アースクライシス2019⑮〜射手潜みし摩天楼を征け
●マンハッタンにて
高層ビル群の片隅に、それは潜んでいた。
ヒーローたちは漸く見つけたその存在に果敢にも挑んだが、その力量の差は明確すぎて。
居場所を突き止められたその狙撃手はヒーローたちを蹴散らし――。
そして、自分の元へと訪れる猟兵たちをも撃退せんと、待ち構えていた。
●グリモアベースにて
「行こう! じゃない、行って! 行ってきて!」
しょぼんとした表情のままなんだかひとりでわたわたしているのは、南瓜頭にインバネスコートを纏ったグリモア猟兵――神無月・孔雀(正義のへたれカボチャマスク・f13104)だ。
ハロウィンも終わったのにまだ出ていて恥ずかしくないんですか。
「それ禁句ぅ~……」
更にしなっとした南瓜頭だが、今は凹んでいる場合ではないと顔を上げる。
「みんな、ヒーローズアースで行われている『アースクライシス2019』の事は知っているよね? みんなには『ダークポイント』っていう強い敵を倒しに行ってほしいんだっ」
ダークポイントは闇が人型をとってコートを着ているような、正体不明の謎の存在だ。しかも無音、高速で滑るように行動し、その狙撃の射程距離は無限だという。
「うん、聞いただけで、強すぎじゃない? って思うよね、ボクは思ったよ!」
仮にもヒーローマスクがそんな感じでいいのか、という疑問は置いておいて。
「そのダークポイントはね、マンハッタンの高層ビル群を自在に動き回りながら、みんなに先んじて攻撃を仕掛けてくるよ! なんとかその攻撃の対策ができれば、有利に戦えると思うんだけど……」
うーん、と腕を組んで首をかしげる南瓜頭。とりあえず彼は、すぐには対策を思いつくことが出来ないようだ。
「そんな強敵の相手をしに行って、なんて簡単には言えないけど……。でも、ボクはみんなを信頼してるから、だからっ……」
お願いっ――彼が告げたその言葉と下げた頭には、強敵を倒してきてほしいという気持ち以上に、皆に無事に帰ってきてほしいという思いが込められていて。
彼のカボチャ型のグリモア(こっちのほうがキメ顔をしている)が、猟兵たちを現地へ送り届けるべく輝き始めた。
篁みゆ
こんにちは、篁みゆ(たかむら・ー)と申します。
はじめましての方も、すでにお世話になった方も、どうぞよろしくお願いいたします。
このシナリオは『アースクライシス2019』の戦争シナリオで、1章のみの構成です。
ダークポイントは、猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコードで必ず先制攻撃してきます。
いかに防御して反撃するか、作戦を立てて臨むと有利になるかと思います。
『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』とプレイングボーナスが加算されます。
●難易度について
強敵相手ですので、高難易度として厳し目に判定いたします。
●採用について
通常はできる限り採用を心がけておりますが、戦争シナリオであることも鑑みて、お返しすることになってしまうプレイングもあると思います。
●お願い
単独ではなく一緒に描写をして欲しい相手がいる場合は、お互いにIDやグループ名など識別できるようなものをプレイングの最初にご記入ください。
また、ご希望されていない方も、他の方と一緒に描写される場合もございます。
※今回に限り、連携は最大三名様までとさせてください。
●プレイング受付
オープニング公開と同時に受付開始となります。
皆様のプレイングを楽しみにお待ちしております。
第1章 ボス戦
『ダークポイント』
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POW : ダーク・フレイム
【ダークポイントの視線】が命中した対象を燃やす。放たれた【漆黒の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : ダーク・リボルバーズ
自身に【浮遊する無数のリボルバー】をまとい、高速移動と【全方位・超連射・物質透過・弾丸】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : ダーク・アポトーシス
【銃口】を向けた対象に、【突然の自殺衝動から始まる自分への攻撃】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:カス
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
照宮・篝
【神竜】まる(f09171)と
黒い銃口がこちらを向いた、と思った瞬間
まるが庇うように前に立っていて
銃声は無かったから、大丈夫だと思っていたら…!
自害しようとするまるに抱きついて止めるぞ!
死ぬ時は、連れて行ってくれるのだろう?
私はまるの黄泉路を照らす泉照(よみてらす)だ
一人だけで行かないでくれ…
【泉照魂籠】でまるを照らして、まるの衝動を慰め癒す(慰め、祈り、優しさ)
正気に戻った後も照らし続けるぞ
銃を複数持っているから、まるがひとつを壊しても、他の銃でまた私達を狙うかもしれない
その時は【黒竜鈴慕】で召喚された竜達に、銃口をずらして貰おう
周りにいてくれるだけで、銃口で狙いにくくなるだろうしな!
