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牙猟天征  ~顕骸殺手起死回生~

#UDCアース

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●プルーヴィング・グラウンズ・オブ・ザ・インセイン・オーヴァーロード
 一面に、死が敷き詰められていた。

 某県山奥、ある廃ホテルのメインエントランス。そこに、夥しい数の死体が並んでいる。それもただの死体ではない。いずれも、等しく、顔を削がれた変死体だ。そこに、生きている者は一人としてない。撲殺、刺殺、絞殺、毒殺、死因と凶器のバーゲンセール。数ある死体が今なお手にした凶器が、壮絶な殺し合いがあったのだろう、ということを偲ばせる。
 ――そして異様なのは、その骸のたたずまいであった。大小様々の着の身着のままの人間の死体が、身体を折りたたみ、平伏して、隙間無く並んで――整然と、エントランス中央に向け拝礼している。まるで取り囲むように。
 そこに何の必然性があるのか。何の必要性があるのか。それすら定かでない、ただひたすらに奇怪な光景だった。誰がそれを作り出したのかすらも不明だ。
 ただ、一つだけ確かな事がある。
 ――死体はひとりでに礼などしないということだ。

 これは、儀式だ。多数の人間をただの死骸に貶め――そして、一柱の邪神をこの世に呼び覚ますための。

 不意に天井からぼたり、と黒い、コールタールめいたしずくが落ちた。
 天井にフォーカスすれば、そこにも、常世の悪性を濃縮したような図が広がっている。

 顔。
 顔、顔、顔、顔、顔、顔、顔、
 顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔……!

 天井には隙間無く、デスマスクめいた、笑顔の人皮が張り付いていた。
 床に横たわり死んだ人々のものであることは想像に難くない。寒気を覚えるような露悪趣味。
 もっとも人皮が集中した、エントランス中央の天井から、黒いしずくが継続的に滴り落ちる。
 しずくはやがて床に溜まり、黒い泥濘を作り……そして、長い時をかけて、そこから一人の男が析出した。ゆっくりと男は立ち上がる。
「出迎え、大儀である」
 朗々とした声が響いた。褐色の膚に、銀糸の髪。琥珀の目。
 かつて下エジプト、イネブ・ヘジに冠を戴いた王の姿がそこにあった。
「我が治めるに値する民は、何処也や」
 そして、彼は狂っていた。
 平伏する死骸を蹴り避けながら、狂王は孤独なる行軍を開始する。
 その後ろで――蹴り転がされた死骸の手指が、ぴくり、と目覚めたように蠢いた。

●王の首を刎ねよ
「厄介な案件だ」
 壥・灰色(ゴーストノート・f00067)は声低く言った。
「多数の人間を生贄にした邪神召喚儀式による、『イネブ・ヘジの狂える王』の降臨が確認された。至急討伐に当たってほしい」
 灰色は普段から表情の薄い男だったが、今回はその表情は殊更に硬い。『イネブ・ヘジの狂える王』は、幾度となく猟兵らと死闘を繰り広げたオブリビオンだ。故に、その手の内も的確にナビゲートすることが出来るだろう。
 ――ならば、彼は何を案じているのか。
 灰色は敵のパーソナルデータを表示する。
「見ての通り、狂王は、身体の部位をワニの顎に変じての咬み付きと、ユーベルコードを封じる三魔槍による投擲・刺突、腐食呪詛による旋風と、多彩な攻撃を扱う強敵だ。……しかし、敵がこいつだけなら、きみたちなら必ず討伐してみせるだろう。案ずるべきなのは、この狂王が伴う死者の軍勢。そして――おれが見通せなかったもう一つの脅威」
 灰色は韜晦するように言う。
 数人からの訝しむような声に、灰色は応えるように続けた。
「狂王を追い詰めれば、ヤツは死骸を使って作った手勢によって抗戦を試みる。おれが予知できたのはそこまでで……その後のことは断片的にしか視えていない。確実に言えることは、手勢を倒してもそれで終わりってワケじゃないことと――『そこまでに見せた技に、対策を仕掛けてくる』敵が現れること。この二つだ」
 通常、猟兵達は敵の手の内を知り、それに対策を講じる形で敵に挑むが――此度は、敵が猟兵達に対して対策を講じてくる、という。
「備えなしにそれまで同様に戦えば、恐らく分の悪い戦いになる。……見せたものに対策をしてくると言うなら、見せていないものを叩きつければいい、とは思うけれど――その具体的な方策については、君たちに任せるしかない」
 緊迫した口調を崩さぬまま灰色は続ける。
「同じ技を見せられない上に、正体の判然としない敵にきみたちを挑ませること、痛恨の極みだ。――けど、難しい仕事だとは分かっていても、きみ達にしか頼めない。どうか、協力して欲しい」
 灰色は一礼をして、立体パズルを操作。現地に至る“門”を開く。
 灰色が再三告げる通り、並ならぬ任務となるだろう。
 しかして死中に活あり。困難と苦難を押しのけ、ここまで三つの世界を救った精鋭達ならば、決して不可能ではないはずだ。

 骸の海より顕れる、奴らを殺す手技を以て。決意を胸に門を征け。

 牙猟天征――顕骸殺手、起死回生。
 いざや、いざいざ、堂々開幕!



 お世話になっております。
 燻製です。チーズが好きです。

 今回は唐揚げMS様とのコラボシナリオです。唐揚げMS様の『牙猟天征 ~グロウアップ・アンド・ショウダウン~』とテーマを同じとする作品になります。
 魔穿鐵剣に続き難読タイトルですが、『がりょうてんせい ~けんがいさっしゅきしかいせい~』と当てています。魔穿鐵剣に同じく、もとになる四字熟語の意味とかけているので、ふんわりと雰囲気的なものを感じて戴けたらとても嬉しく思います。

 ところでテーマとは何か。『必殺技、開眼』です。

●章構成
 第一章:ボス戦『イネブ・ヘジの狂える王』
 第二章:集団戦『傍観者達』
 第三章:ボス戦『???』
 敵詳細、その他補足は適宜各章間の断章にて描写致しますので参考になさって下さい。

●テーマ
『必殺技、開眼』
 第三章のボスは、なんらかの方法により猟兵の戦いを知覚・学習します。
 そこから対策をされてしまうため、従来通りの戦い方では撃破困難となります。
(※あくまでフレーバーであり、シナリオの難易度は通常通りです)
 これを打ち破るためには、その戦闘で見せていない新必殺技を考えなくてはなりません――!
 三章開始前に詳細にガイドしますが、以下二つの選択肢があり、いずれかを選んで戴き、ボスへ挑む流れとなります。
 1:情報提供の上MS(煙)にお任せで、指定UCをベースとした新必殺技を考案させる。
 2:指定UCをベースとした新必殺技をプレイングに記入する。
(尚、実際にシステム的にユーベルコードを作成する必要はございません。判定は、指定されたユーベルコードの成功率で行います)

●プレイング受付開始日時
『2019/09/24 08:30』

●お受けできる人数について
 今回の描写範囲は『各章再送を含め上限三〇名様前後』となります。これに満たない場合は全員描写を試みます。
 採用させて頂くにあたりまして、プレイングの着順による優先等はありませんので、お手数に思わなければ、受付中の限りは再送などなどお待ちしております。
 また、人数制限を設けさせて頂くため、多数名様での連携プレイングは描写しきれない場合があります。コンビ・トリオあたりまでを目安にお考えくださいますと幸甚です。

 それでは、良き闘争を。
 入魂のプレイングをお待ちしております!
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第1章 ボス戦 『イネブ・ヘジの狂える王』

POW   :    アーマーンの大顎
自身の身体部位ひとつを【罪深き魂を喰らう鰐】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    カイトスの三魔槍
【メンカルの血槍】【ディフダの怨槍】【カファルジドマの戒槍】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    ネクロポリスの狂嵐
【腐食の呪詛を含んだ極彩色の旋風】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:えび

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠神楽火・綺里枝です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●唐揚げMS様のコラボシナリオ
『牙猟天征  ~グロウアップ・アンド・ショウダウン~』
 https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=14728
 
 
 
●クルーエル・オーヴァーロード
 初秋、手入れもされずに立ち枯れていく紅葉の下を、イネブ・ヘジの狂える王が往く。その道の果てに彼の求める都はないというのに。
 彼の道行きには不敗の呪詛が舞い吹いた。木も、その影に隠れていた野生動物も、呪詛に当てられてボロボロと生きたままに朽ち、腐り落ちていく。
 王は歩みを止めぬ。その先に紛れもなく、己が治めたイネブ・ヘジがあると信じているかのように、だ。歩くだけで生き物を腐らせ、朽ちさせる狂風を纏いし王。これが人里に下りれば、いかに巧く立ち回ったとて、甚大な被害が出ることは必定!
 不意に、王は中空を見、動きを止めた。
 空中にいくつもの、蒼白の環が浮かび上がり、その内側の空間が裂ける。そこから飛び出し、次々と着地するのは、この事態を収拾すべく集った猟兵らだ!
「――控えよ」
 狂王は右手を挙げる。
「余の帰還であるぞ」
 瞬間、空中に結実するのは無数の赤き槍!
 数多の咎人を貫き死罪に処した処刑槍、名を『メンカルの血槍』!
 王が手を無造作に払えば、もはや赤き風と見紛う程の密度で血槍が放たれた。猟兵らは当然、その初手を予測していたかのように各々の回避行動を取る。
 多数の猟兵に囲まれ、しかして怖れることも戦くこともなく、ただ路傍の石を取り上げて棄てるように自然に動いたこの狂王、紛れもない強敵である。
 現場は廃ホテルより五十メートルほどの山中。そこら中に木が林立し、空中戦の足場には事欠かないだろう。地盤も緩んでおらず、踏むに支障の無い固さだ。地形的に警戒しなければならないポイントはない。
 つまりは敵との、純粋な力比べとなるだろう。
 強敵だが、すでにヤツに続く敵の存在が予見されている。
 必ずやヤツを踏み越え、さらなる悪を燻し出し、滅却せねばならない!
 さあ、武器を取り、戦端を切り開け!

 敵対象一、『イネブ・ヘジの狂える王』!
 グッドラック、イェーガー!
 
 
 
●第一章プレイング受付期間
2019/09/24 08:30〜2019/09/27 13:59
街風・杏花

うふ、うふ、うふふ!
さぁさぁ、困りました。何せ私、多少の小技はあっても土台のところ、「これ」しか出来ません。
狂乱怒涛、敵が強ければ強いほど、無謀を犯せば犯すほど強くなる。
さぁ――私の無謀の礎に。唯一の技を晒すサンドバッグになって下さいな、狂王様!

罪深き魂! うふ、うふふ。どうでしょう、私、悪人しか斬りませんけれど。
「悪人以外は我慢している」というのは、うふふ、罪でしょうか? ねえ、教えて下さいな!

※戦闘スタイルは刀で特攻(捨て身の一撃、激痛耐性)
※狂瀾怒濤の身体能力任せ、剣才自体はそう大したことはないイメージ
※素手もそこそこ出来る、蹴ったり(グラップル)



●狂王vs狂華
 全方位へ向けて放たれた『メンカルの血槍』を弾きながら、無謀にも前進した影がある。奇しくもそれが、猟兵側の一番槍となった。
「うふ、うふ、うふふ! さぁ、さぁさぁさぁ、困りました! 手札を出さずに戦えと言えど、何せ私、土台のところ『これ』しか出来ません!」
 血槍散らして狂王目掛け突撃をかけるのは街風・杏花(月下狂瀾・f06212)! しかも言わねば分からぬことを、大声で開示するのは何のためか――そう、一つ二つの小技を除くなら、『それ』こそが彼女に唯一許された天剣の技。大物殺しの『狂瀾怒涛』!
 彼女は敵が強ければ強いほど、無謀を犯せば犯すほど強くなる。杏花の速度は尚も早まる。あえて不利な行動を取り、自らに制約を課すほどに杏花の剣は鋭く、速くなるのだ。
「さぁ――私の無謀の礎に。唯一の技を晒すサンドバッグになって下さいな、狂王様!」
 しかして敵は強大、イネブ・ヘジの狂王!
「民草が許しもなく余を示すとは、不敬である。処刑人は不在故、我が手に掛かって疾く死ぬ栄誉を遣わす」
 ごきり、と狂王は右手を顎門のような形に開く。
 メンカルの血槍を凌ぎ、狂王の懐へ滑り込んだ杏花の目の前で、王の右手がまるでバグの起きたゲーム画面めいて歪み、巨大な鰐の顎に変じる。ぬらぬらと光る鋸歯にて食いつきに掛かる――これなるはイネブ・ヘジの狂王が得意とする秘術、罪深き魂を喰らう冥府の顎門、『アーマーンの大顎』である。
 バネの外れたトラバサミめいて閉じられる鰐顎を紙一重で回避する杏花。応ずる如く無銘の刀で斬撃を浴びせるも、鰐に変じた王の腕は鋼鉄の如き鱗に覆われ、刃が通らぬ。
 隙もなく、武器も通じぬ。そのうえ、上からは常にメンカルの血槍が注ぎ、杏花の回避行動を妨げる! ジリ貧の状況に置かれているといって差し支えない、その状況でしかし剣鬼、街風・杏花、頬を吊り上げ、酔うたように笑う!
「その鰐の顎は罪深き魂を喰らうとか。うふ、うふふ、どうでしょう? 私、悪人しか斬りませんけれど。――『悪人以外は我慢している』というのは、うふふふ、果たして罪でしょうか? ねぇ、教えて下さいな、狂王様!」
「口を閉じよ、小娘。既に裁定は下った。貴様は我が都にて統治されるべくもなし。顎門を潜り冥府へ参列せよ」
 狂王は今一度右腕の鰐を引いて溜めるように構える。
 次こそ喰らうという溜めの構え。不用意に飛び込めば後の先を取られるは必定。
 なのに、いや、ならばこそ。杏花は全く何の構えも取らず、ただ愚直に正面から飛び込んだ。
 空中に凝って射出されるメンカルの血槍を弾き、二本ばかりを肩に受けつつも、しかし勢い止まらず加速! 真横に薙ぎ払うように繰り出された鰐腕の一撃を宙返り回避!
 ――ああ、しかしその一撃は誘いだ!
 振り払った右手が瞬く間に人の形に戻り、左腕がすかさず鰐顎と化す!
 宙返りを打ち無防備となった空中の杏花を喰らうべく、鰐が涎を散らしながらその顎にて食らい付く――当にその刹那!
「うふふ――そう簡単に喰らえては、興醒めというものでしょう?」
 刹那、天地を貫く如き一八〇°開脚! 踵を撃ち出したのか、と思わせるほどの開脚蹴りだ。鰐の上顎と下顎を両の踵で蹴りつけ、支え棒めいて咬撃を一瞬留める!
 杏花は止まらない。不利を重ねての狂瀾怒涛の速度をフルに活用。踵を軸に身を一転、無銘の刀が閃き――鱗に覆われておらぬ粘膜を縫って、大鰐の顎を斬り裂くッ……!
 血が飛沫き、緩む顎。杏花は透かさず顎を蹴り離して宙返り離脱!
「ぐ……ぬ」
 顎をだらりと垂れ血を流す鰐の腕を引き、蹈鞴を踏む狂王。
「うふ、うふふ! あらあら、少し業が大きすぎましたでしょうか? けれどこの程度で音を上げるようでは、冥府の顎門が聞いて呆れますわ」
 地に降り立ち、杏花は刀を王へと再び差し向けた。
「さあ、さあさあ、死合いを続けましょう!」

成功 🔵​🔵​🔴​

カタリナ・エスペランサ
「悪いけどキミはもう終わった過去の亡霊、帰還なんてさせられないんだよね!」
背の双翼を広げ上空から不遜に言い放つ事で宣戦布告の代わりと為し。

敵の動きは《第六感》《戦闘知識》を併用して《見切り》、襲い来る攻撃は《ダッシュ》《ジャンプ》の急加速で回避します。

UCは【神狩りし簒奪者】で《先制攻撃》。
《空中戦》を展開して敵の身体に重なるようにした自分の影を《早業》で縛鎖へと変化させると同時に《クイックドロウ》で白雷の槍による《属性攻撃》《鎧無視攻撃》を放ち《2回攻撃》、ダメージで隙を作ったところに黒炎の《範囲攻撃》を叩きつけ敵のUC封印を狙います。
「今回も速やかに退場願うよ、王サマ!」



●王殺しの黒炎
「悪いけどキミはもう終わった過去の亡霊だ。ここにキミが求める都なんてないし――あったところで、帰還なんてさせられないんだよね!」
 メンカルの血槍をばらまき、仕切り直しを図る狂王目掛け、空から声が降った。
 プリズムのように見る角度によって色を変える双翼を広げ、上空より不遜に言い放つのはカタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)。即座に狂王は人差し指をくんっ、と上向ける.それとほぼ同時に地より吹き出すようにメンカルの血槍が噴き上がった。間欠泉めいて天のカタリナへ向け血槍の群れが伸びる。
 カタリナはすかさず地に向けて回頭、空を駆け下りるように急降下を開始。立木の幹を蹴り飛ばし、縦横無尽に機動して血槍を回避する。
「こんなもんじゃアタシは捉えられないよ!」
「不敬極まる。ならば王の財を見るがいい」
 その両手に生み出されるのは『ディフダの怨槍』と『カファルジドマの戒槍』。これにメンカルの血槍を加え、狂王が振るう三つの魔槍――『カイトスの三魔槍』と称す。
 狂王は怨槍を無造作に突き出した。その穂先が霞み、伸長。立木を縫って鋭角的な螺旋を描く。防ぐ事叶わぬ怨みの槍、ディフダ。その穂先は決して濯げぬ怨みの如く対象を付け狙う!
 カタリナはその軌道に目を見開きつつも、しかし回避行動を止めない。
 宙に唸り飛ぶメンカルの血槍の嵐の狭間をカタリナは翔け抜ける。その後ろを追うようにディフダの怨槍の切っ先が疾る構図だ。目まぐるしく気道の変わる様はドッグファイトめいている。
 視線の先、狂王が三本目の槍――カファルジドマの戒槍を構えるのに先んじて、カタリナは狂王の上をフライパス。
 傾ぎつつある日が、狂王の上にカタリナの影を重ねる――その刹那、カタリナは右手を、縛するように握り固めた。
「む……、」
 その瞬間、カタリナの影が解けて編み直される! 影は異能殺しの縛る鎖と化し、瞬く間に狂王の身体を雁字搦めに絡め取った。
「そっちに二手先を打たせたんだ。次はこっちの番さ!」
 カタリナはそのまま超高速で空中飛行。繋いだ鎖で狂王の身体を引きずり回しつつ、木立の間を飛翔。
 畳みかけんばかりに振り向けた掌が白くスパーク。間髪入れずの次弾、白雷の槍が、戒められし王に次々と炸裂する。
「匹夫めが――命が要らぬか」
 しかして王の声は揺れぬ。底知れぬ力を秘めた声だ。カタリナの誇るユーベルコード、『神狩りし簒奪者』の二打目までを叩き付けて尚崩れぬ、王としての余裕、態度。
 忌まわしげにディフダの怨槍を再び引く狂王。逃れる事敵わぬ怨みの藍槍が放たれるその刹那、カタリナは頬を歪め、不敵に笑った。
「生憎だけど、退場するのはそっちだ」
 余裕ぶって見えようが関係ない。元より多数の猟兵が力を尽くし、狩る相手。自分に出来る最大限の一撃を叩き付け、他の猟兵に繋ぐのが最善手と分かっている!
 カタリナは影の縛鎖を中途よりパージ、敵の身体を天高く投げ出して、ディフダの怨槍の狙いを一瞬外す。
「むっ……!」
 唸る狂王が雁字搦めのまま空を舞う。同時にカタリナは木立を蹴り、反射する様に天へ駆け上る。ご、お、おお、おうっ! その右手に尽きぬ黒炎が燃え上がった。
「今回も速やかにご退場願うよ、王サマ!」
 歯切れ良く言葉を投げつけるなりカタリナは右腕に纏わせた黒炎を束ね――宙で縛鎖を今当に引き千切らんとする狂王目掛け解き放った。
 ――黒炎、天を衝く!
 放たれた炎の嵐が宙に投げ出された王を焼いた。天より降り注ぎ、地より吹き上げていたメンカルの血槍が束の間、途切れる。カタリナのユーベルコードが、狂王の魔槍を封じ込めたのだ。
 ――これで終わりではあるまい。予感があった。
 樹上に着地し、カタリナは油断なく、今も宙に渦巻き燃える黒炎の中を睨む。――その炎が晴れたとき、続けざまに攻撃を叩き込めるよう、油断なく。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユキ・パンザマスト
【SPD】
厄介ですが、それ以上に面白そーじゃないですか。
おニュー技を考えろ、なんてマンネリ防止にはちょうどいいですねぇ。

とはいえ、新技は後。まずは十八番から。
[ダッシュ+早業+捨て身の一撃]。
ええ、ええ、相手のお邪魔ならユキにお任せっすよお。
皆に当たらぬ位置から、がなる【逢魔ヶ報】をぶち込んで、
魔槍どもを[なぎ払い]に[衝撃波]で叩き落としつつ、
[呪詛耐性]で呪詛の旋風の威力を弱めましょっか。

……ああ、腹の虫ならぬ椿どもが騒ぐ。
正直、この惨状の主を齧ってやりてえっすけど、欲を出しても旨味がねえや。
ユキはお預けしながら、このまま攻撃妨害に専念しますよ。
さあさ、大将首は、皆さんで召し上がれ!


トゥール・ビヨン
アドリブ歓迎
パンデュールに搭乗し操縦して戦うよ

初撃は上手く避けられたけどここからが本番だね

イネブ・ヘジの狂王、始めて退治するけど強敵だ

だけど、ここで退くわけには行かない

これ以上、オブリビオンの犠牲になる人を出すわけにはいかないんだ!

いくよ、パンデュール。ボク達の力を見せよう!


この辺一帯に木が林立している
その木を利用して、間を上手く潜るように操縦しながら敵の射線をかいくぐり、狂王が放つ三つの魔槍を避けていこう

勿論、武器受けを使いながら避けきれなかったものは弾いていく

三撃目を凌いだ隙を狙ってシステム・パンデュールを起動し一気に狂王に肉薄しなぎ払いと二回攻撃を駆使して敵を討とう!



●歯車はサイレンと廻る
 宙に広がる黒炎の嵐に捲かれて姿をくらましていたのも束の間、巨大な鰐の顎門が炎を飲み込み、その内側より今なお炎燻る狂王の姿が露わとなる。高貴なる絹の衣も今や焼け焦げ惨憺たる有様だったが、しかし衣を整えるよう一度王が裾を払えば、負った火傷もろともに衣服までもが復元された。
「不快極まる。全員、八つ裂きにしても足りぬな」
「そいつぁ気が合いますね、ユキも黒幕共を食い荒らしてやりてえトコだ」
 うっそりと言った狂王の言葉に応える猟兵があった。骨蜥蜴の尾、蝙蝠の羽、猫めいた瞳孔の瞳。逢魔が時の呪い仔は、名をユキ・パンザマスト(椿、暮れ泥む。・f02035)という。
 ユキが睨むのは、王に遅れて、ホテルの方からのたのたと歩いてくる顔のない死人の軍勢だ。あの惨状を作り出したのは直接的にはこの王ではないのだろう。この王に阿る誰か。今もこの場を、どこかから伺っているのだろうか。
 ――腹の虫ならぬ、椿が騒ぐ。白椿が咎人の血を求めて唸る。しかして、それは後のこと。欲に駆られてそちらを追い求めたとて、旨みがあるとは思えない。ユキは唇を噛んで、思考を整理する。
「個人的な感情はともかく。今はあんたを止めるのが第一だってんなら――ええ、ええ、そういうことならユキにお任せ。お邪魔妨害は十八番ですからね」
「ぺらぺらと良く喋る。頭を垂れよ、愚物。不敬である」
 きっしし、と弾むように笑うユキの調子とは対照的に、狂王は徹頭徹尾凪いだ調子だ。――しかしその奥底には焦げ付くような怒りの気配がある。ユキは備えて腰を落とし、身構え――メンカルの血槍が宙に析出した瞬間、弾けるように横へ向けて駆け出した。類稀なる瞬発力での回避行動。――血槍の密度が上がり、ユキを捉えるために火力が集中し出すタイミングで、彼女は札を切る。
「それじゃあ先ずは小手調べ。美味しいところは後で……ってね。さぁさぁ、ほうら、けものが来ますよ! 禍時告げる警報だ!」
 ユキは手近に味方の姿がないことを確認の上で、右手を全力で突き上げた。同時に白き実体ホログラムの椿が結実し、警報音と衝撃波を撒き散らす。幾度も使い、その都度敵や敵の範囲攻撃を掻き消し、薙ぎ倒してきたそのホロ椿はユーベルコード『逢魔ヶ報』によるものだ。
 メンカルの血槍が衝撃波に薙ぎ払われ空中で吹き散らされる。狂王が続けざまに槍を編もうとも同じ事。ホロ椿が哭き続ける限りは幾度やろうと同じ事だ。
「小癪な――」
 王は怒りに青筋を立て、右手にした蒼き怨槍ディフダを持ち上げる。その切っ先は伸び、一度向けば逃れ得ぬ怨みのように敵を追い貫くもの。カイトスの魔槍の一つ。切っ先をユキに据え、狙いを定めんとしたまさにその時、ユキは思い切り小憎たらしく見えるように笑って見せた。
「おーやおやぁ? ユキにばっかり構ってていいんですかねぇ? ――言ったでしょう、ユキの十八番は邪魔と妨害だ、ってね」
「!」
 狂王が目を見開いたときには、ユキとは全く別の方向から高速で一体のウォーマシンが接近する。青白い粒子を身に纏い、長槍を武器に低空を超高速で滑空してくる、褐色の機械装甲。
『いくよ、パンデュール。ボク達の力を見せてやろう!』
 外部スピーカーより漏れるのは少年の声――そう。ウォーマシンかに見えたが、彼は違う。
 褐色の機械装甲の名は、超常鎧装『パンデュール』。全長二二〇センチメートルのフェアリー専用、対オブリビオン決戦鎧装にして、搭乗者――トゥール・ビヨン(時計職人見習い・f05703)の無二の相棒である!
 林立した一体の樹の狭間より、敵の魔槍の射線に入らぬようにしつつ攻撃のタイミングを計っていたトゥールは、ユキの攻撃に合わせて今まさに突撃を敢行したのだ。
「木偶が、まだ増えるか」
 狂王はすぐさま、差し迫った脅威であるパンデュール目掛けディフダの怨槍を繰り出した。ジグザグに空気を食むように、不規則な軌道でパンデュール目掛けディフダの蒼槍の切っ先が伸び、迫る。
 トゥールはすぐさまフック付きワイヤーをサイドに射出、立木に絡め、巻き上げることによって鋭角な方向転換。回避を試みるが、怨槍の切っ先は一度避けただけではやり過ごせぬ。軌道を変え、果てなく伸び、パンデュールの胴を貫くまで止まらぬとばかりに疾る!
 ――一筋縄じゃいかない、か。イネブ・ヘジの狂王――初めて対峙するけど、強敵だ。けれど、ここで退くわけにはいかない!
 トゥールはパンデュールの操作盤に手を走らせ、次の戦闘機動を絶えず先行入力する。パンデュールはトゥールの指示を全て正確に履行する。左腕をフック付きワイヤーによる軌道制御に専念させ、右手に握った双刃『ドゥ・エギール』を手首ごと回転し怨槍の切っ先を払う、払う、払う! 巧みな操縦技術とパンデュールの反応性が見事に相乗し、狂王の攻撃と拮抗する!
「羽虫が、素直に跪けば楽に殺してやろうものを――」
『そうやって、人を羽虫として扱って犠牲を積み重ね続けてきたんだね。――それも今日で終わりだ。これ以上、オブリビオンの犠牲になる人を出すもんか!』
 トゥールは断じるように言い、ひときわ強く怨槍の切っ先を跳ね飛ばすなり、機体を捌いて回転。肘から発生したフォースセイバーで、ディフダの怨槍の切っ先を刎ねる!
「思い上がったな、愚物。貴様ごときが余に楯突くか」
 切っ先を失ったディフダの怨槍が巻き戻り、狂王の手元で再生する。それを隙と見て機体を前進させるトゥール。
「浅はかなりしその愚考、地獄の釜に揺られて悔いるがいい」
 ぎちっ、ぎちギチぎちギチギチぎちィッ!
 空間が軋んで無数のメンカルの血槍が結実する! その斉射にてトゥールを捉えようという腹だろうが、しかし!
「お生憎様! 浅はかなのはあんたの方ですよ!」
 サイレンが鳴る。逢魔ヶ報はまだ終わらぬ! 実体ホロの白椿がザリザリとノイズと共にブレながら最大音響! 強固に固められたメンカルの血槍は、そのノイズと衝撃波により切っ先定まらず、四方八方に散らされたまま放たれる!
「さぁさ、でっかい機械のお兄さん! 大将首を召し上がれ!」
『ありがとう――これなら、いける!』
 ユキの放つ衝撃波により散漫となった血槍弾幕を、さらに木立を盾に減殺しつつ、トゥールはコンソールに手を走らせ、音韻にて愛機に命ずる。
『行くよ相棒! システム・パンデュール!!』
《ゲット・レディ》
 その瞬間、トゥールとパンデュールは同色の粒子を纏い、正に人機一体の様を呈する。神速をすら超え、光の速さに迫らんとするかのような、パンデュールとトゥールの寿命を削らんほどの高速――『システム・パンデュール』の本領発揮だ。
 光の翅を背に展開したパンデュールは激烈に方向転換、無数に放たれるメンカルの血槍の間を縫うように飛翔する。当たりそうな槍を手のひらのビーム・シールドで弾き飛ばしながら、雀蜂めいた、目にも留まらぬ有機的な軌道で狂王へと迫る!
 その速度に、さしもの狂王といえど目を瞠った。
 内臓が潰され、血を吐くほどのGに襲われながらも、トゥールは操縦席で叫ぶ。
『い、っけえええええええええええ!!』
 その思いをダイレクトに汲み取り、パンデュールの右腕がドゥ・エギールの刃をバックスイング! 蒼白の粒子をその切っ先に集中させ、大振りの斬撃にて狂王の脇腹を食い破る――!!
「ぐ、……うッ」
 蹈鞴を踏む狂王、飛翔の勢いの侭に距離を取るトゥール――パンデュール。そして。
「お見事」
 最後の声と、拍手が鳴る。
「愚昧愚考と侮りましたねえ。こちとら、この後にメインディッシュが控えてんです。おニューの技を考えろなんて無茶振りがね。面白そーじゃないですか? あんたに躓いてる時間は、ないってんですよ。王様」
 逢魔ヶ時の呪い仔が、王の慢心と油断を、遠いサイレンめいて嗤っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜雨・カイ
すでにこんなに痛い思いをしているのに、死んだ後もこんな風に…少しだけ待ってください、すぐに終わらせますからね。
UCを使用すれば対策を講じられる…分かっていますが、ここで出し惜しみはできません、一気に決着をつけます!

【錬成カミヤドリ】発動。槍の攻撃を直接食らわぬように【ジャンプ】【スライディング】【フェイント】でかわす
間に合わない時は【なぎ払い】ではじき飛ばします

ただ避けただけではありません。躱した先から上下左右に回り込んで攻撃をしかけます。(同時に【念糸】で敵の拘束をはかった上で)



●死者を哀れむギニョール
 遠くから、死者が歩いてくる。
 確固たる足取りで歩いてきたイネブ・ヘジの狂王とは異なり、目も、鼻も削がれて、何をも頼れずによたよたと歩いてくる――或いは、歩かされている、死者の群れ。未だ遠くを遅々と歩む死者の行軍、狂王の召還の触媒とされた人々を、桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)はただ悼む。
 ――すでに、筆舌に尽くしがたい痛みを味わったはずだ。なのに死後にまでこのような責め苦を味あわせるなどと。
「少しだけ待っていてください。……すぐに終わらせます」
 ――己の技を開示すれば、その対策を講じられてしまう。グリモア猟兵が警告していたことだが、しかしこの光景を見て己に歯止めをかけることなど、カイには出来なかった。
 カイは、傷を癒やし武装を再び結実する敵――イネブ・ヘジの狂王を睨み付ける。
「出し惜しみなどしません。――いえ、出来ません。あなたを断つ。私にできる――全力で!」
「不遜なり」
 慨嘆げに唸る狂王に、しかしカイは恐れることもなくユーベルコードを起動する。基礎にしてヤドリガミの秘奥、『錬成カミヤドリ』。一瞬にして、カイは己の分身たる絡繰人形を五十体超も召還してみせる。薙刀と念糸を携えて構えを取る狐面の絡繰人形らの狭間に紛れて、カイは自らの顔に、人形らと同じ面を宛がった。
 こうなれば最早、贋作と真作――カイの本体を、真作と化身――カイそのものを、区別する事すら罷り成らぬ。
「狂王。私の全てを以てあなたを否定します。お覚悟を」
「叶わぬ夢を良く吼える。ならばやってみせるがいい」
 カイは狂王の声をも恐れず、怒濤となって前進した。
 なるほど、ただの一人のヒトの前進を、怒濤と表現するには似つかわしくないやも知れぬ。しかしカイは今や化身真作合わせ総勢五十三体の一個小隊だ。その靴音は正に怒濤のそれである。
 メンカルの血槍が応じるように降り注いだ。カイらはその各々が跳び、掻い潜り、裏を掻いて血槍の群れを避け、時に薙刀で受け弾き、払い飛ばしながら前進する。
 無論の事、カイが生みだした軍勢、その全員が狂王へと至れるわけではない。メンカルの血槍による斉射に加え、ディフダの怨槍が唸れば、カミヤドリによる複製は一体、また一体と貫かれ倒れ伏し、消えていく。
 間近に迫ったときには既に残りの手勢は十体足らず。加えて狂王は右手にした、未だ振るわぬ黄金の戒槍、カファルジドマの切っ先を持ち上げる。
「咆えたがこの程度か。疾く消えよ、愚物」
「まだ終わっていませんッ――!」
 嘗てバトルオブフラワーズで、風雲児に救われながら戦いを果たしたあの時よりも――カイは、ずっと強くなった。たった一人でこの強敵に挑み、啖呵を切ってみせるほどに。
 薙刀持つ二体を先行させる。狂王は金の槍、カファルジドマを横薙ぎにした。カファルジドマはぎゅるりと伸び、鞭めいてカミヤドリの分身に固く絡みつくなり、樹状鉄条網めいて分岐・伸長、瞬く間に二体を破壊! その恐るべき光景にすら足を止めず、カイは残り七体の分身に同時に念糸を放たせる!
「小癪――」
 魔槍疾り、更に五体の分身が破壊! しかし敵の腕と足を絡め、動きを封ずるところまで到る!
 畳みかけんとするカイに、しかし宙に凝結した血槍がほぼ零距離より降り注ぐ! 残る分身二体がそれで破壊され、拘束が緩む――
 カイは指先より念糸を放ち、分身が操っていた拘束を引き継ぐが、一手遅い。カファルジドマの戒槍を封じ続けるも、僅か一瞬の遅れで封じきれなかったディフダの怨槍がカイの胸を貫いた。
「か、は――」
「徒労であったな。この王の手に掛かる栄誉に浴して眠れ」
 ――終わった。
「……今、ですッ!」
 かに見えた。
「ぬ……!?」
 心臓を破壊するように突き刺さったディフダの怨槍。しかし、カイはヤドリガミだ。彼は本体たる人形が破壊されなければ死ぬ事はない!
 その人形はどこにあるのか。……その答えは、狂王の胸より突き出た薙刀の切っ先が示している。
「が……ッ」
 化身たる己が身を囮とし、本体をカミヤドリの分身に紛れさせ、回り込ませて、背後より奇襲をかけたのだ!
「徒労なんかじゃ、ない。私の戦いを――人々のために奮う力を! 誰にだろうと、嗤わせるものか!」
 血混じりに咆えるカイ。メンカルの血槍が注ぐ前に、本体と同時に狂王を蹴り離れる。
 ――その刃は、確かに王へと届いたのだ!

成功 🔵​🔵​🔴​

アルエ・ツバキ
「お前の国は、もうない。帰るべき場所など、どこにも無い」

吹き荒れる無数の赤槍の風を手に持ったナイフでいなしながら、長身とは思えないほど軽やかで俊敏な動きで翻弄する。
マシラ如く悪童如くに、はね跳び転がり回り駆け走る。
そこに華も雅も無い。

「どうした王様。こんなものか?つまらんやつだな」

その動きの本位は、仲間を護るため。
目立ち、惹き付け、されど墜とされず。
そうしていれば、仲間が倒してくれるから。
本人に聞けば否定するだろうけど。

回避の合間、砂を蹴って浴びせかけ、泥を掬って投げつける。
根っからの悪戯好きの天邪鬼。
「まだ付き合えよ。そっぽ向かれると寂しいだろ?」

さあ、今回も「生き存える」をするとしよう。


アルマ・キサラギ
なるべく手の内を明かさずに敵を倒せと
こっちは飛んで跳ねて撃つしか能がないってのに、随分と難しいオーダーだこと
けど…きみ達にしか頼めないとか、そーいう言葉に弱いのよね、このおねーさんは
OK、やってやるわ

さて、前座にしては随分手強そうなのが相手ね
他の猟兵の援護に回って、噛みつきを仕掛ける所をツヴァイの制圧射撃で足止め
槍はアインスの威力で軌道を逸らす
行動を阻害しつつ派手に動いて【おびき寄せ】て味方が動きやすい状況を作るわ
こっちに狙いが向いたら早駆術で槍の攻撃を掻い潜って接近
距離を開けたら槍で迎撃されるかもだからね
鰐の口の中に榴散弾を叩き込んで最大出力の早駆術で一気に離脱、アインスを撃ち込んで起爆よ!



●サーブ・グレネード・ウィズ・キーン・ナイブズ
 二つの影が、狂王を目掛けて駆ける。
 敵を一瞬たりとも休ませてはならない。波状攻撃をかけ続け、疲弊を誘い――やがての致命打に繋ぐために。
「なるべく手の内を明かさずに敵を倒せ、だってさ」
「らしいな。気軽に無茶を言ってくれるものだ」
「まったくだよ。こっちは飛んで跳ねて撃つしか能がないってのに。随分難しいオーダーだこと」
「――だが、私も、お前も、ここに来た」
「まぁね。『きみ達にしか頼めない』とか、そういう言葉に弱いのよねえ、このおねーさんは」
「人が好いな、お前は」
「お互い様でしょ。ここに来たんなら」
「――そうかもしれんな」
 疾る二つの影の片割れ、退廃的な白色の女が、口元だけで微かに笑って応え、続け様、眦を決して申し出る。
「私が前に出る。援護を頼む」
「OK、やってやるわ。任せて」
 グレネードランチャーを持つ女が、ニッと笑って応えた。
 二者は頷き、それぞれの行動を開始する。
「さあ、今回も――『生き存える』をするとしよう」
 爆ぜる如く速力を上げ、白き風となった前衛の女はアルエ・ツバキ(リペイントブラッド・f20081)。
 後方支援に周り、スリングで引っかけたグレネードランチャーの代わりに二挺拳銃を引き抜いた女は、名をアルマ・キサラギ(Bride of Blade・f14569)という。
 アルマが放つ弾幕が、この二名と狂王の戦いの戦端を切った。
「前座にしちゃ随分手強そうなのが出てきたじゃない! 撃ちごたえのある的は嫌いじゃないわよ……!」
 速射に優れる二挺拳銃の片割れ、『オルトロス・ツヴァイ』による制圧弾幕。狂王は右腕をぐにゃりと歪め、巨鰐の顎門へと変化させて、その鋼鉄が如き鱗にてアルマの弾幕を弾いて退ける。
 しかし目的は果たした。アルマの狙いは端から足止めである。敵の行動を阻害・妨害し、前衛の攻撃を補助するのが狙いの制圧射撃。
 足を止めた狂王へ、白き風めいてアルエが驀地に駆ける。逆手に抜く殺戮刃物が白々と煌めいた。
 銃声が鉄火散らしてさんざめくのをバックに、アルエは王目掛け、声も低く投げかける。
「わからないか、亡者め。お前の国は、もうない。帰るべき場所など、どこにも無い」
「不敬なり。国とは余であり、余がイネブ・ヘジである。余と、我が治めるに値する民があらば、そこにイネブ・ヘジは何度でも再臨しよう」
「狂人が。ああそうか、そうだったな。狂王だって話だった――」
 吐き捨てるように言うなり、アルエはその瞳を殺意に輝かせた。ユーベルコード『九死殺戮刃』。その瞳より輝きの失せぬ限り、彼女の攻撃密度は九倍となる。
 アルエは逆手に構えたナイフにて打ち掛かった。狂王の右腕は最早銃弾すら通さぬ、固き鱗の巨大な鰐顎。故に左半身より攻める。王の手の内に未だ怨槍ディフダが健在。蒼き恨みの槍を片手で取り回し、狂王はアルエの疾風怒濤の連撃を捌く!
「む――」
 唸る狂王。アルエの速度はそれほどまでに速い。片手では到底防ぎ切れぬ打撃数。
「どうした王様。こんなものか? つまらんやつだな」
「蒙昧なる愚物め。その言葉、後悔する事になるぞ」
 王の口調は抑揚に欠けるが、しかしその奥底に焦げ付くような怒りがあるのがアルエには分かる。殺意の匂いだ。
 受け太刀に回ったディフダの怨槍に加え、宙に複数結実する紅き槍、メンカルの血槍が驟雨の如く降り注いだ。アルエは無数の血槍をナイフで弾き、いなし、突き返しのディフダの怨槍を受け流して、至近で真っ向、狂王との打ち合いを演じてみせる。
 長身ながらにマシラめいた、軽やかかつ俊敏なる身の捌き。必要ならば土にまみれ転がり避け、手を土に付いての蹴りも辞さぬ。その動きには華も雅もなけれども、しかしただ洗練され、躍動的な美がある。
 攻撃を自身に引きつけ、目立ち、しかし持ちこたえ、仲間を護り――その痛烈な一撃への布石とする――アルエ本人に問えば否定するかも知れないが、彼女の動きは当にそのような役割を果たしていた。
「ちょこまかと野猿のように鬱陶しい事だ。疾く消え失せよ」
 不快げな唸りと共にメンカルの血槍が十数本凝結! 至近距離より放たれる間際、
「まぁ、そう言うなよ、ッと!」
 アルエが放たれる前の一瞬で砂を蹴り上げる。目潰し。狂王が目を手で庇った刹那、横手から吹き荒れたオルトロス・ツヴァイの連射がメンカルの血槍を撃ち抜き、へし折っていく!
「おのれ――」
 狂王が苛立たしげにディフダの怨槍を溜めるように引けば、その切っ先を強力な銃弾が弾く!
「ッ?!」
「アインスの威力、味わって貰えた?」
 二挺拳銃の片割れ、ストッピング・パワー重視の『オルトロス・アインス』による一射は、ツヴァイのそれとは比較にならぬほど重い! ここぞという最適なタイミングでの隠し球が見事に機能する。
 狂王の意識がアルマに向いたその刹那、
「まだ付き合えよ、王様。そっぽ向かれると寂しいだろ?」
 徒手となった狂王の懐に潜り込み、アルエは常の九倍の手数でナイフを走らせた。脇腹から土手っ腹にかけてを、殺戮刃物でメチャメチャに食い荒らして駆け抜ける!
「ぐウ、ッ……、貴様、!」
 擦れ違い様手に掴んでおいた泥を顔目掛け投げ放つ。低い怒りの声が泥にくぐもったその瞬間には、交代するようにアルマが駆け込んできている。オルトロス・ツヴァイをホルスターに収め、右手に擲弾銃『レッドラム』、左手にオルトロス・アインスの構え!
「小うるさく飛び回る蠅共が……!!」
「野猿の次は蠅と来たか。どれだけ私達を小さく見れば気が済むのかは知らないが――」
「――後悔する事になるのは、そっちの方よ!」
 アルエの台詞をアルマが継ぎ、グレネードランチャーの砲口を上げて吶喊!
 泥を目に被され、束の間とはいえ視界を封じられた狂王は盲滅法にメンカルの血槍を連射するものが、盲撃ちで捉えられるほどアルマの動きは甘くない。降り注ぐ血槍を掻い潜るアルマの動きは韋駄天そのもの。健脚にて披露するは『鞍馬の早駆術』、宙を飛び渡ったかのような速度で電瞬の接近を見せる!
「そこか!」
 足音による察知、泥を拭うよりも早く、狂王は大鰐の顎となった右腕を、性格にアルマの方へ突き出す。縦にひび割れた鰐の瞳孔が駆け来るアルマを睨み、一呑みにせんばかりに大口を開く!
「食べたいならたっぷりご馳走してやるわ。よく味わいなさい!」
 緩急をつけたステップからアルマは全身全霊、最高速で地を蹴った。接近時が最高速と認識していたか、鰐顎の反応が一瞬遅れる。閉じる顎が捉えたのは、擦れ違い様に放たれたレッドラムの榴弾のみ!
 擦れ違うように狂王の横を抜けたアルマはそのまま前宙するように跳躍。天地逆さの視界の中、大口にグレネードを噛み込んで目を白黒させる鰐の歯列目掛け、真っ直ぐにオルトロス・アインスを向けた。言わばアスリートの極限集中、『ゾーン』に入った時かのような思考速度加速。銃口の向きを二ミリ補正――
 命中の確信と、トリガーに触れた指が連動する。
 アルマの手の内で撃鉄が落ちた。銃声と共に吐き出されたフルメタル・ジャケットの銃弾は、一直線に飛び、鰐の牙列をカチ割り貫き、ノド奥に引っかかったグレネード弾に熱烈に口付け、

 ――閃光、紅蓮、大爆発!!

 鰐口が内側より爆ぜ、血飛沫が炎に捲かれてけぶる……!
「っぐ、ううううお……!!」
 身を捻って着地したアルエの耳に、呪うような王の苦悶が届く。
「重榴散弾のお味はいかが? ってね。 ――まだまだお代わりあるわよ、もう一発どう?」
「給仕の手伝いくらいなら私にもまだ出来るだろうさ。遠慮するなよ、王様」
 片目を閉じて榴弾を再装填するアルマの横を、参じたアルエが固める。
 爆炎の中に揺らめく狂う王は、抉れた半身を抱え、怨嗟の唸りを吐くばかり――

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マリアドール・シュシュ
【華葛】◎

…永一ったら楽しそう
もう!(むぅ
狂気に狂喜する王、マリアには理解し難い敵なのよ(目閉じ再び現状把握

禍々しく夥しい黒
屍の山


目を背けたいぐらいには、厭よ(いずれ記憶は忘るるも感情は、あるわ
今は(永一見て
あなたがいるからきっと大丈夫
怖く、ないわ
ええ、まずは目の前の敵
王座から引き摺り下ろしてあげるのだわ!

永一の隣で戦う
拡声器を変え高速詠唱し【茉莉花の雨】で敵のUC相殺
腐蝕した硝子をヒールで踏む
竪琴で光環の音を奏で攻撃(楽器演奏
音の誘導弾で永一の援護
テンポ早めの遁走曲で併せ敵を追い詰める(マヒ攻撃
敵の攻撃はケープ羽織り跳ね返す(オーラ防御・カウンター

永一、後ろよ!(死角からの攻撃を旋律で叩く


霑国・永一
【華葛】◎

いやはやいやはや、臓物や肉片散りばめた雑多な儀式場は幾度か見たけど、此度の儀式はテーマがハッキリしてるし、狂気的な几帳面さを感じるよ。
俺は面白いなぁって思うけど…いやぁ、マリアに見せるべきものじゃなかったかもねぇ?
それじゃ、王の命を盗みに行こうじゃあないか

狂気の予知を発動
相手の思考を盗み読み、3つの槍の射出タイミングに方向、意図を把握。飛び退いたり身を無駄なく逸らせたりして回避したり、銃撃を加えて相殺や狙いを逸らすようにする。
そして相手の回避行動なども盗み読み、脚や腕に銃撃を加えて機動力を削ぎ、その後は胴体や頭を狙う

おっと、助かるよマリア。来るのは読めても手が追い付かなくてねぇ



●怪盗に捧ぐフーガ
 爆炎の中央でその肉体を再生し、全方位目掛けメンカルの血槍にて無差別攻撃を繰り返す敵、イネブ・ヘジの狂王。それを遠目に二人の男女が進み出た。まず一人は黒髪に、同色のフード付きパーカーを纏った青年。すらりと背が高く、アンダーリムの眼鏡をして、人を食ったような笑みを顔に貼り付けている。その傍らにいるのは人形のような整った顔の、銀髪金眼の、宝石めいた少女だ。透き通る髪も瞳も、その白磁の膚までもが貴石めいている。クリスタリアンに特有の美貌と見えた。
「いやはやいやはや、臓物や肉片散りばめた雑多な儀式場は幾度か見たけど、此度の儀式はテーマがハッキリしてるし、狂気的な几帳面さを感じるよ」
 どこか弾んだ語調で、男は言った。傍らの少女が半眼で、その横顔を睨む。
「永一ったら、楽しそうね」
「あぁ、まぁね。俺はあぁいうのは結構面白いなぁって思うんだけど」
 予知にて伝えられた召還現場の惨状のことだろう。カオティックでありながら、作ったものにしか分からぬ秩序がそこにあると思わせる――凄惨な儀式の現場の話だ。
 ぷぅ、と頬を膨らせて、少女は小さく腕を振りながら男を諫めるように言う。
「――もう! 『ああいうの』の話を、乙女に蒸し返すべきではないんじゃないか、とは考えてはくれないの?」
「おや、こいつは失礼。いやぁ、確かにマリアに見せるべきものじゃないのは確実だったね。久方ぶりに見る狂気的な几帳面さ――いや、几帳面な狂気といった方がいいかな――だったもんだから、俺も少しばかりテンションが上がりすぎたかも知れない。悪いねぇ」
 青年、霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は此度の相棒、宝石の少女――マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)の咎めに両手を挙げて降参のポーズを取ると、さて、とおもむろに腰に手をやる。
 ちきり、と音を立てて銃を抜いた。トカレフTT-33に類似した形状の記憶消去銃。記憶の消去にも通常の銃撃にも使える優れものだ。こういうものを持った方が、命を盗むときはやりやすいからね。
「狂気に狂喜する王なんて、マリアには理解しがたい敵なのよ――」
 マリアドールはぼやくように言って、暫時、目を閉じた。それはかつての彼女の記憶。
 閉じた瞼の裏に映るのは禍々しく夥しく広がる黒。
 漆黒に舐められて沈む屍の山。無明の闇。いつか見た最果ての光景。
「――目を背けたくなるくらいには、厭だわ」
「そうかい。お姫様がそう言うなら、さっさと終わらせよう。怖いなら待っててもいいんだよ、マリア?」
「いいえ。マリアも行くわ」
 からかい混じりの永一の言葉に、マリアドールは横に首を振った。
「今は――あなたがいるからきっと大丈夫。怖く、ないわ」
 マリアドールは黄昏色に眩く煌めくハープを手の内で撫で、真っ直ぐに、視線の先で暴れる暴君を見る。
「――あの暴虐の王を、王座から引き摺り下ろすのだわ!」
「オーケイ。それじゃ、王の命を盗みに行こうじゃないか」
 姫君の宣告に応じるように、希代の『盗み手』が眼鏡のツルを押し上げた。


「重ねに重ねたその無礼――度し難し。貴様らは一人残らず――惨たらしく殺し、刻み丸めて奴隷に食わせる肉餌にしてくれる!!」
 右腕が内側より損壊し、半身がえぐれるような傷を負っていたはずの狂王は、今やその重傷さえ巻き戻ったかのような無傷の姿だ。しかし、内情は決して穏やかではあるまい。
 治癒をするということは、その必要があったからするのだ。ダメージを負ったままでは不利だから。その疵が広がれば死に至るから。
 そして骸の海まで含めた常世に於いて、ノーコストでの治癒などあり得ない。猟兵達はそれを理解していた。――故に、攻撃を絶やさぬ!
「次は貴様か、黒尽くめ!」
 弾かれたように狂王は振り返る。果たして、その方向にいたのは永一である。
 狂王は即座に左手に持つディフダの怨槍を放った。ディフダの怨槍は、ヒトに憑いた怨みの如く、どこまでも敵を追いかけて伸びる呪いの蒼槍。穂先を切り落とされぬ限り決して、その追撃が終わることはない。
 怨槍は不規則かつ鋭角的な螺旋軌道を描き、永一目掛け超高速で伸びる。しかし、
「よっと」
 永一は身を躱すなり、ノールックで怨槍の穂先、その根本に銃弾を叩き込んだ。穂先を失った怨槍はバキバキと音を立てて収縮、狂王の手の内へ巻き戻る。
「終わりかい?」
「……貴様」
 挑発めいて言う永一に狂王は明確に不快の表情を浮かべ、右腕を撓らせた。右手に握るカファルジドマの戒槍は、狂王の意思に応じ、鞭めいて撓り伸びる魔槍だ。絡め取った対象を凶悪な有棘鉄条網めいて分化・伸張する棘にて破壊する戒めの槍。何らかの武器で受ければ絡め取り、破壊することさえ可能とする威力を持つ。
 鋭角的な挙動のディフダを見せた後だ。唐突に撓るカファルジドマの挙動には対応しきれまい!
 狂王が戒槍を繰り出すその瞬間、永一は事も無げにぼやいた。
「いや、そんなこともないんだけどね。――もう『盗んだ』からさ」
「……!!」
 狂王は驚愕に目を見開く。音速を超えて撓る戒槍の切っ先を、軌道を読んでいたかのように、永一はダンスめいてステップして次々と回避。決して絡め取られぬように身体を捌く適切な回避動作。
「盗んだ……だと?」
「そうさ。あんたの『思考』をね。物理攻撃にかまけすぎて、精神防御がおざなりだったな。ディフダと――カファルジドマ。二本が駄目だったから、三本目に頼ろうとしてるだろ?」
 永一はアルカイック・スマイルのまま、事も無げに言った。これぞ彼のユーベルコード、『盗み読む狂気の予知』!
「……愚物の分際で、余を覗くか。万死に値する!」
 果たして、狂王は永一の予知通りメンカルの血槍を編んだ。しかし、その数多数。永一の予想を超えて多数だ。宙を埋め尽くさんばかりに析出する血槍の群れに、「あららら、」と永一がぼやく。
「死ね、疾く死ね! その血、臓腑のひとかけらすら残してはおかぬ!」
「ヒステリーは血圧に直結するよ、王様――」
 永一の長髪の言葉を皆まで言わせず、血槍の雨が降る。永一は逆手にナイフを抜き、銃撃とナイフによる二段構えの防御で槍を躱し始める。が、手数が違いすぎる!
「やれやれ全く、大人げないねぇ」
「永一! 後ろよ!!」
「おっとと」
 横合いから超え、そしてハープの旋律。竪琴から紡がれる音が質量を持ち、『音弾』として吹き荒れた。音階ごとに色の異なる極彩色の音弾の嵐が、永一の背後より迫るメンカルの血槍を弾き巻き込み、撃ち落とす!
 声の主は言わずもがな、マリアドールである。永一とともに駆け来た彼女が面的制圧に対処したのだ。
「助かるよ、マリア」
「もう! 普通、助けるのは紳士の役割じゃなくて?」
「来るのは読めても手が追いつかなくてねぇ。さて、それじゃ、畳みかけるとしようか」
「――許すと思うてか!」
 軽口をたたき合うマリアドールと永一目掛け、今度は呪いの風が吹いた。それは、腐食の呪詛を孕む極彩色の旋風。『ネクロポリスの狂嵐』である。しかし、
「許すわ。マリアが。あなたを玉座から引きずり下ろすと、決めたのよ」
 マリアドールのイヤリング型拡声器――『茉莉花の歌環』が煌めいて、水晶の花弁へと分解されていく。――きゃ、りぃん! 高音弦をつま弾き風を起こせば、ジャスミンを模した水晶の花弁が少女を中心として渦巻く!
「――これ以上、誰も殺させはしないわ。マリアと永一がここに来たのだから!」
「羽虫風情が良く吼える――やってみるがいい!!」
 狂嵐が吹き荒れる。マリアドールの水晶の旋風が、それに真正面からぶつかり、相殺! ならばとメンカルの血槍を連射する狂王に合わせるようにハープが張り詰めた音で音階を歌う! 一音ごとに弾き出される七色の音弾がメンカルの血槍を弾き、落とし、散らし、防ぎ止める!
 ハイテンポなフーガを奏でての援護に、永一は思わずといった風に笑った。
「ははぁ、怪盗の見せ場に『遁走曲』とは、これは随分洒落が効いてる」
「だって王の命を盗みに行くのでしょう? 永一。――さあ、今よ!」
 演奏の山に合わせ、マリアドールの指使いは激しくなり、呼応する如く旋律は早く、鋭く、不安定に尖る!
「お任せあれ」
 怪盗は少女に返事をして、無造作に踏み出した。――わざわざ思考を盗まずとも、彼女の音使いが自身を傷つけぬと知っている。

 メンカルの血槍に交えて、ディフダの怨槍を再生、カファルジドマの戒槍と同時に放ち、先ずは小娘を葬り、しかる後に――

「――言っただろ、『もう盗んだ』ってね」

 永一は王の挙措を、思考を読み、攻撃を掻い潜り、無造作にトリガーを引いた。
 回避行動の予測も含めて、ワンマガジン、全弾を一挙に叩き込んだ。

 流れ込む思考がヒビ割れ、停止する。
 攻撃の狭間を縫って駆けつつの電瞬の連射が――
 狂王の頭蓋に、立て続けに複数の孔を穿っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雲鉢・芽在

実験のサンプルが多いことは喜ばしいことですけれども、あまり体を酷使させられるのも考え物ですわね
これでも私病弱を理由に単位分以外は学校を休んで来ているのですもの

気を付けるべきは降り注ぐ槍々と野蛮な顎の一撃ですわね
第一に回避を優先しながらも他の方を支援するよう立ち回りますの
直接的には対峙せず他の方の攻撃の隙に死角に回り込み、皮膚を融解させる酸液の入ったガラス瓶を放り投げますわ

……ああ、でも
腐食の呪詛とやらは少し気になりますわね
流石に自身から身を投げることは致しませんわ
でも、もし他の方が危ないのであれば盾くらいにはなりますのよ
痛覚遮断毒?そんな勿体無いこと、しませんわよ
ふ、ふふ、これも研究ですもの


ユア・アラマート


カイがあれだけ懸念するんだ。面倒なものが最後に待ち構えている仕事になるだろうが…いや、違うな
これは最初から面倒そうだ

腐食の呪詛をくらえば、私の武器どころか体ごと朽ち果ててしまう
一定の距離を取り、【見切り】と【ダッシュ】で常に素早い動きを心がけ的を絞らせないように

さあ、今の私は魔法使いだ
古の王が放つ極彩の風には、切り爆ぜる古の風をお返ししよう
敵の攻撃が緩まったタイミングで魔術回路を起動
【属性攻撃】【全力魔法】で風の属性を強めた無数の杭を射出
突き刺さった途端に身を砕く衝撃で打ち据える

後に控える猟兵達が畳み掛けやすいよう、少しでもヤツの動きが鈍れば御の字だな
先は長そうだ。消耗しすぎずに戦っていこう



●古今、王は毒で死ぬと魔術師は語る
「――カイがあれだけ懸念するんだ。面倒なものが最後に待ち構えてる仕事になるだろうが――」
 基本的にあのグリモア猟兵は、事実しか言わないし何かを誇張して表現する事もない。その彼がああまで言うのだ。その重さが知れようというものだが、まず、その前に。
「前座からして面倒そうなのが出てきたものだな」
 呟くのはユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)。彼女の視線の先で、銃弾に頭を貫かれ倒れ往く狂王の身体がピタリと停まり、巻き戻るかのように復位する。プツプツと頭の孔から銃弾が吐き出され、傷がズルズルと塞がっていく。骸の海より持ち参じた膨大な存在量がその無理矢理の再生を可能とするのだ。
「あら、私は興味がありますわ。特にあの、腐食の呪詛の風とか――どんな味がするのか、ええ、とても」
 恐るべき狂王を前に、しかしあくまでマイペースな、ゆったりとした声がもう一つ。ユアは声の元に翠緑の瞳を向ける。
「……芽在。だからって迂闊に飛び込んだりしないでくれよ」
「ええ――勿論、自身から身を投げるような事は致しませんわ。けれどもし他の方が危ないのであれば、盾くらいにはなりますのよ。私、毒には強いもので」
「あれは毒というより呪詛、魔術の類の気もするがな。まともに食らえば武器どころか身体ごと腐れ落ちそうだ」
「いずれにせよ、蝕むものという意味合いでは大差ありませんのよ。ふふ」
 含みのある微笑を浮かべる芽在にユアはやれやれ、という風に肩を竦めてみせた。
「お前を信じてないわけじゃないが、ほどほどにするようにな。……私は距離を取って挑む。お前は?」
「近づきますわ。でないと、毒が届きませんもの。……けど骨が折れそうですわね」
 芽在は頬に手を当てて溜息一つ。
「実験のサンプルが多いことは喜ばしいことですけれども、あまり体を酷使させられるのも考え物ですわ。……これでも私、病弱を理由に単位分以外は学校を休んで来ているのですもの」
「倒れるんなら戦い終わった後にしてくれよ、ぞっとしない話だ。……お互い、生きてまた後でな」
「ええ、ユア様もどうぞ、お気をつけて」
 冗談めかした軽い言葉の応酬を最後に、ユアと芽在は地を蹴り、駆け出した。

「尽きぬ……何故尽きぬ、愚物共。何故に我が統治を良しとせぬ愚物が、この上蚊柱の如く湧いて出るものか――」
 狂王は悲嘆と憤怒に塗れた声で、地を揺るがすように低く唸る。その声に応ずるように宙が揺らぎ、無数の赤槍が析出。ユアと芽在を切っ先で睨む。
「愚物は己の愚かを悟らない故に愚物という。だとしたら本当の愚物はどちらの方かな、古の王よ」
「愚を断ずるのは余の意思ひとつぞ。呪い師風情が、厚顔無恥に語る事罷り成らぬ」
 ユアの歌うような調子の語りに、返った返事は槍の雨。解き放たれた無数の『メンカルの血槍』が、二人を串刺しにすべく唸り飛ぶ。
 ユアはそれを前にくるりと指で輪を描く。
「莫迦を諫める者がなければ、いつか人は道を過つ。よく分かる話だ。――呪い師呼ばわりは改めて貰うよ、狂王。私は魔法使いだ。貫き爆ぜる古の風をお見せしよう」
 長台詞を舌で転がしながら魔術回路を起動。左胸から腕にかけて這う月下美人の刻印が紅くスパークし、ユアの周りの風が逆巻く。
 ユーベルコード、『刹無』。風を固めて構成される、切り爆ぜし風の杭。
 凄まじい高速詠唱で編まれた風の杭の数、一瞬にして二五〇。放たれたメンカルの血槍とほぼ同数!
「征け」
 ユアが抜き身のダガーを、指揮するように振り下ろした刹那、風杭、一斉射出。空中でメンカルの血槍と正面よりぶつかり合い、その度文字通りの『爆風』を撒き散らす!
「むう……ッ」
 王の唸りは、メンカルの血槍がまともに狙ったとおりに飛ばないところから来ていると見えた。連射速度、密度共にメンカルの血槍が勝るのに、駆けるユアに赤槍が突き刺さる事はない。
 それは何故か。ユアが時間差を以て風杭を射出している事。更には、その風杭が撒き散らす衝撃波が関係している。
 刹無の風杭は着弾して終わりではなく、その場に止まり衝撃波を発生させる。発生したこの衝撃波に阻害され後続の赤槍の弾道が崩れ、直進せずに逸れる。結果、王の照準通りに血槍は飛ばず、明後日の方向に飛ぶのだ。
「小賢しい……!」
「ふふ――そうですのよ。人は知恵を巡らせる生き物ですの」
 声は狂王の横合いから響いた。狂王が目を向ければ、そこには衝撃波の炸裂の間を駆け抜けてきていた芽在の姿がある。色とりどりの毒の小瓶を手挟み、芽在は陶然と笑う。
「次は私の実験に付き合って下さいまして?」
「不敬である。験すのは我が業であり、貴様がするに能わぬ!」
 メンカルの血槍はユアへの牽制のため連射継続、狂王の右手が大鰐の顎門に変ずる。『アーマーンの大顎』である!
「この顎門を通り冥府へ参ぜよ!」
「私、死ぬときは素敵な毒でと決めておりますの。ごめんあそばせ」
 アルカイックスマイルで素気なく断る芽在目掛け、大鰐が口を開いて食らい付いた。芽在は地を這うようにして上体に食い付く咬撃を回避、地面を掌で突き放して、続く振り下ろしの一撃をバックステップ回避。
 ユアが絶えず刹無を撃ち込み援護しているために何とか回避が出来る。直接的に無策で対峙すれば、鰐顎と他の攻撃が更に重なり、芽在は敢えなく敗れていただろう。第一に回避を優先し、バックアップ無しでの対峙を避けた芽在の慧眼が光る。
「小癪」
 狂王は見た目によらぬ俊敏さで、後退した芽在へ踏み込み距離を詰めてくる
 芽在は浅く息を吸い、次の一撃の軌道を見定める。振り下ろしが来た次は打ち上げだ。下から掬い上げるように、開いた大顎が、アッパー気味に芽在の身体に食い付きに掛かる。
 ――機と見た。
 芽在は左に身体を投げ出すように飛び転がる。――自分の身体のあった位置に、携えていた小瓶をばらまいて。
「む――!」
 鰐の顎はそうそうすぐには閉じるのを止められぬ。一度の好機を逃さずトラバサミめいて閉じるのに特化した構造だ。開く方向にはさして強く力が入らない。
 故に鰐顎は止まらずに、芽在のいた位置でばくんと閉じて――
 いくつかの小瓶を、噛み砕いた。噛み砕いてしまった。
 反応までは数秒とない。芽在の小瓶から溢れた薬液が、酸素と劇的に反応し侵食溶解性を示す超強酸と化す!
「ッグ、うおおあおアぁぁァ……!!」
 鰐と化した腕が、あまりの苦悶にか鱗を波立たせて悶える。その激痛は本体にまで伝わるのだろう、王の苦悶の声が響き渡る。
「ふふ、きちんと効きますのね。鋼鉄の鱗鰐と、古の王様にも。酸をかければ、この通り――」
 薬液の働きは凄まじい。鰐顎は最早歯列一つ残さずグズグズに蕩け、血と溶解した肉液をぼだぼだと垂れ流しながら痙攣。その痛みの全てを受けた王の憤怒の表情は、国を侵された時さながらのものだ。
 集中が乱れ、メンカルの血槍が消え失せる――フリーとなった風杭が次々と狂王の身体に着弾、炸裂、炸裂、炸裂ッ!!
「っがああぅッ……!! 生、 きたまま……蛇共の盆にくべても、まだ濯げぬ罪ぞ!!!」
 血に塗れ、怒りに咆えるその足下より、極彩色の狂嵐が巻き起こる。ネクロポリスの狂嵐、腐敗の呪詛風!
「腐り落ちよ!!」
 間近より吹き付ける腐敗の風を前に、芽在は腰の噴霧器を取った。メアリ一号と名の付いたそれから、極めて揮発性・可燃性の高い毒液を噴射。 噴霧圧で狂嵐の侵攻を束の間押し留める!

 そして。
 強酸に反応した有機物は熱を生じる。これを反応熱と呼ぶ。

「ごきげんよう」

 呪詛に侵され腐り始める指を、しかしトリガーから離さずに芽在がささやいた瞬間、反応熱が毒液の発火点を超えた。
 その瞬間巻き起こる、見るだに毒々しい、紫黒の爆発――ッ!!
 爆風に乗り、芽在の身体は木っ端のように飛ぶ。その身体をふわりと受け止める影がある。バックアップに入ったユアだ。
 翠緑の瞳が呆れたように弧を描き、窘めるような声で狐は言う。
「全く無茶するよ。先は長いんだ、消耗しすぎないでくれよ、芽在」
「えぇ、ありがとうございます、ユア様。分かっているつもりですわ――」
 ユアに抱えられたまま、毒と腐臭渦巻く、紫黒の炎の蟠りを名残惜しげに見て。芽在は腐り爛れた手指を合わせ、緩く甘い息を吐いた。
「あぁ……知らない痛み、ですこと」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

数宮・多喜


チッ、悪趣味な儀式なのは相変わらずかい……
しかも今回の規模はケタ違いじゃないか。
周りのホトケさんには悪いが……強引に突っ切るよ!
廃ホテルの比較的無事な非常廊下をカブで突っ走り、
踊り場から『ジャンプ』して狂える王へ『踏みつけ』るような
ぶちかましをかける!
上から失礼!ってね!
相乗りしてくれる奴もいてくれりゃア嬉しいね!

ワニの顎で迎え撃たれるかもしれないけど、
それはそれ。
『空中戦』の要領でバランスを上手くずらし、
カブが噛み砕かれるのは避ける。
その隙に着地して、口を閉じたばかりのワニの頭に
間髪入れずに【漢女の徹し】を叩き込むよ!
どんどんと後続が湧いてくるだろうけども、
再生には時間がかかるだろうね!


エルネスト・ポラリス

予知によれば、既に何者かの観察を受けているようですが……
いえ、この狂王も油断ならぬ相手。目の前に集中しなくては!

まずは拳銃とワイヤーの二刀流。
ええ、まあ、基本的に接近戦の方が楽なのですが、真正面から近づけるほど容易い相手でもない。
射撃を交えて牽制しながら、ワイヤーでの拘束を狙いましょう。(ロープワーク)

上手く近づく隙が出来たら、武器を投げ捨てて仕込み杖を構えながら踏み込みます。
身体を鰐に変ぜられては、拘束も引きちぎられてしまうでしょうが……

既に間合い、斬るべき奇跡は目の前に。
その大顎を銀の剣で受け止めて、そのままUCで叩っ切ってやりましょう!(勇気、武器受け)



●銀閃は流星を写して
 猟兵の到着タイミングはまばらで、位置もまちまちだ。そこはグリモア猟兵の配慮によるものだろう。猟兵達の中には強力な範囲攻撃を扱う者もいる。一点に猟兵を集めて転送するとフレンドリーファイアの確率が増える上、纏めて敵の範囲攻撃に巻き込まれる可能性も出てくる。故に位置とタイミングをバラして転送するのだ。

 廃ホテルの方向から唸りを上げるエンジン音。ホテル裏手に転送された猟兵が、今当に戦場へ彗星の如く直走る!
 唸りを上げるバイク――宇宙カブ『JD-1725』に跨がるのは、宇宙を股にかけるサイキックライダー、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)。一人ではない。後部キャリアには膝立ちで同乗するエルネスト・ポラリス(それは誰の夢だったのか・f00066)の姿もある。近くに転送された二人は、簡単に策を打ち合わせ、共同戦線を張ることに決めたのだ。
 二人を乗せてJD-1725が更に加速。唸るエンジン音の狭間に、吐き捨てるように多喜は言い捨てる。
「チッ、悪趣味な儀式なのは相変わらずかい……しかも今回の規模はケタ違いじゃないか。連中の勝手をこれ以上許しておく訳にゃあいかないね!」
「同感です。予知によれば、既にこの後に控えた何者かの観察を受けているとの事ですが――あの狂王も決して油断ならぬ相手。まずは集中して事に当たりましょう」
 冷静な口調でエルネストが返す。――観察されているとは言え、己の実力をセーブしたままで易々勝てるほど容易い相手ではあるまい。
 簡単ではないと分かってはいるが――しかし、やらねばならぬ。
「ああ、やってやろう! さぁ――ホトケさんにゃ悪いが、強引に突っ切るよ!」
 多喜が威勢良く応じ、アクセルをフルに開けた。
 オォォォン!! カブのものとは思えないエグゾースト・ノートが山間に響き渡る! ホテルの中庭を突っ切り、死者が行軍する後より多喜らは激走する。
 華麗なハンドル捌きで、顔のない死者の群れの間を駆け抜ける多喜。緩慢な動きで群がる彼らでは到底その速度には追いつけないが、しかし数だけは多い。
「くっ、またぞろワラワラ連れてきたもんだねぇ……!」
「道を空けます!」
 エルネストが即座に巨大なリボルバー――『W&G E800』を抜く。猟兵でなければ片手で扱うべくもないそれを軽々と取り回し、トリガーを引いた。
 轟音と共に射出される銃弾の威力は凄まじく、貫通した銃弾が後ろの数体まで薙ぎ倒すほどの貫通性とマンストッピングパワーがある!
 思わずといった風に多喜は口笛を奏で、残る数体をカウルで跳ね飛ばしながら、戦場へ向けて更にスピードを上げる。
「やるじゃないか! 次は本命だ――ブチかます準備はいいかい?」
「このキャリアに乗ったときから出来ていますよ。――征きましょう!」
「ああ!」
 道なき道を踏破し、驚異的なグリップで加速するバイク! 多喜は張り出した岩の一つに向け前輪を乗り上げ、車体を華麗にジャンプさせる――! 宙間戦闘用車体制御スラスターが蒼炎を噴き、多喜らを乗せたバイクはロケットめいて大ジャンプ!
「先に行きます!」
「ああ!」
 キャリアを蹴り、エルネストが先んじて宙へ身を躍らせた。バイクに乗って稼いだスピードを殺さず、ワイヤーフックを投げ放って樹に掛け、振り子めいて落下エネルギーを推進力に転化。
 ワイヤーアクションめいて空中を超高速で機動し、エルネストは今ひとたびE800をドロウ。気配に気づいた狂王が振り返る前に、その背目掛けてトリガーを引く!
 BLAM!! 砲がごとき銃声が森を斬り裂く! 唸り飛ぶ銃弾はしかし、間一髪のところで、王の背に浮いた鰐の鱗に火花を上げて受け止められた。だが撃力までは殺せぬ。殴り飛ばされたように半回転して蹈鞴を踏む狂王。E800のような大口径のリボルバー弾ともなれば、その着弾時の衝撃も相当なものだ。
「果実に集る小蠅もさながらよな……次から次へと、よく群れる!」
 蹌踉めきつつも空中にメンカルの血槍を固める狂王へ、エルネストは低空より迫った。リボルバーをクイックローダーにより即座にリロード、かかとから蹴りつけるように地面に着地、ここまで載せてきた勢いに任せて地面をジェットスキーめいて滑走、狂王の横を駆け抜けながら一呼吸での六連射を叩き込む! けたたましい銃声が耳を劈き、マズルフラッシュが山間を白く染め上げる!
 エルネストの銃撃を狂王は即座に射出したメンカルの血槍にて相殺! 遠間にいる敵さえ追尾して伸び、貫く『ディフダの怨槍』を構える。
「そこへ直れ、すぐに心の臓を止めてくれる……ッ?!」
 だが、布石を打っていたのはまたもエルネストであった。狂王の身体が殆ど突き飛ばされたかのように横へ跳ぶ。
 ――銃声とマズルフラッシュに紛れ、アンカー付きワイヤーを狂王に引っかけていたのだ!
 リボルバーは弾切れ。エルネストは両腕の力の限りを込め、空に向け狂王の身体を振り回し、投げ上げる。
 見上げた空。流星が落ちてくる。エルネストは眩しげに目を細めた。

 ――一瞬でも動きを止めてくれりゃア、後はそこからこじ開けてやる。

 そう言った彼女の顔を覚えている。
 かくして流星は来た。空から、宇宙カブごと、落下エネルギーと推進力をその一身に集めて!
「上から失礼、ってねぇ! ブッ飛びなァ――ッ!!」
 スラスターによる姿勢制御! 流星――否、それは宇宙カブを駆る多喜だ! 超高速での大ジャンプから、空中にポップした人間大の的目掛けて突撃するなどという、最早才覚としか言えぬ三次元機動を見せながら、多喜はウィリーするように上げていた前輪を力任せに押し込むように、唖然とした狂王の顔にねじ込むッ!!
「がッば、ッ……!?」
 驚愕の声すら洩らせず地面に叩き落とされる狂王。土柱が上がる。それを追い多喜もまた自由落下! バイクの緊急着地用エア・サスペンションをドライブ、落下の勢いを殺し着地!
「畳みかけるよ!」
「了解です!」
 即興としては異例と思えるほどの阿吽の呼吸。二者は地面を靴裏で掻き毟るかのごとく疾風めいて前進した。エルネストが仕込み杖を抜剣。白刃が、ギラリと輝きを帯びる。
「余に土をつけるとは、それほどまでに死にたいかッ――!!」
 土煙未だもうもうと漂う中より、それを身体で引き裂いて、右腕を鰐に変じた狂王が、怒りにまかせた足取りで飛び出してくる。ユーベルコード、『アーマーンの大顎』。
 エルネストはそれが来ると知っていた。故に彼はその剣を抜いたのだ。
 踏み込む。ただ、速く。既に間合いの中だ。斬るべき奇跡は目の前にある!
 がッ――ぎぃんッ!! 火花を散らして、鋼鉄の鱗持つ鰐腕と、エルネストの銀剣が一合打ち合う! 狂王はすぐさま鱗を滑らせ刃を受け流そうとした。凄まじい強度を持つその鱗は、生半な刃で決して裂けぬ。
 ……だが、滑らない。刃が、無敵のはずの鱗を裂き――じりじりと、食い込んでいくのだ
「なッ――」
「これは奇跡殺しの銀剣。――その鋼鉄の大鰐とて、例外ではありません!!」
 銀剣が纏うは、エルネストが振るう秘奥の術。ユーベルコードを殺すユーベルコード。――『奇跡の不在証明』!
「はああああああっ!!!」
 裂帛の気合と共に、両手、渾身の力で振るった銀剣が、大鰐となった狂王の腕を半ばより強引に切断、血を飛沫かせる!!
「莫、迦なァああぁあ……?!」
 撃力に推されて殆ど吹っ飛ぶように跳び下がる狂王。
「もう一発、持っていけよ!」
 そこにすかさず多喜の声が重なった。右手のひらに練り上げたサイキックエナジーが可視化され、空気を弾けさせるスパークとなって現れる。
「こいつが――お前のために殺されたホトケさん達の怨みだと思って、せいぜいきっちり噛み締めなァッ――!!!」
 多喜は稲妻の如くステップ・イン。走ってきた速力を載せ、狂王に全力の右掌底を叩き込む。
 打撃の撃力が敵の内側に響き、掌に帰ってくるその刹那! 集中させた全サイキックエナジーを一挙に炸裂! 二重の衝撃により、狂王の骨を破壊し、肉を拉げさせ、吹き飛ばすッ!!
 余りの威力に吹き飛び転げ、木を数本折って大樹に激突する狂王。轟音と、土煙がもうもうと場に揺らめく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 
 
 
 狂王が激突した大樹が、メキメキと音を立てて傾ぎ倒れる。その下敷きになる前に転がり避け立ち上がる狂王、未だ健在である。
 如何にすれば死ぬのか。猟兵らの全力の攻撃は確かに功を奏していた。その証拠に、狂王の語調からは徐々に余裕が失せてきている。
 しかし、攻撃のたびに狂王はゆらりと復位し、如何に凄惨な傷を負っていようとそれを即座に復元、何事もなかったかのように襲いかかってくる。
 この戦いは、もしかしたらいつまでも続くのではないか。
 そう疑っても仕方のないほどの敵のタフネスを前に、しかして猟兵達が手を止める事はない。
 信じているのだ。
 世に染みとして析出した過去の骸を滅ぼす、その力を!
 
