モノクローム・クエリー
#UDCアース
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●Justices or Evil
「君達は、自分を善だと思うかい? それとも、悪だと思うかい?」
ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)はグリモアベースに集まっている猟兵達に、そんな事を問いかけた。
「私に答える必要はないよ。私自身、どちらかと訊かれても困るからね。だけど、考えておいて欲しい――訊かれるから」
――何に?
「うん、尤もな疑問だけど、順を追って話そう」
ルシル曰く、UDCアースのとある地域で、欲望のままに暴れ出す人がいる。
窃盗。無銭飲食。恐喝。公共物の破壊。等々。
「その人達は、一時的におかしくなってしまっているだけなんだ。とある神性存在の復活の影響。一種の精神汚染だ」
彼らは皆、善悪の感覚を奪われ剥き出しの欲望のままになっている。
「その神性存在の名は『ルシル・セラフィー』」
奇しくも名の半分が同じ存在を予知するなんてね――と、ルシルは曖昧な笑みを浮かべて話を続ける。
「『ルシル・セラフィー』とは、かつて神と邪神、相反する存在の両方から加護を受けてしまった少女だったらしい」
一度は、2つの力の反発に耐えきれずに命を落とし――しかし躯の海より戻った。
善なる神と悪なる邪神、相反する2つの力を持つ存在として。その小さな背中に広がる白と黒の色違いの翼がその証。
「はたして『邪神』と言ってしまって良い存在なのかな」
そこに迷いを感じたから、ルシルは敢えて邪神と言わず神性存在と称したのか。
どうであれ、猟兵として倒すべき敵であることは変わりない。
「さて、まずは『ルシル・セラフィー』の影響で善悪の感覚を奪われた人々を止めて、説得して回って欲しい」
精神汚染は一時的なもの。
半日も隔離しておけば、元に戻る。
「だけど半日待っていては、『ルシル・セラフィー』はより完全に近い状態で復活してしまうからね。不完全な復活で止める為にも、彼らを止めて説得した上で、最近の行動範囲を聞き出すんだ」
その行動範囲には、共通点がある筈だ。
その共通点こそ、『ルシル・セラフィー』の復活の儀式が行われている場所。
「そこには別のUDCもいる筈だよ。人々の欲望を剥き出しにさせた存在が」
儀式の護り手にして、儀式の遂行役。
「それが何者なのか、予知では光に覆われて視えなかったのだけれど。代わりに『ルシル・セラフィー』の方はもう少し詳しく判っている。アレは――不安定で歪だよ」
オブリビオンとなった今でも、2つの力は完全に定着しているわけではない。
善悪の均衡。相反する力のバランスは、どちらかの力を振るう度に崩れていく。
「戦いの中で、善悪の均衡は崩れて力は暴走する」
力の傾きが大きいほどに、その暴走の力も強くなる。
「問題は力の暴走を起こさせない手段がない事だ」
なぜなら、訊いてくるからだ。
――善であるか、悪であるか、と。
其れはただの問いに非ず。
「『ルシル・セラフィー』は皆がどんな力で攻撃したかでは、判断しない。問いに対する答えだけで判断する」
白の翼は善神の翼。放たれるは戦意を喪失させる力。
黒の翼は悪神の翼。放たれるは理性を喪失させる力。
「答えで敵の攻撃が決まるだけなら、問題はないのだけれどね。問題は、左右の翼の力を行使した数の差が大きい程、暴走の力が強まってしまうんだ」
問題は、もう1つ。
「復活した時点で『善悪のバランスが取れている』保証は出来ない」
人々が善悪の感覚を失った事が儀式に影響しているのは間違いない。そして、善悪の価値観など人によって様々だ。全ての人間が中庸である筈がない。
「その上で。暴走の力を抑える事は可能だよ。善か悪かの問いかけに、正直に答える必要は一切ないのだからね?」
仮にも神性の存在。口先で騙せる相手ではないだろうが、騙せない相手でもない。
戦局を見て、己すら偽り神を騙すのか。
どんな状況であれ、己を貫くのか。
「答えない、というのはどちらの翼の力を使われるか判らない点で、悪手と言える。だから――この先に行くなら、考えておいて欲しい」
そう言って、ルシルは転移の準備をはじめた。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
今回は、『善と悪』をテーマにしたシリアスなシナリオ……になる予定ですが、PBWのシナリオは生き物なので。
終わってみたらどうなってるでしょうね。
1章は冒険。邪神の影響で欲望のままに暴走している人を止めつつ、情報を集めて頂きます。
2章は集団戦。詳細は伏せますが、欲望を詳らかにする類の敵が出ます。
3章はボス戦。
1章でどんな人をどう助けるか、2章でどんな欲望を見せられるか。
それらの要素は、3章に少しずつ影響していく予定です。
また、詳しくは3章開始時に記載しますが、ボスのユーベルコードの使用基準が通常のパターンとは異なるものになります。
判定自体は、同じ能力値で行うのは変わりません。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 冒険
『君の私の説得力』
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POW : 力に物を言わせて説得する
SPD : うまく言いくるめることで説得する
WIZ : 直接精神に働きかけることで説得する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●街並み――今はまだ穏やかそうな
転移で辿り着いた先は、とある駅前だった。
駅を背にした目の前は繁華街になっており、繁華街を抜けてしばらく歩けば住宅街になっているようだ。
駅の規模はそこそこ大きく、駅前の人通りはまばらだが完全に途切れる時間も少ない。
UDCアースの基準で言えば『良くある街並み』である。
そんな街のどこかに精神汚染を受けてしまっている人達がいる。猟兵達は彼らを探し出し、説得するべく、街へ散って行った。
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1章の補足です。
プレイングでは、どんな人を見つけてどう説得するか、を主にかけてください。
性格、性別、精神汚染の影響、等々。自由にどうぞ。
どんな人はお任せでもいいです。その時は説得に噛み合うようにこちらで設定します。
なお『どんな人』と説得内容の善悪は、3章に若干影響します。
説得のシュチュエーション、場所なども自由です。
街の施設や様子は自由に書いていただいて構いません。
UDCアースで良くある街、にしてありますので、UDCアースの都市にありそうなものは大概出せます。
城みたいな大豪邸とか樹海とか言われると、流石にううん、と唸りますが、どうしても辻褄が合わない部分はマスタリングしますので。
執筆は11/2(土)からの予定です。
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フィーナ・ステラガーデン
欲望のままに動いている?大いに結構ってやつじゃないかしら!
だいたい善とか悪とか好きとか嫌いとか最初に言い出したやつはどこのどいつなのかしら?
そうやって正しいを決めつけて託けるやつが出てきて話がややこしくなるのよ!シンプルが一番よシンプルが!
っていっても他人に迷惑かけるのはよくないわね!
ルールは破ってもマナーは守るべきよ!
善とか悪とか知らないけど私の独断と偏見で裁いていくわよ!
ってわけで住宅街とか公園を探索するわ!
ターゲットは弱者、子供や老人に対して暴力なり恐喝なり働いてるやつね!
説得?んなもん間髪いれず鉄拳制裁よ!!
反吐が出るわ!恥を知りなさいよ!
(アレンジアドリブ連携大歓迎!)
●この頃はやりかもしれない物理系魔法少女(20歳)
近年、UDCアースでは都市の緑化と言う目的で作られる公園がある。
そう言った目的の公園には、当然ながら木々が多い。故に人目につきにくい木陰も出来やすく――そう言う木陰は、良からぬことをするのに適した場所だ。
ザッザッザッ――。
枯れ草や枝を蹴散らし、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)は公園の中にある木立を駆けていた。
同級生が知らない人に連れ込まれるのを見た――と言う学生の情報を得たのだ。
(「善とか悪とか好きとか嫌いとか、最初に言い出したのって、一体どこのどいつなのかしら?」)
木立を駆けながら、フィーナは胸中で呟く。
(「『正しさ』を決めつけて託けるやつが出て来ると話がややこしくなるのよ! シンプルが一番よシンプルが!」)
善悪の感覚を奪うと言う今回の件に、思う所があるのだろう。
「ちっ。これっぽっちか。やっぱガキより年寄りの方が、金持ってたか?」
そんなフィーナの耳に、覚えのない声が聞こえてきた。
視線を向ければ、1人の若い男が財布の中身を物色していた。
金色のピアスやネックレスをジャラジャラと付けた男の風体。そして、足元に蹲ったブレザーの制服姿の少年と言う構図を見れば、その財布が男のものでないのは、火を見るより明らか。
そう判断したフィーナは、先に胸中で呟いていた言葉通り、シンプルに動いた。
ガササッ。
足音が立つのは気にせず、地を蹴って飛び出す。
音に気づいた男が見たものは、揺れる長い金髪と、その上にある黒いトンガリ帽子。
「くぉらぁぁぁぁぁ!」
「ぶべらっ!?」
如何にも魔女なその出で立ちに男が目を奪われた刹那、フィーナの拳が問答無用で男を殴り飛ばしていた。
「よっと」
もんどり打って倒れる男の手から離れた財布を、フィーナの手が空中で掴み取る。
「アンタのでしょ? 大丈夫? 立てる?」
「あ、ありがとう……ございます」
フィーナが財布を差し出した財布を受け取ると、少年はよろよろと立ち上がった。
「一応聞いておくけど、アレ、知ってる人?」
「え、えっと……知らない人です。学校帰りに、いきなり絡まれて」
フィーナの問いに、少年は首を横に振る。
「そう。もう気にしなくていいから。行った行った」
困惑している少年の肩を掴んで強引に回れ右させると、フィーナはこの場から離れろと背中を押し出した。
そして、数分後。
「スンマセンでした」
目を覚ました男は、フィーナの前で土下座していた。
鉄拳制裁の衝撃に加え、自分よりも遥かに小柄なフィーナに拳一発でのされたと言う精神的ショックが男を正気に戻したようだ。
「その……俺、借金が溜まってて。借金取りから逃げてる内に、なんか急に誰でも良いから金を取っちまえばいいじゃんってなって……」
「ふーん。で? おかしくなったからルールを破っても許されるとでも?」
絞り出すように告げる男を、フィーナの赤い瞳が冷たく見下ろす。
(「ったく。欲望のままに動くのは結構だけどね――」)
胸中で嘆息したフィーナに、欲望それ自体を否定するつもりはない。フィーナ自身、自分の感情で動く部分というのはあるものだし。
とは言え、それも他人に迷惑かけない限り、だ。不可抗力でかけてしまうものならばまだしも、意図的に他人を害する等――フィーナの中では、許せる事ではない。
もっと凄惨なものも飽きるほど見たけれど――だからこそ。
「ルールは破ってもマナーは守るべきでしょうが! 自分より弱い者をターゲットにするなんて、反吐が出るわ! 恥を知りなさいよ!」
故にフィーナは、自身の感覚で男に言い放つ。
「それはそれとして、アンタ最近、普段行かないとこ行かなかった?」
「へ? え、ええと……」
さらりと話題を変えたフィーナに目を丸くしながら、男は問われるまま、記憶にある場所を手帳に書き出した。
精神汚染者:借金に追われる若者の恐喝(悪+)
説得:鉄拳制裁――成功(被害を最小限に止めた。善+)
行動範囲:この公園、映画館、町外れの神社、駅前のスーパー
大成功
🔵🔵🔵
九泉・伽
善か悪か、全ては結果が決める
確定するのは他者―観測する彼ら次第で俺は如何様にも姿を変える
なぁんて、伏線はこれでOK
*対象
自分を殺して生きてきた中学生(性別お任せ)
町中で母親の側で器物を破壊し暴れていたが
庇われる妹を前に怒りが爆発し殴りかかる所を阻止する
*説得
キミはどうして頑張ってきたのかなぁ?
自分を押し殺してずっと良い子だった
妹さんの為に我慢もしてきたんだろうと思う
…それが当たり前で、だからもっと「頑張れるよね」って
まるでゴールが遠ざかって永久に終われない徒競走、やめにしたいと望むのは当然
でもこんなぶちこわし方は駄目だよ
漸く言えたんだから、もうゴールしたいって
ねぇ、お母さん
もっと聞いてあげてよ
●ミルクが溢れて戻らなくなる前に
カシャーン、と乾いた音を立てて電灯のガラスが砕け散る。
――なんだ、傘がお店の広告に当たっただけか――。
自分が振り回した傘が起こした事を他人事の様に認識して、制服姿の少女はもう先端が曲がりかけている傘を再び振り上げ、振り下ろす。
砕けた破片が、辺りに飛び散る。
「やめなさい! 何でこんな事――!」
少女の視線の先には、まだ真新しいランドセルを抱えた妹を庇うように抱きかかえる母親の姿。
咎めるような母の視線か、或いは不安そうな妹の視線か。
「っ――!」
一体、どちらの視線が自分を苛立たせるのかも良く把握しないまま、少女は湧き上がる怒りに身を任せて傘を振り上げ――。
いつの間に、そこにいたのか。
横から伸びた九泉・伽(Pray to my God・f11786)の手が、パシッと軽い音を立てて少女の腕を掴んで止めていた。
「駄目だよ」
気怠そうな伽の声と煙草の匂いが、少女の耳と鼻に付く。
「っ」
「おっと、失敬」
煙を気にしてか離れようとした少女の手からスルリと傘を奪い取って、伽は咥えたままだった煙草を携帯灰皿に押し込んだ。
本当にうっかりしていたのか、少女が煙を嫌がる事まで計算してわざと咥えたままだったのか。伽の表情からは伺い知る事は出来ない。
「どうしてなの? ずっと頑張って来たのに、こんな、受験も近――」
少し上擦った母親の声を、伽が無言で向けた指で遮る。
「キミはどうして頑張ってきたのかなぁ?」
そうして、母親と妹の姿を隠すように少女の前に立って、伽は口を開いた。
「妹さんの為に我慢もしてきたんだろう。ずっと良い子だった。自分を押し殺して」
「――がう」
伽が続けた言葉に、今度は少女が口を開く。
「違わないけど違う! 我慢したくてしてたんじゃない!!」
絞り出すようだった声は、すぐに大声に。
「ああ――それが当たり前で、だからもっと『頑張れるよね』って?」
「そうだよ! 皆が皆、私が姉になってからずっとそう! 姉だからとか優秀だからとか成績良いからとか姉だからって! だから我慢するしかなかったっ!!」
堰を切った言葉は止まらない。
尤も――半分は伽がそう仕向けたのだけれど。精神汚染が切欠であれ、限界を迎えているのならば、溜め込んだものを吐き出させた方が良い。
「何処まで行けば終わるのか判らなくなったんだね。まるでゴールが遠ざかり続けて、永久に終われない徒競走。やめにしたいと望むのは当然」
奪ったままだった傘を少女の目の前に掲げて、伽は告げる。
「でも、こんなぶちこわし方は駄目だよ。一度壊してしまったら、元には戻らないものもあるんだから」
少女が怒りに任せて振り回した傘は、このままでは傘として使えまい。
「漸く言えたんだから、もうゴールしたいって」
伽は淡々と諭すように告げて、少女の手に傘を戻す。
戻した所で、今は何に使える訳でもない。
傘が止められるのは雨だけで、嗚咽を止められはしないのだから。
「ところで、最近、普段行かない所に行かなかった?」
暴れて叫んで吐き出して泣いて。
そうしている内に落ち着いたらしい少女は、伽の質問に記憶を探り探り、手帳にペンを走らせる。
「学校と家と塾以外で、最近行ったところ……これで全部だと思う」
「ん。ありがとう、もういいよ」
手帳の頁をポケットにしまいこんで、伽は屈んでいた膝を伸ばす。
そのままくるりと踵を返し――。
「ねぇ、お母さん。もっと聞いてあげてよ」
告げた言葉に母親が黙って頷くのを横目で確かめ、伽はその場を後にした。
これ以上の後始末は、UDC組織に任せればいい。
そも、あの母娘の問題を全て解決出来たわけでもない。
「俺がやったのは、この場を収めただけ。善か悪か。全ては結果が決める」
そして結果は、誰かの視点の観測によって確定する。
神たる器は、何処かで見ているか?
