7
滾る憤激は簒奪を見据えて進む

#アックス&ウィザーズ #挿絵

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アックス&ウィザーズ
#挿絵


0




 ●母は虐殺された仔の恨みを忘れない
 ――さく、さく。
 最前を歩く獣の足が雪を踏む。
 音は軽い、まだ降ったばかりの音だ。
 土を持ち上げる霜柱も多数あり、この場は寒い。
 ――平和に、暮らす者共の匂いがある。
 獣は、自身と全く違う種族の群れを率いて歩いている。
 周囲を威嚇するため喉を鳴らし、身を低く進んでいるが森を抜ければ見えるだろう。
 ――許せない。許さない。奪ってやる。
 獣は生前、人間に群れの総てを奪われた。
 それは、人間による理不尽の虐殺。彼女には仔狼もあったがそれも無慈悲に殺された。
 人間を噛み殺した、という正当な理由と思われたが……違う。
 彼女の一族は、……間違われたのだ。
 人間に危害を加えたのは彼女の一族ではなかった。
 ――結果敵な人間の勘違いだろうが知るものか。
 ――平和を謳歌する生き物なぞ殺し尽くしてやる。
 ――人だろうが人以外だろうが不愉快だ。
 獣にとっては、生前の記憶が戻ってきた今も続いている。
 生き物を殺し尽くす夢を抱き、果てに追悼として制圧した場でただ吼えよう。
 彼女の正統の群れは、――二度と帰らないと知っていても。

●必要な分だけの赦し
「恨みはヒトを変えるそうだな、程度はヒトそれぞれだそうデスケド」
 フィッダ・ヨクセム(停スル夢・f18408)は中途半端に敬語を使って猟兵に話しかける。戯けているわけでもなく、なんとなく、という気まぐれな言い方だ。
「雪が多く降る地域が、アックス&ウィザーズにもあるらしい」
 立地的に街や村は遥かに遠く。
 数日かかる距離であるから冒険者以外の人間はその場所をあまり知らない森の向こう。
「原生生物の毛皮や牙を加工して冬の生活に備えるとかで、わりと盛んな狩りが行われている地域でもあるらしいが、そこで一つ予知がアリマス」
 森の向こう側には、海があり、光る鯨による歌があった。
 誰にも阻害されない自由の空があり、竜が舞う。この場に風を運ぶは彼らの役目。
 海を囲う森には、羽耳兎の『フラビィ』という原生生物がある。
 雪が降ったことで、平素の三倍以上のふわふわとした毛並みに顔が埋まっているらしい。どれらも敵対しておらず、ただ自由に生きている。
「その地域を知る冒険者いわく『必要な分を必要な分だけ』という狩りのルールがあるそうだ」
 それは、三種の生物に適応され、必要以上の討伐は国が動き、最悪死罪だと。
「誰が言い出したルールかは分からん。ただ、そいつらは、真実無害なんだそうだ。なら、大事にしても良いんじャないか、という意見もわからないこともない」
 冒険者以外は、誰かの掛けたその『ルール』に従い、魔法で方向感覚が狂わされて普通の人間はたどり着けない。
『ルール』を破った者は二度の踏み入る事が出来きず、商売のために冒険者を頼る者が後を立たないらしい。
 強固な魔法が掛けられた場所でも在る。
「そこに、自身への『癒やし』を求めたモンスター……オブリビオンが群れを率いて攻め込む。雌の袋狼によッて率いられた獣の群れだ。その場を『国』と見定めて、場所を乗ッ取り、虐殺を企てている」
 誰かの疑問の声があがった。オブリビオンは冒険者以外に当てはまるのか、と。
 そう、とフィッダは頷く。
「獣たちは『ルール』を破ッていないから森を進んでいける。奴らの目的は『場所の簒奪』。それ以外の殺しなんぞ興味の範囲外なんだ」
 獣は獣の世界の『ルール』がある。
 爪を牙を振るうのは、確固とした目的と、ボスの指示のみ。
 だからこそ、ボスが目的から目を逸らさないのであれば、それに従う。
「このまま奴らが森の向こうにたどり着けば、『ルールの禁』を破ると同時に群れはその場での生存防衛を始める事を避けれない」
 来たものを必ず殺し、縄張りと定めた場所の奪う存在を憤怒の限りに殺す。
 反逆があれば必ず殺し、綺麗な環境は血染めに満たされ呪われてくだろう。
「だから、だ。てめェらには奴らが森を進むうちに目的を阻んで欲しいと、願う」
 森での殺生に『ルール』は適応されないだろう。
 なにしろ、森の奥の鯨と竜。森に住まう羽耳兎。その三種への殺生にしか発動しない。
「部外者は部外者同士、やり合えばいいのさ。――簡単だろう?」
 猟兵もまた部外者。目的は侵入者の討伐だ、誰からも報酬は出ないだろうが、後に誰かしらに感謝されるだろう。
「なんなら、優しい世界をその目にしてくるといい」
 危害を加えないのなら、原生生物は決して、敵対を示さないから。
 ほんの少しの安らぎを求めて、優しい世界を、見てくると良い。
「羽耳兎ほどとは言えねェけど。たまには『はねをのばして』過ごす時間を持つのも悪くないさ――きッと、さ」


タテガミ
 こんにちは、タテガミです。
 獣は獣に従うもの、例え特に戦意が特になかったとしても。
 信頼、群れとしての連携もない即席の軍勢だとしても。
 ボスの憤怒はそれでも良かったんでしょう。そんな進撃。

 この依頼では『平和の秘境を守る』というのが目的です。
 集団戦、ボス戦の獣たちは『喋る』と思います。
 もしくは脳内直接テレパシーで語りかけられることでしょう。
 ボスは兎に角『ヒト』が嫌いですのでその首寄越せの可能性はあります。

 戦闘関連は森の中。兎ちゃんたちが巻き込まれることはないです。
 獣達の殺気に驚いて森の奥へ逃げてしまっています。
 現在の森は、野良冒険者も特におりません。
 猟兵たちと、獣が出会って戦う。そんな流れでしょう。

 OPで3章のニュアンスを語っているつもりですが、ふんわりでも伝わっていたら幸いです。ほのぼののんびり、秘境で過ごしませんか?というお誘い。
 3章にはお呼び頂いた時のみフィッダ(f18408)がお相手を努めます。
156




第1章 集団戦 『ナーガクーガ』

POW   :    飛びかかる影
【不意打ちの飛びかかり】が命中した対象に対し、高威力高命中の【輝く牙による食い千切り攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    激昂
【怒りの咆哮を上げて威嚇する】事で【興奮状態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    集団防衛
【強敵の出現を知らせる警戒の咆哮】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Leave it to me

 ――遠く、何処かに獣ではない音がある。
 ――息遣いが、聞こえる。
 はじめに気がついたのは、ボスに従っていたナーガクーガたちだった。
 宝石の目ように目を光らせて、周囲を睨み耳を倒す。
 ――警戒しろ。
 ――なにか来る。
 ざわざわと獣達が動揺するところで、一つ、ボスが命令を下すのだ。
『そんなに心配なら、向かい合ってみればいい。敵意を示せば安心して殺せばいい』
 ――ナーガクーガが敵だと思うなら、敵だ。
 そんな単純な獣の生き様すら、考えない配下に鼻を鳴らしてボスは走り出す。
 ――自分の群れならば、もっと賢しい者たちだったのに。
 頭を振って、余計な考えを追い払う。
 ――私の敵は、平和を貪る者共だっ!!
 憤怒の叫びを、ボスの声を遠くに聞きながら。
 ナーガクーガは姿勢を低く、来訪者の姿を探す。
樹神・桜雪
【WIZで判定】
※絡み、アドリブ歓迎

獣は獣のルールがある、かあ。
なら、ルールを破ろうとするあなた達は止めなくちゃいけないんだよね。
どんな理由があっても、どんな感情がそこにあっても、ルールはルール。ここで止めさせて貰うね。

相手のUCが少し厄介だね…。
UC『七星七縛符』で封じる事が出来るか試みてみる。
『先制攻撃』でUC使えたら良いけど、無理そうならタイミングを見計らって使うよ。
後は『2回攻撃』で攻撃しつつ、攻撃は『凪ぎ払い』する。無理そうなら『第六感』で避けてみる。

…この先はダメだよ。
先にここに居て、ここのルールで生きているモノ達がいるんだ。
奪うんじゃなくて、共存するんじゃダメ…だったのかな。


アンテロ・ヴィルスカ
ヒトらしい憎悪…と言うのは、少々ヒトを基準にし過ぎているか……群れをーー仲間を持つ者らしい、と言った方が適切かもしれない。

彼女の想いは否定しないよ、無論同情もしないが…
俺は俺の立場で仕事をこなすだけだね。

統率の取れた獣は侮れない、転送してもらう時点で鎧を纏う

致命傷にならなそうな攻撃を数回わざと受けて『輸血瓶』の血を鎧にかけ
負傷した風を装い、そのまま引く素振りで斜面に誘い込んでlaviiniを発動
氷塊と雪を交えた雪崩を局地的に起こしてナーガクーガを巻き込もう