 
 
アレクシス・アルトマイア

ああ、従うもの無き王ほど悲しいものはありません
どうぞ、再び眠りに付かれますよう。お願いいたします。

では、僭越ながら…ご案内いたしましょう。

スピード重視に銃やナイフで王の手足を穿ち、切り裂き
木や鋼糸を足場に用いて読まれ難いように立ち回りましょう。
三槍が自身や仲間に向けられればそれを撃ち払いましょう
従者ですから、援護射撃は得意なのですよっ

残念ながら、仕えるにふさわしい相手は、今はいないのですが…
眠りに付かれるお手伝いなら、ご遠慮無く申し付け下さいませ。
たくさん見送りに来てくださっているようですから。
きっと寂しくありませんね。

……さあて、どなたか、見ていらっしゃるのでしょうか?



●黒いナイフの子守歌
「ああ、従うもの無き王ほど悲しいものはありません。――どうぞ、再び眠りに付かれますよう。お願いいたします」
 謳うように言いながら進み出るのは、レースの目隠しをした戦闘従者。アレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)である。銀糸をさらりと揺らし、涼しげな声で語る。
「従わぬならば、従わせればよい。余は既に眠りに飽いた」
 暴君は言を一顧だにせぬ。全身の骨肉を再生し、再びその手に蒼きディフダの怨槍と、金に煌めくカファルジドマの戒槍を取った。元より狂える男である。今更、言葉を聞き容れるわけもない。
「あなたも嘗ては王として、政を敷いたならば分かるでしょう。譲れないものがある。守るべきものがある。――狂王様、あなたの自由は、私のそれに触れているのです」
 アレクシスは両手を閃かせた。汎用性に優れたフィア、高反動・高威力のじゃじゃ馬、スクリーム。最早自身の代名詞とも言える二挺の銃を引き抜いて、言い放った。
「一人で行けぬならば、僭越ながら――私がご案内いたしましょう」
「黄泉路を征くのは余ではない。貴様らだ」
 空中にメンカルの血槍が無数に凝結し、その穂先がアレクシスを睨む。
 激戦が始まった。

 アレクシスはフィアにより牽制射撃を放つ。ここまで銃を用いる猟兵は数名いた。既に仕組みと概念を察しているのか、狂王は射線から身を外すように左斜め前に駆け、銃弾を回避。更に、カウンター気味にメンカルの血槍を射出・投射、反撃。
 アレクシスもその反撃は当然予見している。狂王とは正対称となるような動き。射撃戦をしながら距離を詰めんとすればそこに行き着くという最適解。
 銃弾と血槍が空中で弾け合う。だがしかし、フィアにスクリームの弾幕を用いても、メンカルの血槍の連射密度には及ばない。しかもフィア一発では血槍一本にすら撃ち負ける。必定、すぐに火力差が露呈し、アレクシスは圧され出す――だが、彼女は退く事を考えていないかのようだった。
 アレクシスは横っ飛びに跳躍。着地際を狙った血槍数本を、空中での再跳躍で回避。手品でも何でもない。既に張っておいた極細ワイヤーを蹴っての空中機動だ。全く予測できない位置で空中で鮮やかな開脚側転を見せながらフィア&スクリームを連射。BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMッ!
「小賢しい羽虫が、良くもぬけぬけと余の周りを跳ぶものよ。愚物は愚物らしく、頭を垂れて傅くがいい!」
 戒槍を回旋して銃弾を弾き散らしながら跳び下がる狂王。その周囲に浮くメンカルの血槍が最初よりも数をいや増し、殺意の濃さを語る。
 一刹那も置かず、先ほどに倍する数の血槍の嵐がアレクシスを襲った。
 銃で防ぐにも、機動で躱すにも、その数は絶望的と思えた。
「狂王様、残念ながらあなたにはお仕えできませんけれど――」
 だがアレクシスはワイヤーを蹴って跳び下がり、フィアを納め、手を打ち振る。
 その後背の虚空に、黒点の如く無数の影が蟠った。
「眠りに付かれるお手伝いなら、ご遠慮無く申し付け下さいませ」
 影は膨れて、即座に漆黒の短剣の形を取る。
 無数の血槍に対するは、無数の黒刃。
 ――人を人とも思わぬ狂王にアレクシスが揮うは、『従者の礼儀指導』!
 ナイフベルトからダガーを引き抜き、アレクシスはきざはしとなる刃を投げ放つ。それを号砲としたかのように、無数の黒刃が続いた。その様、黒い雨と見紛う程である!
「莫迦なッ……」
 火力比が瞬時に反転する! 黒刃は次々とメンカルの血槍を叩き落とし、正面から拮抗し、ついには狂王の身体に突き立ち穿つ……!
「っぬ、うううっ?!」
「――ほら、たくさんの方が見送りに来て下さっているようですから――御身はお一人ではありません。きっと、寂しくありませんよ」
 アレクシスは王への追撃を緩めぬまま、機を伺う他の猟兵に目配せ。連携しながら狂王へ刃を投射し続ける。
 ――この騒ぎを今も見ているであろう、次なる敵へ備えながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白斑・物九郎

●WIZ


控えなさいや
王の御前っスよ

領土は三千世界、軍勢は嵐
嵐の王――『砂嵐の王』、ワイルドハント・白斑物九郎

王は二人と不要!!


・極彩色旋風の襲来軌跡の先読みに【野生の勘】を傾注

・【砂嵐の王】発動
・モザイク状の空間を旋風に対し逆回転で噛み合わせるよう相殺狙いで放つ(投擲+なぎ払い)
・モザイクで『極彩色』をしっちゃかめっちゃかに改変し、敵コードの立脚定義の消失を見込む

・同時、モザイクが飛散したならば、散布先を伝って自らを強化しつつ駆け(ダッシュ+ジャンプ+地形の利用)、【砂嵐の王】を敵へ接射

・狙いは敵が号令に用いる右腕
・その腕をモザイクで喰い潰し実存をあやふやにさせ(精神攻撃)、支障を及ぼす企図



●我ら共に天を抱かず
「控えなさいや。王の御前ッスよ」
 激戦の最中、狂王の耳に聞き捨てならぬ言葉が届く。
 ほぼ同時に、野太く宙を裂く風切り音と共に、巨大な『鍵』が宙を唸り飛んだ。
 その撃力、尋常ではない。狂王は咄嗟に右腕を大鰐に変え、その膂力と鱗で以て辛うじて鍵を受け、弾き飛ばす。弾かれた鍵を、跳び来た影がかっ攫うように受け止める。
「不遜にも余の前で先に王を名乗るか、不届者が! イネブ・ヘジを統治せしこの賢王に楯突くとは、何処の愚公なりや!」
「領土を聞かれりゃ三千世界。従える軍勢は嵐そのもの」
 狂王の強い声に答える、からっと乾きよく響く声。受け止めた鍵をクルクルと取り回し肩に負うのは、浅黒い肌に黒髪戴く猫のキマイラ。
       ワイルドハント
「俺めの名前は 嵐 の 王 ――白斑・物九郎。 王は二人と不要! ここでどちらが王の器か、白黒はっきりつけましょうや!」
 ――白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)。ここに見参である!
「この世遍くを領地と申したか。愚昧ここに極まれり。その不遜、死の痛みと苦鳴を以て贖うがいい!」
 狂王の足下より狂風が荒れる。『ネクロポリスの狂嵐』である! 極彩色の旋風が暴れ吹き荒れる。風に吹きさらされた立木が瞬時に枯死し、腐れて風化して崩れ落ち、その威力を教えている。
 極彩色に色を持ち可視化されている分、『見える』攻撃ではあった。しかし、それでも風である。空気の動きをどのようにして防ぎ止めろというのか。猟兵らが苦慮する部分の一つでもあったが、物九郎が下した判断は実にシンプルなものだった。
 嵐には、嵐。
「吹き荒れなさいや砂嵐! 俺めの狩りの時間ッスよ!!」
 物九郎の周囲に逆巻く風が、アナログテレビの砂嵐めいて、ザラリ、ザザリと、荒いモザイクに掠れる!
 ユーベルコード、『砂嵐の王』。玉色の風と対をなすような、灰吹雪めいたモノクロモザイクが、ネクロポリスの狂嵐とは反対向きの渦を巻く!
「形だけ真似たとて、死者の都に吹く病風は止められるものではないわ!!」
「形だけかどうか――すぐに分かりますや。見てなせェ!」
 両者、ほぼ同時に腕を突き出す!
 狂嵐と砂嵐とがぶつかり合い――色彩が混じり、凄まじい余波で周囲の立木の木の葉を吹き散らし、幹をメキメキと軋ませる!
 だが――
「……むッ!?」
 狂王は目を見開いた。これはいかなる事か。触れしもの全てを腐らせ朽ちさせ死者への供物となすネクロポリスの狂嵐に触れたはずの立木が、即座には腐らず――その形を保っている!
「貴様、何をした!」
「俺めのモザイクは輪郭と色彩という、事物の二大定義をねじ曲げる。灰混じりの『極彩色』なんてのはありえニャーッつうことですわな」
 立脚定義への介入改変、効果の喪失。完全なる相殺は不可能であろうとも、致命的な威力を失活することは、物九郎にとっては容易だった!
 そして! ネクロポリスの狂嵐に乗って拡散したモザイクは、物九郎にとってはトンネル同然である!
「覚悟なさいや! 嵐の王のお通りですでよッ!!」
 ヴン、と音を立てて物九郎の姿がぶれる。宙に散ったモノクロモザイクを、まるで電極間を伝う放電が如くジャンプ・ジャンプ・ジャンプ! 目視が追いつかぬほどのスピードで発生と消失を繰り返し、物九郎は狂王へ迫る!
「ッ、おのれっ!!」
 狂王は樹を背にして物九郎を迎え撃った。物九郎の最後の転移。稲妻めいたスピードで、狂王の右前に発生。
 即座に狂王は右腕を大鰐に変じ、その大顎で物九郎を喰らわんと繰り出す。
 だが物九郎の左腕もまた、モノクロモザイクを纏って膨れ上がっていた。バックスイングした右腕に纏うモザイクが、髑髏を形取りざらざらと笑う……!
「ぬうう、ぉぉおっ!!」
「平らげろォッ!!」
 両者の檄と共に腕同士がぶつかり――
 しかし敵手を喰らったのは、物九郎の飢砂髑髏であった。
「っぐ、ううううっ!?」
 モザイクが王の右腕を食い潰し、鰐と化していたその腕の実存を崩壊させる。色彩と輪郭の鈍磨による実存の希薄化! 制御を失った鰐がバグを起こしたゲームキャラクターめいて奇怪に藻掻く。
 狂王は次の手を取りあぐねた。こんな奇怪な攻撃は知らない。それはただの一瞬だったが――この喧嘩師を前に、それは致命的な隙だった。
「でぇええェェい!!」
 震脚! 隙に滑り込んだ物九郎は、地面に脚で杭を打ち、肩から背中にかけてを狂王のがら空きの胴体に叩き込んだ。

 ――見様見真似・八極拳、靠撃。鉄山靠!!

 あまりの衝撃に狂王の目の焦点がぶれ、彼の身体は背の樹を半ばよりへし折りながら撥ね飛ぶ――!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

赫・絲


はろー、御機嫌よう、エラソーな王様
お目覚めの気分はいかが?
別に良かろうと悪かろうと関係ないかー
すぐにまた消えてもらうだけだからね

そだ、謁見の御挨拶がまだだったねー
顎に喰らいつかれないよう、動きを封じるように鋼糸を素早く放って先制の【縁断・雷縫】
糸に這わせた雷の熱でそのまま焼き千切れれば儲けモノだけど、望みすぎかなー
ま、千切れても千切れなくても構わないんだけど
このまま電流で押さえ込んで拘束すれば、他の誰かの好機は作れるでしょ
こっちが空っぽになるまで、この雷は止まないよ

食われるのもイヤだけど、刺されるのもイヤだし腐るのなんてもっとイヤ
相手の動きはしっかりと見切って捌くよー


安喰・八束

逃げも隠れもしねえ、猛者か。
狙い易くて仕方ねえが、タダで撃たせても貰えんだろうなあ…

先駆けて御首頂戴、とやれる程血の気も若さもねえからな。
俺は森中に伏せ、援護射撃に努めよう。(援護射撃、目立たない)
「狼殺し・九連」で三種の槍を撃ち落とす。(スナイパー、武器落とし)
槍が湧く分好きなだけ、全弾持っていけ。

槍が弾かれ続ければ王の目を引いちまうかね。
面倒な狙撃手を探す、それがもう隙になる。
例え一瞬だろうが、それを活かせる猟兵は居るだろう?



●ナイン・バレット・イン・サンダー・ケージ
 あぁ、逃げも隠れもしやがらねえ。この人数の猟兵を相手に。傷を負ってもまるでなかった事にして、何度だろうが、化物みたいに食って掛かってきやがる。――ああいや、本物の化物だったな。何にしても、相当な猛者だ。
 隠れる事が頭にねえ分、狙いやすくて仕方ねえが、タダで撃たせては貰えまい。
 下がる。もう少し下がる。距離を取る。剣乱業禍と音を立てる戦場を、一人孤独に一望できる位置まで。
 森と一つになるように、呼吸を潜める。先駆け一番、御首頂戴とはしゃぐには、若さも血の気も足りやしねえ。
 槓桿を操作し、古女房に息を吹き込む。――古今東西、女の情ほど熱く危ないものもない。
 始めようじゃねえか。古き王だろうと、獣だろうと。
 照門の間に挟まれば、等しく獲物に過ぎんのだから。


「はろー、御機嫌よう、エラソーな王様。気分はいかが? 私達総出の歓迎、気に入ってくれたー?」
「その薄汚い口を閉じるがいい、端女……!」
 空中に凝結する呪いの赤槍、『メンカルの血槍』。その穂先が、挑発めいた言葉を発した猟兵を付け狙い回頭する。即座に連射。放たれる赤閃の数は一瞬にして二十を超える。圧倒的な瞬間火力だ。
 しかし降り注ぐ紅き槍雨の先で、猟兵――赫・絲(赤い糸・f00433)は不敵に笑った。左方へ地面を蹴るなり、縁断之葬具『鈍』の環に腕を通して振り回し、刃身にて血槍を弾き飛ばしつつ早駆ける。
「やだカンカン。その調子だとお気に召さずって感じだねー。ま、良かろうと悪かろうと関係ないか。どうせ、すぐにまた消えて貰うわけだし」
「不遜に不遜を重ねるか、愚物が!」
 度重なる挑発に怒りの声を上げ、狂王は左手、ディフダの怨槍を力任せに突き出した。ディフダの怨槍は、人に取り憑く怨みめいて、どこまでも伸び、獲物を付け狙う呪いの槍だ。蒼き柄がジグザグに伸び、絲を捉えんと襲いかかる!
「っと」
 絲は即座に対応。迫る怨槍の切っ先を構えた鈍により弾きつつ後退する。だが一度弾けば終わりの血槍とは異なり、弾けど弾けど怨槍は彼女を付け狙い伸びる!
「そら、そら! どこまで逃げが通ずるか、試してみようではないか!」
 勢い付く狂王の声に、しかしあくまで絲は平素の調子を崩さず呟く。
「……そろそろいーかな。謁見の御挨拶がまだだったし、このあたりで私からもお返しさせてもらうよ」
 ひときわ強く、鈍によりディフダの怨槍を弾くなり、絲は左手より鋼糸を放った。陽光に煌めく銀糸が狙うのは、しかし狂王本人ではなく――今や複雑怪奇かつ長大に伸びたディフダの怨槍である!
「何を――……ッ!?」
 槍に巻き付いた鋼糸より、ぱぢり、と紫電が迸った瞬間に狂王もまた狙いを悟る。だが、ディフダの怨槍を手放すには遅すぎた。電気が導体を伝わるその速度は、一説によれば光速に等しいという。見てから避けるには、遅すぎるのだ。
「端女呼ばわりは、私もちょーーーっとカチンときたんだよねー。――だから格別、痛くするよ!!」
 獰猛に笑って、絲は魔力を雷に換え、鋼糸に流し込んだ。結果生まれる悪縁断ちし紫電の糸を、『縁断・雷縫』と呼称する!
「っぐが、アあぁぁぁあぁっ!!!」
 狂王の苦悶の声が響く。電流が流れれば人間の筋肉は収縮する。故に狂王はディフダの怨槍より手を離すことも叶わぬ。怨槍を縮めて逃れようとするが、絲は常に鋼糸を弛ませ、距離を保ったまま切断や脱出を妨げる。
 オブリビオンとて、筋肉組織や神経系統が人間と似ているのなら、電撃が通じぬ道理がない。ましてや絲の全力の魔力放電だ。その電圧、電流共に尋常ではない!
「き、ィさま、ッあああ……ッ!!」
「鰐の顎なら焼き千切ってあげたんだけどね。――ま、お前の動きを止めるってならこれで充分でしょ? 私が空っぽになるまで、この雷は止みやしないよ。それまで生きてられるといーね?」
 小憎たらしく見えるように顎を逸らして言う絲に、狂王は目を見開いて歯噛みする。だがしかし、流石は骸の海より蘇りしオブリビオン。そのタフネスは未だ健在。身体を構造的に動かせねど、メンカルの血槍を今一度宙に十数と浮かべ、絲を狙って元凶を断たんとする!
「死……ねェ、い!」
「!」
 絲が僅かに身構えた、その刹那!


「いい的だな。何本出してくれるんだ? 弾が尽きるのが先か、てめぇの命が尽きるのが先か。試してみようじゃねえか。――槍が湧く分好きなだけ、全弾持っていけ」


 この戦場の、最も遠い位置で、土の匂いを感じながら、安喰・八束(銃声は遠く・f18885)が呟いた。匍匐体勢。照準は既に合わせている。距離二百メートル。常人には決して近くはないと思えるであろうその距離は、狙撃手にしてみれば『手を伸ばせば触れられそうな距離』に過ぎない。
 銃声が響いた。
 引き金を絞る。なめらかに槓桿を引く。廃莢、再装填、固定、引き金を絞る。
 八束はただそれだけの動作を、圧倒的な速度で、機械のような精密性で繰り返した。
 ――銃声、銃声、銃声、銃声銃声銃声銃声銃声銃声ッ!!!
 安喰・八束、人呼んで『狼殺しの八束』。一度放たば一匹の狼を仕留めると謳われる銃弾を、光る瞳で睨んだ対象に、一呼吸で九射叩き込む。命を削って放つ、極限集中の連続狙撃――ユーベルコードの域に達したその技は、『狼殺し・九連』と名付けられた、八束の必殺の業である。
 八束が睨む彼方で、宙に浮かんだ紅い槍がほぼ同時に全て爆ぜ散った。
 絶技と呼んで差し支えない。さらに発生する赤槍を叩き落とし続ける。――否、それどころか八束の連射はその発生速度をすら上回り、瞬く間に血槍を駆逐していく!
 敵が目に見えるほどの紫電で縛られているとはいえ、オブリビオンの得意技能を相手に、ただの鎖閂式猟銃でここまでの連射密度を出し圧倒するなど――それは神業にすら等しい。
 圧倒的優勢で敵の攻撃を封ずる八束が、あわよくばと狂王の額に一矢送り込まんと狙いを絞る。――その瞬間のことだ。照準の内側で、狂王がぎん、と目を光らせ、二百メートルの距離を挟んで八束の目を射竦める。
「早えな。この距離でもう気づくか」
 トリガー。銃声。
 呟きながらも冷静に放った銃弾は――しかし、狂王に達する前に極彩色の風に阻まれ腐り、霧散してしまう。
 雷撃を喰らいながらでも制御出来るように範囲を絞ったと思しきネクロポリスの狂嵐による、対物腐食防御! 八束は正確に眉間を射貫くコースで二射、三射と放つが、そのいずれもが同じ運命を辿る!!
 こうなっては殺しきれぬ。状況が膠着すれば持久力で劣るこちらが不利だ。
 ――だが、八束の表情に焦りはない。
 狂王の視線が八束を探し、発見し、それに対策するまでの時間を――たとえそれが一瞬だろうと、彼方で狂王の動きを封じた少女が、無駄にするわけがないと信じていた。
 果たして八束の視線の先で、少女が駆けた。木を蹴り、三角飛び、身をひねりながら太い枝を飛び越える!
 同時に狂王の身体が、滑車に吊られた重りめいて浮いた。少女は他の鋼糸を伸ばし、王の身体を絡めとっていたのだ。勢いづけた自身の運動エネルギーで、狂王の身体を宙吊りにする!
 Z軸の急激な変化。しかし、状況が動く事に備えていた八束の銃口は、ほんの数ミリの斜角修正でその変化を捉える。
 狂嵐の防御が追いつく前に。狂王が驚愕から覚める前に。
「さて、お前にゃ何発呉れてやろうか」

 今一度。
 狼殺しの九連射が火を噴いた。

 彼方で血と脳漿の花が咲く。八束は、それを見ることもなく銃口を下げた。
 つきりつきりと、削った寿命に噎ぶように、両の肺が針を刺したかの如く痛む。
 ――皮肉にもその痛みは、またも彼が生き残ったという証明であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【氷星花】

偉い王様、だからなに?
犠牲になった人々の命より、大事なものなんて無いよ

翼の【空中戦】で後衛に陣取り
戦況を見渡し敵の行動を注視、【見切り】都度味方と連携しつつ
自分の身は【呪詛耐性+オーラ防御】で守り
【破魔】を宿した光魔法の【高速詠唱、属性攻撃】で
ダメージ+目眩しを狙い2人の援護

行動の合間に定期的に地に降りては
大地に★どこにでもある花園を複数生成
王の行動範囲を徐々に狭めるようにしたうえで
敵のWIZ発動に合わせて【指定UC】発動

風の【全力魔法の範囲攻撃】で無差別に舞上げた破魔の花弁と強風で
敵の旋風を相殺、浄化
指定UCの【催眠歌唱】で別途操る花弁の斬撃で攻撃を突破し
敵への命中を狙う


シャオ・フィルナート
【氷星花】

確かに…余の帰還…って言われても、誰…って感じだし…
知らない相手に対して、控えなきゃいけない理由も…無いよね…

【暗殺技能】を活かした素早い動きによる接近戦主体
氷の【属性攻撃】による冷気を常に纏い
両手に握った2対の★罪咎の剣にも氷属性を付与

敵の呪詛は【呪詛耐性】で軽減しつつ★死星眼を覚醒させ
戦闘の合間に【生命力吸収、催眠】による敵の弱体化狙い
また、直接攻撃を仕掛けられたら舞うようにジャンプ回避しつつ
背中に★ange de verreを精製
敵の背後を取り羽状の氷の弾丸を【一斉発射する範囲攻撃】

【指定UC】で氷の渦潮を発生させ
敵の足を巻き込み凍結させることで敵の足止め

トドメは…任せる…


天星・零
氷星花】

『僕は、仲良くしたいので穏便に済ませたいのですけど…』

【戦闘知識+情報収集+追跡+第六感】で敵の急所や動き、戦況、地形を読み取り、臨機応変に


近接Ø
遠距離グレイヴ・ロウ

wiz攻撃は知識を用いた【呪詛耐性】と【呪詛】、星天の書-零-で霊に協力してもらい【オーラ防御】


指定UCを発動し一緒に戦ってもらい
さらに、【恐怖を与える】

『このままだと犠牲となった人が報われないですね…。そうだ、首を狩りましょう 。そうすれば少しは犠牲になった人達の痛みはわかりますよね?そうすれば、いいお友達になれそうです。大丈夫、オブリビオンだから死にはしませんよ』



キャラ口調ステシ
UC口調秘密の設定
常に微笑んでます



●氷華映す死の国の刃
 頭部を銃弾で射貫かれ、雷発する鋼糸がその身を裂こうが、狂王はその状態から再生を果たし、拘束を振り払って再びメンカルの血槍を編む。怒りと苛立ち、そしてその裡に潜む狂気は最早隠せぬほどだ。
「不遜に不敬を重ねた愚昧なる野犬共よ。最早貴様らなど、ヒトと呼ぶにすら値せぬ……話が統治する都に、貴様らのようなものは要らぬ。ここで残らず滅ぼしてくれる……!」
「それは困りましたね……僕は出来れば仲良くしたいので、穏便に済ませたいのですけれど」
 顎元に曲げた人差し指を添え、思案げに王の言葉に応じる金髪の少年の姿があった。天星・零(多重人格の霊園の管理人・f02413)である。しかしそれを制するような調子で、三人の中央にいた、少女と見紛うような少年が言葉を挟む。
「こんなのと仲良くなんて、する必要もないよ。偉い王様だからなに? 犠牲になった人々の命より、大事なものなんて無い。……滅ぼしてやるなんて、こっちの台詞だよ!」
 強く激した調子で声を紡ぐのは、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)。それに応じる中性的な声が、さらにもう一つ。こちらもまた細面の、中性的な美貌を持つ少年だ。どこか儚げな気配を纏う彼の口から出る言葉は、声量低く、呟くようなトーン。
「確かに……余の帰還……って言われても、誰……って感じだし……知らない相手に対して、控えなきゃいけない理由も……無いよね……」
 二本一対の銀の短剣『罪咎の剣』を手に携えた彼の名は、シャオ・フィルナート(悪魔に魅入られし者・f00507)。
 三人一組で狂王の喉元に迫った三名は、それぞれ思い思いの武器を構える。
「やろう、二人とも!」
「ええ……そうですね、避けられないならば。やるしかありませんか」
「わかった……始めよう」
「犬がいつまでもべらべらと、高貴なる余の前で人の言葉を繰るでないわ!」
 相対距離十メートルと僅か。狂王の周り、空中に析出する『メンカルの血槍』。その数一瞬にして数十本。
 即座に澪ら目掛けて放たれる槍衾を、三者はそれぞれの方法で迎え撃った。シャオは罪咎の剣を、零は抜き放った短剣『Ø』をそれぞれ用いて、弾きながらステップし回避。飛び退いた澪は一人、跳躍と共に翼を羽ばたかせ空に舞い上がる。
「後ろから援護するよ!」
「了解……」
「ええ、よろしくお願いします、栗花落さん」
 前衛にシャオ、そして零。後衛に澪の三人編成だ。
 血槍の第一波をやり過ごせば、即座に零が反撃に移る。走りながら彼が地面を蹴りつけると、狂王の足下の地面がごご、と揺れ、十字の墓石が飛び出した。
 狂王はそれを飛び退いて回避。しかし零は間断なくその十字の墓石を繰り出し続ける。『グレイヴ・ロウ』。零が扱う攻防一体の武器だ。遠距離からの牽制として、それは十全に機能する。
「ちッ――小癪な!」
 しつこい攻勢に、苛立たしげに舌打ちをするのがその証座だ。狂王は一瞬の溜めを経て、百、いや二百に届かんかという量のメンカルの血槍を編み出し、それを一斉射!
「させませんよ――」
 零は屈んで手を地面に当て、強く念じた。周囲の地面から墓石が無数に飛び出し、まるで墓所めいて十字の墓石が乱立する。背も高く突き出た墓石が、シャオと零を狙って放たれた一斉射を弾いて防ぎ止める!
「……先に行く」
「ええ、お任せします」
 微笑を崩さず返した言葉を聞いたか聞かずか、シャオが先駆けた。零が作り出した墓石を蹴り飛び渡り、ピンボールめいて加速前進! その両手が白く煙る。刃より発する凍気が、空気を凍てつかせているのだ。
「つくづく下らん手品の種が尽きぬ事だ――貴様から血祭りに上げてくれよう」
「できることだけ口にした方がいい……安っぽく聞こえるから」
 狂王に辛辣な台詞で返しつつ、シャオはその身の捌きを遺憾なく発揮する。
 グレイヴ・ロウを足場に、先ずは真正面から打ちかかった。狂王は右手にしたディフダの怨槍を使いシャオの二刀流を受け流す。剣戟が響き渡る。風めいて打ちかかるシャオの二刀の速さもさることながら、狂王の防御技術もまた相当なものだ。空中に紅い火花が咲き散り、激しい打ち合いを彩る。
「はァッ!!」
 狂王がディフダの怨槍による突きを繰り出す。受け流し弾くが、その柄ががギャリッ、と音を立てて伸びた。弾いたはずの槍がジグザグに、歪な軌道を取って伸び、シャオを付け狙う! ディフダの怨槍はまるで人に取り憑く怨みの如く、その心臓を狙ってどこまでも敵を追うのだ!
 シャオは表情を動かすことなく、逆手に持ち替えた二剣でディフダの怨槍を弾く、弾く、弾く!
「シャオ君!」
 空中から声が注いだのをシャオは聞き逃さない。その右瞳が金色に変じる。『死星眼』。生命吸収と敵の思考能力を奪い催眠状態に落とす魔眼だ。
「むッ……!」
 強大なオブリビオンといえど、その魔眼の視線を備えなしに受ければ行動が鈍ることを避けられぬ。ディフダの怨槍の切っ先の速度が緩んだ瞬間、シャオは後ろに飛び退る。
「これでも、食らえぇっ!」
 またも声が降った。言わずもがな澪のものだ。清浄なる輝き放つ聖杖『Staff of Maria』を振り翳し、澪は破魔の力を込めた光の矢を空中に幾つも編みだし、絨毯爆撃をかける。
 一発一発の威力は然程でも無いが、その威力を高速詠唱による連続射撃でカバーする。さらに、
「目障りな……!!」
 狂王が唸る通り、光の矢は当たるたびに煌めきを散らして視界を塞ぐ。一瞬で縮め引き戻したディフダの怨槍にて受け弾く狂王だが、弾ききれずに数発の光の矢を受け、歯ぎしり紛れに飛び退いた。
「隙だらけ……」
 声は、その更に背後から発された。
「むうっ!?」
 狂王が振り向く前に、多数の氷の羽が撃ち出された。澪の援護を受けたシャオが、閃光に紛れ敵の背後を取っていたのだ。氷翼『ange de verre』を背に生成し、その雹羽をショットガンめいて高速射出。狂王の防御が間に合うわけもない。まともに受けたその全身から、赤い血が飛沫き、狂王は威力の余り二度転げて受け身、即座に飛び退いて距離を取る。
「ぐ……ぬッ、貴様らは残さず余さず、一片と残さず――この世から排斥してくれる!!」
 迸る血に、怒り心頭の体で狂王は吼える。その足下より、毒々しい、極彩色の旋風が巻き起こった。周囲を無差別に腐らせ、風化させ、その結果として破壊する狂嵐――『ネクロポリスの狂嵐』である!
 同時に戦う猟兵が多数となればなるほど、無差別なこの攻撃は大きな脅威となる。――それを知っていたからこそ、三人は同時に動いた。
「零さん! シャオ君! 少しだけ耐えて!」
 言うなり澪が急降下。彼は地面をトン、トン、と足で打ちながら走り、低空を翔ける。
 その足跡に、小さな芽が萌芽し、瞬く間に伸びて可憐な蕾が花開く。
「わかった……」
「ええ、承知しました」
 意図を察して返事を返す二人。後退するシャオに零が追いつく。零は『星天の書-零-』のページを手繰り、霊壁を構築。吹き荒れる腐敗の風に対する盾とする。
「無駄だ――この死都の風は全てを腐らせ、やがて無に帰す滅びの風よ! 大人しく捲かれ、疾く消えるがいい!」
「ああ――そうですね。確かに、長くは保ちそうにありません……ですが、このまま引き下がる、というわけにはいきません。犠牲となった人々が報われませんからね」
 削れていく霊壁の影で零が嘯く。その横で、シャオが地面に刃を突き立てた。
「……凍れ」
 氷の魔力を地に流し込む。そうするなり、地脈を伝った魔力が王の足下で氷渦を巻き起こした。
「この程度の抵抗で余が処断の手を緩めると思うてかッ!」
 氷の渦に飲まれ、凍傷と切創を下肢に負いながらも、しかし狂嵐は収まるどころか強くなるばかりだ。シャオはしかし、氷の渦を維持し続ける。――足止めすることに、意味がある。
「滅びよ、愚昧なる野犬共よ! 然らば、然らばだ!!」
 狂嵐が強まる。零が作った霊壁に罅が入り、決壊せんとするまさにその時――
「――お待たせ」
 澪の声が、凜と響いた。
 澪の姿はまたもや中天にあった。その手の内側には翼の装飾が入ったマイク――『Angelus amet』がある。
 狂王が宙を見上げ、狂嵐の範囲を広げようとした刹那、澪は深く息を吸い、空まで突き抜けるような声を発した。美しくも張り詰めた、天使の声。声は音階を伴う。――歌だ。天翔る歌。
 澪の歌と同時に風の魔術が発露した。歌を詠唱の一部とした全力魔法。巻き起こった旋風が、彼女が足下に幾つも作り出した花園より花弁を巻き上げ――その全てを鋭き刃へと換える!
 ユーベルコード『誘幻の楽園』!!
 巻き起こった花嵐が、ネクロポリスの狂嵐と正面からぶつかり合い、その勢いを相殺、そして清浄なる風が腐敗の風を浄化していく……!
「何、だと……!?」
 澪はマイクに切々と歌を吹き込む。それを聞き届けたかのように花弁が嵐となり、勢いの弱まった腐敗の狂嵐のなかを突き抜けた。次々と狂王に花弁が突き立ち、その身体から血を迸らせる!
「ぐううっ!」
「……トドメは、任せる……」
「ええ――承りました」
 決壊寸前だった霊壁を解除しながら、ゆらりと零が踏み出す。花弁と狂嵐舞い踊るその中へ踏み出す。
「――そう、仲良くするにはどうしたらいいか。考えていたんです。犠牲になった人たちの怨みを注いで仲良くするには――もう、一つしかありませんでした。首を狩るんです」
「――?!」
 静かなトーンで語られる零の言葉に、さしもの狂王とて目を剥いた。静かなる狂気を宿した零の声は、聞くものに恐怖を与える。
「首を狩られれば犠牲となった人たちの痛みが、少しは分かりますよね? そうしてわかり合えたのならきっといいお友達になれそうです。大丈夫――」
 零の横に、燐光と共にゆらりと、バフォメットめいた骨の山羊頭を持つ禍々しき人型が現れる。
「あなたはオブリビオンですから。その程度で死にはしないでしょう?」
 零の微笑みは、崩れない。
「――ッ、不敬であるぞ、劣等種……!!!」
 狂風を封じられ、下肢を氷渦に囚われ踏み込みが効かぬ。この上狂王が繰り出せるのは最早メンカルの血槍のみ。苦し紛れに連射された赫槍を弾き掻い潜り、零は駆ける。
「王ならこちらにもいます。――さて、本当に不敬だったのは、どちらのほうでしょうね?」
 言葉と共にグレイヴ・ロウが足下から飛び出した。タイミングを合わせ、その勢いを発射台めいて用い、人型と零は爆発的に前進。零が力の限り投擲したØの刃がドッ、と鈍い音を立てて狂王の胸を穿ち――
 その唇から苦悶が漏れる前に、
『不敬なのは貴様だ。頭を垂れよ』
 骨山羊の女王が迫り、慈悲無きその鎌を一閃した。

 かくて、狂王の首は秋空高くに飛んだ。
 血飛沫が舞い、数秒をおいて、その身体は爆ぜるように、黒い瘴気の靄となって広がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

六波・サリカ
暗裡といきます

最初から大きな悪が出てくるとは狩り甲斐がありますね、暗裡。
とは言え、信長という巨悪に一太刀を浴びせたあなたの敵ではないでしょう。
あの程度の傀儡はちょちょいと捻ってやりましょう。

さあ、暗裡。空を飛ぶので私の背に捕まってください。
攻撃は任せましたからね。では行きますよ!
ソニック・スラスト!急急如律令!!

暗裡を背負ったまま敵に超高速で突進を喰らわせます。
敵は身体部位の一つを変形させて噛みついて来るらしいので、
噛まれる前に高速飛行の軌道を変えて避けます。

背に感じる彼女の気配
…こういうのも新鮮で良いですね。


幽世・暗裡
※サリカと行きます。サリカと行くんです!!!

前回は偶然に偶然に偶然に偶然が重なって生まれた奇跡ですしぃ
ってか、いいですかぁ、サリカ
よぉーく聞くのですよぉー。何度も言ってますが再び聞くのです
アタシは、この幽世・暗裡は、
そもそもまともに戦えるスペックは持ち合わせていない
そう、幼気で、か弱くて、陰気なぬいぐるみで……

ま、まって……え、なに? そら?
イヤ、無理
せめて、あんぜんうんて、
ちょ……
は、はや、はやすぎますよぉぉぉぉーっ!!

サリカの背にしがみつき
高速飛行に身を任せ振り落とされないようにして、精一杯目を見開きます。
瞼を閉じない限り、その手を離さない限り、
必要なタイミングは視界と友が教えてくれるはず



●ソニック・スピード・ドッグファイト
「最初から巨悪が出てくるとは狩り甲斐がありますね、暗裡。――ま、巨悪とはいえど、更に更に巨大なる悪、織田・信長に一太刀浴びせたあなたの敵ではないはずです。あの程度の傀儡、ちょちょいとひねってやりましょう。さぁ」
「さぁ じゃないんですよねぇ! なんかさっき首刎ねられたのにブワって靄になってから五体満足に固まって、また元気に戦ってるようなバケモノ、このアタシが相手に出来るとでもぉ?!」
「ですから前回のことを思い出せと言っているのです。信長相手によく勇気を出しました。尊敬に値します。なので、今回もよろしくお願いします。行きますよ」
「前回は偶然に偶然に偶然に偶然が重なって生まれた奇跡ですしぃ! いいですかぁサリカ、よぉーく聞くのですよぉー」
「はい」
「既に何度も言ってますが、再び聞くのです。いいですね?」
「ええ」
「アタシは、この幽世・暗裡は、そもそもまともに戦えるスペックは持ち合わせていない、そう、幼気で、か弱くて、陰気なぬいぐるみで……」
「だというのにもかかわらず、信長に立ち向かった、勇気ある私の親友。ということでいいですね」
「人の話を! 最後まで!! 聞いてくださいよぉ!!」
 幽世・暗裡(ここにはダレも・f09964)は涙目だった。そりゃ涙目にもなろう。なんせ六波・サリカ(六波羅蜜・f01259)の中には戦わずにこの件を見過ごす、という択がそもそもない。イネブ・ヘジの狂王は未だ健在。複数の猟兵が取り囲んで攻撃を加えているが、未だ滅ぼすこと叶わぬ強大なオブリビオンである。滅ぼしたかと思えばその身を再生し、再び猟兵らに抗する、悪夢めいた再生能力を有している。
 暗裡は自己申告の通り戦いがそもそも得意ではない。戦闘経験に乏しい上、そんなもん積まなくて済むならその方がいいと思っている。しかして友人が死地に一人で突っ込むのを見捨てるほど非情に無関心を貫くことも出来ぬ……難儀な性格の少女なのである、が。
「というわけで行きましょう、暗裡。空を飛ぶので私の背に掴まってください。でないと戦地に一人置き去りですよ」
「置き去りはちょっと勘弁ですよぉ!?」
 一人にされれば早晩死が見えるのでやめて欲しい。殆ど反射的にサリカの首っ玉に腕を回す暗裡。……でもよくよく言葉の内容を咀嚼してみればなんかもっと聞き捨てならないことを言っていた気がする。このロボ女。
「……って、え、なに? そら? 空飛ぶって言いました?」
「はい。攻撃は任せましたよ」
「イヤ、無理」
「では行きますよ! ソニック・スラスト、出力最大――」
「話を聞いてぇ!? せ、せめて、あんぜんうんて、」
「急急如律令ッ!!」
 ドッ、と音がして世界が反転した。
 赤雷を纏ったサリカが地を蹴ったのだ。ユーベルコード『高速飛行』による、文字通りの超高速飛行の開始である。
 サリカは式神と近代技術の結晶、言うなれば最新型の陰陽師だ。電力にて種々様々の式神を駆動し、様々な奇跡を実現する。これはその中の一つ――加速距離さえあれば最大で時速四千キロメートルに迫る高速飛行を行い、その速力と撃力で敵を粉砕するプログラムである!
 ――まあ、同乗する猟兵がいるので今日はいつもよりは速度は控えめなのだが――
「っちょおおおおおおおっ?!?!! っっは、はや、はやすぎますよおおぉおぉーーーーっ!!」
 それでも暗裡には刺激が強すぎた。まあ、人間なら振り落とされるどころか、衝撃波で骨折を起こしていてもおかしくない。そういった意味で暗裡の苦情はもっともなのだが、
「この速度でなければ敵の反撃を食らいます!! 暗裡、目を閉じないで! 敵を狙ってください!」
 サリカが取り合うわけもない。彼女は合理性の塊である。不条理な合理性の。
「ああぁぁぁあぁもうやだー!! 家に帰してくださいよぉーーー!!」
 暗裡は半べそをかきながら、必死にサリカの背中に足を絡め腕を絡めしがみつき、それでも指示に従って目を見開いた。
 斯くして、高速機動するサリカという機体に、炎弾を放つ暗裡という砲台を爆装した、二者一体の戦闘機が戦場へ参じたのである。
 赤雷とソニック・ブームを纏いながらすっ飛ぶサリカを、狂王が見過ごすわけもない。
「物狂いが、またぞろ奇矯な真似をする!!」
「あっそれアタシもそう思う、思います! もっと言ってやってぇえぇ!」
「暗裡、悪の言葉に耳を貸さないように! それに喋ると舌を噛みますよ!!」
 対空砲火めいて放たれるはメンカルの血槍の連射、連射、連射!!
 赤雷に覆われたサリカはしかし、通常の戦闘機では到底為しえないようなジグザグのコースを翔け、その連射より身を躱し続ける!
「うぎゅうううう……!?」
 余りの挙動に暗裡が目を回しかけるが、サリカらには一発の血槍とて着弾しない。
「小賢しいッ!!」
 業を煮やしたか。機関銃めいて連射されるメンカルの血槍に加え、狂王は周囲の猟兵の追撃を振り払う意味も兼ねてであろう、ネクロポリスの狂嵐を巻き起こす。極彩色の旋風は、触れれば即座にそこから腐敗し、風化し、死に至る腐毒の風だ。
 サリカはそれを即座に察知、鋭いクイックターンをして加速距離を稼ぎ、身の赤雷を益々強く、激しく猛らせる。
「暗裡、私が奴を宙に浮かせます。そこを狙って全弾叩き込んでください。信長の時と同じ要領です」
「あんな九死に一生をしょっちゅうやるように求めないでくださいよぉ!」
「行きますよ!」
「聞いてってばぁ!!」
 聞いてくれない。
 サリカは距離を取って最大加速! その直線飛行速度は音速を超え、その身にソニックブームを纏う!
 連射されるメンカルの血槍を最低限のヨーイングだけで回避! 極彩色の旋風にそのまま突っ込む!! 衝撃波がネクロポリスの狂風を掻き分け、散らし、ダメージを避ける! 悲鳴を上げる暗裡をさておき、サリカは凄まじい速度の侭狂王目掛けて突撃!
 狂嵐の内側で狂王は既に、その右手を大鰐に換えて待ち構えていた!
 言葉を差し挟めるような隙すらない刹那の攻防。突っ込むサリカを目掛け、ジャストタイミングで大口を開けた鰐が繰り出される。鋼鉄の牙列がサリカはおろか暗裡までも一呑みにせんとする正にその刹那!!
 サリカの足下で赤雷が爆ぜ、その軌道を身一つ分、僅かに変じ――バスケットボールのフェイントめいて身を一転、辛うじて閉じる鰐顎を回避!! 身体を廻した勢いを殺さぬまま、サリカは斧のごとき回し蹴りで狂王の身体を蹴り上げる!!
「っがはッ!?」
「暗裡っ!!!」
 苦悶の呻きとサリカの声が重なる。ボールめいて吹っ飛ぶ狂王の身体を追ってサリカがまた急発進するその背で、暗裡はべそも乾くような風を受けながら、必死に右手で吹き飛ぶ狂王を指さした。
 ぼ、ぼぼっぼ、ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼひゅうっ!!!
 炎弾その数、一二五発!! サリカのナビゲートがあったとはいえ完璧なタイミングで放たれた、機関銃めいた炎弾の群れが狂王の身体を穿ち、燃やし、爆ぜさせる!!
「――!!」
 赤く燃え、声も無く吹っ飛んだ狂王が地面に落ち転がるのを見つつ、サリカはおお、と感嘆するような息を吐きながら宙を大きく旋回した。
「――背中に頼れる友の力を感じつつ戦う。こういうのも新鮮で良いものですね」
「アタシは二度とごめんですよ、こんな空中アクロバットサーカスぅ!!」
 感じ入るような調子のサリカの背中をポコポコと叩きながら、暗裡はきゃんきゃんと騒ぐ。
 乾いたはずの涙がまた出そうだった。暗裡はまた命を拾ったことに安堵しつつ、次には何に駆り出されるのかと戦々恐々とするのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ペル・エンフィールド
【結社1】
むむ……死臭に満ちた建物ですか
鼻がおかしくなりそうなのです
どれだけ狂えばこんな惨たらしいことができるのか……人間って不思議ですね

ま、ペルはいつも通り暴れるだけなのです!
くくく、今日はお目付け役も居ないので存分にやれるのですよ

三本の魔槍、確かに驚異なのです
でもでも、それも当たらないことには意味がないのですよ
室内だろうとペルの羽ばたきは衰えない、さぁ狩りの時間なのです

ユーベルコードで分身を作り出し狂った王さまを取り囲む
本体を見分けさせないように紛らせて、全方位から攻撃
仲間のナンバーズが攻撃する隙を作るのです


ビリウット・ヒューテンリヒ
【結社1】◎
さて、これはまた随分と上等な獲物だ
あぁまったく人を殺しすぎだよ
正義の味方を名乗るつもりは無いけど、人の世を乱すのなら──例え神だろうと、王だろうと撃ち抜くだけさ

バロウズ、形態変化──『ラスト・メモリー』
スナイパーライフルとなったバロウズを携え、遠くから狙撃できるポイントへ
一射ごとに位置を変えるが…そうだね、私がそのポイントで狙撃したという"記録"を再現しよう
位置を変える度に私の狙撃は増え続けるって寸法さ

戈子殿、ペル
私は狙撃をする関係上、本体のポイントを悟られてはならない
2人を信じて、来る時まで撃たないよ
それで構わないね?
──ありがとう、代わりに私も外さない
勝利の記憶だけ、世界に刻む


伴場・戈子
【結社1】◎
グリモア猟兵が予知しきれない脅威……やれやれ、ご大層な話だね。どの道戦わなきゃいけないことには変わらないんだ。年寄りの手管、味合わせやるとするかね。

さぁて、ガキども!気を抜いてかかるんじゃないよ!余力は残して、然し迅速に、さね。アンタたちなら朝飯前だろう?
いつも通りだよ、護りは任せな。ペル、アンタは撹乱だ!アタシゃアダムみたいに口煩く言わないからね、好きにやりな!上手くやれたら菓子もやるよ。

冥界より迷い出た狂える王とありゃ、アタシの神威は滅法よく効く。「不浄禊祓」で纏った神気で呪詛に対抗。攻撃を引き受けて時間稼ぎに徹するよ。

……さて。残念、これでタイムアップさね。
――ビリウット!



●翼舞い、神吼え、鉄火叫ぶ
「さて、これはまた随分と上等な獲物だな」
 数十メートル先にて、狂王と猟兵らが未だ相争っている。ここまで数十名の猟兵らと対峙し、未だその勢い衰えぬ――『イネブ・ヘジの狂える王』。狙うには不足のない首だと、ビリウット・ヒューテンリヒ(Ⅳ番目のレコード・キーパー・f16513)が零した。刻器『バロウズ』の担い手である。
「上等なのか、最悪なのか、言い方一つですけども――」
 その頭上より声。酸鼻極まる廃ホテルの惨状から匂い立つ死臭が、死闘が繰り広げられる森の中程まで流れて来ている。それに反応してか、鋭敏な嗅覚を持つペル・エンフィールド(長針のⅨ・f16250)が、樹上でぐったりした風に鼻元を羽で押さえた。彼女は鷲と木菟の流れを汲むハーピィである。腕の代わりに翼を、鋭利な鋼鉄の鉤爪――『ストラスの大爪』を下肢に纏う、半人半鳥のキマイラだ。
「鼻がおかしくなりそうなのです。どれだけ狂えばこんな惨たらしいことができるのか……人間って不思議ですね」
「あぁ、まったく人を殺しすぎだ。……まぁ、いつの世にも道理を外れるものはいる。正義の味方なんて名乗るつもりは無いけど、人の世を乱すのなら──例え神だろうと、王だろうと撃ち抜くだけだ」
 ペルに応じるビリウットの横手に、どん、と矛の石突きが突き立てられた。声が続く。
「グリモア猟兵が予知しきれない脅威とは、やれやれ、ご大層な話だね。どの道戦わなきゃいけないことには変わらないんだ。年寄りの手管、味合わせやるとするさ――」
 大矛――刻器『アンチノミーの矛』を携え、激しい戦闘を繰り広げる狂王を睨み付けるのは伴場・戈子(Ⅲつめは“愛”・f16647)。
 この三名は共に、『結社』という名の異能集団に所属する仲間である。戈子が司令塔として、二人に号令を下した。
「さぁて、ガキども! 気を抜いてかかるんじゃないよ! 余力は残して、然し迅速に、さね。アンタたちなら朝飯前だろう? まずペル、アンタは撹乱だ! アタシゃアダムみたいに口煩く言わないからね、好きにやりな! 上手くやれたら菓子もやるよ」
「はいです! くくく、今日はお目付け役も居ないので存分にやれるのですよ……!」
 ストラスの大爪に点る炎が赤々と燃え、羽撃きと共にペルの身体がばさりと空中に浮く。
「ビリウット、あんたは距離を取って手筈通りに、だ。問題ないね?」
「ああ。――ただ、狙撃の都合上、時が来るまでは援護も出来ない。それまでは二人を信じて機を伺うことになる。聞き返すようだが、構わないね?」
「愚問さね。アタシの護りとペルの速度を信じな」
「ですよぅ! ペルが飛び回れば、いくらあの狂王だってそうそう簡単には捉えられないのです!」
「――安心したよ。ありがとう。代わりに、私も外さない。この森に刻むのは、勝利の記憶だけでいい」
 薄く笑って、ビリウットは頷いた。戈子がニィッと、ペルがきゃらりと笑う。
「そうと決まりゃあ仕事の時間だ。かかりな、ガキども!」


「……む!」
 アーマーンの大顎を凄まじい勢いで振り回し、その膂力と質量で数名の猟兵を吹き飛ばした狂王の下に、群れ成す羽撃きの音が届いた。空を振り仰ぐ狂王を見下ろすのは、三十強の影。茶の羽をした半人半鳥の少女――ハーピィらが、狂王を宙より取り囲むように飛んでいる。
 質量を持った残像を構築し、分身として扱うユーベルコード『ハーピィ達の狩り場』。まさにその名の如く、狩りを始めんと空中で、ハーピィ――ペルが謳う。
「さぁ、狩りの時間なのです、王さま。狩られる側の恐怖を味わうがいいのですよ!」
「怪物風情がよく吼える。この至高の王を天より見下ろすその不敬、翼をもぐだけでは到底購えぬぞ、劣等種が!」
 宙にメンカルの血槍が展開され、間髪も入れずに連射、連射、連射! ペルは残像らを即座に散開させ、己もその残像の中の一つとして紛れる。質量を持った残像は、最早実像と区別がつかぬ。
 メンカルの血槍を回避しつつ数体の残像に先制攻撃をかけさせるペル。ストラスの大爪から溢れ出るバーナーめいた焔爪が伸び、狂王を引き裂かんと振るわれるが、しかし狂王は右手にした黄金の槍を振るって迎撃した。びゅるり、と、黄金の槍は鞭めいて伸び、三体の残像に一挙に絡みつき、その中途より有棘鉄条網めいた棘を分岐伸張、巻き付いた残像に食い込み食い荒らし、一瞬で破壊・消失せしめる。――戒めの槍、カファルジドマ! 一度捉えられれば命はない!
 それに加えて右手にあるディフダの怨槍である。一度狂王が繰り出せば、鋭角的に――ジグザグに先端が伸び、物理法則など無視して敵を追尾、貫き通すまで追いかける魔性の槍。宙で機を伺うように飛ぶ残像が数体、予測できない軌道で襲いかかるディフダの怨槍の切っ先に貫かれ、消失する。
「……気に入らぬな」
 瞬く間に八体ほどの残像が消え失せた。魔槍二本を元の形へと引き戻し、しかして狂王は不快げに唸る。確かに、驚異的な威力を誇示した格好となる。だがしかし、血液が溢れることもペル本体が傷ついたようなこともない。――そう。当たらなければ意味が無いのだ。
 ペルは口を開かず、残像に紛れ、全方位からいつでも攻撃できる位置に残像を飛ばし続ける。敵の思考リソースをそこへ向けさせ、隙を作る。囮としてのペルの役割である。
 ――今です!
 取り囲ませた残像を一挙に攻めに転じさせる。十体による全方位同時攻撃。狂王はメンカルの血槍を対空砲火に使い、数体を貫き、ディフダとカファルジドマを同時に振るって残敵を制圧。
「――本体は貴様らの内、どれであろうな。全て消えるまで潰せばよい話か」
 残る残像の数は当初の半分以下! 狂王が槍を引き戻し攻撃態勢を整えようとしたまさにその時、
「それがアンタに出来るんならねぇ!!」
 横合いの茂みより、革ジャケットにサングラスの老女――戈子が飛び出した。ペルが作った隙を狙い、満を持しての奇襲である。手にしたアンチノミーの矛に白き光が宿り、ギラリと光り輝く。
「新手か。全く、腐肉に湧く蛆のように増えるものだ」
「なかなか洒落たたとえをするじゃないか。自分が腐ってるって認めてるんだからねぇ!」
 揶揄する王の言葉を軽やかに皮肉で打ち返し、戈子は凄まじい速度で踏み込み、大矛にて打ち掛かる。狂王もまた応じて槍を振るった。打ち合いが始まる!
 ディフダの怨槍を振るい、アンチノミーの矛を打ち払いつつ、ざっと左足を引いてカファルジドマの戒槍を振るう狂王。戒槍の切っ先が今一度鞭めいて伸び、戈子を捉えんと迫る。
 戈子は地を這うように伏せて戒槍を回避。打ち下ろしのディフダの怨槍を飛び退き避けて再び電瞬の前進。
 ディフダの怨槍を引き戻しつつ狂王は今一度戒槍を振るった。今度は切っ先を撓らせ、不規則な軌道を作った鞭打を打つ。受け弾こうとした戈子の矛の刃を避け、ぎゅるりと柄に絡みつく戒槍!
「!」
 動きが一瞬止まる。狂王はにやりと笑い、足下よりずああっ、と極彩色の旋風を巻き起こした。『ネクロポリスの狂嵐』である。触れるものを腐らせ、風化させ、滅ぼす死都の風。武器を手放すか、共に腐れて死ぬか、二つに一つ――
 そう思われた瞬間。
「アンタみたいな、冥府から迷い出た亡者には――この光は少しばっかり眩しいんじゃあないかね?」
 戈子はアンチノミーの矛に更に力を注ぐ。刻器献身――『短針のⅢ・不浄禊祓』。伴場・戈子は、常世に生きる『神』である。その手より溢れる白き神気は、あらゆる不浄を打ち払い――涜神せし冒涜者には、致命の毒と化すのである!
 カファルジドマの戒槍が神気に当てらればちりと弾け飛ぶ! 自由となった矛に神気を載せ竜巻めいて回旋、発生した神気の渦がネクロポリスの狂嵐と重なり、汚れを祓って浄化する――!!
「くッ、死都の風を抑え込むとは――貴様、何者……!」
「アンタに名乗ってやるような名前はないよ!」
 狂嵐と戒槍では分が悪しと、血槍を連射する狂王。戈子はそれをも神気纏う矛にて打ち払いつつ前進、ディフダの怨槍と切り結ぶ! 剣戟は加速し、迂闊に踏み込めば膾となるような斬風が吹き荒れる!
 ぎぃん! 一際強く打ち合い、軋り合うディフダの怨槍とアンチノミーの矛!
 槍の柄同士を軋ませての押し合いになった瞬間、
「隙あり、です!」
 その隙を穿つのはペルだ。超高速での急降下から、手の塞がった狂王の肩口をストラスの大爪より噴出する地獄の炎で焼き切る!
「ぐおっ!?」
「いい子だ、ペル! あとで飴ちゃんをやろうねえ!」
 狂王の力が苦痛に緩んだその瞬間、戈子が槍を捌き石突きでの薙ぎ払いで狂王の脇腹を打ち据える! がは、と息を吐き蹌踉めく王。致命的な隙。
「――これで詰みさね。ビリウット!」


「ああ、視えているとも」
 距離二百メートル余り。バロウズ、形態変化――『ラスト・メモリー』。状況に応じてその形を変ずる魔銃バロウズを狙撃銃状に変形したビリウットが、スコープ越しにその状況を捉えて呟いた。
 即座に一射。命中。狂王の肩口の肉が抉れる。ビリウットは両目を開き、左目で周囲の地形を、右目でスコープ越しに敵の身体を捉えながら疾る。
 トリガーを引く。セミオート式の狙撃銃となったバロウズは、ビリウットがトリガーを引くたびに短く身動ぎし、ライフル弾を吐き出す。一射ごとに狂王の身体から血が噴き、肉が散る。
   ログ・リプレイ
 ――記 録 再 演 。
 ビリウットは、発砲するたび、『その位置から自身が敵を狙撃した』という記録を再現していく。一射放つごとに残される世界の記憶を再現し続ける。ビリウット・ヒューテンリヒが得意とするのは、世界の記憶から現象を再現する『追蹤魔術』。それ以外の魔術は一切扱えないが――彼女にはそれで充分だった。

 アカシックレコードから汲み上げられた、硝煙と照準の記録。
 敵を殺すのに、それ以上は必要あるまい?

 位置を変え、発砲するたびに、放たれる弾丸は増え続ける。薬莢がキラキラと舞い、そのたびに命中弾が血と肉を宙に散らした。
 最初はただ一発の銃弾だったビリウットの狙撃は、十秒足らずの間に吹き付ける銃弾の嵐と化す。森に、獣のごとき王の苦鳴と、無数の銃声が響き合う――!!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァーミリア・ランベリー


「――あぁ、素敵。今日はとても、愉しく踊れそう!」

 押し寄せるは、比喩ではなく怒涛。もはや、攻撃よりは災害と呼ぶべきか。
 それに相対するならば、むろんのこと尋常の立ち回りでは追いつかない。回避を肉薄と、防御を攻撃と。交ぜて換えた、混沌の舞踏。

「さあ、さあ、ここからは一緒に」

 不敵なステップで戦場を横切った舞姫が、あどけなくも嗜虐的に微笑んだ。

※意図:攻撃を迎撃しながら接近、上手くいけば肉弾戦へ
※動作:ダンスの所作がそのまま戦闘挙動となる
※UC:衣裳(例:裾や袖)が威力を持ち、攻防に利用可
※その他:武器はなく生身での格闘、身体能力高め



●世界の果てのダンスホール
 鉄火爆ぜ散り、火花舞う。剣が荒れ槍が飛び、楽章の如く猟兵達の吼え声が重なる。
 ここは狂乱のダンスホール。少し蓮っ葉なリズムだっていい。格式に沿ったフォーマル・ダンスを求める紳士はどこにもいないのだ。
「――あぁ、素敵。今日はとても、愉しく踊れそう!」
 戦場に参じた一人の少女が、長いサイドテールを揺らして笑う。夜闇めいた衣を纏い、阿鼻叫喚の踊り場に参じたのは、ヴァーミリア・ランベリー(イミテーションルビィ・f21276)。
 その場の猟兵らを余さず照準し、一瞬で二〇〇に届こうかというメンカルの血槍の掃射。当然ヴァーミリアも射程内だ。襲い来る十数本の血槍を少女は無手にて迎え撃つ。踵を軸に身を廻せば、夜闇を編んだような彼女の衣服『オールナイト・クロス』の裾が鋼鉄めいて鋭く尖り、甲高い金属音を立てて血槍を弾いた。
 払いきれぬ量の連射が来れば、手を地についての側転からの宙返り、嵐の如く繰り出される血槍の嵐を回避・回避・回避! その身の捌きは正に戦舞、舞うが如くに戦うとはこのことである。
 しかして狂王、されども狂王。ここに至るまで数十名の猟兵との激闘を演じていながら、その動きには未だ瑕疵も疲れも見て取れぬ。血槍を一際派手に避けて捌いて見せるヴァーミリアに目を留めて、彼は右手にある怨槍ディフダの切っ先を持ち上げる。
「よく舞い踊るではないか、下女よ。遊んでやろうではないか」
「下女なんて響きで私を呼んだこと、後悔させてあげる。さぁ、ここからは一緒に踊りましょう?」
 ヴァーミリアは激するでもなく、未だ幼いその美貌に嗜虐的な笑みを浮かべてみせる。
 怒濤どころか災害に等しい、この強大なる相手に対し、少女は恐れの一片すら見せぬ!
 ヴァーミリアの一声を合図としたように、二者は吸い寄せられるように激突した。
 メンカルの血槍の連射に加え、狂王は手に携えたディフダの怨槍にてヴァーミリアを攻める。蒼きディフダの怨槍は対象を貫くまで角度を変え高速伸張する魔槍。繰り出された蒼閃が、軌道を読ませぬ超常の軌跡――ジグザグの螺旋を描いてヴァーミリアの心臓を付け狙う。
 ヴァーミリアは鋭くつま先で地面をタップ。応じて翻ったリボンが刃となってディフダの切っ先を払う。追いかけてくる刃を錫杖で弾きながら横へステップ。オーバーターンを一つ打ち、ヴァーミリアは腕を広げて竜巻めいて一転した。その袖がまるで闇が伸びる如く変形し、刃となって怨槍の切っ先を切断する。
 事ここに至るまでに、数々の猟兵がディフダの怨槍への対抗策を編みだし共有している。あの怨槍は刃より以前を切断されると、敵の追跡を中断して収縮するのだ。
「小賢しくもよく動く。ならばこれはどうだ!」
 ぎゅるりと縮むディフダの怨槍を掻き消し、開いた手を狂王は大鰐へと変じた。冥府の顎門、アーマーンの大顎。ふ、と舞姫はつまらなさげな息を吐く。無粋をたしなめるように。
「そんな腕ではパートナーの手を取れないわよ。ダンスの仕方も教わらなかったの?」
「舞踊など不要。踊り、余を楽しませるのは貴様らの仕事であろう?」
 ヴァーミリアの言葉を飲み込むように大鰐が顎を開き、少女の華奢な身体を食いちぎろうと、トラバサミめいて食らいつく。
「残念ね。貴人ならば――踊りの作法くらいは弁えているものと思ったけれど」
 食らいつく顎を避け、紙一重で掻い潜り、ヴァーミリアは手を一閃。闇衣の袖がリボン状に伸び、大鰐の顎門を絡め取る!
「むっ!?」
 言うなればリボン越しのオープン・ポジション。ヴァーミリアは闇のリボンを収縮させ、鋭くステップ・ターン!
 擦れ違い様に凶器と化したオールナイト・クロスの裾が、狂王の脇腹を食い千切る――!
「ぐ……っ!」
「王たるもの、踊りの一つも出来て当然よ。勉強し直してらっしゃい」
 少女は唇に不敵な笑みを湛え、甘い声で歌ってみせるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ


――足りないものなんて、疾うに気付いてた。

今はまず眼前の敵。
控える?まさか!
ご帰還が骸の海にとあらば、吝かではありませんが。

UC起動、風の魔力を纏い。
鋼糸にて木々を渡り、中距離よりさぞ鬱陶しかろう斬撃を主に。
相手より接近を誘えたなら上々、
踏込み、体捌き…変形の兆しを見切り。
奪われるとか、いっとう嫌いなんで?
大顎に同時に数本ナイフを噛ませ、喰らわれるを防げたら、
開いた喉奥へと短矢を見舞う。

――解ってる。
己の源流は対人戦。
己が命を守るもの。
世界の埒外、強力な過去との『純粋な力比べ』では、
UCで補おうと、暗器のみで一撃必倒には届かない。

それでも。
生き残る為なら。意地を通すなら。
やるしか無いんですが



●意地の張り方

 ――足りないものなんて、疾うに気付いてた。

「また羽虫が一匹か。身を叩いて払う身にもなってほしいものだ」
 全方位へのメンカルの血槍の連射。猟兵らを一時遠ざけ、狂王は、気配に気づいたように上を身仰いだ。
「おや、殺すつもりでやらないので? お優しいことですね、王様。それとも僕達を殺すには、その細腕では足りないですか?」
 狂王より投げかけられる言葉に、樹上から応える声があった。トントン、と太い枝につま先を打ちながら、見下ろす男の名はクロト・ラトキエ(TTX・f00472)。
 狂王はすうと眼を刃のように細め、クロトの買い言葉に重い声で応える。
「控えよ。王の御前であるぞ」
「控える? まさか! 我々が傅けば貴方が骸の海にご帰還なさると言うのなら吝かではありませんが、そんな柄でもないでしょう?」
 言いながら、クロトはユーベルコードを起動。『トリニティ・エンハンス』――猟兵分類におけるマジックナイトならば誰でも扱うことが可能な、属性魔術を纏うユーベルコードだ。此度クロトが選択したのは風の魔術。その身に逆巻く強風を纏い、しゅるりと指先より鋼糸を伸ばす。
「クロト・ラトキエ。参ります」
「貴様の名など覚えるに能わん。疾く消え失せよ、下郎」
 王の居丈高な声を笑い飛ばすように、クロトは跳躍した。

 ――分かっている。
 己の源流は、『対人戦』にある。この強大なる、世界の埒外、骸の海より来たる存在との『純粋な力比べ』では――ユーベルコードで不足を補おうと、持てる限りの暗器を振るおうと、一撃必倒には届かない。
 分かっていることだ。それが自分に足りないもの。

 クロトは鋼糸を伸ばし、木々を絡め取りながら宙を飛んだ。フリーな右手を鞭のように打ち振れば、黒染めのスローイングナイフが空気を裂いて唸り飛ぶ。
 狂王は手にしたディフダの怨槍にてそれを弾き、メンカルの血槍にてクロトを撃ち落とさんと連射を放つ。しかし空中を縦横無尽に、時には張り巡らせた鋼糸を蹴り飛ばし空中で鋭角に方向転換しつつ、クロトは宙を駆けて回避。
「羽虫らしくよく跳ね回ることだな。その首掻き斬ってくれる……!」
 付かず離れずの距離からの飛刀、そして短矢による射撃に業を煮やしたように、狂王は地にディフダの怨槍を打った。――ディフダの怨槍が、地に向けて伸張。伸びる槍の石突きに乗り、狂王は宙へ舞う! 不規則に荒れ伸びる槍の石突きを乗りこなし、凄まじいスピードでクロトへ接近!
 クロトは目をこらす。その変型の兆し、槍の伸びるスピード、狂王の目線の向きに。
 僅かな兆しとて見落とさぬ。一歩間違えば死ぬのは自分。オブリビオンという強大な存在の前に、己の命は矮小に過ぎる。

 ――知っている。だからこそ目を凝らすのだ。
 生き残るためなら。意地を通すなら。そのために、自分が出来ることは全てやる。
 ……或いはそれこそが、自分に残された唯一の銀の弾丸やも知れぬのだから。

「捉えたぞ、劣等種!!」
 勝ち誇るような快哉。槍がぎゅるりとそれまでに見せていない曲がり方――ショートスパンでの二回変形による疑似曲線軌道――を見せ、狂王の右手が変形。クロトを真横から食い千切りに掛かる!
 間合い的に避け得ぬ距離。クロトはそのまま為す術無く閉じる顎に挟まれ――
 ぞぶり、と彼の両肩、脇腹に、深く、大鰐の牙列が食い込んだ。
 ……しかし!
「ぐうっ?!」
 呻いたのは、狂王の方であった。
「……麻痺毒の味はいかがです? これは即効性でしてね。超常の大鰐とて、貴方の血肉から出来たものだ。神経毒がまるで無効というわけにはいきますまい」
 巨大な顎に挟まれながらも、クロトは両手にすかさず抜いたスローイングナイフで上顎と舌、下顎を貫いていたのだ。痺れに緩む顎に跳ね上げた足をねじ込み開きながら、クロトは両の小手を大鰐の喉奥に延べる!
「ついでにこれは僕の奢りです。召し上がれ!」
 叫びと共に小手仕込みの短矢射出機、『Tief im Wald』より装填した全弾を射出!
 大鰐の喉奥に次々と突き立つ短矢、迸る絶叫――!
「っがああああっ……!!」
 ギザギザに裂けた両肩両脇の痛みを耐えつつ、クロトは大鰐の顎門を蹴り離し、飛び退き離れる。苦悶に身をよじり落ちていく狂王を、彼は樹上より油断なく見下ろしていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロカジ・ミナイ


空間より出でて直ぐ、身を返していい感じの木立に飛び移る
僕を槍から守る木の上からは狂王の足跡がよーく見える
わぁ…ご覧よ、歩いた端から腐ってるよ
アレらは元に戻るのかね?腐敗を戻す薬など知らないけど

さて――
王への挨拶はどうしようか
行儀よくお辞儀ついでの袈裟斬りか、奇を衒って脳天からお邪魔するか
どうしようか、妖刀さんよ
あっちにする?そんなら僕はこっちで
やれやれ話にならないから両方で
どうせ互いに言うことなど聞きゃあしないんだ

罪深き魂には身に覚えがある
喰らってもらえるなら万々歳さ
あぁん?治癒など知った事か
僕の刃が其れを上回ればいい話



●この後、ちょっと蛇に怒られた
 ひゅんと“門”が開き、中から飛び出した男が宙返りを打った。身を翻して木の枝の上に着地。頭の痛そうに、編み込んだ左頭を押さえながら、ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)は樹上より未だ猟兵らと交戦を続ける敵を見下ろした。観察すればその異質さがよく分かる。ヒトを、命を腐らせる風を纏ったいにしえの王。決してこの世に生かしておいてはならない、骸の海より来たる星の黒点。
 他の猟兵と打ち合い、引っ切り無しに地を蹴って移動するその足跡が、ロカジには容易に見えた。何せ、奴が歩いた跡は、極彩色の狂嵐が吹かずとも腐り、死に絶えたように風化するのだ。
「ご覧よ、あのざまさ。歩いた端から腐っていく……アレらは元に戻るのかねえ? 腐敗を戻す薬などこの僕でも知らないってのに」
 ロカジは既に抜き放った窈窕たる妖刀に語りかけるように呟いた。無論返事はない。一人遊びである。いや――或いは彼にのみは聞こえているのかも知れなかった。その妖しく美しき刀の声が。
「さて、王へのご挨拶はどうしようか、妖刀さんよ。行儀よくお辞儀ついでの袈裟斬りか、奇を衒って脳天からお邪魔するか。――あっちにする? そんなら僕ァこっちで。それならこっちがいいってかい? やれやれ、埒があかないね。そんじゃあ、」
 薬屋はしばらくの独り言の後、機を見計らって枝を蹴った。
「両方だ」
 どうせ互いに言うことなど、ハナから聞きゃあしないのだ。

「上から失礼、っと」
 交戦の合間を縫って突如、狂王の上より声が降った。狂王は上を向く暇も惜しいとばかりに右腕をかざす。その腕が巨鰐と化し、鋼鉄の鱗に覆われた。
 ぎゃ、ぎいんっ!!
 長刀の刃が鱗にて滑り、火花を散らす! 言わずもがな、ロカジの奇襲である。受け止められたが、その一撃で終わろうはずもない。着地しがてら鱗の上を滑る刃に逆らわず袈裟斬りの刃を振り抜き、身を翻して今度は胴打ちの横一閃を放つ!
「何奴ッ!」
 飛び退き避けながらの狂王の誰何に、ロカジはへらりと笑った。
「曲者さ」
 踏み込む。
 長妖刀が、まるで生きているかのように翻った。飛燕さえ落とすのではないかという技の冴え、大鰐の鈍い動きを寄せ付けず、しかも刃渡りの長さのために、刃先に行くほど撃力が増す。優美な日本刀のフォルムからは想像できぬ一撃の重さに、狂王さえ唸りを零す。
「ぐぬ……!」
「その鰐、あれだろ。罪深き魂を喰らうだかっていう。いいね、僕の魂なんて汚れだらけさ、風呂を浴びても落ちやしない。喰らってもらえるかい、この罪をさ?」
 冗談めかした薬屋の声、王の眉間に皺が寄る。
「――不遜なり。その肉もろとも喰らってくれる。裁きは冥府で受けよ、愚物が!!」
 激したように王は吼え、大鰐の顎門を開いた。爆発的な前進。ばくん、と開く顎にロカジはやれやれと肩を竦める。
「……ま、そんな事だと思ったさ。うまい話なんて、そうそう転がってるわけないもんな」
 食らいつく大顎にぽんと、ロカジは蛇を放った。八本の首に頭が七つの、掌サイズの蛇だった。
 ――この蛇を、怒らせてはならない。

 牙を避けて放り込まれた蛇が激した。具体的には飼い主の雑な扱いだとか、べたつくこの鰐の口内だとかに。――ロカジの蛇、『幾岐大蛇』は、怒りに任せてその体積を増した。鰐の大顎をべきりと外し跳ね上げて、見上げるほどに巨大化したのだ。
「なッ……ァ!?」
 初めから出せば魔槍のいい的だったろう。故にロカジはこの機を選んだのであった。
 ――外れた顎が己の肩を打ち、呆然と立ちすくんだ狂王へ、今一度、窈窕たる抜き身が閃いた。
 薬屋路橈の振るう抜き身が、王の身体をずんばらり。噴き出す血さえも避け抜けて、苦鳴を背後に血振りを一つ――。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルジャンテ・レラ

織愛さん(f01585)

虫唾が走るとはまさにこの事ですね。
一時の油断が命取りになりそうな相手ですが、敗れるわけにはいきません。
はい。参りましょう、織愛さん。

最優先すべきは前行く彼女のフォロー。
援護射撃で彼女への脅威を払いましょう。
攻撃の兆しが見受けられれば複数の矢を番え、狂王の行動を阻害します。
織愛さんがより動きやすくなるよう努めますね。

槍に矢。相殺するには分が悪いでしょうか。
ですが、私は諦めという言葉を好んでおりません。
回避が間に合わなければ相殺を試みましょう。
助けていただいて有り難い限りですが、挑発にはリスクも伴うはず。
彼女を守るべく一層集中しなくては。

流石、お強いですね。
頼もしいです。


三咲・織愛

アルジャンテくん(f00799)と

醜悪に過ぎる喚ばわれ方……吐き気がしますね
この先に惨劇を起こさせる訳にも行きません
行きましょう、アルジャンテくん

ノクティスを手に、前へ駆けましょう
呪詛の旋風は真正面から受ける訳には行きませんね
見切り、槍を木に突き立て、上へ
立体に動きながら敵の目を惹き付けます
彼の援護があると信じて、先ずは回避に徹します
もし彼の方へ攻撃が行きそうになれば、言葉による挑発を
余所見などしている暇はありますか?
私一人にすらあなたのか細い攻撃は届いていませんよ!

隙を見付けたら槍投げ、少しでも足止めを
そのまま打ち砕く拳を顔面に叩きつけてみせましょう
この拳、鰐になど砕かれませんよ!



