●救いの神様
わたしたちの学園には、『かみさま』がいる。
学園のかみさまに出逢えれば理想の思い描く世界に導いてくれる。
けれど、かみさまに救って貰うには条件がある。
それは『鍵』を貰うこと。そして、かみさまを崇める秘密の倶楽部に入ること。
たとえば品行方正だったり、成績が優秀であったり、友達をとても大切にしていたり、部活や委員会に励んでいたり、それからとても美しかったり――。
何かの切欠でかみさまに見初められたら、或る日に下駄箱や机の中に鍵が現れる。
その鍵は学園の何処かの扉をひらくもの。
鍵が合う扉を見つけたら、その先はかみさまに逢える場所に繋がっている。
かみさまはずっと一緒にいてくれる。かみさまは決して違えない約束をしてくれる。かみさまは理想の姿できみがすきだと云ってくれる。
ああ、かみさま。
どうか――わたしたちを、救って。
●鍵と倶楽部
「よお、お前ら。学校に通うつもりはないか?」
UDCエージェントのひとり、ディイ・ディー(Six Sides・f21861)は猟兵達に問い、日本国内の或る学園の入学案内を差し出した。
それはただの勧誘ではなくれっきとした邪神討伐関連の依頼だ。
「私立新儀学園。元は小中高の一環教育になってるお嬢様学校だった。今も女子の比率が多いままだが、最近共学になったって話だ」
軽く学園について語ったディイは組織が調べた情報を続けて話していく。
「学園では今、『かみさま』の秘密倶楽部という存在が噂されてる。何でも学園内でかみさまに見初められると入れる倶楽部で、そこでは救いが得られるんだとさ」
生徒達はかみさまを救いの存在だと信じきっている。
しかし、それは邪神によるまやかしだ。
多感な思春期、悩みを抱えていない者などいない。しかし年若い故に自ら行える解決策を持っている者も少ない。それゆえに彼女達は第三者から与えられる救いを求める。
だが、そんなものはない。
秘密倶楽部に入っている者は悩みがなくなったと云っている。
されどそれはかみさま――邪神に生気を抜かれて考える力が衰えているだけだ。
「まだ死者は出てねぇがこのままだと邪神の力が増しちまう。その前にちょっくら行って倒してきてくれ。編入手続きやらはこっちでやっとくからさ」
例のかみさまがいる場所に繋がる扉を開く鍵は、秘密倶楽部に入っている者――つまり邪神に操られた生徒や教師が配っているらしい。選定される基準は謎だが、共通しているのは学園生活をしっかりと送っている者だ。
「女でも男でも、更に言えば生徒でも教師でも関係はない。ただ、光る何かを持っていれば『鍵』が与えられる」
下手な探りを入れると怪しまれてしまう。
それゆえに最初はただ、学生や教師としての生活を送ればいい。
頼んだぜ、と軽く告げたディイは傍に置いてあったトランクを開く。其処には新品の学園指定制服――セーラー服や学ランが入っていた。
初等部、中等部、高等部とサイズも揃い踏み。
「もちろん制服着用は義務だからな。ああ、教師としての潜入でも良いけどさ」
元はお嬢様学校なので女生徒の方が動きやすいかもしれない。それゆえに自信があるならば女装をしても構わない。しかし通常の男子生徒や新任教師、教育実習生として動くことも無駄にはならないはずだ。
そう告げて口端を緩めて笑った彼はどうやらこの状況をやや面白がっているようだ。そしてディイは最後に重要なことを付け加えた。
「そうそう、学園での基本的な挨拶は『ごきげんよう』だからな。忘れんなよ!」
犬塚ひなこ
今回の世界は『UDCアース』
学生または教師として学園に潜入し、邪神の居場所を探って倒すことが今回の目的となります。
※このシナリオのプレイング受付は『2019/10/07、8時30分』からとなります。
●第一章
冒険『ごきげんよう お嬢様学園』
学園生活を楽しんでください。いわゆる学パロ気分でどうぞ。
露骨な捜査行動をすると怪しまれ、逆に何も探れなくなってしまいます。
『もし猟兵の皆様が日本で学園生活を送っていたら』という場面を描かせて頂きたいと思っております。女子生徒として、男子生徒として、女装(または男子だけど好みでセーラー服を着ている)、新任教師として、どんな形でも構いません。学年または担当教科の指定と心情があれば行動や描写おまかせも歓迎です。
一日のみではなく数日~数週間ほど在学した扱いで大丈夫です。
お誘い合わせのうえ友人や恋人同士で学園生活を楽しむ、一人で潜入して普通の友達を作る。部活や委員会に励んでみる、窓辺で孤独に黄昏れてみる、教師として過ごす、生徒を熱血指導してみるなどなど過ごし方は自由です。
学年は申告制。
年齢が違っても同じクラスに入れます。大人の方が学生になっても良いですし、ギフテッドが飛び級で教師になったという設定でもいけます。猟兵なのでどんな種族でも怪しまれません。ノリとフィーリングです。細かいことは気にせずどうぞ。
●第二章
冒険『深夜の密会』
夜の学校の冒険、というイメージです。
一章の時点で皆様の中に何かが輝いていると判断されると、いつの間にか机や下駄箱に鍵が入れられています。その鍵を持って深夜の学園に向かい、邪神のいる場所を突き止めることが目的となります。
一章で鍵を手に入れていなくても、選ばれた一般生徒や秘密倶楽部の一員らしき人を追跡するなどの方法で邪神の居場所を探ることができます。(詳しくは二章の序文で状況を書き添えます)
●第三章
ボス戦。
『かみさま』と呼ばれるものとの戦いとなります。
対象にとって最も傷つけたくないものの姿に変化したり、破れない約束を交わしたり、あなたが望む『理想の誰か』の姿になったりして惑わせます。そういった対象がある場合はぜひお書き添えください。ない場合は無難なものとなります。
第1章 冒険
『ごきげんよう お嬢様学園』
|
POW : お嬢様になりきって潜入
SPD : 普通に潜入
WIZ : 外部から情報を抜き取る
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
メドラ・メメポルド
がっ、こう?
そう、学校に?メド、行ったことないの
そうね、しばらくいないといけないなら、楽しんでみるわ
制服があるならきっちりと
言われた通りに着ておきましょう
お行儀よくするのは得意なのよ
ご挨拶もちゃんとするわ、ごきげんよう
メドは何年生なのかしら?
わからないけど、メドと同い年の子がいるところにいくわ
お勉強は……むずかしい
メドの知らないことばかり。でも、たのしいわ
わからないところはとなりの席の子でも、先生でも、聞いてみましょう
仲良くなったら、かみさまのはなしも聞けるかもしれないしね
ええ、お仕事だってこと、忘れてないわ
でも、かみさま
どんなかみさまなのかしら
会えたらいいな
●かみさまの学園
学校。
それはメドラ・メメポルド(フロウ・f00731)にとって馴染みのないもの。
皆が同じ服を着て、同じ時間に同じ場所に訪れ、同じ授業を受ける場所。そんな認識をしているが、実際に通ったことはない。
「――これが、セーラー、服。がっ、こう……学校のお洋服」
ふわふわ、ひらひらしているけれどきっちり、かっちりしている。制服に初めて袖を通したときの感想はそんな感じだった。
けれど今、学校に通い続けているメドラはすっかり制服にも慣れていた。
「ごきげんよう」
「ご機嫌よう!」
朝、自分が所属している小学生の教室に訪れたメドラはいつも通りの挨拶を交わす。最初は不思議な感覚だったがお行儀よくするのは得意だ。自然な挨拶をすればクラスメイトの小学生達もメドラに笑みを向けてくれる。
学園潜入ミッションは長期戦。
しばらくいないといけないなら楽しんでみたい。そう思って過ごすメドラには現在、仲の良い友達が二人いた。
「メドラ、今日の昼飯もいっしょに食べようぜ!」
「こら、カケル。今日はサナがメドラの隣に座って食べるの!」
「うん……三人で食べましょう」
元気な少年カケルと気の強い少女サナ。二人はメドラが座っている席の隣と真後ろの席の生徒であり、自然と仲良くなっていった子達だ。
生活の授業では同じ班であり、グループになって受ける授業のときは一緒になることも多い。少しぼんやりしているところのあるメドラの面倒を何かと見てくれるサナに、彼女の幼馴染であるカケル。
「サナ、メドラ、つぎは音楽室だぜ。早くしないと遅れるぞー!」
「リコーダーと、教科書があればいい?」
「大丈夫よ、メドラ。行きましょう!」
そんなやりとりをしながら今日もメドラは学園内での時間を過ごす。何よりも友達と過ごす時間はとても楽しく、メドラの日々は賑やかだった。
最初は学校ではみんな同じことばかりするのだと不思議に思っていた。しかし、学園で過ごしてみると分かったのは誰ひとりとして同じ者はいないということ。そのことをサナとカケル達が教えてくれている。
彼らだけではなく、学園を行き交う生徒も皆が其々の生活を送っていた。
そして或る日。
放課後、メドラは教室の窓辺で中庭を見つめていた。
其処にはベンチで休む学生や、ボール投げをして遊んでいる子供達が見える。
かみさまは、ああいった生命力のある子達に目をつけたのだろうか。学園内で噂される秘密倶楽部に思いを巡らせたメドラは滲む夕陽に向けて双眸を細めた。
「かみさま……どんなかみさまなのかしら」
会えたらいいな。
メドラがぽつりと零した声が誰も居ない教室に響く。するとそのとき、教室の扉が音を立ててひらいた。
「メドラ、いま『かみさま』って言った?」
問いかけながら歩いてきた影。それは既に下校していたと思っていたサナだった。
カケルは? とメドラが聞くと他の男子と一緒に遊びにいったという答えが返ってくる。それよりも、と隣に立ったサナは何かを言いたそうにしていた。
「サナ、かみさまのこと知ってるの?」
「うん……あのね、これ――」
サナはメドラに向けて掌をひらいてみせる。すると其処には小さな鍵があった。
曰く、先日に下駄箱を覗いたらこれが入っていたのだという。
「秘密倶楽部のこと、メドも聞いたことあるわ」
「サナ、選ばれちゃった。でもサナは怖くていけない……。メドラはかみさまに会ってみたいんでしょう。サナのかわりに、この鍵を使ってみる?」
「……いいの?」
「メドラだから、とくべつ」
そして少女は鍵と一緒に下駄箱に入れられていたというメモごとメドラに手渡す。どうやらサナは気が強い反面とても怖がりなようだ。こくりと頷いたメドラは鍵を受け取り、メモに目を通す。
『音が響きはじめる場所へ』
ただそれだけが記されたメモを見つめた後、メドラは少女に手を伸ばす。
「サナ、メドといっしょに帰りましょう」
「あ……うん! ありがとう、メドラ」
どうやら少女のようにかみさまを信じているわけではない生徒もいるようだ。まずはそんな彼女を安心させるために下校しようと決め、メドラはその手を引いた。
メモはきっとかみさまへの手掛かりだ。
近い内に夜の学校に忍び込む手筈を整えなければならないと思いながらメドラはゆっくりと歩き出す。
そうして手を繋いで廊下を歩く少女達の背を、黄昏の彩が照らしていた。
大成功
🔵🔵🔵
ティエル・ティエリエル
年齢相応の小学校低学年に編入するよ!
