アースクライシス2019②〜Los(t)Angeles
●黒竜は天を駆ける
あらゆる人類が結集したロサンゼルス防衛軍と、洪水兵器による地上殲滅を狙うオブリビオン軍団が激突するロスの戦場。
その空を駆ける一機の巨影がある。Sj-68 Hēilóng、黒き竜の名を冠する無人戦闘機。彼が走り抜けた後にはただ爆炎と墜ちゆく鉄屑だけが残される。
「ガブリエル隊、あの野郎を叩き落とすぞ!」
「こちらラファエル隊、ガブリエルを援護する!」
人類が誇る最新鋭ステルス戦闘機が、空戦など超長距離対空ミサイルに取って代わられて久しい時代を見事な軌道で飛翔し黒竜を追い、必殺の罠に追い込んだ。
「ガブリエル02、敵機を捕らえた! FOX2!」
「ラファエル05、FOX2!」「ラファエル07、FOX2!! みんなの仇だ、墜ちやがれ!」
飛来するミサイルを前に、黒竜はくるりと機首を旋回させレーザーの一薙ぎでそれらを撃ち落とす。
そうして窮地など最初から存在しなかったように悠々と空を舞う黒竜は、眷属たるドローンを従え、哀れな天使たちを群れから逸れたものから一機ずつ火焔で焼き尽くし喰らっていく。
「こちらはステルス機だぞ! あいつこっちが見えてるのか!? ぐああッ!!」
「ガブリエル01がやられた! 02、02指揮を引き継げ!」
「02なんざとうに落とされちまってるよ! 指揮どころじゃない、逃げることに集中しろ!!」
国連軍の精鋭飛行隊を瞬く間に殲滅した竜は、ドローンとともに美しく整った編隊飛行でロスの燃える街を睥睨する。
ヒーローも、ヴィランも、国連軍も。
何者も我らが空を犯すべからず。地虫に甘んじず不遜にも空を目指したものは何者だろうと、黒竜の牙が噛み砕くであろう。
●空を取り戻せ
「――つまり、出現したこの黒竜が存在する限り国連軍は地上部隊を航空支援することができません」
国連軍の戦闘機や攻撃機によるピンポイント空爆や機銃掃射はオブリビオンの軍勢を押し止めるのに有効な手段だった。
それが今封じられ、ヒーローや猟兵の支援の手が回らない戦域では徐々に人類劣勢に傾きつつある。
効率的な戦力投射だけではない。負傷者を後方に搬送するための輸送ヘリですら黒竜は叩き落としているのだから、前線で重傷を負った者たちが適切な治療を受けられない、という惨状をもかの竜は引き起こしているという。
これが決定的な破局に繋がるのも時間の問題だろう。航空支援を受けられない戦域が突破されれば、残る戦力も包囲され殲滅されかねない。負傷者が治療もなく苦しみながら息絶えていくような事態になれば、兵士たちや立ち上がった市民たちの士気にも関わる。
空を支配された戦場とはかくも脆いものなのだ。パルはこの窮地に際して、猟兵たちに助けを請うた。
「制空権の奪還は急を要します。国連軍の制空権奪還部隊がカリフォルニア州エドワーズ空軍基地より出撃準備を進めていますので、彼らと合流し黒竜を撃墜してください」
奪還部隊には米軍秘蔵のヒーロー用に開発されたユーベルコード運用能力を持つ戦闘機も投入されるという。
操縦に自信のあるものは、これを借り受けドッグファイトを挑むのもよいだろう。
あるいは己が身をもって竜に挑むものは、戦闘機の背を駆け翼を渡ってはるか高空で舞うのもよいだろう。
空を飛べるものならば、それこそ勝手知ったる我らが空を取り戻すため存分にその翼を広げるがいい。
「奪還部隊のコールサインは"エンジェル"。これと協同して、ロサンゼルスの空を一刻も早く奪い返してください」
紅星ざーりゃ
>飛び交う砲弾やユーベルコード、雑兵の攻撃をかわす。
上記内容をプレイング内で指定していただければ、判定にボーナスが加わります。
こんにちは、紅星ざーりゃです。
引き続きましてアースクライシス2019、洪水兵器発動を目論むオブリビオン軍を迎え撃つロサンゼルス戦のシナリオとなります。
今回も採用数を絞ってスピーディに完結を目指す形式になりますので、一部採用を見送らせていただくお客様もいらっしゃるかもしれません。
なるべくこれまでのアースクライシス2019内で採用できなかったお客様を優先して採用していくつもりではおりますので、よろしければご参加くださいませ。
それでは、ご武運を!
第1章 ボス戦
『黒龍』
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POW : “黒雲翻墨既遮山”
【機体内部に格納していた鋼の四肢を解放する】事で【格闘戦形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : “灰雨跳珠亂入船”
【随伴ドローン機と翼下の副砲】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : “卷地光來忽吹散”
【機首】を向けた対象に、【機首下の主砲から発射される緑色の光線】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠フォルティナ・シエロ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
トリテレイア・ゼロナイン
負傷者を下がらせる輸送機も出せないとは…
これ以上の跳梁は許しはしません
黒金の龍、退治させて頂きます
UCの機動装甲で飛行(乗れる戦闘機も改造時間も無さそう)
奪還部隊"エンジェル"の機体群のレーダー等を●ハッキング技術を使用し自身のセンサーと同調させ、敵味方やミサイルの位置を●情報収集し回避に役立てます
しかし速い相手です…!
格納銃器での攻撃は牽制にもなりませんか…
格闘戦を挑もうにも此方が後ろを取られる始末
ですが、この機に懸けます
●防具改造で追加した煙幕発生装置で●目潰しと同時
装甲を展開し空気抵抗で急制動
前後を逆転させ、ワイヤーアンカーを●ロープワークで撃ち込んで●怪力で組み付き「格闘戦」を挑みます
荒谷・ひかる
制空権取られたまんまじゃ大変なんだよ……!
よ、よぅし。わたしもやれるだけのことをやるよっ!
……えっと。これってどうやってうごかすの?
