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牙猟天征 ~グロウアップ・アンド・ショウダウン~

#UDCアース

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#UDCアース


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●UDCアース:邪教結社《A∴E∴="深淵の御遣い団"》本拠地
 血の海、と形容するほかない酸鼻極まる惨状に、いくつもの屍体が転がっている。
 よくよく見れば、それら屍体には大きく分けてふたつの種類が存在した。
 軍隊じみた物々しい特殊装備に身を包んだものと、
 なにやら呪術的な意味合いを感じさせる衣服を纏ったものである。
 前者は人類防衛組織U.D.Cに所属する実働部隊のメンバーたちであり、
 後者はその標的となった、邪教結社A∴E∴の構成員たちの成れの果てなのだ。

 ……邪神に関するおぞましい儀式の実行を察知したU.D.Cは、特殊部隊を派遣した。
 幸いにしてA∴E∴の儀式が本当に邪神を召喚する可能性は限りなく低かった。
 いくつかのパトロンを背後に有する結社の軍事力は注意を払うに値するものだったが、
 それでも奇襲作戦は、U.D.C特殊部隊がほぼ損害なく圧倒できるはず――だった。

 だがその時、双方にとって予想だにしない事態が発生した。
 偶然にもその衝突によって、極めて危険なUDCが召喚されてしまったのである。
『あーあ、つまんないなあ! これじゃいくら殺しても楽しめやしない』
 UDC-146β-E、通称"ジャガーノート・イーグル"。
 寄生型UDCオブジェクトの融合・進化によって生まれた"ネームドナンバー"。
 神速にして破滅的な戦闘力に比して、その精神は宿主であった少年のそれである。
 召喚された瞬間、"イーグル"はその場に居た全ての人間を相手に"遊び"を始めた。
 すなわち、虐殺である。いくら鍛え上げた精鋭特殊部隊であろうが、
 複数のパトロンから資金供与と魔術的バックアップを受けた邪教徒であろうが、
 所詮は人間だ。強大なオブリビオンに勝てる可能性は、万にひとつもありはしない。
『どうしようかなあ。街に出て目につくものを全部――いやダメだな、芸がないや』
 それはまるで、戯れにどのゲームを遊ぶか選ぶ子供めいていた。
『そうだ! こいつらの死体を目立つ場所まで飛ばして吹っ飛ばしてみよう。
 ああ、いい考えだぞ。そうすればもっと強い敵(エネミー)が出てくるよねえ!』
 なんたる残虐さ! だが、子供の精神に高すぎる戦闘能力を持ったUDCは止まらない。
 喜々として死体を運び出そうとして……"イーグル"は、動きを止めた。
『――その前にさ、お前ら誰? ボクと遊んでくれるの?』
 いつのまにか、辺り一面を染め上げる血は綺麗さっぱりと消えていた。
 代わりに現れていたのは、居るはずなのに存在が希薄ないくつもの忍めいた影。
 そして、それらを従えるようにして、"イーグル"と同じほどに強大かつ邪悪な気配。
『これは面白い。無垢なままに殺戮を働く機械兵器……期待以上だ、素晴らしい』
 "それ"は穏やかな声で云う。
『私はきみの味方だよ。――きみに、楽しい遊び相手を提供してあげよう』
 闇の中に、禍々しい仮面がぼんやりと浮かび上がった。

●グリモアベース:ムルヘルベル・アーキロギアの陳述
 ……己が視た予知の内容を語り終え、少年めいた宝石賢者はふう、と一息ついた。
「とまあ、このようにして、偶発的に召喚されたUDCが別の個体と合流してしまう。
 オヌシらには現地へ向かい、まず"ジャガーノート・イーグル"を撃破してほしいのだ」
 その言葉に、猟兵のなかからひとつの疑問が提示された。
 U.D.Cに連絡を取り、そもそも襲撃作戦を中止させればいいのでは? というものだ。
 ムルヘルベルはさもありなん、と頷いた上で、このように返す。
「無論、それはワガハイも考慮した。だが、それではおそらく先延ばしにしかならぬ。
 この状況は裏を返せば、強力なオブリビオンを一気に撃破できる好機でもあるゆえに」
 偶発的な召喚が、いつ・どこで発生するかまったくわからない以上、
 あえてUDCを召喚させることで、膿を出すようにこれらを撃破するという選択。
 グリモアによる予知は、望んで出来るようなものではない。
 危険な賭けではあるが、これはある意味でカウンターを仕掛けるタイミングなのだ。

「……というわけで、おおよその内容については組織側にも通達済みだ。
 オヌシらの転移に合わせ、特殊部隊は即座に撤収し待機する手はずとなっておる」
 ゆえに、彼らの避難や防衛に心を砕く必要はない。
 邪教結社のメンバーについては埒外だが、ムルヘルベルの推測によれば、
 こちらについても人命救助を優先する必要性は低いだろう、と云う。
「"ジャガーノート・イーグルは、強敵と命を懸けて戦う……そのスリルの虜なのだ。
 ゆえにオヌシら猟兵が姿を見せれば、彼奴にとっての"雑魚"は意識に外となろう」
 無論、万が一の逃走を防ぐためにこそ、特殊部隊は待機する。
 猟兵たちは、召喚されたジャガーノート・イーグルの撃破にのみ集中すればよい。

 しかし、作戦は敵の撃破だけでは終わらない。
「すでに語って聞かせた通り、偶発召喚からややすると新たなUDCが現れるはずだ。
 まず、邪神の眷属として使役される多数の敵個体……どうやらこやつらは、
 "デビルズナンバー"と呼ばれるUDCシリーズのひとつであるらしい」
 同系統の個体は様々なケースで確認されているため、その名を知る者もいるだろう。
 忍めいたシルエットをしたこれらの敵は、その機動力で猟兵を抹殺にかかるはず。
「……さて、ある意味本題はここからだ。この眷属どもと、それを従える首魁。
 実はこやつらは……なんらかの方法で、オヌシらの戦いを察知・対策しておる」
 それがいかなる方法なのかは、ムルヘルベルにも判然としないという。
 グリモアを通した予知で断片的にわかっているのは、
 "敵が猟兵の戦闘能力や戦術・技術などを知覚"し、
 "その情報をもとになんらかの対策を仕掛けてくる"という二点。

「ゆえにこちらも備えなしに普段通りに戦えば、相当の苦戦を強いられるであろう。
 敵の対策をも超える"なんらかの手"を以て、彼奴らを凌駕し撃破するほかない」
 もっとも重要な部分を当事者たちに任せるしかないという、歯痒さ。
 ムルヘルベルは顔をしかめつつ、しかしその責任を背負うように一同を見渡した。
「ここまで戦い抜いてきたオヌシらならば、邪神の思惑など踏み越えられるとも。
 だが油断はするな。なにせ、斯様に凶悪なUDCを取り込みにかかる邪神なのだ」
 そこまで言ったところで、ムルヘルベルは持っていた本を閉じる。
「"変化は苦痛でしかない。しかし、それは常に必要なものである"。
 ……とある思想家の言葉だ。オヌシらの戦いがさらなる成長をもたらすことを」
 そして、転移が始まる。


唐揚げ
 フォンデュです。実は食べたことありません。
 そんなわけで煙MS様とのコラボシナリオです。ワオ!
 テーマはずばり……えっまとめ出せ? わかりました!!

●章構成
 1章:ボス戦『ジャガーノート・イーグル』
 2章:集団戦『六一六"デビルズナンバーまきびし"』
 3章:ボス戦『???』

●テーマ
『必殺技の開眼』
 第三章のボスは、なんらかの方法により猟兵の戦いを知覚・学習します。
 そこから対策をされてしまうため、従来通りの戦い方では撃破困難となります。
(あくまでフレーバーであり、シナリオの難易度は通常通りです!)
 そこで猟兵の皆さんは、邪神の予測をも凌駕する新たな必殺技で敵を倒す!
 ……とまあ、そういう感じのシナリオテーマとなっております。
 必殺技の詳細については、こちらにお任せしていただいてもOKです。
 いい気になってふんぞり返ってる敵を、クールな必殺の一撃でぶちのめす!
 そういうシチュエーションを楽しみたいお客様には、おすすめかと思われます。
(必ずしも新規のユーベルコードを作成・使用する必要はありません。
 同じUCを応用しまったく違う使い方に、みたいなのもかっこいいですよね!)

●プレイング受付開始日時
『9/24 08:30~』

●採用人数について
 今回はプレイング採用数に【各章30名前後】の上限を設けさせていただきます。
 具体的なプレイング受付期間などの諸連絡・ご注意については、
 当作断章リプレイにてお伝えいたしますので、都度ご確認を頂けると幸いです。

 それでは前置きはこのあたりにして。
 皆さん、苛烈な死闘を楽しみましょう!
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第1章 ボス戦 『ジャガーノート・イーグル』

POW   :    派手に戦おうじゃないか!!
【自爆特攻する、自分と同能力】の霊を召喚する。これは【高速飛行機動による肉弾戦】や【超高速の神風特攻】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    ヒリつく勝負がボクの生き甲斐なんだ!!
全身を【暴風と爆風】で覆い、自身の【命懸けの戦闘を愉しむ気持ち】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ   :    簡単に死なないでくれよ?
レベル×5体の、小型の戦闘用【高速で飛べる燕型誘導弾】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。

イラスト:8mix

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ジャガーノート・ジャックです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●煙MS様のコラボシナリオ
『牙猟天征  ~顕骸殺手起死回生~』
 https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=14731

 プレイングの参考になる断章リプレイはあす投下予定です。
 なお、合同プレイングについては、採用人数の関係上【3名前後】ぐらいがベターかなと思われます。

 その他の業務連絡も断章投下時に行う予定です。
 よろしくお願いします。
●UDCアース某国某所:A∴E∴本拠地=超高層ビル地下施設
 その場に居た全員がまず最初に知覚したのは、強烈なジェット噴射音だった。
 対策していなかったA∴E∴構成員数十名が、鼓膜破裂の出血と衝撃により気絶。
 U.D.C特殊部隊ゼータ-5"落ち葉拾い"は、即座にこれらの邪教徒を拘束・回収し、
 撤退を開始。敵性体がこれを意識した瞬間、両者を光が照らした。転移の光が。
『HQ、猟兵の転移を確認。我々はこれより戦域からの離脱する』
 敵性体――ジャガーノート・イーグルは、自らを前に退こうとする"雑魚"を見、
 それから光のほうを睨んだ。グリモアの叡智によって転移した強者たちを。
《ハ――ボクに出会っておいて逃げようとしている連中がいるのは気に食わない。
 けどまあ、いいか。だってキミたちが相手してくれるんだろ? それならいい!》
 キィイイイイ――再び、強烈なジェット噴射音が地下空間を音叉した。

 ジャガーノート・イーグル。
 寄生オブジェクトの成長・進化によって生まれた、
 唾棄すべき邪悪機械のネームドナンバー。
 無垢な子供の心を持つ殺戮装置。
 たとえそれが、骸の海に在る尖塔の影――つまり投影された"過去の残骸"であれ、
 ここに召喚された個体は、ネームドナンバーにふさわしいスペックを持つ。
 《猟兵!! ああ、ボクの相手にはちょうどいい。遊び相手には最高だ!》
 それは喜んでいた。
 これから味わえる殺戮と死闘のスリルを待ち望んでいた。
 そんな怪物が解き放たれればどうなる。
 その速度が解き放たれればどうなる。
 言うまでもない。グリモアが見せた惨劇以上の絶望が世界に生まれるのだ。
 ここに在りしは過去の残骸。
 世界を、未来を破滅に導くあってはならぬモノ。
 ならば猟兵よ、戦え。
 敵がいかに強大であり、無垢であり、無邪気だろうとも。
 そしてこのあとに、お前たちの力を識り備えたモノが待つとしても。
 ここに在りしは邪なる神。
 そう渾名されるだけの力を持った殺戮機械。

 これは緒戦である。
 世界に祝福されし者たる、その力を残骸に見せてやれ。

●第一章プレイング受付期間
 【09/24 08:30】
 から
 【09/27 13:59前後】
 まで。

 なんらかの事情により再送をお願いする場合は、
 その都度失効するお客様へお手紙にてご連絡いたします。

●プレイングする上での注意
 第一章は"ジャガーノート・イーグル"との高機動戦闘です。
 戦闘の流れとしては(皆様のプレイング内容にもよりますが)
 前半部は広大な地下空間での機動戦闘をこなしたあと、
 途中から地上を目指すイーグルを追って空中戦したり、
 だるま落としみたいにぶち抜かれるビル途中階で遭遇戦したり、
 そんな感じのシチュエーションになると思われます。
 イーグルはハチャメチャに動きます。STGのボスかってくらい動きます。

 ビル内部は無人であり、ビル自体も戦闘の余波で盛大にぶっ壊れる予定ですので、
 特に気にせずやってみたい戦闘シチュエーションをプレイングしてみてください。
(採用順や前後の流れによってはある程度アドリブを効かせる可能性もあります)

 もし追記したほうがいいことを思いついたりしたら、都度断章にてご連絡します。
 では、改めて皆さん、ご参加お待ちしております!
コノハ・ライゼ
話が早くてイイわネ
ならば思い切り、派手に遊びマショ

喚べる限りの【月焔】喚び
大半は其々別の軌道から敵本体を『スナイパー』で確と狙い撃ち込むわネ

幾らかの焔は自分の周囲を巡らせ
『オーラ防御』と併せ誘導弾から自身を『かばう』盾とし
そのまま『2回攻撃』で懐へ飛び込んでくヨ
モチロン全部カバー出来やしないでしょう
誘導弾の動き『見切り』避け
躱しきれない分は視界確保するようガードしつつ『激痛耐性』で凌ぐわ

最初の焔は只の目眩まし、派手な演出のスパイス
得意なのはコッチなの、と刻んだ『傷口をえぐる』よう狙い「柘榴」を捻じ込もうか
そのまま『生命力吸収』すれば受けた傷も程よく消える
だから
「簡単に死なないで」頂戴ね?


杜鬼・クロウ
アドリブ◎

中身はガキ…それもクソみてェな思考のクソ餓鬼か
純粋に殺戮を好み楽しむ、か
…人の命は一つだ
゛遊び゛で摘んでイイものじゃねェ
分からねェ?一生分からねェか
この尊さを
儚さを(ヤドリガミだから見える人の命の重さ、良さがある

ハ、説いても無駄だったな
ならばその生意気な口叩けなくなるまで砕くまで

背負う剣を降り下ろし構え
腕のバンドを代償に【無彩録の奔流】使用
防御寄りの剣
隙見せ敢えて敵の攻撃を一点に絞らせ誘導(挑発
敵を薙ぎぶっ飛ばす(カウンター・見切り
間髪入れず回し蹴りからの踵落とし(部位破壊・フェイント
剣に鋼すら熔かす炎熱宿し心臓部分貫く(属性攻撃・2回攻撃

お前の遊びに付き合うなんざ、御免だ
…哀れだな



●第一陣:コノハ・ライゼ&杜鬼・クロウ
 ジャガーノートとは、人間に寄生しUDC化させる邪悪な機械生命体を指す。
 つまりこの"イーグル"も、かつては何の変哲もないただの子供だったのだ。
 しかし、それはあくまで、過去に滅んだイーグルの"オリジナル"の話だ。
 ここに在るのはその影。滅びたモノどもが眠る場所から呼び覚まされし影。
 あってはならぬ、未来を破滅させる残骸。ゆえに、それは根源から邪悪であった。
 もしもそのマスクの下に、未だヒトとしての顔面が存在していたならば、
 イーグルは笑っていたことだろう。見えずとも、気配としてそれがわかる。

 そんな無垢であり邪悪な高速機動殺戮体に、薄く微笑み相対する男がひとり。
 そう、コノハだ。180cmを超える長身の周囲には、いくつもの狐火がゆらめく。
 さながらそれは、水面におぼろに映る、煌々たる月のような焔(ほむら)だった。
《まずはお前が相手? ずいぶん余裕そうじゃん》
「オトナだもの。コドモ相手に情けない姿、見せてらんないでショ?」
 安い挑発を受け流し、コノハはむしろ逆に皮肉を突き刺し返してみせた。
 ……イーグルを中心に、強烈な殺意が見えない布のように地下空間を制圧する。
 並の人間ならば、心臓が麻痺してわけもわからず震えながら死んでいるだろう。
 だが、コノハはやはり、薄い微笑を浮かべたままだ。

 ……ガ、ギィンッッ――……KBAM! KBAM!!

 突如として、コノハとイーグルの間に、いくつもの小規模爆炎が生まれた。
 コノハは片眉を釣り上げる。見えていた。だが……あまりにも疾すぎる。
「……ちょっと驚いたわネ。言うだけあってハヤいじゃない?」
 イーグルの放った、無数の燕型誘導弾――その先触れである。
 コノハの力量であれば当然迎撃は出来ただろうが、いまの速度では無傷は難しい。
 もとより大なり小なり負傷は覚悟していたとはいえ、戦力を見誤っていたか。
 微笑は崩さぬまま、冷えた思考で敵の力量を測るコノハ。
 だが、そんな彼の視線は、イーグルではなく"彼"の背中に注がれていた。
「助けられちゃったわネ? クロウちゃん」
 ばさり。その言葉に応じるように、美丈夫の纏う黒外套がはためいた。
 ……両者の間に割って入り、牽制の誘導弾を切り払った男。
 すなわちクロウは、肩越しにコノハを振り仰ぎ、サングラスの下から一瞥する。
「なァに、先払いだと思えよ。代わりに俺も、勝負に一枚噛ませてほしくてな」
「貸しを作ろうとしないそういうトコ、アタシ好きよ?」
「ハッ。だったら聞いてくれるってことでいいンだな?」
 クロウは薄く笑い、そして視線を鋭く細め、目の前のイーグルを睨みつけた。
 イーグルはふたりの会話の間に不意打ちを仕掛けようとしていたが、叶わない。
 突然現れたこの黒外套の男の威圧感が、そんな搦手を許してはくれないのだ。
「……よォクソガキ、ひとつ聞かせろや」
《何? まさかだけど、お涙頂戴の説得でもするつもりなの?》
 ほざけよ、とその台詞を鼻で笑い、クロウはふたたび表情を鋭くする。
「お前はワカっててヤってんのか、それともマジにワカってねェのか」
《……は? 何が?》
「人の命はひとつきりだ。"遊び"なンぞで摘み取ってイイものじゃねェ。
 この尊さを、儚さを――どうやらお前は、ワカらねェでヤってるようだな」
 こちらの意図を何一つ、心の底から汲み取れないあの疑問の声がその証左。
 説いたところで無駄だろう。オブリビオン相手に心変わりなど期待してはいない。
 人ならぬヤドリガミの化身として、永き時を在り続けてきたからこそ、
 定められた命の儚さ、輝き――それを、クロウは知っている。
 心の奥に湧き上がった憐憫と寂寥を、瞼の裏に押し込んで目を開く。
 その時には、月の焔を従える妖狐が、相も変わらぬ笑みで隣りにいた。
「満足した?」
「あァ、待たせたな。どっちもよ」
「いいわヨ。アッチはどうか知らないケドネ?」
 キィイイイイイ――と、ジェット機のエンジン音めいた高音が地下空間を震わす。
 イーグルはとっくに臨戦態勢だ。いよいよ、両者の緊張が爆発的に膨れ上がる。
「聞き分けのねェガキは、生意気な口叩けなくなるまで砕くまでだ」
「やだ、コワい。――けどヤるなら、派手に"遊ぶ"のが一番よネ?」
 イーグルは腰を落とした。ふたりは即座に身構える。
《同感だね。待ってやったんだ。せいぜい派手に――死んでくれよッ!!》
 直後、イーグルの姿がかき消えた。遅れて、音を超えた証が衝撃を起こす!

 チュドドドドドドッ!!

 先の牽制とは、速度も量も(そして威力も)比較にならぬ量の爆炎。
 敵の実力を測り直し、十分に備えたコノハは、誘導弾の弾幕を焔で迎撃した。
 熱なき月白の冷炎は悪意の燕を飲み込み、太陽のように輝いて消えていく。
 残る狐火は数個。コノハはそれを伴としてイーグルに接近しようと、
「させるかよッ!!」
 ばさりと黒外套が燃えた。残像じみた速度でクロウが地を蹴ったのだ。
 自らの腕のバンドを即座に犠牲とし、盾めいて幅広の両手剣を生成、防御。
 斜めに構えたそれをぐるん、と振るい、再びコノハを暴威から護る!
《残念残念残ァん念ッ! それじゃあ足りないよォ!?》
「言ったろ――させるかってなァッ!!」
 ド、ガ――ガガガガガッ!!
 すさまじいまでの連打! 剣越しにショットガンじみた衝撃がクロウを揺らす!
 イーグル本体はふたりの頭上。まっすぐに仕掛けたのは彼奴の残影だ!
 クロウが読んでいたのは、この自爆特攻体によるコノハへのカウンター。
 コノハもまた予測済みの一手である。クロウのカバーリングを期待したのだ。
 歴戦の猟兵であるふたりは、この高速度戦闘において連携を維持しうる。
 言葉どころかアイコンタクトすらなくとも、確かな信念が響き合うゆえに!
《簡単に死なないでくれよ? 大盤振る舞いするから、さッ!》
 コノハは狐めいて目を細めた。敵はさらなる誘導弾を追加生成している。
 対してこちらはどうか。極度集中が主観時間を泥めいて鈍化させた。
 敵のスピードに任せた肉弾戦闘により、クロウの防御姿勢が崩される。
 たたらを踏んだクロウめがけ、自爆特攻体が突撃速度を乗せたトラースキック。
 狙いは腹部。槍じみたつま先は、鍛え上げられた腹筋をバターめいて貫通。
 クロウは口の端から血を流しながらも、奥歯を噛み締めて激痛と衝撃をこらえ、
 丸太を抱えるかのようにがっしりと敵の両足を握りしめ、離脱を許さない。
 当然、これはイーグルにとっては好都合な状況である。分身は自爆が可能なのだ。
 クロウを分身ごと爆殺し、守りを失ったコノハを誘導弾で焼殺するのが狙い。

 では、対するコノハはどうしたか。
 まず彼は、最初にやったようにしなやかに地を蹴って跳躍した。
 向かう先はイーグル? 否。
 ならば出口か? それも否。
 クロウだ。両手で敵の足を掴み、腰を落としたクロウの背中――いや、肩!
「失礼するわネ、クロウちゃんッ!」
「構わねェ、届かせろよ!!」
 跳んだ。クロウの長身を踏み台にして、頭上のイーグルめがけて!
 チューリップ型軌道を描く燕型誘導弾の狙いは、先ほどまでのコノハの立ち位置。
 すなわち彼は、楕円に膨らんだ軌道のエアポケットに潜り込んだのだ!
《な――》
「アラ? ビビッちゃった?」
 妖狐は目を細め、緊急カーブして己を狙う誘導弾を焔で迎撃撃墜する。
 それでも守りを抜けた数機が肩・腿・脇腹に着弾し、爆炎の花を咲かせた。
 皮がめくれ、肉が焼け焦げる。イーグルは即座に反転離脱を試みる。
 同時にイーグルの叫びに応じ、クロウが封じ込めた分身体が、カッと光を放つ。
 ゼロ距離自爆である。クロウに逃げ場はない――否、この男、初めから。
「吹き飛ばせるモンなら吹き飛ばしてみやがれ……ッ!!」
 上半身をちぎれるほどにねじり、コマめいた強烈な横回転を放った!
 スピン速度によって自爆寸前の分身体を弾き飛ばし、肉厚魔剣を横薙ぎ一閃!

 カッ――KA-BOOOOOOOOOOOOOOM!!

《クソッ! しぶとい雑魚どもだな!》
「簡単に死なないで、って言ったのはアンタでショ?」
 地下空間を飲み込む火球から、あちこちが焼けただれたコノハが現れた。
 先触れの月焔を、イーグルは物理法則をねじ伏せるようなきりもみ回転で消散。
 だが、これこそがコノハの狙いである。とっておきは握りしめた一対の紅刃。
「――だからアンタも、簡単には死なないで、ねッ!」
《見え見えなんだよ、この野郎!!》
 "柘榴"がイーグルの装甲に突き刺さった。だが生身部分への到達にはコンマ数秒のタイムラグがある!
 イーグルは己が生み出した風を片腕にドリルめいて纏い、振り下ろす。
 ぞっとするような量の血飛沫。コノハの鎖骨付近を風の刃が抉り飛ばしたのだ!
「コノハァッ!!」
 やや遅れ、爆炎からクロウが現れた。当然、無事ではない。
 しかし男は己よりも妖狐の名を呼び、剣の重みを利用して反動跳躍。
 風刃をさらに突き刺そうとするイーグルの脇腹に、痛烈なソバットを叩き込む!
《ぐ……ッ!》
 イーグルの燃えるような憎悪と、クロウの双眸が交錯した。
 双方、ともに血を吐く。クロウの腹部を残存誘導弾が着弾し燃やしたのだ。
 三者は反動によってそれぞれの方向に飛び離れた。男たちは床を転がる。
 イーグルはどうか。柘榴の傷と生命吸収はその邪悪な活力をある程度奪ったか。
 空中で一瞬体制を崩しかけながらも、怒りを撒き散らすように翼を開いた。
 放射風が吹き荒れる。クロウは剣に纏った焔を斬撃として飛ばした。
「チッ、小賢しいクソガキが……心臓どころか土手っ腹を貫けもしねェ」
「ケド若いっていいわネ、そこそこ美味しかったわ」
 コノハの台詞は半ば強がりだ。その負傷全てを癒やすほどには奪えていない。
《――ハハ、ハ、ハ、ハ! こりゃあいい! 最高のスリルだよ!》
 激昂しながら高揚する無垢な殺戮者を、ふたりは睨みながら立ち上がった。
 流れた血の量は多い。だがこの死闘を終えるには、余りにも少なかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

コフィー・ファミオール
おっけー!とにかくぶっ飛ばせばいいんだねっ!
私ができることは、蹴る!そして、殴る!!
痛い、ってことがどんなものか、この拳で分からせてあげる!

飛び回られると厄介だから、動きを制限したいんだけど……ま、全力でやってみよー!
空は飛べないけど、駆けることはできる
壁を蹴り、瓦礫を蹴り、時に誘導弾だって蹴って、足場を選ばず追いすがる
パンチやキックで小粒にちょっかいを出しながら自分へ意識を誘導

こちらの動きに慣れてきたら次の段階
空中を踏み抜き、それまで行わなかった軌道からの一撃をお見舞いする!
どんな場所であれ、私の軌跡は止まらない!

壁や地面に叩きつけることができたら、容赦なく追撃!
コンティニューは、無しだ!!


フェルト・フィルファーデン
勝手に遊び相手にされても困るのだけれどね。でも、いいわ。アナタが殺めた命、その身で償わせてあげる。

真正面から戦う必要は無いわ。特にこういうのとはね。罠を仕掛けましょう。
地下空間の通路の各所に炎の壁を配置し一本道にして敵を誘導するわ。出入り口が1つしか無い閉鎖空間にね。
敵をその場所に誘導するまではひたすら逃げるわ。必要なら【挑発】もする。「見た目が強そうでないと本気が出せないのかしら?」ってね。
騎士の【援護射撃】で牽制し接近してきたら【シールドバッシュ】で押し返す。
そして閉鎖空間まで辿り着いたら出入り口を塞ぎ、残り全ての炎の壁で部屋ごと燃やし圧し潰す!

ここが、アナタの牢獄よ。


ユエイン・リュンコイス
連携アドリブ歓迎
正直、相性は良くないかな…とは言え、やりようは幾らでもある。

相手の強みは一にも二にも速度だ。まずはそれを削ぎ落とそう。
機人に『月墜』を構えさせ、【スナイパー】による狙撃。ただCIWSでもなし、当たるとは思ってはいないさ。
爆風による【範囲攻撃】によって、地下空間やビルごと【破壊工作】がてらに粉砕し、進路や動きを阻害。障害物の動きや相手の性格を読み取り、進路や機動を【見切る】。
そして確実なタイミングでUCを発動。
意思持つ者を殺し、断末魔は未だ残り、散った者の装備は此処に在る。であれば畢竟、その動きを止められぬ道理はないよ。
打撃力は仲間に任せつつ、可能であればボクも一撃叩き込もう。



●第二陣の少女たち
 どうやらこの地下空間は、もともと富裕層向けに開発された場所であるらしい。
 カジノか、はたまたもっと表沙汰に出来ない下卑た欲望を満たすためか。
 あるいはU.D.Cや某国の当局の目を盗み、大規模な犯罪を企てるためのものか。
 パトロンからA∴E∴団が譲り受けたことで、この地は邪教の温床と化した。
 だが、すべては昔の話。いま、この地下空間は死闘の舞台である。

 ガギ、ガギ、ガギギンッ!!

 照明もろくに存在しない地下の暗闇に、いくつもの火花が散る。
 その都度、高速で交錯するふたつのシルエットが赤々と照らし出された。
 ジャガーノート・イーグル。そして、それに挑むコフィー・ファミオールの姿だ。
 一見すれば、戦闘機のドッグファイトめいた交錯は互角のように思えるだろう。
 だが違う。少なくとも、コフィー自身は歯噛みしながら敵に食らいついていた。
(なんなのこいつ……疾すぎる!)
 猟兵として新米であるとはいえ、それ自体は実力の多寡には成り得ぬ。
 彼女は、初仕事であろうと恐れなく飛び込む程度には戦闘経験を積んでいたし、
 その技術と判断力、なにより身体能力と天禀に関しては文句の付け所もない。
 ひたむきに挑み続ける、天真爛漫な精神力も、ただの楽観的な小娘などではない。

 しかしだ。それでも、歴然たる実力差というものは存在する。
 コフィーとて警戒と覚悟はしていた。だが、敵の速度はすべてを上回った。
 互角などではない。これは、己を遊び相手として弄ぶ猛禽の怪物に、
 コフィーが必死で食らいついているも同然の状況なのである。
《ハッハハハハハ! 楽しいなぁ、猟兵と遊ぶのってサイコーに楽しいよ!》
「この……っ! そうやって戦いを、殺すことを楽しむなんて、許さない!」
《だったらどうするのさぁ? 殺せるの、ボクを? お前が?》
「……っっ! 嘗めないでよね、負けないんだから!!」
 イーグルは、少女のけなげな啖呵を嘲笑う。ついてこいと風を吹かす。
 コフィーは歯噛みした。敵の強さに? ……いいや、己の実力に。
 足りない。空を飛べないことだけではない、もっと根本的な話だ。
 足りない。速度も。威力も。あの残酷でふざけた笑みを叩き潰す技巧も、
 何もかもが足りない。それが口惜しく、悔しく、腹立たしくて仕方がない。
「こ、のぉおおおおおっ!!」
 ガギンッ!! 幾度目かの交錯、コフィーはすべての力を振り絞った。
 フェイントを織り交ぜて壁を/床を/天井を三次元的鋭角軌道でステップし、
 あえて敵の誘導弾発射を目論む。狙い飛んできた機械じかけの燕たちを蹴渡る。
 止まるな。止まれば死ぬ。もっと速く。疾く! 迅く!!
 痛みを教えてやれ。傷つけることの愚かさを理解させてやれ。
 この拳で。足で。己の全てを振り絞り、あの翼を叩き落とす一撃を――!

 その時コフィーは、一瞬にしてこれまでの己の歩みを追憶した。
 そしてすべての時間がスローモーションに鈍化し、泥めくのを感じた。
 イーグルが来る。今までとは比較にならぬ急スピードで、矢のように。
 死角からの一撃を狙った己の意図をあざ笑い、かいくぐり、上回る暴威で。
 そして狙い過たず、鼓膜を破壊するほどの爆風を伴った一撃が、少女を捉え……。

 ――BRRRRRRRRRRRRTTTTTTTTTT!!

 チェーンソーの騒音じみた、すさまじいガトリングの轟音が暗闇をつんざいた。
 波濤のように浴びせられた127mm単射速射砲の弾丸を、暴風が吹き払う!
《ちぇっ、邪魔くさいなあ! いいとこだったのに邪魔するなよ!!》
 風によってコフィーの体を空中に打ち上げ、それを貫こうとしたイーグルは、
 唇を尖らせるように言いながら回転飛行し、なおも追撃する弾丸を回避する。
「……ッ!」
 コフィーは我に返り、たん、たたんっ、と壁を蹴ってスライディング着地。
 そして発射音の正体を見やる。そこには、機関砲を構える黒鉄の機人が居た。
「黒鉄機人! 上だ!」
 その巨大な機人のすぐそばに、銀髪をたなびかせる少女がいた。
 背丈はコフィーとほぼ同じ。よく見れば両手から機人に糸が繋がっている。
 人形遣い。ユエイン・リュンコイスの言葉に応じ、再び機関砲が火を噴いた。
 BRRRRRTTTT!! BRRRRRTTTTT!!
 カメラ映像のコマ切りめいて、マズルフラッシュが暗黒を切り裂き照らす。
 127mm単射速射砲"月堕・改"。その執拗な狙いを、イーグルは完全に避けている。
 地下空間の強化コンクリートを、スイスチーズめいて容易に貫く強力な弾丸も、
 そもそも目標に当たらなければただの飛礫も同然。なんたる敵の風圧か!
《ボクさぁ、固定砲台は最初に叩き潰すタイプなんだよね。――死ねよ!》
 ゴヒョウッ!! 真空の刃がコンクリートを切り裂いて幾条も走る!
「……これでいい。そこの君、横槍失礼。悪いけど付き合ってくれるかな!」
「へっ? あ、う、うん、もちろんっ! 私まだ戦えるから!」
 横っ飛びに真空波を回避したユエインの言葉に、コフィーはうなずいた。
 ふたり(そしてユエインの操る黒鉄機人)は、猛烈な風の追撃を辛くも逃れ、
 イーグルの魔の手から逃れるように奥へ奥へとひた走る。
「でもいいの? あいつの速度じゃすぐに追いつかれちゃうよ!」
「そうだね。けど、"これでいい"んだ。見てごらん」
 ちらりと一瞥したユエインの視線を追い、コフィーはそれを見た。
 ……焔だ。炎の壁が、あちこちの通路や搬入口などを塞ぐように燃えている。
 いつの間に? いいや、あるいは最初からあの炎は燃え続けていたのか。
 イーグルのものではあるまい。ヤツは、ここまで精妙なことは出来ないはずだ。
 だとすればあれは、おそらく――第三の猟兵の仕掛けた罠か!
「とにかく今は全力で逃げるよ。と言っても、ボクのほうが遅いけどね!」
「大丈夫、もしものときは私があいつをぶっ飛ばしてやるんだからっ!」
 イーグルの速度ならば、ふたりを音速の衝撃波で吹き飛ばすことすら出来る。
 だが、そうはしない。真空と、燕型誘導弾によって追撃するのみだ。
 ……楽しんでいるのだ。それが彼奴の悪性であり、そして弱点でもあった。
 ユエインとコフィーはそれを頼みに、あえて逃げ惑う獲物の立場に甘んじる――。

 猟兵(ザコ)どもは、何か姑息なトラップを仕掛けている。
 イーグルはそれを察知していた。いわばゲームキッズとしてのカンだ。
 あの燃える炎の壁。アクションゲームではありがちなタイプのコリジョンである。
 誰よりも強く無敵になった自分が、いまさらそんな移動を強制されるのは癪だ。
 しかしそれが、あの生意気で小賢しいザコどもの策なら話は別である。
 あえて乗ってやった上で、この力で何もかも吹き飛ばしてやろうじゃないか。
 自分にはそれができる。そうとも、自分に出来なかったことなんて何もない。
 勉強も、
 運動も、
 遊びも、
 どんなことだって人並以上にこなせただろう。
 どれだけわがままを言ったって許された。欲しいものはなんでももらえた。
 ――ああ、だからつまらなかったんだ。"あの頃"は。
《さぁ、楽しませてくれよ猟兵! どうする? どうしてくれるのさ!》
 だから今は楽しい。遊びで人を殺すのも、何もかも楽しくて楽しくて仕方ない。
 イーグルは仮面の下で笑みを浮かべて飛んだ。あえて火に入る虫となってやった。
 虫はどちらか教えてやるために。おまえたちこそザコなのだと。
 遊び道具でしかないと教えてやるために――だが。
「ずいぶんと偉そうね。飛べるぐらいでそんなに嬉しいのかしら?」
 四方を焔で囲まれた空間には、ユエインとコフィーに加え、少女がもうひとり。
 まさに虫のように小さな――イーグルにはそう映る――フェアリーの少女。
 がらんどうの騎士たちを従えて、電脳の魔術によって焔の壁を生み出し、
 この場所を終着点としてイーグルを待ち受けていた人形遣い。
《……そっちこそ生意気じゃないか。逃げ場もないくせに》
「ええ、そうね。逃げ場はないわ。だって――わたしたち、逃げる必要ないもの」
 フェルト・フィルファーデンは、くすりといたずらっぽく笑った。
 ユエインとコフィーがそのそばに着地し、きっ、と鋭くイーグルを睨む。
「ああ、もちろん、アナタに殺されるから――というわけではないわ?
 "必要がない"のよ。アナタが倒される側で、逃げる側で、負ける方なのだから」
《…………》
 イーグルは無言である。言葉に代わり、すさまじい怒気が放射された。
 出入り口を、電脳の焔が塞ぐ。フェルトを護るのはからくりの騎士たちだけ。
《――死ねよ》
 端的な言葉。殺意が燕の形をした死となり、雪崩を打ってフェルトへ襲いかかる!

「ボクと黒鉄機人を忘れてもらっては困るな、イーグル!」
 BRRRRRTTTTTTTTT!! 月堕の弾丸がこれを迎え撃つ。撃墜! 撃墜! 撃墜!
《邪魔する――》
「――に、決まってるよ! 負けないって決めたんだから!!」
《!!》
 風の刃を放とうとしたイーグルを、弾丸じみた速度でコフィーが襲う!
 なんたる鋭さ。先までの弱気に沈みかけた少女は思えぬ強烈な一撃!
 イーグルはこれをまともに喰らい、吹き飛ばされながらも風を己に纏う。
 覚悟か。捨て鉢か。精神的な爆発が、敗北しかけていたその心を奮い立たせたか。
 藍色の瞳を憎々しげに睨む。それにしても速射砲の弾幕が鬱陶しい……!
「こっちを、見なさいっ!!」
 再びコフィーの猛撃! 拳、足、その打撃は一撃ごとに鋭さを増す!
 反動を利用して壁を蹴り、かと思えば天井を蹴って変幻自在の軌道を描く。
 翼を持たないザコが、イーグルとなった己を翻弄するだと? 片腹痛し!
「……イーグル、君にはまったき死の残滓がまとわりついている。
 残骸となってなお、殺し、甚振り、弄んできたその死が、犠牲が――」
 コフィーを殺そうとしたイーグルは、ユエインの言葉を訝しんだ。
 するとどうだ。己が纏う竜巻の中から、いくつもの"残骸"と残響が現れる。
 オリジナルが、残骸としてこの世に生じたであろう自分が殺してきたモノたち。
 ぞの残滓、残骸、残響。報復の祈りを抱いた死者たちが形となって襲いかかる!
《こいつ!!》
「その動き、止めさせてもらうよ!」
「はぁあああああっ!!」
 360度全方位からの同時攻撃が、一瞬だけイーグルの風を留めた。
 そこへコフィー! 全力を乗せた一撃が、イーグルの腹部に叩き込まれる!
 ダメ押しに黒鉄機人が弾丸を叩き込む。同時にフェルトは、閉じていた目を開いた。
「ここがアナタの牢獄よ。燃えて、潰れなさい――!」
 まさか、こいつら。自分たちごと……!!
 イーグルの予測を肯定するかのように、炎は、弾丸は、すべてを飲み込む。
 壁を。天井を。風を。そしてひび割れて融けて崩れていく!
「さよなら。あいにくだけど、コンティニューは、無しっ!!」
 傷ついた少女が、己の体に残った最後の力を振り絞りイーグルを蹴る!
 崩落する地下空間に僅かな活路が生まれ、コフィーはそこめがけて跳んだ。
 ふらつく少女の体を機人が、騎士たちが受け止め、妖精と人形があとに続く。
 イーグルはそれを追おうとした。だが降り注ぐ瓦礫が、その翼を圧し潰した――!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



 闇の中で、それを視ているモノがいた。
「――なるほど、猟兵。彼らが介入してしまったのであれば、仕方ないな」
 それは云う。
「まずはじっくりと視させてもらうとしよう。どちらが勝っても問題はない。
 無垢な殺人機械と、世界の祝福者たち。どちらであろうと……面白いのだからね」
 まるで劇を楽しむかのように、喜々として。
リア・ファル
アドリブ共闘歓迎
SPD

「やあ。ランデブーと洒落込もうか!」
相手をリアルタイム演算しつつ「時間稼ぎ」
イルダーナを「操縦」し「空中戦」「空中浮遊」を仕掛け
「追跡」と「逃げ足」を駆使して激しい高速マニューバだ!

もう戻れぬ少年に哀しみを覚えぬではないけれど。
戦艦として、奪われていくモノを忘れちゃならない
遊びでやってるんじゃないんだよ!

UC【五光の神速疾走】使用!

『ライブラリデッキ』から「毒使い」で
ウィルスと神経作用の毒を読み出し、
機械外装をハッキングし、内部へ恐怖を植え付ける「呪殺弾」を精製

『セブンカラーズ』から「零距離射撃」で
すれ違いざまに叩き込む!

「デートの相手としてはノーセンキューかな」


薄荷・千夜子
この機会に止めねばならぬのですね
出し惜しみなしです。彗、参りましょう
巨大化した相棒の鷹に騎乗し空中戦をしかけます
速さで侮れぬ相手、ならばその速度を落とさせてもらいましょう
対象を追いかけながらも【獣尾綜絡】をビルの柱をすり抜ける際に気取られぬよう早業で仕込んでいきます
糸の仕込みを隠すように【鷹羽炎扇】を振るい、呪詛を纏った炎術や、毒を付与する仕込み針【禽羽双針】の投擲を
少しずつ蜘蛛の糸を張り巡らせるかの如く動きまわり追い込んでいきます
その良からぬ風、封じてみせましょう……もう一度、骸の海という名の籠にお戻り下さい

アドリブ、共闘歓迎



●第三陣:リア・ファル&薄荷・千夜子
 ZZZZZZZZTTTTTTTTT……!!
 轟音を立て、内側からの崩落によって地下空間の一部が圧潰した。
 すさまじい衝撃が高層ビルを揺らし、その破壊は当然地上階にまで伝搬する。
「……並のオブリビオンであれば、無事ではいられぬでしょうが……」
 ビル地上階、エントランス。そこに、崩落で生まれた巨大な"穴"がある。
 その縁に立つ千夜子は、険しい表情で呟いた。まるで祈るように。
 事実、それは彼女にとって半ば願望めいていた。これで終わればどれほどいいか。
 しかし、そんなはずはない。今日まで戦い抜いてきた戦士としてのカンが告げる。
 そして――地下から感じる熱と、飢えた獣のごとき強烈な殺気が知らせている!
「熱源反応、高速で飛翔し地上に移動中――来るよ、千夜子さん!」
 同じように険しい面持ちでナビゲートしていたリアが、警告を発した。
 その一瞬あと……KRAAAAAASH!! 瓦礫が間欠泉めいて穴の中から吹き出す!
「く……っ、彗! 力を貸してッ!」
 しゃりん、と錫杖の神楽鈴を鳴らし、千夜子は獣奏器を手に呼びかけた。
 瓦礫を避けるために飛び退り、人には聞き取れぬ音域の呼び音を鋭く吹けば、
 相棒はその音に、言葉に応えて怪鳥音とともに舞い降りる。
 空からやってきたそのシルエットは、ぐんぐんと非現実的に巨大化していく。
 翼長は5メートルをゆうに超えるであろう、巨大な美しき鷹である!
 空中に投げ出された千夜子をその背にさらい、彗はその名のとおりに飛翔!
「まだまだ元気いっぱいだね、ならランデブーと洒落込もうか? イーグル!」
 リアの軽口を咎めるように、吹き上がった瓦礫が一斉に四散した。
 もうもうと立ち込める土煙――その奥に、猛禽じみた鋭いカメラアイが浮かぶ。
 次いで、ふたりと言わず全方位をめちゃくちゃに切り裂く、すさまじき風の刃!
 巨大鷹と愛機"イルダーナ"、それぞれの乗機/騎に乗ったリアと千夜子は、
 この癇癪じみた風の猛威を避け、崩れ去るビルの中を上へ上へ翔んでいく……。

 してやられた。
 認めざるを得ない、自分は猟兵の策にまんまとハメられたのだ。
 そこはいい。自分は往生際の悪い小者ではない。いいだろう。認めてやる。
 だが。
 認めたからなんだというのだ。
 この苛立ち。
 痛み。
 屈辱。
 憎悪! ヤツらに対する、この燃えるような激情が消えてくれるとでも!?
《この……ボクを! 見下して!! 嘗めるなよッ!!》
 業腹だ。業腹だ、業腹だ! あまりにも不快で苛立たしくて吐きそうだ!
 誰よりも疾く、強く、そして偉い自分を! あいつらはコケにしている!
 遊ぶのは自分だ。殺すのはボクだ。ボクが上(プレイヤー)なんだ!
 猟兵。許せない。自分達(オブリビオン)に対する天敵などあってはならない。
 この楽しい時間を邪魔するヤツらは、誰一人残らず殺し尽くすしかない!
《ああ、ああ、ああ! 楽しませろよ、ボクを! それがお前らの仕事だろォ!!》
 目につく壁も柱も何もかもを風で切り裂いて吹き飛ばし、イーグルは荒れ狂う。
 それはまるで、偶然人間の住処に迷い込んでしまった渡り鳥のような狂乱めいて、
 己の縄張りを勝手に荒らすゴミどもを制裁する空の王者のようでもある。
 野放図なのだ。あまりにも出たとこ勝負で、それは子供の癇癪そのものだった。
 ゆえにふたりが避けることは易かったのだが、逆に近づくこともままならない。

 そしてイーグルは、どうやら不遜な台詞を吐いたリアに狙いを定めたらしい。
 何かをわめきながら彼女を追い、ぐんぐんとその速度をさらに高めている。
 邪魔する壁・柱・天井と言わず障害物のごとごとくを速度と爆風で吹き飛ばし、
 生意気な猟兵を血祭りにあげてやろうと是非を問わず食らいつく!
(――本当に子供、だったんだね。なんて幼稚で、けれど危険すぎる暴れ方だ)
 全速力で敵の追撃をかわしながら、リアは心のなかでひとりごちた。
 その信念も覚悟すらもない暴れっぷりに、猟兵としての怒りが湧いてくる。
 しかし心ある者として、同じぐらいにその在りようを嘆き悲しんでもいた。
 けれど、いまはその哀切に浸るときではない。あれを放っておけばどうなる?
 本当の意味で無垢の命が、いくつも奪われる。ここで滅ぼさねばならない!
「けどね、ボクらは遊びでやってるわけじゃないんだ! 覚悟してもらうよ!」
 ガギン、ガギン――イルダーナがさらなる高速疾走突撃形態へ変形した!
 神話に名高き魔器から名を得し、五光の神速疾走(ブリューナク)である!
「いくよイルダーナ! まずはボクらで、あいつの隙を生み出す!」
 ZAP! ZAPZAPZAP!! ブラスター銃によるフェイントの弾幕、イーグルは回避。
 当然リアの速度が落ちる。それを見逃すイーグルではない!
《一撃で殺してやるよ、ボクに感謝してほしいなぁ!?》
「――だから、来るんでしょ? 一直線にさ」
 それはリアの狙い通りでもある。投げ捨てた熱線銃に代わり、
 その手に握りしめられているのは黒光りする殺意の象徴。七光の拳銃。
 イルダーナが急停止する。そして反転し――再びのロケットスタート!
《!!》
「ランデブーはここまで――デートの相手には相応しくないからね!」
 両者はすさまじい速度でまっすぐに近づく! 衝突はコンマゼロ秒後!
(リアさん、何をするつもりなの? 捨て身の攻撃? いえ、あれは――)
 その一瞬、千夜子は状況判断した。リアはおそらく何か策があってああしたのだ。
 ならば己は、そのあとに備えるべし。
 急滑降して割り込むというプランを放棄した千夜子は、
 両者の予測衝突地点を中心に、コンパスで円を描くようにぐるりと翔んだ。
 鷹の羽を模した炎の扇を振るい、呪詛の炎をあちこちにばらまく。
 さらに軌道地点に落とし穴めいてばらまかれる無数の仕込針。だがこれらは牽制。
 予想通り、ジャガーノートは暴風を最大域に高めリアに――突撃した!!

 ――BLAM!!

《ぐっ!?》
「……あぐっ!!」
 KRAAAAASH!! すれ違いざまの交錯は痛み分けの結果に終わる!
 リアのトリガから放たれた呪殺弾頭は、イーグルの脇腹に打ち込まれ、
 その代償としてリアはピンボールめいて吹き飛ばされる憂き目に遭った。
「やるじゃんか……けど終わりだ、死ねェッ!!」
 脇腹を抑えながら体制を崩すイーグル、だが風を強引に使用して反転し、
 彼方へ翔んでいくリアめがけて燕型誘導弾を放つ。確実に殺すために!
 だが見よ。横転落下すると見えたリアは、空中でなにかに絡め取られたのだ。
《何……!?》
「やはり見えていなかったようですね」
 イーグルはぞくりと背筋が冷えるのを感じた。振り返った先には鷹に乗る狩人。
 千夜子だ。あらかじめ炎を目くらましに張り巡らせた糸でリアを受け止めたのだ!
「リアさんの一撃はよく効くでしょう? ならばこのまま――」
 きりり、と音を立て、張り巡らされた糸の結界が細まっていく。
 その中心には誰がいる? 何がある? 問うまでもない!
「封じられ、骸の海へと還りなさいッ!」
《嫌だね……! まだだ、まだまだ楽しみたいんだよ、ボクはぁ!!》
 風が炸裂する。糸と炎と、破魔の力がそれを抑え込もうと拮抗した。
「……まったく、じゃじゃ馬な子供じゃないか……っ」
 糸に助けられたリアは、その拮抗を目撃しながら苦痛に呻いた。
 暴風の子を完全に封じるのは易いことではない。だが弾丸はそこに叩き込まれた。
 己を猟る者に対する、恐怖という名のヒビが、たしかに食い込んだのだ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒川・闇慈
「バトルジャンキーというやつですかねえ……随分と楽しそうでいらっしゃる。クックック」

【行動】
wizで対抗です。
さて、相手は誘導弾を召喚するようですね。一撃で破壊できるようですし、範囲攻撃で対応しましょうか。
高速詠唱、全力魔法、範囲攻撃の技能を活用しUCを使用します。
攻撃対象は誘導弾及びジャガーノートイーグルです。誘導弾を全て撃ち落とされては、相手もこちらに接近せざるを得ないでしょう。
どれだけ素早く動こうが、一帯を巻き込む範囲攻撃ならば関係はありませんよねえ?

「速さでは追い付けませんのでね。魔術師らしいやり方で撃ち落とさせていただきましょう。クックック」

【連携・組み合わせ・アドリブ歓迎】


レイニィ・レッド
餓鬼の御守なんて
ガラじゃねェンですけど

瓦礫の上からよォく状況を確認
地上を目指すイーグルを確認したら
『赤ずきんの裁ち鋏』
逃がさねェよクソ餓鬼

目立たなさを活かし物陰を渡り
崩壊する瓦礫さえも足場に
超高速の最短距離でイーグルに接敵

すかさず鋏の連撃を喰らわせ
奴の翼を叩き折る
片翼がブッ壊せれば充分です

…ところで
なぜ飛行機や鳥の翼が左右一対あるか知ってます?

詳細は省きますが
片翼が損傷した状態で
今まで通りの速度で飛ぼうとすりゃ
――テメェは墜ちる

墜ちるクソ餓鬼に容赦なく追撃
ほら無様に舞って見せろよ 鷲サマ?

自分は別に戦闘狂じゃ無ェんですよ
勘違いしねーで貰えます?

テメェが戦闘をお遊びだと思ってる限りは負けねぇよ


夷洞・みさき
遊び、ね。
子供らしくて良い事だね。
咎人(オブリビオン)でなければね。

残念だけど、僕は君の遊びに付き合うほど人が良いわけじゃないんだよ。

【POW】

速度に対抗して砲撃による弾幕と錨による拘束での撃墜を狙う

船に神風。どこかの世界にあったお話のようだね

船が半壊し始めたら、船を破壊槌として敵を巻き込みつつビルに突っ込ませ、圧し潰す
本命はこちら

ビル内では砲だけ実体化させ弾幕。移動先を誘導してその先に船の錨を張り巡らせて相手の高速移動を制限させる

蜘蛛の巣よろしくとらえた所を駆除するがごとく潰してゆく

実はね。僕は速く動く方が得意だったりすんだけどね

アドリブアレンジ絡み歓迎



●雨のごとく、嵐のごとく
 じぃ……っと、ただじっと、じぃいっと、身じろぎせずに観察を続けていた。
 雨が降っているわけでもないのに、赤いレインコートを目深に被った人影が、
 ずずん、ずしん、と揺れるビルを――その暴威の中心を、じっと見つめていた。
 ただじっと。ときが来るのを待つように。一瞬を望むかのように、じっと。
「…………」
 その手には、不釣り合いな裁ち鋏が握りしめられている。

 ドウ、ドドウドウ! KBAM!!
《チ……! お前さぁ、ウザいんだよ! ボクの邪魔しないでくれる!?》
 これで五度目だ。ジャガーノート・イーグルは心底うんざりした様子で言った。
 対する黒尽くめの魔術師……黒川・闇慈は、陰気な笑みを浮かべて肩を揺らす。
「そう言われましてもねぇ、私はあなたのように素早く飛び回ることは出来ません。
 となれば、こうして魔法でできるだけ、あなたの誘導弾を撃墜するほかない」
 クックック、という笑みは、闇慈の癖のようなものである。
 だが、それがイーグルにとっては癪に障る。とても、腹立たしい。
 ではなぜイーグルは、その自慢の速度で闇慈を轢き殺してやらないのか?
 ――簡単だ。敵はそれを狙って、こうしてカウンターに徹しているからだ。
 こちらが突撃を仕掛けた瞬間、なんらかの即時攻撃で範囲ごと薙ぎ払うつもりか。
 そんな策に付き合ってやるつもりはないが、この千日手も実に辟易している。
「どうしました? 私のような痩せっぽちの魔術師ひとり吹き飛ばせないのですか」
《…………お前、ホントにウザいよ》
 底冷えするような殺意を込めたつぶやきが、見えない圧力とともに闇慈を打つ。
 心臓を鷲掴みにするような純化された殺意とて、闇慈にとってはどこ吹く風。
 その変わらない笑みが、余計にイーグルの神経を逆撫でする――。

 とはいえ、この状況は闇慈にとってもあまりいい流れではなかった。
 誘導弾の撃墜は、彼の高速詠唱をもってすれば(今やっている通り)十分可能だ。
 しかし、敵が見え透いた餌にかかってくれないとなると、
 闇慈としても突破口が見出だせない。かといって大規模術式に頼れば、
 それこそあちらの思うツボ。隙を突かれて自分はバラバラに吹っ飛ぶだろう。
 何か、この膠着状態を吹き飛ばすような横槍があれば――と、その時。

 ……KRAAAAAAAASH!!!

「おや」
《はぁ??》
 轟音とともに、両者が対峙しているビル壁が外側から破砕した!
 一体何が? 見よ、風穴の向こう、音もなく空中に浮かぶガレオン船を!
 そう、船だ。恐ろしく朽ちた一隻のガレオン船がビルの谷間に浮かんでいる。
 もはや誰も知らぬ亡びた都の紋様を掲げる、骸の海を征く郷愁の風の船。
 その帆先に佇むのは、饐えた潮の匂いをたたえたやせぎすの女である。
「これは意外だね。子供は海賊船とか、そういうのが大好きなものだろうに。
 少しばかり朽ちてはいるけれど、立派な船だろう? 僕にとっても自慢なんだ」
 にへり、というどこか不安にさせる笑みを浮かべ、夷洞・みさきが言う。
 壁を吹き飛ばしたのは、朽ちたガレオン船に備え付けられた大砲によるもの。
 キキキキキ……と音を立て、錆び果てた大砲が狙う先は……無論、イーグルだ。
「でも残念だ。気に入ってもらえなかったならば、吹き飛ばすしかないか。
 ――咎人の遊びに付き合うほど、僕はひとがいいわけではないのだし、ね」
《お前――!》
 ドウッ――KRAAAAAAAAAAAASH!!
 突然の砲撃! それもひとつではない。大砲はいくつも"生えてきた"!
 弾丸を装填し火蓋を下ろすのは、朽ちた船に似合いの亡者どもである。
 骸がいた。女を除き、そこに乗るのは一人遺らず屍人ばかりであった。
 ドウ、ドウドウ……! KBAM! KBAM!! KBAM!!!
《クソッ、どいつもこいつも邪魔すぎるっつうの! くだらないッ!!》
 イーグルは状況判断し、みさきと闇慈を同時に相手取るプランを選択した。
 まず己は強烈な暴風を纏い、その風の障壁によって砲撃に対する守りとする。
 闇慈を釘付けにするためにさらに多くの誘導弾を生成し、魔術師へ攻撃。
 そしてあの忌々しいガレオン船は、自爆特攻用の分霊でさっさと片付けることに。
 その図体に似合いの、せいぜい派手な花火をあげてもらうとしよう。
 DOOOM……DOOOM……それを察知しておきながら、みさきはしかし動かない。
「これは派手ですねぇ、私も巻き込まれそうなのがたまに疵ですが……っと!」
 ドドウッ! 間一髪、すぐそばまで近づいていた誘導弾が魔力に呑まれた。
 イーグルは風を収束させ、生半な魔法障壁では防ぎきれぬ必殺の吶喊に備える。
 闇慈はくくっと喉を鳴らした。イーグルは、自爆分霊と同時に二方向へ翔ぶ!

 分霊はガレオン船へ。では本体は闇慈へ?
 ……否である。イーグル自身は、魔術師ではなくさらに"上"を目指したのだ。
《もう飽きたからね! ビルごと潰されちまえよ、ハハハハハハ!》
 闇慈を狙い撃つと見えた誘導弾が魔術師をかわし、四方八方に飛び散っていく。
 KRA-TOOOOOOOM!! 着弾した壁や天井が砕け……ビルが再び揺れ始めた!
「なるほど、私にフェイントをかけて生き埋めにしようというわけですか?
 クックック、困りましたねぇ……さすがにこの規模のビルを吹き飛ばすのは」
 あのガレオン船に救助してもらうか……というのは下手の考えだろう。
 まさにその瞬間、自爆分霊はガレオン船に特攻して炸裂していたのだから!
 KA-BOOOOOM! 朽ちかけた船が炎に呑まれる。みさきは帆先で上昇する翼を見上げた。
「ふむ。遊び相手を探して逃げ出した、と。それは残念だな――」
 さっきと同じような声音で、人魚は言った。
「――君の遊びに付き合ってくれる人は、どこにもいないんだよ」
 しょきん。
 みさきの言葉に続くように、どこからか裁ち鋏の音が響いた。

 青年は、じっと……じぃっと、観察を続けていた。
 砲撃が始まっても、イーグルが姑息な手を使って離脱をしようと試みても、
 その瞬間までぴくりとも動かず、ハサミを握って見下ろし続けていた。
 レイニィ・レッドと呼ばれる、正体不明の男がいる。
「逃がさねェよ、クソ餓鬼」
《…………ッ!?》
 都市伝説じみた、居るはずなのに存在感の希薄な男が、そこにいた。
 イーグルの背後。カーテンのように纏った暴風の障壁の内側。
 誰だお前、と、少年であった機械兵器は叫ぼうとした。
 しょきん。裁ち鋏の音がした。どこからか、ぽつぽつと雨が降り始める。
「お遊びなんだろ? だったら逃げんなよ。笑ってイキりながら踊ればいい」
 しょきん。裁ち鋏が鳴る。イーグルはその時、"風が斬り裂かれている"ことに気付いた。
《なんだ、お前。……一体なんだ!?》
「テメェみてェな戦闘狂でもなけりゃ、ド派手にビル壊す魔術師でもない。
 自分はただの――"赤ずきん"ですよ。つまり、アンタの遊び相手でもねェ」
 しょきん。イーグルは、己の翼を断ち切ろうとする怪人から逃れようとした。
 きりもみ回転しながら螺旋飛行する。しょきん。翼に亀裂が走り切り取られていく。
《やめろ――やめろ! ボクの翼を、斬るなぁああっ!!》
 狂乱した。なぜだ。人智を超えるスピードがボクにはあるはずなのに。
 こいつはいつのまにボクのそばにいて、しかもなんてことをしやがるんだ。
 ああ。ああ! 翼が。斬られる。落ちる! 落ち――あ。
「そう、堕ちる。テメェで解体(バラ)したビルの下敷きになりに」
 翼を喪い落下するイーグルから、レイニィがたんっ、と跳躍し飛び離れた。
 入れ替わりに、燃え上がる巨大な瓦礫が――否、ガレオン船が落ちてくる。
 イーグルは誘導弾を放ち、これを落とそうとした。燕たちは魔力に呑まれた。
 ガレオン船から伸びた錨がその腕に絡まる。船から飛び離れた女と目が合う。
「さっきの神風は格好良かったんじゃないかな。だから僕も倣おうと思ってね。
 ――実はね。僕は君にたいに、疾く動くモノのほうが"得意"だったりするんだ」
 女は笑っていた。それすらも、燃え盛るガレオン船が視界を覆って隠してしまう。
「私は魔術師ですからねぇ。あまり物量というものは信用できないんですよ。
 なので――ダメ押しをさせていただきますが、問題ありませんよねぇ? クックック」
 悪あがきめいて風を纏ったイーグルの体を、液体銀の花びらが切り裂いた。
「"銀嶺に舞え斬翔の花弁(シルヴァリー・デシメーション)"。
 では、どうぞ地を這う虫の気持ちを、お楽しみくださいませ……クックック」
《お前ら――おぉおおまえらぁあああああっ!!》
 時間が戻る。すべてが一瞬の間にその結果をなした!
 イーグル! 翼を断ち切られたそれは、目指した天から叩き落される!
 崩れ行くビルの瓦礫がその上から降り注ぎ、そして燃え盛るガレオン船までもが!
 逃れられぬ。翔ぶための羽がない! 体を切り裂く液体銀の花びらが杭となる!

 ――KRAAAAAAAAAAAAAAAASHッ!!!!

 轟音と炎と砂塵が巻き上がり、身の程知らずの餓鬼を圧し潰していく。
 それは、癇癪を起こした子供には、少々きつすぎる"おしおき"だった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神酒坂・恭二郎
「さぁて。これは気が合う相手かねぇ」

スーツ姿で現着し、ビルの上からハンドポケットで相手を遠く眼下に見据え、目と目が合ったら飛び降りる。

手順は至極に簡単。
上昇する相手に対し、落下する自分でチキンレースだ。

居合いの拳で風桜子の【衝撃波】を連射する。
風桜子を纏った掌で攻撃をいなし、手拭いを広げ空気抵抗で減速して回避する。
ほんの数秒の間に何十合と言う【早業】の攻防をなそう。

相手がこちらに乗らねば終り。
この身も蓋も無さに全てを擲つ【覚悟】が愉しさを産む。

(お前よりも愉しんでるぜ、ガキ)

眼差しでその意志を伝え、拳に風桜子を輝かせて振りぬく。
勝敗を分けるのは単純。
どっちがよりこの刹那のスリルを愉しめるかだ。



●"仕切り直し"
 かくして、邪教団が支配していた超高層ビルは見事に崩落した。
 ダメ押しに重ねられた瓦礫が起爆剤となり、どこかに引火して炎が巻き上がる。
 ここは都市のど真ん中だ。おそらくU.D.Cが隠蔽に心を砕いていることだろう。
 阿鼻叫喚すら起きぬ街の、同じぐらいに高いビルの屋上に、スーツの男がひとり。
「さぁて。ここまでで、まずは第一ラウンド終了ってとこかね」
 スペース剣豪、神酒坂・恭二郎はハンドポケットで眼下を見据えている。
 第一ラウンド? 何を言う、あの崩落はオブリビオンとて生き残れないはずだ。
 なによりジャガーノート・イーグルは、その翼をばっさりと断ち切られた。
 空を我が物顔で飛び回っていた愚かな子供は、こうして鉄槌を下されたのだ。

 ……本当にそうだと考えている猟兵は、ここには誰もいなかった。
 そしてその中でも恭二郎は、特にはっきりと"それ"を感じていた。
 ――殺意だ。
 生きとし生けるものに対する、あまりにも純化された殺意。
 それはともすれば、高価なおもちゃに目を輝かせる幼児のようでもあり、
 珍しい動物に出くわして、生命の神秘にはしゃぐ小さな子供めいてもいた。
 無垢とは、穢れなく屈託もない幼子のことを云う。
 では、慈悲や憐憫、あるいは同情といったヒトらしい感情を"穢れ"とすれば、
 あたりに充満する殺意は、なるほど子供らしい"無垢な殺意"と言えるだろう。
 そして出し抜けに、積み重ねられ燃え上がる瓦礫が、内側から爆ぜた。
 恭二郎は片眉を吊り上げて肩をすくめると、ふわりとビルの屋上から飛び降りる。
 重力と慣性が恭二郎を捉え、ごうううう……と風を切りながら落ちていく。
 それに呼応するかのように、爆裂の中心から、閃光の如き風が飛来した。

 ――キンッッ、パァンッ!!