●矢の驟雨森に響き、撃拳鋼鉄を穿つ
 美しい面差しの少女と、中性的な、端整な容貌の少年が森の中を駆ける。
 まず口を開くのは少女だ.鈴の鳴るような声は、しかし滴るような嫌悪に濡れている。
「醜悪に過ぎる喚ばわれ方……吐き気がしますね」
 人が死んだ。少なくとも、あれを喚ぶ段で、数え切れないほどの人間が死んだ。ホテルの天井を埋め尽くす顔、顔、顔。話に聞いただけで悍ましい。少女――三咲・織愛(綾綴・f01585)の嫌悪の表情に頷き、傍らを走る少年、アルジャンテ・レラ(風耀・f00799)もまた同意する。
「虫唾が走る、とはまさにこの事ですね。許せない所業です。一時の油断が命取りになりそうな相手ですが――ここを通せば、誰かがまた危険にさらされる。敗れるわけには行きませんね」
 アルジャンテの淀みのない返答に頷き、織愛は真っ直ぐに前を見た。
 睨むは敵手。三十メートル先、猟兵から受けた傷を黒き蒸気を上げて治癒する狂王――『イネブ・ヘジの狂える王』!
「もちろんです。この先に惨劇を起こさせる訳には行きません。行きましょう、アルジャンテくん――私達で、あのオブリビオンを止めます!」
「はい。参りましょう、織愛さん。微力ながら――力を尽くして、お手伝いします」
 アルジャンテはロングボウに複数の矢を番え、織愛はドラゴンランス『noctis』を手に構える。
「蛆の尽きぬ世よ。これは、根底から作り直さねばなるまいな……!!」
 近距離戦闘を繰り広げていた猟兵らを不意打ちの鰐腕の薙ぎ払いによって弾き飛ばすと、すかさずメンカルの血槍を生成。一瞬にして槍衾としか言いようのない密度での斉射をかけてくる。
「援護をします」
「はい! 往きます!」
 二人の役割分担は、アルジャンテが後衛、そして織愛が前衛。細腕のか弱い女子と侮るなかれ、その近接戦闘能力は歴戦の猟兵すら舌を巻くレベルだ。
 そして、後衛を担当するアルジャンテもまた、優秀な射手であった。先行する織愛の後ろ、足を止め、アルジャンテは滑らかに弓を引く。
 即座に放った。一射で三矢を放つ射撃、しかもそれを立て続けに放ち、メンカルの血槍を撃ち落としていく。
「むッ……?!」
 王の唸り。絶対に防ぎ得ぬ密度のメンカルの血槍の連射と、アルジャンテが放つ矢の連射が拮抗する。
 その秘密はアルジャンテの技術にあった。矢は一つの血槍に当たるなりバウンドし、もう一つを叩き落とす――一射で複数の槍を落とす曲射ちだ!
 織愛への脅威を払い、路を切り拓くための速射。演算回路を過熱させながら、アルジャンテは矢を放ち続ける。
「はぁっ!」
 織愛はアルジャンテがもぎ取った好機を逃さず、ノクティスを撓らせ高跳びめいて樹上へ跳ねた。アルジャンテと射線を重ねない事で、攻撃を分散させ――或いは己へ攻撃を集中させる狙いだ。 樹上を駆け、上方より狂王を付け狙う織愛。それを追い、メンカルの血槍が対空機関銃めいて放たれる。
「当たりませんよ……!」
 ノクティスを取り回し、樹上でその技の冴えを遺憾なく発揮しつつ漸進する織愛。それに加え、王目掛けて横合いからの吹き付ける矢風。アルジャンテの狙撃だ。一呼吸に三矢の曲芸めいた連射が王に次々と突き立つ!
「ぬう……ッ、小癪な真似を! それほどまでに死にたいか!」
 狂王はメンカルの血槍を二方面同時に連射。しかも、織愛の前進を妨げつつ、射撃の比重はアルジャンテ側により強く傾く。
「……!」
 本腰を入れて殺しに来ている、とアルジャンテは直感する。槍の連射密度が早い。先ほどまでの射撃は牽制に近いものだったか。――この密度とあっては、相殺するには分が悪いやもしれぬ。
 ――ですが、生憎。私は、諦めという言葉を好みません。
 アルジャンテは、メンカルの血槍が辿るコースを冷静に分析、回避できる弾道のものは全て回避しつつ、直撃を避け得ぬものだけを撃ち落とし、更には狂王目掛けて矢を放つ。動かず物量に任せる狂王とは対照的に、移動と回避を交えての高度な射撃戦だ。ど、ど、と二本ばかりが狂王の腕と腹に突き立ち、苦悶が漏れる。
「おのれ、おのれおのれおのれ……!! ちょこまかとよく逃げるッ!! この怨槍をくれてやろう、栄誉に浴して死ぬがいい!」
 苛立ちを隠しきれぬ声で狂王は咆えた。繰り出される槍は『ディフダの怨槍』。物理法則を無視してジグザグに伸長・屈曲し、対象を貫くまで追尾し続ける魔槍である!
 蒼き魔槍が放たれ、その切っ先がアルジャンテを狙って伸びる! アルジャンテは矢で撃墜を図るが、命中し弾こうとも即座に軌道を修正し追尾してくる怨槍。
「くっ――」
 転がるように回避するが、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃりっ! と音を立てて怨槍の切っ先はカーブして反転、アルジャンテを背から貫こうと迫り――
「余所見をしている暇など――あなたにはありませんよ、狂王!!」
 可憐ながら凜とした声が響く!
「何……!?」
 織愛だ。メンカルの血槍の連射を、肩、腕、脚と数本喰らいながらも致命傷を避け前進し、樹上よりその身を躍らせたのだ。 アルジャンテに意識が向いている間の隙を縫っての奇襲!
「そのようなか細い攻撃では、私の命一つも穫れはしません!! ――はぁっ!!」
 織愛は身体を芸術的に反らせ、全身のバネを遣ってノクティスを投擲! 空気の壁を貫き、円状の衝撃波を捲きながら放たれたノクティスが、狂王の手からディフダの怨槍を叩き落とす!! 王からの魔力供給を断たれた怨槍は縮み、すぐにも都のサイズとなって消失!
「物狂いがッ――我がメンカルの血槍を受けながら進むとは……!」
 飛び退く狂王を織愛は逃さず、まるで羚羊のように跳ねて追撃をかける。そして、
「それ以上……織愛さんを傷つけさせはしません」
 紙一重のところで窮地を救われたアルジャンテが強い声で唸る。
 傷つくリスクを冒し、飛び出してまで、身を案じてくれた織愛に報いねばならないと思った。――アルジャンテは、織愛を守るという意思を番えた矢に篭める。
 極限集中、『千里眼射ち』。
 同時に番えた三本の矢、弓弦に乗せたときの角度、右腕を引いた際の張力、風の強さ、敵との距離。行動に伴う全ての変数を調整・変更し、命中という結果を作り出す。それが、弓射という技術だ。
 アルジャンテは、自身と敵を結ぶ線の間に、織愛を挟んだまま矢を連射した。一見すればそれは、織愛ごと敵を射るような軌道に見えたやも知れぬ。しかし――矢羽が風を孕み、その軌道が揺らめいて曲がる。それは通常の銃弾などでは絶対に実現できない軌道。放たれた矢は織愛を避け、彼女の肌に一筋の傷を残す事もない!
「何だと……?!」
 狂王の驚愕の声。敵からすれば、織愛の影から不意に矢が飛び出してきたようにしか見えまい。過たず、その身体に矢が次々と突き刺さる!
「ぐうっ、うう……!!」
「……打ち砕きます! 覚悟!」
「侮るな、小娘ぇええェ!!」
 狂王は右手を巨大な鰐へと化けさせ、織愛へと食い付かんとするが、その口の中にさえ狙い澄ましたアルジャンテの狙撃が飛び込む! 血を迸らせ引きつった苦鳴を上げる鰐顎を、
「はああっ!!」
 織愛のアッパーカットが砲弾めいてカチ上げ、
「……ッ!?」
 その撃力の余り引っ張られて浮いた王の呆けた顔面に、
「っやああああっ!!」
 拳がめり込んだ。
 アッパーから打ち下ろし鉄槌へのシームレスな連携――ハンマーめいて握り固めた織愛の拳が、狂王の頭骨を軋ませ殴り飛ばすッ!
 頭から地面に叩き付けられ、土埃を上げながら、狂王は声もなく盛大に吹き飛び、転がる……!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

九条・真昼

そこら中に立った木を利用してその影や枝上等々移動しつつ666で射撃攻撃ーって感じで動くんだけどさ、HAHAHA、あの風だと遮蔽物意味ねーな。

なるなる、小手先でどうにかなる相手ではねぇと……最悪じゃん!!
俺が一番避けたい状況じゃん!!
クソクソクソ!!!
でも逃げられねぇならヤるしかねーだろ。

「来いよ、イかれキング。倍返しにしてやるよおおおお!!!」

血反吐を吐いて、地べたを這い蹲って、クソ情けねえ姿を晒しても、諦めが悪ィんだ、俺は。
転んでもタダでは起きねー真昼君と深夜君を舐めんな。
受けた傷も呪詛も、復讐馬鹿で俺達の力に代えて。
念動力で加速させた呪殺弾で狂った王様を死角から狙い撃つ。

※口汚い台詞歓迎



●王殺しの道化
「ハッ、狂王だかなんだか知らねェが、俺ァこっちを見下しきって、自分がさも正しいですってツラしてるクソ野郎が一等大っ嫌いなんだよ――ブッ殺し尽くしてやる、行くぜ!」
 樹上を飛び渡り、メタリックグリーンの大型拳銃を携えて疾る少年が、嘯くような調子で言った。九条・真昼(嗤ヒ袋・f06543)である。手にした拳銃は彼の思念を弾丸として発射する念動銃――『Boogie666』。煌めくその銃口より、思念の光が迸る。『ブッ殺してやる』という意思が光の弾丸となって結実し、銃声と共に高速射出! 樹上より、雨霰と念動弾が降り注ぐ!
「頭が高いぞ――愚物が」
 狂王は不機嫌げに唸り、その足下より極彩色の狂風を吹かせた。据えた――病葉の匂いが広がる。『ネクロポリスの狂嵐』である。その風に触れたものは皆、生命力を根こそぎ奪われて腐り、枯れ落ちるが定め。瞬く間に王の足下に広がっていた草が枯れ、腐液を垂れ流してしおれて土に混ざる。早回しで病んだ草を見るような異様。狂風はすぐに範囲を広げ、辺り一面を吹き荒れる! 思念の弾丸すらも、その嵐の前に光を失って霧散する!
「げっ……!?」
 当然、真昼が紛れんとした樹上の茂る葉も例外ではない。風に当てられて葉が一瞬で腐り落ち、枯れ木同然となった立木の上、真昼は慌てて飛び移り隠れる先を探すが、そうは問屋が卸さない。
「そこか」
「チッ――!!」
 即座にメンカルの血槍が複数、真昼を狙って投射される。舌打ち紛れに木を蹴って飛び降り、回避しつつ地面に着地して転げるように横に駆ける。立て続けに、尽きることもなしに放たれる血槍。敵のスタミナ切れまで逃げるなんてのは現実的ではない。真昼の心臓が運動の余り爆ぜるところまで逃げ回ろうが、敵は平気な顔をして槍の連射を続けてみせるだろう!
 ――最悪だクソッ、クソクソッ!! 小手先でどーこーって相手じゃねえ! 俺が一番避けたい状況だろこれッ!
 小技に騙し討ちで難局を乗り切るのが真昼の得手だが、敵は慈悲無く、正面から強大な力で、路傍の石を蹴るような無造作さで殺しに来る相手だ――正面からやり合うとは、分が悪いにもほどがある。
 だが逃げることも出来ず、謝って済む相手でも何でも無いのであれば、やるしかない。……殺すしかない!
「……しゃぁねえな、かかって来いよ、イかれキング。倍返しにしてやんよ!」
「もう済ませた。死ね」
 精一杯の減らず口を叩いた真昼の前に、蒼い一閃が走った。
「なッ!?」
 真昼はそれを辛うじて首を傾げるように避ける。ぎゃ、ぎゃりっ!! 音を立てて伸びる蒼き槍の名は『ディフダの怨槍』。ヒトの怨みが如く、敵を貫くまで付け狙う怨槍である。回避したはずの切っ先が音を立ててコースを変じ、無造作に真昼の足を貫き、地に縫い止めた。
「ぎっ……!!」
 引き攣るような声を上げつつも、真昼は666を敵目掛け跳ね上げ、思念の弾丸を放つ。狂王はステップ一つで避け、空いた左手を指揮するように振る。空中に析出したメンカルの血槍が、即座に七本、真昼目掛けて降り注いだ。
「がぁぁああああっ!?」
 真昼の全身に突き刺さる血槍。臓腑が傷つき血反吐を吐き、膝を付く。血が失われていく。一歩誤れば死にかねぬ重傷。圧倒的な力量差を見せつけられ、真昼は最早持ち上げてもいられなくなったか、パタリと銃を下げる。
「口ほどにもなかったな。そのまま朽ちよ、愚物」
 再び宙にメンカルの血槍を編む狂王。歩いてくる強大なる王を前に、しかし、
「……っへ、……へへ。こっちの台詞だ、クソ野郎。残念だったな。覚えとけ、真昼君と深夜君はよォ……」
 笑う。
 真昼は、口の周りを吐いた血で汚しながらも、鮫のように笑ってみせる!
「転んでもなぁ、タダじゃ起きねェーンだよ!!」
 叫びと共にバンッ、と音がして狂王の胸が爆ぜた。
「な……に?」
 血槍が消失し、怨槍が縮む。解放された真昼の身体が地に伏す。
 ――何が起きたのか。真昼は、全力を込めて放った弾丸に、呪力を載せたのだ。侮られ、傷つき、敵を呪った――強大なる怨みを、念動力を通じて、放った弾丸に注ぎ込んだ。
 外れたかに見えた弾丸は急速に回頭。漆黒の、怨みの力を伴い――
 凄まじい速度で、今、王の胸を貫いたのである。
「この、ッ、劣等種……がァ……!」
「ヘッ――いい格好だぜ、王様。ざまァ見やがれ」
 蹌踉めく狂王に、真昼は中指を立てて見せた。――彼の作戦勝ちである。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニノマエ・アラタ
【珈琲時間】

この状況で珈琲を淹れはじめられるノゾミは、
頭の螺子が一本飛んでいると思うが。
血の匂いを打ち消す珈琲の香り。
これもまた、儀式かね。
……んなこと考える余裕があるってこたぁ、俺もまた…
(コーヒーブレイクを楽しんでいるのかもな。
ノゾミの淹れる珈琲は確かに美味い、とか。口には出さずに)

武器は拳銃。
飛んでくる槍身を弾いたり落としたりして投擲の軌跡を変える。
珈琲を手渡されるまでは、槍を防ぐことに注力する。
淹れたての珈琲を一口飲み、
相変わらず美味いぜ、と指をパチンと鳴らして高速モードに。
今まで対峙してきた狂王の動きから、
槍を投擲し操ることに集中している隙を見て立て続けに急所へ連射を浴びせる。


青霧・ノゾミ
【珈琲時間】

……うん。
まあ、珈琲を一杯いかがでしょう。
ニノマエは珈琲を淹れてる間、槍がかっとんで来ないように
盾になっててくれる?
酸味が少なくて苦味の強い、薫り高いブレンドだよ。
豆はもちろん僕が選んだ。
どんな状況にあっても、常に冷静で落ち着いていること。
大切だよね。
珈琲を淹れていると、何かを思い出せそうなんだけど。
……難しいな。
よし、とっておきの一杯だよ。
ビターチョコも添えておかなきゃね。
やっぱり、僕としては甘い物も必須かな!
(珈琲片手に槍の軌跡を観察)
直線的ではあると思うんだけど、狂った角度からの飛来もありえる。
あ、あっちから槍が飛んで来たね。
危ないなあ。
……珈琲の時間は邪魔しちゃダメだよ。



●違いの分かる男、青霧ノゾミは知っている
 かりこり、かりこり、かりこり……。
 場違いな音と、かぐわしい芳香が立ち上る。
 全く場違い極まりないその音と香りは、青霧・ノゾミ(氷嵐の王子・f19439)が立てるもの。コーヒーミルに流し込んだ自前のブレンドを、ミルの刃が熱を持たないほどにゆっくりと挽き、粉にしていく。
「阿鼻叫喚の騒ぎなのは分かってるけど。うん――まあ、珈琲を一杯いかがでしょう」
「正直、この状況で珈琲を淹れはじめられるノゾミは、頭の螺子が一本飛んでいると思うが」
「大丈夫大丈夫。僕はいつも通り、平常だよ」
「その平常が大分おかしいってんだがな……」
 ノゾミの傍らで無愛想な調子で流し目をくれるのはニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)。それをよそに、ノゾミは挽いた豆をすり切り、フィルターを被せた簡易ドリッパーにポフリと落とした。
「細かい事を気にしていると長生きできないよ。ほら、ニノマエ。コーヒー淹れてる間、槍がかっとんで来ないように盾になっててくれる?」
「とんでもない指示があったもんだ」
 だが的確であった。作業中のノゾミとアラタを見咎めた狂王が、すかさずメンカルの血槍を連射してくる。
 アラタはすかさず飛ぶ槍とノゾミの間に割り込み、銃口を跳ね上げた。強化プラスチック製の、九ミリメートル口径の拳銃。ごくありふれた銃だったが、充分な精度があり、扱いやすい。ありふれているという事は普及しているということだ。 トリガー。破裂音がして銃が跳ねる。反動をいなしながらアラタは軽やかに連射。降り注ぐ血槍を的確に銃弾で撃墜していく。
「酸味が少なくて苦味の強い、薫り高いブレンドだよ。豆ももちろん僕が選んだ」
 それを余所に、アラタの後ろでノゾミは作業を継続。こぽこぽと湯の注がれる音、立ち上る芳醇な香り。アラタの立てる銃声と硝煙の匂いがそれに交わった。なんでも珈琲を淹れるときには珈琲粉を蒸らし、膨らませ、フィルターに湯がかからないように丁寧に、円を描くように湯を注いで、ゆっくりと抽出するのだとか。
「へえ。そいつは楽しみだな。ところで出来るまであとどれくらい掛かるんだ?」
「もうすぐさ。まぁ、落ち着いて、ニノマエ。どんな状況にあっても、常に冷静で落ち着いていることが大切だよ」
「この槍が飛んでくるような状況でなければ、頷いてもよかった言葉なんだがな」
 アラタがワンマガジンを撃ち尽くすまで十秒とない。華麗な射撃による防御を見たか、狂王の意識が完全にノゾミとアラタに向く。先ほどの連射が牽制射撃に思える数の血槍が宙に結実し、切っ先が真っ直ぐにノゾミとアラタを睨む。
「うーん、珈琲を淹れていると、何かを思い出せそうなんだけど……難しいなぁ」
「取り込み中のところ悪いが、あの数はまずいぞ。思い出す前にあの世行きまであり得る」
「心配ないよ。――ほら、とっておきの一杯が仕上がったところさ」
 ふわりと立ち上る、目の覚めるような香りがアラタの鼻腔をくすぐる。ノゾミが淹れるコーヒーは確かに美味い。ブレンド、焙煎、挽き具合からドリップに到るまで、こだわりの詰まった一杯だ。
 血の匂いや、ホテルから風に乗って届く死臭さえも打ち消す、清冽で鮮烈な芳香。言ってみれば、ノゾミのこだわりに基づく行動一つ一つが、きっとこの香りを生み出すための儀式のようなものなのだろう、とアラタは内心、思う。
(んなこと考える余裕があるってこたぁ、俺もまた――コーヒーブレイクを楽しんでいるのかもな)
「はい、ニノマエ。淹れ立てだよ。ビターチョコもあるけど」
 差し出される珈琲。思いを口には出さず、アラタは向き直り、カップを受け取った。
「ありがとよ。……チョコは後にする」
 ノゾミがひらつかせるチョコを辞して、アラタはすぐに前へ向き直る。
「僕的には必須なんだけどなあ」
「飯事をしたくば冥府でするのだな、劣等種共!」
 その様子を見てか、二十メートルあまりの距離を置いて、狂王が咆えた。初手に三倍するほどの血槍の群れを、アラタとノゾミ目掛け解き放った。紅の槍の群れは最早、回避するに能わぬほどの密度。弾き落とさねば、身をねじ込む隙間すらない。
 しかしこともなげに、青霧・ノゾミは指を立て、くるりと一度指先で円を描く。
「危ないなあ。あなたが王様だろうが、神様だろうが――珈琲の時間を邪魔しちゃ駄目だよ」
 その瞬間、戦場全体に流れる時間が鈍磨する。
 狂王の速度が、降り注ぐ血槍の速度が、周りを駆け走る猟兵達の速度が、皆等しく五分の一にまで落ちた。まるで時の流れを鈍らせたかのように。これこそは、ノゾミが扱うユーベルコード、『珈琲の時間』である。彼が給仕する珈琲を楽しまない者の速度を、皆等しく五分の一まで落とすという変わり種のユーベルコードだ。
 ――そう、速度が低下するのは、彼の珈琲を楽しまない者のみ。
「楽しんで貰えたみたいだね」
「……まあな。相変わらず上等だ。――冷めないうちに戻る、持っててくれ」
 美味い、とは口に出さずに、やや迂遠な表現で肯定するアラタの速度は落ちていない。目の覚めるような珈琲を二口、三口啜り、カップを預けたアラタはフィンガースナップを一つ。
 パチンと響く小気味好い音をスイッチに、彼の世界が加速する。主観認識速度の増大、それによる外的事象の遅延。『クロックアップ・スピード』。
 銃口を跳ね上げる。エイミング。トリガー――銃声、――銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声ッ!! 空中で血槍が爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる!
 再装填の継ぎ目さえ判然とせぬほどの銃弾の嵐が、無数の赤槍のうち、アラタとノゾミに当たるものだけを弾き散らし、寄せ付けない。
 ノゾミが敵の時間を鈍化し、アラタが己の時間を加速する。二人のコンビネーションが、その超高速防御を可能とする。……否、そればかりか、アラタは疾駆の姿勢を取り、狂王へ向け接近の構えを取る!
「蒼い槍を繰り出そうとしてるね。あれは、確か伸びて曲がるやつだ。何度か見た。狂った角度から来るよ、気を付けて、ニノマエ」
 ノゾミが珈琲片手に狂王の挙動を観察して告げる。アラタがそれに軽やかに頷いた。
「任せろ。叩き落とす」
 鈍磨した世界の中で、二人だけがいつも通りの時間を進む。珈琲の香りの中で。
 ――アラタが地を蹴った。それは、敵からすれば、クロックアップ・スピードの超高速の、更に五倍速である。常人ならば到底目で追えるようなものではない。
 常人ならざる狂王が、驚愕の表情を浮かべながらもそれに何とか対応して、蒼い槍――ディフダの怨槍の軌道をねじ曲げる。しかし、アラタにしてみれば怨槍の穂先も、今は泥を掻き分けて進むような速度に見えた。自身を狙って曲がる穂先をグリップの底部で叩き弾き飛ばし、同時に三発の銃弾を刃の根底に叩き込んで打ち砕く。
 破壊されたディフダの怨槍が狂王の手元に巻き戻るよりも早く、アラタは前進した。あまりの速度に、最早余人からはその様は色のついた風にしか見えぬ。マガジンを再装填。
 ありふれた拳銃で充分だ。この速度が既に彼の強力な武器。
 目を見開く狂王が苦し紛れに放った血槍を低姿勢で回避、アラタはその横を駆け抜けざまに弾倉内の銃弾を全弾叩き込む。ほぼ同時に叩き込まれた十数発の弾丸が、狂王の土手っ腹、胸、肩、脚に幾つもの穴を穿ち、血を飛沫かせた。
 地より陽炎を上げ、踏みしめた地面を抉りつつ制動するアラタ、痛みに獣めいた苦鳴を上げる狂王。
 ノゾミはその様子を見ながら、空になった自分のカップのつるに指を絡めて、肩を竦めた。
「だから言ったでしょ。コーヒー・ブレイクは、侵しちゃいけない神聖な時間なんだよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子

……、灰色くんが気になることを言っていたけれども。
先ずは、いまを越えられなければ仕方が無い。
後のことは後のあたしが考えましょう。

正面から斬り込むわ。
喰らうあぎとがどこから来るか判らなくても、
いまのあたしを喰らうなら都合が良いわね。
……――思う存分、召し上がれ。

噛みつかれた箇所に呪詛を籠めて、籠めて。
食いちぎられる前に、その首を一閃して切り落としましょう。
回復されるよりも先に斬り果たせば良い。
罪も呪詛も、食べ過ぎるとおなかを壊すわよ。

帰る国もなく、還る民もないと、おまえは気付いていないのかしら。
古今東西、狂った王の末路なんて相場が決まっているでしょうに。

落ちない王の首なんてないでしょう?



●鬼が来たりて
 グリモア猟兵の言ったことが、未だに心の隅に引っかかっている。
 この戦いの後には、こちらの手の内を知悉した敵が現れるのだと。――故に、見せた事のない技にて、その敵に挑まねばならぬのだと。
 しかし、相対した敵とて雑兵ではない。出し惜しめば死ぬのはこちらだ。――いまを越えられなければ、後に嘆く事すら出来ない。
 後の事は後の自分が考える。それでいい。からりとした割り切りを見せれば、最早その足取りに迷いなく。
 傷を癒やし、周囲へメンカルの血槍による全方位攻撃を放って猟兵を寄せ付けまいとする狂王目掛け、少女は逆に突っ込む。その手の内側で、機械剣《クサナギ》が咆声を上げた。鋸刃が耳障りな音を立て回転! 迎撃に放たれた血槍を、斬って斬って斬って斬って斬り払う!! 飛び散るメンカルの血槍の残骸を振り切り、更に加速!
 真っ向、真正面、回り込みも忍びよりもせぬ。無謀とも思えるその突撃をかけた猟兵の名は、花剣・耀子(Tempest・f12822)!
 迅駛の前進より袈裟懸け一閃! クサナギが、狂王が受け太刀に突き出したディフダの怨槍と軋り合う! 鍔迫り合いとはならず両者の武器が弾け合い、そのまま乱打戦にもつれ込む。クサナギと怨槍が一呼吸に五合、けたたましい音を立てて鉄火を散らした。甲高い金属音が楽章のように連なる。
「帰る国もなく、還る民も、おまえを待つ者も、ここには何もないとおまえは気付いていないのかしら」
「どれもこれも同じような文句ばかりを言う。我こそがイネブ・ヘジにして、わが玉座を置いた場所がイネブ・ヘジである。都など、この狭い空の下であろうとすぐに見つかろう」
「……最低ね。そうしてそこに住まう人々を力尽くで統治すると? 王としての矜持すら、骸の海に置き忘れたのかしら」
 事も無げに返す狂王に、耀子は眼鏡の奥の目を眇めた。
 許せるわけがない。耀子はクサナギの回転数を上げる。猛るエンジン音が、殺意に呼応して高まった。
「『斬り果たす』わ」
「やってみせよ、劣等種!」
 更に十合の打ち合い。格闘性能という一点に限ればなるほど、耀子の速度とクサナギのコンビネーションは狂王すら凌駕するやも知れぬ。
 しかし狂王には、数々の秘術がある。ディフダの怨槍で打ち合う最中に宙に結実し、全く予想外のタイミングで耀子へと放たれるメンカルの血槍。単純な一斉射よりもよほどタチが悪く、耀子が反射的にそれを弾けばその間に狂王は攻勢に転じ、機関銃めいた連続突きで耀子を追い詰める。
「ッ――」
「大口を叩いたのだ。この程度で終わりではあるまいな、下女よ!」
 打ち合う最中に怨槍の突きが突如として伸びる。ディフダの怨槍はその切っ先を屈曲・伸長して敵を狙う特殊性能を持つ。一度伸び出せば、敵を捕らえるか切っ先を断つかするまで止まらぬ。
 ぎゃ、ぎゃぎゃぎゃぎゃっ!!! 急激に伸長し心臓を狙うディフダの切っ先を耀子は回避、回避、回避! その隙を狙い放たれる血槍を受け弾く、が、全てを十全に弾けはせぬ!
 蹌踉めくように体勢を崩したその瞬間を見逃さず、今度は狂王が踏み込んだ。その腕が鰐に変じ、首を擡げて顎門を開く……!
「冥府へ墜ちよ」
 勝ち誇った宣言と共に、繰り出された鰐腕が、鋼鉄の牙列をトラバサミめいて閉じ、耀子に食い付いた。
 腕ごと抱き竦めるように食い付いた鰐は、そのまま耀子を噛み砕き、千切るだろう。すぐに骨が砕ける音が響く――
 ――はずだった。
「な……んっ、だ、これは……?!」
 鋼鉄の歯列が風化してボロボロと抜け出す。先ほどまで煌めいていたはずの鰐の歯列が、耀子に食い付いた部分のみ黒く朽ち、崩れるほどに脆化していく。苦痛に噎んで思わず顎を開く鰐に、耀子は、食い込んだ歯牙による刺傷から血をしどどに流しながらも、せせら笑うように言った。
「あら、小食ね。それとも罪は喰らえても呪いは苦手かしら」
 ――それはオロチの呪詛。魔性天剣、アメノハバキリから零れ、彼女に付きまとう呪い。
 傷を負わされた、喰われる、という認識を怨みに変え、それをアンカーとして呪詛を傷口に集束――大鰐の顎を呪いで浸食したのだ!
 痛みと驚愕に蹈鞴を踏む狂王。
 そしてそれは、この羅刹を前に致命的な隙であった。
「――あたし達は執行人。古今東西、狂った王の松路なんて相場が決まっているでしょうに」
 機械剣≪クサナギ≫、吼え、猛る!
「落ちない暴君の首などないでしょう? ――さよならよ」

 ほぼ零距離からの、加速オプション『ヤクモ』の点火。
 唸りを上げて走ったクサナギの刃が、狂王の首を天に飛ばした。

成功 🔵​🔵​🔴​


 
 
 
 狂王は激怒した。
 なぜ、殺せぬ。なぜ、殺される。
 矮小な、取るに足らぬはずの劣等種共が、何故こうもしぶとく――強く、自身を殺す力を以て襲いかかるのか。
 二度目の斬首、爆発するようにその姿は散り、黒い霧となって散華。
 距離を置き、再びヒトの形を取って固まる。
 狂王は、息を荒げながら懐に秘した一つの仮面に触れた。
 ……しかし全く以て業腹だ。己の力のみでは駆逐できぬと認めるのは。
 仮面に触れた指先を引き、狂王は、残る矜恃を込めるように、右手にディフダの怨槍を招来。
 今一度、構えを改める。
 
 
 
 
有栖川・夏介

私達の敵だというのなら、相手が王だろうと強敵だろうと関係ありません。
―ただ、その首をはねるのみ。
処刑人の剣を構えて【覚悟】を決めます。
「……さよならの時間です」

敵の攻撃は見切りで回避。間に合わないようであれば武器で弾き落とし、敵との距離を詰めていく
焦らず、着実に。一歩一歩を踏みしめて。
間合いに入ったら、急所を狙って処刑人の剣を思い切りふりおろす。
一撃を当てたら敵から距離をとりつつ【姿なき猫が笑う】で追撃。命中力を重視して確実に。

これはまだ前哨戦…。相手が強敵だろうと、ここで退くわけにはいかない。



●やさしい王のころしかた
 構えを改める王の前に、滑るように踏み出す青年が一人。
 薄緑の髪、透けるように白い肌。そして鮮血をそのまま固めたような鮮やかな紅い瞳の男であった。
「――嗚呼」
 王だろうと。
 いや――敵だというのなら、神であろうと。
 いかなる強敵であろうと、何の関係もない。
 骸の海より湧いて出て、ヒトを脅かす過去の残骸など――ただ、その首を刎ねてやればいい。
 そう信じて、有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)は切っ先のない特殊な形状の剣を抜く。俗にエクスキューショナーズ・ソード――処刑人の剣と呼ばれる種の刀剣だ。ただ、咎人の首を刎ねるためにのみ存在する剣。突く必要すら無い故に、切っ先は丸められている。
「一度首を飛ばしても死なぬなら、死ぬまで刎ねるのみ――さよならの時間です、狂王」
「劣等種風情が、よくも思い上がりを口にする……!! 食い千切ってくれる、そこを動くな!!」
 狂王はメンカルの血槍を空中に連続生成、連射しながら夏介目掛けて踏み込む。その右腕が、瞬時に巨大な鰐の顎門を形作った。『アーマーンの大顎』である。
 夏介は放たれる血槍の軌道を見通し、二手先、三手先を盤上遊戯めいて見透かしながら、その嵐のごとき連射を掻い潜った。回避が間に合わぬものがあれば処刑人の剣を翻して弾き散らし、飛び退く。そうしながらも夏介は追いすがる狂王を観察し、その動きの癖を見通す。
 幼い頃より――何度も、何かを殺してきた。その死をじっと見つめてきた。
 夏介は幼き日、初めて白いウサギを殺してから、死を、或いはそこに至る過程を観察してきた。そして今日、この狂王の終わりをも、また看取ろうとしている。
「食いちぎれ、冥府の顎門よ! こやつを呑み込めば、貴様の飢えも多少は紛れよう……!」
 涎を散らし、地面と水平に開いた鰐の大顎が、撥条仕掛けのネズミ取りめいて夏介を襲った。
 首から上を食いちぎるように放たれた咬撃を夏介は最低限、頭ひとつ分屈んで回避。頭上でざきん! と鋼の牙がかみ合う音を聞きつつも、夏介の表情は動かない。
「おのれっ!!」
 鰐と化した腕は鋼鉄の鱗と圧倒的な質量を持つ。咬撃のみならず、その質量を生かした打撃も脅威だ。咬撃が空ぶるなり鰐腕はそのまま振り下ろしの一撃にシームレスに連携するが、夏介はそれすら見抜いていたように処刑人の剣の腹で鰐腕を受け、角度をつけてぎゃりいっ、と受け流す!
「っむ……!」
 受け流された鰐顎の鼻先が地面にめり込み土石を跳ね上げる。奇しくもその角度は、処刑台に額を押しつけられ、項を晒す咎人めいていた。
「刑を、執行します」
 既視感を覚えながら、夏介は当たり前のように踏み込んだ。
 彼は処刑人。切っ先のない剣を携えた首切り役人。首を刎ねることに関しては、自信があった。
 振りかぶった処刑人の剣の切っ先が走り、アーマーンの大顎の根元、狂王のヒトの部分と、鰐の鱗を帯び始める膚の境目に走った。――相手が鰐だろうと、ヒトだろうとも変わらない。
 関節を見極め、その隙間へ、十分な剣速で、刃筋を立て、躊躇わず、真っ直ぐに。
 夏介は実現しうる最高の速度で刃を走らせ――斬ッ!!
 鰐の首が飛んだ。ここまで、何らかの手法で破壊されようとも、狂王と泣き別れになることだけはなかった冥府の顎門が。今、分かたれて、重い音を立てて地に落ちる
「ッグ、うあああアアアッ!?」
 半ばより失われた右腕を押さえながら蹌踉めく狂王目掛け、夏介は飛び退きながら腕を一閃。極めてロービジブルな保護色の投げナイフが連続して宙を裂き、ど、ど、どどっと重い音を立てて狂王に突き刺さる!!
「うぐ、うううゥ……ッ!」
「残念ですが――これ以上にかかずらっている時間は無い。此処で終わりにしましょう」
 しゃりん――
 夏介が右手を打ち振れば、更に四本のナイフが扇めいて彼の手の内に現れる。
 ――前哨戦も、終わりが近い。今更、退く選択肢はない。
 夏介には、漠然とした予感があった。もうすぐ事態が動くという予感が。

成功 🔵​🔵​🔴​

セリオス・アリス

【双星】

罪深き魂を喰らう鰐…だったっけか?
俺はともかく、アレスは食われなさそうだよなぁ
…何でもねーよ
それよか、いくら食われなさそうだからってまたお前を噛ませんのはなしだからな!
自分を棚に上げ念押し
ハッ…頼もしい過ぎる宣言だ!
言葉と共に一歩踏み込み『歌』で身体強化して『先制攻撃』
炎の『属性』を纏わせた剣で斬りつける

…っと!アレス助かった
庇われたらいったん交代だ
その間に【暁星の盟約】
陣から受け取った力と魔力を攻撃力に変えて
アレスの呼ぶ声に応える様に『2回攻撃』
敬ってやる気はさらさらねぇが
てめぇも邪神だもんなぁ?
ちゃんと『全力』の炎で送ってやるよ

治療する隙もねえくらい
一気に畳みかけてやろうぜアレス


アレクシス・ミラ

【双星】

…「俺はともかく」?
セリオス。それは、どういう意味だい
なんて聞いても、君ははぐらかすだろうけど
…君の言う通り、無茶はしないようにするさ
ーーだけど、
セリオス。君は僕が守る(…喰わせはしない)

先行するセリオスを光で援護する
顎が現れたら彼の前に出て庇い、盾で防ぐ
此処に貴様に喰わせる魂など、無い!
押し返すように盾で殴りつける

セリオス、ここは僕に任せてくれないか
彼と引きつけ役を交代
【天聖光陣】を展開させ
光属性の二回攻撃で敵の注意を引く
鰐の顎はギリギリまで引きつけ…見切る
…この陣は、僕達の「領域」だ
顎を下から穿つように光の柱を放つ
ーーセリオス!!

ああ、一気に行こう!
僕の光を、君の炎と合わせる!



●双つ星、盤石なりて
「罪深き魂を喰らう鰐……だったっけか。ご大層な肩書きだぜ。俺はともかく、アレスは喰われなさそうだよなぁ」
 戦場へと馳せ駆けながら、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)が呟く。狂王が己の手足を変じて作り出す冥府の顎門、『アーマーンの大顎』を揶揄しての事であろう。併走するアレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)がそれを聞き咎めたように眉を下げる。
「……『俺はともかく』? セリオス。それは、どういう意味だい?」
「何でもねーよ。それよか、いくら食われなさそうだからってまたお前を噛ませんのはナシだからな! 勝手に囮になって勝手に怪我したら承知しねーぞ!」
 冗談めかしてはぐらかすセリオスの声に、アレクシスは二秒余りの沈黙。きっと問い詰めても、これ以上の言葉が返って来はしないだろうと分かっていた。故に、アレクシスは一つ頷くに留めた。
「……君の言うとおり、無茶はしないようにするさ。――だけど」
 彼が言えない事を言わないように、自分だって譲れないところは決して譲らないつもりだ。アレクシスは目を合わせ、はっきりと宣言する。
「セリオス、君は僕が守る。罪を喰らう大顎が開こうが、間に剣を突き立てて止めてやる。君を喰わせはしない」
 力強い宣言に、セリオスは二度目を瞬いてからにっこりと笑い、喜色滲ませて応じる。
「ハッ、頼もしすぎる宣言だ! 言われなくたって俺の背中はいつだってお前に預けてる。今日も頼むぜ、アレス!」
「任せてくれ。……征こう!」
 駆け行く先、狂王が二人を認識して振り返る。その表情は苛立ちと怒りに彩られ、当初のような冷徹かつ厳かな印象は既に消し飛んでいる。――代わりに震え上がるような威圧と、身が竦むような重い怒気がそこにあった。
「またも邪魔立てをしに来るか、払えど払えど集る蛆虫共……!」
「蛆虫呼ばわりは気に入らねぇが、てめぇを人里に通すわけにはいかねぇんでな。何人だって湧くぜ――てめぇを骸の海に叩き返すまでな!!」
 セリオスは咆えるなり長剣『青星』を抜剣。アレクシスに先んじて加速した。蒸気魔導ブーツ『エールスーリエ』による烈風歩法。風の魔力が足下で爆ぜ、その反作用にてセリオスの身体は爆発的に加速する! 瞬く間に距離を詰めると、青星の刀身に炎を纏わせて斬撃を叩き込む!
「余の路を塞ぎ、剰え害成すなどとは、不敬を通り越した愚昧よ。貴様の罪は冥府にても濯げぬ! 未来永劫、死者の国への路を彷徨うがいい!」
 対する狂王は蒼き槍――ディフダの怨槍を振り回し、凄まじい速力で撃ち込みに掛かるセリオスの斬撃を真正面から迎撃。一瞬で五合の打ち合いが起き、炎爆ぜ散り火花舞う。純粋な槍技も凄まじい上に、セリオスの機動力を封じるように周囲からメンカルの血槍が降り注ぐ。
「チッ、手数が多いなっ……!」
 飛び退きながら、舌打ち交じりに青星を振るい血槍を打ち払うセリオス目掛け、狂王はディフダの怨槍を繰り出す。ディフダの怨槍はその名の通り、人に付いて回る怨恨の如く、どこまでも伸びて敵を追尾し、心臓を貫く呪いの槍。血槍を捌く最中のセリオスを貫かんと蒼閃が放たれる!
「やらせるかっ……!!」
 しかし後方より暁星の声あり。地に浮かび上がった光陣より、輝ける光柱が幾つも突き上がり、ディフダの怨槍の切っ先を――更には追撃に繰り出された十数発ものメンカルの血槍をも呑み込む! ユーベルコード『天聖光陣』。放ったのは当然アレクシスだ!
「アレス……! 悪い、助かったッ」
「セリオス!! 前を! まだ終わっていない!」
 アレクシスの警句が響くなり、地より吹き上げた光柱を突っ切り、狂王が攻め寄せる。槍が防がれるのまでは織り込み済みと言わんばかりのスピードだ。
 メンカルの血槍さえ消し飛ばす天聖光陣の威力を何を以てして突っ切ったのか。――その答えが、鋼鉄の鱗に覆われたその右腕である。冥府の顎門、鋼鉄の巨鰐。罪を喰らう牙列の主、『アーマーンの大顎』! 鰐顎の形を取り膨れ上がったその右腕を盾に、アレクシスの術中を駆け抜けたのだ!
「ッ!」
 反射的に防御姿勢を取るセリオス。回避は間に合わぬ! 大顎が開き、勝ち誇ったかのような狂王の声!
「罪深き魂を喰い千切れ、冥府の顎門よ!」
「させるか――!!」
 セリオスの後ろでどうっ、と光の滴が散る。セリオスが風の魔力を爆ぜさせ高速移動するように、アレクシスが光の魔力にてそれを模倣したのだ。セリオスの横を駆け抜け、『早天の盾』を最大サイズに拡大!
「むうっ?!」
「此処に貴様に喰わせる魂など、無いッ!! ……はあああっ!!」
 王の驚きの声も無視してのシールド・バッシュ! 助走と踏み込みの圧を全て盾に載せ、開いた顎の上から叩き込む! 鰐の牙列がいくらか折れて飛び、狂王が蹈鞴を踏む。
「セリオス! 前は僕に任せてくれ!」
 アレクシスの足下に天聖光陣の光が広がる。それを見た瞬間、セリオスは一も二もなく頷いた。
「……! 分かった!」
 指示に従い、跳び下がる。唸りながら反撃してくる狂王の攻撃を赤星と大楯の二段構えにて迎撃、火花を散らすアレクシス。
 アレクシスの判断は素早く、そして妥当だ。敵は速さに対しては多数の物量にて応じてくる。加えて、ディフダの怨槍の追尾力、更には不意を打っての鰐の大顎での攻撃と、手札が多い。素早さの反面防御力は心許ないセリオスよりも、盤石な防御力を持つアレクシスが前線を支えるのが妥当だ。
 ならば、その時セリオスはどうするべきか。
 ――かつては守られることに戸惑い、足を止めることがあった。アレクシスが守ると言ってくれるのを、ただ甘受することに負い目を覚える――なんてこともあった。今は違う。
 分かっている。アレクシスがセリオスを守ろうとするように――

 それに、自分に出来ることで報いればいいのだ。

「求むるは今。拓くは明日。 闇夜に最果てが迫る時、青き星はその空に暁を見た」
 歌う。セリオスは、声も高らかに歌う。
 それは、払暁の騎士を、いと輝ける彼の――セリオスにとっての一等星を歌う詩。
「――暁を知る星よ! 深奥に眠る光を我が手に! ――星に届く力を我が手に!!」
 ――『暁星の盟約』!
 アレクシスが地に展開した天聖光陣の光を浴び、セリオスの身体に圧倒的な魔力が満ちる。絹糸のような彼の髪が、溢れ出る魔力の奔流に嬲られ、妖しくざわめくように揺れる!
「はああっ!!」
 アレクシスが踏み込み、大口を開けた鰐の口を盾で殴り飛ばしつつ、光を湛えた長剣を振るう。
「児戯なり!」
 しかし王が携えるのはリーチに勝る長槍! 長剣を飛び退き避けながらの突きが唸る。ましてやその槍は、怨槍ディフダ! 対象の心臓を射貫くまで屈曲・伸張する魔性の槍……!
 アレクシスが防ぎ方に一瞬逡巡した刹那、その後ろより黒歌鳥が跳んだ。
 紅蓮の炎宿す剣、青星が、蒼き魔槍の切っ先を斬り飛ばす!
「むうっ……?!」
「敬ってやる気はさらさらねぇがよ、てめぇも邪『神』だもんなぁ? やってやるぜ、神殺し――俺様の『全力』の炎、喰らってみやがれ!!」
「ほざいているがいいッ、劣等種ごときが!! すぐに冥府へ落としてやる……だがその前に、先ずは貴様からだ! 盾の騎士よ!」
 突如速度の向上したセリオスとの対峙を一端避け、与しやすしと見たアレクシス目掛け、更に巨大化させた鰐腕にて、狂王が襲いかかる。――しかし!
「……的を大きくしたのは失策だったな、狂王。この陣は――既に、僕達の『領域』だ!」
 アレクシスは全力で、赤星を地に突き立てた。極限まで集束した光柱が、たった一条、不意打ちめいて真下より大鰐の顎を貫くように放たれる。――最初こそ鋼の鱗に防がれた光柱だが、一点にエネルギーを集中すれば――
「ぐ、……おっ――?!」
 貫くこととて、不可能ではない! 下顎から上顎へ光突き抜け、痛みに悶え狂う鰐腕。のたうつ動きに振り回されて身を揺らす王へ、双つ星は鏡写しに剣を構える!

「治療する隙もねえくらい、一気に畳みかけてやろうぜ! アレス!」
「ああ、一気に行こう! ――僕の光を、君の炎と合わせる!」

 夜空の藍の眼と、快晴の蒼穹の目が重なる。相互確認は一瞬。
 セリオスとアレクシスは、全く同時に踏み出し――

「「燃え、尽きろォォォッ!!」」

 アレクシスの白光の剣が、セリオスの紅蓮の剣が、重なり合って白焔を成した。
 Xの字を描く剣閃が、全く同時に狂王の身体を十字に深々と裂く。声なき声を上げ、王が燃える、燃える、燃える。垂れ流す不浄の血さえも、燃えていく……!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『傍観者達』

POW   :    静観
【自身から溢れ出続ける赤い液体】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
SPD   :    観戦
【自身の身体の一部】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【自身は弱体化。対象の装備武器を殺戮捕食態】に変化させ、殺傷力を増す。
WIZ   :    観賞
【対象の精神に「生きる力」を削ぎ落とす衝動】【を放ち、耐えきった、或いは回避した者に】【強制的に自身の力の一部】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。

イラスト:猫背

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●死人の軍勢
「ぐ、ぬうううっ……! 何たる……何たる事か!」
 燃える身体を、しゅうしゅうと音を立てて復元。液化した血槍で火を消添うと試みつつ、狂王は飛び退く。
 さしもの狂王と言えど、その霊核には罅が入りつつあった、歴戦の猟兵らならば見て取れたはずだ。もう少し――あと一押しでこの王を、骸の海に叩き返す事が出来ると。
 通常のオブリビオンであれば既に幾度となく撃滅されているであろうダメージを負っているのだ。それも当然だろう。
 しかし、狂王は未だその目に宿した憎悪と悪意の炎を消そうとはしていなかった。狂っているとは言え、ここまで損傷を与えられ、さりとて自分は一人の猟兵すら屠る事ままならなかったとなれば、最早認めるしかない。精強なるこの猟兵らを倒すためには、己の力だけでは不足であるのだと。
「業腹よな……余に、ここでこれを使わせるか……!」
 狂王は、一枚の仮面を取り出した。蒼い装飾面――禍々しい空気を纏う、明らかにUDCオブジェクトと思しき仮面である。
 地面を蹴る。狂王の身体が、まるで導かれたように宙に浮いた。口の中で不気味な響きの詠唱を転がすと、仮面のアイホールが禍々しく光る。
「我が呼び声に応えよ、『吐き出すもの』、『試すもの』、『大禍の叡智』、『黄昏の試練』。我は『治めるもの』、『裁くもの』、『栄華の賢王』、『財貨の中心』。汝を収蔵せしイネブ・ヘジの王なり」
 詠唱が連なる。
 ――UDCオブジェクトから発される邪気は強大。そして、それをさらに、狂王が何かに使おうとしている。その危険性は指数関数的に増大すると見ていい!
 邪悪なる詠唱に危機感を覚えた猟兵が銃撃を仕掛けるが、銃弾はまるで、不可視の障壁に阻まれたかのように宙に散る。うるさそうに、狂王は虫を避けるように手を振った。
「大人しくそこで見ていろ、下郎共。急がずとも、この面を出したからには何れ全員、必ず殺してくれる故。――今暫く、貴様らの相手は廃物共に任せよう」
 嘯く狂王の声と共に、猟兵らの耳に地を打つ多数の足音が届いた。廃ホテルの方向。目を向ければ――そこには、悪辣なる光景が広がっている。

 ――廃ホテルから、葬列が来る。

 人の身体を保って緩慢に歩いていたはずの死体達が、ごき、ごき、と音を立て、人外の容貌へ変形し、駆け来る。漆黒の肌に、顔の削れた無貌の怪物共が、声なき声を上げ、森を埋め尽くすほどの多勢で押し寄せるのだ。
 ……この怪物ら一体とても、人里に通す事、罷り成らぬ!
 猟兵達は互いに目を合わせ頷くと、死者の軍勢に向け武器を構え直す!



≫≫≫≫≫MISSION UPDATED.≪≪≪≪≪
【Summary】
◆作戦達成目標
『傍観者達』の撃破


◆敵対象
『傍観者達』多数


◆敵詳細
 邪悪なる、青ざめた仮面の力により変成した死体。
 廃ホテルで儀式に使われた人間達の成れの果て。戦闘能力はさして高くないが支援性能に優れ、複数体が一体を支援した場合、その戦闘能力は決して油断ならないものとなる。
 貌は削り取られ残っていない。
 なのに君達を見ている。
 見ている。


◆戦場詳細
 イネブ・ヘジの狂える王が呼び出された山間の廃ホテル周辺。
 引き続き、立体的な機動を行えるだけの立木は残り、足場も悪くない。特に注意すべきことはなく、己の能力を活かして戦う事が可能だろう。


◆プレイング受付開始日時
 2019/10/03 08:30:00


◆プレイング受付終了日時
 2019/10/06 13:59:59
セリオス・アリス

【双星】

チッ…逃げやがったか!
厄介な土産だけ残してくれやがって
アレス、まだ行けるな?
挑発的に笑ってアレスを見る
そんじゃとっとと片付けて止めをさしにいこうぜ!

歌で身体強化して
ダッシュで敵の前に躍り出る
1回、2回と連続で
つっていちいち斬っていったんじゃラチがあかねえな
後ろに跳んで距離をとり
力を溜める
積極的に攻めにいくアレスを見てテンションが上がり
こんな時でも口元が緩む

ざっくりと片付けるから
あと頼んだぜアレス
…なんざ、言わなくてもか
【蒼ノ星鳥】
練った闘気をぶつけて燃やすのは、目の前の敵
ただそれだけ

血で回復すんなら血の一滴だって残さず燃やしてやる
これ以上利用される事の無いように
これがせめてもの情けだ


アレクシス・ミラ

【双星】

あの王はまだ何かをするつもりのようだね
勿論、行けるよ。セリオス
王までの路を切り拓こう!

先ずはセリオスの援護を
衝撃波を放ち存在を示した後
剣を振るい、光属性の範囲攻撃で敵の意識を誘き寄せよう
キリがないが…僕は一人ではない
先ほどコツを掴んだんでね
彼が力を溜める間…少しばかり、攻めさせてもらおう!
模倣したダッシュで接近、二回攻撃で切りつけ
赤い液体流れる顔面目掛けて盾で殴りつける
彼が攻撃を放つ瞬間に後退
…任せて。逃しはしない
フォローするように僕も【天流乱星】を放つ

何故彼らが王を呼び出したか、知る術はないか…
…悪いが、君達が王を守るように、僕達もこの先の人々を守る
その為にも…退く訳には行かない!



●光焔剣、二重奏
「チッ……野郎、厄介な土産を残して引っ込みやがったな。今すぐ追いかけてブチのめしてーとこだが……」
 宙に留まり、歪んだ空間――魔術障壁に囲まれた狂王と蒼面に視線を走らせ、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は唸るように呟く。彼とて、あの残虐たる狂王を捨て置くつもりなど毛頭ない。しかし、当面対処すべき問題は別にある。
 廃ホテルから駆け来る、邪法の犠牲となった人間達の末路。成れの果て――『傍観者』達。
「あの王はまだ何かをするつもりのようだね。……でも、優先順位が変わったみたいだ。君も分かっていると思うけど」
 セリオスの傍らで己が盾と剣の状況を確認するのはアレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)。青星と赤星。二人は長く共に生きた、無二の親友同士である。その会話は流れるようだ。
「ああ。分かってる。ヤツらの対処が先だ。アレス、まだ行けるな?」
 挑発的に笑みを湛え、細めた目で問いかけるセリオスに、アレクシスもまた自信たっぷりの笑みで応える。盾にも剣にも、瑕疵はない。
「ああ、勿論行けるよ。セリオス。彼らを弔い――王までの路を切り拓こう!」
「おう! そんじゃァとっとと片付けて――あのクソ野郎に止めを刺しに行こうぜ!」
 セリオスの声を皮切りに、二名は侵攻してくる傍観者達目掛けて駆け出した。
 傍観者達。生贄に捧げられたものども。
 彼らが何故狂王を呼び出したのか。或いは、彼らは捧げられただけだったかも知れない。はたまた、あの死人達の中に、王の召喚を画策した狂信者がいたのやも知れぬ。その理由、動機、思想を知ることは最早叶わぬ。
 ――確かなのは、二つだけ。
 ひとつ、今、セリオスとアレクシスが彼らを阻まねば、彼らは生ける人々を侵すだろうということ。
 ふたつ、彼らを倒さねば、王へは至れぬということ!
「こっから先は通行止めだぜ!」
「悪いが、君達が王を守るように、僕達もこの先の人々を守る。――その為にも、退く訳には行かない!」
 跳ね駆け、敵へ襲いかかるセリオスの後ろでアレクシスは足を止め、長剣『赤星』を力の限り掲げる。察したセリオスが樹上に飛び避けた瞬間、アレクシスは大上段より渾身の力を込めて剣を振り下ろした。
 剣の切っ先から光の衝撃波が迸り、敵の群れを正面より迎撃。左右に飛び避ける傍観者らへ、すかさず横薙ぎの衝撃波を発し、回避が間に合わぬ数体を撃滅する。
 ヒュウッ、と口笛を吹きながら、セリオスは鼓舞の歌にて自らの身体能力を増幅。歌詞を舌で弾ませながら、地を蹴り敵の群れへと突っ込む!
 アレクシスの衝撃波に気を取られた傍観者らの間を、セリオスが荒れる夜風めいて吹き抜けた。青星の切っ先が翻り、傍観者の身体を次々と抉り、斬り裂き、腕を、脚を、首を、刎ね飛ばす!
「……つーて、こんなんいちいち斬ってたんじゃラチがあかねぇな! アレス! デカいので一気に行くぜ!」
「ああ、分かった!」
 たった一往復のやりとりには、様々な情報が詰まっている。
 アレクシスが反応して爆発的に前進。セリオスはそのまま群れを抜けるように駆け抜け、樹上に跳躍して着地、より高らかに歌い上げ、魔力を練る。
 声に反応してそちらを向く傍観者達を、
「こっちを見ろ。彼の歌が気になるのは分かるが――僕の剣を、見ずに避けられると思わないことだ!」
 セリオスが扱う、足下で魔力を爆ぜさせ加速する歩法を模倣し、翻る赤星にて敵の首を刎ね、返す刀で次の敵を胴薙ぎ一閃、天地両断!
 セリオスの剣が天に舞う飛燕の翼ならば、アレクシスの剣は獰猛なる狼牙だ。魔力による助走速度と膂力が重なり、凄まじい威力での打ち込みを実現している。
 汚液を無貌より垂れ流し、反撃に転じようとする傍観者の顔面を盾で殴り飛ばし、背後に迫った敵を、後ろ足を跳ね上げ蹴り飛ばす。
「はぁッ!」
 蹴りのインパクトの刹那、光の魔力を爆ぜさせて敵の身体を粉砕! 反動で宙に跳ね、宙返り一転、振り下ろす赤星で落下先の一体を唐竹割りに斬り裂く!
「アレス! 跳べ!!」
 戦の喧噪を裂いて友の声が響く。アレクシスは何の確認もせず――セリオスの声を信じて、空高くへと跳躍した。立木の高さすら超えて、中空より下を見下ろせば、青星を掲げて不敵な笑みを口元に讃えるセリオスが、今まさに枝を蹴り、樹上より強襲するところであった。
「ざっくり片付ける! あとは頼んだぜ!」
「ああ――任せておいて!」
 セリオスの笑みが、深まったように見えた。
「汝、灼き尽くす蒼焔の星! 路に迷える亡者を導けッ――!!!」
 セリオスは蒼き巨星となった。
 練り上げた根源の魔力は、蒼焔の闘気へと変換され、彼の剣へ宿る。
 有らん限りの裂帛の気合。渾身の一閃から放たれるのは、『蒼ノ星鳥』。剣より迸った闘気が巨大な不死鳥を形取り、セリオス目掛け跳ぼうとしていた傍観者達に襲いかかる。――圧倒的だ。蒼焔は一瞬にして直撃範囲の傍観者達を舐め尽くし、焼き砕く! 一瞬で二十数体が焼失、さらに余波で十数体が炎上! 浮き足立つ傍観者達を尻目にセリオスは着地。
 撃ち漏らしがセリオス目掛け殺到せんとするが――
         とも
「逃がしはしない。朋友に応えろ、光よ!!」
 アレクシスの声が上から降る。天より落ち来るアレクシスの長剣、赤星に、暁星めいた光が宿る! アレクシスは落下の勢いもそのままに地に剣を深く突き立てる。
 ――刹那、地より間欠泉のごとく光の剣が吹き出す! 或いはそれは光そのものと言ってもよかった。地より突きだした無数の光条が、蒼きセリオスの炎を逃れた傍観者達を、余すことなく貫き、討ち滅ぼしていく!
 焼かれ、貫かれ、次々とただの汚泥に還元されて飛び散り、地に染みていく亡者達。
 こうして形も残らず滅却したのならば、きっと――
「――これ以上、利用されることは無いだろうよ」
 セリオスは、散り果てた傍観者達を悼むようにただ一言呟いた。それが、彼に出来る唯一のことだった。
 相棒の神妙な面持ちに、歩み寄ったアレクシスはその肩を叩いた。勇気づけるように、或いは、『それでいいのだ』と肯定するように。
「行こう、セリオス。次が来る。これが救いになるとは思っていないけれど……彼らも、解放してやらないと」
「……ああ。分かってる」
 セリオスは、前を向き直った。
 廃ホテルより駆け来る。数は第一波より増し、勢いは尽きることがない。
 しかし、双星共にあらば恐るるに足らず!
 セリオスとアレクシスは、今一度、己が武器を構えて敵の群れへと突撃する!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰炭・炎火
殲滅ならあーしの出番! 任せて任せて! やらせてやらせて!
えーっと、ニャメを使うのはちょっと怖いから……
うん、これでええね!

適当な大木を引っこ抜いて、振り回します!
なんか回復とか、パワーアップとかするの?
厄介やね……これは、形がなくなるまでぶっ飛ばして、ぶっ潰せばいーんやね!

最近暴れてなかったから、思いっきりやるよー!
えいっ!(ぶんっ)
とうっ!(ぐしゃっ)
そいやぁ!(めきっ)

あ、木折れちゃった……じゃあ次の!(引っこ抜く。大木を装備する)

見てるだけなんてそんな切ないこと言わないで。
あーしと一緒に、あーそぼっ!



●オーヴァーキル・フェアリーガール
「おーまたせおまたせー! 殲滅な~ら~、あーしの出番っ!! 任せて任せて! やらせてやらせてー!!」
 宙に浮いた小さな妖精が、その体躯にとっても不似合いなことを口にした。嫌な予感がした結社の皆さん、正解です。
 超常異能力者戦団『結社』、その長針のⅡ。刻器“ニャメの重斧”に選ばれし者。その妖精の名は灰炭・炎火(“Ⅱの闘争”・f16481)。
「えーっと、ニャメを使うのはちょっと怖いからぁ……うん、」
 ズゴッ、と音。突如として、成人男性の胴回り四人分ぐらいの樹が抜けて宙に吊り上がった。圧倒的な質量が、クレーンめいて吊り上げられたその異様に気圧されぬ者などいまい。既に死したる亡者、『傍観者』らとて、その足を一瞬止めたほどだ。既に表情も命もないバケモノ達にさえ、その光景はただただ威圧的で圧倒的であった。
 ヴォンッ。ヴォヴッ。――ドォウッ!!
 二度素振り、その後地面に無造作に大樹の根を衝いた音。
「うん、具合良いし、これでええね!」
 戦闘方法を見せれば学習される――その前情報から、炎火は常ならば躊躇わず振り回し敵を壊走させるニャメの重斧を使用せず、――その場にあった適当な大木を引っこ抜き、それを武器に戦うことを選んだのである。それは最早ユーベルコードと言うより『ただの暴力』であったが、細かいことは良い。

 つまり最終的に全員、殺せばよいのだ!

「なんか回復とかパワーアップとかするらしいやん? 厄介やね。そういうときは形がなくなるまでぶっ飛ばして、ぶっ潰すに限るやんねー!」
 アダムルスがいたら頭を抱えそうな言だが、ある種の真実である。死人は実際喋らない。古事記にそう書いてあったかは知らないが。
「最近暴れてなかったから思いっきりやるよー! せーのっ、えぇいっ!!」
 炎火の掛け声一つ。声を追って十五メートルほどの大樹が空気を引き裂き、山間を薙ぎ払った。
 余りのことに足を止めていた傍観者達の前衛が消し飛んだ。黒いミンチになってびしゃりと飛び散り、地に染みる。たったの一撃。たったの一撃で、七体ほどが撃滅された。単純な怪力による単純な攻撃。だがそれ故に、それを上回る力でなければまともに止められない絶殺の打撃。
 素早ければ、掻い潜れたろう。技があれば、或いは粗を縫って反撃に転じられたかも知れない。だが、
「とうっ!」
 そのいずれをも、怪物達は持ち合わせなかった。
 振り下ろしの一撃。ハエ叩きめいて叩き付けられた一撃が地面を抉り散らす。下敷きになった十体ばかりが滅殺される。もはや、回復などという次元ではない。当たれば四散、以上も以下もなし。
「そいやぁーっ!!」
 再びの薙ぎ払い。残った数体が吹っ飛ぶ。同時に大木がへし折れる。
「あ、折れちゃった……じゃあ次の!」
 引っこ抜く。(ほのか L41 E:ただの大木)
 まるで冗談か何かのような光景に、周囲の猟兵さえ唖然とする中、炎火は魅力的な瞳を瞬かせてウィンク一つ。廃ホテルからまたぞろ駆け来る敵集団に向け飛びながら、とびきり可愛らしく笑ってみせた。
「見てるだけなんてそんな切ないこと言わないで。――あーしと一緒に、あーそーぼっ!」
 ……絶殺必至の死亡遊戯への、それが可憐なる呼び声であった。
 今一度の轟音が響く。武器となる大木が尽きるか、倒す対象がいなくなるまで、灰炭・炎火は止まらない! だって今日ブレーキ役も不在だし!

成功 🔵​🔵​🔴​

龍之・彌冶久
いやはや、遅れた遅れた。
まぁ何、爺の歩みだ。
多少の遅さは許してくれよな、呵々。

――しかしふむ、さて。
変わった面構えの者共だなあ?
数も多いと来たものだ。
まぁ何、斬れと言うなら斬り伏せるまで。

では餞だ。
最期くらい綺麗な物を観て逝け、人だった者らよ。

"九頭龍・春宵一刻"。
司る十つの龍脈、うち時の脈――"刻脈"を天・地・陽・陰・焔・濔・颯・霆・魄の九脈に織り交ぜて、九つの脈の刀を紡ぎ賜る。(属性攻撃:上記九属性)

九刃九閃、春宵の一刻よりなお鮮やかに。
お前さん方が武器を形作るより疾く斬り伏せる。

――いや、しかし。酷い王もいたものだ。
ひとつ灸を据えにいってやらねばなゆまいなぁ。



 ケンランゴウカ
●剣 乱 轟 神、九頭竜推参
「いやはや、遅れた遅れた。まぁ何、爺の歩みだ。多少の遅さは許してくれよな」
 雲霞の如く敵が押し寄せるこの段となって、前線に参じた青年の姿があった。整った面差しで呵々と笑う長身の男だ。爺と自称するものの、一見して年の頃は二〇前後にしか見えぬ。しかし泰然自若とした物腰と、何処か浮世離れした達観した眼が、どこかその物言いに説得力を持たせている――いかにも不可思議な白髪の青年である。
 名を、龍之・彌冶久(斬刃・f17363)。長き時を生き、いつしか眠って、現世に目を開いた"截断者"である。そのルーツを知るものも、今となっては本人以外に無い。
「――しかしふむ、さて。また如何にも変わった面構えの者共だなあ?」
 こりこりとこめかみを掻きながら、彌冶久は目を細めた。突撃してくるのは奇妙に伸びた四肢と、歪な関節、黒い膚と腐血を垂れ流す無貌という、人のまがい物めいた姿の怪物――『傍観者』達である。
 一体一体は人と変わらぬ体積・重量であるが、それが五〇からなる一団を組み走れば、まるで地が揺れているような錯覚さえ覚える。
「しかも数も多いと来たものだ。老骨には堪える仕事よの」
 おおぉぉぉぉぉ、うううぅうぅぅぅ……!
 泰然と顎を撫でる彌冶久の声を呑み込むように響くは、生きとし生けるもの全てを呪うような鯨波の声。目の前の猟兵、彌冶久を飲み込み潰してしまおうと、傍観者達は呻き声と共に迫る!
 間近に駆け寄せる敵の速力並々ならず、彌冶久を呑み込み踏み潰さんとする鯨波の勢いは圧倒的。そのまま、祭衣の背中が黒き軍勢の中に掻き消えてしまうかに思われたまさにその時――
「――まぁ、何。斬れと言うなら斬り伏せるまで」
 彌冶久は酷く平坦に、事実を確認するような語調で呟く。
 時の力を司る『刻脈』を走らせ、印を結ぶ。天・地・陽・陰・焔・濔・颯・霆・魄。九つの龍脈と刻脈を交わらせることで、彌冶久は中空に九つの光の陣を布いた。色取り取りの拳大の光陣それぞれより、九色の刀の柄尻が突き出る。
「では餞だ。最期くらい綺麗な物を観て逝け、人だった者らよ」
 龍之・彌冶久は龍脈を司る者。
 これなるは"截断者"にのみ許された権能。玖色の脈より紡ぐ、剣乱轟神の九刀連撃――


     九
     頭
     龍
  春
  宵
  一
  刻


 宙と陣とを鞘として、龍脈束ねた九刀を抜く。刀はそれぞれの龍脈の色に光輝く。宙に極彩色の斬閃が疾った。
 九刃九閃、春宵の一刻よりなお鮮やかに。打ち掛かる傍観者の爪牙も、輝く龍刃の前には豆腐も同じ。唸る傍観者の腕や脚は言うに及ばず、切り結べば爪すら截断し、その勢いのままに身体を真っ二つに断ち割る。
 抜刀から斬撃までは瞬刻。刀身が見えるのは一瞬。抜き打ちのたびに違う色の脈光が散り、柏手代わりに断ち切れた肉塊が落ちる音が鳴る。
 唸り煌めく千紫万紅の龍脈斬撃、春宵の夢幻の如く也。
 彌冶久を圧し潰す勢いで襲いかかった群れは、その両の腕より繰り出される無尽の剣戟に、瞬く間に断たれ断たれて貫かれ、汚泥に変わってびしゃり、散りゆく。
 後続が余りの光景にピタリと足を止める前で、彌冶久は息すら弾ませず呟いた。
「俺はお主らが如何にして死んだかも知らぬが。――いや、しかし、骸を斯様に扱うが非道という事くらいは、この老耄れにとて分かろうもの」
 焔脈、颯脈の二刀を宙より抜刀。その気勢を映すが如く、刀身より出でた赫奕の炎が、荒れる風にて渦を巻く。
「どれ、お主らを黄泉路に送り出したなら――ひとつ、首魁に灸を据えにいってやらねばなるまいなぁ」
 截断者は嘯き――
 浮き足立つ敵へ目掛け、今度は己から飛び込んでいく!

成功 🔵​🔵​🔴​

ユキ・パンザマスト

…………、腹ぁ、減りましたね。
(お預け続行の方が、新技も思いつき易そうで、[大食い]は餓えたまま)

【バトルキャラクターズ】のホロ椿を、生垣に仕立てましょう。
可能な限りを人里に通さぬよう、蔓延る根と枝にて[早業]の足止め、
[先制攻撃]と[マヒ攻撃]で支援の手を削り、あるいは支援の遅延化を図ろうか。

(爛々とした獣の眼が、ぐぅるり、無貌らの視線を見返して)

そぉんな目したところで、帰れねえんすよ。
さぁさ、おいでなさい。何処にもいけない、お前達。
此岸までは、通さねえ。
彼岸を越えて、還んなさいな。



●黄昏水先案内譚
「…………、腹ぁ、減りましたね」
 駆け来る異形共を見て、黄昏のけもの、ユキ・パンザマスト(遠い、警報。・f02035)は呟いた。
 貌だった部分から血を垂れ流しながらに走る化生共を見て呟くにはいかにも不似合いな台詞だったが、今日はまだ何も喰らっていない彼女としてはシリアスな話だ。さっきだって実体ホロの椿のみでやり過ごしたのである。
 ……まぁ、お預け続行のほうが、新技も思いつきやすそうなもんですし――空腹は最高のスパイスともいいますし?
 ユキは腹を摩りながら駆け来る敵目掛け手を翳した。放映端末からじじじり、と音を立てて投影されるのは白い実体ホログラムの椿。最早彼女のトレードマークめいた白い椿は総勢二十八連、生垣めいて化生共の行く手を遮る。
 椿の枝と根がザアザアとざわめいた。生き物めいて伸長する枝根はユキの命に従い、黒き怪物――傍観者達を絡め取り、打ち据え、その侵攻を阻む。吹き飛んだり、絡め捉えれて動きを止めたり、一群の侵攻が確かに留められる。
 吹き飛んだ傍観者の一人がゆらりと立ち上がった刹那、ぐら、とふらつく。
「そんなナリでも痺れはするんですね。中身はまだ人間寄りってことですか。やれやれまったく、つくづく趣味が悪ィや」
 吐き捨てるようにユキは呟く。ホロ椿は接触した敵を麻痺させる性質を持つが、それも完全な人外や非生物には効きが悪いはずだ。それはつまり――あのような黒き何かに成り果てても、彼らは未だ人としての性質を色濃く残しているということ。
 ううう、あああ、
 ぉぉおぉおおぉおぉ……
 捕らえた怪物らが、呻いて呻いて、近くの一体に力を集中する。力を与えたものは腕や、脚、喉、腹、胸……身体部位を欠損して、その痛みに耐えるように咽び、与えられた者は、メキメキと変形して超常の力を得る手足の苦痛に耐えるように喘いだ。
 与えるのも、与えられるのも、地獄だ。
 彼らの黄昏は未だ終わっていない。
 貌のない傍観者達は、生者を――猟兵達を睨む。意味のある言葉は発さぬ。目も、今や存在しない。なのに見ているとはっきり分かる、その貌の向き。瞳もないのに突き刺さるような『視線』。
 ユキは獣の瞳を爛々と光らせ、無望の、無貌のもの達を見回した。ぐぅるり、一望。強化された個体を捕らえた実体ホロの椿が、耐えきれぬとぎしぎし呻く。
「そぉんな目したところで、帰れねえんすよ。お前達は終わっちまった。此岸のほうに走っても、広がってるのは夜ばっかり――浴びれる光ももうありゃしねぇんです」
 言い聞かせるような声。それを否定するように、数体がホロ椿の拘束を引き千切り、飛び駆けた。ユキを、その異常に膨れ上がった腕と鋭い爪で、関節が幾つにも増えて筋肉が肥大した脚で、引き裂き殺そうと飛びかかる。
「だから、ね。おいでなさい、何処にもいけない、お前達。此岸にまでは通さねえ。いるべき場所に――」
 ホロ椿のいくつかが消失。
 ユキは飛び込んでくる敵三体の軌道を見て、機宜を計って手を握った。
「彼岸を越えて、還んなさいな」
 ――地から突き出る、一際大きな白椿。
 その天辺の花弁には、悪魔の数字が『6』と刻まれている。
 ホロ椿、六本分の存在量を篭めて投影された椿が爆発的に伸長。鋭い枝で、暴れる根で、飛び来た怪物を貫き、捕らえ――
 サイレンが響いた。
 ホロ椿から発される衝撃波と警報音が、捕らえた怪物らに直接注ぎ込まれ――撃力と振動で、その身体を分解・破砕する――!
「迷わずどうぞ。その道をね、真っ直ぐっすよ」
 ユキは謳うように言う。破壊された傍観者達の身体が、斜陽の中で黒い泥に変わり、びしゃりと飛び散り地に染みた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユア・アラマート


くそ、ろくでもない気配は嫌というくらいに感じるというのに、悪知恵が働くヤツだ
しかしこれは……嗚呼、酷いな
のんびりお休みを言ってやれないのは残念だが、今は急ごう

これだけ数がいるのなら、一人一人片付けていては時間が足りない
向こうも群れてくるだろうしな
【ダッシュ】【見切り】で敵の攻撃を避けながら、少しずつ自分を取り囲ませるように誘導
危険だが、これからやることを考えると仲間が傍にいては逆に困る
さあ、おいで

十分に誘い込めた所で魔術回路を起動し速やかに術式を発動
周辺を囲む軍勢を切り刻み、速やかに眠りへと誘う暴虐の概念を解き放つ
手荒ですまないな。文句はあるだろうが……詫びはアイツの御首でどうか満足してくれ



●奈落へ通ず終刃
「くそ、ろくでもない気配は嫌というくらいに感じるというのに、悪知恵が働くヤツだ」
 防御魔術は極めて強度が高いもの。破壊するのは骨が折れる。加えて、尖兵を用いてこちらの手を塞ぐ智慧もある。賢王などと呼んでやるのは業腹だが、狂王が取った手は戦略的に見れば確かに妥当であった。ユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)がぼやくのも無理からぬことだ。
「……しかし、それにしても――これは、酷いな」
 嘗て人だったものが、駆けてくる。
 もう人とは呼べまい。その脚には関節が二つあり、名状しがたき触手が背中からうねうねと伸びている。膚は黒く、ヌメヌメと光り、尽きる事のない嘆きの血を、顔のあった位置から垂れ流し続ける無貌の怪物。『傍観者』達。
 ユアは眉を下げて彼らを見詰め――やがて、その眦を決する。
「弔っても、悼んでもやれないのは残念だが――私達にも急がなきゃならない理由がある」
 ダガーを抜く。大魔術用意。神象術式回路、花片連結。彼女の胸の月下美人が、ぼうと紅く光を帯びる。
「――退いて貰うぞ。あの世まで」
 声を皮切りに、狐は跳ねた。

 森を埋め尽くすほどに押し寄せる敵を、一体一体相手にしていては日が暮れてしまう。そう考え、ユアは敵の渦中に自ら飛び込んだ。それも、あえて味方の支援が届かない苛烈な位置へ、だ。
 これからやる事に限っては、味方が周りにいて貰っては困る。
 ユアの突撃に応ずるように、複数体の傍観者が動いた。己の手足を、身体を捧げ、失った部位よりびしゃびしゃと血を撒き散らしながら、別の個体を強化する。強化された個体から順にユアに襲いかかる、歪すぎる連携攻撃。ユアはその一つ一つを回避、受け流し、魔術式の構築を継続する。
 ユアはすぐに取り囲まれた。既に攻撃の密度は飽和寸前。回避しきれぬ爪や触手の攻撃が、ユアの露わな膚に紅い切り傷や打撲を焼き付けていく。
 しかしユアは傷の痛みを吐くよりも、集中と式構築を優先した。彼女の周りに数十体が群がり、端から見れば生存さえ絶望的かに見えたその瞬間。
 魔術師は左手に『咲姫』、右手に『王の右腕』を携え、その術式を解き放つ。
「軋れ。『斬撃廻廊』」
 そのエッジから迸る青白い光は、『斬撃』の『概念』。ユアは舞姫の如く、爪先を軸に踊った。刃の先より、短剣の刃を伸ばすかの如く青白い光が延伸、やがて切っ先を遊離し、飛刃の如く飛ぶ。一つ、二つではない。ユアが全方位へ向け刃を振るうたび、それは竜巻に混じる礫めいて、周囲の敵へと唸り飛ぶ!
 あらゆる装甲を透過し、秋に降る驟雨のように身に染みこみ、護りを無視して敵を切断する、嵐の如き斬風の群れ。巻き込まれた怪物らの身体が、まるで豆腐を糸を通したときのように、音もなく裂け分かたれて、ばらばらになって吹き散っていく。
「手荒で済まないな。……文句は色々あるだろうが、詫びは奴の御首でどうか許してくれ。――すぐに届けに行くから」
 狐は謳う。これぞ大魔術、斬撃透過・驟閃式。透過驟閃『斬撃廻廊』……!!
 細切れになった怪物が、もはや骸さえ残さず、黒き汚泥となって飛び散り、地面に水たまりめいて広がっていく。
 敵陣にぽっかりと空いた半径五十メートルの円の中心で、ユアは持ち上げた二本のダガーを構え直す。
「死に方を忘れたなら、私が思い出させてやる。おいで。眠らせてやろう」
 狐は艶めいた唇で死をささやき、次なる敵へと跳ね駆ける!

