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最後の英雄譚

#アックス&ウィザーズ #宿敵撃破

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#アックス&ウィザーズ
#宿敵撃破


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「ハイこんにちは。新年早々罪深き美しさ、クロアお兄さんです」
 こんな寒い時期にも腹を出している、ナルシストなグリモア猟兵クロア・ルースフェルが、猫型の精霊バロンと共に頭を下げた。
「本日お集まりいただいたのは、アックス&ウィザーズにて、とても強力なオブリビオンを討伐していただくためです。かの者の名は――災厄の魔術師」
 白の長い髪、白の瞳。それらは淡く虹の光を帯びる。大きな黒いとんがり帽子に、水色のリボンが特徴的なローブ。虹の水晶のロッド。一見すると可愛らしい女の子に見える、男だ。
「災厄の魔術師は、『英雄』を見出すコトを繰り返しています。『英雄』になると彼が判断した者が、もしチカラを持たないときには、ソレを与えすらします。そうしてから……『英雄』の周囲に災厄を撒き散らします。なんでしょうね、『英雄』を倒して己のチカラを誇示したいんでしょうか。ナゾです」
 行動理由が分かれば、もしかしたら攻略の取っ掛かりになるかもしれない。だが、とても強力なオブリビオンであるだけに、会話になるかどうかは保証できない。
「今回は、ある『英雄』をお得意の災厄によって潰し、住処に戻ってくるタイミングが予知されました。そんなタイミングでもなければ、隙が無かったんです」
 彼の住処は、入り口は洞窟のように偽装されているが、入ればすぐに広い宮殿の様相を呈する。
 災厄の魔術師は、宮殿に入ってきた猟兵に気づくと、まず猟兵達が『英雄』足るかどうかを試すために、支配したドラゴンの群れを差し向けてくるようだ。大きな災厄を起こした直後だというのに、豪気なものだ。
「ドラゴンはシュヴァルトと呼ばれています。毒花に寄生されていまして、ドラゴンの性質と、植物の性質を兼ね備える強敵です。特に、花粉は幻覚系の毒だそうですから、十分に注意してくださいね」
 巨躯でありながら、つる植物の細やかさと、雑草の如きしぶとさを持つ。一体だけでも厄介なシュヴァルトが、群れでやってくるのだ。
「攻略は皆さんにお任せしますケド、分断工作や、回復支援なども視野に入れるとようございましょう。宮殿には広間と廊下がありますから、地形を利用するのもイイでしょうね。シュヴァルトの群れを片付けたら……、ソコからが本番です」
 災厄の魔術師は最奥の部屋にいる。『英雄』と認めた猟兵達に、あらん限りの災厄をぶつけてくることが予想される。
「あと……コレはまだよく分からないんですケド、皆さんが到着するくらいで大規模な魔法が発動しそうです。でもすぐに効果があるタイプではないようなので、すんなり部屋には入れると予知されています。頭の隅にでも置いておいてくだされば」
 災厄の魔術師は、強大な魔力を持ち攻防ともに秀でている。だが、仕向けた災厄を乗り越えられると、その時ばかりは大きな隙ができる。狙うとすればそこだろう。
「非常に危険なオブリビオンですケド、かといって放っておけるモノではありません。彼が選んだ『英雄』ばかりでなく、その周囲まで巻き込む災厄を、コレからも生みだし続ける存在です。どうかココで、終わりにしてください。そのためには皆さんのおチカラが必要です。アックス&ウィザーズの住民のためにも、どうか……」
 クロアは深く頭を下げる。バロンも真似をして頭を下げた。
 と、ふと思い出すことがあり、クロアは頭を上げる。人差し指を立て、にこりと微笑んだ。
「災厄の魔術師を倒したあとには、ナニかイイコトがあるそうですよ。パンドラの箱よろしく、災厄のオンパレードの最後には希望が出てくる、というコトでしょうかね」
 撃破後には、しばらくアックス&ウィザーズでゆっくりするのもいいだろう。
 クロアは改めて猟兵達に向き直り、姿勢を正す。
「まとめます。災厄の魔術師の宮殿に入り、毒花に寄生されたドラゴン『シュヴァルト』の群れを撃破してください。その後、最奥の部屋にいる『災厄の魔術師』を撃破してください。撃破後は自由にしていただいて構いませんが、ナニかイイコトがあるそうです。今回の依頼は、厳しい戦いが予想されます。皆さんのご無事のお戻りを、バロンと共に、信じて……お待ちしておりますね」
 猫型精霊のバロンを撫で、クロアは猟兵達に優しく微笑むのだった。


あんじゅ
 明けましておめでとうございます、マスターのあんじゅです! ナルシストのクロアお兄さんと行く、三つ目の依頼のご案内です。
 今回の依頼はアックス&ウィザーズで、オブリビオン『災厄の魔術師』の拠点を攻略し、彼を倒していただくというものです。
 何をどうしたいか、具体的にお書きください。セリフや心情を入れていただくのも大歓迎です! 技能は、技能名だけではなく、それを使ってどうするのかをお書きくださいね。
 1章は『シュヴァルト』との集団戦です。花粉で幻覚を見る場合は、どのような幻覚か、詳しくお書きいただければ嬉しく思います。
 2章は『災厄の魔術師』とのボス戦です。災厄の魔術師の攻撃内容は、指定があるほうが有難いです。「最も恐れる存在」など、わたしには分かりかねるものが多いためです。完全にお任せですと、それっぽく捏造しますのでご注意ください。
 3章は日常パートです。内容は3章に入った際に書きますね。心情をお寄せくださったり、3章の状況を楽しむなど、思い思いに過ごしていただければと思います。
 注意としましては、人数の多いグループでいらっしゃると、再送をお願いするかもしれません。ご了承ください。
 本依頼も一生懸命取り組ませていただきます。皆様のご参加を、お待ちしております!
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第1章 集団戦 『シュヴァルト』

POW   :    プラント・イクリプス
肉体の一部もしくは全部を【植物】に変異させ、植物の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
SPD   :    ダルウィテッド・バース
自身の【切断されると増殖する体質】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
WIZ   :    フォール・リユニオン
【花】から【花粉】を放ち、【死者と再会する幻覚】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:水島

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 洞窟を抜けた先に、宮殿が現れた。
 白を基調に、知性を感じる深緑の唐草模様が彩る宮殿は、人が住んでいる痕跡もなければ、逆に埃が積もっているわけでもない。どこか無機質的な空間だ。
 静まった冷たい空気は、しかし咆哮で切り裂かれた。
『ギャオオオオオーーーー!!』
 折り重なる翼の音、威嚇するような幾つもの叫びが近づいてくる。そうして、彼らは姿を見せた。
 暗い紫の身体に毒花を咲かせたドラゴン、シュヴァルトの群れだ。
ルード・シリウス
英雄に足るかどうかを試す為に災厄を撒き散らす、か…
神様気取りか知らねえが、一つだけ感謝する事がある
俺の為にわざわざ獲物を…竜種を用意してくれた事だ。強くなる糧の一つとして、竜種はうってつけだからな
さぁ…竜種と、神様気取りの魔術師も喰らいに行こうか

神喰と無愧を携えながら向こうの攻撃の軌道とタイミングを見切り、残像を囮に置いて注意を逸らし、掻い潜る様にしてシュヴァルトの群れの中へと飛び込む様に突撃
群れの中へ踏み込んだら、二刀を用いた【咆刃】の一撃で周囲の地形ごと喰い千切る様に叩き斬り、捕食と生命力吸収の能力を以てシュヴァルトの血肉と魂を喰らい尽くす

感謝しろよ、一撃で一匹残らず喰らい尽くしてやる…っ



「英雄に足るかどうかを試す為に災厄を撒き散らす、か……」
 呪われた出生、ダンピールの黒騎士であるルード・シリウスは、右肩に大鉈を担ぎ、左手に黒剣を携えて呟いた。
「神様気取りか知らねえが、一つだけ感謝する事がある。俺の為にわざわざ獲物を……竜種を用意してくれた事だ」
 ルードにとって生とは、ただ喰らい奪うということ。彼が強くなるための糧として竜種はうってつけだ。
 体内にいつしか生じた「暴食の血核」が脈打ち、激しい飢餓感が襲う。不老の肉体の代償である「獣の烙印」が疼き、闘争の渇望を煽る。
 長身のダンピールは、血のごとき赤の瞳に、狂気と憎悪をたぎらせた。
「さぁ……竜種と、神様気取りの魔術師も喰らいに行こうか」
 彼が肩に担いでいるのは、呪詛剣「無愧」。鎧を斬り裂く鋸刃を持つ大鉈だ。左手に持っているのは、命を喰らう呪いを秘める、漆黒の刀身を持つ大剣、暴食剣「神喰」。
 大きな得物を二本も持ったルードは、すぐに敵から捕捉された。シュヴァルト数体が、身体をほどいていくように、その巨躯を植物へと変異させていく。毒性のつる植物は爆発的に生育し、見る間にルードへ届き、勢いのままに縛り上げた。
 ように見えた。
 それはルードの残像であった。当の彼は神喰と無愧を軽々と構え、群れに走り込んでいた。
 つる植物の軌道を見切り、軽く回避する。植物のカーテンを抜けた先、まだドラゴンのままのシュヴァルト達が吼える。ルードは臆するどころか逆にスピードを上げ、群れの中へと飛び込むようにしてシュヴァルトの爪を掻い潜っていく。
 無謀なまでの攻勢。ルードは己の命を顧みない。
 シュヴァルトに囲まれたこの状況で、ルードは奥歯で飴を嚙み潰した。それは血晶飴といい、噛み砕いて食すと力が増す代物だ。
 二本の刃が、瞬く間に膨れた殺気をまとって、大きく、さらに大きくなる。
「感謝しろよ、一撃で一匹残らず喰らい尽くしてやる……っ」
 ルードが巨大な刃を上に交差させれば、空気が激しく震える。咆哮のごとき轟音。さながら、二本の刃は吼える顎だ。
「竜種を喰い千切る一撃、受けて見るがいい!」
 ルードは巨大な刃を、群れに叩き下ろす。ルードのユーベルコード【咆刃・竜咆震撃(ホウジン・ドラゴンハウリング)】だ。
 シュヴァルトは、鱗を頼みにガード体勢に入る。
 が。
『『『ギャグアアアアアアア!!!』』』
 異常な事態に、シュヴァルト達が悲鳴を上げた。硬く守ってくれるはずの鱗は、無愧の鋸刃によって易々と切り裂かれ、ドラゴンの誇る生命力は神喰に喰い荒らされていくではないか。
 巨大な二本の刃に触れたシュヴァルトが、一体、また一体と、血肉だけではなく、魂ごと喰い尽くされ消滅していく。
 ダン!!
 全てのドラゴンを喰らい、ようやく刃が地を打った。床材が一斉に宙に踊る。
 そのむき出しになった地面を這い、ルードに一瞬で迫る気配。
 紙一重で剣を抜き、後方へ跳んだルードの、もと居た場所を毒のつる植物が覆った。つるはさらに生育し、ルードの足をも捕らえる。
 神喰がつるを切断し、命を吸って枯らせた。だが、着地したルードに、地面に群がる植物達が這い迫る。数本のつるを切り払いながら、ルードはさらに距離を取った。
「なるほど……植物に変異した奴等が居たな。竜種だが竜種じゃねえ、って事か」
 対ドラゴン戦では比類なく強いルードの【咆刃・竜咆震撃(ホウジン・ドラゴンハウリング)】だが、柔よく剛を制すとは言ったもの。最初に植物へと変異していたシュヴァルトは、あの一撃を耐えたようだ。
 ザワザワとうねり、増殖していく植物。あの物量に呑まれれば、ルードとて命はないだろう。
 その状況で、ルードは、神喰を地に刺した。そしてその柄へと、ひょいと乗る。
 そんなことをして逃げたつもりか、とシュヴァルト達は内心嘲笑っただろう。地鳴りのような音と共に、つたが押し寄せ、神喰を這いあがる。
 その瞬間、神喰に触れた箇所から、茶色がつたをさかのぼるように侵食していく。奥へ奥へと茶色が広がり、そしてしばらくの後……
 つた植物は全て、生命力を吸い取られ、カラリと枯れ落ちた。シュヴァルト達は正真正銘、全滅したのだ。
 なぜこのようなことができたのか。
 植物には「生長点」と呼ばれる箇所があり、茎の先端部にあることが多い。がむしゃらに斬っても、その生命力の源に神喰が当たるとは限らない。
 であれば、茎の先端部から、神喰のほうに来るよう仕組めばいいのだ。ルードは自らを囮にして、成長点を神喰に触れさせ、シュヴァルト達から生命力を奪いきった。
「ざっとこんなもんか」
 ルードの声は、微かに満足げだった。敵との駆け引きの中でこそ、ルードは己の価値を感じる。この戦いも、価値を感じるに足る一戦だった。
 神喰の上から地面に降りたルードは、軽く神喰を引き抜く。
 その時。
『ギャオオオオーーー!』
 遠く、シュヴァルトの叫び声がした。翼の音が、先ほどと同じように近づいてくる。
 シュヴァルトの群れは一陣限りではなかった。第二陣がやってくる。
 ルードの赤い瞳に、再び闘争の炎が燃え上がった。
「いいだろう……竜種共、覚悟しろよ。全部喰らい尽くしてやる」

成功 🔵​🔵​🔴​

アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

災厄の魔術師。奇遇ですね。聞き覚えがありますよ。
会った事はありませんが、良い思い出はありませんね。
彼の敵の従僕を討ち倒し、一刻も早く災厄を止めなければ。

とは思いますが冷静に考えて複数の巨体の敵と数と力に劣る貧弱な私とでは分が悪すぎます。
狭い通路を利用し、1対1の状況を作りあげましょう。
『範囲攻撃』ホワイトブレスを放ち、敵や不必要な入口を氷で封じていきます。
敵へは私の『存在感』を誇示するように『挑発』し、入口はさりげなく凍らせる事ができれば最良ですね。
後は逃げに徹していると思わせて、一体ずつ確実に氷の世界へ沈めていきましょう。
植物の特性を持つ敵が冷気に弱い事を密かに祈りつつ……。



「災厄の魔術師。奇遇ですね。聞き覚えがありますよ」
 曇り顔でそう独りごちるのは、人間のマジックナイト、アリウム・ウォーグレイヴだ。災厄の魔術師に直接会ったことはないが、その名に良い思い出はない。
 脳裏によみがえるのは、毒に苦しみ、それでも「生きたい」と叫んだ子供達の姿。
(彼の敵の従僕を討ち倒し、一刻も早く災厄を止めなければ)
 ――とは思うが、冷静に考えて、複数の巨体の敵を相手に、数と力とに劣る貧弱な人間の身では分が悪すぎる。
 アリウムは、安易に希望論にすがらない。
 ここは堅実に、一対一の状況を作りあげるべきだろう。
『ギャオオオオーーーッ!』
 威嚇の声を上げ、シュヴァルトの群れがやってきた。
 アリウムは愛剣アイスブルーを抜き、縦に構えて魔力を練り上げる。シュヴァルトに直接氷の魔法を撃ちこんでも、ともすればドラゴンの鱗で防がれてしまうだろう。だが。
「凍りつきなさい。ホワイトブレス!」
 アリウムのユーベルコード【ホワイトブレス】の極低温の波涛が、広間の空間に吹き荒れる。見る間に分厚い氷の壁が張りめぐらされ、シュヴァルト達を分断し、不必要な入口を封じていく。ドラゴンに向けてではなく、空間に向けてであれば、【ホワイトブレス】は力を減じることなく猛威を振るえるというものだ。
 アリウムの魔力コントロールは強力にして精緻。望み通りの状況をあっという間に作り出した。アリウムの目の前には、シュヴァルトが一体だけ隔離されている。しかし、このままでは時間を置かず、氷の壁を破壊した他の個体もやってくるだろう。
 アリウムは、アイスブルーに氷の魔力を流し込んだ。魔力をよく通す特別製の剣は、氷によって長く育っていく。だがこれは見せかけの刀身。伸びた部分は魔力の芯を持たない、ただの脆い氷だ。
 そのオモチャのような剣を振り回し、アリウムは敵に声をかけた。
「命が惜しいのなら、今すぐ逃げ出すといいでしょう」
『ギャーーーーッッ!!ギャッギャッ!!』
 シュヴァルトは血がのぼった頭をぶんぶん振ると、爪を立てて襲いかかってくる。アリウムが長いアイスブルーを振るえば、ドラゴンの強靭な爪に負けて、刀身が軽く折れ飛んだ。無論アイスブルーそのものは無事だが。
「これは……、私が逃げるべきでしょうか?」
 アリウムは青いコートをひるがえし、廊下へと走り込む。
 見るからに気分を良くしたシュヴァルトは、アリウムを追って廊下へと入っていく。
 剣も折れ、頼る先のない手は不安げに壁を這い、逃走もままならないただの獲物として、アリウムはシュヴァルトの目に映っただろう。慢心した者は、注意を怠る。驕ったシュヴァルトでは気がつくことができなかった。魔力が壁を伝っていき、シュヴァルトの背後で、廊下の入口が氷に閉ざされていくことに。
 アリウムが目をつけたシュヴァルトは、特に性格の悪い個体だった。足からしゅるしゅると、見せつけるように身体を植物へと変化させていく。爪で獲物を裂いてしまうより、じわじわ絞め殺すつもりのようだ。
 下半身が植物に変じきった。シュヴァルトが、どこか笑ったように見えた。脅すような咆哮と共に、つる植物がアリウムに襲いかかる。
「かかりましたね……ホワイトブレス!」
 極低温の波涛が、狭い廊下を一瞬で埋め尽くした。シュヴァルトが身体を変じている間、アリウムはずっと魔力を練り上げていたのだ。
『グギャアァアァアーーー!!』
 氷の破片が、いや、植物の破片が飛び散る。凍った植物の下半身は、シュヴァルトの自重にすら耐えかねてひびが入り、割れていく。
 植物は、凍ってしまうと非常に脆い。バラを液体窒素に浸す実験を見たことがあるだろうか。凍ったバラは、そっと握るだけで砕けてしまう。シュヴァルトの下半身は、今やガラスよりも繊細であった。
 慌てたシュヴァルトは、自ら下半身を切り離した。シュヴァルトはこの断面から、さらに身体を生やすことができる。失った下半身を復活させんと、ぼこぼこと増殖する肉の塊は、しかし増殖する面だけは鱗に覆われず肉のままだった。
「そこです!」
 アリウムはアイスブルーを肉に突き立て、アイスブルーを通してシュヴァルトの身体の芯へと、三度目の【ホワイトブレス】を放つ。まるで底を知らないかのような連続魔法は、アリウムの高い魔力の成せる業である。
『ガアアアアア……!!』
 断末魔は、壁を覆う分厚い氷に吸収されていった。廊下に放った二度目の【ホワイトブレス】が、壁を凍らせていたのだ。だから他のシュヴァルトは、ここに、恐ろしい力を持った男がいるとは気がつけない。
 アリウムは、絶命したシュヴァルトからアイスブルーを引き抜く。相変わらず、曇り顔のままで。
「冷気に弱いと分かったのは重畳ですね。しかし、油断せずに行きましょう」
 アリウムは冷静に、次の個体を見極めにかかるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御剣・刀也
群れる龍ね
群れてる時点で自分は弱いって言ってるようなもんだろ?
まぁいい。大将が出てくるまでの駄賃だ。全部斬り捨てる

プラントイクリプスで植物の特性を得られたら、力づくで斬ろうとしたら幹が潰れるだけで上手く斬れないので、基本に忠実に、日本刀の特性を生かして斬ることを忘れずに斬り捨てる。
狭い隙間に入り込まれたら焦らずその隙間を形作っている木や岩事、斬り捨てる
「かくれんぼは終わりか?探すのは苦手じゃないがめんどくさい。さっさと終わりにさせてもらうぜ」



「群れる龍ね。群れてる時点で自分は弱いって言ってるようなもんだろ?」
 人間の剣豪、御剣・刀也がバッサリと言った。刀だけではなく、口のほうも切れ味が鋭いらしい。
 癇に障ったのか、一体のシュヴァルトが抗議の声を上げ、向かってくる。
『ギャオオオオーーーー!』
「何言ってるか分からん。まあいい。大将が出てくるまでの駄賃だ。全部斬り捨てる」
 パパパン!
 小気味よい音とともに、シュヴァルトから硬い種が発射された。この個体は他の個体より強く、種を銃弾のように撃ち出せるのだ。
 刀と銃では、刀が圧倒的に不利。だが、
 カカカン!
 目にも留まらぬ刀さばきを見せ、刀也は無傷で立っていた。
 刀也の受け継ぐ天武古砕流は、戦国時代に火縄銃に対抗するために生み出された剣術。扱うのは日本刀でありながら、銃に対して考えうる対処を全て叩き込まれているのだ。
「次はこっちの番だ」
 刀也は、見る者を魅了するような美しい日本刀「獅子吼」を構え、シュヴァルトへと走り込む。
 彼を脅威と見たシュヴァルトは、鱗で覆われた身体を、さらに植物で覆った。性質の異なる二つの鎧は、ちょっとやそっとで破ることはできない。
 はずであった。
『ッッ!!? グギャアアアアーーーー!!』
 右側の手足を斬り飛ばされ、シュヴァルトが叫ぶ。
 一体、刀也は何をしたというのか。
「基本に忠実に、だな」
 刀也は、特別なことは何もしていなかった。力ずくで日本刀を振るっても、対象が潰れるだけで、こうも美しく斬れることはないだろう。打撃の衝撃は伝わるとしても、それは植物に吸収されてしまう。
 刀也はそんなことはせず、日本刀の最大の特徴である切れ味を、彼の持つ力量で最大にまで引き出した。それだけの、シンプルな理屈。しかし、何の小細工もなく二重の鎧を破ることができたのは、ひとえに刀也の技術力が化物じみていたからに他ならない。
『ギャアッ、ギャアアーー!』
 恐れをなしたシュヴァルトは、全身を植物に変え、すぐ近くの扉の隙間から部屋に逃げ込んでいった。
「逃げ出したか。しょせん畜生だな。だが、それで逃げたつもりか?」
 刀也は、一刀のもとに扉を両断する。
 部屋は客間であるらしい。シンと静まっていた。ベッド、鏡台、タンス……隠れられそうなものがいくつもある。もし探している最中に、運悪く隠れたシュヴァルトに背を向けようものなら、ドラゴンの爪の餌食になるだろう。
「まったく……。探すのは苦手じゃないがめんどくさい。さっさと終わりにさせてもらうぜ」
 そう言うや、刀也は手前のベッドを軽々と斬り上げた。刀也でなければできない所業――だが、ベッドの下には何もない。
 刀也はひとつ息をつくと、歩みを進める。
 こうして、近い物から破壊していけば、シュヴァルトに背を向けることはない。見つからないのであれば、さらに奥に隠れているだけなのだから。
「せいッ」
 二つ目のベッドを斬り上げると、その下には植物がびっしりと詰まっていた。植物は編み上がるようにドラゴンの頭部を形成し、刀也に獰猛な牙がぐわりと迫る。
「かくれんぼは終わりか?」
 そう言い放つと、刀也は獅子吼をスッと上段に構え、真っ直ぐに振り下ろした。あまりにその所作が美しく、スローモーションに感じられるほどだが、まばたきより短い刹那の出来事だ。
 これぞ、刀也のユーベルコード、【剣刃一閃】。
 シュヴァルトの頭部は、何が起こったのかも理解できぬまま、左右に分かたれ、ゆっくりと倒れていった。
 獅子吼から血を払い、鞘に収める刀也。
「天武古砕流の神髄は一撃必殺の剛剣……って、聞こえちゃいないか。次だ次」
 刀也は疲れた様子もなく、きびすを返し、部屋をあとにするのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリュウ・リヴィエ
何をしたいのか、よく判らない相手だね。
まあ、それを深く理解したところで、こっちにとって有益だって保証もないんだけど。
何れにしろ、まだ判断するにはピースが揃ってない気もするし、今は当たってみる時かな。

蛇腹剣状態の「カミ砕き」で敵を薙ぎ払いたいから、広間まで出て壁を背にして戦おう。
今回は一人で来たから完全に囲まれるのは避けたいけど、廊下だと武器の取り回しに困りそうだし。
植物になって狭い隙間に入り込めるといっても、攻撃する時は出てくるよね。
トリニティ・エンハンスの強化は防御力に回して、粘り強く敵を殲滅しよう。

そういや、敵の大規模な魔術が発動するって言ってたけど、何か判るかな?