 奇妙な音であった。
 まるで刃と刃を合わせたような、甲高い金属音がしたあと、
 鞭が空気の壁を叩くような破裂音が響き渡ったのである。
 その正体は、恭二郎が開いた掌と、次いで鞭めいてしならせた手ぬぐいであった。
 それぞれに風桜子(フォース)を纏ったそれらは、飛来した風をいなしたのだ。
《――ハハ》
 瓦礫を吹き飛ばして翔んできたモノ。切断面から脈打つコードを生やして、
 どこか生物的で不気味な翼を新たに生成するモノ。墜ちたはずの鷲。
《ハハ! ハッハハハハ! どうだ、見たか。見ろよ! ボクはすごいんだ!》
 ジャガーノート・イーグルだ。切断されたはずの翼はいびつに再生していた。
 再生……いや、変化、か? 筋肉めいて脈打つそれは機械には思えぬ。
《お前らなんかに負けるか。ボクは強いんだ! まだだ、もっと遊ぶぞッ!》
 ――パパパパパパァンッ!!
 疾い。己の成長を寿ぐジャガーノート・イーグルのすさまじいまでの連撃!
 それをいなす恭二郎! 両者は墜ち/翔びながらビルのあわいを交錯する!
(愉しそうだねぇ)
 静謐に似た死闘の中、数十合と打ち合いながら、恭二郎は目を細めた。
(けどな――お前よりも俺のほうが楽しんでるぜ、"ガキ")
 ほころぶ目はそう言っていた。イーグルのけたたましい狂笑、途絶えた。
《殺してやるよ。バラバラに引き裂いてなァッ!!》
 パパパパパパパパパッ、パァンッ! ガキキキンッ!
 なおも攻防は加速する。そして両者同時、放ったのは拳と手刀!

 KRAAAASH!! 弾かれた両者はそれぞれ別々のビル壁に叩きつけられた!
「……覚えとけよ、ガキ。男の勝負の分けるのは単純な理屈さ」
 脇腹を手刀で裂かれ、口の端から溢れた血を親指で拭い、恭二郎が云う。
 睨み見据える先は、風桜子の一撃を受け己よりも深く壁にめり込んだ餓鬼の姿。
「どっちがより、この刹那のスリルを味わえるかなのさ」
 癇癪を起こした風が吹き荒れる。恭二郎は、やはり薄く笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコラ・クローディア
子供の精神を持った邪神ねぇ…危険度で言えば下手なオブリビオンより数段上かしら?
ともかく、顕現直後を叩けるのであればそれに越したことはないわ
やれそうなら一発くらいは先制攻撃を入れたいけれど
「Hi、ジャガーノート・イーグル。お望み通り、遊びに来てあげたわよ」
ウィザード・ミサイルの早業+高速詠唱+全力魔法で燕型誘導弾に対抗
スナイパーとしての目で射線を見切り、確実に1対1交換をしていきましょう
1回あたりの数は向こうの方が多いでしょうけど、こちらは詠唱速度でそれに追いつかせていただくわ
UCはあくまでも防御に利用して、本命はドラゴハウザーによる呪殺弾
「あまり楽しみ過ぎると、足元を掬われるわよ?」

アドリブ◎


夕凪・悠那
ヒリつく勝負が生き甲斐ねぇ…
キミ、ホントに命懸けの勝負したことあるの?
ねえ
――教えてやるよ

そのイキってる態度が気に食わない
バッキバキにへし折ってやりたい

【英雄転身】
その役は空を駆る魔(法少)女
神速の飛翔能力は脅威だけど、その速度で小回りが利くとは思えない
[誘導弾]と炸裂弾([範囲攻撃])、刹那の[見切り]によるギリ避けで[空中戦]を演じる

"その"タイミング、座標を演算
[地形を利用]し、視界を([目)潰し]、速度の乗ったタイミングで直撃するよう設置した[罠を使い][カウンター]
風の鎧も貫通する程に鋭利なやつを『仮想具現化』
無双ばかりして調子に乗ってるから足元を掬われるんだよ
[全力魔]砲

アド絡歓迎


エル・クーゴー
●WIZ



指定座標に現着しました
躯体番号L-95、作戦行動を開始します


【空中戦】用バーニア、展開
敵性に対する当機の運用火器射程圏内の堅持を維持すべく追従、飛行します

燕型誘導弾に対してはマニューバで回避を
同時、より高効率な回避・迎撃対処の実現の為、燕の誘導アルゴリズムの解析を並列稼働します(撮影+学習力)

程度の解析成果が得られ次第、当機の電脳リソースを【メカニック】にシフト
マニピュレーターを用い、装弾数を更にアップすべくミサイルポッドを拡張(武器改造+2回攻撃)


優先タスクを『燕の全機撃墜≧敵性への与ダメージ』として設定

――ターゲット、ロック
【マルチプルミサイル】、全弾発射します(一斉射撃&誘導弾)



●嵐の軍勢VS暴風の鷲
 邪教団の本拠地ビルが崩落したことにより、戦場は都市部全体に移行した。
 問題は、負傷しているはずのジャガーノート・イーグルの変質である。
 猟兵の攻撃によって、一度は切断分離されたはずの翼は、完全に再生していた。
 ただしそれは、権限直後の機械翼からは、ややかけ離れている。
 喩えるならば……草木のように脈動するいくつものコードが撚り合わさり、
 なんらかの忌まわしい活力を循環させ、さらに強靭な翼を生み出しているのだ。
(……"進化"している……?)
 ニコラ・クローディアは、高速機動戦闘のなか、頭の片隅で黙考した。
 聞けば、ジャガーノートなる電子生命体UDCは、人間の子供を標的とし、
 戦闘経験を積むことで成長し、このような"成体"に至るのだという。
 ではここに顕現したイーグルが、現時点で加速度的に戦闘経験を蓄積し、
 リアルタイムで成長を続けているとしたら……その先は、一体どうなる?
《ハハハ! 足りない足りない! ボクを止めるには足りなすぎるんだよなぁ!!》
 考えても詮無きことだ。なにより、高揚した敵がそれを許してくれない。
 無数の誘導弾がわっと空を埋め尽くし、脅威的速度でニコラへと襲いかかる。
 ニコラが虚空を指でなぞると、その軌道を魔力の線が色付きの絵の具めいて彩る。
 それらは煮え立つ溶岩のように紅く燃える魔力に代わり、炎の矢となって奔る。
 ドウドウドウドウ! 二重の魔弾が、飛来した誘導弾を等価交換撃墜した!

 その時である。ジャガーノートは突如として、凄まじい密度の風を纏った。
 ごひょうっ!! と荒れ狂う烈風は、周囲十数メートル圏内を死の間合いと化し、
 これによって死角から放たれた、無数のホーミングミサイルを撃ち落としたのだ。
『高密度の暴風による対空防御を確認しました。
 >現状の当機の火力では突破困難と推定されます』
 躯体番号L-95(エル・クーゴー)、ワイルドハントの殺戮人形である。
 バイザーで覆われた視線が、猫被りな暴君のそれとつかの間交錯した。
 言葉は不要。なにせ、暴君が暴君たる所以を、機械人形はしっかり記録している。
 当然、ニコラもそれを咎めることはない。猟団の一員として必要な情報だ。
 ――そして両者は、互いがどれだけの力量を持つかも、よく知っている。
「あれは"ニコラ"でもちょっと骨かも。協力してもらってもいいかしら?」
『_連携提案を受諾。
 >当機はこれより、ニコラ・クローディアのサポートに移ります』
「ありがとう。ああでも――」
 牽制の弾幕を張りながら、ニコラがちらりとあらぬ方を見やる。
「――意外と要らないかもしれないわね?」
 その視線の先。
 イーグルのそれに勝るとも劣らぬ速度で、飛翔する少女が近づいていた。

 夕凪・悠那である。ワイルドハントの猟団員であり、生粋のゲームキッズ。
 ただし――いや、それが故というべきか――今日の悠那はかなり不機嫌らしい。
 全身から『このガキが気に食わない』というオーラをバチバチに放ちながら、
 ゲームキャラを模した魔法少女めいた衣装で、空を自在に駆け抜ける。
《ハ! なんだそれ、ボクのパクりかよ? 似合ってないね!》
 嘲笑を意に介さず、悠那はレーザーめいて収束させた魔力刃を牽制に放つ。
 風の刃と魔力の刃がぶつかり合い、四散して周囲のビルを劈いた。
「ねえキミ、ずいぶんイキってるけどさ、ホントに命懸けの勝負したことあるの?」
 それは問いかけているようで、最初から答えを求めていない独り言だ。
「なら教えてやるよ。――気に入らないんだよ、その態度。へし折ってやる……ッ」
 ゲーマーとしてのプライドを、踏みにじられたような気分になったのか。
 はたまた無邪気に殺戮を働くような蛮性が、彼女の道徳心に響いたか。
 あるいは、ただ単に、調子に乗っているガキが気に入らないだけなのか。
 寿命を削るユーベルコードの使用を、まったく厭うことなく出力を高める。
 悠那もニコラとエルの存在は把握していた。だが何も言わない。
「オブリビオンの分際で、勝負が生き甲斐? キライなんだよね、そういうの!」
 高速のドッグファイト。魔力の軌跡がきらきらと風に散らされ都市を照らした。
 ほぼ拮抗する速度で幾度となく交錯し、互いの風と魔力弾とを撃ち合う。
 サポートを宣言したエルは、両者を同時に射程内に捉えられるように立ち回り、
 演算能力をイーグル単体に収束。敵の武装、および運動能力を解析・分析する。
『_ジャガーノート・イーグルの機動性能が徐々に上昇しています』
「……やっぱり。あいつ、リアルタイムで育ち続けているのね」
『>速攻戦闘を提案』
「同感よ。――悠那(あっち)も付き合ってくれると嬉しいんだけど」
 ニコラは片手に愛銃"ドラゴハウザー.50"を握りしめ、魔力を収束させる。
 誘導弾の迎撃はエルに一任。解析を終えた彼女なら、おそらくそれが可能だ。
 問題はあの風の鎧だ。一撃を届かせるためには、無駄な弾丸は使えない。ならば。

 ……ならば!
《あっれェ? どうしたのさ、さっきからだんだん避けるのギリギリになってるじゃないか!》
「うるさいな。勝負が好きなら黙って集中しろよ、クソガキ」
 イーグルは仮面の下で(おそらくは)ほくそ笑んでいた。
 初めこそ拮抗していたように思えた速度は、もはや趨勢が分かれている。
 相手が上という形でだ。悠那はイーグルの速度に追従するのが精一杯である。
(こいつ……あの速度で小回りまで効かせてくるのは予想外だな……けど!)
 悠那は目を見開いた。視線の先には、ミサイルポッドを拡張増設したエル。
 ナイス! 悠那はにっと笑い、バイザーの下の機械少女の双眸にうなずきかけた。
 転送されてきたのは、エルが解析したイーグルの性能データである!
「演算完了――無双はここまでだよ、下手糞(トロール)!」
 ヒュカカカッ! 薄く引き伸ばされた魔力刃がイーグルに襲いかかる!
 だが敵は最小限の動作でこれを避け、そのまま悠那を切り裂こうと吶喊――。
《……いや。待てよ、なんだそれ!!》
 そこで気付いた。待ち構えている悠那が振りかぶる、具現化された魔剣を!
 仮想具現化(サイバー・リアライズ)。空想を現実とする電脳術式!
「言ったろ。調子に乗ってるから足元を掬われるんだ……よッ!」
《クソッ!!》
 魔剣の刀身に魔力が収束し、光のオーロラじみた極厚の斬撃を放つ!
 イーグルは直撃こそ緊急離脱で回避したものの、風の鎧は無茶がたたり霧散!
『――ターゲット、ロック』
 ピピピピ。エルのバイザーから、簡素な電子音が響いた。
 その論理視界では、増設された全てのミサイル照準がひとつを捉えている。
『全弾発射します。目標、ジャガーノート・イーグル』
 スパパパパパパパ――! 小型ミサイル全510発がフルファイア!
 即座に燕型誘導弾が放たれる。数は同一! ホーミング性能はこちらが上!
 KRA-TOOOOOOOOM!! 同時接触した爆炎は一塊となりあたりを照らす!
 そしてニコラは束の間背中に龍の翼を生み出し、一瞬で音を超えた。
 捉えたのはイーグルの死角。魔銃の銃口が荒ぶる鷲を捉える!
「一人用(キャンペーン)プレイでいい気になるの、ちょっと可哀想ね?」
 ――BLAMN!!
《がっ!!》
 渾身の魔力を込めた呪殺弾が、イーグルの脳天を貫いた!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セレーネ・ブランシュ
【結社】
アドリブ歓迎

帰ってきてみれば、面白そうじゃないの
はァイ?ナンバーズの皆
挨拶はさておき──私が遊んであげるわ、来なさい!

確かに速い
でも、速い敵にも弱点はあるわ

指を鳴らし、【クライシスゾーン】展開
さあて、この破壊されたビルの瓦礫や物が飛び交う竜巻の中、高速で移動したら──ふふ、大したものよね?

あとは動きが鈍った的を射抜くだけ
さぁ、死ぬ気で逃げてみなさい?
【誘導弾】となった光の矢が、あなたたちを死ぬまで追いかけてアゲル

さて、久しぶりね、アダム
元気だったかしら──って、そうね、初対面もいるか

ラストナンバーにしてⅫを宿すナンバーズ、最後の希望たる射者、セレーネ・ブランシュ。
以後、御見知りおきを?


アダムルス・アダマンティン
【結社】
アドリブ歓迎

戻ったか、レーネ
貴様が遠征に行っている間にナンバーズも増えたが、その話は後にする
仕事の直後で悪いが、また仕事だ。奴を墜とす。やれるな?

事ここに至って出し惜しみはせん。封印を解いてソールの創槌へと変える
鉄鎖網へと生命を与える
さあ、乗れ。やつほどではないが、多少の機動力にはなる

敵は霊を召喚して来るだろう。俺はそれを迎え撃つ
刻器、真撃
放射する電磁力でもって、霊どもをことごとく撃ち落とす


セレナリーゼ・レギンレイヴ
【結社】
アドリブ歓迎

お待ち、しておりました
いえ、私の権能は地下や空中よりも地上のほうがやりやすいもので
先輩方が一緒ですからもっと頑張りますね

書に【祈る】のは制圧と救済
殺戮兵器なんて、望んではいなかったでしょうから
ここで止めて、そして救います

さてセレーネ様、おかえりなさいませ
噂は常々聞いております
降り注ぐ光は広域攻撃
機動力の利点である回避ができないくらい、大量に
少しはしたないかもしれませんが、お許しください
あえて同時にビルを砕いて作るのは瓦礫
先輩の攻撃の手助けをします
アダムのおじ様、分身はお任せいたしました
私は光の雨を何度も降らせていきますね

いくらあなたが速いと言えど
光からは逃げられませんよ?



●ナンバーズVSネームドナンバー
「……あれで決着はつくでしょうか?」
「わかっている問いをするな。俺が言うまでもなかろう」
 セレナリーゼ・レギンレイヴの言葉に、アダムルス・アダマンティンは静かに答えた。
 然り。ふたりはいま、ビル街を高速飛行する猟兵たちの戦いを見物していた。
 物見遊山を決め込んでいたわけではない。闇雲に襲いかかったところで無意味だ。
 そして必殺の呪殺弾が敵個体の額を撃ち貫き、彼奴はビルに落下したのである。
 オブリビオンとはいえ、急所は急所だ。普通に考えれば、あれで決着はつく。
 だがアダムルスは言った。"自明の理"。それは倒せたという意味でだろうか。
「望んでああなったわけではないでしょうに、なんと哀れな」
 セレナリーゼは眉根を顰めた。そこには純粋無垢な憐憫だけがあった。
 穢された無垢は救われぬ。瓦礫を振り払い、再び機械じかけの鷲は翔ぶ。
「相応のダメージは入っている。だがまだ……いや、少し違うな。
 あれはおそらく、今この瞬間にも"耐えられる存在"に進化し続けている」
「……厄介ですね」
 セレナリーゼの言葉に、アダムルスは咎めるでもなく顰め面でうなずいた。
「そういうわけだ、"レーネ"。積もる話は後になる。悪いが容赦しろ」
 アダムルスが視線を向けた先――いつのまにか女がひとり。
 ともすれば、戦闘中の都市部に迷い込んでしまった一般人にも見える。
 旅のバックパッカー、はたまたフィールドワーカーといった快活な装いである。
 ……しかし女の左目元に刻まれたナンバーズの刻印が、それを否定していた。
 セレーネ・ブランシュ。ナンバーズのⅫにして、放蕩の女射手。
「はァイ……って、あら? 他のみんなはいないのね?」
「奴らは"もう一方"だ。対処の難しい敵がほぼ同時に現れたのでな」
 アダムルスはにこりともせずに云う。セレーネはわざとらしく肩をすくめた。
「ま、いいわ。見慣れない後輩がいて、目の前には面白そうな敵(エモノ)。
 挨拶はあとでいいわよね? あなたは……うーん、多分"Ⅵ"かしら?」
 視線を向けられたセレナリーゼは、一瞬驚いてからにこりと微笑みうなずいた。
「当たりです。お噂は常々聞いております、セレーネ様。お待ちしておりました」
「あとで詳しく聞きたいわね――っと」
 セレーネは思い出したように、竜巻じみた風が吹き荒れるほうを見やる。
「ボウヤ! 私が遊んであげるわ、来なさい!!」
 それは強敵に対する宣戦布告としては、あまりにもラフで不敵である。
 つまり、ジャガーノート・イーグルの逆鱗に触れる振る舞いだということだ!

 弾丸によって穿たれた頭部の穴は、やはり生きているかのように蠢くコードが塞ぐ。
 イーグルは頭を振り、そしてカメラアイを細めながらその不敵な女を睨んだ。
《次から次へと……まァ、楽しいからいいけどさ?》
 楽しい。猟兵との死闘もそうだが、なによりこの全能感が心地よい。
 一瞬一瞬ごとに、己がもっともっと高まっていくのがはっきりとわかるのだ。
 嗚呼。なんて素晴らしい! やはり自分は何もかもを好きに出来る存在なのだ!
 もっとだ。
 もっと殺し合いを。
 もっと遊ぼう。もっと。もっと!
 それが自分(ジャガーノート)を強くしてくれる。
 どこまでいける? どこへ辿り着く? ワクワクする。見てみたい。知りたい!
 いびつな翼をばさりと拡げ、無数の燕型誘導弾を生成・展開。
 さながらそれは、国ひとつを焦土にせしめんと組織された航空部隊の如く。
 風から鏡像めいた影がひとつ、ふたつ。まったく同じ姿形の自爆特攻霊体。
《消し飛ばしてやるよ、みんな!!》
 快哉めいて叫んだ瞬間――セレーネがパチン、とフィンガースナップした。
 そして、崩れ果てた瓦礫が、ビルが、荒れ狂う竜巻となってイーグルを呑んだ。

 超次元の竜巻、クライシスゾーン。
 セレーネの持つ強力な念動力は、イーグルひとりを丸呑みするには十分。
 大小さまざまな瓦礫が荒れ狂う中を、あの速度で飛行したらどうなるか?
 普通であれば自壊する。セレーネは薄く頬笑み……一瞬だけ驚愕を浮かべた。
 そして今度こそ、愉快そうに笑みを深める。ジェット機じみた噴射音が近づく!
「とことん面白いわね! アダム、サポート出来る!?」
「ことここに至って出し惜しみはすまい。セレナリーゼ、やれ」
「はい! ――ミトロンの書よ、力を貸してください。どうか、力を――!」
 セレナリーゼの刻器が光を放ち、それは天へと高く高く翔んでいった。
 ややあって、空中で試算した光は、無数の光条となって雨のごとくに降り注ぐ!
 ZANKZANKZANKZANK!! くぐり抜ける隙間も存在しないほどの光の雨!
 それらは無事なビルをも倒壊させ、超次元の竜巻の圧をさらに高めていく!
「ソールの創槌よ、生命(いのち)をもたらせ。刻器真撃――!!」
 ごうっ! 封印開放されたアダムルスの神槌が、大気を焦がした!
 プラズマ臭を先触れとして、軌跡が爆裂するように無数の天雷を生む!
 ZZZZZZZZTTTTTT!!! 網目状にほとばしった稲妻が、一体目の自爆分身を撃墜!
「行け、レーネ。本体はお前に任せる」
「大トリ? イイわね、燃えてきちゃう! はりきろうじゃない!」
 崩落した瓦礫の一部が、蛇めいてのたうちながら鉄条網に変化した。
 超次元の竜巻の中へと、神話の大樹めいて伸びゆくそれに、セレーネは飛び乗る。
 そして嵐が来たる。瓦礫も光芒もものともせずに飛来する異形の鷲!
《無駄なんだよ、無駄なのさ! もうこのくらいじゃボクを止められないよ!》
「勝ち誇るにはまだ早いわね」
 セレーネとイーグル、双方の主観時間が泥のように鈍化した。
 数秒あれば風とスピードに呑まれて四散するのは不可避の運命である。
 だのにセレーネは、ゆっくりと、しかし妨害できぬほどの一瞬の早業で、
 己の刻器――すなわち、金色に輝く弓、処女神の名を頂く光弓を構えていた。
 それは希望。
 それは善性。
 それは光。
 正義に非ず。正しさではなく"善きもの"を導き護るための力。
 悪しきを貫き、希望を飲み込む闇を祓い、陽光を世界に取り戻すための力。
 パンドラの函に残された最後のひとつ。災厄を打ち払う唯一無二の輝き。
「最後の希望(ラストナンバー)たる射者、それが私よ。
 ――生き残れるならば、せいぜいお見知りおきを? ボウヤ!」
 光弓アルテミス! ナンバーⅫの刻器にして光輝を示す希望の象徴!
 放たれる魔力の弓は、星のように太陽のように輝くエネルギーそのもの!
 ひとつ、ふたつ、みっつ! 自爆分身個体を貫き、なおも光の矢は止まらぬ!
《はぁ!? 追いつけるわけ無いだろ、ボクに!》
「どうかしらね?」
 見よ。緊急離脱したイーグルの超加速にも、アルテミスの矢は追従する!
 拡散し収束し、物理法則を嘲笑う軌道を描きながら突き進むのだ!
《こいつ……ッ!!》
 そしてなおも降り注ぐ光芒が、今度こそイーグルを絡め取る!
「逃しません。ここで止めます。必ず、あなたの歪みを止めてみせます!」
 祈りは光を呼び、光は裁きの輝きとなった鷲を絡め取る。
 ならばと生み出された分身体は、稲妻を纏う創世の槌に滅ぼされるのだ!
「完成されしクロックウェポンの力、とくと拝め……!!」
 ZZZZZZTTTTTT!! 電磁力が放射され、周辺のビル壁面を溶解させた!
「相変わらずパワフルねアダム、それにナイスよ後輩ちゃん! さあ――」
 アルテミスが、希望のナンバーを刻印した瞳が獲物を捉えた。
「――ブルズアイね!」
 放たれた一射が、風の鎧を切り裂きイーグルを――射貫いた!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

六六六・たかし
【アドリブ歓迎】

どうやらスピードが自慢したいひよっこのようだが
あいにくと俺ではお前の遊び相手にはなってやれん、格が違いすぎるからな。(バカにするように指を差す)
行くぞ───大 変 身 !俺の“まなざしフォーム”に見切れない相手はいない!!


【WIZ】

敵の飛翔攻撃に対して[空中浮遊][武器受け][オーラ防御]を使用しながらいなしていく
相手のUCに合わせてカウンターでUC発動。

UC『六六六悪魔の砲撃(デビルたかしブラスト)』を発射する。

[なぎ払い][スナイパー][誘導弾]により敵のUCを破壊しながらそのまま本体へダイレクトアタック。

俺の前ではどんな速さも無意味だ、なぜなら俺はたかしだから。



●デビルズナンバーVSジャガーノート
《ぐ……ぅうあああっ!!》
 苦悶の悲鳴。
 なぜだ? どうして、ボクがこんな情けない声を出している。
 このゲームは一方的(ワンサイド)で、マスターも勝者もボクのはずだ。
 ボクの思い通りにゲームは動いて、そして勝利していいのもボクのはずだ。
 ジャガーノート・イーグルは考える。どうして自分は圧されている?

 ……足りないからだ。
 力が足りない。
 もっとだ。
 もっと。
 もっと強く!
 もっと疾く!
 もっともっともっともっと!
 出来るはずだ。自分(ジャガーノート)であれば出来るはずだ!
 "だからこそイーグルになれた"のだ。ならばその先へも進めるはず!
 成長(グロウアップ)を。もっと殺し/遊び続けるためのレベルアップを!
「いいざまだな、ひよっこ! スピード自慢の代償は苦しいだろう!」
 その時、六六六・たかしの挑発がイーグルの思考をかき乱した。
 呆然としたように、イーグルは四白眼のヤドリガミを見返す。
《……ひよっこ? ボクが?》
「ああそうだ。だが安心しろ、俺はお前の遊び相手にはなれん。なってやれんのだ。
 ――俺とお前では、格が違いすぎるからな。もちろん、俺のほうが上だッ!!」
 びしぃ! と勇ましく指を突きつけて言い放つたかし。
 イーグルは、挑発を超えた確定的物言いに呆けていた。
 怒り狂うことすら馬鹿らしくなるほどに、この男は己を信じている。
《……ああ、そっか。お前バカだろ?》
「さて? その台詞、試してみるか。お前のその疾さで」

 ――ズシンっ!!

 すさまじい殺意が、周囲の崩落しかけていたビル壁面に亀裂を走らせた。
 たかしは嘲笑めいて目元をほころばせ、デビルメダルを装着する。
「大、変ンン身――!! 行くぞ、格の違いを教えてやるッ!!」
 イーグルはもはや何も言わない。その怒りを示すように、風を爆裂させた!

 弾丸……いいや、それはもはやマグマのような勢いだった。
 周囲の大気と地面、はてはビルを薙ぎ払いながら、嵐そのものが飛翔する。
《お前は――バラバラにちぎれて灼けて、死ねェッ!!》
 風の刃が降り注ぐ。さらに飛来する500以上の燕型誘導弾!
 たかしはぎらりと目を見開き、超高速で飛来する可視不可視の攻撃を見定めた。
 最小限の動きで空中そのものを蹴り、被弾をできるだけ抑え、
 愛用のたかしキャノンを構えトリガを引く!
「デビル! たかし!! ブラストォッ!!!」
《ふざけた名前しやがって! それも全部壊してやる!!》
 バチ、バチバチバチバチ――ドォウッ!!
 眼鏡型のキャノン砲が紫電を纏い、極太のレーザーを吐き出した!
 イーグルは避けぬ。光そのものを風で切り裂き、誘導弾を盾として翔ぶ!
「真正面から来るか? 俺の前ではどんな速度も無意味だと思い知ったらしいな!」
《うるさいんだよ、お前!!》
 ガギィッ!! たかしブレードと風を纏うイーグルの翼が交錯した!
 一度。二度、三度! 風圧がたかしのアーマーを切り裂く。だが退かぬ!
《お前……なんだよ、そのタフネス!!》
「耐えられるに決まっているだろうが――俺は、たかしだぞ!!」
 なんたる不遜。イーグルは喚く子供のように支離滅裂に叫びながら叩く! 斬る! 吹き飛ばす!!
 風と刃の炸裂が衝撃波となって木霊し、新たな瓦礫を生み出しては吹き飛ばし続ける……!

大成功 🔵​🔵​🔵​

バルディート・ラーガ
ハハーン、敵サンはド派手な空中戦をご所望と来たモンで。
こちらも一つ、空で迎え撃つワザをお見せしやしょうかい。
なアに、翼の無いトカゲとて飛ぶ術は如何様にもございやす。

UCで腕を変形、長アい炎蛇をロープめいて繰り出して
そこらの出っ張りやら、敵味方の繰り出す空中オブジェクトを
上手いこと「グラップル」、遠心力の勢いやら爆風も駆使して
トビヘビ宜しく宙を飛び回って見せやしょ。
さながら蜘蛛パワーのアレですとか。巨人とバトるアレ的な。

位置を定めましたらば、暴風に弾かれねエよう
真っ直ぐ見定めたダガーを"宙に置く"要領で「投擲」。
小ちゃな刃ですが、向こうサンから突進して下さりゃア
十分なパワーは見込めやしょうぜ。



●空舞う鷲、機会狙う蛇
《あああああ、クソっ! ウザいんだよ、お前っ!!》
 ジャガーノート・イーグルの、苛立った罵声が嵐の中に響いた。
 然り。いまや崩落したビルを抜け、この都市全体が戦場となっている。
 イーグルの生み出した竜巻が周囲数十メートルを飲み込み、
 さながら超大型台風じみた暴威をあちこちにばらまいているのだ。
「ヒヒヒヒッ、遊びたいとおっしゃったのはアンタでしょうによォ?
 こちとら忙しい身で付き合ってあげてンでさァ、もっと愉しんでくだせェよ!」
 蛇めいたドラゴニアン、バルディート・ラーガの笑い声はいかにも挑発的で癪に障る。
 ましてやその蛇男が、空を自由に飛び回るおのれに追従しているのだ。
 誰よりも疾くそして翻弄することにアイデンティティを感じるイーグルにとって、
 これ以上の挑発はあるまい!

 では、一体どのようにしてバルディートは空舞う鷲を追っているのか?
 彼に翼はない。ましてや、空を自由に飛び回るような力もありはしない。
 バルディートが伝っているのは、まさにイーグルの生み出したオブジェクトだ。
 ……つまり、暴風によって巻き上げられたビルの瓦礫!
 速度も大きさも、もしも喰らえば無事では済まない瓦礫である。
 バルディートは、自らの片腕を燃え盛る炎の蛇に変え、それをロープめいて投擲。
 タイミングと状況判断によって、これを飛び石めいて蹴り渡り、
 果ては敵が生み出す風の勢いすらも利用して飛び跳ねているのである。
 なまじ遠心力や伸縮力を利用しているぶん、その機動は変幻自在で巧妙だ。
 相手の精神の隙を突くバルディートが活用するそれは、もはやマジックの域。
 それがイーグルの堪忍袋をなおさらいじくる。苛立ちを増させる。
《空の上で、ボクを翻弄する気か? ムカつくんだよ、蛇野郎ォッ!!》
 そしてその苛立ちと罵声が、本来必要であるはずの冷静さを失わせるのだ。

 とはいえ、バルディートも決して簡単にこんな芸当をこなしてはいない。
 一瞬でも調整を狂えば、その体は風にさらわれて宙を舞うだろう。
 飛んでくる瓦礫にぶつかればコトだし、敵に動きを悟られてもならない。
(スリルってのアこういうモンだぜ? 小僧)
 口の端を悪魔めいて歪め、心のなかで無垢な怪物を嘲笑う。
 愉快げに歪んだ目つきが、いよいよ暴虐の鷲の堪忍袋をブチ切れさせた。
《殺してやるッ、蛇は地面を這い回ってろよ!!》
「ケケケ、まったく道理でさ! しかしあいにく――」
 バルディートめがけて敵が来る。それこそ彼奴の待っていた千載一遇。
 猛スピードでチャージしたイーグルは、明後日の方へ飛んでいった。
 その装甲に深々と突き刺さっていたのは、鋭利な一本のダガー。
(こいつ……ボクが突っ込むタイミングを見切って……!?)
 急なダメージで方向制御を失ったイーグルが、きりもみ回転しながら落下する。
「あっしは、手癖の悪ィ蛇なンでございやすよ。ヒヒヒ!」
 小馬鹿にした蛇の目線と怪物のそれが交錯し、雄叫びが暴風に木霊した。
 そして、強烈な落下音が、消えていく竜巻を揺らしたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パーム・アンテルシオ
イーグル…たしか、鷲の事だったっけ。
…空を飛ぶ鳥は、自由である限り…翼がある限り…
空にいる限り。地を走る獣なんて、敵にはならないけど。

ユーベルコード…山茶花。
空を飛ぶ鳥を、人は落として喰らう。
私も、ヒトなら…それぐらいはできないとね。ふふふ。
もちろん、闇雲に攻撃したって、当たらないだろうから…

…人は、止まった鳥を狙う。
もしくは…予測する。先を見て、撃つ。
動くものは、速ければ速いほど…方向は、変えにくい。
空まで届く障害物も…この世界の建物なら、ある。

小さくて素早い的を狙うなんて、初めてだけど…
測ってみせる。私は、ヒトだから。

鳥が地に落ちれば…獣は、天敵になる。
その獣は、私の事か。
それとも…ふふ。



●獲物を喰らう獣
《げほっ! けほ、かは……ッ》
 精神の隙を突かれ、痛烈な一撃を自ら食らってしまったイーグルが、
 屈辱と血にまみれながら地面を転がる。完全な隙を晒していた。
(いまなら――いける。自分から地面に落ちてくれるなんて、嬉しいな)
 この隙を逃さず鋭く飛んだのが、パーム・アンテルシオである。
 華奢な体躯に見合わぬ力強い跳躍に、九つの桃色の尾と髪がたなびいた。
 狙いはイーグルの喉元。もはや逃さぬ、この一撃で食い破ってくれよう。
 瞳が狐めいて細まるとともに、ゆらりと体から炎めいた影が現れ、消えた。
 "山茶火(サザンカ)"。それは本来目に見えぬあやかしの腕。
 鬼火めいた青に染まった手は、まさにあやかしのそれのように、
 あわれな獲物を、その魂をかすめとり握り潰す。
 狙われた獲物に逃げ場はない。ましてや、地を転がる鷲など造作もなし。
 殺(ト)った――パームはそう直感し、しかしそこでぞくりと背筋を震わせた。
 なにか、まずい。それは理由なき第六感、あるいは野生の本能だ。
 その瞬時の虫の知らせが、飛びかかりかけた少女をかろうじて押し留めた。

 ――そしてその状況判断は、実際のところ正しかったのだ。
《チッ……!!》
 舌打ちしたイーグルの体が不気味に膨れ上がった瞬間、爆ぜた。
(!! ……分身? 落下したように、見せかけた……!?)
 然り。ジャガーノート・イーグルが生み出す自爆特攻用の分霊だ!
 では、本来はどこに? 先の猟兵との戦いでの不意打ちは入っていたはず。
 落下する最中に、機会を狙う己の存在に気づき、すり替わったというのか?
 なぜ? 当然それは、己を狩ろうとする敵をだまくらかすため。
(じゃあ、敵はいま――)
 考えるまでもない。立場は逆転した、狙われているのは己だ!
「……くっ!」
 パームは空中で姿勢を制御し、ぐるんと回転しながら炎の腕を振るった。
 見えないはずの腕が、鋭く突っ込んできた風の刃に斬り裂かれて消えていく。
 皮一枚。身を捩って回避したことがパームの命を救った。敵は直下から来た!
《何ッ? いまのでボクに気付いただと――》
「……当然、でしょ? だって、私は……ヒトなんだから」
 己を強いて少女は笑い、頭上に垂直離脱したイーグルの影を追う。
 敵は反転して落下してくる。重力がやつのスピードに味方し加速させるだろう。
 だがそれはチャンスだ。交錯の一瞬に――いや、それでは獣と同じだ。
 パームは残っているもう一つの腕で、手近にあった瓦礫を持ち上げた!
《!!》
 イーグルが反転する。その突撃経路めがけ、瓦礫を擲つ!
「こうやって、道具を使って工夫することだって……出来るんだよ」
 いたずらめいた笑みと、突撃したイーグルが瓦礫を避けそこねたのはほぼ同時。
 急制動でコントロールを失った獣めがけ、妖狐は再び炎の腕を伸ばす。
《こいつ、このガキ……ッ!!》
「餓鬼はどっちかな? ……なあんて、ね」
 イーグルが見たのは、己の体を握り潰すように責め苛む、燃え盛る鬼火の腕だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロク・ザイオン
(鳥だ。
鳥のかたちの、鋼の、)
…ジャガーノート。
(相棒の。ジャックの敵で。
救われない、こどもだ)

お前は、人間か?

(もう治らない病葉なのだと解っている。
心が病み歪み果てているのだと解っている。
ただ確認したかっただけ。
――それだけ。)

(「烙禍」で壁を突き崩し
【地形利用】して誘導弾の軌道を操り【薙ぎ払い】で潰す)
たのしくない。
たのしくない。
…ジャックは、そんな風に笑ったりしない!
(同時に瓦礫で空間を狭め、飛び回り難くなるよう仕向ける。
【ダッシュ、ジャンプ】で肉薄、翼を灼き落とし更に機動力を削ぐ。
【鎧砕き】
…その鋼を引き剥がせれば。
愚かな願いを未だに抱いてしまうけれど)

…お前を灼くのは。
おれの相棒だ。



●人間という存在の証明
 ロク・ザイオンは、人間であるとおのれを定義する。
 そしておのれは、人間をおびやかす病を滅ぼすものと定義する。
 ……そうであったはずだ。そうでなければおのれはなんだというのか。
 おのれが、今日まで貫いてきた行動は、その意義はなんだというのだ。
 何度も何度も、これまで味わってきた体験と戦いが、その意義を揺らがせた。
 人間は正しく、清らかで、美しく、か弱く、善きものだと信じてきた。
 だがそうではなかった。そうでない人間(モノ)たちがあちこちにいた。
 ならば、人間であるはずのおのれも、同じように醜いモノなのか。
 あるいは――人間ですらない、獣でもない、もっとおぞましいモノなのか。
 答えは出ない。出せるはずがない。そもそも存在しないのだから。
 少女めいた雌獣は、"答えのない問い"というものを知らない。
 それに対してヒトがどう歩むべきなのかを知らない。
 ただ、迷い苦しみながらもがく、哀れな少女がそこにいたのだ。

 ……それでも、少女には貫くべきものが、貫きたいと思うものがあった。
 人間であること。
 人間をおびやかす病葉を灼くものであること。
 その役目を貫くこと。
「お前は」
 ゆえに森番は問う。傷つき、焼けただれ、その傷を"成長"で覆うモノに問う。
 かつてロクは、"それ"と相対した。
 ジャガーノート。人間を乗っ取り、ヒトでない病に変えてしまうモノ。
 無垢で護られるべき子供の悲鳴を聞いた。
 助けられるはず――だと彼女が考えていた――のいのちが失われるさまを見た。
 誰かがなさねばならぬ役目を背負うモノたちを見た。
 怒りを知った。
 悲しみを知った。
 迷い、傷つき、苦しみ、それでもあがきにあがいてここまで来た。
 ジャガーノート。その名はロクにとって、導きであり友でもあり病でもあり、
 後悔でもあり恐れでもあり、こどもであり守るべきもので敵でもあった。
「――お前は、人間か」
 だからロクは、わかっていてもそう問うしかなかったのだ。
《……お前、バカなのか? ボクが人間に見えるのか? こんな姿で!》
「おれは知っている。お前のような姿の人間を」
 相棒を。約束のために鋼を纏う少年を。怪物を狩る怪物を。
 わかっている。あれはもう救えない。在りようの問題だけではない。
 その心が。もう病んで歪んで壊れ果てているものなのだ。
 わかっている。滅ぼすしかないのだと。それでも確認したかった。
 ただそれだけ――人間らしい、ただのこだわりでしかない。
「答えろ。お前は、人間なのか」
《ハ! ハハ、ハハハハハッ!!》
 高笑いする鷲の傷口が、めきめきと音を立てて塞がれていく。
 いびつだった。あってはならぬ変化だった。森番はそれを嫌悪した。
 咆哮し、飛びかかり、振るわれる燕たちを切り裂いて爆炎を喰らいなお進む。
 灰色の木々(ビル)を飛び渡り、崩れゆく瓦礫を踏み台にして蹴立てて、
 空を舞う鷲に食らいつき、烙印の刃を振るって滅ぼそうとする。
 いつもどおりの狩り。何度も繰り返してきた狩り。
 ただ、高揚も衝動も何もありはしない。ただただ悲しく苦しい殺し合い。
 森番の咆哮は、嘆き哀しむように罅割れていた。

「ジャガーノート。お前は、病だ。お前は灼かれなければならない」
《いやだね! ボクは愉しむんだ。まだまだ、もっともっと!》
「だめだ」
 烙印の刃を振るう。翼狙いの一撃。入った。
 応報の誘導弾が脇腹に命中し、火炎で己を苛む。両者は衝撃に飛び離れる。
 切り落とした翼が、落下していくなかでいびつに再生していくのが見える。
「"それ"は、病だ。だからお前は、人間じゃない。人間に灼かれる、病だ!」
《だったらなんだよ? 出来るのか? お前に!!》
「――」
 脳裏によぎった姿があった。
「お前を灼くのは、おれじゃない」
 イーグルはその鋭い目を見た。そこに何かを見出した。
「おれの、相棒だ。人間として戦う、おれの相棒だ!」
《……ハ、ハハハ、ハ! 居るのか。ボク以外のジャガーノートが?
 それが相棒? ハハハハハ! なんだそりゃ、面白いや! ハハハハッ!!》
「……ッ」
 瓦礫を蹴って反転する。誘導弾を切り裂き、焔に肌を灼かれながら進む。
 再生されようと関係ない。殺すまで狩り続ける。だのにどうしてこんなに苦しい。
 どうしてこんなに泣きたくなる。救えるかもといううたかたの夢がゆえか?
 あるいは――この胸をじくじくと痛めつける、正体不明の苦しみがゆえか。
「おれの相棒を、わらうな。……笑うなァッ!!」
 烙印の焔が、墜ちた病(こども)の鋼に、またひとつ傷を刻んだ。
 その軌跡は、少女が流す涙めいていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と

遊びにしてはちょっと過激な気もするけど……わかった
相手になってあげる
この槍の斬れ味も闇の感触もしっかりと味わっていけばいいよ
君にとっては最期の遊びになるんだから

こいつ、すばしっこい
それにこの階……いつまでもつのかな
こいつに勝っても崩壊に巻き込まれたら意味ないよ
注意の状況をよく見て、危ないと思ったら深追いより移動を優先しよう

初手UCは見切られるかもしれないけど、それも計算のうち
目的は始めから戦闘力を高めることだったんだから
誘導弾はなぎ払って一気に消滅させてあげる
すばしっこい敵への攻撃はヨハンの足止めに期待
敵に負けじと【早業】を、そして高めた力を活かして攻めの手を緩めない


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

勝手に一人で遊んでろと言いたいところですけどね
最期の遊びには同意だ、その通りにしてやろう

動き回る羽虫の相手はしたくないな
元より速さに俺自身がついて行ける事はないと知っている
罠に掛けてみせようか

彼女が相手をしている間に『蠢闇黒』から闇を這わせる
天井と足元とに分け、広範囲に
崩れる建物に合わせ移動しながら誘導し、上下から黒刃を網めいて穿つよう出現させる

どれだけ速かろうと足を止めてしまえばいいだけだ
足止めが叶うならそのままトドメは彼女に託す
決して動けないよう、<全力魔法>と<呪詛>で縛り付けてやろう
罠にかかった獲物の気分を味わうといい



●縛る闇、ぶつかりあう風
 ジャガーノート・イーグルの恐ろしさは、現在もなお成長を続けている点にある。
 その速度、威力、そして残酷さ。嗜虐心……すべてはとどまるところを知らない。
《アッハハハハハ! ふたりがかりでもこんなもの? 他愛もないなぁ!》
 崩落した超高層ビルに代わり、イーグルが飛び込んだ別のビルの上階。
 オルハ・オランシュとヨハン・グレインは、そこで怪物を迎え撃った。
「こいつ、思ってたよりずっとすばしっこい……! ヨハン、移動しよう!」
「……仕方ありませんね。天井をぶち抜きます、合わせてください」
 オルハの言葉に頷き、ヨハンは闇を収束させて足元めがけて一気に放った。
 強烈な槌のように叩きつけられたそれは、がらがらと穴を開けて二人を招く。
 ふたりがそこへ跳躍し脱出した瞬間、階層全域に暴風が吹き荒れた。
 ZZZZZZTTTTTT……柱が斬り裂かれ壁がバラバラに崩され、無残に崩落する。
《ダルマ落としなんてつまらない遊びだなあ? 追いかけっこしようよ!》
「ごめんですね。羽虫相手に、ちょこまか動き回って付き合ってやるつもりはない」
 崩落にあわせて飛び込んできたイーグルを、ヨハンの操る闇が迎え撃った。
 牽制だ。ヨハンの言葉通り、イーグルのスピードに闇はついていけないのだから。
 黒い刃めいた闇が、さながら海原をかき分ける鮫の背びれめいて奔るが、
 イーグルは耳障りな笑い声をあげながら、翻弄するようにそれらを避けてしまう。
「ヨハン、下がって! あいつの相手は私がするから!」
 オルハは翼をはためかせて自らを加速し、突撃してくるイーグルに立ちはだかる。
 ガギンッ!! と音を立て、ウェイカトリアイナと風の障壁が激突した。
 一瞬たりとて気の抜けぬ、達人同士の真剣勝負に似た丁々発止の攻防……!

 しかし、オルハとヨハンは、イーグルに疾さで劣るとしても別の部分で勝る。
 すなわち、ふたりの連携である。
 これまで戦い抜いてきたいくつもの死闘、ふたりで歩んできた経験。
 そのひとつひとつが、ふたりの絆を強め互いの技術と心を育て上げてきた。
 敵が成長を続けているというのならば、若者であるヨハンとオルハも同じ。
 いまこの瞬間にも、ふたりは互いの動きを見、その狙いを理解して予測し、
 自らがより効果的に動けるよう、そしてそれによって相手がさらに戦えるよう、
 言葉なくしてその意図を汲みあって、縦横無尽に立ち回るのだ。
(たしかにこいつは疾い……私一人じゃ、きっと追いつけない。けど……!)
(……俺ではなく、オルハさんの刃が届くようにすることなら、出来る)
 その心は、分かたれていても目的の点で一致していた。
 徐々に。翻弄していたはずのイーグルが、ふたりの連携に圧され始める。
 避けられていたはずの攻撃を喰らい、
 当てられていたはずの攻撃を損ない、
 イーグルの狙いは叶わず、ふたりの連携が叩き込まれていくのだ!
(おかしい……おかしいぞ? どうしてボクの攻撃を、こいつらは避けられる)
 ジャガーノート・イーグルは、声には出さないものの困惑していた。
 速度も、威力も、基本的なスペックはすべて自分のほうが上であるはずだ。
 たかがふたり。ねじ伏せ、吹き飛ばし、遊びのように殺せるはずだ。
 なのにあのふたりは、いまこの瞬間も死なずに果敢に抗い続けている。
 おかしい。そんなことはありえない。遊び手(プレイヤー)は自分なのだ。
《こんなのゲームじゃないだろ、お前ら生意気だぞ!!》
「――いかにもガキらしい理屈ですね」
 激昂に対し、ヨハンはぎらりと刃めいて鋭い瞳で睨み返した。
「まだわかってないなら教えてやるよ。これは、あんたにとって最期の遊びなんだ」
 イーグルは、その声音に、死刑宣告めいた背筋の小声を感じ取った。
 その恐怖を振り払うかのように、イーグルは最大の力を以て風を吹き払う!

 だがその激昂、そしてそれによって生まれる隙こそがオルハの狙いであった。
「行くよヨハンっ、期待してるからね!」
《!!》
 オルハは暴風の目――すなわちイーグルめがけて加速する。
 バカめ、とイーグルはあざ笑った。あの女の攻撃はとっくに見切っている。
 あのウェイカトリアイナでは、自分を捉えることは出来はしない。
 ……だがそれこそ、オルハの計算のうち、すなわち計画通りであった。
 いまこのフロアには、オルハの展開した魔法陣が人知れず広がっている。
 それはヨハンが張り巡らせた闇をアブソーバーとして、ふたりの魔力を繋げ、
 オルハの体に活力として流れ込んでいたのだ。
「捕らえます、あとは任せましたよ」
「――うんっ!」
 闇が、さながら鉄線の網めいて幾重にも絡みつき、怪物を拘束した。
 ちぎり振り払うのは簡単だ。だがその一瞬の停止さえあればそれでいい!
《こいつら……ッ!!》
「この槍から――私たちの狙いから、逃しはしないよっ!」
 本領発揮。本懐たる三又矛の連続刺突と薙ぎ払いが、イーグルの装甲を穿ち、切り裂く!
 怪物の絶叫が響いた。それは紛れもなく、苦悶と屈辱の悲鳴であった!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

非在・究子
お、お前の、ゲームは、そう言う、感じ、か。
(『現実』と言うゲームの世界で、NPCを守る側にはいるが……)
……そ、それはそれで、なかなか、楽しそうだ。
(……暴力的で、非道徳なゲームも、嫌いではない。ゲーム感覚? この『現実』も、何が違うと言うのか? 違いがあるとすれば)
……い、今の、アタシは、『守る側』の、プレイヤー、なんで、な。
お、お互い、恨みっこなしで、ゲームを、楽しもうじゃ、ないか。
で、伝説の、あのコマンドで、フルパワーアップしつつ、シューティングゲームの、始まり、だ。
は、【ハッキング】で、自分の当たり判定を、誤魔化して、ドット単位の回避を、しつつ、反撃を、重ねて、いく、ぞ。



●現実(ゲーム)なくして快楽なし
《クソ、が……ッ!!》
 またひとつビルを崩落させ、ジャガーノート・イーグルは急上昇した。
 その装甲はあちこちが斬り裂かれ、罅割れ、正体不明の液体を垂れ流す。
 ふざけるな。忌々しい。どうしてプレイヤーである自分が追い詰められている。
 ありえない。こんなのはクソゲーだ。こんなのを認めるわけにはいかない。
《ボクが愉しむ側だろ……殺し合いも死闘も、ボクが勝つから面白いんだよ……!》
 それ自体は子供らしいやんちゃな理屈だが、ここにいるのはれっきとした怪物。
 ねじまがった論理は、すなわち歪められた怪物の殺戮本能に過ぎない。
 みしみしと音を立ててヒビが綴じ合わされ、かりそめに修復する。
《許さないぞ……ハハ、そうだ、ボクは怪物(ジャガーノート)なんだ。
 負けるわけない。負けるわけないだろ! 全員殺してやる……お前もッ!!》
 ぎろり。殺意にまみれた歪んだ眼差しが、追撃する機影を睨みつけた。
 コクピットから見返すのは、非在・究子の挑戦的な眼差しである!

 高速機動形態のアバターを纏った究子は、すさまじい速度でイーグルに追従する。
 眼下の町並みは、戦場が都市部全体に移ったことで無残な有様と化していた。
 住民はU.D.Cの手で避難している。おそらく、人的損害はないはずだろう。
 破壊された建物も、この事態が収束すればユーベルコードで修復できるはずだ。
「お、お前の、ゲームは……こ、こうやって、見境なく暴れまわること、なんだな。
 ……そ、そういうアクションも、き、嫌いじゃないぞ。た、楽しいもん、な」
 究子は、笑みを引きつらせるようにして笑う。なにせ彼女はゲーム世界の住人だ。
 ゲームの中なら、誰を殺そうが街を壊そうが法律には問われない。
 それこそがゲームであり、だからこそ究子はバトルゲーマーなのである。
 現実もまた、彼女にとってはゲームのひとつ。何も違いはありはしない――。
「け、けど、いまのアタシは、防衛側(こっち)のプレイヤーなんで、な。
 お前、のゲームには、つ、付き合えるけど、あいにく、対戦するしかない、ぞ!」
 RRRRRIIIIIPPPPP!! リング状のレーザーが究子と追従するオプションから放たれる。
 さらにミサイル! まるで惑星を護る王子めいた過酷な弾幕だ!
《お前、それ……ボクのことバカにしてるのか? ウザいんだよ!!》
「な、なんだ、れ、レゲーは嫌い、か? アタシは好きだ、ぞ、あ、味がある。
 げ、ゲーマーなら、どんなゲームも楽しむのが、ゲームへの礼儀、だろ?」
 ZAPZAPZAP!! 敵の誘導弾をかわし、究子は立て続けにレーザーを放った。
 ジャガーノート・イーグルは、翻弄するような敵の動きを忌々しく感じる。
「ひ、ひひひ! あ、当たり判定はそこじゃないぞ! か、かすり稼ぎ、だ!」
《クッソ、こいつ鬱陶しいな……! いい加減、消えろォッ!!》
 ごうっ! イーグルの放つプレッシャーが高まり、強烈な風を纏った!
 変幻自在の回避でこちらを翻弄するなら、何もかもを吹き飛ばすとばかりに、
 まっすぐに超スピードで突っ込み勝負をつけようという構えか!
「げ、ゲームジャンルが、違うだろ、それ! ――やっぱり、お、お前は」
 究子は、自分が放てるレーザーとミサイルすべてを一点に収束させる。
 チャンスがあるとすれば、ここだ。敵をカウンターで撃墜するしかない。
「ゲーマーじゃ、ない。た、ただの、子供、だな……!」
 BRRRRRTTTT――KRA-TOOOOOM!!
 爆炎が花開く。強烈なソニックブームが、究子を吹き飛ばした。
 だが彼女は見た。その速度故に、弾幕を避けきれず被弾したイーグルの姿を。
「ひ、ひひ。あ、アタシに、ゲームで勝てる、もんか」
 勝ち誇ったバトルゲーマーの笑みを、傷ついた怪物が忌々しげに睨みつける。
 黒煙をあげる怪物は、勢いそのままに地面めがけ落ちていく――!

成功 🔵​🔵​🔴​

リーオ・ヘクスマキナ
ウッワ速ッ?!
……あれ、前にも似たような事言ったような?
とはいえその時の怪人ほど速くはない……気がするし。どうにかなるでしょ!

それに、ちゃんと前回の反省を活かして対策してきたんだよ
擲弾発射器、ザ・デスペラードと口径の合う散弾さッ!(●武器改造
いくら速かろうと、散弾を前に無傷って訳には行かないでしょ。本体は然り、勿論誘導弾の方だって、ね

まぁコレ単発式だから連射は効かないんだけど、そこはそれ。赤頭巾さんも散弾が撃てるから、連携してタイミングに穴を開けないようにするだけさぁ(●援護射撃
あと、撃ちながら機動パターンをちょっとずつ収集するよ。速かろうと、回避先が分かればやりようはあるしね(●情報収集



●かつて、最速を超えた者
 この世界とは異なる場所――すなわち、キマイラフューチャー。
 惑星ひとつを"二分"したあの戦いで、リーオ・ヘクスマキナは一体の敵と相対した。
 最速の風を操る怪人、ウィンドゼファーである。
 強敵たるあの怪人との戦いは、痛み分けに近い苦戦で終わった。
 ……しかし、リーオはあの戦いを、たしかな勝利という形で生き抜いたのだ。
 頭上を超高速で駆け抜けるあのジャガーノート・イーグルは、たしかに疾い。
「……うん、やっぱりアイツよりは遅い……気がする。いや、間違いない!
 悪いね、なら勝負は俺のいただきだ。なにせ今回は準備済みだからさぁ!」
《ボクが遅いだと……? お前、その発言を後悔することになるよ!》
 急反転したジャガーノート・イーグルは、無数の燕型誘導弾をリーオに放つ。
 近距離戦を得意としたウィンドゼファーに対して、こちらは遠距離戦がメインか!
「おっと、そうはいかないな!」
 BLAMN!! リーオは素早く偽装ギターケース"ザ・デスペラード"のトリガを引く。
 特殊な口径の散弾がばらまかれ、飛来する誘導弾と相殺されて爆炎をあげた!
《何っ?》
「いいだろう? ま、あいにくリロードに時間がかかるんだけどね――」
《!!》
 背後! イーグルは振り返りざまに、風の刃を真空波めいて放つ!
 だがその狙いは誤っていた。声がしたはずの場所に、リーオはいない!
 代わりにそこにいたのは……傷を物ともしない、焔を纏う散弾銃の担い手。
 ナタを組み合わせた大鋏を担ぐ、異形のUDC……と思しきもの……の化身である。

 そう、"赤頭巾さん"。リーオにとっても存在が謎であるモノ。
 それがリーオの声を模倣し、イーグルの注意を惹きつけたのだ。
 BLAMN!! 同口径の散弾銃がばらまかれる。イーグルはとっさにこれを回避!
「なるほどね、だいたい見えてきたよ。そのスピード、それに機動性」
 BLAMN!! 今度は本体だ。イーグルは誘導弾を弾幕のように展開し散弾を防ぐ。
 その時にはすでに、"赤頭巾"が間合いに踏み込んでいた。大鋏の一撃!
《クソ……!! あいつ、ボクのスピードを測ってるのか……!?》
 ありえない。怪物(ジャガーノート)となった自分は、無敵なのだ。
 誰にも負けはしない。誰よりも疾い。あんな少年に負けるはずがない!
 吹き飛ばしてやる! イーグルは、風を吹かせながら誘導弾を全方位に放つ。
 さながら竜巻だ。前後左右のどこにいようと、逃れるすべは……ない。

 だから、リーオは敵の頭上にいた。
「さて問題。いまここで俺がトリガーを引いたら、一体どうなるかな?」
《…………!!!》
「行くよ赤頭巾さん、派手にぶちまけようか!」
 BBLLAAMMNN!! 2つの散弾銃が、まったく同時に火を噴いた!
 放たれた弾丸は、風の守りも、疾風のような回避をも無効化し怪物を襲う。
 まさにそれは、人食いの化け物を狩る猟師の銀の銃弾めいて――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
ルーナさん(f01373)と

あら、こういうのは実戦が一番いいと決まっていますのよ
動く的なんて中々用意できませんもの
大丈夫
あなたのしたいようになさって
私は長所を伸ばしていく方針ですから

動く的がいいとは言いましたが
子どもはちょこまかと元気ですこと
ではルーナさんが当てやすいように私が足がかりを作りますわ
刀に構え方や振り方なんてありませんの
斬ってしまえばそれでお終いですから

見切りで動きを読んで斬撃を飛ばしましょう
敵の攻撃はこれで阻害しつつ
でも本体には当たらないでしょう
ならば2回攻撃で斬撃を増やし
高速機動を阻みましょう
こっそり生命力吸収も載せてね

さあ、これで軌道を読むくらいはできるはず
あとは頼みましたよ


ルーナ・ユーディコット
エリ姉(f02565)と

刀を教えてくださいってお願いしたのは私だし
時間取ってくれて嬉しいけど
初回で戦場での実習は予想してなかった
基本的な事は接敵前に訊いておかないと
え、敵がもう来た?そんなぁ

大丈夫……自分に言い聞かせる以外で何時ぶりに言われただろう
したいようにはまだちょっとわからないけど
やれるようにやってみよう

エリ姉が敵をけん制してくれている
なら、いきなりの実戦に私が戸惑っていては始まらないから
私は今出来る事で――邪神落とし承る!

斬撃と爆風が埋め尽くす戦場を良くみろ
私の全速飛翔と奴の移動が重なる点を見出し、翔けろ
捨身の覚悟は出来ている
横槍の激痛には歯を食いしばり
過たず敵を切り裂き地に落とす!



●生きることを望むならば
 ふたりは、これまでいくつもの戦いを――死闘を勝ち抜いてきた。
 結果として見れば同じではある。だが、その過程はどちらも大きく異なっていた。
 千桜・エリシャは、歪んだ歓喜と情欲めいた悦びをもって、楽しげに。
 対するルーナ・ユーディコットは、常に歯を食いしばり恐怖をねじ伏せてきた。
 遺された生命を薪めいて燃やしながら、食らいつくように敵を滅ぼしてきた。
 ……そうしていつしか、ルーナは思った。
 あの日、逃げ延びることで遺されてしまったこの命。
 棄てても惜しくないと思っていた。
 むしろ、勝つために燃やすことが遺された意味だと考えていた。
 けれどそうではなかった。ルーナの中には、生きたいという意志があったのだ。
 遺志ではない。散っていった家族や友人たちのものではない、ルーナ自身の意志。
 ――少女は結局のところ、どこまでいっても平凡な少女だったのだ。

 しかし生きることを望むならば、避けてはならぬ戦いというものがある。
 ましてや、己が手に入れた戦う力で、誰かを――何かを守ろうとするならば。
「って言っても、いきなりこんな実戦は想定してなかったんだけど……ッ!?」
「大丈夫。あなたのしたいようになさって。せっかくの機会ですもの」
 暴風荒れ狂う戦場で、顔を歪ませるルーナに対し、エリシャはにこりと笑った。
 ここが死と隣合わせの鉄火場だとは思えぬほどに、その笑みは穏やかだ。
「私は長所を伸ばしていく砲身ですから。それに――こんな状況は貴重ですのよ。
 ほら、あんなにすばしっこく、ちょこまか飛び回る"動く的"はなかなか……」
 ヒュゴウッ!!
 挑発するようなエリシャの言葉に対し、無数の誘導弾が襲いかかる。
 直後……ヒュカカカッ! と、無数の斬撃が放たれ、これを切り払い撃墜した。
「……なかなか、用意できませんもの」
「…………わかったよ。やれるように、やってみる」
 その鮮やかな剣技に呆けながら、ルーナはマフラーを抑えてうなずいた。
 見据えるのは、爆炎の先に滞空する影。すなわち、ジャガーノート・イーグル。
 無垢な残酷さを持つ怪物は、己を見下す戦士たちに、憎悪の眼差しを返した!

《ボクがトレーニング相手だと? 思い上がりも甚だしいな、ザコのくせに!!》
 イーグルはそう吐き捨て、自らの分身体を生成し、左右に分かれる。
 エリシャとルーナがどちらも近距離戦を得意とするタイプであることを看破し、
 数の利をねじ伏せ、爆殺してやろうという狙いだろう。
 ルーナは敵を目で追おうとし――諦めた。あまりにもスピードが過ぎる。
 獣の感覚を研ぎ澄ませ、目ではなく肌で、あるいはその耳で行く先を感じる。
(大丈夫。……大丈夫、か)
 その言葉を、己が自分に言い聞かせる以外で聞いたのはいつぶりだろう。
 それだけで心が安らぐ。ひとつ上の、姉のように感じた存在の言葉は暖かい。
 ルーナは弾かれたように駆け出す。遅れて、さっきまでの場所が爆発した。
 誘導弾の着弾だ。エリシャはその動きを見て莞爾と微笑み、うなずいた。
「その調子ですわ――刀の構えや振り方なんて、教えても意味はありません。
 畢竟、斬ってしまえば終わりですもの。それを理解すれば、もう十分ですわ」
 薄く微笑み、桜色の羅刹もまた風に乗って跳躍する。
 エリシャの目には見えている。敵の狙い、軌道、目指す先。
 その起点を潰すように、紅色の花弁を咲き誇らせる斬撃が放たれた。
 ひとつではない。十でもない。それはおよそ二百を超える、超速の斬撃。
《……やるじゃないか! アハハハッ、楽しくなってきた!》
「それはなにより。私も楽しませてくださると嬉しいですわね?」
《どうかなぁ? 死ぬのが先じゃないのッ!?》
 KBAMKBAMKBAM!! 無数の誘導弾がエリシャを襲い、切り払われる!
 爆炎が羅刹を飲み込み、弾幕めいて視界を遮る。狙いはこれか。
(――背後。来ますわね)
 エリシャは鋭い殺気を肌で感じ、本体の攻撃を陽動として襲いかかってきた、
 分身体の突撃をひらりと躱す。鋭いカミソリじみた風が、髪を一房持っていった。
 くすりと艶やかな笑みが三日月を描く。なるほど、言うだけはある速度だ。
「けれど、遊び半分で獲れるほど、私の首は安くはありませんわ!」
 さらなる斬撃! 二百と五十のそれを二十重に刻み、およそ五百以上!
 本体と分身体が同時に放った誘導弾、これらをことごとく撃墜する!
《ハハハ! もらったァ!》
 そこへ再び分身体の突撃! 狙いはエリシャを巻き込んだ自爆だ!
「さあルーナさん、これだけやれば軌道を読むぐらいは出来るでしょう?
 出来なければ――あなたではなく、私が死んでしまうかもしれませんわね?」
 その視線は敵ではなく、妹のような少女を見ていた。

 ルーナは瞠目した。
 あろうことか、エリシャは『お前が槍働きを出来なければ自分が死ぬ』と、
 すがるわけではなく試すように言ったのだ。
 自分自身の命を担保に、さあ試練を超えてみろとそそのかしてきたのだ。
(無茶苦茶すぎる……けど、そういうことだよね)
 ルーナは己の全身に蒼い炎を漲らせ、捨て身の心を燃やした。
 だが、それでは足りない。生きようとすることは、そういうことだ。
 自分の命だけではなく、同じように生きる誰かの命も背負うということ。
 なんという重さ。だが――不思議と、重いはずなのに体はずっと軽い!
(翔(か)けろ。あいつの行く先を、私が届く場所を見出だせ。そして、落とせ!)
 ルーナは、突撃する分身体と交錯するように、まっすぐに踏み込んだ。
 そして剣を振るう。爆裂。分身体の自爆火炎がルーナの全身を包んだ。
 退いてはならない。エリシャとすれ違うようにして、さらに前へ。
《こいつ……ボクのことまで攻撃するつもりか!?》
 然り! 突撃軌道の先には、誘導弾を目くらましに放ったイーグルの姿!
「――こんな激痛(いた)みだけじゃ、私は……止められない!!」
 姉の運んだ一撃を、妹がその獣の膂力を以て届かせる。
 風よりも疾き怪物に、捨て身の刃が――生きるための一撃が、叩き込まれた!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

皐月・灯
この燕野郎は、オレ達の力を測る試験薬……ってとこか。
構わねーぜ。見てーんなら見せてやる。
――ああ、てめーに言ったんじゃねーぜ、燕野郎。
てめーの技は、もう見えてんだよ。

誘導弾が着弾する前に、軌道を【見切】って《猛ル一角》で打ち落とすぜ。
数の多さは厄介だが、捌き切れなきゃ【全力魔法】【属性攻撃】で《轟ク雷眼》に切り替える。
コイツの大雷撃なら、広範囲を落とせるだろ。

あとは誘導弾が途切れた瞬間、次を出す前に【カウンター】を叩き込む。

オレの――「オレ」のアザレア・プロトコルは、1番から5番まで。
それ以外は「オレ」の領分じゃねーが……別人格の力は借りねー。

高みの見物決め込んでるヤツに、一泡吹かせてやる!