「俺は如何様にも姿を変えるよ――観測する彼ら次第で」
なぁんてね、と笑って、伽は新しい煙草を咥えた。
精神汚染者:自分を押し殺していた中学生の少女(善+)
説得:言い聞かせる、成功(善+)されど告げた言葉により(悪+)
行動範囲:図書館、町外れの神社、映画館、駅近くの公園
大成功
🔵🔵🔵
幻武・極
善と悪ね
そんなものは見る側が変わればくるくる変わるものだからね。
まあ、あの子の影響で善と悪のたがが外れたんじゃ、話は変わってくるね。
とりあえず、子供を探すかな。
子供は感受性が高いらしいから、影響を受けやすそうだしね。
あれはいじめだね。
武器まで使ってしまったら、さすがにまずいね。
まずは武器受けで受け止めて、いじめられていた側を逃がすよ。
そして、いじめていた側にそれで満足した?と聞いてみるよ。
だって、いつもは逆の立場なんでしょ。
まあ、満足してたらさっきの子と同じだけど、キミはずっと我慢してきたんだもんね。
今度はその我慢をやり返すのではなく、言葉にしてみるといいよ。
●それが武器となる前に
(「思ったより見つからないね。意外と多くないのかな、あの子の影響を受けた人」)
あの子――街中を駆ける幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)はがそう称したのは、今回の元凶と伝えられた『ルシル・セラフィー』の事だ。
あの子と呼ぶくらいには、極はかの存在を知っているようだ。故にか、極は探す対象を絞っていた。
(「いるなら、この辺りだと思うんだけどな」)
――るさいっ!
胸中で呟いていた極だったが、遠い声が聞こえたと認識した瞬間、弾かれた様に方向を変えて飛び出した。
「や、やめろよ! それは危ないって」
「やめろ? 危ない?」
「やめろって! 危ないって! ボクが同じことを何度も言っても、オマエは聞かなかったじゃないか!!!」
やがて見えた姿は、幅の広いカッターナイフを振り上げた淡い色の髪の少年と、その前にへたり込んでいる黒髪の少年――極と同じくらいの年の頃の、2人の子供だった。
(「思った通りだ。子供は感受性が高いらしいからね」)
「聞こえない耳なんか、要らないだろ!」
その1人がカッターナイフを振り下ろす直前、極はその前に飛び出した。
「武器まで使ってしまうのは、流石にまずいよ」
「だ、だれ!?」
驚く少年の目には、突然現れた極が二本の指でカッターナイフを挟んで止めた――そんな風に映っていたかも知れない。
「よっと」
少年が我に返る前に、極は軽く腕を捻って、指で挟んだままのカッターナイフの薄い刃を折り砕く。
「それで満足した?」
「え――?」
極に問われた少年は、その意図が判らずますます目を丸くする。
「だって、いつもは逆の立場なんでしょ。キミがいじめられてる」
「――っ」
「わかるよ。そのくらい」
驚き言葉を失う少年に、極はさらりと返した。
聞こえていた声と状況で、この状況が復讐の類であると判断するのは難しくない。
問題は――他にある。
(「これは、どっちが悪なんだろうね?」)
そこだけは何とも言えず、極は胸中で呟く。
(「善と悪。そんなもの、見る側が変わればくるくる変わるものだからね」)
発端は、未だへたり込んでいる少年の方なのだろう。
ならば、復讐は――どちらだろう。
おそらく、昨日今日始まったものでもない。かと言って、これ以上深くは極に介入出来る部分でもない。
「満足した?」
それでも、この場で出来る事をしようと、極は問いを繰り返した。
「してない。邪魔されたし」
「じゃあ、聞き方を変えよう。やろうとしてたのは、良い事かな、悪い事かな? 邪魔されなくても、満足できたと思う?」
極の赤い瞳が、少年をじっと見つめる。
「良いか悪いかなんてわかんない……けど、満足しなかった、と思う」
何度か視線を彷徨わせた少年だが、根負けしたように溜息混じりに口を開いた。
「良いんだよ、それで。満足してたらさっきの子と同じだけど、キミはずっと我慢してきたんだもんね」
その言葉を、極は頷き受け入れた。
少年の瞳から剣呑な色が薄れて、手から、刃を失った文房具が零れ落ちる。
「立てる? よし。キミは早く帰りな」
へたり込んで怯えたままだったもうひとりの少年の手を極が掴んで、半ば強引に助け起こしてこの場から去るように告げても、少年は何も言わなかった。
「落ち着いた所で、話があるんだけど? 最近、いつもと違う所に行ったかな?」
「違う所……」
極の問いの意味がよく判ってない風ではあったが、少年は差し出されたメモ帳にペンを走らせた。
「ありがと。今度はあの我慢をやり返すのではなく、言葉にしてみるといいよ」
少年が書いたメモを受け取りながら、極はアドバイスになればと言葉を続ける。
「だけど、あいつ、僕が何言っても聞いてくれなくて――」
「……行き詰まる事もあると思う。そんな時は意外と、寝たら解決策を夢に見たりするかもしれないよ?」
自身の経験を交え笑って告げた極を、少年は不思議そうに見ていた。
精神汚染者:いじめ返した子供(どちらとも言えず。善+、悪+)
説得:言い聞かせる、成功(善+)
行動範囲:町外れの神社、図書館、駅近くの公園、ホームセンター
大成功
🔵🔵🔵
黎・飛藍
※アレンジ・アドリブ可
善と悪…?
…深く考えると深みに嵌ると聞くやつか
適当に繁華街を歩いてみる
他者の顔を読み解けないのが、こういう時に少し辛いな
その代わり耳に入る情報からある程度推察はする
状況的にどう見ても解体作業じゃない破壊活動やら、一方的な言い掛かりをしていたら、多分該当するんだろう
そういう奴を見つけたら、落ち着かせる
逆上するようだったら好都合。物理的に大人しくさせる口実が出来る
ある程度落ち着いたなら話を聞く
振り返ったら何でそんな事とか反省すればいいが…
その際に、最近何処かに行ったか
もしくは何処かで、変な活動をしてる輩を見た事が無いか聞く
●見えない顔の裏の見えない表情
(「善と悪……深く考えると深みに嵌る、と聞くやつか」)
そんな事を胸中で呟きながら、黎・飛藍(視界はまだらに世界を映す・f16744)は馴染みのない繁華街をぶらりと歩いて、その境を見失った人を探していた。
とは言え、その視線は何かを探ってはいない。
飛藍は、他人の顔を判別することが出来ない。
それはつまり、他者の表情を読み解けないという事でもある。
「こういう時に少し辛いな」
それはかつて毎日のように繰り返された実験の後遺症。今すぐにどうにかなるものではない。だから飛藍は目ではなく、己の耳に頼っていた。
耳を済まして、周囲の音に意識を傾ける。
車道を行き交う車の音や、自転車のベルといった日常の街の音を押しやり、行き交う人の声に集中する。
――ねえ、見た、さっきの。
――うん。モノに当たって、ヤバイよね。
――あんな事する人じゃ無いと思ってた。
「ふむ」
それらの中で、飛藍が気に止めたのは、ヒソヒソと囁く女性達の声。
「少しいいか?」
唐突に声をかけられた女性達は一瞬怪訝そうにしたが、その表情も飛藍には見えていなかった。
「このっ!」
ガゴッ!
「なんでっ! お釣りも何も出ないのよ!」
ゴシャッ!
妙に堂に入った怒声と、硬いものが金属を叩く音が響いている
飛藍よりも年上そうな、長い黒髪の女性が自動販売機を鉄パイプで叩き続けていた。
「どう見ても解体や交換作業じゃないな」
鉄パイプを振り回す動きも、妙に手慣れた感はあるが、アレは道具ではない。
何らかの要因による衝動的な行動の可能性は高い――そう判断した飛藍は、女性の背中に敢えて気配を殺さず近寄った。
「どうした?」
「っぁ!?」
少なからず足音も出ていた筈だが、それでも男は飛藍の声に驚いたようで、その口から変な声が漏れ出る。余程、自動販売機を壊す事に集中していたのだろうか。
「何があったか知らないが、落ち着け」
「お、落ち着いていられるもんですか!」
飛藍が気を落ち着かせようとする、女は鉄パイプを持った手を振り上げる。
「この機械は! わたしのお金を奪ったのよ!」
要するに機械の故障と言った所なのだろうが、すっかり興奮しきっている女は口角泡を飛ばす勢いで、飛藍に食って掛かる。
(「物理的に大人しくさせてもいいんだが……」)
飛藍は溜息をひとつ零し、片手を軽く掲げて掌を開く。
「面倒だな。寝とけ」
飛藍の掌からふわりと広がった睡蓮の香が、女を瞬時に微睡みの中に突き落とした。
「おい、起きろ」
寝込んだ女から鉄パイプを取り上げ、自販機が見えない植え込みまで運んで座らせた所で、飛藍は頬を叩いて起こしにかかる。
「ん……むぅ……」
2,3度、頭を振った女は、飛藍の顔をじっと見上げて――。
「面倒をかけたわね……」
毒気の抜けた声で、ポツリと告げた。
「お釣りが出てこなくてね。テレビみたいに叩きゃ直るのでは、と思ったら若い頃の様に叩かずにはいられなくなって……」
「若い頃?」
男の言葉に引っ掛かるものを感じて、飛藍は思わず聞き返す。
「うん。まあ、私も昔は色々と鳴らしてて」
――何をだ。
喉元まで出かかった言葉を、飛藍はぐっと飲み込んだ。
「まあ、落ち着いたなら振り返って反省すればいい。魔が差したとか、誰にでもあることだろ。多分」
代わりに告げたのは、口調はつっけんどんながら飛藍なりのフォローの言葉。
「ところで、最近行った場所を聞かせて欲しいんだが。特に普段行かない所とか……変な活動をしてる輩を見た事ないか、とか」
「変な輩? ……そう言えば、何処かで見たこともない珍しい鏡を見たような……何処で見たんだったかな……」
飛藍の出した紙に、女性は記憶を探り場所を記していく。
鏡を何処で見たかは、結局思い出さなかったが。
「あのさ。やっぱり叩けば直って金が戻って来るんじゃないかな!?」
(「駄目だこれ。やっぱり隔離いるな」)
女の言葉に軽く寝かせた程度では抜けきらない精神汚染を見た飛藍は、胸中で溜息を吐いて、現地のUDC組織に隔離養成の連絡を入れた。
精神汚染者:機械の故障でキレて暴れる女性(悪+)
説得:落ち着かせた後、隔離。成功(善+)
行動範囲:駅前のスーパー、町外れの神社、駅近くの公園、ホームセンター
大成功
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白波・柾
まずは、街の路地裏、大通りの脇道、そして繁華街の隅―――
探してみれば、ひとの懐から財布をすったり、店先から品物をくすねたりして糊口をしのいでいる者が見つかるかもしれない
どうした、青年。……そうだな、生きづらい世の中だ
周りの人々は自分を顧みもせず、貴殿はただ生きるために必死にあがいているだけだ
分け与えられないものを、自分から分けてもらいに行っているだけだろう
だが、声をあげてはみないか
援けてくれと。援けてほしいと。人らしく生きたいのだと。
そうしたいと思ったことはないか
声をあげねば、表現できないものがある
声をあげねば、差し伸べられない手だってある
どうだろう。もう一度、ひととして認められ生きてみないか
●街の陰にて、刃が人を説く
大通りから脇道に入って、更に曲がった路地裏。
或いは、繁華街から続く横道の隅。
そう言った、どれほど賑やかな街でも、むしろ賑やかであればあるほどに必ずと言っていいほど存在する、街の陰。
そんな日の当たらない場所に足を進める青年が1人。
そして――その背中に、白波・柾(スターブレイカー・f05809)が遠くから視線を送っていた。
柾が青年を見つけたのは、ここではない。
駅前の大通りでは、電車の到着で発生した一時的な人混みの中で他人の懐から財布を抜き取り、繁華街では店先に並んでいた林檎を、店主の目を盗んでくすねる。
青年がそうした行為を続けるのを、柾はずっと見ていた。
すぐに止めなかった理由は、ただ1つ。
青年が精神汚染の影響を受けているか否か――それを見極める為。
「へ、へへ……なんだよ、やってみれば、意外と簡単じゃねーか」
そして今、柾の視線の先で、青年は震える手でスった財布を物色している。
「これだけあれば、数日は食える……へ、へへ。もっと早くこうしてれば良かったんじゃねえか。そうすれば、俺はもっと楽に――」
もう、見極めるのは充分だろう。
「成程。糊口をしのぐ為か」
柾は青年に聞こえる様にわざと声を上げて、角から青年のいる路地裏に踏み出した。
「なっ――」
「どうした、青年」
驚く青年を、柾の鋭い視線が射すくめる。
「な、なんだよ。これは俺の財布だぞ!」
どうした、としか問うてない柾に、青年はそんな言い訳を口走る。近い距離でよく見てみれば、青年の出で立ちはお世辞にも綺麗とは言えないものだ。
その様子に、柾は小さな笑みを浮かべて――。
「……貴殿には、生きづらい世の中なのだろうな」
そう、穏やかな口調で告げた。
「周りの人々の大半は自分を顧みもせず、貴殿はただ生きるために必死にあがいているだけだ。分け与えられないものを、自分から分けてもらいに行っているだけだろう」
「っ――ああ、そうだよ。俺みたいなのが生きてくには、こうするしか!」
柾の言葉に、青年は吐き捨てる様に返す。
「だが、本当にそうか?」
青年の方に一歩踏み出しながら、柾は問いを重ねた。
「声をあげてはみないか?」
「はぁ? 何を言えってんだよ。自首でもしろって――」
「援けてくれと。援けてほしいと。人らしく生きたいのだと」
吐き捨てるような口調は変わらず、されど目を背けていた青年は、そんな自分を遮った柾の言葉にはっと目を見開いた。
「そうしたいと思ったことはないか?」
ヤドリガミである柾は、器物の頃も含めれば見た目以上の年月を過ごしている。
「声をあげねば、表現できないものがある。声をあげねば――差し伸べられない手だってあるのだ」
その本体は、隠れ里で長く祀られていた大太刀。
祀られる側として、長く人を見てきた存在。
それでも――或いはそれ故に。只管に純真であった。弱きを援け、強きを挫く。そんな刀で在ろうとしていた。
「どうだろう。もう一度、ひととして認められ生きてみないか」
故に真っ直ぐに青年を見て、柾は片手を差し出す。
――先に、手を差し伸べたのだ。
その手を取るか否かは、青年次第。
「もう一度なんて、無いと思った。一度堕ちたら、神も仏も見捨てるんだと」
「声をあげるのはひととして間違っていない――と、俺はそう思う」
躊躇いがちに手を伸ばす青年に、柾は滔々と告げる。
「これは、返すよ。林檎は食っちまったけど」
柾の手の上に、青年が奪った財布を乗せた。
「ところで、先程、神も仏と言っていたが。何処かそう言う所に行ったのか?」
「ああ。町外れにある神社に神頼み。――つっても、ご利益なんもなかったけどな。賽銭もケチったからかもしれねえけど」
青年の答えに、柾は腕を組んで考え込む。
此度の事件は神性存在によるものだ。神社とは、お誂え向きではある。
(「早合点はよくないな」)
「他に、最近行った場所を書き出して貰っても良いか?」
1人だけの情報では確証には至らない。全員の情報を照らし合わせる為の情報を、柾は青年に求めて手帳を差し出した。
精神汚染者:生活苦からの盗み(悪+)
説得:純粋な説得、成功(善+)
行動範囲:町外れの神社、繁華街、ホームセンター、駅前のスーパー
大成功
🔵🔵🔵
アンナ・フランツウェイ
…なんでだろう。こんな状況下なのに、時折感じる狂気に安らぎを感じるのは…。でも、とにかく暴走している人を止めなきゃ!
