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抗い倒せ、二対の王

#UDCアース #【Q】 #完全なる邪神

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#【Q】
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#完全なる邪神


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●予知に映りし邪神“たち”
「星辰揃いしとき、神々は争いを始める―――」
 ぽつり、とアメーラ・ソロモンはそう呟いた。まるでその手の予言書を読み聞かせるように、どこか物静かに。そして意を決したようにそれを閉じ、緊急招集された猟兵たちへと向き直った。
「みな集まったかな。突然呼びつけてすまないね、今回も諸君の力を貸してほしいんだ」
 普段とは違い真剣な彼女の表情に、自然とその場の空気が静まっていく。こうした時の予知は大抵ろくなものではない。強敵を求める者なのならば、むしろ朗報なのかもしれないが。
「UDCアースにて、邪神が完全復活を果たした。……そう、既に復活は果たされた。私たちの予知をすり抜け、数体の邪神が復活を遂げていたのだ。困ったことに一体や二体の騒ぎではない」
 その声に少し悔しさが滲んでいるのは、きっと錯覚ではない。己の予知をすり抜けられていたことへの憤りと歯がゆさが彼女を苛んでいるのだろう。それでも冷静に、アメーラは語る。
「今までそれが露呈しなかったのは私たちにもわからない“なにか”のせいとしか考えられない。……どうやらその“なにか”は来たる日に備えて完全復活した邪神たちを己の領域へ集め、しまいこんでいるらしい。完全たる邪神を駒扱いとは恐れ入る。いずれ戦うことになるのやもしれないが―――」
 言葉を濁して、アメーラは息をつく。そのことは今はいい、と自分へ言い聞かせるようにつぶやいた。
「君たちにお願いしたいのは、しまいこまれた“完全たる邪神”の数を減らすことだ。戦場は“なにか”の領域、普段は立ち入ることもできない異常空間になる」
 さらには連戦まで予想されるらしく、アメーラは顔を歪めながら「厳しい戦いになるだろう」と付け足した。その懐からひとつのペンダントが取り出される。
 小さな水晶のペンダント。美しい輝きを放ちながらも時折怪しい影が宿るのは気のせいだろうか?
「今回私が予知を利用し見つけたこのペンダント。これを使って君たちを戦場、超次元の渦へ転送する。相手はどうやら、精神攻撃を得意とする邪神たちのようだ。簡単な特徴と予想される精神攻撃を挙げるので打ち勝てる自身のない者はこの任務から降りるように」
 初めは青い水晶の邪神。しかも大量に発生しているらしく、ひとり一体を確実に倒すことが求められる。そして彼らはその水晶の中に、『敵対者の大切なヒト』を映し出す能力を持つ。
 第二形態は乳白の邪神。第一形態の数を減らしておけば弱体化が望めそうだ。彼の邪神の特殊攻撃は同士討ちを誘発する催眠の歌声。まずはそれに打ち勝つ必要があるだろう。
 第三形態は漆黒の邪神。『脱皮』した完全体の邪神は強力だ。先制を奪うことは叶わないだろう。幻覚を最も得意とすることが予想されるため、それを逃れる手段がなければ任務失敗もあり得る。
「特徴は把握できたかな? 問題のない者はこの場に残っておくれ。皆の心が決まり次第、転送を開始する」
 水晶のペンダントを掲げ、転送準備を始めるアメーラ。任務に挑む猟兵たちは眩い光に包まれた後、異空間へと転送された。
 足元は大理石の美しい床。頭上には星の瞬く暗黒の夜空。美しくも妖しい戦場に無数の水晶が点々と立っている……。
 猟兵たちはひとりひとり水晶の元へ歩みより、それに会敵することだろう。戦いの火蓋は静かに落とされた。


夜団子
 こんにちは、MSの夜団子です! さあ、ボスラッシュ&心情系シナリオになります!
 その特筆上アドリブが多めになること、間に合わなかったとき再送をお願いする可能性があることをご了承ください。

●今回の構成&特殊な攻撃
 第一章 大量に出現した邪神を一人一体確実に倒そう。水晶には貴方の『大切なヒト』が映りこみます。それは既に亡くなった方かもしれませんし健在な方かもしれません。声も姿も完璧な大切なヒトが水晶を壊さないよう懇願してきます。
 第二章 合体した邪神を倒そう。敵は必ず『同士討ちさせる催眠の声』を放ってきます。心を強く持てば耐えられるでしょう。その後は普通の戦闘になります。
 第三章 『脱皮』し最も強い姿となった邪神とのバトルになります。邪神は必ず先に攻撃を行い、攻撃への対処がないプレイングは自動的に失敗となります。

 少々特殊なシナリオになります。皆様のプレイング、お待ちしております。
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第1章 ボス戦 『『巨蟹卿』キャンサー』

POW   :    輝き守って、私のアクベンス
【水晶本体に触れた人間】を向けた対象に、【変形させた水晶による貫通攻撃】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    輝き守って、私のプレセぺ達
【影から放たれる光の集合体】が命中した対象に対し、高威力高命中の【超高速の光のレーザー】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    輝き守って、私の蒼白銀光
質問と共に【月光を水晶で屈折、増大化させた光】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。

イラスト:透人

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アルム・サフィレットです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

終夜・還
うん、今はもうアメーラだよね
ちょっと前ならセレアだったんだろうけども

水晶が映すのはアメーラ・ソロモン、俺の一番大切な恋人(ヒト)


で、壊すなって懇願されようが知ったこっちゃないかな
悪いけど俺はたとえアメーラの姿を模してようと偽物を殺す事に躊躇はしないよ

なんなら本物がしないような悲しげで、同情を買うように祈るかい?それとも、涙を流して嫌だって首を必死に横に降って命乞いするのかな?

そういう姿もイイかもしれないけどサァ…やっぱ本物が俺に甘えるのに比べたら全然だね
でもイイモノ見れた気はする♥

て訳で貴重なあり得ない姿をありがとー☆
邪神共々俺の死霊達に喰われて消えてね


物理的な攻撃は【見切り】で躱すぜ



 蒼く鈍い、そんな光を内包する奇妙な水晶。戦場にいくつもあるそれらを、終夜・還(終の狼・f02594)はゆっくりと見渡した。
 『大切なヒト』と問われて思い出されるのは、先程までそばにいた水晶のペンダントを掲げた彼女の姿だ。危険な戦場へ自分を送ることに迷いをみせるあの表情。彼女との思い出のひとつひとつまで、ありありと思い浮かべることができる。以前ならば違っただろうが、今『大切なヒト』と言うのならば。
「うん、今はもうアメーラだよね。ちょっと前ならセレアだったんだろうけども」
 視界に入ればすぐにわかった。黒髪に交じる一筋の紫。中性的な服装を纏った小柄な陰。恋人の姿を見間違えるはずもない。
 還は思いの外落ち着いた心地で、その水晶の前に立った。別の水晶に向かう猟兵たちが通りがかりに少しギョッとした様子で振り返る。……まあ、さっきここまで転送してくれたグリモア猟兵が水晶に閉じ込められているように見えたら焦るよな。転送元のグリモア猟兵に何かあれば、送られてきた猟兵たちは帰ることが出来なくなってしまう。この水晶に〝映る〟彼女が本物であればの話だが。
 還が容赦なく水晶を壊そうと本を取り出せば、パチリ、とその金の眼が開かれた。
「っめぐるッ!?」
「おー、本当に声もそっくり」
「待っておくれ、本当に私なんだ! 君たちを飛ばしたあと気がついたらここに……!」
 髪を振り乱して彼女は還を引き止める。その手を下ろしてくれと、懇願するように。首を振って許しを乞うような彼女の姿は悪くない。だが、本人ではありえない姿だ。
 たとえ恋人の姿を模していようと、還に躊躇いはない。今にでも、その記憶の書より死霊たちを喚び出し、水晶を叩き壊してもおかしくないのだ。しかし何を思ったか、還はその手を一度下ろした。
 その様子に、水晶の中の彼女は明らかにホッと息をついた。
「安堵している場合じゃないよ? 俺はいつでも死霊を喚び出せるし、なんなら叩き割ることもできるからね」
「なっ……! どうしてそんなことを言うんだい!」
「『どうして』?」
 戦場には不釣り合いな、天井に瞬く星々。その中にはらんらんと光る大きな満月があった。その月光が己に差し込み、人狼の本能がザワりと粟立った。時間をかけて慣らしたおかげで、すぐさま狼になってしまうような失態は起こさない。狼の姿になるんだったら、それは愛しい本物の彼女の前がいい。
「簡単な話だろ。お前はアメーラじゃない。ただの水晶に映った幻影だ」
 冷え切った還の声に水晶に映る影は言葉をなくした。身を震わせ、その瞳には大きな涙が浮かぶ。
「そういう姿もイイかもしれないけどサァ……やっぱ本物が俺に甘えるのに比べたら全然だね。でもイイモノ見れた気はする♥」
 ニコ、といつもの笑顔が張り付いて、還はその手の本を開き直す。そして止める声を上げさせる間もなく、死霊たちを喚び出した。
「て訳で貴重なあり得ない姿をありがとー☆ 邪神共々俺の死霊達に喰われて消えてね、偽物さん?」
 喚び出された死霊たちはなんの躊躇いもなく、そのまま水晶へと襲いかかった。死霊に噛みつかれ、縋りつかれた水晶の影はついに悲鳴をあげることも無く。パキン、と、飴細工が弾けるように崩れ、水晶は跡形もなく死霊に喰われて消えてしまったのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

木下・蜜柑
水晶が映すのが「大切なモノ」ならお金が映り込んだだろうし、多分壊せないとまでは行かないでも凄い躊躇したと思う。
でもヒト限定なんでしょ?

まあ、私を孤児院から引き取って育ててくれた「紀文」っておじさんが、
仮にも育ての親になるから出てくるだろうけど……
商人の癖に金が絡まないと寡黙だったし、料理もうどん以外ロクに出来ないダメ人間だったしなぁ……
その上死ぬ間際に遺した言葉は「儲ける為に手段を選ぶな」だから、お世話になったけど教えに従って斬るのに躊躇はないよ。
私の猟兵商売の為にもう一度死ねぇーっ!

