調査業務:求むは彼女に夜話を
#UDCアース
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●夜の図書館にて。
夜更けだというのにその廃墟の窓には煌々と明かりが灯っていた。
ジジ、と時折音をたてる蛍光灯が埃っぽい空気が充満する館内を照らしている。
探索者の目に映るのは、延々と続く赤茶けた本棚に黄色に変色したカーペット、整然と並んだ古びた椅子と机――眼前に在るそれらは一般的な図書館にあるものと何も変わらない。ただ一つ、それらが見果てぬ先まで続いている事を除いては。
目の端を過る黒い影はただの気のせいだろうか。
本棚に並ぶ背表紙の字が蠢いて見えるのは気のせいだろうか。
椅子がまるで動物の様に、四つ足で歩き回って見えるのは気のせいだろうか。
そんな現実離れした光景の中、彼女はいた。
張りのある豊満な肉体を包むのは、申し訳程度の下着ともいえぬフリルの付いた布地のみ。
時折頭を動かすたび、水色の長髪は流水の様にさらさらと抵抗なく流れていく。
頭より生えた角と背より広がる羽、そして腰から伸びた尻尾が、彼女が人間ではない事を如実に語る。
それは、来るかもわからぬ待ち人を求むかのように。
宝玉のような瞳は遠くを眺め、ふぅ、と物憂げにため息を吐いた。
巷説の話に聞く夢魔にも似たような姿で、その少女はそこにいる。
●野郎共、図書館は公序良俗を守り正しく使いましょう。
「猟兵、今回の業務を説明する。」
グリモアベースにて、一つ目を輝かせる鋼の巨躯――グリモア猟兵『鶴飼百六』は、猟兵達を前にして事件の詳細の説明を始めた。
「お前らに行ってもらうのは『バベル図書館』……というのは通称で、正式名称は旧イマワ市立図書館。奥の方に所蔵されている本の影響で、ローグライク宜しく入る度に構造の変わる不思議過ぎる建物だ。お前らには落ちてる品物が無識別になってそうなそこでちょっとした内部調査を行ってもらう。調査と言っても建物に入って、適当に見て回って、生きて出てくる。それだけだ。オブリビオンが少しばかり存在するが、なに、お前らなら簡単だろ? それじゃ健闘を……」
……。
しばしの沈黙。
本来ならば此処で説明を終えたかったのだろうが、猟兵達の視線に気が付いたのだろう。説明不足を指摘される前にグリモア猟兵は言葉を続ける。
「あー、心配するな、何で奴らが召喚されたのかは分からん―――多分先述の奥の方に所蔵されている本の影響だろう―――が、オブリビオン共も諸事情によりお前らを襲う事は出来ん。なんでお前らのやる事と言えば、中にある訳の分からん本を漁ったり、奴らと話をする程度だ。元々、奴らは満足すりゃ還るタイプだしな。最悪無視して周辺を調査しているだけでも勝手に飽きて還るだろう」
交戦不要という割と重要な話をさらりと追加するグリモア猟兵。
危機管理意識とか情報の共有化とか多分色々彼には足りていない。
コホンと小さく咳払い、ここからは注意点だが、と話を続ける。
「一応、図書館である以上『司書』が存在する。『司書』と言っても人間ではない、ある種の法則とでも思えばいい。奴らは図書館のルールを破ると現れる正体不明にして絶対無敵の存在だ。奴らのルールの前では人間もオブリビオンも関係なく『処分』されるので注意するように」
お前らも本の栞にはなりたくないだろ? とグリモア猟兵は物騒な軽口を叩く。
『処分』とぼかしてはいるが、以前ルールを破った者はつまりはそういう事になったのだろう。重ねて、やはり彼には危機管理意識とか情報の共有化とか業務上過失致死とかその辺の概念が足りていない。
「ルールと言っても一般的な図書館と一緒だ。『飲食するな』『大きな声で騒ぐな』『本を傷つけるな』etcetc――ま、普通に図書館で過ごすのと何も変わらん。この業務は特に急ぎでもない、焦らず気長にやってくれ。ま、健闘を祈るぞ」
いつものようにグリモア猟兵は説明を終え。
そして、いつものようにポータルは静かに輝いていた。
romor
お久しぶりです。romorです。
この依頼のタイトルと扉絵を見たとき、皆さんは、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思います。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで頂きたいですが、残念ながら当依頼に艶やかな展開なんてもんは存在しておりませんのであしからず。
また、夜話とは夜間に行う談話であって、猥談ではありません。ご注意ください。
今回は少々特殊な依頼となります。下記に要点が記載されておりますので、一読してからのプレイングを推奨したします。
①.この依頼の舞台は特殊な環境下で行われます。
『司書』はとてもおっかないため、一般的な図書館のルールを逸脱するプレイングは採用する事が困難となりますのでご注意ください。
②.この図書館に存在するオブリビオンは『知識』や『話』に飢えています。
例えば興味そそられる知識や事件、もしくは自らの『宿敵』との因縁等々、彼女たちが満足するまで『知識』『話』を与える事により、その報酬として彼女達は自らの知識を猟兵に分け与え、そのまま骸の海へと還るでしょう。
オブリビオンから報酬の『話』を聞いた場合、その『話』に関連する『依頼』が発生する……かも知れません。
上記の事情により当依頼の進行速度は非常に遅いものとなります。ご了承ください。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『貪魔ムセイオン』
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POW : 暴食ディメンジョンバイト
【虚空にレベル×1箇所出現する次元の顎 】が命中した対象を切断する。
SPD : 傾星万手
【対象に応じた技能を用いた心奪う芸 】を給仕している間、戦場にいる対象に応じた技能を用いた心奪う芸 を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ : クリスタライズ侵晶嵐
自身が装備する【最大値依存型割合ダメージを与える結晶 】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
イラスト:花土竜
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アンコ・パッフェルベル」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
夜更けだというのにその廃墟の窓には煌々と明かりが灯っていた。
ジジ、と時折音をたてる蛍光灯が埃っぽい空気が充満する館内を照らしている。
猟兵達の目に映るのは、延々と続く赤茶けた本棚に黄色に変色したカーペット、整然と並んだ 古びた椅子と机の群――眼前に在るそれらは一般的な図書館にあるものと何も変わらない。ただ一つ、それらが見果てぬ先まで続いている事を除いては。
目の端を過る黒い影はただの気のせいだろうか。
本棚に並ぶ背表紙の字が蠢いて見えるのは気のせいだろうか。
椅子がまるで動物の様に、四つ足で歩き回って見えるのは気のせいだろうか。
そんな現実離れした光景の中、オブリビオンはそこにいた。
張りのある豊満な肉体を包むのは、申し訳程度の下着ともいえぬフリルの付いた布地のみ。
時折頭を動かすたび、水色の長髪は流水の様にさらさらと抵抗なく流れていく。
頭より生えた角と背より広がる羽、そして腰から伸びた尻尾が、彼女が人間ではない事を如実に語る。
話に聞く夢魔にも似たような姿で、オブリビオン――その少女はそこにいた。
「…………ふぅ」
壊れかけたような椅子では座り心地が悪いのだろう。自らの一部であろう虚空に浮かぶ巨大な口腔、その中から伸びるぬらぬらとした舌に座り、何かを待っているように少女は宝玉のような瞳で遠くを見つめている。傍らの机の上には彼女が築いたのであろう本の砦、その題名は全て猟兵達にとって理解不能な文字列に見えた。
「…………?」
来訪者に気が付いたのだろう、ピクリとオブリビオンの尻尾が動く。
しかし身構える事もなく、そのまま猟兵達に物憂げな視線を向けて――
――彼女は、ごきげんようと囁いた。
トリテレイア・ゼロナイン
(剣盾はケースに入れ持ち運び話の挿絵表示機能兼保険としてUCを使用)
数多の「過去」と相対しましたが対話する機会は稀
騎士として武は最後の手段と考えたい私にとって喜ばしいことです
…己が存在の否定だとしても
丁寧に挨拶し自己紹介を兼ねたお話を
起動し間もない頃
銀河帝国と戦い始めた私は拿捕されかけの宇宙船の乗客脱出の時を稼ぐ為
単身帝国騎士と正面から戦い惨敗
策を弄し罠に嵌め、真空の海に放逐し事なきを得ましたが…
理想を貫く困難さを初めて痛感した出来事でした
あなた達と相対し続ける日々の中、その念は強くなるばかり
未だ諦めきれないのは私が機械だからかもしれません
人を誘う「唄」についてご存知なことはございませんか?
「……面白い、来訪者ね……!」
異界からの来訪者であるウォーマシンは、彼女にとっては非常に興味深い存在だったのだろう。黄金の双眸を輝かせ、少女は機械の騎士を見つめる。それはまるで初めて玩具を見つけた子猫のようにも見えた。
「今晩は、お暇なら夜話でもいかがでしょうか?」
機械騎士『トリテレイア・ゼロナイン』は丁寧に挨拶を交わし、夜話へ誘い――もちろん喜んで、と、オブリビオンの少女は答える。
それでは、とコホンと小さく咳をして。
「……あれは、起動し間もない頃――」
機械騎士は、眼前の少女に『話』を始めた――。
――元々は銀河帝国に所属する機体であったトリテレイア。
だが、誰の手によるものか、その起動時に記憶データはあったのは、彼自身の名と古き騎士道物語のみ。
自らに施された干渉、その意図は彼自身も知る由もない。
それがどんな結果を齎すかも、彼自身は分からない。
だが彼自身の視覚ユニットに映る自身の身体は、記憶データの中にある白銀の鎧をまとった騎士と被って認識された。
故に、彼は立ち上がった。それが本来の主人に抗う事を意味していても。
オブリビオンの少女に語るのは、かつての自身の戦いの記憶。
銀河帝国によって拿捕されかけた民間宇宙船、その乗客脱出の時を稼ぐ為、彼は単身帝国騎士と正面から戦い――惨敗。
だが、勝者は驕るもの。
機械騎士は策を弄し、その隙をつき罠に嵌め――
「――最終的に真空の海に放逐し、事なきを得ましたが……あれは、理想を貫く困難さを初めて痛感した出来事でした」
記憶データに生々しく残る、敗北の記録。
だが、小さくはないリスクを経験してもなお、誰が刻み込んだかもわからない騎士の理想は彼の胸の内に確かに在った。
「私の記憶データに刻まれた騎士の理想――未だ諦めきれないのは、私が機械だからかもしれません」
――けれど、あなた達と相対し続ける日々の中、その念は強くなるばかり。
トリテレイアは天を仰ぎ、最後の言葉は胸中に留める。
それが己の存在の否定だとしても、彼にとって武は最後の手段だ。数少ないオブリビオンと対話を行う機会に、あえて波風立てるような言葉を使う必要もないだろう。改めて彼が視覚ユニットを前方に向けなおすと、ことのほか真面目な顔をした少女が此方を見つめ――機械は諦めないわ、そう呟いた。
「機械は、ただ出来るまで与えられた処理を行うだけ。諦められないなんて言い方、まるで諦める事が出来るみたいで――」
――とっても、にんげんらしいわね?
機械騎士の話に満足したのだろう。
オブリビオンの少女はニコリと微笑みを返した。
――。
「……キカイな騎士さん。貴方の話、とても面白かった」
お返しに、何か私も話しましょうか。ムセイオンはそう囁いて。
ならば、と機械騎士は少女に問うた。
「人を誘う「唄」についてご存知なことはございませんか?」
「……確かにあの『唄』は、人を誘うと言ってもいいかも知れない。正確には、人を誘う『理由』を誘うモノだけれど」
機械騎士の問いかけに、いいわ、と少女は一声発し。
少女――『貪魔ムセイオン』は、機械騎士『トリテレイア・ゼロナイン』に『話』を始めた。
「――数年前、ある地域で子供が次々と行方不明になる事件が発生した。目撃情報や遺留品から警察の捜査線上には同地に存在する宗教団体が浮上、最終的には同宗教団体の施設への警官隊の突入をもって、事件は終息した」
「……何の話をしているのですか?」
疑問の言葉を呟く機械騎士。
尋ねたのは『唄』の主についてだ、何らかの事件についての情報ではない。
答えずムセイオンはにこりと小さく微笑み、そのまま話を続けていく。
「被害者は年端もいかぬ子供がおおよそ■名。正確な人数や性別が分からないほどに犯され、喰われ、腐りきった彼らの死体は、警官が突入した『儀式の間』の端に無造作に積まれていた。突入したその時も、丁度『儀式』の最中だったそう」
ぬらり、と。
ムセイオンの跨る舌がうねり――その豊満な身体を持ち上げ、機械騎士との目線を合わせる。白い肌は唾液に塗れててらてらと淫靡に光沢を放ち、機械騎士の眼下にある双峰は少女の呼吸の度にゆさゆさと揺れた。琥珀にも似た黄金の瞳で、覗き込むように機械騎士の視覚ユニットをじぃっと、見つめる。
「暴行・殺人・強制わいせつ・その他諸々――数多の罪で教団は摘発され、瓦解した。……でも、一つだけ。彼らの罪状の中には麻薬及び向精神薬取締法によるものはなかったの。ありとあらゆる検査をしても、彼らが薬物を使用していたという証拠は誰一人として見つけられなかったのね」
――かんがえてもみて……❤
機械騎士の聴覚ユニットの傍まで顔を近づけ、甘く、囁く。
「齎される快楽を求める者にのみ麻薬としてふるまい、けれどそれ以外の者が求め、その目に晒されればその効力は消えてしまう――決して法に触れない夢のドラッグ、そんなものが存在するなら、きっと誰しもが大金を積んで手に入れようでしょう……?」
くすくすとからかうように静かに笑いながら、トリテレイアの胸部装甲に右手の人差し指を押し付けて。自身の跨る舌をうねらせ、名残惜しそうに身体を離す――最後に離れた指の先からは、跨る舌の唾液であろう銀の糸が細く伸び、儚く消えた。
「在るのかどうかすら判然としない麻薬のようなもの――その原材料は、眷属と呼ばれる存在から抽出された『淫毒』と呼ばれる分泌物。もしその眷属を安定して生産できたなら、もしその眷属を安全に管理できたなら」
――それはきっとかれらにとって、とってもすてきなことなのでしょう……❤
囁きながら、夢見心地に恍惚した表情を浮かべるムセイオン――かのオブリビオンにとっては、この世界で発生する数多の災禍、それはどんな禍事であったとしても興味の対象内でしななく、どんな罪穢であったとしても悦びでしかない。
故に、自らの悦びの為ならばどんな禍事罪穢であったとしても、彼女はこの世界にて起こしうるだろう。
「貴方は覚えがあるでしょう? 『唄』と共に在る『原材料』の存在を。それが『唄』の主――『彼女』の在る理由。それが、この世界に邪教が蔓延る理由の一つ」
そして、オブリビオンは話を終えた。
対話の出来る環境だったとしても。
例え全く害意がなかったとしても。
彼女の理は、人のもつソレとは余りにもかけ離れていた。
目の前の少女は、紛れもなく人外の存在だった。
「……これで、質問には答えたかしら?」
満足いく答えだったならよいのだけれど、そう、悪意なく呟いて。
少女はただ、猟兵達に向かい静かに無邪気な微笑みを浮かべていた。
大成功
🔵🔵🔵
茜谷・ひびき
図書館は好きだがこの空間は落ち着かない
なんだか頭がピリピリするし
更に司書はオブリビオンかよ
……司書ならもう少し慎ましい格好をして欲しいぜ
武器は持ち込まずに図書館へ
司書の元まで来たら挨拶を
それで、話をすればいいのか?