「ごっきげんよう!」
ボク、UDCアースの学校って初めて!アルダワ学園とは全然違うんだね!
ようし、まずは友達100人作っちゃうぞー☆
というわけで、編入したら「存在感」と「コミュ力」で友達いっぱい作って学園生活を楽しんじゃうぞ!
窓際で本を読んでそうな大人しそうな子にも積極的に話しかけてお友達になっちゃうね♪
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
●フェアリーズ・スクールライフ
鳴り響くのはウェストミンスターの鐘。
学園内で鳴らされている予鈴の音色を聞きながら、ちいさなランドセルを揺らしてティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)は教室に入っていく。
「ごっきげんよう!」
ティエルが元気よく挨拶をすれば周囲の小学生達も次々に挨拶をする。
「ごきげんよー!」
「ティエルちゃん、おはよう!」
「おっはよー、みんなー!」
特別製の翅の羽ばたきを邪魔しないランドセルを机に置いたティエルは朝の授業の準備を整えていく。今日の一限目は算数の授業だったはず。
掛け算を習っている最中の授業は少し難しいけれど、新しいことや知らなかったことも学べるのでとても楽しい。
授業が始まるまであと少し。
窓辺に腰掛けたティエルは其処から見下ろせる校門を眺めていた。視線の先には少し遅刻して走ってきている中学生ほどの男子生徒達の姿が見える。
その姿にくすりとティエルが笑むと、隣の席の少女が話しかけてきた。
「ティエルちゃん、宿題やってきた?」
「うん、ばっちりだよ! ユウちゃんは?」
「やってきたけどわかんないところがあって……」
じゃあ一緒に見よう、とティエルはユウという少女が広げたノートを覗き込んだ。ティエルはこの小学二年生クラスの誰とでも仲良くなってきたが、窓辺で本を読んでいた所に声を掛けたユウと一番気が合うと感じていた。
それゆえにこうして朝一番に話したり宿題を見せ合ったりしている。
この世界の学校は今までティエルが見てきたアルダワの魔法学園とは全然違う。少し規律が厳しかったり、ルールが多くもあるがそれもまた良いものだ。
「ティエルちゃん、ここ合ってる?」
「ええっと、うーん……大丈夫。たぶん!」
「多分じゃだめだよ。あははっ」
そんなやりとりをしていると、いつしか本鈴のチャイムが鳴った。ティエル達が席に付くと先生が教室に入ってきて授業を始めていく。
起立、礼。着席。
学校の授業開始を告げる一連ももう慣れたもの。
ティエルは教科書とノートを広げ、鉛筆を抱えて器用に授業を受けていく。フェアリー用の小さな物もあるが、みんなと同じ物を使うのもまた楽しい。
今日の授業は、算数・国語・音楽・体育の四時間。
計算をたくさんして、教科書の物語を朗読して、みんなで合唱をして、それからリレーの練習をして。お昼を食べて、休み時間にはユウや他の子と遊んで――そうやって楽しく元気に過ごしていく日々はとても楽しい。
今日もあっという間に授業が終わり、下校の時間がやってきた。
「せんせー、さようならー!」
クラスメイト達が帰りの挨拶をしてそれぞれに教室から出ていく中、ティエルにユウが声を掛けてくる。
「ティエルちゃん、一緒に帰ろう」
「いいよ、ユウちゃん! 今日も学校を一周してからでいい?」
「もちろんだよ。ティエルちゃん、お散歩するの好きだもんね」
これも日課になっている学内パトロールだ。
小学生として過ごす中、ティエルは毎日の学内散策を欠かさない。そうしてティエルはユウと一緒に学園内を回っていく。
そんな中、親友になった彼女にティエルはそっと告げる。
「ふふん、実はユウちゃんには言ってもいいかな。実はボク、世界を旅するお姫様でね、この学園を護るために来たんだ」
「わあ、本当にお姫様なの?」
「みんなには内緒だよ!」
ユウは驚いていたが疑ってはいないようだ。口元に人差し指を当てて告げたティエルは明るく微笑んだ。
そしてパトロールを終えた二人は昇降口へ向かう。
いつものようにティエルが割り当てられた下駄箱を覗くと、其処には――。
「あっ!」
「ティエルちゃん、どうかした?」
「ううん、何でもないよ」
思わず声を上げたティエルをユウが不思議そうに見つめる。まさかこのタイミングで『鍵』が下駄箱に入れられていると思いもしなかったので驚いてしまった。
しかし、ティエルは首を振って大丈夫だと答える。
(鍵かぁ……ええと、『上へ、上へ、遥かな上へ』……?)
見れば、鍵には小さなメモが付けられていた。それがきっとこの鍵がひらく場所のヒントなのだろう。
ティエルは夜の学校に忍び込む時が来たのだとして決意を固める。
せっかく仲の良い友達もできたのだから、この学園を得体の知れないかみさまなんかに支配させない。そんな思いがティエルの裡に巡っていた。
大成功
🔵🔵🔵
榎本・英
新米教師として潜入しよう。
担当教科は国語。
普通に過ごして普通に接する。
違和感がないように平凡に。いつも通りだね。
放課後は図書室で本でも読み漁ろうかな。
この本はとても懐かしい。
学生の頃に何度も読んでいた本だ。
こっちの本も、こっちの本も懐かしい。
この本は新しい本。まだ読んだ事がない。
嗚呼。ついつい読み更けていた。
君は確か……。
授業で分からない所があったから教えてほしい?
私は君を教えていないから担当の先生に怒られてしまう。
ふーむ……仕方がない、今日だけ。今日だけだからな。次はないよ。
平凡に生活して平凡に生徒に教えて平凡に本を読む。
教師はつまらない。
●教え、示す者
平々凡々。極々普通に。
新米教師、榎本・英(人である・f22898)は何の変哲もない日々を送っていた。
「榎本先生、ご機嫌よう!」
「嗚呼、ご機嫌よう」
元気よく朝の挨拶を投げかけてくる生徒に静かな声を返し、英は軽く会釈する。
取り立てて目立つわけではないが存在感がないわけでもない。平凡な日常を過ごす平凡な推理小説家――もとい、今は国語教師。それが英の立ち位置だ。
英は特に目立ったことはしない。
普通に過ごし、誰にでも平等に接する。それこそが学園に溶け込む為の英なりの潜入捜査方法だ。
「つまりこのとき、この描写によって作者が言いたかったことは――」
様々なクラスに出向き、教科書通りの授業を行う英。
日本の勉強の傾向である作者の思いがどうこうという指導については疑問を呈したかった。こういったものは自分で感じたことが一番だというのに。誰も作者の気持ちなど分かるはずがないと英は常々考えていたが特に口には出さない。
英は淡々と、しかし決して手を抜くことなく極々普通の授業を行っていった。
そうして、放課後は図書室に向かう。
その目的は本を読み漁ること。教師としてではなく個人としてのささやかな休息のひとときでもあった。
「ああ、この本は……」
とても懐かしい、と手に取ったのは学生の頃に何度も読んでいた本。
これがもう一度読めるのかと思うとつい感慨深くなる。頁を捲り、慣れ親しんだ文面に目を通す英は双眸を細めた。
こっちの本も、こっちの本もただ懐かしい。
気付けば英の日課は図書室の本を順に読むことになっていた。めぼしい本はあらかた読み尽くしてしまった英は、まだ読んだことのない本に手を伸ばした。
「この本は最近出た新しい本かな」
何でも新人作家の推理小説らしい。よくある洋館物ではあったが冒頭の数行を読んだだけで興味をひかれ、英はゆっくりと頁を読み進めていった。
そして日も沈みはじめた頃。
「嗚呼。ついつい読み更けていた。と……君は?」
「……先生」
英は隣に生徒が来ていることに気付き、顔を上げた。その女生徒は見覚えがある。よく図書室で本を読んでいる子だが、いつもぼんやりとしている印象があった。
「この前の授業でわからなかったところがあるの。おしえて……」
女生徒は生気のない声で問う。
其処に違和を覚えた英は少し考え込み、その申し出を断ってみることにした。
「私は君を教えていないから担当の先生に怒られてしまう」
「どうしてもだめ?」
すると生徒は妙に焦点が定まらぬ瞳で英を見上げる。其処で英は或ることを察したが、何も言わぬまま近くの机を示した。
「ふーむ……仕方がない、今日だけ。今日だけだからな。次はないよ」
「ありがとう、先生」
席に付いた女生徒は教科書を広げ、此処がわからないのだと話しはじめる。しかし、彼女は普通ではない。
現に――そう、教え終えた後に英の広げていた推理小説の間に鍵が忍ばせてあったのだ。きっと彼女が隙を見て入れていったのだろう。つまり少女は秘密倶楽部の一員であり、英に狙いを定めていたのだろう。
妙に生気がなかったのも頷ける。だが、図書室を去った彼女を追ったとて明確な手掛かりは手に入らないことも分かった。
英は鍵を握り、一緒に差し込まれていたメモに目を通す。
『文字の波間、更にその奥へ』
不可解なメモはきっとかみさまという存在に繋がるヒントなのだろう。英は夜の学校に忍び込むことを決め、そっと立ち上がる。
だが、同時に思うこともあった。秘密倶楽部のかみさまの使徒として操られているであろう少女はきっと、彼女なりの悩みや苦悩を抱えている。
けれど自分にはその心を直接救ってやることは出来ない。
平凡に生活して平凡に生徒に教えて平凡に本を読む。ただそれだけのことしか叶わぬことを英は知ってしまっている。
「……教師はつまらないな」
落とした言葉は誰にも聞かれず、秘めた思いと共に静かに消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
ザザ・クライスト
【狼の巣】
留年した挙句転校してきたワケアリの学生として潜入
授業はサボり気味
外国語の授業だけは出て流暢に対応
挨拶はドイツ風にグーテンタークなど
浮いたオレに話しかけてくるなら適当に【情報収集】
「どいつも悩みなんかなさそォで羨ましィぜ」
ボヤいて【おびき寄せ】る
昼飯では寝たフリで【聞き耳】
放課後は屋上など人目のつかない場所で二人と情報交換
「オレだけ凄ェカヴァーなンだがな……」
二人を見て、
「曹長はあまり変わらねェな、口を開くとボロが出そうだけどよ」
クツクツと笑ってリィには、
「なんだかんだで一番違和感がねェ、理不尽だぜ……」
肩を落とすが「イヤ、似合ってるぜ、オレら二人よりよっぽどな」と褒める
アドリブ歓迎
チガヤ・シフレット
【狼の巣】で参加だ
リィのことは妹分として可愛がり
学園潜入?