思うところがないではないけど、私はこの通り平気だから
他の人がヤバそうならフォローにも回れるんじゃないかな。


神楽・鈴音
完全復活した邪神?
神職として、禍津神を放っておくわけにはいかないわね

で、大切な人の姿を映して攻撃してくるんだっけ?
なんか、自分の祭神そっちのけで大黒様が映ってるけど
まあ、お賽銭降らせてくれるなら歓迎するわ
ただし、あなた自身がお賽銭になるのよ!

質問で攻撃?
別に、聞かれて困ることなんて……えぇっ!?きょ、胸囲を答えなさいですって!?
うぅ……に、25寸……あ、いえ、に、24寸(ド貧乳)よ!文句ある!?

もう、二度と質問できないよう『地獄の借金証文』で封印してやるわ!
その後は怒りに任せた【力溜め】【怪力】【鎧無視攻撃】を乗せた賽銭箱ハンマーでブチ壊す!
「水晶片がお賽銭代わりよ!砕け散れぇぇぇっ!



「水晶が『大切なもの』を映すのなら躊躇したかも。でもヒト限定なのね」
 己の育ての親、紀文という名の男が映る水晶の前で木下・蜜柑(値千金の笑顔・f22518)はぼやく。もし大事な大事なお金が水晶に映っていたら、その算盤刀を思う存分振るうことはできなかったはずだ。しみじみと昔に死んだ育ての親を見上げながら蜜柑はそんなことを思う。
「なんか、自分の祭神そっちのけで大黒様が映ってるのだけど」
 その隣で、賽銭箱を改造したハンマーを担ぐ神楽・鈴音(歩く賽銭箱ハンマー・f11259)が呆れたようにつぶやいた。巫女的にそれでいいのか不安になるところだが、鈴音にとって大切なのは祭神よりもお賽銭だ。ある意味正しい。
「ん?」「あら」
 そんなよく似た二人が、互いに気が付いた。背丈も近く、武器にどこか似たような雰囲気を持つ彼女たちは共に直感する―――この子、同類だ。
「こんにちは~私は蜜柑だよ。大黒様が映るなんて砕きにくそう……」
「私は鈴音よ。……そうかしら? 神職として、禍津神を放っておくわけにはいかないし……あとお賽銭を降らしてくれるならなんでも歓迎よ。……あなたの方こそ、砕きにくいんじゃないの?」
「ええ~……確かに親みたいなものだったけど、商人の癖に金が絡まないと寡黙だったし、料理もうどん以外ロクに出来ないダメ人間だったしなぁ……」
 遺言は「儲ける為に手段を選ぶな」だったし? と淡々と語る蜜柑にじゃあ問題なさそうねと笑みを浮かべる鈴音。守銭奴二人には全く、それこそびた一文ほどのためらいもない。鈴音にいたっては「あなた自身がお賽銭になるのよ!」と賽銭箱ハンマーを構えて猛っている。
 その二人の様子に邪神も盾が聞いていないと悟ったか、夜空の満月より光を集め始めた。精神攻撃が効かぬ相手ならば無理にでも排斥するまで。その光がまず、鈴音へと降り注ぐ。
「あら、私の方から来たわね。いいわよ、何が来ようとその水晶を粉々に砕いてお賽銭に……」
『―――答えよ』
 どこからか降り注いだ壮言な声に、鈴音の眉がぴくりと上がる。これは問いを投げつける形の攻撃。こういったルールを縛る形のユーベルコードは単純な物理よりも面倒なことが多い。既に手中に入ってしまっているのならばなおさらだ。
「ふん、別に、聞かれて困ることなんてないわ。言ってみなさいよ」
『ではその胸囲を答えよ』
 その瞬間、その周辺の空気が凍り付いた。蜜柑も小さく「うわぁ……」と声を漏らし、その算盤刀を抜く。もし鈴音が答えなかった場合、助けに入るためだ。素早く鈴音の水晶を壊せばいくらか攻撃を防げるかもしれない。もちろん正直に答えるのが一番なのだが……。
「うぅ……に、二五寸……あ、いえ……に、二四寸……よッ!」
 またもや静まり返った周囲に冷たい風が通る。ぷるぷると震える鈴音は、怒りと恥辱に耐えながら懐から二枚の借金証文を取り出した。
「もう、二度と質問できないよう『地獄の借金証文』で封印してやるわ! そっちの水晶もよ!!」
 二枚の借金証文を取り出した鈴音は怒りのままにそれを二つの水晶へ叩きつけた。鈴音の水晶へ気を取られていた蜜柑を、光線で撃ち抜こうとしていた光が途端に消え失せる。それに気が付いた蜜柑は算盤刀を振り上げて手持ちの金銭を奉納した。
「来てよね剣神! この最低な大黒様ごと水晶を砕くよ!」
 霊力を纏った刀を振りぬき、その斬撃で鈴音の水晶を真っ二つ斬り裂く。そのまま返す刀で己の水晶とも向き合い、
「私の猟兵商売の為にもう一度死ねぇーっ!!」
 なんの容赦もなく、育ての親の映る水晶を叩き割った。

「水晶片がお賽銭代わりよ! 砕け散れぇぇぇっ!」
 怒りのままに斬り捨てられた水晶を砕く鈴音の横で蜜柑は目ざとく価値の付きそうな水晶片を拾い集めていた。たぶんそのうち彼女は止めた方が良いのだろうが、商人として金になりそうなものは放っておけない。
 そんな蜜柑の手元の水晶片が突然どろりと溶けていった。あわてて集めたほかの欠片も確認するがそこにあるのは白い泥のようなもので、価値があるようには思えない。
「あーあ、これじゃ副収入は見込めないか……まあ、今回は特に給金がよさそうだからいっか」
 やれやれとため息をついて蜜柑は白い泥を捨てる。そして怒りがほどほどに落ち着いてきた鈴音をなだめるべく、歩み寄った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

西条・霧華
「大切な人の幻ですか…。」

私はあと何回、大切だった人を殺し続けるのでしょうか?
『あの日』喪った両親と親友を…私はどれだけ殺せば良いのでしょうか

…わかっています
これは罰なんかじゃありません
皆の受けた苦しみは、私の心の痛みなんかじゃ釣り合いませんから…

【残像】を纏って眩惑し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』
相手の攻撃は【見切り】、【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止め、返す刀で【カウンター】

例え大切な人の姿をとっていようと…
『あなた』が世界の脅威であるのなら、私は守護者の【覚悟】を以て、あなたを斬ります
それが『あの日』の誓いであり、私の【覚悟】です



「大切な人の幻ですか……」
 思わず自嘲気味に笑いながら西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は目の前の水晶を見上げた。他の人より少し大きめの水晶には三つの影が宿っている。忘れもしない、あの日失った両親と、親友。彼らはただ眠るように水晶に宿っていた。
 あの日、すべてを失った日。大切な人が大切だった人に代わった日。未だに悪夢に苛まれ、そして一生、背負うべき霧華自身の業を表す日だ。何度も何度も苦しんだ。今だって一度も、決して忘れたことなどない。だというのに……こうやって何度も自分の目の前に突き付けるのは、いささか意地悪ではありませんか、神様。
「私はあと何回、大切だった人を殺し続けるのでしょうか? 『あの日』喪った両親と親友を……私はどれだけ殺せば良いのでしょうか」
 その答えはどこにもない。映る両親も親友も、目覚める気配はなかった。どうせならば目覚めて、罵ってくれたなら、少しは気が済むかもしれないというのに。それすらも甘えだというのだろうか。
 ……わかっている。本当はわかっているのだ。答えは自分の中にしかない。
 誓ったじゃないか、願ったじゃないか。守護者たれと。殺人剣を携えながら、弱きを助け護る、守護者になると。その背に人々を庇い、未来を喰らう過去を斬ると。……そう、呪ったじゃないか。
「……わかっています。これは罰なんかじゃありません。皆の受けた苦しみは、私の心の痛みなんかじゃ釣り合いませんから……」
 その誓いと覚悟の通りに、霧華は刀を振るってきた。たくさんの敵を、過去を斬り捨ててきた。それでもまだ足りない。まだ、自分を許すことができない。
 三人は答えない。水晶も黙したまま、冷たい輝きを纏っている。許されるのは自問自答のみ。それが最も苦しいのだと、巨蟹卿はわかっているのかもしれない。
「鬻ぐは不肖の殺人剣……。それでも、私は…………っ!」
 柄に手をかけ、居合の構えをとる。これは、邪神だ。人々に牙むく存在だ。そうなれば斬ることにためらいがあってはいけない。
 まるで祝福するように、霧華へ光が降り注がれた。キラリと水晶の先端が輝き、その輝きは光線となって霧華へと襲い掛かる。光線が霧華の体を焼く直前、彼女の体は宙を舞った。
 残像を光線が焼き焦がし、霧華の体は水晶の真上へ。視線は外さず目を細めながら剣を抜いた霧華に、ふ、と一人の影がこちらを向いた。
 親友だった。親友の優しいまなざしがこちらを向いていた。あの日と変わらない親愛の視線が、霧華を貫いた。
「ッ……! 例え大切な人の姿をとっていようと……!」
 それでも霧華は刀を抜いた。籠釣瓶妙法村正の、美しくも妖しいその刀身を、解放する。
「『あなた』が世界の脅威であるのなら、私は守護者の覚悟を以て、あなたを斬ります……! それが『あの日』の誓いであり、私の覚悟です!」
 その一閃は反撃さえ許さない必殺の一刀。目を逸らすことも閉じることもなく、霧華は三人の宿る水晶を真っ二つに斬り裂いた。
 ……最後にずきりと痛んだ胸の痛みを抱えながら。それでも霧華は『守護者』で在り続ける。

成功 🔵​🔵​🔴​

星野・蒼火
アドリブ大歓迎
「大切な人……かぁ。カノン君元気してるかなぁ……」
思い出すのは昔、私を守れなかったと悔やみ自分を責めたカノンの姿。

「ねぇ、カノン君。君が守ってくれたから私はここにいる」

カノンの姿に真剣な口調で語りかける。
私はまだカノン君と再会するわけにはいかない。それはダメなの。私は君を傷付けた。きっと忘れられない程の深い傷を。
今すぐにだって会いに行きたい。けど、そのために私は私自身にケジメをつけないといけない。
「ねぇ、カノン君。君のことだからきっと、私を殺したあの人に復讐しようと考えてるよね?やめてくれたら水晶は壊さない」
でもその程度でやめてしまうなら、それはカノン君じゃないよね。



