10
彼は誰時にさようなら

#サクラミラージュ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ


0




●朱は未明に散りて
 ──ドウシテ…………?

「ん……?」

 低いすすり泣きの声が聞こえたのは、誰もが寝静まった深夜のこと。
 色街を楽しんできたばかりの若い男はあたりを見回す。

「おぉーい! どこだー!」

 呼びかける声の大きさは、そのまま引きずった興奮の余韻だ。
 屋根の下を見、出しっぱなしの看板の裏を覗き、ゴミ捨て場の網をめくりあげ。
 ここでもない、そこでもない、ならどこだろうとあちこち視線をさ迷わせ。
 ……見つけた。
 商店街の店と店の間にある小さな路地。
 そこに黒いシルエットが凝っている。

「お嬢さん、こんな時間にどうし……」

 闇の中へ、そのまま一歩。
 ほっそりした肩に手をかけようとして、ふと気づく。

 絶えずひらめく幻朧桜。
 その花びらが、降ってこない。

「──ドウシテ生キテルノ?」
「え、っがぁ……っ!?」

 数秒の戸惑いがそのまま致命的。
 突如響いたのはざくりともぞぶりともつかない異音。
 足元の影が蠢いて槍と化したなど、男は考えもしなかっただろう。
 ずるりと引き抜かれた影槍に引きずられるように、ゆっくり傾いでいく体。
 男の瞳はもう、光を宿していない。

「死ンジャッタ! 死ンジャッタ!アハハハハッ!」

 影は甲高い声で笑う。
 死肉を千切り奪い合う蜘蛛足。散らばる彩りは夜闇に沈む赤。
 糸に絡められていた花びらたちが同じ色に染められていく。

「コレデ貴方モ同ジダワ! キャハハハハハッ!」

●誰そ彼時に待ち合わせ
「ただ『生きている』ことを恨みの対象とする――そういう影朧のようです」

 穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)は僅かに焔色の瞳を伏せた。
 瞼の裏には、集まった猟兵に語り聞かせた予知の光景が浮かんでいるのだろう。
 だが予知できた以上、それは覆すことができる未来だ。

「逆に言えば、そこにいるなら誰でもいいということですので……皆様方には、囮をお願いしたく」

 現場はサクラミラージュ・帝都郊外の街の中心にあたる商店街。
 これまでと違う歴史を辿った街並みはただ歩くだけでも目新しい景色を映すだろう。
 もちろん何か購入したっていい。夕刻ならどのお店もかきいれ時だ。
 クロケットやビフテキ串、お団子やアイスキャンデー、持ち帰りのカステラや金平糖だって。
 古き良き和服の端切れ。舶来品のアクセサリーやコスメ。裏通りのミルクホール。探せば探すだけの発見があるだろう。

 予知の時刻は夜。
 日が暮れても、構わず生を満喫する者達に影朧は襲い掛かる。

「どうか──ひとの未来と幸福を、よろしくお願いいたします」

 グリモアが転送の光を放つ。
 鼓舞するように、やわらかな鈴音が響いた。


只野花壇
 はじめまして! 新人MSの花壇です。好きな時刻は昼間です。
 今回はサクラミラージュより、夜闇に紛れてのスタイリッシュバトルをお送りします。

●章構成
 第一章/日常『逢魔が時に街を歩く』
 第二章/集団戦『女郎蜘蛛』
 第三章/ボス戦『影竜』

 一章は夕刻、商店街を満喫してください。
 フラグメントの能力値は参考程度に。
 OPに記述した以外のものも描写歓迎です。がんばります。

 二章以降、戦闘はすべて夜の時間帯となります。ご了承ください。
 日常章のみ・戦闘章のみの参加も歓迎しております。お気軽にどうぞ!

 それでは、ようこそ逢魔が時へ。
 皆様のプレイング、心よりお待ちしております。
103




第1章 日常 『逢魔が時に街を歩く』

POW   :    片っ端から食べ歩き!

SPD   :    ウインドウショッピングと洒落こもう

WIZ   :    物思いにふけりながら適当にぶらつこう

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リック・ランドルフ
生きてるだけ恨まれて狙われるか、そりゃ随分とまあ……ま、こっちとしちゃ丁度いいか。それじゃ、囮捜索と行きますか。


そんじゃ、囮らしく…狙われるように周りの人と生き生きと観光客ぽくうろつくとしよう。

お、そうだ。丁度いいし土産でも買っておくか。親父と兄貴には…酒でも買っておくか。そんでお袋や兄嫁や姪には…甘いものでいいか、金平糖とやらカステラを購入するか。

ま、そんな感じで土産買って人生楽しそうにしてる感じでターゲットが動くまで過ごそう。


ヨシュカ・グナイゼナウ
折角囮になるのだから、全力で満喫してやろうと思うのだ

なんでしたっけ、行きは良い良い
ちょっと違うかなと考えながら、西日によって輪郭部が曖昧となった商店街を散策
誰も彼も曖昧になって、異物が混じってもわかりはしない。逢魔が時とはよく行ったものだ
生きているだけで憎いなんて、恨むことに疲れてしまいそうだな
右も左も生きているひとだらけで、キリがない
灰色の相棒を抱えて、歩く

それはそれとしてミルクホールというものが気になるのです
ミルクホールと言うくらいだから牛乳が出るのだろうか?わからない!
わからないなら入ってしまおう、考えるのはそれからだ

ミルクの他にケーキやカステラもあると知るのは少し後のこと



●縁は世界を越えて

 強い西日は全ての景色を曖昧な橙と黒に溶かしていく。
 その影が瞬く間に姿を変えていくのは、降り続ける幻朧桜の花弁のせい、だけではない。
 たとえば家路に急ぐ子供たち。
 夕食にあと一品足すべく、一銭でも安い良い品を探す母親や女中。
 そんな女傑たちを相手に、最後の売り込みに必死な店番。
 慌てて駆けていく男はこれからが仕事の時間なのだろう。

 夕暮れ時は、せわしない。

 ヨシュカ・グナイゼナウ(一つ星・f10678)は、黄金色のひとみをゆっくり瞬かせた。
 腕の中にいる相棒──ヴィルヘルムはつまらなそうに大あくびをしている。
 本当は動き回りたいのだろう。だがこの雑踏に放してしまったら最後、どこに消えてしまうか分からない。見知らぬ土地でたった一匹の猫を探すことはひどく困難であると、ヨシュカは経験で知っていた。
 だから一人と一匹、逢魔が時を満喫する。
 魔に逢う時刻。大きな禍が訪れる時。昔の人はよく言ったものだ。

「生きているだけで、憎いなんて」

 恨むことに疲れてしまいそうだな──と。
 呟く声すら、「生」の喧騒に紛れてしまう。
 同じに溶けてしまう黄昏色。けれど絶えない騒がしさの中に。人形が混ざっているだなんて、きっと想像もされないだろう。
 けれど予知された影朧を誘い出すための囮として、楽しむこともヨシュカは決めている。
 気になっているのはミルクホール。
 聞いたことのないそれは、名前の通りミルクを出すのだろうか? 分からない。分からないから入ってみたいのだ。
 きょろきょろとそれを探す彼の目が、看板より先に捉えたのは。
 夕焼けのそれとはまた違った金色。

「あれは──」



 時間は、少し遡る。

「囮捜査か」

 成程。そう頷いた大柄な彼は、リック・ランドルフ(刑事で猟兵・f00168)。
 ただ商店街を満喫するだけで狙ってくれるだなんて、随分と見境のない相手だと思う。
 だが、それはこちらとしても都合がいい。
 リックは警察として、そして猟兵として、数々の事件に立ち向かってきた。その中には犯人が人質を取る事件も、下手を打てば街ひとつ滅ぶような争乱も。……そして、ひとつの世界の存亡が関わる「戦争」もあった。
 そうした案件に比べたらずっと気楽な部類ではある。

「丁度いいし、土産でも買っておくか」

 満喫と言われて、そんな考えを出すくらいには。

 そうと決まれば足で稼ぐのが刑事のやり方というもの。商店街を歩き回ってはそれらしいものを探して歩く。
 父親や兄に贈るものはすぐに決まった。舶来品の、質がいいウヰスキーだ。とろりとした光を閉じ込めた琥珀色の液体は、荷物になることを差し引いても十分に満足がいくものだ。

 だが。
 母親や兄の妻である義理の姉、それから溺愛する姪に何を贈ればいいのか。
 いや、甘いものを用意するつもりではあるのだ。具体的な種別が決まらないだけで。
 シベリアとはなんだ。金平糖は何が違うんだ。大福はどこで買える。残念ながら彼の知識の中にこの疑問を解決する手段は存在しない。
 途方に暮れて、雑踏の中に立ち止まる。

「リック様!」

 呼ばれて振り向いた視界には。
 日暮の中にあって、尚鮮やかな白。

「……先輩?」

 ヨシュカとリックは、UDCアースで同じ事務所に所属する間柄である。
 年齢と身長とは逆に、所属歴はヨシュカの方が長い。それが故の、もう慣れた呼称にヨシュカは片方だけの黄金を細めた。

「はい! こんにちは。奇遇ですね」
「あー……どうも。まさかこの世界で会うとは思いませんでしたよ」

 意外な遭遇はばつが悪く、頭をかいてしまうリックである。そもそも他世界に赴くことが少ない彼は、その先で出逢うという経験にも疎い。少しだけ態度を決めかねているところもあった。

「いや、でも先輩なら知ってるか……?」
「何がでしょう?」
「甘いものを売ってる店」
「甘いものを売っているお店……」

 問いに考え込んでしまうヨシュカだ。
 すれ違うように進んできた店は数あれど、甘いものと言われて咄嗟に出てくる程真剣に見てきたわけではない。
 悩んで、見回して……ふと、その看板が目に入った。

「……ミルクホールはどうでしょうか」
「ミルクホール? 何ですかそれは」
「分かりません」
「えっ」
「だから、行ってみましょう!」

 「ルーホクルミ」と記された看板を掲げた店へ、白い背中が走っていく。弾む長髪が夕陽色を弾いて楽しげな光を辺りに振り撒く。

「先輩!?」

 思わずその背を追いかけて、リックも甘い匂いを漂わせる店へと向かっていく。


 ミルクホールにはカステラやケーキも売っていて、リックの用事も果たせると。
 二人が気付いて笑い合うのはもう少しあとのことだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

玉ノ井・狐狛
(誰でもイイ、ってんなら。こういうのもアリだよなァ)

 商店街、数多の人が行き交う歩道の脇。
 小さなテヱブルがひとつ。クロスには“易”の一文字。どうやら手書きのようだ。

「おや、そこなお人。ちぃと話だけでも聞いていかねェかい?」

 そんな声掛けから始まるのは、世間話。食いつきがいいヤツにゃあ、実際に占うトコまでやるが。
 小銭稼ぎが目的じゃねェし、がっつくよりは気に入られる方が重要だぁね。

(ただ散歩するよりゃ幾らか目立つかもだしな、囮のバリエーションは多い方がイイだろ)

行動:街頭で易者として活動
意図:情報収集(必要があれば猟兵間の伝達も)&個人的趣味


リア・ファル
なるほど、囮だね

それじゃあ「早着替え」でレイヤーを切り替えて……。
こちらのパーラーメイドさんの格好をしてみたよ。
似合う、かな?
(魔剣が転じた銀虎猫が、足下で「うみゃー(馬子にも衣装だな)」と鳴いた)
ちぇー。ヌァザのいじわるー。

あちこちお店に寄りつつ、
バスケットに色々買い込んで、お使い帰りに
ちょっとした寄り道しちゃおう、的な雰囲気で歩く

この世界も美しいよね。
新しい世界を歩くのは凄くワクワクする。
其処に生きる人々の表情を見るのも良い。

「今を生きる誰かの明日のために」
ボクに与えられたこの言葉の意味を、強く噛み締める事が出来るから

紙袋にフランスパンを差し込んで、歩く
さて、猟兵のお仕事、がんばりますか!



●CEOも歩けば狐に当たる?


「なるほど、囮だね」

 艶やかなポニーテイルを揺らして頷いた、リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)である。
 そうと決まればこの世界に馴染むべく。流行を解析、データを構築し、そしてダウンロード──換装完了。
 ペースとなる和服は腿半ばまでのミニ丈で涼やかに。色合いこそ普段の士官制服と同じ水色と白だが、モダンな矢羽根柄に重ねるように散らした桜が可愛らしさを添える。たっぷりのフリルをきかせたエプロンは真っ白で、頭頂部にはカチューシャ状のヘッドドレスが開いた。
 サクラミラージュではありふれた、パーラーメイドの服装だ。
 玄人裸足の早着替えの正体は、レイヤーの切り替え。ただそれだけで衣装を変えられるのはヒューマンインターフェイスである彼女の強みのひとつだ。
 くるりと一周、回ってみて。服飾店のウィンドウに自分の姿を映す。

「似合う、かな?」

 抜群のスタイルを隠すことなく引き立たせ、足取りも楽しげなリアの美貌は通り過ぎ行く誰彼の視線を奪う。
 そんな彼女の一番近く、うみゃあと鳴いた銀虎猫の声に混ざった呆れを、彼女は正確に聞き取った。

「ちぇー。ヌァザのいじわるー」

 不満に応えて言動を改める相棒でもないが。
 微笑み一つで気を取り直して、目的地たる商店街へと踏み出した。

──ざわりと吹いた冷たい風が、幻朧桜を舞い上がらせる。

「わぁ……!」

 黄昏の空を彩る花は白とも紅ともつかず。不規則に踊る花びらを追いかけようと視覚機能が彷徨う。一瞬だって同じ景色にはならないから、いつまで眺めていたって飽きがこない。
 道を行く、この世界に生きる人たちが目もくれないのはそれがありふれた景色だからなのだろう。
 ある人は店に。ある人は目的地へ。またある人は連れている子供に。「隣人の顔も見えないような」と称される時刻でも、リアの解析能力はひとりひとりの表情を読み解くことが可能だ。

 「今を生きる誰かの明日のために」──それが三海を征く彼女の指針。

 彼女の故郷である星の海は遥かに遠いけれど、桜の世界の人たちも今を生きる「誰か」だ。その為に働くことに何の迷いもない。
 さて、どこへ寄り道しようかと、見回す彼女の桃色に──飛び込んできたものがあった。

「そこなお人。ちぃと話だけでも聞いていかねェかい?」

 歩道の脇に小さなテヱブル。クロスの「易」の文字は手書きだろうか。
 そんな人もいるのかと感動を覚えてしまうリアである。

「へぇ、辻占い? ……でいいのかな」
「その通り。景気はどうだい、お嬢さん」
「うーん……まあまあ、かな? そういうキミは?」
「こっちもトントン、ってやつさぁ。まったくもって忙しない」

 肩を竦める易者に、けれど困った様子はなく。
 商売人としても興味を惹かれるリアである。

「じゃあ、ボクのことも占ってくれないかな」

 記されていた代金を木皿に置く。
 座ったままリアを見上げた彼女は、ひどく挑戦的な笑みを浮かべてみせた。

「オーケイ、それじゃ──」

 ひとりでに踊る。
 そうとしか形容できない鮮やかな札捌き。混ざり合い、広げられ、テヱブルに広げられる一連にリアが口を挟む暇もない。

「直感で一枚選びな」
「ん、と」

 これ、とリアが示した札を一枚。ひっくり返して見てみれば向かい合う男女の図柄だ。
 楽しげに唇を吊り上げた占い師がこぼした呟きは、感嘆。

「へぇ、『待ち人に出会える』だとさ。心当たりはあるかい?」
「……十分。ありがとう、占い師さん」
「ソイツは重畳。幸運を」

 この後確実に会えるという、根拠のない保証。けれど何もないよりいい結果に勇気づけられたリアだ。
 手を振って夕闇の彼方に消えていく水色を見送って、玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)は一息ついた。

「……勢いのある同業者だ」

 影朧にとっては誰でもいいというのなら、囮のバリエーションは多い方がいい。そう考えて選んだ手段が辻占いであるのが巫狐である狐狛だ。
 趣味が入っていたことも否定はしないが、無目的にぶらつくよりは効率的に情報も収集できる。実際、今後この世界で活動する時に役立ちそうな話もたくさん聞けた。

「賭場の話も聞きたかったが……それを通りすがりに求めても、ねぇ」

 元より、昼より夜の世界で生計を立ててきた狐狛である。商店街の空気よりもっと熱狂的なモノがいい。
 蛇の道は蛇。狐の道は狐。通りすがりに聞かずとも、探せばいくらでも見つかるだろう。

 ──桜を散らす、風が吹く。
 術師としての直感だろう。そこにかぐわしさ以外のものを嗅ぎ取る狐狛だ。 

「そろそろかな」

 日没と共に趣味の時間は終わる。
 さあ、仕事を始めようじゃないか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【鎧坂探偵社】
――灯理、私は気付いてしまいました
生きている対象に襲いかかるというのなら
生命に満ち溢れた行為をすれば引き寄せられるのでは……!!?
引き寄せられたところを私たちで処分すれば効率的では…??
ということで食べ歩きましょう。ちゃんとこれもお仕事です!わーい

食べれる物はなんでも好き
ああっ、ビフテキが――灯理も食べる?
あっちにお団子が!あっちに手羽先が!
甘いものとしょっぱいのって交互に食べたら
もう止まれないわ……

ところで何が目的でしたっけ
遭遇できそうなら食べた分だけ暴れ――もとい、働きましょうか
大丈夫ですよ、ぬかりなく「応龍」は起動してありますからね。
何があっても「万事任せろ!」ってやつです


鎧坂・灯理
【鎧坂探偵社】
なるほど、さすがは伴侶殿
半分……七割くらいは食べたいだけだと思うが、
理にかなっているのだから止める理由は無いな!
チケットは持っている?よし
では全制覇といこうか

食べる。ビフテキ美味しい
懐かしい、昔は野良の動物をよく食べてたなあ
うっかり鼠を食って死にかけたりしたっけ
美味しいものはいいな。美味しいし、胃がひっくり返らないものな
あっシベリアだ。伴侶殿シベリア食べるか?
ようかんとカステラなのに、なんでシベリアって言うんだろうな

遭遇戦は任せろ
この眼帯『霊亀』は視界を閉ざさず広げるものだ
応龍と霊亀、私とあなたが揃ったのだ 失敗などあり得ない

ニルズ兄様にお土産買っていこうかな
それとアンクたちにも



●竜飲鳥食

「――灯理、私は気付いてしまいました」
「どうした、ハティ」

 こちらは並んで歩く二人の「黒」。
 ヘンリエッタ・モリアーティ(Uroboros・f07026)、その一人格であるハティ。
 鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)。 
 桜の世界の夕焼けの中にあって尚、不遜にも己を譲らぬ一対たるつがい。
 降り続ける花びら達も二人の周囲だけは避けているようにすら見える。
 ……否。よく見れば、花弁が明らかに不自然な軌道を描いているのが分かるだろう。灯理の武器である念動力は新たな世界においても絶好調だ。

「今回のオブリビオン……影朧は、生きている対象に襲いかかるという話でしたね」
「ああ。そういう話だったな」
「でしたら生命に満ち溢れた行為をすれば引き寄せられるのでは……!? 引き寄せられたところを私たちで処分すれば効率的では……?」
「……なるほど」

 影朧に狙われる条件は「満喫」という言葉で表現されていたが、それには「十分に飲み食いすること」という意味もある。
 そう考えれば理にも適っている。半分……七割くらいはあちらこちらから誘ってくる美味しい匂いの元へ向かいたいだけだろうが、愛するつがいを止める理由には全くならない。

「さすがは伴侶殿。チケットは持ったか?」
「勿論、これもお仕事ですからね。食べ歩きといきましょう! 」
「ああ、全制覇と行こうか」

 どちらからともなく伸ばした手は二人の中間地点で重なった。
 身長が違う。経験が違う。視力も感性もまるで違う。
 けれども、今は同じ速度で。黄昏に染まる商店街を歩いていく。

「ああっ、ビフテキ串! おいしそう……十本ください」
「十本!? 多くないかい?」
「大丈夫ですよ。灯理も食べるでしょう?」
「食べる」
「そういうことなら。毎度あり!」

 チケットと引き換えに渡されたビフテキ串は、一センチ幅に切られた牛肉がぎっしりと刺さっていた。一本取り出して口にすれば、塩胡椒だけのシンプルな味付けが肉が持つ本来の旨味をいっぱいに広げてくる。

「うん、美味しい!」
「そうか、美味しいものはいいな」

 文句なしと頷いて二本目を取り出すヘンリエッタに灯理も遅れて追随した。
 優秀すぎる脳に過ったのは、郷愁めいた感情だ。

 『鎧坂・灯理』は、味方のいない路地裏で育った。
 当然、接種する栄養を選ぶ余裕など微塵もなく。タンパク源となったのは専ら野良の動物だ。
 経験が足りなかった頃などには、毒をたっぷり溜め込んだ鼠を食べて死に掛けたことだってある。毒性を持つ植物に手を出して一晩中吐き戻し続けたことも。
 それに比べたら、今は──