1匹でも多く引き付ける腹積りだが
俺自身も雪崩に巻き込まれぬよう【念動力】で銀鎖を丈夫そうな木に巻きつけギリギリで退避

アドリブなど、ご自由に…



●For the leader

 唸り声が、森の中にじんわりと響く。
 新しい雪にややかき消されながらも、確かに。
 何体も居るナーガクーガが威嚇する。
『ボクらは気がつけば死んでいた。群れを治める者はなかった』
『今も、何故か此処に居る。初めて得たボスの欲しい縄張りを求めて』
 来訪する人影が、こちらに来ることが分かったから。
『近づくな』
 そう唸りで訴えて踵を返せば、それらは敵ではないと、思いたかったから。
 それは、彼らの正直な望み。
 獣な彼らの、アックス&ウィザーズに過去生存していた見極めの限界。
 この地域付近に確かに在った彼らもまた、人間に狩り尽くされた過去を持っていた。人種に対する無差別の恨みはあるだろう。
 しかし、彼らの死の理由は、ボスの恨みとは別のもの。
 ナーガクーガは、瞳と牙、その輝きを求められ狩られるだけの存在として姿を消すに至ってしまった。
「……獣には獣のルールがある、かあ」
 樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)の声に、ナーガクーガの視線が向く。
 唸りに気づいていても、歩みをやめなかった者。
『これは敵だ。……いや、でも敵意は…………殆ど見えない』
「ボクは思うんだけど、ルールを破ろうとするあなた達は止めなくちゃいけないんだよね」
 ぼんやりと、感情に乏しい人形の彼はルールを口にする。
 猟兵として在るルールも掛かってくるだろう、そして、森の奥へのルールへも。
「ヒトらしい憎悪……というのは、少々ヒトを基準にし過ぎているか…………」
 独り言のように、呟きながら一人また足音が近づいてくる。
「群れを率いる、――そう、仲間を持つ者らしい、と言った方が適切かもしれない」
 アンテロ・ヴィルスカ(白に鎮める・f03396)は獣達を警戒し、鎧姿で森に訪れた。寒々しい光景と、黒々とした姿の獣以外の黒だ、相応に目立つ。
 その彼は、ボスと呼ばれ、この場に無いモノの話をしているようだった。
『ボスは寂しそうだった。彼女は孤独だ』
『配下に下った現在でさえ、恐らく、孤高。群れてるのに群れの中に居ない』
「ああ、彼女の想いは否定しないよ、無論生き様にも顛末にも同情しないが……」
「そう。あなた達にどんな理由があっても、どんな感情がそこにあったとしても」
 桜雪がふと、空から舞い落ちてきた雪の欠片を握るように、言葉を止めた。
 すぐさま溶けて消えてしまうものに縋り、獣へ言葉が届くように、祈るように……軽い願掛けを施す。
 それを見て、ナーガクーガがなんだ?と首を傾げる。
 獣にはそのような動作を途中に挟む意味が分からなかった。
 届かないのは、躯の海からの帰還者である事以前にただ、種族的違いの価値観壁があるからだろう。
「ルールはルールなんだ。ここで止めさせて貰うね」
 名残惜しいばかりの欠片が溶け切った手に、桜雪は札をずらりと並べて持つ。
 透き通った空のような札を並べ、敵対の意志を示して。これにもまた、祈りを掛けて、投げる。何よりも早く、先制の一手で札が空気を裂いて飛ぶ。
 獣達は一気に認識を改める。
 ……彼らは会話しに来ただけの者ではない――ただ、敵である、と。
 飛び退くことが出来ずに札が命中した幾つかの個体を無視し、ナーガクーガが一斉に声を荒げる。
『警戒しろ!これは終わりを齎す、敵どもだ!!!』
 雄叫びのような咆哮に同調した個体が殺気を滾らせて、爪を牙を用いて鏃のように跳ねて飛ぶ。
 獣らしい動作で。迅速な死を齎す黒い嵐として、人を殺された分の恨みを乗せて。
 声の力を封じられた個体も、同調することで威力を跳ね上げているようだ。
 吠え猛る同調の問いかけ総数を減らせた分、威力自体は最高よりは落ちている。
「君たちの敵か敵じゃないか、という話だったか。俺は俺の立場で仕事するだけだね」
 すっ飛んできた獣の牙を、抜き放ったaaveで受けて流すアンテロだが、片手剣でのみの相手である以上獣たちは空いた死角を狙い、爪を突き出して跳ね上げた戦闘力の分だけ強く強く薙ぐ。
 鎧を貫通させん勢いで噛み付く個体も在った。
 足や体に、がりごりと、とても嫌な音がする。
 ――あれは、わざと、受けているのかな。
 桜雪は何度目かのアンテロの戦い方を横目に直感で薙刀の柄で受けて、集団で敵を襲う仕草をする彼らからの攻撃は、狩衣に似た衣装の袖を振るう事でいなして無効化する。
「……この先はダメだよ。ボクらを追い立てて居て」
 ――先に此処に居て、生きているモノ達がいるんだ。
「奪うんじゃなくて、共存するんじゃダメ……だったのかな」
『ボスが望まないなら、ボクらが望むことじゃない』
『少なくとも、現在望まれてる事を叶える!』
『此処に来た奴らを殺すことがボスの喜びだ!』
 獣からの解答は、"自分の考え"が含まれていない。在り方を否定されたと思ったのか、ナーガクーガが同調して桜雪に向かって牙を向けた。
「……はあ。ボクは、此処に居ないボスじゃなくて、"あなた達に"問いかけたつもりだったんだけどなあ」
 勢いに任せて跳んできた個体を、薙刀を八の字に振るって弾き返し、それでも諦めない個体を蹴り飛ばして斬り伏せた。
「手負いを追い立ててこそ、獣だろう?」
 桜雪に敵意の限り殺意を出して跳んでいく個体に、アンテロがそう問いかける。
 怪我を負わせた、動かないなら動けるやつを優先して潰せ、と群れは桜雪へ攻撃に動いていた。
 アンテロに敵対する個体が少ないのをいい事に、輸血瓶の血を鎧にかけて更に深手を負っているように装う。
「彼が倒せないならせめて、手負いの俺は殺すべきなのではないかな?」
 鎧を滑って雪の上を紅く染めるモノは紛れもなく血だ。
 彼から流れるものか、かけたモノか、獣には判断つかないかもしれないが。
 それを気にせずに、その場を引くようにアンテロが移動していく。
『望み通りに追い立てろ!』
『そうだそうだ、ボクらで確かな手柄を立てよう!』
 獣はそう。ボスのためと決めれば、単純に後を追いかける。
「君たちは素直だねぇ。それ自体は良いことだけど、少し迂闊でもある」
 見晴らしのいい上下の立地、敵は下で立ちすくんで止まった。
 ナーガクーガはそう思ったことだろう。斜面にて、手負いを追い詰めた、と。
「猛り過ぎて、音が聞こえないわけじゃないだろう?」
 aaveが冷たい輝きを持って、魔力を開放していると気がついた個体はそう多くない。言葉への違和感に、気がつけた個体も居ないようだった。
「氷の下で眠りたいなら、どうぞごゆっくり」
 魔力によって促された雪は波の様にさざめき、生成された氷塊を起点に膨れ上がってナーガクーガを巻き込む。
 アンテロが狙っていた力となって、斜面を雪崩が襲ったのだ。
 始まりの起点に居た個体から、追いかけてきた個体の殆どが勢いの増した雪の流れに押し流されて沈められていく。
『気合で逃げろ!ボスのために!!』
 そんな叫びも聞こえたが、雪に埋もれたか逃げ切れたかは定かではない。
 雪崩より早くアンテロに牙を剥く個体も在ったが巻き込まれていった。
「群れがどれほど生き残ったかは、見ものだねぇ」
 自身が起こした雪崩からは、身近な木へとギリギリ銀鎖を巻きつけて回避を行ったアンテロ。斜面が斜面でなくなった。
 丈夫な木から見える光景は、ただ、――それだけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イリーツァ・ウーツェ
互いの力量差も理解出来ぬ阿呆共
其れでは野生で生きられまい
此処で死ね

森の中では障害物が多い
怪力を活かし、杖で木々を圧し折る
見晴らしを良くして不意打ちを防ぐ
飛び掛かって来たならば、頭を殴り砕く
逃げる者はリボルバーで撃つ
象を殺せる大口径だ、何処に当たっても大きな傷になろう
足を止めた所を追い付いて殺す

