アースクライシス2019③〜誰も死なせるな!
世界を揺るがす戦争が始まっても、一般市民たちの日常は続く。家で引きこもってるぐらいなら、スクールに向かわねばならないのが学生の辛いところだ。
でも大丈夫、このニューヨークにだってヒーローは大勢いる。自分たちの生活はちゃんと保証されているのさ。
ニュースペーパーや動画配信を見て、戦況に一喜一憂し、アメリカン・フットボールを観戦するように手に汗握りながらヒーローの戦いを友達と見守るのが市民の役目ってものだ。
心配はない。ヒーロー達だって総動員で事にあたっているのだ。
なんだかんだ言っても今日という日は平穏に終わるし、いつもどおりの明日がきっとくる。
そう信じていた。
……スクールバスに真正面からぶつかってぶち壊す、巨大な化物の姿を見るまでは。
◆
「スクールバスを強襲して学生を皆殺しにしろ。……それがスカムキングの出した暴虐指令」
集まった猟兵たちに、ニヒト・デニーロ(海に一つの禍津星・f13061)は表情を崩さぬまま告げた。
「狙いは明白。……この世界の未来を担う子供達が殺されたら、人々は正義を見失う。希望を失う。勝利する未来を信じられなくなる。心がくじけて、悪にひれ伏してしまう」
そうなってしまえば、ヒーローズアースを巡る戦いは大きく不利になる。
この世界に住まう人々が正義を信じずして、ヒーロー達は戦えないからだ。
「敵は、呪法骸操士ネウィ。ゾンビを作り、操る能力を持ってる。ゾンビ達は目についたスクールバスを無差別に襲い、中にいる人間を皆殺しにしようとする。これを止めてもらいたいの」
少女型のオブリビオンと、このネウィが作り出したゾンビが今回の敵だ。
何もしなければ、巨大なゾンビが走行中のスクールバスを力ずくで止めて、群れなす量産型ゾンビが中に侵入し生者を貪り食う事件が各地で発生することになるだろう。
「現場のすぐそばに転移させてあげられるから、手遅れになることは……ないと思う。一つ、留意してほしいことがあるわ」
それは、今回の依頼の最重要目標だ。
スカムキングの暴虐指令によって発せられた“命令の実行を阻止する”事こそが、なによりも優先される。
「もしゾンビ達を倒しきれなくても、スクールバスを逃がすことさえできれば、“命令の実行は阻止できる”わ。一番大事なのは、被害を出さないこと」
ぶんぶん、と首を振って、ニヒトはグリモアを光らせた。
「……いいえ。皆なら絶対に助けてくれると、信じているわ。……お願い、します」
甘党
甘党です。ヒーローズアースの戦争です。
スクールバスをゾンビがジャックだ!
頼むぜ猟兵、誰も死なせないでくれ。
◆アドリブに関して
マスターページを参照ください。
◆採用方針
来たプレイングからかけるやつを書いて成功まで溜まったらぱっと終わらせてしまう方針です。
◆備考
今回のシナリオフレームには特定の行動にプレイングボーナスがつきます。
判定が有利になりますので、是非ボーナスに基づいてプレイングをしてください。
この依頼のプレイングボーナスは……
=============================
プレイングボーナス……命令の実行を妨害する。 =============================
……です。
以上になります、よろしくおねがいします。
第1章 集団戦
『呪法骸操士ネウィとデッドボディバタリオン』
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POW : ネクロマンサーズ・カウンターアタック
全身を【呪詛の瘴気】で覆い、自身が敵から受けた【ゾンビ軍団の損害】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD : デッド・ストリーム・アタック
【巨人型ゾンビ兵の】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【他のゾンビ兵達】の協力があれば威力が倍増する。
WIZ : サクリファイス・エスケープ
【雑兵ゾンビを捨て駒にして】対象の攻撃を予想し、回避する。
イラスト:つばき
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
姫守・刻煉
「戦う力を持たぬ者、それも小さな子供達を対象にするなど、止めねばなりません」
最優先するべきは敵をスクールバスに近付けさせない事になりますね。
「蒼炎煉刃・秋雨」を使い、雑兵諸共に殲滅したいところです。
撃ち漏らしたら後は順次近付く者から斬り捨てる方針で。
敵が此方の排除とバスへの襲撃の何方を優先するか不明瞭でもあるので、
バスから離れ過ぎない様に戦闘しつつ、此方を優先する様であればバスとの距離を空ける様動きます。
他の猟兵との共同も視野に入れ、バスを逃がす事を優先しながら殲滅に当たり、自身のダメージよりも護衛対象を優先します。
……え?
あぁ、僕を助けてくれたヒーローの話?
その、詳しいことは覚えてないんだ。
でも…………。
とっても、綺麗だった。
◆
「お、おおぉぉ、うおあうおう」
ゾンビが口に出す言葉に意味はない。
溜まった空気が穴から外にこぼれ出ているだけであり、しかしそれ故に不気味で威圧感がある。
会話も、対話も、意思疎通も不可能である、という事実を突きつけるだけの説得力がある。
「ひ、ひぃぃぃ……!」
バスの運転手は見る。前方に突如として現れた巨大なゾンビが拳を振り上げるのを。
アクセルを踏み抜く? 馬鹿な。
このヒーローズアースに置いて、異形に常識は通じない。
バスの質量を上回るような力があれば、潰れてしまうのは車体の方だ。
故にブレーキを踏み込んだことは誰も責められまい。結果、バスが停車したことも責められまい。
たとえ、その結果、いつの間にか現れていた、無数のゾンビに囲まれることになったとしても、だ。
「わ、わああああああああ!」
当然、車内は大パニックだ。
ゾンビたちの足取りは遅いが、着実に近づいてくる。
それは死へのカウントダウンであり、恐怖の砂時計が落ちる時間であり――――。
「だ、誰か助けて……っ!」
無辜の人々が、最後に祈る時間でもある。
そして――――祈りを聞き届ける者もまた、確かに存在する。
――――我ガ意ニテ
――――焔手繰リテ
「……?」
車内にいるというのに、そして外から響いているというのは間違いないのに、不思議とその声はよく聞こえた。
――――織リ成スハ
――――――刃ノ如キ
窓の外が。ぼうと明るくなった。
柔らかな青い光が、ちろちろと輝いている。
――――冷メタ雨也
雨のように降り注ぐそれが、刀であることに気づいたのは、ゾンビたちに降り注いだ時だ。
刺し貫けば、蒼炎が燃え広がり、死者を灰が残らぬまで焼き尽くす。
「――――もう大丈夫です」
凛、とした声が響いた。フロントガラスの向こうに、背を向けた一人の女性が立っていた。
濁りのない、透き通った氷の彫像と見まごうほどに、美しかった。
「戦う力を持たぬ者、それも小さな子供達を対象にするなど、止めねばなりません」
とんと一足、前に踏み出して、手にした刀をひょうと振るう。
それで終わり。
バスの前に居た、最も大きなゾンビが袈裟懸けに両断され、蒼い炎に撒かれて、周りのゾンビたちと同じ様に灰へと還っていった。
「安全なところまで、誘導致します」
くるりと振り返った、その女性は――――。
「…………綺麗」
誰かが言った。誰もがそう思った。
命を助けられた子供達は皆、心にその姿を焼き付けた。
大成功
🔵🔵🔵
アダムルス・アダマンティン
いつの世も人の希望は子と決まっている
豊穣神ならぬ身なれど、小さき人の子らは守らねばならぬだろう。それごオブリビオンの目的を挫くことであれば尚更に。
ゴッド・クリエイションで木彫りのリスと狛犬に生命と人よりも恵まれた体格、そして小さき人の子らを救助させる指令を与える。獣神ならぬ身とて、動物使いの心得はいささかなりともある
いざともなれば盾程度にはなる。……それに、俺が直に救助しては泣かれるだろうからな
救助の間に、俺は存在感を発して敵の注意を引き付ける
救助対象をかばい、時間稼ぎをしよう
かかってこい。木偶や雑兵、戈に頼らずとも我が槌にて叩き潰してくれよう!