 広間の高所で、戦場を見おろしている男がいた。ダンピールのグールドライバー、クリュウ・リヴィエだ。
「何をしたいのか、よく判らない相手だね。まあ、それを深く理解したところで、こっちにとって有益だって保証もないんだけど」
 くぅ、とクリュウのお腹が鳴る。といっても、準備不足でここに来たのではない。クリュウはいつでも腹ペコなのだ。
 空腹を誤魔化すようにぐーっと伸びをすると、クリュウは大鉈のような黒剣「カミ砕き」を構える。
「何れにしろ、まだ判断するにはピースが揃ってない気もするし、今は当たってみる時かな」
 軽く跳び、壁を背にして着地した。コートがひるがえり、涼やかな眼差しでドラゴンを見据える、見目麗しいダンピールの青年はただ美しかった。しかし、お腹がくぅと鳴っては、なんだか締まらない。
「……ドラゴンは高級食材って聞くけど、きっと魔力分の値段だよね。味はどうなのかな?」
『ギャオッ!?』
 不穏な言葉を聞いたシュヴァルトが数体、警戒をあらわにして向かってくる。
 クリュウが壁を背にしていたのは、囲まれるのを避けるため。それが功を奏し、相手にするシュヴァルトは三体のみだ。それぞれが腕、脚、翼を植物へと変え、じりじりと距離を詰めてくる。
 そして三方から一斉に、つた植物がクリュウへと襲いかかる。これには、ただの剣では対処しきれない。
「ハッ!」
 クリュウが横なぎに振るったカミ砕きは、広がり、蛇腹剣となって周囲を舐めるように植物を斬り飛ばす。
 この蛇腹剣を扱うために、クリュウは廊下ではなく広間で戦うことを選んだのだ。狭い廊下では蛇腹剣を活かしきれない。こうした位置取りひとつからも、クリュウが戦い慣れていることが伺える。
 だが、斬られたシュヴァルト達はひるまず、植物部分を急激に伸ばしてクリュウを打ちつけた。物量とスピードで叩かれたクリュウは、しかし、一歩も動くことはない。驚いて逆にシュヴァルト達が動きを止めた。隙を突き、クリュウはカミ砕きで植物を切り裂く。そして返す刀でドラゴン部分にも反撃した。
 硬い。カミ砕きを持つクリュウの手が、軽く痺れを覚えた。シュヴァルト達の鱗は簡単には破れそうもない。しかし彼らに対抗できるほど、今のクリュウも硬いのだ。このクリュウの防御力は、ユーベルコード【トリニティ・エンハンス】の賜物であった。
「これは持久戦だね……粘り強くいこう」
 そこからは、一瞬も休まる暇のない、激しい攻防の連続だった。
 襲い来るつるをクリュウが斬り、別方向から迫ったつるがクリュウを打ち据えれば、つるを巻き込むようにドラゴン部分へクリュウが斬りつける。クリュウにもシュヴァルトにもだんだんと傷が増え、つるとカミ砕きの乱舞に、血の華があちらこちらで咲く。
『ギャウ……ッ!』
 一体のシュヴァルトがよろけ、後退した。クリュウの一撃が、横一線にシュヴァルトの胸をえぐったのだ。魔力で守られているドラゴンの鱗を、これだけのあいだ攻防を続けておいて、なお威力を増してクリュウが切り裂いたのには理由がある。
「ドラゴンの血って、やっぱり高級なだけはあるね」
 のんびりした口調とは裏腹に、クリュウは鋭くカミ砕きをシュヴァルトの胸に撃ち込んだ。
『ギャアアアアーーーーー!!』
 心臓を貫かれ、血しぶきが上がる。まともに血を浴びたクリュウだったが、彼の外套が赤から、元の闇色へと色を戻していくではないか。――外套が血を吸い、クリュウへと取り込んでいるのだ。ドラゴンの魔力も、そして生命力までも。
 クリュウが力を増していたのは、これまでに散ったドラゴンの血を吸っていたからだ。
『ギゥッ……』
 ボロボロになっていた残りの二体は、何が起こっているのか理解できず、渾身の力でつる植物を差し向ける。クリュウは一閃。さらに威力を増したカミ砕きがうなり、迫るつるごと、シュヴァルト達を深々と斬り裂いた。赤が舞い、シュヴァルト達の命を散らす。
 二体分の血も吸ったクリュウの腹は、だが、まだまだ満腹には至らない。
 クリュウは、さらに強くなる。
「そういや」
 ふと、魔力の充実している今なら、敵の大規模な魔術とやらについて、何か判るかもしれないと考えがよぎった。クリュウはマジックナイトでもあるのだ。
 感覚を広げれば、確かに魔力は奥に向かって集まっている。
 今の鋭敏な魔力感覚を、その奥へと向かう魔力に重ね、感じ取ろうとすれば――
 ――見えた。星のイメージ。空にきらめく、無数の光。
「星?……ちょっと、早く止めたほうがよさそうな気がするね」
 クリュウは形のいい眉をしかめると、カミ砕きを構え直し、シュヴァルト達を片付けるために駆け出すのだった。片付けついでに、きっと腹ごしらえもできるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テラ・ウィンディア
英雄…英雄か
ああ…おれだってこの世界のエルフだ
英雄に憧れない訳がないさ
だから…一つ…災厄の手先足る龍に抗おう

UC発動!
紅龍に乗るぞ!

植物に乗っ取られたドラゴン…それにおれと紅龍が負ける道理なしだ!そうだろ!

紅龍
きゅあきゅあっ
きゅあー!(以下紅龍プレイング&ドラリンガル

さて
同じ龍としてのよしみで引導を渡すとしますか

【見切り・第六感・残像・空中戦】を駆使して空を飛び回りながら回避します
テラ!振り落とされないで下さいよ!
【属性攻撃】で超高熱属性を私とテラに付与
テラのグラビティバスターと私のプラズマレーザーブレスを【一斉発射】で

須らく焼き払ってやりましょう!

尚迫る敵に
テラ
おれが斬り捨てる!
剣太刀猛攻!



 いつも強気なエルフの竜騎士、テラ・ウィンディアは、珍しく神妙な面持ちだった。
「英雄……英雄か。ああ……おれだってこの世界のエルフだ。英雄に憧れない訳がないさ」
 テラは拳を握りしめると、キッと顔を上げ、戦場を見据える。
「だから……一つ……災厄の手先たる龍に抗おう」
 覚悟を決めたテラの周囲を、炎が取り巻いた。
「来たれ炎を統べし大いなる神龍よ」
 詠唱とともに、炎は渦巻き勢いを増していく。
「我が盟友として共に武を示せ!!」
 テラのユーベルコード【小紅龍招来(チビコウリュウショウカン)】が発動し、火柱が突き上がった。振り払うように空中に姿を現したのは、紅蓮の炎を纏った東洋龍『紅龍』と、騎乗したテラだ。
「植物に乗っ取られたドラゴン……それにおれと紅龍が負ける道理なしだ!そうだろ!」
「きゅあきゅあっ、きゅあー!」
 紅龍が肯定の声を上げる。
 そんなテラと紅龍を、シュヴァルト達は鋭く睨みつけた。飛行する相手には飛行を、とばかりに翼を広げて飛び立ち、彼らは威嚇するように吼える。
 テラはそれを聞き、目を見開いた。
 龍言語魔法の使い手でもあるテラは、龍の話す言葉が分かる。それは耳で聞くだけにあらず、心でも感じるものだ。だからテラは心で理解した。シュヴァルト達は、毒花に精神を侵されている。彼らが、今や単語しか発せないような状態なのだと、心にありありと伝わってきた。
「……奥にいる奴のせいかよ。酷いことしやがる……」
「きゅきゅ、きゅあっ、きゅあー!」
(同じ龍としてのよしみで引導を渡すとしましょう。テラ!振り落とされないで下さいよ!)
「そんなヘマはしないさ。そうだな、あの龍達に引導を渡してやるか、紅龍!」
 頷いた紅龍が動き出せば、シュヴァルト達も爪を立てて次々と襲いかかって来る。
 迫るシュヴァルトの巨体を、小回りのきく紅龍がすり抜けて回避する。だがその先にいた別のシュヴァルトが、逃げ場をふさぐように紅龍に噛みついた。グシャア!――だが、それは残像だ。紅龍のスピードはさらに増し、空中を埋めるシュヴァルトの群れをぬって、彼らの上方に到達する。
「きゅあーーー!」
 炎を統べる神龍は、自身とテラに超高温属性を付与した。テラ達から押し寄せた熱波に、シュヴァルト達がのけぞる。
「今だ!」
 テラの精神に呼応して、変形型の星霊重力砲が自動で起動し、組み上がった。
「きゅきゅうっ……!」
 それに合わせるように、紅龍の口に炎が集まり、さらにエネルギーを増してプラズマと化していく。
「圧し潰せ!グラビティ・バスターーー!!!」
「きゅあーーーーーーーー!!!」
 テラの放つ重力波砲と、紅龍のプラズマレーザーブレスが重なり、シュヴァルト達を呑み込んだ。
『『『ギャグアァアァアーーーーー!!』』』
 重力で潰されて割れた鱗では、超高エネルギーのブレスは防げない。そうでなくても、シュヴァルト達は炎に弱い植物なのだ。
 真っ白な光がやんだとき、シュヴァルト達は焼け焦げ、地に落ちていた。だが、まだ動けるらしい。なんと彼らは、自らを噛みちぎり、爪で裂き、満身創痍の身体をさらに傷つけ始めたではないか。
 いや、違う。
 使えない部位を切り落とし、組織を増殖させて修復するつもりだ。しかしそれには、耐えがたい苦痛を伴うはず。
 テラには聞こえた。操られたシュヴァルト達の声が。
(マジュツシサマ……マモル……マジュツシサマ……マモル……)
 壊れた機械のようにうわ言を繰り返す彼らに、テラは知らず、奥歯を噛みしめていた。
 治りきらない脚でよろよろと立ち上がり、彼らはまた、激しい敵意を向けてくる。自らの意思ではない、植えつけられた敵意を。
 テラは叫んだ。
「おれが斬る!」
 テラが抜いて構えたのは、星刃剣『グランディア』だ。赤き小剣はテラの強い思いによって爆発的に燃え上がり、そうして、炎の逆巻く大剣となる。
「きゅあーー!」
 紅龍が天井近くから急降下した。グランディアが赤く尾を引き、自己修復中のシュヴァルト達に迫る。
「うおおおおおお! 剣 太 刀 猛 攻 !!」
 紅龍とテラの炎が、シュヴァルトの群れを斬った。それは神速というに相応しい閃き。
 ――訪れる静寂。
 そして、一斉にシュヴァルト達が燃え上がる。彼らはようやく、その呪われた生に幕を閉じたのであった。
 テラはそっと目を閉じ、龍達の冥福を祈る。
 だが、そうしてばかりもいられなかった。
 遠く聞こえる翼の音。威嚇する叫び声。第三陣の、シュヴァルト達が送られてきたのだ。
「……行ってくれるか。紅龍」
「きゅあっ、きゅあーーー!」
(もちろんですよ!しっかり掴まって下さい!)
「ああ!」
 やってくる龍達を見据えたテラの顔に、もう一切の戸惑いはなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

杜鬼・クロウ
【宿神】
アドリブ◎
仲間と連係

一難去ってまた一難か
最初にノトスの世界を創った唯一無二
其れを創り操った災厄の魔術師
ノトスを狙うとも言ってたか…

今度はどうやらステラに所縁がありそうだなァ
皮肉な話だ
「英雄」を蒐集し災厄を振り撒き何とする
ち、胸糞悪ィぜ

【沸血の業火】使用
敵の植物が追いつけない速度で回避、撹乱(見切り
カウンターで十字斬り
敵を蹴りジャンプ
反動つけ空中から斬撃
戦力削る
玄夜叉に紅焔宿しステラと前線でトドメ刺す(2回攻撃・部位破壊

英雄たる資格なんざ生憎持ち併せていねェよ
背負うは贖罪と故人の想いだけ
先導は精々手が届く範囲迄
それでも
己が役目を果たす為
只突き進むのみ
俺の路がある其の先へ

異の眸が竜を射抜く


出水宮・カガリ
【宿神】ステラ、くろ(クロウ)、オルガンの(ノトス)と

ステラに因縁がある、魔術師
話だけは、聞いたことがあるな
そのものと、オルガンのの因縁が、絡んでいると
過去より染み出たもの、オブリビオン
このような事も、有り得るのか

それにしても、嗚呼、嗚呼
カガリは『英雄』を何より嫌うのに、猟兵に『英雄』の形を取らせるのか
『英雄』とは、壁の内に守られるべきひとが、勇気を以て力を得た形
城門から自ら出ていく、カガリが守れないひと
……そんなものを求めるものは、疾く駆逐せねば

【異装城壁】で、宮殿の壁や天井、床や柱などをかき集め鎧として纏おう
屋内の構造を乱しつつ、敢えて逃げやすそうな隙間を残す
隙間の先が、竜の墓場だ


ノトス・オルガノン
【宿神】
災厄の魔術師
私が知っているのはその名だけ
願わくば、ステラの言う人物ではないと思いたいが
ただ、そいつがリヒトを…それだけは間違いない
リヒトが残した言葉と、英雄を見出だし、災厄を振り撒くというそいつの真の目的
…分からないことだらけだ

まずは目の前の厄介事を片してから、だな
UC:Organum使用
出水宮と息を合わせ、追い詰めた所をさらに動きを止める
植物部を切断しないように、針のようにしたパイプで刺し、ステラと杜鬼が燃やしやすいように縫い止める

…ステラ、キミの憂いは、分かるつもりだ
私も、そうだったから…
私の時は、杜鬼が力を貸してくれた
今度は私が力を貸す番だ
キミの憂いを断つためにも、力を尽くそう


ステラ・アルゲン
【宿神】
災厄の魔術師
ノトス殿達の話に聞いた黒幕の名ですか
その名に覚えはありません
ですがある魔術師と外見の特徴が似ている

――虹の魔術師
我が主を英雄と見出した者
流星剣の作り手
親と呼ぶならば彼ですが……貴方ではありませんよね?

まずは竜退治を
植物に変異するとなれば【赤星の剣】による炎で焼き払いましょう
カガリが道を狭めてくれるならばそれに合わせて追い込む
ノトス殿に動きを止めてもらいクロウ殿と共に炎でトドメを

嘗て我が国も赤い竜に襲われた
虹の魔術師の助力もあり主達は犠牲を払いながらも退治しました
まさか竜の災厄も貴方が招いたものだったのですか?
ならば『英雄』と呼ばれた主の功績は?
彼を導けと言われた私は……