マレーク・グランシャール
【神竜】篝(f20484)と
咄嗟に身を盾にして銃口から篝を庇うが……
失うくらいなら食べてしまえばいい、むしろいっそ死んでしまえば……と考えて己を槍で貫こうとした瞬間、抱きつかれて目を覚ます
己を傷つけられても篝は傷つけられない
死ぬときは篝も連れて行くと誓ったからな
さあ、反撃開始だ
銃口を向けさせないよう【大地晩鐘】で地面から槍を突きだし拳銃を落とす
敵の足を【大地晩鐘】の顎で地に縫い止めたら拾われる前に拳銃を【碧血竜槍】で粉砕
もう片方の手のマシンガンと腰元の銃を狙う
篝が召喚した竜の上空からの攻撃と挟み撃ちにするぞ
マンハッタンの高層ビルのひとつに降り立ったふたり――いや、一人と一柱と言うべきか――は、的確にそれを感じ取った。
己らに向けられた黒い銃口――熟達者のそれの如く殺意はなく、音もなくそれは向けられたけれど。
「っ……!」
照宮・篝(水鏡写しの泉照・f20484)には、それがこちらを向いたことがわかった。けれどもそこから彼女が、何がしかの行動を起こすよりも早く。
「……!!」
彼女の視界を埋め尽くしたのは、大きくて広い背中。
咄嗟に身体が動いた。理由など、言葉にするまでもない。マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)は身を盾にして、彼女をその銃口から庇う。
銃弾ならばいくらでもこの身で受けよう。それは、本能が示した動きだ。
けれども。
銃声は――ふたりの耳には届かなかった。
けれども。
それは――正しくマレークを蝕んでいく。
嗚呼、その感情は本能のようなものだ。
強い喪失感と孤独が呼んだ飢えは、食欲となった。けれどもそれは、単純な『食欲』たる意味ではなく。
マレークの思考の中を渦巻きかき乱す『それ』は、彼の本能に近しい部分を酷く刺激する。
(「失うくらいなら――」)
今、己が本能的に庇った彼女を。
(「――食べてしまえばいい」)
本能に近いその欲求が、強く 強く 強く揺さぶられ、増幅させられた。
そうだ、食べてしまえば――喪失で空いた昏い孔を、同時に埋められるのだ。
(「ああ、違うな」)
けれどもそののちに襲い来た衝動は、彼の思いを無遠慮に上書きしてゆく――最悪の形で。
(「むしろいっそ、俺が死んでしまえば……」)
ぼんやりと靄がかかったような頭の中には、今や自らを消すという選択肢しかなく。他の道は昏い靄に覆われていて、有るのか無いのかすらわからぬ。否、他の道など、要らぬ――。
「……まる?」
彼の動きがおかしい。普段の彼ならば、即座に戦闘態勢に移るはず。戦場で彼が油断などするはずがないと、篝は知っている。
銃声が聞こえなかったから、大丈夫だと胸をなでおろしかけていた。けれども彼が槍を向けたのが、己自身だったがゆえに。
「まる……!!」
原理はわからない。けれども彼の様子がおかしいこと、彼が自身を害そうとしていることは篝にもわかった。それが敵の仕業によるものだなんて、推測しているいとまはない。
「っ……まる……!!」
彼を呼んだ。けれどもいらえはない。それでも篝は彼を呼び、そしてその広い背中に頬を寄せ、彼のがっしりとした胸へと手を回す。
強く、強く抱きしめて。彼を『こちら』へと引き戻すために。
だって。
「死ぬ時は、連れて行ってくれるのだろう?」
約束したではないか。
「私はまるの黄泉路を照らす泉照(よみてらす)だ」
ビクリ、と彼の身体が跳ねるように震えたのがわかる。篝の細い腕では、彼の胸板をすべて覆い隠すことは出来ぬけれど。
「一人だけで行かないでくれ……」
縋るように、祈るように、乞うように紡いだ言の葉は、篝の『泉照魂籠』によって照らし出される。
マレークの身体の前に回された腕。その手が持つ篝火が、彼を優しく包み込むように照らす。
昏い靄によって隠されていた道が、正しい道が、見える。
「っ……」
己を傷つけることは出来る。厭わぬ。けれども彼女を、篝を傷つけることは――出来ない。
自身に向けていた槍を下ろしたマレークは、槍を持たぬ方の手を、己を連れ戻した彼女の白い手へと重ねた。
「……死ぬときは篝も連れて行くと誓ったからな」
「ああ、ああ! そうだぞ!!」
彼が戻ってきた――篝の顔に笑顔が浮かぶ。今一度、彼を強く抱きしめて、その背中に頬をすりよせる。
