アースクライシス2019⑲〜ジェスター・ザ・ローゼズ
●天に咲く薔薇
「薔薇、バラ、バラバラ千客万来! いやハヤ、薔薇の匂いで噎せ返るようデスねぇ!」
広大に過ぎる硝子天井の下で。
おどける道化師の声は花から花へ、棘から棘へ。まるで気儘に舞い続ける蝶のさま。
「まぁあまりワタクシの好みではナイのデスが……言わばコレらハ自然物品でアルと同時に文明の成果物でアルとも言える一挙両得ドッチツカズ!」
咲き誇る真紅の大輪、静かに時を待つ白緑の蕾――。
馨しきそれらにさして心傾ける様子も見せない道化師は荊棘の園での独演を続ける。
「……とはいえココにもイェーガーサン達が押し掛けてくるんでショウネェ。いや、もうそういうのいいデス。全開でぶっ飛ばせとコノ道化は御注進さし上げたのデスケドネェ」
トホホと殊更に大袈裟に肩を落とした仕草で嘆いてみせた道化師は、それでも出し物の仕込みについてを脳裡で反芻する。
――『力押し』のお披露目でこの舞台がどれだけ破損しようが特に問題は無し。
――『馴染み』のヤル気はどうやら中々に最高潮。
そしてとっておきのサプライズは――『熱き喝采惜しまぬ観客の皆々サマ』!
「はてサテマッタク、気乗りは致シマセンガ~、ゴホン……『さーて、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。愉快なカーニバルのヒーローズアース千秋楽公演だよ!』」
●サーカスは星の海を往く
「遂にジェスターの居場所が判明したんだ。今度こそ量産型でもクローンでも無い、本物のジェスターの、だね」
急ぎ掛けられた招集に応えてくれた猟兵達に対して巳六・荊(枯涙骨・f14646)は、挨拶もそこそこに本題へと入った。
ヒーローズアースのヒーロー達により、かのオブリビオンがラグランジュポイントの『島』の1つを巨大輸送船に改造し、地球上からそこへ様々な物品を運び込ませている事が突き止められたのだ。
この巨大輸送船こそがジェスターの本拠地と見て間違いはないだろう。
「巨大輸送船内に運び込まれたものは本当に多岐に渡るみたいだね。地球上の様々な動植物や鉱物等の自然物、書物に機械といった文明の産物……。それらが種類ごとにきっちり分別されて、それに合わせて巨大輸送船内もきっちりブロック分けされているんだって」
そしてこの巨大輸送船は外宇宙航行能力を有しているともつけ加えられる。
「道化師の分際で方舟でも気取ってるのかな? ジェスターは、近日中に、宇宙船群から巨大輸送船を切り離して外宇宙へ飛び去る準備を進めている、っぽいんだよねー」
出自も目的も全てが謎めいたままの殺戮道化師が何を企んでいるのかはまったく不明だが、きっとロクでもないコトに決まってるよねーとかる~い断言を挟みつつ話は本題へ。
「で、今回みんなに叩いて貰うジェスターが居るブロックは薔薇園区域。およそ地球上で咲き誇る薔薇という薔薇が植えられた完全ハイテク制御、硝子造りの大温室だね」
野生の原種だろうが品種改良された栽培種だろうが、稀少だろうがそうでなかろうが、一重だろうが八重咲きだろうが木立だろうが蔓性だろうが……。
とにかく節操無くありとあらゆる薔薇が其処には蒐集されているのだと、似っ合わないよねーとクスクス笑いながら、荊の名を持つグリモア猟兵は告げた。
「ジェスターは今回もまたふざけたふざけた道化芝居で戯けて来るんだろーけど、これまでの量産型やクローンなんかとは比べ物にならないぐらい強くて難敵。即エイト入りした実力は本物だし、駆使するユーベルコードだってどれも性質の悪いモノばっかり」
それでも、今アイツを骸の海に葬ることが出来るのは猟兵のみんな以外に存在しない。
そっと睫毛を伏せ、その笑みのトーンを和らげながら。
荊はジェスター討伐の任を眼前の猟兵達へと託すのだった。
銀條彦
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「アースクライシス2019」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
戦闘は【ボス戦】にしてジェネシス・エイト戦、倒すべき敵はジェスターです。
●プレイングボーナス
今回は『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』です。
ジェスターは必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります。
御武運を。
第1章 ボス戦
『ジェスター』
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POW : 力押しもたまには悪くないデスね
単純で重い【魔法金属製のメイス】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 古い馴染みの仲デシて
レベル分の1秒で【意志持つ魔剣『レギオスブレイド』の群れ】を発射できる。
WIZ : 別に見捨てても良いデスよ
戦闘力のない【名も知らぬ一般人の人質】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【呪詛により人質が傷つき、悲鳴や苦痛の声】によって武器や防具がパワーアップする。
イラスト:シャル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
白斑・物九郎
●POW
●対先制
軌道は単純
ガードすんのは難しい話じゃありませんわ
問題はその威力ですわな
だってんなら――【怪力】で魔鍵を支えて、受ける!