「最初にノトスの世界を創った唯一無二。其れを創り操った災厄の魔術師」
 カツンと靴音を立てて宮殿に足を踏み入れた、顔ピアスをした黒衣の男。ヤドリガミのマジックナイト、杜鬼・クロウだ。
「一難去ってまた一難か」
 クロウは傍らに立つ、聖職者のような出で立ちの青年――ヤドリガミのシンフォニア、ノトス・オルガノンに目をやった。クロウにとって、見ること、目に映すことには特別な意味がある。
 ノトスは、きゅっと口を結んで押し黙ったまま。
 そんなノトスに、クロウは軽く声をかけた。
「そういや、ノトスを狙うとも言ってたな……」
 クロウなりの、不器用な気遣い。ノトスは憂いがちな顔を少しほころばせたが、クロウの言葉に対しては軽く首を振る。長い黒髪がさらりと揺れた。
「災厄の魔術師。私が知っているのはその名だけだ」
「――災厄の魔術師」
 凛とした声が、その者の名を繰り返す。その場にいる皆が、声の主に注目した。白い騎士服。青のマント。ヤドリガミの王子様、ステラ・アルゲンだ。
 ステラの隣では、大きな盾を持ったヤドリガミのパラディン、出水宮・カガリが優しい眼差しをステラに向けている。
 ステラは、ノトスとクロウに語りかけた。
「その名は確か、ノトス殿達の話に聞いた黒幕の名でしたね」
 それは少し前のこと。
 ノトスとクロウは、ある事件に臨んだ。村じゅうの子供がいなくなる怪事件。引き起こしたのは、ノトスの大切な人物のオブリビオンであった。彼は何者かに操られていたのだが、奇跡的に短い間だけ回復し、自分を操った者の名を遺して消滅した。その者の名こそが、『災厄の魔術師』。
「私にはその名に覚えはありません……、ですが」
 ステラは少し口ごもる。無意識にステラは、ちらとカガリを見ていた。彼と目が合う。
 カガリは変わらず、穏やかに見守ってくれていた。それが、どれほど心強かったことか。彼に守られていると感じた途端、不安が影を落としていたステラの胸中に、安心が広がっていく。
 ステラは一呼吸置いてから、続きを口にした。
「ですが、ある魔術師と外見の特徴が似ています」
「其れは?」
 クロウが問う。ひとつも映し漏らさないよう、二色の双眸でステラを見つめて。
「――虹の魔術師。我が主を英雄と見出した者。流星剣の作り手。私が親と呼ぶならば彼ですが……」
 ステラは、遥か宇宙を旅し、この世界に降った流星であり、その星から作り出された剣のヤドリガミである。虹の魔術師という高名な魔術師に選ばれた、とある英雄に、かの魔術師から託された希望の剣だ。その魔術師の姿と、グリモア猟兵の告げた敵の姿が、あまりにも一致している。
 彼女――ステラは女性の王子様だ――の心が、過去を口にしたことで、ざわざわと乱れていく。しかし彼女の、騎士という仮面は厚い。そんな素振りはおくびにも出さない。
 んー……、と隣でカガリがうなる。
「ステラに因縁がある、魔術師。話だけは、聞いたことがあるな」
 カガリは、ステラを守りたいと強く思う。それは彼の意志であり、彼の魂。
 カガリは鉄門扉のヤドリガミだ。内と外を隔絶し、脅威から防ぎ、守る者。かつて大切なものを守り通せなかった彼の無念は、今や強い信念として胸の内に焼きついている。今、何者かにおびやかされているのがステラなら、その思いはことさらだ。
 ……だが。カガリはあまり、難しい話は得意ではない。
「そのものと、オルガンのの因縁が、絡んでいると。過去より染み出たもの、オブリビオン。このような事も、有り得るのか」
 クロウも肩をすくめてみせる。
「今度はどうやらステラに所縁がありそうだなァ。皮肉な話だ」
 軽口に滲むのは、クロウなりの心配。ノトスも同じく、ステラの心境を思い、白百合の杖をぎゅっと握りしめた。
「願わくば、ステラの言う人物ではないと思いたいが。ただ、そいつがリヒトを……それだけは間違いない」
 白百合を見つめながら思い出す、キミの顔。最期にキミは、酷く心配そうな顔で消えていった。笑顔のひとつも、キミには残せなかった――。
 ノトスの口が震えるが、声には出さぬよう。今つらいのは、自分ではない。ステラなのだから。
「……リヒトが残した言葉と、英雄を見出だし、災厄を振り撒くというそいつの真の目的。分からないことだらけだ」
 ふぅと、ため息が口をついてしまうのは仕方がない。ノトスから感染するように、クロウもため息をついた。クロウは愛剣・玄夜叉(アスラデウス)を肩に担ぎ、片眉を吊り上げる。
「『英雄』を蒐集し災厄を振り撒き何とする。ち、胸糞悪ィぜ」
 『英雄』。その言葉に、無言でカガリは顔を曇らせた。
 皆が話す中、途中から口をつぐんでいたステラは、胸中で小さく呟く。か細く、揺れるように。
(虹の魔術師……貴方ではありませんよね?)
『ギャオオオオーーーーッ!』
 その雄叫びでステラは我に返った。皆も戦いの顔になる。
 シュヴァルトの群れが、目視可能な所まで迫ってきたのだ。
 カガリは盾を構え、前に出る。
「カガリが、内と外を、分けよう。その境に、隙間を作る」
「なるほどな……其れなら俺が、其の隙間に奴等を追い込む」
 クロウがアスラデウスを構え、カガリよりも前へ、カガリの「外」へと進み出た。
「では、私は「内」から、あの竜を迎え撃ちましょう」
 ステラもすらりと剣を構える。自身でもある、流星剣を。
 ノトスは白百合の杖「Lily」に意識を重ね、静かに言う。
「ならば私は、カガリを手伝おうか。彼らに出口は不要だろう?」
 広間にはいくつか廊下が通じている。そこからシュヴァルトを逃がしてしまっては意味がない。
 全員が臨戦態勢に入る中、最もシュヴァルトに近いクロウが、すぐ後ろのカガリに背を向けたまま、彼にだけ聞こえるよう語りかけた。
「顔色、悪ィなカガリ。『英雄』って聞いてからか」
 クロウはしっかり目に映していた。カガリのほんの小さな変化まで。
「……くろは、すごいな。……カガリは、『英雄』を、何より嫌うのに。猟兵に、『英雄』の形を取らせるのか。この奥に、いるものは」
「ほう。何より嫌うってェのは?」
「『英雄』、とは。壁の内に、守られるべきひとが。勇気を以て、力を得た形。城門から自ら出ていく、カガリが守れないひと。……そんなものを求めるものは、疾く駆逐せねば」
「猟兵が『英雄』なァ……。俺は『英雄』たる資格なんざ、生憎持ち併せていねェよ。背負うは贖罪と故人の想いだけだ」
 カガリは無言で、クロウの言葉を反芻する。贖罪と、故人の想いを背負う。それは、カガリとて同じだった。
 クロウは前を見据えたまま、朗々と続ける。
「先導は精々手が届く範囲迄。それでも、己が役目を果たす為、只突き進むのみ。俺の路がある其の先へ」
「くろの路……、役目なら、カガリにもある。カガリの役目は、守ること。くろ、くろ。いくらでも、暴れていい。カガリは、外の脅威を、全て拒絶してみせる」
「応、其れなら派手に往くとするわ。カガリ。さっさと雑魚共を蹴散らして、『英雄』を押し付ける糞野郎に一発かましてやンぜ」
「ああ、ああ。そうしよう。こんな竜に、城門は破れない」
『『『ギャオオーーーーーーーー!!』』』
 雑魚だの何だの言われたシュヴァルト達は、怒りをあらわにした。
 カガリが、ダン!と鉄門扉の盾を地に立てる。
「人には至れぬ、異装の城壁。この扉より、形を成せ」
 バリ……ガリッ、バキバキッ……!
 宮殿の壁や天井、床や柱までもが大きな音を立てて砕け、カガリへと引き寄せられていく。それらは組み合わさり、広間に横たわる城壁となった。大きな物、小さな破片、いびつに固まった壁は異様の一言。
 ノトスが間髪入れずにLilyを掲げる。
「風の裂かれる音、聞いた事があるか?」
 キィィン――!
 甲高い音とともに、広間の出口が数多の鉄の棒で封鎖された。棒が伸び刺さる時に聞こえた音は、棒――いや、オルガンパイプの中を風が高速で通過して鳴ったものだ。それはまるで、風の上げた悲鳴。
 こうして広間に城壁を成したのは、カガリのユーベルコード【異装城壁(イモータルウォール・オーバービルド)】。そして出口をふさいだのは、ノトスのユーベルコード【Organum(オルガノン)】。二つが合わさり、広間はがらりと姿を変えた。
 ノトスが短く呼ぶ。
「杜鬼!」
「応!」
 クロウは目を閉じ、己が血をユーベルコードに捧げる。それは、戦いにおいて決定的なアドバンテージをとなる、「速度」を得るための代償。
「我が身に刻まれし年月が超克たらしめ眠る迅を喚び覚ます。獄脈解放(ヘレシュエト・オムニス)――凌駕せよ、邪悪を滅する終焉の灼!」
 クロウの筋肉量が一気に増加した。クロウのユーベルコード【沸血の業火(メギドフレイム・ブラッド)】だ。
 異様な雰囲気を感じ取ったシュヴァルト達を、突如、紅蓮の炎が包んだ。
『『『ギャアアアーーーー!!』』』
 その炎は、ステラの剣から放たれた。シュヴァルト達は焼かれながらも、翼で風を送り、鎮火しようとあがく。
 すると、炎から目にも留まらぬ速さで飛び出した影が、シュヴァルトを蹴り、宙へと跳んだ。
 クロウだ。ステラの炎は攻撃でもあり、目くらましでもあった。シュヴァルト達は、あっさりとクロウの接近を許してしまった。
「うらァ!!」
 振り上げたアスラデウスを、クロウは反動をつけて高速で振り下ろす。速度は運動エネルギーに直結し、破壊力を増大させる。
『ガアッ!』
 シュヴァルトは鱗もろともバッサリと斬られ、くの字に折れたまま地に叩きつけられた。
 仲間の死を見て取ったシュヴァルト達は、一斉に逆上し、吼える。四方八方から、つる植物がクロウに迫った。
「遅い」
 だが、つる植物の動きは、クロウにはスローモーションに見えた。くぐり抜け、回避しきると、今度は高速で駆け出す。シュヴァルト達は駆け回るクロウを捕えんとして、彼の術中にはまっていく。クロウに集中し、追うあまり、城壁のほうへとだんだん集められていく。
 キンキンキン! キンキンキン!
 オルガンパイプが床に突き立ち、シュヴァルトの活動範囲を狭めた。それは檻。少しずつ領域を削り、迫りくる牢獄だ。
 目に見えて追い詰められ、シュヴァルト達は焦燥感を覚える。慌てて打ち出したつるが、クロウの居た場所を打ち据える。だがすでにクロウは居ない。
「身体が伸び切ってンぜ」
 シュヴァルトの目前に出現した異の眸が、竜を射抜く。びくりと固まったシュヴァルトに、クロウは残像を伴う連撃を叩き込んだ。
「ハッ!!」
『ギャアアアーーーッ!!』
 十字に斬られ、吹き飛んだシュヴァルトが、カガリの城壁にしたたかに打ちつけられた。だがカガリはびくともしない。それどころか、小さな破片ひとつも綻びない。身体に刻まれた不落の傷跡がある限り、カガリがあの無念を抱く限り、カガリの内に脅威が通ることはないのだ。
 シュヴァルト達はノトスの檻の中、じわじわとクロウに滅ぼされる未来へと追い詰められていた。
 その時。
 彼らはこの檻から抜け出す、ひとつの光明を見つけた。城壁の一角。大きな素材ばかりで組まれた箇所に、シュヴァルトがぎりぎり通れるだけの隙間があったのだ。
 再び唐突に、シュヴァルト達に炎が放たれる。もはや狭まりきった中では、炎を消すこともままならない。シュヴァルト達は我先に、城壁の隙間へとなだれ込んでいく。この粗雑な造りの壁に、感謝すらした。
 城壁の主は、ぽつりと呟く。
「隙間の先が、竜の墓場だ」
 抜けた先には、炎の剣を構える白服の騎士が立っていた。
 ステラ・アルゲン。彼女の気迫にぎょっとして、シュヴァルト達は反射的に左右に逃げようとする。
 ふっと、ノトスの額に、フルール・ド・リスの文様が浮かび上がった。
「逃がしはしない、Organum(オルガノン)!」
 針状に細く伸ばしたオルガンパイプが、次々と降っては刺さり、シュヴァルト達をその場に縫い留める。シュヴァルト達は、今や直線上に連なったまま、身動きも取れない。
 城壁の内側で、ステラの流星剣に刻まれた魔力刻印が、煌々と赤の光を増していく。
「赤く燃えろ、我が星よ」
 ステラは炎の逆巻く剣を、右肩に引いて構え、シュヴァルト達へ真っ直ぐ刺突した。勢いを増した炎が剣の先へ延び、シュヴァルト達を貫いていく。これぞステラのユーベルコード――
「赤星の剣(アカボシノツルギ)!!」
 クロウの黒魔剣もまた、紅焔を宿し、後方からシュヴァルト達を刺し貫く。
「燃やし尽くせ、玄夜叉(アスラデウス)!!」
 カガリの「内」と「外」から炎が中間点へと走り、貫通した。
『『『ギャグアァアアァーーーー!!』』』
 断末魔の大合唱が響き渡る。
 彼らが燃え落ちるのに、それほどの時間はかからなかった。だんだんと叫びが収まっていき、動きもなくなっていく。
 やがて、全てのシュヴァルトが、息絶えた。
 するとどうしたことか、シュヴァルト達が消えていくではないか。目の前のものだけではない。ほかの部屋や廊下にあった死体も同様に、空気に溶けるようにして消滅していく。
 あとには、戦いの痕跡だけが残った。
「合格、ってコトかねェ。『英雄』とやらに」
「んー……」
 クロウが呆れたように呟けば、カガリが不満げにうめく。
 剣を収め、竜が消えた跡をぼうっと見つめたままのステラに、ノトスが心配そうに歩み寄った。
「ステラ、大丈夫か?」
「え?……ええ、大丈夫ですよ」
 にこりと微笑む、いつも通りの凛々しいステラ。――ではないと、誰の目にも映った。
「ステラ、ステラ。嘘は、苦しい。ステラが苦しいと、カガリも苦しい」
「カガリ……」
 ステラが見やれば、カガリは眉根を寄せていた。心配の色を、深く瞳に落として。
 だからだろうか。ステラの口が、ゆっくりと、普段は決して出さない弱音を漏らしていく。
「……嘗て、我が国も赤い竜に襲われたことがあります。虹の魔術師の助力もあり、主達は犠牲を払いながらも竜を退治しました」
 皆、黙って耳を傾ける。
「今、こうして差し向けられた竜達に、あの時の竜の災厄が重なるのです……。あの時の竜は、考えてもみませんでしたが、災厄が起こるまではどこにいて、なぜ我が国に……?」
 ステラの顔が、だんだん青ざめ、うつむいていく。
「まさか、あの竜の災厄も、虹の魔術師が招いたものだったのでしょうか?ならば『英雄』と呼ばれた主の功績は?主を導けと、虹の魔術師に言われた私は……」
「ステラは、ステラだよ」
 ステラがハッと顔を上げれば、どこか痛みを滲ませたノトスの微笑みが目に入った。
「……ステラ、キミの憂いは、分かるつもりだ。私も、そうだったから……。私の時は、杜鬼が力を貸してくれた」
 ノトスは、クロウに目をやる。釣られてステラもクロウを見た。
「なァに、俺がしてェから勝手にしてるコトだ。だから俺は良い。自分を見つめろ、ステラ。お前の為すべきを為せ」
 からりと笑うクロウに、ノトスは頷く。
「ああ。今度は私も、力を貸す番だ。キミの憂いを断つためにも、力を尽くそう」
「うん、うん。カガリは何があっても、ステラを守る。ステラが迷うなら、ステラが安心して迷えるように、守ろう」
 ステラは胸に溢れてくる気持ちに、押し開かれるように目を丸くしていたが、カガリの言葉でふっと破顔した。
「安心して迷うって何ですか……。ふふ、でも、そうですね。なんだか……安心しました」
 ステラは微笑みを浮かべ、一度目を閉じる。そうしてから、目を開き、改めて皆を見渡した。
 優しく微笑むノトス。不敵で自信に溢れたクロウ。そして、変わらず見守ってくれるカガリ。
 ステラの目に、希望が戻ってくる。
「ありがとう、ノトス殿、クロウ殿、……カガリ。私は一振りの剣として、この憂い、必ずや断ち切ってみせましょう」
 全員が、力強く頷いた。
 一体この先に待ち受けるのは、どのような真実か。災厄の魔術師とは何者なのか。そして、何が目的なのか。
 全ての答えは最奥の部屋にある。猟兵達は宮殿の奥へと、歩みを進めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『災厄の魔術師』

POW   :    災厄を乗り越えて、立ち向かう姿を僕に見せてくれ!
対象への質問と共に、【災厄を収めた匣】から【災厄】を召喚する。満足な答えを得るまで、災厄は対象を【最も恐れる存在に変身する事】で攻撃する。
SPD   :    君の嫌いなものは何? それを打ち破って見せてよ!
戦場全体に、【対象が最も見たくないと思う存在】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ   :    君は選ばれし者だ。僕の予言は絶対だよ?
【望む未来を指し示した予言】を披露した指定の全対象に【予言を信じ、どんな行動でもしようとする】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。

イラスト:エル

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はステラ・アルゲンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 最奥の部屋は、変わった造りをしていた。
 天井まで届き、手前から奥までを埋める巨大な本棚が左右にあり、その間をやや広い通路が伸びる。左の本棚の本には、背表紙に人名がずらりと並んでいるが、右の本棚の本にはどれも、背表紙に何も書かれていない。
 通路の先に、背を向けたとんがり帽子の人物がいた。
 人物の髪は激しくはためいている。虹の水晶のロッドに大量の魔力を練り上げているようだ。魔力が臨界点に到達した瞬間、人物はロッドを高く掲げた。
「大魔法!プロシデンス・ステラ!!」
 左の本棚から、無数の光球がロッドに集まり、人物は光球ごと魔力を上へ打ち上げる。エネルギー体であるそれは、天井をすり抜けていった。
 くるり。人物が何事もなかったかのようにこちらを向く。
「やあ、ようこそ英雄たち!今の魔法がなにか、気になるだろう?」
 無邪気にニコッと笑う彼――災厄の魔術師は、ロッドをくるくると回す。
「あれは流星群の魔法。もうしばらくしたら、ここら一帯に星……星っていうか、魔力結晶が落ちてくるんだ。村三つくらいは吹き飛ぶんじゃないかな?ふふ、結晶の核は僕の自慢のコレクションさ。英雄たちが災厄を乗り越えたストーリー、素晴らしい英雄譚だ!僕の魔力で包んでるから、燃え尽きることもないよ」
 とんでもないことを、災厄の魔術師は歌うように口にする。
「君たちにはタイムリミットが課された。僕を倒せれば、魔力の消えた結晶は大気圏で燃えて、被害なく済むだろう。そう、君たちに立ちふさがる最大の災厄は……この僕というわけさ!さあ、英雄たち!村三つ分の命と、君自身の命のために、僕を打ち破ってみせてよ!」
 災厄の魔術師がロッドを振ると、本棚が左右の奥へとスライドし、ガンと音を立てて空間が開ききった。戦うには十分すぎる広さだ。
 ゴッ!
 猟兵達を、魔術師から発せられた魔力が圧倒する。魔術師は笑みを深めた。
「君たちがどんな英雄譚を見せてくれるのか、楽しみだよ」
御剣・刀也
最も恐れる存在ね
確かに、最も恐れる存在だ
俺が守るって決めた女が攻撃してくるんだから
だけど、気配で偽物か本物かはわかる。こんな幻で俺が止まると思うな!

質問には素直に自分の気持ちをこたえつつ、災厄が自分の愛する女性に化けて攻撃してきても、第六感、見切り、残像で攻撃をよけ、勇気で偽物に対して捨て身の一撃を打ち込み斬り捨てる
「確かに、惚れた女に化けられるのが俺は一番怖い。あいつが俺を攻撃するはずないからな。が、だからこそ、偽物だとわかりやすい。気配もよく知ってるし、あいつが攻撃してこないことも分かり切ってる。そういう意味で、悪手だったな。坊主」



「天武古砕流剣術を正統に受け継いだ英雄、御剣・刀也。お目にかかれて光栄だよ」
 災厄の魔術師が、人間の剣豪、御剣・刀也にお辞儀をする。
「そう思うなら防御を解いてから言え」
 ふてぶてしく刀也が返した。
 魔術師には隙らしい隙が見当たらない。強い者との戦いは好ましいが、どうしたものかと刀也は考える。
「ふふっ、すぐにやられたら、素晴らしいストーリーにならないじゃないか」
 弾むような声で、じゃん、と魔術師はひとつの匣(はこ)を取り出した。彼が匣の上ぶたを開けると、白に虹色が混ざる煙がもうもうと立ち昇り、刀也をドーム状に包んでいく。
「これが災厄とやらか?」
 刀也は何に対しても反応できるよう、自然体に近い体勢で構えた。
『そう、これが君に与えられた災厄だ!』
 ドームに反響する、災厄の魔術師の声。
 確かグリモア猟兵は、魔術師が仕向けてきた災厄を乗り越えれば、魔術師に隙ができると言っていた。つまりこの煙に対処すればいい、ということだ。
『でも、それだけじゃつまらないよね。ひとつ、問いをしようか。それに答えられたら、この災厄は消え去っていくよ』
「問い?下らない余興はいい。さっさとかかって来い」
「ではお望みのままに」
「!?」
 鈴のような声とともに、煙から刃が薙ぎ払われた。長い武器のリーチから逃れきれず、跳びすさった刀也の胸が浅く切れる。連撃を警戒し、刀也はさらに距離を取った。
「……おいおい」
 煙の中から進み出たのは、青から白へとグラデーションする三つ編みが特徴的な、青い星衣の女だった。偃月刀のような刃をした、一振りの薙刀を手にしている。
 いや、気配で女が偽物だとは分かる。分かるのだが、想い人の姿で攻撃されれば、刀也とてげんなりするというもの。
『災厄は気に入ってくれたかな?じゃあ、問いをしよう。君の剣術の弱点はなんだい?』
「は?弱点なんかあるわけがないだろう」
 威嚇するように刀也が言い放つ。
「それでは答えになりません、刀也さん。ハッ!」
 氷属性の衝撃波が、女の薙刀から放たれた。地面が凍っていき、鋭いつららの群れが迫り来る。
 刀也は腕輪に念じ、刀へと変化させる。掴み取り、衝撃波を力強く縦に斬り裂いた。この刀は、本物の彼女から贈られた霊剣、鬼星刀:陽皇。彼女との、真の絆だ。
「じゃあなにか、てめぇは俺の剣が弱いとでも言いたいのか」
「いいえ、今だって、私の攻撃は斬られてしまいましたものね。ですけれど……この私が弱点、だとは言ってくれないのですか……?」
 女は悲しげにしゅんとする。その顔で、その声で、その琥珀色の瞳で。
 いらっとした。
「ほざけ……っ」
 苛立ちとともに振るった刀は、しかし常の鋭さを欠いた。
 女が刀也の刀をいなすと同時に、刀身から雷が伝う。手が鋭く痛んだが、刀也は決して、この絆を取り落としたりはしない。
 好機を得た女が、雷を纏った薙刀を振るい、舞う。それは息もつかせぬ連撃。よく知る太刀筋を、勘を頼りに見切って避けていくが、女の舞いはどんどんと速度を増し――
「そこです!」
 女の一撃が刀也の首を払った、ように見えた。残像だ。
「終いだ」
「くッ」
 ガキン!
 後方に現れた刀也の袈裟斬りを、女は薙刀の長い柄で止めた。だが威力を殺しきれず、地を擦って後退する。
「先にてめぇの喉を潰す。その声で喋るな」
「あら。私が相手では気が散りますか?」
 女は嬉しそうにクスクスと笑う。その笑い声が、余計に腹立たしい。彼女の笑みは、刀也にとって、心から大切なものであるだけに。
「私はね、刀也さん。刀也さんになら……全てを捧げてもいい、と思っているんですよ」
 そう言うや、女は何を思ったか、自らの星衣に手をかけて、今この場で脱がんと……
「やっ、やめろ!」
 慌てて斬撃を振るう刀也。女を本物だとは思っていないが、彼女の姿で裸体を晒されるのは我慢ならない。
「雑な太刀筋ですね」
 女は柄を回して刀を弾き、その回転のままに刀也を斬り上げる。流れるような女の舞いに、刀也の鮮血が華を添えた。
「があっ!!」
 走る痛みが、刀也を逆に冷静にした。体勢を無理にでも戻して、自身の隙をカバーし、慎重に素早く後退する。
 追撃を入れられなかった女は、だが、優勢と見て取ったのか、薙刀を構え直した。
「先ほど言いましたね。終いだと。今度こそ、お終いにしましょう」
「……くっ。ははっ」
「? 何を笑っているのですか?」
「そうだな。確かにそうだ。認めよう。俺の剣にも弱点はあった。だが、それが分かった今、もうてめぇに勝ち筋は無い」
「……負け犬ほど、よく吠えるといいますけれど」
「だったら剣で示してやろう。これで終いだ」
 互いに武器を構える。
 訪れる静寂。達人同士の、無言の探り合い。
 そして同時に動いた。
 速いのは、女!
「ハアアッ!!」
 高速で風を切る刃に、刀也は防御を捨て、大上段から力の限りに刀を振り下ろす。迷いのない、鋭さを極めた太刀筋。これぞ天武古砕流の神髄――
「雲耀の太刀(ウンヨウノタチ)!!」
 彼女との絆・陽皇が薙刀を両断し、そして女をも、一刀のもとにダン!と斬り裂いた。
「キャアアアーーーッ!」
 悲鳴を響かせ、女が煙へと変じて散っていく。刀也は、陽皇を腕輪の形へと戻した。
「……俺の剣の弱さは、俺の心の弱さだ。俺の心が揺るがない限り、俺の剣も揺るがない」
 腕輪の星飾りが、優しくきらめいたようだった。
 ――パチパチパチパチ
『素晴らしいよ、素晴らしい!最も恐れる存在を前にして、己の心の弱さを認め、意志の力で乗り越える。なんて美しい英雄譚なんだ!』
 周囲の煙も薄れていき、無邪気に拍手をする災厄の魔術師の姿が見えてきた。
「最も恐れる存在ね。確かに、最も恐れる存在だ。俺が守るって決めた女が攻撃してくるんだから。だけど、気配で偽物か本物かはわかる。こんな幻で俺が止まると思うな!」
「ふふっ、お見事だったよ。ほら、こんなに綺麗な輝きを放ってる」
 魔術師の前には、青い光球が浮かんでいた。先ほど、本棚からロッドに集まったものと同じだ。
「それじゃ、君の英雄譚も星にしようか!そーれっ」
 魔術師はるんるんと浮かれながら、光球を上へと打ち上げる。その姿は、まるで隙だらけだ。
「意味が分からん。さっさと消えろ」
 刀也は真正面から、魔術師を斬り飛ばした。魔術師は軽々と宙に舞い、どさりと、あっけなく地に落ちた。
「確かに、惚れた女に化けられるのが俺は一番怖い。あいつが俺を攻撃するはずないからな。が、だからこそ、偽物だとわかりやすい。気配もよく知ってるし、あいつが攻撃してこないことも分かり切ってる。そういう意味で、悪手だったな。坊主」
「そうかも。うんうん、次のストーリーの反省にしよう」
 魔術師はふわりと浮き、起き上がった。魔法によるものか、バッサリ斬られた傷がふさがっていく。
 だが、相当量の魔力を消費したのだろう。感じる威圧感は、確かに減じていた。
「なるほどな。持久戦になりそうだ」
 刀也は再び陽皇を手にすると、魔術師へ向けて構える。もう決して揺るがぬ自身の心を、彼女との絆――この刀に宿して。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルード・シリウス
最も恐れるモノか…
嗚呼そうだ、俺にとって始まりと言えるモノ。お前以外有り得ねぇ
(目の前に立つ巨大な狼を模した黒い獣を見て)