「ねぇ、灯理」

 愛する伴侶の声が、探偵を現実へと引き戻す。
 灯理が一本の串焼きをじっくり味わう時間でヘンリエッタは残りの七本を平らげていた。
 この竜は食欲旺盛なものだから、これだけでは全く足りていない。
 そして貪欲なものだから、「一緒に」この時間を楽しみたい。
 そう考えて、指先は狙いを定めた看板やのぼりを指し示す。

「あっちにはお団子。そっちには手羽先。甘いものとしょっぱいものの組み合わせって最高じゃない?」
「──……ああ、いくらでも食べるといい」

 さすがにその食欲には追いつけないが、それでも昔より食べられる量は増えている。
 何か相伴できそうなものを探して視界と知覚を広げ……それが目に留まった。

「ああ、シベリアがあるな。食べるか、伴侶殿?」
「シベリア? 露西亜の?」
「いや。羊羹をカステラで挟んだ菓子なんだが……そういえばなんでシベリアって言うんだろうな」
「でも美味しそうじゃあないですか。食べましょう!」


 そうして、日暮れと共に腹が満ち。
 商店街を進む足取りも心なしかゆったりとして。
 それでも街はまだまだ賑わっているから好奇心の刺激される二人だ。
 途切れない幻朧桜の風景はどこまで歩いても幻想的で、まるで終わりのない迷路のような。

「こうしていると……」
「うん?」
「何しに来たか忘れてしまいそうね」

 二人で街を歩いて、たくさん食べて、夕暮れの街をのんびり歩いて。
 このまま同じ家に帰って眠りに就ければ。
 きっとそれはひとつの幸福の形なのだと、最初それを諦めていたヘンリエッタは思うのだ。

「戦うんだろう?」
「──ええ、勿論」

 けれど、このつがいが挑戦的に笑うから。
 かつて『犯罪王』だったダークヒーローは、救うという未知の困難に挑めるのだ。

「……けれど、意外と出てこないものね。こんなに満喫しているのに」
「市街地での遭遇戦になるかもしれないな」

 ヘンリエッタの知覚にも『応龍』にも、灯理の千里眼にも『霊亀』にも。まだ引っかかる影はない。
 予知の時刻は夜と言っていたから、そろそろ出現してもおかしくはないが……。
 それでも、不安はない。そういう風に灯理は鎧うし、ヘンリエッタは竜として笑う。

「私とあなたが揃ったのだ 失敗などあり得ない」
「ええ。何が起こっても『万事任せろ!』って奴ですね」

 竜を自称する「兄」を思い出させる台詞に思わず微笑んでしまう灯理だ。
 いつからだったろう。大切になっていたひとを思って。端に辿り着いてしまった商店街へ、もう一度足を向ける。

「そうだハティ。ニルズ兄様にお土産でも買っていこうか」
「ああ、それはいいですね。何にしましょうか」
「色々見て回って決めよう。他にも探してみたいお土産があるからな」


 ──今日は一緒でない、あと三人の伴侶へも。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎本・英
この時間は腹が減る。
私が好きなのは揚げたてのコロッケだ。
コロッケは揚げたてに限る。かぜならば……。
――と英は揚げたてのコロッケを買うのだ。

夕暮れ時の滲む空を背景に、この熱々揚げたてのコロッケを食べるのが醍醐味だと思うのだよ。
何処からともなく漂う夕食の香りも相俟って
嗚呼。生を感じるね。
この街は生きている。
生きているこの街でコロッケを食べる私も生きている。
次の作品のヒントになるかもしれなあっつ……!

舌を火傷してしまったがこれはこれで……。
気を取り直して散策でもしようじゃないか。
夕暮れの浪漫を求めて。
夕暮れ浪漫、君は何処にいるのかい。

しかし、このコロッケは美味いな。



●夕暮れロマンはコロッケと共に

 夕刻は、空腹を感じる時間帯でもある。
 胃腸が食物を消化・吸収するのにかかるのがおよそ三~五時間。正午ぴったりに食事をしたと考えると、ちょうど胃が空になるのがこの時間だ。

 ──ならば、食す他あるまい。

 榎本・英(人である・f22898)は、ほかの店には目もくれずまっすぐそこを目指した。
 『揚ゲ立て有リ〼』の紙が貼られたコロッケ屋だ。注文してから揚げ始めるという形態の店は、このサクラミラージュでは新しい文化に当たる。
 それでも、コロッケは揚げたてに限る。英の持論の一つだ。

「ありがとうございましたー」

 店員の声を背に、夕焼けの滲む路へと歩き出す。
 手の中のコロッケは当然のように揚げたてで、ほこほことした温かさを英の手に伝えた。
 夕焼けの雑踏の中は騒がしい。英もまた、背景のなかのひとつとなる。

 そこでまず鼻をくすぐったのは、辛みの効いたスパイスの匂い。どこかの家の夕食はカリーライスなのだろうか。
 あちらの店ではジョッキを合わせて乾杯する、重くも澄んだ楽しげな音。
 牽かれて行く大八車の振動が地面に薄く積もった花びらを舞い上げていった。

 どの要素にも「生」を感じる。
 その一部である、英自身もまた。

 ひとつひとつは何の変哲もない断片でしかない。だからその背景に思いを馳せてみる。あるいは繋げて重ねてみる。そんなことを考える、榎本・英という存在のことを考える。
 著作と共に生き、筆を置くことで死ぬ。
 平凡に産まれ、平凡に育ったはずの、榎本・英という文豪は。そうやってここに生きている。

 ……そんなことを考えながら、からりと揚がった衣にかぶりつく。
 僅かな抵抗が歯応えとなって、ごく素朴なじゃがいもの甘みと熱を英の口の中に広げた。

「あっつ……!」

 舌に走る痛みに眉根が寄る。原因となったコロッケから距離を取ると、断面から真っ白い湯気が立ち昇った。夕日の中にあってなお白いそれは中心部までしっかり火の通った証拠だ。

「揚げたてのコロッケは凶器だな……」

 ため息もが白く煙る。口の中にまだ熱さと痛みが残っいて不愉快だ。

 だが、これも生きているからこそ。
 
 ふぅふぅと息を吐いて、冷ましたコロッケを恐る恐る一口。
 夕暮れの空気と吐息によって冷まされたコロッケは、今度はしっかり芋の甘さと、多めに入れられた胡椒の辛さ。後を引く濃厚な旨味は……粉にした乾酪でも混ぜ込んだのか。これだから火傷をしたってやめられない。

「嗚呼。……美味いな」

 これを味わうのは、生きている者の特権なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

狭筵・桜人
仕事ですね。仕事中です。
弱き人々を救うために囮にならなくてはいけない……。
囮になるには生を満喫しなくてはいけない……。

つまりこの時間の買い物はすべて経費で落とせるってことですよね!

人の金なら高いヤツをってことでー
舶来品の質の良いアクセサリを探します。
希少品はどれだとか、どんなものが流行してるのかとか店員に尋ねたり。
ああ、探すのは自分用ではなくて女物です。

何って転売するんですよ、転売。
経費で仕入れた品を転売して自分の懐に現金を入れる……こうして経済が回っていくんです。
美しい図式ですねえ。
不思議がられたら恋人に贈るのだとか適当こくので。
美談をでっち上げて値切りましょう。



あっ仕事のこと忘れてました。



●転売目的の購入は詐欺罪が立件される可能性があります

 その宝飾品店には春色の青年が居座っていた。
 張り付けた笑みの形は上機嫌。鼻唄でも歌いそうな様子でトレイに並んだ指輪を見比べている。

「へぇ、じゃあやっぱり桜モチーフのものが流行りなんですかね」
「そうですね。いつ、どこであっても幻朧桜は咲き誇っていますから。季節を問わず使えるというのも大きいですね」
「成程。ところでこれとこれの値段が違うのは……」
「宝石が違います。そちらは人工的に着色したものですが、こちらは天然の石をそのまま使用しております」
「ああ! 天然ものの方が貴重ですもんね」

 頷いた狭筵・桜人(不実の標・f15055)の考えは単純。
 転売である。

 そもそも、財布に五千円と入っていない貧乏学生である桜人が舶来品の装飾品など買える訳がない。
 だが、これは猟兵としての仕事である。
 弱き人々を守るため、猟兵が体を張って囮になるのだ。
 その手段というのが生を満喫することであり、商店街で過ごすことが例示された。
 つまり、今なら高いお品物も経費で買いたい放題なのだ
 これを転売すれば売値はそっくりそのまま桜人の懐へ転がり込んでくる。
 お上から支給されたサアビスチケットを出せば値切る必要すらない。
 パーフェクトだ狭筵・桜人、この計画は完璧だ!

「ところでお客様。どうして女性用のお品物を?」

 淀みないセェルストォクの合間を縫って投げかけられた質問も、桜人にとっては想定内。幻朧桜とはまた異質な春色の笑みは大抵のことで剥がれはしない。
 あらかじめ考えておいた返答を微笑みのまま口の端に乗せた。

「ええ、恋人に。驚かせた時の顔が可愛いんですよね。ですので内緒にしてもらいたいんですけれど……」

 一から十まで真っ赤な嘘である。
 おそらく店員にとっては、こうやって手に取った指輪を売り飛ばす質屋を現在進行形で探していることが一番のサプライズだ。

「……でしたらお客様。お品物は一つに絞った方がよろしいかと」
「へっ?」

 だから、五個くらいまとめ買いするつもりだった桜人は驚いた。たくさん売れれば店もハッピー、桜人もハッピーになると思ったのだが。
 敵は筋金入りの販売員。宝飾品を第一に思考する本職の人間だ。

「幻朧桜は永遠の象徴でもあります。逆に多くを集めてしまうのは散るのを早めてしまうとも言われており、お勧めできません。恋人さんのことを思うのでしたらひとつだけにすることをおススメします」
「あっはい」
「また、お客様のご年齢ですとあまり高級なものは逆にお相手様を委縮させてしまうことにもなりかねません」
「そ、そうでしょうか」
「そうですとも。ですので諸々を考えますと……このあたりがよろしいかと」
「あっいえ、でもですね」
「 い か が で し ょ う か ? 」
「……ハイ…………」

 圧力には勝てなかった。
 結局購入してしまった指輪は財布に優しい程度の値段で。
 それでも夕陽に照らされてか、妙に綺麗に見えた。






「あっ、そういえば仕事」

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
へぇ…明るい時間しか来たこたぁ無かったが…
夜は夜で、なんつーか雅だな
とりあえず、ゆるりと食べ歩きでもするかね…

へぇ、なんていうか素朴な菓子が多いんだな…団子とアイスをくれ
しっかし──妙なもんだなぁ
この俺が、夜の街をぶらりと食べ歩きと来たもんだ
信じられるか?1年ほどで昔と驚くほど環境が変わりやがる
ストリートで食べ歩きなんてすりゃ、たちまち群がられて奪い合いだ。そこにドラッグジャンキーがやって来て、銃を乱射なんてよくある話
どこにいても真の安息なんてありゃしなかった

それがこうなるなんて、誰が予測できたよ
あぁ全く、充分すぎるほどに恵まれた環境だ
…本当に、充分すぎる
これ以上を望むのは、いけないことだよ



●此処が踊り場だとしても

 高く澄んだ西の空では、昼の蒼と夕の橙が混ざりあう。
 見ている間に太陽の位置が傾いて、沈んでいって、蒼は橙に、橙は藍に移り変わって。
 自然の営みを彩るように、幻朧桜の花びらが踊っている。

「へぇ……雅だな」

 賑わう商店街の片隅、そう呟いたのはヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)だ。
 道が開いた初日にはもうサクラミラージュを訪れていた彼ではあるが、日没をそうと認識しながら迎えるのは初めてで。
 新たな世界の織りなす美に見とれていた時間は暫し。ゆるりとした足取りを商店街へ向ける。
 影朧を誘き出すべく──いざ、食べ歩きだ。


 小倉風味のアイスには、小豆と砂糖以外のものがほとんど入っていないらしい。
 それをさっくりとした最中で挟んだから、食べながらでも歩きやすい。
 口に入れてみれば、滑らかな舌触りからは想像もできない程しっかりとした豆の味が広がった。誤魔化しの効かない素材本来の味わいだ。

 醤油風味の甘じょっぱいタレをこれでもかと纏わせた串団子。
 米と醤油の組み合わせは異なる世界であろうとも言うまでもない。恐らく製法自体は既知の世界のそれと変わらないのだろう。だが、チケットと引き換える直前まで炭火に当てていたからまだまだあたたかい。直前までアイスを食べていたこともあって、どこかほっとするような。

「しっかし──妙なもんだなぁ」

 このArseneが、夜の街を食べ歩きである。

 ストリートでそんなことをすればまず奪い合いだ。平和ボケした面を下げて呑気に食べ物を見せびらかしながら歩いているような奴がいたら、一年前の自分だってそうしたろう。掴み合いや殴り合いで済めばまだ平和な方。喧騒を抗争か何かと勘違いするドラッグジャンキーは銃を乱射し、そいつらを殺すためにもっと大仰な武器が持ち出され、漁夫の利狙いの悪党が死体をバラして持ち去っていく。
 そうなることが分かっていて、食べ物を売る店など構えられるはずがない。何が火種になるかわかったもんじゃないから睡眠だっておちおち取れない。

 それが日常だった、十六年に比べれば。

「……本当に、充分すぎる」

 空を見上げる余裕がある。食事に選択肢がある。
 背を預ける仲間がいて、笑い合える友がいて。
 安心して眠れるセーフハウスに、従業員を雇うことすらするなんて。
 たった一年でここまで環境が良い方に変わるなんて、夢にも思わなかったから。

 「…………」

 団子の串を放り捨てる。
 これ以上は望まない。端役如きが望んではいけない。
 主役に──誰かの『特別』になんて、ならないように。
 

 だからいつか。
 俺が舞台を降りる時には笑って見送ってくれよ、チューマ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
見たことのない街並みを、物珍しく見渡しながら歩く
遠いものだ、なんて思っていた平和な光景に身を置くのは
まだ少し慣れない

“生きている”ことを恨む、か
理解できないと切って捨てるのは簡単だけど
どうしてそうなってしまうのかを
少しだけ、考える

自分にないものを持っていることが許せないんだろうか
だから“同じ”にさせたがる?
悪いのは奪った人間で、それ以外の誰かじゃないのに

……命を奪うのは、未来を奪うことだって
いつか、そう言われたっけ
数えきれないほどの人を殺して
その未来を奪ってきた俺は
きっと、幾つもこんな存在を作ってきたんだろう

それでも、まだここに生きていたいと思うのは
……ずるいよな
わかってる、つもりだったのに



●螺旋階段の上と下

 猟兵には、どんな外見だろうと現地住民に違和感を抱かせない世界の加護が備わっている。
 だが、それは目立たないこととイコールではない。
 「その世界」とは違う振る舞いをするから、自然と目立ってしまうのが普通だ。
 だが、どこにでもいる観光客のように人混みに馴染む彼がいた。

 鳴宮・匡(凪の海・f01612)。
 その凪いだ表情に反して、居心地の悪さを覚えている彼である。
 店先で焼かれている団子の匂いも。どこかで転んだらしい子供の泣き声も。戦場には存在しえないそれら全ての要素に対する違和感めいたものは誰とも共有できないだろう。
 つい落としたため息に、すれ違った誰かは気にも留めない。
 満たされている現地人が異邦人に対する態度は、いつだってそういうものだ。
 
「“生きている”ことを恨む、か……」

 理解できないと断じたものは切り捨てては沈めてきた。
 そうしなければ生きていられなかったから、今だってそうするのは簡単だけど。
 ……街を染める夕焼けが、あんまりに鮮やかなせいだろうか。
 持て余されていた思考が、少しだけそのために動いた。

「自分が持っていないから……?」

 生きていることを恨むのは、いつか持っていたそれを奪われたから。
 匡自身が命を奪う側だからだろうか、真っ先に思いついたのはそういう考えだった。
 奪われたから、他の誰かも同じようになればいい。
 悪いのは奪った人間なのだから、それ以外を奪うなんて────

 周りに合わせて動いていた足が、止まる。

 止まってしまった彼のことを、周囲はやはり気にも留めない。ちらりと視線を送るだけで、それ以上には関わってこない。
 それでもちらちらと向けられる視線の煩わしさに踏み出した。思考から切り離した足はどこへ向かうでもなく歩を進めていく。

「命を奪うのは、未来を奪うこと……」

 いつか誰かに言われた言葉を、口の中で転がした。
 鳴宮・匡は、命を殺し続けることで生を繋いできた戦場傭兵だ。
 奪われた未来が骸の海に沈み、朧な過去の影として蘇るなら。
 ……未来を殺してきた匡だって、過去を作る手伝いをしてきたようなものだ。
 なのに。

「……ずるいよな」

 脳裏に浮かぶ、いくつもの顔。
 相棒。チーム。親友。友人に弟子に……それから、紫色の花。

 いくつもの未来を奪ってきた。無数の命を殺してきた。
 生きるために己のこころすら殺した「ひとでなし」のくせに。
 自分がいてもいいと思える場所がまだあって、まだそこにいたいと願ってしまう。
 その矛盾が痛くて、苦しくて、だけど背けることもできないでいる。

 独り商店街を行く足は、止まらない。
 だってひとりでは、何かを手に取ろうとも思わない。



 ──自分はまだ、「ひとでなし」のままだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
初めてのサクラミラージュだ。本当に桜が舞ってやがる…。
美しい景色ではあるが、地に落ちた花びらの掃除は大変そうだな。

景色を堪能した所で、戦闘前の腹ごしらえと行くか。UC使って情報収集。手に持って食える、オススメの店巡りだ。
希望としちゃ…クロケット、ビフテキ串、団子、ビフテキ串、カステラ、ビフテキ串。
猟兵も人間だからな。空腹には勝てねぇ。詰めるモン詰めとかねぇといざって時に力が出ないのは困るだろ?

飯も旨い。人も良い。だからこそ…
生きてるだけで恨みの対象にされたんじゃ、たまんねぇな。誰にでも『生きる自由』ってモンがあるのさ。過ぎ去った過去がそれを冒して良い理由なんざねぇよ。(口にソース付けながら)



●世界の為に立つ理由

「本当に桜が舞ってやがる……」

 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)はサクラミラージュ初上陸。
 普段拠点にしているUDCアースでは春にしか見られない桜の花が一年中咲いているとは聞いていたが……百聞は一見に如かずとはこのことだろう。
 一面夕焼けの橙に染められた空から落ちてくるような花の雨は、いくら見ていたって飽きることのない自然の美だ。

「しっかし、花びらの掃除は大変そうだな」

 そんな風情のないことも思考に上るのは、婚約者の少女と共に経営する寮のせいだろう。あそこの庭にも桜(と、ついでに林檎も)植えられているから、この時期になると落ち葉の掃除で忙しい。それを集めて焚き火にし、芋や秋刀魚を焼いて……
 
 ぐぅぅぅぅぅぅ、と。
 盛大に腹の虫が鳴いて、思わず胃の辺りを押さえた。

「……まずは腹ごしらえだな」

 猟兵と呼ばれる生命の埒外であろうとも、人間である以上腹は減るものだ。そしてこの後には戦いが待っているのだから食欲を控える理由もない。
 いざ、商店街へ!


「お、旨そうな団子だな。ひとついいか?」
「かしこまりました。一本でよろしいでしょうか?」
「おう!」

 猟兵御用達のサアビスチケット一枚と引き換えに、受け取った団子は薄桃色をしていた。はくりとかぶりつけば塩気のある団子が内側の餡の甘さを引き立てる。自然と綻ぶ表情も雄弁なら、次いで出る言葉は絶賛だ。

「おお! 旨いなこれ! 食べたことねぇぜ!」
「幻朧桜の花びらを塩漬けにしたものを生地に混ぜているんです。中身は白あんなので見目も桜に寄せているんですよ」
「へぇ……いい工夫だな」
「お客様には美味しく召し上がっていただきたいですから」

 にこりと微笑む店員に感心しきりのカイムである。
 もう一本、と思わず言ってしまいそうになった瞬間。また腹の虫の鳴き声がした。
 店員の笑みが少し深くなったのは、もしや聞こえていたのだろうか。

「あー……もう少し、腹に溜まりそうな店ってあるか?」
「それなら、この先に最近開店したばかりのビフテキ串屋がありますよ」
「へぇ、いいな! あんがとさん!」

 団子屋から出て匂いを辿る。ちょうどそのような時刻だからだろう、目的の店にはカイムと同じような年ごろの男性が多く集まっていた。
 作られていた列の後ろに並びながらもう一度空を見上げた。
 ひらりと踊る花びら一枚、指先で捕まえながら考える。

 飯は旨い。人も良い。数時間と過ごしていない世界のことを好ましく思う。
 だからこそ、「生きる自由」を侵させてならない。
 ただそれだけの理由で恨まれるなど、たまったものではない。
 誰より自由に生きている、カイム・クローバーだからこそ───

「お待たせしました。次の方ー」
「おう!」

 そのためにも、今はしっかり食べなければ。
 特製ソースのかかったビフテキ串を五本受け取って、思い切りかぶりついた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユーイ・コスモナッツ
納さん(f01867)と

こんな華やかな往来で辻斬りとは、
サクラミラージュも物騒なものですね
さっそく市中見回りといきましょう!