「きゃああああああああああああああああああああああっ!」
大きな衝撃が走り、車体が大きく揺れた。
走行中のスクールバスを横殴りにしたのは、巨大なゾンビの拳だった。
スピンしながらコントロールを失ったバスは、慣性の暴力を中に居た者に叩きつける。
頭を強く撃った少女が、意識を失う前に見たものは――――。
「うあおあおうあおうあおうおーあー」
窓をこじ開けて中に入ってこようとする、生きた死体の姿だった。
◆
若い人間の肉を喰らうことは、知性と理性を失い、本能のままに動くゾンビにとって喜びでもある。
それがスカムキングの指令に合致するとなればなおさらだ。
大口をあけて、腐敗した口腔で、持ち上げた少女の腕に食らいつこうとして。
「――――ぁ……?」
恐怖も痛みも感じないゾンビが、なぜか動きを止めて、窓の外を見た。
他の個体も同様だ。どうしてか、それ以上動くことが出来ない。
「―――――――ギャ―――――――――!」
バチ、と弾けるような音と共に、強烈な閃光が走り、ただでさえ腐り落ちた網膜を真っ白に染め上げる。
何事か、それを気にする知性すら彼らには無いはずなのに。
目が離せない。背けられない。それ以上を続けられない。
生命が本能的に感じる恐怖、などという生易しいものではない。
絶対なる上位者からの命令であるかの様に、彼らは動けない。
「いつの世も人の希望は子と決まっている」
ざり、と踏み砕かれ、風に撒かれて散っていったのは、黒ずんだ灰の塊だった。
それがゾンビたちの司令塔たる巨人型の末路であるとは、電気の走らないシナプスの詰まった脳では理解できなかっただろうが。
その“もの”が持っている力だけは、なぜだか感じ取れる。
「しかるに貴様らは、既に終わった者だ」
大鎚の石突がどん、と舗装されたアスファルトを穿つ。
大きな瓦礫が二つ、宙に浮き上がり。
“彼”は無造作に、手にした大槌を叩きつけた。
雷がほとばしり、熱が生まれ、形を加工し、命が生じた。
巨漢である“彼”よりもさらに大きな、尾を持つ森の子と、狛犬であった。
それの二体が同時に近づいてきたことで、ようやくゾンビ達は我に返り――取り戻す我など無いのだが――急いで任務を、即ち“食事”を再開しようとした。
すべてが遅い。
すべてが無意味。
「終わった者が生者を喰らう。これほど馬鹿げた話はあるまい。故に――――」
“彼”を中心に、雷光が環状に放たれた。
それは、“彼”の持つ大槌の力。ゾンビたちは知る由もないが、それは「ソールの大槌」と呼ばれる特殊な武装であり。
この波動はその力の本質の一端を引きずり出すものだ、即ち。
「あー、うー、ぁー……?」
ゾンビたちの体が、宙に浮いた。いや、引き寄せられている。“彼”に向かって。
「――――ここで永劫に、“終”われ」
…………任意の対象に磁性を付与し。
行動も距離も支配する、神の権能。
ゾンビたちに与えられた引力の向かう先は、大槌そのもの。
それが振りかぶられ、放たれれば。
「あー、あああああああ!
雷光が走った。
万物が超過した熱を生み、全てを炭へと変えていく。巨人も雑兵も、等しく同じに。
◆
……えっと、はい、気がついたら病院に居たんですけど。
意識を失う前に、見たんです。
大きな武器を持った、大きな男の人と背中。
その時、ですか?
……リスに抱えられてたんです、私。
はい、大きな木彫りのリス。
今はその子、何故かスクールバスの後部座席に居座ってて。
何かあったら、守ってくれるみたいで……とっても、頼もしいんですよ。
成功
🔵🔵🔴
鳴宮・匡
○
正義を信じるとか、未来を守るとか
そういう“心”は俺にはないけど
それを守るための力だけはきっと、あるんだと思う
それを行使するのに躊躇いはない
……今はまだ、その意味も解らないけど
転移直後から敵前に姿を晒して攻勢をかける
“見えない敵を警戒する”なんて機微をゾンビに期待はしない
量産型は可能な限りワンアクションで仕留める
優先的に狙うのはバスに近いやつ、速度や機動力のある個体
デカブツへは関節、特に膝あたりを中心に攻撃を加え
進軍を僅かでも遅らせられるよう努めるよ
最悪、バスに取りつかれさえしなければ逃げては貰えるだろう
バスが逃げてくれたら足止め主体から殲滅戦へ
結局、全て殺すのが一番、後顧の憂いがないからな
……俺が助けられた時の話?
ああ、怖かったよビビった、死ぬかと思った。
……でも、いや、なぁ。
……あのさ。
やっぱ、誰かに吐き出さないと、どうにかなっちまいそうだから、言うわ。
…………怖かった、怖かったよ。
でも、一番怖かったのはさ。
助けに来てくれた――――男の人だったんだよ。
バスの正面に、でかいゾンビが出てきてさ。
思い切りフロントガラスを殴りつけて、スピンして、メック(※注:ファストフード店、メクドネルデ)の壁にぶち当たって止まっちまって。
外からわらわらゾンビが群がってきてさ、もう逃げられない、と思った時。
音もなく、バスに近いやつから、バタバタ倒れていったんだ。
よく見たら、頭が吹っ飛んでて、「ああ、銃で撃たれたんだな」ってのが分かった。
じゃあ誰が、と思ったら、黒い影が飛び込んできて――――。
バスとゾンビの間に割り込んだんだ。その人が。
ああ、すごかったよ、今でも覚えてる。
一発も外さないんだ。銃口を向けた先では必ずゾンビの頭が弾けて、その動きが絶対に止まらない。
攻撃が止んで、隙をついて、バスの窓をコンコンって裏拳で叩いたから、一番側に居た俺が近寄ったんだ。
「怪我人はいるか?」
って聞いてきたから、俺はバスの中を見て、『居るけど、そんなにひどくない。運転手も無事』って言った。
他のクラスメートたちは、膝を擦りむいたり、体をどこかぶつけてたりしてたけど、みんな意識はあったし、わーきゃー言ってた。
そうしたら、
「道を作る。真っ直ぐ進むように運転手に言ってくれ」
それだけ言って、その人は戦いに戻っていった。
……え?
助けに来てくれたヒーローじゃないか、って?
