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国に必要な物~滅亡の愛姫~ 其の弐 

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 ここは犬神藩は城下町にある大きめの武家屋敷。
 オブリビオンによって滅ぼされた多野藩から避難してきた、多野の領主・美濃(みの)姫とその家臣団が仮住まいとして与えられた屋敷であった。
 その大広間。
「どう考えても無理難題……」
「しかし、我らと姫様だけでなく、多野の全ての民達を受け入れてくれた恩義が……」
「だが丸投げというのは如何なものか……」
 喧々諤々、頭を突きつけて話し合うのは多野の家臣達だ。
 一応、上座には多野藩藩主たる美濃姫が座するが、彼女はつい数日前まで蝶よ花よと育てられた普通の姫であり、それを自分でも解っているからか黙って家臣達の相談を聴く事に徹していた。
 それは今朝の話だった。犬神藩の領主、里見・善巳(さとみ・よしみ)からの1通の書状が美濃姫宛に届いたのだ。
 その内容は、ここ多野の民を受け入れた事で起こった3つの諸問題の解決を頼みたい、との旨だった。
 つまり――。
『壱、多野の民の仕事の斡旋について』
『弐、多野藩との国境に近い村々で作物の窃盗事件が頻発している事件』
『参、多野の民は神社仏閣に泊めているが、その後どこに住まわせるか』
 ――という3つである。
 頭を悩ませる家臣団達だが、ふとその中の1人が美濃姫の顔色が悪い事に気が付く。
「姫様、そう心配なされるな。必ずや何か良い知恵をわしらで絞り出してみせまする故」
「う、うむ、そうだな………………うむ、頼むぞ」
 そう微妙な間を持って答えると、美濃姫は懐に手を置き再び深刻な表情で、しかし遠くを見やるのだった……。


「興味深い……実に興味深い……」
 グリモアベースに黒い陰陽服を着た男が1人、何が面白いのか顎を手で撫で、次の瞬間にはグリモアベースの背景が和風の城下町へと変化する。
「サムライエンパイアにて興味深い事件が起こっているようです」
 黒い陰陽服の男――陰陽師・五行が言うには、犬神藩に避難した多野藩の姫を中心に、何かオブリビオン関係の事件が起こる、との事だった。
「まず手始めに、多野の姫君と接触し彼女の信頼を得て下さい。どうやって信頼を得るかはお任せ致しますが……どうしても良い手が思い浮かばぬのなら、姫君や姫君の家臣達が直面している3つの問題について、その全てに解決策を提示する事が出来れば、とりあえずは信頼を得る事ができるでしょう」
 ざっくり言うなら姫と交流し仲良くなれ、それが難しいなら知恵を出しアピールすればよい、という事か。
「姫君の名は十石・美濃姫、我ら猟兵の事は知っているようですので面会自体は簡単にできるでしょう。そして、姫君の信頼を勝ち得ればおのずと次にやるべき事がわかるはずです。そして、いずれはオブリビオンに辿りつく……」
 五行はそう告げると、ニヤリと口許に笑みを浮かべ。
「さて、この事件のきっかけが、どんな物語を紡ぐのか……それはあなた方猟兵の行動次第です。興味深い、実に興味深い……」


相原あきと
 マスターの相原あきと(あいはら・-)と申します。
 『国に必要な物~滅亡の愛姫~』其の弐、となります。
 このシナリオは複数回のキャンペーンの第二話となります。
 もちろん第一話(無印)にご参加されてなかったとしても、
 遠慮無くこの第二話から参加して頂いて構いませんし、
 第二話の2章からでも、3章からでも参加して頂いて構いません。
 遠慮なくどうぞ。

●多野藩
 犬神藩の北にある山間の小さな領地。謎のオブリビオン軍団に滅ぼされた。
 現在も強力なオブリビオンが彷徨っているようで立ち入り禁止状態にある。
 多野藩の民は友好を結んでいた犬神藩に全員避難済み。

●犬神藩
 南に海を持ち、北は平野と山があり食料豊かな藩。多野藩は犬神藩の北にある。
 多野藩の5倍の領土。人口は5倍以上(多野は山間の小藩で人口が少ない)。
 犬神藩の城下町は港街でもある。

●多野藩藩主『十石・美濃(といし・みの)』
 14歳の姫君、蝶よ花よと育てられた為、戦など本当は怖くて仕方が無い。
 責任感が強く、父亡き後は藩主として民を逃がす事を優先する決断をした。
 猟兵達に助けられた事があり、猟兵の事は信頼している。
 猟兵達は「凄い強くて信頼できる侍集団」という認識。
 誘われれば気晴らしに散歩したりもします。

●多野藩の家臣団
 みんな美濃姫の事は大事に思っています。
 猟兵達に対する認識は美濃姫と同じ。

●犬神藩藩主『里見・義巳(さとみ・よしみ)』
 誠実で民想いの良君。40代。
 城下の人々からも信頼されている。
 城下町で起こっていた事件を猟兵が解決した事があり、猟兵については好意的。
 亡くなった美濃姫の両親と懇意にしており、可能な限り助けたいと思っている。

●一章について
 美濃姫の信頼を得ましょう。
 交流や話し合いで信頼を得ても良いですし、
 諸問題3つの解決案を提示できれば、それだけで信頼を得られます。
 プレイングはどれか1つの解決策のアピールでも構いません。

●二章について
 議題にあがっている諸問題3つに対して解決策を実行する章となる予定です。
 (一章で解決に動いても描写は難しい可能性が高いです)
 ただし、一章の内容によっては二章の内容がガラっと変わる可能性があります。

●三章について
 ???
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第1章 冒険 『重要人物との交流』

POW   :    中心人物となる人物の危機を助ける。庇ったり、敵を追い払ったり。

SPD   :    中心人物となる人物が好きな人形やお守りを手作りしプレゼント。

WIZ   :    中心人物となる人物の話し相手になってあげる。

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●第一章予告

 オブリビオンによって滅んだ多野藩の美濃姫と家臣そして民達は、
 友好を結んでいた犬神藩へと避難していた。

 しかし、急な民の増加によって犬神藩では諸問題が発生。
 その解決を依頼された美濃姫たちは解決策が出ず頭を悩ませていた。

 猟兵達は美濃姫の下へ赴き、姫の心労を軽くする事が出来るのか。

『国に必要な物~滅亡の愛姫~ 其の弐 』

 第一章 重荷
化野・クミホ
多野藩の先の混乱お聞かせ頂きました。姫と云えど少女は少女、さぞ不安な日々をお過ごしでしょうに。

【WIZ】
非力な狐めではありますが、伊達に永く生きておりません。少しでも美濃姫の気が晴れますよう暫しの間お話し相手になりましょう。見てきたもの、聞いてきたもの、感じてきたものはとても多いのでネタはたっぷりありますよ。さて、何からお話しましょうか。


クラウス・ハントハーベン
【SPD】多野の姫君にマリオネットの人形をプレゼントします

「姫君様、まずは私の人形劇をご覧いただきたく存じます」
持っている【人形劇用マリオネット】を【パフォーマンス】で人形劇を実演します。その後人形劇用マリオネットの一つを姫君に譲り扱い方をレクチャーします。
また姫君に接する際は【礼儀作法】や【コミュ力】を使い失礼のないように距離感を詰め信頼を得ようとします。
また、実演する人形劇は年頃の女性の好きそうなハッピーエンドの恋物語にします。

(アドリブ、協力大歓迎です)


吹鳴管・五ツ音
多野の民は山の民
平野に住まう犬神の民に倍する体力を持ちましょう

盗賊対策に土塁を築くような力仕事が互いのためとなりそうに思うのでありますが…

まずは窃盗に遭ったという村を訪ねて拠点防御の観点から実地を検分し、幕府お墨付きの天下自在符で信用を得て民の声を聞き集めるであります

多野でも犬神でもない余所者にこそ話せることもあるかも知れませんし…

そうして集めた情報から、こと窃盗対策を中心に解決策を練り美濃姫殿と里見殿の双方にご報告を

自分は凡そ戦場のことしか知りませんから
美濃姫殿の心を安らげるにはきっと足りませんけれど…
けれど、美しい華を銃後に護ることこそ我らが誇り
力になれることがあれば何なりとお命じください


逢坂・宵
【WIZ】
「礼儀作法」「コミュ力」「鼓舞」を併用
姫様、これもおつとめのひとつです
しかし、あまり気負われますな
あなたの面持ちが暗いだけで、気を揉む下の者もいるのです
いえ、考えすぎなくとも良いと申した方が的確ですね
我々はあなたのためにここにいるのです
どうぞ良きように

多野の民を住まわせる場所ですが
里見さまは広大な土地を持つので我々を受け入れてくれた面もありますが
いつまでも頼ってはいられません
多野の民の中には、やはり国元が良いと申す者もいるでしょう
しかしすぐには戻れない
今すぐ働けない者もおります
であれば健康な働き手を募り
この国のために働き、一時的にでも居を構えるのも手かと
国に戻る時のための仮住まいです


月舘・夜彦
戦いが終わっても多野の方々の生活はこれからですね
彼等が生活を取り戻す為にも私も協力を惜しみません

慣れない土地での生活は苦労しますが、彼等にも生きる術が必要です
多野藩に比べて土地も広く、人口も多いと伺っております
食料等の物資流通の中心地や農村地といった人手を必要としている村を調べます
彼等にも働く場所を提供する事で金銭と住む土地を得られるのではと思います

美濃姫様、貴女には渡したい物がございます
此方の櫛を
あの戦いから間もなく、御髪に触れる暇も無かったでしょう
顔色を窺うにかなり疲労が溜まっているのではありませんか
貴女は一国の主ではありますが一人の人間
休む事も楽しむ事も必要な事です
どうかお忘れ無きよう


レイチェル・ケイトリン
お姫さまのお話し相手します。

念動力技能で、ものをいろいろうごかしてみせてあげていうの。
「このようにわたしたちはいろいろできます。でも、たりません」

「たとえばわたしだけで『道をつくる』のはできても
だれもいらないなら、すぐ、消えてしまいます」

「『犬神藩の人々はほしいけど、つくれてない道』、
そして『つくれたら多野藩の人々が村をつくってまもれる道』、
それならわたし、多野藩の人といっしょにおしごとしてつくります」

「けわしい崖、ふかい谷、おっきな岩、なんとかします」

「道じゃなくてもいいです。なんでも。
だから犬神藩の人にきいてみてください」

「きっと『道』はひらけるから」

そう言って『励ましの言葉』をつかうね。


目面・真
犬神藩、良い場所だね。普段住んでいる宇宙空間とは全然違う。
そんなコトはともかく。姫君をお助けしなければな。

【POW】
急激な人口増加、その理由が移民によるモノだとすれば、治安の悪化が心配だ。
オレで良ければ警備に立とう。
もし民衆同士の諍いがあれば間に入って仲裁にあたる。
オブリビオンが出てくるならば、倒さねばなるまい。アームドフォートの用意は出来ているよ。
姫君に牙を剥く者が現れれば、護衛をせねばならないだろう。盾は引き受けた。この甲冑は頑丈に出来ているのでね、たぶん大丈夫だろう。


涼風・穹
犬神藩領主からの書状は別に無茶でも何でもなく、至極最もな要請だと思うけど…

壱と参は犬神藩領主に山間部辺りで開墾して問題ない土地の紹介と開墾許可を頼んで、多野藩の方々は開拓団みたいな感じで現地に居住して開墾作業に従事するようにすれば作業料名目で当面の援助は頼めるだろうしどうにかなる
犬神藩側にしても開墾地に多野藩の方々がそのまま居住するなら税収が、領地を取り返して帰郷するなら開墾済みの土地が手に入るんだし損は無いと判断すると思うぜ

弐は開墾作業に関わらない侍階級の方々で村々の巡回及び用心棒をしておけば誠意は示せる
……まあ、窃盗犯は今の多野藩にいる連中だろう、と明言しないのは犬神藩領主の配慮だろうな…


桐・権左衛門
ヴィクトリア(f00408)と行動を共に

美濃姫こんちゃ!乳揉みに…やない!またまた権ちゃんが助けにきたで

港街っちゅう事は海運が発達しやすい地盤や
手先が器用な奴は造船関連、筋肉自慢は海運物流荷下ろし、不器用な奴は水夫見習いに【言いくるめ1】でなんとかできん?

波が穏やかなら船住居も悪ぅないけど、不慣れならきっついしな

海運で扱うんは食料品がベスト
人間腹が減ったら不機嫌や気が立つ、作物窃盗事件も起きるわな

【情報収集1】でヴィクトリアはんをお手伝い

特に美濃姫は考え込み過ぎても良くないし海方面に散歩に誘おか
山間の藩にいたら新鮮な光景やろし
何なら海にダイヴで笑いを誘ったる、美濃姫の笑いの為なら身体張ったるで


ヴィクトリア・アイニッヒ
桐・権左衛門(f04963)と共に行動。
【WIZ】を使用。
この地に来るのも久しぶりですね…あ、まずは美濃姫様にご挨拶をしなければ。

また、お会いできましたね。お元気そうで、何よりです。
…もうゴンちゃんさんったら。姫様に失礼ですよ、もう…

民には、まだ苦しい状況が続きますね。解決策の案があるにはあるのですが…
休耕地に避難民を入植させて、働き口を得る…長期的に過ぎますか。
…ゴンちゃんさんなら、違った視点からの意見も出せるのですけど。

ともかく、私の方でも出来る限り情報を集めておきます。多野の地の情報も、ですね。
…意外ですか?ふふっ、こう見えて【情報収集】や知識を活かすのは、得意だったりするんですよ?


レッグ・ワート
両藩の顔立てつつお荷物は避ける。難しいな、逃げたきゃいつでも言ってくれ。ただ書面的にゃお姫様達だけで解決しろとは言われてないぜ。

とまれ人手不足や空いた土地があるかは聞いてる?訳アリなら理由も。土地が空いてりゃ住む場所も職も作れそうだし。使える土地増えるなら先方も乗り易いんじゃないか。それだけじゃ時間かかるから、仲介屋行って募集職聞くとか。伝手があったり口利き上手い人いるなら斡旋に協力して貰ったりさ。

民も頼って大丈夫か、先に各寺社仏閣へ様子見。使って平気ならバイク移動。避難時の面々に会えりゃ早いが紹介状要る?雑談しながら職やその人数や他売込点聞いて回るよ。もしお姫様への伝言とかあれば録音するわ。


ジェフリエイル・ロディタ
【WIZ】
お姫様達に再会を喜ぶ歌をおくろう。他にリクエストがあればどうぞ。
他の皆が話している間は場に合った曲でも奏でているよ。
山から海だ。人や喧噪の雰囲気も違う慣れない場所に来て大変だろうから。
山は好きなままでいい、海も楽しめると良いね。
というか僕初海なんだけど皆で(遊びに)行かない?

僕の輝きや歌、竪琴の音で柔らかくなって貰えたらと思う。
強張った顔では良い考えも浮かばないからね。
いや、もしかして何か方針は思いついているのかな?
磨きたいなら、誰かに話す事で考えも纏まると思う。
整理が出来たら、会議でも話せるね。
君の考えを、僕は知りたい。
そして僕らは犬神藩のためにもなる多野藩の札を増やしにかかろう。


紺屋・霞ノ衣
命辛々逃げてきても、まだまだ問題は山積みだねぇ
でも、嘆いちゃらんないよ
この先あんた達が生きていく為には大事な物さ
勿論、アタシ等も力を貸すつもりだけどね

【窃盗事件の対策】について考えるよ
随分好き放題やってる奴が居るみたいだね
多野のもんが居なくなったからこそ狙われてるんだ
村を巡回して見張りをする自警団を作ってみるのはどうだい?
多野の中に力に自信がある奴だったり、何らか力になりたいって思う奴は居るだろう
そういうのを各村へ派遣し、泊まり込みで村を守る仕事をして貰うのさ
犬神藩にとって自分の村を守る人材を得て
多野藩にとって自分の住む場所と働く場所が得る
互いに損は無いはずさ

ま、参考として受け取っておくれよ


コノハ・ライゼ
【WIZ】
あらあら、姫サンてのも大変なモンねぇ
さて、顔覚えてくれてると嬉しいケド

姫サンと日当たりの良い場所で茶でも
茶菓子も用意したンよ、ナンてぇとナンパっぽいケド
コッチが本職なの、と春の花模した琥珀糖を広げ
暖かさと美味しさは笑顔の元だもの
自分の作ったモノで誰かを笑顔に出来たら嬉しいデショ

お悩みって聞いたケドまぁたお転婆なコト考えてたりしなぁい?
それともナニか笑顔になれない理由でもできちゃったかしら
国の問題とはまた別の

問題については聞いてるケド素人の自分にゃまるでさっぱり、ねぇ
オレなら商売でもさせてっつうトコだけど……
ああでも、胡散臭い窃盗事件ナンてのは
それこそオレらにお誂え向きなンじゃなくて?


朝比奈・心乃
ぇー……あのお殿様こないだの今日でお人好しが過ぎぬくない?
まーた厄介ごとかー仕方なし!
乗りかかった石のついでにお仕事しますかっ

はじめましてー…えっと、美濃姫様?
朝比奈 心乃。縁あってこの地に居候している者でして
えぇ、先に起こった事件の後始末と申しましょうか
多野の民の仮住まいの一つとなっている山寺がございましょう?
あすこは一時、悪しき者に誤った教えを吹き込まれておりまして
その改心にもふもふの良さを…っと話が逸れたー

それでですねー…そうそう
石層宗なる武僧ら
先の一件で評判は落ちるばかり
そこで!盗っ人の退治に彼らを伴われては?てか使ってやって下さいな
どちらにも利する所があるかと思いますが如何でしょう?