 水晶と同じ色彩をその髪と瞳に持った少女、星野・蒼火(潰えぬ蒼炎・f22903)がひとつの水晶の前に立つ。彼女の水晶に映るのは、赤い短髪の青年の姿。
「大切な人……かぁ。カノン君元気してるかなぁ……」
 目を細め、水晶の彼を通してかつての彼のことを思い返す。
 屈託のない顔で笑う彼。蒼火を守ろうと必死になってくれたその姿。……でもそれは叶わず、守れなかったと悔やみ自分を責めている、苦悩に満ちた声。
「蒼火、蒼火……ごめん、俺に、力がなかったから……俺のせいで、蒼火は……」
「ううん、カノン君のせいじゃない。私は、救われたよ。ねぇ、カノン君。君が守ってくれたから、私はここにいるよ」
 そっと水晶に触れ、その中の悔い嘆く青年に真剣な声を語りかける。彼は蒼火の声に応えるように顔を上げ、水晶越しにそっとその手を合わせた。水晶に写った彼に伝えても、意味がないということは分かっている。それでも蒼火の言葉が止まることは無い。
「蒼火……生きているのなら、また会いたい」
「……私はまだカノン君と再会するわけにはいかない。それは、ダメなの」
 蒼火だって、今すぐ会いに行きたいと思っているのだ。しかし、それは出来ないと己を戒めている。蒼火はあの日、彼に深い深い傷をつけてしまった。きっと、忘れられないほど深く、痛む傷を。
 白い鎧の騎士が、あの日、二人の命運を真っ二つに斬り分けてしまった。燃える炎の血を流しながら、蒼火はその血の定めを受け入れて地に沈むことを決めた。それでも唯一の未練は、やはりあの赤髪の彼のことで。その祈りが、何の因果か新しい肉体を生み出した。
 きっと彼はまだ苦しんでいるのだろう。蒼火を救えなかったと悔やんでいるのだろう。それが蒼火が最愛の人に付けてしまった傷で、蒼火の戒めである。
「……君に、会いたい。でもそのために私は、私自身にケジメをつけないといけない」
 決意を込めたその言葉に応えるようその体が地獄の炎が噴出する。全てを燃やす炎はそれでも、蒼く美しい。蒼火の名をそのまま表すような、そんな炎。
「待ってくれ蒼火! 俺を、燃やすのか……?」
 慌てた様子で水晶に映る彼が蒼火を制止する。その言葉に応えるよう、蒼火はニコリと笑った。
「ねぇ、カノン君。君のことだからきっと、私を殺したあの人に復讐しようと考えてるよね? ……やめてくれたら水晶は壊さない。約束してくれる?」
「ああ、約束する。だから……」
「そう……」
 慌てて約束した彼の姿に、蒼火の炎はむしろ大きく燃え上がる。パキン、と折れた水晶の一部が、鋭い刃へと形を変えて蒼火へと向いた。
「その程度でやめてしまうなら、君はカノン君じゃない。カノン君のことは、私が一番、よく知っているから」
 蒼火のその言葉とほぼ同時に、水晶の欠片が飛来した。しかし彼女の炎に阻まれ、一片の塵も残さずに消えていく。水晶の欠片を燃やし尽くした蒼い炎は、その勢い衰えぬまま彼を映す水晶を焼いた。
 夜空の下、轟々と燃える炎。その光に照らされながら、蒼火はポツリと、呟く。
「……もし、その日が来たのなら……会いに行くよ、カノン君……」

成功 🔵​🔵​🔴​

ウィルファネス・シェイドバーン
私の『大切なヒト』
まさかとは思ったが
金の髪と白の聖鎧
冷静で丁寧なその口振り
嘗て私が所属していた騎士団を率いたレオン・マクソード団長
貴方でしたか

貴方から譲り受けた聖剣は今も邪悪を懲らしめ正義を守る我が心です
神に仕える我らが信念の炎は今も私の胸で燃え続けています
お久しぶりです団長
お会いできて嬉しいです
団長から教わる事がまだ沢山あった
なのに何故
何故その様なお顔をされるのですか
何故私に討たれる事が“誇らしくない”のですか?

仮に貴方が本物の団長なら、敵の手中に落ちて魂を穢す前に、嘗ての忠臣である私が貴方を討ち、戦場で騎士として命を散らす事が出来る事に喜ぶ筈

良かろう悪魔め
茶番は終わりだ
私が誅滅してくれる



「私の『大切なヒト』……まさかとは思ったが」
 邪神という己の神に背く存在。それを裁くためウィルファネス・シェイドバーン(神殿騎士・f21211)はこの超次元の渦までやってきた。邪神はまず、己の大切なヒトを見せると事前に教わってこそいた。が、その相手と会いまみえた時、ウィルファネスは驚愕と納得を同時に感じることとなった。
 金の髪にウィルファネスと同じ聖鎧を身に着けた男。ウィルファネスが敬愛してやまない、かつての騎士団長その人であった。
「レオン・マクソード団長……貴方でしたか」
「ああ……ウィルファネス。息災だったか」
 その言葉と姿に、ウィルファネスはそっとその水晶の前へ膝をついた。首を垂れ、騎士としての礼を相手へと尽くす。それほどまでに、ウィルファネスにとってかの騎士団長は敬愛すべき人であった。
「貴方から譲り受けた聖剣は今も邪悪を懲らしめ正義を守る我が心です。神に仕える我らが信念の炎は今も私の胸で燃え続けています。……お久しぶりです団長。お会いできて嬉しいです」
 かつて共に戦い、その背を追いかけた相手。戦友であり師匠であった存在。だからこそ礼を尽くし終えたウィルファネスはその聖剣を抜いた。
「団長から教わる事がまだ沢山あった。まだ、共に居たかった。だが、貴方はもう、すでに過去の存在となってしまいました」
 だからこそ誰の手でもなくウィルファネスの手で、その姿を斬る。それが敬愛する相手にできるウィルファネスの唯一のことであり、正義であった。そしてそのことを、その正義を、騎士団長が同意しないわけがない。
 ―――ゆえに、目の前の騎士団長が忌々しそうに顔を歪めたのがウィルファネスには信じられなかった。
「何故」
 感情のままに言葉が口をつく。見開かれた焦げ茶色の瞳にはぶれるように目の前の光景が二重に見え始めていた。
「何故その様なお顔をされるのですか。何故私に討たれる事が“誇らしくない”のですか?」
 そして絶望の福音は、現実のウィルファネスへ未来を告げる。
 ウィルファネスの視界で、騎士団長の水晶から己に向かい高速の光線が撃ち放たれる。それはウィルファネスに逃れることを許さず、そのままその身を焼いた。
 一度目を閉じたウィルファネスはただ聖剣を上へかざした。福音と全く同じ場所、同じ軌道で放たれた光線がその聖剣にぶつかり跳ね返って消えていく。
 もし、仮に。目の前の水晶に映る騎士団長が本物だったとしたならば。敵の手中に落ちて魂を穢す前に、嘗ての忠臣であるウィルファネスに己を討たせるはずなのだ。戦場で騎士として、命を散らす事が出来る事に喜ぶ筈なのだ。ウィルファネスの敬愛するレオン・マクソード団長は、そういう人間だったのだ。
「……良かろう悪魔め。茶番は終わりだ」
 低く、殺気のこもった声が戦場へと響き渡る。そこに乗るのは憤怒か、殺意か。どちらにせよ、その聖剣を振るうに躊躇いのないものだった。
「私が誅滅してくれる」
 その声はむしろ静かなもので。それゆえに絶対に逃さないという強い意志を感じさせた。
 騎士団長からその聖剣を、ウィルファネスは目の前の水晶に叩きつけた。何度も、何度も、何度も。悪魔が、邪神ごときが、その人の姿を模していいはずがない。かの人の姿を愚弄していいはずがないのだ。
 その怒りの連撃は気が付けば水晶をばらばらに砕いていて。ウィルファネスはそっと足元の破片を眺めた後、次なる戦いに警戒するべく、その場から立ち去るのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『白の王』

POW   :    魔性
【認識を狂わせ、同士討ちを誘発する催眠の声】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    神性
【体から分離した、無数の獣による突撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を眷属で埋め尽くし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    創世
全身を【燃やし、周囲一帯を白い炎の荒れ狂う世界】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。

イラスト:傘魚

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ヴィル・ロヒカルメです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 砕かれゆく水晶。あるものは迷いなく、あるものはその胸に痛みを秘め、あるものは怒りのままに、水晶を打ち砕いた。散ったかけらは輝く水晶の形を失い、白く、どろりとした泥となった。
 そして形を保ったままの水晶もまた、どろりと溶けて形を変えていく。白い泥となったそれらは一カ所に集うように動き始め、まるで逆再生のように一つの物へと変貌した。大理石の彫刻のようなそれは、美しいがどこか不気味な姿であった。
 『白の王』———だれかがそう呼んだ。かつて太陽と正義を司ったその神は知性をはぎ取られ、ただの化け物と成り果てた。
 美しい女性の姿をとる本体は、猟兵たちなど気にも留めずに歌い続ける。———それは、人々の認識を狂わせる催眠の歌。
 その歌の効果は猟兵たちにも及ぶことだろう。脳を揺さぶられ、目の前にいる仲間が、殺すべき敵のように錯覚する。その剣を、銃を、武器を、相手に向けたい衝動に駆られることだろう。


【PL情報】
 『白の王』はすでに「同士討ちを誘引させる催眠の歌」を放っております。洗脳を逃れる・解くプレイングを必ず記載ください。そちらにプレイングの比率が偏ってもかまいません。そのあとは普通の戦闘になります。改めて反撃もしてきますのでお気をつけください。
 それでは皆様のプレイングをおまちしております。
終夜・還
星野・蒼火(f22903)の水晶を見て中身が見知った顔だったので声を掛けてみよう

とは言え、まずはこの歌如何にかしねーと頭痛が酷くて辛いわ
これ呪詛か狂気の類を振りまくのだろ?耐性あるからマシだけど流石に耳障り。頭痛い。

つー訳で死霊の穢れを撒き散らして俺に有利な場を作ろう
『踊れ、嘆きの舞踏。奏でろ、嘆きの旋律』
ある程度耐性持ってるが、強烈だしこうでもしねーと充てられそうで凄ぇ厄介だな(耳ペショ

蒼火に近づいて襲われたら【見切り、早業+カウンター】で上手く動きを封じ撒いた穢れに引き込もう
その後正気に戻ったら戦い易くUCでサポート

俺はカノンとお前を害した奴じゃねーよ
友達だからね、アイツとは。悪友だけど★


星野・蒼火
二人ともアドリブ歓迎

近づいてくる終夜・還(f02594)に声を掛けられ、右手に刀を、左手に拳銃を構えて挨拶を返す

そう、やっぱり私を殺しに来たの。それが貴方の使命。そうよね?騎士さん?

