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煌めく流れに

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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●赤い流れ星
 その川は、夜闇の中で輝いていた。
 僅かな星明かりを糧として、ここにいることを訴えるように光を放つ。
 まるで呼吸のように、叫びのように。
 それを静かに見つめていた眼の主は、細長い鼻先を水面につけ、水を舌先で掬い上げて喉を潤す。
 遥か遠き夜空を見上げて首を伸ばす姿は神々しく。称賛するかのような木々のざわめきは、風もないのにいくつも重なって木霊する。
 そして、川の上流には。

 ――折り重なるように積まれた屍の山が、夥しい血を流し。川を赤く染めていた。

●森の脅威
「誰か、手の空いているやつはいるか?」
 仄かな甘い香りを漂わせ、猟兵たちに声をかけたのは、薄い色素を纏った一人の女だ。
 銀髪の髪に包まれた頭部からひょこりと伸びた耳と、柔らかく暖かそうな尻尾を見る限りに、どうやら妖狐らしい。
 特徴的なのは、左の鎖骨下に刻まれた月下美人と、そこから左腕に絡まる蔓の刺青だろうか。
 ユア・アラマート(セルフケージ・f00261)と名乗るグリモア猟兵は、集まってきた猟兵達の顔を一瞥すると、とある村で起きる悲劇を止めてきてほしいと切り出した。
「現場はアックス&ウィザーズ。宝石の採掘や加工が盛んな村のようだ」
 自分達で掘った宝石を様々な形に作り変え、それを売ることで成り立っており。評判を聞きつけて遠方からも人が訪れるのだという。
 村の近くには神が住まうという言い伝えが残る森があり、綺麗な川も流れている。その川を使った催しも村の名物になっているらしい。
「犠牲になるのは、その催しの準備をするために森に立ち入った村人達だ。このまま放っておけば、全員帰らない」
 憂いか怒りか、声に重みを乗せたユアがため息を吐いた。
 自分が予知で見た光景を思い出したのか、薄緑の双眸も今はどことなく暗さを感じさせる。
 それまで何事もなかった森が、唐突に牙を剥く。
 詳細を知ろうにも生き証人はおらず、何もわからない人々は森の神が祟りを寄越したのかと思うかもしれない。
 だが、そこにあるのは神聖とそれを侵した人間への罰ではなく。一方的な悪意の押しつけだけだ。
「私が視たのは巨木の姿をしたオブリビオンだった。複数体が集まって森の中に擬態し、侵入者の存在を感知すると一斉に動き出す」
 戦場となる森は木がまばらに生えている開けた空間が点在しており、そこに誘い込めば戦闘を有利に進められるだろう。
 また、木々が密集している場所でも遮蔽物として利用すれば体の大きな巨木の隙を突くことができそうだ。
 だが、それらを討伐すれば終わりではないとユアは言う。
「あくまでそいつらは眷属のようなものだ。親玉の姿は、私もはっきりと視ることができなかったが……なに、お前達なら大丈夫」
 予知を行った自分は戦場に立つことができない。
 けれど、その代わりとするには十分すぎるほどの仲間達が向かってくれるのだから、これ以上に心強いことはない。そう言いたげだ。

 信頼を口元の笑みに乗せたユアの手が、胸元に伸びる。
 月下美人の刺青が発光を始め、その上を指先がなぞるとまるでシールのように剥がれて女の掌上へと居場所を変えた。
「そうだ。仕事が無事に終われば、予定されていた催しも行われる。ついでに参加してきたらどうかな? 売り物にならなかった裸石を川底に撒いて、それを自由に浚っていいらしい」
 採った石は村が用意してくれた小瓶に川の水と一緒に詰めてもらうことができ、願いを込めると叶うという噂があるようだ。

 大輪の花から花弁が一枚零れ落ち、風に舞うようにして空間を裂くと現地に繋がる道が開かれる。

「なんともロマンチックだろう? さあ、現場に送る。――ご武運を。イェーガー」

 土産話を待っているよ。その言葉を最後に、花の香を纏う女は猟兵達を見送った。


藍月
 初めまして、新人MSの藍月(あいつき)と申します。
 これから皆様の冒険を彩る一助になれればと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 今回の依頼はシンプルに、オブリビオンを倒してイベントを楽しもうというものになっております。
 一章、二章はガンガン殴ってください。戦場に関しましては、OPにある通りです。
 三章は心ゆくまで石浚いをしましょう。ご希望の宝石があればぜひプレイングにお書き添えください。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『荒ぶる山神』

POW   :    握り潰す
【人ひとり覆い隠すほどの掌】が命中した対象に対し、高威力高命中の【握り潰し】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    踏み潰す
単純で重い【地団駄】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
WIZ   :    叩き潰す
【大きく振りかぶった拳】から【地震】を放ち、【その振動】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


いくつもの足音が草を揺らして土を踏みしめる。
 本来であれば哀れな犠牲者になるはずだった村人の代わりに駆けつけた猟兵達を出迎えたのは、地震と間違えてしまいそうな揺れ。
 そして激しく木の葉が擦れ、ざわめく大量のノイズだ。

 ――オォン……オォン……。

 まるで地鳴りのように響く唸り声は、明らかに自然のものではない。
 侵入者の存在を感知したオブリビオン達が一斉に動き出し、森は俄にその姿を戦場へと変貌させる――!
レイラ・ツェレンスカヤ
赤、赤、赤!
たくさんの赤が川を染めるのだわ!
なんて素敵なのかしら!
まるで汚れた服のまま、綺麗なシーツに飛び込むかのようだわ!

あら、あらあら! なんて大きな手! 潰されるのはレイラかしら!
うふふ、うふふふ! 痛いわ、苦しいわ!
レイラの血で川を染めるのも悪くはないのだわ!
こんなに大きな相手に挑んで潰されるなんて、とっても無様で可愛らしいでしょ?

でもね、今はまだダメなのだわ!
だってまだ楽しいことがたくさんありそうなんだもの!
だからあなたの生命力、レイラがいただくかしら!

あなたが枯れ果てる姿も、きっと惨めで可愛らしいのだわ!


ルイーネ・フェアドラク
闘いはさほど得手ではありませんが…
男としては、女性の期待を裏切るわけにはいかないでしょう

背の刻印から解放したUDCで戦います
黒く悍ましい触手らを操り、拓けた場所へ誘導するように
或いは重力の精霊が宿る短銃で、敵の足止めを
私が封じている間に、誰かとどめを
戦力が充分であれば、私はそのように支援に回りましょう

獣の身軽さと、ひとの理性でもって
私ひとりではユアの代わりには足りませんが
私ひとりで戦うわけでもない

連携・絡みなど、随意に
歓迎します



「まぁ、まぁ、まぁ! なんて素敵なのかしら!」

 見上げるほどに大きく、威圧感を齎す巨木を前にして、レイラ・ツェレンスカヤ(スラートキーカンタレラ・f00758)の目は今まさに襲いかからんとしている敵を運命の人であるかのように見つめ。頬は紅潮していた。
 たくさんの赤が川を染める。それはまるで汚れた服でまっさらなシーツに飛び込んでしまうような、いけないこと。
 背徳感に心が疼き、衝動は彼女の体をすっぽりと包み込めるサイズの掌で掴みかかる敵――『荒ぶる山神』へと向けられていく。

「なんて大きな手! 潰されるのはレイラかしら!」

 華奢な体を握り潰すには十分な力を持つ山神にかかれば、あっというまに骨身が砕け、肉と肌を突き破り歪なオブジェが出来上がるだろう。
 自ら血を流すことすら、無様で可愛らしいと歓喜するレイラの体を。しかし山神は潰すことができなかった。

「でもね、今はまだダメなのだわ!」
「失礼、お嬢さん」

 赤色は涼やかに、レイラの後ろから響く。
 その存在に唯一気がついていなかった山神の胴体に照準を合わせた男が引き金を引くと、発砲音と共に放たれた弾丸が一直線に巨木の中心へとめり込み、呪縛にも似た力で本来の木であることを強要するように大地に縛り付けた。
 銃の名は【GB-10】
 重力の名を持つ精霊を宿し、その力を行使する精霊銃だ。

「戦いはさほど得手ではありませんが……男としては、女性の期待を裏切るわけにはいきませんし」

 ルイーネ・フェアドラク(糺の獣・f01038)は山神の動きが止まっている間に駆け寄り、レイラの隣に並ぶ。
 脳裏に浮かぶのは自らを見送った顔見知りのグリモア猟兵。そして、目に映るのはとても小さな白い少女。
 そのどちらも、彼にとっては見過ごせないものに見えて。

「必要がなかったとしても、小さなレディを一人で戦わせるのは気が引けますね」
「ありがとう素敵な方! おかげで助かったわ!」

 レイラが礼を言うのとほぼ同時、拘束が解けた山神が大きく振り上げた腕を地面に叩きつけその場を揺らす。
 立っていることもままならないほどの地震が自分達に届くよりも早く、ルイーネはレイラを抱え上げて背中の刻印から悍ましい漆黒の触手を開放し、駆け出した。
 地面に食い込んだ触手で体を支え、更にバネとして飛び上がり、山神の失われた頭部の痕を踏みつけるようにして空に舞う。
 樹木とはいえ、見聞きすることに必要であっただろう頭がない状態で、はたしてそれを見ることができただろうか。
 亡くした部位がまるで残されているかのような動きで空を仰げば、そこには。

「これからたくさん、面白いことがありそうなんだもの!」

 だから、あげない。

 レイラの手から生み出された杭は、ひどく赤く、そしてひどく黒い。
 凝縮した血の色をした杭が上空から飛来し。その直撃を受けた山神の体を、周囲の地形ごとひしゃげさせて打ち砕く轟音が、山神が起こした地鳴りよりも大きく辺りに響き渡った。

「派手にやりましたね。他の場所で戦っている仲間がいるでしょうし、そちらに行きましょう」
「そうね! あ、でも少しだけ待って?」

 爆心地になった地面へ着地したルイーネがレイラを下ろすと、彼女はぱたぱたと駆けて何かを探す。
 探しものはすぐに見つかり、山神の残骸と思しき木片が転がっているのに気づいたレイラはそれを手に取ると、まだ微かに生命力を感じられることを確認した。
 ひっそりと、その口元が舌なめずりをする。

「あなたの生命力、レイラがいただくかしら」

 ぼろりと。少女の掌で木片が塵になる音がした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

コーディリア・アレキサンダ
それなら森を焼けば――わかっているよ、冗談

触れなければ、静かにしていれば襲われなかったのか――考える余地もないね
何かが、目的をもってここに置いたのかもしれないけれど……
排除していけばわかることさ。悪魔らしく、実力行使させてもらうよ


「それだけ大きいと、小回りの利く相手は捉えにくいだろう?」

飛んでいるなら猶更だ
《喰らい、侵すもの》によって呼び出した魔犬を放つ
空を駆ける彼なら、地震の影響も受けずに攻撃を続けられるという寸法さ

ボク自身は魔力の塊を放って彼の攻撃を支援しよう
〈全力魔法〉を〈高速詠唱〉で乱打する――ただでは済まさないよ


フェル・ドラグニエル
「私がアイツを開いた場所へ誘導してみるから、一気に叩くってのはどうかな?」
<グラディウス・レプリカ>を構えて【トリニティ・エンハンス】を発動し、防御力を重視して強化します。
それからは、敵の攻撃を<竜腕の籠手>を構え、盾を展開しながら[盾受け・激痛耐性・かばう]を用いて避けたり捌きつつ、痛い一撃を受けないように心掛けます。
そうやって敵の攻撃を捌きつつ自身の攻撃を当て、開いた空間へとおびき寄せていきます。
おびき寄せる際には[ダッシュ・空中戦・時間稼ぎ]の技能もフル活用します。


チェルヌーシュカ・ツィオルコフスカヤ
んー、動きは遅そうだけど、わたしが潰されたらちょっとどころじゃなく大変そうなのー。
ほんとーは沢山の子供と遊ぶための技術なんだけどー……しょーがないなあ。
たくさんの『わたし』を作って、少しでも多くの敵にとつげーき!
他の仲間がいない場所から敵を挑発して、注意がこっちに向けばわたしの勝ち、なのー。
ぬいぐるみ、それもわたしと同じ姿のモノがヘマしたら潰されちゃうのは、すごーく気が重いけれど……それでも、他の猟兵さんとか、ましてや村の人が潰されるよりは、ずっとずっとマシだもんねー?
だから……どうか、他の人に気が向きませんように。
わたしの分身でよければ、いくらでも身代わりになるから。ね?



一方、フェル・ドラグニエル(蒼翼の竜騎士見習い・f01060)もまた、空へ身を躍らせて戦う者の一人だった。
 髪も角も、そして握る剣の刀身も白銀に輝く姿が森の中に残光を走らせ。その後ろを追いかける山神が苛立たしげに伸ばす腕を、大きな翼を広げて空中に逃れることで巧みにかわす。
 トリニティ・エンハンスの魔力で自らを固め、迫り来る攻撃を時に受け流し、時に受け止めながら彼女が目指すのは。戦闘に適した開けた空間だ。

「もっと開けた場所まで誘導できれば……!」
「一気に叩くのも楽ってものだね! 相手は木なんだし森ごと燃やしてもよかったけど――おっと!」

 並走するコーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)も、考えていることは同じらしい。
 冗談なのか本気なのか判別しかねる軽口を叩きつつも、手の形に差した影に気がついて速度を上げ。そのすぐ後ろで空振りをした山神が地面をえぐり掴む。
 鬱蒼と木が生い茂っているエリアよりも見渡しの良いエリアへ、より有利に戦える場所へと誘き寄せる作戦を選択した彼女達の動きは素早く、逆に山神は大きな体が木々に引っかかって減速を余儀なくされていた。
 それでも体躯の大きさが距離を詰めてくる場面は多々あり、その度にフェルの両手に装備された【竜腕の籠手】から生成される盾が、覆いかぶさろうとする掌を弾き飛ばし跳ね除ける。
 道行きはそれなりに順調だ。だがその時、二人の元へと近づいてくる影があった。

「もうじき目的地だね」
「きゃー! よけてー!!」
「えっ、この声は……?」

 走りながら肩越しに後ろを見たコーディリアの耳に、突如小さな女の子の悲鳴が響く。
 それは当然横にいたフェルにも聞こえていたが、悲鳴に気を取られるあまり彼女の背後に詰め寄ってきた山神の存在に気づくのが一瞬遅れてしまう。
 けれど、それを見越していたかのように、コーディリアの唇は力ある言葉を紡ぐ。

「承諾確認。我身に宿る悪魔、空を駆ける魔犬――」

 喰い殺しなさいと、魔女が嗤う。
 次の瞬間、フェルを絡め取ろうとしていた山神を空から飛来した黒い物体が強烈な体当たりで後ろに弾く。
 遠吠えも高らかに現れた不吉を纏う猟犬は、牙を剥き出しにして唸り声を上げると二度三度と山神の体に食らいつき。
 生じた隙を逃さぬフェルが放つ光の一閃が、山神の掌を手首ごと切り落とした。

「ありがとう。でも、今の声は一体誰だったのか……」

 その答えは、案外と早く出た。
 なにせ彼女達の見ている前で、唐突にもう一体の山神が現れたからだ。
 それはちょうど横合いから不意打ちのように飛び出したかと思えば――彼女達を追いかけていた山神にそのまま体当たりをして双方が大きく転ぶ。
 揺れに振り落とされるようにぽろぽろと、黒い髪に青い目の人形が地面に落ちる。

「ごめーん、大丈夫だったー?」 

 最後に茂みを掻き分けて姿を見せたのは、チェルヌーシュカ・ツィオルコフスカヤ(ニ・プーハ・ニ・ペラー・f00032)。自分の本体と同じ人形を複製し、山神にまとわり付かせて偶然ここまで誘導してきたのだ。
 本物ではないとはいえ、本来の自分と同じ存在が傷つくのはやはり気になる。けれどそれ以上に誰かが傷つくのを見たくはない。
 仲間や村人が被害に合うのを厭うた彼女が身を挺したことにより、かけずり回された挙げ句最終的に同族と激しく衝突した山神の体には、細かな亀裂がいくつも走ることになった。
 さて、これで敵の数は増え、そして味方の数も増えた。
 それはどういうことか?