身の上話で申し訳ないが、俺が猟兵になった時の話でも
俺がまだ中学生だった時の話だ
ある日住んでた町が炎に呑まれた
炎の中心にいたのは得体の知れない化け物だ
化け物は散々暴れて、俺もぐちゃぐちゃにされて
もうダメだ、って思ってたら……UDC組織が助けてくれた
そんで俺は怪我の治療のついでに胸元のこれを貰ったんだよ
……化け物の行方は知らない
報酬の話は特に思い付かないな
あんたのしたい話をしてくれよ
――この空間は、落ち着かないな。
猟兵『茜谷・ひびき』は率直に、その場所のことをそう思った。
図書館は好みの場所ではあったが、飽くまでこの場所は図書館の姿を模したナニカなのだろう。ピリピリとする頭部の感覚が、そこが非日常の空間であることを物語る。
そして、視界に入るのは、この場が非日常である証明する存在――目も鼻もない長細く黒い影。グリモア猟兵の言っていた『司書』が、タイトルの読めない本を並べ替えているのが見える。『ルール』を破ると一斉に、あれらが襲い掛かって来るのだろう。
無視して奥へと進むと、利用者の一人であろう、彼女の姿が目に入った。
「……あら、今日は賑やかなこと。」
貴方も夜話をしてくれるのかしら、オブリビオンは猟兵にそう問いかけて。
ああ、そのつもりだ、と、若干ぶっきらぼうな調子で答える。
「紹介が遅れたが、俺の名は茜谷。身の上話で申し訳ないが、アレは俺がまだ中学生だった時の話だ――」
――それは、時間にして数年前の事だった。
九州にある田舎町にて突如として発生した原因不明の大火災。
その災禍の中、彼――『茜谷・ひびき』はいた。
彼の瞳に映るのは、一面の赫。
荒れ狂う炎に呑まれる自身の街。自身の家族。彼自身の身体。そして――焔の中心にて暴乱の限りを尽くす、得体のしれない超常の者。
戦う事も、逃げる事も。
何一つ、出来る訳が無かった。
故郷も家族も灰燼と化し、彼自身の身体も蹂躙され命果てようとした時。
彼に延ばされた救いの手は、UDC組織のものだった――。
「…そんで俺は怪我の治療のついでに胸元のこれを貰ったんだよ」
茜谷は語り、胸元の刻印――『朱殷の刻印』をムセイオンに見せる。複雑な文様を描くソレは、さながら曼陀羅の様にも、災禍の中生き残った者に対する勲章の様にも、そして、自らの仇に一矢報いる為の力のようにも見えた。
――けれど。
「……化物の、行方は知らない」
こうして、猟兵『茜谷・ひびき』は自身の身の上話を終えた。
沈黙の中、オブリビオンの少女は、猟兵の双眸をじっと見つめる。
「――それで、貴方はどうするの?」
「……いや、俺の話はこれで終わりだ」
猟兵の返答に、ふぅ、と、貪魔は少し呆れたようにため息を吐く。
「……貴方の話はまだ未完成。その話は貴方を構成する記録の一つに過ぎないわ。そんな礎があってもなお、貴方が何も出来なかったなら……」
その悲惨な過去は、ただのありふれた悲劇で終わるでしょうね。と、言葉を〆た。心なしかジト目で猟兵を見つめながら、不満げな様子を見せるムセイオン。人間ではない以上、陰惨なる過去の話だけでは彼女の心をとらえる事は難しいのだろう。
――。
――でも。
一拍おいて、オブリビオンの少女は言葉を続ける。
「大事なのは、これから貴方がどうするかということ。どうしたいかということ。……少しだけ、『話』を聞いてもらえるかしら?」
とても有名な『話』だから、貴方も知っているかも知れないけれど…。
少しだけ、不安そうに前置きをして、『貪魔ムセイオン』は、猟兵『茜谷・ひびき』に『話』を始めた。
「――これは昔、ある理髪師が軍医から聞いた話。私が直接聞いたわけじゃないから、多少の記憶違いはあるかも知れないけれど……その軍医がある仕事の最中、瀕死の男の治療に当りその命を救った事から話は始まるの。軍医は男に気に入られ、たびたびその家に招かれた」
「でも、軍医には気になるものがあった。何度も招かれた男の家――けれど、軍医は一度も男の妻の姿を見たことが無かったの。……不思議に思った軍医が一目見たいと頼むと、男は勿論いいともと請けあって、6人の見目麗しい妻達を軍医に見せた。女たちは皆驚いて、はにかむような表情を見せたそうよ」
……ハーレムというのは何時の時代も男の夢、ね?
若干呆れた様な様子で付け足した。
「『他の女も見せてしんぜよう』――そう男は言うと、軍医を連れて地下へと降りて行った。そして奥にある扉を開けた時。軍医が感じたのは、闇の中でもぞりと動く影と、肉の腐ったような嫌な臭い――」
お気に入りの場面なのだろう。ムセイオンはうっとりと目を閉じ、天を仰いで。
昂る感情を抑えるかのように、豊満な胸の下で腕を組む。……猟兵から見ると、それは返って胸を強調するようにしか見えなかったが。
「――そこにあったのは、いえ、其処に居たのは、天井からつるされたナニカの肉と、その場に幽閉されているのであろう、鎖で繋がれ髪の乱れた全裸の女。男は言った。『これも私の妻です。もっとも、背教者ですがね、そこにぶら下がっている男と情を通じたのです』」
陰惨な『話』の展開に、少しだけ茜谷は身を引き、疑問に思う。何故、目の前のオブリビオンはこんな話を語っているのか。何を猟兵に――否、『茜谷・ひびき』に何を求めているのだろうか。
少女はその様子に気が付かないかのように、話を続ける。
「『何、アレも愛する者と一つになれて満足でしょう、愛する者の血肉で生きながらえるのであればね』…ま、その内飢え死にするでしょうが。最後にぽつりと男は呟くと。何かを訴えかける女の目の前で――無情に、再び扉は閉ざされた……」
……余韻が冷めやらぬのであろう、はぁ……❤ と焦がれるような、熱い溜息を漏らす。
……とても、とてもステキなはなし。
少女は誰ともなしに、ぽつりと呟く。
「……愛と憎悪は一枚のコイン。復讐と恋慕の構造は驚くほどに似ているの。相手の事を終始想い、いかに心動かすかに尽力し、その身体が自らの手に落ちる事を願う。それは、きっととても愉しい事。……だからね? 貴方もきっと……❤」
ムセイオンは茜谷の顔に両手を伸ばし、その頬に添えて。
ヤらずには、いられないでしょう……?
吐息が感じられるほどに顔を近づけ、恋人同士が内緒話をするように密やかに囁きかける。
「貴方の話はまだ未完成……幸いな事に、ね? ……貴方が何を思い、何を求め、何を為そうとするのか、私はとても、とても愉しみ。過去に囚われてはいけない、復讐なんて意味はない、他人はきっとそう言うでしょうけど――」
――愉しい事に、意味なんてないわ……❤
ニコリと微笑むと、少し残念そうに、ゆっくりと顔を放す。
水色の髪が少しだけ茜谷の顔を掠め、微かに甘く香った。
だから、と、少女は吐息と共に、小さく呟きを吐き出して――。
「……余り焦らさないで、私に『続き』を聞かせてね?」
――最後に貪魔は、猟兵に『お願い』をした。
彼女の言葉に耳を貸してはならない。
彼女の誘惑に心を奪われてはいけない。
彼女は、自らの欲望を満たす、それだけの為に存在しているのだから。
大成功
🔵🔵🔵
波狼・拓哉
無手を晒しつつ簡潔に挨拶。
さて何を話しま…箱?…何か勝手に出てらっしゃる。丁度いいや、こいつの話でも。
まー先に正直な事言うと俺も正体知らないんですよね。何なんだろうかこいつ。
まあ、それでも俺を死地から救ってくれるベストパートナーですよ。居なければ死んでたって事ありますし、何より猟兵にも慣れませんでしたね。
後は結構ノリの良い所が。他人と関わるのが結構好きみたいで、一緒にバカみたいにはしゃいだりしてます
…ま何者であろうと気にはしません。ここまで来れば一蓮托生ですよ。
こんな話でも良かったかな?話というかこいつについての見解みたいになったけど。…んーそうだな、こいつみたいな存在って他に知ってたりする?
「あー、夜話を所望してるってのは、あ「なぁに、それ……!」
無手を晒しつつ挨拶しようとした猟兵――『波狼・拓哉』の言葉を遮って。
『貪魔ムセイオン』――オブリビオンの少女の視線は猟兵にではなく、その足元――蒼く輝く『箱』へと向けられていた。
――…何か、勝手に出てらっしゃる。
心中で呟く波狼。相手も興味津々の様なので、結果オーライといったところか。
「…丁度いいや、こいつの話でも」
猟兵が四角い相方をテーブルの上に乗せると、その動きに合わせてオブリビオンの少女の目線も動く。ほぉぉ…、と興味深げに瞳を輝かせながら、跨る舌から落ちそうになるまで前のめりに、少女は『箱』に顔を近づけて。『箱』の持つ蒼い輝きが、その顔を蒼く染めていた。
「…まー、先に正直な事言うと、俺も正体知らないんですよね」
何なんだろうかこいつ。相方の『箱』の方に目線を向けて、一言付け足す。
持主の話を聞いているのかいないのか、偶に指でつついたりしながら『箱』の観察を続けるオブリビオンの少女。当の『箱』と言えば、少しばかり混乱しているのだろう、指で突かれるたびにぐるぐると小規模の擬態を繰り返していた。
『箱』――そうとしか言えないその奇怪な、生物かも怪しい何か。ソレと波狼の縁は数年前に遡る。超常現象を扱う探偵家業の一族の末に生まれた波狼。二十歳を迎えた彼に、父親から渡されたモノは明らかに怪しい黒い多角体の結晶だった。
その後、強制的に独り立ちさせられた後、件の物体から気が付いたら何か出ていたという、気が付いたら使わない傘の柄に何かの蛹がくっついていたといったノリで前置きを片付けて、波狼は話を続ける。
「まあ、それでも俺を死地から救ってくれるベストパートナーですよ。居なければ死んでたって事ありますし、何より猟兵にもなれませんでしたね」
淡々と、『箱』と過ごした日々を語る。
結構ノリの良い所がある事。
他人と関わるのが結構好きな事。
一緒にバカみたいにはしゃいだりした事。
それでも、この『箱』の正体は依然として不明な事。
―――…ま、何者であろうと気にはしませんけど。
例えこの角ばった相方が何者であったとしても、もはやその身は一蓮托生、今まで波狼と過ごした時間は変わらないのだから。
「……こんな話でも良かったかな?」
話というかこいつについての想い出……見解みたいになったけど。そんな思いを胸中に収めつつ、波狼はムセイオンに問いかける。
「……基本形態が箱という事は、人工物に擬態したある種のメルテンス型擬態かしら? でもそれだと捕食対象は人間程度しか思いつかないけれど。いえ、質量保存則を無視した擬態能力から察するに、単純にソレが都合のいい形と考えるのが自然ね。人間に利用されることを前提とした超次元的デバイス? 生きているように見えるのは振り? それとも、持主を選別する為の機能……? それとも、トランペゾロンに似たアーティファクトかしら……?」
玩具を見つけた猫のように、ムセイオンはまだ『箱』をつんつんしていた。
「話、聞いてます?」
「ひゃんっ!?」
聞いていなかったようです。
「…と、とても面白い、わね。此処じゃなかったら、色々と中身も見たいところだけれど」
「それは勘弁してほしいな」
大事な相方なんでね。波狼――ミミクリーサモナーは、そう、返して話を〆た。
――。
「……猟兵さん。貴方の『箱』、とってもステキだった」
お返しに、私の知る限り、知りたい事はあるかしら。ムセイオンはそう囁いて。
…んー、そうだな、と猟兵は少女に問うた。
「…こいつみたいな存在って他に知ってたりする?」
その問いかけに、しばしムセイオンは黙り、先に言っておくとね、と前置きする。
「これは私の知識の中での関連していそうな事だから、本当のところは分からない。これは飽くまで、この世界で似たような存在が生成される可能性の話」
それでもよければ、と少女――『貪魔』ムセイオンは、猟兵『波狼・拓哉』に『話』を始めた。
「この世界に、異界から来訪する邪神――世に現出し、災禍を振りまく彼らは、彼ら自身がそのまま現世に現れる訳ではないの。召喚儀式とは遠い異界の邪神の情報を写し取り、『贄』の肉体を持って再構成する――それは例えるなら電送のようなもの」
当然足りない部分は『別のモノ』で補うのだけれど、これは別のお話ね。ムセイオンは小さく付け足して。
「けれど電送と違う点は、使用される『贄』の生命維持器官はそのまま使われる事。邪神の中にはこの世界の環境に適応できない者も居るから、そこはどうしても変えられない。とは言っても改良――例えば心臓を増やしたり、内臓の性能を強化したり――は出来るようだし、脳も完全に置き換わって『贄』の意識が残る事はないから、其処に大した差はない――いえ、ないはずだった」
何にだってイレギュラーというものは存在するわ、ムセイオンは小さく呟く。
その指は、まだ『箱』をつんつんしている。
「稀に、再構成に失敗した個体が出現するの。その意識の片隅に、贄となった者の意思を持つ者が。己の死への絶望を、己の生への渇望を、己を贄とした者への憤怒を、己の存在の哀しみを、そして、決して消えぬ、ケツイを宿した者達が」
意識のあるべき脳は既にないのに。小さくぽつりとつぶやいた。
「ちょっとまった、つまりこいつは邪神の成りそこないってことか?」
猟兵の問いかけに、さぁ? と、ムセイオンはあっさり言葉を返す。
「私の知識は飽くまでこの世界だけのものだもの。もしかしたら、もっと全然別の存在かも知れないわね、未だ見ぬ異界の眷属とか」
それはともかく、と小さく咳をして。
「……これで、私の話はおしまい。だけど――」
「――もし心というものが存在するなら、一体何処に宿るのかしら」
アナタはどう思う? と。
オブリビオンの少女は、猟兵に悪戯っぽく笑いかけ、話を終えた。
大成功
🔵🔵🔵
レナ・ヴァレンタイン
やれやれ。せっかくの知識の宝庫だというに
読めないし理解もできないとはね…探し物は見つからず、だ
さて、君は――『世界が燃え尽きるのを見物したい』と思ったことはあるかね?
