#ダークセイヴァー
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怪物の王は命じた。
年が移ろうたびに、十人の贄を差し出せと。
さすれば、この見窄らしい村を魔獣や夜盗から護ってやろうと。
村の者には、その命令を拒むことなど出来なかった。
命じられるまま、村は王に生贄を差し出した。
一年が経ち、五年が経ち、十年が経った。
貧しい村だ。毎年十人もの人間を贄に差し出し続けることなど不可能だった。
一計を案じた村の者は、生贄を他所から調達することにした。
村に通ずる街道を設け、宿場を開き、奴隷商を呼び込んだ。
強大な王の庇護にある村は、確かに外敵に襲われる心配がなかった。
品性良からぬ商人どもが村を拠点にするまで、さしたる時間も掛からなかった。
やがて貧しかった漁村は豊かに肥え太り、奴隷商の街になった。
王の家畜人間だった村の者どもは、今度は家畜人間を扱う側になったのだ。
王と街との約定が交わされてから、数え切れないほどの歳月が経っていた。
誰も王の姿を見たことがない。
誰も贄として差し出された人間がどうなってしまうのか知らない。
そもそも、"王と呼ばれた怪物"が今もなお存在しているのかもわからない。
ただ、贄を差し出す約束だけが守られ続けている。
そして、今年もその時がやってきた。
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遠見の術から意識を戻した羅刹の娘は、犬歯を剥き出しながら「こんな街は滅んでしまえ」と嗤った。
娘は、しかし、すぐに表情を正すと、猟兵としてあるべき言葉を紡ぐ。猟兵たちが生贄に成り代わり、王の居城に忍び込んで敵を討ち滅ぼせ、と。彼女の名は、グリモア猟兵のショコラッタ・ハロー。グリモアの術で視得た光景を、猟兵たちに伝える役目を負った娘。
「予知によれば、ン十年続いてきた街と王の蜜月は近々終わりを迎える。何が原因かは知らねえが、王の配下によって街が滅ぼされる光景が視得たんだ。肥溜めみたいな街だが、全員が全員クズ人間ってワケじゃねえ。何より、人買いに攫われてきた連中には何の咎もないからな……救うだけの価値は、猟兵の務めを差し引いてもあるだろうよ」
この街を王の軍勢から守るためには、こちらから王の居城に乗り込むより他はない。だが、もどかしいことに、直接居城に乗り込んで王を討伐することは叶わないという。
元々貧しい漁村だった奴隷商の街は、大きな湖のほとりに築かれている。この湖はかつて村の生計を支える漁場だったが、いつの頃からか小魚一匹住めぬ穢れた湖になってしまった。王の居城は、この湖の真中にある島に築かれている。
「呪われているんだ。王の呪いか、犠牲となった生贄たちの呪いか、それはわからん。おれは魔術や呪術の類はさっぱりだからな。だが、この湖が呪われていることだけはわかる。居城の島まで泳いで渡るのは無理だろう。一人二人が飛んで渡っても嬲り殺されるのがオチだ。何より、今年の生贄の選定がすでに始まってる。そいつらをみすみす見殺しにするワケにはいかないだろ」
生贄として潜入を果たす方法は、大きく分けて三つある、とショコラッタは言う。
一つ、無知な余所者を演じること。王の居城に召し抱えられれば豊かな生活を送れる……という噂を信じて街にやってきた愚かな旅人を演じれば、奴隷商や生贄を選ぶ街の重鎮の目に留まるだろう。いくらかの演技力が求められるが、街なかをうろついている間に、街の住民から何らかの情報を得られるかもしれない。
一つ、他所の土地でわざと奴隷商に捕まり、商品としてこの街に納められること。仕込みに手間は掛かるが、生贄に選定される確率は幾らか高くなるだろう。接する機会が多いぶん、奴隷商や街の重鎮から情報を聞き出せる可能性も高い。
一つ、すでに生贄として選ばれた奴隷たちを救い出し、身代わりになること。贄に選ばれた者は、街と島を結ぶ奴隷船に収容されているという。手っ取り早い方法だが、奴隷が囚われている場所に潜入するスキルが求められる。生身代わりになった奴隷を逃がすためのフォローも必要だ。しかし、成功すれば確実に王のもとへ送り込まれることができる。
「おれが思いつくやりかたはこの三通りくらいだが、他に良いやり方があれば試してくれても構わない。要は、纏まった人数の猟兵が同時に島に渡れればいいんだからな」
ショコラッタはそう言いきると、説明の間にずっと手のなかで弄んでいたリンゴを齧った。齧って、齧って、芯だけになったリンゴをゴミ箱に放り捨てると、またぞろ浅ましい笑みを浮かべた。
「一目で王サマにご満足頂ける完璧な奴隷を演じるか、街の人間から王サマにブッ殺して貰いたくなるムカつく奴隷を演じるか。それは好きにしな」
征こう、猟の時間だ。おれたちの手で、オトシマエをつけてやろうじゃないか――ショコラッタはそう言って、グリモアをその手に浮かび上がせるのだった。
扇谷きいち
こんにちは、扇谷きいちです。
リプレイの返却スケジュールを紹介ページでご連絡する場合があります。お手数をおかけしますが、時折ご確認いただければ幸いです。
●補足1
第一章では生贄候補として奴隷商、ひいては生贄を選定する街の者に捕らわれてください。すでに囚われている一般の生贄候補の身代わりになることも可能です。
OP中で提示した方法以外にも、効果的なプレイングがあれば採用いたします。
●補足2
種族、性別、年齢、その他外見などによる有利不利は発生しません。プレイング次第で、どなたでも生贄候補になれます。
●補足3
生贄候補として奴隷商に囚われた場合、一時的に武器などの装備品が没収されます。章が進んだあと、装備品は返還される予定です。
●補足4
冒険章における「POW」「SPD」「WIZ」の行動は一例です。
オープニングを踏まえて、自由な発想でプレイングをかけてください。
●プレイング受付について
OP公開後、翌日の午前8時31分以降から受付を開始いたします。
仮にプレイングを多数頂いた場合は、抽選で採用を決定させて頂きます。
多くとも10名以内の採用の見込みです。
第二章以降は、第一章にご参加いただいた方を優先的に採用いたします。
以上、皆様の健闘をお祈りしております。
よろしくお願いいたします。
第1章 冒険
『籠の中の小鳥達は』
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POW : 正面突破で救出を試みる
SPD : 潜入して救出を試みる
WIZ : 捕虜の手当などをする
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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街道を進んで行けば、ほどなくして大きな街に辿り着いた。
そこにはかつて貧しい漁村だった頃の面影はどこにもない。
大通りには人が溢れ、露店には様々な品物が所狭しと並べられている。
街の中心部を過ぎて湖の方角へ歩を進めれば、街の賑わいは別種の雰囲気へと変じていく。
街の奥にて広がる市に並ぶ商品は、食料品や日用品ではなく各地から連れてこられた奴隷たちだ。人買いたちはこの街で奴隷同士の売買を行い、また別の街へと商品を引き連れて旅立っていくのである。
そして奴隷市場はこの季節には特別な役割が与えられる。
姿無き王へと捧げる贄を選定するという、大切な役割が。
本来の目的などもはや覚えている者のほうが少数になりつつある約定だが、その約定のおかげで奴隷商も街の者も財を蓄えてきた。
誰も彼もが疑問を持たぬまま、王に捧げる贄を檻のなかに囚われた人々のなかから見出そうとする。
まるで、今日の糧となる家畜を選び出すような目つきで。
ニコラス・エスクード
弱肉強食が世の常だと人は言う
この街は正しく、その言葉の体現なのだろう
人らしからぬ、獣の住処だな
都合のいい余所者を演じ、
生贄に選ばれるよう立ちまわるか
傲岸不遜で出世欲が強く、腕っぷしに自信のあり
噂を信じやってきた酒癖の悪い荒くれもの
といった感じだな
酒場で酒をくらいながらクダを巻く。
俺こそが王に認められる器であると高らかに宣言し、
こんな安酒なんてすぐに飲まなくなるだの
他の男共の細腕じゃ取り立てられることなどないだろうだの
周りを卑下し、自らを持ち上げる言動を
周りが馬鹿を見る目で見ていれば、
最後は酔いつぶれ寝落ちた振りをするか
突っかかってくる者がいれば、
殴り倒して捕まってしまうのも良いな
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ダークセイヴァーという世界ならずとも、弱者が強者の食い物にされるのは世の常だ。この街が体現せしめるものは、そう言った世の真理の一面に過ぎない。
もっとも、旅人として街を訪れたニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)の目には、この街の姿はそのような真理に照らし合わせる価値もないように映った。
――人ぶってはいるが、人らしからぬ者ばかりか。家畜小屋で獣が獣を総ているようなものだというのに。
奴隷たちを載せた何台もの檻馬車が、通りを歩くニコラスの側を行き交っていく。商売を終えてニヤけた表情を浮かべる奴隷商を尻目に、彼は目星をつけていた酒場に足を運んだ。
街の中心から離れた立地にも関わらず、その酒場は随分と繁盛をしていた。カウンター席に着いたニコラスに、店主は「狭い席で悪いね。本当はもっと良い席に案内したかったんだが」とお愛想を言う。
見れば、なるほど、景気の良さそうな連中が店には溢れかえっていた。奴隷商に雇われた用心棒や役夫が通う店なのだろう。ニコラスも彼らと同業と思われたのかも知れない。
「冗談言うな。良い席なんてどこにも見当たらないじゃないか」
適当に注文した酒を一息で煽ったニコラスは、店内を見渡しながら嘲笑った。空になったグラスに代わりの酒を注ぐようカウンターを指で叩きながら、彼は無遠慮な視線を店にいる客たちにぶつけていく。
「店も三流だが客も三流、いや、四流ってところか。腕っぷしの立つ連中が集まる酒場だと小耳に挟んで様子を見に来たが……まったく拍子抜けだ」
先ほどの愛想笑いも消え失せ、憮然とした態度で代わりの酒を注ぐ店主。その一杯も早々に飲み干したニコラスに、彼の言葉を耳にした男が席を立って近づいてきた。明らかに怒気と敵意を孕んだ目で睨みつけながら。
「今なら酔っ払いの戯言として勘弁してやる。有り金全部置いて出ていきな」
「馬鹿を言え。人買いの用心棒止まりの男に命じられる筋合いはない。俺はこの地の王に仕えるために来たんだ。俺に何かを命じられる者は、俺自身と王だけだ」
あえて傲岸不遜な態度で答えたニコラスに、居並ぶ客が失笑する。彼に突っかかってきた男もその一人だ。男はひとしきり笑ったあと、急に真顔になると、ニコラスの顔面目掛けて拳を叩き込んできた。
「わかるだろう。お前のような細腕じゃ、王に取り立てられることもあるまい。このまま安酒で酔っ払う一生を送るがいい」
立ち上がる必要も、かわす必要もなかった。カウンター席に座ったまま男の手首を掴んで床に転がしたニコラスは、呆然とする店主の手から酒瓶を取って手酌を始める。
あとは言うまでもない。仲間を倒された用心棒連中は熱り立ち、ニコラスに殴りかかってきた。それら全てを叩きのめした彼は、酒瓶を二本空にしたあとで店を後にした。店主には迷惑料も含めて、床に転がっている連中の財布を全てくれてやった。
――これだけ派手にやったんだ。連中も面子を潰されたまま放っておく訳にはいかないだろう。
安宿に戻ったニコラスは、酔いつぶれたフリをしてベッドに寝転がる。
いずれ捕縛の手が此処にやってくるはずだ。そのまま捕らえて生贄にするならば良し。そうでなければ、またぞろ大立ち回りを演じねばなるまい。
成功
🔵🔵🔴
ステラ・エヴァンズ
生贄、奴隷…何にせよ許しがたい事です
せめてこれ以上の犠牲者が出ぬよう討伐致しましょう
他所の土地より“身寄りのない娘”としてでも捕まって参りましょうか
身寄りがなければ何かと心配する必要がないので奴隷商の方にとっても良い獲物でしょうし
捕まっている間は大人しい気弱な娘さんの振りをして
生贄の話を耳にして『死ぬのは嫌、命だけは』と逃してもらおうと奉仕したり誘惑するような素振りでそれとなく街や王についてお話を伺ってみましょう
檻の外の情報はUCで友人達に集めてもらいます
また、同じように捕まっている方がいれば慰めつつ
生贄に選ばれずとも機を窺って逃がして差し上げたい
その時は友人達も使ってかばい、囮になります
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幌馬車から降ろされたステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)に注がれる視線は、好奇と値踏。奴隷商に捕らわれた時から覚悟はしていたが、今の己はすでに人間として扱われていないことを、ステラは否応にも痛感する。
身寄りのない娘を装って、ステラが他所の土地で捕らわれたのが三日前。
わずか三日の旅ではあったが、劣悪な環境に閉じ込められての馬車旅は、思いのほかステラの体力を奪っていた。
――私は一時を凌げばそれで苦しみは終わる。けれど、この苦痛のなかに延々と取り残されている人々が大勢いる。生贄、奴隷……許し難い事です。
奴隷に身をやつす屈辱よりも先に、ステラの心を満たすものは力なき者を食い物にする存在に対する義憤だ。せめてこの街でこれ以上の犠牲者が出ぬようにせねばなるまい
馬車から降ろされたステラは、商人が使役している女奴隷の手によって入浴と着替えを与えられると、再び檻に収監された。
なにも気遣いで入浴させられたわけではないことは、ステラもわかっている。これから自分は商品として売りに出されるのだ。
ステラは檻の隙間から手を伸ばすと、彼女の様子を見て満足気にしている奴隷商の袖口を指先で摘んだ。それから、弱々しい声音で慈悲を乞う。
「お願いします、どうか、どうか、恐ろしい方のところへは売らずに下さい。死ぬのだけは、嫌。どうか命だけは……」
「命だけは、だって? なぜそんなことを言う」
怪訝そうに眉を寄せる奴隷商に、ステラは続ける。
「偶然耳にしてしまったのです。この街には女を弄んで殺す恐ろしい旦那様がいらっしゃると。どうか、その御方のもとにだけは……」
潤んだ瞳を差し向けながら縋るステラの姿に、奴隷商は喉を鳴らす。彼はじっとりとした視線で彼女の肢体を檻越しに舐め回していたが、しかし、我に返ったかのようにステラの手を振りほどいた。
「安心しろ。そんな恐ろしい旦那はこの街にはいやしない。いるのは、王だ。この街の重鎮たちのお眼鏡に叶えば、王に献上されて良い暮らしをさせて貰えるそうだ。だからお前も媚びを売るなら俺ではなく、そっちにしておきな」
立ち去り際、奴隷商は「もう少し羽振りが良ければ、俺がお前を飼ってやったんだがな」と惜しむようにステラのことを一瞥した。
周囲に誰も居なくなったことを確かめたステラは、『愛しい友人達』を召喚する。白い小鳥たちが音もなく飛び立ち、周囲の様子を探っていく。
周りにはステラと同じように捕らわれた奴隷たちがいるようだ。叶うならば逃してやりたいところだが、いま檻を開けたところで逃げおおせる可能性は低い。
――王の居城でいい暮らしをさせて貰える。この街では、生贄の話がそのように偽られて伝わっているのでしょうか。少なくとも私を此処に連れてきたあの商人は、そう信じている様子でした。
ならば、その道を選択するより他はない。王に捧げられるに相応しい存在として、これから己を値踏するであろう街の重鎮たちの目に止まらねば。