戦闘機を操縦するのは他の人にお任せしてわたしは後部座席に同乗し、応援(鼓舞)して頑張って避けてもらう
(可能であれば他猟兵の戦闘機に相乗り、不可能であれば国連軍の軍人さんに依頼)
氷の精霊さんにお願いして氷の盾を作ってもらい、戦闘機に追随させて流れ弾から護ってもらう
攻撃には【幻想精霊舞】を使用
雷(電気)と大地(鉄)と風(竜巻)の力を組み合わせた「磁気嵐」をぶつけて、EMP攻撃を狙うんだよっ!
事前に味方機は雷の精霊さんにお願いして、対EMP防護をしておいてもらうね
ジャック・スペード
ターゲットはあの航空機か、了解した
空の平和を取り戻すため存分に翔けるとしよう
それにしても……ヒーローやヴィランの垣根なく
皆で力を合わせて戦う光景は、悪くないな
黒き機械の翼を展開し空高く飛ぶ
空中戦の心得を活かして戦闘に臨もう
しかし現場は混沌としているようだな……
飛び交う攻撃は軌道をよく見切って回避したり
リボルバーから放つ銃弾で相殺を狙おうか
黒龍に追いついたら、電気を纏った銃弾で牽制する傍ら
黒龍の機体を踏みつけ、同じく電気を纏うブレイドで
渾身の怪力を込めた鎧無視攻撃を
光線はブレイドで武器受けするか、見切って躱すとしよう
お前は負傷者を乗せた輸送機すら落としたらしいな
やり過ぎだ――報いを受けるといい
クリスティーヌ・エスポワール
銀河帝国支援戦闘機、De108Eで戦域に侵入
目的はドローンの無力化よ
「さぁ、私『達』のタンゴに付き合ってもらうわよ。エンジェル77、エンゲージ!」
切り離した全力射出ポッドからエレクトロレギオンを射出展開、戦闘へ!
「悪龍の吐息、引き付けさせてもらうわ!」
レギオンにはロッテ、シュヴァルム、編隊、飛行隊の基本構成は堅持させる
構成が壊されても、戦況を【情報収集】して瞬時に再編成、敵に隙を与えない
私も【操縦】で何とか回避よ
「これだけでは無理よね……でも、ここからが電子戦機の本領発揮!」
黒龍に「失速状態」の誤情報を【ハッキング】で投入!
動きが鈍ったら一斉攻撃、主砲を潰しに行くわ!
「その逆鱗、貰うわよ!」
トルメンタ・アンゲルス
やれやれ、無差別攻撃ですか。らしいですねぇ。
これ以上被害が広がる前に、収束させましょう!
さぁ、「天使」とダンスだ!
行くぜ相棒!
空を駆け抜けるぞ!
『MaximumEngine――Mode:Dragger』
相棒を大気圏航空戦用装甲として変身合体!
急加速して向かいます!
大気圏内とて、俺の動きは鈍ることは無い!
見切り・第六感で敵の行動を察知・先読み。
残像・早業、そして物理法則を無視したダッシュによる、超高速戦闘を仕掛けます!
プラズマブレードやブラスターの零距離射撃などによる各個撃破を行いつつ、
隙を突いて最大出力のグリッタービームでなぎ払い、消し飛ばしてくれる!
チトセ・シロガネ
なかなか頑丈そうなブラックドラゴンネ。
でも、空の上ならボクだって負けないネ。
……とはいえ、スピード勝負じゃこちらが不利ヨ。
だからUC【光輝幻影】で体を電気に変異させ、
空中浮遊と早業、さらに電気の特性を使って雲の中にもぐりこむネ。
うかつに突っ込めば氷の粒がユーたちの足を奪うし、
センサーによる補足も若干のタイムラグが発生するハズ。
これなら第六感と早業による電気の特性を駆使した回避もしやすくなるヨ。
それに雲の中なら雷様となったボクのオンステージ。
突っ込むにしても逃げるにしてもユーたちを稲妻で叩き落してやるネ!
オリヴィア・ローゼンタール
龍殺しは戦士の誉れ、いざ勝負!
【転身・炎冠宰相】で白き翼の姿に変身
炎の加護(属性攻撃・オーラ防御)を身に纏い、飛翔(空中戦)
強化された【視力】と敵意を感じ取る【第六感】で飛び交う砲弾を躱す
回避が不可能ならば超音速の飛翔能力で【衝撃波】を放ち【吹き飛ばす】
掌中に火球を作り出し、射出して弾幕を張る(全力魔法)
炎を纏った聖槍を構えて吶喊、すれ違いざまに斬り付ける(ランスチャージ)
四肢が開放されたならば、そのうち一本に狙いを定めて執拗に狙う
斬り落とせたら、重量バランスが崩れて制御に能力を割かれて戦いやすくなるはず(部位破壊)
【怪力】を以って叩き斬る
夕凪・悠那
空を抑えられてるのは鬱陶しいね
いいよ、龍狩りだ
叩き墜としてやるさ
"戦闘機の操縦"なら本職の人には敵わないだろうけど
それならボクがやりやすい様に改造してしまえばいい
借りた機体に[ハッキング]、機体及び【レギオン】を[武器改造]
機体性能強化と思い通りに[操縦]できる様に電子的に接続
気分はフライトシューティングだね
[空中戦]、ドッグファイトだ
レギオンに随伴ドローンを狩らせ、機関砲での格闘戦も交えながら背後を狙う
敵の攻撃はレーダーも活用して[見切って]躱す
背後を取るorエンジェル隊が作った好機を突き、
『仮想具現化』で複製した[誘導ミサイル]群による[範囲攻撃]
撃ち落とせるものならやってみなよ
アド連携○
●結集
カリフォルニアの空を戦闘機の編隊が飛翔する。
見上げた青空で、所属も国籍も異なる者たちがロスの空を取り戻すために次々とその編隊に加わってゆくのを、ロサンゼルスから避難する人々の列は見た。
「――編隊各機へ。此処に集ったのは人種も思想も関係なく、人類のために飛ぶ勇敢なパイロットたちだと私は確信している。――空の上で申し訳ないが、簡単に自己紹介と行こうじゃないか」
編隊長機を務める米軍の大型ステルス戦闘機からの通信に翼を振って答えるパイロットたち。