●高きに在りし者、刮目せよ
 ジャガーノート・イーグル。子供の精神と怪物の力を併せ持つ危険な邪神。
 だがそれですらも、今回の殲滅作戦における最大の強敵たり得ない。
 このあとには、同じほどに強大な……そしておそらくは、それ以上に厄介な、
 猟兵たちを計り試す何者かが、いまも自分たちを高みの見物で見下ろしている。
 その事実を、皐月・灯は腹立たしく思う。
 そして、だからといってジャガーノート・イーグルは弱敵ではないことにも。
「てめー、どこまで分かってやがる? 自分が前座に過ぎねぇってコトをよ」
《はぁ? 何言ってんのさ、お前はここで死ぬんだから関係ないだろッ!》
 短絡的な物言いに舌打ちし、灯は無数の誘導弾を神速のカウンターで撃ち落とす。
 曰く、ボクシングにおけるジャブは、あらゆる格闘技のなかで最速だという。
 魔導拳術を極めた灯の放つ拳打は、もはや人間には視認不可能だ。
 都合五百を超える弾幕のうち、まず百を引きつけた上で回避。
 残る四百のうちの半分を、接近前に拳打の衝撃によって撃墜して相殺。
 さらなる半分をジャブで"撃ち落とす"。灯の格闘戦能力はその絶技を可能とする。
《ハハッ! やるじゃん、けど足りないなぁ!》
「……ッ」
 然り。それでも、誘導弾のすべてを完全に撃墜するには至らない。
 十と少し。撃墜しそこねた誘導弾が、灯の脇腹を中心に着弾し、爆ぜた。
「野郎……! このぐらいで、オレが倒れるわけねーだろうがッ!」
 灯は魔力を被弾箇所に収束させ、薄いヴェールめいた障壁を張っていた。
 爆炎の直撃こそ避けるものの、衝撃がその身を吹き飛ばし、宙を舞わせる。
《もらいッ!》
 そこに鷲が来る! 浮かび上がってきた魚を掠め取る猛禽めいた急滑空!
 そのとき、灯の主観時間は鈍化した。すべてが静止し、彼だけが動く世界となる。

 ……極度集中により、無限めいて引き伸ばされた思考の中、灯は考える。
 "自分"が操るアザレア・プロトコルは、5番まで。だが幻釈顕理には先がある。
 解き放つべきか。敵はそれほどのものか――あるいはそうかもしれない。
(けど、まだその時じゃねー。これは、オレの戦いだ)
 灯は思う。子供のように無邪気に、遊びによって人を殺戮しようとする怪物。
 その邪悪を憎む。忌々しく思う。純然たる怒りが、血潮とともに全身を巡る。
(コイツは、オレの獲物だ。引っ込んでろよ……オレが狩るッ!)
 主観時間が加速する! 灯は魔力をリレイした。防御ではなく加速のため!
《何!? こいつ……死ぬ気か!?》
「死ぬのはてめーだけだ。見えてんだよ、何もかもな!!」
 ガ、ギィッ!!
 灯の喉を掻っ切ろうとしたイーグルと、撃ち込んだ拳が激突し、反発した!
 両者はその衝撃で吹き飛ぶ。体勢を整えたのは灯のほうが疾い!
 崩れゆくビルの瓦礫を足場に、ピンボールめいて三角飛びし翻弄する。
 そしてイーグルの死角を取り、両足をバネめいてたわませて一気に跳躍!
《クソッ、そのまま燃え尽きて死ねよ!!》
 燕型の誘導弾が放たれる。苦し紛れの弾幕だ。
 しかし、そこへ突っ込むのは自殺行為。はたしてどうする!?
「見てーなら見せてやる――オレの、オレだけのアザレア・プロトコルをな!」
 《猛ル一角(ユニコーン・ドライブ)》!
 撃ち落とすのではなく、鋭く研ぎ澄まされた一撃が弾幕を"切り裂いた"!
 強烈な風圧により、誘導弾のほとんどは灯をそれて四方八方に着弾、爆砕!
 防御に回り耐えるなど、灯のスタイルには合わない。そんな性ではない。
 前に。まっすぐに突き進み、幻獣の角のように獲物を突き刺し、滅ぼす。
 そのための力だ。ならば速度よ、風よ、我に従い我が追い風となれ。
 傲岸不遜な少年の意気が大気をねじ伏せ、そして思い描いたとおりに空を舞う。
《――!?》
「一泡吹かせてやるよ……痛めつけられる側の気持ち、味わいやがれッ!!」
 魔力によって空中を蹴り、ダメ押しの加速!
 身構えようとしたイーグルの土手っ腹に、もう一方の拳が叩き込まれた!
《がはッ》
 イーグルは畏れた。その力を。その意気を。そして、色の異なるその瞳を。
 灯の瞳の奥に揺らめく、あらゆる邪悪を憎む、けして折れぬ強き心の輝きを。
 それこそが、彼の武器であり拠って立つべき輝きなのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

勇者甲冑・エスセブン
ゲーム感覚で戦う敵、か。私もまた、地球文明のRPG文化の系譜の末裔。強き敵に心躍らせる気持ちは理解はできる。
だが、弱者をいたぶり、そして殺戮そのものを悦ぶ感性は見逃すことはできない!

いかんせん、私の習得した技には高速飛行する相手に向いたものは少ない。ならば、味方が彼に攻撃する隙を作るとしよう!勇者は一人で戦う者ではないのだから!
彼の召喚する分身体が得意とするのは自爆特攻。ならば、私がその攻撃を引きつけよう!
コマンド選択、▶︎におうだち!
大技を使おうとしている味方や、攻撃後の隙を突かれそうな味方の前で防御体勢を取ろう!
私は勇者甲冑・エスセブン!君たちへ攻撃は通さない。安心したまえ!


トルメンタ・アンゲルス
成程、大量殲滅の機会ですか。
いいですねぇ、一気に叩きましょう!

さぁ、全力で走ろうか相棒!
変身!アクセルユニゾン!
『MaximumEngine――Mode:Formula』

どうやらそこそこ速いようですが、俺ほどではありません!
超スピードのダッシュで縦横無尽に駆けまわり、追走しましょう!
第六感や見切りで、奴の動きを先読みして打ちましょう!

地底空間なら全方位が俺の足場ですが、建造物で戦うのは面白いですねぇ。
ビルの壁や窓、何なら建物を縦一直線に、追撃のブリッツランツェで蹴り穿ってやりますよ!



●蒼き装甲、ふたつ
 ガガガガガガ――ッ!!
 突如として、戦場と化したUDCアースの都市のあちこちが粉砕崩落する。
 傍目から見れば、まるでかまいたちのように突然に、
 前触れもなく建物が砕けて、ズズン……と崩れたようにしか見えない。
 だが、違う。常人には――いいや、達人ですら見切るのは難しい速度で、
 ふたつの疾風が交錯し、複雑な都市を駆け抜けてぶつかりあっているのだ。
『へぇ、ここまで俺のスピードに追いついてくるとは! なかなか優秀ですね!』
《ほざけよ猟兵、それはボクの台詞だァ!》
 ジャガーノート・イーグル!
 それに追従するのは、蒼き装甲を纏う最速のスターライダー。
 すなわち、トルメンタ・アンゲルスである!
『おや? これは意外だ――俺にスピードで勝てると思っているとは!』
 星の世界で最速を極めた女猟兵は、装甲の下で不敵な笑みを浮かべた。
 そして、さらなる音をも置き去りにした世界に身を投じる。
 物理法則を捻じ曲げ、光すらも後にするような、圧倒的スピード。
 ジャガーノート・イーグルは、言葉にこそしないものの、その速度に驚嘆した。
 そして、ヤツもまた笑った。最速を争うこの死闘のスリルを愉しむゆえに!
《アハハハッ、まだまだァ! ボクが負けるわけないだろ!》
 ガガガガガガガッ!! と、ソニックブームでビル街が崩落する。
 上下左右、都市ひとつを舞台としたふたりの戦いは誰にも追いつけない――。

 ……だが、そんな死闘を、静かに見つめる視線がもうひとつあった。
 そちらもまた、3メートルに近い巨大なフォルム……蒼い甲冑装甲である。
 その名を、勇者甲冑・エスセブン。ずいぶんとケレン味の強い名だ。
 まるでゲームの世界から抜け出てきたような、ステロタイプなその甲冑は、
 すなわちエスセブンが"ある理想"に殉じて製造されたモノであることを示す。
 "勇者"。その名のごとく、勇ましき者たれと、そうあることをエスセブンは尊ぶ。
 あの無垢な怪物は強敵だ。いかにあの蒼き甲冑の戦士――つまりトルメンタ――が最速の戦士であれ、決して油断していい相手ではない。
(一瞬。あのドッグファイトの均衡を終わらせるための一瞬さえあれば……!)
 そのために、己は何が出来る? エスセブンは考えた。
 そして演算回路によぎったプランを、彼はためらいなく選択肢た。
《……? なんだ、あのデカブツ?》
 一方ジャガーノート・イーグルは、軌道上に割り込んできた巨大な影を訝しんだ。
 それは言わずもがな、ビル屋上から飛び降りたエスセブンである。
《邪魔なんだよ、ボクに追いつけない木偶の坊は消えろッ!》
 そしてユーベルコードを発動し、己の分身を生成してけしかける。
『いいや、そうはいかない。なぜならば――私は、勇者だからだ!』
『! あれは……なるほど!』
 ジャガーノートに突撃する隙を伺っていたトルメンタは、その意を察した。
 すると彼女は、イーグルに近づくのではなく、あえて距離をとって離れたのだ。
 なぜだ? それでは、エスセブンがイーグルの攻撃の的になってしまう!

 ――いいや、それこそがエスセブンの狙いだったのだ。
『たとえその身を以て私を滅ぼそうとしても、邪悪な者に私は負けない。
 この身は正義をなし、そして私以外の勇者を護るための装甲(よろい)だッ!』
 ガギン――! エスセブンは、真正面からイーグルのチャージを跳ね除けた!
《こいつ……硬いな。だったら吹き飛んじゃえよ!》
 当然のように、イーグルは自らの分身に自爆特攻を命じる。
 跳ね除けられた分身が、さらなる加速を伴ってエスセブンにぶつかった。
『甘いな、ジャガーノートよ。君はさっきまで誰を相手にしていたのか、思い出せ。
 私のような"木偶の坊"に手をこまねいていていい状況かな……ッ!?』
《……!!》
 まさか。イーグルの感じた悪寒は、まさにその直後の状況を指し示していた。
 自爆特攻によってエスセブンが爆炎に包まれた瞬間、それはやってきた。
『なかなかのスピードでしたよ――ですが、あなたには足りないものがあるッ!』
 トルメンタ! イーグルのすぐそばのビルを隠れ蓑に、それをぶち抜いたのだ!
 回避しようとするジャガーノートを、強烈な蹴撃で槍めいて突き刺すと、
 そのまま向かいにあったビルのフロアに叩きつけ、上方へ蹴り飛ばす!
『それは! 注意力、連携、仲間、集中力、戦術眼――ですがなによりもォ!!』
《が……ッ!!》
 ズドドドドドドッ!! 下から上に、ビルフロアを突き抜ける光の矢!
 イーグルを天へと蹴り上げる、トルメンタのまっすぐな軌跡!
『――あなたは、俺よりも遅かった。それだけの話です』
 崩落するビルを背景に、トルメンタは最後の一撃を叩きつけ、言った。
 その視線は、吹き飛んでいくイーグルからエスセブンのほうへと移る。
『見事な速度だ、やはり君は勇者だったな!』
『呆れた頑丈さですね……真正面から攻撃を受けて無事とは』
 あちこちが焼け焦げながらも、サムズ・アップするエスセブンに呆れてみせる。
 だがその声音には、勇気ある者に対する、少なからぬ敬意が宿っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鳴宮・匡
“ジャガーノート”というのなら
それは、対峙すべき相手だろう
守ると決めた誰かにとっての敵なのだから

ビル内で待ち伏せ、迎え撃つ

【六識の針】――動体視力を極限まで研ぎ澄ます
ああ、速いな
眼で捉えられても
「人間」の体で追いすがるのは不可能だ

だから、動きの先を読む
どんなに速度があろうと、建物の中だ
軌道は限られる、出来ることだって無限じゃない

何をしてくるかを、相手の性格や、言動
――“ひと”の部分から読み取り
カウンターのような形で一撃を見舞う

不格好だし、……殺せやしないだろう
でも、今日のところはそれでいい

来てるんだろ、ジャック
あとは託すよ
これは、お前の戦いだから

ああ、しかし
……“ひと”に向き合うのは、苦しいな


ミコトメモリ・メイクメモリア
■ジャックと
「……ジャガーノート、因縁がないわけ――はないよね」
「キミが望むなら、力を貸すよ、お互い様だろ?」

ジャガーノート・ジャックの支援に徹するよ。

「……今、なんて言った?」
敵が口にした名前。
ああ、そうか、もしかして。
だから「彼」が居た場所に、キミも“居た”のか――。

(――――二人の関係は気になるけれど)
(ボク個人の疑問は、今はどうだっていい)
(生きて帰れば、いくらでも機会はあるのだから)

「そんなに飛び回るなよ。全く機敏だな」
「旧友なんだろう? ――――もっと側で話してやれよ」

《君を送る記憶の欠片》――イーグルを、ジャックの眼前に移動させる!


ジャガーノート・ジャック
◆ミコトメモリと
(ザザッ)
この姿でお前と向き合うのは初めてだな。

――死闘を望んでいたな。いいだろう。
此が本気での
そしてお前との最後の勝負だ、ジャガーノート・イーグル。
――その為に力を借りたい、ミコトメモリ。

(ザザッ)
"経験予知"。
お前の戦闘方法は既に知っている。超速機動を予測回避、ミコトメモリへ飛ぶ燕も熱線で狙撃し撃ち落とす(援護射撃)。

――"シズカちゃん"と。
その名前で呼ぶな。

――質問は後で聞く、ミコトメモリ。
――援護に感謝する。

チャージした至近射撃にてトドメを。
これで終わりだ。
(零距離射撃×力溜め)

最期まで笑うんだな、"鷲野"。
何故笑える。
――最期まで
お前の事は良く解らなかった。
(ザザッ)


ヴィクティム・ウィンターミュート
…ジャガーノートか
ジャックの追ってるUDCだったな…こいつも寄生された一体か
前に見た時は随分とプレーンな雰囲気だったが…なるほど、特殊個体ね
オーケー、それなら手を貸そう
新しい手札で、叩き落としてやるさ

俺の手札の特性上、どうしても後半にフォーカスするしかねぇ
戦術指揮をしながら、【見切り】【ダッシュ】【早業】で攻撃を回避しつつ、右の仕込みクロスボウ、左の仕込みショットガンで【二回攻撃】していく
…いいぞ、もっと傷付け
もっと愉しめ、スリルを求めろ
その驕りが、お前を殺す

セット──『Dead Mark』
今までお前に刻まれた傷、その全てが…50倍以上に膨れ上がる
さぁ──トドメ刺しな
この舞台の主役は、お前だぜ



●怪物の終わり
 崩れ果てた瓦礫の中から、見るも無惨な怪物の成れの果てが現れた。
 ジャガーノート・イーグル。装甲は罅割れ、砕け、もはや満身創痍だ。
 ……だが。怪物は両手を鉤爪めいてこわばらせ、背中をそらして哄笑した。
《アッハハハハハ! 最高だよ――最高じゃないかッ!!》
 その笑い声に応じるかのように、あちこちの傷が内側から縫合されていく。
 それは、映像の逆回しじみた再生ではない。
 ヒビの下で、機械的なコードが、芋虫めいて蠢いているのが見える。
 非生物的な怪物の、あまりにも生物的すぎる"修復"は、とてつもなく不気味だ。
 それこそが、ジャガーノートという邪悪なUDCオブジェクトの正体。
 ヒトの体を乗っ取り、精神を歪ませるモノの、成長している証なのだ……!

《――やはり、リアルタイムでの成長を続けているか》
 これまでのダメージを、禍々しく修復・再生するさまを、静かに観察する鋼の豹。
 ジャガーノート・ジャックの声音に、驚きや困惑のたぐいは見当たらない。
「"やはり"……か。キミは、あれを知っているんだね。その名の通り」
 その傍らに立つミコトメモリ・メイクメモリアの面持ちは、複雑そうだった。
 当然だ。彼女は、ジャガーノートの名を持つモノ同士の因縁を知らない。
 戦友である彼の願いに応じ、支援役としてここへやってきたのだから。
 それでも、問うことはない。答えられるはずはないし、その必要もないのだ。
 けれど。
「ねえジャック、キミは――」
《……ミコトメモリ。すまないが、会話はそこまでだ》
 豹は言葉を遮った。その視線は、迫りくる鋼の鷲を見据えていた。
 ゴウ――スピードによる暴風とともに、荒ぶる怪物がふたりの目の前に現れた。
 鋼の豹と、鋼の鷲。
 どこか似通った二体の"怪物"が、じっと相対し、互いを見据える。

 ――ふと。
《……アハハ》
 ジャガーノート・イーグルが、笑った。堰を切ったように爆笑する。
《アハハハハ! アッハハハハハ!! なんだ、お前、なんだよそれ!》
「……?」
 ミコトメモリは訝しんだ。イーグルのそれは、戦闘の高揚とはまた違うものだ。
 たとえるなら、街角で見知った旧友に、それと知らず出会ったときのような。
《同類(ジャガーノート)が居るとは聞いてたけどさぁ、アッハハハハ!》
《――ロクもここに、来ていたのだな。無理もない》
 イーグルの言葉から、相棒が交戦したことを察し、ジャックは頷いた。
 ミコトメモリは、その落ち着きようも怪訝に思った。
 ジャックは……あのイーグルの反応を、当然のものとして受け入れている……?
《――この姿でお前と向き合うのは初めてだ、ジャガーノート・イーグル。
 しかし"一度目"を、お前は覚えていまい。本機に敗北した、あの無様な自滅を》
《自滅ゥ? ハッ、ボクがお前に負けたって? そんなわけないだろ!
 ――ずいぶん口が悪くなったんじゃないか? なぁ? "シズカちゃん"?》
「…………え?」
 イーグルが発した名前に、ミコトメモリは我が耳を疑った。
 ジャックを見やる。鋼の豹は、その声音になんら驚くことは――いや。
《――……"鷲野"。その名前で『僕』を呼ぶな》
《アッハハハハハ! どうしてさ? 自分は怪物(ジャガーノート)だからって?
 それこそお笑い草だろ! お前は弱虫でのろまなシズカちゃんなんだからさぁ!》
 みしりと、ジャックの装甲が音を立てた。内側から軋むように。
 精神的成長を遂げ、かつてのハリネズミめいた姿から変異したはずのそれが、
 あまりの怒りと殺意に反応し、"退行"しかけているのだ。
「…………シズカ」
 同じ名を呼ばれた。不思議なことに、それがジャックを……"彼"の頭を冷やした。
 ミコトメモリを見やる。その瞳には、変わらない黒の鋼が映っていた。
《――ミコトメモリ。質問はあとで聞く。だがいまは、力を貸してくれ》
 そしてやや逡巡するような間を置いて、言った。
《――これは、"ジャガーノート・ジャック"としての、キミへの嘆願でもある》
「…………」
 ミコトメモリの胸中に、あまりにも多くの想いが去来した。
 そして少女はふっと笑い、頭を振っていった。
「わかったよ。最初からそのつもりで来たんだ、いまさら言われるまでもない。
 ……生き残れば、そんな機会はいくらでもあるんだからね。うん、だから――」
 ふたりは、もう一体の怪物を、真正面から見据えた。
「あいつを倒そう。ボクたちの力で」
《――ああ。ジャガーノート・イーグル。これが、お前との最後の勝負だ》
 決意の言葉に対し、鷲の怪物は狂ったような笑い声で応えた。

 ジャガーノート・ジャックという怪物のことを知る猟兵は、数多い。
 だが彼が何者であるか――その装甲の下に秘められた事実を知る者は、少ない。
 そんな数少ない例外が、ふたり。この戦場に、人知れず潜んでいた。
『そういや、"あの仕事"はもう4ヶ月も前だったか? なんだか懐かしいな』
「……そうだな。正直、そんな懐かしむようなことでもないけど」
 短距離通信で届けられたヴィクティム・ウィンターミュートの軽口に対し、
 息を潜めたまま、鳴宮・匡は瞑目して応える。彼はその全神経を、
 外から聞こえてくる無数の交戦音、その対峙者たちの一挙一動に割いている。
 およそ4ヶ月前。まだ、夏の気配が近づいてくる前の5月のことだ。
 ふたりは多くの仕事と同じように、このUDCアースで"ある依頼"に取り掛かった。
 VRゲーム機に擬態、一般人の少年少女を寄生・支配するUDCオブジェクトの破壊。
 ……すなわち、"ジャガーノート"の幼体を捜索し、発見するという仕事。
 そう――ふたりは知っている。ジャガーノートというモノの存在を。
 その生態を。
 その所業を。
 その末路を、
 なにをもたらし、何が犠牲になり、何が起きるのかをよく知っている。
 だからこそ、同じ名を持つ怪物の鎧の下の真実を、よく知っているのだ。
 彼らは――そうして奪われた子供(モノ)を、見届けたのだから。

 ビル外の戦闘音が、徐々に徐々にふたりの潜伏地点に近づいてくる。
 ヴィクティムの計算上、彼らの戦いがここへ及ぶ可能性は非常に高い。
 そこを不意打ちする。そのプランは、匡の目的と合致していた。
『"あのジャガーノート"は、あの時見たヤツとは随分姿が変わってたな』
「そういうUDCなんだろ。……どんな姿をしていようと、違いはないさ」
『"なんであろうと敵なら殺すから"、か? チューマ』
 ヴィクティムの声に、匡は少しだけ言葉を途切れさせて、それから言った。
「――いいや。これは俺の戦いじゃない。もうそういうのはやめにしたんだ」
『……そうだな。ちょっと意地が悪かった。緊張してるように聞こえたからよ』
「いいよ。馴れないのは、きっとこの先も一緒だろうからな――」
 匡の言葉には様々な感情が込められているようで、平易にも聞こえた。
 その瞬間、ふたりが潜むビルフロアの壁が、派手に崩落し、声は遮られた。
『ミッションスタートだ。行くぜ』
「ああ。あいつの戦いを、支援してやろう」
 それは戦友に対する手向けであり、"少年"に対する餞別でもあった。
 ただそれ以上に、ふたりがこの戦いに込めた思いには、もっと別のものがあった。
 ……どうしようもなく手を汚し尽くしてしまった、ろくでもない人でなしの、
 それでもヒトであることにすがるような、そんな感傷めいた気持ちが。

 ジャガーノート・イーグルは、愉しんでいた。
 当然だ。こんな死闘を楽しまずに、一体何を愉しむというのだ?
 練度。
 実力。
 性能。
 すべてにおいて規格外だ。ああ、当然だ。なにせ相手は"同類"なのだ。
 支援に徹しているあの女もいい。実に殺しがいのある天敵だ。
 だが。だがそれ以上に。何よりもイーグルを――鷲野・翔と呼ばれた子を愉しませるのは。
《大したもんじゃないか、シズカちゃん! アッハハハハハハハ!!》
 あのうじうじと背中を曲げていたいじめられっ子の、この健気な頑張りよう!
 それが面白い。たまらなく笑える! おかしくておかしくて仕方がない!
 何が"本機"だ。何が"ジャック"だ。バカバカしい。そうやって今までやってきたのか。
《可哀想だねぇ、辛かったねぇ? お仲間にも黙ってなりきってたんだろォ?
 かっこいいなぁ、不死身の兵士ジャックってか? アハハハ、バカバカしい!!》
 かつて鷲野・翔と呼ばれた少年は、どんなものでも手に入れることが出来た。
 運動も、勉強も、なんなら他の分野でだってずっと一番だった。
 ゲームも漫画も、欲しがれば両親(あいつら)はなんでもくれた。
 それをありがたがって、クラスの馬鹿共(ともだち)もたくさん懐いてきた。
 怒られることなんて一度もない。当然だ、自分はいい子なんだから。
 わがままを言えば叶えてくれて、それがたまらなく嬉しかった。
(――いや、嬉しくなんてなかったか。だって、当たり前だもんな)
 冷えた思考で、イーグルは思った。別に、嬉しいと思ったことはない。
 望めばなんでも手に入る生活。誰もが称えて褒めそやす日々。
 つまらなかった。どいつもこいつもただのバカに見えた。友達も、親も。
 楽しいのにつまらなくて、満足しているはずなのに飽き飽きして。
 そんなある日、この力を手に入れて――ああ、本当にそれからはずっと楽しい。
 そこに、"あいつ"だ。笑える。ウケる。あんな無様なことがあるか?
《ほら、カッコつけてみろよジャック! 兵士なんだろ、ヒーローなんだろ?
 悪いヤツはここにいるよぉ~~、ヒーローみたいにやっつけてみろよ、アハッ!》
 BRATATATATATATATA。ジャックは何も応えずにガトリングをばらまく。
「さっきから、趣味が悪いな……そんなに飛び回るなよ!」
 ミコトメモリは嫌悪感に顔を顰め、視線越しに術式を発動しようとする。
 だが、敵はあまりにも疾い。翻弄するようにイーグルはその姿を消失させた。
 ガトリングを回避し、ミコトメモリを殺そうと死角を――ZAP!
《――相手は本機だ。死闘を希望していたのはお前だろう、"鷲野"》
《ヒュウ! かぁっこいいねぇシズカちゃん! カッコよすぎてキモいよお前!!》
 熱線によるインターラプトを回避したイーグルは、ジャックをあざ笑う。
「おいおい、楽しそうじゃねえか。だったら俺も混ぜてくれよ、なあ!」
 そこにヴィクティムの横槍だ。クロスボウとショットガンによる二重射撃。
 サイバーパーツをオーバーロードさせ、怪物に匹敵するほどの高速軌道。
 両腕に仕込まれた暗器からの不意打ち射撃すら、イーグルはあざ笑い回避する!
《ザコは引っ込んでろよッ!》
「その言葉はそのままお返しするぜ? お前はとっくに狩り場の獲物さ!」
 応報の燕型誘導弾をきりきり舞いで躱し、ヴィクティムは皮肉げに笑う。
 三対一。イーグルはその数的不利を、脅威的な速度を暴風と破壊で補う。
 近づくことは出来ない。それを捉えることも、ヴィクティムには不可能だ。
「ジャック! こっちはお前を支援する、派手にやれッ!」
《――感謝する、ヴィクティム。ヤツは確実に滅殺しなければならない》
 BRATATATATATATA!! リンクした射撃が一斉にイーグルを襲う!
 一瞬ごとに切り替わる状況の中、ミコトメモリは思った。
 彼はどうして、あんな鎧を纏って戦っている?
 どうして、それを自分には教えてくれなかった?
 一体なにがあるのか。
 どうしてそこまでするのか。
 だが問わない。それは生き延びたあとですることだから。
 過去に目を向けている時間はない。これは未来を掴むための戦いなのだ!

 その極限の交錯を、ただじっと見つめ続けている男がいた。
 匡。ただの人間でありながら、研ぎ澄まされた超感覚を持つ男。
 だがその心はとうに擦り切れていた。心と呼ぶべきものがあるのかどうか。
 必要ないと思っていた。殺戮のためにはただの邪魔(ノイズ)なのだから。
 揺らぐことなき鋼の兵士。怪物たるジャックもそうだと思っていた。
 だがそうではなかった。彼は、自分よりもよほど"ひと"だった。
 その鋼の下の真実を知った時。
 それを明かされ、思いを聞いた時。人でなしは思ったのだ。
(俺は、お前とは違う。怪物ですらないただの人でなしだけどさ――)
 隠れていた匡は、あえて身を晒した。怪物に成り果てた子供がそれを捉える。
 あの時の光景がリフレインする。

 "たすけて"と、あの子供は言っていたか。

 それでも、"彼"が覚悟を決めていると知っていたから、匡は戦った。
 知っていた女が泣き叫んでも、拒んでも、懇願しても、やめなかった。
 自分は人でなしだ。子供だろうが、誰を殺すことにも心は傷まない。
 痛む心がない――と、あのときは思っていた――のだから。
 だから殺した。自分が最期をもたらしたわけではないが、意味は同じだ。
 その時の光景は目に焼き付いている。この眼は、多くのモノを捉えられる。
 捉えてしまう。そういう風に成り果てた。それでもこれは人でなしの力だ。
《死ねよ――死んじまえッ!!》
 怪物が突っ込んできた。匡は逃げることなく、それを真っ向から見据える。
 わかる。自分は人間だが、ひとではないのだから。
 力に溺れた怪物が、どのようにヒトを殺そうとするのかよくわかる。
 それを見、動きを聞き、思考を察知して、かろうじて攻撃を避ける。
 音を超えた暴風が体を吹き飛ばし、一瞬のなかで鍼よりも細き機を捉える。
 BLAMN――か細き銃声は風の中に消える。弾丸が、鷲の怪物を捉え、崩した。
 自分は不格好だ。それでいい。人でなしの戦いがきれいであるはずはない。
(苦しいな)
 痛みはいい。そんなものは馴れている。
 ただこの、"ひと"に向き合う苦しさだけは――馴れられそうにない。
 一番不格好だったのは、そんな苦しみに歪む、青年の表情だった。
「愉しかっただろ? けどな、何事にも"代金"は必要だぜ」
 匡の穿った銃痕は、おびただしく寄生植物めいてイーグルの体を覆った。
 死の印(デッドマーク)。ヴィクティムが切った手札である。
 これまで受けてきた傷が、不相応な成長で補ってきたそれが、いま。
 電脳魔術によって膨れ上がり、再生し、怪物を締め付ける楔となった。
《アアアアアアアッ!?》
「味わっとけよ。釣りはいらない、なにせお前はもう"終わり"だ」
 ヴィクティムは言った。そして、"彼"を見やった。
「――トドメ刺しな。匡も、お前に託すためにここへ来たんだ」
 それは端役の台詞だった。ただ、込められたものは、
「この舞台の主役は、"お前"だぜ」
《――感謝する》
 ジャックは銃を構えた。そして、級友を捉えた。

 かつて鷲野と呼ばれた少年は、思う。
 その過去をミコトメモリは見た。そして、悲しそうに言った。
「――こんな状況でも、笑うのかい、キミは」
 然り。怪物は笑っていた。愉しそうに。悲しそうに。
 ZAP――その呪われた怪物の生を、弾丸が終わらせる。
 怪物は、怪物によって滅ぼされるのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『六一六『デビルズナンバーまきびし』』

POW   :    悪魔の忍刀(デビルニンジャソード)
【忍者刀】による素早い一撃を放つ。また、【魂を削る】等で身軽になれば、更に加速する。
SPD   :    悪魔の巻物(デビルスクロール)
いま戦っている対象に有効な【忍法が記された巻物】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    悪魔の撒菱(デビルカルトロップ)
自身の身体部位ひとつを【まきびし】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。

イラスト:FMI

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●蹂躙
 かくして、超高層ビルを崩落させ、周辺都市部にまで広がった戦いは終わった。
 偶発的召喚による、邪神・ジャガーノートイーグルの抹殺。
 それはすなわち、その身柄を狙っていた"あるもの"に対するファーストアタックだ。

 では、予知されていた"それ"は、この状況をどう見ていたか。
『残念だ。実に残念だ。あれはとても優れていた殺戮兵器だっただろうに』
 闇のなかで、"それ"は感情のこもらぬ声音で言った。
 猟兵。力強き天敵ども。それらの戦いを――そう、ここに至るまでの過去をすら――"それ"はたしかに知覚していた。
『しかし、ならば、私はキミたちを試すとしよう。私たちの天敵よ。
 キミたちは強い。その強さは、もっぱら他者のためにも発揮される』
 闇から滲み出るようにして、いくつもの朧な影が生まれた。
 デビルズナンバー。殺人に特化した、謎多き殺戮オブジェクトの六・一・六。
 霞めいて朧な、忍びの如き姿をしたそれらが、指示を待つ。
 "それ"は言った。
『行きたまえ。キミたちは、ヒトを殺すために生まれたモノだ。その本分を果たせ。
 ことごとくヒトを殺し、殺そうとすれば、きっと猟兵(かれら)も応えてくれるさ』
 そこに憎悪はない。嗜虐もない。ただ当然のような殺意があった。
 デビルズナンバーは、消える。風めいて姿を消す。
 己の本分を――殺人を果たす。そのためだけに。

『HQ、HQ! "落ち葉拾い"から報告!』
 そしてUDCアース、市街地!
 周辺都市部からギリギリで一般市民の救出・避難誘導を終えた機動部隊は、
 恐怖と混乱にまみれた声で言う。
『多数のUDC発生を確認! 数は……100、いや200……け、計測不能!
 目標群は猟兵ではなく、我々のほうに接近している! 敵の狙いはあちらだ!!』
 然り。デビルズナンバーは、逃げ延びた――あるいは逃げようとする人々を、
 その一切を鏖殺するために動く。蹂躙しようとする!
 疾すぎる。猟兵でない者たちにそれを捉えることは出来ない!
『こ、このままでは我々は……民間人は全滅だ! HQ、応答を!!』
 急げ、猟兵。敵は最悪の形で、あってはならぬ手を打った。
 無辜の民の命が奪われようとしている。戦場と化したこの都市のあちこちで。
 地上で、地下で、建物の外で、中で、老若男女の区別なく。
 意識ある者も、失われた者も、戦える者も、そうでない者も、
 殺人オブジェクトは分け隔てなく、平等に、対等に、区別なく殺そうとする!
 急げ! 理由なき血を、邪悪なるモノどもに流させてはならない!
 生命の慮外たるその力を、敵は識り対応してくるとしても――!

●業務連絡
 第二章では、集団敵が一般市民およびUDC機動部隊の虐殺を狙い活動します。
 戦闘はビルや地下を越えてこの某都市全域にまで撹拌しておりますので、
 お好きな戦場を自由にプレイング(お任せでもOK)し、敵をぶちのめしてください。
 なお、第三章の黒幕の手によって、敵は猟兵の動きに対応しつつあります。
 六一六『デビルズナンバーまきびし』は、
 ジャガーノート・ジャックほどではないですが、高速機動を得意としますので、
 数と速度で勝る敵に対し、どのように攻め込むかを考えてみてください。

 なお一般市民の虐殺などについては演出の範疇であり、
 極端に無視したプレイングをしない限りは、実際に殺される心配はありません。
 猟兵を誘い出す――それこそが敵の狙いなので、固執する必要がないのです。
 加えて、皆さんは『敵が人々を殺す直前に駆けつける』ことが出来ますので、
 その点もご安心ください。かっこよく、外道の輩をぶちのめしましょう!

●プレイング受付期間
 【10/03 13:59前後】まで。
●訂正
 上記の一部に致命的ミスがありましたが、ケジメしたのでごあんしんください。
●業務連絡
 諸般の事情により、プレイング締切を以下のように変更します。

 【10/16 13:59前後】

 この変更の都合上、現在プレイングを頂いているお客様には再送をお願いいたします。
 上記の連絡はお手紙にもご連絡いたしますので、お手数ですがよろしくお願いします。
●訂正の訂正
 業務連絡が相次いでおり申し訳ありません。
 変更後のプレイング締切は正しくは、

【10/06 13:59前後】

 となります。日にちを盛大に間違えておりました。申し訳ありません……!
ルーナ・ユーディコット
エリ姉(f02565)と

黒幕に陰湿に喧嘩を売られてる気もするけど
これだけ敵が多いとなると次のレッスンは…
っと、置いてかないでエリ姉!

戦闘中に褒められるのも不思議な感覚
でも見てくれている実感に気持ちが奮い立つ
声が私に自信をくれる

素早い一撃は刀で受け流して斬り返す
魂の籠らない刃に重さは宿らない

妙に敵が一か所に集まってるような……
いや、意図して集めてる?
やろうとしていることは…
私もおびき寄せよう

敵が大量に集まったならその全てに斬撃を見舞う
息が合ったならまさに、大団円かな

…エリ姉、刀の事気づいてたの
そうするよ
無闇に命を削るのは、終わり
独りじゃないってわかったし
目的も出来たから
少しでも長く、生きたい


千桜・エリシャ
ルーナさん(f01373)と

一般人を虐殺だなんて
弱い者虐めの何が愉しいのかしらね?
売られた喧嘩は買うのが好き
さて、先程の的は一つでしたが
今度は沢山ありますわ
さあ、私に着いてきて下さいまし!

そうそう
先程よりもいい太刀筋ですわ
その調子で踏み込んで
私は褒めて伸ばす方針ですから
彼女に指南しつつ
撒菱は躱したり刀で弾いてカウンター
そうして敵を一所に誘き出し集めるように立ち回りましょう

ふふ、あなたならもう私の狙いがわかるでしょう?
お察しの通り
大勢集められたなら鬼火を全て合体させて焼却
一掃して差し上げますわ

…それにしてもルーナさん
帰ったらその刀は新調しなければなりませんわね?
佳きこと
私はその背を押すだけですわ



●狼鬼、刃を爪牙となして駆け抜けん
 今まさに罪もなき一般人の喉元を抉ろうと、殺人忍者が逆手刀を振り上げた。
 だがその刃、振り下ろされることはなし。
 代わりに、当の忍者の首がばっさりと刎ね飛ばされたからである。
「ああ、つまらない首ですこと」
 神速の抜き打ちを放った千桜・エリシャは、呆れた様子で吐き捨てた。
 いくら敵の首を斬り落とすのが好きな彼女でも、下限というものはある。
 目の前の強敵を放置して――正しくは苛立たせるために――弱敵に走る外道。
 その行い自体に、義憤を燃やすような性質でこそないものの、
 単純に敵の質として呆れ返る。己を見ない敵を斬って何が楽しい?
 斬り落とした首がばっさりと微塵に断たれ、幾体目かの骸も消えた。
 愉しくない狩りだ。あちらも何が楽しいのか、心底疑問に思ってしまう。
「まあ、的がたくさんあるのはいいこと。ついてきていらっしゃいますわね?」
「な、なんとかね……っ」
 溌剌と振り向くエリシャに、青色吐息のルーナ・ユーディコットが応えた。
 彼女は人狼の猟兵だが、あくまでもそのオリジンは一般人である。
 喜々として己を鉄火場に置くエリシャとは、そもそもの素養が違う。
 ましてや、ついさっきまであれほどの強敵と追いかけっこをしていたのだ。
 スタミナの回復には時間がかかる。無理もないことである。
「さすがにエリ姉みたいに、道すがら敵を斬る余裕は、ないけどっ」
「いまはそれでもいいですわ。少しずつ、徐々にペースを上げていけばよいかと」
「……つまり、次はそれをやれってことだね。わかった」
 ため息をつくルーナに対しても、エリシャはにこにこと笑うばかりであった。

 デビルズナンバーの動きは、先のジャガーノートに比べればはるかに遅い。
 問題はその数だ。かつ、敵は広範に渡って散開し、猟兵を扇動している。
 業腹である。ルーナの心に、ちりちりと怒りの焔が燃え上がった。
 奴らは人々を蹂躙しようとしている。楽しみ半分に、ただ挑発するためだけに。
 奪われ、蹂躙された立場の人間として、怒らないはずはない。
 だが、そんな心だけでは、命を削るような従来の戦い方しか出来ないだろう。
「刃に載せるべきは、怒りではありませんわ。ただ斬るという意志のみ」
 くるりと舞うように体を回転したエリシャが、神速の斬撃を放つ。
 花開くような太刀筋は、マキビシの弾幕を切り払い、敵を真っ二つにせしめた。
「疾く、けれど重く。明鏡止水とか言いますけれど、つまりはそういうこと。
 あれやこれやと感情を載せても、却って水は濁るだけ。わかりますかしら?」
「道理を並べても意味はない、っていうことははっきりわかったよ」
 エリシャはくすりと笑った。そう、彼女の説話に大した意味はない。
 教えを享けるだけで技量が増すならば、世の鍛錬・経験は無実と化す。
 捉えるべきものは、交錯する一瞬に、自らの肌で感じ取るしかないのだ。
 ルーナは意識から敵以外の全てを削ぎ落とす。殺人忍者が待ち構える。
 見える。敵がその魂を削り、己を殺そうと致命的斬撃を三つ繰り出すのが。
 それは殺気が暗闇に浮かび上がらせた、白々と輝く未来の剣閃である。
 狼は身を伏せる。首筋を撫で斬る最初の一撃を潜り抜けた。跳躍。
 返す刀の逆袈裟を飛び上がることで回避し、敵の背後をまんまと取る。
 振り返りざま、こちらの臓腑を抉る剣閃を塗り潰すように、漆黒の剣を迸らせた。
 決着は一瞬で着く。敵の刃は受け流され、ルーナのそれが敵を抉っていた。
 なるほど、たしかに疾い。だがそれは"疾いだけの剣"だ。
「――魂の籠もらない刃じゃ、私の生命(いのち)は斬れないよ」
 残心。ルーナは、遠く駆け抜けたエリシャの気配を追って地を蹴る。
 倒れ伏す屍から、新たに召喚されたと思しき敵が二体出現した。
 狙いは両足。この猪口才な不意打ちを叩き潰し、喉元を抉る獰猛な一撃で応報。
「そうそう。さきほどよりもいい太刀筋ですわ! 踏み込みもいい調子!」
 頭上から声がした。ひらひら舞い散る桜とともにエリシャが飛び降りてくる。
 カキ、ガキンッ! 遅れて降り注いだマキビシはすべて刃に弾かれる。
「……戦闘中に褒められるって、不思議な感じがするね」
「あら、そうですの? 今まではあまり余裕がなかったのかしら――」
「それもあるけど」
 自分の戦いを見てくれている人がここにいる。
 その実感が、妙にこそばゆい。嬉しい、というべきなのか。
 ただ、戦いに快楽を感じられるほど、ルーナは修羅になれはしない。
 怖いのだ。刃を振るうことすら。ただそれでも、これまでよりはずっとマシ。
「行こう。もっともっと強くなるために」
「その調子ですわ。では次の場所へ」
 狼と鬼は再び風となる。跡には屍だけが遺る。

 はたしてその双風を、ざざざざ、と無数の殺人オブジェクトどもが追う。
 まるで誘蛾灯に群がる羽虫のよう。だがそれらはあまりに危険な"敵"だ。
 ルーナ、そしてエリシャはもはや言葉をかわすことなく、ただ走る。
 狙いは読み取れている。その足取りは敵の注目を集めるように。
 やがて敵は、都市の要所である広場に集められ――二人を、見失った。
 どこだ。殺人オブジェクトの群れは言葉なく、四方八方に視線を巡らせた。
「残念――私たちの狙いも見破れませんのね。本当に、興醒めですわ」
 どこからか桜の薫りがした。同時に、集まった鬼火が花弁のように爆ぜる。
 桜色の鬼火。都合五十を越えるそれらが、殺人忍者の逃れるべき先を奪った。
「悪いけど、ここまでだから。星になってしまえばいい」
 花弁は二重である。焔を切り裂いて振るわれたのは開闢の剣。
 漆黒の斬撃が十と五丈(約45メートル)の獲物すべてを斬首したのだ。
 屍が転がる。着地したルーナは、頭上で見下ろすエリシャのほうをちらりと見た。
「上々、上々。……ところでルーナさん、その刀――」
 ああ、と、ルーナが己の握る刀を見た。
「新調しなければなりませんわね?」
「……そうだね。そうだ。もう、この剣には頼れない」
 薊の花の妖気を放つ剣は、振るうたびに担い手の命を食らう。
「もう私は、独りじゃない。――少しでも長く、生きていたいから」
 そのためには、此度の血戦を生き抜くことは必定。
 付き離れぬ視線の主は、はたしてそれを許してくれるかどうか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

大紋・狩人
(無数の影が、無辜の民に殺到していく)
(今にも、ひとが害意に蹂躙されんとする光景。逃れようもない怯えが走る)
(強烈な恐怖の感情に、烈しい動悸、灼けるような鼓動が、内側から身体を殴りつける)
(その全てを、奥歯で噛み殺して、吼えた!)

させるかぁぁあぁっ!! 
我武者羅に駆けながら、骨灰の【リアライズ・バロック】を影どもに向けて、ありったけの数を射出する!
ああ、己は戦人! まきびしなど、手傷など、[覚悟]の上だ!
そのまま残りの敵に向かい、[部位破壊]で、相手の刀を持つ腕を狙おう! 

(己が武運を[祈り]ながら、)
([狂気耐性]で怯えを晒さず、凛とした仮面の中へ封じたまま、敵の前へと立ち塞がろう。)



●二度と、喪わせぬために
 夢見るたびに思い出すのは、在りし日の安寧。
 それを追憶しない日があるとすれば、疲れ果てて泥のように眠る時ぐらいだ。
 ……平穏があった。
 "ごく普通の"と呼ぶに値する、何の変哲もない、かけがえのない日々が。
 父が居て、
 母が居て、
 帰る家があった。
 暖かな食事があった。
 団らんがあった。
 今はもうない。
 現在はもう、亡い――。

「やめろ」
 ヴィクトリア朝を想起させるクリノリンドレスの青年が、か細い声で呻いた。
 名を大紋・狩人。異世界にて、闘うために扉を閉じた人々の末裔(すえ)。
 亡き人々の遺灰を被りて足掻くただひとりの狩人。戦う力を持つ者。
 だが、彼は生粋の戦士ではない。その生まれは平凡で平穏であった。
 目の前に、同じように日常を謳歌していたはずの人々がいる。
 誰もが怯えていた。震えていた。泣き叫び、恐怖に喘いでいた。
 さもありなん。風よりも疾く、風よりも無慈悲に死を運ぶ者どもが来ている。
 痛めつけられ、嬲られ、死を酷薄なまでに意識させられ、蹂躙されている。
「やめろ。殺すな。奪うな。僕の前で、日常(それ)を奪うな――」
 かちかちと歯が鳴った。それは力なき者の懇願に似ていた。
 脳裏にいくつもの光景が去来する。退魔の切っ先がおぼつかずに震えた。

 ――違う。
 己が為すべきはなんだ。
 己が為せることはなんだ。
 ただ震えて伏して乞い、嵐に祈るように慈悲を求めるだけか。
 違う。
 奴らはそれで許してはくれない。
 オブリビオン。過去の残骸。未来を奪う破壊者たち。
 それではいけない。
 己には出来るはずだ。
 力があるはずだ。
 奴らを滅ぼすための超常があるはずだ。

 噫、だが。
 怖いのだ。
 どうしようもなく恐ろしい。
 あの害意が、
 それによって奪われる人々の嗚咽が、
 何もかもが恐ろしい。動悸が高まり恐怖が己を支配する。
 それでいいのか。否、いいはずがない!
 何のための力だ。何のための血だ。己はここに何のために来た!

 ぎりりと奥歯を噛み締めて、己の怯えと恐れを押し殺す。
 "やめろ"ではない。
 "怖い"でもない。
 己が吠えるべき言葉は、いつだってただひとつ。
「――さ、せ、る、かぁあああああァアッ!!」
 ただひとつ。がむしゃらに吠えて、青年は弾かれたように地を蹴った。
 その後を追うように、煤けた骨灰のバロックレギオンが列をなす。
 さながらそれは葬列のように。恐怖を喰らいて、歪んだ戦鬼が雪崩を打った。
 殺人忍者どもは振り返り、無数のマキビシを弾幕めいてばらまく。
 狩人は止まらない。己の肌を肉を食らうそれを弾いて喰らい、なおも駆ける。
 レギオンが足止めした敵を無視し、今まさに刃を振り下ろそうとする敵めがけ。
「奪わせたりするもんか! 誰も、何も!! 僕の前でッ!!」
 吠えた。そのかんばせは宝石のようにきらびやかで凛としている。
 高潔たれと己に任じ、下賤なる敵を怒りのままに滅殺する。
 刀が翻った。煮えたぎるような憤怒をもってこれを受け流す。煤けた黒が躍る。
「そうだ。来い。僕が相手だ! 僕だけが!!」
 ああ。どうか、名も知らぬ神よ。我を守りたまえ。
 震える足が、汗ばむ掌が、泣きそうな心が、怯える人々に届きませぬよう。
 血と刃にまみれ、灰かぶりの青年はただ吠えて、影を放ちて駆け抜ける。
 ただ、抗うためだけに。

成功 🔵​🔵​🔴​

エル・クーゴー
【戦場:お任せ】
●POW


警告
警告
全猟兵に対する敵性からのカウンター精度の全体的な向上を確認

戦闘ルーチンの可及的速やかなアップデート、ないし成長が急務と判断されます

>対抗手段を検索_実行

作戦を開始します
コール、ジャイアントマネギ
(招き猫みたいな巨大デブ猫型兵器が降臨)

このマネギは当機同様のL95式武装の巨大版を運用する攻城兵器です
が、今回は火力としてではなく、電脳ゴーグルの巨大さ故の超電算処理能力を用いたタワーマシンとして運用します

電脳世界、展開
捕捉範囲内の全敵性、構成概念へハック(ハッキング+範囲攻撃)

「魂を意図的に損耗させる機能」へ侵入、自壊必至域まで無為に魂を消耗・空転させる指示を発します


夕凪・悠那
…今もどこかから見られてるのか
安全圏から一方的に品定めされてるのは気に入らない

初撃、1章から引き続いた魔法でインターセプト

こいつら、ボクらの動きに対応してきてる
だったら―
【バトルキャラクターズ】
FPSの特殊部隊キャラ、総勢12名
ショットガン等の[範囲攻撃]武器と、アサルトライフル持ちを組ませて展開
サブに閃光手榴弾(目潰し)と持替え用に高貫通力の対物ライフル
当然全部[武器改造]済みだ

『ES』とリンクしてリアルタイムに[情報収集](+早業)
視界内にミニMAPを映し、敵の位置を可視化して死角を潰す
手持ち火器で対応できない忍法を繰り出したら『仮想具現化』で対処できる武器を具現化(カウンター)

アド絡歓迎




『HQ、HQ! こちらグレッグ、追い詰められた! 完全に包囲されている!』
 都市内某所、オフィスビルエントランス。
 U.D.C特殊部隊Ζ-5"落ち葉拾い"の分隊が、民間人数十名とともに避難している。
 だが、もはや進退窮まった。建物の周囲は完全に敵に囲まれているからだ。
 即席のバリケードも、オブリビオンの前ではあっさりと突破されるだろう。
 ……なのにどうして、あちらはすぐにでも飛び込んで来ようとしない?
「値踏み……いや違うな、舌なめずりされてんのか? 趣味悪いぜ」
「コート、口を慎めッ。今は民間人がそばにいるんだぞ……!」
 不良隊員は悪びれもせずに冷笑を浮かべる。分隊長らしき男は呻いた。
 気持ちはわかる。よもや敵の狙いがこちらに向くとは思っていなかったのだ。
 そして今自分たちは、奴らの前に誂えられたできたてのステーキ同然か。
「HQ、H――ああ、クソ! 電波妨害だ!」
 通信役の兵士が、うんともすんとも言わなくなった端末を投げ捨てた。
 苛立ち混じりに拳銃で撃ち抜く。BLAMN! 民間人が悲鳴を漏らした。
「よせ、グレッグ。……警戒を密にしろ。生き延びる可能性を捨てるな」
 分隊長はただそれだけ言う。こんなときだからこそ冷静にあるのが己の責務だ。
 敵はどこから来る。正面玄関のバリケードを破って雪崩込んでくるか。
 あるいは側面から? はたまた上からか。どこからでもいい、来るがいい。
 せめてこの鉛玉を一発でも多く、そのドタマにぶちこんでやる!

 だが民間人の悲鳴が響いた瞬間、分隊のメンバーは誰もが我を忘れた。
 下だ。斬りつけられた民間人を押し退け、下から殺人忍者どもが湧いてくる。
 地下道! あるいは地下を物理的に掘削してきたのか? ああ、とにかくこうだ。
 奴らは真下から霞のように現れて、さっそくひとりをぶった斬ってくれやがった!
「撃て、撃てッ!」
 BRATATATATA! BRATATATATATA!!
 負傷した民間人に最後の一撃が振り下ろされる前に、マズルフラッシュが瞬く。
 だが、おお、神よ! 7.62mmライフル弾は、神速の切り払いによって霧散!
 チュン、チュチュンッ! と、散弾めいた火花がエントランスの柱にきらめく。
「化け物が……ッ」
 分隊長の呻きと、敵が一瞬にして間合いを詰めたのはまったく同時。
 誰一人にすらリロードの隙を与えず、斬撃が一瞬にして部隊員の首を――否!

 BRATATATA! BRATATATATATATA!!
 狙いすましたようなアサルトライフルの弾幕が、殺人忍者を打ちのめした。
 ボロクズめいて宙を舞った敵を、魔法のような光の帯が焼灼滅殺する!
「正面は開けておいた! まっすぐ大通りを進んで逃げてくれ!」
 分隊メンバーは声のほうを――つまり頭上を見上げた。
 そこには、ジャパニーズ・カートゥーンめいた装いの少女……夕凪・悠那が居た。
「疾くッ! 相手はボクがするって言ってるんだよ!!」
「!! 走れ(ムーブ)、走れ(ムーブ)! 急ぐぞ!」
 我に返った分隊長の檄に応じ、隊員たちは冷静さを取り戻して散開する。
 地面に開けられた"穴"からは、次から次へとデビルズナンバーが湧いてきた。
 これを弾丸で迎撃し、分隊と民間人の脱出をサポートするのは屈強な特殊部隊だ。
 ユーベルコードによって召喚・合体した、十二名の精鋭バトルキャラクターズ。
 BRATATATATATA! BRATATATATA……シュポンッ、KA-BOOOM!!
 スタングレネードが殺人忍者どもを足止めする。そこへ悠那の魔力砲撃!
「! ――仕留め損なったッ」
 然り。数体の敵が、真上からの魔力砲撃をかろうじて回避した。
 スタングレネードにも対応したのか。敵はこちらのプランを読んでいる。
「こいつら……クソッ! エルさん、支援頂戴!」
 人工電子精霊を通じ、悠那の声はひとりの機械人形のもとへ届く――。

 件のオフィスビルを含め、周辺地形を一望できる超高層ビルの屋上。
 なにやらこの鉄火場には場違いな、大きな羽つき招き猫のそばに、
 全方位バイザーを装着したミレナリィドールの少女が佇んでいる。
 ビル風が、エル・クーゴーの髪をなびかせる。あちこちから戦闘の騒音。
「……分析完了。超空間からの、敵性体情報構造への断続的なアクセスを確認。
 敵性体カウンター精度向上の原因は、邪神級個体の情報支援によるものと推定」
 展開された電脳世界を通じての敵性体=デビルズナンバー解析が齎した答えは一つ。
 今もすべての猟兵が感じている、この張り付くような視線の主によるものだろう。
 何者かが、我らを見ているのだ。手出しできぬ高みから悠々と。
 その一挙一動を観察し、解析し、分析し、理解し、眷属に利用させている。
 一体一体は弱い。だが敵は、着実にこちらの動きに対応しつつある。
 巨大招き猫――マネギの装着したバイザーと、エルのそれが同時に光を放った。
「>対抗手段を検索..._作戦実行」
 敵はこちらの腕前に対し、急速に成長を続けている。
 ならばどうする。どうすればこの凶行を止められる。
 答えはひとつ――我らもまた、成長(グロウアップ)する他になし!
 そこへ電撃的に届いた悠那からの支援要請。エルは即座に動いた。
「情報構造破壊論理体(I.C.Eブレーカー)、急速拡張(アップグレード)。
 敵性体捕捉――敵構成概念への侵入(ハック)、開始(スタート)」
 ばちばちと、風になびく髪を静電気めいて紫電が散った。
 エルは自らのボディとマネギのそれをシンクロ、一種の演算装置と化し、
 超次元的な演算処理能力を以て、算出されたデータを元にプログラムを生成。
 電脳世界を伝い、捕捉した敵性体の情報構造に銀の弾丸を撃ち込むのだ!

「! 動きが……!」
 魔力砲撃を逃れた敵性体が、糸の切れた人形めいて転がった。
 "ES"がハッキングの成功を知らせる。敵の急速な情報体修復予兆をも!
「させるかッ!」
 BRATATATATATA!! 特殊部隊による砲撃支援とともに魔力刃を生成、斬撃!
 一瞬の間隙を突かれた殺人忍者三体は、首を刎ね飛ばされスイスチーズと化した。
 悠那は安堵しかけ、網膜投影されたミニマップを見て戦慄する。
 周辺の敵性体が一点に集合している――すなわち、エルの居る地点へ!
「エルさん、そっちに敵が向かってるよ!」
『確認済みです』
「だったら――ああ、ああ、わかってるよ! 逃げるなんてボクららしくない!」
 オフィスビルを飛び出した悠那は、魔力を噴射し最速巡航形態に移行。
 見えた。高層ビル壁面を垂直疾走する忍者体、およそ二十以上!
「――全員猟(か)るさ。ワイルドハントの猟団員だからねッ!」
 ZAAAAAAAP!! 大蛇めいた極太の魔力砲撃が壁面に炸裂する!
 だが敵はこれを予測、散開回避! さらに敵数体が背後から斬撃奇襲!
「仮想具現化(サイバー・リアライズ)! バトルゲーマーを嘗めるなよ!」
 悠那が投影具現化したのは、身の丈よりも長い銃身の対物ライフルである。
 BLAMNッ! 全身を内側から弾くような強烈な銃撃反動、背後の敵爆散!
 BLAM、BLAMNッ! 接近個体を蹴散らした悠那は高層ビル屋上をマウントする!

 ――BBLLAAMMNN!!
「お見事です」
『褒めるより先にそっちも対応してほしいんだけど!?』
 間近に迫った敵個体を狙撃破壊した悠那に対し、エルは沈着冷静に言った。
 ビル風が放熱する髪をなびかせる。直後、エルの姿は風のように霧散する。
 BRAKKA! BRAKKA!!
 頭上だ。垂直跳躍したエルによる機関砲斉射!
 演算加速するマネギを中心に、屋上床に馬鹿げた口径の弾痕が刻まれる!
「当該地点への敵性体到達、予想速度を36秒凌駕_敵性データ修正」 
 BRAKKA! BRAKKA!!
 第一陣を蹴散らしたエルは、機関砲をパージしアームドフォートを展開した。
 ガシャコンッ。ハリネズミかイソギンチャクかの如き全方位砲撃群、マウント。
 直後、屋上の縁を足場に、十五体の殺人忍者オブジェクトが跳躍到達!
 ドオウ、ドオウ――!! カウンターの砲撃がこれらを迎撃するが、浅い!
 数体が同族を盾として砲撃をかいくぐり、エルに肉薄したのだ!
「――ハッキング、完了。敵性体の速度超過リミットを構造破壊」
 だが、エルに恐怖はない。人形は恐怖というものを識らない。
 その首を腕を足を刎ね飛ばそうとした敵は、エルを斬ることなく彼方へ走る。
 崩れながら。砕けながら。己の本質を己で燃やし擦り減らして霧散する。
 "魂"を摩耗させる機能のリミッターを意図的に破壊し、自壊させたのだ。
 風がなびく。燃えカスめいた敵の残骸を洗い流していく。
 ゴシュウ――その風を温めるように、マネギが高熱を放射した。
「……我々は一秒たりとて同じ存在では有り得ません。それを実証しましょう」
 人形は遠くを見る。電脳索敵システムは未だ多数の敵の存在を報せている。
 この戦いを高みから見下ろし、我らを計る何者かが居るというならば。
『ああ。思い知らせてやるさ――ボクらの強さを』
 その思惑すらも凌駕し、叩きのめしてやろう。
 悠那もまた、次の敵のもとへと翔ぶ。全ての過去を猟るために。
 ビル風がふたりを洗う。その姿を、逃げ延びた人々が見送った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セレーネ・ブランシュ
【結社】
──喝ッ!!
慌てふためいてんじゃ無いわよ、それでもプロか、機動部隊!
敵は私らに任せなさい!行くわよ、二人とも!

さっきの手段は見られてたと想定するならば…
アダム、西にある公園に敵を引き込んで!私が動きを抑えるから、セレナちゃんはその隙に頼むわ

弓矢の追尾誘導弾は囮にして、敵を噴水のある場所に導くように矢を放つ
敵が水場に来たら、距離を態と詰めさせる

弓兵が接近戦が出来ない?
ハッ、古いわね、認識が
両手を突き出し、密着距離から【サイキックブラスト】による感電攻撃!
悪いわね、私は自分の身なんて考えちゃいないの、何故なら──

希望たる私が、貴様らなんぞに負けるかァッ!!

セレナちゃん!今!
ブチ抜きなさい!


アダムルス・アダマンティン
【結社】
水場のある公園へと向かう

人の子らを質と取り、撒き餌とするか
無駄なことを。我は教典の神にあらず、異界の人の子らもまた教典の民にあらず
覚えておけ。ナンバーズとは、打倒すべき敵がいる場所に現れるだ

纏うは漆黒、ダークヴェンジャンス
存在感を放ちながら、俺が時間稼ぎを受け持つ
敵の放つ撒菱の威力を纏った漆黒によって軽減しながら耐え、一匹ずつ叩き潰しながら二人の準備が整うのを待とう

――今だ。やれ、レーネ、セレナリーゼ!


セレナリーゼ・レギンレイヴ
【結社】
市民の救出と避難をありがとうございました
そしてよく逃げ延びてくださいました
大丈夫
“献身”の前で命を奪わせることなんてさせませんから

書に祈るのは救済と浄化
俊敏な敵が多数では長く祈るのは本来は悪手なのでしょうけれど
今回の私は一人ではありませんから
時間稼ぎと誘導はお願いします
アダム様そんな力もお持ちだったんですね
そつなくこなすのは知っておりますが、どうかご無理はなさらずに

……いくら機敏といえど
その雷撃を受けた直後ではさすがに隙もできるでしょう
お待たせしました、セレーネ様
そして、一瞬の隙さえあれば光からは逃げられない
天から降るのは裁きの槌
敵群全てを包むような、渾身の一撃を叩きつけましょう



●ただ、討つべきを討つために
 この広い都市部全域を、一特殊部隊で完全にカバーすることは不可能だ。
 最悪の場合に備えて、U.D.Cは事前に周辺住民を避難させていたものの、
 それはあくまで邪教団本拠地の周辺に限られていた。
 しかし今、戦いは都市の全体に広がり、なおも拡大の様子を見せている。
「こちらのメンバーはこれで全員か……」
 特殊部隊のリーダーと思しきマスク姿の男が、残った部隊員を数え終えて呻いた。
 いくつかの分隊とはぐれ、避難民の収容もままならない状況だ。
(おそらくは)UDCによるなんらかの電磁的干渉により、通信も行えない。
 ……絶体絶命である。民間人も、そして彼らも、無事を保証されたとは言い難い。
「くそっ、ここからどうすればいい、どうすれば……!」
 リーダーの男が地団駄を踏みそうな捨て鉢な気分に陥った、その時。

「――喝ッ!!」
 と、大気をぐわんと揺るがす大音声が、特殊部隊の面々に叩きつけられた。
 女の声音である。だが腹に響くその低音は、否が応でも気を引き締めさせられる。
「慌てふためいてんじゃないわよ。それでもプロか!!」
 ざり、と砂を踏みしめ現れたのは、左目元に奇妙な刻印を持つ女であった。
 すなわち、セレーネ・ブランシュである。
「あ、あなたは――」
「市民の皆様の救出、そして避難。ありがとうございました」
 リーダーの誰何を遮るように、柔和な表情の女がもうひとり進み出た。
 セレナリーゼ・レギンレイヴだ。にこりと微笑み、彼らに頭を下げてみせる。
「……そしてよく逃げ延びてくださいました。ですがもう、大丈夫」
 ちらりと、セレナリーゼが背後を振り仰ぐ。そこにはひとりの偉丈夫。
 筋骨たくましい男の出で立ちは、まるでギリシャ彫刻像めいて美しく雄々しい。
「……人の子を質と取り、撒き餌とする。実に邪な神の考えそうなことだ。
 人の子の、そして我らの力を侮っていると見える。なんとも愚かしく無駄なこと」
 アダムルス・アダマンティンの、その神たる眼にはたしかに視えているのだ。
 遠く超空間より、この惨状を引き起こし高みの見物をする邪神のフォルムが。
 だが、その悪辣な行いを、神たる男は無駄と一言に切り捨てた。
 じろりと、その鋭い瞳が特殊部隊の面々を見やる。威風堂々と、峻厳と。
「我らは経典の神にあらず。異界の人の子らよ、お前たちもまた経典の民に非ず。
 しかれどお前たちはその意志で彼奴らに抗い、ここまで生き延びたのだ」
 ならば、我らもまた同じとアダムルスは云う。
「そう、敵は私らに任せなさい。軽く片付けてやるわ」
「ええ。"献身(わたし)"の前で命を奪わせることなんて、させませんから」
 セレーネ、そしてセレナリーゼはこくりと頷いた。
「…………あなたたちは、一体」
 ようやく溢れた誰何の言葉に対し、アダムルスは静かに応える。
 敵に向かって歩み出し、背中を向けたまま振り返ることなく。
「――結社(ナンバーズ)。打倒すべき敵が居るところ、我らは在る」
 そして、三つの姿は、迫りくる殺人オブジェクトの群れめがけて消えたのだ。

 およそ数百以上のデビルズナンバーが、路地を抜けビルを越え風のように走る。
 めがける先はただひとつ。逃げ延びようと抗う人間どものもとである。
 殺人のために生まれたオブジェクトどもは、その生存を絶対に許容しない。

 そこに慈悲はない。なぜならばデビルズナンバーに慈悲はない。
 そこに憎悪はない。なぜならば奴らは殺すべくして殺すからだ。
 そこに無駄はない。ただ殺すために生まれたモノであるゆえに。

 そして禍々しき殺人忍者どもは、猟兵たちの戦いを存在核に叩き込まれていた。
 どう戦い、どう思考し、どう殺すべきかを本能的に理解していた。
 だが――"その程度の敵"は、彼ら(ナンバーズ)にとっては踏破した道程である。
「愚かなる傀儡ども。俺はここにいるぞ。この生命欲しくばかかってくるがいい!」
 見よ。漆黒の闘気を粘液の如くに纏い、アダムルスが立ちはだかった。
 その威風、まさに神のそれ。殺人オブジェクトは自動的ゆえに無視できぬ。
 数百を越える敵が、一斉に己の体を無数のマキビシに変え、弾幕めいて擲った。
 一つ一つが散弾並の威力。アダムルスはこれを真正面から受け止める!
「ッ……痒いな。所詮はこの程度か、邪神の先触れよ」
 挑発である。はたして殺人オブジェクトどもはそこに怒りを覚えたか。
 確かなのは、敵は狙いを変え、アダムルス一点に飛びかかったことだろう。
「そうだ、こちらへ来い。貴様らにふさわしい最期を与えてくれる」
 アダムルスは降り注ぐマキビシ、あるいは刃、はたまた奇怪な忍法を退け、
 その漆黒の粘液と持ち前の頑強さで耐え続ける。決して無傷ではない。
 岩のような筋肉は斬り裂かれ、骨にまで到達しようかという深手である。
 だからどうした。ナンバーズはその程度のかすり傷で音を上げたりはしない。
 ただ黙々と雄大なる自然の如くに攻撃を受け止め、間合いを損ねた者は叩き潰し、
 大路を駆け抜け一点を目指す。この都市の自然公園――水場の在処を。

「来たわね! アダム、そのまま西のほうへ! そこでケリつけるわ!」
 自然公園の入り口にて、セレーネがアダムルスと敵の大群を迎え入れた。
 パシュウッ! と鋭く追尾誘導の呪をかけた矢を放ち、韋駄天のように駆ける。
 当然デビルズナンバーは、アダムルスだけでなくセレーネも追わざるを得ない。
「アハッ、のろまね! 捕まえてごらんなさい? 出来ないでしょうけれどね!」
 頑強さや膂力の面では劣るものの、セレーネの動きは柔軟かつ機敏だ。
 礫めいて放たれる敵の攻撃を挑発的に嘲笑いながら回避し、弓矢を放つ。
 たとえるならば、それはフェザータッチで男をからかう悪女のようでも、
 悪辣な人食い鬼を知恵と勇気で翻弄する、寓話の少年めいてもいた。
 木々を飛び交い舗装された道を抜け、無数の殺人人形が間隙を縫おうとする。
 一瞬でも速度を落とし、気を抜けば刃はふたりの首を刎ね飛ばすだろう。
 それが、数百である。いくら一体一体は(並のそれに比べれば)脆弱とて、
 殺人のために生まれたモノを相手に、油断など出来るはずもない。
 ――はず、なのだ。だのに、セレーネは薄く微笑みさえして死線に躍る。
 アダムルスは顰め面のままだが、そこに当惑・焦燥の色は一切見当たらない。
「アダム、大丈夫? 息あがったりしてないかしらね!」
「無用な心配だ。お前こそはしゃぎすぎるなよ、レーネ」
「あら、心配されちゃったわ。厚意は有り難く受け取っておきましょうかッ!」
 シュパパパパパッ! 鋭い連続矢が、踏み込みすぎた殺人忍者の頭部を穿つ!
 その隙を狙い、セレーネを襲おうとした個体はアダムルスの槌が叩き潰す。
 なんたる連携。だがそれすらも、超空間に座す"何か"は視ていることだろう。
 ――よかろう。ならば我らがナンバーズたる所以を見せてやる。
 アダムルスは言葉なくしてそう応え、そして最後の木立を抜けた!