「――負ける気がしないね。さあ、一気に片付けよう」

 言葉に絶対的な自信を込めたコーディリアが二人を促し、そのまま三人は開けた場所まで走っていく。
 目的地へ到着する頃には、追いかけてくる山神を少しの時間ながらも待つ余裕すらあり。
 傷ついた姿で誘い出された二体の山神へと、強い意志を込めた六つの眼が突き刺さる。

「ほんとーは子供たちと遊ぶための技術なんだけど、今はしょーがないよね。というわけでみんな、とつげーき!」

 チェルヌーシュカの号令に従い、動き出した人形達が山神の足元を目まぐるしく走り回り足並みを乱す。
 踏み潰そうにも対象が小さい上にすばしっこく、闇雲に地団太を踏めば辺りの地面が砕けてえぐれ、それは自分達の足場ばかりを悪くさせる結果に終わる。

「これ以上人を傷つける真似は許さない……てやぁああッ!!」

 防戦が多かったフェルもここが勝負の決め所と剣を構えて疾走。山神の体に走る亀裂へ沿うように斬りつけると、まるで薪割りのように裂けた半身が崩れ落ち。
 彼女を捕らえようとする動きは全て、コーディリアが召喚したバーゲストにより邪魔される。
 その様子を見ていたコーディリアの手には、彼女の魔力を凝縮させた光が生まれていた。
 純粋な暴力に対するのは、これもまた純粋な暴力。

「ボクはボク。……悪魔らしく、実力行使させてもらうよ」

 放たれるは、全てを喰らい尽くす獣の如く。
 一撃では終わらぬ魔力の連打は雨のように降り注ぎ、もはや敵に身動きをする暇すら与えない。
 衝撃の余波が消えた頃、その場に立っているのは三人のみ。
 後には何も、欠片すら、残ることは許されなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ナナ・モーリオン
メドラと一緒に。

ボク、ちょっと怒ってる。
あれは、正しい怒りじゃない。正当な罰は仕方ないけど、あれは、ダメ。
あんなので殺されたら、みんな浮かばれない。
だから…止める。
往こう。あれは、憎しみを振りまくだけだ。

コードで大狼の怨念を召喚して、【騎乗】。
メドラも、一緒に乗ってもらう。熱くはないから平気だけど、揺れるから、しっかり捕まってて。……うん、よろしく。
広い場所で駆け回りながらスピードで攪乱。狼と【話し】て連携しながら、相手のレンジ外から、【呪詛】の黒炎槍を【槍投げ】していくよ。
極力避けては行くけど、もし避けきれなかったら、メドラ、お願いね。


メドラ・メメポルド
えーっと、そう、ナナさん(f05812)と一緒にいくわ
たたりとか、かみさまとか、メドはどうでもいいのだけど
困ってるひとがいるのだもの、助けてあげないとね

メドはナナさんの狼さんにのせてもらって、
回りを見ながら樹のひとの動きを見るの
どこから攻撃してくるか、ちゃんと教えるわ
近づかれ過ぎたらくらげの腕で払うの
もし落っこちそうになったら、【手をつなぐ】わ
メドのね、くらげの腕は、結構力持ちなのよ

怪我をしたならすぐに癒すわ
【生まれながらの光】でナナさんを、わたしを回復するの
疲れはするけど、平気よ
だからナナさん、おもいっきりやっちゃって



「ボク、ちょっと怒ってる」

 ナナ・モーリオン(スケープドール的なモノ(本人談)・f05812)の怒りは、村人達を襲おうとしたオブリビオン達の怒りに正当性が見られなかったことにある。
 人に害成す事が存在意義のオブリビオンである以上、その行動理念はどこまでも理不尽。そこに筋の通った理由を見つけ出すことはほぼ不可能であり、それが気に食わない。
 自らに呪いを宿すことを宿命付けられているという彼女には、憎しみを振りまくだけの存在を一刻も早く止めたいという強い決意があった。

「困ってるひとがいるのだもの、助けてあげないとね。えーっと、そう、ナナさん」

 人の名前を覚えるのが少し苦手なメドラ・メメポルド(フロウ・f00731)は、据わりの悪い頭をこてんと傾げてナナに応える。
 二人は今、ナナが呼び出した大狼に跨がり、山神を開けた場所に向けて追いやっている最中だ。
 黒炎に包まれた大狼の体は一見触れたら火傷してしまいそうに見えるが。実際はしっかりと毛皮の柔らかさも、生き物の暖かさも感じられる。
 その身は呪いなれど、軽快に地を踏みしめて駆ける姿は本物の狼と大差はない。

「揺れるから、しっかり掴まっててね」
「ええ、メドは大丈夫よ」

 ナナのお腹に腕を回して体を支えたメドラの瞳は、翡翠に似た澄んだ緑で前方を逃げ惑うように移動する山神へと向けられている。
 無論、山神もただ追われるだけではない。何度も立ち止まり、二人を踏み潰そうと足を上げてはいるのだ。
 だがその度に、ナナが呪詛の力で作り上げた黒炎槍を投げつけ。強い憎しみの焔で炙られた山神はそれ以上の抵抗を封じられ、徐々に開けた場所へと向かっていく。
 声を上げることはないが、それはまるで火に怯えているようにも見えて。
 深い紫の瞳でメドラと同じ方向を見据えるナナからは、その愛らしい容姿に不似合いな程の敵意が溢れ出ている。
 お前の死に場所を選ぶのは私達だと、そう言わんばかりだ。

「そろそろいいかな。それじゃあメドラ、よろしく」

 やがて木々の少ない場所にたどり着いた大狼の耳元に、ナナが何事かを囁く。
 その言葉の意味を理解したのか、今まで直線で追うばかりだった大狼の動きは山神の周辺を高速で動き回るものに変わった。
 近づきすぎず、常に山神の攻撃がギリギリ届かない外周ルートを狙いながら黒炎槍を投げつけ。穿たれた山神は呪いの炎で身を灼かれて苦悶に身悶えるかのよう、巨躯を震わせて大狼を捕まえようと迫りくる。
 
「気をつけて、右からくるわ」

 ここで力を発揮するのが、逐一山神の動きを見つめていたメドラのナビゲーションだ。
 ナナが攻撃と大狼への指示で忙しい分、その代わりの目として山神の攻撃タイミングと方向を的確に伝達し、それにより正確な回避が可能となっている。
 たとえ山神の手があと一歩まで迫っても、今度はメドラの持つクラゲの触腕がそれを弾き。おまけのように毒を巡らせて腐らせ、触れることを許さない。
 適材適所で強みを見せる二人の連携は、確実に戦場を自分達のものとして支配していた。
 ここで倒されてなるものかと、山神の動きはより乱暴に。荒々しく地面を踏みしめて土や岩の破片を飛び散らせる。
 ナナの頬を掠めた石の欠片が血を流させるも、それすら背後から伸びた白い手が覆い。柔らかな光で癒やしていく。

「ボク達からは逃れられないよ。あなたは、ここで枯れ落ちる運命なんだ!」

 高速治療の反動で疲労を覚えたらしいメドラの重みを背に感じながら、ナナは左手で大狼の頭を軽く叩く。
 右手には、今までで一番大きな黒炎槍を携えて。
 合図を受けて一際スピードを上げる背上から振り落とされないように耐えながら、上体を捻り、狙いを定め、力のままに投げつける。
 渾身の力が込められた一投は寸分違わず山神へ突き刺さり。
 衝撃に耐えきれず崩れた体を呪いの炎で焼き尽くす――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

寧宮・澪
おー……ロマンティック……な、道を超えたら、オブリビオン……。
ん、がんがん、いきましょ、かー……。

【Call:ElectroLegion】使用。
お仕事ですよー……れぎおーん……。
いっぱい、で、囲んじゃいましょー。
で、開けた部分に誘導ですよー……。
【戦闘知識】や、【地形の利用】で、ちょっとでも、他の人も有利になるようにー……。
相手の足元、レギオン達に、【破壊工作】で崩して、もらうのもいけますかねー……。

こっちに来た攻撃は、【オーラ防御】や、【見切り】で、軽減しましょー……。

アドリブとか、お任せ、ですよー……。


アイシス・リデル
お祭りってみんな、楽しそうだよね
わたしは参加したことないけど、知ってるよ
なのにお祭りをしようとして誰かが死んじゃうなんて、だめ、だよね

まず追跡体のわたしたちで、こっそりと森の様子を見てくる、よ
敵を見つけられたら、他の猟兵の人たちにもちゃんと教えるから
戦闘が始まったあとも、追跡体のわたしたちはそのまま、敵を見張るよ
見失ったり、拳を大きく振りかぶる瞬間を見逃さないよう注意する、ね

わたし自身はバラックスクラップで戦う、よ
戦って壊れた分はちゃんと、回収しておくね
ほんとうのかみさまがいたら、ゴミを捨てるなって怒られちゃうもんね



既に複数の山神が猟兵達によって倒されているが、殲滅に到るにはまだ足りない。
 敵の姿を探して森の中を進む山神の姿は、それがオブリビオンで人を襲うという事実さえなければさぞ神秘的に映ったことだろう。
 戦闘が始まってから森に住む動物たちはより奥へと避難をしたようで、小鳥の一匹すらその周りには寄り付いてこない。
 ――いや。正確には【一人】が【たくさん】。その姿を監視していた。

『いるね』
『いるね』
『うん、いるいる』

 囁きあう声は風に紛れ、山神のところまでは届かない。
 もし、頭部が残されていたとしたら。あるいは声が聞こえずとも僅かな異臭に気がついたかもしれないが、少なくともこの山神はそれを気取る事はできなかった。
 自然に包まれた森ではあまり嗅ぎ慣れない、ヒトの営みを起源とする、下水の臭い。

「いた、いたよ。わたし『達』が見つけたよ。もうすぐこっちに来る」
「おっけー……。お仕事ですよー……れぎおーん……」

 ざわり。
 突如、周囲の空気がいくつもの気配を含んでざわめく。
 さすがにその異常は山神へも伝わったが、現れたのは囁き声の主達ではない。
 木漏れ日を鈍色で反射させながら挑みかかっていくのは【Call:ElectroLegion】で召喚された大量の機械兵器達だ。
 小さいながらも戦闘力を兼ね備えた彼らに足元を攻撃された山神は怒り、拳を振り回しながらレギオン達を追いかける。
 それが、策の内だとも知らずに。
 
「おお、きたきたー……」

 寧宮・澪(澪標・f04690)が気怠げに見つめる先で木をへし折りながら山神が姿を現し、澪の存在に気がついたらしくレギオンの妨害を受けながらも向かってくる。
 体の小さな機械兵器は一度攻撃を受ければ消滅してしまうが、その数が多すぎるため数体を破壊した所で話にならない。
 彼らを使役しているのが自分の前にいる女性であることを本能的に察したのか、ただ生者の気配に反応しているのか。
 どちらなのか定かではないものの、山神の拳は地面を打ち、激しく揺らすことで彼女の動きを封じようとした。

「よそ見してると、危ない、よ?」

 声は、レギオン達が起こす金属音に混じって聞こえる。
 意表を突かれたのか動きが鈍る様を見て、澪はひらりと身をかわし山神が前のめりに倒れてきても潰されないように距離を取った。
 刹那、グシャリと鈍い音を立て背面に陥没を作った山神が澪の予想通り前方に倒れ込む。
 ガラクタを寄せ集めて作られた、無骨なハンマーにも似ている巨大なバラックスクラップを振り下ろしたアイシス・リデル(下水の国の・f00300)の一撃でうつ伏せにさせられた山神の上に、レギオン達は次から次へと乗り上げ容赦なく攻撃対象の体を破壊していく。
 その様子を離れた所から見つめ続けているのは、アイシスが追跡体として斥候に出していた小さな彼女自身の群れ。
 森の中で敵を見つけたアイシス『達』から情報を受け取ったアイシスと澪は、レギオンを用いた誘導で自分達が待ち構えている場所まで山神を移動させてきたのだ。

「よぉーし……仕上げですよー……」

 のんびりとした口調に従い、何十体かのレギオンが地面の下に潜っていく。
 羽虫を振り払うように暴れ回る山神の足を、アイシスの振り下ろした一撃が粉砕する。
 やがて地面が軽く揺れたかと思うと、レギオン達の破壊工作で作られた穴が山神の下にまで届き、重みで崩れ落ちた巨体はまるで落とし穴に落ちたかのようにすっぽりと沈み込んだ。

「お祭りをしようとして誰かが死んじゃうなんて、だめ、だよね」
「オブリビオンには、おしおきですよー……」

 澪がゆるりと突き出した拳に応えて、穴の縁からアイシスが跳ぶ。
 どこか歪な、けれど造形美を感じさせる鉄の塊を振りかぶり、落下速度と体重を乗せて叩きつけると。木片と一緒に砕けたガラクタが宙に舞った。

「壊れた分はちゃんと、回収しておくね」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

水沢・北斗
さてと。
たまには一人でも仕事しないと腕も鈍っちゃいそうだし、アックス以下略生活長かったんである意味では地元案件ですしね。

【SPD】
『さて、それじゃやりますか!!』
距離をとって木を遮蔽物として使いながら中距離精密射撃を。
相手は木ですよね?
矢に火属性付与と誘導術式を添付、数発撃つごとに位置を変える立ち回りをこころがけます。
別に無理に一人で戦う必要はないので前に出て戦ってる人がいるようなら援護に回ります。
最終的に勝てるのならそれで問題ないですから。
【2回攻撃】【スナイパー】【属性攻撃】【誘導弾】【援護射撃】【見切り】


*行動、描写についてはアレンジ含め好きにやってしまって可


皐月・灯
何度も地震を起こされちゃ厄介だけどよ……
こいつら、どの攻撃も予備動作が判りやすい。
しかも握り潰し以外は、周りのヤツにも影響があるんじゃねーか?

【地形の利用】が役立ちそうだな。
立ち並んでる木々の間を飛び移るように移動するんだ。
それだけでも十分翻弄になるし……
振りかぶりのタイミングを【見切り】で読んで跳べば、地震が起きてもオレは空中だ。
完全回避は無理だろうが、影響受けるまではタイムラグがあるだろ。

その間を使って、キツい一発を叩き込んでやる。
――オレのアザレア・プロトコル、《猛ル一角》をな!

「ウドの大木、頭(ココ)が足りねーってな」
「教えてやるよ切り株野郎。パンチってのはな、こう打つんだよ!」


パーム・アンテルシオ
ううん、森の中かぁ…少し躊躇するけど…ほら、尻尾に虫が付いたり引っかかったり、大変なんだよね…
でも、そこに私達が求められてる、っていうのなら…行くしかないね。

それにしても…ふふふ、すごくよかったね、あの送り出し方。
どんな事でも、魅せ方ひとつ、演出ひとつで、やる気が変わってくるものだよね。
場を彩る事。戦いが始まる前に、それが出来るっていうのは、少し羨ましいな。

それじゃあ、私も。ユーベルコード…月歌美人。
そうだね…森の中かぁ。
それじゃあ、優しく、綺麗に。しっとりとした歌でも歌ってみようかな。バラードっていうのかな?
ふふ、戦いだから勢いのある曲、って意見もあると思うけれど。そっちはこの後…本番でね?



「ううん、森の中かぁ。少し躊躇するけど……」

 パーム・アンテルシオ(桃色無双・f06758)が気にしているのは、自分の体よりも大きいかもしれないたくさんの尻尾に虫が付いたり枝が引っかかったりしてしまわないかということだ。
 彼女にとっては大事な商売道具でもある尻尾を気にしながらも、その歩みには大した迷いは見られない。
 そこに自分達が求められているというのであれば行く。それが猟兵というもの。
 近くにあった岩に登り、立ち上がった彼女の目には赤く燃える矢を続けざまに山神へ射る水沢・北斗(ヤドリガミのアーチャー・f05072)の姿があった。

「というわけで、ご一緒させてもらってもいいかな?」
「いいですよ! たまには一人で仕事でもと思いましたが、仲間がいるならそれはそれで安心です!」

 火の色にも似た瞳を細め、狙い済ませて放たれる矢は一息で二本。
 突き刺されば火を灯し、自分の体が燃えかけていることに気づいた山神は体を振り回して焦げ臭い匂いが立ち込める。
 木々の合間をまるで意思を持っているかのように縫って進む矢を避けることは難しく、ただでさえ大きな体は北斗にとって少しばかり騒がしい的にしか見えない。
 矢を番えて射っては素早く移動し、また射っては動く。たった一人での攻撃にも関わらず、山神からすれば四方八方から袋叩きにあっているような気分だろう。

「それに、我々だけじゃありません」
「? ……ああ、なるほど」

 北斗が指した先、枝葉で隠れ気味な木の上に視線をやったパームがにやりと笑う。
 太い枝の上にしゃがみ込んで山神を見下ろしていた皐月・灯(灯牙煌々・f00069)の目元は目深なフードで殆どが見えないが、少しだけ二人を見るように頭を動かし、そのままふいっと逸らす。
 その存在は山神も感知しているようだったが、手を伸ばせば別の木へと飛び移り、そちらに気を向けていると今度は北斗に矢で穿たれる。

「フン、ウドの大木、ココが足りねーってな」

 自分の頭をトントンと叩いて嗤い、まるで何かを待つかのようにじっと息を潜め撹乱するばかりの灯に地の利を握られ。
 射手たる北斗との挟み撃ちで退却も前進も塞がれた山神の体には、見る見る間に黒ずんだ焦げ跡が増えていった。
 
「いいねいいね、それじゃあ私も頑張ろうかな」

 直接戦うことは不得手な自分ではあるけれど、仲間の背中を押すことならできる。
 自分達を送り出したグリモア猟兵のように、戦いを彩り力を与えるため、パームは息を吸い込んだ。
 ――それは、いっそ戦場には不釣り合いなほど美しく、柔らかに響き渡る透き通った旋律。
 歌を奏でるパームの周囲で音が渦巻き、暖かな風のように北斗と灯を包み込むことで士気を、そして戦う力を高めてくれる。
 【月歌美人】の名の元に紡がれる歌姫のコンサートをBGMに、北斗は弓矢をきりりと引き絞った。
 狙うは足。灯の立っている木を根本から揺さぶろうと山神が片足になった瞬間を、彼女は見逃さない。