そうだよ。
そのとおりだよ。
勘違いすんなよ、別に感謝してないとかそういうことじゃないよ。
でもさ、俺は見ちゃったんだよ。
バスを殴りつけた、でかいゾンビは特に丈夫でさ。
膝とか、頭とか撃っても止まらないんだ。どんどん近づいてきて、ついに接近戦になった。
その人はナイフで応戦したんだ。
長いナイフさ、8インチはあったと思う。
すごい戦いだったよ、呼吸なんてしてられなかった。非常事態だって分かってたけど、俺はじっと見てた。
その人がすごいナイフさばきで、肘から先を斬り飛ばして、口の中に拳銃を突っ込んで、頭の上をふっとばして、ようやくそいつが止まってさ。
後ろからわらわらくるゾンビを、また撃ちながら、手で合図したんだ。「行け」って。
俺がそれを伝えたら、運転手さんがバスを動かしてくれて。
それで……うん、俺達は無事に逃げ切れたんだよ。
……結局、何が怖かったのかって?
……………………。
……その人、さ。
戦ってた、でかいゾンビ、多分、身長差は倍以上あった。
そんで、バスをさ、殴ってぶっ壊せるようなゾンビだぜ?
そのパンチが顔の横を通っても、全然、表情一つ動かさないんだよ。
ビビって固まってた、とかじゃないんだ。
普通なんだ、全然気にしてないんだ。
淡々と正確に、順番に刻んでいったんだよ。
ヒーローってさ。
駆けつけてきてくれた時、怒ったり、叫んだりするんだよな。
なんてことをするんだ! とか、そこまでだ! とか。
あとは、安心させようとして、笑ったりもするかな。
命がけで現場に来てくれる人って、何かしらの理由とか、動機とか、信念があってやってるもんだと思ってた。
じゃなきゃ、顔も知らない他人のためになんか戦えないじゃんか。
でもさ、その人は、本当に…………最初から最後まで、ずっと変わらなかったんだ。
駆けつけてきてくれた時も、逃げろって言ってくれた時も、でかいゾンビを倒した時も。
“仕事”とか“作業”でやってるみたいだった。
……それが、怖かったんだ。
違う、違うんだって。
俺がいいたいのは――――俺がいいたいのはさ。
…………俺たちを助けてくれた、あの人がさ。
理由とか、動機とか、信念とか、そういうのがないまま戦って……傷ついて、死んじまったらさ。
それってすごい、悲しいことのはずだろ?
でも、本人は、その事をきっとわかってないんだよ。
わかってないのに、命がけで、俺たちを助けてくれたんだよ。
……怖いだろ、だって。
それじゃ……いつかピンチになった時、誰があの人を守ってやるんだよ!?
大成功
🔵🔵🔵
六六六・たかし
◎
ふん、ゾンビが蠢くのは創作の世界だけにしてもらいたいものだがな。
まぁいい、幸いにもデビルズナンバーとの戦闘においてゾンビとの戦闘は学習済みだ。
圧倒的な火力で焼き尽くす!
【WIZ】
転送直後にまなざしフォームに変身。
そのまま敵のゾンビどもが固まっている場所に突撃し
UC『五一五悪魔の光線』を発動。
9倍になった圧倒的な手数でゾンビどもの頭をスナイプしながらどんどん倒していく。
もし仲間に当たったら、俺の寿命が延びたから喜んでくれ。
手下を盾にして逃げるボスには[誘導弾]と[スナイパー]で狙い撃ちにしてくれる。
デビル!まなざし!ビィーム!!!
「うわああああああ! もうダメだああああああああ!」
巨漢ゾンビが行く手を塞ぐ最中、迫る大量の雑兵ゾンビ!!
立ち往生したバスに身を守る術無し!
「うあーあーあーあーあー」
「あーっあっ、あー」
「うーおー、あー」
ゾンビ達の笑い声! 重なり響く大合唱は哀れな学生たちへの鎮魂曲!
もはや学生たちに助かるすべはないのか!
スカムキングの悪逆指令は成立し、人々は正義の心を失ってしまうのか!
『MA! NA! ZA! SHI! MANAZASHI!!』
おお! 今こそ聞け鳴り響く“まなざし”の音!
「あ、あれは…………!?」
「バードか!?」
「ジャンボジェットか!?」
「いや…………」
『TATATATATATATA TAKASHI! IGNITION!!』
『with……MANAZASHI!』
( ※リプレイ毎に変身音声は変動します、ご了承ください )
「――――――たかしだ!」
バスとゾンビの間に間一髪割り込んだ影は――――そう、たかしだ!
「うーおーあーうあー?」
「語って聞き入れる知能があるかどうかはわからんが……そうだ、俺がたかしだ」
「あうあー……」
「ふん……ゾンビが蠢くのは創作の世界だけにしてもらいたいものだがな。一つ確認するが貴様ら――――」
「ナンバー4――――“し”の使徒じゃあ、ないな?」
「………………あぁー?」
「――――この程度の事件に奴が出てくるはずもなかったか……まあいい、どちらにしてもお前たちはここでこの俺が始末する! まなざし!」
叫び! まなざしからの応答がまなざしモードになったたかしの眼鏡に表示される!
『飛ばしすぎましたわ――たかし! 稼働時間、あと十秒丁度ですわ!』
「十秒か――――それは困るな」
『あら、それはどういう意味ですの?』
「尺が余る――――殲滅時間には長すぎる!」
『それでこそですわ――――――――!」
このトークで消費した時間は、無論稼働時間に影響しない!
なぜなら――たかしだからだ!
さあ、いざたかしドライバーに表示される『五・一・五』の文字!
十秒前!
たかしwithまなざしに光が収束!
九秒前!
走り出すゾンビ達! 爪がたかしに触れる直前!
八秒前!
デビルズマナザシビィィィィム
「《 五 一 五 悪 魔 の 光 線 》!!!!!!!!」
七秒前!
枝分かれする無数のビームがゾンビ達に着弾!
六秒前!
巨漢ゾンビが突進! 雑魚を蹴散らしながらたかしに襲いかかる!
五秒前!
放たれ、ゾンビ達を貫通したビームが――――背後でカーブ!
四秒前!
弧を描きカーブした無数のビームが合流! 極太のビームとなる!
三秒前!
背後から巨漢ゾンビを貫通! なんとそのままたかしに向かって突き刺さる!
二秒前!
な、なんと! まなざしが輝き、ビームを更に反射! 巨漢ゾンビの顔に向けて更に倍ビーム!
一秒前!
ゾンビ達、活動停止!
「完全勝利だ――――」
稼働時間限界!
「なぜなら俺は――――――たかしだからな!」
Perfect Game!!!!
殲滅完了――――任務、終了!
◆
「なんだったんだろうな……」
「助けてくれたのは確かだ……」
「格好いい……」
「帰り徒歩だったな……」
「稼働時間限界って言ってたから……」
「なんか辛そうだったな……」
「攻撃一撃も仲間に当たらなかったからじゃない?」
「寿命削ってんな……」
「ありがとう、たかし!」
「助かったぜ、たかし!」
「またな! たかし!」
「たーかーし! たーかーし!」
「「「たーかーしー! たーかーしー!! たーかーしー!!!」」」
「「「たーかーしー! たーかーしー!! たーかーしー!!!」」」
「「「たーかーしー! たーかーしー!! たーかーしー!!!」」」
...to be Continued
大成功
🔵🔵🔵
花開院・月下
え、なにあれ、こっわ!!
あんなん見たらもうホラー映画とか見れないじゃん?
バス襲撃阻止が最優先?合点承知之助よぉ!
相手はゾンビ、自意識の薄い敵にあたしの技は、ちと分が悪いね!!!
それならぁ!!紅色牡丹の対象は一般人に!