 そこは、透明度の高い湖が広がるエリアであった。
 アダムルス、そしてセレーネは、湖の中央の小島めがけてなお走る。
 ふたりほどの実力者ならば、水面を蹴立てて進む程度は造作も無いことだ。
 当然それはデビルズナンバーも同じ。そして機動力はあちらのほうが上!
「追いつかれるぞ」
「ええ、追いつかれるわね」
 アダムルスの言葉に頷き、セレーネはにこりと微笑んだ。
「"これで舞台は整った"わ。――弓兵が白兵戦を苦手とするなんて、
 旧態依然とした認識だわ。殺人オブジェクトが聞いて呆れるわ……よッ!!」

 ――ZZZZZZZTTTTTTT!!

 セレーネの両手からバチバチと放たれたのは、念動力による電撃である!
 湖面を伝って伝搬したそれは、数百体の波濤の尽くを絡め取り麻痺させた!
 追って、アダムルスが槌を水面に叩きつける。ズシンと水そのものが揺れた!
「大地に根ざすものならば、すなわちたゆたう水もまた我が権能の裡。
 ――さあ、足は止めたぞ。今だ。やれ、"献身"のナンバーズよ!」
「ええ、ブチ抜きなさいセレナちゃん! 全力でねッ!!」

 ふたりの声が、矢のように迅雷のように駆け抜け、小島に届いた。
 この戦乱から遠く、静かな湖畔に佇む、金髪の聖女のもとへ。
「……お待たせしました。そしておふたりとも、お見事です」
 セレナリーゼ。両手を胸の前で握りしめ、祈るさまは殉教者そのまま。
 漂う魔力は聖人のそれを遥かに勝り、雲間から祝福めいて陽光が注す。
 この一瞬。この一瞬のためだけに、献身の聖女はただ祈り続けた。
 そして、祈りこそは彼女の力。彼女が献身を捧ぐモノの力。
 ミトロンの書。聖なりし祝福の魔本は、その契りを以て乙女に報いん。
「力を――力を貸してください。ミトロンの書よ、我が刻の器よ」
 セレナリーゼは瞑目し、刻々と、津々と、粛々を祈りを捧げた。
 祈りに力はない。それ自体では虫も殺せぬ、ただの行為だ。
 だがそれは、いかに力なき者であれ赦された最後の抵抗。
 救いを求めることは悪ではない。諦めることこそが悪なのだ。
 祈り、願い、求める者には、そう。希望という名の輝きへの思いがあるのだから。
「災いを呼ぶものを過去へと還し、世に平穏を取り戻すために。
 我らの敵を、我らの使命に従い滅ぼすために。力を――裁きの力を!」
 おお。聖なるかな。聖なるかな!
 見よ。雲間より差し込める陽光が、硝子細工のように練り上げられる。
 あれこそは神なる怒槌。悪しきを裁く、祈りに応えて鍛えられた光の槍。
「――刻器神撃。裁光、降天(ディバイン・ドロップ)――!!」
 天よ、降れ。邪悪を圧し潰し無へ帰するために。
 はたしてその直後、数百を越える光の柱が、湖を埋め尽くした!
「覚えておきなさい――希望たる私が、私たちが! 負けることはないのよッ!」
 セレーネの一喝が大気を震わせ、光に呑まれた敵に霧散の最期を齎す。
 浄化の光条ここにあり。輝きは、悪しき殺人オブジェクトを滅ぼし飲み込む!
「……邪神よ。次に滅ぼされるのは、貴様だ」
 アダムルスの低い声は、空間を超えた"何か"を確かに捉えていた。 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

バルディート・ラーガ
チイッ。大人数で広範囲に展開たア、まアた面倒な……
ひとまずは出会い頭、「かばう」でもって市民への攻撃を肩代わり。
被弾をそのまま転じて【蝕む簒奪者】、蛇どもを表に呼び出しやしょ。
敵サンが地へ転がる撒菱でしたらば、あっしも地を這う蛇にてお相手を。

敵を蛇で絡め取る「グラップル」でとっ捕まえ、「敵を盾にする」で
突っ込んでくるヤツ諸共串刺しへ!……と思や、結果はイマイチ。
先刻に似た、敵サンのスピードを活かす戦法だからでしょか。

しゃーなし、こっから「なぎ払い」に方針変更です。
炎の鞭を長あく伸ばし、ひっ捕らえた敵サンを重り代わりに
遠心力を乗っけて広範囲を根こそぎ炙っちまいやしょう!ヒヒッ!

※戦場お任せ



●小悪党の流儀
 自分で言うのもなんだが、己はあまり褒められたような人格をしていない。
 卑怯悪辣大いに結構、相手を出し抜くためにはだまし討ちでもなんでもやる。
 だが。
 しかしだ。
 目の前で生命が奪われようとするのを、座して見ていられるほど墜ちてはいない!
「チィ……ッ!!」
 バルディート・ラーガは、己のらしからぬ振る舞いと痛みそれぞれに顔を顰めた。
 鋭い忍者刀で斬り裂かれた体からは、静脈血がぽたぽたと垂れ落ちる。
 はたしてそれは、種を落とした地面から草木が萌え芽吹くかのように、
 急速に成長する――黒炎によって形作られた、燃え上がりのたうつ蛇へと。
 すなわち、地獄そのもので編み上げられた蛇の群れ。
 それはたちまちバルディートの傷を覆い、シュウシュウと唸り応報した。
 迂闊なるデビルズナンバーは、蛇の群れに喰らわれ燃やされ滅びるのだ。

 場所は路地裏。バルディートは、ひとりの少女を背中にかばっていた。
 涙し震える少女は、うねる蛇の群れに『ひっ』と怯えた声を漏らす。
「あア失礼、けど脅かすつもりはねエんですよ。ま、無事ならなにより」
 少女の無事を確かめたバルディートは、痛みを押し殺してしゅるしゅる笑った。
 その異形が他世界において人々に知覚されることはないものの、
 感覚の鋭敏な幼子、ましてやこの異界めいた状況である。何かを察したのだろう。
 ……自分はあまり褒められた人間ではない。ましてや義侠のタチでもない。
 思わず庇い立てしたが、バルディートはすぐさま踵を返そうとして、
「……あ、ありがとう」
「――……ヒヒッ。もったいねエことばでさアね」
 少女のか細い感謝の言葉に調子者めかして笑い、姿を消した。

 路地に出たバルディートを、待ち構えていたデビルズナンバー三体が出迎える。
「あアあア、こっちは善行働いていい気分だってのによォ!!」
 一転して鬼神めいた怒りの形相を浮かべ、バルディートは敵を一体絡め取る。
 そして肉の盾とし、散弾めいて降り注ぐマキビシを防いでみせたのだ。
 そのまま敵を投げつけ、槍めいて絞った蛇の腕で貫こうとする……が!
「あア?」
 敵は消えた。こちらの狙いを察知されていたのだ。
 被弾した敵はそのまま絶命したが、貫こうとした個体は距離を取っている。
 そこへ、背後から三体目の奇襲! なんたる連携か!
「チッ――しゃーなし、方針変更といきますかアねッ!」
 バルディートは黒炎を燃やし、片腕に蛇を収束させ焔の鞭とした。
 火炎魔神のような地獄の鞭を振るい、背後と正面の敵を同時に薙ぎ払う。
 そして背後から奇襲しようとしていた敵の足を地獄の鞭で絡め取ると、
 遠間から不意を狙っていた敵どもめがけ、重りめいて叩きつけたのだ!
 KRAAAAAAASH!! 潜んでいたビルのエントランスもろとも敵は破砕!
「ヒヒッ! そうらそら、出し惜しみしてねエでもっと出てこいよォ!
 期待通り俺が相手になってやるよ、かかってきなさア! ヒヒヒヒヒッ!!」
 努めて悪党のように嗤い、バルディートは敵を挑発する。
 ――その心の裡を、彼は決して表に見せない。
 ただ焔のように嗤い、悪党めいて悪を討つのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーオ・ヘクスマキナ
一切合切鏖殺!? 人の命をなんだと……ッ!
本当は最後に使うつもりだったけど、街中で戦いが起きてるなら機動力が要るか……仕方ない
カモン、赤頭巾さん! ブリキの木樵で派手に動き回るよ!
マキビシだろうと、この状態の赤頭巾さんに踏まれて壊れない筈は……え、重いって言ってるように聴こえる? 女の子にそれは禁句? ゴメン……

……ともあれ。俺は背部のウェポンラックを足場代わりに乗り込んで、そこからSMGで敵を牽制(●援護射撃、呪殺弾
メインの戦闘は赤頭巾さんにお任せしつつ、兎に角人命救助を優先で。怪我した人には応急処置も出来るよ(●医術

……ウェポンラックと肩、乗り方次第でもう2人位は乗れるかな?

アレンジ共闘可



●地獄を駆け抜ける
 敵は、確実にこちらを観察している。
 それがわかっている状況で、奥の手を引き出されることは苛立ちを募らせる。
 だがリーオ・ヘクスマキナは、この期に及んで出し惜しみをしていられなかった。
「一切合切鏖殺なんて、そんな地獄じみたこと見過ごせないからねッ!
 カモン、赤頭巾さん! ブリキの木こりで派手に動き回ろうじゃないか!」
 リーオの快活な声に応じ、剣斧を携えた鋼の巨人が虚空から招来された。
 少年はその肩に飛び乗り、すぐさま大通りへと駆けるよう指令を出す。
「これなら地面がまきびしまみれでも問題ないね、さっすが赤頭巾さん!
 ……え? 何? 重いって言ってるように聞こえるって??」
 リーオだけに届くテレパシーは、どうやら不服を訴えているらしかった。
 女の子にそれは禁句、らしい。"赤頭巾"であるからには当然か。
「ご、ごめん! ……ってそんな場合じゃないでしょ、赤頭巾さんッ!」
 気を取り直し、鋼の巨人はずしんずしんと地面を踏みしめ駆け出した。
 走る、というよりはほとんど飛び渡るようにして、地獄めいた都市を駆ける。
 リーオは"ブリキの木こり"の背部ウェポンラックを足場代わりにし、
 そこからずるりとカブのように引き抜く――そう、凶悪なサブマシンガンを!
「ほらほらほらほら、救急車のお通りだよ! どいたどいたぁ!」
 BRATATATATATA!! 立ちはだかる殺人忍者に降り注ぐ容赦のない弾幕!
 強制的にこじ開けられた突破口を、鋼の巨人と化した木こりが踏破する。
 向こう見ずにも襲いかかろうとした敵には、当然のように剣斧が降り注ぐのだ。
 おまけにリーオのばらまくそれは、ひとつひとつが呪殺の魔力を込められたもの。
 一山いくらの殺人オブジェクトでは、食らった瞬間に必滅確実なのである!

 そしてこうして都市部に出てみれば、リーオにはいくつもの思念波が届いた。
 助けを求める人々の嗚咽。恐怖の悲鳴。喪われようとする生命の声が。
「……こんな地獄を、俺たちを誘い出すためだけにやらかしたって?
 ほんと、人の生命をなんだと思ってるのさ。誰だか知らないけど気に食わない」
 マガジンを切り替えてリロードしながら、リーオは吐き捨てた。
 今この時も、どこかから、張本人である邪神は見下ろしているのだろう。
 高みの見物というやつだ。忌々しい。報いをくれてやらねば気が済まない。
「まずは人命救助だ。怪我をしている人から優先的に助け出そう。
 頼むよ赤頭巾さん、さっきの失言は謝るからね。軽やかに駆け抜けよう!」
 リーオは肩を掴んだ。ブリキの木こりはさらに速度を上げて道路を走る。
 追いすがる殺人オブジェクトの群れを振り返り、少年は笑った。
「そうだ、こっちにおいで! 相手してあげるからさァ!」
 BRATATATATATA――弾丸の咆哮は、さながら反撃の狼煙めく!

成功 🔵​🔵​🔴​

コノハ・ライゼ
義憤に駆られる熱は持ち合わせちゃいないケド
足元見られてる感はいけ好かねぇデショ

※場所お任せ・アドリブ歓迎


先ずは一般人『かばい』盾となる
ダメージは『オーラ防御』で凌いで
敵との間に【彩雨】降らせ、氷水晶の壁作り逃がす時間を稼ぐわ

さあて、顔拝みたいならちょいとばかし大人しくなさいな
次に降らす氷は細く鋭く、『マヒ攻撃』纏わせ
更に『範囲攻撃』で網目編むように吹き荒ばせるヨ

コレで足が鈍らせれたら儲けモノ
追い縋れなくたってイイ、ただ視えれば
敵の動きを視線の内に捉えたら『2回攻撃』
右目の「氷泪」から彩雨の隙間縫うよう、紫電の牙奔らせ喰らいつき
『傷口をえぐって』『生命力吸収』

失礼、食事だけは外せなくてネ



●氷よりも冷たく、稲妻よりも鋭く
 すべての猟兵が、この有様に義憤を燃やしているわけではない。
 むしろ老若男女種族も立場も異なる多様性の集団であるからして、
 わかりやすく正義感の強い輩よりも、"そういう者"のほうが多いやもしれない。
 コノハ・ライゼこそは、まさにそうした"醒めた"猟兵のひとりである。
 では、彼はこの惨状に対して、何一つ思うところはなかったのか。
 ――それは否。義憤だけが、敵に抗うための感情ではない。
 そのように己を定義し、カテゴライズされることへの純粋な苛立ち。
 高みの見物を決め込まれ、まるで測るように試されることへの怒り。
 言葉にするならばその感情は、そう……。
「――気に食わねぇし、いけ好かねぇデショ?」
 まごうことなき、邪神に対する憤懣であった。

 ――ガギンッ!!
「ひっ!?」
 今まさに凶刃を振り下ろされようとしていた若い女が、悲鳴をあげた。
 だが彼女の恐れと異なり、忍者刀はその肉も骨も一縷たりとも裂いてはいない。
 氷である。氷めいて透明の水晶の壁が、敵の刃を阻み退けていたのだ。
「アラ可哀想。大丈夫? マ、無茶は言わないカラさっさと逃げなさいな」
 ひらひらと、コノハは肩越しに女を振り仰ぎ平手を振った。
「あ、ありが――」
 ガギャンッ! 敵が氷水晶の壁を砕こうと痛烈な攻撃を再開する!
「いいから。人助けなんてガラじゃないのヨ」
「は、はい!」
 一般人は脱兎のごとくに駆け出す。それでいい。戦いの邪魔だ。
 直後、ばきりと音を立てて氷水晶の壁が砕ける――コノハに焦りはない。
「さあて、せっかく出てきたんだから少しは遊びマショ? ダンスとかどうカシラ!」
 砕け散った氷水晶の破片が、その意に従い嵐のごとくに荒れ狂った!
 万色を映す針と化したそれは、まさしくプリズムめいて彩を散らす雨。
 刃よりもなお鋭き氷水晶の嵐に呑まれ、数体の敵が一瞬にして霧散する。
 だが、コノハは顔を顰めた。何体かの敵がこの奇襲を逃れている。
(オレの動き、学んでるってワケ。ホント、気に食わねぇわネ)
 寄せては返す波のように、攻撃直後の隙を狙い殺人忍者が構えた。
 荒れ狂った氷針は、一気にその鋒を地面に向け、あられのごとく降り注ぐ。
 一瞬。ただ一瞬だけ敵の足を止めるためだ。それで十分なのだから。
「ヒトの技ァ見といて、タダで帰れるなんて思ってねぇデショ? 代金頂戴な。
 ――ああ、お金は結構。アタシがほしいのはもっとシンプルなものダカラ」
 薄く微笑んだ男は、足止めされたオブジェクトどもの"背後"にいる。
 ばちばちと、稲妻めいて鋭い牙……氷泪の残滓が、紫色の軌跡を描いた。
 ちろり。ぞっとするほど赤い舌が、妖狐の唇をなぞる。
「ただ食事させてくれれば十分。失礼だけれど、"コレ"は外せなくてネ?」
 応じる声はない。喰われた敵はすべて、精髄を奪われ砕け果てたからだ。
 刃めいた鋭い瞳は、さらに近づくいくつもの気配を遠く睨みつけた。
 怒りはある。だがそれよりも己を戦いに駆り立てるのは、このどうしようもない空腹。
 今日は、たっぷりと味わうことができそうだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティオレンシア・シーディア
さっきのヤツほどふざけた速さじゃない分まだやりやすい部類ではあるけど…
こっちはこっちでかなり速いし、数がいる分面倒ねぇ。
けど…場所さえ選べば、なんとかできそう、かしらぁ?

あたしが選ぶ戦場は、地下道。
ここなら上下左右は全て壁。あたしの一番得意な戦場なのよねぇ。
〇スナイパーで●鏖殺を撃ちまくるわぁ。
狙うのは…壁に天井・柱、それに先に撃ちこんだ銃弾。
銃弾の通るラインを空間的に〇見切って、徹底的に〇地形の利用した跳弾で三次元飽和射撃を叩き込むわぁ。

閉所に出てきたのが運の尽き。
侵攻ルートの限定ができるなら、そこまで怖くないのよねぇ。
…問題は、コレ見られたってことよねぇ。
一応切り札の一つだったんだけど。



●マズルフラッシュ・イン・ザ・アンダーパス
 BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!!
 暗く湿った地下道に、馬鹿げた量の銃声が響き渡り、エコーする。
 反響した音は、まるで闇に潜む怪物の唸り声めいていた。
 それが軽機関銃でも、ましてやミニガンでもなく、ただのリボルバーだとしたら、
 しかもそれをぶちまけているのが人間の女だとしたら、とんでもない話だ。
 ――だが、事実そうなのだ。それがティオレンシア・シーディアの"鏖殺"。
 純粋に鍛え上げられた射撃技術は、奇跡の力ユーベルコードの域に達している。
 ……銃声が途絶え、KRIN、KRINという殺伐とした排莢音が音叉する。
 ティオレンシアは薬莢を捨て、リロードしながら重くため息をついた。
「……なんとか第一波は仕留められたけどぉ、これは手間がかかるわねぇ」
 然り。彼女の足元には、スイスチーズめいて穴だらけになったデビルズナンバー。
 上下左右が壁と天井で塞がれたこの閉鎖領域は、彼女にとってのホームだ。
 いくら相手に機動力と数の利があったとしても、逃れようがない。

 が、予想よりも弾丸を消費してしまった。
 銃弾の備えは十分にある。問題は"手間がかかった"ということだ。
「段々、あたしの動きに対応してきてる――ってとこかしら」
 敵はこちらを観察し、学習し、そして成長している。
 それが何を意味するのか、フィクサーであるティオレンシアにわからぬはずもなし。
 戦いにおいて、情報は生死を左右する重要なファクターである。
 見切られているのだ。こちらの技術(てのうち)が。
「とはいえ、出し惜しみして死ぬわけにはいかないのよねぇ、あたしも。
 ――ほんと、困ったもんだわぁ。この程度で済ませてくれないってんだから」
 ティオレンシアはわずかに眉根を顰める。反響音が新たな敵の襲来を告げている。
 かすかに舌打ちし、リロードしたばかりのリボルバーを構えた。
 敵が来るのは目の前のルートだけだ。あの装備で地下までは掘ってこれまい。
 問題は、いましがたの第一波以上の速度と動きで来るだろうということ。
「……やるしかないわねぇ」
 呟いた直後、五体の殺人忍者が現れ、上下左右から同時にティオレンシアに接敵!

 対して、女フィクサーはどう戦ったか。
 やることは同じだ。ただ敵が死ぬまで鏖殺の弾丸を撃ち続けるだけ。
 ただし今回は、単に敵を狙って撃つのではない。
 目標は壁。天井。そして林立するパイプや柱、あるいは先に撃った弾丸そのもの。
 BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!!
 敵は当然のように斉射を避ける――しかしこれは織り込み済み!
「一回目は避けられても、二回目三回目はどうかしらねぇ?」
 忍者刀を逆手に構えたデビルズナンバーは、ティオレンシアの数メートル手前で停止した。
 ガキ、キキキン、キキキキ――ギャギギギギギンッ!!
 地下道に反響する無数の音。それはつまり、弾丸は跳ねている――来た!
 殺人忍者は振り返りこれを切り払おうとするが、あまりにも遅い。
 複雑極まりない無数の反射を経た跳弾は、見切るには数も軌道も難すぎる。
 斬撃は空を切り、潜り込んだ弾丸が三体の敵を穴だらけにした!
(これで生き残るわけ? ああ、もう。鬱陶しいわね)
 残る二体。跳弾を手足に喰らいながらも健在。相対距離二メートル!
 ティオレンシアは――おお、ほぼ垂直に銃口を向け最後の六発を吐き出す!
 BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!! ギャギギギギギッ!!
 女フィクサーの首元に刃が届く数センチのところで、最後の跳弾が頭部を貫いた。
 勢いそのままにごろごろと足元を転がり、二体の殺人忍者も絶命する。
「……これも、視られてるんでしょうねぇ。どうしたもんかしら」
 KRIN、KRIN。物言わぬ屍を、薬莢のカーペットが覆い隠す。
 次の瞬間、死の気配を纏う女は、音もなく姿を消した。

成功 🔵​🔵​🔴​

夷洞・みさき
今度は楽しみも無くただ殺すだけの存在ね
僕でもあそこまで純粋にはなれないか

【WIZ】
数も多いし、近寄ると痛そうだし
ここはきれいさっぱり流し潰すとしよう

港や海岸など海近くを中心に行動、人を襲うまきびしを相手取る

【UC】で付近一帯を海に変貌させ【水泳】と【UC】による強化で相手の速度に対抗する

逃げる人を追いかけられない様に、海による境界を敷く

ここから先は現世の人だけが咎を犯す場所だ。
だから、君達は沖の向こうに流れ還ると良いよ。

直接殺すよりも【おびき寄せ】【ロープワーク】で絡めとり【敵を盾にする】
捕えた敵は【UC】の海に叩き落として錆び殺す


ところでそっちは僕を人間扱いしてくれるのかな



●潮騒が運ぶは死の香り
 都市の西側は、穏やかな海に面した港地区である。
 いくつもの船舶が停泊し、物流の要所として国内でも栄えた場所のようだ。
 ……だが、日中にあるべき活気は、もはや阿鼻叫喚の地獄と化していた。
「な、なんだこいつら!? た、助けてくれぇ!」
 いくらU.D.Cが巨大な人類防衛組織とはいえ、これだけの都市丸々一つ、
 そこに住む全ての民間人を即座に避難させることは不可能である。
 対してデビルズナンバーの数と勢いは、猟兵たちの予測すら上回っていた。
 コンテナが積まれた海港に跋扈する殺戮忍者。逃げ遅れた作業員たち!
「――手癖が悪いな。いくら殺人オブジェクトと言っても、ねぇ」
 その刃がオーバーオール姿の男性を刺し殺そうとした間際、磯の香りとともに、
 痩せぎすの女――夷洞・みさきが待ったをかけた。
 ぎぃ、ぎぃ。その後に、人が操るには馬鹿げた大きさの車輪が続く。
「さ、早く逃げたほうがいい。僕は咎人殺しなのでね、庇うだの守るは不得手だ」
「す、すまね……ひっ、ひぃい!」
 感謝もそこそこに、腰を抜かした作業員はほうぼうの体でその場から逃げ出した。
 敵はおよそ十体。対してみさきはひとり。数から見れば圧倒的不利。
 猟兵に狙いを変えた殺戮忍者どもは、一瞬にしてみさきを包囲し刃を構える。
「しかし、こうして見ていると少しだけ羨ましくもあるね。
 君たちのように純粋に"殺人"に特化できれば、少しも禊は楽かもしれない」
 本気か冗談か判別のつかない声音で、みさきが目を細めた。
 ぎぃこ、ぎぃこ。いびつな大車輪が軋み、どの罪人から裁くかを待ち望む。
「しかし人を殺す君たちは、人ではない。つまりは"咎人"ですらない。
 ならば僕は、君たちが向かうべき場所へ君たちを導くとしよう。すなわち――」
 とぷん、と。
 みさきの足元に、磯の香りの強い水がこぼれ落ちた。否、滲み出した。
 まるで蛇口をひねったかのように、海水はしとどにアスファルトを濡らす。
 ……濡らすどころの話ではない。水たまりはあっというまにさざなみとなり、
 みさきを中心に放射状に広がっていく。これは、一体!?

 ……デビルズナンバーが距離を取ろうとしたときには、もう遅い。
 水はあっという間に敵をも絡め取り、辺り一帯を呪詛の空間に変えた。
 すなわちここは、彼女の"領海"。空間をも侵食する潮騒の呪い。
「これが現世とあるべき場所の"境界"だ。君たちはもはやこの先へは進めない。
 君たちは咎を犯した。人ならざるモノらしく、沖の向こうへ流れ還るといい」
 ざざん――呪いを帯びた波が、殺人オブジェクトを飲み込もうと迫る。
 デビルズナンバーは跳躍し、この得体の知れない足場から逃れようとした。
 その首元に、しゅるりと巻き付くものがある。"血刺青の七尾鞭"。
「言っただろう。もはや君たちは逃さないと」
 ぐい、と、見た目にそぐわぬ怪力が、逃れそびれたデビルズナンバーを引く。
 残る九体はマキビシを散弾めいて放ち、みさきをインタラプトしようとした。
 だが、遅い。みさきは手繰り寄せた個体を盾めいてかざし、これを受ける。
「君たちも同じだよ。沈み、流され、錆びて果てる時が来た」
 波は渦潮に変わる。咎人を逃すまいと勢い強く渦を巻く。
 では、その渦の中心、呑まれた先に何がある? どうなるというのだ?
 わからない。デビルズナンバーに感情というものはない、だが。
「――おや? 心外だね。まるで僕を化け物のように見るじゃあないか」
 だがもしも、感情というものがヤツらにあるのだとすれば。
 おそらくはきっと、この得体の知れぬ女を見て、ひとつの感情を覚えたはずだ。

 すなわち、恐怖。
 みさきはきゅう、と口の端を吊り上げて、人でなしの笑みを浮かべた。
「僕はただ、君たちを元の場所に還してあげるだけなのに」
 刃がそこへ到達するより早く、全てを海が呑み込んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユエイン・リュンコイス
今度の相手も機動力重視か…成程、少しばかり自分の欠点が見えてきた気がするね。それを把握しつつ、掃討戦だ。

戦場は出来るだけ開けた場所へと出よう。
相手の動き自体は『水月の識眼』で【情報収集】し、『叡月の欠片』の分析によって【見切る】ことは可能だね。問題は、それに対抗する手段か。
機人は普段通り【グラップル、フェイント】での格闘戦にUCを織り交ぜ、ボクは『観月』による【スナイパー、先制攻撃、支援射撃】を。接近されたら『煉獄』を【クイックドロウ、カウンター】を叩き込もう。

ボクの弱みは機動力と反射速度、そして手数。
でも、それ用装備の観月は良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏だ。ここらで何か手を考えないとね。


薄荷・千夜子
目的のために、手段を選びませんか……狙い通りに動かざるを得ませんが、誰一人殺させはしません!

真白き花よ、力を貸して
[操花術具:神楽鈴蘭]をシャンと鳴らし戦場へ駆け付けたと同時にUCを展開
【破魔】の力を纏った鈴蘭の花弁を一斉に【全力魔法】で放ちます
[鷹羽炎扇]で舞うように風を操り花嵐を巻き起こし撒菱諸共【吹き飛ばし】て差し上げます

その隙に……彗、颯、楓あなたたちは皆さんを安全なところへ逃がすお手伝いをお願いします
少しでも戦場から遠くへ
彼らが逃げ切るまで……いえ、必ずここで終わらせましょう
さぁ、花嵐はまだ続きますよ!

アドリブ共闘歓迎



●こぼれ落ちる生命を守るため
 いくつものビルが連なるオフィス街の大通りを、殺人忍者が跋扈する。
 逃げ惑う人々を背に、たったひとりで抗うのは、銀髪の人形少女であった。
「黒鉄機人! 前を頼むッ!」
 身の丈よりも巨大な黒鉄のからくり人形、黒鉄機人を巧みに操り、
 ユエイン・リュンコイスは後衛として距離を取りながら立ち回っていた。
 白兵戦は黒鉄機人が担当し、その間隙にユエインが援護射撃を叩き込むのだ。
 ミレナリィドールであるユエインの眼球は、専用の演算補助装置と直結し、
 常に様々なデータを網膜状に投影することで、彼女の動きをサポートしている。
 BLAMBLAMN! 黒鉄機人の殴打で怯んだ敵に、正確なスナイプが突き刺さった!
(数は多い。けどこの機動力なら、さっきの敵よりはずっとマシだ)
 とはいえ、状況が好転しているかと言えば、お世辞にもそうとは言い難い。
 "水月の識眼"が集める情報は、敵の動きがユエインと黒鉄機人の全てに対処し、
 徐々に順応しつつあることを示していた。
 同じ戦法ではいずれ看破される。だがどのように工夫すればいいというのだ?
 迂闊に戦い方を変えるだけでは、むしろ隙を晒してしまうだけ。命取りだ。
 そして今ユエインの後ろには、逃げ惑う一般市民がいる……!
「――黒鉄機人! しまった……!?」
 そんな思索が一瞬の隙となってしまったか、ユエインの反応はわずかに遅れた。
 すでにデビルズナンバーは黒鉄機人の脇を掻い潜り疾走している。
 逆手に構えるは忍者刀。殺人というアイデンティティを果たすためだけに。
 一撃のため魂すらも削ったその速度は、ユエインの反射速度では対応不可能……!

 ――しかし、その時である!
「真白き花よ、力を貸して!!」
 しゃりん、と、邪気を払う清廉な鈴の音が響き渡った。
 声の主は頭上。巨大な鷹の背から飛び降りた薄荷・千夜子こそがその当人だ!
 鈴の音の発生源は、彼女が片手に握っている錫杖めいた神楽鈴である。
 しゃりん、しゃりん――やがて音に導かれるかのように杖はばらばらとほどけ、
 視界を覆うほどの盛大な鈴蘭の花嵐に変じる。そして、風に煽られ舞い踊る!
「咲き乱れよ、破魔の鈴! これなるは鷹羽が起こせし炎の嵐!」
 翼を大きく広げた鷹のようにも見える戦扇を振るえば、そこに嵐が生まれた。
 炎と鈴蘭の花とが渦の中で混じり合い、殺人忍者を吹き飛ばし切り裂くのだ!
「……こうして手を引き出されるのはあまりいい気分ではありませんね」
 ユエインの傍らに着地した千夜子は、張り付くような視線の感触に呻いた。
 どこかから見られている。おそらくはこの世ならぬ次元を隔てた向こうから。
 それが此度の首魁――すなわち、デビルズナンバーを解き放った邪神に他ならぬ。
 視られているのだ。戦い方を、その手段を、技を、術を、探られている。
「ですが、誰一人殺させるわけにはいかない……あなたもそうでしょう?」
「――ああ、そうだね。危ういところを助けられた、感謝するよ」
 ユエインの言葉に、千夜子は苦笑めかして微笑み、頭を振った。
 立場が逆だったとしても、千夜子はたったひとりで人々の盾となったろう。
 だが、今この瞬間まで耐え凌げたかどうかは、正直自信がない。
「間に合ったのはあなたの腕前があらばこそです。さあ、踏ん張りましょう!」
 花嵐が千夜子の差し出した掌に収束し、再び神楽鈴の形を取った。
 千夜子がそれをしゃらん、と鳴らすと、上空をぐるぐると回遊していた鷹が、
 さらにどこからともなく現れたイタチと風呂敷つきの犬が高く鳴き声をあげた。
「彗、颯、楓。あなたたちは皆さんを安全なところへ。お願いね」
(なるほど、彼女はビーストマスターか……彼らも頼りになりそうだね)
 人形遣いとビーストマスター。似ているようでその技術体系は大きく異なる。
 しかし相棒と呼ぶべき存在に信を置くという意味では、ふたりは同じ猟兵だ。
 三匹が一般市民を先導する。同時に、怯んだ敵がじりじりと迫りつつあった。
「……これで、ボクの弱みはまたひとつ理解できた。ここからは一味違うよ」
 ゴシュウ……と、ユエインの前方に着地した黒鉄機人が、蒸気を吐き出す。
 対する殺戮忍者は数十体。数の上では圧倒的不利、だが。
「反撃の時間といこうか。測られているばかりでは不満だからね!」
 ユエインの"観月"がけたたましく咆哮をあげ、第二ラウンドの開始を告げる!

 デビルズナンバーの厄介な点は、機動力だけに限らない。
 彼奴らは一切の感情を感じさせない非人間的な動きをしていながら、
 まるでハイエナが完璧な狩りをするように、本能的な連携行動を取ったのだ。
 一体を追えば、残る四体が獲物を取り囲み不意打ちしようとする。
 ならばと防御に回れば、ヒットアンドアウェイの連撃が矢継ぎ早に襲いかかる。
 まるで猟兵の戦い方の弱点を突くように、その戦法を変幻自在に入れ替えるのだ。
 実にいやらしい敵である。対するふたりの乙女はどう闘うというのか?
「……ボクが前に出る。さっきの花嵐を、もう一度起こせるかな?」
「それは――いえ、わかりました。そういうことであれば」
 危険だ、などという台詞は、提案したユエインのほうが百も承知だろう。
 千夜子はそれ以上言うことなく、再び神楽鈴を鳴らして鈴蘭の花嵐を起こした。
 敵はこれを読んでいたか。嵐が本格化するまえに間合いを詰める!
「やっぱり接近してきたな。行くよ、黒鉄機人!」
 ユエインは黒鉄機人と並走し、逆に自分から敵陣へ飛び込んだ!
 反射的にデビルズナンバーは、忍者刀を逆手に構え一気に二体を襲う。
「ボクに出来るのが援護射撃だと思ったかい? 甘いなッ!」
 そこでユエインが振るったのは、天をも焦がす炎纏いし"煉獄"だ!
 ぐるりと円弧を描いた剣が、敵の勇み足を切り裂き動きを妨げる。
「黒鉄機人、"絶対昇華の鉄拳"だ! 欠片すらも遺すなッ!」
 ゴウン――糸に繋がれた相棒は、その指示に応じて拳を白熱化させた。
 地形もろとも敵を焼滅せしめる一撃が、敵陣中央に叩き込まれ炎を生む!
「! 今なら、一網打尽に……! 嵐はこの程度では終わりませんよ!」
 千夜子は状況判断し、さらに炎扇を振るって花嵐の勢いを強めた。
 足並みが乱れた敵はどうなる? 当然、これを防ぐことは不可能だ!
「よし。この調子で攻めきろう。この勢いならいけそうだ!」
「ええ……猟兵の意地を、邪神どもに見せてやりますとも!」
 ふたりは同時に地を蹴った。殺戮忍者どもに、反撃の一撃を叩き込むため。
 そして炎と花弁が荒れ狂い、凶悪なデビルズナンバーを燼滅せしめるのだ……!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

レイニィ・レッド
あァ
嫌ですね
最近どうも不愉快な連中が多すぎる

気に入らねぇ
テメェらは全員刻む

『俄雨』と共に機動部隊の傍へ
手近なマキビシ野郎に
土砂降りとセットで鋏の一撃をお見舞い

以降は水溜りを踏む音などを頼りに
勘と咄嗟の鋏撃で攻撃をいなし
急所に鋏を捻じ込み
確実に仕留める

自分は雨の都市伝説
雨の赤ずきん
雨の中にある限り自分は斃れない

どんな動きで翻弄しようが
どんな傷を与えようが
雨の中で自分には敵いません

――雨の怪物を相手取る覚悟はあるか?

恐怖は判断を鈍らせる
ご自慢の巻物も高速軌道も
使えなきゃただの飾り

玩具みてぇな殺気ぶら提げンなよ

命じられるままに動く駒如きが
その役割を疑うことも無いクズどもが

雨の中に立つんじゃねェ
失せろ



●雨とともに来たる死神
「走れ(ムーブ)、走れ(ムーブ)! 足を止めるな!!」
 スコールの中に怒号が響く。そして忙しないいくつもの軍靴の足音。
 最新鋭の装備に身を包んだ特殊部隊の分隊が、怯えながら走っている。
 彼らはU.D.Cの機動部隊の一員であり、全員が厳しい訓練を終えた者ばかりだ。
 そんな屈強な男たちが、背後や頭上を不安げに仰いでは頭を振る。異様な光景。
 だが、無理もない。なぜならば彼らはいま、追われているからだ。
 殺人オブジェクト。姿なき影、デビルズナンバーの殺戮忍者の群れに。
「くそっ、次はどこからだ? どこから来やがる!」
「焦るなジーン、とにかく本部の指示通り作戦圏外まで離脱することを考えろ!」
「けど分隊長、このままじゃ避難どころか――ひぃっ!?」
 ふてぶてしい皮肉屋で知られる隊員が、情けなく悲鳴を漏らした。
 いた! 音もなく気配もなく、前方に佇むデビルズナンバー!
「……囲まれた……!?」
 分隊長はマスクの下で顔を青くした。背後にもデビルズナンバーがいる。
 まさか。自分たちはこの路地裏に、はじめから追い詰められていたのか……!

 ……分隊メンバーが死を覚悟したその時、スコールが止んだ。
 一瞬の晴れ間のあと、またしても雨が降る。だがそれは奇妙に勢いが弱い。
 ぽつぽつ、しとしと……同じようで異なる"にわか雨"だ。
 分隊メンバーは、言いようのしれない違和感に怪訝な顔をした。
 同様に、デビルズナンバーたちもまた、何かの気配を察知して空を仰いだ。
「……あァ、厭ですねどうも。最近は不愉快な連中が多すぎる――」
 その背後に、音もなく、気配もなく。
 赤い赤いレインコートを目深に被った人影が、ひとつ。
「気に入らねぇ」
 しゃきん、とはさみの音がした。殺戮忍者は素早く忍者刀を、
「――気に入らねぇんですよ」
 ざくり。その腕が、肘から先をばっさりと裁断されて刀ごと脱落した。
 どしゃり。水たまりに腕が転がる。しゃきん。鋭いハサミの音。
「だから、テメェらは全員、切り刻んでやります」
 しゃきん、しゃきん、しゃきん。
 まるで魔法のように、殺人オブジェクトはバラバラになって転がった。

 それとともに、ぽつぽつ降っていた雨が急に勢いを増し、土砂降りになった。
 分隊メンバーは何が起きたのかわからず、呆然と立ち尽くすばかり。
 一方デビルズナンバーは、"それ"を明らかな敵と判断し、即座に構えた。
 しかし、"それ"は、幽霊のように消えては再び現れる。
 雨そのものに紛れるかのように、明滅する光のように、姿はおぼつかない。
 まるで怪物だ。雨の中に垣間見える、幻の怪物のよう。
 振るわれた刀をハサミでいなし、散弾めいて飛び散るマキビシを躱して、
 一体、また一体と敵の首や胴体に鋒をねじ込み、抉り、そして裁断する。
 相手がどれだけ素早かろうが、気配を消そうが、この雨が位置を知らせてくれる。
 水を弾く音。揺らぐ鏡像。水たまりに映る残影。
 赤い影は怪物のようだ。そうとも、彼はまさに雨の怪物である。
 レイニィ・レッド。にわか雨とともにやってくる、都市伝説そのもの。
「来いよ。どう動こうが、どんな傷を与えようが、雨の中じゃ自分にゃ敵いません。
 人を殺すんでしょ。けど、怪物は殺せるのか気になりますね。試してみりゃいい」
 それは青年である、はずだ。だがレインコートの下の顔は明らかならず。
 ただしゃきん、しゃきんとハサミの音がして、そのたびに敵は数を減らす。
「命じられるままに動く駒ごときが」
 しゃきん。
「その役割を疑うこともないクズが」
 しゃきん。
「――雨の中に立つんじゃねェ。失せろ」
 分隊メンバーは、震えた。
 雨のもたらす冷気にではない。
 デビルズナンバーの脅威にではない。
「……雨(ここ)は、自分の狩場なんで」
 正体不明の、赤いコートの怪物。その純化された殺意、そのものにだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

神酒坂・恭二郎
「のせられっちまったねぇ」
仕方ないとばかりに肩をすくめる。
連中の注意が市民から外れた事を確認し居合いの構えを取る。

戦闘方針は分り易い構えで【悪魔の巻物】を誘い、そこからは読み合いだ。
居合いの構えに間を離しての【まきびし】には風桜子の【衝撃波】。
霞の構えに忍者刀で懐に飛び込んでくれば【グラップル】で前蹴り。
八双の構えに相手が備えれば上から潰す【覚悟】を篭めた【捨て身の一撃】。
相手の対応に合わせて更に【カウンター】を狙いに行く。
分り易い構えの中に繊細な【フェイント】を混ぜ、相手の行動を誘導する。
種がばれれば通じない小技だが、半端な理解は逆に命取りになる。
授業料は連中の命だ。



●技を窮める、ということ
 剣の道は無限にして深奥、生半な覚悟で窮めること能(あた)わず。
 どれだけ足掻こうと、天稟のない者には、極意に手をかけることすら出来ぬ。
 再三再四、かつての師が問いた言葉。
 若い自分は反骨心を抱くばかりで、結局本当に咀嚼することは出来なかった。
 いや、それは今もそうか。道半ばで我道を選んだ己であるからには。
「……乗せられちまったねぇ、見事に。ま、仕方がない」
 肩をすくめる神酒坂・恭二郎に、四方から無数の殺気が突き刺さる。
 この程度、潜り抜けてきた修羅場に比べればかわいいものだ。
 だが『所詮は弱敵』と嘗めてかかるのは、自ら生命を投げ捨てるようなもの。
 大山鳴動するかの如き雄大な挙措で居合の構えを取る恭二郎に、慢心はない。

 ……眷属を捨て駒に、こちらのお手並みを測る。
 なるほど、剣客は手の内こそが最大の武器でありアキレス腱だ。
 どれだけ強い秘剣の類であれ、事前に知られてしまえばもはや有名無実。
 一般人の生命を秤にかけることで、無視出来ぬ状況に追い込んだのもなかなかだ。
 しかし、それは一般的な、尋常の剣客の話である。
 恭二郎の振るう神酒坂風桜子一刀流は、"一般的"でも"尋常"でもない。
 かつて剣の道を窮めようとし、道半ばにして無才を自覚して心折れ、
 それでもなお自分なりに道を模索し、やがて辿り着いた答えである。
 同時に、未だ真の意味での完成は見ない。まだその道は途上。
 敵はどれだけいる。感じる殺気はおよそ十……だがこの程度では済むまい。
「大勢で出迎えてくれるのは嬉しいけどねぇ、ちょいと数が多すぎる。
 こちとら、剣ひとつを振り回すのが関の山の、スペース剣豪なんだぜ?」
 殺気がぶつかり合い、ちりちりと焦げ付くように大気が鳴った。
 ……剣客同士の立ち会いは、しばしば互いの読み合いに終始するという。
 先の先、後の先という秘奥の名称によく現れているように、
 相手の手を読み切った者が、死線の先の生を掴み取る。
 恭二郎は自分からわかりやすい居合の構えをとって見せることで、
 数十体のデビルズナンバーを"剣の差し合い勝負"に引きずり込んだのだ。
 恭二郎は、構えている。そこに迂闊に飛び込めば、すなわち死である。
 数十体だ。数においては圧倒的に利を得たデビルズナンバーの群れだ。
 だのに――敵は一体たりとも、恭二郎に不意を打つことが出来ない。
「来ないのかい。千日手はご勘弁願いたいんだがねぇ」
 じり、と踏み足をわずかに進めた。包囲がたじろぐ気配がある。
「――大したこともないねぇ。殺人オブジェクトとやらも」
 はたして、デビルズナンバーに感情というものはあるのか。
 それはわからないが、恭二郎の挑発が、拮抗を打ち破るきっかけとなった。
 風船が爆ぜるように、四方からまったく同時に殺人忍者が襲いかかる!

 それこそ、まさに恭二郎の掌の上であった。
 もしも敵が退いたならば、即座に円弧の剣閃が全てを薙ぎ払っただろう。
 だが敵は突っ込んできた。わかりやすくそれゆえに強力な踏み込み。
 速度を乗せた近接攻撃は、一瞬あとには恭二郎の喉を裂いているだろう。
 だから恭二郎は、急所の守りを一切合切捨て、八相に構えを切り替えた。
「――ぜぁあああっ!!」
 裂帛の気合。まず正面から来た敵を迅雷のごとき刺突で串刺しにする。
 半ばまで突き刺した刃を真一文字に振り、左手の敵を半月の剣閃で両断。
 嵐である。地形すらも薙ぎ払うような、力強すぎる嵐のごとき剣であった。
 軸足に力を込めて勢いを殺す。みしり、と大地が軋みを上げた。
「憤……ッ!!」
 そして剣が"戻る"。右手の敵を返す刀で力任せにぶった斬ったのである。
 乱暴が過ぎる。技の一つもありはしない――と、見えるだろう。
 ただの大振りな剣ならば、こうもあっさり敵は斬られはしない。
 眉間から放った殺気は、およそ十以上の異なる手を織り交ぜていた。
 殺気そのものをフェイントとし、結果振るったのは覚悟の捨て身というわけだ。
 紙くずのように、残る半数が吹き飛ぶ。木枯らしが吹き抜けた。
「……悪いがね。剣を振ることしかできねぇが、剣を振る"ことはできる"のさ」
 残心。応える声はない。
「勉強になったかい。――授業料はもう頂いたから、安心しな」
 ただ、寂寂とした風が吹き抜けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェルト・フィルファーデン
ふざけないで。敵はわたし達のはずでしょう?……ええ、いいわ。アナタ達がそのつもりならわたしも一切の容赦をしない。
絶対に誰一人、殺させたりしないんだから。

騎士よ、力を貸して。全ての敵を片っ端から葬りなさい。
敵陣の中心へ飛び込んで、斬り刻み、叩き潰し、引き裂き射抜き打ち倒すの。
それでもその場から離れ人々を殺すというのなら、身を呈して立ち塞がり【挑発】しましょう。「所詮勝てる相手しか襲わない雑魚」だってね!
……もちろん、誰も傷つけてはダメよ?分かっているわね?ええ、この程度の痛み、痛みのうちに入らないもの。
【激痛耐性】

最悪【時間稼ぎ】で構わない。皆が逃げきる事が出来たのなら、それでわたしは幸せよ。



●勇猛なる騎士、花の王女
 オブリビオンどもが来たる故郷――つまり"骸の海"に、もしカタチがあったなら、
 もしかすると、今この場に広がる風景に近いものなのかもしれない。
 そう錯覚しかねないほどに、阿鼻叫喚の地獄が広がっていた。
 屍である。
 一面に、無数の屍が重なり合って転がっていた。
 実際のところ、屍という表現はあまり適切でないかもしれない。
 なぜならば、倒れ伏すそれらは、みな"骸の海"から来たりしモノ。
 すなわちオブリビオン。一般市民を襲わんとしたデビルズナンバーの成れの果て。
 数はどれほどか。
 50か。
 はたまた100か。
 いや、もしかするとそれよりも多いかもしれない。数える者はいまい。
 ……今なお屍を撒き散らす、フェルト・フィルファーデン被害には。
「騎士よ、騎士よ! わたしの勇ましき、フィルファーデンの騎士たちよ!」
 30cmにも満たぬ小さく華奢な体を、その身を覆う可憐な衣服を血にまみれさせ、
 フェルトは謳う。聞く者のいない、応える者のいない孤独な詩を。
「力を貸して。力を示しなさい。足りないわ。まだよ、もっと!」
 両手の五指に嵌められたアーマーリングは、煌々と輝いている。
 それは生命の輝きだ。
 フェルト自身の寿命を代価とした、美しくも危険な徒花だ。
「敵を殺しなさい。切り刻んで殺しなさい。叩き潰して殺しなさい。
 引き裂いて殺し、射抜いて殺し、打ち倒して殺しなさい。一つ遺らず!」
 糸によって繋がった騎士人形たちは、鬼神の如き働きを見せていた。
 車でたとえるなら、F1カーを全速力で走らせているようなものだろう。
 そのためのガソリンはどこから来る。軋む車体のダメージはどこへ行く。
 車輪を回す燃料はフェルトの生命であり、
 ぞっとするような騎士人形のダメージも、姫君の血で贖われる。
「わたしは命ずる。このいのちを以て"命"ずるわ。敵をことごとく殺しなさいと。
 誰一人犠牲にしないために。一切の血を流させないために。血で贖わせなさいと」
 災厄じみた剣と槍と盾と矢の波濤は、デビルズナンバーを飲み込む。
 台風の目はフェルトであり、同時に彼女がその嵐の"あるじ"でもあった。
「立ち上がる敵は二度殺しなさい。立ち上がらぬ敵には裁きの刃を下ろしなさい。
 ……殺させない。誰も。わたしの前では。誰も! 誰であろうと、絶対に!」
 おお、姫よ。姫であった者よ。何がお前をそこまで駆り立てる。
 なにゆえに、見ず知らずの人々のため、生命を糧に燃やすというのだ。
 その詩は誰にも届かぬ。敵にも、配下にも、仲間にも、助けた人々にも。
 だのにお前は謳うのか。
 だのにお前は闘うのか。
 称賛も栄誉も、感謝も報いも歓喜もありはしないというのに。
「……そして、わたしの前で誰かを殺そうとした愚か者どもに告げるわ。
 アナタたちは所詮雑魚。勝てる相手しか襲わない、誇りも何もないがらんどう」
 言葉を紡ぐたび、目尻から泪めいて血をこぼすのはなにゆえか。
「そうでないとのたまうならば、わたしにかかってきなさい。このわたしに!」
 新たな敵の波が来る。波濤を飲み込もうと殺意と刃を以て。
 フェルトは迎え撃つ。人形たちがその盾となり、刃となる。
「――誰も、誰も殺させない。もう二度と、誰も」
 悲鳴は遠く、もはやそこに生者は彼女一人しかいない。
 けれども誰かが、遠くからぽつりと、風に乗せて彼女に告げた。

 ――ありがとう、うつくしいひと。

「…………誰も、殺させないわ」
 血のしずくに混じった宝石は、お前が流した泪なのか。
 守るものなき姫君は、ただ血の海へと飛び込む。がらんどうのしもべとともに。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒川・闇慈
「空を飛ぶスピード狂の次は忍者軍団ですか……素早い敵が続きますねえ」

【行動】
さて、使用するUCの関係上、ある程度開けた場所で待ち構えるのが得策でしょう。
まきびし達が現れたなら、高速詠唱、属性攻撃、全力魔法、範囲攻撃の技能を活用し風獄刃軍を使用します。
いくら素早くとも、先程の相手と違って空中を飛んで逃げられるということはなさそうです。なので竜巻でまきびし達を纏めて巻き込んで、切り刻むといたしましょう。

「まきびしを撒いても結構ですが……竜巻に巻き上げられるだけなのでは?クックック」

【連携・組み合わせ・アドリブ歓迎】


ニコラ・クローディア
あら、戦う相手を間違ていらっしゃるのではなくて?
きっとそれも策略のうちでしょうけれど…乗ってあげるわ

命の危機を感じているであろう一般市民、その感情そのものをターゲットにして(情報収集+世界知識)UCで転移
転移と同時に盾で攻撃を防いでカウンターよ、オーラで補強した光盾そのものを押し付けて圧殺してやりましょう(怪力+盾受け+オーラ防御
市民に対して猟兵が救いに来たということを示すわ(威厳

さて、どこかで見ているのでしょう、邪神さん
今のうちからせいぜい対応策を考えておくことね
けれども…対策を練っているのが自分だけと思わないほうがいいわ

適当な方向に当て勘で、改めて宣戦布告させていただきましょうか

アドリブ◎


コフィー・ファミオール
素早い相手、また追いつけなかったら……
なんて、考えている間に誰かが泣くなら、頬を叩いてまずは走り出す!
あとは動きながら考える!

広い道路や公園など、隠れる場所が少なそうな辺りを目指してみる
開けた所だと一般人はすぐ追いつかれちゃうだろうし

イーグルは速さもだけど、暴風や誘導弾も厄介だった
つまり、速い奴には「本来」の動きをさせなければいい!
発見した敵に指先を向け『天空の箱庭』を使用
空気の弾丸で攻撃はもとより、本命は弾丸を基点に作られる板やブロック状の空気の足場
まきびしは見えない障害物で動きを鈍らせ、自分は足場を使い攻め込む
そしたら……拳を叩きつける!

真っ直ぐだけじゃない、自分を有利にすることも大事だね



●光芒はしるべとなりて
 "都市部"という表現は、決して比喩や誇張ではない。
 この某国にある都市ひとつ、ほぼ全域が戦場と化しつつあるのだ。
 ありえない話だ。この一件はU.D.Cにとってもかなりの痛手と言えるだろう。
 だがいま考慮すべきは、ことを片付けたあとの雑事などではあるまい。
 この都市のあちこちには、今もまだ逃げ遅れた人々が怯えて震えているのだから。

 たとえば、街の中心部に位置する大広場などは最たるものか。
 数百名近い一般人が、どこへ逃げればいいのかもわからずここへ追いやられた。
 ……そう、"追いやられた"。デビルズナンバーに、誘い込まれたのだ。
「助けてくれ」
「どうしてこんなことに」
「何が起きているの。誰か教えて!」
 死の気配に怯える只人の呻きや悲鳴は、決して謗られるべきものではない。
 彼らに、世界の裏側にいるモノたちに抗う力はないのだから、無理からぬことだ。
 では"あちら側"は、ならしょうがないと見逃してくれるだろうか?
 無論、否。はじめから、この都市に住む人々はすべてが獲物である。
 愉悦のためでもなく、目的のために消費されるただのストック。
 デビルズナンバーは人を殺すためのオブジェクトだ。それが存在理由だ。
 だから、奴らには歓喜も愉悦も、達成感も――そもそも感情自体存在しなかった。

 そして今、百体以上のデビルズナンバーは、広場をぐるりと囲んでいた。
 円陣を組んだ殺戮忍者どもは、なにやら巻物らしき奇妙な物体を取り出すと、
 印のような形に両手を組み、この世ならぬ異界の言語で呪文を唱えている。
 忍法、とでもいうつもりだろうか。あまりにも邪悪なカリカチュア。
 もたらされる結果は、間違いなく人類にとって善きものではあるまい。
「助けて」
「助けてください」
「誰か――」

「「「誰か!」」」

 人々の声がひとつになった。それは誰にも届かぬはずの祈りであった。
 だがここに、光芒がひとつ。前触れもなく、大広場の中央に生まれた。

「――させないわ」
 おお。光の塊と見えたのは、エネルギーで作り上げられた巨大な盾である。
 それらはまるで花弁のようにいくつも分裂し、放射状に広場を取り囲んだ。
 つまり、デビルズナンバーの円陣を押しのけるように、ぶわりと膨れたのだ。
 おそらくは人体に致命的影響をもたらすであろう、黒い瘴気の靄が、
 壁のように立ちふさがる光の盾に噴射され、そして跳ね返される。
 声の主は、一見すれば可憐な女。奔放なる龍、ニコラ・クローディア。
「ニコラが来た以上、もう終わりよ。残念だけれど、あなたたちはご破談なの。
 退きなさい。ここにお前たちを討ち滅ぼす猟兵(モノ)がやってきたのだから!」
 光輝はなおも高まり、広場全体を覆い隠すほどになった。
 そのオーラに圧されるように、光の盾は四方八方に前進し敵を押しやる。
 呪詛もろとも。デビルズナンバーがもたらした死の絶望もろとも!

「……何? あの光」
 遠目からでもはっきりとわかる光芒は、同じ猟兵にも届いていた。
 たとえば幼く経験浅きヤドリガミの少女、コフィー・ファミオールにも。
(いや、考える必要なんてない。あそこに敵が――仲間もいるんだッ!)
 コフィーは即座に状況判断し、全力で大広場めがけて駆け出した。
 脳裏には、先のジャガーノート・イーグルとの戦いの顛末がフラッシュバック。
 初陣としては苦い引き分け――いや、個人単位で見れば敗北に近いか。
 清清しい勝利とは言い難い顛末だった。だが、ここで怖気づいてられるか。
(敵がいるなら、普通の人たちもいるはず。なら――!)
 迷ってまごついていれば、誰かの生命をこぼし落としてしまうだろう。
 コフィーは己の頬を張って気合を入れ、さらに速度を加速した。
 ちょうど広場へ続く大きな道路に出た瞬間、死角から飛びかかる殺戮忍者!
「そう来ると思ってたよ、邪魔なんだからっ!」
 あらかじめ不意打ちを予期していたコフィーは、忍者刀の斬撃を身軽に躱し、
 回避行動と同時にいくつもの空気弾を射出。狙いはほとんどつけていない。
 機動力に優れたデビルズナンバーには、回避の容易い牽制だろう。だが。
「ここはもう私の"箱庭(ガーデン)"、残念だけど相手はあとでねっ!」
 空中に固定された空気の足場を蹴り渡るコフィー。なんたる身軽さ!
 いくら敵が機動力に優れるとは言え、不可視の足場を飛び渡る獲物は話が別だ。
 あっという間に距離が広がる。だが敵の数は一体二体では済まない!

「なるほど。では私のほうは、鋭い嵐の風をお見せしましょう。クックック」
 どこかから陰気な声がして、コフィーの背後に刃じみた嵐が生まれた。
 ごうごうと渦巻く竜巻は、用済みの足場もろとも敵を飲み込み切り裂く。
 まるでミキサーだ。突然の範囲攻撃に、何体もの忍者が切り裂かれて死んだ。
「あの光。戦闘中だというのは否が応でもわかりますからねぇ。
 来てみればなにやら追われていたようなので、僭越ながら手助けなどをば」
 魔力によって空中に浮かぶ黒服の魔術師、黒川・闇慈が慇懃に礼をする。
 ビルのあわいから、さらなる新手。黒ずんだ瞳はそちらをうっそりと見た。
「まあ、あの程度で途切れるはずはありませんが。ここはご同行はいかがで?」
「ありがとう、願ってもない話だよ! さあ、急ごうっ!」
 コフィーは笑顔で頷き、滑るように空を翔ぶ闇慈と並走する。
 かたや、意志によって生み出される逃れること能わぬ刃の竜巻。
 かたや、風のように自在に天空を舞う箱庭――不可視の足場を生む風の弾丸。
 ふたりの能力と術式は対称的ながら、今はそれが噛み合っていた。
 コフィーはそのスピードと敏捷力で先を行き、敵を翻弄して惹きつける。
 追いすがるデビルズナンバーは、固まったところで闇慈の竜巻で処理する。
 散弾めいて放たれるまきびしも、ふたつの風の前には決して届かない!