大成功 🔵​🔵​🔵​

カタリナ・エスペランサ

「さて、手早く片付けるとしようか。勿論パフォーマンスの手は抜かないよ!」
生かす事の叶わなかった犠牲者たちの成れの果てに対し、せめて速やかに骸の海へ送る事が手向けと意識を切り替え。

UC【天災輪舞】で加速、翼で上空に舞い上がり蒼雷を纏った羽弾の雨を降り注がせて《先制攻撃》《属性攻撃》《範囲攻撃》《制圧射撃》《マヒ攻撃》。着弾と同時に拡散する雷撃で痺れさせ敵の動きを阻害。
続けて高度を下げ敵の間を疾駆、敵の動きは《第六感》《戦闘知識》で《見切り》つつすれ違いざまにダガーの《早業》《怪力》《吹き飛ばし》で斬り刻んでいきます。
以後は上空からの羽弾と地上での突撃を切り替えながら敵全体を纏めて蹴散らす方針。



●弔いの稲光
「さて、いつまでもアレを放っておくわけにもいかないな」
 少女が見仰ぐ空には、この地獄を作り出した張本人たる狂王。今はまだその時ではないが、この後、必ずや打ち倒すべき敵がいる。
 カタリナは意識を切り替え、廃ホテルの方に視線を移す。押し寄せるのは、予知の及ぶ範囲では助ける事叶わなかった犠牲者達の成れの果て。
 ああなっては、骸の海に沈めてやるしか弔う手段もない。
「手早く片付けるとしようか。勿論パフォーマンスの手は抜かないよ!」
 ぱり、ばちばち、ばりりッ――
 少女を捲くのは蒼白の電雷。身体に神殺しの蒼雷を纏い付かせ、ふわりと戦闘天使が舞い上がる。
 天災輪舞を踊るのは、カタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)である。
「始めよう。行くよ、この速度がキミたちに見切れるかな――」
 ぐ、と身を撓めて、カタリナは力の限り地面を蹴り離す。それとほぼ同時に、雷光纏う双翼が紫電爆ぜさせ空気を割った。その一瞬で、カタリナは空へ向けて駆ける光となる。端から見ていればそれは逆回しの流星のようにも見えた。
 敵の集中している一角に狙いを絞る。倒しても倒しても湧いてくると言うのなら、こちらは殲滅する勢いでそれを上回るだけだ。
 カタリナは弾丸めいてジャイロ回転上昇、地上三十メートルの位置で羽撃き停止、目一杯に翼を広げる.その表面に伝う蒼雷が、口の中がヒリつくような苛烈な音を立ててスパーク!
「避けてごらんよ。避けても、斬りに行くけどね!」
 広げたカタリナの翼から、無数の雷が放たれた。否、それは、蒼雷を帯びた羽だ。翼より射出し、それで眼下を猛撃したのだ。
 当に稲妻めいて、無数の羽がジグザグの落下軌道で敵に襲いかかった。発射密度と相俟って、その攻撃範囲は戦車用散弾砲めいている。地面に降り注いだ羽弾は着弾と同時に命中箇所に雷撃を爆ぜさせ、触れた者に火傷を負わせると共に運動機能を麻痺させる!
 ううううううぅぅうぅ、ああぁあぁあ……
 呻きを上げながら、ぎこちなく走るスピードを緩める異形――『傍観者』達。
 敵の侵攻スピードを緩めた瞬間、カタリナは両手に有り触れたダガーを抜いて、大きく羽撃く。虚空を蹴飛ばしたかのように加速、空を駆け下りる!
 紫電纏うその速度、当に雷霆のそれ。運動機能に障害を来した傍観者らでは、地に落ちるその影すらも捉えられぬ! 
 カタリナは一切の躊躇なく、雷羽を浴びせた敵の群れの中に超高速で飛び込んだ。
 苦し紛れに持ち上がる腕を、脚を、或いは鞭のように振るわれた触手を、雷を伝わらせたダガーで斬る、斬る、斬る! 空気を雷で爆ぜさせるオゾン臭を伴いながら、カタリナは雷風そのもののごとくに吹き抜ける。急降下した彼女が辿ったコースにいた傍観者達が、膾切りになって吹き飛び、或いは彼女が纏う雷禍の余りの電圧に焼き切られ、次々と形を維持できなくなったように、汚泥めいて飛び散って地に広がる。
「儀式に使われ、命を落とした事は不憫だと思うけど――その涯てに、他の誰かの命を奪う事だけはあっちゃいけない。――だから止めるよ。アタシのこの最高のパフォーマンスで!」
 低空を飛びながらカタリナは、砲門を開く如くに両の翼を広げて羽を逆立てる。――雷羽、水平射! 押し寄せる傍観者達に雷弾の嵐を叩き付け――今一度! 構えたダガーを振り翳し、稲妻の速度でカタリナが疾る!

大成功 🔵​🔵​🔵​

雲鉢・芽在

実験体は数ばかり多いだけでは困りますの
死の塊のような漆黒の器……良い反応はあまり期待出来そうにありませんわね

今回私は支援を主体にさせていただきましょう
指は応急処置程度で負傷は残りますが、注射器を挟み掌で押し出す程度なら出来ますもの

致命傷となる攻撃は避けながら近づき、複数の注射針から触れたものに纏わりつき腐食する毒液の糸で私の巣を作って絡め取って差し上げますの
後のことは他の方にお任せいたしますわ

生きる力を削ぎ取る衝動
ふふ、精神を蝕む"毒"と言っても差し支えはないのかしら
それがそちらのお望みでしたらどうぞご自由に、素敵な毒で逝けるのであれば私も本望ですの
……まあ削りきれるのなら、ですけども


トゥール・ビヨン
アドリブ歓迎
パンデュールに搭乗し操縦して戦うよ

一人、二人……すごい数だ

あと一押しのところだったけど、そうも言ってられなくなったね

傍観者達がこのまま人里へなだれ込んだら大変なことになる

先ずは彼らの気を引くためパンデュールで真っ直ぐに軍勢に突っ込みなぎ払いで初撃を与えよう
一撃を与えたらその場から離脱、フェイントや武器受け、かばいも交え誘うように動き仲間が敵を殲滅しやすいよう時間稼ぎを行う

ターン・ドゥ・エギールで円を描くように動いて翻弄しつつ、支援を受けようとする個体を中心になぎ払って強力な個体を作らないように動くね

ボク達だって一人じゃない
力を合わせれば、どれだけの数が押し寄せようと絶対に負けない!



●蜘蛛と雀蜂
『……すごい数だ。もう、数え切れない』
 対オブリビオン決戦鎧装『パンデュール』の中で、トゥール・ビヨン(時計職人見習い・f05703)は呟いた。廃ホテルから溢れ出て、森を埋め尽くさんばかりに駆け出た化物共は、いまや猟兵らに火急の対処を強いるほどの勢力だ。
「あと一押しのところだったけど、そうも言って『られなくなったね。……彼らがこのまま人里になだれ込めば、大変なことになる』
 トゥールの言葉の通りだ。一体でも通せば確実に死人が出る。ここで、一体残さず排除しなくてはならない。
 パンデュールの横合いに踏み出した少女が、気の進まなさげに嘆息した。
「雲霞の如くとはこのことですわね。……数ばかり多いだけでは困りますのよ。毒を試すには試料の質が重要というもの。あのような死の塊のような漆黒の器では……良い反応はあまり期待できそうにありませんわ」
 頬に爛れた指先を添わせて呟くのは、雲鉢・芽在(毒女・f18550)。チラリと名残惜しげに空中の王を見仰ぐが、今対処すべきは目の前の怪物の軍勢だ。
「……まあ、言っている場合でもありませんわね。実験の足しにもなりませんけれど、あれを止めるのがオーダーならば、支援させて頂きますわ。一緒に踊って下さいます?」
 あえかな笑みを浮かべ問う芽在に、トゥールはパンデュールを通して頷きを返し、応える。
『ああ。……ちょっと派手な踊りになりそうだけど、構わないかな?』
「私が転びそうになったら、手を取って下さいましね」
 芽在はほんの少し、口角を上げ笑みを深めた。互いの動きを申告し、押し寄せる敵勢目掛け走り出す。

『パンデュール! 行くよ! パワーレベルをマックスに!』
 ラージャ
≪ 了 解 、最大戦速ニテ吶喊シマス≫
 先鋒を務めるのはトゥールとパンデュールである。装甲の堅固さを活かし、多少の攻撃など物ともせずに突っ込んでドゥ・エギールを力の限り振り回す。呻き声と共に吹っ飛び、倒れ伏す怪物――『傍観者』達。反撃の腕や足がびゅるりと伸びてパンデュールを捉えようとするが、トゥールは操縦桿とフットペダルを巧みに操作し、機体を即座に飛び退かせ、着地の勢いで膝部を曲げて、最大出力で伸長することでカタパルトめいてパンデュールの身体を飛ばす。
 手首からワイヤーを射出、敵一体を絡め取り、力任せに振り回して、着地地点に叩き付け、敵数体を薙ぎ倒して空いたスペースに着地。すぐさままたドゥ・エギールを振り回す事で、効果的に敵の注意を引きつけ、ヘイトを集中させる。
 そこに芽在が走り込んだ。手が腐呪にて腐り爛れていようとも、別段戦闘に支障はない。最低限の応急処置はユアから受けているし、今回彼女の扱う武器は、重量的にも負担の軽い数本の注射器だ。
 駆け抜ける。パンデュールに翻弄され、浮き足立った怪物らの間を疾りながら、芽在は親指を除く四指に挟んだ注射器を光らせる。芽在を見咎めた数体が攻撃を繰り出してくるのを、芽在は身を屈め、ステップし、ギリギリのところを回避して潜り抜けた。
 色取り取りの毒液が満たされたシリンダーに薄らと笑みながら、芽在は注射器のピストンを、握り込むように掌に当てて、握り込む事で毒を迸らせる。
「ふふ――あの腐毒の風と、私の腐毒と、どちらがより素敵な毒か、皆様に試して頂きましょう。どうぞ召し上がれ、沢山――皆様に行き渡るほどに、用意しておりますのよ」
 注射器の先端から細い糸めいて、粘着質の毒液が迸った。押し出す芽在の巧みな力加減と元々の物性が相乗し、注射器から糸となった毒が紡がれる。色取りどりの、毒の蜘蛛糸。蜘蛛蜂・蛾蟻の放つ危険な毒。
 密集した敵目掛け放った芽在の『毒糸』が、瞬く間に複数の敵を絡め取った。絡まるなり、絡まった部位を腐らせ風化させながら締め付ける、悪夢のような糸を、芽在は次から次へと紡いでは敵を拘束していく。
 時には吹く風すら利用して流れる糸で敵を絡め取り敵の間を擦り抜け躍る芽在は、正に腐毒の糸を巣と成す蜘蛛。もがき暴れる傍観者達は、言うなれば獲物の羽虫か。
 糸に捲かれながらも、傍観者達は芽在へ無貌を向けた。どろりと顔面から、尽きぬ真っ赤な血を垂れ流しながら――疾うに目玉などないその顔から、『視線』としか表現出来ない概念が芽在に向けて注がれる。全方位から向けられる視線、視線、視線。
 芽在は一瞬、立ちくらみを起こしたように蹌踉めいた。まるで生きている事を否定されているかのような――見世物として扱われているような錯覚がある。或いは、それは怪物達の視線に宿る特殊な力だったのやも知れぬ。仮に抵抗力のない通常の人間がその視線に晒されれば、即座に自死を選ぶような――恐ろしい精神攻撃。
 だが、芽在はうっとりと目を細めるばかりだ。
「生きる力を削ぎ取る視線……ふふ、これもまた精神を蝕む"毒"と言っても差し支えはないのかしら。でも、残念ですわね」
 芽在は再び腕を打ち振った。またも数体が絡め取られて地面に転がり藻掻く。
「素敵な毒で逝けるのであれば私も本望ですわ。――ですが、この程度では足りませんの。もっと強く、芳しく、私が感じた事のない、胸を貫くような毒でなくば。このまま続けるのがお望みでしたらどうぞご自由に……けれどその間も私は、動き続けますのよ」
 台詞に違う事なく芽在は腕を翼のように広げて、華麗にターンしながら糸を撒き散らし、絡め取り、溶かし、敵の動きを封じる。
 動きを封じられてすぐに、数体が自身の身体の部位を融解させ、それを触媒として他の個体を強化し出す。得た力で拘束を無理矢理に解こうというのだろう。しかし、それを二人が見逃すわけがない。
 芽在が拘束のために毒糸を重ねる間に、トゥールがパンデュールを駆り、今正に強化されんとする個体の首を刎ね、次々と沈黙させていく。
 トゥールが飛び回り、敵を翻弄する間に芽在が敵を拘束し、更に協力しながら、敵の強化を防ぎつつ効率よく排除していく――即席タッグながらに、二者のコンビネーションは抜群に巧く機能した。
『廻れ、パンデュール……!』
 トゥールが咆えると同時にパンデュールは拘束された敵を軸とした円運動から、ドゥ・エギールを振るって舞い駆ける。まるで時計の中の、ギアの歯をなぞるような、尽きず連なる円の動き! 繰り出される刃が瞬く間に、芽在が拘束した怪物達を切り刻んでいく……!
 マニューバー
 戦 闘 機 動、『ターン・ドゥ・エギール』! 死した個体が次から次へと泥と化して地に染みていく。
『ボク達だって一人じゃない。力を合わせれば、どれだけの数が押し寄せようと絶対に負けない……!』
「その通りですのよ。……さ、次はどの毒がよろしくて?」
 葬り去った敵が泥濘めいて広がるその上で、二人は互いの背を庇い合うようにして、包囲網を狭めてくる次なる敵手を牽制する!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マリアドール・シュシュ
【華葛】◎

永一(永一の唇に指当て
お口が過ぎるのよ
マリア、今とっても楽しくないのだわ
死人に惨たらしく鞭打って…許せないのよ
(一番赦せない、やるせないのはすくえなかった無力な自分

ええ、この憤りは後に取っておくの(冥府送りは

華水晶は無邪気に嗤う
蜜金の眸に怒り滲ませ
ケープ羽織り直し

分身とはいえ”永一”を…?(狼狽
…すぐそうやって愉しそうに
もう!マリア知らないわ!
だって
忘れてしまうもの

噎せ返る血が何方のものなのか
殺るなら弔いも込め徹底的に駆逐(祈り

後衛
【透白色の奏】使用
確実に当てる
鎮魂歌を謳い手向けの音華を
音の光弾で敵の体を鎌鼬の様に切り刻む(歌唱・誘導弾
自爆特攻に連鎖させ

見られているのは
あなたとて同じ


霑国・永一
【華葛】◎

おやおや、残った生贄まで使うだなんて、無駄が無いじゃあないか。邪神流のリサイクルというやつだねぇ。無駄遣いしてる世の金持ちは少し見習うべきさぁ
それじゃマリア、見送りに来た彼らを天に送ってあげようか?

狂気の分身を発動
敵の数と同等くらいの自爆分身を大量に召喚し、一斉に斬りかからせたり銃撃、または自爆特攻で爆散巻き添えをする
特に支援されまくった個体には多くの分身を自爆特攻させて派手に散らす
分身が減れば追加
『いやっほぅ!一緒に死のうぜぇ!』『貌以外も俺様達が削り取ってやらぁ!』
本体の自身は分身に紛れつつ遠距離から銃撃をする

「大勢を送るなら大勢に限るねぇ。さ、マリア、分身ごとやって構わないよ」



●ケモノを哀れむエレジー
 廃ホテルから駆け出てくる大量の敵勢に、愉快げに笑う男がいた。
「おやおや、残った生贄まで使うだなんて、無駄が無いじゃあないか! 邪神流のリサイクルというやつ――むぐ」
「永一。お口が過ぎるのよ」
 軽妙に皮肉にあの地獄を嗤おうとした霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)を諫めたのはマリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)。白く細い指先で続く永一の言を封じ込める。放っておいたら昨今の資源の無駄遣い、高所得者の批判あたりまで脱線するのが目に見えている。
 惨憺たる光景に全く堪えていない様子の永一とは異なり、マリアドールの胸の内は悔悟に焦げ付いていた。沈んだ――常の明るさの抜けた静かな声で、マリアドールはぽつりぽつりと続ける。
「マリア、今とっても楽しくないのだわ。殺すだけでは飽き足らずに、あんな風に死人に惨たらしく鞭打って……許せないのよ」
 蜜金の瞳に怒りの色が浮いた。マリアドールの胸には義憤の炎が燃える。……その炎がまず第一に焼いたのは、彼女自身の心だ。助ける事も、手を差し伸べる事も叶わなかった無力な自分への怒りが、胸の内で荒れる。
「あぁ、そういうことか。ま、そんなに自分を責めても仕方ないよ、マリア。そもそも作戦は狂王が出てきたところから始まってる。もしマリアに罪があるとしたら、その罪は俺達にも等しくあることになる。そんな無体な話はないだろ?」
「……」
 分かっている。分かってはいるけれど……という、緩慢な首肯。永一は拳銃に銃弾をリロードし、撃ち尽くした銃のスライド・ストップを弾いて落とした。薬室に弾丸が噛み込まれる。
「それでも苦しいのなら、今から出来る罪滅ぼしを紹介するよ。見送りに来た彼らを天に送ってやるのさ。これ以上彼らが誰も手にかけないように、これ以上誰も死なないようにね」
「……ん。分かったのだわ、永一。この憤りは……後に取っておくの」
 哀れな怪物達には哀れみを以て、事の首魁には怒りを以て。ケープを直しつつマリアドールは呟く。ハープを構え直し、永一の一歩後ろに下がる。
「いい返事だ。――それじゃあ始めようか」
 永一はマリアの構えを肩越しに確認した後で、無造作にユーベルコードを発露した。『盗み散る狂気の分身』。発動した瞬間、永一の周りに五十数体もの分身が現れる。それは前方から二人目掛けて駆け寄せてくる怪物――『傍観者』の数に匹敵する物量だ。
「頼むよ、“俺”達。一人も逃がさないように」
『ヘッ! やるのが俺達だからって無茶言いやがるぜ!』
『しゃあねェな……やるかあ』
 分身はそれぞれが微妙に異なる口調で本体に応えると、その物量を活かして正面から傍観者たちの元へ駆け抜けた。永一本人もそれに混じり吶喊。
 うううぅぅぅう……!
 くぐもった、呻きにも似た声を上げながら走り来る敵の軍勢に対し、“永一”達はただひたすらに、ネジが外れているかのように陽気だ。
『いやっほぅ!一緒に死のうぜぇ!』
『貌以外も俺様達が削り取ってやらぁ!』
 ナイフと銃を携えた分身らが口々に言いながら敵と激突! 打ち合う音と射撃音が重なり、マリアと永一の前はたちまち怒号と銃声が飛び交う最前線となる。単純にぶつけ合わせた結果は――敵勢の優勢! 分身に高度な戦闘能力はない。故にそれは予想の範囲の事だ。強化前の個体に激突して、逆に胴を貫かれて打ち負ける者もいる。しかし、
『がはッ、けへッ……はははっ! サヨナラだぁ!』
 分身の一体が、貫かれた胴もそのままに爆発! 自身を貫いた傍観者の腕を吹き飛ばし、汚泥へ返す。
『おっとぉ、自爆祭り開始かァ?』
『話が早ぇな! 全員ブッ飛ばして終わりにしちまおうぜ!』
 それを皮切りに次々と分身が敵に殺到、自爆する事で傍観者を吹き飛ばし、汚泥へと還していく。
 永一の分身――盗み散る狂気の分身は、自律戦闘のみならず任意に自爆させることの出来る人間爆弾として扱われるのが常だ。分身達もそれを承服済みなのか、自爆することに対して一切の躊躇がない。――そして永一本体が生き続ける限り、分身は次から次へと無尽蔵に供給される。敵一体につき三人が自爆したところで、すぐにその代わりが後ろから押し寄せて、敵とぶつかり合うのだ。
「いやぁ、大勢を送るなら大勢に限るねぇ。さ、マリア。分身ごとやって構わないよ」
 分身と敵とがぶつかり合い、前線を形作る中、どこからともなく永一の声が聞こえる。分身らに埋もれてその声がどこから響いたかは判然としないが、マリアドールはその言葉に目を見開く。
「えっ……分身とはいえ、“永一”を……?」
「いやいや、君がやらなくたっていずれ爆発してもらう身だし。……はは、でもそうやって狼狽えるのを見るのは存外悪い気分じゃないねぇ」
 揶揄してからかうような調子で続ける永一の台詞を聞き、先程に同じくまたマリアドールは膨れ顔を作る。
「すぐそうやって愉しそうに。もう! マリア、知らないわ!」
 ――だって、忘れてしまうもの。そんな風に貴方の形をしたものを傷つけた苦い思い出なんて。
 マリアドールの中には、愉しい記憶しか存在しない。いや、出来ないというべきだろうか。
「後で止めてと言っても聞かないから!」
 べ、と舌を出しながら、マリアドールはハープを構える。彼女が見つめるのは無貌の軍勢。もう、誰だか分からなくなってしまった、かつて人間だった異形のもの。永一の分身らが抑え込む敵目掛け、少女はハープを爪弾いた。鳴り響くハープの旋律は、魔力を帯びて音弾として結実し、彼女の視線が向いた先へミサイルめいて飛翔する。
 ユーベルコード、『透白色の奏』。宝石色の眼を伏せて鎮魂歌を謳いながら、マリアドールは手向けの音華を爪弾いた。鋭く爪弾けば弾くほどに、音はより速く、より鋭い光弾となって飛んだ。張り詰めた音色は、そのまま鎌鼬を意味するように敵へと降り注ぐ。
『っでぇえっ?! クッソ、“俺”共々容赦ねえな!』
『ひゃっははは、先に行けよ! 俺もすぐ追っかけてやるからよ!』
 音の光弾に突き刺され、斬り裂かれた巻き込まれた分身達が笑う。マリアドールの光弾がきざはしとなったように、敵を捉えて格闘し、膠着状態となっていた分身達が一斉に爆発四散・散華して、傍観者達を巻き込み殺していく――!
「いやぁいい眺めだ。それにマリアの演奏も特等席で聴けるし、役得ってやつだねぇ」
 咲き誇る爆光、飛び散る傍観者らの汚泥。巻き込まれぬように飛び退いて、安全圏から眺めながら、永一が顎をさする。
 それを聴きつつも、マリアドールは遠方より続けて来る第二波に視線を注ぐ。真っ赤な、最早そこに存在しない『貌』でこちらを見つめてくる敵を、見つめ返す。
 ――見られているのはあなたとて同じ。そう訴えんとするかのように。
「永一。次が来るわ。みんなみんな弔ってあげましょう。……もう、眠らせてあげましょう」
「ああ。いいよ、マリア。君の望む通りに」
 爆ぜた分の分身を再び発生させつつ、皮肉っぽい、しかし気取った調子で永一は応えた。
 押し寄せる敵の群れを押し返すべく、永一らが走り、マリアドールはハープを構え直す!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ


間髪入れずに大軍か
一服くらいさせろってんだ

どこ見てるんだい?目ん玉が無いからさっぱり分からないよ
大方、顔か急所か心の隙間か…もしかして貌が欲しいのか
ハッ!顔がいいってのは罪だねぇ

煙管の煙を編むように小蛇に絡ませてやれば
この通りでっかい化け物のお出ましだ
大きなものには大きなものを打つける方が効率的でしょ

僕のかわいい出来損ないの八岐大蛇は
腐った死体が好物だったよなぁ
……あれ、違った?
いいから喰うなり塵にするなりするんだよ
さら地にしねーと今夜の飯は抜きだ

支援されようとしている一体を見つけたら
優先して叩き斬ってあげよう
そのくらいなら動いてやってもいい



●渡し守の煙
「やれやれ全く、間髪入れずに大群ときたか。一服くらいさせろってんだ」
 煙管の吸い口が恋しい。ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)はいそいそと刻み葉を詰めた煙管に、指先の狐火で火を点した。すい、と大きく吸い込んで煙を吐き出す。もくもくと煙る紫煙が、彼の周りに薄い靄をかけるようである。葉が燃え尽きる前にもう一吸い。森の清冽な空気と共に紫煙を大きく吸い込み、長く、細く吐く。或いはそれは、押し寄せる敵勢の始末の仕方を考える仕草のようでもあった。
 押し寄せる敵勢を前に、ロカジは刀を納めたまま、切れ長の目を更に細く、刃のように尖らせる。
 貌を失ったそのバケモノ達が、どこを見ているのかは分からない。ただ、確実にロカジを――道を阻む猟兵達を見つめていることだけは確かだ。真っ直ぐに、ロカジ目掛けて突っ込んでくる敵が数十体といる。
「どこを見てるんだい? そんな真ッ赤な顔してさ。目ん玉が無いからさっぱり分からないよ。当ててみせようかな、大方、顔か急所か心の隙間か――もしかして剥がれた貌が欲しいのか。 ハッ! 貌がいいってのは罪だねぇ!」
 ぺしり、と額を叩いておどけてみせるロカジだが、笑っているのは口元だけだ。手指の隙間から覗く瞳は鋭く、走り来る骸の群れを睨んでいる。
 すぅっ、と煙管をもう一吸い。濃い紫煙を肩口に座す小蛇にふうっと吹きかけると、ぴょいと跳ねた小蛇が空中で見上げるような大きさの大蛇に姿を変えた。七つ首の大蛇。八岐大蛇にゃ一つ足りぬ。
「大きなものには大きなものを打つける方が効率的でしょ。――僕のかわいい出来損ないの八岐大蛇は腐った死体が好物だったよなぁ?」
 問いかけめいた声に蛇がしゃあああ、と空気を震わす威嚇音。ロカジは編み込みの間を掻く。
「……あれ? 違った? まぁいいよ、喰うんでも千切って吐き捨てるんでも、瘴気で塵にするんでも、何でもいいから片付けんだよ。さら地にしねーと今夜の飯は抜きだぞ」
 無体な発言に蛇の頭が一つロカジを睨むも、すぐに他の頭に引っ張られるようにその頭も敵の軍勢を見た。七首大蛇は尾を強く張り、凄まじい勢いで跳躍。敵の渦中へと突っ込む。
 その巨体が暴れ狂えば、せいぜいが人間大の敵が無事に済むわけがない。落下地点にいた傍観者達は悉くが叩き潰され黒き泥に変わった。尾を振り回し、瘴気を、炎を、七つの首からごうごうと吐き出して敵軍を戮殺する七首大蛇。
 殺される前にせめてとでもいうのか、数体の傍観者が己が四肢を代償に、他の個体を強化する。べきべきと音を立てて強化される個体が散発的に現れる。――だがそれを黙って見ているロカジでもない。暴れる七首大蛇の攻撃の間を縫って、窈窕たる妖刀をずらりと抜いた。
 狐が跳ねる。その歩み、飛葉の如く。
 ひゅん、ひゅ、びょうっ!
 長刀の切っ先が翻り風切り音。斬風吹き抜ければ次々に、強化された個体の首が、腕が、脚が飛ぶ。行動を封じられれば直後に襲いかかるのは大蛇の苛烈なる攻勢。潰れ燃え、瘴気で腐り、死ねば黒き泥になって地面に泥濘むのみ。
「さぁ、三途の川は真っ直ぐ向こうだ。迷わないで往きな、逝きな」
 ロカジは謳うように言って、死泥の纏い付いた刀を振り、払うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子

ヒトをヒトとして弔うこともさせてはくれないのね。
業腹なのはこちらの方よ。
……おまえ、せいぜいいまのうちに息をしておきなさい。

こうなってしまったものは、仕方が無い。
難しい事を考えるのは嫌いなのよ。
いずれにせよ、ひとつたりとも此処から逃すわけにはいかないもの。
斬り果たせば、すべては終わる。

猟兵の少ない方へ、その中心へ。
只中へ降り立って、すべてを巻き込んで剣を振るうわ。
……だれかに己を託すなんて、まるでヒトのようなことをするのね。
お互いがお互いの力を高めるのなら、全部纏めて斬り崩す。

ほら、こちらを見なさい。

目立って在るなら、他所からも狙いやすいでしょう。
討ち漏らしだけはできないのよ。お仕事だもの。



●剣風峻烈
「ヒトをヒトとして弔うこともさせてはくれないのね」
 羅刹の少女は、うっそりと中天を見上げた。
 そこには猟兵達の理解の及ばぬ言語で問答を続ける、不気味な仮面と狂王の姿がある。
 最早敵にはこちらの声は届かぬ。外部からの音、攻撃、その全てを遮断する結界に身を包んだが故。
 少女の言葉は届かぬ。
 しかし、その裡に宿った燠火のような怒りは、あの結界が消えても、消えることはあるまい。
「業腹なのはこちらの方よ。……おまえ、せいぜいいまのうちに息をしておきなさい。そこから出てきたときには」
 どるんッ!!
 少女の手の内側で、機械剣『クサナギ』が咆哮する。
 全てを食い裂き断裂する残虐なるチェーンソーの唸りを手の内であやしながら、少女は――花剣・耀子(Tempest・f12822)は、絶対不変の応報を誓う。
「その首、必ず、斬り果たすわ」
 ――今は、ただ成すべきことを成すのみ。


 ど、
 ど、ど、ど、どおおぉんっ!!
 山を揺るがす轟音を発するのは、耀子の手元、クサナギに装着された加速オプション『ヤクモ』。火薬、空気圧、魔術触媒のハイブリッドにより、クサナギの刀身はおろか、耀子の身体までも加速させ、前方に『射出』する試作兵装だ。耀子にしか扱えぬほどに先鋭化したピーキーな性能。一発点火するたびに、耀子の身体は弾丸めいて加速する。
 耀子の目はすぐに、黒い膚をした、亡者の群れを捉える。
 ――ああ、こうなってしまったものは、仕方が無い。死者は還らない。黄泉返らせる術は無い。嘗て人だったもの。今なお苦しむように呻き声を上げるもの。『傍観者』。
 考えれば考えるほどに、遣る瀬無い思いが湧くようなその敵の群れを見て、
「難しい事を考えるのは嫌いなのよ。――いずれにせよ、ひとつたりともここから逃すわけにはいかないわ。ひとつ通せば、きっといくつも死ぬ」
 シンプルな理屈を呟き、耀子はヤクモを再装填。
「斬り果たせば全ては終わる。……終わらせる」
 点火すると同時に最後の加速。
 最高速で、修羅は敵の群れの中へ飛び込んだ。
 耀子が飛び込んだのは他の猟兵がカバーしきれなかった群れだ。当然、支援はない。単独行となる。しかし、それでいい。
 耀子は眦を鋭くし、クサナギの回転数を上げる。群れの手前で最高速に到った耀子は、敵に反応を許さぬまま、真っ向から群れに切り込んだ。どるるるっ、どぅるる、るるるるるおおぉぉぉぉんっ!!! クサナギのエンジンが啼き叫び、その刀身が一閃されるたび、汚泥と腐肉、腐血が飛び散る。バラされた腕が、胴が、首が飛び散る壮絶なゴア・シーン。
 速力を活かした突撃往路で耀子は十八体を斬り、群れを突き抜けてブレーキ、反転。再び突撃するべくヤクモのトリガーに指を添え――眉をひそめる。
 群れの傍観者らもまた回頭、耀子目掛けて隊伍を組む。――同時に、後衛が四肢を代償に前衛へ自身の力を預け始めた。力を受け取った前衛が、見る間にメキメキと音を立てて筋肥大。後衛の腕が、脚が、枯れ落ちるように細って消える。
「だれかに己を託すなんて、まるでヒトのようなことをするのね。それとも、それが、唯一残った人間性という事かしら」
 だとしたらそれは、なんと残酷なことだろう。
 もう、死んでいるのに。亡者に過ぎぬというのに。
 込み上げる不快感に眉根を歪めつつも、耀子のすることは変わらない。
「互いが互いの力を高めるとしても……全て纏めて斬り崩すだけよ」
 耀子はクサナギを手にした右手を、身体を捲くようにして溜め、低姿勢・前傾姿勢を取った。スプリントの予備姿勢。
「――こちらを見なさい。あたしを貫かねば――お前達は、ここで終わりよ」

 ――一匹たりとて、逃がさない。

 トリガー。
 ヤクモの炸裂に合わせ、耀子は今一度、峻烈たる一陣の剣風となった。
 振り下ろされる腕も。振り抜かれる脚も。襲う爪も。飛びかかる巨体も。彼女を傷つける為に振るわれるあらゆる力を、彼女は唸りを上げる機械剣で迎撃する。唸りを伴う凶悪なる鋸刃が、強化されていようがいまいが一様に平等に、手向かう傍観者を順に斬り果たしていく……!

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルエ・ツバキ
「なんだお前らくそキモい。ワラワラとたかりやがって。」

口を三日月に歪め弱肉強食を発動させる。
アルエに巣食うオウガの内の一つ、弱者を甚振る事を至上とするオウガの侵食率を上げ同期する。
身体の一部が変質し異形の爪が生えた猿のような禍々しい腕、硬質な毛と肌に為り変わる。

「ワラワラと弱イ奴らは良く群れル。都合のいい玩具ダ。」

飛び掛かり掴み振り回し叩きつけ投げつける。

裂いて潰して砕いて喰らう。

思い思いに暴れまわる。

なるべく他の猟兵から離れながら。

この心地良さに呑まれぬ様に、心の楔が剥がれぬ様に。

強く強く想い続ける。

「弱肉強食。私は食われん、強いからな。」

それが例え薄っぺらの強がりだったとしても。



●鏖殺の悪鬼
 猟兵達は己の技の限りを尽くし、廃墟より溢れ出てくる怪物らを殺す、殺す、殺す。
 幾ら殺そうとも尽きることなく湧いて出る『傍観者』たちを前に、唇を三日月めいて歪めて、一人の女がユーベルコードを発動した。
「なんだお前らくそキモい。ワラワラとたかりやがっテ――」
 女の声は後半より歪みだす。彼女はその身にオウガを宿すオウガブラッド。その身の裡に巣喰うオウガの内の一つ、弱者をいたぶることを至上とする悪鬼を表出する。侵食率を操作し、同期。華奢な腕が、針金めいた体毛を纏う猿めいた禍々しい腕に変じ、その指先にジャリリと音を立てて爪が伸びる。人の首すらひと撫でで落とせそうな、湾曲した大爪だ。
「ワラワラと弱イ奴らは良く群れル。都合のいい玩具ダ」
 謳ったのは表出した鬼か、彼女自身か――
 今や半人半鬼の怪物となったアルエ・ツバキ(リペイントブラッド・f20081)は、圧倒的な速度で敵の群れへと踏み込んだ。
 うううぅぅぅううぅぅぅぅ……!
 潮騒のうねりめいて押し寄せてくる亡者の呻きをすら一顧だにせず、アルエは異形の両腕を振りかぶり鯨波の軍勢に真っ向から突っ込む。
 彼女に宿ったオウガがもたらすのは『弱肉強食』。自身より弱い相手を蹴散らす事に特化したユーベルコード。有象無象の怪物共は、今やアルエにとってただの獲物に過ぎない。
 右手を引いて、真っ直ぐに殴りつける。ダンプカーに撥ねられたように、全身を拉げさせながら一体の傍観者が吹き飛ぶ。他の個体が押し寄せ、その穴を埋めてアルエに襲いかかるが、アルエは右足で地に杭を打ち、それを軸に身体を回旋。振るった爪で数体の首を纏めて跳ね飛ばして沈黙せしめる。
 回転終わりに左足で地面を蹴り離し、勢いを殺さず、投げ上げられた独楽めいて水平回転跳躍。旋風伴う回し蹴りで更に二体の首を薙ぎ斬り、着地するなり前進。まるで、自ら望んで孤立しようとしているかのような機動だ。
 事実、彼女はそうしようとしていた。他の猟兵から離れ、極力一人での戦闘行動を目指していた。敵に飛びかかり、頭を掴んで振り回し、力の限りに他の個体に叩きつけて薙ぎ払う。掴んだ個体が死にかければ、泥に戻ってしまう前に投げつけて飛び道具に。
 爪を振り翳して踏み込み、斬り裂いて斬り裂いて斬り裂く。爪の間合いの内側に侵入を許したならば膝蹴りを叩き込んで浮かせ、振り払う腕で砕く。しがみつき動きを封じに掛かってくる個体の頭を噛み砕く。
 ――ああ、これこそが戦の悦楽。思うさま暴れ、弱者を蹴散らし討ち滅ぼす快楽。
 暴虐の旋風めいて暴れるアルエと、蹴散らされる傍観者達。最早どちらが討たれるべき怪物なのか――それすらも、余人から見れば曖昧になってしまうやも知れぬ。
 しかし、敵を蹴散らしつつもアルエはその身の裡で自分を保ち続ける。この心地よさに呑まれて仕舞わぬ様に、心の楔が剥がれてしまわぬ様に。
 目の前の弱者共を蹴散らす、自身と共存する鬼に告げるように。
 ――弱肉強食。私は喰われん、強いからな。
 オウガの不平など噛み殺せ。アルエは肉体の主導権を保ち、鬼に全てを明け渡すことのないままに疾る。――それがたとえ、薄っぺらの強がりでも――足を止めず駆ける限りは、それは現実となる。
 振るった爪がまた数体を殺した。汚泥を被りながら、悪鬼が跳ねる。

成功 🔵​🔵​🔴​

安喰・八束
先の大戦でも見たな。骸の成れ果てた、水晶屍人をよ。
……ああ。糞野郎が。
てめえの黄泉返りに手を出した外道も中にゃ居たろうが、
「廃物」呼ばわりは、気に喰わねえ。

理性無く数に任せた有象無象、しかし纏め置けば厄介か。
「人狼咆哮」で纏めて蹴散らし戦列を崩しながら、形を変える面倒な武器から先に狙い撃つ。(武器落とし、スナイパー)

それでも懐に迫られるなら"悪童"で相手取るしかねえな。(見切り、咄嗟の一撃)
"古女房"が臍曲げねえといいんだが。
……易々と狼を喰えると思うなよ。



●狼牙、化生を穿つ
 男は、森の中を疾風の如く駆け抜ける。手にした猟銃――『古女房』が斜陽を照り返しぎらりと光る。
 彼が駆け抜けるその森の奥――廃ホテルから、溢れる様に敵がくる。人の成れの果て、王が『廃物』と呼んだ、死体から作り出された怪物達。
 ――エンパイア・ウォー。猟兵達と、多数のオブリビオンがぶつかり合った一大決戦。あの渦中に身を置いた安喰・八束(銃声は遠く・f18885)は既視感を覚えたように舌打ちをした。あの大戦でも、このようなものを見た。骸の成れの果て、水晶屍人。安倍晴明が作り出した、死体を弄う術式の被害者。黒く染まった膚と人とも思えぬフォルムをして駆け来る敵に、八束は悲しみとも怒りともつかぬ慨嘆げな息を吐く。
「あぁ……糞野郎が。あの中にゃてめえの黄泉返りに手を出した外道もいたろうが――たとえそうだろうと、『廃物』呼ばわりは気に喰わねえ。――こいつらを弔ったら次はてめえだ。首を洗って待っていやがれ」
 銃声。走りながらの狙撃。立射、それどころか移動しながらの射撃だったというのに、遠間にいる怪物の頭が弾け飛んだ。八束は嘯きながらも、『古女房』のボルトを操作して次弾を装填する。
 影に伏し、得手となる狙撃を繰り返すだけでは敵の軍勢を留め得ないと判断し、彼は前線へと駆けきていたのである。その口元に、鋭く尖った犬歯が覗く。
『狼殺しの八束』と呼ばれながら、彼は狼憑き――人狼病だ。かつて共に幸福な時間を生きた妻が狼憑きだった事によるもの。しかし、それを彼が悔いたことは一度としてない。狼憑きと言われた彼女を嫁に娶ったとき、全て覚悟出来ていたことだ。
 そして、彼女がいた名残は、巡り巡って今の彼の助けとなってもいる。
 ――オォオォォォォォオォオオッ!!!
 八束の喉から迸るのは、狼も掻くやという凄まじい咆哮だ。『人狼咆哮』。音が壁めいて敵に叩きつけられ、その動きを止めて転げまろばせる。
 転げる敵を八束は、走りながら撃った。通常、狙撃とは息を殺し、呼吸を止め、伏せて、銃を固定しながら行うもの。しかし八束は、近距離とはいえ、走りながら的確に敵の頭蓋を、心臓を、古女房から放たれる銃弾にて射貫いて殺していく。
 数体が、自身の腕や足を自切してそれを他の個体に捧げ、強化する構えを取った瞬間、八束は開いた両の目で、視界内で変形する個体――つまりは力を受け取った個体を峻別。それらの個体が動き出す前に銃弾を放ち、片っ端から順に殺していく。狼の狩りは常に素早く、無駄なく、容赦ない。
 しかし、敵の数は膨大。いずれは、強化個体が撃たれる前に動き出すケースも出てくる。再装填のために弾薬盒に手を伸ばした八束目掛け、凄まじい速力でましらの如く迫る一匹。
 八束はそれを前に、しかし狼狽えるでも悪態をつくでもなく、なめらかに、銃を槍めいて突き出した。――切っ先に、銃剣『悪童』がぎらりと光る。
 喉首を貫いて、悪童の切っ先が反対側に抜けた。決して上等とは言えぬ作りの銃剣だったが、しかし彼が扱えばこの通り、その鋭さで怪物をも屠る。
 銃弾を古女房に再装填しつつ、次いで襲いかかって来る敵を転がり避け、銃剣で裂き、近接射撃にて撃ち貫きながら、八束は静かに吼える。
「……そう易々と、狼を喰えると思うなよ」
 狼は、狩りの時に無駄に声を上げぬ。――故にその言葉は、音低い唸りに似ていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

街風・杏花

あら、あら、あら! なんとも素敵なお顔ですこと――うふ、うふふ。
どうせ沢山見るのなら見目麗しい敵が良かったですね、なぁんて

だって、ひと目見れば分かります。
あり方からしてただの傍観者。なんて、なんて――美しくない。自ら飛び込んでこその浮世でしょうに。

せめて花に彩れば、少しは見られるようになりますか。
「白炎蜃気楼」を、希望を示す百合未来の花びらに変えて。全て全て、切り刻むと致しましょう。

私の意志は、こんな美しくないものには犯されませんけれど。
呪縛に流血、それに毒? それはとっても、困りますね。
だって、手札を出し切り、傷ついて――嗚呼、ますます不利になってしまうではないですか。うふ、うふふ!



●修羅、剣尽きようと舞い
「あら、あら、あら! これはどなたもなんとも素敵なお顔ですこと――うふ、うふふ」
 少女――街風・杏花(月下狂瀾・f06212)は、いつもと同じ酔ったような甘い笑いを零して、再び無銘の打刀を抜刀した。最初の一声は彼女なりの皮肉だろう。――なんせ、道なき道を駆け来る奴らには、貌など無い。皆削ぎ落とされて、紅い腐液を垂れ流すのみだ。
 ううう、うぅううぅぅ、ぁああぁあぁああぁあぁぁぁ……。
 山間を足音と共に、不吉な呻きが満たしている。最早どこにも行けなくなってしまった、死したる人の群れに、杏花は甘い声で、しかし冷徹に言い放った。
「どうせ沢山見るのなら見目麗しい敵が良かったですね、なぁんて。……だって、ひと目見れば分かります」
 刀の切っ先を持ち上げて、見透かすように、襲いかかってくる敵を視る。
「あり方からしてただの傍観者。見て、ただそれだけ。なんて、なんて――美しくない。自ら飛び込んでこその浮世でしょうに」
 ――終わってしまった彼らには、それしか許されないのだと知ってはいても。
 杏花は、ただ傍観を続けるその概念を厭うように呟く。
「ね、せめて花に彩れば、そのありようも少しは見られるようになるのではありませんか? 私がお手伝いをして差し上げます。――少しだけ、じっとしていてくださいましね」
 杏花は無造作に踏み出した。敵は五十から成る黒き怪物の一団。真面に正面から当たればその細い腕では到底抗し得まいという戦力比である。だが彼女は止まろうとはしなかった。歩むその身に纏った、オーラのように白く揺らめく炎――『白炎蜃気楼』が、その白き煌めきはそのままに、百合の花弁を形取る。炎の花弁は風に渦巻き、白き炎の花吹雪めいて杏花を守る如く吹き荒れる!
「おいでなさいませ。不肖、街風・杏花が、皆様の死出に花を添えましょう」
 杏花は爆ぜるように跳ね駆けた。襲いかかってくる怪物――『傍観者』達を、斬る、斬る、斬る! 振るう刀だけではない、白炎蜃気楼が変じた花弁の嵐――『百合水仙の嵐』により、ミキサーにかけたかの如くに敵前衛を斬り裂き、引き裂き、その骸を蹴倒し踏み越えて圧し通る!
 美しく舞い踊るように刀を翻す杏花を、全方位からの視線が貫く。細波のように寄せる、生きる力を刮げ落とすような呻き。常人ならばそのプレッシャーと、襲い来る謎の希死念慮の思いに自ら命を絶ったろうが、しかし杏花はその程度では止まらない。今まで、数多くを斬った。数え切れないほどの命を断ってきた。そしてこれからも断っていくだろう。その末に培われた、修羅の自我だ。このような不格好な、美しくない精神攻撃には犯されない。
 一切止まらず戦い続ける杏花に、毒を、呪詛を、腐った血を、爪から迸らせて怪物達が襲いかかる。さしもの杏花と言えども、無傷の侭ではいられない。左右から襲いきた二体の首を一息に撥ねる間に、その後ろから彼女に飛びついて爪を突き立てるものがいる。背後からしがみつくように、彼女の胸を腹をかき抱くようにして毒の爪を立て、その耳に呪いの呻きを吹き込む傍観者。
 言葉もなく、杏花はそれを百合の花弁で滅多滅多に引き裂き、ついでに翻した刀で首を刎ねた。傷口から忍び込んだ毒が、血の中を流れる棘のように身体を苛み、耳元に吹き込まれた呪いの呻きが脳裏に反射して、生きる意思を、生命力を削り落とすように響き続ける。
 しかし。
「あらあら、まあまあ……これはとっても、困りましたねえ。強者必滅の狂瀾怒涛に、蜃気楼の花舞い――どんどん、手札は消えていき……血を蝕む毒に呪縛――嗚呼、」
 その唇は、この窮地にさえ弧を描く。
「これでは、益々不利になってしまうではないですか――うふ、うふふふ!」
 血が抜け、毒に蝕まれた白い顔を、しかし少ない血気で上気させて、杏花はなおも傍観者らへと突撃する……!

成功 🔵​🔵​🔴​

ニノマエ・アラタ
【挟撃】
廃ホテルから多勢で直進できると思うなよ?
ノゾミと左右に別れ林間から敵を挟撃。
木立は遮蔽物として扱い身を隠す場所とする。
武器は九六式。
敵側面より足元を狙い乱れ撃ち、直進を阻み、敵集団を分断。
個体を狙わず、平等にダメージを与えるよう連射。
仲間のフォローなど考えられぬほどの混乱が起こればいい。
治療しあって疲労しまくってもいいぞ?
こちらに気づいて向かって来たら、敵集団へ突撃。
静観や観戦の動きを見せる奴を優先して討伐。
捕食態に噛みつかれたら、傷口から業火噴出。
焼き切ってやるぜ! 延焼、延焼、延焼ッ!
地獄の業火がまだ足りねえと燻ってやがる。
茶々入れてくる敵がいりゃあ、
そいつも燃え盛る地獄へ招待だ。


青霧・ノゾミ
【挟撃】
出し惜しみはしない。いつだって全力!
ニノマエと左右に別れ、木立に潜み、敵側面より攻撃。
敵が眼前を通ったら。タイミングを合わせて。
…空から雹(ひょう)を降らせるよ!
なるべく大きな塊を!
豪雨のように!
敵の頭上へお見舞いだ!
こちらに気づかれたら、氷刃と凍刃をそれぞれ手に持ち。
敵中を抜けてニノマエと合流。
足の速さと素早さを生かして、敵ど真ん中で攪乱攻撃ッ!
マヒの力も乗るように、刃もつ手、
指輪の力を意識して引き出すようにする。
首を切り裂いて、頭をふっ飛ばしていきたいところ。
フォロー行動を起こす敵を優先して倒すことに集中して、
特化個体が出たらニノマエにまかせるよ。
炎は熱いから苦手なんだけどね…。



●氷と業火の供宴
 地面を蹴立て失踪する『傍観者』達。一体一体の質量はただの人間のそれと大差ないが、それが数十体ともなれば当然、地面を揺るがす鯨波となる。
 彼らは亡者。『看取るもの』。死を傍観するものと位置づけられた者達。
 この一団が人里に及べば、それだけで、数百人の人が無為に死ぬだろう。

 ――だから、彼らは許さない。全力で、その道行きを阻みにきた。

「行き止まりだよ」
 進軍する無貌の一群、その横合いより、青霧・ノゾミ(氷嵐の王子・f19439)の凜とした声が響いた。それと同時に空より降り注ぐのは拳大の雹! 天空から降り注ぐ氷の塊は、凄まじい撃力を伴って傍観者達を打ち据える!
 ぅぉおぉぉぉおぉおお……、
 呪うような呻き声が周囲を席巻する。傍観者達は喰らった氷の嵐より逃げるように、跳びはねて後退した。突如として傍観者達の行方を阻む、豪雨のごとき雹のカーテン――ノゾミが巻き起こした、『氷と雪の嵐』である。その攻撃範囲は広く、敵の鼻先を効果的に叩き、進軍を留めた格好となる。
 ほぼ同時にノゾミとは逆サイドから銃声が響きだした。九六式軽機関銃のパーカッシブな銃声。フルオートで、足を止めた傍観者達の足を凪ぐように放たれる鋼鉄の暴風。連射は、特定の固体を狙うでもなく、敵全体を猛撃する形で放たれた。区別も差別もなく、そこにいる黒い亡者達、その全てが射撃対象となる。――ニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)による猛撃だ。
 悲鳴も苦鳴もないが、呪いめいた呻きが一際高まる。脚を凪がれては素早い前進は出来ない。地に縫い止められるように足を止めた傍観者達が、即座に身を寄せ合い、無貌から垂れ流す紅い液体で身体を癒やしあいだすのを見て取るなり、ノゾミは誓いの指輪より溢れ出す魔力を凍気に換えて、地面を蹴って走り出した。茂みを飛び出し、傍観者達へ肉薄する。
 しゃ、りんッ。鞘走りの音を立てて抜き放つ二刀。『氷刃』、そして『凍刃』。いずれも扱いやすいサイズの短刀である。ノゾミはパルクールめいて敵が振るう腕を、脚を、触手を潜り、飛び越え、斬り払って舞い走りつつ、その両手の刃を閃かせた。
 一度振るえば空気が白く軋み、二度振るえば凍てつく凍気が敵の膚を焼く。
 滑るように走るノゾミの刃が、進路上にいる傍観者らを分け隔て無く切り刻んでいく。余りの冷気に、斬られたものは即死せずともその身体を麻痺したように強ばらせた。
 傍観者達もしかし、やられっ放しではない。首を薙がれ即死したものはともかく、それ以外の傍観者らが自らの四肢、臓腑を代償に、別の個体を強化する動きに出る。あからさまに四肢が膨れ上がり、マッシブなフォルムを取る敵が複数体発生する。
「やらせないよ」
 ノゾミは即座に、己を犠牲に他を強化しようとする傍観者を狙って跳ねた。暗殺者さながらの動きで、逆手に持った刃に纏い付いた水滴を氷の刃として伸ばし、短刀のリーチを拡大しつつ、旋風さながらに敵陣を駆け抜ける。一度氷刃閃けば、首が一つ空中に飛んだ。
 しかしてノゾミがいくら速かろうと、敵の数もまた膨大。強化が完了した傍観者――言うなれば特化個体らが、暴れ狂うノゾミに的を絞り、殺到する。だが――
 そうして暴れ狂ったノゾミの役割は囮に過ぎない。派手に場を引っかき回し、アラタが暴れやすい環境を整えたのだ。
「多勢で直進できると思ったのが運の尽きだ。――逃がすわけがないだろう」
 アラタが声低く言うなり、目を煌めかせた。その目にあるレンズには、見敵必殺の呪詛が刻まれている。
 茂みを突き破り低姿勢でのダッシュ。九六式機関銃を連射しながら突撃。弾丸が尽きればリロードはしない。横合いに投げ捨てるなり、アラタは拳銃と妖刀を抜いた。妖刀を、アラタは『輪廻宿業』と呼ぶ。数多の戦場を越え、魔性を得るに至った無銘の打刀である。
 横合いから銃弾を浴びせてくるアラタと、今も支援個体を斬り続けるノゾミ。そのどちらを優先していいか、特化個体達が迷いを見せた瞬間、アラタは拳銃を連射しながら突っ込んだ。頭に三点連射、粉砕即死。身を捲くように振りかぶった刃を力の限りに払い、一撃で二体を斬首、言わずもがな即死!
 反応性、筋力、機動力共に優れた特化個体を、不意を打っての突撃で次々と殺すアラタ。五体が死んでようやく、特化個体らはアラタをターゲットとして認識し、地を、木を蹴って八方より襲いかかる。
 アラタもまた特化個体らの動きに応えるように、銃弾の尽きた拳銃を棄てて、刀を構えた。じゃりり、と伸びた爪にて打ち掛かる特化個体の攻撃を刀にて流麗に受け流し防戦。しかしそれも五体、六体の同時攻撃となれば分が悪い。次第に追い詰められていく。
 何合目の打ち合いか。受け損ねた爪がアラタの腕を裂く。
「つッ……」
 蹈鞴を踏んだアラタに、全方位から特化個体が食いつきに掛かる。無貌の面の内側で、がぱあ、と口を開き、血に塗れた乱杭歯を露わにして、アラタを喰らおうと襲いかかる――
 果たして、牙のうち幾つかはアラタを捉えた。筆舌に尽くしがたい苦痛がアラタを襲う。――だが。その程度の苦痛で、ニノマエ・アラタは止まらない。
「あぁ、控えめにやってよ、ニノマエ……僕は熱いのが苦手なんだから」
 横合いから声。当然ノゾミのもの。
「珈琲屋が熱いのが苦手なんて言ってるんじゃねえ。豆を焙煎する側の人間がよ」
 窮地においても軽口を投げ合う余裕。ノゾミはアラタを少しも心配していないようだった。……その通り。この程度、案ずるような状況でもない。
 アラタは傷口に、意念を込めた。迸る血液に己の力を通わせる。真ッ赤な血からゆらりと陽炎が登り――
 次の瞬間に、爆発的に発火した。――その身より迸る血は『紅蓮の業火』へと変わる!
「焼き切ってやるぜ――燃え尽きろォ!」
 まず、食らいついた特化個体達が、口内に溢れた火焔で身体の中より焼かれ、藻掻く間すらなく爆ぜ死んだ。滴る血は、流れ落ちる側から爆ぜ燃えて猛る。今やアラタは煉獄の魔人であった。
 刀に這い上る紅蓮の炎。火焔を帯びた刀の一閃は、受け太刀に廻った傍観者の爪を、その熱で容易に破断し、一刀両断に斬り裂く。ならばと言わんばかりに五体ばかりが同時にアラタ目掛けて襲いかかるが、それは悪手。
 ――刀に滴る血が、まるで刀身を延長するかのように燃え上がり、
「足りねぇ、まだまだ足りねえってよ……地獄の業火が燻りやがる! 地獄に招待だ、燃えろォ!!」
 アラタは飛びかかる五体を、一筆書きに薙ぎ払うように、中にただ一閃の斬閃を刻んだ。その軌跡を辿るように飛び奔った紅蓮の血炎が、五体の特化個体を一手に薙ぎ払い、その身体に流れる腐った血潮を沸騰させ、空中にて爆発四散させる……!!
 周囲に延焼する炎をバックに、アラタは棄てた拳銃を拾い上げる。
「……派手すぎだよ。熱いのは苦手だって言っただろ」
 呆れたようなノゾミの声。いつの間にやら最後の支援個体を貫き殺し、刃についた汚血を振り払いながら歩いてくる相棒の姿に、アラタは肩を竦めて応じた。
「これを機に克服しろ。次に行くぞ、ノゾミ」
「はいはい」
 九六式を拾い上げ、マガジンを再装填。
 二人は次なる殺界を求め、駆け来る敵第二波目掛け、全く同時に駆けだした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クロト・ラトキエ


――望まれた全てを擲つ様に、剣士としての己を棄てた。

屍越しに何かに見られている様な…
嫌な感覚。

群れの間隙を見切り、回避し縫い駆けながら、鋼糸を延ばし地に這わせ。
地上か樹上か…止まる頃には仕込みは終わり。
互いを強化し合おうと。
共に斃れれば関係無いでしょう?
後は指を動かすだけ。
織り上げる糸の檻、群れへと定める断截、
拾式。

――けれど結局捨て切れていない。
剣は封じただけで手離せず、
暗器だって得たのはあの頃。
生きる為にと揮い続ける技は、
今や転じて業となった。

それでも。
意地だけは張りながら。
傷が痛み血が繁吹こうと、
『自分が出来ることは全てやる』

…けれどこの先。
その『全て』でも足りない時…
己は、如何する?



●答えのない問

 ――望まれた全てを擲つ様に、剣士としての己を棄てた。

 この世全てを呪うような呻きを発して、死者の群れが来る。最早存在しない双眸越しに何者かに見られているような――嫌な感覚がある。
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)はグローブの先から鋼糸を延ばし、擦れ違い様に二体の首を刎ね、姿勢を低く保って駆ける。
 敵の群れに真っ向から突っ込む。クロトの目には、群れの間隙が見えた。どこをどう走れば、最も攻撃を食らいにくいか。敵の関節可動域、その限界を見極め、動線が重なりぶつかる位置を見極める。
 きりりりりり、と音を立てて鋼糸のリールが廻る。鋼糸を地面に際限なく伸ばしながら、クロトは敵の群れの中に突っ込んだ。予見したコースを、そっくりそのままなぞる。降りかかる攻撃は籠手で受け、弾き、ギリギリのところで回避する。
 敵の数は十、二十では効かない。最早瞬刻には数えることもままならぬ無貌の軍勢。これだけの数に正面から突っ込めば、いかに歴戦の猟兵たるクロトとて無傷では済まない。その身体に爪がめり込み、肩口に齧り付く牙があった。血を流しながら、肩口の肉を持って行かれながらも、しかしクロトが足を止めることはなかった。走り続ける。

 ――期待も、嘱望も、この双肩には重すぎた。だから何もかもを棄てたはずだったのに、ああ、僕は結局まだ棄てきれていない。
 懐に隠した剣は封じただけで手放せず、携えた暗器すら得たのは過去、あの頃。生きるためにと揮い続けた技の数々は、今や転じて業となった。
(――呪わしい)
 付いて回る過去を振り棄てたいと何度思った事か。けれど結局それは、クロトには許されなかった。
 意地だけは張りながら。傷が痛み血が繁吹こうと、『自分が出来ることは全てやる』――そして生き抜くと、そう決めたが故。

 クロトは群れを真っ向から駆け抜けた。身体に風の魔力を帯び、敵の爪を、腕を、脚を、牙を、正に吹き抜ける一陣の疾風の如く掻い潜り、最後の一体を回避して、右拳を握る。鋼糸のリールの回転が止まる。
 殺気の数と質の変化があった。背後で複数の個体が力を捧げ、強化個体を作り出そうとするのを、肌で感じる。回頭してもう一度接敵すれば、窮地に追いやられるは必定。
 ――故に、この一撃で片をつける。
 クロトは、力の限り殴り飛ばすように拳を繰り出した。その瞬間、彼がそれまでに撒いてきた鋼糸が、まるで生きているように立体的に浮かび上がる。
 織り上げるは糸の檻。群れを断ち切る死の牢獄。クロトはただ一言だけを発した。
「断截――拾式」
 クロトが殴打めいて引いた鋼糸が、総勢五十超の傍観者達を絡め取り、力を捧げたものも、捧げられたものも――のべつまくなし、慈悲もためらいもなく、声の通りに細断する。
 解体された肉塊は空中で汚泥と化し地面にびしゃりびしゃりと落ちる。その音を背後に聞きながら、クロトは糸を巻き上げて、次なる敵を目掛け、速力を落とさず駆け抜けてゆく。

 ――己の業の全てを尽くして生き抜く。そう決めている胸の内側に、一点の影が落ちる。
 グリモア猟兵は言った。きみたちは、見られている、と。
 全てを使い、この場を切り抜けた後。
 敵にとって、『全て』が既視となった後。
 果たして――己は、どうするのだろう。

 迷いなく進む脚とは裏腹に、クロトの内心は揺れ動く。――答えは出ない。その場に到ってみなければ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルマ・キサラギ
ここで時間稼ぎに走るって事は、まだあの仮面の力は完全に解放できてないはず
急げば全力を出させる前に勝負を挑めるわね
…って、言うのは簡単だけどこの数よ
まったく、往生際が悪いったらないわ

さて、闇雲に狙っても仕方がないわ
全員支援が得意といっても、集団戦では前衛後衛の役割が自然に出来る…
あたしが狙うのは後衛、強化を行って弱体化した連中よ
頭数を減らしたりこっちへ注意をひかせて強化を中断させれれば、
正面からぶつかってる味方が戦い易くなるって寸法よ
立ち木の上を早駆術で跳び回りながらラグナデバイスを起動
周辺をスキャン、派手に暴れて【おびき寄せ】ながら弱体してる敵をピンホールショットで仕留めていくわ



●“タクティック”
 そこかしこで、猟兵達と傍観者達の激突が起こっていた。戦闘は最早佳境に入りつつあるが、その激しさは事ここに及んでいや増す一方である。
「――時間稼ぎに走るって事は、まだあの仮面の力は完全に解放できてないはず。急げば全力を出させる前に勝負を挑めるわね」
 賢察である。宙で不気味な詠唱、或いはあの面との対話を行う狂王の姿を視界の端にとどめながら、アルマ・キサラギ(Bride of Blade・f14569)は手持ちの二挺拳銃――『オルトロス』アインス&ツヴァイに銃弾を再装填。
 味方の猟兵と敵が入り交じる前線に馳せ参じながらもぼやきを一つ。
「まぁ……言うは易し、行うは難しってところだけど。ヤケクソに数だけ揃えちゃって、まったく、往生際が悪いったらないわ」
 アルマの言葉通り、廃ホテルから尽きず押し寄せる軍勢は一向に減った様子がない。それどころか、第一波よりも勢いが増したようにさえ見える。
 尽きぬ敵、空中では今も悪巧みを進める敵の首魁。焦りに駆られそうな状況だが、こういったときほどに落ち着いて動くべきだとアルマは知っている。敵を闇雲に狙っても仕方がない。限られた火力を、最大限に活かして狩りを行わねばならない。
 物量で劣るのならば――錬磨した技で抗するのだ。
(あの黒いバケモノ達……全員支援が得意といっても、集団戦では前衛後衛の役割が自然に出来る。二列以上で駆けてくれば、最前列と後列が必然的に発生するように)
 アルマは鞍馬の早駆術にて、立木を蹴り登り、枝に着地。額に上げていたサングラス――ラグナデバイスを下ろし、情報支援をアクティブに。敵味方入り交じる戦場を、立木の上より俯瞰する。
(狙いは後衛、強化を行って弱体化した連中。――または強化中の連中。前衛同士がぶつかり合う間に、支援をしてる連中が狙い目)
 スキャン条件を音声入力すると、ラグナデバイスが自動的に敵集団をスキャン。アルマの視界の中に、条件に該当する敵が複数体浮かび上がる。
「喰らいなさい!」
 跳ね上げた銃口から、一体に付き二発の銃弾が弾き出された。降り注ぐオルトロス・ツヴァイの銃弾が、針の穴をも通すようなコントロールで次々と傍観者達を貫いていく!
 ぎゅり、と傍観者らの無貌が、アルマを見るように宙に跳ね上げられるが、しかしその時にはアルマは枝を蹴り、次の立木へ跳ねている。空中においても連射は止まぬ! オルトロス・ツヴァイによる連射と、アインスによる一射必殺の強装弾狙撃にて、後方支援を行う傍観者らを次々に葬っていく!
 ――精々意識をこっちに散らすと良いわ。派手に暴れて、気を惹きながら後衛を潰していけば――こっちの前衛が、その隙を食い破ってくれるはず!
 果たして、アルマの思惑は的中した。強化されていない傍観者など、猟兵らの前には物の数ではない。強化が行き届かなくなったところから次々と脱落者が出て、敵の前衛に穴が開く。
 そうなれば、後は猟兵達の独壇場だ。侵徹した最前衛が、後衛を壊滅させ、前から後ろから前衛を挟撃し撃滅していく。
「ビンゴね。――さぁ、まだまだ行くわよ。ちょっと潰したくらいじゃちっとも追いつきやしないんだから!」
 廃ホテルから尚も駆け来る敵目掛け、アルマは味方を先導するように樹上を駆け、次なる敵へ迫る!

成功 🔵​🔵​🔴​

九条・真昼

なんだかめっちゃ親近感湧く奴らが出てきたな、おい。
ネットでもよく見かけるよな、こういう奴ら。
名無し顔無し、ついでにモラルも無いんだな、これが。
でもゲスな視聴者にはゲスな視聴者なりのマナーっつーモンがあんだろ。
静観とか言って実際は手ぇ出してんじゃねーか。
しかも群れてるから余計にタチが悪ィ。
生意気にも回復とか支援しちゃって、リンチにそこまで気合い入れてんじゃねーよ暇人共。

「テメェらは傍観者失格だよ、永遠にROMってろ雑魚が!!」

伝染毒電波で奴らの高速治療を邪魔してやる。
複数同時に治療しようとしても治療対象を赤い液体の当たらない場所に纏めて吹っ飛ばしてやれば意味ねぇよなぁ?

※詠唱罵詈雑言はご自由に



●パラノイア・パペットサーカス
「あンだよ、なんだかめっちゃ親近感湧く奴らが出てきたな、おい」
 自分の血にべたつくシャツにうんざりしたように引っ張りながら、前線へ踏み出したのは九条・真昼(嗤ヒ袋・f06543)である。狂王相手に身体を張った策を仕掛けた後、他の猟兵による治療を経て戦線に再び参じたのである。
 立ち塞がる真昼目掛け、十数体の敵が殺到する。それを前に、真昼は飛び退きながらメタリックグリーンの大型拳銃を跳ね上げる。銘は『Boogie666』。思念を弾丸に換えて放つ拳銃だ。
 ――顔のない敵を見て、抱く親近感とは。
「ネットでもよく見かけるよな、お前らみたいなのをよ。名無し顔無し、ついでにオツムとモラルも無し。流言飛語を撒き散らし、人を見世物にして笑うゲス。わかるぜェ。人のゴシップほど面白ェもんはねぇからなア」
 真昼には分かる。その下衆な楽しみも、快感も。それ自体を否定するものではない。人間の根底には、そういうドス黒い感情が、愉悦があってしかるべきだとすら思う。
 だが、
「けどなァ、テメェら、ちょっとヤり過ぎだ」
 ――下衆には下衆の流儀がある。
「ゲスな視聴者にはゲスな視聴者なりのマナーっつーモンがあんだろ。傍観、静観、観戦、観賞ってなァ――さんざ見るだけってツラしときながら、実際は手ェ出してんじゃねぇか」
 幾多の猟兵が傷つきながら、この敵を討伐している。――自分も今正に襲われているのだ。これ以上の説得力なぞあるまい。
 思念の拳銃を連射し、敵数体を射貫き、足止めを喰らわせながら、真昼は続ける。
「しかも群れてっから余計にタチが悪ィ――アーアー、生意気にも回復とか支援しちゃって、リンチにそこまで気合い入れてんじゃねーよ暇人共」
 嘲るように真昼が言う、その通りに、無貌から垂れ流す紅い液体を塗りたくり、被弾した個体の傷を埋める個体がいる。傷の埋まった個体はその四肢を犠牲に力を他の個体に捧げ、強化された個体は声低く唸って前に出る。真昼は跳び下がりながら、ヘドが出るぜ、と唸った。
「気ッッッッ色悪ィんだよ。見てるだけでいられもしねェクセに傍観者気取ってんじゃねぇぞ!! テメェらは全員失格だ! 永遠にROMってろ、クソザコ共が!!」
 言い放つと同時に真昼はユーベルコードを起動。真昼が撒き散らすのは有害な思念波――『伝染毒電波』である。全てを嘲笑し、嘲弄する真昼から発される思念波は、対象の意思の有無を問わずに作用する。
「どうせ元々死んでんだ。逝ってよしってヤツだろ、なァ!!」
 啖呵と同時に、真昼は毒電波の出力を最大にする。
 ――毒電波に侵されたものは、その意思や思考のみならず伝達系にも支障を来す。――ざっくり言うならば、それは真昼の思うままに対象を操れる、という事だ。
 強化された個体を優先してハック。不格好に脚や手が膨れた強化個体の膂力、脚力をフルに使い、手近な傍観者を攻撃させる。回復を行おうとする者がいれば、その治療対象を吹っ飛ばしてやり回復阻害。行き場をなくした紅い汚液を撒く個体の顔面を、操った個体で叩き潰す。
 手酷い同士討ちを巻き起こしながらも毒電波の感染を広げる真昼は、ニヤニヤと笑いながら、傍観者同士の殺し合いのど真ん中で、腕を広げて哄笑する。
        テメェ
「そぉら、これで傍観者らも当事者だ! 踊れ、踊れ、死ぬまでバカみたいに踊りやがれ、ハハハハハッ!!」
 呪わしい呻きと黒き汚泥舞う戦場で、真昼の声だけが高らかであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白斑・物九郎
●POW



あの赤い液体
ありゃ『血』か

あの躯体
ありゃ摩滅した『魂』の成れ果てか

下策でしたわな、狂王?
俺めの目の前に剥き出しの血と魂とを揃えて並べて晒す愚行、手勢の全滅を以って思い知らせてやりまさァ

デッドリーナイン、ナンバーワン
ザ・レフトハンド――【グールドライブ】!

教えてやりまさァ
ワイルドハントは死者を掻ッ攫う風の名だ!


・【野生の勘】で敵布陣の展開を察知
・囲まれぬよう敵群内を【ダッシュ】で機動、一撃一殺見込、血と魂を喰らう(吸血&生命力吸収)左手の刻印で、敵を薙ぎ・穿ち・喰らう

・まず敵SPDorWIZ影響下に無い未強化個体を狙う
・己の強化の程度を見つつ、敵SPDorWIZ影響下にある敵も積極に照準



●死霊の天敵
 ぴくり、と耳が跳ねた。
 駆け抜けてくる敵勢力の気配を聞きつけて、金眼がギラリと光る。

 遠く、呻きと共に駆けてくる、数十体もの『傍観者』達。顔のあるべき場所は今や削り取られ無貌、創傷面からは尽きることなく赤い、饐えた匂いのする汚液が溢れ出る。いつまでも、いつまでも。

 ――あの赤い液体。ありゃあ、『血』か。

 黒き膚。ひょろりと長い、変形した手足。背中からザワザワと伸びた気色の悪い触手。『おおよそ人の形をしたなにか』としか表せない、怪物めいたシルエット。

 ――あの躯体。ありゃあ、摩滅した『魂』の成れ果てか。

 敵の正体を確認し、黒猫はニィイッ、と唇を吊り上げて笑った。
 数的戦力比、あの先触れとだけで五十数対一。誰がどう見ても絶望的な戦力差なのに、彼の笑みは崩れない。
 狂王、下策を打ったり。
 この嵐の王を前にして、剥き出しの血と、迷える魂を揃えて並べて晒すとは、お膳立てを全て整えてくれたようなもの。

「そこで指を咥えて見てなせェ。イネブ・ヘジの賢王が聞いて呆れる、知らないならば教えてやりまさァ――」
 誇るが如く高らかに、彼は――白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)はその左腕を突き上げた。
「ようく覚えておきなせェ。“ワイルドハント”は、死者を掻ッ攫う風の名だ!」
 ご、おうっ!
 左手に宿した白虎縞模様の刻印――『ザ・レフトハンド』が唸りを上げ、白く輝く。それはレフトハンド本来の性質そのもの。最も純粋で飾りのない能力発露。
 ――デッドリーナイン・ナンバーワン。『グールドライブ』!
 起動と同時に物九郎は爆ぜ駆けた。襲いかかってくる五十数体の敵勢の狭間を低姿勢で駆け抜け、未強化の個体目掛け握り固めた左拳を叩き込む。
 グールドライブは、他者の血と魂とを吸い上げる左腕。その二つが今や剥き出しとなり、存在外殻の定義すら曖昧となった怪物共など、格好の獲物に過ぎぬ!
 一打にて顔面侵徹、貫通粉砕、暴食吸収! 飛び散るはずの汚泥さえ残さず飲み込み、物九郎は血と魂を己が力へ転化する。繰り出される攻撃には躊躇いも容赦もない。拳打、手刀、爪撃、一打一殺の嵐のごとき攻勢。一体倒すたび、血と魂を吸い上げ、物九郎は鮫の如く笑う!
「ハッ――絞りッカスみてぇな量ですわな! こいつァ鱈腹平らげねぇといけねェや!」
 振り回す左腕は、一体喰らうたびその重圧を増す。最初は未強化個体を優先して狙っていたが、すぐにより強い魂と血液を求め、強化個体に狙いをシフト。異形の爪を、歪に盛り上がった腕の筋肉を、膨れ上がった脚を使った打撃それぞれを、真っ向から左拳一つで『噛み砕き』『飲み下し』、打撃を喰らって跳ね飛ぼうが、次の瞬間には復位し、ケモノさながらの動きで再び襲いかかる。
 ――嵐がそうであるように、見る間に物九郎は勢力を増した。やがて振るうその腕は軽い薙ぎ払いで数体をいちどきに屠るまでになる。
 今や彼の左腕は、そう、ケモノそのもののような、獣化した状態へ変じ。
 より多量の魂を、血液を求め、刻印がその下でギラギラと光を漏らす。
「ワイルドハントは死者を攫う概念。お前さん方みてェな迷える亡者の天敵たぁこの俺めの事よ。――恐れろ!! 俺めを、この左腕をォ!!!」
 その場にいた五十体余りを瞬く間に食い荒らし、物九郎は即座に黒き風めいて前進。更に次の敵トループに接敵――前衛が構える前に、その身体を腕の一振りで薙ぎ斬り喰らい尽くす。
 暴れ狂うは嵐の王。狩り場に放たれたワイルドハントを止めることの出来る怪物など、いはしない……!

大成功 🔵​🔵​🔵​

桜雨・カイ
……こんな。
どうしてこんな酷いことができるんですか?

