麗しきスタァはオペラ座に散らず
#サクラミラージュ
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●スタァは歌劇場にて散らされる
「あァ、なんという、なんという……!」
美しいかんばせを歪ませて舞台の上で女性が嘆く。その正面には顔を片手で覆う不気味な男。男の全身からは怒気が漏れ出しており、哀れなその女性は腰を抜かしてしまった。
「見たな、ついに見たな俺の顔を! こうなっては最早帰せぬ。クリスティーヌ……お前はこのオペラ座の地下で一生過ごすのだ、私の妻として!」
男の迫力に押されつつも懸命に彼をなだめる女性へ多くの視線が向いた。この恐ろしい一場面を心待ちにしてやってきた観客たちはよりよくその女性を見ようと体を捻る。美しい涙を一筋流すクリスティーヌと呼ばれた女性の演戯に、誰もがほう……と息を漏らすのだ。
場所はサクラミラージュの歌劇場。超一級の舞台役者たちが集うこの場所で今回行われる演目は「オペラの怪人」だ。
クリスティーヌ役に抜擢された舞台女優は若手ながら人気と実力を併せ持つ柳野ナツヱ。その抜群の容姿と隙のない演戯力で、日に日にその存在感を増しているスタァのヒナだ。
嘆きながらも男へ寄り添い、その怒りをなだめるクリスティーヌ。男の妻になることを約束し外に出ることを許された彼女は、その手に約束の指輪を持ちオペラ座へと逃げ帰る。悲しみと「歌の天使」だと思っていた怪人への憐憫を胸に彼女は舞台へ立った。
「あの悍ましい姿! 鼻も唇もなく、落ち窪んだ目! ……それにあの死者のような黄ばんだ皮膚! この世の物とは思えない……。でも私がいなくなったらあの人、永遠に独りなんだわ……」
怪人へ恐怖を抱きながらも、その生来のやさしさ故に逃げることを迷うクリスティーヌ。その姿を完璧に演じるナツヱに、観客の視線はくぎ付けになった。
ふと、ナツヱを見ていた観客のひとりが奇妙な役者を見つけた。ナツヱの背後、舞台の奥に立つ役者。女学生のような衣装を着、ただ何も言わずに佇んでいる。「オペラの怪人」の舞台はパリだ。女学生の役があるわけがない。ということは、あの少女は……。
「きゃぁぁぁぁぁッ!!」
切り裂くようなナツヱの悲鳴が歌劇場に響き渡った。クリスティーヌを演じていたはずの彼女の元に巨大な蜘蛛のような怪物が落ちてきたのだ。始めは演出かと湧いた観客席だったが、どうも様子がおかしい。ナツヱは腰を抜かし、震える声で観客へ助けを求めている。
「……影朧だ!!」
誰かがそう叫んだ。その言葉を聞いた観客たちはパニックを起こし、悲鳴と怒号の喝さいが巻き起こる。舞台から飛び出した蜘蛛の怪物は逃げ惑う彼らを追い立て始めた。
「だ、だれ、か……っ」
震えるナツヱの小さな声など聞こえない。あれほどまでに人々を惹きつけていたというのに、今の彼女は無力であった。
―――懐カ、シイ……。
「……え?」
引き攣った少女の声がナツヱの元へ不意に届いた。上から降ってきた声の主を探してナツヱは恐る恐る顔を上げる。そして次の瞬間、言葉を失った。
シャンデリアが、揺れている。それもガタガタと、異常な音を立てて。「オペラの怪人」では怪人が自分を恐れない人々に向けて警告のようにシャンデリアを落とす場面がある。そのために用意された仕掛けだ。でも、もうとっくに、その場面は終わっていて。
なによりそれが落ちたら、下敷きになるのは自分―――。
「いや……いやよ……わたし、やっとここまで……」
恐怖にすくんだ足はナツヱを逃がしてはくれなかった。ぶつり、と嫌な音がした瞬間。 ……それはギロチンのようにナツヱへと落下した。
●麗しきスタァはオペラ座に散らず
「と。ここまでが私の予知だ」
新しい世界への期待を隠すことなく、どこか浮足立ちながらアメーラ・ソロモンはその予知を語った。しかしその内容は到底受け入れられるものではなく、ある女性の悲惨な最期を示すものだ。
スタァへの階段を上るナツヱに降りかかった不幸。それはサクラミラージュという新世界特有の不安定なオブリビオン、影朧による事件であった。
「この世界のオブリビオンは非常に興味深いね。傷つき虐げられた者達の「過去」から生まれる……か。ということは今回の影朧……仮に『女学生』と呼ぶとして。彼女はどんな過去から生まれたんだろうね?」
女学生がナツヱを狙ったのはただの偶然なのだろうか、とアメーラは意味深に微笑んだ。もし偶然ではないのならばただナツヱを逃がすだけでは惨劇を回避することはできない。きっと女学生はアメーラの予知の外でナツヱを襲い、殺すだろう。そうなればナツヱを助けることはできなくなってしまう。
「言い方は悪いがここで禍根を絶つためだ、ナツヱ嬢には囮になってもらおう。君たちはとりあえず、ナツヱ嬢の舞台を楽しんでほしい」
もちろん観客席にいなくとも、お土産広場でブロマイドなんかを物色していてもいいし、舞台の方へ何かしらの手段を用いて潜入していてもいい。ただし、舞台そのものを変えたり中止したり、予知についてその場の人々に伝えることは避けた方がいいだろう。影朧が来るとわかっていて観劇する客はいないし、客がいなければ舞台は成立しない。予知と大きく異なる状態にしてしまったら、影朧が現れない可能性がある。
「喜びたまえ諸君、舞台観劇用のサアビスチケットももちろん支給される。タダで未来のスタァを見られるチャンスでもあるぞ」
クスリと笑ってアメーラはサアビスチケットを猟兵たちへ手渡した。もちろん救えるだろう? とでも言いたげなその笑みを最後に、猟兵たちはサクラミラージュへと転移を開始した。
夜団子
こんにちは、MSの夜団子です! 来ましたね新世界! 美しきかな大正ロマン。
●今回の構成
第一章 まずは舞台を楽しもう! 予知から外れてしまうような行動はNG。
第二章 怨みを持った影朧の、手下を倒そう。
第三章 影朧『女学生』を倒そう。
●備考
観客やその他スタッフについてはあまり考えなくとも大丈夫です。猟兵たちが影朧を相手している間に彼らは避難します。
それでは皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 日常
『夢のショウへようこそ』
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POW : 舞台に釘付けになってショウ見物を楽しむ
SPD : パンフレットやブロマイドを買ってみる
WIZ : ゲストとして舞台に上がる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
鈴木・志乃
天国……(じーん)
アド連大歓迎
はあ……新しい世界で演劇が見られるとか本当、私得役得
※CF世界の劇団員
でも……せっかくなら……
UC発動
【演技、変装、言いくるめ、礼儀作法、優しさ】
可能なら猟兵だと明かしてなんとか舞台袖から見せてもらえないか頼み込む
サアビスチケットとのごり押しで行けないかなあ!
何でごり押すかは適当にスタッフとか道行く人と話して、話の反応を第六感で見切って決めるっ
影朧事件の見回りとか
単純に他所の世界の劇団員で演劇・スタアに興味あるとか
こじつけられそうなものは色々ある筈だ!