けれどもそうしていられるのも僅かな時間だと、理解していた。
「結果:自殺衝動→抵抗。
疑問:抵抗手段。
必須:状況の再現」
現れた『黒』はそう『出力』し、同じ状況を作り出そうと再びその銃口を向けようとする。マレークがなぜ自殺衝動に抵抗できたのか、その『黒』――ダークポイントには理解できないとみえる。
けれどもそうやすやすと同じ手にかかる彼らではない。
「さあ、反撃開始だ」
「ああ!」
ダークポイントが再び銃口を向けるよりも早く、マレークが召喚した『死したる地竜の王の霊』がダークポイントの足元から無数の槍を顕現させる。突き出した槍は殆どが避けられたため、奴の身体をかすった程度だ――が。
「事実:武器落下。
損傷:軽微。
急務:次手移行」
避けることを重視したためか、ふたりを狙おうとしていた銃は槍によって叩き落され。移動を試みたことによりダークポイントは、己の片足が地竜の王の顎によって地に縫い留められていることに気がついた。
そして奴が落下した銃を拾おうとするよりも早く、『碧血竜槍』を手にしたマレークがその長槍にみあった優美ささえ感じられるスムーズな動きで、その銃を粉砕する。
けれどもダークポイントととて、伊達に『ジェネシス・エイト』に名を連ねているわけではない。
「更新:猟兵戦力。
状況:猟兵配置=分散。
変更:狙撃対象」
素早く状況を把握して、別の銃へと手をかける。
正直、ダークポイントが複数の銃を所持していると知れている以上、落下した銃を拾わずに別の銃を使用する可能性は予測していた。けれども落下させられた銃を拾う可能性も、ゼロではない。ならば、潰しておくべきであると判断してマレークは動いた。
自然、マレークと篝の位置が離れる。それにより、ダークポイントの狙いが篝へと定められ――すると。
まるで彼女を護るかのように現れたのは、片角の黒竜達。黒曜石のような鱗を持ったその40体以上の竜たちは、篝を護るようにしながらも、半数以上が上空からダークポイントを狙う。
そして。
「何故俺が自殺衝動に抵抗できたのか」
竜たちが雷を槍のように降らせると同時に、マレークは奴へと踏み込んで。
「お前には永遠にわからないだろう」
先ほど己を貫こうとしていた槍を突き出した。
彼の背後からは常にあの篝火が、護るようにとその背中を照らし続けている。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リア・ファル
◎
WIZ
これ以上ヒーロー達を傷つけさせるつもりは無い
元よりバーチャルキャラクターであるボクは、
自殺、つまり電子体の破壊は即実行できたりしないのだけど
今回はおあつらえ向きな論理体の破壊コードを作成しておこう
しかし、そのコードの実行プログラムを監視して
検知と同時に電子の海や戦艦本体にある無数のバックアップから
自分をロールバック
(罠使い、時間稼ぎ、医術)
3度も繰り返せば、対策完了
(学習力)
UC【光神の権能・百芸反撃】として防御中和、
ダークポイントに『セブンカラーズ』の銃口を向ける
「アップデートした自殺衝動、呪詛返しだ、
キミが銃口を向け、自傷したヒーローの無念を思い知ると良い」
(呪詛、カウンター)
(「これ以上ヒーロー達を傷つけさせるつもりは――無いよ」)
強い意志をもってビルの屋上へと降り立ったリア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)へ、銃口が向けられた。
彼女はそれを察知していただろうか。否、『銃口を向けられたこと』は察知できずとも、『自身が異常を起こしかけていること』は察知できる。
彼女は、バーチャルキャラクターであるがゆえに。
(「元よりバーチャルキャラクターであるボクは、自殺、つまり電子体の破壊は即実行できたりしないのだけど」)
けれども今回は敵の攻撃に合わせ、おあつらえ向きな論理体の破壊コードを作成していたリア。そしてそのコードの実行プログラムを監視していれば、敵の攻撃を受けたことを知るのは容易だ。
彼女はそれを検知すると同時に、電子の海や機動戦艦ティル・ナ・ノーグ本体などにある無数のバックアップから、自分という『情報』をロールバックしてゆく。
「疑問:猟兵=不動明滅=現状=?
