない。
 まるで神の如き高速演算力が発動し、アイの頭脳は常人では考えられない程の速度で敵の動きを片っ端からシミュレートしてゆく。どの隙間ら敵が現れるのかを事前に予測し、最も効果的な移動経路と反撃手段をほとんど一瞬で算出した。
「隙間から目を離せなくさせる能力ですか……確かに厄介ではありますが、あなた方の動きは既に見切っています。わざわざ目を使うまでもありません」
 アイは後方を振り向き、ひとびとに一緒に行きましょうと笑顔で促す。そして再び前を向いた時には、彼女の容貌はまるで能面の如き無表情の色に覆われていた。
 視線は床の一点を注視している。ただ感覚だけが周囲を捉えていた。音と空気の流れで、壁との距離感さえ掴めれば良い。今のアイには、敵の動きは事前に見えているのだ。
 今更視認の必要は無かった。
 アイがすっと足を滑らせるように一歩踏み出すと同時に、左右の壁の隙間から女の腕の群れが這い出ようとしてくる。だがそのことごとくが、アイの放つ氷の弾丸に機先を制せられ、そのまま凍り付いて固まってしまうばかりであった。
 どの腕も、出現する前に全てが凍り付く。攻撃する時間すら与えられない。既にこの裏口までの経路の戦いは始まる前から、勝敗が決まっていたといって良い。
 ひとびとは最初は恐れおののいていたが、アイの完璧な先制攻撃で隙間女が次々と凍り付いてゆく様に、静かな歓声を漏らした。アイの放つ氷の弾丸にはいささかの狂いも無ければ、彼女が叩き出した事前予測には微塵の間違いも無い。
 ひとびとは完璧に安全な避難路を、ただ粛々と歩いていけば良かった。
 やがて、裏口が見えた。外には大勢の消防団が待ち構えていて、ひとびとの脱出を今か今かと首を長くしている様子が伺えた。
「さぁ皆さん、そこが出口ですッ!」
 アイが指差す方向に、ひとびとは一斉に駆けた。もうここまで来れば、安心だ。どの顔にも安堵と喜びの色が満ちている。
 ただ敵を倒すだけではなく、避難民を同時に誘導せねばならぬという任務は中々に骨の折れる仕事ではあったが、こうして達成してみると驚く程の満足感が胸中に湧き起こってきた。
「さて……凍らせればシアタァの崩壊にも、多少の時間は稼げる筈……」
 アイは充足した表情で後方を振り返り──そして、その場で戦慄した。
 突如、シアタァ内部の壁という壁が次々と劫火に呑まれて焼け崩れ、その向こうに、異形の姿が見えた。
 どうやらあれが、この逢魔が辻と化した煉獄の主らしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『不退転浅鬼・賀楪猿』

POW   :    咲かずば裂こうか赤い華
【相手を叩き潰し、引き裂く素手】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    傾国への執念
【強さを追い求める羨望と怒り】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
WIZ   :    植え込まれた妄執
【攻撃を受けた際、悪の心を増大する炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【炎に触れた者は暴走し、また】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。

イラスト:FMI

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ブライアン・ボーンハートです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 シアタァを焼く炎は、劫火の魔人を呼び出した。
 不退転浅鬼の賀楪猿と、ひとは呼ぶ。
 怪力と、怒りと、そして炎。あらゆる破壊の為の権化ともいえよう。その真紅の肉体が、崩れ落ちるシアタァの中心部に傲然と佇んでいた。
「強き者よ、かかってこいッ!」
 賀楪猿は獰猛に吠えた。
 一対一でも、多対一でも構わない。ただ、己に立ち向かう者のみを欲する戦いの鬼。
 内山田シアタァ最後の一幕、いよいよ公演開始。
ハロ・シエラ
どうやらこれが元凶のようですね。
強い者を呼び寄せる為にこんな事をしたのだとしたら……とても許せる物ではありませんね。