駄目だったら大人しく観劇します
多分食い入るように見てます
話の構成、演出、演技を冷静に分析してます、ハイ
「天国……っ」
感極まった声を漏らしながら、鈴木・志乃(ブラック・f12101)は観客席ではなく舞台袖から観劇を行っていた。女優を、舞台セットを、演出を。その全てを目に焼き付けんと志乃は食い入るように舞台を見つめている。
流石はサクラミラージュ有数の歌劇場、選りすぐりの役者たち。その洗練された動きと心へ触れる演技力に、感嘆の声を漏らすしかない。
誰もが見たいと渇望する話題の劇を、スタァを、しかもこんなに近く眺めることができる。キマイラフューチャーで劇団員としても活動している志乃にとってはまさに至福の時間だった。
美しい声で歌うクリスティーヌの端正な横顔を眺めながら、ゴリ押してよかった……と志乃は目を細めた。
時間は少し前へ遡る。アメーラによる依頼を聞いた志乃は、一番乗りで参加を表明した。言わずもがな目的は猟兵限定の特別サアビスチケット。もちろんそのあとの惨劇を止めたいという願いもある。
予約必須どころか、取るのに苦労する劇団のチケットが掲げられているこの依頼に、手を伸ばさずにはいられなかった。しかも、最近グリモアベースからつながったばかりの世界である。キマイラフューチャーとはまた違った演出・解釈が期待できるのだからなおさらだ。
「はあ……新しい世界で演劇が見られるとか本当、私得役得……でも……せっかくなら……」
しかし人の欲とは底が尽きぬもの。サアビスチケットを手にサクラミラージュへ降り立った志乃は観劇を心待ちにしながら、もうひとつの欲を胸に宿らせた。……せっかくなら、もっと近くで劇を見たい。
思い立ったが吉日、志乃は早速行動を開始した。まずは情報収集、なにで交渉するかの情報が要る。次に伝手、交渉するための場所は自分で作りださねばならない。最後に話術、自分の持つカードをどう相手に伝えるか―――。
公演開始までにやらなければいけないことがたくさんある。直前に思いついたゆえに圧倒的に時間が足りない。そのはずだったのだが。
熱意が力になるとはよく言ったもので。志乃は怒涛のスピードでそれらを得、気が付けば万全の体勢を整えて劇団長と交渉の席に着いていた。
調べていて判ったことと言えば、この世界での猟兵の人気具合である。もろ手を振って、とまでは言わないが影朧事件をたちまち解決していしまう猟兵たちの人気は高く、そしてこの世界には広く認知されていた。……つまるところその辺りをごり押したのである。
「いやア、猟兵さんで、しかも異世界の劇団員だという方がわざわざ我が劇団へ足を運んでくださるとは! 見学を断る理由なんてありましょうか―――」
少し癖のある劇団長はそう言って志乃の申し出を喜々として受け入れた。その代わり是非ともそちらの世界でもこの劇団のことを広めてほしいだとか、宣伝してほしいだとかのお願いはされたが。
今この瞬間のためにはそんな条件も、志乃にとっては些細なことであった。
舞台袖から見る舞台は、また違ったものを見せる。舞台のために動く裏方、役者を舞台に映す照明の工夫、そしてその光に決して負けぬナツヱの輝き。たくさんの人とものがその全力をかけて完成させる芸術品。それを滅茶苦茶にするなど、どんな想いがあっても許せることではない。
だが今は、戦いのことも忘れて舞台に集中していたい。志乃は息も忘れて劇へくぎ付けになっていた。いずれくる影朧の襲撃の時まで、時間も忘れて……。
成功
🔵🔵🔴
アイン・ローレンス
【POW】
街行く人たちのお洋服も可愛らしく、看板もオシャレ、咲き誇る桜も美しい…
しかも「オペラ座の怪人」ですと…?
「オペラ座の怪人」の素晴らしさは全世界共通ですね!
無料で観れるサアビスチケットとは…
サクラミラージュ素晴らしすぎです
むむ、クリスティーヌを演じる役者さんは世界の宝…
狙うだなんて許せません
必ずお守りしますよ!
舞台をしっかり堪能した後で!
うひゃあ!やっぱり何度観ても感動です!
役者さんたちの堂々たる歌声は勿論、舞台を彩る大道具も目が離せませんねー
地下でピアノを奏でる怪人に、屋上で歌い上げる怪人…
墓地で剣を振るう怪人も全てがイケメンですー色っぽいです!
帰りにはブロマイドも買わなくては!
吹き抜ける暖かい風に時折桜の花びらが混じる。一風変わった新世界の町並みは美しく、人々の柔らかな洋服も可愛らしい。物珍しいそのすべてに目を輝かせながらアイン・ローレンス(気の向くままに・f01107)は歌劇場への道を進む。
「素敵な街……ふふ、しかも演目は『オペラの怪人』……!」
『オペラ座の怪人』の素晴らしさは全世界共通ですね! とうきうきしながらアインはポケットのサアビスチケットを取り出した。取るのも難しいであろう舞台のチケットを、影朧事件のためとはいえポンと無料で提供してくれる帝都はなんと気風がいいのだろうか。
「この世界、素晴らしすぎです……!」
そうして到着した歌劇場は『超一級の役者たちが集う』と歌うにふさわしい立派な建物であった。一切のくすみも許さない煉瓦の壁に、壁を覆う派手な垂れ幕。縦長の大きな看板にはナツヱ演じるクリスティーヌが贅沢に描かれていた。
観客たちは看板を称賛したり、先に土産屋へ足を運んだり、記念撮影を行ったり。それぞれの行動は異なるが、その胸には一様に今回の舞台に対する大きな期待と楽しみを持っていることだろう。
そしてまた、猟兵といえどアインもそのひとり。
「わぁ……クリスティーヌを演じる役者さんは正しく世界の宝……狙うだなんて許せません、必ずお守りしますよ! ……舞台をしっかり堪能した後で!」
看板を前に心を踊らせているアインを、入り口に立っていたチケット回収スタッフが微笑ましく眺めていた。その視線に気が付いたアインは慌ててその手のチケットを差し出す。頬を朱に染めてあわあわしているアインを見てそのスタッフは笑いをこぼしていたが、差し出されたのが猟兵専用のサアビスチケットだと気が付いた瞬間、背筋が伸びた。打って変わったスタッフの視線は熱い。それほどまでにこの世界では猟兵に対する期待が高いのである。思わず自身の背筋も伸びるのを感じながらアインは歌劇場の扉をくぐった。
(うひゃあ! やっぱり何度観ても感動です……!)
そんな緊張も舞台が始まればどこへやら。ナツヱたちの紡ぐ『オペラの怪人』にすぐに飲み込まれてしまった。
『オペラの怪人』はその名の通りオペラ座が舞台になる物語だ。当然役者たちにはオペラ歌手を演じるための歌声が必要となる。
アインは思わず、ほう……と息を漏らした。役者の歌声はもちろん、舞台を彩る大道具たちにも目が離せない。とりわけ主役の怪人は素晴らしい。醜い姿という役柄でありながらその所作には色っぽさが滲みだし、歌声は正しく「音楽の天使」。クリスティーヌも信じてしまうわけだとアインはひとり納得していた。
あっという間にファンとなってしまったアインは帰りにブロマイドを買おうと固く、固く決意する。その前に影朧の襲撃があるのだが……。
この舞台が一度遮られてしまうことにアインの胸には残念な気持ちが広がり、今回の惨劇を防ぎ改めてすべて通して見ることにしよう、と誓うのだった。
成功
🔵🔵🔴
諫名・巡
「はふう…夢の中のようでしたわ」
幕間の休憩時間にロビイで紅茶を頂いて、パンフレットを見ながら近くの方とお話しますわ
「怪人さん、恐ろしいけれどとっっても魅力的でしたわ!」
綺麗な衣装に張りのある声、演技に舞台美術!
私もプログラマ&メカニックの端くれですから、どんな風に舞台装置を制御してるか気になりますの
(あの仕掛け、ナツヱさんの救助に使えるかしら)
休憩中に【♦のJ】に頼んで役者さんの台本を盗み見てきて貰いますわね
出番の終わった方から1部貰えると一番いいのかしら
予知の内容を思い出して、どの流れの後に事件に繋がるか学習力で覚えます
(予備知識なく楽しめたら良かったのに…いいえ、これもお仕事、ですわね!)
「はふう……夢の中のようでしたわ」
たまたまロビーで知り合った女性と熱い語り合いを繰り広げていた諫名・巡(冬の陽だまり・f21472)は、興奮を抑えるように紅茶を口にした。
「怪人さん、恐ろしいけれどとっっても魅力的でしたわ! それにあの登場の演出! すごかったですの!」
綺麗な衣装に張りのある声、演技に舞台美術。すべてが超一流の中、最も彼女の興味を惹いたのは舞台装置であった。プログラマとメカニックの端くれでもある巡は、それがどう動いているか、どう効果を及ぼしているか、に思わず目を奪われたのだ。ひとり興奮を持て余していたところに、同じ趣味を持つ女性に遭遇。今に至るまでふたりで熱い舞台トークを交わしていたのだった。
(あの仕掛け、ナツヱさんの救助に使えるかしら)
予知では影朧によって操られた舞台装置が、よりによってナツヱの命を奪うことになっていた。ならば逆に、装置で彼女を救うことはできないだろうか。
たとえば、あの怪人の登場演出。あれはスモークと影で隠してはいたが、床下から役者を持ち上げる装置によるものだ。他の役者の演戯中にその装置でそっと怪人を登場させれば、どこからともなく怪人が現れたように見える。怪人の神出鬼没さを表現するための演出だ。あれを逆に使えば、戦闘中でナツヱが腰を抜かしても逃がしてあげることができるかもしれない。
それを思いついたとき、横の女性があっ、と声をあげた。どうやら待っていた連れがお手洗いから帰ってきたらしい。彼女は巡に軽く会釈して立ち上がった。
「はいっ! ではまたお互い楽しみましょうね!」
軽く手を振って彼女と別れ、巡はふうと息をついた。カップの紅茶は既になくなってしまい手持ち無沙汰な巡は改めてパンフレットを開く。うっとりと役者たちの写真を眺めている彼女の肩に、ちょんちょん、と小鳥が舞い降りた。
「あら、ジャック。もうおつかいはすみましたの?」
黒い小鳥はそのくちばしにひとつの冊子を持っていた。小鳥の体には見合わないサイズなので普通であれば目立ちそうなものだが、ロビーを行き交う人々に気が付く様子はない。彼は♦のJ。偏光迷彩プログラムで姿を隠した、巡のお友達である。
彼のくちばしが持っていた冊子を受け取り、巡はパラパラとそれを開いた。ずらりと並ぶ文字は先ほどまで見ていた舞台の台詞たちだ。自分の出番が終わった先まで持ち込んでいる熱心な役者の台本には、鉛筆による書き込みが所狭しとされていた。
「ふむふむ……この流れだと、この場面の辺りで移動を……」
予知の内容を思い返しつつ、台本の内容を照らし合わせる。いつ影朧が襲ってくるかわかっていれば立ち回りもしやすい。ぶつぶつと呟きつつ該当箇所を完全に覚えた巡は冊子を閉じ、またジャックに返してくるようお願いした。
(予備知識なく楽しめたら良かったのに……いいえ、これもお仕事、ですわね!)