仮定:自殺衝動→抵抗中。
推論:好機」
しかしそのリア姿は、ダークポイントから見れば動かずに明滅しているように見えたのだろう。そして攻撃に移ろうとしない彼女は、自殺衝動に抵抗しているのだと推理したのかもしれない。
けれどもそれは、あくまで奴の推論だ。そしてその推論を元に、更に銃口を向けるダークポイント。自殺衝動を追加して後押しする好機だと判じたのだ。
「よし、対策終了」
けれどもその実、リアの方こそ好機とばかりに論理体の破壊コード実行→ロールバックを繰り返していた。バーチャルキャラクターであることを最大限に活かした技である。
そして。その繰り返し――三度ほど――で学習したリアは、対策を編み出した。
そう、論理体の破壊は彼女にとって学習するための時間稼ぎであり、かつダークポイントに対しての罠である。
もし奴がリアへと接近していれば、その明滅の不自然さに気づくことや彼女の真意の糸口を掴めたかもしれない。
論理体が破壊され、ロールバックされた彼女が出現する――僅かの間に行われるそれは、遠目から見れば明滅にしか見えなかったのだろう。
「事実:自殺衝動→堆積→猟兵不動。
疑問:猟兵=自殺衝動対策?
必須:確――」
己の攻撃が効いているのかいないのか。
相手は何をしているのだ?
自殺衝動を重ねても重ねても、ダークポイントの目に映るリアが自死してみせることはない。
不審に思ったダークポイントが、リアの現状を確認しようと動くより早く。
「アップデートした自殺衝動、呪詛返しだ」
リアが動いた。手にした『セブンカラーズ』の中には、学習による対策で防いだダークポイントの自殺衝動を更に進化させたそれが、呪詛として詰まっており。
「キミが銃口を向け、自傷したヒーローの無念を思い知ると良い」
放たれた自殺衝動がダークポイントを蝕んでゆく。
「異常:自殺衝動=感知。
必須:迅速対応。
疑問:――」
奴が全ての言葉を『出力』し終えるより早く、彼自身の銃がダークポイント自身を撃ち抜いた。
大成功
🔵🔵🔵
祇条・結月
声が聴こえる
「僕じゃなくていい」
「こんな風に戦ってみせたところで意味なんてない」
「止まってしまえ。それで楽になる」
わかってる。これは、僕の言葉だ
って、気付いたのは手にした苦無で自分の胸を刺したのに気づいた時
【第六感】の警鐘に従って、咄嗟に二回目、刺しかけたのを咄嗟に止める
痛い
痛い
怖い
だけど……
自分で【覚悟】して、戦うって決めたんだから
【激痛耐性】で堪えて、反撃に出るよ
跳びまわるダークポイントの動きに惑わされないように、狙うべき一瞬を【スナイパー】としての視点で見定めて
自分に鍵を掛けて、一気に飛び出して迫る
【見切り】で銃撃を回避して、咎人の鍵で刺し返すよ
わかってる、僕は逃げてる
それでも……今は
その声には、何故か耳を傾けてしまう不思議な力があった。
懐かしさというよりも、妙に『馴染む』声。
『僕じゃなくていい』
その声が裡(なか)へと侵食していくのに、祇条・結月(キーメイカー・f02067)の身体も心も思考も、なんの抵抗も示さない。
『こんな風に戦ってみせたところで意味なんてない』
まるでそれは、はじめから結月の裡にあったかのように、思考の中へ、体の細胞すべてへと行き渡って。
『止まってしまえ。それで楽になる』
ああ、それは当然のことだった。だって。
(「これは、僕の言葉だ」)
結月はその言葉が自身の裡(うち)にあることを、わかっていた。けれども、見て見ぬ振りをしてきた。
そうしなければ、飲み込まれてしまって、戦うことをやめ、足を止めてしまいそうだったから。
「っ……!?」
その声が、その言葉が自分のものであると受け止めたのは、鋭い痛みが走ったからだ。
自身が手にしていた『苦無』が、自身の胸を刺していた――それは、敵へ向けて投擲するために手にしていたのに。
ああ、腕が勝手に動く。身体がその命令を受け入れ、衣服の胸元に広がる赤い染みへと、今一度、それを突き立てようと――。
「ぁ゛ぁ゛っ……」