なぜ人をこんな風に扱えるのか理解できません。
それでも、今できるのは彼らを救うこと。
【援の腕】発動
見ているのなら見つめ返します。
あなた達は人間です。これ以上誰も傷つけさせません。

『もう、苦しくないですか?』
この問いに満足した答えを得るまで、光を放ち続け彼らを浄化します。
同時に【念糸】を張り巡らせて彼らを一カ所に集めず散らすことで、できるだけ支援をさせないようにします。

それでも仲間が危険な時は直接触れます
痛みは【激痛・各耐性】で受けます
こんなもの、彼らの苦しみに比べたら…っ。

『もう、苦しくないですか?』もう一度、問います
望む答えが返るまで。



●優しい光の降る頃に
 嗚呼――
 死者が征く。
 死んでしまった人間たちが、生者を羨み行進する。誰ソ彼の葬列。最早、誰も彼も、生きていた時の貌を持たぬ。無貌、紅い液体に塗れた貌。男だったかも知れない、女だったかも知れない。だがいずれにしても面影はない。醜悪に変形した奇妙に長い四肢と、身体からうぞうぞと伸びる悍ましい触手が、彼らの全てだった。
「――こんな……どうして、こんな、酷いことが出来るんですか?」
 衝撃を受けた猟兵もやはり少なくはない。桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)もまたその一人であった。
 なぜ、人間をこのように扱えるのだろうか。カイにはそれが理解出来ない。彼らの一人一人が、かつては息をして、笑い、愛するものと過ごし、日常を享受していたはずだ。それを、完膚なきまでに破壊し、命を奪い去り、有り様を歪めて餓鬼以下の怪物に堕し、徹底的に尊厳を貶めた。全てあの狂王と、そのシンパが成した非道だ。
 カイには、その理由が分からない。なぜそのように、無辜の人々を踏みにじれるのか。平気な顔をして――人を傷つけ得るのか。優しい人形には、きっと永遠に分からないことだ。
 だからカイは、理解しようとするのを放棄した。
 うううぅぅぅぅう、うぅぅぅ……
 細波のように押し寄せる傍観者達の呻き声が、カイの耳にもまた届く。カイは、自身に向けて迫る十数体の傍観者達に真っ向から向かい合う。
 傷つけるもののことを理解しようとするよりも、傷つけられたものに寄り添いたい。
 それが、カイが下した結論だ。
「あなた達は、人間です。……もう、僕は……これ以上、誰も傷つけません。……傷つけさせません」
 穏やかな口調で言いながら進むカイに、傍観者達が襲いかかった。
 当然だ。今や、彼らは命無き亡者。在り方を歪められ、生きとし生けるものに牙と爪を立てる、腐肉と汚泥の塊。その彼らに、今更どのように語りかけたとて、帰ってくるのは呻きと攻撃だけだろう。
 無駄かも知れない。徒労に終わるかも知れない。……けれど、それでも。
 カイは、その道を曲げようとはしなかった。
「あなた達を照らします。せめて、真っ直ぐに。迷わず、人として天に昇れるように。――この光を見て。きっと、しるべになります。あなた達が向かうべきそらの、道しるべに」
 カイの両腕から光が溢れた。ユーベルコード、『援の腕』。包み込むような白く優しい光は、浄化の光。不浄を祓うのではなく、包み込み浄なるものへ変ずる光だ。
 痛かっただろう。辛かっただろう。カイはその悔悟に思いをはせながら歩んだ。光にて傍観者らを照らしながら進む。光を強く浴びた傍観者から順に、耐えきれぬようにぼろぼろと崩れ、呪肉としての身体を失い、昇華されていく。中にはその光を厭うように、爪を振るうものがいた。牙を立てるものもいた。カイはそれを、傷つけぬように念糸で拘束し、可能な限り避けつつ、――しかし決して破壊することなく、浄化しながら歩む。時には、もろに攻撃を食らうこともあった。しかし爪を立てられて尚、カイは爪を振るった敵手に優しく触れ、浄化の光をその身体に齎す。
 ――もう、苦しくないですか。
 カイは何度となく問いかける。それに答える個体はなかった。とうの昔に舌は失われ、彼らは言葉を発することすらままならない。ただ、呻く声が帰るのみ。
 此処には、救いなど無いのか。
 いや、縦しんばそうであったとしても曲げぬ。
 カイは、望む言葉を聞けるまで、その鋼鉄の意志を曲げることはない。傷つけず、浄化し続けるのみと己に課し、第一陣を切り抜けたあとも、自分が傷つくのにも構わず――この程度の苦痛、怪物となった彼らの苦しみに比べれば何ほどのこともないと――浄化の光を伴って歩き続けた。

 傷つき、血を流し、幾度も折れそうになったその涯て。

「もう、苦しくないですか」
 ――くるしくないよ。
 ――ありがとう。

 優しい人形が聞いたのは、果たして現か、幻か――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァーミリア・ランベリー

「王サマは控室で衣装替えかしら。でも、」
「代わりのオーディエンスが来たみたい。ほら、こっちを“見ている”っぽいし」
「動員数としては、ちょっと足りないかもだけど?」

𝄞――太陽が沈む それは夜会(ライヴ)の開幕

 歌唱が始まる。死が蠢くこの戦場にあっては、無論ただ歌うのみに非ず。それは攻撃と同義。
 唄のリズムに合わせ運動を加速――アタックは牽制、スタッカートは回避、そしてスクリームは極大の一撃。曲が終わるまでは止まらない。

「私が場繋ぎだなんて、贅沢なステージだわ!」

行動:歌唱に合わせた徒手空拳による乱撃
備考:歌の詳細は必要ならステシ一言欄参照



●リクエストナンバー・『オールナイト・フィーヴァー』
 狂王は未だ、宙で気味の悪い仮面と対話をしている。禍々しい未知の言語にて行われる対話が、閑静な山間を完全な異界へと変えていた。それを見上げてふん、と鼻を鳴らす少女が一人。
「王サマは控室で衣装替えかしら。でも、」
 ひらりとスカートを翻して一転。ヒールをカツンと揃えて、顎を聳やかし見る遠方に、幾つも奔る影がある。
「代わりのオーディエンスが来たみたい。ほら、こっちを“見ている”っぽいし」
 十、二十、三十。まだ増える。黒い肌をして、貌から止め処なく腐った血を流し続ける異形の怪物達。
 そいつらには、あるべき場所に貌がない。貌を削り取られ、苦痛と絶望を搾り取られ、王を呼ぶ餌にされた人間達。その絞りかす。貌が存在しないのに、なぜだかこちらを『見ている』と分かる、異様な圧を持った怪物である。
       ライヴ
「……私が唄う夜 会にしては、動員数がちょっと足りないかもだけどね?」
 少女は――ヴァーミリア・ランベリー(イミテーションルビィ・f21276)は、自信たっぷりに笑って、すうと息を吸った。
 圧倒的な声量。彼方まで届くような大きさながらに、耳元で囁かれたほどに蠱惑的な。悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、そして恋のように甘い声。

     ――太陽が沈む それは夜会の開幕
     唐紅色のVampirish Night

 紡がれる歌声。音階はポップミュージックのそれ。格式高いのよりこっちの方が私に似合うの! とは彼女の弁だ。アカペラなのに伴奏が聞こえてきそうな歌い出し。ヴァーミリアは爪先でリズムを取り、踏み出した。
 人ならば或いは聞き惚れ、足を止めたやも知れぬ。しかし生憎今回の聴衆は腐肉と汚泥より鋳造された『傍観者』。彼らに諧謔を解する心はなく、唄うヴァーミリアを殺すために駆け来るばかりだ。
 ――その程度、分かっている。死と亡者が蠢くこの戦場だ。歌だけで切り抜けられるほど甘くないと知っている。故にヴァーミリアが行使するのは、歌唱格闘術『血飛沫の狂詩曲』。

     駆け寄るように 跳びつくように
     逃がさない 途中退場はNG

 歌い上げながら、符割りをなぞるように、或いは裏拍を取るようにヴァーミリアは舞い踊る。ステップ、一転、間近に迫った傍観者を刃と化したスカートで薙ぎ斬り、蹈鞴を踏んだその個体の顎に、鋭い爪先を叩き込んで射貫く。
 歌は止まない。歌のリズムをなぞり、否、時折決まり切ったリズムにフェイクをかけてアドリヴをキメながら、彼女の声は益々冴え渡る。
 その声が強く響けば服の裾が刃となって伸び敵を牽制。跳ねるようなリズムに乗って、敵の攻撃を回転しながらのステップ回避。動きは、唄の盛り上がりに合わせて加速する!

     狂えるほどに 呆れるほどに
     腕を振れ コールももちろん忘れずに!

 敵の視線をカメラになぞらえ、ステップ・ターンから、首を傾げての完璧なウインク。
 その一瞬後には首を跳ね飛ばす死神の鎌めいた蹴撃が唸る。
 ヴァーミリアは一瞬たりとて止まらない。
 然もあらん。
      ステージ
 アイドルの 戦 場 とはそういうものだ。
 舞い踊るヴァーミリアに、オーディエンス――傍観者達が集る、集う。
 それを煽るように、ヴァーミリアは幼くも蠱惑的に唇を歪める。
「――私が場繋ぎだなんて、贅沢なステージだわ! ――さぁ、付いてらっしゃい!」

     Midnight fever! さあ、この唄に惚れなさい
     体力配分なんてナンセンス お祭りなんだから
     Overnight fever! 惚れたなら次は推しなさい
     同担拒否は当然ノーセンス だって同じファンだもの

 MC直後の殴りつけるようなサビ。
 襲いかかる敵の爪を、牙を、間断なく避け弾きながら、歌い上げるヴァーミリアの動きは回避偏重。苛烈なサビのテンションのまま、攻撃を防ぎ、防ぎ、防ぎ、溜めて、溜めて溜めて――

 一瞬の沈黙、斬り裂くようなブレス、

『――Make a night……!!!』

 ――スクリーム!!!

 まるで床運動めいて回り、飛び、跳ね、身を翻し躍らせるヴァーミリアの軌跡を、なぞるように伸びた『オールナイト・クロス』が追う! 縦横無尽のダンスに付き従う刃めいた衣服の裾が、まるで生きているかのように伸びて敵を追い、その悉くを切り裂く……!
「――アンコールはご入り用?」
 シャウトの尾が消える頃、スカートをつまんで一礼するヴァーミリア。
 斬り裂かれたことに気づいたように――傍観者達が、汚泥と化して四散する!

大成功 🔵​🔵​🔵​

赫・絲


……顔もなくちゃ、もう誰であったかも判らないね。
コイツらにしたってもう誰であったかなんて覚えてないだろーけど、
だからって利用していいなんて道理はないでしょ。
あーもう、ほんと胸糞悪い!

とにかく数を減らしてかなきゃね
相手もバカじゃないみたいだし、協力してこられたら足元掬われそう

白藍、白藍。お出で、力を貸して。
呼ぶは契交わした雨の精霊の字
これだけ数がいるなら多少暴走しても丁度いいかも、なんて
対象は見える範囲の全て、【属性攻撃】と【範囲攻撃】でその力を最大まで押し上げ、一帯に篠突く雷の雨を降らせる

一滴一滴は大したコトなくても、これだけ降ればどう?
さあ、黄泉送りの雨だよ。存分に流されて、今度こそ逝け。



●再殺の雨
 奇怪な動きで駆けずる『傍観者』達。黒い膚は腐肉と汚泥で出来ている。顔のあるはずの位置は無貌。削り取られて、止まらぬ腐血を長し続ける。一体一体に微細な違いあれど、個体識別をすることは最早不可能だ。
 もう、その骸達を誰であったか認識して、弔ってやれる者はこの世にいない。
 そう――彼ら自身でさえも。
「……確かにコイツらにしたって、もう自分が誰であったかも覚えていないんだろうね」
 呟く少女へと迫り来る、怒濤の如き怪物の群れ。十、二十では効かぬ。遠目に見れば、最早それは黒い波に見えるほどだ。
 ――忘我と自失。アイデンティティの喪失。『者』だった誰かが『物』という何かになること。極論、死んでしまえば遺体はただの有機物の塊だ。
 しかし。だからといって――
 それは爾後の冒涜が許されるという事ではあるまい。
「もう、眠ってたはずなんだ。この人達だって。確かに命が終わってしまえば死体はモノに過ぎないけど。――だからって、利用して好いなんて道理はないでしょ。あーもう、ほんと胸糞悪い!」
 苛立たしげに呟くのは赫・絲(赤い糸・f00433)。決してウェットな性格の少女ではなかったが、この惨状を前に淡々と動けるほどにドライでもない。
 バグを起こしたゲームソフトのキャラクターめいて、腕や頭を出鱈目に振りながら駆けてくる傍観者達を前に、絲は短杖をしゃん、と構える。
 縁断之葬具が一つ、白藍。糸が契約を交わした雨の精霊が、短杖の形を取ったものだ。
「白藍――お出で、白藍。力を貸して。あの迷い子達を葬送ってあげよう」
 応えるように白藍が光った。靄めいた蒸気が宙に凝り、それは瞬く間に低空を覆う雲となる。
「これだけ数がいるんなら、ちょっとくらい暴走するくらいで丁度いいでしょ」
 絲はその身体より溢れる魔力を、迷いなく術式に突っ込む。暴走したところで、どうせ見渡す限り敵の群れ。悪い方に転ぶことはない。
 走り来る傍観者達から、詠唱を続ける絲に向けて視線が突き刺さる。
 傍観する視線。精神を刺し貫くような、好機、嫌悪、他様々なもの。プレッシャーを伴うその『視線』は、人から生きる心を削ぎ取ってしまうのだという。
 ――だが絲はそれを鼻で笑う。
 赫の家に生まれ、絲である事を定められ、その人生の端々まで握られた彼女が、ほんの僅か掴み取った『今』。
 それをこの有象無象共の視線で、擲つことが出来ようものか。――出来るわけがあるまい。
 ぱり、ばりり、と、低空をヴェールめいて覆う雲に雷走る。
 雨の精霊たる白藍に雨雲を呼ばせ、それに自らの魔力で雷を走らせる。その結果、生まれるのは一面を覆う魔力の雷雲!
「荒れろ、雷霆」
 絲は間近に迫った敵の群れ目掛け、真っ直ぐに腕を振り下ろした。
 紫電が、雷雲と地を繋いで、その狭間に囚われた傍観者達を貫いた。
 その捕捉範囲は絲の視界の及ぶ全て。範囲が広い分、その威力は減ずるが――雷撃は一発では終わらない。……それは厳密には雷撃ではなく、『雨粒に宿った雷』。妖しい紫電を纏う篠突く雨!
 悶える敵目掛け、空気の爆ぜる音を立てて雷雨が注ぐ.一滴一滴の威力はなるほど大したことはあるまい。しかし、それが尽きず降り注ぐならば、その雨雷は怪異をも穿つ!
 駆け来た傍観者達は皆一様に転げ、降り注ぐ雷の驟雨に打たれて焼け焦げ、死んでいく。汚泥に変わり、雨と混じり、地に染みる。
「さあ、黄泉送りの雨だよ。存分に流されて、今度こそ逝け」
 傍観者を再殺するその光景から決して目を逸らさず――絲は、雷雨の向こうより迫る新たな敵の群れへ、今一度戦いの構えを取るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

有栖川・夏介

虚ろなるもの、今はもう生命なきもの―
処刑人として、死者はあるべき場所に還しましょう。
「さあ、次は目覚めぬ永遠のさよならを。……いきます」

処刑人の剣を片手に装備し、敵一人一人の首を刎ねていきます。
回復などの支援の隙を与えないように、目立たないように、素早く、正確に。(早業、暗殺)
敵の攻撃は、回避するよりも防御で対応。(オーラ防御、武器受け)

自身や味方が敵に囲まれてしまったら【血を欲す白薔薇の花】を発動させ、範囲内の敵を一斉に攻撃して散らす。
「……紅く染まって散れ」
こちらのUC攻撃で敵を怯ませることに成功したら、その隙に敵と距離をとり、立て直しましょう。



●処刑人の白薔薇
 有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)は、前述のように処刑人の家系に生まれた。
 死には慣れている。……そしてこの仕事柄、死に損ないにも慣れていた。
「虚ろなるもの、今はもう生命なきもの――処刑人として、死者はあるべき場所に還しましょう」
 厳かに謳い、夏介は今一度処刑人の剣を抜剣。切っ先のない剣を両手に構えながら姿勢を低める。
 森を直走る亡者の群れは、その数五十に及ばんとする数。しかし、処刑人が咎人を恐れることはない。
「……さあ、次は目覚めぬ永遠のさよならを。……いきます」
 夏介は、山間を駆け抜けるその群れを、茂みから飛び出して側撃した。
 頭やら腕やらを出鱈目に振って、奇怪な体勢で駆ける『傍観者』達であったが、全く不意に駆け出た夏介に対する反応が遅れる。一瞬だが大きいそのアドバンテージを、夏介が逃すわけもない。処刑人の剣を振るい、一閃放つたびに一つの首を落とし、夏介は敵の群れの中を流々と駆ける!
 七体が汚泥に還り地に染みる頃、漸く数体が反撃に転じる。その手先が変形し、じゃりりと爪が伸びた。生者に突き立てるための爪だ。夏介の間近に迫った一体が爪を振り翳し、その秀麗な眉目を裂かんとばかりに振り下ろす。
 しかし銀閃一条。振り下ろされた黒い爪より、後に放たれた夏介の剣の一撃の方が尚速い。傍観者の腕が半ばから断たれて飛び、くるくると回って宙を舞う。腕がドサリと落ちる前に、首がその後を追った。
 夏介に躊躇いはない。その技は冴え渡るばかりだ。
 止まった罪人の首を落とすのですら修練と技量を要するというのに、動く、しかも怪物の首を、静かに、素早く、正確に落とすとは如何程の鍛錬か。
 四肢を捧げ、他の個体を強化せんとする個体を斬り、或いは強化され襲いかかろうとした個体の首を飛ばす。処刑人は敵のただ中で刃を振るい、首を刎ねて回る。その光景ときたら、宙に浮く首と踊っているかのようだ。
 ううぅぅぅううぅぅ……!!
 威嚇するような呻き。強化された個体が夏介へ打ち掛かる。凄まじい膂力と硬き爪による一撃。夏介は剣に闘気を込め、真っ向から爪を受けた。火花とオーラの光が散り、さしもの夏介と言えど圧され、地面を踵で削りながら飛び下がる。背後を取られぬように戦っていた夏介だが、この防御における一瞬の停止が包囲を招いた。
 周囲を取り囲む傍観者達が、最早亡い眼から、夏介目掛けて『視線』を注ぐ。生きる意思を削り、希死念慮で対象を雁字搦めにするユーベルコードだ。
 ……しかし、
「……死ぬのは私ではありません。あなた方です」
 幼き頃より死に触れ、この迷える亡者共を再殺しに来た夏介が、今更その程度の念に触れたところで迷うわけがない。
 夏介は腕を打ち振った。処刑人の剣がその先端から白薔薇の花弁に変じ、不意に起こった旋風に撒かれて花嵐となる。
「紅く染まって散れ」
 ――ユーベルコード、『血を欲す白薔薇の花』! 吹き荒れる白薔薇の花弁は、その実その一枚一枚が血を求める刃! 旋風に乗って前後左右、周囲の敵を分け隔てなく、花弁の嵐が切り刻む! 紅い腐血が、黒い汚泥が舞い散った。限界を迎えた者から順に、傍観者らは呻きを残してただの汚泥に還り、地に染み入っていく。夏介は花嵐を纏ったままに飛び退き、手を高く上げた。無数の花弁が収束し、処刑人の剣として再度結実する。
「――灰は灰に、塵は塵に。さながらあなた方は、泥は泥に、といったところですか。この世に別れを告げた者から、前に出なさい」
 処刑人は謳う。
 首切り剣を引っ提げて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エルネスト・ポラリス

数が多いですね。
シンプルに物量のある相手が、互いの傷を癒しながら襲いかかる、中々難しい状況かもしれません。
が、背後には無辜の人々が暮らす人里。
これを【かばう】ことができずに通してしまえば、有能でイケメンで優しくて格好いいお兄ちゃんとしての地位は地の底!
強引に、ねじ伏せさせてもらいますよ!!

UCで強化された身体能力で斬りこんでいきます。
多勢に無勢、ですが、だからこそ適当にフック付きワイヤーを振り回しても誰かには当たりますね!
敵UCが曲者ですが……つまり、赤い液体が仲間に命中しなければいいんでしょう?
瞬け、ルミネセンス。
聖者でもない私の光は眩しいだけですが、だからこそ目晦ましには良いでしょう!



●兄の矜持
 ――とにもかくにも、数が多い。
 廃ホテルから尽きること無しに湧き出てくる『傍観者』らを、次から次へと撃滅していく猟兵達だったが、彼らが以下に歴戦の猛者と言えど、これは極めて難しい状況であった。
 一撃で倒せたならばともかく、多少の傷は相互に治癒し、しかも互いに支援を行い強化された個体を作り出す能力まで持っている。一体一体なら有象無象の塵芥だが、それがこれだけの物量を備えて襲ってくれば、楽勝とは行かないのは目に見えている。
 しかも、一体とて人里に通してはならない縛り付きだ。全ての猟兵が全力を尽くし、事に当たっていた。
「……いかに難しかろうとも、私達が盾にならなければ、きっと誰かの涙が流れるでしょう。無辜の人々の過ごす人里に、このような災厄を招く訳には行きません」
 エルネスト・ポラリス(それは誰の夢だったのか・f00066)は独り言ちる。それはただの独り言ではなく――確認、或いはある種の証明であった。
「彼らの平和を守れなければ、有能でイケメンで優しくて格好いいお兄ちゃん賭しての地位は地の底にまで落ちてしまう……! それは承服できません。全力で、強引に、ねじ伏せさせてもらいますよ!」
 ユーベルコード『背中を見られる者の義務』。エルネストには三人の弟妹がいる。彼らを守る為、エルネストは常に完璧な兄たらんとした。このユーベルコードはその表れ。兄としての意地を通す為に逆境に挑むとき、彼の身体能力は著しく強まる!
 身体能力を増幅し構えを取るエルネスト目掛け、傍観者の一団が襲いかかる。その数、軽く三〇以上!
「行きますよ……!」
 多勢に無勢は調子の上。ハナから、一対一でのまともな戦いなどするつもりがない。
 E800をドロウ、先頭の三体を固め撃ちし、頭を粉砕して仕留める。弾の切れたリボルバーは再装填せずにホルスターへ突っ込み、銀の仕込み杖を抜剣。
「せやぁっ!!」
 大型の仕込み杖すら片手で容易に扱う膂力。踏み込み、ガードに回った傍観者を腕ごと斬り捨て真っ二つ。身を翻しての胴薙ぎ一閃でもう一体を斬り倒す。数メートル先より間合いを詰めてくる敵目掛け腕を一閃!
「これだけいると――的に事欠きませんね!」
 手から投げ放たれたのはフックロープの鍵付き分銅! 重量のある分銅が、襲いかかろうとした個体を捲き締めて終端をロック!
「はあぁぁぁあっ!!」
 裂帛の気合と共に、増幅した身体能力をフルドライブ。エルネストはフックロープの根元を握ったまま腕を引き――そのまま、思い切り身体を廻した。
 捉えられた個体が身悶えする間もないままに宙に浮く。
 エルネストはそのまま敵を巨大ハンマーめいて振り回し、周りを囲むように布陣する十数体を巻き込み、纏めて大木に叩き付けて粉砕する!
「――まだですっ!」
 一撃で全員撃破とはいかない。巻き込んだ者にも即死せず生き残る者が数体いる。即座にフォローする為に複数の個体が集まり、無貌より腐液を迸らせ、傷を癒やそうとする、その刹那。
「――瞬け、ルミネセンス!」
 カメラのフラッシュを長く焚いたような閃光、それも立て続けに数度! 発したのは言わずもがなエルネスト。その身体に宿る残光、『ルミネセンス』による目眩まし!
 光そのものに害は無く、ただ眩しいだけの小手先の攪乱だが、それが敵の視覚を奪い、逡巡の隙を作る。
 エルネストは両手で仕込み杖を構え、突撃。強化した身体能力で敵を斬り、斬り、斬り倒し、飛びつき反撃してくる個体を獣化した左腕で粉砕!
 敵の一団の間をエルネストは疾風めいて駆け抜けてブレーキ。剣にこびり付く汚泥を振り払い、銀の刃を鞘に収める。
 鞘と刃元がぶつかる音と共に、その背後で斬られた傍観者らが一斉に汚泥として崩れ、散華。
「――私はあの子達の、一等格好いい『お兄ちゃん』ですからね。不可能なんてありません。――守り切って見せますとも」
 発する言葉は自信か、或いはそう自らに言い聞かせる大言壮語か――
 余人には明らかにならぬ。しかしただひとつ確かなことは、――エルネストが更に襲い来る大群目掛け、今一度仕込み杖を構え直したことである!

成功 🔵​🔵​🔴​

六波・サリカ
暗裡といきます

随分とグロい見た目の生命体ですね。いえ、生命ではないのでしたか。
死者への冒涜を許すわけにはいきません。
彼らを還すため行きますよ、暗裡!


暗裡、作戦を話します。
私が無差別範囲攻撃を放って敵を弱らせます。
残念ながら暗裡も巻き込んでしまうので防御してください。

全ての電力を使うので、私はしばらく動けなくなるでしょう。
戦場にて動かなければそれは的に等しい。
つまりは私が囮になるので暗裡は弱った敵をなぎ倒してください。


奴らが近づいて来たようですね。
もう猶予はありません、任せましたよ!

ジャッジメント・ロア!急急如律令!!


幽世・暗裡
サリカと

パリピ共がバカ騒ぎするハロウィンはまだ早いと思いますがぁ、
随分と賑やかになってるじゃないですかぁ

へ?
ま、まだぁやるんですか?
寧ろ、あいつらよりアタシを還してくださいよ。家に。

ちょ、ちょっと待つんですよぉ?
その作戦には突っ込みどころが多々あると思わないですかぁっ!

……ってもう来ちゃうんですかぁ!?
そして、サリカももう行っちゃうんですかぁ!?
あ~、もう……
こうなれば出たとこ勝負っ!
とっておきの秘蔵技、見せてあげますよぉ
アタシがなんとかしないと、サリカが危ない……きっとできる筈!

【オペラツィオン・マカブル】でサリカの攻撃を防ぎ、残敵に向かって攻撃
後は、動けなくなったサリカの方へ向かいじたばた



●ライトニング・リフレイン
 押し寄せる亡者の群れ。全身真っ黒黒尽くめ、見ようによっては黒い全身タイツを着込んでいるように見えないこともない。顔のあるはずの位置には趣味の悪いコトに真っ赤っかの血糊。
「パリピ共がバカ騒ぎするハロウィンにはまだ早いと思いますがぁ、随分と賑やかになってるじゃないですかぁ」
 ――ああ、仮装だったらよかったのに。残念ながら血潮は本当に腐った血だし、黒い肌は腐肉の色だ。幽世・暗裡(ここにはダレも・f09964)は軽口を叩きつつ、押し寄せる敵勢を見る。先程相手にしていた狂王と異なり、数がいるとは言えプレッシャーはそこまでではなかった。限界ギリギリだった先程よりは随分と顔色がいい。
「随分とグロい見た目の生命体ですね。いえ――もう生命はないのでしたか。……死骸を弄う所業を、死者への冒涜を許すわけにはいきません」
 暗裡の横ではっきりした口調で言うのは六波・サリカ(六波羅蜜・f01259)。この修羅場に安里を誘った張本人であり、つい先程まで空を一緒に飛んでいた戦友である。
「彼らを救い、死後の安寧へ還すため――行きますよ、暗裡!」
「へ? ま、まだぁやるんですか? てっきりさっきの空中戦でアタシ達の仕事は終わりかと思ってたんですけど? 還すっていうならぁ、あいつらよりアタシを還してくださいよ。家に」
「では作戦を話します」
「聞いてましたぁ?????」
「ええ。一部だけ」
 文字単位で。
「それは聴取じゃなく改ざんって言いませんかぁ?」
「必要な処置でした」
 サリカは鉄面皮の色を僅かにも変えず、眉を全く動かさずに暗裡の戯言を受け流す。というか、目的遂行の上で暗裡が及び腰になると大体この調子である。それに暗裡が押し切られ、乗りかかった炎上船の上でタップダンスを踊らざるを得なくなる、というのがいつもの流れだ。今回もその構図は動かない。サリカは真っ直ぐに指を前に向ける。その先には猛スピードで、頭を手を出鱈目に振り、奇態そのものといったフォームで走ってくる傍観者の軍勢がいる。
「とにかく。まず私が、あの向かってくる一団に向けてですね」
「はあ」
「無差別範囲攻撃を叩き込みます」
「はい は? 無差別ってサリカ、それ、アタシも巻き込むとか言いませんよねぇ?」
「残念ながら暗裡も巻き込まれます。そこはなんとか防御してください」
「こんな前提から前のめりに破綻してる作戦初めてぇっ!! ちょっと待つんですよぉ!! その作戦には突っ込みどころが多々あると思わないですかぁっ!?」
「私はその無差別攻撃にほぼ全ての電力を使いますので、攻撃後はしばらく動けなくなるでしょう」
「突っ込みどころまだ増やすんですかぁ?! う、動けなくなった後はどうするつもりなんですかぁ!」
「戦場にて動かなければそれは的に等しい。動けなくなった私を目掛け、弱った敵が殺到することでしょう。その状態では私は吊り下げられた餌と同じ――つまりは囮です。そこを狙って――」
「狙っ、て……?」
「暗裡が弱った敵をなぎ倒してください。必殺技で」
「またむちゃくちゃ言う!!! なんですかぁ、アタシの限界を試す仕事でもしてるんですかぁ?! それ時給いくらです?!」
「ちなみに奴らはどんどん近づいてきます。このままならば接敵まであと十五秒」
「はっ、ちょっ、ええっ!? もう来ちゃうんですかぁ!?」
「猶予がありませんので私は行きます」
「そしてサリカももう行っちゃうんですかぁ?!?」
「では、後のことは任せましたよ、暗裡!」
 ばりぃッ……! じじじ、じじっ、じじじ、ばち、ばちばちぃッ!!
 暗裡がツッコミを入れる前にサリカの身体から蒼白いスパークが立ち上る!!
 それは彼女の機械部分を駆動するための電力をオーバーロードし、攻撃に回した瞬間に現れる放電現象だ。言葉を失う暗裡を置き去りに、サリカは靴で地面を抉り飛ばしながらスプリント。瞬く間に暗裡を置き去りに、最早目と鼻の先に迫った傍観者の群れに突っ込む!
「~~~~あ~~~、もう……!」
 いつだって言葉少なで、都合の悪いことは聞いてないフリするし、いや、或いは聞いているのかも知れないけれど無視するし! いつだってむちゃくちゃなプランで暗裡を振り回す。
 ……けれど言うことはいつも的確で、暗裡の弱音は聞かぬ振りをし、そのくせそれを打破しようとするほんの少しの勇気を理解して、壁を突き破る作戦を暗裡にくれる。
 それが、六波・サリカという少女だ。
「……こうなれば出たとこ勝負! とっておきの秘蔵技、見せてあげますよぉ!」
 暗裡が眦を決すると同時に、敵の群れ中心近くまで侵徹したサリカが吼えた。
「“ジャッジメント・ロア”……! 急急如律令ッ!!」
 ――閃光!
 サリカを中心に、半径四十メートルの大規模な放電現象が発生した。周囲を巻き込み荒れ狂う『大放電』――ジャッジメント・ロア!
 彼女を駆動する電力を増幅し、超高電圧・大容量の電流を周囲に撒き散らす、範囲殺傷用のプログラムである。近距離、減衰する前の電流をまともに食らった傍観者は一瞬で全身に通電・抵抗熱にて沸騰、爆ぜるように汚泥となって吹き飛ぶ。それほどまでの威力。距離が離れるにつれ威力は落ちるが、それでも影響範囲の大半が行動不能に陥り、麻痺した状態で地面に倒れ伏した。立っていられたものさえ、まともに動く事ままならぬ。
 ――この凄まじいまでの攻撃の範囲には、暗裡も含まれた。ならば彼女も電撃の餌食となったのか――……否!
 次々と麻痺した傍観者が倒れ伏す中、暗裡は二足で地を踏みしめている。健在である! 彼女の前には、十指から伸びた糸で繋がれた絡繰人形がある。――暗裡の秘蔵技こと、ユーベルコード『オペラツィオン・マカブル』。脱力状態で受けたユーベルコードを無効化するという、人形遣いのユーベルコードだ。
 ――そしてもう一つ。オペラツィオン・マカブルにより吸収されたユーベルコードは、
「っはぁッ、……サリカには、触れさせませんよぉっ!!」
 絡繰人形を通じてリフレインする。
 ――閃光、再度疾る!!
 本家サリカの一撃よりは劣れども、その紫電の勢いは尋常ではない。立ち直ってサリカを狙い駆けてくる敵へめがけ、絡繰り人形から雷撃を連射、片っ端から葬りつつ、暗裡はサリカの元へ絡繰人形とともに走り――自分より五センチほど低いサリカの身体をひったくるように背負って、必死に離脱を始めた。普段ならへばってしまうようなことでも、火事場のせいか今は苦に思う暇すらない。
 雷撃を放ちつつ遁走する暗裡の背で、サリカが口を開く。
「流石です、暗裡。見込みの通りでした」
「そのガバ見込み直さないと、ここに棄てていきますよこのポンコツ!!」
 いつもいつも限界の斜め上のことをやらせてくるサリカに半泣きで罵声を発しつつ、暗裡は残敵を駆逐しつつ、安全圏を目指して駆け抜けていく!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アレクシス・アルトマイア

まあ、お顔がないのに見られているだなんて。こわいですね。
一体どこを見ていらっしゃるのか。
やはり猟兵といえど、オブリビオンといえど。
しっかり目を合わせてコミュニケーションを取りませんと
なぁんて嘯いてみたりしつつ張り切ってまいりましょう

さあて、さあて。
どうやら集団戦に優れている様子。
ですが、支援という点でしたら…
私達もなかなかのものですよ。

それでは、お片付けの時間です。
ばんばんばんっと効率優先に、
仲間と対峙する敵の四肢を撃ち抜いてサポートを。
あ、もし一人でも泣きませんし、止めが必要であればどんどん仕留めていきますよっ

狂王にあまり時間を与えたくはありませんが…ええ、まずは出来ることから、一つずつ。



●エフィシエント・ファイアサポート
「まあ、お顔がないのに見られているだなんて。こわいですね。一体どこを見ていらっしゃるのか――」
 頬に手を当ててのほほんと呟くのは、みんなのデキる従者ことアレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)。
「やはり猟兵といえど、オブリビオンといえど。しっかり目を合わせてコミュニケーションを取りませんと……うぅん、でもお顔が無いのでお目々も何処にあるのか、分かりかねますねぇ」
 冗談めかした調子で言いながらも、敵の群れが迫ればアレクシスはいつもの通りに、彼女を象徴する二丁の拳銃『フィア&スクリーム』をドロウ。
「なぁんて――戯れが過ぎるでしょうか。狂王に余り時間を与えたくもありません。張り切ってまいりましょう。……お片付けの時間です」
 他の猟兵が先行して群れと戦闘を始めるのを確認し、アレクシスは前線に向けて走り出した。
 前線では、既に後詰めの傍観者が、その身体の一部を代償に前衛を強化し出していた。強化された個体の能力は馬鹿にできない。数体纏まれば、一線級の猟兵ですら手を焼く敏捷性、膂力。
 なるほど、人めいて連携するオブリビオン。一筋縄ではいかないだろう。
 単独で、事に当たるのならば。
「さあて、さあて、どうやら皆様、集団戦に優れている様子。ですが、互いの支援という点でしたら……私達もなかなかのものですよ。ご覧になります?」
 
 ――アレクシス・アルトマイアは援護射撃の達人である。

 チキッ、と音。
      セフティ
 二挺拳銃の安全装置が弾き落とされる。猟兵と傍観者がぶつかり合う戦場へ側面から突撃したアルトマイアは、敵の意識を自身に引きつける如く派手に無手空中側転。廻りながらの連続射撃を放つ。
 BLAM!! BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!!!
 出鱈目に撃っているかのような高速連射。なのに弾丸はまるで吸い込まれるように傍観者らの四肢を撃ち貫く。
 ユーベルコード『従者の時間短縮術』。まるで時を止めて狙った後に引き金を引いているかのような連続精密射撃だ。
「今です!」
 おおっ、と味方の猟兵が、アレクシスが作り出した隙に己の武器をねじ込み、次々と強化個体を撃破していく。
 アレクシスの支援を厭うたか、すかさず数体の強化個体がアレクシス目掛けて跳ね駆ける。
「あら、熱烈ですね。けれど、」
 しかし、着地したアレクシスは跳び下がるどころか二挺拳銃をクロスし、前進した。スクリームの反動を抑えながら連続で発砲! 命中した傍観者の肉が爆ぜるほどの威力!
 立て続けに肩が、膝が、腕が爆ぜ、苦悶に動きを止めた傍観者らの胸を、
「この後には先約がありまして。申し訳ありません」
 黒き刃『ロウ』の刃が貫いた。フィアを納めての連続刺突。瞬刻、四体を葬り去る。
 そう。前述の通り、彼女は援護射撃の達人である。しかし、それは『援護射撃しか出来ない』事を意味するものではない。
 彼女は紛れもなく、一流の猟兵なのだ。
「……あと何体葬れば良いかは分かりませんが」
 アレクシスは東の空を振り仰いだ。中天に展開された強固な結界、そしてその内側に座す狂王と蒼面。
 薄ら笑いで戦場を見下ろす王を、アレクシスはアイマスク越しに睨む様に柳眉を逆立て、呟く。
「必ずそこに到ります。出来ることをひとつずつ、重ねて。――その暁には、今度こそ覚めぬ眠りをあなたに捧げます、狂王」
 誓うような言葉を零して、アレクシスは二挺拳銃を再装填。未だ終わらぬ猟兵達と傍観者の争いの狭間に、再び身を投じる!

大成功 🔵​🔵​🔵​

天星・零
【氷星花】

「ふふ…沢山お友達(オブリビオン)がいっぱいですね。でも、誰かを傷つけるのはダメですよ。僕たちが遊んであげます」

基本行動は前章と同じ

『一つ噂話をしましょう』

栗花落さんとシャオさんのUC終了後指定UCを発動し霧を展開したあと、【呪詛】により敵を眠らせ、回復させる。(UCで効果が逆転するのでダメージ)
相手が強化のUCを使ってきたらそれは弱体効果になる
デメリット効果は反転しないので呪縛、流血、毒などは相手に受けてもらいます



『悲しいことですが…死者が生者を脅かすことは許されない。傷つけるのであれば…哀れなその魂にせめて安らかな永遠の眠りを与えましょう』


口調ステシ
アドリブ歓迎


栗花落・澪
【氷星花】
ゔ……惨いなぁ…
生憎と見慣れてるからよかったけど…

兎に角、今は一体でも多く片付けないとね

翼の【空中戦】で全体を見渡しながら
【破魔】を宿した光魔法の【高速詠唱、属性攻撃】で攻撃

更に破魔が効果あるなら進行を妨げるように
足場に★どこにでもある花園を複数展開し
先へ進みたいなら
まずは僕達の相手してもらうよ!

敵が互いにUC補佐し合ったとしても
結局弱体化してる敵もいるわけだし

シャオさん、零さん、一旦離れて!
巻き込まないよう声かけしたうえで敵の上空に接近し
【祈り】の【指定UC】の【全力魔法、範囲攻撃】でまとめて浄化狙い

トドメは零さん担当
万一敵がUC効果に気付き零さんに弱体化仕掛けようとしたら援護


シャオ・フィルナート
【氷星花】
…顔…無いけど…
目って…あるのかな…
まぁ…無くても別にいいけど

★罪咎の剣を両手に所有し【暗殺】経験を生かした
素早い動きと鋭い冷気を纏っての【属性攻撃】で
斬撃を与えると同時に凍結で動きを鈍らせていく

敵の攻撃は動作から【見切り】
★死星眼を解放
視線を合わせることで【催眠、生命力吸収】効果を得られる眼だけど…
効果が無くても気にせず【指定UC】発動
上昇した移動速度と攻撃回数を有効活用しての
敵の死角を狙っての【範囲攻撃】で数減らし
寿命は、気にしてないけど…
それによって、こちらが不利になる可能性があるなら
澪さんか零さんに軽く攻撃させてもらう

後で、回復するから…

俺と澪のUC後
零さん…後は、任せた…



●亡者あやしに氷花咲き、死出を彩る永眠の霧
 最早命持たぬ亡者が、腐肉で出来た腕と頭を、およそ出鱈目に振りながら廃ホテルより押し寄せてくる。死の在り方を歪められた哀れな生贄の成れの果てに、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は宙に羽撃き浮遊しながら、げんなりした風に眉をひそめた。
「ゔ……惨いなぁ……生憎と見慣れてるからよかったけど……」
 対照的に、その足下の二人の様子は常と変わりない。
「……顔……無いけど……目って……あるのかな――見てきてる感じは、するけど……まぁ、どっちでもいいか……」
 彼らが死に到った過程も、変成してバケモノになったことも些事だとばかり呟く、シャオ・フィルナート(悪魔に魅入られし者・f00507)。
       オブリビオン
「ふふ……沢山 お 友 達 がいっぱいですね。でも、誰かを傷つけるのはダメですよ。僕たちが遊んであげます」
 天星・零(多重人格の霊園の管理人・f02413)もまた、己のペースを崩さぬ調子で語る。
「二人とも、落ち着きすぎじゃない? ……まあ、僕も焦っているってわけじゃないけど。兎に角、今は一体でも多く片付けないとね。やろう、シャオさん、零さん!」
「……ああ」
「承知しました」
 澪の号令一下、シャオは二刀一対の怜悧なる短剣『罪咎の剣』を、零は使い慣れた片手剣『Ø』を抜剣。
「いっくよー!」
 三名のフォーメーションは狂王を相手取ったときと大差ない。まずは翼翻し、宙へ舞い上がった澪が、聖杖『Staff of Maria』をくるりと回し、短音韻にて高速詠唱。生まれ出るは無数の光の弾丸。
「降り注げっ!」
 澪が杖を振り下ろし一喝するなり、光の弾丸の嵐が放たれた。一発一発の威力は低いがそこは数でカバーする。驟雨の如く注ぐ光の嵐が、駆ける傍観者達を貫き、蜂の巣にし、汚泥に還して地にブチ撒ける。
 次々に倒れる傍観者だが、前の個体を盾にして前進する者も当然存在する。否、むしろそうするようにプログラミングされているかのようだ。骸を踏み越えひたすらに前進してくる。
「……前には進ませないよ」
 当然のように味方を盾に取り弾幕を越える傍観者らを見下ろしながら、澪はフィンガースナップを一つ。
 その瞬間、地に清冽なる花々が咲き乱れ、瞬く間に花園を作り出す。予め仕込みを済ませておいた、澪の『everywhere garden』の萌芽だ。
 聖なる花園は纏った清冽なるオーラで、傍観者達を寄せ付けずに足止めする。――傍観者達とて、傷を覚悟すれば踏み入ろうとすれば出来るだろうし、踏み越えることだって可能だろう。しかし、一瞬躊躇させた。その一瞬の間隙が重要だ。
「先へ進みたいなら、まずは僕達の相手してもらうよ!」
 澪の声が鳴り渡るなり、広がった花畑の上をシャオと零が走る。
 零がまず、意のままに発生・伸長する十字の墓石『グレイヴ・ロウ』にて敵の先頭集団を攻撃。突き出た墓石がまるでバリケードめいて突き出て、敵の侵攻を妨げると同時に、最前衛にいた数体を打ち据え、或いは飛び出た二本の墓石にて挟み、圧殺、轢殺する。
「零さん」
 シャオの呼びかけとアイコンタクト。
「承知しました」
 零がくい、と人差し指を上にしゃくるように動かすと、シャオの足下からグレイヴ・ロウが飛び出る。シャオは爪先で十字架の先端を捉え、勢いを活かしてしなやかに跳躍した。
 空中、シャオの両手の罪咎の剣が、彼自身の魔力により極低温化。触れた空気が白く凍り付き、含まれる水分が氷結晶となる。澪が今なお発する光を照り返し、キラキラと宙にダイヤモンドダストが光った。
「悪いけど……あんまり、時間をかけてる場合じゃないんだよね……」
 ぎらり、とシャオの右目が金色に煌めく。邪眼、『死星眼』。常は藍色のはずのシャオの瞳が、右のみ、対象を催眠に陥れ、生命力を吸収する眼だ。
 敵は既に死したる呪骸。吸い上げられる生命力など雀の涙だったが、シャオは構わず、自身をを『観る』傍観者達の『視線』に死星眼を重ね、その動きを止めるように命じながら、二刀を構えて敵の群れに躍り込んだ。
 死星眼煌めく時、敵勢に凶兆あり。――発動するは『封印解除−駿−』己の寿命か味方の傷を代償に、シャオ自身を激烈に加速するユーベルコードだ。
 ――寿命に頓着せず、シャオは全く躊躇いなく己が命の蝋燭を燃やす。
 敵の群れの僅かな空隙に着地するなり、シャオは、一人だけ早回しの世界に生きているかのように疾った。
 その動き、正に迅駛の旋風そのもの。罪咎の剣をコンパクトに振るって、傍観者の首を掻き裂き、胸を貫き、次々と葬り去っていく。
 そこに更に、後方の零が繰り出すグレイヴ・ロウだ。シャオの動きを邪魔せず突き出る墓標が傍観者らを打突・粉砕する。墓標を足場とし、シャオは低空をまるで隼のように疾った。一撃で葬れずとも、罪咎の剣が纏った絶対零度の凍気が敵の動きを鈍らせる。
 うぅぅうぅぅうう……!!
 恨めしげな呻き声を上げながら反撃を試みる傍観者達。物量に任せてシャオへ押し寄せ、その腕で、爪で、シャオを引き裂き潰さんと迫る。
「遅いよ……それじゃあ、俺は捉えられない」
 シャオは敵の攻撃を避け、くぐり、振るわれる腕を斬りつけて凍えさせ、動きを鈍らせながら駆け抜ける。
 たった二本の刃、たった一人の少年による攻撃。だというのに、凍れる剣刃の連撃は、場違いにも初秋に吹いた猛吹雪めいていた。


 一方、空中。凍って動きが鈍りつつも、他の個体を強化せんとする傍観者がいることを、澪は見逃さない。
「シャオさん! いったん離れて!」
 敵陣で尚も傍観者を斬り続けるシャオに後退を呼びかけながら、澪は杖に祈りを篭めた。澪の身体は清冽なる生者の光を帯び、燐光を放ち出す。 シャオが安全圏へ離脱、零もまた安全圏からグレイヴ・ロウによる遠距離戦を行っているのを確認の上、澪は敵集団の真上へ翼を羽撃かせ飛ぶ。 燐光を帯びる澪の身体はすぐに輝きを増した。破邪の光が溢れ、強まる。の輝きは雲間より注ぐ陽光に似ていた。
「……全ての者に……光あれ!!」
 祈りを篭めて澪が叫ぶと同時に、光輝は最高潮を迎えた。澪を中心として発される光は光柱となり、傍観者ら遍く照らす。澪の全力を篭めて放たれるこの光は、悪しきを悉く浄化し祓うユーベルコード――『Fiat lux』である!
 おおぉ、お、おぉぉぉぉおぉぉぉ……!!
 嘆くような呻きが生まれ、そしてすぐに消えていった。弱体化した個体や無強化の個体では、放たれるこの極大聖光に耐えられず、身体の隅から散り散りに分解されるように潰えていく……!


 徐々に光が薄れる。傍観者らの戦力は半壊状態。しかして、辛うじてここまでの苛烈な攻撃から逃れる者も、或いは強化を受けていた為にぎりぎりで耐えた者もいた。それを見越していたかのように、グレイヴ・ロウの墓石によって築かれた防御ラインの一カ所が崩れ、悠然と零が進み出る。
 だらりと片手剣『Ø』を右手にした彼が進み出るのと同時に、周囲には濃い霧が立ちこめ出す。
 防御ラインに空いた穴と、そこから登場した新たな敵手――
 深い思考を持ち合わせぬ傍観者らにとって、それは十分な刺激だった。零を殺し、墓標の垣を超えんと、生き残った傍観者らが一斉に前進する。
 零はしかし、慌てた様子もなく厳かに語り出す。
「ひとつ、噂話をしましょう。それはある、霧の街の話……」
 怪談を語るかのように零が静かに切り出せば、霧の濃度は加速度的に増し、周囲一帯を霞ませる。まるで、そう。彼が語る街に蔓延った濃霧のように。
 惑うように傍観者らが足を止めるが、霧に捲かれた後では、逃れようにももう遅い。
 零は眠りの呪詛を発する。呪詛は、周囲に満ち満ちた霧を伝って伝播し、瞬く間に傍観者らを眠りに落とした。夢すら見ぬ深い眠りに。次々と、蹌踉めいた傍観者が地に倒れ伏していく。――もっとも、彼らに夢を見る脳が残っていたかは定かではないが。
 それに、夢を見る見ないに関わらず、彼らの未来は既に決まったようなものだ。
「悲しいことですが……死者が生者を脅かすことは許されない。生けるものを傷つけるのであれば……哀れなその魂にせめて安らかな永遠の眠りを与えましょう」
 零は決して語気を荒げず、静かに、淡々と言紡ぐ。
 ――眠ったと思しき個体が、びくりと痙攣した。彼らの身体は末端から徐々にヒビ割れ、まるで澪から浴びた光が、シャオが浴びせた斬撃が、未だ残っているかのように崩れ、裂け、壊れていく。
 死に向かう眠り。これこそ、零が発した霧――ユーベルコード『永眠街』の真価である。
 霧のうちに捕り篭められたものは、零が発する『全ての回復効果が反転する』という呪詛に囚われる。永眠街の霧そのものには催眠作用と、眠っているものに対する回復作用があるが、それを呪詛によって反転、敵を破壊する術式と化したのがこのユーベルコードだ。
 崩れ落ちていく仲間を救いたがるように、まだ眠らぬ個体が顔から垂れ流される腐液を崩壊する個体に振りかける。――しかし、それすら逆効果だ。常ならば回復を齎すはずの腐液は、この霧の中では単なる劇物。肉体の崩壊を促進するのみ。
 腐液を浴びた個体が、とどめを刺されたようにぐしゃり、と崩れ落ち、汚泥と化して地に浸みる。浴びせた個体もしばし呆然とした風に立ち竦んでいたが、やがて眠りに囚われ、骸の浸みた地に斃れて同じ結末を辿った。
「――眠りなさい。かの街が霧に覆われた夜のように。もう、目覚めることのないように」
 零は呟き、霧の中で、崩壊していく傍観者らを見送るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜


見えない筈なのに、こちらを見ている、か。
見えるもの、見えないもの……
なるほど、ようやく何かが掴めそうだよ。
けどまずは、こいつらを蹴散らさねぇとな!

トップギアで駆け抜けるぜ。
【人機一体】でアーマーを纏い、そのまま大型バイクへ変形!
アタシに乗りたい奴がいたら是非とも乗っとくれ、
鉄火場のど真ん中まで超特急さ。
敵陣へ突っ込みながら、メーザーと『衝撃波』を撒き散らすような
『範囲攻撃』を放ちながら傍観者共を吹き飛ばす。
支援が集中した個体が残ったら、
人型に再変形してサイキックの電撃を纏いながら、
『属性攻撃』を込めた『グラップル』で強引に捩じ切るよ。
多少のダメージは覚悟の上さ!

さ、鬼が出るやら蛇が出るやら?



●カミカゼ・グラップル
「『見えない筈なのに、こちらを見ている』、か」
 禅問答のようなことを呟き、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は静かに頷いた。無論、貌を削ぎ落とされ、今やそこから汚液を垂れ流すのみとなった傍観者達を示してのことだが――そこに、なにがしかの答えを見出したように、多喜は宇宙カブ『JD-1725』をひらりと飛び降りる。
 多喜が受け持った区画にも、やはり敵は来る。貌を亡くし、腕と頭をバグを起こしたゲームキャラクターめいて振りながら、狂ったように前進する傍観者達が。その数、数十体。接敵までもう十秒もあるまい。彼我の距離は百メートルを切ったところ。それほどの速度で迫り来る。
「見えるもの、見えないもの……なるほど、ようやく何かが掴めそうだよ。ただ――まずはアンタ達を蹴散らさないとねぇ!」
 一体たりとて後ろに通してはならないとの通達だ。上等、とばかりに多喜は拳を打ち合わせ、傍らの宇宙カブに呼びかける。
「やるよ、相棒!」
≪O.K. Charge up buddy, Junction DRIVE!≫
 スーパーカブが一瞬で部品単位に解体、多喜の身体に纏い付いて装甲を成す! 黒基調のツナギの上に、紅蓮の色したカウルと装甲板が巻き付き、多喜を燃える焔の色で彩る。肩に雷太鼓めいて二輪のタイヤを追い、合体、完了。
 ――人機、一体!
「トップギアだ。トばすよ!!」
 多喜が吼えるなり、肩の二輪が超高速回転。ジェット・タービンめいた音を出し気流を生み出す。多喜はその気流に乗る如く踏みだし、自身へ目掛けて突っ込んでくる敵群の速度を容易に凌駕し――跳躍! 空中で、纏うアーマーが輝き、姿を変え、――まさかの変形!彼女をコアとしたモンスターバイクを形成する!
『止められるモンなら、止めてみな!!』
 大型バイクとなった多喜は、フロントライト兼砲門より眩いメーザーを照射!! 凄まじい速度に付帯する衝撃波を撒き散らし、正面から襲い来る傍観者の群を焼き、燃やし、薙ぎ払う!!
 宣言通りのトップスピードに反応しきれず、次々と傍観者らはただの汚泥へと還元される。
 そんな中でも辛うじて反応し、必殺の突撃を回避した個体は少なからずいる。残った数は十数体だが、彼らは全く同時に、ただ一個体に力を集めることを選択した。詳細にカウントするならば十三体が、一体に力を集めたのだ。四肢を失って頽れる十三体、そして――その力を一身に受けて巨大化する残一体!!
『ハッ! お約束の巨大化ってかい! 上等だよ……!』
 多喜は華麗にドリフトターンからの再変形。人型形態に戻り、ホイールを回転させながら再び踏み込む。巨大な敵個体を目掛け疾る彼女の身体に、その熱き魂より迸るサイキックの電撃が纏い付く!!
 おおおぉおぉぉおぉおぉ!!
 巨大化した特化個体、その身長は実に四メートルを超える! 打ち下ろしの鉄槌めいた拳の速度は、その巨大さにして通常の個体を上回る!!
 しかし、多喜は怯まず前進。一打目をステップして避け、二打目を左手を使い受け流す。
「っらああああああ!!」
 余りの撃力に痺れる左腕を意にも介せず、多喜は吼えながら地面にめり込んだ敵の左腕を一足飛びに駆け上がり――ラリアットめいて敵の顎を右腕で絡め――、雷撃により筋肉を活性化、差大出力で敵の肩を蹴り飛ばして得た推力で首を捩り折るッ!!
 ご、ぐぃん……!!
 鈍い音がして動きが止まり、重力に惹かれ倒れ伏す巨体を蹴り離して、多喜は地面に降り立つ。弾む息を抑えながら、彼女は西の空――未だ仮面と対話を続ける狂王の姿に目を走らせた。
「……さて、鬼が出るやら蛇が出るやら」
 ――終わりが近い。
 多喜は、背後で泥と化し地に浸みる巨体を一顧だにせず、葬るべき次の敵を探し目を走らせる!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ビリウット・ヒューテンリヒ
【結社】◎

ワオ、これは中々おどろおどろしい光景じゃないか
貌が無いのに私たちを見てるなんて、その意図は羨望かな?それともただの観察?
…まぁ、それはどうでもいい話だ
支援に回った個体を潰すよ


バロウズ、形態変化
こんなショットガンは見たことないだろう──【インフィニティ・アナザー】
異様に大きく、そして重いんだ
まるで小型大砲を携帯しているかのようにね
だけど、このおかげで長柄武器としても扱える
戈子殿には敵わないけど、私は武器を選ばない

さぁペル、支援役は掃除しておくから、焼いてしまっておくれ
戈子殿と私で、滅びの運命を振りまいてあげようじゃないか
殴って、突いて、銃撃する
ただの魔法使いでも、銃使いでもないのさ


伴場・戈子
【結社】◎
やれやれ、親玉がなんだか企んでるのを見す見す後回しにしなきゃいけないのは業腹だがね。
――なに、どんなのが来ようと、やることは変わらないさ。

敵集団の中に躍り出て、一手に攻撃を引き受けるよ。アタシの大戈で払って受ける。
とはいえ、それを繰り返してるだけじゃ、いずれ支援を重ねて力を溜めた大物の一撃が来るだろうが……それこそ、狙い目だよ。
刻器身撃『単身のⅢ』
大物の攻撃を武器受けしたら、その特大の衝撃を魔力に転換。とっておきの大網で文字通り一網打尽って寸法さね。

さあ、ビリウット!入れ食いだ、掃除してやりな!

後は任せたよ、ペル!未練の欠片も残らないように葬っておやり!


ペル・エンフィールド
【結社】◎
うわわ……死人は死んどけなのです
動いてんじゃねーよです

王さまには手出し出来そうに無いですしまずはこいつらをちゃんと冥界に送ってやらないとですね
大丈夫、ちゃんと人らしく火葬してやるのです
骨の一片まで消し炭にしちゃうですけど恨むんじゃないですよ?

と言うわけで、婆さま、ビリウット
ペルが全部燃やしちゃうので援護お願いなのですよ
……セレナリーゼみたいに綺麗な殲滅はできないですけど、ペルだってやればできる子なのです



●黄昏色のヴェイパー・トレイル
「ワオ、これは中々おどろおどろしい光景じゃないか」
 黒き膚、無貌の怪物――『傍観者』。貌のあるはずの位置からは絶えず血色の汚液が垂れ流されている。それが、十、二十では到底効かない数で以て、廃ホテルより押し寄せてくる。世紀末めいた光景を前に、ビリウット・ヒューテンリヒ(Ⅳ番目のレコード・キーパー・f16513)は皮肉げに肩を竦めた。
「貌が無いのに私たちを見てるなんて、その意図は羨望かな? それともただの観察? ……ま、どうでもいい話か。いずれにしても全て殲滅せよとのオーダーだ」
「ビリウットの言うとおりなのです、うわわ……なんかびちゃびちゃなの垂れ流してますし、あんまり近寄りたくないですね……まったく、死人ならちゃんと死んどけなのです。動いてんじゃねーよです」
 腐血を垂れ流し駆けてくる傍観者にあからさまな嫌悪を示すのはペル・エンフィールド(長針のⅨ・f16250)である。羽撃き宙に浮かび上がりつつ、視線を横合い下に走らせる。
「王さまには手出し出来そうに無いですし、まずはこいつらをちゃんと冥界に送ってやらないとですね。婆さま、それでいいです?」
「いいとも」
 ペルの視線の先には伴場・戈子(Ⅲつめは“愛”・f16647)の姿があった。
 ここまで来ればもうおわかりだろう。言わずもがな、超常異能力者戦団『結社』の三人小班である。
 戈子はサングラスをくいと持ち上げ、ため息交じりに迫り来る敵の群れへ目を向ける。
「やれやれ、親玉がなんだか企んでるのを見す見す後回しにしなきゃいけないのは業腹だがね。
――なに、この後なにが来ようと、やることは変わらないさ。ビリウット、ペル、アタシが前に出る。アンタ達はいつも通り、自分の仕事をこなしな」
「了解した、戈子殿。バックアップは任せてくれ」
「はいなのです。じゃあ、全部全部燃やしちゃうですよ! 二人とも、援護お願いなのです!」
 ビリウットが手の内の魔銃『バロウズ』を巨大なショットガンに変じ、戈子が『アンチノミーの矛』を構える後ろで、ごおうっ!! 炎の噴出音と同時に大きく羽撃き、ペルが高々と空へ舞い上がる。
 間近へ駆け寄せた敵へ、まず打ち掛かるのは戈子である。大戈を片手で軽やかに、プロペラめいて回転させながらの吶喊。数体を鎧袖一触に打ち払うと、瞬く間に襲い来た敵集団の中程まで侵徹。四方八方より襲い来る傍観者の爪を牙を、大戈にて受け、弾き、流し、突き返しで顔面を、胴を貫いて、振り回し振り棄て、薙ぎ倒す。
 だがそれでも、全方位をカバーすることは出来ない。すぐに囲い込むように、戈子の後ろに回り込んだ傍観者達が牙を剥き襲いかかる。正に前方からの攻撃を戈子が受け払った瞬間に飛びかかる傍観者――!
 BLAM!! BLAM!! BLAM!! BLAM!! 轟音! 流血必死のこの局面で血を噴くこととなったのは戈子ではなく、襲いかかった傍観者の方だ。ビリウットによる援護射撃が炸裂したのである。撃たれた個体は汚泥を撒き散らし、爆ぜるように吹き飛ぶ。
「こんなショットガンは見たことがないだろう? ――『インフィニティ・アナザー』と言うんだがね」
 ビリウットは長大な銃身と頑健なストックを備えた散弾銃を軽く振って言った。戈子に襲いかかろうとしていた個体が逡巡を挟み、先にビリウットを撃破すべしと標的を変更して迫る。しかしビリウットはサイドステップ、戈子を射線上から外して冷静にショットガンを連射した。オートマティックでの再装填。大粒の散弾が一射ごとに一体、ともすれば二体を吹き飛ばしていく。一射一殺以上を繰り返しつつ前進するビリウットを脅威と認識したか、ビリウットへ向かう傍観者の密度が瞬く間に上がる。
 一体が弾丸の再装填の一瞬の間を縫い、襲いかかった。まぐれか狙ってか、見事に隙を突いての強襲となる。しかし、ビリウットはショットガンの可変フォアグリップのロックを外し、トンファーめいて銃身を回転。襲い来た個体の顔面をストックで殴り飛ばし、すかさずグリップをキャッチ。槍めいて突き出した銃身を腹に叩き込むと、追蹤魔術にて『薬室内に実包がある状態を再演』。トリガー。接射された大口径粒弾が傍観者の身体が千切れるほどの大穴を開けて吹き飛ばす。
 異様な銃身長、重量、剛性――それはこのような格闘攻撃に使用するためのものでもある。敵を殴り飛ばし薙ぎ倒し、戈子の後ろに守るように陣取りつつ、ビリウットは軽やかに嘯いた。
「残念だったね。私はただの魔法使いでも、銃使いでもない。魔銃使いとでも名乗ろうか? 戈子殿には敵わないが、私は武器を選ばぬ方でね。格闘戦でも、遅れは取らないさ」
「持ち上げてくれるねぇ。――アタシとビリウットが揃ってんだ、こんなものじゃ落とせやしないよ、亡者共」
 戈子は挑発めいて告げ、指で敵を招いて見せた。それを解してのことか否か、傷ついた個体は腐液をなすりつけ合い互いに治癒し、またある個体は自らの四肢を犠牲に、他の個体を強化する。
 無傷だった十数体の個体が筋肥大を起こし、歪なシルエットとなって、群の奥より飛び出した。飛び出すなりビリウットが散弾で迎撃するが、
「……直撃しても動くか!」
 耐久性も増しているのか、二射の直撃を喰っても原形を留め、まだ動く! ビリウットが弾幕を張って最速で落としに掛かるも、十体余りを全て落とすには至らない!
「戈子殿!」
「分かってる。……アンタの出番はこの後だよ、ビリウット。ありったけの弾を準備しておきな」
 警戒を促すビリウットの声に、戈子は軽やかに応じ――襲い来る強化個体の一団に、自分から踏み込む!
 強化個体はその強大な筋力、そして発達・伸張した鋼のごとき爪にて戈子目掛け打ち掛かる。しかし戈子は鮮やかに戈を取り回し、爪を受け、滑らせて流し、横から襲う次の敵に機先を制しての石突きの一撃、攻撃を食らう前に突き倒して身を廻し、戈の切っ先で襲う三体目の爪先をあやし、跳躍した四体目が大上段から打ち下ろす一撃を両手で捧げ持った戈の柄で受け止める! アンチノミーの矛は並々ならぬ重量のはず、だというのに戈子の動きはただひたすらに鮮やかで流麗だ。無駄な力が一切無く、故に羽が舞う如く軽い。老練した動き。
 幾度目か、音も高く大振りの打撃を受け止めた瞬間、ニィ、と戈子は不敵に口端を吊り上げる。
「いつまでも受けてるばかりだと思ってたら大間違いさ。山ほど打ち込んでくれた分の礼は、きっちりさせてもらうよ……!!」
 アンチノミーの矛が輝く。戈子は脚を捌いて身体を大きくひねり、大振りに薙ぎ払って距離を開けると同時に、左手を天へと衝き上げた。
 瞬刻、溢れ出るのは魔力の網! 敵の攻撃の撃力を魔力に変換し、それを基に編み上げた神の鎖、とっておきの大網である。網は戈子の手を中心として、それこそひとりでに三次元の蜘蛛の巣めいて広がり、進路上に存在する敵群を絡め取って動きを封じる! 強化個体も、支援個体も、お構いなしに戒めて絡め取る縛網!
「さあ、ビリウット、入れ食いだ! 後ろでコソコソしてる連中から掃除してやりな!!」
「ええ、戈子殿。――片付けます」
 銃声、銃声、銃声!! 瞬く間に支援個体が撃ち貫かれ、吹き飛び、汚泥と化して地に広がる! それを尻目に、戈子は高らかに槍を衝き上げ、彼女を呼んだ。
「後は任せたよ、ペル。未練の欠片も残さないように葬っておやり!」

「分かったのです、婆さま。大丈夫、ちゃんと人らしく火葬してやるのです。骨の一片まで消し炭にしちゃうですけど――恨むんじゃないですよ?」

 遙か上より応える声。ペルだ。高空まで飛び、位置エネルギーを稼いでの強襲の構え。地に向けて回頭するなり、ペルは凄まじい勢いで急降下する。重力による加速に加え、下肢に纏ったその刻器『ストラスの大爪』より、アフターバーナーめいて炎を噴き出し、更には羽ばたいて加速、加速、加速!
「セレナリーゼみたいに綺麗には出来ないですけれど――ペルだってやればできる子なのです。見ててほしいのです、ビリウット、婆さま!」
 健気な訴え声とは裏腹、羽撃き加速する彼女は、やがて赤きのヴェイパー・トレイルを曳く。緋色の軌跡を伴って、一直線に空を駆け下りる。
 飛び道具を持たぬ傍観者の内、未だ網を逃れていた強化個体が、一体の傍観者を無造作に捕らえ、投石めいて投擲。ペルを打ち落とさんとする。過たず直撃するコース。
 だが、ペルは衝突も厭わずなおも加速。ペルの意思を汲み取ったように、ストラスの大爪の装甲間隙より噴き出す紅き地獄の炎! 身に纏い付いた焔が超高熱により、ぶつかるはずだった傍観者を、宣言通り骨の欠片すら残さず焼尽、滅却!
「我が声に応えよ、ストラス……!!」
 ペルの叫びと共に、彼女の身を覆う炎は強まる。翼が炎を帯び、まるで鳳凰のそれのように風に棚引く!
 最高速に至ったペルは一転、身を翻し、最大出力で炎を撒き散らしながら跳び蹴りの姿勢を取る。そのまま、ペル目掛け迎撃をかけた強化個体を巻き込み、隕石めいて着弾――
 ――大爆轟!! 
 全開にしたストラスの大爪の炎の出力、そして落下エネルギーとそこまでの推力が重なり、バンカーバスターめいて炸裂!! 戈子の網に捕らえられた傍観者らが、広がる紅蓮の衝撃波より逃れられるわけもない。焼かれ、砕かれ、腐泥として散るのみ――
「どうです? ペルの炎は。これでもう、迷わず黄泉路を渡れるですね」
 炎燻るグランド・ゼロ、更地になった着弾地点で、ペルは不敵に笑って嘯くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ナイク・サー』

POW   :    剛胆なる者への試練
戦闘用の、自身と同じ強さの【邪神すら遥かに超える、強大な異界の怪物】と【、対象と怪物を包む、破壊困難な決闘用結界】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
SPD   :    鋭敏なる者への試練
【対象の現在の全能力を数段上回る異界の戦士】の霊を召喚する。これは【ユーベルコード以外の攻撃を無効化する魔器】や【予測・予知での回避を無効化する異界の武器】で攻撃する能力を持つ。
WIZ   :    叡智ある者への試練
自身の【魔力の一部と、対象の魔力及び生命力の大半】を代償に、【対象にとって非常に相性の悪い性質の邪神】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【戦闘力に比例した自己増殖能力と再生能力】で戦う。

イラスト:オペラ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ムルヘルベル・アーキロギアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●試験結果
 際限なく湧く『傍観者』達も、猟兵らの火力の前では鎧袖一触。
 最後の一体までも屠り尽くされ、ようやく山間に静寂が戻る。
 ――だが猟兵達の顔から緊張は消えぬ。
 これは終わりではなく、始まりなのだと、そう知るが故に。
 汚泥に染まり泥濘んだ地面が、じゅわり、と泡立った。沸騰するかのように、黒き泡が沸き立つ。
 傍観者達の死骸――悪臭を漂わす汚泥が、ひとつの流れとなってうぞうぞと集まり、空へ遡るひとつの流れとなった。
 傍観者一体は、最早死したる、無辜の一般人一人分の肉と、今際の際の嘆きが沁みた土、そして、賢王招来に際する儀式によって出汁殻になるまで絞られたくしゃくしゃの魂で形成される。一体一体は取るに足らぬ霊格。猟兵達からすれば指先であしらえる悪霊、悪鬼の類いに過ぎぬ。
 しかし、それでも、合わせて千に及ぼうかという数の傍観者。
 その全てが今一度滅ぼされた。
 猟兵達に咎はない。それは、あらかじめ仕組まれていたペテンだ。
 ――如何なる方法で弔われたにせよ、全ての傍観者は、真に滅ぼされた際、初めに死んだ時の嘆きを再生した。


 何で!! 何でだよ!!! 何で俺が殺されなきゃ、
   いたい、いたいよ、やめてぇえええ
      やだっ、やだ死にたくな
 やめろっ おおぉぉお!!!
         私ッ、何も悪いことしてな、……
 ああああぁぁぁぁぁぁあああぁあっ!! 
   俺の顔っお”お”お”お”お”あ”っ
        何するの、近寄らないで、やめてぇっ!!
こんなことのために生まれてきたんじゃない……!
 熱い、あつ、いよおおぉぉ
     助けて!
  助けてぇっ
        助けて……!!
   ああ、  
                どうして……?


 滅却され、汚泥に還った傍観者達は、強烈な嘆きの呪詛を纏い、今一度その身をイネブ・ヘジの狂王と蒼面に捧ぐ。
 泥は集束して狂王の疵を埋め、その存在量を補填し始める。
『狂王。では、契約を結ぼう。汝の治めるところに、我が力を振るう。――その代わりに、汝は良く治め、他の邪神を喰らい、よりよく健やかに育て。その器をより『純化』せよ』
 蒼面が唄うように言った。軽やかに、幼子に聴かせる子守歌のように。
      まつろ
『やがて汝が 服 わぬカミとなることを、私は望む』
「喧しい小道具よ……業腹だが、承服しよう。余はこの世全てを敷き、この世全てを呑むモノとなろう」
 泥に浸りながら、狂王は蒼面に手を伸ばした。
 それを、そのまま、貌に重ねる。

 斯くしてそこに、『吐き出すもの』、『試すもの』――受肉せり。
 その名は、『ナイク・サー』。解無き命題にして、醜悪なる試練。
 結界を解き、ゆっくりと降下。彼が地に降り立ち、日の光を厭うように顎をしゃくると、まだ昼というのに空は暗黒に一転した。
 狂王改め、狂賢者は猟兵に問う。

「さあ――示すがいい。汝らは、余が治むるに値するか?」

 賢者が指を鳴らせば、空間が裂け、宙よりずるずると、名状しがたき恐ろしい怪物らが姿を現した。その場にいる猟兵の数だけ現れた怪物らは、誂えた様に千差万別。
 共通しているのは――それらが、猟兵ら、一人一人の弱点を的確に穿つデザインをしている、ということだけだ。


 幕は上がった。
 きみたちは、それを滅ぼさねばならない。


 敵対象、『ナイク・サー』。
 異界深度S++。詳細不明。
 ……グッドラック、イェーガー!!



≫≫≫≫≫MISSION UPDATED.≪≪≪≪≪
【Summary】
◆作戦達成目標
『ナイク・サー』の撃破


◆敵対象
『ナイク・サー』×1
および、召喚される使徒×猟兵数


◆敵詳細
『吐き出すもの』にして『試すもの』。
 イネブ・ヘジの狂王が収蔵した幻想級のUDCオブジェクト。狂気の蒼面。
 狂王は対面当時に危険を感じ、一旦はその存在を封じたが、同時にその力を忘れることもできず――宝物庫の隅にそれを収蔵した。
 そして今、悠久の時を超え、恐怖は猟兵らの前に姿を現した。
 それは、きみたちのもっとも柔らかい部分を衝く絶望である。

 弱点を穿つことに特化したオブリビオン。
 敵のウィークポイント、および得意とする強みに合わせてデザインされた『使徒』を召還し、常世のあらゆる全てを鏖殺する『君臨者』。
 今回現れた個体は、傍観者らの絶望と痛み、そして猟兵達との戦闘経験を全て取り込んでおり、猟兵達の戦闘スタイルを『全て』把握している。

 ――故に、アレを断つために、きみたちは過去のきみたちを超えなければならない。


◆戦場詳細
 暗転した山間。
 地形そのものは変わらないが、急に夜が来たかのように暗い。


◆参加方法
 まず新必殺技の基となるユーベルコードを選択。
 以下三つのナンバーの内、いずれかを選び、それに添ってプレイングを記述のこと。

・各選択肢の共通事項
 必要であれば、参加キャラクターについて、以下をプレイングで補足のこと。
 書式は自由。以下以外でも、プレイングに書かれたものは極力配慮する。
  ー戦闘スタイル
  ー得意なこと
  ー弱点
  ー絶対にやらないこと

・1.フルオーダー
 MSに新必殺技の詳細を全て任せる場合に指定。
 指定ユーベルコードを基に、技名および技の詳細がアドリブで決定される。

・2.セミオーダー
 新必殺技において、『炎を使って何かする』、『剣を使って何かする』など、指定したいポイントがある場合に選択。
 技名のみ指定し詳細は任せる、なども可能。書式は自由。
 指定事項を盛り込んだ上で、その他はアドリブで決定される。

・3.自身で考案
 指定ユーベルコードを基にした新必殺技を自由に考案し、プレイングに記述する。
 威力・理屈などがアドリブで補足される。


◆補遺
 成功判定は、指定したユーベルコードの能力値に添って行われる。
 本シナリオ参加に当たってシステム的にユーベルコードを作成する必要は無いが、会得した必殺技を今後も使いたい場合、ガレージで作成のこと。
 【ガレージ】
  →https://tw6.jp/html/world/441_ucall.htm


◆プレイング受付開始日時
 2019/10/12 08:30:00


◆プレイング受付終了日時
 2019/10/15 23:59:59
 
 
 
●牙猟天征 ~顕骸殺手起死回生~
 決戦が始まった。
 怪物らは、猟兵達を目掛け猛然と襲いかかる。
 それこそは命題。狂った賢者がきみたちに課した問いだ。
 そのバケモノには、今までと同じやり方では、勝てない。きみたちの弱点を、強みを元に、それを凌駕するべくデザインされている。
 風穴を開けるには、きみたちが過去のきみたちを上回るしかない。
 一瞬の好機に懸け、走る全ての猟兵らに、牙猟天征の煌めきあれ!
 顕骸殺手、起死回生の終局である!
 
 
 
ユア・アラマート
◎1

どこまでも誰かの世話がないと存在できないようだな
いいだろう。その汚い面が飲み込んだもの、全部吐き出させてやる

全てにおいて私を上回るのなら、まず物理的な力じゃ敵わない
元々腕力では劣るから、それ以外を使う戦い方を突き詰めてきた身だ
…いや、元よりできることなんて限られている

核路開放。花片全連結。『開花』に至れ
今で勝てないなら今を捨てる。そうすればこの手に転がり込んでくるのは未来だけだ
目の前の敵を倒すという確実な未来
それを叩きつければいいなんて、簡単な話じゃないか
代償が傷なら安いものだ

治むるに値するかと言ったな。答えはノーだ
元よりお前が治められるものなど何もない
旧き王は倒されるのがセオリーだろう?



●満開の禍
「どこまでも誰かの世話がないと存在できないようだな――いいだろう。その汚い面が飲み込んだもの、全部吐き出させてやる」
 ユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)は抜いたダガーを二刀、逆手に構えて疾る。敵は背からぞるぞると蠢く凄まじい数の触手を伴う、名状しがたき獣めいた甲冑の騎士であった。触手と自らの脚により地面を駆けながら、百、二百はあろうかという、子供の腕ほどの太さの、攻撃用の触腕にてユアを圧殺しに掛かる。
 ユア・アラマートは元来腕力に劣る非力な狐だ。故に、彼女はウェイトと腕力ではなく、スピードと魔力に頼った攻撃を行うように努め、それを自分の戦闘スタイルと定めた。
 ――否、もとより、できることはその程度だった。限られていたのだ。
「荒れ狂え、古の風……!」
 ダガーを迫る触手に振り向ける。構築された風の杭が無数に炸裂、迫る触手を粉砕し紫色の液体をしどどに散らすが、吹き飛んだ側から触手は再生し、無事なものはユア目掛けて撓り打ち据えに掛かる。
 風の魔術を纏い、ユアは加速。触手を斬って斬って斬りまくる。しかし、その動きすら予想の範囲。彼女のスピードを、尚上回る物量、再生能力を得るべくデザインされた触腕騎士は、触手を囮にユアの前に迫った。明らかに両手剣のサイズを超えた鉄塊を両手にして、無造作な振り下ろし。
「ぐっ……!」
 残像を残してユアは回避。しかし、その回避先に回り込んだ触手が足を取る。
 しまった、と声を上げる間すらない。唸りを上げる鉄剣がユアの胴に叩き込まれた。二刀で受けたのに、身体が拉げるような衝撃が走る。彼女の身体はボールめいて飛び、大木に叩きつけられてずるずると沈んだ。
「が、は」
 内臓に損傷。吐いた血がびたりびたりと血に落ちた。喘鳴を零しながら、ユアはゆらりと立ち上がる。異界の騎士が迫る。今一度、『刹無』の弾幕で迎撃。触手が弾けるが、すぐに再生される。
 ――これでは駄目だ。
 今までと同じでは、何度やっても負ける。命は無尽蔵ではない。あと二回も繰り返せば殺されることになるだろう。
 ユアは意識を研ぎ澄ます。今で勝てないなら今を捨てる。そうすればこの手に転がり込んでくるのは未来だけだ。変化を恐れるな。いずれにせよ、変われなければ死ぬだけだ。
「――『核路』開放。花片全連結。『開花』に至れ」
 神象魔術回路のコアを解放し、それを取り巻くように神象術式回路『一乃片』から『四乃片』までを全連結。纏う風の速度を増し、詠唱速度を、瞬発力を強化し、肉体の強度を、筋肉の反応を、その出力を増し。
 ――目の前の敵を倒すという確実な未来。それを叩きつければいいなんて、簡単な話じゃないか。
 口の端から血を垂れ流しながら、ユアはにやりと笑う。
 神象術式とはそういうものだ。有り得べからざることを現出する禁呪。ごく少数しか遣い手のいない、現実を侵食する魔術。
「治むるに値するかと言ったな。答えはノーだ、狂王。元よりお前が治められるものなど何もない――旧き王は倒されるのがセオリーだろう?」

 だから殺してやる。
 私が、私たちが、この手で!