『生を満喫することでより囮の効果を増すはずだ』
はっ! 言われてみれば、たしかに……
さすがの着眼点ですね、納さん!

……実をいうと、
ちょっとどんなものか着てみたいな、
なんて考えていました。えへへ

※服装お任せ

モダンやハイカラは良くわかりませんが、
可愛らしいお衣裳に袖を通すと、
自然と心踊りますね

任務中であることを、
うっかり忘れそうになっちゃいます
いかんいかん浮かれるな、
気を引き締めなくては……って、なんです、それ?
鈴カステラ?
分けて食べようって……良いんですか?
わあ~~、ハイッ!


納・正純
ユッコ(f15821)と
『生を謳歌することでより囮の効果を増すはずだ』という建前の元、二人連れ立って商店街を満喫兼見回り
まずはブティックで大正ロマンな服装に着替えよう
後はユッコの服装を褒めつつ、夕暮れの商店街を練り歩きながら目いっぱい楽しむ
※服装お任せ

「オイ見ろよユッコ! コイツは参った、洒落た世界にゃ洒落た服装があるモンだなァ。見回りついでに賑やかしに行ってみようぜ」
「店員殿、出来れば両方動きやすい服装で頼む。黄昏時の頃合いに、一つダンスの誘いを受けててね」
「ユッコ、ほれ。鈴カステラだってよ」
「ハハ、平和なうちは気を抜いても罰は当たらないさ。ここは割合景色が良い、二人で分けて食べようぜ」



●生きるとは、楽しむことだと思うから

 ぽつりぽつりと、街灯に火が入れられていく。
 夕焼けの残り日と揺らめく炎が折り重なって作る景色は、どこか妖しい美しさを帯びて二人の猟兵を橙に染めている。

「こんな華やかな往来で辻斬りとは……サクラミラージュも物騒なものですね」

 ユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)は、可愛らしい顔を凛と引き締めて商店街を見回す。騎士足らんと自任する彼女にしてみれば、無辜の民が影朧に殺されるなど看過できるはずもない。
 ……とはいえまだまだ十三歳の好奇心がうずくのも事実。声には出さねど、辺りを見回す視線が少しだけ引っかかる箇所が幾つもあった。それを押し込めてしまえるのも、類稀な意思の強さの賜物だっただろう。

「おい、見ろよユッコ!」

 その視線の方へ、指を差し示したのは納・正純(インサイト・f01867)である。
 見回りももちろん大事だ。だが、彼が何より重視するのは“知る”ことである。新たな世界という未知、そして何より年下の可愛らしい少女の好みを知る機会を放ってくなどできようもない。
 ユーイの視線が止まったうちのひとつ、華やかな服が並ぶブティックに歩み寄っていく。

「洒落た世界にゃ洒落た服装があるモンだなァ。見回りついでに賑やかしに行ってみようぜ」
「えっ……で、ですけど見回りは?」
「今回のオブリビオン……影朧は、生きていることに執着するらしい。だったら生を謳歌することでより囮の効果を増すはずだ。そうだろう?」
「はっ! 言われてみれば……さすがの着眼点ですね、納さん!」
「うっし、そうと決まれば行ってみようぜ」

 カラン、と響くドアベルは年季の入った低い音。
 そこに紛れるような小さな声を、正純の声はしっかりと聞き取った。

「……実を言うと、ちょっと着てみたいな、なんて。思ってたんです」



 リクエストはただひとつ、「動きやすい服装で」。
 この後戦闘が控えている以上当然のオーダーに、店員は完璧に答えてみせた。

「モダンやハイカラはよく分かりませんが……」

 ユーイが身に着けているのは麻の葉文様の着物だ。花緑青と水色を組み合わせは涼しげに、夜空を思わせる深い紺色の袴が落ち着きを添える。そっと袖口を彩るフリルは控えめながらも可愛らしいユーイそのもののようだ。
 ただ、足元だけはいつもと変わらないブーツだ。踵のある大人っぽいものも勧められたが、万一のことを考えるとやはりいつも通りの方が動きやすい。
 その代わりのサアビスです、と乗せられた白いリボンカチューシャの位置を調節すれば自然と表情は綻んだ。

「可愛らしい衣装って、自然と心が踊りますよね」

 くるりとその場で一回転。振袖と袴が追随するからブティックの前には一輪の花が咲いたようだ。大正の女学生たちは袴姿でテニスや野球を嗜んだというだけあってユーイの動きを邪魔することも全くない。
 先に店先に出ていた正純が漏らした吐息は当然、感嘆だ。

「いやいや、似合うと思っていたがこれほどとはな……」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。これならサクラミラージュの女学生……ハイカラさんにしか見えないだろうさ」
「えへへ、ありがとうございます。納さんもよくお似合いですよ!」

 言われた正純は、持っていたハンチング帽を頭に乗せてニヤリと笑う。
 紺鼠色の着物は一見無地に見えて細かな幾何学模様の織りが入った遊び心のあるもの。帯は洒落者にしか許されないダイヤパターンだから、厳めしい印象になりがちな黒茶のインバネスコートも重くなりすぎない。
 それでも一歩間違えれば地味と評されてしまうだろう。それを粋に着こなしているのは、間違いなく正純が纏う雰囲気あってこそのものだった。

「まったく、いい仕事をする店だったな」
「はい! こんなに楽しいと任務中だってことを忘れてしまいそうですね」
「ハハ、平和なうちは気を抜いても罰は当たらないさ」
「浮かれすぎるのもどうかなと思うんですが……」

 正純の態度は当然、鉄火場になった時の少女を信じていることの裏返しだ。かといってユーイの方もすぐ気を抜けるほど不真面目にはなれない。
 そのための手は先んじて打ってあるのが、納・正純という男である。
 隠していた紙袋の口を開く。ふわりとそよいでユーイの鼻をくすぐったのは蜂蜜の甘い匂いだ。

「ほれ、ユッコ」
「? なんですか、それ?」
「鈴カステラだってよ。向かいの店で旨そうだったからな」
「わ、いいんですか?」
「おうよ。二人で分けて食べようぜ」
「わあ~~~、はいっ!」

 ユーイの指先でつまめるサイズの小さなカステラを二人で一緒に頬張る。噛むだけで口いっぱい広がった優しい甘さに緑色の瞳が丸くなり、金色は鋭く細められた。

「! すっごい、これ美味しいです! なんだかちょっと花みたいな香りもして……!」
「幻朧桜の花から取れた蜂蜜を使ってるらしいが……ほォ……いいじゃねェか……」
「納さん納さん、もう一個食べていいですか?」
「おう、食え食え。足りなかったらもう一袋買ってもいいしな」

 ひとつの袋から鈴カステラを分け合う二人の姿は兄妹にも似て。
 長く伸びる影だけが、カステラの消えていく速度を知っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『女郎蜘蛛』

POW   :    操リ人形ノ孤独
見えない【ほどに細い蜘蛛の糸】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    毒蜘蛛ノ群レ
レベル×1体の、【腹部】に1と刻印された戦闘用【小蜘蛛の群れ】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    女郎蜘蛛ノ巣
戦場全体に、【じわじわと体を蝕む毒を帯びた蜘蛛の糸】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。

イラスト:龍烏こう

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●未明の頃に遇いましょう

 ──そうして、陽は沈んでいく。
 橙は紫へ、そして藍へ。 
 空が色を落としていくのと共に、あれだけいた人の数は次第にまばらとなっていく。
 それでもそれが役割と残っていた猟兵たちは、次第に暗くなっていくことに気付くはずだ。
 月も星も覆うような重い雲が、夜を闇へと落としていく。

 闇の中に潜む、朧な影がやってくる。

 それは空に固定された花びら。
 蠢く足の擦過音。
 目の代わりに輝く装飾品。
 人の頭と胴に蜘蛛の四肢。
 チキチキチキ──ヒトならざる聲で影朧達は囁き合う。



 ヒトだわ。 
               ヒトね。
      ヒトがいるのね。
                    笑っているの。
  生きているわ。
          どうして?           
                  ズルいじゃない。
    美味しいって何。
                         楽しいって何。
       


                ワタシ達には、ないのにね。



     ────ジャア、ドウスル?

 
 繰り糸が、小蜘蛛が、毒迷宮が。
 生きる者を恨む牙は未明の闇より放たれた。
 
榎本・英
確かに人だ。
君たちは……とても素敵な姿をしている。
人を蝕むのに丁度良い姿だ。
私はコロッケを楽しんでいた普通の人だよ。
見逃してくれないかい?

そう問いかけても見逃してくれないのだろう。
生憎、まだ生にしがみ付いていたいのだよ。
人ならば死にたくないと思うのは普通だろう。
人ならばね。

問いは私が彼女たちから生き延びる方法。
数多の蜘蛛から満足な答えはきっと得られない。
嗚呼。怖いね、怖い……。
こんな怪物を相手に皆良くやるよ。

著作物から情念の獣を生み出そう。
数多の手。生にしがみ付く者の手だよ。
私はまだ死ねない。
だから私の代わりに彼方を見てきてはくれないかな。
彼岸は美しいのだろうね。



●吾レ 死ニ給フ事ナカレ

「私はコロッケを楽しんでいた普通の人だよ。見逃してくれないかい?」

 くしゃくしゃになった耐油紙を女郎蜘蛛達へ見せびらかしながら、榎本・英(人である・f22898)は問い掛けた。
 返答は鋭い爪の一振り。空を切る音と共に半分になった紙が英の手を離れて落ちていく。


               どうして?
 いやよ。厭だわ。

          つれないお人。
                    生きているくせに。
    美味しいがわかるくせに。


──生にしがみ付いているくせに!!


 漣のようなざわめきは清々しいほどの妬みと嫉みと怒りに満ちている。わかっていたけどね、とため息をつく英は眼鏡の奥で目を細めた。
 その感情をあえて形容するなら……陶然だったろう。
 ひどくうっとりと、まるで見惚れるかのように。女郎蜘蛛が小蜘蛛を召喚する様を見詰めている。

「そうとも。私はまだ生にしがみ付いている」

 ひとりでに本が開かれる。
 見えぬ誰かが勝手に頁を捲っているように。
 或いは、そこに挟まっていたナニカが暴れているかのように。
 ぱらぱらぱらぱら……
 風を起こす本の動きは、始まった時と同様に自然と止まる。
 二〇三頁。そこに記されている情景を英は知っている。殺人鬼に追い詰められた被害者が必死に命乞いをするという一幕。
 それは英の書いた物語だ。

「人ならば死にたくないと思うのは普通だろう? 淑女達よ」

 だから教えて呉れ。
 其の答えを識るまで、私は死ぬ事もままならぬ。

「私が生き延びるには、どうしたらいい?」

 ぞろりと、糸を引くように。
 本から数多の“手”が這い出た。
 瑠璃の炎を帯びる濃紅の腕。それは英の著作より生み出された情念の獣だ。
 此度込められた情は「生きたい」「死にたくない」────
 生を呪い貪る影朧とは対極の思いが群れる小蜘蛛に掴み掛る。足を千切る。胴を引っ掻く。蜘蛛は暴れる。腕を突き刺し、糸を吐き、毒を撒き。それでも腕は止まらない。


ふざけるな!
                         ふざけるな!
      ヒトが生きるな!
          ヒトの分際で抵抗するな!
                  ヒトよ、死ね!!
               

 獲物に反抗され、「子」を傷つけられた女郎蜘蛛はただただ憤怒と憎悪を打撃と叩き付ける。しかし新たに本から生えた腕が柔らかく受け止める。
 女郎蜘蛛は問いに答えない。命を奪う為に在る彼女達が生を得る方法を思いつく筈がない。
 そして満足な答えを得られねば、腕は決して止まらない。

「嗚呼。怖いな……こんな怪物を相手に、皆よくやるよ」

 肩を竦める英は決して戦う者ではない。平凡な日常を過ごす平凡な推理小説家だ。
 「だから」と。
 彼は、隣人にそうするように囁いた。

「まだ死ねない私の代わりに、彼岸を見てきてはくれないかな」
 
 そこはきっと、この夜の如くに美しいだろう。               

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【鎧坂探偵社】
なぁんだ
――ただの子グモだわ。
頭の上でガチャガチャと喧しい。
そんなに生きてるのが羨ましい?じゃあ生まれ変わらせてあげる
この世界でよかったじゃない。まだ捨てたものじゃないわよ、未来って
ああ、折角の満腹感も素敵なデートも虚しさと怒りでで台無しだわ
――埋め合わせをして頂戴

【燻狂う神鳴嵐】で拘束します
本当の蜘蛛を教えてあげましょうか。私は足一本動かさない
空気にある全ての物質が私の支配下――電気って素敵よね
さあ、灯理。導いてあげて。

来世で、たぁんと美味しいものをお食べ
優しい日々は「次で」きっと来る。だってこの私にも来たのだから。


鎧坂・灯理
【鎧坂探偵社】
ああ、なんだ――ただの子グモか
まったく、良い気分でいたってのに台無しだ
我が伴侶の顔が陰ってしまっただろうが

妬ましいか?生きているものが、生きているという事実が
ああ、よくわかるよ…私も死は嫌いだ
だから、おまえたちも嫌いだよ
――覚悟しろ

纏めてくれてありがとう
ふふっ。確かに電気は素敵だが、炎も悪くないよ
人間が最初に手に入れた「力」だからな
UC起動――小さな小さな太陽の群れに、罪ごと焼かれて還るがいい

さようなら死んだ人
来世は幸せを掴んで見せろよ



●雷光過ぎれば天晴れて


 ああ、なんだ。

「「──ただの子グモか」」

 舞う花びらを絡め取る巣が夜空いっぱいに広がっている。うぞうぞと足を蠢かせる蜘蛛たちは、下にいる人間共をどう喰らってやろうか囁き合う。
 だが。夕の喧騒より夜の静寂こそが似つかわしい二人の女は動じない。
 むしろヘンリエッタ・モリアーティ(Uroboros・f07026)──その一人格、憤怒の竜たるハティは苛立たしげに女郎蜘蛛達を睨みつけた。

「頭の上でガチャガチャと喧しい。折角の満腹感も素敵なデートも台無しだわ」
「ああ。まったく、いい気分でいたというのにな。我が伴侶の顔が陰ってしまっただろうが」

 頷いた鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)だって、伴侶に負けず劣らずの激情家だ。微かな夜風では揺らがないはずの長い髪が、それが自然だというようにざわめいて。

「妬ましいか? 生きているものが、生きているという事実が」

 よく通る声の問いかけに、蜘蛛が返した答えは糸。命を蝕む毒を滴らせる粘糸が世界を隔離する。
 ここは女郎蜘蛛の巣。生を許さぬ影の迷宮。
 闇の中、どこからともなく突き刺さる感情を理解できない灯理ではない。
 それは敵意で、憎悪で、嫌悪で、嫉妬で、──殺意だ。

「ああ。よく分かるよ。私も、死(おまえたち)が嫌いだ」

 だから笑ってやった。奮い立たせるように、叩き付けるように。
 「私はお前たちに負けない」と、不退転の決意を持って。

「──覚悟しろ」

 その意志こそが妬ましいから、女郎蜘蛛は声なき声を上げる。喚び出された小さな蜘蛛は毒糸の巣を渡って、上から横から獲物へ飛びかかる。
 その鼻先を、稲妻が貫いた。

「……そう。そんなに羨ましいなら生まれ変わらせてあげる」

 例え爪の先、糸の一筋といえど、伴侶に触れる無粋を許す竜ではない。
 そんなことをせずとも彼女なら自分でどうにでも出来ただろうけれど、許せるかどうかは話が別だ。
 『応龍』を外す。精神障壁が解除される代わりに突き刺さる感情のすべてを捉えた。
 蜘蛛が糸を手繰るものなら、この竜は空気を手繰ってすべてを支配する。
 
「お仕置きよ。本当の蜘蛛を教えてあげる」

 蜘蛛が巣を作るさらに上。夜を作る暗雲を憤怒の激情が覆いつくす。
 音はない。必要ない。嵐は何より早くやってくる。

────【燻狂う神鳴嵐(フルーミアス・バンダースナッチ)】!

 既に捉えられた蜘蛛たちに憤怒から逃れる術はない。逃げようと藻掻く端から次の雷に撃たれ感電させられる。相応に頑丈であるはずの迷宮諸共壊されていくから、行き着く先はひとつきり。
 だがヘンリエッタは足のひとつも動かしてはいないのだ。蜘蛛の放つ感情だけで動きを読み、降り注ぐ雷を手繰り、それらを一か所に集めていく。
   
「こういうの、『昔取った杵柄』って言っていいのかしらね」
「今役に立っているからいいんじゃないか? 雷も素敵だよ、ハティ」
「ふふ、ありがとう灯理。さあ、人間が最初に手に入れた力で導いてあげて」
「ああ、そうだな。すぐにでも」
 
 ヘンリエッタの視線が示す先を、灯理の指が突き示す。
 そこに生まれたのは灼光。
 夜闇と正反対の眩さから逃れようと蜘蛛たちは足を蠢かせるが、まだ残る雷がそれを許すはずがない。

 なぜなら嵐の後の空は晴れ渡るものだから。
 さぁ、世界に残った朧なる影よ。
 射貫けるものなら射貫いてみせろ。

「【日華舞陽(ダンス・オブ・ヤタガラス)】────!!」

 燃え上がるのは五十を超える疑似太陽。
 意志を燃料にくべた熱光が蜘蛛と糸を呑み込んで焼き尽くす。
 逃れようと暴れる端から別の光球が飛来し、倍加どころか二乗された範囲と威力で灰燼になるばかり。
 それでも他の蜘蛛を踏み台に、焼ける糸壁を盾にする蜘蛛もいた。それはまるでまた死にたくはないと、必死に抵抗するようでもあって。

「けど、残念」

 最後の暗雲が生んだ雷から逃れられるはずもなく。
 感電で動きを止められた蜘蛛を光が呑んだ。

「さようなら、死んだ人」

 嵐が終わる。昼が消える。空にこびりついていた糸も、きちきちとさざめく足音も消え去って。
 静寂が戻った夜に思い出したように花びらが降ってきた。
 それは傷ついた魂を慰め、癒して転生させる──この世界にだけ咲く桜。

「来世は幸せを掴んでみせろよ」
「ええ。優しい日々はきっと、『次』で」

 一度「殺されて」未来を得た竜が笑う。自分がそうであったから、彼女達もそうならない理由はない。
 己が手に入れた幸せと、そっと目線を合わせた。

「まだ捨てたものじゃないものね、未来って」
「ああ──その通りだよ、ハティ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート


──やれやれ、まだまだカロリーを摂取していたい気分だったんだがな
羨ましいのかい?フリークスども
それとも妬ましい?ま、どっちでも関係ありゃしねえがな
…羨んだって、どうにもならんよ
手を伸ばしたって届きやしねえ。俺だって、そうなんだしな

手早く済ませよう──セット、『Disarmament』
子蜘蛛とテメェには、攻撃を許さねえ
回避も許さねえ
何もできずに朽ち果てて、終わるのが運命だよ

右の仕込みクロスボウを展開、鈍い本体の蜘蛛にボルトを【クイックドロウ】【スナイパー】で撃ち込み、仕留める
接近されても、落ち着いて距離を保ちながらクロスボウで処理を続ける

…世の中にはな、どうやっても手に入らないものがあるんだぜ



●舞台袖に役者はいない


「──やれやれ、まだまだカロリーを摂取していたい気分だったんだがな」

 いっそ呑気に言い放ってみせるヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)の佇まいに隙は無い。
 それを理解しているのか、女郎蜘蛛たちも無理に飛びかかろうとはしない。ただ足を振りかざし、配下たる子蜘蛛を生み出していく。多数で少数を圧殺する、お手本のような包囲準備だ。
 だが問題ない。
 この程度の戦場、Arseneは幾つだって乗り越えてきた。
 取り出したるは食べ終えた団子の串が一本。見せびらかすように掲げてやれば集中する視線は刺すかのよう。

「なんだフリークス共。羨ましいのかい? それとも妬ましい?」

 ざかざかとやかましく蠢く足、噛み鳴らされる牙。その意図することをヴィクティムは読み取らない。ただ鼻で笑ってやる。どのような感情を向けられたとて、行き着く先は同じなのだから。
 
「羨んだってどうにもならんよ。手を伸ばしたって届きやしねぇ──」

 己もそうなのだから、とは言葉にせず。
 ただ、串を宙へ放り投げた。

 セット、アクティベート──【Bind Code『Disarmament』】。
 
 蜘蛛たちが、不自然に静止した。
 じっくり観察すればじりじりとは動いているのが分かるだろう。だがそこから先には繋がらない。見えざる巨大な手に押さえつけられているかのよう、とでも形容されるだろうか。
 武装解除の名を冠したコードの支配下においては逃走も抵抗も許されない。争いすら生まれない。