 そうして、風を操るふたりは、光の盾に守られた大広場へと参着した。
「ほら、派手に暴れるからこうなるのよ。ニコラたちが目当てだったんでしょ?」
 ニコラの言葉は、デビルズナンバーだけに向けたものではない。
 どこかから今も自分たちを観察している、首魁の邪神に向けたものでもある。
「出る杭は打たれる。オブリビオンがすることなんて何一つ実を結ばないのよ。
 それでもあがくというなら、全力で叩き潰させてもらうわ。こんな風に!」
 光の盾がふわりと上空に浮かび上がった。闇慈はふむ、と声を漏らす。
「攻め時でしょうか。あそこに飛び込む勇気はありますか?」
「え――」
 出し抜けに問われ、コフィーは一瞬、ぽかんとして闇慈を見た。
 あれほどの光の盾が垂直に降ろされれば、それはいわば光のハンマーだ。
 強烈な衝撃が大地から響き、敵の足並みを乱すだろう。混乱がやってくる。
 裏を返せば、自分も判断の連続を強いられる混迷ということでもある。
「……やれるよ、大丈夫! もう対策はわかってきてるから!」
 コフィーは莞爾と微笑み、光の盾が打ち下ろされた瞬間に飛び込んだ。
 KRAAAASH!! 噴煙とともに、衝撃が敵を空中に巻き上げる!
「素早い敵には、そもそも"本来の動き"をさせなければいいんだっ!」
 空気弾の連発! 狙いは足場の生成と同時に"障害物"を生むことである!
 空中で姿勢制御しようとしたデビルズナンバーの、その動きを妨げるために!
「そこぉっ!」
 見えた。活路をきりきり舞に駆け抜け、がら空きの胴をアッパーカット!
 衝撃をダイレクトに叩き込まれたデビルズナンバーはそのまま砕け散る!
「当然、あちらは悪あがきに暴れまわるわけですねぇ。クックック」
 ヒットアンドアウェイで立ち回るコフィーを、敵はなんとか仕留めたがる。
 そこに闇慈の竜巻がやってくる。あちらを立てればこちらが立たず、だ。
 強大なぶん機動力を発揮されれば回避されかねぬ刃の竜巻は、
 狙いの逸れた敵を一気に吸い込み、その五体をずたずたに切り裂いた!
「あらあら。残念ねぇ、対策しているのはそっちだけじゃないのよ?」
 この世ならぬ次元の壁の彼方、視線を伝うようにニコラは笑った。
 敵がこちらを学んで対策するならば、こちらは"成長"していくのみ。
 その意志を以て光芒を掲げ、そして実際に猟兵たちはやってきたのだ。
 つまりは――この光は仲間たちに対するしるべであり、
 救うべき人々に安堵と希望をもたらす輝きであり、
 邪神に対する宣戦布告に他ならない!
「もう負けない! 一体残らず、ぶちのめしてやる!」
「まだまだ術式はありますからねぇ、どうぞご堪能を――クックック」
 世界の祝福を受けた猟兵の底力は、こんなところでは終わらない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ジャガーノート・ジャック
◆ミコトメモリと

(ザザッ)
息を吐く暇もないな。

――この依頼が無事終わったら話す。約束する。

今は救助だ。行こうか、ミコトメモリ。

(ザザッ)
"Thunder-Storm".
雷光を地形に撃ち砂嵐を展開。敵の索敵能力を無効化――
此方の状況も市民も把握させない。
敵は雷光と熱線で狙い穿つ。(狙撃×二回攻撃×一斉発射)

其方は無事か、ミコトメモリ。
そうか。なら良いが―

(ザザッ)
――馬鹿馬鹿しい"ロールプレイ"だろう。

こうしなければ戦えない。
鎧を着け"本機"を演じなければ戦場で誰かの隣に立てない。

そう言って貰えるなら、この役も捨てたものではないな。
――君を守る事ができていたなら、それが何より喜ばしい。
(ザザッ)


ミコトメモリ・メイクメモリア
ジャックと
「全部終わったら、ちゃんと話を聞かせてもらうから」
「……今は人を助けることに集中しよう、いくよ!」

《未来を変じる時の欠片》
キミの事はもう知ってる。
キミは何も殺せない。キミは何も傷つけられない。
ボク達が、来たからね。

(大丈夫かと問われれば)……怪我はないさ。キミがいたもの。
……それがキミの守り方なら、それでいいよ。
馬鹿馬鹿しいとは、思わない。
それが、キミが求めた“騎士”のあり方なんだろ?
……ジャガーノート・ジャック。
守ってくれて、ありがとう。

…………ああ、けど。
……怒ってないわけじゃ、ないんだからね?
……ばか。



●仮面の下
 ジャガーノート・イーグルは滅んだ。
 宿縁によって結ばれたジャガーノート・ジャックが最期をもたらしたのだ。
 ひとまずのところ、その存在がこちら側に現出する可能性はゼロになったはずだ。
 ……完全に滅殺されたかどうかは、今の状況では言い難いが。
「ねえ、シズ――」
《――この依頼が無事に終わったら》
 ザリザリと、ノイズ混じりの電子音声がミコトメモリ・メイクメモリアを遮った。
《――君が聞きたいことは、包み隠さず話す。すべてとはいかないが》
「…………」
《――約束する。だから、ミコトメモリ。今は救助の時間だと"本機"は考える》
 平易で冷静なはずの電子音声は、ことさらに一人称を強調した。
 その意味がわからぬほど、ミコトメモリも機微に疎いわけではない。
「……わかったよ。たしかに今する話じゃないね。行こうか」
 けれど、とミコトメモリは言った。
「約束はしたからね。全部終わったら、ちゃんと話を聞かせてもらうから」
《――……ああ》
 ジャガーノートが片腕を差し出す。ミコトメモリはその腕に乗ろうと……して、
 一瞬だけ躊躇した。けれどもすぐ、迷いを振り払うように鋼の腕に触れた。
 そして、砂嵐がふたりを包み込む。敵にも、市民にもその姿を見せぬため。
 けれどもふたりに注がれる"何か"も眼差しは、張り付くように感じられる。
 それは、超空間から見下ろす、高みの見物を決め込む邪神のものだった。

 熟練の連携を有するふたりが力を合わせれば、オブジェクトの相手は易いものだ。
 そもそも、彼奴らが狙う市民を、砂嵐がすっぽりと覆い隠してしまうのだから、
 追跡しようにも出来るはずがない。ならば、そこに雷光が降り来たり滅ぼすのみ。
 よしんばふたりの気配に気づいた敵が、何かしら反撃しようとしたとして、
 未来視を可能とするミコトメモリの"記憶の欠片"が先んじてしまう。
「キミは何も殺せない。キミは何も傷つけられない」
《――本機らが、ここに来たからには、お前たちは"おしまい"だ》
 ZAP。雷光が何体めかのデビルズナンバーを貫き、滅殺せしめた。
 数は多いが簡単なものだ……だが、徐々に、少しずつではあるが。
《――……敵の動きが、緩やかにだがこちらに対処しつつあるな》
「例の"本懐"の入れ知恵だろうね。ボクにもまだ姿が見通せない……」
 無理に邪神の存在を知覚しようとすれば、ミコトメモリは狂死しかねない。
 邪神とはそういうものだ。"こちら側"に来ていないならなおさらのこと。
 今はただ、敵の目論見通り、市民の被害を食い止めるしかない。
 ただでさえ言葉少ないふたりには、その事実が重くのしかかった。

 僥倖だったのは、ジャガーノートが展開した砂嵐の存在だろう。
 それがあれば、少なくとも他の猟兵の耳目を気にする必要はない。
《――ミコトメモリ、そちらは無事か?》
「ん? ああ……心配ないよ。キミのおかげでこの通り、無傷だよ」
 そうだ。ジャガーノートは相変わらず、今まで通りに守ってくれている。
 怪我はない。ただその鎧は、きっと何かの代償によって生み出されているのだろう。
 ジャガーノートとは、"そういうもの"だ。視たのだから識っている。
 ……殺したのだから、識っている。
『――馬鹿馬鹿しい"強がり(ロールプレイ)"だろう』
 ふと、ジャガーノートが言った。心なしか声音のノイズは薄らいでいる。
 おそらくは、鎧の下に居る"彼"の本音が、表層に出てきているからだろう。
『本機(ぼく)は、こうしなければ戦えない。戦場に来ることさえ恐ろしい。
 思い描いた鎧を着け、"本機(ジャック)"を演じなければ誰かの隣に立てない』
「…………」
『君のような人間をも騙して、別人でいようとしなければ。所詮本機は――』
「それでいいよ」
 声が途切れた。
「それがキミの"守り方(ロールプレイ)"なら、それでいいよ。ボクはね」
 温かい言葉ではない。その声音にはたしかに悲しみがあった。
 どうして黙っていたのか。
 どうして隠していたのか。
 相応の理由があるのあろう。
 相応の覚悟があるのだろう。
 それでも、思わずにはいられない。
「馬鹿馬鹿しいとは、思わない。ただ――悲しいんだ」
『悲しい? 何故だ。"ジャック"に憧憬めいたものを抱いていたと?』
「違うよ。もちろん友人として敬意は払っていたけれど、違うんだ」
 ミコトメモリは、困ったように微笑んだ。
「……ボクは人間だもの。そりゃあ、隠し事をされてれば悲しいし寂しいさ。
 それでも、それがキミの求めた"騎士"のあり方なんだろ? だったら、いいよ」
 それでいい。
 個人の反応として悲しみ、寂寥感を覚えはすれど、否定はしない。
 笑いも、嘲りも、蔑みも、見下しも、侮蔑も抱きはしない。
「……ジャガーノート・ジャック。守ってくれて、ありがとう」
『………………』
 長い沈黙があった。
『……そう言ってもらえるなら、この"役"も捨てたものではないな』
 笑っているようなノイズのぶれがあった。
『君を守ることができていたなら、それが何より喜ばしい』
「うん」
 どこかから悲鳴が聞こえた。ふたりはそちらへ駆け出そうとする。
「ああ、けれど」
 そこでミコトメモリは、言った。
「……怒ってないわけじゃ、ないんだからね」
《――……ああ》
 ざりざりと、声音をノイズが覆う。
「…………ばか」
 少女のこぼした一言は、届いたかはわからない。
 けれどきっと、届く必要はなかったのだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ロク・ザイオン
(遠き戦場で、聞き馴染んだ砲の音がした)
……そうか。
よかった。

(己の声を。
何処に居ても、何処に居るか判る
狼煙のようだと、言われたことがあった)

――あああァアアア!!!

(真の姿を解き放ち「惨喝」。
弱きひとは逃げろ。
近き病は怯え竦め。
遠き病は殺しに来い。
此れよりこの地を、死地とする)

(ひとの気配が残っておらず、なるべく建物の密集した、音の跳ね返りやすい場所がいい。
【地形利用】できる足場も多いだろう。
「惨喝」で【恐怖を与える】力を強化し
咆哮で動きを鈍らせて【先制攻撃、薙ぎ払い】)

(惨喝の人払いでもまだ、残っているひとがいたなら
【かばう】のを最優先
「擁瑕」で影に匿ってしまえたらいい)


鳴宮・匡
無辜の人々を傷つけるなんて許せない、とか
人の未来を奪うなんて見過ごせない、とか
あいつらみたいに、思えやしないけど

戦う意味を持たない力でも
誰かのために戦うことは、無駄じゃないって思うから
……思いたいだけ、かもしれない

敵がこちらの動きに対応してくるなら
さっきよりも速く狙えばいい

【真の姿】を解放、知覚範囲と精度を拡げて
射程内に入った敵から即座に狙撃
“感知”すれば反射的に撃てるはずだ

五感情報に限らない
“ひと”でないものの気配
こちらへ、或いは民間人へ向く悪意、肌を刺す殺気
あらゆるものを手掛かりに直感で捉え
より速く動けるように努めるよ

さっさと本命にお出まし願いたいところだけどな
……視られるのは、嫌いなんだ


ヴィクティム・ウィンターミュート
雑居ビルが並ぶ通り

オイオイ、俺が知ってる忍よりも随分と──弱そうじゃあないか?
なぁおい、雑魚忍
パンピーなんか狙って楽しいかよ?(一般人の危機にインターセプト、忍者刀を踏みつける)
怨敵の首がここにあるぞ?獲ってみろ

セット、『VenomDancer』
俺の匂いは覚えたかい?では──ランだ

左腕の仕込みワイヤーアンカーを駆使しながら、ビルとビルの間を飛び回る
いいのかよ、こんな場所でさ
俺はストリートパルクールの達人だぜ?
【ダッシュ】と【ジャンプ】で止まることのない高機動で逃げつつ、鈍化と猛毒パルスを飛ばす

…遅いな、実に遅い
苦しいか?苛立つか?
悪いが死ぬ前で付き合う運命だ
道化は──まだまだ帰してくれないぜ



●砂嵐の届かぬ、ビルのあわいにて
 無辜の人々を傷つけるなんて、許せない。
 人の未来を奪う行為は、見過ごせない。
 いたずらに生命を奪う邪悪は、討たねばならない。
 美辞麗句と言わば言え、その義憤を否定することは誰にも出来ない。
 ましてや、当の邪悪どもにはなおさらに。無関係な者であれば余計に。
 否定させはしない。たとえ己に、その煮えたぎる活力がなかったとしても。
 なぜならばその言葉は、幾度も音を変えて聞いたことのある感情(こえ)だ。
 相棒が、
 戦友が、
 あるいは縁を結んだ誰かが、どこかで叫んできたことだからだ。
 そしてこれからも、おそらくは今もどこかで。彼らはきっと叫んでいる。
 人間なのだから。
 悪しきものを悪しきと感じ、正しく怒ることの出来る人間なのだから。
(――俺は、あいつらみたいに思えやしないけど)
 こうして銃のスコープを覗くと、雑念が増えたものだと鳴宮・匡は思う。
 それでも感情をトリガーに乗せることはない。染み付いた薫陶の賜物か。
 ……いいや、違う。自分自身に、乗せるような感情がそもそもないからだろう。
 あったとしても、それを彼らのように表面化させることは出来やしない。
 自分は、人間ではないのだから。
 ――それでも、闘うことはできる。意味はなくとも、戦いは出来る。
 然るべき部位を破壊すれば、どんな生き物であろうが必ず死ぬ。物理法則だ。
 オブリビオンであろうが同じこと。霊体だろうが異次元の生物だろうが、
 殺せば死ぬ。殺してきた。ならば殺せる。そこに意味はいらない。
 結果としてそれが、誰かのためになるのなら。
 そこにはきっと、その"誰か"のおかげで意味が生まれるはずだ。
 無駄ではないはずだ。
 何も生み出せない自分が、何かを生み出せる誰かにバトンを手渡せるのだ。
 ……いや、驕りが過ぎるか。手渡されるバトンを護れるというべきか?
(わからない。どこかで聞いた理屈を、わかりやすく自分で再定義してるだけだ)
 ならばこの思いも、所詮"そうしたい"というだけのわがままなのか。
 噫。匡の思索と裏腹に、指先は引き金を引いて弾丸を放つ。銃声が微かに響く。
 微かに。それは、思いを吐露する声音としてはあまりにも弱く平易だ。
 声を出せたなら。感じたことを、思ったことをそのままに叫べたなら。
 ――そう。今響いてきた、あの聞き馴染みのある咆哮(こえ)のように。

 ロク・ザイオンは、哭いていた。
 この地には、あまりにも多くの病が溢れている。
 病に追われた人々の悲鳴(うた)が、あまりにも多く転がっている。
 ああ。汚らわしい病。呪わしい病葉。滅びるべきものどもよ。滅びよ。
 汝らは滅びるべくして滅びるべし。そのためにこの罅割れた声で哭こう。
 痛みすら受け止められぬ人々の代わりに。
 泣き叫ぶことしか出来ぬ人々の代わりに。
 ――病になってしまった、子供の代わりに。
「――あああァアアア!!!!」
 哭こう。声をあげて哭こう。地の果てまで届くほどに長く吠えよう。
 弱きひとよ、我が声を恐れよ。罅割れた呪わしき声を恐れ逃げよ。
 病よ。我が声を恐れよ。砕けかけた忌まわしき我が声に怯え竦め。
 ひとは逃れ、病は来たれ。ひとは生き延び、病は死ね。我に殺されよ。
 いのちを奪うというならば、我を殺せ。我を殺しに来るがいい。
 それは哭いていた。怒りにまみれていたが、たしかに哭いていた。
 ロクはとうに、病とひとの境目もわからなくなっていたのだから。
 だから哭くしかない。哭いて、知らせてやるしかない。
 ひとよ、病よ。
 聞こえるならば、どうか"そうあれかし"と。
 それは、祈りめいた咆哮だった。

 いくつもの雑居ビルが立ち並ぶそのあわい、人気のない道路。
「……ア、ァアア……あ」
 ロクは声を途切れさせ、けほけほと咳き込んだ。血の混じった咳を。
 人めいた体ではこれが限界か。ならば、獣の相をあらわとしよう。
 ざわざわと赤い髪がたてがみめいてたなびき、先端が燃え上がる。
「――ァアアアあ亜ァ合あアアアアアアッ!!!!」
 今度のそれは咆哮であった。獲物を狩ると決めた獣の雄叫びである。
 大気が震えた。冷たい鋼が軋んだ。世界にしろしめす善きものがそれを恐れた。
 獣だ。獣が来た。肉を食い骨を砕く獣がここに来た。
 逃げろ/殺せ。あれはあってはならぬものだ。呪われた烙獣だ。
 ぞろぞろと屍めいた忍が来る。デビルズナンバー。ひとを殺すもの。
「来い」
 雄叫びはそう言っているように思えた。
「来いッ!! おれは、ここだ! ここにいるぞ!!」
 ああ。かつてその言葉は、信じる相棒と仲間に向けたものではないか。
 ここは死地だ。あの時と同じ、しかし異なる、死地と決めた場所なのだ。
 獣を殺そう。あれはひとではないが、あってはならぬものゆえに。
 死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
 殺意を纏いて、来たりし死神が赤髪の獣をわっと襲い――。

 そこで、ロクは気づいた。
 まだ、ひとがいる。悲鳴(うた)が、聞こえる。
(どこだ)
 叫びを忘れた。聞こえる。可愛らしき子供(もの)のうたが。
 あそこか。親とはぐれて泣きじゃくる子供がひとり。

 あちらも気づいた。
「やめろ。こっちへ来い。おれが相手だ!!」
 やめろ。子供を殺すな。よきものを奪うな。やめろ!!

「……オイオイ」
 はたして、迅雷のごとき速度で振るわれた刃を、踏みにじる男がいた。
 遠くから何かが飛来して、愚かな忍びの頭部をぶち抜き、絶命せしめる。
「俺が知ってる忍びよりもずいぶんと、弱い。醜い。おまけに卑怯と来たか」
 ヴィクティム・ウィンターミュート。口元にはシニカルな笑み。
 背後に子供を守りながら、端役は決して振り返らない。
 ちらりとロクのほうを視線で捉えた。流れるようにそれは敵陣へ。
「なぁおい、雑魚忍。パンピーなんか狙って楽しいかよ? あ?
 ――怨敵(えもの)の首級がここにあるぞ? 獲ってみろよ、雑魚ども」
 敵の注意が逸れた。何か――弾丸が飛来し、また一体の頭部を撃ち抜く。
「よぉし、いいぞ。俺の"匂い"をしっかり覚えろいい子だ」
 ロクが駆け出し、ぽかんとしていた少女を抱えて、ヴィクティムを見た。
 端役は振り返らない。弾丸が来る。その背中が語っている。
「ただしこっちもタダじゃあくれてやらない。ひとつ勝負(ラン)といこう」
 バシュ――左腕の仕込みワイヤーアンカーが、隣のビルに巻きつけられた。
 ヴィクティムは跳躍。巻き上げ機校が彼の体をくるくると宙に舞わせる。
「追ってこい。俺の匂いをな! さあ来な、スクィッシー!!」
 ざざざざざざ、と、波濤のように忍の群れがそれを追った。
「お、おねえちゃ……」
 名も知らぬ少女が声をあげた。ロクはひく、と喉を震わせた。
「…………(だ・い・じょ・う・ぶ)」
 唇の動きで言葉を伝え、小さきものを抱えて反対方向に駆け出す。
 急げ。今は声を出すな。少しでも疾く、少しでも遠くへ。
 小さきものを逃がすため。
 戦友を追いかけるため。
(どうしてだ)
 思いをこらえて走れ。
(どうして、おれは――)
 ただ、走れ。

 通信はない。居場所を探知される恐れがあるからだ。
 そもそも必要がない。なにせ彼の――匡の視覚力ははっきり感じられる。
 "ある"ということだけが、わかる。実際、そのポイントはハッカーにも不明だ。
「さあ、来いよ! けどなぁ気をつけろ、狩人がお前を狙ってるぜ!」
 どこかで銃声らしきものがした。また一体、魔弾に貫かれて脱落する。
「ムーブムーブムーブ! 急げ急げ急げ、俺には追いつけねえし撃ち貫かれるぞ!
 殺したきゃ急げ。死にたくなきゃ急げ! ――ま、俺は達人なんだがな」
 こんなストリートを上下左右に走る(ラン)することなど、朝飯前だ。
 ヴィクティムはそうやって逃げ延びてきた。
 そうやって生き延びてきた。
 違いがあるとすれば、この蒼い瞳の守りがなかったことか。
(道化らしく踊ってやろうじゃねえか。こいつらは苦しめねえとな。
 だから匡、お前は主役らしくやってやれ。それが勝つための最短距離だ)
 蓄積される毒は、逃げ惑"わせる"ヴィクティムの罵詈雑言のたびに増えていく。
 敵は気付くまい。この逃避行自体が、勝ち目のない戦いであることなど。
 そうやって敵をハメるのが己の流儀だ。これこそが俺のやり方だ。
「遅いな。やっぱり雑魚は遅い。てめぇら全員どうしようもねえ雑魚どもだ!
 あ? 苦しいか? 腹立つか? なんとか言えよ、もしもし(ノックノック)?」
 デビルズナンバーに、感情というものは見られない。
 だが相手はたしかにヴィクティムを追いかけている。

 遠く離れた潜伏地点。匡にとってもそれは幸いの状況だった。
「……よくやるよ、あいつも」
 双眸には澄み渡った蒼が揺らぎ、見えざるものをすら彼に見せる。
 逃げようとする人々の悲しみ、苦しみ、ねがい、いのり、いのちの鼓動。
 それを奪おうとする悪意。純化された殺意。戦友を追う敵の焦燥。
 力強く吠えていた女の、ぐっとそれを抑え込む苦しそうな吐息。
 ――己らをじっと観察する、何者かの視線。
(視られるのは嫌いなんだ。思惑通りなんだろうけどさ)
 感情はトリガーに乗せない。淡々と、狙える敵を一体また一体と仕留める。
 それが最短距離だ。手がかりが導く答えに、ただ銃弾を叩き込めばいい。
 極度に消音化された銃声は、泪が落ちる音に似てか細い。
 遅い。敵はあまりにも遅い。だからやすやすと殺すことが出来る。
(――遅いのは俺も同じか)
 もっと疾く。もっと多くの敵を、より簡潔に、より確実に仕留めねば。
 蒼が深まる。人でなしの力が彼を殺戮の地獄へと連れて行く。
 感情はトリガに乗せない。どれだけ忌もうと、やめられもしない。

 そして再び、街中に響くような咆哮が、敵を後ろから叩いた。
「ああァアアア!! 病は、燃えろッ!!」
 少女を安全地帯に逃し、取って返して戻ってきたロクのものである。
 ヴィクティムと、姿なき暗殺者に意識を割いた敵を、容赦なく切り裂く。
 破裂するように爆ぜた声音が恐怖をもたらし、その動きを止める。
 切り裂く。殺す。視られているだとか、そんなことは知ったことではない。
 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。
 より疾く。より確実に。より多くを。
(もう、あの悲鳴(うた)を、聞きたくない――……)
 獣の声は、猛々しくもやはり哭いていた。
 敵はデビルズナンバー。人を殺すためにあるモノども。
 それを惑わすのは、殺すことでしか救われなかった男。
 狙い定めるのは、殺すことしか出来ない人でなし。
 追い立てるのは、殺すことしか選べぬ獣であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

皐月・灯
……ふざけた真似してくれやがる。
用があんのはオレ達だろーが……ったく!

地下街に向かうぞ。
機動力と数で上回る連中をどう攻略するかっつったら……【地形の利用】だ。
戦場が地下だから、上は制限されてる。
壁を背にすりゃ、攻撃方向が絞り込める。

後は忍者刀に集中だ。
わざわざ近づいてきてくれるんなら、
【見切り】でいなし、【カウンター】を叩き込む……シンプルだろ?

《焼尽ス炎舌》を使うぜ。
炎で灼くだけじゃねー。コイツの炎は、オレの姿を隠す目くらまし。
ヤツらの狙いを僅かでも狂わせ、回避と反撃の隙を生むための布石だ。

――機動力と頭数だけで、オレが仕留められるかよ。
ようく見とけ、これが……オレのアザレア・プロトコルだ!



●怒り、輝き、殺意、闘志――破壊
 人気の絶えた地下街に、急き立てられたような足音が響く。
 皐月・灯のものだ。その足音一つ一つにすら、怒りが滲むようである。
 灯は駆ける。逃げ遅れた誰かがいる可能性のために、ひたすらに駆ける。
 敵がいるならばそれでもいい。すべて砕く。見逃しはしない。例外はない。
 ……やがてそこに、いくつかの密やかな足音が混ざった。
(来たか)
 異色の双眸が細まる。幽き気配、だがたしかに十の敵意が突き刺さっている。
 狙うべき人間がいないと見て、こちらに狙いを変えてきたか。それでもいい。
 最初からそうすればいいのだ。オブリビオン風情が、嘗めた真似を!
「っ!」
 灯は、鋭い殺気に己の意識をスイッチし、雑念を瞬時に切り捨てた。
 直後、その白い頬を、鋭角的な一撃が切り裂く。きらめいたのは逆手の忍者刀!
「こすずるい真似してんじゃねーぞ、畜生がッ!!」
 応報の拳が爆発的速度で放たれた。腹部狙いのストレート。入った。
 カウンターは直撃。だが背後から二体目。時間差の連撃か!
「チッ――見え透いてんだよ、クソ野郎!!」
 もう片手での弾かれたようなバックナックル。頭部を破砕せしめた。
 灯は勢いを殺さずぐるりと一回転して、不明個体の追撃を牽制すると、
 破壊した敵への残心もそこそこに、猿(ましら)めいて身を丸めて回転跳躍。
 カカカカカッ! 瞬前にいたところに、どこかからまきびしが突き刺さる。
(あと八――いや、気配が正確だと思わねーほうがいいな)
 わざと一部の個体が隠れ潜むことで、数をごまかしている可能性がある。
 天井を蹴り、壁を背にする形で体をねじりながら着地。地面を殴りつけた。
 《焼尽ス炎舌(サラマンダー・ドライブ)》。インパクト点から炎が吹き出す。
 陽炎めいて揺らめくそれは、すなわち灯の姿を覆い隠す目くらましである。
 なるほど妙手だ。影法師が、己を包囲しようとする敵影を四つ伝えた。
「そこだ……ッ!?」
 だが飛び出した灯を出迎えたのは、肩口を切り裂く鋭利な刃であった。

 敵は、対応しつつある。
 灯の武器は徒手空拳による魔術拳闘、つまりはシンプルな体術だ。
 ゆえに見切られるのは容易い。こちらの動きを先読みされていたというのか?
 傷口が燃えるように痛む。血のしずくが、敵が刀を返したと知らせている。
 次の狙いは喉元だ。あるいは鎖骨か。いずれも致命的。
「――……な、ろォ」
 腹の奥で怒りが煮えたぎる。呼吸はその熱気を伝えるふいごのようだ。
 怒りだけでは戦えぬ。だが怒りこそが灯の原動力である。
 ならば。その熱気を以て、さらに成長(グロウアップ)すればよい!
「ふざけた真似して、姑息に勝ち誇ってんじゃ――ねェッ!!」
 再度の地面殴打! 身を隠す目的だとすれば悪手だ! 敵は予測済み!
 だが灯は、それを"本来の用法"のために全力で叩きつけた。
 破砕した地面から吹き上がった炎は、先の火ではない!
「オレのアザレア・プロトコルが、これだけだと思ったら大間違いだぞ!!」
 ドウ!! 地面が砕けて蜘蛛の巣状のヒビを描く。
 焔に蹈鞴を踏んだ敵を、灯は前方回転跳躍からのジャンプナックルで両断!
「てめーらみたいな卑怯者のクソ野郎にッ!!」
 着地。じゃりっ、と床を焦がしながらのレッグスウィープ。
 見事。着地際を狙った地面すれすれの不意打ちを完全に迎撃した! 頭部破砕!
「読み切られて負けるほど――オレの底は、浅くねェッ!!」
 倒れ伏す敵の屍を踏みつけ燃やしながら、灯はあえて両足を踏みしめた。
 三方からの同時攻撃。上体のみを使ったスウェーバックでこれを躱す。
「ようく見とけ。刻み込んで、燃えつきろォ!!」
 業火の術式が解き放たれ、大気を焦がした。音の壁を超えた破裂音。
 分身したようにすら見える高速のカウンター、三連。遅れて爆ぜる敵影!
 怒りだ。怒りがある。敵に対する怒り。己の不足に対する怒り。
 この痛みすらも我が糧としよう。すべては、邪悪を滅ぼすために。

成功 🔵​🔵​🔴​

非在・究子
え、NPCを、守りながら、の、戦闘、か。
な、なかなか、難儀な、ものだけど、しっかり、守って、生存ボーナスで、スコアを、稼がせて、貰うと、しよう。
……ば、場合に、よっては、HPの損耗も、残機の減少も、込みで、NPCを、かばう、ぞ……あ、アタシと違って、い、一回きりで、死んだら、終わり、なんだろ?
そ、それで、敵の、ニンジャ供は、ゆ、UCで、敵を、楽しい、アトラクションに、ご招待、と、行くか。
お、オブリビオン、だけに、反応する、トラップの、群で、お出迎え、してやる、ぞ。ね、粘着床で、動きを鈍らせたり、しつつ、転がる大岩とか、落ちる天井とか、毒ガスとか、楽しんでいって、くれ。



●アウトサイダー
 バーチャルキャラクターは、電脳空間から現世に引き上げられた存在だ。
 その成り立ちはウォーマシンともヤドリガミとも異なるモノだが、
 現世の法則に縛られているという点では共通している。
 つまり、死ぬときは死ぬ。もちろん猟兵たるもの、例外はいくらでもあるが。

 その好例は、非在・究子が最たるものだろう。
 ゲームの世界に生まれた彼女は、いまもゲームに由来する電脳の存在なのだ。
 ゲームの中で、死というのはあまりにもありふれた現象だ。
 特筆するようなことではない。なにせゲームはやりなおしが利くのだから。
 死は一時的なものでしかなく、物語を彩る現象でしかない。
 であれば、究子とて同じだ(おそらく彼女にも本質的な死は存在するが)
 彼女にとって、通常の死とは"残機が減る"という『現象』でしかない。

「ひ、ひいいっ!」
 究子にかばわれた男は、腰を抜かして悲鳴をあげた。
 無理もない。猟兵はその外見とありようで違和感や威圧を与えることはないが、
 目の前で年若い少女が己をかばって死んだ――となれば話は別であろう。
「あ……だ、大丈夫、だぞ」
 だが究子は、けろっとした顔で言った。傷はいつのまにか消えている。
 では、その致死的斬撃をもたらしたデビルズナンバーのほうはどうだろうか。
 突然その足元がバネ仕掛けで飛び上がったと思うと、がつん!! と天井に激突。
 反発して落下した床には粘着剤が敷き詰められていて、身動きが取れない。
 そこへ――KRAAAAAASH!! 真上から棘だらけの岩が落下してきた!
「よ、よし。デストラップコンボ、成功だ。ぐ、ぐひひひ」
「あ、あああ……き、君、いやあなた! だ、大丈夫なんですか……」
 男はなおも震えていた。究子は首を傾げ、そして理解した。
「あ、ああ、そっか。え、一般人(NPC)は、残機とかない、もんな」
「えっ?」
「と、とにかく、は、はは、早く逃げろ。あっちがいいぞ」
 男は困惑していたが、究子に言われればそのとおりに逃げ出す。
 ……そう、現実の人間は死ぬ。殺されれば死ぬ。当然のように死ぬ。
 自分はどうだ。斬撃はたしかに体を切り裂いた。だが今は。
「…………ぐ、ぐひひひ。ま、まだまだトラップは盛りだくさんだから、な。
 どんどん来い。あ、アタシの自慢のトラップ、たっぷり見せて、やる」
 卑屈な笑みを浮かべて、ぞろぞろと飛び込んできた"モンスター"に言った。
 ……そうだ、これでいい。自分はそういうモノなのだから、不思議ではない。
 そのために力がある。自分はプレイヤーなのだからスコア稼ぎをしよう。

 それが楽しいはずだ。それこそがアイデンティティのはずだ。
 だのに、どうして、いま、自分は――。
(……さ、寂しいって、思ったのか? アタシ)
 敵を引きつけるために逃げ回りながら、究子は心のなかで思った。
 何か、心のどこかを――大事な部分を、引っかかれているような違和感。
 今は闘いだ。それ以上は、考えないことにした。

成功 🔵​🔵​🔴​

パーム・アンテルシオ
人を守る。それは…私がしないといけないこと。
大丈夫だよ。言われなくても。頼まれなくても。私は、人を…あなた達を、守る。
全員を助けろと言われても…頷くよ。頷くしかないから。
たとえ出来なくても。やらないといけないから。

ユーベルコード…迎春歌。
狙う対象は…もちろん、敵オブリビオン。
どれだけ速くても。どれだけ多くても。響かせた声からは、逃れられない。

さぁ、夢の中の皆。
聴こえてる?見えている?
そう。あなた達の殺すべきものは…
ヒトは。あっちだよ。
だから…がんばって戦ってね。

皆が戦力になってくれるなら、それが一番。
でも…たとえ戦力にならなくても。
同士討ちで数が減れば、それは倒したのと同じこと。
だよね?ふふ。



●責務(のろい)
 春眠暁を覚えず――なるほど、言い得て妙のことわざと言えよう。
 春を迎えるその歌は、有象無象の区別なく魂そのものを誘惑する。
 まさに妖しの歌。人でなきモノが奏でる、この世ならざる歌である。
「……そう、歌からは逃れられない。どれだけ早くても、どれだけ多くても」
 異様な光景だ。パーム・アンテルシオの前には、数十体の敵が倒れ伏していた。
 死んではいない。微睡んでいるのだ。殺人の輩、デビルズナンバーが。
 ああ。それはともすれば、牧歌的な風景とさえ言えるだろう。
 けれども、だからこそ、人でなき妖しの恐ろしさがあった。
 人を殺すために生まれたモノを、赤子めいてあやして微睡ませるなど、
 化生のしわざと言わずしてなんという。やはり少女は、ヒトではないのだ。
 もしも誰かに後ろ指を指されたならば、パームはどう言うだろうか。
 確かなのは、彼女は"ヒトを守る"ことを己に任じている、ということだ。
 どんな技を使おうが、
 どんな手段を使おうが、
 ――どんな人間であろうが。
 幸いにしてこの都市に、守ることを疑問視される外道は存在していない(はずだ)
 呵責や懊悩が生じないという意味では、この闘いもある意味では楽かもしれない。
 けれどもしも、そんな人間がいたとして、パームはやはり守るだろう。
 殺されるべきでない人々を、生命の重さを理由に、守るだろう。
 もしもその当人が、守護を求めていなかったとしても。
 拒まれたとしても――守るだろう。それが彼女の責務(のろい)なのだから。

 そんな少女の紡ぐ歌声は、どうやら殺人の輩によく響いたらしい。
 しばらくして旋律が切り替わると、微睡んでいた忍びどもがゆらり起き上がる。
 目を覚ましたのか。否である。その心いまもここにあらず、夢に遊ぶ。
「さあ、夢の中のみんな。聞こえているでしょう。見えているでしょう」
 デビルズナンバーに、感情らしきものは(おそらく)存在していない。
 怒りも、愉悦も、歓喜も、なにひとつそれらが見出し、示すことはない。
 ……はずのそれらが、こくり、こくりと船をこぐように頷いた。
「いい子、いい子。じゃあ、あなたたちに教えてあげるね」
 それは幽く、甘く、幼く、しかし耳朶と心にいやに響く声であった。
「あなたたちは、殺すために生まれたモノ。殺さずには居られないもの。
 ……ヒトを、殺すためのモノ。だから、あなたたちが殺すべきヒトは」
 つい、と、幼い少女の指が、指し示した。

 ――まどろみ、揺れる、デビルズナンバーそのものを。
「あっちだよ。"それ"だよ。あなたたちの隣りにいる、"それ"が、そう。
 だから、がんばってね。戦って、追い詰めて――そして、殺しちゃえ」
 ああ。甘やかな声は、なるほど子供のように無邪気であり、
 しかして妖しの声であった。恐ろしく、禍々しく、唾棄すべきものである。
 たちまち人形どもは互いに殺し合う。切り裂き、奪い、仕留めていく。
「ふふふ」
 桃色の瞳を細めた、尾を揺らし、少女の形をした妖しは微笑んだ。
 笑っていた。
 たしかにそれはヒトではない。
 ヒトを殺すための、ヒトにとっては邪悪な敵だ。
 だが、それは地獄だった。誰もが嫌悪するはずの風景であった。
「……さあ、頑張って。だって、それは、これが――私の、仕事だから」
 しなければいけないこと。
 守らねばいけないきまり。
 妖しの呪詛は、そのか弱き体を、心を、今も縛り付けている。

成功 🔵​🔵​🔴​

杜鬼・クロウ
アドリブ◎
グラサン有
場所お任せ

(…あァ、間に合えた
救える命が目の前に
俺の力が届く
昔とは違う
あの時とも)
同時に剣に宿る新たな力

さっきのクソガキよりかはまだ追えるが、如何せん数が多い
ま、何人いようが
動けなければ只のガラクタ同然なンだけどなァ
徹底的に゛お掃除゛してヤんよ愚図共が!

全員避難出来る様に時間稼ぎ兼ねて長期戦見込み
【魔除けの菫】使用
足止め中に倒せるだけ無双
障害物利用し虹駆で翔ぶ(地形の利用
土属性解放
玄夜叉の回りに砂塵舞う
形を変えて鋭さと硬度が増す
敵の体を複数貫通(部位破壊・2回攻撃
敵が動き出したらカウンター駆使し派手に暴れる

殺意に純粋もクソもねェ
真っ向から捩じ伏せる
それが俺の本分
それが俺の、



●存在理由(なんのためにいきるのか)
 己は道具であるのか、それとも自由意志を持つヒトなのか。
 どう定義すべきかと正面から問われたら、俺は俺だと嘯くだろう。
 ……だがその実、己は今でも、己がなんであるかを定義できていない。
 ヒトでない――それはたしかだ。ヤドリガミたる己はヒトではない。
 ならば、ただ使われるだけの道具なのかといえば、それも否。
 自由なる意志は胸(ここ)にあり、己はそれに従って歩んできた。
 目指すべき道標がある。見届けた背中が、愛した女性(ひと)がいるのだから。
 ただ、それでもやはり。
 自分はどうしても、ヒトではない。"違うもの"なのだ。

 サングラスをかけた杜鬼・クロウの思惑は、外からは伺い知れない。
 その下の異色の双眸は、片目で現在(いま)を、もう一方で過去を見ていた。
 救えない生命があった。
 この手のひらからこぼれ落ちたものがあった。
 遺ったのは後悔だけ。もう為すべからずと、為すべしと決めた思いとともに。
「――消え、やがれェエッ!!」
 咆哮。魔剣を力任せに振るい、呪いの焔をもって忍びの群れを吹き飛ばす。
 生まれたての動物のように震え、死を待つばかりであった人々は、
 崩落した入り口に佇む逆光の影を、半ば呆然としながら見上げた。
「あ、あなたは」
「――気にすンな。それよか、さっさと逃げな」
 逃げ込んだビルを包囲されて立ち往生していた一般市民は、
 逆光の影の人物――つまりクロウの言葉に、涙ながらに頷いた。
「ありがとうございます! ありがとう……!」
 ビルを包囲していた敵は仕留めた。内部に居たのはいまので全てのはず。
 彼らは裏口から脱出できるはずだ。となれば、己が為すべきは。
「よォ愚図ども。いまのは派手だったろ? そォだよ、俺はココだ」
 轟音を聞きつけ、遠方にいたデビルズナンバーが虫めいてクロウを包囲する。
 敵はこちらに引きつけられている。裏から出る彼らを悟られてはならない。
 崩落した正面玄関口に仁王立ちし、クロウはレンズの下から敵を睨んだ。
「来いよ。何体いようが徹底的に"お掃除"してやらァ。かかってこいッ!!」
 死にかけの獲物を見つけた肉食動物めいて、デビルズナンバーが殺到する。
「おォらッ!!」
 クロウは避けない。迂闊に回避行動を取れば彼らの気配に気づかれる。
 袈裟懸けの逆手忍者刀をまともに喰らい、死物狂いのカウンター。
 ぞっとするような量の血が飛沫を上げる。首をねじ切られた敵は絶命。
「次ィ!」
 二手目。続いた敵は、刃を平らに寝かせて肋骨から斜め上に突き刺そうとしてきた。
 心肺を破るつもりか。どうあれ致命的だ。クロウは体をねじり肩で受ける。
 突き刺さった刃を筋肉の力で縫い止め、勢いそのままに敵を放り投げた。
 不意打ちしようとしていた三体目を巻き込んで吹き飛ばし、そこへ飛びかかる。
「まとめて死ねェ!!」
 ギロチンじみた振り下ろし。地形もろとも両断された敵が四散する。
「どうした――どうしたッ!! まだ生きてンぞ、俺はッ!!」
 崩れた瓦礫を蹴立てて頭上を取り、ムーンサルトを決めて攻撃を回避。
 散弾めいたマキビシを剣で弾き、脳天を重力の勢いで貫き、首をへし折る。
 疾い。敵の攻撃が二度入っている。遅れて脇腹から血が飛沫いた。
「……んなろォ!!」
 いびつに首を曲げられた敵を鉄球めいて振り回し、別個体を串刺しに。
 それを膂力で吹き飛ばし、牽制として敵の群れに飛び込む。無謀である。

 血まみれの鬼めいた形相で、クロウはただ吠えた。力強く。雄々しく。
(行かせねェ、全員殺してやらァ。殺して壊してぶっ潰してやる)
 ヒトが生きている。この背中の向こうで逃げようとしている。
 奪わせはしない。二度とは。奪わせはしない!
 だが。ああ。運命よ、お前はなんと残酷なのか。
 敵の動きが一瞬にして変わった。統率されたアリのように。
(気づかれた……!?)
 まずい。敵がビルを迂回し避難民を追跡しようとする。
「待ちやがれ……ッ」
 こぼりと喉から血が溢れた。声がうまく出ない。足に力が入らない。
 またか。また届かないのか。またこぼすのか。あのときのように。
「待ち、やが……れ」
 厭だ。もうこぼさない。あれは、生命は、俺のものだ。
 守るのも、奪うのも、誰にも決めさせない。己が決めるのだ!
「俺を無視してンじゃア――ねえぞォッ!!」
 ――凛、と、菫蒼石のピアスから透き通るような音がした。
 それは呪いだ。目に見えない呪いであり、思いであり、覚悟だ。
 声音はしがらみと変わり、歪んだ愛と混ざりあって戒めと化す。
 ずしん、と。跳躍しようとしたデビルズナンバーが地面に沈む。
「俺は、俺だ。俺の本分は、邪魔させねェ。誰にも――誰にもだッ!!」
 おお。クロウは血を滴らせながら瓦礫を踏みしめ、動けぬ敵の首を刎ねる。
 ひとつ。ふたつ。サングラスの下、双眸はどちらも過去を見ていた。
「それが、俺の――俺の!! ……ッァアアアアアッ!!」
 斬。
 慟哭めいた一撃が、戒められた最期の敵をばっさりと切り裂いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

リア・ファル
WIZ
アドリブ共闘歓迎
戦場お任せ

デビルズナンバー! 次から次へと忙しいね!
人々に手出しはさせないよ!

イルダーナなら機動力で負けたりはしないけど、
数が多いね、これは
ならば、ある程度まとめた数を引き受けようか

「援護射撃」でちょっかいを掛けつつ、
敵が集まったところにUC【空間掌握・電影牢】を発動
見た目は変わらずとも、ボクの制御下だ。踊ってもらおう

アチコチにボクの制御で働く罠をセット、
まとめて一網打尽にしよう
(地形の利用、破壊工作、罠使い、範囲攻撃)

まきびしが金属なら、ヌァザに電磁力を纏わせて、
「武器受け」で集め取る
溜まったら、これも電磁誘導弾代わりにして、
振りかぶったヌァザからシュートして返すね


六六六・たかし
【アドリブ歓迎】

ふぅ、次の相手は忍者…しかも、デビルズナンバーと来たか。
デビルズナンバーとしての使命を全うしたいようだが
そんなこと俺の目が黒いうちは許すわけにはいかないんでな。
全員まとめてここで薙ぎ払わせてもらおう。

【POW】

どうやら、数とスピードは相手の方が上のようだな
ならばこちらはパワーで押し切る。
場所は地下駐車場を選択、逃げ道を狭める

UC『四六七悪魔の戦車(デビルかかしタンク)』を発動!

戦車に変身した「かかし」に[騎乗]してまきびしたちに突撃する。
刀ごときで戦車に敵うはずがない!
[零距離射撃]で[なぎ払い]!敵を一掃する!


トルメンタ・アンゲルス
へぇ……。
一般人を、無差別に狙いますか。

――潰す。
一匹たりとも逃さない。
無辜の人々を犠牲にするなんざ、絶対に許さない!

力を貸せ、「俺」!
『OverSpeed――Call:Rendezvous』

別次元から俺を呼び出し、同時に疾走!
全力ダッシュで駆け、索敵。
発見と同時に、対象が反応するよりも速く、命を奪うよりも速く、蹴り穿ちます!

見切り・第六感を生かして対象の行動を読み、先手を打って封殺します。
残像や物理法則を無視した軌道で、翻弄してやりましょう。

絶対に命は取りこぼさない!
何処までも加速し、全て救い上げてみせる!
『TurboBoost Over――Acceleration』
――OverClock!



●そしてショウの準備は整った
 都市ひとつが戦場に変わる。ありえない話だ。だが現に起きてしまっている。
 そしてこれほどの広範な範囲をカバーできるユーベルコードは、ほぼ存在しない。
 ごく一部の例外を除いては。奇跡の力にも限界はあるのだ。

 限界。
 限界という言葉を、トルメンタ・アンゲルスはひどく嫌う。
 超えられぬ壁などない。
 打ち砕けぬ障害などありえない。
 都市ひとつをカバーできないと言うならば、すべて"駆け抜ける"のみ。
「――無辜の人々を犠牲にするなんざ、絶対に赦さない」
 蒼き装甲の下から、滴るような憎悪と怒りの声音が溢れた。
 その奥にあるのは、覚悟。誰ひとりとして犠牲にしないという誓いだ。
「届かない場所なんて、俺にはない! どこまでだって駆け抜けてやる!!
 俺の信念(スピード)を――無礼(ナメ)るなよ、オブリビオンッ!!」
 おお。その姿はいま、怒りのままに燃え上がり流星に変じた。
 駆けよ、嵐の天使よ。混迷の都市を。未だ戦い続く邪神の庭を。
 未だ敵はあり。ならば、それに抗う仲間もまたそこにいる!

 ……都市部上空!
「なんて数だ……! けど、着実に総数は減ってきてる! これなら――!」
 愛機イルダーナにまたがり、都市部を見下ろすリア・ファルは莞爾と笑った。
 電脳演算により計測された敵総数は、およそ数千。だがそれももはや数百まで。
 いける。これならば、誰も犠牲にせずに闘いを終えることが出来る。
 そのあとに待つ強敵は底知れぬが、これは大きな勝利と言っていい。
「……出し惜しみはしてられないね。行くよ、イルダーナ!」
 リアは一気に高度を下げ、ほぼ垂直に真下めがけて滑空した。
 その接近に気づき、屋上を風めいて駆けていた敵が反応する。
「ほうら、一般人より猟兵(ぼくら)のほうが気になるだろう? おいでよ!」
 BLAMBLAMBLAM! 魔銃セブンカラーズが牽制射撃で敵を引きつける!
(あとはどこかで、ボクのユーベルコードを使って閉じ込めればいい。
 ……よし、あそこを使おう。罠を仕掛けておいた地下駐車場だ!)
 曲芸飛行で執拗な攻撃をかわし、リアは目的地を目指して疾走する。
 一瞬でも速度を落とせば、奴らはたちまち猛獣めいてリアと愛機を貪るだろう。
 生命を賭けたデッドレース。しかも敵は徐々に速度を上げつつある!

 ――ドウ! ドウドウドウッ!
 その時である。地上から、敵群めがけた対空砲撃が火を噴いた!
「ええっ!? 誰!?」
「俺だッ!!」
 力強い声。鋼鉄の戦車から上半身を見せたのは、フードを被った少年である。
「デビルズナンバーのことはよく知っている。今回は少々特殊だがな!
 下手に個別撃破すると逃げられるぞ! ここは二手に分かれて誘い込む!」
「い、いいけど、キミは――」
「安心しろ。俺に問題はない――なぜなら俺は、たかしだからだ!」
 デビルズナンバーの名を持つ六六六・たかしは、謎の自信満々に言ってのけた。
 さらに対空砲撃をいくつか浴びせると、敵の半数がたかしのほうに向かう。
「なるほど、"よく知ってる"ってのはだてじゃないわけだね。よし!」
 おそらく目的地も同じだ。この付近で一番巨大な閉鎖区画はあの駐車場だけ。
 空と大地。ふたつのマシンを駆る猟兵たちは、敵を引きつけて疾走する。
 だが、おそらくこれで全てではない。まだ数十の敵があちこちに散開している。
 これ以上派手な動きをしようにも、速度を落とせば狩られるのがオチだ。
『心配するな! あちこちに散らばった連中はじきに消滅する』
 どうやってジャミングしたのか、イルダーナの通信機にたかしの声。
 彼の言葉通り、リアの探知した敵反応は次々に消えている。
「これは……っ!?」
『どうやら恐ろしく"疾い"ヤツがいるらしい。そいつの働きだろうな』
 然り。ふたりは直接それを目の当たりにしたわけではないが、それが事実だ。
 トルメンタである。風に、否、光に匹敵する速度に達したトルメンタが、
 敵の気配を察知した瞬間に矢のように駆け、デビルズナンバーを抹殺しているのだ!
 その進路上――交錯地点は、やはり件の地下駐車場!
「……ここで終わらせる。これ以上被害が出ないうちに!」
 リアは、スロットルを開きエンジンをフルブーストさせた!

『おおおおおおオオオオッ!!』
 同時刻、都市部某所。蒼き流星――トルメンタが路地を駆ける。
 なんたる速度。なんたる執念。人はこれほどまでに決意を抱けるのか。
 おお、そして見よ。速度はついに、次元の壁すらも切り裂いた!
《OverSpeed――Call:Rendezvous》
 トルメンタと並走するのは、トルメンタ自身! 平行世界からの次元跳躍!
 その網膜レーダーに、何者か――実際はリア――からの電子情報が投影される。
 向かうべきは広大な地下空間。ふたりの流星は顔を見合わせ頷いた。
『『一匹残らず叩き潰すッ!!』』
 その圧倒的速度には、あらゆる物理法則が平伏し従うばかり。
 トルメンタが地下駐車場に到達したのと、たかし・リア両名が敵を誘い込んだのは同時!
「デビルズナンバー・まきびし! お前たちはまあまあ上等な連中だ!
 殺人オブジェクトとしての使命を全うしようとする、その姿勢は見事だろう!」
 ギャガガガガガガッ!! 地面を削りドリフトしたたかしが叫ぶ!
「だが! 俺と、俺たちが居る限り! この目が黒いうちには、それはさせん!
 これまでも、これからも! お前たちには誰も、何も殺させはしないぞッ!!」
 そのために猟兵となった。そのためにかつての同族と闘うのだ。
「――そのために、俺(たかし)はここにいるのだからな!」
 ギュガ、ギャリギャリギャリギャリ!! 鋼鉄戦車が出入り口を崩落閉鎖!
「空間掌握術式、展開――電影牢(サイバースペース)、アクティベート!」
 パキン――! リアの発動した"罠"が、電子的にこの空間を孤立させた。
 術者であるリア自身を倒さねば、決して脱出できない電脳の閉鎖空間に。
「おっけー、これであいつらはもう逃げられない! 盛大にいこうか!」
『『ええ! とどめなら、せめて派手に散らしてやりましょう!!』』
 BRATATATATATATATATATATATA……KA-BOOOOOM!!
 魔剣ヌァザの空間断裂、さらに搭載火器による過剰砲撃が敵群を襲う!
 ならばとデビルズナンバーはたかしに群がり彼を殺そうとする、が!
「たかが刀で、この鋼鉄を貫けるものか!」
 ギャギギギギギ!! 猛烈なスピン回転が敵の一斉攻撃を弾く!
『『――お前たちには誰も殺させない。奪わせない。全て救いあげてみせる。
  邪神よ! 見ているならば刮目しろ! これが、俺の――俺たちのッ!!』』
《TurboBoost Over――Acceleration》
 その瞬間、トルメンタ以外の全ての時間が制止した。
 時間流すらも支配下に置く超加速。世界は灰色に染まる。
 何かが見下ろしている。この世ならぬ空間にありし何かが。
 トルメンタはそれを真っ向から見返し、言った。
『『――限界を越える(OverClock)力だッ!!』』
 KKRRAAAAAAASSSHHH――KRA-TOOOOOM!!
 超エネルギーをまったく同時に三者から叩き込まれ、デビルズナンバーは爆散!
 この都市にはびこる最期の邪悪を、その殺意もろとも粉砕撃滅する――!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『ナイク・サー』

POW   :    剛胆なる者への試練
戦闘用の、自身と同じ強さの【邪神すら遥かに超える、強大な異界の怪物】と【、対象と怪物を包む、破壊困難な決闘用結界】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
SPD   :    鋭敏なる者への試練
【対象の現在の全能力を数段上回る異界の戦士】の霊を召喚する。これは【ユーベルコード以外の攻撃を無効化する魔器】や【予測・予知での回避を無効化する異界の武器】で攻撃する能力を持つ。
WIZ   :    叡智ある者への試練
自身の【魔力の一部と、対象の魔力及び生命力の大半】を代償に、【対象にとって非常に相性の悪い性質の邪神】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【戦闘力に比例した自己増殖能力と再生能力】で戦う。

イラスト:オペラ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ムルヘルベル・アーキロギアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●牙猟天征~グロウアップ・アンド・ショウダウン~
 最後のデビルズナンバーが倒され、都市にようやく静寂が戻った。
 本来であれば、それは闘いの終わりを告げる平和のしじまであるはずだ。
 だが、猟兵たちは理解していた。それこそが始まりなのだと。

 ――その確信を肯定するかのように、次元そのものにひずみが走った。
 "ぴしり"と、誰もが音を聞いた。次元の壁にヒビが入るその音を。

『……いやはや、なんとも恐ろしい。これが我々の天敵、猟兵の力か』
 この世ならざる声。それは男のようでもあり、女のようでもある。
 都市部の上空。僅かなヒビから、音もなく"滲み出た"影ひとつ。
 祭祀めいた様相に、特徴的な仮面。だがなによりも異常で奇妙なのは。
『堪能させてもらったよ。なるほど、君たちはあの殺戮兵器を上回るだけはある』
 胴体の正中線をぴっしりと分かつ、牙だらけの口である。
 "それ"は――まるで演説者めいて、身振り手振りを交えて思念波を送る。
 邪悪、かつ狂気に歪んだ思念波は、残存していたデビルズナンバーの屍に作用し、
 それらはぶくぶくと泡を立てて溶け崩れ……渦となり、邪神に吸い込まれる。
『我が名はナイク・サー。こうした形での"来訪"は少々イレギュラーなのだがね。
 おかげで、とても面白いものが見れた。その点を、君たちには感謝したい』
 UDCアースにおける邪神の伝承に詳しいモノならば、識る人もいたかもしれない。
 ナイク・サー。
 "吐き出すもの"、
 "試すもの"、
 "仮面を被りて降り立つもの"、
 "まったき影のもの"――。
 いくつもの異名によって暗喩されし、邪神の一。
 人の体を依代に不完全ながら顕界し、策謀を巡らせるもの。
 尋常ならざる過去視の力を持つ、異界の狂える賢者である。

 だが、それを特筆しうる最大の特徴は、そんなものではない。
『我は現身としてあまりにも不完全なれど、我が身は門にして間口である。
 ゆえに――猟兵よ、我らの天敵よ。私が測りしその力に見合うものを"招こう"』
 ぐちゅり――ごぼり、どちゃり。
 おお。なんたることか。牙だらけの口が、もごもごと開かれた。
 渦を巻いて吸い込んだ眷属どもの滋養を糧として、超空間との帳を束の間開き、
 名状しがたき邪神を、あるいは名を記すもおぞましい異界の邪霊を、
 はたまたその魔力と、試すと任じたものの生気を奪いて練り上げた魔物を。
 べちゃり、ごぼり、どちゃり。
 神が。
 霊が。
 魔物が。
 その扉(くち)から、吐き出される。これが。これこそが!
『抗うがいい、終末に抗うものよ。過去の抱擁を拒もうとする者たちよ。
 君たちは強くたくましい。その意志がさらなる成長(グロウアップ)を見せるなら』
 邪神でありながら、まるでそれを望むかのように狂える賢者は云う。
『君たちは未来を掴むだろう。あてがわれし神を、魔を討ち滅ぼし、私を滅ぼして。
 だが、その試練に膝を突くならば――君たちは、"それまで"だ。終焉(おわり)だ』
 全てを見、計り終えた邪神はただ佇み、座し、そのさまを見下ろすのみ。
 刃を、拳を、弾丸を、焔を、氷を、意志を届かせるには、超えなければならないのだ。
 打ち克つこと難き、そのために生み出された強大なる神を、魔を!
『――見せてくれたまえ。君たちが求める未来の輝き』
 悪魔めいた忌まわしき"もの"どもが、一斉に咆哮を上げた。
 それは空間をひずませ、捻じ曲げ、各々を――敵にとって――最適の戦場に招く。

 猟兵よ。お前達の前には、お前たちを滅ぼすための試練が立ちはだかる。
 打ち克て。異形の狂気に、なべてを睥睨する邪神のしもべに、神に、魔に。
 一秒前の己に。過去に打ち克て。そして成長(グロウアップ)せよ!
 高慢なる仮面の神に、お前たちの力を見せてやれ。
 技を牙とし術を矛とし、天をも征する絶技を以て。
 一秒前の過去をも超える空前絶後の死闘――ここに、開幕(ショウダウン)!

●3章まとめ
 姿を表した邪神『ナイク・サー』により、最後の闘いが始まりました。
 敵は属性に対応した『猟兵にとって非常に相性の悪い敵』を召喚します。
 これを倒すには、邪神が想定もしていない『新たな必殺技』を使うしかありません!
(とか言っても難易度は"普通"なのですが、つまりそういうことです)
(また、召喚される敵の詳細はこちらにお任せでもプレイングして頂いてもOKです)
 邪神の試練を乗り越え、いけすかない野郎をぶちのめしてやりましょう!!
(なお、ナイク・サーは人間を依代に再来出来るので、多分何度か復活します)
 必殺技に関する煙MS様との共通レギュレーションは以下をご参考に!

●参加方法
 まず新必殺技の基となるユーベルコードを選択。
 以下三つのナンバーの内、いずれかを選び、それに添ってプレイングを記述のこと。

・各選択肢の共通事項
 必要であれば、参加キャラクターについて、以下をプレイングで補足のこと。
 書式は自由。以下以外でも、プレイングに書かれたものは極力配慮する。
  ー戦闘スタイル
  ー得意なこと
  ー弱点
  ー絶対にやらないこと

・1.フルオーダー
 MSに新必殺技の詳細を全て任せる場合に指定。
 指定ユーベルコードを基に、技名および技の詳細がアドリブで決定される。

・2.セミオーダー
 新必殺技において、『炎を使って何かする』、『剣を使って何かする』など、指定したいポイントがある場合に選択。技名のみ指定し詳細は任せる、なども可能。
 指定事項を盛り込んだ上で、その他はアドリブで決定される。

・3.自身で考案
 指定ユーベルコードを基にした新必殺技を自由に考案し、プレイングに記述する。
 威力・理屈などがアドリブで補足される。


●補遺
 成功判定は、指定したユーベルコードの能力値に添って行われる。
 本シナリオ参加に当たってシステム的にユーベルコードを作成する必要は無いが、会得した必殺技を今後も使いたい場合、ガレージで作成のこと。
 【ガレージ】
  →https://tw6.jp/html/world/441_ucall.htm
●プレイング受付
【10/13(日) 08:31】
 から、
【10/15(火) 12:59前後】
 まで。
皐月・灯
【3】
オレの戦い方はシンプルだ。
距離を詰めての魔術格闘。
攻撃を見切り、カウンターで術式を叩き込む。
弱点?
5種類の術しか使えねーことだろ。
あと、遠距離攻撃はしねー……ってか、できねー。
「オレ」は魔力を体外に放出できねーからな。

再生と増殖は、相性が悪い。
──だから、覚悟決めねーとな。

魔力と生命力の大半?
くれてやるよ、どうせ命懸けだ。
検証ナシ、理論構築ナシ、仮説だけのぶっつけ本番だからな!

両手で別々の術式を構成し、融合する。
オレに使える2つを干渉させて一気に炸裂させるんだ。
制御できるかわかんねー手だが……殲滅するに足る大威力はこれしかねー。

レディ。
アザレア・プロトコル・ユニゾン──幻想、大開帳!



●BATTLE01:皐月・灯
 魔術拳闘"アザレア・プロトコル"は、魔術でありながらインファイトを行うもの。
 アウトレンジにおける有効手段は皆無と言っていい。
 これまでの遠間の戦いを、灯は様々な搦手(あるいは力技)でクリアしてきた。
 此度はどうか。……残念ながら、そう簡単にはいかないらしい。

 灯の前に現れたのは、本来一体の怪物を無理やり2つに引き裂いたようなモノ。
 心強き者でなくば、そのシルエットを視線でなぞっただけで発狂するだろう。
 ユークリッド幾何学を嘲笑うかのような造形は、物質的角度を超越している。
 たとえるならば……無理やり雑巾絞りのように捻じ曲げられた巨大な石柱に、
 方向も角度も、長さも節もちぐはぐな、いくつもの手足が生えたような異形だ。
 "けして合わざるもの"あるいは"異形の双生児"という異名で記される邪神である。
 その見た目の忌まわしさに反して、"異形の双生児"は完璧な連携を有していた。
 片方が獲物に飛びかかっている時、もう一方は必ず遠距離に存在している。
 接近した側が獲物を撹乱し、本命の攻撃を遠距離側の半身が行うのだ。
 敵の攻撃を見切り、カウンターによって必殺の打撃を与える灯にとって、
 コンマゼロ秒の狂いすらなき遠近同時攻撃は、相性が悪いどころの話ではない。
 ただ早いだけの相手ならば、インパクトの瞬間を見切ることができる。
 ただ硬いだけの相手ならば、その耐久力を上回る一撃を叩き込める。
 ただ遠くにいる相手ならば、被弾を物ともせず接近すればよい。
 "異形の双生児"の連携は、彼がこれまで相対したすべての敵を凌駕していた。
 本来、その邪神は一つであるがゆえに。
 そして灯はいま……その魔力と生命力の大半を、失っていたゆえに。
 これに対処するには、あまりにも手が足りなすぎたのだ。

「……くそッ」
 灯は捨て台詞とともに血を吐き捨て、ピーカブースタイルめいた防御姿勢を取る。
 接近した半身――正確ではないがこれを"右側"としよう――の拳が突き刺さる。
 重い。だがこの乱打自体は、灯の反射神経と防御力ならば見切ることが出来る。
 都合五度の拳打を受け流し、身を深く沈めてカウンターを打とうとする。
「――チッ!」
 背筋が粟立つ悪寒に舌打ちし、灯は好機を棄てて大きく飛び退った。
 直後、ついさっきまで彼が居た場所に、背後からねじれた稲妻が飛び込む。
 異形の稲妻は"右側"を撃つ……が、当然邪神はこれによってダメージを受けない。
 アウトレンジから機会を伺っていた"左側"の攻撃だからである。
 もともと一つの存在である邪神にとっては、魔力が循環しただけの話だ。
(気持ちわりー奴だ……おまけに片方をぶちのめしても意味がねー)
 然り。邪神は異常なまでの再生能力と増殖能力を有している。
 灯はすでに三度、接近してきた半身をカウンターによって撃滅した。
 だが遠距離側の半身に目を向けた瞬間には、撃破した敵はすでに復活している。
 おまけに再生のたび、撃破された個体はその戦闘力を増している。
 まったく同時に、左右両方の半身を、再生を許さぬほどの火力で破壊する。
 共に戦う仲間がいれば、あるいは打倒の目もあっただろう。
 だがいま――灯は、ひとりきりなのだ!

 邪神の半身それぞれに、嘲笑めいた裂け目が生まれ、異形が蠕動する。
 嗤っているのだ。翻弄されるばかりの灯を。哀れな獲物を。
 灯は激昂しかかった頭を深い呼吸によって律し、己の体調を測る。
(攻撃は防げてあと2回……全力の打撃は……1回ってとこだな)
 リソースとなる魔力の大半を奪われている以上、魔術拳闘には時間制限がつきまとう。
 どれほど馬力があろうと、燃料無しでマシンが動くことは出来ない。
 根性論でねじ伏せるにも限度がある。それは絶対的な、冷たい方程式だ。
 ……現状己が持ち得る要素で、この勝敗(しき)を覆すことは出来ない。
(なら――検証も理論構築もいらねー、仮設だろーがやるしかねー)
 灯は腹を決めた。これまで幾度も決めてきた、必殺・必死の覚悟を。
(どうせ命懸けだ。相手が神だろーが――オレは、オレとして殴り抜けるッ!)
 灯が両目を見開く。それと同時に、邪神がそれぞれ動いた。
 今回は"左側"が接近し、"右側"が遠距離から狙い撃つ構えか。
 "左側"の動きが想像以上に疾い。まず異形の拳が上下から合わせて四度。
 灯は全神経を集中させ、この拳擊を受け流す。同時に、術式を練り上げる。
 ……ただし、ひとつではない。ふたつだ。
 敵がそうであるように、自らの体を正中線によって分断するイメージを育てる。
 左拳には、獲物を貫き大地をも断ち割る"猛ル一角"を。
 右拳には、獲物を灼き空間すら揺らす"焼尽ス炎舌"を。
 本来あってはならないふたつの魔力が、体内を循環し拒否反応を起こす。
 血管が裂け、左右の瞳孔から血が迸り、全身の神経が矛盾に悲鳴を上げた。
 どちらもすでに彼奴には視られている。片方では打ち破られる。
 だが――その2つを、本来ありえぬ矛盾を、同時に顕現させたとすれば?
(いままでついてきたんだろ、だったら弱音吐かねーで、従えよ!)
 いかなる苦難にも、鍛錬にも堪えてきた己の体に、不敵に笑って活を入れる。
 あちこちから血が飛沫をあげて迸る。主観時間が現実に追いつく――交錯!
「――レディ」
 全身の魔術回路が励起し、赤と青の色に輝いた。その双眸のように。
「"アザレア・プロトコル・ユニゾン"――これが、"オレ"の証明だ」
 己が己として闘うために。
 これまでも、そしてこれからもその意志を貫くために。
 邪神よ、世界の外側から来たるモノよ、見るがいい。
 オレは、お前たちありふれた敵の思うがままにはならない。
 高みの見物を決め込む怪物の意のままに、踊り果てる傀儡になどならない!
 その怒りが彼の鎧であり、
 挑戦心こそが彼の武器であり、
 築き上げた信念と覚悟が、彼の拠って立つ礎であった!
「幻想・大開帳……! 貫き砕け、灰燼(はい)になれェッ!!」
 拳を打ち合わせ、地を蹴った。狙いすましたような遠間からの攻撃!
 だが、おお! 灯は、燃え上がる魔力そのものを己の体を走らせる推進剤とし、
 背中からいくつも血を噴き出しながら――光よりも疾く、空間を駆け抜けた!!

 ……静寂がやってくる。
 灯の駆け抜けた地面には、レールめいた焔の走査線が刻まれていた。
 一角獣の角もかくや、まっすぐな魔力は地を、空をも抉り、真空を生む。
 そこに、異形の神の残滓は、欠片すらも在りはしない。
 斃れかけた体を両足で支え、少年は不敵に笑ってみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大紋・狩人
【3】
得意─剣術、骨灰使役
弱点─人喰い、悪意、性
やらない事─弱音、泣く事、戦略的撤退を除く逃走

言われずとも膝など突くか、終わるものかよ。
(分かっているさ)
(いずれまた心が泣きそうになろうと、臆病風に吹かれようとも)
(時に怯えだけでは儘ならないと、そんな事は僕が一番分かっている!)

怯えた窮鼠の足掻きじゃあない。
報復心、抑圧、激情、或いは憎悪。
攻撃的な負に[狂気耐性][覚悟]を以て向き合い、
超高温の炎熱と[破魔]を籠めた嵐に変え、
対峙する全てに[カウンター]でぶちかます!

試練に乗る訳ではない! 況してや輝きでもない!
それでも見たいなら好きに見ろ! 思い知れ!
猟兵として戦人として、お前を斃すだけだ!