残念な気持ちもあるがこれが猟兵の仕事だ。絶対に惨劇なんて起こさせない、と巡は息巻きながら、二幕目に間に合うようロビーを発ったのだった。
成功
🔵🔵🔴
西条・霧華
「こう言った舞台には様々な想いが籠められているのと同時に、負の感情も渦巻くものなのかもしれませんね。」
とはいえ、折角の機会ですし観劇を楽しみたいと思います
こうしてふらっと立ち寄って予約必須の舞台を楽しめるのはありがたいなって思いますけれど…
少し、他の方に悪い気もしますね
…歩む道が違えど、想いと【覚悟】を持って自らの舞台に立つという意味では私達に違いなんて無いのかなって思います
その想いを踏み躙らせなんてさせません
…ただ、今回の影朧にも何かの想いがある様に感じます
その『想い』を繋ぐ事が出来れば幸いですね
…少し余計な事を考えてしまいました
今は多くの方の想いが詰まった舞台を、心から楽しみたいと思います
「こうしてふらっと立ち寄って予約必須の舞台を楽しめるのは、ありがたいなって思いますけれど……少し、他の方に悪い気もしますね」
観客席にひとり腰かけ、西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)はぽつりとつぶやいた。スポットライトに照らされた役者たちが皆、輝いて見える。その輝きが霧華にはまぶしく思えた。
主役であるナツヱはもちろん、怪人や端役たちにもその輝きがともっている。それほど彼らはこの舞台に、誇りや想いを捧げているのだ。そういう人のことを、他人はスタアと呼ぶのだろう。
霧華の背後にもまた、彼らの輝きを楽しみにして見に来ている観客たちがたくさんいる。そのたくさんの視線と想いを一身に受けて、役者たちはより一層輝くのだ。
(……歩む道が違えど、想いと覚悟を持って自らの舞台に立つという意味では、私達に違いなんてない)
信念や目的のもと未来のために戦う猟兵たちと、己のすべてを使って舞台で光を浴びる歌劇役者たち。かたちや対するものは違えど、その根幹はなんら変わりがないのだと霧華は思っている。
(その想いを踏み躙らせなんてさせません。……ただ、今回の影朧にも何かの想いがある様に感じますが……)
ふと思い出されるのは予知で聞いた影朧の様子。どうにもただ悪意があってナツヱを襲ったようには思えないのだ。直接襲い掛かってくるわけでもなく、ただそこに佇んでいる影朧。実際にナツヱの命を奪ったのは落下したシャンデリアだ。そこにもなにか、意味があるような気がする。
影朧のつぶやいた言葉も気にかかる。「懐かしい」。死者の引きつった声であってもそうハッキリと聞き取れたのだという。腰を抜かしたナツヱの耳にその声が届いたのならば、女学生はナツヱのすぐそばに現れていたのだろうか。スポットライトを一身に浴びるナツヱが立っていた場所。そこから見下ろす景色を見て「懐かしい」と呟いたのならば。影朧の生前に歌劇が関係しているのかもしれない。
あの影朧は、なにか伝えたいことがあるのだろうか。それとも断ち切れない想いがあるのだろうか。女学生を縛る何かが、あの舞台には、ナツヱには、あるのかもしれない。その『想い』を繋ぐ事が出来れば―――。
(……。少し余計な事を考えてしまいました)
霧華は今は猟兵ではなく、この劇を楽しみに来た観客のひとりだ。少なくともナツヱたち歌劇を成功させんと奮闘している人々はそう捉えているし、そこをブレさせるのは彼女たちにも失礼だ。
今はただ、多くの人の想いが詰められたこの舞台を心から楽しみたい。そんな思いを胸に霧華は舞台へとその瞳を向けるのだった。
成功
🔵🔵🔴
蝶ヶ崎・羊
アスターさん(f05511)と向かいます
行動はSPD
ナツヱさんや劇の内容について知るためにパンフレットを買います
「ええ、こちらを一冊でお願いします」
読む前にアスターさんに引かれれば座席
読む余裕があればその場で読みます
【戦闘知識】を利用して戦いやすい座席へアスターさんを誘導します
「ふふ、急がなくてもまだ余裕がありますよ」
そして予知が外れないよう大人しく観賞します
「…やはり心を持つ方…特に人間は可能性の化物ですね。ここまで役を表現できるのですから」
パンフレットだけでは伝わらない感情を感じとりながら眺めます
「はい、絶対に悲劇にはさせませんよ。オレもまた観賞したいですし…サインもまだですからね」
アスター・クラウン
同行者:羊さん(f01975)
行動:POW
折角の舞台なんだからナツヱさんの舞台を楽しまないと損するわ!
「メーさん!早く行かないと舞台が始まっちゃう!」
なんか買ってるメーさんをぐいぐい引っ張りながら向かうわ
舞台が始まれば大人しく見るわ
「凄い…これが舞台なのね」
オペラも舞台も初めてだし、上手く言葉に出来ないけど…ナツヱさんも演者さんもキラキラしてるのは分かるわ
そして皆楽しそう!
「メーさん…私絶対ナツヱさんを助ける…また観たいもの。」
「うん!それじゃ私もナツヱさんにサインしてもらおうかしら?」
観客でごったがえする歌劇場のエントランス。真っ先に席へ向かう者、劇中に立つことがないようあらかじめ手洗いを済ませておく者、土産屋に先立って訪れパンフレットや土産を予め購入する者など、それぞれがそれぞれの目的で足を進めている。その中のひとり、蝶ヶ崎・羊(罪歌の歌箱・f01975)は軽やかな足取りでその流れを抜け、購買へ迷うことなくたどり着いていた。戦場で培った見切りのたまものだが、まさかこんなところで活かせるとは。人ごみもものともせず彼は目的のものを手にとった。
「メーさん! 早く行かないと舞台が始まっちゃう!」
「ふふ、急がなくてもまだ余裕がありますよ」
急かすアスター・クラウン(炎を宿す元気娘・f05511)をなだめながら、羊は歌劇のパンフレットを手に取っていた。表紙に大きくナツヱが印刷されたそのパンフレットをレジに差し出し、羊は財布を開く。
予知では劇の途中で影朧がナツヱを襲った。ならば歌劇の内容を知っておくのは無駄にならないはずだ。狙われているナツヱについても情報を集められればなおいい。もし有用な情報がなかったとしても、羊はその好奇心を存分に満たすことができる。
「ええ、こちらを一冊でお願いします」
ぐいぐいと腕を引っ張られながら羊は無事そのパンフレットを購入し終えた。そのあとは抵抗もせず、アスターの牽引に従って人ごみを流れていく。ここで読んでしまいたい欲が何度か湧き上がるが、そのたびに歩き読書はよくないと打ち消す。そうこうしているうちに、羊は気がつけばアスターと共にホールの入り口までたどり着いていた。
「すごい人……本当にこの舞台とナツヱさんは人気なのね」
「猟兵、ということで席は自由に選ばせていただけました。ほかの方々には申し訳ありませんが……」
アスターは羊と違い、大きな得物を操るパワーファイターだ。その特性を存分に活かすには一般人を巻き込まない程度の距離と、得物を振り回しても平気な広さが必要になる。この人と人が近い劇場という空間でその両方を満たすのは、舞台上しか存在しない。
舞台上に駆け上がれるよう階段の傍に席をとり、二人は腰掛けた。早速パンフレットを開いた羊と対照的にアスターはキラキラと目を輝かせまだ誰もいない舞台を眺めている。舞台が始まり羊がパンフレットを片付けてもそれは変わらず、アスターの初めての舞台に対する期待を体現していた。
「凄い……これが舞台なのね」
アスターの目に、その光景は一層輝いて見えた。主演のナツヱはもちろん、舞台に上がる全ての者たちが、キラキラと、それも楽しそうに輝いている! それがアスターにとってまばゆくて仕方がなかった。
「……やはり心を持つ方……特に人間は可能性の化物ですね。ここまで役を表現できるのですから……」
ポツリと呟いた羊の感嘆の声は、迫力ある怪人の歌の中で掻き消えていった。それが聞こえていたか、それともただの偶然か。アスターも同じように口を開ける。
「メーさん……私絶対ナツヱさんを助ける……また観たいもの」
「……はい、絶対に悲劇にはさせませんよ。オレもまた観賞したいですし……サインもまだですからね」
「うん! それじゃ私もナツヱさんにサインしてもらおうかしら?」
そう小声で笑いあって、二人は改めて決意を固めた。
ナツヱは絶対に殺させない。相手にどんな想いがあろうともそれだけは防いでみせる。
舞台は佳境へ向かっていく。そろそろだ、という確信の元、猟兵達は各々の武器を密かに構えるのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 集団戦
『女郎蜘蛛』
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POW : 操リ人形ノ孤独
見えない【ほどに細い蜘蛛の糸】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD : 毒蜘蛛ノ群レ
レベル×1体の、【腹部】に1と刻印された戦闘用【小蜘蛛の群れ】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 女郎蜘蛛ノ巣
戦場全体に、【じわじわと体を蝕む毒を帯びた蜘蛛の糸】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵たちが見守る中、着々と舞台は進む。純粋に舞台を楽しみながらも影朧の出現を警戒する猟兵たちは、そろそろ〝そのとき〟が来るのを感じていることだろう。予知ではまず襲ってきたのは蜘蛛の化け物。影朧『女学生』はただそばで見ているのみであった。
ふと、猟兵たちの耳に舞台とは異なる音が届いた。カサカサ、とわずかに聞こえる足音は猟兵たちの背後でも前でもなく、頭上から響いている。音に従って天井を見た猟兵はそれの主たちに気が付くことだろう。あるいは、小さく声をあげてしまうかもしれない。
歌劇場の天井を覆う、たくさんの黒い影。女郎蜘蛛たちがその上半身をだらりと吊り下げ舞台の方へと四本の足を進めている。そしてその虚ろな顔が、不意に、猟兵たちを向いて。
―――ギシャァァァァァァァッッッ!!!!