「――エンジェル1-1、アメリカ空軍ベケット中佐だ。今回の作戦指揮を任されている。君たちと空を飛べること、光栄に思うよ」
「エンジェル2-1、航空自衛隊森一等空尉です。まさか外国の空を飛ぶことになるとは思いませんでしたよ」
「エンジェル3-1、欧州連合イギリス空軍、ペントコスト少佐だ。JASDFまで来たのか! 本当に総力戦だな、俄然やる気が出てきたぜ」
「こちらエンジェル4-1、オーストラリア空軍ハンセン大尉。見ろよ、NATOや太平洋の同盟国だけじゃない。命知らずのいい男どもがどんどん上がってくるぞ」
「エンジェル5-1でいいのかい? いい男じゃなくて悪かったね、ロシア空軍カイダノフスカヤ中佐だ。あたしも混ぜておくれよ」
「そういうわけで参戦するよ、国家の主義思想の違いはあれど、僕らも同じ地球人だ。みすみすオブリビオンのいいようにさせるわけにはいかない。エンジェル6-1、人民解放軍空軍、タン中尉だ。よろしく頼むよ先輩方」
老いも若きも男も女も、洋の東西、理念の違いも乗り越えて集った戦闘機。その頭上を大型のレーダーを搭載した管制機がゆく。
「こちらは空中管制機オラクル。エンジェルス、心強い増援がまたもう一つ加わるぞ。コールサインはエンジェル7。猟兵達のお出ましだ。この戦い、勝てるぞ!」
猟兵の参戦。その報せにパイロットたちの歓声が響き渡る。
米軍が開発したユーベルファイターがいる。パイロットたちが見たこともない人型機がいる。あるいはその身一つでまさに天使のごとく翼を広げて飛翔するものがいる。
「エンジェル7、猟兵へ。こちらは空中管制機オラクル、ホイットモア大佐だ。君たちと共に戦えること、ぜひとも息子たちに自慢させてくれ。飛び立ったばかりだが、もう間もなくロサンゼルス上空に差し掛かる。戦闘機部隊の長距離対空ミサイル斉射に合わせて突入してくれ――待て、前方から高熱源反応多数! 全機ブレイク! ブレイク!!」
オラクルからの通信の直後、真正面から飛来した緑色のレーザーが逃げ遅れた数機の戦闘機を爆散させた。
「この距離から撃ってくるのか!? 誰が墜ちた!」
「エンジェル3-2、3-3、5-2、6-4がロスト! 一瞬で四機もやられた!」
「クソッタレ! 編隊を組み直せ、それから長距離ミサイルを発射する! エンジェル1-1、FOX1!」
ミサイルが煙の帯を引いてロサンゼルスの街へと飛翔する。
その煙のカーテンの先で爆発の炎が煌めき、黒龍と人類の決戦の幕が上がる。
●前哨戦
ドローンが飛び交う戦場に切り込んだエンジェル隊だが、そのドローンの機動性に翻弄されなかなか本体である黒龍に狙いを定めることができずにいた。
人間という制御装置の限界を軽々と超越してゆく無人機の速度と旋回性能を前に、それぞれが目の前の敵を仲間のもとへ行かせないために戦うだけで手一杯になったのだ。
そうしてドローンで戦闘機隊を釘付けにしたところへ、黒龍の牙が振り下ろされる。
「――させないっ!」
ドローンの背後を取るため無茶な旋回を試みた直後のエンジェル6の一機に襲いかかった黒龍へ、ドローンとはデザインの異なる無人機が体当たりしてそれを阻止した。
「エンジェル7-7、クリスティーヌ・エスポワールよ。エンジェル6の援護に入るわ!」
「セブンナンバー……来てくれたのか、猟兵! ドローンが邪魔で本体に手が出せないんだ、そちらで本体をなんとか出来るか? ドローンは僕らが墜ちてでも足止めする、頼む!」
「いいえ――足止めは私の役目よ。相手が無人機なら電子戦機でもやりようはあるわ! エンジェル6各機は離脱して本体への攻撃に備えて!」
球体に三つのエンジンブロックが生えたような、大気圏内を飛行することを想定していないような旧銀河帝国軍の戦闘機。それをベースに電子戦装備を増設した愛機の射出ポッドを空中で切り離し、内蔵した無人機を一斉に放出する。
「悪龍の吐息……引きつけさせてもらうわ!」
数で勝る黒龍の眷属に対し、同数以上の数を広げてこれに対抗する。
「各機はシュヴァルム……いいえ、ロッテを堅持! 必ず二対一以上の数で敵機に対処! さぁ、私『達』のタンゴに付き合ってもらうわよ……エンジェル7-7、エンゲージ!」
自ら戦闘機を操りドローンと激しい空中戦を繰り広げるクリスティーヌ。目まぐるしく前後が入れ替わり、十分の一秒前には自身が後ろを取っていた敵機が今は真後ろでレーザー砲の砲口を光らせている。
それを僚機に任じた無人機が真上からの機銃掃射で叩き落とし、やったかと思えば新たに出現したドローンに無人機が喰われ炎の華を咲かす。
個人の技量で言えば国連軍のパイロットたちと同等。機体の気圏との相性で総合面でやや劣るか、という戦力のクリスティーヌであるが、しかしエンジェル6の隊員たちは絶句していた。
――ただの一機とてドローンはこちらを追ってこないのだ。
彼女は自身も強烈なGに振り回されるマニューバを演じながら、無人機を的確に操りドローンを封じ込めている。
「龍の眷属は道を開けなさい! さもなければ墜とします!」
純白の翼を広げ、聖槍を手に空を舞う邪龍の眷属に挑みかかるのはオリヴィアだ。
「エンジェル5-1よりエンジェル7-6! 近づきすぎだよ、落とされたいのかい!?」
オリヴィアが踏みつけるように降り立ち聖槍でセンサーを貫き、機動の乱れたドローンへとロシア空軍の戦闘機が機関砲を叩き込み撃墜する。
だが掃射の射線から超音速で離脱した天使は、そのまま戦闘機に一直線に向かってゆく。