・対象
権力者に様々な物を奪われ、辱められた末に復讐に走った女性。
まずは咎力封じで女性で拘束、最悪拘束ロープだけは命中すればいい。
拘束できたら【優しさ】【コミュ力】を活かし会話。…正気を失った状態で復讐を成し遂げたら、今は良くても今後虚無感に囚われると思うよ。
(解放後、その身に宿る呪詛天使が表に出て)
解放した女性に向かいアンタはそれでいいのか、まだ奴への憎悪があるというのなら自分の意志で復讐を成し遂げろ。そう声を掛け、自分の意志で復讐を完徹出来るように背中を押してあげるわ。
●復讐するは誰が為か
「……なんでだろう」
初めての街を歩きながら、アンナ・フランツウェイ(断罪の御手・f03717)の口からポツリと小さな呟きが溢れる。
最初にアンナがそれを感じたのは、街に降りたその時だった。
その後も、時折ふと感じる事がある。
気配と呼ぶには薄く不確かで、それでも確かに人成らざるモノを予感させる。
一言で言うならば、それは狂気と呼べるもの。
だけど。アンナがそれに感じていたのは――安らぎだった。
「ううん。今はとにかく、暴走している人を止めなきゃ!」
何故か感じる安らぎを振り払う様にアンナが頭を降ると、白花も揺れる。
ぐっと小さな拳を握って、アンナは止めるべき人を探しに駆け出した。
例外はあるが、基本的に会社とは組織を差す。
そこに人が属すれば、上下関係が生まれる。権力が生まれる。
そして――権力の差は、時に人を狂わせる。
とある会社の社長室。
従業員は全員出払って、そこにいるのは社長ただ1人――の筈だった。
「ま、待て! 金なら払っただろう!」
「私を騙して何もかも奪っておいて、金でどうにかなると思ったの?」
額に汗を浮かべて焦りと怯えの混じった声を上げる社長の前にいるのは、虚ろな表情で片手に包丁をぶら下げた若い女性。
「もう絶対に取り戻せないものもあるのよ。辱められた私とか」
女性の手が、ダンッ、と机に包丁を突き立てる。
「だからね。私はもうどうでもいいの。何が良いか悪いかとかどうでも良くって、ただアンタを殺せればそれで――」
「駄目だよ!」
バンッと大きな音を立てて、社長室の扉が開かれた。
「何? 誰なの!?」
「ちょっと、ごめんね!」
闖入者に驚く女性に、アンナの放った拘束具が飛んでいく。
手枷が絡んだ女性の手から包丁が離れて、拘束ロープがその身を縛り上げる。
「え、ちょっと。何なのこれ!?」
あっという間に拘束された女性は、横にあったソファに倒れ込んで、その上で声を上げる。猿轡だけは、アンナが敢えて外していた。
「警備会社の者か? まあ遅かったのは不問に――」
「えい」
あっさりと横柄な態度に戻りそうだった社長に向けて、アンナは女性に向けたのと同じ業を飛ばす。
「むぐっ!? むうぐぐぐぐ!?」
今度は猿轡も込で容赦なく縛り上げた社長を置き去りに、アンナは女性を抱えて別室へ向かった。
「まだ、復讐したい?」
拘束ロープだけ解いて、アンナは女性に問いかける。
「当たり前でしょう! あいつが私に何をしたと――」
激情を露わにする女性に、アンナはできるだけ優しく聞こえる様に告げる。
「自覚は無いと思うけど、今のあなたは正気じゃないんだよ。普段行かない所に行ったりしたよね?」
「……そうね。色々したわよ。神社で丑の刻参りとか。人生狂わされて、正気でいられるわけないじゃない」
意味は違うのだが、女性はアンナの話を聞く気にはなってくれたようだ。
「……正気を失った状態で復讐を成し遂げてもね。今は良くても、後になって虚無感に囚われると思うよ」
滔々と、アンナは女性の顔を覗き込んで、じっと目を見て告げる。
まるで経験があるかのような物言いで。
「……してもしなくても救われない、か」
返ってきた女性の言葉は、諦め。されどその声に、もう殺意の色はなく。
「うん。あなたが手を血に染める必要は――」
最後の手枷を外しながら、アンナが女性にかけようとした言葉が――止まる。
「アンタはそれでいいのか」
「え――?」
直後、アンナの口から出た声に、女性が目を丸くする。
同じ喉から出る声なのに、まるで別人のように聞こえたのだ。
「な、なんなの?」
一般人の女性でも、何か普通でないと感じさせる程に、その声は、違った。アンナが見せていた優しさの色はない。
「私のことはどうでもいい。アンタは本当に――奴への憎悪はもうないのか?」
「……っ」
アンナの言葉に女性が押し黙る。その沈黙が、答えを語っていた。
「まだ奴への憎悪があるというのなら、こんな狂気に乗せられてやるんじゃなく、自分の意志で復讐を成し遂げろ」
復讐を完徹しろと背中を押す、呪詛天使の吐いた言葉と黒い羽を残して。
アンナの姿は女性の前から消えていた。
精神汚染者:奪い、辱めた権力者に復讐を願う女性(善+)
説得:落ち着かせたが、復讐の背中を押した(善とは言えず、悪+)
行動範囲:町外れの神社、ホームセンター、図書館
大成功
🔵🔵🔵
波狼・拓哉
善悪…ねぇ。正義の反対は正義というし視方の問題ではありそうだけど…まいいですわ。法的観点から悪事を止めて回りますか。
さてここは…スーパー……あー…取り敢えずお菓子エリアに直行しましょう。
…一応罪の意識はあるのか周りの目を気にしてはいるようですけど…目立たないようにして現行犯の瞬間に早業で腕を掴んで止めましょう。
はいはい少年、今何しようとしましたか?そのままポケットにいれようとしましたね?…魔がさしたといってもやってから後悔したら遅いんですよ。周りの目を気にするくらいなら最初からやらない方がいいです。今ならおにーさん以外見てないので何もしてなかったことに出来ますよ?
(アドリブ絡み歓迎)
●探偵は、何処から観るか
波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は、探偵である。
それも、超常現象を専門とする一族の。
そんな拓哉がいるのは、駅前のスーパーだった。
「さて。俺の思った通りなら……」
拓哉の視線が、スーパーに入ってすぐの案内板を上下する。
その中から目をつけた売り場の名を見つけると、拓哉は他の売り場には目もくれずにそちらを目指して歩き出して。
「あー……」
ものの1分とかからず、拓哉の口からあまり意味の無さそうな声が漏れていた。
視線の先には、きょろきょろと視線を彷徨わせる少年。
拓哉が探偵でなかったとしても、その挙動を見てしまえば不審だと思うのは難しくはなかったかもしれない。
そしてその不審さは、気の所為ではなかった。
少年の手が食玩の箱に伸びて、そのまま棚からそっと持ち出したのだ。
そこに飛び出して、腕を掴んで止めるのも簡単だ。
(「ま、驚くだろうね。そしたら声を上げかねない――目立つな」)
そう判断した拓哉は、掌を開き小声で唱える。
「――さあ、化け導きなミミック……!」
拓哉の手の中に現れた『鍵』は、箱型生命体の変化したもの。
そのまま買い物客のフリをして少年に近寄り、すれ違いざまに鍵の先端を少し触れさせれば――少年の姿が消えた。
拓哉自身も己の腕に鍵を突き立てて、遠くに小屋の見える湖畔で慌てた顔で視線を左右に彷徨わせている少年の前に現れる。
「え? えええ? ど、どこ? 誰!?」
「ああ、まあ怪しいですかね。おにーさんは探偵ですよっと。それよりも、少年。今、何しようとしましたか?」
困惑する少年に構わず、拓哉はその手を力を入れずに掴む。
「ソレ、そのままポケットにいれようとでも? 魔が差した――と言っても、やってから後悔したら遅いんですよ」
隠そうとしたモノを暴かれ、拓哉の言葉に少年が視線を伏せる。
「周りの目を気にするくらいなら、最初からやらない方がいいです。今ならおにーさん以外見てないので何もしてなかったことに出来ますよ?」
拓哉が屈んで、少年が逸らした視線に敢えて合わせて告げれば、少年の手から落ちた箱が草原の上に落ちた。
「これが、最後の1つで。おまけが揃うんだけど、もうお小遣い無くて」
聞き出して見れば、実に子供じみた理由であった。
「これはおにーさんが戻しておきます。その代わり、最近、学校と家以外に行った場所を書き出してください」
少年の落とした箱を拾い上げ、代わりにと拓哉が開いた手帳を出せば、少年は素直にそこに書き出した。
「で、でも、おみせの人に見つからないで戻せるの?」
書くだけ書いて、少年が拓哉を見上げる。
「ま、おにーさんに任せておきなさい」
拓哉の手が、少年の肩をぽんと叩き――次の瞬間、少年の周りの景色は見知らぬ湖畔からお菓子売り場に戻っていた。
「えっ!?!?」
驚く少年の前には誰もおらず、問題の食玩の箱も棚に戻っていた。
見つけてみれば、思った以上に簡単だった。
「周りの目を気にしてはいたし……一応、罪の意識はあったんでしょうな」
誰に言うでもなく、拓哉は独り呟く。
「精神汚染の影響が及ぶのは、あくまで善悪のみ――と言うことかな」
善いか悪いか判別する観念が奪われているのに、罪とは感じる。それは別段、おかしいことでもないだろう。
善意の行動であっても、罪の意識を感じる人もいる。
悪意を持った行動に、罪の意識を感じない人もいる。
(「善悪なんて、視方の問題ではありそうだしね――正義の反対は正義と言うし」)
胸中で呟いた拓哉は、何処かで聞いた言葉を思い出していた。
言葉としての正義の対義語は、悪である。
されど概念としては、そうとは限らない。互いに己が正義だと声を上げながらぶつかる事は、何処でも起こり得る。
ならば、何を持って悪事だと判断を下すのか。
拓哉が選んだのは、法的観点。その観点で『悪事』を止め、更になかった事とした。
それは探偵としての性ゆえか。
(「ま、あの少年は多少怪しまれるかも知れませんが――隔離も含めて、その辺は組織にお任せするとしますかね」)
誰にも気にされずに店を出た拓哉は、そう胸中で呟くと、奇妙な意匠の仮面を顔から外して去っていった。
精神汚染者:罪と感じながら盗みに走った少年(善+)
説得:落ち着かせ、事件をなかった事にした(善++)
行動範囲:駅前のスーパー、町外れの神社、ゲームセンター、図書館
大成功
🔵🔵🔵
文月・ネコ吉
善か悪かなんて立場によって変わるもんだ
…それでも、ああ分かってるさ
どんなに綺麗事を並べたって変わりはしないのだ
人殺しが人殺しである事は
(※元殺し屋
■状況
繁華街の交番で騒ぎに遭遇
激しく口論する者達と仲裁する警官
酷い暴言に堪忍袋の緒が切れたのか
警官が拳銃を構え発砲寸前に
精神汚染の被害者は喧嘩中の者ではなく警官の方らしい
素早く庇いに入り銃を蹴り上げ武器落とし
腕を捻りあげて鎮圧し説得を
■説得
まあ落ち着け
怒る気持ちも分からなくはないけどな
至近距離で撃てばどうなるか分からない訳じゃないだろう?
命って奴も、築いてきた信用も、失えば二度と戻らない
刹那の怒りに暴力を振るって本当に後悔しないのか
ゆっくりと考え直せ
●変わるもの、変わりはしないもの
大小幾つもの店が軒を連ねる繁華街。
その一角で、ちょっとした騒ぎが起きていた。
「この若造、俺の自転車を蹴りやがったんだぞ!」
「そっちが突っ込んで来たんだろうが!」
「うん。君達、2人とも落ち着きなさい。ね?」
騒ぎの中心にいるのは、3人。
前籠いっぱいに荷物を乗せた自転車のハンドルを握っている年配の男と、背中の鞄以外は手ぶらの大学生くらいの若者。
そして、2人を仲裁しようとしている交番の警官。
周りの人々はというと、横目で見ながらも足早に通り過ぎていくか、遠巻きに眺めるかの二択に分類されていた。
腕を組んだ1人の猫――ケットシー、文月・ネコ吉(ある雨の日の黒猫探偵・f04756)を除いては。
(「人と自転車がぶつかりかけて、口論に。気づいた警官が、交番前に移動させて仲裁を試みている、と言ったところか?」)
近くで様子を伺いながら、ネコ吉は発端を推理する。口論している2人のどちらかが、精神汚染を受けている可能性を疑っての事だ。
「この時間帯は、自転車進入禁止じゃないから。それに自転車の方も、蹴られたって言うけれど、そう言う傷がないと証明がねぇ……」
「この若造が悪いに決まってんだろ!」
「いーや、そっちが悪い!」
何とか収めようとする警官に、2人は互いに相手が悪いと食って掛かる。
(「――いや、おかしい」)
その言葉にネコ吉は違和感を覚えた。
2人とも、どちらに非が大きいかを言い合っている。翻せば、どちらも『自分は悪くない』と言っている事になる。つまり、2人は善悪を意識しているのだ。
「そんなもん、耳に入れてるからベルが聞こえないんだ」
「自分の自転車の下手さを、人のせいにしてんじゃねえよ!」
2人の口論は激しさを増し、単に相手をけなすだけになりつつある。仲裁に当たる警官を少々不憫とは思いつつ、ネコ吉は踵を返し――。
(「っ!」)
返しかけた所で、ネコ吉は弾かれた様に振り向き、飛び出した。
口論していた2人の間の足元をすり抜けて、2人を文字通りに手で突き放した警官の方へと駆ける。
「少しは人の話を聞かないか!」
「間に合えっ」
警官が腰のホルスターの銃を掴んだのと、ネコ吉が跳躍したのは、ほぼ同時。
銃身の短い回転式拳銃のトリガーに警官が指をかけるより僅かに早く、ネコ吉がその手から拳銃を蹴り飛ばす。
日本の警官が持つ銃は、カールコードでベルトと繋がれている。
「少し手荒くするぞ」
コードに引かれて拳銃が戻る前に、ネコ吉は警官の背後に回り込んで、その腕を捻り上げた。
――数分後。
交番の中には、先の警官とネコ吉の姿があった。
口論していた2人は、既に帰らせている。目の前で警官を秒で鎮圧したネコ吉の言葉には素直に従った。
「落ち着いたか?」
「あ、あぁ……おそらく。何とか。これが最近巡回した場所のリストだ」
机の端に腰掛けたネコ吉に、警官は書き出した紙を差し出した。伝えられるだけの状況と、隔離される事は、既に伝えてある。
「あの状況で怒る気持ちも、分からなくはないけどな。至近距離で撃てばどうなるか、判らない訳じゃないだろう?」
ネコ吉は受け取った紙を懐に入れながら、警官に問いかける。
「そ、それは……確かに。あの時は、何とかして静かにさせなければ。静かにさせる為なら、本官に出来ることを何でも……という気になっていて……」
ネコ吉に答えた自分の言葉に、警官は首を撚っていた。
「……これは、言うまでもないかもしれないが。命って奴も、築いてきた信用も、失えば二度と戻らない」
言葉とは裏腹に、ネコ吉はそれを口にする必要性を感じていた。
善か悪かなんて立場によって変わるものだと思うが、立場も変わる時は変わってしまうものだから。
逆に――変わりはしないものもある。
「刹那の怒りに暴力を振るって本当に後悔しないのか――ゆっくりと考え直せ」
(「ああ、わかってるさ」)
警官に向かって告げながら、ネコ吉は胸中で呟く。
(「どんなに綺麗事を並べたって変わりはしないのだ。人殺しが人殺しである事は」)
それは、ネコ吉自身に向けた言葉。
かつて己が殺し屋であった事を忘れぬよう、戒める様に。
されどその過去が、ネコ吉に殺気を気付かせ警官に先んじさせた一因であるのも、変わらない事実である。
精神汚染者:交番勤務の警官(善+)
説得:発砲を止めた(善++)
行動範囲:繁華街、町外れの神社、映画館、ゲームセンター
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『雲の鏡へ言の葉映ししもの』
|
POW : 現化の献身
自身の【欲望に苛まれる人への奉仕行動】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD : 欲望の現出
【鏡へ映した相手が望むままの姿の存在】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 現身の露呈
戦闘用の、自身と同じ強さの【鏡へ映した相手が最も畏怖する存在】と【最も敬愛する存在】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
イラスト:たけ姫
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●Desire Mirrors
街を回った猟兵達によって、精神汚染の影響を受けている人々は発見されてた。
後の隔離措置、及びそれに伴う対応は、現地組織の担当だ。
猟兵達には、元凶を断つと言う役目がある。
集まった情報は、8人分。
それぞれに、日常的に訪れる以外の場所を聞き出した。
幾つかあったが、全員に共通していたのは唯一つ。
街外れの神社である。
色褪せた古い鳥居は、住宅街からも離れてぽつんと佇んでいた。
参道と両脇の玉砂利の上には木の葉や落ち葉がつもりかけており、余り人の手が入っていないことが見て取れる。
建立は古く、代々の神主がいる筈であったが――人が住まう気配がしない。
猟兵達が静まり返った境内を進むと、古びた社の扉が開いていた。
その奥から、白と黒の光が漏れ出している。
白の光の方が、やや強く見えるようだが――。
『見つかってしまいました』
社の前には、同じ顔の少女が何人も並んでいた。
『では、最後の仕上げと参りましょう』
巫女――だろうか。凡そ、まともな巫女ではないのは明らかだ。足を大きく露出した黒衣の巫女など、通常、神社にいるものではない。
『私達は欲望を受け入れるもの』
『紡がれた言葉を受け止めるもの』
『雲の鏡にて、あなた達の欲望も受け止めましょう』
口々に告げる少女達、その1人1人の周囲には不気味な紫の鏡が漂っている。
儀式の護り手にして、儀式の遂行役で間違いあるまい。
『あなたを苛む欲望を』
『望むままの姿を』
『最も畏怖する存在を』
『最も敬愛する存在を』
『雲の鏡はあらゆる欲望の姿を写します』
『そして善き欲望は白へ』
『悪しき欲望は黒へ』
――神に供物と捧げましょう――。
社の奥の光を受けて、紫の鏡が怪しく輝いていた。
===============================================
2章、『雲の鏡へ言の葉映ししもの』との集団戦です。
集団戦ですが、今回はそれぞれに1対1を予定しております。
敵のユーベルコードによっては、
『苛む欲望』『自身の望むままの姿』
『最も畏怖する存在&最も敬愛する存在』(これはセット)
が映されたり現れたりします。
それらについてプレイングに書いて頂ければ、可能な限り拾います。
勿論、そんなの知るか、と力技のプレイングだって構いません。
また、鏡に映ったものは、3章ボスに若干影響する可能性があります。
影響がない可能性もあります。
現在の供物の状態(感知しきれない誤差がある模様)
善:☆☆
悪:★
1章の+5つでそれぞれの星1つと換算。それが何に相当するかは、3章にて。
考える時間が欲しい、と人によってはなるかと思います。
当方の都合もあり、プレイング受付は下記の日時からとさせて頂きます。
11/11(月)8:30~
(これより前も大丈夫ですが、もしかすると再送をお願いするかもしれません)
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フィーナ・ステラガーデン
自身の望むままの姿って言っても
私は望むとおりにしか動いてないからそのまんまの私しか出ないわよ!