「――仕留めます!」

 今までよりも一際燃え盛る二本の矢が、同じ軌道、同じ速度で放たれる。
 浮かせている方とは逆、地面に着いていた足に命中し、一瞬にして燃え広がって山神がバランスを崩した瞬間。既に灯は地上へ降り立ち、巨体の眼の前へと躍り出ていた。
 握りしめた拳が軋む。

「教えてやるよ切り株野郎。パンチってのはな」

 アザレア・プロトコル、《猛ル一角》。
 幻釈顕理と呼称される術式の一つを込めたそれは硬く、腰を捻り腕を引いて力を溜める様は破裂寸前の爆弾のよう。
 ぐらりと傾いだ山神の体は灯を自らごと押し潰そうと迫るが、既に彼の目には山神の姿は映らない。
 見えるのは、燃えて朽ち行く体を打ち貫いた先にある、平和を享受する人々の姿。
 地面に跡が残るほど強く踏みしめ、もう一本の矢が放たれる。

「――こう打つんだよ!」

 拳打が打ち込まれた瞬間、くの字に曲がった山神の体は上空へと吹き飛ばされ、空中で燃えながらバラバラに砕けた木片が降り注ぐ。
 ぽっかりと穴が開いたように枝葉が押し退けられた先には、雲ひとつ無い青空が広がっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

壥・灰色
うるさいな

木なら、木らしく、おとなしく揺れてろ
それが出来ないなら残らずへし折ってやる


絲に軽く頷くと、足に『壊鍵』の衝撃を籠め、炸裂
その「衝撃波」に乗って跳ぶ
空中で数度同じ事をしながら、絲と並列飛行

絲が編んだ糸の結界が蜘蛛の巣ならば
おれはその鋼の糸に根を張る蜘蛛

絲が捕らえ損ねた敵個体を峻別
宙に張られた糸を蹴り、高空から襲いかかる
衝撃を司る魔術回路『壊鍵』の衝撃を籠めた打撃を叩きつけ、敵を粉砕
着地と同時に次の手に襲いかかり
やおら掴み上げ、掌からまるで杭を撃ち込むかのように数発の衝撃を叩き込み、撃砕
手数の多さは「二回攻撃」によるものだ

かかって来いよ
ただでさえ眠いんだ。おれを、退屈させてくれるな


赫・絲
人の血がそんなに欲しいワケ?
ほら、お出でよ、ここに在るよ
来たら最後、塵一つ残してやらないけど

さ、行こう、かいちゃん!
密集する森の木々に紛れながら糸をワイヤーフック代わりに使って高所を移動
敵を察知したら死角から強襲
敵の攻撃は【見切り】を駆使して捌きつつ、
縦横無尽に木々の間を駆け、手にした無数の糸の森に敵を閉じ込めにかかる
糸が力任せに千切られてもダメージを与えられるように、纏わせるは【属性攻撃】の力を【全力魔法】で増幅した炎

閉じ込めたなら逃さない
張り巡らせた無数の糸を瞬時に全て引き絞り、敵を斬り刻み吹き飛ばす

そうでかい図体じゃ逃げ場もないでしょ?
糸の森で悶えて、悶えて
全部灰になるまで、千斬れ飛べ!



 壥・灰色(ゴーストノート・f00067)と赫・絲(赤い糸・f00433)は索敵を行いながら森の中を移動していた。
 密集した木々の間を鋼糸で繋いで渡る絲と並ぶ灰色の足には、魔術回路『壊鍵』による衝撃が籠められており。
 それを空中で炸裂させて飛翔すると同時に推進力へと変えることで、スムーズな空中移動を可能としている。
 やがて、前方で大きく動く影。
 二体の山神が歩いているのを見つけた二人の視線が、刹那の内に交わる。

「見つけた。行こう、かいちゃん!」

 灰色の首肯に見送られて先陣を切る絲が手指から伸びていた糸と枝との接続を切り、支えから開放された彼女の体は前に飛びながらも落ちていく。
 徐々に近づいてくる地面を前に焦る様子はなく。再び枝に糸を巻き付かせたかと思えば、紫色をした疾風の如く山神達の間を地面すれすれで通り抜け。ブランコの要領で木の上に戻る。

「人の血がそんなに欲しいワケ? ほら、お出でよ、ここに在るよ」

 挑発的な言葉に釣られた山神達が絲を捕らえようと手を伸ばす。
 けれどその体は空気を掴んだかのようにするりと無骨な掌から逃れ、木々の間を縦横無尽に駆け巡りながら軌跡に無数の糸を張り巡らせていく。
 彼女にとっては山神の動きを見切って避けるなど、あまりに容易い。
 獲物を閉じ込めるように展開された糸は、まるで蜘蛛の巣。
 全力魔法で高められた炎がそれを覆い、触れた傍から彼女を掴もうとしていた手を炭と化す。

「そうでかい図体じゃ逃げ場もないでしょ? 逃してなんかやらない。全部灰になるまで、千斬れ飛べ!」

 それは一体、数にすればどれほどなのか。数えることすら不可能な無数の糸が絲の作り上げた領域内で一斉に引き絞られ、その内側に呑み込んだ山神を無闇矢鱈に切り刻んだ。
 【縁断・嵐縫】が巻き起こすのは正に嵐。それに一度でも絡め取られれば、無限と錯覚しそうな程の斬撃に見舞われる。
 逃げる場所も避ける反射神経も持ち合わせていない山神達は為す術もなく。……否、それでもまだ足掻くらしい。
 一体の山神が前にいた同族の体を盾とするように押し付け、無理矢理に糸の結界を破り外に出てきたのだ。
 盾とされた山神の体は崩れ落ち、燃え尽きた灰ばかりが土に積もる。

「うわ、味方を盾にするとかサイテー」
「イト、おれが代わるよ」

 残された糸を蹴り、空から強襲を仕掛ける灰色の姿はさながらくすんだ色彩の獰猛な蜘蛛。 
 一度かかったならば、死以外の結末を持たせてやるつもりはない。
 灰色を受け止め、そのまま握りつぶそうとばかりに手を上げる山神を見て。吐き捨てる。

「うるさいな。木なら、木らしく、おとなしく揺れてろ」

 それが出来ないなら残らずへし折ってやる。
 巨大な掌が迫るのを眼前まで引き寄せた灰色の体は、やはり愚鈍な動きでは捕らえることはできない。
 すれ違うように避け、振り上げた拳がノーガードの山神の頭上を襲う。

「――砕け、壊鍵」

 壥・灰色という男が繰り出す【壊鍵起動・壱式】は、ただ壊すことだけに特化した者の最もシンプルな虐殺法だ。
 彼の手は山神の体と比べればごく小さいが、壊鍵を利用して生み出される衝撃の強さは、枯れ枝を折るよりもたやすく巨体の半身を粉砕する。
 着地と同時に接近した灰色が虫の息となった山神の手を掴み上げると、そこから更に重い打撃を加える低い音が響く。
 接触する掌から打ち込まれた衝撃が杭のように内部を穿ち、完膚なきまでに山神の体を破壊する。
 結局、終わってみればそこには灰と塵しか残されておらず。とてもそこに、さっきまで巨体のオブリビオンが二体もいたとは思えない。

「お疲れかいちゃん! さっ、次いこう?」
「ああ。……それにしても眠いな」
「もう!」

 退屈そうに欠伸を漏らす灰色に絲が頬を膨らませる。
 何事もなかったかのように軽い調子で言葉を投げあった二人は、再び木々の合間へとその姿を消していった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

笹鳴・硝子
【団地】

複数体のオブリビオンってことでしたので、ぶった切る係の赤銅ちゃん(f01007)とトモ(f00902)、焼く係のみゃー(f00134)がやりやすいように、まずは鈴蘭の嵐で足を止めますね

討ち洩らしの無いように近くの開けた場所に【おびき寄せ】、【目立たない、迷彩】で気付かれぬ間に足元に花開かせた鈴蘭で【カウンター、薙ぎ払い】
――僅かばかりの隙を作って、切る・燃やすはお任せします
わたし【激痛耐性】あるので、多少の無理はききますからね、赤銅ちゃんかばわなくても大丈夫ですよ、皆ご安全に
無茶はし過ぎないように、いいですね?
やっちゃったらあとでカレーの歌で治してあげますけど…歌って欲しいですか?


多々羅・赤銅
【団地】
伐採だな?オーケー任せろ、斬る事にかけちゃあ、私の天下だ。
愚直なまでに踏み込んで近接戦。【鎧すらぶった斬る】この刃だ、樹木なんざ牛蒡のスライスよ。細切れ処理は任すぜ灯人!バンバン燃やしちまえ未夜!
邪魔する腕を次々斬って。
敵陣にて無茶苦茶に動くようでいて、周りを見、【見切り】【残像】でタフに回避。温存した体力で仲間を【かばう】よう荒く鋭く立ち回る。 なあに、庇われとけよ。立ち回りの癖っつーか。もはや趣味みたいなもんだ。多少の無茶はサポートしてくれるだろ?カレーの歌聞きてえな、あれ好きだ。頭軽くて(ひひっ)
炎の中も、こちとら鍛冶神赤銅鬼。【火炎耐性】で、植物にヒケ取る筈が無えんだよ。


三岐・未夜
【団地】
オブリビオンだろうが、木は木だし。
赤銅(f01007)ととも(f00902)が細かくしてくれたのを片っ端から燃やしてこ。寒いし、良い焚き火になりそうじゃん?

十九の狐火を【操縦】で精密操作、火力が足りなきゃ融合強化。
仲間と敵の動きを見て、危なそうなら狐火に【催眠術】と【誘惑】で惹き付けて【援護射撃】と【時間稼ぎ】で隙を作る。
安心して前に出て貰うんなら、僕もやれることやらなきゃね。
神だか何だか知らないけど、木の分際でみんなに手出し出来ると思わないでよ。
硝子(f01239)も無茶しなくていいよ。耐性あっても痛いもんは痛い。

……石浚い、ちょっと楽しみだし。村の人には無事でいて貰わなきゃ。


浅沼・灯人
【団地】
まずは野焼きからか。それなら任せとけ。

俺の役割は前衛のアシスタント。
焼くなら物の大きさは揃えた方が火の通りはいい。
硝子(f01239)が作る隙と誘導を利用しながら赤銅(f01007)を手伝う。
あいつが叩っ切ったまっ二つを短冊切りに変えてやらぁ。
【二回攻撃】と【料理】の応用だ、いつもよか包丁はデカいがやれねぇことはない。

意図せず近付かれたやつには灼焼を。
俺の炎は熱すぎるんだよなぁ、火力高すぎて焚き火にもなりゃしねぇ。
おい猫狐(f00134)、焚き火はそっちに任せるぞ。

仲間達への攻撃は【武器受け】使いつつ邪魔にならんよう【かばう】つもりだ。
今日の俺はお前らの潤滑油だ、やりたいようにやりな。



「無茶はし過ぎないように、いいですね?」

 笹鳴・硝子(帰り花・f01239)の言いつけ先は、主に多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)に向いている。
 猪突猛進に突き進む彼女の戦闘スタイルを気にしているわけではない。無茶苦茶に立ち回っているように見えて、いざとなれば仲間を庇う事も厭わない立ち回りを危惧しているのだ。
 さりとて、立てど座れど歩けど赤銅。想いを汲んだ上で止まりはしないだろうと、硝子はため息をつく。

「怪我したら硝子が治してあげなよ。カレーの歌で」
「カレーの歌聞きてえな、あれ好きだ。頭軽くて」

 三岐・未夜(かさぶた・f00134)の提案に口端を釣り上げて笑う赤銅の顔は、悪戯小僧のそれに似ている。
 背中合わせに立つ彼女達は、硝子が誘き寄せでつれてきた山神に囲まれていた。その数、三体。
 浅沼・灯人(ささくれ・f00902)が指先で眼鏡の位置を直し、切れ長の目を細める。

「いざとなれば俺もいる。今日の俺はお前らの潤滑油だからな、やりたいようにやりな」
「僕も頑張るよ」
「仕込みは終わってますから、いつでもどうぞ」
「よっしゃ、行くぞお前ら!」

 銅鑼を引っ叩いたように、腹に響いて自然と体を前に進ませる合図の声。
 そう。敵の数がどうであれ、この四人がやることは変わらないのだ。
 地響きを立てて突撃してくる山神達を前に、硝子の唇がゆっくりと紐解かれる。
 罠の設置は既に完了済み。後はそれを、絶好のタイミングで開放するだけだ。

「聞け。そして理解せよ」

 お前たちに許された時間は、ここにないと。
 その歌声が呼び起こした嵐は鈴蘭の花弁に姿を変え、山神達の足元から吹き出るようにして斬りつける。
 同時に駆け出した四つの影のうち、真っ先に標的へと肉薄したのは赤銅だ。
 振り下ろされるは自身の名を冠する大業物。普段は雑に呼んではいるが、切れ味は本物だ。

「斬ることにかけちゃあ私の天下だ。ペラペラになっちまえよウドの大木!」
「終わったらこっちによこせよ! 火を通すなら大きさ揃えないとな」

 赤銅の斬撃で寸断され、吹き飛ばされた腕の先に待ち構えてた灯人が武骨な鉄塊剣を構える。
 重さを感じていないかのように操り、更に細かく自分の一部だったものが斬りそろえられていくのを見届ける間もなく。赤銅の斬り上げを足の間から受けた山神が真っ二つに割れる。
 それは料理の下ごしらえにも、薪割りの分担作業にも思えるが、手段も規模もあまりに派手で。

「猫狐、焚き火はそっちに任せるぞ」
「了解とも。ちょうど少し寒かったんだよね」

 未夜が手繰るのはどこか寂しげな色を宿した狐火の群れ。
 彼の思う通りに操られ、空へ散らばる木片に次々と着火すると明るく燃やしながら次々と落ちてくる。
 ――石浚い、ちょっと楽しみだし。村の人には無事でいて貰わなきゃ。
 橙色の瞳に強い意志を込める未夜の周りに木を燃やしつつ狐火が落ちてくる。
 炎がその場を染め上げ、まだ日も高い森の中に一瞬だけの逢魔が時を生み出した。
 誘導と目くらまし、そこから一気呵成とばかりに襲いかかる連携は一切の不足がなく。
 完膚無きまでに山神達を打ち砕くための、まるで一つの暴風雨にすら思える。
 呆気なく同族が屠られたことにも恐れを感じないのか、ただ愚直に突撃してくるもう一体の山神を再び硝子の鈴蘭が掬う。

「怯みました。今のうちに。――!?」

 指示を飛ばす硝子の背後に、巨大な影が立つ。
 更にもう一体、三体目の山神が彼女の背後に迫っていたのだ。
 大きな拳が握りしめられ、硝子に向けて振り下ろされる。
 ズゥンと、鳴り響く重苦しい音。
 とっさに目を閉じ、自分の体に何事もないことに瞼を上げた硝子の視界に。止まることなく戦場を駆け回っていた赤銅が彼女の方を向いて立っていた。
 足止めされた山神を一刀の元に斬り伏せた後、硝子に近づく巨体に気が付いた瞬間には体が動いて庇いに入っており。
 背中で攻撃を受け止めた二本足は、地面に雄々しく立って少しも揺るがない。

「赤銅ちゃん! 大丈夫ですか!?」
「なあに、気にすんな」

 大木ごときの力でひしゃげる合金ではない。
 涼しい顔の赤銅を更に押し潰そうと山神は力を込めるが、その後ろから駆けつけた未夜と灯人の炎がその体を一瞬にして赤く染める。
 未夜の狐火が黄昏の色ならば、灯火が吐き出す【灼焼】の炎は地獄の色。
 燃やすでは足りず、焼き尽くすことを目的とした猛火に巻かれ、山神が悶え苦しみ腕を振り回す。

「木の分際で硝子に手だすとか、生意気なんだよ」
「コイツで終いだ赤銅」

 にたりと。悪童がまた笑う。大きな篝火のようになった山神からは強い熱気を感じるが、それをものともしないのも、また彼女らしさの一つ。
 既に炭となりつつある山神を、横一線に薙ぎ払う瞳は爛々と輝いて。
 同じ愚直同士がぶつかるというのであれば、それは当然。

「あばよ樹木野郎。相手が悪かったな」 
 
 ――当然、硬いほうが勝つのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

霧慧・クリス
あれを斬ってこればいいんですね。わかりました。
やり方は自由でいいんですよね?では、いつも通りにやらせて貰います。

妖剣解放…
敵を斬るのに、常に全速を出す必要はありません。
近くまではゆっくりと。間合いに入れば全速で。
刀片手にゆらめく様は、幽鬼だとも。猫のような動きだとも。言われた事があります。

起きろ、髄食み。
お前の望みは、私の望みと同じ。
首を割り、手足を落とし、腹を裂き。最後の最後に、首を落としましょう。
あなた達が私の敵であるというのなら。
嘆き。叫び。抵抗して。苦しみを散らして、死んで下さい。