それが囚われている力なき者たちを救う、最善の方法だと信じて。
大成功
🔵🔵🔵
九泉・伽
余所から命からがら逃げる民を演じ生贄にされる
この世界の貧しい服を泥・獣血で汚し血走った目と荒い息で街へ
「ああ…噂通り夢のような街だぁ
綺麗な格好だしさぞやいいもん食ってんだろうなぁ」
腕伸ばし呼びかけ村人の反応を見る
奴隷商以外は異物と忌避するか
村ぐるみで「良いカモだ」と見るのか
他も含め把握
助けるべき人と見棄てる奴を選別
話し相手がいなくても大声で垂れ流し
「俺ぁ家族で逃げたけど、おっかあもガキもみぃんな死んじまったんだ…」
身よりなく消すに好都合アピールで奴隷商誘う
会話は明白な騙しにも気づかず高揚、好奇心旺盛に色々と聞いて情報収集
疎ましさ見えたら「なぁ王様が飯をくれんだろ?」と子犬のように笑い素直に従う
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足をもつれさせながら大通りを歩く九泉・伽(Pray to my God・f11786)の姿を見た者は皆一様に眉をひそめ、彼から距離を置こうとする。
無理もない。ボロ同然の衣服は泥と血で汚れきっており、犬のように荒い息遣いは異様としか言いようがなかった。
「ああ……噂通り夢のような街だぁ」
往来の真ん中でとうとう膝をついた伽は、遠巻きにする人々に震える腕を伸ばした。
「みんな綺麗な格好をして……屋台にもあんなに食い物が並んでて……ああ、誰でもいい。誰か助けてくれよぉ。もう何日も食べてないんだ、村を滅ぼされて着の身着のまま逃げて、もう何日もさァ」
伽は恥も外聞もなく声を張り上げる。だが、その腕に手を差し伸べる者は誰一人としていない。道行く者は皆、彼と目を合わせないようにしながら足早にその場を去っていく。
だから人々は気がついていないだろう。伽の血走った目に宿った理性の光と、その瞳が自分たちの行いを冷静に観察していることに。
――ふうん、冷たいもんだね。まるで東京のど真ん中みたい。いやぁ、スマホ向けられないだけマシか。
立ち去る住民たちのささやき声に伽が耳を傾ければ、「どうせ逃亡した奴隷の小芝居だろ」「本当に困っている人なら助けたほうがいいんじゃない……?」「助けてやっても、うちには"飼う"余裕なんてないしなぁ」などという言葉が聞こえてくる。
そんななか、身なりの良い壮年の男が群衆のなかから伽に近づいてきた。彼はニコニコと目を糸のように細めながら伽の側で身をかがめると、救済を齎すように伽に手を差し伸べた。
「おっかあもガキも、みぃんな死んじまった。俺だけがこうして生き残って、地べた這いずり回って生き残っているんだ。なあ、笑えるだろ」
「いいや、そうは思わない。私はあんたのことを同情するよ」
伽に手を差し伸べてきた男は、彼を自らの屋敷に招き入れた。そうして風呂に入れたあとで髭を当たらせ、髪を整えさせた。
どれだけ繕っても、一朝一夕で肉体を変えることはできない。惨めな難民を装った伽の恵まれた容姿や体格を、奴隷商は見抜いていたようだ。
供された温かなスープを口にしながら、伽は奴隷商の顔色を伺う素振りを続けて訴える。この街を目指した理由。寛大な王の庇護のもと、この街なら余所者も出直すことが出来るはずだと。
奴隷商は胡散臭い笑顔の裏にドス黒い悪意を隠しながら、伽の言葉を全て肯定する。彼の言葉など、ただの一つも聞いてはいないというのに。
かくして伽は囚われの身となる。
この街に人の情というものはない。拒絶か搾取か、その二つだけが街の人間を動かす原理なのだ。
「いやぁ、"彼"ったらイケメンに生まれちゃって可哀想。おかげで生贄候補まっしぐら」
奴隷商に見いだされた伽は、檻のなかで膝を抱えながら苦笑する。
売り物になる可能性を秘めているならば、素性も知れぬ者でも拾い上げる。この街の本性を伽はしっかりと理解した。あとは行く末を見守るだけだ。
伽は両手首を繋ぐ鎖を引っ張って鳴らすと、暗い天井を見上げた。
成功
🔵🔵🔴
杣友・椋
ミンリーシャン(f06716)と
呼び名はリィ
二人きりの時のみ呼ぶ
俺は奴隷商を、リィは奴隷を演じる
金に目が眩んだ愚者のふりをして街の重鎮に接触
よお。好い女を連れて来たんだ
雑に彼女の背を叩き
こいつは身寄りが居なくて足がつく心配も無え
何より、贄にするなら若い娘の方が良いだろ
金は少しで――否、無くても良いんだ
そっちに居る健康そうな奴を一人分けてくれたら
酷い労働をさせて、最後に臓器を――
そうすれば後から幾らでも金は入るからな
(――リィ、また後でな)
彼女と引換えにした生贄を連れ出し
安全な場所で逃がしてやる
街へ戻り奴隷商として船へ
おい、あの娘は何処に居る?
まさか誰かがつまみ食いしてねえだろうな
▼アドリブ歓迎
ミンリーシャン・ズォートン
杣友・椋(f19197)と行動
呼び名は椋
二人きりの時以外名は呼びません
予め古汚い外套で身を包み
彼に両手を縛ってもらう
演技する彼の後ろを遅く歩き、口数は少なめに
私自身も怖がって何も出来ない大人しい奴隷だと思わせます
生贄交代時
言葉は交わせずとも一瞬彼と視線が合えば彼の言葉が解る
(椋も、気をつけてね)
彼と別れた後
私も可能な限り情報収集
奴隷商人の数や一般人の生贄、奴隷等私達が救うべき人の数とその居場所にも気を配り密かに観察しておきます
万が一予想外の事が起きた場合は臨機応変に対応
武器が無く縛られていたら出来る事も無いかもしれないけど
私が舌を噛み死ねば生贄が減る。そう言えば色々対応出来るかな…
アドリブ歓迎
●
「怖いか」
昼なお暗き闇の空を見上げながら、黒髪の少年が問うた。
「いいえ、いいえ」
手首を戒める荒縄を見詰めながら、青髪の少女は答えた。
呪われているという湖から、酷く冷えた風が吹いていた。
奴隷商の市が並ぶ街の奥部を、杣友・椋(涕々柩・f19197)とミンリーシャン・ズォートン(綻ぶ花人・f06716)は進んでいく。一方は奴隷を売りさばく人買いとして。もう一方は売り捌かれる奴隷として。不均衡の極みと言えるその間柄は、猟兵の務めという大義の下ゆえに築かれる歪なものだ。
「街の偉いさんが好い女を高く買い上げてくれると聞いた。あんたたち、知らないか」
奴隷商が多く集まる街の一角を訪れた椋は、ずらりと並ぶ檻に入れられた奴隷たちを吟味する男たちの背に声をかけた。
男たちは椋のことなど眼中にないと言うように、その言葉を無視する。永くこの街で商売を続けてきた連中だ。新参者に構うつもりは更々ないらしい。
だが、椋が引き連れてきたミンリーシャンの姿を目にした途端、そんな連中の一人の目の色が変わった。男が「悪くない」と一言つぶやけば、それまで二人のことを無視していた連中の視線が椋と、ミンリーシャンへと注がれる。
にわかに身体に突き刺さる無数の視線。その視線から己を守るようにミンリーシャンは縛られた腕を胸元にあてがうと、瑠璃色の瞳を伏せて椋の背中に身を隠そうとする。
ボロを纏っているのも同然の格好だ。しかし、それだけでミンリーシャンの秘された真珠のような美は隠せない。彼女はすっかり怯えきったか弱き奴隷のフリをして、一言も口を聞かぬまま成り行きに身を任せる。
男の一人が椋を押し退けて、隠れていたミンリーシャンの顎を掴んで顔を上げさせる。それから唇に指をかけて口を開けさせられると、歯並びを確かめてきた。
「おい、雑に触るんじゃねえよ。別の奴隷商に売るつもりはない」
「だったら黙っていろ。私がお前が探している"街のお偉いさん"の一人だ」
「……」
男の手首を掴もうと伸ばした手を、椋は咄嗟に止める。漏れそうになった舌打ちを堪えた彼は、わずかに口の端を上げて「それなら話は早い」と言葉を続けた。
「いいだろう、本来は新参と取引することはないが、今年は集まりが悪い。特別に買い取ってやる。ただし値段はこちらで決める」
「そりゃどうも。だが値段に関しちゃ譲れない。あんた今、今年は集まりが悪いって言っただろ。もしかして大した取引が出来てないんじゃないか」
「だとしたら、何だって言うんだ」
じろりと睨みつけてくる男に、椋は不敵な笑みを浮かべた。
「金は要らない。あんたがすでに買い取った奴隷どもと、コイツとを交換してくれ。一山幾らの奴隷なんぞより、コイツ一人のほうが価値があるのはわかるだろ?」
椋が持ちかけた取引に、男は思案する素振りを見せた。しばらく椋とミンリーシャンの顔を見比べていた男は、「何が目的だ」と低い声で問うてきた。
椋は周囲の目を気にするように視線を巡らせたあと、小声で男に答えた。
「俺の雇い主は、包み隠さず言えば外道でね……死ぬまで奴隷を働かせたあと、残った臓器までも売り捌いて金にする。とにかく奴隷の消耗が早くて、数が必要なんだよ」
それらしいことを内緒話を打ち明けるように話せば、男もそれ以上は深くは追求してこなかった。不良在庫を一掃できる機会とばかりに、椋の取引に応じるのだった。
五人の奴隷と引き換えに、ミンリーシャンは街の人間に買い取られた。生贄として選ばれた人間は船に収容されるという話し通り、彼女はそのまま湖に停泊している奴隷船へ連れて行かれた。
――リィ、また後でな。
――椋も、気をつけてね。
別れ際、視線だけで交わしあった約束。
敵の懐とも呼べる場所に、戦う術を奪われて独り残されるのは決して心穏やかな状況ではないが、信頼する少年との約束を胸に抱いてミンリーシャンは自身がすべきことに意識を集中させる。
――湖を渡るための船にしては大きい……。そう長い航海ではないはずなのに乗組員も多い。見張りを兼ねているのでしょうか。
連行されている最中、ミンリーシャンは出来る限りの情報を得ようと試みる。
自由に動くことができないため限度はあるが、乗組員やすでに囚われている生贄の数はある程度は把握しておきたかった。
ミンリーシャンを買い上げた街の重鎮は、彼女の身柄を二人の乗組員に託すと街に戻っていった。
立ち去り際、男は「他の三人と同じく船倉に連れていけ」と命じたのだが、どうやら乗組員は上からの命令に従う気は無いらしい。彼らは品性の欠片もない笑みを浮かべながら、ミンリーシャンを甲板の物陰に連れ込もうとする。
そういうことか。ミンリーシャンは心中で溜息をつくと、後退って乗組員らの手から逃れる。それから、物静かだが強い意志を滲ませた口調で男たちに告げた。
「私に指一本でも触れたら、そのときは舌を噛み切って果ててみせます。大事な生贄を失って困るのはあなたたちではありませんか」
「……ちっ、このガキ」
抵抗もできない大人しい娘だと甘く見ていたのだろう。
乗組員たちは凄んで見せるが、彼らの目をしっかりと見詰めたまま動じないミンリーシャンの態度に、とうとう折れる。
興を削がれたように甲板に唾を吐き捨てると、彼らはミンリーシャンの手首を繋ぐ荒縄を強く引っ張って船倉へ連行した。
「まったく、油断も隙もない街だ……もう暫く辛抱してくれよ、リィ」
その様子を港から監視していた椋は、ひとまず危難が去ったことに安堵する。彼が買い取った奴隷たちは、金銭を与えた上で駅馬車に載せた。今頃は各々の故郷へ変える旅路の上だろう。
あとは猟兵としての務めを果たすのみだ。商品を売り払った以上、奴隷商として船に乗り込むことは出来ない。椋はミンリーシャンの身を案じながら、船に忍び込む手段を探るのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
冴木・蜜
…他所でわざと捕まって
商品になりましょうか
使い古した白衣を身に纏い
流れの医師に扮し
貧民街を単身歩いて
誘われるまま 呼ばれるまま
怪我や病に苦しむ人々を助け回りましょう
こんな無警戒で歩いていれば
攫いやすい格好の獲物に
見えるのではないでしょうか
奴隷商の誘いにもきっちり乗って
自然に捕まりましょう
人前では人型を崩さぬよう
そこはよく注意を払っておきます
捕まった後
悲劇の奴隷らしく振る舞いつつ
役立ちそうな情報を集めます
無関係の奴隷は可能な限り庇っておきたいですが
商人が私から離れるようなら
こっそりと『剥離』した毒液を追わせます
彼らの言葉の一つ一つが大事な情報
決して逃しはしない
●
富める者がいれば、その幾倍もの貧しき者が存在するのが世の常だ。
件の街からやや東に離れた場所に存在する集落は、そんな貧者たちが集う貧民窟である。
その貧民窟でこの数日話題になっていることがある。他所の土地から流れてきた医師が、無償で住民たちの病気や怪我を診てくれているのだ。
古びた白衣を纏って貧民窟の家々を往診しているのは、冴木・蜜(天賦の薬・f15222)だ。彼が胸の病で苦しんでいる老人の家で咳止めを処方していると、集落に住む少年らが息を切らしながら彼のもとに駆け込んできた。
「先生、はやく隠れて! 西の街の役人どもが、先生を探しにやって来たんだ」
「役人が私を探しに? どうして、また」
突然のことに、蜜は眉をひそめる。彼の疑問に対して、知らせにやってきた少年も病んだ老人も答えることができない。
なにか、言い出し難い事情があるらしい。蜜は彼らの顔を見渡したあと、「構いません。取って喰われるわけでもなし……お会いしますよ」と立ち上がった。
集落の中心部へ蜜が向かうと、風が吹けば倒れてしまいそうな荒屋が建ち並ぶ貧民窟には似つかわしくない、立派な身なりをした役人と護衛たちが馬で乗り付けていた。
役人は蜜の姿を見るなり「つまらないことをしてくれたじゃないか」と悪態をついた。
「つまらないこと? 私はただ、病で苦しんでいる人たちを助けていたまで。それをつまらないことと呼ばれる筋合いはないと思いますが」
「黙れ。この集落の人間は裏切り者だ。我々の街の方針を良しとせず、謀反を企てた連中とその子孫を飼い殺すためのゴミ溜めだ。勝手な振る舞いは余所者とは言え許さんぞ」
なるほど、と蜜は思った。先程の少年や老人がこちらの疑問に答えられなかったのは、そういった事情があったためか。
蜜と役人とのやりとりを、貧民窟の住民たちは心配そうに見詰めている。彼らをちらりと見た蜜は、役人に問うた。
「もし拒否したならば?」
「このゴミ溜めを焼き払うまでよ。わかったなら、大人しく我々についてこい。貴様には反逆の罪で、相応の罰を受けてもらうぞ」
武装した男たちが蜜の身体を拘束する。彼の名を呼んで身を案じる少年らを安心させるように、蜜はうなずいてみせた。
「心配なさらずに。挫けず生きていれば、いずれ良い事もあるでしょう。案外、それは近いうちに起きるかもしれません」
「先生……」
拘束された蜜は、馬車に放り込まれた。倒れた勢いで一瞬、擬態がとけかけてしまったが……それに気がついた者は幸い誰もいなかった。
奴隷商の街へ罪人として連行された蜜は牢に入れられてしまったが、彼は剥離させた己の身体の一部に役人を尾行させていた。
元より奴隷商の目を惹くために流れの医師に扮していたのだ。捕まることは蜜にとっても想定内である。
役人は街の権力者と協議をしているようだ。
『あの男は見せしめに街の広場で火炙りにすべきでしょう。今後、フザけた真似をする連中が出ないようにするためにも』
『いいや、あの男は贄として島に送り込む。古くからの約定にはこう記されている。贄に捧げられる人間に偏りがあってはならないと。女だけではダメだ。男だけではダメだ。屈強な者、貧弱な者、愚かな者、賢しい者、広く集めねばならん』
『お言葉ですが……そのような古い約定になんの意味が? それよりも我々が考えねばならんことは、この街の繁栄を脅かす芽を潰すことでしょう』
『これ以上の問答は不要だ。捕縛の任務ご苦労、あとは私たちに任せて下がりたまえ』
『……承知いたしました』
役人は不承不承と言った様子で重鎮の部屋を退く。
どうやら生贄というのは、ただ怪物の腹を満たすためだけに供されるものではないらしい。少なくとも、"王と呼ばれたモノ"にとっては。
――さて、その心は?