仮にも頭領だ、群れが亡べば出てこよう
弱肉強食の理を教えてやる


シキ・ジルモント
◆SPD
報酬はともかく、相手がオブリビオンなら仕事を断る理由は無い

獣の集団か…ボスはここにはいないようだ、突破させてもらう
数が多くスピードも速いが興奮状態に陥っている、冷静な判断は難しいかもしれないな

『聞き耳』を立てて敵の位置と動きを探り、飛び掛かってきたらユーベルコードの効果で回避を試みる
回避する直前に閃光手榴弾のピンを抜いて足元に転がす
飛び掛かってきた敵集団の目の前で炸裂させ『目潰し』を狙えるようにな
こちらをしっかり狙ってくる上に興奮状態であれば、これに咄嗟に対処するのは困難だろう

怯ませて動きを止めたら急所を狙撃して仕留める(『スナイパー』)
一番の大物が残っている、あまり時間はかけられない



●咆哮は硝煙に呑まれて

 時間を少しだけ置いて、ぼす、と雪の中から這い出てきたナーガクーガがある。
 後に続いて、ぼこぼこ、と幾つかの獣の頭が雪から覗いた。他の個体ともども圧死に至れず、しかし確実な攻撃を受けた獣たちは怒りを瞳に燈す。
 雪崩から逃げ伸びた個体共々、空に吼える。
 血反吐を吐くほどに、激しく、一点の感情を叫ぶ。
『絶対許すな!殺せ!!』
『徹底的に!殺せ!!』
 合流した獣の燃える攻撃対象は、必然とヒトに向く。そう、猟兵に。
 牙を剥いて、唸り身を低く下からただ残酷に殺してやると、睨めつける。
「報酬はともかくだ。相手がオブリビオンなら仕事を断る理由は無い」
 ――それが、獣相手でも。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は涎を撒き散らして走り来る個体を見つけて浅い溜息を吐いた。
「獣の集団……。ボスはここにはいないようだ、突破させてもらう」
 既に正気の無い表情しか見えない事は、果たして誰にとっての僥倖か。
『誰が通してやるものか!必ず死んで行け!!』
 仲間の声しかもう耳に入っていないのだろう。
 ――あれは……敵を殺せば満足の獣の目だ。
 ハンドガンをその手に構えるシキを恐れる事も、撃たれて死ぬ可能性も、考慮に入っていない。
「互いの力量差も理解出来ぬ阿呆共。其れでは野生で生きられまい」
 イリーツァ・ウーツェ(黒鎧竜・f14324)は哀れな物を見る様に、そう零す。
 明らかな敵との力量差、明らかな劣勢の手負いの群れである事の認識を改めない。
 狙撃手達に、群れでスピードを活かして撹乱し木々に紛れて淡々と殺そうと囲う様をただ、哀れと。
 翻弄して、痛ぶり各個撃破の作戦が丸見えであった。
「いっそ此処で死ね」
 言い捨てる。微量でも知恵ある獣がその知恵を怒りに燃やして捨てた。
 ではただの、過去の獣だ。これは。
 イリーツァがリボルバーに掛けようとしていた手はすぐにでも獣の腹を穿つに等しいだろう。そのためにはどうしても視界の障害物が多いと感じていた。
 ――ではどうするか。
「だが、先に周りだ」
 周囲から聞こえる雪の上を走る個体の数、森に隠れた息遣い。
 遠目に吼える声、唸る音。
 威嚇に専念する傍観の獣、それだけでも把握しきれない。
 ざり、と雪を思い切り蹴り飛びかかる一頭を筆頭にシキへと爪が、牙が雪崩込む。
『死ねぇええ!!!』
「敵に事前に位置を悟られるとは、……狩りすらも不慣れか」
 このナーガクーガの群れが生前に生き残れなかった理由は大体このあたりかと一瞬考えが過るが、シキの狼の耳は正確に捉えて足さばきのみで襲い来る獣を躱した。
『ちぃ!』
 不機嫌そうに顔を歪めた獣が通り過ぎていく。その刹那。
「そら。悪いが、ヒトを怒りで殺せると思い勇むだけなら滑稽だ」
 幾つかの個体を躱した獣達が着地し、身を翻し再び追撃にくる間合い。
 シキが放ったものが、ころり、と無造作に転がる。
 それは、炸裂秒読みの閃光手榴弾。
 回避とともにピンは既に抜かれている。
 そう、故に、図られたタイミングで彼らは目を光に勢いよく焼かれるのだ。
 興奮のままに敵の殲滅しか頭の中になかった彼らに、不意打ちはよく刺さる。
『くぅううん!?』
 思わず言葉を失い、閃光は最前の攻撃手の目を眩ませた。
 見事に潰したと言い換えても良い。獣足で顔を擦るが、闇に閉ざされたのだろう翡翠の瞳は色を失い何も映してはいない。
「怯んだな」
「そうだな、しかし木々が兎に角邪魔だ」
 イリーツァは閃光のタイミングで視線を反らしていたようで、即座に行動に移る。
 邪魔なのだ、無くせばいい。実に簡単で、単純な答えを実行に移す。
 杖を用いてまるで気軽な掃除を行うように、木々を怪力の限り圧し折り、環境にある障害物を切り開いていく。
 強引な力技の環境破壊は許されないかもしれないが、森のごく一部だ。
 この地は誰の所有でもないはずである。
 ただ『ルール』に生き物が守られた場であるという話でも在った。
 ――今は、仕方がない。
 『ルール』を護るための破壊だ、恐らく許されることだろう。
 イリーツァによって段々と見晴らしが良くなる森は、その場だけ広場と呼べるほどに何も無くなっていった。
 獣の耳が、黒々とした体が、至るところから遮蔽物を失ってあぶり出されていく。
「これでもう、不意打ちもしようがない」
『ガァアアアアア!!!』
 霞む視界のナーガクーガが一頭、瞬時に飛び出していた。
 怒りに任せ声を荒げてイリーツァの背後から迫る。
「見えぬのに挑む事はただ、無謀という」
 声をあげては『此処に居る』と主張するも同じ。
 振り向きざまに杖を頭部に当てて殴り、打撃の限りに地に伏せ沈黙させた。
 がふぅと声が微かにあがったが、其れも一瞬。
 頭からその個体は割れ砕けて消え失せる。
「そして、仲間を見捨てて逃げ出す者も」
 ――紛れもなく愚かの一員だ。
 視界の隅で完全に戦意を失って、ボスを追いかけようとした個体に抜き放ったリボルバーが幾つか打ち放れて追撃していく。
「象を殺せる大口径だ、これは。何処に当たっても、未来は決定的だろう」
 パァン、と着弾とともに、爆ぜるは獣の体かそれとも頭だったか。
 息の確認をするに動こうとしたイリーツァより先に、シキのハンドガンが留めを穿ち獣たちはバタバタと倒れた。
「致命傷に追加だ、潔く痛み事躯の海に持ち帰れ」
 消え去る獣へ、ただ銃弾による安らかな死を。
「此処に居ないのはこれらの、仮にも頭領だ、群れが亡べば出てこよう」
「あぁ。一番の大物がまだ残っている。あまり時間はかけられない」
 二人の猟兵による銃弾の豪雨は、森に未だ隠れ潜むナーガクーガを逃さない。
 雪より白い硝煙が辺りを包んでいく。
 イリーツァの大打撃により体を砕かれる獣の悲鳴でさえ、遠く霞むほど。
 火薬の匂いが、獣が流した血を総て打ち消す程に。

 獣たちはボスから受けた『命令』を、遂行するに至れなかった。
 彼らがボスと違い、貴重素材の所持者と殺されて来ただけの獣であったが故に。
 彼らは自分の命ですら、十分に守りきれない群れで在った。
 ボスが彼らを良く知り得なかったが故に。
 群れは跡形もなく、――滅んでいくのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『憤怒の魔狼『サイラシン・ベン』』

POW   :    我が家族を殺した人間達は何処だ!
全身を【怒りを際限なく増幅する呪詛】で覆い、自身の【仔を殺された事に対する怒り】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    何故、我が家族は殺されなければならなかったのだ!
対象への質問と共に、【腹部の育児嚢】から【腐敗し無惨な姿に成り果てた袋狼の群】を召喚する。満足な答えを得るまで、腐敗し無惨な姿に成り果てた袋狼の群は対象を【傷つけた物を腐敗させる爪や牙】で攻撃する。
WIZ   :    人間よ貴様らに家族を殺された獣達の怒りを知れ!
戦闘用の、自身と同じ強さの【袋狼とLvと同数の怒り狂った大型獣】と【Lv×十体の中型獣とLv×百体の小型獣】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はシエナ・リーレイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●その慟哭は確かに