バスの皆ぁぁぁ!!!あたしを見ろぉぉぉ!!!!そして落ち着けぇぇぇ!!!あ、落ち着いて?大声で泣かないで?ごめんて!
焦んな焦んな!敵さんの狙いはバス、あいつはあたし達猟兵がきっちりかっちり引き受けるからキミ達はこのまま乗って逃げて!!!決して振り向いちゃいけないよぉ!!
さぁ……オブリビオン、あんたらには付き合って貰うよ。あのバスが遠く、ずっと先へと行くまでね
この短刀の錆にしてあげる
「うわぁぁあああああああああああああああん!」
「ママ! ママあああ!」
「やだぁぁぁぁああああ! ああああああ!」
「びぃああああああああああああああああ!」
大人ですら平静を保つのが難しいのに、ましてプリスクール(幼稚園)に通う子供達はもっと恐ろしいはずだ。
巨大なゾンビの影が見えた時点で、車を停めた運転手の判断は実に正しい。
結果として、命を延命することが出来た……ほんの数分だとしても。
じりじりと近寄ってくるゾンビ達。
グルッと周りを囲まれて、逃げるという選択肢すら与えてくれない。
「誰か……ヒーロー、誰でもいいから……」
プリスクールの教師は、子供達を両手で抱えながら、目を閉じて願った。
この世界にはヒーローが居る。
それは確かなことだ。
だから縋る。だから祈る。だから頼る。
誰か来てほしい。誰でもいい。
たとえ敵わなくてもいい。自分たちが死んでしまってもいい。
誰かが守ろうとしてくれた、その事実だけでも救われる。
ただ何も出来ずに貪られて死ぬなんて。
それだけは、それだけは嫌だ。
「誰か…………来て――――――っ!」
「あたしが来たあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
◆
どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん! と勢いよく、天からふってきた少女を誰が見ようか。
真っ赤なマフラーが風に翻り、めくれ上がった瓦礫が宙を舞った。
忍びと名乗るにはあまりに忍べておらず、地味というにはあまりに派手だった。
けれども。
「さぁ! さぁ! さぁさぁさぁ!」
高らかに腕を掲げ、にかりと快活に笑い、場の空間を満たす大声を張り上げる少女こそ!
「私の名前はぁぁぁ!!! 花開院げっ」
「「「「「うわぁあああああああああああああああああああああんん!!!!!!」」」」」
子供達の泣き声の大合唱だった。
張り詰めていた緊張の糸が斬られたどころかチェーンソーでなます切りされたようなものだ、無理もないと言えば無理もないが。
「バスの皆ぁぁぁ!!! あたしを見ろぉぉぉ!!!! そして落ち着けぇぇぇ!!!」
「「「「ぴゃあああああああああああああああああああああああ!!!」」」」
「あ、落ち着いて? 大声で泣かないで? ごめんて! ごめんってば!」
もはや全員の視線は少女に向けられていた。
だから、焦らず、どんと胸をたたいて、告げる。
「大丈夫! ぜぇーったいにあたしが守ってあげる!」
ぱちんとウインクして告げれば、ようやく、声の主が少女であることに気づいたらしい。
うう、と涙ぐみながら、子供達は顔を見合わせる。
本当に? 大丈夫なの? と、その視線は問うていた。
「あいつはあたし達猟兵がきっちりかっちり引き受けるから! 包囲網に穴をあけるから、キミ達はこのまま逃げて! せんせ、子供達を守ってあげてね!」
子供を抱いていた教師は、こくりと口を引き結んで頷いた。
誰かが来た。味方をしてくれる。守ろうとしてくれる。
それがどれだけ心強いか、それがどれだけ頼もしいか。
その感情が、泣き笑いとして表情に出ていた。
きっと、心細かったのだろうなと思う、もうちょっと速くたどり着けていれば、この涙を流させずに済んだのに。
それもこれも、全ては――――――。
「――――――さぁーって! ゾンビ共ぉっ! この花開院・月――――――おおおおおおおおおおおお!?」
「「「あーうーうあーあうあーあうあうあーあー」」」
誤算と言えば。
少女の切った大見得は、否が応でも“少女に注目を集める”という作用がある。
相手はゾンビだし頭腐ってるし通じないかな、と思っていたがなんのその。
彼らもまた、少女に注目し、群がってきた――要するに。
ウルサイ
「ううあい」
――――のだ。
震えるほどの感情は残っていないが。
不快感はある、それに癒えない飢餓感も。
それを邪魔する敵を……排除しようとするだけの意識も。
「…………それならそれで丁度いいよ、だって」
バスが動き出す。
ゾンビ達の集まりが薄い箇所を突き抜けて、強引に。
それを追いかけるものは居なかった。
巨漢も雑兵も含めて……全てのゾンビ達は、今や少女をジィと見つめているのだから。
「さぁて、それじゃ付き合ってもらおうか。あのバスが遠く、ずっと遠くへ行くまでね」
くるくる片手の中で短剣を回し、ぱしりと構え直して。
「切った張ったは日常茶飯事。惚れた腫れたは彼岸の彼方! 今やたった一輪、この場に咲く裂く彼岸花!
有象無象は斬って捨てよう、散りたいものから馳せ参じよ! ――――――花開院家の大忍者にして陰陽師!
――――あたしがあああああああああああああああああああああ!! 花開院げっ――――――」
「「「「おうああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」
なだれ込んでくるゾンビを前に。
短刀が鈍く煌めき、戦いの火蓋が切って落とされた。
大成功
🔵🔵🔵
アリソン・リンドベルイ
【WIZ 庭園迷宮・四季彩の匣】
・・・足止め、任されました。
たとえ打倒はできなくても……逃げる時間くらいは稼いでみせるわ。
バスが到来するよりも先に『空中浮遊、おびき寄せ』でゾンビ軍団さんの直上に飛んで、『庭園迷宮・四季彩の匣(メイズガーデン・フラワーボックス)』を発動。・・・一定数は受け持つわ。 『地形の利用、拠点防御、時間稼ぎ』で、迷路に閉じ込めたゾンビさんを足止めして、外に出さないように。 直接攻撃は苦手なので、ヘデラの緑蔓の力を開放して、植物の蔓で『生命力吸収』で動きを止めていきます。
―――ええ、ええ。誰もが戦っているのは、その背に守りたい人がいるから。だから、振り返らずに逃げて頂戴?