戻ってきた剥離を迎え入れた蜜は、薄暗い牢の天井を見上げながら思案する。
成功
🔵🔵🔴
ノワール・コルネイユ
一見は豊かな街だな
だが、この豊かさは悪徳と犠牲の上に立っている
数え切れない年月、数え切れない贄…
いったい、何人がこの街に喰われたのだろうか
…反吐が出る風景だ
私を贄にしてやりたい、そう思わせる様に仕向ければ良いのだろう
ならば、奴隷市の隅で軽い騒ぎでも起こしてやる
奴隷商を殺さない程度に叩きのめして、商品を逃がそうとするフリでもしよう
騒ぎを聞きつけて来た者達に殺されない程度に叩きのめされて、適当なとこでおとなしく捕まってやる
この街の秘密を知っている
顔も知らぬ王とやらの為に、貴様らは何年も何年も贄を捧げて来た
抗うこともせず、良心に従うこともなく、な
この街に集うのは腑抜けと腰抜けの末裔…貴様らのことだ
●
豊かな街だと思う。
だがその豊かさの下に敷き詰められているものは、力なき人々の犠牲だ。
「……反吐が出る」
絶えぬ賑わいを見せる街角を尻目にノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)が向かう先は、多くの奴隷たちが連れられていく街の奥部だ。
生贄に相応しい者を演じることなど、できそうにない。ならば贄として処分したくなるような者を演ずるだけだ。
奴隷市に辿り着いたノワールは、競りが行われている天幕の一つに忍び込んだ。競売の舞台裏には、家畜用の檻に押し込められた少年少女の姿があった。
「返してもらうぞ、外道ども」
「なんだお前は、……ぐ、ぁ!」
気怠げに煙草をふかしていた見張りの男をノワールが叩きのめすと、騒ぎに気がついた奴隷商の用心棒どもが彼女の周りを取り囲んだ。
「フザけたアマだ。ただで済むと思うなよ」
元々、奴隷たちを逃すフリをするだけだ。いま力なき奴隷を解放したところで、逆に危険な目に遭わせてしまうリスクのほうが大きい。
故に、ノワールは当初の計画通り手も足も出ないフリをする。頃合いを見計らって、彼女は用心棒どもに取り押さえられるのだった。
後ろ手に拘束されたノワールは、奴隷市の中央に建つ堅牢な建物に連行された。そこで彼女は、街の権力者と思しき男の前に引きずり出された。
「最初に知らせを受けたときは、どんなドブ鼠が現れたのかと思ったが……なるほど、わざわざここに連れてきた理由はこれか」
「左様で。ウチで扱っていた小汚いガキよりよほど値打ちもんですよ。旦那、新しい玩具を欲しがっていたでしょう」
天幕の主である奴隷商が、後ろからノワールの黒髪を引っ張って面を上げさせる。年不相応な実りを誇る彼女の肉体を、権力者の男はひとしきり卑しい目つきで睨めまわしたあと、おもむろに彼女の身体に手を伸ばそうとした。
次の瞬間、ノワールは勢いよく頭を後ろに仰け反らせ、奴隷商の顔面をブッ叩いてやった。その場で昏倒した奴隷商の首にブーツのヒールをあてがい、ノワールは近づいてきた護衛たちを牽制する。
突然のことに狼狽する権力者に、ノワールは啖呵を切った。
「この街の秘密を知っている。生贄のことも、王のことも、約定のことも」
「なにを……何が目的だ」
状況を飲み込めずにいる権力者に、ノワールは続けた。
「目的だって? 抗うこともせず、良心に従うこともなく、顔も知らぬ王に贄を捧げてきたお前たち腑抜けと腰抜けの末裔を滅ぼしに来た。それ以外に何がある」
ノワールの言葉を受けた権力者の顔が険しくなる。彼が机上のベルを鳴らすと、新手の護衛が室内に雪崩込んできた。
人質を示すようにノワールが足元の奴隷商を爪先でつつくが、権力者は「構わん、そいつを捕まえろ」と唾を飛ばしながら吠えた。
「バカなガキだ、大人しくしていれば雌犬として飼ってやったのに。我々を滅ぼす? はっ! 笑わせるな、お前こそ贄として始末してやる。はははっ、全くお笑い種じゃないか!」
男の嘲笑が響くなか、ノワールの後頭部に護衛たちの棍棒が叩きつけられた。
これでいい。ここまでせねば、奴隷船の切符は手に入るまい。
ノワールは密かにほくそ笑みながら、意識を手放した。
戦場へ通ずる道が、これで開けたのだ。それ以上望むものなど、ありはしなかった。
成功
🔵🔵🔴
アウレリア・ウィスタリア
王を讃える歌を奏でましょう
ボクなら飛んで居城に入れますが
それではダメなのですよね
それなら、ボクは歌を奏でて注目を集めましょう
【幻想ノ歌姫】を発動
素晴らしき王の力で驚異に晒されることのない平和な町
平和を守る素晴らしき王
あぁ、素晴らしき王に一目会うことができたのなら……
旅人、吟遊詩人
そんな雰囲気で町の広場で歌を紡ぎましょう
町の重鎮の目に止まったのなら
あとはパフォーマンスです
素晴らしき王の御前に一時でも立てるのなら
それはとても光栄なことです
そんなお役目があるのなら
ぜひボクにチャンスをください
そう語りかけましょう
王に謁見という形になるのですから
不要なものを持ち込めないのも納得するでしょう
アドリブ歓迎
●
街の広場に王を讃える歌が響く。
黒猫の面をかぶった奇妙な風体の吟遊詩人が、竪琴をかき鳴らしながら歌を紡いでいる。
アウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)の歌声は、聴く者の心に情景すら描いてみせる。例えそれが幻想と呼ばれる類のものだとしても。
――誰も目にしたことのない王。それどころか、存在すらも定かではない王。だからでしょうか。この街の人たちは、自分たちの平穏を守る存在が確かに存在しているということを、信じたがっているみたい。
時を追うに連れて増えていくアウレリアの聴衆は、黒山の人だかりと呼んで差し支えないほどになっていた。
ちょっとした騒動だ。奴隷商や街の役人の目に止まらぬはずがなかった。不意に聴衆の壁が左右に割れ、その間を護衛を引き連れた恰幅のいい男が歩み寄ってくる。
「良い演奏だった。我らが王の姿が目の前に浮かび上がってくるかのようだったよ。旅の詩人か? 名は何という」
「お褒め頂き光栄に存じます。ボクはアウレリア……仰るとおり往く先々で歌を披露しながら旅をしている吟遊詩人です」
「アウレリアか、良い名だ」
男は「この街の長を務めている者だ」と名乗ると、仮面に覆われたアウレリアの顔を、次に手にした竪琴を、最後に彼女の黒白の翼に視線を向けた。
その視線に、アウレリアは形容し難い嫌悪感を覚える。奴隷を値踏するような視線とは違う。もっと別種の意味が込められた視線が、彼女の翼に注がれている気がしたのだ。
思わず翼を畳んだアウレリアに、町長は「失礼。良ければあなたと話がしてみたい。私の屋敷にご足労願えるかな」と誘いの言葉をかけてくる。
断る理由などあるはずもなく、アウレリアは町長の屋敷へと向かった。
「この街を守護する王の話を聞き、ボクはこれまで感じたことのない胸の高鳴りを覚えたのです。聞けば、王は湖に浮かぶ居城にいらっしゃるとか……。もし王の御前で歌を披露する機会を賜われれば、それはこの上なく光栄なことです」
屋敷に招かれたアウレリアは、熱心に己を売り込んだ。真に王の噂を信じ切った旅の吟遊詩人を装って。
彼女の熱弁に耳を傾けていた町長はすぐに返事を寄越さなかったが、かと言って彼女を島へ連れて行くかどうかを迷っている様子でもなかった。
――この人はたぶん、ボクを生贄に捧げることをすでに決めている。じゃあ、なぜすぐに返事をしない? 勿体つけて迷っている素振りを見せているだけ?
語るべき言葉を言い終えたアウレリアは、町長の顔を見詰めながら相手のリアクションを待つ。彼の視線がときおり己の翼に向けられるのを、感じながら。
「オラトリオが二人……いや、それも悪くはあるまい」
町長がぽつりと漏らした呟きを、アウレリアは確かに耳にした。
アウレリアが訝しむよりも先に、町長はパンと両手を打ち鳴らした。そうして、「良いだろう。あなたの美声に王もきっと聞き惚れるはず。王の居城へあなたをお連れしよう」と答えた。
差し伸べられた町長の手を、アウレリアは仮面の下に笑顔を浮かべながら手にとった。その手にいざなわれる先に待ち受けるものが、地獄に近しい場所だと最初から覚悟を決めていたから、躊躇はしなかった。
「ありがとうございます。必ずや、王に御満足いただける歌を披露いたします」
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『弄ばれた肉の玩具』
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POW : 食らい付き融合する
自身の身体部位ひとつを【絶叫を発する被害者】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD : 植えつけられた無数の生存本能
【破損した肉体に向かって】【蟲が這うように肉片が集まり】【高速再生しつつ、その部分に耐性】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : その身体は既に人では無い
自身の肉体を【しならせ、鞭のような身体】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
イラスト:柴一子
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
古の約定に基づき、王に捧げられる十名の贄が選ばれた。
だが街の者も奴隷商たちも知らぬまい。
贄に選ばれた者の半数以上が、この街を統べる王の首を狙う刺客だとは。
奴隷船は呪われた湖を渡り、晴れぬ霧に包まれた孤島に着岸する。
乗組員たちは贄を収めた鉄檻を下ろすと、扉の錠を解いた。
そして、船に引き上げる間際にこう告げた。
これより先は好きにするがいい。
王の居城に向かい命を捧ぐも良し。呪われた湖に身を投げて命を断つも良し。
喜べ、お前たちは真の自由を手に入れたのだ――と。
餞のつもりだろうか。乗組員たちは贄の荷物を岸壁に残していった。
そのなかには、猟兵たちの武装も含まれている。
武具の一つや二つを手にしたところで、なにも状況は変わらない。
街の者たちは、そう信じているようだ。
猟兵たちは各々の得物を手にし、岸壁をあとにする。
呪われた湖に身を投げるなどという選択肢はない。
目指す先は一つ、王の居城。そして、そこに巣食うオブリビオンの討伐だけだ。
しかし、猟兵たちはほどなくして気がつく。
この孤島に建つ城が、すでに荒れ果てた廃城であることに。
そして、廃城の周囲や城内に散らばる白骨が、人間や動物のそれではないことに。
廃城内の探索を進めていた猟兵の一人が、ある一室を覗き込んで仲間を呼ぶ。
そこは何らかの魔術実験室と思しき部屋だった。
呪われた湖よりもなお重々しい呪念が、その部屋には残されていた。
街で情報を集めていた猟兵の一人が言う。
ただ腹を満たすためだけに、王は贄を求めていたわけではないようだ、と。
王はこのような部屋で何らかの実験を行うため、贄を求めていたのかもしれない。
それが如何様な実験だったのか、荒れ果てた室内の様子からは推し量れなかった。
顔を見合わせる猟兵たちの耳に、重く湿ったモノが這いずる音が聞こえてきた。
急ぎ廊下へと出た猟兵たちは、闇の向こうから這い寄る異形を目撃する。
それは人のようであり、そして人ではなかった。
人のパーツを模した粘土細工を、不規則に繋ぎ合わせたかのように歪だった。
それを人と呼ぶわけにはいかず、かといって人ではないと呼ぶには躊躇をした。
辺りに残された奇妙な白骨死体は、この異形のものなのだろう。
この地で戦うべき相手は、王と呼ばれる存在だけではないようだ。
●
街に訪れた八名の猟兵のうち、七名が生贄として捕らわれ、一名が奴隷船に潜入する形で湖の孤島に上陸した。
力なき三名の生贄が紛れたことになるが、彼らは猟兵が事情を明かしたことにより、比較的安全な岸壁に留まることを了承してくれた。ゆえに、彼らを保護するための行動は必要としない。
第二章において、猟兵たちはこの地に巣食う異形を討伐しながら、"王と呼ばれる存在"の下へと向かう必要がある。
この戦いは探索を兼ねている。
戦いを進めながら城内各地に点在する実験の残骸、記録や日記と言った文書、廃棄物などを調査することによって、王の正体や奴隷商の街の過去が見えてくる。残念ながら異形の敵は理性を持たないため、彼らからの情報収集は不可能だ。
これらの探索は必須ではなく、戦いの成否には関わらない。
探索を行うかどうかは、各猟兵の意に任せるものとする。
プレイングの受付は10/16(水)の午前8:31より。
杣友・椋
ミンリーシャン(f06716)と行動
呼び名はリィ
【忍び足】【闇に紛れる】を活用し
乗組員や奴隷商の前から姿を晦ました後、すぐにリィと合流
目の前に現れた醜い異形
まさかこいつらが、生贄たちの末路なのだろうか
……ちっ、こんな風に足止めを食らうなんて
悪いけどおまえらはお呼びじゃねえ
槍で烈風を起こし【白日棘】で【先制攻撃】
奴らの攻撃には【見切り】【オーラ防御】で対応を試みる
リィと常に声を掛け合い連携
彼女を襲おうとする奴が居たら薙ぎ払ってぶっ潰す
リィや仲間と協力して探索
俺は実験の残骸や白骨死体、廃棄物などを調べつつ【情報収集】
王とかいう奴の正体を突き止めたい
ちっ、それにしても惨い光景だな
▼連携・アドリブ歓迎
ミンリーシャン・ズォートン
椋(f19197)と
連携・アドリブ歓迎
●戦闘
酷い…
酷すぎるよ…
声が震える
耳が痛い
涙を堪え
椋、終わらせよう
椋と共に異形の者と対峙
伸びる肉体には跳んで回避しようと試みて
羽衣を使い拘束を試みつつ氷の細剣で攻撃
椋と声を掛け合い常に互いをフォロー出来るように意識し行動
●探索
実験台にされた人々の当時の悲痛な声が今にも聞こえてきそうな城内
実験の痕跡を辿り
記録や日記のような書物、壁に絵等があれば見逃さないように注意しながら王という存在が待ち受ける場所へと進む
椋や近くに仲間の猟兵がいれば見つけた情報を共有
ふと彼を見れば怒気を帯びた表情
彼にそっと手を伸ばし
必ず勝とうと紡ぐ
人々の犠牲の上に成り立つ王など、認めません
●
廊下の奥から現れた異形、その数は三体。
正視するに忍びない醜悪な存在を前に、さしもの杣友・椋も眉根を寄せる。目の前の存在が生贄たちの末路なのだろうか。そうであれば多少の憐憫も抱くが、同時に、彼らはこちらの命を狙う敵でもある。
「悪いけど、おまえらはお呼びじゃねえ。……リィ、行けるな」
異形と自身との間に立ち塞がるように前へ出た椋に、ミンリーシャン・ズォートンは口元を抑えながらうなずきを返す。
「ええ。椋、終わらせよう」
迫る異形が生贄の末路だとは、まだ決まったわけではない。しかし、彼らがただ偶然に崩れ果てた人間の姿を模しているとは思えなかった。
ミンリーシャンは強くまぶたを瞑ると、すぐに目を開いた。幸い、動揺は深くはない。少なくとも、戦えないほどではない。
背に庇った少女がしっかりと前を見据えたのを確かめた椋は、それ以上言葉を掛けなかった。竜槍の柄を捻るように強く握り込むと、一息に異形たちとの距離を詰めていく。
咄嗟に迎撃を試みる異形たちだったが、椋の瞬速には及ばない。振るった竜槍が巻き起こす飆風に巻かれた異形たちの歪んだ四肢や触腕が、散りゆく枝葉のように千切れ飛んでいく。
あんなにも崩れ果てた体躯だというのに、その身から溢れる血は自分たちと何ら変わらない赤い色をしている。それに気がついた瞬間、ミンリーシャンの耳の奥に微かな痛みが走った。
――怯えちゃいけない。立ち止まっちゃ、いけない……!