魔鍵の先端パターン部でメイスを絡めるように【武器受け】
態勢そのまま魔鍵を払って、メイスを持つ手から敵の姿勢を一瞬でも崩してやりまさァ(なぎ払い+武器落とし)
●反撃
ココからが反撃っスよ
【ビーストドライブⅡ】発動、猫に化ける
ジェスターの察知を掻い潜れるルートと緩急を【野生の勘】で見出して、破壊地形の内、普通じゃ通り抜けらんなそうな間隙をこそ選んで通り抜けて(地形の利用)――背後を取りに行く!
物理透過(鎧無視攻撃)・【精神攻撃】モードに切り替えた魔鍵で【串刺し】狙い
クーナ・セラフィン
いい香りの薔薇なのにそれも解さないなんて…人の心なさそうだし当然か。
こんなの外宇宙に逃がしたら絶対災厄の種、絶対始末しよう。
可能なら他の猟兵と連携。
オーラ防御で棘をよけつつ薔薇の茂みに飛び込み走り、魔剣の群を回避。
迷彩で茂みに溶け込みつつあっちやこっちに小柄な体で走り回って的を絞らせない。
当りそうなのは足を止めず見切ってオラクルで切り払う。
十分時間稼いだら他の猟兵の攻撃で意識が逸れた瞬間にジェスターの背後に忍び足で回り込み飛び掛かってUC発動。
この距離なら避ける事も出来ないはず!
串刺し鎧無視諸々のせで胴体心臓メッタ刺しに。
…道化師の汚い赤よりは薔薇の赤のがやっぱりいいね。
※アドリブ絡み等お任せ
フィオレッタ・アネリ
わあっ、すごーい!
こんなステキな薔薇園、あなたも花を愛してるの?
…なーんて、全然そんなカンジじゃないよね
この子たちと一緒に、あなたの企みを止めちゃうからね!
第六感で邪剣の軌道を読んで躱しつつ、花精を喚び幻影の分身を無数に作り出し時間稼ぎ
分身に紛れて花の神性で薔薇園に溶け込み、存在感を消して縦横無尽に薔薇を渡ってやり過ごすよ
もし薔薇が攻撃されても、もっと沢山の薔薇を生み出して一面薔薇だらけに!
そしたら今度は反撃!
周囲の薔薇を豊穣の神性で活性化して種を創り、植物の属性攻撃として周囲の薔薇すべてからジェスターに撃ち込んで《春の祝福》
撃ち込んだ種を樹精の力で超急速成長させて、身体の内側から攻撃するよ!
三寸釘・スズロク
ヨソ様の世界を滅茶苦茶にしといて自分らのホームへは
綺麗なモノだけ『持ち帰る』って?
アンタの仕える王様は大層な暴君だなァ
方舟の渡る先に何があるのか、正直興味あるぜ
俺も乗せてってくんない?
なんつって
残念だけど俺も猟兵なんで
『エレクトロワイヤー』スイッチオン
『バーゲスト』起動…
あ、同時に【舞台袖の生殺与奪】発動。
薔薇の園でかくれんぼなんてロマンチックでしょ?
…
『スズロク』のUCが効けば連中は『俺』本体を見つけられないかもな
無視されてるようでムカつくがやることは変わらねえ
人形をデコイに暴れさせて魔剣共を振り払い
そのままジェスターに突っ込ませる
俺も肉薄して『Fanatic』を撃つ
こっちだ、宮廷庭師野郎!
