#サクラミラージュ
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●飛花落葉、あれあれ、あれよ
♪金襴緞子の帶しめながら、花嫁御寮は何故泣くのだろ。
結霜硝子を填めた格子窓の外でビリジアンの夜に風を切る音、花が散る音、雨に煙ぶる帝都に鐘の音が湿つて啼く。
幻朧櫻の散り模樣が翳落とし、陰降らし。
腰壁を設けた壁にステンドグラスが所ゝに妖しげに煌めきシヤンデリアがメロウな琥珀の光を吐く今宵、誘うは血の宴。蓄音機が奏でる途切れ途切れの歌謠曲を背景に。
「お爺樣、お爺樣。何故亡くなつてしまわれたの」
しやくりあげる静子お孃さん。嫁ぎ先が決まつたばかりなうら若き乙女に翳忍ぶ。
始まりは一通の手紙だつた。あの世からの花、と記された押し花は亡きお爺樣。その才覺により一代で財を築いた望付桂。生前にしたためたと思しき全員にあてた手紙には親族皆仲良く手を取り合つて欲しい旨が綴られ、親族の集う會を主催する爲、■日■日に帝都にある生前の邸宅たる洋館・明美邸に集いたまえと記されていたのである。
『なによりの寶は明美邸に』との添え書きがあつた。たいして親しくもない親戚どもは「別邸に財産が隱されてゐるのでは」と勘ぐり、親睦を深めるためではなく金のためにこぞつて洋館に集まつたのである。
金錢欲と閑雅な食慾を滿たすべく集まつた一同はやがて明美邸の扉や窓が固く閉ざされて外へ出ることが叶わぬ事を知り混乱に陷つた。
「早くなんとかしなさいよ三越ね!」
「姉さんが劣惡文學浸かりのゴム下駄とか云ふから呪われたんだよ」
親族の怒号飛び交う中、照明といふ照明が数瞬落ちて暗闇が場を支配した。次にぱちりぱちり明滅して燈りが再び點いた時、云ひ爭つていた2人が死体となり照らされ、事態は一気に深刻化したのである。
それからの事は朧にしか覚えていない。時が過ぎる毎に一人また一人死んでいき、氣付けば。
♪あれあれ風に吹かれて來る。
蓄音機が鳴いてゐる。
ギ、ギ、ギイ。
扉が蝶番の小さな軋みをあげて開く。
「あ……」
小鳥のやうに震える君の瞳が翳を視る。
さあ、哀し愛しい君の番。
●怪奇なる連続殺人
「その洋館に集まった人々が一人、また一人と殺されていき、最後にお嬢さんが殺されて、おしまい。でございます」
予知はかく語られき。
場所はグリモアベース。時遡り、事件が未だ起こる前。
「親族の方々には、洋館に行かないようにと申し上げました。故に、殺人事件は起きません」
ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)が猟兵に向かい尻尾を振る。ゆら、ゆら、ゆらり。
「さて、その殺人事件の犯人ですが、影朧でございます。殺人事件を防いだのは良いのですが、そのままですとその付近にいるはずの影朧の尻尾を掴むことができませんで」
ルベルはにこりとほほ笑んだ。
「ですから、僕は考えたのでございます。
かの者が企てた殺人事件を起こしましょう、と。僕の予知によれば、予知通りの連続殺人さえ発生すれば影朧は現場に現れるのです。ですから、皆様は現地で招かれた客を装い、敵の術中にハマッて次々死んだふりをしてくださいませ。そして、現れた影朧を説得しながら戦い、転生させて頂けますでしょうか」
ルベルはそう言うと情報を共有する。
「サクラミラージュ、帝都が舞台となります。少し前に亡くなった望付・桂という名の男性は、才覚豊かにて一代で財を成したのだとか。ただし変り者と言われており、その血は親族にも受け継がれたようで血族は人格的に不安定な人が多いのだとか。親族からの評判はよくなかったようです。生前の邸宅たる洋館・明美邸に招かれた親族は6~7人ほど。よって、作戦を遂行する猟兵もそれくらいの人数がいるとよいでしょうね」
「影朧は親族一人一人の詳細を知らないようです。皆様は現地で、一癖も二癖もありそうな人物像を好きに演じながら館での優雅な生活を楽しんでください。やがて殺人が始まることでしょう」
「犯人・影朧による殺人が始まったのちは、皆様はどんどん殺されてください。もちろん、死んだふりで結構でございますよ。影朧は本気で殺そうとしてきますので、うまいこと死なないようにしながら死んだふりをしてください!」
それはなかなかの無茶ぶりではないかと思うオーダーであるが、ルベルは「皆様ならできます!」と目をキラキラさせて期待の眼差しを寄せている。
「それでは、どうぞよろしくお願いいたします」
グリモアが淡く光を帯びてその洋館へと導けば、冒険の始まり、始まり。
奇術よりも突飛で幻想よりも夢心地、消えぬ泡沫のような狂騒曲の幕開けだ。今宵の舞台はサクラミラージュ、――幻朧桜に浪漫の嵐が吹き荒れる!
remo
おはようございます。remoです。
初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
今回はサクラミラージュでの初シナリオです。
※プレイングは10月1日(火)8時31分から受付させて頂ければと思います。
1章は、日常です。洋館に招かれた親族のふりをしてください。
なるべく「一癖も二癖もありそうな人物像」を演じつつ、館での優雅な生活を楽しんでください。「こんな奴らと一緒にはいられない!」と個室にこもったり、詮索好きの名探偵役を演じたり、無意味にシャワーを浴びたり、楽しく「自由な発想」で遊んでみましょう。
2章は、冒険です。どこかにいる犯人(影朧です)の仕掛けた「死のトリック」が次々と牙を向くので、猟兵の皆さんはどんどん喰らって「死んだふり」をしてください。トリックの内容はプレイングで指定もできますし、おまかせでもよいです。犯人は本当に殺す気で仕掛けているので、いちおうプレイングには、何らかの「本当に死なない工夫」を施してあるとよいでしょう。「ダイイングメッセージを残す」とかすると雰囲気もグッと盛り上がりますね!
3章はボス戦、影朧との戦いです。影朧は説得して転生させる、というのも可能です。
リプレイの文章は、雰囲気を適度に出しつつも読みやすさを意識して書いていこうと思っています。人数は控えめで、ゆっくりめに執筆に挑戦させて頂けたら、とても嬉しいです。
キャラクター様の個性やプレイヤー様の自由な発想を発揮する機会になれば、幸いでございます。
第1章 日常
『人里離れた館にて、幽世の如き夜を』
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POW : 語り明かそう。キミと、朝まで。
SPD : 舌へ、喉へ、その心へ。香茶と酒精を心行くまで。
WIZ : 散るがゆえに。藍夜に舞う桜を瞳に映して。
👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ歓迎
お友達のさつまさん(f03797)と兄妹を演じる
お嬢様っぽいドレスワンピース着用
白兎頭のフランス人形メボンゴを抱いている
素敵な洋館!
わくわくしちゃうけど今の私はわがままお嬢様だからはしゃげないな
さつまさんも尻尾ふりたいの我慢してクールに振る舞ってるし……ふふ、おめめが輝いてる
お兄様に甘える
ねえ、お兄様
私、紅茶が飲みたいの
メボンゴもそう言ってるわ
ねえ、お兄様
私、新しいドレスが欲しいわ
今度デパァトに連れていってくださらない?
ねえ、お兄様
この邸にお宝が隠されているのかしら
探してみたいわ
兄以外の人とはメボンゴが代弁
『ご機嫌よう』(裏声で腹話術)
『おほほほ』
『お宝は私達が見つけ出しますわ!』
ステラ・エヴァンズ
オブリビオン…いえ、影朧を説得させて転生、ですか
…私にも以前救いたかったお人がおりました
還す事しかできませんでしたけれども
えぇ、えぇ…それが叶うのならば挑んでみましょう
そうですね…月日星で友人達にも手伝ってもらい
鳥好き探偵っぽく振る舞いながら『なによりの寶』を探す振りをして、故人のお部屋なんかを中心に色々と調べて回りたく
影朧の正体、説得の為の材料でも見つかれば
…望付さんが影朧なのでは?と思っておりますが確証はありませんから
誰が手紙を、何の為に送ったのか?
『なによりの寶』とは何なのか?
Who had done itは勿論、Why done itを突き詰めましょう
…さぁ、探偵ごっこと参りましょうか
火狸・さつま
ジュジュf01079とメボちゃんと兄妹
スーツ着用
キリッとクールに!
我儘に振舞う妹達をたしなめる兄(のつもり。だだ甘!)
なんだい、ジュジュ
紅茶?夜にカフェインは良く無いよ
メボちゃんも…?
可愛い妹二人からのお願いとあらば、叶えねば
ルイボスティーを用意させようね
どうかしたかい、ジュジュ
ドレス?駄目だよ、そんな人の多い場所
今度、仕立屋を呼ぼう
なにかあったかい、ジュジュ
宝?そんな噂あった、ね
けれど夜は暗く危ないから…
明るく照らされた部屋だけ、ね
麗しい姫君達に声を掛けたくなる気持ちは分かるが、気安くしないで貰える?
愛らしい妹達には、お手を触れないで頂きたい
二人共可愛い妹。それが何か?
人形?何を言う失敬な!
アルジャンテ・レラ
ミステリ小説を疑似体験するようですね……。
そう。あくまで疑似体験です。実際に殺される気など、ありません。
感情をあまり知らない私に演技は難しいでしょう。
"癖のありそうな人物"に該当するかはわかりかねますが、
書痴として書斎に篭ります。
なるほど。UDCアースとは似て非なる文体。
見聞きした覚えのない食べ物もあるようです。
……これがサクラミラージュ。
ランプを灯し読書に没頭するのは、この世界の書物に興味があるという理由が第一。
この世界の常識を学びたいのが第二。
そして第三。
集められた書物の傾向から、件の男性の内面が垣間見えるかもしれません。
他者とは付かず離れず。
会話には応じますが、基本的には単独行動を。
マレーク・グランシャール
【役柄】
・望付翁の商才を受け継ぎ会社の発展に貢献
・キレ者で野心家、仕事にしか興味を示さず独身
・妾腹の子、認知はされている
・本妻筋の子や孫に財産が渡るのは構わないが、会社は自分が継ぎたいため他の相続者を敵視する
【行動】
何のために別邸に集まったのだ
こんなくだらん茶番に付き合っている暇はない
さっさと遺産をどうするか話しあおうぢゃないか
何よりまずは会社のこと
二代目が潰したとあっちゃ死んだ親爺殿に顔向け出来ぬ
会社は俺に寄越したまへ
無能で怠惰な親族にも苛つくし、途中にしてきた仕事も気になる
怒りを慰めてくれるのは舶来物の高級なウヰスキー
【その他】
誰かが死ぬと遺産相続の遅れや仕事に影響を心配
情は一切ない
コノハ・ライゼ
あら、ゼヒ派手に殺されたいものだわぁ
モチロン、目的はちゃあんと頭に入ってますとも
流行りの洋食屋のオーナーを装う
演技中は髪を後ろへ撫でつけて成金そうなスーツ着て、高慢で嫌味な男口調で喋るヨ
口を開けば高級食自慢
粗末なモノばかり口にしてるからそのように貧相なのさ、ナンて嘲ったり
出されたお茶一つにも文句つけちゃう
料理が出れば蘊蓄語りケチつけて空気悪くするし
皆サンだって愛想笑いの応酬に来た訳じゃあナイでしょう
ナンてね
それから金目の物を目敏く品定めして、館内歩き回ったりもイイね
困ってないケド金が大好き、経営の為には悪事も厭わないと
匂わせて嫌われるようなのがイイわぁ
もし馴染みの顔や知人が居ても勿論知らん顔ね
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
綾華(f01194)と
『ご紹介に預かりました、ヴァーリャと申します
わたくしもこの日をとても楽しみにしておりました』
『親族の皆様に相応しくあれるよう、努めて参りたいと思います』
紹介されれば丁寧にお辞儀をして
お淑やかなお嬢様として振る舞う
内心は恥ずかしさと慣れない演技でドギマギ
もう、綾華だけ楽しんで!
俺はバレないか不安だし恥ずかしいのに
それはそうかもしれないけれど
俺の心臓がもつようにして欲しいのだ!
エントランスまで手を引かれれば
初めて見る幻朧桜に目を輝かせ
わあ…!すごい…!
そこで、徐に唇を抑える人差指に目を瞬かせ
お嬢様らしく、と思っても
どうしても翻弄されてしまい
『もう…あなたはいつもずるいですわ』
キアラン・カーター
殺人事件を防げても根本から解決しなきゃ、いつか本当に犠牲者が出るかもしれないからね。僕でよければ喜んで招かれよう。
フフ、何を隠そう僕こそが今をときめく売れっ子歌手のキアランさ。サインはNGなんだ、ごめんね。その代わり僕のレコードをみんなにプレゼントするから自宅で擦り切れるくらい聴いてね。
それにしても、忙しいスケジュールの合間を縫ってせっかくやってきたのに何のおもてなしもないのかい?僕は売れっ子なんだぞ!ぷんぷん!【威厳・演技】
こ、こんな感じかな。ふぅ……慣れないことはするものじゃないね。
エレニア・ファンタージェン
殺人鬼を騙す為に皆でごっこ遊びをするのね?楽しそう
変な人を演じたら良いのよね
設定は思春期特有の厭世と頽廃かぶれのお嬢様
「お爺様が亡くなったと云うのに大人たちは遺産の話ばかり」
「誰も彼も生き汚くて厭になるわ」
人の輪に加わらず、人と視線を交わさずに、少し離れた場所に身を置きながらとりあえずそれらしきことを言って物憂い溜息を
「…もうたくさんよ」
誰かの発言を適当に口実にして部屋を出る
エリィね、ピアノを弾きたいの
殺人事件の舞台になる洋館に似合いそうなのって何かしら
ロ短調のワルツでも弾きましょう、それから嬰ハ短調のノクターン
音楽だけが私の友達だわ!みたいな雰囲気で
それにしても、どう殺されてあげようかしらね
浮世・綾華
ヴァーリャちゃん(f01757)と
『親族の皆さん
紹介します、此方は婚約者のヴァーリャ
何れは家族となりますので、今宵はご挨拶にと』
『今日は皆さんと過ごせるのことを楽しみにして参りました
素敵なひと時となりますよう――』
なぁんて…ふふ、照れてる?
取り合えず好きに過ごせばいいんでしょ
なんか分かんないケド
人前でも構わずいちゃつく恋人
こーゆー機会だから遠慮せずやっちゃおーぜ
ヴァーリャちゃんも楽しもーよ
幻朧桜が見えるエントランスまで足を運べば
はしゃぎそうな彼女の唇に人差し指を
『――桜にばかり見蕩れないで?
私は貴女しかみていないのですから』
赤くなる彼女の愛らしさに
笑いそうになるのをぐっとこらえ頭を優しくなでる
黒江・イサカ
夕立/f14904と
やあやあ、今宵はお招きをありがとう
僕みたいな遠縁まで呼んで頂けるたア、明美の爺はやっぱり気前がいい
変わり者と皆は言うけどね 一途だっただけじゃあないか
今宵はこのモダンな館でしっぽりと彼のひとを偲ぼうよ
ああ、
こちらは僕の許で書生をしているかわいこちゃん
彼がいないと僕、何にも出来ないの 堪忍してね
こう見えて僕のことが大好きなんだ
……さて、こんなところかしら
先生でも旦那様でもご主人様でもいいよ
書生って何か、そんなんなんでしょ ふふ
しかし見なよ夕立、桜なんか舞っちゃってる
月はあんなに明るくて いやあ誰か死にそうだな
きっと僕も死んじゃうんだわ
精神がかなりヘンなひとと思われて… よよよ
矢来・夕立
センセイ/f04949
書生って、センセイって呼ばなきゃいけないヤツですか?また?イイですけど。
その三択ならセンセイが一番マシですね。
ということで。
ご兄弟の奥様の弟の黒江さんとお抱え書生のオレです。
オレはセンセイにはウソをつきませんが、今回は不問にしてください。
サスペンスに助手役は必須ですし、事実黒江さんは精神がかなりヘンなひとですし。
喋りも含めて『ぽい』ですよ。
さて。
付き添いでしかない外の人間らしい嫌味でも言っときます。
「家柄も何もない成金」とか。「気を違えた奴ばかり」とか。
死人を悪く言う輩は早めに死にます。
主にセンセイの方を見ながら言うんですけど。意味深に。
こういうのを死亡フラグといいます。
鏡島・嵐
判定:【WIZ】
変わり者が多い血族の一員……のフリかぁ。
んでもって、殺されたフリをしろってか。
うーん、難しそうだけど面白そうでもあるなぁ。
……そうだなぁ、普段のおれの性格とは正反対で、根暗でいつも何かぶつぶつ言ってるような奴を演じてみるかな。持ち歩いてるライオンのぬいぐるみと会話ごっこしてるような、そういう奴で。
一人称も普段と変わってたり、話しかけられたら怯えるような態度を取ったりとか。自分の世界に籠っていて、あんまり他のことには興味示さねえとか。
とにかく「いつもとは真逆で」っていうのを念頭に行動してみる。
オルハ・オランシュ
癖のありそうな人かぁ
わがままで、でもそれだけじゃなくて
性格悪くて嫌われてそうな感じのお嬢様!なんてどうかな
広い客間で優雅にティータイム
ああ、最低
こんな粗悪な茶葉しかないなんて
もういいや、飽きちゃった!
(……なかなか心苦しいけど、演技演技……)
ぬるい紅茶はもうおしまい
熱いお風呂でも愉しもうじゃないの
(なんかこう豪勢に花弁をたくさん湯船に、入れ……
この世界のお風呂はシンプルだね!?
お花が似合わないけど、後にも退けないし……)
ふ、ふんっ
悪くない湯加減じゃない
お湯に浸かりながら、これまで見てきたことをまとめる
館内は一通り回ったよね
死のトリックが飛んできそうな場所もいくつかあったし
……うまくやらなきゃ
桜屋敷・映臣
ハル君(f22645)と
成程、中々興味深い事件だね
まるで探偵小説の世界に迷い込んだよう
犯人が影朧という時点で面白味は半減するが…おっと、流石にこれは不謹慎か
折角演ずるならば
手紙の噂につられた、好奇心に塗れた探偵を
多少は緊張するけれど遣るから楽しまねば
無愛想な助手と事件解決に勤しもうじゃあないか
無論、ハル君との連携は怠らず
常に警戒して向かおう
事前に明美邸の親族について調査
得た知識は真偽問わず、敢えて不躾に突きつけ、誰に殺されても仕方無い状況を作る
屋敷に閉じ込められた際も愉しげな態度で
おんやまあ…まさか斯様な事になろうとは
クロオズドサアクル、というのでしょう?
となれば次に始まるのは…おお恐ろしい!
桜屋敷・悠騎
義兄さん(f22547)と
寶にも、泥沼の人間模様にも興味はありませんが
影朧が関与しているならば捨て置く事も出来ますまい
…不本意極まりないとはいえ致し方なし
ぼんくら探偵の助手らしい立ち振る舞いを致しましょう
然し、助手らしい振る舞い…ふむ
あまり詳しくはありませんが、愚痴を零しつつも従っていれば
そこはかとなくそう見えるでしょうか
とはいえ此処は敵地に変わりなく
いつ何が起こるか分かりませんので
常に警戒を怠らぬようしなくては
後は…疑われ易い、狙われ易い状況を作るならば
敢えて調査の名目で団体行動を乱す事で
こそこそと何やら嗅ぎ回っている雰囲気を出すのも良いやも知れません
…その方が、死んだ振りもし易いでしょう?
マクベス・メインクーン
シン(f04752)と
2人で双子の覆面兄弟するぜ
【変装】でシンの格好そっくりにして
身長差ある怪しい双子って感じで
ははは、やだなぁ久々にあったのに怪しい?
そんな事あるわけないじゃないかオニイチャン
双子だって二卵性なら身長に差があっても
おかしくないって
耳?いやいや猫耳も、ついでに翼も尻尾も
ただのコスプレだって
もうすぐハロウィンだし?
そんな感じでシンとやり取りしつつ
意味深な感じで窓の外へ顔を向けたり
関係ない部屋を開けて部屋を迷った振りをする
こういうおかしな行動、ミステリーだとよくあるしな
※アドリブOK
シン・バントライン
マクベスさん(f15930)と
怪しいのです。
いえね、私、双子の弟が居ましてね、今日久し振りに会えるというので楽しみにして来たのですが…
別人が成りすましているのではないかと思うのですよ。
まず身長が違いすぎやしませんか。
この数年の間に10センチ以上も差が出る双子っておりますか。
それから驚かないで聞いて頂きたいのですが…耳があったのですよ。
人間の耳?違う違う。なんとこれが猫耳なのです。
そんな可愛らしい趣味があったとは…いや、あるはずがないのですよ。
でもまぁ…猫耳可愛いですよね。にゃーん。
それから顔を隠しているのがもう決定的に怪しい。
やはりあれは別人なのです。
私?覆面がデフォルトなので怪しさ皆無です。
●櫻
雨が降つてゐた。
櫻の花が散る。
薄紅の花かげに誘われるやうに滲み出た輪郭は時越へて、ぼんやりとしていた。霧のやうに烟る帝都。雨が降つてしめやかなるけふ、いとし、いとし、君想ふ。
●世界サクラミラージュへ
「殺人鬼を騙す為に皆でごっこ遊びをするのね? 樂しそう。変な人を演じたら良いのよね」
エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)が柘榴めいた妖艶な瞳に愉しげな煌きを纏い現地へ赴く。
「殺人事件を防げても根本から解決しなきゃ、いつか本当に犠牲者が出るかもしれないからね。僕でよければ喜んで招かれよう」
端正な容姿をゆつたりした和装に包んだキアラン・カーター(麗らかなる賛歌・f15716)が羽織をゆるく靡かせて転送されていく。
「変わり者が多い血族の一員……のフリかぁ。んでもって、殺されたフリをしろってか。うーん、難しそうだけど面白そうでもあるなぁ」
鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は明るい色の瞳を意欲と好奇心に染めて転送されていく。
「そうだ、普段と反対の自分を演じるのはどうだろう」
そんな事を呟きながら。
「書生って、センセイって呼ばなきゃいけないヤツですか? また? イイですけど」
「先生でも旦那様でもご主人様でもいいよ。書生って何か、そんなんなんでしょ。ふふ」
「その三択ならセンセイが一番マシですね」
言の葉交わし人影を足元に交差させながら黒江・イサカ(青年・f04949)と矢来・夕立(影・f14904)が現地へ向かう。
「あら、ゼヒ派手に殺されたいものだわぁ。モチロン、目的はちゃあんと頭に入ってますとも」
コノハ・ライゼ(空々・f03130)が愉しそうに口の端をあげ、前髮を後ろへ撫でつけてセツトする。
「さて、お遊戯会の始まりネ」
猟兵達が世界に現れる。一人、また一人。幻朧櫻が雨雫を涙の如くしと/\と滴らせながらその光景を視ていた。
●探偵は影踏みて
「成程、中ゝ興味深い事件だね。まるで探偵小説の世界に迷い込んだよう。犯人が影朧という時点で面白味は半減するが……おっと、流石にこれは不謹慎か」
桜屋敷・映臣(櫻蝕の筆・f22547)の片眼鏡の奥で淡きクンツァイトの瞳がおっとりと微笑む。
「寶にも、泥沼の人間模様にも興味はありませんが影朧が関与してゐるならば捨て置く事も出來ますまい」
義弟の桜屋敷・悠騎(櫻守の剣・f22645)が義兄・映臣によく似た容姿ながら柔和な表情の映臣と対照的な冷靜な無表情で呟いた。
悠騎の見つめる先で映臣が使用人相手に挨拶をしている。
「手紙の噂を聞いてきましてね。何、ほんの好奇心です」
「お通しできかねます」
(……不本意極まりないとはいえ致し方なし。ぼんくら探偵の助手らしい立ち振る舞いを致しましょう)
悠騎は紅玉の眼光鋭く義兄を見て己の立ち位置を考える。
(然し、助手らしい振る舞い……ふむ。あまり詳しくはありませんが、愚痴を零しつつも従っていればそこはかとなくそう見えるでしょうか)
方針がどうやら定まった時、二人に助け舟を出す者がいた。
「何してるんです? その探偵と助手、通してください。私が手配したので」
其処へふと少年の声がして使用人が畏まる。艶めく銀髮に紫水晶の瞳の少年は映臣と悠騎の横を通り過ぎて中へ入っていく。通り過ぎざまに刹那投げかけた目は続くようにと促す氣配。どうやら入りあぐねてゐる映臣と悠騎を少年に雇われた事にしてくれたらしい。
「中に入った後はお互い単独行動でよいでしょう」
助け舟を出した少年・アルジャンテ・レラ(風耀・f00799)が彩の異なる双眸を洋館の隅ゝに巡らせながら書斎に向かう。後ろからはもう一人別の猟兵もついてきた。ステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)は美しきカワリサンコウチヨウを召喚し、鳥好き探偵を演じてゐる。
「桜屋敷様は本物の探偵でいらっしゃるのですか、それは頼もしいです」
玲瓏とした声に2人の桜屋敷が頷く。
「多少は緊張するけれど遣るから樂しまねば。無愛想な助手と事件解決に勤しもうぢゃあないか」
不愛想な助手と呼ばれた義弟の悠騎が変わらぬ無表情のまま言葉を返す。
「義兄さん、樂しむと仰いますが此処は敵地に変わりなくいつ何が起こるか分かりません」
常に警戒を怠らぬようしなくては、とストイツクに氣を引き締める様子の悠騎を見て「ほら、無愛想な助手だ」と映臣があたたかに微笑む。其の眼差しには紛れもなき義弟への愛が篭り、ステラは「仲の良い御兄弟なのですね」と目元を和ませる。
アルジャンテはぞろぞろとついてくる探偵達の会話には積極的に加わらず、たゞぽつりと呟いた。
「ミステリ小説を疑似体験するようですね……」
「疑似体験、ですか」
「そう。あくまで疑似体験です。実際に殺される氣など、ありません」
事実を述べたゞけ、という風に言い放ち、アルジャンテは数冊を手に取った。少年は、ヒトではない。ゆゑに感情を深く解することはないのだが、ヒトの織り成す文学を読み漁り感情というもののなんたるかを学んではいた。少年の冷靜な思考回路は己に演技が難しいであろうと判断し、半分以上は素のままで場に参加する結論を下した。すなわち、読書好きの少年はビブリオマニアを演じる方針と定めたのであった。
探偵達はそんな雇い主の少年の邪魔をせぬよう自身も調査を開始する。
「誰に殺されても仕方無い状況を作り狙ってもらおうか」
「後は……疑われ易い、狙われ易い状況を作るならば敢えて調査の名目で団体行動を乱す事でこそこそと何やら嗅ぎ回ってゐる雰囲氣を出すのも良いやも知れません。……その方が、死んだ振りもし易いでしょう?」
映臣と悠騎がゆるりと方針をすり合わせながら廊下を歩いていく。
「オブリビオン……いえ、影朧を説得させて転生、ですか」
ステラはふと窓の外にチラつく櫻を見て遠い目をする。
「……私にも以前救いたかったお人がおりました。還す事しかできませんでしたけれども。えぇ、えぇ……それが叶うのならば挑んでみましょう」
探偵ステラが探すは『なによりの寶』。
「親族の方に雇われた探偵です。洋館を調べさせて頂きます」
アルジャンテに許可は貰つてゐる、と云へば使用人は逆らえない。望付の家系は機嫌を損ねると厄介なのだ。
(影朧の正体、説得のための材料でも見つかれば)
ステラは亡き望付桂の書齋で白手袋を着用して慎重に紫檀のライテイングデスクの引き出しを探る。
(……望付さんが影朧なのでは?)
(誰が手紙を、何のために送つたのか?)
(『なによりの寶』とは何なのか?)