感傷に浸る暇など戦場にはないのだ。
異形たちは千切れかけた四肢を鞭のようにしならせて、椋とミンリーシャンめがけて打擲を繰り出してくる。
「ちっ、通させるものかよ」
破魔の力を用いて椋が敵の攻撃を受け止めると、その間隙を縫ってミンリーシャンは空中に身を躍らせる。ふわり、放たれた羽衣が異形たちの体を拘束する。相手の狙いを崩すように彼女は宙で一回転すると、凍気纏う刃を鞘走らせた。
「椋!」
直近の異形の身体をミンリーシャンの冷刃が切り裂いた。彼女に続いた椋は視線だけで声掛けに応じると、残る二体の異形に肉薄する。
体勢を建て直させる時間など与えるつもりは椋にはない。敵を穂先の間合いに捉えた少年は、膂力に任せて竜槍を横薙いだ。
暴風を纏った槍は異形たちの体躯を捉え、文字通り真っ二つに断ち切って見せる。ビチャビチャと耳に煩わしい粘質な音を響かせながら、異形たちは物言わぬ躯と成り果てて廃城の床に飛び散った。
「……怪我は?」
「平気。ありがとう、椋が前に立ってくれたおかげ」
言葉少なに身を案ずる言葉をかけた椋に、ミンリーシャンはうなずきを返す。ほがらかな笑顔を見せるのは、まだ難しかったけれど。
椋とミンリーシャンの活躍で異形の攻撃を退けた猟兵たちは、城内の探索に戻る。城は無残に荒れ果てて久しいが、その規模は決して小さくはなく、かつての王の栄華を偲ばせた。
城の大食堂と思しき大部屋に辿り着いた椋は、壁の燭台に目を通す。
「灯りを使った痕跡がないな……少なくとも、異形の連中は灯りなんざ必要としないらしい」
椋は長年放置されていたと思しき燭台に火を灯して、大食堂を照らした。重厚な一枚板の長テーブルも、見事な刺繍が施された椅子も、全てがボロボロに崩れて朽ち果てている。
不意に、椋の鼻孔を猛烈な腐敗臭が襲った。たまらず袖で口元を覆って顔をそむけるが、不快だからと言って後退るわけにはいかない。
燭台の一つを手にして、椋は大食堂に散乱する調度品の残骸の合間を照らしていく。見れば、食堂内に異形たちの大量の屍体が廃棄されていた。大半は白骨死体だが、中には腐敗が進む最中の亡骸や、つい最近のものと思しき亡骸もある。
「惨い光景だな……死体が折り重なってるってことは、こいつらはここで死んだわけじゃない。誰かが死体をここに放り込んだってワケだ」
王か。実験を行っていた者か。それとも異形たちか。
どうあれ、命の尊厳というものを持たぬものが、この城を総ているのは間違いない。比較的新しい亡骸のなかには、何者かに食い千切られたと思しき痕跡があった。
誰が食らったかは、考えるまでもない。場合によっては、コレは食い合うのだ。互いの身体を。
椋がこの光景に怒りを覚えていることをミンリーシャンはよくわかっていた。物言わず怒気を帯びた少年の肩にそっと手を添えた少女は、しかし、己の手が震えていることに気がついた。
「俺は大丈夫だ。それより、リィ。俺にはお前のほうが心配だ」
「……」
肩越しに振り返った椋は、ミンリーシャンの手にためらいがちに指先を重ねる。
すると、ミンリーシャンは掛けようとしていた言葉も忘れ、気丈に取り繕っていた表情をくしゃりと歪めさせた。
「酷い……こんなの、酷すぎるよ」
涙こそ流さないけれど、声の震えだけは誤魔化せなかった。目の前の無残な光景が、先に相対した異形の姿が、ミンリーシャンの心を酷く掻き乱していたのだ。
聖者の少女はしばらくのあいだ目を伏せたまま声を詰まらせていたが、やがて落ち着きを取り戻すと、しっかりと目の前の少年を見つめ返しながら答えた。
「ごめんね、もう大丈夫。もう大丈夫だから……ありがとう」
礼を述べたミンリーシャンは、目元の涙を指先で拭うと、椋が屍体を検分しているあいだに見つけた物へ彼を案内する。
それは、大食堂の片隅に転がった大きな肖像画だ。
そこには、髭を蓄えた華美な服装をした男の姿が描かれていた。
他の調度品と同じくボロボロに傷ついたそれを持ち上げたミンリーシャンは、「たぶん、ここに描かれた人が"王"だと思うの」と見解を述べた。
同時に、彼女は顎先に指先を添えて疑問を口にする。
「でも、この肖像画はゴミのように床に捨てられていたの。……それに、見える? キャンバスの表面が刃物かなにかで切り裂かれているみたい」
ミンリーシャンが掲げた肖像画を、椋は手にした燭台で照らす。なるほど、彼女が言う通り王と呼ばれても差し支えのない立派な身なりの男がそこには描かれている。だが、この肖像画が置かれた状況を思えば、仮にこの男が王だとしても、その権力が城内の隅々にまで及んでいるとは考えがたい。
「ロクでもねぇことが起きているみたいだな、ここは」
「うん……」
不快げに口元を引き締めた椋に、ミンリーシャンはうなずきを返す。そして、壁の高みに掛け直すことも、床に放ることも戸惑われた肖像画を、彼女は側の壁に立て掛けた。
「……必ず勝とう、ね」
「ああ」
ミンリーシャンが呟いたその言葉。
誰と戦うのか。誰に勝つのか。曖昧なその言葉に、椋ははっきりと答えを返した。
なにが潜んでいるかは、まだわからない。
だが、それが倒すべき存在であることだけは、確かだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ステラ・エヴァンズ
なんと…惨たらしい…
ここにどれだけの嘆きが積まれたのでしょう…
やはり早々に討伐しなくてはならないようですね
UCで獅子座のレオを召喚、
王の居所を問うて鋭い爪と牙で攻撃させます
全うな答えが返ってこないのは承知の上
戦闘を手伝わせつつ時に代わりに戦っていてもらうのが目的です
自身も天津星に炎を纏わせ
再生しきる前に衝撃波で燃やし押し退けつつ城内の散策を
文章の類いは誰かが集めてくださると信じて…
私は実験の残骸を調べてみましょうか
少しは何かと耐性はありますし、
魔法の心得もありますから
もしも何かの罠があったり暴発しても問題はありません
どんな実験をしていたのか、
何を作ろうとしていたのかがわかると良いのですけれど
冴木・蜜
探索前に彼らを眠らせてあげなくては
限界まで体内毒を濃縮
敢えて彼らの前に身を踊らせます
喰われても構いません
――私は死に到る毒、ですから
喰われた体の一部さえも利用し
攻撃力重視で捨て身の『毒血』
内側から融かして差し上げましょう
おやすみなさい
永遠に
それにしても
此処で何を研究していたのでしょうか
研究資料や廃棄物があれば目を通します
医学や薬学知識が役立てば良いのですが
鍵のかかった部屋や箱があれば
液状化した体を隙間に捻じ込み
抉じ開けます
捧げられる贄には偏りがない
性別も 筋力も 知力も
様々な人間を集めて
果たして何をしていたのか
贄ではなく材料
いえ、素材でしょうか
人を犠牲にしてまで
何を作ろうとしていたのでしょうね
●
大食堂の状況を目の当たりにした猟兵たちは、表に出す感情はそれぞれながら、誰しもが陰鬱な思いを抱いていた。
神霊と親しむ巫女を生業とするゆえか、ステラ・エヴァンズはこの地に残された呪念を人一倍強く感じ取っていた。
――なんと……惨たらしい……。
闇に蟠る念をステラが辿ってゆけば、城内に造られた別の実験場に辿り着く。そこに残された光景を一目見るなり、ステラは琥珀の瞳をそらした。
「集めた生贄を材料に……いえ、素材でしょうか。何かしらの研究を行っているというのは、あたりがついていました。しかし、此処で行われていた研究とは、一体」
ステラと行動を共にする冴木・蜜は実験室の中央まで歩を進めると、眼鏡の位置を指先で直しながら、ぐるりと周囲を見渡した。
水捌けを考慮したタイル張りの床。拘束具付きの寝台。薬品の調合や蒸留に用いられていたと思しき機器の数々。
色薄き蜜の瞳が、かすかに色めいた。薬学を修める一研究者としての好奇心が鎌首をもたげる。残された実験器具や薬瓶を、彼は興味深い様子で調べていく。
「冴木さん。あちらの扉を御覧ください。あの奥から、強い念が漂ってくるのを感じます」
蜜の後ろに控えて室内を調べていたステラが、奥の壁に設えられた鉄扉を指差す。
なるほど、いかにも何か大切なものを保管していると言いたげな重厚な扉だ。あるいは、よほど表に出したくないモノを押し込めている牢獄の扉と呼ぶべきか。
「任せて下さい。鍵開けの真似は得意でして。ですが……その前に、少々荒事をこなさねばならないようです」
実験室の入り口を振り返った蜜の言葉に、ステラもまた異形たちがここに引き寄せられたことを知る。彼女は伏せがちだった面を上げると、一転して戦巫女としての凛々しき表情を取り戻した。
薙刀を短く詰めて構えたステラは、祝詞を口遊んで星々の座から獅子を召喚する。実験室はそれなりの広さを誇るが、長柄を用いるのは少々不便だ。ここは俊敏を誇る召喚獣に任せたほうが効率がいい、と彼女は判断する。
「……あなたに問います。あなたたちが王と戴く者の場所を示しなさい」
ステラが異形の者に質問を投げかけると同時に、獅子が相手に向かって飛びかかっていく。
知性なき異形たちが質問に答えられないことは、ステラも重々承知している。この問いかけは召喚した獅子の力を発揮するため口にしたに過ぎない。
だが、もし……ほんのわずかな可能性があるならば。あの異形たちの口から人としての言葉を引き出すことが出来たならば。それを望むことは人として無理からぬことだろう。
異形はなにも答えない。獅子の牙に半身を食われども、耳に煩わしい悲鳴をあげるのみ。
一体の異形が絶命したが、ここへ引き寄せられた異形は思いのほか多いようだ。新手が押し合いへし合い、実験室内に雪崩込んでくる。
あまり時間を掛けて戦っていては、ジリジリと体力と時間を削られるだけだ。そう判断した蜜は、大胆な行動に出る。
呼吸を止め、体内組織を自らの意志で操る。その身に孕んだ毒素の濃度を高めていくと、蜜は押し寄せる異形たちのなかへと身を躍らせた。
「冴木さん――!!」
「どうぞお気遣いなく。キミの力は後々のために取っておいてください。私は喰われても構いません――死に到る毒、ですから」
咄嗟に薙刀を構えて飛び出そうとしてきたステラを、蜜は穏やかな笑みを浮かべて制止する。直後、彼の身体は群がる異形たちに呑み込まれて消えてしまった。
聞くに堪えない、水分を多く含んだなにかを噛み砕き、咀嚼し、啜り上げる音が実験室に響く。
しばらくして、蜜の身体に食らいついていた異形たちが顔をあげた。
彼らは獲物を一匹仕留めたことに、表情なき顔を笑みに似た形に歪めていた。
しかし、その直後、異形たちは空虚な笑みを顔に貼り付けたまま次々と肉体を崩壊させて、床に崩れ落ちていく。
「……!」
蜜の言葉を信じて成り行きを見守っていたステラは、蜜の術策に異形が嵌ったことを察する。すかさず炎纏わせた薙刀を構えて突進すると、未だ力を残していた異形の残党を一刀の下に斬り伏せていく。
ほどなくして、実験室に群がってきた異形たちは全て息絶えた。辺りの床一面に広がっていた黒いシミが俄に集合し、食われたはずの蜜が再び形を取り戻した。
「おやすみなさい。永遠に」
床に落ちていた眼鏡をかけ直した蜜は、辺りに散らばった異形たちを見下ろしながらそっと息をつく。
ステラは心底安堵した様子で胸に手をあてがうと、泣き笑いに似た複雑な表情を浮かべた。
「ご無事でなによりでした。けれど……次に同じ手段を用いるときは、前もってお教えくださいませ。とっても、心配したんですからね?」
異形たちの脅威を退けた二人は、改めて実験室の奥にある鉄扉を開く。
蜜のブラックタールの肉体は不定形ゆえに、狭い隙間に潜り込むことも錠の類を開けることも容易い。
禁断の扉を開くと、真冬の雪山もかくやという極寒の冷気がステラと蜜の肌を刺した。
扉の奥には、寝台に安置された異形たちの亡骸が残されていた。注意深く室内の様子を心の目で見通したステラが口を開く。
「罠や呪言の類は感じられません。この冷気は、ただ気温を低く保つための魔法のようです。ですが……ここは一体?」
「ここに残されている異形の亡骸は、私たちが戦ってきた異形とは別種のようですね」
凍りついた異形の亡骸。姿かたちこそどれも似通った者はいないが、表を徘徊する異形に比べて比較的人間のカタチを保っている者が多い印象を受ける。その一つ一つを検分していた蜜は、ある共通点に気がついた。
「捧げられる贄は偏ってはならない……街の役人はそう言っていました。生贄たちを犠牲にして、何かを作ろうとしていることは検討がついていましたが、この部屋の中を見て、その一端を捉えられた気がします」
オラトリオだ。
蜜は冷凍保存されていた異形たちが大なり小なり、オラトリオの翼を持っていることに気がついた。王は、生贄として捧げられたオラトリオを核に、様々な多様性を持った別の生贄を掛け合わせて、何かを生み出そうとしていたのではないか。
蜜はそう推理する。
「この方々が命を落としてから、だいぶ長い年月が経っているようです。呪念や魔力の残滓が薄い……表にいる異形たちよりも、もっと前の時代の犠牲者でしょうか……」
巫女として力を用い、残された異形の亡骸を調べていたステラは、これ以上は探り出せる痕跡ないと言うように首を横に振った。
他に目ぼしい記録や残留物がないことを確かめた蜜は、寒さに耐えかねたように自らの身体を腕に抱きながら部屋を後にする。
「彼女たちは"成功例に近い"から保存されていたのか。それとも、"危険な失敗例"だから隔離されていたのか。まだ調べねばならないことは残っているようですね」
再び閉ざされた鉄扉を振り返りながら、蜜は白く霞む息を零した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
九泉・伽
死地送りって見た目関係ないよねぇ
探索中心
電脳ゴーグルで地図作成し可能なら端末で他へ共有
黄泉比良坂使用
入室する前に聞き耳、敵がいたら不意打ちし『二人』で片付ける
有象無象いるなら敵を盾にもしやすいし武器受け駆使して損傷を防ぎ
『彼』と『俺』で相手がなぎ払いしやすいようまとめ流し殴る
*調査
本棚や机など書類がありそうな部屋選ぶ
調査中は『彼』は俺のガードに徹させる
「ごめんね?ホントは俺がそっちの役回りなのにさ」
例えば
王もまた実験の被害者で里を守る為の取引きを申し出た
誰に?