スクールバスの良いところは、必ず決まった時間に、決まったルートを通行することだ。
奇襲の計画を立てるにはもってこいで、故にデッドマンズ・パタリオンは、そのバスを襲うために展開していた。
「あー、うあー」
死体の声に覇気はない。意思もない。意図もなければ意味もない。
ただ動いた際に空気が零れ出る音、という以上の何物でもなく、だから彼らは気づかない。
舗装された道路を進んでいたはずが、いつの間にか柔らかな草を踏みしめていたことも。
周囲のビル街が、いつの間にか色とりどりの花々と、実り豊かな樹々に変わっていたことを。
「あー……?」
それでも、歩こうとするゾンビが一体、ごろりとコケて、転がった。
それを笑うものも居ないのだが、問題は、起き上がろうとしてもうまく行かないことだった。
「あぁー…………」
ぶち、と足首がちぎれて、ようやく這いずることが出来た。
けれど、そのために動かした腕にも、いつのまにか蔦が絡んでいた。
「あぁぁっぁぁぁ……」
そして、ようやく気づく。
動けない。この蔦は、吸っている。
彼らがかつて持っていたもの。
今はもう失ったもの。
その器に僅かに注がれて、こうして支配されているもの。
この迷路は、蔦は、命を吸っている。
他者に意識を向ける余裕があればわかっただろう。
自分だけではない、迷路に迷い込んだゾンビ全てに、等しく蔦は這い回って、等しく命を吸い上げる。
「あー、ああああ、ああああ…………」
甘くて柔らかい、金木犀の香りがする。
不思議な、懐かしいような、ずっとここにいたいような。
どうして死んでしまったんだろう、どうして失っていくのだろう。
もっとしたかったことや、やりたかったことが、あったはずなのに。
朧げだった意識が、ゆっくりとゆっくりと希薄になって、薄れて、ぼやけて……。
「あー………………」
◆
「――――――っはぁ!?」
バスの運転手は、踏み続けていたアクセルから足を離し、ようやく息を吐き出した。
通学路を走っていたら、視界の向こうにゾンビの群れが見えて、
慌てて切り返そうとしたら、いつの間にか囲まれていて。
もうダメだ、と思って目を閉じて、開いたら、いつの間にか、周囲が花と草木に彩られていたのだ。
一直線に伸びた道を、真っ直ぐに走って数分、辿り着いた先には――――。
「よかった、無事で」
小さな羽を生やした、小さな天使の姿があった。
「あ、あなたが助けてくれたのか!?」
当然の問いに、天使は指を立てて、しぃ、と細い息を吐いた。
「ここもまだ、安全ではないのよ、だから、振り返らず、真っすぐに進んで」
「え……っ、でも、あなたは……!?」
「あの子達を足止めするわ。まだ全員は、抑えきれていないから」
天使は、小さな女の子だった。
赤いリボンが愛らしく、髪を彩るガーデニアの花は、儚く可憐で、美しかった。
「……っ、そんなわけには行かないだろう!?」
大人として、一人残ろうとする子供を、誰が置いていけるものか。
しかし、天使は首を横に振って、それから、二本の指を口の端に当てた。
それは、笑みの形を作るものだった。
「あなたの戦いは、きっとこのバスを、ちゃんと送り届けることだわ」
「――……なら、あなたは……?」
「私の戦いは、きっとここで、あなた達を見送ること」
だから。
「――――振り返らずに逃げて頂戴? 大丈夫、ここから先には、行かせないわ」
気高かった。
誇り高かった。
故に、ただの市民であるバスの運転手には、あまりにその言葉は重かった。
「…………ありがとう、ございます。どうか、ご無事で」
「ええ、ええ。あなたも、無事で」
前を向く。アクセルを踏み込む。
サイドミラーの向こう側で、天使は、小さく手を振ってくれた。
きっと大丈夫だ、祝福は確かにもらったのだから。
バスが動き出す。今度はもう、怯えずに走らせることができた。
大成功
🔵🔵🔵
カノン・フルバスター
○
リアルって、電脳空間と勝手が違いすぎますのよ!?
あぁもう、体が重い……!
『誰も死なせないこと』が最優先目標、ですか。
……承知しましたの。指示を達成できなくては、わたくしの存在意義に関わりますもの。
…………わたくしの相手、アレですか。あのいちばんおっきいのですか。そうですのねぇー……はぁ。
んー……ゾンビに有効とされるオブジェクトを検索……。
弾丸……聖水……鉄杭……メリケンサック……なんかへんなの混じってません? ……まぁいいですの。
これらの要素で構成すれば、それなりに耐えられるはず……たぶん。きっと。おそらくですの。
では、そのようにアクティベーションしますの!
[> Download... 20%...30%....40%.................80%......_
[> .....100%_
[> Cannon Full Buster.exe_
[> Good Luck_
◆
「くそくそくそくそふざけんな! こんな所で死ねるかよ!」
バスの中で、俺は頭を掴んで叫んでた。
マジだ。このファックな状況はマジで現実だ。
俺が何したってんだ!? ジャパニーズ・アニメーションを毎週違法視聴してたのはそりゃ悪かったさ!
でも薬物には手を出してない! 虐めだってしてない! だってのになんでB級カートゥーン映画みたいにゾンビに囲まれなきゃならねえんだ!
特にあのでかいゾンビがやばい! でかい! 速い! 強い!
だってこの“スクールバスを放り投げるぐらい”なんだからな!! くっそそうだよ!
運転手は気絶してるし、タイヤはパンクしてるし、横にグルンと一回転したおかげでシートべルートを付けてなかった奴らは全員呻いて悶えてるよ!
畜生! じわじわとゾンビが近づいてきてやがる! どうにかしろよ! 誰でもいいよ!
「あーうー、あー」
「うわぁぁぁぁあああああああああああああ!?」
ああああ、もうダメだ。終わった、窓の外に、いやがる!
ごめんパパ、ママ、昨晩はゲーム買ってくれないからって酷い事言ったけど本当は愛してるんだ、本当だよ。
エイミー、無事だといいな、クソ、なんだよこんなにやりたいことがあるのに!
せめて、せめて最後に、最後に!
「おっぱいのでっかいメイドさんに会いたかったよぉぉぉぉぉぉ!」
窓に罅が入って、割れた。腐った腕が伸びてきて、俺の肩に触れた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ……………………あ……?」
目を閉じて、その瞬間に備えて、いつまでたっても痛みは来なかった。
恐る恐る目を開けた先には…………。
◆
マ ル
排除対象
マ ル
排除対象
マ ル
排除対象
バ ツ
護衛対象
マ ル
排除対象
バ ツ
護衛対象
マ ル
排除対象
「はいどーん」
視界の中で対象の判別を終えて、倫理トリガーを脳内で引く。
ハリネズミをスカートの中で飼ったら、こんなシルエットになるかもしれない。
それぐらい、女が吐き出した砲塔の数は多く、それらは三百六十度上下左右に向けて、一斉に火を噴いた。
擬音にすればドドドとかゴゴゴとかバババとかいう銃声や、ドムバムゴムといった爆発音が、
途切れること無く数分間、絶え間なく吐き出され続けた。
無論、バスには弾痕の跳弾一つ存在しない。
今回のミッションは『誰も死なせないこと』であるが故に、女は最新の注意を払っての殲滅戦。
だが。
「ミッションコンプリート、では……」
肉片と血煙の向こうから、巨躯のゾンビが現れた。
生半可な弾丸や爆発では、びくともしない特別性。
それになにより。
「…………あーっ! リアルって、電脳空間と勝手が違いすぎますのよ!?」
質量が存在するので重力がある、常に体を大地に縛る感覚は、女からすれば信じられない重圧だった。
そして何より……。
「…………残弾零、物理的制約は最悪ですわ。弾切れがありますもの」
ごちゃごちゃごちゃ、と収まるはずのない重火器の数々をスカートから零しながら、女は前を見据えて、敵を睨んだ。
「この環境下で『誰も死なせないこと』だなんて、無茶をいいますわ」
けれども。
「……承知しましたの。指示を達成できなくては、わたくしの存在意義に関わりますもの」
女はウィルス・バスティング・ソフトとして生を受けた。
ならばこの世界にはびこるオブリビオンと言う名のバグをデリートできないのは、存在の根幹、アイデンティティを揺るがしかねない。
「あなたを消去(デリート)致しますわ。覚悟は宜しくて?」
◆
信じられなかった。
突如、0と1を纏って出現したその女は、たわわな胸部をこれでもかと揺らしながら戦うメイドだった。
弾丸が飛び出るたびに俺の心も盛り上がった。やっちまえ! という気になった。
しかし、ひときわでかいゾンビには銃撃も効果がないようだった。
「に、逃げろよ!」
とっさに出てしまった一言、何いってんだ、あのメイドにやっつけてもらわなきゃ俺が死んじまうってのに。
だけど、メイドは俺をちらっと見ると、ひらひらと手を振って、しかも笑いやがった。
そんでもって手を広げて…………ああ、俺はビビった。マジでビビった。
俺が昨日プレイしてたゲーム、アンデッド・ハザードに出てたアイテムが、その場に出現したんだ。
聖水、銀の弾丸、鉄の杭……。
それら全てが、メイドの右手に集まって、最強装備であるメリケンサックを形成したんだ。
メイドは一歩踏み込むと、メリケンサックを構えて、下からゾンビの顎目掛けてアッパーをかましたんだ。
俺は今でも忘れないね、あの瞬間を。
「アクティベーション完了――――ファイヤーウォール! ――――――パァアアアアアアアアアアアアアアアンチ!」
ソンビの上半身が一撃でぶっ飛んで、血のシャワーが降った。
もう何も言えない俺をちらりと眺めてから、メイドは、スカートの裾をつまんで、血に濡れながら、一礼して、また0と1になって消えていった。
……なあ、俺が見たのは夢だったのか?