●BATTLE02:大紋・狩人
 試練? 未来の輝き? オブリビオンごときが何をふざけたことを。
 気に入らない。ヒトを測り、神のごとく振る舞うその傲慢が。
 これだけの混乱で人々を苦しめておきながら、我らを下に見るその性が。
「く……ッ!?」
 だが狩人の勇ましい凝視は、そう長くは続かなかった。
 全身の生気と魔力を、巨大なかぎ爪で毟り取られるような不気味な悪寒。
 直後、体から力が抜け、狩人は顔を青ざめさせて斃れかかる。
『おや? 本命を召喚する前に終わってしまうかな。まあそれも仕方あるまい』
 上空に浮かぶナイク・サーが、そんな狩人の姿を見てぽつりと言った。

 ――ふざけるな。
「謂われずとも、膝など突くものか……この、程度で……!」
 生命・魔力吸収に伴う脱力感を、狩人は意志の力でねじ伏せ踏みとどまる。
 にらみつける。ナイク・サーを。やつが練り上げる邪神の門を。
『結構。そうでなくては』
 ナイク・サーがわずかに笑んだ直後、"門"から闇が溢れ出た。

 召喚されたモノを一言で言えば、身の丈を遥かに超える巨大な蛇のようなものだ。
 ただしそれらはいくつもの首を持ち、おまけに互いに喰らいあっている。
 極めつけに醜悪なのは、その体表に浮かび上がる無数の"顔"であった。
(……あれは、食らった人間の成れの果てか)
 狩人は超然と理解した。それは、邪神に喰われた人々の末路なのだと。
 デスマスクめいて浮かび上がった、老若男女を問わぬ人々の"顔"は、
 一様に苦しみ悶え、嘆き、悲しみ、救いを求めて泣き叫んでいた。
 蛇は、他の頭部だけでなくその"顔"すら食らいつき、自らの体もろとも食らう。
 神話の怪物ウロボロスは、自らの尾を食らうことで永遠の輪廻を示すというが、
 蛇の邪神のそれは輪廻ですらない。ただ一方的な簒奪と蹂躙、拷問だ。
『"貪る蛇"よ、新たな贄を喰らうがいい。ハッハハハ!』
 頭上のナイク・サーの嘲笑も、狩人にとっては遠く聞こえる。

 ヒトを、喰っている。
 喰らってその身に捕らえたヒトの魂すらも、あの邪神は貪り続けている。
 それはオウガの悪意に家族を奪われ、戦いを余儀なくされた狩人にとって、
 目を向けるのも忌まわしい簒奪の有様であった。
「……ふざ、けるな。ふざけるなァアアアッ!!」
 走る。握りしめた灼灰に闘志の焔が燃え上がり、薪のように赤々と輝いた。
 "貪る蛇"の多頭が新たな贄――つまり狩人の存在に気づき、一斉に向き直る。
「一度ヒトを喰らっておきながら、死すらも許さず苦しめ続けるだと!
 ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな! 燃え尽きろ、消え去れェッ!」
 その牙を、口を、胴体を、一切合財を焼き払って灰にしてやる!
 最初に迫ってきた頭部を真っ二つに切り裂き、二つ目を串刺しにし、
 ぎらつく瞳が三頭目を捉え――死角に回った四頭目に、脇腹を抉られた。
「ぐ……!?」
 冷静さを欠いた。
 それを自省したときはもはや遅く、小さな多頭に分裂した五・六の頭が襲いかかる。
 手・足・鎖骨付近に牙を抉りこまれ、狩人は苦痛と恐怖に悲鳴を漏らしかけた。
 頬肉を噛み、それをこらえる。さあ泣けとばかりに、蛇どもは体を抉る。
(喰われるのか。僕も、あの人々と同じように――)
 肉を削がれ、骨を折られ、魂すらも散々に乱されて。
 邪神の血肉となりてなお死ぬことを許されず、苦しめ続けられるのか。
 厭だ。そんなのは厭だ! 死にたくない。喰われたくない。厭だ、厭だ、厭だ!
「い――」
 それを言葉にしかけ、狩人は、己の奥歯がかちかちと鳴っているのを理解した。

 邪神どもは嗤っている。その恐れを、痛みを、苦しみを味わっている。
 ふざけるな。お前たちのその悪意で、どれほどヒトを苦しめれば気が済む。
 ……そうだ。彼らは貪られ、奪われ続けた。己がここで斃れてどうするのだ。
 誰かが戦わねばならぬ。誰かが抗わねばならぬ。誰かが。誰かが!
 怖い。苦しい。厭だ。けれどもそれ以上に――悲しい。辛い。苛立たしい。
 逃げてはならない。弱音を吐いてもならない。泣くなど以ての外。
 己は闘うためにここにいる。倒すべき敵がそこにいる。ならば。
「……いきがるなよ、邪神ども……ッ!!」
 己の中にどろどろと燃え上がる、この負の想念すらも薪として燃やすべし。
 魂をも焦がすような、この漆黒の焔を育てあげろ。……何のために?
 殺すためだ。
 滅ぼすためだ!
「僕は――お前たちなんかの思い通りには、ならない!!」
 敵を、倒すために!

 その瞬間、狩人の全身が一瞬だけ超自然の焔に包まれ、蛇を退けた。
 直後、炎は蛇どもの体を伝い、犠牲者たちのデスマスクをも灼き焦がす。
 死と滅びの安寧に抱かれた人々の想念が、焼け焦げた骨灰となって積み上がる。
「僕は猟兵だ。僕は戦人だ。お前たちを倒すためにここにいる」
 炎熱を纏い、骨灰が人型めいて立ち上がる。その中心には少年ひとり。
「――思い知れ、邪神ども。お前たちがあざ笑った、ヒトの強さを!!」
 そのトリガーは恐怖であり、少年の怯えであり、苦しみである。
 だが己の魂すらも焦がす憎悪から、狩人は目を背けない。覚悟を以て報いる。
 前へ進むために。その意志が灰すらも灼き、巨大な炎の嵐へと変えた。
『これは……!』
「見たいならば好きに見ろ! そして味わえッ!!」
 狩人が駆ける。今度こそとどめを刺そうと、"貪る蛇"の多頭が殺到した。
 増幅・再生する異形の頭部を灼き焦がし。走る。走る、走る!
 破魔の力を込めた必殺の灰嵐が、異形の邪神を飲み込み引き裂き灼き焦がす!
 恐れる心を認め、その恐怖をも糧として燃やされた怒りの炎が、
 超然と構える邪神すらも滅ぼすほどの、邪悪を討ち滅ぼす力となるのだ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

リア・ファル
3.
SPD
諸々お任せ

演算予測……じゃ回避もままならない
ヌァザも効いてないし……どうするかな

諦める? 否。
何故かって?
ボクは「今を生きる誰かの明日の為に」此処にいるのだから!
(無意識に瞳の色が、右瞳が緑に左瞳が蒼に輝き始めた)

相手の攻撃を、避ける!
これは、予測でも予知でも何でもない

凪いだように静かな戦場傭兵の如く、「視てから対応した」だけ

「それじゃあ反撃だ」
魔弾の射手のように、「自らの行動で、次に起こる事態を確定させる」

視る。識る。後は魔弾を放つのみ。
描き出すのは七曜の星
「機能確定。ユーベルコードに昇華登録」

人と繋がりが。縁が。絆が。ボクに明日への力をくれる
新UC【必滅を穿つ北斗七星】!



●BATTLE03:リア・ファル
 闇があった。
 古代コーマ帝国のトーガめいて、超自然の布を纏う、人型の闇だ。
 全長およそ3mはあろうかというそのフォルムに、人間らしい凹凸は存在しない。
 星すら瞬かぬ宇宙の暗黒のような、黒々とした虚無が人型に凝(こご)っていた。
 ふと、人型の虚無が指に当たる部位を伸ばした。リアは瞬時に短距離転移する。
 直後、彼女のいた場所に、ブラックホールのような黒い"穴"が生まれた。
 ごうごうと音を立てて大気が吸引される。喰らえば即死は必至!
「このっ!」
 BLAMBLAMBLAMBLAM!
 敵の側面に転移したリアは、即座にセブンカラーズを引き抜き、射撃。
 はたしてその弾丸は、回避すらしようとしない虚無に命中し――そして、消えた。
(やっぱり効いてない……! ユーベルコード以外じゃ歯がたたないのか!)
 ぐるりと、目も鼻も口も存在しない頭部が、リアのほうを視た。
 背筋が粟立つような悪寒に、リアは怯えすくみかかる。だが、再びの跳躍。
 リアは、その高度な演算能力によって未来を予知し、敵の攻撃を避けようとした。
 完全に回避できた、はずだ。あの喰らってはならない黒点を。
 だが……。
「ぐぁうっ!?」
 安全地帯のはずの転移先に、星型の奇怪な魔器が浮かんでいたのだ!
 脇腹を抉ったそれは、超自然的な光を放ち、リアの全身を電撃めいて打ち据える。
 論理体を破壊される前に、リアは身をよじって魔器の拘束を逃れ、地を転がった。
 魔器はそれ以上追撃することなく、人型の虚無の周囲に戻り浮遊する。
 それだけではない。魔器は増えていく。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……。
 合計で六つに分裂したそれらは、衛星めいて虚無の周囲を回遊するのだ。

『それは"常闇の観測者"。星間宇宙の暗黒そのものから生まれたモノだ』
 超然と頭上に浮かび、リアの苦戦を観察するナイク・サーが言った。
『残念だが、キミの行動はすべて見切られている。彼の星眼(せいがん)は、
 未来や過去を改竄するような術式の介在を許さない。さて、どうするかね?』
 暗黒そのもので構成された肉体に、物理的・魔術的攻撃は通用しない。
 かといって防戦に回ろうにも、予知そのものを無効化する星型の魔器がある。
 そしてその反射神経、判断力、魔力――全ての能力は、リアよりも明らかに上。
 勝ち目のない戦いだ。敵はリアの全てを観察し終えているのだから。
「なら、白兵戦で……っ!」
 リアは数メートルの短距離空間跳躍をフェイントに、敵の背後を取る。
 観測者は振り返らない。そして魔剣ヌァザが、虚無の肉体を――否!
『言っただろうに。見切られている、と』
 憐れむような邪神の声。切り裂かれたはずが即座に再生する虚無の肉体。
 星型の魔器が電撃じみた魔力を纏い、今度こそリアの全身に叩きつけられた。

 本質的に電脳存在であるリアによって、物理的ダメージは大したものではない。
 問題は、その根本である論理体へのクラック・ダメージだろう。
(あの魔力が、ボクの電脳体そのものを少しずつ傷つけてる……まずい、な)
 指先がボロボロと崩れ、拡散しかける。リアはぐっと堪えて崩壊を防いだ。
 集中しなければ、人型の少女として構成された己のイメージが"ほどける"だろう。
 常に存在を感じられる機動戦艦との繋がりも、ぼやけたガラスのように遠い。
「……たしかに、強いね。けど、そう簡単に諦めきれないのさ」
 ザザッ、とあちこちにノイズを生じさせながら、リアは再び立ち上がった。
「ボク自身が死ぬことは怖くない。あいにく、戦いに悦びを見出だせもしないけど。
 それでもボクは諦めない。ここで戦いをやめる理由なんて、何一つありはしない」
『猟兵としての責務がそうさせるのかね? いじましい』
「違うよ」
 リアはちらりと邪神を見上げた。ナイク・サーは訝しむような口の動きをした。
「ボクは、"今を生きる誰かの明日のため"にここにいる。キミたちと戦うんだ。
 明日を掴もうとする誰かが居る限り――ボクの戦いは終わらない。敗北もない!」
 力強く邪神を、虚無の戦士を見返すその瞳が、ぼんやりと光を放つ。
 右眼は緑に、左目は蒼に。それは、少女が抱いた決意の輝きか。
『ならば死にたまえ。君の"成長"は――』
「いいや、これからさッ!」
 リアの言葉と同時、六つの魔器が別角度から同時に襲いかかる!
 幾何学に挑戦する宇宙的角度と、消失・出現をランダムに繰り返すその攻撃は、
 いかな演算能力があろうと回避不可能。さらに黒点の出現予兆!
 だが、リアは恐れない。慌てることもなく、凪いだ水面のように敵を視た。
 敵の悪意を。殺意を。水面に写し込むようにして、受け止め、観測し、回避する。
 それは、ナイク・サーが観察したリアの反射神経では、不可能なはずの対応。
 彼女はその全神経を尖らせ、敵の攻撃をただ"視てから避けた"だけなのだ!
『何……!?』
「さあ、それじゃあ反撃だッ!」
 セブンカラーズを引き抜く。その弾丸は虚無を貫くことは出来ないだろう。
 ……出来ない? 誰が決めた? 邪神がそう定めたか?
 ふざけた話だ。己は人々の明日を掴むために戦うモノ。そのための端末。
 描くべき航路は、彼女自身の意志が導き出す!
「一視六識の欠片を以て――」
 異空間から出現した六つの魔器。さらに、質量を抉る虚無の黒点。
 音も熱も光もないはずのそれらを、"視る"。知覚し、理解し、知識とする。
 リアは地を蹴って後方に飛び退り、魔器と黒点と、観測者の虚無全てを捉えた。
「……七星(セプテントリオン)を、穿つ!!」
 かちりと、歯車が噛み合うような感覚が全身を駆け抜けた。
 己の機能が成長(アップグレード)し、新たな奇跡を掴む一手となる。
 機能確定。ユーベルコード、昇華登録。これぞ!
「穿たれ滅びろ、キミが奪える明日はないッ!」
 ――BLAMN!!
 ひとつに思えた銃声。それは実質七。七発の弾丸である!
 魔器を貫き、破壊し、黒点を穿ち、霧散させ、そして、虚無の観測者を滅ぼす!
『新たな力を生み出したというのか、この一瞬で……ぐううっ!!』
 強大な星の戦士が滅びたことによるバックファイアが、ナイク・サーを襲った。
 "必滅を穿つ北斗七星(ディストラクティオ・セプテントリオン)"。
 虚無であろうとも滅びをもたらす、それこそが必殺の弾丸の銘だ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と【1】

……いつもの私じゃ駄目なのは、刃を交える前からわかる
でも挫けるわけにはいかないよ
未来はこんなところで潰えない!
それはヨハン、君と掴みたいものだから
付き合ってくれるよね?

【早業】で敵のスピードを上回りたいけれど
それどころか全てにおいて負けてる……よね
このままじゃいけない
なにか、ひとつでもいい
打開策を見出さなきゃ

◆戦闘スタイル
 疾さを活かし立ち回る前衛攻撃手
 素早さ>攻撃力
◆得手
 先制攻撃、槍術と魔術の融合、カウンターアタック
◆弱点
 純粋な力比べ、持久戦

・やられる前にやるスタイル
・魔術のみを扱うことには恐怖心が勝り、避ける
 ただし大切な人の為ならば躊躇いを捨てる


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と【1】

付き合いましょう

他者から与えられるものは悉く不快だ
何であろうと不要なものばかり
そんな中で、数える程のあたかかなものもあった
それを与えてくれる一人が今、隣にいるのだから

柄にもない事でもやってみせる
多少の無茶も、今くらいならばな

◆戦闘スタイル
 闇属性の魔術、四大属性と死霊術を融合させた攻撃魔法

◆得意
 正確で素早い黒刃での攻撃、状況に応じての闇の形状の使い分け

◆弱点
 持久戦

近接戦闘は本人が向いていないと思っているので普段はやらない
剣、槍は人並み以上に扱えるが二流、体力ももたない
(近接戦闘してみたいです)



●BATTLE04:オルハ・オランシュ&ヨハン・グレイン
 オルハとヨハンは、互いに背中合わせになって周囲を警戒する。
 ふたりの周囲にわだかまるのは――光の渦としか言いようのないモノであった。
 流体のようなそれらは絶えず形を変え、白く泡立ち発光している。
 この"光"が厄介なのだ。まず単純に、ヨハンの闇魔法を減衰させてしまう。
 おそらくこの光にはなんらかの幻惑作用があり、ふたりの意識を撹乱する。
 視界がぐらついた瞬間、"渦"の中から白い人型の異形が立ち上がり、襲いかかる。
 そしてこの"光の戦士"とでもいうべきモノは、それ自体が疾く、重い。
 発生を知覚した瞬間には、敵はインファイト距離に飛び込み攻撃を放っている。
 疾風迅速を誇るオルハをして、攻撃を凌ぐのが精一杯であった。

「……あちらは俺たちの動きを学習して、対策しているってことですかね」
「みたい、だね。やりづらいったらないよ……!」
 ふたりはあちこちに傷を負い、精神的・魔術的にも追い詰められつつあった。
 絶えず浴びせられる病んだ光は、確実に神経を、意識を蝕んでいる。
「!! 来るよ、ヨハ――ぐっ!」
 やられた。オルハが理解したときには、敵はもう次の攻撃を繰り出している。
 剣のような形に凝固した光が、彼女の首を断裁しようと斜めに振るわれた。
「さすがにそれは許せないな……!」
 ヨハンは掌のなかで闇を凝縮し、一振りの刃として収束させ、放つ。
 光と闇の刃が打ち合い、相殺され、"光の戦士"は蹈鞴を踏んだ。
「今度こそ……取らせてもらうよっ!」
 傷の痛みをこらえ、オルハが身を沈めて戦士めがけて疾駆する。
 その時、ヨハンは視た。死角から迫る、新たに生成された別の人型を!

 普段のヨハンならば、即座に魔力を練り上げてオルハをサポートしただろう。
 だがこの光、加えて邪神生成のために簒奪された魔力の消耗が、それを許さない。
 いまの闇の刃ですら、底まで手を突っ込んでかき集めたなけなしの魔力なのだ。
 どうする。どうすればいい。どうすれば彼女を救える。護れる?
(――違う)
 自分はそんな、彼女を護ったり救えるような好人物ではない。
 そもそも、誰かに救われるだとか、そんな考え自体が吐き気がするほど嫌いだ。
 不快で、厭で、不要で、鬱陶しくて。――自分の無力と不足を識られるようで。
 それでも、数えられるくらいにだが、"あたたかなもの"だってあった。
 大切にしたいと思えるものが、たしかにあったのだ。
 弱虫で、意地っ張りで、ひねくれ者の自分でも、大切にしたいと思うものが。
 ――それをくれた一番のひとが、隣にいる。今まさに危機に瀕している。
 助けるのでも、救うのでも、護るのでもない。
 ただ、自分にできることをやって、一緒に並び立ちたい。
(柄にもないことも……いいや、だからこそ)
 ヨハンは、懐からこぼれ落ちた、闇めいた漆黒の小刀を逆手に握りしめた。
 あらん限りの力を込めて、地を蹴った。ああ、なんと遅くぬるいことだろう。
 オルハの疾風のような身のこなしからすれば、あまりにも緩慢で鈍重だ。
 それでもいい。歯を食いしばり、敵を切り裂くイメージを描く。
 思い描くことならば、ヨハンにとっては大の得意だ。唯一と言ってもいい。
 そのイメージを手繰り寄せるように、全身を動かす。動け。動け!

 その時オルハは、耳慣れないものを聞いた。
 ヨハンの、腹の底から絞り出すような、らしくもない雄叫びだった。
 叫んでいる。ヨハンが逆手に剣を構え、前のめりに。
 刃は思ったよりずっと疾く走り、死角にいた光の塊をぞぶりと切り裂いた。
 狙われていたのか。背筋を駆け抜ける悪寒、ヨハンへの感情、敵への怒りと恐怖。
 それらがないまぜになって走り去り、オルハの瞳は本来の敵を見据えた。
 光が視界を揺るがし撹乱しようとする。盾型の物体が三又矛をそらし、弾く。
「――っ!!」
 がぎんっ!! と、硬質化した盾と矛が打ち合い、力比べの状況になった。
 これはオルハにとって悪手だ。彼女はパワーよりスピードに重きを置く。
 勢いを失ったウェイカトリアイナが、異形の膂力に押し返される!
「く、うううう……っ!」
 ヨハンの追撃まで堪えられるか。おそらくは不可能。体勢が崩れかかる。
 一瞬でいい。やつの動きを止めるために何か……何か!
 ここで押し返されれば、おそらく敵の刃はヨハンに向けられる!
(普段ヨハンがやっているように、魔力を凝縮して拘束すれば――でも)
 それは危険だ。オルハは魔術を使うことにどうしようもない恐怖を抱く。
 制御不能の力が爆ぜれば、すなわち彼女もヨハンも無事では済まないのだから。
 傷つけることへの恐怖。何度想起しても忘れられないあの惨劇。
 どうあがいても、傷つけることは避けられない――。
(それでも、ヨハンは前に出て戦ってくれた)
 彼にとって、魔術ではなく武勇で戦うことがどれだけ慣れないことか。
 それが己のためであるというならば、決意を信じずしてどうするというのだ?
 たしかに、自分に魔術を制御する才能はないかもしれない。
 けれども、彼なら。その暴威すらもねじ伏せて、生き延びてくれるのではないか。
 これまで何度も、並び立って戦い抜いてきたように。その力を信じれば……。
(やるしかない。今までの私でいるだけじゃ、勝てないなら――それなら)
 覚悟を決め、オルハは魔力を収束させた。ウェイカトリアイナの鋒へ。
 ただしそれは、普段彼女がやるような、魔術と体術の融合などではない。
 風そのものを、矛を目として渦巻かせ、荒れ狂わせるイメージを育てる。
 突風は疾風に変わり、暴風へ変じ、そして――敵を吹き飛ばした!
 制御出来ぬというならば、"初めからそれを切り捨てれば"よい。
 ヨハンならば、この荒れ狂う風をも越えてくれる。縋るように信じて手放す。
 フィロ・ガスタの風の力を、あえて暴走させることによって……!

 慣れ親しんだ風の兆しが、すぐそばで吹き荒れた。
 ヨハンは闇を視る。魔を視る。ゆえに魔力の流れを知覚できる。
 オルハの攻撃に乗せられる風の魔力は、ほぼ瞬間的なものである。
 だがこの風は違う。魔力そのものが荒れ狂い暴走している。
 己には避けられぬ。だが、そもそも"避けようとしなければ"どうだろうか?
 この光をも飲み込むほどの、一切の淀みなき闇をここに生み出せたならば。
「――"消えろ"」
 口訣は簡潔に。ヨハンは、己の魔力ではなく"奪われた空白"そのものを意識した。
 己の裡に生まれた虚無そのものを、魔力に変換し、刃に収束させる。
 それはあってはならぬものだ。いわばブラックホールのようなものだ。
 光をも吸い込み飲み込む、この世に在りながらにして存在しない禁忌の闇。
 光も、闇も、力も、魔も――風も、何もかもを喰らう薄く鋭き闇刃。
 小刀を焦点具として生み出された虚無は、暴風をも、光をも呑み込む。
 ヨハンは戦慄した。これは"あってはならぬもの"なのだ。
 一瞬でも制御を失えば、虚無はたちまち破裂し有象無象を呑み込むだろう。
 己も、愛する人も、敵も、味方も、天も地も。"これ"はそういうものだ。
 ――だからこそ、制御し振るうことができれば、大きな力となる。
「消えろ。それ以上、俺のひとを傷つけるなッ!」
 ヨハンは体を動かした。虚無の闇は維持出来ておそらく数秒。
 その間に小刀を振るい、風に吹き飛ばされた敵の体そのものを"削ぎ落とす"。

 暗闇を睨み凝らすようなオルハの瞳と、見開かれたヨハンの眼差しが交錯した。
 虚無の闇が消失し、風もまた消える。どちらも維持すれば破滅を招く。
「……ヨハン、今のは?」
「"柄にもないこと"を、無理してやってみたんですよ」
 闇を使い分けるのでも、狙い撃つのでもなく、ただ一点に収束させる。
 それがヨハンの生み出した、虚無の闇の刃。
 風を乗せるのでも乗るのでも、放つのでもなく、ただ暴走させ解き放つ。
 それがオルハの導き出した、狂える嵐の渦。
 ひとりだけでは破滅を招く。だが、互いの力を合わせたならば、あるいは。
「――やろう。ヨハンなら、付き合ってくれるよね?」
 オルハが言った。
「付き合いましょう。これまでより危険ですが、あなたとなら」
 光の渦が徐々に収束する。人型の異形がいくつも生まれた。
 このままふたりを圧殺しようというのだろう。視界が焼けるほど白が強まる。
「一緒に生き延びよう。だからヨハン、死なないでね」
「あなたの無茶に付き合うのは、今に始まったことじゃないですよ」
 死線にあって、くすりと笑う。オルハは頷いて、再び魔力を集めた。
 制御などはなから捨てた、あまりにも危険すぎる大渦を三又矛に纏う。
 凝縮された魔力の風は、きらきらとダイヤモンドダストめいて輝いた。
「何もかも、吹き飛ばしてあげるッ!!」
 それは渦巻く嵐(ディーニ・スィエラ)。烈風が敵味方の区別なく吹き荒れる!
 オルハは恐怖を棄て、ただその速度のままに羽ばたく。疾い。その速度は十倍近い!
 では、傍らにいるヨハンは? 何も対策しなければ風に切り裂かれるだけだ!
 いいや、最悪渦に呑まれ、全身がバラバラになりかねない!
「――消えろ。俺たちの道を、邪魔するな」
 だが、ヨハンは死んでいない。収束された虚無が、己を傷つける風をも呑む。
 ユーベルコードによる守りであろうが、無論振るわれる刃であろうが、
 その必滅の虚闇(アニヒレイト・イネイン)は喰らい、消滅させる。
 ゆえにヨハンは傷つかぬ。殺到する光すらも切り裂き、風に乗って走る。
 少年は視る。光を。己が収束させた破滅を。進むべき道を。共に駆けるひとを!
 人型が立ちはだかり魔器を掲げる。無駄だ。虚闇の刃が全てを切り裂いた。
 たった数秒。制御を誤れば味方を、互いをも傷つけるであろう破滅の種。
 オルハがもしもヨハンを巻き込むことを恐れば、彼女の生命は喪われる。
 ヨハンがもしも虚闇を手放せば、それは誰彼構わず喰らい尽くすだろう。
 それでも、数秒あればそれでいい。その前のめりが、未来を切り開く!
 光を、戦士を、邪神を飲み込み、虚無の闇と破滅の渦が荒れ狂った!
『己の弱みをあえて踏みつけ、力に変えたというのか……う、おおおおッ!?』
 戦いを静観していたナイク・サーもまた、その力に圧されて吹き飛んだ。
 破滅の光をも切り裂く、若きふたり。恐れをも踏み込める、その可能性の前に――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夷洞・みさき
今まで覗き見していたからかな。”僕”とは相性が悪そうだ。
なら、相性の良い者に任せるのも手かな。
今度は独力だからしんどそうだけど。

【WIZ】
2.セミオーダー
六の同胞達をより強力に実体化、戦闘スタイルの変容
注釈:
鯨輪/兄弟子、竜宮使釘/姉弟子、鮫鞭/同年眼鏡、ワニトカゲギス刀/同年男、オニカマス工具/同年女、金魚鉈/幼女

器用貧乏な己を試金石にして他の同胞達への前準備をする。
【真の姿】になる事も可

戦闘スタイル:恐怖と苦痛を与え海に還す
弱点:器用貧乏
やらないこと:善悪問わず現世の人は極力殺さない

僕達は水死体が流れ着いた海底窟より生まれた七人みさき

注釈以外のアレンジアドリブは歓迎します。



●BATTLE05:夷洞・みさき
 忌まわしき磯の香りを漂わすみさきをして、それは顔を顰めるほどのモノだった。
 死体だ。十や百で足らぬほどの死体が、拗じられ折られ繋ぎ合わさっている。
 否、死体というのは正しくない。それらは厳密に言えば"生きている"。
 骸の海に投棄されるのは、何も邪悪な過去ばかりだけではない。
 老若男女を問わず、死して忘れ去られた人々は過去となり、海に還る。
 ひとつひとつは脆弱な、ただのひと。だがそれらが千、万と集まったなら?
 ひとつひとつは無害なオブリビオンだ。だがそれらがひとつになったら?
「この数は、禊をするにしても少し手数が足りないな」
 みさきはうっそりとした声で言い、5メートルを超える巨大な邪神の攻撃を避ける。
 手のような形に"よじられた"オブリビオンの塊が、上から彼女を押し潰そうとしたのだ。
 ずしん――衝撃が、"オブリビオンとして"生きている人々を、殺す。
 悲鳴。苦悶。だが彼らに安易な滅びと死は許されない。
 邪神の魔力によってそれらは再生する。礎となるのはみさき自身の力だ。
 みさきは素早く大車輪を手繰り、敵の足に当たる部分を破壊しようとした。
 ぐこん、ごこん――めき、みりみり、べきべきぶちぶちぶちっ。
 足りぬ。凝縮された死骸の数があまりにも多すぎる。
 ならばとみさきは七尾の鞭を振るい、足を切り裂こうと左右に薙いだ。
 切り裂かれた部位は、血の涙を流す屍の手足によって即座に"縫合"される。
 足りぬ。おそらく呪われた船を招来したところで結果は同じだ。
 みさきはいくつもの手数を有するが、それゆえに決め手に欠けてしまう。
 互いに互いを呪い、苦しみを増幅させ、再生し続ける邪神そのものを滅せない。
『"それ"の諱(な)は、"屍の太祖"。君が見ているものは肉のかりそめに過ぎない。
 それを邪神たらしめているのは、取り込まれた屍たちの呪いと祈りなのだから』
 どこからか、超然としたナイク・サーの声が響いてきた。
 神は強大だ。だが多くの神格は、信奉者の祈りなくして維持は出来ぬ。
 "屍の太祖"は、自らが身体として取り込んだ屍たちの祈りによって維持される。

 どうか我らを解放してくれ。
 これ以上苦しめないでくれ。
 神よ、どうか。どうか――。

 縋るものなき哀れな犠牲者たちのねがいこそが、邪神の力である。
 その祈りが苦しみの原因である神の力となることを、彼らは理解していない。
 救いを求める祈りは、すなわち邪神によって与えられる苦痛となり、
 以て過去たちを無限に再生させる呼び水となる。
 解放を、救済を願えば願うほど、苦しみを与える神は強大となってしまう。
 だが戦士でも術師でも、歴史に名を残せるはずのない常人たちにとって、
 与えられる苦痛はあまりにも耐えがたい。祈らずにはいられぬほどに。
 完結した宇宙。屍を積み上げ、踏みつけ、崇めさせる呪われた祭壇にして神殿。
 それこそが、"屍の太祖"のすべてであり、ゆえにそれは無限であった。

 これを滅ぼすためには、すべての屍を一撃で屠る火力が必要となる。
 だが、みさきにそれはない。死者たちを解き放つだけの禊も与えられない。
 必然的に、邪神の攻撃は彼女を追い詰め、趨勢は決しつつあった。

 だが。
「……なるほど。"似たようなもの"だからこそ相性が悪い、か。
 まるで磁石のように、同極ではけして触れ合うことも出来ないわけだ」
 ボロボロに成り果てたみさきは、謎めいて言った。
『君の祈りが、彼らを救うことはない。咎なき者を裁くことも出来ないだろう。
 さて、どうするかね? 咎人よ。かの神は、君をその中に加えたがっている』
 どこからか響くナイク・サーの声。みさきは陰気な笑みを浮かべた。
「そうはいかない。なぜなら僕は七人みさき。屍のあわいから生まれた者ども。
 僕ひとりでは、赦すことも禊ぐことも、解き放つことも出来ないならば――」
 ずしん、ずしんと、人型めいたフォルムの屍群が迫る。
 いまも苦しみ嗚咽する"それら"に対し、みさきは問いかけた。
「ならば、救われぬ人々よ。僕は問おう。君たちは"どうしたい"?」
『……?』
 屍どもは答える。さざなみめいて。
 救ってくれ。
 解き放ってくれ。
 どうか。どうか!
「ダメだよ。まだ足りない」
 おお、見よ。ぎしりぎしりと軋む大車輪から、六つの影。
 鯨。
 リュウグウノツカイ。
 鮫。
 ワニトカゲギス。
 オニカマス。
 そして金魚。
 回遊するようにたゆたうそれらが、人の姿を得て地に降り立つ。
 車輪。釘。鞭。刀。工具。そして鉈。それぞれの武器を持って。
「同胞たちよ。不甲斐ない僕にどうか力を貸してほしい。
 彼らは救済を願っている。解き放たれたがっている。"だがまだ足りない"」
 屍どもは呻く。血の涙を流して救いを懇願する。
 だが、足りぬ。足りぬとみさきは云う。寄せては返す波のように。
「祈りが神を生かすならば、我が同胞たちに力を与えることも出来るだろう。
 さあ、祈るんだ。我ら七人も祈ろう。君たちが救われるよう、解き放たれるよう」
 邪神が迫る。六つの屍――今やはっきりとした像を持つ――が並んだ。
 兄弟子が車輪を放った。めき、びきびきと足に当たる部位を圧し潰し、砕く。
 ごりごりと、再生する屍をもさらに攻め立てる。
 祈れ。救われたいならばもっと強く。もっと長く。もっと大きな声で。
 釘が手に当たる部位を縫い止める。姉弟子は哭いていた。
 祈れ。救ってくれとねがいを込めろ。出来ぬならばなおも呪おう。
 鮫の歯めいた鞭が体表をこそぐ。悪夢じみた怨嗟と悲鳴の音叉が響く。
 祈れ。苦しかろう。辛かろう。足りぬならばなおも与えよう。
 刀が神を斬る。閻魔が屍の頭部を締め付けて砕く。鉈が首を落とす。
 少年が、少女が、幼い娘が、淡々と屍を傷つけ苦しめる。
 憎いわけではない。
 忌まわしいわけでもない。
 怒っているわけでもない。
 救われるためには代価が必要だ。相応の祈りが。
 許しには恐怖と苦痛が必要だ。相応の禊が。
「僕らはただ君たちを禊ぐだけだ。救われるかどうかは君たち次第なんだ。
 さあ、もっと祈ってくれ。僕らが君たちを苦しめずに済むように。もっと強く」
 やめてくれ。
 救ってくれ。
 解き放ってくれ。
 助けてくれ!

 ――どうか。
「……さあ」
 ――どうか我らを、"忘却(わす)"れてくれ。
「答えは届いた。君たちから禊がれた罪は僕らが背負い連れていこう」
 誰かが覚えている限り、過去は過去として在り続ける。
 骸の海からも消え去りたい。完全な無のためには忘却が必要だ。
 今を生きる人々が、その過去そのものを忘れる必要が。
 祈りすらも忘れ去るほどのねがいが。
 "忘滅・汝らもはや此処に亡く(みずのあわ)"。
 泡が割れて弾けるように、己の忘滅への祈りが、屍たちを滅ぼす。
 苦痛は遺らない。ただそれを与えたと云う事実は咎人殺しに遺される。
「神よ。もはや君に祈る者は居ない。君の罪すらも、総ては消えていくだろう。
 ……海に揺蕩う無限の名もなき水となりて、今こそ還るがいいさ」
 "屍の太祖"なる神はもはやいない。それを覚えている者がいない。
 滅ぼされた"それ"は、名付けるものもなき骸の海の泡と消ゆ。
「――そして同胞たちよ。あれだ。あれが僕らが禊を以て還すべきモノだ」
 七人みさきの瞳が、ぐるりとナイク・サーを捉えた。
「呪いを、恨みを、羨望を以て――罪を禊ぐとしようか」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
…新しい必殺技とか、そうパッと思いつけたら苦労しないんだけどなぁ…
ぶっつけ本番とか、正直下の下もいいとこだけど。やるしかないわよねぇ…!

2.セミオーダー
射撃・投擲等魔道によらない行動
技名:○殺

スタイル:リボルバーの早撃ち・クロスボウの射撃・各種グレネードの投擲を軸に跳んで走って敵陣を引っ掻き回す
またルーンを弾丸や装備にあらかじめ刻んでおくことで補助的に使用

得意:早撃ち・ファニング・雑魚散らし
弱点:正面戦闘の地力不足・魔道の才能絶無

相性最悪:デカい・堅い・速いなシンプルに強いタイプ

NG行為:寿命を削る・他者を庇う等他人のために己を危険に曝す行為(他者への攻撃を撃ち落とす・相討ち狙いの特攻等は可)



●BATTLE06:ティオレンシア・シーディア
 全身を、生ぬるい液体が包み込み、そのまま駆け抜けるような違和感。
 直後、ティオレンシアは、己が異界めいた空間にいることを自覚した。
「……タイマン張らせようってわけぇ? 面倒ねぇ……っと!」
 研ぎ澄まされた第六感が危険を告げ、ティオレンシアはそれに従い跳躍する。
 直後、ズシンッ!! と、大槌めいた一撃が地面に叩き込まれた!
 巨躯である。おそらく全高は10メートルにも達しかねないだろう。
 ケンタウロスめいた強靭な獣の四足と、筋骨逞しい人型の上半身を持つ魔獣。
 鈍く輝く兜の下からは、燃え上がるような凝視がティオレンシアを射抜く。
 今しがた地面を叩きつけたのは、片手に担いだあのいびつな大槌か……!
「デッカいのとか硬いのとか、そういうの苦手なのよ、ねぇっ!」
 ズシンッ!! さらなる追撃を躱し、ティオレンシアはトリガを引いた!
 BLAMBLAMBLAM! だが通じない。敵の筋肉は鎧めいて強固かつ強靭!
 舌打ちもそこそこに、目くらましのグレネードを投擲し時間を稼ごうとする。
 その時、巨躯は身をかがめた。まるで大地を強く踏みしめるように。
(――っずいわねぇ、これ)
 直後、巨躯が霞む……その四足で、猪めいて地を蹴り、疾走したのだ。
 向かう先は無論、ティオレンシアだ。暴走トレーラーじみた強烈なチャージ……!

 そもそも、ティオレンシアは(猟兵であることを除けば)まったくの常人だ。
 魔術だの超能力だの、ファンタジーめいた超自然的な技術には縁がない。
 使おうとも思わないし、やったところで付け焼き刃になるのがオチだろう。
 彼女はユーベルコードとして昇華されるだけの射撃技術を持っていたし、
 事実それで生き延びてきた。だからこそ、信頼に値するのだ。
 敵を撹乱し、不意を突いて殺す。それこそが彼女のスタイル――。
「……けほっ」
 だからこそ、それだけでは敵わぬ相手は、彼女にとっての"最悪"と言えよう。
 直撃こそ防いだものの、あの質量と速度は無傷ではいられない。
 煙幕弾のなかで、ティオレンシアは血を拭い己の負傷程度を測った。
(幸い動くことは出来るわね……けど、あのスピードにパワー、まずいわ)
 こちらの反応速度を完全に凌駕している。見てから躱すことが出来ない。
 かといって先制しようにも、敵はダメージを厭わず攻め込んでくるだろう。
 無論、ユーベルコードでない牽制射撃が、大した効果を齎す可能性はない。
 正面切って滅ぼすには圧倒的に火力が足らず、
 撹乱するには速度と膂力の面で差が歴然。
 せめて前に出てくれる誰かがいれば――いや、ないものねだりは仕方ない。
 煙が晴れる――よりも疾く、大地をも抉るであろう鋭い突撃槍が振るわれた。
 ティオレンシアはかろうじてこれを避ける。暴風じみた余波が体を揺らした。
 BLAMBLAMBLAM! 追撃に移ろうとした敵の肩を射撃でよろめかせる。
 ルーンの効果が作用した様子はない。焼夷弾を投擲。敵は意に介さない。
『"滅闘獣"に、その程度の子供だましは通用しないよ。彼はタフネスが売りでね。
 眠ることも出来ぬ無限の戦場を、ただ殺し奪うことで生きてきた戦士なのだから』
 なるほど、異界より招来された獣騎士はたしかに強靭で勇ましい。
 変幻自在の魔器は武器であり鎧であり盾であり、生半な回避も攻撃も許さない。
 どこからか響く邪神の声は、たしかに事実なのだろう。だが。

「……そうやって高みから見下されるの、キライなのよ」
 静かに言い、ティオレンシアは踵を返した。両足で大地を踏みしめる。
 血でべっとりと濡れた髪を払い、みなぎるほどの憎悪を込めて対手を睨んだ。
「他人の生き死にで愉しむようなクソ野郎相手に、いいようにされるなんて最悪。
 ……そういうヤツらを、アンタみたいな連中を、アタシは絶対に認めない」
 泥を啜ってでも生き抜いてきたあの頃。地獄の日々。
 人らしい心すら摩耗するような中で、出会ったひとがいた。
 奪われた命がある。決して許さぬと誓った敵がいる。
 ここで死ぬことは許容できない。ましてや、あんなふざけた相手になど。
「やってやろうじゃないの……やられてばっかだと思わないことね!」
 跳んだ! あろうことかティオレンシアは、一切の目くらましなく真っ直ぐに!
 危険だ! ついに生死の境で正気の糸を断ち切ったか? らしくもない!
 だが否。ティオレンシアが挑んだ以上、敵はこれを迎え撃たざるを得ない。
 すなわち、変幻自在かつ強壮な敵の攻撃が、"迎え撃つ"という一点に収束する!
 己の命をチップとして、敵の手を一点に定めるという矛盾めいた特攻。
 そして"来ると分かっている攻撃"ならば、ティオレンシアはいくらでも先んじられる。
 たとえ己より疾かろうと。
 己より強かろうと。
 関係はない――ただ狙い、引き金を引き、穿けばそれで終わるのだ!

 滅殺の闘獣が吠えた。魔器を槍から剣に変え、ティオレンシアめがけ振るう。
 主観時間が鈍化する。極限の集中。必然的に狙うべき先はひとつとなる。
「どんな硬い鎧にも、貫くべき継ぎ目はある――あなたの隙、丸見えよぉ?」
 まるでそれは、どんな時も変わらず輝き続ける北極星のように。
 狙うべき隙をただ貫く。ゆえにその銘、"明殺(ポーラスター)"。

 ――BLAMN。

 ティオレンシアは、ごろごろと地面を転がった。
 呼吸はおろか、受け身すらも忘れるほどの極限の集中。深呼吸し立ち上がる。
 脳天を穿たれた巨獣は、剣を振りかけた姿勢のまま、ずしんと倒れる。
「背水の陣って、案外効果があるものよねぇ」
 血で濡れた髪を拭い、命のチップを守り抜いた射手は、涼やかにそう言った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイニィ・レッド
1.フルオーダー

自分は――「雨の赤ずきん」

人々が囁き合い
思うままに膨らませた雨の都市伝説
それが自分です

雨の中にある限り
赤ずきんは斃れない

雨に紛れるのも
血の雨を降らせるのもお手の物
鋏一つでやってみせましょう

逆に言えば
自分は雨の赤ずきん以外になれません
都市伝説の怪物である自分は
噂から逸脱できねェ

だから
自分が成長するためには
都市伝説を補強しなければならない
雨の恐怖を膨らませなければならない

……自分は気に入らねェものは全て
この鋏でぶった斬ってきました
それが自分のスタイルです

だからテメェも
この鋏で斬り落とす

赤ずきんの前で神もクソも無ェ
正しく無ェものが雨の中に立つなよ



●インタビューログ114728-Z5-23
 対象:機動部隊Ζ-5隊員 ユージーン・█████████。
『……結論から言って、あなたが目撃したというUDCの存在は確認されませんでした』

(対象、インタビュアーの言葉に対し冷笑的表情を浮かべる)

 そりゃそうだろうさ。あれだけの怪物がひしめきあってたんだ。
 で? どうしてそれがわかってて、俺にインタビューなんざするんだ。
 メンタルテストならもう受けてる。結果が知りたきゃデータベースを――。
『"UDCの存在は"確認されませんでした。それは確かです』

(対象、インタビュアーの顔を凝視する)

 ……どういう意味だ。
『あなたが報告したUDCと、非常によく似た特徴を持つ猟兵が確認されました。
 データ不足のため確定は出来ませんが、UDC技術を利用しているわけでも――』
 猟兵? "あれ"が? それを見定めたくて俺を呼んだってのか?
 ……よしてくれ、悪い冗談だ。あんな"モノ"が、味方であってたまるか。
『その発言は褒められたものではありませんよ、ユージーン隊員』

(対象は顔を紅潮させ、机を叩く)

 あんたは"あれ"を見ちゃいない!! 報告書で読んだだけだろうが!!
 俺は……俺は見たんだ。あれが、怪物どもを鋏で次々にバラバラにするのを。
 あんな、あんなのは見たことがない。分隊長は忘れろって、でも、俺は。
(対象、両手で頭を抱え、うわ言をしばらく呟く)
『猟兵は我々の味方です。その本質がどうあれ、彼らは世界を護ってくれている。
 今後の共同作戦に向けて、あなたのような発言をした隊員には詳しい聴取が――』

(対象は頭を机につけ、嗚咽する)

 違う……違う! あれは、あいつは、そんなもんじゃない……!
 もしもあれが猟兵だっていうなら、俺達はそもそも見誤ってるんだ!
 あいつらは味方じゃなく、ただ"怪物どもの敵"っていうだけなんだってことを!
『警備員、彼に鎮静剤を投与してください。急いで!』
 あいつらが理解できるモノだと思うな! 少なくともあれは違う!
 あいつは……ボタン一つ掛け違えれば、俺たちのほうを狙うかもしれないんだぞ!
 ああ、畜生、雨だ。雨が、降って、やめろ、止んでくれ、雨は厭だ……!!

(インタビューログ、終了)

●BATTLE07:レイニィ・レッド
 雨が降り続けていた。
 異界より招来されしは、双つの首と六本の足、そして四つの口を持つ歪な魔獣。
 狼とも竜ともつかぬ見た目をした、獰猛かつ凶悪な怪物――で、あった。
『――バカな』
 空間を越えてその闘いを見ていたナイク・サーは、思わず呻いた。
 ありえない。あれは神すらも喰らうモノ。"双首の貪狼"に、あの猟兵は勝てない。
 はず、だった。事実、はじめはその牙が、爪が、彼を削り裂いていた。
 だのに、いまはどうだ。見よ。霧のように濃い雨の向こうを。
 もはや返り血か、己の血かもわからぬほどに全身を赤く染め上げた青年。
 それが踏みしめ見下ろすのは、あちこちをずたずたに断たれた怪物の成れの果て。
 雨が降る。雨水が血と混ざり合い、戦闘の高揚も汚れも洗い流していく。
「……正しくねェ」
 怪物が、静かに言った。
「テメェは、この世界に居ちゃなんねェ。どこに居てもならねェバケモノだ。
 在るだけで道理も何もかもねじ伏せちまう。ンなもん不要なんですよ」
 雨が降る。その雨は、レイニィ・レッドという者にとって、庭であり帳だ。
 雨の中、鋏を携え現れる"赤ずきん"から、人は逃れることが出来ない。
 伝搬し増幅された噂そのものが、脱出困難な"雨の迷路"を作り上げたのだ。
 だがレイニィは違う。彼は"雨の赤ずきん"であるゆえに。
 雨の中に消え、雨の中から現れる。どこであろうと、区別なく。
 そしてその鋏は、なんであろうと断ち切る。
 怪物であろうが、
 牙であろうが、
 爪であろうが、
 雨の中ならば、区別なく。
「正しくねェモノが、この世界に、自分の雨の中に存在しちゃならねェんです。
 雨(ここ)にいていい怪物(もの)は、自分だけだ。アンタは要らない」
 しょきん。鋏の音が鳴り響く。貪る怪狼は、怯えたような声を漏らした。
「――神もクソも無ェ。正しくねェものは、ぶった斬られて消えちまえ」
 "赤ずきんの噂話(レイニィズ・スケアリィ)"は、獲物を逃さない。
 もしも逃れるすべがあったとしても、"いずれは逃れられなくなる"。
 人は恐れる。雨の中から来る怪物(もの)を。
 恐れは噂を生み、噂は怪物の寄す処となり、そして雨を降らす雲となる。
 神であろうが、
 怪物であろうが、
 ひとたび雨に囚われたら逃れられないと。
 そう信じる誰かが口にして、噂として流してしまえばそれで終わり。
 膨れ上がった風船めいて、あるいは雨水が流れ込んだ大河のように、
 渦巻く噂が、そこに込められた恐れが、畏れが、怖れが、
 その雨の迷路を構成する魔力となり、怪物の庭は広がっていく。
「怪物としちゃあ、二流でしたね」
 じょきん。鋏の音と悲鳴。鋏の音と、悲鳴。鋏の音。鋏の音。鋏の音。

 雨は降り続ける。
 じょきん、という肉と骨を裁つ音は、そのなかにいやによく響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコラ・クローディア


戦闘・得意
徒手格闘体術を基礎とし身体強化と龍の体力で前衛を張るタイプの魔術師
使用武器は2本1対連結可能な剣槍「アンフィスバエナ」
魔術は雷属性が得意

弱点
魔力切れするとスペックが低下
若干燃費が悪い
己の趣味に由来する「カワイイ身体」に拘るため、リーチなど一部の身体性能に劣る
真なる真の姿は「龍」だがそれは嫌いなので「龍人」としての姿までしか使おうとはしない

NGなど
3章では「猫ラ」ではなく「ドララ(一人称:オレサマ)」
大ボス相手に猫かぶりの暇なんかない
とはいえ真なる真の姿(龍の姿)は解放せず
「貴様相手などに龍としての――オレサマの好かんカワイクない姿を見せることなどするものかよ」



●BATTLE08:ニコラ・クローディア
 一瞬、空間の位相がずれる違和感があった。だがあくまで一瞬だ。
 次の瞬間には、ニコラはすでに、この世ならぬ亜空間に身を置いていた。
『君を視ていて、ひとつ疑問に思ったことがある』
 怪物が現れるより先に、どこからかナイク・サーの声が響いた。
「へぇ、悠長な話ね? 一体何かしら?」
『――君はなぜ、そんな脆弱な肉体に身をやつしているのかね?』
 ぴたり、と、微笑んでいたニコラの動きが止まった。

 ……ややあって、ニコラはふたたび笑う。ただしそれは可憐な微笑ではない。
 己以外の全てを下に見た、そして事実それだけの力を持っている、
 傲岸不遜にして強大なる王――すなわち、龍の相であった。
「いくらニンゲンぶってても、所詮邪神如きにゃオレサマの趣味はわからねぇか。
 この身体、この性格、何もかもが誰よりもカワイイだろ? だから、だよ」
 いかにもそれは、非効率的で不合理で、かつ俗物的で不可解である。
 だが、龍とはそういうものだ。それだけの力が彼女にはある。
 たかが"キライ"なんて理由で真の躯体を晒すことなく、"ニコラ"を演じる。
 卑俗で不可解で不条理だからこそ――龍だけが、その我儘を貫けるのだ。
『それは結構。であれば、君にふさわしいモノを呼ばうとしよう』
 異界の門が開く。現れたのは――ニコラは、それを見て顔を顰めた。
「貴様……!!」
 それは龍である。正しくは、龍であったはずのモノというべきか。
 腐り、傷つき、萎び、崩壊し再び再生し、また腐敗し崩れ落ちる動く屍。
 ドラゴンゾンビ、あるいはドラゴリッチと呼ばれる龍のアンデッド、めいたもの。
 異なるのは、その腐敗の下から現れるのは"一頭だけではない"ということだ。
 いくつもの首が生え、己こそがこの肉体の覇者たらんとし、また崩れていく。
 腕が、爪が、翼が、尾が、あるいは名状しがたき別の器官が、生えては滅びる。
 龍という傲慢なるモノ。その滅びた屍をいくつも粘土めいて練り上げたモノ。
 ゆえにそれは、禁書において"腐り続けるもの"という諱で喚ばれていた。
 龍たるニコラにとって、それがどれほどの挑発になるかは言うまでもない。
 もっとも、滅びて再来することも出来ぬ弱者どもを憐れむような気持ちはない。
「こんなモノで、オレサマを滅ぼせると思ってやがるのかッ!?」
 それは己を嘗めた邪神に対する、やるかたなき燃えるような憤懣だった。

 ニコラは亜竜を嫌う。だが目の前のそれは亜竜ですらない。
 ただ滅び続けるモノとしてしかこの世に存在できぬ、過去の残骸の集積物。
「消えろ――オレサマをこれ以上イラつかせるなッ!!」
 バチバチと音を立て、忠義篤き双子龍の槍がその手に招来された。
 怒りのままに魔力を解き放ち、己を見下ろす悠然たる腐れた巨体を灼く。
 だが、それは死の集積物だ。ゆえに生半な攻撃では滅びをもたらせはしない。
 バチィンッ!! と空間を轟かせた稲妻は、腐龍群のゆうに五割を一瞬で滅ぼした。
 しかし。泡立ちながら新たな"首"が現れ、ニコラを睨めつける!
「……チッ!」
 迎撃を諦め、ニコラは翔んだ。直後、首は己の崩壊も厭わず地面に食らいついた。
 波濤のような衝撃でその巨首は罅割れて砕け、裂け目から新たな部位が生まれる。
 なんたる忌まわしさ。何よりもあさましきはあの屍どもの妄執!
「そんな身体になってまで生じたいのか? これだから紛い物は……!!」
 魔力が行き場を求め、髪をなびかせながら火花を散らす。全身を駆け巡る。
 稲妻の魔力を生体電流として全身に纏わせ、ニコラは羽ばたかせた。疾い!
「消えろ。消えろッ!! 邪魔だぁ!!」
 ぞぶりと死神の鎌じみた雷爪が、膨れ上がる巨体の三割をこそぎ取る。
 まずい。リーチ不足による踏み込みが仇となった。五つの爪がニコラを狙う!
「ぐ……!!」
 ニコラは強靭な翼膜によって己の身を包み、呪われた爪の斬撃を防いだ。
 新たな犠牲者を求める呪詛が、魔力の守りを蝕みニコラを腐らせようとする。
 この呪力を跳ね除けながら戦うには、魔力を惜しんではいられない。
 惜しむつもりもなし。咆哮めいて叫び、ニコラは縦横無尽に飛び交い裂く。穿つ。叩き潰す!
「しぶとすぎる!! 往生際の悪いゴミどもが……」
 抉り、断ち、砕いても、そのたびに新たな腐肉が裂け目から生まれ続ける。
 ――やはり、真の姿を解き放つしかないのか? これでは足りぬのか。
(それはナシだ。こんな連中ごときに、オレサマの姿を見せてやるなど……!)
 おそらく空間を越えて、あのいけ好かない邪神も見物していることだろう。
 それが腹立たしい。おそらくはこの意固地もあちらの狙い通りなのだ。
 暴君はひたすらに腐れた龍を滅ぼす。だがその存在核まではとても通らぬ。
 爪と爪が打ち合い、稲妻が呪力を吹き飛ばし、僅かな間隙を腐肉の尾が薙いだ。
 地面に叩きつけられ、ニコラは呻いた。忌々しい。なんたる屈辱……!

 一撃にて、あの腐れた屍の群れを完全に無に消し去るしかない。
 今のニコラの姿では、それだけの力を振るえない。消耗も激しすぎる。
「……邪神よ。貴様相手などに、龍としてのオレサマの姿を見せるつもりはない」
 咆哮し苦悶する腐肉の群れを前にして、ニコラははっきりと言った。
「だが! そこまで見たいというならば、オレサマの"龍たる所以"を見せてやる!」
 バチ、バチバチバチバチ――稲妻めいた魔力が高まる。プラズマの域にまで!
 たちまちそれは、双子龍槍を赤熱化させ、ついには白熱エネルギー体に変えた!
「アンフィス! バイネイン! 喜べ、オレサマとともに闘う栄誉をやる。
 我が鎧となり、我が矛となり、我が敵を貫き砕くための槌と変われッ!!」
 渦巻く龍の巣の如き熱と雷の魔力が、ニコラを中心に収束し、膨れ上がる。
 雷鳴が描くシルエットは……まるで、翼を広げた恐るべき龍のように!
「龍とは誇り高きモノ。ただの力でなく、暴威によって傲然と君臨せしモノ。
 力そのものを従え、立ちはだかる愚者を打ち砕く――たとえばこうしてなぁ!!」
 傍から見れば、ニコラを包む稲妻と熱の嵐は衝角のようにも見えただろう。
 雷鳴の翼を広げ、ニコラは――真正面から滅びの群れめがけて突進した!
 龍の武器は何か。
 爪というものも居よう。
 牙というものも居よう。
 翼、尾、あるいは強大なるブレス、角、鱗、枚挙に暇はない。
 だが何よりも強大にして唯一無二たるもの。それは我を通すというエゴイズム!
『何? この魔力は……これほどの力を、その肉体で!?』
「ハッ、バカめが。――道理を捻じ伏せる、これこそが龍であろうがッ!!」
 双龍の力を汲みて編まれしは、"暴龍雷槌(タイラント・トライテンペスト)"!
 プラズマエネルギーそのものを纏い、ニコラは破城槌めいて屍群を撃った!
 空間すらも滅散するほどの極大衝撃が、一撃で龍ならぬ屍を灼き滅ぼす!
 屍の群れが消滅し空間が割れた。ニコラはナイク・サーを視界に捉える!
「因果応報、というやつだ。オレサマの怒りを知れ、愚物がッ!!」
『ぐ――う、おおおおお……ッ!?』
 暴竜の雷霆が、ついには邪神を捉え、怒りのままに叩きのめした――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

エル・クーゴー
●狩猟の魔眼



ー戦闘スタイル・得意なこと
銃砲火器群による中~遠距離戦

ー弱点
近接戦

ー絶対にやらないこと
戦意喪失


・3.自身で考案
【嵐の王・暴風弾雨(ワイルドハント・テンペスト)】

L95式火器管制システムに自ら【ハッキング】
過負荷による電脳の焼損を予防すべく搭載されているリミッターを【吹き飛ばし】、今この瞬間、己の限界を超える
ザミエルシステム起動、質量弾に強烈な慣性を込め射出(攻撃力重視)
【誘導弾】管制を掛ける要領で弾体に掛かるベクトルを超々々精密統御、これにより射出弾は「対象を射貫いた後も舞い戻ってきてまた射貫く、毀損しない弾体」――超絶の魔弾と化す

これを
狙撃一射ではなく、機関砲斉射で“全弾やる”



●BATTLE09:エル・クーゴー
 どれほど海水を汲み上げても、海を枯らすことは出来ないだろう。
 どれほど木を伐り倒しても、山を砕くことは出来まい。
 どれほど切り裂いても、貫いても、嵐を消し去ることは出来ない。
 では嵐そのものが、意志を以て立ちはだかったならば、抗うすべはあるのか。
 ――答えは、ノーである。

 L95の前に生み出されたのは、まさに形を得た嵐そのものであった。
「ハハハハ、ハッハハハ!! 無駄だ、無駄だ、無駄だ!!」
 身の丈は人形を遥か高みから見下ろすほど。声音はもはや雷鳴めく。
 亜空間をいっぱいに支配するような、傲岸不遜な笑みはいかにも憎らしい。
 L95はそれに拘(かかずら)うことなく、機関砲を展開。全力斉射した。
 BRRRRRRTTTTT!! 巨体をいともたやすく、死の弾丸が貫く。霧散させる。
 おお、だが見よ! 弾丸によって貫かれ千切れたその肉体は、
 まるで逆回しの映像めいて再収束し、何事もなかったかのように肉体を構成する!
「聞こえぬか? 解らぬか! 我は嵐、我は風。我は肉なくして在りしモノ!
 熱であろうが、刃であろうが、稲妻であろうが、嵐は払えぬ。斬れぬ。殺せぬ!」
 ごく限られた書物において"凪をもたらすもの"として識られるその怪物は、
 超自然的な声を轟かせた。それは実際男性めいているが、あくまで錯覚だ。
 外宇宙の法則に則るその怪物を、既知宇宙の者が本質的に理解することは出来ない。
 L95の電脳であれ、同様だ。声だけでも狂気を孕み、精神を崩壊させる。
 もしもここにいたのが戦闘人形である彼女でなければ、とうに狂死している。
 理解できる言葉に聞こえるのは、彼女の電脳が"そう変換した"だけのこと。
『敵性体、消耗皆無。L95式火器管制システム、ネクストオーダー』
 ガギョン。機関砲と入れ替わりに、巨大対物狙撃銃がマウントされる。
 120mm対悪魔・邪神用聖別済流体金属弾、装填。発射(ファイア)。
 DOOM! DOOM!! DOOM!!! 魔に属するものを物理的魔術的に滅殺する過剰火力が、
 巨体に炸裂し直径数メートル球形の白銀火炎を燃やす! だが、おお!
『……敵性体、損傷皆無_対非物質的生命体用炸薬榴弾、装填(リロード)』
 DOOM! DOOM!! DOOM!!! ……弾頭を変えようと、結果は同じだ。
 焼け付いた砲身をパージ。直後、巨体の振るった拳が到達。KBAM!!
 接近が疾すぎる! 半気体であるがゆえの予測不可能な急速移動!
『緊急離脱、開始。火器管制システム、照準補正――』
 バーニアが噴出されるより一瞬早く、雲じみた掌がL95を包んでいた。
 気体であるはずだ。だのに、五体を圧潰せんとするこの膂力は紛れもなく肉のそれ!
「ハハハハハハ。滅びよ人形。貴様は我には勝てぬ。滅びよ!!」
 哄笑が響き渡る。邪神すらも滅殺するほどの怪物に生半な火力は通用しない。
 異界の法則によって構成された巨神は、そもそも存在の位相が"ずれている"のだ。
 ガンラックが爆裂し、装甲が罅割れ火花を散らす。網膜上にレッドアラート。
 べきべきと躯体が折れ爆ぜる。このままでは爆散は避けられぬか。だが!
『…………敵性体、論理構造……分析、完了……』
 L95は戦意を喪失していない。これっぽっちも、欠片ほども諦めてはいない。
 敵は巨大であり、一切の攻撃が通じず、回避すらもままならないというのに。
 己の全てを観測され、理解され、把握され、対策されているというのにも拘らず。
「見上げた胆力だ! 所詮、ガラクタでは力の差を理解できぬか?」
『あるいは、それを理解できぬほどに壊れ果てたか』
 睥睨する巨神と、高次元から見物するナイク・サーの声音が重なった。
 絶え間なくレッドアラートを映す網膜ディスプレイ越しに、少女は邪神を視た。
 決然と。まっすぐに。今すぐにも滅びそうなはずであるにもかかわらず。
『否定(ネガティブ)』
 少女のカタチをした人形、あるいは人形として生まれた少女は言った。
『躯体番号L-95』
『当機の存在目的は』
『全オブリビオンの狩猟・滅殺』
『いかなる敵性体をも完全に狩る_そのために当機は存在します』
 電脳を持ち、冷たい鋼とコードの揺りかごから生まれたはずのモノは、しかし。
 確かな意志を込めて、そう言った。

 一説によれば、人の運動機能は本来の数%しか発揮されていないという。
 筋力を完全に行使すれば、筋組織そのものが自分の力で破壊されるためだ。
 それは人形であろうと変わらない。L-95にはリミッターが存在する。
 KBAM……アームドフォートの殆どを自爆させ、L-95は拘束から逃れた。
 躯体がゆっくりと落下していく。赤く染まった網膜視界に巨神が映る。
 分析、完了。その存在を、構成される全てを、魔眼はたしかに見据えた。
 電脳魔術・ザミエルシステム。狙った獲物を確実に貫く狩猟の悪魔の銘。
 "七発目"が放たれることなきよう、そのシステムには封印が施されている。
『自己保存封印機能、解除』
 ばちん、と音を立てて、L-95のバイザーが火花を噴き脱落した。
 少女の双眸が獲物を捉える。そこに表情はない。どれほど望もうとも。
 人形は変わることなど出来ない。成長することも出来はしない。
 それが世界の法則。当たり前の常識。変わることなきルールだ。
(――当機は)
 それでも、ねがいはここにある。
 七月の頃、何気なく飾った短冊に込めたねがい。
 たしかな欲望。それを叶えることは、人形には許されないのか?

 否だ。たしかに己は人形である。だがそれ以前に!
『当機は躯体番号L-95』
『全オブリビオンを狩猟し滅殺するための機能を有し』
『"嵐の王(ワイルドハント)"の一員です』
 瞬間、主観世界が変じた。ノイズエラーの赤は一瞬にして消えた。
 亜空間を構成する魔術粒子、その運動すらも知覚できるほどの超・超高精度。
 洪水という皮膚が生ぬるく思えるほどの情報ストリームがなだれ込み、
 意識を白濁させる。抗う。……抗う。流れ込む世界そのものに。必然に抗う!
『ザミエルシステム"完全起動"。L95式火器管制システム>防壁突破』
 ウェポンラックが駆動し、全火器をマウントした。落下しながらの全力斉射。
 DOOOOOOM――150mm対神格用法儀礼済液体金属弾頭、射出。慣性予測、次弾装填。
 DOOM! DOOOM!!! DOOOOOOOOOOOOOM!!!!!
「小賢しい、なんど繰り返そうと我は滅びぬ。我は嵐なれば!」
『否定(ネガティブ)』
『当機こそが嵐であり、我々猟団こそが嵐であり、"嵐の王"です』
『――暴風弾雨(テンペスト)、証明完了。敵性体を滅殺します』
 BRRRRRRRTTTTT!!! BRATATATATATATATATATA、ZZZTTTTTTT!!!!
 L-95が有する全ての火力が放たれる。だがそれは単なるフルバーストではない!
 当然のように霧消した肉体を、ありえない軌道で戻ってきた弾丸が再び貫く。
 何度も。何度も何度も。何度でも貫く。灼く! やがてすると、どうだ!
「何……バカ、な!?」
 ついにその存在核を捉えた。弾丸が到達する。炸裂する。滅ぼす!
 完全な無などありえない。この世界の位相に"戻る"瞬間がかならずある。
 ――放たれた魔弾は、獲物を必ず貫く。
 いかなる怪物であろうと、神であろうと、必ず。
 ゆえにこそ――少女たちは、"嵐の王"の名を有するのだ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

バルディート・ラーガ
2
選択UC【ヘビーアームド・ウェポナイズ】
戦闘スタイル:「口八丁手八丁の騙し」「盗み」「卑怯な手」
「負傷で起動するコンボ」とそれに繋ぐ「味方をかばう」「特攻」
得手:炎と影の利用、だまし討ち
弱点:水と寒さ
やらない事:今回のみ「炎」「蛇」要素を使用しない

さアて、ようやく元凶の敵サンが見えたっつートコですが……
まずいなア、この水。水場での戦い、大の苦手でして。
なんたらオーシャンがどうこう言う風の噂もございやすし
コレを超えねエと先が無エ、ッつーコトですかい。

さアどーしやしょ。炎が封じられてる以上、頼れンのはこの身一つ。
……こう、都合の宜しい真の姿でも出てきやせンかねエ。
トカゲだか、竜だか、人間だかの。



●BATTLE10:バルディート・ラーガ
 バルディートが取り込まれた空間は、さながら無限の海のようだった。
「っと、こりゃアまた……おあつらえ向きなのを用意してくれたモンで」
 岩礁めいた数少ない足場に着地し、バルディートは忌々しげに舌打ちする。
 ブレイズキャリバー……すなわち地獄の炎を使って攻撃する彼にとって、
 水というのはそれだけで相性が悪い。ましてや、これだけの水場である。
「こンなトコに放り込むンだ、敵サンもどォせ……あア、やっぱり」
 目の前の水域が、ズズズズズ……と重力に逆らって山のように盛り上がる。
 バルディートを見下ろすほどに高まった水の瘤は、音を立てて砕け散る。
 そして水しぶきを散らし現れたのは、地獄じみた鱗と六つの目を持つ巨大な蛇!
 体の直径は3メートルを越え、その全長はもはや予測すら不可能。
 牙だらけの口を開き、異界の水蛇はバルディートを威嚇するように吠える……!