トゥール・ビヨン
久しぶりだね、美濃姫様

●多野の民の仕事の斡旋について

これは先ず、犬神藩の民の田畑の作物の手伝いや開墾
山林の伐採、漁の手伝いなどから始めたら良いんじゃなかな
人口が増えたことによって、食料や資材の需要も増えるだろうし

多野の人達が仕事に慣れてきたら、平野方面に田畑を広げたり、家屋を建てたりして街を広げていけば犬神藩の領地拡大になるし、多野の人達の住む場所の確保も出来る

これなら一石二鳥になるんじゃないかな

それと、腕に覚えのある武士の人は国境付近の見回りなども仕事として買って出れば窃盗事件の抑制になると思う



―――

■第一章『重荷』


 犬神藩は城下町にある美濃姫達に与えられた武家屋敷に、珍しい服装の者達が集まりだしていた。通りかかった城下の町民達は訝しげに思ったろうが、屋敷の門を開きその者達を出迎える多野藩の家老達は皆笑顔。それはまさに多野陥落時の籠城戦から彼らを救った猟兵達の功績である。
 最初に到着した数人の猟兵が、屋敷の広間へと案内され、その上座には――。
「久しぶりだね、美濃姫」
「お主達!? どうしてここに!」
 身長25cm弱のフェアリーであるトゥール・ビヨンが浮遊しつつ言葉をかければ、目を丸くして美濃姫が驚く。
「美濃姫こんちゃ! 乳揉みに……やない、またまた権ちゃんが助けにきたで!」
「ゴンちゃんさんったら。姫様に失礼ですよ、もう……」
 片手をあげ軽口をたたく桐・権左衛門をたしなめつつ、相棒のヴィクトリア・アイニッヒが佇まいを直し。
「美濃姫様、またお会いできましたね。お元気そうで何よりです」
 と礼儀正しくお辞儀をする。
「うむ、お主等こそ息災であったか? もっとも、別れてより数日で再会するとは思うておらんかったがな」
「それはウチらもや」
「それと……今日は美濃姫様にご挨拶したいという方々をお連れしたんです」
 ヴィクトリアに促され、白狐の妖艶な女性と、蒼薔薇の髪飾りをつけた人形を側に置く男、そして女性にも間違えられそうな容姿の藍色の髪の青年が挨拶する。
「多野藩の先の混乱お聞かせ頂きました。姫と云えど少女は少女、さぞ不安な日々をお過ごしでしょうに。私は化野・クミホと申します。以後、お見知りおきを」
「私はクラウス・ハントハーベン、こちらの人形は私の比翼連理な片割れのローズです」
「オレは目面・真、宜しくな」
「うむ、クミホ殿にクラウス殿、そして真殿であるな。我は多野藩領主、十石・美濃だ。こちらこそよろしく頼むぞ」
 簡単に自己紹介が終わると、その更に後ろに控えていた紺屋・霞ノ衣が。
「命辛々逃げてきても、まだまだ問題は山積みだねぇ。でも姫さん、あんたは嘆いちゃらんないよ? その問題はこの先あんた達が生きていく為には大事な事さ。大丈夫、アタシ等も力をかすつもりさ」
 更に猟兵の仲間達は、この後も集まって来るだろうと説明すれば……。
「霞ノ衣殿……それにもっと仲間達が来てくれるとは……本当に、なんと感謝して良いのか」
 美濃姫は懐に手を置き、そう感謝を述べるのだった。

 その後、真に霞ノ衣、権左衛門とヴィクトリアがやる事があると言って屋敷を後にし、代わるように屋敷にやって来たのは逢坂・宵とレイチェル・ケイトリン、ジェフリエイル・ロディタの3人だった。3人は家臣達が諸問題への対応を如何にするか相談中の広間でなく、美濃姫自身に与えられた部屋へと連れて来ていた。
「皆に救われ、犬神藩へと落ち延びる事が出来たのだが……今はその犬神藩の藩主より、妾達が流れてきたせいで発生している諸問題を解決せよ、と言われておってな……」
 はぁ、と暗い溜息をつく美濃姫に対し、宵が理解を示すように。
「姫様、これもおつとめのひとつです。しかしあまり気負われますな、あなたの面持ちが暗いだけで気を揉む下の者もいるのです」
「そう……かのぅ」
「そうですとも。考えすぎなくとも良い、と申した方が的確でしょうが……」
「それでは姫君様、その気を多少なりとも軽く致しましょう」
 そうクラウスが言うと同時、ピョコリと彼の荷物から人形劇用のマリオネットが数体立ち上がり、ピョコピョコと歩き出して列をなす。
「これはいったい……何が始まるのじゃ?」
「姫君様にはまず、私の人形劇をご覧いただきたく存じます」
 始まる人形劇は、ハッピーエンドの恋物語。
 さらに劇の場面場面に合わせジェフリエイルが即興で歌を合わせ、クラウス1人で操れない数のモブ役が出てくる場面では、レイチェルが念動力を使って複数体の操作を引き継ぎ動き出すモブ人形達、正直、ここまでやって盛り上がらなかったら嘘である。そうして人形劇を上演し終わった所で、クラウスは劇に使っていたヒロインの女性型マリオネットの人形1体を、どうぞ、と美濃姫へ渡す。
「くれるのかぇ?」
「もちろん。それに、ご希望とあらば人形繰りのやり方もレクチャー致しましょう」
「うむ!」
 多野藩の藩主となったとはいえ、美濃姫はつい先日まで蝶よ花よと育てられた14歳である。物珍しい人形劇の人形を貰い、嬉しそうにその繰り方を教わる。
 そうやって簡単な操作を覚えた所で、美濃姫が人形をちょこちょこ操りつつ……よし、と意を決したように小さく叫び。
「す、すまぬ! 実はさっきの劇でわからぬ所が……その、女子が殿方と仲良くなり結婚するとは、その、どういう事なのじゃ?」
 クラウスは一瞬、姫が何を疑問に思ったか解らなかったが、すぐ横でクミホが「この世界では女性は自由に恋愛できないですものね……まして、お姫様なら尚更……」と呟く声でやっと納得する。
「自由な恋愛……と呼ぶのかぇ? クミホ殿と言ったな。その話、もう少し詳しく教えてくれぬか!?」
「少しでも美濃姫の気が晴れますなら、非力な狐めではありますが伊達に永くは生きてはおりません。見てきたもの、聞いてきたもの、感じてきたもの、ネタはたっぷりと」
 そう言って話し出すクミホの話に、美濃姫は目を輝かせ――。
「しかし、別の世界では許嫁も政略結婚も無く、そのような自由な結婚できとは……本当に驚いたのじゃ!」
 もともとサムライエンパイアでは地位の高い女性は、結婚は政治の道具として利用されるか、家と家の繋がりとして許嫁が最初からいる事の方が多い、自由な恋愛があるなど夢にも思わなかっただろう。
「クミホ、クラウス、妾もいつかさっきの劇や話のような自由な恋愛ができるじゃろうか?」
 興奮冷め止まぬような美濃姫に「もしかしたら……」と可能性が残る解答を1人はするのだった……。


「犬神藩、良い場所だね。普段住んでいる宇宙空間とは全然違う」
 真はそう呟きつつ犬神藩の城下町をふらふら歩く。
 急激な人口増加、その理由が移民によるモノだとすれば、治安の悪化が心配だった。
 そうこうしていると、大通りで一悶着起こしている騒動に出会う。
「なんだぁ手前ぇ、他所モンのくせに! ここの仕事は昔っからオレらの仕事だって決まってるんだよ!」
「あぁん? そんな証拠がどこにある。早い者勝ちだろうが!」
「この……ご領主様が好意でこの地に住まわせてやってる多野の他所モンが! もっと身の程をわきまえろってんだ!」
 喧嘩の理由は荷運びの仕事をどちらが先に受けただのなんだの……。
 だが、犬神の民と多野の民が言い争っているのを放ってはおけない。
「双方とも、ちょっと待って!」
 強引に割って入る真。もちろん、割って入られた双方はお互い殴り合いにヒートアップする寸前まで行くも――。
「いい加減にするんだ。それとも、胴に風穴開けられたいか?」
 ジャキン、とアームズフォートの砲身を突きつける。
「い、いや、別に、こちらが悪かった……」
「お、おう、こっちも悪かった……」
 半強制だが仲直りさせた所で真は聞く。もっと仲良くできないのか……と。
 だが、その答えは意外な物だった。
「そういやどうしてオレ達……そうだ、酒場で『多野のよそ者のせいで仕事がなくなる』って聞いて……」
「ああ、そいだ。こっちもだ……俺の避難した寺院で『犬神の奴らは俺らを追い出そうとしている』って噂されてて……」


 ブルルルルルン……。
 目的の寺院の一つに到着し、宇宙バイクのエンジンを切るレッグ・ワート。
 この寺は多野の民が借りの住居として使っていると聞いてやってきたのだ。
 最初にレッグに気が付いたのは小さな子供たちだった。身長が2m半もあり、さらにウォーマシンとしての外見は否が応にも目立つ。
「おっきなカラクリ人形さんだー!」
「この前はありがとー!」
「わーい!!」
 無駄に集まって来る子供達。「おいおい、俺は仕事中だ」と追い払おうとするも、仕事で無事に逃がした者達から、こうやって素直に感謝されるのは決して悪い気分ではない。
 適当に子供達の相手をしつつ、その両親や、この寺を使っている他の大人に情報収集をするレッグ。
 職がない大人の人数や、彼らの売り込みポイントなどを聞いて廻るが、どうにも多いのは鉱夫達のようだ。
「多野の地は鉱山か何かがあったのか?」
「ああ、金銀銅に鉄の鉱脈、あの地は領土こそ狭かったが抱負な鉱脈資源で南北の両国と対等に渡り合ってたんだ。犬神と狒々堂、両国と平等な友好関係を取り付けたのは4年前に亡くなった奥方様の政治手腕があってこそだが、鉱脈っつー資源がなけりゃ無理だったろうさ」
 確かに、言われてみれば多野の男たちは肉体労働者特有の筋肉質な者が多かった。つまり彼らは全員、鉱夫だったのだろう。
 とりあえずあと2~3件回って情報を裏付けるか……と、レッグが宇宙バイクに再びまたがるのだった。


「ここも……でありますか」
 窃盗事件が起こったという村を、直接調べに来ていた吹鳴管・五ツ音が住民の目撃情報などを聞き込みし、思わずそう呟く。
 最初に調査した村も、2番目のこの村も、目撃証言は取れるのだが……。
「住んでいる村人たちは、窃盗犯は流れてきた多野の民だったと言っておりますが……やはり不自然であります」
 どの村人に聞いても「なぜその窃盗犯が多野の民だと解ったのか」と問いただすと「知らない顔だったのだから多野の民に決まっている」との話で、それ以外に証拠はと聞けば――。
「最近、多野から流れて来た民が食事がまともに取れなくて村々の畑から野菜やら米やらを奪って行ってると噂だ」
 との話が出るのだ。
 もちろん、村人が変に口裏を合わせている可能性も考え、2つ目のこの村では『天下自在符』をチラつかせて嘘を抑制してみたが、結果は1つ目の村と同じだった。
 そして、村の近くの神社仏閣を仮住居としてあてがわれている多野の民にも話を聞けば、自分達は窃盗など行っていない、との話だった。
 集めた情報から窃盗事件の件を考察する五ツ音。
「多野でも犬神でもない余所者が窃盗している?」
 それはどうして、いや、何の為に?
 思いつく理由はいくつかある、だがそのどれもが……。
 五ツ音は嫌な予感がして、一度、美濃姫に報告に戻る事にするのだった。


「犬神藩藩主、里見義巳様……この度は謁見を許可して頂き、誠にありがとうございます」
 犬神藩の城下町に建つ里見城の大広間にて、犬神藩藩主と謁見するは涼風・穹。
「堅苦しい挨拶も口調も無用だ。聞けばお主も先の騒動の際、朝比奈殿たちと共に石盗犯を捕縛した一員と言うではないか。感謝こそすれ何を邪険に扱おうか」
 広間の上座には藩主里見義巳が座り、その手前右側には家老が1人、左側には猟兵たる朝比奈・心乃が座っていた。
 穹は先の事件で心乃と顔見知りであり、藩主に謁見する上でどうすれば良いかと心乃に相談した所……急遽このような場に連れて来られたのだ。
「じゃあお言葉に甘えて堅苦しいのは辞めさせてもらうぜ? とりあえず、藩主さんより要請のあった多野の姫への諸問題解決の件、俺としちゃ至極最もな要請だと思ってる」
「そう理解して貰えているなら話が早い。幾ら我が犬神藩が国土に富み食料物資も潤沢とはいえ、あれだけの民を急激に増やせばさすがに軋轢の1つや2つは生まれてしまう。だが、それを美濃姫達が陣頭に立ち解決できれば、両藩の民も美濃姫の事を認めるであろう」
「はぁ……あのお殿様、こないだの今日でお人よしが過ぎなくない?」
 家老と同じような位置に座る心乃が口を挟む、もちろん嫌味という意味ではなく、藩主の徳を褒めるような言い方だが……。
「やはり、そのような考えを……」
 藩主の言葉を聞き納得する穹。その上で、ここぞとばかりにこちらも要求をぶつけようと――。
「藩主様、犬神藩の山間部辺りで開拓して問題ない土地を紹介して頂きたい。もちろん、その土地の開墾許可も」
「ほう……」
「多野藩の民は開拓作業に従事させれば、作業料名目で当面の援助は頼めるだろうしどうにかなるはずだ。それに、もし多野の民が再び多野の地へ戻ったとしても、犬神藩には開墾済みの土地が手に入る事となる。犬神藩にとって損は無いはずだ」
 藩主は少し考えるが「話はそれだけか?」と穹を促す。
「それともう1つ、開墾作業に関わらない侍階級の方々で村々を巡回警備する用心棒役をやらせたい……その許可も頂きたい」
 と、穹がそう言った所で「はーい」と横から心乃が手を挙げる。
「お館様、その件に関しては私も1つご提案があります! 私が面倒を見ている石層宗の僧兵たちですが、今や先の一見で評判はガタ落ち、先ほど提案なされました用心棒の件、彼ら僧兵も一枚噛ませて頂けないでしょうか」
 心乃は先の石層宗がオブリビオンに乗っ取られ、石層宗の僧兵たちが悪事を働いていた事件の後始末として、騙されていた僧兵たちの改心指導役を買って出てこの地に居残っていたのだ。今や彼らも柔軟な思考が多少できるようになり、少なくとも過去の過ちを償いたいと言いだしていた。
「いかがでしょうか?」
 開墾地の紹介と開墾許可、さらに石層宗の僧兵たちの恩赦……果たして、犬神藩藩主の決断は。


 犬神藩の城下街は海に隣接した港町でもある。
 城下を南へと下って行けば、やがて船着き場や浜辺が見え、吹き渡る風には潮の香りが混ざって来る。
「海やーーーっ!」
「ゴンちゃんさん、そんな大声はしたないですよ?」
「これが海か! 僕、海って初なんだよね! いやー、何曲でも歌が浮かんできそうだよ!」
「お姫さま? だいじょうぶですか?」
「あ、う、うむ。あまりの広さに……その、圧倒されてしまってのぅ」
 権座衛門の誘いで美濃姫達は城下の南にある港へと来ていた。港と言っても簡単な船着き場があるだけど、あとは砂浜に漁の為の小舟が何艘も置いてるだけなのだが……。それでも海が初めての美濃姫にとっては驚くような光景で、同じように海が初のジェフリエイルも、さっきから「フレーズが降りて来た!」とハイテンションに歌いっぱなしだった。
「山間の藩にいたら海って新鮮な光景やろ、考え込み過ぎても良くないし」
 シシシッと言った感じで権左衛門が笑い、それが気遣いだと解るヴィクトリアは微笑むように見守っていた。
「これが波か! 凄い、本当に水が動いているよ!」
「ちょぉ、そないに前に出たら落ちてもしらんでー?」
 ジェフリエイルが桟橋から前屈みになるのを権左衛門が注意するも「うわわっ!?」とバランスを崩したジェフリエイルが海へ落ちそうになり、近くにいた権左衛門がなんとか首元を掴んで引っ張るが、落ちる慣性は止まらず2人まとめて――。
「ゴンちゃんさん! ジェフリエイルさん!」
 咄嗟に手を伸ばしたヴィクトリアの手を、ジェフリエイルはなんとか掴み落下を免れるが。
「なんでウチだけー!?」
 と手を掴みそこなった権左衛門はボチャーンと海に落下する。
「だ、大丈夫かえ!?」
 海を知らない美濃姫が慌てるも、権左衛門はプカーと顔を出し口から海水を噴水のように吹き出し。
「余裕や余裕、海は川や湖と違ぉて浮くんやでー」
 と。
 その様子に思わず美濃姫の笑い声がこぼれる。
「あはは、あはははは……そんな、口からぴゅーって……ふふふふふ」
「あっはっはっはっ」
 思わず権左衛門も笑い返す。
「ほら、ゴンちゃんさん……」
 ヴィクトリアが手を差し伸べ権左衛門を引っ張り上げるも、小声で「私の手、わざと掴みませんでしたね」と言えば、同じく小声で「美濃姫が笑ってくれるならこれぐらい身体張ったってもええやろ」と。
「だーー! 寒っ! ウチ、ちょっと先に帰っとるわ。このままじゃ風邪引いてまう」
「それでは私もちょっと調べたい事があるので」
 権左衛門が服を乾かす為に先に帰ると言い、ヴィクトリアも「こう見えて意外と情報を集めるのは得意なんですよ?」と城下町へといなくなる2人。
 美濃姫は好きなだけ海を見てから帰ると良い、とは2人の言だった。
 残されたジェフリエイルとレイチェル、そして美濃姫の3人はしばし直面中の難題を忘れ、潮風の心地良さと寄せては引く波の音に耳を傾けた……。
 そして、そんな中口を開いたのはレイチェルだ。
 フワリとレイチェルは波の一部を浮き上がらせ、美濃姫を見つめて言う。
「このようにわたしたちはいろいろできます。でも、たりません」
「足りない……?」
「はい、たとえばわたしだけで『道をつくる』のはできても。だれもその道がいらないなら、すぐ消えてしまいます」
 パチャンと宙に浮かんでいた水が弾けて海へと戻る。
「『犬神藩の人々はほしいけど、つくれてない道』、そして『つくれたら多野藩の人々が村をつくってまもれる道』、それならわたし、多野藩の人といっしょにおしごとしてつくります。けわしい崖、ふかい谷、おっきな岩、なんとかします」
「レイチェル……」
 何か想う所があるのか見つめてくる美濃姫に、レイチェルは微笑み。
「道じゃなくてもいいです。なんでも。だから犬神藩の人にきいてみてください。きっと『道』はひらけるから」
 その瞬間、何かが、何かが確かに美濃姫の心を揺らした。
 スッと懐の上に手を置き、美濃姫は海の先の先へと視線を送り。
「世界は……本当に広いのじゃな……妾が思っていたよりずっとずっと広い」
 ボロン♪ と竪琴を鳴らしジェフリエイルも同じく海の地平線を眺めつつ。
「もしかして何か思いついたのかな? それとも、何か自分の考えを変えようとしている?」
「なぜ……」
 フェルリエイルはいつものように輝き、そして視線はあくまで地平線の向こうのまま。
「誰かに話すことでまとまる考えもあるよ。整理が出来たら、皆の前でも話せると思うしね。もちろん僕は、君の考えを知りたい」
「わたしも、知りたいです」
「2人とも……」
 見守るように2人に言われ、美濃姫は少しだけ空を仰ぎ。
「帰ろう。妾も少し、考えを整理したくなった」