人との連携は…
すみません、あまり人に合わせる自信はありません。
ですが…可能であるなら、吝かではありません。



 山神の数は、着実に減りつつある。
 力のない村人たちを甚振り殺すことだけを考えていたのだろう。想定外の猟兵の存在に全てが邪魔され、状況はオブリビオン側にとって劣勢の一途を辿っていた。
 そしてここにも一体と一人、追い詰められた山神と追い詰めた猟兵の姿がある。
 霧慧・クリス(濁り銀・f00054)の視点はどこか覚束なく、光を反射しない穴のような黒い双眸がゆるりと正面へと向けられ、斬るべき敵を静かに射抜く。

「やり方はどうあれ、斬ってしまえばいいのなら。いつも通りにやらせてもらいましょう」

 一歩一歩、まるで散歩でもしているかのような速度で近づいていくクリスの姿に、しかし山神から余裕のある雰囲気は感じられない。
 道すがらに彼女が抜いたのは一本の妖刀。
 急に辺りを冷気のような気配が滲み、周囲を悍ましいまでの呪力で満たされた空気は重く。その中を進む姿はどこかこの世から浮足立っている。
 死に場所を探す猫か、死してなお眠ることを忘れた幽鬼のような、触れれば崩れてしまいそうに揺らぐ影。
 小柄な体から放たれているとは思えないような重圧感に押し付けられた山神は、暫くじりじりと後退するだけだったが、やがてそれ以上の退却は意味がないと悟ったのか突如クリスに向かって突撃をしてきた。

「妖剣解放……起きろ、髄食み」

 その手が握るのは、首を狩ることを宿命付けられた呪いの一振り。
 込められた呪いが、憎しみが、彼女自身の心の中に眠る増悪と結びついて肉体と妖刀の波長がリンクする。
 どろりとした泥のような黒い感情の発露は、皮肉なことに彼女自身を守るように怨念と化してその体を包み込む。

「お前の望みは、私の望みと同じ。悲鳴が聞こえないかもしれないのは、残念ですけど」

 正面から接近を続ける両者の決着は、山神がクリスの間合に入った次点で決まっていた。
 それまで平然と歩いていただけの姿が突如、ブレるように揺れ――次の瞬間には山神の目の前。【髄食み】の刃はその命脈を断ち切るように獲物へと食らいつき。
 刹那、斬撃と共に放たれた衝撃波が山神の体をいくつもの破片に変えて吹き飛ばした。
 大きな音で地面を揺らし、割れて生木を晒しながら無様に悶える姿は、内蔵を撒き散らしながら苦しむ生者のようで。
 声を上げることはないものの、死を目前として尚藻掻こうとする浅ましい音無き呪詛は、確かにクリスの耳に届いた。

「ふう。……先を急ぎましょう」

 早業のように振るわれた呪い刃の代償は、そのまま彼女の心臓へと降りかかる。
 寿命を縮めるというデメリットのせいで軋む胸を押さえて深呼吸を繰り返した幼い妖刀使いは、もう既に動かなくなった山神への興味を失い。
 さらなる怨嗟を求めて森の中を進んでいくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ウェンディ・ロックビル
えへっ。わかりやすくていーじゃんいーじゃん!
敵をやっつけたらごほーびがある。それじゃぁ、世のため人のため僕のため、すばーっとやっつけちゃうよ!

「限界速の一歩手前」で敵さんを翻弄しちゃうよー。

単純で重い攻撃ってことなら、速度を上げればきっとどんどんかわしていけるよねぇ。
上手く避け続けたら、足元がどんどん崩れて自分でこけちゃったりしないかなぁ。
そうでなくても、敵の注意を引き付けられれば、きっとみんながなんとかしてくれるよね!
かんきょーはかいを手伝う形になっちゃうのがちょっとだけ気になるけど……折れた木々は地面に還って、また新たな森を生み出すはずだよー。

アドリブ演出、他の人との連携、全然大かんげー!


ユハナ・ハルヴァリ
木の、ひと
もしかしたら、いつかの森の、骸
でも、だめだよ
さよならをするのは、君たちの方

たくさんいるのなら
沢山の矢を放てば、いい
ふわり杖を振って生んだ矢、
ウィザードミサイルを
彼らに向ける
…神さま。
見下ろすもの。
それならせめて海から、眺めて?

または雪花の魔法で足止めをして
他の人たちとも連携
危なければ庇って
できれば誰も、怪我のないように

雪の形の杖に
歌の魔法を乗せて
ここで、止めるよ。
大丈夫。
おやすみ、神さま。

戦いながら周囲を伺い
送り出してくれたひとの言う『親玉』の姿を探す
神さまを枯らして、燃やして
誘うように



「えへっ。わかりやすくていーじゃんいーじゃん!」

 ウェンディ・ロックビル(能ある馴鹿は脚を隠す・f02706)の声は、擦れ合う木の葉のざわめきを通り越して響きそうなほど快活で、明るさに満ちていた。
 面白いものを常に探しているような金色の眼には、周囲の木をなぎ倒しながら憤怒の気配も露わに襲いかかる二体の山神が映り。にんまりと緩んだ口元は、これから楽しい遊びが始まると言わんばかり。
 敵を倒したその先にご褒美が待っている。単純明快さは彼女の好みとするところで、くるりと背中を向ける動作に合わせてスカートの中から覗くチーターの尻尾が小さく揺れた。

「それじゃぁ、世のため人のため僕のため、すばーっとやっつけちゃうよ!」

 高らかな宣言の後、ウェンディは走り始める。
 することといえばそれだけなのだが、そこに先程までの少女はいない。
 いるのは、山神はおろか人の目ですら追うことが困難な、「速度」という概念を体現する獣。
 敵の大きさを考え速度で翻弄して挑む猟兵は他にもいるが、その比ではない神速をもって飛び回る。その様は到底山神の動体視力では追いきれない。
 慌てふためき、なんとか潰そうと足を上げて地面を踏みしめる度に大きな揺れが周囲を襲うも、その震動すら彼女の足を捕らえるには足りず。
 地震も重力も、疾駆の邪魔となるものは全て速さで振り切って攻撃を避け続ける残像を、角に結んだお気に入りのリボンがたなびいて追いかける。

「遅いなあ! 僕はまだまだ本気じゃないのに!」

 山神達にダンスを無理やり踊らせて、確かにウェンディの声には余裕が感じられる。
 まだ最高速へ足をかけてはいないが、それを出す相手としてはあまりに役不足ということらしい。
 地を割る足踏みを受けて荒れる足場は、山神達自身の動きを更に制限させ。撹乱を続ける彼女の機動性は、土が盛り上がった部分を利用して飛び上がることでより厄介なものへと変わる。
 やがてお互いの体をぶつけあってバランスを崩した山神達は、その場に折り重なるようにして倒れ込む。
 その様子を、上空からじっと見つめているものがあった。

「木の、ひと」

 小さな声が、冬を伴い落とされる。
 雪の結晶を象った杖をふわりと振り上げ、ユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)が作り出した魔力の矢が、赤々と燃えながら山神達の姿を見ていた。
 それは文字通り、射抜くように。
 ウェンディが動き回って気を引いている時間を利用して、敵を一網打尽にする準備を進めていたのだ。

「……木の、ひと。もしかしたら、いつかの森の、骸」

 もしそうであれば、森に勝手に立ち入った人達を恨む理由があるのかもしれない。
 荒らされたのか、燃やされたのか、身勝手に自らを損なわされたという憎しみが燻っているのかもしれないとユハナは思う。
 けれど、だからといって今生きている人達を殺めることを放置はできないのだ。
 過去が未来を食い物にするのであれば、それは防がなければいけない事。

「たくさんいて、おっきいなら、沢山の矢を放てば、いい」

 整然と空で待機する矢は火を纏っているが、術者であるユハナの周りにはどこまでも冷たく、清涼な空気が流れている。
 例えるならば雪の朝に似た、しんとした黎明。
 「動」を現すウェンディとは対象的な「静」の象徴は、持ち上げていた杖を優しく空気を撫でるかのように下ろす。
 滞空していた無数の火矢は雨のように降り注ぎ、山神の体に突き刺さると火の手は一気に回って。
 焼き尽くされる最中にも足掻こうと動いた手は、ウェンディが軽く蹴っ飛ばすと簡単に砕けてしまった。
 最終的に自らが作り上げた地形のへこみに嵌まる形で燃やされていく姿を確認したウェンディが、ユハナの元に戻ってくる。

「おやすみ、神さま」
「やったー! これで片付いたかな」

 清々したといわんばかりの声に、しかしユハナは小さく首を振って周囲を見渡す。
 山神の脅威はこれで払拭できたかもしれない。けれど、あくまでこれは前段階でしかない。
 森の中にはまだ、人々を脅かそうと息を潜める「何か」がいる。
 その存在をユハナは警戒し、戦闘中も気配を探っていたのだ。
 山神の体を燃やしながら舞い上がる煙は、狼煙のように見えない敵へと警告する。

「かくれんぼは、終わりにしよう?」

 応えるように。
 甲高い鳴き声が、どこかから聞こえてきた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『ヒューレイオン』

POW   :    ディープフォレスト・アベンジャー
【蹄の一撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【自在に伸びる角を突き立てて引き裂く攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    チャイルド・オブ・エコーズ
【木霊を返す半透明の妖精】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
WIZ   :    サモン・グリーントループ
レベル×1体の、【葉っぱ】に1と刻印された戦闘用【植物人間】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ミレイユ・ダーエです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 最初に感じたのは、風に乗って漂う深い緑の匂い。
 四本の足が地面を踏んで、足跡は新しい命を芽吹かせえぐれた大地の上に草を茂らせる。
 木の間から静かに姿を現したのは、神聖なる緑の幻獣。
 ――ヒューレイオンは大きな角の生えた頭をゆすり、新緑色の目で猟兵達を見つめた。
 森と生き、森を生かすための力を持ったヒューレイオンにとって、自然を侵す存在はたとえそれが誰であろうと許されざるもの。
 だが、この個体はその想いが行き過ぎてしまったらしく、ただ森の中に入っただけの人間を排除すべき異物と見なし、眷属と共に襲いかかった。
 どうやらそれが、グリモア猟兵の見た予知の顛末といったところらしい。

 怒りに彩られ、蹄で地面を数回叩くことで威嚇を示す幻獣を前に猟兵達は武器を握り直す。
 どのみち、このまま素直に見逃してくれるはずもない。
 戦いの火蓋は、既に切って落とされているのだ――。
フェル・ドラグニエル
「どうやら…アイツが今回の事件の原因のようね。森に入った人を追い払うのならまだしも…殺すというのならば…討たせてもらうよっ!」
<蒼雷の銀竜槍>を構えて【ドラゴニック・エンド】を使用します。
[ダッシュ・ジャンプ・空中戦・串刺し・力ため・怪力]の技能をフル活用して、大きな一撃を叩きこみます。
「これでどうだっ!ドラゴニック…エンドッ!」
敵の攻撃には<竜腕の籠手>を構え、盾を展開しながら[ダッシュ・盾受け・激痛耐性・かばう・カウンター]を用いて攻撃を防いだり、仲間を護ったりします。
「アイツの一撃は重くて痛い…!だけども…私はまだ倒れないよっ!」


パーム・アンテルシオ
なるほど、森の守り神、ヌシ、って感じかな?
力強いけど神秘的な雰囲気。いいね、その雰囲気、私は好きだよ。
でも、私は嫌われちゃってるのかな。残念。

あなたはやる気満々みたいだけど…ごめんね、私は直接戦うのは得意じゃないんだ。
だから…ユーベルコード、二人静火。
私たちは、時間稼ぎ。ふふ、我ながら他人任せの作戦だね。
あなた(大きい方)は、思い切り炎で攻撃して。あ、森に火が点いたりしないように気をつけてね。
あなた(小さい方)は、素早さを生かしてまとわりついて、撹乱。

私は…見てるだけ、なんてね。
多分こっちが狙われるだろうし、木とか岩とかを盾にして、逃げの一手だよ。
悪い魔物を倒してくれる、勇者を待つのみ…かな?



「なるほど、森の守り神、ヌシ、って感じかな?」

 パーム・アンテルシオ(桃色無双・f06758)は弾んだ声でヒューレイオンを迎えた。
 森の主たる堂々とした存在感。力強くも神秘的な雰囲気は彼女にとっては好ましいものに映る。
 ただし、当のヒューレイオン側から感じる敵意に、嫌われたようで残念と肩を竦めるのだが。
 戦闘時、彼女は自ら前に出ることを積極的にはしない。
 その特徴は山神との戦闘時にも垣間見えたが、それは決して自ら敵の前に立つことはしないという意味とイコールでは結ばれない。
 
「私たちは、時間稼ぎ。ふふ、我ながら他人任せの作戦だね」

 柔らかな声を合図として彼女の左右で黒い炎が渦巻き、片方は大きな狐に、もう片方は小さな狐にへとその姿を変ずる。
 大きな狐はヒューレイオンとパームの間に割って入り、間髪入れずに自らを構成するものと同じ炎をぶつけて森の主を篝火にせんと火を灯した。
 毛皮を燃やそうとする火種を近くの木に体を擦りつけて消し、パームめがけて突進をしかけるヒューレイオンを撹乱するのは小さい狐の仕事だ。
 たくみに足の合間をすり抜けて惑わし、彼女へ近づくことを封じながらその隙をついて更に炎が飛ぶ。
 抜群のコンビネーションを見せるが、それも術者であるパームが傷つけば消えてしまうもの。
 それに気づいているのかは定かではないものの、ヒューレイオンも同じように自らが使役するものを創り上げた。

「おっと、やっぱり来たね」

 数字の刻印された葉っぱで構成されたのは、人の形を模した植物人間だ。複数体で襲いかかり、捕らえようとする手からパームはひらりと逃れて近くにあった木の裏へと。
 障害物で遅れをとらせながらすばしっこく逃げ回り、ひたすらに時間を稼ぐ。
 こうして攻撃を惹きつけ、有効打を与えてくれる仲間を待つのだ。

(我ながら他人任せの作戦だね)

 そう自分の行動を評して笑うけれど、彼女の作戦は確実にヒューレイオンの行動にも思考にも隙間を作る。
 そして確実に、彼女が待つものを引き寄せた。
 到来は、自分の横を駆け抜けて植物人間を貫き払う銀槍と共に。

「どうやら間に合ったかな。後は任せたよ、勇者様」
「了解! アイツが村人を傷つける前に、ここで倒す!」

 フェル・ドラグニエル(蒼翼の竜騎士見習い・f01060)の走りはいつでも一直線に目標へ向かう。
 パームを追っていた植物人間達が一斉に目標をフェルに変えて立ちはだかるも、文字通り木の葉を散らすように彼女はそれらを排除する。
 【竜腕の籠手】から展開される盾で正面を守り、横からの攻撃は純粋な速度で振り切っていく。
 時折植物人間の手が届き、腕を殴りつけられるも、多少の負傷はその足を止める理由としては役不足で。
 その手に持つ槍のように自身の存在を硬く、そして鋭くさせる様は彼女自身、自らを一つの武器として扱っているかのように見える。
 気迫はヒューレイオンにも伝わったのだろう。正面でぶつかり合い、前足を振り上げた体ごとぶつかってくる衝撃を盾で受け止め、僅かにフェルの顔が歪む。

「ぐっ、さすがに、重い……」

 ヒューレイオンと彼女の体では、圧倒的に重量の面で不利が生じる。力任せに盾を打ち破ろうとする重さが腕に伝わってくるが、そんな悠長な暇を与えているようなフェルではない。
 むしろ、こうして敵が一定時間の接近を許しているという状況は、格好のチャンスでもある。
 彼女の愛槍である【蒼雷の銀竜槍】が、まるで命あるもののように鼓動に似た震動を自分の持ち主に返す。
 それに自信を得たフェルはヒューレイオンを見つめ、渾身の力を手足に込めて叫んだ。

「私に時間を与えたのは間違いだったね。行くぞ――ドラゴニック…エンドッ!!」

 一気に力をかけ、互いの間にあった力の均衡を崩す。
 両者の違いのひとつとして、フェルは二本の足でしっかりを大地を掴んでいたのに対し、ヒューレイオンは前足を浮かせていたため押し返されるとバランスを崩しやすかった。
 その瞬間に突き出された槍は下側から刳り上げる急カーブの軌跡を辿り、凶器のように尖る右角を突く。
 単なる一突きではない。次の瞬間フェルの手から輝きながら解けた槍は、一匹の竜となる。

 支えるものと、それを背に戦うもの。一人ではないからこそ、互いに全力を出すことができる。

 竜の牙に食いつかれ、角を砕きながら後ろに倒れ込むヒューレイオンを前に、フェルとパームは互いに視線と笑顔を交わし合っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

寧宮・澪
あー……彼?彼女?は自分の本分を全う、したいだけ、みたいですがー。
でも、うん。
倒させて、くださいねー……。

【霞草の舞風】、で、攻撃しますよー。
特に植物人間、合体させないように、しますねー。
【戦闘知識】で、向こうの動き、見ながらー、追い込んでー……周りと、合わせて。
必要なら、ヒューレイオンへ大きな一撃、入れれるように、歌で干渉して、牽制や【時間稼ぎ】、も、しましょかー。
木や地面の【地形の利用】も、意識しましょー。

向こうからの攻撃、【オーラ防御】や【見切り】で耐えますー……。

ごめんなさい、ねー、人が生きる、ため……倒されて、くださいねー……。

(アドリブや連携、歓迎ですよー)