ただその私が相手に協力するなんてあんた私じゃないわ!
私は私の物差しで良い、悪い、カッコ良い、カッコ悪いを判断して決めてるのよ!それは何者にも譲らせないわ!
その私がそこのオブリビオンみたいに影でこそこそと自分より力の無い人間の欲望?とかを奪い取ってるようなやつの味方するのが私の理想の姿とかちゃんちゃら可笑しいわね!
あんたが理想の私なら今すぐそいつに牙を突き立てなさい!
出来なきゃさっさと消えなさいよこのまがい物!(UC)
(アレンジアドリブ連携大歓迎!)
●炎が拓くもの
『あなたの望む姿を映しましょう』
黒い巫女の持つ雲の鏡が怪しい輝きを放ち、その光が人の形担っていく。
「ふーん。やっぱりこうなるわけね?」
鏡の放つ輝きが収まった後、フィーナ・ステラガーデンの視線の先には、よく知っている姿が現れていた。
見覚えのある金髪に、見覚えのあるトンガリ帽子。
雲の鏡がフィーナの前に映し出したのは、フィーナ自身。
それを――フィーナは何も疑問に思わなかった。
(「だって、そうじゃない」)
それでこそ、フィーナだ。
堂々と大胆不敵に。思うまま、望むままに、世界に足跡を刻んで来たのだから。
だが――。
「そのまんまの私以外に、出て来る筈が――筈……ない……」
自信たっぷりに『もう1人の自分自身』を見ていたフィーナの声が、何故か急に尻すぼみになった。
気づいてしまったのだ。
唯ひとつだけ、違いがあることに。
鏡より現れた『もう1人のフィーナ』の方が――その。大きかったのだ。
何処が、とはフィーナの名誉の為に伏せておこう。
「なんっっで、いつかの温泉とか牛乳とかが、そっちに効果出てんのよ!」
悔しさの一言では言い表せない複雑な感情でついつい力強く握ったまま、フィーナは杖を己の前に突き出した。
パンッと空気が弾けるような音がして、フィーナの眼前で炎が爆ぜて飛び散った。
「やっぱ、あんた私じゃないわ!」
炎に炎をぶつけた杖を掲げたまま、フィーナが声を上げた。
「あんたが私だって言うなら、なんでそんなのに協力してんのよ」
フィーナが言うそんなの、とは、雲の鏡の持ち主。黒い巫女のようなナニカ。
「そこのオブリビオンさ。影でこそこそと、自分より力の無い人間の欲望?とかを奪い取ってたんでしょ?」
『……』
沈黙を返す黒い巫女から、フィーナはもう1人の自分――偽フィーナに視線を戻す。
「そんなの味方するカッコ悪いのが私の理想の姿とか、ちゃんちゃら可笑しいわね! あんたが理想の私なら、今すぐそいつに牙を突き立てなさい!」
『うるさいわよ、私』
声高に告げるフィーナに、偽フィーナが冷たく告げた。
『あんたも私なんだから、判ってる筈よ。私達の基準を』
「ああ、そう言う事」
偽フィーナが返した言葉に、フィーナも合点がいって小さな笑みを浮かべる。
「私は良いも」
『悪いも』
「カッコ良いも」
『カッコ悪いも』
「『私は私の物差しでを判断して決める!』」
2人のフィーナの声が、ぴたりと重なった。
『そして、それは――』
「ええ。何者にも譲らせない!」
2人のフィーナの掲げた杖から、炎が同時に吹き上がる。
『これはあなたが心の奥で望む姿――本当に消せますか?』
その炎に照らされながら、黒い巫女が口を開いた。
「このまがい物諸共、あんたもさっさと消してやるわよ!」
その力強い言葉が虚勢の類ではない事は、フィーナの杖から轟々と猛る炎の勢いが物語っていた。
先に2人のフィーナが言った通りだ。
――私は私の物差しで判断して決める。
もう1人の自分を、フィーナが『まがい物』と言い切った。
理想の自分だと言われた姿を、そんなものは理想の自分では無いと言い切ったのだ。
故に。その時点で、勝敗は既に決まっていたのかもしれない。フィーナは測り終えたという事になるのだから。
フィーナの杖から燃え上がる炎が、平たく圧縮されて湾曲した炎の刃と変わる。
それは、さながら炎の大鎌。
故に、フィーナはこの炎の業をこう呼んでいる――首刈鎌。
フィーナの放った炎の刃は、偽りの理想が放った炎を飲み込んで更に猛り、それを映した鏡も鏡を操る巫女も、纏めて斬り裂き焼き散らした。
――善悪の変動なし。
己の物差しで、己を超える。それは善とも悪ともつかぬ故。
大成功
🔵🔵🔵
黎・飛藍
…誰だお前
現れた存在が、白衣を着てるのは分かる
思い当たるのは…あぁ、昔のデータマニア共の誰かってことか
許してない白衣共は沢山居たし。顔はわからないが
確かに…望んでいた存在か
つまり、殺していい白衣なんだな?
頭の片隅で常々、まだ生きていたら殺したいと思っていて。けど何処かで白衣を着た奴を見る度に湧く感情は、人違いだったら大変だからと押し殺してたが…
敵ならばその殺意を抑える必要は無い
蛍のお前等もそう思うだろ
【彼岸への誘い】で蛍を呼んで叩く
そりゃあ無差別もいいところな位に
過去思い出して苛ついてるし
この視界になった直後は、鏡に映った自分にお前は誰だって問うてた
今はもう慣れたが、まるで道化だったよ
●鏡は誰の何を映したか
「――あの黒いのが、敵か」
それの顔は相変わらず認識出来ていなかったが、そんな事は関係ない。
黒い服と紫の鏡。それを敵だと、黎・飛藍は認識した。
「蛍は死者の魂だという話を知っているか?」
呟いた飛藍が掲げた掌から、珠状の青白い光の蛍が幾つも幾つも、ふわりふわりと浮き出ていく。
『映しましょう。雲の鏡――彼らの望むままの姿を』
光を放つ飛藍の姿を、黒い巫女が鏡に映せば、鏡が怪しい輝きを放ち――。
「……誰だお前」
呟いた飛藍の視線の先。黒衣の隣に、白衣が現れていた。
単に白い服ではなく、所謂『白衣』である。飛藍にとっては、今の彼がこうである原因の人体実験を繰り返された過去を想起させる服でもある。
「……あぁ」
そこまで考えて、思い至った。
「昔のデータマニア共の誰かってことか」
まさにその過去ではないかと。
あの過去にいた白衣で、飛藍が許していない者は沢山いた。数え切れない程いた。
その顔は途中から判らなくなって、今はもう誰の顔も覚えていないけれど。
「確かに……望んでいた存在だ」
呟いた飛藍の口の端が――徐々に釣り上がっていく。
まだ生きていたら殺したい。
その殺意は飛藍の頭の片隅で、ずっとずっと燻り続けていた。
白衣を着ている誰かを見るだけで、殺してやりたくなる程に。それでも飛藍は、己の中の理性で殺意を抑えていた。人違いだったら大変だからと押し殺していた。
だけど――。
あれは所詮、敵の鏡が映したツクリモノ。
倒すべき、存在。
「つまり、殺意を抑える必要は無い――殺していい白衣なんだな?」
飛藍がそう口に出した瞬間、掌から浮かび出てそのまま周囲を漂っていた青白い光の蛍が、急に激しく明滅し、飛藍の周りをぐるぐると回り始めた。
まるで、歓喜に踊っているかのように。
「そうだよな。お前等もそう思うだろ」
蛍に呼びかける飛藍の口は、もうはっきりと嗤っていた。
「行け。やってしまえ。殺してしまえ」
過去を思い出した飛藍の苛立ちをも反映したかのように、彼岸への誘いの青白い蛍の群れは弾丸のような勢いで白衣に向かって飛び出していく。
蛍の一つ一つが一条の光となって、白衣の手足を次々と撃ち抜いた。
だけど、胴体と頭部は、一撃足りとも撃たれていない。
簡単に殺してなどやるものか――そう言わんばかりに。
『これは――ここまで強い復讐の望みは、この地で類を見なかったです』
「復讐? そいつは違う」
黒い巫女の口から漏れた驚嘆の言葉を、飛藍はあっさりと否定した。
「お前にゃ判らんだろうさ。鏡に映った自分の顔すら自分だと判らず、鏡を見る度に『お前は誰だ』って問うのが、どんな事か」
それは、飛藍が他人の顔を認識出来ない眼になった、直後の頃の事だ。
今はもう慣れて、そんな事も無いけれど。慣れたからこそ、逆にあの頃が、まるで道化ではなかったかとも、思えてしまう。
「この殺意、復讐なんて二文字で片付けてくれるなよ」
飛藍が指を向ければ、青白い蛍は白衣の全身を撃ち抜き、そのまま貫いて後ろにいた黒衣の巫女と、その手の雲の鏡も撃ち抜いていく。
やがて、パリンッと音を立てて雲の鏡が砕け散った。
『強い……欲望ですね……』
飛藍は、気づいていただろうか。
倒れる黒衣の巫女が雲の鏡を向けた時――『彼ら』と言っていたのを。
飛藍が蛍を呼べる様になったのがいつからか、明確には覚えていない。けれど、呼べる蛍の数が増えるのは、決まって誰かが消えた後だった。
雲の鏡が映したのは、はたして――誰の望みだったのだろう。
――悪に変動あり。
鏡が映し現れた存在は、およそ善なるモノではないが故。
大成功
🔵🔵🔵
波狼・拓哉
…んーなるほど、なるほど?確かに望むべき姿…姿?であるね?影人間を姿と言っていいか悩みますが。
俺は自分が破綻してるのを自覚してますからね、できるだけ他人と関わらない姿が理想なのだろうとは思います。まあ、寂しがり屋なんで無理なんですよね。1人は寂しい。うん。
まーでも…こういうの出てきた時は特に気にせず行けるってのは有難い事か。ミミック!多分あれは死ぬほど逃げまるだろうから…やるべき事は死ぬほど追いかけ回す事でしょう。化け撃ちな!GO!
…さて、ミミックが行った所でおにーさんは元凶対処しとこう。衝撃波込めた弾で早業の速射見せつけて鏡や頭を部位破壊狙いましょう。
(アドリブ絡み歓迎)
●捨てきれないもの
――自分が破綻している。
波狼・拓哉がそれを自覚したのは、いつだったのか。
「んーなるほど。なるほど?」
目の前で、黒衣の巫女が怪しい鏡に己を映し――そこから真っ黒なヒトガタの影が出て来るのを、拓哉は驚きもせずに眺めていた。
『これがあなたの望むままの姿です』
「確かに望むべき姿……か?」
黒衣の巫女の言葉に拓哉が首を傾げたのは、それが『望むものかどうか』ではなく、それを『姿』と言って良いものか、と言う部分に疑問を感じたからだ。
――影人間。
顔の中央辺りに、目のような光点があるくらいの影のヒトガタ。
そんな、明らかに人間の範疇を越えた、それどころか生物であるかどうかすら怪しいものを『望む姿だ』と言われて。
拓哉が気にしたのは、姿かどうかという、ただそれだけだった。
「そこは悩みますが、望みではあるのだろうね。できるだけ他人と関わらない姿というものが、俺の理想ではあるんでしょうね」
淡々と告げる一方で、拓哉はその理想には己が決してなれないとも自覚している。
(「まあ、他人と関わらないなんて、無理なんですよね。寂しがり屋ですからね」)
今だって――破綻していると自覚しながら、拓哉がそれでも猟兵として、探偵として生きていられるのは、ミミックと名付けた箱型生命体との繋がりがあるからだ。
それすらもなかったのなら、この2年を生き抜けなかっただろう。
(「1人は寂しい。うん」)
捨てきれるような性格ではないのだろうと、拓哉は胸中で1人呟いて、理想かも知れないと自覚したものをあっさりと諦めた。
理想とは、その人にとっての最善だ。
それがどれだけ遠くあろうとも、大抵の場合、諦めるのは容易ではない。
それをやってのけたのは、拓哉が破綻と認識している自己が故かも知れない。だとしたら、壊れたまま生きるのも1つの強さと言えまいか。
「まーでも……こういうが出てきて、特に気にせず行けるって意味では有難い事か」
しばしの自問と自答を終えた拓哉は、気を取り直して影人間を見やる。
人外のものが持つ人外の鏡より現れし、人外の影人間。
何処にも遠慮する必要性がない。
「ミミック!」
拓哉が声を上げれば、足元に青白い箱が姿を現す。
「多分『あれ』は死ぬほど逃げまわるだろうから……やるべき事は、死ぬほど追いかけ回す事でしょう。というわけで――偽正・械滅光線」
拓哉の声に反応して、箱型生命体がぴょんと飛び上がる。
そのまま拓哉の頭の上まで浮かび上がり――やおら、形を変えた。
ガシャンガシャンと音が聞こえてきそうな勢いで、ミミックが形を変えていく。箱が巨大化しながら前後が伸びて、枠組みが竜骨と変わる。
平らになった蓋が甲板に変わり、何処からともなく砲門が幾つも伸びていく。
バトルシップ・ドーン。
その業の名の通り、ミミックは今、宇宙戦艦――バトルシップに変形していた。
あまりに大きくしすぎると人目にもつくので多少は配慮して、モーターボートくらいのサイズにスケールを抑えてはいるが、戦艦である。
「化け撃ちな! GO!」
拓哉の指示で、ミミックの全砲門から光が放たれる。
『っ!?』
光の先にいた影人間は、拓哉が予想した通り、一目散に光から逃げ出した。ミミックがそれを追って、第二射を放ちながら動き出す。
『役に立たない――なら!』
逃げ回るだけの影人間に業を煮やしたか、黒衣の巫女が鏡と対のような不気味な刃を手にとって――。
タァンッ!