刹那包んだ転送の浮遊感から解き放たれれば、其処はもう、見渡すかぎり光と温かさに満ちた花の楽園であった。
「いい香り……」
ふわり漂う薔薇の香に誘われるようにクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)は思わず羽帽子の下でクンと鼻を鳴らす。
「なのに、それも解さないなんて……人の心なさそうだし当然か」
麗しのケットシーは勿論、その警戒を怠るような事は無かった。凛々しき藍の眼差しが向けられた先へと嗤い現れた、ひとでなしの道化師。
「薔薇は確かに美しいデスが棘が有るのがドウにもいけマセンからネェ。猫のお客サマ、アナタが鋭き爪を隠シテらっしゃる様ニ!」
薔薇園の主たるジェスターは調子の良い言葉で応じるばかりで今すぐ彼の方から仕掛けてくるつもりはまだ無い様子だ。
「わぁすごーい! こんなステキな薔薇園、あなたも花を愛してるの? ……なーんて、全然そんなカンジじゃないよね」
木立の下、遅れて姿を現したフィオレッタ・アネリ(春の雛鳥・f18638)が浮かべてみせた無邪気な乙女の笑みには女神の怒りが混じる。
「おやオヤコレは心外ナ……ワタクシなりに愛すればコソ庇護ナシには咲けぬか弱き花々を怒涛の『過去』より守るのダトハ考えられまセンカネェ?」
「――られるワケ、ねぇじゃん。ヨソ様の世界を滅茶苦茶にしといて自分らのホームへは綺麗なモノだけ『持ち帰る』って? アンタの仕える王様は大層な暴君だなァ」
そもそもこのジェスターこそが諸々の発端だと既に知る者達に対してのうのうと言ってのける厚顔へ即座にツッコミを入れたのは両腕の先に鉤爪垂らした全長2mを超える一体の人形であった。
「フーム? ワタクシは全てのお客サマへ奉仕する道化なのでゴザイますけどネェ??」
より正確に言えば自らの機械人形『バーゲスト』越しに三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)が掛けた、カマかけ混じりの言葉に対して。
ジェスターはただ思いっきり首を傾げてみせるばかり。
トボけているのか本気で心当たりが無いのか、その異形頭からは窺い知れない。
「方舟の渡る先に何があるのか、正直興味あるぜ。俺も乗せてってくんない? ……なんつって。残念だけど俺も猟兵なんで」
「ソレはソレは残念デスがソレはソレとシテ『馴染み』がそろそろシビレを切らシテ――おやオヤァアハハハハハァッ!」
唐突に。
何の前触れもなく押し寄せた殺意とその後を追って薔薇園を奔った無数の斬撃。
――あらゆる軌道で角度で猟兵達へと殺到した魔剣の群れ。
薔薇の茂みにと我が身を潜ませていたスズロクが電子の糸括ると同時にユーベルコードを起動させようとした、それに先んじた形でジェスターから初撃が放たれたのだ。
「っ!? こんなの外宇宙に逃がしたら絶対災厄の種、絶対始末しよう!」
クーナのその怒りは想定内だった騙し討ちにではなくついでとばかり無惨に散らされた薔薇達への所業に対してのもの。
ほぼ勘任せで直撃だけは免れた彼女は無傷とはいかなかったが、一気に見晴らしの良くなったジェスター周辺から退避し無事な植え込み箇所へと間一髪逃げおおせている。
「おねがい、《クローリス》!」
敵がただの器物ではなく自由意志持つ存在であるからこそ、フィオレッタが喚んだ花精が振り撒いた幻影は剣群へも有効に作用し猟兵達の回避行動を助けてくれていた。
スズロクもまた咄嗟に人形を盾にしフィオレッタの幻影分身にも庇われて、生存本能の導くままに逃げ足の速さを発揮して切っ先の剣嶽を躱し続け……。
彼の内の『スズロク』が『バーゲスト』へと取って替わった頃にはすっかりと刃傷塗れとなりながらも【舞台袖の生殺与奪(ブラッティナイオ・インビジブル)】に守られる形で一命を取り留める。
いつしか魔剣の群れは眼前に立つ筈のこの男をすっかりと見失ってしまったのだ。
(「薔薇の園でかくれんぼなんてロマンチックでしょ?」……じゃねえんだよ! ったく最悪のタイミングで雑にブン投げ寄越しやがって)
見渡せば舞台袖の『彼』を置き去りに繰り広げられる薔薇下での激闘。