 ――うぉおん。
 遠巻きに聞こえていた配下の声。
 銃撃、悲鳴。獣が何かを求めた、……慟哭。
 そう配下と長い付き合いというわけでもなかったボス、雌の魔狼は脚を止めた。
 ――どうしようもない他人とは分かっている。
 ――勿論だ、救いようがない他人だ。
 もう少し走れば、平和を謳歌する平和の塊が在るだろう。
 今も、脅威が近づく事を知らず過ごしているかも知れない。
 ――忌々しい。あぁ、だが、……!
 ――私の群れ無き後に得た、唯一の従う者共だったッ!!
 背に携える翼を持ってすれば、殺しただろう者たちを殺し尽くせるだろうか。
 いや、違う。そんなあやふやでは、弱い。
 ――確実に殺すのだ。私をまた、……一人にした害悪共を!!
『私の……我が新しき家族ですら殺し尽くす者共を、赦してなるものか!!!』
 最期に聞こえた遠吠えを頼りに、サイラシン・ベンは風を切り裂いて舞い戻る。
 頼ってきた者共の断末魔にさえ間に合わないのもまた、怒りと呪詛に置き換えて。
樹神・桜雪
【WIZ】
※絡み、アドリブ歓迎

怒る気持ちは少し判る、かな。
あなたが言うところの新しい家族を殺したのはボク達だもの。
ボク達もここを守らなきゃいけないから、ごめんなさいは言わないよ。

たくさん召喚してくるね…。さすがに多勢に無勢かな。
UCを『2回攻撃』絡めて攻撃してみるよ。
足止めを狙えるのなら、彼女自身を攻撃したいな。
回避は『第六感』で頑張る。ダメなら多少なら受けるよ。
狙えそうなら『カウンター』でUC使いたいな。

…理不尽に奪われる悲しみは実は少しだけ判るんだ。
だから…『祈り』だけは捧げさせてね。
何をなくしたのかは覚えていないけど、なくしたくなかった事だけはしっかり覚えてるんだ。不思議だよね。


イリーツァ・ウーツェ
貴様が頭領か
何故貴様の群れが亡んだか
何故貴様の家族が殺されたのか
理由等あるまい
此の世に理由の有る物事等そう在るまい
敢えて理由を付けるならば弱かったからだ
群れも家族も弱かったから死んだ
貴様も弱かったから守れなかった
其れだけの事

どれだけ早く飛ぼうとも狼だ
最も得意とする攻撃は噛み付きだろう
来るがいい
真っ向から其の牙圧し折ってくれる

貴様も死ね、オブリビオン


シキ・ジルモント
◆SPD
奴と家族が殺されなければならなかった明確な理由などなかったのだろう
強いて言うなら、より力のある者に負けたというだけの話だ

ユーベルコードを発動
増大した反応速度で袋狼の群の接近に反応して反撃、または攻撃を『見切り』回避を試みる
群れと交戦しつつ本命を待つ
本命は、この群れと息を合わせて向かってくるであろう魔狼だ
群れに邪魔されない唯一のタイミングである、こちらを狙い攻撃してきた所を『カウンター』で迎え撃つ

この一戦、たとえ変身した方が有利でも常に人の姿で交戦する
奴が人をそこまで憎むと言うのならとことん人と戦わせ、躊躇も手加減もせずその激情に全力をもって応じる
俺に今できる事はそのくらいしかないからな


アンテロ・ヴィルスカ
配下の力量も計らず、無鉄砲に差し向けるからそうなる
寄せ集めの群れと静かに暮らしていればよかったねぇ、魔狼君?

なんて、説教を聞く耳など持っていないだろうね
好きに憤り、無差別に噛みつくといいよ、…君の群れを潰したヒトと同じように。

さて、流した血の再利用といこう。
『刻印』からliljaを喚び、同時に各所に散らばる自身の血からも咲かせられるように【力溜め】
鎧と剣で攻撃を受けつつ【罠使い】、隙を見て多方から彼女に種子を植えつける狙い
地上から手が出せなくなれば開花させる

骨の翼を絡めて取って、存分に食い尽くすといい…
花の食い気も獣に負けないよ。

アドリブ等、ご自由に



●Please tell me. why……

 カらカらカらカら……骨の翼は軽い音とは裏腹に、獣に速さを齎した。
 怒りから始まる怨嗟の呪詛が体から溢れ出て、力強く脚を運ばせる。
 耳に入るだけでどこか、不快な羽撃く音だ。しかしそれを獣は気にしない。
 大地を走っていたのなら、一歩事に地面を踏み砕いていただろう。
 疾走る脚に、怒りで出来た加速の一翼で、ただ、前へ、前へと。
 そんな背中から発生させる音を置き去りに。
 獣は荒れた感情のまま、ただ叫ぶのだ。
『我が愛しい配下を……家族を、殺した人間達はァアア…………!!』
 最後までその言葉は吐き出されない。そう、言う必要すらない。
 何しろ、今、――敵と、目が遭った。

「貴様が頭領か」
 眼光鋭く、真っ直ぐ睨み返したのは、イリーツァ・ウーツェ。
 周辺の森を、乱暴に更地にしたイリーツァの周囲にぽつぽつと残った濃厚の紅は、雪を溶かして紅く点在するのは果たして誰のものか。
 砕かれ無残な死に様を晒す躯の海に帰りそこねている死体はひとつふたつ、いやたくさん。撃たれて即死の獣なら、まだいい方だ。
 爆死するように、部分的に無いものが、在る。
『無残に等しい!残酷の再演か!!なんと、なんと………酷いことを!!』
 獣の吐き出す言葉はもっともだ。それを為したのが"人"であるからこそ、怒りは濁々と呪詛と混ざり循環する。ギラつく瞳に、粘つくような汚泥が積もるように、"殺す”という感情が急増していく。
「何故貴様の群れが亡んだとか」
 瞬きを、ひとつ。
「何故貴様の家族が殺されたのか。理由等あるまい」
 酷い、そう叫ぶ獣にイリーツァはただ、真実を叩きつけていく。
「此の世に、理由の有る物事等そう在るまい」
 事件として、事故として起こることは必然だ。
 その場所に、起こるべくして起こる。
 理由など一切ない。それが、時間の流れである限り。
「……敢えて理由をつけるならば、弱かったからだ」
 がおう、と獣が放った怒号は、言葉ではなく覇気ともいうべきもの。
 "黙れ殺すぞ"その一点だけで、体にビリビリと威圧の重圧を浴びせかける。
「群れも家族も弱かったから死んだ」
 圧力に負けない眼光は、語る口を閉ざさない。
「此度は群れへの過信、貴様の弱さが招いた。そう、其れだけの事」
『其れだけ!!其れだけの理由で!!何故、我が家族は殺されなければならなかったのだ!!!!過去も、今も!!!!!』
 骨の翼で旋回しながら、イリーツァの声を潰すように怒号の限りに吠え叫ぶ。
 狂気にも似た、獣の怒りの慟哭。
 ……弱かったから故の惨殺。
 ああ、どうして。どうして。怒りの問いは終わらない。
「過去、家族が殺されなければならなかった明確な理由などなかったのだろう」
 獣の問いかけに、シキ・ジルモントの声は、静かに紡がれた。
「強いて言うなら……より力のある者に負けたというだけの話だ」
 今も、昔も。抵抗する術よりも、滅ぼす力が強かった。
 獣は其れを見定めるに至れない。其れ故の必然だ、と。
「配下の力量も計らず、無鉄砲に差し向けるからそうなる」
 ついでに、とシキの言葉に続く猟兵がある。
 鎧の下でどのような表情をしているかはわからないが、獣を苛立たせる表情を浮かべて放たれた言葉だろう。
 配下への過信、もしくは、無条件の親愛と、信頼であったのか。
 アンテロ・ヴィルスカの言葉に眉間に寄せる怒りは色濃くさせた。
「そんなに気にかけていたのなら、寄せ集めの群れと静かに暮らしていればよかったねぇ、魔狼君?」
 全て失ってからでは遅いと、はじめから魔狼が知っていた事を説教地味た言葉の連鎖が論破する。
「どうぞ好きに憤り、無差別に噛みつくといいよ、……君の群れを潰したヒトと同じように」
 怒りに任せて吐き散らす恨み言。
 それを晴らさんと牙を向ける相手が、真実今の群れを殺した相手ではあるが。
 過去、彼女を当時殺した者たちではない。つまり、そうだ。
 怒り自体は相応であるが、これは、舞台の再演。
 今度は、彼女が、無差別に殺す側へと踏み込み、敵対している。
 ただの敵対者であるヒトを殺して、群れの魂を慰めたいだけの母心だ。
『許可なぞヒトに求めない!!私は群れを家族を殺した者共を殺す!!!』
『殺されたのは弱さ故!!認めてもいい!!!しかし、壊滅まで殺されなければいけない理由にはならないだろう!!!!』
 吐き散らす言葉と共に、空から猟兵を見下ろす体勢を変えぬまま。
 サイラシン・ベンの声に呼応するように、召喚の魔法陣が発動する。
 それは、"人間に家族を殺された事がある"獣、獣、獣の群れ。
 涎を吐き散らす大中小の獣の群れが、犬から猫から、その体格差を様々に空から飛び降りて、猟兵を囲んだ。
「……怒る気持ち、少しは、判るかな」
 ぽつり、と様々な怒りが渦巻く中で、樹神・桜雪は静かに呟く。
「これだけの数。生きるための恨みというのは、どこにでもあるよね」
 今すぐにでも猟兵を殺さんと攻撃的な感情を向ける動物を憐れむように見て、桜雪は敢えて、魔狼に語る。
「例えば今のあなた。あなたが言うところの新しい家族を殺したのはボク達だもの」
 この場に召喚された動物よりも、真新しい殺人現場はココだ。
 しかも、戦いに加われない空より、歯がゆくこちらを見下ろすしか出来ない殺害計画を見ている。
「あなたがココの平和を脅かそうとしていたように、ボク達もここを守らなきゃいけないから」
 ――ごめんなさいは、言わないよ。
「あなた達にも謝らない。戦闘用にと喚ばれた、怒りの化身なあなた達には」
『謝れば殺していい、謝らなくても殺していい?人はやはり、傲慢だ!!』
 魔狼の声に、数百の猫たちが、中型の犬たちが、さらに牙を向く獅子たちが、一斉に動き出す。
「……たくさん召喚してくれたものだね、流石に多勢に無勢だけれど」
 ぱきん、と桜雪の言葉に呼応した澄んだ音がひとつ。
 狩衣の袖から溢れるように、舞い散らすそれは、武器が変じ、身を溶かした無数の氷の欠片。
「ほら、遠慮なくおいで。これらはボクの冷たき刃。覆い尽してあげるから」
 無数に飛ぶ氷の花びらが、動き出した動物に容赦なく飛んでいく。
 ぺたぺたぺた、と張り付く氷は動物の脚を中心に放たれて、動きを止めて捕まえた動物の口を、呼吸を閉ざさんと覆っていく。
 生き物である以上、息を止めれられれば長くは持たない。
 ――それに、恐らく彼女がそれを、耐えられない。そうだよね?
「ねぇ、またそうやってみているだけ?彼らも、失ってしまうよ」
 軽く挑発してやれば、もう動物たちの足止めすら、意味を成さない。
 獣は考える。召喚を解かなければ彼らは死に絶える。
 残酷な方法で目の前で殺され尽くす。
 召喚を解けば、脅かした物を自身の手で殺せるかも知れない。
 救える命はあるだろう。
『何度も、何度もオォオ!!!!』
 ――ほら、やっぱり。
 戦闘用の動物を救うため、召喚を解いて、獣は桜雪に空より怒りの分だけ、爪を手を伸ばして飛来した。
「……!」
 召喚解除と同時に手元に戻した薙刀がなかったならば、喉元を激しく切り裂かれていたかも知れない。
 第六感が働いて、致命傷を避ける術を閃かなければ、この獣は桜雪を容赦なく殺していただろう。
『一人でもいい!!我が家族の為に死に絶えるがいい!!』
 命のやり取りの方法を、この獣はよく知っている。
 受けた薙刀が、嫌な音を立てた。翼の音を避けるように、一歩下がった途端、狩衣の袖が逃げ残って獣に切り裂かれる。
「死んだ家族のための首が一つで良いんだ?へぇ……」
 ふぉん、と獣が出す音にしては鋭利な音が翼を躱したときに聞こえた。
「じゃあ、取れるといいね。とれる、ものならさ」
 獣がその言葉を聞いた時、桜雪の薙刀は姿を失っていた。舞うのはただ、白い欠片ばかり。
『……!』
 間近に迫った獣の胸に、顔面に。
 氷の刃は雪崩のように放たれた。勢いよく、空へと吹き飛ばされる。