手には火球を作り出し、それを放り投げるオリヴィア。あわや戦闘機に直撃、というところでその機体が急激に失速し、大気の壁を滑るようにひらりと機体を縦回転させれば、その僅かな空隙を縫って戦闘機を追うドローンが炎に包まれた。
「エンジェル7-6よりエンジェル5-1、今何かおっしゃいました?」
誤射スレスレの戦闘機の攻撃は難なく躱し、言葉を交わすことなく見事な連携で敵を撃ち落とす。こんなものを実際に見せつけられ、己もそれに加担したとあってはパイロットもそれ以上は何も言い返さない。
「いいや、なにも? こちらはここから遠慮なしでやる。そっちも勝手にやりな、巻き込まれるんじゃあないよ!」
「それはお互いさまでしょう!」
複数の火球を面制圧するように放り投げ、押し寄せるドローンの群れを叩き落とす。
その炎を突き破って現れた後続を、上下から挟み込むように戦闘機隊が機関砲の掃射で刈り取ってゆく。さらに戦闘機隊を追ってオリヴィアの真正面に姿を晒したドローンを、彼女は槍を構えた突撃で一直線に串刺しにして仕留めてゆく――
「あたしは神や天使なんざ信じないタチだけどね。今日から戦の女神ってやつだけは信じてみようと思うよ。ロスの空でそいつを見ちまったんだからさ」
上空で旋回し僚機とともに再突入の機を伺うエンジェル5-1は、単身ながらドローンの集団を圧倒する白き翼を前に思わず呟いた。
「空を抑えられてるのは鬱陶しいね。いいよ、龍狩りだ。ひかるさん、ついてこれる?」
「う、うん! わたしもやれるだけのことはやるよ! 制空権取られたまんまじゃ大変なんだよ……!」
米軍秘蔵の"ユーベルファイター"YF-01Uを借り受けた悠那とひかる。
複座型の前席で操縦桿を握る悠那は、フライトシューティングゲームと同じように機体を制御できるよう自前の機材と機体を組み合わせて改造してしまうことで歴戦のベテランパイロットと遜色ない飛行を見せていた。
一方火器管制や情報解析を担当するべき後席――通常の戦闘機ではそうだが、このユーベルファイターにあっては後席はユーベルコードを増幅投射する機材で埋め尽くされていた――に座るひかるは、明滅する機材と激しく上下が入れ替わり重力が遠慮なく殴りかかってくる戦闘機の機動で混乱した思考をどうにか立て直し、周囲の"精霊"との対話に取り掛かっていた。
「悠那さん、もう少しだけ時間を稼いでっ!」
「簡単に言ってくれるなあ。いいけど揺れるよ……!」
無人機を従え、ドローンと激しい格闘戦を演じるユーベルファイター。ゲームで鍛えた悠那の空間認識能力は、攻撃を翼端を掠めるほどのギリギリの精度で潜り抜けさせる。
しかし、ドローンの数が多い。支配下に在る無人機は少しずつ数を減らし、同数以上落としている筈のドローンはなおも増え続ける。
「ひかるさん、まだ!?」
「も、もう少しなんだよっ! あとちょっと……!」
そのあとちょっとを残酷な空の王は認めない。ドローンがユーベルファイターの真後ろにひたりと取り付き、その砲口を緑色に光らせる。
「しまっ――」
「エンジェル4-1、FOX2!」「エンジェル4-2、FOX3!」
そのドローンの天面をミサイルが吹き飛ばし、撃墜されながらそれでも姿勢を制御してユーベルファイターを狙う残骸を急降下してきた戦闘機が機関砲で穴だらけにして破壊する。
「ようエンジェル7-5、若い美人が空で散るのは我慢ならないんでね。お邪魔じゃなければご一緒に時間稼ぎでも如何かな? ――で、何分用意すればいい?」
急降下攻撃で下がった高度を再び稼ぎ、二人を守るように編隊を組む戦闘機の群れ。
「どうなのさ、ひかるさん?」
「急ぐならあと三十秒……だけど、最大の効果を出すならあと二分は稼いで欲しいんだよ……っ!」
申し訳無さそうに告げるひかるの言葉に男たちは笑顔で応じた。
「よし、二分だな。二分間死ぬ気で粘るぞ! お嬢さんに近づく悪い虫はぶつけてでもお引取り願う!」
「やれやれ、無差別攻撃ですか。らしいですねぇ」
傷病兵を乗せた非武装のヘリまで襲うのは"兵器"としては邪道もいいところだが、オブリビオンとしてなら納得も行く。
納得した所で、理解する必要はない。これ以上被害が拡大する前に、眷属を引き連れ都市上空を遊弋する邪龍を撃墜して事態を終息させる。
そのためにトルメンタはここに来たのだ。
「行くぜ相棒! 空を駆け抜けるぞ!」
『MaximumEngine――Mode:Dragger』
まるでヒーローが変身するように解けてその身を覆う宇宙バイク。それは普段の宇宙用の装甲ではなく、翼を広げ揚力を獲得する大気圏内飛行用装備としてトルメンタを包み込む。
アフターバーナーを噴かして急加速、ドローンと戦闘機が縦横無尽のドッグファイトを繰り広げる空に飛び込んだトルメンタ。
「まずは挨拶代わりに一つ!!」
大気圏内、重力下にあっても僅かも鈍らぬ神速にして正確無比な蹴撃がドローンの装甲を凹ませ、その歪みにプラズマブレードを突き立て早速一機を撃ち落とす。
「何が起こった!? ――識別はエンジェル7-4、猟兵か! なんて速さだよ、まるで見えなかったぞ!」
「でしょうね、俺は宇宙最速なんで!」
言うじゃねえか、と笑うエンジェル3-1の戦闘機を軽々追い越し、レーザーで応射しながらバックブーストで後退するドローン。その反撃をくるりと物理法則を無視したマニューバで躱しながら距離を詰め、敵機に飛びつきその砲口やセンサーにブラスターを叩き込み、ブレードを突き刺す青い閃光。
それは撃破に至るほどの深手を与えることなく、すぐさまにドローンを蹴って次の獲物に移動してゆく。