 美濃姫達の武家屋敷の広間では、家臣達と猟兵達が喧々諤々、犬神藩にて起こっている諸問題について会議を行なっていた。
「とりま、犬神藩藩主からの書状を見るに、別にお姫様達だけで解決しろとは書いてないぜ?」
 レッグの指摘に家臣の1人が、資金も兵力も無いと嘆く。
 資金については城から落ち出したものがあるが当座の生活資金でめいっぱいで、とても問題解決の為にかけられる分は無く、また人でも足りなかった。籠城戦時は100名はいた武士たちだが、今では抜けた者も多く、また兼業の者達もおり、武士として専任で使える数は20に満たないと言うのだ。
「いや、俺が言いたいのは俺達を使うのも有りって話だ」
「ですが、あなた方が実際に民達に仕事を斡旋できるわけでもないでしょう。それに、城下で聞いて頂いたならどこも仕事が余っている状態ではない……」
「それは……」
 言いよどむレッグ。実際、仲介屋などで仕事の斡旋について聞いて廻ったが、どこも困っている所はそこまで無く、多野の多くの民ができるような大口の仕事は無かったのだ。
「素人の自分にゃまるでさっぱり、ねぇ。オレなら商売でもさせてっつぅトコだけど……」
 コノハ・ライゼが軽く言うも、安定した市場に新しく参入するのはなかなか博打だった。
 実際、港街なので力仕事ならいくらでもあるだろうと聞いて廻った権左衛門だったが、どこも人は足りており空振りに終わってしまった。そして同じ結果になったのは月舘・夜彦だ。
 この犬神藩は多野藩に比べてここは土地も広く、人口も多い……人が集まる村や宿場で働き口があるはず、との考えだったが、こちらも決して多くの働き口を見つける事はできなかったのだ……。
「多野の民は山の民です。鉱夫が多いなら犬神の民に倍する体力を持ちましょう。窃盗団対策に土塁(土製の堤防状の壁、敵や動物を防ぐ壁)を築くような力仕事を斡旋するのはどうでありましょうか」
 五ツ音の案だが、これも家老の1人からマッチポンプと取られない行為はリスクが多いと言われてしまう。
「だったら、村を巡回して見張りをする自警団を作ってみるのはどうだい?」
 そう提案したのは霞ノ衣だった。
「多野の中に力に自信がある奴だったり、何らか力になりたいって思う奴はいるだろう。そういうのを各村へ派遣し、泊まり込みで村を守る仕事をして貰うのさ。犬神藩にとって自分の村を守る人材を得て、多野藩にとって自分の住む場所と働く場所が得る。お互いに損は無いはずさ」
 一応納得の案……ではあったが、根本的に五ツ音の提案と同じく、マッチポンプ感は否めない。
「では……休耕地に避難民を入植させて、働き口を得る……というのはどうでしょうか」
 ヴィクトリアが提案し、宵がフォローを入れる。
「ええ、多野の民の中には、やはり国元が良いと申す者もいるでしょう。しかしすぐには戻れない。今すぐ働けない者もおります。であれば健康な働き手を募り、この国のために働き、一時的にでも居を――自らの手で開墾し、作る。それも手かと」
 だが、2人の案は鎮痛な面持ちの家臣の一言で流れてしまう。
「犬神藩の民は、作物の窃盗犯が多野から流れて来た民のせいだと思っている……村や街の民らが開墾を許すとは思えん……」
「それは……確かに……」
「む……」
 会議の場が静まり返る。
 その時だった。どたどたと4人の足音が響き広間へと入って来る。
 先頭で入って来るのは穹だった、後ろには2人の僧兵が付き従えた1人の妖狐の女性がいた。
「皆、これを見てくれ」
「これは……!?」
 穹が出した物、それは犬神藩藩主の開墾許可証だった。
「これがあれば!」
「うむ、たとえ周辺の民が反対しても、開墾する事ができる!」
 一気に広間の空気が盛り上がる。
「それと……もしかしたら出た案かもしれないが、窃盗事件の警備の為に、自警団を提案したい」
「いや、だがそれは……」
「そこで紹介する。犬神藩付きの猟兵……とでも言えば良いのか?」
 穹が妖狐の女性――朝比奈・心乃を紹介するも、心乃は「なんとでもー」と気にしないでと言い。
「はじめましてー、縁あってこの地に居候している者でして。村や宿場を警備する上で、皆さんだけでなく、犬神藩としても人を出したいのですよ。私が改宗……じゃない、改心を任されている石層宗の僧兵、役100余名」
 その人数にドヨッと広間がざわつく。
 だが、それだけの人数を回して貰えるのなら、自警団に多野の民の立候補者を混ぜるとしても、うち半数は犬神藩の出身者となる。それならマッチポンプと言われる懸念も少ないだろう。
「どちらにも利する所があるかと思いますが、如何でしょう?」
 心乃の言葉に誰もが顔を見合わせ、コクリと頷く。
「ではまとめるぜー?」
 話がまとまったとばかりにトゥールが言う。
「まずは犬神藩藩主様指定の場所を開墾する。開墾の仕事ができれば仕事にもなる、仕事ができりゃ食料や資材も自力で買えるようになる。田畑が広がったら空き地に家屋を建てたりして住居の確保、これで神社仏閣の仮住まいは終わりだ。で、最後に腕に覚えのある武士や鉱夫には、その僧兵の人達と一緒に自警団を作って窃盗犯の対策に当たる。でいいよな?」
 全会一致。
 それぞれの案と根回しがカチっとはまった瞬間であった。
 だが、その歯車の中、少しの違和感を感じていた者達がいた。
「あの、1つだけよろしいでありますか?」
 五ツ音が挙手し。
「実は、窃盗事件の現場も調査してたのでありますが……少々違和感があり」
「それはオレも思ったな。多野の民と犬神の民、なんか扇動されてる気がする」
 真が城下で起こっていた騒動を沈めたのは1回だけではなく、その後も3回ほど同じような場面に出くわし、違和感はどれも一緒だったのだ。
 さらにヴィクトリアと権左衛門も街で情報収集した際、同じ違和感を感じたと言う。
「もしかしたら……」


「あらあら、姫サンてのも大変なモンねぇ……会議ならだいたい結論が出て、今は小休止中ー」
 自室で何か考えていて会議を欠席していた美濃姫が戻って来たのを見つけたコノハが、呼び止める。
「そう……なのか……」
「とりあえず、会議が再開するまでせっかくだから日当たりの良い場所で茶でもどう? 茶菓子も用意したンよ。ほら、コッチが本職なの」
 コノハが取り出したるは春の花模した琥珀糖。
「す、少しだけなら……うむ」
 明かに琥珀糖に釣られたように縁側に座る美濃姫。コノハが入れたお茶と琥珀糖に思わず笑みがこぼれる。
「暖かさと美味しさは笑顔の元だもの。やっぱり自分の作ったモノで誰かを笑顔に出来たら嬉しいデショ」
「うむ、本当に美味しいのじゃ。ふふ……懐かしのぅ、母上が生きていた頃を思い出すのじゃ」
「………………」
 少しだけ姫の横顔を見つめる。もしかしたら何かを思い出しているのかもしれない。僅かに泣きそうな顔にも見えたからだ……。
「美濃姫様」
 そこに声をかけて来るは夜彦だ。会議におらず、小休止中に自室に行ったのだがすれ違ってしまったらしい。
「ん? 何か用かぇ?」
 いつもの表情に戻り小首を傾げれば、夜彦は懐から櫛を一つ取り出し。
「あの戦いから間もなく、御髪に触れる暇も無かったでしょう。どうぞ、これを」
「うむ……ありがとう。実は良い櫛が無いか探しておってな……ちょうどいい、使わせてもらうぞ」
「ええ、存分に」
 満足げな姫と夜彦に、ふと気になったコノハが「そういえば母上様から貰った簪は?」と聞けば。
「うむ、あれは母上との思い出でもあるから……願掛けをしたのじゃ。あれを付ける時はお家を再興した時だ、とな」
「そう……」
 少し疲れた顔を見せる美濃姫に、夜彦が心配そうに。
「美濃姫様、顔色を窺うにかなり疲労が溜まっているのではありませんか。休む事も楽しむ事も必要な事です。どうかお忘れ無きよう」
「うむ、わかっておる……」
 そう言う美濃姫だが、何か奥歯に物が引っかかるような言い方で……。
「まぁたお転婆なコト考えてたりしなぁい?」
「まさか! もう、あのような無茶はせぬ!」
 コノハの言葉を即答で否定する姫、だがコノハはニヤリと笑って次の句を告げる。
「じゃあナニか笑顔になれない理由でもできちゃったかしら? 国の問題とはまた別の、ネ」
「ふむ……」
 夜彦は見た。コノハの言葉に、何か覚悟を決めた表情となる姫を。
「コノハ、夜彦、皆を集めてくれ。すぐに会議を再開する。妾は……皆に言わねばならぬ事がある」


 美濃姫の言葉で即座に会議が再開され、先ほどまで決まった事を家臣達が伝えると、美濃姫は驚きつつ、何か表情にますますを持って覚悟が現れる。
「話はわかった。皆、知恵を出し合ってくれて感謝する。それと……」
 僧兵を従えた心乃を見て。
「朝比奈心乃と申します。縁あって犬神藩に居候する身、お力添えに関してはこちらにも利がある事……遠慮しないでいいですよ?」
「そうか……うむ、ご助力感謝」
「はい」
 美濃姫は再び皆に向かって姿勢を正し。
「皆、すまない……妾は井の中の蛙であった。本当にすまない……」
 何を謝る……とざわつく家臣達だが。
「妾がそうと教えてくれたのはクミホとクラウスのおかげだ」
 クミホとクラウスがお互い目を合わせる。
「妾はクミホから世界の広さを教えられた。妾はクラウスに教えて貰うまで自由な恋愛というものすら知らなかった」
 ピョコリとクラウスから貰った人形を自分の横に置く美濃姫。
「世界は広い……妾1人でどうにかなる問題など無いと、気づかされた。だから、皆に見て貰いたい……これを」
 懐から1通の書状を取り出す美濃姫。
 代表で家臣の1人がそれを読み上げる。
 それは、犬神藩内で起こっている窃盗事件に関して、犬神藩が対応しないよう時間稼ぎするよう指示がなされた内容だった。また、窃盗事件こそ多野の民が、子供が、ひもじくならない為の正義だと強く書かれていた。
「姫様……これは……!」
「一昨日、たまたま拾ったのだが……明らかに妾に向けての書状だった。もし皆が来てくれなかったら、妾はずっと悩んでおっただろう。決断するにしてもきっと時間がかかった。それは……この書状の送り主の思惑通りだったのではないかと、今なら思う」
 美濃姫の言葉に真が。
「つまりこの送り主が、街で暗躍してた違和感の正体か」
 その言葉に権左衛門もヴィクトリアも、そして五ツ音も納得が行ったと頷く。
「……まぁ、もしかしたら犬神藩の藩主は気づいていたのかもな。その上で、窃盗犯については姫様達で解決しろって、な」
 穹の言葉に家臣達が頷き、そこに軽い口調でコノハが
「ああでも、胡散臭い窃盗事件ナンてのは、それこそオレらにお誂え向きなンじゃなくて?」
 解決するのは自分達の役目だと、そこにいる猟兵全員が心の中で肯定する。
 ――今回、諸問題だの解決だけなら、姫はこの書状を黙っていただろう。
 その上で諸問題の解決に猟兵達が動けば、最終的には敵が総力を決してこちらを妨害に来たのかもしれない。
 もし、姫の信頼を得たなら、美濃姫は書状の話を猟兵達へ行い、諸問題の解決に当たる猟兵達に妨害がある可能性について示唆し、気をつけるよう言っただろう。
 それが、敵の思惑……最低でもどちらかになる。その予定だったはずだ。
 だが、姫の信頼を勝ち得、そして諸問題の解決に猟兵達が直接動かないでも良いほどの良い提案と、何より猟兵達を使わずとも十分な戦力が集まり、さらに姫に書状を送った黒幕の影すら今の時点で猟兵達は気づけたのだ。
 ならは、これで猟兵達に諸問題の解決を依頼するのは……――。
「犬神藩の民も多野藩の民も救われる。そしてボクらはオブリビオンの手がかりが得られる点……これなら一石三鳥になるんじゃないかな」
 トゥールの言葉に五ツ音が繋げるように。
「自分は凡そ戦場のことしか知りませんから。美濃姫殿の心を安らげるにはきっと足りません。けれど、美しい華を銃後に護ることこそ我らが誇り、力になれることがあれば何なりとお命じください」
 ザッと敬礼を取る五ツ音。
「そうだね、僕らは犬神藩のためにもなる多野藩の札を増やしにかかろう」
 ジェフリエイルが歌は邪魔かと竪琴だけを鳴らす。
「皆……」
「アタシ等も力を貸すつもりだ……そう言ったろう?」
 呟く美濃姫に、霞ノ衣がニヤリと笑みを浮かべ。
 ズザッと美濃姫の前で話を聞いていた宵が佇まいを直し。
「我々はあなたのためにここにいるのです。どうぞ良きように」
 宵の言葉に腹は決まったとばかりに頷き、美濃姫は心乃を見つめ。
「すまぬ……お主は里見方であろうに、まるで多野家の為に戦うような言い方をしてしまった」
「いいえー、乗りかかった石のついでです。お仕事しますよっ! あー、また厄介ごとかー、仕方なし!」
 なぜか元気に伸びをする心乃。
「お姫様、ずいぶん立派になったじゃねーか。いいんだな、逃げないで」
 レッグの茶化すような言葉に姫は「うむ」と頷き。
「妾は逃げぬ。お主等と共に行くつもりだ」
 猟兵達と共に行くと言う。それに慌てたのは家臣達だが、それより先に釘を刺すは夜彦だった。
「先ほどの言葉をもうお忘れですか? 楽しむ事も休む事も必要な事です。そして貴女は一人の人間でもありますが、一国の主です」
 夜彦の正論に、渋々ながら「わかった」と同行を諦める姫、その言葉に皆が安堵し、その上で夜彦は続ける。
「さて、主なら主らしく、今ここでこそ役目があるではないですか。姫様、皆に言葉を」
 夜彦がザッと佇まいを直す。
 夜彦に続くよう、サムライエンパイア出身の猟兵達が胡坐をかいて両拳を左右前方の床につければ、他の者達もそれぞれが正座だったり、背筋を伸ばしたり、はたまた佇まいは変えず空気だけピリっとした物に変えたり……誰もが姫の言葉を待つように――。
 そして、美濃姫は立ち上がると堂々とした声で宣言したのだ。
「我らが民に罪をかけ、犬神藩で暗躍せし輩を……成敗してくれ」
『は……っ!!』
 言葉は違えぞ唱和して是と答える猟兵達。
 皆立ち上がり、思い思いに準備に取り掛かり始める。
 作物等の窃盗で被害にあっているのはどこも多野藩との国境に近い村や宿場だ。
 暗躍する輩が気が付く前に、できる限り敵の手勢を減らし、可能なら黒幕の拠点まで突き止められれば……。
「どうしたレイチェル」
 皆が支度に動くなか、美濃姫の側にやってきたレイチェルに姫が声をかけると。
「お姫さま……あたらしい『道』が、ひらけましたね」
 その微笑みに、美濃姫の笑みを見せる。
 それは間違いなく自信に満ちた微笑みであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『乱れた治安を回復せよ』

POW   :    治安悪化の原因を力で黙らせる

SPD   :    悪事の証拠を集める

WIZ   :    狡猾な悪人を論破して正義を示す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●第二章予告

 美濃姫への脅迫文とも取れる書状を送り付けた黒幕がいる。
 犬神藩にて起こっている諸問題――窃盗事件に、
 その黒幕が関わっていると見当をつけた猟兵達は、
 国境の村や宿場で調査を開始する。
 そこはすでに、黒幕の手により少しずつ治安が悪化しており……。

『国に必要な物~滅亡の愛姫~ 其の弐 』

 第ニ章 暗躍
吹鳴管・五ツ音
先立って情報を集めた際に敵方には自分のことが気取られているかもしれませんし…

自分は、目立つことが意味を持つよう自警団の方々に協力を

引き続き情報を集めているように振る舞うことで表向き「調査に進展がない」ように見せつつ敵方の行動範囲を限定し、いざ荒事となったら恙なく敵勢の包囲が完成するよう、自警団や猟兵の皆さんと喇叭の信号を申し合わせておくであります
故意に包囲に穴を作り、敵の手勢を敢えて逃がして拠点に案内してもらうのもよいかもしれません
併せて打ち合わせておきましょう

その時の”穴”は、自分が。
自警団の方々には汚名返上や多野と犬神の友誼を示す目的があるのですから
汚れ役は悪目立ち済みの自分が適任でしょう


化野・クミホ
やはり、窃盗の混乱もあってか黒幕が居るなんて言ってもなかなか此方と取り合っていただけませんか……。
仕方がありません、あまり気は乗りませんが今回は力押しで参る方々に協力させて頂きましょう。
先ずは此方の話を聞いていただける状況にしなくては。

【POW】
「誘惑」しながら此方に注意を引かせ、【フォックスファイア】を操り犬神藩と多野藩の衆を怯ませましょう。
その隙に彼らを押さえて下さいませ。
必要とあれば私も愛刀のなぎなたを使い「なぎ払い」することで応戦も可能ですが、あまり騒ぎを大きくしたくもありませんね。
怪我人のことはお気に為さらず。
私の「祈り」で彼らの傷を癒しましょう。

※アドリブ、連携大歓迎


コノハ・ライゼ
親を偲ぶ暇もねぇンじゃナイの、なんて振り返りつも
此処に立ってる自分が笑える
まあいい、落ち着いたら母の味でもナンでも作ってやろうじゃナイの

噂辿り根拠なく信じてるヒトらには釘刺して回りたいネ
『コミュ力』と活かせるなら『誘惑』
ソレ、誰からドウ聞いたの?
混乱見て楽しんでる輩がいたりして――妖怪とかネ
そんなのに踊らされてるとしたら馬鹿馬鹿しくなぁい?

自警団避けたりコチラの話に不審な反応するヤツを『情報収集』
ナンなら警備にワザと穴あけ誘い込む
目星付けた奴に【黒管】使用
何処へ向かうかどんどん追跡すんよ

噂の流布にはそこそこ力のあるヤツが噛んでンじゃねぇかと
下っ端からソコ、ソコから黒幕へ繋がりが見えりゃ儲けモン


目面・真
どうやら、民衆の疑うコトを知らない心につけ込んで、犬神の民と多野の民とを反目し合うように仕向けているヤツがいるらしいね。
酒場と寺院の噂の出どころを突き止めよう。その線の先で黒幕と交わるはずだ。

平行して【SPD】悪事の証拠を集めて回る。
力ずくの方がオレらしいが、それで簡単に解決とはならないだろうからね。
多野の民が犬神の民の仕事を奪うコトや、ましてや窃盗などはたらかないという事実を地道に積み上げていくしか、双方納得しないだろう。
これで分かったであろう。治安を乱しているのは、偽りの噂によるものだと。

一応、義光を佩いておくが、危険な場合にのみ使用する。剣刃一閃も同様だ。


涼風・穹
……姫さんが偶然書状を拾った…?
洒落にならないぞそれは…。
その送り主は姫さんの行動範囲を知っていて、しかもそこまで近付いても違和感の無い人物という事になるから、下手をすれば多野藩の方々の誰かが犯人か或いは手引きをした可能性すら疑う必要が出てくる状況じゃないか…

取り合えず、一番疑いたくない所から疑念を払拭していこう
姫さん宛ての一通しかない書状を"偶然"拾ったならほぼ間違いなく内部犯だろうけど、姫さん宛ての書状がある程度数をばらまかれていてその内の一通を偶然姫さんが拾っただけ、というのなら送り主はそれ程姫さんへ近付けてはいない事になる
他にも書状が落ちていないか、或いは拾った方がいないか調べてみよう


トゥール・ビヨン
パンデュールから降りて行動するね
ボクは国境に近い村や宿場で情報収集を行いながら、良く窃盗が行われている場所を探し、そこに張り込んだら身体の小ささを活かし、窃盗を行った犯人を見つからないよう追跡し黒幕の拠点を突き止めてみるよ
追跡する際は地形の利用をしながら物陰に隠れて見つからないようにする
拠点を突き止めたら、姿を隠しながらしばらく犯人達の話しを盗み聞きながら更に情報を収集

可能なら立ち去る前に盗まれたものを盗みの技能で取り返しておくね

一通り、情報などを集め終わったらみんなの元に戻り拠点を攻めるためにパンデュールに乗り込み反撃開始だ!