でも、私はもう死ぬわけには行かない。だって…後悔しちゃったから。あの日、カノン君を傷付けたこと。それから、カノン君と離ればなれになったこと

だから、私は戦うの!もう二度とカノン君を傷付けないために!

あ、れ?あの時の騎士じゃない…すみません…、また私は守られてばかり…
いいえ、でも次こそは……守るって決めたから!私が戦います!

銃刀戦闘術の基礎の基礎。だからこそこれが私の芯

これが終わったらカノン君のこと聞かせてくれますか?



●誓い、燃ゆる、蒼き炎
「―――っ、あ……」
 水晶が白泥と変わり、王へと変貌した。なんの前触れもなく起きた邪神の形態変化、そして響く歌声に星野・蒼火(潰えぬ蒼炎・f22903)は咄嗟に耳をふさいだ。どんなに閉ざしても耳に、頭に響くその歌を拒絶するようにその歯を噛みしめ、強く目をつむる。本能が、心が、この歌をまともに聞いては駄目だと叫んでいた。
「なあ」
 ゆえに、その男の声が聞こえたとき、蒼火は必要以上の警戒と共に勢いよく振り返った。右手に刀を、左手に銃を、油断なく構えて相手を見やる。そして、もう一度大きく目を見開いた。
 そこにいたのは、白い鎧の騎士。忘れもしない、一度蒼火に終わりを与えた者だ。蒼火を斬り、赤髪の彼と蒼火の道を別った騎士だ。
「……そう、やっぱり私を殺しに来たの。……それが貴方の使命だものね? 騎士さん?」
 あの日、蒼火はこの血の定めであるからと別れを受け止めた。しかし、蘇った今、あの日と同じことをする気はない。
 熱に全身を覆われたときに浮かんだ唯一の未練。蘇ったとき、真っ先に浮かんだのはそのことだった。未練は死と時を経て後悔へと変わり蒼火への戒めとなった。
 あの日、彼を傷つけたこと。あの日、彼と離ればなれになったこと。すべてが口惜しく、どれだけ悔やんでも悔やみきれない。
「だから、私は戦うの! もう二度とカノン君を傷付けないために!」
 私はもう、死ぬわけには行かない。その誓いは温和な彼女に刀と銃をぬかせた。かつての敵に、それを向けさせた。
 ここでまた眠る運命だなんて絶対に認めない。生きて、けじめをつけて、そして彼に会いに行くのだ。自分が、彼を迎えにいくのだ。
 蒼炎は燃ゆる。愛する人のため。
 白き騎士は何かを言おうと口を動かしている。使命がどうとか、死ぬべきだとか、言っているのであろうか。そんなものに耳を傾ける気は、もうない。
 その剣が抜かれる前に一太刀でも浴びせる。その想いを持って、蒼火は強く、一歩を踏み込んだ。

●黒狼は笑う。独りでないゆえに。
「ああクソ、五月蠅ェ……!」
 普段はピン、と立てているその狼耳を伏せ、終夜・還(終の狼・f02594)は忌々しそうに白の王を見上げた。自ら呪詛を操るゆえに耐性を持つ還は、どうにかその呪歌を耐えることができる。
 だが長時間この呪歌に曝されるのは流石の還であっても危険だ。そうでなくとも催眠にかかった猟兵に襲われる可能性もある。気合いや信念だけでこれを乗り越えるのは不可能だろう。
「―――踊れ、嘆きの舞踏。奏でろ、嘆きの旋律」
 痛む頭を押さえながら、還は厳かな声で死霊たちを喚びだした。嘆きの書から這い出す死霊たち。その穢れが呪いの歌と反目し合い、それを打ち消した。
「…………ふう。とりあえず一息つける」
 催眠の歌が届かなくなった穢れの空間で、還は先ほど気にかかった相手を思い出した。己の水晶をさっくり砕き、他の人が狂わないか目を光らせていた折に、やけに見たことのある姿を見つけたのだ。それも「水晶の中」に。
「あの影、カノン、だったよな……ってことは砕いた青髪の子はまさか……」
 呪歌から逃れて明瞭になった視界の端に、青い髪の背中が映りこんだ。間違いない、さっき見かけた少女だ。頭を抱え苦しんでいる様子の彼女に、とりあえず呪歌を解除しようと還は声をかけた。
「なあ、そこの青髪のアンタ、悪いことはいわねェからこっちに……」
「―――!!!」
 しかし、返ってきたのは突き刺すような殺気。その目には敵意が宿り、証拠のように彼女の手には刀と銃が握られた。
 遅かったか、と還は笑顔の口元をひきつらせた。投げかけられる言葉を拾う限り、相手には自分が「騎士さん」に見えている。恐らくそれは、かつて幸せな二人を引き裂いた相手。そう見えているのなら害意を抱いたとしてもしかたあるまい。
 かつての還なら、そのまま挑発でもして彼女に襲い掛からせただろう。そして襲われるままに一度斬られ、その刀を受け止めながら穢れの中に引き込む。それが最も簡単で、確実なやり方だからだ。
(……でも、約束したしなぁ)
 黒髪に柔らかい金の燐光。今も見守っているであろう彼女と約束した日が脳裏を巡る。
「だから、私は戦うの! もう二度とカノン君を傷付けないために!」
 迫る銀刀、迫る銃弾。その軌道を見切り、斬りこんできた少女の腕を素早くつかんだ。できるだけ傷つけぬよう。そして、己も傷つかぬよう。
「落ち着け、俺はカノンとお前を害した奴じゃねーよ」
 その言葉と、還の姿を見て。蒼火の瞳が大きく開かれた。

●守り守られ巡りあい
「あ、れ? あなた、は……あの時の騎士じゃない……!?」
 蒼火の眼は、真の意味で開かれた。目の前の仇は黒髪赤目の人狼の姿となり、敵意などどこにもありはしなかった。己が催眠にかかって相手に襲い掛かったことに気が付き、蒼火はその顔を青くした。
「すみません……! 襲い掛かった上に催眠解除まで……また私は守られてばかり……」
「いーのいーの。俺もアンタが気になってたしね。カノンの知り合い、なんだろ?」
「カノン君を知っているんですか!?」
「友達だからね、アイツとは。悪友だけど★」
 その言葉に、蒼火はどこか安心したように表情を緩めた。大事に想われているなー、と還はこの場にはいない赤髪の悪友のことを思い浮かべる。
「さて、誤解が解けたところでアレをどうするかだよなァ。見た感じ、こっちから襲わなきゃ歌っているだけみたいだけど」
 俺が前に出るから後ろから支援してくれる? と尋ねる還に蒼火は頷かなかった。前に出ると名乗り出てくれるということは、相手は近接も得意とするのだろう。だが……
「いいえ、次こそは……守るって決めたから! 私が戦います!」
 蒼火の言葉と強い瞳に、ふ、と還は笑った。思い出されるのは、かつて大切なヒトを守り切れなかったのだと悔やむ悪友の姿。その相手が、生きていて、また出会える未来があるのなら、それはどれだけ幸福なことだろうか。
 己がかつて大切なヒトを失ったように。そして、その傷ごと愛し共に支えてくれるヒトと出会えたように。
「んじゃ、俺はアンタが戦いやすいようサポートするぜ。たぶん思いっきりやり返してくるだろうから穢れの中からは出ないでくれよ?」
「はい! ……あの。これが終わったらカノン君のこと、聞かせてくれますか?」
 もちろん、と笑い返して還はもう一度嘆きの書を開いた。余計なことをするつもりはないが、お節介は焼いちまうかもなぁ。そう思ったことを、天邪鬼な還は絶対に口にしなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ウィルファネス・シェイドバーン
周囲から殺意が集まるのを感じる
ジリジリと胸を焼くような焦燥感はいつぶりだろうか
周りの猟兵も全て悪魔の尖兵だったという事なのか
それとも私は大きな勘違いをしていたのかもしれない
私の主は神ではなく悪魔であった、と
ならば彼らこそ我が身を討たんとする神の戦士達か

悪魔の尖兵達があの様に信念の篭った目をするだろうか?
我が主が悪魔なら聖剣が今日まで輝いていただろうか?
違う
私の胸の中の炎は正義の燈火に他ならない
神に捧げた忠誠こそが騎士団の誇りなのだから
ならばこれはマヤカシだ
聞こえるぞ
我々を惑わす魔性の歌声が
原因はこの歌の発生源
貴様こそが討つべき敵だ