なるほどなるほど。……見た目厳しいとかいうんじゃない。これでもまだまだ若いんだ!!
イケるさ。『ちょっと大人びた外国からの転校生』とかそういうので行けるだろう!?
とりあえず、普通に学生生活ってやつをしてみるか
光るものとか言われてもわからんからな
体育やらはまじめに出るが、他の科目は寝てしまいそうだ……
あとは学生たちと仲良くなりつつ【情報収集】だなァ
「くくく、いくらなんでもザザよりはマシだからな。黙っていれば美人、口を開けば親しみやすいと評判だぞ? たぶんな」
「リィは普通に可愛いなぁ。モテすぎないように気を付けるんだぞ」
リィリィット・エニウェア
【狼の巣】で参加
チガヤ・シフレット(f04538)はチガねーさん
ザザ・クライスト(f07677)は隊長と呼びます
勿論、潜入中は違和感ない呼び方で!
姓+先輩かな?
普通に学生なので普通に学生として潜入
常識外れしてもいいように設定は
『遠くの小国からの転校生』ってトコ?
隊長さんには
「違和感ないって当たり前でしょ、あたしの身分は学生だもん」
ぷくーと膨れて応える
こんな時に役立つガジェットってなんなんだろう……
まあいいや!しょーたーいむ!!(無茶ならカットして構いません)
光るものがある生徒……爆破すれば光るよね?
だ、大丈夫!こんなとこで爆破はしないから!
元の学校だと大丈夫だったんだけどなー
●いざ学園へ
私立新儀学園への潜入任務。
それを受け、同時期に編入手続きをしたのはザザ・クライスト(人狼騎士第六席・f07677)とチガヤ・シフレット(バッドメタル・f04538)、そしてリィリィット・エニウェア(迷宮は爆発だ・f13106)の三人だ。
ザザは留年した挙句転校してきたワケアリの学生として。
チガヤはちょっと大人びた外国からの転校生として。
リィリィットは普段と変わらぬ普通の学生として。
それぞれに違う学年とクラスに編入した彼らは、各自で情報収集を行っていく。
●ザザの場合
「御機嫌よう!」
「……グーテンターク」
学園のお決まりの挨拶にザザが返すのはドイツ風の挨拶。
不思議な転校生が来たと当初は噂になったものだが、ザザはまともに授業に出ようとはしなかったので次第に生徒達との距離が開いていった。
しかし外国語の授業だけはしっかりと出て、しかも妙に流暢に対応するザザはとてもよく目立っている。
――大富豪の隠し子なのかしら。
――いえ、何処かの国の王子様らしいわ。
そんな噂が流れ出したのも知っていたが、ザザは敢えて何も反応しないように努めていた。どんな形でも目立てば誰かの目に留まることもある。
それが『かみさま』の使者、つまり鍵を配っている秘密倶楽部の面々であるならば万々歳だ。そうしてザザは浮いた学園生活を送ってゆく。
王子かもしれないという噂が立ったことで、彼に話しかけてくる奇特な者も次第にいなくなっていった。
「どいつも悩みなんかなさそォで羨ましィぜ」
時折、窓辺で黄昏れるようにぼやいたザザの狙いは使者を誘き寄せること。
まるで自分に悩みがある。
そう告げるように振る舞うザザは情報収集を行っていく。昼飯では寝たフリをしながら聞き耳を立て、放課後は適当に学内をぶらついて噂を集めていった。
だが、聞けたのは事前情報として聞いていた『かみさまが救ってくれる』という情報だけ。おそらく何も知らない生徒が文字通りの噂をしているだけなのだろう。
「……収穫がねェな。屋上、行っとくか」
放課後、殆ど誰も居なくなった廊下の窓辺でザザは夕陽を見上げた。
向かう先には屋上に続く階段がある。
其処で落ち合う手筈を整えている仲間に会うため、ザザは歩き出した。
●チガヤの場合
学園潜入には些か自分の見た目は厳しいかもしれない。
完全なる大人であり、それなりの色気も持ち合わせているチガヤが編入前に感じていたのはそんなちょっとした不安。
だが、いざ学園に入ってみればそんなものは吹き飛んでしまった。
セーラー服は意外と馴染んでいる。もしかすれば制服というのはすべてを包み込んでくれる万能の服装なのかもしれない。
「さて、普通に過ごすのが良いらしいからな……」
チガヤは極々平凡な学園生活を送っていた。サボることで目立とうと決めたザザとは違い、授業にはちゃんと出ている。
ただ体育以外の授業では思いきり寝てしまっていた。
だが、それもまた学校生活ではよくあることだ。光るもの、と言われてもチガヤには学生として何が評価されるものなのかは分からないでいた。
それゆえに自分らしく、できることをやっていくチガヤ。
すると次第に学内でチガヤに憧れる女子生徒が多くなってきた。元よりお嬢様学園だったというのだから、女性が女生徒に抱く憧れも強いのだろう。
「チガヤお姉さま、何だか素敵よね」
「ちょっと、お姉さまなんて呼んだら失礼じゃなくて?」
「でもお姉さま……本当に格好良いんだもの」
そんな話がチガヤの耳にも少しずつ届いてきていた。どうやら彼女のアウトロー的な雰囲気が格好良いと評判らしい。
何だかむず痒い気もしたが、こうして目立つならば潜入の甲斐もある。
そうして今日もチガヤはセーラー服のスカートをなびかせ登校していく。ご機嫌よう、と掛けられる声にも随分と慣れたものだ。
そして、いつものように教科書を取り出そうと机に手を伸ばすと――。
「……鍵?」
チガヤは見知らぬ鍵が入っていることに気付き、やっと来た、と感じる。
鍵をポケットに入れたチガヤは放課後に仲間を呼び出すことにした。かみさまの秘密倶楽部。その正体を明かすためにも、先ずは報告が必要だ。
●リィリィットの場合
彼女は今、とても楽しい学園生活を送っていた。
何故なら転入先のクラスでたくさんの友達が出来て、毎日知らないことを勉強し、充実した日々が流れていっているからだ。
この世界の学園の作法は最初こそ難しかったが、徐々に知って慣れてきた。
特に、起立と礼、それから着席をする授業はじめの挨拶はとても興味深い。これが礼節を重んじる国の規律なのだと思うと妙に面白かった。
少しばかり常識外れな振る舞いをしてしまうことも、小国から来たという設定でなんとか乗り切っている。寧ろそれが面白いとクラスメイトからは評価されていた。
「ごきげんよう!」
「ご機嫌よう、リィさん」
リィリィットはいつものようにクラスメイトと挨拶を交わし、一限目の授業に向かう。今日は確か理科の実験の日だ。
過冷却現象を調べるという話を先生がしていたと思い出し、リィリィットは意気揚々と生徒達と一緒に理科室に向かっていく。
「そういえばリィさん、機械や実験にお詳しいの?」
「うん、少しだけね。今日の実験も頑張るよ!」
クラスで出来た友人に問われ、リィリィットは笑顔で答えた。
そうして授業は始まっていき、いよいよリィリィットが水が瞬く間に氷に変わっていく様を確かめる順番が来た。
しかしただ見るだけではつまらない。なにか出来ることがあるだろうかと考えたリィリィットはガジェットを取り出した。
「こんな時に役立つガジェットってなんなんだろう……まあいいや! しょーたーいむ!!」
勢いよく力を発動したリィリィット。
その瞬間、ぴかぴかと光るガジェットが現れる。それはまるでスポットライトのような強い光を起こす機器だった。そしてスタンド照明のような形をしたそれは過冷却現象を起こす様を眩しく照らしていく。
「よ、よく見えるようになったよ!」
一瞬は呆気にとられていた生徒達だったが、じゃじゃーんとリィリィットがガジェットライトを示したことでくすくすと笑う。
「まあ、リィさん。そのためにこれを持ってきたの?」
「ふふっ、おかしいですわ。ふふふ……」
「おかしいかなあ? 元の学校だと大丈夫だったんだけどなー」
リィリィットは首を傾げ、笑う生徒達の様子を眺めた。しかしこれもまた楽しい授業の一貫であり日常のひとつだ。
そのことに不思議な楽しさを覚えたリィリィットもまた、ちいさく微笑んだ。
●放課後
そして、その日の放課後。
ザザとリィリィット、チガヤの三人はそれぞれの潜入成果を話すために屋上に集っていた。聞けば皆がそれなりの学園生活を送っているらしい。
「オレだけ凄ェカヴァーなンだがな……」
ザザはセーラー服を着ている二人を見て自分の学ラン姿と見比べてみる。クツクツと笑ったザザは彼女達への感想を告げた。
「曹長はあまり変わらねェな、口を開くとボロが出そうだけどよ。なんだかんだでリィは一番違和感がねェ、理不尽だぜ……」
「くくく、いくらなんでもザザよりはマシだからな。黙っていれば美人、口を開けば親しみやすいと評判だぞ? たぶんな」
ザザに対し、チガヤはその場でゆっくりと回ってみせた。制服姿もなかなか似合っているだろうと示すような仕草だ。
するとリィリィットがぷくーと頬を膨らませてザザを見遣った。
「違和感ないって当たり前でしょ、隊長。あたしの身分は学生だもん」
「リィは普通に可愛いなぁ。モテすぎないように気を付けるんだぞ」
「大丈夫だよ、クラスはほとんど女の子だから」
「いや、女生徒だからこそなんだが……まぁいいか」
チガヤはリィリィットを宥めるように告げ、ザザも肩を落としながら「似合ってるぜ、オレら二人よりよっぽどな」と褒めていく。
そして、三人は肝心の秘密倶楽部についての報告を行っていった。
「――ってことは鍵を手に入れたのは曹長だけか」
「そうなるな。それと一緒にこんなメモも入っていたぞ」
ザザが確認すると、チガヤが鍵と一緒に小さなメモ用紙を取り出した。それを覗き込むようにリィリィットが顔を近付け、メモを読む。
「えっと……これって、なぞなぞ?」
其処に書いてあったのは『無数の画面の裏側で』という文字。
それがかみさまという存在に繋がるヒントなのだと感じた三人は顔を見合わせた。鍵はひとつだけだが、三人で共に行動すれば問題はないだろう。
そして、彼らは決めた。
いずれは夜の学校に忍び込み、秘密倶楽部への道をひらこう、と――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・嵐吾
せーちゃん先生(f00502)と共に学園ライフを楽しむ
『新任体育教師』として赴任
わりかし楽しい
授業というのが上手くできとるかはさておき、じゃけど
昼食は、その日ごとに気紛れで場所を変え、時間合えば一緒に近況報告タイム
せーちゃんの方はどうかの。なんかおもろいことあったかぁ?
