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いない、いない、いらない!

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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「みんな待ってるよー?」
「お母さん心配してらっしゃるわよー!」
 夜と闇が支配する村にて親子二人、人探しをしていた。ここ最近の日課となりつつある。
 ただでさえ最近は物騒な事件が頻発している。本音を言うと彼女たちだって出歩きたいとは思わない。それでも、知り合いが行方不明なのだ。探さないわけには行かなかった。
「どこいったのー!!」
 子供の方がひと際大きな叫び声をあげる。すると、背後の方からふと、音が鳴った。
 ――りぃん、と。涼やかな音。思わず親子二人は振り返る。そこには果たして、黒衣をまとった少女がいた。大きな、大きな鎌を持った、少女だ。
 二人の意識は、それを認識したところで途絶えた。


 グリモア猟兵の黄柑・王花(夢見る乙女と幸せな・f04083)による招集がかかった。
 彼女の予知によると、ダークセイヴァーの世界で大規模な惨殺事件が起こる恐れがあるとのことだ。
「今からみんなに飛び立ってもらう村はね、ちょっと前までとあるヴァンパイアの支配下にあったんだ。今は気まぐれからか、監視下にはないみたいだけど」
 ダークセイヴァーの世界においては珍しいことではない。むしろ、単なるヴァンパイアの気まぐれなのだとしても、監視下から逃れているのは恵まれているとさえいえる。
「だからついこの間まで、この村はささやかながらも平穏だった、と思うんだ。でも……今この村は混乱の最中にある。ヴァンパイアがもたらした恐怖はこの村に根付いたしまっていたんだ」
 王花は一度、言葉を詰まらせる。されども、言葉を継がないことには始まらない。言葉を選ぶようにしながらも、この村の現状を猟兵たちに伝えていく。
「この村では今、連続殺人が起きている。それも、少女や妊婦さんたちを狙った、凄惨な事件だよ」
 そのため、村の住人の多くは極力外を出歩かないように自衛しているらしい。だが、それにしたって限度がある。現に、事件は連鎖し、王花に予知されるまでに至った。
 猟兵たちにはこの現況を打破すべく立ち向かって欲しい、と王花は告げる。当然だとばかりに頷く多くの猟兵たちを心強く感じた王花は、続いて予知した敵について語る。
「今回、みんなに討ち取ってほしい敵は、ここを支配していたヴァンパイアじゃないんだ。さっきも言った通り、今この村は彼らの影響下にはない」
 それは予知したあたしが保証しよう、と胸を張りながら、なにやら大型の得物を振り回すかのような素振りをしながら言葉を続ける。
「あたしが今回予知した敵は、大鎌をもった黒衣の少女。いわゆるゼラの死髪黒衣と呼ばれるオブリビオンだね」
 ゼラの死髪黒衣。対象に憑依することで自我を塗りつぶすオブリビオンだ。本体は黒衣にある。ゆえに、黒衣を剥がし、破壊した時点で任務自体は達成と言えよう。
「敵を探すためにも、まずみんなには村で情報収集をしてほしい。もしかすると、憑依された少女についても知ることが出来るかもしれないからね」
 ひいてはそれが、任務達成につながっていくだろう。王花は力強くグリモアを掲げて、猟兵たちを見渡した。
「みんなならこの悲しみを救えるって、信じてる。頑張っていこう!」


叶世たん

 はじめまして。叶世たんというものです。
 このたびはオープニングを読んでいただきありがとうございます。
 皆様のキャラクターを彩る一助となればと思います。よろしくお願いいたします。


 今回の事件は、最近までヴァンパイアの支配下にあった、とある村で起こっている連続殺人を止めるというものです。
 とはいえ犯人は明確です。フーダニットではなく、ホワイダニット寄りのシナリオになるのでしょうか。
 そこは皆様のリプレイ次第とはなりますが、楽しんでいただけたら幸いです。すべてを暴力で解決するものまた、一つの猟兵の在り方でしょう。

 第一章:情報収集。
 第二章:集団戦。
 第三章:ボス戦。

 簡単な流れは以上のような形となります。
 それでは、改めてよろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『闇夜を切り裂く断末魔』

POW   :    不審な人影を取り押さえる

SPD   :    町人に聞き込みを行う

WIZ   :    囮となって切り裂き魔をおびき寄せる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鏡・流
こんな事件があっては、住んでいる人たちも心細いだろうに。
事件について町の方々から話を聞きつつ、治療の必要な方には「生まれながらの光」で治療も行っていこう。こういう事をしていれば、邪魔に思って狙ってくるかもしれないしな。
もっとも疲れ過ぎに注意しつつ、だな。




 村に到着した鏡・流(境界線・f04077)はひとつ息をついてから、辺りを見渡した。
 村としての規模は小さいが、見渡すだけでもいくつもの家屋が確認できる。多くは明かりが灯ってさえいた。そうだというのに、閑散としている。自分の足音が気になるほどに。
「これが村を襲っている不安感の表れか」
 沈鬱な雰囲気が村を支配している。なにも原因は殺人鬼であるオブリビオンに限らない。少し前までヴァンパイアに支配されていた、という過去は存外に重いのだろう。
 村のはずれ、飛びぬけて高い城が見える。詳しい事情は分からないが、おそらくはヴァンパイアが居座っていたのだろう。推測にたやすい、辺り一帯と比較して、見るからに豪奢な城だった。
 あれを作るのに、村がどれだけ虐げられていたか。想像するにもおぞましい。
「……だが」
 一度かぶりを振って、視線をもう一度村へと戻す。今なすべきことは、この場にいない敵へ憎悪を向けることではない。成すべきことを成すしかないのだ。敵の名を何と言ったか。
「ゼラの死髪黒衣、か」
 憑依型というのは厄介だ。敵を討つために考えなければいけないことが一つ増えてしまうのだから。
 だが、メンドクサイと考えるわけにはまだいけない。傷ついている人たちが、現にいるのだから。
「こんな事件があっては、住んでいる人たちも心細いだろうに」
 それを解消するのは、聖者の使命であり、望まれた運命なのだろう。きっと。


 村の中を歩いていく中、一つの気配に気付いた。背後に二つ、突き抜けんばかりに鋭い視線を感じる。敵意だ。だが、あまりにも、未熟だ。残念ながら本命であるオブビリオンではなさそうだ。
「……誰だ」
 それでも確かな注意を払いながらも振り返る。曲がり角からこちらをのぞき込む二つの頭が見えた。ざっくり勘定するに20歳前後の女性が二人。そんな二人と目が合った。
 二人の顔は明らかに恐怖の色に染まっている。彼女たちの事情を鑑みれば仕方のないことかもしれない。ただ、こちらとしてもせっかく見つけた村人を見逃すわけにもいかなかった。
「なあ、ちょっと話を伺いたいのだが」
「……ひぃ!」
「なんで男がこの村に!」
 感情が爆発したかのように喚き散らす二人。およそこちらの話を聞いているようにも思えない。強行的な手段はあまりとるべきではないかもしれないが、致し方ない。
 意を決し、流は二人に向かい歩みを進める。二人は距離に比例するかのように青ざめていくが、反して逃げ出したりはしない。いや、正確には、走り出せなかったのだろう。
「……足を痛めているんだな」
 二人が二人とも、足を痛めている。しかもそれは、単に足をねじったようなものではない。簡易的とはいえ、紛れもなく呪術が施されている。
 流は一つ溜息をもらすと、呪いを解かんと手を伸ばす。すると二人の女はびくりと肩を震わせた。
「いや! いや! 【気持ちいい魔法】はもうやだ!」
「なんで……! なんで男がいるのよ……!」
「……安心してくれ。私は聖者だ。あなたたちを治すために今こうやっている」
 動転している二人は聞く耳を持たない。とはいえらちが明かない。流は意を決して、【祈り】を捧げて【生まれながらの光】を唱えた。
 ほのかな光が二人を包む。あまり本格的な呪術でなくて助かった、と内心独り言ちつつ改めて二人を説得しようと呼びかける。
「どうだい?」
「……あ、ありがと」
「……」
 二人の態度はわずかに軟化したとはいえ、警戒はまるで解いていない。二人がこちらに向ける眼差しは仇敵に対するそれだった。
 心当たりならばある。先ほど女が言った、言葉。ならば、これ以上彼女たちに詰め寄っても得られるものは少なかろう。
「……いや、足がよくなったならいい。私は鏡・流というものだ。気が変わったらまた話しかけてくれ」
 言い残して、流は二人の前から立ち去る。少し距離をとってから、二人の様子をもう一度吟味する。
「男がネックか」
 もう少し、調査を進める必要がありそうだ。
 流は決意を新たにして、もう一度散策を始めていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

カイ・シュリック
子供に子供や身重の女性を傷付けさせる……悪趣味なやつだ。
今村に生きている人だけでなく、既に殺されてしまった人のためにも事件を止めないとな。

判定:SPD
日中の間に村を歩き回り、住民から話を聞こう。
今まで起きた事件の内容や、オブリビオンに憑依されている少女の事が分かれば次に狙われそうな人に目星はつけられないだろうか。
それと憑依された少女がたまたま選ばれたのか自分からオブリビオンに近付いたのかも気になるな……。出来る限り詳しく聞こう。
どうして狙いが少女や女性に限定されるのかも何か情報がないだろうか。

犯人が分かれば拘束してしまえばいいが……もしかしたら何か事情があるのかもしれない。
真相を見つけないと。




 子供に子供や身重の女性を傷付けさせる悪趣味なやつを撃破するため、真相を見つけないと。
 強い決意のもとに馳せ参じたカイ・シュリック(紫苑の殺戮代行者・f02556)だったが、最初の内は思うように事が進まなかった。
 というのも、多くの人間がこちらに応じなかったのだから。この村に来てから扉を叩いた回数は数え切れないほどだが、応じた数は未だ一件。加えて言うならそれも応じたというだけで、まるで中身を得られなかった。
 今村に生きている人だけでなく、既に殺されてしまった人のためにも事件を止めないと。決意に一切の揺るぎはないけれど、気疲れが少しばかり起きてしまう。
 村で連続殺人が起こっているのだから、致し方のないことか。と半ば自分に言い聞かせるようにしながらも探索を続ける。
 それから間もなく、鏡・流(境界線・f04077)による報告を受けた。なるほど、男である自分に何か思うところがあるかもしれない。
 とはいえ、代案が思いつくまではもうしばらくは聞き込みを続行しようと、聞き込みを続行する。
 そんな最中のことだった。一人の人間が、こちらの呼びかけに応じてくれたのだった。
「……話は中で聞こうじゃないか」
 家々を回って巡り合えた、初めての機会。逃すわけにもいかずカイは家に招かれるまま、居間に至って席に着く。
 呼びかけに応じたのは、齢70前後の老婆であった。生活感の少なさから、もしかすると彼女は今一人で生活しているのかもしれない。
 こちらを値踏みするかのような視線を投げかけた後、老婆はこちらに問い掛ける。
「して、何用かね。こんな村に」
「……ああ、単刀直入に聞きたい。この村で殺人が頻発しているそうだな。それについて知っていることをお尋ねしたい」
「ああ……」
 納得の行ったような、いかないような。そんな様子の老婆ではあったが、カイへの答えを返してきた。
「いや、知らんね。知っていたらなにか対策しようがあるってものさ」
 確かにそうかもしれない。村人たちでオブリビオンを打破するのは現実的ではないにせよ、対策の有無とは別問題だ。
 とはいえ、直接的ではなくとも、犯人に結び付けそうな何かはあるだろう。カイは読み合いが得意ではないと自負している。だから、直接、聞いてみるほかにない。
「犯人に対してじゃなくてもいい。知っていることについて教えてくれればそれがありがたい」
「と、いうと?」
「例えば、どういて被害者は少女や身重の女性ばかりなのか。村にどうして男性がいないのか。これに対して知っていることはないだろうか」
「……」
 老婆は黙する。
 それから、一度瞑想するかのように瞳を閉じ、厳かな口調でカイに問い掛ける。
「なあ、若人さんや。お前さんは、この村を救ってくれるのかい?」
 老婆の胸中を察するにはあまりある。ただ、猟兵として、代行人として、返すべき答えは決まっていた。
「ああ、当然だ。私たちは、そのためにきた」
 答えが満足のいくものだったのか。それはカイには分からないけれど、老婆はかすかな笑みを浮かべると、この村に起こっていることについて話を始めた。