レイチェル・ケイトリン
たかく、もっとたかく。

事件やさわぎがおきちゃってる国境ちかくに行って
念動力技能とスカイステッパーで螺旋をえがくように空にとびあがるよ。
スカイステッパーで空中ジャンプできる回数は限界あるけど、
念動力で空中につくった足場に立てばリセットできる。
わたしはいくらでもとべるもの。

そして、空の上から写真をとっておっきくひきのばすね。
村や宿場の正確な場所がわかるように。

そして、事件やさわぎの場所と時間、
それからほかの人があつめてくれた情報もかきこむの。

空からみつめる視点はなにもにがさない。
敵のうごきをあぶりだしていって先回りできるようにするね。

「なんとかします」

そう、わたしはお姫さまにやくそくしたんだから。


朝比奈・心乃
不和をもたらすは良し
けれど決め手に欠ける

書状。拾った。近くにいる?此方が動くと想定済み…
妨害への対応…戦力の分散…本命は美濃姫?

んーむ分からぬ
私なら手薄なこの機を狙うけど…いや敵に先んじてるならば今は気にせずとも…

北に現れた武者軍団にあえて民を見逃したこと…此度の騒動
それと漬物石の事件も?全てが繋がっているならば
大筋を描いた“敵”の思惑通りに事が進んでいる気がする
今回の、じゃなく。その裏に潜む本当の黒幕の
狒々堂藩も怪しいし

だから油断なくいきたい…けど

悩むに悩み

杞憂かもだけど美濃姫の護衛にっ
手練の僧兵20名を付近に伏せ
敵の出現には『フォックスファイア』と僧兵らで迎撃

何事もなくば後で皆に土下座る!


ヴィクトリア・アイニッヒ
桐・権左衛門(f04963)と共に行動。

裏に潜む存在が何を企んでいるかは、分かりません。
ですが、徒に民心を迷わせる行いを看過するわけにはいきませんね。
この調査で、黒幕に繋がる糸を手繰り寄せないと…

まさか盗んだその場で物品を処分している訳ではないでしょう。
盗んだ以上、どこかへ運び出し管理をしているはずです。
…藩内の物流、その中継地点となる場所を、張り込みましょう。

物流の中心地という事は、人も集まります。それだけ噂話も集まりますし、拡散もします。
噂話を広げて不和を煽るのなら、当然その地に相手も注目をするはず。
…十二分に警戒して臨まねばいけませんね。


桐・権左衛門
ヴィクトリア・アイニッヒ(f00408)と共に行動する

治安が悪いっちゅう事は何かしらの揉め事が起きる可能性が高いっちゅう事やね
こういう時程冷静にやな…おい誰や!今権左衛門呼びした奴は?!(飛び蹴りの構え)
治安の悪化もやけど焚き付けたり扇動する輩がいないか注意深く観察する

美濃姫は『たまたま』拾ったって言うてたけど、なんか引っ掛かるねんよねぇまぁ美濃姫の日頃の行いが良かったんかなぁ

こうやって正義とか宣う輩は口で言うても居直る事が多いからな、鉄拳制裁をせなあかんな

多野藩との国境に近い村や宿場で交渉し作物の奥底や袋の何か所かに発信機なりを付けて探知する事はできひんやろか?黒幕拠点まで行けば儲けもんやね


紺屋・霞ノ衣
犬神を引っ掻き回して、多野の信頼を失わせようってことかい
随分と姑息な事をしてくれるもんだね!
生憎、両藩の関係はそんなに脆いもんじゃないようだが
実際被害を受けた所の人間はそうじゃないだろう
うち等の所為じゃないとしても、世話になってる恩もあるんだ
ちゃんと解決させてみせるさ

馬鹿の一つ覚えだがアタシは力で解決するしかないんでね
国境付近の村を巡回
怪しい奴や盗みを働いてる奴がいたら取っちめる
貪り喰らう狼で包囲して捕まえる
唆されてやる奴もいるかもだし殺さないよ
普通じゃないなら手加減なし

アンタ、誰に言われてこんな事したんだい?
そいつに借りがあるんでね
これから殴りに行くから案内しとくれよ
【恫喝】交えて揺さぶるか


月舘・夜彦
書状に加えて国境付近での事件となれば、ただの窃盗ではありません
村の被害が多野の原因と言われれば、藩主の義巳様も動かざるを得ないでしょう
それでは復興も遠いものとなる
本当の狙いはそちらなのでしょうね

窃盗事件の対応
盗みを働く者を見つけ次第、戦闘
動きを見て戦いに慣れていないならば手加減をして誰の指示かを聞き
戦い慣れているのであれば、ただの盗人ではないと判断
【先制攻撃】【2回攻撃】の剣刃一閃で迅速に対応
後者ならば美濃姫様の所へ戻ります

姫様が拾った書状はあまり都合が良過ぎる
何よりその時、関係する者が近くに居た証
国境へ猟兵を割き、姫様達を狙うのだとしたら対応しなければ
……杞憂であれば次の戦いに備えるだけの事


逢坂・宵
【WIZ】
どのような事情があるにせよ―――いえ、事情など関係ありませんね
このようなことを行うのは、あまり感心いたしませんね
もっとも、感心されたくておこなっているわけではないでしょうが

このようなおこないをして、手を染めたら二度と戻れないようなものです
ひとの社会は厳しいですから
しかるべきところに突き出され、しかるべき罰を受けることになるだけです
きれいごとを言うなと仰られそうですが
きれいごとでなければ、生きていけないひともいるのです
それももう、分かってやっているのでしょうね
さあ、教えてください。あなたがたに指示を下したのは、誰です?


ジェフリエイル・ロディタ
僕は村の人達に声をかけて、どうにも雰囲気が良くない理由をきこう。
何か手伝えばもう一声話す気が向くかもしれないなら、
こうも輝いている僕の実家は農家だし出来る仕事を手伝うとも。
その時はシンフォニック・キュアで故郷の仕事歌を歌いながら作業する。
こちらの仕事歌があって教えて貰えるならそれもね。
終いにはお疲れ様の気持ちを込めて一曲奏でよう。

もし噂や具体的な話が聞けたなら、誰から、
或いはどんな人から聞いたのかを尋ねて、話の出処を辿っていくよ。
辿れたら皆に連絡。
怪しまれない程度に様子を見守るか、話をしにいくかは
相手が悪そうな顔してるかどうかで決めよう。

もし賊を取り押さえるなら、囲んだり念動力で協力するよ。


レッグ・ワート
状況きいた城下から寄越されたからくり、ではあるんだが。話通じないなら天下自在符。宿場の役所あたりで時間帯や建物、間取りの情報収集。悪い連中が気付くに仕掛けたいんで協力してくれ。
手口が絞れたら標的かもな建物の主人に協力を頼む。月灯り十分ならロープで足とって吊り上げる罠を紛れ込ます。他は出入り部分にすぐ外れるカーボン糸をかける。反対端に鈴借りて付けて、起きてる人がいる部屋まで引っ張ったやつ。鳴ったら笛とか大きな音数回鳴らして。
駆けつけて当たりなら鉄骨で殴って糸で縛る。馬で逃げるならバイクで死なない程度に蹴たぐるわ。
あ、荷のダミーすり替えも頼めるなら、追跡得意な仲間に連絡。家まで案内して貰おうぜ。



―――

■第二章『暗躍』


 あの後、犬神藩から借り受けた僧兵100余名と元多野藩の侍20名弱で自警団を組織する事が検討され、それぞれの八割が今回の件で事件団として村や宿場町を巡回する事となり、4~5つの班が国境へと派遣された。
 そして、そんな班の1つに吹鳴管・五ツ音の姿があった。
「しかし吹鳴管殿も猟兵なのでしたら、このような巡回は我らに任せ、黒幕の調査に赴いた方が良かったのでは……」
 同じ班に配置された多野の侍がずっと聞きたかった事を聞いてしまう。なぜなら、五ツ音以外は巡回警備は組織した自警団に任せ、それぞれ黒幕調査へ向かったからだ。
「まぁ、それはそうでありますが……自分は、先だって敵の情報を集めた際、下手をすると敵に気取られている可能性があるので」
 そう言うと五ツ音は声を落として。
「で、ありますので、このまま少し目立ちつつ巡回を続け、できる限り自分たちは調査が進展していない、と敵方に思わせたいのであります。下手をすれば敵の襲撃に遭う可能性もあるにはありますが……」
 自分の作戦のせいで、この班員の皆を巻き込む事になると思い、僅かに言い淀む五ツ音だったが。バンッと後ろから僧兵の1人が肩を叩き。
「何を遠慮なさる事があるか! 拙僧らは償いの為に犬神藩に尽くす所存、危険な任務、臨む所ですぞ」
 その言葉に残りの僧兵達も「応っ」と同意し、多野の侍2人もお互い頷き合ってから。
「吹鳴管殿、我ら2人も忠先は違えど僧兵方と同じ気持ちです。あの落城間際の十石城から生き存えたのは吹鳴管殿達のおかげ、今更臆病風に吹かれる我らではありませんとも」
 彼らの忠義は組織に尽くすソレであり、五ツ音にとってそれはずっと昔、命宿りしヤドリガミとして目覚める前から常に共にあった者達と同じである。ふと、戦場の記憶が頭をよぎる。あの頃は……――。
「吹鳴管殿、吹鳴管殿、どうなされた?」
「もしや、我ら何か気に障る事でも……」
 僧兵と侍とがすぐに反応しなかった五ツ音を心配して聞いてくる。五ツ音はふるふると頭を振り否定と共にあの頃の記憶を振り払い。
「いえ、何でもありません。少し、昔を思い出しただけであります……」
 そう言うと五ツ音は大きく息を吸い、周辺の誰かしらにまで聞こえるよう。
「この村に手がかりはありませんでしたが、いつか必ず窃盗団は現れるはずであります! さあ、次の村へ向かいましょう!」
 そうして赤髪の軍服女性を筆頭とした目立つ自警団部隊が、堂々と村から村へと巡回を進めるのだった。


 そこは戦国時代に建てられた出城の廃墟だった。その最奥の部屋にて若い、二十前後の細身だが筋肉質な男がぼろぼろの畳にあぐらをかきつつ、広げた地図を眺めていた。
「で、前にオレ等の事を調べてる赤毛がいるって話だったが、その後はどうなってる?」
 地図を見つつ部屋に入ってきた3人の山賊の下っ端を詰問する。その顔は整い美形と言って差し支えなかったが、その言葉に乗った重圧は見目のどうこうを越えて恐怖で聞く者を塗り潰す。
「へ、へい。例の赤毛ですが、どうも20人ぐらいの僧兵やらを引き連れて戻ってきやした。それ以外にも何班か似たような人数で村や宿場を巡回しているようです」
「多野の姫さんに僧兵なんて手札はなかったはずだ……チッ、あの赤毛、犬神藩の狗だったか。多野の姫さんにせっかく脅迫状を出しといたっつーのに……使えねぇな」
「ど、どう致しましょう?」
「慌てるな。それより、その赤毛はオレ達の事にどの程度気がついてる」
 若く美しい山賊の頭領は、しかし冷静に状況を理解しようとする。対して山賊の下っ端達は出来る限り早くこの場を逃れようと深く考えず、手に入れた情報を次から次へと報告。
「ハッ、とんだ無能達じゃねーか。なんの調査も進展無しかよ。それならお前等は今まで通り動いておけ。もっとも、その自警団とやらには捕まるなよ」
「へ、へい。わかりやした!」
 そう返事し部屋を出て行く下っ端達。
「くくくっ、簡単過ぎるぜ……もっとも、食いもんしか盗んで来れねぇってのはつまんねーな。さっさと終わらせて好き勝手暴れさせて貰いたいもんだ」


「おう! 手前ぇもう一度言って見やがれ!」
「ああ、言ってやる! 海の漢がなんだって? 漢なら山掘ってなんぼだろうが!」
「海の怖さも知らねぇーで、山なんて風も潮も影響受けない安全な穴蔵だろうが!」
 取っ組み合いの殴り合い、犬神藩の城下町の酒場で昼間っから喧嘩が始まり、周囲で飲んでいた者達が机を移動させ、店の主人と看板娘はどうすればいいかとオロオロするばかり。
「おい止めろ」
 そこに割って入るは藍色の髪の青年。一瞬、その見た目から女性かとも思ったが、そのただ者では無い佇まいから、ただの町娘のはずが無いと喧嘩をしていた2人も僅かに熱が冷める。そうして割って入った青年――目面・真は、2人の腕を掴み強引に降ろさせると。
「なんで殴り合いになるんだ。主人に聞いたら最初は意気投合して飲んでたって話じゃないか」
「そりゃ、こいつが海より山がって言うから……」
「なにを! そりゃこっちの台詞だ!」
「待て待て待て、具体的に思い出してくれ本当にそれぞれがそんな事を言ったのか?」
 真の言葉に漁師と鉱夫は酔っている頭でうんうん考え、そう言えば途中から3人で飲んでいてその3人目がそれぞれに海だ山だと話題を振って……。
「あの野郎だ!」
「そうだ、思い出した!」
 なぜか仲直りし出す漁師と鉱夫を見つつ、真は内心で「(またか……)」と溜息を付く。
 寺社仏閣や町の酒場などを回って多野の民と犬神の民が険悪な状態になっているか等を調べているが、やはり扇動している輩がいる。だが、その尻尾を掴むのがなかなか大変なのだ。運もあるかもしれないが……、と真が思い出した頃。
「目面殿、ここにおられましたか!」
「あなたは……」
 それは美濃姫の屋敷にいた多野の侍の1人だった。なんでも大変な事態が起きたとかで急ぎ戻って来て欲しいとの事。
「具体的には?」
 酒場を出つつ伝令に来てくれた侍に聞く。
「申し訳ありません。詳しくは姫様の口から……今、他の猟兵の方々にも一度集まるよう連絡が言っているはずです」
「わかった。まずは急いで戻ろう」


 美濃姫達に与えられた武家屋敷に、再び猟兵達が集合する。
 最も自警団として巡回に出ている五ツ音と、領主たる里見義巳に報告に戻っている朝比奈・心乃は不在であったが、それ以外はなんとか戻って来れたようだった。
 屋敷の広間には美濃姫の他は多野家家老の2人と上級家臣が2人、それ以外の家臣のほとんどは自警団に参加しており、ここにはいないようだった。
「皆、急ぎの呼び出しに応じてくれてすまない」
 美濃姫が真剣な表情で告げ、何が起こったか聞く猟兵達に事態の内容を告げる。
「国境沿いの宿場町が一触即発だとの報が入ったのだ」
 そこは宿場町には多野の民の中でも、それなりに財を持って逃げた者達が空き屋を借りたり、金にあかして宿を占有したりしていたとの事なのだが……。
 美濃姫は頭を抑えつつ。
「頼む、黒幕の調査を依頼しておいてこう言うのもなんだが……誰かしら宿場町に行って事態を解決して欲しい」


 犬神藩領主里見義巳が居城、里見城。
 その大広間には、領主里見義巳の他は信頼厚い老中が1人。
 他の老中や若老中を人払いしているのは猟兵たる心乃から、内密な相談があると持ちかけられたからだった。
「して朝比奈殿、御館様に内密の相談とは何事ですかな?」
 老中の言葉には信頼と不安があった。それは猟兵への信頼と、犬神藩への何か問題が降りかかるのではとの不安だ。
「はい。ですが……うーん、実は私もちょっと迷ってて……」
 腕を組み身体ごと横に倒れるよう悩む心乃に。
「よい、話してみよ」
「……んーむ、では――」
 心乃が引っ掛かっているのはいくつかある。
 美濃姫が与えられた武家屋敷の中で書状を拾った事が最初の違和感だった。
 もしそれが敵の思惑通りなら猟兵が動くことも想定内……つまり、猟兵の戦力が国境に向かう事も、そして戦力が分散した今、美濃姫を狙う絶好の機会が巡ってきている気もするのだ……。だが、もし美濃姫を狙うなら、書状を置くことすら出来たのだ、それこそ猟兵が来る前にやれたはず……。
「それに、多野藩の北に現れた武者軍団が民を無視してまずは城の陥落を目指した事も不可解かと……だってだって、オブリビオンが目の前の生きた人々を無視して一直線に城攻めなんて……」
「オブ……なんとかとは、そういう物なのですかな?」
 老中に聞かれ、逆に言葉に詰まる心乃。そう言われると一概にそうとも言えないか……とも思ってしまう。無目的に目に付く生者を襲う怪物も居れば、強力なオブリビオンに使役され従うオブリビオンもいる。それこそボス級のオブリビオンはある程度の目的(と言っても碌でもない目的ばかりだが)を持って行動している節もある。
「う、うーん……」
 正直、もしかしたら漬物石事件も繋がっているのでは……と勘ぐったのだが、老中に聞いて石層宗の後始末の資料を見せて貰ったが、あの事件が今回の事件と繋がっているような証拠は見つからなかった。どうもあれとは無関係のようだ。
「あ、そうだ。多野藩のさらに北にある狒々堂藩ってどんな感じかわかりますー?」
「狒々堂か、奴とは先祖代々険悪な中でな、元々は多数の鉱脈を持つ多野の地を奪い合う間柄だったのだが……15年前ぐらいか、十石殿の奥方に諭されてな。表だってどうこうする事はなくなったのだ」
「それはつまり、裏を返せばくすぶってる火もあると?」
「……うむ、民の中には積年の恨みを持ち続けている者もおろう。お互いにな」
 領主、里見義巳にとって狒々堂との関係は悩みの種なのか、浮かない顔のままそう告げるのだった……。