「何もできずに朽ち果てて終わるのが、お前たちの運命だよ。この場で全員フラットラインだ」

 言う間に子蜘蛛が一匹、塵と化した。
 纏わりついていた毒霧が全身に回りきったのだ。小さな体しか持たぬ蜘蛛は合体しようにも間に合わず散っていき。また合一したところで既に影響の出た毒は変わらないのだからやはり朽ちていく。
 子を殺された女郎蜘蛛は足を振り上げ、ようとして。やはりじりじりとしか動かない。デカいだけあって毒で殺しきるにも時間がかかっているのだろう。
 だからそちらを潰す。
 右腕を改造したサイバーデッキに仕込んだクロスボウが自動展開。無音で射出されたボルトが女郎蜘蛛に突き刺さった。
 上げた悲鳴ばかりはヒトらしく、蜘蛛は朧な影と化して夜に散る。

「……世の中にはな、どうやっても手に入らないものがあるんだぜ」

 語る言葉を彼女達は理解しないだろう。封じられた攻撃をそれでも行おうと藻掻く姿ばかりは健気だが。
 だから見逃す? それこそ冗句だろう。

 敵は処理するだけだ。
 そうやってArseneは勝利する。いつか地獄に辿り着くまで。

成功 🔵​🔵​🔴​

カイム・クローバー
へぇ。口は無いみてーだが、喋るのか。予知の時も喋ってたんだっけ?器用なモンだ。オマケに思ってたよりも随分お喋りだ

【挑発】飛ばし、双魔銃を抜き【二回攻撃】で撃ち放ち、【残像】残して接近。細い糸は【第六感】に頼り、潜りつつ、集団の中心に入り込む。
中心到達後は銃を収めて【早業】で魔剣に切り替えてUC。【範囲攻撃】を交えつつ、周囲を纏めて焼き払う。
細かろうと糸だろ?良く燃えるぜ。
──ああ、そうだ。周囲に放つが上空の静止してる花弁や地に落ちた花びらは燃やさないようにするぜ。
化物と同じ扱いって訳にいかねぇさ。
未明の闇に化物の焦げる匂いと舞う桜の匂い。これが戦場の粋。どうだ?悪くねぇだろ?(花びら見上げ)


リック・ランドルフ
ヨシュカ先輩と(f10678)

まさか先輩もこの依頼を受けてたとはな、お陰で土産も買えたし後は…先輩と影朧を退治するだけだな。

さて、まずは蜘蛛退治か。とりあえず女郎蜘蛛が出してきた小蜘蛛は先輩に任せて俺は本体の方を対処しよう。【オートマチック拳銃】のフラッシュライトで蜘蛛を照らしながら射撃【目潰し】
そして射撃しながら接近、途中UCで複製した【スーパーロープ】を念力で数本飛ばして蜘蛛の腕や脚に纏まり付かせながら接近出来たら残った縄を真っ直ぐに念力で伸ばし束ねて棍棒やバットみたくしてそれで蜘蛛に攻撃だ【ロープワーク】


ヨシュカ・グナイゼナウ
リックさまと(f00168)

商店街でリックさまと出会えるとは、僥倖です!ミルクホールも素敵な場所でしたし、うん
……正直、この影朧はその、ひとりだとちょっと嫌だなあと。蜘蛛、ですし
頼もしい後輩さんがいて本当に良かったなあ、本当に(切実)

普通の夜とは違った暗闇に潜む小蜘蛛達は【視力】【暗視】で把握済み。音も利用して位置を【見切り】1、2、3沢山いますね…。それでも殲滅【串刺し】鏖殺です
【針霜】を展開、こちらも【闇に紛れる】様に静かに素早く【早業】で
同じ糸でもこちらは少し特別製ですので、良く切れるでしょう

さて、露払いは完了です。後はお任せします!(影から声援送るドール)



●真夜中近くに巡り合い

「まさかリックさまに出会えるとは、僥倖です!」
「こちらこそ、先輩に会えるとは。おかげで土産も買えたことには感謝してますよ」
「ミルクホール、素敵な場所でしたものね。今度は皆で来てみたいものです」

 闇を押し返すように、二人は静まり返った商店街を歩いている。
 とあるUDC組織の出張所で机を並べるヨシュカ・グナイゼナウ(一つ星・f10678)とリック・ランドルフ(刑事で猟兵・f00168)だ。
 対峙する相手がUDCでなく影朧であろうとも、猟兵である以上することは変わらない。日常会話を続けているのは、ひとえに今回の狙いである影朧をおびき寄せるためだ。
 生きていることそのものを恨むのであれば、日常会話などその最たるものだろう。
 だから他愛ない、それこそ事務所でするような会話を続けること暫し。桜色の雨が途切れたのとほぼ同時にヨシュカの足が止まった。

「先輩、」
「……来ました」
「よし。あとは影朧を退治するだけだな」

 ヨシュカが身に着けるヘッドフォン状のパーツは集音器だ。相手のフィールドである夜闇の中、相手の動きを拾うのには適した手段として注いだ心血は実ったらしい。
 得たりと頷くリックは鋭くオートマチック拳銃を引き抜くが、ヨシュカは浮かない顔のままだ。闇を見透す目と集まる音から分析できる影の存在にテンションが上がろうはずもない。というかこうして準備している間にも数が増えている。

「ひー、ふー、みー……うわぁ、こんなにたくさん……頼もしい後輩さんがいてよかったです。本当に」

 ヨシュカ・グナイゼナウ(もうすぐ十三歳)、実は蜘蛛が苦手である。一人で相手をするのは絶望的だったかもしれない。主に精神面が。
 だが、だからこそ「後輩」の前で無様を晒すなどできようもない。自分も先輩なのだから。
 黒に包まれた掌を地面につける。同じ糸でもこちらは特別性、蜘蛛のからだ如きは切り裂いて余りある。

「穿て」

 【針霜(ハリシモ)】。
 地に落ちた花びらをまき上げて鋼糸が夜を貫いた。
 そもそも地を往くモノにとって、下という方向は死角でしかない。そちらから攻撃することができるヨシュカのコヲドは闇だろうと関係ない。
 穿たれた蜘蛛の絶叫が夜の中から立ち上がった。

「うおっ……これなら方向も分かりやすいな」
「ですね。リックさま、後はお任せします!」
「おいっ、闇に紛れるのは卑怯だろ!」

 仕事はした、とばかりに姿を消すヨシュカに言いかけた反論は続く絶叫にかき消された。
 維持されたままの【針霜】もあるだろう。
 だが、リックの目にはもうひとつの原因が見えた。

 ────黒銀の炎だ。


「へェ? 思ってたより随分声がデケェな」

 剣を肩に担ぎ直して、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は唇の端を吊り上げた。
 数いる猟兵の中でも上から数えた方が早いほどに歴戦である彼の直感にかかれば、夜闇の中だろうと巣が架けられていようと集団の中心に到達することは容易い。
 空には蜘蛛糸、まわりは女郎蜘蛛の群れ。
 包囲された? 否。これはむしろ彼が待ち望んだ状況だ。
 
「逃がすかよッ!!」

 【無慈悲なる衝撃(インパルス・スラッシュ)】。
 それは斬撃と共に魔剣ロヴレントの力の一端を解放するユーベルコヲド。
 放たれた黒銀の炎はこの程度の影朧なら一撃で消し飛ばすだけの威力を秘めている。
 それに気づいたのだろう女郎蜘蛛達は炎刃から逃れようと我先に足をわななかせるが……ふわりと飛来した縄に絡め取られ、諸共焼かれていった。

「……なんだこれ? なんかどっかで見覚えが……」

 カイムの意思に応じて消える炎の中にあったにも関わらず、そのロープは無事な姿のままだ。焦げ跡こそ残ってはいるがあと何回は使用に耐えるだろう。
 と、カイムが見る前でそれは来た時と同じように舞い上がる。
 思わず視線で追いかけて……縄をキャッチした見知った顔へ向け破顔した。

「おう! リックじゃねぇか。さっきは助かったぜ」
「先輩こそ。さっきの技、すごい威力だったじゃあないですか」
「へっへー、だろう? あんだけやりゃあ蜘蛛なんて敵じゃねぇぜ」

 カイム・クローバーも、彼らと同じ出張所に所属する顔ぶれの一人だ。
 こうまで見知った面々が集うと分かりやすくテンションが上がってしまうのは気安い彼の性格もあるだろう。
 と、静まった夜の方から小さな足音。振り向いて見てみれば闇の中で目立つ乳白色が姿を見せた。戦闘音と会話は聞こえていたのだろう、彼に驚いた様子はない。

「カイムさま! リックさまも、お疲れ様です」
「おう、先輩も」
「ヨシュカ! お前も来てたのか」
「はい! まさかカイムさまにもお会いできるとは思いませんでした! ……ではなく!」

 うっかり和んでしまったが、ここは天窓から昼下がりの光が差し込む事務所ではなく夜闇の商店街。猟兵がいなければ影朧の狩場となっていたはずの場所だ。
 当然、出現する女郎蜘蛛があの程度で終わろうはずがない。

「次の女郎蜘蛛が来ます! 向こうの方から、数は五体程ですが小蜘蛛を召喚している音が聞こえるので……」
「まだ増える、ってことですか」
「蜘蛛ってんなら巣も張りやがるだろうしな。ま、纏めて燃やしちまえば関係ねぇか」

 いつの間に武器を持ち換えたのか、カイムの手には剣ではなく銃が収まっている。彼の言はやや乱暴ではあるが、猟兵として、この世界に期待される超弩級戦力として間違った言でもない。
 ヨシュカもリックも、そこに異論はない。

「でしたら小蜘蛛はこちらにお任せを。【針霜】でしたら先ほどと同じように纏めて攻撃できます」
「んじゃ、俺の方はさっきみたくデカブツの足止めをさせていただきますよ。あんな火力は出せないですから」
「OK、焼き払うのは任せときな。塵ひとつ残さねぇ……よッ!」

 銃声一発。
 上空に張った巣から忍び寄っていた蜘蛛の足が弾け飛んだ。
 続けざまに斉射されたされた銃弾が精確に蜘蛛糸だけを断ち切ると、花びらと共に落ちてくる。
 すぐに放たれた縄が残り七肢を絡め取ってしまえばもう抵抗は不可能。刺し貫く鋼糸によって影はその存在を散らされる。
 その軌跡に疑問を持ったのは、闇を見通す目を持ったヨシュカだ。

「……花は傷つけないのですね、カイムさま」
「そうなのか?」

 そう。
 カイムの攻撃はすべて、影朧とそれが作り出した糸を焼いてもそれ以外は傷つけていない。特に桜の花は。
 問いに答えるカイムの顔は、どこか照れたような苦笑。

「化け物と同じ扱いってわけにはいかねぇだろ?」

 ──脳裏に浮かぶのは、桜色の少女の姿。

「……ふふっ、それもそうですね」
「ああなるほど、ノロケですか」
「いや違っ……!?」

 同じ事務所に所属しているのだから、カイムが浮かべた少女のことも二人も知っている。だからのからかいに慌てた顔をするから、似つかわしくない笑い声が弾けた。



 未明の闇に影の散る音桜の匂い、おまけに戦友の温度。
 戦場の粋は新世界でも変わることなく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
あーはーはーはー、はははーあはは。
なんだよ、生きてる奴に嫉妬してんの。
かーわいい。おもしろいなあ。
でもそーやって存在してるのって生きてると違うのか?
生きるってなんだろうな。
まあ、おれにとっちゃどうでもいいんだけどさ。
死んでないなら生きてるんだろ、きっと。
あれ、じゃああんたらは死んでるのかな。死んでるって思ってるんだろ?んん?んんんー?わけわかんなくなってきたな。やめようぜこの話。
もう夜も遅いから帰りなよ。

野生の勘任せに段平を振り回すぜ。
糸で巻かれたら魅了の呼びかけ。ほどいてくれよオネーサン。
ついでにそのまま同士討ちしてくれない?
最後は殺してあげるからさ。ね?



●生と存在の定義


「あーはーはーはー、はははーあははは」

 それは、笑い声というには明るさが欠ける声だった。
 かといってほかに形容する言葉に悩む程度には笑みの形をしていた。
 闇に浮き上がるような白いパーカー姿の男──茜崎・トヲル(白雉・f18631)は、空に巣を張る女郎蜘蛛を見上げて首を傾げた。

「生きてる奴に嫉妬してるんだって? かーわいい。おもしろいなあ」

 優しくはあるけれど、本当にそう思っているのか怪しい、誠意とか真剣さというものがまったく欠けた声。
 それは女郎蜘蛛の方も感じ取っているのだろう、光のない目がトヲルを捉えて糸を放った。

「っと」

 ひらり、ステップは踊るように華麗。外れた攻撃は後方のガス灯に着弾して引き倒す。トヲルを三人分重ねた大きさの鈍器に糸が次々とくっついていくと、それは立派な武器だ。
 焦っているのかいないのか、それを見てもトヲルの態度は変わることなく。崩れた笑みを浮かべたままで答えの返らない問いかけを放つ。

「でもさぁ。そーやって存在してるのって、生きてるのと違うのか?」
 
 『生きる』とは何だろう。
 それはトヲルにはよく分からないものだ。
 死んでないなら生きている?
 『生きる』の対義語は『死ぬ』だろうけれど、死ねないトヲルに対である生は当て嵌まるのか?
 生きているものを恨むという影朧だって、『影朧』という形で生きているのではないか?

 糸ごと振り下ろされたガス灯からステップを踏むように距離を取る。どこかで見ている者がいれば決められた型を持つ演武と勘違いされてもおかしくない、それは美事な動きで。
 誇ってもいいはずの動きに、けれどやはりトヲルの表情は変わらない。どころかむしろつまらなさげに鼻を鳴らしさえする。

「んー? わけわかんなくなってきたな」

 まぁいっか、と呟きながら引き抜いた段平はガス灯の光を照り返して妖しい輝きを放つ。それが生物を殺すには十分だと分かって、けれど女郎蜘蛛はもう一度蜘蛛糸の先のガス灯を振った。今度は振り下ろしではなくなぎ払いの動き。
 広範囲を打撃するそれを、トヲルは空へ跳ぶことで避ける。
 が、そこには蜘蛛が巣を築いている。粘着質のものが背に触れた感覚と共に彼は宙に縫い留められた。
 
「ありゃ」

 声を上げようと、彼が捕らえられた獲物になったことに変わりない。
 かつて死んだものである影朧が、生きるものである猟兵に容赦するはずがない。
 だから。

「ほどいてくれよ、オネーサン」

 ひとを魅了する声が、呼びかける。
 果たして届いていたのか、いないのか。虚ろな表情しかない女郎蜘蛛は、ただ街灯を持ち上げた。
 巨大なものが風を切る音がして、

 ──ふつりと。
 すぐ右横で、糸が引き千切られる音がした。

「ははっ──やっぱり、生きてるんだ」

 地面に落ちながら。
 段平の切先は女郎蜘蛛の頭部を狙っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

玉ノ井・狐狛
「毒があろうと奇襲だろうと、迷路ってんなら遊戯は遊戯」
 ならば当然、嫌いではない。偽らざる率直な感想だ。リスクがあるとて、それを織り込んで座興と愉しむ趣味はある。
――だけども今は仕事中、ついでに一人じゃねェとくりゃあ。
 後に本命も控えてる以上は、遊ぶにしても速攻。言わばタイムアタックと判断し、
「不意討ち分を埋めると思って、少しばかりチヰトと行かせてもらうぜ」
 両の瞳が白銀に輝けば、得られるのは霊視に暗視、そして透視。
「あとはネタを流しゃァ、腕力体力自慢の連中がどうにかしてくれる、ってな」

行動:透視能力(装備2)で構造を看破、他の猟兵に共有


狭筵・桜人
おやおや?
イイ物を身に着けてますねえ!

いやぁついさっき商売に手こずりましてね。
あなたのソレを戴いてプラマイゼロにしようかなと思うわけですよ。

てなわけで殺虫剤を撒きます。
代償は血の一滴――『呪瘴』、発動。
まぁしかし、しぶといんですよね虫って。
焦らされたなら踏みつけて。デカイのには弾丸を撃ち込みます。

逢魔時。黄昏時。彼は誰時――。
現世との境界を引いてくれるのなら
こちらとしてはやりやすくてありがたいところです。
集合住宅でスモークタイプの殺虫剤焚くと怒られたりするので。

ズルイですか?好きなだけ妬んでいいですよ。
だってほら。まだ生きてるんですよ、私。
死ぬのが怖いから、なんてくだらない理由だけでね。



●ダンジョンアタック無差別級(宝箱あり)

 逢魔が時を過ぎ、未明が訪れ、彼は誰時がやってくる。
 此処は既に現世とは異なる界層。影なる朧の支配領域。
 感じるのは人の気配ではなく魔の息遣い。爪をかき鳴らし、今にも襲い掛からんとする殺気が背を撫でるようにして。
 にも関わらず、二人の猟兵はまったく動じていなかった。

「うーわぁ、虫があんなにたくさんいますよ。妖狐なら踏みつぶさないんですか、ぺしって。尻尾とか使って」
「野生の狐と一緒にしないで欲しいねぇ。アタシはこれでも育ちがいいんだよ」
「狐にも育ちの良し悪しってあるんですね。うわぁ驚きました」

 片や春色の虚、狭筵・桜人(不実の標・f15055)。
 片や呪われた巫狐、玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)。
 仮にも仕事の現場でするには呑気に過ぎる会話だが、鉄火場だからと言って態度を改めるような二人でない。

「そういう兄サンこそ、殺虫剤とか持ち歩いてないのかい?」
「玉ノ井さんは集合住宅でスモークタイプの殺虫剤焚いて怒られた経験あります?」
「生憎、集合住宅自体に住んだ経験がないねぇ」
「うわ本当にリッチだ。今度何か奢ってください」
「アタシに賭け事で勝てたら検討してやらなくもないよ」
「その言い方絶対奢ってくれない奴じゃないですか……」

 中身のない会話のキャッチボール。戯言を繰っての間合い伺い。
 そうしていても始まらないと、態度を変えぬまま口火を切ったのは狐狛の方だ。

「つまり、『殺虫剤』自体はあるってぇ?」
「強力すぎて虫以外も死んでしまうんですよ。玉ノ井さんなら兎も角、一般人巻き込むと怒られるじゃあないですか」
「へぇ、面白い」

 賭博狂いの狐狛は当然、遊技の類も好む。
 リスクがある? 上等だろう。そうでなくてはスリルがない。
 皮膚を粟立てるリスクがなければ勝利の美酒も魅力は半減だ。

「後に本命が控えている以上、速攻で遊ぼうじゃあないかい」
「なるほど、タイムアタックってことですか。玉ノ井さんそういうゲームもやってるんで?」
「人が作った娯楽は一通り、って返しておこうか」
「わぁすごい」
「心にもないことを」

 軽口ひとつ、けれど足を動かす必要はない。
 面を上げる。そうして“見回す”だけが必要な動作。

「そいじゃ、少しばかりチヰトと行かせてもらうぜ」

 狐狛の両瞳が白銀に染め上がる。
 それがもたらすのは霊視に暗視、それから透視。
 「視る」ことに特化した瞳術──狗瞳“白”。
 糸も蜘蛛も毒も小蜘蛛も何もかも、その術の前には存在を暴かれ裸を晒す。

「いいぜ、兄サン。生きてるのはアタシ達だけだ」
「じゃあ玉ノ井さんだけが避けてくれればイイって話ですか。ンフフ」

 笑った桜人は血を一滴、空へと振り落とす。
 その玉は地面に落ちることなく拡散し赤を広げて過去へと牙を剥く。
 桜人が言うところの殺虫剤──鏖殺の血霧、【呪瘴(ダーティ・ブラッド)】。
 狗瞳を起動したままの狐狛が緩く身を引く後ろで、蜘蛛足が一本粉微塵と化した。そればかりは生きた人のようですらある悲鳴に二人同時に振り向いて、片方。桜色の唇が吊り上がった。

「おや、おやおや! イイ物を身に着けてますねあなた」

 女郎蜘蛛の上半身はヒトのそれである。だから声も人間のように聞こえるのであるが……閑話休題。
 だので彼女が掛ける額飾りと首飾りが目に入ってしまうのだ。
 先ほどアクセサリー転売大作戦に失敗したばかりの桜人の目に、よりにもよってアンティーク調のアクセサリーが。

「まさか中古趣味かい、兄サンや」
「いやいやそんな。似合いそうな美少年であることは認めますけどねぇ」
「ああうん、否定はしないがそれはそうと腹は立つね」
「ええー? おかしいな。ちょっと売り払うだけですってば」

 桜人の財布はいつだって寂しいのだ。主に寂しい給料と無駄遣いと弁償とあと暴力忍者のカツアゲのせいで。
 が、そのために倒される影朧の方はたまったものではない。
 隠れ場所を看破され、血霧に纏われ、弱々しく足を痙攣させる蜘蛛たちへ、にっこりと笑いかけてやった。