「い、いまのは演出か?」
「なんとおぞましい……」
「……いや、違う! みんな上を見ろ!」
威嚇の声をあげた女郎蜘蛛に観客たちが気が付き、悲鳴をあげた。女郎蜘蛛たちは隠れるのを諦めたか、次々と天井を離れ客席へと降りていく。ある蜘蛛は舞台へ、ある蜘蛛は客席へ。化け物の出現に観客たちは一斉に扉へと殺到し、混乱を極めながら逃げ惑い始める。
「あ……あ……」
一方で腰を抜かして逃げられない者たちもいた。ナツヱもその一人。女郎蜘蛛たちは明らかに敵意のある猟兵たちを標的にしているが、猟兵たちが去ればその限りではないだろう。
彼女たちがナツヱや逃げそびれた観客たちへ襲い掛かる前に討伐すべく、猟兵たちは各々の武器を抜くのだった。
蝶ヶ崎・羊
アスターさん(f05511)と同行します
『ついに現れましたね…折角の舞台を無駄にするものではありませんよ』
まずは戦闘で舞台が壊れないようにヒアデス・グリモアールで【オーラ防御】の魔法を施します
そして観客方やナツヱさんに攻撃がくれば【かばう】
POWの攻撃はUCを発動。逆に操ってあげましょう
敵がワタシにロックオンするように鎌鼬でわざと大きく【二回攻撃】などをして【時間稼ぎ】します
『歌いましょう、舞い踊りましょう…貴方のお相手はワタシですよ。』
煽るように挑発するように立ち回ります
奪ったUCや【呪詛】による【衝撃波】で敵の動きを少しでも止めます
『アスターさん、お願いします』
アドリブ大歓迎
アスター・クラウン
羊さん(f01975)と行くわ
戦闘中はちょくちょく素の口調になるかも
『オッケ~メーさん!いっくぜ~!』
メーさんの足止めが成功すればUCで一発いれる
そのまま【怪力】の限り【なぎ払い】、【串刺し】、【鎧砕き】をしていくぜ
攻撃が来たらバトルアックスで【武器受け】してそのまま【カウンター】を決める
『覚悟があるならかかってきな!』
って【恫喝】。折角舞台の上にいるんだから言いたいわよね?
あまりにも逃げ遅れた人が多かったら【かばう】わ
「ついに現れましたね……折角の舞台を無駄にするものではありませんよ」
天井より舞台へと向かってきた女郎蜘蛛の前に、蝶ヶ崎・羊(罪歌の歌箱・f01975)が立ちはだかった。ヒアデス・グリモアールで舞台を守るよう魔法をかけながら、堂々たる姿でそこに立っている。
まるでスポットライトが当たっているかのようにその身を目立たせながら、羊は素早く鎌鼬を女郎蜘蛛へ向けた。ガチャリと音を立てて銃口が女郎蜘蛛を捉える。
「歌いましょう、舞い踊りましょう……貴方のお相手はワタシですよ」
まるでダンスの誘いのようなそれに、近くの女郎蜘蛛の視線はすべて羊へと集まった。それに臆することなく、羊は引き金を引く。銃口から生み出された鋭い疾風が目の前の女郎蜘蛛へ襲い掛かった。
「グギャアアアッ」
「次は貴方がたですよ!」
地を蹴り身を軽く翻しながら、羊は舞台上で踊る。疾風が飛び回り、女郎蜘蛛の足を吹き飛ばしてゆけば、彼女たちの怒りはますます羊へと向いた。舞台の方へ視線と殺気を惹きつけられれば逃げる観客たちはいくらか安全だ。だが、羊の狙いはそれだけではない。
「アアアアア゛ッ!!」
濁った声を上げながら女郎蜘蛛は、その身より蜘蛛糸を吐き出した。透明で見えないほどに細い糸は羊にも捉えることが難しく、腕をとられてしまう。一度引っかかってしまえばあとは縛り上げられるだけで……。
「……これを、待っていました」
羊の腰にあったはずのヒアデス・グリモアールがないことに、果たして女郎蜘蛛たちは気が付いていただろうか。腕を取られた羊のすぐ横でひとりでに開いたそれは、眩い光を放ち……ふ、と一瞬、羊をかばうように立つ青年の姿が浮かんだ。
「メー、さんッ!」
ドンッと大きな音を立てて黒き大斧が振るわれる。怪力で振るわれたそれはいとも簡単にすべての糸を切り捨て、羊の拘束を解いた。青年の姿はもう、ない。
「アスターさん。避難誘導は済みました?」
「ん、襲ってきたのはぶっとばしてやったぜ!」
素が出てしまっているアスター・クラウン(炎を宿す元気娘・f05511)と並びながら、手の糸を掃う羊。ひとりでも苦戦していたところへの助っ人に、女郎蜘蛛たちはわずかにたじろいだ。
倒せないならば捕まえてしまえばいい。そういう発想にいたったのだろうか。数体の女郎蜘蛛が今度は見える糸を吐き出した。どこか紫がかったその糸に二人は身構えたが、そこまで届くことはなく編まれるようにして形を作り始める。閉じ込めるようにして生まれた蜘蛛の糸の迷路。真面目に踏破していたら時間がかかりすぎてしまうだろう。
「ぐっ、これ結構堅い……!」
「アスターさんで壊せませんか……それなら仕方がない」
あまりにすぐの出番ですね……とぼやきながら羊がヒアデス・グリモアールを開いた。先ほど借りたばかりだ、もう少し貯めておきたかったが。
「……壁とはいえ糸が編まれてできたもの。普通なら解くことはできないでしょうが……見えないほど細い糸なら、どうでしょう?」
本からキラキラと光を反射する糸が、数え切れない本数で飛び出した。その細いとは生き物のように壁へと絡みつき、ひとつひとつ毒糸を抜き始める。細いそれは上手く糸の合間に入り込み、そこを緩めていく。
「いまなら行けるはずです。アスターさん、お願いします」
「オッケ~メーさん! いっくぜ~!」
振りかぶったその大斧は今度こそ、ブチブチと音を立てて糸を圧し切って。無理やり作りだした出口に、そのまま飛び込んでいく。……厄介な者たちを閉じ込めたと無防備になっていた女郎蜘蛛たちの目の前へと。
「よっっっし!」
普通だったら女郎蜘蛛たちも反応できたかもしれない。だが彼女が飛び出した瞬間飛ばされた羊の呪詛、そして鎌鼬から放たれた風による衝撃が、女郎蜘蛛たちを鈍らせた。
「はぁぁぁぁぁッ!」
単純で重い、破壊の一撃が女郎蜘蛛たちへ振り下ろされた。潰れひしゃげ、致命傷を負った女郎蜘蛛たちはそのまま力尽きていく。舞台に防護の魔法をかけておいてよかったと羊は心の底から思った。
「覚悟があるならかかってきな! うちが、全力で相手してやるぜ!」
打ち倒した女郎蜘蛛たちの上でポーズを決めながら残りの女郎蜘蛛たちへ威圧するアスター。憧れの舞台で啖呵をきれたことが嬉しかったのか、その目はきらきらと輝いている。逆に女郎蜘蛛たちは怖気づいたように数歩引き下がった。
「どんどん片づけていきましょうか、アスターさん」
「オッケ~!」
ぶん、と大斧と鉄塊剣まで取り出したアスターに、女郎蜘蛛たちは正しく“蜘蛛の子を散らすように”逃げ出そうとした。二人は順調に、逃げ出す影朧たちを狩っていく……。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
諫名・巡
私の技術を救助活動に役立てますわ!