そりゃあ悪趣味な実験に耽溺してる黒幕に、なーんて
さしずめさっきのは失敗作かな
決戦を有利に運ぶヒントがあれば幸い
裏を知り好奇心も満たしたい
アウレリア・ウィスタリア
【蒼く凍てつく復讐の火焔】を発動
鞭剣に焔を纏わせ臨戦態勢に
どれだけ柔軟な身体でも
どれだけ再生能力があっても
凍らせて止めてしまえば関係ありませんよね
鞭剣で斬りつけ火焔で凍てつかせる
あとは粉々に砕けば……
元々は「人」だった……
ボクには彼らを救う術はありません
だから、せめてこれ以上苦しむことのないよう滅ぼしましょう
王は何を求めてこんな研究を?
外敵を排除する力がありながら、それ以上の力を求めた?
それとも力ある存在を作り出そうとした?
なにか情報はないのでしょうか
廃墟とはいえ、王の居城
王が執着した何かが飾られていたりしないのでしょうか……
それとも王でさえ
何者かの傀儡であった
何て話はないですよね
アドリブ歓迎
●
地図情報を記録しながら探索を続けていた九泉・伽は、差し掛かった三階回廊から吹き抜けの下を覗き込むと、装着していた電脳ゴーグルを額の上にずらした。
「おや、この吹き抜けの下は書庫みたいだね。興味深いけれど、その前に一仕事しないといけないか」
眼下にはなるほど、書架の間を所在無げに徘徊する異形たちの姿があった。相手をするには骨の折れる数だが、伽はその群れを前にしても飄々とした笑みを絶やさない。
「滅ぼさねば前に進むことは叶いません。行きましょう」
枷を備えた鞭剣を取り出したアウレリア・ウィスタリアは、三階回廊の手すりの上へ軽やかに飛び乗った。肩越しに振り返り、伽が臨戦態勢を整えたのを確かめてから、彼女は翼を広げて階下の書庫へと飛び降りた。
異形たちの柔軟性と再生能力は、ここに至るまでの戦いで把握していた。細かな攻撃で削り取る戦術は下策だ。アウレリアは足が床に着くよりもはやく鞭剣を振るい、しなる刀身に宿した凍てつく蒼焔を周囲にはびこる異形たちにけしかけていく。
四体の異形が、瞬く間に凍結する。すかさず身を捻ったアウレリアは回転の力を鞭剣に伝え、動きを封じられた異形たちを瞬時に粉砕せしめる。
――どれだけ柔軟な身体でも、どれだけ再生能力があっても。
凍結すれば、その力を振るうことは叶うまい。
アウレリアの着地地点からやや離れた場所に、伽は降り立った。堅実ながら盛大な彼女の攻撃に異形たちの注意が向かっているのは幸いだった。
黄泉比良坂より呼び戻した、伽の主人格たる"彼"と共に、伽は降下しざまに異形たちに不意打ちを加えていく。
「無茶させちゃって悪いね。まあ、こんな状況だし力合わせて頑張りましょう、ってことで」
へらりと緩い笑みを浮かべた伽は、"彼"と背中をかばい合うように立ち位置を定めて、異形たちに立ち向かっていく。
絶叫とともに噛み付いてくる異形の頭部を、打ち倒した別の異形の亡骸で防いだ伽は、そのまま力任せに異形の口内に亡骸を押し込んだ。
亡骸に阻まれて異形の動きが鈍る。ダメ押しと言わんばかりに伽が亡骸を蹴り押せば、異形はもんどり打ってその場に倒れた。
「そちらさんも悪いね。一瞬で終わらせてあげられなくて」
床の上でもがく異形の頭部目掛けて、伽は棍の石突を突き立てた。頭骨を砕き、脳髄を粉砕するイヤな感触が腕に伝わってきた。伽は異形が絶命したのを確かめると、次の相手と相対する。
殺到する異形の群れに、怯むこと無くアウレリアは突き進んでいた。その身には少なからぬ怪我を負っていたけれど、立ち止まるつもりは彼女にはなかった。
異形たちが元々は「人」だったことは疑いようがない。ならば、一刻も早く彼らを歪んだ生から解放してやることが、唯一の救いに思えたから。
「せめてこれ以上、苦しむことのないよう……滅ぼします」
いま再びアウレリアの凍てつく火焔がほとばしり、その直後に流星が如き剣閃が瞬いた。あとに残されたのは、彼女の翼から舞い落ちた黒白の羽と、砕け散った異形の欠片だけだった。
「ただの図書館じゃないことは、なんとなく察していたけれどね。案の定、実験の記録や日報がここには保管されているみたいだ」
周囲に異形たちの気配が無くなったあとも、伽は呼び出した"彼"に身の回りの護衛を任せる。「ごめんね? ホントは俺がそっちの役回りなのにさ」という詫びの言葉に、"彼"はこれと言った反応を示さなかった。呆れているのか、憮然としているのか、背中越しではその心の内は見通せなかったけれど。
「随分と膨大な量ですね。どこから手を付けていいのやら……とりあえず、ボクは古い資料からあたってみます」
書架の合間を巡っていたアウレリアがそう告げると、伽は「それなら俺は新しい記録から」と応じた。
アウレリアには気に掛かっていることがあった。
始まりは貧しい漁村とはいえ、外敵からの干渉を全て退けるほどの力を誇っていた王が、一体なにを求めていたというのか。
――今以上の力が欲しかった? それとも、自分よりも力ある存在を作り出そうとした?
年代別に収められた資料のなかから、アウレリアは最初期のものと思われる実験計画書を手にとった。経年劣化の激しい資料が崩れぬよう注意を払いつつ、彼女はページをめくった。
計画書はこのような書き出しから始まった。
『"極天に至る美"を求むる王の主命により、我々はこの世で最も美しく、最も気高く、最も強大な力を誇る究極の生命を生み出す研究を開始した。この計画は永く険しく、そして苦難に満ちた探求の旅路となるだろう』
……と。
一方、新しい年代の書架に分類されていた資料を漁っていた伽は、かつてこの城で魔術実験に携わっていた研究者の日報に目を通していた。
「そこらを彷徨いている連中が失敗作ってのは間違いなさそうね。王すら操る黒幕なんかがいるんじゃないかって疑ってもいたけれど……王がこの実験を始め、最期まで彼が実験を取り仕切っていたのは確かみたいだ」
最後の日報が記されたのは今から二十年ほど前のこと。
実験は長い間うまくいっておらず、なかなか成果があがらないことに王は随分と不満を顕にしていたようだ。晩年は苛烈な処罰や労働が研究者たちに課され、研究環境は過酷を極めていたらしい。
「けれど、ついに研究が実を結ぶ。"極天に至る美"が産み出された……か」
日報は、研究の終了と共に終わっている。これほど大掛かりな研究だ。当然、事後の経過観察の記録が残っていなければおかしい。だが、まるでその日を最後にこの城から人が消えてしまったかのように、あらゆる記録が途絶えているのだ。
「究極の生命……作り出されたその者と共に、王はこの地より旅立ったのでしょうか」
「どうかなぁ。案外、お城のどこかでその史上最高の美女と仲睦まじく二人きりで暮らしているのかもよ」
互いに知り得た情報を共有した二人は、書庫をあとにする。伽は冗談めかした口ぶりで吐いた自分の言葉を、全く信じていない。どこか遠くを見つめるその目は、笑ってはいなかった。
「究極って、なんでしょう。誰が何を以ってして、究極だと決められるのでしょう。もしボクが同じ立場だったとしたら、たぶん……究極のその先を目指して、実験を続けてしまうかもしれません」
一度だけ書庫を振り返ったアウレリアは、翼から抜け落ちた白い羽を拾い上げた。王が執着していたもの。それは、己と同じオラトリオたちの肉体ということは疑いようがない。
その様を静かに見守っていた伽は、うなずきを返した。
「続けているんだろうね。まだ、この城のどこかで」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ニコラス・エスクード
何を求めての実験か
その記録でも探るとするか
人ならざる悪逆非道ならば
刃を振るう力が増すというものだ
不意を突かれる事が無いとも限らん
錬成カミヤドリを用い
共に戦う者達の邪魔にならぬ位置、
死角を防ぐように盾の分身を配しておこう
この者達が何が故でこの地へと送られたのか
理を持たぬ身へと堕とされた今、それを知る由もないか
だが人が人として逝けぬほどの不幸はあるまい
故に人として屠り、弔ってやろう
我が身は正しく盾である
この身を以って相対しよう
分身たる盾の群れ達と共に耐え受け凌ぐ
返す刃にてそっ首諸共、
醜悪なる肉体を斬り払ってやろう
その身の嘆きは頂いていく
彼の王とやらに必ずの報復を誓おう
故に、今は人として散るがいい
ノワール・コルネイユ
こいつらは元より此処にいた化け物なのか…
それとも、何かの成れの果てとでも云うのか
ただ殺すだけでは始まるまい
積極的に歩を進め、古城の中を探ろう
異形の気配が濃い場所を重点的に探る
こいつらが寄り付く何か、或いはこいつらが産まれ出る何か
そのどちらかに辿り着けるかもしれない
知ると云うことは価値あること
だが、必ずしも知ることが正しい方向へ往くとも限らない
知らなければよかった、知らないままでいたかった
…そんな答えすら見つかりそうな気がしてならないよ、私は
異形に会えば銀剣を全力で叩き込み
可能な限り早々と決着をつける
頭を潰すだけで足りなければ、塵芥に成り果てるまで
暴れられて、辺りの手掛かりを壊されては敵わん
●
「事ここに至っては、この城の主に直接話を聞くのが手っ取り早いだろう。往こう」
「ああ。どのみち進まねばならない道だ……異論ない」
ニコラス・エスクードは無骨な断頭刀を肩にかつぎ、ノワール・コルネイユは闇裂く銀刃を携える。
向かう先は決めていない。異形の者たちが現れるその奥へと二人の剣士は切り込んでいく。そこに自分たちが求める真の敵がいるという、予感があった。
先に立つのはニコラスだ。漆黒の甲冑に身を包み、円盾を構えて勇猛果敢に先陣を切るその姿は、地獄より現れた戦神が如き。
しかして、ニコラスは決してただ愚直に突進を繰り返す猪武者などでは無い。彼は生み出した盾の化身を展開し、共に戦う仲間たちに異形たちの襲撃の手が及ばぬよう手を打っていた。
崩壊が進んだ城内は障害物や横穴だらけだ。その死角から不意打ちを仕掛けてくる異形たちを、ニコラスの盾はよく防いでいた。
「救ってやるとは言わん。ただ人として散るがいい」
それが唯一の餞だ。彼らがいかなる過程を経て今のような姿に貶されたかはまだわからないが、人として逝けぬほどの不幸はあるまい。ニコラスは哀れな敵に思いを寄せ、手にした盾で動きを封じた異形の者たちの首を刎ねていく。まるで貴人を処する執行人のように。
ニコラスと肩を並べて暗き道を突き進むノワールもまた、一切の哀憐も逡巡も見せずに血路を切り開いていく。
足は一度たりとも止めず、ノワールは闇の奥を見据えたまま黒き疾風となって駆けていく。異形が放つ触腕の群れも、醜悪な牙の一噛みも、俊敏な彼女の身体を捉えられない。
跳躍し敵の懐に飛び込むことで猛攻をかわしたノワールは、宙に身を投げだした不安定な姿勢にも関わらず、手にした二振りの刃を薙ぎ払う。
闇を払う銀閃が二筋走った。それは狙い違わず、異形たちの肉体を両断せしめた。
――頭を潰すだけでは足りなければ、塵芥に成り果てるまで刻まねばならないかと覚悟していたが……。
醜悪な異形なれど、急所は人間のそれと違わぬらしい。ノワールの振るう銀刃の下に、異形たちは次々と崩れ落ちていく。その様を、彼女の赤い瞳はただ冷静に見下ろしていた。
それまでの道中とは比べようもなく、立ち塞がる異形たちの数は増していた。その先にこの忌まわしき廃城の主がいる……ニコラスとノワールはそう確信する。
「正念場と言ったところか。あの大扉の先はおそらく玉座の間。異形たちの爪も牙も俺が引き受けよう……その隙に、ノワール殿が道を切り開いてくれ」
「承知した。苦労をかける、ニコラス」
ごく短く互いの役割を定めた二人は、そのまま敵の群れへと突き進む。
歪んだ肉体を変形させた異形たちが、先を往くニコラスに目掛けて一斉に殺到する。まるで肉の津波だ。いかに戦慣れした猟兵と言えど、その質量はただの一人で防ぎきれるものではない。