「……」
 カイは考える。今なすべきことを。
 老婆から聞いた話は、簡単にまとめると以下のようだった。
 一つ、かつてこの村を支配し、城を住処としていた雄型のヴァンパイアは男性を労働力としてこき使い、多くの者を次なる拠点に連れ去ったこと。
 一つ、ヴァンパイアは、この村の多くの女性に、いわく【気持ちのいい魔法】を仕掛け、身籠らせたということ。
 一つ、ヴァンパイアが去った後も女性たちの男性恐怖症は収まらず、僅かに残っていた男性をも放逐してしまったということ。
 散々だ。あまりにも、散々だ。確かに情報こそは得られたが、手放しに喜んでもいられなかった。
 ヴァンパイアが去り、平穏が訪れたとはいえ、その姿は平和からはかけ離れている。
「カイといったな」
 熟考にあるカイを遮るように、老婆が語り掛けてきた。一度考えを止め、改めて向き直る。
「どこかで、銀髪の子供を見なかったかえ? この村の子なんだがね」
「……いや、今のところ見つけてないな。見つかったらまた報告しよう」
「助かるよ。……私から話せることは、以上だ」
 カイは深々と頭を下げ、礼を告げてから家を出るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リリー・ベネット
か弱い妊婦や少女を狙った事件、許せませんね。

まずは情報を集めですね。
そもそも歩いている人が少ないのは問題ですが、この状況なら致し方ありません。
街の中心部に行き、人を探します。
被害者がほとんど女性なのもありますし、男性なら意外といるのではないでしょうか。
人を見つけたらとにかく話を聞くことにしましょう。
一番最初の被害者のこと、それからまだ見つかっていない行方不明者のことは必ず聞いておきます。
それから、外出は控えるようにと伝えましょう。被害は最小限に抑えます。

基本は情報収集ですが……
もし、怪しげな人……例えば、周りを気にせず怯えた様子もないような人などは、追うのも手かもしれませんね。




 か弱い妊婦や少女を狙った事件、許せません。
 意気込みを確かに臨んだリリー・ベネット(人形技師・f00101)の最初の行動は情報収集だった。
 そもそも歩いている人が少ないのは問題だが、この状況なら致し方ないだろうと、村の中心部を主として散策している。
「被害者がほとんど女性なのもありますし、男性なら意外といるのではないでしょうか」
 彼女は当初、そのように推測し行動していたが、思うように事は運ばなかった。
 さもありなん。この村に、男はいないというのだ。この事実は鏡・流(境界線・f04077)やカイ・シュリック(紫苑の殺戮代行者・f02556)の調査の結果判明した。
「これは……少し予想外でしたね」
 そうだとするならば、少し発想を変えてみる必要があるだろう。
 今回の敵は、ゼラの死髪黒衣。何者かに憑依して活動するタイプのオブリビオンである。そしてその憑依先は、予知によると少女だという。
 少女の詳細に関しては今のところほとんどわかっていないけれど、繰り返しこの村を襲うということは、この村にゆかりのある人物とみるのが妥当だろう。
「この村の……住人なのでしょうか」
 断定はできない。ただ、仮定としてそうだとするならば、女性を狙いというのも不可解にも思える。
 一度、殺されてしまった人たちや行方不明となっている者の調査をする必要があるだろう。
 リリーは目的を改めて、今一度村の中心部へと繰り出すのであった。


 何やら人を探している様子の親子を発見した。足を不自由そうにしながらも、歩き回っている姿が、ひどく不自然に思える。
 声をかけると、不審そうな表情を浮かべられたものの、話に応じてはくれた。
 流やカイたちは苦労したと聞いていたが、女性であるリリーに対する警戒心は男性に比べたら薄いのだろう。
 ただ、連続殺人が横行する中で、見知らぬ人を安心させるのはやはり難しい。そこには半ば諦観を含ませつつ、リリーは話を切り出した。
「私達は未来のために、この村で発生している連続殺人を止めようとしているものです。無条件で信じてくれだなんて言いません。ただ、少しお話を聞かせてもらえないでしょうか」
 最初に応じたのは、母であろう姥桜の頃と見える女性だった。子を守るように前に立ちながら、恐る恐るといった調子で返事を返す。
「はい、なんでしょうか」
「……酷なことをお聞きするようで申し訳ございません。今回の事件がなぜ起きたのか、私達は知りたいのです。そのために、今回の事件の被害者たちについて、知っていることがあれば教えていだたけないでしょうか」
 少し迷うそぶりを見せてから、母は語り始める。
「最初に狙われた女性はその、あそこでお気に入りとされていた子だったのを覚えています」
 子供も連行されたのかは断言できないが、おそらくは子供を慮って、視線であそこを指し示す。そこはやはりというべきか、ヴァンパイアが根城としていた場所だった。
「そう。身籠って、お腹も大きくなって、そろそろという頃、事件は起きました」
「そうですか……」
 話している方も、聞いている方も、ましてや年端もいかない少女にとっても、聞いていて心苦しくなる内容だ。
 だが、ここで引き返すわけにもいかない、リリーもまた誠実に話を聞く。
「はい、それから何件か連続して、その、お気に入りに近しい方々が被害に遭いました。妊娠していない方も、いらっしゃったようですが」
「……ありがとうございます。辛い話を、させてしまいましたね」
「いえ……いいんです。今のこの状況が変わってくれるなら」
 母は笑うかのような表情を浮かべるけれど、それはどこか不器用に思えた。
 そんな中、母の後ろに隠れるようにしていた子供か、こちらに言葉を投げかける。
「……ねえ、お姉ちゃん。ハピーちゃん知らない?」
「ハピーちゃん、ですか?」
 身に覚えのない名前だった。慌てたように母が補足する。
「ハピーというのはこの村の住人です。この子おなじぐらいの年で、銀髪の女の子なんですが。ここ2週間ほど行方が分からなくなっているんです」
「それでね、ハピーちゃんは鈴が好きなの! だからいつも持ってるの!」
 なるほど、近くにいたならその鈴の音が手掛かりになるのかもしれない。とはいえ、やはりリリーは出会った覚えはなかった。
「いえ、残念ながら私はあってないかと思います」
「そうですか……。よろしければ、見つけたら私達に教えてくださいませんか。村にいるかと思うので」
「ええそれはもちろん。見つけたら保護いたしましょう」
「はい、お願いします。先ほどの話にも関わってくるのですが、彼女は一番の、お気に入りだったんです。だから、不安で」
 リリーはその言葉の意味を飲み込んでから、改めて考えをまとめていくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

蘭・七結
……惨い事件ね。
女性…中でも子どもや妊婦の方を狙うだなんて。
犯人にはお仕置きが必要だわ。

オトリになって【おびき寄せ】ましょう。
迷った少女の演技をしながら、人通りが少ない場所で待機。
余裕があれば手持ちの拘束具や結縄で、罠も仕掛けておきたいわ。

相手が現れて攻撃を仕掛けられたら【なぎ払い】、【フェイント】、【2回攻撃】で抗戦。
相手が動けない隙を見つけ、〝嘲笑の惨毒〟を使用。
あなたが犯人ね。ナユの毒の味、いかがかしら。

【毒使い】の神経毒が作用してる間に、フードの中を確認させてもらうの。
あなたのお顔、よく見せてちょうだいね。


セリア・エーデルワイス
何の罪もない女の子に取り憑いて、人を襲うだなんて…
このままでは他の人達も危険ですし、取り憑かれた女の子が救われません。
これ以上の罪を犯してしまう前に、助け出しましょう。

聞き込みも大事ですし、まずはある程度少女の特徴を聞いておきましょう。
それと狙いにかかる女性の特徴や姿、共通点もきっとあるはずです。

その情報を得られたら、私自ら囮になって、おびき寄せます。
得られた情報をもとに服装なども変えて変装を…他の皆さんにはすぐに飛び出せるように、少し離れた位置にいてもらいましょう。
切り裂き魔が近づいてきたら、【神よ、人に導きの手を】で手を光らせて、皆さんに合図を送ります!




「……惨い事件ね。女性……中でも子どもや妊婦の方を狙うだなんて。犯人にはお仕置きが必要だわ」
「はい。何の罪もない女の子に取り憑いて、人を襲うだなんて……。このままでは他の人達も危険ですし、取り憑かれた女の子が救われません。これ以上の罪を犯してしまう前に、助け出しましょう」
 蘭・七結(恋一華・f00421)とセリア・エーデルワイス(善白に満ちて・f08407)とは村から離れた場所で落ち合っていた。
 猟兵たちの活躍により、情報は集まりつつある。ゆえにここは一度、囮役として敵そのものをおびき出そうという算段だ。出てきてくれれば上々、といったところか。
 セリアの計により、万が一に備えて周囲には猟兵が幾人か潜んでいる。何が起こっても対処が出来るように、策を重ねるのは悪いことでは決してなかろう。
「そういえば、七結さん。村で姿をお伺いしませんでしたが、どうされたんですか?」
「ナユの居場所はあそこじゃないってだけ。ヴァンパイアが悪さした村に、ナユたちみたいな人が立ち入るのは無粋というものだもの。その時間を利用してあちこちに罠は仕掛けられたから、お構いなく」
「……そうでしたか」
 いくらダンピールとはいえ、七結が入って何が変わるというわけではないかもしれないが、下手なもめ事を避けるためならば、そういったこともあるいは必要なのだろう。
 得心が言った様子でセリアは頷き、確認をとるように辺りを見渡す。決して豊潤とは言えない森ではあるが、一度迷い込んだら抜け出せないようなおぞましさがある。
 死角は多い。その分他の猟兵が隠れる余地はあるというものだが、同時にそれは敵の接近も気付きがたいということだ。
 むむむ、と唸るセリアを傍目に、七結はセリアの姿を上から下へ、それからもう一度下から上へと視線を送り、合流した時から抱いていた疑問を投げかける。
「……で、あなたはなんで着替えさせられているの」
「どうやら敵はこの村の特定の女の子を狙うそうです。どうせ囮をやるなら服装もそれっぽく見せた方がいいですよ」
「……ま、いいけど」
 七結は肩をすくめる。ちなみに話を聞くとこの服はリリー・ベネット(人形技師・f00101)が話を聞いたという親子から譲ってもらったものらしい。
 報告を聞けば、確かに連続殺人の被害者にはこの村の女性という共通点はある。この村の衣装がとりわけ民族的というわけでもないが、敵の気を引く変装というにはうってつけだろう。
 とはいえ気を引くという意味では、七結の“あか”い羽織も負けていない。首に連ねた柘榴石の指輪を優しく握りしめて、七結は改めて気を引き締める。
「それじゃあ、やりましょう」
「頑張りましょう」