存在感を限りなくゼロとされた『バーゲスト』を占める感情にはしばしの安全が確保された安堵など微塵も兆さず、むしろ、無視されている様なこの状況がムカついて仕方ないばかりとまったく難儀な話である。
(『スズロク』のユーベルコードが効いてはいるがもう人形はデコイには使えねえか――だが、『俺』のやることは変わらねえ……)
一方、新たな猟兵の姿を発見したジェスターはデタラメに弾み跳ねるような足取りからあっという間に距離を詰め、手ずから軽々、巨大メイスの重撃を叩きつける。
「力押しもたまには悪くないデスね!」
「軌道は単純。ガードすんのは難しい話じゃありませんわ」
ただ、まぁ問題は――それが弱点どころか、侮る相手に安易な回避やカウンター狙いを誘発させた上で悠々ブチ抜く強味とさえなりかねない、その威力ですわなと。
白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)は己の看過した処を黙したまま一呼吸。
襲い来るメイスの一撃に対して、真っ向勝負の構えとばかり勢い良くモザイクから取り出した巨大な魔鍵を振りかぶった猫のキマイラを道化が囃し立てる。
「鈍器には鈍器! いやハヤ何トモ明快にシて単純! ………ロロロ?」
強烈な激突音を轟かせた金属と金属は火花散らす程に擦れ合い、そして――絡み合った後に、ほんの僅か、ずらされる。
なお削ぎ切れなかった衝撃。馨しき花園の風景を襲った、爆ぜるような崩壊。
全身の肉が骨が悲鳴にも似た軋みを上げ……だがそれでも、持ち前の怪力で無理やりねじ伏せた物九郎は致命傷を免れ、戦場に――彼の喧嘩場にと踏み留まっていた。
鍵の形状が、それを最大限活かし切った物九郎の技量と勝負勘とが、搦めの防御を可能としたのだ。
「オロロロロロ~~~ッ!?」
つんのめる様に無様に体勢を崩される形となったジェスターに対し、しかし、物九郎は深追いはせずむしろ後ろ跳びに一旦充分な距離を取る。
離れざま、虚を衝いての薙ぎ払い一閃。ひび割れた人工土壌の足元にゴトリとメイスが叩き落とされた。
「ココからが反撃っスよ」
――デッドリーナイン・ナンバーツー・ダッシュ。
【ビーストドライブⅡ】で猫変身した物九郎のその声が反撃の狼煙。
此処から、猟兵による波状攻撃が開始される事となる。
花の香へと溶けるようにその姿を朧と霞ませながら。
時に空を裂き魔剣を捌いて、変幻自在。曇りなき革命剣は舞い散る花弁とともに決して立ち止まらず……そして。
華麗なる男装の騎士としての戦いから一転、猫としての彼女の戦いは、隠身はそのままに敵の死角めざして忍び足で大きく迂回してからの奇襲。
それは狩人、あるいは暗殺者としての業による戦いであった。
「オロロロロロ~~~ッ!?」
物九郎と入れ違いざま、がら空きの背へと向けて超高速の槍先が突き立てられる。
「さあ――クーナの槍さばき、とくと味わうといい!」
完璧なタイミングで決まった【騎士猫は旋風のように(エレジー)】の連撃は、白雪と白百合を真紅へと染め……だが、流された鮮血は道化ではなく騎士のもの。
カウンターの呼吸で至近から再び発射されたレギオスブレイドが、銀槍ヴァン・フルールを弾いた勢いそのままに攻撃姿勢にあったクーナを逆に串刺したのだ。
「――くっ……心見透かす槍、も、心無い道化と剣は見透かせなかった、か……」
「ロロロッ、なんとも馨シイ絶望ッ! 持つべきはヤハリ友でゴザイますネェッ!!」
深手を負い尚も鮫刃の如き魔剣の群れに包囲されたクーナだったが、洩れたその言葉は決して本心からの弱音ではなく勝ち誇るジェスターの注意をより己のみに集める為の罠。
結果としてクーナによって足を止め、その場へと釘づけとなったジェスターに対して、
「こっちだ、宮廷庭師野郎!」
烈火噴く銀のダブルアクションの名は『Fanatic』。
血に逸る魔剣の檻の只中へするり侵入を果たしていた『バーゲスト』が御返しとばかり至近で放った連射はジェスターに届く前に堅き魔剣の囲みへと阻まれた。
だが、櫛の歯が欠けるようにレギオンブレイド達が撃ち落とされてゆくのを好機と見、疾駆する小さな影が一つ。
それは黒白斑の一匹の猫――物九郎である。