ただし、それは人の身だけであれば、というだけのこと。錬成されたニコラスの盾は文字通り鉄壁となり、異形たちの攻撃を尽く防いでいく。
自らも盾を構えて攻撃を受け止めたニコラスの肩に、ノワールが足を掛けて跳躍した。
「終いだ。眠れ」
闇よりなお深き漆黒に彩られたノワールの髪が、宙になびく。
眼下で蠢く異形たちが守ろうとしていた……或いは、産まれ出た何かがこの先にある。それはもしかしたら、オブリビオンを屠るという使命を全うする上では知る必要のない真実なのかもしれない。
――だが、私たちは此処まで来た。知らなければよかった、そんな答えが待ち受けていたとしても……引き返すという選択肢を私たちはとうの昔に捨ててきた。
間合いに捉えるなり、ノワールは銀刃を縦横無尽に手繰る。
その注意をニコラスに注いでいた異形たちは、ノワールの剣を防ぐ手立てを持たない。彼らは反撃はおろか回避する間もなく、彼女の剣撃の前に倒れていった。
かくして、猟兵たちは廃城の中枢に到達する。
玉座の間の大扉の奥に足を踏み入れたニコラスとノワールは、そこに広がる光景を目にして思わず息を詰まらせた。
舞踏会も開けるであろう広大な玉座の間の床は、異臭を放つ濁った液体で満たされていた。
荘厳なレリーフがほどこされていたであろう壁も柱も、今は脈動する有機体で覆い尽くされている。腐敗して溶解した肉体を固め、再び突き崩したかのような、病み爛れた肉塊で玉座の間は形作られていた。
場を満たす腐敗臭と排泄物臭は鼻孔ならず目の粘膜すらも刺激する。耐え難い悪臭に表情を曇らせたノワールとニコラスは、それでも玉座の間の奥へと歩を進める。
玉座の間の奥に、それは鎮座していた。
二人も、他の猟兵たちも、すぐにはソレを形容する言葉が見つからなかった。
ソレはあまりに歪で、背徳的に過ぎた。
猟兵の誰かが「炉だ」と呟いた。
人を混ぜ合わせて産み出すために、数多の人間を繋ぎ合わせて築かれた、人間の炉。
「"極天に至る美"を創り出す研究……その終着点がこれか」
ノワールが人間の炉を見上げながら吐き捨てる。ニコラスは兜に包まれた頭を振り、低く唸った。
「人ならざる悪逆非道が相手ならば、この刃を振るう力も増すと考えていた。しかし……そのような憤りもこれの前では無意味に思えてくる」
人間の炉を構成する者の全ては、もはや個々人の識別が叶わぬほど肉体が崩れてしまっている。だが注意深く観察すれば、その全てが無理やりに融合させられた娘たちの肉体で形作られていることが見てとれた。
闇に覆われた天井付近に目をこらすと、数百にも及ぶ人間台の赤黒い繭が吊り下げられていた。その繭の一つ一つからは臍帯に似た細い管が伸び、人間の炉に繋がっているのが見えた。
片や人間の炉の下部に目を向ければ、太い血管が幾筋も走った風船のように膨れた腹部があった。その腹の下からは肥え太った蠕虫のような肉管が幾本も生え出ており、炉が脈動するたびに濁った液体が溢れ出ていた。
彼女たちが遺体であれば、まだ救いもあったかもしれない。だが猟兵たちは、気がついてしまった。人間の炉に作り変えられた哀れな娘たちの一人一人が、未だ生命を繋いでいることに。
一刻も早く、楽にしてやるべきだ。
誰からともなく声があがる。
それに異を唱える者はいなかった。
だって、変わり果てた娘たちは猟兵たちの姿に気がつくと、滅茶苦茶に捻じくれて変わり果てた四肢を伸ばし、助けを乞うてきたのだ。「死なせてくれ」と。
「なりませぬ。彼女たちは我が母。そして我が胎。何人たりとも指一本触れることは罷りなりませぬ」
不意に、闇に包まれた玉座の間の天井より声が降ってくる。
咄嗟に盾を構えたニコラスが前に出て仲間たちを背にかばう。ノワールもまた、刃を構えて臨戦態勢を整える。
人間の炉と猟兵の前に降り立ったのは、黒い翼をもつ少女だった。
彼女は猟兵たちの顔を見渡したあと「今宵はいつになく城内が騒がしいと思っておりました。どうやら、今年の贄は招かれざる者たちが紛れていたようですね」と感情の起伏も感じられない声音で呟いた。
「遥かな昔に村と約定を結び、贄を供することを求めた諸悪の根源……貴様が王か」
断頭刀を突き出してニコラスが問い質せば、黒い翼の少女は緩やかに首を横に振るばかり。ならば、とノワールが問いかける。
「王が産み出した"極天に至る美"とやらが、お前というわけか。我々は王の討伐に来た猟兵だ。お前が我々の敵ではないならば答えろ……王は何処にいる?」
ノワールの質問に、黒い翼の少女はそこで初めて感情らしきものを表情に浮かべた。口の端をわずかに上げると、少女は嘆きの声をあげ続ける人間の炉の頂点を指差した。
「あなたたちが王と呼ばう者は、アレのことでしょう。なるほど、アレは確かにかつて王としてこの城に君臨しておりました。けれど、今は"我が母"に不死の血を供給するための一器官に過ぎませぬ」
便利なものですね。吸血鬼なる不浄の血は。
黒い翼の少女はそう言って、今度ははっきりと笑みを浮かべてみせた。
ニコラスはその様を見て、諦念めいた声音で呟いた。
「楽な戦場など一つもありはしない。だが……今宵の戦は、為すべき事が常よりも多いようだ。盾として、刃として、そして生命を持つ一人の人間として」
ノワールは、黒い翼の少女を見据えながら小さく頷きを返した。
「知ると云うことは価値あること……たった今知ったこの現実に対して、私は正しい答えを手繰り寄せねばなるまい。そうでなければ、この現実を知ってしまった意味が無くなる」
二人に続き、猟兵たちはそれぞれの得物を構えて戦に望む。
その様を見た黒い翼の少女は、膨れ上がった人間の炉の腹を愛しげに撫でた。
炉を形作る娘たちが絶叫した。
腹の下の肉管が膨れ上がり、大量の濁った羊水と共に異形たちが産み落とされた。
それは確かに、母なのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『呪詛天使の残滓』
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POW : 呪詛ノ紅剣ハ命ヲ喰ウ
【自身の身体の崩壊】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【呪詛を纏う紅い剣】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD : 我ガ
自身が装備する【剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 黒キ薔薇ハ世界を蝕ム
自身の装備武器を無数の【呪詛を纏った黒い薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:狛蜜ザキ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アンナ・フランツウェイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
かつてこの地に居城を構えた吸血鬼の王は、思った。
美しき翼を持つオラトリオ。
そのなかでも最も美しく、最も気高く、最も強き存在をこの手で創り出したいと。
かくして王は引き連れてきた眷属の魔術師たちに命じた。
"極天に至る美"を誇る、至高の姫を生み出せ、と。
魔術師たちは試行錯誤を重ねた。
年に十人の贄を居城の対岸に住まう寒村に命じた。
供された贄と拐かしてきたオラトリオの娘を掛け合わせて、魔術師たちは究極の美を創り出さんとした。
しかし、その方法はあまりに不確実で、なにより効率が悪すぎた。
やがて魔術師たちは一計を案じた。
集めたオラトリオの娘たちを巨大な母胎に作り変え、繭に包んだ多種多様な種族と特性を持った贄の血をその胎に満たすことで、贄を消費することなくオラトリオの血と混ぜ合わせることを可能にしたのだ。
実験の効率は飛躍的に上がり、心身ともに優秀なオラトリオたちが"人間の炉"から定期的に産み出された。
しかし、王は成果物の出来栄えに決して満足はしなかった。それらは尽く廃棄されたが、魔術師たちは冷凍保存の魔術を施した上で、彼女らの遺体を貴重なサンプルとして厳重に保管した。
やがて幾十年の月日が流れ、その時が来た。
"極天に至る美"と称される、完全無欠の有翼の姫が産み出された。
王は歓喜した。
魔術師たちも歓喜した。
永きに渡る悲願が成就した。
けれど、産み出された黒き翼の少女はこう思った。
完全たる存在の己が、不完全たる存在の王に傅くのは、大いなる矛盾であると。
故に産み落とされたその日、少女は王を王たる座より引きずり下ろした。
有象無象の魔術師も、王の眷属も、城内の奴隷も、一人残らず殺害し、或いは繭に包んで人間の炉に捧げた。王は不死の血を供する肉塊として、炉に埋め込んだ。
少女は王に成り代わり、それまで失敗作として廃棄処分されていた異形たちを唯一の家臣として、城を統べた。
貧しい漁村から奴隷商の街に発展していた対岸の集落との約定は、少女にとっても都合が良かった。
王が滅んだことは外に漏れることはなく、それからも年毎に十人の贄が城に届けられた。
猟兵たちに、黒い翼の少女はこう言った。
炉は母であり、胎であると。
己を至高と称する少女が、果たして何を産み出さんとしているのか。
なにゆえに配下を用いて街を滅ぼさんと画策したのか。
それは戦のなかで問い質すより他はないだろう。
黒い翼の少女は、猟兵たちを生かして返すつもりは更々無いようだ。
そして猟兵たちもまた、黒い翼の少女を放っておくわけにはいかなかった。
生まれ出た経緯はともかく、目の前の存在がオブリビオンであることは、疑いのないことなのだから。
ステラ・エヴァンズ
…憐れな
極天に至る美、ですか……かつてはそうだったのかもしれませんが…これもまた浅ましき生き物の業の果てなのですね…
星廻によって変身し自己を強化した上で挑みます
身に降りかかる花弁は見切り避け
空気を操り天津星に纏わせるようにしてはなぎ払い
少女に向かって衝撃波と共に吹き飛ばします
万が一当たってしまっても多少は呪詛耐性があるので酷い事にはならないでしょう
もしかして、街もまた完璧なる自身が治めるに相応しい姿に作り替えようとしているのでは
炉から出でた同胞を臣下としたように
街の人間もまたその炉から作り出すつもりなのではないか
等と考えがよぎって首を振ります
それではまるで、神が箱庭を作ろうとしているようだと
ニコラス・エスクード
現世の光景とは思いたくないものだな
地獄の釜とはこのような有様だろうか
嗚呼、この世界は何処までも
我が身の罪を教えてくれるものだな
下卑た吸血鬼に醜悪な黒翼か
なんとも似合いの番ではないか
貴様のような穢れを美と称した、
この城を枕に仲良く共に逝くがいい
我が身こそが盾である
飛剣の群れに相対するが役目と心得た
この身と同胞たる鎧と共に、
錬成カミヤドリにて写した盾の群れと共に、
矛足りえる仲間達を支えるに心を砕く
だが我が身もまた刃である
報復者としての刃も馳走してやらねばならぬ
彼奴の素っ首を叩き落とす為に、
彼奴の身に報いを与える為に、
この身を捧ぐ覚悟などは疾うに
隙あらば捨て身の一撃を呉れてやろう
冴木・蜜
王が自ら生み出した欲望に
滅ぼされていたとは
何とも皮肉なものですね
疑問は尽きませんが
外界に出すわけにはいかない
体内毒を濃縮の上
液状化した腕を炉へ伸ばし
接近を試みます
きっと彼女は阻んでくるでしょう
武器を花びらに変えたら
『無辜』で身体を気化
炉や花びらをも巻き込み
全て包み込んで融かし落とします
その翼を融かしてしまえば飛べないはず
完全無欠とは程遠いですね
剣を振るって抵抗するようなら
得物を這い上がってその体に触れます
私は死に到る毒
触れるもの総てを
融かし落して差し上げましょう
自分を産んだ王と同じ事をして
至高である貴女は何を産み出すのでしょう
不完全たる存在を滅ぼして
完全な存在の王国でも作るつもりですか?