 ――りぃん。
 涼やかな音が、どこからか鳴る。
 囮役をし始めてから、それなりに時間は経過していた。だが、二人の意識は、途端に研ぎ澄まされる。
 この涼やかな音の正体は、なんだ。否、考えるまでもない。これは、鈴の音だ。
 意識を向け、音の発生源に向かい、振り向く。果たしてそこには、黒衣を纏った、人影があった。
「見つけたわ」
 決断は早い。七結は【からくり人形】をけしかける。十指を巧みに操り、さながら己の四肢だと言わんばかりに傀儡を走らせた。
 黒衣の少女の反応は鈍い。それはこちらを敵と認識するのが遅れたのか、はたまたセリアの姿が思った姿とは違ったからか。
 七結に理解などできなかったが、好都合だ。二人の距離は概算するに5メートル前後。からくり人形はもうすでに、黒衣の懐に潜りこんでいた。
「これはどうかしら」
 からくり人形の右手が、黒衣をめがけて迫りくる。
 勢いのついた一撃ではあったが、かろうじて黒衣は手にもつ大鎌で払いのけた。
『――なんなんだ、お前たちは!』
 呪詛にも思える黒衣の叫び、さりとて応じる義理はない。
 大鎌は攻撃範囲が大きい反面、振るう動作から生まれる隙もまた大きい。黒衣の中身が戦士でもないのだから尚更であろう。
 ただ七結から言わせてみれば、その隙は、致命的だ。
「耐え難いくらいが丁度いいでしょう?」
 それが、黒衣の犯した罪の重さだと、そう言わんばかりに七結は言い放つ。そしてそれが、【毒】の合図だった。
 黒衣の頭上から、毒性を帯びたスパイスが降り注ぐ。たまらず黒衣も口を閉ざすも、すでに遅い。
『――っ!』
 身体が、痺れ、動かない。黒衣の少女は膝をつき、えずくかのようにせき込む。
 セリアは敵に大きな隙が生じたことを確認すると、柔らかな光を両の手に灯し始める。
「皆さん! お力を貸してください!」
 次第に大きくなる光は、やがてひと際輝きを放って消えた。村の方にも、きっとその光は届いたことだろう。
 これで予定通り、敵を討つために猟兵が駆けつけてくれる。だが、気は抜けない。
 七結はからくり人形を駆使して麻痺する少女の身体を持ち上げる。
「あなたが犯人ね。ナユの毒の味、いかがかしら。あなたのお顔、よく見せてちょうだい」
 ただ、七結も、セリアも、既に憑依された存在が誰なのか、既に見当はついていた。
 だからこれは確認という意味合いが強い。そして、確認が取れたうえで、少女に対する処遇を決める必要がある。
「やっぱりあなたは――」
 頭の覆いをめくる。果たしてそこにあったのは、銀髪の少女だ。
 確かに、ヴァンパイアの眼鏡にもかなうであろう美貌があったと、そう思わせる顔。
 きっと彼女がハピーと呼ばれる少女で、行方をくらませていた少女に違いない。
 七結はそのまま黒衣を剥がそうとするが、麻痺が弱まってきたのか、黒衣の少女は身体をばたつけせる。
『なんで! なんで! いや、いや! ――――――――――!!』
 叫びは慟哭になり、慟哭はたちまち呪いに変ずる。
 呪いは周囲一帯を破滅に導かんと、脳髄をむしばむ害虫のように、意識の中で這いずり回った。
 たまらず、拘束を解き頭を抱える。
「――づぅ」
「……なんて、叫び!」
 慟哭が止まるともに、猟兵たちも再び武器をとる。
 だが、黒衣の少女は踵を返し、すでにこの場から去らんとしている中だった。
「待ってください! 私たちは、あなたを助けに来たんです!」
 セリアは声を投げかけるも、少女は止まることはなかった。
 七結は黒衣を剥がしきれなかったことに歯噛みをしながらも、少女が向かう方向を見やる。
 その先にあるのは間違いなく、かつてヴァンパイアが住んでいたという城だ。
「……追いましょう」
「……はい!」
 そうして猟兵たちは、少女を追うべく、歩みを進めるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『残影』

POW   :    怨恨の炎
レベル×1個の【復讐に燃える炎の魂】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
SPD   :    同化への意思
【憐憫】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【異形の肉塊】から、高命中力の【絡みつく傷だらけの手】を飛ばす。
WIZ   :    潰えた希望の果て
【悲観に満ちた絶叫】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

蘭・七結
あともう少し、といったところで取り逃してしまってごめんなさい。
次は逃がさないの。あの黒衣を剥いで、鈴音の彼女を助けだしてみせるわ。

ステキなお出迎えね。でも用があるのは城主のあの子なの。どいてちょうだいね。
相手の攻撃は【なぎ払い】や【敵を盾にする】ことで回避しながら、ナユは白刀や拷問道具で攻撃していくわ。
ごめんなさい。ナユはあなたたちに同情はしないわ。それが、ナユができるせめてもの〝情け〟だから。

敵を【おびき寄せ】て、味方の方たちと距離を取るわ。
味方の方に攻撃が及ばない距離まで移動出来たら、〝紅恋華〟を使用。
まとめてナユが散らせてあげる。さあご覧あれ。
美しい〝あか〟を見せてあげるわ。




 蘭・七結(恋一華・f00421)は一度大きく息を吸い、呼吸を整える。
 失敗した。あそこでオブビリオンを引きはがすことが出来たら、きっと彼女を救うことが出来ただろうに。
 今回の作戦に参加している猟兵たちに――そして同時に鈴音を鳴らす彼女に、ごめんなさいを。
 だが、悔いるばかりじゃあいられない。
 しっかりと前を、そして目指すべき城を見据えて。
「次は逃がさないの。あの黒衣を剥いで、鈴音の彼女を助けだしてみせるわ」


 森は自然のダンジョンだ。視界は狭く、いつどこから敵が現れるか分かったものじゃない。
 ただ今回に関していえば、目標である少女の姿を見失うことはなく、追跡が続けられている。
 ――りぃん。りぃん。彼女が走るたび、その鈴の音は途絶えることなく鳴り響く。彼女が知ってか知らずか、彼女のシンボルである鈴が目印代わりとなっていた。
『   』
 そんな追走の最中。七結は不審な音を確かに聞いた。音というよりも声と言った方が正確なのかもしれない。届いた音に、意味を見出せたのだから。
 だが、これを果たして声と呼んでいいものなのだろうか。七結は思わずそんなことを思ってしまった。先ほども聞いた呪いの叫び、それにひどく近しい嘆きが次第により明確な形となり鳴り響く。
『痛い、痛かった、優しくしないで』
『なんでこんな、私、どうして』
『あいつのせいだ』
『あいつってだあれ?』
 この村を襲った惨劇、その【残影】が、まるで銀髪の鳴らす鈴の音に招かれるように集まってくる。その姿はいずれも女性の姿をしていた。なかにはお腹の大きくなった妊婦もいる。
 そのいずれもが、並々ならぬ美貌を宿し、そして、泣いていた。何かを嘆くように、恨むように。
 影は揺蕩うようにふわりふわりと漂いながら、ひとり、ふたりと数を増していく。やがて相応数集まった亡霊を前に、七結たちは足を止める。彼女たちの行く先を、残影が立ちはだかった。
『あなたたちが、あいつなの』
 彼女たちの輪唱は、やがて意味をなさなくなった。込められた思いを表す術をもはや失い、この場にあるのは形のある激情でしかない。
 おそらくは、行き場のない激流は猟兵たちを襲う。
 七結はそんな生まれ落ちてしまった嘆きを前に、ひとつの【思い】を乗せて言い放つ。
「ステキなお出迎えね。でも用があるのは城主のあの子なの。どいてちょうだいね」
 白刀を構え、ステップを踏み影のひとつへ迫る。
 その切っ先は狙いを違うことなく、影の心臓を切り捨てるように薙ぎ払う。ある種無情でさえある手際で、一人を消し去る。
『どうして、どうして! 私たち! こんな!』
 猛る嘆きの矛先が七結へ向く。七結は薄く笑みを浮かべ、猟兵たちのいない方へ一人駆けだしていく。
 炎の形を成した嘆きを放ちながら、いくつか影が感情のまま七結に追随する。時に白刀で炎を薙ぎ払いつつ、時に拷問道具を駆使して敵を盾にして攻撃を避けつつ、木々を縫うように走り進める。
「こんなところかしら」
 ある地点まで来たところで、足を緩め、振り返る。先ほどと変わらない数の亡霊たちがこちらを狙い追い回していた。
 そんな姿を確認してから、七結は改めてひとつの【思い】を心の中で反芻する。この村の状況下だ。辛い思いがあったと思う。言葉にしてみれば簡単なことだが、きっと七結たちには想像できない心境だったと思う。
 それでも、それでもだ。
「ごめんなさい。ナユはあなたたちに同情はしないわ。それが、ナユができるせめてもの〝情け〟だから」
 影との【同化】を拒むように言い切って、願いを込めるようにして両手を組む。
 すでに周囲一帯には、他の猟兵たちの姿はない。巻き添えをすることはなさそうだ。
 さあ、影を散らそう。激情に縛られた鬱屈とした影の姿から解き放たれる時は来た。美しい“あか”を見せつけよう。
「ご覧あれ、そして“あか”に歪みなさい」
 七結は念じる。そして願いは雨となって降り注ぐ。“あか”い、“あか”い、牡丹の花々がさながら雨のように降り注ぐ。
 優麗なるこの光景を前に、しかして影たちは消えていく。雨は時に害となる。なればこそ、花々が影たちを消し去るように降り注ぐのもしかるべきことだろう。
 一方で、雨は時に救いになる。なればこそ、この散りゆく花々の中で、嘆きの声が救われることもあるいはあったのだろうか。
 七結の“情け”を亡霊がいかに捉えたかは分からないけれど、一人たりとも逃すことなく、消失させることには成功したのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡・流
女性のみ襲われる事件。村の中で男性は見かけず。男が近づくと悲鳴をあげる精神状態。……過去に男性がらみで何かあったとしか思えないな。男である私では動きづらい状況か。とはいえ、これで退くようではクレリックの名折れ。今回の事件の大元ぐらいは断たせてもらおう。

それにしても聞き込みを続けていたら、何やら邪魔するものが出てきたか。
村人に被害が出る前に早々におかえり願おう。もし、近くに村人がいるようであれば非難するように声をかけよう。
本当であれば、ゼラの死髪黒衣を直接叩けるのがいいのだが、どこにいるのやら。

とはいえ、一人で動くには厳しくなってきたな。
誰かいないものか。そちらも探してみるか。


カイ・シュリック
予想よりずっと悲惨な事になっていたな……
話を聞かせてくれた人たちのためにもハピーを止めなければ

敵の数が多そうなので焼鏝を【鈴蘭の嵐】で花弁に変えて攻撃しよう
ともかく数を減らしていかないと
【傷口をえぐる】ことを意識してダメージを増やしていくぞ

相手が絶叫しそうなら懐に飛び込んで阻止を試みる
鋼糸で喉の辺りを絞めたりしたら止められないだろうか?
その時に鋼糸を引っかけたままにして【敵を盾にする】のに利用しよう
見た目は少女だが相手はオブリビオン、遠慮はしていられない