水沢・北斗
なんとなく倒すのに罪悪感感じなくもない展開ですよね。
……ま、仕事と言われたら容赦する必要もないですけど(弓を構えなおす)

【SPD】
まーどのみち私は矢を射ち込む事しかできないですし……
ああ、相手の装甲ブチ抜けるように新しく仕入れた貫通術式【鎧無視攻撃】、折角だから試し射ちしておきますか

基本的には距離を取って矢を射ち込んでいく、前方で他に戦っている猟兵がいるようなら援護メインで相手の行動を妨害していきながら隙があれば一発狙い。
【2回攻撃】【スナイパー】【誘導弾】【援護射撃】【見切り】

後は帰る時間まで川底の石をぼんやり眺める方向で。
*行動、描写についてはアレンジ含め好きにやってしまって可



 体を起こし、左右のバランスが悪くなった頭を持ち上げるヒューレイオンの足元に一本の矢が突き刺さる。
 出処は木の上から。木の葉の色に紛れそうな緑色の髪を泳がせながら、水沢・北斗(ヤドリガミのアーチャー・f05072)は地面に降り立つ。
 新しい矢を弓矢に番えながらも、その表情は若干複雑そうだ。

「なんとなく倒すのに罪悪感感じなくもない展開ですよね」

 しかし相手はオブリビオン。それを倒すのが、猟兵である自分達の使命でもある。
 寧宮・澪(澪標・f04690)も同じような意見のようで、いつもは眠たげに揺れる瞳も今は若干引き締まっているように見えた。
 二人に気づいたヒューレイオンの前で風もなく舞い上がった木の葉が人の形を取り、互いの体を寄せ集めて更に巨大に、更に強力な障害へ生まれ変わろうと移動を始める。
 だが、それを呑気に見守っているつもりなど、当然ながら澪には無い。
 
「自分の本分を全う、したいだけ、みたいですがー。倒させて、くださいねー……」

 あちらが木の葉を使うのであれば、自分が使うのは小さな小さな、白い花の群れ。
 【霞草の舞風】で生み出された数え切れないほどのかすみ草の花弁は、吹雪のように植物人間の合体を阻止し、直撃を受けた個体は白に塗れて散り去っていく。
 シンフォニアである澪の武器は、何よりもその「声」。
 世界の理すら制する歌声が自然を塗り潰し、ヒューレイオンの体を包み込むと裂傷を刻んで純白の花を赤く染めた。
 立ち込めるのはより深い緑の匂い。
 
「ごめんなさい、ねー……」

 語調こそ穏やかではあるけれど、そこに遠慮はない。
 澪の背後から迫ってくる植物人間の側頭部を射貫いた北斗が、彼女の前に出て新しい矢を手に取り、花弁を振り払ったヒューレイオン目掛け間髪入れずに攻撃を仕掛ける。
 彼女の矢はかすみ草ほどの面的制圧力は無いが、見据えた敵へと向かう正確性と貫通力こそが強み。
 離れた位置からでも素早く、的確に突き刺さっていく矢は澪がつけた傷口に吸い込まれるように沿い。効率よく体内深くへとダメージを広げていくことができる。

「私は矢を射ち込む事しかできないですし」

 とはいえ、それが水沢・北斗というヤドリガミ最大の強みでもある。
 近接よりも中距離から、自身の得意な間合さえキープすれば、腕前はまさしく一流。
 現に射手はヒューレイオンを自らの間合から逃さず、接近を許すこと無く黙々と矢を射ちこんでいた。
 どんなに回避行動を取ろうとも、まるでその動きを読んでいたとばかりに後を追う。
 それは徐々に、誘導の術式を仕込まれた矢と、回避先を予測して放たれる矢との挟み撃ちへと変化して。

「次、はー……あっちに射ってくださいー……」

 ナビゲーションをするのは澪の仕事だ。ヒューレイオンの動きを読み、移動先を予測して北斗に伝え、追い詰めていく。
 体から矢を生やして悶える姿は、やはり少し痛々しくも見えるが。今だその体から力が抜けるような気配はなく、だからこそ。

「さて、折角ですし新しく仕入れた術式の試し打ちをしますか。目くらましを頼んでも」

 北斗の要請に頷いた澪が、再度かすみの花吹雪をヒューレイオンに見舞う。
 花弁を振り払おうと暴れる姿は狙いを定めるには難しいようにも見えるが、北斗は静かに弓を構え、今までと同じような動作で放つ。
 手を軽く振ったくらいの気軽さで飛んでいくのは、硬い装甲すら貫く貫通力を備えた必殺の矢。
 それは今までと同じように、敵を討つという北斗の意思に従って空気を裂くスピードで迫り。
 狙い通り、森の主の左目を射貫く。

「おおー、おみごとー……」

 命中を称える澪の声は、弾んだ色を濃く宿していた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

皐月・灯
やりすぎってのは違いねー。
けど…お前が自分の場所を守ろうとしてるってのも、わかる。

ただな、お前の場所に踏み込んだ連中だって……いや。

何言ったって、しょうがねーな。

「来いよ、角野郎。オレも人間だぜ。お前の住処を踏み荒らす、人間だ!」

雑魚には構わねー。
木々を利用して間を抜きつつ、ヒューレイオンに肉薄するぞ。
ヤツが何をするより早く、こっちの《猛ル一角》を叩き込む。
【地形の利用】も【先制攻撃】も得意でな。

それでも足りなきゃ、続く一発はヤツの反撃を【見切り】、そこに合わせて【カウンター】で叩き込んでやる。

「どうしたよ、その程度じゃねーだろ。もっと本気でぶつけてこい!」


ルイーネ・フェアドラク
あれが、眠る巨木を無粋に起こした親玉ですか
なるほど、幻獣のたぐいですか
美しい姿をしていますが、自然の摂理から外れたオブリビオン
こちらとて、見逃すわけにはいかな

途中で見知った顔をいくつか見た気が
さて、いずれにせよ周囲の猟兵に切り込み役がいるのであれば
私は支援に回りましょう
触手を操り敵の軌道を阻み、仲間の盾とします

自身と同化した触手が傷を負えば、それなりに痛みも不快さもあるわけで
いちいち気に留めるほどの繊細さは持ちませんが
思わず舌打ちの一つは零れるかもしれない

眷属が召喚されたなら、そちらの対応を
雑魚はどうぞお任せください
この程度の輩でしたら、お相手は私で十分でしょう
構わず、お好きに暴れてください


ユハナ・ハルヴァリ
…見つけたよ
鳴き声の主を見据えて

本当は、共に在れたら、いいのだろうけど
難しいな
だからね
僕は、ごめんねって言うんだ

ふわり、ふわり、雪花を喚ぶ
その四肢に
角に
凍るより優しく、枷を嵌めて

…君は。
本当は、森を守りたいだけだったのに
ねえ。うまく、いかないね
大丈夫だよ
みんな、この森を大切に、してくれる
だからおやすみ

僕の全力の魔法は氷と鉱石
それらは攻撃に使って
凍える花で動きを封じながら、みんなを守るよ
危ない時には庇う
月の名を冠する短刀は、肉薄されたならその透いた刀身を曝す

さよなら、優しい君
優しくなれなくて、ごめんね

言葉をあまり持っていなくて
形に出来ないものを歌に乗せて
歌う
歌う
何処かで君に、届きますように。



 ユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)は口を小さく開け、見つけたよ、と囁いた。
 森を守るため、それだけを理由として人を傷つけようとしているヒューレイオンの姿を見つめる視線には、憐憫の色が覗く。
 
「本当は、共に在れたら、いいのだろうけど。難しいな」

 共存が実現するのであれば、それがきっと一番良い。けれど同時に、それがありえないことも、ユハナは理解していた。
 だから、ごめんねと。今からその命を散らせようとする自分を鑑みて、謝る。
 傷を負い、片目を失ったヒューレイオンにそれは届いたのだろうか。
 わからないまま、細い体躯を覆い隠そうと現れた植物人間を見上げる視界を、見慣れた背中が遮る。

「美しい姿をしていますが、自然の摂理から外れたオブリビオンならば見逃すわけにはいかないですね」

 ルイーネ・フェアドラク(糺の獣・f01038)がユハナを守るように立ち、刻印からずるりと生える触手で周囲を威嚇する。
 赤い毛並みの尻尾は毛を立てた影響で膨らみ、悍ましさを隠そうともしない彼の武器を、今は何かを守るための盾とする。
 今の自分の仕事は、敵に突っ込む切り込み役の支援と、そう決めているのだ。
 そして切り込み役は、背後にいるユハナではない。

「後ろは我々に任せて、お好きに暴れてください」
「おう」

 短く返事を返して歩み出てくるのは、皐月・灯(灯牙煌々・f00069)。
 フードの隙間からぎらりと光る碧眼で、植物人間達の先にいるヒューレイオンを見つめる。
 森の主である存在が、自分の場所を守ろうとしているのは分かる。
 それは純粋な目的であり、決して悪と判断すべきではないのかもしれない。
 けれどと、湧き上がる想いを飲み込んで。灯は叫ぶ。

「来いよ、角野郎。オレも人間だぜ。お前の住処を踏み荒らす、人間だ!」

 駆け出した灯にルイーネとユハナが追随し、一方のヒューレイオン側も植物人間達を引き連れてぶつかってくる。
 灯に殴りかかる植物人間にルイーネの触手が突き刺さり、振り払うように投げ飛ばす。
 盾として立ち回る彼の原動力は、自身の血液。
 生きていくための糧として鮮血を求める己を浅ましいと呪いながらも、適切な「食事」は今この場での戦闘力を確実に底上げしてくれている。
 
「ルイーネ、大丈夫?」
「問題ありません。これくらいで倒れるような体はしていませんよ」

 涼しい顔で答えるが、実際の所触手にダメージを受ければそれが自分に返ってきて僅かに表情が歪む。
 こみ上げる舌打ちを飲み込ませた事に気づいていないユハナの周囲で、不意に冬の気配が増す。

「僕も、がんばる」

 短い言葉に決意を乗せて、握りしめた短刀を鞘から抜き放つ。
 透けて、夜の空を飾る月のように透明で鋭利な刃先を携えて。とん、と軽く飛んだユハナがルイーネの触手に抑え込まれていた植物人間の腹を割いた。
 冬の訪れを受けて枯れ落ちるかのように散って、体だった木の葉は地面に散らばる。
 
「ちっ、さすがにそう簡単には近づかせてくれねぇな」

 灯の目標は最初からヒューレイオン一体に絞られている。肉薄し、間合に入り込もうとする彼を他の二人がサポートする形だ。
 立ちはだかる眷属を斬撃のような蹴撃で吹き飛ばし、少しずつではあるがその距離は近づいていく。
 木の陰を利用して撹乱し、灯の姿を見失った所でルイーネとユハナに仕留められる。
 そうして植物人間が数を減らしていく中、灯の目は自分とヒューレイオンの間にある大きな岩へと向いていた。

「おい、ちょっと援護してくれ」
「どうしまし、……ああ、なるほど」

 灯の視線の先に気づいたルイーネが笑い、植物人間達に突っ込んでいく。
 その身は一人ではあるけれど、触手を交えた立ち回りは二人分の動きを補って余りある。
 容赦なく打ち据えられ、ただの緑の塊に変わっていく眷属達に怒ったのか、ヒューレイオンがルイーネ目掛けて突進してくる。
 が、それこそが灯の待っていた瞬間だ。
 タイミングを合わせて走り出し、岩を足場にして高く飛ぶ。
 自由落下の最中に握りしめた拳が、俄に輝きを放ち始めた。
 それに気がついたヒューレイオンが灯に向かって角を突き出し、串刺しにしようとするが。

「だめ……」

 ふわりと、舞い降りてきた六花がヒューレイオンに触れる。
 それはユハナが紡ぐ歌声が喚び起こした、冷たい冷たい雪の枷。
 
 優しくできなくて、ごめん。
 けれどこの森は、きっと大事にしてもらえる。
 だから、おやすみ。

 言葉にならぬ想いを歌声に乗せ、凍える花がヒューレイオンの動きを止め、地上に縛り付ける。
 その引き換えとして、ユハナの胸には重苦しい痛みが走り。思わずよろめいた体をルイーネが手を伸ばして支える。

「お疲れ様です。大丈夫、長引きはしないようですよ」

 ルイーネに促され、見上げるユハナの視界に昼間の星が映る。
 風圧でフードが外れた灯の色違いの目は、倒すべき相手を確りと睨みつけて。

「アザレア・プロトコル1番――喰らいやがれ! ユニコーン・ドライブ!!」

 その拳は、星というより隕石に近かったかもしれない。
 落下と自らの体重を乗せた一撃は、ヒューレイオンの体を地面に強く打ち付け。
 衝撃の逃しどころを無くした体を、硬い土の上で大きくバウンドさせた。
 これが人間であれば、木っ端微塵で破片しか残らないだろう。
 だが、相手はオブリビオン。
 これほどの拳打を受けてもまだ立ち上がろうとする姿に、フードを被り直した灯は身構える。

「どうしたよ、その程度じゃねーだろ。もっと本気でぶつけてこい!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

アイシス・リデル
あなたがこの森のかみさま?
勝手に入っちゃってごめんなさい
わたしみたいのが来たらいや、だよね
……でも、だめだよ
あなたはこのままだと、やりすぎちゃうから
だから、あなたはもう、この森にいらないの

植物人間が合体しておっきくなるなら、わたしも対抗して、武器をおっきくするよ
周辺に飛び散ったスクラップを、収集体のわたしたちが拾い集めて
新しく取り出したスクラップと、わたしの身体で繋ぎ合わせて
「ちゃんと回収する、って言ったでしょ。
こんなきれいなところに、ごみを捨てたりなんかしないもん」


霧慧・クリス
縄張りとは、重なるもの。ぶつかるもの。そして…殺しあうもの。
自然の摂理、というやつですね。仕方ありません。

では…まずは、こちらに注意を向けられないように、少し離れておきましょうか。
幸い、周りには目立つ囮がいっぱいですから。利用できるものは、利用させて貰いましょう。

地上の四足獣みたいでしたし。岩の上、木の上、高所がいいでしょうか。
こちらの視界を邪魔されず、かつ気付かれにくい、狙われにくい場所。
邪魔になるなら。多少枝を払うぐらいは、許して貰いましょうか。

…不動震殺。
限界まで。こちらが見つかるまで。あるいは囮が切れるまで。
一撃で狩るつもりで、斬らせて貰います。
あなたに恨みはありませんが。さようなら。



 べちゃりと、粘ついて聞こえる濡れた音。
 スプラッタースクラップを引きずりながら近づいてくるアイシス・リデル(下水の国の・f00300)に、ヒューレイオンは最大限の警戒を示した。
 自然界で発生するものとは違う悪臭はより強く異物と認定されたようで、寄せ集まっていく植物人間達の体が葉に記された数字を大きくしながら膨れ上がる。
 すぐに小さなアイシスが見上げるほどに大きく、高くなった緑の巨人。それに臆すること無く、彼女の視線はその向こう側を見据えた。

「勝手に入っちゃってごめんなさい」

 自分のような存在が来ては嫌に決まっているだろう。自らを異質だと思っているアイシスにとって、ヒューレイオンの反応はごく当然のものに映る。
 けれど人間が好きな彼女にとって、過剰防衛で暴れまわる森の主は到底見過ごせるものではない。

「あなたはこのままだと、やりすぎちゃうから」

 襲いかかってくる植物人間をかわし、愛用のがらくたを構える。そこに駆け寄ってきたのは、アイシス自身の体で作った小さな分身達。
 山神との戦いで散らばってしまったジャンクパーツを一つ残らず拾い集めてきた「収集体」の自分からそれを受け取り、更に新たなパーツを追加して武器を改造していく。
 この森に、ゴミは一つも落としていかない。それが彼女なりの礼儀。
 ブラックスライムである自分の体を接着剤代わりに、時にはパーツの代わりとして利用して。
 くっつけ、くっつけ、くっつけ続けて歪に膨れ上がっていく鉄の塊は、もはや何を表現しようとしているのか不明な代物になっていく。
 規則性があるのか無いのか、彼女にだけ分かるなにかがあるのかないのか。ただ、完成されていく物が「破壊するためのもの」であるということだけは、誰の目にも明らかだろう。

「きれいな森にしたいから。……あなたも、片付けなくちゃ」

 自分よりはるかに大きくなった武器を、彼女は持ち上げる。
 重力から開放されているかのように振るい、足を薙ぎ払われた植物人間が崩れ落ち大量の木の葉を舞い散らせる。
 視界を塞ぐほどの緑の雨を突き抜け、ヒューレイオンに肉薄すると。あまりの質量に後退する獣をどんどんと奥へ、とある木の近くにまで追い詰めていく。
 彼女は気づいていた。そこに、ずっと息を潜めてチャンスを伺う存在がいると。
 霧慧・クリス(濁り銀・f00054)は静かに、刀の柄を握りしめたまま集中していた。
 戦闘が始まってすぐ、敵に気付かれないように登ってからずっと集中を途切れさせることなく探していたのは、たった一瞬の好機。