なにもかもが炎に呑まれ、灰になって崩れ去る
冷たく寂しくなった世界を見下ろしながら滅ぶ世界最後の存在になりたいと思ったことは?
私の身体の“製造者”は何が楽しいのか、そんな願いをひどく熱っぽく語っていた
古巣を焼き払って、私に『私以外』の記憶と自意識を植えて消えたがね
もし似たようなことを宣っていた奴のことが頭の片隅にあるなら教えてほしい
この銀の弾丸は、その願いを奴の頭蓋ごと砕くために作ったのでね
ぶち込む先がどこなのか、それを知りたいのさ
――やれやれ。せっかくの知識の宝庫だというのに。
眼前に並ぶ大量の蔵書に、ブラッドワンダラー――『レナ・ヴァレンタイン』は心中で呟く。タイトルの文字は蚯蚓の様に蠢いて、その意味するところはようとしてしれない。人には読めず、理解も出来ず、探し物――求む仇敵の情報をそこから得るのは、非常に困難なように思われた。
「突然の来訪、失礼する。私はレナ。レナ・ヴァレンタイン」
夜話を求めていると聞いてな、と、尊大な調子で挨拶する猟兵。だが、愛玩人形の身体ゆえか、はたまた別の理由からかその動作にはどこかぎこちなさ、違和感が感じられた。
「今日はなんだかとても賑やか。アナタも話をしてくれるのかしら?」
来訪者に貪魔ムセイオンはニコリを微笑み、早速聞かせて頂けるかしら、と。
こほん、と、軽く咳を払って。
「さて、君は――」
――『世界が燃え尽きるのを見物したい』と思ったことはあるかね?
猟兵『レナ・ヴァレンタイン』は、オブリビオン『貪魔ムセイオン』に話を始めた。
かつて、ある管理社会の中、製造された愛玩人形「タイプ:ドロレス」。そのボディーを素体とする彼女の内に残る記憶は、熱狂的に願いを語る“製造者”の姿。
語られるはなにもかもが炎に呑まれ、灰になって崩れ去る冷たく寂しくなった世界を見下ろしながら。滅びゆく世界で、最後の存在になりたい。そんな、破滅的な願望。
レナにとって、その願望は理解しうるものではなかったが、“製造者”がその願望を現実にし得る人間だという事は十分に理解できただろう。
そして、その破滅的な願望は、小規模ながらも叶えられることとなる。
古巣を焼き払い、自身の被造物であるレナに『彼女以外』の記憶と自意識を植えつけて、“製造者”はその姿を消した。
己のものではない記憶と人格、そして憎悪を植え付けられた愛玩人形は、皮肉なことに復讐の為に自らの“製造者”を追い求める。
“製造者”の意図、そして、己の存在と憎悪の理由、その全てが分からぬままに。その手に握られしは銀の弾丸。“製造者”の願望をその頭蓋ごと砕くために。
「もし似たようなことを宣っていた奴のことが頭の片隅にあるなら教えてほしい――」
猟兵は語り、手の内に握られた銀の弾丸を机の上へとコトリと置く。鈍く輝く表面には、猟兵とオブリビオンの歪んだ姿が映り込んだソレ。それは、レナ自身の怒りでもあり、意思でもあった。
――コイツをぶち込む先がどこなのか、それを知りたいのさ。
そして、猟兵『レナ・ヴァレンタイン』は話を〆た。
「…とってもとっても、すてきな話」
貪魔ムセイオンはうっとりとした表情で机の上の銀の弾丸を眺め、呟いた。
それは、目の前の猟兵へ向けた言葉と言うよりも、古い御伽噺を喜ぶ子供のような、何処か遠くの誰かに向けたもののようにも聞こえた。
未完成なのが残念ね、と。この復讐劇の決着がどうなるかを想像しているのだろう、机上の銀の弾丸を指の先でコロコロと転がしながら、オブリビオンはしばし、思案に耽る。
「私の話は、気に入って頂けたかな?」
猟兵が問うて。少女は小さく、そうねと答えた。
「アナタはきっととてもステキなことをしてくれそうだから――」
ひとつだけ、『話』をするわね。そう、呟いて。
少女――『貪魔ムセイオン』は、ブラッドワンダラー『レナ・ヴァレンタイン』に『話』を始めた。
「最初に断ると、私はあなたの仇敵を知らない。これは、願い続け、求め続ける者達の話。さっき邪神の召喚について、私は『稀に』再構成に失敗する。と言ったと思うけど――」
意味深に、じっと。オブリビオンは猟兵の瞳を覗き込む。レナの赤と黄色のオッドアイに、それぞれ少女の姿が映り込んでいるのが見えた。
「――でも、正確に言えば世界に偶然なんて存在しない。遥か彼方の地での蝶の羽ばたきが台風を起こす、なんて複雑怪奇にして予測不可能な事象であったとしても、それは数多の法則の上で成り立つ事象に過ぎない。分かりやすく言えば、それは同条件であれば必ず再現できるという事。人の力が及ばないか、それとも再現するほどの価値がないかは別としてね」
「……どういう意味だい」
疑問の言葉を呟く猟兵。
尋ねたのは自身の弾丸の標的――言ってしまえば世界を破滅に導くであろう破滅主義者共の頭蓋が何処にあるかだ。邪神の儀式の再現性が、それにどうかかわってくるというのだろうか。
猟兵の問いに、そうね、言い方を変えましょうか。ムセイオンはそう静かに答え。
「人々によってこの世界に召喚される数多の邪神、けれど、貴方達と対峙した殆どは不完全なものだったはず。それは貴方達の介入によって儀式が不完全だった。そう受け取ることも出来るけれど――」
でもね。
言葉を続ける。
「人の行いは必要によって洗練されていくものよ? 完全な邪神なんて呼び出したところで、真正の被虐趣味の破滅主義者しか悦ばない。…いえ? 本当は彼らでさえ、世界が破滅するまでの『過程』を望んでいるだけ。もし人の身で邪神の力を行使する事が出来たなら、その恩恵だけを受け取る事が出来るなら。結局のところ彼らの願いは、その一点に集約された」
「だから、彼らは試したの。邪神の身体を構成する物質や法則を観測できないなら、総当たりで試していくしかない。一つ一つ、丁寧に。世の衆愚の欲望に付け込んで、『不完全な邪神召喚儀式』を吹き込んで。世の破滅も、完全なる邪神も、彼らにとっては副産物。真に求めるは『稀』に発生するその事象を、その原因を、その法則を確かめる、ただ、それだけの為に」
……アナタの標的も、きっとそう……❤
先の復讐劇に想いを寄せているのだろう、少々熱い吐息を漏らすムセイオン。彼女にとっては、憎悪滾る復讐も、想い燃える恋慕も、思考の同一線上の事に違いない。そのまま、恋慕の対象でも中にあるかのように、愛おしげに猟兵の胸を指先で小さく撫ぜた。
「世の破滅など、想い人の気を惹くただの口実。滅びゆく世界を背景に、愛しき人形に追われ想われ追い詰められて、そしてその手にかかり終わる、きっとそんなステキな終着への執着を抱いているのね……❤」
ラブロマンス
とても、ステキな『 復讐劇 』。
恋に焦がれる乙女が、夢想するように、うっとりと、目を閉じて。
貪魔ムセイオンは猟兵への話を〆た。
大成功
🔵🔵🔵
ノネ・ェメ
満足したら還るタイプ? それってもふもふな案件なのでは? と思って来てみたのですが。す、すごい司書さんが。
話せば長いかもですが。元々は、なにももふもふを探し求めてたわけではなくて。ノネ──わたしは、誰とも戦いたくなくて。誰にも戦ってほしくなくて。でも、猟兵で。このUCもあなたには無害だし、静寂が好みならむしろ静かなので。
でもオブリビオンも色々で、もふるとご満足頂ける事もあるので、まずはそういった存在と接触をはかってるっていうか。最近では、わたし達と友好的でいられるオブリビオンも確認され始めてるんです。貴方もそうだと、嬉しんですけど。
あなたは、あなた自身をどういうものと捉えてますか……?