さて、私に比べれば敵は随分大きいです。
戦意も十分、となるとここは近付いてくるのを待ちましょう。
敵の攻撃を【見切り】ながら、隙を見て攻撃を返していきます。
かすり傷くらいにしかならないでしょうが、こちらをちょこまか逃げる非力な相手と思わせておきましょう。
敵が一気にこちらを叩き潰そうとしてきたらそこを狙って【だまし討ち】します。
超高速の一撃の起こりを【第六感】で察知し、【カウンター】で【早業】の突きを入れ、ユーベルコードによる攻撃を行います。
腕などを【部位破壊】できるといいですね。


政木・朱鞠(サポート)
『お痛をした咎の責任はキッチリと取って、骸の海にお帰りして貰うんだからね』

固定はしませんがよく使うユーベルコードは『咎力封じ』を使って拘束し動きを阻害した所で攻撃するスタイルを好みます。
よく使う武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして敵を拘束しがち。
探索系の依頼では色仕掛けで【誘惑】を使用した【情報収集】を主に行います。
困難に抗う人を心から応援し、反対にオブリビオンでは無くても自分の利益のために悪事を働く人は咎人と判断してSっ気の強い女王様のように度の過ぎた『お仕置き』を行なってしまう傾向が有ります。
それ以外はどのように味付けしても構いませんのでマスターさんの駒として噛ませ犬にしてもOKです。


ミンツェ・リンデガルド(サポート)
『生きたいように生きるだけ~♪』
 ミレナリィドールの人形遣い×探索者、89歳の女です。
 普段の口調は「子供っぽい(あたし、相手の名前+ちゃん、だね、だよ、だよね、なのかな? )」、時々「ババくさい(わし、お前さん、じゃ、のう、じゃろう、じゃろうか?)」ですがババ臭い喋り方は別に採用しなくてもいいです。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。

ステはSPD特化ですが、マスターさんの動かしやすいように使ってください!

あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


天花院・祝
劫火の中の逢魔が辻
最奥で待つのは戦を求める悪鬼か
演目としては悪くない

だが
そろそろ終幕の時刻だ

こんな巨大な化け物
好き勝手暴れ回られたら堪らない

『花蝕』で呪詛を纏い
櫻狩を抜き一気に接敵
腕や腱を狙って斬り込み
行動を阻害していこうか

多少の負傷は構わん
負傷や炎が増大した悪心さえ糧にして
効果を自らの呪詛で上書き
戦鬼への敵意を維持

そのまま呪詛纏う刃で
奴を刻みながら生命力を啜り
刃の前に立ち続けてやる

炎を撒きたければ好きにするが良い
お前の炎が私の呪詛を増幅する
私を戦場に立たせ続けるのだよ

さあ
お前の血肉を啜らせておくれ



 燃え盛る炎の中に、傲然と佇む巨大な影。不退転浅鬼の賀楪猿。
 その巨体の周囲は既に、火災に焼け落ちようとする内山田シアタァのそれではなく、完全に異世界のそれと化していた。
 賀楪猿が姿を現したことで、火災現場はいよいよ逢魔が辻としての本性を露わにしたといった方が正しいかも知れない。
「劫火の中の逢魔が辻……最奥で待つのは戦を求める悪鬼か。演目としては悪くない。だが」
 裏口から再びシアタァ内へと引き返してきた天花院・祝(病ミ櫻・f22882)が、黒鉄の刃を鞘から抜き放ちつつ、紅蓮の巨体に向けて静かに間合いを詰め始めた。
「そろそろ、終幕の時刻だ」
「それに、強い者を呼び寄せる為にこんなことをしたのだとしたら……とても許せるものではありませんね」
 祝の僅か後方に、矢張り同じく刃を抜き放ったハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)の姿があった。
 ハロは速度を活かした戦術を取る為、敵の懐に飛び込むのではなく、間合いを取って接近を待つことにしていたのだが、祝は炎にその身が焼かれることなど全く気にしない様子でどんどん歩を進めてゆく。
 呪詛の放つ不気味なオーラが、祝の全身を覆い尽くしている。賀楪猿の放つ炎撃は寧ろ、祝の呪詛の力を強める為の餌に過ぎない。肉を切らせて骨を断つ戦術に近いといった方が正しいだろう。
「やれやれ……また随分と無茶な戦法じゃのう」
 祝の傍らで、ミンツェ・リンデガルド(自己認識という力と感情と言う自由・f01754)が誰に語りかけるともなく、小さく口の中で呟いた。彼女もまた賀楪猿に接近戦を仕掛ける腹積もりだが、祝とは異なり、炎を避けながらの戦いを念頭に入れている。
 それ故、賀楪猿に真っ向から勝負を挑む祝の姿勢に何ともいえぬ凄みを感じていたのだ。
「まぁでも、嫌いじゃないわね」
 拷問具である荊野鎖を軽く振り回しながら、政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)が横っ飛びに走りつつ軽い苦笑を祝いに向けた。祝が正面から挑んでくれる分、朱鞠としても戦い易いというのが本音であった。
「シアタァを焼くなんていうとんでもないおいたをしてくれた咎の責任は、きっちり取って貰うわよ」
 朱鞠のそのひと言が戦闘開始の号砲となった。
 祝が炎熱の地獄の様な破壊力に躊躇することなく、賀楪猿の巨木の如き腕に斬りかかる。炎が祝の腕や脚を容赦無く焼いたが、祝はそこから受ける悪念をも自らの呪詛に呑み込み、更なる攻撃力へと転化させた。
 一方、ハロとミンツェが祝に気を取られている賀楪猿の前後左右を駆け巡りながら、小刻みに打撃を加えてゆく。流石の賀楪猿も塵も積もればと見たのか、ハロとミンツェが接近するたびに拳や蹴りで応戦しようとしていたが、ふたりの速さには全くついていくことが出来ておらず、ただ虚しく空を切るばかり。
 そして賀楪猿がハロとミンツェに注意を奪われれば、その瞬間に朱鞠の荊野鎖が賀楪猿の二の腕を絡め捕り、一瞬だけではあるが、その動きを封じていた。
「さぁ……お前の血肉を啜らせておくれ」
 幾分凶器を孕んだ祝の強烈な眼光が、賀楪猿を正面から捉える。まともな神経の持ち主なら、その視線に射すくめられただけで腰を抜かしてしまうかも知れない。
 朱鞠と祝の連携で動きが停まった賀楪猿に、ハロとミンツェが再び超速度で接近し、細かな傷を与えてゆく。その波状攻撃に、賀楪猿は苛立ちを募らせていた。
「おのれ、こざかしいッ!」
 賀楪猿の強烈な一撃がハロに襲い掛かるも、ハロは紙一重で躱し、カウンターで刃を突き込む。賀楪猿はハロの攻撃力を舐めてかかっていた為か、その意外に重い一撃に慌てた様子を見せた。
 このままではやられると実感したのか、賀楪猿は炎弾を周囲にばら撒いた。その間を、ミンツェが恐るべき速度で駆け抜け、賀楪猿の膝裏に痛打を加えた。
「ごめ~んね。あたしはぁ、やりたいようにやるだけだからぁ」
 無邪気な少女のように明るく笑いながら、再び賀楪猿から距離を取る。賀楪猿は獰猛に唸っていたが、その間にも再び朱鞠の荊野鎖が膝に巻き付き、動きを封じてきた。
「炎を撒きたければ好きにするが良い……お前の炎が私の呪詛を増幅する。私を戦場に立たせ続けるのだよ」
 祝の眼光が異様な程に鋭くなり、賀楪猿を睨み据える。その眼差しに賀楪猿は怒りの咆哮で応じた。
 その時、再びミンツェが賀楪猿の脇へと走り込んできた。
「逃がさないからねッ! とぅッ!」
 助走をつけた飛び蹴りが賀楪猿の脇にめり込んだ。流石にこれは効いたらしく、賀楪猿の獰猛な面に苦痛の色が走った。その反応が朱鞠には意外だったらしく、何故か可笑しさが込み上げてきた。
「ふぅん……あなたみたいな化け物でも、痛い時は痛いんだ……なら、もっと動けなくしてあげるッ!」
 朱鞠の咎力封じが最大限の威力を以って発動し、賀楪猿は下半身の動きにどうしようもない程の重さを感じていた。下半身が封じられてしまうと、攻撃と回避の双方に重大な問題が生じる。
 ここが勝負どころだと、朱鞠によって動きを封じられた賀楪猿にハロが一気に接近し、膝や足首に打撃を次々と叩き込んでいった。
 だが、これ程畳みかける様に次々と攻撃を加えても、賀楪猿はまだ倒れない。呆れる程の頑強さであった。
「流石に少し、疲れてきましたね……ですが、もう少し攻めれば倒せそうですね」
 ハロの分析は正確だった。
 朱鞠が尚も賀楪猿の動きを封じ、その間に祝の黒鉄の刃とミンツェの飛び蹴りが交互に炸裂しているが、まだ少し火力が足りない。
 それでも、完全に倒し切るのは時間の問題であった。
「これは、オマケですッ!」
 賀楪猿が再び極大の破壊力を秘めた拳を振るってきたが、その動きを間一髪で見切ったハロがこれまた再度のカウンターで高威力の反撃を撃ち込んだ。今度は、爆発が生じた。
 怒りに燃え盛る賀楪猿の咆哮は、今のハロには却って心地良かった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