「縄張りとは、重なるもの。ぶつかるもの。そして……殺しあうもの」

 互いの領域を守り合うのならば、力ある方が相応しい。
 そのために必要な牙を、絶好のタイミングで突き立ててこそ、勝利が舞い込んでくる。
 正面からヒューレイオンに立ち向かう猟兵達を囮として、自分が気づかれるか囮が切れるまでは粘ろうとしていたクリスだったが。アイシスが自分のいる木までヒューレイオンを追い詰めてくれたおかげで、その後の動きが取りやすくなった。

「……利用できるものは、利用しましょう」

 協力といった行動を自分からは取りにくいクリスにとって、都合が良くなったことは喜ばしいがそれ以上の感想は出てこない。
 ただ、自分のしようとしている事をサポートされるというのは、存外悪い気分ではない。
 そう考えていた所で足元に震動が走り、見下ろしてみればアイシスのスプラッタースクラップがヒューレイオンの脇腹をとらえ、クリスのいる木へと叩きつけている瞬間が目に入る。
 アイシスがこちらを見上げ、にへりと口元を笑わせる。
 
 (お礼ぐらいは、後で言うべきですね)

 素直な感謝の気持ちを胸に、クリスが木から飛び降りる。
 構えは解かぬまま、ヒューレイオンの姿を確認した瞬間には、小さな呼吸と共に刀を高速で振り抜く。

「奔れ、不動震殺……!」

 長い時間を力を溜めることだけに使い、満を持して放たれたのは獣のあぎと。
 森の主すら喰らい尽くすほどの斬撃で斬り裂き、刃に血の一滴すらも残さぬ速度で再び鞘へと収める。
 出血は、それこそクリスが納刀した直後にようやく噴き出すほど遅く。
 カウンターを喰らわぬように下がるクリスが、少し遠巻きに自分を見ているアイシスの方を見る。

「……ありがとうございます」
「うん。どーいたしましてぇ」

 黙々とした少女と、よく笑う少女。
 二人の連携により、この戦いの終わりが確実に近づいていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

多々羅・赤銅
【団地】
…………なんつか
知らんけど 腹立つなあ、この森の匂い

斬るか。

未夜、野焼きは任す。
先陣抜刀、剣刃一閃。
自分でも分からぬ感情が煮えて、捨て身で肉薄、切っ先の斬れ味が上がる。
獣の角、首、胴、捨て身で様々狙えどーー 一番いいのはここか。脚の付け根から斬り落とさんと横一閃。
貫かれようが激痛耐性でまだ動けるだろ。動くんだよ。

なあお前、なんか因縁とかあるっけ?
無いよな
なんでだろな。
まあいいや 縄張り争いするよか、共存した方が楽だろさ


浅沼・灯人
【団地】元凶、ってかあれか。森の主。
とりあえずはあいつも倒さねぇと……って、赤銅のやつ如何した。
まあいい、やりたいことを思う存分ぶちかませ。

その分俺らの仕事は多そうだ、しっかりやるぞ猫狐。
武器は持ち替え、メインをアサルトウェポンに。
【スナイパー】【クイックドロウ】【二回攻撃】を利用しながら
相手の行動を制限しつつ、未夜へ向かうよう誘導していく。
つっても未夜にばっか危険なことやらせたくもない。
攻撃はなるべく【かばう】つもりだ。

こっちに接近した時にゃ、悪いが俺も本気出す。
【擒餞戈】で引裂く。相手が獣ならこっちは竜だ。
弱肉強食くらいは知ってるだろ。
食われたくなけりゃ縄張りから出てくるんじゃねぇよ。


三岐・未夜
【団地】
……あれが、元凶?
こんなに綺麗な動物なのに、これ、UDCと同じオブリビオンなんだなあ……。
行き過ぎた抑止力はただの害悪だよ、残念だけど。

おいで、儚火。
獣には獣で対抗しよう。
儚火に【属性攻撃】と【破魔】で浄化の炎を纏わせて、準備完了。よし、突撃ー!
【操縦】【誘導弾】【範囲攻撃】【援護射撃】【誘惑】【催眠術】【時間稼ぎ】【おびき寄せ】を使って敵を自分に引き付けながら走り回って、隙があれば攻撃もするよ。燃やそ。
森を荒らされたくないなら火や他所の獣には敏感かもしれないし、囮としては悪くないんじゃない?

……それに、なぁんかどうも赤銅がイライラしてるっぽいし。早く終わらせたいかな……。


笹鳴・硝子
【団地】

赤銅ちゃん(多々羅・赤銅)どうしたんですあれ…っとみゃー(三岐・未夜)も突っ込んでいきましたね
あああトモ(浅沼・灯人)までかばってたら皆傷だらけじゃないですか

さっきは皆にまるで姫のように大事にしていただいたので、
今度は私が守る番
傷などつくそばから治してしまいましょうね

「さあ『晶』、合わせなさい――カレーの歌ですよ」
ざわつく影の獣の仔、UDC『晶』を顕現させ
「カレーは美味しい♪『ぼくは甘めが好き』 一晩置いても美味しい♪『マイルドだよねえ』 だからえのきも入れて♪『みゃーは好き嫌いしてると大きくなれないんだよ』」
治りが悪いのは共感が足りないせいです
さあ一番治りが悪いのは誰です?



 無残と。そう表現するのが最も近い状況だった。
 角は片側だけが残り、右目には今だ深々と突き刺さる矢が頭蓋骨を貫通して後頭部まで伸びている。
 地面に打ち付けられ、それでも大地を踏みしめる四足には凍傷が残り、傷だらけの体は腹部が裂けて内臓が溢れている。
 それでも、森の主はそこにいた。
 広げるものとして、守るものとして、育むものとして。
 迷いはなく、こうしているのが当然と、そう言いたげな姿には戦闘が始まった頃の気迫はない。
 ただ、静かな闘志だけが残っている。

「……なんだか」

 ヒューレイオンが傷を負う度に緑の匂いが強くなっていたのには気づいていたが、ここに来てそれは離れた場所でもむせ返るほどになっている。
 笹鳴・硝子(帰り花・f01239)の呟きは先が続かず、自分よりも前に立っている他の三人へと視線を向けた。
 猟兵達側の状況は優勢。だというのに表情が晴れないのは、多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)の様子がどうもおかしく見えるから。
 とはいえ当の赤銅も、出所のわからない苛立ちに襲われている最中だった。

「斬るか」

 そうでもしないと、この無性に腹立たしい森の匂いを嗅ぎ続けなければいけない。
 走り出した後ろ姿を追いかけ、浅沼・灯人(ささくれ・f00902)と三岐・未夜(かさぶた・f00134)も行動を開始する。
 対するヒューレイオンも此方を目掛け、それ以外の戦法はもはや必要ないと突撃。
 正面からぶつかり合う形だが、傷ついても尚油断を許さない相手を素直に真っ向から受け止めるつもりは、当然二人にはない。

「行き過ぎた抑止力はただの害悪だよ。さあ、おいで儚火!」

 未夜が喚び出したのは、大きな体の黒狐。その背に乗り込んで速度を上げる二匹の周りは、清浄な気配を含んだ破魔の炎で守られている。
 熱で空気を焦がし、ヒューレイオンの気を自分に向けさせようとする彼の援護はアサルトウェポンを構える灯人の仕事。
 狙いすまし、足元に銃弾を打ち込むことで動きを封じ。更に追い立てるように未夜がいる方へとヒューレイオンを移動させる。
 
「赤銅のやつ、様子がおかしいが。まあ、やりたいようにやらせてやるか」

 そのためには自分と未夜の援護がきっと役に立つ。任されたのなら、全力で答えるのが今やるべきことだと灯人の目元が更に険しく細まる。
 無理矢理に行き先を変えさせられたヒューレイオンは猛り、だが彼らの思惑通り攻撃の矛先は誘導に全力を注ぐ未夜へ向けられた。
 黒狐に体ごとぶつかり、衝撃はそのまま未夜の体にも伝わって歯を食いしばる。

「ッ、まだまだ……!」
「無理、してんなよ……!」

 持ちこたえ、再びの突撃を受け止めようとした所で灯人が割って入り衝撃を肩代わりする。
 ずしりと重く、気を抜けば跳ね飛ばされてしまいそうになる上、頭部に残った左側の角を突き出しての衝突は鋭い角を灯人に刺し。さらに黒狐の体にも浅からず傷をつけた。
 鮮血が飛び、二人の肌を雫が流れる。
 と、そこに。その場にはそぐわない、けれど二人には聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「さっきはお姫様のように大事にしてもらったので、今度は私が守る番ですよ」

 硝子と隣には、浮き上がった影がいる。
 ざわざわと常に輪郭を騒がせ、狼にも栗鼠や鼠にも見える不安定な造形の中。一つだけ変わらないのは爛々とした金色の目。
 『晶』と呼ばれるUDCと声を合わせて歌い始めたのは、共感する者の傷を治す癒しの歌。
 四人の中ではカレーの歌とされているそれは、まるで夕暮れの家族団らんで食事を待つ子供が歌うような歌詞で、少女と少年の声が交互に響く。

 カレーは美味しい♪
 ぼくは甘めが好き
 一晩置いても美味しい♪
 マイルドだよねえ
 だからえのきも入れて♪
 みゃーは好き嫌いしてると大きくなれないんだよ

「僕、えのきはちょっと」

 少しげんなりした声で未夜が呟くが、傷は確実に癒やされている。
 おかしな歌ではあるけれど、自分にとっては日常を思い出させてくれる声に力を貰い、それを受け取った黒狐がヒューレイオンを押し返す。
 突き刺さっていた角が抜けて新しい傷を作るが、それもすぐに回復するだろう。
 同じように角の拘束から抜け出た灯人の手足が急速に硬化を始め、硬い鱗で守られた竜の四肢が地面を掴み、鋭い爪で邪魔だと言わんばかりにヒューレイオンを殴り飛ばす。

「調子に乗るなよ。食われたくなけりゃ縄張りから出てくるんじゃねぇ!」

 【擒餞戈】の一撃を受け、地面に蹄が食い込んで作る長い線を刻みながら後退するヒューレイオンへと、赤銅が迫る。
 技工も何もなく、ただ肉薄しては斬る。それだけの攻撃が容易く森の主の首を薄皮一枚まで切断し、血しぶきを上げながらも動く獣は赤銅に前足を振り上げて叩きつけた。
 それは彼女の肩に当たり、骨を砕くと同時に伸びてきた角が全身を貫く。
 
「なあ、お前、なんか因縁とかあるっけ?」

 血まみれになりながらも激痛に耐え、赤銅の目はヒューレイオンの姿を改めて見る。
 激しく動けばすぐにでも千切れそうな首の傷から、呼吸のリズムで流血を激しくさせながらも赤銅への敵意を失った様子は無い。
 きっと、この獣はこの期に及んでも自分が再び滅びるとは思っていないのだろう。
 夕暮れ差し迫る森の中、今日も自らの世界を守り、夜を越えて美しの朝を迎えられると思っている。
 揺るぎないのだ。その様に赤銅の心内はひどく乱れる。感情の名前が、ほんの僅かな間わからなくなる。
 恨みか、つらみか。はたまた妬みか、嫉み。そして怒りと。――畏れ。
 
「違うよな。なんでだろうな」

 これに似た何かを知っている気がするけれど、わからないから、ここでおしまい。
 赤銅の一閃が、自分の肩に乗っていた前足を根本から切断しヒューレイオンの体が傾く。
 繊細なバランスで乗っかっていた首が同時に転げていく様をスローモーションのように見ながら、赤銅の剣筋だけは現実の時間を生きているかのように奔る。
 実際には時間の流れは正常で、ただ赤銅の刀が高速で動いただけの話。
 前足、後ろ足、角を斬られた首なしの体へ仕上げに突き立てた刃先は脇腹に刳り込み。
 最期は胴体すら真っ二つにされて、森の主は大地に沈んだ。

「ふー」
「ふーじゃないよ。赤銅ってば無茶しすぎ」
「ああー、悪かったって」
「お前が無茶するのはいつもの事だけどな」

 駆け寄ってくる三人に向けてひらりと手を上げる。ちなみにカレーのうたは続行中。 
 静けさを取り戻した森はオレンジ色に染まりつつあり。つい先程までの騒がしさが嘘のようだ。

「赤銅ちゃんもみゃーもともも、皆体張り過ぎです。ところで」

 硝子の歌う癒しの歌は、その歌声に共感した者の傷を癒やす。
 つまり、傷の治りが遅い者がいれば、それは共感が薄いということにもなる。
 一番治りが悪いのはだれかとの問いかけに、どこの好き嫌いが気まずげに目をそらしたのか。
 三人分の笑い声が、何よりも雄弁に物語っていた。

 ――ここにようやく、森の平穏は保たれる事となる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『輝石の星掬い』

POW   :    地道にザルを使って宝石を浚う

SPD   :    希望の宝石に狙いを定めて採る

WIZ   :    宝石のありそうな場所を予測して採る

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 脅威を討ち破り村を訪れた猟兵達は、村人総出の歓迎を受けた。
 彼らは猟兵というものを詳しく知りはしないが、森に巣食っていた魔物を自分達が被害に遭う前に退治してくれた優秀な冒険者として口々にお礼を述べてくる。
 催しの準備がこれで進められると、笑顔で喜ぶ村人達。
 猟兵達が戦闘で破壊してしまった部分も、そのままにしておけばまた緑が戻るからと気にしていないようだ。
 元々、進んで森を食いつぶすつもりなど無い人々だ。彼らの言う通り、いずれは元の姿を取り戻すのだろう。
 急ごしらえの料理や酒での歓待も受け――時刻は夜。
 再び訪れた森の中、松明を並べて明かりを確保した川辺には沢山の人が集まっていた。
 村人はもちろん、石を見つけて願いを叶える小瓶を手に入れようと訪れた人も多い。
 夜闇の中を流れる川底は輝いて、けれど予知のようにそこを血が流れることはない。
 さて、狙いの石を採れるかどうか。
 そもそも上手く浚うことができるのだろうか。
 期待と心配を胸に秘めつつ、猟兵達はひやりとした川の中へと足を踏み入れていく。
パーム・アンテルシオ
ふふ、人に喜んでもらえるっていうのは、いいものだよね。
現実には、選んでばかりいられないと思うけど。こういう、人に感謝される依頼を、これからも受けていきたいな。
宴会も楽しそうだったけど。お酒は飲めないし、ほどほどで出てきちゃった。
…お酒が飲めるようになったら、もっと素直に混ざれるのかな?

●WIZ
さて、せっかくだし宝石を探しもしてみようかな。
撒かれてるっていう話だけど…そうなると、なだらかで見えやすい部分は拾われやすそうだよね。
…川の段差の、小さく滝壺みたいになってる所とかどうかな?
たくさんありそうでも、最初に見つけた石にしようかな。運命を感じるし、ね?
…これからの生き方に、幸せがありますように。



 パーム・アンテルシオ(桃色無双・f06758)は他の猟兵達よりも少しだけ早く、川に到着していた。
 宴会は楽しそうではあったけれど、自分は途中で退出してしまい。今はゆっくりと水を足で掻き分けながら歩いている。
 お酒が飲めるようになればもっと自分も素直に混ざれるだろうか。そんな事を考える彼女の目的地は、川の中でも段差状になっている場所。
 流れる水が落ちて小さな滝のようになっている辺りなら、なだらかな所よりも人に拾われていない石が多いのではと考えたのだ。

「それにしても……ふふ、人に喜んでもらえるっていうのは、いいものだね」

 思い出すのは自分達にお礼を言う村人たちの笑顔。
 危険が去り、誰ひとり欠けること無くこの夜を迎えることができた。迎えさせることができた。
 オブリビオンと戦う力を持った身としては、これ以上ない幸せなのかもしれない。
 猟兵の存在を求める声は常に多く、時にはもっと悲惨な現場に行かなければいけないとわかっている。
 選んでばかりもいられないけれど、これからもこうして人に感謝される依頼を受けていきたい。
 
「ああ、やっぱり。たくさんあるね」

 彼女の予想通り、水越しの煌めきはそこにたくさんの石が眠っていることを教えてくれた。
 川の平らな部分にいる人達は多いけれど、まだこの辺りにまで石を求めてくる人は少ない。
 今なら取り放題状態だし、好きな石を選ぶこともできそうだと目を細めて。どうしようかとパームは囁く。
 水面に付かないよう気を使っている尻尾を、身を屈めることで更に上げ。逆に水面に近づいてしまう付け袖を抑えながら手を伸ばし、水中に沈めて探る。
 
「こういうのは、縁が大事、だから」

 好みのものを選ぶよりも、最初に触れた石の方が運命を感じることができる。
 そう思いながら水底に辿り着いた指先が、小さな硬いものに触れた。
 そっと摘んで引き上げてみると、それは明るい黄金色のシトリン。
 桃色に染まる彼女の瞳。その更に奥で輝く明るい太陽の色に似た石だった。

「見つけた。あなた、私と一緒に来るかな?」

 機嫌よく声も弾んで、パームはそれを持って川辺にいた村人に声をかける。
 川の水と一緒に瓶へ閉じ込めて、願うことはひとつ。

 ――どうか、これからの生き方に、幸せがありますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナナ・モーリオン
(川べりに腰掛けて足を揺らして水面ちゃぷちゃぷしている
隣には、黒い炎の大狼の幽霊が丸まっている)