えっ、添削? というかそれは…いやわしは何も言うまい
…人の恋路にかかわってはならん(ぼそり)
わしはの、皆と球遊びとかして楽しい。せーちゃんじゃとすぱーと斬ってしまいそうじゃな
学生、というものをしたことはないが…こういうの青春と言うんじゃな
あ、せーちゃんその甘酢な肉団子ほしい
わしのから好きなのあげよ、たまごやきでもタコさんでも
筧・清史郎
らんらん先生(f05366)と新人教師として
担当教科は書道だ
硯箱の俺にうってつけだろう
午前の授業はひたすら生徒と写経三昧で、非常に有意義であったな(微笑み
らんらんとお昼を共に食べよう
面白い事…ではないが、そういえば、らんらん
毎日沢山、俺の下駄箱に生徒達から文が入っているのだが
これは字の添削をして欲しいと提出しているものなのだろうか?(首傾げ
記名や組の記載がないものもあり、添削後返却できず困っている…
…? らんらん?
球遊びか、やったことはないが楽しそうだな
相手が投げた球を両断すれば良いのだろうか(勘違い
学園生活、硯箱の俺には無縁であったが、結構楽しい
では、肉団子とタコさんを交換こでどうだろうか?
●青春教師生活
麗らかな午後、学園内の廊下。
昼食を終えた生徒達が思い思いの昼休みを過ごす時間。
「ご機嫌よう、らんらん先生! それにせーちゃん先生も!」
元気の良い生徒達が手を振り、廊下を歩いていく終夜・嵐吾(灰青・f05366)と筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)へ挨拶をしていく。
「うむ、ごきげんようじゃ」
「ご機嫌よう、皆」
二人から其々に挨拶が紡がれると、きゃーきゃーと黄色い声が返ってきた。
嵐吾は体育教師。
そして、清史郎は書道の先生として学園に赴任してきている。
立派な大人、それも容姿端麗かつ優しげな彼らに生徒達は沸き、人気は日に日に高くなっていった。今日の午前も嵐吾は生徒と共に体育授業内でスポーツを楽しみ、清史郎も新たなクラスを受け持って指導してきたばかりだ。
「先生というのもわりかし楽しいの。授業というのが上手くできとるかはさておき、じゃけど……せーちゃんの方はどうかの」
嵐吾は生徒の背を見送りながら、清史郎と共に昼食場所へと向かう。今日はよく晴れている。それゆえに二人で中庭で昼を食べようと朝から予定していた。
「午前の授業はひたすら生徒と写経三昧で、非常に有意義であったな」
清史郎は微笑み、授業の様子について語っていく。元は硯箱ゆえ書道を担当したことは清史郎にはうってつけ。
何も苦ではないと語っている間に、二人は中庭に到着する。
そうかそうか、と頷いた嵐吾は清史郎と共に隅のベンチに腰掛け、弁当を広げてゆく。中庭では生徒達が話す声やじゃれあう笑い声がよく聞こえる。
実に平和な光景だ。
そう感じた清史郎と嵐吾は昼の近況報告タイムに入っていく。気になる生徒や教師は居ないか、学園に蔓延る秘密倶楽部の情報はないか。
それらを語りながら学校内について話す。その流れがこの学園に潜入捜査に入ってからの日課であり、同時に安らげる時間でもあった。
今はまだ特に進展や情報はないとして報告を終えた後、卵焼きを箸で掴みながら嵐吾は清史郎に問う。
「なんかおもろいことあったかぁ?」
「面白い事……ではないが、そういえば、らんらん」
「うん?」
もぐもぐと卵焼きを食べる嵐吾は首を傾げる。すると清史郎は至極真面目な表情で疑問に思っていることを語っていく。
「毎日沢山、俺の下駄箱に生徒達から文が入っているのだが、これは字の添削をして欲しいと提出しているものなのだろうか?」
「えっ、添削?」
清史郎が冗談を言っているのではないと分かり、嵐吾は思わず固まる。このにぶちんめ、と言いたくはなったが女生徒達もきっと真剣だ。
「記名や組の記載がないものもあり、添削後返却できず困っている……」
「というかそれは……いやわしは何も言うまい」
人の恋路にかかわってはならん、とぼそりと呟いた嵐吾。しかし清史郎は意味がわかっていないらしく、首を傾げながら考え込んでしまった。
これ以上は言及することでもないとして嵐吾は教師としての近況を話していく。
「わしはの、皆と球遊びとかして楽しい」
今日は中学生とドッジボールをしたのだと彼が話すと、清史郎が興味を示した。
「やったことはないが楽しそうだな。相手が投げた球を両断すれば良いのだろうか」
「そうではないんじゃが、なかなかに白熱する。せーちゃんじゃと本当にすぱーと斬ってしまいそうじゃな」
可笑しそうに口許を緩めた嵐吾は肩を震わせる。何かおかしいことを言っただろうかと不思議がる清史郎は見ていて飽きないからだ。
自分達は教師という立場ではあるが、こうして学園生活を満喫している。
誰かと関わり、時には切ない思いを抱き、恋に破れることもある。それでも、その中で生きる学生達の瞳は輝いていた。
「学生、というものをしたことはないが……こういうのを青春と言うんじゃな」
「そうだな。学園生活など俺には無縁であったが、結構楽しいものだ」
頷きを交わす二人は中庭や廊下を行き交う生徒の姿を見つめる。ひとりひとりが違う個性を持ち、考えを抱き、懸命に日々を過ごしているのだろう。
その営みを邪神――それも『かみさま』などという存在に穢させてはいけないと切に感じることが出来た。
そして、二人は昼食を続ける。
「あ、せーちゃんその甘酢な肉団子ほしい」
「では、肉団子とタコさんを交換こでどうだろうか?」
「わしのから好きなのあげよ、たまごやきでもタコさんでも」
「交渉成立だな。頂こう」
そんなほのぼのとした遣り取りを交わす二人は、もう暫し続くであろう教師生活を思いながら賑やかな学内の光景を眺めた。
そして、あくる日。
いつものように一緒に昼食をとっていると、ふと清史郎が思い出したように懐から手紙を出した。また恋文かと思いきや、それは――。
「見て欲しいんだが、らんらん。実は鍵が同封された文があってな」
「それじゃ、それが件の秘密倶楽部のやつじゃろ。せーちゃん、流石じゃの」
傍とした嵐吾は手紙を受け取り、中を開いてみた。
其処には『遥かな高みから飛び降りる』という不可解な文字が書かれたメモが一緒に入っていた。それが示す意味はまだ分からない。
しかし、手に入れたのは確かな道標だ。
学園秘密倶楽部。その真相に迫るときが近付いている。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
比良野・靖行
御嬢様学園に僕のハイカラがどこまで通用するのか……!
僕はごくごく普通の一般男子生徒として潜入しようじゃあないか。
そうだな、高等部二年生辺りならいい感じだろう。
ひとまず、優等生のふりをしながら友人を増やすことに尽力しようかな。
友人が増えれば入ってくる情報もまた増えるというものさ。
うむうむ、昔は学友といろいろやったぞ。至るところに爆竹を仕込んだり、すけべな本を回し読みしたり。
しかしてさすがにここでそれはよろしくない。空気感がよろしくないと言っている。
僕は空気の読める文豪なのだ。
……それはそれとしてすけべな本は読みたい。
いや、そういった隙が親しみやすさに繋がるのだよ。
繋がるんだとも。ほんとだぞ。
●男子高生の華
ごくごく一般的な男子生徒。
それが此度、比良野・靖行(Mysterious BAKA・f22479)が演じる役割だ。
高校二年の転校生として私立新儀学園に潜入した靖行の目的はひとつ。御嬢様学園に自分のハイカラがどこまで通用するのかということ――だけではなく、『かみさま』について探ることだ。
「やあ、ご機嫌よう」
靖行はいつものように学園特有の挨拶を周りに振り撒く。
後光が射しているような、もとい本当に後光が射しているのだが、靖行が挨拶をするだけで周囲が明るくなっていく。
彼は文字通りの品行方正な優等生として日々を過ごした。
特に男子生徒が比較的少ない学園の中で文字通りの光るものを持つ彼には、同性の友達が多く出来ていく。
「比良野くん、昼食をいっしょにどうかな」
「ああ、良いとも」
「靖行ー! 放課後に勉強教えてくれねえ?」
「勿論だ、約束しよう」
皆、気さくに靖行に話しかけて頼ってくれる。それは思う以上に心地の良いことであり靖行は友人達に快く応えていった。
友人が増えれば入ってくる情報もまた増える。だが、それよりもただ友と過ごすという時間もかけがえのないことだ。
「そういや靖行、お前って転校してくる前はどんなだったんだ?」
日々を過ごすある日、友人のひとりが靖行に問いかけてきた。すると靖行は昔を懐かしむように双眸を細めて語る。
「うむうむ、昔は学友といろいろやったぞ。至るところに爆竹を仕込んだり、すけべな本を回し読みしたり――」
「すけべな本!? いや待て、爆竹!!??」
さらりと話される衝撃の事実に驚く男子生徒。
一応なりにも此処は元お嬢様学校。いくら近頃共学になったとはいえ、爆竹に触れたことのあるような男子は少ない。すけべ本はさておき。
「……比良野くん、例の本について詳しく」
「俺にも聞かせてくれ」
しかし、その話を聞きつけた別の友人達が集まってくる。だが靖行もさすがに分かる。ここでそれはよろしくない。善良な男子生徒達のいけない扉をひらいてしまうのは空気感がよろしくないと言っている。
そう、靖行は空気の読める文豪であった。
「冗談だよ。ごく普通の生徒だったぞ」
それはそれとしてすけべな本は読みたい。建前にそっと本音を付け加えながらも靖行は男子生徒達を手招き、教室の隅で暫し爆竹談義という名のちょっとした年頃男子トークに花を咲かせた。
少しばかり白けたような女子の視線が痛いような気がしたが、本来男子とはそういうものなのだ。靖行は悪くない。例の本という存在が全男子を揺らがせるのだ。
されどきっと、そういった隙が親しみやすさに繋がる。
そして、靖行と男子生徒達の絆は今までよりも強固なものになっていった。理由は此処では記すことは出来ないが、つまりは青春である。
「靖行……すごい奴だ……」
「比良野くんから素晴らしいことを聞いたよ……」
男子生徒達が感心する中、靖行は今日も後光を背負ってハイカラ道を往く。
そして、或る日。
「……これは?」
いつものように学ラン姿で登校した靖行の下駄箱に見知らぬ物が入っていた。
一枚のメモ。そして、ちいさな鍵。
『音の交わる場所で』
メモにはただ一言、そんな文字が記されていた。不可解ではあるがこの鍵こそが秘密倶楽部に関わるものであり、メモが何かのヒントなのだろう。
靖行は鍵を手にして教室へと歩き出す。かみさまと逢えるという夜まではまだ時間がある。それゆえに今日も普段通りの学園生活を送ろうと決め、靖行は廊下ですれ違う生徒達に挨拶をしてゆく。
「――ご機嫌よう」
かみさまを倒せば全て終わり。この挨拶を交わすのも、もう最後なのだろう。
ほんの少しの名残惜しさを感じながら靖行は鍵を握り締めた。
大成功
🔵🔵🔵
新海・真琴
【POW】
高校生として潜入
セーラー服、元の世界でも着たことないんだけど……
(スカートをあまりはかない派)
……こっちの世界は、学問が進んでるんだね
(理系がサッパリ)
とりあえず、文系は真面目にやってれば怪しまれないだろう
得意な事、薙刀と手芸でどっちが馴染めるかと言えば……手芸か
薙刀はガチで影朧と殺り合うためのもんだから、いつもの動きでやったら怪しまれちまう
それじゃあ手芸部で、サクラミラージュにはないタイプの手芸に精を出そうかね
へー、レジン、樹脂細工か
こっちの小さい布は?パッチワークって言うのか
色々試してみようかね
ああ、先生。こういうの作ってみたんだけどどう?