作戦中は『リンカ・電脳虹彩』で全方位の視覚と聴覚を確保
【メカニック・ハッキング】
劇の最中なら観客席は暗い筈ですわ
照明器具を操作盤か『ドルイド』で遠隔操作
明かりである程度、人の流れを誘導できないかしら?照明を操作して複数の『光の道』を作り観客の出口を分散させてみますわね
分散した後に場内を全て点灯させて戦い易くしますわ!
迫を操作して舞台上のナツヱさんや役者さんの退路を確保
仲間の猟兵さんにも必要なら使って頂きますわね
「こちらですわ!」
防御と支援優先ですが、私自身も戦えましてよ
聞き耳で敵の位置を探って『♠のA』の【早業・衝撃波・誘導弾・破壊工作】で足や小蜘蛛を狙います
「みなさん、こちらですわ!」
突然スピーカーよりアナウンスされた声に、逃げ惑っていた観客たちが一度その動きを止める。それと同時に舞台の照明が一斉に光を放ち、三か所の出口を照らし始めた。一か所に殺到していた観客たちはまぶしそうに目を細める。
「出口は三つありますわ! みなさん、焦らず冷静な避難を!」
諫名・巡(冬の陽だまり・f21472)の声は彼らに届き、観客たちはバラバラと三か所の出口に分かれるようにして避難をはじめた。先ほどの混乱はいくらか鳴りをひそめ、どうにかスムーズに避難が進むようになっていく。女郎蜘蛛たちは猟兵が引き付けているので彼らはなんとかなるだろう。余裕さえ生まれれば、動けなくなったものたちの救助も進む。
分散し避難が進んでいったあたりで巡は全ての照明をオンにした。暗視が効く者もいるとはいえ、やはり暗いままだと戦いにくい。メカニックである巡にできるせいいっぱいの支援だった。
「次は……さっきの装置……!」
舞台に設置された役者が登場する用の機構、あれは『迫』という。本来は床下から役者を持ち上げるための装置だが、逆に使えば避難路になるだろう。プログラム、『ドルイド』を発現させ、迫の機構を直接操れば、音を立てて迫が下がっていく。ぽっかりと開いた穴が舞台に出現した。
「そこから逃げてくださいな! 蜘蛛は、私たちが!」
巡の声に応じて何人かの役者がばたばたと穴の中へと逃げ込んでいった。迫の近くには別の猟兵たちも駆けつけているので、腰が抜けた者がいたとしても彼女らが助けてくれるだろう。
「さて、では私は……」
照明とアナウンスの操作室から飛び出し、いち早く舞台へと躍り出る。舞台で、客席で蠢く蜘蛛たちは依然猟兵たちに気を取られているようだが、その中でもやはり逃げ遅れた役者たちを目ざとく見つける個体はいるもので。その女郎蜘蛛はまるで逃がさないというように自身の胎から小蜘蛛を生み出した。
わらわらと舞台へ向かうそれを視認し巡は素早くプログラムを起動する。
「基本は支援担当ですが……私自身も戦えましてよ! ♠のA!」
プログラムで召喚された鎧を纏い、懐から取り出した青いペンを、片手剣へ変える。護身魔法剣、風切はその刀身をきらりと輝かせ巡の手に収まった。
「いかせませんわ! はぁッ!」
ブンッと振るわれた剣圧が衝撃波を生み出す。空気ごと敵を切り裂く刃となったそれは、群をなす小蜘蛛たちへと一息の間に襲い掛かった。小蜘蛛を蹴散らし親である女郎蜘蛛の足まで切り裂いたそれを駄目押しとばかりに連発する。散らされ、体を引き裂かれ、原型をとどめない形で小蜘蛛たちは散っていった。
「よし、この調子で足止めを……」
敵はまだまだ、腐るほどいる。巡はその手の剣を持ち直し、もう一度だけ後ろの避難状況を確認してから駆けだした。もうしばらく、陽動は必要そうだ。
成功
🔵🔵🔴
鈴木・志乃
あたしが一番、スタッフとナツヱさんに近いのかな。まあそれも狙っての舞台袖待機だったし。
念動力で鎧砕きも出来る魔改造ピコハンと光の鎖を操り、ロープワークの技術で周囲の女郎蜘蛛に牽制かけながらUC発動
行くぜ相棒、好きに暴れてこい。突進繰り返して吹っ飛ばして、とにかくかき乱せ。観客が襲われる前に横っ腹殴ってこい。
オーラ防御常時発動
ナツヱさんの傍に駆け寄り声をかけるよ。立てなかったら念動力で強制退避させる!
小蜘蛛が群がったら自身を中心に、全力魔法の衝撃波か光の鎖を横一閃でなぎ払い攻撃
合体したらピコハンで脳天からぶっ叩く
敵攻撃は第六感で見切り光の鎖で早業武器受けからのカウンター
観客の混乱は幾分かマシになった。それゆえに観客席は少し見通しがよくなり、蜘蛛たちの挙動もつぶさに見られるようになる。しかしそれは女郎蜘蛛たちにも言えることで。
「……そろそろ観客を追い始める頃だと思ったよ」
少しでも観客を追おうとする挙動を見せた女郎蜘蛛たちの元へ金の鎖が走った。まるでその合間をふさぐように操られたその鎖たちは、全て鈴木・志乃(ブラック・f12101)の手元から放たれている。
「行くぜ相棒、好きに暴れてこい。突進繰り返して吹っ飛ばして、とにかくかき乱せ。……観客が襲われる前に横っ腹殴ってこい」
志乃のその一言に応えるようなけたたましい鳴き声が響き渡る。召喚された天馬精霊、ユミトはその淡金色のたてがみをなびかせ舞台から飛び出した。志乃の唱えたまま、彼は縦横無尽に観客席を走り回る。
女郎蜘蛛を蹴り飛ばし、突進し、たまにその金の鎖へ絡めとって。彼は女郎蜘蛛たちの体勢を大きく崩していった。
「今のうちに……大丈夫ですか、ナツヱさん」
「え、ええ……たすけ、に……?」
「はい。……歩けますか?」
志乃のその問いに、ナツヱはゆるゆると首を振った。完全に腰を抜かしてしまったらしく、その足先は震えている。どうやって迫まで連れていこうか、と志乃が判断したそのとき、ナツヱが切り裂くような悲鳴を上げた。
「イヤァッ! 蜘蛛が、小さな蜘蛛がッ!」
もし無害なものだったとしても、婦人の方々にとって蜘蛛というのはたとえ小さくても恐怖の対象になりうる。それが影朧から生み出された眷属であるのならなおさら。わらわらと一斉に志乃の元へ縋りあがろうとする小さな影に、思わず志乃も鳥肌を立てた。
「く、るなッ!」
自身の魔力を全力で用い、志乃は衝撃波を放った。小さな姿の蜘蛛たちはなすすべもなくばらばらと弾き飛ばされ、志乃たちから遠ざかる。それでも軽傷のものはまだ向かってくる気らしく、志乃は舌打ちをして立ち上がった。
「そこの人!」
念動力でナツヱを持ち上げ、迫へ向かっていた役者と共に乗せる。突然声をかけられた役者―――偶然にもその人は、怪人役の役者であった―――は慌てて浮遊するナツヱを受け取り、抱えて迫へと消えていった。
これで一安心と、志乃はピコピコハンマーを肩に担ぐ。……一見ただのパーティーグッズにしか見えないが、これを叩き込まれると二tハンマー並のダメージを負うのだから侮れない。魔改造されたそれを手に、志乃は目の前で合体を始めた小蜘蛛たちへ飛びかかった。
「強くなるってわかっているのに、合体なんてさせないよ」
思い切り両腕で振り上げたピコピコハンマー。強くなる前にさっさと潰す。容赦ない一撃が小蜘蛛たちをまとめて、ぺしゃんこに押しつぶした。
成功
🔵🔵🔴
西条・霧華
「守護者の【覚悟】を以て、舞台に掛けるその想いを散らさせません。」
ナツヱさんを含め、一般の方を護りつつ戦闘
…この混乱のまま避難すると二次災害の恐れもありますね
声を張り上げて、少しでも落ち着いて貰えたらと思います
「ユーベルコヲド使いが皆さんを必ず護ります。だから皆さんは落ち着いて避難して下さい!」
【残像】を纏って眩惑し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』
敵の攻撃は【見切り】、【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止め、返す刀で【カウンター】
襲われそうな方が居れば攻めよりも護りを優先します
特にナツヱさんは女学生の影朧にも関係していますから、より注意します
猟兵たちの支援によって観客たちの避難が進んでいく。最も危険であったナツヱさえ逃がすことができた今、形勢は猟兵たちへと傾きつつある。それを理性で感じたわけではないだろうが、女郎蜘蛛たちの動きに焦りが見え始めた。
やたらめったらにその長い足を動かし、奇声を上げる。そしてその身からわらわらと小さな己の分身を生み出した。
それはいとも簡単に客席の合間を抜け、大きな己の代わりに暴れてやろうと駆けまわる。その小ささでは大したことはできないが、観客を守る猟兵の足元をすり抜けんとする彼らは護り手たちにとっては脅威だ。
群れをなす小蜘蛛が波のように迫りくるのを発見した観客が甲高い悲鳴をあげた。このままではパニックが起きる―――それを遮るように黒い影が素早く蜘蛛たちの前に飛び出した。