「――エンジェル3-1より各機、猟兵が仕留めた奴を確実に潰していくぞ! 彼女に追いつこうなんて思うなよ、エンジンが丸焦げになっちまう!」
トルメンタが走り抜けた後を統率された編隊飛行で追いかけ、武装や視界を奪われながらも飛び続けるドローンを丁寧に機関砲で破壊してゆく。
「我々が主役でないのは正直癪だが、彼女の機動を見た後だとそんなことも言ってられんねこれは。オブリビオン共もヤバいが猟兵も大概じゃないか」
青い光が走り抜けた後には戦えるドローンなど残っていない。世界最速の戦場に君臨する戦闘機すら置き去りにしたそれは、パイロットたちに畏敬と恐怖の念を刻み込む。
「ターゲットはあれか。エンジェル7-3、了解した」
「噂に聞く猟兵と空を飛べること、帰ったら仲間たちに自慢するよ」
エンジェル2――航空自衛隊の面々は、自国の専守防衛という理念を曲げてまでこのアメリカの空に駆けつけたという。彼らだけではない、世界中の人々がアメリカに集い、自分や家族、友人が暮らすこの世界を守るため戦っている。
一人ひとりが伸ばせる手は短く非力だが、全世界の人々が手を差し伸べ合えばきっとこの惑星だって救ってみせることだろう。
人類は共通の敵を前にしたとしても決して団結はできないだろう。大昔の政治家が言った言葉だったか――それは、いまこの光景を見たものならば自信をもって否と言える。混沌とした戦場では、国家も主義思想も関係なく、軍人も市民も、ヒーローとヴィランですら手を取り合って脅威に立ち向かっているのだ。
「悪くないな……」
その光景を見下ろして、コールサインエンジェル7-3を預かったジャックは静かに笑う。
鋼の黒翼を広げ、リボルバーを片手にエンジェル2の編隊と共に飛ぶ鋼鉄のダークヒーローは躍りかかるドローンを銃弾の一発で撃ち落とし一直線に黒龍のもとへと飛翔する。
ドローンの相手は後回しだ。いや――回避に集中していれば、国連軍のパイロットたちはドローンに引けを取ることはない。
「エンジェル2-2、FOX3! 2-1、追い込む!」
「2-1了解、そのまま連れてきてくれ。猟兵! 上手いこと躱してくださいよ!」
ひらりと黒翼を翻して回転すれば、その円の真ん中をドローンが、ついで戦闘機が突き抜けてゆく。一歩間違えば衝突事故を免れないようなギリギリの戦闘機動の中で、着実にドローンを減らしながらジャックを、猟兵たちを黒龍のもとへ送り込む。それがかれらエンジェル2が自らに任じた使命だ。
「エンジェル2-6、被弾した! 私はここまでだ、編隊を離脱する!」
黒炎を吐き出しながら片翼を失った機体が墜ちてゆく。パイロットは必死に姿勢を立て直し、ロスの街の外へと機体を運ぼうとしている――が、それを追うように複数のドローンが降下を開始したのをジャックは見た。
「負傷者を乗せた輸送機の次は戦線離脱してゆく損傷機すら狙うか……」
ジャックの機械じかけの胸中を満たすのは、空の暴君とその眷属に対する怒りだ。空を飛ぶ者として、驕りはあれど誇りはない。それがあのオブリビオンなのだろう。
「――援護する、エンジェル2-6。死ぬなよ」
黒龍に辿り着く一歩手前で機首を下げ、脱落した戦闘機に向かってゆくジャック。
リボルバーが吼え、機械じかけの神が機械じかけの邪龍の眷属を断罪する。
「――エンジェル1-1より全機、ドローン退治は好調だが敵の増援にキリがない。これより作戦を変更、エンジェル2-1のアイディアを採用する」
全戦闘機を陽動とし、全てのドローンを惹きつけた上で各部隊入り乱れたドッグファイトに持ち込む。
編隊飛行もなにもない、各人の技量と経験だけが物を言う泥沼の殴り合いにドローンを引きずり込めば、丸裸になった黒龍がそこに残される。
「正直なところ、個人戦でドローン共に勝てる見込みは無い。今残っている機体の半数は落ちるだろう。だが我々の任務はロサンゼルスの空を取り戻すこと。黒龍さえ落とせば我らの勝ちだ!」
――頼んだぞ、猟兵。
エンジェル1-1、ベケット中佐の声は自分たちがオブリビオンに及ばない悔しさと、けれどその苦境を猟兵ならば打破してくれるという希望に満ちていた。
「――エンジェル7-2、トリテレイア・ゼロナイン。了解しました、これ以上の跳梁は許しはしません!」
友人たちが作り上げた追加装甲。全身に推進機を増設した、無理無茶無謀の象徴のようなユニットを身に纏ってトリテレイアも戦場に突撃する。
空中管制機オラクルを介してエンジェル全機の耳目を借り受けた彼には、ベケット中佐が言うように数的劣勢を覆し、盤面を叩き割るにはこれしか無いということも分かっている。
だが、それはエンジェル隊の犠牲の上での勝利になるだろう。それは認められない。彼らとて、騎士たる猟兵の守るべき存在なのだから。
ドローンを機体の各所に内蔵した銃器で撃ち抜き、儀礼用の剣でその翼を両断して敵陣を駆け抜けるトリテレイア。そんな彼を囲むように米軍の戦闘機が陣形を組み、翼を振って合図する。
"――後は任せろ、黒龍は頼んだぞ"
一塊になった絶好の獲物にドローンの群れが殺到するのを、迅速に散開した戦闘機隊は迎え撃つ。
「いつだって我らは世界最強だった――合衆国空軍を舐めるなよ、オブリビオン!」
その叫びは、まるで死地に赴く恐怖を踏み潰すためのもののようで――トリテレイアはまっすぐに前を見据え、彼らの決死の覚悟を無に帰さぬよう加速する。
「115、116、117、118、119」
「――120! 二分きっちり稼いでやったぜ! ハッハー!」