(※アドリブ、絡み歓迎です)
●桜と鍵
風が頬を撫でれば、スカートの裾がひらりと揺れた。
未だ慣れぬ服装を見下ろした新海・真琴(薄墨の黒耀・f22438)は掌でスカートを押さえ、その場でくるりと回ってみる。
「セーラー服、元の世界でも着たことないんだけど……不思議な感じ」
元よりしゃっきりとした衣で身を包むことの多い真琴だが、これも潜入捜査のためとあらば仕方がない。
いつものように登校した真琴はクラスで出来た友人達に挨拶をしていく。
「ご機嫌よう」
「まあ、ご機嫌よう真琴さん」
品のいい女生徒が微笑みながら軽く礼をする。礼儀正しくていつも身が引き締まる気持ちになるが、この挨拶もまた不思議に思えた。
そうして真琴は普段通りに授業を受けていく。
真琴に割り当てられているのは廊下側の一番後ろの席。其処から見える景色は故郷であるサクラミラージュで過ごしていた時とは全く違う。
お嬢様学校であったということから真面目に授業を受ける者が多く、真琴も懸命にノートを取っていった。だが、目下の悩みは理系だ。
「……こっちの世界は、学問が進んでるんだね」
「世界? ふふ、前の学校よりもってことかしら」
休み時間、真琴は隣の席の友人であるサラという少女と話していた。
彼女は転校生である自分によくしてくれている。先生に数学の問題を当てられたとき。答えも解き方も分からずに困っていた真琴にそっと横から答えを教えてくれた優しい少女だ。
そして、二人が仲が良くなったのはもうひとつ理由がある。
「真琴、今日も部活に寄っていく?」
「うん、昨日の続きをしたいからね」
サラと真琴は手芸部に所属していた。お互いに共通の趣味があれば話題も広がり、同じ楽しさを味わえる。
それゆえに二人は次第に唯一無二の友人になっていった。
真琴には薙刀という特技もあったのだが、これは影朧と殺り合うための力。きっといつもの動きでやれば怪しまれてしまうと考え、手芸の方面でいくことにしたのだ。それが功を奏し、真琴は充実した日々を送っていた。
そして放課後。
「真琴、はやく行こう!」
家庭科室の部室へと手を引くサラに連れられ、真琴は昨日まで作っていたアクセサリーを置いた棚に向かった。
桜の型に煌めく金細工を入れ込んだそれはレジン、つまり樹脂で作ったものだ。
しっかりと硬化していることを確かめた真琴は其処に螺子式の丸カンを通し、鎖を繋げてネックレスにしていく。
「出来た。なかなかいい出来かも」
「本当ね。真琴は手先が器用でいいなあ」
真琴が陽に翳してみたレジン細工のネックレスを覗き込み、サラは微笑む。そして真琴は彼女が作っているパッチワークのテーブルクロスに興味を示した。
「サラだって、これももうすぐ完成するんだよね?」
見ていても良いかと真琴が問うと、サラは快く頷く。そうして真琴は部活動に励み、顧問の教師にも声を掛けていった。
「ああ、先生。こういうの作ってみたんだけどどう?」
「あら素敵ね。ふふ……本当に素晴らしいわ」
すると女教師は何かを見定めるような眼差しを向ける。それはたった一瞬だけだったが、真琴は奇妙な違和感を覚えていた。
そして、その感覚が正しかったのは後に分かることになる。
普段通り、部活動に顔を出そうとした真琴は例の教師が不可解な動きをしている場面に出くわした。それは友人であるサラの下駄箱に彼女が何かを入れている場面であり、いかにも怪しい。
「何だ……?」
真琴は敢えて女教師に声を掛けず、去っていくまで息を潜めて待つ。
そしてサラには悪いと思いながらもそっと下駄箱を覗き込んでみた。
「……! 鍵か。あの教師、秘密倶楽部の一員だったってことかね」
きっと例のかみさまという輩に操られているのだろう。女教師を探っても解決にはならないと知っている真琴は鍵を回収する。
サラがかみさまに選ばれたようだが、邪神だと分かっている相手に友人を引き渡すことになるのならば黙ってはいられない。ごめん、と心の中でサラに謝った真琴は鍵と共に入れられていたメモを開いた。
『新たな物が生み出される場所にて』
その言葉の意味はまだ分からない。だが、これも確かな手掛かりだとして真琴は手にした鍵を強く握り締めた。
大成功
🔵🔵🔵
ミーユイ・ロッソカステル
リグレット(f02690)と
同じ家に住んでいる……まあ、友人よ。向こうがどうかは知らないけれど
成り行きで編入、という形になったけれど……学生生活に興味がないと言えば、嘘になる
そういう意味ではいい機会だったかしら、なんて慣れぬセーラー服に身を包みながら
……目立つのも当然でしょう、あなた
だって、そこそこ良い育ちのはずの周囲の子たちと比べても、纏う気品が違うから
そんな事を思いながらも、「そうね」なんてすげなく返し
自身も、遠目に高嶺の花を見るかのような目を向けられていることには素知らぬ顔で
「……あなたと違って、着付けも自分でやっているの、こちらは。」
タイのずれを指摘されれば、顔を赤らめてそんな言い訳を
リグレット・フェロウズ
ミーユイ(f00401)と
同じ寮の住人で……まぁ、友人ね。私はそう思っているわ
寮で語る者も多い日本の学校生活
どんな物かと興味を持って、同学年の設定でセーラー服を着て潜入して暫し
……何故かしら
普通に生活しているのに、取り巻きのような子たちが出来ているのは
あれこれと相談に乗ったりしたのが悪かったのかしら?