剣に炎
体に風を纏い攻撃力を高めよう
騎士に同じ手が通じると思うなよ



●我らは神の剣なり
「こ、れは……」
 じりじりと肌を焼く殺気。この身に注がれる怒りの視線。己を害そうという意思を視線で感じることは、猟兵となった今でも変わらずあったつもりだった。
 しかし、己以外のすべてからそれを注がれるこの感覚、胸を焼くような焦燥感。思えば久方ぶりだったと、ウィルファネス・シェイドバーン(神殿騎士・f21211)はひとり聖剣の柄へ手をかけた。
 自分は神に忠誠を誓い、悪を斬ると剣を捧げた身だ。その覚悟は、誓いは、いつもこの胸に宿されている。ならば、なぜ彼らは、仲間であるはずの猟兵たちは敵意を己へ向ける?
 世界を渡るなどという不可思議な経験は悪魔のマヤカシであり、彼らもまた、悪魔の尖兵でしかないのだろうか。だとしたら、己の聖剣を向けるべきは周囲の猟兵たちなのではないだろうか。
(それとも……私は大きな勘違いをしていた?)
 自分は、かつての騎士団は、主にその剣を捧げていた。神は悪の不義を見抜き、裁きを下すもの。主は、その正しき神に他ならない。だから、剣を捧げた。忠誠の言葉を口にした。神の代行者とならんと、その剣を振るった。
 もし、それが間違いだったとするならば?
(……私の主は神ではなく悪魔であった、とするならば)
 ウィルファネスの信仰心が揺らぐ。かつて多くの悪を斬ってきた。それに躊躇いも後悔もなく、剣の錆にしてきた。もしそれが間違っていたのならば、己はどれだけの罪を犯したのだろう。
 それを知っているからこそ、周りの猟兵はこちらに敵意を向けているのではないだろうか。彼らこそ我が身を討たんとする神の戦士達で、討たれるべきは己なのではないだろうか?
(―――違う)
 ウィルファネスはその頭をゆっくりと振り、その思考を切り替える。痛いほどに握りしめていた聖剣の柄からそっとその手を離した。小さく息をつき、荒ぶる心を静める。
 もし、先ほどウィルファネスが考えていたことが真実だったとして。
 悪魔の尖兵達があの様に信念の篭った目をするだろうか?
 我が主が悪魔なら聖剣が今日まで輝いていただろうか?
(これは、マヤカシだ)
 燃ゆる胸の中の炎は正義の燈火に他ならず、神に捧げた忠誠こそが騎士団の誇りだ。そこにはなんの曇りも、恥ずべきことも存在はしない。胸を張って、この白き聖鎧と白き聖剣を誇ることに、どこも間違いはないのだ。
 一瞬だとしても、信仰心と忠誠心を揺らがし疑ってしまったことと、それを謀った敵に強い怒りを覚える。今度は意思を込めて、聖剣の柄を握りしめた。
「……聞こえるぞ」
 催眠を看破したウィルファネスの耳にはしっかりと、その催眠の呪歌が知覚された。その瞳には皆を惑わす白き王が映りこんだ。もう迷わない。剣を振るう相手を間違えはしない。
「我々を惑わす魔性の歌声……貴様の仕業か」
 ―――貴様こそが討つべき敵だ。
 聖剣に炎が宿り、ウィルファネスの体が風を纏う。魔力を用いその鋭さを増した剣を、白の王へと向けた。それに動じることもなく、白の王は呪歌を紡ぎ続ける。
「騎士に、同じ手が通じると思うなよ」
 怒りと、雄叫びを乗せて。ウィルファネスは白の王を討たんと、疾風のように駆けだした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西条・霧華
「分かっています。斬るべきは…。」

催眠の歌に対抗する為に、自分で両耳の鼓膜を破ります

…私が鬻げるのは所詮殺人の為の剣です
だからこそ、相手を見誤ってはいけないと思っています
その為ならば、こんな痛みなんて…
そして、この戦いに於て聴覚を失う程度の不利なんて乗り越えてみせます
それが私の…守護者の【覚悟】です

失った聴覚を【視力】で補い、状況を良く【見切り】行動します

【残像】を纏って眩惑し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』
相手の攻撃は【見切り】、【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止め、返す刀で【カウンター】

悪意が無くとも、人の世を脅かすのであれば…斬ります



●汝、何人たりとて悪ならぬ者を傷つけてはならぬ
「っ、…………!」
 ぐわん、と大きく眩暈がする。咄嗟に刀を抜きそうになったその手を放し、代わりにぐしゃりと髪を握った。目に入る全ての者が斬るべき敵に見える。その衝動に、西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は大きく顔を振って耐え続けた。
(違う、違う! 惑わされては……!)
 守護者たれ。その誓いを、願いを、呪いを、己にかけたのは自分自身だ。すべてはあの日、失った者たちへの償いに。それでもなお、力を手にした己への戒めに。
 護るという覚悟と共に手にしたのは不肖の殺人剣。心を乱せば、護るべき人々を簡単に鏖殺できる、悍ましき力だ。間違いは決して許されず、常にその覚悟を問われ続ける。……だからこそ、選んだともいえるのだが。
 剣を向ける相手を間違えるなど、霧華にとっては悪夢でしかない。あの日を思い出すような、そんな悪夢を己の手で引き起こしてしまうくらいなら―――!
「っ、あああッ!!!」
 ぶつん、と最後の音がして、霧華へ静寂が訪れた。その両の耳からは小さな蒼炎が一瞬顔を見せ、そして消えていった。焼け焦げた血の匂いが霧華の鼻につく。突き刺すような痛みが激しく耳を襲い、霧華は苦し気に息を吐いた。
 ―――これでいい。これで、間違えることは無い。
 自ら“鼓膜を破る”という荒々しい手段で催眠の歌からの呪縛を逃れた霧華は痛みに耐えながらその瞳をかっぴらいた。すると、あれほど“斬るべき”と思えた周囲の人々が、背中を護り、そして預けられる仲間たちなのだと認識することができる。彼らを己は斬ろうとしたのか。その事実に背筋が凍り付きそうだった。
「……私が鬻げるのは所詮殺人の為の剣……」
 痛みで荒くなった息をゆっくりと吐きながらそうつぶやく。己の声は聞こえない。発していることはわかるのに、耳には届かない。そのことにひどく、安堵した。
「だからこそ、相手を見誤ってはいけないと、思っています……!」
 籠釣瓶妙法村正の柄を握る。この刀の妖しき刃を向ける相手は敵だけだ。その誓いを破ることも、誰かに破らせることも、霧華は許しはしない。
 そのためであったら、こんな痛みも、聴覚のない不利でさえも、乗り越えて見せよう。
「それが私の……守護者の覚悟です!」
 覚悟を決め籠釣瓶妙法村正を抜き放ったのと同時に、歌い続けていた白の王が大きな悲鳴を上げた。おそらくは誰か、霧華と同じように催眠の歌から逃れた猟兵が、白の王に一撃を入れたのだろう。それは死霊か、銃と刀か、それとも聖剣の輝きか。どれが始めかはわからない。なんだったとしても、霧華はそのあとに続くだけだ。
 悲鳴とともに現れた、無数の白き眷属たち。狼のような見た目の彼らを、霧華は真正面に捉える。耳が聞こえないのならば、より視界で彼らの動きを見切る。
「悪意が無くとも、人の世を脅かすのであれば……斬ります」
 その疾走で彼らへと肉迫し、その突撃は身を翻して躱す。そうしてできた彼らの隙へ居合の刀を叩き込んだ。
 眷属たちは白の王の体から生み出されている。それならば眷属たちを斬ることで本体である白の王にもダメージを入れることができるだろう。
 覚醒した霧華は容赦もためらいもなく、眷属たちを斬り刻んでいくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木下・蜜柑
私的には他の猟兵って仲間というか商売敵なんだけど、それはそれとして斬りたくなってきたというか
むしろここで同士討ちしたほうがおトクな気がしてきたよ、重症だよねこれ!

こういう時はまず袖の下に仕込んだ財布の中を手でかき混ぜるようにして小銭触って落ち着くに限るよ。
金は全てに優先する、金に触れる事は気持ちいい、金を使う事はもっと気持ちいい……
小銭の手触りや奏でる音で心が澄み渡っていくのを感じる、これが私の【狂気耐性】!

正気……うん、至って通常営業に戻ったら【ダンス】の応用で攻撃を【見切り】つつその小銭を投げつける事で攻撃とするよ!
傷はつかないけどとにかく痛いよ、神経ってのが神サマにあるのは知らないけど!



●金は天下の回り物
 まだ、白の王へ猟兵たちの一撃が届かぬころ。皆が大なり小なり呪歌の影響を受ける中で、オレンジ髪の少女もまた、同じように催眠を受けていた。
(確かに私的には、他の猟兵って仲間というより商売敵なんだよねぇー……)
 ぼう……っとそんなことを考えながら木下・蜜柑(値千金の笑顔・f22518)は算盤刀を握る力を強める。瞳に映りこむ仲間たちがすべて、己と競争する商売敵に見えてきた。
 猟兵稼業は実際、とてもよく儲かるのだ。人助けという気持ちのいいことをして、莫大な金が転がり込むのは都合が良すぎて怖くなるくらいだし、なんだったらムカつく敵をブチのめすこともできる。確かに命の危機はあるがそれにしたって医者いらずの能力を持った仲間がいるしバックアップも万全。しかも世界によっては英雄のように崇められ、融通まで利く。思い返せば思い返すほどいいこと尽くめだ。
 そうなればやはり、ひとり占めしたくなるのが人の常。人間だから仕方ない欲望だろう。ひとり占めとまでいかなくても、寡占くらいはしたいところ。頭数が減れば減るほど、ひとりあたりもらえる利益は多くなる。ならこのまま同士討ちしてもらった方がおトク―――
(……うん、重症だよねこれ!)
 己でも自覚できた思考の危険性にぺちぺちと頬を叩いた。狂気に飲まれるのは簡単だ。特に、猟兵で在る前に商人である蜜柑からすれば、より多くの利益を求めてしまうのは至極当たり前の思考なのだ。
 だからこそ、正気の取り戻し方も商人流でなくてはならない。
「……金は全てに優先する……金に触れる事は気持ちいい……金を使う事はもっと気持ちいい……」
 己の巫女風な服の袖に手を突っ込んで、その先にある冷たい感触を探る。文字通りの「袖の下」。ちゃりちゃりと鳴るその音は蜜柑にとって福音のようなものだ。
 好きな音は金の重なり合う音。好きなお菓子は黄金色のお菓子。そしてそれを豪快に使って見せるのが、木下蜜柑という女ではないか。
「……ふぅ。だいぶおちついたかな」
 その手触りと奏でる音が、蜜柑の心を澄み渡らせる。他人の正気や癒しとはまた違うかもしれないけれど、蜜柑にとってはこれが通常運行で、金の音こそが癒しの調なのだ。
「さーてと、耳障りな声もしっかり聞こえてきたことだし。いい加減敵さんには沈んでもらわないとね」
 そもそもこの邪神を倒さないと報酬ももらえないのだから。拾った水晶も全て白泥となり、白の王へと変わってしまった。せめて倒して、危険手当をもらわないと割に合わない。
 袖の下へまた腕を差し込む。今度は触れるだけではなく、むんずとそこにある小銭たちを掴みとり、その感触を拳で味わいながら袖より引き抜いた。
「ふっふっふっ……見せてあげる、これが金の力!」
 霊力を込めたその小銭たちを、振りかぶって思い切り投げつける。べちべちべちと大きな白の王の足元にぶつかる小銭たちは、一見してなんのダメージもないように見えた。しかし、小銭がじゃらじゃらとぶつかる度に白の王はその巨体で身じろぎした。
「神様にも痛覚ってあるんだね。直接的なダメージにはならないけど、誰かが踏み込む隙にはなるでしょ」
 血こそ流さないが、ただ痛覚を刺激されて白の王はその身をぐねりと揺らした。絶えずべちべちとぶつけているうちにてっぺんの少女が、蜜柑をその瞳に映す。
 ―――その瞬間、蜜柑の反対側、白の王を越した向こう側で粉塵が舞った。
 誰かが攻撃をしかけたのだろう。体を大きくよじり、白の王が慟哭をあげる。
(ま、私戦闘得意じゃないしね? 商売敵じゃなくて、稼がせてくれる協力者、ってことにしておこっと)
 オレンジ髪の少女はくすりと笑った。袖の下はまだ、チャラチャラと音を鳴らしている。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『黒の王』