小柄を活かした機動性を全開に、魔剣と魔剣の隙間をしなやかに擦りぬけ一気にジェスターを攻撃範囲内へと捉えた物九郎は、即座に変身を解除して再び手にした魔鍵を突撃槍の如く構え、突き進む。
迎え討つジェスターはようやく拾い上げた巨大メイスを大盾代わりに振り翳し魔法金属の鉄壁を以ってこの防御にあてようとするも……。
「無駄っス、俺めのコレは心だけを抉る鍵」
易々とメイスを透過した物九郎の鍵先は血飛沫一つ上げることなくズブリとジェスターの後頭部へと埋まり、その精神だけに直にダメージを加えた後に引き抜かれる。
「イタタタこりゃ仰天……ってイウか逆にモウ薔薇よりソッチの鍵持ち帰った方がイイ気さえシて参りソウデスネェッ!?」
ぐらぐらと脳天をふらつかせつつもいまだ致命傷では無いらしい。
体勢を立て直したジェスターが秘かにレギオンブレイドの第三波を喚び寄せようとしたその直前。
「この子たちを――薔薇をそれ以上バカにしたら許さないんだから!」
第一波のレギオンブレイド群全ての無力化を終えたフィオレッタが合流を果たす。
「花よ、森よ、風よ――春と豊穣の恵みあれ」
既に戦いの余波で原形留めぬ有り様の薔薇たちを慈しみ自身の神性を祝福と共に注げば、たとえそれが人工の園だとしても関係ない。
フィオレッタを中心に『春』が波打ち拡がり出し……遂には破壊される以前を超えて、より馨り高き真紅の蔓薔薇たちが一斉に芽吹き花咲かせ始めたのである。
「許さなけれバ、ドウすると……オロロ? ロロロロォオオオッ!??」
超急速な成長を遂げたか弱きはずの花々は、先の精神攻撃から快復する迄の隙を衝いて道化師の体内体外問わず繁殖を果たしてその棘に強き樹精の魔力乗せて責め苛んでゆく。
「……道化師の汚い赤よりは薔薇の赤のがやっぱりいいね」
そして磔状態のジェスターを今度こそ貫き穿つクーナの銀槍――【騎士猫は旋風のように(エレジー)】。
自身もまた赤に塗れ……それでも散れどもまた咲く薔薇の光景を前に己を鼓舞して繰り出されたこの連撃はさしものジェスターをしても痛打であった。
「やれヤレ。やはりワタクシ、薔薇の棘も他者を啜ってそしらぬ顔で蔓延る花もまったく好みではゴザイまセンネェ……」
いかにも苦々しくそうボヤいた道化師が窮地脱出の為に選んだのはこの戦い三たび目のレギオスブレイド群発射による飽和攻撃。
もはや虚を衝かれる猟兵などこの場には存在しなかったが、それでも殺傷特化の魔剣達の戦闘能力と何よりもこれまでに無いその大群ぶりに手を焼かされるドサクサの内に。
――ジェスターは満身創痍のその姿を晦ませていたのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と
ここではどうしても、薔薇を巻き込んでしまうなぁ…
とはいえ。躊躇っていては門の務めを果たせない。
二度目の落城をするつもりは無いぞ
【不落の傷跡】が刻まれた【鉄門扉の盾】を構え、更に大型化した【籠絡の鉄柵】でカガリ達の周囲を囲う
カガリが脅威と認めるものを通さない【拒絶の隔壁】、更に世界を隔てる【隔絶の錠前】で「門」を施錠する
この「城塞」で、敵の先制攻撃を迎え撃つ(オーラ防御、拠点防御、全力魔法、激痛耐性)
初撃をやり過ごしたら、【異装城壁】でこの区域の床や天井、壁を鎧として纏う
その上で【鉄血の流星】を怪力で振り抜いてなぎ払いを(鎧砕き、鎧無視攻撃)
本命は…後ろだがなぁ
マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と
敵の一撃は重く、破壊力は凄まじい
だが重いと言うことは次の攻撃にすぐには移れないのだ
敵の先制攻撃をカガリの盾が受け止めたと同時にジャンプ
こちらも【雷槍鉄槌】を発動し、着地と同時に三槍一体の剛槍を敵のメイスの柄めがけて穿つ
三槍の持つ力(串刺し、ランスチャージ、鎧無視、鎧砕き、部位破壊)全てを、この一撃に叩き込むぞ
硬き鉄球も柄が折られては使えまい
柄を折ったらすかさずダッシュ、【金月藤門】の残像とフェイント、そして巨大化したカガリを囮に敵の目を欺き背後に回り込む
背中から剛槍でジェスターを貫こう
俺の槍は如何なる硬きものをも砕く
だがカガリよ、俺が砕くまでお前は砕けるなよ?