今回の件のきっかけはヴァンパイアだが……ハピー自身が何かしらの強い動機を持っているのかもしれない
だとしても助けられるなら早く助けてやりたいな




 闇夜に覆われた世界。その一端にある村全体に優しい閃光が走る。猟兵たちに目標となるオブリビオンを発見したと伝えるために繰り出されたセリア・エーデルワイス(善白に満ちて・f08407)の一計だ。
 確かに迅速かつ確実な、周到な策だ。異論はない。ただひとつ、懸念が心に引っかかっていた。
 鏡・流(境界線・f04077)はその閃光を確認してからも、村にしばらく残り、人々と接していくつもりである。
 無論それは情報収集のためであり、村人を苛む呪術の解呪のためでもある。だが、それだけではなかった。
「……ふむ」
 村を散策する中で、いくつかの情報を得た。
 例えばそれは不用意に男が近づくと悲鳴をあげられる村人たちの精神状態のことだってそうだ。控えめに表現にしても、まともな状態とは言い難い。
 一触即発。今の村人たちを言い表すのにこれ以上の言葉はないだろう。そのような中、いくらそれが猟兵の手によるあたたかな慈悲深き光明だとしても、正体不明の光に相対した村人たちに平静を保てというのも酷な話だ。
 おそらくは程度はあれ、パニックになる。流はそのように考え村に残って、村人たちのケアに回っていた。
 本来であれば、男性である自分の役目ではないのかもしれない。過去に男性がらみで何かあったとしか思えない。男である流では動きづらい状況なことは理解している。
 それでも。
「これで退くようではクレリックの名折れ。せめて、男性恐怖症を和らげるくらいのことはしなければ」
 男だからと嫌われても、避けられようとも、だからといって、見捨てる理由にはならないのだから。


 奇しくも同じく男性であるカイ・シュリック(紫苑の殺戮代行者・f02556)もまた村に残っていた。
 その理由は流と同じく村人たちのケアが主となっているが、加えてもう一つの気がかりを解消するためでもある。
「今回の件のきっかけはヴァンパイアだが……ハピー自身が何かしらの強い動機を持っているのかもしれない」
 リリー・ベネット(人形技師・f00101)の報告によれば、ハピーはかつてヴァンパイアの一番のお気に入りとして可愛がられたという。
 すなわち、一番、その身を酷使され、甚振られたということに他ならない。オブリビオンにその身を預ける強い動機をもつ理由としては十分だ。
 だからこそ、彼女のことについてもっと知る必要があるように思えた。自分の仕事には実直にありたい。ならば、調査を続行する。至極当然の帰結だった。
 セリアの光を観測してからも情報を集めようと村の方々を駆けまわる中、一つの異変が起こる。
『私――私の――』
 声がする。あるいは声というよりも、呪いなのかもしれない。地獄の底から浮かび上がったかのような、怨みに満ちた音が村に響き渡る。
 音から遅れるようにして、その呪いが形を成すかのようにぞろりぞろりと亡霊たちが村に襲来してきた。
 その姿かたちはいずれも女の姿をしており、中には身重と思しき外観の亡霊もいる。一目で判断がつく。あれは敵だ。害を成す、オブリビオンだ。
「一体何事だ」
 カイの背後から流がやってくる。ぷかりぷかりと浮かぶ【残影】の姿を認めると、彼もまた、ただちに武器をとる。
「村人に被害が出る前に早々におかえり願おう」
「ああ、もちろん」
 二人は一度顔を見合わせ頷き合うと、言葉はいらないと訴えるかのように接敵を試みる。
 炎塊をかいくぐり、懐に潜りこんだカイは焼鏝を振り上げ、粛清を焼き付けんとばかりに亡霊の一人に押し当てた。
 敵は亡霊ながら、なにか焼けるような嫌な音がする。手応えを得たカイは一度大きく距離をとり、敵の様子を窺う。
 敵は泣いていた。だが、それを拭う術はない。彼女たちを救うには、もはや滅ぼすほかにない。
『――やめて、痛くしないで、優しくしないで!』
 亡霊の絶叫。流とカイとはそれを聞き届けながらも、しかして手を緩める様子はない。
 ただ、不幸はその時起こった。
「――ネス、ちゃん?」
 騒ぎを聞いたのであろう村人の一人が、この場に駆けつけてしまった。そして、その名をぽつりと呟く。
 駆けつけた村人の様子を視認した亡霊の内一体が、流す涙を止め、睨みつけるかのようにして村人の姿を射抜く。
『あ、あ、あ、ああああああああああ!!』
 叫びは、呪いの発露だった。人の脳髄を食い散らかす呪いが、一帯に響き渡る。
 たまらず膝を折る村人を流はさっと拾い上げ、指先に光を灯す。天から得た輝きを絶叫する影に撃ち放つ。
 わずかに動きを止めた隙にカイは懐に潜りこみ、鋼糸を首を締め付けるようにして巻き付ける。果たして息をする生態なのかはわからないが、ともあれ呪いの叫びを止めることには成功した。
「カイさん。私はこの人を村へ送り返し、こちらへ近寄らないよう誘導しよう。ここを任せていいだろうか」
 流は村人を介抱し、【生まれながらの光】を与しながら、カイに問い掛ける。その答えを返すのに時間は要らない。答えは一つだ。
「ああ、こちらは任せてくれ。村人をよろしく頼む」
 カイの答えに、薄く笑みを浮かべると、カイにも【生まれながらの光】を授け、傷を癒す。それから、よし、と一言呟いて、流は全身に力を籠めるようにして唱える。
「願い奉る。我が身に打ち克つ力を」
 全身に活力がみなぎる。これならば村中に警鐘を鳴らすのにも苦労はしないだろう。
 村人を抱えて走り出す流を傍目に、カイは己が武器である焼鏝を花びらに変化させつつ、亡霊たちを見据える。
「見た目は少女だが相手はオブリビオン、遠慮はしていられない。ということだな。分かっていたつもりではいたが……いや。ともかく」
 数を減らしていこう、と花びらに命を下す。炎を召喚し、カイを焼き尽くさんとする亡霊たちのあがきも、先ほど縛り上げた影を盾にして難なく凌ぐ。
 花弁は刃を宿し、刃はすなわち敵を斬る。亡霊たちはさながら濃霧のように一帯に広がる花びらに切り裂かれていく。
 恨み言を吐きながら、この世の怨嗟を零して消えていく。村人は亡霊を見て【名前】を呼んでいた。影の正体は、もはや論ずるまでもない。
 状況は理解した。それでもカイ・シュリックは敵を屠る。敵の最後のあがきを防ぎ切り、呪詛を聞き届け、やがて敵は消え去った。
「……処刑、執行完了といったところか」
 処刑人として、敵の姿を見届けたカイは、流を手伝うべく再び村へと戻る。
 だが、そればかりもしていられない。終わり次第、本命を討つべく他の猟兵たちと合流を果たそう。
「……助けられるなら早く助けてやりたいな」
 黒衣を纏った経緯は分からないが、未だオブリビオンならざるハピーを救うべく、カイは速足で行動を再開した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セリア・エーデルワイス
向かっていった方向はかつてヴァンパイアが住んでいた場所…でしたね。
このまま突入するのは危険ですが、あまり時間もありません。
他の方と合流しながら、追いかけましょう。

取りつかれた少女…報告にあったパピーさんで間違いないでしょう。
あの時の叫びはまるで何かを嫌がっていたようですが…あれは取り憑いた黒衣が、というよりも、あの少女自身の叫びでもあったのでしょうか。
ヴァンパイアが残した傷というのは、想像以上に深いようですね。

残影の攻撃は【オーラ防御】を頼りにしながら、上手く距離を保っておきましょう。
攻撃の回避や防御に専念しつつ、傷ついた仲間の方は【未来謳う生命讃歌】で歌って回復に徹します。


リリー・ベネット
フランス人形のアントワネット、フランソワーズと共に戦います。

遠距離での攻撃は動きをよく見て避けるように。
範囲攻撃の際は素早く2人を引くようにしましょう。


アントワネットは機動力を生かした誘導、攻撃。
手に持ったナイフに塗った毒でマヒさせる事も可能でしょう。
周りの動きを確認しながら動かします。
基本的には皆様のサポートをします……フェイントで少しでもダメージを与えて隙を作れるように。
もし絶好のチャンスがあれば「歌う機械人形」でフランソワーズに漆黒の斧槍を持たせ攻撃です。

村の方々のため……全力で向かいます!




 向かっていった方向はかつてヴァンパイアが住んでいた場所……でしたね。
 鈴音の少女を追いながらセリア・エーデルワイス(善白に満ちて・f08407)は行き先を見つめて独り言つ。
 待ち受ける危険を考慮すれば、このまま突貫するのは危険と言わざるを得ない。ただ、黒衣の毒は刻一刻と少女を蝕み苛んでいる。
 時間がない。ゆえに、このまま彼女と戦うしかないのだ。
 そのことに対する改案は思い浮かばない。だが、彼女がなぜ城に向かうのか。セリアはいまいち腑に落ちなかった。
「彼女、取りつかれた少女は……報告にあったパピーさんで間違いないでしょう」
「ええ、そうでしょうね。あの親子の方々になんて報告すべきでしょう」
 セリアに言葉を返すのはリリー・ベネット(人形技師・f00101)だ。情報提供に協力してくれた親子を思い返しつつ、足を進める。
「そうですね、村の皆さんにもちゃんと報告できるよう救い出さなくちゃいけません」
 対するセリアもまた、その親子に世話になっている身だ。せっかく服まで借りたのだ。恩を仇で返すような真似は出来ない。
 ただ、救出を確かなものにするためにも、今心の中でわだかまっている気持ちは解消せねばなるまい。
「彼女はどうして、城へ向かっているのでしょう。あの城は本来トラウマの坩堝とも言える場所なはずです」
 まだまだ一介のシスターを自称する身なれど、そうした人の機微にはある程度精通しているつもりだ。だからこそ、不思議でならないのだ。彼女はあそこへ行って、何がしたいのか。
「……ゼラの浸食が、進んでいるというのはどうでしょう。実際このままでは、遠からず大規模な惨殺事件が起きるそうよ」
「その可能性も否定できませんが……」
 リリーの意見を真摯に受け止めつつ、セリアは蘭・七結(恋一華・f00421)と囮役を買って出た時に聞いた【叫び】を思い返す。
「あの時の叫びはまるで何かを嫌がっていたようです。でも、あれは取り憑いた黒衣が、というよりも、あの少女自身の叫びでもあったように思うんです」
 あくまで私の肌感覚でしかないですけれど、と付け加えつつ、セリアは告げる。リリーはふむ、と一度頷き、言葉を継ぐ。
「それは確かに解せない話ではありますね。ハピーの動機、といえるものがあるいはあの城にあるのかもしれません」
 言葉にしながら、リリーは考える。オブリビオンが関係している以上仕方のない話なのかもしれない。ただ、ハピーの意識が相応に残っているのであれば、村の連続殺人には多少なりともハピーの意志が与しているのではないか。
 それはある意味において、精神が完全に毒されている状態よりも、悲惨なことだ。なんとも救われない、思いを馳せ、一度目を閉じる。そして、一度かぶりを振ってからセリアに告げる。
「いずれにせよ、あの鈴の音を追いましょう。そうしなければ我々は何も解決できません」
「……そうですね、救いましょう。あの少女を!」