POW   :    生成
【対象の複製、または対象の理想の姿】の霊を召喚する。これは【対象の持つ武器と技能】や【対象の持つユーベルコード】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    母性
【羽ばたきから生み出された、幸福な幻覚】が命中した対象を爆破し、更に互いを【敵意を鎮める親愛の絆】で繋ぐ。
WIZ   :    圧政
【羽ばたきから、心を挫く病と傷の苦痛の幻覚】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。

イラスト:山本 流

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ヴィル・ロヒカルメです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ―――ぱき。ぱきぱき。
 乾いた音がして白の王がその体を大きく天へ伸ばし始めた。その白泥のような肌は乾き、ひび割れる。まるで空の満月へ手を伸ばすようにして固まった白の王は、小さなひび割れを全身に広げてゆき、ばらばらと崩れ始めた。
 しかし、猟兵たちは歓声をあげない。知っているからだ、これが敵の崩壊ではなく“脱皮”であると。
 ……まず現れたのは十枚の羽根。そしてとげに包まれた赤い星。四肢と首を亡くした新たな王が、そこに生まれ落ちた。
 白泥の邪神が『白の王』ならば、この黒曜の肌を持つ邪神は『黒の王』。かつては夢と知性を司った、傲慢な王の成れの果て。人々の知性を奪い、幸福と苦痛の幻を齎した悍ましき王。
 黒の王の幻覚が、猟兵たちを包み込む。それがどんなに魅力的で、幸福で、耐えがたい痛みであったとしても。屈してはならない。幻に屈することは、黒の王に敗北を喫することと同義である―――

【PL情報】
 第三形態、『黒の王』はかならず先制攻撃を行います。猟兵が選択したUCに対応したステータスの幻覚を見せてくるため、その内容を描写してください。それを打ち破る、見破るなどすることができて初めて『黒の王』へ攻撃することができます。
 幻覚を打ち破ることに比率が傾いても構いません。ですが、逆に幻覚の描写がないものや、幻覚を破る描写がないプレイングは採用できません。
 先制を取れないので、“幻覚自体を無効化する”のは不可だと思ってください。
 また、この章は基本的にひとりずつシナリオ化しようと思っております。
 前置きが長くなりましたが、ついに最終戦です。みなさまのプレイングをお待ちしております。
終夜・還
背中の傷が痛み出したのを皮切りに脳内が焼けるような痛みに襲われる。満月が浮かんでるせいなのか知らんが慣らした筈なのに、牙が、本能が疼いて仕方ねぇ…まるであの時みたいに…!

…ははは、次に何が来るかと思ったらこの状態の俺に、アメーラの幻覚かよ…!セレアを喰い殺す苦痛をこっちで再現しろってか?それこそ心が折れちまう
ンな過ち幻覚だろうが繰り返すモンか

俺は人狼の前に死霊術士で、ヒトだ。ヒトらしく、死霊術士らしく在りたい

術中に嵌ってんのは判ってんだ、なら冷静に破るまで

幻覚を死霊で包み込み攻撃としてそのまま、出処に呪殺弾としてお返ししよう
術者ナメんなよ
呪詛返しも心得てんだわ

※激痛等苦悩する描写は酷い位を希望



●満ちた月の呪い
 白の王の“脱皮”。それによって生まれる第三形態は、今まで戦ってきた相手の中でも最強で、厄介な能力を持つということはわかっていた。わかっていたからこそ身構えていたし、油断する気もさらさらない。
 ……だというのに、終夜・還(終の狼・f02594)はその膝をつき、痛みに顔を歪めていた。
 その痛みは突然だった。誰かに斬られたわけではない。突然背中の古傷が裂かれるように熱く、痛み始めたのだ。脳を焼くような激痛にがりりと爪が地面へ食い込む。どうにか落ち着けるように、かは、と息を吐いた。
 忌々しいほどまぶしい月が、この異空間でも輝いている。その満ちた輝きは還の人狼としての本能と欲を酷く掻き立てた。慣らしたはず、とっくに克服したはずの衝動だ。なぜ抗えない。なぜこんなにも苦しい? 牙が、本能が疼く。まるで、人狼になったばかりのあの日のように……!
 額から生まれ流れた汗が、ぽつぽつと落ちて消えていく。この苦痛だけなら、どうにか耐えられる。本当に、それだけならば。
 こつ、と地を打つ足音が還の狼耳に届いた。ぴくりと耳を動かし、ゆっくりと顔を上げる。敵が来たのか、ならば迎え撃たねば。ここでやられるわけにはいかな———
「——————……っ!」
 相手を認識したとき還は、敵であった方がよかった、と歯を軋ませた。豊かな黒髪に走る紫、白い肌を隠すように詰められた劇団服。見間違えるはずがない、還をここへ送った恋人の姿そのものだ。水晶にも映りこんで還を惑わしたが、あのときと同じように一蹴する気力は、今の還にはなかった。「来るな」と絞り出す前に駆け寄って来た彼女は、水晶に映る幻覚よりもよほど彼女らしい。
「……ははは、次に何が来るかと思ったらこの状態の俺に、アメーラの幻覚かよ……!」
 膝をついた還を支えながら、迷いなく自分の首元を緩める彼女。あらわになった白い首筋に、ぞくりと牙が疼いた。確かにこうやって、彼女はいつも血を与えてくれる。この状況になれば、本物も同じことをするだろう。だが、それほど残酷な話はない。
 目に浮かぶのは、忘れられるはずもないあの記憶。ダークセイヴァーでの幸せが終わった、あの血生臭い思い出だ。
「……セレアを喰い殺す苦痛を、こっちで再現しろってか?」
 赤い血に広がる金の髪。最後まで微笑んで逝ったセレアの顔。その髪が黒く、瞳は金に染まり、似てもいないその顔がモノクルをかけた彼女のものへと変わっていく。フラッシュバックするように目の前に浮かんだセレアの最期が、アメーラのものへと変わって低く唸る声が喉から擦れ出た。
 冗談じゃない。そんな幻覚、今度こそ壊れちまう。
「……ンな過ち、幻覚だろうが繰り返すモンか」
 背中に勝る鋭い痛みが、肩へと走る。深々と突き刺さったオニキスのナイフを見て、目の前の彼女は驚いたように目を丸めた。オニキスは邪気や悪意を祓い、己の邪な感情に打ち勝つことを手助けする。己の手で与えた痛みは還の目を覚まさせた。
「俺は人狼の前に死霊術士で、ヒトだ」
 獣ではなく、ヒトらしく、死霊術士らしく在りたい。開かれた瞳は衝動に打ち勝った、凪いだ光をたたえていた。術中に嵌っていることはわかっている。それならば、術者らしく冷静に冷淡に。呪詛には呪詛を返すのみ。
 記憶の書によって喚ばれた死霊たちが、彼女の幻覚を包み込む。幻覚が穢れによって無効化されれば、それによって隠れていた敵の本体が現れる。幻覚を見せる『黒の王』。それに目がけて飛びかかり、還は傷口から抜いたばかりのナイフを突き刺した。飛び切りの呪詛を乗せたそれは黒の王の体を蝕む。還の血を媒介にしたのだ、効かないはずがない。
 口を持たぬ黒の王から悲鳴は上がらない。しかしその体を酷く揺らして苦しみ始めた。
 ざまァねェと嗤って還は飛びのく。とりあえずは、肩の出血を止めなくては。流れる赤を押さえながら、衝動の失せた体に還は思わず、安堵の息をつくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

星野・蒼火
アドリブ歓迎

私の身体に流れる血。呪われた焔の血。
この血が熟せば、私は焔の魔人(イフリート) に成り果てる。
ならば芽が出る前に摘み取ってしまうべき。うん、白騎士さんは間違いじゃない。
この痛みは祝福。私を呪いから解き放つための。

そう思う合理的な私は死んだ。

私はカノン君と生きる。最期の時を迎えるなら、彼の側がいい。
そう、思ってしまった。わがままだと分かりきっているのに。
だったら私はそのわがままを最期まで貫く。

「覚悟」を纏い、私は武器を取る。
血の呪いがなんだ!白騎士の祝福がなんだ!関係ない!私は今ここに立っている!ここで生きている!