乾いた銃声が、刃を弾く。ついで、鏡が割れる。
「おにーさんも、そこそこやるんですよ」
拓哉が放った3発目の銃弾が、驚く巫女の眉間を撃ち抜いていた。
――善悪変動なし。
影人間が他者との関わりを絶った姿だとしても、善とも悪ともつかぬ故。
大成功
🔵🔵🔵
アンナ・フランツウェイ
(苛む欲望…自分をこの境遇へ追い込んだ世界とそこに住まう人間を滅ぼしたいという願いを見せつけられる)
違う!私はそんな事したくはない!ただ…私を絶望の淵から救ってくれた皆と平穏に暮らしたいだけ…!
そう言って抗う私に、内に巣食う呪詛天使が語りかけてくる。私は人間不信だった頃と何も変わっていない。偽りの願いで本当の欲望を隠しているだけだと…。
「これが、本当の私の願い…」
(呪詛天使に乗っ取られた後)
私に…宿主に本当の欲望を自覚させてくれてありがとう。礼として…アンタの首を刈り取ってあげるわ。
大鎌に血液を纏わせ【武器改造】後、それを首に向けて振るい【なぎ払い】!防御は【鎧無視攻撃】の要領で打ち破るわよ。
●心の奥の、奥の、奥の――
雲の鏡が映し出した猟兵達の欲望、それ自体を形ある存在として投影し、映した者の前に現出させていた。
だが――アンナ・フランツウェイが映し出された欲望は、他の猟兵たちとは少し違う形であんなの周囲に投影されていた。
「え――?」
アンナが気づいた時には、周囲の光景は一変していた。
「な、なんで……」
何故こうなったかは、アンナも解っている。
敵の雲の鏡とやらによるものだ。
黒衣の巫女が1体、アンナの前にも進み出てきた。その傍らに浮かぶ鏡が、怪しげな光を放ち出したのは、はっきりと覚えている。
そして――咄嗟にアンナが身構えた時には、こうなっていたのだ。
(「空間ごと飛ばされた? ううん――おそらく、違う」)
脳裏に浮かんだ考えを、アンナはすぐに否定する。
感知すらさせずに、別の空間へ転移させる。黒衣の巫女にもその鏡にも刃にも、そこまでの力は感じない。
(「だったら――幻覚?」)
雲の鏡が映した欲望が、アンナが認識している空間に作用している。
「でも、なんで……なんで、なの」
そこまでの見当が付いていて。
それでも『なんで』とアンナが口にした理由は、光景そのものにあった。
見えている世界は、一言で言えば廃墟だ。
かつて両親が住んでいた家。
売れらた娘を被験者とした場所。
その廃墟の中で倒れているのは、そこに住まう人間だろう。娘を売った両親。売られた娘を容赦なく実験体にした者。
「違う! 私はこんな事したくはない!」
アンナの口から、否定の声が上がる。
この廃墟が、アンナの過去の記憶にある景色なのは、嫌でも判ってしまう。
アンナを今の境遇へ追い込んだの世界と人間を、滅ぼしたいという、アンナの心の奥底にあった願い。
それらが鏡によって暴露され、映し出されているのだ。
「私は、ただ……私を絶望の淵から救ってくれた皆と平穏に暮らしたいだけ……!」
必死に否定するアンナの声が、震える。
『――いいや』
言い聞かせる様に違うと口にするアンナの中で、別の声がした。
『アンタは人間不信だった頃と何も変わっていない』
内に巣食う怨念が、アンナを揺さぶろうとする。
「違う! 私は、もっと――」
『いいや。偽りの願いで本当の欲望を隠しているだけだ』
抗うアンナの中で、内なる声がどんどん、強くなる。
「……偽り? これが、本当の私の願い……?」
ふっと、アンナの瞳から光が消えた。
「私に……宿主に本当の欲望を自覚させてくれてありがとう」
次にアンナの口から出た声は、ぐっと冷たくなっていた。
浮かべた笑みは、何処か嗜虐的で。
「礼として……アンタの首を刈り取ってあげるわ」
『どうぞ? 出来たら――ですが』
大鎌を構えるアンナに、黒衣の巫女が淡々と告げる。
『ここはあなたを苛む欲望を投影した鏡の世界。そうする事で、この個体が孤立することになっても。敢えて、映し出したのです』
孤立するのを判っていて、敢えてこう言う形で欲望を映した――故に、その分、身体能力は上がっている。黒衣の巫女は、そう言いたいのだろう。
「無駄よ」
だけど、アンナは嗤っていた。
大鎌に血をまとわせて、その刃をより強く、大きく変えながら。
「世界が生み出し、世界を滅ぼす呪詛に、その程度で張り合えると思わないことね!」
再臨式・花蘇芳。
アンナの振るった血色の刃が三日月の斬撃を描き、驚く黒衣の巫女に断末魔の声も上げさせず、真っ二つに斬り裂いていた。
――悪に変動あり。
映し出されたものは、アンナにとっての過去の悪であった。
大成功
🔵🔵🔵
草野・千秋
街外れの神社
何やら嫌な予感がします
こう、背中がザワつくような
雲の鏡は欲望の姿を映し出すといいいますが
本当でしょうか?
覗き込むのが怖い気もします
……僕、ヒーローなんてもの自称してますが
本当はただの凡人なので
全然偉くなんて、ないです
『苛む欲望』『自身の望むままの姿』は
ヒーローとしてオブリビオンを狩りつくしている姿
正義の名のもと、オブリビオン相手とは言え
殺戮を思うまま行っている
……ああ、忌まわしい
僕はこんな『自分』ではいたくないのに
力に酔いしれることこそ正義の味方の恥なのに
自分で自分が許せない
攻撃は怪力、グラップル、2回攻撃、捨て身の攻撃
――僕は本当にヒーローとして在っていい存在なんだろうか
●鏡が映す正義のカタチ
「何やら嫌な予感がする場所ですね」
先行していた猟兵達が得た情報を元に、その神社に駆けつけた草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)の感じたものは、背筋がザワつくような感じだった。
『また1人来ましたか。では、あなたの欲望を見せてください』
現れた千秋に驚くでもなく、黒衣の巫女の1人が雲の鏡を向ける。
(「あれが、欲望を映す鏡――本当でしょうか?」)
内心で疑いながらも、千秋は怪しく輝く鏡から目を逸らせなかった。
(「本当なら、映されるのはどんな僕が――?」)
神社の鳥居をくぐる前に、千秋はその出で立ちを変えている。
駄菓子屋の主の青年ではなく、猟兵――ヒーローとしての装いに。
そして。
雲の鏡から出てきた姿は、それと全く同じ装いだった。
唯一違っていたのは、既にその両手が血に塗れているという事である。
そして、もう鏡のヒーローが腕を掲げる。
血に染まった鋼をまとった拳が振り下ろされて、黒衣の巫女を打ち据えた。
「っ! やめなさい!」
千秋が上げた声を無視して、鏡から出てきた何かは、その鏡を持つ黒衣の巫女に更に拳を叩き込んでいく。
(「なんです、あれは……なんであんなものが!?」)
『ククッ。何故やめる必要がある? 悪を狩るのを』
動揺を押し殺す千秋に、鏡のヒーローが告げる。
『ヒーローとして、正義の名の下に、オブリビオンを狩り尽くす。そうしたいという欲望がお前の中にあったから、俺が出てきたのだ』
『何か』が冷たい声で、千秋に告げてくる。
その顔はメットに隠されていて、どんな表情をしているのか見えなかったけれど。
「……ああ、忌まわしい」
きっと忌々しい顔をして嗤っているのだろうと、千秋は感じていた。
「僕はこんな『自分』ではいたくないのに。力に酔いしれることこそ、正義の味方の恥なのに。それが、僕の欲望だなんて」
認めたくはなかった。
「自分で自分が許せない」
けれど千秋は――否定もしきれなかった。
(「ヒーローを自称してるけれど、本当はただの凡人なのは、僕自身わかってる。全然偉くなんてないし――僕は本当にヒーローとして在っていい存在なんだろうか」)
千秋の中で迷いが首をもたげる。
だが、ヒーローになろうと決めたのは――自分ではなかったのか。
『ならばどうする?』
自己嫌悪を口にした千秋に、何かが問う。
「お前を――お前たちを喜びの島へ送ろう」
ぐっと拳を固めて、千秋は地を蹴って飛び出した。
『出来ますか?』
そこに、黒衣の巫女が口を開く。
『私はまだ生きています。これの拳以上でなければ――この個体にはもう効きません』
鏡のヒーローの殺戮の痕の残る拳。黒衣の巫女がそれを受けていたのは、その欲望を受け止める事で己を強化するためだったか。
「問題ありませんよ」
だが、答える千秋の声と、何かに振り上げた拳に迷いはなく。
高く殴り飛ばした鏡のヒーローを追って、千秋が跳び上がる。
多くの場合、蹴りは拳よりも力が出やすいものだ。
「ダムナーティオーキック!」
千秋が空中で蹴り飛ばした何かの身体は、その拳以上の威力でもって黒衣の巫女にぶつかって、その身体と鏡を砕いていた。
――善に変動あり。
手段は殺戮であれど、正義を目的したものが映し出された。
大成功
🔵🔵🔵
幻武・極
う~ん、欲望ね。
ボクは最高の武術を追い求めているだけなんだけどね。
それを欲望というなら、それもしょうがないかな。
例え、それが欲望であっても、夢や希望だとしても、ボクの進む道は変わらないよ。
さあ、かかってきなよ。
トリニティ・エンハンスで攻撃力を強化してボクは戦うよ。
●最高は未だ遠く
『あなたの欲望を、映しましょう』
黒衣の巫女の雲の鏡が、幻武・極の姿も映し出す。
「欲望……欲望ね」
呟きながら拳を握っては開くのを繰り返す極の前で、雲の鏡が輝きを放つ。
そして――極と良く似た背格好の存在が現れた。
顔に表情がないどころか、全身が鏡と同じ怪しげな紫色に覆われている。
されど、額には極とそっくりの黒い角が生えていた。
「やっぱり、ボクか。ボクは最高の武術を追い求めているだけなんだけどね」
それが、自分自身を投影したものだろうと、極は確信していた。
追い求めているものなど、他にないのだ。
「それを欲望というなら、しょうがないかな」
極が拳を握って構えを取れば、鏡から出てきた存在も同じ構えを取る。
「さあ、かかってきなよ」
そして、2人の羅刹が同時に地を蹴った。
拳と拳がぶつかり、蹴り脚は振り上げる前に崩す。
極と鏡の羅刹の実力は拮抗している――ようだった。
『最高の武術。その力を得てなんとするのです』
鏡の羅刹の後ろで、黒衣の巫女が極に問いかける。
『雲の鏡でも、その先の欲望が映せなかった。だけど、ある筈です』
「さあね?」
追求を強める黒衣の巫女の言葉も、鏡の羅刹の拳も、極はあっさりと受け流す。
「そんなの、その時考えるよ。それに――まだまだ遠いみたいだし」
極が求めているのは『最強』の武術ではない。
『最高』の武術、である。
雲の鏡が映した羅刹が、追い求めるそれでないことは、極は拳を交える前からなんとなくだが察していた。
山奥に籠もって修行に明け暮れても、道に行き詰まり。
深い眠りの夢の中で道は拓けたけれど、答えを得たとは思えていない。
何を以て最高と位置づけるか――極自身、まだ答えがあるわけではないのだから。
「これが欲望であっても、夢や希望だとしても、ボクの進む道は変わらないよ」
腰溜めに拳を構えた極が、スゥと深く息を吸い込む。
周囲に漂う3つの光は、炎と水と風の魔力――トリニティ・エンハンス。
三属性の魔力を拳一点に集中させ、極は強く地を蹴った。
鏡の羅刹の眼の前に。
飛び出した勢いそのまま、極は蹴った時以上に強く踏み込み、拳を突き出した。三属性の魔力を集中させた拳の一撃は、鏡の羅刹を貫き雲の鏡をも打ち砕く。
「だから、ボクは戦うよ」
雲の鏡とともにふっ飛ばされた黒衣の巫女に、極がきっぱりと告げた。
――変動なし。
その欲望、善くも悪くもなり得るものであるゆえに。
大成功
🔵🔵🔵
九泉・伽
※煙草臭さは消失し目元の黒子が消える
※メイン人格
畏怖:双子の妹
敬愛:顔は靄な棍装備の殴り僧侶(MMO風
弁護士で外面だけの暴君の父より
黙認の母より
妹のお前なんだな
優秀なのに女だから父に顧みられなかった叶
おれを邪神召喚の生贄に仕向けた叶
…狂信者のフリして正気のままだったよな
叶を畏怖の存在へと追い込んだのは、不出来な兄のおれだ
敬愛
おれにとっては仮想世界のゲームで出逢った『彼』だけが味方だった
『 』は初めておれに「ゆっくりやりたいことを見つければいい」と「大人になれば家から逃げられる」と教えてくれた
ここで
畏怖と敬愛が逆転する
叶には憧れ尊敬していた
『 』は――もう死んで、いない人
じゃあ
『伽』って、誰だ?
●曖昧な境、畏れも敬いも
――何時まで寝てんのさ、目を醒ましなさいよ。
――あなたに生きてて欲しいんだ。
目を醒ませと言う彼にそう返しても、『歩けと言ったはず』とすげなく返され、己を死者と宣う存在が黄泉比良坂にて呼び起こされる。
九泉・伽の中で、そんな他者には見えぬ事が起きていた。
他者から見える変化は、あれほど纏っていた煙草臭さが忽然と消えていた事と――雲の鏡が映した顔の目元に、黒子がなかった事だろう。
そして、雲の鏡が怪しく輝き2つの人影を映し現し出す。
1人は『彼』と同じ黒髪の、同じ年頃の理知的そうな若い女性。
もう1人は――多分、男なのだろう。頭部に靄のようなものに覆われ顔が判らぬが、まるでゲームの中の僧侶のような服の内は大柄な身体であるのが見て取れる。
『そちらが、あなたが最も畏怖する存在です』
黒衣の巫女の言葉に一歩踏み出たのは、若い女性の方。
「お前なんだな」
『ええ、私ですよ』
どこか寂しげに『彼』が問えば、女性はにこやかに返す。
「弁護士で外面だけの暴君の父より、黙認の母より、妹のお前なんだな――叶」
『当然じゃないですか。双子の妹なんですから』
裏にある感情はまるで違うのに、2人の表情は良く似ている。
「そうだな。叶を畏怖の存在へと追い込んだのは、不出来な兄のおれだ」
妹が畏怖の対象だと言われても、『彼』は驚きもせず静かに頷いて、無垢木にしか見えない棍を無造作に真横へ振り上げた。
カンッと乾いた音が鳴り響く。
棍を振り下ろした顔のない『 』が、消去法で最も敬愛する存在と言うことになる。
「そうかもな。おれにとっては『 』だけが味方だった」
仮想世界のゲームで出逢ったのだけれど。
引きこもりですかと嗤う『妹』に、『彼』は無言の苦笑を返す。
その時だ。
『――え?』
黒衣の巫女が、唐突に驚いた声を上げたのは。
雲の鏡が、再び怪しく輝いたのは。
『畏怖と敬愛が――入れ替わった?』
鏡を覗く目が驚きに見開かれる――同時に、『彼』は地を蹴って飛び出していた。
――優秀なのに女だから父に顧みられなかった叶。
――おれを邪神召喚の生贄に仕向けた叶。
その表情が、『彼』の脳裏に浮かんでは消えていく。
「お前は……狂信者のフリして正気のままだったよな」
確かめる様に告げてみれば、『妹』は『彼』の記憶にある狂信者のフリと、全く同じ顔で嗤ってみせる。
それでも。
「おれは、叶には憧れ尊敬していたんだ」
なんて言いながら、彼は『妹』の足元に棍を突き入れ、払い、押しのける。そうやって『妹』を突破し進む『彼』を、『僧侶』が両手で棍を構えて待ち構えていた。
――ゆっくりやりたいことを見つければいい。
――大人になれば家から逃げられる。
今度は『 』が教えてくれた言葉が『彼』の脳裏に蘇る。そう言う言葉を言ってくれた人だったから、その仮想の強さに畏れるだけじゃなく、敬ったのだ。
「けど、『 』は――もう死んで、いない人」
呟いて、脚を止める。
『僧侶』が動くより早く、『彼』は棍を槍のようにぶん投げた。やや高く飛んだ棍は、靄しかない『僧侶』の頭部を射抜いて、後ろの巫女の雲の鏡を叩き割っていた。
『入れ替るとは……一体、あなたは何を求め――』
雲の鏡を砕かれた黒衣の巫女が、目を丸くしながら消えていく。
彼は――ただ無言で見下ろしていたが、入れ替わったと聞いても、別段、不思議にも思っていなかった。
畏怖と敬愛。2つの想いの違いなど、そこにどんな感情が付随するか、というくらいなのかもしれない。怖れと愛の情を捨てれば、残るのは畏敬なのだから。
だけど。『叶』と『 』がそうなのだとしたら。
「じゃあ――『伽』って、誰だ?」
呟いた『彼』が振り向いても、鏡が映した幻はもう消えていた。
――善悪等しく増加。
邪神召喚に加担した者は悪であろう。味方はその者にとって善であろう。
大成功
🔵🔵🔵
文月・ネコ吉
神社、神を呼ぶに相応しい場所か
捜査の基本は観察から
敵の行動を読み解きつつ
攻撃タイミングを見計らう
欲望を集め供物に
負けず嫌いに『勝利』を求められたらどうするのだろう
不利な行動も敢えて取る事で能力増大に繋がる様だが
撃破される事をも受容するというのなら
『供物』の中には己の存在も含まれているのだろうか
俺の欲望の本質は好奇心
欲望の先に何が生まれるのか興味がない訳でもない
真実を求める、それが探偵ってモノだろう?