質問の答えは、恐怖に対して否定はしない。お前という存在が、俺から総てを奪ったんだからな
だが喪った現実と、恐怖という糧があったからこそ、それを上回る狂気と憎悪を以て猟兵と成り得た
同時に、お前もまた恐怖している。また喪うのが嫌なんだろ?漸く手にした居場所をよ…
言葉と共に【真名】発動。二刀による連撃を以て斬り伏せる

俺は英雄ではない、お前の騙る英雄ではない
それに、再び居場所を見つけたんだ。俺の、俺達の…

そして、お前は俺を…いや、『俺達』の逆鱗に触れた
その命と血肉、貰い受けるぜ…っ



「呪われた生を受け、狂気と憎悪にて総てを喰らう英雄、ルード・シリウス。お目にかかれて光栄だよ」
 丁寧にお辞儀をする災厄の魔術師。
 ダンピールの黒騎士、ルード・シリウスは、先ほど竜を喰らい尽くした二刀「神喰」と「無愧」を構えた。
「御託はいい。お前も俺の糧になるだけだ」
「わあこわいこわい」
 クスクスと笑いながら、魔術師はひとつの匣(はこ)を取り出し、上ぶたを開けた。白に虹色が混ざる煙がもうもうと立ち昇り、見る間にルードをドーム状に包んでいく。
 煙の向こうから魔術師の声が響いた。
『その煙を消すには、僕の問いに答えることだ。ただし。真なる答えでなければいけないよ』
「二度言わせるな。御託はいい」
 ルードは踏み込み、鎧すら斬り裂く呪詛剣「無愧」を、目の前の煙に振り下ろす。
 ガン!!
 煙は硬質な音とともに無愧を弾いた。ただの煙にしか見えないというのに。災厄の魔術師は攻防ともに秀でているという話だったが、その防御力は煙にも及んでいるのか。
 そうこうしている間に、ドームが完成してしまった。
「厄介だな……。ここから出るには、問いとやらに答えるのが手っ取り早いか」
『さすがは英雄、理解が早いね。じゃあ問おう。君は――何者かな?』
「はぁ?……俺はルード・シリウス。ただの修羅だ」
 ルードは呆れ混じりに答える。
 しかし、ドームは晴れない。
「おい。答えただろう」
『ふふ……本当に、ただの修羅なのかな?真なる答えが得られるまで、最も恐れる存在が君に襲いかかるだろう』
「何?」
 ドームの壁から、一抱えほどの煙が尾を引いて飛び出した。ルードは腰を落として警戒する。煙はぐるぐるとルードの周囲を回り、空間の中央に着地する。
 そして、煙は一つの墓標を形作った。首飾りの供えられた、古い墓標。
 ルードはそれを見ると、思わず乾いた笑いを漏らした。
 だが次の瞬間――
 ガキン!!
 墓標を庇って、襲い来た爪を神喰で食い止めていた。
 爪は一旦ドームの壁へと引き、のそりと大きな姿が進み出る。牙の並ぶ獰猛な口、闇のような黒い毛並み。形ばかりは狼だが、狼などよりずっと巨大な獣が現れた。
 ルードは、目を見開いたが、すぐに気を引き締める。
「最も恐れるモノか……。嗚呼そうだ、俺にとって始まりと言えるモノ。お前以外有り得ねぇ」
 それは、ルードから総てを奪った存在。今は亡き彼女達も、かつての幸せだった日々も、何もかもを奪い去っていったもの。
 ルードは墓標を背にして立つ。偽りの墓標だと分かっていても、再び奴に奪われるのを、ただ見ているだけではいられなかった。
 狼がその巨体から、鋭く右の爪を振るう。明らかに墓標狙いだ。ルードがその軌道を読み、爪を弾けば、すぐさま左の爪が墓標へと迫る。続けざまに攻撃を弾くルードだったが、これでは後手後手だ。
 防戦を強いられていることと、内にくすぶる恐怖が、ルードの力を知らず抑え込んでしまっている。手が小さく震えるのを、ぎゅっと剣を握って止める。
 鋭い爪が再び襲い来た。腕の重さで繰り出される連撃。ルードの気力も体力も、一撃をいなすごとに、削り取られていくようだ。なんとか全ていなしきったが、ルードは、荒く肩で息をする。
 なんというザマだ。
 ふっと、ルードは自嘲気味に笑う。
「そうだな……認めよう。俺は恐怖している。お前と、お前に総てを奪われたことに。だが」
 ルードは二刀を地に立てた。奇妙なルードの行動をいぶかしみ、狼は身を引いて睨む。
「だが喪った現実と、恐怖という糧があったからこそ、それを上回る狂気と憎悪を以て俺は猟兵と成り得た」
 ルードは、自身の首にかかった三ツ輪のペンダントを握る。手の震えがすっと止まった。……喪ったものは返らない。だが確かに、ここにあるものがある。だから自分は今こうして在り、そして――憎しみを以て、今度は自分が奪ってやると、心に決めたのだ。
 ルードは口の端を吊り上げると、恐怖そのものである狼をあざ笑ってみせる。
「それに、お前もまた恐怖している。また喪うのが嫌なんだろ?漸く手にした居場所をよ……」
 狼が目をカッと開き、怒りに任せてぐわりと牙を剥いた。怒るのは、図星だからに他ならない。
 対照的にルードは笑みを収め、目を閉じて詠唱を紡ぐ。
「我が渇望と血の下に真なる姿を示せ、暴食と呪詛の剣。神も魔王も等しく喰らい尽くし、奴等の世界を果てまで蹂躙するぞ――神喰無愧!」
 神喰が、無愧が、存在の位階を上げ、神をも屠る刃へと転じていく。
 これが猟兵となってルードが得た力。二刀を、力強く掴む。
 巨大な牙が一気に迫り来た。狼は自身の防御力を頼み、ルードを二刀ごと噛み砕かんと――
「ハアアアアーーーッ!!真名・神喰無愧(プリミティブ・グラトニーエッジ)!!」
 だが、砕けたのは、狼のほうだった。
 二刀の連撃が十字に狼を切断し、大きく吹き飛ばす。狼は斬られた箇所から煙へと変じ、空気に溶けるようにして消えていく。
 ルードは、荒く息をしながら、ゆっくりと姿勢を戻した。まだどこか、起こったことが信じられないような、だが清々しく、晴れやかな気持ちだった。
 ちらと、肩越しに墓標を見やる。
「……今度こそ、守られるだけじゃなく……いや。偽の墓標に言っても仕方がないか」
 ルードはかぶりを振る。
「だが、思い出したよ。おい!災厄の魔術師だったか。改めて問いに答えてやろう。俺はルード・シリウス。かつて愛され、そして総てを喪った者。奪われる事を恐怖し、だが……今、その恐怖に打ち勝ち、ここに立つ者だ」
 ――パチパチパチパチ
 拍手の音ともに、ドームと墓標が薄れていき、無邪気に手を打つ災厄の魔術師が見えてきた。
「素晴らしい!素晴らしいよ英雄!己の恐怖に向き合い、思い出と覚悟の力を以てその恐怖を打ち破る、なんて感動的なストーリーなんだ!」
 魔術師の前には、ひとつの赤い光球が浮かんでいる。魔術師は虹水晶のロッドをくるりと振るった。
「さあ、君の英雄譚も星にしよう、そーれっ!」
 光球が、魔力とともに打ち上げられる。天井の先へと消える光球を見送りながら、魔術師はるんるんと浮かれ、あまりにも無防備な姿をさらしていた。
 ルードの思いも、思い出も、踏みにじっておいて。へらへらと笑っているのだ、目の前のこの男は。
「お前は俺の……いや、『俺達』の逆鱗に触れた。その命と血肉、貰い受けるぜ……っ」
 ルードは魔術師に肉迫する。無愧が魔術師を横に断てば、神喰がその上半身を喰らい尽くす。ぱさ……と軽い音を立てて、魔術師の下半身が倒れた。
 だが、下半身はすぐにふわりと浮き上がり、魔法によるものだろうか、上半身が修復されていく。
「酷いじゃないか英雄。いきなり切るなんてさ」
 見る間に顔まで治り、ニコニコと笑う魔術師。先ほどまでの隙だらけの姿が嘘のように、今やどこにも隙がない。
 とはいえ、上半身の修復に、相当量の魔力を使ったのだろう。こちらを圧倒する魔術師の気配は、以前よりも一回り小さくなっていた。
「俺は英雄ではない、お前の騙る英雄ではない。それに、再び居場所を見つけたんだ。俺の、俺達の……」
 ルードは魔術師に向け、二刀を構える。
「だから、負ける訳にはいかねぇ。お前にも、俺自身にも」

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリュウ・リヴィエ
なんか…流星群の魔法って蛇足だよね?
そもそも僕らは君を倒しに来たんだから、そんな動機付けしなくても倒すよ?
ま、いいけど。

怖い物知らずなつもりはないけど、最も恐れる存在ってピンと来ないねえ。
…!?
…ああ、なるほど、お前か。(手の平の刻印「クラビウスの欠片」をちらっと見て)
確かにお前に食われて死ぬっていうのは悪夢だね。
しかし出来の悪い偽物だ。
本物なら、怖がらせる暇があったら食いついてるよ。
なら、食い意地で僕が勝てる目もあるだろうさ。
「カミ砕き」を牽制に振るいつつ、大振りと見せかけて一気に跳びこみ。
手を触れた状態から刻印を捕食形態(敵と同じ姿の化け物)に変えて食らいつこう。



「敵を呑み、己が糧となす暴食の英雄、クリュウ・リヴィエ。お目にかかれて光栄だよ」
 災厄の魔術師が丁寧に頭を下げる。
 ダンピールのグールドライバー、クリュウ・リヴィエは、少し首を傾げ、うーんとうなった。しっくりこない様子だ。
「暴食……してるかな?してるか。でも僕は英雄ではないね。ところでさ」
「何だい英雄?」
「英雄じゃないって、聞いてた?まあいいけど。なんか……流星群の魔法って蛇足だよね?そもそも僕らは君を倒しに来たんだから、そんな動機付けしなくても倒すよ?」
「ああ」
 魔術師はこくこくと頷きながら答える。
「あれはタイムリミットさ。そうだね、もう少しで半分、といったところかな?僕は僕の魔法ではダメージを受けないからね。早く僕を倒さないと、僕の勝ち逃げになっちゃうってわけだ」
「ふぅん、なるほどね」
 クリュウが愛剣「カミ砕き」を頭上でひと回しすると、カミ砕きはバラリと蛇腹剣に変じる。
「じゃあ、さっさとその防御を解いてくれないかな」
「そういうわけにはいかないよ~」
 楽しそうに言う魔術師は、しかしどこからも打ち込めそうにないほど、全方位に対して隙がなかった。真後ろですら、魔力でカバーしている。
「ふふっ、君の相手は僕じゃないよ……君が、最も恐れる存在だ。そうじゃなきゃ、とびっきり素敵な英雄譚にはならないからね」
 魔術師はひとつの匣(はこ)を取り出すと、上ぶたを開けた。匣からもうもうと、白に虹色の混じる煙が立ち昇り、クリュウの周囲を取り巻いていく。
 見る間に、煙のドームがクリュウを閉じ込め、完成してしまった。
「うーん。怖い物知らずなつもりはないけど、最も恐れる存在ってピンと来ないねえ」
 こんな状況にあっても、クリュウはのんびりしたものだ。
 だが、
 ――ギャリギャリギャリ!!
 とっさに跳びすさったクリュウのカミ砕きと、巨大な口に並ぶ歯が火花を散らして擦れ、硬質な音を立てる。突然現れた歯を、力をこめて弾き、後退するクリュウ。
「……!?」
 その目が驚きに見開かれた。だが、すぐにスンと納得する。
「……ああ、なるほど、お前か」
 クリュウは自分の手のひらをチラと見た。手には黒い肉片が埋め込まれ、ぐにぐにと動いている。
 それと全く同じ黒い身体が、煙からずわりと巨大な全容を現した。球に近い身体のほとんどが口。その化け物は、上下に並んだ歯をガチガチと噛み鳴らす。
「確かに、お前に食われて死ぬっていうのは悪夢だね」
 化け物を前にして、クリュウはマイペースに呆れ笑いを漏らした。
「しかし出来の悪い偽物だ。本物なら、怖がらせる暇があったら食いついてるよ。なら、食い意地で僕が勝てる目もあるだろうさ」
『それはどうかな?確かにその子は、君の言うとおり本物じゃない。本物よりも、強いのさ。おそらく……君よりもね?』
 ドームに魔術師の声が響く。
「ふぅん……。でも強いっていうだけでは、襲ってこない理由にはならないよね」
『その子は今、僕の問いを待っててくれているんだよ』
「問い?」
『そう。君よりも強いその子を、一発で消し去る方法、それが僕の問いに答えることだ。問おう、君は――いったい誰だい?』
「ふむ。僕が誰か、か……うわっと!」
 素早い噛みつきを転がって避けたクリュウだったが、また噛みつきが襲う。クリュウは下からカミ砕きを打ち上げ、化け物の顎部分をしたたかに叩きながら距離を取る。
「これじゃおちおち考えてもいられないよ」
『君が正しい答えを出すまで、その子は君を襲い続けるだろう――』
 魔術師の声が反響し、消えていく。その間にも、クリュウは三度の噛みつきを避けていた。
「そもそもっ!僕の名前も!分からないのにさっ!」
 あの化け物に食われれば、クリュウとていっかんの終わりだ。先ほどの顎への一撃も、ほとんどダメージを与えられていない。紙一重の回避を続けながらも、クリュウは脳をフル稼働させた。
 自分は何者なのか?
 なぜ記憶がないのか?
 食に対して並々ならぬ欲が湧き上がるはなぜか?
 疑問ばかりが増えていくが、答えは一向に出ない。
 ふっと、クリュウは心を決めた。
「――よし」
 金の目が、化け物を見定める。
「力で解決しよう」
 言うや、クリュウは大きくカミ砕きを振るった。
 化け物はカミ砕きごと呑み込もうと、一層大きく口を開く。その大振りな動きを、クリュウは誘ったのだ。
 一足飛びに距離を詰め、同時に、クリュウは手の黒い肉片に血を注ぎ込む。先ほどたんまりと竜を食らい、魔力と生命力を吸い取った血液を。クリュウが化け物に手を触れた瞬間、手の肉片はボコボコと体積を増し、全く同じ化け物へと膨れ上がった。これぞクリュウのユーベルコード、【ブラッド・ガイスト】だ。
 ガキィ!!
 巨大な歯と歯が噛み合う。ギチギチと互いを食おうとする、化け物と化け物。
 だが次第に、クリュウの出した化け物が押され、敵の口がゆっくりと閉まっていく。このままでは、クリュウごと呑み込まれてしまう。
「さすがは暴食の使徒。ここまでピュアな悪意も珍しいよ」
 ぐわり!
 クリュウの化け物が口を大きく開き、拮抗状態まで盛り返した。
 いつの間にか、クリュウの服が黒く染まっている。その色は、まるで全てを呑み込むような闇色だ。彼の服「呪纏い」は、敵の悪意そのものを呑み干すマジックアイテム。
 クリュウは悪食だ。血だろうが、悪意だろうが、何でも呑み込み己の糧とする。
 押され始めた敵に、クリュウは悠々と話しかける。
「へえ、死を前にして暴食の悪意が強まるのかあ。でもまあ、悪意ごと平らげてしまうけどね」
 先ほどとは逆に、ギリギリと音を立て、クリュウの化け物の口が閉まっていく。そしてついに――
 バクリ!
 呑み込んでしまった。己よりも強いと言われた、暴食の化け物を。
「……問いには答えてないけど、終わりでいいよね。まあ、僕が何者でもいいさ。おなかが膨れるかどうかのほうが死活問題だし、きっと大事なことなんだよ。ご馳走さま」
 勝ち残ったクリュウの化け物が、元の肉片へと戻っていく。クリュウは手を合わせ、食後の挨拶をした。
 ――パチパチパチパチ
 拍手が聞こえ、煙のドームが薄れていく。上機嫌に手を打つ災厄の魔術師が、少しずつくっきりと見えてきた。
「素晴らしい!まさか倒してしまうなんてね!君のその答えも、なんとも君らしいじゃないか」
「はあ、それはどうも」
 クリュウはやる気のない返事をする。
 魔術師の前には、金色に輝く光球が浮いていた。魔術師はその光球を、愛しげにつんとつつく。
「ふふっ、自らを常に危険に晒す化け物に、自ら飛び込み、相手の力を利用して倒してしまう。なんて痛快で、わくわくするストーリーなんだ!君の英雄譚も星にしよう!そーれっ」
 光球が魔術師の魔力を帯び、上に打ち上げられる。それは天井をすり抜け、その先へと飛んでいった。見送る魔術師は、まったくと言っていいほど無防備だ。
「ええと……まあいいか、食べよう」
 拍子抜けしながらも、クリュウはカミ砕きを振るった。
「ぎゃん!」
 蛇腹の刃にいとも易々と切り裂かれ、魔術師は血を撒き散らして宙を舞う。ぱさり。軽い音とともに、魔術師が地に落ちた。
「あ、さすがに分かるよ。起き上がるんだよね?まだ全部食べきれてないからね」
「ピンポーン」
 ふわりと魔術師が浮き、立ち上がる。クリュウに付けられた傷を見る間に修復していき、魔術師は元のとおりに戻ってしまった。
 だが、全てが元のとおりとはいかない。この部屋に入ったときより、彼の力は大きく減じていた。回復には、相当の魔力を使うらしい。
「ふぅん。君の魔力を食べきったら、もう回復できない、ってことかな?」
「それもピンポーン♪」
 ニコニコと魔術師は答える。こんな気の抜けたやり取りをしているが、今の魔術師に、先ほどまでのような隙はない。鉄壁のガードもまた、戻ってしまったようだ。
 クリュウは呆れ交じりにカミ砕きを構え、言ってやるのだった。
「じゃあまあ、残さず食べようか。お残しは僕の主義に反するんでね」

成功 🔵​🔵​🔴​

テラ・ウィンディア
ああ
何だろうこの心に湧き上がる物は
この心に吹き上がる炎は何なんだろうな

…英雄は
英雄は貴様が気持ち良くなるためのものなんかじゃない!

…おれは英雄じゃない
かつて銀河に覇を唱えた英雄足る黒騎士に敗れた唯の子供だ

だがな
お前を倒すのはおれで充分だ!

【戦闘知識】で魔術師の動きを常に注視

その攻撃は【残像・空中戦・見切り・第六感】で回避する

この瞬間は常に心は冷徹に
確実に魔術師を粉砕する為
どう心を乱すか予測し其れを見る覚悟を決める

きっと…姉妹達の亡骸だろう
だが…
そんなのはおれの心の弱さが見せる幻だ
シルもリオも殺して死ぬようなタマじゃない!

流星が好きなんだろう貴様は
ならば
流星によって砕け散れ!
メテオブラストぉ!!