 人の姿を象った呪いが多数現れた。
 あまりの多さに一瞬辟易としてしまったが、そのうちの何割かを七結が引き連れていく。
 倒されるとは思ってはいないが、心配は心配だ。後を追おうかと思ったものの、七結の視線がそれを止めている。
 彼女なりの考えがあるのだろう。ならば、と改めて眼前に揺蕩う影を打ち破らなければならない。
 そうして敵を見据えると、亡霊たちの涙に濡れた視線が自分に集まっていることに気付く。
『――知らない』
『誰あなた、誰、誰なの』
『なんであなたはあの城に居なかったの――なんで、なんで』
 その視線の矛先は厳密に見ればセリアその人ではなく、村人の服を身に纏う見知らぬ人に向いていた。
 疑問に思いながらも、さりとて足を止めている時間はない。セリアは援護に徹するために亡霊たちから距離をとる。
 代わりにリリーが前線に躍り出て、自身が作り出したフランス人形、【アントワネット】と【フランソワーズ】を繰り出した。
 フェイントを交えつつ、他の猟兵たちのサポートをするように立ち回る。交戦が幾度かあった後、亡霊が叫びを挙げた。
『なんで、あなたは! 私たちは、私たちだって!』
 叫びは呪いに変じ、輪唱と化した絶叫は猟兵たちを苛まんと轟く。
 リリーは軽く歯を噛み締めながら、とっさに遠くへ逃がした人形の内の一体、紅の装飾に身を包むアントワネットに指示を下す。
「お願い! アントワネット!」
 命じられた機械人形の手には、毒の塗られたナイフであった。
 それをさながらダーツの名手のように、【残影】の喉を射抜く。よくやったわ、とリリーは自慢の人形を褒めつつ、次なるナイフを投げ渡す。
 同じ要領で振りかぶったナイフは、果たして敵の口内へ闖入し突き刺した。
「リリーさんありがとうございます! 猟兵の皆さん、私の力を預けます。道を切り拓きましょう!」
 絶叫の余波を【オーラ防御】で軽減に成功させていたセリアは、亡霊たちの呪歌に負けじと歌い始める。
 清廉なる歌声は、きっと猟兵たちの力になるはずと信じて。
「聖なる愛よ、燃え盛る命の灯火は太陽のように輝いて。そしてまた明日を導くだろう――」
 讃美歌――【未来謳う生命讃歌(サンビカ)】を歌い上げたセリアの周囲には、その歌に共感し力を取り戻した猟兵の姿があった。
 リリーもまた、その一人として立ち上がる。
 一方で、亡霊たちはひと際大きい苦悶の表情を浮かべていた。さもありなん、彼女たちにもはや明日はない。その歌は、過ぎ去りし影なる亡霊には、あまりにも輝かしかった。
「貴方たちの事情を考えてあげられなくてごめんなさい。でも、私達は進まなくちゃいけないから」
 リリーは空色のドレスを纏う人形、フランソワーズに命を出す。癒しと滅びとの歌が入り混じる戦場を断ち切るための、歌を紡ぐために。
「彼女の呪歌が、貴方には聞こえますか?」
 フランソワーズは漆黒の斧槍を携え、機械仕掛けの歌を奏でる。
 大柄な斧槍を薙ぎ払うようにしながら機械人形は歌い続けた。破壊力の増大された一撃は障子でも破るかのようにたやすく影を薙いでいく。
 その攻撃力はあまりに決定的だった。セリアの讃美歌により気力の尽きていた亡霊に既になす術はない。
 やがて歌が止んだころ、道は拓けた。
 他の猟兵たちが城へ歩みを進める中、セリアはぽつりとつぶやいた。
「今の敵は……」
 こちらの姿を見て、嘆きを強めた残影たち。女性ばかりの、中には妊婦もいた集団。そして彼女が今身に纏う服を見て、知らないといった理由。
 思い当たる節はひとつしかないけれど、だとすれば、彼女にできることはひとつだけだった。
「どうかあなたたちが、安らかな明日をいつか迎えられるように」
 祈ろう。これが今、彼女の成すべきことなのだと信じて。


 そして猟兵たちは、城へたどり着く。
 あちこちが切り裂かれた跡の目立つ荒れた城内を歩く中、その鈴の音が確かに猟兵たちの耳へ届いたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『ゼラの死髪黒衣』

POW   :    囚われの慟哭
【憑依された少女の悲痛な慟哭】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    小さな十字架(ベル・クロス)
【呪われた大鎌】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    眷族召喚
レベル×5体の、小型の戦闘用【眷族】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は吾唐木・貫二です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

蘭・七結
鬼ごっこはおしまいよ、ゼラ。
その子と鈴音の帰りを待っている人がいるの。
力ずくでも返してもらうわ。

首に連ねた指輪に口付け、〝かみさまの言うとおり〟を使用。
乞うように、願うように。その〝名前〟を呼ぶわ。
寿命を削るものだけど、ナユは気にしない。これは〝あなた〟を奪った罪と罰だものね。

戦闘力を増大させたら、愛用の斬首刃や2本の白刃を使って【なぎ払い】や【2回攻撃】、【フェイント】等を駆使しながら応戦。
極力は、彼女に憑依した黒衣だけを狙ってみるわ。

どうしてその子に憑依したのか知らないけれど、あなたの居場所はそこではないわ。
ゼラ、その子に手を汚させた罪は重いわ。
ナユがあなたに罰を与えてあげる。堪忍なさい。




 その城の現状を一言で表現するならば、無残、に尽きるだろう。
 遠くから眺める分には豪奢かつ堅牢な城を思わせたが、中に入った途端に、その考えは覆された。
 ――いや、本来であれば、かつての城主がいたころは、確かに豪華絢爛を体現した見事な威容だったに違いない。
 ただし今現在は違う、という話。
「鬼ごっこはおしまいよ、ゼラ」
 大きな部屋だった。何十人をも収容できる、大きな寝室だ。天井だっていやに高い。
 灯りがなく薄暗いため、はっきりとした部屋の全容を掴むことはできなかったが、それでもこの部屋も昔は驕奢をほしいままにしていたことだろう。
 今は見る影もない。壁は引き裂かれ、絵画はその価値を失い、絨毯もまた損傷が激しい。敵、ゼラの死髪黒衣がうずくまるように座るキングサイズでも足りないぐらい大きなベッドもまた、乱雑に斬られた跡が目立つ。
 蘭・七結(恋一華・f00421)は愛しき自身の箱庭である洋館を思い浮かべながら、呆れたように首を振る。
「ゼラ。あまり、その子に愚かな真似はさせないで。その子と鈴音の帰りを待っている人がいるの」
 七結がゼラ――その忘れ形見と相対するのは今回が初めてではない。かつてもアルマと呼ばれる子供から解放すべく、七結は戦った。
 あの時も、心が荒んでいた少女に甘言を弄して近づいた、という。今は傷ついているかもしれない、心が折れているのかもしれない。それでも、いずれは前を向いて生きていく。そんな人々の尊厳を踏みにじるゼラの悪行をやはり許せるはずもない。
 成すべきことは極めて明快。力ずくでも返していただこう。
『お前は知らないんだ。私達がどんな目にあったか。どんな思いをしたか! ――あの悪鬼の子を宿した、私達の呪いが!』
 うずくまった状態のまま、顔を上げず喚くようにして叫ぶ銀髪の少女。その声の【正体】が、どちらのものであるか、七結には分からない。
 七結はダンピールだ。実態は違えど、吸血鬼である父はどうだったか。ハーフ天使である母はどうだったか。あるいは大切な姉である、蘭・八重はどう思っているのか。
 思考を巡らすも、すぐにそれは詮のなき思案だと思い直す。七結の事情がどうであれ、彼女が求めているのは説得なんかではないからだ。
「あなたの境遇はある程度聞いてきたわ。ナユには分からないほど、辛い思いを重ねてきたと思う。それでも、あなたの身を委ねる【それ】は、あなたの呪う悪鬼と何も変わらないものなの」
 だから、目を覚まして。まだ、取り返しがつくうちに。
 七結は意を決し首に連ねた指輪に口付けを交わす。乞うようにして、願うようにして、少女を救わんと、その名前を呼ぶ。
「――『かみさま』」
 祈りが果たして届いたのか。
 普段の紫の瞳がその色合いを変える。彼女の瞳はいずこの世界で語られる猩々が流す血のごとく朱い。――すなわちそれは猩々緋と呼ばれる、鮮烈な赤。
 彼女が慕い、呼び寄せた『かみさま』を己が身体に宿した御身の力は絶大だ。今後とも訪れるあらゆる災厄を退けられる。確信があった。
 一方で、代償も大きい。
 『かみさま』を降ろした吸血鬼に変身したこの状態は、あまりに負荷が大きい。いわく、寿命を刻一刻と削ってしまう代物だという。
 だが、構わない。末恐ろしい気持ちはないといったら嘘になるかもしれない。だけどそれ以上に、彼女は思うのだ。
「(ナユは気にしない。これは『あなた』を奪った罪と罰だものね)」
 自身の掲げる指輪に向けて仄かにほほ笑むと、七結は敵と対する。
 敵は、こちらの姿に凝然としていた。様子から鑑みるに、単に変身したことに驚いているのではなさそうだ。何分、彼女の瞳は、怒りの炎を滾らせていたのだから。
『憎き、憎きヴァンパイア! お前を、お前をお前を! お前を私は討つ! だから私はここにいるんだ!』
 怒号を散らし、彼女もまた大鎌をとる。
 しのぎを削る時がやってきたのだ。


 銀髪の少女は大鎌を両手で持ち、こちらに駆け抜ける。
 最中、他の猟兵たちの攻撃を時に被弾するも耐え、辛くも掻い潜りながら、七結の元へとたどり着く。
 憎悪に満ちた視線が七結の赤き瞳と重なり合う。本能で感知する。痛烈な攻撃が来る!
『あ、ああああぁぁああああああ!!』
 絶叫を挙げながら、大鎌を水平に薙ぐ。当たれば確実に腹が割かれる鋭き一撃。
 そして悲痛に満ちた慟哭には、力が伴う。先の亡霊と同じ――此度の絶叫もまた、頭をかち割らんとする覇気があった。
 事実、最初に村の近くで交戦した時は足がすくんでしまった。それ故に、逃がしてしまった。
 だけど、今は。
「残念だけど、今のナユには効かないの。早く、取り戻さなくちゃいけないから」
 鬼気迫る少女の一撃を軽くいなしながら、七結は愛用の斬馬刀をもって下から上へ、押し上げるように振るう。
 断罪を降す一撃は、辛くも避けられる。しかし、それでいい。少女まで傷つけるつもりはない。今のはあくまでフェイク。本命は本体である黒衣、それだけだ。
 【奪罪の鍵杖】を、勢いのままに上空へ投げ捨てると、腰元にさしてあった二振りの白刃を取り出す。
 相反の字名をもつその二振りを掲げ、攻撃を避ける際に姿勢を崩した少女の懐へ素早く潜り込む。
 人智を超えた速さに少女が対応できるわけもなく、黒衣だけを狙った二撃を斬り込まれる。
 彼岸の者は彼岸へと、此岸の者は此岸へと帰す攻撃。だが、少女を取り戻すにはまだ足りないようだ。
『まだ、私は、私は!』
 大きく跳ねるようにして後退する銀髪。恨み辛みを吐き散らすも、やはり七結が理解してあげることはできない。
 救われぬ者に救いの手を差し伸べることは、あるいは彼女にはできないのかもしれない。だけど、だからこそ、少女がいずれ前を向くその時を阻害するゼラを討ち滅ぼすことが、彼女にできる使命なのだ。
「どうしてその子に憑依したのか知らないけれど、あなたの居場所はそこではないわ。ゼラ、その子に手を汚させた罪は重いと知りなさい」
 二振りを腰元に差し込み、見計らったように降りてきた斬馬刀を目配せもなく掴み取る。
 決着を早くつけなければなるまい。
『うるさいっ! この力があれば、私は!』
「……水掛け論は趣味じゃないの。いいわ。ナユが、ナユたちが【あなた】に罰を与えてあげる。堪忍なさい」

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイ・シュリック
どんな事情があろうとゼラがハピーを傷つけている事に代わりはない。
彼女を解放してやるのは俺達の仕事だ。