都合のいい妄想だったのか?
……いや、そんな訳ない。
ゾンビに掴まれた肩の痛みは本物だ、だから、居たのだ。
俺たちを助けてくれた、あのメイドは本当に。
「…………お礼、いいたかったな」
もしも次会うことが出来たら、その時は。
…………絶対にサイン欲しいなぁ!
大成功
🔵🔵🔵
月山・カムイ
○
子供を狙うとは、なんとも卑劣な輩が居たものです
ならばこちらは一人も漏らさず、助けきってみせましょうか
スクールバスの上に着地
他の猟兵の動きを見て迎撃方向を決定する
目的は主に2つ
・バスに入ろうとする雑兵ゾンビの殲滅
・巨人型ゾンビの協力を行う雑兵ゾンビの排除
乗客を護り、バスを逃しす
故に天井に降り立ちバスの入口や窓へ殺到する雑兵ゾンビの殲滅を行う
延々と湧き続けるなら、こちらも力の続く限りにこちらの射程圏内に入ってきた端から切り刻み、肉塊と化す事で殲滅していく
……流石に不味そうですから、絶影で喰らう気にもなりませんね
肉塊と化して、土に還りなさい
鬱陶しそうに呟き、情け容赦なく屠っていく
呪法骸操士ネウィは、苛立っていた。
理由は勿論、スクールバスの襲撃計画がうまく行かないことだ。
スカムキングの暴虐指令は、必ず完遂されなければならない。
しかし、現在の戦力配分では、成果をあげられそうにない。
ならば。
「…………一箇所に送る数を、増やしましょう」
襲える数は減ってしまうが、その分、密度を上げていく。
ついでに猟兵も血祭りにあげてやれば、一石二鳥だ。
それに、何があったとしても、このレウィさえやられなければ、作戦は続行できるのだから。
「……絶望なさい、そして、死になさい。それこそが、正義をくじく、悪の華」
戦いは、より激しさを増していく……!
◆
「ひぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「いやああああ! 誰かあああああああああああ!」
「もう駄目だ! 駄目だぁあああああああああああ!」
窓を激しく打ち叩くのは、夥しい数の死者の群れだった。
生者への恨みをぶつけるように群がる様は、まるでお前達も仲間になれと呼びかけているかのようだ。
ヴィランの犯罪が多い地区のスクールバスだったことが、不幸中の幸いだった。
事件に巻き込まれる事を想定して、ある程度の衝撃に耐えられるように、車体が頑丈に作られていたからだ。
このヒーローズアースにおいて、危機に陥った時、一秒でも長く生きていられることには大きな意味がある。
駆けつけてくれるからだ、ヒーローが。
「きゃああああああああっ!?」
――――――ドン、と。
車体の上部に大きな振動が走った。屋根の上だ。
「な、何、何何何――――もしかして、上から――――――」
周りだけでは飽き足らず、上からもゾンビが来るのかと、怯え、身構えた直後。
、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
群がっていたゾンビ達が、バラバラになった。
窓をきしませていた者や、入り口に近かったものから順番に、次いで群れの外周へと殺戮が伝播していく。
それが斬撃による攻撃であると気づいたのは、恐る恐る窓の外を見た学生の一人だった。
「ヒー……ロー……?」
姿は見えない。
だけど確かに、ここに居る。
バスの上、守ってくれる誰かが、確かに!
◆
無響剣舞・絶影。
それは剣技であって剣技にあらず、斬撃という概念を掌握した者が放つ魔技に等しい。
視界内に収めて、彼が“斬る”と判じた者は、その瞬間もう四方八方から斬り刻まれて塵に還るからだ。
それでも敵の数は膨大で、故に血飛沫は舞い続けた。
「……流石に不味そうですから、絶影で喰らう気にもなりませんね」
血肉を欲し喰らう妖剣も、これだけの屍人を貪る気にはならなかったらしい。
故にあるのは、死者を再度殺す鏖殺のみ。
「聞こえますか、運転手の方」
短く、しかしそう叫ぶと、応答するようにクラクションが鳴った。
「真っ直ぐバスを出してください。行く手を阻むものは全て斬ります。何があっても止まらないでください」
そこまで言って……ああ、少し傲慢だったかと思い直す。
状況の急変に翻弄される彼らに、かけるべき言葉は。
「一人も漏らさず、助けます。ご安心を」
その言葉が、きっかけになったかどうかは定かではない。
だが、バスはたしかに動き出した、そして。
「あああ、お、おおあぁぁぁぁ……」
進行方向に――――巨大なゾンビ、デッドボディバタリオンが、道を塞ぐように現れた。
体躯は6m以上、バスの高さよりもなお大きく、腕を振り上げて、バスの上に立つ男もろとも、叩き潰さんとしている。
「――――あぁ、卑劣だ。お前達は」
刀が、鳴る。
「音も無く――――その身に刻め」
剣閃が、走る。
「――――肉塊と化して、土に還りなさい」
バスが通過していくのを、ゾンビは止めなかった。
いや、止めようと手を伸ばした所から、刻まれて、ボロボロと崩れ落ちていく。
バスが完全に通り過ぎて、見えなくなった後。
全身がバラバラに斬り断たれ、終わった。
――――救助、完了。
――――死亡者、零。
大成功
🔵🔵🔵
ヘンリエッタ・モリアーティ
ぶち壊す
――とはいかないわね
なんの罪もない学徒たちによくもまぁ
『応龍』で生徒たちの位置、オブリビオンの攻撃を解析―― 永縁刀「紫衣紗」で挑みます
文字通り『盾となる』。傷つこうが何だろうが、怪力で防ぐ
ヒーローが苦しんでどうするのよ
私は――笑う。
傷を負えば追うほど――不利になればなるほど強くなるっていうのもあるんだけど
子供たちには「私は負けない」ことをわかって欲しい
――だから、あなたたちも負けるなッッ!!