各国のエンジェル隊が分散し、決死の戦いに赴いてゆく中で、ズタズタのエンジェル4――オーストラリア空軍の面々は任務を成し遂げた。
「ミサイルもガンもカンバンだ、もう逆立ちしてもピーナッツひとつ出ねえぞ!」
たった二分、されど全方位から無数に襲いかかるドローンを相手に味方機を守り続ける至難の二分を生き抜いた戦闘機は、直後に失速したように速度を落とし降下してゆく。
「何をやるつもりか知らないが、盛大にブチかましてやれ! 後は頼んだぞ、猟兵のお嬢さん! 基地に帰ったら一杯付き合ってくれよな!」
激しい空戦で燃料が尽きたのだ。グライダーのように滑空しながらエドワーズ空軍基地へと帰投していくエンジェル4の隊列。それを追うようにドローンの編隊が、悠那とひかるの駆るユーベルファイターの横をすり抜けてゆく。
放たれたレーザーは、マトモな回避機動すらできない戦闘機を捉え――
「精霊さん達、さっき説明したとおりに――お願いねっ!」
ひかるの祈るような懇願をユーベルファイターの機巧が増幅し、機体が激しく振動すると共に空が弾けた。
エンジェル4を追うドローンの攻撃は、頭上の雲から落下してきた氷塊が身代わりとなって受け止める。
そして、その雲の幕が大きな円形に捌けると、素晴らしく蒼い空がロスの街を照らしてゆく。
その"空の穴"の中心へと、雲から強烈な放電が収束し――それが弾け飛ぶと同時、強烈な磁気の乱れが空を飛ぶ者たちを襲ったのだ。
ドローンはたまらず機能停止してバラバラと地上に墜ちてゆき、黒龍は無事とはいえ僅かによろめく。
そして同じく巻き込まれたエンジェル隊の面々は――
「危ないところだったな。出撃前に言っていたEMP対策は万全に、というのはこういうことか。なにはともあれ、最高のプレゼントだ。感謝する!」
「次からは前もって何をするか言って欲しいものですがね、助かりましたよ」
基地を離陸する前に駆け込みで頼み込んだ防護措置と、ひかるの手配した雷の精霊による防御が功を奏して、磁気嵐の只中に叩き込まれたとはいえただの一機も墜ちてはいない。
●反撃開始
「エンジェル1-1より残存エンジェル全機。システムの再チェックが完了次第、黒龍へと攻撃を開始する。いままでいいように遊ばれたお返しだ。オマケを付けて叩き返してやれ!」
「「「「「了解!!」」」」」
再び編隊を組み直したエンジェル隊が一斉に機首を黒龍へ向ける。
翼下から切り離されたミサイルが黒龍を追い、今まで余裕を見せて空に君臨していた龍がはじめて戦闘機動でそれを回避する。
その機動はドローン以上に人間の限界を超越したものだったが、その絶対者であっても回避せざるを得ない状況に引きずり出したことにパイロットたちは歓声を上げる。
「へぇ、あれが黒龍とやらの動きですか。確かに凄い機動性だ……」
文明の技術レベルで数段上を行くスペースシップワールド、そこで最大級の軍事力を誇った帝国軍ですらあれほどの戦闘機を生み出すことは出来なかっただろう。
トルメンタは黒龍の性能の高さに舌を巻き、それでもと空中を駆け出した。
「ですが、直線の速さなら俺のほうが上です!」
戦闘機が止まって見えるほどの加速で黒龍に挑みかかるトルメンタ。戦術はドローン戦と同じだ。追いかけ、追いつき、捉えて零距離で叩く。
真っ直ぐに黒龍の背を追う蒼い光へと、黒龍は加速して逃げる――ように見せかけ、翼下に懸架された機関砲をくるりと真後ろに向けて掃射した。
「くっ! 後ろへの備えも万全ですか、戦闘機でそれは卑怯でしょう!」
ドッグファイトという概念を叩き壊す武装に悪態を吐きながら、やむを得ず減速して回避を試みるトルメンタ。
その彼女を射線に捕らえるよう機関砲を旋回させながら、黒龍自身も大きく弧を描いて戻ってくる。
「真正面からやる気ですか、面白い! いいでしょう、その勝負受けて立ちます!」
機関砲を躱して黒龍の正面に躍り出るトルメンタ。このままでは正面衝突してしまう。そうなれば30メートルに迫る鋼の巨体を有し、質量に勝る黒龍が勝利するのは必定。
「ですが、ね。激突するのが怖くて"光速は超えられない"んですよ! ……グリッタァァァ、ビィィィム!!」
装甲の胸部から放たれたビーム。たまらず機体を翻し、衝突コースを逃れた黒龍の装甲をビームが焦がす。
「仕留め損ないましたが――速度は殺しましたよ、皆さん!」
振り返り、すれ違って後方の味方に向かってゆく黒龍の背を見送るトルメンタ。
その言葉に応じるように、ミサイルの第二波が黒龍を飲み込んだ。
「ミサイル全弾起爆! やったか!!」
「エンジェル6-1、そういうのを日本ではフラグって言うんですよ」
斯くしてエンジェル2-1の懸念通り、ミサイルの爆炎を貫いて黒龍が姿を現す。
顎門を大きく広げ、煌々とレーザーの光をその喉元に蓄えたその威容を前に、通常兵器では黒龍に届かぬと悟ったエンジェル隊は迅速に散開する。
散らばった戦闘機の後ろから加速してその全面に出るのは猟兵たちだ。
「最大のピンチはそのまま最大の好機……ここからが電子戦機の本領発揮よ!」
クリスティーヌの機体が黒龍にハッキングを挑みかかる。流石に制御中枢を掌握破壊することは出来ないが、誤情報を噛ませるくらいならば簡単だ。
「――今すぐにでもそのレーザーを撃つつもりでしょうけど、そうはさせないわ」
軽快にキーボードを叩くクリスティーヌの指が小気味よく最後のキーを打つと同時、黒龍がびくんと跳ねるように機首を下げ、カリフォルニアの荒野に極大のレーザーを照射する。