「Who had done itは勿論、Why done itを突き詰めませう……さぁ、探偵ごっこと參りましょうか」
真実は現実のどこかに埋もれている。気付かずに通り過ぎることもあれば、埋もれた其れを見つけて掬い出し、未来を変える一助とすることもできる――ステラは其れを知ってゐた。
「事件と関係がありそうなものは見つかりませんね」
部屋の隅に飾られた鷹の剥製が眼を光らせてゐる。思考の海に沈みながらステラが桂氏の日記をめくる。ふと眉を寄せたのは、その文面に死へ向かう恐怖と人生を振り返り悔やむ氣持ちが滲んでいたからだ。
『金こそが求むるべきと信じた若かりし頃。後を継がせようと思っていた愛息辰雄を失くし妻に先立たれ親類一同は金のことばかり……。あの愛くるしい孫娘とてやがて金、金、金と歪んでしまうに違ひないと思へば、むなしさばかり募りて世とはなんなのかと嘆くものである』
「望付さんは亡くなる直前まで悲しみの中にあつたのですね」
ステラは切なく瞳を伏せて日記を閉じた。
●明美邸に人ゝは集いて
親族が集う一室。先に通されていた東洋風の黒官服に覆面姿のシン・バントライン(逆光の愛・f04752)がしきりに首を傾げている。
「怪しいのです」
「怪しい?」
目に付く親族や使用人に次々話しかけていた映臣がおっとりと聞き返す。探偵は聞き上手だ――少し距離を取りながら付き従う悠騎は会合の参加者たる親族達の顔ぶれを見る。
蜜色を燈した灯りに麗しく照らし出されて一組の男女が現れる。優雅で穏やかな風格の浮世・綾華(千日紅・f01194)と初ゝしい咲き始めの花めいたヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)。
ヴァーリャの清冽な雪白の髮を飾るは大きな藍リボンと光を反射して花の遊色が清廉に煌めく姫金魚ノ祈。木綿の淡藤色の縦縞に紅白椿を咲かせた着物にリボンと揃いの藍色女袴、其の姿はまさにお淑やかなお孃様であった。
緊張氣味の手を引き優しくヱスコヲトする綾華は制帽にカアキ色の足首丈の外套をゆつたり靡かせ、青年将校めいた出で立ち。ブウツの音を高雅に響かせ、紫羅欄花のブレスレツトが幽かに揺れて艶花に似た色の瞳が微笑んだ。
「親族の皆さん。紹介します、此方は婚約者のヴァーリャ。何れは家族となりますので、今宵はご挨拶にと」
綾華に紹介されてヴァーリャが慎ましやかにはにかんだ。頬が櫻色に染まり、いかにも初ゝしい。声は鈴に似て緊張からか少し固く、それがまた微笑ましく愛らしい。
「ご紹介に預かりました、ヴァーリャと申します。わたくしもこの日をとても樂しみにしておりました」
注目が集まる中、ヴァーリャは丁寧にお辞儀をした。何度も練習をしたのであろう楚々とした仕草に綾華は優しい瞳を見せ、次に親類へと牽制するような視線を投じる。文句の一つでも飛ばせば只では置かぬと宣言するような眼であった。
「親族の皆様に相応しくあれるよう、努めて参りたいと思います。今日は皆さんと過ごせるのことを樂しみにして参りました。素敵なひと時となりますよう――」
恥ずかしさと慣れない演技で内心ドギマギしてゐるヴァーリャはそぉっと顔をあげ、傍らの綾華に窺うような目を向けた。綾華は安心させるように笑顔で頷き、愛しき娘を花柄フアブリツクの優美なる二人掛けソフアへと導いた。
「……ふふ、照れてる?」
「もう、綾華だけ樂しんで! 俺はバレないか不安だし恥ずかしいのに」
「取り合えず好きに過ごせばいいんでしょ、なんか分かんないケド」
ソフアに姿勢よく座りながら小声で返すヴァーリャへと綾華が可愛らしいボンボニヱゝルを差しだした。手品のように蓋を開ければ淡い色合いの砂糖菓子が証明に照らされて煌いてゐる。
「それはそうかもしれないけれど俺の心臓がもつようにして欲しいのだ!」
砂糖菓子をひとつ摘まみながら綾華のお姫様が頬を膨らませる。その耳に親族の声が聞こえてヴァーリャはそっと視線を向けた。
――密やかなる、声。
「それで、何が怪しいのです?」
映臣が先を促すとシンがゆったりと頷き、事情を打ち明けている。悠騎は無表情にやりとりを見守った。
「いえね、私、双子の弟が居ましてね、今日久し振りに会えるというので楽しみにして来たのですが……」
シンが声を一層ひそやかにして映臣に覆面の顔を近づける。いかにも密談という氣配。悠騎はそっと辺りを確認するが、こちらに注意を払うものはどうやらいないようだった。
「別人が成りすましているのではないかと思うのですよ。まず身長が違いすぎやしませんか」
シンが示す先には、シンと似た出で立ちながら身長が眼に見えて低い少年めいた人影がある。中身はマクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)なのだが。
「ははあ、あちらが双子の弟さんですか」
「彼はそう云ふのですが、別人が成りすましているのではないかと思うのですよ。まず身長が違いすぎやしませんか」
シンが同意を求めるように主張すれば、映臣は「確かに怪しいですね」と頷いた。
そんなやりとりの裏で親族達は険悪な空氣を醸し出している。
「何のために別邸に集まったのだ。こんなくだらん茶番に付き合ってゐる暇はない。さっさと遺産をどうするか話しあおうぢゃないか」
マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)が黒瑪瑙めく装飾飾りのアゝムチェアに身を預け眉を上げる。艶めく黒髮を掻き上げる手は若干の苛立ちを含んでいた。
「望付翁の商才を受け継ぎ会社の発展に貢献した妾腹のマレークってのは、あいつか。キレ者だってな。その怜悧さゆゑに認知され、野心を隠そうともしない男を翁もいたく氣に入っていたって噂は耳に届いているぜ」
覆面のマクベスが面白がるように使用人相手に笑っている。大きな声は無遠慮でマレーク当人の耳に聴こえても構わないとばかりに室内に響き、使用人がおろおろとして青くなる。マレークはじろりと覆面マクベスを見て、自分達に注目している全員へと順に鋭い視線を放った。
本妻筋の子や孫に財産が渡るのは構わないが、会社は自分が継ぐのだとその瞳は己の揺らがぬ意志を物語り周囲を圧する。
「何よりまずは会社のこと。二代目が潰したとあっちゃ死んだ親爺殿に顔向け出來ぬ。会社は俺に寄越したまへ」
挨拶もそこそこに本題に斬り込んだマレークは集いし親族を「異論のある者はおるまい」と睥睨する。
「マレーク兄さんはつまんない仕事によく人生の貴重な時間を棄てられるねえ。食事を樂しむ時間もないんデショ」
洋食屋オーナーのコノハが身に付けるのはブリテイツシュなひと揃いのスウツ。厚く硬めの生地は光沢強めの朱子織り。素材に拘ったドレスシヤツを飾るカフス一つ取っても重みのある宝石の輝きが光りステツキに至っては、ゴテゴテと大粒の果実めいた宝石が散りばめられて眩くも成金風情である。
マレークとコノハが悪意の応酬をしている間、シンは困ったように相談を続けていた。
「この数年の間に10センチ以上も差が出る双子っておりますか。それから驚かないで聞いて頂きたいのですが……耳があったのですよ」
「そりゃあ、耳はあるでしょう?」
映臣が眼を瞬かせて不思議そうな声を添えている。半ば本氣、半ば演技――話に関心を持っている様子を前面に出して話し手の舌を滑らかにする技巧を発揮している。
話に無言で耳を傾けながら悠騎は壁際の少女に目をやった。
「ふう……」
溜息をつく眞珠よりも白く雪よりも儚げな清廉なるお孃様、エレニア。彼女は純白の旗袍に身を包み、壁際で外を見ていた。散る櫻がひとひら、煙るような雨の中を落ちていく。薄紅が落とす影のなんと優婉な事――エレニアの華奢な肩が呼氣に合わせて上下する。
「お爺様が亡くなったと云うのに大人たちは遺産の話ばかり」
憂いを帯びた呟きには思春期の娘らしさ溢れる厭世と頽廃の氣配を伴っていた。
流れる音樂も人の声も遠く、頑なに人の輪を拒むようにしてエレニアは物憂いため息をつく。憂える娘姿は櫻の精よりも幻想的で妖精めいて麗しく、遠目に見る使用人達は皆その姿に見惚れるのみ。
そんなお嬢様と対照的な真っ黒姿のシンは覆面頭をぶんぶんと振っている。
「人間の耳? 違う違う。なんとこれが猫耳なのです。そんな可愛らしい趣味があったとは……いや、あるはずがないのですよ」
悠騎は冷静な顔のまま脳裏に覆面姿のマクベスの中身を想像する。
「でもまぁ……猫耳可愛いですよね。にゃーん」
「猫は可愛いですね。にゃーん」
映臣がうんうんと頷いている。なにやら緩い空氣に悠騎がじと目をやれば、シンはこほんと咳ばらいをして話を続けるようだった。
「それから顔を隠しているのがもう決定的に怪しい。やはりあれは別人なのです」
「ですが、顔を隠していらっしゃるのは貴方もではありませんか?」
「私? 覆面がデフォルトなので怪しさ皆無です」
やりとりをする彼らの耳に新たな客人の声が聞こえる。
「やあやあ、今宵はお招きをありがとう。僕みたいな遠縁まで呼んで頂けるたア、明美の爺はやっぱり氣前がいい」
視線集まる先にはイサカと夕立が立ってゐる。モダンキャスケツトの鍔を持ち軽く持ち上げて挨拶するイサカが黒瑪瑙めいた耀きの瞳を機嫌良く細めた。邪氣のない声は少年めいて伸びやかに、表情は柔らかに。
「変わり者と皆は云ふけどね、一途だっただけぢゃあないか。今宵はこのモダンな館でしっぽりと彼のひとを偲ぼうよ。われら、君なき今をいかんせむ。おもひ秋深く、露は涙の如し……」
イサカが親類に向けてへらりと笑顔を向ける半歩後ろを真面目そうな眼鏡の少年が付いていく。
「ああ、こちらは僕の許で書生をしてゐるかわいこちゃん」
紹介されて夕立はへこりと頭を下げた。かわいこちゃん、という紹介を違和感なく思わせるきめ細やかな肌の紅顔少年はしかし、氷のような氣配を纏っていた。腰丈マントを羽織り立て襟の洋シヤツに袴に下駄とバンカラな書生めいた夕立は周囲の疑問を察して短い声を放つ。
「センセイはご兄弟の奥様の弟さんです」
それはなかなかの遠縁ぶり、よくぞ招かれたものよと使用人すらも思う中、夕立少年は姿勢良く人形のように佇んでいた。若年書生にしては落ち着き過ぎたその居住まい、その声と長い睫に彩られた美しき彩の瞳。少年にはどこか超然として有無を言わせぬ氣配があった。そんな夕立の隣でイサカはふにゃりとして笑う。その顔がどうにも憎めない愛嬌のある笑み顔であった。
「彼がいないと僕、何にも出來ないの。堪忍してね」
ひらひらと手を振るイサカは何処か地に足が付いていなくて浮薄な氣配。対照的に眉間に皺を寄せため息を付く夕立少年を見て周囲は成程と納得するのであった。
イサカはそんな周囲へと誇るように夕立を示し、「優秀だけど僕のだから取っちゃだめだよ」と片目を瞑る。
「彼ね、こう見えて僕のことが大好きなんだ」
冗談めかしても聞こえるそれはとっておきの宝を自慢するようでもあり、実に屈託無い。
「あの、もう帰りたいんですけど」
壁際に置かれたソフアの上で膝を抱えるようにして嵐が縮こまってゐる。緩く着崩した着物下に立ち衿のスタンドカラアシヤツを着て袴を穿きマフラアで口元を隠し、さらに分厚い黒縁眼鏡まで着用した嵐は陰氣な空氣を周囲に放ってブツブツ呟く。
「ぼく、外に出たくなかったんですよ。いつ帰れるんでしょうか」
小声で呟く相手は仔獅子のぬいぐるみ。愛らしいぬいぐるみ相手に嵐が呟く。
「ああ、誰か來ましたよ。イヤダイヤダ。ぼくはもう帰りたいです」
「イヤダですって? 聴こえたわよ」
綿の赤と白の格子模様の着物に紫の袴姿のお嬢様、オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)が勝氣な瞳で嵐を睨んだ。後頭部で綺麗に束ねた薄櫻の髮がぴょこりと揺れる。
「ひ、ひぃっ」
話しかけられた嵐がびくりと肩を跳ねさせ、ぬいぐるみを抱いて壁に張り付いた。額を壁に着けて視線も壁に向け、独り言のように高速で呟く。
「話しかけないでください迷惑です話しかけないでください迷惑です話しかけないでください迷惑です話しかけないでください迷惑です話しかけないでください迷惑です」
声が段段と高くなる。刺激すると面倒で危険な氣性なのだと誰の目にも明らかな言動……、もちろん演技だ。
「うっ、も、もういいわ!」
オルハが慌てた様子で顔を背け、けれど近くへと腰を下ろす。微妙な緊張感のある中、茶が運ばれてくる。
(演技よね? 私も頑張らなくちゃ)
薔薇の香りを付けた花茶入りカツプはクリノリンドレスを模したヱレガントなデザインでカツプの内側に大輪の薔薇の図柄が咲く華やかさ。
(美味しい)
ふわりと香しい湯氣と味わいにオルハが思わず頬を緩めそうになり慌てて表情を引き締めてカチャリと音を立ててカツプを置いた。
「ああ、最低。こんな粗惡な茶葉しかないなんて」
意識して不機嫌な顔を装い刺刺しい言葉を吐けば使用人が申し訳なさそうに頭を下げて茶を淹れ直してくれる。
(……なかなか心苦しいけど、演技演技……)
オルハが内心で心を痛めてゐる中、また新たな一組の男女が入ってきた。
スウツ姿の火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)がきりりとした鋭い瞳を周囲に巡らせた。長身の映えるコンチネンタルスタイルは直線的なシルヱツト。色黒の肌が野性味と男性的な色氣を足して独特の存在感を醸し出してゐる。
その視線が傍らに伴うジュジュ・ブランロジヱ(白薔薇の人形遣い・f01079)の元で止まると、身に纏う氣配が柔らかくなった。
落ち着いた緑を基調としたドレスワンピース姿のジュジュは白兎頭のフランス人形メボンゴを抱いて洋館の内装に目を輝かせていた。モダンガアルを体現したかのようなジュジュのなだらかな肩から胸にかけてあしらったフリルが未だ成熟し切らぬ乙女らしさに溢れて上品ながらも甘やかで愛らしい。
(素敵な洋館! わくわくしちゃうけど今の私はわがままお孃様だからはしゃげないな。さつまさんも尻尾ふりたいの我慢してクールに振る舞ってるし……ふふ、おめめが輝いてる)
ジュジュとさつま2人が眼を合わせ、無言で微笑む。2人の設定は『我が儘な妹』と『窘める兄』の予定だ。
「ねえ、お兄様」
「なんだい、ジュジュ」
「私、紅茶が飲みたいの。メボンゴもそう言ってるわ」
ジュジュがメボンゴを軽く揺らしながら裏声で喋らせる。愛らしく、上品に。
『紅茶が飲みたいわ!』
「紅茶? 夜にカフェインは良く無いよ。メボちゃんも……? 可愛い妹二人からのお願いとあらば、叶えねば。ルイボステイーを用意させようね」
さつまがそう言って使用人に命じれば、3人分の茶が即座に用意される。香りを樂しむように緑の瞳を和ませ、妹ジュジュが兄を見る。
「ねえ、お兄様」
「どうかしたかい、ジュジュ」
サファイアめいたさつまの瞳は愛らしい妹相手に厳しくあろうとしても甘く和らいでしまって仕方ない。そんな兄さつまに妹ジュジュはますます甘えて声寄せる。
「私、新しいドレスが欲しいわ。今度デパァトに連れていってくださらない?」
「ドレス? 駄目だよ、そんな人の多い場所。今度、仕立屋を呼ぼう」
人の多い場所に妹を歩かせれば不埒な輩の目に留まらぬともしれぬ、誘拐でもされれば一大事。そも可憐な高嶺の花たるジュジュを衆目に晒せばそれだけで価値が貶められるようで許せぬ、大切な妹のおねだりであっても聞けないこともあるのだ……、さつまが心を鬼にしておねだりを跳ね付け、けれどご機嫌を損ねたくなくて代替案を出した。
「人の多い場所で自慢のお兄様を見せびらかしたかったのに」
口を尖らせる妹の愛らしい事、周囲の使用人が頬を緩めてしまうほど。ジュジュの瞳はほんの一瞬料理にケチをつけているコノハと合い、しかし視線はどちらからともなく自然に外された。
(知らないふり)
――役割上は、初対面の間柄なのだ。
「やあやあ、揃い踏みだね」
そんな室内にキアランが案内されて入ってくる。プラシオライトの瞳が室内を見渡した。青年の瞳は自信に満ちて、しかし何処か虚勢を張るようでもある。
「また増えてますよ、もう」
嵐が定位置で獅子のぬいぐるみ相手に愚痴を吐いてゐる。嵐のために用意された茶はすっかり冷めてゐるが目に入っていないようだ。
「貴方、遅れて來たのに偉そうね」
オルハが咎めると、キアランは一瞬ぎくりと身を竦ませたものの即座に偉そうにふんぞり返る。
「偉そう? 偉いんだよ。フフ、何を隠そう僕こそが今をときめく売れっ子歌手のキアランさ」
胸を張るキアラン。日頃は神に仕える大人しく物腰柔らかな聖職者である彼がスタアを演じようとしてゐるのだ。
(成金一族でスタアらしい立ち居振る舞いってどんなのだろう。困ったなぁ……)
内心途方に暮れながらも作戦は始まってしまった。ならば演じなければならない。キアランは顎をクイとあげてプライドが高そうな青年を演じた。
「もしかして握手をして欲しいのかい? ふん。親類だからって身内面するなよ」
「スタアですって? 俗物で下品ってお母さまがよく言っていてよ。やだ。近寄らないでくださる」
(これは演技、これは演技!)
(これは演技、これは演技!)
共に人の良さで知られる猟兵2人が必死に惡意の応酬を続けてゐる。
「人間っていやですね、ああ、醜い醜い。クゥもそう思いますか、そうですか」
(みんな個性豊かだなあ……)
ソフアの隅で壁に向かってぶつぶつとぬいぐるみ相手に会話ごっこをして一人の世界を創りながら嵐は仲間達の演技に感心することしきりであった。
「お兄様、スタアですって。氣に入らないわ、なんだか偉そうなんですもの」
ジュジュが氣分を害した様子で兄にむくれ声を零すとハットケーキを美味しそうに頂いていたさつまが眉を吊り上げた。
(ここは窘める? うーん)
甘やかしたくなる気持ちに折り合いをつけながらさつまが兄を演じる。
「ジュジュ、そのようなことを云ってはいけないよ」
「ふふ、気を引きたくてそんなことを云ふのだろう、わかるよ」
キアランが(演技なんだよね?)と一瞬自信なさげなアイコンタクトを送りながらジュジュに向かってレコオドを差しだした。
「サインはNGなんだ、ごめんね。その代わり僕のレコオドをみんなにプレゼントするから自宅で擦り切れるくらい聴いてね」
キアランが促すと使用人がレコオドを配布する。もちろん本物の歌が収録されてゐる。
さつまがレコオドを受け取り、ジュジュに見せるとジュジュは(あとで聴いてみたい)と好奇心旺盛な目をして頷いた。
「そうだわ、ねえ、お兄様」
「なにかあったかい、ジュジュ」
氣まぐれお孃様のジュジュはすぐに関心事を切り替えて兄を振り回す。さつまは優しい声色で続きを促した。この兄は当人は厳しいつもりであるが、他者の目にしてみればどう見ても妹に甘ゝである。
「この邸にお宝が隠されてゐるのかしら。探してみたいわ」
ジュジュの瞳が惡戯めいて煌く。色濃く浮かぶは無邪氣なる好奇心。兄さつまはそんな妹に愛しげに頬を緩めながらも妹の身の安全こそを第一に考え、危険から遠ざけようと言葉を返す。一癖も二癖もある見知らぬ親族に囲まれて、この妹を兄が守らねばならぬのだ。
「宝? そんな噂あった、ね。けれど夜は暗く危ないから……明るく照らされた部屋だけ、ね」
「ふふ、お兄様、大好き!」
兄妹が仲睦まじく手をつなぎ、部屋を出る。さりげなく部屋を出る間際エレニアの側を通ったが、エレニアは「エリィには誰も構わないでちょうだい」といった他人を寄せ付けぬ空気を纏って外を見続けていた。
「人が減りましたね、他の人もどこかにいってくれたらいいのに」
嵐はレコオドに見向きもせず壁にひっついていた。
「本場のクロケットではないネ、えびはどうした芋包丁め」
コノハの声が響いている。
「もういいや、飽きちゃった!」
オルハがすっかり氣分を害した様子で部屋を出ていく。
「ぬるい紅茶はもうおしまい。熱いお風呂でも愉しもうぢゃないの」
キアランは、そんな仲間達を見て(とりあえず真似をして困ったら癇癪を起こしておけば良いのではないだろうか)と考えた。
(そうか、金持ちは偉そうで、怒りっぽいんだ)
「それにしても、忙しいスケジュウルの合間を縫ってせっかくやってきたのに何のおもてなしもないのかい? 僕は売れっ子なんだぞ! ぷんぷん!」
慌てて使用人がキアランのご機嫌を取り結ぼうと頭を下げ、御馳走を運んでくる。
(こ、こんな感じかな。ふぅ……慣れないことはするものぢゃないね)
内心で演技疲れを感じながらキアランが嵐の近くに座りちらりと視線を向けると、嵐は壁に向かってぶつぶつと惡態をついていた。
「ええと」
「構わないでください構わないでください死んでください」
「うっ」
昏い声にキアランがたじろいだ。助けを求めるように近くに視線を泳がせれば、全てを拒絶するようなエレニアが眼に入る。
「ふ、ふん。こっちだって人と話す気分じゃないんだよね」
キアランは虚勢を張って林檎のジャムが煌めくワッフルを口に運んだ。
「あ、おいしい」
思わず呟いた青年の声に嵐は笑ってしまいそうになるのを堪えてコツンと壁に額を押し付けた。
「普段何を食べているのサ――、」
そんな彼らに興味など無いとばかりにコノハは高級食自慢を展開してゐる。声はキアランに向けたものではなかったが、(今のはスタアっぽくなかったな)とキアランはそっと頬を染めた。
ちらり、と視線を向けると。
「粗末なモノばかり口にしてるからそのように貧相なのさ」
コノハはキアランではなく使用人相手に毒を吐いていた。嘲り笑う顔は悪意に彩られて美しい。
(そうか、使用人をいじめたりするといいんだ)
キアランは納得して近くにいた使用人に「粗末なモノばかり口にしてるからそのように貧相なのさ」とコノハと全く同じ言葉をかけた。
「うっすい。庶民の舌と違ってオレの舌はこんな味には耐えられないんだケド、淹れ直してくれる?」
コノハの声に一拍遅れてキアランが真似をしている。
「庶民の舌と違って、僕の舌はこんな味には耐えられないんだよ、ぷんぷん」
「ふ……っ」
嵐が肩を震わせて笑いを堪えている。
「……もうたくさんよ」
エレニアが立ち上がり、部屋を出る。嫌氣が指したのだ……というのは言い訳。
(ヱリイはピアノが弾きたいわ)
エレニアはピアノの場所を探り、廊下を迷わず進む。道は彼女の大蛇がすでに調べてあるのだ。
「さあさ、どうぞ。感謝してよね」
自称スタアの親類キアランはコノハの真似で調子が出て来たのか、押し付けがましくレコオドを配布してゐる。
配布されたレコオドを「どぉれ」と早速聴こうとするイサカ。夕立は周囲の耳目を氣にした様子もなく嫌味を吐いてゐる。
「どいつもこいつも金持ちぶってるけど家柄も何もない成金ぢゃないですか。それも氣を違えた奴ばかり」
平坦な声はイサカ以外には真意が判りにくく、世慣れぬ少年が真っ直ぐにすぎる氣性柄思うがままに暴言を吐いたように思えたものだ。だが、よく視れば嫌味を云ふ夕立少年の目はイサカをじとりと見つめており、意味深な言葉が誰の事を暗に言ってゐるのかは衆目に明らかであった。
「ちなみに、死人を惡く云ふ輩は早めに死にます。そう、こういうのを死亡フラグといいます」
ぽつりと呟く声は淡淡としていたが、イサカには愉しそうに聞こえて青年は帽子を機嫌よく被り直した。
その2人のやりとりを聞きとがめた様子で眉を顰めるのはマレークだ。
「死亡フラグ? 勘弁してくれ。遺産相続がまた滞る。仕事にもどれだけ影響が出ることか」
マレークの言葉には親族への情は一切ない。
「無能で怠惰な親族どもめ」
殺氣すら感じさせるような底冷えのする瞳で長い脚を組むマレークはこめかみに手を添えて息を吐く。
「俺はお前たちと違い忙しいのだ。今日とて仕事を途中にしてきたのだぞ」
沸沸と湧く憤りを隠そうともせず靜かに冷えた声を吐くマレークは重厚感のある波模様カツト入りの水晶硝子グラスを手に揺らす。蕩けるような煌めきを湛えるは芳醇な香りのウヰスキイだ。
「そうだ兄さん、浅草座あるジャナイ。あそこの三代目が資金繰りに困ってるらしいよ」
コノハが隣にくつろぎながら茶を啜る。「淹れ方がなっちゃいないね」とすかさず難癖つけながら。マレークは会話する労力が無駄だとばかりに首を振る。
「浅草座か。落ち目だな。興味がない」
「金を貸すんだよ。そして、返せないって理由で乗っ取っちゃうんだよ。古臭い劇場は敷地の広さだけは立派なんだからデパアトでも作ればいいぢゃナイ」
「お前の洋食店を一店舗、中に入れろと云ふのだろう」
「そうそう! 兄さんは話が早い」
――♪
歌声が室内に響き渡る中、コノハは料理にケチをつけながら兄マレークにしきりに話しかけている。
「ご立派な一族ですね、なるほど血のつながりを感じますよ」
夕立がイサカをちらりと視てぼやいてゐる。アラ、とコノハが夕立の声を聞きとがめて愉快そうに肩を竦める。馴れ馴れしく兄の肩にまわそうとした手をマレークはぴしゃりと跳ねのけていた。兄の拒絶を気にした様子もなく、コノハは言葉を放つ。
「皆サンだって愛想笑いの応酬に來た訳ぢゃあナイでしょう。空氣をよくする必要ある?」
コノハが眼鏡を外して切れ長の目を挑戦的に向けてゐる。口元は緩く弧を描き、状況を樂しんでゐるのが見て取れる。
(ナンてね)
空氣惡く口論しながら互いに幽かに目配せして笑み零すのは、相手が同じ作戦に参加する猟兵だと皆が知ってゐるからだ。全員がそれぞれの役を即興で演じてゐる奇妙な会合。友好的からは程遠い殺伐とした空氣も全て、全員の意図したものである。
(そろそろ、いいかな)
空氣の惡い親族達を見限るように綾華がヴァーリャを促す。
「行こう」
周囲の目を若干意識しながらヴァーリャが立ち上がり、「何処へ?」とは聞かずに後についていく。綾華がヱスコヲトするのだ、何も不安を感じることはない……そう思いながら。
背中からは不思議な兄弟のやりとりが聞こえていた。
「ははは、やだなぁ久々にあったのに怪しい? そんな事あるわけないじゃないかオニイチャン」
覆面弟ことマクベスがオニイチャン(シン)を見上げてにじり寄る。探偵と話しているのを聞き耳立てていたのだ。
「双子だって二卵性なら身長に差があってもおかしくないって」
「ちょっと差が開きすぎていませんかねえ……それに耳、」
「耳? いやいや猫耳も、ついでに翼も尻尾もただのコスプレだって。もうすぐハロウィンだし?」
マクベスが意味深に窓の外へ顔を向ける。
「よしこれで一つやるべきことをやったな」
「やるべきこと?」
シンが問う声にマクベスはウンウンと頷く。
「次は関係ない部屋を開けて部屋を迷った振りをする」
「何故です?」
「ミステリーだとよくあるから。行くぞオニイチャン」
双子の弟が兄を引っ張り、兄弟は部屋の外に出ていく。
そんな二人を皮切りに一人また一人、席を立ち、短い会合が終わりを告げる。慣れ合う必要はないとばかりに親族達が洋館のあちらこちらへと散っていく。
●少年は書に耽り