「はぁぁッ!」
腰の刀を抜き放ち、その風圧で小さな女郎蜘蛛たちを千々に散らせる。刀で一体一体斬ることはできないが、寄せ付けなければ観客を護ることはできる。護り手としてはそれで十分だ……そう、西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は思う。
(……この混乱のまま避難すると二次災害の恐れもありますね……)
パニックになった群衆というのは危険だ。逃げようとするあまり視野が狭まり、思わず押しのけたり突き飛ばしてしまうことで、避難者同士けがを負ってしまうこともある。それは影朧の襲来の次に用心しなければいけないことだ。
「ユーベルコヲド使いが皆さんを必ず護ります。だから皆さんは落ち着いて避難して下さい!」
慣れない大声を張り上げつつ、霧華は一度刀を鞘にしまう。居合の構えを解くことはなく警戒を続けながら散らした小蜘蛛たちを注視した。
……千々になり視界に捉え辛くなった彼らがこのままなにもしてこないわけがない。ほとんど確信じみた予想を胸に、霧華は観客たちを護るためその場から動かなかった。例えそれで多少不利になったとしても、その信条を曲げる気はない。
「守護者の覚悟を以て、舞台に掛けるその想いを散らさせません……!」
一カ所に集い始める小蜘蛛たち。黒々とした彼らの集合体はいつしか大きな女郎蜘蛛となり、霧華を見下ろしていた。
大きく振り上げたその足を霧華に向かって鋭く振り下ろす。彼女の命を奪わんと振るわれたその一撃は、寸分の狂いなく彼女を切り裂いた。……しかし、彼女はすでにその場所から動いている。
「こちらですッ!」
霧華が叫んだとき、彼女はすでに疾走を終えていた。合体蜘蛛が切り裂いたのは彼女の残像。その間に霧華は蜘蛛へ肉薄し、籠釣瓶妙法村正を鞘から抜き放っていた。
一閃。音もなく合体蜘蛛が真っ二つに割られた。鋭いその一刀は音もなく蜘蛛を切り裂き、その命を奪う。
「まずは一体……!」
返す刃で女郎蜘蛛を切り伏せ、血を払う。背後をうかがってみれば、避難は着々と進んでいるようだ。
霧華はほっと一息つき、改めて女郎蜘蛛たちに向き直った。———避難が完全に終わるまで、護りぬかなくては。守護者としての覚悟を胸に、彼女はまた素早い一歩を踏み出すのだった。
成功
🔵🔵🔴
アイン・ローレンス
【SPD】
ふふ、素敵な舞台を遮ろうだなんてイケない子たちですね…
さあ倒される覚悟は済んでますか?
役者さんたちも避難したようですし…蜘蛛も嫌いですし全力で行きます
ちょっと出遅れてしまいましたが、別に怪人に助けられるクリスティーヌにときめいたりなんてしてませんよ?
ちょっとナツヱさん羨ましいななんて思ってませんよ…?
「友の友」でまいたけ軍に手伝って貰います
【全力魔法、範囲攻撃、属性攻撃、吹き飛ばし】
炎の魔法で【小蜘蛛の群れ】は私が全て燃やし尽くしましょう
あなたたちはフォーマンセルで女郎蜘蛛を確実に仕留めて下さい
あなたたちなら大丈夫、頼りにしていますよ?
ええ勿論、私も小蜘蛛を一匹も逃しはしませんとも
「ふふ、素敵な舞台を遮ろうだなんてイケない子たちですね……」
かつん、とアイン・ローレンス(気の向くままに・f01107)の靴が鳴る。普段穏やかな彼女の雰囲気は完全に凍り付き、微笑んでこそいるがその目には怒りが宿っていた。最高の舞台を遮ってきた罪は重い。
他の猟兵たちの活躍によって一般客の避難も十分、役者たちも避難済み。一番危険なナツヱも逃れることができた。ここまで来たら思い切り焼き払うのみだ。
「別に、怪人に助けられるクリスティーヌにときめいていて遅れた……なんてわけではありませんよ? ちょっとナツヱさん羨ましいな……なんて思ってませんよ……?」
思い出されるのは先ほどの一場面。猟兵によって避難先の迫へと飛ばされたクリスティーヌ……もといナツヱを優しく受け止める怪人の姿だ。あんな素敵な怪人に姫抱きにされて助けられるなど、羨ましさしかない。
「しかし、それはそれこれはこれ。さあ倒される覚悟は済んでますか?」
再び氷のような空気を纏ったアインに、少しばかり生き残りの女郎蜘蛛たちがたじろく。すでに猟兵たちとの力の差を見せつけられ多くの仲間を狩られている女郎蜘蛛たちは、始めの頃よりは少し逃げ腰気味だ。
それゆえか、とにかく数を増やそうと彼女たちは奇声をあげて小蜘蛛たちを召喚した。一体から生まれるのならばともかく、生き残りすべてが生み出し始めるとなると小蜘蛛たちの数はえげつない量になる。うじゃうじゃと小さな蜘蛛がうごめく観客席という地獄の空間ができあがった。
ぞわぞわっとアインの背筋に冷たいものが這いあがる。もともと蜘蛛が嫌いなアインにとって目の前の光景はまさしく地獄、一刻も早く消し去ってしまいたい衝動に駆られた。
「手伝ってください、まいたけ軍のみなさん!」
そう声をあげるとぽんぽんっ、と軽快な破裂音をあげて鎖鎌を持ったイタチの軍団が舞台へと現れた。見た目は愛らしいが、彼らは忠実な仕事人。隊列を組み、息の合った立ち回りで敵を倒してくれる。
「あなたたちはフォーマンセルで女郎蜘蛛を確実に仕留めて下さい。小蜘蛛は私が。あなたたちなら大丈夫、頼りにしていますよ?」
アインの優し気な声に、隊長らしきイタチがビシッと敬礼を決めた。そして言われた通りに四人一組へと分かれていく。
「さて……」
振り返ってみれば先ほどの地獄の様相が湖と深緑の瞳に映りこむ。表情を硬くしたアインはその両手を前に掲げた。
「ええ勿論、私も小蜘蛛を一匹だって逃しはしませんとも……!」
その手から放たれた紅蓮の業火は、舞台を傷つけることなく器用に、すべての小蜘蛛を焼き払う。悲鳴のようなものをあげながら火に巻かれる小蜘蛛、その傍らで隊列を組んだイタチに切り刻まれていく女郎蜘蛛たち。
逃げることも許されず、燃やされ切り捨てられた彼女たちは、いつしかただのひとりもいなくなっていた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『血まみれ女学生』
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POW : 乙女ノ血爪
【異様なまでに鋭く長く伸びた指の爪】が命中した対象を切断する。
SPD : 血濡ラレタ哀哭
【悲しみの感情に満ちた叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 応報ノ涙
全身を【目から溢れ出す黒い血の涙】で覆い、自身が敵から受けた【肉体的・精神的を問わない痛み】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
昔々、或るところに、舞台女優を志す女学生がいました。
その夢を胸に帝都へやってきた彼女は、その夢に恥じない努力を続けました。
歌を、踊りを、そしてもちろん演戯に至るまで。彼女が己に満足することはなく、努力は続けられました。そしてその努力に見合う実力が彼女には伴っていったのです。
或る者は云いました。「彼女は素晴らしい役者になる」「学校さえ卒業すればすぐに引く手あまただろう」。夢の舞台はもう少しだと、彼女は一層努力を続けました。
彼女の目指す場所は帝都有数の歌劇場。並大抵の実力では上り詰められません。でもあともう少し、あともう少しで手が届くところでした。
事故が起きたのはそんな頃。練習も兼ねて通い詰めていた小さな劇場で、彼女の所属する演劇部は卒業公演を行うことになりました。
演目は「オペラの怪人」。彼女の役はもちろん、主役のクリスティーヌ。夢への第一歩となる舞台、その公演本番で。
粗末な素材で作られた動かないはずのシャンデリア、その金具が壊れ、彼女は下敷きになって死んでしまったのでした。
それが彼女の悲劇。たったそれだけの話。
しかし彼女の無念は影朧となって生き続けている。
「舞台、ブタイ、オチル、アア、アア」
苦しみ嘆く血まみれの女学生。彼女には目的も何かに対する悪意もない。ただただその無念を嘆き、似た境遇のナツヱに惹かれてしまっただけ。しかし影朧と堕ちた彼女はそこにいるだけで、不幸を招き入れてしまうのだ。
彼女は死してなお苦しみ続ける。彼女はもう、その呪縛から解放されても良いはずだ。
どうか彼女の悲劇に終止符を。
ラジュラム・ナグ
おじさん登場だ。
華やかな舞台上での悲劇か・・・。
・・・この世界は転生もある世界だったか?