「ズルいですか? それじゃ、好きなだけ妬んでいいですよ。だってほら、生きてますからね」

 狭筵・桜人は、死ぬのが怖い。
 くだらない理由だろう。それでもまだ生きている。何も持たぬ虚ろは満たされることなく揺蕩うばかり。
 呪詛の域に達しかけた怨念は、それ故に桜人をすり抜ける。

「敗者は勝者を妬むモノ。まぁせいぜい来世に期待することだね」

 玉ノ井・狐狛にとって、それは当然の摂理。
 賭博というのは得てして勝者と敗者に分かれる。それを分けるものは運と実力で、彼女はそれを持ち得ている。
 既に呪われてある狐狛に新たな呪詛は憑りつけない。

 同種のものがぶつかれば、勝つのは当然より強い方だ。
 
「──……おや、存外脆かったですね」 
「マ、手早く済んだから良しとしようじゃァないか」
「って、あ! なくなってるじゃないですか……私の稼ぎ……」
「今回の報酬で満足するんだねぃ」
 
 変わらず口の減らない二人である。
 が、これはまだ前哨戦。本命はこの先にある。
 瞳を銀に輝かせたままの狐狛が夜の中へと踏み出す。さらなる稼ぎの為、桜人もそれに追随した。





「ところでよく考えたら私ばかり働かされてませんか???」
「適材適所って知ってるかい、兄サンよ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鷲生・嵯泉
『生きている』事が許し難いか……
お前達にもそう成り果てた理由が有るのだろうが
命を奪うものを見逃す心算は無い

ひとであろうがなかろうが
此の世に生まれ落ちた以上、必ず備えた権利がある
其れを護る為に此の刃は在る

数を頼むならば、其れに合わせるだけの事
破群猟域にて纏めて叩いてくれる
怪力乗せたなぎ払いとフェイント絡めた死角方向からの打撃にて
合体する事を阻止しつつ潰す
攻撃は戦闘知識にて先読みして見切り躱し、多少の傷等構いはしない
……同じ蜘蛛を模した姿で在っても随分と違うものだな

待つ者がある。望むものがある
其れを、今は忘れる事も蔑ろにする事も決して出来ない
……否、する気は無い
――私の『生きる』事の邪魔はさせん


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
生者が憎いならば、私を相手取っても面白くはあるまい
折角の機会だ、死人同士、ゆっくり話し合いでもしてみるが良い
少しは楽しい話が出来るやも知れんぞ
……まァ尤も、決定権は姉さんの方にあると思うがな

さて本日のご機嫌は如何だ、レディ?
……好きにして良いから頼むよ、姉さん
呪詛が欲しけりゃ幾らでも持ってってくれ
……虫は焔に弱かったな
蜘蛛糸ごと焼き払ってやれば、少しは楽しいかも知れないぞ

嫉妬深いレディは嫌われるそうだぞ
まァ、貴様らにとっては関係のない話か
地獄の底で、姉さんの遊び相手になってやってくれ
姉さんなら、少なくとも「恐怖」くらいは教えてくれるであろうよ



●いつか、闇の底で見た

 猟兵たちが生を満喫し、囮になったとて。それだけで全ての影朧を引きつけられた訳ではない。
 商店街のメイン通りから離れた場所に出現した蜘蛛も一定数存在した。
 彼女たちが狙うのは安らかに寝静まり、幸福な夢を見ている無辜の人々。
 その安穏こそを許さぬと言葉なき声で絶叫する影へ。
 歩みを進める足音ふたつ。

「お前達にもそう成り果てた理由が有るのだろう。が、命を奪うものを見逃す心算は無い」

 葬送の色を纏い、苛烈な光を湛えた隻眼にて影を見据えるは鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
 商店街で生を満喫する、などと。もう己に似合わない行為であると知っている。
 彼の総ては一度喪われた。それでも遺された身には新たに得たものがある。
 その最たる象徴である隣の男に視線をやると、実に楽しげに唇の端を吊り上げている。

「それに、生者が憎いのであれば……他に丁度いい相手を知っているぞ」

 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は、とてもその指には嵌まらなそうな玩具の指輪の縁を撫でる。
 この世界の技術を知ることで、彼の操る呪詛は新たな段階へと進んだ。
 それを盟友たる男に披露するには丁度いい。

「さて……本日のご機嫌は如何だ、レディ?」

 闇に瞬いたのは、彼の左目を燃やすのと同じしろがね。それが内包するモノに気付いたのか、蜘蛛達が警戒するようにじりじりと下がる。
 ……が。しろがねはただ揺らぐだけで何も起きる様子はない。信は置いているが、それはそれとしてこの竜へ視線を送ってしまう嵯泉である。

「ニルズヘッグ?」
「ちょっと待ってくれ嵯泉。……好きにして良いから頼むよ、姉さん」
「……姉さん、だと?」

 姉さん。
 よりにもよってニルズヘッグが口にする意味を知らぬ嵯泉ではない。
 思わず険しくなった顔に気付いているのかいないのか、ニルズヘッグはしろがねとの交渉を重ねている。

「呪詛は好きに持っていっていい。……ああ、虫は焔に弱かっただろう。糸ごと焼けば少しは楽しいかもしれんぞ」

 その言葉の、どれがお気に召したのか。
 くるりと、呪詛焔はまるで踊るように円を描き、膨らみ、そしてカタチを作っていく。
 柔らかそうな金の髪に紫の瞳、竜を意味する白い翼と尾。御伽噺で、ハッピーエンドを迎える姫君が着るような真っ白いドレスを翻して────ここに【蜜事(ユグドラ)】は成立する。
 微笑んだ「姉さん」──ニルズヘッグがかつて救えなかった少女の姿をした悪魔は、契約者──「弟」の命令に応じてしろがねの呪詛焔を放った。
 夜も闇も糸も蜘蛛も、彼女の前では区別なく。あらゆるを焼かれて悲鳴を上げた。
 
「ははっ、嫉妬深いレディは嫌われるそうだぞ?」
「……はぁ。まったく、後で話を聞かせてもらうぞ」
「おう、もちろんだ」

 『彼女』の討伐に共に赴き、そしてそれがもたらしてきたものを知っているが故の懸念は当然ある。
 だが、この戦場は問い詰めるべき場面でない。それに、しろがねの炎が敵を焼いている以上これは決定的な隙だ。
 ならばそれに合わせるだけのこと。
 引き抜いた刃が鞭状に変化、より多くを倒すため唸りを上げる。

「──残らず叩き潰す」

 ここは烈志の【破群猟域】。
 燃やされていようと関係ない。そもそも軌道が読みにくい鞭状の刃である上、嵯泉の卓越した腕力と戦術眼によって揮われるのだ。的確な打撃がブチ当たった端から灰とも影ともつかぬ風に解けて空へ上っていく。

「……同じ蜘蛛を模した姿で在っても随分と違うものだな」
「いや、同じにしたら怒るだろアイツ……」

 蜘蛛と聞いて連想する黒い姿は二人とも同じ。
 であれば、このような朧に無様を晒せまい。
 何よりこの場にいるのは、世界中の誰より信を置く盟友なのだから!

「行くぞ、嵯泉」
「ああ、ニルズヘッグ」

 二人の間には約束がある。
 忘れることも、蔑ろにすることもできない。それは果たし続けることに意義のある約束。
 それを証明し続けるために、今二人は背中を預け合う。

「ふッ──」

 闇の中から飛び出してきた小蜘蛛を縛紅で両断。血肉が飛び散る前にしろがねが焼き払い、同時に闇夜を照らし出す。視認のしづらい、それでもきらりと光るそれを見つけたニルズヘッグは悪童めいた笑みを浮かべ。

「おっと、糸は邪魔だな。どう思う、姉さん?」

 しろがねが糸を伝って燃える。巣を作っていた蜘蛛が巻き込まれて悲鳴を上げる。振り下ろされた刃はそれが放つ声を永遠に止めた。


 此の世に生まれ落ちた存在には備わった権利がある。
 その権利を知らなかった。
 それを捨てようとしていた。
 けれど、今は違う。

 
 ────生きるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リア・ファル
POW

転生があるのだったら。
どうか他者への恨みつらみを引き継がずに逝って欲しい。

こんばんは。ごきげんよう
キミには楽しいも嬉しいも無い?
……本当に?
汚泥のように怨念の澱が、あったモノを沈めているだけかもよ?

蜘蛛の糸は、敵意や射出箇所の動きから演算して
周囲の物品で防御対処
(情報収集、時間稼ぎ、地形の利用)

するりと服装を通常形態に戻して、
多元干渉デバイス『ヌァザ』を抜く

試してみようか
UC【銀閃・概念分解】で、彼らの「恨み」を斬り飛ばす
(破魔、部位破壊、鎧無視攻撃)

影朧よ、恨みの消えた胸の裡に何を視る?
明日への輝きが、その裡を満たしますように
灯をともしていきなさい

それでは、また。


鳴宮・匡
自分がしてきたことがどんなことだったかなんて
もう、今ではすっかりわかってる
……だけど生憎、命をくれてやるつもりはもうないんだ

だから、悪いけどここで潰えてもらうよ

小蜘蛛は目に留まり次第排除していくよ
集まって厄介になる前に潰すのがいい
敵が無防備になるまでは辛抱強く相手をするよ
手数が減ることに焦れてくれればそれでいいし
そうでなくとも無防備になった相手の方が殺しやすい
時間は掛けたくないからな
精確に急所を射抜くようにするさ

恨んでもいい、憎んでも構わない
可哀想に、だなんてそんな事すら思えないけど
ただ受け止めてやるしかできないけど
それだけなら、してやれるから

全部、ここに置いていけばいい
――迷わずに逝きなよ



●イ・ラプセルには往けずとも


 サクラミラージュには「転生」という概念が存在する。
 傷つき虐げられ、果てに他者を襲うようになった影朧──不安定なオブリビオン。
 それらは桜の精の癒しを受けることで「転生」する。
 サクラミラージュの民にとって、それは常識だ。

 だから。
 もし本当に転生するのなら、どうか他者への恨みつらみを引き継がずに逝って欲しい。
 全部この夜に置いて、迷わず逝けばいい。

 ……そう思うことは、絶対に間違いではないだろうから。


 銃声一発。
 急所を撃ち抜かれた小蜘蛛が影へと還るのが視えた。
 独り歩きよりこちらの方がよっぽど馴染むと、鳴宮・匡(凪の海・f01612)は自動式拳銃のマガジンを入れ替える。
 仲間を殺されたのを察知したのか、上げられた声は子を殺された女が奏でる悲鳴とよく似ていて。
 ……ほんの少し。指先が震えるのを自覚した。

 命を奪うこと。
 それは自分が生きるためであったけれど……同時に、このような存在を生み出し続けているに等しいことだ。
 もう、今では分かっている。
 それでも匡は、匡だって、まだここにいたいという思いを捨てられないから。
 生ある者を恨むもの達を相手に、命をくれてやるなんて真似はできない。

 ──だから。
 恨んでいい。憎んでもいい。むしろそうして欲しい。
 それに何かを思う「こころ」はないけれど。
 その感情を受け止めることしかできないけれど。
 それだけなら、この「人でなし」にもできるから。

「だから、悪いけど。ここで潰えてもらうよ」

 暗闇だろうと、数に恃もうと。すべて視えているし聞こえている。
 最初に教わった「生きる」為の術はまだ覚えている。
 死ぬまで共にあるだろうそれを握って、視線は切らないまま。
 引き金を引く──【千篇万禍(ゼロ・ミリオン)】。
 ただ精確に、一発でその存在を消し去れる急所だけを狙い撃つ。
 数える必要すらない。当たるのが分かる。影が消えていくのが視える。

 そうして終わる、いつものような作業の合間。
 こつ、と聞き慣れた足音がした。
 意識は敵へと向けたまま、視線だけをそちらに。

「……リア?」

 見慣れた水色の姿が、銀光を纏って。
 殺しきれなかった女郎蜘蛛へと歩み寄っていくのが見えた。



「(ありがとう、匡さん。助かっちゃった)」

 リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)のレイヤーが換装、パーラーメイドのそれから普段と変わらぬ奇抜な制服姿に戻っていく。
 同時に地を歩いていた銀虎黒縞の猫が武器の形へと変じ、リアの手へと収まった。

「こんばんは。ごきげんよう」

 そんなお手本のような戦闘態勢のまま、影朧へとかける声ばかりはどこか柔らかく。
 急所を撃ち抜かれ、なお足掻こうと八本の足をわななかせるそれはおそらく彼女のことも恨むべき生命の持ち主として認識しているのだろう。
 影朧──オブリビオンと猟兵の関係としては間違っていないそれを、可哀想だとリアは思う。

「ねぇ。キミには楽しいも嬉しいも無いの?」

 ヒトでないから?
 死んでしまったから?
 そうしなければ晴らせないものがあるから?

 ……本当に?

「汚泥のような怨念の澱が、あったモノを沈めているだけかもよ?」

 今を生きる人々の明日の為にある、リア・ファルが。
 転生の後、守るべき『明日』の一部となるだろう影朧に手向けられるものがあるとするならば。

「試してみようか」

 ヌァザの刃が銀光を放つ。
 リアの気のせいでなければ……影朧は焦がれるように見ていたから。
 だから、きっと間違っていない。

「キミが持つ『恨み』を対象概念に設定──」

 握った刃に次元干渉力を込める。
 これは肉体を断つ刃でなく、それが備えた概念を攻撃するためのユーベルコヲド。
 新たにして優しい世界に触れることで編み出された、確かな力だ。

「──この銀の煌めきは、何かを残し、何かを壊す!」

 銀光一閃────【銀閃・概念分解(イグジスタンス・リムーバー)】!
 夜闇を塗り潰すような銀色が女郎蜘蛛を貫通、影だけを連れて振り抜かれる。
 肉体を傷つけるものではないから、見た目の様子に変化はない。
 けれど八肢はもう暴れてはいなかったから、ヌァザを下したリアは問いかけた。

「影朧よ、恨みの消えた胸の裡に何を視る?」

 言葉での答えはなかった。 
 けれどそれは、確かに笑ったようだった。

 醜い蜘蛛足が、ヒトの体との結合部が、いやに豪奢な装飾品が、夜風にほどけていく。
 影から生まれた銀色が、花びらと共に空へと舞い上がっていく。
 きっとそれらは幻朧桜に導かれ、癒されることで新たな生を受けるのだろう。

「それでは、また」

 祈るように目を閉じる。
 願わくばその裡に、明日への輝きが灯されるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユーイ・コスモナッツ
納さん(f01867)と
お互いの死角をカバーするようにして進んでいきます
前方の視界が開けたら、
その瞬間を逃さずに「反重力シールド」に飛び乗ります

納さん、つかまって! と手を伸ばし
「三半規管は丈夫ですよね?」
頼もしいお返事に、微笑み返して急発進
敵群の隙間を縫うようにして舞い上がります

上空で納さんを降ろす形になりますが、
大丈夫、着地するまでに決着をつけてご覧にいれましょう
と、【流星の運動方程式】を起動して
女郎蜘蛛本体目掛けて急降下!
糸も巣も「騎乗」「空中戦」で潜り抜けて、
最高速度を乗せた突撃槍の一撃っ!

「はい! モダンに決めてみせましょうっ」
「霞か蜘蛛か、いずれにしても突き破るのみ! ですっ」


納・正純
ユッコ(f15821)と
二人とも服装は一章のまま

方針
二人で固まりながら常に前の敵を撃破し続けることで、敵の囲い込みを防ぎつつ前進
本体への攻撃はユッコに任せ、俺は子蜘蛛を散らす
小型の子蜘蛛の大群へは跳弾射撃で一気に対処
大型の子蜘蛛へはこちらも弾を混ぜ合わせ、対抗し、空への道を作ろう
余り弾は全て本体にぶつけてやる


「せっかくの晴れ着を汚すのも忍びない。一気にケリを付けようぜ、ユッコ。お前が走る道は、俺が作ってやるからよ」
「おいおい、俺だって宇宙の生まれだぜ? 飛ばしてくれ、ユッコ!」
「手品のタネが同じならよ、蜘蛛に負ける気はしねェなァ? 蜘蛛の子に恨みはないが、散ってもらおうか」



●流星一射、穿ち抜け

 群れている。
 うじゃうじゃうじゃと、道を埋め尽くさんばかりに影色の蜘蛛が蠢いている。
 ほとんど同じような姿かたちのそれが同時に足をざわめかせ、時に混ざり合い巨大化していく光景はいっそ悪夢めいたものがあり。
 現実を叩き付けるように剣が影を切り払う。
 必要最低限、ただ前に征くための隙間を確保して水色と黒茶が駆けていく。
 影が消えた隙間をめがけて伸ばされた細い脚は、撃たれていないはずの銃弾が邪魔をする。
 否。それは「既に撃たれていた」弾丸。
 ガス灯のポール部に、商店の壁に、跳ね返って尚勢いを失わないそれが道塞ぐ小蜘蛛を次々穿っていく。
 
「晴れ姿のモダンガアルがお通りだぜ、蜘蛛共。道を開けな」

 にやりとあくどく、納・正純(インサイト・f01867)が笑う。 
 既に役割分担は済んでいる。本命の打撃は水色の少女が担うから、そのための道を作るのが正純の役割だ。
 手にある黒いリボルバーには六発の弾丸しか入らない。
 それで十分だから使っている。

「手品のタネが同じならよ、蜘蛛に負ける気はしねェなァ?」

 飲み込み、覚え、研ぎ澄まし。
 削ぎ落し、束ね、極めし術理。
 その手妻、称して【六極定理(ワイルドキャット)】。
 
 二発目のそれは威力重視。
 それを精密に、正確に急所へ撃ってやれば蜘蛛の薄いからだでは受け止めきれない。
 消滅。
 すぐに影で埋まってしまうだろうが──その瞬間だけは、空白。
 空の名を持つならば、彼女の翔ける場所足りうる。

「せっかくの晴れ着を汚すのも忍びない。一気にケリを付けようぜ」
「はい! モダンに決めてみせましょうっ」

 ユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)の乗騎たる反重力シールドが唸りを上げた。
 内蔵された装置類が一気に唸り、二人を空へと誘う。

「納さん、三半規管は丈夫ですよね?」
「おいおい、俺だって宇宙の生まれだぜ? 飛ばしてくれ、ユッコ!」
「──頼もしいです!」

 急加速。
 蜘蛛も糸も、あらゆる景色を置き去りにして舞い上がる。
 その高さまでは何もかもが着いてこれない。ただシールドが起こす風に巻き込まれた薄桃色だけが二人の周囲でひらりと踊った。

「わぁ……」
「確かに、コイツは宇宙じゃあ見られないな」

 だが、花びらは空を飛べない。
 あとは落ちていくだけの花びらが、しかし再び起きた風によって浮き上がる。
 それを生んだのは戦乙女を冠した白銀の突撃槍。それを構える騎士を任じた少女。
 空へ向けていた舳先を、地上に蠢く影に向けて。
 構える。

「見えたか?」
「もちろんです!」

 蠢いている影のほとんどは召喚された子蜘蛛だ。すべてを潰さずとも召喚主さえ討ってしまえばいい。
 騎士の瞳は、中核たる本命──女郎蜘蛛を捉えている。
 ならば、あとは討つだけだ。

「ブースト・オン!」

 シールドに備わった反重力装置と加速装置に火が点る。
 直後、急加速。
 流れ星の煌きが地面に向けて落ちていく。

 【流星の運動方程式(フルアクセルシューティングスター)】!