とはいえ『好奇心は猫をも殺す』なんて言葉もあるしな
死なない程度には自重もするさ(自嘲気味に)
殺気を隠し攻撃の瞬間を悟らせない暗殺者の動きでするりと近づき
死角から攻撃力重視の影ノ刀で斬る
※アドリブ歓迎
●観通す眼
文月・ネコ吉が考える捜査の基本とは、観察である。
物を、場を、そして人を。
視て、読み、解いて、明かす。
ネコ吉に向けられた雲の鏡が、その姿を映して怪しく輝く。
『……あなたの欲望は実に純粋ですね。強い、好奇心が見えます』
「真実を求める、それが探偵ってモノだろう?」
鏡を覗き込んで告げる黒衣の巫女に、ネコ吉は離れて立ったまま、それを止めるでもなく笑って返していた。
はたして自分の好奇心がどんな風に映っているのか――それも気にはなるが、鏡が映した己の欲望の先に何が生まれるのか、という興味もある。
そして、それ以上に――ネコ吉は、観察していた。
雲の鏡を持つ黒衣の巫女、そのものを。
『ああ、見えました――あなたを苛む欲望が』
ネコ吉の好奇の視線の先で、鏡の中に何かを見つけた黒衣の巫女は、鏡をそれと対のように傍らにある刃に向けた。
鏡から放たれる輝きが刃に浴びせられ――その光が包み込まれた刃が形を変える。
『出来ました』
「……………………は?」
黒衣の巫女の傍らに現れたモノに、ネコ吉の青い目がまん丸く見開かれた。
何故なら、あまりにも予想外だったから。
つい先程までは、雲の鏡と同じ怪しい紫色の刃だったものが。
今は、赤みが濃い橙色の細長いものに変わっている。
『人参です』
「何でだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
淡々と告げてくる黒衣の巫女に、ネコ吉が堪らず全力で叫び返していた。
『あなたの中に、人参に苛まれる欲望を見つけましたので。それに対する奉仕の一環として、人参に勝利する機会を作ってみました』
「だからどういう事だ!」
唐突に訪れた人参嫌い克服チャンス――チャンスなのだろうか、これ?――を、さすがにネコ吉もすぐに受け入れられは出来ずにいる。
(「そもそも、俺は克服を望んでいたのか……?」)
自問自答に入りかけたネコ吉の後ろの石畳に、人参がズドンと突き刺さった。
人参が掠めていった頭上の毛が、ほんの数ミリ風に吹かれていく。
色々とおかしな光景を見せつけられて、ネコ吉も意を決した。
「…………とりあえず、石を貫く人参などない。よってこれは人参ではない!」
『人参です。…………?』
ビシッと告げるネコ吉に、淡々と返した黒衣の巫女が、直後に首を傾げた。
目の前にいた筈のネコ吉の姿が、消えた――ように見えたのだ。
大仰に指さしてみせたのは、意識の死角を作るため。そこを突いてするりと間合いを詰めたネコ吉が、利き手を片腕に添える。
「黒き刃よ」
その手をまるで居合のように振り抜けば、影ノ刀が音もなく抜き放たれる。
「死なない程度には自重もするさ。『好奇心は猫をも殺す』なんて言葉もあるからな」
斬られ崩れ落ちる黒衣の巫女を横目に、ネコ吉は自嘲気味に呟く。
『……』
(「――なんだ? 何で微笑んでいる?」)
だが、倒れる黒衣の巫女の表情に、ネコ吉は一瞬違和感を感じた。
(「確か、俺達が踏み込んだ時にこう言ったな? 『最後の仕上げ』と」)
己の違和感を信じて、ネコ吉は観察したものを整理する。
そも、あの人参がおかしい。もしもネコ吉が勝利しか望まないほどの負けず嫌いであったならば、自ら敗北でもしかねないではないか。
(「そんなもの――能力増大の為の不利な行動にしても、まるで敗北を最初から受容しているような――」)
そこまで考えて、ネコ吉が胸中で言葉を失う。
思えば、そうではないか?
他の猟兵に対しても『勝てない』と思わせるような存在が、雲の鏡から作られる事はなかった。それは、他の猟兵達の気質によるところも大きいだろうが――。
「お前達の言う『供物』の中には、己の存在も含まれているという事か」
他者の欲望を映し、暴き続けた自分達を、最後の供物とする。
それで、仕上げ。
そこまで読み解いたネコ吉は、力尽きて消えた巫女の黒い残滓が社に向かって流れ出したのに気づいた。
「気をつけろ! 巫女自身が『供物』だ!」
その流れを断ち切りながら、ネコ吉が声を張り上げる。
そうと判れば、他の猟兵達も力の流れを感じ取れる。幾らかは流れてしまったが、全てが流れきる前に断ち切れたのは、大きな収獲であろう。
――悪にやや大きな変動あり。
人参は悪ではない。オブリビオンは世界にとって悪である。
巫女自身も供物と見抜いていなければ、大きな変動になっただろう。
===============================================
善の変動2名:(+++)(+++)
悪の変動3名:(+++)(+++)(+++)
間接的だがユーベルコードによる変動故、一般人のそれよりも大きい。
黒衣の巫女自身:★(2体で★。看破により★★★★→★に減)
以上を総合した善悪値は、下記の通り。
善:☆☆☆
悪:★★★★
===============================================
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『善悪の化神を宿す者』ルシル・セラフィー』
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POW : 白善の翼
【白の善の翼】から【慈愛の輝き】を放ち、【戦意を喪失すること】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : 崩れた均衡が招く暴走
全身を【白善の翼と黒悪の翼】で覆い、自身の【使用した『白善の翼』と『黒悪の翼』の差分】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ : 黒悪の翼
【他者を害する悪】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【黒の悪の翼】から、高命中力の【理性を失わせ、無差別攻撃したくなる悪意】を飛ばす。
イラスト:CHINATSU
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠幻武・極」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●歪なる神
全ての黒衣の巫女と、携えていた雲の鏡は砕かれた。
だが、巫女自身すら供物と捧げた力が、神の器たる小さな身体の鼓動を動かす。
古びた社の中から、白と黒の光が――黒の方がやや強く溢れ出した。光は次第に強く眩くなり、猟兵でもまともに目を開けているのが厳しいほどの光となって――。
『あなた達は――善ですか? 悪ですか?』
白と黒の光の世界で、問いが聞こえる。
やがて光が収まると、古びた社の屋根よりも高くに、白と黒の小さな翼が広げた少女が浮かんでいた。
『善悪の化神を宿す者』ルシル・セラフィー。
『沈黙は不敬です。不愉快です。答えなさい』
何処にでもいそうな華奢で小柄な少女――に見えた。
だがその口から発せられた声色は、大人とも少女とも老婆とも付かない。更に、そんな外見には不釣り合いに重々しく答えを半ば強要する傲慢な物言いは、神としてか。
『善なる者には黒悪の翼を。悪なる者には白善の翼を舞わせましょう』
善には悪を。悪には善を。
逆の力を放つと宣言するその傲慢さも、神らしいと言えるかもしれない。
だけれども。告げる言葉とは裏腹に。
浮遊して高みから見下ろす視線には。器たる少女のペリドットのような瞳には。傲慢さや神らしさなんて、感じられないのは――猟兵達の気の所為だろうか。
むしろ――。
『答えないのなら、勝手に答えを決めますよ』
その内面を深く追求する時間は、どうやら与えては貰えないようだ。
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3章となりました。OPでも提示していましたが、改めて。
このシナリオでのルシル・セラフィーは、イレギュラーな行動パターンを取るので、開示しておきます。
『善ですか? 悪ですか?』
この問いに対するそれぞれの答えに応じて、【白善の翼】か【黒悪の翼】のどちらかを、1人に対して1回ずつ使用します。
答えがない場合は、プレイング及びステシから判定して使用します。
そして、☆1つを【白善の翼】1回使用と換算。
同様に★は【黒悪の翼】1回と換算します。
これが一巡した後のどこかで【崩れた均衡が招く暴走】を使用します。
ユーベルコードの説明記載の通り、☆と★の差分でその効果が定まります。
開始時点の差分値は(1)です。
善:☆☆☆
悪:★★★★
全ての行動は、あくまで『使用する』というだけです。
確定発動や、回避不可、などはありません。判定自体はいつも通りです。
暴走させない事も可能です。
差分を減らそうとするのか、己を貫くのか。
シーソーゲームになるも、ワンサイドゲームになるもプレイング次第です。
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上記の行動パターンの為、今回は全員一括公開になります。
23(土)、24(日)で執筆予定ですので、
プレイング受付は11/21(木)8:30~とさせて下さい。
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幻武・極
善か悪かね
ボクは猟兵として善であろうとしている。
だけど、夢のボクは武術を奪う悪であった。
どちらも最高の武を追い求めたボクであることに変わらない。
そう、ボクもキミと同じ善であり悪でもあるんだよ。
だから、キミに委ねてみるよ。
ボクが善であるか悪であるか。
どちらでも、ボクの出す答えは変わらないからね。
白善の翼と黒悪の翼のどちらも弱点は攻撃の意思を示さない者には効果がないということ。
ちなみにこのユーベルコードで呼び出されたモフィンクスにその質問をしても無駄だからね。
ただ楽に生きていたい、それしか考えていないからね。
波狼・拓哉
悪ですね。というか、狂ったものが善的行動を自発的にやれるとでも?…いやまあ、思考は手放してないので法というものを理解してそれっぽいことなら出来ますけどね。
基本的に俺は誰が止めなければ止める気ないですよ。例えどんな被害が出ようと最初の目的さえ果たせりゃどうでもいいです。
ま、そういう訳で、化け狂いなミミック。戦意?悪意?我々、そういうものはオミットしてますので…その翼をもいで差し上げましょう。
俺は衝撃波込めた弾で翼や頭を狙って撃とう。…害虫駆除に戦意は入りませんからね。無慈悲に無感情に撃ちましょう。
飛翔し始めたら、第六感で先撃ち。その後はミミックや他の猟兵に期待しときましょう。
(アドリブ絡み歓迎)
文月・ネコ吉
そういう存在と聞いてはいたが成程な
白か黒か、あくまでも二択か
まあ善か悪かで問われれば俺は悪だと答えよう
俺は元殺し屋だ、善とは到底呼べるまい
どんな綺麗事を並べた所で失った命は戻らないのだから
だが、だからこそ戦う意思は手放さない
奪った命に俺は生かされた
それは決して忘れない
泥の中も這い上がってこの世界を生きていく
それが俺の在り方だ
油断せず観察を続ける
攻撃見切り叢時雨で武器受け
反撃の機を見て
影ノ刀で斬る
捧げられた力は善も悪も他人の物だ
そこに覚悟も意志も無いのなら
暴走するのも道理だろう
神も人も己は己だ
不敬だろうが構いはしない
元より神なんて信じちゃいないからな
だから敢えて問おうか
お前は善か?悪か?それとも
フィーナ・ステラガーデン
だからいちいち善とか悪とか考えて動いてないわよ!
私にあるのは私だけ!何が悲しくて他人が決めた善とか悪とかに乗っかって自分を決めなきゃ駄目なのよ!?ばっかじゃないの!
それに他人からの評価なんて知ったこっちゃないわ!
というわけで今日も焼くわ!
翼は当然避けるわよ!もし当たってもアンナ(f03717)がいるし何とかしてくれるわ!
逆にアンナが困ってたらはたいてでも目を覚まさせるわ!
奪われ続けたあんたがまた好きにされていいの!?って!
後半は飛び回って当てにくいわね!
でも飛べるのはあんただけじゃないわ!アンナにUCで託すわ!
後は隙を作り出す火球を撃つわよ!
終わったらアンナと帰るわ!
あんたの居場所はこっちよ!
草野・千秋
……善か悪か、ですか
難しい問題を投げかけてきますね
直ぐに即答しようったって難しい話です
自分が悪ではないと言える人なんてそんなにいるでしょうか
僕にはそうとは思えない
そして、この神は一概に邪神とは言えないのかもしれない
――それでも、僕は
僕は善でありたい、そう願っているだけかもしれないけれど
一応、と言っては説得力がないかもしれませんが
これでもヒーローを名乗っている身です
善だとか形に嵌めず、全ての罪なき人々に優しい自分でありたいのです
あまり自分を善だとか悪だとかの形に嵌めると苦しくなりますが
ここで自分を否定して何になるでしょう
僕は往く、全ての力を持たない人々の為に
万が一に備えてUCで防御力をアップ
九泉・伽
黒子あり
煙草に火をつけ煙を吐きつける
善か悪か?どうだかねぇ…決めるのは自分より相手じゃない?
そうね
キミは「自分」を優先するのを悪と認識する
なら好きなように生ききった俺は“悪”だね
父の遺言が「煙草を吸うな、体大事に」
でも俺はヘビースモーカーで肺ガン享年37歳
白善の翼を払い落とし棍の突き
ところでさ
悪を「他者を苦しめてでも自分優先」とするなら俺は悪ではない
他人に『俺』背負わすのだけは全力で回避して生きたの
…父と母の死がもう重たくってさぁ
ねぇ―キミは善と悪、どちらを自分に詰め込みたい?お望みの侭に俺を決めていいよ
あは!ちょっとでもいいなって思ったならもう術中
【虚言譎詐】で崩れた均衡が招く暴走を封印する
アンナ・フランツウェイ
・フィーナさん(f03500)と共に行動。
やっと出てきたわね、紛い物の神。善と悪を見定める事しか出来ないアンタが、全てを憎む呪詛天使に勝てるとでも?邪魔をするのなら神だとしても滅ぼすだけよ!
白善の翼の影響は【気合】で耐える…けど白善の翼とは違う戦意の喪失を感じる。まさかアンナの意志が…?やめなさいアンナ!アンタ全てが憎いんじゃ無かったの⁉
(アンナに戻った後)ふぅ…何とか呪詛天使を抑え籠めた。 確かにこの世界や人が憎いのかもしれない。それでも私の願いは…変わらないから!
まずは【空中戦】で翻弄、隙が出来たら終焉剣を急所目がけ突き刺し【傷口をえぐる】【生命力吸収】で追撃後、全力の【呪詛】を流し込む!
黎・飛藍
何だ。この気味の悪さ…
上手く言い表せないが…お前は、お前なのか?