「……そろそろ、還ろうかしら……?」
十分に話を聞いて、満足したのだろう。『貪魔ムセイオン』は、ふぁぁ、と伸びをし欠伸を吐くと、自らの跨る舌、その口の奥に、その身体を委ねて。来たところへと還ろうと――
「――あ、あのっ」
――オブリビオンの少女が横目で見やると、其処には青髪長髪の少女の猟兵――ヴァーチャルキャラクターの電脳魔術師『ノネ・ェメ』が立っていた。
「ノネとも、お話しませんか?」
「……悪いのだけれど、もう私も還ろうかと――」
猟兵の夜話の誘いを断ろうとするオブリビオン。だがその時、彼女の耳を心地の良い音楽が優しく擽る。
── tʃɪ́lɪn’zǽpɪn’──。
『ノネ・ェメ』のユーベルコード〝音憩〟により展開される、静かなオーケストラ。オブリビオンに合わせた音楽の為か、少しばかり〓編集済〓された音が混じるが、ヴァーチャルキャラクターであるノネに影響はないだろう。
「このUCもあなたには無害だし、静寂が好みならむしろ静かなので」
「……そうね……悪くないわ、それじゃ――」
貴女の話を、聞かせてくれる? オブリビオンのその問いかけに。
話せば長いかもですが。そう前置きして。
猟兵『ノネ・ェメ』は『貪魔ムセイオン』に話し始めた――。
ノネ――わたしは、と、『ノネ・エメ』は自身の事を語る。
元々ヴァーチャルキャラクターのヴォーカリストであった彼女は、当然と言うべ きか、その倫理観は常人とさしたる違いはなかった。故に。
誰とも戦いたくない。誰にも戦ってほしくない。そう願う。願ってきた。
それでも、彼女は猟兵だった。
オブリビオンと戦う為の、そして、滅する為の、存在だった。
「でもオブリビオンも色々で――」
そんな中、見えた一筋の光明。
戦わなくとも、友好的な接触によって対処できるオブリビオンが存在する、その 事実は彼女の足を異界へと向けさせるのに、十分すぎる理由だった。
今でこそ、もふもふとした存在を探し求めるように見えてしまっているが、本来は友好的なオブリビオンと接触するのが。誰とも戦わなくても良いのなら。誰も戦わなくて良いのなら。
それが、彼女の願いだった。
「……貴方もそうだと、嬉しいのですけど」
こうして、猟兵は話を終えた。
そうね、とオブリビオンは小さく返して。
「私も、争いごとは好きじゃない」
それじゃあ、と、明るい表情を浮かべる猟兵――少しばかり呆れたように、ふぅ、とオブリビオンの少女はため息を吐く。
「誤解しないで。単純に争いに労力を割くことが嫌なだけ。他人が勝手に争う分には十分に私は愉しめるし、それを望んでさえいる。……結論から言うとね。私とアナタ達は友達ではないの。私が今、あなた達に害を与えないのは、この場所がソレを禁止しているから」
猟兵に目線を合わせずに、オブリビオンは言葉を続ける。
「アナタの言う『友好的な』オブリビオンにしても、彼らはそう在る様に在るだけ。ただその身体を撫ぜるだけで害意を無くす程度の存在でしかないというだけ。」
終わりならば、もういいかしら。
興味なさげに吐き捨てると、猟兵に背を向け、口の中へと去ろうとするオブリビオン。
もう一つだけ。
その背にノネはそう呟き、一つだけ『貪魔ムセイオン』に問いかけた。
あなたは。
「あなたは、あなた自身をどういうものと捉えてますか……?」
……。
…しばしの、沈黙。
問いかけられたオブリビオンの少女は、何かを思い出すかのように目を瞑り、しばらく考えて。
……私は、影。
そう、ぽつりとつぶやいた。
「……私は、『貪魔ムセイオン』という型を得た、現世に映し出される影のようなものに過ぎない。ただそう在れとただ心躍る体験をかき集め、そして、何も残すことなく骸の海へと還る存在」
――それ以外の、何者でも、ない。……そのはずだ。
猟兵に動揺を悟られるのが嫌だったのか、最後の言葉は胸中に仕舞いこむ。
オブリビオンとは所詮過去の存在、既に決まった終わりを迎えてしまった存在だ。何度再生しようと記録されたエイガの展開が、そしてそのエンディングが変わらぬように、彼ら自身も変わらない。……その、はずだ。
……。
「……少しだけ、気が変わった」
振り返り、『貪魔ムセイオン』は初めて、猟兵――否、ノネ・ェメと真正面と向かい、言葉を続ける。その目には、何か少しだけ、熱意がこもっているようにも感じられた。
「戦わない者には二通りいる。ただ戦いから逃げ続ける者と、決意をもって戦わない事を選んだ者。あなたが何方かは分からないけれど――」
一つ、お願いをしていいかしら。ノネの耳元に顔を近づけ、オブリビオンの少女はそう囁いて。
少女――『貪魔ムセイオン』は、猟兵『ノネ・ェメ』に『お願い』を始めた。
図書館だから、当然と思うかもしれないけれど。ムセイオンはそう前置きして。
「私は読書の為にここに来た。…とはいえ、自分で本を探すのは億劫だから、『ウサギさん』に頼んで代わりにやってもらっているの。この辺をうろちょろしていると思うけれど、まだ居ると思う……だからね?」
いつ書いたのだろうか、ムセイオンは胸元から一切れのメモを取り出し、ノネへと渡す。少しばかり体温と、彼女の香りの残るそれには、人間には判読不可能な文字列が並んでいた。
「この本を探すのを、手伝ってもらえるかしら? きっと彼女なら……『お願いすれば、中身も少し、音読してくれる』かもしれないわね」
「……これ、なんて読むんですか?」
渡されたメモを見て、クエスチョンマークを浮かべるノネ。その姿を見て、ムセイオンは悪戯っぽく笑い、さぁ? と答え。
「それじゃ、期待しているわね、猟兵さん」
最後、声をかける間もなく。
オブリビオン――貪魔ムセイオンは、自らが跨る口に呑まれて消えた。
【渡されたメモにより、第二章にて、派生依頼のヒントが発生するようになりました】
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『エージェント・シロウサギ』
|
POW : 三十六計逃げるに如かず
技能名「【逃げ足】【忍び足】【ジャンプ】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
SPD : 先祖代々による話術
【口先八寸による言いくるめ】から【瞬時の判断では誤った方を信じてしまう言動】を放ち、【言動の真偽を長考させること】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 応援要請
戦闘力のない、レベル×1体の【エージェント・シロウサギ】を召喚する。応援や助言、技能「【罠使い】【地形の利用】【ハッキング】」を使った支援をしてくれる。
イラスト:仲村くさた
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
『貪魔ムセイオン』が骸の海に還った後。
猟兵達が探索をしばらく続けていると。並び立つ本棚の木立に囲まれるように、彼女はいた。
「…ん? 何かボクに用ですか?」
きょとんとした表情を浮かべる、バニー姿の少女――オブリビオン『エージェント・シロウサギ』。
猟兵達は彼女にこれまであった事を説明する――害意が無い事、『貪魔ムセイオン』に話をした事、そして、彼女からメモを預かった事。最初は半信半疑であったシロウサギも、メモの現物を見て、それならば、と納得した様相を見せた。
「えーと、つまり、この本を探せばいいのですね?」
でもなー、とシロウサギは首を傾げる。
「皆さんお気づきでしょうけど、この図書館は少し特殊なのです。此処は知識を呼び出す為に創り出された場所。所蔵されている本は、本の様に見えて本ではないのです」
まぁ、半分くらい普通の本もありますけど…。
取り繕うように言い足して、シロウサギは言葉を続ける。
「あれらは、この空間や術式を構成する為の部品なのです。えーと、よく悪魔とか召喚する時、魔方陣を書いたりするじゃないですか。あの一文字一文字が、この図書館の本と考えて貰えれば差し支えないです」
猟兵達の前に在るは地の果てまで続くとも分からない、膨大な量の蔵書。それらすべてが知識を召し寄せる為に構成された術式だと語るオブリビオン。もし仮にそれが本当だとすれば、術式の複雑さ、そしてその規模は明らかに人知を超えている。
「知りたい事があるのなら、本棚に本を正しく揃え、術式を起動させなければならないのです。ムセイオン様から預かったメモは4つ。それぞれボクの仲間が案内しますけど――」
『エージェント・シロウサギ』は小首をかしげ、猟兵達をまっすぐに見て。
――手に入れられるのは、アナタ達次第ですよ?
そう、問いかけた。
【MAP】
█123456789ABCDEF█
1███████████████1
2█〼〼〼█〼〼〼〼〼█〼〼〼█2
3█〼〼〼〼〼〼❺〼〼〼〼❹〼█3
4█〼〼〼█〼〼〼〼〼█〼〼〼█4
5█〼〼〼████████〼██5
6█〼〼〼█〼〼〼〼〼█〼〼〼█6
7█〼〼〼█〼〼❶〼〼〼〼〼〼█7
8█〼❷〼█〼〼〼〼〼█〼〼〼█8
9█〼〼〼███〼███〼〼〼█9
A█〼〼〼█〼〼〼〼〼█〼❸〼█A
B█〼〼〼█〼〼〼〼〼█〼〼〼█B
C█〼〼〼〼〼〼〼〼〼〼〼〼〼█C
D█〼〼〼█〼〼〼〼〼█〼〼〼█D
E█〼〼〼█〼〼〼〼〼█〼〼〼█E
F█████〼〼@〼〼█████F
█123456789ABCDEF█
❶.本棚・ジャンル:ゲーム攻略
📕📗📘📙📔📓📒📄📃
📙📔📓📒📄📃📕📗📘
📒📄📃📕📗📘📙📔📓
📗📘📙📔📓📒📄📃📕
📔📓📒📄📃📕📗📘📙
📄📃📕📗①📙📔📓📒
📘📙📔📓📒📄📃📕📗
📓📒📄📃📕📗📘📙📔
📃📕📗📘📙📔📓📒📄
小部屋の中の本棚には、ゲームの攻略本と思しき本が並べられている。
エージェント・シロウサギは一昔前のゲームの攻略本に夢中の様だ。
本棚からは、一冊の本が抜け落ちている…。
近くの机に在る本の、どれかを入れれば良いようだ。
①にどの本を入れたらよいだろうか?
A.📘
B.📕
C.📗
❷.本棚・ジャンル:異界生物論
📕📗📘📙📔📓📒📄📃
📙📔📓📒📄📃📕📗📘
📒📄📃①📗📘📙📔📓
📗📘📕📔📓②📄📃📒
📔📓📙📄📃📒📗📘📕
📄📃📒📗③📕📔📓📙
📘📙📗📓📒📔📃📕📄
📓📒📔📃📕📄📘📙📗
📃📕📄📘📙📗📓📒📔
部屋の中の本棚には、生物図鑑と思しき本が並べられている。
エージェント・シロウサギは興味深そうに触手図鑑をめくっている。
本棚からは、三冊の本が抜け落ちている…。
近くの机に在る本の、どれかを入れれば良いようだ。
①から③まで、どの順番でどの本を入れたらよいだろうか?
A.📘📙📗
B.📕📙📘
C.📕📗📘
❸.本棚・ジャンル:オカルト
📙📔📓📒📄📃📕📗📘
📒📄📃📕📗📘📙📔📓
📕📗①📙📔📓📒📄📃
📔📓📙📄📃📒②📘📕
📄📃📒📗③📕📔📓📙
📗📘④📔📓📙📄📃📒
📓📒📔📃⑤📄📘📙📗
📃📕📄📘📙📗📓📒📔
📘📙📗📓📒📔📃📕📄
本棚からは、五冊の本が抜け落ちている…。
エージェント・シロウサギは〇ーを貪るように読み耽っている。
近くの机に在る本の、どれかを入れれば良いようだ。
①から⑤まで、どの順番でどの本を入れたらよいだろうか?
A.📘📗📘📕📕
B.📕📗📘📙📗
C.📘📙📗📙📗
❹.本棚・ジャンル:研究記録
📓📒📔📃①📄📘📙📗
📃📕📄📘②📗📓📒📔
📘📙📗📓③📔📃📕📄
📙📔📓📒④📃📕📗📘
📒📄📃📕⑤📘📙📔📓
📕📗📘📙⑥📓📒📄📃
📔📓📙📄⑦📒📗📘📕
📄📃📒📗⑧📕📔📓📙
📗📘📕📔⑨📙📄📃📒
本棚からは、九冊の本が抜け落ちている…。
エージェント・シロウサギは静かに寝息をたてている。
近くの机に在る本の、どれかを入れれば良いようだ。
①から⑨まで、どの順番でどの本を入れたらよいだろうか?
A.📔📓📒📄📃📕📗📘📙
B.📕📗📘📙📔📓📒📄📃
C.📕📙📒📄📗📔📃📘📓
❺
金庫が置いてある。
9桁の正しい番号を入れれば開くようだ。
傍らでは『司書』が何かを呟いている…。
「……📕配置📗埴📘破産📙端📔羽子📓破⑥📒罠並📄母血📃波及……」
繰り返し、同じ言葉を呟いているようだ…。
【今回はナゾトキです。プレイングのついでに❶~❺の好きなナゾに挑戦・正解する事で情報を得る事が可能となっております】
【とはいえ、ナゾ解きに失敗・挑戦せずとも情報を得られないだけで依頼は進みますのでご安心ください】
【また、成果失敗と引き換えに、ウサギさんから『ヒントを聞く』事も出来ます】
【これはヒントを聞くだけで第二章突破とならないための仕様ですのでご了承ください】
レナ・ヴァレンタイン
――嫌な可能性をばっさりと指摘してくれたものだよあの語り部は
世界を滅ぼすのは、理想の恋を実現するついで?
ああ、その可能性は……考えたくなかったが、選択肢としては「有り」か、くそったれ
……いや、今は目の前の謎を解くことにしようか。
頭の痛い問題は後回しにして、な
ゲームの攻略本、ゲーム、ゲームだ………一番簡単なゲーム
A.の青い本を取り、セットする
おそらく横列、他の列にあって問題の列にない色の本が正解だ、と仮定してのチャレンジだ
もしかしたら、縦軸の方も関係あるのかもしれないな?
さてと。そこのお嬢さん、これが正解かどうか、教えてくれると助かるのだがね?
❶.本棚:ジャンル・ゲーム攻略
ブラッドワンダラー―『レナ・ヴァレンタイン』は、憤っていた。
――嫌な可能性をばっさりと指摘してくれたものだよ、あの語り部は。
それは、考えたくなかった可能性。常人では決してたどり着くことのない盲愛の境地。
先のオブリビオンは語った、自らの憎悪は、復讐は、まるで『ラブロマンス』のようだと。
普通に考えれば一笑にふせる話。だが、その可能性は、自身の宿敵の選択肢としては、かの者を知る限り、大いに「有り」得るものだった。
――世界を滅ぼすのは、理想の恋を実現するついでだって?