 ユアが地面を蹴った瞬間、音の壁が破れた。
 ――速さという概念を極限まで尖らせたのならば、それは力と同義になる。威力とは重さと速さの掛け合わせ。重さがなかろうとも、速さを先鋭化して増したならば――その速度に比例して威力は向上する。
『開花』状態。神象術式回路を全てドライブし、それらを、核路を中心に連結して花に見立てた状態だ。
 ユアは超音速の世界で、ダガーに槍めいて風を纏わせた。風が渦巻き、可視化されるほどに空気が歪む。その異様の前に、恐れるように怪物が防御を上げた。
 ――無駄だ。
 私がそう決めたのだから、おまえは既に死んでいる。
「咲け。せいぜい鮮やかにな」
 ユアは言って、そのままダガーを突き出した。圧搾された風の刃がドリルめいて騎士の腕を、胴を貫き――約束されていたかのように、爆ぜる。

         デス・ブロッサム
 ――開花するは、 惨 死 大 輪 !!

 爆ぜた風の刃が傷口の内側より騎士をかき回し、その肉体を血と肉の大輪として散らした。
 神象術式、『開花』壱式、『惨死大輪』――ここに成れり!
「悪いが――急いでるんでな。そこでそうして死んでいろ」
 飛び散った怪物を一顧だにせず、ユアはナイク・サーを目指して今一度駆ける!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

街風・杏花
1◎

あらあら、なんとも素敵なお姿になって。
当て馬相手に己の価値を証せと、そう仰いますか。

私は、弱い。

当然でしょう?
戦う相手はいつも格上、私は非才な凡夫にすぎない。
ですけれど、ええ、それで良いのです。
世界は遍く強く、美しく、素晴らしい。
――それを。弱い私が食らうから、気持ちが好いのです。

ああ、けれど。
君臨するばかりの貴方はやっぱり、美しくない。
ならば私も……水面の月に手を伸ばすばかりでは、いけないのでしょうね


・戦闘スタイル
刀と格闘
渇望による自身の強化
白炎蜃気楼による幻影(主に「花を生み出す」か「日本の妖怪を身に纏う」)

素の剣腕は「努力している女子中学生」程度
真の姿は髪と翼を黒く染めた人狼混じり



●神雷
「あらあら、なんとも……素敵なお姿に、なって。当て馬相手に、己の価値を証せ……と、そう、仰いますか」
 街風・杏花(月下狂瀾・f06212)の身体は既にズタズタだった。
 その血には傍観者より付与された毒が今なお巡り、傷からは血が絶え間なく流れ続ける。そればかりではない。結界に捕り篭められた杏花の前に現れた怪物は、彼女に全く抵抗を許さないほどの強さだった。
 体長三メートル超、杏花十人分はあろうかというウェイト。鋼鉄の鱗の上に、更に鉄の鎧を纏った、曲刀を持つ蜥蜴男であった。剣の技に冴え、口からは瘴気のブレスを吐き、尾の一撃は岩をも砕く――強敵であった。
 その蜥蜴男には、杏花のあらゆる剣技が通用せぬ。鎧を縫えども、その鱗に刃が通ることはなく、それどころか刃が零れた。迅駛の勢いで放たれる敵の一刀を受ければ刀は欠け、尻尾で打ち据えられれば杏花の軽い身体は結界の終端まで弾き飛ばされ、叩きつけられた。
 もう、幾度吹き飛ばされたことか。肋は砕け、もはや左腕は上がらず、右手にした刀は刃が零れ。杏花は絶体絶命の窮地に追い込まれる。
 蜥蜴男が来る。頭から流れる血が杏花の目を塞ぎかける。拭い飛ばして、受けに回るどころか杏花は前進。振り下ろされる鋭い一撃に合わせ刀を上げて、なめらかに受け流しつつ敵の横に回る。返す刀で追いかけてくる横薙ぎを間一髪、身を屈めて躱す――

 ――ああ。
 私は、弱い。
 此度に限ったことではなく――戦う相手はいつも格上、私は非才な凡夫にすぎません。
 いつでも、血を、肉を炎に焼べて、命をかけて挑まねば、真面な勝負にすらなりはしない。

 打ち合う、打ち合う。
 自分の身体を振り回すようにして、遠心力と威力とを載せた切っ先の一撃が、無造作に振るわれる蜥蜴男の一撃とようやく釣り合う。
 鉄の風が吹けばこのような音がしたろうか。
 杏花と蜥蜴男の間には、尽きず絶え間ない万雷の剣戟が響く。

 そうせねば超常へは至らず届かぬ非才の身――ですけれど、ええ、それで良いのです。
 世界は遍く強く、美しく、素晴らしい。――それを。
 それを、弱い私が食らうから、気持ちが好いのです。

「――ああ、けれど、狂王様。君臨するばかりの貴方は矢っ張り、美しくない」

 杏花は一言呟いた。
 そう、彼女の言葉は一から十まで、目の前を阻む蜥蜴男ではなく、その奥にいる狂王――ナイク・サーを目掛けて発されている。
 最初から、蜥蜴男など眼中にないのだ。斬り、倒すべきはその奥に在る狂賢者である故。
 剣風唸り、打ち合う最中、杏花の髪が、翼が、ざぁ……とまるで月に雲がかかるように黒く染まった。紅い瞳がぎらりと光る。
「水面の月に手を伸ばすだけでは止められないというのなら、私も、限界の一歩先へ参りましょう。ええ、ええ――空にある月を、掴んでご覧に入れましょう」
 ご、おおう!!
 杏花の身体から迸る白き炎。『白炎蜃気楼』。既に蜥蜴男にも幾度か放ち、破られた『古の畏れ』を纏う体術――『灯狼礼装』の構えか。
 いやしかし、白炎蜃気楼は彼女の身体ではなく刀のみを包む。無銘の打刀が、ぴしり、と音を立てて火花を上げた。蒼白い火花――否。
 それは、雷電。
 挙がらぬ左手を鞘に添え、白く燃える刃を電瞬納刀。蜘蛛のような低姿勢で飛び退き、杏花は強敵を視た。追い来る敵をただ睨み、後の先を取るように踏み出す。
 一歩で姿がぶれ、二歩で消失。三歩で敵の眼前に。
 抜刀。白き炎は紫電と化し、抜いた側から迸る。現れたる刀身はもはや、雷霆そのもの。白炎蜃気楼を鞘の中に閉じ込めることで、より強き古の畏れを、一瞬だけ顕現する。
 それは妖怪でも、伝承でもない。
 ――神である。


 ホロウエンハンス・レジェンダリ
 灯 狼 礼 装 ・ 極 一 刀。

    タケミカヅチ
 ――『 建 雷 命 』!!


 神を宿した一刀を、しかして振るうは杏花である。強者に及べと願うその渇望が、狂瀾怒涛の戦意と殺意が、ただ、その一念によってのみ――神の刃を駆動する!
 電瞬神雷の抜刀術が、爆ぜる紫電と共に蜥蜴男を両断した。受けに回った曲刀さえも砕き、その身体を天地上下に分かち、即死せしめたのである。
 ざアッ、とブレーキ。紫電燻る刀を手に、杏花は黒髪を翻して笑う。消えていく結界の向こう、ナイク・サーをただ視て。

「――さぁ、次は貴方様の番です、狂王様。うふ……うふふふ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

白斑・物九郎
●アイシクルドライブ



ー戦闘スタイル・得意なこと
近接白兵戦

ー弱点
勘で察知出来ても着弾までに退避不能な面制圧攻撃

ー絶対にやらないこと
戦意喪失


・3.自身で考案
【アイシクルドライブⅡ】
野生の勘で「質量を持つ物質」である「時間」の存在と流れを理解
「動きを一時的に封じる対象」を「敵の体」ではなく「敵を取り巻く時間」に設定し放つ、次元を上げた「デッドリーナイン・ナンバーフォー・ダッシュ」
時間停止に至った停止属性の極
敵に穿てばその動きを概念レベルで封じる
「自身の周囲の時間を止め/自身は凍結させずに駆ける」ことで疑似的に瞬間移動級の機動速度をも叩き出す


●戦闘
・邪神の自己増殖と再生に停止を強いる間に核を探し、穿つ



●モノクローム・ワールド
 ど、が、が、が、ががががががががががががががががっ!!!
「かは、ァッ……!!」
 喀血の声。ゴム鞠めいて、甚平を纏った青年の小柄な体躯が跳ね飛ぶ。
 凄まじい威力、そして凄まじい速度だ。圧倒的な火力で放たれる面的制圧。拳大の魔力の礫が、あらゆる方向より連射されて彼を撃つ。
 白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)は血を吐きながらも転げ、決して戦意を失わず敵の方向に回頭する。しかしその瞬間には敵はもう彼の視線の先にはいない。
 ちりり、と物九郎の項に突き刺さる殺意。その瞬間に横へ跳ねるが、だがそれすら見越していた風に魔弾の連射が全身に突き刺さる。
 物九郎のフィジカルでなくば、既に身体は砕け、粉微塵になっていたやも知れぬ。それほどまでに苛烈な攻撃だ。元来、物九郎はその類い稀なる野生の勘で敵の攻撃の端緒を掴み、身体能力にてそれを回避、近接白兵戦に持ち込み打ち倒す戦闘スタイルを成す猟兵であるが――敵は、全身に幾つものねじれた翼が生えた奇怪な邪神は、物九郎の勘とスピードを上回る物量と速度でそれに応じた。空中を縦横無尽に駆け、凄まじい数の魔力の礫を以て、全方位より包囲飽和攻撃を叩き込んでくる。魔弾の嵐が吹き荒れるたび、物九郎の身体は襤褸切れめいて吹き飛ぶ。
 単発ならば如何様にもしてみせる。連射であろうと躱して見せよう。しかし、圧倒的多数、同時の面的制圧は、いかに来る方向が予測できたところで、回避すること罷り成らぬ。
 物九郎は血を吐きつつ、喘鳴する喉を叱咤するように胸を掻き毟り、立つ。彼は消耗していた。……魔弾によるダメージだけではない。秘術により生み出されたその怪物――『使徒』は、まず出現した段階で物九郎の体力を削っている。
 ナイク・サーは自身の魔力を僅かに消費し――取り込んだ『傍観者』から縁を辿って、物九郎の体力を吸い上げて、その翼の使徒を召喚したのだ。戦いはそうして、生命力を削られた状態から始まった。その上、そうして生まれたのは物九郎の強みを全て正面から叩き潰し、凌駕する戦闘スタイルの敵。状況は、呆れかえってしまうほどに絶望的だった。
 ――絶望的?
「冗談は止しなせェ……こっからですでよ」
 金色の瞳が燃える。ただひとつ特化した技能、その圧倒的な野生の勘を、敵の面的攻撃で封じられて尚、その瞳から戦意が失せることはない。
 ――物九郎は息を吸い、目を閉じた。ひとつ、上に領域を上げる。
 敵の攻撃の端緒を掴むだけでは攻撃が回避できないのならば。もっと、大きな流れを掴むのだ。物九郎が持つ野生の勘とは言うなれば第六感。五感で識覚できぬものを掴み取る。
 大きな流れ。この瞬間も流れゆくもの。――それは全く突然の閃きだった。左腕に宿るは氷の力。デッドリーナイン・ナンバーフォー、『アイシクルドライブ』。
 ちりりり、と項が、右肩がひりつくように痛む。攻撃が来る。それを察知した瞬間、物九郎は左腕を一閃した。
 彼の野生の勘が、超感覚が、『時間』を捉えた。まるで川のように、今この瞬間も不可逆で流れる時間流を。そこに左腕を突っ込む。『凍らせる』。凍結とは、停止だ。時間流を停止させ、止まったモノクロの世界の中を物九郎は駆ける。
 敵から視れば、それは瞬間移動に等しかったろう。物九郎は自身を取り巻く時間を止め、止まった時間流に突き刺さった無数の魔弾の間を掻い潜り、翼の使徒目掛けて襲いかかった。迎撃に放つ魔弾すらも物九郎に突き刺さる前に次々と停止する!
 脳が沸騰しそうに熱い。理解してはならないモノを理解してしまった感覚。
 それにも構わず、物九郎は『停止の』左腕を振り翳し、真っ向から使徒へと突撃。
 これぞ、時間停止に至った停止属性の極み。
 デッドリーナイン・ナンバーフォー・ダッシュ――『アイシクルドライブⅡ』!
「この領域に着いてこられなかった自分を呪いなせェ!」
 凍えた時間の中で吼えた物九郎の声を、翼の使徒は聞くことはなかった。
 胸に突き立った停止の左腕が、使徒の全てを停止させる。

 右手に発生した心を抉る鍵を一度回旋、物九郎は停止した翼の使徒を、残された効果時間の間に合わせて一〇八閃打ち据えた。停止した時間の中でのラッシュは、現実に回帰した瞬間、同時着弾する衝撃の嵐となる……!

 時間流が溶け、世界に色が戻った瞬間――
 使徒の身体は不可逆に抉れ、破壊されて散り散りに吹き飛ぶ。
 物九郎はニィと不敵に笑い、口内に溜まった血を吐き捨て――
「さぁ、次はてめぇですでよ、狂王……!」
 吼え、狂王目掛け踏み出す!

大成功 🔵​🔵​🔵​

トゥール・ビヨン
・元UC
ドラゴニック・エンド

・1.フルオーダー

・戦闘スタイル
パンデュールに搭乗し操縦して戦う

・その他プレイング
ああ、決着をつけよう狂王
お前にどんな奥の手があろうと、傷付けた人達の嘆きを、苦しみをこれ以上増やさせたりするもんか!

負けない、ボクは

頼む動いてくれ、パンデュール……

ボクは……ボクは……


なんでボクだけが生き残った
ボクは誰も守れない、この先もずっと
生き残ったことを後悔しながらのたれ死ぬんだろうな
孤独な旅の中ずっとそんなこと考えてた


もういい、もうそんな思いで生きていくのはたくさんだ

友達を助けられるように、大切な人を守れるように、ボクは

ボクは強くありたい、そう誓ったんだ!

動け、パンデュール!!



●光剣、天を衝く
 トゥール・ビヨン(時計職人見習い・f05703)は、ミサイルのように放たれる岩棘を空中を飛び回って避ける。彼は周囲に張り巡らされた巨大な結界の中で、巨大な――パンデュールに乗ってさえなおも巨大な、十メートル級のゴーレムと渡り合っていた。
 敵の材質は恐らく岩。常に脈打つようにその身体は形を変じており、体表に現れた岩棘を次々と射出して攻撃してくるほか、その膂力と巨体によって力任せのぶん回しを仕掛けてくる。
 掠めれば、いかにパンデュールが優れた機体であるとて、機能に障害を及ぼすことは必定だ。最悪、一撃で大破する可能性すらある。
 トゥールはあらゆる戦闘機動を試した。ドゥ・エギールによる高速斬撃、ワイヤーを用いて岩塊を叩きつけての反撃、システム・パンデュールによる衝撃波投射――だが、そのいずれでも敵を止められなかった。まるで痛痒を受けていないかのように敵は動き続けた。
≪警告。敵モーションニ変化アリ≫
『!!』
 ゴーレムが無造作に地面に右腕を打ち付ける。
 その瞬間、地殻が音を立てて波打ち――ど、どどどど、どどどうっ!!!
 凄まじい音を立てて無数の岩の槍が地面より噴き出る!
『くッ……!』
 トゥールはその凄まじい操縦技術により槍を回避、回避、回避! だが、それを回避して尚敵には次の策があった。パンデュールが過たず回避したはずの岩槍から――ざりり、と音を立てて岩棘が生える。
『な――』
 コクピットの内側でトゥールが目を見開いた瞬間、ショットガンめいて岩棘が炸裂した。パンデュールの各所に岩棘が突き刺さり、機体が拉げ、吹き飛ぶ。
 一瞬、トゥールの意識が飛ぶレベルの衝撃。機体全容を見れば、最早ダメージを受けていないところがない。満身創痍とは正にこのことだ。
≪警告、警、コク、機体障害甚大、即時脱出ヲ推奨シマス。機体出力低下……≫
 力を失い、ぐらりと傾いで落下する機体。その浮遊感の中、トゥールはかつて失った故郷のことを想っていた。
 なんでボクだけが生き残ったんだろうか。ボクは誰も守れない、この先もずっと。この小さな身体で、この小さな手では。

「――動け」

 きっと、生き残ったことを後悔しながらのたれ死ぬんだろう。
 でも死にたくないから翅は動くんだ。ひとりぼっちで。この先に何があるのかも分からないのに。

「――頼む。動いてくれ、パンデュール」

 孤独な旅の中、ずっとそんなことを考えていた。
 絶望に打ちひしがれて、辛酸を舐め、孤独を友とし、這いずったあの日のことを今だって忘れない。
 みんな死んでしまった。大切な人も、友達も、みんなみんな!

「――だから!! だから強くありたいって誓ったんだ、ボクは!! 今度は守れるように! みんなを助けられるように! ――あんな思いはもうたくさんだ――動け、パンデュール!!」

 トゥールは慟哭しながら操縦桿を推す。
 彼の身体から、蒼白い燐光が零れる。それは、パンデュールの鎧装に走った紫電と同じ色をしていた。
 ザッ……ザザッ、
≪粒子供給確認――反撃ヲ、開始、シマス≫
 マシンコンディションは最悪だ。今にも壊れてしまいそうな機体の中、しかしパンデュールはトゥールの意思に応えた。その背に、妖精めいた蒼白い翅が広がり、機体を紫電が包み込む。
『ただ一撃でいい――パンデュール!! ボクに力を貸してくれ!!』
≪ラージャ。コード・クレイモア・レディ≫
 それはパンデュールが初めて見せた挙動だった。膝と肘、フォースセイバーの発振機から溢れたフォースオーラが、紫電の形を取ってドゥ・エギールの先端へ絡みつく。結果、ドゥ・エギールは光の大剣めいて伸び――一振りで周囲の岩槍を切り崩す!
『おおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
 最早推進器に回すエネルギーはない。トゥールはフックワイヤーを敵に打ち込み、巻き上げ、腕を蹴り、駆け上って跳躍! 叩き落とそうと腕を上げるゴーレムの頭から、股下までを目掛けて、
 ――斬ッッッ!!!!!!!!

 十メートル級のゴーレムを、頭から股下まで一刀両断にしたその光の大剣は――
 フォースドライブ――“コード・クレイモア”。
 トゥールの心が呼び覚ました、熱き光の剣……!

 崩れ落ちていくゴーレムを前に着地し、トゥールは光の剣をナイク・サーへ目掛け構える。
『決着をつけよう、狂王。……お前にどんな奥の手があろうと、傷付けた人達の嘆きを、苦しみをこれ以上増やさせたりするもんか!!』
 吼え声が、割れていく結界を抜け、高らかに響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニノマエ・アラタ
【各自】
てめえの敵はてめえで倒せ
視界の隅っこに映っても連携は考えねェ

俺なら攻撃喰らおうが突進して敵を倒す。
間合いを意識して敵の足を止める、だ。
相手が格上かつ同じ戦法で来るんなら、
脚潰されないようにして、
不意を打って予想できねェ一瞬を狙うしか無ェわ。
武器の使い分けについては、状況や間合いでこだわりなく変える。
でも妖刀だけは手から離れたことが無ェな。
気づいたら必殺武器ってワケだ。
弱点はダメージを顧みず捨て身の一撃に賭けちまうところかね。
油断はぜってーしねェつもり。
治めるってのがそもそも幻想だ。
この世界も人も誰の物でもない。

ノゾミに対し思うこと
「優等生すぎるぜ

2.
未使用の新規UCにつき会得描写等、◎


青霧・ノゾミ
【各自】
ニノマエに言われるまでもないよ。
呪詛という不要の枷を外し、数多の嘆きをしかるべき場所へ還す!

速さを生かしての攪乱が得意。
なので今回の敵を前にした場合は。
相手の動きに翻弄されず無駄に動き回らない。
敵のラッシュ時にしっかり攻撃をガードし、
ダメージを最小限に抑えて恐れずに敵の懐へ踏み込む。
…恐れずに踏み込むしかない。
カウンターのカウンターを狙って。
弱点は持久戦が得意じゃないことかな…。
絶対にやらないことは快楽殺人。
(サブは対人戦闘技術の優秀さでそう呼ばれた、らしい)

ニノマエに対し思うこと
「捨て身の一撃に昂る変態
「そうして自分一人が地獄に残る? やっぱり馬鹿だね

1.初使用ですが、さらなる◎歓迎



          やりかた
●たった一つの冴えた 戦 法
「来やがったな……」
「そうみたいだね。……じゃあ、始めようか」
「そうだな。……介入はナシだ。てめえの敵はてめえで倒せ」
「言われるまでもないよ。……呪詛という不要の枷を外し、数多の嘆きをしかるべき場所へ還す!」
「うまくいくように祈っておいてやる。また後でな」
「そっちも精々死なないようにね、ニノマエ」


 ――そうして、二人の青年は己が敵と向き合った。
 結界に分かたれ、閉じ込められ。孤独なる戦いを始める。


 青霧・ノゾミ(氷嵐の王子・f19439)の得手は高速移動、そして氷属性の斬撃・飛び道具による攪乱からの攻撃だ。そんな彼の前に姿を現した使徒は――その全身に陽炎を纏い、各関節部の横に張り出した筒状の器官より時折、炎を噴き出す――紅黒で統一された、流線型の人型の怪物であった。
 何をしてくるか分からない。故に、相手の動きに翻弄されず、無駄に動き回らず――防御を固め、ダメージを抑えつつ懐に踏み込み、断つのが最善策。
 凍刃をすらりと抜いて、油断なく構えたノゾミの前、首を回した怪物が一歩目を踏み出した。
 BOOOM!! 炸裂音!
 目を見開いたノゾミの真横に怪物が到達! BOOM!! 二発目!
 斧めいた回し蹴りがノゾミの首を断つコースで放たれる。ノゾミは辛うじて反応、蹴りを回避するが、怪物の動きは止まらない。関節部に張り出した噴出器官――あれはブースターだ! 爆発的に炎を噴き出し加速に用いているのだ! ノゾミがそれを悟った時には、敵は圧倒的な加速でノゾミに追いすがっている。
 ただのジャブが呆れるほどに速い。ノゾミは凍刃により辛うじて攻撃を受け流すが、二発受け流す間に四発拳が来る。最小限の動きに効率化し、回避してもどうしても一発は貰う。喰らった拳が、血を吐くほどに重い。
「ッ――凍れ!!」
 鋭く吐き出した音韻と共に、空気から氷の矢がパキパキと析出し、ノゾミの念に従って唸り飛ぶ。『氷嵐』。氷の矢を嵐の如く連射するユーベルコードだ。しかしそれすら、怪物は腕をクロスして突撃、突き刺さろうが無視してやり過ごしノゾミの間近へ距離を詰める。
 シイィイ、と地獄の蒸気を口から漏らし、怪物が笑う。BOOM!! 足首関節のブースターに点火! 蹴り脚をブースターで加速しての旋風脚がノゾミの脇腹を食い破ろうと迫る!
「くッ」
 掠っただけで骨を持って行かれそうな威力だというのが分かる。ノゾミは身を引いて辛うじて回避するが、怪物は炸裂音と同時に、まるで空中を蹴り飛ばしたかのような出鱈目な機動でそれに追従した。
 槍のような蹴り。凍刃を盾にそれを受けるが、ノゾミの身体は打たれた野球ボールめいて飛んだ。結界に背中から叩きつけられ、かは、と漏れる血混じりの息。

 ――相性最悪だ。このまま持久戦を続けることになれば、勝ち目はどんどん薄くなる……
 ああ、こんな時、あいつならどうするだろう。
 捨て身の一撃を食らわせて、なんとかしてみせるのだろうか。
 馬鹿だよ。自分一人で捨て身になって、地獄に残って――片付ければ勝ちなんて顔をして。

 BOOM, BOOM, BOOOOOM!! 敵がブーストを繰り返し、ノゾミ目掛けて追い縋る。
 一瞬だけ、ノゾミは結界の向こう側に目をやった。
 ――その馬鹿が、今どうしているのか。ほんの少しだけ気になったのだ。
 背中が見える。彼もまた、強敵に対して構えを取っていた。いつも通りの――攻撃を食らおうとも立ち向かう、不屈の構えを。
 ――おまえは優等生過ぎるんだよ。ノゾミ。勝つためには、死を覚悟して踏み込む瞬間ってやつが必要なんだ。
「うるさいな……、」
 頭の中に聞こえた、その『馬鹿』の声に、ノゾミは瞬刻、姿勢を低めた。
 刃に凍気を通わせる。
 そこまで言うなら、やってやろうじゃないか。


「が、っぐ、う……!!」
 思わず呻きが漏れるほどに、打撃は冷たく重い。
 ニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)が睨む敵は、氷の魔人だった。鋭角的に尖った、群青色の氷を組み合わせて、人の形に組み上げたかのような怪物。それはアラタ以上の力、アラタ以上の速度、アラタ以上の技術を以て彼に襲いかかった。
 敵の攻撃は拳打と蹴撃。後は、空気中の水分を凍らせ、礫として使ってくる程度。しかし、その単純な攻撃が呆れるほどに重い。
 肉を切らせて骨を断つとばかり前進し、手にした妖刀に炎を纏わせを叩き込んでも、鋼鉄のガントレットめいて堅い前腕で刀を受け流し、拳の嵐で反撃してくる。
 ガードを固めて受けるが、受け続ければ凍え、骨が砕かれかねない威力の拳の嵐だ。いかなアラタとて、飛び退き守勢にならざるを得ない。開いた間合いに従い即座に拳銃を抜き、銃弾を撃ち込むが、敵が地面を一蹴りするなり現れた、分厚い氷の壁に阻まれ防がれる。
(油断したつもりはねェが……敵が格上だってのは――伊達じゃねェってことかよ)
 捨て身の前進には手痛い拳のラッシュが返り、飛び道具で動きを制限しようと試みても即応される。凄まじい対応力に加え、打ち破りにくいシンプルな攻撃。強固な防御力と、単純な打撃によって戦闘を展開する相手。
 アラタが戦法に迷った瞬間、敵は展開した分厚い氷の壁をその脚で蹴り砕き、無数の氷の弾丸と化して、ショットガンめいてアラタへと射出。転がるように回避したアラタが向き直った時には群青の人影が間近に迫っていた。スピードスケートめいて地面を滑走し、一瞬で間を詰めてきたのだ。
「く……ッそが!!」
 びゅおッ、と音。空気を引き裂き繰り出される蹴撃を辛うじて躱し、妖刀『輪廻宿業』の切っ先を飛燕めいて翻して斬撃を叩き込むが、魔人は右腕を上げ、前腕にて刃を受け、滑らせて受け流す。その外殻はまるで鋼鉄――否、それに数倍する強度を持つかのように、妖刀の一撃を火花さえなく逸らすのだ。
「堅ェ……!」
 刀を引く前に槍めいた中段蹴りが来る。アラタは身を捩らせてそれを辛うじて回避。
 ばん、と爆ぜる音。中段蹴りがそのまま踏み込みに派生。大きなストライドからの右上段掌底がアラタの顎を捉える。ガードも敢えなく間に合わず、吹き飛ぶアラタ。背中から地面に叩きつけられ二転、刀を地に突き立てて止まり、なんとか復位する。世界がぐるぐると回る。余りの威力の打撃に、三半規管を揺らされた。回る世界の中で、敵が踏み込んでくるのだけを辛うじて見て取る。
 脚だけは守り抜いている。踏み込みは、まだ効く。
 敵の予想を上回る、予想すらできない一撃を叩き込むしかない
 ――くそったれ。こんな時、あいつならどうする? 何でも涼しい顔をして、スマートに打ち勝ってみせるあいつなら――
 捨て身なんてバカらしいってあいつは笑うんだろうか。けど、俺にはこれしかできない。捨て身で、敵の隙を狙って――
 ――刃すら、あの敵には立たないのに? どうやって?
 頭の中で優等生が言う。黙ってろ。斬るんだよ。捨て身に全力を懸けて。
 ――馬鹿だな、ニノマエ。身体が斬れないのなら――奴をここに繋ぎ止めている、何かを斬ればいいんだよ。
 ぴん、と、想像の中の優等生が呟いた言葉が、パズルのピースめいてハマった。
 ……何か。
 妖刀の銘。輪廻、宿業。万世全ては輪り廻り、宿った業のもと連綿と紡がれる如し。
 この業より解き放たれしものは、此岸を離れ彼岸へ向かう。
 輪廻宿業の真の力。それは、輪廻の環に結ばれた、敵が『この世に存在するための因』を断つこと。
 回る世界の中で、アラタはどんなときでも手放すことのなかった妖刀を、必殺の一閃を構え直す。


 ――敵が、迫る。


 ノゾミは肺腑の奥にまで凍気を満たした。凍れ、凍れ、凍れ。ただこの身ひとつ、裂帛たる凍気の化身となりて。手に持つ凍刃が鋭く光る、炎の魔人を映して光る! 後の先取るように踏み出して、凍れる声で吼え、疾る!


 アラタは流した血の全てを燃やし、敵の動きを僅かだけでも緩めようと試みた。回る世界の中、既に視覚は当てにならぬ。駆け寄せる敵の殺気を、この世に敵が在る為の『よすが』を、心の眼でただ睨む!


『凍気――』 『――輪廻』
『――裂帛』 『宿業!!』


 圧倒的高速で迫った炎の魔人の腕が飛んだ。ただの短刀の一撃が、その腕を裂いたのだ。
 まぐれではない。踏み込んだノゾミは、そのリーチの短い短刀に、凍気の全てを注ぎ――限りなく薄く、靱く、鋭い薄氷の刃を練ったのだ。攻撃動作に入ったのは魔人が先。しかし、それをも見切り――ノゾミはその対人戦闘技術をフルに発揮。首、肩、膝、肘、炎を噴出する器官を、順に適切に解体する!! ――最早止める者もない魔人の骸が、スピードの侭に結界にぶつかり、爆ぜる!!


 ピッ――と、光の閃が走った。アラタが振り下ろした輪廻宿業のなぞった軌跡である。
 それと全く同時。駆け寄せる堅固なる氷の魔人の胸の奥、拳大の蒼い塊に、唐突に真一文字に亀裂が刻まれた。それは亀裂と言うには真っ直ぐすぎる。まるで、そこだけが――外傷のひとつも無いのに、そこだけが断たれたかのような疵。人で言うならば心臓を、前触れなく断たれた氷の魔人は傾ぎ、アラタの横を滑り抜け、結界に激突して粉々になった。


 同時、結界がガラスめいて崩れる。
 ノゾミも、アラタも、背を向け合ったままだ。互いに無事を確認することはない。
 ただ、妖刀と、凍刃が、
「治めるってのがそもそも幻想だ。この世界も人も、誰の物でもねェ」
「だから消えてもらうよ。この世界には、王様なんて不要なのさ」
 狂王に切っ先擡げ、煌めいていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カタリナ・エスペランサ
2◎

技名:お任せ
内容(アレンジOK):元UCの代償三種を全て負う事で効果をより増強、武装強化の紅雷(閃紅散華)・万象を侵蝕し支配する瘴気(再現せしは神に仇為す者)等他UCの力も同時に引き出す
代償は気合いで耐え、この負荷も属性攻撃に上乗せ
真の姿に近づき翼は六枚に増え頭上に光輪/脱ぐのも着込むのも歓迎

戦法:魔神の権能由来の各種属性攻撃・武器から放つ衝撃波や羽弾の遠隔攻撃・ダガーや体術の接近戦を組み合わせた高速戦闘で敵の弱みを突く
弱点:怪力や魔力は瞬間的なブーストであり長時間の維持は困難
NG:誇りに反する事はしない・今回は普段の軽薄を崩さない(強がり)

「――それでも。勝つのは未来(アタシたち)だ」



●叛逆せよ
 空中で、いくつもの火花が爆ぜた。雷轟めいた衝撃波が走る。
 熟練の猟兵が見れば、それはカタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)が敵と激突した軌跡なのだと追えたやも知れぬ。しかし、最早人の眼には捉えきれぬほどの高速戦闘。ダガーが、敵の翼と軋り合う。
 翼。そう。カタリナの敵は、ハーピィめいて両腕を翼と化し、脚に鋭い鉤爪を纏った、翼人様の何かであった。全身は白い羽毛に覆われ、内情は明らかにならぬ。ただ紅い眼だけが、羽毛の隙間で嗜虐的に輝いている。
「く、うっ……!」
 反撃を繰り出すカタリナの唇から苦悶が漏れた。当然だ。もう、その身体は呪詛と流血、そして毒により侵されきっている。敵は、攻撃をせせら笑うように機動回避、すかさず畳みかけるような連続攻撃を放った。防戦一方となるカタリナ。
 彼女は魔神の権能を身に宿し戦う猟兵である。魔神の力を人が振るえば、反動があるのは当然のこと。化身として『感染』した身であろうとも、それは変わりない。負担の大小があるだけだ。
 魔神の力を抜きにするのであれば、彼女は速度と技巧に秀でた少女に過ぎない。ここまでは、それだけでも充分であった。大抵の敵はそれだけで翻弄し、片付けることが出来た。彼女の本体性能自体が充分常識の埒外であるために。
 ――しかし、この敵は違う。
 速すぎる。
「く、あっ……?!」
 ダガーが弾かれ、身体が開いたところに鉤爪光る蹴り。もう片手のダガーで受けるが、余りの撃力に吹き飛ばされる。そこにすかさず怪物が翼を打ち振った。射出され降り注ぐのは鋼めいた硬度を帯びた羽の弾丸。
 翼を打ち振り機動を取り戻し、回避を試みるカタリナだが、それでも数発の被弾は免れ得ぬ。魔神の力の反動だけではなく、打ち合うたびに傷は増え、劣勢を強いられる。
 敵のスピードは今までにはあり得ぬものだった。超常の速度を持つカタリナが魔神にて自己強化をして漸く五分。少しでも強化が緩めばすぐに均衡は崩れ、速度と火力に圧倒される。その差を埋める為、カタリナは負荷を圧して自己強化を繰り返す。――正に負のスパイラルだ。
 このまま行けば勝ち目は無い。
「ッハ……やってくれるじゃない」
 既に全身からしどどに出血し、最早勝ちの目はないかに見える状況下にあって、カタリナはそれでも軽薄な態度を崩さぬ。魔神の力を宿し戦えるのもあと僅か、身体がどこまで保つかも分からないというのに。
 ――それでも、誇りは曲げられぬ。
 いかなる強敵が相手であろうとも。屈して膝を折ることだけはしない。
「……狂王サマから力を貰ってゴキゲンってところかな。けどね、そんな借り物の力じゃ、アタシの心は折れやしない」
 ぼう、とリングが煌めいた。カタリナの頭上に光るは光輪。血に染まった紅き翼が分化・浄化し、不浄を寄せ付けぬ真っ白な六枚の翼に変貌する。
 ――侵食率最大。呪詛が、血を巡る棘のような毒が痛みを増す。構わない。
 衣服が、天使が纏う羽衣めいたものに変化し、その裾が遊色に煌めく。
「ぶっつけだけど、見せてあげる。アタシの『真の姿』」
 宿すは主神に叛き追放された魔神の魂。紅雷を纏い伸びたダガーに、黒雷が交わる。ダークレッドの煌めきにより延伸されたダガーは、その刃渡りのみで一八〇センチメートルほどの大剣へと変貌する。
 ――直感がある。長くは保たない。
 カタリナはその直感を表には出さぬまま、ぶぉん、と大剣を一振り。それだけで空気が紅黒のスパークに爆ぜる。
「……!」
 対する怪物もその危険性を悟ったか、カタリナを中心とした超高速旋回機動を開始。全方位より発射する羽弾にて包囲攻撃をかける。
 カタリナは空いた左手を挙げ、黒き風を巻き起こす。神に仇為すもののみが扱える、蝕む瘴気の嵐。羽弾を朽ち落ちさせながら、六枚の翼を羽撃かせ飛翔!
「アンタ達が、どれだけ強かろうが……どれだけの絶望を引っ提げてこようが。勝ち目がなく見えようが、――それでも!! 最後に勝つのはッ、」
 圧倒的な機動力を持つ敵へ、カタリナはそれを完全に凌駕するスピードで追従!
 六枚の翼が、原初の炎に紅く燃える!

 アタシたち
「 未 来 だッ!!」

 神が絶望を定め給うなら、それにすら反逆しよう!
 振り翳す紅黒の剣は、『叛逆の黒紅』――リベリオン・ダークブラッド! 逃れようと羽撃く魔人の機動の先に回り込み――黒閃にて周囲の空間ごと、その身体を引き裂くッ!!!
 金切り声めいた断末魔を上げ、二つに分かたれた身体が黒く燃え落ちていく。
 カタリナはそのまま爆ぜるように飛んだ。……狂王へ、叛逆を果たす為に!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユキ・パンザマスト
◎【3】
──は、胸糞悪ぃ。随分、勝手をほざきますねえ。
厄介なのは確かですが、お前ら全員、ユキ達を測れたもんじゃねえ。
使徒も、器もろともその面も、
喰らい千切らせて──いただき、ます!

藪椿の刻印を複製、[ハッキング]応用で巨大改良、
敵連中の体を群成して埋め尽くし、
[生命力吸収]で直接喰らいましょう。
[追跡][鎧無視攻撃][呪詛耐性]にて、
肉も物体も問わず、敵に接触、同化。
[大食い]故、はてさて如何程、残る事やら!

(奪われて怪物と化した只人達の魂、幸い、顔──口の数には到底、足りませんが)
爛漫と咲け、椿の咢ども! 杯盤狼藉はご愛敬!
次はお前らが、私、の糧となる番だ。



●闇に藪椿の咲く
「──は、胸糞悪ぃ。随分、勝手をほざきますねえ。試すだの、治めるに値するかどうかだの。てめえの物差し振り翳して、ご高説どうもご苦労様! 生憎聞いちゃあいませんがね!」
 ユキ・パンザマスト(ありや、なしや。・f02035)の身体は傷だらけだった。既にユーベルコードにより、幾度となく火傷・打撲に傷ついた肉体を自ら喰らい、再生を果たして尚その有り様だ。
 彼女に対するのは紅蓮の魔人であった。体中が煉獄の火焔に燃え、赤色のノイズで覆われている。そのノイズは、ユキ達の存在する次元ではなく――投影されるホロ椿と同じ次元に存在するようだった。
 魔人が腕を一振りすれば、ごうと燃えるノイズが、ユキが投影したホロ椿を灼き尽くす。赤に捲かれて燃えた椿は、枝もサイレンも振るえずに焼け落ちていく。
 ならばと格闘戦を挑んでも、食い千切るにはその紅蓮の身体は熱すぎた。現実に於いても焦熱を帯びたその身体は、ユキの牙を悉く拒絶し、燃える拳による打撃は、ユキの身体を遙か後方へ吹き飛ばすほどの威力を纏っている。
 持った手札の悉くを、丁寧に潰されているかのような感覚。絶望に膝を折ってしかるべき逆境を、しかし黄昏のけものは笑い飛ばす。
「厄介なのは確かですが、お前ら全員、ユキ達を測れたもんじゃねえ。――これで追い詰めたつもりなんでしょう、ええ、そうでしょうとも! けどね、世界を三度も救ってきたんだ。この程度の逆境――こちとらもう慣れっこだってんですよ!」
 威勢よく咆えると、ユキは再三踏み込んだ。
 格闘戦では到底勝ち目はない。ホロの椿は燃やされる。八方塞がりのその状況下で尚も食らい付く。
 魔人はそれに応じて鋭い拳脚で応じた。砲弾めいたジャブでユキをガードの上から叩く。腕がへし折れそうな衝撃が襲うが、ユキは倒れずに踏み止まる。続いての中段回し蹴り。ガードをして尚身体が拉げる衝撃。それにも耐える。踵が地面を削る。
 右腕をバックスイングしてのストレート――
 タイミングを合わせるように、ユキは獣の骨顎と化した左腕を繰り出した。
 が、っぎいいいいい!!! 凄まじい轟音を立て、骨顎が敵の拳を喰らい込み、軋る!!
「喰らい千切らせて──いただき、ます!」
 痛みも、全身に走る壊れそうな衝撃も、今は捨て置く。ユキは舌舐めずりをして笑った。彼女の身体に刻まれた藪椿の刻印が数を増す。
 しゅるり、と刻印から無数の枝葉が伸びた。骨顎で敵を離さぬままに、藪椿の刻印から伸びるホロの枝葉で敵を絡め取る!
 魔人も当然抗するべくホロの炎を燃やし、枝葉を焼き払いながら暴れるが、左腕が砕けそうになろうともユキはその手を、骨顎を離さない。今弾かれればもう余力はない!!
 ユキは食らい付きながら、尚も藪椿の刻印を複製する。燃やされるその速度を上回れと願う。刻一刻と複製する刻印を改良し、より巨大に、より早く伸長するように、ハックして性能を向上していく。
 失われた命の数に比肩せよとばかり、刻印は数を増していく!
 ――これを弔いとするには少し寂しけれど、奪われて怪物と化した只人達の魂、幸い、顔──口の数には到底、足りなけれども、
 今ここに一つ邪悪を断つ。悲しみと悔いを晴らす声を上げよ!!
「さあ、さあ、咲け、爛漫と咲け、椿の咢ども! 杯盤狼藉はご愛敬! 次はお前らが、私、の糧となる番だ……!!」
 ユキが咆える。焼かれども群がるホロ椿が花を結ぶ。次々と開花、群生し、巨大化していく。紅蓮の炎が焼き払うそばから枝葉を延ばし、絡め取り同化、魔人の身体を喰らっていく……!! 吸い上げた生命力をすぐさま己が攻撃の維持に使い、燃やし尽くしながらユキは哄笑を上げた。
「大食らいなもんで――残らなかったら、御免遊ばせ!」
 取り巻く藪椿。抗するように、暴れ藻掻き、紅蓮の炎を放ち、ユキの身体を滅茶滅茶に蹴り、殴る敵。
 ユキは声なき声を上げ、力を振り絞り、その右手をも牙列に換え――一瞬の隙を縫って、その頸目掛けて食らい付いた。
 ――ぞぶ、り、
 牙のめり込む音がして。
 炎の嵐が、パタリと止んだその後には――

 夕眩幽玄の巨大な藪椿の群れが、漆黒の闇に揺れるのみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桜雨・カイ
1.フルオーダー希望
NG:憎悪(怒りはするが憎しみはしない)

……どこまであの人達を苦しめれば気が済むんですか。
あなたを神にはさせません

【錬成カミヤドリ】発動
(UC対策に加えて、これまでの戦いで自身にダメージ蓄積)
…本来ヤドリガミなら再構築の手もありますが、でもこの身に宿ったものは傷以上に…記憶も多すぎて
幸せな思い出も、今の辛い記憶も全て「今いる私」のもの、
何一つとりこぼしたくないんです

今も新たに記憶が宿りました
…だからあなた(使徒)が対策した「私」とはもう違います
痛みも記憶も、過去を全て抱えてその先へ進みます!

使徒の次は『ナイク・サー』
逃がしませんよ
【念糸】で拘束して新たなUCで攻撃します!



●優しい君の紡ぐ糸
 本来、ヤドリガミは、本体さえ無事ならば写し身を再構築することができる。
 それは彼、人形を祖とするヤドリガミである桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)とて例外ではない。
 写し身が破損していると仮定して、それを再生するに足る存在量が本体に未だあるならば、回復をしない理由がない。写し身の戦闘能力を回復する為、本体を守る為。当たり前の策だ。
 だが、カイはそれを良しとしなかった。彼は思う。自己の連続性とは、記憶の連続性であると。
 沢山の傷が刻まれた自らの写し身。様々な記憶を、今日まで刻み続けてきたこの肉体。今存在する『自分そのもの』を、何一つ取りこぼしたくないと願う為。
 故に写し身を分解しての再構築をカイは避けた。
 そして、今。
 彼は最大の敵と向き合っている。

 カイが相対したのは、無骨な鉄の鎖を引き摺る、巨大な猪めいた怪物だった。その全長は七メートルを優に超える。貌は出鱈目な、冒涜的な形状をしており、一つ目と不気味にねじれた牙が光る。
 すかさずの錬成カミヤドリ。カイは、襲い来る敵に彼自身の複製を五十五体招来しての集団戦闘を仕掛けた。
 狂王に仕掛けたのと同じ策。出方を伺う意味があった。――しかし。
 ど、うっ!!
 衝撃波を伴う踏み込みの音。爆発的な加速。
 ともすれば、その動きは狂王よりもよほど速い。カイが目を瞠った次の瞬間には、カミヤドリのうち三割強、十九体ばかりがその突撃の前に敢えなく砕け、がしゃんがしゃんと音を立てて落ちる。
「なっ……、」
 カイの、集団戦闘と意表を突いた策を真正面からの力で叩き潰すべくデザインされた怪物は、名状しがたき唸りを上げながらブレーキ、カイの方へと向き直る。
「くっ!」
 即座にカミヤドリの分身らに念糸を果たせ、四方より魔猪の動きを止めんとするが、しかしそれすら焼け石に水。その巨体の後ろ足がぎゃりり、と縮み、地面を蹴立てた瞬間に引き摺られた分身が宙を飛んだ。
 蹴られ削れた地面がバックファイアめいて噴き上がる!空中に放り上げられたカミヤドリの分身が、立木に叩き付けられ、或いは互いに叩き付けられ、引き込まれたあげくに踏み潰され、次々と潰えていく。
「……!」
 さしものカイとて言葉をなくす。狂王にはまだ付けいる隙があった。だというのにこれは、圧倒的ではないか。
 カイは必死に回避を試みる。横っ飛びに飛び、突撃そのものは回避。しかし、ぎゃららら、りりぃっ!! 眼前、音を立てて翻るのは腕ほどもあろうかという金属鎖!
 防御が追いつかぬ。暴走に従って大蛇めいて荒れる鎖が、カイを本体もろとも正面から巻き込んだ。波打った鎖による打撃は三度までは数えられた。しかし、その後は不詳だ。気付けば十数メートルを吹き飛ばされ、立木に背から激突して止まる。呼吸さえままならぬ。
「か……は、」
 カミヤドリでは止められぬ。生半な術でも同じだろう。
 何を以て、あの怪物を止めろというのだろう。
 ――猪が再三の方向転換を経て、走ってくる。鎖から本体を庇うことは成ったが、轢き潰されれば、再生すら叶うまい。
 カイは、迫り来る脅威を前に、這々の体で立ち上がる。傷だらけの写し身に刻まれた、記憶。その連続性。それは糸に似ている。想いが繋いだ、糸。

 ――もう、くるしくないよ。ありがとう。

 ああ、その声を、覚えている。
 それはまた新しく刻まれた、カイの記憶の一つ。
 微かなひらめきがあった。カイは拳を握り、念糸を振るった。伸びた念糸が、既に破壊された分身を繋いで動かしていた糸を掬い上げ、纏う。漆黒の闇の中に、糸が結界を描く如く燦然と煌めく!
「あなたが対策した『私』とはもう違います。……この糸は想いが紡ぐ糸。私は――痛みも記憶も、過去を全て抱えてその先へ進みます!」
 カイは、突撃してくる魔猪を前に、輝ける念糸にて籠目を編み――放つ!
 結界めいて広がるは、彼が刻んだ記憶の数だけ強度を増す糸――


     ソウネンシ
 名を、『想 撚 糸』!


 今や砕けた分身の糸をも束ね編んだ籠目が、突撃する魔猪に絡み――軋み、そして!
 ぐ、が、ぅぅうぅおおぉぉぉぉ……!!
 壮絶な苦鳴。魔著自身の速力が、決して切れぬ撚糸に絡むことでその巨体にそのまま跳ね返り――断裂! 籠目の形に断裂された魔猪の肉体が、暗転した森にぶち撒けられる!
「……これ以上あの人達を苦しめる事は許さない。あなたを神にはさせません――ナイク・サー!」
 カイは光る糸を翻し、骸を踏み越え。狂王の下へとひた走る……!

大成功 🔵​🔵​🔵​

エルネスト・ポラリス
◎【1】
なるほど、気合を入れましょうか。(眼鏡を外す)
明確な格上。一分の隙も許されません!(丁寧に拭いた眼鏡をかける)
ええ、眼鏡を外したりはしませんよ。
――お兄ちゃんですので。

戦闘スタイル
剣、ワイヤー、銃を切り替えていく二刀流。中~近距離が好み
前者2つは自身にグリモアを教えた猟兵から教わったものだが、銃のみは故郷で弓を使っていた経験からの我流
得意なこと
防戦、持久戦
師がヒーローズアースの人間であり、守る事、生き延びる事を目的とした戦術を学んでいる
弱点
上記に起因した決定力の無さ
堅牢な敵を打倒する為の大火力を持たない
絶対にやらないこと
弟妹を害する事
直接的なものだけでなく、侮辱などの心的なものも含む



●ブラザーフッド・ジャックポット
「相手は明確な格上――なるほど。一分の隙も許されませんね。気合いを入れましょうか」
 エルネスト・ポラリス(それは誰の夢だったのか・f00066)は呟くなりすっと眼鏡を外し――丁寧に拭いてまた掛けた。いや外すんちゃうんかい、という話だが、彼は眼鏡の素敵なお兄ちゃんなので仕方がない。逆に、最愛の弟妹からの贈り物をこの重要な局面で外すわけがないのである。
 クリアになった視界の中に、空より降り立つ敵影一つ。エルネストが相手取ることになる敵個体は、紫色の流体めいたテクスチャをした人型の怪物――魔人だ。
 武器は、剣。加えて、その重装甲。
 魔人は不可思議な金属光沢を帯びた鎧を纏っており、相応の火力がなければ損傷を負わせられぬように見受けられた。
「なるほど。……こちらの手の内が知れているというのは、どうやら本当のようですね」
 エルネストはぽつりと呟き、すでに抜き身にした仕込み杖を構える。魔人もまた、鏡合わせのようにその剣を構える。
 ――踏み出すのは、同時。
 真正面から、エルネストと魔人の刃が軋り合った。

 が、ぎ、ぎっ、ぎいんっ!!
 白刃と白刃が重なり、漆黒の山間に響き合う。
 当初互角に見えた打ち合いは、徐々に魔人の側に趨勢が傾く。当然であろう。魔人の能力は、エルネストを明確に上回るように設定されている。
 打ち込みの力も、その速度も、剣筋の巧みささえも。
「くっ……!」
 反撃の糸口がない。シンプルに強く、突破力に優れ、重装甲――最も苦手とするタイプの敵に、エルネストは歯噛みをしながらも戦う。それでも持ちこたえることができているのは、エルネストの守り、生き延びるための戦術が奏功しているからに他ならない。彼が培った戦闘経験が命を繋いでいる。
 しかし、かろうじて抗戦できている程度の状態だ。このまままともに戦っていれば――決め手を欠いたまま地に伏すことになるのは必定。
(私に許された手は……多くはない)
 狙うならば、ユーベルコード『Last Doom』の一射による不意打ちだろう。Last Doomはロシアンルーレットに見立て、自分に向けた空撃ちを重ね、『当たり』のときに敵に放つことで、威力と命中率を乗算する概念操作のユーベルコードだ。
 しかし、敵の猛攻は激しく、銃を抜き空撃ちをする暇すらない。さりとて威力を上げねば、あの装甲は貫けない……!
 かすり傷が増える。敵の剣がエルネストを捉え出す。徐々に戦闘経験の差が埋まりゆく。
 驟雨のごとき敵の斬閃――ついに魔人の剣がエルネストの脇腹を捉えた。
「ぐっ……!!」
 血を流しつつもワイヤーフックを投射、立木を捉え巻き上げて飛び下がるエルネストを魔人が追う! 徐々に追い詰められ、勝ちの目を確実に潰されていくエルネストが選んだ次の手。
 それは――銃を抜くことだった。
 南無三、空撃ちのいとますらない銃を、今にも間近に迫る相手目掛けて抜くか!
 自殺志願かに視えるその一手――しかし。エルネストには狙いがあった。

 前述の通り、ロシアンルーレットの最後の弾丸を、エルネストはLast Doomと呼ぶ。
 それは概念の操作。『縛り』を設けることによる限定的な威力の上昇。
 ならば、その逆も成立するはずだ。一/装弾数の不運。それを威力に換える。

 エルネストはたった一発だけ入った銃のシリンダーを空転させる。ハンマーロック。賭けめいた所作。
 迫る敵。弾が出る確証のない銃を突き出す。敵が剣を振りかざした刹那に、エルネストは真っ直ぐに――敵の胸のど真ん中を狙って、等量の祈りと確信を込め、銃爪を引いた。


 ――それは約束された死神のくちづけ。
『First Encount』――バッドラック・ブリンガー!!


 銃声! 確率の壁を潜り加速した銃弾が、火線を描いて真っ直ぐに、敵の装甲の中央をブチ抜く!!
 蹈鞴を踏み、胸の風穴を呆然と見下ろした後、魔人はおぉぉ、お……と呻き、崩れ落ちた。
「――私の勝負強さを侮ってもらっては困ります。なんせ、お兄ちゃんですのでね」
 傷に顔をしかめながらも眼鏡の位置を直し、たった一発の薬莢を廃莢。
 さあ、次は狂王だ。
 最初の不運を見舞うか、最後の死を見舞うか。
 それは向かいながら決めればいい。エルネストは、一発の銃弾をリボルバーに再装填。狂王目掛け、真っ直ぐに駆け出す!

大成功 🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
2



………元からさ、少し懸念はあったんだ。
アタシは結局のところ、攻撃には単純に物理的な技しか使えねぇ。
だからそれを悉く防ぐ相手に、どうしようってな。
で、とっかかりをくれてありがとよ。
さっきの傍観者どもが見えない筈なのに見ている事で、
アタシも気付けたんだ。

……アタシにはテレパスが、「見えない筈のものを視る」力がある。
今まではそれを探ったり話したりする為だけに使ってたが……
そいつを直接攻撃に使えない訳が、ないだろうがよ!

持てるサイキックエナジーをテレパスの波動に変換し、
痺れが残る左腕に集める。
そしてダッシュですり抜けざまに、
相対する異形の「本質」をぶった斬る!

ぶっつけ本番の新技さ、とくと味わいな!



●断罪の左手
 ――もとより、その弱点を自覚していた。

「くそっ、当たらねぇ……!!」
 数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は呻く。彼女がサイキックエナジーを集中し繰り出す必殺の打撃がことごとく空を切る。多喜が相対するのは、宇宙カブ『JD-1725』をパワードスーツめいて纏った彼女のスピードとパワーですら捕らえきれない難敵であった。
 敵は確かにそこに存在するはずなのに――彼女の攻撃は当たらない。
 ケーッケケケ、ケケケケッ……リバーブのかかった嘲り声が響く。その主こそ、空中に浮き、今もって多喜を翻弄し続ける怪物である。
 例えるならば、それは死霊。可触なまでに至った呪いの塊! ざんばら髪の骸骨に血色の布を着せたような風体の化物である。その姿は薄らいだり、あるいは色濃く表れたりと、不安定に揺らめいている。
 多喜は何度となく、その血色の布が翻り、風を孕む音を聞いた。敵は確かにそこに存在するはずなのだ。攻撃が当たらぬ訳がない。
 しかし、事実として多喜の拳脚は空を切る。そうしていかにしてか攻撃をすり抜けるたび、死霊はすかさず反撃の弾幕を放つ。
 黒き怨念の塊、言うなれば呪弾。当たったところから腐り朽ちる、可蝕化された呪い。
「ちいっ……!!」
 舌打ちしながら、腕をクロスし飛び下がる多喜。降り注ぐ呪弾幕を、サイキックエナジーを放出・相殺しながらの回避! しかしいかに防いでも、掻い潜っても、嵐のごとき無数の呪弾は確実に数発、彼女の体に食い込む。スーツが腐食し、肉が爛れ、激痛が彼女の体を苛む。打開策も打てぬままに傷だけが重なっていく。
 痛みに顔を顰めながらも、しかし多喜は決して敵から目をそらさない。大きく息を一つ。
(集中しろ)
 思い当たったひらめきをカタチにするべく、多喜は深く呼吸した。
 ……元から、懸念はあったのだ。多喜の技は、そのほぼすべてが純粋な打撃。サイキックエナジーを撃力、あるいは電流に変換して攻撃するものばかり。それを無効化されたとき、いかにして戦うべきか、という懸念が。
 ――見えない筈なのに、こちらを見ている敵。
 ――存在する筈なのに、触れられない敵。
 前段に続く不可思議な相手に、答えを得たように多喜はにやりと不敵に笑う。
「とっかかりをくれてありがとよ。ぶっつけ本番の新技――アンタで試してやろうじゃないか!」
 死霊は耳障りな笑いを上げながら、さらに呪弾を連射。多喜は右腕を盾に、弾幕を駆け抜ける。当然十数発、いや、それ以上に着弾! 装甲が、肉体が蝕まれる!
「こっな、くそォ……ッ!!」
 気合と根性で体を推し進める。未だ痺れ残る左手にサイキックエナジーを集める。エネルギーの高まりに併せて死霊はケタケタと笑ってその姿を薄れさせていく。
 また同じように避けられる――
 そう、思ったのだろう。

 多喜は、左手に集めたサイキックエナジーを――テレパスの波動、念波に変換。常の打撃のような激しい光ではない、朧な光が彼女の手に纏い付く。
 ぎ……?!
 本能的な恐怖があったか。死霊より恐れるような声。しかして距離はもはや、多喜のものだ。泡を食って間合を開けようとする敵目掛け、飛び込む。
 数宮・多喜はサイキッカーだ。『見えないはずのものを見る』『聞こえないはずのものを聞く』、この世から半歩ずれたチャンネルに踏み込む能力を、テレパスを有している。これはその攻撃的応用!!
 薄れて消える死霊めいた敵だろうが。触れられない呪いだろうが。
 ひとたびそのチャンネルに踏み込めば――
「見えたよ、アンタの『本質』――冥土の土産にとくと味わいな!!」
 彼女の右手は、魂削ぐ刃のごとくに削り断つッ!!!

「――アストラル、」
 跳躍! 薄れて逃れんとした死霊の頭に、振り下ろし気味の手刀が――おお、突き立つッ!!
「グラインドォ――ッ!!」

 そのまま、勢いに任せて振り抜く! 燐光纏う手刀が、死霊の肉体をまるで布か紙かのように引き裂き――壮絶な断末魔!!
 光と、魂を揺らすような霊的な爆圧を残し、死霊は爆発四散――着地した多喜は、親指で鼻を擦り、軽やかに笑った。
「どうだい。六文銭には足りたろう? 川を渡りな、真っ直ぐにね!」
 送る台詞を零し、淡く光る左腕もそのまま――彼女は眦を決し、見物を決め込むナイク・サーの元へと走り出す!

大成功 🔵​🔵​🔵​

安喰・八束
◎1
基本戦術:(遠距離)狙撃、早撃(近距離)銃剣術
得手:狙撃、援護射撃
弱点:範囲攻撃、毒
忌避:捨身

然し、不得手だのやらねえだのと言っていられる戦さ場じゃあ、ねえだろう。
言葉通りだ。何でもやってやらあ。


ろくでもねえ化粧直ししやがって。
てめえみてえな"魔王"にゃ、こちとら飽き飽きしてんだよ。

真の姿、黒狼の獣人。
女房から…良から貰った狼の皮だ。
とっときの戦装束で、
猟兵・安喰八束。御相手仕る。



●渾身
 狼殺しの安喰・八束(銃声は遠く・f18885)は、その筋では名の売れた狙撃手だ。『古女房』と称する狙撃銃を手に、戦から戦の偉丈夫である。得意は狙撃と援護射撃。他兵を活かすことに定評がある。
 彼の銃は槓桿がついているぶん、火縄などよりは速射性があったが――それも基本は狙撃に用いるものだ。現代的な火器に比肩する連射性能はない。この狼殺しにかかれば、先刻狂王を一度の死に追い込んだときのように、すさまじい密度での連続狙撃も可能だったが、それには相応の集中と狙いを定める猶予が要る。
 ……つまりは。
 その場に姿を現した、俊敏なる狩猟者と彼の相性は、最悪だったという事だ。

「糞ったれめ……、」
 八束は喘鳴する喉で唸る。彼の相手は、コヨーテのような四足の獣だった。
 ただの獣ならば狩り慣れている。赤子の手をひねるようなものだったろう。しかし、ナイク・サーが喚び出した化物がただの獣であるわけがない。毒々しい紫と緑の毛皮を持つ、体長目測で二メートルを超えるその怪物は、四足の爪と乱杭めいた牙に毒を持ち、加えて瘴気の吐息を撒き散らす能力を持っている。
 そして特筆すべきは高度な知能と、その運動能力。
 八束が狙撃銃での早撃ちを決めんとするその一瞬前に、ノーモーションから四肢を突っ張って跳躍、吸い付くように木に張り付き、ブレスを撒き散らして牽制――八束が銃を跳ね上げればその弾道上から身を躱し、まるで弾けるような速度で襲いかかる。
 八束は銃剣『悪童』にて果敢に応戦したが、しかし牙を食らわぬよう身を躱しながら防戦するので手一杯だ。幾度となく服を裂いて鋭い爪が掠め、そのたびに痛みが彼を襲う。
 それに加え、範囲攻撃――瘴気のブレスが来るたび、全速での待避を強いられる。飛散した瘴気が痛む肺に染みた。さらには爪の掠めた傷から毒が染み入り、内外両面より八束を苛む。
 状況は、笑ってしまうほどに最悪だった。
(然し、こういう手合いは不得手だの――やらねえだのとと言っていられる戦さ場じゃあ、ねえだろう。――何だろうとやってやらあ)
 毒獣の爪と銃剣『悪童』が軋り合う。八束は弾けるように後ろに跳び、間をとって低く構えた。
 爾り。もはや、他の助けはなく、独力でこの難局を打破する以外にない。
 八束は、怪物らと死闘を繰り広げる猟兵達を眺めて薄気味悪く笑う狂王――今はナイク・サーか――を一瞬、睨む。
(ろくでもねえ化粧直ししやがって。てめえみてえな“魔王”にゃ、こちとら飽き飽きしてんだよ)
 ざわり――
 八束の髪が逆立つ。
 ――今は亡き彼の妻は、狼憑きだったという。
 人狼病。ヒトを蝕む奇病。罹患者は短命とされ――皆一様に、狼の特徴を表出するようになる病。
 八束の顔が狼のそれに変ずる。体は漆黒の毛皮で覆われ、瞬く間に彼の姿は、半人半獣、言わば獣人のそれと化す。――それこそが安食・八束の真の姿。
「こいつは、女房から――良から貰った狼の皮だ」
 病を貰ったなどと言うものか。これは愛した妻が遺した、とっておきの戦装束だ。
「畜生が名乗りを解すか知らんが――死出の土産だ。覚えて逝け。――猟兵・安喰八束。御相手仕る」
 名乗り、朗々と。
 聞いてか聞かずか、今再び毒獣が八束目掛け襲いかかる。しかし、翻弄されるばかりだった八束、今度は自ら打って出る!
 その速度、先ほどとは比較にならぬ! 片手で槍めいて操る銃剣に加え、距離が詰まればその爪と腕力にて怪物と互角に渡り合う。互いの爪が火花を散らし、そればかりか、極まった八束の膂力が怪物の体を後ろに圧す!
 ――ぎゃ、ぎうっ!?
 唸りは狼狽、あるいは恐怖か。
 獣は初めて、直線的に後ろに飛び下がった。
 がぱり、口が開く。
 ブレスの構え。八束はわかっていた。瘴気が放たれると知っていた。
 だから、直線的な機動のその『隙』を『盗んだ』。

 瞬刻。
 毒獣の喉奥からブレスが迸る刹那の前に、
 毒獣の眼前二寸に、獣人・八束の姿あり!

 敵の生態から類推される隙を突き、無拍子にて近接したのだ。知覚し得ぬ一瞬での接近である。隙を盗んで繰り出すのは、ギラリと光る悪童の切っ先――!!

「鱈腹食らえ」


         ロウガイッテキ
 ――名付けて、『狼 牙 一 擲』!!


 毒獣の喉奥に悪童が飛び込み、飛び出す歪んだ苦鳴に、銃声が重なった。銃弾は体内の悉くを破壊し、尾へ抜け――どう、と獣の巨体が倒れ伏す。
「一発で腹一杯とは、存外情けねえな。――そんななりでよ」
 悪童の血を拭い、八束はゆるりとナイク・サーを向き直る。
 ……さて改めて。お前にゃ何発呉れてやろうか?

大成功 🔵​🔵​🔵​

六波・サリカ
1.ウィザード・ミサイル

暗裡と行きます。

治むるに値するか?とはおかしなことを言いますね。
誰が好んでお前などに治められたいと願うのか。
請われたって願い下げです。
私と暗裡の力で打ち滅ぼしてやります。

今までの攻撃は通用しないみたいですが…。
どうしますか、暗裡。
いえ、愚問でしたね。
私に見せてください、「あなた」のユーベルコードを。

同時攻撃で行きますよ、暗裡!
私の方も新技のお披露目です!
【名前お任せ】!急急如律令!!
その数200を超える高速の【 】で
敵の自己増殖と再生能力を上回る速度でダメージをブチ込みます。


幽世・暗裡
2.ウィザード・ミサイル

サリカと行きます

いやはや、結局来るところまで来ちゃった感じですねぇ。
ここまで来るともうため息も出ないですよぉ……ほんと、はぁ。
まじ、はぁ。

……なぁーんて、昨日までのアタシなら泣いてそういうでしょうけどぉー
でも、残念
もうチキってるだけのアタシじゃないですよ!
理解しました。
そう……
どうせ泣いても悩んでもアタシには拒否権なんてないんですからぁっ!!!

無茶振り上等、
今日は、とことん付き合ってあげますよ!

【技名お任せ】
百数年に渡り増幅し続けた自身の中に渦巻く負の感情
それをぬいぐるみの口から吐き出します。
吐き出された感情は、腕の形ととなり襲い掛かります

その後、ちょっと前向きになる。



●紅雷百鬼夜行
「治むるに値するかとはおかしなことを言いますね。誰が好んでお前などに治められたいと願うのか――請われたって願い下げです」
「この期に及んで、その増上慢。未だ選択権が自らにあるとでも誤解しているのか。まったく、愚昧もここに極まる」
 十五メートルを措いて、六波・サリカ(六波羅蜜・f01259)が淡々と言う声に、ナイク・サーはやれやれ、と首を振った。取り合う様子もない。
「私と暗裡の力で打ち滅ぼしてやります。覚悟しておくことですね」
「大口は『それ』を退けて叩くがいい、愚か者」
 ナイク・サーがフィンガー・スナップをするなり、サリカの体から魔力の大半が刮げ取られた。対象の魔力、活力を削ぎ、それを燃料に邪神を招来する――『叡智ある者への試練』。
 それによってサリカら眼前にの召喚されたのは、たっぷり十メートルはあろうかという巨人だった。無数の腕が生えており、腰にスリング付きの岩を大量に提げている。神話にあるヘカトンケイルめいた威容である。
 サリカは即応して構えをとった。魔力が削られようと、生命力が削られようと、出現した悪はすべて叩き伏せるのみ。
「行きますよ、暗裡」
「……いやはや……結局来るところまで来ちゃった感じですねぇ。ここまで来るともうため息も出ないですよぉ……ほんと、はぁ」
 ため息。言わずもがな幽世・暗裡(ここにはダレも・f09964)のものである。彼女も同様に魔力と生命力を削られているのか、ただでさえ白い膚がさらに白い。
 横目。サリカをチラッ。
「まじ、はぁ」
「出ていますから大丈夫です。それよりも――」
 いつものようにいなそうとしたサリカに、しかし、
「……なぁーんて、昨日までのアタシなら泣いてそういうでしょうけどぉー。もうアタシは、チキッてるだけのアタシじゃないです!」
 威勢よく言って、暗裡は呪詛の依代であるぬいぐるみを叩いてみせる。
「おや。――どうするか問うのは愚問でしたか。……では、私に見せてください、暗裡。『あなた』の戦いを。そのユーベルコードを」
 今までと違う相棒の姿に、目を細めて言うサリカ。
 召喚されたヘカトンケイルが、その手を千手観音めいて広げ、天を貫くような咆哮を上げる。打ち下ろしの拳の嵐が来る!
 サリカと暗裡は即座に反応、右方と左方に分かれるように駆け出し回避!
「もちろん! 目をしっかり開けてよく見ててくださいねぇ!」
 駆けながら暗裡は相棒に言う。その雄々しさときたら一章であばばばばばってなったり二章でぐええええってなったりしてた過去の弱気を、青い空に投げ捨ててきたかのよう――
「えぇ、アタシ、理解しました!! そう……どうせ泣いても悩んでもアタシには拒否権なんてないんですからぁっ!!! 覚悟を決めた方が楽なんだってぇっ!!」
 撤回。ヤケクソだった。
 しかしヤケクソでも何でも、攻撃は避けた。暗裡は疾る。サリカと鏡映しに!
「無茶振り上等、今日は、とことん付き合ってあげますよぉ、サリカぁ!」
「――驚きました。あなたの口からそんな言葉が出るとは。ならば同時攻撃と行きましょう。私の新技と、あなたの技を重ねます!!」
「やってやりますよぉ!!」
 丁々発止のやりとりを前に、ヘカトンケイルは腰に下げたスリングをとり、散開した二人目掛け嵐のごとき投石! 掠めるだけで吹き飛ばされそうな投石の間を、サリカはその身体能力で、暗裡はぬいぐるみを盾に掻い潜る!
 投石というよりは最早岩の嵐だ。間断なく降り来る岩は凄まじい威力。木が折れ、地がめくれ、疾る二人も掠めただけで体勢を崩し、血を流すほどの攻撃。
 ――だが、先ずは術式を織り終えたサリカが反撃に転じた。この二人が、押されっぱなしでいるわけがない!
「紅雷に染まれ……!」
 駆け抜けるサリカの身に紅き雷電、疾る。召喚するは鴉の式神、『急襲式』。常闇よりの死凶鳥。群れ成す鴉に、サリカはその身の雷電を分け与える。
 空気を爆ぜさせ紅いスパークを帯びた鴉らに、サリカは決然と言った。

  クリムゾン・ブリゲイド
「『急 襲 式 ・ 紅 雷』!! 急急如律令!!」

 ――正に、それは強襲の旅団!
 羽音とスパーク音が不吉に宙を満たす! 一瞬にして放たれる無数の紅雷の翼! サリカが使用するユーベルコード『高速飛行』――ソニック・スラストの概念を得た鴉たちが、過たず真っ直ぐに百手巨人目掛けて唸り飛ぶ!!
 あるいは一発ならば、十数発ならば、その攻撃を前にしようとヘカトンケイルは難なく受け止め、自己再生を成し遂げただろう。しかし、急襲式、その数二〇〇超!!
 着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾全弾命中ッ!!!!! 最高速を得た鴉らは最早、鳥の形をした雷弾! 急襲式は着弾と同時にその身までをも紅き雷電と化し、ヘカトンケイルの強固な肌を穿ち、感電せしめる!!
 ご、おお、おおおあぁ……!!
 さしものヘカトンケイルも、一瞬にして穿たれた二〇〇を超える身体の孔を一瞬では埋められず、苦悶の唸りを上げ蹈鞴を踏む。巨体を穿ち前進を止めたのは紛れもなくサリカの技の威力だ。しかして、傷を負い動きを止めたとて、その巨体、未だ健在!
「今です、暗裡!」
「この流れ、もうそろそろ慣れてきましたねぇ……!」
 暗裡は盾にした大きなぬいぐるみの背中にピタリと触れ、すう、と息を吸った。ぬいぐるみが連動するように胸を開き、背をそらして吸気する所作。
「百数十年の長きに渡り、裡に渦巻く邪思念慮! ――さぁさ、どぉんと吐き出して!!」
 がぱり、ぬいぐるみが口を開く。その奥に渦巻く呪詛、邪思、呪念……!
 暗裡が行使するのは呪術の一種。
 ヤドリガミとして長き時を生きた彼女の内側に息衝き、今日まで増幅しながら培ってきた負の感情に指向性を与え、銘を打つことにより、カタチとして放つ大技。
 ……古来より、邪なる意志を鬼と呼び、ヒトはそれを恐れた。暗裡は己の内に蟠る、百を超える邪を束ねて、今まさに攻撃に転ずる!!
 ――これぞ!
 
 カクリヨヒャッキタン
「 幽 世 百 鬼 譚 ッ!!」

 呪念操幻『幽世百鬼譚』!
 さあ、此度の百鬼譚は渇望がカタチとなったもの。届かぬものを掴むため、涯てまで伸びる呪いの腕!!
 ぬいぐるみが、開けた大口から、一瞬で百五十を超える数の黒き腕を吐き出す!!
 圧縮された負の感情は最早呪いと同じ。触れるもの皆傷つける呪腕がヘカトンケイルの百手を絡め、封じ、呪いにて蝕み、動きを封じる!!
「サリカぁ! アタシだけじゃ一押し足りません!! だから、一緒にっ!!」
「心得ました! ――振り絞れ、急襲式!!」
 吼えると同時にサリカが急襲式の残りの個体らを統合、神話の雷鳥めいた巨大な鴉を成し、それと同時に暗裡がぬいぐるみに力を込め、出力を全開。最後に吐き出された五本の腕が捩れ縒り合い、砲弾めいた、大振りな拳を編む!
「これで終わりです、悪の巨人!」
「い、っけええええええっ!!」
 最後の鴉が、最後の腕が、二人の声と同時に放たれた。黒閃と紅閃がクロス、全く同時にヘカトンケイルの巨体に突き刺さる!!!
 ――急襲式が右腹を翼で裂き抜け、百鬼譚の最後の腕が左腹を打ち抜き千切り抜け――
 支えを失った巨人は二度、弥次郎兵衛のようにゆらゆらと揺れて、耐えかねたように地に伏した。どう、と音、舞う粉塵。死骸はすぐさま塵になり消えていく。
「――さあ、裁きの時間です、巨悪の権化。私と暗裡からは逃れられませんよ」
「そういうことです。アタシ達はあなたなんかに負けません。ここで終わりにします」
 サリカの言葉に力強く応じる暗裡。一時吐き出した負の情がそうさせるのか、その言葉によどみはなく決然とした態度。
 暗裡はぬいぐるみに身を寄せ、サリカは、今度はその身に紅雷を纏い――
 狂王目掛け、襲いかかる!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰炭・炎火
んー、あーしにできることって一個しかないの
力づくで、叩いて、壊す
だけどそれは通じんのよね? 負けてまうのよね?
せやったら。
―――一度だけ。
織田信長との戦いの時、ニャメが暴走した時、あーしの力を吸い上げた感覚。
あれをもっかい、やってみる。
ニャメは使わない……一番たよれる武器だから、あえて捨てる!(放り投げる。地面に刺さる。めり込んで沈んでいく。さらばニャメ)
あーしの力……あーしがコントロールしてみせる!
よく考えたら、いっつも背中から、炎の翅でとるし!!
いっくよぉーっ!