過去は変えられぬが、せめてお前さんが未来へと進む為の背中ぐらいは押してやろう。
開幕UC《強奪時間》を発動。
お前さんの苦しみ、今生の呪縛を「奪って」やろう。
敵さんの攻撃は大剣を盾代わりに[怪力]で[武器受け]で対応だ。
装備アイテム<全てを奪う闇>を全面に展開し威力を「奪う」。
左手に大剣を持ち替え右手に闇を剣の形状で握り、攻撃開始だ!
奪った威力を上乗せして連撃で一気に畳みかける!
この世界とお前さんの未来の為。
願わくばいい夢を。
蜘蛛を蹴散らされ観客もいなくなった舞台に、ぼたりぼたりと血が滴る。嘆く女学生が登場した血塗られた歌劇場。そこへ姿を現した男がいた。
「さぁて、おじさん登場だ」
大きなバスターソードを携えたラジュラム・ナグ(略奪の黒獅子・f20315)は歌劇場を一度見渡し、柄を握る力を少し強めた。華やかな歌劇場での悲劇。そしてそれに縛られる女学生。
「……この世界は転生もある世界だったか? よかったじゃねぇか、お前さんにはまだ未来がある。おじさんに過去は変えられぬが、せめてお前さんが未来へと進む為の背中ぐらいは押してやろう」
サクラミラージュには影朧の転生という概念が存在する。彼女も過去の呪縛に縛られていなければもしかしたら、もう一度生を受けることができるかもしれない。
だからこそラジュラムは剣を振るい、強奪するためにここへ来たのだ。
「この世界とお前さんの未来の為、お前さんの苦しみ、今生の呪縛を『奪って』やろう!」
大剣を構えたラジュラムを見て、どこか上の空だった女学生は敵意を剥きだした。もはや自我も思考能力もない、ただ嘆くだけの彼女にはきっと、ラジュラムの言葉は届かない。だけどもしその呪縛を完全に奪ってやれたのならば。きっと今の生殺し状態から解き放つことができるはず。
鋭く伸びた彼女の爪が、ラジュラムへと振り下ろされた。血に塗れたその爪は嘆きと苦しみを乗せて、敵を切り裂かんと襲い掛かる。しかしラジュラムは焦らず驚かず、ただその大剣を盾にするように自分と女学生の間に掲げた。
ギィィンッと嫌な金属音が歌劇場へ響き渡る。大剣に受け止められた爪はそれ以上先に進むことを許されず、大剣ごとラジュラムを切り裂くことも叶わなかった。己の一撃の威力の弱さに、女学生は怪訝な顔をする。
「奪わせてもらったぜ……その爪の『威力』!」
バスターソードと女学生の爪の間、そこに展開されていた全てを奪う闇がさらに大きく広がった。女学生をその怪力で弾き返し、ラジュラムは素早く剣を持ち変える。全てを奪う闇を用いたラジュラムの『強奪時間』……闇は、ラジュラムは、全ての物を奪い、そして糧とする。
空いた右手、そこへ集まるは黒色の闇。その形が剣へと変貌してゆき、ラジュラムは大剣形態となった闇を強く握りしめた。
「願わくばいい夢を。こんなところで管をまいてねぇでよ」
一撃、二撃、三撃。怒涛の連撃を両手の剣で次々と叩きこめば、女学生の纏った血が周りに飛び散る。女学生から奪った威力を乗せ、剣は彼女の体をズタズタに切り刻んだ。
成功
🔵🔵🔴
君津・輪太郎
過去の悲劇を現在に持ち込むな
オブリビオンは皆斃す、この憎悪が赴くままに
その後転生するなら勝手にしろ、真人間になったら干渉する意味も無い
作戦:
UCによる狙撃を中心とする
爆撃・乱射はステージを損なう。場に与える瑕は少ない方がいい
舞台袖や入口など場所を変えつつ闇討ちを繰り返す
一射で殺せるとは限らん、だが相手を苛つかせるようにチクチク攻める
この憎悪を研ぎ澄ませ、鋭く叩き付ける
敵がUCによる攻撃を仕掛けてきたら、予め仕込んだフック付きワイヤーを使って高速移動、逃げ足を活かして機動戦に持ち込む
もし他に協力できそうな仲間がいれば、打撃は彼に任せて自身は仲間の隙のフォローを重視
絡み・アドリヴ歓迎
「お前の事情など知ったことか。過去の悲劇を現在に持ち込むな」
その声に怒りと、並々ならぬ憎悪を込めて、君津・輪太郎(悪滅の旅客・f22070)はつぶやいた。舞台の天井に上り、スポットライトの影となることで身を隠した彼は、その銃を影朧に向ける。スコープ越しに見える狂乱の女学生は、一撃で仕留めるには動きが速く変則的すぎた。とはいえ爆撃や乱射は舞台を酷く損傷してしまう。できればこの場所への瑕は少ない方がいいだろう。そうなればとれるのは、狙いすませた一撃のみ。
「……オブリビオンは皆斃す、この憎悪が赴くままに」
頭への狙撃を諦めた輪太郎は、彼女の肩に狙いを定め引き金を引いた。銃口から撃ち出された銃弾がまっすぐに彼女へと飛来し、女学生が反応するより早く、着弾する。
——————ギャァァァァァッッ!!
けたたましい悲鳴と共に女学生が勢いよく輪太郎の方へと振り向いた。すばやく場所を移動していた輪太郎は影に隠れたまま天井の舞台装置へフックをかけ、静かに舞台袖へと降り立つ。必死に天井の襲撃者を探している女学生は輪太郎からみて酷く無防備だ。
短く何度も響く女学生の悲鳴と発砲の音。女学生を攻撃し、フックで繋げたワイヤーを使って即移動。またその先で狙撃を繰り返す。女学生がその姿を確認する前に輪太郎は闇へと溶け、逃げてしまうため反撃もままならない。一撃一撃は致命傷にならずとも、一方的な戦況に女学生のいらだちは募っていく。
その攻防が数分も続いたころ、翻弄されるばかりだった女学生が突然咆哮を上げた。怒りが籠ったそれは歌劇場に鳴り響き、不意をつかれた輪太郎の狙いが大きくずれる。
パチュン、と足元を擦った弾丸で女学生は敵の位置を補足した。その異常に伸ばされた鋭い爪を振り上げ、天井の舞台装置へ襲い掛かる。奇しくもそこには体勢を崩しかけた輪太郎がいた。
飛びのく輪太郎、それを追う女学生の爪。ぎりぎりで攻撃を避けた輪太郎だったが、足場にしていた天井の枠組みが切り裂かれ宙に放り出されてしまう。
「ちッ!」
外れたフック付きワイヤーを素早く投げ、照明のひとつへと引っ掛ける。宙を舞う軌道を無理やり変え、客席の方へ身を投げ出した輪太郎は、空中にいながらそのスコープを覗いた。見えるのは鬼の形相でこちらへ襲い来る女学生の顔。
「転生するなら勝手にしろ、真人間になったら干渉する意味も無い」
冷たく吐き捨てた言葉と共に銃弾は放たれた。研ぎ澄まされた憎悪が銃弾に乗ったか、その一撃は先ほどよりも速く、そして強力だった。
額に一撃を受け、女学生は大きく後ろへ吹き飛ばされた。致命傷というにはまだ足りないようだが、苛立たせるだけでない確かな手ごたえ。客席に無事着地した輪太郎は、無理な追撃はせずに身を隠して隙を伺うことを優先するのだった。
成功
🔵🔵🔴
アスター・クラウン
メーさん(f01975)と行動するわ!
『人生ってどんなに後悔しても戻れないの…でも私は貴方の努力や決意を無いものにはしないし、したくない
だから私は貴方が転生した時に、その気持ちが報われるような素敵な人生を願って…貴方を倒す!』
刻印が入った両手で【怪力】のままに殴るわ
攻撃が来れば【激痛耐性】で痛みを我慢しつつ【カウンター】
POWの攻撃は率先して庇ったりして受けるわ
ある程度怪我が増えればUCを使って地獄の炎を纏いながら殴ったり鉄塊剣で【凪ぎ払う】
メーさんが危なければ【かばう】
守られてばかりじゃないわよ!