「炎玉の竜騎士、龍言語魔法と重力を操る英雄、テラ・ウィンディア。お目にかかれて光栄だよ」
 スッとお辞儀をする災厄の魔術師。
 それに対し、エルフの竜騎士、テラ・ウィンディアは押し黙っていた。
(ああ。何だろう、この心に湧き上がる物は)
 魔術師の真正面に立ったテラは、黙ったまま、心に吹き上がる炎を冷静に見つめていた。
「どうしたんだい?君は僕が見出した英雄。素直に誇ってくれていいんだよ」
「……英雄は……、英雄は、貴様が気持ち良くなるためのものなんかじゃない!」
「うーん?素晴らしい英雄は、誰にとっても素晴らしいものさ。そうだろう?英雄テラ」
「……おれは英雄じゃない。かつて銀河に覇を唱えた、英雄足る黒騎士に敗れた、唯の子供だ。だがな」
 テラはザッと、ファイティングポーズを取る。
「お前を倒すのはおれで充分だ!」
「……ふぅん……」
 魔術師はどこか鼻白んだ様子で、ロッドをくるっとひと回し。
「唯の子供って言われるとなぁ。……もう一回、君を試させてもらおうかな」
 トン、と魔術師がロッドを地に突けば、そこから七色の光の筋が広がる。それぞれが、独自の軌道を描いて宙を飛び回り、勢いを増しながらテラに襲いかかってきた。
 一番速いのは紫。一瞬で光の筋がテラを貫いた――が、それはテラの残像だ。
 上に跳んだテラに、藍と青の光が迫る。空中では避けられないのだ、普通であれば。だが、テラは重力を増して下への加速を得、二条の光をすれすれで回避した。
 緑、黄、橙の光が次々に、テラへと噛みかかる。光の軌道を見切り、走り抜けるテラ。その間にも、魔術師への注意は怠らない。
 その魔術師が、小さく笑った。最後の赤の光がぶわりと広がり、壁となって迫りくる。
「……舐めるな!うおおおおお!!」
 テラは重力によって自身を撃ち出し、爆発的に加速して光の壁へと駆ける。光の薄い場所を第六感で見出し、全速力でその場所を突き抜けた。
 光に触れた時間はほんの一瞬。ダメージは、無い。
「次はお前だ、災厄の魔術師!」
「ふんふん。技量、闘争心、そして覚悟。十分じゃないか。やっぱり君は英雄に相応しいよ!ふふっ、君の相手は僕じゃない。英雄には、乗り越えるべき試練があるのさ」
「試練だと……?」
 テラは警戒し、格闘の姿勢ではなく、自然体で軽くひざを曲げて構える。相手は龍達を、あれほど苦しめた奴だ。どんな厄介な攻撃がくるか分かったものではない。
「そう。英雄には試練が付きものだ。君には、最も恐れる存在と対面してもらおう」
 魔術師はひとつの匣(はこ)を取り出し、上ぶたを開けた。匣から、白に虹色の混じる煙が勢いよく広がる。煙に取り囲まれながら、テラは努めて心を冷静に、冷徹に保っていた。魔術師が、どうやって自分の心を乱してくるかを予測し、それを目に映す覚悟を決める。
 今ばかりは、決して先走らない。突撃しない。全ては、奴を粉砕するために。
 果たして、目の前には予測したとおりのものと、予想だにしないものが現れた。
 荒涼とした風景。
 姉と妹が、互いの武器によって息絶えていた。姉はダガーで、妹は光刃の剣で斬られたのだろう、短い銀のロッドが近くに落ちている。これは予測のとおりだった。だが、予測できなかったもの――
 うな垂れ、絶望の涙を流す自分自身が、倒れた二人の間に立ち尽くしていた。
 どこからか、魔術師の声が響く。
『もし、僕の問いに答えられたなら、君の試練は消え去るだろう。目の前の「君」が泣き止むには、どうしたらいいかな?』
「…………」
 テラは応じず、じっと三人を見つめた。しくりと、胸が痛む。
 だが、テラは静かに足を引き、腰を落とした。そして紅龍槍『廣利王』を握り、構える。
「簡単なこと……これが、答えだ!」
 テラが地を蹴り、重力の加速を纏う。目の前の自分に肉迫し、廣利王で袈裟懸けに斬り飛ばす!さらに加速して追いつき、次々と連撃を刻んでいく。どんどん加速する槍が、彼女を突いて上へ浮かせ、一閃、空中で大きく真一文字に斬り裂いた。
 彼女は宙を舞いながら煙に戻り、散っていく。
「お望みどおり、泣き止ませてやったぞ。泣く奴がいなくなったからな!」
 ――パチパチパチパチ
 周囲の景色が、そして姉妹の姿が、煙と化して薄れていく。無邪気に拍手をする災厄の魔術師が見えてきた。
「なんて強いんだ、英雄テラ!闘争心だけじゃない、揺るがない君の心はとっても強いんだね。ねぇ、その強さの秘訣を教えてよ」
「……おれは強くなんかない。あの二人の姿は、おれの心の弱さが見せたものだ。だが……幻は幻。シルもリオも、殺して死ぬようなタマじゃない!」
「なるほど。己の弱さを認める心と、その弱さを乗り越えるほどの、姉妹への信頼、深い絆……それが君の、真の強さなんだね」
 ふわ……
 魔術師の前に、黒い光球が現れた。魔術師の顔がぱあっと明るくなり、光球を嬉しそうに見つめる。
「わああ……!なんて綺麗な輝きなんだ……!うんうん、君の素晴らしい英雄譚も星にしようね。そーれっ!」
 魔術師は光球を魔力でくるむと、上へと打ち上げた。実体を伴わないそれは、天井をすり抜けて飛んでいく。光球を見送る魔術師は、浮かれてそちらに釘づけになっていた。
「よっぽど流星が好きなんだな、貴様は……ならば!流星によって砕け散れ!」
 テラはふっと重力を消し、高く跳ぶ。直後、超重力をその身に宿した。一筋の流星のごとく超加速し、魔術師の脳天に、今、必殺の踵落しを見舞う!
「食らえ!メテオ・ブラストぉ!!」
 ガッ! ダダン!!
 衝撃に耐えきれず、床が同心円状に破壊される。
 魔術師はその中心で、ゆっくりと後ろに傾き――ぱさりと倒れた。
 テラは、黒翼衣『オディール』のスカートを払って、整える。彼女は全くの無傷。
 しかし。
 魔術師がふわりと浮き、立ち上がった。顔に幾筋も流れていた血は薄れ、頭の傷もふさがっていく。
 魔術師も、全くの無傷。
「……分かるぞ。貴様の気配、弱まってるな。次は必ず討つ」
「ふふっ、簡単にはやられないよ。ほらほら、急がなきゃ僕の流星が落ちてきちゃうよ」
 先ほどのような隙は、今の魔術師にはない。だが一瞬でも隙を見せれば、テラにも勝機はある。なぜなら。
「スピードでおれに敵うと思うなよ。重力はこのおれの――テラ・ウィンディアの味方だからな」

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

自らの手で英雄を生み出し、そして自らの手で英雄を討つ。
英雄を手にかける自分に酔っているのですか?英雄を討った自分の存在に?
もしそうなら身勝手な児戯は止めなければなりません。

私が最も恐れるもの。それは亡くなる寸前のやつれた母親の姿。
もう見たくはない。記憶の奥底に封じ込めたもの。
苦い痛みが胸を貫き、視界が対象を捉えるのを拒否する。武器を握る手が震えるのが分かった。
『狂気耐性』。それでも過去は過去。私は未来へ、前へ進む義務がある。
定まらない思考を氷の様に冷たく静かに。
武器に『全力魔法』を宿し、剣先を眼前の災厄に合わせる。
猟兵として騎士として。
ここで悪趣味な英雄譚に終止符を!



「蒼氷の魔法騎士、氷を自在に操る英雄、アリウム・ウォーグレイヴ。お目にかかれて光栄だよ」
 災厄の魔術師がゆったりとお辞儀をする。
 そんな魔術師を前に、人間のマジックナイト、アリウム・ウォーグレイヴは、攻め筋を見つけられずにいた。魔術師には、隙らしい隙がない。全方位に伸びた魔力を、アリウムは正確に感じ取り、憂い顔を一層曇らせる。
 打つ手が無いのであれば、探りを入れてみるのもひとつか。
「自らの手で英雄を生み出し、そして自らの手で英雄を討つ。英雄を手にかける自分に酔っているのですか?英雄を討った自分の存在に?」
 こてり、と魔術師は首をかしげた。
「ううん?英雄が死んじゃうのは残念だよ。僕は別に、英雄を討とうと思ってるわけじゃないしさ」
「では、何が目的なのです?」
「もちろんっ、英雄に試練を与えるためさ!そうじゃなきゃ、面白い英雄譚にならないだろう?」
「面白い……英雄譚……」
 にわかには信じられない言葉を、アリウムはただ繰り返す。一方の魔術師は、誇らしげに胸を張った。
「そう。英雄譚。僕の自慢のコレクションだ。あっ!よかったら見ていくかい!」
「……それだけのために?あの村の子供達が、毒に苦しみ生死を彷徨ったのは……そんな事のために……?」
「ああ!そうだったね、あれは本当に素晴らしいストーリーだった!うんうん、君はあの英雄譚には欠かせない人物だ。こうして英雄として相まみえるのも納得だよ」
「――――いい加減にしろ!」
 ゴッ!
 部屋中を吹雪が吹き荒れた。激しい白の中から、蒼氷色に凍てつく瞳が魔術師を射抜く。
「お前の身勝手な児戯……。罪を省みる事もできないのなら、ただその身、その命を以て、罪のあがないと為せ!」
「わあ吹雪。本が悪くなっちゃうじゃないか、困るよー」
 なおも魔術師はマイペースだった。彼がひとつの匣(はこ)を取り出し、ぱかりと上ぶたを開けると、白に虹色の混じる煙が一気に広がる。煙は吹雪を押し込め、魔術師の姿を隠していく。
 完全に魔術師が見えなくなると、アリウムは落ち着くために、深呼吸を努めてゆっくりとおこなった。荒れるに任せていた吹雪も、気持ちとともに落ち着かせていく。
 薄れゆく雪のカーテンの向こうに、何かがちらついて見えた。横幅2メートルほどの、背の低い何かが。
「……!!」
 アリウムはそれを視認し、思わず目を逸らした。視線の先から煙が色づき、形を変じていく。懐かしく、そして痛ましい思い出のあの部屋へと。
 アリウムの前には、一台のベッドがあり、やつれた中老の女性が横たわっている。
 今は亡き、アリウムの母親だ。
 在りし日には、得意の料理を振る舞ってくれ、優しくも時に兄弟を叱り、家を支えた母。没落した家にありながら、アリウムが神を信じていられたのは、きっと全てをそそいでくれた彼女の存在あってのことだ。
 そんな彼女が脳の病気にかかったのは、ほんの数年前のこと。あっという間にやつれ、細り、今アリウムの前にあるままの姿になった。
 ベッドの上の彼女は、顎で息をしている。末期の症状。これは、死ぬ直前の彼女だ。
『英雄アリウム。これが、君の乗り越えるべき災厄だ。これから出す問いに正しく答えられれば、厄災は君の前から消え去るだろう』
 部屋の中に、どこからか魔術師の声が響く。反応しようにも、身体が固まって、動かない。
『今から君へ、その女性から要求を出してもらおう。要求をどうするか……?それが、君に課された問いだ』
「要求……ですって……?」
 どうにか、喉から声を絞り出す。だが母は……、そう言葉を続けようとして、魔術師が先読みをするように答えた。
『ああ、病気は軽くしておいてあげたよ。もう彼女とは、普通に話すこともできる。でも……ねえ君、その身体では苦しいだろう?英雄アリウムへ、手を伸ばしてごらん?英雄が君の手を取れば、君の苦しみは消えてなくなるよ……さあ』
 魔術師は囁くように言う。
 アリウムの背筋が凍った。母が手を伸ばして、助けを求めてきたとしたら……。偽物だと切り伏せることもできる、だが、呵責の念がすぐさま襲った。そうでなくとも、今の今まで記憶の奥底に封じていたほど、思い出したくない記憶だというのに。
 苦しそうな呼吸音が、不規則に繰り返される。それを聞いているだけで、胸が潰され、息がうまくできない。
『……あれ?』
 すっとんきょうな魔術師の声。思わずアリウムも前を見て、
「あ……」
 ため息のような声を漏らした。
 母は、手を伸ばしていない。痩せこけた指が、布団の端をきつく握っていた。
『おーい、聞いてたのかな?手を伸ばしたら、楽になるんだよ~』
 だが、母は動かない。ぜいぜいと呼吸をするばかりで、決して手を伸ばそうとしない。
 ここに至り、電撃に打たれるようにアリウムは理解した。
 この目の前の女性は、分かっているのだ。自分が手を伸ばせば、アリウムに、苦しみと過ちしか与えないことを。
 そう。
 アリウムに全てを与えてきた母は、今、与えないということを選び取った。悲しみも、苦しみも、決して息子に与えはしない。話せるはずの口をつぐみ、伸ばせる手を伸ばさずに、身じろぎひとつしない。死に際の身体が、一体どれほどの苦痛をもたらし、彼女を蝕んでいることか。それでも彼女は、毅然と魔術師の誘惑を拒否する。
 ――愛しているのだ。息子を、心から。
 アリウムの頬に、涙が伝った。ただの過去だとは分かっている。だが、封じていた思い出の母は、こんなにも、こんなにも……優しかったのだ。こんなにも、自分を思ってくれていたのだ。強く、強く。
 母は、アリウムに選択肢を与えないことによって、言葉を発さずとも雄弁に語っていた。「迷うな」と。
『もー。手を伸ばしてくれないと、要求にならないじゃないか』
「……お前は何も、分かっていない。……良いのですね?」
 今まで動くことのなかった母が、小さく、確かに頷いた。もし答えなければ、アリウムは迷ってしまうだろうから。
 母が望むのは、子の未来へと続く、正しい道。
 過去を過去とし、迷わず進むことを――母の幻を破り、ここから無事に脱出することを、望み、アリウムへと要求しているのだ。
 アリウムは、それをきちんと理解していた。
 だが。
 どうして心が乱れずにいられようか。大きく揺れる心を、アリウムは必死で定める。武器に手をかけ、しかしその手は小刻みに震える。ままならぬ自分に、言い聞かせるように意の中で命じた。氷のように、冷たく、……静かに。冷たく……静かに……。
 アリウムは、ゼラニウムを模した刺突剣・氷華の剣先を、眼前の彼女にぴたりと合わせた。
 これが、母の愛に報いるため、アリウムが示した答え。
『ちょっと!何してるのさ!』
「……私は、前に進みます。貴女を救えなかった過去に、正しく絶望し、しかし安易な希望などというまやかしに縋らず、この足で……歩んで行きます」
 アリウムが魔力をこめれば、氷華の封印が解け、雪のような魔力結晶が螺旋を描く。
『え!?なんでなんで、どうして攻撃するの!?』
「大いなる冬よ!過去を再び、深き眠りへといざなえ!!――ホワイトマーチ!!」
 アリウムは真っ直ぐ刺突した。氷華が心臓を貫き、母の身体中に、そして部屋中に冬が浸透していく。見る間に凍りつき、割れ落ちるその時。
 アリウムは確かに聞いたのだ。「行ってらっしゃい」という、優しい声を。
 ――パリーーン……!!
 部屋が粉々になる。災厄の魔術師が、おろおろした姿を見せた。彼の前には、ひとつの光球が浮かんでいる。
「あ、あれ?なんで英雄譚ができてるのかな……まあ、いっか!」
 にぱりと笑う魔術師。彼は高々と、蒼氷色の光球を掲げた。
「やあやあ、さすがは英雄アリウム。こんなに綺麗なストーリーを紡ぐなんてさ。感激だよ!君の英雄譚も星にしようね。そーれっ!」
 魔術師は魔力とともに、光球を打ち上げる。
 その隙だらけの姿を前に、アリウムは感情の読み取れない声で呟いた。
「……猟兵として騎士として。ここで、悪趣味な英雄譚に……」
 氷華が再び冬を纏う。いや、先ほどよりもずっと大きく、苛烈に。
「――終止符を!」
「ひゃっ!」
 心臓を一突きにされた魔術師は、爪の先まで一気に凍りついた。
 アリウムは氷華を抜き、バサリ、バサリと魔術師を斬り捨て、きびすを返す。
「……もー。ここから回復するのは大変じゃないか」
 アリウムは弾かれるように振り向いた。じわじわと、魔術師が元に戻っていく。だが、魔術師の魔力は、明らかに少なくなっていた。
 みたび、アリウムは氷華を構える。今や隙のない、敵と定めた者に向かって。
「ならば魔力尽きるまで、何度でも凍らせる。それがお前を討つ道ならば、俺は……正しく歩み続けてみせよう」

大成功 🔵​🔵​🔵​

出水宮・カガリ
【宿神】

轟音から間を置かず辺りを押し流す、泥水のような洪水
【籠絡の鉄柵】へすぐに乗って、宙へ飛ぶぞ
カガリ自身の記憶には無いが、黄金都市の有り得た未来として、見た事はあったな
とても、痛ましくて、見たくない光景だった
いかなるひとの力も及ばない、天災――それを、起こすつもりだったのだ、お前は
……よもつひめ、ははなるきみ

出口近くに浮かぶ旧き女神を、【錬成カミヤドリ】で複製した盾で囲い炎上させよう(属性攻撃)
大方、敵も彼女に化けていたのではないか?

……英雄を嫌うカガリが、英雄の真似事を期待されるのも、腹立たしいが
望まぬひとに、望まぬ痛みを与えるものは、何より許しがたいのだ

トドメはステラに任せる


ステラ・アルゲン
【宿神】
――君はいつか僕の前に現れるだろう。その時を楽しみにしているよ
剣として生まれたばかりの頃に囁いた貴方の声

貴方は帝竜を倒した勇者達の物語が好きだった
できることなら間近で見たかったと語っていた

……その願いが英雄という存在だったか!
平和だった国に災厄を呼び込んで!
死ぬはずもなかった人を沢山死なせて!
今も災厄を振り撒いている!

何が英雄だ!選ばれし者などどこにもいない!
ここに在るは英雄の剣ではない
だが貴様に運命を弄ばれていたとしても主の心は本物だった
私は最後まで信念を貫いた騎士の剣だったモノ
今は仲間と共に立つ、ただの剣の騎士だ!

【希望の星】今の姿のまま星の力を宿して
私は英雄じゃない…なるものか!


ノトス・オルガノン
【宿神】
英雄を作る
それだけ…?
本当にたったそれだけのために、ステラの主人や村の子供達や…リヒトを、あんな目に会わせたのか…?

分からない…
お前の考えも、今私の心から湧き出る感情も
知らない、分からない
怒りで済ませるにはあまりにも重い
哀しみで済ませるにはあまりにも熱い
でも、一つだけはっきりした…お前だけは、絶対に許さない…!!
私達を自分の欲求の為だけに弄んだこと、後悔させてやる!

UC:White Lily
知らないな、未来なんて
少なくともお前に決められることではない
仮にその予言とやらが真でも、全てはお前を倒した先にある
この花で、その未来ごと切り裂いてやる!

あくまで体力を削ることに注力
止めはステラに託す


杜鬼・クロウ
【宿神】
アドリブ◎

剣を地面へ刺し凭れる
皆の沸々な怒りを感じ黙して聞く
淡々と語る

英雄譚をテメェの都合のイイお伽話にはさせるかよ
筋道が決まった脚本とは違う
人が生きた証
想いが沢山絡み合い出来上がるモノ
お前が言う「英雄」は、お前が裏で糸を引くだけの「人形」と変わりねェ