入れ替わった手段と目的。世界全てを燃やさんとする己の宿敵。その大仰とも言える目的が、自身の歪んだ愛を成就する為のものならば、憎悪され、追い詰められ、殺される。滅びゆく世界ですらその舞台装置に過ぎないとしたら。憎悪に満ちたレナ自身と宿敵との関係、それさえも彼自身の姦計の部品の一つであろう事が、どうしようもなく『レナ・ヴァレンタイン』の心を苛立たせた。
―――……いや。
此処で激高すれば、正しくそれはかの者の望み通り。
心中から雑念を吐き出すかのように、大きく、深く、息を吐く。
「今は目の前の謎を解くことにしようか。頭の痛い問題は後回しにして、な」
お前の事などどうでもいいと、宿敵に対する皮肉を誰ともなしに呟いて。
猟兵は、その手に青色の本を掴んだ。
📕📗📘📙📔📓📒📄📃
📙📔📓📒📄📃📕📗📘
📒📄📃📕📗📘📙📔📓
📗📘📙📔📓📒📄📃📕
📔📓📒📄📃📕📗📘📙
📄📃📕📗📘📙📔📓📒
📘📙📔📓📒📄📃📕📗
📓📒📄📃📕📗📘📙📔
📃📕📗📘📙📔📓📒📄
おそらくは列にない色の本が正解、そう仮定した故の決断。縦列においても何かしらの法則があるのかもしれないが、多分これで問題ないだろう。
……さてと、と、独り言ち。
「そこのお嬢さん、これが正解かどうか、教えてくれると助かるのだがね?」
振り返り、シロウサギ――相も変わらずなにがしかのゲームの攻略本を読みふける彼女の方を見る。
んー? と、間延びした返事をしながら、此方の方を見るシロウサギ。レナの解いた書棚を見ると、おぉう、と小さく感嘆の声をあげた。
「正解みたいだよ。もう大分術式自体が古いから不完全なものだけど、多分読めるように『翻訳』されているから、読んでみるといいんじゃないかな?」
ソレ。と、ウサギが完成した本棚の方を指さすと。
いつの間に出現したのだろうか、既にそこには1枚の紙がピンで留められていた。
眷属や邪神と思しき絵が付いた、A4サイズ程度の紙。どうやら何かのゲームの攻略本から破り取られたものらしく、切り取られたと思しき部分はギザギザと奇怪な形に湾曲していた。
レナは椅子に腰を掛け、現れた紙を読み始めた―――
――。
【出現敵】
【エリア:イマワシロ湖北部・イマワ市街雑居ビル①】
『眷属:パープルテンタクルズ』
耐力:🔵 🔵
属性:D-N
耐性:物理半減/電撃弱点(■■解除時)
【魅了】は淫毒の効能を信じる・求める者にのみ発生。
自傷・決意・信仰で軽減可能。
『邪神:頭の膨れた人間(第一形態)』
耐力:🔵 🔵 🔵 🔵 🔵 🔵
属性:D-N(※被操作時)
耐性:火炎吸収(経典所持時)/氷結弱点
『虚神:頭の膨れた人間(第二形態)』
耐力:🔵 🔵 🔵 🔵 🔵
属性:D-N
耐性:物理半減・火炎吸収/■■弱点(■■解除時)
召喚眷属に【魅了】の効果付与
炎に【バフ解除】の効果付与
【エリア:イマワシロ湖南西部・イマワ市雑居ビル②】
『眷属:パープルテンタクルズ』
耐力:🔵 🔵
属性:D-N
耐性:物理半減/電撃弱点(■■解除時)
【魅了】は淫毒の効能を信じる・求める者にのみ発生。
自傷・決意・信仰で軽減可能。
『邪神:牙で喰らう者(第一形態)』
耐力:🔵 🔵 🔵 🔵 🔵 🔵
属性:D-C
耐性:物理半減/猛毒弱点(■■のみ)
『虚神:牙で喰らう者(第二形態)』
耐力:🔵 🔵 🔵 🔵 🔵
属性:D-C
耐性:物理無効/猛毒弱点(■■のみ)
常に状態異常【飢餓】
顎による攻撃に【防御不能】の効果付与
追加攻撃として唾液による【防御低下】の効果付与
――これより下は汚れて読めない……。
――。
「……なんだい、コイツは」
見覚えのある眷属の名前。
見覚えのある邪神の挿絵。
紙に記載されている情報は、これではまるで、現実の――
「……現実にもさー、攻略本があったらって思わない?」
『現実の攻略本』――レナの思考を先読みしたかのような言葉が、傍らから聞こえた。
見れば、ぐでー、と机に突っ伏しながら、やる気なさげに此方を見つめるシロウサギ。
「多分そういう人の『願い』なんだよ、ソレ。先の展開とか、自分や他人の能力とか分かったら生きやすいって思ったんじゃないかな?」
実際どうなのかなぁ、ため息のような独り言を呟いてシロウサギは言葉を続ける。
「此処は知識を召し寄せる場所、全ては『望み』の通りに形を結ぶ。そのやり掛けの棚は昔、どっかの男の人が一度完成させていたけど、まだ使えたんだねー。よかったー」
望みの通りに形を結んだ知識。過去の誰かは『現実の攻略本』を望んだ。
それが誰の為のものなのか、それが誰によって書かれたものなのか。それは知る由もないが、この情報は猟兵にとって、今後きっと役立つだろう――
――レナは、知識の記された紙を懐に仕舞い込んだ。
……。
一拍置いて。
猟兵はシロウサギに、一つの疑問を問いかけた。
「前の召喚者――その男はどうなったのか、知っているかい?」
死んだよ?
と、当然とでも言いたげにきょとんとした表情で、エージェント・シロウサギは言葉を返した。
「『本』を見てすぐに自殺しちゃった。多分、『攻略本』に一つもハッピーエンドが書かれて無かったんだね」
ゲームと違ってさ。
大成功
🔵🔵🔵
茜谷・ひびき
また図書館には似つかわしくないのが出てきたな……
それで蔵書が術式?
妙な場所だと思ってたが、そんな事までやってんのか
起動出来るかなぁ……とりあえずやってみるか
本の種類は9種類
そして本棚の横の並びで見た時に収まるのは9冊だな
その並びに9種類全ての本が収まっていればいい
だから……横一列で見た時に、抜けている種類の本があればそれを入れていけばいいんじゃないか?
つまり「❶の攻略本の棚ならA」が正解だろう
そんな感じで埋めていけば「❷はB」
「❸はA」
「❹はC」になる
金庫の司書の呟きは「9種類の本は1~9の数字に対応している」って事だよな
9桁なのは……❹の答えか?
「147825936」……これで合ってるかな
❷.本棚・ジャンル:異界生物論
「また図書館には似つかわしくないのが出てきたな……」
ちょこちょこと闊歩するバニー姿の少女――『エージェント・シロウサギ』の一群を横目で見て、猟兵『茜谷・ひびき』は呟いた。
かのオブリビオンが語ったこの『図書館』の用途――蔵書の一冊一冊が術式の一部であり、それを正しく揃える事により術者の求める知識を与えると彼女は語った。古来より、悪魔召喚はその力を行使すると同時に、その知識を得る為でもあった。ある意味この場所もまた、その系譜を継いでいるのだろう。
――妙な場所だと思ってたが、『知識の召喚』、そんな事までやってんのか。
UDC組織と縁があるとはいえ、普段は一人の青年に過ぎない茜谷。起動できるかどうか、不安に感じながらも、何もしない事には始まらない。とりあえずやってみるかと眼前の書棚に目を向けた。
―――本の種類は9種類。
そして、本棚の横の並びで見た時に収まるのも丁度9冊。見た限りでは一列の中に同じ本はない。だから、故に、もし抜けている種類の本があるならば。
―――それを入れていけばいいんじゃないか?
少しばかり、思案して。
猟兵は傍らにある本を手に取った。
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📗📘📕📔📓📙📄📃📒
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その並びに9種類全ての本が収まっていればいい、そう仮定した上での決断。
最後の一冊を本棚に収めると、後ろでおぉうとエージェント・シロウサギが声をあげた。
「……?」
振り返ればこちらに向かい、ぴらぴらと紙を見せびらかすシロウサギ。
「おめでたいです。正解みたいです。もう大分術式自体が古いから不完全なものだけど、多分読めるように『翻訳』されているので、読んでみるといいと思います」
渡されたのは目のないウナギのような生物の写真が付いた、A4サイズ程度の紙。どうやら何かの報告書の一枚だったらしく、その縁にはしっかりとクリップの跡が残っていた。
茜谷は椅子に腰を掛け、手渡された紙を読み始めた―――
【UE-■■■■■-■】
■/■、イマワ市内、要塞マンション内にて捕獲。
現在はサイト■■-第■研究所内に収容。
当該個体群は『〓編集済〓』と呼称される、邪神召喚に伴う眷属の一種である。
眷属『パープルテンタクルズ』と同じく現地生命体を利用して環境適応および生殖を行うが、『パープルテンタルズ』が性行動及び性衝動を利用するのに対し、『〓編集済〓』は摂食および寄生によるものである。その習性はジガバチ等の寄生生物に類似しており、早期対応に失敗した場合、発生した集団の規模に比例してその脅威は増す事を留意しておきたい。
そのおぞましい生態に反して、驚くほどに宿主は長く生命反応を保ち続ける。しかし、寄生初期の段階で脳のほぼ■■%は失われており、その実態は『〓編集済〓』操る生ける屍である。
また、寄生生物の定石を覆し、ある程度成長した個体は宿主から独立するという驚異的な運動性・生命力を持つ。独立した個体は周囲の小動物の捕食および新たな宿主への寄生を行うが、寄生状態にないときの食欲はすさまじく、捕食跡には死体は愚か骨の一片も残らない。
当該個体群は、寄生⇒宿主死亡による独立及び形態変化⇒寄生のサイクルを繰り返す寄生生物である。これは先に記載の通り、現地の環境に適応するためのものと考えられるが、時折、特異な行動様式・性質を持つ個体が出現する場合がある。これはこの眷属の生態的な性質なのか、それとも別にその原因が存在するのかは不明。
不可解な事にこの眷属による被害報告は『初回遭遇時の調査班の全滅』以外にほぼ確認されていない。
生息域もその生命力と感染力と反比例しており、生態調査の為施設内に収容されている他、イマワ市内の居住施設、通称『要塞マンション』にてごく稀にその生息が確認されるのみである。
――。
「……中々、えげつない奴がいるみたいだな」
報告書を思わせる紙を片手に、ため息を吐く。
イマワ市――即ち、茜谷自身がいるこの地には、猟兵が現在把握している他にも、まだまだうんざりするようなUDCが、そしてそれらが蔓延する場所があるのだろう。
要塞マンション――そこに行けば、何かが分かるのだろうか。
「要塞マンション、確か、イマワシロ湖北東に位置する居住施設だったはず、です」
いつの間に近づいていたのだろうか、興味深そうに茜谷の手元の紙を覗き込むシロウサギ。
なるほど、あの時のアレはこれの事だった、ですね、と一人うんうんと頷いている。
「……あの時のアレ?」
ええ、と茜谷に頷いて、シロウサギは言葉を続ける。
「この図書館は望む知識を与える場所。その『本棚』を前に使った人は、UDC組織の末端でした、です。彼は成果を望み、未だ見ぬ眷属の情報――成果に繋がる『知識』を求めていました。まだ使えたなら、良かったです」
望みの通りに形を結んだ知識。過去の誰かは『未来の成果』を望んだ。
それが誰の為のものなのか、それが誰によって書かれたものなのか。それは知る由もないが、この情報は猟兵にとって、いつかきっと役に立つことだろう――
――茜谷は、知識の記された紙を懐に仕舞い込んだ。
……。
一拍置いて。
猟兵はシロウサギに、一つの疑問を問いかけた。
「前の召喚者――その男はどうなった?」
……多分、死にました。
少々気まずげに、此方に目線を合わせようとせずエージェント・シロウサギは言葉を返した。
「彼は、まだ見ぬ眷属を最初に収容する事を、成果を切に望んでいた、です。だから、きっと、その報告書を見て調査班を結成した筈、です」
全滅した、初回遭遇時の調査班を。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
世界を渡り魔法に触れる機会が多くなってきましたが…
自分が魔法陣を描くことになるとは
とはいえ、陣が一定の理論で構築されるもの
「歯抜け」の推測は可能かもしれません
「こちら側」が理解できる理論で構築されていればの話ですが…
(センサーアイの視野を拡大、本棚全体を捉え)
縦横9冊、列に同じ種類の本は無し
となれば
❶A❷B❸A❹C
でしょうか
金庫は、司書の方の言葉しか手掛かりがありませんね
リスクはありますがUCで解析して…
(精神汚染の危険で中断)
「音そのもの」に注目すべきと解析できましたが…危ないところでした
問題の9桁の数字…は❹Cくらいしか今は推測できませんね…
137825936
まだ見落としがあるのでしょうか
❹.本棚・ジャンル:研究記録
――世界を渡り、魔法に触れる機会が多くなってきましたが…
機械騎士――『トリテレイア・ゼロナイン』は、自身の出自を、そして今まで巡って来た世界を想う。船巡る無限の宙、魍魎跋扈する戦国の世、ドラゴンの住まう秘境の地、魔物救う地下のダンジョン、その他ありとあらゆる世界の数々――その中には当然『魔法』の存在するものも存在した。
……されど、まさか。
「……自分が魔法陣を描くことになるとは」
眼前の書棚――雑多に本が並ぶようにしか見えないソレの前に立ち、思考する。
少女――エージェント・シロウサギの一人は、この書棚が知識を召喚する術式と語った。ならば、その陣の構築には一定の理論があるのが道理。その理論さえ掴むことが出来たなら、「歯抜け」の推測は、恐らく、可能だろう。もっとも。
――「こちら側」が理解できる理論で構築されていればの話ですが…
すぅすぅと気持ちよさそうに寝息をたてるオブリビオン――エージェント・シロウサギを横目に、トリテレイアは作業を始める。
視覚ユニット・センサーアイの視野を拡大、本棚全体を捕え、解析を開始。
本の種類は縦横9冊、列に同じ種類の本は無し。
ならば、推測される結論は――。
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最後の一冊を、書棚に差し入れた時。
「…んがっ!?」
どさりと何か、重そうな何かが落ちる音と共に、トリテレイアの後ろでシロウサギが声をあげた。
「~~~~~~~!」
振り返れば、頭を押さえるエージェント・シロウサギと、おそらくはその頭に落下してきたのであろう、傍らに置かれた辞書大の本。多分、これが召喚された知識、なのだろう。頭を押さえ、涙目になっている少女に対し、少しばかり申し訳ない気分になるのは高演算化の弊害か。
「うー……はい、コレ」
「……有難う御座います」
それでも一応仕事は仕事なのだろう、涙目になりながらも素直に本を渡すシロウサギ。トリテレイアは本を受け取り手に取ると、そのまま取得した情報を読み始めた――。
――。
【虚構元素】
邪神・眷属の召喚儀式や力の行使の際に発生する『観測する瞬間に崩壊する元素・もしくはその化合物』。この現実に在りながらも架空の存在とも思える性質から、我々の組織内ではこれらの性質を持つ物質を『虚構元素』と呼んでいた。
発生させる現象は現にして存在するにも関わらず、正確にそのメカニズムや構成する物質を認めようとすれば煙のように消えてしまうこれらの存在は、その出現用件からして邪神と呼ばれる生物の存在する異界と呼ばれる場所の法則により存在していると考えられる。
これにより邪神共は質量保存の法則やエントロピー増大則などを無視しつつ、マクスウェルの悪魔を馬車馬の如く行使しているが、その性質上、観測が事実上不可能であるため事象の再現やその法則の解析、そして純粋な『虚構元素』事態の確保も難しいものとされている。倒した邪神の死体が消えたり消えなかったりするのも、この『虚構元素』の性質によるものなのだろう。
そして『虚構元素』に見られるもう一つの大きな要素。
それは、その性質、挙動が我々の――
(以下は理解不能な文字列で構成されている……)
――。
「……もう一つの要素とやらが気になりますが」
本の中で辛うじて読むことが出来た頁。中途半端に途切れた文章。
性質、挙動が我々の――。即ち、これに記載された虚構元素とやらは人間の何某かにより性質や挙動が変化するのだろう。もしかすると、エージェント・シロウサギならば何かを知っているかも知れないが――。
目を向けると、すやすやと安らかに眠るシロウサギ。
先ほどの事もある。起こすには忍びないと、高い演算能力による罪悪感が、ちくちくとトリテレイアを責め立てた。
――さて、後は金庫ですが。
隣の部屋を見る――机の上に置かれた小さな金庫。そしてそこから少し離れたところに佇む『司書』の姿が見えた。多少のリスクはあれど、ぼそぼそと呟くかの者の言葉も、機械騎士の聴覚ユニット、その集音性であれば、ここからでも十分に聞き取り、ユーベルコード【鋼の擬似天眼】によって解析できるものと思われた。
機械騎士は、解析を開始した――
―――逾医▲縺溘→縺薙m縺ァ鬘倥▲縺溘→縺薙m縺ァ遘√r謨代≧逾槭↑縺ゥ縺ッ縺、縺?◇迴セ繧後?縺励↑縺九▲縺溽ク九k逾槭☆繧我ク悶↓縺ェ縺?↑繧峨?閾ェ繧蛾??繧九h繧贋サ悶↓縺ェ縺?♀蜑阪◆縺。縺檎・槭↓繧医▲縺ヲ驕ク縺ー繧後◆縺ィ縺?≧縺ェ繧峨?謌代i縺ッ縺薙?閻輔〒蝗帶婿繧呈雫繧?譛ェ譚・繧帝∈縺カ驕主悉縺ィ縺ッ蜷ヲ螳壹@謗帝勁縺吶k縺溘a縺ォ縺ゅk縺ョ縺ァ縺ッ縺ェ縺?ク上∩縺、縺醍、弱→縺玲怙螟ァ髯先が逕ィ縺吶k轤コ縺ォ縺ゅk縺ョ縺?―――
「………ッ!?」
機械騎士の高性能なセンサー群は、余計な情報まで収集してしまったのだろう。
解析と同時に、流れ込んでくる断片化された情報。
とっさに危機を感じ、解析を中止する。
――…危Naいとこロでした。
音そのものに注目すべきと収音効率を上げたのが仇とナったのk、トリテレイアの意識デーtaーに若干のノイズズズが走る。音声情報と共に流れ込んできた破損データーアーと思しき情報ハ、若干の情報災害性を備えてイtaのだろう。大した障害ではなさそうだが、少々復旧には時間が掛かりそうだ。
すやすやと眠るシロウサギの横に、機械騎士は腰を下ろす。
幸いにも、この場所においてはオブリビオンもまた、彼に襲い掛かる事もない。
――少しDaけ、休ミましょう……。
束の間、騎士に休息の時間が訪れた――。
……。
――『司書』の語りしも、また誰かの望みの言葉。
断片化された情報も。その内に込められた激情も。
機械騎士の復旧作業の中、電子の藻屑となって消えた。
大成功
🔵🔵🔵
アイ・リスパー
「なるほど、図書館ですか。
本が整然と並んでいるようですね。
もう、きちんと整理しないとダメじゃないですか」
【チューリングの神託機械】で本の並びを分析。
本棚の本の並びの規則性から、
空いている場所に入れるべき本を推定、
本を収めていきましょう。
「えーと、これがここで、これがこっちですね」
❶:A
❷:B
❸:A
❹:C
あとは金庫ですか……
9桁というのが何を指しているのか
確証がもてませんね……
📕は1
📗は2
📘は3
📙は4
📔は5
📓は6
📒は7
📄は8
📃は9
ですから、とりあえず『研究記録』の棚で抜けていた9冊の本を数字に直してみましょう。
『147825936』
試しにこれでどうでしょう?