……あの子も、キミと似たようなものだったのかもね。
生きてた頃は、真面目な子だったのかもしれないけど……
記憶って言うのは、面倒なことばっかり残るんだから。
そう言うところばかりが、過去から這い出てきちゃったのかもね。

……キミは大丈夫だよ(狼の頭を撫でて)。
ボクが、ちゃんと覚えてるから。

……ん?(川底に何か気になる石を見つけて)
……。
……うん、そうだね。せっかくだし、祈ろっか。
いまも、これからも、これまでも。
穏やかで、ありますように。



 賑やかな人々の声があちこちで聞こえる。
 石を見つけることができたのか、嬉しそうに母親の元に近づいていく幼女が起こした水の波紋は、川べりに腰掛けているナナ・モーリオン(スケープドール的なモノ(本人談)・f05812)の足元まで届く。
 石浚いに参加するでもなくその光景を眺めては、ちゃぷちゃぷと水を足先で騒がせて遊んでいた。
 傍らには、今日一日共に戦ってくれた黒炎の大狼が大きな体を丸めて寄り添って。
 猛り喰らう怨念の獣。そう呼ばれるお供の頭を撫で、ナナはそっと語りかける。

「あの子も、キミと同じようなものだったのかもね」

 捨てられた過去から這いずってきた、森の主。
 それが実際に生きていた頃はどうだったのかを、自分は知ることができない。
 ひょっとすれば、森を守る真面目な子だったのかもしれない。
 けれど記憶というのは悲しいかな、面倒なことばかりが残りがちになる。
 森を、自然を愛していたその気持ちが、行き過ぎた形で出てきたのかもしれない。

「そう考えると、ちょっと悲しいね」

 真相は分からず。けれど物悲しさも感じてしまう。
 しんみりとした空気に気がついたのか、大狼が顔を上げるとナナの小さな手を慰めるようにぺろぺろと舐めた。

「あははっ、くすぐったいよ。……大丈夫」

 安心させるようにまた撫でて、深い紫の瞳が細められる。
 今こうして触れ合っている大狼も、怨念という形で過去から蘇ってきた存在。あの森の主と根本はどこか似ているのかもしれない。
 けれど、もし違いがあるとするならば。

「ボクが、ちゃんと全部、覚えているから」

 嬉しそうにクゥンと鳴く大狼に微笑んで、ナナはまた水面を波打たせて足先を濡らしていく。
 すると、ふいに足元で何かが光っていることに気がついた。
 どうやら、水を掻き混ぜている内に自然と川底に沈んでいた石を巻き上げていたらしい。
 拾い上げたそれは、深い森の色によく似た翡翠石。
 温かみを感じさせる緑色の宝石を見つめて、こちらを見ている大狼に頷きを一つ送る。

「うん、そうだね。せっかくだし、祈ろっか」

 いまも、これからも、これまでも。穏やかで、ありますように。
 小さな少女の小さな祈りは、人々の和やかな声の中に優しく溶け消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

壥・灰色
いと(f00433)と石浚いに行く
……仕事も終わったし帰るつもりだったんだけどな
ユア、ちょっといとの我が儘に付き合ってもらってもいい?

いとの分がないのはちょっと寂しいね
きみがユアの石を探すなら、おれがきみの石を探すよ
だからユア、きみが灰色の石を探してくれたら丁度いい

菫色の石なんてあるだろうか
冷たい水に脚を浸して少しばかり震えながら、水底に目を凝らすよ

大きな石の下に埋まってたりはしないかな
水底だけ探しても見つからないようなら、石をひっくり返したり
もっと川中程まで入ってみたりする

……思ったより寒いな
何かあったまるようなものでもあれば、一品貰って食べたいんだけれど。


赫・絲
かいちゃん(f00067)と一緒に石浚いするよー。
……するでしょ? あっ我儘とか言う?
ほらーそんな顔しないで手伝って!
ユアさんは忙しいかな……? よければ一緒に探そー!

探したいのは灰色の石と翠の石、それにトパーズ
灰色の石はかいちゃんの眼の色でしょー。
翠の石はユアさんの眼の色。
トパーズはね、「希望」とか「友情」って宝石言葉があるんだよ。
だから3つ一緒に瓶に詰めてもらうんだー。
二人に幸あれ、って願いをこめて。

え、私のも探してくれるの? うれしい!
じゃあ私はユアさんの石を探すね。

それにしてもどの辺りにあるだろ、大きな石の近くとか探してみようかな。
川の流れもあるし溜まってたりしないかなー。



「さあ、無事に事件も解決したし。石浚いするよかいちゃん!」
「ええ……」
「あっ、何その面倒臭そうな顔!」

 仕事が終わったら帰るつもりだった壥・灰色(ゴーストノート・f00067)があからさまに気だるそうな顔をすると、赫・絲(赤い糸・f00433)のふくれっ面が膨張率を高めていく。
 探す石も決めてあるんだからと川まで灰色を引っ張っていった先には、討伐完了の一報を聞いて駆けつけたユア・アラマート(セルフケージ・f00261)が二人を待っていた。

「お疲れ様、二人とも」
「ああ、ユア。ちょっといとの我が儘に付き合ってもらってもいい?」
「我儘とか言わないで手伝ってよ! ユアさんも石浚いするでしょ? しよ?」
「ふふ、いいよ。どんな石を探せばいい?」

 絲が探したいと言っているのは、灰色の石と翠の石。そこにトパーズを足して瓶に入れるのが、彼女の希望らしい。
 灰色の石は灰色の眼の色。
 翠の石はユアの眼の色。
 トパーズは、「希望」や「友情」といった石言葉を持つ。
 指折り数えて説明してくれた絲ではあるが、それを聞く灰色とユアは無言で視線を交わす。
 それでは少し、足りないものがあるのではないか? そんな顔をお互いしている。

「いとの石がないのは寂しいね。きみがユアの石を探すなら、おれがきみの石を探すよ」
「えっ。私のも探してくれるの?」
「ここでイトの石がないのは逆に変だからね。そうと決まれば急ごうか」
「あっ、二人とも待ってー!?」

 ざぶざぶ川に入っていく二人を追いかけて、絲も慌てて水の中に足をつける。
 ひんやりとした水温に少し震えるも、目的を達成するまでは出ないと意気込んで川底に目を凝らす。
 同じように石を探している人達も多く、平らな所では落ち着いて探すのは難しそうだ。
 故に自然と足は人がいなさそうな方へ。
 ユアも灰色も考えてることは同じなようで、徐々に川底がでこぼこしている地帯に移動をしていた。

「中々見つからないねー」
「……こういうの石の下とかは、どうかな」

 灰色が目をつけたのは大きめの石だ。先端が少し水面より上に出ており、大人がひと抱えするにも少し難しいくらいのサイズ感がある。
 絲が暗闇の中で石の下を水越しに観察してみると、そこには流されてきたと思しき裸石の輝きがいくつも見て取れた。
 とはいえ、採ろうにも石が絶妙に邪魔をしている。

「どうしよう。糸で石を引っ張れば動かせるかも」
「壊すと周りの人たちが驚いてしまうだろうし……」

 ごとっ。ばしゃん。

「これでよし」
「うわあ、かいちゃん何事もない顔で……」

 普段どおりの無表情で石を持ち上げ、横にずらして戻す灰色になんとも言えない顔をする絲だったが、それもすぐに眼下に広がる裸石の数々にぱあっと明るくなる。

「穴場だったね。ここなら、探している石も見つかりそうだ」

 ユアもその場で濡れない程度に身を屈めて、目当ての石がないかを手で水底を浚って確かめる。
 見つけたいのは、灰色の石。
 あれでもない、これでもないとしているうちに転がり込んできたのは、薄灰色のグレームーンストーンだ。
 水で洗って空に翳してから、灰色へ向ける視線の間に挟みこみ。見つけたと笑っている所を、同じように石を通して見つめる絲が持っているのはユアの瞳によく似た薄い緑のプレナイト。

「きれい……」
「イトも見つけたかな?」

 微笑むユアに持っている石を落とさないよう手を降って、嬉しそうに絲が成果を見せに近寄る。
 そんな二人を、やはり透き通る石の向こう側に映している灰色が見つけたのは。深い青紫色をした菫青石。
 楽しそうにしている様子を見ていると、こうして寒い思いをして川に入るのも、悪くないと思えてくる。
 まあ、寒いものはどうしたって寒いのだけど。

「さすがに冷えてきたね。上がったら、何か温まるものを食べたいんだけど」
「そういえば、村の人が焚き火で川魚焼いてたよ」
「スープもあったんじゃないかな?」
「急ごう二人共」

 川岸に希望を見出した灰色の目が油断なく川底を走る。
 その後、確認もしないままに灰色がこれだと掴んだのがトパーズで二人が驚いたり、焼き魚とスープに舌鼓をうつことになるのだけれど、また別の話。
 ただ、三人分の願いが込められた小瓶が、その日の記憶を確かなものとして語る証人として残された。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルイーネ・フェアドラク
ユハナと(f00855)石掬いを

ああ、これはすごいな
まるで地上の星空のようですね

ユハナの保護者役です
川の中は滑りやすいから、転ばないよう気をつけて
あまり深いところへ行ってはいけませんよ
見守りながら、こどもが大層楽しそうであることが、微笑ましい

贈り物には少し驚いて、けれど素直に礼を述べて
ありがとうございます
私こそ、君が思った以上に心強くて、助かりました
君の瞳に似た色の石も、探しましょうか
星を閉じ込めたような、夜の海の色を
お互いの、お守りに


ユハナ・ハルヴァリ
ルイーネ(f01038)と

素足を水に浸ければひやりとして
川底で煌く石がゆらり揺れる
わぁ、つめたい。
乏しい表情に嬉しげな声を連れて、水を歩き回る
掛かる声には、はぁい、と返事は元気に
けれども好奇心は隠し切れず
ぱしゃりと水を跳ねながら、夜の中へと探し物

松明の灯りにも紛れなかった、一粒
それを見つけて拾い上げ
ルイーネ、ルイーネ
内緒話のように彼を呼んで
はい、と差し出す掌の石は、錆びた赤色
さっき守ってくれたので。お礼がしたくて
ねえ、綺麗でしょう?

そうしてルイーネが探してくれたのは、海の色
……おまもり。
幾度か瞬いて、それからその煌く石を握り締める
大事に、しますね。

帰る前に少し
手を引っ張って、水を歩くお散歩を



「ユハナ。川の中は滑りやすいから、転ばないよう気をつけて」
「はぁい」

 ルイーネ・フェアドラク(糺の獣・f01038)の心配を他所に、ユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)の好奇心はすっかり川とそこにばら撒かれた石に向いていた。
 足をつけた水はひやりと冷たく、その周りにいくつもの煌めきが揺らめいてユハナの視線を奪っていく。
 表情自体はあまり変化はないものの、声には無邪気な子供のような響きがあり。服の裾が濡れそうになるのも厭わずばしゃばしゃと歩いていくのを、遅れて足を付けたルイーネは穏やかな笑みで見守る。

「楽しそうだな。……ああ、それにしてもこれはすごい」

 まるで星空を地上に連れてきたかのような光景に、ルイーネの視線も暫し川底に向けられる。
 その間にユハナは真剣な顔で目を凝らし、捜し物に没頭していた。
 思い出すのは昼間。キューレイオンとの戦いでのこと。
 あの時の頼もしかった背中に、何か形で報いたい。そう思って、ルイーネに内緒のプレゼントをしようと相応しい石を探しているのだ。
 どんな石がいいかと探し回っているうちに、ゆらりと橙色の影が視界の中に伸びてくる。
 辺りの暗さを緩和するために立てられた松明の火が水面に映って、その辺りだけは裸石の輝きも燃える眩さで見えなくなってしまう。
 
「あっ……」

 そんな中で、ユハナの目に止まったのは水底に落ちた小さな影。
 透明度の高い川の中、火の光に照らされても尚存在感を失わなかった一粒を、大事なもののようにそっと拾い上げる。

「ルイーネ、来てくださいルイーネ」
「どうしました? ユハナ」

 どこか潜めるような声で呼ばれて、顔を上げたルイーネがユハナに近づいていく。
 はい、と差し出された手のひらの上には。赤い石がころり。
 赤碧玉だろうか。不透明で暗い赤錆色のそれを貰ってほしいといった表情で、ユハナがほんのりと口元を緩ませる。

「綺麗でしょう? さっき、守ってくれたのでお礼がしたくて」
「私に? ……ありがとうございます」

 驚きに目を開き、それからすぐに和らげて。ルイーネの指先もまた、それを大事そうに摘み上げて手のひらに乗せる。
 血のような、赤い色。それを綺麗といって手渡してくれるユハナに、もう一度ありがとうと、呟いて。
 あの時のお礼がこの石だというのなら、自分もお返しをすべきだとルイーネの目は沈んだ煌めきへと向けられる。

「君も、思った以上に頼もしくて助かりましたよ。お礼なら、私からもさせてください」

 どうせなら、彼の目の色のような青色がいい。
 星空を呑み込んだ夜の海に似た、深い色と瞬きが宿った石があればいい。
 さて、そんなに都合よくいい石が見つかるだろうかと半信半疑ながらも探してみればあるもので。
 ルイーネが選んだのは真っ青なアウイナイトの裸石だった。
 予想外のお返しを手のひらに乗せてもらい、ルイーネの顔と交互に視線を往復させてから、瞬く視界に納めた石をユハナがきゅっと握りしめる。

「君がくれた石と、私があげた石。お互いにお守りにでもしましょうか」
「はい。……だいじに、しますね」

 平坦な口調に、隠しきれない嬉しさを乗せて。
 ユハナは空いている手でルイーネの手を軽く引っ張り、歩き始めた。
 なんだかとても、心が浮足立って。このまま帰ってしまうのが勿体なかったから。

「もう少し、お散歩してから帰りましょう?」
「ええ、君の気が済むまで、付き合いますよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

寧宮・澪
綺麗な、川ですねー……うんうん。
石、探してみましょかー……。

【地形の利用】で……川の流れが、ゆっくりになる場所やー……ぶつかるところー……そういう場所に、沈みやすいかなー、と思い、ますよー。
ので、そんな場所、見つけたら。
謳って、ちょっぴり水を動かして、底をさらいましょー……。
他の方へお手伝いしてもいいですねー……。

ほどほどの大きさ、綺麗なの、あるといいんですがー。
ユアさんにも、お土産にしましょー……。何がいいですかねー?

ああ、冷えた人いたら、温かい乾いた風、吹かしましょー……【謳函】で謳いながら、世界にちょっとお願いしますよー。



 寧宮・澪(澪標・f04690)にとって、川の水は普段のホームであるところの布団の中とはほぼ真逆な環境にある。
 野外であるし、そもそもこの季節の水の冷たさは結構なものだ。
 それでも、意外にも彼女のテンションは高いようで。意気揚々と石を探すために川の中に入っていった。

「石、探してみましょうかー……」

 そして、水の冷たさがあっても眠気は完全には覚めないらしい。
 戦闘と違い、気を抜いていても大丈夫な状況のせいか。とろんとした目はますます眠たげで、ふらふらと数歩歩いては考え。また歩いては考えを繰り返している。

「ええとー……石がたくさんありそうな場所、探してみましょうー……」

 思いついた、と人差し指をぴっと立てて澪は歩いていく。水流が常に発生している川の中なら、その流れに沿って転がされた石が溜まる場所がいくつかあるはず。
 そこを探すのが手っ取り早いだろうというアイデアらしい。
 見てると少し覚束ないが、恐らく当人としては確りした足取りで、水の流れが緩やかに感じる所で立ち止まる。
 ここならば、少し底を浚えば石が出てくるだろう。

「よぉーし……それじゃあ一曲いきますよぉー……」

 澪が片手を胸元に当て、顔を上向かせて唇を開く。
 紡がれるのは、夜空に響いて風に紛れる柔らかな歌。
 彼女の歌声は美しいだけではなく、魔術としての機能も果たしている。
 その声を呪文として、彼女の足元で水の流れが渦巻状に変化し、川の底を浚って小石や土を巻き上げていく。
 水面近くまで昇った輝きはゆっくりとまた沈んで、読み通りにたくさんの石が沈んでいたことを見せつける。
 
「ふふー……。さあ、綺麗なの。あるといいんですがー……」

 これぞというものが見つかればいいと、澪は水面ギリギリにまで顔を近づけて一つ一つを摘んでは凝視する。
 どれも綺麗で目移りをしてしまいそうだけれど、一番気に入ったものを持って帰りたいという気持ちがある。
 そうして、厳しい審査の末に水底から引き上げられたのはクリソプレーズの小さな球体。
 みずみずしい果実のような青緑色を手に、満足げな顔で一度川辺に戻る。

「折角ですし、ユアさんにも、お土産にしましょー……」

 この依頼を発令したグリモア猟兵にも、何か石を拾ってお土産にしたい。
 上手く見つかれば、自分とお揃いでもいいかもしれないと考えながら水から上がると、他にも石浚いにチャレンジした人々が松明や焚き火の近くで暖を取っていた。

「冷えた人、たくさんいますねー……。暖かくしましょーかー……」

 シンフォニックデバイスを装着して、再び澪は歌い始める。
 今度は、先程よりも少しテンポのある明るい歌だ。
 世界に呼びかけ、歌を介した小さなお願いを聞いてもらうと。彼女を中心に暖かい風が吹いてきてその場にいる人達を温める。

「わー、あったかい!」
「おねーちゃん魔法使いなの? すごーい!」

 曲の雰囲気も手伝って、子供たちが目を輝かせて寄ってくる。
 あっという間に囲まれてしまった澪は、ふんにゃりと緩んだ笑みで子供たちを見下ろした。

「ふふふー……温まっていってくださいねぇー……」

 彼女の石探しは、もう少し続く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

笹鳴・硝子
【団地】

川底の石ってわりと滑りますからね、転ばないように気を付けて下さいね
ずぶぬれになったら風邪ひきますよ

笑顔…おかしいですね、最近笑ってる気がするんですけど、顔に出てませんか?
ふむ、難しい…

えのきが食べられるようになる石、良いと思います
それ沢山拾ってネックレスにでもしてみゃーにかけましょうねそうしましょう

私、キーホルダー作りたいんですよね
皆の目の色の石とか繋げたら団地っぽくないですか


三岐・未夜
【団地】
(石浚いを楽しみにしていた黒狐の尻尾が、ぱたぱたぶんぶん振られている)
ピンクと、黒と、赤いのが欲しい。赤銅と硝子とともの色。……僕の?別に目の色じゃなくて、僕も黒で良いんじゃないの。

鮫……(鮫の寝袋は一番のお気に入りだ。貸せない。しかし貸して欲しいと願われている。しかし貸せない)(小さな小さな葛藤が生まれる)
えのきはノーセンキュー。(こちらは即答だ。えのき嫌い)

……ねえ、なんか僕ばっか色々言われて、ひゃっ!?ちょ、なんで急に前髪捲んの!?