そんなに答えを求めたいなら、俺は悪だと言い切る
して来た事実は変えようが無い
それを無理矢理、正しかった事にして進んでる
自分を貫く為にはそうするしか無いんだよ
自分を正当化する為に。相手を否定する為に
「都合良く」区分したいから、善悪って概念があるのだろうとは…思うが
立ち塞がる輩は張っ倒す
その意思だけは譲らない
俺はカラになんかならない
自分の意思まで奪られて、たまるか
和傘から仕込み刀を抜いて、【生の始めに暗く、死の終わりに冥し】
善悪なんて、十人十色の玉虫色。見方で変わる
何度も何度も繰り返しても
本当に正しい答えなんてわかりやしない
●解――波狼・拓哉
『あなた達は――善ですか? 悪ですか?』
「悪ですね」
ルシル・セラフィーの言葉に、波狼・拓哉は誰よりも早く即答してみせた。
何の気負いも葛藤もなしに、その答えを選べる。
「俺みたいに狂ったものが、善的行動を自発的にやれるとでも? まあ、そっちは俺の事なんか知らんでしょうけど」
自身を狂っていると、臆面もなく告げられる。
どちらも、拓哉が正気を失っている事の証左と言えるのかも知れない。
「まあ、思考は手放してないし、法というものは理解はしています」
法の観点からの善は『解って』いるから、拓哉はそれっぽい事は出来る。
街で調査の折に、万引を止めたように。
「けど、それだけですよ」
大したことでも無さそうに告げて、拓哉は片腕を掲げる。
「戦意? 悪意? 我々、そういうものはオミットしてますので……失わせるなり、出来るものならどうぞ?」
神を挑発するような言葉を平然と口にして、拓哉はその手に握ったモデルガン『バレッフ』の銃口を、ルシル・セラフィーへ向ける。
「だって、戦意も悪意も――害虫駆除に要りませんから」
――パァンッ!
乾いた音を立てて、ルシル・セラフィーの翼が衝撃に弾かれる。
『……神の慈愛を以て、神に弓引くその狂気を喪わせましょう』
されど衝撃弾に撃たれた事を気にした風もなく、ルシル・セラフィーはその背の白い翼を広げて、慈愛の輝きを放ち拓哉へと浴びせかけた。
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善:☆☆☆☆
悪:★★★★
差分値(1)→(0)
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●解――アンナ・フランツウェイ&フィーナ・ステラガーデン
「やっと出てきたわね――紛い物の神」
ルシル・セラフィーを見上げて、アンナ・フランツウェイが言い放つ。その背中にある二対の翼は、未だどちらも黒いままだ。
『紛い物はどちらですか。呪詛に塗れた天使風情』
互いに神性な傲慢さで、善悪の化神と呪詛天使が視線と言葉をぶつけ合う。
「ええ、そうよ。私は全てを憎む呪詛天使」
されど呪詛天使は、告げられた言葉を嗤って受け入れて。
「善と悪を見定める事しか出来ないアンタが、勝てるとでも?」
『その不遜なる憎悪、神の慈愛を以て喪わせましょう』
二対の黒翼が地上で広がり、空では大きさを増した白い片翼が広がる。
「私の邪魔をするのなら、神だとしても滅ぼすだけよ!」
ルシル・セラフィーが白い翼から放つ、戦意を奪う慈愛の輝きを浴びながら、呪詛天使はその力に抗い、大鎌を手に黒翼を広げ――。
「っ!?」
飛び立とうとしたその膝が、カクンッと落ちた。
「な、に……」
神性の光とは違う抵抗を感じて、呪詛天使が目を見開く。
(「まさか、アンナの……?」)
外からの干渉ではない、内側からの抵抗の意思。呪詛天使が感じたその抵抗は、白く戻りつつある背中の翼にも現れていた。
「やめなさい! アンタ全てが憎いんじゃ無かっ――」
ぱしんっ、と小さな音がその声を遮る。
アンナの頬を、フィーナ・ステラガーデンが叩いた音だ。
「戻ってきなさい、アンナ! あんたの居場所はこっちよ!」
先の言葉で何が起きているのかをなんとなく察したフィーナは、ルシル・セラフィーに背を向けて、アンナの肩を掴んで呼びかける。
『こちらを見なさい。答えなさい。魔女よ。あなたは、善か、悪か――』
「うるっさいわね!!」
答えを求めるルシル・セラフィーの声を、フィーナが背を向けたまま突っぱねた。
「どっちでも勝手にしなさい! 他人からの評価なんて知ったこっちゃないわ!」
神性存在の問いよりも、今のフィーナには目の前の方が大事だ。
フィーナの意識が僅かに逸れたその隙に、呪詛天使がアンナの意識を抑え込もうと、再び呪詛を放ちかけている。
「引っ込んでなさい、呪詛!」
その呪詛を瞳の魔力で黙らせて、フィーナはアンナに呼びかける。
「奪われ続けたあんたが、また好きにされていいの!? そんなわけ無いでしょ!」
『…………』
それを見下ろし、ルシル・セラフィーはゆっくりと、黒悪の翼を広げていた。
『その独善な理性、神の害意を以て悪に染めましょう』
力ずくでもアンナの呪詛を払わんとするフィーナ。
その様子をある種の善と定め、ルシル・セラフィーは害悪の情を与える黒翼を、フィーナに降り注がせた。
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善:☆☆☆☆☆
悪:★★★★★
差分値(0)→(0)
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●解――文月・ネコ吉
(「――聞くと見るとでは、大違いだな」)
ルシル・セラフィーが視線を己に向けたのを感じながら、文月・ネコ吉は胸中で呟いていた。
しばらく見ていてネコ吉が判ったのは、聞いていた通りの事。
善か悪か。白か黒か。
あくまでも二択。それ以外はない。答えなければ、向こうの判断で定められる。
(「しかし何故、答えの逆なのだ?」)
本当はもう少し観察を続けていたかったが、視線で問われてしまえば仕方がない。
あまり気が長く無さそうなのも、ネコ吉は理解していた。
「善か悪かで問われれば、俺は悪だ」
だから、ネコ吉はその答えを告げる。
「俺は元殺し屋だ、善とは到底呼べるまい」
そう答えるネコ吉の視線は、ルシル・セラフィーを真っ直ぐ見上げていた。
「どんな綺麗事を並べた所で失った――俺が奪った命は戻らないのだから」
自分が答えた結果、どう来るか。
その行動を見通そうと、ネコ吉はじっと目を凝らす。
『ならば神の慈愛を以て、命を奪うその戦意を喪わせましょう』
ルシル・セラフィーが背中の白翼を広げても、その翼が輝いて何処か温かそうな光が放たれるのも、ネコ吉はずっと見て、観ていた。
何故なら――観察は、捜査の基本である。
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善:☆☆☆☆☆☆
悪:★★★★★
差分値(0)→(1)
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●解――黎・飛藍
(「何だ。この気味の悪さ……」)
黎・飛藍がルシル・セラフィーに最初に抱いた感想は、そんなものだった。
飛藍にはルシル・セラフィーの、器たる少女の顔はやはり見えていない。されど、大人とも少女とも老婆とも付かない声色は、その耳朶に届いている。
なまじ聞こえて、表情以外も見えるだけに、飛藍にはそれが人の形をしていながらも得体の知れないものだと思えてならなかった。
「上手く言い表せる気がしないが……お前は、お前なのか?」
『それは私に言っているのですか?』
気味の悪さを確かめるように呟きを漏らした飛藍に、ルシル・セラフィーが気づいて視線を向ける。
『問うているのは、こちらです。善か悪か――答えなさい』
「そんなに答えを求めたいのか」
気味の悪さは消えないまま、そこに答えを求める意思を感じて。
「なら、俺は悪だ」
飛藍はその意思に、きっぱりとそう言い切った。
自分を正当化する為に。
或いは相手を否定する為に。
自分なり他者なりを『都合良く』区分する為に、善悪の概念があるのだろうとは思いながらも、飛藍は己を悪と答えた。
「俺がして来た事実は、変えようが無いからな」
『神の慈愛を以て、秘めたる殺意を喪わせましょう』
飛藍が告げた答えを聞いてルシル・セラフィーが広げた白い翼は、また少し、大きさを増していた。
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善:☆☆☆☆☆☆☆
悪:★★★★★
差分値(1)→(2)
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●解――九泉・伽
(「――彼、戻っちゃったか」)
戻ってきた身体の中で、九泉・伽が声に出さずに呟く。
『あなた達は――善ですか? 悪ですか?』
頭上から聞こえる問いはとりあえず聞き流して、伽は取り出した煙草を咥えて、火を点ける。
尤も新たに煙草を吸わずとも、伽の身体はまた煙草臭さが戻っていたのだが。
それでも伽はゆっくりと吸い込んで――煙を吐いた。
煙草1本を伽が吸い終える間に、他の猟兵が問いの答えを告げていく。2本目に火を点けようとした所で、伽はふと、己を見下ろす視線に気づいた。
「善か悪か。どうだかねぇ?」
ルシル・セラフィーに視線を向けられ、伽は目元の黒子が戻った目を細めて告げる。
「キミが『自分』を優先するのを悪と認識するとする。なら、好きなように生ききった俺は『悪』だね」
仮定を混ぜながら、伽はそれでもきっぱりと己を悪と答えた。
「父の遺言がさ。『煙草を吸うな、体大事に』って。でも俺はヘビースモーカーで、肺を病んでしまってね」
――享年37歳。
それは言う事もないかと胸中で飲み込んで、伽は言葉を続ける。
「更に言うとさ。『彼』が煙草を吸わないのに、この体でもまた吸っているのだから。我ながら、救いようがないね」
伽に煙草をやめる気がないあたり、もっと救いようがない。
『神の慈愛を以て、その意志を喪わせましょう』
伽の煙草から立ち昇る紫煙を浴びてもそれを気にした風もなく、ルシル・セラフィーは背中の白い翼を広げた。
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善:☆☆☆☆☆☆☆☆
悪:★★★★★
差分値(2)→(3)
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●解――草野・千秋
(「……善か悪か、ですか」)
草野・千秋にとって、ルシル・セラフィーのその問いかけは、難問と言えた。即答出来るものではなかった。
どちらを答えるか、ではない。
どちらかなんて、それは、ヒーローを名乗る身として決まっている。
(「僕は――善でありたい」)
千秋が迷っていたのは、口に出して答える事だ。まだそれは、『そうでありたい』と言う『願い』のようなものであったから。
願っているだけであろうが、口に出してしまえば、それは選ばなかった方を否定した事になる。二者択一でどちらかを選ぶという事は、そう言う事だ。
(「自分が悪ではないと言える人なんて、そんなにいるでしょうか?」)
そうとは思えないでいた千秋には、意外だっただろう。
他の猟兵達は次々と告げた答えが。
――悪と。
彼らがそう答えた理由は、それぞれ様々だ。
それでも彼らが悪を答えとしたのは、おそらく――自分を否定しなかったから。
善行を全くしていないというわけでもないだろうに。
それでも、彼らは彼らの中の悪を否定しなかった。
(「そうですよね――ここで僕が自分を否定して何になる」)
その姿が、千秋の迷いを晴らさせた。
千秋の迷いの一因は、答える事が自分を型に嵌めるようだと感じていたからだ。だがそれは、他者が見る自分の姿。
千秋自身の中にあるものは、型とは呼ばないのではないか。
「僕は、善ですよ。これでもヒーローを名乗っている身ですから」
――全ての罪なき人々に優しい自分でありたい。
それを今一度思い出し、千秋はきっぱりとルシル・セラフィーに告げる。
『ならばその優しき理性を、神の悪意を以て失わせましょう』
それを聞いたルシル・セラフィーは、開いた黒翼から害悪の情を与える黒い羽を千秋へと降り注がせる。
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善:☆☆☆☆☆☆☆☆
悪:★★★★★★
差分値(3)→(2)
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●解――幻武・極
『さあ――最後はあなたです』
「……」
ルシル・セラフィーが視線を向けたのは、無形にて目を閉じ佇む幻武・極。
極もまた、答えを考えていた。
猟兵としてどうあろうとしているか、と言うのなら『善』である。
だが――極がそれをすぐに答えなかったのは『引っかかるもの』があるからだ。
それは、かつて深い眠りの中で見た己の姿。
(「あの夢の中、ボクは――武術を奪う悪だった」)
猟兵として戦う姿。夢で見た悪鬼が如き姿。
どちらも最高の武術を追い求める極であることは、変わらないのだろう。
故に、極の答えは――。
「キミに委ねてみるよ」
ルシル・セラフィーを真っ直ぐ見上げて、極は告げる。
「ボクは――いや。ボクもキミと同じ。善であり悪でもあるんだよ」
『同じ……?』
極の言葉を聞いたルシル・セラフィーが、微かに震える声で問い返す。
「そう。だから、ボクが善であるか悪であるか――キミが決めるがいい。キミがどちらを決めても、ボクの出す答えは変わらないからね」
善と言われようが悪と言われようが、極は極だ。最高の武術を求めると言う目的は、変わる筈がないのだから。
だが――。
『……同じな筈がないでしょう』
極の答えを否定したルシル・セラフィーの声は、変わっていた。
『人と神が同じな筈がないでしょう。あなた達と私が、同じ筈がないでしょう』
更に大きくなった白翼を広げながら、その口から発せられるのは少女の声。
『二神の力を宿した事もないヒトが』
『善悪の化神たる存在と同じ筈が無かろう』
次いで大人びた女の声が。老婆のようなしゃがれた声が。
次々とその口から、言葉を発する。
『出す答えは変わらない? それなのに、選べているのに選ばせるのですか! 私のように、選ぶ事もできずに死んでもいないのに!』
かと思えば、今度はひどく震えた少女の声で、その口で叫んでみせた。
器と神性の有り様が、乱れている。
そうさせたのは、極の言葉が与えた怒りだ。
極は敢えて選ばず選ばせた。選ぶ気がないのでも、答えに迷ったのでもない。選ぼうと思えば選べたのに、選ばなかったのだ。
神と邪神、相反する存在の両方から加護を『受けてしまった』少女にとっては、それはとても――とても、癇に障ったようだ。
それだけではなく、少女に加護を与えて化神とした二神も同様に怒ったのだろう。神にとって、ヒトに試されるなど以ての外だろうから。
ごちゃまぜになった3つの怒りは、暴走への引鉄か。
或いは、神と少女の本音か。
『答えを持ちながら神に答えぬその悪。武を求める戦意の喪失を持って贖いなさい』
ルシル・セラフィーの背中で、更に大きさを増した白翼が、慈愛の輝きを放たんと羽撃いた。
●糸口
「モフ~」
なんとも間の抜けた声が響く。
ファラオのような縞柄の被り物をした、顔から全身から緩さしかない獣――モフィンクスが、極の足元に現れていた。
「白善の翼か。まあいいけど。……信じて貰えないかも知れないけど、ボクは別にキミを怒らせる気はなかったんだよ」
極は自ら召喚したその生き物を、肩に担ぐように抱えあげる。
『だったら――だったらどうだと言うのですか!』
「仕方ない。モフィンクス、任せたよ!」
善神の慈愛の力を怒りに任せて使うという矛盾をみせるルシル・セラフィーに、極はモフィンクスをぶん投げた。
「モ――」
何ともずんぐりむっくりとしたモフィンクスボディが放物線を描いて飛び、白翼にもふっと当たって――。
「フ~……zzz」
白翼をズリズリと滑りながら、寝落ちて行った。
放たれる筈だった慈愛の輝きを全て、その身に吸い寄せて。
『え――』
「やはり、弱点は攻撃の意思を示さない存在で、正解のようだね」
驚くルシル・セラフィーを、極が得意気に見上げて告げる。
「そいつに善か悪かなんて聞いても無駄だからね。ただ楽に生きていたい、それしか考えていないからさ」
善か悪かなど、ただ寝ているだけの獣には意味を持たない。
そしてモフィンクスはただ寝ているわけではない。
極がルシル・セラフィーの翼の弱点を示した事で、モフィンクスはしばしの間、その睡眠の中に白善の翼の力を封じ込めていられる。
そしてそれは――暴走の始まりだった。
===============================================
善:☆☆☆☆☆☆☆☆
悪:★★★★★★
差分値(2)→(0)
――白善の翼の一時封印に成功。
180秒、差分値なしの不完全な暴走となる。
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●暴走と反撃の始まり
『封じられた……? 化神の力が……?』
いくら羽撃いても何も出ない白翼に呆然と触れて、ルシル・セラフィーが呟く。
『それじゃあ……私は何のために……』
揺らいだものは、善悪の化神としての自信。
怒りでかき乱された心を支えていたものが、ガラガラと崩れていく。
『――っ――~~っ!!!!!』
ざぁ――ッ。
声無き絶叫をあげるルシル・セラフィーの背中で、翼が弾けた。
舞い散った白と黒の羽は、されど器の少女から離れずその周囲を渦巻、姿を繭のように覆い隠す。モノクロームの繭は次第に収束し、少女の全身を覆っていく。
そうして現れたのは、モノクロームのヒトガタ。
白と黒の羽が全身に折り重なって、ランダムなモノクローム模様を為している。
「白善の翼を封じてる間は、暴走も不完全な筈。3分は持たせるよ」
それを見ながら、極が告げるその後ろで――。
パァンッと乾いた銃声が響いた。
壊れた探偵が、無造作に向けたモデルガンで鳴らした音は、反撃の号砲。
「化け狂いな――ミミック」
その傍らで箱型生命体が、形を変えていく。
立ち昇る炎が、黒い羽を燃やしていく。
「……いけるわよね」
「ふぅ……ええ。何とか呪詛天使を抑え籠めましたから」
羽の灰を払いながら問う魔女に、呪詛をねじ伏せ、己と白い片翼を取り戻した処刑人の少女が応えた。
手放せないものがある。
(「奪った命に俺は生かされた。それは決して忘れない」)
泥の中からだろうと、這い上がってこの世界を生きていく。
それが、己で決めた己の在り方。
だからこそ、かつての殺し屋は戦う意思と共に、古びた脇差の柄を握り締めた。
譲れないものがある。
変えようがない事実を、無理矢理に、正しかった事にして進んできた。
それは誰の為でもなく、自分を貫く為。
「俺はカラになんかならない。自分の意思まで奪われてたまるか」
数多に憑かれた青年は、赤い和傘を畳んで、刀のように構えた。
「これでもヒーローを名乗っている身ですからね」
断罪戦士が鋼鉄の心で、黒の悪意を跳ね除ける。
「僕は往く、全ての力を持たない人々の為に」
認め信じた者の為。信じてくれた者の為。膝をついてはいられない。
「悪を「他者を苦しめてでも自分優先」とするなら俺は悪ではないんだよねぇ。他人に『俺』背負わすのだけは全力で回避して生きたの」
煙草の香りを纏う男は、嘯く言葉で慈愛を跳ね除ける。
――父と母の死がもう重たくってさぁ。
笑って突き出した棍が、少女の身体を覆った白と黒の上を突いた。
●壊れゆく化神
『――誰も彼も壊れてしまえ』
白と黒のモノクロームのヒトガタとなったルシル・セラフィーが、伽が突いた棍を片手で軽々と押しのけて動き出す。
――パンッ!