❺
「……なるほど、図書館ですか」
本が整然と並んでいる様子を見て、電脳の天使――『アイ・リスパー』は呟いた。
――もう、きちんと整理しないとダメじゃないですか。
心中で苦言を呈しながらそれぞれの書棚を眺める――ゲーム攻略、異界生物論、オカルト、研究記録、そして――何故か置かれた、古びた金庫。アイのユーベルコード【チューリングの神託機械】は、それぞれの書棚に共通する規則を確かに見出した。
即ち、それぞれの列と行に使われる本の種類は一種ずつ。それはまるで、数独を本で置き換えた様な、何者かの意図を感じさせた。
――えーと、これがここで、これがこっちですね。
眺めながら、書棚に入る本を推察する。
一緒に本を収めていくべきかとも考えたが、まず最初に気になる事柄が彼女にはあった。
一番奥の部屋に置かれた、古びた金庫。他の謎よりも何よりも、もっとも隠されていると思われるソレは、アイの好奇心を十二分に刺激していて。
――とはいえ、何の確証もまだないのですけど。
開錠するのに必要な9桁の数字、それに当てはまるような情報は見当たらず、何を指しているかも確証が持てない。高速化した演算能力も、無いものを推察する事は出来ない。一つ一つ試していくことも少しだけ考えたが、その作業時間は膨大な事は明らかで。
これ以上は時間の無駄かとアイが思い始めたその時。
……微かに、『司書』の呟きが、耳に入った。
「……📕はいち📗はに📘はさん📙はし📔はご📓はろく📒はなな📄ははち📃はきゅう……」
幾度となく繰り返される、情報災害さえ内包されているであろうその言葉。
ひょっとして、と、アイはある可能性に思い至る。
即ち、要求された数字は9桁。
そして、『研究記録』の歯抜けも9冊。
ならば、この本を数字に変換すれば、それが答えになるのではないか。
『147825936』
「……試しに、これでどうでしょうか」
何の確証もなかったが、何もしないよりはマシだろう。
アイの小さな手が、金庫に刻まれた数字を揃えると。
かちり、と。小さな音をたて。
アイの目の前で、ゆっくりと金庫の扉が開いた――。
――。
●報告書――事例■-1
【記 録】
■/■、キュウセイ病院-インシデント■■■■
【被験者】
茂原・勝也(男性・20)
【結 果】
教団員■■名が死亡。
死因は悪性腫瘍が気道を塞いだことによる窒息死。
※調査により、死者は全て被験者の処分後に同時に死亡していたことが判明した。
【インシデント詳細】
■月■■日、午前〇時三十五分。
淫毒の効率的な採取を目的とした実験に際しK教団に提供された薬剤を、贄の予定であった被験者が摂取した事による同調事故と推定される。
上記の取違が故意に行われたモノかは不明。
予定では『頭の膨れた人間』および『パープルテンタクルズ』が召喚される手筈であったが、未確認の〓編集済〓が召喚。
同時に施設内の教団員全ての肉体に驚異的な速度での悪性腫瘍発生が確認された。
同日、午前二時〇二分。
被験者の処分を完了。
〓編集済〓の試料を収集した。
【追記】
当インシデントにおいて召喚された〓編集済〓は非常に興味深い。
本来の目的とは異なるが、並行して同様の実験を行う事を推奨する。
――中略――
――イマワ市にて、邪神召喚の際、器となった生物・もしくは人物の精神の一部を引き継いだ事例が観測された。原因としては現在用いられている儀式の不完全性、邪神由来の物質――例えば、淫毒を原料にした媚薬等――を取り込んだ生物を無差別に変容させるランダム性に起因するのではないかと考えられる。
この『不完全な儀式』は、人の意識を保ちながら邪神の力を行使する事に対しての可能性に他ならない。この計画の目的は、完全なる邪神の力を下ろした人間――現人神の顕現である。
――中略――
■/■、キュウセイ病院-実験No.■■■■
【被験者】
■■・■■(女性・■■)
【結 果】
成功
【実験詳細】
■■月■■日、午前三時二十七分。
対象は同調を安定して継続している。
母体への直接干渉は避け、胎児を介して変異を促す試みは今のところ順調である。
【猟兵達は、『穢れた臍帯』を手に入れた】
――。
「これは……何らかの実験記録なのでしょうか?」
古びて黄ばんだ報告書を手に、思わず呟く。
『淫毒の効率的な採取』『不完全な儀式』『現人神』――どうやらこれを見る分に、『キュウセイ病院』と呼ばれる場所にて、邪神や眷属を利用しようとしていた輩が存在していたことは明らかだった。ならば、何もしないわけにはいかないだろう。
そして、アイの脳裏に過る、一つの懸念。
「……最後の実験。これは」
成功したと、あるけれど。
一体何が生み出されたのであろうか、と。
大成功
🔵🔵🔵
ノネ・ェメ
❶~❹は分かったと思う。その考えでいくと、❹はCだと思う。これで違ってたりすれば元も子もないけど、仮に当たってたとしても、❺はさぱらない。。
さっぱり解らないけど出来る事からやれる事を、と本を綺麗に本棚へ。
わたしはこのメモにある本探しをお手伝いするようムセイオンさんからお願いされてるんですけど、ウサギさん判りますか? 見つけたら本を読んでもらえる、とも伺ってるんですけど、可能な限り読み聴かせてはもらえますか……? お願いします。
ムセイオンさんが“ただ心躍る体験を集めたら還るだけの存在”なら、ウサギさんはさしづめ“ただお手伝いしたら還るだけの存在”? 何か見つけたいものあったりするのかな。
❹.本棚・ジャンル:研究記録
電脳の歌姫――『ノネ・ェメ』が、その書棚の前に来た時には。
既に其処には、正しい配列で本が並べられていて。
傍らの机に在るのはすぅすぅと寝息をたてるシロウサギと、先に謎を解いた猟兵が残した『研究記録』の記された本。
既にここには、解くべき謎など存在しないように思われた。
だが、ノネが真に知る事を欲しているのは『謎』ではなく。
先に話をしたオブリビオンの真意――つまり、彼女が何を期待して、猟兵にたいして『お願い』したのか、という事であった。
あの、と。ノネはシロウサギに小さく声をかける。
「わたしはこのメモにある本探しをお手伝いするようムセイオンさんからお願いされてるんですけど」
……ウサギさん判りますか?
問いかけに、オブリビオンの少女は薄く目を開く。
「見つけたら本を読んでもらえる、とも伺ってるんですけど……」
……きかせてはもらえますか? と、ノネはシロウサギにお願いして。
「……んなー……? ……お願いー?」
目覚めたばかりのオブリビオンは、……いいですよー、と、あっさりその願いを了承した。
ようやく意識がはっきりしてきたのだろう、シロウサギは寝惚け眼をこすりながら、本を手に取る。
「……んー、解読ー?……えっとねぇ……」
エージェント・シロウサギは、ノネ・ェメに『本の続き』を話し始めた――
――。
【虚構元素】
そして『虚構元素』に見られるもう一つの大きな要素。
それは、その性質、挙動が我々の想像力に依存するという事だ。思うがままに形を成し、観るがままに挙動するその様は、かの物質を夢の世界のそれではないかと疑わせる程度には魅力的だ。
反面、注意するべき事柄もある。
『虚構元素』による挙動は、その影響を受ける人間、そしてその場に存在する最も強い意志を持つ人間に影響される。即ち、心からその存在を否定する人間に対して『虚構元素』はその存在を維持できない。例えば、『淫毒』より生成された媚薬。かの代物は、その効能を期待し、恐れる者にとってはその通りの挙動を示すが、その効能を否定する人間には、ただの水でしかないのだ。
そしてそれは人を素とした邪神や、邪神の力を下ろした人間にもあてはまる。彼、もしくは彼女らを恐れるなら、眼前に立つのは紛れもない邪神だ。だが、少しでも『人間』としての欠片が残っている彼らを、心の底から人間としてしか見る事が出来ない者の前では――
――彼らは、一人の『人間』として在り続けるだろう。
――。
「…と、こんな感じですー」
本の内容とは裏腹に、シロウサギは非常にゆるい感じで話を終えた。
このイマワ市に存在するという『虚構元素』の新たな性質。それは強い意志により、その挙動を変える事が出来るという事。先のオブリビオンが何故この話を猟兵に託したのか、その真意は依然として正確には分からない。電脳の歌姫は今の話を踏まえ、思考する。
ムセイオンさんが“ただ心躍る体験をかき集めては還るだけの存在”なら――
「――ウサギさんは、それを“ただお手伝いするだけの存在”?」
思わず、口に出た。
「そうですよ?」
何をいまさら、と言ったように、ノネの『独り言』にシロウサギは答える。
「ボクらはここで本を探して、求める者に渡すのが仕事。望む者に望む知識を得る手段を教えて、案内するのがボクらの役目。いつからこうなのかは分からないですけど――」
――そう、悪いところじゃないです。
最後、視線をノネから外し、自身に語り掛けるようにして答える。
その様子は心なしか、彼女らもまた何かがそう在れと望むからこそ、今こう在るに過ぎないと、暗に語っているようにも思われた。
「それじゃ、もういいです?」
話を終えようとするシロウサギ。
まって、と、ノネは少女を留めて。
あなたは、何か見つけたいものはあったりするのかな。
そう、最後に問いかけた。
問いかけに、うーん、と考えるそぶりを見せるシロウサギ。
「……そういえば、まだ『本』を届けていない方がいたような」
それじゃ今度は、ボクがアナタに『お願い』してもいいですか?と。
『彼女』に届ける予定だった本を猟兵に手渡し、シロウサギは静かにほほ笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『貪魔コルヴィナ』
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POW : 玩弄ディメンジョンマウス
対象への質問と共に、【あらゆる地形・虚空・設置物・対象の武装】から【レベル×1体の次元の顎と触手群】を召喚する。満足な答えを得るまで、レベル×1体の次元の顎と触手群は対象を【レベル依存の固定ダメージを与える牙や触手】で攻撃する。
SPD : 千夜一夜
【対象に応じた強烈に興味を惹く物語や雑学】を給仕している間、戦場にいる対象に応じた強烈に興味を惹く物語や雑学を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ : アポトーシス反癒唇
【全対象に先駆け回復反転効果付き投げキッス】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
イラスト:花土竜
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アンコ・パッフェルベル」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
埃と黴の匂いが鼻をつく古びた空気の中、アナタ達はまた一歩、図書館の奥に歩みを進める。
先に行くには限りがないように思える通路、読み解く事を拒否するような無限の本の群。そして、その合間にゆらゆらと蠢く『司書』達の横をすり抜けた先、彼女はいた。
アナタ達の眼前に惜しげもなく晒された細身の肢体。
健康的な褐色の肌に浮かび上がる鮮やかな淫紋。
その背と頭にヒトでない事の証明を携えて。
来客に、彼女は読んでいる本から少しだけ目を上げた。
彼女は、アナタ達の話を待っている。
アス・ブリューゲルト(サポート)
「俺の姉と妹を見なかったか?」
いつもクールに、家族と思っている二人を探しつつも、事件に参加する流れになります。
戦いや判定では、POWメインで、SPDの方がクリアしやすいと判断したら、そちらを使用することもあります。
UCも状況によって、使いやすいものを使う形です。
ヴァリアブル~は、サイボーグになってる脚部が展開し、ランチャーやら弾幕が出る雰囲気です。
他人の事は気にしない素振りを見せますが、基本、不器用なので、どう接したらいいのかわからない感じです。
ですが、合せるところは合せたり、守ってあげたりしています。
特に女性は家族の事もあり、守ってあげたい意欲が高いです。
※アドリブ・絡み大歓迎、18禁NG。
「俺の姉と妹を見なかったか?」
開口一番、蒼銀の騎士――アス・ブリューゲルトは眼前のオブリビオン『貪魔コルヴィナ』に問いかけた。
猟兵の問いかけにオブリビオンは腕を組み、仰々しく思案するそぶりを見せる。
「んー……それ、本当にキミの知りたい事?」
なら、と言葉を続ける。
「詳しい『話』をウチに聞かせてくれないかな?」
そうしたら何かわかるかもしれないよ、と、貪魔は目を細め『話』を促す。
知識――『話』を求めるのがこのオブリビオンの本質。
故に、かのオブリビオンが答えを持とうと持つまいと、彼女は猟兵達にそれを求めるだろう。
オブリビオンの返答に少しばかり間をおいて。
「……少しだけ、長くなるかもしれない」
そう前置きして、不器用ながらも蒼銀の騎士は己の出自を語り始めた――。
かつて自身の存在した研究施設、その実験体としての自らの出生。
偶発的な事故により施設から逃走した彼だったが、その自由の代償は大きかった。
生き別れた姉と妹。それは、彼にとってかけがえのない存在。
彼女らの生存を願い、微かな可能性に向かい、足掻く日々。