●
「成程、ただ驕り高ぶった愚者というわけではない、か」
円盾に走った刀傷を確かめたニコラス・エスクードは、黒い翼の少女の剣撃に感心した様子を見せる。
彼の隣には、同じく少女の剣に阻まれて後退ったステラ・エヴァンズの姿があった。彼女は斬られた腕に簡単な止血を施すと、中空にて羽ばたく少女を見詰めながら呟いた。
「ですが、完璧な存在などありはしないはず。浅ましき生き物の業の果てに生まれたものならば、なおのこと」
「そうですね。それに完璧か否かは私たちには関係ない……疑問は尽きませんが、あれを外界に出すわけにはいきません。滅ぼしましょう」
ステラの言葉に冴木・蜜が応じた。彼はゆらりと二人の側から離れると、黒い翼の少女の出方を伺いながら間合いを測っていく。
黒い翼の少女は猟兵たちを高みより見下ろしながら、そっと微笑んだ。
「どの年も、わたくしに抗う贄が一人二人はおりました。ですが今年はこんなにもたくさん。今から楽しみでなりませぬ。あなた達の命は、どのような子をわたくしに授けてくれるでしょう」
全力で臨まねばなるまい。ステラは星廻をその身に宿し、白き翼を持つ聖女へと覚醒する。濁った羊水で満たされた床を飛び立った彼女は、人間の炉の前で滞空する少女よりも高みへ飛翔すると、風纏う天津星の刃を少女の頭部目掛けて振り下ろす。
「誰も、何も、あなたには与えません。私たちはそのために此処へ来たのです」
太刀筋を視認することも難しい狙い澄ましたステラの一撃に、さしもの黒い翼の少女も笑みを消す。
薙刀と剣がぶつかりあい、けたたましい音と共に火花が散った。
加速と体勢の利があったステラの一刀が勝った。致命傷には遠いが、彼女の薙刀は確かに黒い翼の少女の肉体を捉えていた。
「地獄の釜とはこのような有様だろうか。だが丁度似合いだろう。醜悪な黒翼を持つ者の墓標として、この王の間は、この城は」
すかさず距離を詰めたニコラスが、黒い翼の少女の直下へと身を躍らせる。飛翔する力を持たぬゆえに追撃に加わることは叶わないが、元より男は己の本分を盾と自認する。
――飛剣の群れか……厄介な手口だが、我が身を削ってでも防がねばなるまい。
空中で黒翼を丸めた少女の身の回りに、無数の剣が生み出される。それは凶悪な刃の豪雨となって猟兵たちの身に降り注ぐ。
「通さん」
同時に、ニコラスが召喚した数多の盾もまた、巨大な雨傘のように猟兵たちの頭上を覆っていた。
降り注ぐ幾百もの剣を防ぐ盾の幕。物量の差で全てを防ぎ切ることは叶わぬものの、威を削がれた剣雨に怪我を負わされた猟兵はただの一人もいない。
思い通りにいかぬ展開に不満を覚えたのか、黒い翼の少女がつまらなそうに鼻を鳴らした。
それ故か、眼下に気を取られていた自身の背後を、剣と盾の攻防の隙をついた蜜が捉えていたことに、彼女はまだ気が付いていない。
――王が自ら生み出した欲望に滅ぼされていたとは、何とも皮肉なものです。ですが、いつの世も簒奪者の栄華は続かないもの。きっと、キミもそうなることでしょう。
液状化した腕を伸ばして人間の炉を登った蜜は、音を立てぬまま黒い翼の少女に手を伸ばした。
蜜の指先が少女の首筋に触れようとした次の瞬間、わずかな気配を察知した少女が振り返った。そして、振り向きざまに払われた剣が彼の腕を切り飛ばしていた。
人の血とは思えない真っ黒な体液が切断面より吹き出し、それは黒い翼の少女の剣を、腕を濡らしていく。追撃の一太刀をかわした蜜は、片腕を切断されたにも関わらず痛がる様子も焦った様子も見せない。
そればかりか、驚いたような表情を浮かべているのは少女のほうだった。見れば、蜜の体液を被った少女の腕がグズグズと腐食していた。
蜜の体内で濃縮された毒素は、それ自体が凶器だ。わざわざ相手を傷つけて体内に流し込んでやる必要すらなかった。
「やはり、あなたは究極の存在などではありません」
腐食した少女の腕から剣がこぼれ落ちる。すかさず、ステラが飛翔した。
振りかざした薙刀が巻き起こす剛風が少女の細い体を切り裂き、とうとう彼女を地に落とすことに成功する。
咄嗟に黒い翼の少女が放った花弁の矢の全ては避けきれず、身体中を抉られたステラの白い衣が瞬く間に真っ赤に染まる。だが、彼女は追撃の手を止めない。天津星を閃かせ、墜落間際に翼を羽ばたかせた少女の身に裂傷を負わす。
「聞かせて下さい。あなたは何をしようとしていたのですか。この城のみならず、対岸の街もまた、自身が治めるに相応しい姿に作り変えようとしているのですか……炉から生まれたあなたの同胞を、新たな民として」
溢れる血を素として、黒い翼の少女は新たな剣を生み出していく。間合いを取り、再び睨み合う形となった猟兵たちを睥睨した少女は、ステラの問いかけを鼻で笑った。
「同胞? あんなものはただの生きた肉人形に過ぎませぬ。対岸の街だって、わたくしは何の興味もございませぬ。強いて言えば、そうですね。いずれ用済みになった肉人形どもを街に放って、人間どもと殺し合う様を観戦するつもりではありましたが」
「……」
返ってきた答えを耳にしたステラの表情が曇る。それは憤りや恐れのためではない。目の前の存在が、あまりに哀れな存在に思えてならなかったからだ。
「嗚呼、この世界は何処までも我が身の罪を教えてくれるものだ。しかし……それ故に我が身に与えられたもう一つの役目を全うできるというもの」
担ぐように断頭刀を構えたニコラスが、黒い翼の少女の戯言を遮るように前へ進む。
本分は盾。同時に、ニコラスは刃でもある。
身も心も思想すらも醜悪に穢れた存在が相手ならば、なに一つとして躊躇う必要はなかった。ニコラスは報復者の刃として、黒い翼の少女の眼前に立ち塞がる。
「そんな余興を観戦する機会は訪れん。お前はこの城と共に、全ての報いを負って躯の海へ沈み逝くのだ」
「ふふ、可笑しなこと。ならばせいぜい足掻いて時を稼ぎなさい、下郎」
互いの得物の間合いに互いの身体が踏み込む。ただ腕を振るっただけの無造作な一太刀だというのに、黒い翼の少女の剣撃はあまりに重い。
真正面から受け止めたニコラスの円盾が瞬時にひしゃげ、半ばまで切り裂かれる。それでも衝撃を全て受け止めることは叶わず、甲冑に包まれたニコラスの骨や内臓が痛々しい軋みをあげて砕けていく。
「無論だ……! この身を捧ぐ覚悟などは、疾うに」
「!」
ただの人であれば絶命するほどの苦痛。しかしニコラスは倒れなかった。上段に構えた断頭刀を振り下ろし、わずかに退避し遅れた黒い翼の少女の身体を叩き斬る。
少女の肩口から膝に至るまで、ばっくりと口を開く裂傷が刻まれた。
もはや生命らしい生命とも思えない存在にも関わらず、その身に流れる血が赤く、骨は眩いほど白いという事実に、蜜は皮肉めいたものを感じていた。
思わぬ痛手に警戒したのか、再び宙へ逃れようとした黒い翼の少女を、蜜は追い掛ける。先と同様の手段で蜜は空中に昇った少女に肉薄し、毒を孕んだ指先を差し向けた。
「同じ手口は二度通じぬと心得なさい」
「言われるまでもなく、心得ています」
蜜の接近に気がついていた少女が、薔薇の花弁の大渦を巻き起こす。それはあとわずか一メートルの距離まで少女に迫っていた蜜の身体を呑み込んでいく。
だが次の瞬間、蜜の姿は黒い霧に包まれて消え失せていた。
いや、違う。黒い霧こそが蜜だった。それは己の肉体を瞬時に気化させる、無辜の能力だった。
「か、は……ぁっ」
猛毒の霧と化した蜜を切り裂くことは、いかにオブリビオンといえど不可能だ。そして、彼に触れた者は誰も彼もが死に至る。
黒い翼の少女のように強力なオブリビオンであれば、すぐには死なないだろう。だが、脆弱な人間の肉体であれば、そうはいかない。
「完全なる自分の王国を作るつもりは、貴女にはないようだ。では、至高である貴女は何を産み出そうとしていたのか……ずっと考えていました」
毒素に蝕まれた少女の片翼が腐敗し、彼女は高度を保てなくなる。再度地に落ちた少女から離れた場所で元のカタチに戻った蜜は、人間の炉を見上げた。彼の毒に巻き込まれた炉の三割ほどの人間が即死し、肉体が融解しつつあった。
「薄汚い毒で我が母を、我が胎を穢すとは、なんと罪深い所業を……」
「我が胎、か……。つまり貴女は求めているわけですね、己の子とも呼べる存在を」
黒い翼の少女ははっきりとその表情に怒気を浮かべた。彼女は蜜の言葉には答えず、代わりに無数の剣を猟兵たちの頭上に降り注いでいく。
それまでの攻撃よりも一段激しさを増した剣の嵐に、猟兵達は次々に身を刻まれてしまう。
それでもニコラスが盾を掲げて仲間たちへの攻撃を阻み、ステラが攻勢を取り戻すために果敢に薙刀を振るい、蜜が少女の肉体をより深く毒素で蝕んでいく。
誰も弱音を吐かず、戦場から背を向けたりはしない。
ここで退くことは、猟兵として人間として、決して許されることではなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
九泉・伽
※負傷描写歓迎
煙草に火をつけたなら天使へ殴りかかる
ごめんね、殴打は苦しませるから
願わくば彼女らも再びの人生あらんことを
吐くのは甘言混じりの問いと紫煙
被ダメ覚悟の棍のカウンター突き
眼前に回り込み食らいつき斃れるまで俺を集中狙いさせられれば幸い
「ねぇこれは単純な興味なんだけどー
“もし貴女を上回る完璧なる存在”が産み落とされたらどうすんの?
ちゃんと自分を炉にくべられる?
…くべるなら俺は止めちゃうや
だって俺にとっちゃ貴女だけが天に到る価値ある完璧なんだから
どうかその手で屍にして―完璧に到った貴女を見送らせてよ」
3つが全て効いたなら拍手喝采
虚言譎詐、キミは力をひとつ失った
あら大変
もう完璧じゃあないねぇ?
アウレリア・ウィスタリア
不快、です
お前の在り方は不快です
同族も他の人たちも犠牲にして更に多くの犠牲を望むのですか?
手段はどうあれ
望まれて産まれたのに
その誕生を望んだ者たちさえ犠牲にして……
ボクはお前に復讐しよう
望まれなかった私が望まれたお前に復讐しよう
【空想音盤:苦痛】を発動
流れ出た血で血糸の結界を展開し薔薇の嵐を突き進む
オラトリオは私が虐げられたきっかけ
だから実は嫌いなのかもしれない
でも同族たちへは安らかな死を望もう
炉は破魔の魔銃で葬ろう
これ以上苦しまないよう祈りを込めて
だけどお前は別です
お前には私の絶望さえ生ぬるい
私の剣がお前を絶望に落とす
血糸を編み込み強化した鞭剣で
その翼を四肢を首を抉り斬り落とす
アドリブ歓迎
杣友・椋
ミンリーシャン/f06716
アドリブ歓迎
今更怯んだりしねえさ
此処まで来ておいて後戻りはできねえ
おい、其処の黒いの
おまえは何が望みなんだ
自分を生み出した「世界」への復讐か?
世界を至高の民のみへと篩いたいのか?
答えが如何であろうと
【串刺し】に長けた槍が黒の天使を襲うだろう
リィが隣に居るなら安心して戦える
だが先程迄の疲労も否めない
自分の力が尽きるならば【双聲児】で優しき兄を喚ぶ
蓮、悪い。リィを頼んだ
――『うん。この子は僕が護ろう』
全て終われば街へ
供された贄の末路を奴隷商の奴らへ語り
持ち帰ってきた異形の肉片の一部を呈する
奴らが怯えて逃げ出せばこっちのもんだ
奴隷として攫われ囚われていた奴らを解放してやる
ミンリーシャン・ズォートン
椋(f19197)と
気付いてた
共に戦う彼がいつも
私より一歩前にいる事
今も動揺している私を庇ってる…
〈真の姿解放/姿絵参照〉
椋、ごめんね
今度こそ一緒に戦うわ
涙はもう風に飛ばそう
椋の隣に立ち
防御も攻撃も二人一緒に
剣に魔力を注ぎ
炉には氷檻
異形ごと閉じ込め
彼女にも氷の縛めを
一瞬でも動きが止まればいい
剣術、体術両方駆使し
椋と彼女を倒します
◆全て終わったら
湖に氷の橋を架け奴隷市へ
椋が紡ぐのは真実
そして此処からは…
彼らまだ意識がありましたよ
私達は贄にされた者同士
攻撃もしないので生かしておきました
もうすぐ橋を渡って来ると思いますよ
そう嘘をつく
私なら奴隷を持つ者を何処までも追いかけ殺しますけど彼らはどうかしら?
ノワール・コルネイユ
…嗚呼、終わらせてやるとも
お前達を無惨たらしめた狂気の女も、旧き約定も。全て
あの街が仮に滅び去ったとして、自業自得だろう
腐敗の果てに貴様を産み出す片棒を担いだのだからな
だがそれでも、行かせはせんよ
あの街にも未だ、虐げられた者がいるんだ
異形を斬り伏せ、乗り越え
目指すは黒の女の懐
貴様は殺す。そして肉塊と果てた王も殺す、胎も壊す
それが此の地獄を知った、足を踏み入れた者の義務だ
振るうは銀の剣一振り
其の剣が呪詛を纏うのなら、其の呪いごと斬り伏せてやろう
銀弾はただ一発きり。決定的な場面まで温存しよう
貴様ら邪な奴らを内側から灼き、蝕む痛み。存分に味わえ
此の地に渦巻く呪い、其の全て。
貴様独りで抱えて逝け
●
ライターが剣の嵐に巻き込まれて壊れていなかったのは、幸いだった。
血で赤黒く染まった指先で煙草を一本取り出した九泉・伽は、痛みに顔を引き攣らせながらソレに火を点ける。
黒翼を生やしたあの女の子は、随分と堅物だと伽は思う。有る事無い事ささやきかけるのはそれなりに得意だけれど、さて、上手に口説き落とせるかは賭けになるだろう。
――結局、地道なトライ・アンド・エラーが近道なんだよね。ゲームも、交渉も、戦いも。
再び最前線に戻った伽は、手にした棍を構えて黒い翼の少女との距離を詰めていく。
目が合った。まるで親戚のコに久々に出会ったかのような気楽さで、伽は煙草を咥えた口の端をニヤリと上げた。
互いに手負い。一秒でも早く潰したいのは同じだろう。少女の爛れた腕が振るう剣の威を、伽は棍を用いてかろうじて斫る。
がら空きになった少女の胴目掛けて伽が横薙ぎにした棍を叩き込めば、少女もまたすかさず反撃の一手を見舞ってくる。
肋骨二本を奪う代わりに伽が犠牲にしたのは片目の光と顔の半分の皮膚。
大丈夫。治すまではつらいけど、これは死なない傷だ。
伽がいたずらに相打ち覚悟の無策な攻撃を仕掛けたわけではないことを、ミンリーシャン・ズォートンは察していた。
囮か、仕込み。或いはその両方。ならば、それを活かすのが仲間というものだろう。
秘めたる力を解き放ったミンリーシャンの背より、透いた純白の翼が広がる。
小さな翼としばしの別れを告げた彼女は、黒髪の竜族の少年を見やった。
気がついていた。共に戦う間、いつも彼が自分を庇っていてくれたことを。そのために、彼が深い傷を幾度も負っていたことを。
不意に、瞳から涙が溢れたのは何故だろう。悲しいわけではなく、痛みに耐えられぬ怪我を負っているわけでもないのに。
――椋、ごめんね。今度こそ一緒に戦うわ。
心のなかで、ミンリーシャンは少年に囁きかける。そうして翼を羽ばたかせ、いつもより三歩前へ進む。風に涙が一粒、飛ばされていった。それきり涙は溢れてこなかった。
ふと、視界の隅に入ってきた白翼の少女の姿に、杣友・椋は少しだけ口を開いて驚きの表情を浮かべた。
だが椋はすぐに前へと向き直ると、竜槍を構えて再び黒い翼の少女へと迫っていく。
何も語るべきことはあるまい。ミンリーシャンは前へ進み、己と肩を並べて戦に臨むことを選んだ。ならばもう、彼女は守るべき存在ではない。互いの命を預け合う存在だ。
椋の目元に幽かな笑みが浮かんだ。悪くない光景だと思った。
「おい、黒いの。おまえは何が望みなんだ」
竜槍と氷剣、そして赤い呪剣が目まぐるしく攻防を繰り広げるさなか、椋は黒い翼の少女に問いかける。
自分を生み出した世界への復讐?