「うわ。あいつに一体何したのさ?」
臨時で僚機を組むユーベルファイターから悠那がクリスティーヌに問えば、彼女は眼鏡をくいと持ち上げ仕掛けを明かす。
「失速した、って誤情報を噛ませたのよ」
そうすれば墜落を避け、速度を取り戻すために黒龍は機首を下げる。機首に固定されたレーザー砲もそれに連動して、エンジェル隊を狙った攻撃は地表を薙ぎ払うこととなったのだ。
「さ、敵の喉笛は無防備よ。逆鱗を剥ぎ取りに行きましょう!」
「了解!」
二機の戦闘機が無人機を引き連れて黒龍に襲いかかる。濃密な連携からなる絶え間ない攻撃は、黒龍に反撃の時間を与えない。
「背後取った! エンジェル7-5、FOX2!」
無人機と電子戦機による誘導に乗せられ、視線を誘導された黒龍の背後にぴたりと付くユーベルファイターがミサイルを斉射すれば、
「炎の精霊さん、お願いっ!!」
すかさずひかるの呼び出した精霊たちがそれに宿り、爆発の威力と範囲を増強する。
そのミサイルの嵐の中を落ち葉のようにひらりひらりと回転しながら、回避できぬと見たならばすぐさま機銃をばらまいて迎撃しながら直撃を避ける黒龍。
だが、さしもの黒龍もミサイルを躱しながら周囲に気を回すだけの処理能力はなかったらしい。
クリスティーヌの無人機に体当たりされ、姿勢を崩して爆炎に落ちてゆく黒龍。全身に炎を纏い、煙を吐きながら急激に高度を下げるそれを、地上から迎え撃つ者がいる。
墜落した国連軍機を無事に地上まで送り届け、今再び空に舞い戻る者――ジャックだ。
炎上し落下しながらもレーザー砲に光を灯し、高度差の利を活かして空に上がろうとする不逞の輩に襲いかかる黒龍と。
全力の急上昇で全身のあらゆる関節を軋ませながら、天竺葵を宿した刀を振り抜き雷を刀身に纏わせるジャックと。
「お前は負傷者を乗せた輸送機すら落としたそうだな。やり過ぎだ――報いを受けるといい」
二人は一瞬の交錯の後、互いに距離を取るように飛翔する。
ジャックは味方に合流するように。黒龍は地上スレスレで姿勢を立て直し、エンジンを器用に動かしくるりとその場で機首を擡げて空へと上がる。
空を舞う者たちは、いいや地上でその空戦の行く末を固唾を呑んで見守る者たちも。彼らは見た。黒龍の顎が断ち斬られている、その様を。
「よぉし今だ、やつは最大の武器を失った! 追い込んで猟兵がケリを付ける好機を作るんだ!!」
この戦果に勢いづいた戦闘機隊が、果敢に機関砲で龍を攻め立てる。
一撃一撃は弱くとも、集団ともなれば脅威足り得る戦闘機の機関砲。それまでは距離を空けてレーザーの一薙ぎ、これで解決していた問題を前に、レーザーを奪われた黒龍は対処しきれていないように見えた。
「行ける! 行けますよ! エンジェル6-1、ヘッドオン! FOX3!」
勝利の確信を胸に、龍の鼻っ面に真正面から機関砲を叩き込むべく果敢に挑んだ戦闘機。
それを、黒龍は"握りつぶした"。
ばき、ばきと金属が割れるような音とともに、被弾で歪んだ装甲を弾き飛ばして解放されてゆく黒龍の鋼鉄の四肢。
その両腕が、エンジェル6-1の機体の両翼を掴んで潰したのだ。
「6-1! 無事か!!」
「イジェクトしました! すみません、アイツあんな隠し玉を……畜生!」
ジェットエンジンを内蔵した手足を広げ、今まで以上に手のつけられない機動を見せつける"龍"。勝利の確信、希望から一転して姿を見せた絶望に、エンジェル隊のパイロットたちは誰もが言葉を失っている。
けれど、その中を駆け抜ける者がいる。絶望的な戦況でも決して折れることなく戦い抜いてきた者たち。
――猟兵だ。
「その瞬間を待っていました!!」
手足を広げた黒龍は、たしかにエンジンをフレキシブルに稼働させることでこれまで以上に常軌を逸した機動性を獲得している。
だが、それと同時に航空機としていびつな形状に成り果てた。その上、被弾によるダメージで装甲板すら排除している。
航空機の装甲というものは、弾丸から身を守るためと言うよりは空気の流れを斬り裂き、あるいはその上に上手く乗るためのものだ。それが一部でも失われたということは、黒龍にかつての空の暴君、最強の戦闘機としての権能は既に無い。
再び真っ向から挑む白い騎士。トリテレイアは剣を構え、黒龍の正面から突撃してゆく。
対する黒龍も両の腕を広げ、愚かにも向かってくる白きドン・キホーテを叩きのめすべく咆哮する。
誰もが両者の正面衝突と、それによる決着を想像した。
あるものはトリテレイアが黒龍の巨体を真二つに叩き斬る姿を。
あるものは黒龍が無謀な白騎士の身体をばらばらに引き裂いてしまう姿を。
「あなたの速さは確かに圧倒的です……ですが激突のこの一瞬は、速さなど関係ない! 私はこの機に全てを懸けます!」
決意とともに、トリテレイアは――装甲に秘められたスモークディスチャージャーから煙幕を撒き散らす。
突然封じられた視界に黒龍が僅かでも惑えば僥倖、その一瞬を信じてワイヤーアンカーを射出すれば、果たしてそれはなにかにしっかりと引っかかる。
煙幕を貫き再び姿を現した黒龍の背には、トリテレイアの姿があった。
剣を振るい、装甲の失われた部分からダメージを通してゆくトリテレイア。
だが彼がしがみつく黒龍の背は、あまりにも過酷な場所だ。縦横無尽に暴れ狂う龍の背に張り付き続けるだけで、トリテレイアの機体は悲鳴を上げ、増加装甲がべきべきと音を立てて剥がれ落ちてゆく。
一方でトリテレイアの剣は着実にダメージを与えてゆくが、誰もが黒龍を倒し切るより先に彼の体力が尽きるほうが先であるように見えていた。