2.セミオーダー
自身の持つ異能――持ちうる「怪力」を、全て「火炎」に変換。
高出力の炎によって、敵対存在、相手を余さず燃やし尽くす



●HONOKA ~Overdrive re-mix~
 彼女が招き入れられたのは、決闘用の結界の中。三十メートル四方程度の空間を切り取って構成されたそこに、足場はなかった。――否、正確には、足場全てを敵が覆っていた。
 そう、彼女の相手は、泥。漆黒に、肉の腐ったような腐臭。正に汚泥である。人の声で、嘆きの呻きを垂れ流し続ける汚泥の沼。
 その沼の前に、打撃攻撃は到底無意味であるように思われた。いくら殴ろうとも、液体が形を変えるだけだ。撃力は、相手を砕いて初めて意味がある。たとえこの空間の中、この泥を億の砕片に化すほどに散らそうとも、きっとまた元通りの泥沼を成してしまう。

 ――故に、彼女はなんとびっくり、主武装を初手で棄てた。

 誰が何を? 灰炭・炎火(“Ⅱの闘争”・f16481)が、自身の最大の武器である『ニャメの重斧』を、である。
 宝石斧が地に落ち轟音、汚泥が散って、地面が揺れた。
 ああ、重いのは分かっていたことだがズブズブ沈んでいく。グッバイニャッメ。
 ニャメの重斧というのは、掻い摘まんで語ると余りにも重すぎて遣い手のいなかった欠陥武器――望めば望むだけ質量を増す特性を持つ――なのだが、如何なる訳か無限の怪力を持って生まれた炎火は、それを持ててしまった。あろうことか振れてしまった。遣い手のいなかった欠陥武器に、今一度意味を与えてしまった。
 彼女がニャメを振るえば全てが壊れた。故に彼女は、それを用いた戦闘を主に行ってきた。今まで、ずっと。それさえあれば事足りたのだ。
(あーしにできることは一個きり。力づくで、叩いて、壊すこと)
 炎火には自覚がある。それしかできない、否、少なくともできなかったし、しようとしてこなかったはずだ。事ここに至るまで。
 だが、此度はそれでは通らない。この泥の沼相手では彼女の力は役に立たない。
 斧に散らされた泥濘が怒ったようにさざめいた。泥は大小様々、無数の触手の形を取り、炎火を捉えるべく唸りを上げて伸びる。
(いつも通りにするんじゃ、通じんのよね。負けてしまうのよね)
 炎火は翅を羽ばたかせ、飛んだ。分かっている。此度は間違えぬ、過たぬ。織田信長に敗れた時のことを、彼女は決して忘れていない。
 炎火は追憶する。まさにその第六天魔王、織田信長を相手に戦った時の記憶を。彼女は死の淵に立たされ、闇に沈んだ意識の中で『それ』の存在を感じていた。

 己の中にいる、何か。“輝く者”。

 加えて、ニャメの重斧が暴走する時、自身の力を吸い上げた感覚を思い出す。
 背に耀く翅の感覚を思い出せ。当たり前に羽撃く自分の背で、それはいつでも赤々と燃えていたではないか!
 炎火は無数のミサイルの如くうねり複雑怪奇にホーミングする泥の触手の間を、背の翼をアフターバーナーめいて猛らせ、最大戦速の戦闘機よろしく飛び抜ける。
 ごう、
 ご、
 ごおお――、
 ……アフターバーナーめいて?
 否。そのものだ。
 身長、たった二十センチ余りのフェアリーの背中で燃えるその翅は、今や戦闘機のバックファイアめいて巨大化している。
 灰炭・炎火が得た一つの答え。己の力を吸い上げて、輝く者が現出するなら、その力を今度こそは自ら制御してみせる。
「燃えろ、あーしの力! もっともっと熱く、空に届くまで!!」
 襲いかかる触手を寄せ付けぬ速度で上昇、炎火は今や身長の二十倍に膨れ上がった炎の翅を広げ、強く念じる。
          チカラ    チカラ
 ――新たなる力を。怪 力ではない能 力を!!
「いっくよぉーっ!!」
 炎火は、今や自身から止め処なく溢れ出る火焔を纏って突撃した。
 赤色の流星めいて、腐泥の沼目がけ、真っ直ぐに。
 ――それは彼女の怪力を、純粋な『熱量』に変換する業。
「やぁぁああああぁぁああああーーーっ!!!」
 最大出力で燃え、炎火は真っ直ぐに突っ込んだ。


     ホノカオーヴァードライブ
 爆轟。『  炎 火 の 火 焔  』……!!


 叩きつけられた炎が爆ぜるように溢れた。轟音、轟炎、大爆発! 泥が一瞬で水分を失い、燃え上がり、炭屑となって爆ぜ、炎火が『炸裂』した地面から巨大な渦中が吹き上がり、割れる結界を吹き飛ばして天へ吹き上がった。
 小さな妖精は、爆炎の内側で拳を天に衝き上げる。
 あの日喫した敗北に、今なお知らぬニャメの謎に、いやさ負けぬと、決然と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ

2(名のみ

――その意地は、いつか己を殺すだろう

矢尽き、鋼糸は通らない
爪、火薬、毒…も厳しいか
磨き来たものが届かぬ不服
隠し球はある
だがそれは…

授けられた剣と技
俺達を拾い、育て、鍛えたのは、自分を殺させる望みが為か
重ねた全ては虚構、己は利用され続けただけか
弑しても、悲しさなど無かった
ただ、俺は
腹が立ったんだよ
――カイ

技も業も捨て切れずに
意地も命も譲れない…なら


なぁんだ
正に懸崖撒手!
踏み超えるしか無いってなもんです

暗器使いは笑う
何時もの様に

眼鏡を外し封印解除、魔力抑制停止
黒剣限定開展…蛇腹剣『朔月』
未だ力注がぬそれは壱式に非ず

お前が遺した式へ
唯、己だけの解を示し
神だろうと、絶つ


No. 30

唯式・絶



●僕の回答:意地の通し方

 ――その意地は、いつか己を殺すだろう。
 けれど、意地も張れずに生きた生を、果たして生きたと言えるのか?

 両手の小手に仕込んだ短矢射出機に装填された残弾ゼロ。鋼糸は敵の装甲表面を滑るばかりでものの役に立たぬ。鋼糸で断てぬものにワイヤーフックを撃ち込もうとダメージは期待できず、火薬は敵内部に仕込めればあるいはと思うがそんな隙はない。
 ならば毒は? 最初に試した。あの死霊めいた騎士に、対人用の毒が通じる筈もなかった。
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)が戦う相手は、白銀の甲冑に白き聖剣を備えた――首のない騎士だった。生前はさぞ高名な騎士だったのだろう。鎧は鋼糸を通さず、撃剣精強にして峻烈。クロトが繰り出す技の悉くが無為と散り、実力の差を無惨なまでに示す。
 ――これほどまでに通じぬものか。
 生きるため、生き延びるために磨いてきた技を悉く防がれ、クロトは苛立ちと諦念を等量ずつ抱いた。すでに彼の身体には無数の刀傷。黒き衣は血を吸ってじとりと重い。
 疾る敵の聖剣を躱す、刹那を見切って籠手で流す。嗚呼、最早万策尽きたか?
 ――否。まだだ。まだ一つだけ残っている。
 だが、それは……
 クロトは、未だ抜かぬ懐の剣を思う。剣士であることを捨て、傭兵としての戦い方に習熟した今なお、捨てられず懐に帯びた剣を。
 ――ああ、俺達を拾い、育て、鍛えたのは、自分を殺させる望みが為か。そのための技か、そのための剣か? 重ねた全ては虚構か。己は利用され続けただけか?
 瀬戸際で死から逃れ続けながら、クロトは過去を思い出す。
 ――弑しても、悲しさなど無かった。ただ、俺は、腹が立ったんだよ――カイ。その在り方に。そしてこの在り方に。
 脳裏に走る、手に掛けたものの記憶。未だ手の内に残る技。捨てきれなかった剣。意地も、命も、譲れない。
 譲れず捨てられぬものばかり。クロトは笑う。どうしようもない。――どうしようもないから、力尽くでぶつかって超えるしかないのだ。
 正に懸崖撒手。踏み越えられなければ、ここで死ぬまで。暗器使いはいつものように笑った。涼しげに、飄々と。

 クロトはその眼鏡を外し、青き眼で敵を真っ直ぐに捉えた。封印解除、魔力抑制停止。
 この魔力を黒剣に注げば、それは彼のひとが遺した、『壱式』となる。――未だ、そうはしない。これが自分の意地の張り方だ。ただ、己だけの解だ。クロトは加速する。己の速度を増すために魔力を使う。
 抜剣。クロトは黒剣を振るい、敵へ挑みかかった。
 首なし騎士と、クロトの刃が弾け合う。鉄の雨が降ればそのような音がしたろう、一呼吸に数合の打ち合いが轟く。速度だけは追いつく。だが力がまだ足りぬ。ならば筋肉、その出力とレスポンスを魔力で補え。回転を上げろ、威力を上げろ、目の前の敵、ただそれを絶つ為に特化しろ。傭兵として戦ってきた生き様そのものを、今この瞬間に圧縮するように!!
「はあああああっ!!」
 裂帛の気合。常ならばそのような声は上げまい。隠密に行動し、静音にて絶つだろう。だがクロトは叫んだ。これが意地の通し方。彼の、彼のためだけの解……!!
 剣戟は最早万雷の喝采に似る! 一際強く聖剣と黒剣が弾け合い、ほんのわずかの間隙が生まれた刹那、両者、全力で斬り結ぶ――
 ぱき、ん!!
 果たしてその瞬間、クロトの黒剣が砕けた。
 ああ、打ち合いの涯て、勝負はついた。次の瞬間にはクロトは聖剣にて断たれ、その命を終えることになるだろう。誰もがそう思うであろう光景だった。
 しかし。クロトは動きを止めなかった。
 まるで、剣が砕けるのを分かっていたように。
「黒剣限定開展、」
 身を屈め、砕けた剣を手放さぬまま、転がるように騎士の横を抜ける。それを逃さぬと身体を回す騎士の動きが、凍えたように止まる。
「――『朔月』」
 剣は砕けたのではない。『分かたれた』のだ!
 鞭状に連なる剣片が騎士に絡み、その動きを拘束している!
 これは教わった技ではない。唯、彼だけの型。
 故に唯式。クロトは朔月のグリップに瞬刻、圧縮した魔力を叩き込み、剣の形を復元しながらに振り抜いた。

 ――絡み食い込んだ剣片が強引に直剣に戻ろうとする力、そして振り抜くクロトの力、剣片の剪断力がすべて重なり――無敵を誇った騎士の鎧を、今まさに両断する!!

 これぞ、唯式『絶』。

 ――背後で両断された騎士が崩れていく。じきに結界も解けるだろう。
 クロトは束の間、膝を突き荒い息を吐く。また一つ、生き延びた。
 出した答えが正しいかは――きっと、生き続けた涯てに見えることだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァーミリア・ランベリー
◎1

▼戦闘スタイル・得意なこと
 技能〈パフォーマンス・歌唱・ダンス〉の一部or全部を取り入れた戦闘行動。近接肉弾戦が多い。が、UC《サウンド・オブ・パワー》等の間接的行動もできなくはない。

▼弱点
 高度な戦略・戦術的思考は不得手。また、器物時代のあるじに対する漠然とした憧憬と、潜在意識下の劣等感があり、そのためヤドリガミらしい能力(初期UCを含む)はあまり使えない。

▼絶対にやらないこと
 民≒非戦闘員を犠牲にする振る舞い。

▼備考
 ヤドリガミの本体は錫杖(もっぱらマイク状に変形している)。

「絶望的であるコトは、絶望する理由にはならない」
「だってそれが、高貴なる者の義務なんだから」



●彼女にジェイルは似合わない
 二十メートル四方の結界は、ダンスホールではなくショウケースだった。
 いまや彼女はアイドルではなく、愛玩動物として扱われている。爪を出した猫をあしらうように。
「くっ、う……!」
 ヴァーミリア・ランベリー(イミテーションルビィ・f21276)の額に汗。その身体にはすでに無数の傷が刻まれている。特に脚に負った負傷――刺傷と切創が酷い。彼女の得手は肉弾戦、格闘戦だ。その基点となる脚が傷ついている以上、否応なしにその動きは精彩を欠く。
 くきき、くきききけけけ……
 ガラスを金属で掻くような笑い声が響いた。彼女が対する怪物のものだ。薄ら笑いを象ったマスクで顔を覆った、ひょろりと背の高い人型。燕尾服にステッキ、シルクハット、白手袋。首元に覗く膚が淀んだヘドロめいた黒でなければ、人間と見紛うことだろう。
「……その笑い声に相応しい底意地の悪い戦い方ね。正々堂々と戦えないのかしら」
 苦々しげに呟くヴァーミリアを嘲笑うかのごとく、またも地面から黒い槍が十数本、ヴァーミリアの胴を貫くコースで飛び出した。
「馬鹿の一つ覚えね……!」
 ヴァーミリアは吐き捨てながら横っ飛びに直撃を回避するが、前兆もなしに足下、あるいは空間から突き出る黒き槍をいつまでも十全に避け続けられるわけがない。必然、傷は重なり、彼女の動きは鈍り続ける。
 ――そう、開戦以降ずっとこの調子だ。怪物は直接戦闘を避け、ヴァーミリアから距離をとり、いたぶるように黒き槍を発して彼女を痛めつけ続けている。
 無論、ただ逃げ回るだけの小物であるならばヴァーミリアとてもっと早期に撃破していただろう。だが、敵は高度な回避能力、そして攻撃の端緒を決して見せぬ隠蔽能力を有している。
 それに何より。あの黒き槍を、大量に、任意のタイミングで自在に操れるならば――いつだって、ヴァーミリアを殺せたのではないのか。
 きき、きききっ……!
 笑う、笑う、メリメリと仮面の口端が釣り上がり、醜悪な笑みに歪んだ。狂喜の面相となった白面。――ヴァーミリアをいたぶることを楽しんでいるのだ、その怪物は!
 外界から結界で隔てられている。助けは来ない。
 敵は強く、己が及ぶべくもない。
 ヴァーミリアとて、とうにそれは認識している。
 ……ならば折れるか、膝を屈するのか?
 否。
「――絶望的であるコトは、絶望する理由にはならない」
 少女は呟く。
 それは彼女のノブレス・オブリージュの形。
「だってそれが、高貴なる者の義務なんだから」
 作戦を立ててあの怪物を追い詰めることは、できない。――自分の最高のパフォーマンスを魅せるだけ。ヴァーミリアは自らの本体たる錫杖――マイク状に変形している――を、纏う衣『オールナイト・クロス』に取り込めた。
 ――ダイヤフラム・コピー。
 マイクとスピーカーは本質的には同様のものだ。『音で振動板を震わせ電気信号を生む』のがマイク、『振動板を電気信号で震わせ、音を出す』のがスピーカー。故に、
 ――ダイヤフラム・ビルド。
 可変する彼女のオールナイト・クロスに構造を覚えさせれば、再現することは容易!
 なんという応用か! ヴァーミリアは己の魔力でひらめきを形にした。衣服に添う形でウェアラブルスピーカーが構築され魔力により駆動! 彼女の曲が流れ出す!

 それはたった一人のための放送機構。
『彼女のための空電放送』――セルフィッシュ・パブリック・アドレス!

 戸惑うように笑いを止める怪人を前にヴァーミリアは爪先でリズムを取る。
 彼女の格闘術は音楽にノればノるほどそのキレを増す。
 少女は、音もなにも響かないこの結界を、ショウケースからダンス・ステージに換えたのだ。
 危険を感じたのだろう。白面は手心なく八方の空間より、ヴァーミリアへ黒槍を射出。
 しかし、音符の上を跳ねるようなステップ! 翻る衣装の裾が刃になり、槍を弾いて斬り払う! そのまま跳ねる、前進! 最初よりも遙かに速い。痛みはあるが、倒れない。
 ――だってアイドルは、ステージの上じゃ笑っていなきゃだもの!
 なおも放たれる槍すら打ち払い、少女は鮮紅の竜巻と化した。飛び退く怪人よりもなお鋭く疾駆――
「いい機会だからレッスンしてあげるわ。こういうのをね、『処刑用BGM』っていうのよ。来世の参考になさい!」
 美しい跳躍から翻った可憐な脚は、しかし今や死神の鎌と同義!!
 全力で振り抜く右足が、怪人の首を刎ね飛ばすッ……!!

 結界が解ける。
 塵と散る敵を背に、彼女は疾った。

 ――もう一曲くらいなら、踊ってやれるわ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルエ・ツバキ
◎フルオーダー

「ぐっ……うぅ!」
悲鳴が、怨嗟が、苦痛が、呪詛が周囲に響く。
ソレはUDCの降臨に必要となるモノだったのだろう。
だが、その手法はアルエにとってあまりに相性が良過ぎた。

ソレらは内に宿るオウガ共の腹を満たし、喉を潤した。

「嗚呼、最悪な気分だ。」
パキリパキリと躰が罅割れる。
満たされた悪鬼どもは成長し、分化する。

また一つ、私からナニカが零れ落ちた。
抜け落ちたソレは鬼の形を取る。
また一つ、私は白く染まる。
それでもまだ、私は私だ。


-白兵戦
-生きる事、護る事
-存在として魔、邪悪に寄っている為、神聖な物を苦手とする
-折れる事、屈する事、死ぬ事

・鬼とは喰らう者である。

私はまだ、死ぬ訳にはいかない。



●鬼を孕む
 再演された無辜の一般人らの断末魔。悲鳴が、怨嗟が、苦痛が、呪詛が周囲に響く。それに当てられ、ぎりり、と己の胸に爪を立てる猟兵がいた。
「ぐっ……うぅ!」
 アルエ・ツバキ(リペイントブラッド・f20081)である。胸が痛む、などという心情の話ではない。絶望の嗚咽は、差し迫った苦痛、あるいは耐えがたき甘露としてアルエの裡に染み渡った。
 ――彼女の裡には、鬼がいる。
 猟兵分類、オウガブラッド。オウガに取り憑かれたアリス。オウガは、人食い鬼の名の通り人を食う。
 だからこそ、あの悲鳴は、断末魔は、彼女の耳には過ぎたる毒だった。彼女の裡にいるオウガ達は怨念と、悲しみと、絶望を、まるで皿でも嘗めるように念入りに平らげ、飲み干し、歓喜の声を上げたのだ。
 アルエは我を失わぬよう、必死に胸に爪を立てる。心の内で歓喜に沸く鬼どもの嬌声がやかましくてたまらない。
 まともに戦闘行動を取れず、己を鎮めるアルエを結界が取り込めた。二十メートル、立方体様の空間。うっそりと顔を上げる彼女の上方、ばさり、と翼が翻る。
 ――天使だ。六枚の翼を持つ。だが頭には、取って付けたようにガーゴイルめいた頭部が乗っている。首に乱雑な縫い跡。冒涜のような怪物であった。
 しかし手にするは聖弓、そして腰にするは聖剣。如何なる御業によるものかその神性は一切失われていない。アルエには一瞬で分かる。あれは、よくない。食らえばこの身は爛れ、焼け、その涯てに崩れるだろう。
 間合いを計らんとした瞬間、空から矢が降り注いだ。光の矢だ。一度に三つ番えては無尽蔵に連射してくる。一呼吸で八射。放たれる矢群はまるで光の雨である。
 アルエは自分の身体を叱咤して回避せんとするが、雨を人の身で、傘もなしにどのように受ける? 或いは万全のアルエならばそれも果たして見せたやも知れぬ。しかし、今、鬼の喜悦に揺さぶられ呻く彼女では――
 ナイフで数本弾くも焼け石に水。降り注ぐ矢が、彼女の身体を食い荒らす。貫通した聖なる光は容赦なくアルエを浄化しにかかった。
「う゛、ああ、あああああッ!!」
 引き攣った声が漏れる。
 雨めいた一斉射から逃げ走るアルエの身体がまるで限界を迎えたかのように、ぴしり、ぱきりと音を立ててひび割れていく。
 ――嗚呼――最悪な、気分だ。こんなに痛くて、今にだって死んでしまいそうなのに。まだ耳の奥で。

 やつら
 鬼どもの声が、鳴り止まない。

 びし、ばき、り。
 割れて壊れた胸から、ダーク・パープルの結晶が落ちた。地面で一度弾んで、哄笑を上げる鬼の首に化ける。それは彼女の中にいた鬼。満たされ、成長し、分化して一つの個となったオウガ。酷い喪失感がアルエの胸に空隙を穿つ。また一つ、彼女は白く染まる。もう、今にも消えてしまいそうなほどに白くかすんでいるのに。
「嗚呼、糞ッ、痛い、糞ッ……、私は……私だ、それでもまだ、私だッ……」
 ――私はまだ、死ぬ訳にはいかない。
 アルエは、せめて盾にせんとばかり、地面でゲタゲタと笑う鬼の首を掴んだ。
 傷口から垂れ落ちる魔性の血が、鬼の首を濡らす。
 鬼は悦んでなおも哄笑を上げた。――その形が変ずる。首から下に脊髄が構築されていく。顎はより食いつくに適した形に。口吻が伸び、鰐めいて口が裂ける。
 ――鬼とは喰らう者。故に、アルエは、それをどのように使えばいいか直感した。
 脊髄を引っつかむ。鎖分銅めいて、持てる限りの膂力で振り回す。
 降る光の雨を弾く、弾く、弾く!! アルエは目を見開き、矢の切れ間を狙い、一際強く鬼首を振るった。
 ――あろうことか涎を垂らした餓鬼の首が、ぎゃりりり、と金属音を立てて伸びる!

     ジンガ
 骨鬼、『神 餓』。彼女より分かたれた、人ならざるモノの一つ。

 神餓は迎撃に放たれる光の矢を弾き猛進、空中の天使にそのまま食らいついた。一度牙が食い込んだならば、
「逃がさない」
 その疵だらけ、孔だらけの身体のどこにそんな力があるのか。
 アルエは伸びた神餓の骨を収縮させ、天使を引いた。羽撃いて抗うのを、せせら笑うようにねじ伏せて、
「――お前の末路は、ただの餌だ」
 引きずり、下ろすッ!!
 地面に叩きつける、振るう、結界に叩きつける、振るう、叩きつける叩きつける叩きつける叩きつける叩きつける叩きつける、叩きつけるッ!!!!
 襤褸雑巾になった天使が、首だけしかないはずの神餓の口に呑まれ、煙のように消えた。
 神餓は満足したように笑い――彼女の手の内より失せる。
 その鬼が最後に発した、『また喰わせろ』という言葉が――
 アルエの脳裏に、ひどく色濃く焼き付いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
【華葛】◎
1
九死殺戮刃かドレスアップ・プリンセス

・戦闘
主に後衛支援だが偶に前へ
えぐい攻撃多め
他人の為なら自分の犠牲は厭わないが死ぬのは怖い

・得意
竪琴の演奏と歌唱
情に訴える
小回りが利く

・弱点
誰かを救えず、護れない非力な自分

・他
NG無
永一がピンチの時に新UCに目覚めたい
楽しい事以外の記憶は翌日には忘却
楽しい世界を願う気持ちの強さは人一倍
敵と永一の所為でかなり不機嫌
マリア無双見たい

…これまでの戦いの手は通じないのね
まぁ!何か策があるのかしら怪盗さん
ええ、永一の出来る精一杯を貫いて頂戴
後ろはマリアが

竪琴でマヒの糸絡めた終焉の曲を奏で妨害
永一を援護

大丈夫
マリアが護るわ
永一ばかりに頼る訳にはいかないもの


霑国・永一
【華葛】◎
2:盗み問う狂気の対話(スチールダイアログ)
依頼初使用。今回に限り、相手が満足のいく答えを出しきれないほど様々な質問を重ね続ける
質問内容やそれによる結末はお任せ

戦闘スタイル:概念的な事も含め、何等かを盗む
得意な事とか:狂気的な事、搦手、卑劣。
弱点:召喚したダガーが勝手に追尾はするものの、自分自身は通常通りの身体能力で回避とかする必要あるので防御面で少々大変

試練だとか偉そうにまぁ。一方的に上から目線の質問も癪に障るし、目には目をだよねぇ?
マリア、ちょっと試すことあるから援護頼めるかな? 上手くいくかの確率を上げなくてはだ

っと、やはり危なっかしいなぁ。助かったよマリア。さぁ追い込みしよう



●影王に贈る葬送曲
「試練だとか偉そうにまぁ。一方的に上から目線の質問も癪に障るし、目には目をだよねぇ?」
 即座にナイク・サーへの直接攻撃を試みる猟兵もいた。霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)がまさにそれである。
「マリア、ちょっと試すことあるから援護頼めるかな?  上手くいくかの確率を上げなくてはだ」
「まぁ! 何か策があるのかしら、怪盗さん? ――ええ、勿論。永一の出来る精一杯を貫いて頂戴」
 傍らの少女、マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)が応じる。
「後ろはマリアに任せて、やりたいことをなさって?」
「頼もしいねえ。それじゃあ、狂王。そちらには聞きたいことがある。答えてくれるかね?」
『いいとも』
「!」
 問いかけに、鈍い声が応じた。
 ナイク・サーの影から唐突に析出した、ナイク・サー同様の姿を持つなにか――影王が声を発したのだ。
『鋭敏なる者への試練』によるインタラプトであった。ナイク・サーが、己の権能を分け与えた影の王。
 本体は永一の問いに答えることもなく、待避するように浮く。
「はん、成程。そう簡単に思い通りにはさせてくれないって訳か。いいさ、なら答えてもらおう。この騒ぎを起こしたのはどこのどいつだい?」
『邪神教団――』
 影王が教団の名をもごもごと答えかけた瞬間、その背に無数のダガーが飛来した。
 影王は瞬刻振り向き、手にした『ディフダの怨槍』にてかろうじてダガーを打ち落とす。永一はそれを意にも介せず、当然のような顔をして続けた。
「何人殺した? そいつらの目的は何だ? 本拠は? 平行して類似ケースが起きている可能性は? あの傍観者達の中に信徒はいたか? まさか無辜の人間ばかり集めたなんて言わないよな? あの仮面はそもそもなんだ? ――さあ、」
 並べ立てられる無数の質問。影王がどれから応じるべきかと逡巡した瞬間、
「『答えろ』」
 永一は力強くもう一押し。
 ぎゃ、らららりりっ!!
 永一の問いを契機に、影王を無数のダガーが取り巻いた。そのまま、降り注ぐ。まさに刃の嵐であった。影王は『メンカルの血槍』を編みそれを迎撃しつつ飛び抜けるが、回避行動を行いながらでは満足な回答などできようもない。――そして、答えが出ぬ限り、ダガーは無限にその身体を追い続ける!!
 ひとたび刺されば対象から耐久力・生命力を盗み取るダガーを、『質問に満足いく答えが返るまで追尾させ続ける』――
 
      スチールダイアログ
 これぞ、『盗み問う狂気の対話』。永一の新たなユーベルコードである。
 
『性急なことよな――』
 影王は無数のダガーに追われつつ、手にしたディフダの怨槍を突き出した。ジグザグに伸張する穂先が、永一をめがけて弾丸めいて突き進む。
「おっと――こりゃまずい」
 先刻は思考を盗み対応したが、今度は『対話』に全力を割いている。素の身体能力のみでこれに応じねばならない――
「大丈夫よ、永一。あなたはマリアが護るって、言ったでしょう」
 きゃ、りィンッ!
 ハープの高音弦が絢爛に鳴り響く。マリアドールだ。彼女が弦を掻き鳴らすなり、遊色の音弾が発され、ディフダの怨槍の切っ先を弾き逸らす! 弾かれるたびに再び永一を狙って軌道を変ずるディフダの切っ先を、マリアドールは奏でる音階で弾き続ける!
 Allegretto, Allegro, Vivace, Presto, Prestissimo……! 音価は増え、音間は削られ続け、彼女の奏でる曲は最高速に至る。執拗に狙うディフダの怨槍を、絶対不可侵の音弾障壁が、ことごとく弾き続ける!!
「やはり覚えたての技は危なっかしいなぁ。助かったよマリア。さぁ、追い込みといこう」
 頼れる小さな相棒に礼をしつつ、永一はユーベルコードの制御に集中する。
 完璧なコンビネーションであった。
『小癪……』
 うっそりと影王が口を開いた。影で出来たその身体にはすでにいくつものダガーが突き刺さっている。
 ――優勢。誰が見てもそう見えた。しかし、忘れてはならぬ。
 その影王は、狂王の権能の一部を引き継いでいるということを。
 影王は、ぱちんと空いた手指を鳴らした。
「……っぁう?!」
 その瞬間、音弾の密度が目に見えて下がる。声を上げたのはマリアドールだ。彼女の魔力、そして生命力が一瞬で半分近くまで削られる。必然、音の障壁は薄れ、ディフダの怨槍の追尾速度が徐々に勝り始める。
 影王はナイク・サーの権能、『叡智ある者への試練』を用いたのだ。吸い上げた魔力、生命力を用いて、自身に邪神をもう一柱『実装』する。
 ――影王の体から刺さったダガーが押し出されるように抜け、背よりさらに二本の腕が突き出した。本来なら召喚するものを、自身に憑依させたのだ。
「……おいおい、反則じゃないかい、そいつは?」
 呆れ声で永一が言った。それ程までに凶悪なコンビネーションである。
 影王は新たな二腕に複製したディフダの怨槍を構え、繰り出す。単純に三倍の手数。そして衰弱し、手数の落ちたマリアドールの守り――
 こいつは、まずい。
「ちょいと失礼」
「っ、あっ」
 永一はマリアドールの小柄な体を抱え上げ、逃れるように走り出す。
 すでにダガーを突き刺して影王から盗み取った生命力・耐久力を盾に、パラコードつきのナイフを分銅めいて振り回して、永一は怨槍を弾き迎撃しながらの防衛戦にシフトする。
「やれやれ、正面からやり合うのは得意じゃないんだけどねぇ……!」
 皮肉っぽく呟きながら高速移動する永一の左腕の中で、マリアドールは急激に訪れた消耗に喘鳴する。
 ――ああ、護られてる。永一ばかりに頼る訳にはいかないのに。
 マリアドールは苦悶の表情を浮かべた。防ぎ切れぬなら、あの攻撃を防御し得ぬなら、非力のあまりにこうして足を引っ張るのなら、はじめから彼のそばにいない方がよかったのではないか。そんな疑念が沸く。
『順に答えよう、“盗む者”よ。邪神教団“誰ソ彼の子供達”。二二五二人。“吐き出すもの”の顕現と、それによる異神降臨。英国ルアト郡ニナ村廃地下墓地。“吐き出すもの”が現出した件は本件と平行してもう一件。信徒二三名と教長二名が先の犠牲者数に含まれる。人間の怨嗟なくば“吐き出すもの”は再臨せぬ。故、当然の犠牲として二〇〇〇余名を払った。――あの蒼面こそ、“吐き出すもの”、ナイク・サー。純化した異神の導き手にして、我らが主なり』
「こいつははまたご丁寧にどうも……!」
 ――そしてここに問答が完結した。してしまった。影王を追っていたダガーが消失する。それは、メンカルの血槍が即座に永一らを狙うことを意味している。
 空中に析出する無数の赤き槍が、三本同時にジグザグの軌跡を描いて高速接近する怨槍が、永一とマリアドールを絶殺せんと迫り来る!!
 絶体絶命の窮地。永一の減らず口も尽きた正にそのとき。
「駄目よ」
 マリアドールは呻く様に言った。
「させない。やらせないわ。――誰も守れず救えないのは、もう厭よ!」
 少女は、割れたガラスの様な声で叫んだ。その瞳が、琥珀のいろに煌めいて、彼女の纏うドレスのそこかしこに、絢爛な宝石のベルが現出する。
「マリア、これは――」
「永一! もう一度だけマリアに任せて! あなたはあの影の王を!」
 決然とした金の瞳。永一はそこに本気を見て取って、抱いていた左腕を解く。地に降り立つなりマリアドールは身を翻す。
 りぃん、りぃん、り、りぃんっ!!
 ジュエル・ベルが鳴り響く。その刹那、ディフダの怨槍の行く手を現出した音弾が遮った。――マリアドールが竪琴を奏でないにも関わらずだ。
『む――?』
 影王の戸惑いもよそに、マリアドールは再び竪琴を奏でる。発される音弾は正に無数。先ほどに比肩する数。――否、さらに増える! 新たに奏でる音弾に加え、少女が廻りベルが鳴るたび、弾けて消えたはずの音弾が回帰する! 撃ち落とす、落とす、落とす、落とす、落とす!! ディフダの怨槍も、メンカルの血槍も、一発たりとて通さない!! 影王が放つ攻撃が嵐ならば、溢れ出る音価は瀑布である。いかに風雨を吹き付けようと、荒れる波濤を止められはせぬ!
 ――彼女の纏うベルが鳴るとき、この世は、彼女が奏でた音を思い出す。
 これこそ、彼女が今正に振り絞った死力の成せる技――

    サウンドレイン・リフレイン
 ――『 追 憶 の 音 雨 曲 』!


「はは――こりゃすごい。これを見ながら聞くけどね、王様。『俺たちに、勝てると思うかい』?」
 怪盗は嘯く様に訊く。メンカルの血槍を続けざまに放ちながら、影王は吼える様に応じた。
『貴様ら風情に、この私が負ける訳がなかろう……!』
「ああ残念、」
 怪盗は狂気めいて笑った。
「――その答えは、納得できないねぇ」
 ど、どどど、どどどどどっ!!!
『ぐ、おッ……?!』
 肉を打つ重い音が響き、無数のダガーが影王の背に突き刺さった。
『対話』は、満足な答えを得るまで終わらぬ。マリアドールが見せたこの驚異的な力が、永一に『負ける訳がない』という確信を与えた。故に成立した問答。
『馬鹿、な……』
「それが最後の言葉ってのは、冴えないね」
 笑い飛ばす永一の言葉が手向けとなった。食らったダメージにより、放つ槍の嵐が薄れた瞬間、影王はマリアドールの音弾の怒濤に飲まれ――声もなく、ここに滅却されたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛

【1】
アルジャンテくん(f00799)と

……ひどい声
心が裂けてしまいそう
誰にだって、こんな最期があっていいはずがなかった

許せませんね……決して、赦してはならない敵がいる
行きましょう、アルジャンテくん

私は私に、立ち止まることを許さない
同じような犠牲になる人がこれ以上出てしまわないように屠る
それがせめて救えなかった人々への弔いなのだと、信じて進んできたのだから!

>戦闘スタイル
 槍、または拳

>得意なこと
 槍術、体術、カウンター、自身を癒しながらの捨て身の攻撃

>弱点
 魔法耐性なし、魔術系全般に弱い

>絶対にやらないこと
 命を危険に晒す真似、魔法全般


アルジャンテ・レラ

織愛さん(f01585)

大丈夫ですか?織愛さん。
貴女の仰る通りですね。
あの最期、そして声……あまりに惨いものです。
これがどのような感情なのかはわかりかねますが、
赦してはいけないという考えは私も同じなのだと、そう思います。

はい。行きましょう。
そして必ずや示してみせましょう。

私には彼女のような強い意志があるわけではありません。
未だわからないことばかりです。
ですが、猟兵としての責務を果たしたい。
――今はそれだけで十分でしょう。

<戦闘スタイル>
弓による後方支援

<得意なこと>
狙い澄ました正確な射撃
麻痺毒等を塗り込んだ矢による状態異常付与

<弱点>
近接攻撃

<絶対にやらないこと>
感情に突き動かされた行動



●疾る双つの想い
 ――その嘆きを聞いた。耳にへばりつく声を。
「ひどい、声」
 思わず蹌踉めくその肩を、傍らの少年が支える。
「大丈夫ですか? 織愛さん」
 アルジャンテ・レラ(風耀・f00799)だ。透徹としたその紫眼に、少女――三咲・織愛(綾綴・f01585)はええ、と震える声を抑え、静かに応じた。
 心が張り裂けてしまいそうだった。誰も、こうして死ぬ事を望まなかったはずだ。こんな最期が、あっていいはずがなかった。ヒトとして死ぬことすら叶わず、狂王を喚び出す薪にされ、死してなおその身を汚泥と化して、弄ばれ続けるなどと。
「許せません。――決して。決して、赦してはいけない。あんな悪逆を」
 呟く織愛。決然としたその眼に迷いはない。
 呼ばれた少年が、その横に進み出た。
「仰る通りですね。あの最期、そして声……あまりに惨いものです。これがどのような感情なのかはわかりかねますが……赦してはいけないという考えは私も同じなのだと、そう思います」
 アルジャンテは激昂することも、情動に身を任せることもない。織愛の様に、何を措いてもあの悪逆を止めようという強い意志がある訳でもない。
 ――ひび割れたこの感情回路は未成熟。左右を見ても分からない事ばかり。けれど今この瞬間、彼女の意思に沿いたい。猟兵としての責務を果たしたいと感じた。――それで十分だと、そう思う。
 朴訥なアルジャンテの言葉に、織愛は薄笑みを浮かべ、前を見た。
「ありがとうございます。……行きましょう、アルジャンテくん」
「はい。参りましょう。――そして必ずや、示してみせましょう。この悪逆を悪辣を、赦さぬ者がいるのだということを」
 己が武器を構える二名の前に――舞い降りる異界の戦士が一体。優に二メートルを超える人型をし、黒き甲冑を纏った、山羊角・単眼の戦士である。
 それは降り立つなり、アルジャンテと織愛の生命力を吸い上げた。ナイク・サーの卑劣なる契約、敵対象の命を使い邪神の召喚を果たす『叡智あるものへの試練』である。同時に、異界の戦士の手に招来されるのは、生きているかのごとくに蠢く奇怪な馬上槍。
 襲う脱力感を振り払うように織愛は夜の槍『noctis』の穂先をあげ、アルジャンテは使い慣れたロングボウに矢を番える。
 ――アルジャンテが嚆矢を放ち、織愛が爆発的に踏み込む。
 ここに、戦いが幕を上げた。


 ――結論から言えば、その黒き戦士は圧倒的であった。
「……!」
 麻痺毒を塗った鏃を使い、アルジャンテが立て続けに矢を放つ。戦士はその悉くを、巨大な馬上槍を木の棒めいて軽々と取り回し弾き、回避。
「はああぁッ!!!」
 傷ついた織愛がもう十数度目となる突撃。
 山羊角の戦士は応じて前進。織愛は鬼気めいた気魄を乗せ、ノクティスを振るい打ちかかるが、戦士はそれを軽々と馬上槍にて受け止める。圧倒的な力量差。翻る馬上槍の穂先が霞み、空気を引き裂き刺突が繰り出される。
「あぐ、っぅ……!!」
 四閃。目にも留まらぬ。織愛の四肢より血が飛沫く。
 ――否、それは物理的なものではない。魔術的なものだ。その魔性の馬上槍が、ただ一合の刺突を増幅したのだ。
 物理的な技ならば織愛は大抵の物を見切れたはずだ。しかし攻撃が魔術に端を発するならば、そのきざはしすら見て取れぬ……!
「そこまでです」
 援護するべくアルジャンテが鏃に火を点し、火矢を連射するが、それを掻い潜り、弾き散らして戦士は後退。すかさず蜘蛛めいて身を屈め、馬上槍を前に構え、織愛めがけ再度突撃。
 暴走する雄牛めいた荒々しい突撃を、織愛は横っ飛びに躱すが――
「きゃあああああっ!?」
 穂先こそ回避できたが、重鎧の肩当てが少女の細い体を掠める。ただのそれだけで、彼女の体はボールのように飛んだ。木に激突し、ミシミシと樹幹を軋ませる。
「織愛さんっ」
 アルジャンテは吹き飛んだ織愛を案じるも、即座に回避を強いられることになる。織愛を吹き飛ばした戦士がアルジャンテに狙いを変じて突撃してきたのだ。
「くっ……」
 火を点す間も惜しい。アルジャンテは持てる限りの矢を連射するが、ただの射撃ではその黒き鎧を貫くこと能わず。戦士は防御することすらせず、装甲の堅い部分を前に構えてさらに加速、そのままアルジャンテにランス・チャージを叩き込む。
「――ッ!!」
 身を捩るも、アルジャンテの脇腹を呪いの馬上槍が穿った。衝撃のあまり体が浮き、息が詰まる。戦士はそのまま馬上槍を凶悪な怪力で振り、アルジャンテの体を優に十メートルは離れた位置の大樹に叩きつけた。今度こそ声もなく、アルジャンテの体が地に沈む。
 戦士はブレーキをかけ、とどめを刺すべく、悠然とアルジャンテの方へ足を向ける。
 ――だが、その前に割り込む影がある。
 脇腹と肩に大きな刺傷、全身に数えきれぬ切傷と打撲。正に満身創痍の織愛である。
「行かせ、ません」
 立ち塞がる。彼女は彼女に、決して立ち止まることを赦さない。
 あんな犠牲を二度と出してはいけない。この先に伏す、アルジャンテとて決して殺させはしない。
 力があるのなら、護らなくてはならない。同じような犠牲になる人がこれ以上出てしまわないように、戦い、必ずやあの悪逆の徒を屠らなくてはならない。
 ――それがせめて救えなかった人々への弔いなのだと、信じて進んできたのだから!
 織愛は槍を構え、大地を踏みしめ間合いを計る。戦士は嘲るように牙列を剥き出しにし、圧倒的な速度で打ち掛かった。
 まるでスクラップ工場めいた大音が響く。ノクティスと戦士の馬上槍が、ともすれば音の壁を突き破って打ち合う……!


 ――その激戦を見つめる。
 間違いなく、織愛の劣勢。
 ボディ内部の骨格、機構に深刻な障害。
 だが、手は動く。まだ、立ち上がれる。
 ならば立つ。
 体が重い。手が震える。
 次の一撃は、きっと耐えられまい。
 限界が近い。
 織愛が破られ敵が来れば、己の命はそこで潰えるだろう。
 ……アルジャンテは、たった二本残った矢を手に取った。
 矢に風を纏わせる。ただの矢では、あの装甲を貫けない。
 加速させろ。過去のいつよりも。
 狙い澄ませ。あの戦士を穿つべく。
 風を帯びた矢を番え、アルジャンテはただ静かに、マゼンタとバイオレットの狭間に敵の山羊頭を捉える。

「――穿て」

 弓弦が弓を軋ませて、風切音が空を割く。


 織愛を圧倒していた山羊頭の戦士は、アルジャンテが弓を放つところを視界の隅に捉えていた。
 先ほどより確かにその矢は速かった。突き刺されば馬鹿に出来ぬダメージを負うだろう。あるいはこの黒鎧さえ貫くやもしれぬ。だが、視えている攻撃だ。
 ――弾くことなど、造作もない。
 そう断じて、戦士は織愛の攻撃を強く弾き捌く、
「うっ……!」
 夜の槍、ノクティスが宙へ弾ける。
 さあ、これで矢を弾き防げば詰みだ。
 そう断じ、戦士は槍を振るって、最小限の動きで矢を弾いた。
 ――その瞬間。
 彼の視界は闇に閉ざされた。


 ご、おおお、があああああぁぁ!!
 異界の戦士は苦痛に噎んだ。織愛は間近で見ていた、確かに戦士の槍は矢を弾いた。
 ――だが弾いたのは一矢だけ。その影に、『全く同じ軌道で』『全く同じ速度で』放たれていた第二矢があることを、その戦士をしても悟れなかったのだ。
 果たして第二矢は、まるで約束されていたかのように戦士の単眼を射貫いた。敵からすれば、その矢は虚より出でた様に見えたこと、相違あるまい。
 ――極限の集中より放たれたその二矢こそ、アルジャンテが死中に見出した活。

       エイジンソウシ
 名付けて、『影 迅 双 矢』!

 そして! 手元より槍を失ったと言えど、三咲・織愛にはその拳がある!
 腰に下げたホルダーよりナックルダスター『帚星』をドロウ、右手に填めて全力にて踏み込み!
「――打ち抜きます。情けも、容赦も、かけません。死んでいったすべての人々の無念が、この拳に乗っていると知りなさい……!」
 覚悟が。背負った思いが彼女の拳を駆動する。
 アルジャンテが全力を賭して作り出したこの千載一遇の好機に、宣誓とともに放たれるのは――星を穿つ一撃。

    ソウクセイセン
 ――『想 駆 星 穿』!!

 彼女の信じる正しさ、激情の余りが白きオーラとして彼女の腕に纏いつき、その威力を劇的に向上する。
 果たしてその渾身の撃拳は、光弾めいて戦士の正中線、水月の位置に叩き込まれた。
 ――着弾と同時に、白きオーラが戦士の腹を突き抜け、背より爆光が噴出した。極限にまで加速・集中されたオーラが、何者をも侵徹する必殺の一撃を現出する……!
 おおおお、おおおおぉぉぉぉ……!!
 呪うような声を上げた戦士は、すぐに光に捲かれ、残響だけを遺して塵と消えていく。
 ――落ちきて地に突き立つノクティスが、残光を照り返し――まるで墓標のように煌めいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雲鉢・芽在
1◎

宴もたけなわ、盛り上がっているところ申し訳ありませんが、そろそろこちらも飽きてまいりましたのでお開きにさせていただきますわ

私の名は、雲鉢芽在
毒の知識と多少の痛みに耐えうること以外は平々凡々
それら以外の全てが弱点とも違わぬただの可憐な女学生と変わらぬ猟兵ですのよ
得意なことは……ふふ、毒であれば、どんなことをしても探求してみせますわ
この土壇場、私も下手を打てばタダでは済まないのでしょうが、それもまた一興
幸い持ち合わせの調合品は沢山残っていますの
今ならどのような毒でも生み出せそうですわ

さあ、狂いいかれた賢者様
貴様は私と踊っていただけるのかしら?
雲鉢……いえ、蜘蛛蜂蛾蟻(クモバチメアリ)参りますわ



●目覚める毒
「宴もたけなわ、盛り上がっているところ申し訳ありませんが、――そろそろこちらも飽きてまいりましたの。お開きにさせていただきますわ」
 ナイク・サーに肉薄し、酷薄な台詞を吐く少女がいた。雲鉢・芽在(毒女・f18550)である。
「不遜」
 狂賢者は吐き捨て、指を鳴らした。その瞬間、芽在は結界によりこの世と隔離される。卑劣にして恐るべき三つの試練の一つ、『剛胆なる者への試練』である。結界に遮られ、足を止める芽在。
「あら――私と踊ってはいただけませんの?」
「どの口でほざく、端女。舞いたくばその蜥蜴と勝手に踊れ。貴様に似合いの相手であろう」
 そのまま、ナイク・サーは結界に背を向ける。
 ずうん、と地が揺れる。芽在は音の方を振り向いた。その先にいるのは毒々しい体色をした蜥蜴である。尻尾を含めればその体長は四メートルに及ぶ。二足で立ち上がり芽在を睨んでいる。完全に捕食する対象として、芽在のことを認識している様子だ。
「――ダンスの相手にするには、野性味が強すぎますわね」
 いずれにせよ結界に阻まれ、狂賢者を追うことはできない。芽在は嘆息し、蜥蜴を向き直る。スカートをつまんで脚を交差させ、一礼。
 蜥蜴が口を開け威嚇音を発する。芽在は目を細めた。その口中に毒腺を認めたためだ。
 これは分の悪いことになった。敵は毒持ち。つまりは毒に対する抵抗力がある。それに加え――ここは閉鎖空間。先程のように可燃ガスに火を放とうものなら、結界の中で爆死するのは己の方だ。
 芽在は毒の知識、痛みへの耐性、それ以外は平凡な力しか持たぬ。ただの可憐な女学生――とは彼女の弁だが。それが難敵と、近距離で――逃げ道も助け船もなく戦わなければならない。
 難局だ。しかし、芽在は常のように笑う。
「幸いまだ毒には持ち合わせがありますの。貴様が私を殺すが早いか、私が貴様を殺すが早いか」
 密閉された試験管を懐より抜き、両手に手挟んで芽在は微笑んだ。

         クモバチ・メアリ
「実験しましょう。蜘 蛛 蜂 ・ 蛾 蟻 、参りますわ」

 言葉の終わりに合わせるように、蜥蜴が芽在へ飛びかかった。


 蜥蜴の攻撃は単純だ。毒の滴る爪と、口から放つ毒液、それに加え、身を翻しての尾による打撃。
 芽在は、そのいずれをも一度は受けた。その度、肉が裂け骨が折れ、未知の毒に身体が軋んだ。強烈な毒である。芽在が受けたことのないタイプの毒だ。身体の内側に、ざらざらとした針金が流れているかのよう。よろよろと立つ芽在の目から、口から、止め処なく血が零れる。
「うふ、ふふ……、ああ、これは思わぬ収穫ですわ、なんて強い毒――」
 恍惚としたように呟く芽在目掛け、尾が翻る。骨をも砕く威力のそれが、芽在目掛け横薙ぎに叩きつけられた。
 声も無く吹き飛び、芽在は結界に叩きつけられずるずると沈む。痛みが身体を支配していた。しかし、その状況にあって尚、芽在は未だ笑っている。
 確かに、なるほど、強力な毒。
 けれど――即死させられなければ、毒で彼女を止めることはできない。
 芽在は数個のカートリッジを連装シリンジに装填、ブレンドして自身に注射した。――まるで方程式を解くように、その毒を無効化する。
 芽在はこと、毒に関しては天才だった。――もう、この毒は効かぬ。
「すばらしい毒でしたわ。けれど――この毒も、解けてしまいますのね。さみしいこと」
 芽在はシリンジのピストンを引いた。カートリッジの一つに、紅い血液が吸い上げられる。
 敵が迫る。芽在は他のカートリッジを入れ替え、血液と新たな薬液をブレンド。
 飛びかかる蜥蜴。顎を開け、食いついてくるその口内に――
「召しませ」
 芽在は喰われることも畏れずに、その細く頼りないシリンジの針先を突き立て、ピストンを押し込んだ。

 芽在とて人間だ。凶悪な毒に対する耐性を持つからといって、彼女の血が毒そのものな訳ではない。――彼女の中で巡っている限りにおいては。
 彼女の血の中には、失活した無数の毒がある。今まで彼女が服み、超えてきた毒達だ。それを、ある種の薬品で再び活性化させる。――するとどうなるか。

 彼女の血は、『毒血』と化す。

 目を見開いた蜥蜴が軋むような声を上げた。声帯などあるまいに、余りの苦悶がそうさせる。半端に毒に耐性があったのが災いしたのだろう。そうでなければ、即死できたものを。
 眼圧の余りに目が弾け、血の泡と涙を流しのたうつ蜥蜴を見つめながら、ポイゾナス・ブラッドの主は、血塗れのまま、元と同じ笑みを浮かべて言うのだった。

「逝ってしまうまで――良く味わってくださいましね?」

大成功 🔵​🔵​🔵​

九条・真昼

【1】

チートってレベルじゃねーぞ、クソが。
血の味がする唾を吐き捨て、袖で口を拭いながらどうすりゃいいか考える。
後だしジャンケンされてどうやって勝てっつーんだよ。
痛い、苦しい、悔しい、なんで。
傍観者達の声はまさに俺の声だ。
……でも俺はアイツらより最低で汚ぇからさ。
どんな手を使っても生き残って嗤ってやるよ。
「選手交代だ、『深夜』」
666の銃口を自分の頭に当てて引金を引く。
髪は白銀に。
瞳は昏い深海に似た青に。
「真昼の馬鹿が。草も生えないよ」
「でも良いや。丁度死にたい気分だったんだ」

得意:悪巧み、騙し討ち、念力、射撃
弱点:小細工の効かない相手
※両人格共通、但し深夜の方がネジ吹っ飛んでる戦い方をする



●死にたい日の空の色
「チートってレベルじゃねーぞ、クソが……」
 既に地に伏した回数は数えきれない。そもそも、正面戦闘に持ち込まれ、小細工の効かない状態に追い込まれた段階で、九条・真昼(嗤ヒ袋・f06543)の負けは決まっているようなものだ。彼の得意は悪巧みに騙し討ち。
 正攻法だけで真っ当に強く、弱点も隙も無いような相手は、彼の苦手中の苦手というところである。
 地面に爪を立てて立ち上がる。血の味のする唾を吐き捨て、袖で口を拭う。
 真昼と対するは、真昼の生命力と魔力を生贄に、ナイク・サーによって新たに召喚された邪神の一柱だ。鋼鉄を上回るであろう強度の鎧に降ろされた邪神は、その両手に無骨な鉄剣を持ち、真昼に真っ向から襲いかかったのである。
 念力でその動きを止めようとしても僅かに鈍る程度、Boogie666で射撃しても弾丸はその表面を滑って弾かれる。威力が足りない。狂王にも一発カマしてやった背後からの思念弾も試したが、それすら一顧だにせず弾かれた。
 この上自分が取れる手が残っているのか、と真昼が自問する間にも敵は襲い来る。鈍重な鋼の鎧が、圧倒的な速度で襲い来る異様。
「ちっきしょ……!」
 鉄剣を避ける。まともに食らえば一撃で肉が拉げ、悪くすればそれで死ぬ。暴風めいた一撃だ。故に避ける、ひたすらに避ける。まだ直撃は喰らっていないが、
「がはっ!」
 旋風めいた回し蹴りが真昼の脇腹を抉る。
 即死級の威力の剣に気を取られると、脚や体当たりによる打撃が混ざり、それをもろに喰らうことになる。ただの打撃と楽観視できるものではない。車が突っ込んでくるような重量と速度で、もっと狭い面積に撃力が集中する。結果はご覧の通りだ。真昼の身体はサッカーボールのように飛んで、彼のマスクの内側に、口からこみ上げた血がびしゃりと散る。
 ――こんな後だしジャンケンされてどうやって勝てっつーんだよ。
 木に激突して沈みながら、真昼は内心で呟く。つーか、何で俺がこんな目に遭うんだ? 痛い、苦しい、悔しい、なんで。――ああ、傍観者達の声は、まさに俺の声だ。わかるぜ、その気持ち。……でもさ、俺はお前らより最低で汚ぇからさ。
 
 どんな手を使っても生き残って嗤ってやるよ。

「つー訳で、選手交代だ、『深夜』」
 真昼はBoogie666の銃口を側頭に当てて、迷わず引き金を引いた。撃ち込まれた思念弾が――突き刺さらず、真昼の頭を揺らして爆ぜる。
 昼が終わり。
 夜が来る。
 髪の色が抜け落ち、白銀に。瞳は昏い深海めいた青に。少年はマスクを外した。
「……真昼の馬鹿が。自分じゃ見当も付かないことをオレに押しつけるとか、草も生えないよ」
 ゆらりと立ち上がる。真昼は――否、九条・深夜は、指先でBoogie666を弄び、鎧の邪神を見た。
「でもまぁ、良いや。ちょうど死にたい気分だったんだ。――アンタはオレを殺してくれるかい?」
 問いかけに応えるように、邪神が奔った。深夜は凄まじい速度で振るわれる二刀を避け、捌く。まともに食らえばあっさり一撃で死ねる。だがそれは、深夜に相応しい死ではない。
 故に避ける。死への恐れはなく、彼の動きはブレない。故に、邪神の攻撃は当たらない。
「――で、固いんだっけ。面倒なことばっかりだ」
 真昼では貫けなかった装甲。では、真昼にできないことを、あの『生きたがり』にはできないことをするしかあるまい。
 深夜は『死にたがり』だ。Boogie666は思念を弾丸に変える銃。ならば――

 その死を希う心を固めればどうなるか?

 ぶおぅん、と音を立て振るわれた斧のような回し蹴りにタイミングを合わせて靴裏を突き出し、蹴り離すことで深夜は跳んだ。銃に念を込める。ああ死にたい、死にたいなあ、素敵な死に方でさあ。誰かオレを殺してくれないか。とびきり上等にさ。
 ――銃口が深海の色に光る。それについでに、サイキッカー御用達の雷電も足してやる。思念弾は雷電に引っ張られるように加速するだろう。
「お裾分けだよ。今日は死ぬには良い日だ。これを喰らえば、アンタにもよく分かるさ」
 空中から深夜は引き金を引いた。


 バレット・フォー・デス
『押 附 希 死 念 慮』。蒼黒の魔弾の名である。


 銃声と共に、正に深夜の色をした火線が宙を引き裂いた。
 板金を貫く音がして、無敵のはずの装甲が、その火線の形に突き抜ける。
 再度突撃しようとした勢いのまま、鎧の邪神はがらんがしゃんと地を滑り、結びつける物もなくなったかのように散らばりバラバラに。残るのは、ただの鉄くず。
 着地した深夜は拳銃を指先で弄び、残骸の一つを爪先で蹴転がす。
「分かってくれたみたいで何よりだよ。……あぁ、死にそびれたな」
 肩を竦めて、深夜は陰鬱な口調で呟くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

赫・絲
◎2

どこまでも頭の高いクズだねー
治めるべき人が自らお前についてきて初めて、お前は王になるんだってコトすらわからないくせに
今度は賢者気取り?
自身を的確に測れない自称程、滑稽なものはないね

私を識り尽くして超えるモノがお前だと言うなら
それに対する答えは簡単
私は、私でも識り得ない力を借りるだけ

茜、さくら、お出で、お出で──力を貸して
お前たちが私に貸せる最大限を

呼ぶは契交わした精霊の字
鬣を撫でて、背を撫でて
雷と焔の精霊が誇る最大限を借り受ける
代償なら幾らでも支払うよ
ただで借り受けれる程、甘く優しい精霊じゃない

手には鋼糸でなく、接近戦向きの『鈍』を

何を差し向けられようと知ったことか
首を洗って待っていろ



●文字の通りの縁断
 王とは――
 治めるべき臣民が、自らの意志でついてきて初めて、『そう』なるものだ。
 治めるという意志が先に立ち、ただ王になる、従わぬ者などいるはずがないと言ってのけるその傲岸不遜。
 それを愚かだと、赫・絲(赤い糸・f00433)は嗤った。
 その程度のことが分からずして、何が賢者だと嗤った。自身を客観的に見られぬ愚者が、賢者を名乗るほど滑稽なこともないと。
 ――道理である。
 しかしこの世は、不条理なものがか弱く、素直に道理の前に討たれる世でないことも確かなのであった。


「く、……っ」
 絲は踵で地面を削りながら飛び退き、縁断之葬具『鈍』を構え直す。
 ナイク・サーは、絲の生命力、そして魔力を半分近く吸い上げ、その邪神を降ろした。岩塊を寄せ集めた頑強な膚を持ち、三メートル超の体躯を誇る『岩の獣』。フォルムとしては狼によく似ている。
 その岩膚の前に、雷は通らず、彼女が得意とする鋼糸もまた無力である。
 ただの岩ならば強引に裂き切れても、邪神の加護を受けたその岩膚は無理だ。いかに絲であろうとも難しい。鋼糸は無効とみて即座に鈍を構えて応戦した絲だったが、これもまた効果的とは言いがたい。敵の打撃は重く、こちらの攻撃は通らない。幾度となく弾き飛ばされ、岩爪が掠め、絲の白い膚に赤い血が伝う。
 ――まるで自らに対して誂えた様な敵である。絲は頬を流れ落ちる血を拭い、呟いた。
「悪賢さだけは一人前ってワケね」
 まさにその通り。この岩獣を降ろした秘術こそ、ナイク・サーの邪悪なる三つの試練の一つ、『叡智ある者への試練』。対手の力を簒奪し、その力を元に、対手が苦手とする邪神を降ろす秘技だ。
 まさに狂賢者の思う壺に填まりながらも、しかし絲は決して膝を折らない。
「あの頭の高い莫迦には、直接言ってやらなきゃ気が済まないんだよねー。……私を識り尽くして超えるモノがお前だと言うなら、私が見せる答えはもう決まってる」
 絲は飛び退き、樹上へ逃れた。距離を取り、手を翻す。
「茜、さくら、お出で、お出で──力を貸して。私の知らないところまで。お前たちが私に貸せる最大限を」
 二体の精霊の名を呼ばわれば、姿を現すのは雷纏う小さな一角獣、そして焔の鬣持つ小さな狼。あやすように鼻面を指で撫で、鬣を撫でてやり、その加護を願う。
 ――敵はなるほど確かに、絲の力を知っている。
 だが、絲が扱う精霊の力はあくまで借り物。その出力は、精霊各々に依存するものだ。
 故に絲は願う。未だ知らぬ力を。――私でも識り得ぬ、新たな力を貸してくれと。
 代償など問わぬ。いくらでも支払おう。可愛らしくても強大な精霊。只で力を貸すほどに、甘く優しい情などない。そう、考えた瞬間のことだ。

 絲は、どこかで何かの縁が切れる音を聞いた。
 直感があった。
 誰かが、いま、彼女のことを忘れた。

 どこかの誰かの記憶をくべたかのように、鈍の剣身が燃え上がる。かつてなく紅く、まるで血の色めいていた。

 もう一つ。ぶつん。

 どこかの誰かの記憶を電源にしたように、鈍の剣身に紫電が走った。切れ切れに空気を爆ぜさせる音は、まるでもう繋がらないラジオめいていた。

 ――ああ、それを私に差し出せってコト。
 いいよ、構わない。それで命が縮むとしても。

 恐れがないと言えばウソになる。縁がすべて失せれば彼女は死ぬ。赫・絲はそのように定められている。しかし、切れた縁は取り戻せぬ。ならば。
 樹上で絲は鈍を構えた。刀身が纏う焔と雷が混ざり合い、燃え爆ぜる。吼え猛る熱き雷を前に、恐れるように岩獣が一歩引いた。
 絲はその瞬間に爆ぜ駆けた。まるで雷のように。茜の加護を受けた彼女の動きは紫電もかくや、木を二つ蹴って電雷のごとく跳ね、さらに空中を、灰桜より借り受けた焔を爆ぜさせ、爆風を蹴り翔ける!!
「悪縁を断て」
 絲は最高速で疾った。その瞳に、その姓のごとき赫が刹那、輝き、
 ――渾身の力で放たれる、絶殺の一刀。爆ぜ燃えるその剣が、逃れようとした岩獣の首に食い込み――あれ程までに堅く刃を阻んだ膚を、まるでバターのように裂いて、ず、ばん。
 巨大な岩獣の首が空に舞った。

         セキライ
 ――縁断・外式『 赫 雷 』。

 燃え爆ぜる赫雷の刃は、あらゆるものを溶断し、傷口に走る熱雷により敵を蝕み滅する。どう、と岩獣の身体が地面に伏す。それを尻目に――焼べた代償が燃え尽きぬうちに、絲は走る。
 ――首を洗って待っていろ、狂賢者。
 この刃を、お前の首にもくれてやる!

大成功 🔵​🔵​🔵​

有栖川・夏介
◎2

そのような姿になっても、まだ続けるのですね……。
今までの攻撃が通用しないというのは、厄介ですが……それでも、私のなすべきはただ一つ変わりありません。
「処刑…します」
それが私の仕事なのだから。

-戦闘スタイル
処刑人の剣による近接攻撃
針やナイフ等の暗器による近~中距離攻撃
顔色を変えずに剣を振るう死神

-得意なこと
医術によって得た知識を利用して、急所をつく攻撃
相手の感情や立場に惑わされずに攻撃できる非情さ
見かけによらず怪力

-ユーベルコード名
【真理を以って汝を刎ねる(サモンズヴォーパルソード)】

私…いえ、俺達にとって王など不要の存在だ。
……退場、していただきましょうか。



●断つことこそが業なれば
 あのような姿になっても、未だ王としてあろうとする。その狂的な執着がどこから来るのか、有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)は識らぬ。
 ただ一つ確かな事は、敵は未だ自らの罪を罪と認めず、さらなる罪を重ねようとしているという事だ。
 ならば敵がどれほど強大であろうと、今までの攻撃が通じなかろうと、夏介がすべきことは変わらない。犯した罪には報いが必要だ。
 処刑人の剣を抜く。それこそが、彼の仕事なのだから。

 ナイク・サーの秘術、『叡智ある者への試練』により夏介の前に姿を現した邪神は、堅固な、未知の金属でできた鎧を纏う、漆黒の騎士だった。
 夏介よりも上背に優れ、その身長はおおよそ一八五センチメートルばかり。一般的な成人男性と体躯のバランスは変わらず。
 夏介は、全身から抜け落ちる活力にも頓着せずその騎士の容貌を観察する。フルプレート、面頬つきのフルフェイスヘルム。大きな盾に片手剣。首回りの防護は厚く、恐らく剣で打ったところで真面に刃は立つまい。突くしかないか。然りとて、夏介の剣――処刑人の剣には切っ先がない。
 ならば打つ手はないか? ――否。決め手が潰されているのならば、作ればよい。
 夏介が処刑人の剣を持ち上げ構えを取ると、邪神は応じて構えを取った。――そのまま、互いに吸い寄せられるように激突する。
 ぎいん!! 夏介の剣と黒騎士の剣がぶつかり合う。火花を散らしながら軋り合い、圧し離すように離れては電光石火の打ち合い。夏介が胴を狙う一撃を黒騎士が剣で受ける。即座に、黒騎士は夏介の剣を絡め取るように捲く円運動に巻き込むが、これを夏介は手首の返しで刃を立て弾くように離脱、翻した剣先で首元を狙う。
 夏介の剣技は卓抜している。黒騎士に対して一歩も譲らぬどころか、隙を突きそうして打ち込めるほどだ。
 しかし、威力不足は否めぬ。ぎうんっ! と音がして、処刑人の剣が弾かれた。夏介の眉が潜まる。決定力不足。いかな彼の怪力を以てしても、その剣の切れ味を以てしても断てぬ装甲。
 黒騎士は敵の剣では鎧を貫けぬと見るや、その動きをより豪胆とした。即ち、夏介の剣を鎧で防ぎつつ、己が剣を叩き込む、という戦法だ。
 夏介は瞬く間に手数で圧倒された。なにせ、相手は自分の攻撃を受け止める必要が無い。鎧に任せて防ぎ止めればよいというのだから。夏介の剣筋を無視して、夏介を殺すためだけに剣を振ればいい。そして夏介は、それを一方的に防御せねばならない。事ここに至り、イニシアティブは完全に黒騎士の側へと移った。
 嵐のような剣戟に夏介は押される。力任せの斬撃が夏介の受け太刀を押し切り、幾度となく彼を傷つけた。夏介は最小限の身の捌きで致命傷だけは回避し続けるが、それもいつまで保つかは分からない。劣勢と敗北が脳裏を過ぎる。

 しかし――ああ、死んでいった者たちは、あのような、人とも思えぬ死に方をして泣き噎んでいた。
 ここで自分が膝を折れば、この邪神達はまた同じことをどこかでする。
 それは決して許してはならないことだ。
 夏介は鋭く、赤い瞳を尖らせた。

 左腕を打ち振る。
 翻った袖から、数本の鋭い針が飛んだ。針は黒騎士の兜のアイホールを擦り抜けて目に突き立つ。人間ならばともあれ、邪神相手にはその程度の傷、物の数ではあるまい。すぐに再生されてしまうに違いない。
 ――しかし、隙を作ることはできる。邪神とて、感覚器を潰された戸惑いからは逃れられぬ。ほんの一瞬、蹈鞴を踏む黒騎士。
 そのただ一瞬が欲しかった。得た刹那の隙に懸け、夏介は手の内の武器に力を注ぐ。

           サモンズヴォーパルソード
「その魂に哀れみあれ。この真理を以て汝を刎ねる」

 夏介の剣の『刃先だけ』が白薔薇の花弁に変わった。傍観者らを鏖殺したユーベルコード、『血を欲す白薔薇の花』と同質の花弁だ。しかし、これはかのユーベルコードとは性質が異なる。
 ――あの数の花弁を、これは対単体に用いるのだ。
 鋸めいて尖る剣を、夏介は黒騎士の首に叩きつけた。――刹那、花弁が高速駆動! 叩きつけた撃力、突き立つ花弁、そしてその花弁が高速でチェーンソーめいて稼働することで生み出される剪断力が、黒騎士の首の装甲を削る!!
 黒騎士は、その時初めて危機を覚えたように藻掻いた。しかし、処刑人が、一度捉えた咎人を逃がすわけもない。
「処刑します」
 夏介は迷い無く剣を振り抜いた。黒騎士の首が天高く飛び、膝を落とした死骸が、ゆっくりと倒れ伏す。夏介は刃を一度振り、この戦いを俯瞰する狂賢者、ナイク・サーを睨む。
「私……いえ、俺達にとって王など不要の存在だ。……退場、していただきましょうか」
 夏介は疾る。真理の剣をその右手に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ペル・エンフィールド
【結社】◎
1.フルオーダー

戦闘スタイル
地獄の炎とストラスの大爪による機動力を活かしたヒットアンドアウェー

得意なこと
撹乱、強襲、焼却

弱点
隙間のない範囲攻撃、頭を使わないといけないようなこと

絶対にやらないこと
仲間を犠牲にすること

むむむ……あれは良くないのです
背筋がゾワゾワするですよ
さっきみたいに撹乱して二人に…でも二人もそれぞれお忙しいそうですね

ならあの一匹だけはペルが倒さないとです
やってやるですよ
ペルはまだまだ半人前、これからどんどん成長するのです!
貴方にはその踏み台になってもらうですよ!


伴場・戈子
【結社】◎
1.フルオーダー
 ー戦闘スタイル
真の姿である大戈を振るっての白兵戦、並びにその権能である無限の手管
 ー得意なこと
防戦、時間稼ぎ、カウンター
 ー弱点
戦闘面:機動力が低いこと。後手に回りがちなこと。
精神面:今まで喪った戦友を忘れられないこと。それでなお、世界のため、より大きな善のためなら仲間を喪うことをよしとする自己への嫌悪。
 ー絶対にやらないこと
特になし。必要であればなんでもする。

やれやれ、随分と趣味の悪いことだね。
アタシの心配はいらないよ、好きにやりな、二人とも!

封印解放、神の八千戈。
さて、目の前のコレをなんとかするか、或いはガキどもに繋ぐか……。
手札が多いってのも困りものさね。


ビリウット・ヒューテンリヒ
【結社】◎
1.フルオーダー

-スタイル
銃撃、追蹤魔術による記憶再現
-得意
狙撃、早打ち、追蹤魔術、殆どの武器の扱い
-弱点
追蹤魔術以外の魔術が使えない、記憶の濃度が薄い(=記憶している人が少ない)と参照に時間がかかる
-絶対にやらない
仲間を犠牲にすること、バロウズを破壊すること

…これは
まずいね、分断されてしまったか
ダメだ、結界が破れない…タイマンを張れ、ということか
すまないペル!戈子殿!こいつを倒さないとそっちを助けられそうにない!

──始めようか
私のバロウズには、これまで握って来た先代の記憶が刻まれている
そしてバロウズは、取り込んだ周囲の無機物の記憶すら参照できる
私が使える旧き記憶は、沢山あるのだよ



●たとえ、独りであろうとも
 結社の面々がナイク・サー目掛けて襲いかかろうとした矢先、帳のごとき結界が落ちた。
 戦術的な判断があったのやも知れぬ。真っ先に、援護役であるビリウットが結界によって隔離されたのだ。彼女の相手はねじくれた木でできた人型であった。ローブを纏い、ロッドめいた木を手にしている。どのような能力を持つか、推定しがたい。
「……これは。まずいね、分断されてしまったか」
 銃声数度。しかし結界は強固だ。恐らくはその結界の主を倒すまでは解除されないタイプのもの。
「タイマンを張れ、ということか――すまないペル!戈子殿! こいつを倒さないとそっちを助けられそうにない!」
「そうらしいですね――ペルの相手も、ペルがなんとかしなきゃみたいなのです」
 ビリウットの声に応えたのはペル・エンフィールド(長針のⅨ・f16250)。
 空に舞う彼女の相手は、己と同様の翼人――ハーピィの形を取っていた。その身体には最低限の鎧と、ギラギラと光る極彩色の羽を纏っている。
 背筋がぞわぞわと粟立った。ペルは直感する。――アレは、強い。
 然りとて、ビリウットがこちらに手を出せない以上、その援護を受けることはできない。戈子は空へは手が出せぬ。ならば一人でやるしかないのだ。
「やってやるですよ。ペルはまだまだ半人前、これからどんどん成長するのです! 貴方にはその踏み台になってもらうですよ!」
 啖呵を切るペル。結界の向こうで銃を構え直すビリウット。
「やれやれ、随分と趣味の悪いことだね。アタシの心配はいらないよ、好きにやりな、二人とも!」
 伴場・戈子(Ⅲつめは“愛”・f16647)は二人の長針に指令を下し、己の敵へと向き直った。
 彼女の生命力、そして魔力をベースに召喚された邪神が来る。
 彼女の相手は全身が水晶でできているかのような人型の邪神であった。つるりとした流線型の体躯。両手が剣のように尖っており、直立姿勢から地面を掻けるほど。
(――ガキ共に繋ぐにしても、コレをなんとかしなけりゃ始まらないさね)
 ナイク・サーに攻撃するためには、まずはこの邪神達を退けねばならない。
 刻器『アンチノミーの矛』を構えると、
「退いて貰うよ。アンタみたいなのにかかずらっている暇はないんだ」
 真正面から、水晶人へ応戦する。



 三者三様の戦いが幕を上げた。



●弾丸の形
「──始めようか。バロウズは、取り込んだ周囲の無機物の記憶すら参照できる。私が使える旧き記憶は、沢山あるのだよ。――早速お見せするとしようか」
 ビリウットは言いながら、周囲の地形を確認した。
 そこは、ちょうど先程王を狙撃した弾道上にあった地形。お誂え向きの地形だった。
 それ以上説明してやる必要も無い。ビリウットは無言で追蹤魔術を起動、嵐のごときバロウズの狙撃弾幕を再現! 敵に横殴りの弾雨を浴びせる――
 が、しかし。
「……!」
 ビリウットは瞬刻、言葉を失った。木が捻れ絡んでできたようなその人型の周りのみ、弾幕が消え失せるのだ。
 第二射も同様に防がれる。何が起きたのか、見当をつけるまで数秒を要する。
 ――まさか、奴は。
「. ילד מטופש למות」
 理解出来ぬ音韻で、木人が喋った。
 空中に幾つもの炎弾が結実し、ビリウット目掛けて飛来する!
「くっ――バロウズ!」
 ビリウットはバロウズを展開。チェーンで連結された二丁の散弾銃、“ジェミニ・ライザー”に変形。嵐めいて振り回し、そのバレルと散弾で炎の弾を打ち落としていく。
 はっきりしたことが二つ。敵は魔術師だということ。そして、追従魔術による記憶再現が阻害されたということ!
 ――魔術の発露そのものが阻害されているならば、最初から弾雨の記憶すら再現できないはずだ。奴のいたところの銃弾だけが消えたことを考えれば、恐らくあの防御は自身に向いた魔術を無効化する類のものだろう。
 ――相性は最悪だ。追蹤魔術による攻撃が無効になるとすれば、ビリウットの手札は非常に限定される。
「אני אעשה את זה קל.」
 木人が両手を挙げた。先程に倍する数の炎の弾が浮く。同時に、殴りつけるような強風!
 炎弾を投射すると同時に、強風を操ることで炎弾の軌道をねじ曲げ、読みづらくする。
「っ、ぐッ……!!」
 いかに巧みに受けようとも、いつまでも躱しきれるわけがない。圧倒的な制圧火力を前に、数発の被弾を許す。一発食らえば、そのノックバックの隙にもう一発が滑り込み、――後はなし崩し的に被弾、被弾、被弾!! 火傷だらけになり、爆圧で吹っ飛ぶビリウットを、更に大量の炎弾が追う。
 ――追蹤魔術なしで……奴を倒す方法はあるのか……?
 吹き飛びながらビリウットは、それでも固く握って手放さぬバロウズの記憶を紐解く。
 バロウズを握った、過去のマスターの記憶を読む。――それが自分にも可能かなど、分かりはしない。
 ただ、それでも、ここで何も出来ねば死ぬだけだ。
 空中で身を翻し、ビリウットはバロウズを変形させる。
 その四肢、前腕と脹ら脛を覆う黒鉄の装甲。ガントレットとグリーヴ。――形態名、“ブラスト・リム”。装薬装填式格闘用四肢装甲!!
 ビリウットは宙を蹴った。追蹤魔術により装填されたグリーヴの大口径装薬が炸裂、その爆圧でビリウットの身体を前に飛ばす! そのまま、空を走る。まるで、彼女そのものが弾丸となったかのように、炎弾の狭間を稲妻めいて駆け抜ける!!
「. זה טיפשי……」
 戦くような声を上げる敵を逃がさない! ビリウットはなおも加速!!
 敵が魔術で再現した弾丸を無効化するのならば。魔術で加速した実体を叩きつければよい。事、ここに至って彼女があらゆる武器を扱ってきたことが幸いした。格闘とて出来ないわけではないのだ。積んだ鍛錬も、戈子との模擬戦も、あらゆる経験が彼女の中には蓄積されている。
 それをフルに活かし、この新たな力を乗りこなす!!
「吼えろ、バロウズ。思うままに。――私が乗りこなしてやる!!」
 ビリウットは一際強くグリーヴの炸薬を炸裂、肉薄! 炎の嵐を抜け、敵の間近に踏み込み――右拳をバックスイング!


 これぞ、刻器神撃――
      バスターアーツ
『長針のⅣ:爆 烈 拳 技』……!


 繰り出す拳が木人の頬にめり込み、拉げさせ――
「さよならだ」
 BOOOM!! 着火・加速したガントレットが推進、その首をねじ切るッ!!!
 聞き取れぬ言語を漏らすまま薄れ消えていく木人を背にビリウットは地を削って着地。
 死闘を制したのは、長針のⅣであった。



●蒼穹に燃える
 仲間がいないというのが、これ程までに心細いことだとは。
 ペルは傷ついた翼でなおも羽撃きながら、強敵を睨む。
 交戦を始め暫時が経った。
 結論から言うならば、空中で彼女と対した虹のハーピィは、飛行種として、ペルの数段上であった。羽による面的制圧・攻撃範囲、そしてその旋回性能、機動性能。どれをとっても、ペルより上である。
 ペルがストラスの大爪と地獄の炎に頼った、言わばジェット戦闘機めいた推進方法を取るのに対し、敵は恐らく風の魔術とその大翼の力によって機動力を確保している。飛翔速度だけで比較するならばペルとて劣るまい。しかし、問題はその運動性だ。
「このぉっ!!」
 大気圧の結界を構築し、敵に叩きつけるように投射するが、その瞬間には既に軌道上にハーピィはいない。単純に初動が速過ぎる。そして、
「っぁう?!」
 ペルの背に突き立つ無数の虹の羽。何という運動性か、既に彼女の背に回り込んで攻撃を放っているというのだ。ひとたび放たれればあの羽はガラスめいた鋭さとなり、容赦なくペルを傷つけた。
 速度で決して及ばず、攻撃範囲でも勝てぬ。こちらの攻撃は悉く外され、最早勝ち目がないかに思える。――そもそも、ペルの売りはその機動力を活かしたヒット・アンド・アウェイ戦法にある。それを、相手に一方的に喰らわされている時点で、最早万策尽きたかというところだ。
 ――しかし、しかしだ。
 そこで諦めるような者に、果たして結社の長針が務まるだろうか。
 否である。
「お前は……お前だけは、ペルが倒すです。そうでないと、婆さまも、ビリウットも安心して戦えないのです。――だから!!」
 速さを。もっと、速さを。
 ペルは風の魔法を用いた。風を圧縮し、ストラスの大爪に『装填』する。
 ――前述の通り、ペルはジェット戦闘機めいた推進方法を取る。
 圧縮された風が、地獄の炎に過剰な酸素を供給。推進圧を更に向上する。
 その結果生まれるのは、暴力的な速度。直線飛翔速度だけを研ぎ澄ます。
 どのみち、運動性で敵わないのであれば――そんなものは捨て置けばいい。
 ストラスの大爪と、己でできること。その最大、最強、極北の速度をここに現出する。
 それのみが打開策と信じて、ペルは嘲笑う凶鳥を睨んだ。
「――墜とす!」
 ペルは吼えた。同時に、ストラスの大爪が蒼白いバックファイアを噴いた。
 どうっ!! 音の壁さえ食い破りペルは加速! 当然ながらハーピィはその直線的な突撃を難なく回避するが、しかし! ペルは即座に宙を蹴り飛ばしてまたも炸裂、反射するかの如く鋭角的に方向転換して敵へ迫る!
 何という強引な挙動。ストラスの大爪を纏う下肢に実体があったとすれば、骨折どころでは済まぬ。だが、彼女の脚は地獄の炎。折れることはなく、尽きることもない!!
 かかるGに体中の骨が軋む! だがペルは止まらぬ! ただ、逃げ回るハーピィをその直線軌道で追い続ける。
 加速、加速、加速!! 事もあろうに、方向転換のたび、彼女の速度はいや増すようであった。減衰を知らぬかのよう。それもそのはず――ペルに付き従う残像が、詠唱を代替し、ストラスに圧搾空気による過剰給気を行っているのだ。
 正に限界のその向こう側。
 彼女が出したことのない速度!
 ――その速度を――ハーピィは、知らぬ。
 今まさに限界を超えた長針のⅨのことを、凶鳥は知らぬ!!
「我が声に応えよ、我が最速の友……!!」
 速度の反動で痛めた内臓からこみ上げる血を、ペルは飲み下して吼えた。最早全体が赤熱したストラスの大爪は、しかしなめらかに彼女の令に応えた。
 ――最高速。空中で反射する彼女の軌跡は最早檻。
 次、どこに避ければ良いのか、ついにハーピィが躊躇ったその瞬間、
 ペルはただその一瞬に、飛び込むように翔け抜けた。


 名付けて、刻器神撃。
      ストラスオーヴァーレヴ
『長針のⅨ:閃 空 限 界 突 破』!