 一部の禁書においては"渦を巻くもの"と喚ばれるその怪物は、
 並の邪神であれば逆に捕食してしまうほどに強大な存在だという。
 それと一対一で戦う……バルディートに限らず、今の猟兵たちにとっては、
 あまりにも困難で勝算のない絶望的な闘いと言えよう。
 ましてや、この空間そのものが、バルディートにとっての足枷となってしまう。
 彼が劣勢に立たされるのは当然と言えた。そもそも渡り合えるだけでも上出来だ。
『ほう。私の予測では、数十秒も保たないと思っていたが――』
 どこからか(おそらくはこの空間の外からだろう)ナイク・サーの声が響く。
 あちこちに裂傷を負い、血のように地獄の炎を噴き出すバルディートに対して。
『なかなかどうして、よく耐えるものだ。意地や根性が為せる技かね?』
「……買いかぶってくれやすねエ、あいにくあっしは――っと!!」
 よろめきかけたその瞬間を狙い、背後から水蛇が襲いかかった。
 一瞬早くその気配を察知したバルディートは、岩礁を蹴って高く跳躍。
 巨大な口蓋に飲み込まれることは避けた――だが鱗がひとりでに剥がれ飛来!
 ミサイルめいたそれらが空中にバルディートを襲い、ずたずたに切り裂く!
「そこまで根性も意地もあるわけじゃアございやせンよ……ッ!!」
 バルディートは両手をクロスさせ、致命的部位への被弾をかろうじて防ぐ。
 初撃によって腕を切り裂かれたのと同時、その勢いを利用して身をよじり、
 続く第二波、第三波の鱗そのものを足場として飛び渡ることで回避するのだ。
(この鱗の弾幕、まったくメンドくせエな。そして――そら、来なすった!)
 鱗を避けきったバルディートを狙い撃つように、水蛇の尾が襲いかかった。
 すでに三度。この牙・鱗・尾のコンボに苦しめられ続け、ご覧の有様だ。
 これまでの二度は直撃こそ避けたが、敵もいい加減にこちらの動きを学習したか、
 尾の軌道はバルディートの回避先を捉えている。直撃は……避けられない!
「がはッ!!」
 大木じみた太さの尾が、ついにバルディートの全身を叩いた。
 弾丸めいた速度で水面に叩きつけられたバルディートは、水中に没する。
 肋骨が何本か、他にも全身のあちこちで骨と筋肉に重篤なダメージを受けたか。
 意識が消失と覚醒を繰り返す。だが、今ここでのんびりするわけにはいかない。
 ここは水中。もはや地獄の炎は生み出せず、敵にとっては本拠地も同然。
 水のうねりが、己を狙い鎌首をもたげる水蛇の動きを伝える……!

 ……ナイク・サーの言葉に対して向けた台詞は、強がりや皮肉ではない。
 己は、心強き猟兵たちのような根性だの、意地だのは持ち合わせていないのだ。
 むしろ逆だ。臆病者で、弱虫で、卑怯な手も厭わぬ"意地の悪い"男だろう。
(その挙げ句が、逆にしてやられてボコボコか。まア因果応報、だな)
 口八丁手八丁、文字通り"騙し騙し"にやってきた今日までの日々が脳裏によぎる。
 それも結局は、強大な存在には何一つ通用せずに果てるということか。
 光すらも差さぬ冷たい水の中は、そんな卑劣漢に似合いの墓場と言えた。

 しかし。
 しかしだ。
 いつか死ぬとしても、今日この時この瞬間ではあるまい。
 あんなふうに高みにふんぞり返り、超越者ぶって見下ろすような悪党に、
 むざむざくれてやるほど己の命は安くない。そいつだけは御免だ。
(コレを超えねエと先が無エ、ってンなら。なア、俺よ、どうにかしねエとだぜ)
 主観時間が鈍化する。水の向こう、大きく牙を剥いた水蛇が見えた。
(ココで死ンでいいのか? ――よくねエよなア。だったよ、俺よ! さア!!)
 卑劣な手も厭わぬ、臆病なひねくれ者。察しの通り己の意地は悪い。
 だが――いいや、"だからこそ"、張りたくなる意地もあるというものだ!

 水がひときわ高く、大きく、何かが爆ぜたかのように高く噴出した。
 現れたのは、獲物を捕食した異界の水蛇か……否! なにか様子がおかしい!
『何?』
 水しぶきとともに現れた水蛇は、苦痛に悶えて血を噴き出していた。
 まるで巨人にアッパーカットを食らったかのように。そして遅れて現れたのは!
「おおォらッ!!」
 バルディート? いや、彼のはずだ。だがその姿は常のそれと大きく異なる!
 蛇ではなく人型の龍とでも言うべき、強固な鉄鱗に覆われた強靭な姿だ!
「こいつアいいや! そオら、次いきやすぜッ!」
 脅威的速度で水面から飛び上がったバルディート、水蛇を飛び越え蹴りを見舞う!
 重く、鋭い。ハンマーじみた打撃が水蛇をもんどり打たせた!
 これは一体? バルディート自身にとっても予想外の変化であることは事実。
 追い詰められた状況に対して、生存本能が新たな力を引き出したか。
 はたまた、もともとこの姿は彼の中にあったのか。
 確かなことは一つ。これもまた、バルディートの"真の姿"であるということだ!
 蛇としての柔軟性、あるいはこれまで受けたダメージを代償として生まれた、
 新たな真の姿。龍の強靭さと、人の応用力を併せ持った白兵戦闘特化形態!
 名付けるならば"臆病者の底意地(カワード・ショウケース)"といったところか!
「最後の最後まで切り札は隠しとく――コレもまた、立派な読み合いでございやしょう?」
 苦悶する水蛇は、にやりと笑う簒奪者の顔を見た。
 そして恐るべき怪物の双眸を貫き、強靭なる龍の爪が突き刺さる。脳を貫通!
 恐るべき水蛇の断末魔とともに、異界の空間は罅割れ砕け散る――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

コフィー・ファミオール
1.
私のバトルスタイルはキックにパンチ!
スピード&パワーで最後に一撃叩き込むよ
あ、脳筋じゃなくてちゃんと考えて動いているんだからね?
他には圧縮した空気を打ち込んだり、足場にしたり、盾として使ったり固めて捕縛したりが得意かなっ
ほら、考えてるでしょー

自分で言うのもだけど器用に立ち回れると思うけど……経験不足を実感中
反射神経よくても不意な対応が遅れたらダメだー
あとは、軽いのも弱点といえば弱点?
未熟だからって誰かを置いて逃げたりは絶対にしないから、足踏ん張って前に進んでいくよ!

言われなくても、私(くさび石)が私(コフィー)になったように、人間は可能性がいっぱいなんだから!
それを教えてあげる、この拳で!



●BATTLE11:コフィー・ファミオール
 星も瞬かぬ昏い昏い空の下、広がるのは生命の息吹を感じさせない岩の荒野。
 そこに屹立するは、コフィーの小柄な体躯を見下ろして余りある巨人であった。
 ただの巨人ではない。黒曜石めいた黒々とした異界の岩石で形作られた、
 いわば暗黒のゴーレムとでもいうべき恐ろしげな巨大岩塊である。
「全力で撃ち込む……このぉっ!!」
 あちこちに擦過傷を負ったコフィーがその巨躯に挑み、強烈な蹴り上げを放った。
 岩石巨人は避けもしない。いかな巨体ですらも浮かび上がらせる一撃だ。
 にもかかわらず――クリーンヒットしたはずの攻撃に、巨躯は揺らぎもしない!
「嘘っ!? 今のは完全に入ったのに――きゃあっ!?」
 ズズン――!! 隕石じみた巨大な岩の拳がコフィーを圧潰しようと迫る。
 巨人の体を蹴ってこれを避けたコフィー、しかしもう一方の拳が彼女を狙う!
「こんなデカブツに捉えられるほど、私はノロマじゃないんだからっ!」
 コフィーは周囲の空気を圧縮・固定して即席の足場とし、さらに跳躍した。
 ズシン、ゴガッ!! 後を追って振り下ろされる岩の拳、拳、拳!
 地形をも砕くほどの拳は、一撃ごとに速度を増してコフィーを追い詰める。
 徐々に徐々に、コフィーと攻撃地点の間隔が縮まっていく。このままでは……!
(追いつかれたらヤバい。もっと遠くまでジャンプしなきゃ!)
 次の跳躍に備え、コフィーが意識を集中した、その時!
 これまで拳を交互に振り下ろしていた巨人は、突如として両手を強く握り合わせ、
 足元めがけてすさまじいパワーでハンマーパンチを叩きつけたのだ!
 強固な岩盤があっけなく砕け、散弾めいて岩塊が四方八方に飛散する。
 そう、それはまさしく、コフィーの意図を外した変則的な飛び道具。
 回避困難な岩石の弾幕が、跳躍のために力をためていたコフィーを襲う!
「ぐ、ぁう……ッ!?」
 巨大な拳を真正面から受けるよりはまだマシだが、直撃は直撃。
 拳大から一抱えはありそうなものまで、大小様々な岩くれが少女の全身を撃つ。
 悲鳴もそこそこに、コフィーは体勢を崩して落下。凹凸の激しい地面を転がった。

 単に力任せに来る相手であれば、むしろコフィーにとっては得意な敵だろう。
 だがこの岩石巨人(異界の書において"闇黒の岩巨人"とされるもの)は、
 その巨体にそぐわぬ敏捷さと、裏をかくだけの意外な知力を持っているらしい。
 これまでも少なからぬダメージを負わされていたが、岩の散弾は決定打となった。
 立ち上がろうとしたコフィーは、全身に気絶しそうなほどの激痛を感じる。
 おそらくいくつかの骨が折れているのだろう。呼吸するだけでも苦しいほどだ。
(早く、立たなきゃ……このままじゃ……)
 激痛をこらえ、少女は立ち上がる。視界が白く明滅し、ぐらぐらと揺らいだ。
 衝撃のせいか聴覚が麻痺しているが、断続的な振動が敵の接近を知らせている。
 足を止めるのは、まずい。それだけは絶対にまずい。
『これまでよく耐えた、と褒めてあげよう。だがここまでのようだね』
 頭の中に、あの邪神――ナイク・サーの念話がエコーめいて響き渡った。
 勝手に終わりにするな。私はまだ戦える。まだ終わったりしない。
 食いしばった歯の間から漏れるのはしゅうしゅうという呼気ばかりで、
 負けん気の強い言葉を形にすることすらままならない。

 立ち上がろうとして崩れ落ちた時、ちゃりん、と音を立てて何かがこぼれ落ちた。
 髪に巻いたペンダント――すなわち、コフィーの本体……楔石(スフェーン)だ。
(……ああ。私、こうして人と同じ姿を手に入れたのに)
 ペンダントを拾い上げ、黄緑の表面に映る己の相貌を見つめた。
 可愛らしい少女の顔は、土と血の汚れでひどい有様だ。
(もうダメなのかな。私には、何もかも敬虔が足りないから……)
 ジャガーノートとの闘いからずっと、彼女は実力不足を感じ続けていた。
 追いつけない疾さ。読みきれない戦況。敵を打ち砕くことの出来ない弱さ。
 きっと猟兵ならば、誰もが一度は陥るものなのだろう。だが。
 それを理由にして諦めることだけは、絶対にしたくない。出来ない!
「……そうだよ。いまの私に力が足りないんだとしても」
 少女は決然とした瞳で、処刑人めいて立ちはだかる巨躯を見上げた。
 暗澹たる空を、その先で見下ろしているであろう邪神を、まっすぐに。
「今は無理なことでもいつかは出来るぐらい、人間は可能性がいっぱいなんだから。
 たとえ私自身は人間じゃなくても、私もこうして"私"になれたぐらいに!」
 異界の神の念話が響く。
『ほう? ではどうするのかね。君に何が出来ると?』
「……そうやって、神か何かのように偉ぶってるあなたに目にもの見せてあげる!」
 斃れかかる全身に力を込めて、振り上げられた拳を見上げる。
 どんな空気の壁でも、疾い足があってもあの一撃は避けられないだろう。
 今のこの体では、立ち向かったところで打ち砕かれるのがせいぜいだ。
 けれども、それだけではない。コフィーの最大の武器は、速度でも能力でもない。
 前を向き未来を掴み取ろうとする、人としての強い意志そのもの!

 ――ゴガァンッ!!

 振り下ろされた拳が、強烈な衝撃音を響かせた。
 少女はついに、大地もろともミンチめいて轢き潰されてしまったか。
 否! 砕けたのは岩盤でも少女の肉体でもない。岩巨人の拳のほうだ!
『なんだと!?』
 邪神の狼狽した声が響く。砕け散った拳の勢いで、巨人が蹈鞴を踏んだ。
 だが岩石巨人は衝撃を堪え、残るもう片手を再び打ち下ろす――KRAAAASH!!
「効かないよ」
 やはり拳は砕けた。少女は……コフィーは、まったくの無傷。
 その全身を淡くスフェーンの輝きがヴェールめいて覆い、藍色の瞳が輝く。
 拳に対し叩きつけたのは、空気も何も纏わぬ素拳でしかない。
 だがそこには、少女が持つたゆまなき意志の力が込められている。
 その拳に、岩巨人そのものを粉砕するほどの強烈なパワーは存在しない。
 コフィーが殴り砕いたのは、異界の怪物の本質的な存在核、邪悪さそのものだ!
「過去に縛られたあなたの攻撃は、私には通じない。そんなものに負けない!」
 少女は拳を握りしめる。意志の力に呼応し、輝きはにわかに強まった。
 物理的な肉体ではなく、オブリビオンの本質的な邪悪さそのものを砕く拳。
 心の力を込めた一撃――逆境をも乗り越える、少女の"壊心擊"だ!
「これが――あなたたちの知らない、決して理解できない人間の可能性。
 私はあなたたちを乗り越える。乗り越えて前に進むの。だから……どいてッ!!」
 巨人の振り上げた足を砕き、コフィーはさらに跳んだ。そして頭上へ!
 落下速度と満身の力を込めた蹴撃が――暗黒の巨人を、完膚なきなまでに粉砕する……!

大成功 🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
1
ルーナさん(f01373)

なるほど
強敵と言って差し支えない
心地よい圧を感じますわ
ねぇ、ルーナさん
こいつを討ち果たした後の高揚を
想像なさって
とっても素敵だと思いませんこと?
強敵であればあるほど
昂ぶると思いませんこと?
私にとって戦とはそういうものですの
それが欲しくて
より高みを目指して
首を求めて――

あなたにとっての戦とは何かしらね
それがわかればきっと…
なんて、少々喋りすぎましたわ

あなたの中で答えは出ていらっしゃるようね
ええ、次の機会に
その前に
ここから生きて帰らねばなりませんが

こちらの手は読まれている
届かないなら更なる高みへ昇るまで
真の姿解放
髪も角も桜色に染まった鬼神の姿で
行きましょう!ルーナさん!


ルーナ・ユーディコット
1
エリ姉(f02565)と

人が敵の異様に絶望しかけた所で楽しそうに
こういう所も姉と慕う理由だけど

昨日まで憎い怖いで戦ってたから
昂りは意識したことなくって
ただ――
今はいつもと違う感覚で戦場にいるのはわかる
心は燃え立ち
強敵を前に自身を追い込まずとも体が竦まない
今迄知らなかった感覚が確かにある
これが高揚なのかな

戦いは
昨日迄私にとって復讐兼自殺だったが

多分今は違う
ただ答えは今度でいいかな
まだうまく言えないや
嗚呼
この宿題残しては死ねない
生きて帰ろう

敵はシンプル且つ圧倒的な暴威
なら今日の全てを昇華し限界の先へ

真の姿解放
身長165cm程度の黒髪赤目の人間女性
表情豊か
外見推定年齢20前後

うん!エリ姉!行こう!



●BATTLE12:千桜・エリシャ&ルーナ・ユーディコット
 三面六臂、その貌(おもて)は文字通りの鬼神めいておそろしのもの。
 筋骨逞しい巨体はふたりの背の丈を遥かに超え、脈打つ四肢は岩の如く。
 その牙も、爪も、六本の腕に握りしめた異界の武器も、いずれも凶悪である。
 なお悪いことに、その鬼神は尋常ならざる再生能力を有していた。
 これまでに数十合の切り結びによって与えられた斬撃ダメージは、
 並の邪神であれば三、四度は滅んでいてもおかしくないほどだ。
 にもかかわらず、与えたはずの傷は驚異的な速度で再生治癒され、
 しかもダメージを受けるたびに、敵のスピードとパワーは度を増している!
 かくも手強い敵を前に、エリシャとルーナはほぼ孤立無援の状況であった。
 無人の芒野めいた人食い鬼の住処は、完全に現世から分断された異空間であり、
 目の前の鬼神の存在力によって維持されている。脱出は極めて困難だ。
 そして何よりも厄介なことに、彼奴はふたりの生命力と魔力の大半を奪い去り、
 自らの糧として立ちはだかっている。あまりにもアンフェアな状況……!

 ルーナが妖刀を下ろしかけたのを、弱気や臆病と謗ることは誰にも出来まい。
 いくら斬りつけてもダメージが感じられず、敵の攻撃は逆にこちらを追い詰める。
 一方的な趨勢を前にして、戦意を維持できるのは狂人か修羅かのどちらかだろう。
 勝てない。立つのも精一杯な今の自分では、あの異形の魔神に勝てはしない。
 萎えて怯えかけた少女の心を、しかしふわりと香る桜の匂いが紛らわせた。
「ふふ、なるほど――これはまさしく、強敵と言って差し支えないですわね」
 エリシャだ。ルーナが呆然と見やったその横顔は、ふんわりと微笑んでいた。
 彼女も無傷ではない。力を奪われたのはエリシャも同じはずだろうに。
 衰弱の度合いを欠片ほども見せず、いつものように艶やかに笑っている。
 むしろこの状況が楽しいとでも言わんばかりに、飄々と、嬉々と、悠々と。
「……ほんと、エリ姉は強いね」
 ぽつりとルーナがこぼした言葉に、エリシャは視線を向け小首をかしげた。
「あら、ルーナさんは楽しくないんですの?」
 わかりきったことを、とルーナは内心の言葉をぐっと呑み込んだ。
 分かった上で聞いているのだろう。この恐怖も、怯えも、何もかも。
 それでいて、エリシャは心からこの状況を……強敵との戦いを楽しんでいる。
「……楽しくないよ。ううん、むしろ怖い。憎い、っていうのもあるけど。
 私はエリ姉みたいに、こんな状況で昂るようなことも意識したことないし――」
 それでも、こうして話してみればわかる。今はいつもとは違う感覚があると。
 怯えかけた心を落ち着いて見つめてみれば、たしかな"熱"が燃えていた。
 そうとも。怯えて絶望しているとすれば、いまこの時まで粘ってはいまい。
 刀を振っている間はどうだった? 思い返せ。戦いの中の感覚を。
 強敵を前にして、己を追い込まずとも突き動かす熱さがあったはずだ。
「……なら、いま意識してみてはどう? やはり怖いままかしら?
 であれば想像なさってみて。あれを討ち果たしたあとの高揚を」
 脳裏に、三面六臂の鬼神をその手で切り伏せる風景を思い描く。
 ……ぶるりと、両手が震えた。それは恐怖からのものではない。
「とっても、素敵だと思いませんこと?」
「…………ああ。"これ"なんだね」
 カタカタと刀が鳴る。ルーナは自分の口元がひくついているのを理解した。
 武者震いだ。これは死への恐怖ではない。勝利と討滅の高揚への、期待。
 "これ"を彼女は、名だたる強豪たちは、楽しみ続けているというのか。
 それはとても羨ましく、そしてルーナにとっては恐ろしいことだった。
 なにせその熱は、麻薬のように狂的で、魅入られそうなほどに熱かったから。

 じり、と、鬼神の丸太じみた足が間合いを詰めようとする。気配が張り詰める。
「……私にとっての戦いは、復讐であり自殺みたいなものだったんだと思う」
 ひとりごちるように、ルーナはつぶやいた。エリシャは無言のまま。
「でも、それは昨日までの話。多分いまはもう、違う気がする」
「それはいいことですわ。けれども、その答えを聞くには時間がなさそう」
 然り。緊張感は風船めいて膨れ上がり、決壊寸前である。
 これまでのダメージから考えて、長期戦はふたりにとって極めて不利だ。
 敵の再生力を凌駕するほどの、強烈な双擊を以て短期決戦を決めるしかない。
 命を燃やすのでもなく、特攻めいて突き進むのではなく、
 今日を生き延び明日を掴むための、確たる信念を持った戦いによって。
 交わすべき言葉は十分。曖昧模糊とした答えは死線の果てに掴めばいい。
 そう腹をくくれば、不思議とルーナの心は澄み渡り、かりそめの恐れも消えた。
 下げかけた鋒を、上げる。鬼神の殺意が、数倍にまで膨れ上がった。

 それとともに、少女ふたりの姿が淡く輝き、その相貌を変じさせた。
 エリシャ。ぬばたまの髪は桜色に染まり、突き出た角もまた桃のように。
 目に見えぬ殺意と闘気が、濡れた絹布のように重くしとやかに放射される。
 身の丈は小さく、少女らしく艶やかなれど、そのさまはまさに鬼神である。
 一方のルーナはどうか。
 普段ならばエリシャより頭二つは低い身長が、逆にわずかに超えるほどに高く。
 白い髪は生気をたたえた若々しい黒に変貌し、金の瞳は赤く煌めいている。
 すとんと抜け落ちたかのような女らしい表情が、そのおもてに戻った。
 ちらりとエリシャを見る。ひくついていた口元は、余裕ある笑みを浮かべていた。
「さあ、行きましょう、ルーナさん!」
「うん、行こう! エリ姉!」
 ふたりが頷きあった直後、機先を制し鬼神が地を蹴り砕いた。疾い!
 一瞬にしてその巨体は目の前に現れ、まず双腕が巨大な金棒を振り下ろす!
 KRAAAASH――地が割れ爆ぜた。ふたりの姿はそこになし。左右!
 しかして敵は三面六臂。ぎらりと双面がそれぞれを睨めつける。読まれている。
 残る四つの腕がそれぞれに、棘つきの鎖鉄球を擲った。蛇めいてねじれる鉄鎖!
 いかにもそれは強靭かつ変幻自在、数多の斬撃を重ねようと避け得まい。
 たとえ命を燃やして突き進もうと、その炎もろとも捻り潰す強打である。
 ならばどうするか。まずエリシャ――鬼神めいたその姿が、かき消えた。
 否、鬼の目をもってしてもそうとしか捉えられぬほどの速度で奔ったのだ。
 真の姿を晒したいま、彼女の速度は音をも超える韋駄天に達している。
 抜き放つは大太刀"墨染"。胡蝶たちが、その漆黒の刀身に吸い寄せられていく。
 怨念わだかまる死者の残滓を吸い上げ、空間をも断ち切る切れ味を得たのだ!
「さあ、どうぞ御首をくださいませ――異界の鬼の方?」
 斬撃、狙いは鎖骨上。太刀筋はまるで白々と輝く三日月のよう。
 その煌きに照らされる姿、銘をつけるならば"月下鬼神"とでもいったところか。
 思考速度をも超えた一撃は鬼神の反射神経を凌駕する。
 だが見よ。ずるりと裂けて墜ちた首の根本、いびつに生えるは新たな鬼面だ!

 ではエリシャは! その身を再び、裡なる炎が鎧めいて包み込んだ。
 しかしてそれは、命を糧として燃え上がる蒼き炎などではない。
 身のうちにわだかまるは、死を厭わぬ捨て身の心などでもない!
 強敵を討ち果たし、生きて明日を迎えようという未来への執着心。
 壊狼に非ずして、一念を以て剣を振るうその様はまさに"剣狼(シリウス)"なり。
 身を包むは太陽めいて輝く赤い炎。陽炎よりも疾く、敵の懐へ!
「私は――この恐れさえも、乗り越えてみせるッ!」
 向き合い、踏み越えると決めた覚悟が、瞬断の一撃をもたらした。
 首と、胴。致命的部位をまったく同時に断ち切る、左右からの両翼剣閃。
 斬撃剣風が吹き荒れ空間を焦がす。鬼神の命脈ここに断たれたり。
 断末魔すらもなく、再生果たせぬ鬼神は、どうと虚空に斃れた。
 剣風にかき乱され混ざり合う絵の具めいて、異界もまた溶け崩れていく。
 邪神には到底見通せぬ、今を生きるモノの強さ、儚さ、雄々しさ。
 それこそが、ふたりに新たな力をもたらしたものの正体であろう。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フェルト・フィルファーデン
・1
戦闘スタイル
[人形操作による擬似的な集団戦、電脳魔術による物質や自然現象等の擬似再現]

得意なこと
[戦闘面では特に無し。人形の動きは騎士達の見様見真似、電脳魔術は詳細な理屈までは理解していない]

弱点
[人質を取るなど人命を盾にされる事]

絶対にやらないこと
[仲間や護るべき人を自分から傷付ける事]


流石に、ちょっと無理しすぎちゃった……ねえ、今のわたしで、あんなのに勝てるの……?

……ふふっ、そうよね?最初から諦めるなんて、らしくないわよね……

そうよ、こんな所で負けるわけには……

あんな、人の命を弄ぶ輩に、わたし達が屈するわけにはいかないのよ……!


……だから騎士よ、もう少しだけ、わたしに力を……!



●BATTLE13:フェルト・フィルファーデン
 冷静に考えれば、あんな捨て鉢な戦いをするべきではなかった。
 敵はこちらを観察し、かつ強大な戦力を温存していると分かっていたのだ。
 きっと自分があそこまで生命を燃やさずとも、他の誰かが戦ってくれていたろう。

 けれども。
 けれどもだ。
 ああするしかなかった。
 ああせずにはいられなかった。
 だから、それ自体に後悔はない。この消耗も、苦しくはあるが悔しくはない。
 しかし――立ちはだかる異界の戦士は、そんな献身に絆される甘くはなかった。
 その姿が重厚なる騎士らしいものであることが、何よりの皮肉と言えるだろう。

 然り。
 フェルトの前に立ちはだかったのは、身の丈が3メートルはある騎士であった。
 無論、その鎧と兜は尋常のものではない、おそらくは異界の金属によるもの。
 禍々しく捻じ曲がった灰色の装甲は、強靭であり同時に邪悪極まりない。
 片手に携えた突撃槍めいた物体は、動脈血を思わせる赤黒に染まりきっている。
 相貌明らかならず、されど纏いし死臭はすさまじい量の殺戮を予感させた。
「――騎士たちよ!」
 フェルトは萎えかけた戦意を奮い立たせ、人形を手繰る。
 純銀の騎士たちと、返り血で染まった異形かつ巨躯の怪物がぶつかり合う。
 研ぎ澄まされた騎士たちの刃が、槍が、たゆまなき連携でもって鎧を叩いた。
 そう、"叩いた"。堅固な鎧を貫くことは出来ない。応報の異形槍による薙ぎ払い!
「嘘……っ!? このくらいで!」
 ごひょうっ!! と大地をも薙ぎ削ろうかという一撃。
 フェルトは即座に電脳魔術により火炎障壁を展開し、これを受け切ろうとする。
 重い。衝撃に耐えかねた電子魔力が四散し、少女と騎士たちを吹き飛ばした!
(ああ、術式に意識が集中しない……気を抜くと倒れてしまいそう……!)
 途切れかかった意識を決意と覚悟で繋ぎ止め、フェルトは糸を手繰り寄せる。
 騎士たちがその周囲に集まり、盾を構えて密集陣形を取った。直後、炸裂。
 吹き飛んだフェルトへの、異形騎士の容赦なき追撃刺突だ!
 盾が騎士人形たちが砕け散る。地面と平行に吹き飛ばされるフェルト!

 強烈な衝撃が、小さなフェアリーをしたたかに打ち付けた。地面に落ちたか。
 呼吸も絶え絶えな混乱のなか、フェルトは次の最善手を高速思考する。
 破損した騎士人形たちを修復して――ダメだ。それでは"足らない"。
 見様見真似の騎士たちでは、どれほど世界の軛を破壊したところで無駄だ。
 ダメなのか。己の魔術では、人形操演では、反撃は叶わぬのか。
(でも、イヤよ。こんなところで負けるなんて絶対にイヤ)
 目指すべき目標がある。取り戻さねばならないものがある。敗北は許されない。
 立ち上がらねば。立って、あの怪物を倒さねばならぬ。
『いじましいまでの献身だ。では少女よ、私からひとついいことを教えてあげよう』
 空高く、戦況を見下ろすナイク・サーが想念を送り込んでくる。
『君の相手……その騎士の兜と鎧の下に何があるのか、わかるかね?』
「――あ」
 立ち上がろうとしたフェルトは、言われるままに異形の騎士を見て、理解した。
 ……あれは、単独で存在できるモノではない。依代を必要とする異界の魔物。
 そしてあの装甲の下には――逃げ遅れた一般人が、囚われている。

 それが何を意味するのか、もはや邪神は言わぬがはっきりと理解できた。
 してしまった。仮にあれを屠り去ったとしても、それはつまり、人の命を――。
「………ざけ、ないで」
 ぎりり、と、白磁の細い指が痛いくらいに掌を握りしめる。
「ふざけないでッ! これ以上、そうやって人の命を弄んで、軽んじて!
 わたしたちを試すだの、なんだの――一体何様なの? なんだっていうの!!」
 邪神? 神だからそんな行いが許されると? 否、否、否だ。
 許されてはならない。こんな蛮行を。邪悪を。そうだ、糺さねばならない。
 糺さずにはいられない。国も、民も、喪ってなおここにいるのは、だからこそだ。
 戦わずにはいられないのだ。それこそが彼女の原動力であり、強さなのだから!

 異形の騎士が来る。人の命を苗床に吸い上げた、異界の力を振るうために。
 いいだろう、来るがいい。フェルトはたったひとり、決然と屹立してそれを待つ。
 侍るべき人形は非ず、振るうべき術式も尽き果て――だから、どうした?
(騎士よ。わたしにもう少しだけ力を貸して)
 まだこの意志がある。その意志を振り絞り、フェルトは祈りを捧げた。
 従うべき人形たちにではない。ましてや、槍を振り上げる敵に対してでもなく。
(ただ独り遺されて、進む道もままならない、愚かで情けない姫(わたし)だけど)
 虚空の果て、喪われてしまったものを今一度と呼びかけるように。
(今だけでいい。どうか――その力を貸して。わたしの騎士たちよ!)
 か弱き乙女の祈りを踏み潰すかのごとく、ねじれた槍がそこに到達した。
 反撃はない。防御もない。ただ祈る。無力を受け入れ、一心に祈り続ける。

 はたして、槍がフェルトを貫くことはなかった。
 代わりに現れたのは、視界を灼き尽くすほどの眩い輝き!
『これは……!? 電脳魔術、いやそもそも魔術ですらない――!?』
 ナイク・サーは視た。その神たる知覚力で、たしかに理解した。
 白銀の如き輝きで構成された、騎士を思わせる甲冑姿のシルエットが立つのを。
 砕け散った人形と酷似した、しかし異なるモノたちが、寵姫を護るのを。
 振るわれた刃に応報するかのごとく、輝きが鏃となって異形を――貫いた!

「…………いま、のは……?」
 邪神以上に、術者であるはずのフェルトこそが困惑していた。
 輝きは失せ、異形の騎士はその身を砕かれもはや存在していない。
 目の前には、戒めから解放された人が眠るように倒れている。……生きている。
「……力を、貸してくれたの? "騎士たち"が……?」
 呆然と空を見上げた。輝きに圧されたか、邪神の気配ももはやなく。
 答える声もない。応えるべき騎士たちは、国土は、とうに滅びたのだから。
 けれどもわかった。あれは己が操る、見様見真似の似姿などではない。
 "奇跡再臨/忠義の騎士は今此処に(リバイバル/ロイヤルナイツ)"。
 それはフェルトの祈りが生んだ、彼女の魔力そのものの化身か。
 あるいは本当に、滅びたはずの騎士たちが再臨したというのか。
 いずれにせよ確かに、その力は彼女を守り、邪悪なる敵のみを滅ぼしたのだ。
 在りし日の騎士たちそのままに、白銀の輝きとたゆまなき忠義を以て。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーオ・ヘクスマキナ
『小賢しい賢者気取りが…よくもやってくれたわね。私怒ったんだからァッ!』

2.
『夢想式・怪演現界「赤の女王」』

リーオの戦闘不能が条件
赤頭巾さんが真紅の夜会服に身を包んだ、20代頃の妖艶な女性に変身
背の蝙蝠の翼で空に君臨し、石化の魔眼と血塗れの大鎌を自在に操る「赤の女王」

また、この姿だと普通に喋れる
敵に対しては尊大な言葉遣いで応じ、邪神?の力も躊躇なく振るう

とはいえ。この姿だと自分の方が大きいからか、普段よりもリーオに対してお姉さんぶりたい等、まだまだおませな年頃の少女なのがその本質

・補
戦、得:一撃離脱の高機動戦闘、石化での動作阻害からの強烈な一撃
弱:単身での戦闘は若干不慣れ
絶:リーオを見捨てない



●BATTLE14:リーオ・ヘクスマキナ
 たとえばそれが、五体十体程度であればまだ抗しきれただろう。
 だが異界の門から現れた怪物の群れは、ゆうに百を超えていた。
 おまけに依代とされたのは、他ならぬリーオ自身の生命力と魔力。
 立っているのもやっとな状態で、大波めいて殺到する敵に抗う術はあるか。
「……あー、まいったなこりゃ」
 ぼろぼろの有様で、リーオは笑った。がらんと音を立ててギターケースが転がる。
「さすがにこの量は、やりすぎでしょ……」
 恐怖や怒りを越えて、乾いた笑いが出てくるほどの物量差。
 撃っても吹き飛ばしても、敵は即座に増殖し再生しまたやってくる。
 最後の力が抜けて、リーオはがくりとその場に膝をついた。
 もはや、立ち上がる気力も体力も、どこにも残っていなかった。

 ハイエナを思わせる異形の頭部を持つ、青ざめた毛並みの怪物の群れ。
 ぐるぐると低く唸るそれらが、崩折れたリーオを包囲し、牙を剥き出した。
 嗤っている。これから味わう血と肉の法悦を期待し、下劣に嗤っている。
 もはや抗うことの出来ぬ少年は、その身を牙と爪で裂かれて死ぬだろう。
 臓腑の一片までもが獣のはらわたを満たし、魂は苦悶に永劫囚われるだろう。
 避ける手立てはない。少年はとうに意識を手放しているのだから。
 ――しかし、怪物どもが、無防備なリーオに殺到することはなかった。

『おや? これはこれは――なかなか興味深い』
 滲み出るようにしてその場に現れたナイク・サーが、笑みを浮かべて言った。
 超然とした眼差しを受けて立つかのように、"彼女"がぎろりと睨めつける。
 然り、彼女である。リーオの傍らに立つ"赤頭巾"。正体不明の怪物。
 だがその姿は――もはや、リーオが知る尋常のそれではないのだ!
『猟兵の中には、我らの力を利用している者も居ると聞いたことはあるがね。
 なぜ、君のような"同族"が、そのような形で猟兵の味方をしているのやら』
 言葉を向けられた赤頭巾は、ばさりと夜会服の裾を払った。
 年頃は20ほどか、ぞっとするような美しさをたたえた妖艶な美女である。
『小賢しい賢者気取りが』
 吐き捨てるように美女は言った。背に広がるのは身の丈より大きな蝙蝠の羽。
 痺れを切らせた怪物が一匹飛び込み――細い指先で、ぐしゃりと頭を潰された。
 溶け崩れた残骸は、一瞬にして血の塊となり、やがて大鎌に変異する。
 まさに女王の如き威風。包囲しているはずの怪物どもが一歩退いた!
『よくもやってくれたわね。私、気分が悪いわ』
 ナイク・サーは笑う。美女はいよいよ殺意を込めて睨みあげた。
『リーオをこんな目に遭わせて……私、怒ったんだからァッ!!』
 大鎌が円弧を描く。十数体の怪物が両断され即死!
 女王の怒気が空間すらもたわませ、そしてその姿は空に舞い上がった!

 はたしてこれは一体? 美女に抱えられたリーオは滾々と眠るばかり。
 だが、この状況から確かなことはひとつ。"彼女"は間違いなく"赤頭巾"だ。
 ただしその力、その振る舞いは、少年が知るものとあまりにも違う。
『私を邪魔するな、この雑魚どもがッ!!』
 ぎらりと見開かれた瞳は、後を追う怪物の群れを一瞬にして彫像に変え、
 大地すらも薙ぎ払う鎌の一撃が、ゴッ!! と音を立てて砕け散らせる。
 ナイク・サーめがけ、矢のようにまっすぐに翔ぶ美女! 疾い!
『君の相手は私ではないのだがね!』
『いいえ、お前よ。お前を殺してやるわッ!!』
 ざくん――! 死神の大鎌が、ナイク・サーの体を横薙ぎに裂いた。
 だが邪神が攻撃に転じようとした瞬間、すでにその姿は空にはない。地上!
『私の知覚力を上回るとは、なるほど面白い。だがやはり解せないな!
 君ほどに強大な存在が、わざわざ天敵に力を貸す理由などあるまいよ!』
『お前ごときが知ったことじゃあないわ! 散りなさいッ!!』
 着地点に殺到した怪物の群れは、魔眼と大鎌によって切り払われる。
 見た目は妖艶秀麗なれど、その言葉の端々はどこか幼さが目立つ。
 何故だ。何故彼女は、"赤頭巾"などというヴェールを甘んじて受け容れる。
 喪われたリーオの記憶に由来する何かが、彼女にはあるというのか?

 "夢想式・怪演現界「赤の女王」"。
 術者たるリーオの命が危機に瀕した時、傲岸不遜たる魔眼の女王は現れる。
 振るわれるは血塗れの大鎌。いかなる邪神であろうとそれには追いつけない。
『――お前は私の逆鱗に触れたのよ。悔いながら死になさい』
『ぬうっ!?』
 はたしてその刃が、ついにナイク・サーの胴体を切り裂いた。
 にらみつける女王の双眸は、どこまでも美しくそして酷薄だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒川・闇慈
「どうしてこう、上位存在というのは試練という言葉が好きなのでしょうかねえ。クックック」

【行動】
wizで対抗です。
さて、相手はこちらのUCを解析して対抗してくるのでしたか。
私が今まで使用したのは広域殲滅用のものばかり。なので、単体攻撃に特化した術式で挑みましょう。
高速詠唱の技能をもって武装を液体銀に変換し、液体銀を全て集中させて巨大な杭を形成します。全力魔法の技能で杭を発射し、相手に命中した後は内部で針状に炸裂させましょう。
名付けて【銀嶺に突き立て穿孔の滅杭(シルヴァリー・ペネトレーション)】といった所ですか。

「即興の術式ですが、中々のものでしょう?クックック」

【アドリブ歓迎】



●BATTLE15:黒川・闇慈
 おお、見よ。それはまるで、神話に名を残したバベルの塔の如し。
 蠕動し、蠢き、脈打ち、成長し腐敗し誕生し死滅する、肉と筋と骨の山。
 ねじれた螺旋を描き、異界から流入する狂気そのものが物質化したもの。
 ぎょろぎょろと血走った目が無数に生まれ、獲物を求めてあちこちを見やる。
 心弱き者であれば、そのさまを視ただけで発狂することは必至。
 その邪神、名をブルタシュ・オーバ。あるいは"生まれては死するもの"。
 紛れもなき異界の一柱であり、一個で完結した生命のスープそのものであった!

 異空間に渦巻く狂気を前にして、さしもの闇慈も眉根を顰めていた。
 これは、あってはならぬもの。存在そのものが生命と世界への挑戦である。
 己の研鑽のため、破滅をよしとせぬ闇慈にとっては到底看過出来るものではない。
「私の魔力を奪い取って、よくもまあ醜い肉の塊を産んでくれたものですねぇ。
 どうしてこう、上位存在というのは試練という言葉は好きなのやら。クックック」
 ぞぶりと膿のような液体を撒き散らし、神経と筋肉の塊からなる触手が生まれた。
 それらは蛇めいて鎌首をもたげ、忌まわしく脈打ちながら闇慈へと迫る。
 一小節の短い詠唱を以て火炎を生み出し、薙ぎ払う。爆裂、触手は滅散した。
「このまま焼き尽くしてさしあげましょう……!」
 黒い瞳が見開かれ、四散しかけた魔力が再収束し熱量に変換される。
 闇慈の周囲に生まれたのは、無数の火の玉。流星めいて肉の海へ殺到!
 KBAM! KBAM!! ZZZZTTTT……おお、だがその熱量を浴びてなお成長は止まらぬ!
 優れた魔術師である闇慈は、その一手でかの邪神の本質を垣間見、推測した。
 おそらくあの肉の海は、完結した生命であるゆえに生と死を併せ持つ。
 たとえ今以上の熱量をぶちまけても、完全な燼滅には至らないのではないか。
 むしろその熱量は、奴にとっての糧となるだけではないか――?
「……なるほど。私のような魔術師にあてがうには似合いの存在ですねぇ」
 すなわち、広域殲滅魔術はむしろ悪手。
 かといってどこかに存在するであろう邪神の本質、存在核を貫くには、
 あの膨大な質量はそれ自体が城壁のごとき守りであり攻め手となる。
 迂闊に近づけば侵食は必至。かといって狙いすました魔眼などは己にはない。
 その思考の間にも、ぐちゃぐちゃと耳障りな液体音を響かせて、
 唾棄すべき化身は成長と撹拌を続ける。このままでは空間ごと圧し潰される!
「となれば――ここで即興の術式を編みだすしかない、というわけですか」
 言葉にすれば容易い。だが実現するにはあまりにも難い。
 遺された魔力では、慣れぬ術式は編めて二度……いいや、一度だろう。

 絶対窮地の状況にあって、闇慈の心は普段どおりに落ち着いていた。
 しくじれば死ぬのだろう。だがそれもまたよし。超然とした理解がある。
 そも、異界の魔術を修める者は、常人らしい精神でやっていけるわけもない。
 生死をも超越したただならぬ者どもを、あるいは世界の自然そのものを、
 その規矩を相手にするからこそ、魔術師だけがつかめる真理があるのだ。
「"咲き誇れ致死の花――"」
 口訣は静かに。闇慈の持つ武装が、ふわりと浮かび上がり周囲を揺蕩う。
「"血風に踊れ銀の花"」
 それらは純銀の塊に変じ、溶け崩れて混ぜ合わさり、よじり合う。
 形なきものがうごめくさまは、眼下に渦巻く肉のそれと似る、だが対称的。
「"舞いて散るは冷たく烈(はげ)しき終末(つい)の煌き。"
 "全てを刻む滅びの宴を、此処に"――開帳(ショウダウン)と参りましょう」
 おお。術者の頭上に渦巻くは、種子めいて収束した液体銀の杭!
 その眼が見開かれた瞬間、稲妻じみた速度で銀の杭が――突き立つ!
 なんたる破壊力。だがそれだけでは邪神を貫くことは……否、見よ!
「――"銀嶺に突き立て、穿孔の滅杭(シルヴァリー・ペネトレーション)"!!」
 柱のごとく突き立ったそれは、ドリルのようにぐるぐると渦を巻いて突き刺さり、
 そして、咲いた。先端から花開き、そして針のように爆ぜたのだ!
 二段構えの術式! 銀にこもるは破魔の力、声ならぬ邪神の悲鳴が空間を揺らす!
「残念ですが、この世界はあなたが顕れるべき場所ではありませんよ。
 思い上がった邪神ともども、どうぞもとのところへお還りなさい……!」
『この、術式は……我々の存在そのものを、貫くもの、なのか……ッ!?』
 どこからか、ナイク・サーの声が響く。フィードバックによる断末魔!
 そして肉は泡立ち、ついには爆ぜて溶け崩れて神としての形を喪っていく。
 罅割れ砕け散る異空間。風が、漆黒の髪を揺らした。
「神(あなた)などに課されなくとも、私の研鑽は常に試練の連続ですよ」
 クックック、と、陰気な笑みが響き渡る。
 魔術師とは、世界の法則そのものを弄ぶがゆえに魔術師なのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夕凪・悠那
1
戦闘スタイル:1)データの具現化/キャラ召喚による後衛 2)キャラの能力装纏による直接戦闘
得意:情報/現実改竄、キャラ操作
弱点:1)召喚前の不意打ち、速攻 2)選択肢飽和

……最終ステージにご招待って?
ほんとボス戦めいた演出だね

強敵をあてて、試練を与えて、そして成長しろとのたまうんだ
人を矮小な存在だって見下して――楽しませろ、輝きを見せてみろと
あの世界を思い出す
あの■■を思い出す
最悪だ、気に入らない

私は猟兵になった
もう邪神の気紛れで弄ばれるだけの弱者じゃない
だから――お前はボクが必ず殺してやる

(終始感情が掻き立てられたのはこの状況を、この邪神の性質を何となく察していたからかもしれない)

アド絡歓



●BATTLE16:夕凪・悠那
 超然と、傲然とふんぞり返り、人の力を試そうとする。
 まさに神と呼ぶにふさわしいそのふるまいが、悠那にとってはひどく癪に障る。
 脳裏によぎるのは、忘れがたき"遊戯"の日々。
 蔓延する狂気。
 弄ばれる命。
 嘲笑う怪物ども。
 そして――悠那は、奥歯をぎりりと噛み締めた。
「私はもう、邪神(おまえたち)の気まぐれで弄ばれるだけの弱者じゃないッ!!」
 魔法少女めいた装いのまま、異空間に誘われた悠那。
 異界の怪物の存在を感じた瞬間、魔力を収束させビームとして繰り出す!
 だが……なんたることか! 正体不明の敵は、真正面からそれを受けた!
「なん……ぐッ!?」
 鋼鉄と思しき堅い拳が、少女の全身をしたたかに撃ち叩きのめした。
 衝撃のままに吹き飛び、黒い岩石じみた地面を転がる。再浮遊し、敵を睨む。
 目の前にそびえるのは、まるでガラクタ機械を無理やり人型にしたような異形。
 バチバチと火花を散らしながら、"それ"が再び接近する。疾い!
(召喚――ダメだ、間に合わない……クソッ!)
 悠那は回避を選んだ。もしも意地を張っていれば即死しただろう。
 空中軌道で躱した拳は、接触寸前に槍のごとき形に変異していたのだから。
 ぎぎぎぎ……と、コードとモニターを取り合わせた頭部が悠那を見る。
 まるでそれは、人に使い捨てられた道具たちが復讐の焔に駆られたかのような、
 人類に対する絶対的敵意と妄執じみた殺意を感じさせた。

 ああ――思えば、傲慢なのは人間も同じなのかもしれない。
 欲望のままに蔓延り、新たな何かを生み出してはゴミに変えていく。
 ありきたりな話だが、あの異形を見ればそれもなんとなく理解できる。
 自分たちは、ただ生きているだけで過去を消費し進み続けているのだ。
「それが、なんだ。だからって、ボクらはお前らのおもちゃじゃない!!」
 目を血走らせ、悠那は吠えた。その身を突き動かすのは超越者への怒りだ。
 どんな理由や業があろうが、かつて己が味わった悪夢が許されるはずはない。
 奴らが、人間(こちら)を餌かおもちゃのように軽んじていいはずはない。
 喪われたものがある。手に入るはずだったものがある。苦痛が、悲しみがあった。
 なかったことには出来ない。させない。しない!
 たとえそれが、自分自身の未来を代価とするものであれ――!
「ボクは、私は! お前たちを越えてやる。そして全員殺してやる、必ず!!」
 途端、悠那の体を包んでいた戦闘用装束が電脳データに変換されほどけた。
 代わりに収束したのは――眼の前に立ちはだかる異形と寸分たがわぬモノ!
 悠那は一瞬にして敵の存在と本質を電子的に解析・理解し、
 自分が制御可能な"ゲームのキャラクター"として模倣・顕現せしめたのだ!
「行けッ!」
 指示に応じ、異形と異形がぶつかり合う。いびつな拳の衝突。KRAAAASH!!
 互いに罅割れ砕け散る――が、再生と追撃はこちらのほうが疾い!
 悠那の怒りと殺意によって編み上げられたその模倣体は、彼女の憎悪に比例し、
 ときには本来の存在すらも越えて徹底的に敵を叩きのめすのだ!
『我らを模倣しその身に纏うとは無茶をする! 破滅が怖くないのかね!』
 どこからかナイク・サーの声が響いた。悠那は模倣体のシルエットを纏い、
 その燃え上がる憎悪のままに拳を振るいながら、異形を睨みつける。
「怖いもんか。お前たちが、神だというなら! それだけの存在だというなら!
 お前たち自身の力をモノにして、殺し尽くしてやる! こうやって――!!」
 "電脳邪神(アヴァター・オブ・デウス)"。
 超然たる敵を我が術式によって映し出し、その力で滅ぼす。
 あまりにも危険な、しかしそれゆえに強大なる"毒を以て毒を制す"力。
 ついに異形が砕け散る。異空間が晴れた。頭上! 邪神を睨みつける!
『なんと――』
「そうやって大物ぶってるから、足元を掬われるんだ。消えろ!」
 伸ばされた電脳の腕(かいな)は、転移脱出しようとした邪神を掴んだ。
 殺意を込める。苦悶の絶叫とともに、邪神はかりそめの電影に圧潰されていく――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

非在・究子
1.フルオーダー

戦闘スタイル
ゲームプレイヤー・ゲーム自機としての特性の現実への適用(現実のゲーム化)
ハッキング(現実そのものをゲームと認識する自己認識により、現実の物理法則すら限定的に改竄する)
武器/防具・ゲームウェポン/アーマー(プレイした事のあるゲームの様々な武器防具に変形)
HP、残機、コンティニュー、セーブポイントからの復帰など、死に辛さを使った耐久戦

得意な事
ハッキング、死に覚え、繰り返し訓練、周回

弱点
現実の改竄は長時間継続出来ず、事の大きさに応じて反動がある
基本的に速さをベースに手数で攻める、相手が死ぬまで粘る戦い方の為、一撃の威力に劣る

絶対にしない
攻略を諦める
NPCを見捨てる



●BATTLE16:非在・究子
 かつて、この世界とは異なる、彼女にとっての故郷で戦争があった。
 恐るべき幹部級オブリビオンに対し、究子が選んだ手はトライ・アンド・エラー。
 すなわち、ゲームのバーチャルキャラクターであることを逆用して、
 何度も"死に戻り"することで攻略法を編みだす、というものだった。
 現実そのものをゲームとしてハッキングする究子だからこそ出来る"裏技"だ。
 ……そう、彼女は死なない、残機がある限りは蘇生(コンティニュー)する。
 そうして敵の手を読み、データを把握し、攻略するのが究子のスタイル。
 こと耐久戦において、彼女に敗北の可能性はほとんど存在しない……。

 では、攻略すべきエネミーが、同じように復活・再生出来るとしたら。
 しかもその都度、攻撃方法を変え、別の手段で立ちはだかってくるとしたら。
「た、戦うたびにスタイル変わるとか、ろ、ローグライクじゃないんだ、ぞ」
 数十回目の蘇生を終えた究子は、辟易した様子で言った。
 目の前には、同じく数十回は打倒された異界の戦士――無数の歯車やベルトで構成された、変幻自在の物体――がやはり出現する。
 かちかち、かりかりかり。ちきちき、ちきん。
 歯車を組み換えベルトを交換し、バネが移動しまた別の姿を作った。
 それぞれの化身の戦闘力はそう高くない。十分に撃破は可能だ。
 しかしどうやら、あちらも"復活"するたびに、こちらを学習しているらしい。
 最初は歴然たる速度も、今では互角――いや、おそらくあちらが上か。
「で、でも、飽きないからいいな。あ、アタシは」
 ごうっ! 敵が動いた。かちかちと耳に心地よい歯車の音を響かせて、
 しかしスピードは圧倒的。眼前に現れた敵がレイピア型のネジ剣を振るう!
「がう……っ!!」
 脇腹を裂かれた。究子は現実をハッキングし、物理速度を超える。
 もはや誰にもその速度は知覚できない。一秒の間に数十の攻防!
 攻撃は……通っている。だがやはり敵の能力もまた成長を続けている。
 今までならとうに破壊できてハズのボディはいまだ健在。そしてネジ剣の刺突!
 心臓を貫いた一撃が、究子の生命活動を強制停止させ壁に縫い付ける……!

 その瞬間、ワイヤフレーム状に分解され、究子の姿は消失した。
 ネジ剣がひとりでに歯車の塊に戻った瞬間、やはり彼女は"コンティニュー"する。
 そして再び速度の世界へ入ろうと――して、彼女の像がノイズ混じりにブレた。
(や、ヤバい、な。さすがにハッキングしすぎた、か……?)
 バックファイアだ。あれほどの速度は代償なしにはありえない。
 バーチャルキャラクターとしての情報構造そのものに蓄積したノイズ。
 一定の時間を置かなければ、いずれ"非在・究子"というペルソナそのものが、
 壊れたデータに圧迫され、最悪崩壊するだろう。つまりは、真の意味の死である。
「……や、やっぱり、ノーコンティニューの緊張感も、大事だよ、な」
 敵は己と同じく再生を続ける。……それも"学習"の一部だとすれば?
 根比べよりも手っ取り早く、勝敗を決する手がある。究子は躊躇いなくそれを選んだ。
 諦めるなど以ての外。ゲームは、クリアしてこそ意味があるのだから。

 ……無言の時間が流れる。
 究子が行ったのは、一時的に"コンティニュー機能をオフにする"こと。
 自身が持つ情報量を極限まで削ぎ、"身軽"になることで一撃特化の速度を得る。
 危険な賭けだ。現実(ゲーム)ではなく自分自身をハックするようなものだ。
 だがそれでも、ノイズを抱えたまま真正面からぶつかるよりはよほどいい。
「あ、アタシには、もっともっと、や、やるべきゲームが、あ、あるんだ。
 お、お前だけ攻略してるわけには、い、いかないんだぞ。も、もう終わり、だ」
 歯車の化身が、決闘者めいてネジの剣を構えた。緊張が高まる。
 まるで体力残り1ドットの状態で、相手のゲージ技を待っているような気持ちだ。
 悪くない――最後に頼れるのは、ゲーマーとしての己のセンス!

 瞬間、ふたつの影が交錯した。
 1フレームにも満たぬ刹那の刹那、両者の位置は入れ替わっている。
 ……数秒の静寂ののち、がらがらと崩れたのは敵のほうだった。
 究子の頬に一筋の血のしずく。手に持ったゲームウェポンで体を支え深呼吸。
 まさしく、"一瞬の見切り"というべき早業であった。
「あ、あんまりやりたくないな、こういう縛りプレイ、は……」
 言葉と裏腹に、究子の口元に浮かぶのは笑みである。
 困難であればあるほど、勝利(クリア)の喜びは増す。これだから――やめられない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パーム・アンテルシオ
・戦い方
呪術を元にした炎・呪い・歌での遠距離戦闘、が心がけている戦い方
加えて「本質・本来の得意な戦い方」は「自分で戦わない事」
但しそれは、場合によって有効だから使うもの、認めたくない事でもある

・得意
味方の支援、または敵の妨害
本人の感情は「これが最も役に立てる事だから」
本質は「自分で戦わず、周りに戦ってもらうための力」

・弱点
自分の認識と能力の本質との乖離によって生じる、力のロスや使い方の違いによる弱化
自身の感情で作っている・作られている枷による、無意識下での能力の抑制
UCの存在や、気の放出を用いた疑似身体能力増強を除けば、一般人と大差ない身体能力

・1

・備考
終了後に死霊術師へのジョブチェンジを予定



●BATTLE17:パーム・アンテルシオ
 祈りと呪いは表裏一体であると、誰かが言っていたような気がする。
 ことに、死にゆく者が遺したそれはなおのこと似通うと。
 ……死んだ者は生き返らない。喪われた命が戻ってくることはない。
 だからこそ、逝ってしまった者の思いは、呪いめいて生者を縛るものだ。
 それが死者の本当の望みであるにせよ、ないにせよ。
 忘却という機能は、ヒトが前に進むために持ち得た当然の防衛本能である。
 祈りと呪いは似る。遺されたものが抱えるものは特に強まっていく。
 自縄自縛に陥っているならば、それはなおさらに。
 それが寄す処となってしまっていれば、もはやどうしようもないほどに。
 そもそも――少女は、前に進むということが出来ない状況にあったのだ。

『だから、あなたでは"私"には勝てない』
 倒れ伏すパームに対し、同じ九尾の狐を持つ黒影はうっそりと言った。
 そう、立ちはだかる敵の姿は、パームのそれと酷似している。
 だが、違う。それは鏡像だとか、影であるとか、そういうモノではない。
 少女の力から生まれた、カリカチュアライズされた邪神の一側面だ。
『"これが一番役に立てるから"って。"これが一番有効的だから"って。
 そうやってもっともらしい理屈をつけているんじゃ、あなたには無理だよ』
「……ちが、う、よ……」
 ボロボロのパームの言葉は、しかし霧のようにか細く頼りない。
『違わないでしょう? むしろ逆だよ。それがあなたの本質(すがた)なの。
 ――あなたは、戦いたくない。戦うことを選びたくない。それこそが』
「違う……」
『……それこそが、あなたの一番得意なやり方。
 他の誰かに全部押し付けて、高みから見下ろすのが好きなんだよ』
 違う、違うと、倒れ伏したまま少女は言い続ける。
 だが悲しきかな、その黒い影はパーム自身の魔力が形を得た存在である。
 邪神の介入によって歪み淀んでいるとはいえ、つまりは無意識下の発露なのだ。
 理解してしまう。理解、出来てしまう。
 己がその本質を理解したくないがために、無意識下に抑えていたことを。
 戦いたくない。
 戦わない。
 すべて誰かに任せて、自分はただ見下ろす。
 あの邪神のような、傲慢で自分勝手なその本質を。

 それがある限り、屍を呼ぼうが炎を撒こうが、結果は何も変わらない。
 術者であるパーム自身が、己を受け容れることなく戦う限りは。
『だから、さよなら。あなたはここで終わり。可哀想にね』
 黒い影の片手がギロチンめいた刃に変じ、振り上げられる。
 パームは力なくそれを見上げた。そこに映る己のありさまを視た。
(――やだ)
 そして思った。
(死にたくなんか、ない)
 脳裏によぎるのはかつての日々。忘れ得ぬ過ち。かけられた呪い。
 背負わねばならぬ罪。そうあれかしという戒め。そうあろうとした日々。
 間違いだったのか。だからここで終わるのか。贖罪も出来ぬまま。
(やだ。そんなのは、厭。私は、私は――)
 生きたい。
 何をしてでも。
 我儘でいい。
 傲慢でもいい。
 それでも、ここで死ぬのだけは――終わるのだけは!

 その想いが、あるいは一時的に少女の心の枷を取り払ったか。
 生まれたのは狐火。それが黒い影の振り下ろした刃を受け止め、そして。
『……何? 私を、侵食してる?』
 じわじわと、触れた敵を飲み込みながら燃やしていく。
 己に向けられた害意そのものを以て燃え上がる、呪わしき炎。
「……ごめんね。私は、終わりたくないんだ」
 黒い影を炎が呑み込んでいく。敵の殺意そのものを薪として燃え上がる炎が。
 わがままだ。どうしようもない自分勝手だ。けれど。
「だから――あなたも、私のために死んで?」
 その呪(ねが)いは、邪神をも呑み込むほどに強かった。
 振るわれる禍を以て、己の福に転じ生を掴む。
 "火福恐纆"。生きるためならば、敵の恐れすらも纏いて生き続けよう。
 そうせねばならぬゆえに。
 ――それが、けして終わらぬ贖罪の道だとしても、だからこそ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
◆1/演出お任せ


視て、理解しても避けえないもの
そういうものとの対峙が自分の終焉だと
ずっと思っていた

その時が来たなら受け入れるべきだ
それが正当な応報だと

……だけど

胸の奥に眠っていたものが、形になるのを感じた
滲み出すように生じた影が腕を通して銃に纏わる

自分はどうしようもない“ひとでなし”で
救いようのない人殺しだ

何かを手にする資格なんてない
幸せなんて許されない
――生きていることすらも

今だって、そう思ってる
だけど――

まだ、生きてたいんだ
見つけたいものがあるんだ
ここで終わりたくないんだ

身を蝕む代償は“人間”の身体には重すぎるくらいで
だけど、今だけで構わない
この一撃だけで、構わないから

――力を、貸してくれ



●BATTLE18:鳴宮・匡
 殺した。
 殺し、殺し、殺し、殺し続けた。数え切れぬほどの命を奪った。
 それに対する罪の意識はない。……ないことが、何よりも呪わしい。
 己は、殺生の罪の重ささえも理解できぬひとでなしなのだと悲しくなる。
 理解できないほどの重い何かが、己にのしかかっていることだけはわかって、
 理解しようとすればするほど、
 生きていいのだと言われれば言われるほど、
 得体の知れない重みと苦しみは、長い影法師を伸ばしてのしかかり続けた。
 それでもやはり、血濡れてどうしようもなく擦り切れた己の心は、
 罪の重さに自壊する――そんな終焉すらも許してはくれなくて。
 それが、わけがわからないほど悲しくて。
 何も見えず聞こえない、昏い昏い海の底を揺蕩っているようだった。

 不思議な話だ。己の目は、嫌になるくらいすべてを見通すというのに。
 あらゆる命を奪うための魔眼は、しかし己の死はさっぱり見通してくれない。
 希死念慮があるわけじゃない。そうとも、生に対する執着は……多分、ある。
 ただそれは、ねがいというよりはもっと自動的、機械的なもので、
 "生きているから生き続けようとする"とでもいうべき精神(もの)だった。
 ……今では多くの意志と言葉が、新たな楔(おもり)となって己を縛るが、
 それすらもなかった頃に比べれば、言いようのない暖かさを覚える。
 だから――その大切さを本質的に理解できないことが、やっぱり虚しかった。

 邪神が産み落としたものは、たとえるならば"天使"だった。
 純白の衣、内側から輝きを放つかのような、威風と聖なる気配。
 長く雄々しく広げた翼もまたやはり白く、頭には偉大なる光輪を頂く。
 悪い冗談だ。邪神が天使を産み落とすなど聞いたことがない。
 それが、見た目だけを模倣した怪物であれば、まだやりやすかった。
 それは、まったき正しきモノであり、神聖なるものであり、美しくすらあった。
 本来なら、邪神などが招来するはずのないモノ。罪無き天の御使い。
 正しくある者ならば、戦うなど到底ありえないモノ。
 ゆえに匡は、ありえないほどに傷を受け、その弾丸が届くことはなかったのだ。
 なにせ彼はひとでなし。数多の命を奪い続けた罪深き者。
 心優しい?
 幸せを探してほしい?
 生き続けてほしい?
 友? 相棒? 先輩? 仲間? ――ああ、彼らにとってはそうなのだろう。
(けどやっぱり、俺はそうじゃなかったみたいだ)
 おびただしい傷を受け、跪くように崩れ落ちながら、匡は心のなかで思った。
 これはきっと、己にもたらされた、"正当な応報"なのだろうと。
 救われるべき価値など、きっと最初からなかったのだと。

 純白の輝きが、朝日のように彼を照らしていた。
 痛みはない。もともとそうした苦痛の類にかかずらうタイプでもないが、
 斬撃や光に灼かれるたびに走ったのは、身を削るような虚無と"暖かさ"だった。
 ただそれは、仲間たちと触れ合うたびにほのかに灯ったものではない。
 自分には理解できない、"きっとかけがえのないもの"でもない。
 だからこそ理解できず、知覚出来ず、対処も出来ず、防ぐことも出来ない。
 生物としての本能が、それを"救い"であると捉えてしまったがゆえに。
 すべてを見通し予知するはずの瞳は、ただの一度も、何も、見通せなかった。
 苦し紛れに放った弾丸は、光に溶けるようにしてただ消えた。
 理解出来ない。であれば、それを殺すことなど出来はしない。
「…………鎌を持った骸骨とかじゃ、ないんだな」
 掠れた声が紡いだのは、呆れるぐらいに場違いな、世間話めいた呟き。
 死神というのがこの世にいるならば、そういうものだと思っていた。
 それがありきたりなキャラクターであることはわかっていたが、
 あいにく、死に浸りすぎた男には、死神と綽名されるべき化け物には、
 それゆえに"有り得そうな姿"を思い描くことが出来ないのだ。
 水面に映る姿を覗き込まずして、己の姿を知ることは出来ない。
 つまりは、そういうことだった。

 まあ、それならそれで、仕方のないことなのだろう。
 これが自分にとっての、本来あるべき報いであり、終わりなのだ。
 思い浮かんだ仲間たちの相貌に、ごめん、と心のなかで小さく謝る。
 やっぱり、人でなしが幸せになって、救われる資格などないのだ。
 だから受け入れよう。この(おそらくは)救済を以て報いを受けよう。
 天使が剣を振り上げたときですら、匡はそう思っていた。受け入れていた。

 はず、だったのだ。
「…………なんだ?」
 影が。
 裡から滲み出すように生じた影が、腕を通して銃に纏わりついていた。
「なんだ、これ」
 言葉は虚ろだ。なにせ彼は本能的に理解していた。
 "これ"は、ねがいだ。
 空虚であるはずの、
 救われないはずの、
 擦り切れたはずの、
 人でなしである自分が抱いた――抱いてしまった、ねがい。

 "生きたい"。

 "終わりたくない"。

 "もっとあいつらと、一緒にいたい"。

 "誰かの力になりたい"。

 噫。そのくろぐろとした有様は、光すら差さぬ深海のそれ。
 泥のようにぬめるそれは、もはや離れない。離れるはずがない。
「……ごめん」
 詫びた。ただ詫びの言葉をこぼした。
 誰に対してだろうか。
 殺してきた人々?
 一度は諦め裏切った仲間たちに?
 あるいは、この敵に対して?
 わからない。ただ、ただ、ねがいがある。うたかたのようなねがいが。
「俺は、生きたいんだ。見つけたいものが、あるんだ」
 許しを乞う哀れな罪人めいて、うわ言のように呟く。
 銃を向ける。天使の刃が天を衝く。一瞬の静寂が訪れた。
 目元から血が溢れる。それはまるで涙のように暖かく、意味もわからなくて。
 体が軋む。痛みが走る。ああ、痛みこそは生の充足。ねがいの代償。
 それを心地よいと感じる己が、どうしようもなく醜くて嫌になる。
 けれど、どうか許してくれ。誰かもわからない、いるかもわからない誰か。
 今だけでいい。この一撃だけでいい。このときだけでいい。
 どうか。どうか。
 ……無力な祈り子のように、ただ縋る。縋るように銃を握る。
「――力を、貸してくれ」
 影は応えた。喪われたはずの力強さを取り戻し、トリガを引いた。

 BLAMN。

 無力なはずの弾丸は、影を纏いし魔弾は、あっけなく天使を貫いた。
 起きたことが理解できぬように、純白の彫像は一歩後ずさる。
 BLAMN。二歩。
 BLAMN。三歩。
 BLAMN。BLAMN。BLAMN。
「ごめん」
 BLAMN。
「――それでも俺は、生きたいんだ」
 BLAMN。魔弾が脳天を貫いた。

 涙めいた血は、ただただ溢れ続ける。
 打ちひしがれた罪人のように、人でなしはしばし崩折れた。
 救済の光は、もはやどこにもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

六六六・たかし
【アドリブ歓迎】
・1.フルオーダー
・戦闘スタイル:仮面ライダーなどの特撮ヒーローっぽい感じ
・得意なこと:基本的に何でも出来る
・弱点:何でも出来るが故に調子に乗りやすい
・絶対にやらないこと:敵前逃亡(戦略的撤退を除く)
・UCについて:基本的に「○○○悪魔の○○○」で統一されています。


【SPD】

ふん、上から目線で随分と偉そうなやつだ。
だがしかし実力は本物のようだな…
今までの俺では苦戦は必至だ、認めたくはないがな。
だが、俺は俺のポテンシャル…悪魔の力を未だ最大限引き出せてはいない。
感謝しよう、俺はこの勝負でまた更に強くなることが出来る。

大…!変…!身…!!