本棚の脚が花模様を刻み整然と並んでゐる。室内には毛足が長く柔らかな絨毯の上にゆつたりと身を沈めて読書に耽られるローソフアが用意されてゐる。少年のほっそりとした体をやわらかに受け止め沈むソフアは飴色に輝くブラウン塗装のフレヰムと脚部を手彫りの植物柄が繊細に飾り、西洋風の花模様を散りばめた金華山織を張ったもの。繊細な容姿のアルジャンテ少年がソフアに落ち着けば一枚の絵画に似て視る者は皆溜息を零すほど。
雪色硝子が花型装飾を造り蜜色の光煌めかすランプに照らされてアルジャンテは頁をめくる。親族達の集まる一室には寄ることすらせず、アルジャンテはただ本だけを読み続けていたのだ。
(なるほど。UDCアースとは似て非なる文体。見聞きした覚えのない食べ物もあるようです。……これがサクラミラージュ)
少年の側に紅茶が運ばれ、ふわりとした香りに包まれた。暖かで何処か寂しい室内はかつての主人を忍ぶるように靜かで、少年が紙を手繰る細やかな音が空間を支配するようだった。靜寂の中でアルジャンテは読書に耽る。少年が時を忘れてひたすらに書に没頭する理由は三つ。
一つは、この世界の書物に興味があるという理由。
二つ目は、この世界の常識を学びたいという理由。
そして三つ目は、集められた書物の傾向から、件の男性の内面が垣間見えるかもしれないという理由だ。
学術書、芸術書、帝劇パンフレツト、少女誌や社会を風刺する内容の漫画が集められた文芸誌まで広く取り揃えられ。
「影朧についての書籍がやけに充実してゐるようですね」
やがて少年は氣付いたのだった。同じような内容の本が幾つも揃えられてゐる。まるで、影朧について書かれてゐるものを片っ端から取り寄せて集めたようだった。
「館の主は、影朧について調べていたのでしょうか」
アルジャンテはぽつりと呟いた。声は応える者なき室内に染み入るように消えていき、ひとつ首を振り少年は再び無限の書物世界に意識を没入させていく。
時折探偵がやってきて情報共有してまた去っていく。
「これは、文でしょうか」
アルジャンテは本棚に挟まっていた文箱を開き、偶然見つけた望付桂の祖父と祖母が過去に交わしたらしい恋文を生温かな目で見てそっと箱に戻して蓋をした。
●絵画の告発
親族達の集まる部屋を出たジュジュは天真爛漫に廊下を進み、扉と云ふ扉を奔放に開けて中を覗き見した。
「お孃様、いかがなさいましたか!?」
すれ違う使用人にメボンゴが澄まし声で挨拶をしてゐる。
『ご機嫌よう』
少し遅れがちにゆるりと続くさつまが使用人を咎めるように声放つ。
「麗しい姫君達に声を掛けたくなる氣持ちは分かるが、氣安くしないで貰える? 愛らしい妹達には、お手を触れないで頂きたい」
「妹『達』?」
使用人が戸惑いの瞳をメボンゴに寄せる。人形ではないかと暗に問うような視線にさつまが眼尻を釣り上げた。
「二人共可愛い妹。それが何か?」
「い、いえ、人形に思えたものですから」
「人形? 何を云ふ失敬な!」
「も、申し訳ございません、失礼いたしました」
使用人の失言にさつまが厳しい声を放てば、慌てて頭を下げて使用人が立ち去っていく。
さつまとジュジュ、兄妹二人を止められる者はもはやこの邸宅に存在しない。自由なる兄妹が階段下の薄暗がりにちんまりと隠れるようにしていた扉を見付けて中へ踏み込んだ。
『おほほほ、お宝は私達が見つけ出しますわ!』
ひやりとした部屋は窓がない。さつまは扉脇の桃花心木によるチェストの上に薔薇モチイフの照明ランプがあることに氣付いて明かりを灯した。ローズピンクの淡い光がどこかノスタルジツクに狭い室内を照らし出す。
「何か見つかったかいジュジュ」
「お兄様、絵があるわ」
ジュジュが一枚の絵を見せる。西洋の手法を取り入れた油彩絵は一人の青年将校を写実的に描いたものである。
「あら」
キャンバスの裏側にまわったジュジュは木枠に小さな紙片が挟まれてゐる事に氣付き、手に取った。
「これ、誰かが遺した告発文だわ」
ジュジュが思わず演技を忘れて呟いた。さつまが息を呑み、身を寄せて紙片を覗き込む。
「ジュジュちゃん、声。氣を付けて。敵、どこに潜んでゐるかわからない、から」
「う、うん」
絵を描いていた者がしたためたのだろうか、その紙には「亡くなった息子によく似た影朧を洋館の主である望付桂が匿ってゐる」と書かれていたのである。
●雨煙り、音ぽろり
人の氣配から遠ざかるように廊下を進んで辿り着いた一つの小部屋。ドアノツカアは真鍮製で鹿をモチイフとしてゐる。
「見つけたわ」
エレニアが微笑む。人間達に忘れられてしまったように寂しげに部屋の中央にあるピアノを見つけて。
(殺人事件の舞台になる洋館に似合いそうなのって何かしら)
細い指が繊細な旋律を滑らかに紡ぎ出す。ロ短調のワルツは憂いを含んだ感傷的な和音を響かせ、低い憂いのリズムに乗りヱレガントな高音が滑らかに踊る。
曲を変え嬰ハ短調のノクタアンを奏でるエレニアの背で月明かりを浴びた白髮が幻想的に耀いた。穏やかに始まった旋律は聞き手の感情を波立たせるに十分な情感を伴い盛り上がりを見せた。
――音樂だけが私の友達だわ。
まるでエレニアがそう訴えてゐるかのような旋律は美しく何処か哀しく響き渡った。
ピアノの旋律が鳴り響く。
美しい音だ。
コノハが音を遠く聞きながら目敏く館内を物色する。幅広の階段は光沢のある薔薇の刻印入り手すりが麗しく、階段マツトには金糸の幾何学模様に華やかに飾られてゐる。壁に掛けられた絵画は海外で学び浮き上がるような描技巧を学んだという画家の手による植物画。陶器花瓶の並ぶ中紛れていた小振りの銀製花瓶は優美なる白鳥モチイフのアールデコデザイン。氣品ある金をアクセントに淑やかに耀き花を引き立ててゐる。
「兄さん、全部売っちゃってパアっと財産分配しヨウヨ」
コノハは金に困ってはいない。しかし金はいくらあっても好い。あり過ぎて捨てるくらいでもまだ足りぬのだ。
イイ儲け話がある、と囁かれコノハに連れ出されたマレークは冷えた瞳で無感動に弟を見ていた。
「時間の無駄だな。俺の貴重な時間をお前達のせいで浪費してゐると理解してもらいたいものだが」
時は金なり、兄は説く。こうしてゐる時間でどれだけの機会損失を生じたことか。賠償してもらいたいものだ、と。
コノハはそんな兄へとあくどい儲け話を持ち掛ける。世の中結果が全て、金になれば手段はなんでもよい、と惡事を囁く弟を兄はさして興味もなさげに見つめるのであった。
マレークとコノハがあやし氣な密談をしてゐる中、イサカと夕立はというと、2人で夜景を眺めていた。
「……さて、こんなところかしら」
脚に瀟洒な装飾が施された回転椅子をいたく氣に入った様子でキイキイ鳴かせながらイサカが窓の外を示す。
「しかし見なよ夕立、櫻なんか舞っちゃってる。月はあんなに明るくて。いやあ誰か死にそうだな」
ひらひらと幽玄に櫻が舞い、霧のようにもやる煙雨の向こうに無視できない存在感を放つ月がある。吸い込まれそうな光だ。朧に輪郭をぼかしながらも明るすぎるほどに明るい光。背筋が不思議とぞくぞくとする妖しさを秘めた美しさであった。
「サスペンスの幕あけだよ。探偵と助手の出番かな」
「サスペンスに助手役は必須ですし、事実黒江さんは精神がかなりヘンなひとですし。喋りも含めて『ぽい』ですよ」
夕立は肩を竦め、壁で時を数えるだるま時計に視線を移した。装飾過剰な数字を細線で刻む文字盤を針が几帳面にカチカチと辿ってゐる。
「きっと僕も死んぢゃうんだわ。精神がかなりヘンなひとと思われて…… よよよ」
イサカがお道化てハンケチで目元を拭う仕草をすれば夕立が微かに目元に力を入れる。月明かりに照らされて虚言でも死の香りが彼に纏わり付くようで、それを許すべからずと胸の奥が疼くのだ。
コツ、コツ、足音が外に向かう。
同じころ、綾華に手を引かれたヴァーリャは眼を見開いていた。綾華の迷いなき足取りが誘いしは広ゝとしたヱントランスホヲルであった。
「わあ……! すごい……!」
2人の前に広がるは針のような煙雨の中を薄紅色の花傘広げて満開に咲き乱れるサクラミラージュの神秘なる幻朧櫻。シェルピンクの花弁が薄く幾重にも重なり壮麗に世界を彩り、邸宅の灯のもとで夜闇に浮かび上がる姿にはぞくりとするような色香がある。
「きれい……!」
菫色の瞳が佳景に夢中になるヴァーリャの唇に徐に人差し指が当てられる。やわりと、やさしく、あたたかに。
「――櫻にばかり見蕩れないで? 私は貴女しかみていないのですから」
櫻に負けぬ艶めいた声囁く綾華にヴァーリャはぱちりと目を瞬かせ、真っ赤になって困ったように眉を下げる。
――翻弄されてゐる、と思いながら。
「もう……あなたはいつもずるいですわ」
お孃様らしさを意識しながらの言葉はか細く儚く、夜氣に溶けて消えてしまいそう。その愛らしさに笑い肩を震わせそうになるのをぐっと堪えながら、綾華は恋人の薄氷の髮へと手を滑らせた。下から毛先を掬い上げてひと房撫でおろし、流れる白の美しさに讃美の目を細めてから、ぽふりと頭のてっぺんに掌をあてる。小動物のように身を固くする少女を落ち着かせるよう、愛でるよう、そっと優しく頭を撫でた。
はらり、花弁が舞い降りる。音控えめな霧めいた雨は小さな小さな滴だけれど、沢山沢山集まって世界をしとどに濡らしていた。
遠くからピアノが聞こえてくる。ポロポロ、ポロ。音がこぼれて転がって桜の花弁の下端から零れる雨垂れひとつ、甘やかに地に堕ちて染みとなる。
触れた掌が温い――そんな、夜だつた。
●二冊目の日記帳
ステラが日記を仕舞い、引き出しを戻そうとしたその時。斜めに傾いた引き出しの動きに釣られて視覺的に引き出しに入つてゐる物だけでは立て得ない音がしてステラは手を止めた。
「二重底になっています……?」
引き出しの仕掛けに氣付き、ステラが中を確認する。
「これは、同じ日記帳?」
中に入つていたのは先ほど開いた日記と同じ裝丁のもう一冊。だが、中身は違つていた。
『■月■日
雨が降つていた。黒猫が庭に最近顏を見せる。死期近い者が見ると云ふ死神であらうか。濡れ黒猫を邸に招き、かつての画家のやうに書き留めてやらうと庭を搜した。するとそこには猫を襲おうとする自らを抑えるやうに身を掻き抱き苦しみ震える靑年將校がいた。影朧。己に関する記憶をなくした彼は少しずつ正氣を失っていく己を自覚してゐると云ふ。亡くなつた息子とよく似た靑年は、息子ではなかつた。息子にあった黒子がないからだ。だが、よく似ていた。とてもよく似ていた。……』
『■月■日
不安定な靑年を邸内に匿った。一室を與え、暴れぬやう人を襲わぬやう檻に入れた。帝都櫻學府に連絡をしやうとしたが、出來なかつた。息子とよく似た靑年は時折話に應じてくれる。それが息子と話してゐるやうで、死を待つのみだつた心身に染み渡る。まるで生と死の狹間で束の間與えられた泡沫の夢のやうであり……』
『■月■日
娘が孫娘を聯れてきた。病に苦しむ我が身を案じてではなく、孫娘の爲にくれぐれも遺産をよろしくと云ふのだから笑つてしまう。孫娘が束の間例の靑年の部屋に入りさうになつたのには慌てたが、青年は姿を視られずに濟んだやうだつた。……』
『■月■日
靑年の樣子があやしい。孫娘を先日垣間見て孫娘に懸想したのではないかと思われる。厄介なことになつたものだ。彼が只人であればくれてやつたのだが、さうもいかない。執心を見て不安が募る。帝都櫻學府に連絡をするべきと思われるが、ふんぎりがつかぬ。靜子へ宛てた恋文をしたため、けれど当人には届けずとも良いと云ふ。密やかに恋忍び幸せ願うと云ふ。その様子が健氣でいかん。情が移つてゐる。……』
●花の湯と物思ひ
一方、オルハは館内を一通り見て回った後、使用人に支度をさせて風呂に入ろうとしていた。
「えっ狭い」
思わず素で呟く声に使用人が恐縮しきってゐる。
(なんかこう豪勢に花弁をたくさん湯船に、入れ……この世界のお風呂はシンプルだね!? お花が似合わないけど、後にも退けないし……)
人ひとりがやっと入れるほどの木桶風呂。オルハはその中に身を沈め、花を浮かべた。いささか情緒に欠けるのは否めないが花の香が湯氣に含まれて目を閉じれば夢心地――身じろぎすればいかにも狭いが。
「ふ、ふんっ、惡くない湯加減ぢゃない」
お湯に浸かりながらオルハは視てきた情報と途中でコンタクトを取り他の仲間から得た情報を頭の中で整理する。
「館内は一通り回ったよね。死のトリツクが飛んできそうな場所もいくつかあったし……うまくやらなきゃ」
明美邸は地上2階建て。地下と屋根裏もある。隠し部屋もあるかもしれない。
望付桂は貧しい家庭に育った。祖父・清と祖母・靜子。父・正治、母・千代子。桂は丁稚奉公から身を起こし、貿易商で成りあがったと言われてゐる。
後を継がせようとしていた直系の長男・辰雄は若くして亡くなってゐる。桂の愛情を一身に受けていた息子の死は彼にとって大きかったようだ。
桂は病に冒された晩年、どうやら影朧を匿ったようだった。
桂の目から見て「息子に似ていた」という影朧は桂の孫娘の靜子に執心であったらしい。靜子は予知に語られたお孃さんだ。
仲間の探偵の話によると、祖父・清は桂の亡くなった第一子・辰雄によく似てゐるのだとか。
ちゃぷり、湯に柔らかくふやける花弁を手に掬い、オルハはふうとと息をついた。湯に温まり少女らしい繊細でなだらかな肩からうなじが仄かに色めいて、瞳は切なく揺れた。
「恋文……どこかにあるのかな」
影朧は届けるつもりのない恋文を綴っていたのだと云ふ。館内を見回る中で仲間から聞いたその話にオルハはそっと眉を下げた。
「あるなら」
――けれど、それを見付けてどうするというのだろう?
――どうすれば、よいのだろう。
優しい瞳は感情に揺れる。視界はあたたかな湯氣に満ちて、世界は――ふわりと、あたたかい。オルハの指の隙間からあたたかなお湯がさらさらと流れて落ちていく。
●探偵は人を集め
さて、桜屋敷の二人が探るは明美邸の親族についてだ。というのに、義兄は他の探偵のように書物を漁るわけではなく、ぶらぶらとうろついて親族や使用人に声をかけ世間話めいて雑談したり何やら吹き込んでゐる。聞き込みだろうか。それにしては何かしらの情報を得て手帳に走り書きする氣配すらない。
「義兄さん、調査はなさらないんですか」
悠騎がついに訊いた。
「実はもう調査済なんだ」
映臣は事もなげに云ふとまた別の使用人に世間話を装い語り掛ける。よく聞けば語る内容は明美邸の親族についての下世話な内容ばかり。やれダレソレの不祥事だやれ現役女学生のダレソレが卒業顔だと真偽問わず相手も構わず不躾に突き付ける。
「そういえば」
映臣は大声でのんびりと声を放った。
「噂を聞きましたね。桂翁は影朧を匿ってゐるのだとか。檻があるらしいですがどこにあるのかな」
声を聞いた使用人達があんぐりと口を開けている。なかなかの爆弾を投下したものだ――悠騎が視線で問えば、映臣は先刻廊下ですれ違った猟兵仲間が情報共有してくれたのだと云ふ。
(影朧を匿ってゐるというのを聞いて空氣がピリピリしましたね)
二人が視線を交差させる。
「さあ、人を集めましょう。殺人事件を起こして頂く時間でしょうから」
置時計が鐘鳴らすのを耳にして探偵が人を集める。
●彼らはこれから殺される者達である
一癖も二癖もある親族達を集めた探偵・悠騎は柔和な表情で情報を共有した。
「さて、皆さん。僕の手元には今数人が調査した結果が集まっていますよ。事実についてたゞ語りましょう」
柔らかで落ち着いた声がひとつひとつ情報を明かしていく。
「絵画の裏に告発文が隠されていました。『亡くなった息子によく似た影朧を洋館の主である望付・桂が匿ってゐる』」
視線を親族を演じる少女へ向ければ、発見者である少女はそっと頷いた。
「亡き祖父・桂は影朧についての書物を集めていました」
アルジャンテが靜かに事実を告げる。
「桂氏は影朧を亡き息子に似てゐると思っていました。しかし、彼には息子にあった黒子がなく、息子ではありません」
ステラが日記の内容を話す。
映臣はステラの話を遮り、「ハル君、資料を配ってくれるかい」とおっとりとほほ笑んだ。悠騎がこくりと頷き、紙の資料を配る。家系図とモノクロ写真だ。告発文が隠されていた絵画を見つけた少女と青年が「あっ」と声を零す。
「似てる」
絵に描かれていた青年に似ているのだ。桂氏の祖父と、桂氏の息子の二枚の写真が。
声に頷きを返して映臣が事前に調べたという情報を話す。
「望付桂氏の祖父・清は、同氏の亡くなられた子息・辰雄にとてもよく似ています。つまり、お二人はともに影朧と似てゐると思われます。望付氏も祖父の若い頃の容姿は知らぬはずがないのですが、祖父の若い頃を思い起こすよりも亡き息子を想起したのは仕方のないことと言えるでしょう」
映臣は暗に影朧の正体を示し、更に裏付けるような情報を加える。
「そして影朧と似てゐる祖父・清の妻である祖母の名は靜子。若かりし頃の姿絵はありませんが、名は同じ」
ちらりと映臣がステラに視線を移すと、ステラが日記の続きを語り出す。
「望付氏に匿われていた影朧は偶然一方的に知った孫娘の靜子さんに執心なさっていたようです。ご本人との面識はないようですが、ちらりと姿を見かけ、名を呼ばれるのを耳になさったのか――、一目で恋に落ちたのだと」
そして、彼らの元に使用人が報せを持ってくる。
「……扉という扉が固く閉じていて、閉鎖されているのです」
予知の通りに殺人が行われるのであれば、この後彼ら――招待された親族一同は順に殺されていくのだ。
「この手紙が落ちていました」
震える手が差し出すのは二通の手紙。
探偵と親族達が手紙を読む。
一枚目。
『手紙を書いたんだ、たくさん。君が見ることは生涯ないだらうが』
二枚目。
『金狂いの一族は 死に絶へよ』
さあ、――怪奇なる連続殺人の始まり、始まり。
大成功
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第2章 冒険
『手紙は何処に』
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POW : 手当たり次第探してみる
SPD : いつ無くなったか調べる
WIZ : 手紙の関係者に話を聞く
👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●残された時間でいかに死を迎へるべきか
一癖も二癖もある親族達を集めた探偵・映臣は柔和な表情で情報を共有した。
「さて、皆さん。僕の手元には今数人が調査した結果が集まっていますよ。事実についてたゞ語りましょう」
柔らかで落ち着いた声がひとつひとつ情報を明かしていく。
「絵画の裏に告発文が隠されていました。『亡くなった息子によく似た影朧を洋館の主である望付・桂が匿ってゐる』」
視線を親族を演じる少女へ向ければ、発見者である少女はそっと頷いた。
「亡き祖父・桂は影朧についての書物を集めていました」
アルジャンテが靜かに事実を告げる。
「桂氏は影朧を亡き息子に似てゐると思っていました。しかし、彼には息子にあった黒子がなく、息子ではありません」
ステラが日記の内容を話す。
映臣はステラの話を遮り、「ハル君、資料を配ってくれるかい」とおっとりとほほ笑んだ。悠騎がこくりと頷き、紙の資料を配る。家系図とモノクロ写真だ。告発文が隠されていた絵画を見つけた少女と青年が「あっ」と声を零す。
「似てる」
絵に描かれていた青年に似ているのだ。桂氏の祖父と、桂氏の息子の二枚の写真が。
声に頷きを返して映臣が事前に調べたという情報を話す。
「望付桂氏の祖父・清は、同氏の亡くなられた子息・辰雄にとてもよく似ています。つまり、お二人はともに影朧と似てゐると思われます。望付氏も祖父の若い頃の容姿は知らぬはずがないのですが、祖父の若い頃を思い起こすよりも亡き息子を想起したのは仕方のないことと言えるでしょう」
映臣は暗に影朧の正体を示し、更に裏付けるような情報を加える。
「そして影朧と似てゐる祖父・清の妻である祖母の名は靜子。若かりし頃の姿絵はありませんが、名は同じ」
ちらりと映臣がステラに視線を移すと、ステラが日記の続きを語り出す。
「望付氏に匿われていた影朧は偶然一方的に知った孫娘の靜子さんに執心なさっていたようです。ご本人との面識はないようですが、ちらりと姿を見かけ、名を呼ばれるのを耳になさったのか――、一目で恋に落ちたのだと」
そして、彼らの元に使用人が報せを持ってくる。
「……扉という扉が固く閉じていて、閉鎖されているのです」
予知の通りに殺人が行われるのであれば、この後彼ら――招待された親族一同は順に殺されていくのだ。
「この手紙が落ちていました」
震える手が差し出すのは二通の手紙。
探偵と親族達が手紙を読む。
一枚目。
『手紙を書いたんだ、たくさん。君が見ることは生涯ないだらうが』
二枚目。
『金狂いの一族は 死に絶へよ』
さあ、――怪奇なる連続殺人の始まり、始まり。
💠2章『手紙は何処に』
プレイングはリプレイを読む時間や相談期間に余裕を設け、10月5日(土)8時31分~8日23時までの期間で受付させていただきます。よろしくお願いいたします。
ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ歓迎
お友達のさつまさん(f03797)と兄妹役
ねえ、お兄様
私、少し怖いわ
『でもお手紙を探しましょう』(裏声)
鳩時計から毒針が飛んでくるのを第六感・見切りで察知しオーラ防御で防ぐ
手に隠した小さな血糊袋を使い吐血
嗚呼、お兄様、苦しいわ
助けて……嫌よ……死にたくない……
床に倒れて死ぬ演技
メボンゴは倒れる時にそっと隣に転がるように
意味もなく『ハトポ』とダイイングメッセージを書く
ハトポッポと書きたかったけど力尽きた風
ふふふ、さつまさんはどんな演技をするのかなー?
とわくわくしていたが迫真すぎる反応に噴き出しそうになり必死に堪える
なにこのたぬちゃかわいすぎる!
メボンゴもきっとそう思ってるに違いない!
ステラ・エヴァンズ
お祖父様だったとは…恋い慕う静子さんを金の亡者と思って失望…犯行に及んだ?
日記を読めば本物の静子さんはそんな女性でない事がわかりますけど…
犯行に至るには…正気を失いつつあるとは言え理由が弱いような…
とにかくギリギリまで調査です
レラさんが見つけていた昔の恋文を回収
今の物があれば一番なのでそれも探しますが、込められた想いが同じなら代用品くらいにはなるかも
隠し部屋がありそうとの事でしたし…檻も含めそこにあったり…?
死に方考えた方がいいのですかね?
転落死か撲殺となればいいのですが…
襲われる直前にUC発動して防ぎますので
ぁ、頭から流す用に血糊は持参です
私は独りで屋敷内をうろついてますから襲いやすいかと
火狸・さつま
ジュジュf01079とメボちゃんと兄妹
ああ、何やら大変な事になった、ね
しかしこれは…沢山の手紙とやらに何か扉を開くヒントがあるやも
探してみようか
じゅ、ジュジュ!!!
ああ…、し、しっかり!(あわあわ)(迫真の…いや騙されてる!)
ハトポ……?(誰…)
首傾げ、ハッとする
あ、あ、ああ……メボちゃん…!
いつの間にか倒れてたメボちゃんを抱き上げ
何てことだ…息を、して、ない…?!(元から)
め、メボちゃぁあん!!(コレは迫真の演技)
うう、何て事だ……可愛い可愛い俺の淑女達が……
嘆き悲しみつつ
察知する第六感
感電死させよと放たれる電撃見切り
体スレスレに張ったオーラ防御でこそり防ぎ
電撃・激痛耐性で凌いで
ぱたり倒れる
エレニア・ファンタージェン
殺人事件の被害者役なんて素敵!
不思議なメッセージを残すところまでが様式美よね?
頑張って殺されましょう
「こんなこと聞いていないわ。ここに殺人鬼がいるなんて!」
仲間が死んだら狼狽えたふり
自身に痛覚遮断の呪詛を施しておくわ
トラップを受けても冷静に対処できるはず
適当な小箱とか拝借して本体を入れて守っておきましょう
あ、落ちてくるシャンデリアの下敷きになるとか派手で良さそう
即死しなさそうだからダイイングメッセージも書けそうだし
そういえば影朧がたくさん書いたという手紙はどこにあるかしら
また二重底の引き出しの中…?
影朧の檻のあった部屋…?
時間が許せば探したいわね
良いダイイングメッセージが書けそうだし
鏡島・嵐
判定:【WIZ】
ああもう、何故こんな目に遭わないといけないんでせうか。
ぼくはただ余生を独りで静かに過ごしていけるだけのお金が欲しかっただけなのに。
とにかく帰りたいですとにかく帰りたいですお金とかもういいです独りになりたいです。
……うーん、こんな感じかな。
順番に殺されねーと――正確にはフリだけど――いけないんだよな。
やっぱりここは「一人でいたい」って部屋に戻ったところを襲われるっていう王道パターンで殺られる感じかなぁ。
んで、他の面子がちょっと目を離した隙におれの死体が消える(正確には《いと麗しき災禍の指環》で透明化)って流れで。
もし早めに脱落したら、舞台裏(?)で仲間の演技を褒めるとかしとく。
マクベス・メインクーン
シン(f04752)と
さぁて、殺される偽装工作頑張ろうぜっ!
やっぱ殺人事件と言ったら
崖から落ちたりすることだよな~
2人一緒に落ちるのは不自然だし
殺しに来られる前にオレが先に
シンを崖に落としとくな~♪
落とした瞬間に風の精霊で
風を纏わせて見えない位置に飛んでもらって
下にシンが作った偽装死体を置いておく
その後、オレがシンを殺した感じで【演技】して
背後を無防備にして刺すなり突き飛ばすなりで殺される
落ちて地面にぶつかる前に
風をクッションにして倒れたまま着地するぜ
もし刺されたら【激痛耐性】で痛みは耐える
後は犯人が離れたら演技も終わりだな
へへっ、偽装は大成功みたいだなっ!
後は上に戻ってフィナーレといこうぜ
シン・バントライン
マクベスさん(f15930)と
さて、殺人偽装工作ですか。
いよいよ事件めいてきましたね、望むところです。
崖の上で崖に落ちるトリックを。
最初にマクベスさんに突き落として貰う。
「貴様!やはり弟ではないな!さては…」
崖が崩れたり落とされた演技をしたらマクベスの精霊にコッソリと安全な場所へ運んでもらう。
こうして精霊に会うのは初めてな気がします。
「お会いするのを楽しみにしていました。よろしくお願いしますね」
崖下には死体の偽物をUCで作り落としておく。
犯人が去るのを確認しておきますね。
あとはマクベスさんと一緒に戻りフィナーレといきますか。
こういう舞台ではやはりエンディングが重要。
最後の仕上げを御覧じろ。
キアラン・カーター
ふう、あとでみんなに謝らなきゃ……おっと、影朧がどこで見ているか分からないから【演技】を続けなないとね。
どんなトリックで襲われるのか見当もつかないけど、警戒する素振りを見せたら怪しまれる。変に飾らずに普段通り過ごそう。
えっと、それじゃあ適当な場所で歌の練習でもしようかな。ノリノリで歌っていれば隙だらけだと思われてきっと襲われるね。
ん……それじゃあ……――♪【歌唱】
(暫くすると襲われるがベールに守られたキアランは無敵!しかし襲われたことに気付けない!)