手負いの道化が逃げ出した先――其処に待ち構えていたのは『門』に守られしもの。
より原種に近い品種なのであろう其の花は、淡桃色の花弁が素朴な一重咲き。
長い金髪をさらり揺らして辺りを眺める出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)の紫瞳は少しだけ、迷いの色を乗せて。
「どうした、カガリ」
「……いや。ここではどうしても、薔薇を巻き込んでしまうなぁ、と」
此の戦いにおける頼もしき戦友、マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)に呼び止められたカガリは抱える憂いをあっさりと彼に吐露した後、少し間を置きつつも、きっぱりと前言を翻した。
「大丈夫だ、まる。躊躇っていては門の務めを果たせない。カガリは二度目の落城をするつもりは無いぞ」
心配は、別にしていない。
顔色一つ変えぬまま『まる』と呼ばれた漆黒纏う青年は小さく呟いて。
埒外たるを『猟兵』の名の下に封じるふたりは、共に肩を並べ、盾槍を携えて薔薇園を分け入ってゆくのであった。
――行く手を猟兵に阻まれたジェスターとの出会い頭、先手必勝とばかり繰り出されたユーベルコードは悪趣味極まりない重量武器のフルスイング。千切れ消える野薔薇。
カガリは城門。故に、躱さぬ。躊躇わぬ。揺るがぬ。
『門』のヤドリガミたるカガリはその正面に自身の貌傷に似た傷跡走る鉄門扉の大盾を押し立て、周囲には鉄柵より生まれし宙泳ぐ巨大魚を巡らせる事で防御を固めた。
「ホホゥ?? 『門』に加え、『隔壁』に『錠前』まで揃エテ『城塞』を完成させル……なるホドナルホドォ!」
両腕が塞がっていなければ或いはやんやと拍手喝采しださんばかり、ご機嫌に高笑ったジェスターの強引な踏み込みと共に剛嵐が吹き荒れる。
防御にはそれほど適さぬ形で顕現していた鉄柵の魚達は次々に地へ墜ち、堪え切った他城壁群も土台たる地面の崩壊に伴いその堅守に僅かな緩みが生じる。
無事やり過ごせたとは到底謂い難い、だが――それでもカガリは倒れない。
脅威と彼が認めたものを、決して、彼の後ろへと通さない。
それを確信していたからこそのタイミングだろう。初撃防御成功と同時、カガリの後方から飛翔を思わせる高さにまで跳躍したマレークはすぐさま、【雷槍鉄槌(トリニティ・トールハンマー)】の発動へと集中する。
(敵の一撃は重く、破壊力は凄まじい。だが重いと言うことは次の攻撃にすぐには……)
だが敵予想にだけは彼は裏切られていた。その時、ニ撃目は既に掲げられていた。
「城での無作法は道化の特権でございマスからネェ……芸無し芸、とくと御覧アレッ!」
振り上げ、振り下ろし、また振り上げる。重く単純な一撃を生み出すのは(これでも)圧倒的強者によるごく単純な戦闘動作だ。
ただしそれは本来『城塞』陥落を決定的な物とする意図で放たれた筈のメイス攻撃。
その軌道を強引に頭上へと変えて繰り出せば若干のブレと時間ロスが生まれ……再度の先制攻撃とはゆかず、マレークの掌中で【碧血竜槍】【魔槍雷帝】【山祇神槍】の三槍が一振りに重なり、ただ在るだけで神雷の轟を発する超弩級の剛槍と化したのがほぼ同時。
「――全てを、この一撃に」
「ロロロッ!!」
力と力の激突は落雷の如くに鳴り響き、薔薇の領域を劈いた衝撃と破壊が逆巻くようにして辺り一面へと拡がる。