「全く。こうも目立つのも憂鬱よね?」
文庫本片手に放課後の教室、日差しが苦手な連れのために日が傾くのを待ちながら
遠巻きに見ている視線を感じつつ、肩を竦め
「――と。少し曲がっているわよ、ミーユイ」
手を伸ばし、彼女の胸元のタイを直して
……だから、どうしてキャーキャーと騒がれるのかしらね。
理解不能だわ……
●二輪の花
セーラー服に身を包み、学園をゆく。
風になびくスカートをそっと押さえ、ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)は学内を見渡した。
こうして潜入捜査に参加したのは成り行き。
けれど学園生活に興味がなかったといえば嘘になってしまう。
最初は慣れなかったセーラー服もいつしか当たり前に着られるようになっており、もう生活の一部のようなものだ。ミーユイは隣を歩くリグレット・フェロウズ(幕開けざる悪役令嬢・f02690)の横顔を見遣った。
「なあに?」
リグレットが視線に気付いて首を傾げると、ミーユイは首を振る。
「いえ、様になっていると思って」
ミーユイはリグレットがすっかり制服を着こなしていることに感心していた。二人は元々、同じ寮に住む友人同士。互いに相手が自分を友だと思っているかどうかは知らない状態だが、一緒に登校し、共にクラスまで歩いていく姿は傍から見れば友人以外の何にも見えない。
寮で語る者も多い日本の学校生活をこうして体験できていることは不思議でありつつも、とても新鮮だ。しかし学園に通い始めてから暫く。リグレットには妙に思うことがひとつあった。
「……何故かしら」
ぽつりと呟いたリグレットの後ろには女生徒達が付いてきている。
お姉様、リグレットさん、フェロウズ様。呼ばれ方は様々だが、いつの間にか取り巻きのような少女達が昇降口で待っており、毎日クラスまで送り届けてくれる。
その状況に疑問を持っているのだと気付いたミーユイは軽く肩を竦めた。
「……目立つのも当然でしょう、あなた」
「目立つ? あれこれと相談に乗ったりしたのが悪かったのかしら?」
首を傾げるリグレットにミーユイは「そうかもね」とすげなく返す。
確かに頼れるオーラを出していたリグレットが、生徒達が持ってくる相談に答えてやっていたこともひとつの要因だろう。だが、別の理由もある。
何故ならリグレットはそこそこ良い育ちのはずの周囲の子たちと比べても纏う気品が違う。そんなことを思いながらもミーユイは敢えてそれを告げないでいた。
しかし、ミーユイも分かっている。
自分もまた、別の女生徒達から遠目に高嶺の花を見るかのような目を向けられていることに。されど素知らぬ顔で通し、ミーユイはリグレットの傍にいる。
そうして二人は教室へと踏み入った。
「ご機嫌よう」
「皆、ご機嫌よう」
其々に二人が朝の挨拶をすると、ほとんど女子生徒であるクラスメイト達から嬉しげな声があがる。
おふたりが揃うと花が咲いたみたい、と惚れ惚れするような女生徒達の声が聞こえたがリグレットもミーユイもいちいち反応はしない。それこそが彼女達が持つ気品というものだからだ。
そして、日々は過ぎていく。
響くチャイム。教科書とノートに向かう時間。
音楽に体育、そして様々な勉強。昼には食堂や中庭で昼食をとり、放課後になれば思い思いの時間を楽しむ。日本の学生が過ごす学校生活は恙無く過ぎていった。
そして放課後、リグレットは文庫本を片手に教室の窓辺にいた。
「全く。こうも目立つのも憂鬱よね?」
先程、やっと取り巻きの生徒を帰宅させたばかり。しかしまだ遠巻きに見られている視線を感じつつ、リグレットは本のページを捲った。
秘密倶楽部やかみさまについて収穫がない中、今日は二人で学内を散策すると決めていた。ミーユイは陽射しが苦手なため、日が傾くのを待っているのだ。
後少しすればミーユイが思うままに動ける時間が来る。
そんなとき、リグレットはあることに気付いた。
「――と。タイが少し曲がっているわよ、ミーユイ」
手を伸ばし、彼女の胸元のタイを直すリグレット。自然に近付く顔と顔。さらりと揺れた彼女の髪の柔らかさまで感じられるような距離。
そのままじっとしていたミーユイだが、その頬が僅かに赤くなっている。
「……あなたと違って、着付けも自分でやっているの、こちらは」
しかし照れを隠すようにそんな言い訳をしたミーユイは、ありがとう、とちいさく告げながらすぐにリグレットの傍を離れてしまった。
どういたしまして。そう返したリグレットはふと顔をあげる。すると二人のやりとりを見ていたらしき生徒達から黄色い声があがった。
「……だから、どうしてキャーキャーと騒がれるのかしらね」
理解不能だわ。
そんな風に呟いたリグレットだが、同時に不思議な居心地の良さを感じていた。
それはきっと自分達がこの場所に受け入れて貰えているからだろう。ミーユイも似た感覚をおぼえながら、そっと双眸を細めた。
そして二人は学内をゆっくりと歩き、ささやかな探索を行った。
いつもの教室から始まり、音楽室に美術室、放送室、視聴覚室やパソコンルーム。理科実験室に資料置き場となっている空き教室。
様々な場所を巡り終えたミーユイとリグレットは昇降口に訪れた。
「何の手掛かりもなかったわね」
「そうね。やっぱり昼間の学校には――あら?」
このまま帰宅しようと下駄箱に手を伸ばしたとき、リグレットが首を傾げる。どうしたのかしら、と声を掛けながら自分の靴を取ろうとした時、ミーユイにも何があったのか理解できてしまった。
「ミーユイ、鍵があるわ」
「ええ、私にも届けられているみたい」
二人の下駄箱にはそれぞれに鍵がひとつ。そして同じ文言が書かれたメモが入っていた。其処には『美しきものが眠る場所へ』と書いてある。
謎解きだろうか。意味はまだ捉えきれていないが、これが『かみさま』という存在に繋がる手掛かりであることは間違いない。
頷きあった二人は決意する。今こそ夜の学校に忍び込む時が訪れた、と――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
臥待・夏報
【SPD】
じゃ、今日の夏報さんは保健室の先生ということで。
……ここなら合間に書類仕事ができるかと思ったが、結構忙しいな、保健室。
しかし、『輝き』ねえ。
無個性凡庸人畜無害がウリの夏報さんには無理難題だな。
ま、有事の際にサポートができればそれでいいや。
で、そこの少年。君はいつまで保健室で寝てるの?
あー? 女子が怖い?
まあわからなくもないけどさ。
まだ若いだろ君は。ポケットに刃物くらい持っておきたまえ。
ハサミとかメスとかあったかな、仕方ないから貸してあげるよ。あーでも備品はまずいか。ペーパーナイフで良い?
……そんな目を丸くしないでよ。
そもさん、学び舎なんて大体どこも異常なんだ。
君も僕も正常さ。いいね?
●心に刃物を
今日の夏報さんは保健室の先生。
学園潜入の役割として臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)が常駐する場所に選んだのは、学内の隅にある保健室。
ここなら合間に書類仕事ができるかと思ったのだが――。
「結構忙しいな、保健室」
思わず夏報が零した言葉は、これまでの学園生活を振り返ってのこと。
体育で怪我をした生徒の手当て。
具合が悪くなってベッドを借りに来る生徒もいれば、夏報先生と話にやってくる生徒まで、保健室に訪れる者は多い。
本日も膝を擦り剥いた生徒の処置をしてやっと一息ついたところだ。
書類に目を通しながら夏報は軽く息を吐く。
「しかし、『輝き』ねえ」
考えるのはこの学園に蔓延る秘密倶楽部という存在のこと。
何かしらの輝きを見出された者が選ばれるというその話は眉唾ものだ。だが、確かに邪神が関わっており、一部の生徒も噂を信じきっている。
見出されるのはただ目立つだけの人物ではないようだが、夏報は肩を竦める。
「無個性凡庸人畜無害がウリの夏報さんには無理難題だな」
冗談めかして呟いた夏報だったが、そこには有事の際に誰かのサポートができればそれでいいという思いも込められている。
そうして日々を過ごすこと暫く。
夏報には今、とても気になっている生徒がいた。夏報が赴任してきてからちょくちょく訪れる少年だ。
いつも具合が悪いと言って授業を抜け出し、今のようにベッドで寝ている。
「で、そこの少年。君はいつまで保健室で寝てるの?」
夏報は何か理由があるのだと察して、タイミングを見て彼に話しかけてみた。すると少年はおずおずとベッドから顔を出して語りはじめる。
「……怖いんだ。女の子が」
「あー? 女子が怖い? まあわからなくもないけどさ」
「女性恐怖症だとかじゃないよ。僕のクラスの女の子が――」
少年は語る。
曰く、どうしてか彼は或る女生徒に付け回されているらしい。それは妙に異常で、好かれているというよりも狙われていると言ったほうがしっくりくるレベルのようだ。それゆえに恐怖を感じ、どうして良いのかわからない。
そして本当に具合が悪くなってしまい保健室に訪れているらしい。
それは妙だと答えた夏報は立ち上がり、少年が寝ているベッドに歩み寄る。大変だな、と告げながらも夏報は考え込んだ。
そして、少年に告げる。
「まだ若いだろ君は。ポケットに刃物くらい持っておきたまえ」
「え?」
「ハサミとかメスとかあったかな、仕方ないから貸してあげるよ。あーでも備品はまずいか。ペーパーナイフで良い?」
「先生……?」
語られる夏報の話についていけないのだろう。少年は目を何度も瞬いている。
その様子に気付いた夏報は軽く首を振る。
「……そんな目を丸くしないでよ」
冗談だよ、と話した夏報は本当にペーパーナイフを渡したりはしなかった。しかしその代わりにもうひとつ、話をしていく。
「そもさん、学び舎なんて大体どこも異常なんだ。君も僕も正常さ。いいね?」
「……うん」
そうなのかな、と口にした少年はベッドから起き上がる。
そして、ポケットからあるものを取り出して夏報に差し出した。
「先生にこれ、預かってて欲しいんだ。多分あの女の子が僕を付け回しているのってこの『鍵』のせいだから。先生も知ってるよね?」
――秘密倶楽部のこと。
静かにそう告げた少年はどうやらかみさまについては否定的らしく、これまで何も行動を起こしていなかったようだ。おそらく、例の女生徒はこの鍵が欲しいのだろう。かみさまという存在を信じきっている女生徒の方が危なさそうだ。
そして、少年は鍵と一緒に入っていたというメモを手渡した。それを受け取った夏報は其処に記されている文字を読む。
『貴方のことを記録している場所へ』
意味はわからないが、何かの手掛かりであることは確かだ。夏報は少年が自分に鍵を託したことの意味を考えながら静かに頷く。
「確かに預かったよ。さあ、具合が悪いのもじきに治るさ」
そうして夏報は片目を瞑り、不安げな少年を元気付けるようにちいさく笑った。
大成功
🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
学校というものは初めてだよ
ほら、王子様だから。教師の方から来てくれるのさ
だから新鮮だよ。この黒い衣装も。学ランっていうのかい?
学ランとやらに身を包み、高等部の教室に佇んでいるよ
左腕には白い手袋を
レディ、お留守番だよ
交換留学生というテイでいこうか
この国の文化にイマイチ不慣れなのも、不自然じゃないだろう
本(私の手記)を読み返しつつ、声をかけてくれる生徒がいれば
穏やかに会話をしたいね
ン?何の本を読んでいるかって?……ヒミツだよ
そうだ、校内を案内してくれないかい?
まだこの学校に来て日が浅いんだ
散歩ついでに頼むよ。キミと話すのは楽しいからね(王子スマイル)
(左腕が痛い……レディ、また嫉妬してるのかい?)
●淑女と王子
学園。それは不思議な場所。
学ランという独特の服装に身を包み、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は初めて通うことになった学園について思う。
編入手続きを終えてから暫く、エドガーは様々なことを知った。
「ご機嫌よう」
優雅で気品のある挨拶もこの学園ならではの挨拶だということ。
起立、礼から始まる授業の始め方。学園内の食堂の料理がとても美味しいことや、中庭が美しく整備されていること。
そんなひとつずつのことに興味を示す彼の設定は交換留学生。
そうすればこの国の文化に不慣れであることも不自然ではなくなる。そのお陰か、彼にはいつしか密やかなファンが出来ていた。
「エドガー様、今日も制服が似合っていますわ」
「ああ、エドガー様。素敵……」
廊下を歩くだけで女生徒がうっとりした瞳で見つめてくる。時折あがる黄色い声にも随分と慣れてしまった。
学ラン姿の彼は実に様になっている。
ひとりで高等部の教室に佇む彼は絵になると言っても過言ではない。左腕の白手袋もまたミステリアスで王子様らしい雰囲気を演出している。
しかしそれは左腕に宿る狂気のバラを隠すためのもの。
(レディ、お留守番だよ)
自らがレディと呼ぶそれにそっと告げ、エドガーは日々を過ごしていた。
真面目に授業を受け、昼間は中庭で過ごし、放課後は学内を見て回る。どれもが新鮮で目新しくて興味深い。中でも平穏に過ごす生徒達の姿は見ていて飽きない。これが恐怖を知らぬ人々の穏やかな暮らしだと思うと不思議な気持ちが巡った。
そして、或る日。
エドガーは窓辺で本――これまでのことを綴った自分の手記を読み返していた。
「ええと、エドガーくん?」
「やあ、ご機嫌よう。君は確か……」
「ええ。同じクラスの藍川よ。何の本を読んでいるの?」
「ン? それはね……ヒミツだよ」
女生徒と他愛のない会話を交わしながら、エドガーはくすりと笑ってみせる。相手も気分を害した様子はなく穏やかに微笑んだ。
そしてエドガーはぱたんと本を閉じ、藍川という少女に提案する。
「そうだ、校内を案内してくれないかい?」
数日が過ぎていたとはいえ、まだこの学校に来て日も浅い。まだ知らないところがあるのだと告げたエドガーに少女は快く頷いた。
「良いわ。何処に行きましょうか?」
「そうだね、どこでも。散歩ついでに頼むよ。キミと話すのは楽しいからね」
王子様スマイルで微笑みかけたエドガーに対して少女が頬を赤らめる。
しかしそのとき、エドガーの左腕に鈍い痛みが走っていた。されどそんな痛みも笑顔の裏に隠し、彼は腕を押さえる。
(……レディ、また嫉妬してるのかい?)