――よし、こんなところかな。結局襲われなかったね……ん?(ここでやっと気づく)
あ……う、うわー、やられた~時間差で効いてきた~(死んだふり)
アルジャンテ・レラ
……急ぎ戻り、あの文箱から恋文を回収しておきましょう。
オルハさん。影朧がしたためた恋文を探したいのなら、これまで猟兵が踏み入れなかった部屋を探すといいかもしれません。
隠し部屋存在の可能性には貴女も気付いているでしょう。
あまり時間が残されていないでしょうし、私は書斎へ向かいます。
どうぞお気を付けて。
まだ倒れるわけにはいきません。
道中注意を払いながら書斎へ戻り、無事残されていれば恋文の回収を。
これ以上動いては流石に危険ですね。
そろそろ自ら罠にはまっておきましょう。
機械の私には音声は出せど、呼吸によって何らかの影響を受ける可能性はありません。
毒瓦斯に倒れられれば、死んだふりも容易かと思います。
オルハ・オランシュ
届けるつもりのない恋文、どんな気持ちで書いたのかな
見付けてどうしたらいいのかなんて……まだわからない
でも、そこには影朧の……ううん、違う
あのひとの想いが籠ってる
確かに誰も見付けられなかったんだよね
見える扉の先は全部開いてきたのに
隠したいものは誰の目にも触れない場所に仕舞ってあるのかも
隠し部屋……そうだね
アルジャンテも気を付けて
壁はくまなく見て触る
床も、足音が違うところがないかな
隠し部屋までもし辿り着けたら恋文を探して
もしも発見できたら袂に隠しておく
たくさん書いたっていう手紙を少しでも多く――
!
【見切り】ですれすれのところでトラップを躱すけれど、
当たったふりをしてその場に倒れる
トリック詳細お任せ
マレーク・グランシャール
※アドリブ歓迎
【思惑】
影朧は望付翁の祖父で、妻恋しさに現れたのか
ならば連続殺人の被害者を演じつつ、静子さんのことを絡めれば影朧をおびき出せるかもしれない
【言動】
恋文だと?
姪に懸想するとはさては望付の家を乗っ取るつもりか
そうはさせん、そいつの居場所を見つけ出してどこの馬の骨か正体を暴いてやる!
たくさん書いたという手紙が影朧を知る手がかりとなるだう
【忍び足】【情報収集】【追跡】を駆使して夜中に書斎や書棚を中心に手紙探し
手紙を見つけたら何者かによって殺されたふり
手紙を握りしめたまま死亡しているのが翌朝発見されるという筋書き
死体になってノーマークになった後は茶番のどさくさに紛れて家捜し続行だ
矢来・夕立
センセイ/f04949
●筋書
殺される前に無理心中
●台本
①真面目に取り合わない役。
「馬鹿馬鹿しい。三文小説ですね」
②犠牲者の死体を見る
“信じざるを得ない状況”を作るひとへの協力は惜しみません。
派手に死んでくれるとか。
③気を違えていたのはオレのほうというオチ
センセイの首を絞める。
他のだれかにとられるくらいなら、オレが殺します。
大丈夫ですよ。すぐに行きます。
「だってオレがいないとあなた、何にも出来ないんですから」
④首を切って死ぬ
●影朧が立ち去ったらカット
…フリですよ。フリだから、殺すのなんかなんでもない。
あ、オレは死にません。UCなので。
だから別に治さなくても…、
どうしたんですか。ヘンな顔して。
黒江・イサカ
夕立/f14904
●筋書
僕らは殺される前にふたりで死んじゃう役さ
たまにいるよね、こういうの
●台本
①可愛い書生くんの狂気を目にして、それを受け入れる役
真相をわかった上で、でも解決には導かず愛を全うしちゃうやつだね
知ったかぶり、得意なんだ
②首を絞められて死ぬ
ああ、そう ゆうだち
愛されてるなあ、ぼくってば
…いいよ 好きにおし
欲しいもの、ちゃんと、手に入れてごらん
③僕たちの死体を見た影朧が立ち去ったら起き上がる
おお、…結構僕、死んだふりも上手いもんだな
とりあえず傍で死んだふりしてる夕立をUCで治療
僕、好きじゃないんだよね 僕が殺してない死体
特に…首切って派手に死んでるやつとか
勝手に死体にならないでよ
浮世・綾華
ヴァーリャちゃん(f01757)と
『ヴァーリャ、ヴァーリャ、落ち着くんだ』
肩に手を置き、諭すふり
つまりあの影朧は、桂さんの祖父――ってことなんだろーか
何にしても、今はまずは演技に集中か
『待ちなさい、ヴァーリャ!』
彼女の作戦は聞いている
信頼しているからこそ思う通りにと見失ったフリ
次々と人が死んでいく姿に
婚約者の姿を必死で探す男を演じ
彼女の姿を見つけたなら
声も出ない様子で近づき青白い肌触れる
仕掛け対策は本体を守ること
予めヴァーリャちゃんに氷膜で覆って貰った鍵はそっと懐に秘め
自身は神霊体になり身体へのダメージを軽減
これ以上彼女が傷つかないように抱くようにしつつ
血を流し殺人現場を演出する
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
綾華(f01194)と
手紙の文面に恐れ慄き
ガタガタと震える演技を
『いや…!私、死にたくない…!』
綾華の言葉にも耳を傾けず両手で顔を覆う
(顔見せたら演技バレそうだから)
殺人を知れば顔を覆ったまま叫ぶ
『もうたくさん!人が死ぬのは見たくないの!』
『どうしてみんな、仲良くできないの?どうしてそんなに…』
『もういや!』
錯乱した状態に見せ、綾華も跳ね除けその場から逃げ去る
走って逃げるふりをして
より屋敷の奥深くへ
殺気や気配は【第六感】で察知し
影朧の手がかりのある部屋を探し
迷い込んだふりして罠にかかろうと
厚い氷膜で衝撃を抑え
冷気で血の気をなくし如何にも死んだ風に見せかける
綾華の本体には、予め氷膜をかけて保護を
桜屋敷・映臣
ハル君(f22645)と
いやはや、随分と不穏な手紙が届いたものだね
然したくさん…となれば、他にも何処かに隠されている?
はて、それは一体何処に――ハル君
気分転換に、少し散歩は如何だい?
使用人と会話を試み、影朧が匿われた檻、手紙を捜索
影朧を説得する、重要な要素になるかも知れない
…死んだ振りした猟兵も早めに見つけてあげたいだろう?
僕は飽く迄探偵役――然し探偵が死なぬ道理はない
一寸ばかり目を盗み、単独行動すれば僕も狙われるだろうか
押し潰されそうになれば【狂咲】で全身を花弁と変え回避
服に仕込んだ血糊で死んだ様に誤魔化せるかな?
手紙発見時はそれを渡し
手紙を集めよと、言葉を遺し…暫しの間、表舞台から消えよう
桜屋敷・悠騎
義兄さん(f22547)と
さて、此処からが正念場でしょうか
犯人の分りきった事件ほど退屈な物はありませんが
義兄と共に檻及び手紙の捜索を試みます
影朧が跋扈しているとは云え
説得する為の情報は集積しておくに越した事ありません
然し義兄は好奇心旺盛な方
少し目を離せば、我先にと敵に接触――義兄さん?
死んだ振りしようが一向に構いませんが
全て放り出していかれるのは御免被りたく
…仮初とは云え彼の死に動揺しないのも可笑しな話
ならば彼の『遺言』に従い
手紙――及び殺人犯の捜索に心血注ぎましょう…無論『振り』ですが
影朧に命を狙われたならば
予め装備したチヨツキにて致命傷を回避
血糊で致命傷を演出
多少の痛みは激痛耐性で凌ぎます
コノハ・ライゼ
トリックお任せ
アドリブ歓迎
成金ごっこも楽しんだしお次は派手に殺される番だネ!
と口にせずとも期待に表情も緩んじゃう
ああ怖いコワイ
自分の残した血族に、死ねだなんて
まあ――生き残りゃ文字通り「儲けモノ」ってワケだ
どうせ犯人はその影朧デショ?じゃあ逃げ切れば勝ちだネ
言いつつ暇潰しと称して館中ウロウロ
と見せかけ一応調査もネ
恋文は本棚にあったというアレかな、中身見てみたいトコ
それに影朧が匿われてたというのはどの部屋だろう
殺しの気配は第六感併せ察知
防御と悟られぬようトリックを見切り躱し致命傷避け
傷は激痛耐性で凌いでおこう
どうせなら芸術品のように綺麗に殺してよ
殺され方にメッセージ性があれば尚楽しいじゃナイ
●『 』
――物忘れ、物忘れ。何を忘れたと問ゐてみりゃそいつぁ哂って応えたもんだ。『全テヲ 忘レタ』と。
あゝ、しと/\雨が降つてゐるぢゃないか。こんなに凍えちゃいけないよ――、『中ヘ ヲ入リ』。
冷たき我が家、何もない家ヘ。病んで干からびた指先で凍へた迷子の指摘まみ、人の体温とは温かきものであつたかと思ふたものよ。
をかえり、『 』。
●『Dance In The Light』
邸内が闇に閉ざされる。照明と云ふ照明が落ちて、けれどマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)が取り乱すことはない。いずれ絢爛の灯りが再び点灯すると知ってゐるのだ。
(影朧は望付翁の祖父で、妻恋しさに現れたのか。ならば連続殺人の被害者を演じつつ、靜子さんのことを絡めれば影朧をおびき出せるかもしれない)
冷靜な頭脳は闇の中で思考を巡らせる。暗闇開けた時、彼らの死の舞踏が幕を開けるのだ。
暗闇の中コノハ・ライゼ(空々・f03130)が愉しそうに頬を緩めていた。
(成金ごっこも楽しんだしお次は派手に殺される番だネ!)
期待に胸を躍らせ、コノハは身を襲う凶刃を咄嗟にワンステップで華麗に避けた。
(あ、避けちゃった)
今のは早速殺害されようとしていたのでは? と気付いたコノハはしかし、気を取り直した。あとでまた殺し直してもらおう。
「おぉっと、暗闇で躓いちゃった」
わざとらしく言い訳をつくりながらコノハがソフアに倒れ込む。
「今何か掠めたカシラ」
そして、明かりが点く。『仲間達』が身構える――光のもとで顔を見合わせる。誰も死んではいなかった。
(このタイミングで死ぬ者はいない、か)
マレークは椅子を蹴り立ち上がった。
冴え凍る秀麗な横顔。
瞳は底が知れない煌きを秘め、決して譲らぬという強靭な意志を感じさせて黒色の金剛石に似た。
「恋文だと? 姪に懸想するとはさては望付の家を乗っ取るつもりか。そうはさせん、そいつの居場所を見つけ出してどこの馬の骨か正体を暴いてやる!」
(避けちゃったから誰も死ななかった? まあ、イイカ)
コノハがソフアの上で身を起こし、大仰に肩を竦めてみせる。
「ああ怖いコワイ。自分の残した血族に、死ねだなんて」
その瞳がぎらりと欲宿し、親族を見る。
「まあ――生き残りゃ文字通り「儲けモノ」ってワケだ」
舌なめずりするような聲に場の空気がピリリとした。
(届けるつもりのない恋文、どんな氣持ちで書いたのかな。見付けてどうしたらいいのかなんて……まだわからない)
オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)が優しい瞳を感情に揺らして俯いた。わからないまま、時間が過ぎていく。
(でも、そこには影朧の……ううん、違う。あのひとの想いが籠ってる)
本來の殺人現場で、『お孃さん』は手紙を見つけることができただろうか――オルハはだるま時計をちらりと視た。
チッ、 チッ、 と針が時を刻む。
(……急ぎ戻り、あの文箱から恋文を回収しておきましょう)
アルジャンテ・レラ(風耀・f00799)が部屋を出る間際オルハにちらりと視線を向ける。
「オルハさん。影朧がしたためた恋文を探したいのなら、これまで猟兵が踏み入れなかった部屋を探すといいかもしれません」
「確かに誰も見付けられなかったんだよね。見える扉の先は全部開いてきたのに。隠したいものは誰の目にも触れない場所に仕舞ってあるのかも」
オルハが邸内の空間を思い描く。建物の構造上あるべき空間に部屋がない。それが隠し部屋なのだろう。
「隠し部屋が存在する可能性には貴女も氣付いてゐるでしょう。あまり時間が残されていないでしょうし、私は書斎へ向かいます。どうぞお氣を付けて」
「隠し部屋……そうだね。アルジャンテも氣を付けて」
アルジャンテはオルハと時間を決めて一室で後程落ち合う約束を交わした。
「オルハさん、覚えておいてください。アルコールランプの置かれた位置、テーブルクロスの下。そこに貴女に託すものを隠します」
「馬鹿馬鹿しい。三文小説ですね」
矢来・夕立(影・f14904)が呆れ顔で肩を竦めて騒動から背を向ける。
「僕が最初に死んじゃうかも、よよよ」
黒江・イサカ(青年・f04949)がハンケチで乾いた目元を拭う仕草をしてゐる。
「センセイ、金持ちの趣味の惡い余興ですよ。まともに取り合うことないです」
「死んじゃう死んじゃう、ほよよよ、をよよよ」
「セ、ン、セ、イ!」
「ねえ、お兄様。私、少し怖いわ」
ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)が白兎のメボンゴをぎゅっと抱きしめ、兄を見る。緑色の瞳が不安げに揺れる。
「ああ、何やら大変な事になった、ね。しかしこれは……沢山の手紙とやらに何か扉を開くヒントがあるやも。探してみようか」
火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)はジュジュを励ますように優しく頭を撫でて手を差しだした。
『お手紙を探しましょう』
メボンゴが健氣な声をあげた。ジュジュが裏声で喋らせてゐるのだ。ジュジュは兄の手を取り、不安そうに首をかしげる。
「お兄様、護ってね」
「もちろんだ。可愛い妹達は護ってみせるよ」
さつまが2人の妹のナイトとして肩をそびやかし、周囲を見る。
「何者だろうと――傷つけさせやしない!」
マレークが底冷えのする瞳をさつまに向けた。
「それはどういう意味だ?」
「そのままの意味だけど」
互いに相手への不信を浮かべる二人。視線の交わる宙に靜かな火花が散り、空氣は険惡になる。
コノハがくつくつと喉を鳴らす。
「全員、信用できねぇってんのヨ。アタリマエじゃナイ」
「ああ、この中に殺人鬼が。遺産を独り占めしようとしてるんだ」
「センセイ……」
イサカが嘆く声が響き渡る。
「いや……! 私、死にたくない……!」
「ヴァーリャ、ヴァーリャ、落ち着くんだ」
肩に手を置き、浮世・綾華(千日紅・f01194)が諭してゐるが、婚約者のヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)は恐怖が先に立ち総身をガタガタ震わせてゐる。
「ヴァーリャ、聞いてくれ」
「いや、いや!」
両手で顔を覆い震えるヴァーリャ――顔を隠さないと演技がバレてしまいそうなのだ。
(つまりあの影朧は、桂さんの祖父――ってことなんだろーか
何にしても、今はまずは演技に集中か)
「もうたくさん! 人が死ぬのは見たくないの!」
ヴァーリャが声をあげてゐる。
「どうしてみんな、仲良くできないの? どうしてそんなに……」
悲痛な聲。だが、そんな少女に向けられるのは親族の詰めたい言葉だった。
「仲良くだと? 仲良くして何になるというのだ」
「……もういや!」
錯乱したヴァーリャが綾華を跳ねのけてその場から逃げ去る。
「待ちなさい、ヴァーリャ!」
事前に作戦を聞いてゐる綾華はヴァーリャの思う通りにと見失った振りをした。影朧による殺人が続く邸内で単独行動は危険だが、綾華はヴァーリャを信頼していた。彼女がやりたいように行動させる事こそが綾華の目的だ。
「ひどい余興だわ、え? 余興ではないの?」
(殺人事件の被害者役なんて素敵! 不思議なメッセージを残すところまでが様式美よね? 頑張って殺されましょう)
エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)は張り切って演技をしていた。
「こんなこと聞いていないわ。ここに殺人鬼がゐるなんて!」
元から白い顔色を真っ青にしてエレニアが恐怖に全身を震わせる。
「警備はどうなってゐるの! 開かない扉はこじ開けてしまえばよいのではなくて?」
その言葉に覆面兄弟がぽんと手を打ち、こそこそと何かを相談するようだった。
「ああもう、何故こんな目に遭わないといけないんでせうか。ぼくはただ余生を独りで靜かに過ごしていけるだけのお金が欲しかっただけなのに」
鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)が仔獅子のぬいぐるみに向かって嘆いてゐる。
「とにかく帰りたいですとにかく帰りたいですお金とかもういいです独りになりたいです」
早口でぶつぶつと呟き他人に口をはさむ隙を全く与えることなく嵐はさっさと部屋を出ていく。出ていく時にジュジュがさりげなくさりげなく血糊を渡してくれた。
(なるほど、これ使うのかー。順番に殺されねーと――正確にはフリだけど――いけないんだよな。やっぱりここは「一人でいたい」って部屋に戻ったところを襲われるっていう王道パターンで殺られる感じかなぁ)
嵐は襲撃を予想しながら自分の部屋に戻っていった。
「近寄れば殺します近寄れば殺します」
ぶつぶつと呟きながら歩く嵐。使用人達がぎょっとして道を開けていく。
「いやはや、随分と不穏な手紙が届いたものだね」
桜屋敷・映臣(櫻蝕の筆・f22547)がマイペースに煙管を揺らす。
(然したくさん……となれば、他にも何処かに隠されてゐる? はて、それは一体何処に――)
映臣が人々の混乱を遠く眺めながら思考に沈む。
「さて、此処からが正念場でしょうか。犯人の分りきった事件ほど退屈な物はありませんが」
桜屋敷・悠騎(櫻守の剣・f22645)が義兄の傍らに控えて氷の彫像のように怜悧な瞳を人々に向けた。
「ハル君。氣分転換に、少し散歩は如何だい?」
映臣がそう言って先を歩き出す。悠騎が頷いてそれに従った。
(影朧が跋扈してゐるとは云え説得する為の情報は集積しておくに越した事はありませんから)
「さ、追いかけっこの時間ダヨ」
コノハが遊戯を始めるように呟いて部屋を出る。
「逃げ切れば勝ちだネ――丸儲けじゃナイ」
●『黄泉事変』
(エリィ、こう見えて探し物は得意よ。探偵助手ですもの)
背に白雪の如き長い髪を揺らして繊細な少女が飾りの少ないドアノブに手を廻していた。カチャリ、キィ、キ、キ――ドアが開く。
「ここは、物置かしら」
エレニアは黴臭い小部屋を覗きこむ。
(いかにも殺されてしまいそうな雰囲氣があるわ)
そんな事を思いながらエレニアは沢山のモノの中埋もれるようにしていた絵葉書入りの小さな箱をそっと拝借して本体を入れて懐に仕舞いこむ。ヤドリガミである彼女ならではの身の守り方だ。
「お爺様ならきっとエリィにこれをくださるわ」
呟くエレニア。箱の中に入っていた絵葉書を見てみれば、「君へ」と書かれて花の絵が描いてある。何枚も、何枚もあった。離れた場所から妻を案じ愛を伝える文章と絵――古い絵葉書だ。季節ごとに描かれたそんな葉書が何枚も。
「子供の顔を見たい。きっと君に似て可愛らしいのだろう」
一枚に書かれた言葉を見て、エレニアは「清さんは離れた場所でお仕事をする期間があって、その間は子供の顔を見たことがなかったのかしら」と思った。そして、一番最後に真っ白の絵葉書を見つけた。
「……」
エレニアはそっと絵葉書を炙った。
朧に文字映す瞳。その瞳が瞬いた。
「よ、」
――『黄泉事変』。
百年前、帝都を揺るがしたのだという事件。
その事件は、詳細は伝えられていない。だが、崇高なる青年将校達が『平和のために』決起したのだと言われてゐる。
「お爺様の、お爺様。加担していた方なの?」
真実は定かではない。
「子ども達の未來のため、平和のため戦ふのだ」
葉書にはそう書かれていた。影朧が嘗ての自分を思い出すのに使えるかもしれない、とエレニアはその葉書を懐に隠した。
(家族を愛していた方なのね)
その耳に声が聞こえる。
(事件が起きたのかしら)
「ヴァーリャがいないんだ、誰か見なかったか」
綾華が髪を乱して走り回ってゐる。
「ヴァーリャ――、」
声を枯らして名を呼ぶ男の額から焦燥の汗が伝い落ちる。
●『未ダ遂ゲラレヌ 報セ』
その頃、マレークは書斎や書棚を中心に手紙を探していた。
「これは、桂氏が帝都櫻學府に送ろうとしていた書簡か?」
見つけた一通は、望付桂が生前帝都櫻學府に影朧の通報をしようとしていた内容だった。
(最終的に、通報しようとしていたのだな)
マレークの瞳が眇められる。桂氏は影朧が邸内にゐることを告白し、不安定に荒ぶる魂と肉体を鎮め、癒しを授けて転生に導いて欲しいと願うようだった。
手紙を見つめる背後に密やかに影が忍ぶ。氣配に氣づいたマレークは手紙を小さく畳んで手の内に隠す。軍刀を振りかざした影の動きを完全に見切りながらマレークはあえて斬撃を受け、倒れてみせた。血が飛沫をあげる。
「ぐ、あッ」
荒げた息が数瞬後には静まり――息絶えたふりをしていればやがて影は立ち去った。
(いと蒼き不滅の薔薇よ。我が血、我が祈りに応えて彼の命の花を甦らせよ。神の楽園は常しえに栄えたり)
そっとユーベルコードを発動すれば流した血が傷を塞いでいく。
影は――影朧は、青年の容姿をしていた。
(お前を救おうとしていた『孫』のこころを知ってゐるか)
マレークが立ち去りし影朧に無言で問いかける。
荒ぶる魂、肉体。
異世界で戦ってきたマレークには、その存在に対する正しき知識がある。オブリビオン。過去から染み出て歪んだ者。世界にあだなす存在。この世界では、不安定で――鎮め、転生に導く事も可能だという。
(お前の孫は、お前を救いたいと思っていたんだ)
●『鬼サン、コチラ』
コノハが暇潰しと称して館中をうろついている。
(一応調査もネ)
広い邸内を巡り、隠れている鬼を捜すかのようにその足取りは軽やかだ。
「恋文は本棚にあったというアレかな、中身見てみたいトコ。それに影朧が匿われてたというのはどの部屋だろう」
ふとその瞳が書斎に急ぐアルジャンテ少年を捉え、コノハはにんまりと駆け寄ってアルジャンテの腕を取った。
「書斎に行くなら、『お兄さん』が一緒にいったげる」
●『未ダ 染マリ切ラヌ娘』
「亡き望月氏は孤独だったようですね」
映臣が使用人相手に穏やかな声で会話してゐる。
「ええ、まあ。富豪というのはそういうものなのかもしれませんが、家族の皆さんもねえ。氏の事を金ヅル程度にしか思っていなかったようで」
使用人が「この家はもうおしまいですね」と見切りをつけた様子で息を吐く。
「影朧を大切になさっていたのでしょう」
映臣が囁く。表情は優しかった。亡き人への思いやりを前面に出したような温度で眉を寄せ、瞳を揺らし。
「手紙を読んだのですよ。息子さんと似ていて通報の踏ん切りがつかなかった様子で。哀れというべきでしょうか……死を意識した身の上でのご心情は察するに余りあるものです」
使用人はやがて頷いた。
「ええ、ええ。わたくしどもも、主のそんな姿を見て」
「通報できなかったのでしょう、わかりますよ」
同調するように目を伏せながら映臣は情報を聞き出した。
「けれど、影朧は脱走してしまったのです……亡き明美邸主は金狂いの親族への絶望をよく愚痴っていらっしゃいました。わたくしどもには犯人が誰かわかってゐるのです」
情報を頭の中で整理しながら悠騎がこめかみに手をやる。
(然し義兄は好奇心旺盛な方。少し目を離せば、我先にと敵に接触――)
「そうそう、孫娘さんですが、比較的『まとも』なお嬢さんだそうですね?」
映臣が世間話めいて仕入れた知識を振るっている。
「あ、えぇ。えぇ。お嬢さんはまだ世間をあまり知らないといいますか、純な方でしたよ」
使用人が応じている。
義兄の行動を予想し、「目を離さないようにしなければ」と氣を引き締めるようにしていた悠騎がふと目を瞬かせた。
「義兄さん?」
義兄・映臣の姿が消えていた。つい先ほどまで、そこにいたのに。
「義兄は、何処へ行きました?」
使用人に尋ねれば「少し単独行動します」と言ってふらりとどこぞへ行ってしまったのだという。
●『とんだ災難』
がちゃり。
「はあ、とんだ災難ですお金を貰いに來ただけなのに何故こんな目に」
薔薇模様のドアノブを廻して扉を開けた嵐。部屋の中に一歩踏み込む刹那、第六感がピリリと警鐘を鳴らして嵐はぎょっとした。
「っうぉ」
――足元にピンとピアノ線が張ってある!
油断していれば足首が自然に切断されるところであった。しかし、罠にかからないわけにも――、
(ここで血糊を使うか!)
「ッギャアアアアアアッ!!」
嵐はいかにも無防備に踏み込み、足をやられて倒れ込んだように演技をしながら部屋の中を転げまわった。かけていた伊達メガネが床に落ちて割れてしまう。
(っておい!)
転げまわる部屋の至るところに「転がってきたらトドメを刺そう」という殺意に溢れたピアノ線が張り巡らされてゐる!
(おれの部屋、殺意を隠そうとしてねえ! トリックじゃなくてまんまトラップじゃねえか!)
「ギャ、ギャアアッ!」
悲鳴を聞きつけて人がやってくる。
(って大丈夫か?! 迂闊に入ると二次被害が!)
「部屋に! 入るな――ッ」
死に際に一声放ち、嵐が力尽きる。もちろん、演技だ。
「此れは!? ひ、酷い」
扉を開いたイサカが血の惨劇に目を剥いてピアノ線に氣付く。
「おっと、迂闊に入らない方が……ピアノ線だ」
「そんな、本当に殺人が!?」
夕立がショックを受けたように呟いた。
部屋の仕掛けと凄惨な血糊に人々がショックを受けて呻いてゐる。そして驚愕した。
「誰がこんな――、って!? えっ、死体がありません……!!」
なんとその数秒で嵐の死体が消えてゐる。
「そんなはずが。だって今さっきまで」
「どうなってゐるの!? もういや!! 頭がおかしくなりそうよ」
エレニアが頭を振ってゐる。
(びっくりしたなー、やけに念入りだったし)
動揺して騒ぐ人々の間をすり抜けて透明な姿の嵐が廊下に脱出し、物陰に隠れる。もちろん死んで幽霊になったわけではない。タネを明かせば、嵐はユーベルコード《いと麗しき災禍の指環》で透明化したのである。
「おい、こっちに來てくれ誰か!」
廊下の向こうで人が騒いでゐる。
マレークの死体が発見されたのだ。手に握った手紙を仲間に託し、マレークは隙を見て物陰に身を潜めた。
「死体がない!」
騒ぐ人々の声を聞きながら遠くへと距離を稼ぐ。
「こっち」
嵐が透明な手を伸ばしてマレークを透明に変化させてくれた。
「見事な死にっぷりだったな。この後どうする」
「決まってゐる」
透明な二人が邸内を探るため、動き出す。
●『少女の死』
「はあ、はあ……」
肩が忙しなく上下する。恐怖に突き動かされるまま見えない何かから逃げる少女ヴァーリャは、『氣付けば屋敷の奥にいた』。
「ここは、何所?」
殺氣が蛇のように後を這いずり尾行してゐる。それを察知しながらヴァーリャは一室に『迷い込んだ』。
「絵が、たくさん……、」
ヴァーリャが息を呑む。
同じ女性を描いた絵が何枚も何枚も散乱していた。
「どなた? この方は」
背後の氣配に聴こえるよう疑問の声をあげたヴァーリャ。衝撃がその背を襲う。
「キャアッ」
厚い氷膜をひそやかに巡らせて衝撃を抑えながらヴァーリャは倒れ込んだ。冷氣を操り自身の血の氣をなくし、如何にも死んだ風に見せかけて――、
声を聞いた。
「お孃さん」
低い青年の声だった。
「そのひとは、ぼくのお孃さんだよ」
声は愛しそうであり――狂氣を孕んでいた。
(それは、どっちのお孃さんを指しているんだ?)