巨大メイスの柄部分に狙いをつけその粉砕を目論んでいたマレークだったが、力任せな豪技同士のぶつかり合いの最中でそれは完全には果たせず。
だが己が片腕の流血と引き換えに、確かに、メイスに亀裂の音走るのを彼は耳にした。
「俺の槍は如何なる硬きものをも砕く。 ……だがカガリよ、俺が砕くまでお前は砕けるなよ?」
「当然だ」
決して砕けぬことも、きっと砕いてくれるであろうことも。
たたみ掛けるように呼応したカガリもまた、不動の防壁から一転攻勢――移動城塞へと我が身を鎧う。この荒れ果てた薔薇の大温室そのものをその建材として。
「『人には至れぬ、異装の城壁。この扉より、形を成せ』――!」
門のヤドリガミ包む【異装城壁(イモータルウォール・オーバービルド)】は、砕かれ剥がれた硝子のみならずその外側で剥き出しとなった輸送船パーツすらも一部を呑み込み巨大化を果たす。
おそらくは内部環境の制御装置がその内に含まれていたのだろう。
戦場からは俄かに陽光の如き明るさも温かさも掻き消えてゆき、当区画は現在、最低限の住環境のみが維持される……多くの薔薇にとっては過酷な環境と化してゆく。
『門』の内の絶対堅牢とは、時に、『門』の外の蹂躙荒廃をも意味する――それでも、カガリは躊躇しない。
そも、人工土壌の下の床面をも異装の材料にすると決めた時点でこの光景は想像も覚悟も出来ていた事なのだから。
そして遂に。
「オロロロッ……いやハヤなんトモ……コンビ揃って反則級! ごく限定的ではアリましたがジャスティス・ワンの門よりよっぽど厄介でゴザイましたネェ!」
【異装城壁】状態の巨大カガリが蹂躙し、逃げ惑う道化の背中を、カガリと己が残像とに紛れての挟撃から【雷槍鉄槌】の穂先が深々と刺し貫いたのだ。
いかにも太鼓もちめいた称賛を口にしながらも足掻くジェスターが、殴打ではなく投擲でその巨大メイスをぶつけた先はユーベルコード使用と戦闘の余波で崩れかけた天井。
無遠慮な重質量にトドメを見舞われた其処からは崩落が始まり――ジャグリングの要領で落ちるメイスをキャッチする姿を最後に、道化はまたも戦場から忽然とその姿を消したのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ガルディエ・ワールレイド
薔薇とか似合ってねぇんだよ。どうせ直ぐ復活するとは言え、テメェが倒れる場所としちゃ上等過ぎるぜ。
◆戦闘
初撃は致命傷だけを防ぐことに注力。瀕死なら許容範囲だ。
装備は《怪力/2回攻撃》を活かす魔槍斧ジレイザと魔剣レギアの二刀流
《見切り/武器受け》で防御しつつ、武器から《衝撃波》を解放して攻撃の威力を減殺。
《念動力》で敵の足元に妨害を仕掛け、踏み込みを邪魔する。可能なら薔薇の花弁を巻き上げて目くらましにも。
・反撃
瀕死になると同時に【騎士の再臨】を使用
動くが余力が残っているならなら、俺は注意を引いて現れた騎士を援護
召喚された騎士は、白銀の甲冑と青い光を纏う大剣を持ち、本体と同じ技能で戦う。
「薔薇とか似合ってねぇんだよ」
ガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)が見掛けたジェスターは大輪の紫の薔薇咲く木立の中。血溜まりを作りながら立つ今の彼からは、大仰に道化た足取りはもはや影も見えず……。
大温室そのものすら解体しいずこかへと集束させる何らかの大技については彼もつい先ほど離れた場所から目撃したばかりだが、どうやら、あれ程のユーベルコードに蹂躙されてなおこの道化師は生き汚く命永らえたらしい。