何人もが其の犠牲になった
この代償、償ってもらうぜ

【煉獄の魂呼び】召喚
禍鬼は地面を蹴って跳び敵を棍棒で叩く
霆攻撃で敵の動き鈍らす

戦力削り支援に特化
敵のUCに打ち克つ
玄夜叉で紅焔宿し部位破壊・2回攻撃

俺が望む未来以外の予言ならば
壊せばいい
俺は己が思う儘に動く
他人の敷いた路を歩むようじゃ
為せねェ
これしきで揺らぐ俺だと?(カウンター

最期はステラへ



「世界を映す宝物、かつての敵をも使役する剛の英雄、杜鬼・クロウ」
 災厄の魔術師が、ヤドリガミのマジックナイト、杜鬼・クロウへにこりと微笑んだ。クロウは剣を地面に刺してもたれ、呆れたような、腹に据えかねたような顔で黙っている。
「荒城の城門、いかなる脅威も拒絶する守りの英雄、出水宮・カガリ」
 魔術師は続いて、ヤドリガミのパラディン、出水宮・カガリへ向く。カガリはそんな魔術師よりも、隣に立つパートナーを気にかけ、見守っていた。
「白百合の鎮魂歌、英雄ノトス・オルガノン。君の英雄譚はとても美しかったよ。お目にかかれて光栄だ」
 ヤドリガミのシンフォニア、ノトス・オルガノンは、うつむいて何も返さない。
 魔術師は三人に、改めて丁寧にお辞儀をする。そして、彼女へ――ヤドリガミの王子様、ステラ・アルゲンへと顔を向けた。
「やあ、流星剣。英雄クレムを導いた働き、見事だったよ。そして今こうして、立派に英雄として戻ってきてくれた……ずっとこの日を待ち望んでいたよ」
 ステラは、表情の一切を失くした顔で、ただ魔術師を見据えている。
「ふふっ、こわいなぁ。せっかくの父子の再会なのに。憶えているかい?流星剣。いつだったか、君にこう言ったことがあったね。――君はいつか僕の前に現れるだろう。その時を楽しみにしているよ……って」
「……憶えている。私が、剣として、生まれたばかりの頃に、貴方が囁いた言葉だ」
 とつとつと、ステラは言葉を返す。彼女の瞳にふと、ほんのわずかの悲哀と、ほんのわずかの懐古の色が浮かんだ。
「貴方は、帝竜を倒した勇者達の物語が好きだった。できることなら、間近で見たかったと語っていた。……その願いが……」
 ステラはこみ上げてくる感情に目を開き、カッと叫ぶ。
「その願いが英雄という存在だったか!平和だった国に災厄を呼び込んで!死ぬはずもなかった人を沢山死なせて!それがただ、ただ英雄を作るためだけだったと……!!」
 ぷつ。ステラの悲鳴のような言葉が、ノトスの中の何かを切った。
「英雄を作る……」
 ノトスの唇が、囁きを零す。今にも消えそうなピアニッシモ。
「それだけ……?本当にたったそれだけのために、ステラの主人や、村の子供達や……リヒトを、あんな目に会わせたのか……?」
 ゆっくり、ノトスは首を振る。困惑したような目。だが吐く息が、重みと、苦しさを帯びていく。
「分からない……。お前の考えも、今、私の心から湧き出る感情も。知らない、分からない。怒りで済ませるには、あまりにも重い。哀しみで済ませるには、あまりにも、熱い。でも……」
 いつしか震えていた手が、ギュッと白百合の杖を握りしめる。白百合が好きだった『キミ』が、その白百合の毒で、村の子供達を殺そうとした。それを、美しかったと言ったのだ、目の前のあれは。
「一つだけはっきりした……お前だけは、絶対に……!」
 声が震える。鼻頭が痛む。視界が揺れる。それでも、喉奥からこみ上げるものをぶつけずにはいられない。
「絶対に許さない……!!私達を自分の欲求の為だけに弄んだこと、後悔させてやる!!」
 滅多に怒りを見せないノトスが、怒り以上の感情をあらわにする。
 ノトスの横で、その場の全てを目に映していたクロウが、静かに口を開いた。
「英雄譚を、テメェの都合のイイお伽話にはさせるかよ。筋道が決まった脚本とは違う。人が生きた証。想いが沢山絡み合い出来上がるモノ。お前が言う「英雄」は、お前が裏で糸を引くだけの「人形」と変わりねェ」
 淡々とクロウが語れば、カガリが苦しげに眉根を寄せる。
「英雄を、人形のように、作る。嗚呼、嗚呼、不愉快だ。ざりざりとする、この思いは。お前を消せば、晴れるのか」
 カガリの嫌悪が、ステラの心を一段とかき乱す。ノトスが分からないといった、あまりにも重く熱い何かが、じくじくと胸を焦がす。口が渇き、喉が渇く。
「今も災厄を振り撒いている貴方を……お前を、決して許さない」
 ステラは、自身である流星剣を構える。クロウも、玄夜叉(アスラデウス)を地から抜き、構えた。
「何人も、否、数多の者が犠牲に為った。この代償、償ってもらうぜ」
 ノトスも、カガリも、言葉にできない思いをかかえ、杖と盾を構える。
 だが強くいだく心は、皆同じだった。その心を、流星の騎士が一歩前へ進み、高らかに告げる。
「災厄の魔術師。お前を骸の海に叩き返し……二度とその姿を見せぬよう、全ての因果を断ち切らん!!」
「ふふっ、そうこなくっちゃ、面白くない」
 魔術師は笑う。
 彼が虹水晶のロッドを回し、ダン!と地を叩くと、オーロラのカーテンが噴き上がった。
「「「「!?」」」」
 虹色に輝くカーテンが全員を分断する。魔術師の姿も、厚いカーテンに隠れてしまった。
 何が来ても防げるよう、カガリは隙なく身構えた。そんなカガリのいる空間に、魔術師の声が響く。
『英雄カガリ、君には、君が見たくないと思う光景を見せてあげよう。どこまで耐えきれるかな?』
「何を、言うかと思えば。城壁に、耐えられぬものなど、ないのだ。心するといい。すぐに流星剣が、お前を斬り裂く」
『ふふ……、君こそ、心することだ』
 別の仕切りの中。
 それぞれ一人でいるノトスとクロウは、全く同じ声を聞いていた。
『選ばれし英雄に、予言を与えよう。君は……流星剣ステラ・アルゲンを失うだろう』
 一方の仕切りの中で、ノトスは静かに返す。
「戯れ言を聴く耳は持ち合わせていないな……、姿を見せろ」
 一方の仕切りでは、クロウがオーロラのカーテンに斬りかかっていた。
 ガン!
 だが、攻撃は通らない。
「ち、硬ェな。おい、其れで揺さぶった心算か。此れしきで揺らぐ俺だと?」
『いいかい、僕の予言は絶対だ。足掻いてもムダだよ……』
 そしてまた、別の仕切りの中。
 ステラは周囲に注意を飛ばしながら、軽くひざを曲げて剣を構えていた。
『それにしても、流星剣。なかなか大口を叩くじゃないか。そんなに僕を見るのも嫌かい?』
 魔術師の声が響く。
「言ったはずだ。必ずお前を斬り伏せ、骸の海へと還す」
『ああやだやだ。海の暗さは、君も知ってるだろう?』
「なっ……」
 ステラはすぐにかぶりを振り、雑念を払う。
『海の底から救われた身で、僕を沈めようだなんて、まったくおこがましい。君にはこの予言がぴったりだ。流星剣、君はここで、孤独のうちに死ぬだろう!』
 孤独。それは、ステラが恐れてやまないもの。
「そんなことは……有り得ない。私には皆がいる。カガリがいる」
『僕の予言は絶対だよ?さあ、幕を上げよう!物語の始まりだ!』
 魔術師の宣告が暴風を起こし、全員がカーテンごと吹き飛ばされる。
 すぐに姿勢を立て直し、遮るものの無くなった部屋を見渡せば、そこには――
 一体、どうしたことか。
 流星剣を手に握った、災厄の魔術師が立っていた。
「「「ステラ!!」」」
 ノトス、クロウ、そしてカガリの声が重なる。
「呼んでもムダだよ?僕の予言は絶対だ、君たちは流星剣を失った。今は、僕のモノだ」
 三人の目が、スッと怒りに沈む。特にカガリのそれは、一等重い。
「……ステラが、お前のもので、あるものか」
「じゃあこの流星剣は、どう説明するのかな?」
 魔術師が流星剣の柄を指でつかみ、ぷらぷらと揺らす。クスクス、耳障りな笑いとともに。
「ステラを、放せ……!」
 カガリが長剣「命の篝火」を抜き、斬りかかる。長剣は炎を纏い、流星剣と激しくぶつかった。ギリギリとつばぜり合い、互いに一歩も譲らない。
 そこへ、数えきれない白い花弁が飛び、魔術師に鋭く突き刺さる。
「ひゃっ……」
「ハッ!」
 カガリが命の篝火で斬り上げるが、紙一重避けた魔術師が、距離を取った。
「もう、まだ分からないのかな。未来は定まった。僕が決めた未来だ」
「知らないな、未来なんて」
 鋭く切れるようなノトスの声。ノトスの周囲に白百合の花弁が集まり、彼を取り巻く。ノトスのユーベルコード【White Lily(ホワイトリリィ)】だ。
「少なくとも、お前に決められることではない。仮にその予言とやらが真でも、全てはお前を倒した先にある。この花で、その未来ごと切り裂いてやる!」
 一斉に花弁が飛ぶ。魔術師は素早く流星剣を振るって花弁を斬り落としていくが、次々襲う花弁は、魔術師をその場に足止めした。
 ダン!!
「うあーーーーッッ!!」
 稲光とともに、魔術師に霆が落ちた。好機。
「ステラを、放せ!」
「ひゃがッッ!」
 命の篝火が魔術師を斬り飛ばした。
 さらに白百合の花弁が、一本の奔流となり、魔術師に追撃を加えてより遠くへと飛ばす。
 花弁で覆われていた視界が晴れたことで、ようやく見えた。クロウの背後に巨大な黄泉の門が顕現し、門から現れた禍鬼(マガツミ)の霊が、赤錆色の棍棒を上に掲げている。先ほどの霆は、禍鬼(マガツミ)が起こしたものだ。
 静かに怒りを立ち上らせるクロウのユーベルコード、【煉獄の魂呼び(インフェルノ・リヴァイヴァル)】だ。
「往け、禍鬼(マガツミ)」
 クロウが短く命じると、禍鬼(マガツミ)は地を蹴って跳ぶ。よろけながら立ち上がった魔術師に、禍鬼(マガツミ)が棍棒を振り下ろせば、魔術師は間一髪で受け止めた。
 クロウはアスラデウスを構える。アスラデウスからクロウへと、精霊の力が流れ込み、クロウは怒りとともに力を増していく。
「カガリ、ノトスを守ってくれ。加減出来ねェからな」
「ああ、分かった」
「……俺が望む未来以外の予言ならば、壊せばいい」
 低い声で言うと、クロウは駆け出した。
 カガリがノトスの前に立ち、盾を地に突く。
 魔術師がようやく禍鬼(マガツミ)を斬り伏せたとき、すでにクロウは魔術師の目前に迫っていた。
「うおおおおおおーーーー!!!」
 一方。
 少し時間はさかのぼる。
 ステラ・アルゲンは、三人から刺すように睨まれていた。ノトス、クロウ、そして……カガリからも。
「皆!カガリ!どうしたんですか、私です!ステラです!」
 カガリが何事か呟き、長剣「命の篝火」を抜いて駆け出す。
「カガリ!?」
 振り下ろされる炎の長剣を、ステラはとっさに流星剣で受けた。だが、カガリの力は強い。ギリギリとつばぜり合い、右にも左にも流せない。
 と、ステラの視界をかすめる白。その白が、身体中に突き刺さった。
「つッ……」
 ひるんだ隙を突くように、カガリが振るった一撃を、ステラは紙一重で避けて距離を取る。
 先ほどの白いものは、無数の白百合の花弁であった。花弁が主の元へ戻り、彼の、ノトスの周囲を取り巻く。睨みつける彼の目に、常の優しさは欠片もない。
「ノトス殿……、私はっ……」
 一斉に花弁が襲い来た。ステラは戦慄する。とにかく斬って斬って、斬り続けるが、一向に果てが見えない。
「ノトス殿!やっ、やめてください!ノトス殿!!」
 ダン!!
 突如、身体が痛みに貫かれた。霆が落ちたのだ。
 次の瞬間、斬り飛ばされていた。炎の軌跡と、振るうカガリが見えた。頭も心も理解を拒む。さらに白百合の奔流が全身を切りつけ、一段と遠くへ飛ばされる。
 ドサ……
 受け身も取れずに、地に落ちた。大きく裂かれた胸の傷。カガリに斬られたその傷が、痛み以上に、絶望をステラの精神へと塗りこめていく。
 この状況を、ステラが疑えないでいるのは、魔術師の予言のせいだった。魔術師の予言には、それを信じ込ませる効果がある。
 目を上げれば、白百合を杖に戻し、冷徹にこちらを見据えるノトスがいた。黄泉の門の前で鬼を従え、静かな怒りを目に宿すクロウがいた。そして、炎を纏った命の篝火を、自分に向けているカガリは……カガリは……、……もう、直視もできない……。
 ステラの心にじわりと染み出したのは、魔術師の予言どおりの感情だった。
 ああ。
 あの暗い宇宙を彷徨った記憶が。
 あの深い海の底に沈んでいた記憶が。
 自分は独りなのだと、ステラが自覚したとたん、ステラの孤独が一気に膨れ上がった。
「うああああああああああ!!」
 叫んだ。叫ばなければ、心が壊れてしまう。
 逃げたい。よろけながら、立ち上がる。だが、クロウの鬼が跳びかかってきた。
「うあッ、うわあああああ!!」
 なんとか打ち返すが、一撃受けるごとに、ステラの心まで打ち据えられる。これは、クロウの攻撃なのだ。混濁した頭で、だが身体は戦いを続け、ようやく鬼を斬り伏せた。
 その時ちらと見えた、カガリの姿。
 カガリは、ノトスを、その盾で守っていた。ステラの胸に宿す光が、音もなく消え失せる。
 目前に迫るクロウを迎え撃つ力など、もはやどこにも無かった。
 クロウのアスラデウスが振り下ろされる。
 一方。
 再び、少し時間はさかのぼる。
 出水宮・カガリは、あの黄金都市にいた。
 目を見開くカガリに、大地を震わす轟音が聞こえたかと思うと、間を置かず泥水のような濁流が都市を押し潰し、カガリにも牙を剥く。
 とっさにカガリは、崩れる津波に背を向けて駆け出していた。頭のない黒い魚骨を召喚し、飛び乗って加速する。落ちる水をかいくぐり、呑まれる寸前に宙へと逃げきれば、今さっきいた場所を怒涛が塗りつぶした。
 黄金都市全体、いや、周囲の街ごと巻き込む大洪水が、眼下に広がる。
「これは……」
 カガリの守るべき都市が、見るも無惨に破壊されていく。
「確かに、嗚呼、嗚呼、見たくない。こんなものは、見たくない」
 ふるふると首を振るカガリ。
 この光景は、カガリ自身の記憶には無いが、黄金都市の有り得た未来として見たことがあった。
「これを、起こすつもりだったのか、お前は」
 都市の出口近くに、一人の人影が浮いている。
 黄金色の長い髪と、旧い装束を、洪水からの風になびかせている女。右半身が腐り、死の穢れを振り撒く、黄泉の女神。
「……よもつひめ、ははなるきみ」
 旧き女神は、魚骨に乗って浮いているカガリへ、ゆっくりと振り返った。
 カガリはざわつく心を抑え、語りかける。どこか、届くようにと願いながら。
「いかなるひとの力も及ばない、天災。ははなるきみよ、神であれば、何をしてもいいのか。ここには、多くのものがいる。カガリの、守るべきものが」
 女神は、片手をスッと上へ挙げた。濁流が柱となって立ち昇る。
 聞く気はないのだ。
 カガリの胸に、落胆が広がる。
「……お前が、黄金都市を、破壊する神でも。神に化けた、敵でも。カガリの、やるべき事は、変わらない。――お前を、倒す」
 女神が手を振り下ろす。女神の操る水柱が、幾本もカガリに迫った。
 カガリの前に突如壁が現れ、濁流がぶつかって飛び散る。その壁は、盾でできた壁。カガリのユーベルコード【錬成カミヤドリ】だ。
 カガリは長剣「命の篝火」を抜き、掲げる。
「城門と、共にありし篝火よ。城門の敵へ、今また共に、火を投じん!」
 長剣が炎を纏った。カガリは盾の壁へ、命の篝火を突き立てる。壁が真っ赤に燃え上がった。
 なおも押し寄せる濁流を蒸発させながら、炎の壁が、だんだんと女神との距離を詰めていく。
 だが、濁流がぐんと勢いを増した。
 盾ごと押し返されたカガリだったが、
「はああああああ!!」
 さらに炎をたぎらせ、力の限り押し込み、無理やり前進する。
 そしてついに、カガリが押し切った。盾に触れた瞬間、女神がごうと炎上する。水柱が力を失くし、バタバタと音を立てて落ちていく。
 女神が燃え尽きるのを、カガリは複雑な思いで見ていた。これで……良いはずだ。だが、言葉にできないわだかまりが、胸の内にくすぶっていた。それをいだきながら、カガリは長剣を収める。
 と、女神のいた場所に、別の景色が現れた。それはどうやら、魔術師の部屋のようだ。女神はあの部屋から、「この空間」を切り離し、閉ざす門であったか。
「むう……。門の、中に。門が、囚われるとは」
 ともあれ、ここから出なくては。女神は魔術師ではなかった。早く皆を守らなければならない。
 カガリは魚骨を蹴って跳び、門へと飛び込んだ。
 視界がひらける。見えた、二つの人影が。
 ステラに斬りかかるクロウと、呆然として動かない、傷だらけのステラが!
「ステラ!!」
 ガァン!!
 カガリの盾が、クロウの渾身の一撃を止める。
 ステラの目に、黄金色の髪が、やけにゆっくりとなびいて見えた。
「ステラ、ステラ」
 彼の声。
 心に沁みとおるような、温かな声。
「ステラは、カガリが守る。今、どうなっているのか、分からないが。ステラを守る、それは、絶対だ」
 ステラの心に、光が灯った。カガリはまさに、命の篝火。
「カガリ……、カガリ、カガリ。私は……死なない?孤独に、独りで、ここで、死なないで……いられる……?」
「ああ、ああ。ステラは、死なない。カガリが、守るからな」
「か……、は、カガ、リ……」
 溢れだした涙が、ステラの孤独を洗い流していく。もう、もう独りではない。カガリが、守ってくれる。
 同時刻。
 クロウ達は、困惑していた。
 魔術師を守るカガリが、クロウの一撃を止めたのだ。だが、クロウの後ろでは、カガリがノトスを守っている。
「か、カガリが二人だとォ!?」
 クロウの前にいるカガリが、クロウに話しかける。
「くろ、くろ。ステラを斬ったら、許さないぞ。……?あれは、カガリか?」
 ノトスも、自分を守るカガリと、突如現れたカガリの間に視線を彷徨わせた。
「ど、どうなっているんだ……?」
「幻術だ!二人ってコトは、確実に一人は偽物ってこった」
 クロウはアスラデウスを収め、霊気を内に集中させる。器物である自身の力を、内から外へ一気に解き放つ。
「幻術なんざ跳ね返す!真実を映し、暴き出せェ!!」
 霊気がクロウを中心に、ドーム状に広がっていく。霊気に触れた箇所から、偽の姿が解かれ、真実をさらけ出していった。
 傷だらけの魔術師は、傷だらけのステラへ。
 そしてノトスを守るカガリは、――災厄の魔術師へと姿を変えた。
「っっ!!」
 ノトスはざっと青ざめ、
「ぅアアアアアアアアアアアアーーーーーー!!!」
 大大音量で叫んでいた。倍音を幾重にも含み、超低音から超音波までが同時に、無差別に、その場の全員を襲う。
「ひわああっ!?」
 とっさに耳をふさぐ魔術師だったが、到底防ぎきれるような音量ではない。
「ぐあああッ!?ノトっ、ノトス!」
 音の暴力は、クロウをも貫いていた。
「くろ、くろ。カガリの手を、取れ。城門の中へ」
「ぐ……」
 うめき声で返事をし、クロウは伸ばされた手を取ると、カガリの後ろへと転がり込む。とたんに身体から衝撃が消えた。
 クロウの横には、同じくカガリに守られている、傷だらけのステラがいた。
「ステラ……。済まねェ」
 クロウはぐっと頭を下げた。言い訳などしない。
 ステラは、涙の筋をぬぐい、顔を引き締める。
「いえ、クロウ殿。頭を上げてください。悪いのは……」
 ステラは目で魔術師を指した。クロウも頭を上げ、すでに倒れている魔術師と、叫び続けるノトスを目に映す。
「アアアアッ!!アアッッ!!アアアアアアアアーーーーー!!!」
 恐怖も怒りも、『キミ』への想いも、そしてステラを傷つけた自責の念も、ごちゃごちゃに混ざって、ノトスの喉から溢れてとまらない。
 あの傷は、あのステラの傷は、ノトスがつけたのだ!
 ノトスの長音がやむには、しばらくの時間がかかった。
「アアア……、アア……、はぁっ、はぁっ、は……、は……」
 叫び終えたノトスは、顔面を蒼白にして、一歩、また一歩と、力無く前に歩き出す。
「ステラ……、ステラ、すまない、ステラ、私は……私は……」
 大切な友を、傷つけた。
 ステラに伸ばした手が彷徨い、罪悪感が涙となって溢れだす。口からぽつり、ぽつりと零れ落ちるのは、悲しみを紡ぐ歌。しだいに、はっきりとしたメロディを成していく。
 それは誰の胸をも締めつける歌であった。
 考えるよりも先に、ステラの足が動いていた。
「ノトス殿……ノトス殿!」
 ノトスを、ぎゅうっと抱きしめる。自分のために悲しむ、大切な友を。
 するとどうだろう。
 ステラの傷が、消えていくではないか。ノトスの歌は、癒しのユーベルコードであった。
 彼女の傷が全て消えると、ノトスは震える手で、すがるようにステラの裾をつかむ。
「ステラ……、すま、ない……、……すまない……」
 今にも消え入りそうな彼に、ステラは、優しく微笑みかけた。
「大丈夫ですよ、ノトス殿……。貴方の歌が、私を癒してくれました。もう痛みはありません。それに……こんな傷など、どうでもいいのです。私が貴方を、厭うはずがない。大丈夫、大丈夫です……」
「うぅ……、う、く、ステラ……」
 しゃくり上げるノトスの背を、ステラが優しく叩く。ノトスもようやく、落ち着きを取り戻していった。
 ――パチパチパチパチ
 拍手の音。
 ステラがノトスを庇うように出る。ノトスは袖で両目をぬぐった。クロウがノトスの横につく。そして、カガリが盾を構えて、ステラに並ぶ。
 全員が、ただ睨みつけた。
 全ての根源、災厄の魔術師を。
「素晴らしい!本当に素晴らしいよ!よくぞみんなを守りきったね、英雄カガリ。よくぞ真実を見破ったね、英雄クロウ。本当にすごい攻撃だったよ、英雄ノトス。それから……、よくぞ孤独に耐えきったね、流星剣。いや、英雄ステラ」
 魔術師の周囲を、四つの光球が取り巻いていた。白の光球、黒の光球、黄金の光球、そして白銀の光球。
 警戒する四人を前に、魔術師は、マイペースにため息を零す。
「はぁ……星にしたいけど、ちょっともう魔力が少ないかなぁ……。素敵なストーリーだし、僕のモノにしよっか」
 光球が魔術師に吸い込まれていった。魔術師は、夢見るように笑い、歌うように言葉を紡ぐ。
「ふふっ、これ以上遊んでたら、本当に負けちゃうね。でもそれはダメだよ。僕はもっともっと、英雄譚を作るんだから。ねぇ……、もっと僕に活躍を見せてよ、英雄たち!」
「何が英雄だ!選ばれし者などどこにもいない!」
 ステラが激しい怒りを叩きつける。
 カガリも、胸からこみ上がるものに突き動かされ、口を開いた。
「……英雄を嫌う、カガリが。英雄の真似事を、期待されるのも、腹立たしいが。望まぬひとに、望まぬ痛みを与えるものは、何より許しがたい」
 クロウも、アスラデウスを担いで言い放つ。
「俺は己が思う儘に動く。他人の敷いた路を歩むようじゃ、何も為せねェ」
 そしてノトスも、あの熱い思いを、静かにたぎらせていく。
「……お前の言う、英雄ノトスとやらは、リヒトを……倒し、乗り越えた英雄か……?ならば英雄など、英雄など!願い下げだ!なぜ戦わなければならなかった!なぜ、彼をこの身で貫かなければならなかったんだ!私は英雄などではっ、ない……ッ!!」
 全員が、それぞれの思いで、英雄を拒絶する。
 ステラが思うのは、英雄として見出された主のこと。彼は本当に人の出来た人だった。だがもう決して、彼を英雄とは呼ぶまい。彼は騎士。ステラが目指す、最高の騎士だ。
 ステラは流星剣を真っ直ぐに構える。
「ここに在るは、英雄の剣ではない。だが、貴様に運命を弄ばれていたとしても、主の心は本物だった。私は、最後まで信念を貫いた騎士の剣だったモノ。今は仲間と共に立つ、ただの剣の騎士だ!」
 それを聞き、魔術師は、ぷくぅと頬をふくらませた。
「むぅ……。みんなして拒否しなくてもいいじゃないか。英雄だよ?……そうだ!」
 ぱっと顔を明るくした魔術師は、くるりとワンターン。すると、みるみるうちに大きくなり、形を変えていく。
 カガリが真っ先に皆の前へと出た。
 魔術師は、ついには四人を見下ろす、白い巨大なドラゴンへと変貌した。虹の輝きを帯びる、首の長いドラゴンへと。
 その首が、プリズムのように七つに分かれた。それぞれが、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の色を宿している。
 虹の七首竜。
 驚き見上げる四人へ、魔術師の幼い声が降ってくる。
『ふふっ、僕を倒したいんだろう?じゃあ、かかってくるといい。ドラゴンと戦って、散っていった者として、君たちを英雄に……英雄譚にしてあげるよ……!』
 虹の竜は地鳴りのような雄叫びを上げる。七つの首が一斉に複雑な軌道を描き、襲い来た。
「ニフタ!」
 ノトスの召喚に応じ、彼の倍はある暗黒色の犬が現れた。ノトスはニフタに飛び乗る。
「ノトス!こいつ等も連れてけ!」
 攻撃力に欠けるノトスに、クロウが果実を放れば、それは蝙蝠へと姿を変える。荒城で世話になった夜雀だ。クロウの気遣いに、ノトスの顔が小さくほころぶ。
「ありがたく借り受けるよ、杜鬼。行くぞニフタ!」
「覚悟しろよ、糞野郎!」
 ノトスとクロウが飛び出していく。
「援護は任せました、カガリ!」
「ああ、ああ。任せておけ、ステラ」
 ステラも二人を追って駆け出す。
 カガリの前に盾が複製され、ずらりと一列に並んだ。その様は、壮観。
『ガアアアッ!』
 噛みつく紫竜を、クロウが正面から止めた。クロウはアスラデウスに紅焔を宿し、紫竜の牙と果敢に打ち合いを繰り返す。だが、紫竜の力任せの一撃に、クロウが大きく弾かれた。
「く!」
 さらに噛みつきかかる紫竜に、クロウは紅焔を大きく撃ち放った。視界を奪われる紫竜。その喉へ、細い幾本ものアスラデウスが次々と刺さる。ザン!最後の一本が、首を斬り落とした。
 クロウの手の中には、砕けたイヤーカフス。アスラデウスの形状を変えるための代償だ。
「このツケは高くつくぜ……!」
 クロウはアスラデウスを戻しながら、紫の首の上を駆けていく。
 藍竜が仕掛ける猛攻を、ニフタが素早く避けていた。だが、だんだんと距離が縮まり、噛みつかれるその瞬間、
 ガキィ!!
 盾が竜の牙を受けた。思わず動きを止めた藍竜の首を、ニフタが跳躍して噛みちぎる。
「助かった出水宮!駆けろ、ニフタ!」
 ニフタとともに、ノトスが次の竜へと向かう。
 ステラは青竜に向けて、なんと流星剣を投げつけた。不意打ちに、竜は顔への直撃は避けたが、首に剣が刺さる。だが、それだけ――ではない。
 ステラが消えた。剣の近くに肉体を再召喚し、剣を掴む!そのまま流星剣を振り抜き、青の首を斬り落とした。二段構えの不意打ちだ。
 ステラは、足元に飛んできた盾を蹴り、次の竜へと跳ぶ。
「ち、走ってちゃ届かねェな」
 紫の首を駆け上がるクロウが、緑竜を見ながら詠唱を紡いだ。
「古来より太陽神に司りし者よ。禍鬼から依り代を護られたしその力を我に貸せ──……来たれ!我が命運尽きるまで、汝と共に在り」
 大きな濡羽色の鳥、いや三本脚をもつ八咫烏がクロウをさらうように乗せ、緑竜へと一直線に飛ぶ。竜は迎え討たんとするが、烏の背を駆け、頭を蹴って跳び出したクロウがタイミングを狂わせた。まだ口を開けたままの緑竜を、アスラデウスが両断する。
 そしてまた、クロウを八咫烏がさらうように運んでいった。
 黄竜は、鋭いオルガンパイプの雨を抜け、ノトスに迫っていた。その黄竜の目に突如、羽を広げた夜雀が張りつく。
『ガアッ、ガアアア!!』
「今かっ!Organum(オルガノン)!」
 何本ものオルガンパイプが風を切り、黄の首を串刺しにする。
 己の役目を果たした夜雀が戻ってくると、ノトスは彼らに微笑みかけた。
「ありがとう夜雀。ニフタもだ」
 ノトスがニフタを撫でてやると、大きなニフタは嬉しそうにぐるりと一回り。
 そしてステラは、盾の足場に導かれるまま、宙を駆けて橙竜を目指していた。
 橙竜はぐわっと口を開け、噛みつきを仕掛けるが、
 ガキィ!!
 噛んだのは、盾。その盾へ、ステラは剣先を突き立てる。
「凍てつき輝け、我が星よ!」
 盾が冷気を通し、橙竜の顔面が見る間に凍りつく。その首を、別の盾を足場にしてステラが斬り飛ばした。
 盾を厄介と見た赤竜が、勢いをつけてカガリに噛みつきかかる。
 ガン!!ガリッ、ガリガリッ!
 だがカガリに攻撃は通らない。カガリの胸に、無念と信念がある限り、何物も内には通さない。手こずる赤竜に、
「ハアアアーーーーッ!!」
 降ってきたステラが一閃。赤の首が、ゴトリと地に転がった。
「――うん?ひいふう……終わったか?」
 ニフタに乗ったノトスが戻ってくる。
「ノトスよォ、其れはフラグってヤツだぜ?」
 八咫烏から飛び降りたクロウが、ノトスの横に着地した。八咫烏にひらっと手を振れば、烏は消えていく。
「ふらぐ?」
 首を傾げるノトス。それぞれ皆も、暗黒色の犬と、蝙蝠、複製の盾を消していく。
 ステラも流星剣を収め、沈黙したドラゴンを見上げた。
「ええとですね、つまり、そういうことを言うと、高い確率でまた敵が復活を――」
『しちゃうんだよね』
「「「「!?」」」」
 七つの首が集まっていく。首はゆっくりと合わさり、再びもとの白い首へと戻った。
 だが。
 ドラゴンは目に見えて疲弊している。口からは荒い息が漏れ、圧倒的だった存在感も、今やほとんど感じられない。ドラゴンは、息の間から苦しげに、言葉を吐いていく。
『終わらないよ……、「おしまい、おしまい」には、させない……、残りの力全てを懸けて!僕が、この僕が、勝ち残ってみせる!!』
 白のドラゴンが、絞り出すように咆哮した。
 果たして言葉のとおり、ドラゴンは持てる魔力を口に集め始めた。口腔が輝き、まるで留まるところを知らないかのように、魔力密度がぐんぐんと増していく。
『出した魔力は……、また取り込んで、ずっと撃ち続けるからね……。盾の後ろで耐えてもムダだよ……。もうすぐ僕の流星群が落ちてくる、そしたら、僕の勝ちだ……!』
「……これは、攻め入るしかない状況、ですね」
 ステラが流星剣を抜き、進み出る。
「守りはお願いします、カガリ」
「ああ、ああ、もちろんだとも」
「だが、ステラ……!」
 声を上げたノトスに、ステラはしっかりと頷いてみせた。
 ノトスは面食らう。だが、ステラの顔はどうだ。一点の曇りもない、真っ直ぐな、まさに剣そのものの顔をしている。ノトスは、ぎゅっと目を閉じて不安を飲み込み、ステラに頷き返した。白百合の杖が、無数の白百合の花弁へと変わる。
「……分かった。私も、出来る限りのことを、しよう」
「俺がヤツの動きを止めてやる。お前の手で、訣別を刻め、ステラ」
 クロウが菫青石のピアスに触れた。この特別なものを、今、友のために使わないでどうするのか。
「くろも、オルガンのも、カガリが守る。二人とも、城門の内へ。――ステラ、ステラ」
「ああ、カガリ」
「ステラの剣は、決して折れない。何があっても、カガリが、守るからな」
「カガリ……、ありがとう」
 カガリに微笑んだステラは、ただただ凛々しく、美しかった。
 そして、キッとドラゴンを見上げる。ステラは流星剣を掲げ、ドラゴンの口にある魔力球を指した。それは今や凶悪な密度となり、見る者を絶望させずにはいられない禍々しさを放つ。
 だがもう、ステラは絶望には屈しない。ノトスが、クロウが、そして、カガリがいるのだから。
「我は剣にして星。願いを叶え、迷いし者を導く、災厄より生まれし希望の星なり」
 ステラが、流星剣が、白銀色に輝いた。その身がふわりと浮く。流星剣を両手で構えたステラは、彼女の名の一つを、高らかに口にした。
「私は星――希望の星(ステラ・マリス)!!!」
 ステラが、爆発的に飛び出す。光の尾を引き、一直線に翔け上がる。
「デカい図体しやがって、精々足掻け!我が掌中に囚われよ……!」
 クロウがユーベルコード【魔除けの菫(シンデモハナレナイ)】を放ち、ドラゴンの動きを固く縛る。
『ぐうっ!』
「No.496……うるわしき、白の花。咲き誇れ!」
 白百合の花弁が、動けないドラゴンの両目に殺到した。
『ガアアアアッ!!グアアッ!!』
「ち、もう解きやがったか」
 ドラゴンが首をぶんぶんと振る。
『ああもう!見えない、どこか分かんない!全部消えちゃええええええええ!!!』
 ドラゴンが、ついにあの魔力球を炸裂させた。
 視界がまず、白一色へ。遅れて、存在という存在を、凄まじい衝撃が襲う。
 ドラゴンの目前まで迫っていたステラに、
 ガガガガッ!!
 盾の群れが集まった。盾は衝撃を、決して通しはしない。
 だが、全方位に分散していながら、あまりにも激しく打ちつける衝撃が、盾とステラを押し戻していくではないか。
「「「ステラ!!」」」
「ぐっ!皆……力を!私に『願い』を懸けてください!」
「願いだとっ?」
 クロウが問い返す。それに答えたのはカガリだ。
「ステラは、流れ星。ステラに願えば、叶えてくれる」
 カガリは押し戻されるステラに、声を上げた。
「ステラ、ステラ!英雄などという、忌まわしいものを生み出す、あのものを!ステラの刃で、討ち倒してくれ!」
「その願い、聞き届けました、カガリ……!」
 ステラの光が増し、後退が止まる。力が拮抗した。
「成程なァ……、ステラ!」
 クロウもまた、大きく息を吸い、願いを叫ぶ。
「俺が俺の路を歩むように!お前の路は、お前が生きろ!答えを示せ、ステラ!!」
「ありがとう、クロウ殿……!その願い、聞き届けました!」
 ステラの光が増し、ゆっくりと、しかし確実に盾を押していく。
「ステラ!お願いだ!」
 ノトスが両手を組み、思いの限りを叫ぶ。
「彼の苦しみを!数えきれない悲しみを!今こそ全て断ち切り、終わりにしてくれ、ステラ!!」
「その祈り、その願い!聞き届けました、ノトス殿!」
 ステラの光が、さらに増した。
「うおおおおおおおおお!!」
 盾とステラが、ドラゴンの魔力を押し返し、加速していく。
 ついに。
 ドラゴンの鼻先に触れたその時、彼女の剣は斜め下を示す。
「私は英雄じゃない……なるものか!落ちろ!!災厄生みし災厄よ!!!」
 光り輝く星が、急降下する。
 ドラゴンの首を貫き通し、
「ステラ!!」
 クロウの願いを乗せ、
「ステラ!!」
 ノトスの祈りを乗せ、
「ステラ!!!」
 カガリの盾とともに、流星が翔る!
 喉奥を貫き、ドラゴンの心臓を穿ち、その巨体に焼け焦げたトンネルを残して、今、流星の騎士は……地面へと、ふわりと降り立った。
 強大な魔力と、ステラの光が、同時にふっとやむ。
 耳に痛いほどの、唐突な静寂。
 ――そして、ドラゴンがふらつき、その見上げるほどの身体がしぼみ、小さくなっていく。
 とさり。
 災厄の魔術師が、地に落ちた。
 もう、誰の目にも明らかだった。魔術師には、一握りの力も残っていない。
「……ステラ!ステラ、怪我はないか!」
 思わず駆け出すノトス。
 流星の騎士は、晴れやかな笑顔で応えた。
「ノトス殿。ええ、このとおり、無事です」
「為し切ったな、ステラ。流星の騎士の生き様、見せて貰ったぜ」
 クロウもステラに歩み寄る。
「クロウ殿。私一人では、決して為し得ませんでした」
「ステラ、ステラ」
 カガリが、ステラの横まで歩んでいき、並んだ。
「お疲れ様、だ。ステラに願いを、叶えてもらった。嬉しい、ものだな」
「カガリ……」
 ステラはくすりと笑う。
「カガリこそ、私の願いを叶えてくれたでしょう。最後まで、守り通してくれましたね」
「うん?最後では、ないぞ。これからも、カガリは、ステラを守る。何があっても、だ」
「カガリ……。カガリ。本当に……、ありがとう」
 ステラとカガリが、互いに微笑みを交わす。
「……うぅ……」
 小さな声がした。全員の視線が集中する。
 胸に大穴をあけていながら、まだ息があったのか――あの者は。しかしもはや、彼にできることは力無く、絶え絶えに、言葉を零すだけ。
「……いや、だ……、いやだ……。だれ、にも……、読んで、もらえて、ない、のに……。……僕は……、じゃあ……、なんの、ために…………」
 魔術師が、ゆっくりとしぼんで、さらに小さくなっていく。
 そして、一冊の本になった。
 皆、それがすぐには理解できなかった。
 真っ先に真実を見抜いたのは、クロウだ。
「……ヤドリガミ、なのか……?」
「「「!!?」」」
 そう。
 災厄の魔術師は、本のヤドリガミ。人に、読まれるためにある存在。
 カガリが、信じられないような顔をする。
「……今、あのものは、言ったのか。誰にも、読んで……もらえて、ないと」
「出水宮、待ってくれ出水宮……。奴は、本で……。なのに……読まれていない、のだと……?」
 ノトスの顔が、ゆっくりと青ざめていく。
 ステラも、浮かぶ疑問をそのまま漏らしていく。
「そんな、一体……なぜ……?貴方は、だって、何年、何百年生きて……」
 その何百年の間。
 この本は、読まれなかった。一度も。ただの一度も。
「マジか……。……そうか、そう云うコトだったのか。ヤツは英雄を作りたかったんじゃねェ。『英雄譚』を、作りたかったんだ。とびきりの、面白い、美しい、悲しい、素晴らしい英雄譚ってヤツを。そしたら……、誰かが読んでくれるかも知れねェと……」
 クロウが額を手で覆い、大きくため息をつく。
 クロウはその心に、正確に、災厄の魔術師の真実を映していた。
 彼は、歌うことを奪われたノトスであり。
 彼は、守ることを奪われたカガリであり。
 彼は、戦うことを奪われたステラであった。
 そして……クロウは思う。自分がもし、何も映してはならないとなったら、自分はどうなってしまうのだろうか。
「っ……!」
 ノトスが突き動かされるように、駆けだしていた。
 近づいてみれば、その本は、絵本であった。
「……絵本……」
 児童向けの、カラフルで、楽しげな絵本。
 彼の姿を思い出す。強大な力に不釣り合いな、幼い姿。話し方も思考も、どこか幼さを感じさせたが、それはそうだろうとも。
 だって彼は、絵本なのだから。
 幼いから仕方がないなどと、そんな風に済ますことはできない。ノトスが彼を拒絶する思いは、あまりにも強い。彼が『キミ』にしたことは、絶対に、絶対に許せない。
 だが。
 その幼い精神が、何百年、その存在を否定されてきたかと……そう思うと、心の奥までがえぐられるのだ。心が血を流し、ぎりぎりと痛むのだ。
「……ノトスよォ」
 ノトスの横に並んだクロウが、ノトスの頭にぽんと手を置く。
「……お前の気持ちは、皆が解る。どっちも本物の気持ちだ。だからな……、何方かを選ばなくてもイインだ。どっちの気持ちも、認めてやればイインだよ」
 ノトスの目から、大粒の涙が、ぼろっと零れた。
 自分はこうして、認めてくれる者がいる。だが、誰だって、存在を認められていいはずだ。彼だって……。
 ノトスは、絵本の横に白百合の杖を置くと、絵本を手に取った。知らず、絵本を抱きしめていた。
 クロウは、ノトスの正面に回り、少しかがんで目と目を合わせる。クロウはことさら、優しく言った。
「ノトス。そいつをどうするか、其の答えは、ステラが出すべきだ。渡して、やれるな?」
 ノトスは、素直にこくりと頷く。そして、ステラのほうへと歩み出した。クロウも、ノトスの横について歩く。
 ノトスの手の中で、サラリ……、少しずつ、彼の存在が崩れ落ちていく。
「……ステラ」
 ノトスはステラに、絵本を差し出した。
「彼に、残された時間は、少ない。キミが……決めてくれ。彼の、最期を」
 ステラは、震える手で、絵本を受け取った。
 絵本の表紙には、四人の姿がかわいく描かれており、こうタイトルが付いている。
『さいごのえいゆうたん』
 それを見たステラの顔が、くしゃりとゆがんだ。
 ステラこそ、彼への思いは誰よりも深く、重い。許すなど、到底できるはずもない。
 だが、……どうして、斬り捨てることができるだろう。彼の、孤独を。だって、孤独がどういうものか、ステラにはよく分かっているではないか。あの宇宙の暗さを、あの海底の冷たさを、あの……心が砕けそうな孤独を!
 ステラは、震える細い指で、表紙をめくっていた。
「ステラ、ステラ」
 ステラが苦しげな顔を上げれば、すぐ隣にカガリがいた。
「カガリにも、読ませてほしい。……為すべきを、為せぬ無念は。カガリにも、よく分かる」
「……カガリ……ええ。もちろん。一緒に、読みましょう」
 ステラは今一度、絵本に目を落とした。カガリもステラにくっついて、絵本を覗き込む。
 それは、四人の英雄達が魔術師と戦って、見事に討ち倒す物語。
 めくったページが、サラサラと崩れて、消えていく。
 ステラも、カガリも、一文字一文字、添えられたイラストまで、しかと目に焼き付けながら読んでいった。
 そして、最後のページ。「おしまい、おしまい」と書かれたページをめくり、ステラは本を閉じる。
 絵本は今や、裏表紙だけになっていた。
 ステラは、下手くそに微笑むと、小さく呟く。
「読みましたよ……、アルクス」
 それは、物語に書かれていた、彼の名前。
 初めて誰かに呼んでもらった、その言葉を、彼は聞くことができただろうか。
 サラリ……
 残る裏表紙も崩れ始め、そうして――彼の全てが、この世から消え去った。
 多くの災厄を撒き散らした魔術師を、猟兵達はついに討ち倒したのだ。彼は骸の海へと沈み、もう二度と、その姿を見せることはない。
 見届けたノトスがグッと顔を伏せ、クロウがノトスを抱き寄せる。
「……そいつの不幸は、独りだったコトだ、な……。誰かが共に居てやれれば、こんなコトには為らなかったんだ」
 きっと、クロウの言う通りなのだろう。
 押し黙るステラの肩に、カガリがぽんと手を置いた。
「カガリには、皆がいる。ステラにも、皆がいるし、カガリもいるぞ」
 カガリは微笑む。ステラを見守るカガリは、いつだって頼もしく、優しい。
「帰ろう、帰ろう、ステラ。皆のところへ」
 ステラの胸に、温かい気持ちが湧いてくる。それを、まだ哀しみの滲む微笑みへと変えて、ステラはしっかりと頷くのだった。
「ええ……。帰りましょう。――皆のところへ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『星の雫の降る夜に』