傍から見ればそれは、砂漠で蜃気楼を追いかける様にも等しいかもしれない。
それでも、悔恨にも似た使命を胸に彼は世界に己の大切な者達を求め続ける。
例え、希薄な望みであろうとも。
―――。
「……これで、俺の話は終わりだ」
そう、アス・ブリューゲルトは話を終えた。
「面白い『話』だね」
ただ、とコルヴィナは続ける。
「ウチがその答えを持ち合わせないのが残念だけど」
「……そうか」
端的に言えば『知らない』というコルヴィナの答え――薄々分かっていた事とは言え、無駄足に小さく失意を覚え――小さくブリューゲルトはため息を吐いた。
―――。
「……これは、又聞きなんだけどさ」
唐突に、コルヴィナが『話』を始めた。
「ある日、ある人の飼ってる猫が逃げ出したんだって」
当然飼い主は探しに出かけるよね、と、猟兵をよそに話を続ける。
「幸いな事に猫はすぐに見つかったんだ。当然家に連れ帰って――」
オチを思い出したのか、コルヴィナはクスリと小さく笑って。
「――その晩、全く同じ模様を持つ猫が家に帰って来たんだってさ!」
この場に全く似つかわしくない、何処かで聞いたような笑い話。
「……何が言いたい?」
意図の読めない『話』に猟兵は小さく、オブリビオンの真意を問いかける。
「人は自身の認識したようにしか他者を認識出来ない。そしてそれはキミも、尋ね人にしても同じこと。キミの記憶に在る『姉』と『妹』がどんな姿かは知らないけれど」
望もうと望まざるとも、人は変わり続けるもの。
いくら留めようとしても、過去は薄れゆくもの。
猟兵の持つ希薄な望みが、どのような形で終わろうとも。
それは、彼女にとって素敵な『話』に違いない。
ワ カ ル ガ
――会えるといいね、『彼女達』に。
呟いて。
貪魔コルヴィナは悪意無く、純粋に微笑した。
成功
🔵🔵🔴
茜谷・ひびき
ああ、また図書館には似つかわしくない奴がいる
最初に会った奴にどこか似ているな
そしてこいつも話を聞きたいと
そんじゃあ……少しだけ話をしていくか
ちょっと前の話なんだが、ここの資料に出てきたのと同じような状況に遭遇したんだ
ゲームの攻略本に出てきたのと同じような怪物が
行動や弱点すら同じだったぜ
虚構元素、とかいう訳の分かんねぇ存在だって見かけた
ほんと何なんだろうな
そんな感じでイマワ市で起きた事件についてを話してみる
その場での対処は出来たが、肝心の大元までは辿り着けてない
なあ、あんたなら何が起きてるかとか誰がやってるかとか、知らないのか?
……深入りしない方がいいのは分かってる
でも、どうしても気になるから
――ああ、また図書館には似つかわしくない奴がいる。
猟兵――『茜谷・ひびき』は、眼前のオブリビオン――貪魔『コルヴィナ』と相対し、改めてそう思う。
先に相対したオブリビン――貪魔『ムセイオン』と同じように蠱惑的な雰囲気を纏う彼女。
その褐色の肌や未発達の肢体は先のオブリビオンとはまた違った色香を漂わせ――そして、誘う様に此方を窺っている。
「んー? キミもウチに、何か話してくれるの?」
無邪気に問いかけるコルヴィナ。
彼女もまた、求むるは『話』。
「ああ、つっても、これはちょっと前の話なんだが……」
そして、茜谷は話を始めた。
――。
茜谷が語るは、イマワ市――この図書館と地を同じくする雑居ビルでの事。
その一室に現れたるは紫紺の触手と怪しげな男。
挙動や弱点は奇異な事に図書館の蔵書の『攻略本』と同じくして、男の操る虚神を猟兵達はついに下した。
男のカタる『虚構元素』。その存在を自ら証明するかのように、男が存在したという証もまた虚ろへと消え果てて、事件の真相、その大元は未だ明らかにならぬまま……。
……。
「……なあ、あんたなら何が起きてるかとか誰がやってるかとか、知らないのか?」
話の途中、思わず茜谷は眼前のオブリビオンに問いかけた。
その言葉に無粋と言いたげにコルヴィナは眉をひそめ、小さくため息を吐く。
「キミってば、推理小説の最後をいきなり読んじゃうタイプ? ホラー映画でも序盤の内に真実を知っちゃうのは死亡フラグだよ?」
「……深入りしない方がいいのは分かってる」
しばしの、沈黙。
「んー……素直だねー。ま、それはそれでいいけどさ」
まいっか、と少女は一声発し。
少女――貪魔『コルヴィナ』は、猟兵『茜谷・ひびき』に『話』を始めた。
――。
「――数年前、ある国で車内にて死亡した二人の男女が発見された。死因はあるクスリの過剰摂取による中毒死……俗にいうオーバードーズだね。後部座席に同乗していた彼らの小さな息子は、何が起きたのかも分からずに怯えていたそうだよ」
言葉を続ける。
「二人の命を奪ったクスリ――ケシ由来の成分…オピオイドの一種による死亡事故は、その国ではさして珍しいものじゃなかったんだ。確か、一年でウン万人以上いった年もあったんじゃないかな? それだけクスリは蔓延しきっていたってこと」
貪魔の口から語られる惨劇。その真意こそ分かりかねたが、疑問ばかりが猟兵の頭を巡る。
何故、そんなことになってしまったのか。そんな薬物であるならば、蔓延する前に規制がかかるはずだろう――そう、茜谷が問いかけようとする前に、コルヴィナは優しくその唇に指を押し当てる。
「……そのおクスリ、実は元々鎮痛剤として流通していたんだ。もちろん、合法のね」
――例えば、頭。例えば、胸。例えば……。
小さく囁きながら、貪魔は自らの指をチョコレイト色の柔肌に這わせ、自らの未発達の肢体を強調する。
紡いだ言葉の通りに、上から徐々に徐々に下の方へと滑らせて。猟兵達の視線をソコに引き寄せるかのように、自らの下腹部に浮かぶ淫紋を優しく撫ぜた。
「人々はソコに痛みを感じる度、合法的な手段で手に入れたソレを服用し続けた」
――なんども、なんども、なんども、なんども……❤
甘く、誘惑するような口ぶりで。なんども、同じ言葉を繰り返して。
くすくすと小さく笑いながら、さらさらと小さく音をたて、自らの下腹部を優しく撫ぜ続ける。
ともすればずれてしまいそうな布切れの上、指の間から見え隠れする淫紋は怪しく輝いていた。
「……そして、実際の依存性や毒性が製薬会社の発表しているそれより高かったと、そう気が付いた時にはもう、手遅れだった。依存者達は病院を巡り合法的にお薬を手に入れ、お医者さんは製薬会社からお金をもらって処方箋を書き、製薬会社は安定的な需要で懐をホカホカ温めて」
―――こうして、みぃんなしあわせになりましたとさ。
そう、コルヴィナは話を結んだ。
オブリビオンの語った物語――多分、最初は誰も大した悪意など持ち合わせてなどいなかったのだろう。
それは誰しもが何一つ疑わず、都合の良いように認識し、小さく道を違えた結果。
人は快楽に堕ち、クスリは巷説に満ち満ちて、世に惨劇は起き。
……そして、その物語を、惨劇を、眼前のオブリビオンは明らかに愉しんでいた。
――ここまで言えばわかるよね?
揶揄う様にコルヴィナは茜谷に向かって笑いかける。
「『唄』響くこの地にて『存在証明不可の薬物』を生産し、似非医療行為にて世に蔓延らせ、巨万の富と大量の破滅願望持ちの信者を手に入れる。その教団も、そんな陳腐でありきたりで、そして悲惨な野望が目的……」
――『だった』。
そう、コルヴィナはつまらなさそうに小さく付け足す。
「……『だった』?」
言葉をそのまま問い返す茜谷。コルヴィナは、そー、と気のない返事を返して。
まるでお気に入りの漫画が打ち切られた子供のように、楽しみにしてたのに、そうボヤキながらコルヴィナはつまらなさそうに言葉を続けた。
「当の教団、『もう壊滅しちゃった』んだ。いくつかあった教団所有のここらの施設はぜーんぶ廃墟。今は教団の『遺産』を巡って子団体とか反社会団体とかがいざこざしてるんじゃないかな。多分、キミ達が相対した奴らも教団に関係してるんじゃないかな?」
ウチも詳しい事は知らないけどね。
小さく呟いたその言葉が、既にこの事件がこのオブリビオンの興味から外れている事を物語る。
かつて教団が為そうとした野望――それに伴う悲劇の数々さえも、先の話同様に彼女にとっては己の欲を満たす『物語』でしかなかったのだろう。
「これでウチの話はおしまい。それで――」
――キミは、このお話を聞いて、どうするのかな?
深く関わらない方が良いと分かっている、と猟兵は言った。つまり、それは。
微笑みながら問いかけるオブリビオンの瞳は――期待に妖しく輝いていた。
大成功
🔵🔵🔵
ラヴェル・ペーシャ(サポート)
ダンピールのビーストマスター×陰陽師、21歳男。
口調は「温和(俺、あなた、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?)」。
本と動物が好きな常識人です。強い拘りもあまり無く、反応も行動も一般的で真面目に取り組みます。
また、総じて強硬手段よりは穏当、戦闘でも正面からよりは搦め手から攻める傾向があります。
血統覚醒をしない限り物理的な攻撃手段を殆ど持たないため、捕縛や陽動で援護する方が得意かもしれません。
NGは特になし。UCも指定はありません。連携・アドリブ歓迎。
「それで、キミはどんな話をしてくれるのかな?」
半裸と言うにもおこがましいその恰好で、そのチョコレイト色の肢体を惜しむことなく見せつけながら。少女――オブリビオン、貪魔コルヴィナは物足りない様子で猟兵の一人に話を乞う。
その視線の先にあったのは、一人の赤髪の青年だった。
「……ん、俺、ですか」
それでは、拙い話ではありますけれど、そう小さく前置きして。
猟兵『ラヴェル・ペーシャ』は、貪魔『コルヴィナ』に対して話を始めた。
――。
語るは己の身の上話。
それはこことは異なる世界の話。とある歴史ある街の話。
街を支配する暴虐なヴァンパイアの嫡子としてラヴェルは生を受けた。
暴虐な父の血をひくにも関わらず、小動物が慕うほどに優しい性格に育ったラヴェル。
暴虐な父と、心優しき子。
炎と水が交わらぬように、彼らの進む道が交わることはついぞなかった。
両者は考えただろう、何ゆえにこうなってしまったのか、と。
その疑問の答えは見つからずとも――それが起こす結果は、明白だった。
……そして。
視界に映るは、異界の術で討ち果たされた父。
ともすれば逆の立場であっただろう、物語の結末。
自らの手で下した、父の骸の前に、ラヴェルは――……。
……それが、ダンピール『ラヴェル・ペーシャ』の物語。
――。
「……これで、俺の話は終わりです」
お気に召しましたか? そうラヴェルは問いかける。
それは、悲しき物語。
優しさゆえに父を討たなければならなかった、哀れな男の物語。
決してやり直しのきかない、過去の悲劇を耳にして――
「……ステキ、だね」
――コルヴィナは、満面の笑みを浮かべていた。
成功
🔵🔵🔴
アメリア・イアハッター(サポート)
【サポート】
他の猟兵の行動が成功するようにサポートに徹し、下記のような行動をとります。
・機動力が必要であれば宇宙バイク「エアハート」に仲間を乗せる。
・仲間の攻撃が当たるように、敵の行動をUC「風の友」で読んだり、氷系のUCを使って敵の機動力を封じる。
・仲間の攻撃を強化するために支援系UCを使ったり、鼓舞をする。
・敵の注意を逸らすため、宇宙バイク騎乗や空中にて囮となる。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
「次はキミだよ、キミの番」
ぺろりと舌で唇を小さく舐めて。誘う様に未発達の肢体をくねらせて。
貪魔『コルヴィナ』は物足らないと言わんばかりに猟兵に話をせがむ――
――その視線の先には、赤い帽子を被った赤髪の乙女。
「……え? 私?」
あんまり話をするのは得意って訳じゃないんだけど。
そう、小さく言い訳するように呟いて。
猟兵『アメリア・イアハッター』は、貪魔『コルヴィナ』に対して話を始めた。
――。
あるところに、赤いボウシが一つ、ありました。
ボウシはボウシでありましたので、余り考えるという事はしておりませんでした。
ボウシは頭に使うものであって、頭を使うものではありませんでしたから。
そんなある時。ふと、ボウシは想います。
『一体、空ってなんだろう?』
それから、長い長い時を経て。膨れ上がった想いを胸に。
ボウシはヒトの身体を得て冒険の旅に出発します。
それは、時には竜と斧と冒険の世界。
それは、時には遠い遠い未来の世界。
それは、時には邪神蠢く陰謀の世界。
そんな数多の世界を渡り歩いて、数え切れない冒険を経て。
それでもやっぱりボウシは想います。
ソラのこと。
セカイのこと。
そして彼女の瞳に映るアナタのことを。
ボウシにとっては、まだまだ知らない事ばかり。
だから、ボウシは今日もソラを巡るのです。
それは『アメリア・イアハッター』の物語。
まだまだ終わる事のない、赤い帽子の物語。
――。
「……はい、これで私の話は終わり」
とりあえずはね、と小さく付け足して、アメリアは話を結んだ。
それは、終わりなき物語。
それはソラへ憧れた、好奇心旺盛な帽子の物語。
数多の異世界をまたにかけた、血沸き肉躍る冒険譚を耳にして――
「~♪ それで、次は何処に行くの?」
――コルヴィナもまた、好奇心に瞳を輝かせていた。
成功
🔵🔵🔴
ノネ・ェメ
虚構元素……こんな薬効かないって人には効かない、みたいな?