私が守ると決めたものは必ず守り通すわ
【暁光】を発動して形成逆転を狙いましょう
――申し遅れました。
ダークヒーロー・ウロボロスです。
過去如きが未来の芽に触れるのはよしなさいよ
亡者は此処で――絶えて死ね
「ああああああああああああ! あああああああああああああっ!?」
絶叫を上げるのは、バスに乗り込んだ、総勢八名のジュニア・ハイスクールの生徒達。
彼らは不運だった。何がと言えば、襲いかかってきたそのゾンビだ。
無論、学生たちには預かり知らぬ話ではあるが。
今回の事件ならば、巨大なゾンビ一体に、雑兵が無数、それが通常の配分だと言うのに。
このバスに限って言うなら、雑兵が大量に、そして巨大なゾンビが――――二体。
中身を引きずり出してやろうと、バスの前と後ろをがしりと掴んで持ち上げて、綱引きをするように引っ張りあっていた。
軋む車体は当然耐えきれるはずもなく、ミシミシと音を立てて分解されようとしていた。
浮かび上がった車体の下には、亡者共が群がり、手を伸ばし、蠢かせていた。
これから落ちてくる新鮮な肉を貪ろうと、その生命を喰らってやろうと。
「もう駄目だ、死んじゃうんだ」
誰かが言った。誰も止めなかった。それが事実だと知っていたから。
「もう終わりだ、僕らはみんな」
誰かが言った。誰も止めなかった。それが現実だと理解したから。
「もう…………」
グラリと車体が傾いて、重力に従い落下した。
◆
「――――あぁ、良かった」
凛、と鳴ったのは、刀を抜き放った音だった。
「――――間に合ってよかった」
バスを引っ張っていた、巨人ゾンビの丸太のような腕が、すぱりと斬れて落ちた。
落下したバスは、ゾンビ共をクッションにして、大きく揺れたがまだ形を保っていた。
「――――間に合わなかった」
矛盾する二つの言葉、『応龍』――眼鏡の形をしたAIが分析を告げる。
……乗員、生徒八名、運転手一名。
……死亡者は零。
……負傷者、六、内、軽傷四。気絶一、運転手。
……車体は中破、わずかなら走行は可能。
傷ついたものがいるなら、それは即ち“不出来”の一つだ。
最悪ではなかったが最低で。
最善ではなかったが故に最下層。
「なんの罪もない学徒たちによくもまぁ――――ここまで出来たものね」
“それ”は刃を片手にぶら下げたままの姿勢で、目を伏せながら言った。
嗚呼、笑えないほど悪辣だ。
嗚呼、嗤えないほど悪党だ。
思想も手段も方法も実行も全てが全て正しくない。
道を外れている故に、暴虐なる指令として成立している。
「あー…………」
巨人ゾンビの片割れが、残った腕を振り上げて、乱入者向けて振り下ろした。
グシャリと鈍い音がして、アスファルトが砕け散った。
バスの中から聞こえた、ひっ、という悲鳴は、無惨な死を確信したからだろうか。
「あぁ…………」
邪魔者を速やかに始末し、巨人ゾンビは改めてバスに向き直った。
餌を待っていた亡者共は潰れてしまったので、もういい。
バスごと中身を潰してしまおうと、腕を振り上げた所で。
異変に気づく。肘から先がないのだ。おや? と腐った頭で思考するより先に。
「――――――はは」
笑い声が聞こえた。
「どこを見てるのよ、私はここだよ」
ぴ、と方腕を振るう。汚染された血液がピシャリと散って、刃に輝きが戻る。
「――――負けないよ」
ゆらりと、一歩を踏み出す。
割れた頭から流れた血が、視界を汚す。
だからどうした。
「私は――負けない」
戦わなければ示せない。
生きていなければ伝わらない。
「……一度だって、負けてないわ」
潰されたから。
なんだというのだ。
声が、響く。
「――だから」
それは、生を諦めた者への、心からの叱咤だった。
「あなたたちも負けるなッッ!!」
諦めるな。
最善を尽くせ。
生き残るために、足掻け、戦え!
命を燃やし、立ち向かったものだけが持つ、高潔なる意思の輝き。
リンカネイシオン
その光を、人は《 暁 光 》と呼ぶ。
……数秒の間をおいて、バスのタイヤが空転した。
誰かが、運転手を救助して、アクセルを踏み込んだのだろう。
それでいい、なんでもいい。生きようとするのなら。
必要な時間は、これから作るから。
何も――心配しなくていい。
「あー…………」
動きの鈍い巨人ゾンビも、バスが動こうとすれば流石に手を伸ばす。
けれど、それをさせぬ者がいる。
「――申し遅れました」
“それ”は、名乗った。
たとえ相手が腐り果てた、何もわからぬ亡者であっても。
「ダークヒーロー・ウロボロスです」
ここに確かに“居る”ということを告げるために。
「過去如きが未来の芽に触れるのはよしなさいよ」
永遠竜が、猛く吼える。
「亡者は此処で――絶えて死ね」
成功
🔵🔵🔴
人与・弌夜
子どもを殺す?
そんなこと、絶対にさせない
そんなことを企むやつ、赦さない
到着次第、保護対象の確認
私は敵の討伐より、バスの安全を優先する
【想像・凍結輪駆】によりバスに近づくゾンビ達を片っ端から凍らせて足を止め
外したならば凍らせた地面を滑走し、接近してから全力魔法だ
私の怒りは、憎悪は、敵意は、芯まで凍らせて貴様を止める
何があろうと、一体たりとも逃がしはしない
雑兵だろうがなんだろうが、子ども達を守るためだ
貴様らが蘇らされ利用されているだけだろうと容赦なくいく
そして、敵の親玉は他に任せる
あえてゾンビどもは殺さず動きを止めるだけにしているからな
……戦力を増させずにいられてれば、いいけど
「赦せない」
身の内を焦がす激情は、どこから湧いてくるものか。
「子供を殺す?」
ああ、それはかの世界にて日常的に行われている簒奪。
一方的に、徹底的に、強者が弱者をただただ搾取するだけの最悪だ。
「そんな事、絶対にさせない」
故に、見過ごすことなど出来るはずもない。
この身が人である限り。
「そんなことを企むやつ、赦さない」
◆
「くそっ! くそ! なんでだよ!」
運転席に座った男は、必死にアクセルを踏み込んだ。
しかし、バスの後輪は空転して、車体が前に進むことはなかった。
「あぁー……」
巨大なゾンビが、片手でバスの後部を掴んで、持ち上げているのだった。
出入り口をバンバンと、亡者共が叩いている。
もうまもなく、扉は破られ、中の生徒もろとも蹂躙されるだろう。
「動けよ! 動いてくれ! 畜生! 誰か! 誰かぁ!」
ギュルルルルル、という力強い音が、ただ虚しく響く。
ミシリ、と扉が圧力に負け始めた。ビキビキと罅が入り――――。
「ああ――――――!?」
終わった、と思った次の瞬間。
ズガン、とバスを大きな衝撃が襲った。
ぎゃあ! わあ! と車内から大きな悲鳴が上がる。
続けて、バスが急発進した。
「うおっ!?」
つまりその衝撃は後輪が接地したことによるもので、踏み込まれ続けていたアクセルが生み出すエンジンの唸りが速度に変換されたことを意味する。
一体何が。
サイドミラーの向こう側に、その答えがあった。
バスを持ち上げていたゾンビの腕が、砕けている。
肘から先が、ぽきりとへし折った大根の様に崩れ落ちていて、それは周りのゾンビ達も同様だった。
膝から下が砕け散って、両手でもがいている。その動きも徐々に鈍くなって、やがて完全に静止する。
それに、なんだか――――。
「寒い――――?」
◆
その人間の怒りは、おおよそ“凍結”という形で表現される。
つま先をタンと踏み鳴らせば、雪の結晶が舞い散り、射線上にある全てが等しく凍って行く。
「凍れ」
誰も動かさない。
「凍れ」
道を作る。
「凍れ――――!」
絶対に逃がす。
その意図が通じたかのように、バスが走り去ろうとしている。
追いかけようとするゾンビ達の背中に、更に強烈な結晶輪が突き刺さって、氷像を作り出した。
「あぁー……?」
「あぁ……」
「おぉー……」
動きを封じられ、うめき、嘆く亡者を前にしても。
「……たとえ、貴様らがかつては人だったとしても」
その怒りは収まらない。とどまらない。
「蘇らされ、利用されているだけだろうと」
“人”であるならば。
「その所業を――――許すものか!」
吹雪く。散る。雪が散る。
結晶が咲き乱れ、世界を白く染め上げていく。
やがて誰も動かなくなり、砕け散って消える。
最後に立っているのは――――人でありたい、少女一人。
大成功
🔵🔵🔵
ジャスパー・ドゥルジー
バスを護れりゃ及第点って?