それとも自身のような至高の存在が統べる世界の構築?
――くだらねえ。
黒い翼の少女は笑みを浮かべるだけで何も答えなかったが、椋ははなから答えなど求めてはいない。目の前の存在を砕いてやれば、少女の目論見など露と消えるのだから。
二人の武が黒い翼の少女の守りを突き崩した。ミンリーシャンの氷剣が少女の片腕の動きを遮ると、その間隙をついた椋の竜槍が深々と少女の腹を貫いた。
「下賤にして愚昧な人間ども……まかり間違っても『勝機は我にあり』などと思わぬよう。どれだけ抗おうと、お前たちはこの場で死する定め」
すかさず飛剣の群を生み出していく黒い翼の少女。翼も肉体も重々しい損傷を受けているが、尊大な口ぶりが影を潜めることはない。
「吠えるがいいさ。終わりを迎えるのがどちらか、いずれわかるんだ」
ただの強がりか、それとも少女は未だ力を隠し持っているのか。どちらでも、ノワール・コルネイユにとっては構わなかった。
少女も、王も、胎も、何もかも全て破壊し尽くす。それが叶うまでは、ノワールは剣を鞘に収めるつもりは更々無いからだ。
黒い翼の少女が呪剣を掲げると、腐りゆく人間の炉が仔を産み落とした。産まれたての異形たちは金切り声をあげながら、滅茶苦茶に触腕を振り回して猟兵たちに迫ってくる。
「手駒のつもりか? まさか切り札などとは言うまいな」
ノワールの動きはそれまでの攻防で負った怪我の影響など、全く見せない。荒れ狂う異形たちの触腕を機敏な足捌きだけで掻い潜り、彼女はその尽くを一刀の下に切り捨てていく。
二体、四体、六体の異形を屠った先に、ノワールは黒い翼の少女を剣の間合いに捉えた。両の手に構えた銀の刃が闇のなかで一瞬の閃光を放ち、それは少女の肢体に新たな刀傷を刻み込んでいく。
――往かせはしない。あの街が滅び去ることは自業自得、どうなったって構わん。だが……あそこには未だ囚われている者が大勢いるんだ。囚われ、虐げられている者たちが。
玉座の間に黒い翼の少女の鮮血が飛び散る。
少女が小さく舌打ちしたのを、アウレリア・ウィスタリアは聞き逃さなかった。
あの少女も数多のオブリビオンと何ら変わらない。どれだけ己を強大に見せようとも、所詮は躯の海より滲み出た過去の亡霊に過ぎない。
すでに身体中が血まみれになるほどの怪我を負ってはいたが、アウレリアは更なる苦痛を己に科す。細い身体に無数の傷が刻まれる。それは昔日に受けた苦難の傷痕。心身の奥底に沈めていた絶望と苦痛が、彼女の内側で毒々しい花を咲かせていく。
「――!!!!」
声にならぬ声で叫び、目から血の涙を零す。
何者にも望まれぬ生を受けたアウレリアは、慟哭した。
望まれて生まれたにも関わらず、全てをその手で犠牲にした黒い翼の少女に、アウレリアは復讐を誓った。
不快だ。
その在り方も。
その黒い双翼も。
何もかも"持って生まれてきた"くせに――。
浅ましい嫉妬だと呼ばれても致し方あるまい。そうではないと、言い切れる自信もない。それでも、アウレリアはこの身を焦がす負の感情に身を委ねる。
巻き起こった花の矢衾をアウレリアは自らの血の糸で絡め取り、突き崩していく。
目障りだ。アウレリアは血色に染まった鞭剣を振るうと、思わぬ突進に対応しきれずにいた少女の左の翼を躊躇なく切り落とす。目障りな、その黒い翼を。
少女が短い悲鳴をあげた。
憎悪と憤怒は紅い呪剣に姿を変えて、全て滅びよと言わんばかりに荒れ狂う。
「此処まで来ておいて、後戻りはできねえ。例え、俺がここで倒れたとしても、だ」
最も酷い怪我を負ったのは椋だった。
彼は自らの身を守るよりも先に、ミンリーシャンを背にかばうことを優先させていた。
――嗚呼、結局、守りたくなっちまうんだな。俺は……リィのことを。
身体中を切り裂かれた椋の意識が遠のく。視界がぼやけ、耳が遠くなる。
誰かが椋の身体を支え、泣いていた。
気を失う間際、椋は最後の力を振り絞って、心の奥底で兄の名を呼ぶ。優しい声が、その呼びかけに答えた気がした。
「もう泣いてはいけない……! 負けるわけには、いかないから……!」
椋が喚び覚ました彼の兄の虚像と共に、ミンリーシャンは再び駆け出した。
剣の嵐を受けて、多くの猟兵たちが傷ついた。最も怪我が軽いのはミンリーシャンだ。護られたことには何か意味があるはずだ。彼女はそう信じ、刃から凍気を解き放つ。
一閃。
ミンリーシャンの剣が炉を氷獄に囚える。その膨大な魔力は一面を凍てつかせ、椋にとどめを刺そうとした黒い翼の少女の動きを阻害した。
「肉人形にも劣る屑どもが……!」
もはや感情を取り繕うことも叶わなくなった黒い翼の少女が、歯を剥き出しにして罵声をあげる。その視線の先には、凍りついた人間の炉があった。
伽は、少女が何を求めていたのかを理解していた。
あの炉のなかには、すでに宿っているのだろう。
「完璧な存在である貴女の、"完璧な存在である娘さん"が、もうじき産まれるんでしょ。だから、異形の子たちも街も不要になるんだ。違う?」
血塗れになった煙草のなかから、唯一無事だった最後の一本を伽は咥える。
烟る紫煙越しに、伽と少女の視線が交わった。
次の瞬間、棍と呪剣が行き交った。伽の一撃は弾かれて、返す刀が彼の片腕を半ばまで断つ。
「その通り。わたくしと共にこの世を統べる、極天に至る存在が産まれるのです。お前たちの苦悶の絶叫を、生誕を祝う喇叭代わりにして差し上げましょう」
再び振るわれた呪剣が伽の腹を裂き、臓器が溢れ出てくる。
もはや悲鳴を上げることも難しい。だが、伽は笑みを絶やさぬまま、なおも少女との距離を詰めていく。まるで愛の囁きを交わすように、鼻先が触れなんばかりに。
「……おめでとう。けれど、真の王は独りしかなれないハズ……。娘さんを完璧な存在にするためには、今度は貴女が炉にくべられるべきなんじゃないの」
「……」
伽の言葉を、黒い翼の少女は冷えた目で受け止めるのみ。
だが、少女は伽を突き放そうとしなかった。今際のきわの言葉を聞き取ってやろうと考えているのか、それとも……。
「片翼になってしまった貴女は、もう完璧な存在じゃない。生まれてくる娘さんは、キミを炉に埋めるだろう……かつて貴女が王をそうしたように」
伽は棍を杖代わりにしてかろうじて踏ん張ると、場違いなほど甘ったるい声で告げた。
貴女だけが天に至る価値ある"完璧"だ。
どうせ屍になるならば、"完璧"に至った貴女を見送らせてよ。
氷が解けて、貴女に成り代わる存在が産み落とされる、その前に――。
「!」
幽かに少女の瞳が揺らいだのを、伽は見逃さなかった。一瞬の隙をついて放たれた棍の一撃が少女の胸を突き、漂う紫煙が風で乱れた。
よろめいた黒い翼の少女は咄嗟に呪剣を生み出し、伽の首を刎ねようとする。
だが、その手には何も産み出されなかった。
あら大変、もう完璧じゃあないねぇ?
そう言い残して、伽は天を仰臥しながら崩れ落ちる。
虚言譎詐が少女の能力を奪い去っていた。なにが起こったのか理解が追いついていない様子の少女に、アウレリアが迫った。
絶望に身を浸してもらうのは、まだ早いのだ。
心身を苛む苦痛に静寂のなかで泣き叫びながら、アウレリアは剣を振り翳した。
――私の絶望さえ生ぬるい。真の絶望を。この剣で、この手で、真の絶望を。
黒い翼の少女は、床に突き立っていた呪剣を咄嗟に手にした。その表情に浮かんだ焦りの色を目にしたアウレリアの唇から、淡い吐息が漏れた。
縦横無尽に宙を切り裂く鞭剣が少女の身体を切り刻んでいく。狙い澄ました攻撃など、もはや不要だった。目についた部位を、アウレリアは細切れに寸断していく。
知らぬうちに、少女と共にアウレリアも悲鳴をあげていた。自らが生み出す他者の絶望に心を掻き毟られて、古い傷跡がじくじくと痛んだ。
それでも、止まらない。
目の前の存在が息絶えるその瞬間まで、止められない。
両翼、両腕、片脚も失い、人としての姿形はおろか異能をも失った黒い翼の少女。それでも生に執着するのか、少女は肘先を失った腕に、折れた呪剣を刺して取り付ける。
「来い。手負い同士だ、ケリをつけよう」
使い物にならなくなった左腕をぶら下げたまま、ノワールは一刀のみを携えて少女に挑みかかる。
正々堂々なんて、ノワールは宣うつもりはない。ただ、真正面から斬らねば気が済まなかった。絶望と苦悶に歪むその顔を拝みながら斃さねば、この少女と王と街の者に殺された者たちへ、なにも手向けてやれない気がしたからだ。
腐ってもオブリビオンか。瀕死なれど、少女の剣撃は重い。
刃を打ち合わせることは不利と見たノワールは、足を使い少女の太刀筋を紙一重でかわしていく。
「貴様独りで抱えて逝け」
少女の攻撃を誘い出したノワールは、がら空きになった少女の半身目掛けて銀刃を振るう。それは確かに少女の細い肋骨の隙間を縫って、臓腑を貫いた。
しかし、止まらなかった。少女の呪剣がノワールの片脚に骨へと至るほどの裂傷を負わす。精神だけでは凌駕できない損傷を受け、彼女はその場で膝をつく。
「死ぬのはお前だ、人間」
「いいや……此の地に渦巻く呪い、其の全て。背負うべきはお前だけだ」
少女が振り下ろした呪剣が、ノワールの首を捉えた。
それより僅か。ほんの僅かに先んじて、ノワールは引き金を引いていた。
膝をつくと同時に懐から取り出していた、銀の弾丸を込めた短銃。ただ一度きりしか撃てぬ最後の一手を、ノワールは少女の額目掛けて放っていた。
ノワールは確かに見た。
銀の弾丸が少女の頭を撃ち抜く瞬間、彼女の表情が恐怖に引き攣った様を。
至高を称した者の、惨めな最期を。
――蝕む痛みを、存分に味わえ。
裂かれた首筋を抑えながら、ノワールは心の内で少女に告げる。そして彼女もまた、意識を失った。
戦いは終わった。
誰も彼もが傷つき、歩くのもやっとの有様の者が大半だ。
廃城を後にし、岸壁に残っていた生贄たちと合流を果たした猟兵は、街へと戻る。
やり残していることがあった。
街に蔓延る背徳を終わらせねばならなかった。
ミンリーシャンが残された力を振り絞って、湖と街を繋ぐ氷の橋を架ける。その橋を渡って帰還を果たした猟兵たちの姿は、まるで神話に描かれた光景のよう。街の者は、彼らの姿にただただ驚愕することしかできない。
廃城から異形の亡骸の一部と、切り裂かれた王の肖像画を持ち出してきた椋が、街の大広場で群衆に真実を告げた。
王はすでに死んでいたこと。生贄の末路のこと。この街を守る者は、もはや存在しないこと。
動揺し混乱をきたした街の者を鎮めるように、町長や街の重鎮、奴隷商どもが集まってきた。
奴らの虚言に耳を貸す必要はない。この街はこれまでもこれからも栄え続けるのだ、と町長らが群衆に訴えても、もはや状況は覆らなかった。
集った重鎮のなかに、ミンリーシャンは自分を買い上げた"街のお偉いさん"の姿を見つけた。彼女は勝ち誇るでもなく、憐れむでもなく、淡々と告げた。
「あの子たちは、いずれ橋を渡って街へ戻ってきます。贄にされた者、虐げられた者にあの子たちは手を出しませんが……奴隷を引き連れる者には、容赦をしないでしょう。きっと何処までも追い掛けて、命を狙うはず」
嘘だ。しかし、効果はあった。
群衆に混ざり、奴隷商たちもが慌てて散り散りになっていく。急いで財産をかき集めて、この街を後にするつもりなのだろう。
大混乱に包まれた奴隷市に戻った椋は、浅ましい商人たちを尻目に再び静寂が訪れるときを待つ。脅した以上は奴隷を連れて逃げるヤツはいないだろうが、見張っていなければなるまい。
「もう少しの辛抱だ。待ってな」
誰に告げるともなくつぶやくと、市の真ん中の競売台に腰掛けた椋は、混乱に右往左往する商人どもを眺め続けた。
かくして、古き約定と共に栄えた悪徳の街に終わりの日が訪れる。
街から立ち去る前に、アウレリアは湖を振り返った。
呪いはいずれ消え、ここも元の穏やかな湖に戻るだろう。
アウレリアは、ふと呪いの素にもなっていた人間の炉の姿を思い返した。
嫌いだったのかもしれない。オラトリオという存在は、自身が虐げられたきっかけとなった者たちだったから。
けれど、人間の炉を破魔の魔銃で葬ったとき、心の奥底でアウレリアが歌っていたものは祈りの言葉だった。
救われた気がした。同族に安らかな死の救いを願うことが出来たことに、彼女の心に巣食う苦悩がほんの僅かだけ救われた。そんな気がしたのだ。
酷い絶望や苦痛の底にも、どこかに希望や救いが残されているのかもしれない。
そう信じなければ、たぶん、この世は地獄よりも生きづらい。
大成功
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