ヴァーリャが表情を隠して息を殺し、全身から力を抜いた。
(好きで大切で、どうして殺すんだ。想うだけで幸せって言ってたのを忘れちゃったのか)
青年が部屋の隅に無言で身を隠し、何かを待つ氣配を見せてヴァーリャはその意図を悟り無言で死体の演技を続けた。数分後代わりに現れたのは綾華だった。
「ヴァーリャ、」
愛しい少女がそこに――、
――いた。
硬質な音を立てて約束のブレスレツトがその手から落ちた。煌く深紅は大切なもの――けれど、視線は前に固定されて足がよろめきながら前に進む。一歩。
音を立てることが躊躇われるようなシンとした中を婚約者の綾華が色を失った顔でゆらりと足を進める。声を何処かに忘れてきたように、音を失ったように靜かに綾華がヴァーリャの傍らに膝をつく。それはどこか神聖な儀式に似ていた。震える指先が儚い雪に触れるように頬に触れようとし、躊躇うように止まる。躊躇い、しかし触れて冷たさを知り目を見開いた。恐れていた現実がそこにあったのだ。それがどうしようもなく現実として五感で伝わったのだ。
(綾華、影朧が)
死体のふりをしたヴァーリャが無言のまま身を固くしている。影朧が綾華目掛けて軍刀を振り下ろしていた。
「!!」
血の花が咲く。あらかじめヴァーリャが氷の膜で綾華本体である鍵を守ってくれてゐる。神霊体になりダメージを軽減しつつ血を流して倒れ込む綾華の悲しみと絶望に縁どられた瞳がヴァーリャを視る。震える手が伸びて――抱きしめる。これ以上彼女が傷つかないように護るような全身は力を失い、傷を与えた影が床に落ちたブレスレツトを掬い上げた。
その美しき色をしばし見て、影は氣まぐれとばかりに二人の死体の上にそれを置き去っていった。窓から差し込む月明かりが緋色をきらり反射して麗しく死体が彩られる。
●『恋ひ文み再び』
「お祖父様だったとは……恋い慕う靜子さんを金の亡者と思って失望……犯行に及んだ? 日記を読めば本物の靜子さんはそんな女性でない事がわかりますけど……犯行に至るには……正氣を失いつつあるとは言え理由が弱いような……とにかくギリギリまで調査です」
ステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)が書斎に向かい、アルジャンテが見付けていた昔の恋文を探す。
文箱を開け、中の数枚を順に見ていく。
「この恋文、影朧さんにわかるでしょうか」
今現在の影朧がしたためた文の内容をステラは知らない。けれど、手元に見つけた嘗ての清と靜子の恋文数通。
(込められた想いが同じなら)
ステラはそう考えたのだ。
『恋ひしくて恋ひしくて筆を執つてしまふのです。
ぼくは金がなく、老ゐた父母がゐます。
家はをんぼろぼろ家で隙間風が吹き、ぐらぐらとします。
絵を學んでゐましたが、才能がなゐと云はれ師に見放され、サロンからも追放されました。売れることはなく金だけかかる、寶になることなき無駄な勞力と云はれ、けれど中毒のやうでやめられません。
凡そ將來の希望がありません。こんなぼくがあなたに聲を掛ける事の何と恐れ多ゐことでせう、なんと身の程知らずな事でせう。
けれど好きなのです。
あなたを想うだけでまつくらな世界に光り差すやうで想ゐ溢れて綴らずにゐられなゐのです。
あなたを慕つてゐます。ぼくと夫婦になつて欲しゐなんて願ふことができなゐ身です。けれど、だうしやうもなくあなたを好きなぼくなのです。』
『突然手紙をもらつて驚きましたわ。
とても嬉しかつたのです。
恥づかしくて顏が眞つ赤になりましたの。
嬉しいお手紙でした。こんな氣持ちは初めて。
わたしがあなたに好いてもらつてゐるといふことがとても吃驚仰天することで、とても素敵なことだと思ゐますの。
わたし、お話してみたいわ。繪をみてみたいわ。
だつて、とてもあなたのことを知りたいのです。
ね、お金つてそんなに大切なものかしら。わたしはお金の山よりもあなたのお手紙のはうが、しあわせな氣持ちになりましたわ。なによりの寶ですの。さうぢゃなくて?』
手紙を読むステラに後ろから何者かが鈍器を振りかざす。
「きゃっ!!」
一瞬の出來事だった。背後からの一撃でステラは床に手紙をばらまき、頭を押さえて倒れ込んだ――直前に護星結界を張りその身は無事だったが、ステラは息絶えたふりをする。
脱力して投げ出される手。頭からは血を流してゐる――血糊だ。
やがてやってきたコノハとアルジャンテが書斎の戸を開ける。
ヒュウ、と口笛が漏れた。コノハが鳴らしたのだ。
「……!!」
少年が眼を瞠る。そこにはステラが倒れていたのだ。やわらかな絨毯に受け止められて横たわる体の周囲には何もない。
「これは、すでに。亡くなられています、ね」
「殺人事件が起きたワネ、犯人はまだそのへんにいたりして」
少年はステラが生きてゐる事を知っていたが、どこに影朧がゐるかわからないため慎重に言葉を選んだ。コノハは面白がるような顔をして演技に合いの手を入れる。
「誰か、來てください――、ステラさんが!」
「はぁい、お知らせー遺産の相続人が減ったヨー」
人を呼びながら双眸は文箱があるべき位置から失われてゐる事に氣付いていた。
「手紙が、……奪われてしまいましたか」
ステラに駆け寄る人々の間を抜けてアルジャンテは部屋の外へ飛び出した。
(まだ倒れるわけにはいきませんからね)
少年の瞳に強き意志が宿っていた。
「ふぅん? ココにあったのは昔の自分と奥さんのラヴレターだったはず。それも覚えていないはずだケド」
其れを持っていく理由はあるのか、コノハは首を傾げる。
「何か惹かれるモノがあったのカシラねぇ」
●『落シン坡』
時を同じくして。
「な~んだ。窓割れるじゃん」
シン・バントライン(逆光の愛・f04752)とマクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)の覆面兄弟(役)が硝子窓を割り、夜陰に紛れて外へと逃れていた。
「さぁて、殺される偽装工作頑張ろうぜっ! やっぱ殺人事件と言ったら崖から落ちたりすることだよな~オニイチャン」
覆面弟(役)マクベスがキラキラエフェクトを輝かせながらうきうきしてゐる。
氣付けば目の前に崖が!
「ここは、崖!?」
シンが驚いたように声をあげる。
「何を隠そう、この崖こそが落シン坡さ!」
落鳳坡ならぬ落シン坡の罠がシンに牙を剥くッ! シンがマクベスに向かって叫ぶ。
「貴様! やはり弟ではないな! さては……」
(2人一緒に落ちるのは不自然だし殺しに來られる前にオレが先にシンを崖に落としとくな~♪)
「氣付かれたか。だが、もう遅い。チェックメイトだ『オニイチャン』」
「く――ッ、」
マクベスが哂い、シンの背中を押す。長身がぐらりと傾いで踏みとどまることができずに落ちていく。風の精霊がくるりと舞いながら落ちるシンを追いかけていった。
ひゅう、とシンの全身を風が包んでゐる。マクベスによる風の精霊だ。
「精霊さん」
麗しく幻想的な精霊にシンが嬉しそうに声をかける。思い出すのは「オレの精霊は喋んねぇかな」と話していたマクベスの声だ。だが、「赤いおじさんはたまに話してゐる」という。ならば、きっと話せば――伝わる、とシンは思うのだ。
「お会いするのを楽しみにしていました。よろしくお願いしますね」
やがて、重い音を鳴らしてシンの落下が止まる。ふわりと風に浮いた体は上からは視えない窪みへと隠れ、代わりにユーベルコード・空蝉で極めて精巧な死体の偽物を創り出して――崖下に死体が横たわる。
「さらばだオニイチャン」
マクベスが冷たい声を崖下の死体に向けて言い放つ。演技だ。
「オレの惚氣話を聴いたからには生かしちゃおけねえ。それに、オニイチャンのほうが背が高いし。栄養もっていかれたんだな、持っていきすぎだろ差がデカすぎるぜ。ひどいオニイチャンだ」
深刻な声で呟き――けれどやはり兄だから、そのまま立ち去るには未練がある様子でしばらく感傷的な氣配を纏って崖下に思いを馳せる――演技だ。
小柄な覆面姿は夜の空氣の中あまりに無防備だった。あまりに頼りなく視えた。声は、どこか虚しく響く。聞く者によっては悲しみを感じてゐるからだと解釈しただろう。実際は単に適当な事を言ってゐるだけだからなのだが。
「秘密の共有者。生かしておくには危険すぎた……あと栄養をもっていかれた恨み。だから、殺した――、ッ? なんだッ!?」
無防備な背が惡意に押される。崖の下目掛けて、トン、と。バランスを呆氣なく崩し、宙に投げ出されたマクベスは驚愕に全身を染め抜いた。何故、自分が、と。
「あ、ッ! うわあああぁぁっ」
少年の悲鳴が響き渡る。
落ちる最中風の精霊がくるりとマクベスの周囲で円舞曲を躍る。ふわり、風が落下する体を抱き留めて見た目はぐったりと死んだふりをしながらマクベスが崖下に転がる。崖上でしばし様子を見ていた犯人がやがて踵を返し、立ち去るのを確認してマクベスは窪みに隠れていたシンに向かってひらりと手を振って起き上がる。
「視たか?」
「あれは、影朧で間違いありませんね」
シンが犯人を目撃していた。
「明美邸に戻っていきましたよ」
マクベスが衣装についた土埃を払いながら笑う。
「へへっ、偽装は大成功みたいだなっ! 後は上に戻ってフィナーレといこうぜ」
「フィナーレといきますか」
シンが一緒になって土埃を払ってあげながら闇に消えた影朧に向けて呟く。
「こういう舞台ではやはりエンディングが重要。最後の仕上げを御覧じろ」
何を隠そうシンにはこの後とっておきの切り札があるのだ――おそらく。
●『無人力車』
(――僕は飽く迄探偵役――然し探偵が死なぬ道理はない、ね)
割れた窓は人が悠々と抜けられる大きさ。映臣はマクベスとシンが割った窓を発見し、単独で外に出た。
ふわり、風が全身を撫でて前へ誘うようだ。
坂道をひたりひたり、靜かに足を進めれば耳に金属の軋む音が聞こえて映臣は背後を振り返った。
「――!?」
人力車だ。無人の人力車が明確な殺意を持ち、映臣を壁に追い詰めて衝突した。
「く、ァ……」
呻き声を漏らしながらも全身はその瞬間花弁と変わり寸でで回避を成功させていた。服に仕込んだ血糊が派手に散る。
(死んだ様に誤魔化せるかな?)
そんな事を考えながら死体役をしていると、やがて人がやってくる。
「キャアアアアッッ」
明美邸の割れた窓を見付け、姿の見えない数人を捜索に出てきた人々がその死体を見付けて悲鳴をあげる。
「義兄さん」
血に塗れた義兄の側に悠騎が膝をつく。
「死んだ振りしようが一向に構いませんが全て放り出していかれるのは御免被りたく」
声は義兄にだけ聞こえる囁きであった。動揺という文字が欠落したような声に映臣は内心で微笑み、瀕死を装い苦しそうな息を吐いて見せる。愛情あふれた温かな声が儚く風に攫われて夜に溶けていくように消えていく。
「手紙を、」
――集めるんだ。
(さて、これで暫しの間、表舞台から消えよう)
一言を遺し、映臣が息絶える。
(……仮初とは云え彼の死に動揺しないのも可笑しな話)
悠騎は髪を掻き揚げ、兄の死体を抱き上げて立ち上がる。
「安置場所へ運びます」
使用人達が沈痛な表情で頷いた。
「朝を待ちまして、助けを求めましょう」
「ええ」
朝を待つまでもなく全員が死に、影朧が追い詰められるために出てくることだろう。悠騎は未だ見ぬ敵に考えを馳せる。
(ならば彼の『遺言』に従い手紙――及び殺人犯の捜索に心血注ぎましょう……無論『振り』ですが)
冷えた赤い瞳が闇を見通すように冴え――腕の中で義兄が身じろぎをした。
「義兄さん、ちゃんと死んでください」
密やかに声を落とせば義兄はより死体らしくあろうと努めるようだった。死体らしき振舞いをしやすくするべく悠騎は慎重に死体の運搬に努めた。
●『ハトポ』
さつまとジュジュ、そして兎のメボンゴは手紙を捜して邸内を巡っていた。
「お兄様、ご覧になって。火の消えた暖炉の中に紙の束のようなものが見えるわ」
「ほんとうだ。ジュジュ、ちょっと待ってて。兄さまが取ってみる」
兄がそう言って暖炉に寄った一瞬。
「……きゃっ」
ちいさな声が響いたのはその時だった。
「どうしたジュジュ!?」
さつまが慌ててジュジュの元に駆けつける。
「は、……ッ」
ジュジュの小さな口が苦しそうに息を吐く。息が苦しくて堪らない、といった手が口を抑え――ごぼりと血がその指から零れた。
「じゅ、ジュジュ!!!」
さつまが眼を限界まで見開き、血相を変える。見る見るうちにジュジュの顔色が惡くなり、荒い呼吸を繰り返す妹が苦しそうに助けを求めてさつまの方に倒れ込む。さつまは必死で受け止めて震える手でジュジュを床に横にした。苦しむ妹をなんとか救護したくてさつまはおろおろと氣道を確保しながら助けを求める。
「しっかりしろ、どうしたんだ! 誰か、誰か來てくれ――妹が!」
「嗚呼、お兄様、苦しいわ。助けて……」
目に涙を浮かべてジュジュが首に手を当ててヒュウヒュウと息をする。酸素が吸いたいのだ――酸素が吸えないのだと兄が察する。
「ああ……、し、しっかり! もちろんだ、助ける! 今――」
しかし、ジュジュの呼吸は乱れる一方。
「ぃや、嫌よ……死にたくない……おにい、さま」
目の端から溢れた透明な涙が一筋頬をつたい、ガクリと全身の力が抜けて。
「!!」
ヒュッ、とさつまの喉が鳴る。
ジュジュが抱いていた兎のメボンゴが靜かに隣を転がった。苦しそうに助けを求めていた妹が動かなくなる。
――もちろん演技である。吐血したのも仕込んだ血糊だ。
ジュジュは死んだふりをしながらわくわくしていた。
(ふふふ、さつまさんはどんな演技をするのかなー?)
「ああああっ、うわあああああああっ!!」
整えていた髪を振り乱し、さつまがジュジュを抱きしめて叫んでゐる。
(あれっ、さつまさんそれ演技? 本氣? どっち!?)
ジュジュが内心でびっくりしながらも死んだふりを続ける中、さつまの目がはたとメボンゴに氣付いてビクリとする。
「あ、あ、ああ……メボちゃん……!」
兎のメボンゴを抱き上げ、さつまが絶望の声を吐く。
「何てことだ…息を、して、ない……?! め、メボちゃぁあん!!」
ぬいぐるみの胸と口元に耳を当て、衝撃を受けるさつま。
「うう、何て事だ……可愛い可愛い俺の淑女達が……」
(なにこのたぬちゃかわいすぎる! メボンゴもきっとそう思ってるに違いない!)
さつまの迫真のリアクションにジュジュは噴出しそうになるのを必死でこらえていた。
「――ッ、う、あっ!?」
嘆き悲しむさつまがビクリと体を跳ねさせる。
「が、アッ」
電撃だ。一瞬電撃がその身体を突き抜けたのだ。ジュジュの隣へとさつまが倒れ、ショックで見開いた目がジュジュの指先が床に血の跡を残したダイイングメッセージを見つける。
「あ……っ、は、はと、ぽ……だ、れ?」
最期の一言は疑問に染まり、そこでさつまの言葉は途切れた。
――もちろん、演技である。
(はとぽ、誰?)
内心では本氣で首をひねっていた。
●『シャンデリア』
死体が発見されて邸内は更なる恐慌に陥った。親族の死体はひとまず一階にある広い一室に運ばれ、敷き布の上に寝かされて顔を布で隠された。
「そんな! ほんとうに死んで……!?」
エレニアがへたりこみ、全身をガクガクと震わせてゐる。ひとりひとり、数刻前には顔を合わせて憎まれ口をたたいていたものだ。それがこんなに呆氣なく、次々と。
「いい加減にしてちょうだい。もういやよ」
エレニアが金切り声をあげた時。ぐらり、天井の豪奢なシャンデリアが揺れて、ぷつりと唐突に吊るしチェーンが切れて落下する。重力に引かれるまま、真下へ――真下にゐるのは。
「あ、ッ」
「エレニアさん!」
悲鳴と落下音が耳を劈く。
「え――」
エレニアが驚きに目を見開く。衝撃が全身を叩きつけて氣付けばその華奢な身体が床に倒れていた。ぬるりと全身を血が濡らす――痛覚を遮断していたので、痛みはない。本体も無事だ。
「あ、あ……ッ」
「エレニアさんッ」
親族が血相を変えて駆け寄る。それは衝撃的な光景だった――シャンデリアが落ちてエレニアを下敷きにしたのだ。
夕立が眼を見開いた。
「本当に、このまま全員死んでいくというんですか。そんな!」
既に息のない(演技をしてゐる)エレニアの傍にはダイイングメッセージが遺されていた。
「よ み じへん」
(雰囲氣出たかしら)
エレニアがじっと死体のふりをしながらダイイングメッセージの出來を自己評価する。
(字は綺麗に書けたと思うわ)
●『手紙』
悠騎は屋根裏にいた。積まれた箱の影に身を隠すようにして箱の山を崩し、地道に一つ一つを開け――。
「ドア横に積まれた箱は、他の箱より劣化もしておらず埃もなく新しく見えますね」
氣配を殺しながら箱を開く。
箱にはアルバムと手紙が入っていた。
「これは、本物の親族の方々?」
悠騎は近くを通る足音と氣配に氣づきさっと箱の影に身を隠した。
誰かが屋根裏を覗いて人の氣配を探ってゐる。
「……」
吐息が白い。夜になり氣温が大分下がっていた――先日までは暑かったものだが、季節はもう秋なのだ。
コツコツ、と音たてて何者かが去っていく。
「……」
手紙をそっと開いて読んでいく。
『拝啓 お爺様へ
夕立を心待ちにしたくなるような猛暑の毎日です。お身体はいかがでしょうか。靜子は元氣に過ごしています。
靜子に良縁を賜り、ありがとうございます。お相手の方と文交わしをしました。素敵な方だと思いましたわ。
靜子は学校で卒業顔だと言われていたので、卒業前に嫁ぐのが嬉しいです。
縁談がまとまり両家の仲が深まるのが大事とききました。お兄様は、結婚はすることに意味があり、靜子が道具だとおっしゃいます。けれど、靜子はお金よりも恋に興味がありますわ。お爺様は恋をしたことが、ありまして? 靜子は、旦那様と恋をしようと思いますの。
今度おうちに伺う時に、詳しくお聞かせください。元氣でいらしてね。
靜子』
●『声ぞ聴かれぬ』
「ふう、あとでみんなに謝らなきゃ……おっと、影朧がどこで見てゐるか分からないから演技を続けなないとね」
キアラン・カーター(麗らかなる賛歌・f15716)が心なしか熟達した演技ぶりで廊下の真ん中を歩いてゐる。
「ぷんぷん!」
(どんなトリックで襲われるのか見当もつかないけど、警戒する素振りを見せたら怪しまれる。変に飾らずに普段通り過ごそう)
キアランは繊細な睫を伏せておっとりとほほ笑みを浮かべる。ステンドグラスが美しく影落とす一室を見つけたから。
クランベリーコインドットシェードの洋灯がフューシャピンクのライトを咲かせてふわりと部屋を照らしてゐる。少し離れた場所の陶器花瓶が薄紅のネリネを活けてゐる。
「歌の練習でもしようかな」
死の影がひたりひたりと青年に忍び寄る。キィ、と扉が後ろで閉まっていく。
「ん……それじゃあ……――♪」
青年は息を吸い、迦陵頻伽の如き歌声を紡ぎ出す。神の祝福受けし声はやわらかで透き通るようだった。まるで少女のようなソプラノが可憐に響く背後で何かが光を反射しながら蠢き、引っ張られるようにして洋灯と花瓶が動く――目を凝らせば細い鋼線のようなものが見えただろう。だがキアランは歌に夢中だった。
♪神の言葉は耳のそばを吹きゆく
(あぁ、楽しいな。なんだか何時までも歌っていられる氣がするよ)
歌に没頭するキアランの周囲が清らかな光のヴェールに包まれ、迫る花瓶を防いでいた。
♪神の話は無駄だろうか
花瓶をやんわり受け止めてヴェールが淡い光を湛えてさざめいてゐる。
(ああ、キアラン氣付いてねえ)
(知らせてやるべきだろうか?)
透明姿で見守っていた嵐とマレークがおろおろと見守る中キアランは見事に一曲を歌い切った。
「――よし、こんなところかな。結局襲われなかったね……ん?」
キアランが眼を瞬かせる。花瓶がふわふわプラプラとして――、氣付いた瞬間、ガシャンと落ちて割れた。
(あ……っ)
いつの間にか殺害されようとしていたのだ! と氣付いたキアランは慌てて絨毯の上に倒れ込んだ。
「う、うわー、やられた~時間差で効いてきた~」
(その死に方でいいのか)
見守っていた嵐が唖然とする中、キアランの死を確認して影朧は去っていったようだった。
(今の信じたんだ!?)
(今のでよかったんだ!?)
居合わせた皆が驚いた。とにかく、死んだふりは成功だった。
●『再びのハトポ』
「そこの、探偵さんだっけ」
「助手ではなかったか」
手紙を懐に隠し、屋根裏を出て邸内を探っていた悠騎に声がかけられる。声がした方向を見ても何もない。が、物陰に誘うような聲についていくと暗がりの中でマレークと嵐が姿を見せた。
「俺達は今まで家捜しをして、これを見付けた」
「ふう、透明化は疲れるんだよな」
嵐が床にしゃがみこみ息をついてゐる。マレークが労うような視線をちらりと向けてから悠騎に鍵を差しだした。小さな鍵だ。
「死体置き場で他の仲間と情報交換したんだけど、たぶん最終的に影朧は死体置き場に死体集まったら出てくるんじゃねえかな」
「そろそろ幕引きだ」
透明化の疲労度的な限界もあり、彼らは何食わぬ顔で死体の列に加わる予定だと云ふ。
悠騎は鍵を手にそれを使うべき場所を探すことにした。
「この部屋で、殺人があったのでしたね。ダイイングメッセージは確か、ハトポ」
ジュジュが殺害された部屋を訪れた悠騎に向けて鳩時計が毒針を放つ。
(なるほど、ハトポ)
悠騎は冷靜に針を受け止める。予めチョッキを装備してゐるので、針が身に届くことはなかった。だがジュジュ同様に苦しむふりをして血糊で演出を加えて悠騎は膝をつく。
「ゐるのでしょう、」
粗い息の下で悠騎が声を放つ。
「――犯人。私は、貴方を知っています、よ」
一言を言い放ち悠騎が動かなくなる。犯人が息を吐き、部屋を出ていく足音を聞きながら悠騎は鍵を持て余した。
「きゃっ!!」
やがてその部屋に小さな悲鳴が響く。
「だ、だれか――」
人を呼ぼうとするオルハに悠騎は密やかに声をかけた。
「鍵を」
お願いします、と掌に押し込むようにして鍵を渡し、死体に戻る。オルハは鍵を見つめてしっかりと頷いた。
●『託すもの』
「すみません、その袋は最終的にどこにいくのでしょうか。それと、袋の中を見せていただきたいのですが」
アルジャンテが塵芥箱の中身を袋に入れてゐる使用人に声をかける。
「明美邸では、外に一時的な集積用塵芥箱と焼却場を設けています」
「ですが、今は外に出れないのではありませんか」
アルジャンテが袋の中をあらためながらたずねると使用人は不安げに頷いた。
「はい、ですから裏口のあたりに一時的に袋を纏めておこうと思いまして……」
「ありがとうございます」
丁重に礼をしてアルジャンテが駆けだした。
(これ以上動いては流石に危険ですね)
思考は冷靜に、けれど一人また一人行動ができなくなっていく今、それをほかならぬ自分がしなければいけないのだと少年は感じていた。
アルジャンテが捨てられて焼却を待つのみの文を見つけていた。
(そろそろ……私の番でしょう)
散々探る動きを見せていた。敵にはアルジャンテが手紙を捜す動きが把握されてゐるだろう――そして、狙ってゐることだろう。アルジャンテが向かったのは、オルハと約束していた部屋だ。約束の時間にはまだだいぶ早い――生きたまま再会する必要はなかった。
「手紙を頼みましたよ」
アルジャンテは部屋の中央に置かれたテーブルの布を靜かにめくり、手紙を入れて布を元通りに戻した。そして、手紙の隠された場所の上にアルコールランプを置いた。
そして、倒れた。
部屋に毒瓦斯が充満してゐる事に氣付いたのだ。
「うっ……」
苦し氣に喉元を抑えて這いずり扉へ向かおうとし、途中で力尽きたように見せかけてアルジャンテが死んだふりをする。もちろん機械の身は毒瓦斯で苦しむことはない。全ては演技だ。
●『死体会議』
「みんな、ずっと死んでるの大変だよなあ」
嵐が死体の列に加わりながら仲間達に視線を送る。
「エリィのさっきの死に方、なかなかうまくできたでしょう。自信作よ」
エレニアが死んだふりをしたままにこやかな声をあげた。
「しりとりでもしながら待つ?」
ジュジュが死体にあるまじきことにごろりと寝返りを打ち嵐を見た。
『みかん』
愛らしい白ウサギのメボンゴが真っ白なドレスの裾を払い、耳を揺らす。
「メボちゃ、しりとりは「ん」ついたら終わっちゃうから」
さつまがくすりと笑った。
「人が來たときだけ死体のふりをすればいいだろう。俺が部屋の外に氣を配っておく」
マレークがそう言って部屋の外を注意してくれる。
「影朧さんは、転生させることができるでしょうか」
ステラが見つけた手紙の内容を共有しながら氣遣わし氣な瞳をした。
「そう言えば、そちらの皆さんは外に出られたのですか?」
「ああ、窓割ったら普通に出れたぜっ!」
マクベスが陽氣に笑う。
「声が大きい」
マレークが口元に人差し指をあてて聲を潜めるよう合図した。
「おっと」
「人が來る」
コツ、コツと足音がする。全員が死体のふりをした。
がちゃり。
「……人の声がしましたが、氣のせいでしょうか。ゆ、ゆうれいとかでしたら、いやですね」
使用人が氣弱に言って戸を閉めて出ていく。
「もういいぞ」
マレークが合図をすると全死体が起き上がった。
シンが「ふいー」と息を吐き、身体を伸ばして頷いた。
「崖があるとマクベスさんが云ふからついていったら、本当にありましてね。なんでしたっけ名前」
「落シン坡」
「ラクシン……ハ?」
キアランが不思議そうに目を瞬かせてゐる。
「お二人の跡を追ったのですが、こちらは崖に着く前に殺されてしまいましたね」
映臣がくすりと笑った。
「今頃ハル君が頑張ってくれてゐるでしょうか」
と、噂をしてゐるとハル君こと悠騎が死体として運ばれてきたのであった。
「情報交換をしましょうか」
死体達の情報交換が進む。
「おおー! 俺は影朧の声を聞いたぞ!」
ヴァーリャがバーン! と効果音が出そうなほど堂々と胸を張り、影朧が殺人鬼っぽかったと感想を口にする。
「ヴァーリャちゃん、そりゃ……ここにゐる全員を殺した殺人鬼だかんネ。殺せてないケド」
綾華がブレスレットの汚れを拭いながら口元を抑えてほほ笑む。
●『檻の部屋』
死体達が語り合っていた頃。
オルハは何箇所かあるはずの隠し部屋の場所に順に訪れていた。怪しいと思った箇所は、地下だ。
(このあたり、建物の造りからして部屋があるはず)
壁をくまなく探り、扉らしきものがないかを捜したオルハは焦燥を浮かべる。時間だけが過ぎていく――結果が伴わない。
「頑張らなくちゃ」
「はぁい、お困り? 檻の部屋捜し、コッチもしてんだケド一緒する?」
コノハがそんなオルハを見つけて聲をかけた。
「ぜひ」
二つ返事で頷けば、時折演技で憎まれ口を叩きながらもコノハが付かず離れず捜索を手伝ってくれる。
「あとはコッチね――遺産はオレが貰うケド」
「もう、場所が限られてきたわね――遺産は渡さないわ」
まるで遺産の隠し場所を捜しているようなやりとりを交わしながら捜していれば、ふと壁際に不自然な亀裂が見えてオルハはかがみこんだ。コノハが駆け寄ってくる。
「開く……」
指をかければパカリと壁に数センチ幅の四角い扉が開く。中に小さな鍵穴があった。
「ビンゴ!」
「これがきっと、使える」
仲間に渡された鍵を取り出して使ってみれば鍵はカチャリと嵌り、壁が動いて――隠し部屋の入り口が現れた。
「檻……」
部屋の中には、檻があった。檻は内から破壊されて壊れていた。檻の中には紙が散乱し――、
『恋ひしくて恋ひしくて筆を執つてしまふのです。
ぼくは影朧の身です。
記憶がありません。
時折狂おしいほどの暴虐を感じます。
凡そ將來の希望がありません。こんなぼくがあなたに聲を掛ける事の何と恐れ多ゐことでせう、なんと身の程知らずな事でせう。
けれど好きなのです。
あなたを想うだけでまつくらな世界に光り差すやうで想ゐ溢れて綴らずにゐられなゐのです。
あなたを慕つてゐます。ぼくと夫婦になつて欲しゐなんて願ふことができなゐ身です。けれど、だうしやうもなくあなたを好きなぼくなのです。』
「手紙だ」
オルハはそれを大切に袂に隠した。
(そろそろ、時間が)
約束の時間が迫っていた。アルジャンテと約束した部屋へとオルハは急ぐ。
(見つけた、見つけたよ。私、見つけたよ!)