――空を駆ける騎士は一騎だけではない、ということを知らぬものには、だが。
「天来せよ、我が守護天使。王冠を守護する炎の御柱よ。万魔穿つ炎の槍、不滅の聖鎧、そして天翔ける翼を与え賜え――!」
双翼を広げ、聖槍に炎を宿し、トリテレイアを引き剥がすべく暴れ、機動に精細を欠いた黒龍に肉薄してゆく白い姿。
「――我らが女神が征くよ! エンジェル5-1より編隊各機、あたしたちも全機突撃! 黒龍の道を塞いでやれ!」
その意図を察した戦闘機隊が黒龍の前に割り込み、直線加速をさせぬように妨害を加えてゆく。
そうして黒龍に追いつき――追い抜き、更に天上に舞い上がった天使、オリヴィアは聖槍を構えて眼下で仲間たちとのたうつように機動戦を繰り広げる龍を見下ろして。
「龍殺しは戦士の誉れ、いざ――勝負!」
真っ直ぐに、高度差による破壊力を背負って黒龍に向かって突撃する。
「――離脱します! 皆様も急いで!」
それをエンジェル5-1からのデータリンクで認識し、トリテレイアはワイヤーを切り離すと黒龍から飛び降りた。
ダメージを負い、ふらつく龍が頭上から迫る天使に気づき、身を翻そうとするももう遅い。
エンジェル隊からの機関砲による妨害を受け、逃げ損ねた黒龍の脚が砕かれ、青空の下を落ちてゆく。
「やった! やったぞ!」
機動力の大部分を占める脚部エンジンを失った黒龍。既に負ったダメージも多く、もはや撃墜は時間の問題――誰もがそう思っていた。
「オラクルよりエンジェルス! 気をつけろ、黒龍の熱量が増大している!やつはまだ何かするつもりだぞ!」
その警告が届くのと同じくして、黒龍は雲に空いた大穴を貫くように機首を上げ上昇してゆく。
高度を上げるのと連動するように脱落してゆくパーツ。
異常な振動、鳴り止まない警告。それは空の暴君が初めて経験するものだ。
無慈悲さをもって空を支配し、あらゆる航空機を狩る捕食者が、初めて傷を追って得た感情はたった一つ。
死への恐怖でも、猟兵や人類への憎悪でもない。
たった一つ、このまま負けたくないという想いをその制御プログラムに刻みつけて、黒龍は高度を上げてゆく。
「オラクルよりエンジェルス、状況不明だがこれは不味い! 黒龍を撃墜せよ、今すぐに!」
「エンジェル1-1よりオラクル、無理だ! 戦闘機は残弾もなければ損傷している機体もある、燃料だって足りやしない! あの高度まで黒龍を追いかけることは出来ない!!」
「それでもだ!! ――ならば猟兵、上がれるか!? 上がってくれ、誰か!」
オラクルの悲鳴のような懇願。頭上では、崩壊したレーザーキャノンに極大の光を湛えた黒龍が、空と宇宙の境界でついに失速して機首を地上に向ける。
その先にあるのはロサンゼルス。今なお多くの人々が戦い続ける西海岸最大の戦場にして、北米第二位の規模と人口を誇る大都市だ。
だが、オラクルの願いに応えられるものはいない。今から雲を超え迎撃に上がるより早く、黒龍の最後の足掻きが地上を蹂躙するだろう。
防御に回ったとして、どれほど被害を抑えられる? ダメだ、守るべき範囲が広すぎる。犠牲は避けえない――誰もが最悪の結果を想像する中、黒龍が雲の穴へと再突入してゆく。ロサンゼルス市がその射程に収まってしまう。
「――頼む、誰か……ロサンゼルスを、友軍を、市民を…………救ってくれ!!」
絞り出すようなオラクルの呟きに応えられるものは居ない。
――たった一人を除いて。
「なかなか頑丈でしぶといブラックドラゴンネ」
念の為に上で控えててよかったヨ、という気楽な声音が、絶望に飲まれかけた人々の耳を打った。
雲を尾のように靡かせて、円形の青空に飛び出す青白い影。
稲妻に身をやつし、雲の中でさらなる力を蓄えて万が一に備えていた彼女だけが、この黒龍の最悪にして最後の抵抗に立ち向かうことができる。
「ボクの躯は100万ボルト……ウウン、10億ボルトヨ――」
激戦の中、ただじっと雲の中で生じる電力をその身に受け入れ続けていたチトセは、その肉体を蓄えた電気そのものへと変じさせていた。
我が身、既に雷となりて。
「エンジェル7-1、エンゲージエネミー! ユーを稲妻で叩き落としてやるネ!」
神話に置いて龍を殺すのは人であり、時として神ならば。猟兵とエンジェル隊、人の手で追い詰められた悪龍に神の裁きを落とすものこそ、その名を雷。
雲から飛び出したその光は、瞬きほどの時も要さず雲の穴を横切り、黒龍を飲み込む。
閃光が奔り、一拍遅れて空に轟く晴天の雷鳴。
黒龍が自爆覚悟で崩壊したレーザーキャノンに蓄えていた閃光は、砲口から吐き出されることなく霧散し――そして、傷だらけの黒き龍が炎の華と化して砕け散った。
「オラクルよりエンジェルス……作戦終了、目標は撃墜された! 繰り返す、目標は撃墜された!! ありがとう世界最高のエースたち、ありがとう猟兵、我らが世界の救世主よ!」
「やったぜ!」「ざまあみろ!!」「フゥー!!」
「最高だよ猟兵ども! 基地に帰ったら一杯奢らせてくれ!」
「ロサンゼルスの空に、戦友の健闘に、猟兵の活躍に乾杯しよう!」
響き渡るオラクルとエンジェルスの歓声。皆が傷だらけの疲れ切った身体を引きずるようにしてエドワーズ空軍基地への道を引き返してゆく。
しかしその表情は晴れやかで、笑顔があった。人類は負けない、相手がどれほど強力なオブリビオンだろうとこの結束を忘れない限り、必ず勝てるのだ――と。
大成功
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