なるべくハピー自身を傷つけないよう、そして物騒な大鎌に気をつけつつ戦闘。
敵の攻撃はなるべく【武器受け】することを意識。
もし眷属が召喚されているなら【敵を盾にする】のも良いな。

【処刑術・脚焦がし】でなるべくゼラの動きを制限しに行こう。
お互い命がけだ、【捨て身の一撃】も厭わない。
【傷口をえぐる、なぎ払い】を駆使して相手にダメージを与えていくぞ。

俺に出来る事はハピーを助け出す事、心まで救うのは難しいだろう。
だが、その機会を作り出せるのは何より大きいはずだ。
彼女とこの村の将来は奪わせない。


満月・双葉
ユーベルコード冥界の女王の怒りを前に使い相手を動揺させた後、お姉ちゃん…『力を貸して』

死角利用を心掛け、連携重視
攪乱により隙を作らせ戦闘を有利に
こっちも目潰し狙いです

常に敵の隙を見逃さず先制攻撃を心掛ける

第六感や野生の勘を使い攻撃を見切り、見切れぬものはオーラ防御や盾受けで受ける
ダメージは激痛耐性で耐える

攻撃法はコロコロ変えて相手に把握させず予測も出来ぬように

パパ直筆の御札は恐怖を与える呪詛や催眠術
桜姫による傷口を抉りつつの生命力吸収攻撃から大鎌に変形させ、衝撃波による薙ぎ払い吹き飛ばす2回攻撃
大根による串刺し
薔薇の涙を投擲
スナイパーを利用しお兄ちゃんの銃で狙撃。零距離射撃も出来ますしね




 カイ・シュリック(紫苑の殺戮代行者・f02556)は処刑代行者である。
 復讐を代行する者としての使命をもって、彼は猟兵としての戦果をあげてきた。例えばそれは、ヴァンパイアと花嫁を巡る一件。彼は村の人々を悼み、報いるために戦った。
 しかるに今、彼はゼラの死髪黒衣を纏った少女と敵対をしている。その瞳の灯す色合いを、彼は良く知っていた。瞳があれなる色に染まった者が成す行為は、えてして決まっている。
 復讐だ。
 彼女はおそらく、復讐の念に駆られ、オブリビオンに身を捧げてしまったのだろう。
 村の人々と話していてさえ、ヴァンパイアの残した禍根は甚大なものだった。『一番のお気に入り』と称された彼女が受けた傷は心身ともに計り知れないものがある。
 迷走する彼女の気持ちを短絡的だとそしることなど、決してできない。ただ、それでも。
「こういう時のために俺がいるんだ。ハピー、もう少し待っていてくれ」
 歪んだ復讐に身をやつすことはない。それを請け負うのが、処刑代行者であるカイ・シュリックなのだから。
 ヴァンパイアがこの地を去り、せっかく訪れた平穏を無下にすることは、なかったはずなのだ。ましてや連続殺人事件などあっていいはずがない。
 どんな事情があろうとゼラがハピーを傷つけている事に代わりはない。カイはその思いを一層強めると、『かみさま』を一時還した蘭・七結(恋一華・f00421)と入れ替わるようにして前へと勇む。
『お前に何がわかる! それも男であるお前が、私の憎しみを晴らすことなんて出来るものか!』
 七結から受けた綻びも癒えきらぬまま、叫ぶ少女はカイを迎え撃たんと何十体ともいる【眷属】を召喚する。不気味な光景に思わず眉をひそめる。
 その眷属の姿は小さく、子供の描いた落書きのような歪な姿をしていた。顔を見ても、もはや誰か分からないけれど、かろうじて男のような外観をしていることは理解できる。そして、いずれもが猿轡を噛ませられ、後ろ手に縛られていた。
 少女の夢想の果てに生まれ、虐げられるために生まれた眷属。ゼラによる浸食は怖ろしいものがあると今一度再認識したカイは気持ちを立て直してなおも突き進む。
『散れ! 散れ! いなくなれ!』
 少女の悲嘆に応えるかの如く、眷属がこちらに飛びかかる。ある程度の戦闘力は有しているようだが物の数ではない。
 カイは己が得物である焼鏝を振り回し、迫りくる外敵を一撃で屠っていく。そんな様子に歯ぎしりを起こした少女は、自らも前に進み、代行者と相対する。
 ――りぃん。りぃん。あまりにも不釣り合いな鈴の音が、響き渡る。その音も、ヴァンパイアが支配する前には、村の人々を癒してきたことだろうに。今となっては少女の記憶を呼び起こすスイッチに他ならない。
『失せろぉっ!』
 少女が手にもつのは、大きな鎌。少女が握るにはあまりに物騒な代物だ。一撃でもまともに被弾すればひとたまりもないだろう。
 横に薙ぐ一閃を焼鏝で受け止め、続けざまに放たれた縦に振るわれた一撃は、都合よくこちらに飛びかかってきた眷属を盾にするようにしてかわす。
 そうした攻防を幾度か繰り返すうちに、カイは好機を得た。今なら、確実に!
「ゼラ、お前の罪が、脚を焦がす!」
 己が血液を、焼鏝へと回す。熱を帯び、さらには炎を灯し、少女の脚へ目がけて狙い打つ。
 好機を逃さず、すかさず繰り出した痛恨の一撃。カイには自負があり、事実その通りだった。じゅっ、と肉の焼ける音がする。攻撃は間違いなく命中した。
 だが、一つ、予定外のことが起こる。迫りくる炎を前に、少女が眼を見開いた。
『や、やめろ、やめてっ! 足は、また足を! やめて!』
 一層強まった悲嘆の念。カイは思い返す。調査によれば、足を何かしらの呪術で縛られていた少女たちがいたという。
 目の前の彼女もまた、あるいはそうだったのだろうか。真実がどうであれ、少女が叫びを挙げている事実は変わらない。足が焼かれるのを振り払うかのように、少女はカイに向かって鎌をもち【捨て身の一撃】を振るう。
 カイの攻撃はまだ浅い。【処刑術・脚焦がし】が全うされるまでには、もう少し、もう少しばかり時間を要する。
 退くのか。それもまた一つの手段だ。いや違う。本来であればそれが一番の正解なのかもしれない。
 それでも、彼女を解放することこそが、カイたちの仕事なのだ。
 武器を握らないもう片方の手で、迫りくる刃を受け止めんと構える。こちらもまた【捨て身の一撃】で応えよう。
 どんな事情があろうとも、ゼラがハピーを傷つけ、操っていることには代わりない。一方で、彼女が叫ぶ悲しみもまた、決して嘘ではないだろうから。
 受け止めよう。その上で、この悲劇に一旦幕を下ろそう。心を救うまでは難しいかもしれないけれどカイに出来る事はハピーを助け出す事なのだから。
 身体が傷つこうとも、少女の心が癒される、その機会を作り出せるのは何より大きいはずだ。
「彼女とこの村の将来は奪わせない」
 そして、カイの断罪の火はその使命を完遂した。だが、苦悶の声を挙げながらも、一度振るわれた鎌は勢いを落とさない。
 カイの腕が奪われんと覚悟を決めた、その時だった。
 ぱぁんという破裂音、立て続けにキィィン、と甲高い音が反響する。何事かと見やれば、銃弾により鎌を弾かれた少女の姿があった。
 事態を把握するよりも先に、カイは一度その場から離れ、距離をとる。群れを成す眷属の相手をしながら周囲を見渡せば、敵の死角になるような場所で銃を構えた猟兵の姿を確認できた。
 彼女の名は確か――。


 満月・双葉(星のカケラ・f01681)はさながら【スナイパー】のごとく的確さで敵の行動をそらすことに成功させた。
 よしと、一つ頷きをすれば、【お兄ちゃんの銃】をしまい込む。銃による狙撃もいいが、一度痛烈なダメージを与える必要があると判断した双葉は前線に躍り出る。
 鬱陶しく攻撃を繰り返す眷属たちを時には【桜姫】なる大鎌で薙ぎ払い、時にはオーラ防御などで掻い潜りながら、いよいよゼラの死髪黒衣の正面へとたどり着く。
 その瞳は変わらず、憎悪の他に何を映しているのかも分からない。だけど、それはきっと、ゼラによる呪いのせいでもあるのだろう。本来の少女は単なる被害者でしかなかったはずだ。
「村の人たちがこれからあなたとどう向かい合うかは分かりませんが、生きてさえいれば、きっとどうにかなります」
 命あっての物種だから、と呟くも、双葉の面差しは決して明るくない。自らの技を使うべきか、刹那の間思案するも、ただちに使うべきだと判断を下す。生きていれば何とかなる。それでも、生きていれば何かが起こる。
 そんな人生の荒波を象徴するような、彼女の必殺技。双葉は眼鏡をはずして、敵を見据える。
「――死んだ方が、まし?」
 双葉と黒衣の少女と、二人の視線が交差する。それはほんの一瞬だったかもしれない。ただしその一瞬は致命的だった。
『あ、あ、あ、あああああああああああああ!!』
 少女が何を見ているか、今の双葉には分からない。それでもきっと、死ぬよりも辛い恐怖を味わっていることだけは確信している。
 彼女の【冥界の女王の怒り(アンガーオブペルセポネ)】には、それだけの力があった。今は苦しいかもしれない、それでもこれからを生きるためにも、その苦痛には我慢してほしい。
「力を、貸して」
 思いを胸に、双葉は新たなる力を喚起する。暖かな気持ちが、身体を駆け巡った。【彼女】は何を思って、かつて言葉を遺したかは分からない。
 それでも、その記憶を胸に秘め、双葉は確かに生きている。偉大な親元を離れ、周囲から恐れられつつある喫茶店に身を寄せながらも、こうして。
「お姉ちゃん」
 ぽつり、と。
 双子の姉だったその人の名を呼ぶ。もう死んで久しいけれど、今でもこうして、彼女は自分に傍で見守っている。
 艶やかな黒髪の姉は、フルートを口元へ運び、華麗なる音色を響かせた。一聴するに、その音は慈悲深き音色に聞こえるかもしれない。
 しかしその実態は違う。かの音は、聞くものに狂気を与える不遜なる奏。『生死を視る』魔眼をもつ弟が弟ならば、姉は姉ということなのだろうか。
 偉大なる親の元に誕生した姉弟の内実はともあれ、恐怖と狂気との板挟みにあった黒衣の少女は、錯乱したように大鎌を振るう。
 乱雑に振るわれた攻撃を勘の頼りをもとに掻い潜り、凶悪なる【大根】で串刺しを試みたり、【パパ直筆の御札】を貼り付け、呪詛を唱えることで恐怖を上乗りしたり、と。
 とにかく多彩な攻撃で少女を翻弄する。元々七結やカイの攻撃の甲斐もあり、彼女の動きにも鈍りが見え始めた。
 ならば、と一度彼女の死角になるような場所に退散する。あとは格好の的だ。さらに生み出した眷属こそが邪魔にはなるが、大きな一撃を与えることには成功したのだ。
 必要とあらば、もう一度近づけばいいだけの話。そして彼女はもう一度、兄が昔使っていて、なんか流れで借りてきてしまった銃を構えるとスナイプを始める。
「生きよう、きっと話はそれからだから」
 きっと、その言葉は届いていないだろうけれど、双葉は静かに零す。
 生まれもった不可思議な能力の果てに磨かれた彼女の死生観で、黒衣の少女はいかように映っているのか。
 やっぱりそれは、双葉にしか分からないことだけど。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリア・エーデルワイス
ようやくここまで追い付きました…!
もうこれ以上、ハピーさんに罪を重ねるような真似はさせません。
ゼラ、ここで貴方を止めます。