それでも本能は警鐘を鳴らした。咄嗟に染みを狙う手へと力を入れ、その隙に反対の手でその手首を掴んだ。
言葉にならない声を漏らさねば、対抗しようとすることすら出来ない。
痛い。
痛い痛い痛い――怖い。
自分自身へとそれを突き立てようとする力が予想以上に強くて、まだ半分以上を侵食されている結月の意思では抑えるのもやっとで。
徐々に切っ先が、赤へと近づいているのが分かる。
だけれども……。
(「自分で覚悟して、戦うって、決めた……決めたんだから」)
痛みを恐れる心を忘れる必要はない。
恐怖を感じる心を捨てる必要はない。
けれどもそれらとともに歩んでゆくと決めた覚悟だけは、忘れてはならない――忘れない。
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」
それは意志の力。
ビルの屋上に落ちた『苦無』の立てる音は、結月の意思が勝った音だ。
「結果:自殺衝動→適応不完全。
疑問:猟兵=対応力。
必須:的確処理」
自殺衝動による攻撃が中途半端な状態で解除されたのを察知したダークポイントは、結月のいるビルの周囲のビルを飛び回るようにしながら、銃弾を放ってくる。奴自身、先程の自身への自傷行動によりダメージを負っているはずだが、それでもまだ動きにその影響を出さぬようにすることは出来るようだ。
「っ……」
無音のまま的確に襲い来る銃弾。狙撃のあと、素早く位置を変えるダークポイント。狙撃手の位置は、弾丸の来たる方向から割り出される。撃ったあと、なんの対応策もなくその場に留まるのは、狙撃手としては愚の骨頂。だとすれば、高速で位置を変える奴の行動は理にかなっていて、なおかつその卓越した力が狙撃手としての有能さを物語っている。
(「必ず、勝機はあるはず」)
飛び回るダークポイントの動きを追っていては、惑わされてしまう。弾丸の来た方を見た時にはすでに、奴はそこにいないのだから。
本能で半数近い弾丸を回避することは出来ている。けれども回避ばかりに気を取られていては、奴を捉えることは出来ない。
ならば。
結月はあえて瞳を閉じた。回避するのをやめた。
身体を穿つ銃弾の痛みは、大切な情報だ――耐えてみせる。
銃弾が無音で放たれるとしても、放たれたあとの気配を察知することは出来る。
そして周辺のビルの構成は、瞳を閉じる前に頭に入れていた。
考える――結月が考えるのは、スナイパーたる自身の経験に基づいた感覚からの答え。
相手も狙撃手だ。その桁違いの実力は、普通の狙撃手が不可能なことも可能にするけれど。
それを考慮した上で考えればどうだ?
(「視えた!」)
瞳を開けると同時に自身に『鍵をかけた』結月は、『咎人の鍵』を手にその一点を目指す。
襲い来る弾丸を避けつつ。視界に入った『黒』が、次第に大きくなるのを確認しつつ。
「疑問:猟兵=己=追尾?
事実:猟兵=流血。
必要:追撃」
ダークポイントの銃口が結月を狙う――それより先に、『咎人の鍵』がその『黒』を刺し――。
(「わかってる、僕は逃げてる」)
先程の声が紡ぐ言葉を、認めざるを得ない。けれど。
(「それでも……今は……」)
結月はもう片方の手を『咎人の鍵』へと添えて。
それを更に強く、深く、刺した。
成功
🔵🔵🔴
館野・敬輔
【WIZ】
アドリブ可
不気味な印象しか感じないが…ここで討ち取るぞ
銃を向けられたら自殺衝動が沸き上がり、一瞬死ぬほうが楽だと思って黒剣を喉に当ててしまうけど
行方不明の家族を見つけるまでは、里を滅ぼしたヴァンパイアに復讐するまでは死ぬわけにはいかない!
家族への愛情とヴァンパイアやオブリビオンへの憎悪を強く抱いて耐え、死への誘惑を振り払おう
自殺衝動をねじ伏せたら【魂魄記憶】で相手UCをコピー
銃の役割は黒剣に担わせる
ダークポイントが近づいてきたら「早業、串刺し」で剣先を突き付ける
動きが止まったらそのまま黒剣で喉元を貫くぞ!(鎧無視攻撃)
お前のその銃に、もう誰も殺させない!
僕ら猟兵が、ここで貴様を討つ!