「ワタクシもつくづくソウ思いますネェ。ですが、帰れば……オオッと、口がッ!」
「……言っとくがてめぇから情報取ろうとか何か物申してやろうとかそーいうの、こっちには一切ねぇぞ。オブリビオンはさっさと死んどけ」
この期に及んで絶好調に饒舌な道化師オブリビオンに対しチンピラ騎士にして猟兵たる青年の側の反応はにべも無い。
他の猟兵達が刻みつけたのであろう様々な種類の傷を全身に負った彼を相手に、いまだ気を緩め迂闊に接する訳にはいかなかった。
――腐っても弱っても『ジェネシス・エイト』を唯1人で相手取ろうというのだから。
「オロロ、コレは手厳シィ! ――でも逆にソレがヨロシイのかもしれまセンネェ」
何がだ、とは、ガルディエは聞き返さなかった。
コイツの詐術に嵌る間抜けなどになるつもりは毛頭なかったし、何よりも――ゆらり、これみよがしに巨大メイスを振り被ったジェスターを前にそのような余裕は無かったからである。
「先程のお客サマ方でも良かったのデスが――はてサテやハリ、門破りで鳴らした道化と致しまシテは多少の意地というモノがゴザイましたシネェ~!」
「要は、尻尾巻いて逃げてきたんだろうが」
耳の痛い指摘にはいっさい反応を投げ返さず、ただただ嗤うばかりの道化師はおもむろに己が道化舞台の、最終章の幕を上げる。
「ガラでも無イ『力押し』大盤振る舞い、本日連発でゴザイますヨォッ……ット!!」
再び振り上げられた巨大メイスはピシリピシリと亀裂を大きくしながらも嬉々と嗤い、漆黒の甲冑騎士へと襲い掛かる。
(瀕死までなら――許容範囲だ)
超重のその一撃を見切れずとも【魔槍斧ジレイザ】と【魔剣レギア】をがっちりと胸の前で交差させた二刀流の構えから相殺を意図した裂帛の赤き衝撃波が吐き出され……だが純粋な重力・膂力だけを籠めて振り下ろされた鉄槌は止まらず。
鈍器の一打は黒竜の騎士の頭部を強か打ち砕き、打ちつけた顔面ごと地面に破壊を振り撒いた。
僅かに息は残せども……倒れ臥したまま動けぬ様子のガルディエにじっとりと視線を落とした道化師はいかにも芝居めいた大袈裟な溜め息を吐いた。
「アナタも実に大シタ『力押し』、と、申し上げタイ処デシタが……マァその程度の力では幕下ろすコト叶いませんデシタネェ! 残念無念!」
自らも満身創痍の身で囃し立てる異形頭の下は、歓喜かそれとも本心からの落胆か。
誰もそれをしるよしは無い。
「………っ!?」
それは、新たなめでたしめでたしの為の御伽噺の開幕、
――【騎士の再臨(ナイト・オブ・フェアリーテイル)】。
ガルディエの瀕死を代償に顕れた白銀の甲冑騎士と、最後の気力振り絞り立ち上がったガルディエと。
二騎士による連携を前にほどなく当の道化本人が討ち取られてしまったのだから。
これが猟兵相手の殺戮劇の上演はたせず、すっかりと遁走喜劇を繰り広げる事となった殺戮道化師の、一応の、終演。
青光纏う大剣が饒舌に過ぎるオブリビオンの首級を挙げれば、あれほど饒舌だった道化師もただの物言わぬ骸。剣閃に散る紫の花弁はすっかりと赤一色にと濡れて……。
「どうせ直ぐ復活するとは言え、――テメェが倒れる場所としちゃ上等過ぎるぜ」
散華止まらぬ薔薇園の香に混じる死臭へと包まれ、ダンピールの騎士は噎せ返りそうになりながらそう呟いたのだった。
成功
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