見せてやろう俺の新たなる必殺技を!!!!!



●BATTLE19:六六六・たかし
 たかしの前に現れたのは、まるで変身後の彼の姿を墨で塗り固めたような、
 漆黒の鏡像とでもいうべき異界の戦士であった。
 元から彼のスタイルと酷似したシルエットを持つ存在であるのか、
 あるいは相対する存在の姿形や特徴をコピーする物なのかはわからない。
 たしかなのは、その速度もパワーも、明らかにたかしを凌駕しているということ!
 ガキンッ! ガギンッ! と、双剣がまったく同じ軌道でぶつかり合い、反発する。
「なるほど、あの上から目線の邪神が勝ち誇るだけはある……かッ!」
 たかしは渋々ながら認めた。認めざるを得ない。敵は己の性能を越えている。
 衝撃の反動は彼のほうが大きく、ざりざりと地面を削り後退したたかしめがけ、
 漆黒の鏡像が迫り、首を断つような剣閃を放つのだ。危険!
「だが――それだけで、この俺を殺せると思うなよッ!」
 ギィンッ! たかしはこれを逆手持ちのブレードで受け流した。
 即座に銃形態に変形、敵腹部への三点バースト! BRATATA!
 漆黒の鏡像はこれを受けて蹈鞴を踏むが、大したダメージを受けた様子はない。
『勝てぬとわかっていて中々にあがくものだ。猟兵とは皆そうなのかね?』
 どこからか、このふざけた決闘を見物する邪神の声が響き渡る。
 本来であれば、一顧だにしないところだが……。
「わかっていないな、邪神よ。デビルズナンバーを使役していたくせにそのざまか」
『ほう? 何がわかっていないと?』
 たかしは、マスクの下でぎらりと双眸を輝かせ、目の前の鏡像を睨む。
 己の姿形と武器や特徴を完全に模倣し、かつその上を行く存在。
 なるほど強敵だ。まともに打ち合えば、彼独りでは勝ち目がない。
 デビルズナンバーたちを召喚しても、その場しのぎにしかならないだろう。
「他の奴らはどうか知らんが、この俺はダラダラと戦ってきたわけではない。
 自分がまだ、悪魔の力を完全に引き出せていないことぐらいはわかっている」
 それが理由で勝てないというならば、取るべき手段はただひとつ。
「感謝しよう。俺はこの勝負で、またさらに強くなることが出来るのだからな!」
 チャキッ、とたかしが取り出したのは、デビルズナンバーの力が籠もったメダル。
 だがどうするたかしよ、ただそれを使ったところで敵は上を行く!
「強さとは、ただ単に力や疾さを増していくことだけではないということだ。
 己の持つ能力を、どれだけ臨機応変に引き出すか――それもまた強さの一つッ!」
 メダルをセット。引き出されたのはデビルズナンバー・ざしきわらしの力!
 全身のフォルムが変化し、たかしはまっすぐに漆黒の鏡像に挑む!
 疾い。残像すら生まれるほどの速度! だが敵は対応し、カウンターを――。

『なんだと!?』
 それはナイク・サーのものであり、漆黒の鏡像の言葉でもあった。
 攻撃が激突した瞬間、たかしは一瞬にしてそのフォームを変えていたのだ!
 ざしきわらしではなく、防御力に特化したかかしのものに!
「はぁっ!!」
 スピードでは劣る、しかし重い斬撃! 鏡像は受け身を取れず吹き飛ばされた!
 そして……見よ! 敵が地面に落ちるより先に、たかしはその背後にいる!
 かかしからざしきわらしへの再変身! 二度目の斬撃が鏡像を切り裂く!
『一瞬のうちに、異なるデビルズナンバーの力を変換し融合しているというのか!?』
「察しがいいな。そうとも、どれほどスピードやパワーがあろうとも、
 こちらの手が読めぬほどに悪魔たちの力を使い分ければ事足りるッ!」
 鏡像は防御のとりようがない。敵の動きは一瞬のうちに変化するからだ!
 そして完全に翻弄した末、たかしは今持つ全てのメダルの力を剣に収束させた!
「名付けるならば、"六六六悪魔の大『転』身(デビルズナンバー・フォームチェンジ"といったところか――!」
 一瞬でもコントロールを誤れば、彼は力に溺れて破滅するだろう。
 その綱渡りを恐れぬ、少年の勇気がもたらした新たな突破口だ!
「さあ消え去れ、我が鏡像よ! デビル! たかし!! ストラッシュ!!!」
 相反するデビルズナンバーの力を束ねた多色の斬撃が、漆黒の影を切り裂く。
 その剣閃は、ついには異空間そのものを貫き、邪神にすらも届くのだ……!

大成功 🔵​🔵​🔵​

神酒坂・恭二郎
「ぐろうあっぷ・・・・・・耳が痛いねぇ」
余りに強大な異界の怪物。
逃れる事を許さに結界。
お膳立てが過ぎる。

一太刀だ。
銀河剣聖の一の太刀。
己の最高で挑もう。

(先生の型を目指すんじゃ足りない。超えねぇとな……)
星獣を裂いた剣でも不足だ。
焼きついた理想の型のその先を行け。
極限に研ぎ澄ませ無駄を省く。
己の中で煮えている忌むべき泥を燃やす。
強欲嫉妬焦燥無念憎悪諦観・・・・・・。
およそ剣の聖には遠い【呪詛】を受け入れ注ぐ。
守破離において『離』の時が今だ。
【覚悟】の一刀を振り下ろす。

「先生は先生。俺は俺だ……ったく、何度同じ事を悟るかねぇ」

『離』の先に見る師の背中はなお遠かった。



●BATTLE20:神酒坂・恭二郎
 数多の刀剣で構成された、異形奇天烈な鋼の怪物がそこにいた。
 数十、否、数百振りの刀剣でもって、手・足・胴・頭部を形作るモノ。
 それを怪物たらしめるのは、忘れられ棄てられた矛たちの呪いの声である。
 かつてサムライエンパイアで相対した、模倣妖刀のヤドリガミの群れ。
 あれと似て非なる、より純粋に殺戮と破滅に特化した、刀の怪物であった。

 もはや空間は完全に閉じられ、恭二郎の剣を以てしても壁は切り裂けまい。
 おそらくこの刀の魔神は、その身を数多の妖刀魔剣で構成するがゆえに、
 およそ尋常に知られるほぼすべての剣術を把握し、対策できるのだろう。
 ならば拳で挑めばどうか。抜身の刃そのものの五体は、徒手空拳など受け付けまい。
 彼奴にとっては、防御こそが攻撃であり、一切の武術を否定し凌駕するのだ。
 恭二郎は、脳裏にかつての師のそれを思い描いた。
 ……直後、己の胴と首と手足とが、バラバラに切り裂かれる光景を幻視する。
(模倣じゃ足りやしない。今の俺に真似できるレベルじゃ、不足ってかい)
 刀使いにとっては最悪の相手。師の神がかりな一撃ですら。
 恭二郎が想像し創造したものでは破られてしまうことを確信する。
 ならば即興の奇剣秘剣に頼るか。それこそ悪手も悪手。付け焼き刃は死を招く。
 脳裏によぎるのは、師の幻影。己の未来を厳然と言い渡された衝撃。
 これまで、恭二郎はその教えを守り、ひたむきに戦い続けた。
 そして大きな戦いを経て、やがて教えを破り我の流儀の骨子を得た。
 ならば、いまこそ。その巣を立ち、真の意味での神酒坂風桜子一刀流を見出すべし。

 師にも姉弟子にもなく、己にあるものとはなんだろうか?
 ……それは、想念だ。
 己のなかでぐつぐつと煮える、忌むべき泥のごとき数多の雑念。
 強欲。
 嫉妬。
 焦燥。
 無念。
 憎悪。
 諦観。
 およそ剣聖には程遠き、明鏡止水には不足極まる呪詛の泥濘。
 それをあえて、己の裡に受け容れる。そして薪めいて燃やすのである。
 切り捨てて捨て去るのでも、
 あるがままに受け止めるのでもなく、
 己だけが持つそれを、己の剣のために生かす。
 難行である。ともすればそれは、剣にノイズを混じらせるだけの行為。
(それでも、これが俺だ。俺だけが持つ、俺だけに許された武器であり、道具だ。
 無念無想の純白には至れずとも、俺は俺として――俺の色を是としてやればいい)
 色即是空。描いた心の色こそが至高の空であると、心の底から誇れるならば。
 それこそが、神酒坂風桜子一刀流の真の一の太刀の雛形となろう。

 数秒か、数分か。長い長い静寂が過ぎた。
 見よ。もはや両者の間合いは、とっくに必殺に至っている。
 その時ふと、剣豪の握りしめた銀河一文字――その刀身に変化が生じた。
 赤を始めとして多種多様な色が混じり合い、よじり合い、重なり合う。
 かくして刀身は、ぬばたまのごとき黒に染め上げられん。
 それは禍にあらず。実を斬らずして、心のみを斬る、風桜子の剣!
 これは星喰いの怪物を断てるような剣ではない。
 されど、この剣を防げるものはない。
「――仕るぜ」
 自然な挙措で、剣豪は滑り出した。刀の魔神は数多の妖刀魔剣で迎え撃つ。
 覚悟を決めて振り抜く。おお、見よ。黒き刀身は、組み合わされし鋼のいずれをもすり抜ける!
 鋼を砕かず、折らず、断たず、その存在そのものを断ち切る霊妙なる太刀!
「……秘剣・地黒閃(じごくせん)」
 刀の魔神に刀傷はない。されど、黒刀はたしかにその本質を切り裂いた。
 がらがらと音を立て、妖刀魔剣の群れは崩れ果てて還っていく。
 想念を込めし黒刀を以て、相手の存在力そのものを斬る一撃である。
「先生は先生。俺は俺だ――ったく、何度同じことを悟るかねぇ」
 残心もそこそこに、恭二郎は冷笑的な表情を浮かべた。
 かの剣聖ならば、この一太刀、無念夢想によって為したことだろう。
 師の背中、未だ通し。されど追う足取りは、これまでよりもずっと軽い。

大成功 🔵​🔵​🔵​

薄荷・千夜子
お任せ、アドリブ連携歓迎

1
戦闘スタイル/得意なこと:動物使役及び罠作成等の狩人としての能力を主軸(巫女としての炎や花を扱う呪術/破魔の術も組み合わせる)とする
一撃必殺よりは手数を重視した戦法を取りがち
弱点:防御重視の強固な相手
やらないこと:自身の命も他人の命も大事とするため、寿命を削ること、人に負担を強いる、巻き込む系は避ける

試されているのでしょうか
例え不利な相手でも突破口を見つけましょう
出せる手は全て出し尽くして、あともう一手を必ずこの戦さ場で掴み取ってみせます!
こんなところで止まってはいられません
我々はまだ為すべきこともあるのですから!!



●BATTLE21:薄荷・千夜子
 地面に無数の花が咲き誇り、花弁はやがて燃え盛る焔に変じる。
 当たり一面を薙ぎ払う、破魔の魔力を込めた広範囲殲滅術式だ。
 だが。その花散る焔の海を、巨人じみた鋼の異形は苦もなく横断する!
「やはり、この程度では足止めにもなりませんか……彗!」
 高く尾を引く鳴き声とともに、相棒である鷹が空から舞い降りた。
 千夜子は巨大化した彗の足に捕まり、上空に逃れて時間を稼ごうとする、が!
 のっぺりとした鏡のような異形の頭部が、千夜子のほうを睨んだ。
 読まれた? 判断する間もなく、異形の身体からいくつかの鋼塊が剥がれ、
 さながら念動力で操られる飛礫のように千夜子と彗に襲いかかるのだ!
「く、ううう……っ!」
 質量もさることながら、あちこちが鋭角的に尖った飛礫は刀めいた斬撃も併せ持つ。
 翼を切り裂かれ、彗の体幹が大きくブレた。必然、千夜子も高度を落とす。
 落下地点にはすでに鋼の異形。千夜子はとっさに鷹羽炎扇を振り回した。
 竜巻じみた突風を浴びて、彗はやや強引ながらも高度を取ることに成功する。
「颯、楓! 足止めをお願い!」
 号令に応じ、相棒二匹が堅固たる鋼の異形に飛びかかった。
 だが通じぬ。ユーベルコードによって強化された爪や牙でなければ、
 その鋼の五体を砕くことも切り裂くことも能わず。二体は振りほどかれる!
(ダメ。相手が硬すぎて、生半可な攻撃じゃ通用しない……!)
 なるほど、千夜子の戦いぶりを観察していたというのは嘘ではないらしい。
 勘や見切りに任せた攻撃回避では、あちらはそれ以上の速度で間合いを詰めてくる。
 一撃よりも手数で戦う千夜子にとっては、この上なく不利な相手だ。

 しかし千夜子とて、闇雲に攻撃を続けていたわけではない。
 持てる限りの術式と、相棒たちの連携を行使してなお、一手には届かぬ。
 だがその一つとして無駄ではない。全ては敵を"中心"に誘うための布石!
「ありがとう、颯、楓。それに彗も、もう大丈夫」
 鷹は高く鳴き、あろうことか相棒である千夜子を手放した。
 何故? 眼下には鋼の異形が待ち構えている。主人を見捨てたというのか!?
 否である。先に散ったあの無数の花弁。それこそが最大の布石。
「私がいま持つ術式では、その強固な守りを貫くことはたしかにできないのでしょう。
 ならばその全てを一に収束し、全身全霊を以て滅ぼすのみ――このようにして!」
 千夜子は重力に囚われて落下していく。敵は当然足を止める。彼女を殺すためだ。
 そうとも、足を止めた。その一瞬があればいい。その位置がいいのだ!
 見よ! 炎とともに散った無数の花びらが、千夜子が手をかざすとともに浮遊し、
 まるで無重力下にたゆたう塵のように、千夜子と異形とを取り囲んでいる!
「咲き乱れるは破魔の鈴。集い穿つは神をも屠る百花繚乱、万を一に!
 ――操花術式:破討卍凛(はとうばんり)。さあ、耐えられますかッ!?」
 宙空に浮かぶ花びらが、そのすべてが破魔の焔によって燃え上がり、
 彼女があちこちに仕込んだ"禽羽双針"と酷似した破魔鉄の針へと変貌する。
 その数、ゆうに250以上。それらは千夜子が擲った錫杖めがけて飛来していく。
 つまり! 彼女が誘い足止めした、異形の五体めがけて全方位から収束するのだ!
 多を薙ぎ払う花の嵐ではなく、その"目"に在る一を討つ破魔の渦。
 前後左右上下、逃れる場もなくまったく同時に穿たれた異形が、苦悶し燃え上がる。
「……外せば私のほうが危ない起死回生の一手でしたが……甲斐はありましたね」
 着地した千夜子は、トーチめいて燃え上がる異形を見上げて安堵のため息をついた。
 かくして、強固なる守りもろとも、無数の破魔針は邪を灼き悪を討つのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス
2.セミオーダー
元UC: スクワッド・パレヱド(機人、『穿月』を絡めた内容希望。詳細はお任せ)
戦闘スタイル:機人を前衛、自身を後衛とした連携戦術。
得意な事:よく言えば万能、悪く言えば器用貧乏。連携戦術で隙を窺いつつの一撃必殺。
弱点:速度、手数不足。高速の相手ではまず動きを封じなければならず、対多数だと手数が不足する。

昇華必滅、残魂叛逆、機神召喚に絶焔領域。色々技は身につけているけれど、機人との連携は異能ではなく、戦術レベルに留まっているからね。もう一段、上に行ってみようか。

人は変わる。ほんの一瞬前から変化し、成長するんだ。見切ったなんて、烏滸がましい。増長慢の対価に、自身の命を払うか良いさ。



●BATTLE22:ユエイン・リュンコイス
 これまでのふたつのUDCとの戦いは、スピード不足という答えを示していた。
 ユエインは半身たる黒鉄機人と抜群のコンビネーションを持つが、所詮はふたり。
 五や十はともかく、数十あるいは百を超える敵には抗いようがない。
 対して召喚された邪神は、一言で言えば分裂と合体を繰り返す奇怪なモノだった。
 一撃必殺にて打ち砕こうとすれば、その体は粘液化して無数に分裂し、
 広域殲滅を試みれば、即座に個の形態へと合体してしまう。
 異形の芋虫がいびつな人型めいて寄り集まったかのようなその醜悪な外見は、
 正しき宇宙に住まう人々に対する挑戦であり挑発でしかない。

「こいつら……なんて疾さだッ」
 わけても厄介なのが、分裂・合体状態それぞれの驚異的なスピード。
 いまユエインと黒鉄機人は、分裂した無数の邪神群に包囲されてしまっている。
 前後左右からほぼ同時に襲い来る攻撃の嵐。守勢に回れば次はない。
 絶焔昇華領域を発動し、見える範囲の分身を焼き払ってみるべきか?
(いや、それこそ悪手だ――合体されたら手に負えなくなる)
 これはユエインの推測だが、敵の膂力は機神召喚された機人とほぼ同等。
 仮に力比べに持ち込んだとしても……裏をかかれる可能性が高い。
 すなわち、広域殲滅と速度を併せ持った連携攻撃以外に活路はなし!
「――かつてのボクならば、あるいは打ちひしがれていたかもしれない」
 脳裏によぎるのは、猟兵として駆け抜けてきたいくつもの戦場。
 討ち果たした強敵。共に戦った仲間たち。一度とて易くはなかった戦い。
 オブリビオンは過去の残骸。未来を奪い破壊する世界の敵対者だ。
 これからも、これまでと同じように戦い続けるならば。
 こんなふざけた邪神の企みは、正しき怒りを以て打ち砕く他になし!
「この空間の外で、見ているのだろう? ナイク・サー! なら見せてあげよう!
 人は変わる。ほんの一瞬前からでも劇的に変化し、成長していくということを!」
 たとえ己が肉持つ人でなくとも、そこに大きな違いはないのだ。
 今を生き、未来(あす)を掴もうとする意志は同じなのだから!

 そしてユエインは、己と黒鉄機人とを繋ぐ絹糸をあえて切断。
 おもむろに取り出した多目的射撃機甲兵装『穿月』と、これを再接続する。
 黒鉄機人の双眸が輝く。ユエインは二挺拳銃による全方位牽制射撃を開始!
 BRATATATATATATATA!! これを畏れた邪神分裂体は、ぞぞぞぞと波めいて収束。
 強大なる個へと合体することで、射撃直後のユエインを叩き潰そうと――否!
 そこへ黒鉄機人が右拳を昇華火焔で白熱させ、射撃反動を受けて跳躍接近している!
 必然的に、絹糸によってより密接に繋がったユエインもまた機人とともに翔ぶ!
 KRAAAAAASH!! 邪神の腹部に昇華鉄拳が命中し、表皮を溶解割断した!
「――我ら、邪を討つ双機人」
 一縷のズレもなく、前も後もなく、弾丸の反動は機人を押し出し道を切り開く。
 ともに半身たるふたつの人形だからこそ出来る、間断なき超速連携。
 昇華鉄拳によってこじ開けられた、赤々と燃える傷口に、穿月がねじ込まれた!
「機人の咆哮、聴いて慄け! その邪悪を、昇華と銃火を以て討ち滅ぼすッ!」
 BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!!
 昇華の焔を受け継いだ双銃の弾丸が、邪神の存在核そのものに叩きつけられるのだ!
 拳と銃。己の身を抛ち、逃げ場を奪った上での超近接白兵&射撃火力。
 "双擊昇華術式・絶対銃華(サブリメーション・バレットクライ)"――!!
 BLAM! BLAM!! BLAM!! BLAM!! ――KRA-TOOOOOOM!!
 神をも滅ぼす超火力を浴び、もはや分裂して逃れる隙すらもなく、
 異形の邪神は、その昇華の焔に包まれ、銃火に裂かれて虚無へと消える……!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
◆ミコトメモリと

(ザザッ)
"経験予知"が封じられている上、唯の熱線も効果が薄く、更に性能は本機達の数段上か。
厄介だな。

――"格好つける"為の姿だからな。君の前で無様を晒しはしない。

成る程、単純な計算式だ。
一人の力で足りないなら
二人の力で切り抜ける迄。

――オーダーを承った。
ミッションを開始する。
(ザザッ)
――
戦法:
「複製/模倣」
思いつく限りの兵器を電脳空間から複製召喚する他
特定の人物・職種等の行動を予測・模倣再現する事に長ける

2.セミオーダー
彼女が作った武器、それを握るのに相応しいものであれる様。
そして、彼女を守る事のできるものであれる様に。
それが叶えられる力である事を願う。
(ザザッ)


ミコトメモリ・メイクメモリア
◆ジャックと
……なるほど強敵だ。
だけど、キミが隣にいて、背中を預けられるなら……大丈夫。
負けたりしないよ、だって格好悪いところは見せられないし。
――勿論、見せてはくれないだろう? ジャック。

理屈は簡単だ。
こちらの能力をすべて知り尽くし、上回ってくるなら―――。
今までこの世になかった力で、戦えばいい。
一人じゃ無理だ、だけど、二人ならできる。

「さあ――――勝利の未来へ辿り着こうか!」

2.セミオーダー
ボクの能力は万物が持つ「記憶」を物質化し、それを他者に付与したり、現象として引き起こすものだ。
「ジャガーノート・ジャック」に「記憶の欠片」より作り出した――ボクでは使えない、新たな武装を与える。



●BATTLE23:ジャガーノート・ジャック&ミコトメモリ・メイクメモリア
 ジャガーノート・イーグルとの戦闘に端を発する、此度の偶発的召喚戦。
 そこに介入したことで、ナイク・サーの興味は猟兵たちに向けられたのである。
 もしも奴が、ジャガーノート・イーグルを手駒に加えていたとしたら、
 そもそもナイク・サーは何を思ってそんなことをしようとしたのだろうか?
 彼奴の異界門から生み出す邪神の中に、イーグルを加えるつもりだったのか。
 はたまた、ジャガーノート・イーグルにも"試練"を課すことで、
 より強大な邪神へ成長することを促そうとしたのか。
 外宇宙より来たるものどもの考えは、いくら推察したところで答えが見えない。
 たしかなのは――彼奴もまた、ジャガーノートという存在を、ある意味で視ていたということだろう。
 ふたりの前に現れたのは、忌まわしき電脳寄生体を模倣したモノだったのだから。

 本来、ジャガーノートと呼ばれるモノは、人間の子供に寄生し侵食していく。
 しかし異空間に囚われた二人の前に現れたのは、いわば怪物の"雛"だった。
 魔力と生命力の多くが、強制的に心身から引き剥がされる悪寒。
 それを浴びて、まるでジャガーノート・シリーズの姿形をコピーしたような、
 しかし鋼ではなく血肉によって構成された唾棄すべき怪物の群れがそこにいた。
《――本機を相手に、よくもまあこんな手を思いつくものだ》
 異形の群れの中には、当然ジャガーノート・ジャックを模倣したものもある。
 ほとんどは一撃で殺傷可能な脆弱な存在、だった――そう、はじめは。
 交戦時間が長引けば長引くほど、敵は急速に成長し、力と速度を増していく。
 数も同様。十を滅ぼしても、そのときには二十が増えているという有様である。
「まったく悪趣味にも程があるね! "成長する力"をコピーした怪物とは!
 ジャック、8時方向へ迎撃を! まずはこの包囲を抜けないと、どうしようもない!」
《――了解(オーヴァ)》
 BRATATATATATATATA!!
 雷鳴じみたビームマシンガンが、砂嵐のなかで複製され稲妻の如く乱舞する。
 獅子、虎、あるいは蛇や蜥蜴といった生物を模した偽りのジャガーノートが、
 その熱によって昇華され消し炭となった。だが、残骸が別の怪物の苗床となる。
 それらはおそらく、本来のジャガーノートシリーズに比べれば、
 劣化複製を繰り返したデータのように醜悪で歪んだ模造品というべきだろう。
 だが、ふたりには妙な悪寒があった。このままではなにかまずいという感覚が。
 ――その答えは、蔓延る怪物の群れが、一として集合・合体したことで明らかとなる。

「あれは……まるで、昔のキミみたいじゃないか……!!」
《――…………》
 然り。ミコトメモリが見上げるのは、全ての怪物が集合した巨大な化け物。
 そのフォルムは、かつてのジャガーノートのような鋼の豹めいたものであり、
 全身からはおびただしい砲塔、あるいは肉の触手、もしくは棘や剣が生えていた。
 当人は無言である。だが、仮面の下では相当に腸が煮えていることであろう。
 "成長"する前の己の姿――それも、暴走した真の姿のそれ――のカリカチュアが、
 より生物的に堕落して、自分たちを遥かに超える身の丈となって現れたのだ。
 ジャガーノート・ジャックとして仮面を被り、いくつもの戦いを潜り抜け、
 彼なりに成長してきたこれまでの戦い。それ自体を否定するかのような変異だ。
 仮に、その巨大な怪物を、イミテーション・ジャックと呼称しよう。
 その巨体のあちこちに亀裂が走り、ぎょろりと水晶の目玉が現れた。
 ミコトメモリは直感的に理解する。あれは、己の力を模倣したものだと。
 過去の記憶を物質化し触れることの出来るミコトメモリに対し、
 イミテーション・ジャックの魔眼は未来を観測することで確定させる。
 BRRRRRRRRTTTTTTT!!! ジャガーノートによる強烈な光線乱舞、だが敵は無傷!
 その攻撃と軌道を読み、敵がエネルギーフィールドを展開したからだ!
「……来るよ、ジャック! 距離を取らないとまずいッ!」
《――だろうな。だが、あれが本機のかつての射撃戦能力を模倣しているなら――》
 ZZZZZZZTTTTTTT!! 直後、異空間の天地を貫く無数の怒槌、すなわち雷!
 イミテーション・ジャックによる広域燼滅攻撃。それはオリジナルの砂嵐に似る!
 ミコトメモリを抱えたまま、ジャガーノートはいくつものデコイを展開し、
 雷撃の直撃を避けるようにしてアウトレンジへと後退した。
 ギュグン、ゴゴン――いびつに生えた砲口が、ふたりに狙いを定める――!
「その攻撃を、ボクが理解できないはずがないだろうッ!」
 ミコトメモリが手を伸ばす。記憶の欠片が励起し、雷撃を模倣・相殺!
 だが反発した衝撃波がふたりを撃つ。砂嵐をも吹き飛ばすほどの強烈な反動!

《――結論から言えば、物量と火力の面で"あれ"に対抗するのは悪手だ》
 いくつものデコイと空間ジャミングによってかろうじて得た間隙のなか、
 ジャガーノートは端的に言った。オリジナルである彼だからこそ、わかるのだ。
「……そうだね。あのまま際限なくあの模倣体が成長し続けるのであれば、
 いずれボクの防御も効かなくなる。直撃を受けたら……ぞっとしないよ」
《――"経験予知"を封じられた以上、次に総攻撃を受けたら回避は困難だろう》
 つまり、チャンスは次の交戦にしか存在しない。そこで起死回生の一手を打ち、
 これ以上に彼奴が成長する前に、あれを過剰火力で撃滅しなければならない。
「だけど、ジャック。ボクだけならともかく、キミが隣にいるなら大丈夫。
 負けたりはしないよ。だってこれ以上、格好悪いところは見せられないしね」
 少女はくすりと微笑み、冗談めかして片目を瞑ってみせた。
「――もちろん、見せてはくれないだろう? ジャック」
 わずかな沈黙。
《――ああ。"格好つける"ための姿だからな。君の前で無様を晒しはしない》
 闘うために纏った鎧(ロールプレイ)は、そう簡単に砕けやしない。
 己を騎士と認めてくれる、心優しき姫がいてくれるならばなおさらに。
「敵がこちらの能力をすべて知り尽くしているというならば、理屈は簡単だ。
 今までこの世に、そしてボクもキミも持っていなかった力で戦えばいい」
 ひとりでは不可能だろう。だが、ふたりで力を合わせれば、可能だ。
「ボクにとって、未来は不確定で見通せないようなものなんかじゃない。
 積み重ねた過去が未来を作る。だからほら、こうして――」
 ミコトメモリの両掌のなかに、ほのかに温かい輝きが生まれた。
 胸元に抱き寄せたそれを、解き放つようにしてジャガーノートへと手向ける。
 光は大きく膨れ上がりながら、ジャガーノートの人らしい手に収まる――。
 それはかつて、ジャガーノートが人を抱けぬ異形の鋼であった頃の巨腕に似る。
 されど異なるのは、その巨躯は護るために鍛えられた"盾"であること。
 すなわち、盾めいて巨大な、そして肉厚な――一振りの、騎士剣であった。
《――……なるほど。これはたしかに、かつての本機ではなしえなかったものだ》
 相棒である森番当人が変異した、いつかの刃ともまた異なる重厚な作り。
 鋼の豹の巨躯を以て、ようやく振るうことの出来る雄々しき刃である。
「まるで本物の騎士のようだね。ジャガーノート・ジャック?」
《――この剣を握ることが、そう在るべきならば、本機は相応しく振る舞おう》
 柄を握りしめるのとともに、肉厚の刀身にバチバチと稲妻のエネルギーが走る。
「さあ――勝利の未来へ、辿り着こうか!」
《――オーダーを承った。ミッションを開始する!》

 砂嵐のノイズが晴れる。巨躯がふたりを傲然と見下ろした!
 無数の砲塔がふたりを捉え、ごろごろといくつもの稲妻が周囲に光り輝く。
 ジャガーノートはミコトメモリを片手に、もう一方の手に巨大な剣を握りしめ、
 まっすぐに巨躯へと挑んだ。ZZZTTTTT!! 応報の雷撃が五条襲いかかる!
《――その攻撃は知っている。そして本機は確と言おう》
「そんなモノマネじゃ、ボクらを止めることは出来ないってね!」
 バチィッ!! 盾めいて構えた剣の刀身が、雷撃を跳ね返し無効化する!
 さらに無数の砲撃――雷力展開。衝角じみたフィールドがそれすらも相殺!
 エネルギー余波はふたりを前へと送り出すさらなる推進力として飛散する。
 スピードの世界。そこで、ジャガーノートは何かを垣間見た。
(――鷲野。"僕"は結局、お前のことを何一つ理解できなかったけれど)
 この誰にも追いつけないスピードの世界が、彼の追い求めたものであるならば。
 あるいはその壁を超えることで、散っていった彼の意を汲めることもあろうか。
 ……思索は一瞬にして終わる。打ち消された砲火が霧散し視界が開けた。
 咆哮する異形の巨躯。獣じみて開かれた口蓋が、ふたりを飲み込もうとする!
《――このまままっすぐに駆け抜ける。しっかり捕まっていてくれ、ミコトメモリ》
「もちろんさ。だから――ちゃんとボクのことを、護ってね。ジャック」
 キュン――! そしてふたりは、ついに稲妻をも超えた速度に到達した!
 超スピードを乗せた大質量斬撃が、さながら一矢の鏃めいて異形の巨躯を貫く!
 箒星のように、散滅したエネルギーの余波がチカチカと後方に輝く。
 ザザザザザ!! と地を削りながらターンし、ふたりが振り返ったそのときには。
 いびつなる肉の怪物は、断末魔をあげながら灼け焦げて滅びていた。
 ……それはまるで、未来へ進もうとする若者たちを見送る過去のように。
 ふたりはたしかに、その力を併せることで未来への活路を開いてみせたのだ。
 過去を穿つ、"切り札(エース・イン・ザ・ホール)"の一手を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
1

テメェを超える手段なんざいくらでも──あ?
…Forbiddenストレージに、新しいプログラム?
俺はこんなもん、作ってねえぞ

─これ、は
こいつは……俺だ
(モッズコートに身を包んだ男。長く伸びた灰髪、体格は少年より遥かに大きく。青の瞳は一切の光を宿さず、右目は周辺ごと機械化。言動には熱も色も無く、まるで機械のように)
どうなって、やがる
これが、俺?俺の…未来…?

──チッ。時間が無い、もうこれでやるしかないか

・戦闘スタイル
支援、妨害、機動戦闘
・得意
戦術指揮、支援、妨害、演算
(悪魔は+電撃を用いた攻撃)
・弱点
直接戦闘
(悪魔には無い)
・やらないこと
仲間を見捨てる、犠牲にする
(悪魔は他人を平気で切り捨てる)



●BATTLE24:ヴィクティム・ウィンターミュート
 端役として主役を引き立てるための、唯一にして最低条件。
 それは、どんな筋書きであろうと対応してみせる"手数の多さ"にある。
 誰が相手だろうと、どんな戦場だろうと、どんな展開が訪れようと。
 シニカルに笑い、敵を翻弄し、これこそが大団円と嘯いてみせる。
 それはまるで、サーカスの舞台を右へ左へ転げ回る道化師のように。
 やることは変わらない。底を見透かされるなど端役として二流、三流も同然だ。
 たとえ相手が、邪神であろうが誰であろうが。
 体力の続く限りに駆けずり回り、変幻自在の一手で驚かしてみせる。
 サイバネの性能をオーバークロックし、ニューロンが焼け付くのも厭わずに。
 四方八方を飛び回り、数多のプログラム=手札で抗うさまが道化師めくのなら、
 それに相対し追い詰めていくのも、また道化師めいた姿の怪物であった。
 ただしあちらは、手数の代わりにその肉体そのものを邪悪に変異変形させ、
 リーチを読ませずスピードを悟らせず、徐々にヴィクティムを追い詰めていくのだ。
 背後を取ったかと思えば、突然新たなピエロマスクが背中に生えて、
 骨と筋肉で練り上げた大鎌を以て胴体を両断しようとする。
 ならばとアウトレンジまで退けば、その両腕がバネ仕掛けめいて伸び来たり、
 耳に障る笑い声とともにヴィクティムを絡め取ろうとする。
 捕まれば最期、肉体は不可逆な変異を受けて"捻じ曲げられる"だろう。
 直接戦闘を不得手とするヴィクティムにとっては、相性の悪い相手と言えた。

「道化師同士で見世物勝負、こいつはナメられたもんだな。出し物は終わりかよ?」
 しかしてその不利を表面に出すことなく、ヴィクティムはおどけてみせる。
 呪毒、威力反転、衝撃転換、etcetc……既存のプログラムは六割以上を出し尽くした。
 忌々しいことに、あの道化師悪魔は同じようなやり方でもって返してくる。
 にやついたピエロマスクのような顔面が、いやに癪に障ってしょうがない。
(さあて、どう攻めたもんかね……あんまり長期戦になっても疲れちまう)
 強がりだ。ヴィクティムの機動力はスタミナとリソースの前借りによるものである。
 術式変換による攻撃と回復の入れ替えが通用しない以上、分はあちらにある。
 彼奴が召喚される際に奪われた生命力も、着実にヴィクティムを蝕んでいた。
(また病院送りになるのは勘弁だが、少しばかり無理をしねえと――)
 かつてのサムライエンパイアにおける戦いと同じ覚悟を、少年が決めかけた時。
「……あ?」
 電脳領域に、ありえないはずの変化があったことに気づいた。
 作成した覚えのないプログラム。それが、ひとりでに起動している。
「オイオイオイ、なんだこりゃあ。まさか野郎がハッキングを……いや」
 それはない。ハッカーたる己が電脳戦闘で遅れを取るなど絶対にありえない。
 であれば――ワイヤフレーム状に展開され、現出した"あれ"は、なんだ?
『……よぉ』
 そいつは、まるで千年の間熱され続けた炭のような、灰色の声音で少年を見た。
 無造作にまとめられた灰色髪は、火鉢の底をひっくり返したかのようで、
 唯一生身であるらしい左目は、ぞっとするほどの虚無をたたえている。
『時間がないんだろ。手伝ってやるよ。それが効率的だ』
 そいつは言った。少年は、そのモッズコートの人影を見て、本能的に理解した。
(――これは、こいつは……"俺だ")
 瞳に光はなく、
 髪も声音も命なき灰色に枯れ果て、
 全身の殆どを鋼に変えた、燃えカスのような悪魔。
 あれは、己だ。ヴィクティム・ウィンターミュートの"可能性"だ。
『勝利が欲しいならくれてやる。俺はそれ以外に何も必要ない』
 それだけで十分だとばかりに、ありえる可能性のひとつは道化師悪魔を見た。
 嘲笑に対する反応もなし。もはや、そいつにシニカルな笑みすらも存在しないのだ。
「――そうかい」
 悪童は立ち上がり、肩をすくめた。ああ、そうなのだろうという納得がある。
 端役として勝利を求め続けたならば、きっと、必ず、そうなるのだろう。
 それ以外の全てを切り捨てて、凍った静寂のようにフラットラインになっちまう。
 そうとも、時間がない。このふざけた悪魔をとっととぶちのめして、
 あのいけすかない邪神を滅ぼさねばならないのだから。
『殺戮(ラン)の始まりだ』
「ああ、逆転劇(ラン)の始まりだよ」
 同じ言葉、同じ表情、同じ人物――欠片も噛み合わない意識。
 しかして動き出したふたつの電影は、恐ろしいほどに"噛み合っていた"。
 道化師悪魔はめきめきと音を立てて、二体に分離しこれに対処しようとする。
 あまりにも遅い。電光が煌めいた瞬間、悪魔のナイフが心臓を貫いていた。
(オイオイ、躊躇なしかよ。ブルっちまいそうだな)
 心のなかでタフな台詞を吐きながら、ヴィクティムは意識を集中させる。
 道化師が心臓の部位を移動させ、致命傷を避けたのはわかっている。
 悪魔の突き立てた傷口から、とっておきの電子毒をたっぷりと叩き込んでやるのだ。
 遠間に逃れたと思った道化師が、びくりと身を痙攣させて悶絶する。
 分裂した二体のうち、片方はそのまま溶け崩れて消滅した。好機。
 しかして追い詰められた道化師が、ぎらりと"現在の"ヴィクティムを睨んだ。
「相打ち覚悟で来るってか? いいね、悪党ってのはそうでなきゃあな!」
 悪童の狙いはこうだ。敵をひきつけ、紙一重で躱した上でカウンターを撃ち込む。
 ふざけた道化師の化けの皮を剥がして、完膚なきなまでに勝利してやろう。
 ――そう思ったところで、"己が動けないこと"に気づいた。
「あ?」
 道化師が来る。漆黒の風じみた速度で、大鎌を振り上げて。
 そしてその刃が、悪童の首筋を捉えようとした瞬間――道化師の首が、裂けた。
『…………』
 悪魔だ。逆手ナイフによる背後からの不意打ち。道化師が斬首され絶命。
 そこでヴィクティムは、己を縛り付けたのが上位のプログラムによる拘束だと知る。
「……オイオイ。お前、俺を囮に使いやがったのか」
 平行世界の可能性同士、同一人物であり同一人物ではないとはいえ。
 召喚した当人を、過去の自分を、死ぬかもしれない捨て石として利用したのか。
『だから、なんだ』
 悪魔はただそれだけ答えた。
『言っただろう。俺は勝利(それ)以外に興味はない。何も必要ないと』
 そのためならば、仲間だろうが友だろうが――過去の己であろうが、利用する。
「…………俺は、"そうなるかもしれない"ってのかよ」
 冬の静寂めいて、何の兆しも残滓もなく姿を消した悪魔の気配を見送り、
 悪童は呟いた。……成長の先が、あんな枯れ果てた残骸だとでもいうのか?
「………………ハッ。そいつは、まったくチルだな――」
 言葉と裏腹に、その口元は苦み走るように歪んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
UC【雪骸】で1
敵お任せ
アドリブ歓迎

・戦闘/得意
→術と力の合わせ技。傷口抉って生命力吸収。騙し討ち。
・弱点
→射撃系武器の扱い。俊敏でない(術と勘頼り)
・NG
→敵への同情、憐れみ


ほんっと、モノ頼む態度ってモンがなってねぇヤツらだコト

試練との言葉に小細工足した程度じゃ通用しそうにないかと悟る
ならば、オレらしくもナイ「見世物」をお見せしよう
眼と言わず髄にまで焼き付けて、還りな

【雪骸】で召喚するは嘗て喰らったオブリビオン
死とは無であるとの生死観から戦闘で使用した事なく
ペテンの道具でしかなかった技
さあ好きに暴れるがイイ、どうせ最後はオレの腹の中
一口だけでも残してくれたら
刃と雷、お好みの牙で喰らってアゲル



●BATTLE25:コノハ・ライゼ
『……はて。これはなかなか、異な状況でございまするな』
 "それ"は、己が存在するというありえない状況を、平然と受け入れた。
 そういうこともあるのだろう。なぜなら我が身は、すでに滅びたるモノ。
 されど。残骸と成り果ててなお、己は数多の闘争の果てに滅ぼされたはず――。
「あら。せっかく喚んであげたのに、冴えない台詞だコト」
 "それ"は、虚無的な笑みを浮かべるコノハを見た。そして、理解した。
「噫。そういえば、私めはあなたに喰われたのでございましたな」
 白髪に浮かべるは、全てに飽いたような退廃的な薄い笑み。
 両手には血まみれのチェーンソー剣を携え、こきりと彼方を見やる。
 屍の骨と肉を粘土のようにこねて作り上げたような、歪な屍巨人が在った。
「オレらしくもナイけどさ、どうせなら派手な"見世物"にしてあげたいでショウ?
 ――ああいう屍体(モノ)の相手なら、アンタが一番お似合いじゃん?」
 召喚されたオブリビオンは、くくっ、と喉を鳴らした。嘲笑うように。
「残骸(わたし)と残骸(あれ)を殺し合わせるとは、なるほど趣味が悪い」
「ヤだ、アンタみたいなのに言われると傷ついちゃうわネ?」
 さっぱりどうとも思っていなさそうな声音で、コノハは云う。
 然り。招来されしは、かつてコノハがその身に喰らいし残骸のひとつ。
 ここではない世界において、数多の屍人を生み出したモノ。その成れの果て。
 そいつは首を鳴らし、肩をすくめ、チェーンソー剣を輪動させた。
「ようございます――さて、あちらとあなた、どちらから仕留めましょうか」
 不敵な物言いに、人の形をした妖狐(バケモノ)は裂けるように嗤った。

 猟兵でありながら、かつて食らったオブリビオンを召喚する。
 それがもたらす結果は、すなわちタイマンではなく三つ巴の殺し合いだ。
 それこそが、コノハにとっては得手とするペテンと騙し討ちの格好舞台。
 チェーンソー剣と無限再生する屍巨人の掌とがごりごりとぶつかりあい、
 その間隙を塗って雷を纏った刃が屍肉を抉る。
 コノハの背中めがけ、当然のように振り下ろされたチェーンソーを、
 コノハは振り返りもせずに逆手の刃で受け止めた。踊るような死の交錯。
 なるほど、見世物とは言い得て妙。それはいわば死の舞踏である。
 残骸と残骸は喰らい合うように殺し合い、妖狐はその狭間で嗤い踊る。
 狂っていた。そこに在るものは何もかも、誰もかもが狂っていた。
「イキがいい獲物は大好きヨ? 喰いでがあるから最高だもの」
『私を再び喰らうと? 一度吐き捨てた残骸(モノ)だと言いまするのに』
 屍巨人の足を抉り、死肉を撒き散らしながら襲いかかるチェーンソー剣。
 コノハはこれをやはり受け止め弾き、そのまま心の臓腑を抉って引き裂いた。
「だからいいんじゃねェの」
 舌なめずり。臓腑を抉られた"そいつ"は、嗤いながら痙攣した。
 視界の彼方、お膳立て"させられた"屍巨人もまた、稲妻に囚われている。
 噫。まさに一石二鳥。さながら漁夫の利、なんともこの男は、実に――。
『呆れたほどの悪食で、ございまするな』
「褒め言葉として頂戴しとくワ。じゃア、サヨウナラ」
 妖狐の口が大きく開かれた。ぞぶりと、肉が食まれて啜り上げられる。
 かくして邪悪滅びたり。傲慢なる神の仕掛けた試練はものの見事に躱された。

 しかして、遺ったモノが善なるモノかは言いがたい。
 あるいはそれは、怪物に糧をくれてやっただけなのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
【1】
※以下
一切を、お任せ致します。

(これがやっと辿り着いた、病の果て)
(ここには病と猟兵の他にはなにもない。
守らなければならないものは。
森も。
いのちも。
なにもかも。)

(ととさまも、もうおれを見放されたのだもの)

お前もだ。
……おまえも。
燃えて。灼き潰れて。
そして――――



●BATTLE26:ロク・ザイオン
 人は逃げ去った。
 もとよりここに森はない。
 小さく切り取られた異界の庭、あるのは己と病の気配だけ。
 ……そうとも、ここは極北。己にはもう何もない。加護も、恩寵も、何も。
 声を枯らして叫んでも、小さな命を失いかけて、あの病には嘲笑われ。
 それを全て視られて識られたならば、それこそ隠すものは何もない。
(だから、病を灼こう。燃えて、潰して、滅ぼそう)
 あの邪神(やまい)を滅ぼせばいい。この戦いはそれで終わる。
 この庭を抜けるには、異界から来る何かを倒さねばならぬというのならば、
 ああ、なんでもいい、さっさと灼いて引き裂き滅ぼしてくれよう。

 ――ロクの捨て鉢な気配は、しかし最悪な形で潰えた。
「……え」
 森番の目が見開かれる。異界の門より産み落とされしものは、噫。
 森である。森が身動ぎしたかのような異形の存在であった。
 間口のように大きく開かれた虚の向こう、広がるのはたしかに見知った光景で。
 その異形をなぞるように、やはり見知った艶やかな女の体が同化していた。

 森(ととさま)だ。
 どうして、ととさまがここにいらっしゃる。
 なぜ。どうして病の開いた門からおいでになられたのだ。
 ……実際のところ、それは過去視を以てロクのすべてを詳らかにした邪神が、
 その記憶を模倣して捏ね上げた、比較にならない偶像(フィギュア)であった。
 父たる理性はなく、ただ獲物を求めた獣の如き雄叫びをあげる異形。
 だが。けれど。ととさまが、病によって産み落とされた膿であるというのなら。
「ととさま」
 枯れかけた声が震えた。それと同じ姿をした、しかし異なるモノが、ロクを視た。

 その瞬間、森番は、ついに己の全てを殺意と怒りで塗り潰した。
 ととさまを。おれの大事な大事な、崇敬すべき大切なととさまを。
 あの霧の街の幻でもなく、
 忌まわしい宇宙の装置でもなく、
 模倣(うつ)したな。贋作(つく)ったな。おれに見せたな。
「あ――」
 言葉は枯れた。声と同じように。ただ、黒々とした焔が燃えている。
 己は、その怒りという名の焔を、それで己を燃やすことをひどく恐れた。
 だってそれは、人の行いではない。それは病の行いなのだから。
「あああ」
 だからいつかの時、殺意を相棒に押し付けて吠えたけった。
 人を救おうとしたつい先程の戦いでだって、己は怯えながら煮えていた。
 けれど、もう、いい。こんなものを見せられるなら。こんなことがありえるなら。
「アアアア」
 全部、灼けてしまえ。
「ァアアアアアァアアア亜ぁA噫アAAAAぁああぁアァアアアアア合あAA!!!!!」
 おお、燃える。神なる獣の殺意の咆哮が、おぞましき焔の精を喚ばう。
 それは病を滅ぼす聖者の輝きなどではない。
 裁き、殺し、引き裂き、ちぎり、憎悪に呑まれた歪み病んだ焔。
 ロクが感じた殺意と憎悪に呼応し、揺らめく野火の群れが異形に殺到する。
「あああああああああああああッッッッ!!!!」
 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。灼け! 灼け!! 灼け!!!
 一秒もあってはならない。ととさまの似姿をした病など! 絶対に!!
 あっては! ならない!!! 野火よ、焔よ、悪禍(アッカ)の輝きよ!!
 灼け。あれを灼け! 引き裂き焦がして滅ぼし殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ――!!

 静寂が訪れる。
「……………………ととさま」
 違う。それはととさまではない。同じ姿をしただけの病だ。
 だからおれは殺した。そんなものはあってはいけないから。ああ、でも。
「ととさま」
 おれは、ととさまの姿をしたものを、灼いたのか。
「ああ、あ」
 もはや咆哮は生まれない。
 解けていく異界の庭に響いたのは、赤子のように啜り泣く哀れな嗚咽のみだった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

トルメンタ・アンゲルス
堪能?
面白い物?
感謝?

そんなことの為に、人々を危険に曝したのか?
そうか。

――許さない。
たとえどんな奴が立ちはだかろうが、叩きのめして、お前も潰す……!

諦めない、膝はつかない。
俺は決して、諦めない!
絶対に未来を掴んでみせる!

【1】
ー戦闘スタイル
超高速かつ物理法則を無視した軌道からの近距離戦

ー得意なこと
速い事
近距離戦
スピードに回すリソースをパワーに回して火力を上げる事

ー弱点
近距離戦故に、近づかなければならない
物理耐性を積まれると手段が無くなる
超強化ガラスメンタル(めちゃ強固だが、傷つくと簡単に砕ける)

ー絶対にやらないこと
誰かを犠牲にすることさせること(但し自分を犠牲にするのは厭わない)



●BATTLE27:トルメンタ・アンゲルス
『……猟兵。我らの天敵。世界に愛された未来の守護者。か。ふ、ふ』
 数多の異空間へと猟兵たちを放り込み、そのすべてを超然と見通す邪神が嗤う。
 ああ、やはりいい。試練を前にして足掻く者の姿は、神たる我を喜ばせる。
 その戦い。その生き様。その信念、苦悩、怒り、憎しみ、正義、何もかもが。
 何もかもが――たまらなく甘やかなのだ。どうしようもないほどに。
『……それで? そんなことのために、人々を危険に曝したのか』
『ほう』
 ナイク・サーは、声のした方に振り向いた。蒼い装甲を纏う戦乙女を。
『堪能。愉悦。感謝。そんなもののために、こんな地獄を生み出したのか』
『そうとも。腹立たしいかね。であれば――』
『許さない』
 言葉は端的だ。トルメンタを中心に、大気がうねりキイン、と高く鳴る。
『さっさと怪物とやらを出しやがれ。俺は、それを貫きお前を叩き潰す。
 ――お前のような奴の思いのままに、踊ってやるつもりも……ないッ!!』
 跳んだ! 音の壁を一瞬で駆け抜けての、超速ストレートジャンプキック!
 ナイク・サーの胴体の大口が開き、これに対抗しうる異界の戦士を招来した!
 おお、見よ。現れたのは、異形の天使というべき双面四翼の怪物!
 光にすら届くほどの蹴撃を真正面から受け止め、弾き飛ばす!
『邪魔だァッ!!』
 応ずるように天使が吠えた。その声音すらも忌まわしく邪悪だ!
 ガキ、ガギ、ガギギギギッ!! 二度、三度、鋼の天使と異形のそれは打ち合う!
 そして――なんたることか。吹き飛ばされたのはトルメンタのほうである!

 それでも、認めない。
 あんな光景(もの)を、あんな邪神(もの)を、あんな怪物(もの)を。
 認めてたまるか。受け入れてたまるか。屈してたまるか!
 成長しろ? ふざけるな、"そんなことはとうに実践済み"だ。
 あの日、仲間と上司と家族と――みんなを失い、恐怖に呑まれたあの日から。
 いつでも、どんなときでも、己はただまっすぐに進み続けてきたのだ。
 少しでも疾く。
 少しでも鋭く!
『俺は――いつだって、これまでだって、これからだって!!
 誰よりも疾く、誰よりも鋭く走り続ける! お前よりも!!』
 異界の天使は魂を堕落させる咆哮を上げ、宇宙的速度で鋼の天使を迎え撃つ。
 一・二・三四五十・二十・三十! 刹那すらでも追いつけぬ連撃・連撃・連撃!
 だが崩せぬ。異界の天使の翼は盾めいて彼奴を、邪神を護る。
『ならばッ!!』
《Power Line,Full Open. Maximum Drive──》
 マシンベルトが輝き、超高密度のエネルギー塊がその両掌に生まれた。
 本来であればこの超エネルギー弾を放つことで、トルメンタは全てを灼く。
 だが、なんたることか! 彼女はその超質量を――自らの裡に取り込んだ!?
『ハハハハハハ! 自爆して相打ちでもするつもりかね!』
『――そんなありふれた終局(おわり)で、俺が満足するとでも?』
 ナイク・サーは瞠目した。鋼の天使の装甲は、今や蒼ではなく緑に輝く。
 超エネルギーを受け入れた内臓コアマシンが、次元をも超えるほどの力を引き出しているのだ。
『俺の未来(みち)を邪魔するな――邪魔するのなら、すべて吹き飛ばすッ!
 バァアアアアスタァアアアアア・ノヴァ――ッ!!』
 その輝きは超新星そのもの! 異界の天使は翼を重ね邪神を守ろうとした。だが!
 超エネルギーに超スピード! トルメンタの持つ二つの力が相乗される!
 空間をも切り裂くジグザグの軌道は、おお、まさに!
『――スパァアアアアアアアアアアクッッッ!!』
 稲妻のごとし。神をも滅ぼす神の怒槌!
『バカ、な――!?』
 その輝きは、異形の天使を、邪神を、空を! 全てを貫き、燃やし、輝く!
 それこそが、弱き己を超える今の自分の強さだと誇るかのように――!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

アダムルス・アダマンティン
【結社】
1.
ー戦闘スタイル
重打撃高耐久の重戦車型

ー得意
受けて殴る。盾役になる

ー弱点
高機動遠距離戦
対神特攻

ー絶対にやらないこと
武器破壊

醜悪だな、邪なる神
教典の神ならぬ身でありながら、教典の民ならざる者を験していかにする
この人の子らは貴様の子にあらず
それでもなお人の子らを試金石に当てようと言うのであれば
我らナンバーズという試練を乗り越えてからにするが良い!

セレナリーゼ、レーネ。我らの力を示す時だ!


セレーネ・ブランシュ
【結社】
ー戦闘スタイル
手数重視の高速連打型

ー得意
高速起動戦、遠距離戦

ー弱点
体力が劣るので長期戦は不利
パワー勝負

ー絶対にやらないこと
武器破壊

別にアンタに感謝される謂れは無いわよ
神様名乗りながら、随分とこすっ辛い真似してんのね?
希望が欲しいならくれてやるわよ
但し、最大限に苦しめてブチ殺してあげる

成る程、私にとって相性最悪のタフなパワー型ね
ならば、やる事は──アダム、一回だけ死ぬ気で避けるか弾きなさい
我がⅫの極意、見せてやるわ


刻器解放。──示すは終焉を表すⅫの刻
一撃は耐えても、同じ場所に無数に追尾して射抜かれたら…どうかしら、ね!
我が弓から逃れられると思うな、邪神

アンタには、何より情熱がたりてないわ


セレナリーゼ・レギンレイヴ
【結社】
【1】
ー戦闘スタイル
広域を高威力を攻撃する固定砲台
ー得意なこと
対多数、動きが鈍い強敵戦
ー弱点
最大火力を出すのに時間がかかる
飽和攻撃に弱い
ー絶対にやらないこと
武器破壊

なんという、悍ましい神でしょうか
何をもって今を試すというのでしょうか
こんなものを神だとは認めません
おっしゃるとおりに、いえ
その余裕もろとも打ち砕いて見せましょう

素早く高速の連撃を持つ敵、けれど
私は一人ではありませんから
アダム様、どうか守護を
そしてセレーネ様、援護をいたします

刻器解放、示すは裁定を下すⅥの刻
書に願うのは不屈と超越
以前は一瞬の顕現のみでしたが、今ならば――

例え意識を手放そうとも
……先輩たちを信じておりますから



●BATTLE28:結社の三勇士
 超新星の如き輝きと熱量は、高みの見物を気取っていた邪神を滅殺せしめた。
 だが猟兵よ、心せよ。狂える賢者、ナイク・サーは依代を得て現れるモノ。
 数多の猟兵たちによって滅ぼされ砕け散った、異界の怪物どもの残滓。
 それらがひとりでに寄り集まり――おお、新たな狂賢者となって現れたではないか!
『ふ、は――は、ハハハ! 恐れ入った、天敵ども! これが――』
「私たちの力、だなんて。そんな眠たいこと云うんじゃないでしょうね?」
 超然と哄笑しかけたナイク・サーは、その声にうっそりと振り返る。
 セレーネ・ブランシュ。勝ち気な笑みは、しかしてすぐに顰め面に変わる。
「神様名乗りながらあんなこすっからい真似しといて、おめおめ逃げるワケ?
 希望が欲しいならくれてやるわ。ただし――最大限に苦しめてブチ殺した上でね」
 怒りだ。女の声音には、邪悪に対する漲るほどの怒りが燃えていた。
 ではそんな彼女の隣から、ずんと前に出たアダムルス・アダマンティンはどうか。
「醜悪だな、邪なる神よ。貴様は所詮、子もなき暗黒の海より来たりしモノ」
 往時の力は喪われど、神たる男は重々しく言った。
「経典の神ならぬ視でありながら、経典の民ならざる者を験して如何にする。
 試練を課すのは貴様ではない、我らだ。我らナンバーズこそが試練に相応しい」
『……よくも吠えたものだ、その出涸らしのような無様な有様で』
「お言葉ですが、神と呼ばうに相応しからぬ不完全なものはあなたこそでしょう」
 セレナリーゼ・レギンレイヴもまた、決然とした面持ちで邪神を否定する。
 祈り子たる乙女は、そんなものを神とは認めない。そのおぞましさを決して許容しない。
 己は若輩であり、並び立つ彼と彼女に比べれば情けないほどに未熟である。
 しかれど。それが、神を僭称する者を討たぬ理由にはならないのだ!
「決して逃しません。あなたはここで滅び、そして潰えるのです。
 アダム様、セレーネ様。私の力をお貸しいたします。ですから、どうか――」
 セレーネがくすりと笑った。
「言われるまでもないわよ。やってやろうじゃない、私達(ナンバーズ)で」
「然り。今こそ、我らの力を見せる時だ!」
 アダムルスの掲げた創槌が、バチバチとプラズマ光を放つ。漲る力!
『くだらんことを。ならば私の産み出す試練(もの)を超えてみせるがいい!』
 ごぼり――ナイク・サーの大口が、強大なる邪神を外世界から招来する。
 物理法則を嘲笑うかのごとく、現れたそれは風船めいて急速に膨れ上がるのだ!
『異界の庭など生ぬるい。君たちが人の側に立ち、私を誤りだとのたまうならば!
 せいぜい、君たちが護らんとしたこの世界を、この街を護ってみせるがいい!』
 身の丈は五メートル、いや十……ダメだ、その巨体それ自体が歪んでいる!
 既知の法則と知覚では、その巨大醜怪なる邪神の全容を捉えることは不可能!
 たしかなのは、それは人めいた上半身に六あるいは八つの足を持つ獣の胴を備え、
 強靭なる爪を有したいくつもの腕に、禍々しき邪神の祭器を掲げているということ!
 神話におけるケンタウロス、あるいは邪霊ナックラヴィーといった半人半獣を、
 さらに邪悪に、そして醜悪に、おぞましく歪めたかのような、見上げるほどの巨躯!
 いびつに生えた首が咆哮する。大気を汚染する音波が天地を穢す――!

 ズ、シンッッ!!!
 隕石のような質量が振り下ろされ、大地にクレーターを生み出した。
 その威力はさることながら、スピードもまた異常かつ強大の一語。
 三人はかろうこてこれを躱すも、邪神は数多の足で轢殺粉砕せんとする!
「ぬうんッ!!」
 アダムルスが前に出た。ヒズメめいた前足を大槌で弾き、押し返す!
 殺しきれない威力が両足から大地に伝搬し、アダムルスの周囲をひび割れさせる!
「アダムと互角のパワー!? 私じゃ相性最悪ね!」
「それにあの速度……チャージを仕掛けられたら大惨事が起きてしまいます。
 これ以上攻撃に転じさせる前に、再生を凌駕する火力で滅ぼさなければ……!」
 セレナリーゼの言葉は正しい。だがそれを実現するのは易いことではない。
「……アダム。今のもう一度行ける? 多分さっきのより重いのが来るけど」
 セレーネの言葉に、鍛冶の神はあちこちから血を垂らす背中で応えた。
「仔細なし。我がトールの創槌の本領を以て、お前たちの道を切り開く」
「――そうこなくっちゃあね! セレナリーゼ、タイミング合わせて頂戴!」
「承りました。刻器、解放――!」
 祈りに応じ、ミトロンの書が眩いまでの輝きを放つ。膨れ上がる魔力。
 同時にセレーネもまた、きりきりと弓弦を引く。動くことなく、一点を狙って!
 そこへ邪神が再び来る! 数多の祭器と、驚異的速度による惨劇じみた突進!
 ビルを薙ぎ払い地面を砕くほどの質量。人が相対していい破壊力ではない、だが!
「――刻器真撃。邪なる神よ。これが真に神たる、我が破壊なり!!」
 大きく見開かれたアダムルスの双眸が、内なる輝きで燃えるように揺らめく!
 バチバチと電磁力がその身を包み……おお、馬鹿な、真正面から撃ち合ったのだ!
 ズ、ゴォオン――ッ!!
 プラズマ光によって数倍にまで膨れ上がった創槌と、邪神巨体が正面衝突!
 強烈なインパクトが、両者の着弾点を中心に裂け目じみた破壊を生む!
 ……止まった! 邪神のチャージは、たしかにつかの間せき止められた!

「――刻器解放。──示すは終焉を表すⅫの刻」
 かち、かち、かちり――弓に備え付けられた時計が、来る時を報せた。
 その盤面が輝き、煌きは結弦を伝い弓を覆い、矢を引く女をも包み込む。
「その巨体、パワーだけじゃなくてタフネスだって相応のものなんでしょう?
 ――けどね。どれだけタフだろうが疾かろうが、"無限に射抜かれたら"どうかしら?」
 矢が放たれる。それはたたらを踏む邪神を貫き――否、祭器に打ち払われた。
 だが見よ! 四散した光はそのひとつひとつが新たな矢へと分裂し、
 再び収束! 邪神の表皮を傷つけ、散った光の粒が、さらなる矢へ……!
「……示すは裁定を下すⅥの刻。我が願いは"不屈と超越"――」
「セレナリーゼ!」
「――はい。今一度、我が身を捧げましょう。来たりて裁きを、御使いの霊よ!」
 セレナリーゼを包み込む光の柱。それが消えた時、天に翼を広げしは!
 四面を以て天地平線を見下ろし、人の子を睥睨する天の御使いなり!
 しかもそれはひとつきりではない。今なお分裂刺殺する希望の鏃のように、無数!
 軍勢と喚ばうべき御使いの群れが、輝ける槍を邪神めがけ投げ放つ!
『バカな! 我が最大の邪神を、お前たちごときが――』
「わかっていないな、邪なる神よ」
 アダムルスが峻厳たる面持ちで言った。イオンが灼け大気を焦がす。
「我らは只人にあらず。神にも非ず。刻器に選ばれたるナンバーズなり」
「そして、アンタらよりもよっぽど情熱を持った、世界の守り手よ」
「――裁きの時です、偽りの神よ!」
 Ⅰ、Ⅵ、Ⅻ。選ばれたる三つの刻器による、完全同時連携攻撃。
 "刻器連撃:終末を示す長針(ナンバーズ・カタストロフ)"ここに完成せり!
 恐るべき強大なる邪神は、その存在の根源を灼かれ、貫かれ――。
 希望の光と、神の力、そしてたゆまなき祈りの前に、滅びを迎えるのだ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年10月23日
宿敵 『ジャガーノート・イーグル』 を撃破!


挿絵イラスト