「っと、来たみたいネ」
コノハが第六感でそれを感じ取り、ぐいとオルハを物陰に押し込んだ。
「コノハ、」
「オルハちゃん、後はヨロシクネ」
ぱちりとウインクをしてコノハが離れていく。素早く部屋の外へと飛び出し、殺気に背を向けて無防備を装う。
「まったく、あと何人死ねば遺産が独り占めできるやら」
ぼやくコノハ目掛けて廊下の角を曲がってやってきた影が放つ『何か』。小さな刃物に思えるそれを背を向けたままコノハは見切り、けれど致命傷は避けつつ身に受ける。
「アアッ!」
そんな、と驚愕の声が部屋の外から聴こえてくる。オルハは部屋の中で身を隠し息を潜めながら仲間が殺されるのをじっと待った。
何かが転がり落ちていくような音がする。音が遠くなる――気配がなくなる。オルハはそっと部屋を出た。
「っ!」
赤マットの敷かれた階段を転がり落ちたコノハが階段の上から下へ転々と血花の跡を残し、息絶えていた――もちろん、演技だが。
その目蓋がほんの僅か持ち上がる。目は薄氷のようでひどく清らかに見えた。口の端が緩く持ち上がり、声なき呟きの形を順に見せる。
『行 け』と。
「誰か! 来てください、人が死んでます!」
オルハは人を呼んで死体を任せ、約束の部屋へと走った。
●『約束の時間』
二人が約束していた部屋ではいかなる仕組みかはわからないが何かに操られるように喚起がされて、窓が再び閉まり、しばらく時間が過ぎた。パタパタと足音が聞こえてくる。
「あ……」
一瞬息を呑み、部屋を訪れたオルハが悲鳴をあげる。
「アルジャンテ!!」
(ううん、これは演技。でも、呼吸をしていなくて……まるでほんとうに。でも、演技なんだ。落ち着かなくちゃ)
悲鳴を聞きつけて人がやってくる。オルハは急いで室内に視線を巡らせた。この少年が言ったからにはそれは必要なことなのだ――アルコールランプを発見したオルハはランプを退かしてテーブルクロスを急いでめくった。
「手紙!」
人の足音が聞こえてくる。急いで手紙を懐に隠すと、オルハはテーブルクロスを元に戻した。
●『緋に染まりし』
「残り何人かな、もう大分死んでしまったよね」
呟いたイサカの後を夕立が青白く憔悴した様子の顔でついていく。
「、っと」
何かに足を取られたようにイサカがバランスを崩し――、
「センセイ」
腕を取り支える氣配を見せた夕立がほんの一瞬何かしらの天啓を受けたように心変わりをみせて引こうとしていた腕を逆に押し込み、『センセイ』を床に引き倒した。
「ッ、」
倒れ込んだ上に暖かな質量が乗り込む。
影が音もなく伸びて交わる。交わる色は等しく暗く輪郭は朧に溶けるよう。
夕立がイサカに手を伸ばした。夢現の狭間を彷徨うように伸ばした手はどこか映像のように瞳に映る。白い腕だ。骨の上に皮が乗って筋肉が動いてゐる――細長い腕だ。腕の先についた手から五本の指が伸びてゐる。伸びた先で関節が曲がり、力が篭る。ぐ、ぐ、と押していく――センセイの首を。
「……は、」
吐息がひとつ零れた。どちらのものかわからない白い息が闇に溶けていく。ぐ、ぐ、と力を籠めていけば上から空氣が漏れる音がした――声がする。温度がある。脈打ってゐる。今。生きてゐる。
――他のだれかにとられるくらいなら、オレが殺します。
――大丈夫ですよ。すぐに行きます。
「だって」
空氣が震える。空氣が動いてゐる。天井から床まで満ちた見えないそれは感触もなく室内に充満してゐる。なんて窮屈なんだろう? 夕立の瞳がその目を見た。
「だってオレがいないとあなた、何にも出來ないんですから」
瞳に映る狂氣が靜寂に湧く。ああ、とイサカの目が世界を映した。床に引き倒した少年の顔とその背景に見える天井の染みまでもが不思議と明確に見える。
可愛い書生くんが狂氣を剥き首を絞めてゐる。殺される――けれどイサカは抵抗をせずそれを受け入れた。
「ああ、そう ゆうだち」
狂氣に絞められた首からは音が漏れる。辛うじて言葉の形を為すかどうかの愛を囁こう。ぎりりと力増すそれは、愛だ。
――愛されてるなあ、ぼくってば。
「……いいよ 好きにおし」
あたたかに、包み込むように息を吐く。歪む世界を愛でるように。
「欲しいもの、ちゃんと、手に入れてごらん」
――だから、もっと力を籠めて。
腕をやっと伸ばして夕立の頬にあてれば、端正な顔立ちをなぞるよう輪郭を撫でて、ああ、そこにゐる。暗闇に意識が飲み込まれて――うつくしい死が視える。
窓から月灯りが差し込んでいた。息絶えた相手を床に横たえ、刹那放心したように手をぶらりとさせ。影を押し退けるような灯りを一身に浴びて。
「――、」
一瞬、冷たい刃が閃いて夕立が自身の首を掻き斬った。あっさりと断たれた皮膚は夕立自身の首元でぱくりと裂傷開きその下に流れていた鮮やかな緋色の血を撒き散らした。夥しい血が室内を染め上げて濡れ模様が薄っすらと照らされてゐる。鼻腔を刺激するのは生々しい血の薫り――、手を濡らし頬濡らすはぬるりとしたその感触。
「……」
折り重なるように倒れた死体2つを戸惑うように影が見下ろし、無言のままに立ち去った。何も手を下さず、目的が果たされてしまった。
コツ、コツ、コツ。
足音が遠く消えて死体が起き上がる。監督なき撮影現場の『カメラ』は立ち去ったのだ。
「おお、……結構僕、死んだふりも上手いもんだな」
イサカが立ち去る氣配を見送り起き上がる。未だ隣で死体をしてゐる夕立の血に塗れた惨状に眉を寄せ、手を寄せて。照らす月灯りを退けるように烟り彩るユーベルコードのひかりを放ち少年の傷を高速で癒していく。
「……フリですよ」
出血で身を染め濡らした夕立がふと目を開けて眼鏡のフレームの溝に付着した液体を拭いかけ直した。
「フリだから、殺すのなんかなんでもない。あ、オレは死にません。ユーベルコードなので。だから別に治さなくても……、」
横になったままでイサカに視線を向けた夕立が長い睫を震わせた。羽搏くように上下する睫は長く繊細でその下に影落とすほど――影が動いて息にあわせて肩が上下する。
「どうしたんですか。ヘンな顔して」
「僕、好きじゃないんだよね。僕が殺してない死体」
子供のような聲だった。
「特に……首切って派手に死んでるやつとか」
夕立はそれを聞いてそろりと首に手を這わせ、起き上がる。
「勝手に死体にならないでよ」
語尾に揺れる不満が煙るように室内の空氣を震わせて響くようだった。
●『飛花落葉、あれあれ、あれよ』
「みんな、死んでしまったの……?」
死体安置部屋を訪れ、オルハが悲しみの声を零す。死体がずらり、並んでいた。
♪金襴緞子の帶しめながら、花嫁御寮は何故泣くのだろ。
結霜硝子を填めた格子窓の外でビリジアンの夜に風を切る音、花が散る音、雨に煙ぶる帝都に鐘の音が湿つて啼く。
幻朧櫻の散り模樣が翳落とし、陰降らし。
腰壁を設けた壁にステンドグラスが所ゝに妖しげに煌めきシヤンデリアがメロウな琥珀の光を吐く今宵、誘うは血の宴。蓄音機が奏でる途切れ途切れの歌謠曲を背景に。
「何故亡くなつてしまわれたの」
しやくりあげるうら若き乙女に翳忍ぶ。
♪あれあれ風に吹かれて來る。
蓄音機が鳴いてゐる。
ギ、ギ、ギイ。
扉が蝶番の小さな軋みをあげて開く。
「あ……」
小鳥のやうに震える君の瞳が翳を視る。
さあ、哀し愛しい君の番。
(――!)
オルハは袈裟に斬り下ろされた軍刀をすれすれで交わし、影朧が投げた小刀が当たったふりをしてその場に倒れた。
「あ、う、うぅ……」
影がひたりと忍び寄る。
「う、うぅ」
「違う」
影はそう呟いた。
「お孃さんでは、ない」
「うん……違うよ」
「違うとも」
死体が次々と起き上がる。
「何? 生きていたのですか」
影朧が眼を見開いた。彼は、未だ猟兵達を親族だと思っているのだ。
「どうして、こんなことを」
『親族ども』が問いかける瞳に声が降る。
●『狂ひ咲き、怒り裂き』
暗色を基本として設えた軍装は夜闇に溶け込むようだった。軍帽は潔癖な艶めき金縁が高雅に光る。白皙は不思議と優しげで、哀しく何かを諦めるようだった。靜かに殺意が蜷局巻き、すらりと抜剣された軍刀を発生源に怪し氣な怨念冷氣が周囲に漂う。ああ、誇り高き軍靴のかかとがカツリと非情な音立てて狂氣が瞳に閃いた。
「まあ、よいでしょう」
何かを諦めたような聲は狂氣に歪む。
「話をしましょう。ぼくは亡霊――己が何者かもわからぬ哀れなる道化の亡霊に過ぎません。
死に向かう邸宅主は、ぼくに家族のような振舞いをして愛情を向け、本物の親族には絶望しながら死んでいきました。その死に姿は哀れなものでした。正氣と狂氣の狭間にいたぼくの心は、それをかなしいと思ったのでした」
「およそ金というものは、人を狂わせてしまふものなりけり――哀しいものですね。 ぼくは」
影朧はふと額を抑えて言葉を切った。
「ぼくは、がっかりしたのです。ぼくの――『 』たちに。ぼくの……『 』。なんだ? わからない。わからないな、ふ、ふふ」
額を抑えた手の間から瞳が覗く。爛々と輝く殺意。
「ふふ、ご覧の通り。ぼくはバケモノで、狂いつつあるのです……、ぼくのこころが、ずんずんと壊れていくようです。壊れる音がきこえる――嗚呼、けれど構わない。君を、愛してゐるから」
部屋の空気が徐々に冷えていくようだった。いつの間にか、窓の外では雨は止み夜空が晴れ渡っている。窓から覗く月の見事な事、散る花の美しき事。佳景を背負うように窓際に歩んだ影朧は、怨念渦巻く軍刀を何処か生真面目さを感じさせる構えで静止させ、遠くを見るような眼で愛を囁くように甘やかな吐息を漏らすのだ。
「……愛してゐるのです。いとしいのです。ぼくの――家族が。家族がいとしくて、かなしくて、ぼくは殺すのです。うつくしい日に。この美しい月灯りの下、櫻見守る中――うつくしくしてあげましょう、醜く争うことなきよう、うつくしい家族を取り戻しましょう、そう、ぼくは……ぼくはかなしい。ぼくの家族が、なんと堕落してしまったぢゃないか、ヱヱ? 金などにより――醜く成り果てて――お前等」
取りとめもなく紡ぐ声。月に照らされて影が伸びる。
そこには狂氣があった。
大成功
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第3章 ボス戦
『獄卒将校』
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POW : 獄卒刀斬り
【愛用の軍刀】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 影朧軍刀術
自身に【影朧の妖気】をまとい、高速移動と【影朧エンジンを装着した軍刀からの衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 同志諸君!
【かつて志を同じくした帝都軍人】の霊を召喚する。これは【軍刀】や【軍用拳銃】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:藤本キシノ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●『血に連なる者ども、家族たちよ』
幾つかの手紙が見つかっていた。
死体だった親族達は情報を握っていた。
黄泉事変。桂の祖父・清がそれに関わっていた事。家族の未來のためにと綴っていた事。
亡き桂が帝都桜學府に通報をしようとしていた事、影朧を転生をさせたいと思っていた事。
清と妻の恋文。似た文面の影朧の恋文。
桂の孫娘・靜子が桂にあてた手紙。
桂の絶望。孤独。影朧を亡き息子と重ねて縋るやうに向けた愛情。
桂は影朧が祖父だと知らぬまま亡くなり、影朧も記憶は定かではない。孫娘の靜子を見て影朧はおそらく妻を重ね、恋をしたのであろう。
死体が次々と起き上がる。
「何? 生きていたのですか」
影朧が眼を見開いた。彼は、未だ猟兵達を親族だと思ってゐるのだ。
暗色を基本として設えた軍装は夜闇に溶け込むようだった。軍帽は潔癖な艶めき金縁が高雅に光る。白皙は不思議と優しげで、哀しく何かを諦めるようだった。靜かに殺意が蜷局巻き、すらりと抜剣された軍刀を発生源に怪し氣な怨念冷氣が周囲に漂う。ああ、誇り高き軍靴のかかとがカツリと非情な音立てて狂氣が瞳に閃いた。
「まあ、よいでしょう」
何かを諦めたような聲は狂氣に歪む。
「話をしましょう。ぼくは亡霊――己が何者かもわからぬ哀れなる道化の亡霊に過ぎません。
死に向かう邸宅主は、ぼくに家族のような振舞いをして愛情を向け、本物の親族には絶望しながら死んでいきました。その死に姿は哀れなものでした。正氣と狂氣の狭間にいたぼくの心は、それをかなしいと思ったのでした」
「およそ金というものは、人を狂わせてしまふものなりけり――哀しいものですね。 ぼくは」
影朧はふと額を抑えて言葉を切った。
「ぼくは、がっかりしたのです。ぼくの――『 』たちに。ぼくの……『 』。なんだ? わからない。わからないな、ふ、ふふ」
額を抑えた手の間から瞳が覗く。爛々と輝く殺意。
「ふふ、ご覧の通り。ぼくはバケモノで、狂いつつあるのです……、ぼくのこころが、ずんずんと壊れていくようです。壊れる音がきこえる――嗚呼、けれど構わない。君を、愛してゐるから」
部屋の空気が徐々に冷えていくようだった。いつの間にか、窓の外では雨は止み夜空が晴れ渡ってゐる。窓から覗く月の見事な事、散る花の美しき事。佳景を背負うやうに窓際に歩んだ影朧は、怨念渦巻く軍刀を何処か生真面目さを感じさせる構えで静止させ、遠くを見るような眼で愛を囁くやうに甘やかな吐息を漏らすのだ。
「……愛してゐるのです。いとしいのです。ぼくの――家族が。家族がいとしくて、かなしくて、ぼくは殺すのです。うつくしい日に。この美しい月灯りの下、櫻見守る中――うつくしくしてあげましょう、醜く争うことなきよう、うつくしい家族を取り戻しましょう、そう、ぼくは……ぼくはかなしい。ぼくの家族が、なんと堕落してしまったぢゃないか、ヱヱ? 金などにより――醜く成り果てて――お前等」
取りとめもなく紡ぐ声。月に照らされて影が伸びる。
そこには悲しみと怒りと、愛と――狂氣があった。
💠3章『血に連なる者ども、家族たちよ』
プレイングはリプレイを読む時間や相談期間に余裕を設け、10月10日(木)8時31分~13日8時30分時頃までの期間で受付させていただきます。よろしくお願いいたします。
オルハ・オランシュ
攻撃は極力せず【武器受け】で凌ぐ
桂さんの願いを叶える一助になりたい
うん、隠し部屋からも無事に見付けられたよ
アルジャンテは上手く隠してくれたよね
ありがとう、託してくれて
――『恋ひしくて恋ひしくて筆を執つてしまふのです』
『だうしやうもなくあなたを好きなぼくなのです』……、
ねぇ、覚えてる?
この手紙、どっちもあながた書いたものだよ
本来のあなたと、影朧のあなた
亡霊なんかじゃない……魂は、今もこの世で生きてる
同じ言葉で綴られたこの手紙がその証なの
私も大好きなひとがいるよ
でも、こんなに真っ直ぐな手紙を書くのは照れくさいかな
素直に伝えられるあなたはあたたかいね
あなたの本質はここにある
お願いだよ
忘れないで……!
アルジャンテ・レラ
撃破を狙うか説得するかは場の雰囲気に合わせます。
後者の場合も腕に矢を放ち、攻撃の勢いを削ぐ程度はしましょうか。
オルハさん、手紙は回収されたようですね。
こちらも無事回収出来て安心しました。
些か詰めの甘い影朧で助かりましたよ。
その詰めの甘さに人間らしさを感じてしまったのですが……。
桂さんは生前、親族に手紙を書き遺したそうです。
その手紙を読んだ静子さんは涙を流したのだとか。
感情を揺さぶられたのでしょう。その感覚は、私にはわかりかねますが。
ただ、醜い金の亡者だとはとても思えませんね。
金に魅入られた者もいたのは事実のようですが、貴方は誰一人例外なくそうだと仰るのですか?
醜く成り果てたのはどちらでしょう。
火狸・さつま
皆と連携とる
やっとお目見え、だ、ね?ハトポ!
あれ?違った?とおみみぴるぴる
本当、ジュジュやメボちゃん
皆も、演技上手かった
でも、もう戯れはお終い
お金は、時に狂わせてしまう事もある、ね
それは確かに悲しい事…
でも、邸宅主は貴方の転生を願ってた
靜子さんは…貴方の奥さんも、子孫にあたるお孃さんも
お金より大切なモノ見てる
誰もが金狂いなる訳じゃないし
違うと気付く時もきっとある
自分の家族を、子孫を信じてあげて
本当に慈しみ思いやり愛した事思い出して
敵の行動見切り躱すか彩霞で攻撃いなしカウンター
燐火の炎に雷火の雷撃、2回攻撃
大事な淑女達や仲間への手出しはゆるさない、よ
燐火の仔狐にオーラ防御纏わし走らせ
かばう行動を
ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ歓迎
さつまさんの他にもお友達がいて心強いな
声かけて連携できるといいな
それにしてもみんな演技派だったね!
愛する家族が歪んでしまって悲しかったんだね
でも思い出して
子供達の未来のためにと戦った気持ちを!
その貴方の子孫……家族を貴方が殺してしまうの?
未来を奪うの?
どうか間違えないで
殺すことは愛じゃない
思い出して
貴方には愛があるはず
白薔薇舞刃を二回攻撃
貴方が新たな門出を迎えられるよう願いをこめて、この花を
貴方の孫の桂さんも貴方の転生を願っていたんだよ
オーラ防御を範囲攻撃で範囲を広げてできるだけ多くの仲間を守るよう展開
銃弾を武器受け
風属性付与した衝撃波(メボンゴから出る)で勢いを殺した後叩き落とす
ステラ・エヴァンズ
UCで戦闘力を上げて応戦しつつ説得を試みます
本当の探偵さんもいらっしゃいますし、
詳しい謎解きは委ねます
私は精々補足をする程度で
貴方の名前は『望月清』
貴方を匿ったこの邸宅主は『望月桂』
貴方は“家族のような愛情”と言いましたけれど…正真正銘のご家族……貴方のお孫さんですよ
彼がそれを最後まで知る事はなかったけれど、
貴方を転生させたいと願っていました
だから私はそれを叶えたい
貴方も家族を愛すと言うのなら、
貴方を思って願った優しい孫の願いを叶えてはくださいませんか
嗚呼、それから
なによりの寳…貴方の美しい想いを無粋に暴いて触れました
それだけは…謝らせてください
少し、わかります…私も命懸けの恋をしているから
鏡島・嵐
判定:【SPD】
慣れない演技なんてするもんじゃねーな。肩が凝ってしょうがねぇや。
ともかく、怖い怖い戦闘の時間だ。
待たせたな、出番だぞクゥ(演技で話しかけていたぬいぐるみがみるみる大きくなって焔を纏うライオンの姿に!)
仲間に〈援護射撃〉を飛ばしたり、影朧に〈武器落とし〉を仕掛けたりして、戦いが有利に運ぶようにする。
説得かぁ。
まだ大した人生経験をしてねえおれでどこまで出来るかわかんねーけど。
金に汚ぇ奴にロクなのが居ねえってのは同感だけど、しょうがねぇ。
命や時間は金では買えねーけど、世の中、金で買えるもんの方が多いんだ。
これでも世の中そんなに捨てたもんじゃねえと思うから、幻滅しねえでほしいな。
キアラン・カーター
彼の気持ちは分かる気がする。僕も堕落した人間を見ると……だけど殺人は赦される行いではないんだ。今回は僕たちだからよかったけど……。
なんだか、ぞろぞろと軍人さんが出てきたね。頑張って攻撃を【見切って】逃げないと…戦いはみんなに任せよう。
獄卒将校……清さんと軍人さん達に【宣師の歌】を聴かせて大人しくしてもらえるよう頼んでみよう。少なくとも軍人さん達には帰ってもらおうか。効果が出るまで仲間のみんなには【時間稼ぎ】をお願いしなくちゃ。
この場に桜の精の方がいればその人に彼の転生をお願いしたいけど、いないなら帝都桜學府にお願いすればいいのかな。何にせよ平和的な解決を望むよ。
コノハ・ライゼ
生きているとも、残念ながら
どれだけ怨念を纏おうと、過去に未来を殺させねぇヨ
姿が似てただけで大事に匿うかしらネ
アンタの優しさに亡き息子の気性を重ね
絶望ばかりでないと信じ伝えたかったンじゃないかしら
家族に、子孫に、『なによりの寶』こそが必要と
アンタと、靜子に賭けて
右人差し指の指輪「Cerulean」を剣と化し【天齎】発動
『精神攻撃』乗せた月光色のオーラ纏わせ躊躇いなく斬りつける
反撃は太刀筋と狙いを『見切り』剣で受け
多少の傷は『激痛耐性』で凌ぐ
渡す気の無かった文と瓜二つの、拾った文
誰が認めたモノか、思い出せたデショ
影朧とは幾つもの残された想いから成るモノ
その怨念、預けて頂戴な
まだ微かに残る希望の為に
エレニア・ファンタージェン
人は金に薬に狂う愚かな生き物だけど、殺してしまって何になるの?
まして仮初にでも家族だと言うのなら
UC使用
貴方の望む夢を見せましょう
それは恋した人かしら?それとも家族のように愛してくれた人?
与える感情は「怒りも悲しみも忘れて永遠にこの思い出に耽溺していたい」というもの
だって本来そうでしょう?
貴方は怒っているようだけど、怒りの前にある感情は…果たして何だったのかしら
催眠術で心を紐解くように、怒りの下の本心を自ら語らせるよう語りかけ
自身を取り巻くAdam&Eveに身を守らせて、時に敵を絡め取る
その刃も銃弾も誇り高きものだったでしょうに
もう眠りなさい
貴方達の黄泉事変はきっと子らの未来を守れたわ
マクベス・メインクーン
シン(f04752)と
愛した家族が変わってしまったから殺す?
手段それしか持ち合わせてねぇのかよ
それに、自分の価値観押し付けて
期待外れで勝手に幻滅してんじゃねぇ
本当に愛してたなんてそれで言えんのかよ
小刀に炎の精霊を宿して炎【属性攻撃】【鎧無視攻撃】
でUCを使用して攻撃するぜ
敵の攻撃は氷の【オーラ防御】でガードするぜ
UC使用されたらそっちから倒すぜ
相手を尊重してこそ
愛する資格があるんだとオレは思うぜ
一方通行の愛はただの自己満足にしかならねぇしな
※アドリブOK
シン・バントライン
マクベスさん(f15930)と
愛とは何か、それは人によって違うものでしょう。
ただ、この書簡の便箋一枚一枚はどんな札束よりも価値のあったものだった筈。
金によって人が変わるのではなく、心の隙間を金で埋めようとする姿が、変わってしまったように見えてしまう様に思います。
愛していると呟きながら殺した後、独りで何処へ行くのですか。
愛とは春に探す陽だまり。夏の夜に香る梔子。秋に燃える彼岸花。生きている熱を教えてくれる六花の雪。そんな事を私の愛する人は教えてくれました。
貴方は貴方の愛する人から何を貰いましたか。
思い出して下さい。今生で学び来世に活かされます様。
手向けの花はUCの赤い牡丹
相手の攻撃は第六感で回避
マレーク・グランシャール
影朧よ、俺はお前を羨ましく思う
猟兵となる前の俺にも愛する妻や子がいただろうに、俺は面影一つ思い出せないのだ
だから願わくば輪廻の輪に戻り、再び靜子さんと巡り逢わんことを
手首を傷つけ己の血を代償に【真紅血鎖】を発動し、血の鎖を妖力の源である軍刀に巻き付ける
斬撃や衝撃波を封じるのと、繋いで逃げられなくするのが目的だ
敵の攻撃は【泉照焔】で見切って回避
【金月藤門】の残像とフェイントで意表を突いたら破魔の力を持つ【山祇神槍】のランスチャージで仕留める
戦いの間、「愛する靜子さんとの胤を絶やすつもりか!」と自分達は親族ではなく子孫だとアピール
思いは手紙ではなく口で告げろと、見送る前に靜子嬢と話を勧める
手毬・トキ
あらまあほんとう?揃いねえ
わたくしもねヱ、あなた、
私もね、いとおしいから殺したの
踊るように地を蹴るざまに毒は無く
謡うようにささめく声には艶が乗る
指で撫ぜる刀の柄頭
にこりと笑んで悪魔に告げる
細めた双眼
もう甘く 邪気ばかり
――ええ、殺して好いわ
酷く手に馴染む刀を振るい
一足に押し込めたなら
斬り結びませう、果つる迄
狂い つつ なら間に合うかしら
狂ってしまえばもうおしまい
屹度もう届かないね
わたくしね いとおしいから ころし た の
矢来・夕立
黒江さん/f04949
どうも何も、愛に狂っちゃった実例なら目の前にいるでしょ。
…影朧のコトです。さっきのは演技ですってば。
オレからは特に話すコトはありません。
この世界の仕組み…転生も改心もどうでもいいですし。
いつも通り《闇に紛れて》《忍び足》で機を窺う。
斬撃や衝撃波は、黒江さんなら避けるでしょう。
いやむしろ好機ですね。そこで殺します。
同志さんの霊を呼ぶなら先んじて潰しますが。
黄泉事変でしたっけ?
何やらおおごとだったみたいですけど。
その中で《暗殺》されちゃったりとかも、覚悟の上でしたよね?
志の人ってやっぱちょっと分かんないです。
士《サムライ》の、心と書いて、志。
忍びには生来縁のないものですから。
桜屋敷・映臣
ハル君(f22645)と
彼は元々壊れていたのでしょう
影朧とは元来そういうもの…それでも抗い続け
終いに狂気に堕ちた
何物でもない、愛した家族によって
これ以上の皮肉はないだろう
儚くも凄惨と評される著作より現れるは【情念の獣】
――僕は探偵でしてね
犯人たる貴方の全てを知りたくて堪らないのです
『靜子』…貴方はこの名に覚えがある筈
貴方にとって何より大切な方の名
過去も現在も同じ名の女性に惹かれるとは
運命を感じざるを得ませんよ――ねえ、清殿
不安定な貴方を救った存在
…狂気に陥った今
貴方は何を想うのでしょうね?
高速移動による攻撃は回避を試み
傷は激痛耐性で凌ぎましょう
…大丈夫、僕は未だ死ねない
事件の顛末を見届ける迄は
桜屋敷・悠騎
義兄さん(f22547)と
…影朧の特性を知れど
斯様に愛憎の情を抱くとは痛々しい
――その苦しみも今日で終りと致しましょう
貴方に、幻朧桜の加護があらん事を
彼の荒ぶる心を鎮める為にも
鞘から抜いた【強制改心刀】で一閃を与えます
ささやかな変化すら逃さぬよう
常に視界から影朧を外す事なく挙動を観察
彼の刃は刀で受け流しを試み
猟兵の危機には率先して援護を
家族に絶望したと、貴方は仰る
金に苦労した貴方の過去を思えば尚更の事
確かに金に眩んだ者は少なくないでしょう
…然し貴方にとっても愛おしい人
彼女すら金の亡者とお思いか?