顕になるのは、桃橙に藍紫が混ざったような黄昏色の瞳。
尻尾のふわふわがぼふんと1.5倍増し。慌てて逃げたらつるっと足元が、

あ。

ずぶ濡れ1秒前。


多々羅・赤銅
【団地】
よし、なんかモヤモヤしたがアイツが失せてスッキリした!心配かけたな!

石に願いねえ。
そーさなー。
硝子の笑顔が見たいですの石とー。や、楽しそうなのはわかっけどな。けど硝子がこれ以上美人になったら流石の私も直視できねーかもだしこれでいいのかもな?
あと灯人が私に味噌汁作ってくれますようにの石とー
みゃーがサメの寝袋貸してくれますようにの石ー

えのき食べられますようにの石にしとく?

眼の色の石か。いいなそれ。(おもむろに、未夜の前髪に手を伸ばし、めくる)(綺麗な眼色)

あー
すまん
見惚れた

最終的に持ち帰るのは
何の願いもかけない白石一つ
願いはかければ、いつか壊れるものだから
していいのは誓いのみだ
何も願わねえ


浅沼・灯人
【団地】全員無事だな。……よし、 あとは身体休めてゆっくりすっか。

俺は石探しは止めて、三人の見物でもすっか。
靴も靴下も脱いで、川べりで涼んでおく。
張り切って戦ったせいか熱いんだよ。
おーおー、気ぃつけろよ。風邪引いたときの面倒見るのはごめんだからな。

願いだのなんだのを聞いては楽しそうだと声には出さずに。
いや、味噌汁くらいなら作るぞ。全員分。
あと硝子はあれだ、表情筋鍛えた方がいいかもな。
あっ、おい猫狐!危ねぇだろうが!

それでも土産がないのは寂しいと、手近なところにあった透明な石を拾う。
こいつらがこれからもこうしてバカみてぇに騒いでいられるように、一応。
……柄にもねぇことしてるよなぁ、と笑った。



「よし、なんかモヤモヤしたがアイツが失せてスッキリした!心配かけたな!」

 多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)が何時も通りに声を張っているのを見て、三岐・未夜(かさぶた・f00134)はほっと胸を撫で下ろした。
 せっかく楽しみにしていた石浚いの時まで、赤銅が苛立っていたらどうしようと不安だったのだ。
 その心配が無くなったことで、憂いなく石浚いを楽しめるとわかった時点で未夜の尻尾はじたばたと騒がしく暴れている。
 その様子を浅沼・灯人(ささくれ・f00902)は川辺に座って見ていた。石探しは止めておくとしながらも、戦いの影響でいまだに熱が溜まっている体を冷まそうと足を投げ出している。

「川底の石ってわりと滑りますからね、転ばないように気を付けて下さいね」
「おーおー、気ぃつけろよ。風邪引いたときの面倒見るのはごめんだからな」

 笹鳴・硝子(帰り花・f01239)と灯人の忠告にわかってるよ、と未夜が軽く唇を尖らせて屈み込む。
 目当ての石はすでに決まっているようで、それを手に入れるべく川底をあさっては出てくる裸石をじっくりと選別している。

「ピンクと、黒と、赤いのが欲しい。赤銅と硝子とともの色だからね」
「いいですね。私も、皆の目の色の石を揃えたいです。赤銅ちゃんは?」

 話を振られた赤銅は、少し考え込むように視線を下に向ける。
 
「そーさなー、まず、硝子の笑顔が見たいですの石な」
「おかしいですね、最近笑ってる気がするんですけど、顔に出てませんか?」
「僕には一切変化無いように見えるけど」
「硝子はあれだ、表情筋鍛えた方がいいかもな」

 難しい……と自分の頬をふにふにと揉んだりつついたりしていた硝子が石を拾い上げる。
 燃えるような赤色のスピネルに、これはトモの色ですねと(本人的には)微笑む。

「けど硝子がこれ以上美人になったら流石の私も直視できねーかもだしこれでいいのかもな」
「褒めてもカレーしか出ませんよ」
「出てんじゃん」
「あと灯人が私に味噌汁作ってくれますようにの石」
「石に何願ってんだよ」

 そんな事しなくても全員分の味噌汁くらいは普通に作ると灯人が憮然として、それを見て笑う未夜がぱっと水中から石を取り出して月に翳す。
 星のない夜空のように黒いオニキスは、硝子の色だと大事にしまい込む。

「みゃーがサメの寝袋貸してくれますようにの石もいるよな」
「えっ。いやそれは、ちょっと」

 お気に入りの寝袋を貸してほしいと暗に言われて、未夜の尻尾が今度は迷いに迷ってしおれていく。
 貸すことはできないけれど、貸してほしいと言われている。けれど貸せない。
 どうしたらいいのかと困っている様子を見かねたのか、赤銅が小首を傾げる。

「えのき食べられますようにの石にしとく?」

 訂正。より追い詰める方針のようだ。

「えのきはノーセンキュー。っていうかそんな石無いよ!」
「いいですね。それ沢山拾ってネックレスにでもしてみゃーにかけましょう」
「いいアイデアだな。ん? ……硝子、これとかいいんじゃないか」

 足先を水に晒していた灯人が、何気なく水中で見つけた石を硝子に渡す。
 淡いピンクのローズクオーツを受け取って、もうすぐコンプリートですねと硝子がそれを赤銅と未夜に見せに行く。

「というかなんで僕ばっか色々言われてるの……結局赤銅はどうするのさ」
「んー、けど眼の色の石ってのも確かにいいよな」
「私とトモと赤銅ちゃんと、あとみゃーの色が揃えば完璧なんですけど」
「え、僕も黒で良いんじゃないの」

 尻尾をアピールするように揺らして嫌そうな声を上げる未夜。
 彼は普段から長く伸ばした前髪で目元を隠しており、あまり自分の瞳を誰かに見せるのを好まないという姿勢が滲み出ている。
 が、あいにくとその程度の障壁で遮られてくれるような存在はここにはいない。
 おもむろに赤銅が手を伸ばし、未夜の前髪を捲り上げる。

「ちょ、なんで急に前髪捲んの!?」

 慌てる未夜の目元には、夕暮れから夜へと移り変わる寸前の黄昏が広がっている。
 サンストーンの赤みがかった橙に、青紫のサファイアのような色が混じった、終わりの色。
 それをじっと直視してから、また徐に赤銅の手が前髪から離れる。

「すまん、見惚れた」
「――!?」

 声もなく、ただ何よりも雄弁に語る尻尾がぶわりと膨らみ、未夜が慌ててその場から逃げようとする。
 自分が今いるのが川の中だということも、底が滑るから危ないと硝子が言っていたことも忘れて。

「あっ、みゃー!」

 ばっしゃーんと、派手にすっ転ぶ音と水しぶき。
 後頭部を打つようなことはなかったものの、しっかりと水に浸かった未夜だったが、拾った石を持つ手はしっかりと握りしめられていた。

「あーあー、だから気ぃつけろっていっただろうが」

 大きく溜息を吐いた灯人の視線の先には、びしょ濡れで半べその未夜を立たせようとする硝子と、その反対側から手を伸ばし悪気ゼロな顔で謝まっている赤銅がいる。
 そんな彼の手には、硝子にローズクオーツを渡した時にこっそり拾ってあった透明の石があった。
 土産がないのも寂しいし、一応願うことはある。
 こいつらがこれからもこうしてバカみてぇに騒いでいられるように。
 我ながら柄にもねぇことしてるよなぁ、と笑って。灯人は自分も未夜を助けようと立ち上がった。

 ちなみに、あれだけ色々言っていた赤銅が最終的に持ち帰ったのは、白石が一つ。
 願いはかければ、いつか壊れるものだから。していいのは誓いのみ。
 では、その誓いは?

「そんなこと、私が知ってれば十分だ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

皐月・灯
……今まで、こういう遊びに来たことはねーんだけどな。
ちょっと思い出したことがあんだ。
……まあ、期待しちゃいねーけどよ。

宝石っつっても要は鉱石、石だ。
川底の地形が急に変わるところに、砂なんかと一緒に溜まってんじゃねーか。
地形を足で確認しながら、落差のある場所を見てみる。
それらしい場所を見つけたら、掬いあげてみるぜ。

上手く見つけたら、そいつは持って帰る。
「……願いは、いい。こいつだけで十分だ」

拾った石の輝きと、記憶の中の誰かがつけた輝きは違う。
……本当はもう、あれが何だったか覚えちゃいねーんだ。
ペンダントだったのか、イヤリングだったのか。

……でも。

「……懐かしいもんを、思い出せたからな」



 少しずつ、川の中からは人がいなくなりつつあった。
 はしゃぎながら石浚いをしていた少年が、遊び疲れて父親の背中で眠っている。
 後ろを歩く母親と三人で立ち去っていくのを無意識に視線で追いかけていた皐月・灯(灯牙煌々・f00069)は、はっと我に返って頭を振ると川の中に足を踏み入れた。
 何を考えていたのか、自分で自分の思考に蓋をして。考えを散らすように荒く水を蹴り飛ばす。

「今まで、こういう遊びに来たことはねーんだけどな」

 けれど、少し思い出したこともある。
 それはもう、随分と遠くなってしまった記憶のこと。思い出にするにも色あせ始めてしまった何かに縋るように、灯は松明の火が届かない川の中程まで進んでいく。
 正直、期待はしていない。けれど。

「……この辺がよさそうか」

 川の平らな部分では、もう殆どの石が浚われてしまって、今から新しい石を見つけるには時間がかかるだろう。
 それならば、少しでも可能性がある場所を探したほうが格段に効率がいい。
 足裏に意識を集中させながら歩いていれば、途中で急に地面が触れなくなるタイミングがある。
 誰かがそこにあった石でも移動させたのか、ぽっかりと穴が空いている場所を見つけて、足先を伸ばせばさらさらと砂粒の感触。

「こういう、落差のある所にならまだ残ってるだろ」

 手元が暗いため、周りに人がいないことを確認してフードを浅く被り直し視界を確保する。
 月明かりの反射で水面に映る自分の顔をかき乱すように手を入れると、灯の指先には小さな小石が触れる感触が伝わってきて。
 拾い上げてはそれが普通の石だと気づいて戻し、また黙々と探す作業へと戻りながら。思考は水の冷たさから逃れるようにとりとめもなくなっていく。
 安心しきった寝顔の少年と、それを暖かく見守る父親と母親。
 おぼろげに浮かぶ誰かが身につけていた、あの輝き。
 同じものはもう手に入らないと、わかっていながら何かを探す。
 もう、それがどんなものだったのかも思い出せないけれど、確かにあったなにかを。

「……ん」

 川底に、微かな煌めきを見つけて灯の思考はそこで止まる。
 砂や泥に埋もれかけていたのは、暖かな色の琥珀だった。
 冷えた手の上で温度の変化はないけれど、長い時間をかけて育まれた命の温もりが、自分を見つけてくれてありがとうと光る。

「ああ、これで十分だ」

 おかげで、懐かしいものを思い出せた。
 願いは必要ない。今この瞬間に到るまでに感じたことで、もう他に望むものもない。
 フードを被り直し、明るい方へ戻っていく灯の表情は外から伺えないが。それはどことなく満足げで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイシス・リデル
ふへへ。こういうのは得意、だよ
あ、でも、いつものところとは全然違って
川もきらきらしててきれい、だね
これだけでもう、宝石みたい
それにみんな楽しそう。よかった

催しは追跡体のわたしたちで覗き見するに留めて
人がいなくなるまで待ってから、こっそり川に入る、ね
灯りが消えて真っ暗になっちゃってても、大丈夫
わたしにはこの眼があるから

時間が経って流されてそうだから
ちょっと下流の方で残った石がないか探す、ね


おねがいごとが叶う小瓶はもう貰えないけど
村の人たちは助かったし、楽しそうだったし
石はきらきら、ぴかぴかしてて、きれいだし
うん。わたしにはこれで充分、だよ



 夜も更け、川は静寂に満ちている。
 すでに松明も片付けられ、周囲には人っ子一人いない。猟兵達も、随分前に撤収済みだ。

 ――カサリ。

 いや、まだ一人、その場に残っている少女がいた。
 茂みの中からぴょこぴょこと飛び出してくる落とし子達を引き連れて、アイシス・リデル(下水の国の・f00300)は慎重に自分以外に誰もいないことを確認してから川に近づく。
 賑やかな間は分裂体の小さな「自分達」に皆が催しを楽しんでいる様子を観察してもらい、共有した視界からの映像を見ながら離れた所に待機していた。
 せっかく一般の人達も多く訪れている所に、汚泥の臭いを纏わせる自分がいては気分を害してしまうかもしれない。
 人が好きではあるけれど、自分が必ずしも人に好かれる要素を持っているわけではないと思っているアイシスにとって、誰もいなくなった今こそが石浚いを楽しめるタイミングだったのだ。

「さらうのは得意、だけど。ここはいつものところとは全然違うね」

 下水道に住み着き、どぶさらいをして過ごしているアイシスにとっては慣れた作業ではある。
 けれど今目の前に広がっているのは、澄み切った川の水が夜空を映して反射する光景。
 星の瞬きを揺れる水面で受け止めている様は、石がなくても十分美しいものに見えてアイシスの表情が自然と緩む。

「これだけでもう、宝石みたい。……もう少し、下流にいってみようかな」

 かなりの人が川にいたのは視て知っているから、恐らく狙い目があるとすればメインとなっていた場所よりも下流。
 流されて遠ざかった場所になら、きっとまだ石が残っているのではないかと考えたのだ。
 川沿いに歩いていくと、遠くからは梟の鳴き声。
 風に木の葉が擦れる音も心地よく、昼間からの騒ぎなどまるでなかったかのように感じられる。
 あの時戦っていなければ、今頃この川には死体が積み重なっていた。

「皆無事で、ほんとによかった、な」

 嬉しそうに緩ませる目は、蜂蜜のような深い橙色に染まって夜闇の中でも明るく目立つ。
 松明の火はなくなってしまったけれど、夜目が効くこの双眸があれば暗くなっても大丈夫と、暫く歩いた所でアイシスの足取りは川の中へと進路を変える。
 そこは、人がいる間もあまり立ち入る者がいなかった下流のエリア。
 黒く染まった川の水はブラックタールである少女の体と似ていて、実際は正反対の清らかさでアイシスの足元を洗っていく。
 濡れるのも構わず水の中に座りこんで、せっせと両手を使い川底を浚っていく。

「見つかるかな。もう、小瓶は貰えそうにないけど」

 願いを込めた小瓶を作ってもらうのは、さすがに今の時間では無理だろう。
 そのかわり、平和を楽しむ村人たちの姿をたくさん見れたのだから、それでも十分満足を得られたと。
 自分にはこれで十分だと呟くアイシスの手元に、ごろんと何か硬いものが転がり込んできた。

「わ……」

 出てきたのは、少し大きめなオパールの裸石。使い続けたパレットのよう、様々な大小の違う色が角度を変える度に輝く遊色の石を前に、アイシスの感嘆の声が白く染まって散っていく。
 月に翳せば輝きは更に増して、見つめる彼女の瞳の中にも遊色を映し出す。
 様々な顔を見せる石を、そっと指先で撫でて。

「きれい」

 夢見るような呟きと、宝石に負けない満面の笑顔。
 新しい宝物を見つけてはしゃぐアイシスの姿を、月だけはいつまでも見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月21日


挿絵イラスト