ダークポイントという存在には、不気味な印象しかない。けれどもその如何を問わずやらなければならないことは、十分すぎるほどに心と体に刻まれている。
(「……ここで討ち取るぞ」)
奴を、『ジェネシス・エイト』の一人であるダークポイントを取り逃がせば、たとえ戦争に勝利することが出来たとしても後顧の憂いは残る。『ジェネシス・エイト』すべての討伐は無理であったとしても、奴一人だけでも討ち取っておきたい。
戦況を把握しているグリモア猟兵のひとりだからこそ、館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)のその思いは強い。
ドクンッ……。
だが突然、その思いが無理矢理押し込まれていった。代わりに敬輔の裡を満たすのは、『死』への思い。
ダークポイントに銃口を向けられたのだ――そう思う余地さえ与えられなかった。
どっと流れ込んだそれは、敬輔の思考を塗り替え、細胞を侵してゆく。
(「そうだ、死んだほうが楽だ」)
突如浮かんだその考えに、疑問すらいだかない。いだけない。
強く握りしめていた『黒剣』を、躊躇いなく喉へ当てる。
そうだ、そうすれば楽になれる――『黒剣』を握る手を後押しするような囁きが、敬輔の脳内を満たす。
ツッ――白い喉に、刃が赤を生み出す。チリッと火傷に似た痛みが、敬輔のなかを通り抜けた――。
「っ……!!」
その痛みに、敬輔は目を見開いた。痛みに耐えかねたわけではない。小さな痛みと微かな血の匂いが、彼を揺さぶったのだ。
先程までうつろだった彼のふた色の瞳が、一気に光を取り戻す。
(「何を考えていた?」)
問うまでもないことを自らに問うたのは、自身への戒め。
(「自死を選ぶなど、ありえない」)
思考の一点が晴れ、そして燃え上がれば、『死』への思いに触れた炎が広がっていき、それを燃やし尽くす。
(「行方不明の家族を見つけるまでは」)
己を狙う己の腕を、意志の力で押し留める。
彼の意思を支えるのは、彼の意思を強めるのは、過去に蹂躙された時から消えぬ思い。
(「里を滅ぼしたヴァンパイアに復讐するまでは、死ぬわけにはいかない!」)
それは、家族への愛情と、ヴァンパイアをはじめとするオブリビオンへの憎悪。彼の持つそれは、死への誘惑を振り払う。
勢いよく下ろした『黒剣』から、ほんの少しばかりの赤が地へ落ちた。
「推測:自殺衝動=抵抗?
決定:疑問=無駄。
結論:不変=猟兵排除」
これまで幾人かの猟兵たちが、ダークポイントのもたらす自殺衝動に抵抗してきた。それを目の当たりにしてきた奴は、『なぜ自殺衝動に抵抗できたのか』『何が自殺衝動への抵抗を成功させたのか』を考えるのをやめた。
自身に答えの出せぬそれを考えるだけ時間の無駄だと判断したのは道理だが、それは裏返せば奴が追い詰められていることをも意味する。
ダークポイントは滑るように位置を変え、敬輔へと銃弾を放つ。無限の射程を持つ奴が、敬輔に近づく必要はない。
「……黒剣」
敬輔は、己の持つ剣へと呼びかけて。
あえてダークポイントが放つ弾丸を避けることはせずに、その剣先を奴へと向けた。
剣に宿る魂が記憶したその力は、奴のものと同じ。
ならば一瞬でも、銃口にあたる剣先が奴を捉えれば、十分だろう。
「異常:自殺衝動=感知。
対応:――」
ダークポイントが自身を侵す自殺衝動を感知するのは二度目。何がしかの対応をされてしまう可能性もある。けれども。
奴の動きが停止したことを確認してすぐ、敬輔は動いていた。
ビル横に放置された荷物や配管、ベランダの手摺やその他諸々、その場にあるものを上手く利用して、素早くビルを『登って』ゆく。
数瞬後に辿り着いたのは、ビルの屋上。
あちらが近づいてこないなら、こちらから近づくまで。
「お前のその銃に、もう誰も殺させない!」
自分自身に銃口を向けるダークポイントに、床を蹴って敬輔が迫る。
「僕ら猟兵が、ここで貴様を討つ!」
その銃が弾丸を放つと同時に、『黒剣』の切っ先が奴の喉元を貫いた。
成功
🔵🔵🔴
クロト・ラトキエ
ビルの谷を駆け、潜み、地形を利用して来るというなら、
ワイヤー等も用い空中も利用して、此方も同様に動くまで。
視線、あのマスクで判別し難いですが…
光の動向や顔の向き、体勢、
或いは既に視線の範疇であれば、じりりと肌を焼く感覚、
あらゆるを材料に初撃の兆しを見切り、
外套を外し放って視線遮断、着火よりの盾に。
幾らかでも防ぎ切れれば、しめたもの。
鬱陶しい延焼も今は無視。
(痛いものは痛いですがっ)
ダッシュで肉薄、懐に潜り込み、
鋼糸を操糸、腕脚を狙いあの厄介な動きの制限を狙い――
なんて見せ掛け、フェイント。
賭けるならこの刹那。
放つはUC、肆式。
一張羅と道具半分、犠牲にさせてくれた対価、
キッチリ払っていただきます