「折角のスピードも、そうやってバランスを崩せば意味のないことだ」
 空でバランスを崩す獣が見たのは、同じ速度に翼を広げた猟兵だ。
「どれだけ早く飛ぼうとも狼。それ以外にはなれない」
 羽ばたく翼でなんとか体勢を戻し、魔狼は見据える。……イリーツァを。
「最も得意とする攻撃は、噛み付きだろう?来るがいい」
 両手を広げて、速度の限りに来いと挑発する。
 無防備を晒すものほど、殺せる可能性はぐんと跳ね上がる、あぁ魅力的な提案だ。
『首を置いて、我が家族に謝罪とするか!!その程度で、我が怒りは……!!!』
 ごおう、と一翼の加速でイリーツァの懐に飛び込む。
 己の牙が相手を噛み砕く瞬間を夢見て。これはたった一匹の魔狼の攻撃だ、不意打ちは攻撃の手段に組み込むことができない。
「真っ向からその牙、圧し折ってくれる」
 獣の加速した速さと、戦闘力。
 もちろん、途中で止まる事など、出来はしなかった。
 それを反動に、突き出されたのは、瞬間的に齎される破壊の力。
『ごはぁッ!?』
 獣の鼻面に、それは弾けるように叩きつけられた。
 巨岩すら粉塵と化すという暴力的なまでの、拳。慈悲の入る余地はない。
「貴様も死ね、オブリビオン」
 サイラシン・ベンの口周り、それら全てを圧し折り、骨を砕く。
 顎を鼻を牙を砕き、流れる血すら感じる隙を与えぬまま、勢いよく吹き飛ばす。