 国境沿いの宿場町が一触即発だと言うので、急ぎ現場へと向かったのは化野・クミホとコノハ・ライゼの2人だった。民同士の争いなら弁が立つ者がいった方が後々遺恨を残さないとの猟兵達の判断である。
 そうして2人が到着した宿場町は、人っこ1人往来におらず、誰もが家の戸をしめ閉じこもっていた。閑散とした状況だが寂れた雰囲気は無く、ただこれから始まる争いに住民が息を殺している……そんな緊張感に包まれていた。
「仕方ありません、あまり気は乗りませんが……」
「何を言ってるの? アナタみたいに交渉が得意な人がいてくれて本当助かったって、姫サンも言ってたじゃナイ?」
「いえ、そういう意味では無くですね……――」
 そこまでクミホが言った所で2人はその気配に気が付く。
 2人が佇む宿場町の大通りのど真ん中、その右側から向かってくるのは桑や鎌などを持った多野藩の民達、左側からも棍棒や包丁などを持った犬神藩の民達……。
 両藩の民はクミホとコノハを挟んで大通りで睨み合う。
「多野の民は出ていけー! 俺達の国から出ていけー!」
「うるせぇ! ご領主様が認めたんだ、おまえらが何言おうと関係ねー!」
 猟兵2人を挟んで言葉を応酬する民達だが、やがて間にいる2人が邪魔になったのか。
「おい、そこをどけ!」
「邪魔だぞ! 巻き込まれてぇのか!」
 やがて矛先は2人へ。
 すると、先ほど言い止めた事の続きかクミホが呪を唱え……。
 ボ、ボボボ、ボボボボボボッ!
「このように、力押しな部分が必要になるのを……仕方ない、と申したのです」
 クミホの周囲に十を超える狐火が出現・浮遊し、両藩の民達がいきなり現れた炎にビクリと驚き口を閉じる。
 だが、すぐにただの火だと気が付き再び口を開こうと――。
 ブンッ!
 再び口が開かれるタイミングでクミホは薙刀をなぎ払うよう大仰に振るうと腰溜めにピタっと構えと取る。
 それはまるで、口を開けば解っているな、と行動だけで伝えているようで……。
「どうやら、此方の話を聞いていただける態度になったようですね」
 クミホの一挙一動に制圧された民達は、ごくりと唾を飲み込むだけで、静かにたたずむ。
「はぁ~……さすがネ、力の使いどころを知っているというか何と言うか」
 感心するよう言うコノハだが、すぐに両藩の民達に向かって語り掛ける。
「犬神の民達も、多野の民達も、ドウして相手が悪いと思うの?」
 どよどよと小声で話しだす民達。
「アア、聞き方が悪かったわネ。相手を批判するその言葉、誰からドウ聞いたの? 今、あなたが聞いた時にいた本人はソコにいる?」
 それならココに……と民達がキョロキョロし出すが、すぐに自分がその話を聞いた相手がいないと気が付き、動揺が広がり始める。その機をコノハは逃さず畳みかける。
「どちらの藩の民達も、ソンナ輩、いないんじゃナイ? あなた達み~んな、今ここにいない輩に踊らされているの、そんなの馬鹿馬鹿しくなぁい?」
 コノハの言葉に「確かにいない」「まさか妖怪?」「あっちの民達の方も同じっぽいぞ」「俺達全員、騙されたのか!?」と自分達が踊らされていたとの雰囲気が広まり、両藩の民達が次々に武器を持っていた手を下ろしていく。
「(コノハ様もずいぶんなお手前で)」
「(そんなぁ……。でも、オレ達の目的はいないみたいネ)」
 クミホの言葉に小声で返答し、コノハは自身が用意していた黒い管狐に出番が無い事を告げる。
 本当ならここで情報源の奴がこっそり逃げ出すのを発見し、黒い管狐に追跡させようという作戦だったが、すでに一触即発にまで発展したこの宿場町は、介入による操作はこれ以上必要ないと判断したのか、すでに扇動した者はいなくなっていたようだ。
「ま、被害無く止められたならいいでショ」
「そうですね」
 コノハの言葉にクミホが肯定する。事実、この場には交渉が有利に進む技能を持つ2人が不可避だったろう。死傷者が0で状況を鎮圧した功績は大きかった。


 犬神藩の物流、その中継地点――大きな宿場町、で張り込みを行なうはヴィクトリア・アイニッヒと桐・権左衛門のコンビだった。
 まさか盗んだ作物をその場で処分している訳ではないだろうと、どこかへ運ぶ出す管理をするなら一度この街で荷を整理するはず……。
 そう読んだ二人はまずは盗まれたであろう作物の荷物を探し出し……なんとかそれっぽい物を見つけると、ある細工を行なった上で、一度その荷物からかは距離を置き、大通りの茶屋で休憩しつつ人並みを見つめる。
「やはり人が多いですね……ここなら噂を拡散するのに持って来いです」
「せやな、ここなら扇動する輩が見つかるかもしれん。どっちにしろ、こういう時程冷静にやな」
 そうして2人はじっと時を待つのだった……。


 一方、国境の村で作物の蔵を警備させて欲しいと申し込んだのは紺屋・霞ノ衣と月舘・夜彦。
 そして今、2人は件の窃盗団と相対していた。
「犬神を引っ掻き回して、多野の信頼を失わせようってことかい? 随分と姑息な事をしてくれるもんだね!」
「国境付近での事件となれば、ただの窃盗ではありません。村の被害が多野の原因と言われれば藩主の里見様も動かざるを得ないでしょう。そうなれば多野の復興は遠いものとなる……いえ、もしかしたら本当の狙いはそちらなのでしょうか?」
 窃盗団は5人組であり、ボロを纏った男たちであった。霞ノ衣と夜彦の言葉に。
「そんな事知るか! お前ら、やっちまうぞ!」
 それぞれ得物を抜いて襲い掛かって来る窃盗団達。
「やろうってのかい? アンタ達、狩りの時間だよ!」
 瞬間、霞ノ衣の影から次々の蒼毛狼が飛び出し、群れと呼べる数となり一斉に蔵ごと窃盗団を取り囲む。
「アンタ等の中には、唆されてやる奴もいるかもだしね、殺しゃしないよ。だが、抵抗するなら……この子達が手加減できると思わない事だ」
 霞ノ衣の言葉に窃盗団が震えあがる。誰だって狼の餌にはなりたくない。ガシャガシャガシャンと手に構えた刃物を捨てる窃盗団達。
「で、アンタ達、誰に言われてこんな事をしたんだい? アタシらはそいつに借りがあるんでね。これから殴りに行く所なのさ」
「そ、それは……」
「やりな」
 霞ノ衣が無情に命令し、質問に言いよどんだ男以外に青毛の狼たちが襲い、1人を残して昏倒する窃盗団達。
「お、お頭だ! お頭に言われたから俺等は! 頼む、命だけは!」
「ふんっ、じゃあそいつの所に案内しな」
「へ、へい」
 昏倒させた窃盗団は縛っておき残った一人に案内役を恫喝により要請、窃盗団のアジトに向かおうとする霞ノ衣に夜彦が言う。
「申し訳ありません、少々気になる事があり……あとは任せてもよろしいでしょうか?」
「野暮用かい?」
 そう言って夜彦を見れば、その目に不誠実な色は無い。
「なんだか解らねーが、いいぜ。こっちは任せときな」
「ありがとうございます」
 一礼するとそのままきびす返す夜彦。
 向かうは犬神藩の城下町。
「美濃姫様……」
 もちろん、それが杞憂で終わってくれれば何より良いのだが……。


 たかく、もっとたかく……。
 レイチェル・ケイトリンは地を蹴り、空を蹴り、さらに念動力で空中に造った足場を蹴り、さらに空へ空へ。
 人形たる自分には翼も羽も無いけれど、それは飛ばない理由にはならなかった。
 なぜなら――。
 わたしはお姫さまにやくそくしたんだから……!
 そう、わたしには飛ぶ理由がある。
 あの約束が。
 何度も挫けそうになり、失敗し、落下する事もあった。
 疲労困憊になり、落下の旅にボロボロになっていくが、それはレイチェルにとって辞める理由にはならなかった。
 あのお姫さまはわたしたちを、たよってくれた。
 次はわたしたちの番……。
 わたしはいくらでもとべる。
 たかく、もっとたかく……。


 国境の宿場町。次のターゲットはここだろうと目星を付け、作物や米俵が保管されている蔵が見える位置で身を潜めるのはトゥール・ビヨンと真、そしてレッグ・ワートの3人だった。国境の村や宿場町で情報収集しつつ、多野の民が窃盗など起こさないと説得して回るのは中々に骨の折れる仕事だったが。
「多野の民が犬神の民の仕事を奪うコトや、ましてや窃盗などはたらかないという事実を地道に積み上げていくしか、双方納得しないだろう」
 との真の言葉通り、地味で疲れるやり方だったが、ある意味一番近道ともいえるやり方だったのかもしれない。
 故に最終的にはどこの民もこちらに協力してくれて、今回の作戦へと繋がったのだから。
 やがて、宵闇の中、十数名のボロを纏った窃盗団が蔵の周りに現れる。予想外の人数だった。
 とはいえ真達にも作戦がある。人数は多かったが決して実行できないわけではない……。
「作戦を実行しよう」
「了解だ」
 真の言葉に糸を数本握ったレッグが答え。
「それじゃあボクは隠れるね。あとは頼んだよ2人とも」
「ああ」
「そっちも気を付けろよ」
 そうしてフェアリーのトゥールだけ別の場所へと身を潜める。
 チリンチリンチリンッ!
 唐突に鳴り響く鈴の音、窃盗団達が周囲を警戒して振り返った――その瞬間、蔵に一歩踏み込んだ最初の1人が消える。いや、設置されていたトワイヤートラップに引っかかって一気に蔵の天井付近まで吊り上げられたのだ。
「よし、次だ」
 それを見ていたレッグはが更に手に持っていた糸を引く、次々に天井へと招待される窃盗団達。
「行くぞ」
「おう!」
 ワイヤートラップがひと段落した時点で、真は腰に差した義光に手をやり窃盗団に向かって走り込み、またレッグも鉄骨を抱えバイクにのって突っ込んでいく。
 宵闇に紛れてトラップと同時に奇襲、普通に戦えば押し負けていた数かもしれなかったが、事前準備が的確だった為、互角以上に窃盗団を押していく。
 そして、先に音を上げたのは窃盗団の方だった、2~3人が慌てて逃げ出したのだ。
「逃げるな!」
「待て!」
 真とレッグが叫ぶが、2人は叫ぶだけで実際に逃げた窃盗団を追わず、倒した10数人を捕縛していく。
 逃げた奴らを追跡するのも、もちろん作戦に組み込まれている。
 2人はきっと追って行っただろうトゥールに対し、気を付けろ、と心の中でつぶやくのだった。


 五ツ音が率いる自警団は目立ちつつもそれなりに成果を挙げていた。
 わざと目立って敵に無能を見せつける、という作戦ではあったのだが、まさか無能と思われ過ぎたのか、唐突に30人近い山賊達に襲撃を受けたのだ。
 もちろん、いくら僧兵達や多野の侍がそれなりに強いとはいえ、1.5倍もの戦力と戦えば敗北しただろう。しかし、こちらには猟兵たる五ツ音がいるのだ、その程度の戦力なら十分引っ繰り返せる。
 結果、襲って来た山賊を逆に捕縛、理由を問いただせば彼らは村や町から作物を奪っていた窃盗団の一部だと言う。
「棚ぼた……とでも言うべきでありますか」
 うーん、と悩む五ツ音。
 敵戦力を減らせた事は悪い事ではない。だが、このままでは無能を装う作戦も早々にバレてしまうだろう。
 ならば……。
「皆さん、ちょっとお願いしてよろしいでありますか?」
 五ツ音の言葉に班員たちは「もちろん」と。
「半数はこのまま巡回を続け、残り半数は他の巡回している班や、別途動いている猟兵達に伝令を頼みたいであります」


 その村に響き渡った歌声は、それを聞く者全てを魅了し、いつの間にか剣呑な空気は払しょくされ、多野の民も犬神の民も、いつの間にか村へやってきた2人の猟兵の話を聞く体勢へと変えていた。
「ご清聴、ありがとうございます」
 ジェフリエイル・ロディタが優雅にお辞儀すると、普段歌などわらべ歌程度しか聞かない犬神藩の村人(と多野の民)達から拍手が巻き起こる。
「それで、どんな事情があるにせよ――いえ、事情など関係ありませんね。このようなことを行なうのは
あまり関心いたしませんよ」
 ジェフリエイルと一緒にその村へやって来ていた逢坂・宵が、聴く耳を持ってくれた多野の民達を諭す。
 この村は多野の若者達が物資不足を理由に犬神藩の村より勝手に食べ物や畑の野菜等を盗んでいた(本人たちは仕方なく少しだけ貰っていただけ)のだ。
 相手が完全な民であるゆえ実力行使に出るわけにもいかず、2人はとにかく話を聞かせる状況を作り、説得に当たっていた。
「このような行いをして、手を染めたら二度と戻れないようなものです。人の社会は厳しいですから、しかるべき所に突き出され、しかるべき罰を受けることになるだけです。あなた方もそれはわかってやっていたのでしょうね」
 微笑むように言う宵の言葉は、しかし多野の若者たちの罪悪感を突き刺してくる。
 もうひと押し……そう感じた宵が最後に。
「命を賭けてあなた方を逃がした美濃姫様が、この事をお知りになったらどう思うか……あなた方を受け入れてくれた犬神のご領主様がどう思うか……あなた方だけの問題ではありません。犬神の地へやってきた他の多野の民も全て、あなた方の罪のせいで不当に扱われる可能性もあるのです。もちろんそれも、わかってやっていた、のでしょうね」
「す、すまない! 俺達が短絡的だった!」
「この通りだ。許して欲しい」
「俺等が盗ったもんはただ働きでもなんでもする!」
 1人が土下座し、若者たちが次々にならうよう頭を下げていく。
 それを見て怒っていた犬神の村人たちも少しずつ優しい表情に戻っていく。彼らだって故郷を追われた多野の民の気持ちが全く分からないわけでは無いのだ。村を失った者がどう生きていけば良いのかも、その不安も……。
 パンッ!
 ジェフリエイルが柏手1つ。
「実はね、こうも輝いている僕の実家は農家なんだ。何か野良仕事でも手伝える事がないかな? 僕も一緒にやろうじゃないか」
 ちらりと多野の若者たちにウィンクしつつそう発言する。
「それじゃあ……」
 冬場の農家は家で藁を結って草鞋を作ったり、俵を作ったりと地味な作業が続く。
 少しいつもと違うのは多野の若者たちも一緒になって手伝ってくれている事と、ジェフリエイルが異国(異世界?)の仕事歌を歌いながら作業をしている事だろうか。
 今や、多野と犬神で険悪なムードは一切ない、犬神の民が多野の民を大変だったろうと労い、また多野の民が犬神の民に感謝を伝え、お互いがお互いの事を思って一緒になって作業をする。
 そんな中、宵が多野の若者たちに聞く。
「一つ、教えて下さいますか。あなた方に指示を下したのは、誰です?」


 トゥールはその身体の小ささを活かして逃げ出した窃盗犯を追跡していた。
 今の所気が付かれた様子は無く、窃盗犯は国境を西へ西へと進む。
「(国境を北に逃げて多野の領地に行くと思ったんだけどな……)」
 予想が外れた事に首を傾げつつ追跡を続けるトゥールだが、やがてその進行方向に多数の人影を見つけてスッと木陰に隠れ、様子を伺う。
「(あれは……オブリビオン?)」
 20体ぐらいだろうか。強力なオブリビオンに従がうような配下タイプのオブリビオン達だった。逃げていく窃盗犯が気が付かずオブリビオン達と接触してしまう事に内心焦るが、なぜか窃盗犯をオブリビオン達はスルー、そのままさらに西の森の中へと逃げていく窃盗犯。
「(仲間だと認識されている……のかな?)」
「トゥール?」
 その時、そばから小声で名を呼ばれた。見ればそこには霞ノ衣とヴィクトリア、権左衛門の3人が草陰に隠れているではないか。
 スッと仲間達に合流したトゥールはもしかしてと。
「みんな、窃盗犯を追跡してここに?」
「アタシは1人捕まえていたんだけどね……急に走り出したと思ったらアレがいてね。ったく、舐められたもんだ!」
 今にも20体と戦おうと言う感じで霞ノ夜が言うも、ヴィクトリアが。
「いえ、たった4人で戦うのは得策ではありません。負けはしませんが、伝令等に走らせる可能性が高いですから」
「せやで、ここで引き返しておけば、これは突破でけへんしって敵が勘違いしてくれるやろ。五ツ音はんがうちらが無能って思わせるためのいのいてるのやし、この有利を捨てる必要はあらへんって思うやろ?」
「確かに……それならボクも一度戻った方が良いと思うな」
 トゥールにまで賛成され、さすがの霞ノ衣は髪をぐしゃっと書くと「わかったわかった」と一度戻る事に同意する。
「そういえばヴィクトリアさんと権……桐さんは?」
 なんとなく名前で呼んだら飛び蹴りが来そうな予感がしてトゥールは苗字で呼ぶ事にする。
「うちらはコレで、な」
 にやりと権左衛門が見せるは異世界で作ら得た発信機だ。
「発信機です。窃盗犯が盗む荷物につけておいて、これを辿って来たらココに」
 ヴィクトリアの説明で納得する。それがあるなら今は一度戻ってもすぐにアジトに急行する事は可能だろう。
「おい、戻るならさっさと戻ろうぜ? ったく、しょうがないね」


「美濃姫様、私の提案を受け入れて頂きありがとうございます」
「いや、それでお主の気が済むなら……こちらは僧兵達を使わせてもらっている身であるしな」
 武家屋敷にある美濃姫の部屋前、廊下より中の美濃姫に心乃が語り掛ける。
 心乃の提案とは僧兵を20人程、この屋敷に常駐――美濃姫の護衛につかせたい、という内容だった。
「もちろん、それが杞憂に終われば良いのですが……」
「そういえば朝比奈殿に少し聞きたい事があったのだが……良いだろうか?」
「なんなりと」
「犬神藩の藩主殿はどのような方なのだ? 父から立派な君主どのだと聞かされてはおったし、実際に我らが民を受け入れてくれた度量も嘘偽りはないと思うが……」
 疑っている……という程ではない、ただ、この姫様は身を寄せる犬神藩の藩主の人となりを心配しているのだろう。騙されてはいけない、自分の身に民の命運がかかっている事を解っている……そう心乃は感じ、この姫様の事が理解できた気がした。
「いいですよー、実は少し前に漬物石の窃盗事件が城下で起こりまして」
「は? 漬物石? 唐突過ぎて意味が解らぬのじゃが……!?」
「あはは、やっぱそうですよねー。まぁ、続きを聞いて下さい。それで……」