教団みたいなもの? 信じる人の中ではそゆ事ってなってて、信じる事自体がその人の救いになったりもしてて、ただそれはそゆ考え方が性に合ってただけの話、みたいな?
理論武装する事で強く出れたり、絶対帰ってくるからといつまでも待ってられる、なんて人の場合も同じ? また別? わたしの信条は……
わたし自身、可能不可能よりそうしたいさせたい方が主だし、そう遠くもないのかも? ムセイオンさんが云いたかったのはそゆ事なのか、はたまた別の観点? ……コルヴィナさんからみてわたしって、どう思いますか。
誰かに訊いてみたい事ほど、話がふわっとしちゃうや。
「……あのっ」
「んー?」
青髪を湛えた電脳の歌姫――『ノネ・ェメ』が、貪魔コルヴィナに話しかけたのは、他の猟兵達が話を終えてコルヴィナが満足しきった頃合いだった。
「ああ、ウサギちゃんから『本』を預かってくれたんだね」
コルヴィナは手を差し出し、ノネから本を受け取る。
ありがとうと小さく礼を言うと、そのまま貪魔は頁を開き、目を落とした。
「それで、色々と教えて欲しいこととか、あって」
ノネが問いかける。
コルヴィナは本に目を落としたまま、答えない。
「虚構元素……こんな薬効かないって人には効かない、みたいな?」
コルヴィナは答えない。
「教団みたいなもの? 信じる人の中ではそゆ事ってなってて、信じる事自体がその人の救いになったりもしてて、ただそれはそゆ考え方が性に合ってただけの話、みたいな?」
答えない。
「理論武装する事で強く出れたり、絶対帰ってくるからといつまでも待ってられる、なんて人の場合も同じ? また別?」
「……」
問いかけに答えないオブリビオンを前にして、ノネは想う。
『虚構元素』――人の意思によって変容するなにか。
彼女自身の行動も、客観的に可能か不可能かで物事を断ずるのではなく、したい、させたいといった自身の意思を主としていた。
ならば、意思に基づいた『虚構元素』なる代物を用いて、自らの願いを叶える事も出来るかも知れない。もしかすると、先にノネが話したオブリビオンもその可能性を求めていたのかもしれない。
だから、故に。その可能性があるならば。
――わたしの信条は……
「コルヴィナさんからみてわたしって――」
「一つ、忠告しておくよ」
ノネの言葉を遮って、初めてコルヴィナは問いに答えた。
「ここで大事なのは『自分がどう思うか』だけ。この街に居る連中は、全員自分の都合の良い『真実』を現実にしたてあげている狂人だ。もしキミが同じ質問を奴らにしたのなら、その存在を都合よく改変されるだろうね」
少しばかり呆れたように、ふぅ、とコルヴィナはため息をついて。
「……キミは、この『本』を此処まで持ってきてくれたから」
――特別に、少しだけ読ませてあげるね?
そう呟いて、手元の『本』の頁を開いた。
――。
第■■頁。
電脳の乙女は問いかける。
「虚構元素……こんな薬効かないって人には効かない、みたいな?」
人形は答えない。
メモ:この地において信仰とは疑わぬことである、一片の疑いもあってはならない。空は青く雲が白いようにかの者達にとって真実とは当然のこととして認識されている。
「教団みたいなもの? 信じる人の中ではそゆ事ってなってて、信じる事自体がその人の救いになったりもしてて、ただそれはそゆ考え方が性に合ってただけの話、みたいな?」
電脳の乙女は再び問いかける。人形は答えない。
メモ:『真実』は何者にとっても救済である。ただし、それは望みが叶うというものではなく、何者であってもその願いが『真実』に叶うよう変化している。
「理論武装する事で強く出れたり、絶対帰ってくるからといつまでも待ってられる、なんて人の場合も同じ? また別?」
三度の問いかけ。されど人形は答えず。『話』としてはシンコウの意思が不足。
メモ:与えられることが当然と考える者は、毒を盛られたとしても気が付くことは無いだろう。
電脳の乙女は、自らの意思について思考する。
――わたしの信条は……
再確認。だが結論は出ない。プログラムの不具合だろうか?
メモ:信条と認識している時点で信仰には程遠い。希望とは希薄な望みであるからこそ希望であり、「これを信じている」と思考する時点でそれは心の底からは信じていないと断じているに等しい。
メモ:質問ばかりだ。 メモ:対価と報酬は等価であるべきだ。
メモ:『話』はないのか? メモ:『話』をよこせ メモ:読ませろ
めも:なぜはなさない めも:いったいなにをしたい?
めも:これがしんじつだ
めも:みずからがしんこれがしんじつだこうするものをもたなければこのちにてなこれがしんじつだにをなせるものかしんこうするいしをもたずにみちをあゆめるものかそもとうたところでただしいこたえがえられるともかぎらないしんじつこそがかれらのげこれがしんじつだんじつなのだたしゃにたこれがしんじつだだしさをもとめるなたしゃにせいかいをもとめるなたしゃにみずからのすがたをもとめるなたしゃのしんじつにいきたところでなにがこれがしんじつだえられるというのかみずからのいしであゆみつづけるからこそはなしはうつくしいできないのであればそれはただのいっぺんのなこれがしんじつだいようもかわこれがしんじつだらぬほんにすぎないほんならばよませろほんならばよませろほんならばよませろほんならばよませろほんならばよませろほんにばらまよせろほんにせろまよせらよほんにしろまよわせてほんにしろまよわせてほんにしろまよわせてめも:めも:めも:めも:めも:めも:めも:めも:
――。
「……これって、わたしの……!」
その本に綴られていたのは、確かにノネ自身の発言と思考――
――そして、狂い切ったメモの数々。
だれが、いったい、どのようにして。
怖気さえ感じさせる狂気を前にして、思考を繰り返せども、明確な答えは出ない。
混乱した様子のノネに、コルヴィナは静かに、諭すように言葉をかける。
「キミがやりたいことも、薄々分かるけどね。……でも、結果は最初から見えているんだ」
最初から、目の前に広がっているんだ。
『そうしたい』と世界に願うこと。
『そうでしか』世界を観られないこと。
この二つは似て異なる。
例えばそれは境界上に在る精神。
例えばそれは狂気にも似た信仰。
例えばそれは強迫にも似た妄想。
眼前に広がる光景。視界の隅に蠢く司書。そして積み上がる書籍の数々。
それらは全てたった一人の狂人の――。
「……まぁ、この『本』の意図が理解できたにせよ、出来ないにせよ」
今日のところは、もう帰った方がいいと思うよ。
貪魔コルヴィナは寂し気に微笑んで。
最後にそう呟いた。
猟兵は彼女にこの地における話を望み、彼女は猟兵にこの地におこす話を望む。
求むは彼女による話。求むは彼女に夜話を。
大成功
🔵🔵🔵
―――。
>■■■■によるアクセスを確認。
>対象の記録は破損しています。
>修復を開始しますか?
>Y
トリテレイア・ゼロナイン
1年と少し前
「邪教の実験により邪神の因子持つ少女を邪教集団から護衛する」というこの世界の依頼に私は参加しました
【Forget-me-not】という名で猟兵の報告書に記録されている筈です
私はそこで短い時間ですが彼女と触れ合い、騎士としてお守りすると約束し
…邪神に自ら覚醒した少女を世界の為に討つ猟兵の一人として刃を振るいました
必要だったと言い切ります
ですが…救えなかった悔いは確かにこの裡に
命救う中で理想から取りこぼした命はこれ以外にも数多
戦う限り増え続け、永久に埋まらぬ『代償行為』と人は言うでしょう
ですが、私は『誰か』を救う騎士として戦います
この『情』が機械の定めだとしても
報酬は…お任せします
>破損した記録の復元を完了。
>記録の再生を開始します。
【第■■頁】
そして、白銀の機械騎士――『トリテレイア・ゼロナイン』は、貪魔『コルヴィナ』に話を始めた。
―――。
それは、ここと空を同じくする世界の話。
それは、邪神の因子を組み込まれた少女と猟兵の話。
囚われの姫を救うが如く、猟兵達は少女を護った。
少女と語らい、迫る敵を打ち倒し、『外』を目指した。
猟兵は願う、この少女に幸福な結末を、と。
そして。
…………。
それは、機械騎士の電子頭脳からすれば、分かっていた結末だった。
それは、怪物を屠るものではなく少女が少女であった事実を守るための戦い。
そして、猟兵達は、少女を。
機械騎士は想う。
理想を追い続ける中、それでも指の間から零れていく数々の命。
理想を追い続ける彼を、人は永久に埋まらぬ『代償行為』と宣うかもしれない。
それでも彼は理想を追い続ける。
彼の電子頭脳の片隅を埋める彼らの記録と共に。
記録だけに残る者達の、大切な『誰か』を守る騎士として。
「――この『情』が機械の定めだとしても」
そう、トリテレイアは話を終えた。
――。
機械騎士が語りしは、一人の少女を護り、そして殺した悲劇。
決して『過去』は変わらないもの。かの悲劇によって、トリテレイアの電子頭脳は劣化する事なく少女の姿を留め続けるのだろう。
少なくともトリテレイアがその動作を終了するまでは――彼にとって、彼の認識出来る『永遠』の、その間は。
ステキな話と貪魔は瞳を輝かせ、コルヴィナは対価として『話』を始めた。
「――大分昔の話だけどさ。病死した親を押し入れに隠して親の年金を貰い続けてたって話、あったじゃん?」
それは、先ほどと変わらぬこの地における悪意の話。
厄災がなければ英雄が産まれぬように、この地における『禍事』の存在を教えさえすれば猟兵はまた新たな物語を奏でるだろう。
黒幕や詳細をあえて露見させ、つまらない事にならないように。コルヴィナは話を続けていく。
「ま、それが原因かどうかも分からないけど、その後各自治体は一斉に、現在自身がもっている住民のデータを再度調査したんだ。そしたら出るわ出るわ、いつ死んだかも分からない『書類上生きている人間』の記録が全国からわんさと出たのさ。それは現実においてはただの記録にすぎないけれど……」 メモ:それ以上の開示は許容しない。
ふと、何か思うところがあったのか、コルヴィナは自身の指を口に当て。
はい、おしまい、と話を終えた。
しばしの沈黙の後。
失礼ですが、そうトリテレイアは前置きして。
「今の話、中途半端なところで終えられたように思えますが」
少々不満げな機械騎士の言葉に対して、コルヴィナは小さく微笑む。
「ウチがあんまりネタバレしちゃっても面白くないじゃん? ワルイコトっていうのは、企むのが一番楽しいんだよ?」
彼女とて、命は惜しい。
流石に少々悪いとは感じていたのだろうか、取り繕う様に貪魔は言葉を続ける。
「自らの意志とは異なるにせよ――キミは選び、現実に生きている。だけどね」
「この街には、選べなかった奴がわんさといる。自らが生きてきた世界を忘れて自らの『真実』の中にだけに生きている連中がさ。」
気を付けてね? と、小さく付け足して。
貪魔コルヴィナは話を終えた。 メモ:夜更けの日の出に目をさまし。
メモ:先立たれた家族と暮らすは白寿の童。
メモ:行方知れずの娘は常に母親の傍らに。
メモ:閑散とした路には有象無象が蠢いて。
メモ:怪物の胸にかのひびはありておもう。
メモ:選べなかった者共の、夢見る『真実』はみなそこに。
メモ:猟兵なる存在は、彼らを前にいかな物語をかたるだろうか。
メモ:
めも: みているな?
メモ:< ● >
メモ:< ● >
―――。
>対象の情報は破損しています。
大成功
🔵🔵🔵