やはり相手から放たれている怒りはヴァンパイアによるもの…その復讐心が原動力になっているのですね。

「貴方の身に起きた境遇を、今は深く知ることができません」
「それでも、これ以上手を汚せば貴方自身も引き返せませんよ」
「貴方が行ってる行為がたどる道は、呪いを残したヴァンパイアと同じ道ですよ」

戦闘は得意ではありませんが、言葉を投げかけてゼラの心へ訴えかけます。
それでもまだ止まらないのであれば、【オーラ防御】を使いダメージを覚悟で【神よ、人に導きの手を】を使って相手の動きを封じます。


月守・咲凛
【ワンダレイ】の仲間と一緒に行動。
ネージュさん気を付けて、女性は取り憑かれる危険があるのです!
まあ一番危なそうなのは私なのですが。
ブイバルさんと尾守さんが動きを止めたら、ネージュさんと一緒に黒衣をムラサメユニットのビームダガーでなぎ払って攻撃。
切り裂かれた布が不自然な動きを見せたら見切りで回避して、ネージュさんを狙っていたら援護射撃、自分を狙っていたら零距離射撃で撃ち抜きます。


リリー・ベネット
アントワネット、フランソワーズ、行きますよ。
これが最後の戦いです。
(真の姿の解放。
銀髪が伸び、左目は紫色に変化)

小さな眷属に対してはアントワネットで交戦、隙を作りフランソワーズで確実に仕留めます。
他の猟兵達が動きやすいよう、邪魔は排除して行きます。

大鎌での攻撃は凄まじいものでしょうが、アントワネットのフェイントで敵を撹乱させ、フランソワーズで攻撃します。
フランソワーズのパワーなら鎧砕きの如く大きな一撃を与えられるでしょう。


もう苦しむのはお終いです。
村の人々も、貴方も。


ブイバル・ブランドー
【ワンダレイ】の仲間達と行動するぜ!子供一人乗っ取って図に乗るなよ、このボロ雑巾風情が…!絶対引き剥がしてやる!(ネージュがな!)【ビルドロボット】で城にある硬そうなモノと合体し、ひたすら防戦に徹する。つまり囮になるんだ!憑依されてる子供に致命傷は絶対に与えないようにするぞ!オレが攻撃する箇所は大きい鎌だ…!武器を破壊しようとすれば、十分敵の気を引きつけることができるはずだ。ネージュが黒衣を破壊したらバイクに変形しておさらばする!(アドリブ歓迎)


尾守・夜野
【ワンダレイ】の仲間と行く。

あいつは助けるぜ。
絶対に。
だが、俺ら男が服を脱がすのは…

っというわけでネージュに服を脱がすのは託して俺は相手の足止めに回る。

まず、別人格の俺を呼び出し手伝わせる。
武器を構え威圧することで動きを止めようと試みる(恐怖を与える)
…これで止まってくれりゃ楽だったんだがな。

多少の傷は勘弁しろよ?
後は麻痺毒の滲む剣で腕や足を狙っていく。
死にはしねぇと思うぐらいの毒だ。
それでも止まらねぇなら呪詛で縛る。
そ れも無理なら気配を薄くした上で隠れながら縄で縛ろうとするぜ。
止めればあとは…
っネージュ任せた!!!
全力で他所を向く。
アドリブ歓迎


ネージュ・ローラン
【飛空戦艦ワンダレイ】の皆さんと共に駆けつけました。

この事件、悲しみだけで終わらせてはいけません。

【スカイステッパー】で敵の周囲を駆け回り、時々威力を絞った魔法で牽制します。
直接の戦闘は仲間に任せてしまいましょう。

彼らが敵の動きを止めてからがわたしの仕事です。
素早く近付きながらシークレットダガーを取り出し、彼女の黒衣を切り裂こうとします。
あ、男性陣は見てはいけませんよ。

無事剥がせたなら、わたしのヴェールを掛けてあげます。

戦闘後はこの子のケアをしつつ話も聞き出す必要がありますが、そこは事件に初めから関わっている皆さんの方が適役かもしれません。
自分に出来る事を探しましょう。




 飛空戦艦ワンダレイ。
 とあるキマイラを首領に据えて結成された集団の拠り所。集団に属するメンバーの内、四人もの猟兵がこの場に駆けつけていた。
「この事件、悲しみだけで終わらせてはいけません」
 ネージュ・ローラン(氷雪の綺羅星・f01285)の思慮深い祈りに、他の三名も頷く。当然だ。祈りを果たすためにこの城までやってきた。
 ならば、やるべきことは一つだ。あの忌々しき黒衣を剥がし、ハピーと呼ばれるらしい少女を、元の村に帰さなければ。
 ワンダレイの面々は己のなすべきことを見越して、それぞれに離散する。
 頼もしい限りだと背後を見やりつつ、尾守・夜野(群れる死鬼・f05352)は自身の首元に手を添えた。
 首元のジャボ――より正確な目的はその下の傷跡だが――を優しく労わるように触れる。戦闘に際してのルーティンであり、彼にとっては、【彼ら】を呼び起こすためにトリガーだ。
「仕事だぜ」
 呟き、己に言い聞かす。途端、ぐらりと視界が歪むかのような酩酊に襲われる。されど、それも一瞬だ。
 自分自身が、自分の知覚する光景が増える。脳が対応するために起こる、ある種のバグのようなものだ。彼にとっては日常その物であり、もはや慣れたものだった。
 あー、とぼやき、肩を回す。調子は悪くない。さて、対する今回の【相棒】はどうだろうか。視線を向ける。
「……意図することは分かるけれど、戦力としてはあまり期待しないで欲しいわね」
 傍らに立つ、自分と瓜二つの存在、【もうひとりの自分】は、何やら女性的な仕草で髪を手ですきながら答えた。
 しゃあねえだろ、と心の内で返す。きっと伝わってくれることだろう。なにせ、彼――いや、彼女だって、尾守・夜野その人なのだから。
 鏡写しの彼女は、ふう、と息を漏らす。仕方ないなと言わんばかりに、やれやれと肩をすくめるも、浮かべる表情は優しげだった。
「いいわ。あの子にとっても野蛮な他の私達より、私の方が幾分かマシってところでしょう」
「頼んだ。あいつを助けるぜ」
「ええ、絶対に」
 勝手知ったる自分同士に今更遠慮なんて必要ない。自分自身を信じている。今はナルシストな人格が表出しているわけではないけれど、それだけはいつだって自信をもっていた。
 男の夜野は麻痺毒を仕込んだ黒剣を、女の夜野はアンティークな外観をしている銃【Nagel】を構える。今更、黒衣の少女が武器を見せて怯む様子は窺えない。
「……これで止まってくれれば、良かったんですけど」
「仕方ねえか。行くぞ」
「ええ、でも本命は黒衣ってことを忘れないであげてね」
「大丈夫だ。ただ、多少の傷ぐらいは目を瞑ってもらわねえとな」
 どうせ、この毒だって死ぬような毒じゃねえ。彼は呟くと同時に、脚を一歩踏み出し、同時に加速する。
 一歩、二歩、三歩――、身体は軽い。自分自身に背中を預けているが故の安心感。多少無茶を通しても、背中の自分が対応してくれる。
 自身の人格の中ではきっと有数の優しさを抱いている彼女であるならばなおさらだ。眷属なんてなんのその、己が間合いまで詰める。
「あまり恨んでくれるなよ」
 するりと剣を振るう。滑らかな太刀筋、しかし大鎌の柄に阻まれる。
 敵も相当疲弊をしているはずだが、動きは機敏だ。もしかすると最後の力を振り絞っているのかもしれない。
 こちらの剣を弾くとともに、敵は袈裟懸けの要領でこちらに大鎌を振るう。速い。剣は弾かれ、もう一人の自分が持つのは銃、と防御には心もとない。
 ――されど、夜野はなんら心配していない。彼が信頼を預けるのはなにも自分自身だけではないのだから。
「うおおおおおおっ! オレの仲間に何しやがる! ボロ雑巾風情がッ!!」
 大鎌の軌跡の挟まるようにして、敵の攻撃をブイバル・ブランドー(ソニックアタッカー・f05082)の腕が阻む。
 この城の中にあった銅像と合体し、変身したブイバルの威容はおおよそ600cmほど。大きさとはすなわち力だ。大きいというだけで、時に相手を威圧までする。
 これはレジスタンスの時に活動する中で、いやというほど思い知った。さらにブイバルには自慢のスピードまである。力に速さを兼ね備えた今の彼に恐れるものなどありはしない。
「子供一人乗っ取って図に乗るなよ! オレたちが今助けてやるっ!」
 言うが否や、ブイバルは憑依された子供を傷つけないよう細心の注意を払いつつ、厄介な大鎌を打ち壊さんと掴みにかかる。
 大きな掌が迫ってきた。その光景が少女の思い出の何かに引っかかったのだろう。嫌悪感をあらわにした敵は後方へ下がる。
 しかし、敵に背中を見せる行為は、あまりにも無防備だ。夜野は駆け抜ける。
「わりぃな」
 極力深くまで斬らないように意識を向けながらも、確かに敵まで剣は届いたのであった。


 なぜ、ハピーと呼ばれる彼女が今回の凶行に走らざるを得なかったのか。
 分からない。いや、正しくは、推測ぐらいならば可能だ。ヴァンパイアによるもの……その復讐心が原動力になっているのだろう。
 けれども、気持ちの全てを知ることなど、誰にだって不可能だ。猟兵だって、心配していた村の人たちだって、ゼラだって、あるいは当の本人ですら百の理解を得られていないのかもしれない。
 これでも一介の聖職者だ。このぐらいのこと、理解はしている。ゆえにきっと彼女の性なのだろう。黒衣の下に浮かぶ瞳をしっかりと見据えて、投げかける。
「貴方の身に起きた境遇を、今は深く知ることができません――だからこそ、帰ってきて、聞かせてください。話せば楽になることだってあるはずですから」
 心の奥底を共有できなくても、猟兵や村の人たちならば心の拠り所になるぐらい出来る。言い放ってやろう。ハピーの居場所は『そこ』ではないのだと。苦しいこと、辛かったこと。言いたくても言えないことだってあったかもしれない。それもすべて受け止めよう。セリア・エーデルワイス(善白に満ちて・f08407)の懺悔室はいつだって誰かのために開いているのだから。
 言葉を投げかける。満月・双葉(星のカケラ・f01681)による幻覚が収まりつつあった黒衣の少女は、ぎろりとセリアをねめつけた。セリアは目を逸らさない。
 武器を構え、敵の攻撃に備える。戦闘は不得手だ。それでも、戦わなくてはなるまい。救わなければならない。貴方の歩く道は正しいものだって、いつか言ってあげるためにも。
「セリアさん、もっと声を投げかけてあげてください。それだけで、何かは救われましょう」
 励ますようにしてリリー・ベネット(人形技師・f00101)はセリアの肩を叩く。はい、と力強く答えるセリアの姿は慈悲深く、頼もしく見える。
 彼女の熱意に応えるべく、こちらも最善の手段をとらなくては。決意を固めると、リリーは愛する人形たちに呼びかける。
「アントワネット、フランソワーズ、行きますよ。これが最後の戦いです」
 焚きつけられた己の熱を止める術はもはやない。流れるままの熱量に身を預ける。心地よい波動が、身体の中で循環した熱量は、やがて行き場をなくして暴れだす。
 どこか、人形たちも好戦的な表情を浮かべているような――意識の端でそんな情報を掬い上げた直後、リリーの覚醒が始まった。
 翡翠のように煌めいていた左目が紫水晶の輝きに変じ、うなじが見えるほどの長さに切り揃えられていた髪も、長く伸びている。
 しかしこの場合、重要なのはそこではない。リリーからあふれるこの気迫こそが、何にも勝る変化であろう。
「覚悟してください」
 言葉は怜悧に。されど燃え上がる活力はなおも滾らせて。【真の姿】に覚醒したリリーは、攻撃を再開するのであった。