 心乃が美濃姫と談話している間、屋敷に残っていた穹は1人深刻な顔をしていた。
「(……姫さんが偶然書状を拾った……? 洒落にならないぞそれは……)」
 美濃姫が簡単にいった書状の入手経路について、誰より深刻に受け取ったのは穹だった。
 もし本当に姫さんが拾ったと言うなら、姫さんの行動範囲を知っていて、しかもこの屋敷に入っても違和感のない人物と言う事になる。もちろん、誰に拾われても良いという意図で投げ入れ、それを偶然姫さんが拾ったという可能性も無いわけでは無いが……。
「先にそっちを調べるべきか……」
 姫さんや家臣達の性格からして、家臣が拾ったら姫さんに内緒にする可能性がある。とすると、姫さんが確実に読むためには、姫さん宛の書状をある程度の数ばら撒いて、その内の一通を偶然姫様が拾えた……という可能性が残り。
 穹はその可能性を潰す為、家臣達に書状を拾わなかったかと聞いて廻る。だが、同じ書状を拾った家臣は誰もおらず、どうあらあの書状は姫さんが拾った1通だけだったらしい。
「(……下手をすれば多野藩の方々の誰かが犯人、または手引きをした可能性すら疑う必要が出てきたぞ……最悪だ)」
 屋敷内の女中にまで聞いて廻り、その結果に渋面となっている所に息を切らせた夜彦が帰って来くる。
「あんたか」
「涼風殿、美濃姫様はご無事か!」
「無事だ。それに心乃が僧兵20人を姫さんの護衛に付けた。そうそう手出しはできないだろうさ」
 夜彦の様子にピンと来た穹が簡潔に説明する。
「そうですか……良かった」
「あまり良い状況とはいえないがな……」
「それは、どういう?」
 穹は話す。多野の家臣の中に裏切者がいる可能性を。もちろん、すぐに美濃姫が狙われる事は無いだろう。もし美濃姫の命が狙いなら自分達猟兵が来る前に話は終わっているはずだからだ。
「まぁ僧兵20人がいればそうそう手出しはできないはずだ。裏切者も可能性の話で本当は誰も裏切ってない可能性もあるしな」
「そうですね……どちらにせよ、今回の黒幕、さっさと倒した方が良さそうです」
「ああ、それには同意だ」


 国境に近い宿場町。そこにある宿屋の2階を貸し切り事件解決に動く猟兵達が集まっていた。
「皆さん、急に呼び立ててしまい申し訳ありません。ただ、美濃姫がいらっしゃる城下まで戻っては時間のロスが大きい為、自分の独断でここに集まってもらったであります」
 皆を招集した五ツ音が一言前置きしつつ集めた理由を話す。それは自分達が今は圧倒的に有利な事、敵がこちらの動きに気が付く前にさっさと叩くべきだという事、要約するとその2点だ。
 もちろん、その2点について反論する者はいない。
「とりあえず私達の報告から先にしましょうか」
 先陣を切ってクミホが良い、一触即発だった宿場町の騒動は穏便に沈めた事。また予測通り扇動者がいたようだが、すでに宿場町を出て尻尾を掴む事ができなかった旨を伝える。
「ごめんネ~」
 コノハが謝るも、姫様直々に依頼された緊急事態を血の1滴も流さず解決できたのはこの2人だからこそだろう。
 次の報告するはジェフリエイルと宵の2人だ。
「僕達の方が多野の若者たちが窃盗に走ってたのを説得して来たよ。今は村の人とも仲良しになったし今度はもう大丈夫だと思う」
「それと、扇動者……と言うのかわからないが、黒い法師のような人物を見たと言っていました」
「黒い……法師……」
 宵の報告に緊張感が走る。少しだけ敵の輪郭に迫れたという事か……。
「次はアタシに言わせてくれ」
 霞ノ衣は村の保管されていた作物を狙った窃盗団は捕縛しうち1人に拠点まで道案内させるも、途中でオブリビオン20体が現れ逃げられたと言う。
「すまねぇ、この借りは殴り込みの際、何倍にもして返す」
 霞ノ衣がパンッと拳を手で受け止めて悔しがるも、「それはボクも一緒だよ」とトゥールが自分の追跡した1人も霞ノ衣と同じくオブリビオン20体に阻まれ逃げられたと説明する。
「ごめん、真とレッグが頑張ってくれたのに……」
「気にするな」
「そうそう、気にしてねーよ」
 真とレッグも気にしないと返す。逃がすと思っていたという事ではなく、もちろん仕方が無いとの意味だ。
「そのオブリビオン20体がいたというのはどの辺りの森でありますか?」
 五ツ音が近隣の村や宿場を周って手に入れた地図(墨で手書きのもの)を広げて聞く。
「たぶん、ここ、かな?」
 答えられない霞ノ衣に代わりトゥールが言う。だが、この時代の地図だ、縮尺が完璧でもなく、また街道から外れたカ所は大して情報が無いのが普通だ。だいたいでしか言えなくても仕方が無い。
「一応、それに関しては多少は詳しくわかると思うで?」
 権左衛門が発信機を取り出す。どの方角に行ったかはわかる為、少々手間ではあるが最終的には敵の拠点に行き付く事は可能だろう、と説明する。
「あ、ボクのパンデュールに繋げば、GPSで細かい位置が解るかもよ?」
 トゥールの言葉に『おお』と皆が声をあげ、実際にやってみようとデータを挿入し弄ってみるも……。
「あ、ダメだ」
 サムライエンパイアは基本的にUDC世界の日本と同じだが、細かい地形まで完璧というわけではない。一応、座標が解ったので純粋な距離は算出できたが……。
「自分としたことが抜けていたであります……正確な地図は戦略上必要不可欠なのに……でも、最低限の距離が解れば行軍にかかる時間は計算――」
 少しでも有利に立ち回れないかと皆が相談し始めた、その時だった。
 ドダン……――。
 誰かが部屋に入って来るなり倒れ込む。
 一番外で壁にもたれ掛かって話を聞いていたコノハが「レイチェル!?」と抱き起す。
 それはボロボロになったレイチェルだった。
 敵にやられたような傷は無いが、いったい何をどうすればこんなボロボロに……。
「私が」
 クミホが駆け寄り祈りで傷を癒す。
「ありがとう、ございます……あ、あの……これを……」
 レイチェルが差し出したのは百枚状の写真だった。
「地図……ひつようだと、思ったから……」
 ザワッ! と全員が写真をうけとり机の上に並べる。
 それらはすべて高度から撮影した航空写真だった。しかも、ほぼ同じ高度で取ったのか縮尺への計算も可能そうだ。
「これがあれば……!」
「データ化してパンデュールに入れよう。これでGPSも使えるはず!」
「でも、どうやってこれを……?」
 宵がこの世界に飛行機など無いのに……と不思議そうに聞くと。
「ジャンプと……念動力の足場で……が、がんばって……」
 レイチェルがたどたどしく説明する。
 それはまさに人力での無謀な行動だと言える。高さを合わせる為になんどやり直したか、空中に足場を作ってジャンプすると言っているが、偶然大失敗(ファンブル)する事だってあるだろう。
「わたし……お姫さまに、やくそくしたから……」
 その言葉に全員の心に火が灯る。
 ここで奮起せず何が猟兵か。
「場所、出たよ! 森の中に古い出城みたいのの廃墟があるけど、そこにいるみたいだね」
「皆さん、今ならまだ敵はこちらへの準備は整ってないはずであります。城下より朝比奈殿、涼風殿、月舘殿もこちらに向かっているとの報もあり、今こそ千載一遇のチャンスであります!」
「いいね! それじゃあ、殴り込みに行くとしようか!」


「お頭! お頭―――っ!」
 廃墟となった出城跡、その最奥の部屋に下っ端の山賊が慌てて入って来る。
「うるせぇ、騒ぐな!」
 二十前後の細身だが筋肉質な男が酒を飲みつつ、入って来た部下を叱責する。
「す、すいやせん。それより、敵が! 頭の言ってたいえーがーって奴だと思いやす。森の入り口に控えさせていた20人の奴らが蹴散らされたみてーで」
「何だと!? 無能な猟兵どもがどうして!」
「わ、わかりやせん、ただ、人数は十人以上いるようで……」
「ちっ」
 報告と違うと苛立ちを募らせながら立ち上がる。猟兵は2~3名、他は一般の侍や僧兵って話だと思っていた。
 こちらは配下にした山賊どもが計100人に、オブリビオンの配下が40人、気が向いたら一気に数に任せて押しつぶす予定だったが……。
「いつの間にそんなに数を増やしやがった……!」
「か、頭、あれは使えないで? ほら、多野の姫さんを脅迫するみたいな」
「それはオレじゃねぇ!」
 あの人に連絡も取れない今、美濃姫の方を脅迫する動きは取れない。なんとかここにいる戦力で対抗せざるを得ない……だが。
「おい、部下たちを全員呼び戻せ」
「そりゃ無理で! 俺達の仲間はほとんど村や宿場の辺りで戻って来るまで時間が……それに、もう敵はすぐそこなんですぜ!?」
「使えないゴミが!」
 ……立ったまま手に持っていた酒を部下に投げつけ。
「お前らは何人ここにいる」
「へ、へえ、あっしを入れて10人程で」
 オブリビオンの配下20に、人間の山賊10、だったそれだけの戦力しかない。なら、やる事は一つ……。
「オレはこの部屋に陣取る。ここに」
 この部屋に辿りつく道は2つ。正面の門から一直線に来る道、もう1つは裏口から回り込んでくる道。
「お前らは5人ずつに別れて正面門と裏門を守れ」
「へいっ! あ、あの、おぶりびおんとかいう頭の部下はどう……?」
「あいつらは全員、この部屋に呼び戻す。さぁ行け! 早く! 死にたいか!!」
「っ!」
 慌てて部屋から出ていく下っ端山賊。代りにぞろぞろと20人の配下オブリビオンである武者達が入って来る。
 敵に援軍が来るのを防ぎながらボスだけ倒すのが戦術による勝利とするなら、援軍すら来ないようボス戦へと入った事は戦略的勝利と言える。

 喇叭ッ叭ッ叭ッ叭――!

 出城跡の周囲から喇叭の音が響き渡る。
 頭と呼ばれたオブリビオンの男は、もう来たか、と舌打ちすると。
 自身の部屋の衾を閉じて回ってから……。
「すでに負け戦か……だがなぁ猟兵共、オレは侍じゃねぇ、勝てなきゃ負けじゃあないんだぜ?」
 そう言ってニヤリと笑みを浮かべるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『美形な山賊頭領』

POW   :    行けっ!
【従わせた部下の山賊達】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    死ねっ!
【両手の鉄爪】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    皆殺しだっ!
【我を忘れる程の怒りに満ちた状態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠犬憑・転助です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●最終章予告

 敵が行なっていた策の全貌がやっと見え始める。
 そう、黒幕は犬神藩の民と多野藩の民を争わせ、
 この藩に騒乱の種を撒こうとしているのだ。

「チッ、もう来ただと! どういう事だ!!」

 しかし猟兵達も決して後手に回っているわけではない。
 敵の裏をかき、先手を打ち、敵の拠点を急襲!
 猟兵達を敵に回した恐ろしさを、今こそ見せる時だ!!

『国に必要な物~滅亡の愛姫~ 其の弐 』

 最終章 国を割る者
吹鳴管・五ツ音
(信号喇叭の吹鳴を止め)

ーー彼方は逃げ支度を整えてくれた頃でしょうか

十石の御城がそうであった以上、近隣の城郭には抜け道を拵える築城術があるものと考えた方が良さそうでありますし…
(先頃の美濃姫の大冒険を思い返し)

抜け道の情報を集める猶予もない以上、敵将に案内して頂く…先行していただいた猟兵の皆さんの突入に時間差を作って包囲の信号を吹鳴し、包囲を悟った敵方が逃げ支度を整えたところを先行した皆さんが抑える、でもしないことには、戦闘の喧噪に紛れて取り逃してしまいかねませんから

さて
だからといって此方の包囲を破られては片手落ちであります

大事な後詰めでありますよ
小隊、自警団各位、準備はよろしいか

攻城戦、用意


プリンセラ・プリンセス
「誰ぞ来よ。――戦の時間です」
ペルソナ・チェンジに応えたのは3番目の兄アベル。
プリンセラの髪がより長くなり、丸眼鏡と羽扇を持つ軍師然とした姿に変わる。
「奇しくも妹プリンセラと似た境遇。手を貸すのに吝かではありません」
前線ではなく後方から戦場全体を俯瞰し、数に劣る味方を支援。
「皆様、援護します。存分に戦ってください」
【行けっ!】で包囲されたりしないように、ジャッジメントクルセイドで援護する。
【死ねっ!】が強力なのでなるべく発動前にJCで動作を潰す。
【皆殺しだっ!】が発動したらJCで攻撃する。動作が指をさすだけなので対象にはなり難い。
「我らが国も今は盗賊が跋扈しているのかと思うと頭が痛い……」


レイチェル・ケイトリン
ほかのひとのうしろにしずかにいて
念動力と吹き飛ばしとかばうの技能とサイコキネシスで
わたしたちを攻撃してくる敵をふっとばすよ。


出城……「軍事拠点」だよね、犬神藩主さんもびっくりの。

山賊の親分がでてきたら
「犬神藩の治安を乱すものたちは、
多野藩のひとびとにぬれぎぬをきせ、かくれてうごき
『犬神藩の森の中に軍事拠点を密かに確保していた』。
そう、この出城こそが『犬神藩の重大な敵』のうごかぬ証拠、
わたしたちの勝利だね」っていってみるね。


山賊親分があばれてたら手下をそっちにふっとばしておそわせるよ。
死体だってうごかせる。きられてもいいし机や椅子でもいいもの。

そっちをわたしたちよりはやくうごかしてひきつけるね。


涼風・穹
今回は姫さんの所で留守番だ
俺の杞憂ならそれでいい
だけど、書状が届くタイミングも合い過ぎているし、もし此方の動きが今回の件の黒幕にばれているのであれば、この段階で何の横槍も無いというのは逆に気になる
……もし山賊達が捨て駒だとすれば、姫さんの周りから猟兵達がいなくなる今こそ何かを仕掛けてくる可能性は否定できないからな…

俺自身は他の猟兵達と出撃した事にして貰って、流石に姫さんには説明するけどそのまま姫さんの部屋の屋根裏なり押入れなりに隠れているぜ
それと姫さんには内緒で、姫さんを対象に『影の追跡者の召喚』を使用して俺自身と合わせて二重に見張らせて、何かあれば即座に飛び出す
……空振りであって欲しいけど…


紺屋・霞ノ衣
人探しってのはどうも苦手なもんでね
親分とやらを見つけるのは苦労したもんさ
……でも、仲間の力ってのは凄いもんだね
アタシが出来なかった事をやってのけた、本当に凄いよ
集まった人の力は良い様にも悪い様にも使える
さて、次はアタシがもっと頑張る番さ!

見た目は悪くはないが、やってる事は大した事ないねぇ
賊でも何でも奪って生きる者は、奪われる覚悟を持ちな
常に奪う立場には居られない、いつか逆になる時が来る
因果というものはそういうものなのさ

部下が増えようが関係ない
【怪力】と【捨て身の一撃】を乗せた【グラウンドクラッシャー】で全て吹き飛ばす
大地を揺らせ、魂を揺らせ、これがアタシの怒り
仲間の前に立ち塞がる者は全て砕く


トゥール・ビヨン
みんなとこのサムライエンパイアで行動を共にしてわかった事がある
みんなとても頼りになるって事

だから、小細工や駆け引きも抜きに
ボクとパンデュールはここにいる

黒幕、お前を倒してこの騒動の幕を引く!
いくよパンデュール
いざ、尋常に勝負だ!

先ずは周りの配下オブリビオン達を二回攻撃となぎ払いで掃討

パンデュールに搭載された戦闘知識で相手の行動を分析、ボスが怒り状態になったらボクとパンデュールが誰よりも速く動き武器受けと盾受けで敵の攻撃を引きつけいなし、時にはかばい続ける

そして、ここぞのタイミングでシステム・パンデュールを起動
速く、もっと速く!

終わりだよ!
ドゥ・エギールの高速の二回攻撃でトドメを刺すようにしよう


コノハ・ライゼ
館は館で気になる……いや
色々気ぃ揉むとか性分じゃねぇし、さくっと片して先に進めねぇとネ

外の山賊へ【月焔】分散し撃ち守り崩して道を開ける
配下オブリビオンへは
対象を2~3体に絞り炎を仕掛け、仲間が攻撃する隙を作り
自らも『2回攻撃』にて「柘榴」振るい『傷口をえぐる』よう攻撃
『生命力吸収』しながら体力維持すんよ

首領の反撃は厄介だし特に鉄爪なんざ受けたくナイが
理性失った反撃には月焔を最大数に分散
四方より動物の動きの様に操り隙作る囮としよう

分かり易く引き籠ってンね、生き延びる算段あるンでしょ
配下盾に逃亡されねぇよう注意しとくが
生憎止めるに有効な手を持たねぇンで
そんときゃ『捨て身の一撃』にて足止めるさ


西院鬼・織久
【POW】
【心情】
戦の噂を聞いて来たが
玉石混交と言った所か
構わぬ
我等が怨念は底無しなれば
全て平らげ糧としてくれよう

【戦闘】
「先制攻撃」を行い「殺意の炎」で牽制
それで隙が出来れば「ダッシュ」で接近
隙がなければ「範囲攻撃」も交えながら機会を伺う
接敵後は「二回攻撃」「なぎ払い」で負傷した箇所に「傷口をえぐる」

敵のユーベルコードの方が早ければ周辺の敵ごと「殺意の炎」「範囲攻撃」「なぎ払い」
まだ生き残っている者は「二回攻撃」「傷口をえぐる」で追撃する

致命傷や次の行動に支障が出る物のみ「見切り」
避けられない物は「怪力」も使い「武器受け」
防ぐと同時に「カウンター」を狙う


化野・クミホ
あらまあ、なんて綺麗なお顔立ちの殿方でしょうか。
とと、そんなことを言っている場合ではありませんでしたね。

とは言えやっと御目にかかられた頭目です、部下を呼ばれては厄介ですね。

部下がいれば後方に回りながら掃討を、【ファイアフォックス】で「範囲攻撃」。
狐の炎は味方を避けながら標的に向かうでしょう。

山賊様の綺麗なお顔に傷を付けるのは忍びないのですが、それ以上に皆様が傷つく方が見ていられませんので。

愛刀のなぎなたや狐火等で味方との連携を図ります。
山賊頭領との相対、負傷している味方が居るのならその傷を癒すために「祈り」ましょう。

※アドリブ、連携、改変歓迎


目面・真
負けぬが勝ち、とは強気だね。どこまで続くか楽しみだ。

山賊共、怖いモノ知らずなのはイイが、手向かう者は容赦しないぞ。オレは略奪に加担する者には手加減できないのでな。降伏すれば命を助けてやる。
と、まず降伏勧告して、従うなら頭のいる場所へ案内させる。
従わなければアームドフォートで一人ずつ倒す。これでも抵抗するか?