 真っ赤に燃えるストラスの大爪が、ハーピィの身体を二つに裂いた。
 断末魔の甲高い声が高空に響き――散りゆくその骸を突き抜けて、ペルはその身を空に投げ出した。
「……やりましたですよ、婆さま、ビリウット」
 浮遊感に包まれ、暫時、目を閉じる。



●地を穿ち、天を睨む
 戈子もまた、己がもっとも苦手とする相手との戦いを強いられていた。
「このままじゃあラチが開かないねぇ……」
 水晶人は、凄まじい機動性によって戈子を翻弄する。その両手の刃は、その先端に魔力を集中させることで戈子の堅い守りすら侵徹する鋭さを持つ。
 アンチノミーの矛を振るって防御する戈子だが、一度に防御できる面積には限りがある。敵はその水晶めいた全身より魔力を自在に噴出、変幻自在の加速格闘を仕掛けてくる。万の手管を誇る戈子だが、それにすら追いつき凌駕せんばかりの千変万化の近接格闘。
 戈子は一度見た攻撃を学習し、刻器転身『短針のⅢ』により借用、相殺することが可能だが、敵は一度見せた攻撃を二度とは見せぬ。この戦闘中に、一体幾つの手技を見せつけるつもりか。
 カウンターめいて放つ矛の切っ先さえ、敵は見切って潜り抜け、彼女の脇腹を刃で裂いて駆け抜ける。
「くッ……」
 戈子の弱点は、その対応力と攻撃パターンの広さに相反する、機動性のなさだ。水晶人は恐らく、今までに彼女が相対したあらゆる敵より速い。一打一打は捉え切れても、連撃、或いは距離を離しての再攻撃となると追いつかない。
 追いついて攻撃を当てることができない以上、相手が一撃離脱を主戦法として取る限り、彼女に許されるのは、一方的に攻撃を受け続けることだけだ。カウンターという手もあるが、相手の機動力はそれすらも凌駕して来る。
 ――危機に追い込まれれば追い込まれるほど彼女の護りは堅くなるが、然りとて、ここまで追い詰められていながらに、敵の刃は彼女の膚を裂いている。これ以上の長期戦は、できない。
(さて……どうしたものかね)
 血を流しつつも、戈子は冷静に沈思。
 自分に対しての対策がふんだん盛り込まれた相手だ。的確に厭なことをしてくる。
 速度では万に一つも及ぶまい。ならば、どうする?
 ――戈子は、深く呼吸。神気を身体に満たし、高める。彼女は――かつてヒーローズアースを創世した神性の一柱だ。
 世を作り、くにつくりの戈神と呼ばれたその頃の権能は、今や担い手を亡くした彼女では十全には振るえぬ。しかしそれを理解してなお、戈子は矛に満たした神気を注ぐ。アンチノミーの矛――否、それは『彼女』の真の姿を投影したもの。
 封印解放――PM形態、『神の八千戈』。
「久しぶりに出すねえ、これも……散々やってくれたんだ、やり返されるのは織り込み済みだろう?」
 スパークをあげる戈を構え直し、戈子は不遜に笑う。
 一瞬警戒するように動きを止める水晶人でだが、すぐさま苛烈な攻撃を再開する。
 戈子の防戦は変わらぬ。水晶人は、戈子が動きを変えぬのを見て益々苛烈に攻撃を募らせた。金属の弾け合う音に、肉を刃が裂く鈍い音が時折混じる。刻まれる傷に頓着せず、戈子はただ黙って、護りを固め耐え続けた。流れる血が土に染み、じとりと血を濡らすほど。
 やがて、戈子の限界か、戈先が僅かに下がる。
 その首を刎ねてくれると、水晶人が思ったかは定かでない。しかし、正にその瞬間、水晶人は戈子目掛け最速で踏み込んだ。最短のコースで、最早防御も間に合わぬ戈子の首を刈り取るように、腕剣の切っ先が迫り――
「ご覧よ。――これがくにつくりの権能だ」
 ず、と、神の八千戈の切っ先が地面に沈んだ。戈子が、切っ先を地面に衝いたのだ。
 刹那、地面が鳴動した。かつてその矛先で国を作ったその権能の限定発露。大地に許しを得て、その場を、ひいては地形を支配下に置く能力。
「――完全じゃないが、あんたを壊す程度なら問題あるまい?」
 サングラスの下で戈子は笑った。水晶人の刃が、彼女の首に届くその前に――
 轟音。地面より、巨大な戈が突き出た。
 大地が、彼女の姿を模して突き出たのだ。天を衝くような巨大な岩槍が、超高速で接近してきた水晶人の身体のど真ん中に突き立ち、抜けた。
 水晶人自身の推進力が、槍の撃力と乗算された結果。起こるのは、ただの破壊。
 前触れも過去の例にも無いその地槍の一撃により、水晶人は天まで吹き飛ばされて四散した。


            ウガツウツシミ
 ――その一撃の名は、『偽 神 天 衝』。


「まったく……年寄りにゃもう少し優しくするもんだよ。来世の教訓にしな」
 流れる血もそのままに、戈子は踵を返す。
 手の掛かる子供達を拾って――黒幕を討ちにいくために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルマ・キサラギ



銃撃を無効化して予測を封じ、それで地力はこっちより上と
…だったら後付けで能力を上げるまで
ラグナデバイスを電脳接続
搭載CPUを補助脳にして思考・感覚を加速
負荷は高いけれど出し惜しみ無しよ

スパイクシールド状のブロックバスターを魔器に叩き込み、
向こうの攻撃は感覚加速で【見切って】躱す
足りなきゃ高機動フォームも使用

通常盾のブロックバスターを早駆術で蹴って、
魔力も衝撃も余す所なく反射して推進力に変え、飛んで、跳ね回って
…御守り代わりに貰ったこの刀
とうとう抜く時が来たわね
制御出来る限界まで速度を増して…いえ、限界を超えて突っ込む!

 【クイックドロウ】
見様見真似如月流抜刀術!纏めて斬り伏せてやるわ!



●夜空を弧に裂く月の如く
「ッ――……!!」
 幾度撃ったか。数えきれぬ。
 二丁の拳銃の連続射撃でも捉えきれない。速過ぎる。……否、予測されているのか。いずれにせよ、アルマ・キサラギ(Bride of Blade・f14569)が放った銃弾・榴弾は全て回避され、無為と散る。
 ブースターを噴かし、稲妻のように挙動する敵。アルマの相手は、平面の装甲板を幾つも鋭角的に組み合わせて作られたボディを持った、赤銅色の機械兵であった。モノアイがぼんやりと赤く光り、不気味にアルマを見つめている。
 その手にした武器は熱実体剣――ヒートソードと短機関銃。中間距離でのアルマの射撃戦に対応しつつも、距離を詰めての一撃離脱を仕掛けてくる。
「くっ……!」
 高い速度、柔軟な判断能力、それに加えて厄介なのが、アルマが加速して放つ銃弾さえも弾き防ぐ先鋭装甲。正面から射撃する限りにおいて、そのボディを銃弾で貫く事は困難だろう。角度が付いた装甲というのは、実弾兵器に対して凄まじい抵抗力を持つ。
 横に回り込んで一射を叩き込めればいいが、しかしそれも困難だ。早駆術を使って尚、敵の方が速い。今までの彼女の速度では決して追いつけぬようにデザインされたという話も頷けようものだ。
 ――連なる銃声!! 機械兵の大口径マシンガンが火を噴く! アルマは防御結界『ブロックバスター』にて銃弾を反射するが、機体を左右に振りながら肉薄してくる敵には反射弾は当たらない。機械兵は実体剣を振りかぶり――腕部ブースターにより剣速を加速!
「……!!」
 ガラスの砕ける音がして、アルマが構築した結界が粉砕!! 横っ飛びに避けようとしたアルマの左肩口が熱剣によって抉られ、肉の焼ける音を立てる。
「くうっ……!」
 アルマは転がり、傷を押さえ、荒く弾む息を整える。
 敵はアルマの能力を何もかも知悉している。その上、実力も高い。このまま続ければジリ貧どころか、敗北の未来しか見えない。
 ……やるしかないわね。
 アルマはサングラス型電脳デバイス『ラグナデバイス』を下ろし、電脳接続。搭載CPUと自身の脳をコアクロック同期、思考と感覚を拡張する。凄まじい負荷が掛かり、脳が熱されるような感覚を覚えるが――構わない。
 出し惜しみはなしだ。
 凄まじい速度で演算を繰り返しながら、アルマは敵目掛け、スパイクシールド状に構築したブロックバスターを投射。機械兵はマシンガンを連射し、弾丸がシールドに弾かれたのを見るなり軌道変更をかける。不可視の壁を扱う旨も既に学習済か。
 機械兵はスモークグレネードを投擲、その煙が割れる形でブロックバスターの位置を推察、自身に迫るスパイクシールド状のブロックバスターをヒートソードで破壊する。
 恐るべき対応力。だが、アルマもそれを恐れるばかりではない。ブロックバスターにより作り出した猶予で、彼女は既に切り札の準備を終えている。
 ――御守り代わりに貰ったこの刀、とうとう抜く時が来たわね。
 刃銘、『霽月』。餞に受け取った抜かずの名刀。
 アルマは深く息をつく。悔しいが、あの敵には銃弾は弾かれ、榴弾では追いつけぬ。力を貸してくれと祈りながら、左手を鞘に、右手を柄に。
 ぼしゅ――と、スモークグレネードの煙を引き裂いて機械兵が来る。マシンガンの筒先が上がり、アルマを狙う。その瞬間、アルマは爆ぜるように駆けた。
 ――空中、あらかじめ設定したコースに通常のブロックバスターを連続発生。ブロックバスターは破壊されぬ限りにおいては、与えられた衝撃や飛び道具をそのまま反射する性質を持つ。言わば高弾性の盾だ。
 それを、アルマは己の脚で蹴った。
 早駆術をフルに使い、光のヴェールとドレスを纏い、動きを加速して――踏み込む。蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る蹴る蹴る蹴るッ!! 一蹴りごとに推進力は増し、アルマは空中をジグザグに跳ね飛んで機械兵へ迫る!
 脚が軋み悲鳴を上げる。だが、構わない。音の壁を踏み越え、アルマは吼え猛り、疾った。
 機械兵のマシンガンとて、その意表を突く動きにすぐにはついて行けぬ。その一拍だけで良い。アルマはただその一瞬だけ、機械兵の反射速度を凌駕する。
 親指で鯉口を切る。
 ――クイック・ドロウとは、何も早撃ちのみを示す語ではない。
 いつか見た、抜刀の所作。それを、彼女は己に出来る最速で再現する。


「見様見真似――如月流抜刀術!」
 銀閃が、空を凍らせて駆けた。


 機械兵の胴関節に、霽月の刃が食い込んで抜けた。天地を分かつごとき一条の剣閃。
 必殺の一閃が、今ここに――無敵の機械兵を両断し、その機能を停止せしめたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

龍之・彌冶久
はて、灸を据えるつもりがどうにも可笑しな流れになったな?
爺には何が何やらだ、呵々!

だがまぁ、せっかくなぁ。
心踊る強者との戦いだ。
誠心誠意威風堂々挑まねば
"截断者"などは名乗れはすまい!

とはいえ、然し、ふむ。
お前さんはどう斬ったものか!まぁ良い好い、じっくりと斬り方を考えるとも!久方ぶりに腕が鳴るなあ!

――
戦闘スタイル・得意な事:
「斬る」
十つの龍脈を用い或いは混ぜ
相手に対し有効な属性の刃を創出し刃を通す
剣技は正に神の域

2.セミオーダー
「斬る」に所以する何某かの技
使用UC含めお任せ(指定した方がよければ"剣刃一閃")

*拘り:
必ず技名に数字・もしくは命数法に肖る名前が付く



●刃の地平
「はて、はて――あの悪意の塊に灸を据えてやるつもりだったが。これはどうにもおかしな流れになったな? 爺には何が何やらだ、呵々!」
 結界に取り巻かれて尚、笑い声を上げる飄々とした男が一人。龍之・彌冶久(斬刃・f17363)である。
 彼を取り巻く結界こそ、ナイク・サーの恐るべき三つの試練の一つ、『剛胆なる者への試練』。結界に敵を捕り篭め、強大なる異界の怪物を結界内に召喚し、相争わせる秘術である。
 すぐに、精強な異界の兵が召喚された。頑健なる盾、そして黒き剣。前進を固める西洋甲冑。フルフェイスの兜の向こうに、三つの目が赤々と光る。――禍々しきとはいえその鎧の装飾、実に見事。相応の位階にある戦士と見える。
 彌冶久は老爺めいて笑った。若々しき見目に不釣り合いな物腰で。
「余りのんびりしてもいられんのだが、だがまぁ、せっかくなぁ。こうしてお膳立てまでして貰った、心躍る強者との戦いだ。――誠心誠意威風堂々挑まねば、"截断者"などは名乗れはすまい」
 この男、やはり修羅。刃を振るわねば生きてもいけぬ。修羅は値踏みをするように騎士を見つめ、額に手をぴしゃりと当てて、とぼけた風に呟いた。
「とはいえ、然し、ふむ。――お前さんはどう斬ったものか! まぁ良い好い、じっくりと斬り方を考えるとも! 久方ぶりに腕が鳴るなあ!」
 鈍色の騎士は、一見しただけでは斬り方が見えぬ。剣神、彌冶久をして断ち筋の分からぬ敵。しかし、それでこそ挑み甲斐があるというもの。彌冶久は心底から楽しそうに、虚空より白光、光の剣――『陽脈』の光刃を抜刀し、名乗りを上げた。
「龍之・彌冶久。一刀、献上仕る」
『――“ferrum”』
 果たして、その三眼の騎士は彌冶久の言葉を解したのか。
 フェルム、とただ一言名乗りを返し、直立不動、顔の高さに剣を構えた。


 儀礼めいたやりとりはその瞬刻のみ。
 互いの力を認めたように、二体の修羅は最大戦速で激突した。


 十の龍脈を用いる天衣無縫の刀法が彌冶久の得手である。断てぬ者など三千世界にいはしまい。余人にそう思わせる剣技の主であった。しかし――そこにいた。比肩する怪物が。
 彌冶久は両手で光刃を扱い、一呼吸の内に数度の斬閃を叩き込む。しかしフェルムは巧みに剣と盾で受け、弾き、潜り抜けて返礼の突き返しを放つ。
 純粋な剣技において、フェルムは彌冶久に一歩も劣らぬ。それどころか――小手での受け太刀、鎧の硬度を活かした防御格闘を織り交ぜることで、彌冶久の剣勢をすら押し返してみせる。
(これは難儀な。視えぬ)
 彌冶久も心内で唸った。何を使えばその鎧を徹せるか、見て取れぬ。常ならば敵に対し有効な属性の刃が即座に分かったはずだ。しかし、それが視えない。
 片端から試すには組み合わせが膨大すぎる。見当も付かない状況から龍脈を乱用すれば、自滅するのはこちらの方。
 フェルムが苛烈に打ち込みをかけるのを、彌冶久は光刃で防御。軋り合って鍔迫り合いになった刹那、フェルムの肩鎧が開き、その下の孔から闇の棘が山嵐めいて伸びた。
「なんと?!」
 不意を突かれる。身を捩るも、射出された闇棘が彌冶久の左肩口に突き刺さり、血が飛沫く。ほんの僅か生まれた隙に、刀を圧し弾きながらフェルムは前進。身の丈ほどもあるカイトシールドを、体当たりめいて彌冶久にぶちかます。
「ぐう……ッ!!」
 吹き飛ぶ彌冶久。フェルムが即座に追撃。黒き剣が嵐のごとき刺突を放つのを、彌冶久は吹き飛びながらに果敢に防御――しかし全てを受け切れはせず、その四肢より血が飛沫く!
 血を散らしながらも、踵が地に付いた瞬間に跳び下がり、彌冶久は構えを改める。
 最早、一刻とて猶予はない。有効なものを創出する間もない。
 ただ、この陽脈の刃を、極限まで尖らせる。
 それ以上も、それ以下も無用。この強き鈍色の騎士に、初めに言った通りに。

 ――無窮の一刀、献上仕る。

 その瞬間、彌冶久の主観時間が鈍化する。追い来る鈍色の騎士、フェルム。真っ直ぐに、荒々しく駆け来るそいつの胴に狙いを定める。陽脈の剣は、幾度もその鎧に弾かれた。――ならば弾かれぬよう、もっと薄く。砕かれぬよう、もっと堅く。

 想起せよ。
 何者をも断つ、虚空の一刀を。

 間近に迫ったフェルムが黒剣を振り翳したその刹那。彌冶久は、宙より飛び出た柄を引っつかみ、無空を鞘とし抜刀した。
 ――それは儚く、一瞬後には消えゆく定めの刃。極限まで薄く、極限まで堅く、しかし一瞬にて潰える、虚めいた閃き――そう、虚空の薄さを誇る牙。


     コクウジン
 絶刀。『虚 空 刃』。


 振り抜いた彌冶久の腕の先で、白刃が砕け燐光と消える。
 一閃――描かれた涯ての剣刃が、ただ、フェルムと名乗った騎士を上下に両断した。
 決して断てなかった、あの無敵の甲冑を。真っ二つに。
「――礼を言う、猛き騎士よ」
 背でずしゃりと倒れ臥し、二度とは起き上がらぬ騎士をただ一瞥し――
 修羅は進む。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ


参ったね、全部お見通しなんだとさ
んー……、どうしよっか

話しかけた相手は片手に握る長い妖刀
じーさん家で掻っ払ってきてからそこそこ仲良くやってきたと思ってる

ちゃんと血を吸わせりゃいい子にしてるのよ
特に僕の血だとやる気が漲るんだよね、変態刀め

けどもそろそろ潮時みたいだ
僕らの仲を一歩二歩、進めなきゃならないらしい

型に嵌らない剣術
近接であれば手足頭も使うし
届かぬ相手には雷を招び
手に負えぬ相手には七つ頭の八岐大蛇を喚ぶ
いよいよヤバけりゃ薬があるさ

ウリは気合いと負けん気!
弱点は女と耳の裏!
せっかちなもんでね、長ったらしい詠唱は御免被る

2
アイテム「窈窕たる」か「色消」(窈窕たるの峰側)を使う剣術



●朱に塗れ、雷に沸く
 すさまじい撃剣が、男を襲った。
 まともに受けると刀が折れる。男はどうにか敵の撃力を逸らそうとしたのだが、それが災いしたか、彼の身体は景気よく後ろに吹っ飛び、木を一本へし折って転げて止まった。
 ――ああよかった、まだ折れてない。
 手の内の妖刀、窈窕たる抜き身をぶらり振りつつ立ち上がるのは、ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)。口の中を切った。血を吐き捨てる。負けん気だけは誰にも負けない。退いてやる気は毛頭ない。
 結界に捕らえられた彼の相手は、魔性の美しさを持つ女剣士であった。作り物めいて美しい造形の顔、纏うのは和装に近い何か――エンパイアには存在しない様式のもの――である。得物は片刃の長刀。禍々しい気配を放つ。あれも妖刀か。
 ――参ったね。奴さん、全部お見通しなんだとさ。別嬪さんだってのがまた、見抜かれてる気がして悲しくなるねぇ。さて、んー……、どうしよっか。
 ロカジは手の内の妖刀に語りかける。かつて祖父の家に安置されていた物を掻っ払い、そこそこ仲良く付き合ってきた。妖刀とはいえ、時折血をやってさえいれば大人しいいい子だ。それを世間的にいい子というかどうかはロカジの与り知ったところではないが。
 ――けどねぇ相棒、今度ばっかりはそこそこ程度じゃ足りないかもだ。僕らの仲を一歩二歩、進めなきゃならないらしい。
 握った刀に、内心で訥々と訴えた。刀もそれは承知しているのか、きらり光って賛意を示す。
 しかしロカジと刀が対話する間も、敵は待ってはくれない。女剣士は羽織の裾に風を孕ませ、飄風巻き起こしつつロカジに襲いかかる。袈裟懸けの打ち込み。
 ロカジはかろうじてそれを刀の腹を滑らせるように受けて弾く。弾いて逸らしたはずの剣先はすぐさま飛燕めいて翻り、今度は胴を狙う横薙ぎに。手首を返して剣先を下げ、胴打ちを辛うじて受けるが、あまりの剣勢に押されてかかとで地面を削る。
「別嬪さんとやり合うなら、夜の褥でがいいんだがねぇ。どうだい?」
 上らせた軽口への答えは、風めいた四連斬撃。三打まで受け弾くも、四合目を受けきれずに肩口に一太刀浴びる。
「ッつ……、」
 走る熱。深く斬られた。左手が挙がらぬ。こりゃ参った、両手でなんとか受けていたものを、片手で捌くのは無理がある。飛び退こうとしたところに踏み袈裟がきた。やけくそで突き出した妖刀で受けるが、力負けして吹っ飛んで木に激突。肺から息が絞り出されて咳き込む。

 ――死んじまったら、これ以上仲良くもなれやしないぜ。

 ロカジは妖刀に語りかけつつ、左手からぼたぼたと垂れる自身の血液を、湿った抜き身に垂らす。ずん、と手の内で重圧を増す刀。自分の血を与えると格別に溌剌とやる気を増すから、常ならばそういうところだぞと白眼を向けるロカジであるが――今はこの重みが、ひたすらに頼もしい。
 動く右手に刀をだらりと提げて、ロカジは無造作に踏み出した。
「お嬢さん。残念だけどこの辺で終いにしよう。早いなんて言ってくれるなよ。あんたがあんまり激しいからさ」
 飄々と言うロカジめがけ、駆け寄せる女剣士。能面のような笑みのままに斬りかかってくる。片手では受けきれぬと解っている一刀を――しかしロカジは、たっぷりと血を纏ったその刀で、真っ向から受けた。
 刹那、火花が飛び散る! 口の中がヒリつくような雷電の余波! 空気が爆ぜる音がして、おお、女剣士の撃剣が弾き返される!
 瞠目した女剣士が、飛び退こうとしたその足が縺れる。運動障害。何が起きたか? 薬屋路橈が企んだのさ。
 ロカジは己が扱う雷の術を、その血に力一杯に乗せて込め、窈窕たる抜き身に纏わせたのだ。術者たる自分と、金属たる妖刀には涼しいものだが、これに触れた他者がどうなるかなど見ての通り。
 触れただけでこれだ。――ならば、これで斬ったなら?
「口説いて終われりゃよかったのにね」
 飄々と言い、足を縺れさせた女へ、ロカジは雷風のごとくに踏み込んだ。血を纏った妖刀が得物を求めるように赤紫にバチバチ火花!
 この雷と血を吸った刃に、斬れぬ物など――そうだな、妹と愛縁くらいのもんだろうさ。
 そんじゃあさいなら。


    サソイイカズチ
 ――『 誘 雷 血 』、一閃。


 今までのいつよりもその剣速疾く、正に雷電が如し。
 真っ向振り下ろした撃剣が、受けんと繰り出された女の妖刀を、まるで藁束のように断ち割り、女をもろともに両断した。
 切り口に爆ぜ燃える雷が走る。悲鳴もない。化けの皮が剥がれるように女から肉が削げ、骨になり、その骨も瞬く間に塵芥へと還った。
 あの魔的な美貌も、骸に肉を纏わせただけの――妖刀による作りものだったのだろう。
 ロカジは散る骸に肩をすくめて、血の滴る刀から紅を払うことなく歩いて行く。
 ――貧血になりそうだけどもさ、もうちょっとばかり、付き合ってくれるだろう?

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシス・アルトマイア
2◎『真の姿の属性を用いた新UC』

あら、あら。お顔を隠してしまわれるなんて。
少し、親近感をもってしまいそう。
なあんて。

皆様のお手伝いは…どうやら必要なさそうですね。
ふふ…猟兵の弱点を穿つために、一つ一つ作られたなんて。
まるで、乗り越えるためのお膳立てのよう。
物語の登場人物になった気分ですっ。

ええ、それでも、たしかに厄介です

皆様も張り切っていらっしゃいますし
それでは、少し…今の私を越えてみましょうか。
既にこの場は夜のようですし…都合が良いかもしれません。
さあ、さあ。
皆さま、ご就寝の時間です。

戦闘スタイル
二丁拳銃、各種ナイフ、鋼糸、暗殺も必要に応じて。
真の姿は夜の魔女・竜の騎士の二種。どちらでも。



●夜を詠う
「あら、あら、お顔を隠してしまわれるなんて。少し、親近感をもってしまいそう――なあんて」
 猟兵らがおのおのの死闘を開始したその片隅で、アレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)は頬に手を当てて呟いた。狂王が顔にしたあの蒼面――ナイク・サーを揶揄してのことだろう。
 常ならば、こうした混戦ではアレクシスは他者の援護に徹するが、此度ばかりはそうも行かぬ。――『試練』は、猟兵の人数分存在する。彼女とてその対象だ。
「ふふ、猟兵の弱点を穿つために、一つ一つ作られたなんて――まるで、乗り越えるためのお膳立てのよう。物語の登場人物になった気分ですっ」
 アレクシスはその厄介な状況を楽しんでみせるように微笑み、そのあとですっと表情を引き締める。
 彼女の前にもまた、敵が訪れた。
 ずし、ん。
 空間が裂け、彼女の前に降り立ったのは、重装甲の機械兵。足回りだけで、アレクシスの胴回りほどもありそうな巨躯である。
 その両腕には有機的なフォルムの重機関砲が備えられ、肩部にも火器が備えられている。アレクシスの放つ銃弾、ナイフの類を無効化する装備だ。
 敵の武装を確認し、フィアとスクリームを抜く。
「さあ、さあ、ご就寝の時間です。狂王様にもお伝えしに行かないといけません。――まずは貴方様から、となりそうですが」
 微笑みを向け、アレクシスは銃を構えた。
「始めましょう」
 銃口と砲口が、弾けるように互いを睨み合った。


 無数の銃声が響き合う。アレクシスはフィアとスクリームから無数の銃弾を放ち、四肢を狙撃。だが無効。敵の装甲は頑健、火花を散らすばかりでダメージが通らない。
 一方の機械兵はといえば、その両手に装じた機関砲を全開で回すだけの大雑把な攻撃で、アレクシスを圧倒する。
 二門の重機関砲による火力は暴力的だ。地面の土が次々と捲れ上がり、火線上の木が次々と薙ぎ倒される。
 その暴力の一歩先を、アレクシスは直走る。少しでも足を止めれば、あの木のようになるのは彼女自身だ。
 駆け抜け、アレクシスは一本の大樹の幹を駆け上り蹴り離して跳躍。空中に舞い、鋼糸を伸ばして木の幹にかけ、木から木を飛び渡るように疾る。
 正面から撃ち合うのではあの固い装甲は徹せない。
 ならば上から、後ろから――撃ち抜けるポイントを探ればよい。
 しかし宙を舞う彼女を機械兵は鋭く捕捉。その双肩に金属音と共に大砲が迫り上がる。光る砲口より、派手な砲火、砲声!
 鉄風が吹いた。木の枝葉が、広く円状に削り取られる。――散弾砲だ! 無数の粒弾が広範囲を猛撃する!
「~っ!!」
 アレクシスは声なき声を上げる。
 逃れきれなかった左半身、腕と足に多数の散弾を被弾。千切れるまでとは行かずとも、もはや真面な機動は望めない程の銃創。
 ズタズタになった半身を庇いつつ、アレクシスは鋼糸を巻き上げ、一つの木の枝を蹴って高く跳んだ。
 空より周囲を俯瞰する。他の猟兵もまた、苦戦を強いられている。敵のカメラアイがアレクシスを捉え、今一度、散弾砲が再装填される。
 ――仕方ありませんね。皆様も張り切っていらっしゃいますし、
 砲口が彼女を睨む。

 ――それでは、少々。
 今の私を越えてみましょうか。

 アレクシスの髪が、ざあ、と黒に染まった。
 竜の翼、角。四肢に漆黒が這い上り、纏う衣は夜そのもの織ったような薄衣へ変じる。
 散弾砲が火を噴いた。だが、アレクシスは暗転した夜空に蕩けるようにして消える。弾丸が彼女を捉えることはない。
 機械兵にしてみれば、唐突に標的がセンサーから消失したようなものだ。右往左往するその視界に、幻惑するように現れ、消えるのを繰り返すアレクシス。

 彼女は夜の魔女。
 闇間に囁くもの。

 砲声がけたたましく闇を裂いた。機械兵が盲に撃つ散弾砲も、機関砲も、彼女には当たらない。
 夜闇の内側に潜った夜の魔女を捉えられるのは、注ぐ陽光だけだ。
 アレクシスは、右手の銃――スクリームの弾倉に夜闇を汲み上げる。竜の翼で羽ばたき、夜を泳いで彼女が姿を現したのは機械兵の真上。
 カメラアイが彼女を捕捉する、その一瞬前。
「おやすみなさい」
 魔女はかそけく言って、黒く染まったスクリームの銃爪を引く。

 夜が吼えた。

 漆黒の魔力を束ね、火薬の爆圧と共に射出することで生まれる黒閃。夜の魔女のみが放てる漆黒の魔弾が、カメラアイから射入し、機械兵の中枢部を悉く破壊しながら後尾へ抜けた。スパークと小爆発を起こし、機体が擱座する。
 
     シンク・ナイト・シンク
 それは、『夜に沈む魔女の睦言』。


 夜と一つになり、闇に溶けての高速移動、そして夜を固めた黒き魔力の刃、弾体を制御する術。
 爆光と共に散る機体を見下ろしつつ、傷を夜闇で埋め、アレクシスは狂賢者へ視線を戻す。

 ――さあ。
 良い子も、悪い子も、お休みの時間ですよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
◎1

ヒトの道は、変化の道よ。
昨日と同じでは足りないから、
昨日より少しでも先に進むのだわ。
呪詛を呑んで、屍を積み重ねて、いのちを踏みにじって、
……それを業と呼ぶのなら、そうなのでしょう。

死んだら死んだでそこまでだと知っているわ。
見ていようといまいと、居合わせようといまいと。
既に終わった時間は、うしなわれたいのちは、戻ることは絶対にない。

だからといって、理不尽を赦す気なんてない。
ねえ、あたしは怒っているのよ。
おまえのような輩を、その玉座から叩き墜とすのがあたしの仕事。

――良いわ。来なさい。
いまだけ、このときだけ、……いまのあたしだけに使える切り札よ。

おまえの業だって、ぜんぶ呑み干してあげるわ。



●極夜、身に降ろし
 ――ヒトの道は、変化の道よ。
 昨日と同じでは足りないから、昨日より少しでも先に進むのだわ。
 呪詛を呑んで、屍を積み重ねて、いのちを踏みにじって、……それを業と呼ぶのなら、そうなのでしょう。


 少女は弾けた。すさまじい速度で、眼前に現れた異界の戦士に打ち掛かった。手の中で唸りを上げるは機械剣≪クサナギ≫。その鋸歯が彼女の意思を映して高速駆動、獲物を求めて哭き叫ぶ。
 敵手、打刀二刀流、朱金具足の鬼面武者。
 大音を立て、彼女の刀と敵手の刀が打ち合った。ぶつかり合う、ぶつかり合う。言葉もなく、二匹の修羅がその刀にて命を奪り合う。


 既に終わった時間は、うしなわれたいのちは、戻ることは絶対にない。
 それがたとえ何によるものであろうとも、死は無慈悲に平等で、死者は何も言えない。もう、何も。


 鬼武者、峻烈なり。打ち掛かる羅刹の少女の荒々しい剣筋をいなす、受け流す、打ち返す。撃剣強烈にして嵐の如し。クサナギが立て続けの斬撃を受け、軋む。今までに相対したあらゆる剣士の中で、最強かに思える剣筋。
 ――それは彼女を、花剣・耀子(Tempest・f12822)という修羅を斬るためだけに特化した武者。故に、それは耀子の殺し方を識っている。
 瞬刻、圧縮された三〇合の打ち合いの涯て。クサナギの駆動部が、ほんのわずか綻んだ刹那、武者が手を閃かせる。刀より手を離しての一閃だ。刹那、異音、クサナギの回転が停止。耀子は瞠目。何が起きた。
 駆動部に、小柄が突き刺さっている。一瞬の隙を盗み小剣を放ち、クサナギを止めたというのか。
 驚愕する間もない。二刀揃えての圧し斬りに、止まったクサナギで応ずるも、しかし機能不全の機械剣で止められるような剣勢にあらず。
 クサナギは弾かれ、耀子の胴に甲冑での肩当て。骨が砕け、彼女の口から血の泡が跳ぶ。


 ――死んだら死んだでそこまでだと知っているわ。
 見ていようといまいと、居合わせようといまいと。
 この命も、きっと吹けば消えるのでしょう。泡沫のようなものでしょう。
 ――けれど、ねえ、あたしは怒っているのよ。狂王。
 おまえのような輩を、その玉座から叩き墜とすのがあたしの仕事。


 耀子は動かなくなったクサナギを傍らに突き立て、腰に帯びた刀に手をかけた。右手を柄に、左手を鯉口に。
 彼女の意思を映したように、その拘束がひとりでに弾け飛ぶ。
 耀子は一息にそれを抜いた。
 残骸剣《アメノハバキリ》、抜刀。
 大蛇の呪詛が彼女を蝕む。刻一刻と寿命が削れていく。頓着せぬ。死が恐ろしくない訳ではない。しかし、いずれ来るものを恐れてばかりで踏み出せねば、いずれ矜持さえも失ってしまう。――耀子にとっては、その方がおそろしい。
「――来なさい。いまだけ、このときだけ、……いまのあたしだけに使える切り札よ。おまえの業だって、ぜんぶ呑み干してあげるわ」
 鎧武者へ嘯く少女の顔色はもはや蒼白、長くは保たぬと明白な面相。鎧武者はもはや少女を恐れることなく、前に踏み出した。
 耀子は身に纏う呪詛を四肢に満たす。それは体に毒を容れる行為に等しい。四肢が壊死しかかって黒く染まる。しかし決して止めぬ。
 ――決して逃すものか。罪には、濯ぐための罰が待っている。
 強健なる彼女の四肢が、大蛇の呪詛と鬩ぎ合う。耀子は踏み込んだ。恐ろしいまでに疾く。その速度、もはや目で追えぬ。地が弾け飛ぶその順でしか、彼女の軌道を認識できない。
 正に、縮地。大蛇の力が身体能力に波及した結果。
 残骸剣の刀身もまた、彼女の手と同じように漆黒に染まる。黒き刃は、『切断』という概念に帰結する呪詛の塊だ。
 音を越えた天剣に、鬼武者は両の刀で応えんとした。交差させた刀身での防御の構え。――だが。
 その呪いの刃を、常世の鉄で受けられようものか。
 ――駆け抜ける。黒き、大蛇殺しの天剣が、無空を引き裂き一閃した。

 悪鬼必滅、天網恢々。
 極夜ここに降り、悪を断つ。


    ポーラーナイト
 ――《天 羽 々 斬》。


 漆黒の剣閃が、鬼武者の受け太刀をまるでガラスめいて打ち砕いた。吸い込まれるように進む刃はその胴丸を紙のように引き裂く。鎧袖一触、一撃決殺。
 分かたれたその死骸が塵に変わる前に、
 ――この呪いが、身体を蝕みきる前に、
 耀子は背を一顧だにせず地を蹴り疾った。
 ……目指すはナイク・サー、その首一つ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
1
【双星】


全身が逆立つ様な激しい怒りはあるものの反撃にはいたらない…っつーか
避けきれるかも怪しいとは情けねぇ
一度アレスの元へ戻り背中合わせ
さてどうしたもんか…
強ばる顔はアレスの一言で何時もの調子に
大胆不敵に、挑発的に
…ハッ、今さら過ぎるだろ
アレス、俺の力は――いつでもお前の為にある

最低限の回避はしても防御はしねぇ
必要ねぇ
そこにアレスがいるのに俺が守りにはいるほどバカらしいこともねぇだろ
信じてるぜ――『俺の盾』
あの日自ら檻をぶち破った【望みを叶える呪い歌】
それだけじゃぁ足りないなら越えていく
他人に治められるなんざうんざりだ
ここは狭い檻の中じゃねぇ
今ぶち壊すべきは目の前の理不尽でふざけた運命だ!


アレクシス・ミラ

【双星】


何処までも巫山戯た事を…!
だが、先程とは違って防ぐか逸らす事が精一杯とは…っ

…【絶望の福音】
奪われたものを取り戻す為に生き残り、運命を変えたいと願って得た
初めての猟兵の力…今は何も見えなかった
…だが、
ーー僕は、騎士だ
この背中に、この先に、守るべきものがある
例え剣が折れようと、盾が砕かれようと
僕は戦い続ける

…超えよう、セリオス
あいつを…そして、今までの僕達を
僕の力を貸す
だから…君も、僕に力を貸してくれないかーー『僕の剣』
守りは任せてくれ、と拳を軽く当てる
僕の力だって君を活かし、守る為にある
僕は君の盾なのだから

これ以上…貴様のような者に奪わせはしない!
僕達の手で、絶望の運命を変える!!



●成層圏に願い星
 アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)とセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は、かつてない苦戦を強いられていた。
「くッ……どこまでも巫山戯た事を並べ立ててくれる! 奴を野放しにする訳にはいかないというのに――」
 ナイク・サーの放言に罵声を上げるアレクシスだが、襲い来る攻撃の対処に追われ、その思いは空回るばかりだ。
「こいつ……これまでの奴らとはケタが違うぜ、アレス!」
 その傍らで同様に敵の攻撃を必死に避けながらセリオスが叫ぶ。この二名の精鋭を同時に相手取るは、あの邪悪なる狂賢者『ナイク・サー』によって異界から招来された狂戦士だ。
 基本は人型だが腕は六本。そのそれぞれに剣を持ち、つるりとした頭部には全周に至るまで人間の眼が幾百と埋まり、ぎょろぎょろと八方を睨んでいる――悍ましい外見の魔人である。
 鋼の鎧と一体化した肉体は、双星の持つ長剣すら弾いてのけ、振るう六本の剣は、そのそれぞれが剣波とでもいうべき衝撃波を発し、アレクシスとセリオスを猛撃する。
「ああ――分かってる。攻撃を逸らすのが精一杯だ。僕から離れないで、セリオス」
「言われなくても離れらんねぇよ……ちッ、早くあのクソ野郎をぶちのめしてやらなきゃならねぇってのに!」
 罵り声を上げながら、己に飛び来た衝撃波を長剣『青星』で弾くセリオス。
 相手はたった一体だが、しかしセリオスとアレクシスを同時に相手取ってなお圧倒するほどの強敵だ。ともすれば、狂王よりもよほど強い。
 狂戦士が一際強く、六本の剣を同時に振るった。瞬間、周囲の空気が歪むほどの衝撃波の嵐。アレクシスは反射的にセリオスの前に割り込む。セリオスも呼吸を合わせその背中に沿い、対ショック姿勢。
 ――その二人の息の合った動きがあってさえ、荒れ狂った衝撃波は強大。暴風めいた凶悪な威力で二人の身体を攫い、吹き飛ばして木に叩きつける。
「ぐッ……、」
「かはッ……!」
 木がへし折れ、そのまま二人は地面に強かに身体を打ち付け転がった。
 これでも直撃は避けたのだ。アレクシスの盾がなければ、両名共に斬風で両断されていたやも知れぬ。それだけでも僥倖だろう。――圧倒的な威力。
 身を起こし、立ち上がりながら、強ばった表情で問うのはセリオス。
「っけほ、……どう……する、アレス。……あいつを、どうやって倒す」
 ――どうすれば、あんなバケモノを倒すことが出来る。
 それは、アレクシスがもっとも知りたいことだった。或いはセリオスこそがその答えを持っているのではないかと、淡く期待していた。
 しかしそんなわけがない。あのような強大な怪物を、魔法のように撃ち抜く銀の弾丸などどこにもないのだ。
「――、」
 暫時、言葉を失う。――そうだ。こいつすら、倒すビジョンが浮かばないのに――これほど強力な敵を駒扱いし、統べるナイク・サーとはいかなる強敵なのか――恐れが湧く。
 ――しかし。
 しかしだ。
「セリオス」
 しかしアレクシスは噛み殺す。彼は騎士。あらゆる理不尽から民を、そして己が親友を守る盾である。
「僕は今すぐには、あいつをどう倒せば良いのか分からない。けれど……僕等の背中には、守るべきものがある。そのためなら、たとえ剣が折れても、盾が砕けても、僕は戦い続ける。――だから」
 それを強いようと思ってはいない。けれど、自分の友が、それを思い出してなお怯懦するような男だとも思ってはいない。
「……だから、超えよう、セリオス。あいつを――そして、今までの僕達を。僕一人では無理だ。――君一人でも、きっと難しい。けれど、僕達二人なら。あの化物にだって届く」
 ずしゃり、ずしゃり。
 悠然と、百眼六手の怪物が歩み来る。
「手を貸してくれないか、『僕の剣』」
 静かに、アレクシスは言う。
 それを聞いて、群青色のセリオスの瞳が二つ瞬き、笑みを湛えて煌めいた。
 思い出したように。或いは、我を取り戻したように。
 大胆不敵に、美しい面差しに、不敵な、少年のような――挑発的な笑みを載せ、セリオスが謳う。
「……ハッ、今さら過ぎるだろ。アレス、俺の力は――いつでもお前の為にある。断りなんかいらねぇだろ、『俺の盾』?」
「愚問だったみたいだ」
 アレクシスは笑って盾を構え、敵を凝視する。オーシャンブルーの瞳を見開き、真っ直ぐに。
 ――目を凝らせ。
 奪われたものを取り戻す為に生き残り、運命を変えたいと願って得た瞳。『絶望の福音』。初めて得た猟兵としての力。セリオスには言わなかったが、彼が見た十秒後の未来はただの闇だった。
 何も見えなかったのだ。それは、きっと死だ。冷たい無明の闇。でも、
 ――今は僅かだが光が見える。友の光が、目に映る。
 ほんの少しのきっかけで、八方塞がりに見えた未来は、確かに転がり出すのだ。


 ――それを教えてくれたのは――君だ、セリオス。


「セリオス、僕が奴を視る。どんな攻撃も、必ず塞ぎ止める。僕の力だって、君を活かし守るためにある。君が言ってくれたように、僕は君の盾なのだから。――護りは任せてくれ」
「あぁ。俺を導いてくれよ、アレス。――どこへだろうと飛んでやるさ。最後にゃ、お前の所まで還ってくるから。――信じてるぜ、『俺の盾』」
「――ああ!」
 セリオスの声を受け止め、確かに一つ頷いた。アレクシスとセリオスの拳が重なる。
 それは盟約。必ずや果たすべき誓い。
「歌声に応えろ。力を貸せ。――この壁を打破する、無窮の力を!!」
 友の歌声を背に聞き、アレクシスは踏み出した。過去のいつよりも速く。
 ――未来を見通す。敵の攻撃を。どのように動くかを。だが、それだけでは足りない。研ぎ澄ませ。敵が動いた結果、どこに隙が生まれるかを見抜け。脳が過熱する。構わない。今この瞬間に動かぬならば、焼け付いて壊れてしまえばいい……!
 アレクシスの瞳が、白光を帯びた。無明の闇さえ見通す、正しき未来を導く目。
 足下で光を爆ぜさせ、一瞬にして肉薄! 魔人が振り被る剣が、空気を揺らすところさえ今は見て取れる――
 アレクシスの眼は、常世の一段上の位階に至る。
 それはあらゆる攻撃を見通し、邪悪なる敵の隙を看破する聖眼。


       ストラトスフィア
 ――開眼。『  蒼 穹 眼  』。


 六合、一瞬にして振るわれる剣閃をアレクシスの盾が抑え込む!
 今ならば、弱い部分が全て視える。
 次の攻撃を制し、赤星を、もっとも脆い関節部目掛け渾身を込めて打ち込む、魔人の腕が二本、一手に飛ぶ!!
 反撃の四閃を、盾で殴り飛ばすように抑え込んでアレクシスは吼える!!
「セリオス!!」
 騎士が黒歌鳥を呼ばわったその後で、盾を叩きつけられた魔人が蹈鞴を踏む。アレクシスはそうなることが分かっていて、『そうなる前に相棒を呼んだ』。
 時間にして〇.四秒の隙。だが、作られたその隙にねじ込む準備は出来ている。
 セリオスはエールスーリエから魔力をジェットめいて噴出。最高速での突撃をかける。根源の魔力を剣の形に固めた。正確には、『青星』を覆う形で、魔力による堅牢な刃を成す。
 最早声も要らない。吼えることすらない。
 ただ敵を断つ、鋭く尖る聖騎士の剣として、セリオスは駆け抜けた。
 よろめき、体勢を立て直そうとする魔人目掛け、セリオスは過去最速の一刀を振るう。放つ衝撃波は要らない。――ただ、堅固にして決して折れず、断つ意思を真っ直ぐに伝える刃があればいい。
 根源の魔力を帯びて白蒼の光を放つ青星は、――ああ。
 明けの空に蒼穹を走る、彗星のようだった。


       メテオール
 ――両断。『彗 星 剣』!!


 あれほどまでに堅く刃を拒んだ鎧が、――星を断つ剣の前についに敗れた。
 天を揺るがすような、獣の叫び声。斬り裂かれた胴より、光が溢れ――
 爆発、四散。

「――征こう、セリオス。今なら、どこまでだって見通してみせる」
「ああ、アレス。――俺を振るえよ。お前が望むなら、カミサマだって斬ってみせる」

 双つ星、穹を翔ける如く。
 地を蹴り進む。狂賢者を断つために!!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天星・零
【氷星花】

基本的な行動は前章と同じ
戦闘
enigmaで別人格の夕夜と連携し、個別のUC使用


遠距離は呪術、霊術などでオブリビオンや死者を使う術、怪奇現象などを起こし戦う


夕夜
一部武器の見た目や形状が変わる(武器参照)
専用装備のブラスター使用
UCは【Karmic Retribution】を使い戦う

零は死と生、夕夜は罪と罰に関連した技が多い

絶対にやらないこと
零…微笑みを崩すこと


弱点
魔法が使用出来ない

・3

元:指定UC
噂綴・弐「惨憺蓮華」
詠唱は噂話を語り始めるように

零のUC
未練のある魂を星天の書-零-に保持し使用する術
いくつもの死体の腕や顔が集まり、まるで蓮のように見える肉塊を出し戦う


夕夜は完全お任せ


栗花落・澪
【氷星花】僕は2

…失われた命は、戻らない
どんな悲劇の存在でも…倒す事を躊躇えば
彼らの魂は縛られ続ける

僕に出来る事はあんたを倒して
少しでも早く、解放してあげる事

戦闘スタイル
空中から放つ属性問わずの遠距離魔法と
催眠または誘惑と合わせた歌唱による足止めや囮役・援護主体
使用属性は敵の弱点に合わせ変更
但しUCでの使用属性はほぼ植物か光、歌唱がモチーフ
(歌で花を操作する等の組み合わせも有り)

得意
歌唱・破魔および光と植物操作

弱点
触手(気持ち悪くて…)
地上戦(激しい運動が苦手)
力勝負(非力)

絶対にやらない
命を軽んじる行動、物理勝負

戦闘後には、犠牲者達に暫しの【祈り】を
救えなくてごめんなさい
せめて、安らかに…


シャオ・フィルナート
【氷星花】2

ふーん…それで、弱みを握ったつもりなら…
嘗められてるね…
弱点を弱点のままにしておくわけないだろ
生きるつもりなら、1番身近で超えるべき敵は
……過去の自分自身、なんだから

戦闘スタイル
・罪咎の剣での接近戦
・氷麗ノ剣での遠近両用(水や氷の放出可)
・氷の翼での遠距離+盾代わり
・雹燕での遠距離
の4種を戦況、相手の戦法に合わせ使い分け
使用属性は水、氷限定

得意
氷・水操作/暗殺技

弱点
熱(冷気を纏う事で可能な限り緩和)

絶対にやらない
冷静さを欠く事
感情を表に出す事
敵への同情
歌唱

指定UCをベースに技能との組み合わせ等でアレンジ可
(基本使用:氷+竜巻・津波・渦潮。その他組み合わせなら今後の参考にします)



●呪氷繚乱、花光爛漫
「……失われた命は、戻らない。たとえ、どんな悲劇の果てにああなった存在でも――倒す事を躊躇えば、彼らの魂は縛られ続ける」
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が訥々と呟く。
「僕に出来る事はあんたを倒して、少しでも早く、彼らの魂を解放してあげる事だけ。……容赦しないよ」
 ナイク・サー目掛け言い放つ澪。狂賢者はそれに興味を示した風もなく指を鳴らす。
「不遜な。雑種風情が我が糧となったことを感謝すべきところぞ。容赦をしないとはこちらの台詞だ。出でよ、常闇。こやつらを捕り篭め、前菜とするがいい」
 ナイク・サーが術理を発動。圧倒的な重圧が周囲を押し包んだ。それは『叡智ある者への試練』。敵対象の生命力および魔力を簒奪し、相性の悪い邪神を召喚して敵を圧倒する、卑劣なるナイク・サーの召喚技術である。
 強大な力を持つ狂王がベースとなったこのナイク・サーの術理強制力からは、何人たりとも逃れられはしない! 
「……ッ!」
 澪の身体から力と魔力が抜け、代わりに空中に闇が凝った。化物に後を任せるように、ナイク・サーは後退。
 それが“常闇”と呼ばれた化物なのだろう。闇を固めたような不定形の怪物。一人で相手をするには荷が勝ちすぎる強敵。しかし、
「こいつをブチのめしてやれば、あのふざけた野郎にも俺たちの攻撃が届くんだろ。それならさっさと片付けちまおうぜ」
 澪の横に進み出る天星・零(多重人格の霊園の管理人・f02413)――否、その別人格の『夕夜』。銀糸の髪とシルバー&マリンブルーのオッドアイは、零と真反対の色彩だ。
「俺達を嘗めるのも……大概にしてもらわないとね。弱点を攻めてくるって言うけど――弱点を、弱点のままにしておくわけないだろ。……生きるつもりなら、一番身近で超えるべき敵は……過去の自分自身、なんだから。……終わらせるよ」
 声低く、訥々と語るのはシャオ・フィルナート(悪魔に魅入られし者・f00507)。二人もまたナイク・サーの秘術によりその生命力を削られていたが、一顧だにせぬ。
「二人とも――ありがとう」
 自らの左右を固めた二人という構図は先ほどに同じ。さりとて繰り出す技は同じにあらず。
 いかに強力な敵が現れようとも、澪は一人ではない。眦を決し、澪は地を蹴って空へ羽撃く。
「始めよう。この戦いを終わらせるんだ!」
 挑みかかるような澪の声と同時に、常闇がうごめき、魔人めいて結実する。二足、闇の触腕を背に数十本と背負った、それ以外は人間をモデルとしていると思しき外見だ。 相対距離八メートル。戦闘開始。
「先に行く。援護は任せたよ……」
「おう。俺の分も残しておけよ?」
 先陣を切るのはやはりシャオ。夕夜が応ずるのを確認するなり、シャオは宙の水分より『氷麗ノ剣』を構築、即座にグリップを手に取って抜き打ちめいて振るう。
 氷麗ノ剣の冷気が、宙に走る雷めいて、氷の蔦が析出させる。鋭く迫る氷の蔦を、常闇は右腕を一閃することで払う。想定内だ。シャオの表情は氷めいては動かない。
「いくよ……! 切り裂け、舞花!」
 宙から援護するように降る澪の声。あらかじめ地に伸ばしていた、甘く香る花の花弁が竜巻めいて舞い上がり、常闇に迫る。花弁の数は無数。その各々が生きているように常闇を斬り裂き、蹈鞴を踏ませる。
「隙だらけだぜ!」
 そこに割り込むのは夕夜だ。彼の周りに四つのスカル・ヘッドが浮き、花弁で斬り裂かれ蹌踉めく常闇を睨む。遠隔砲撃ユニット、『Punishment Blaster』である。
 立て続けに砲撃、砲撃、砲撃! 火線が闇を裂いて常闇に迫り、いずれも着弾!
「そら、シャオ、決めてやれ!」
 連続射撃を全弾命中させ、即座に夕夜はユーベルコード『Karmic Retribution』を発露。敵の業を重力へ換え、常闇の身体を空中に弾き上げる!
 言われるまでもないとばかり、シャオは鋭く跳躍、氷麗ノ剣にさらなる鋭い氷の刃を纏わせ、トスされた常闇の身体を両断する!
 ……呆気ないまでに二つに斬れ落ちる常闇、……しかし!
「!!」
 最初に気づいたのはシャオだった。すぐさま背に氷の翼を生成、身を捲き防御の構えを取る。それより一拍早く、地に落ちた常闇の身体から闇閃が伸びた。無詠唱で放たれたのは燃える赤黒色の針――黒炎の呪槍! 十数本の黒く燃える闇槍が氷の翼を打ち抜き、シャオの身体に次々と突き立つ。
「……ッ」
 シャオは焼ける傷口より血を流しながら舌打ち一つ。狼狽えず、冷静さを欠くこともないまま氷翼を羽撃き飛び離れるが、それを追って、二分された常闇の肉体から複数の触手が伸びた。
 シャオは氷麗ノ剣から二刀、罪咎の剣による攻撃回数重視の構えにシフト。攻撃を食らわぬよう迫る触手を弾きつつ後退する。
 両断された常闇は何事もなかったかのように結合復元、最初と同じ人型を取り戻す。
 ……そして攻撃の対象は、何もシャオのみではない!
「うえっ?! 気持ち悪……っ!」
「チッ、あれだけ叩き込んだのにまるで効いてないってのか!」
 闇の触手が同時に、夕夜と澪にも伸びる! 澪は息を切らせて翼を羽ばたかせ回避。夕夜は迫る触手目掛け指を向け、再びKarmic Retributionを発露、触手を弾かんとした。しかし、
「……止まらねぇっ……?!」
 一瞬、動きを鈍らせることはできた。しかし、伸びる触手の力はすさまじく――作用させることのできる重力を、その力が超克したのだ。
 鞭のように撓りを打った触手の先端が音速を超え、夕夜の身体を吹き飛ばす。時を同じくして空中、光魔法で触手を打ち落としながら回避する澪へも、やはり衝撃波を伴う触手の鞭打が襲いかかった。
「く、っう……!」
 渦巻かせた花弁を盾に一撃をやり過ごすも、そう長くは保たない!
 敵の強力さに三人のコンビネーションが活かせず、戦線が崩れかけたそのとき、
「止める……ちょうどよく、血も出たことだし……」
 バック転を三連続でうち、触手の攻勢を逃れたシャオが氷の魔術を起動。ユーベルコード、エレメンタル・ファンタジアの構えか。
 だが常とは異質。彼の周囲に渦巻く水に、大量に流れた彼の血が混じる。シャオの手札は、魔術属性二つ――氷と水。そしてその類い希な暗殺適性と――その血より刃を作製する特質。
「凍えて、削げろ」
 シャオは凍えるような無温の声で言い捨てた。血混じりの水に彼が魔力を通せば、宙を渦巻く水は瞬く間に流動する氷渦と化す! 同時、その内側で血液から『罪咎の剣』が数百と複製、まさに氷獄めいて渦巻いた。

 トガノウズ
 氷 咎 獄! シャオの新たなる術だ!

 シャオは間髪入れず氷獄を、常闇目掛け放った。氷と銀閃の渦が超高速回転し、常闇を拘束するのみならず切り刻む! 常闇は両腕をクロスし防御、負う傷を再生する構えを取るが、再生よりも速い速度で削り倒せば問題ないとばかりにシャオは氷渦を加速!
 常闇の動きが完全に止まったその瞬間、夕夜が跳ね起きる。――いや、金の髪、金と紅の瞳。夕夜ではない、零だ!
「やれやれ、少しばかり身体が軋みますね……一発には一発、と言います。お返しさせて貰いましょうか」
 零はその手に『星天の書-零-』を召喚。片手に開き持つそのページがひとりでに捲れる。パラパラと走るページがぼう、と蒼白い光を帯びた。それを呼び水にしたかのように、漆黒の宙より、人魂めいて幾つもの燐光が析出する。――それは魂。かつてこの地で死んだもの――あるいは常闇にいまだ纏わり付く、彼が殺した者達の残滓――未練を持ち、この世に残穢として染みついたもの。
 零は、魂を禁書に呼び込み、その怨みと未練に肉の形を与える。
 彼は死霊術師。呪術と霊術がその得手である!
「噂話をしましょう。山奥のその谷深くには、骸の蓮が咲くそうです。世を儚んで死んだもの、或いは殺され棄てられたものが寄り合い――新たな骸を待っているのだとか……」
 零はアルカイック・スマイルのまま言い、ひとりでに捲れるページを指で止め、噂話を結ぶ。――陰惨な話をしながらに、彼の微笑みは全く崩れることはない。まるで、張り付いているかのように。

 ――永眠街に続くは、噂綴・弐。『惨憺蓮華』。

 迷える魂を禁書により構築した肉塊へ憑依・受肉させる。宙に敷かれた十数の霊陣より、人の腕と顔が蓮の花めいて連なった肉塊が伸びる。悪夢のような光景だ。その様、正に、惨憺蓮華。おどろおどろしく呻く無数の人肉蓮が、常闇を掴み、引っ掻き、食いつき、或いはその重量で圧殺せんと群れ成し襲う。
 人の爪顎で引っ掻く嚙み付く程度と侮るなかれ。惨憺蓮華を構築するのは呪術で練った肉塊と、未練の呪霊だ。呪毒、呪縛が傷に染み入り、敵対象を彼岸へ誘う! 藻掻き逃れようとする常闇を、シャオが氷獄の勢いを増し、零が惨憺蓮華の数を増やして逃さぬ!
 ――そして、宙!
 鞭打で裂けた膚に布を巻いた澪が、拡声マイク――『Angelus amet』を手に取る。
「犠牲になった人たちは……もう帰らないけれど、これ以上の犠牲が出ないようにすることはできる。……ここで、消えてもらうよ!!」
 澪は知っている。常闇は当初、いかに傷ついても全くダメージを負わずに再生しているかに見えたが、その実そんなことはない。先程、自身を追尾してきた触手を光の弾丸で撃ち落とした際に学習したことだ。幾度も千切れたものはやがて再生しなくなる。――再生には限界があるということだ。
 ――ならば、今、眼下の二人が常闇を捕らえていてくれる間に、自分が最大の一撃を撃ち込めばいい。
 澪は歌い出す。高らかに、天を貫くような――しかし死者を悼むような朗々とした声で。その声に惹かれるように地から植物の蔓が伸びる。数本が寄りあって頑健に伸びた蔓はその節々に白く美しい花をつけながらも伸張し、空中で複雑怪奇な陣を描いた。
 ――それは、魔方陣だ。
 目を閉じたまま、身体を揺らし、澪は歌を止めぬ。その身体から迸る聖者としての光、傍観者達を焼いた『Fiat lux』の光を、彼は己の右手に集める。
 瞬く間に構築された、蔓による魔方陣は三つ。増幅、集束、加速の陣。常ならば拡散し、散らばった敵を無差別攻撃するためのFiat luxの光を、たった一体の対象目掛け集中させて放つのだ。 歌の高まりに合わせ、光は彼の手の先に集まり――天を光輝で照らす、華々しき一輪の花となった。

 この光輝こそ、天に咲く煌めける花。
 Fleur de lumière――フレア・ドゥ・リュミエール。

「い、っけえええええええっ!!!」
 澪の手から放たれた光が、花蔓が編んだ花冠めいた魔方陣三つを通り、その威力・速度・密度を爆発的に上昇!
 押し寄せる光の柱となった光の魔術は、衛星レーザーめいて常闇を呑み込むように炸裂!
 シャオの氷嵐が、零の惨憺蓮華が、澪の花光が――今まさに一所に集中し、不死かに思えた黒き怪物を撃滅、昇華せしめる――!!

 ――光の中潰えていく常闇を見下ろしながら、澪はこの戦いの終わった後に思いを馳せる。
 全てが終わったら――救えなかった人々のために祈りを捧げよう、と。
 せめて、どうか、安らかにあるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 
 
 
 
 
●闇の散る時

 ――そこに、光があった。

 全ての結界が、誤差二十数秒内に弾け飛び、結界の外で戦っていた強大なる異界の戦士と邪悪なる神達は、一体と残らず撃滅された。――結界の破壊は即ち、その中に召喚した怪神らの消滅を意味している。
「――なん、だと?」
 ナイク・サーは最善の手を打ったはずだった。敵の戦闘経験を吸い上げ、最適な対手を召喚し、猟兵らに連携を許さず、最小単位まで分解して追い詰め、各個撃破する。
 そうすることでこの場を切り抜け、彼は新たなる王国への、栄華への一歩を踏み出すはずだったのだ。

 ――なのに、それが、どうして!
「なぜ、貴様らはこの試練を越えてみせる……!!」

「うふ、うふふふ、うふふ! その価値があっただけのことですわ、狂王様!」
「簡単なことよ。おまえは、あたし達を見くびった。――斬り果たすわ」
 爆ぜた影があった。刀身に纏うは、かたや天雷、かたや大蛇の呪詛。
 瞬息、縮地!! 爆ぜ散る足跡を残し、街風・杏花が、花剣・耀子が、全く同時に左右より疾った。稲光めいた一閃――《天羽々斬》/『建雷命』!! ナイク・サーの両腕が吹き飛ぶ!!
「ぬっぐ、うぅう!!」
 即座に両腕を再生、構えを取り直すナイク・サーの背後にひたりと立つ気配。
「……?!」
 鞭刃が疾り、ナイク・サーを絡め取った。
「――唯式――『絶』」
 クロト・ラトキエの黒刃、朔月が剣に復元しつつにナイク・サーの身体を削り立つ! 二つに分かれたとてナイク・サーはその身体と身体を血と魔力で繋ぎ強引に再結合! 飛び退きつつ、その両手に魔力を走らせる!
「ぬうううっ! 異神よ!!」
「やらせるかよっ!!」
 バイクが駆けた。数宮・多喜だ。彼女の左手――『魂削ぐ刃』が、新たな神を喚ぼうとしたナイク・サーと異界の接続を斬り裂く! 召喚は不発、蒼面のうちでナイク・サーは目を見開く!
「なっ――んだと?!」
「その隙、殺った」
 安喰・八束が突如、ナイク・サーの目の前に発生。――圧倒的な速度での肉薄。知覚外の無拍子! 『狼牙一擲』! 銃剣が肉を裂き、弾丸が胸を穿つ!
「ごふっ……!」
「一刀目をくれてやれないのが残念だけど――持って行きなさい!」
 銃弾を喰らって仰け反るナイク・サーに背中から瞬息の抜刀術! 『見様見真似・如月流抜刀術』――アルマ・キサラギの一太刀だ。血が飛沫く!
「かハッ、」
「いいザマだな。まだへばるなよ、お前に叩きつけたい怒りはこんなものじゃない」
 酷薄な声とともに繰り出される、渦巻く風の刃。
 ――神象術式開花壱式『惨死大輪』。ユアの繰り出した一撃がナイク・サーの胴に風穴を穿ちその身を空に吹き飛ばす!
「残念、王様、ここが彼岸の入り口ですねえ。逢魔が時にけものに遭っちまった、自分の不幸を呪いなさいな!」
 ユキ・パンザマストの吼声。無数の藪椿の蔓が伸び、狂王を捕り篭め端から喰らう――『夕眩幽玄』! 壮絶な絶叫を発し暴れ、緩む拘束から逃れんとしたその刹那、
「死ぬのがそんなに怖いかねぇ? オレなんて死にたくてたまんないのにな」
 シニカルな声と同時に、漆黒の魔弾が狂王の頭蓋を穿ち脳漿と骨片を散らす。九条・真昼――否、深夜の放った『押附希死念慮』。
 脳を失い再生までの間、奇声を挙げながら藻掻く狂王目掛け、ロカジ・ミナイと赫・絲が雷散らして並び走る!
「ようやく会えたねぇ王様!」
「――早速だけど、さっさと死になよ、屑野郎!」
 剽げたロカジの声を継ぎ、絲が吼えた。ロカジの『誘雷血』が右袈裟、絲の縁断・外式『赫雷』が逆袈裟! 絶叫鳴って王の身体が、藪椿もろとも十字に裂ける!
「お、の、れ、おのれ、おっ……の、れぇええぇ!!」

 こんなことがあって良いはずがない。
 こんなことが許されて良いはずがない!
「私は王だ、王なのだ! この世全てを統治する王なのだ――!!」
 身体を再構築するナイク・サー目掛け、氷嵐が噴いた。
「それは幸せな夢だね……」
「叶うことはありませんがね」
「――僕達が、ここで終わらせるからね!!」
 天星・零の噂綴・弐『惨憺蓮華』が展開、無数の呪肉蓮がナイク・サーを圧し潰し、それごとシャオ・フィルナートの『氷咎獄』が巻き込み、氷と刃で切り刻み凍り付かせ――
 閃光!! 栗花落・澪が放つ花嵐の閃光――Fleur de lumièreがナイク・サーを呑み込む!
「ああああああがあああああああああっ!?」
 氷嵐、呪肉、閃光一過で吹き飛んでなおナイク・サー、治癒・再生、健在!
 ……ならば潰えるまで攻めればよい!
「捕らえろ、幽世百鬼譚っ!!」
 幽世・暗裡が放つ一五〇に及ぶ呪いの手が空中のナイク・サーを拘束! そこへすかさず、
「急襲式・紅雷!! 急急如律令!!」
 六波・サリカによる、紅き雷を纏う無数の鴉が突撃! 爆発爆発爆発!! 赤雷爆発が連なり、砕けていくナイク・サーの身体!
 そこへ、ばしゅっ!! というエア放出音と同時、ナイク・サーの肉体にアンカーが命中! 引っかかったアンカーを巻き上げ二メートル超の決戦装甲が飛ぶ。
 ――その名は、パンデュール!
「パンデュール!! クレイモア、セット!!」
≪ラージャ。“コード・クレイモア”、レディ≫
 ドゥ・エギールから伸びるフォース・エナジーの剣、フォースドライブ “コード・クレイモア”が唸りを上げ、ナイク・サーを両断!
 それで足らないことを、その場の猟兵の全てが理解している。故に攻撃は止まぬ!
「セリオス!! 今だ!!」
「ああ、借りるぜ、アレス!」
 アレクシス・ミラの目――『蒼穹眼』が好機を見抜いた。彼が空へ向け溜めた盾の上にセリオス・アリスが飛び乗る! 盾を衝き上げるアレクシス、跳躍するセリオス! エールスーリエより魔力を炸裂、輝く剣は星の如く尾を引いた。――『彗星剣』、一閃!!
 裂けた後、ナイク・サーの身体は再び結合する。しかしその速度は緩みつつある!
「このようなことを――きさま、ら、ただで済むと……思――」
「思うさ。お前はここで死ぬからな」
 ぎゃららららららっ!! 骨鬼の首が伸びた。喰らう鬼、『神餓』の首が!
 アルエ・ツバキがその鬼首を放ったのだ。食いつき食い込んだ牙を確認して、力任せにぶん回す!! その膂力と鬼首の収縮力に曳かれ、ナイク・サーの身体は宙を飛んだ。Crush、Crush、Crush、Crush、CrushCrushCrush!!! 樹が次々とへし折れて、狂賢者の身体は口から血を撒き散らしつつ吹き飛ぶ!
 空中で復位し詠唱をしようとしたナイク・サーの額に、突如風を纏う矢が突き立った。その後ろに二の矢。一矢目をびきりと裂きながら二矢目がナイク・サーの脳を深く抉る。――『影迅双矢』。アルジャンテ・レラの冷ややかな目が、悪辣の王を睨んでいる!
「はあああああああああああっ!!!」
 そこに、木の上から飛び降りた三咲・織愛が襲いかかった。その右拳に輝ける白きオーラ! 『想駆星穿』ッ!! 打撃力、壮絶ッ!! 打ち下ろしの拳が叩き込まれて狂賢者はアタックされたバレーボールめいて地面に叩きつけられ、地を抉り捲れ飛ばしながら吹き飛ぶ!!
 ぴたり――
 その瞬間、時が止まり。
 全く突然に、狂王の傍らに白斑・物九郎がその姿を現す。
「――往生しなせェ」
 ――他者からその存在が観測できたという事は、デッドリーナイン・ナンバーフォー・ダッシュ『アイシクルドライブⅡ』による攻撃は完遂されている。既に時は動き出した!
 時間停止の間に叩き込まれた打撃がナイク・サーをほぼ直角に吹き飛ばす!
 吹き飛ぶナイク・サー、声もない。畳みかける好機を、桜雨・カイが逃がさない!!
「捉えろ、想撚糸――!」
 光る想いの糸、『想撚糸』が延び輝き、籠目を編んで、狂王を網めいてキャッチ!
 そのまま大樹に縛り付けるように糸を回し、固く戒める!
「皆さん、今です!」
「どっちが殺せるか試してみようか、ニノマエ」
「言ってろ。とっととやるぞ」
 青霧・ノゾミとニノマエ・アラタが、言い合いながら互いの呼吸を知悉した動きでジグザグに駆け、走る銀閃二条!! 『凍気裂帛』、『輪廻宿業』!!! 四肢の腱を断たれ凍り付くナイク・サーの傷の回復が明確に遅れる。ノゾミが断ったその傷の再生を行うための存在量――『よすが』を、アラタの刃が断ったのだ!
「ははぁ、なんともこれは誂え向きよなぁ」
 手足凍えて磔のままのナイク・サーを視て笑ったのは龍之・彌冶久。その右手に抜いた陽脈の一刀の煌めき。
 その薄さは虚空を極める。――絶刀、『虚空刃』。
「どれ。一刀献上仕る」
 彼我の距離十メートル。しかし問題にならぬ。彌冶久は剣を振るった。
 ――虚空が、唐竹割りにナイク・サーを両断した。二つに分かれた大樹が倒れる。
「お。おぉ、おぁ、ああ……!!!」
「ついでに一毒、いかがですこと?」
 再生を開始する肉体が、バランスを取り戻す前に、一本のシリンジが飛んでナイク・サーの左腕に突き立った。
「ああ? あが、 ぎっい、いぃいぃあああああああああああああ!!!!?!?!?」
 その左半身が沸騰した。たまらぬとばかり、癒着しかけていた右半身が分離し、左半身を棄てた。腐り落ちる左半身。ナイク・サーは無理矢理に、残った右半身から、大きな力を消費して左半身を再生する。――雲鉢・芽在の『毒血』のなせる技だ。
「こんな――このようなことが――」
「あるのよ。事実よ。――だって、私たちがここに来たのだもの!」
「最早どうあっても――貴方は死から逃れられません。覚悟を」
 ヴァーミリア・ランベリーと有栖川・夏介が迫る。
 夏介が放つはチェーンソーめいて唸る真理の剣――『この真理を以て汝を刎ねる』による、人体構造を知悉した乱斬撃!! 狂賢者は辛うじて手にしたディフダの怨槍にて受けんとするも、そこを凄まじい速度で駆け抜けたヴァーミリアの襲撃、そして硬質化したそのドレスが防御を阻む! 『彼女のための空電放送』による身体加速! 鳴り響くBGM!
「今よ!」
「承知しました」
 ピタリとタイミングが合う。ヴァーミリアの蹴撃がナイク・サーの脇腹を穿ち、夏介の真理の剣が袈裟懸けに、肉を散らしながら斬り捌く! 筆舌に尽くしがたい絶叫をあげ飛び退く狂王!
「ねぇ王様。この期に及んで、勝てると思ってるのかい?」
 樹上より戦況を俯瞰しながら問いかけるのは、霑国・永一。
「ふざけるな、馬鹿な――こんなことがあっていいはずがない……――!!!」
「あちゃあ。……答えになってないよ」
 ――『盗み問う狂気の対話』! ナイク・サーの全周囲より無数のダガーが降り注ぎ突き刺さる! 直後、
「お仕舞いよ。この演目もここで最後、フィナーレとしましょう!」
 マリアドール・シュシュが奏でる音が音弾となり――事ここに至るまで彼女が放った音弾がリフレイン、洪水のようにナイク・サーに押し寄せ吹き飛ばす――『追憶の音雨曲』!
 尾を引く狂王の絶叫。空へ飛んだその更に上から、涼しい声が降った。
「届けに来たよ、狂王サマ。アンタの終わりってやつをね!!」
 吹き飛んだナイク・サーを空中で迎えるのはカタリナ・エスペランサ。振り翳す紅黒の剣――『叛逆の黒紅』を大車輪に一閃! 真っ二つに断ち切った狂王が即座に再生を始めるのをもう一閃! 空中回転、十文字に裂いた狂王の身体を回転踵落としで叩き落とす!
「不運を届けに来ましたよ」
 地面に叩きつけられてバウンドした狂王が復位する前の一瞬で至近距離へ滑り込んだエルネスト・ポラリスが空転させたシリンダーをロック、狂王の側頭目掛けてトリガーを引く。BLAMN!! 銃声! 『First Encount』、死神の銃弾が狂王の脳髄を吹き飛ばす!
 仰け反り、最早召喚さえままならぬまま単純な魔力の放射でエルネストを攻撃しようとした横から、BOOM!! BOOM!! BOOOOOOM!! 爆音!
「終わりだよ。――いや、もう聞こえてもいないか」
 嘆息交じりの声はビリウット・ヒューテンリヒのもの。ブラスト・リムによる至近距離高速打撃!! これぞ刻器神撃:『長針のⅣ:爆烈拳技』! そのまま拳二六発を叩き込んでサマーソルトキックで浮かせた、その刹那!
「ペル、炎火、きっちり教え込んでやりな。アタシ達を敵に回すとどうなるかってのをね」
 伴場・戈子の声と同時に、狂王は、反言も許されぬまま、地面から突き出た巨大な岩戈に天高く吹き飛ばされた。戈子が繰り出した『偽神天衝』である!
 そして空は、彼女らの世界だ。
「あーい!」
「任されましたですよ――……!!!」
 ――燃える、燃える、燃え猛る!!
『炎火の火焔』が燃え猛る!! 
 空へ衝き上げられた狂王の身体にまず炎火が正面から着弾! 狂王の身体は爆圧と紅蓮で粉々になりかけながら下に叩き返される、しかしそれを刻器神撃:『長針のⅨ:閃空限界突破』によるオーバースピード、『凌駕する高速で回り込んだ』ペルが、下から炎火に向けて狂王の身体を蹴り返す!! 大音、大音、大音、大音、大音、大音、大音、大音、大音ッ!!!! 無慈悲なキャッチボールめいて粉砕された狂王の肉体は最早再生不能――怨嗟の声も、辞世すら詠めずに塵と化す狂王の顔より、蒼面が剥がれ――


「やっとお伝えできますね。――『おやすみなさい、よい夢を』」


 ――『夜に沈む魔女の睦言』が、狂気の蒼面、ナイク・サーに届くよりも速く。
 アレクシス・アルトマイアがトリガーを引いた。
 今一度、夜が吼える。
 夜闇を固めた魔女の弾丸が、蒼面のド真ん中に拳大の穴を穿ち――
 それが最後。

 天幕の如く山間に下りた闇は晴れ――
 激闘の爪痕残る山奥に、勝利の静寂が訪れた。

 ――やがてそれは快哉に変わる。
 悪夢めいた脅威を、猟兵達が凌駕した瞬間であった。


 ――牙猟天征、顕骸殺手起死回生。
 ここに堂々、閉幕である。

最終結果:成功

完成日:2019年10月24日


挿絵イラスト