 あまりの威力に言葉を失って、吹き飛ばされるままの獣を、アンテロはポツリと出た言葉で見る。
「いたそう」
 しかし、あれもまたいい具合に血を出している。勿論、見た目だけの話だ。
 出そうとして出ているものではないし、止められる量でもない。
 どれほど垂れ流れているのかすら、痛みと衝撃でわからないことだろう。
 この場には仲間や家族と形容した、先程まで此処で暴れていたナーガクーガのものもそれに紛れたアンテロ自身のものも。
 多少雪の上も荒れているが血液はポツポツと点在していて、利用しない手はない。
「魔狼君もそろそろ飛ばされるのに飽きただろう?」
 喋りながら小さな八端十字架に刻まれた刻印から、liljaを喚ぶ為に動く。
 それは封印された力と言い換えてもいい。
 刻印は血に呼応して具現化する、百合のような型の食虫植物として息をする……が、まだだ。
「捕食するもされるも、好きにしたらいい」
 各所に散らばる自身の血にも、働きかける。数は、十分な程に、あるようだ。
 咲き誇るための準備はもう済んでいるのだ、あとは、それのタイミングだけ。
『こ、殺すだけに飽き足らず……喰い散らすだと……』
 やや透明感を失った掠れた声で、獣は体勢を整える。
 背中の翼だけが、唯一無事の部位だろう。
 あれで死んでいない事が軌跡と、真正面から見たアンテロは思う。
「ただ命を摘まれるだけでいいのなら、ご自由に」
『抵抗するさ!我が仔たちを殺した者共に、臆してなるものか!!』
 彼女を動かすのは、この場に現れたときより体から溢れる呪詛と怒り。
 激痛耐性なんて、持ち合わせてはいない。
 ただ、怒りの限りに戦い、牙を向け続ける。
 羽撃いて、弾丸のようにアンテロへ飛んでいく。
 砕かれた牙はもう、使い物にはならないだろう。
 在るかどうかも、獣には確認できない。
 ならば、と伸ばすのは、怒りと呪詛により無理やり動かす強靭な腕。
 そして、背に携える、魔性の翼だけだ。
「臆さない。あぁ君はそんなに勇ましいのに、仔へは想いが届いてなかったんだねぇ」
 腕を剣で受け、払うと、獣は身を捩るように骨の翼が鎧を叩く。
 速さは変わらず、迸る彼女の怒りはどんな怪我を負っても色褪せない。
 ――それ故に、視点が狭まって、気がつけない。
 アンテロによる、罠が張り巡らせられていること。
 血は確かに、現状どこにでもあり、彼女もまた垂れ流している。
 それが何者のものか、この場で気にかける者はありえない。
 気にするしないの話ではなく、匂いで個別に判断できるものにしか"わからない"のだ。何度目かの打ち合いの勢いのままに、空に逃げる。
 ――攻撃しても、しても、決定的な威力を与えられない。
 獣はそう、判断したのだ。野生の勘とでもいうだろう。
 しかし――。
「そこまで飛べば、良い的だ」
 地上から、アンテロが手を出せないが伸びるものがある。
 liljaの開花は一斉に、そしてそれらは優しく翼に獣に伸びていく。
「存分に喰らい尽くすといい……」
 ゆるゆると魔狼に絡みつき、噛み付いて離さない。
 空を飛ぶ翼にも、体にも。捕食するそれはただ、与えられた餌に、口を開いた。
『あああ!!!!』
 悲鳴も耳に障る程の、声色で。
 母心のままに、死を悟って尚魔狼は何度でも問う。
 生涯の疑問、第二の生でも疑問。呪いとも思える、問いかけを。
『私が無残に死ぬだけなら良い……よくないが、良いとする…………』
 磔刑とばかりに動けない獣を、首を白百合が撫でる。
 食らう部位を選び探すように、優しく。
『だがァ、やはり認められない!何故、我が家族は殺されなければならなかったのだ!』
 吠え猛る獣は、暴れもがきながら問う。
『白き獣が如きお前に問う……何故だ、答えろ!!!』
 腹部の育児嚢から、今のサイラシン・ベンと同じ様な姿が、溢れ溢れる。
 それらが出てくるのは、かつての彼女が仔をそこで育てている最中だったからか。
 目が溢れたもの、首を掻き斬られたもの、どれもこれも無残に腐敗した獣の死体だ。彼女の、本来の家族。死して尚、共に在るため仕舞われた無残な名残。
 踏み潰されたような仔もまた、死霊の群れに混ざり問われた人狼、……シキへと疾走る。
「何度問われても、答えは一つ。理由などなかった」
 頭上の耳を揺らして、シキは答えたと同時に、瞳を光らせる。
 腐敗した袋狼の群れを恐れず、ただ堂々と、疾さをその身に齎して避けた。
『それでは駄目だ、どうして!何故だ!答えろ!』
 ハンドガンで腐敗した狼を撃つが弾けるだけで数は減らない。
 彼女の群れは、想像よりも多かったようだが、質問に縛られた道化のように、踊り続ける。
 欲しい言葉を得るまでは、冥界だろうが群れのボスの言葉しか聞かない。
「……何故俺には執拗に」
 もしかして俺の耳か、とシキは考える。
 狼耳が、正しい答えを齎すと、雌の狼は過信しているのか。
「そこから飛び出して、群れに紛れて俺を殺せたら判るんじゃないか」
 捕縛と捕食から逃げられないのでは、答えは一生わからない。
 耳を、脚をぽつぽつと、じわじわと喰われながら、獣は考える。
『……殺すまでには、必ず答えろ!』
 獣は身を捩ってliljaから逃げるために無理やり引きちぎるように、手段を選ばない。ぶちぶちと、聞こえる体の悲鳴ももう耳に入らない。
 ――千切れた部位の痛みも、答えのためならば。
 そう、得たい答えの為。
 彼女の幽鬼の群れは、ボロボロの彼女に道を譲る。
 群れの最前に、シキの前に躍り出るは、翼だけでやっと前に進む力しかない、死にぞこないだ。
『では答えろ!!そして死ね!!』
「人を憎むというなら、俺も恨め。人狼は、……あんたと同じ、獣ではない」
 シキは答えは、返さない。
 ――俺に今できる事は、それくらいしかないからな。
 どの答えも、全てを怒りに燃やして戦いを、死者の冒涜を獣はやめないだろう。
 シキは答えの代わりに、群れとともに突っ込んできたサイラシン・ベンの額を見据え、撃つ。
 ボロボロの獣の思考を止める死の弾丸。たった一発で、しかし、獣が死ぬには致命的な一撃が頭を貫通しピタリ、と獣は止まる。
『……そう、…………ヒトは、どこまでも、ごうまんだ……』
 信じた所で裏切られる。
 殺すために向いた牙を折られ、共に掛けた今の家族を失い。過去の家族と疾走る体を喰われ、彼女に返された問いかけの返事は、己の中で出た。
『わが、かぞくが……殺されなければ、ならなかったのは…………』
 ――わたしが、わたしたちが、"ヒト"では、なかったから、……か…………。
 砂の山が崩れるように獣は形を失った。
 幽鬼の袋狼たちも、煙のように、かき消えてボスと共に還っていく。


 少しだけ、無音の時間が森に訪れた。
『ぴゅい』と鳴き声が、控えめに聞こえる。
 羽耳の兎たちが、静寂に戦いの終わりを聞きつけて、見に来ているようだ。
 その中で、桜雪がひとつ、小さな雪の山を作っていた。
「……理不尽に奪われる哀しみは、実は、ボクにも少しだけ分かるんだ」
 ――だから、『祈り』だけは捧げてさせてね。
「何を無くしたのかは覚えていないけれど……なくしたくなかった事だけはしっかり覚えてるんだ。不思議だよね」
 何も痕跡を残せず消える彼らに祈る為。
 創り上げた雪も山もまた、季節がくれば消えてしまうものだけど。
 ただ、せめて。
 世界が彩るものは、恨みと怒りだけが全てではないと、――祈りたかったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『冒険者達の旅路』

POW   :    羽耳兎の生息する陸地を歩む

SPD   :    優しき竜達と共に自由な空へ

WIZ   :    光る鯨が友を想い歌う海を渡る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●優しさに護られた秘境へ

 足元のもふもふが、『ぴゅい』『ぴゅいー?』と鳴きながら先導する。
 君たちは、『外敵』でも『狩猟者』でもない。
 こつん、と猟兵に頭を擦り寄せてくる羽耳兎、フラビィたちはとても人懐っこい。
 ―――――♪
 口笛のような、声色が開けたも森の向こう、……海の中から響き渡る。
 獣たちが齎した不快な音ではなく、静かで、そしてただ、優しい声だ。
 光るクジラたちが水を拭き上げて、訪れた猟兵を歓迎している様子。
 ヒトの二倍以上の背丈の竜種もまた、翼を広げてこちらを見ている。
 断定こそ出来ないが、ワイバーンによく似た種類だろう。
 その瞳は蒼く澄んでいて、眼差し自体が優しい。

 森の小動物と、空の飛竜と、海にとても大きな鯨が共存する此処は。
 獣が破壊したいと思わずに居られなかった理想郷。
 すぅう、とそよ風が吹き抜けていく。
 全方位に敵意の欠片もない、これは確かに秘境に相応しい。
 血の匂いすら、存在しない……これは、理想の、優しい『国』だ。
樹神・桜雪
『POW』

すごく綺麗…。それに、優しい気配しかしない。不思議な場所。
そう、彼女はこれを壊して奪いたかったんだね。

UCで相棒を呼んで一緒に遊ぼうか。
優しい景色を目に焼き付けようと羽耳兎と草原を歩く。
風が気持ちいいし、足元のもふもふは可愛い。
相棒も小さくて白くてもふもふだけど、相棒とは違うもふもふでそれがまた良い。可愛い。
羽耳兎を撫でてみたり、抱っこしてみたりしてみたいな。

沢山歩いて羽耳兎たちと遊んで秘境を堪能したら、最後に海がよく見える場所にいきたい。
海も空もキラキラすごく綺麗。思い出として目に焼き付ける。
すごく良い場所だね。羽耳兎さん、遊んでくれてありがとうね。



●しろくてもふもふの

 顔にぶわああ勢いの強い風を受けて、樹神・桜雪は思わず目を伏せた。
「……すごく、綺麗」
 うっすらと控えめに見た光景は、殺し合う姿なんてありえない。飛竜にちょっかいを出す小さなフラビィや、クジラの上で一緒に唄う様に鳴く飛竜があるのだ。
 種族間を越えて、あるのは恐らく信頼や絆の類。
「本当に不思議な場所……。そうか、彼女はこれを壊して奪いたかったんだね」
 ――理不尽に亡くした彼女には、地獄に感じられたのだろう、し……。
 こつり、こつりと頭をぶつけてくる羽耳の兎が桜雪を見上げている。
「相棒もおいでよ。一緒に、優しい景色を見よう?」
 チチチ、と桜雪に喚ばれて手元に止まるシマエナガ。
 右に左に首を傾げて、周囲のもふもふと、桜雪と景色とを忙しく眺めては鳴く。
『ぴゅいー♪』
 人馴れしているらしい彼らは、桜雪がふらりと優しい景色を歩むと、ぴょこぴょこと付いてきた。
 桜雪の相棒にも臆する事無く、小さな手を伸ばして挨拶しようとする姿がなんとも愛らしい。羽のような耳を最大限に広げてぱたぱたと、ほんの少し滞空してみせるモノもあった。
 しかし、大分立派な冬毛のもふもふのせいですぐに息切れして落ちてしまう。
 冬の体毛はやはり重量があるのだ。
「此処は風も気持ちいいんだね?相棒は、どうかな?」
 ぐるりぐるぐると、桜雪の周りと飛び回って。
 とても小柄なフラビィに声を掛けたりして、どこか嬉しげにシマエナガが鳴いた。
「チチッ♪」
 ――相棒も小さくて白くてもふもふだけど。
 桜雪は嬉しそうな相棒を微笑ましい気持ちで見守る。
 ――相棒とは違うもふもふで、それがまた良いね。
『ぴゅい?』
 視線を下ろせば少し大きめの羽耳兎が桜雪の反応を求めていた。
「……可愛い」
 頭に触れれば耳を倒して気持ちよさそうに目を閉じる。
 そっと、持ち上げて抱っこしてみると、『ぷきゅー』と不思議な声で兎もまた満足そうにしていた。
 ふわふわ、もこもこ。あたたかい。
 桜雪が和むその姿を、シマエナガが嘴でツンツンと突く。
「……ッ!いたた、相棒も勿論可愛いよ、大丈夫だよ」
「チチチ!」
 ――当然だ!
 実にそう言いたげな、アピールだった。