手紙にはこう書かれておりました
――靜子はお金よりも恋に興味がありますわ、と
健気な娘とは思いませんか?
黒江・イサカ
夕立/f14904
“美しい家族を取り戻したい”、ねえ
“金などにより醜く成り果てて”、ねえ
さあ、それってばどうなんだろう
その刀で取り戻せるのかしら
そんなもの、本当に君にあるのかしら
そんなもの―――…本当に君に、あったのかしら
マ、もちろん僕らは君の親類などではないのだけど
君を愛してるから壊れても構わないだってさ、どう思う?ゆうちゃん
愛はひとを、狂わせちゃうのかな
さて、折角だしさっきの意趣返しといこうか
さっきまではたくさん、君、殺そうと思うままに殺してきたんだろ?
次は殺そうと思っても全然殺せないやつ、味わってごらん
僕の【楽園】へどうぞ
死か生か、幸か不幸か
君が決めることってことさ、狂いさん
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
綾華(f01194)と
影朧は転生できる、そうだよな?
その純粋な想いが間違った方へ暴走してるなら、正してあげたい
だから綾華、一緒に声かけてくれないか?
まずは一気に敵の元へ詰め寄り
凛然で軍刀を受け止め、鍔迫り合い
全力をこめつつ声かけ
貴方は親族から裏切られた
だけど、靜子の気持ちは嘘じゃなかった
貴方が彼女を殺すことは、彼女を裏切ることと同じだ!
自分が影朧だから、なんて言い訳にならないぞ
ちゃんと自分の意思で、真っ当に彼女に応えてやれ!
相手が怯んだなら、綾華!と声をかけ
彼が抑え込んだなら、同時に『亡き花嫁の嘆き』を叩き込むぞ!
えへへ、どうしてもガツンと言いたくなったからな
綾華だってそう思ってただろう?
浮世・綾華
ヴァーリャちゃん(f01757)と
俺としちゃあヴァーリャちゃんを傷つけた奴に
情けなんてかけたくないケド
複製するのは黒鍵刀
向かい来る軍刀を取り囲むように浮遊させ
一本ずつ向かわせることで攻撃の手を奪う
(いとおしいなら、殺すなんて言うな)
――なんて、言えないのだ、自分には
ただひとつ、分かることがある
お前、自分が狂ってるって分かってんなら
お前の行動が狂ってるっていうのも、分かるんだろう
本当にそれはお前の意志か?
――俺はそうは、思わなかったよ
彼女の声に頷いて、操り直す刀
足元を集中的に狙い、動きを封じ彼女の攻撃が通るようにと
言わずとも心の内を見透かされたようで
まあ、うん。そーネと目を細める
●小さな秋の小部屋の中で
部屋の中、影朧が歪んだ眼差しを向けている。
コノハ・ライゼ(空々・f03130)が紫雲に染めた髪を掻き揚げて影朧に妖艶な微笑みを向けた。
「生きているとも、残念ながら。どれだけ怨念を纏おうと、過去に未来を殺させねぇヨ」
「ああ」
同意するマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)はあくまでも親族のふりをしたまま影朧と相対していた。
「会社は俺が継ぐ。まあ、任せたまえ」
傲然とそう告げ、けれどその瞳には不思議とあたたかな光が宿っているようにも見えた。
(影朧よ、俺はお前を羨ましく思う。猟兵となる前の俺にも愛する妻や子がいただろうに、俺は面影一つ思い出せないのだ)
記憶を持たぬ男は顎を引く。
「今の事は、今を生きる者に任せて貰おうか」
(だから願わくば輪廻の輪に戻り、再び靜子さんと巡り逢わんことを)
無表情ながらその瞳には祈るような色が浮かんでいる。それが不思議で影朧はマレークの瞳に吸い寄せられるように見入り、「この子孫は何者なのか」と思うのだった。
影がゆらゆらと揺れている。不安定な様子は内面を示すようだった。
「彼は元々壊れていたのでしょう」
桜屋敷・映臣(桜蝕の筆・f22547)が煙管を揺らしておっとりと声放つ。
「『猫を襲おうとする自らを抑えるやうに身を掻き抱き苦しみ震える』。桂氏が初めて会った時点で、彼は壊れかけていたのですから」
映臣が室内に伸びる影に視線を落とした。吐く煙に霞むような朧な影がゆらゆらとして、映臣はそっと目を伏せる。
「影朧とは元来そういうもの……それでも抗い続け、終いに狂気に堕ちた。何物でもない、愛した家族によって。これ以上の皮肉はないだろう」
「……影朧の特性を知れど斯様に愛憎の情を抱くとは痛々しい」
桜屋敷・悠騎(桜守の剣・f22645)の表情はいつもと変わらず、相も変わらずの冷静な気配を纏っていたが義兄はその声に悠騎の優しき心根を感じてあたたかな目をした。
「――その苦しみも今日で終りと致しましょう。貴方に、幻朧桜の加護があらん事を」
悠騎が鞘から魔を退ける刀をすらりと抜く。悠騎の霊力が刀に籠められ、清冽に刀身が輝いた。肉体を傷つけることなく邪心のみを攻撃するその刀業は強制改心刀と名付けられている。義兄はその名付けを聞いた時「いかにもこの義弟らしき名付けだ」とほほ笑んだものだ。
蓄音機がのろのろと流行り歌を奏でている。時折止まり、時折雑音混じらせ――、
「“美しい家族を取り戻したい”、ねえ。“金などにより醜く成り果てて”、ねえ」
黒江・イサカ(青年・f04949)が奇妙な声調子で繰り返した。
「さあ、それってばどうなんだろう。その刀で取り戻せるのかしら」
「どうも何も、愛に狂っちゃった実例なら目の前にいるでしょ」
矢来・夕立(影・f14904)が冷めた瞳で影朧を見るが、傍らのイサカは前に視線を向けたまま何処か壊れたカナリヤのように言葉を操る。
「そんなもの、本当に君にあるのかしら。そんなもの―――…本当に君に、あったのかしら」
ピイ、ピイ。どこかから乾いた羽音が聞こえそうなその風情に夕立が眉寄せる。
「……影朧のコトです。さっきのは演技ですってば」
イサカはくすりと笑い、体の向きはそのままに視線を横にずらした。見えるのは――忍びの彼。
「マ、もちろん僕らは君の親類などではないのだけど。君を愛してるから壊れても構わないだってさ、どう思う? ゆうちゃん。愛はひとを、狂わせちゃうのかな」
「オレからは特に話すコトはありません。この世界の仕組み……転生も改心もどうでもいいですし」
返す瞳はいかにもこの少年らしい色合いであった。
「あ、そう……」
イサカは肩を竦めて影朧を見た。もういいや、と帽子をかぶり直して印象的な瞳が夜色に哂う。
「さて、折角だしさっきの意趣返しといこうか。さっきまではたくさん、君、殺そうと思うままに殺してきたんだろ? 次は殺そうと思っても全然殺せないやつ、味わってごらん」
影朧が鼻に皺を寄せる。
「何を――」
声を遮るように真剣な声が挟まれた。
「やっとお目見え、だ、ね? ハトポ!」
火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)が犯人の名を呼ぶ。なにせジュジュがダイイングメッセージを遺したのだ、間違いないだろう――、けれど仲間達は噴き出した。
「それにしてもみんな演技派だったね!」
ハトポのダイイングメッセージを遺したジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)がくすくすと笑っている。
「本当、ジュジュやメボちゃん、皆も、演技上手かった。でも、もう戯れはお終い」
『演技おしまいー!』
さつまに同調するように粛々と前に進み出てシルクのドレスの両裾をつまみ優雅にお辞儀をする兎の淑女・メボンゴ。声はジュジュが担当している。
「ああ、おしまいだ」
鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)が演技で凝り固まった筋肉をほぐすように首や肩を振り、人好きのする笑顔を見せる。
「慣れない演技なんてするもんじゃねーな。肩が凝ってしょうがねぇや」
よく通る声は先程までと全く違うではないか。影朧が眉根を寄せた。
「演技だったというのか。全て」
嵐が眉尻を下げて頷いた。
「金に汚ぇ奴にロクなのが居ねえってのは同感だけど、しょうがねぇ。命や時間は金では買えねーけど、世の中、金で買えるもんの方が多いんだ。これでも世の中そんなに捨てたもんじゃねえと思うから、幻滅しねえでほしいな」
声にはおよそ敵意というものがない。どこか怯えを滲ませる少年は、人口照明に照らされてなお明るい瞳をしっかりと影朧に合わせていた。
影朧はそんな『得体のしれない者達』に向けて軍刀を向ける。のびやかで明るい歌声響く中切っ先が冴えやかに尖り、殺意が部屋に満ちる。
「ハトポ、おれの仲間は傷つけさせない、よ」
さつまの足元には炎めいてゆらゆら輪郭揺らすちいさな仔狐達がころころと転がるように遊んでいた。ゆらめく尾っぽを互いに追いかけるようにしてさつまの足元をくーる、くる。仲間達の足元をくーる、くる。稚く声を上げ目をくりくりさせて、一見遊んでいるようにみえる仔狐達。
「――同志よ」
影朧が唸るように言うと、影から何かが発射された――銃弾だ。目の良い者達がハッとする。
「キュヤ!」
「クルル」
仲間に向かう銃弾を見咎めて声放ち、仔狐数匹がぴょんっと跳んでふわふわの狐尾で鉛弾を打ち落す。バシっと落ちた弾を別の仔狐が玩具のように前脚ではたいて、狐火が燃えて包んで火の玉のようになった後、ぶんっと新たな銃弾に向けて打ち返し。敵が銃を放つたび仔狐達の玩具が増えて火の玉が皆の周りにゆらゆら浮いた。守りの炎だ。
「面妖な術を!」
影朧が唸るように言葉を吐き、青白く影朧の気を纏う刀を鋭く突き出した。仔狐達が剣風にくるくる舞う中、文様広がる尾を揺らして長身のさつまが声放つ。
「もいちど言うけど。大事な淑女達や仲間への手出しはゆるさない、よ。ハトポ」
「そのハトポとはなんだ」
苛立ち紛れに影朧が刀を振る。室内で振られる刀は少し窮屈そうだった。それを感じ取りながらさつまの彩霞が軍刀をいなし、周りで踊るようにしている仔狐達の炎とあわせて刃伝いに電撃を浴びせる。周囲を一瞬鮮烈に照らした黒い雷光に影朧が堪らず悲鳴をあげた。
「あれ? 違った?」
狸めいた色の狐耳をぴるぴるしながらさつまが「ハトポのはずなのに」と首をひねる。
それがあまりにも不思議そうなので影朧は「もしかしてぼくはハトポという名前なのか」と本気で信じそうになるのであった。
「名前はさておき、どうやらただの人間ではないようだね。……そうか、ユーベルコヲド使いが派遣されてきたのか」
さつまが頷いた。自分達はユーベルコヲドの使い手である、と。
「お金は、時に狂わせてしまう事もある、ね。それは確かに悲しい事……でも、邸宅主は貴方の転生を願ってた」
「知らぬ! 聞かぬ!」
窓を割り、影朧が外にひらりと出ていった。
「待て!」
猟兵達が追いかけて外に出る。
影朧の頭の中がぐるぐると惑い、混乱している。歪んだ自我が元に戻ろうとしては歪み、己を取り戻そうとしては壊れ。
声が追いかけてくる。
「自分の家族を、子孫を信じてあげて。本当に慈しみ思いやり愛した事思い出して」
ジュジュが影朧の背に優しく呼びかける。仔狐から淡く立ち昇る狐火は明るく世界を照らしていた。
●朧櫻イルミネヰト
外に出た猟兵達の視界に大勢の怨霊帝国軍人が犇めいていた。影朧が召喚したのだ。
桜舞わせる風と共に悪意の衝撃波が襲い掛かる。
「おっと」
マクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)が小刀を抜き衝撃波を切り裂いた。怨念篭る禍々しい気を切り拓く銀色刃は清らかに、握手の青い宝玉が神秘的に耀いて精霊の力を伝えている。放つ声には遠慮がない。
「愛した家族が変わってしまったから殺す? 手段それしか持ち合わせてねぇのかよ」
ぐい、と手をやり覆面を脱ぎ捨てれば下から出てきたのは青空の瞳持つ気の強そうな少年だ。生気に満ちた表情は活き活きとして、脱いだ拍子で頭に獣めいた耳がぴんっと立ち、「っとと」と呟いてそれを隠すようにハンチング帽を被り直した少年は双眸に力を籠めた。
「それに、自分の価値観押し付けて期待外れで勝手に幻滅してんじゃねぇ。本当に愛してたなんてそれで言えんのかよ――、」
視線の先では正気を手放した様子の影朧が恍惚と月を見ている。
その目が、声に惹かれた様子でマクベスを見た。
「見てごらん、月が綺麗だね」
影朧が酩酊したように息を吐き、剥き出しの刀を振った。軍刀から衝撃波が放射され、影朧に召喚された同志軍人達は一拍遅れて軍用拳銃を撃ち鳴らす。
銃声に彩られる夜に「そう、殺したの? 殺すの?」と得体のしれぬ声が混じった。
ひょこり、闇から躍り出たのはもう一人――手毬・トキ(人間の殺人鬼・f23145)。風に乗るようにふわふわと、愛嬌のある目をにこりを笑みの形に魅せて。
手には刀がある。ころころと鈴を転がすようにトキが哂う。
「あらまあほんとう? 揃いねえ」
ご機嫌に跳ねるようステップ踏み、口元に手をあてて娘が哂う。
「わたくしもねヱ、あなた、私もね、いとおしいから殺したの」
踊るように地を蹴るざまに毒は無く、謡うようにささめく声には艶が乗る。綺麗に整った爪先、やわらかな指の腹でつつと刀の柄頭を撫ぜて口元はにこりと微笑んだ。
「――ええ、殺して好いわ」
――ああその細めた双眼の愛らしさ
もう甘く 満ち満ちるは邪気ばかり――
トキがいとおしげに唇を窄める。刀が手によくよく馴染む。夜照らす月が今宵無数の銀色を光らせていた。迫る凶刃一つ一つを愛でるようトキが見守り、踏み込みはダンスのように優雅なり。
風震わせる刀描く軌跡は優美なれど鋭く血花咲かせて、刀が手に酷く酷く馴染む。金属のかちあう音が高らかに、あるいは狂気帯し女の金切り声にも似てヒステリックに夜を騒がせ、それもまた佳しとトキが身を乗り出してぐいと前に刀を押し込んだ。
「斬り結びませう、果つる迄」
睦言のように紡ぎ声を置きながらなだらかな肩が揺れている。華奢な身体はバネのように峻烈な刀撃を生み、桜吹雪起こす嵐のよう。終わらぬ舞踏は望むところ――トキが尽きぬ怨霊の気配にあえかに微笑み、無邪気なようでいて邪気しか見えぬ夜に愉悦を刻む。
「狂い つつ なら間に合うかしら。狂ってしまえばもうおしまい。屹度もう届かないね」
月を背負うは今や彼女であった。桜の木と夜と月を背に微笑むは、――殺人鬼。
「わたくしね いとおしいから ころし た の」
その微笑みは極上の果実に似て甘やかに毒滴らせる。トキは綺麗に綺麗に微笑んで、刀濡らす朱色で爪先に化粧を施し、戯れに月に翳してやや子のように燥ぐのだった。
そんなトキに「君も?」と目を瞬かせ、影朧は首をゆらりと傾けた。そして、更なる怨霊を呼び寄せる。
「殺そう、殺し合おう」
「血をもって道を拓く。もはやそれしかない」
怨霊軍人達がざわざわと騒ぎ、ここに血宴が催された。
びゅうびゅうと風が吹く。
夜空に浮かぶ雲を押し流し、流された雲に隠されていた星が顔を見せ、次に流されてきた雲にまた隠されてしまう。
ひゅうひゅうと桜が鳴く。
夕立の耳朶を擽るように掠めて花弁が舞いあがり、あがった先でもちあげていた風が力失い重力に引かれて地に落とされてしまう。
「僕の楽園へどうぞ」
紳士的に客を持て成すかのような声が聞こえる。血の臭いが充満する邸宅の庭に、剣戟と銃声響く宴に。
声を聞く夕立は無関心な瞳で闇に紛れていた。気配を完全に断ち、忍びやかなる姿に戦場にいる誰一人気付くことがない。避けるだろう、と思いながら見守っていればイサカがすいすいと軍刀を避けている。
その顔に焦燥が浮かぶことはない。ただ遊戯に興じるような余裕がある。
「死か生か、幸か不幸か。君が決めることってことさ、狂いさん」
声は不思議と親しみが籠められ、飄々とした。長く伸びやかな足は雨に湿った土を愛でる様踏んでぐしゃりと音鳴らし、泥跳ね――なのにその身に土が付くことは不思議とないのだ。
狂いさん、と呼ばれて影朧は素直に頷いた。
「ああ、その名はぼくに相応しい。まったくぼくは狂っている」
刀がひゅんと空気を唸らせ、桜の花弁を巻き込んで斬り捨てる。捉えたと思った青年は、しかしそこにはいなかった。
「なかなか捉まえられない。影を追いかけているようだ」
影朧が眼を丸くする。その様子は不思議と純情素朴な青年のようにも見えるのだ。
「捉えてどうする。守りたかったのではないのか」
ふと声が問いかければ影朧の心に何かが突き刺さるようだった。否、それはずっと心を刺し続けているのだが、すぐに痺れてわからなくなってしまうのだ。
「え、」
間抜けにも思える声をあげ、影朧が『炎』を見た。
マレークの泉み照らす焔らの小さな水晶の内で消えない炎が燃えている。思い出すのは盾の彼の事だ。マレークが普段いなくなる前提でばかり話すから、彼は明るく輝く鼓動のような、消えない炎を燃やしたのだ。敵意と殺意の銃弾の雨の中をマレークが泰然と進む。銃の方が避けてくれているような顔をして、けれどよくよく見ればその動きは慎重に銃を読み、道を選んでいた。
「……彼奴を近寄らせるな」
影朧の声に怨霊軍人達が息を合わせて軍刀を突き出した。だがマレークの切れ長の瞳は冷静に刀の動きを読み、悉くを避けながらも故意に手首の皮を僅かに切り取らせた。飛沫を上げる鮮血が空中で不可思議な動きでしゅるしゅると絡みあい、長い紐状に寄り合って鎖となる。
「ぬうっ?!」
目を見開く影朧の軍刀に鎖がぬるりと巻き付いた。青白く冷たい影朧の妖気を抑え込むように巻き付いた真紅の血鎖に影朧が忌々し気に顔を歪ませて刀を振る。
「ええい――放さんか」
「そんな鎖如き、千切ってしまえばよかろう。なっちょらん」
「使い手を斬ればよかろう」
怨霊軍人達が軍刀で血鎖とマレークを狙っている。
マレークの左手の甲で月と藤が雅に踊る。金月藤門は白手袋の内に効を発して敵に残像を見せた。そして、一喝する。
「愛する靜子さんとの胤を絶やすつもりか!」
「何――、」
この時、影朧は確かに意表を突かれたのである。
「若造が!」
「同志を惑わす不届きものが」
怨霊軍人の刀がマレークに迫る。なぜか避ける気配をみせず、マレークは立っていた。マレークに迫る刃を見て影朧が口を開く。目には何かが宿っていた。
「待て諸君! 待ってくれたまえ!」
その口からついに同志を止める声が出た。それは咄嗟に出た言葉だった。魂の奥底から湧いて出た衝動だった。
「やめてくれないか、殺さないでくれないか、その子を」
ふ、と口元に仄かに笑みめいた弧を滲ませてマレークが大山祇神の繁茂の力を穂先に宿した槍を水平にして雷の如き突進をした。マレークに向かっていた軍刀・怨霊・全てを押しのけ、気付けば影朧の息さえ届く距離にいる。
「あ――」
驚愕の染まる貌はひどく人間らしい。
「思いは手紙ではなく口で告げろ」
囁く声は影朧にだけ届く。それを認識した瞬間影朧は地に倒されていた。
「口で……お嬢さんに。あの子に」
ぼんやりとした影朧が視線の高さに伸びやかに横たわる地面を見る。泥の薫り、桜の薫り、血の薫り。
「う、う、うう」
瞳に霞がかかるように影朧は呻いた。
影朧は夜を怨むような眼を見せて刀を振り上げる。
「彼が悩んでいるのを知っていた。ぼくが人ではないから、匿ってはいけない存在だから。最期までぼくを守ろうとしてくれていたように思っていたが」
通報してユーベルコヲド使いを派遣した、と影朧は呟いた。声は空虚な気配を孕んでいた。感情がさざ波を立てる様が具現化したような衝撃波が押し寄せて――、
「違うよ!」
オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)がウェイカトリアイナを振り上げて後衛に向かう衝撃波を受け止める。後ろではアルジャンテがロングボウに矢を番えて集中している。
そして、アルジャンテの後ろから嵐が続く。
「ともかく、怖い怖い戦闘の時間だ。待たせたな、出番だぞクゥ」
嵐がふるりと身を震わせてぬいぐるみに声をかける。戦うのは、怖い。何度経験しても、だ。だって、ほんの一瞬反応が遅れただけで、僅かに運が向かなかっただけで、身が傷つき生命が失われるのだ。敵も味方も。敵が向けてくる殺意に慣れる日は来るだろうか?嵐には、そんな日が遠く見えた。慣れてしまう自分を想像すれば、それもまた怖い事のように思える。そんな想像をすると、ふと嵐の祖母が穏やかな声で星を教えてくれた夜を思い出して、どうして人は戦うのだろう、なんて思うのだ。
「くるるる」
そんな嵐に一声応えて、演技で話しかけていたぬいぐるみがみるみる大きくなる。悠然とした目は知性の煌めきを帯び、全身を覆う毛は煌々とした焔を纏い、燃ゆる焔を纏った黄金のライオンが仲間達の前に躍り出て守護の意思見せ身構えた。
「こっちも」
さつまの仔狐達がふわふわと火尾を揺らしてライオンの周りに集まり、敵を威嚇するような顔をした。
ゆっくりと影朧が起き上がる。ひどく緩慢な仕草だった。
「オルハさん、手紙は回収されたようですね」
アルジャンテ・レラ(風耀・f00799)が声をかけながら放つ矢は正確無比に銃弾を穿ち地に落とした。微弱な風の動きすら読み計算した上での一矢はただ一度で射手の技量の高さを知らしめ、敵群がどよめいた。
そんな敵群に向けて勇ましくウェイカトリアイナを振り、オルハがしっかりと頷く。
「うん、隠し部屋からも無事に見付けられたよ。アルジャンテは上手く隠してくれたよね。ありがとう、託してくれて」
「こちらも無事回収出来て安心しました。些か詰めの甘い影朧で助かりましたよ。その詰めの甘さに人間らしさを感じてしまったのですが……」
アルジャンテはそう言うと敵を見た。
(人間らしい)
少年はそう思う。感情というものは、理屈ではなかった。本の中 には人により生き生きと描かれた感情が溢れていたし、彼の周りにも沢山の感情豊かな猟兵達がいた。どこかの青空の下、馬車に揺られて旅の盗賊と過ごした時間、蔦に覆われ廃墟めいた図書館、夕暮れに染まる書店。ここにも――とアルジャンテはオルハを見る。
(桂さんの願いを叶える一助になりたい)
見つめる先でオルハが昂然と顔を上げるのが見える。考えていることがわかる。助けたいのだ、この少女は。心に届けと張り上げた声が、手紙の文言を諳んじる。
「――『恋ひしくて恋ひしくて筆を執つてしまふのです』『だうしやうもなくあなたを好きなぼくなのです』……、ねぇ、覚えてる? この手紙、どっちもあなたが書いたものだよ」
影朧が戸惑いに瞳を揺らす。
「何?」
自分が嘗て書いた手紙というものが薄っすらと影朧の心に囁きかける――嘗て自分がどうであったのか。自分が誰なのか。ゆらゆら、濁流の中を浮かんでは沈む記憶の断片、自我の欠片が揺れている。
「本来のあなたと、影朧のあなた。亡霊なんかじゃない……魂は、今もこの世で生きてる。同じ言葉で綴られたこの手紙がその証なの」
オルハがそう言って舞う桜花弁をひとひら手に取った。雨の名残に湿り気を帯びた柔らかな一枚をやさしく見つめ、手を放す。ひらり、落ちていく桜は風に揺られてひどく穏やかだった。
「私も大好きなひとがいるよ。でも、こんなに真っ直ぐな手紙を書くのは照れくさいかな」
オルハがその藍染の瞳を思い出す。
(手紙を書いたら……)
考えるだけで頰が赤くなる。
「素直に伝えられるあなたはあたたかいね」
声はまっすぐで純粋なこころを伝えた。清は言葉を失った。
「あたた、かい?」
それは、荒ぶり人を傷つけようとする影朧である己に向けられた言葉なのか、と清は驚くのであった。そして、言葉をかけられた瞬間、少女の瞳に己が映った瞬間、突然自分があたたかな生き物であったような感覚を覚えたのである。
「あなたの本質はここにある。お願いだよ、忘れないで……!」
昏き闇から陽の下に引きあげるようにオルハが懸命な声をあげる。まるで親しき仲のように心を寄せ、優しい声をあげている。なぜそんなに懸命なのかと、清は驚いた。そんな少女のひたむきさを彼は好ましく感じて、そう感じる自分に戸惑うのだ。
「助けたいからですよ」
そこに、静かな声が添えられた。落ち着いた声は淡々として、荒ぶることがない。この声が果たして動揺に揺れることがあるのかと疑問を覚えてしまうほどの静けさ。少女とは対照的であった。
「桂さんは生前、親族に手紙を書き遺したそうです。その手紙を読んだ静子さんは涙を流したのだとか」
彩りの異なる幻想的な双眸には理知の輝きが強い。
(推理小説の登場人物はこんな気分だったのでしょうか)
あの小説の心理描写は丁寧だった。アルジャンテは読んだ本に描かれていたそれをトレースするように声を続けた。
「感情を揺さぶられたのでしょう。その感覚は、私にはわかりかねますが。ただ、醜い金の亡者だとはとても思えませんね」
少年は淡々と分析を語る。月の光に照らされて短い白銀の髪がさらりと揺れる。どこか人形めいた少年は、言葉一つに明晰さを伺わせる。論理的思考に長け、知識豊富であろうと思わせる。
「金に魅入られた者もいたのは事実のようですが、貴方は誰一人例外なくそうだと仰るのですか? 醜く成り果てたのはどちらでしょう」
ロングボウを握る手はゆったりとした袖に覆われていかにも大人しげで、けれど影朧が攻撃の予備動作に映れば即座に矢を放つことだろう。そんな用心深さが感じられる構えであった。
「通報の手紙は、結局出されぬままだったようです。私達は通報されてやってきたわけではありません」
背に白い翼を広げ、白き衣に身を包んだステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)が星の輝きを宿した瞳を淑やかに影朧に向けた。
「貴方の名前は『望付清』。貴方を匿ったこの邸宅主は『望付桂』。貴方は“家族のような愛情”と言いましたけれど……正真正銘のご家族……貴方のお孫さんですよ」
玲瓏とした声には影朧を傷付ける意思は欠けらもない。気遣うような案じるような、祈るような響きが耳に柔らかく、清らかだ。だから、影朧は思う。その言葉に偽りは無いのだと。
「孫。ぼくの? 彼が。あの子が」
「彼がそれを最後まで知る事はなかったけれど、貴方を転生させたいと願っていました」
瞳を揺らす影朧を痛ましく見つめてステラが息を吐く。満天の星空を流したような艶めく髪がさらりと流れて、その美しさが現実離れして不思議と乱れた心を落ち着かせてくれるようだった。超常なる存在が目の前にいるのだと影朧は思った。自分が亡霊ならば、彼女は神仙の類か、星の精か。
「だから私はそれを叶えたい。貴方も家族を愛すと言うのなら、貴方を思って願った優しい孫の願いを叶えてはくださいませんか」
切々と訴えるステラの声が夜の空気に染みるようだった。影朧は孫を想い、桜を見た。
「嗚呼、それからなによりの寳……貴方の美しい想いを無粋に暴いて触れました。それだけは……謝らせてください」