転送によってその場に降り立った瞬間、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は視覚だけではなく、肌で感じる空気なども含めて、自身が置かれたその場の特徴を素早く把握する。それは彼の培ってきた、並外れた戦闘経験に基づいて行われた。
(「ビルの谷を駆け、潜み、地形を利用して来るというなら」)
利用できるものはすべて利用して、こちらも同様に動くまで。
ダークポイントの視線は、奴を覆う『黒』により判別し難い。それでも光の動向や顔の向き、体勢――あらゆるものを材料にすれば、クロトにとってその兆しを察知することは可能だった。
じりりと肌を焼く感覚――それを自身の左側に察知すると同時に、外した外套をそちら側へと放つ。
ぼうっ……漆黒の炎は瞬時に外套を焼いた。クロト自身をもその炎は蝕むけれど、もともといくらか防げればしめたものと思っていた程度だ。
延焼する漆黒が鬱陶しい。痛みを感じぬわけではない。けれども今はそれにかかずらっている暇はない。
奴の位置は知れた。ならばすることはひとつだ。
地を蹴り、複数の鋼糸を操って空中に作り出すのは、足場。
ビルとビルの間に張り巡らせたそれを跳ぶようにして、クロトはダークポイントがいるビルの屋上下のバルコニーへと瞬く間に到達する。
漆黒の炎はまだ、クロトを蝕むけれど。
彼我の距離を詰めて肉薄したクロトは、奴の懐に潜り込んで鋼糸を繰る――。
「推測:猟兵=標的=四肢。
結論:対処可能。
事実:猟兵選択=無駄行動」
至近距離での鋼糸の襲来を、ダークポイントはさながらジャケットプレイの如き動作でロングコートを翻して避ける――が。
(「賭けるならこの刹那」)
奴の予測した場所を、鋼糸が狙うことはなかった。
針の先ほど僅かでも、クロトはそれを好機と捉える。
幾重にも積もった経験が、技術が、彼にそう判断させた。
戦闘中の咄嗟の判断は、勝敗どころか命をも左右する。
そして彼がそれを『可能』だと判じたのは、己の持つものすべてを投入することを前提に、だ。
他の者が彼と同じくその刹那を『好機』と判じる可能性は低い。万が一好機と捉えた場合でも、それは誤りである可能性が高い。
クロトだからこそ、彼が培ってきたものがあるからこそ、それは『好機』へと転じたのだ。
その刹那、ダークポイントを襲ったのは、鋼糸だけではなかった。
鋼糸を筆頭に、複数の刃や矢がダークポイントを波状に襲う。
常ならば、一人の人間がこれだけの武器を瞬時に放つことは考えられぬだろう。
けれどもこれは、理を歪める力に因りて起こされし現象。
「一張羅と道具半分、犠牲にさせてくれた対価」
最初の繰糸がフェイントであると、奴が気づいたときにはもうすでに遅い。
「キッチリ払っていただきます」
ダークポイントに負けず劣らぬ超高速で放たれたその攻撃。奴の身体はその衝撃をいなすことが出来ずに、バルコニーの手摺を歪め。
それでも勢いを削ぐことが出来なかったその身体は、宙空へと投げ出された。
大成功
🔵🔵🔵
鵜飼・章
きみ射撃が得意なんだ
だったら僕を殺してみてよ
先制攻撃は弾道を【見切り】急所への直撃を回避
【早業】で弾を避けて被害を極力抑えつつ
【激痛耐性】で痛覚を遮断してUC【パブロフの犬】を至急発動
まずは【医術】で止血等の応急処置を
そんな暇が…あるんだ
処置が出来たらあえて見晴らしの良い所に座って
水筒に入れてきたジャスミン茶で優雅にティータイムするよ
この状況で仕事をサボる…至福だな
それでもきみの弾は絶対に僕に届かないんだ
どうしてだろうね
敵の存在を徹底的に無視する
【挑発】的或いは【恐怖を与える】余裕の態度で攻撃を無効化し
焦りで寿命を削る技を連発させ自滅を待つ事が狙い
期待外れだったな
彼が諦めたら一言【精神攻撃】を
地面へと落下したダークポイントは、それでも素早く体勢を立て直した。
至るところに傷を負わされ、当初ほどの悠々とした姿ではなくなっているけれど。
新たな猟兵を発見した奴は、無数のリボルバーを浮遊させて纏い、物質を透過する弾丸を全方位に向けて放った。
その速度は、奴が無傷ならば相当なものだっただろう。猟兵たちに幾多もの傷を負わされた今も、すべてを見切ることは難しい。
死の間際に異常に動き回る虫のようだね――なんて思いつつ、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は素早く弾丸を回避しようと試みる。もちろんすべて回避できるなどとは、はなから思っていない。急所への直撃を避けつつ、被害を極力抑えられればそれだけで良かった。
痛覚を遮断し、弾丸の花火が終わるのを確認してユーベルコードを発動させる。そして章がは、止血を始めとした応急処置を行ってゆく。
「きみ射撃が得意なんだ。だったら僕を殺してみてよ」
応急処置をしながら放たれた言葉は、明らかに挑発言葉である。それを受けたダークポイントは、章の言動が理解できぬようだ。
「事実:猟兵行動=応急処置、挑発。
疑問:二行動両立=意味?