大丈夫だと言い聞かせるように左腕を撫でたエドガー。そんな彼を先導するように少女は歩き出している。
「ねえ、エドガーくん。美術準備室なんてどうかしら。すごい絵があるのよ」
「それは楽しみだね。ぜひ連れて行って欲しいな」
そうして二人は学内を散策した。
少女との時間は楽しいものだった。だが、エドガーは妙な違和を感じてもいた。自分と藍川が教室を出た際に入れ替わるように入っていった生徒がいたのだ。
その生徒の名は分からなかったが、何故かエドガーの机に向かっていったように思えた。怪しいと感じたエドガーは藍川と別れた後、教室に戻ってみる。
そして、自分の机に手を差し入れてみると――。
「ああ、やっぱりね」
其処には鍵が入っていた。もしかすればレディが痛みを与えて来たのも、かみさまの息のかかった者が近付いていることを教えてくれたのかもしれない。
そしてエドガーは鍵と一緒に入っていたメモをひらいた。
『薔薇の絵画の裏側へ』
ただ一言、そう書かれているメモの意味は不明だ。それでもこれで、かみさまという存在を探る取っ掛かりは出来た。
エドガーは鍵をそっと懐に仕舞い、暮れなずむ空を窓越しに見上げる。
紅い夕陽は妙に眩しく、何故だか不吉な色を宿しているようにも思えた。
大成功
🔵🔵🔵
浮世・綾華
きよ(f21482)と
学校なんてハジメテ行くからなぁ
先生ってより、俺は教えて貰いたいかも?
つーわけで、よろしくな?きよしセンセ
きよの挨拶に笑いそうになるのをぐっとこらえ
からかうように
センセー、ごきげげよー?とわざと口にしにっこり
俺はどっちかと言えば座学のが好きなんだが……
うん、っぽい
あはは、冗談だって
さて、準備っと――xxちゃん、重いっしょ
道具、危ないから運ぶよ
きよはサッカー得意なんか
俺はハジメテだな
蹴鞠りはやったことあるとこそこそ
へえ、教えるのうまいじゃん
感心しつつ、自分も折角だし楽しんでやろうとにやり
△△、勝負しよーぜ!
先にゴール決めた方に
きよしセンセが昼飯奢ってくれるってよ!
アドリブ歓迎
砂羽風・きよ
綾華(f01194)と
この年になってまさか学校に行けるなんてなぁ。
最近まではあっち側にいたなんて、信じられねー。
生徒から挨拶をされれば
おは……ごほん。ご、ごきげげ。
(いやいや、ごきげげってなんだ!?くそっ、やっぱこの挨拶慣れねぇ。
やべー。明らかに生徒ドン引きしてんじゃん!)
……ゴキゲンヨウ。
体育なら教えんのも得意だし、多分大丈夫。
へぇ、綾華は勉強好きなんか?俺は……苦手だ。
サッカーやったことねーの?
蹴鞠ならあるのか。逆にやったことねぇな。
パスすんの苦手ならまずボールを止めてから焦らず蹴ると良いぜ。
お、そっちにボール行ったぞー!やったな、バッチリじゃん。
おいおい!俺なんも言ってねぇ!
アドリブ歓迎
●學園夢十夜
校門に立ち、見渡す景色は清々しい。
朝の陽射しは眩しく、生徒達が登校する通学路を眩しく照らしていた。
「砂羽風先生、ご機嫌よう!」
「おは……ごほん。ご、ごきげげよ」
ある女生徒から掛けられた声におはようと返しそうになり、砂羽風・きよ(屋台のお兄さん・f21482)は慌てて言い直す。しかし慣れぬ挨拶に戸惑う気持ちは消えてくれず、妙な返しになってしまった。
浮世・綾華(千日紅・f01194)はそんなきよの挨拶に笑いそうになるのをぐっとこらえ、片手を上げる。
「きよしセンセー、ごきげげよー?」
わざとそう口にしてにっこりと笑みを作った綾華。
登校してきた彼の学ラン姿は妙に似合う。しかし装いが変わったとて綾華はいつものようにからかってくるので、きよにとっては堪ったものではない。
「いやいや、きよしじゃねーし、ごきげげってなんだ!? くそっ、やっぱこの挨拶慣れねぇし、明らかにみんなドン引きしてんじゃん!」
(……ゴキゲンヨウ)
混乱したきよの口からは思考が思いきり漏れ出していた。その様子に思わずふはっと吹き出した綾華は口許を押さえ、可笑しそうにきよを見る。
「きよセンセー、本音と建前逆になってね?」
もちろん綾華にはきよの胸中など読めていないのだが何故だかそんな気がした。ぎくっとしたきよは何度か咳払いをした後、佇まいを直す。
今のきよの役割は体育教師。
潜入前に、これなんてそれらしいだろうと渡されたジャージに身を包んでいる。学生として学園に通う綾華と教師として学内を探るきよ。二人は多方面から潜入し、それぞれに情報を調べていた。
「じゃ、俺は教室に行くから。またな、きよセンセ」
「おう。遅れんなよー」
学生鞄を持ち直した綾華は昇降口へ向かった。その背を見送ったきよは予鈴が響いていく音を聞き、少し前を懐かしむ。
まさかこの年になって学校に行けるなんて思いもしなかった。
予鈴を聞いて駆け出す生徒に手を振りながら、きよはしみじみと呟く。
「最近まではあっち側にいたなんて、信じられねー」
そして、最後に登校してきた生徒を迎えたきよは校門を閉めていった。その際にふと校舎の方を見上げれば、窓辺の席からひらひらと手を振る綾華が見える。
――また授業で。
そう言っているらしい綾華に視線を返し、きよも校舎内に向かった。
「さて、今日は二限目と四限目の授業だったな。しかし前準備に授業構成に生徒の指導に……先生ってこんな大変だったのか」
本日の授業について考えはじめたきよは、嘗て自分が学生だった頃には思いもしなかった苦労について思いを巡らせた。
一方、一限目が始まった教室内。
綾華は今、これまで知らなかった知識を教えてくれる授業に興味を示していた。今まで学校になど行ったことはなく、現代日本の勉強となると未知の領域だ。
人の年齢として見ると綾華もきよと同じ立ち位置かもしれないが、教えるよりも習うほうが今はあっている。
それにこの学ランも中々悪くはない。詰め襟に軽く触れた綾華は薄く笑んだ。
「それじゃあ浮世、この部分を朗読してくれ」
教師に呼ばれた綾華は椅子を引いて立つ。そして、夢十夜、第六夜と題された文の示された箇所を読み上げていく。
「――山門の前五六間の所には大きな赤松があって、その幹が斜に山門の甍を隠して、遠い青空まで伸びている。松の緑と朱塗の門が互いに照り合って見事に……」
(お、綾華が朗読してる)
職員室に向かう最中、廊下を通りかかったきよは暫しその声に耳を傾けた。そういえば、ときよは学園潜入前に二人で話した時のことを思い返す。
「――へぇ、綾華は勉強好きなんか?」
「そうだな、どっちかと言えば座学のが好きだな。きよしは?」
「だからきよだっての! まぁ、俺は……勉強は苦手だ」
「うん、っぽい」
「何だよ、ぽいって。頭悪そうに見えるのか?」
「あはは、冗談だって」
そんな他愛ない遣り取りも何だか今は少しだけ遠いことのように思えた。今の自分と彼は教師と生徒。そう思うだけでまったく違う日常に居る気がするからだ。
まるでそう、ひとときの夢の中だ。
綾華が朗読する文学と似ていると感じながら、きよは職員室に向かった。
そして二限目。
今回はクラス合同で行われる男子生徒の体育だ。
「今日の授業はサッカーだ。お前ら、ルールは分かってるなー?」
「はい、きよセンセー。ちょっとわかんねーから説明いい?」
校庭に集まった生徒を前に、きよはサッカーボールを片手に呼びかける。すると体操着に着替えた綾華が手を上げ、実は知らないのだと告げた。
「なんだサッカーやったことねーの? 待ってろ、分かるように話すからな」
そしてきよはルールを知らない生徒に簡単な決まりを話していく。
それを聞く綾華は頷き、蹴鞠りはやったことあるんだケド、とちいさく呟いた。逆にやったことねぇと笑ったきよは説明を終え、皆に準備をするよう指示した。
ボールとゴールが用意され、先ずはパス練習。
「いいか、パスすんの苦手ならまずボールを止めてから焦らず蹴ると良いぜ」
「先生、こう?」
「そうそう上手いぞ。そのまま行ける!」
「よっしゃ、ありがと先生!」
「お、そっちにボール行ったぞー! やったな、バッチリじゃん」
きよは手際よく、パス回しが不得手だった男子生徒にしっかりとコツを教えていく。その様子を眺めていた綾華は感心していた。
「へえ、教えるのうまいじゃん」
「これでも教師なんでな。一応、だけど」
にやりと笑った綾華にきよも笑みを返す。こうして軽口を交わすことが出来るのも、自分達がちゃんと学園に溶け込めている証でもあった。
そしていよいよ授業は実戦へ。
綾華は仲良くなっていた隣のクラスの男子に呼びかける。
「ユウゴ、勝負しよーぜ!」
その頃にはすっかりサッカーボールにも慣れており、綾華は軽くリフティングを行っていた。友人とパスをしあう彼を見遣り、きよは授業の最後に行う対抗戦のチーム分けをしていく。
「生徒が奇数だから片方のチームに俺が入らないといけないか。よし、それじゃ試合はじめるぞー。みんな準備はいいか?」
呼びかけたきよはAチーム。
そして綾華はBチームに配属される。それをよしとした綾華はチームメイトに呼びかけ、前方のゴールを示した。
「皆、先にゴール決めた方にきよしセンセが昼飯奢ってくれるってよ!」
「おー! 本気でやろうぜー!」
「おいおい! 俺なんも言ってねぇ!」
綾華の声に沸く生徒達。突然の宣言に戸惑うきよ。
訂正する間もなく、試合開始のホイッスルは鳴らされていく。
その後、きよ先生が昼食を奢ったかどうかは定かではないが、サッカーの授業がおおいに盛り上がったことは間違いなかった。
そして、あくる日の昼休み。
「なぁ、綾華」
「やっぱきよにも来た? ほら、これ」
互いを呼び出した二人の手には鍵が握られていた。きっと彼らの学校生活を見て、かみさまの使者――つまり、邪神に操られた者が寄越したのだろう。
そして、彼らの机に鍵と共に入れられていたメモにはこう書かれていた。
『転がる物の先へ』
その言葉の意味は謎に包まれている。
だが、これが『かみさま』への道標になるのだろう。神妙に頷いた二人は、楽しかった学園生活が終わる気配を感じ取ると同時に戦いへの決意を抱いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻と人魚
アドリブ歓迎
高校一年生男子
先生になった櫻はいつも他の子達に囲まれてあんなに笑顔で嬉しそう
僕の櫻だ
僕の先生なのに
お弁当一緒に食べたかったのに
てすと頑張ったの褒めて欲しいのに
胸がムカムカする
放課後呼び出された教室
久しぶりに二人きり
恥ずかしくて…てれてない!