POW   :    星を見上げる

SPD   :    零れる星を追う

WIZ   :    掌に掬う

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 宮殿を抜け、偽装された洞窟の入り口を抜けて、外に出ると――
 夜空を、流星雨が満たしていた。
 白、赤、黄色、青……色とりどりの星が降り注いでいる。災厄の魔術師が仕掛けた流星群が落ち始め、大気圏で燃えて、虹のごとき光を発しているのだ。
 こつん
 足元に何か落ちた。魔力結晶だ。
 小さいそれは、あの星の燃え残ったもので、地面にまで到達したひとつだった。空気抵抗で減速しているため、破壊力など微塵もない。
 それを手に取れば、脳裏にうっすらと、それぞれの結晶が記憶した『英雄譚』の断片を見せてくれるだろう。もしかしたら、あなたや、あなたに関わる人の『英雄譚』にも、出会えるかもしれない。
 ――星の雨が降る夜。
 人々は窓を開き、空を見上げる。数えきれないほどの願いが、今宵、地を満たすのだ。
 あなたの願いも、星に託してみてはどうだろう。
御剣・刀也
POW行動

流れ星、いや、流星群か
これだけの物は中々拝めないし、壮観なものだな
願いを叶えてくれってわけじゃないが、一つ、願ってみるか
こんな俺でも、それくらいの事はしたって、ばちは当たらんよな

流星群を見上げながら心の中で、自分の願いを願う
自分の一番大事な人が何時までも壮健でありますように。何時までも隣にいられますように
と、心の中で願いながら星を眺め、一緒に見てもよかったな。とちょっと残念に思う



「流れ星、いや、流星群か」
 人間の剣豪、御剣・刀也は、夜空を見上げて呟いた。
 全天を埋めつくす、色とりどりの光の筋。街灯りのないこの地では、手が届きそうなほど鮮やかに、くっきりと見える。
「これだけの物は中々拝めないし、壮観なものだな」
 刀也はポケットに手を突っこみ、静かに空を見上げていたが、ふと思い立った。
(願いを叶えてくれってわけじゃないが、一つ、願ってみるか)
 日々、強敵との戦いに明け暮れ、それに歓喜すら覚える修羅。そんな刀也だが、星に願いをかけるくらいしても、ばちは当たるまい。
 刀也はしかと星々を目に映し、願いを心に唱えた。
(一番大事な人が、何時までも壮健でありますように)
 思い浮かぶのは、青から白へグラデーションする髪、琥珀の瞳を持つ彼女の姿。
 自身の最も恐れる存在として示されたのが、彼女からの攻撃であった。彼女はそれほど、刀也にとって大切で、大事な人。
 彼女を思い、刀也はもう一つ、願いをつけ足した。
(何時までも隣にいられますように)
 上天では、まだまだ終わらない光の天体ショー。
 一緒に見てもよかったな、と少し残念に思う。星の名を持ち、星そのものでもある彼女と、一緒に。
 ――帰ろう。彼女の待つもとへ。
 歩き出した刀也の背で、彼の英雄譚を乗せた青い星が、ひらりと光の一筋を描くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルード・シリウス
(足元に落ちた赤い結晶を拾い上げ)
あの魔術師が遺した流星群の成れの果てか。倒してしまえばなんて事はねぇ、残骸みたいなものに…