 あまりに眩い星の光を押し留めようとでも言うのか。小蜘蛛達が次々合体、巨大化しながら女郎蜘蛛の前に立ち塞がる。
 思わずユーイは表情を歪めるも、ここで止まるわけにはいかない。

「霞か蜘蛛か、いずれにしても突き破るのみ……!」
「おいおいユッコ、俺にも見せ場を用意してくれよ」

 その緊張をほぐすように同乗していた正純が肩を叩いた。
 片手には鈍い黒に光る回転式拳銃──銘を「Divulge.Λ」。
 収められた【六極定理】の弾丸は、まだ残っている。

「納さん……! お願いします!」
「ああ。お前が走る道は、俺が作ってやるよ」

 突撃槍を構えたユーイの肩越しに銃口が覗く。
 一見無造作な、けれど計算されつくした射撃体勢。
 さぁ、お立合い。
 この魔弾は彼のすべての知識と経験に基づき六合を穿つ。

「お代は命で結構だ。恨みはないが、散ってもらおうか!」
「最高速度の一撃、受けてくださいっ!」 


 
 ──もし、この戦場を俯瞰していた存在がいたとして。
 それでもその一瞬は理解が及ばなかっただろう。

 放たれたのはたった一発。
 たった一発の、それも拳銃の弾丸だ。
 重力をも味方につけたそれが異様なまでの巨体と化した蜘蛛を貫く。
 絶叫。
 それだけはヒトめいた聲と共に、盾になるはずだった蜘蛛は朧な霞と化して。
 花弁の如く散る影の只中を銀の流星が進む。
 切り開くようにも、影が自ら進路を譲ったようにも見え。
 逃げる隙などあるはずない。
 それこそ隕石が落ちたような轟音を伴って、突撃槍は女郎蜘蛛を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『影竜』

POW   :    伏竜黒槍撃
【影竜の視線】が命中した対象に対し、高威力高命中の【対象の足元の影から伸びる黒い槍】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    影竜分身
【もう1体の新たな影竜】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    影界侵食
自身からレベルm半径内の無機物を【生命を侵食する影】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。

イラスト:芋園缶

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●彼は誰時にさようなら


 そうして、夜は更けていく。
 猟兵たちの尽力により蜘蛛たちは駆逐された。
 静まり返った商店街は、戦いの痕跡などないような夜の静寂を纏っている。
 
 けれど誰もが知っているだろう。
 夜は、明ける前が一番暗いのだ。

 空を覆っていた重い暗い雲が地面に落ちていく。
 それは一か所に集い、凝縮し、けれど建物が作る影と同化して広がっていく。
 まるで沸騰するようにぼこぼこと沸いた影は、歪な竜のカタチを取って世界に顕現した。
 それが纏った赤の朧は、人が流す命の色をしている。 

「ドウシテ生キテイルノ?」 

 男のようにも女のようにも子供のようにも老人のようにも若者のようにも壮年のようにも聞こえる声は、問いかけて。
 けれど答えは期待していなかった。

「ドウシテ生キテイルノ? ドウシテ生キテイルノ? ドウシテ生キテイルノ? ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテddddddddddddddddddd────────死ンジャエ」

 悲劇のうちに死んだのかもしれない。
 訳もわからず死んだのかもしれない。
 ただ嘆きながら死んだのかもしれない。
 同情すべき理由があったのかもしれない。

 けれど影竜は、その「死」を理不尽にまき散らす存在だ。

 影の槍衾がひらめく花弁に穴をあける。
 増えた影の翼が街路樹を薙ぎ払う。
 ガス灯がじゅぐじゅぐと赤く溶けて影に沈んでいく。

「ミンナ、ミンナ同ジ影ニナッチャエ」

 この影はもう、それだけしか望まない。
 彼は誰? 問うたところで答えはない。

 さあ──もうすぐ朝がやってくる。
 誰そ彼時に待ち合わせ、未明の頃に遇った影に、さようならを告げに行こう。
茜崎・トヲル
どうして生きてるの?死ねないから生きてるの。
それだけさそれだけ。
実はおれはみんなを助けるために生きてんだ。
無理だろって思わねえ?そういうこと。だから目につく奴だけ拾うのさ。こんな卑陋なやつに拾われてかわいそーにってね。……何の話してたっけ?
まあいいやなんでも。どうでも。

光には影、影には光。
殺戮刃物の段平に生まれながらの光、宿して切っていく。
両手に一本ずつ持って二回攻撃!とかさ。
これも一種の医療行為?治療行為みたいなもんだろ。
精神攻撃と合わせて浄化出来たりしねーかな。あーはは、心得程度にしか覚えてないけどさあ、あれ。
痛みは阿片吸ってがまんするよ。おまえらみんな元気になあれ。また来て来世だ。



●明日元気になぁれ


「死ねないからだよ。それだけ」

 歌い出すように弾ませて、けれど何でもないように軽く、茜崎・トヲル(白雉・f18631)は影竜に答えを放った。
 聖なる光に照らされて、命を啜る影は彼の体まで近づくことができない。
 だが近づけないことを理解できない影は、石畳をガス灯を看板をのぼり旗を溶かして侵食の腕を広げていく。
 トヲルは、影の作る闇の中へ一歩。続けて二歩三歩。生を侵食する影は、死を遠ざける光に呑まれて届かない。

「ドウシテ、ドウシテドウシテドウシテ!!」
「あーはは。実はおれ、みんなを助けるために生きてんだ」

────無理だろって思わねぇ?

 殺戮刃物の切先が、光を宿して向けられる。
 死を殺す光に怯えた影は近づける限りの影をトヲルへと差し向ける。けれどやっぱり光だけは呑み込めないから、丸く切り取られたようなそこだけが舞台のようで。

「そう。だから目につく奴だけ救ってやんの」

 スタァになれないトヲルは、けれど救う者たる光を生んで。
 その銀に、救うべきを見定める。
 
「こーんなやつに拾われて、かわいそーだねって」

 ひゅん、と風切る音を立てて段平二本が空を切る。赤い命が光の中に溶けていく。同じになったはずの影を奪われて、朧の竜は尾を振り上げた。
 宿った光ごと、殴りつけて薙ぎ払う。
 避けられない。トヲルが犠牲にしたのは左手と、そこに握っていた段平だ。手から離れた鋼は影に触れるといっしょくたに溶けて見えなくなる。
 ぱた、ぱた、地面に落ちる自分の血。正しからざる方向に曲がった腕の先で、棘を生やした尾が地面を吸い上げたように一段大きくなった。

「ところで、何の話してたんだっけ」

 痛みを薬で麻痺させて、まだ動く手に刃物を握る。
 死を奪われたトヲルの前で、生を奪われたが故に生まれた影が叫びを上げる。
 ……少なくとも、トヲルにとって医療行為のつもりもあって揮った刃。その「死」を切除して浄化が叶えば、どんなに楽しかっただろう。
 だが切先に触れた影は、救いの光を否定していた。
 救われることを信じないモノは、決して救われてはくれない。

「あははー。いいよなんでも。どうでも」

 今のトヲルには届かない竜の悲嘆が、再び影で世界を覆う。
 段平の攻撃と聖なる光が有効打であることは分かっただけが収穫だ。阿片で曇る頭を回して、重い体を動かして、それでも唇の笑みは剥がさない。
 救済者であることを願われたキマイラが、影竜に贈る言葉があるならば。

「また来て来世、ってことで」

 振り下ろした刃からは、命を断ち切る感触がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

緋翠・華乃音
……死はいつだって理不尽で、唐突で。
けれど俺は、死に場所も選べないような無様な生き方はしないと決めている。

蝶とは、還る魂の象徴なれど。
手ずから君の魂を還すつもりは一切無い。
……悪いな、戦友以外を連れていくつもりは無いんだ。
だからせめて、安らかに眠ってくれ。


竜が顕現するまで気配を消して潜伏。
《瑠璃の瞳》が一切を見渡せる高所から竜を臨む。
得意の狙撃は特異な洞察力と即応力に裏付けされている。

魂を宿して羽ばたく蝶よりも、人の命よりも軽い――引き金に添える指。

敵を見据える瞳は、寄せて返す夜の波打ち際に似た静謐に鎖され、決して油断に陰る事はない。
蝶は人の道を歯牙に掛ける事は無いけれど、鋭鉛の牙は竜を穿つ。



●夜に落とせ、

 蜘蛛の糸からも竜の影からも遠く、遠いビルの屋上。
 花に蝶が止まるような自然さで、男が一人佇んでいた。
 銀の髪も、色の抜けたような肌も、闇を弾くようにあるのに。
 異理の血統が為せるのか、誰も男に気付いた様子はなかった。
 瑠璃の瞳は揺らがず透徹としたまま、影が覆う下界を見ている。

「……死は。いつだって理不尽で、唐突だ」

 緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)が、潜伏を無為にしかねない呟きを零してしまったのはどうしてだろう。
 影竜の上げた絶叫に、淡く暈した感情のどこかを刺激されたのか。

「けれど。俺は、」

 けれど、それは。
 守れなかったナニカではなく。
 彼が還してきた戦友たちではなく。
 そのどれもと無関係な、過去の朧なる影であるから。

「手ずから君の魂を還すつもりは一切無い」

 ぼごぼごぼごと、見渡す下界で影が沸騰する。
 見えざる巨大な手が練り上げているかのように、膨れ上がった影が竜の形を作っていく。
 流星を模した狙撃銃。必中を約す瑠璃の瞳が見る先で、突如竜はふたつに分かれた。
 分身。
 コヲドとしてはありふれた、けれど対策の方法が限られる手法だ。

「……ああ、違うな。両方が本体か」

 だが、華乃音は見切ることができる。
 身体を分けて撹乱するのではなく、本体を複製して影を増やしていく種類のそれであると。
 それはどれほどの恨みだろう。どれほどの嘆きだろう。
 人ならば、きっと。
 けれど蝶は、蝶であるがゆえに、人の道など歯牙にもかけない。
 引き金にかけた指に重みなどなく。
 見据える瑠璃の水面に波は立たない。


 ────ふわ、り。
 蝶が羽搏いた。それが合図。


「悪いな。せめて安らかに」

 長距離狙撃においては、音より弾の方が早い。
 影竜……正確に表現するなら分身元であった方のそれは、何が起きたのかも分からなかっただろう。
 鋭鉛の牙は竜を穿つ。
 朧な影に模られた不定形のそれだとて、華乃音が急所を抜けない理由にはならない。できて当然なのだから何の感慨も浮かばない。
 核となる部分を失った影竜が、ぐじゅぐじゅと崩れて他の影へと呑まれていく。迂闊に手を出せばどうなるか分からないそれを凪いだ眼差しで見送った。
 
「……無様だな」

 ああいう死に場所は、御免だ。
 もしかしたら寂しくはないのかもしれないけれど、最期に見るには重すぎる景色だ。
 そして、死に場所も選べないような無様な生き方はしないとも決めている。
 この世界がもう、褪せた色にしか見えなくても。

 息を吸う。止める。揺れを排す。
 瑠璃の異能が約束する未来目掛けて。
 影竜の絶叫を聞き流しながら、もう一度引き金に指先を。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【鎧坂探偵社】
可哀想に。
死んでもなお孤独で辛いでしょう。まあ、そんな事も考えられないくらいに――蝕まれてて、つらそうね
ごめんなさいね、一緒にはなってあげられないの
代わりに、一思いに葬送ってあげるわ

【黄昏】を使います
周囲に配慮するわ、右腕一本で我慢しましょう
灯理のサポートを受けて「一点」に集中
その「腹」目掛けて一撃、私の右腕を振った風圧を炎でコーティングしてもらう
それを、――槍投げのようにして二人で放ちましょう
穿ってあげるわ、絶対の意志と愛の槍でね。

さようなら、不幸の怪物
――お前はここで、絶えて死ね。
次があるなら、その時は幸せに生まれておいで
世界のことは、守っておくから。


鎧坂・灯理
【鎧坂探偵社】
その嫉妬。怒り。憎悪。疑問。悲嘆――私には覚えがある
貴様の境遇、明日は我が身だ
だからこそ。
私は貴様を哀れとは思わない。同情も、共感もしない

覚醒きろ我が脳髄 【火の鳥】起動
黄昏の威力を拡散させぬよう、彼女から漏れ出す力を収縮
オーラ防御で膜を作り、ドリルのように回転させて一点集中させる
手伝えカルラ
全力魔法の属性攻撃・炎でコーティング、威力を更に上げろ

私の力は、我がつがいと同等
右腕一本分を補佐できない理由はない
外しはしない 攻撃の手も鈍らせない
貴様はオブリビオンだ 我が誇りにかけて必ず滅ぼす

だから、次は違うものとして生まれて来い
今よりマシな世界にしておくよ
影朧の貴様とはここでさよならだ



●かつて己だったかもしれない影へ

 嘆きを、呪いを、叫ぶ声。
 嫉妬と怨恨から編まれた影が視線を向けた先には影の槍が立ち並ぶ。
 穿たれたモノが端から崩れていく、その光景を見て。

「可哀想に」

 ただ、淡々と。
 ヘンリエッタ・モリアーティ(Uroboros・f07026)は言い放った。
 今ここにいる彼女はプロファイラーでもある。影朧はひとではないが、その感情を基に組まれた存在であるなら分析は容易だ。
 そういう人間は誘導するのも簡単だったから──思考も単純だ。世界を呪い滅ぼす衝動性に蝕まれているから、猶更。

「死んでなお孤独で辛いでしょうね。まあ……」

 そうだと自覚できるような理性は、残っていないのだろう。
 だからあの影竜の使うコヲドは他者を、別の存在を呑み込み、同じになるためのものでしかない。
 嫉妬も憤怒も憎悪も疑問も悲嘆も、結局そこに帰結する。

「私には覚えがあるよ。その感情に」

 友を、伴侶を、武器を。何を得ても埋まらない虚を抱えていたことがあった。
 一歩、どこかで踏み外していたら。少しでも意志の矛先がブレていたら。そもそも、彼女達に逢えていなかったら。
 “ああ”なっていたのは己だったかもしれない。
 理解はできる。だが同情も共感も、哀れみもしない。
 意志で鎧った紫で影を睨みつけ、鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)はヘンリエッタと肩を並べる位置に立つ。

「なら、アレと一緒に行く?」
「あなた方がいるのにか?」
「そうね。一緒になるのは、灯理だけで十分」

 二度と孤独にはならない二人で。      おく
 世界を守る側の存在として、影なる過去をいま葬送ろう。


 ヘンリエッタ──ハティと呼ぶべきだろうか。彼女は竜である。そう定義され、そうあり続ける存在だ。
 故にその細身から想像もつかない、途轍もない膂力が右腕一本に収斂されていく。
 そうでもしなければこの商店街一帯が廃墟と化してしまうだろう。ダークヒーロー業を始めた身としてそれはよろしくない。
 制御をしながら力を揮うだなんて、かつては考えたことはなかった。竜とはそうして暴れることこそ正しい在り方で、怒りに焼けた脳髄ではそれ以外など思いもしなかった。

 理性を得た今だって、難しい。
 難しいから、挑みがいがある。
 ……それに。

「灯理」
「任せてくれ、伴侶殿」

 彼女は影朧ではない。
 もう、ひとりで戦わなくてもいい。

「フ────ッ!!」

 【黄昏(アナイアレイシオン)】、来たり。
 ただ腕を振るだけで生み出される剛風へ。
 抱き締めるように、灯理の意志が触れる。
 
  お
「覚醒きろ、我が脳髄」

 【心術:火ノ鳥(ストラヴィンスキー)】。
 ハティが竜なら、灯理は不死鳥。並び立てない理由がない。
 ならば彼女の起こした風を更に練り上げることなど造作もない。
 そう信じる。断じる。よって現実は捻じ曲がる。
 不可能という概念は意志の怪物の前に存在を許されない。愛するつがいの前なら尚更だ。
 隣にいられる自分で居続けたい。
 つがいを惚れさせ続ける自分で在りたい。
 だから彼女の意思は風を留める。
 命中を補正、威力を一点集中、さらに増幅──計算完了。念動力を調整し回転を加える。まだ足りない。

「カルラ、手伝え」

 主人の命に明るい炎色の小竜が声なく応えた。色のなかった風に橙が混ざり、攪拌されて、薄れる端から追加され燃え上がり白熱と化していく。
 それは影を焼き払う、絶対的な生の意思と愛の槍。
 眩さに中てられた影竜が怯むように後ずさるから。

「焼尽焼滅────」
「────絶えて死ね」

 力と意思が、共に炎風の槍を投擲した。
 もはや光線と化した熱量が空気を焼いて影竜へ突き進む。
 が、影竜とて迫る滅びを座して待つばかりではない。首をもたげ、ぐるりと視線を回し、光を止めるべく影槍を撃ち放つ。

 初弾。あっけなく光に呑まれる。
 次弾。光の勢いは揺るがない。
 三つ、四つ、五つ六つ七つ────いくら影が襲おうと、光の槍は弛まない。
 むしろ、影を喰らってさらに勢いを増すようですらあり。

「止まるものか。オブリビオン如きに止められるものか!」

 私達は。
 おまえのように、孤独な怪物ではないのだから。

 光が、影を、貫いた。
 穿たれた影竜は、そこから「く」の字を作るかのようにゆっくりと折れ曲がって崩れていく。
 ぼろぼろ、ぼろぼろ、己を構成する影へ、竜の身を落としていく。

「さようなら、不幸の怪物」

 今ここに、影朧を癒すことができる桜の精はいない。
 だから崩れゆくばかりの影竜へ、孤独でない彼女達がかける声はひどく優しく。

「『次』は、違うものとして生まれてこい」
「それまで、世界のことは守っておくわ」
「ああ。その時世界は、少しばかりマシになっているだろうから」
「次のあなたにいいことがあるといいわね」
 
 だって、世界は辛いばかりの場所ではない。
 そう知っている二人は、いつかの孤独に別れを告げる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎本・英
どうして生きているのか。
死にたくないから生きているのだよ。
自ら望んで死を選ぶ人などそうおるまい。
普通の人ならね。

君にはもう声が届かないのだったな。
ならば満足した答えも得る事はできないだろう。
問いに問いで返すのはあまり良い事ではないけれど
「どうして生きていてはいけない?」
私はこの問いを持って君に別れを告げよう。

数多の手は死を拒む。
彼らもまた生きたいと願っているのだから。
部位破壊で狙いやすい所を狙おう。
生に執着したこの手も死にたくないのだから
足掻くに決まっているのだよ。

嗚呼。朝が来たら君に何て告げるべきなのだろうね。



●廻れば朝になるやうに

 
「どうして、と言われても。死にたくないから生きているのだよ」

 当然の摂理を告げるがごとく。榎本・英(人である・f22898)は影竜に答えた。
 涙などなく、悲劇もない、「普通」の人生を送っていればそう思うのは当たり前だ。
 英がそうであるように。

 が、影竜からの返答は芳しくない。
 闇を吸い込んだ巨大な翼を打ち下ろし、英を潰そうと迫る。それはごく自然な、たとえばそこに蚊が飛んでいるからというようなごく自然の動作だ。

「おおっと」

 慌てて走れば、一度目は運よく避けることができた。だが影竜の翼は一対、もう一撃は薙ぎ払いの動きを取る。
 死が、迫ってくる。

「なあ、君──」

 声の届かぬ死の使いへ。
 別れを告げる言葉は、決まっていた。

「──どうして、生きていてはいけない?」

 それは、生にしがみつく情念の手。
 赤紫は死の先触れたる闇にしがみつき、爪を立て、掴んで引きずり倒すように翼の動きを押し留める。
 それが一本や二本であったら竜も歯牙にもかけなかったかもしれない。だが、英が喚び出した手は無数。ひとつが砕けようとふたつが腕を伸ばし、三つが欠けようものなら五つが新たに取りつく。
 それは問いかけと共に姿を現し、満足のいく回答を得るまで攻撃を続けるコヲド。
 
「死を忌避し、生に執着する情念の獣だ。足掻くに決まっているよ」

 【其の答えを識るまで、僕は死ぬ事もままならぬ】。
 だが、もう答えを紡ぐ理性など存在しない影竜が回答できる訳がないのだ。
 よって翼はもうすっかり赤紫に覆われていた。そこからさらに範囲を広げ竜の胴体にまで手は及ぶ。
 死を避けるためには、死を齎すものを壊さねばならない。
 それだけは知っている情念の化身たちを引きはがそうと影竜は暴れるが、無数の手に取り付かれている以上その動きは精彩を欠く。
 
「嗚呼……」

 その足掻きは、ただひたすらに醜い。
 強いものを大勢で叩いて、少しずつ削って弱らせる。足掻くという行為はそういう概念を孕むが、それが一方的になれば「弱者」は容易くひっくり返る。
 それを嫌がるように逃走を図ろうとする影。逃がせばどうなるか分からぬと追い縋る腕。
 生存競争だと、片付けてしまえれば簡単だったかもしれないが……もしかすれば、影竜が影朧と化した悲劇は、そういうものだったのかもしれない。
 それは文豪としての直感だったのか、単なる次回作への閃きだろうか。
 分からないから、英は赤紫となっていく影を見上げる。

「朝が来たら。君に、何と告げるべきなのだろうね」

 影朧から、答えが返ることはない。

成功 🔵​🔵​🔴​

玉ノ井・狐狛
「手筋としちゃあ堅いが、分かりやすくて助かるぜ」
 嘯きながら見つめる先は、影竜の顔。特に、その“眼”に当たる部分だ。
 影から成る形がどうあれ、“視線”を起点とするならば。動きと意図を読むのは容易く、そして、
「邪魔するのも難しかァないって話でね」
 炎を中空に展開。それ事態が視界を遮り、熱気が視線を捻じ曲げる。
 見た目こそ派手だが、実態はあくまで小技、小細工の類に過ぎない。直接攻撃の役には満たないし、その意図も――必要も、ない。何故ならば、
「チームプレイだからねぃ。全員での勝ち筋が通りゃァ、それでいいのさ」

行動:UCによって相手の視界を遮断・撹乱
意図:攻撃を妨害する


狭筵・桜人
うわぁ。

さっきの蜘蛛女にも増して面倒臭いタイプが出てきましたね。
というわけで私はレギオンを操作して
影竜が操る影をどうにかこうにか抑えてますので
本体は他の強い猟兵方に任せてー……ダメ?