推論:挑発=罠」
自分なりの推測を立てたダークポイントは、章から距離を取る。挑発に乗れば、何がしかの反撃を受けると考えたのだろう。それは至って一般的な考え方である。
「そんな暇が……あるんだ」
応急処置を終えた章は、自分から距離を取るダークポイントに冷たい視線を向けた。
ダークポイントとしては、このあと彼は反撃に転じる――そう考えて身構えるのが最適解であろう。
けれどもあろうことか章は、近くのビルへと入り、エレベーターに乗り込んだのだ。
そして彼は最上階でエレベーターを降り、階段を使って屋上へと出る。偶然にも屋上庭園と思しきそこを歩いて、見晴らしの良い位置に置かれているビーチチェアへと、ゆっくりと腰を掛けた。
更に、更にだ。水筒からコップに温かいジャスミンティーを注ぎ、優雅にティータイムを始めたではないか。
この無防備さ。いくらでも好きなだけ狙ってくれと言わんばかりだ。警戒する素振りすら見せない章。
「疑問:猟兵行動。
推測:不可能。
必須:検証」
さすがのダークポイントも、不審感以上のものを覚えたようで。章には視認できぬ位置から、リボルバーを一斉発射する。
けれども――章は優雅にティータイムを続けているではないか。
「この状況で仕事をサボる……至福だな」
心からそう呟き、ジャスミンティーをもう一口。口内を満たす爽やかな香りを感じる余裕すらある。
「それでもきみの弾は絶対に僕に届かないんだ」
そう、今の章にダークポイントの弾丸は、絶対に届かない。
何故ならば、章が戦闘行動を取らない限り、彼の理解者である鴉や隼やカブトムシなどの生き物たちが、彼が死なないように頑張ってくれるからである。
原理はわからないが、外部からの攻撃を遮断するだけでなく、生命維持もお任せあれなのだ。
「――どうしてだろうね?」
弾丸が飛来した方向へと向けられた章の視線。常人ならば立っていられないほどの恐怖を感じるだろう。
そしてダークポイントの居場所を正確に捉えていない――捉える必要もない、とばかりに大雑把に向けられた視線と言葉は、ある種の挑発で満ちている。
「必須:検証。
必須:検証。
必須:検証――」
わからない、わからない、わからない――検証からの答えを得るべく、ダークポイントは弾丸の雨を降らせ続ける。
けれども状況は、爪の先ほども変わらない。
否、変わっているのは、ダークポイント自身の状況だ。
「検知:動作異常。行動遅延。
必須:猟兵=迅速排除。
推論:接近必須?」
そう、ダークポイントが使用しているこの技は、戦闘終了まで毎秒寿命を削るという代償がある。
すでに猟兵達によって幾多もの傷を負わされている奴の寿命は、あとどのくらいだろうか。
自身の動きの鈍りを検知したダークポイントは、一刻も早く猟兵を排除しなければと焦り始めたようだ。そして推測したのは、遠距離からの狙撃を何らかの手段によって防がれている可能性。
それは、無限の射程を誇る狙撃手である奴のウリが、封じられたことを意味する。けれども接近することで攻撃が通る可能性があるのならば、リスクを冒してでも検証するべきだ――それが、焦りにじりじりと背中を焼かれ始めたダークポイントの、出した答え。
奴は徐々に距離を縮めながら、章へと銃弾を放ち続ける。可能な限り接近せずに屠れる距離を探ってしまうのは、狙撃手の性(さが)だろうか。
今の奴は、自慢の移動速度も落ちているのだろう。でなければ、ヒットアンドアウェイで事足りるはずなのだから。
弾丸の雨は相変わらず章を狙い来るけれど、章はそんな事実などまるでなかったかのように、水筒をテーブルへと置いてビーチチェアへ横になった。
ダークポイントの存在自体を、徹底的に無視、である。
そんな彼がようやくダークポイントの存在を再認識したのは、奴が章のいる屋上庭園へと到達したその時。
「疑問:――。
疑問:――。
疑問:――」
自身が肩で息をして、限界を訴える足が震えていることすら、奴は気がついていない。
その頭の中は、『なぜ章に弾丸が当たらないのか』――そのことでいっぱいのようだ。
もはや、自身が罠に『堕ちた』ことにすら、気づく余裕はあるまい。
「この程度なんだ」
だから章がその言の葉で、彼の精神を刺激してやれば。
「期待はずれだったな」
「否定:猟兵言――」
奴はすべての言葉を『出力』し終えることが出来ないまま、倒れ伏し――細かい粒子となった『黒』は、屋上を撫でる風にのって消えていった。
大成功
🔵🔵🔵