触れた結晶が見せたのは、一匹の獣(バケモノ)の記憶
幸せだった日々、自分達を受け入れてくれた彼女達、それはアイツにとっても同じだった。だからこそ、総てを喪ったあの日、俺と同じ様にアイツも憎悪した
自身が元凶なら、自分だけにその牙を剥ければ良かった。だが世界は、彼女達に牙を向け、総て奪い去っていった…

…確かにお前は元凶だ。だが、お前は俺で俺はお前だ
だから手を貸せ、俺達が俺達で在る為に、俺達の居場所を失わねぇ為にな



 ダンピールの黒騎士、ルード・シリウスは、足元に落ちた赤い結晶をスッと拾い上げた。
「……あの魔術師が遺した流星群の成れの果てか」
 倒してしまえば、何ということはない。残骸でしかないそれは、村三つどころか、獣の一匹も殺せはすまい。
 獣。
 触れた結晶が、ルードの脳裏に、彼の英雄譚を――
 一匹の獣(バケモノ)の記憶を映し出す。
 幸せだった日々、自分達を受け入れてくれた彼女達、それはアイツにとっても同じだった。だからこそ、総てを喪ったあの日、ルードと同じ様に、アイツも憎悪した。
 アイツ自身が元凶なら、自分だけにその牙を剥ければ良かった。だが世界は、彼女達に牙を向け、総て奪い去っていった……。
 ルードは手の中の結晶に、そしてまた、己にも語りかける。
「……確かにお前は元凶だ。だが、お前は俺で俺はお前だ。だから手を貸せ、俺達が俺達で在る為に、俺達の居場所を失わねぇ為にな」
 いつか己も、ただ喰らうだけの獣(バケモノ)になり果てるかもしれない。だが、まだだ。あの痛みを、あの憎悪を胸にいだく限り、ルードはルードとしてこの居場所にいられる。
 赤い結晶をぐっと握り、ルードは歩き出した。
 満天の流星群。願いを叶えるという星々。
 だが、ルードに願いなど必要ない。
 彼の往く先に待つのは、無情なる戦いの地なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テラ・ウィンディア
………英雄譚か

それなら
…黒騎士アンヘルや紅炎の姫の英雄譚は無いだろうか

後は…そうだな…シルやリオ…おれの姉妹の英雄譚も探してみようか

…其れだけじゃない
おれが憧れる英雄達
彼らの物語に触れるなら
探しに行こう

叶わぬだろう我が願いは
あの黒騎士に再び挑む事

ああ
唯勝ち逃げされちゃったから悔しいってだけだとも

【空中戦】とモードグランディアで星々の中を飛びながら
落ちてくる結晶を浴びよう
おれもまた物語は愛しているよ
(星々が流れ落ちるそんな夜空の幻想の中、目を閉じて舞星々と戯れよう

おれもまた星々の力を借りて戦うものだ
なら…こうして星々と触れ合う事で少しでも英雄に近づける事を願おう

災厄の魔術師
…お前は何がしたかった



「災厄の魔術師……お前は何がしたかった」
 エルフの竜騎士、テラ・ウィンディアはぽつりと独りごちた。
 英雄譚を作る。
 ただそれだけと言えばそうだが、魔術師にとっては、存在をかけた営みであった。
「……英雄譚か」
 テラは空を見上げる。一面に降り注ぐ流星雨。あの星の、一つ一つが英雄譚なのだという。
 黒騎士アンヘルの英雄譚は、世界を超えたここでは、語り継がれていないだろう。だが紅炎の姫のものなら、あるかもしれない。
 ふと目を伏せて思う。あの黒騎士には、勝ち逃げされてしまった。もう叶わないだろうが、再戦を願わずにはいられない。
「星に願ってみるか」
 流れる星々を目に映し、三回、心の中で唱える。黒騎士に再び挑む、黒騎士に再び挑む、黒騎士に再び挑む。そして今度こそ――テラは奴に勝利するのだ。
「後は……そうだな……、シルやリオの英雄譚も探してみようか」
 姉妹達、そしてテラが憧れる英雄達。彼らの物語に触れられるなら、探しに行ってみよう。
「グランディアよ……全ての存在がもつ原初の力よ。我が身に宿り力と成せ……!グラビティフィールド……展開!」
 全身を超重力フィールドで覆い、ふわっと宙に浮く。そのまま、テラは夜空へと飛び出した。
 星々の中を翔れば、数々の英雄譚が、浮かんでは去っていく。結晶と幻想を浴びながら、テラは黒鳥オディールのように舞い踊る。
 テラもまた、星々の力を借りて戦うものだ。であれば、こうして星々と触れ合って、少しでも英雄に近づけることを願おうではないか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリュウ・リヴィエ
おお。
これはまたカラフルな。
宣言通り、魔力の消えた結晶が燃え尽きて、被害なく済んでるんだね。

星にかける様な願いもないし、そもそもあれ星じゃないしなあ。
眺めるだけ眺めて、飽きたら帰…
あー。
そういえば、さっきの戦いも記録されてるんだっけ?
…自分の、探しておこうかな。
あれ、人に見られると色々問題ある気がするし。
知らない人が見れば、化け物呼び出したりそれで相手食い殺したり。
間違って子供が見たりしたら、トラウマ物だよねえ…。

確か飛んでった時の色は金色だったかな。
見つかるといいなあ。



「おお。これはまたカラフルな」
 洞窟から出てきた、ダンピールのグールドライバー、クリュウ・リヴィエは空を見上げる。
 満天を、色とりどりの流星が埋め尽くしていた。
「宣言通り、魔力の消えた結晶が燃え尽きて、被害なく済んでるんだね」
 今ごろ、多くの人々が願いをかけていることだろう。
 だが、クリュウは小さく首を傾げ、うーんとうなる。
「星にかける様な願いもないし、そもそもあれ星じゃないしなあ。眺めるだけ眺めて、飽きたら帰……あー」
 クリュウは、傾げていた首を戻した。
「そういえば、さっきの戦いも記録されてるんだっけ?」
 そう。
 『英雄』本人の意思にかかわりなく、記憶された『英雄譚』はすでに打ち上げられてしまっている。どこかにはもう、落ちているのだろう。
「……自分の、探しておこうかな。あれ、人に見られると色々問題ある気がするし。知らない人が見れば、化け物呼び出したりそれで相手食い殺したり。間違って子供が見たりしたら、トラウマ物だよねえ……」
 その化け物を、手のひらに埋めこんで、御しているのがほかでもない、クリュウという男なのだが。
「確か飛んでった時の色は金色だったかな。見つかるといいなあ」
 クリュウはひらりと、夜に飛び出していく。
 血を吸った外套をなびかせ、悪意を吸った服を纏い、美しきダンピールは今も、手の内の化け物に命を脅かされながら――笑って夜を舞うのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

最後の英雄譚、それは悲劇でした
誰にも求められなかった一冊の本が起こした悲劇。
彼が起こした事件を思えばこの結末は必然だったのかもしれない。
そうであっても「もしも」と「たられば」が、愚者の思考が止む事はない。母を亡くした時と同じように。

結晶を拾えば、浮かぶのは二人の子供の姿。
毒に病もうとも、小さな力であっても、勇気を胸に秘めて前へ進もうとする小さな英雄。……私も見習わなければいけませんね。
祈りましょう。二人の英雄と一冊の本、そして母に。
無力で愚かであっても、祈る事くらいは赦されるだろう。

悲劇と再開に、胸が痛む。
それでも、私の過去が私に歩みを止める事を赦さない。
ありがとう、いってきます。



 人間のマジックナイト、アリウム・ウォーグレイヴは、満天の流星雨を見上げながら思う。
 最後の英雄譚。それは悲劇であった。誰にも求められなかった一冊の本が起こした、悲劇。
 今までの数えきれない災厄と、その被害者達を思えば、この結末は必然だったかもしれない。
 そうであっても。
 「もしも」……と思うのだ。「たられば」と。もしも彼が独りでなかったら……。もしも彼が、誰かに、自身を読んでもらえていれば……。
 そんなものは、愚者の思考にすぎない。だが、分かっていても、そう思わずにはいられない。母を亡くした時と同じように。
 こつん
 アリウムの足元に、魔力結晶が落ちた。冬の湖を思わせる蒼氷色の結晶。
 拾い上げれば、しだいにはっきりと、二人の子供の姿が脳裏に浮かぶ。たとえ毒に病もうとも、非力であっても、勇気を胸に秘めて前へ進もうとする小さな英雄達の姿が。
 アリウムはそれを見て、思わず微笑んだ。
「……私も見習わなければいけませんね」
 祈ろう。神などいなくても。自分がいかに無力で、愚かであっても。祈ることくらいなら赦されるだろう。
 二人の小さな英雄達の未来を。そして、過去に沈んだ一冊の本と、――母の、とこしえの安息を。
 確かに今回の出来事は、悲劇だった。胸がきりきりと痛む。
 それでも、この結晶は彼らの姿を見せてくるのだ。
 未来を向き、アリウムを急かして共に歩まんとする子供達の笑顔を。
 過去からアリウムを見守り、子が正しく進むことを望む母の笑顔を。
 彼らの顔を、曇らせることはできない。アリウムが歩みを止めることは、赦されない。
 歩もう。この足で。
 胸に残る母の言葉が、温かく背を押してくれる。優しいその声に、アリウムは答えて言うのだった。
「ありがとう、いってきます」
 アリウムは進む。胸にいだく絶望と共に、前へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【宿神】
捏造◎
他の人へ反応お任せ

語る英雄譚など持ち併せてねェが…

朧げな甘い御伽噺
鬼の杜の社に来る前の記憶を辿る
覆われた過去

・創造主
銀の長髪
心優しい聖人
趣味は篠笛
口調参照:夢の棺

天上の世界、高天原
草木や鳥の囀り
睡蓮が咲き匂う豊穣

真の姿の己だけ全記憶保持
本体は呪詛含む全攻撃跳ね返す神鏡
鏡の時から創造主のみ会話可能
他者は己の声聞けず

『そなたの力、儂に貸してはくれぬかの』
「至極当然。余(おれ)は汝(うぬ)に創られし万物。好きにせよ、其を許すも汝のみ」

諍い事鎮める為に憂い晴らす
妖討伐の武勇伝
月夜眺め勝利の美酒を口に
享楽に耽る格別な一時
響く篠笛

『現世の安寧を末永く儂は願っておる』
「ならば余は汝の願いを…」


ステラ・アルゲン
【宿神】

流れ落ちた星一つ
蒼い星の欠片

現れる断片
懐かしい王宮の庭園

四阿の下
魔術師と側に置かれた流星剣
近づくのは主の姿

剣として主に出会った日
掠れた過去の記憶

剣を受け取り歩き出す彼の背を見送る
その道は貴方にとって幸せだっただろうか?

『英雄譚とは最後に災厄は倒され、希望で終わるものだよ』
……これで満足しましたか? アルクス
『ふふ。そうだね、ありがとう』

未来の私の声に過去の彼は応える
きっと未来を見透す力が今の私を捉えている

『こうして僕の物語は終わった。だけど君の物語は続く。さぁ、願いを叶えて僕の星。読者としてこの先も楽しみにしているんだから』

あどけない、どこまでも純粋な笑顔を残して
過去が消えていく


ノトス・オルガノン
【宿神】
◆WIZ
アドリブ歓迎
あぁ…綺麗、だな
あの戦いが、まるで夢のような…いや、夢には出来ないな
抱えて生きよう
名状しがたいあの激情も
1人の、幼すぎた同胞の終焉も

流れた星を徒に掬う
琥珀の色
何処か彼の瞳に似ていた

これは、彼の記憶だろうか
華やかな舞台の上
見たことの無い服
私ではないオルガンと、喝采を浴びる君
あぁ、やはりそうだったか

変わる場面
見知った教会
不安そうなキミの眼差し
私≪オルガン≫を見つけた時の、晴れた顔
満ちて広がる音の波

これ、は…?
彼と…私、なのか?
霞がかった真白な空間
何を、話していたのだろう
…なぜ、覚えていないのだろう…

『幸せだったよ』
『どうか、悔やまないで』

その声を最後に、幻は消えた


出水宮・カガリ
【宿神】

…ここではない世界のものも、あるのかな
読まれなかった英雄譚
遂げられず忘れられた、救済の話

…桜と黄金の都にて
よもつひめを救おうとしたひとがあった
旅の妖狐の女、名は…みか、だったか
こんな事をしてはいけない
ここにいてはいけない、と
力も無いのに、勇気を出して、説き伏せようとした
…みかは、魂まで呪われて死んだ
異形の悪食の影朧にまで堕ちて
力の無いひとが、何かを救おうなどと
英雄になど、なってはいけない…そういう話だ

『あたしは、もう食べないでいいって、言ってくれたから』
『できればあの人も、もう嫌われなくていいように』

みかの話に、救済は無かったはずだが…救えないなぁ、本当に
やはり、嫌いだ
英雄というのは



 洞窟から外に出た、ヤドリガミのマジックナイト、杜鬼・クロウは思わず感嘆を漏らす。
「此れは……、壮観だな」
 隣を歩いていた、ヤドリガミのシンフォニア、ノトス・オルガノンがこくりと頷いた。
「あぁ……綺麗、だな。あの戦いが、まるで夢のような……いや、夢には出来ないな」
 この胸に抱えて生きようと、ノトスは思う。名状しがたいあの激情も。一人の、幼すぎた同胞の終焉も。
 そのあと洞窟から出てきたヤドリガミのパラディン、出水宮・カガリが、空を見上げて、少し顔を曇らせる。それを、今尋ねるのも無粋かと、ヤドリガミの王子様、ステラ・アルゲンは黙って横について歩く。
 ふと、ノトスが何かを見つけ、帰りの道から外れていった。
 クロウはステラとカガリに、ちょっと手をあげてみせてから追う。『俺がついてく、直ぐに追いつく』と。
 ノトスは向かった先で、流れて落ちた一つの星を、手にすくっていた。
 琥珀色の結晶。それは何処か、彼の瞳に似ていた。
 まるで色が染み出すように、結晶がノトスに幻を見せる。
 満席のホール。ボックス席には上顧客が座り、流れているはずの音に皆が耳を傾けている。
(これは、彼の記憶だろうか)
 華やかな舞台の上、見たことの無い服。ノトスではないオルガンと、喝采を浴びる『君』。
(あぁ、やはりそうだったか)
 場面は変わる。
 見知った教会で、キミは不安そうな目をしていた。だが、私≪オルガン≫を見つけ、その不安がふわりと晴れる。
 彼の長い指と、鍵盤が触れた。
 そうして教会に、街に、音の波が満ちて広がっていく。
(これ、は……?彼と……私、なのか?)
 記憶に、霞がかかったような真白な空白がある。
(何を、話していたのだろう。……なぜ、覚えていないのだろう……)
 ――幸せだったよ
 ――どうか、悔やまないで
 その声を最後に、幻は消えた。
 ノトスの心に広がったのは、困惑と、埋められない寂寥感だった。
 幻を映した結晶を手に、ノトスはうつむいて、揺れる心を御しきれずにいる。
「ノトス」
 呼ばれて、ノトスは顔を上げた。見ればクロウが、ちょっと困ったような笑顔を浮かべている。
「此処。凄ェ皺だぜ」
 とん、とクロウは自分の眉間を指で突く。
「そうだ。飛び切り不思議な話を聞かせてやろうか」
 突然の申し出に、ノトスはパチパチと目をしばたかせた。
「とびきり……?英雄譚、か?」
「ハ、生憎と、語る英雄譚など持ち併せてねェが……。其れは其れは、甘い御伽噺、だ……」
 クロウは、朗々と紡ぎ出していく。誰の御伽噺とも告げずに。
 ゆっくりと、記憶を辿り、浮かべていく。鬼の杜の社に来る前の、覆われた過去を。
「長い髪は銀、白き衣に身を包む男は、月の曜。其の月が創りし神器、如何なる難事も跳ね返す鏡は、日の曜。――天上の世界、高天原。草木も鳥も、努めて控え目に囁く。睡蓮の水辺に響き渡るは、伸びやかにて、素朴な篠笛の音。遍く物は響きを邪魔せぬよう、然し、囁き合わずには居られない。月の男が奏でる篠笛は、甘やかな睡蓮の香に溶けてゆく……」
「……シノブエ、とは、笛の一種かな……」
「そいつは横笛だな。篠竹って竹で作ったモンだ」
「ほぅ」
「月と日は相通じ、聞こえぬ声を交わす。
 ――そなたの力、儂に貸してはくれぬかの
 ――至極当然。余(おれ)は汝(うぬ)に創られし万物。好きにせよ、其を許すも汝(うぬ)のみ
 安寧脅かす妖の威も、日曜の鏡を以てすれば、其の剛力は反射して、妖の身へと降り掛かる。男は西に諍い在らば鎮め、東に憂い在らば晴らす。妖討ちし夜は、月を眺め、勝利の美酒を口にする。喉を下る雫に、火照る頬を撫でる風は一層涼しく、享楽に耽る一時は格別。
 ――現世の安寧を末永く儂は願っておる
 ――ならば余(おれ)は汝(うぬ)の願いを……
 掠れる甘い篠笛が、月夜に響く」
「……さぞ、美しい音色なのだろうな。聴いてみたいものだ」
「まァ、パイプオルガンに合うかは分からねェが」
 くす、と笑うクロウ。
「元気出たか?ノトス」
「え?」
 言われてみれば、なんだかノトスの心は軽くなっていた。
「なぜだろう……、元気が出たよ」
「そいつァ重畳」
 クロウは空を見上げる。大きな銀の月。そして色とりどりの星々が流れていく。
 ノトスも顔を上げ、そっと、手の中の琥珀星を、祈るように包むのだった。
 一方、二人と十分離れてから、ステラは口を開いた。
「カガリ。何かありましたか?」
「……無念のうちに、死んだ者は。英雄にも、あの星にも、ならずに。ただ死んだのだな、と。そんなことを、思っていたよ」
「そう……ですね」
 彼は、あまりにも多くの爪痕を残した。あの星の、何百倍、何千倍の命が流れた。
「読まれなかった、英雄譚。……ここではない世界のものも、あるのかな」
「……さすがに、それは無いでしょう。オブリビオンは世界を超えないはず。だからこそ、レディ・オーシャンが騒がれているんですから」
「そうか……そうだな」
「何か、見たい話があるのですか?」
「見たい、というか。思い出した、話があった」
 カガリはぽつり、ぽつりと話し出す。
「……桜と黄金の、都にて。よもつひめを救おうとした、ひとがあった。旅の妖狐の女、名は……みか、だったか。こんな事をしてはいけない、ここにいてはいけない、と。力も無いのに、勇気を出して、説き伏せようとした」
「誰かを導く『英雄』……になったのですか?みか殿は」
 ふるふる、とカガリは首を振る。
「……みかは、魂まで呪われて、死んだ。異形の悪食の、影朧にまで堕ちて。力の無いひとが、何かを救おうなどと。英雄になど、なってはいけない……そういう話だ」
 カガリの記憶に浮かぶ、彼女の言葉。
 ――あたしは、もう食べないでいいって、言ってくれたから
 ――できればあの人も、もう嫌われなくていいように
「みかの話に、救済は無かったはずだが……救えないなぁ、本当に」
「そう、ですね。救われない、救えない話……」
「やはり、嫌いだ。英雄というのは」
 カガリが顔をしかめる。ステラも今は、カガリと同じ意見だった。
「英雄は、もういたずらに生み出される事はなくなりましたから」
「うん、うん。ステラのおかげだ」
 カガリは、しかめっつらをほわりと明るくして、笑いかける。ステラもくすりと微笑み返した。
 こつん
 そこへ、蒼い星の欠片が流れ落ちる。
 すると二人の前に、いや周囲に、英雄譚の断片が立ち現れた。
 ステラにとっては懐かしい、王宮の庭園。掠れた過去の記憶。
 四阿の下、魔術師と、その側に流星剣が置かれている。ステラの主の姿が、魔術師へと近づく。
「あれは、ステラか?これは、一体……?」
「……これは……。剣として、主に出会った日、です」
 カガリの疑問に、景色を見つめたままのステラが答える。
 剣を受け取り、歩き出す主。
 その背を見送る魔術師は、虹に輝く白の髪、黒いとんがり帽子の、彼だった。彼の最期を知るステラだからこそ、どうしても思わずにはいられない。その道は、貴方にとって幸せだっただろうか?と。
『英雄譚とは最後に災厄は倒され、希望で終わるものだよ』
 彼が、ステラの思いに答えた。驚きながらも、ステラは問う。
「……これで満足しましたか?アルクス」
『ふふ。そうだね、ありがとう』
 今を生きるステラの声に、過去の彼が笑ってみせる。きっと、未来を見透す彼の力が、今のステラを捉えているのだ。
 彼はステラと向かい合い、見上げるように目を合わせる。
『こうして僕の物語は終わった。だけど君の物語は続く。さぁ、願いを叶えて僕の星。読者としてこの先も楽しみにしているんだから』
 弾む声を残し、彼が消えていく。
 そこには、ノトスとクロウが立っていた。
 ノトスは星を、両手で胸にいだきながら、ステラに話しかける。
「ステラも、見つけたか?」
「……ええ。見つけた、と思ったら、見つけられてしまいましたけど」
 きょとんとするノトスとクロウ。
「いえ……気にしないでください。彼は、笑っていました」
 そう話すステラもまた、笑っていた。
 隣に立つカガリは、その顔を見て思うのだった。彼が断片の最後に見せた、あどけない、どこまでも純粋な笑顔とは違うけれど。でも、どこかやはり、ステラの笑顔は、彼に似ているなと。
 彼はもう二度と現れない。だが、ステラの中で、父は静かに生き続けるのだ。
 ずっと、ずっと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月02日
宿敵 『災厄の魔術師』 を撃破!


挿絵イラスト