仕事したって証明に一発くらい当てときますか。
レギオンによる【援護射撃】で【部位破壊】、狙いは竜の目です。
目?ほらあの辺、目っぽいとこ。
さて影に邪魔されないよう機体を近付かせる必要がありますね。

銃声で敵の気を惹いてみます。
まあもとより機械よりも生きてる人間の方に興味ありそうですし?
こっち向いたら敵の攻撃を【見切り】逃げ回ります。
私がタゲ取ってる間は味方もやりやすくなるでしょうし
その隙に一発くらい撃ちこんでやりますよ。



●桜と狐につままれて


「うわぁ」

 瓶詰してラベルを貼ったとしたら、きっと「面倒臭い」と名付けられて売られることだろう。
 そんな狭筵・桜人(不実の標・f15055)の溜息は影竜の上げる咆哮に呑まれて届かない。
 届いたところで影の侵食速度が変わることはなかったろうが。

「いやいや兄さん、ありゃ分かりやすい手合いだろうよ」
「気楽に言ってくれますね玉ノ井さん……。じゃあ私が影の方を押さえておきますので本体をお願いしまーす」
「兄さんにも働いてもらわないとなんだけどねぃ」
「えー」

 嘯いてみせる玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)の視線は、影竜の“目”らしき部位に向けられている。
 狐狛の生計を成り立たせているのは賭博、それも札遊びの類だ。ブラフ、イカサマ、ハッタリ、その他諸々の心理戦こそ賭け事の華。生き馬の目を抜く裏社会で培われた戦術眼からすれば、影竜はむしろ読みやすい手合いですらある。
 目が合う。
 生を呪う竜が、喋る二人を捉えた。

「いやまあ、仕事したって証明に一発くらいは当てておきたいですけど」
「一時方向、来るぜぃ」
「あっはい、つまり肉盾ですね」

 盾になるのは肉ではなく機械だが。
 桜人の【エレクトロレギオン】が展開、二人の生者に代わりに影に対する防波堤となる。
 周囲の無機物ほとんどが影に呑まれる中、それだけが動いているのは桜人という猟兵──生命の埒外の影響下にあるからだろう。
 とはいえもとより数が出せるぶん脆い機械群、バチバチという嫌な音を立てて崩れたかと思うと影と化して呑まれてしまう。

「機械も人も好き嫌いしないなんて偉いですねぇ……」
「なんだ兄さん。食材願望でもあるのかい? アレに飛び込めば今すぐ叶うぜぃ」
「いやいやまだ死にたくないですってば」
「言うと思った。んじゃ──」

 ぼ、ぼ、と。
 狐狛が視線を向けた中空に炎が展開した。

「わ」

 桜人が驚く前でその炎──狐火はぐるりぐるりと円を描く。
 闇の只中にいきなり現れた光源なのだから、動くそれを思わず目で追ってしまうのは自然だろう。
 それこそが狐狛の狙いだとも知らず。

「堅い手筋は読みやすい。だから邪魔するのも難しかァないって話でね」

 闇に慣れた視界を炎が焼き、合体と分裂を繰り返すそれが障害物となって目線を遮り、通ったところで熱が生み出す陽炎が視線を捻じ曲げる。
 それは視覚で対象を捉える影竜の狙いが甘くなることに他ならず、みるみるうちにエレクトロレギオンの損耗が減っていく。

「うっわえげつない」
「おう、ありがとうよ」
「いやいや褒めてませんけど」
「褒め言葉に聞こえたんだから仕方ないだろ?」

 だがこれはあくまで妨害に過ぎない。見目こそ派手だが直接攻撃の役には立たない小技の類。
 何故なら、もとより狐狛にそれ以上をする意図はないからだ。

「さて、これで射線は通るかい?」
「うわ、最初からそのつもりでしたね玉ノ井さん」
「当たり前だろ? 猟兵ってのはチームプレイだからねぃ」

 賭博と同じ──勝つためには手段を選ばない。
 
「全員での勝ち筋が通りゃァ、それでいいのさ」
「……やっぱ性格悪いでしょうあなた」
「性格良くて博徒なんざやれるわけないだろう?」
「うっわ正論……」

 が、楽ができるのであれば桜人だってそれに越したことはない。
 狐火に振り回されて荒れる影の波をすり抜けるように突破。時に炎が生み出す影に隠れ、時には一体を囮に三体を通過させて、少しづつ距離を詰めていく。

「あと、念には念を入れましてっと」

 生を恨むものであるなら。機械より人の方が囮には適している。
 そう判断した桜人が懐から引き抜いたのは一丁の拳銃だ。 

「いいモン持ってんな、兄さん」
「ふふーん、あげませんよ。護身用なので合法ですし」

 ろくに狙い定めず一発。銃声だけがやけに明瞭に響き渡る。
 音を出した桜人の方へ影竜の赤い視線が向けられて、そこに割って入った狐火によって遮られる。
 が、そこにいると分かれば影竜の方だって容赦はしない。生命を侵食する影が濁流めいた勢いで差し向けられる。

「隙だらけですよ?」

 生者に意識を傾ける────桜人はその瞬間を待っていた。
 誰だって自分の目的が成就しそうになった瞬間は隙を晒すものだ。人間だってそうなのだから、いわんや衝動だけで動いているような影朧など。

 狙いは一点。その“目”を穿つ。

 エレクトロレギオンの砲塔が火を吹いた。叩き付けるような音と共に影竜に弾が吸い込まれ、その最中で押し寄せた濁流に呑まれる。
 が、すべてが壊れるわけではない。
 真っ直ぐにしかやってこれない流れから外れ、狐火に紛れた機械は急所であろうその箇所へ痛打を浴びせかける。
 しかし、射撃とは直線的なもの。影の一部がそちらに差し向けられるから長くは持たないだろう。
 となれば。

「よし、逃げましょうか!」
「賛成だよ。こんだけやりゃあ後はどうにかしてくれるだろうさ」

 最後に一発、狐火を弾けさせて思い切り撹乱。その隙にレギオンの位置を微妙にズラしてから三十六計。
 影はもう、二人を追ってはこなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
どうして、か
死人ってのは皆同じことを訊くよなァ
そうなっちまえば、もうこちらの声も届くまい
今に断ち切ってやろう

竜には竜の力で対抗する
【悪意の切断者】を発動すれば、多少の耐久力もついて来よう
視線を遮る術は持っていない
ましてこの影だらけの状況で槍を避けるのも難しかろう
呪詛を載せた爪で目を狙いつつ、槍の方は鱗で弾けることを期待しようか

どうしてここまで生きて来たのかなんざ、私にも分からんがな
今は生きることを諦めないと約束した先が多すぎる
当分、貴様と同じ影になってやる気はないよ
……眩しいだけの朝が来る前に、影ごと全部、海に融けちまうと良い


鷲生・嵯泉
何故生きているか、と?
其れに答えてやる謂れは無いな……
況してや聞いた所で今のお前には理解が出来まい

影朧と化した経緯には思う所が無いでもないが
……正直な所、「竜」を模した姿で在る事が些かならず不快だ

終葬烈実……加減はせんぞ
攻撃は戦闘知識と第六感で先読みして見切りにて躱す
軽傷ならば激痛耐性と覚悟で無視
牽制加えたフェイントでの死角移動から、怪力乗せた斬撃を加える
凝り固まった其の恨み、一刀を以って砕いてやろう

私は元々が唯の灰残の火だ……影と化す事を厭いはしないが
其れでもお前達と同じには為れん
今此の身を形作り世界に留めるのは、願いと祈りの果てに掴んだ楔
――生きる為に足掻くものと在る為に有るのだから


鳴宮・匡
――どうして生きているのか、
ずっとわからなかった

どうしてあの人を犠牲にしてまで生きているんだろう
あの人を犠牲にしてしまったくせに、今も生きているんだろうって

新たに出現した影を牽制しながら本体の方へ銃撃を
力を行使する要となる部位があれば積極的に狙っていくべきかな
【抑止の楔】が機能するまではどうしても根競べになる
致命傷を避ける様にうまく見切りながら
合間を見て攻撃を繰り返す

――どうして生きているのか、
今はもう知ってるんだ
だから、今はそのためにできることをするだけだ

恨みも憎しみも
次の夜明けを迎えるには重すぎるだろ
何も言ってはやれないけど
せめて、受け止めて、忘れないから

……次はきっと、幸せに生きなよ



●答えはこの手に

 どうして生きているのだろう。
 大切なものを奪われて、守られて、だから置いていかれて。
 息の仕方も分からないまま。
 ただ願われたまま、この世界に居続けるばかりで。
 からっぽのまま、ひとになんて混ざれないまま。
 きっともっと早く、あの影と同じに成り果ててしまうべきですらあったのに。
 
 ……どうしてここまで、歩いてきたのだろう。


「疾ッ────」

 強烈な踏み込みが地面を抉る。それだけの勢いを余すことなく剣先に乗せて叩き付ける。痛覚はあるのか、削ぎ取るように影の一部を斬られた竜が「ギャッ」っと醜い悲鳴を上げた。
 体に取り付いた羽虫を振り払うようなよじる動きは、そのまま異様に長大な尾による叩き付け。
 金と黒の剣士は僅かに身を引くだけ。
 そうやって通した射線に銃弾が撃ち込まれる。彼が狙ったのは影の薄い部分。そこを精確に通されてしまえば自慢の尾は自らを振るった勢いに負けて弾ける。
 そうやってがら空きになった背後へ、竜人が飛び込んだ。

「ははっ、そこだな!」

 朧な影の輪郭とはまったく異なる、それは鋼鉄すら容易に切断する真実に竜の形をした爪。
 千切り取るように揮えばしろがねの呪炎が軌跡を引いて影が焼け焦げる。
 追いかけるように断たれた表面からぱたぱたと音を立てて落ちる、血めいたそれすらも影色だ。
 血の色を宿しているのはその視線。
 灰燼色の竜人へ差し向け、影槍にて穿ち貫かんと。

「動かないでくれた方がよかったんだけどな」

 動いたとて、彼が外すことなどありえまいが。
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)は呟きながらアサルトライフルをコッキング。装填された弾丸を速やかに射撃、着弾前に弾けた閃光が影竜の意識を逸れさせる。

「おお、派手だな匡!」
「言っている間に手を動かせ、ニルズヘッグ」
「分かってるっての嵯泉」

 竜人──邪竜の血統を呼び起こしたニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)が笑い、常と変わらぬ薄い表情のまま鷲生・嵯泉(烈志・f05845)が窘める。
 軽口のような言葉の交わし合いの実、油断は微塵と存在しない。
 
「……いやでもお前、なんか機嫌悪くないか?」
「気のせいだろう」
「そうかぁ?」
「私は普段からこうだ」
「それはそうだけどよ……」

 まさか当の本人に言えるはずがない。
 影朧が「竜」を模した姿で在ることが不快だ──などと。
 かつては掻き立てられることのなかった感情は、間違いなくこの「竜」の影響であろう。

「二人とも。来るぜ」

 三人の中で最も知覚能力に秀でた匡が告げると同時、影面が突然沸騰したかのように沸き立つ。
 ただ足元を狙うばかりでは当てられないと悟ったのだろう。建物の、看板の、あるいは影竜自身の影から黒槍が編まれる。
 射撃。
 ひとを同じ影へと化すべく放たれた鋭い切先は。
 頑健なる竜の鱗と打ち下ろされる果断の刃にあえなく弾かれる。

「ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ!!!」
「死人は皆同じことを訊くよなァ。そのくせ答えても届かないときた」

 その怨嗟を取り込み力とするから、ニルズヘッグにとってその叫びはいっそ馴染みあるものだ。
 そして、答える義理あるものでないことも。

「だがな」

  ニルズヘッグ
 必要のないモノと呼ばれた。
 約束の花が燃え尽きゆくのを見送って、遺されたまま彷徨って。
 どうして生きているかなんて、ニルズヘッグ本人にだって分からない。
 ……視線を上げる。
 影の怨嗟に、今は笑い返すことができる。
 隣には共に生きていくと誓った盟友。
 背後を守っているのは同じものを抱えて頼り合う親友。
 他にも、ここにはいない大切はいつの間にか増えていたから。
 
「当分、貴様と同じ影になってやる気はないよ」

 一番最初に交わした約束の、行き着いた果て。白く小さな指先が左頬に走る刻印を撫でる。
 視界の端に翻る白と紫に笑い返して。新たに結んだ約束を、いつか捨てたはずの「竜」の手の中に握り込む。


「同感だ。お前達と同じには為れん」

 鷲生・嵯泉は、灰残の火だ。
 護るべき総てを奪った元凶を滅ぼし終えた今、今更影と化すことを厭いはしない。
 ……きっといつかの儘ならそうだったろう。
 肩を並べる灰燼色をちらりと見遣る。
 そう願われた。祈られた。そうして掴んだ、「共に生きる」という約束の楔。
 ――生きる為に足掻く幼子と在る為に、有る。
 その誓いこそ、今の嵯泉を世界と繋ぐ確かなものだ。
 影竜に差し出してやるものなど、何もない。

「──擁するのは討ち砕く力のみ」

 【終葬烈実】、覚醒。
 凝り固まった其の恨み、一刀を以って砕き去らん。


「……」

 視線は切らないまま、その情景を見据えたまま。そっと息を吐きだして、匡はアサルトライフルのマガジンを入れ替える。
 コヲドを封じるまでは至っていないが、【抑止の楔】は少しずつ機能し始めている。前を務める二人が傷一つなく影槍を弾くことができたのがその証左だろう。

 ドウシテ、と。

 耳奥に影竜の絶叫がこびりついている。生きていること、そのものを恨むという影朧は爛々とした赤色をこちらへと向けている。
 どうして、と。そう問いたかったのはいつかの匡だった。
 護られて、遺された。そうやって護られる価値なんてなかったはずなのに。
 あの人を犠牲にしてしまったくせに、のうのうと息をし続けていて。
 生きるために積み上げた屍の数はどれほどの数に上るだろう。
 そうしてきたことを肯定されても、そう生きてきた道を許せる匡ではない。

「――どうして生きているのか、今はもう知ってるんだ」

 それでも、ここに生きていたいから。
 “こころ”を切り捨てて、沈めて、ただ歩いてきた、“ひとでなし”だけれども。
 それを受け止めて、忘れないでいることはできるから。

「その恨みも憎しみも、夜明けまで持っていくには重すぎるだろ」

 構造的に脆い影の薄い部分。
 攻撃の起点となる眼部と思われる血色の朧。
 打ち下ろされる翼の付け根。
 狙った通りに着弾した銃撃で、浮かびかけていた槍が影へと還っていく。丸裸になってのたうつ影へ、金としろがねが割り入った。
 交錯は一瞬。
 災禍断ち切る一閃が影竜を両断し、それが溶け去る前に突き刺さった爪がしろがねを招く。焔の中にくべられた影は闇雲な絶叫を上げるが、飛来した銃弾が静かに死を差し込んだ。

 もうすぐ、朝がやってくる。
 影は海へと溶けて光を浴びることはないだろうけれど。

「……次はきっと、幸せに生きなよ」

 祈るような呟きが、幻朧桜の花びらをそっと舞わせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リア・ファル
SPD
共闘歓迎

今を生きる誰かの明日の為に
別れから始めよう。転じて生まれる祈りの為に

熱光学迷彩ステルスレイヤーを展開

高度のイルダーナから、気づかれずに狙撃する
他の猟兵がいるなら、攻撃や防御、離脱を助けよう

「良いね、射撃特訓の成果を活かす場面だ」

『ディープアイズ』を起動
ナイトビジョンと各種情報を演算反映。目を狙う

UC【独創・術式刻印弾・脆弱】を使って狙撃
(迷彩、情報集取、マヒ攻撃、暗視、援護射撃、時間稼ぎ、先制攻撃、空中浮遊、スナイパー)

影竜に補足されないのであれば、
射撃ポイントを変えて二射三射

影竜さん、さようなら、また何処かで


ヴィクティム・ウィンターミュート


ようやく、お出ましか…
あーあ、こりゃあひでえ。嫉妬や見境のない怨念で溢れてる
こいつ、転生には…持ってけねえのかな
生きてるだけで恨んで、羨んで、憎んでるんじゃ無理か?
──悪いが、俺は優しくない
ここで殺すよ…恨んでもいいぜ?なんてな

テメェの手勢はこれ以上増えんよ──俺がそうさせない
ここでテメェが暴れて、何もかも影に沈めるなんて運命は…

"ひっくり返してやる"

発動予知、構成情報にアクセス
脆弱性を検知、『Reverse』をセット、潜行、浸食──
更新終了

テメェの分身は"現れない"よ
俺が反転させちまったからな
終いにしようぜ、過去の残滓(左の仕込みショットガンを展開)
フルファイアだ──さようなら、フリークス



●暁の果ては見えずとも

「あーあ、こりゃあひでえ。嫉妬や見境のない怨念で溢れてやがる」

 腰に手を当て、ゴーグル越しの視線は見下げるように。
 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は沸騰する影面を睨みながら独り言ちた。
 分身する影竜はあちらこちらで猟兵を相手取っているのだろう。逃げようとしないのは、恨み羨み憎む生命がそこにあるからというだけで。
 本当にお行儀の悪い、衝動性だけの獣。

「転生は……これじゃあ無理筋か?」

 説得だとか慰撫だとか、それこそ“誰かを救う”だなんて。悪党たる己には不向きな分野だと知っているヴィクティムだ。
 主役がそう願うなら応じるのが端役の役割と任じてはいるが、やりやすいのはやはりこちらだ。
 奪うことに関してなら百戦錬磨の自負がある。
 一歩、足を踏み出す。そうして立てた音で青年がいることに気付いた影竜が鎌首をもたげた。
 
「俺はあいつらみたいに優しくないからな。ここで殺すよ。……恨んでもいいぜ? なんてな」

 戦友が口にする言葉を真似てみたところで、そうすることへの感慨は浮かばない。
 そうすることが当然で、そうやって最下層を生き抜いてきた彼にとって、敵意を向ける相手に返すものはひとつしかない。
 
 バズ・オフ
「消えちまえ」 

 天から落ちる光弾が影竜の脳天を撃ち抜いた。
 何が起きたのか、影は理解することもできなかっただろう。 
 にっと唇の端を上げて、ヴィクティムは回線を開いた。
 ニューロンを介して行われる、それは桜の世界に在らざる術理。電脳魔術士同士のやり取りは秒ですら眠たい世界で行われる。
           
『ははっ、さすがリアだ。完璧な配達だったぜ』
『ヴィクティムさんが影竜の気を惹いてくれていたからだよ』

 リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)の身は空にある。宇宙空間をも駆ける高速戦闘機『イルダーナ』は大気圏内であろうとそのスペックを減じさせることはない。その上で熱光学迷彩によるステルスレイヤーを纏っているから、影竜にとっても知覚外だったろう。
 ヴィクティムが彼女を認識できているのは、AR上に味方識別ビーコンが点滅しているからだ。

『竜の方は倒れたけど、まだ影の方は残ってるみたい。念のためα-3地点まで移動するね』
『了解。こっちでも警戒を──っと、』
『これは……!?』

 ぼこ、とひとつ。
 それからぼこぼこぼこぼこ! と音を立てて泡立つ影面。内側から膨れ上がるようにして竜の身が生えてくる。
 先ほどリアの射撃で倒されたのと全く同じ影竜だ。それは何かを探すように中空へと視界を彷徨わせている。

『分身……?』
『だろうな。しかもこの動作……リアに撃たれたことを覚えてやがるみたいだ』
『となると分身とは言い難いかな? コピーとか、そういう方がしっくりくる感じ』
『ということは……増える可能性もあるな』

 ならばその運命、ひっくり返すほかあるまい。
 電脳に火を入れる。発動予知、構成情報にアクセス。
 外部余剰メモリの接続要請──リアの支援はいつだって最適なタイミングで差し込まれる。承認。演算速度はさらに向上。
 脆弱性検知、潜行開始────

 >Set...【Attack Program『Reverse』】
  >...Ready?
  >Completed!