椿・サザンカ
なんでそんなにこのシアタァを破壊しようとするんでしょうか(涙目)
ここは、たくさんの人の夢とか笑顔とか思い出が詰まってる場所なんです。強者を求めているなら道場破りとか色々ありますでしょ!
もう……仕方ありませんわね、【御魂召喚】にてレーテを召喚。忘却の川を操り、鬼猿殿からの攻撃は変幻自在の水の壁で防御、攻撃の意思及び効力を忘れさせて消去。先方の能力が怒りによる悪心に根ざしているなら、岩をも砕く激流を以て、<慰め>を帯びた<精神攻撃>でその妄執を忘却の彼方に押し流しましょう。転生の余地があれば【桜の子守唄】を。

ここは大切な場所。強くても弱さがあっても、夢と思い出に癒される場所なんです。


アイ・リスパー
「あれが逢魔が辻の主ですね。
どうやら力自慢のようですが……
ならば遠距離からの最大火力で勝負を決するのみ!」

どれだけパワーがあろうとも、射程外からの攻撃には無力です!

【チューリングの神託機械】で情報処理能力を向上。
神託機械の連続使用で頭痛がして吐血しますが、今は無視です!
【超伝導リニアカタパルト】によりリニアレールを召喚。
【マックスウェルの悪魔】で絶対零度に冷却したレールから燃え盛る瓦礫を質量弾体として射出します!

「この一撃を耐えられますかっ!
って、耐えきった……!?」

失敗しました。
こちらは狙撃で倒しきれないと砲身の再冷却と弾体の装填に時間がっ!

私の身体能力ではあの攻撃は回避できません!