いくつもの手紙に触れたことを触れ、ステラは静々と頭を下げた。その姿が無防備で、影朧は困ったように軍刀の切っ先を揺らす。
「少し、わかります……私も命懸けの恋をしているから」
頭を下げたまま、ステラが呟いた。声には人間らしい感情が篭り。
「……」
さらりと髪を揺らして顔を上げたステラの頰が淡い桜色に染まっていた。窺えるのは、蜜の如く甘やかな恋心。それを感じ取り影朧が己のそれを思い出すような顔をして呟いた。
「ぼくが、望付清。死んだ彼が、望付桂……なによりの寳」
影朧は舞い落ちる花弁を見た。
「お嬢さん……は、心のうつくしいひとだろう。そうだろうと思っていた」
ふわりと夢の狭間を彷徨うようにほほ笑んで影朧は周囲の軍人に声をかける。
「ああ、助けてくれないか。頭がおかしくなってしまう」
影朧の周囲にうすぼんやりとした人影が幾つも浮かび上がる。いずれも纏う軍装を等しくする帝都軍人だ。
「同志諸君!」
号令で前列の軍人たちが一斉に抜刀し、後列は拳銃を抜く。と、そこへ影より這い出でし影の大蛇が軍人達の刀を絡め取り、足を取る。
「その刃も銃弾も誇り高きものだったでしょうに。もう眠りなさい、」
優艶な声が場を浸す。
「貴方達の事変は確かに子らを守ったわ。それは、本当の話」
エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)が真白の睫を羽搏かせ、蠱惑的な瞳を眇めて彼を見る。
「さっき。ぼくの……『家族』とでも言おうとしたかしら。人は金に薬に狂う愚かなものだけど……殺してしまって何になるの?」
手に持つ杖をゆったりと揺らせば影朧に薄く烟るような魔気が纏い付き夢見せる。
「貴方の望む夢を見せましょう」
影朧が息を呑む。何かに惑うような顔をして。
「それは恋した人かしら? それとも家族のように愛してくれた人?」
やんわりとエレニアの言葉が幻夢へと誘う。影朧のぼんやりとした瞳には彼にしか見えない姿が映り、耳には声が届いていた。
彼は、手紙を受け取ったのだった。そこに書いてあったのは、彼を受け入れる言葉だった。
その文面を彼は何度も読んだのだった。何度も何度も読んで、いかなる金品よりも価値のあるそれは彼に幸せを教えてくれて。
そして、彼女と初めて言葉を交わし――名を呼んでもらって。
名が消えていく。雪のように。掴んだと思った何かが消えていく。其れを掴みなおそうとして、彼は今度は老いた指を思い出すのだった。
骨の上に皮を引っ詰めたような指は強張り、震えて覚束なく、冷えてゴムのようだった。それが彼の頰を撫で、手をさすり、宝に触れるような顔をして。徐々に弱っていった。
痩せた体は時過ぎるにつれ命が抜け落ちていくようで、それを止めることがどうしようともできず、刻限が迫るのをひしひしと感じて。
ああ、孫が彼に愛しそうに視線を投げて、けれど焦点が合ってやいない。彼にありがとうと言い、済まぬと言い、そしてまたありがとうと言って、胸を上下させ腹をへこませふくらませ、ゆっくりゆっくりと静かになってモノのようになりにけり。
「だって本来そうでしょう? 貴方は怒っているようだけど、その怒りの前にある感情は……果たして何だったのかしら」
エレニアの声がやわらかに脳を溶かすようだった。脳髄が痺れるようだった。目蓋が熱く、胸はポッカリとした。それは、過去だった。もうこの世界のどこを探してもない者達を彼は覚えていて、過ぎ去りし過去はもう戻らぬというのに彼だけは今に居た。
「エリィ、それを知っているわ」
「ああ、ぼくも知っているよ」
夢から這いずり出るように影朧が瞬きをした。
「夢は、君が見せてくれたのか」
単なる娯楽。お人形遊び。阿片の女神はそう微笑んで。
「ええ、そうよ」
杖を両手で揺らしてみせた。影がふらふらと舞うようで無邪気な気配が伝わると影朧は淑女に対するよう丁寧に一礼した。
「好い夢だった」
そう言って彼は笑ったのだった。そして頭を覆い、己の悪逆に思いを馳せて痛みを感じるような顔をし――痛みがどこかで愉悦と狂気に塗り替わっていく。其れを感じて恐れるような眼をして、けれどその眼もだんだんと染まりなおしていく。
「どうも、難儀しているようですね」
変わらぬ覆面姿のシン・バントライン(逆光の愛・f04752)は悠然と佇み、櫻を見る。
「うつくしい月夜、うるわしき幻朧桜ですね」
赤い牡丹の花びらがはらりと桜に混じる。薄紅と共演するようにふわりはらりと舞い踊り、くるくると風に舞う。月が照らす自然光の下で邸宅に宿る明かりと塀の外で輝く瓦斯灯が夜の深藍を照らしている。その中を花がちらちら踊り、色添えて。
「草色は青々として、柳色は黄金に輝く。桃花は歴乱として李花は香し」
朗々と謳いあげるシンの掌から赤い花が零れる。ユーベルコヲドだ。
「東風は吾が為に愁ひを吹き去らず。春日はひとへに能(よ)く怨らみを惹いて長し」
ふ、と息をつくその姿には全身が夜に溶けこむような黒衣装に包まれ、けれど不思議な色香が漂う。覆面に覆われた正体は未だ視えぬ。にもかかわらず声の在り様や何気ない指の仕草一つが風雅人の気を思わせる。そんな男であった。
「愛とは何か、それは人によって違うものでしょう。ただ、この書簡の便箋一枚一枚はどんな札束よりも価値のあったものだった筈」
シンが書簡を示し、憂い声を響かせた。
「金によって人が変わるのではなく、心の隙間を金で埋めようとする姿が、変わってしまったように見えてしまう様に思います。愛していると呟きながら殺した後、独りで何処へ行くのですか」
赤い花に触れた怨霊軍人達が呻き声をあげて後退る。
「ユーベルコヲドか」
そんな彼らを哀し気に観て、シンは軽く首を振る。
「愛とは春に探す陽だまり。夏の夜に香る梔子。秋に燃える彼岸花。生きている熱を教えてくれる六花の雪。そんな事を私の愛する人は教えてくれました」
ゆったりとした声には凍えた心を解きほぐすような温度が宿っていた。
「貴方は貴方の愛する人から何を貰いましたか。思い出して下さい。今生で学び来世に活かされます様」
「来世」
「ええ、そうです。輪廻、転生。貴方にも未来があるのですよ」
シンは優しくそう告げた。真っ暗な底に沈む者を引き上げる一条の細糸を垂らすが如く。
ざ、ざ、ざあ。と風が奔る。
湿った空気が泥混じりで、ふわふわと幻朧桜がその中で揺れていた。太い木の幹はどんなに風が吹いてもどっしりと構え、けれど枝葉は大きくしなり、揺れている。ぽろりぽろりと花弁を落とし、はらりはらりと花が散る。どんなに散っても散り切ることなく栄えるのみの不思議な幻朧桜。その下でちいさなちいさなメボンゴが仔狐達にエスコートされて嵐のライオンによじのぼり、雄々しいライオンの首もとを優しく撫でていた。
「愛する家族が歪んでしまって悲しかったんだね。でも思い出して。子供達の未来のためにと戦った気持ちを!」
ジュジュが影朧に向けて聲を放つ。人の心を動かす事に長けたパフォーマーの声だ。
「その貴方の子孫……家族を貴方が殺してしまうの? 未来を奪うの? どうか間違えないで。殺すことは愛じゃない」
言葉に影朧はマレークの声を思い出す。子孫の声を聞いた時、湧きあがった気持ちを思い出す。
「家族を殺す、未来を奪う」
それが悍ましいことのように感じる気持ちが影朧に強く湧きあがるのだ。そう感じる心が残っている。それを感じたジュジュが励ますように声をかけた。
「思い出して。貴方には愛があるはず」
「ぼくを鎮めようと言うんだね、それが伝わってくる。彼もそれを望み、君たちを呼んでくれたのだろう――」
影朧はそう言って胸を抑えた。
「この桜に看取られて消えられればどんなに幸せだろうか」
ふらりと桜に寄り掛かるようにした影朧は、次の瞬間に首を振る。
「けれど、それでよいのだろうか? ぼくは、何のためにここにいるのだろう。ぼくは、何のために蘇ったのだろう? かの男を看取るため? 看取り、ぼくも消えて、それだけのため?」
周囲に蔓延る怨霊軍人の声が影朧の歪みを大きくしようと働きかける。
「同志、打倒せよ」
「戦いたまえ、血路を拓きたまえ」
「殺すのだ。正義を為すのだ。そのための天命」
「そうでしょうか?」
疑問の声が大きく響き、ざわめきを制した。
紙の擦れる音立てて映臣が文庫本をぱらりと開いている。儚くも凄惨と評される著作から何かが現れる。うすぼんやりとした輪郭は獣めいて四肢を持ち、尾と頭持ち、輪郭の内に渦巻くは情念。
「――僕は探偵でしてね」
獣が眼を開く。爛々とした目は欲に濡れるようだった。映臣はそんな獣を見下ろして柔和な表情に知識欲を滲ませた。
獣が牙を剥く。奥にちらりと見えるは濡れた舌だ。
「犯人たる貴方の全てを知りたくて堪らないのです」
映臣は品の良い微笑みを浮かべた。
「『靜子』……貴方はこの名に覚えがある筈。貴方にとって何より大切な方の名」
映臣が言葉を投げかけると、影朧は頷いた。
「お嬢さんの名がどうかしたか」
「ただいま、どちらのお嬢さんを今思われました?」
映臣は片眼鏡の奥をの目を三日月のように笑ませた。
「どちら……」
「わかりませんか、ご自分の事が」
お気の毒に、と首を振り映臣が言葉を続ける。
「わかっても、すぐにわからなくなってしまう……それも、あるかもしれませんね。厄介なものです」
影朧のぼんやりとした不安のような気配を掬い上げるように映臣が櫻の花弁を一つ手に取った。
「過去も現在も同じ名の女性に惹かれるとは運命を感じざるを得ませんよ――ねえ、清殿」
「不安定な貴方を救った存在……狂気に陥った今、貴方は何を想うのでしょうね?」
(いけない)
殺気が迸る。
義兄の声を聴きながら悠騎は前に出て刀を横にし、寄る銃弾を弾いてみせた。
「ありがとうハルくん、助かるよ」
背から寄せられる声を無視するような形で悠騎は一歩踏み出して軍刀を受け流し、返すようにして敵を一閃した。
「……大丈夫、僕は未だ死ねない。事件の顛末を見届ける迄は」
背で呟く映臣の声がする。
悠騎はまた一歩、詰め寄るように影朧に向かい――踏み込む靴先が泥跳ねる。す、と息を吸う音がして背後の映臣が見守るような顔をした。
「家族に絶望したと、貴方は仰る。金に苦労した貴方の過去を思えば尚更の事。確かに金に眩んだ者は少なくないでしょう……然し貴方にとっても愛おしい人、彼女すら金の亡者とお思いか? 手紙にはこう書かれておりました――靜子はお金よりも恋に興味がありますわ、と。健気な娘とは思いませんか?」
影朧は悠騎に頷いたように見えた。だが。次の瞬間には影朧は塀を越えて敷地の外へと飛び出した。
「追いかけないと」
猟兵達が後に続く。
●瓦斯灯揺らめき
瓦斯灯が煉瓦造の建物と石畳を照らしていた。塀を乗り越えて道に降り立った猟兵達は、血濡れた人力車の影から放たれた銃弾を散開して避けた。
「影朧は転生できる、そうだよな? その純粋な想いが間違った方へ暴走してるなら、正してあげたい。だから綾華、一緒に声かけてくれないか?」
ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)が浮世・綾華(千日紅・f01194)を見る。菫の瞳に優しい煌きを宿した少女を見て、綾華が気乗りしない様子で頷いた。
「俺としちゃあヴァーリャちゃんを傷つけた奴に情けなんてかけたくないケド」
綾華の絡繰ル指が黒鍵刀を55本複製し、向かい来る軍刀を取り囲むように浮遊させる。黒鍵刀を一本ずつ軍刀の抑えとし、攻撃の手を奪おうというのだ。
ヴァーリャが弾丸めいて走り出す。瞬きする間に一刀の距離まで詰め寄ったヴァーリャを迎撃すべく軍刀が襲い掛かり、苛烈な音をたてて打刀の凛然が一撃を受け止めた。二つの刃が押し合い、へし合い、鍔迫り合い。
「かよわき女子と思っていたが」
口の端ゆがめ奥歯噛む影朧にヴァーリャは明朗なる声をあげる。
「認識、改めてもらうぞ!」
「なに?」
勇猛な少女は快活な声をあげる。
「貴方は親族から裏切られた。だけど、靜子の気持ちは嘘じゃなかった。貴方が彼女を殺すことは、彼女を裏切ることと同じだ! 自分が影朧だから、なんて言い訳にならないぞ。ちゃんと自分の意思で、真っ当に彼女に応えてやれ!」
「お嬢さんの気持ち――」
刃越しに伝わる気配。影朧が怯む様子を見てヴァーリャが背後に向けて声放つ。
「綾華!」
綾華が頷き、刀を操り直す。一斉に切っ先を巡らせ飛び掛かるのは影朧の足元だ。
綾華に合わせ、ヴァーリャが跳びあがる。小動物のように軽々と舞った小躯は宙でくるりと廻転し、蹴りを放った。靴裏には鋭い氷のブレードが煌いて。衝突音はガリッという耳に痛い音、次いで周囲には冷気が満ちた。冷えた空気が空中に細かな氷片を生み、灯りにきらきらと輝いている。
ちらちらと氷と花弁が舞う冷たい空気を人工の灯りと自然の明かりが共に照らす中。綾華が影朧に紅色の瞳を向けている。脳裏にちらつくのは砕けた鍵と、笑顔。
(いとおしいなら、殺すなんて言うな)
――なんて、言えないのだ、自分には。
雨の止んだ夜、視界に雨に代わり花が降っている。どこかから風が運んできたようだった。
「ただひとつ、分かることがある」
「お前、自分が狂ってるって分かってんならお前の行動が狂ってるっていうのも、分かるんだろう。本当にそれはお前の意志か?――俺はそうは、思わなかったよ」
影朧が起き上がる間際刀を振るい、綾華がヴァーリャの小柄な体を抱き寄せて後ろへ跳び、迸る鋼線の軌道から逃した。
「……狂っている」
影朧は己の顔をぺたりと撫でた。
「意志とはなんであっただろう」
その様子が迷子のようにも見えてヴァーリャは眉を寄せる。
「未来の為に、って書いてたんだ」
「未来の為に」
「貴方の静子お嬢さんはこの時代にはもういないけど、お嬢さんとの子どもたちが生きてて――今の街並み、この帝都が貴方が守った未来なんだ」
(それにしても、さっきの様子を見るとやっぱり歪んでしまっているんだね)
キアラン・カーター(麗らかなる賛歌・f15716)が憂うように睫毛を震わせた。
「彼の気持ちは分かる気がする。僕も堕落した人間を見ると……だけど殺人は赦される行いではないんだ。今回は僕たちだからよかったけど……」
世に堕落した人間のなんと多いことか。教会にいる間でさえ、それを感じる瞬間はあった。人という生き物は道を踏み外しやすいものだった。欲望に目を眩ませ、他者を踏みにじり、……神父様が説く愛すらも真実ではなかった。
そんなことを考えながら、キアランは憂い顔で世界を見る。
「なんだか、ぞろぞろと軍人さんが出てきたね」
人力車の周囲に集まりつつある怨霊たちを見てキアランが眉を寄せ、聖衣を翻して後ろに下がる。
「火がちょうど沢山あるや」
入れ替わるように前に出たマクベスが笑い、刀を振る。
「踊ろうぜ!」
「キュヤー!」
さつまの仔狐達がぴょんっと跳ねて炎がが刀に集まっていく。小さな赤いドラゴンの姿をした炎の精霊サラマンダーがするりと現れて炎をパクパクと美味しそうに舐めとり、ぶくりと膨れて刀に宿る。
「サンキュッ」
マクベスがお礼にと青白い氷の精霊を呼び出して仔狐達を狙う軍刀を巻き取らせた。竜の尻尾が少年の背後で揺れて、仔狐達が愉しそうにじゃれている。
『お外だー!』
嵐のライオンに跨ったメボンゴがひらひらと長い耳を揺らし、まんまるの目をキラキラとさせていた。声はもちろん、ジュジュが裏声で喋っているのだが。
「相手を尊重してこそ愛する資格があるんだとオレは思うぜ。一方通行の愛はただの自己満足にしかならねぇしな」
マクベスはそんな仲間達ににかっと笑顔を向け、影朧に明るい瞳を見せた。
「これで安心して歌えそうだよ」
キアランは後方で煉瓦造りの壁に手を添え、でこぼこした感触を堪能するようにしながら仲間の背中を押すように歌を紡ぐ。
♪Sebben crudele...
神と人々に愛されし歌は清らかに、揺れる月明かりと瓦斯灯のもとで儚く綺麗に響き、人の心を揺さぶった。
それは、宣師の歌。
彼こそが正しく神の御使いなのだと歌を聴く皆が感じずにいられない、そんな特別を感じさせる歌声だった。
可憐な歌声は中性的で、神聖とはこのような者を指す言葉なのかと人に思わせる。桜の花弁ひとつひとつに優しく染みて、風がそよげば花弁がやわやわと揺れて共に歌うよう。
空の薄紅と地の人々の間を風に運ばれて優しい歌声がふわりと吹き抜ければ、その一帯が聖域と化したよう。
♪あなたを愛したいのだ
(神の庭はここにある。荒事はお控えあれ)
キアランが不思議な神格めいた気配を帯びて祈りを歌にこめると、怨霊軍人達は貴き者の御前に控えたような顔で武器を下ろして鎮まった。
「黄泉事変、か」
歌を止めてキアランは怨霊軍人達を見つめる。キアランの歌により沈静化した顔触れは、いずれもかつては崇高な意思を持ち戦ったのだという。
「貴方達は未来のために戦ったのだきいているけれど、そうなのかい」
キアランが穏やかに問うと怨霊軍人達が仲間や自らを誇るような目をして頷いた。
「だったら、仲間や自分が命がけで守った未来を脅かしてしまうのは、さぞ不本意だろうね」
(と、言って通じるのかな。歪んでいるようだけど……通じるといいな)
祈るようにしながら語り掛ければ、静謐な教会で聖書の一節を説くが如き声に怨霊軍人達は驚いたような顔をして互いの顔を見た。
「な、なあ。俺達は何をしているんだ」
「何を言う、未来の為に――、なのに、なぜ」
そんな彼らを落ち着かせるようにキアランが言葉を挟む。
「自覚がなかったかな、歪んでいるものね。神が貴方達を憐れんでくださるよう」
キアランが再び歌い出す。怨霊軍人達の中に武器を握り荒ぶるものはもういなかった。
「同志が――、」
影朧が動揺を露わに再び同志を呼ぶ。
「立ち上がれ、奮起せよ、その目はなんだ。なっちょらん」
一部の鎮静化した軍人達がのろのろと武器に手を伸ばし、新たな軍人達が現れて。
「まだ呼ぶんですか」
ふと夜闇からそんな声がした気がした。
「誰だ」
影朧が周囲を見るが、そこには照らしきれぬ闇が広がるのみ。
闇の中翻るは夜来。月の意匠が地上見下ろす真実の月を嘲笑うように歪み、斬魔の剣が魔性断ち切る一瞬さえもその姿気取らせることなく仕事をする。目に見えぬ雷が走り抜けたが如く、けれど耳に妙に残る少年の声遺して。
「黄泉事変でしたっけ? 何やらおおごとだったみたいですけど。その中で暗殺されちゃったりとかも、覚悟の上でしたよね?」
喉を突かれ、首を刎ねられ血が吹いて、悲鳴さえ漏らすなとばかりに夕立が軍人達を淡々と殺していた。銃を構えようとした手首を豆腐のように落とし、悲鳴が上がると思いきや首がない。抜刀しかけた腕が止まり、喉が串刺しにされた軍人が驚愕する生命の終わりの瞬間を彩るように血色の瞳がねめつける。その冷たさは祝福に似た。ただ死ね、と少年が教えてくれる。無機質に死ね。空気がそう告げるようだった。
「おのれ」
影朧が臍を噛み、踵を返す。
「また、逃げるんですね」
冷めた口調がそれを追いかける。殺人鬼の背にぞっと悪寒が奔る――己を暗殺しようと追う者の気配。思うがまま生者を追い詰め死の谷に落としていた彼は今、追われて狩られる側になっていたのである。
●
石畳の上を複数の足音が響く。影が揺れる。照らし出された顔はいずれも影を見つめている。袋小路に追い詰められた影を。
強張ったその顔に「ねえ、」とやんわりとした声がかけられる。それを皮切りに軍刀が再び振られ、血路を拓こうと敵意の嵐が吹き荒れた。
「――姿が似てただけで大事に匿うかしらネ」
仔狐を狙う軍刀の前に音もなく身を躍らせたコノハが右手の指輪にキスをする。
「アンタの優しさに亡き息子の気性を重ね、絶望ばかりでないと信じ伝えたかったンじゃないかしら」
人差し指に絡むCeruleanが月光色の剣刃に変じて影朧の軍刀を受け止める。金属同士が奏でる衝突音もなく、無音のままに。
「!?」
淡く発光する刃が互いの顔を照らしている。コノハの薄氷の瞳が刃交える相手の心を覗くように煌いた。
「家族に、子孫に、『なによりの寶』こそが必要と。アンタと、靜子に賭けて」
「賭けた、だと」
「残ってるデショウ? アンタの中に、」
――歪まない何かが。人としての在り方が。
月光帯びる剣が光を強めていく。コノハが愉しそうに目を細め――生命力を籠めていく。植物に水を遣るように。爪にお気に入りの色を塗るように。生命力を乗せた刃は長く尖り、輝いた。ゆらりと揺れる色が夜空色。それを月光が染め上げて、コノハが振り上げる。隙がある。だがその隙がまるで誘うようでいて、表情が試すようで、影朧は躊躇った。躊躇って一歩退こうとし――振り上げた刃が暁光に耀く。
「キレイデショ」
それがとても嬉しいのだと見せびらかすように華やかに笑ってコノハは刃を振り下ろした。振り下ろす間も刃の空模様は変じ続ける。朝から昼へ。青空澄み渡り、まるで家族の声が聞こえそうな――そんな色を愛でながら刃が影朧を縦に斬る。
悲鳴がひとつ、夜に響く。
けれど、よくよく見れば衣服も肉も断たれてはいない。素通りしたようにその身を通過した刃は――引く時には昏闇に曇っていた。それをちろりと舌で舐めるようにしてコノハはにんまりとする。
その刃は魂を侵食する穢れを切り取り、祓ったのだ。
「影朧とは幾つもの残された想いから成るモノ。その怨念、預けて頂戴な。まだ微かに残る希望の為に」
「希望、だと」
「渡す気の無かった文と瓜二つの、拾った文。誰が認めたモノか、思い出せたデショ」
仔狐がコノハの足元に擦り寄り、ふかふかの尾をぽふぽふと絡ませている。そんな小さな仔に「アラアラ」と楽し気に笑い、コノハが手を叩く。
「おいで、撫でてアゲル」
仔狐達が一匹二匹、競うようにコノハの胸に飛び込んだ。
「こっちにも、おいで」
さつまが仔狐を一匹抱き上げてやわやわと頭を撫でる。その姿に影朧は目元を微かに和らげた。彼を拾って愛おしむ桂のようでもあり、あるいは。
「靜子さんは……貴方の奥さんも、子孫にあたるお孃さんもお金より大切なモノ見てる。誰もが金狂いなる訳じゃないし違うと気付く時もきっとある」
さつまに撫でられて仔狐が目を細め、明るい炎の吐息を漏らした。火の粉がパラパラと細かく煌めき、儚く消える様に影朧は目を奪われるようだった。
ライオンに乗っていたメボンゴを抱き上げて嵐が頷いた。
「お嬢さん、恋したいってさ。そりゃ未来がどうなるかまでは責任持てねえけど、……責任持たなくていいんだよ」
メボンゴをジュジュに渡して嵐はにこりとした。
「これまでに皆が言ったこと、まったく忘れちまったわけでもないだろ。全部こころのどっかに残ってるよな」
影朧はコクリと頷いた。
「何度も心揺らぎ定まらぬというなら、何度でも強制改心刀で斬って差し上げましょう」
悠騎が刀を構えて進み出る。
「もう大丈夫じゃないかな、ハルくん」
映臣が顛末を見届けるべくその背後に続いていた。
「足りなかったら何度でも」
コッチも、とコノハが月光の刃を光らせている。その頭にはいつの間にかよじ登ったらしき仔狐がいた。
「そうだ。手紙を読んでください」
アルジャンテがふと思いつき、仲間を促した。オルハは戸惑いながら手紙を開き、ステラが一緒になって覗きこむ。
「『お嬢さん』に書いた手紙は、届いています。お嬢さんは、返事をくださったのですよ」
ステラがそう告げる。
「あなたの手紙は、届いたのです」
影朧が眼をぱちぱちとさせる。
「ぼくの手紙は、出さなかった。出すつもりがないと言った。出していない。お嬢さんはぼくを知らない――」
オルハが手紙を読み上げた。
「『突然手紙をもらつて驚きましたわ。
とても嬉しかつたのです。
恥づかしくて顏が眞つ赤になりましたの。
嬉しいお手紙でした。こんな氣持ちは初めて。
わたしがあなたに好いてもらつてゐるといふことがとても吃驚仰天することで、とても素敵なことだと思ゐますの。
わたし、お話してみたいわ。繪をみてみたいわ。
だつて、とてもあなたのことを知りたいのです。
ね、お金つてそんなに大切なものかしら。わたしはお金の山よりもあなたのお手紙のはうが、しあわせな氣持ちになりましたわ。なによりの寶ですの。さうぢゃなくて?』」
それは、嘗てのお嬢さんが彼に返事した手紙だった。
「貴方、さっき」
エレニアがふわりとほほ笑んだ。
「今のお嬢さんは、夢にみなかったわ」
清さん、とエレニアは名を呼んだ。
「清さんの静子お嬢さんに、手紙を書いたのよね? お嬢さんはとっくの昔に清さんの手紙を読んで、お返事をくれていたじゃない」
「浮気はしちゃだめだな! 奥さん怒っちゃうぜ」
マクベスが陽気に笑った。
「お嬢さん、か。……人憎む我目けはしき秋鏡、かな」
影朧が呟いた。瞳から何かが溢れるようだった。溢れた瞬間、何かが決壊したように輪郭が崩れた。ばしゃりと崩れたそれが散っていく――それは、薄紅桜だ。無数の桜の花びらが風にきりきり舞い、ゆらゆら惑い、飛んでいく。どこかへ飛んでいく。
ヴァーリャが綾華と並び、桜を見送っている。
「えへへ、どうしてもガツンと言いたくなったからな。綾華だってそう思ってただろう?」
言わずとも心の内を見透かされたようで、綾華は目を細めた。
「まあ、うん。そーネ」
「志の人ってやっぱちょっと分かんないです。士《サムライ》の、心と書いて、志。忍びには生来縁のないものですから」
夕立が明けゆく夜を背負い呟いた。
花弁が行く当てもなく風に吹かれて飛んでいく。
「飛散した花びらに癒しを与えてくれる桜の精の方がいたら、いずれ転生するのかな」
キアランが桜の花びらを見送る。
「親切な桜の精の人の目に留まって、癒してもらえたらいいね」
帝都桜學府にお願いすればいいのかな、と呟いてキアランは帝都桜學府に向かっていく。
「僕、お願いしてみるよ」
春になればお嬢さんは嫁に行く。
「秋の夜は長し、夜長くして睡ることなければ天も明けず、耿々たる残りの燈び壁に背ける影、蕭々たる暗の雨……」
シンが夜月に背を向けて歩き出す。
鳥のさえずりもなく照らされた夜が音を失くしていく。
「Warte nur, balde Ruhest du auch.」
イサカが帽子の鍔をくいと引き呟いた。
くるりくるりと迷子桜を舞い躍らせて秋風は吹き、帝都の人口灯と猟兵達は夜陰に埋もれし恋伽を優しく掘り出して月明かりのもと明るみにしたのであった。
――あれあれ あれよ
――何故 亡くなって しまったのだろ♪
トキが軽やかに、地を蹴り歩く。まるで風に乗るようなざまで。うつくしく可憐に楽し気にステップ踏んで黒髪揺らし―― やがて、朝が来る。
●結
大成功
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