 草むらを抜けて、岩場を歩いても羽耳兎は桜雪に付いて回って離れない。
 彼らはヒトも獣にも、別け隔てなく警戒する気持ちがないのだろう。
 それが本当に良いことかは、わからないが。
「羽耳兎さんたちは、海も好き?」
『ぴゅい!』
 岩場から見下ろせば、光るクジラの輝きでキラキラと宝石のように光る海が見えた。色とりどりにキラキラと。
 それから、羽耳兎の声を引き金に、沢山水柱があがる。
 空に上った水が、光に合わせて反射し輝やいて。
「わぁ。海も空も、キラキラ凄く、綺麗……」
 幻想的なキラキラの、虹を作って歓迎してくれた。
 勿論彼らには厳密なことはわからない。だが、桜雪ら猟兵が、この場を護ったことを分からない程、野生を捨て去っても居ないのだ。
「遊んでくれて……ありがとうね」
 一番傍らに居続けようとする羽耳兎の頭を撫でて、思い出の一片と。
 確かに、今(たからもの)に、――刻んで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
◆SPD
なるほど、あの袋狼には俺は獣側として見えたのかもしれないな
その期待に応えてやる事はできなかったが…

…人も獣も死ねば同じ所に行き着くらしい
あの袋狼と家族も、せめてそこでは怒りを鎮めて眠れるよう祈る
祈ってしまってから、人のやり方で祈ればかえって怒るだろうかと苦笑
慣れない事をするものではないな

そんな事を考えながら辺りを歩いてみるとワイバーンと目が合う
近付いても大丈夫だろうか
触れてみても平気だろうか
撫でてみても…?
…お前、少しくらい警戒したらどうなんだ(撫でる手はそのまま)

乗せてくれるなら遠慮なく
帰る前に一度この『国』を見てみたい
仕事の報酬には十分すぎる程の素晴らしい景色が見られるだろうからな



●そっと祈りを捧げて

 ――なるほど、あの袋狼には俺は獣側として見えたのかもしれないな。
 シキ・ジルモントは態度から、獣の真意を考える。
 あれは怒りと怨嗟の果てに、魔獣と成り果てた獣だった。
 仔を護れなかった、雌。
 群れに雄が居たはずだろうが、彼女はリーダーであったという。
 では、彼女の番はどこで死んだ、もしくは殺されたのか。
 ――それもまた、人間の悪意か。
 人狼であれ、シキを雄と見て、渇望した答えを求めてきたのだとしたら。
 ――その期待に応えてやる事はできなかったが……。
 怒り狂い意思疎通も、そう容易いものでなかった。
 であれば、この秘境に対する考えもまた、相容れないものであっただろう。
「そういえば……人も獣も、死ねば同じ場所に行き着くらしい」
 あれは失われた過去に憤怒を乗せてオブリビオンと成り、魔狼と成ってしまった以上、隙あらばまた滲み出してくるだろう。
 群れ全ての死骸を抱え、何度でも怒りの限りを尽くす。
 ――容易く、永遠に眠る過去ではないだろうが……。
「せめて、……そこでは、家族と共に怒りを鎮めて眠れるように」
 静かに目を伏せて、黙するように"祈る"。
「……あ」
 すぐに、これは人が故人にやることだ、と気づく。
 人狼でこそあるが、シキは獣とまではいかない。
 どちらの要素もあるが、それを選ぶのはシキだ。
「祈ってしまったが……人のやり方で祈れば、あれはかえって怒る、だろうな」
 あれだけの怒りを、獣は吐き散らし、暴れた。
 行動から推測するに、彼女がもしここに、正気で存在していたとしても、最大限に牙を剥いただろう。
『ヒトに殺された我らを悼むのなら……!!』
『そもそも殺す前に考え直せそして怨嗟のように苦しんで死ね!!!!!!』
 言いそうな事は、幾つか浮かぶ。
 どれも、これも、彼女の地雷を踏み抜いているのが、わかる。
「……慣れない事を、するものではないな」
 苦笑を浮かべるシキは、ばさりばさりと飛翔する音を聞く。
 ――すぐ近く、いや、上……?
 見上げると、ワイバーンと目が合った。
 シキを見下すような高さを飛んでいたが、ふわりと、地上に降りて翼を休める。
 ただ、じぃと、シキから視線を外さない。
 ――近づいても、大丈夫だろうか。
 近い場所に降りた飛竜に、一歩、二歩と歩み寄ってみるが、逃げる気配はない。
 ――触れてみても、平気だろうか。
 シキが手を伸ばして、顔に触れてみても、逃げる気配は、ない。
 それどころか、くるるるる……と飛竜の喉から、音が微かに聞こえる。
 ――撫でて、見ても……?
 よし、よし、と撫でて見れば目を細める。
 どうにもされるがままだ。躯の海から帰還する竜とは恐ろしい程に、違う。
「……お前、少しくらい警戒したらどうなんだ」
 人間を敵だと思っていない、ワイバーンはもっともっと撫でてくれ、とすり寄って返事をする。
 喉から鳴っている音は、恐らく"気に入った"とでも言っているのだろう。
 暫く撫でてやると、シキの服を齧って、チラチラと背を流し見る。
 そう、……"乗れ"と促してきた。
「乗せてくれるなら、遠慮なく」
 騎乗すると、控えめに飛竜は吼える。
 いくぞ、と言わんばかりの力強さで、――空へ。
「帰る前に、一度この『国』を見てみたいと思っていた」
 ワイバーンが、くるるるる、と鳴きながらシキの言葉に応える。
 きゅあー、と別のワイバーンが並走するように集まってきて、空から見える景色を教えてくれた。飛竜の言葉こそ、分からない。
 だが、これらは決して人が嫌いじゃないことは、よく分かる。
「仕事の報酬には、十分過ぎる程の素晴らしい景色ばかりだな……」
 シキが満足した、と伝えるまで飛竜達は空の世界を一緒に飛んだ。
 別れるのが名残惜しい、と袖を噛み離さない飛竜。そんな飛竜の態度に、シキが困った顔をしたのを羽耳兎たちだけが、――見ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カルディア・アミュレット
アドリブ可

綺麗な鯨の声を聞き、懐いてきた羽耳兎を抱えて、友達を探して歩いてた
この国で友達も過ごしてると聞いて
彼の目印を探してた

自然に囲まれ、動物が行きかう中で
彼の目印…バス停を見つける
すぐ傍に見知った姿…フィッダを発見

ふと何を思ったか
静かに彼の後ろに歩み寄り
「あーそーぼ…?」と声をかけ
羽耳兎をフィッダの肩にもっふりと乗せた
彼は驚くだろうか?
ちょっとした悪戯心

「…こんにちは、フィッダ
満喫、してた…?この子達、とても…かわいい…
もう撫でた…?」

挨拶しながらもう1匹兎を彼の肩に乗せていく
もふもふ
羽耳兎達はきっと彼にも懐くのか
少しした悪戯のつもりが
思ったより和ましい姿が完成

フィッダ…可愛いの似合う…ね


アンテロ・ヴィルスカ
幾ら頭で理解していようが、どうにも処理しきれない感情が獣にもあるのだろう、今更同情などないが……心は、重いねぇ。

さて仕事は終わった、いたそうな光景は忘れてしばしの休息だ。散歩にでも行こうか、グリモア猟兵君?