メーさんと攻撃を合わせる時は拳で【鎧無視攻撃】
『次の人生は、きっと素敵よ』
蝶ヶ崎・羊
アスターさん(f05511)と同行します
『貴方の苦しみは、きっとワタシ達には理解できない程、苦しいものでしょう…ならば尚更、貴方のその苦しみを払い、眠らせてあげましょう』
向かってくる攻撃をC・Cで【武器受け】しながら風の魔法を纏った歌を【衝撃波】にして繰り出します
SPDの攻撃が来れば【オーラ防御】でアスターさんにかけてから
【戦闘知識】を元に攻撃を【見切り】ます
『攻撃から守るのはまだワタシの方が上ですよ?』
ダメージを負い過ぎていればUCを発動します
今回はオペラ座の怪人に合う悲恋の歌を紡ぎましょう
アスターさんと攻撃を合わせる時は拳で殴り付けます(【鎧無視攻撃】)
『いきます…!』
次々と現れる猟兵たちに傷つけられ、髪を振り乱して狂乱する女学生。理性を失った影朧は、その嘆きのままただ暴れることしかできない。そこにいるだけで周りへ影響を及ぼす彼女は、誰よりも過去に縛り付けられたままなのだ。
「貴方の苦しみは、きっとワタシ達には理解できない程、苦しいものでしょう……ならば尚更、貴方のその苦しみを払い、眠らせてあげましょう」
だから蝶ヶ崎・羊(罪歌の歌箱・f01975)はこの悲劇に幕を降ろしに来た。降ろし切れずともそこへ至るための序章を奏でるため。大きく重い指揮棒を手に舞台上へ現れた。
その姿を見た女学生は羊の言葉を解することなく、金切り声を上げて彼に飛びかかった。その長く鋭い爪を振り上げて。C・Cによって受け止められたそれはギヂギヂと嫌な音を立てる。攻撃が通らぬことに焦れたか、女学生がもう片方の手を振り上げた。
そこへ黒髪の影が、割り込んだ。
「……人生ってどんなに後悔しても戻れないの。……でも私は貴方の努力や決意を無いものにはしないし、したくない」
ぽたぽたと、鮮血が舞台へ垂れる。炎の刻印が刻まれた両の拳を交差させてその爪を受け止めたアスター・クラウン(炎を宿す元気娘・f05511)は決意を込めて言葉を紡いだ。
「だから私は貴方が転生した時に、その気持ちが報われるような素敵な人生を願って……貴方を倒す!」
肉を裂く爪を横に流して、バランスを崩した女学生に向かって空いた拳を大きく振り抜く。その拳が女学生の腹を打ち、彼女の体をはるか後方、客席の奥まで吹き飛ばした。
「守られてばかりじゃないわよ、メーさん!」
「ふふ、そうですね。でも……」
羊はニコニコと笑ったまま、いつの間にか取り出していたヒアデス・グリモア―ルを軽く掲げて見せた。それを見てアスターははっとその手を見る。確かに、怪我が少ないとは思った。肉どころか骨を裂いてもおかしくない一撃だったというのに。その身にはぼんやりと、アスターを護る光のオーラが覆っていた。
「攻撃から守るのはまだワタシの方が上ですよ?」
「いつの間に……」
二人のそのやり取りの間に、ふらりと女学生が客席から浮かび上がった。その瞳から、つぅと一筋の涙が流れる。しかしその色は禍々しい暗黒で、その涙がみるみるうちに彼女の体を覆っていく。
「明らかに強化されましたね。では改めて、前衛をお願いできますか?」
「もっちろん!」
鉄塊剣を手に地獄の炎を纏うアスターが力強く前へ立つ。彼女の堂々たる姿に惹かれたか、黒の涙に覆われた女学生が一直線に襲い掛かる。彼女たちが接敵する前に迎え撃つは羊の風魔法。歌中時計によって運ばれた歌声が風の魔力をもって衝撃波を生み出す。衝撃波によってバランスを崩した女学生に待ち構えていたアスターが飛びかかった。
「ガァァッ!!」
「はぁぁぁっ!!」
大きな鉄塊剣を持って大きく薙ぎ払えば、激しい打ち合いが始まる。爪と剣とで行われた競り合いはアスターが勝り、黒い涙ごと女学生の体を引き裂いた。上がる悲鳴は甲高く、痛みに比例して彼女の戦闘能力は引き上げられていく……。
「メーさん!」
「行きます……!」
打ち合いの間、オペラ座の怪人に似合う悲恋の歌でアスターの怪我を癒していた羊がその拳を握る。戦闘力が上がってしまうのならば、喰らう前に叩き込むしかない。アスターが何度か女学生に剣戟を叩き込み、その傷を黒い涙が覆いきる前に、鉄塊剣を手放した。癒され傷ひとつなくなった彼女の拳が、力強く握られる。そして、息の合った二人の拳が、女学生へと同時に到達した。
女学生の体に、魂に、その衝撃が届く。
「……次の人生は、きっと素敵よ」
ぽつりとつぶやいたアスターの声。羊の耳が捉えたその言葉は、女学生にも届いただろうか? それを確かめる術もなく、女学生は舞台へとその身を叩きつけられるのだった。
成功
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西条・霧華
「…悲劇は物語の中だからこそ美しいのです。」
『地獄の業火に焼かれながら、しかし怪物は静かに…秘かに天国に憧れる』
いまやファントムとなってしまった『クリスティーヌ』…
あなたの悲劇という名の舞台に幕を引きましょう
共に演じて頂けますか?
<真の姿を開放>し右腕と武器に蒼炎を纏います
幕引く助力を務めるのが、地獄の業火を宿す私だというのは皮肉かもしれませんね
【残像】を纏って眩惑し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『君影之華』
敵の攻撃は【見切り】、【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止め、返す刀で【カウンター】
どうかあなたが輪廻の輪に還り、来世にてまた夢を追えます事を…
キン、キン、と鈍い金属の音が鳴り響く。西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)の刀、籠釣瓶妙法村正と女学生の爪が奏でるその音は、二人の攻防の激しさを表していた。一進一退、二人は互いに譲ることを知らずに舞台上で踊る。しかし、連戦で傷つきすでに血を流している女学生の方が少しずつ、少しずつ押されていった。
「……悲劇は物語の中だからこそ美しいのです」
霧華の小さな声が剣戟の中に通る。それは聞こえていないのか、女学生に反応はない。
ハムレットにリア王、ロミオとジュリエット。演劇作家は時に残酷な物語をこの世に産み落とす。それは美しく悲劇的ゆえに、多くの観客を惹きつけて止まない。しかし、それは舞台の上の名作であるからこそ。現実に起きた悲劇は、美しくともなんともないただの惨劇だ。
守護者として、惨劇の幕をこれ以上上げさせるわけにはいかない。
「あなたの悲劇という名の舞台に幕を引きましょう。共に演じて頂けますか?」
いまやファントムとなってしまった『クリスティーヌ』へ、霧華は静かに語りかける。返事は期待していない。どんな答えが返ってきたとしても、既に幕は下り始めているのだから。
一度強く爪を弾き返し、霧華は女学生から距離を取る。カチン、と音をたて一度鞘へ籠釣瓶妙法村正を収めればその柄から、蒼い炎が漏れ始めた。蒼炎は刀と霧華の右腕を覆い、持ちうるすべての力を引き出していく―――!
「……幕引く助力を務めるのが、地獄の業火を宿す私だというのは皮肉かもしれませんね」
思い出されるのはオペラの怪人の一幕。怪人ファントムの苦しくも美しい台詞。
『地獄の業火に焼かれながら、しかし怪物は静かに……秘かに天国に憧れる』
霧華を追いかけ接敵した女学生の渾身の一振りが、霧華を真正面から斬り捨てる。しかし、斬ったはずの手ごたえはどこにもなく、あったはずの霧華の姿は揺らいで消えた。
「この身が鬻ぐは所詮殺人剣……。ですが、『殺す』ものを選ぶ事はできます」
振り返りざまの攻撃を鞘で受け止め、軽くいなす。そしてそのまま、地獄の業火を纏う刀を素早く抜き放った。
一閃。籠釣瓶妙法村正は打ち放たれその体を真っ二つに割るように、斬り捨てられた。しかし一滴の血も滴らず、肉はおろか女学生の服も裂かれない。一つの傷も与えずに、それでも霧華はその刀を鞘に納めた。もう充分であるとわかっていたから。
「アア、ア、……あ……?」
「……どうかあなたが輪廻の輪に還り、来世にてまた夢を追えます事を……」
霧華の最後の言葉に、女学生の瞳が大きく開かれる。ガタリ、と音を立てて壊れた人形のように膝をつくも、その瞳からは一筋の涙が流れた。嘆き悲しむ暗黒の涙ではない、透明で美しい涙が。
初めて、狂乱の女学生に猟兵の声が届いたのである。現世への執着、嘆きや悲しみだけを、霧華は斬り捨てたのである。
「わ、た……し、は……」
女学生の周囲を温かな白い光が包んでいく。影朧となってしまった狂った想いを全て失くした彼女は浄化され、鎮められた。もし桜の精の癒しを得られたならば、転生も行えることだろう。
「あ、りが……とう……」
途切れ途切れの感謝の言葉を最後に、女学生は光となって消えていく。霧華はそれを最後まで見届け、そして、踵を返した。
こうしてサクラミラージュで予知された惨劇は防がれた。ナツヱと、彷徨う一人の女学生の魂が救われ、また翌日から、変わらず歌劇場は賑わうのだった。
大成功
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