 賀楪猿は強さを求めて暴れ回っている。
 だが、椿・サザンカ(桜散華の召喚癒士・f24088)にとっては、この燃え盛る炎に包まれた激戦の空間は、ただ悲しみを募らせる場でしかなかった。
(何故そんなに、このシアタァを破壊しようとするんでしょうか)
 この内山田シアタァは、多くのひとびとの夢や笑顔が思い出となって、サザンカや他の常連客らの心に深く沁み込んでいる。
 何故賀楪猿は、そんな場所を敢えて選んだのか。ただ単に戦いたいだけならば、道場破り等他の手段が幾らでもあったろうに──何故よりによって、内山田シアタァだったのか。
 サザンカは釈然としない思いを胸に抱いたまま、それでも猟兵としての務めを果たそうとしていた。
 既にシアタァ内に取り残されていた観客やスタッフは全員無事に脱出している。後は、あの賀楪猿を倒すのみである。数名の猟兵が先んじて戦闘に突入し、賀楪猿に相当な打撃を叩き込んでいたが、まだ倒すには至っていない。
 ならば、後はサザンカ自身がこの戦いに決着を下すしかあるまい。
「あれが逢魔が辻の主ですね。どうやら力自慢のようですが……ならば、遠距離からの最大火力で勝負を決するのみッ!」
 サザンカと同じくひとびとの避難誘導を優先した為に戦闘への合流が若干遅れていたアイ・リスパー(電脳の天使・f07909)が、完全に魔界と化したシアタァ内に引き返して来ていた。
 アイが見たところ、賀楪猿は超至近距離での格闘戦には絶対的な強さを誇っているようだが、距離を取っての砲撃には弱い、と判断した。
 そこでアイは多少体に無理な負担がかかることを承知の上で再び情報処理能力を劇的に向上させて、リニアレールを召喚した。その時、アイの唇の端から血の筋が流れ落ちた。
 流石にサザンカは驚いた様子であった。
「だ、大丈夫ですか?」
「勿論です……こんな程度でへこたれる電脳魔術士なんかじゃあございませんとも」
 脂汗を浮かべながらも不敵に笑うアイ。そんなアイに何か感ずるところがあったのか、サザンカも漸く気持ちを切り替え、御魂召喚を発動。水のニンフ姿の悪魔レーテが、サザンカの正面に背を向けて佇んでいた。
「この一撃を耐えられますかッ!?」
 まずはアイが、攻撃を仕掛ける。絶対零度に冷却したレールから、燃え盛る瓦礫を質量弾体として射出。音速を超える速度で叩き出された物体が、賀楪猿の胸板を捉えた。
「よし、命中……って、耐えたッ!?」
 アイの美貌が驚愕の色に染まる。その一方で、賀楪猿は全身から怒りの炎を噴き出した。相当な打撃だったことに相違ないが、しかし、完全に倒し切るには至らなかったようだ。
 拙い、とアイは身構えた。狙撃で倒し切れないとなると、最早打つ手が無い。今のアイは、砲身の再冷却と弾体の装填に時間を要する上に回避策が無い。
 もし賀楪猿が接近戦を仕掛けてきたら、アイの身体能力では到底、躱し切れないだろう。
 だが、戦慄するアイの目の前にサザンカが壁になるように仁王立ちとなった。
 賀楪猿が猛然と突っ込んでくる中、サザンカはさっと左手を前方に突き出す。その動きに応じて、レーテが水の魔力を発動した。
 炎に身を包んだ怪物は、怒りに燃えた咆哮を響かせた。が、サザンカは極めて冷静に対処した。レーテに命じて水の壁で防御を構えつつ、岩をも砕く激流で賀楪猿を一気に呑み込む。
 レーテが放つ忘却の力が、次第に賀楪猿の怒りと戦闘意欲を削りつつあった。
「ここは、大切な場所なんです……どんなに強くても、そして弱さがあっても、夢と思い出に癒される場所なんです」
 サザンカの視界が、ぼうっとぼやけた。涙が、彼女の瞳を濡らしていた。
 忘却の川の流れは尚も、賀楪猿を翻弄し続けている。その賀楪猿の巨躯から力が抜け、ただ水の勢いに任せるままに、ゆらゆらと漂うばかりであった。
 転生の、余地がある。
 サザンカの囁くような歌声が、形の良い唇の間から滑り出ていた。

 賀楪猿は消えた。
 どうやら、転生したらしい。
 だが、内山田シアタァは無残に焼け崩れ、炭と化した柱や壁が幾らか残っているばかりで、完全に焼け野原と化してしまっていた。
 憔悴し切った表情でその場に立ち尽くすサザンカ。
 そこへ、内山田支配人と金山老人が歩を寄せてきた。
「ありがとうね、サザンカちゃん。これでシアタァも成仏出来るよ」
「形あるものはいずれ朽ち果てる……それがたまたま、今日だったってだけの話ですよ」
 ふたりの言葉に、サザンカは力無く微笑み返した。
 すると内山田支配人が、ところで、と懐から一枚の紙を取り出してサザンカに手渡した。
「実は今度、隣町に内山田シネマホヲルのこけら落としが開かれることになりましてね。もし宜しかったら、是非」
 サザンカの面に、さっと朱が差した。純粋に、嬉しかった。
「良かったですね……また新しい思い出が、作れるじゃないですか」
 アイが隣で、小さく微笑む。そのアイにも、内山田支配人が是非お越しくださいともう一枚のチラシを渡してくれた。
 その通りだ、とサザンカは頷く。
 形あるものはいずれ朽ち果てる──ならば、また新しく思い出を作っていけば良い。新しい場所、新しい夢、新しい笑顔。
 影朧なんかに負けていられない。
 アイとサザンカは、互いに視線を絡ませ、くすっと笑った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年12月14日


挿絵イラスト