ひっついてくる羽耳兎を数匹、手に
フィッダ君の装いはロングコートのようだけど、本格的な冬には少し寒そうだ。
兎君らと彼が嫌がらないなら、立てた襟の隙間に羽耳兎を埋めていこう、沢山ね。

これは何か、と…………冬毛さ。

しかし生きたままでも良い枕になりそうなくらいには暖かいな。これ、連れて帰ってはダメかな?フィッダ君がちゃんと面倒をみるから。



●つむつむ、ぬくぬく、もふもふ

 ――……綺麗な、素敵な、鯨の声を…………聞いて。
 ゆらゆらと。ゆらゆらと。
 ――……懐いてきた羽耳兎を、……こうして、……ふわふわ……抱えて。
 抱きしめてもされるがままの、羽耳兎と一緒にカルディア・アミュレット(命の灯神・f09196)は友達を探し、歩いていた。
 ――……この国で、この辺りで…………過ごしている、と聞いたわ……?
 漠然としか分からないが、カルディアには確信があった。
 "彼の目印"は、見間違えようがない。
 だから、――探せば見つかるだろう、と。

「幾ら頭で理解していようが、どうにも処理しきれない感情が獣にもあるのだろう」
 兎に招かれた穏やかな景色を見ながら、アンテロ・ヴィルスカは呟く。
 ただし、心做しか独り言にしては大きい。
「今更同情などないが……心は、重いねぇ」
「そうだな。生憎、……あまり理解しきれない世界の話だ」
 アンテロの言葉に、そう遠くないところから誰かの声が返る。
 どこか投げやりで、しかし、話は聞いている、そんな声だ。
「さて仕事は終わった、いたそうな光景は忘れてしばしの休息だ。散歩にでも行こうか、グリモア猟兵君?」
「……あァ、良いぜ。でも、わざとそんな名称で俺様を呼ぶなよ」
 グリモア猟兵、フィッダ・ヨクセムが近くに居るのを知っていて、アンテロはそう声を掛ける。
 連れてきた猟兵の帰り支度、とあまり遠くない場所から眺めていただけのフィッダ。雪の積もる土地でも軽装備で訪れていた為に、彼は木陰で縮こまっていた。
 凍える手に息を掛けながら軽く雪を払ってアンテロの後に付いていく。寒さに負けているのか、……地味に引きずるように、本体を運んでいるのが気になるが。
「断る。仕事は確かに終わったが、帰るまでが仕事と普段言うのは君だろう」
 ばっさりと否定を重ねられて、降参と控えめな溜息で返した。
「いや、……まァそうだけど」
 言い負けるのは別に気にすることではないようで、それ以上フィッダは言葉の追撃をしてこない。
「ああ、フィッダ君?」
「……?」
 寒々しい魔法を使う男には大した事ではない寒さであった。
 しかし、今歩いている付近は戦闘していた場より実はより寒いのではないか。どこまでも足元にひっついて付いてくる兎を、アンテロはひとつふたつと拾い上げる。
『ぴゅい?』
 持ち上げた兎の毛並みは、確かに本当に兎か怪しいほどにもこもこだった。
 聞いていたふわふわより、大分毛量が多い。羽耳も耳には見えないほどにふかふかで、生きてる証拠に鼻がふんふんと動いているのは判った。
 だから、――それはホンの少しの気まぐれだ。
「君の装いはロングコートのようだけど、本格的な冬には少し寒そうだ」
 後ろを付いてくるフィッダに、両手に兎の男が突然振り返る。
 言葉にひたすら耳を傾けていて、反応の遅れたフィッダの立ち襟の隙間に手元の兎を転がしてやった。多少手荒ではあるが、兎からもフィッダからも悲鳴に似たモノは上がっていない。完全に油断していたフィッダが尻餅をついて転んだので、アンテロはその隙に沢山詰めていく。
「いや今も十分に寒いケド……つーか、これはなんだよ」
「これは何か、と…………冬毛さ」
 フィッダの襟の内側がまっしろいもふもふで埋まった。
 時折もぞもぞと動いているがこれで、首元は寒くないだろう。
 ――……おや。
 遠巻きに、アンテロは近づく人影を見つけた。
 それと同時に察する。これは、――面白いから言わないでおこう、と。


 自然に囲まれた森を抜けて、飛竜が集団で上空を飛んでいった。
 ――みんな……なかよし、そう…………うん、いいこと……。
 きょろ、きょろと目印を探すカルディア。
 開けた場所なら絶対見つかると思って、歩いて来たのだ。
 そして、それはやっと見つかった。
 ――……よかっ、た…………。見つけた、よ……。
 あまり遠くないところに見覚えのある、"彼の目印"……バス停がある。
 その傍に、見知った姿が少し情けない姿で座っているような。
「……あら?」
 誰かがこちらを見ながら無言で口元に指を充てている。
 彼の行動に、フィッダは気がついていないようだ。
 あれは、カルディアに伝えていることのようである。
 ――……"静かに"、では…………なさそう…ね…?
 ――……"注意"、でもなさ、そう……、うぅん……?……あ。
 ふと、ボディーランゲージの意味に気がついて、静かに静かに歩み寄る。
 抱きかかえた羽耳兎はとても大人しく静かだ。
 雪を踏む音や色んな音が聞こえてなければ、気付かれないだろう。
 ――……"黙っているから"、きっと…………そういう、こと、ね……?
「あーそーぼ……?」
 控えめに、消え入りそうな声を掛けながら。
 抱えた羽耳兎を、転んでいて今は自分より背丈が下の肩に、もっふりと乗せる。
「!?」
 首周りだけでもバランスが大変なことになっていったフィッダの肩に更に重量が乗る。暴れないのが唯一の救いか。
 兎だらけにされた少年は、声の主に問い返す。
「これ以上俺様でどう遊ぶッて……?なァ、カルディア?」
 フィッダは驚いた、という顔をしていた。
「ふふ、……ちょっとした、悪戯心、よ…………こんにちは、フィッダ」
「なに、誰かを暖める系の悪戯でも流行ッてんのか!?」
 勢いのまま叫びだしそうな様子だったが兎を気にして声色は控えめに。
「満喫、してた……?この子達、とても……かわいい……もう撫でた……?」
「逆に兎に撫で回されてるからな、分からん。……蠢く白い毛しか見えねェ」
 暖かそうね、ともう片方の肩にも同じくらいの兎を乗せに掛かるカルディア。
「暴れないもの……羽耳兎達は、…………あなたに、懐いた、のね……」
 少しの悪戯に、灯るように便乗してみたくなっただけだった。
「わたし……が、思い描いていた、…………よりも、和ましい、姿、よ……?フィッダ……可愛いの、似合う、……ね」
 カルディアがそう言うと、フィッダは深めに溜息を付く。
「……そうかい、俺様でアンタが和めてるなら、いい。でもな、そろそろ重い。アンテロ…………襟周りの兎、回収してくれよ」
 落としてしまわないように気をつけていると動けない。
 それもこんなに増やされては気になり過ぎて動けないのだ、とバス停は言う。
「仕方がないねぇ」
 羽耳兎をひとつだけ、回収するアンテロ。
 これもまた、わざとだ。
「……しかし生きたままでも良い枕になりそうなくらいには暖かいな」
 持ち上げて目を合わせてみれば、『ぴゅいー?』と首を傾げた。
「これ、連れて帰ってはダメかな?」
「……俺様が聞いたのは、基本的にこの秘境の生き物を此処で殺すなッつー『ルール』ともう一つだけだ。この地域で加工が行われるための狩猟は、…………『森の外に出てから』の話だ。連れて行くな、なんつー『ルール』は知らねェな」
「成程。連れて行こうか、フィッダ君がちゃんと面倒をみるから」
 兎に向けて話しかけるその男。
 フィッダにとって聞き捨てならない言葉が、アンテロから発せられる。
「……聞き間違いデスか?」
「君が、面倒をみるんだよ?」
 そんなやりとりに、カルディアはふんわり笑って兎を抱きしめて頬を寄せる。
 ヤドリガミたちの、不思議な悪戯風景が――そこにあった。




●~冒険者の手記~

 狩りのルールは『必要な分を必要な分だけ』。森で殺してはならない。
 優しい秘境、『国』に、二度と立ち入れなくなってしまう。
 では、何をどうしてこの地域での狩りを行っているのか。
 秘境の原生生物は、人に慣れているし疑わない。
 敵意を消して近づけば、まるで親しい友であるように、接してくるだろう。

 ただしい狩りの方法は、実はとても簡単だ。
 無理のない数を、手懐けて森の外に、自然な流れで出ればいい。
 彼らにとって、『人類』に付いていくのは、旅に出るのと同じだ。
 いつか、また此処に戻れるだろう、そう思って付いていく事が多いらしい。
 同族も、他の種族も、そうと理解し、ただ見送る。
 この『国』は、そうやって一定数以上に増えない繁栄を繰り返している。
 残酷な間引きだ、という者もある。人類が生きるためだという者もある。

『必要以上の狩り』があれば、流石に原生生物たちの不信感を買ってしまう。
 悪事を繰り返す密猟者の顔を覚えられたら、人を嫌ってしまうかも知れない。
 故に罰則は重く、禁を犯した者は道を見失う。
 秘境は秘境のまま、不慮の事故や寿命以外で血の色を知らない。
 護られている優しさもまた、人による『傲慢』が支えている。
 しかし、彼らにとって『人類』は良き『友』だ。
 彼らは野生の生物に変わりはないが、知られない間に調教も出来よう。
 ――動物に属する限り、懐柔出来ないことは、ないのだから。

 ……だから、もしも別れを告げても彼らがついてくるのなら。
 彼らにとっても信頼を向けている相手が君ということになる。
 その時は、どうか好きに連れて行ってくれないか。

 この『箱庭(くに)』の為と言えば、エゴになるが。
 それは、少なくとも。
 ……家畜(原生生物)にとって、初めて自由に選べる生き方であるからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年12月12日


挿絵イラスト