●祝福と覚悟
 ―――これは、祝福だ―――
 かつて聞いた男の声が、星野・蒼火(潰えぬ蒼炎・f22903)の頭に反響する。次いで、胸へ激しい痛みが走った。痛む、なんて言葉では生ぬるい、熱く苦しいその感覚は蒼火にとって初めてのものではなかった。
 蒼火の第一の生を閉じた、あの白き騎士の一撃。この剣は確かに蒼火を殺し、その呪われた血を若き命ごと葬った。
 燃える炎の血―――それが蒼火の全身には巡っている。生まれついたときより共にあったそれは呪われた焔の血と形容され、忌むべきものであった。
 それを持つ蒼火が白騎士に出会い、その剣で貫かれたのは運命であり、なにも間違ったことではなかったのだ。その血を持つ蒼火はいずれ、その呪いに蝕まれ変容する宿命であったのだから。
 焔の魔人、イフリート。蒼火の中にあるその燃ゆる血が熟せば、彼女の体は魔人へと変貌する。破壊の炎を持つイフリートが生まれ落ちれば、人々に被害が出るのは明白。故に白騎士は、いずれ炎に飲まれる人々を護るためにも、蒼火を斬ったのだ。
(……うん、白騎士さんは間違いじゃない)
 危険な芽は摘まれるべきなのだ。そうすれば蝕む呪いから蒼火は解放され、ヒトとして生を終えることができる。イフリートになり果てた自分が誰かを傷つけることも、村を、街を、焼くことはない。
 ―――だから、この痛みは祝福なのだ。
「……そう、受け入れた、合理的な私は……もう死んだ」
 痛みに震える手で、力強く刀の柄を握る。衝動のまま抜き放ったその刀は、目の前でぼんやりと形を成していた白騎士の姿を斬り捨て、かき消した。もやとなった騎士は霧散し、その先にはただ佇む“黒の王”がいる。
「私は、今の私は! カノン君と生きる! 最期の時を迎えるなら、彼の側がいい!」
 わがままだということはわかりきっている。わかりきっていてなお、蒼火はそれを貫く。正義や理屈じゃ答えられない、蒼火の祈り。
 まだ、血の呪いから解放されたわけじゃない。抑制も制御も今はできているが、いつイフリートに蝕まれるかもわからない。
 それでもその最期はどうか、願った形で。誰かの正義のため、顔も知らぬ人々のために、もう自分の命を諦めない。生まれ持ったその血の定めなんて知るものか。そんな理不尽のためにもう一度諦めるなんて馬鹿なこと、しない。
 祈り蘇ったこの身体で、彼を迎えに行く。もう、そう決めているのだ。その祈りを、「覚悟」を。貫くためにも蒼火はその銃口を黒の王へ向けた。
「血の呪いがなんだ! 白騎士の祝福がなんだ! 関係ない!」
 その覚悟は蒼い炎となって蒼火を覆う。その体に、その銃弾に、宿ったそれは敵を殺す必滅の炎となった。阻む敵を、運命ごと燃やし尽くす炎。それがたとえ魔人の焔だと言われようと、もう蒼火に譲る気はなかった。
 敵に打ち勝つ。生きるために。
 定めに逆らって生きる。彼に会うために。
 ……彼を迎えに行く。今度こそ、共に生きるために。
「私は今ここに立っている! ここで生きている!!」
 その銃口から蒼き銃弾が撃ち出された。容赦も迷いもなく、打ち勝つという覚悟をのせて、それは飛来する。
 銃弾はひとつのブレもなく黒の王の体へとめり込んでいった。悲鳴をあげることも叶わない哀れな王は、ただ血を流してもだえ苦しむのみ……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神楽・鈴音
事前にハンマーに護符を貼りまくった状態で参加

「さて、出遅れた分は頑張るわよ……って、もしかして、あれが私の理想の姿(巨乳の八頭身セクシー美女)!?

先制攻撃は霊のハンマーに自分のハンマーを叩きつける【武器受け】で相殺狙い
直撃食らっても【オーラ防御】と【激痛耐性】を併用して耐える

反撃として、護符だらけのハンマーで相手の召喚した霊を攻撃
【念動力】で霊の【オーラ防御】を少しでも中和しつつ、護符の【破魔】を乗せたハンマーを叩き込む
「霊だったら護符には弱いはず!物理と符術の融合を食らうがいいわ!

霊と戦って消耗しても、そこからが本番
祭神に交代して邪神本体を【力溜め】【怪力】【鎧無視攻撃】の酒瓶で殴らせるわ



●肉を伴わぬ理想
 じゃらじゃらと鈴の鳴る賽銭箱ハンマーを揺らしながら、出遅れた神楽・鈴音(歩く賽銭箱ハンマー・f11259)はその戦場を駆けた。
 いつもと違いべたべたと大量に高級霊符を貼ったハンマー。こうしておけばぶん殴ったときに物理と霊力両方で攻撃することができる。第三形態がもっとも強力であるというのはグリモア猟兵より伝えられているのだ、準備は念入りにしておいた。
「さて、出遅れた分は頑張るわよ。しかし、当の王様はどこに……」
「やだやだ、まだそんな姿なのね。“私”ったら。貧相でチビ、しかも顔も髪型も垢抜けない。そんな姿で私に勝てるわけないわね」
「だッッれが貧、相……」
 鈴音の声がしぼんでいく。振り返った先にいたのは美しい濡れ烏の髪と黒曜の瞳を持つ女性だった。端正な顔立ちにスラッとした手足、ぽってりとした赤い唇……。立ち姿はまさに芍薬といった様子で、同じ紅白の巫女服と賽銭箱ハンマーを持っているというのにその差は歴然だった。なによりその胸は巫女服に似合わぬ大きさで、張りよく揺れている。
「……って、もしかして、あんたって私の理想の姿!?」
「あら今更気が付いたの? ま、あんたと違って金も礼拝者からの人気もあるし? どんなに面影があっても似てるとは思わないわよねぇー」
 嘲笑う理想の姿の自分。敵の召喚した霊だとわかっていても、その屈辱にぷるぷると拳が震える。その怒りに任せて、担いでいたハンマーを構えた。
「やる気じゃない。でも考えなさいよ、私はあんたの理想の姿……見た目だけでなく、あんたよりよほど実力があるかもしれないわよ」
「うるっさいわねぇ! 理想の姿だろうがなんだろうが、あんたは所詮霊! なら、巫女である私の敵じゃないわよ!」
「そう、じゃあ試してみる?」
 鈴音が仕掛けるよりも速く、鈴音の霊は地を蹴った。勢いもスピードも上の相手だ、鈴音も一瞬怯むが容赦なくその手のハンマーを振り上げる。叩き潰さんと振り下ろされた霊のハンマーと鈴音のハンマー。互いがぶつかり合って強い衝撃波が生まれた。
「くっ……!」
 霊力を用いてオーラを張り、どうにか緩和するがそれでもその衝撃は鈴音の内臓に響いた。纏うオーラの厚さも向こうが上。それでも、ハンマーを打ち弾けたのだから、状況は絶望的ではない。
 それに、一矢は、既に報いてあるのだ。
「な……私の賽銭箱が!?」
「言ったでしょ、所詮あんたは霊……正直痛い出費だけど、貼っといてよかったわ、高級霊符!」
 そう、あらかじめ貼っておいた霊符が、相手のハンマー自体に手痛いダメージを与えたのだ。相手が霊ならば霊符は効果てきめん。すべてが鈴音より上だったとしても、霊であるという事実はどうしようもない。
「霊だったら護符には弱いはず! 物理と符術の融合を食らうがいいわ!」
「この……っ!!」
 分厚いオーラが、相手を覆う。自身の霊力をフル稼働させ念動力としてぶつけるも、その厚さを少し削ぐことしかできない。今の自分の限界を感じながら、それでも体より霊力を絞り出す。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
 大きく振りかぶった一撃が、バリアごと相手を打ち砕いた。

「あたしのぉ、可愛い巫女ちゃんを虐めたのはあなたよねぇ?」
 力も全て使い果たした鈴音の代わりに、そこには姉御風の女が立っていた。彼女こそ鈴音の祀る祭神、物理ハ女子力ナ姫……なのだが。なぜか構えているのは酒瓶である。
「この落とし前、その命と金で払うことねぇ!!」
 ちょっと顔の赤い女神の酒瓶の一撃は、幻覚が晴れて露わになった黒の王へ容赦なく振り下ろされた。戦場に、酒瓶の割れる音が、響き渡る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木下・蜜柑
あっはははは!億万長者!
んでもって金で何もかもが買える世界!最高!
多分幻覚なんだろうけど抜け出したくない!
でも私こうやって金数えて悦に入ったり金の管理に没頭してると
つい後光が出ちゃって、それが外部からの攻撃とか干渉を遮断しちゃうんだよね……

返してよ!私の札束風呂を!
帝都中心部に建てさせた蜜柑タワー最上階からの眺めを!!
醒める夢なら見ない方がずっとマシだったよ!
私の苛立ちは最高潮、攻撃を【見切り】つつ【破魔】の力を乗せた算盤刀の【なぎ払い】で【部位破壊】していくよ。
楽に死ねると思わないでよね!

何よりムカついたのは、優しくて私に対して情けも容赦もある義父さんの幻覚も見せられた事なのは内緒ね。



●金デ買エヌモノ
「あっはははは! 億万長者!」
 ここが戦場であることも一旦頭の隅に追いやって、札束を派手にばらまく。小物悪役のような笑い声を響かせて、木下・蜜柑(値千金の笑顔・f22518)は札束風呂へ飛び込んだ。
 たぶんこれは幻覚なのだろう。だとしてもどうも抜け出したくない。これが敵からの攻撃ならまったく大した手腕だ。こんな誘惑抗えるはずがないのだから。
「は~無理! なんてったって金で何もかもが買える世界! 最高! これが現実であれ!」
 手元にあった札束を一枚二枚と数え始める。コマコマとした机仕事も、帳簿をつけているのならなんの苦にもならない。数字が増え、後ろにつくゼロを書いていく作業ほど心躍るものがあるだろうか。まさに至福、いつまでだってそうしていたい。
「……気持ちはわかるが、ほどほどにしろ」
「わかっているよ、だって一番の資本は体だからね」
 体を悪くしてしまったらせっかく金があっても自由に使うことができなくなってしまう。金があればだいたいの病は治せるというが、その治療費に当てるくらいならもっと楽しいことに金を使いたい。
 そう答えつつも金勘定を続ける蜜柑の頭を、わしっと大きな手が撫でた。無造作なその撫では蜜柑の髪をぐしゃぐしゃに乱してしまう。「ちょっと!」と声を上げるとすぐにその手は離れていった。
「そんなに言うなら義父さんも金勘定手伝ってよね。大好きでしょ―――」
 撫でられてもなお顔をあげずに金を数え続けていた蜜柑の瞳に、不自然な光が映りこむ。大して気にせず次は硬貨を積み上げているとその光はどんどん強くなっていった。そしてそのうちに気が付く。あ、これ、私の後光だ、と。
「あ! 待って待ってストップ!!」
 わかっている。これは幻覚だ。敵から受けた攻撃だ。ということはつまり、蜜柑が夢中になればなるほど輝く後光が、遮って消えてしまうものということ。
 消えていく金を掴み、思わず助けを求めるように振り返った。そこにはやはり、さっき自分を撫でた、かつての義父の姿があって―――
「…………………」
 まるで泡沫の夢のように、すべては消えてしまった。己の放った光によって。なんで自分はハイカラさんなんだろうとこのときばかりは呪ってしまう。命拾いしたとわかっていても、だ。
「くっそう…………!!!」
 苛立ちは最高潮、その歯をぎりぎりと食いしばって蜜柑は算盤刀を握りしめた。ばっと顔をあげれば攻撃を遮られた“黒の王”がいるのみ。あれがすべての元凶なのだ。蜜柑は容赦なく、そのひび割れた胴に算盤刀を振り上げる。
「ああああもう、楽に死ねると思わないでよね! 返してよ! 私の札束風呂を! 帝都中心部に建てさせた蜜柑タワー最上階からの眺めを!!」
 苛立ちに任せてその刀を振るう。何度も何度も、手足のない王を容赦なく叩きのめした。
 溢れんばかりの金が、現実では買えないものが、すべてあった幻覚。なによりも苛立ったのは、さっきの頭の感触。寡黙でまともに料理もできなくて、守銭奴で商人で最期まで金儲けの遺言を残した―――優しくて蜜柑に対して情けも容赦もあった、義父を見せられたこと。
「醒める夢なら見ない方がずっとマシだったよ!」
 その怒りの一撃が、胴に入ったヒビを少しだけ広げた。しかし羽ばたきによって生まれた爆発に、蜜柑の体が吹き飛ぶ。少し離れた場所で、しりもちをつきながら蜜柑は自分の頭をぐしゃりとつかんだ。
「くそう…………」
 頭を撫でられた感覚が札束の感触よりも恋しかったことは、蜜柑だけの新たな秘密となった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西条・霧華
「ああ…なんて幸せな…。」