るっせェ、来たからには完遂すんぜ
腹にナイフ走らせあふれ出た血で『イーコールの匣』
巨大な盾を作り出してゾンビの群れを食い止める
どんだけ負傷しようが俺は【激痛耐性】で動き続けられる
最大サイズの盾を作れるように派手にいくぜ
「ホラホラ邪魔だぜ、巻き込まれたくなきゃさっさと逃げな!」
運転手やガキどもが命を狙われて狼狽えてたらハッパかける
ついでに【かたわれ】で派手に飛び回ってゾンビどもの狙いを惹き付けるぜ
無事逃がしたら盾を巨大な斧に変形
念力で操りゾンビどもを薙ぎ払いながら狙うは頭、ネウィだ
スピード重視で突進を避けながら飛翔、肉薄
手にしたナイフで急所を抉る
「ひ、ひぃ――――ひぃぃぃぃぃ!?」
その時、子供達が最も恐怖したのは、ゾンビ……ではなかった。
絶体絶命の非常事態において、男はニヤニヤと嘲笑っていた。
左右非対称な、赤く透き通った皮膜の羽も、異形の角も。
幼い子供達からすれば、同じ様な化け物に見えたことだろう。
まして、己の腹をナイフでかっさばいて、中身をぶち撒けたのならなおさら。
「きゃあああああああああああああああああ!!!」
男女入り交ざった悲鳴は、間違いなく男に向けられたものだった。
「あぁ? うるせぇな、いいんだよ、これでよぉ――――」
流れ出る血が止まらない。
その身体のどこに、それだけの中身が詰まっていたのか。
ぼたぼたと、どぼどぼと、だらだらと、だくだくと。
延々溢れる流血が、蠢き、ざわめき、形をつくっていく。
「ハ、ハ、ハハハハハハハハ!」
血は盾となり、刃となる。
地面を這うそれは素早く獲物の足首を刈取り、動きを封じ、バスの周囲を赤い壁となって取り囲んだ。
「オイ」
「ひっ!」
ばし、と運転席の窓に掌を叩きつける。赤い手形がべったりと張り付いた。
「もたもたしてんじゃねえ、巻き込まれたくなきゃさっさと逃げな! それとも――――巻き込まれてえか?」
「い、いや……は、はい! い、行く! 行くから!」
「それでいいんだよさっさと行け、オラ!」
血の盾に亀裂が入る。
ち、と舌打ちを零しながら、更に身体に刃を突き立てて、質量を重ねる。
けれど、多勢に無勢だった。大型のゾンビが腕を振るえば、バキと壊れ崩れて、血に戻っていく。
「走れぇえええええええええええ!」
「うああああああああああああああああああああああ!」
それでも間一髪、バスが走り出せたのは、運転手が真に迫る命の危機を感じたからにほかならない。
発破をかけられれば、嫌でも動き出すものだ。
「それでいいんだよ……それでよぉ」
崩壊し始めていた血液が、再び動き、凝縮し、新たな形を作り出す。
斧だ。どす黒い赤で作り上げられた、真っ赤な戦斧。
持ち主の居ないそれらは、独りでに動き、能動的な断頭台の役割を見事果たした。
「こんなモン見たら――――なぁオイ、夢に出ちまうだろが!」
首が舞う。首が舞う。死者の首が舞う、舞う、舞う。
ゾンビ達が、自らの手で首を差し出しているようにも見える、地獄絵図だった。
「ハハハハハハ――――――はっ」
ガリ、と嫌な音がして、頭蓋骨が軋みをあげた。
「ああ――?」
巨人のゾンビが、悪魔の赤い角を携えた頭を、後ろから鷲掴みにしていた。
「てめ――――――」
ぐしゃりと。
熟れたトマトでも、ここまで見事に弾けまいと言うほど、無造作に、それは潰れて砕けた。
首から下がふらりと倒れて、そのまま動かなくなった。
◆
「ふん――――」
気に食わない、気に食わないが、多少なりとも溜飲は下がった。
呪法骸操士ネウィは、少し離れたビルから、事件現場を眺めていた。
相変わらず、猟兵共は邪魔だ。またバスを逃した。腸が煮えくり返る。
それでも、一人始末でいたのだから良しとしよう、と前向きに考え、次の現場に移動する。
あちらの群れはうまくやっているだろうが、特別性のゾンビを何体か派遣したから、今度こそ、と、移動の為に、何を意識するでもなく振り向いた瞬間。
「よォ、高みの見物は楽しかったか?」
トン、と軽い感触が、胸に触れた。
なにかと思って見下ろしてみれば、深々と、銀色が刺さっていた。
聖剣でもなければ、名刀でもない。
そこいらに売っている、誰もが手にできる、安っぽいただのナイフだった。
「は? え? な――――は?」
がくりと血が抜ける。オブリビオンとて、過去から這い出て、受肉した命だ。
ネウィは、死者を操る呪法を使うが。
ネウィ本人は、屍人ではない。
心臓をえぐられれば、骸の海に還る。
即ち、死ぬ。
「なん、で、なンで――――?」
「あれだけの群れ動かしておいて、近くに術者が居ないわけねーだろうが」
そうじゃない。
いいたいのは、そうじゃない。
お前は。
死んだはず。
殺したはず――――。
「馬鹿かお前は」
悪魔に道理を語るなど。
悪魔を常識で語るなど。
愚かしいにもほどがある。
これが《イーゴールの匣》。
己の血液を媒介に、万物を創造するアルス・マグナ。
盾も、斧も、自由自在に作り上げ、操る。
「造作もねえよ」
――――たとえそれが自分を模した人型であっても。
「バスを助けるのも、テメェを誤魔化すのも、ぶち殺すのもな」
刃が急所をえぐり、力なく女の体が、文字通り崩れていく。
「は、ゾンビより安い命だぜ」
鼻で笑いながら、悪魔は赤い翼を広げ。
「じゃあな、クソッタレ」
塵になっていくネウィにはもう目もくれず、再び戦場と化したニューヨークの街に飛び立っていった。
大成功
🔵🔵🔵