 群れる眷属はアントワネットで晴らしていく。主人の覚醒による余波は間違いなく人形にまで伝播している。
 さながら障子を破るかのように容易くさばいていく。縦横無尽に駆け巡り主人の道を切り開いていった。
 心強い姿を目の当たりにしたセリアは、自分に出来ることをやろうと強く決断する。リリーが背中を押してくれたのだ。呼びかけよう。彼女が心を開く、その時まで。
「貴方の受けた仕打ち、簡単には聞きました。さぞお辛かったことでしょう」
 言葉にしながらも、同時にこの言葉には何の意味もないんだろうと、セリアはここまでの黒衣の様子を見て感じ取っていた。
 体験したこともない自分が語り掛けるのも空々しいのかもしれない。それでも、伝えることにはきっと意味がある。彼女は思いを胸に言葉をつづける。
「それでも、これ以上手を汚せば貴方自身も引き返せませんよ」
 不意に、黒衣の動きが止まった気がした。一瞬だったかもしれない。気のせいだったかもしれない。
 それでも、信じよう。黒衣の内には、まだハピーの残滓とも言える心が残っているんだって。
 もう取り返しのつかないことはいっぱいある。だけど、取り返しがつくものは取り返そう。きわめて単純で、当たり前で、大事なことだ。
「貴方が行ってる行為がたどる道は、呪いを残したヴァンパイアと同じ道です。気付いてください、ハピーさん!」
 最後通牒の心づもりで、それでいいのかと問い掛ける。しばらく黒衣は無反応を貫き、迫りくる外敵の対処に徹していた。
 けれども、様子が変わる。黒衣の少女はうめき、苦悶の声をあげる。何事だと判断がつく前に、力をもつ【悲嘆な叫び】はまたしても猟兵たちを襲う。
 セリアは【オーラ防御】で軽減しつつ、少女の方へ視線を向けると、泣いているに見えた。
「――――わかんないよっ! 私が何をしたいかなんて!」
 ハピーは、声を荒げ叫ぶ。
「力をやるって言われても、もうあいつはいない! 私の苦痛を理解してくれる人もいない! ――こんな、こんな! 子供なんていらない! 死んじゃえばいい!」
 私は、何をすればよかったの。黒衣の下で濡れる瞳は、セリアを確かに捉えていた。
 残念ながら、セリアがその答えを持ち合わせているわけではない。きっと、誰もそんなものを持っているはずがない。
 持っているのだとしたら、セリアが毎日祈りを捧げている先の、高次の存在こそが握っているのだろう。それでも一つだけ、確かに言えることはあって。
「帰りましょう。村へ」
 帰ったとしても、彼女が救われるとも限らない。操られたと説明をしても彼女が村の人々を襲っていた事実に違いはない。
 猟兵たちが説明をするにしたって、村の人々がどう感じるかはそれぞれの意思に他ならないのだから。でも、ハピーは帰らなければならない。だってそれが。
「貴方が貴方を癒すために、貴方が貴方を許すために必要なことですから」
 村から逃げたところで、襲い来るのは自責の念ばかりだ。いつか自分の気持ちに潰される。
 ならば、一緒に償おう。罪を雪ぐために、日々を生きよう。それが、正しき道への第一歩だ。
 セリアは厳しくも微笑みながら、ハピーに手を差し伸べる。
「私は……」
 ハピーの声音が震える。泣いているのか、怒っているのか。きっとその両方なんだろう。
 されど、次第に声の色がなくなっていく。見れば、いつしか彼女の涙は止まり、先ほどまでの憎悪に滾った瞳に戻っている。
『――死ね、消えろ、私の邪魔をするな』
 あと一歩のところで、ハピーの意識は再びゼラの汚濁に飲み込まれてしまった。
 歯噛みするも、したところで事態は好転しない。ならば、あとはもう。
「ええ、あの衣を剥がしましょう」
 リリーは力強く、地を蹴り前に出る。
 セリアの言葉に意味は確かにあったんだと、確信を抱きながら。


 ネージュは空を蹴り、周囲を駆け巡りながら好機を探っていた。
 時に威力を抑えた氷の魔法で黒衣の少女を牽制するも、大きな隙は生まれない。
 ゼラとの融和をしていく中で、戦闘に対する立ち回りの技術も上昇していっているのだろうか。
 夜野をはじめとする猟兵の活躍により疲弊こそさせている。だからあと少し。
「ネージュさん気を付けて、女性は取り憑かれる危険があるのです!」
 幼き猟兵、月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)は自前のユニットの数々を駆使して飛行している。
 回数の都合上、時折は着地を求められるネージュの【スカイステッパー】と比べて便利なものだと思いつつ、咲凛の言葉に頷きを返す。
 確かに、ここまできてこちらに憑依されては溜まったものではないだろう。ゼラの黒衣に対する細心の注意を払う必要がある。
 警戒を胸に秘めつつ、戦場を見渡す。猟兵の何人かは眷属の処理に追われ、今黒衣と相対しているのはリリーという名の猟兵だ。
 その動きは激烈を極めており、赤い人形と己の徒手空拳とを駆使して、時にフェイントを織り交ぜつつ、本命の空色の人形を仕向ける。
 致命的な一打を受けてはいないようだが、黒衣が押されているのは明らかだった。
「あれが真の姿の力ということですか」
 惚れ惚れとしながら零すも、感銘を受けてばかりはいられない。
 リリーの動きに合わせて、なんとかして黒衣を切り裂けないものだろうか。
「でしたら、私はブイバルさんと動きを止められないか聞いてきます! 第二弾としてリリーさんとネージュさんにお願いするのです」
 宣言し、まもなくぽよぽよーと、巨大なブイバルへ近づき相談を交わしている。
 なるほど、第一波と第二波とに分かれて攻撃を仕掛ける算段らしい。確かにこれだけの人数がいるのであれば可能だろう。
 予定とは少しずれたものの、この作戦を決行しよう。
 ネージュは己が懐に隠した【シークレットタガー】を確認するようにさすると、再び機を窺いながら魔法による牽制を始めるのであった。


 咲凛はブイバルの位置と照らし合わせながら、都合のいい場所へ向かわんと飛行を続ける。
 今のブイバルの射程は広い。当然、射程という意味では咲凛の【ハナシグレ】をはじめとする銃器だって中々のものだと自負しているが、今回はお預けだ。
 少女その人を傷つけるわけにもいかないのだから、さもありなんというところか。
 リリーと黒衣の少女は未だ交戦中。軽微ながらも麻痺した腕を庇うようにして動く黒衣は鈍い。
 それでも痛打を受けないのはさすがというべきか、あるいは。
「しぶといですね」
 しぶといというべきか。だが、それもここで終わりだ。
 トドメを躊躇うつもりはない。あの人を早く村へと送還しよう。
「やりましょう!」
 リリーの猛打を躱している様子を認めると、ブイバルにサインを送る。任されたと言わんばかりにサムズアップを掲げたブイバルは、再度、黒衣の少女に向かって手を伸ばす。
「終わらそうぜ! 互いのためにもなっ!」
 熱のこもった叫びをあげる。先ほどは武器を奪わんとしたが、今度は少し違う。身体ごと、文字通りに掌握せんとしていた。
 繊細さが求められた先ほどの牽制とは異なり、勢いのついた牽制を仕掛けることが出来る。無論、そのまま身体を破壊しないようにはしないといけないが――。
『そう容易く喰らうものか!』
 リリーの攻撃を避けた先にあるブイバルの拳を、かろうじて避ける。
 それでいい。無茶な姿勢で固まる黒衣に対して、咲凛は急降下をしながら、1対のビームダガー【ムラサメ】を両手にもつ。
「そこです!」
 身体を傷つけないよう注意を向けながらもムラサメを振り下ろす。
 一撃目、ヒット! 二撃目――――ヒット! そのまま剥ぎ取らんと考えたが、そこまでの時間はないようだ。
 だが、十分だ。ブイバルが言ったとおりにぼろきれになりつつ黒衣を脱がすのに、もうそれほどの手間は要らない。
 

 勢いのまま急上昇をはじめた咲凛の様子を途中まで見守り、もう一度黒衣の少女へ向き直る。
 あと、一手。ワンダレイという集団の戦法に乗じよう。大きな隙を作る一撃を、黒衣に向けて放とう。
 気を高めて、己の人形に力を授ける。この世界には似つかわしくないほどに明るく澄んだ空色、いつかハピーの心もこんな色に晴れ渡る日が来ることを信じて。
「彼女の呪歌が、貴方には聞こえますか?」
 フランソワーズは漆黒の斧槍を携え、機械仕掛けの歌を奏でる。
 亡霊の時に取り出した斧よりも、幾分大きい。真の姿を解放している影響だ。
 強大かつ、強力。凄まじき破壊の力を秘めた一撃は、鎧をも砕くことだろう。
「――――!」
 機械仕掛けの歌に合わせて、2体の人形をけしかける。
 アントワネットの一撃は囮、フランソワーズの一撃もまた――囮だ。
『憎い! 憎い! すべてが憎い!』
 囮でもなんでも、仕掛けられた攻撃は避けずにはいられない。当然だ、そうしなければ負けてしまうのだから。
 ブイバルと咲凛とによる第一波による立て直しもままならないままに始まった第二波。
 アントワネットの一撃は辛くも避ける。ただし、フランソワーズの一撃はかわしきれない。堪らず大鎌で受け止めるも、力のあまり大鎌は破壊されてしまう。
 見事だと思う。執着にも似たしぶとさは、並々ならぬものがある。それだけ、活動源となっていたであろうハピーの憎しみは大きかったということなのか。
 ただ、今回に限って言えば、避けたところで黒衣の運命は変わらない。
「もう苦しむのはお終いです。村の人々も、貴方も」
 視界の端に、決着を付けんと空を蹴る猟兵の姿が映る。鎌を破壊され、大きな隙を見せる黒衣は格好の的でしかない。
 おしまいだ。めでたしめでたしかどうかは、これからのハピー次第になるだろうけれど。
「食らいなさい!」
 ダガーによる、一閃。大きく割かれた黒衣は、自然、少女の身体から剥がれ落ちる。
 ぴゅん、と音とともに、ネージュが引きはがし手に持っていた黒衣は焼けていく。
 咲凛によるビームによるものだ。させませんよ、先手必勝です! と胸を張る咲凛の姿を微笑ましく見守る。
 男性陣は見ないでください! 己のベージュを少女にかけながら注意を促すネージュの声を背後に、改めて銀髪の少女を見やる。
 気絶していた。――いや、当然と言えば、当然なのだろう。今はゆっくり休むと良い。
「私は彼女を村まで運びますね」
 セリアがこちらに近づき、ハピーの身体を労わる。
 付き合おう、最後まで。
「はい、よろしくお願いしますね」
 辛そうにしながらも、温かくほほ笑むセリア。
 いずれは一介なんてものではない、立派なシスターになることだろう。
 予感を胸に、ハピーの身体を抱きかかえる。バイクに変身したブイバルに少女を載せ、村へと帰還する。
 ――りぃん。
 ふと、鈴の音が聞こえた。
 いつかきっと、この音が福音になりますよう。
 リリーは一人祈りを捧げて、今回の任務を終えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月30日


挿絵イラスト