焼け落ちない世界…
両親が、親友が生きている世界…
それを壊す事なんて…

<真の姿を開放>し右腕と武器に蒼炎を纏います

…どれ程幸せだろうと、この時計とコートが偽りを暴きます
私の心の痛みごと、誓いと【覚悟】で斬捨ててみせます

【残像】を纏って眩惑し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』

我が身が鬻ぐは殺しの技巧…
無意識であっても放てる域に達していると自惚れるつもりはありませんけれど…
敵意が持てなくとも、相手が世界の敵であるのならば、守護者の【覚悟】を以て容赦なく斬ります
…それが「この幸せな光景」を護れなかった私にできる、ただ一つの道だと思っていますから



●幸福を享受する権利
 日は高く上り、その光は暖かく人々を包む。特別な日でもなんでもない、日常の木漏れ日。少し遠くから、三人の男女が手を振っていた。
「ああ……なんて幸せな……」
 つう、と西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)の頬へ一筋の涙が流れる。
 炎に巻かれることも、滅びの一途を辿ることもない、平和な世界。あの日の続き、『また明日』があった世界線。
 道路の向こうで母が、父が、そして親友が、霧華へ手を振っている。早くおいでよと言っているようでもあり、また明日と別れを告げているようでもある三人の姿。
 たとえ幻想だとわかっていても。いや、わかっているからこそ。この世界を壊せようか。また一度、あの悲劇をこの手で生むことができようか。もういっそこのまま、この幸福な世界が終わるときまで添い遂げてはいけないだろうか―――。
「…………いいえ……いいえ……」
 己に言い聞かせるようにゆるゆると首を振った。その手にある時計をゆっくりと指で撫で、羽織るコートを握りしめる。煤と刃傷で汚れたボロボロのコートに、針が止まったままの時計。この二つが霧華に残酷な現実を突き付けてくる。これは夢だ、幸福な幻想だ。現実はもっと辛く惨いものであると。
「…………このコートは、『心の楔』であり、『遠き日の誓い』……。どれだけこの胸が痛もうと、私はこの誓いと覚悟をもって、幻想を斬る……!」
 霧華の体のどこからともなく、蒼い炎が噴出する。右腕と籠釣瓶妙法村正に纏わりついたその炎は、どこか霧華を嘲笑うように揺れた。
 ——————斬れるはずがない。
 その声は父の声だった。霧華はゆっくりと、その目蓋を降ろす。
 ——————だってこの世界が貴方の幸せそのものだもの。
 次の声は、母。ああ、その通りだ。それは、どうやったって否定しようがない。
 ——————想いが断ち切れないのなら、帰ってくればいいのよ。ねぇ、霧華、幸せになりたいでしょう?
 最後の声は、忘れられるはずもない、あの子の……。
「幸せ、ですか」
 ボウ、と体の蒼い炎が一層大きく燃え上がった。目蓋を閉じたまま霧華はその手を、籠釣瓶妙法村正にかける。その刀が生むは殺人剣。そうとわかっていて、霧華は柄を小さく浮かせた。
 あの日、すべてが燃えた日に。霧華の幸福も燃えてなくなってしまったのだ。跡形もなく灰になって、次をつかみ取る権利すら失ってしまった。
「我が身が鬻ぐは殺しの技巧……」
 一歩、二歩、三歩。幻影に惑わされずまっすぐ進む霧華。その手の刀は強くにぎられ、いつでも抜き放つことができる。
 こんな幸福な光景に霧華が“敵意”を持てるはずがない。敵意を持たぬまま、霧華は邪神を斬らねばならないのだ。無意識のまま、斬り捨てられるほどの域に達していると自惚れるつもりはない。ただ、守護者として。自分が敵意を持たなくとも人々に害なす存在を斬れるよう覚悟を決めていただけ。
 ギィンッと耳障りな音を立てて、霧華の一閃が黒の王の硬い胴を斬った。直接切り伏せるとまではいかないが、黒の王の羽がもがれ苦しそうに悶えている。
 霧華はあの日、“守護者”になった。己の幸福も安全も投げうって人々を護ると、誓い覚悟を決めたのだ。霧華が迷っていても“守護者”に迷いはない。ならば、護るために世界の敵を斬るだけだ。
「……それが『この幸せな光景』を護れなかった私にできる、ただ一つの道だと思っていますから」
 そのつぶやきと共に、霧華の幸福な幻想は消えていった。あるのはただ、声もなくもだえ苦しむ黒の王のその姿だけ―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ウィルファネス・シェイドバーン
最初は悪魔から巡礼者達を守るのが我々の仕事だった
いつしか城を与えられ
国々は我々に拠点防衛を渇求する様になる

この景色には覚えがある
聖地に聳える白亜の城塞
嘗て管区長の要請で守護に赴いた歴史ある首邑の城だ
薔薇が咲誇る中庭に麗しい女性が見える
此処には直ぐに悪魔達がやってくる
逃げるには遅すぎる
しかし彼女の穏やかな微笑みを見ているとザワつく心が落ち着く様だ
ずっと張っていた心の糸が解けていく
そうか
もう終わったのか
もう
戦わなくて良いのか

剣に映し出される十秒後の世界
崩れ燃え盛る白亜の城
黒い十枚の翼
そう
我々はあの時撤退戦を強いられ城を手放した
あの城は…

これは幻覚だ
蔓延る悪魔を許してはいけない


始めよう
裁きの時が来た



●裁きのときは来たれり
「そうか……」
 薔薇が咲き誇る中庭。隅々まで手入れされ見事な美しさを誇るその場所に、ウィルファネス・シェイドバーン(神殿騎士・f21211)は立っていた。
 風は柔らかく温かい。悪魔の襲来など、考えられなかった。
「もう、終わったのか」
 ウィルファネスたちは元々、巡礼者達を守るのが仕事の騎士団にすぎなかった。聖地へ赴く巡礼者たちを惑わし、害そうとする悪魔。人々を護り、悪魔を駆逐することが神より与えられたウィルファネスたちの使命だ。
 しかし、いつしか。その使命を、力を、強さを、別のことにも活かすよう国々は求めるようになった。城を与えられたのはいつだったか。人々ではなく、拠点を護るよう命じられたのはいつが初めてだったか。もう忘れてしまった。だがそのときからウィルファネスたちの戦いが忙しなくなったのは言うまでもない。
 聖地に聳える白亜の城塞。ここに赴いたのは管区長の要請だった。言うまでもなく任務は守護。襲い来る悪魔を退けるよう、いつものように命じられたのだった。
 だが、ここは酷く平和だった。平穏で、柔らかい静寂が中庭を満たしていた。薔薇を背にする麗しい女性が微笑んでいる。柔らかな、まさに聖女と称えられるような、そんな微笑みを彼女はウィルファネスに向けていた。
 此処にはすぐに、悪魔たちがやってくるはずなのだ。だというのに、彼女はまだここにいる。柔らかく微笑んで、なにかに襲われる気配すらない。彼女の微笑みを眺めていると心のざわめきが、澄んで凪いでいくのが感じられた。
「もう、戦わなくて良いのか……」
 そうだ、なんの心配もいらない。だってここは、こんなにも平穏じゃないか。
 我々が剣を振るう必要もないのだ。血を流す必要も、盟友が失われる悲しみを感じることもない。この白き鎧を脱ぎ、聖剣を置いたとしても、誰も咎めはしないだろう。
 ゆっくりとその腰の聖剣を引き抜く。数多の悪魔を、異教を斬ってきたこの剣。神の代行者たる証はそれでもなお美しい光を刀身に宿す。この剣の役目ももはや終わったのかもしれない。ならば、神にお返しするのが道理だろうか―――
 ふ、と。その美しい刀身に空が映りこんだ。先ほどまで知覚していた青く澄んだ空ではない。赤く、黒く、火の手の上がる滅びの空。整然とした美しさを誇るはずの白亜の城が、崩れ、燃え盛っている。
 そして映り込む、十枚の黒き翼―――
「―――!!」
 弾かれたように顔をあげる。その先には美しい青空と、くすみもない白亜の城があるのみ。しかし、ウィルファネスの表情は曇っていった。
 そうだ、我々はあの時撤退戦を強いられ城を手放したのだ。あの忌々しい悪魔に手酷い被害を受けて。ここがこんなに平和なはずがない。聖剣に映った光景こそが、真実だったのだから。
「……これは幻覚だ」
 都合よく歪められた幻覚だ。それこそ、まさに悪魔が巡礼者を惑わすためにつかう手法そのもの。ならば、蔓延る悪魔を許してはおけない。
 開かれた瞳に幻覚はもはや映らず。在るのは大きな満月の夜空と、佇む黒の王のみ。
「始めよう―――」
 瞳に宿るは決意の炎。まだ戦いは終わっていない。ウィルファネスの使命は、まだ続くのだ。
「裁きの時だ、黒の王」
 輝く聖剣の光は変わらず。ウィルファネスはその剣を構えなおし、黒の王へと斬りかかるのだった。

 呪詛が。銃弾が。酒瓶が。刀が。覚悟が。そして聖剣が。幻覚を打ち破り黒の王へとその力を届けた。人々から知性を奪い神性を得た彼の王は、猟兵たちの攻撃から逃れることはできなかった。胴のヒビは大きく育ち、ついに致命的となる。
 悲鳴も上げず、ただ、黒の王は砕け散った。ばらばらの破片となったそれはやがて灰になり、跡形もなく消えていく。
 完全体の邪神の一体が、たった今打ち倒されたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年11月19日


挿絵イラスト