そこに乾いた銃声が響いて、ルシル・セラフィーの白黒の頭が少し仰け反った。
飛び出しを第六感で先読みして、拓哉が放った弾丸だ。とは言え、弾丸の衝撃では、最早ルシル・セラフィーをほんの数秒、静止させる程度にしかなっていなかった。
「ああ、うん。もう衝撃波込めた弾でも、足りないか」
その結果を淡々と受け入れて――拓哉は銃を抱えたまま、告げる。
「そう言うわけで。ミミック、期待してますよ。あの虎みたいな柄を為している翼、剥ぎ取って差し上げましょう」
箱という形状の面影すら脱ぎ捨てて、鋭い爪を持つ二足歩行の獣へと変じた箱型生命体ミミックが、飛び出したルシル・セラフィーに向かって跳んだ。
確かに拓哉が言うように、白と黒がランダムに混ざったモノクロームは縞模様のようになっていて、白い虎柄のようにも見えなくもない。
つまりどちらも、顔のない獣だ。
ミミックが同じような色でなくて良かった――などと思う拓哉の視線の先で、モノクロームの拳と青白い爪がぶつかった衝撃で、ミミックとルシル・セラフィーがどちらも互いに弾かれていた。
「捧げられた力は善も悪も他人の物。覚悟も意志も無い力。暴走するのも道理だ」
「何でもいいさ。神だろうが、立ち塞がる輩は張っ倒す」
弾き飛ばされたルシル・セラフィーが空中で静止した所に、ネコ吉と飛藍が左右から同時に飛び掛かった。
ネコ吉は脇差『叢時雨』を。
飛藍は仕込み刀『時雨』を。
奇しくも雨の字を銘に持つ二振りを、同時に閃かせる。
しかし斬りつけられた刃は、音もなくモノクロームの両腕で受け止められた。だが、止めた腕を軸にして、ネコ吉はその下を掻い潜り、飛藍は上を飛び越える。
「ん?」
「っと!?」
『――!』
そこに跳躍してきたミミックが、飛び降り様に青白い腕と獣爪を、3人纏めて薙ぎ払うように振り下ろした。
「あ、今のミミックに理性ないんで。早く動くの狙うだけです」
気をつけて、と悪びれもせずに拓哉が遠くで告げる。
他の猟兵なら言っておけば大丈夫だろうと思っての事だし――もしもミミックの巻き添えが出てしまっても、構わない。それで目的を達成出来るのなら、拓哉にとってはどうでも良いことなのだ。
(「音は聞いているようだが――言葉は通じるのか?」)
ルシル・セラフィーを追い続け、拓哉のミミックとタイミングをずらし斬りつけ、時に反撃を刃で受け止めながら、ネコ吉はその様子を観察し続けていた。
(「まあ、試してみるか」)
声が届くなら、試したい事がある。
「俺は元より神なんて信じちゃいない。だから、敢えて問おうか」
問いながらネコ吉が振り下ろした『叢時雨』を、ルシル・セラフィーはモノクロームの腕で止めると、そのまま押し込むように突き進みはじめた。
(「!?」)
少し驚きはしたものの、ネコ吉は縮まった距離を好機と、続く言葉を口に出す。
「お前は善か? 悪か? それとも――」
散々問いかけた言葉を逆に向けられた瞬間、ルシル・セラフィーの動きが止まった。
顔までも覆うモノクロームの翼の隙間からネコ吉に見えたのは、驚いて見開かれているように見える器の少女の瞳。
『わた、わたし、ワタシハ――善悪の化神。善も悪も併せ持つもの』
「本当にそうか?」
乖離しつつあるますます歪な声で答えを告げたルシル・セラフィーに、飛藍が疑問を投げかけた。
「善悪なんて、十人十色の玉虫色。見方で変わるもんだろ」
そのくらいは、ルシル・セラフィーも判っていただろう。されど。
「何度も何度も問いかけを繰り返しても、本当に正しい答えなんてわかりやしない。何度繰り返したって、到達出来ないんだ」
『――。――』
飛藍が続けた言葉に、ルシル・セラフィーが何故か言葉を失った。
(「――なんだ? 何でも良いか」)
羽で覆われてなくても表情が判らない飛藍は、言葉を失った理由を訝しみながらもその機を逃さず、番傘の柄を確りと握る。
(「――好機!」)
そして、ネコ吉もこの機会を逃さず、『叢時雨』を鞘に戻して構えた。
「――素直に失せろ」
生の始めに暗く、死の終わりに冥し。
飛藍が抜き放った『時雨』の刃が、モノクロームのヒトガタを深く――その内まで届けと深く斬り裂く。
「黒き刃よ」
影ノ刀。
ネコ吉が身体から放った数本の黒影の刃が、モノクロームのヒトガタに突き刺さる。
『正しい答え? ――そんなの要らない』
未だモノクロームの顔のまま、少女の声でルシル・セラフィーが告げる。
『こんな世界が、正しくないから』
また混ざった声で。
『だから私はこんなことに』
少女の声に戻って。
『善悪の化神に至ったのだ』
そしてまた声が混ざって。
目まぐるしく声色を変えながら、ルシル・セラフィーは飛藍とネコ吉を両手で同時に突き飛ばし――ミミックの獣爪が、ルシル・セラフィーを吹っ飛ばす。
「……だいぶ、見えてきた気がする」
空中で身を翻し着地しながら、ネコ吉が小さく呟く。
飛藍も、感じていた気味の悪さは消えていて――されど、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
そんな2人から離れるように、ルシル・セラフィーは空へと浮かび上がった。
●世界に思うこと
「……似ている気が、するんです」
聞こえたルシル・セラフィーの少女の声に、アンナはそう感じていた。
あれは――自分をこんな風にした世界に向けた、やり場のない想いではないかと。
「そう思うんなら、アンタにとってはそうなんでしょ」
その呟きに、フィーナの声が同意を示す。
それと同時にアンナの前に、静かに燃える黒い炎を帯びた黒剣――『終焉剣・ラストテスタメント』が差し出された。
「私の炎もアンナに託すわ。ぶちかまして来なさい!」
口元と親指を朱く染めたフィーナが、アンナに笑って告げる。
呪血付与――終焉剣が帯びた黒い炎の源は、フィーナの魔力を込めた血だ。
「空は任せたわよ」
「フィーナさん――行ってきます!」
1人では得られぬ力を宿した、普段は使わないようにしている剣を確りと握り。アンナは自分の意思でその両翼を黒く変えて、空へ飛び上がった。
それを見送って、フィーナは親指を噛み切ってない左手に杖を構え――。
「ばっかじゃないの!」
声を張り上げると同時に、残る魔力で炎を放ち、空で爆ぜさせる。
『――』
爆炎を振り払ったモノクロームの腕から、羽が落ちる。
「世界が正しくない? だったら何よ!」
ひらりと舞いながら燃え尽きる羽を見つつ、フィーナは杖を掲げたまま、ルシル・セラフィーに言い放った。
「だから善か悪か聞いたっての? 何が悲しくて他人が決めた善とか悪とかに乗っかって自分を決めなきゃ駄目なのよ!?」
呪血で残った魔力でフィーナが放つ散発的な炎は、牽制と時間稼ぎ。
されど。
「善とか悪とか、一番気にしてるのはアンタじゃない!」
『っ!?』
発した言葉は、炎以上に突き刺さる。
「はぁっ!」
『っ!!』
そこに黒翼を広げたアンナが真っ直ぐに飛んできて、ルシル・セラフィーに黒炎を纏った終焉剣を振り下ろした。
刃を受けたルシル・セラフィーの腕から、モノクロームの羽が幾つか焼け落ちる。
「っ!」
アンナはすぐに背後に回り込み、再び斬りつける。
「あなたは、あなたをそんなにした世界や人が憎い? 嫌い?」
『……』
縦横無尽に飛び回り、斬りつけながらアンナが向ける言葉に、ルシル・セラフィーは無言を返す。
「私もこの世界や人が憎いのかもしれない。それでも私の願いは……変わらない!」
アンナのその言葉は、ルシル・セラフィーに向けたものか。
それとも、己の内の呪詛天使に向けたものか。
「私は、この世界で、私を救ってくれた皆と平穏に暮らしたい……!」
だから世界は壊させない。アンナが黒炎を靡かせ終焉剣を振るうたびに、モノクロームの羽が数枚ずつ、焼け落ちていく。
『――救いなんかっ!!!』
ルシル・セラフィーのモノクロームの掌から放たれた突風が、アンナを押しやる。
されど、ルシル・セラフィー右を見れば拓哉のミミックが迫っていて。
真下では、ネコ吉と飛藍が、跳躍で飛びかかる機会を伺っている。
だから――ルシル・セラフィーは、最も倒しやすいであろう相手を、血とともに魔力を消耗しているフィーナを狙って、急降下をはじめた。
●壊れた先の心
その進路に割り込む、2人の猟兵。
「数秒で良いんですね」
「うん。そのくらい止めてくれれば、多分何とか出来るから」
伽に確認しながら、千秋が進み出る。
(「確かに――この神は一概に邪神とは言えないのかもしれませんね」)
空から迫るモノクロームのヒトガタを見やり、千秋は胸中で呟く。
他の猟兵が引き出した言葉は、千秋も当然聞こえている。神らしいと言える傲慢さもあったけれど、そうでない色も聞こえていた。
『どきなさい!』
「どきません。僕は負けられないんですよ、僕を信じてくれた人の為に!」
Judgement you only。
決して挫けぬ正義の心を燃やした力を守りに変えて。
千秋は、凄まじいスピードで突っ込んで来るルシル・セラフィーに向かって、自分も地を蹴って飛び出した。
千秋とルシル・セラフィーが互いに額からぶつかる。激突の衝撃で弾かれた空気が、太鼓のような音を鳴らした。
「ぐっ……!」
殺しきれなかった勢いに押し込まれ、千秋の踵が石畳を抉った。
それで拮抗したかに見えたのは、一瞬。ルシル・セラフィーが更に押し込めば、千秋の踵が石畳を削って押し出されていく。
「本当は、苦しいんじゃないですか」
脚に力を込め踏ん張りながら、千秋が告げる。
「善も悪も。善悪の化神と言う形に嵌まるのが」
数mほど押された所で、千秋はルシル・セラフィーを押し止めていた。
「ねぇ―」
そこに、伽がひょこりと顔を出す。
「キミは善と悪、どちらを自分に詰め込みたい?」
詰め込む?
善悪を問うのではない伽の問いに、ルシル・セラフィーが未だモノクロームで視線も見えない顔を向ける。
「それ、俺に詰め込んでいいよ」
自己犠牲とも取れる言葉に、伽が手放した棍が立てた乾いた音が重なる。
『本当に――?』
発した声は、また少女のみの声。
「ああ。お望みの侭に俺を決めていいよ」
ルシル・セラフィーが首に伸ばしてきたモノクロームの細い両腕を、伽は避けようとも払おうともしない。
『なら……あなたも同じにしてあげます。誰も彼もが、善も悪も宿してしまえばいい。それで壊れてしまえばいい』
「あは! それがキミの望みか」
完全に指を首にかけられても、伽はニイッと嗤ってみせる。
「ああ……それでか。自分と同じ、善悪宿した存在にしようとして、善か悪かと答えた逆の翼を使っていたのか」
そこに追いついたネコ吉が、ルシル・セラフィーの少女の声にようやく得心が言って頷いている。
「……そりゃあ、そう言うことが出来るんなら、考えちまうだろうさ」
壊滅させた光景を思い出し、飛藍も小さく呟いていた。
「でもごめんね。これでもう術中。もうやめましょ?」
ざぁぁぁぁぁ――っ!
伽が告げた瞬間、ルシル・セラフィーをモノクロームに覆っていた白と黒の翼が弾けて飛び散って――霧散した。
『え――なん、で?』
煙草の煙は、最初の問いに答えながら。
棍の突きは慈愛の光を払った時に。
そして――最後の甘言。
3つが揃って、伽がケムニマク――虚言譎詐。
暴走と言っても、ユーベルコードの1つ。
ならばユーベルコードで封じられるのは、極が白善の翼を先に封じてみせたことでも明らかだった。
その極は、呆然としたルシル・セラフィーを黙って見つめている。
「これで――終わりです」
そこに追いついたアンナが、もう翼もなくなった背中に終焉剣を突き刺した。
『ォォォォォォァァァァォォ』
『ィィィィィァァァァァァァ』
流し込んだアンナの呪詛とフィーナの黒炎が、ルシル・セラフィーの中に残っていた何かの残滓を、欠片も残さず焼き滅ぼしていく。
そして、炎と呪詛は残滓を焼いてもまだ消えず、その力は器へ向かう。
そうならなくとも、本来相容れぬ力の器となっていた少女は、過去の存在。化神たる力を失って、この世界に残っていられる筈もない。
『終わ、り……ああ……そうなんです、ね……』
終わり。その一言に、少女は何を思ったか。
「そう。お終いです」
緩々と瞼を閉じて呟いた少女の額に、拓哉が銃口を突きつける。彼の他にも、その役目が出来る猟兵もいただろうが――反対の声は上がらなかった。
それは善悪など関係なく、猟兵の誰かがやらねばならぬことなのだから。
そして誰も止めないのならば、拓哉は止まらない。
無慈悲に無感情に、拓哉の指が引鉄にかかる。
パンッと銃声が響いても、血が飛び散ることもなく。
ルシル・セラフィーの小さな身体も、白の翼も黒の翼も、跡形もなく消えていた。
何故、善なる神と悪なる神の加護を器の少女が得たのか。
そしてその力を操れる化神として骸の海より戻った時、望んでいた事は、本当に猟兵達が引き出した言葉のみだったのか。
他に――何も望みはしなかったのか。
今となっては判らない。判った所で、詮無きことであろう。
――善ですか? 悪ですか?
もう、あの声で、その問いは問われないのだから。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年11月26日
宿敵
『『善悪の化神を宿す者』ルシル・セラフィー』
を撃破!
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