オマエがお頭か。なぜ多野の民と犬神の民を仲違いさせんと企む?
その狙いは何だ? オマエ1人の考えではあるまい。
間合を取って相対しよう。攻撃は大太刀を使うように見せかけるために柄を握っておく。
油断を感じたらアームドフォートによるフルバースト・マキシマムで一気にカタをつけよう。


月舘・夜彦
仲間が導いたからこその優勢、これを活かす他はありません
残念ながら其方が思う程、犬神と多野の繋がりは脆い物では無く
我々猟兵の力も戦いだけでは無いという事
……もうこれ以上、何かを失う訳にはいかないのです
いつかあの国で人々が暮らせるその時まで、私は戦い続ける

敵からの攻撃は【残像】【見切り】にて回避し【カウンター】を狙う
抜刀術『風斬』は配下相手ならば攻撃回数重視と【2回攻撃】で一掃
頭領へは動きが素早ければ命中重視、追いつけるならば攻撃力重視
我が刃は変幻自在、悪を裁くは我が大義

今回の件がただの盗みではなく、騒乱を狙ったもの
山賊にしては腑に落ちませんね
山賊以外にも誰かが関わっているのかもしれません


朝比奈・心乃
私は裏手から
門番は即っと成・敗!峰打ちだけどね
もふもふ尻尾で【誘惑】
頭の居場所と配下の数を確認

ふむ?奥の部屋に大勢でとな
此処は一火打尽に火攻めっしょー
『フォックスファイア』
奥の部屋を衾ごと燃やしちゃえ

城へ突入前に皆に抜かりなく連絡済み!
場が混乱すれば上々
皆の作戦次第ではがっつり焼き尽くすも有りかなー
頃合いを見て消化

えぇ、私は武士ではなく猟兵
使えるものは何でも使うし勝てばよかろうなのでして

っと!?【残像】でゆらりと敵の攻撃を捌き凌いで

あららせっかくの美形が台無しー
それと……黒い法師はおらず、か

狐符を飛ばして味方を援護…しつつ
機を伺い狙い済まし

『七星七縛符』

我が命を刻む限り此より汝が術を封ず

ってね


ジェフリエイル・ロディタ
ここで倒す。全員そう思っている筈さ。
なら僕は、輝く皆の勢いが損なわれないよう、
後方でシンフォニック・キュアでの回復に努めるとも。
いつも皆に届く歌をとは思うけれど、
傷が深い人がいるならその猟兵の為の歌を贈ろう。
遠慮しなくて良いからね!
でも賊は少しは大人しくしてくれないかい。
念動力で防いだり避けたりしなきゃいけないじゃないか。

後ろから見ていてもし賊側の動きが変わったなら、
周りに伝えてから演奏と歌を切り替えて力を練り備えよう。
その後の賊の立ち回りやにおいや音で想像がついたなら、
エレメンタル・ファンタジアで迎え撃とうか。
火の元には水の雨を、一つ所に集まるなら風の爆弾を、
脱出路には岩土のうねりと崩落を。


ヴィクトリア・アイニッヒ
桐・権左衛門(f04963)と行動。

…この手の手合は、自己保身を優先して考えそうな気がします。
我々が攻め寄せる攻め口以外に、抜け道が無いか……
その辺りに注意を払いたい所ですが、ゴンちゃんさんはどうお考えですか?

戦闘時、相手を逃さぬ事を最優先に。
直接的な戦いが得意な方は大勢いますから。
相手を良く、観察しましょう。その上で、神威の光剣で以て相手の動きを封じる事を優先しましょう。

…しかし、放っておけばまさに国が割れる危機にも繋がりかねなかったのが今回の件です。
それだけの事を、いくらオブリビオンとは言え、山賊団程度の規模で出来るでしょうか?
…何か、嫌な予感がしますね。これからも警戒が必要そうです。


レッグ・ワート
門の連中は倒せたら武装解除して縛り転がす。今いる混合自警団に回収撤収頼もうぜ。成果だし。

部屋じゃ頭領の足止めと時間稼ぎするわ。頭領がその場から大して動かなけりゃ近場の仕掛け疑う。基本守勢で、鉄骨を盾や障害として取り回しつつ、爪で受け易いように殴ったり、手甲や脚に糸巻き引いて妨害する。で、頭領周りから手下でも何でも咄嗟に使えそうなものは除けたいね。ヤバくなったら無敵城塞は使うが、すぐ解くから突破口にはさせねえよ。

通しで狙うのは分断と進路妨害と包囲。んでそう諦めないし無茶もするし諦めるフリもフェイントも時間稼ぎもやるかもなんで、乗らずにしっかり詰めたい。まああれ。俺がやられたくない事をやるだけだ。


逢坂・宵
ははは、やっと見つけましたね
敵よりも先んじられたというのはとても気持ちがいいものです
この機に乗じて、乗り込みますよ
―――姫君の麗しいご尊顔を憂えさせた罪は重いですよ?

首魁はみなさまにお任せして、僕は露払いといきましょう
「属性攻撃」、「全力魔法」、「高速詠唱」、そして可能なら「おびき寄せ」も使っていきましょう
「2回攻撃」も有効に使っていけたらいいですね
『天撃アストロフィジックス』で各個撃破を狙いましょう

姫さまに約束しましたからね
我らが猟兵、姫さまのお力になる、と


桐・権左衛門
ヴィクトリア・アイニッヒ(f00408)と行動を共に

こういった輩はな、常に自分の逃げ道を確保しておくもんやで?
それが出城跡に元々存在する抜け道しかり、自分たちで作成した抜け道しかりな

本当はじっくり探索して燻り出して相手の絶望する表情を見たいんやけど、時間に余裕がある訳やないしな

相手は多面点に守備せんといかんから戦力分散する反面こっちは一極集中で突き抜けることできるし

お?美形の山賊やん?いやー勿体ない、いろいろ勿体ないと悔しそうな表情を見せながらも可能ならば捕縛し黒幕の情報を吐いてもらうとしよか

見せられへん荒行(ケツバット)やから見たらあかん人にはヴィクトリアに目隠しして貰いつつ叫び声を



―――

■第三章『国を割る者』


『お前らは何人ここにいる』
「へ、へえ、あっしを入れて10人程で」
 オブリビオンの配下20に、人間の山賊10。
 たったそれだけの戦力しかない。
 なら、やる事は一つ……。
『オレはこの部屋に陣取る。お前らは5人ずつに別れて正面門と裏門を守れ』
「へいっ! あ、あの、おぶりびおんとかいう頭の部下はどう……?」
『あいつらは全員、この部屋に呼び戻す。さぁ行け! 早く! 死にたいか!!』
 慌てて部屋から出ていく下っ端山賊。代りにぞろぞろと20人の配下オブリビオンである武者達が入って来る、と同時。

 喇叭ッ叭ッ叭ッ叭――!

 出城跡の周囲から喇叭の音が響き渡る。
 どうやら猟兵達が突撃してくるらしい。
『すでに負け戦か……だがなぁ猟兵共、オレは侍じゃねぇ、勝てなきゃ負けじゃあないんだぜ?』
 そう言ってニヤリと笑みを浮かべ――。
『お前達はここで猟兵共も足止めしろ。全滅しても良い、出来る限り時間を稼げ!』
 20体のオブリビオン武者達にそう指示を出すと、山賊の頭領は部屋の奥にある板の間に向かいつつ。
『それじゃあオレは逃げさせて貰うぜ。あばよ猟兵共、何も調べず速さを選んだのが仇となったなぁ……クックックッ!』


 ――少し時間を巻き戻そう。
 森の中に鎮座するそれはかつての戦国時代では出城として機能していたのだろうが。
「しかし、今となっては見る影も無いであります……」
 吹鳴管・五ツ音の呟きの通り、端から見れば森の木々に浸食された廃墟であった。
 しかし、敵が手勢を使って補修したのか周囲を囲む壁だけは板や石で穴が塞がれ強化されていた。
 今、敵の討伐の為に集まり合流した猟兵の数は16名、さらに五ツ音が仕切っていた自警団も合わせ総勢30人を越える人数で敵の拠点たる廃墟の出城を取り囲んでおり。
「………………っ!」
 五ツ音がハンドサインで突入を促し、その合図と共に猟兵達が一斉に出城への突入を開始、この場に残るは五ツ音と自警団のみ。
「さて、敵の首魁は皆様がやってくれるとはいえ、此方の包囲を破られては片手落ちであります。皆、敵を一匹たりとも逃しはしないように! 自分たちは大事な後詰めでありますよ!」
 五ツ音の声に自警団たる多野の侍と僧兵達が武器を突き上げる。


 ガチャガチャ……カチャ。ギギギ――ィ。
 妖精たるトゥール・ビヨンにとっては人間サイズの鍵など、少し弄れば解錠は余裕である。そうやって扉を静かに開き、仲間達と侵入を開始する。
「お、すでに待ち伏せされてるかと思ったが……いや、お出ましか」
 レッグ・ワートが鉄骨を右手に握ったまま城壁内へ入りこむと、そこに待ち伏せは無く……だが、すぐに奥からどたどたと山賊達が現れる。もしかしたら何か扉と連動する仕掛けでもあったのだろうか……。一瞬トゥールは気に懸けるが、今となってはどうでも良い。
「みんなとこのサムライエンパイアで行動を共にしてわかった事がある。それは、みんなとても頼りになるって事!」
 トゥールは超常機械鎧パンデュールに搭乗し向かってくる山賊達へと突撃。
「だから、小細工や駆け引きも抜きに……ボクとパンデュールはここにいる!」
 双刃ドゥ・エギールをなぎ払い、山賊達を牽制しつつ最前線に立つトゥール。
「相手は籠城戦、多面点に守備せんといかんから戦力分散するで。反面、うちらは一極集中でぇ突き抜けることできる……皆、ここはうちらに任せ先に行け!」
 桐・権左衛門がトゥールに並び後に続く者達の道を開ける。
「だが、思ったより山賊達が多いな……」
 派手に扉を開けたせいか? とレッグが自嘲気味に言うが、事実戦力分散しているのか不明だが山賊達は5人以上おり。
「では、私も道を作りましょう」
 ヴィクトリア・アイニッヒも愛用の斧槍を構え前へ。
「何しとん、先に行ってええんやで?」
「いえいえ、権ちゃんさんこそ」
 お互い笑みを浮かべて並び立つ2人。
 その時だ! 風切り音が複数し、2人が気がついた時には目の前に矢が迫っており――。
 カカキキンッ!!!
 何本もの矢が見えない壁に弾かれ落ちる。
「さすが出城……はいきょだけど軍事拠点、だよね」
 それは前衛に立つ4人の背後で両手を広げたレイチェル・ケイトリンのサイコキネシスだった。
 見れば出城の2階部分に回った山賊達が数名、弓矢を射かけてきているが、今度はジェフリエイル・ロディタの力で矢が弾かれる。
「敵はここで倒す。全員そう思っている筈さ。なら僕は、輝く皆の勢いが損なわれないよう、後方から皆の道を照らそうじゃないか! さあ今のうちだ、行きたまえ!」
 ジェフリエイルの言葉に、残っていた猟兵達はこれ以上ここの足止めは必要無いと判断、一気に山賊達の脇をすり抜け出城の奥へと駆け込んでいく。
「なるべく、すぐ、追いつくから」
 レイチェルの言葉に返事もそこそこに、先に進んだ者達の姿が見えなくなる。
 数人の山賊がそれを追おうとするも、ヴィクトリアや権左衛門、レッグらに足止めされ、さらにパンデュールで跳躍したトゥールが二階部分へ突っ込み弓兵と相対。
 壊された正面門付近にレイチェルとジェフリエイルが立ち、全体を視野に入れつつ皆を援護し。
「悪いけど、賊の人たちは少し大人しくしてて貰うよ」


 仲間達に見送られ、首魁を攻略するメンバー達は奥へ奥へと進んでいく。
 途中、通路の向こうから慌てた様子の山賊が1人現れるも。
「山賊、怖いモノ知らずなのはイイが、手向かう者は容赦しないぞ。オレは略奪に加担する者には手加減できないのでな。降伏すれば命を助けてやる」
 目面・真がそう宣言しアームドフォートの砲身を向ければ。
「か、頭はこっちにまっすぐ行った部屋に……!」
 と奥を指差し諸手を挙げる。
 そのまま案内させようかとも思ったが、この山賊は普通の人間のようだ、事前の作戦を実行することになると……。チッ、と真は舌打ちし山賊に「さっさと消えろ」と正面門の方を指差す。
 逃げていく下っ端を無視し、猟兵達は山賊の差した奥へと走る。
 ちらっとすぐに首領を裏切った山賊の背を見て、西院鬼・織久が「玉石混交と言った所か」と呟く。
 今回、戦いの噂を聞きつけ駆けつけたのは織久だけではない。
「皆様、援護は私が致しますので、存分に戦ってください」
 グッと両拳を胸の前で握りしめ、プリンセラ・プリンセスも気合いを入れる。彼女も自分と似た境遇の姫が戦っているとの噂を聞き、サムライエンパイアへと助けに来てくれた1人だった。
「心強いですね。では私は援護より回復を優先致しましょうか」
 皆と同じように走りつつ化野・クミホが自身の役割を調整する。
 スパンッ、スパンッ、と小気味良く襖を開けつつ、猟兵達8人は先へ先へ。
 ふと、この自分らの人数を見て口元に笑みを浮かべるは紺屋・霞ノ衣。
「どうしました?」
 と、月舘・夜彦が聞けば。
「なに、アタシは人探しってのはどうも苦手なもんでね。ここの親分とやらを見つけるのは苦労したもんさ。……でも、仲間の力ってのは凄いもんだね。アタシが出来なかった事をやってのけた、本当に凄いよ」
 1人ではきっと無理だった。だが、それを可能にしたのは仲間達だ。戦士の一族としてずっと戦場で戦い続けてきた霞ノ衣にとって、戦う以外の事を仲間とするのは本当に新鮮で、そして本当に感心するのだ。
「ふっ、確かにそうですね……仲間が導いたからこその優勢、仲間の為にも、この機会を必ず活かしましょう」
 夜彦が同意すると同時、五ツ音から喇叭の合図があり……さらに進むと、とある部屋の前、襖の向こうから多数の気配と1つの強力な気配を感じ猟兵達はおのずと足を止める。
「やっと……見つけましたね。姫君の麗しいご尊顔を憂えさせた罪は重いですよ?」
 逢坂・宵が今一度装備を確認しつつ呟けば。
「ま、館は館で気になるが……いや、今は良い。色々気ぃ揉むとか性分じゃねぇし、さくっと片して先に進めねぇとネ」
 コノハ・ライゼがふと美濃姫のいる屋敷を気にするも、すぐに首を振り目の前の戦いに集中。それを見て宵は皆の覚悟を確認するよう一言。
「では、乗り込みますよ」


 騒がしく派手な戦場となった正面門と違い、裏門は気持ち悪いぐらい静かだった。
「みんな頑張ってるみたいだねー」
 朝比奈・心乃がたった1人でここを守っていた山賊を踏みつけつつ、狐火で焦がしながら正面門の方を見て言う。
「す、すいやせん、どうか、どうか命だけは……!」
「あー、それはさっき言った通り、きみの協力しだいかなー?」
「ひっ!?」
 刃を首元に当て脅迫したり、尻尾を使いつつ逆に誘惑したり、飴と鞭を使えば山賊の下っ端はペラペラとしゃべり出す。
 心乃はふむふむと必要な情報だけ聞いて「ありがとー」と笑顔で。
「成・敗!」
 峰打ちで昏倒させ、とりあえず裏門の外に転がしておく。
「ふむ、奥の部屋に大勢でとな……となると部屋を燃やすのはやっぱダメかぁ……」
 残念そうにきょろきょろ周囲を探索し。
「あ、薪発見ー」
 笑みを浮かべる心乃。
「じゃあ、五ツ音達に相談した通り、タイミングみてやりますか!」
 ボボボッと心乃の周りに狐火が浮遊し初め。
「この出城ごと、一火打尽に火攻めっしょー」


 ――そして時間は、今へ。
 出城の周囲から喇叭の音が響き渡り、敵の首魁は猟兵達がついに突撃してくる事を知る。
『すでに負け戦か……だがなぁ猟兵共、オレは侍じゃねぇ、勝てなきゃ負けじゃあないんだぜ?』
 そう言ってニヤリと笑みを浮かべ――。
『お前達はここで猟兵共も足止めしろ。全滅しても良い、出来る限り時間を稼げ!』
 20体のオブリビオン武者達にそう指示を出すと、山賊の頭領は部屋の奥にある板の間に向かい。
『それじゃあオレは逃げさせて貰うぜ。あばよ猟兵共、何も調べず速さを選んだのが仇となったなぁ……クックックッ!』
「何がおかしいンだ? あぁあ、生き延びる算段はあると思ってたケド、そゆこと」
 突如背後からかけられた声にオブリビオンの首領がビクリと動きを止める。
『(なぜだ、ここにいる武者どもはしゃべれねぇ、ましてオレを挑発なんざ……だが、山賊どもは外に出した……なぜだ! なぜこの部屋に、このタイミングで――)』
 自身の考えが信じられないと振り返れば、そこにはオブリビオンたる自分たちにとって不倶戴天の敵達――。
『なぜここにいる! 猟兵ども!!!』
 驚愕の形相でそう叫ぶオブリビオンだが、対して猟兵達には余裕がある。
「あらまあ、なんて綺麗なお顔立ちの殿方でしょうか。それなのに、そんな形相では勿体のうございますよ?」
 袖で口元を隠しつつクミホがふふと笑えば、オブリビオンは馬鹿にされたと更に目を見開き睨み付けてくる。
「おお、怖い……とと、そんなことを言っている場合ではありませんでしたね」
「いえいえ、ここまで綺麗に決まるとは」
 クミホに次いで宵が言う。その表情はいつもの微笑みだが。
「敵よりも先んじられた事が、ここまで決まるとは……本当、気持ちがいいものです」
 その微笑みにオブリビオンの首領は額の血管がぶち切れそうになる。
『何が、どうなっている!?』
 首領が混乱しているからか、配下の武者達は猟兵達を警戒こそすれ未だ動かない。
 その機を逃さず、夜彦とプリンセラ、真とコノハが左右に散る。
 かなり大きな部屋だが床の間がある奥以外には襖がある、そちらから逃がさないよう包囲したのだ。
「さ、次はアタシらが頑張る番さ! がなってばかりいないで、さっさとやりあおうじゃないか!」
 霞ノ衣がブンッと柄の長いハルバードタイプのバトルアックス――戦刃を肩に担ぐ。
「いや、もう始めさせて貰いました」
 織久の言葉と同時、指示が無いため突っ立っていた武者の1体が殺意の炎に包まれ燃え上がる。
 さすがのオブリビオンも目の前の事に対処しなければと『や、やれ! 猟兵どもを殺せ!』と簡易的に指示を出し、武者オブリビオン達が一斉に猟兵達に襲いかかる。
 刃と刃がぶつかり合い、術が音と光をまき散らす中、オブリビオンの首領はめいっぱい目を見開き、顔を手で覆い、指の間から猟兵達の戦いを眺めながら呟く。
『なぜだ……何が、何が間違った!?』


 五ツ音は手を下ろし信号喇叭の吹鳴を止める。
「さて、作戦は上手くいったでしょうか」
 出城内からの音は正面門での戦いの音以外は聞こえない、だが、なんとなくだが五ツ音は成功した気がしていた。

「十石の御城がそうであった以上、近隣の城郭には抜け道を拵える築城術があるものと考えた方が良さそうであります」
 敵の拠点が分かった時、五ツ音はすでに皆にそう伝えていた。
 事実、美濃姫はその抜け道を使って城から脱出したのだ。皆もあの籠城戦を思い出し、可能性としてあり得ると首を縦に振る。
「ですが、せっかく先手を打てている今、抜け道の情報を集める時間は、この優位性を失いかねません。故に、この作戦を提案するであります」
 五ツ音は、まず敵拠点への攻勢主部隊を2つに分け、速度を優先して先行する部隊はとにかく敵首魁の元へ急行し、残りの部隊は敵が足止めに来た場合の対処等をメインに先行部隊のフォローを行う。そして大事なのはこの戦闘はできるだけ静かに敵に気付かれないように行う事。
「そして、先行していただいた猟兵の皆さんの突入から数分の時間差を作って、包囲の信号を吹鳴するであります。もっとも、戦闘音が激しくなったら数分と言わず早めに吹鳴する事になるでありますが……」
 そこはフォロー役の皆さんの戦い方次第で、と。
「大事なのは、吹鳴により包囲を悟った敵はきっと逃げ支度を整えるであります。そこを先行した皆さんが抑える、または急襲するであります!」