 ハッキングは一瞬。そして仕込みを悟らせるようではArseneの名が廃る。
 リアを探すばかりの影竜は恐らく何も気づいていない。
 そして彼女とて、この隙を逃すほど甘くはない。

「(良いね、射撃特訓の成果を活かす場面だ)」

 あの時は仮想空間で、この世界はまだ発見されていなかった。
 だが、魔弾の射手と共にあの空間で積み上げた演算経験はリアの確かな力になっている。
 
 思考を研ぎ澄ます。
 暗視機能起動。先ほど直撃を決めた演算式を呼び出す。そこへヴィクティムからお返しのように送られた天候データを代入、今現在の最適たる式を確定させる。

「光子の刻印弾で……突破口を切り拓く!」

 【独創・術式刻印弾・脆弱(デミルーン・ウィークバレット)】──
 宇宙最速たる光子の弾丸が、朧を揺らす影へと狙いを定める。
 かの竜がどのような思いをもって影朧へと変じたのか。演算の為のファクターが少なすぎるから、リアには分からない。
 それでも、彼女がすることはひとつ。
 その答えこそ、彼女をリア・ファルたらしめる指針であるから。

 引き金を、引く。

 音より早い光が影竜を撃ち抜いた。
 仮想世界の演算は現実でも結果を違えない。眼部から一直線に通過した弾丸は影竜の動きをたちどころに止めた。

「……明日の為には、今日を終わらせないといけないから」

 だから、別れから始めよう。転じて生まれくる祈りの為に。
 召喚されていた狙撃銃を還して、せめてリアは笑顔を浮かべる。

「さようなら、影竜さん。また何処かで」

 一度影面が沸き立ったのは、返事のようでもあり。
 けれど正しく稼働したプログラムは三度目の竜を生みださない。

 夜は静かに更けていく。
 次の朝まで、あと少し。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

特機兵肆号・揚羽
作戦目的は人命を脅かす影朧を阻み、是を撃滅する事。
揚羽には帰る場所があります。それより先に果てる事は出来ません。

竜へと歩を進めつつ、事前にぐりもあ猟兵から伝えられた敵戦力について演算回路を巡らせ分析する。
視線を結べば即座にこちらの影が槍へ変じる、という話だ。であれば相手の目を潰すか、こちらの影を消すか。
折角なので両方を試そう。演算回路から電気信号(コマンド)を打ち込み、腕部の外装をパージ。

登戸研究所第1課謹製、く号兵器。熱量変換に難があり、稼働効率は最悪ですが……今回は、適役と見ました。

内蔵された金属の円筒から雷撃を発し、数秒世界を真昼に染め上げる。目に命中すれば、暫くは何も見えないだろう。



●第壱号任務:影朧ヲ撃滅セヨ


────作戦目的は人命を脅かす影朧を阻み、是を撃滅する事。

 機械が設定された作戦を忘れることはない。  
 これはただの復唱だ。
 電子演算回路に走る電流でしかないとしても、反復確認は悪いことではない。
 特機兵肆号・揚羽(帰る場所を忘れた兵器・f22774)はそう認識している。
 そのまま演算回路を今回の作戦そのものへと切り換える。

────ぐりもあ猟兵に伝えられた敵戦力によりますと……。

 警戒度が高いのは、やはり視線を結ぶだけで影を槍へと変じさせるユーベルコヲド【伏竜黒槍撃】だろう。
 優秀な演算回路が弾き出した対処法は二つ。選択を要求する回路へ、双方を満たす作戦案の構築を要求、受諾。開示まで二秒とかからない。

「成程」

 承認の信号は、そのまま全身を構成する部品に送られる電気信号となる。
 今回それが届いたのは腕部外装部品。パージされたそれを手に、角を曲がって大通りへ。
 何故なら、そこにいることは内臓探知機で把握している。

 竜とは視線を合わせない。
 その眼前へ、金属の円筒をぶん投げた。

 登戸研究所第1課謹製、く号兵器。
 熱量変換に難があり、稼働効率は最悪。
 だが、何事も状況次第という言葉がある。


 ────電撃が、世界を真昼に染め上げた。


「……作戦、成功。第二段階に移行」
 
 確認すべく出した声は自分の耳に届く。音声検知機能までは馬鹿になっていないらしい。
 自分の兵器で行動不能になることはないはずだが、滅多に使わない兵器を使ったのだから確認は必要である。
 その手順にかけたのも二秒以下。
 であれば次にすることも決定済。

「対象影朧確認。行動不能状態と推測」 

 推測だが、視界を主要知覚器官としていたのだろう。かの影の視界を焼き、己の影を消すという作戦方針はたまたま上手く噛み合っていたようだ。
 良いことだと思う。
 作戦が滞りなく遂行されるのは良いと判断されることだ。
 ……だから、揚羽は本来の世界に戻らねばならない。
 彼女に本来課されていたはずの任務を、遂行せねばならない。

「撃滅します」

 その為にも、今は。
 帝都桜學府から支給された退魔刀を引き抜く。数打ちの刃だが、対影朧用に特化されているから切れ味は折り紙付き。
 影が絶叫する。疑問と、憤怒と悲哀と嫉妬と怨嗟を込めて。
 揚羽は無表情に目を眇めてそれを聞き流す。

 兵器は感情を持たない。
 兵器は敵へ感慨を向けない。
 兵器はただ敵を撃滅するだけだ。

 最適化された電気信号が身体を動かす。
 刀を振り上げ、懐に踏み入り、刺突──捻りを加えて引き抜く。
 ぱっと飛び散るものは、血ではなく影の色。
 核となる部分を傷つけられた影竜が悲鳴めいた咆哮を上げながら自己崩壊を引き起こし────

「作戦目標、完遂。これより帰投します」

 見届ける必要はない。
 揚羽は、未練なく踵を返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リック・ランドルフ
【天窓】で

グナイゼナウ先輩だけじゃなくてクローバー先輩とも合流出来るとは…こりゃ今朝テレビで見た占いの結果が良かったからか?…ま、何にせよさっさと黒幕を倒すか

クローバー先輩が敵の注意を引いた後、敵がUCを発動しようとしたらすかさず【オートマチック拳銃】のフラッシュライトを敵の目に向ける(早業、目潰し、戦闘知識)効果がどれくらいあるか分からないが、少なくとも一瞬ぐらいは動きを止められる筈だ。そしてその一瞬があれば…グナイゼナウ先輩なら充分だろう

お、最後は皆でですか。いいですね、そういうの俺も好きですよ(熱線銃を構え

…どうして生きてるね…そりゃお前、お前達と違って死んでないからだろ


カイム・クローバー
【天窓】

ヨシュカとリックに合流。まるで事務所の案件みてーだ(笑いつつ)
けど、これで化物に勝ち目はねぇな。
さぁ、リーダーの予知、片付けに行こうぜ。

銃にて遠距離から攻撃。【二回攻撃】と【クイックドロウ】で注意をこちらに向け、【挑発】
生きてる理由?俺のやりたい事をする為さ。──例えば、お前のような化物をぶちのめす、とかな?
俺を狙うように仕向け、【残像】【見切り】で攻撃を躱す。【範囲攻撃】を交え、分身体と本体両方を俺に引き付ける。
リックのライトでの目潰し、ヨシュカの七哲。マトモに行動なんて出来ねぇだろ?
【串刺し】紫雷の【属性攻撃】を用いてUC。
締めは三人で決めるってのもアリじゃねぇか?派手に行こうぜ!


ヨシュカ・グナイゼナウ
【天窓】

カイムさまとも合流出来てこれは最強の布陣…!
転送に尽力してなさる先輩が安心出来るように頑張りましょう
占いとかご覧になるのですね!(意外)


わたしは「生きている」という定義に当てはまるかは微妙ですが
生きるって最高に楽しいですよ

カイムさまが挑発し、リックさまが目潰しを仕掛けたなら次は私の番
彼らが眩しくて仕方がないでしょう。正に「生」そのものだ
きっとお前は出来た影には気づかない

【闇に紛れる】様にして【忍び足】で接近。本体を【見切り】
黒く塗った千本を同様に【闇に紛れる】ように、静かに素早く【早業】で
こちらに気づいてももう遅い、それは【残像】ってやつです

成る程、連携技ですね!はい!(開闢を構える)



●天窓から射す光をここへ

 彼らの出会いはここではない世界。
 彼らを結んだのは今ではない時間。
 だから。
 共に行き、この世界をも守ってみせようじゃないか。


「ははっ、こんだけの顔ぶれが揃うと事務所の案件みてーだな」
「運がよかったな……今朝テレビで見た占いがよかったせいか……?」
「リックさま、テレビの占いとかご覧になるのですね! 意外です」

 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)。
 リック・ランドルフ(刑事で猟兵・f00168)。
 ヨシュカ・グナイゼナウ(一つ星・f10678)。
 二十余名を数えるUDC極東支部第三方面出張所のうち三名が揃ったのはなんの偶然か、運命か。背を預けるに不足ない信頼は既に構築されているが故に、カイムの笑みには自信が満ちている。

「占いなんかに頼らなくても分かることはあるぜ」
「それは?」
「『化け物に勝ち目はなくなった』ってことだ」
「ああ……そうだな。んじゃ、さっさと黒幕を倒すとするか」
「はい! 先輩が安心できるように頑張りましょう」

 三人が振り仰ぐ夜空には、生を呪う竜が座している。
 血の色を纏った双眸がおぞましい影を膨れ上げて。

「ドウシテ生キテイルノ?」

 問う声は、無垢な少女のようであり疲れ切った老人のようでありあどけない少年のようであり思索にふける若人のようであり、そのすべてが重なったようでもあり。
 答えたのは射撃音だ。

「俺のやりたい事をする為さ」

 銃捌きを目で追いきれない、見事な早撃ち。
 それ自体はコヲドを纏っていないから一部を穿つ程度のダメージにしかならないが、影竜の視線はカイムに向けられた。
 
「例えばそうだな、──お前のような化物をぶちのめす、とかな?」

 構わず射撃を繰り返せば、さすがに鬱陶しくなってきたのだろう。
 その視線は影から必中の槍を生み出す伏竜の一撃。いくら歴戦のカイムといっても見えないものまでは切れない。
 ならばどうする?

「リック!」
「ああ。任せてくださいよ、クローバー先輩」

 仲間に頼る以外、あるまい。
 残像を残して回避に徹するカイムに代わり、リックが一歩前へ。影竜の視線へ向けるのはカイムの双魔銃に比べればひどくちっぽけな拳銃だ。

「『どうして生きてる』ってね……そりゃお前、」

 そこに装備したフラッシュライトのスイッチを滑らせる。
 光が闇を切り裂いた。
 
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!?」
「死んでないからだろ。お前達と違って……ってもまぁ、聞こえちゃいねぇか」

 それは攻撃ではない。ただただ単純な、だが熟練の手つきによって揮われた目潰しだ。
 だからこそ視線で命を奪わんとする影竜に対するカウンターとしては十分であり。
 その一瞬こそ、彼らが欲していたものだ。
 光に目を取られているときほど、影に潜むものは気付かないのだから。

 白が、翻る。

 己は人形であるが故、影竜に「生きている」と認識されるかは微妙な線だろう。
 この眩しいまでの生きる意思に満ち満ちた仲間たちを目の前にしていては尚更に。
 そう判断して隠密に徹していたヨシュカの袖から千本──鍼状の暗器が滑り落ちる。

「痛くても、我慢してくださいね」

 投擲。
 ただの風めいて、けれど確かな鋭さを伴って。
 影の中へと吸い込まれるように千本が着弾すれば【七哲】が唸る。
 七本によって、その視線からもう影槍は生まれない。 
 影竜は身を捩る。その痛みにか、攻撃を封じられたせいか、はたまた生あるものが足掻くせいか。
 生きているといわれるのか分からないヨシュカは、それでも星色の瞳を緩く瞬かせた。

「それでも、生きるって最高に楽しいですよ」

 だからこそ、影は朝に還るべきだ。
 ヨシュカが引き抜いたのは天地のはじめを意味する覚悟の刀──開闢。
 それを合図にしたかのように、カイムとリックは各々の武器を手に取った。

「締めは三人で決めるってのもアリじゃねぇか?」
「お、いいですね、そういうの俺も好きですよ」
「成る程、連携技ですね!」

 傍から見れば緊張感がないともとれるかもしれない。
 だが軽口を絶やさず、常に不敵な笑顔で──というのは、あの事務所のやり方ではあったから。
 それに倣おう。
 生を呪う影朧に魅せつける、彼らの生き方として。

「ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテェェェェェェェェェェエエエエエエエエエエエ!!!」

 コヲドが封じられたとて、その動きまでが制限された訳ではない。
 だから絶叫をまき散らしながら振り下ろされるのは巨大な双翼だ。空に羽ばたくのではなく、ただ巨大な質量による打撃として三人を襲う。
 だが大きいというのは読みやすいという意味でもあり。

「それは残像って奴です。……この言い方、ちょっとニンジャみたいじゃないですか?」
「ははっ、速度ならヨシュカには負けてられねぇな」
「余裕だな先輩たち……こっちはいっぱいいっぱいですよ」

 影翼が打撃したのは地面ばかり。
 見切り、躱す動きに接近のステップを織り交ぜ。時に引くこともあるが距離を詰めていく。
 大きければ大きいほど足元は疎かになる。巨象が蟻に気付かないと例えられるように。苛立ったような影竜の咆哮もカイムにとってはスパイスでしかない。

「そうか? それじゃ、一発決めとくか」

 ばち、と音を立てたのは雷。
 天候など関係ない。それはカイムの操るユーベルコヲド。
 銃から剣へと武器を持ち換えた彼が一歩踏み込めば、突き進む速度は迅雷だ。

「痺れさせてやるぜ?受け取りな!」

 【紫雷の一撃(ソニックブロウ)】が影竜を突き刺す。
 真の姿を解放せずとも目で追いきれない速度はカイムの秘めたるポテンシャル故か。
 纏った雷が衝撃を起こし、影竜は吹っ飛ばされていく。痺れながらも翼を動かしたのは逃げようとでもいうのだろうか。

「おっと。それはいけません」

 ぐい、と。
 カイムが起こした勢いのまま、ヨシュカの操る鋼糸が竜を引っ張って行く。
 案内した先には、相棒たる熱線銃を構えたリック。

「今です、リックさま!」
「決めちまえリック!」
「ああ」

 三メートル。まだ遠い。
 二メートル。焦れそうになる。
 一メートル。まだ。
 三十センチ。────今!

「この距離なら……一撃で!」

 【ビームバースト】!
 大威力の熱光線が零距離で影竜を飲み込んだ。
 上げる悲鳴も、怨嗟も、眩いばかりの光の中へと飲み込まれて……
 光が消えたとき、そこには何も残ってはいなかった。

「……やったか」
「はい、やりました!」
「ああ、俺達の勝利だ」

 手を掲げたのは果たして誰が一番だっただろう。
 ぱぁん、と。
 弾けた快音は、生きているから交わせる勝利の号砲だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユーイ・コスモナッツ
【流星一射】
方針は納さんに準拠


納さんが注意を引き付けてくれている間に、
空中から影竜の背後へと回り込みます


【流星の運動方程式】
影竜達の目元付近を縦横に横切るように飛びまわり、
牽制および納さんが狙いを定めるまでの時間稼ぎを。
納さんの狙いが定まったのを察したら、
彼が撃ちやすい向きに分身体の目線を誘導
「お願いします!」


頼みの分身体の動きが止まれば、
本体の影竜は無防備になるはず
その瞬間を狙って再加速、
巨体を縦断するように薙ぎ払い
納さんを抱えるようにして戦域を離脱

「宇宙騎士ユーイ推参!」
「割勘でいきましょう。もう一働き、して頂かないといけないので!」
「朝陽が昇る……帝都の新しい一日が始まるんだわ」


納・正純
【流星一射】

方針
①影竜分身を使わせる
②分身体を怯ませる
③本体へ一斉攻撃後離脱

まずは俺だけが姿を晒して囮となり、敵をおびき寄せよう
敵が引っ掛かかったら、ユッコに敵の背後を取ってもらい、狙いを付ける時間を稼いでもらう
弾道予測が済み次第、分身体の眼球を狙い撃ち、一瞬でも分身体を怯ませてやる。そうなれば二対一で挟撃の形だぜ
後は離脱しながら残りの武装で本体へ一斉攻撃


「さァて、どうしてだろうな。答えが知りたきゃ――来いよ。教えてやる」
「ナイスだぜ、ユッコ。この後予定は空いてるかい? 良ければ生に感謝して旨い珈琲なんかどうだ、奢るぜ」
「一発勝負だ。流星一射、御覧じろ」
「良い眺めだな、影が晴れた後の朝焼けは」



●流星一射、朝を呼べ

 影を踏みしめてインバネスが翻る。
 追う影は切れ端すら捕まえることが出来ないでいる。
 焦れたような絶叫に、インバネスの人影──納・正純(インサイト・f01867)は唇の端を吊り上げる。
 そう、それでいい。
 正純があえて危険な囮の役割を演じているのは、それが最も有効だと判断したからだ。引っかかってもらわなければ困る。

「ドウシテドウシテドウシテェェェェェエエエエエエエッッッ!!!」
「さァて、どうしてだろうな」

 応じた声は煽るような響きをあえて伴わせる。
 影竜は回答を求めていないが、それでもコミュニケーションは大事だ。
 そうなれば「対話できない影朧もいる」という情報を得ることができる。新たな世界の新たな知識を積み重ね、愛銃を片手に看板を踏み越えた。

「答えが知りたきゃ――来いよ。教えてやる」

 そう言いながらも逃げ回るばかりの正純に、影竜も業を煮やしたのか。鎌首をもたげるその姿が不意にブレた。
 ブレはだんだんと大きくなり、影を結ぶと二体目の影竜となって顕現する。
 生を呪う二重の咆哮が天を裂き──

「そこまでです! 宇宙騎士ユーイ推参!」

 麻の葉の騎士が、竜の眼前を横切った。

 ユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)の宙を駆ける技は影朧にも有効だ。ならばこそ影竜に分身を「使わせる」まで焦れさせるのは正純が適任であった。
 そうして分身が現れた今、高速機動で二体同時に相手取れるユーイへ囮の役割がスイッチする。
 作戦通りのそれが通用した確かな手ごたえに内心頷き、けれど表情には出さないまま銃を構え直す。
 ここからの工程は速度が何より重要だ。
 だからこそ、ありとあらゆる知識を十全に利用する。

────魔弾の論理は、確かな計算の元に行使されなければならない。

 故に正純は計算を繰り返す。
 持ち得る全てを駆使し、禁忌を練り上げ、敵を解する真なる式を今ここに。
 だが、計算式に代入できる要素があまりに少ない。サクラミラージュにおける交戦経験がまだ片手で数えられる程度しかない為だ。
 だからこそ思考を研ぎ澄まし、超速で計算を繰り返し、その弾道を予測し支配する。

「ユッコ!」
「はい!お願いします!」

 ユーイの騎乗するシールドが本体の影竜に一当て、体勢を崩す。反動で水色と影色の距離が開き、分身と正純の目がぶつかる。
 歯車が噛み合う。線が繋がる。今ここに魔弾の論理は成立する。

「一発勝負だ。流星一射、御覧じろ」

 ほし
 弾丸が撃ち出された。
 理論的射撃の究極系が一、【魔弾論理(バレットアーツ)】が分身の眼部を貫く。
 綿密に計算された式は想定通りの結果を生み出す。今回は当然、分身体の崩壊だ。乾いた泥がそうなるように、表面に皹が入りぱらぱらと割れていく。
 それを悠長に待つ彼女ではない。
 迷うことない再加速。分身を割り砕きながら正純の方へ向かい、すれ違いざまその体を抱え上げた。
 彼はどこにしまっていたのか、銃を持ち替えながら歯を見せて笑う。

「ナイスだぜ、ユッコ。この後予定は空いてるかい? 良ければ生に感謝して旨い珈琲なんかどうだ、奢るぜ」
「お気持ちは嬉しいですが、割勘でいきましょう。もう一働きして頂かないといけないので!」
「ははっ、まあそう言うな。ここまでも世話になった礼だと思ってくれ」
「それを言うなら私の方こそ……!」

 そう、本体の影竜はまだ残っている。
 影を倒さなければ朝が訪れないというなら、流星を以て打倒する他ない。
 影竜の纏う血色のオーラを見据えて、ユーイは足に力を込めた。

「全速力で行きます!」
「ああ。やっちまえ、ユッコ!」

 ブースト・オン。
 【流星の運動方程式(フルアクセルシューティングスター)】起動。
 正純の射撃が撃ち出されるそれなら、スターライダーたるユーイはその身ごと流星と化す。
 それはひとが願いを託す星を冠すに足る、騎士の姿。

「はぁぁぁぁあああああああああああ!!!」

 流星一射、朝を呼ぶ。
 宇宙を駆ける速度が生み出す衝撃波が、広がった影を丸ごと吹き飛ばしていく。
 片手に握った剣で核となる部分を切り裂き薙ぎ払えば、夜は終わりを告げる。

「こいつはオマケだ。取っときな」

 超速の盾上、うまくバランスを取った正純も続けて射撃。盾に縋りつこうと伸ばされた影を正確に撃ち落とす。
 最後の抵抗すらあっさりと弾かれ、影竜は力を失って崩れていく。

 気付くと桜の甘い香りがどこからともなく漂ってきた。
 それはきっと、この世界の意思だ。
 傷つき虐げられた者達の過去は、桜に癒しを受けることで転生する。
 ただ生を恨むばかりだった影竜も、きっとそんな輪廻に入ることを赦されたのだ。
 光と共に、花びらが舞う。それは東の空からやってくる、世界最大の星。
 
「朝陽が昇る……帝都の新しい一日が始まるんだわ」
「良い眺めだな、影が晴れた後の朝焼けは」


 彼は誰時よ、さようなら。
 次の朝にはきっと、隣り合う誰かとの幸せが待っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年10月22日


挿絵イラスト