 ありがたい事に、皆作戦に同意してくれた。
 これが上手くいけば、敵を戦闘の喧噪に紛れて取り逃す等という事すら封じられるはずなのだ。
「お、どうやらあっちも始めたようでありますな」
 正面門からでも黒い煙が立ち昇り出したのが見え、五ツ音は呟く。
 あれは裏門に回った心乃の仕業だろう。
 黒き煙はすぐにその本数を増やし、やがてパチパチと戦闘音とは違う音が響き出す。
「小隊、自警団各位、準備はよろしいか? ネズミ一匹、逃すなであります!」
 自警団達が裏と側面に回り混むよう走って行く。
 これでこの出城の包囲は完璧だ。
 全ては、五ツ音の戦術通りであった。


「誰ぞ来よ。――戦の時間です」
 プリンセラが瞳を閉じ、ペルソナ・チェンジを発動。
 次に瞳を開けた時、そこにあるのはプリンセラ本人ではなく、別人の相。
 刀を振り下ろし襲い掛かって来る武者を、ふわり、まるでその動きを読んでいたように回避するプリンセラ。そのまま敵と入れ替わるように回転し……その時には髪が今より長くなり、丸眼鏡と羽扇を持つ軍師然とした姿に。
 それはかつて亡くなったプリンセラの兄姉の1人、3番目の兄アベル。
「奇しくも妹プリンセラと似た境遇。手を貸すのに吝かではありません」
 羽扇で口許を隠しつつそう呟くと、仲間達と敵を俯瞰で見える部屋の隅へと陣取った。
 もちろん部屋の角など逃げ場無く、敵に囲んで下さいと言うような物……数体の武者達がプリンセラ=アベルに殺到しようとするも。
「我が刃、風の如く」
 抜刀一閃。
 夜彦が夜禱を抜くと同時、部屋の隅へと向かっていた1体の腕が飛び、さらに鞘に刃を戻すまでの間に1振りしつつ納刀し……再度、抜刀。
 それを繰り返し、ズババババッと目的地に到着するまでのルート上にいる武者達を夜彦がまとめて斬りつけ、そうして出来た道の上を霞ノ衣が疾走し「邪魔だよ!」と武者を斧で殴り飛ばす。
 部屋の隅に向かった猟兵を集中しようとした武者達だが、夜彦と霞ノ衣が邪魔に入った事でプリンセラを狙う事が困難など判断……。僅かに、本当に僅かな時間、敵の武者達は思考し次の対象を探そうとするも――。
 ボッ、ボボボボボッ!
 そのわずかな隙を見逃さなかったコノハの炎が武者達を焼き、そこに真が大太刀で、宵が星属性魔法を叩き込む。もちろんコノハ自身もそこに飛び込み、真がつけた傷に合わせて柘榴を振るって傷を拡大化、そのまま斬りつけた傷からエネルギーをも吸収しつつコノハは次々に敵を攻撃して行った。
 一方、複数の武者達から一遍に攻撃を受けているのは織久だった。一気に数名の武者に襲い掛かられ必死に見切って致命傷を避けるも、このままでは……と言ったところで周囲の敵に炎が灯る。それはクミホの狐火。敵が燃え上がりふらついた瞬間、織久は周囲の敵をなぎ払う。
 ぐっ……がっ……。
 織久の攻撃はただの斬りつけという訳ではない、クミホの狐火が直撃した部分を見極め的確に傷口を抉っていったのだ。その一撃で数体の武者達がまとめて倒れる。
 それを見ていた宵が「やりますね……では、僕も露払いといきましょう」と、星魔法の秘技が記されたアストロ・グリモワールを取り出し高速詠唱に入る。読み上げた呪文は幾重にも重なり、魔導書の頁はパラパラと風にあおられるようめくれ、最後にピタリと頁が開いたと思うと魔導書の文字が光り輝き……瞬間、周囲の天井が宇宙のそれと繋がり、星々から光が降り注ぐ。
 宵の一撃で瞬く間に数を減らす武者達。だが、その行為はあまりに目立ち過ぎて武者達が一斉に宵へと殺到する。
 それを防ぐは真と状況を俯瞰していたプリンセラだ。さらにクミホと織久も合流し武者達を押し返す。
 武者達全員が一斉に宵へと流れた、その一瞬。目を光らせたのはコノハ、首領のオブリビオンが逃亡しようしたのか不審な行動を取ったのを見逃さず、ある程度の傷は覚悟の上で突っ込んでいく。
『チッ!』
 両手に装備した鉄爪でコノハの一撃を防ぐオブリビオン。
「逃がすと思ったのカ?」
『今更オレを倒してももう遅いだろうが、多野の民と犬神の民の間に撒いた不和の種はもう芽が出ている。オレの仕事は終わりさ』
 皮肉気に笑ってコノハのナイフを鉄爪でいなし、バランスの崩れたコノハを蹴り飛ばすオブリビオン。
『もっとも、考え方の違う人間達が集まりゃ、オレ達が水をやらんでも勝手に不和の芽は出ていただろうがな! それが人間ってやつよ!』
「そいつぁどうだろうね」
 ドンッ、と武者の1体を斧で鎮め、霞ノ衣がオブリビオンに向かって言う。
「集まった人の力は悪い方にだけ流れるわけじゃない。アタシらのように考えも出身もばらばらな奴らが集まっても、お互いが補い合い良い方に流れる事だって出来る」
「その通りです。それに……残念ながらそちらが思う程、犬神と多野の繋がりは脆い物では無く、我々猟兵の力も戦いだけでは無いという事」
 霞ノ衣の言葉を引き継ぎ夜彦が言うと、愛刀たる夜禱をチャッと構え直し、自らに言い聞かせるよう独白する。
「……もうこれ以上、何かを失う訳にはいかないのです。いつかあの国で人々が暮らせるその時まで……私は、戦い続けます」
『舐めるなよ猟兵風情が!』
 オブリビオンが怒り両手の爪を交叉させ夜彦の首目がけて疾走し――瞬後、その進路を塞ぐように狐火が出現。急停止を余儀なくされるオブリビオン、睨む先は炎を出現させた相手。
「あらら、そんな睨んじゃせっかくの美形が台無しだねー」
 それは狐火を操る心乃だ。
「あ、私だけじゃないよー?」
 心乃の言葉と同時、広間に入って来るは正面門で戦っていた猟兵達だった。

 正面で戦っていた猟兵達が合流した事で、配下オブリビオンたる武者達への攻撃は苛烈を極めだす。
 次々と減っていく配下オブリビオンの武者達を見て、山賊の首領たるオブリビオンはわなわなと怒りに身を震わせていた。
『許さん、許さんぞ……皆殺しだっ!!!』
 我を忘れ怒りに身を任せたまま暴走を始めるオブリビオン。
「あれは俺が抑える、レイチェル、トゥール、一緒に来てくれ」
「う、うん」
 レッグがレイチェルと共に山賊の頭領の元へ向かう。トゥールはレイチェルを護り、レッグは敵の鉄爪が来るタイミングでなんとか無敵城塞モードに変化し防御力を高めつつ、レイチェルが倒れているオブリビオン武者の身体を念動力で動かし壁にして頭領の攻撃を防ぐ。だが暴走したオブリビオンは強力であり、ずっと持ちこたえるのは正直厳しい。今のうちに配下の武者達だけでも……。
「なら、ここは僕がやろう。その代わり準備が整うまで……僕を守ってくれるかな」
 そう言ってジェフリエイルが歌い出す。それは段々と激しさを増していく自然の歌、同時、ジェフリエイルの輝きが増していき魔力も渦を巻いてくる。
「主の威光よ、悪意を祓い給え! ──神威の光剣よ!」
「七星七縛符! 我が命を刻む限り此より汝が術を封ず」
 即座にジェフリエイルに向かって来た武者達を、ヴィクトリアが召喚した光の剣を飛ばし、心乃が護符の力を発動、迫っていた武者達が両方とも動きを止める。
 さらにその2人の動きを封じる系ユーベルコードでも止まらなかった武者がジェフリエイルへ迫るが、残念ながらそこにも猟兵がいた。
 ぬっと異次元からバットを取り出し――。
「何時でも何処でもフルスイングや!」
 権座衛門の荒行が武者の尻を叩き、小気味良い音と共に武者がその場で蹲る。
 そして、気が付けばジェフリエイルの輝きが最高潮に達し、その歌もクライマックスだ。
「さあ歌いあげよう!」
 最後の一小説を皆と合唱するよう歌い上げ、瞬後、大量の水がうねって武者達を押し流し、炎の雨が降り注ぎ、風の爆弾がはじけ飛ぶ。
 水が蒸発し、炎が沈下し、風爆弾の音が止んだ時、そこには配下オブリビオンの武者達が全員倒れている姿であった。
 そして残るは山賊の首領ただ1人。
「黒幕、お前を倒してこの騒動の幕を引く! いくよパンデュール! いざ、尋常に勝負だ!」
 トゥールがパンデュールに搭乗し、敵の黒幕たる山賊の首領へ啖呵切るのだった。


「いつも皆に届く歌を歌おう! 傷を治すよ? さぁ、遠慮しないで聞いてくれ!」
 先ほど大いなる呪歌を使ったジェフリエイルが、あとは仲間の回復に勤しむね、と治癒の呪歌を歌い出す。
『オレ、1人か……』
 配下を全員倒され我に返ったか、山賊の頭領がポツリと呟く。
「今回の件がただの盗みではなく、騒乱を狙ったものなのは解りました。ただ、どうしても腑に落ちません。あなた方山賊以外にも誰か関わっているのではありませんか?」
 夜彦がオブリビオンに疑問を投げかければ。真も疑問に思っていた事を聞く。
「その通りだ。なぜ多野の民と犬神の民を仲違いさせんと企む? その狙いは何だ? オマエ1人の考えではあるまい」
『ふん、オレに勝ったら教えてやるよ』
「言いおったな 美形だからって遠慮はせーへんよ? ちゃっちゃと倒して、黒幕の情報吐いてもらうとしよか」
 権左衛門の言葉に即座に動くは真。
 暴走状態が解かれた今ならと、一気にアームドフォートによるフルバースト・マキシマムを発動。
 全武装の一斉発射により四方八方よりミサイルやレーザーが頭領オブリビオンへ降り注ぐ。
 だが、フルバーストによって巻き起こった煙が晴れた時、その場は着弾の焦げ跡のみを残し、オブリビオンの姿は勝っ消えていた。
「どこに!?」
 皆が慌てる中。
「ここ……だ……」
 苦しそうな機械音でしゃべるはレッグ。その身体の右胸からはギロリと鉄爪が生えていた。
『まず1人』
「いや、俺が最後、さ」
 そう言うとレッグは旨から生えた鉄爪を両手で掴み固定、オブリビオンを逃がさないようにする。
「いい覚悟です。姫さまに約束しましたからね。我らが猟兵、必ず姫さまのお力になる、と」
 宵がアストロ・ステッキを手に呪文を唱えだす。
「太陽は地を照らし、月は宙に輝き、星は天を廻る。そして時には、彼らは我々に牙を剥くのです。さあ、宵の口とまいりましょう……」
 そして――。
「天撃アストロフィジックス!」
 宵が呪文を完成させると共に、100本近い流星の矢が放たれる。
『があああああああっ!?』
 全段直撃しブスブスと身体から煙を吐き、よたよたと歩き出すオブリビオン……。
 その眼前に立ち塞がるのはヴィクトリアと権座衛門の2人。
「あなたのような手合は、自己保身を優先して考えているのでしょうね。もしかして、我々が攻め寄せる攻め口以外に、抜け道あたりを用意していたりするのでは?」
「うんうん、こういった輩は常に自分の逃げ道を確保しておくもんや。出城跡に元々存在する抜け道しかり、自分たちで作成した抜け道しかり、な」
 ヴィクトリアと権左衛門がオブリビオンが向かおうとしていた板の間の前に立ち道を塞ぐ。
『どけっ! どかないか! このオレの……邪魔をするなーーー!!!』
 死にもの狂いでヴィクトリアと権座衛門を排除しようと突っ込んでくるオブリビオンだが、その頭領の顔が横からのタックルで見にくく歪む。
 それはトゥールの駆るパンデュールだった、横から体当たりし吹っ飛ばすと同時。
「終わりだよ! システム・パンデュール起動!」
 さらに双刃ドゥ・エギールを構え。
「神速を超えろ、システム・パンデュール!」
 目にも止まらぬ斬撃を2回同時に放つと、吹っ飛ばしたオブリビオンがまだ空中の状態でクリティカルヒット!
 ドサリと床に倒れるも、ぐぎぎっと立ち上がるオブリビオン。
『この……猟兵どもが……誰でもいい、こうなれば……道連れにしてやる!!』
 ガシャンと鉄爪を交叉させ、なかば最後の力を振り絞って理性を失い突貫してくる。
「少し、哀れだネ……」
 コノハが月焔を放ち、複数の冷たき月白の炎がオブリビオンの周囲に展開すれば、それを敵と勘違いして斬り裂き出す。その隙に貫かれていたレッグを祈りで治癒していたクミホも、少しだけ山賊の頭領を憐れに感じるも、コノハと同じく狐火を出現させてオブリビオンの周囲に展開させる。
「こうなると、確かに憐れかもな……だが、ずっと何かを奪って生きて来て、オブリビオンになってからも似たような人生だったんだろうさ。常に奪う立場には居られない、いつか逆になる時が来る。そいつが……因果だ」
 霞ノ衣が呟き、炎に囲まれたオブリビオンに向かって跳躍、渾身のグランドクラッシャーを叩き込む。
 それは出城の床を陥没させ、オブリビオンの身体くの字に折る。
 それでも、ふらふらと立ち上がり板の間を目指す山賊の頭領からは、なんとしても生き延びたいという執念が感じられた。
「かと言って、賊を放置するわけにはいきません。我らが国も、今は賊が跋扈しているのかと思うと頭が痛いですしね……」
 プリンセラ=アベルが指を向ければ指先から光条が放たれ、貫かれたオブリビオンがそのまま床に転がる。
 その眼前に死神として立つは織久。
「我等が怨念は底無しなれば、貴様の執念も執着も、全て平らげ糧としてくれよう」
 その言葉と共に殺意の炎がオブリビオンを焼き尽くす。黒き炎が消え去った後、そこにはオブリビオンの痕跡は何一つ残らなかったのだった……。

 犬神藩で起こっていた諸問題を引き起こした黒幕は倒した。
 しかし消滅したオブリビオンのいた場所を見つめたまま心乃は呟く。
「本当の黒幕はおらず、か」
「やはり、そう思いますか……放っておけばまさに国が割れる危機にも繋がりかねなかったのが今回の件です。それだけの事を、いくらオブリビオンとは言え、山賊団程度の規模で出来るでしょうか?」
 ヴィクトリアが心乃に同意しつつ、あくまで個人的勘ですが、と前置きし。
「……何か、嫌な予感がします」
 その言葉は誰もが引っかかっていた内容だった。
 だが、その暗くなった空気を変えるようレイチェルが皆に向かって言う。
「犬神藩の治安を乱すものたちは、多野藩のひとびとにぬれぎぬをきせ、かくれてうごき『犬神藩の森の中に軍事拠点を密かに確保していた』。ですよね?」
 レイチェルの言葉に皆が頷く。
「では、この出城こそが『犬神藩の重大な敵』のうごかぬ証拠、わたしたちの勝利だよね」
「せやな、ウチらの勝利や!」
 権左衛門がレイチェルの肩を叩き、笑顔で同意する。
 少なくとも、犬神藩藩主より依頼されていた諸問題の解決は、これにて一件落着であった。


 出城の外で敵を逃さぬよう見張っていた五ツ音は、なかなか出てこない仲間達に少々焦っていた。
 敵を絶対に逃がさない為、心乃にお願いし出城に火を放ってもらったのだが……。
「これ、皆が出てくる前に完全に燃え落ちるパターンでありますね」
 目の前の出城は轟々と燃え上がり、今にも焼け崩れそうだった。
 未だ皆が脱出してくる気配は無い。
 どうしたものか……と壮絶に冷や汗をかく五ツ音。
 後日、オブリビオンのいた部屋の板の間に飾ってあった掛け軸の後ろにあった脱出の抜け道を使い、無事に脱出した皆と合流するまで、五ツ音は心休まらなかったのであった。


 屋敷で待っていた美濃姫の元に、猟兵達が黒幕を退治したとの第一報が入り、美濃姫は戻って来る皆を労わねばと考えながら屋敷内を歩いていた。
 その途中だ。縁側を通った所で庭の方から声をかけられ足を止める。
「誰だお主は。勝手に妾の屋敷の庭に入り込むとは無礼であろう」
 そう、美濃姫が見つめる先、庭の中央に1人の男が立っていた。
 光の無い赤い瞳、黒い笠に黒い袈裟を崩し着し、手に持つは錫杖。
 異様な空気を纏っているが、法師のようだった。
「お初にお目にかかります美濃姫様。私は名を黒道坊(こくどうぼう)と申します」
 笑みをたたえたまま自己紹介する男――黒道坊。
「さて、先に言っておきますと……わざわざ隠れている必要はありますまい、猟兵殿。私は、貴方が残っておられるのでわざわざ姿を見せたのですから」
 黒道坊が言うと同時、1人美濃姫を護衛する為残っていた涼風・穹が現れる。
「空振りであって欲しいと……そう思っていたんだがな」
 穹は言いつつ内心で焦っていた。目の前の黒い法師から感じる重圧は、そこいらのオブリビオンと比較にならない、もし倒すなら姫の元に集まっている皆でかからねばならないだろう。少なくとも、今ここで自分1人でなんとかできる相手では無い……。
「ああ、ご安心下さい。別に今ここで美濃姫様をどうこうしよう等とは思っておりません故。それに、もう美濃姫様のみの問題でもなくなっていますからな」
「どういう事だ!」
「言った通りです。猟兵の方がいたのでご挨拶したまで。少なくとも、もうこれ以降、あなた方にできる事はなくなるのですから……」
 不敵な笑みを浮かべる黒堂坊はそう言うと自身の影にゆっくりと沈んでいく。
「待て!」
 穹はそう叫ぶも、ここは戦うより逃がした方が良いと頭の中で警鐘が鳴る。
「フフ……楽しみでなりませんよ。あなた方猟兵が、何もできず悔しがる様を見る事ができるのですから……」
 そう言って完全に影に沈み、黒道坊の気配は完全に消えた。
 仲間の猟兵達が戻って来たのは、その後半刻も経たないうちであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月18日


挿絵イラスト