ヨルを描く…僕は絵が下手
ヨルはノリノリだ
いつもと違う格好の櫻が気になる
久しぶりに傍にいる
真面目に描いても気にな…
み、見てない!
…何でだ
ヨルがナスになった
あっ
桜の香り
触れる指先に尾鰭が震え
交わる桜霞に吸い込まれそう
鼓動が煩い
瞼を閉じる
嗚呼
もっと近くに―
櫻宵?!
ヨルの怒りの頭突き
ごめ
ちゃんと描く!
学校、楽しいよ
禁断なんて…櫻のばか
秘密だよ
誘名・櫻宵
🌸櫻と人魚
アドリブ歓迎
美術の新任教師
あたしったらスーツも良く似合うわ!
教師として絵を教えるのも楽しいし
女子(男子)生徒に囲まれちゃうし悪くないわ
毎日充実してる
でもその度に不機嫌になって
すいと逃げていくリル
黄昏時の教室
さ、リルくん
放課後補講を始めましょうか?逃がさないわよ
……なんで照れてるのよ
あたしまで照れるじゃないの
はい
先生じゃなくてモデル(子ペンギン)をよく見ましょうねー
リルくんは独特の絵を描くわね!
そこはもっと…
!
ふい触れた指に
交わる視線
熱を帯びる頬に高鳴る鼓動―どちらともなく近づく唇に―
突如頭突きをかましてくるヨル
痛いわー!ヨル!
学校、楽しい?
教師と生徒、なんて…
途端に禁断を感じちゃう
●櫻先生の特別授業
ああ、胸がムカムカする。
凪いだ湖面のような薄花桜の瞳の奥に、燻るような感情が揺らいでいた。
賑わう昼時の中庭。
尾鰭をふわりと揺らがせたリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)の視線の先に居るのは生徒達に囲まれる新任美術教師――誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)だ。
学園に編入してから、リルはどうにも腑に落ちない気持ちを抱いていた。
確かに櫻宵のスーツ姿は格好良い。
あの微笑みも凛とした佇まいも、変わらず好きだ。しかし先生になった彼はいつも他の子達に囲まれていて、自分に見せない笑顔で嬉しそうに笑っていた。
「櫻宵先生、ご機嫌よう!」
「先生、私の描いた絵を後で見てくださる?」
「誘名先生! 今日も素敵ー!」
そんな生徒達の声を聞き、リルは俯いてしまう。確かに櫻宵は素敵だ。それは間違いないし否定はできない。けれど――。
「……僕の櫻」
僕の先生なのに。
お弁当一緒に食べたかったのに。
てすと頑張ったの褒めて欲しいのに。
リルの裡に渦巻くのは良くない感情だった。学園に溶け込んでいることは喜ばしくて、櫻宵が笑っているのも嬉しいことのはずなのに。
お昼ご飯に用意してもらったおにぎりだって今は喉を通らない。似合っていると櫻宵に褒めて貰ったこの制服も何だか窮屈に思える。
肩を落としたリルの鰭耳がしょんぼりと下がった。そして、そのまま中庭を出ていくリル。櫻宵は生徒達に微笑みを向けつつ、ふとその後ろ姿に気付く。
「はいはい、皆あとでね。……リル?」
教師として絵を教える日々は毎日が充実していた。
だが、自分が楽しいと感じる度にリルは不機嫌になってしまっているらしく、声を掛けてもすいと逃げていく。櫻宵が自分を見つめていることはリルも感じていたが、敢えて振り向こうとしない。
いま振り向くと、とても悲しい顔を彼に見せてしまうから。
(学校……来なきゃ良かったのかな。ううん、でも――)
リルはひとりぼっちの教室でぼんやりと学内の様子を眺めた。皆が賑やかで一生懸命に過ごしている姿は見ていて楽しい。
胸の奥の気持ちはうまく整理が出来ていないが、自分も櫻宵もこの世界に生きる人々を救うために此処にいる。
その気持ちは同じなのだと考え、リルは静かに瞳を閉じた。
そして、あくる日。
黄昏時の教室で櫻宵は淡く微笑んだ。目の前に居るのは直接呼び出されたリルだけ。他の生徒は呼んでいない、櫻宵の放課後補講だ。
「さ、リルくん。逃がさないわよ」
くすりと笑って近付く距離。櫻宵の柔らかで綺麗な笑みをこんなに近くで見るのは久々な気がした。
「櫻……?」
リルはそれまでの胸のムカムカもすっかり忘れ、やっと二人きりになれたこの状況に照れてしまう。リルの頬が淡く染まっているのは夕陽のせいだけではない。そのことに気付いた櫻宵は頬に手を当てた。
「……なんで照れてるのよ。あたしまで照れるじゃないの」
「だって、」
逢いたかったから。そっと告げるリルに櫻宵は愛しげな視線を向けた。
そうして始まるのは特別授業。
画架を立て、中央の台にペンギンのヨルを乗せた櫻宵はリルに鉛筆や筆を渡す。それを受け取ったリルはぐっと鉛筆を握った。
「ヨルを描く……うん、がんばる」
モデルになったヨルはノリノリだ。おそらく決めているのはこの学園生活かどこかで覚えてきた変身ヒーローっぽいポーズだ。
けれどリルが気になるのは普段と違う、スーツ姿の櫻宵の方。久しぶりに傍にいることに加えて、格好良すぎていけない。もちろん絵だって真面目に描いてはいるが気にかかって仕方がない。
「はい、先生じゃなくてモデルをよく見ましょうねー」
「み、見てない!」
櫻宵に指摘されて思わずふいと目をそらしたリル。だが、やはりちらりと櫻宵を見てしまうのはご愛嬌。
「そう、それなら良いけど。リルくんは独特の絵を描くわね!」
「……何でだ。ヨルがナスになった」
櫻宵が覗き込んだキャンバスには形の悪い茄子が描かれていた。ヨルだと言えばヨルなのだが、本人もとい本ペンギンが見たらショックを受けるかもしれない。
「そうね、そこはもっと――」
大丈夫よ、と告げた櫻宵は絵をもっと良くするためにリルのキャンバスに手を伸ばした。すると、不意に触れ合う指と指。
「!」
「あっ」
思わず声をあげれば、交わる視線。
桜の香り。触れる指先の熱に思わず尾鰭が震えた。交わる桜霞に吸い込まれそうな気がして、リルと櫻宵は見つめあう。
鼓動が煩くて瞼を閉じる。嗚呼、もっと近くにいたい。
熱を帯びる頬。高鳴る鼓動。そして、どちらともなく近づく唇――。
だが、そのとき。
どーん!
突如、櫻宵にヨルが頭突きをかましてきた。
「痛いわー! ヨル!」
「ヨル? 櫻宵?!」
完全に無視されたと感じてしまったヨル、怒りのデスヘッドバット。ファイティングポーズを取るヨルを抱き上げたリルは、ちゃんと描くから、と宥めた。
そんなこんなで二人と一匹の時間は流れていく。
リルがせっせとヨルの絵を仕上げていく中、櫻宵は問いかける。
「学校、楽しい?」
「楽しいよ。実は、ともだちもできたんだ」
「まあ、少し妬けちゃうかも」
「ほんと?」
他愛のない、何気ない会話を交わす二人。クラスで過ごすリルの様子。語られた友達と話した会話。久しぶりに触れあえる時間は何よりも楽しい。
「それにしても……教師と生徒、なんて途端に禁断を感じちゃうわね」
「……櫻のばか」
不意に櫻宵が落とした言葉に思わず照れてしまい、リルは唇に人差し指を当てる。
秘密だよ。
そんな風に微笑んだリルの裡にはもう、もやもやした気持ちは少しもなかった。
そして、次の日。
櫻宵はリルを再び呼び出し、或る物を見せた。
「リル、聞いて。あたし達の学園生活もそろそろ終わりみたい」
「それって……鍵、もらったの?」
櫻宵の手の中には、秘密倶楽部への道標だという鍵があった。教師専用のロッカーに入れられていたというそれには謎のメモも付けられていたという。
『色彩の彼方へ』
たった一言、そう書かれていたメモはかみさまの居場所を示しているらしい。
リルと櫻宵は頷きあい、生徒達で賑わう学園の光景を見つめた。この活き活きとした暮らしを決して穢させてはいけない。
かみさまを名乗る悪しき者との対面はきっと、近い。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レイラ・アストン
理想の世界に導いてくれるかみさま…興味深い話ね
正体が邪神と分かっているのが残念だけれど
被害が拡大する前に、討伐してしまいましょう
高二の女子生徒として編入
校風も含めて、普段通っている女子高と雰囲気が似ているわ
違う点といえば共学であるところと…制服かしら
いつもはブレザーだから、セーラー服は新鮮ね
探りを入れるのは得策ではないようだし
『礼儀作法』だけしっかりしつつ
いつも通りに過ごしましょうか
せっかく違う学校に来たのだから
図書室のラインナップが楽しみだわ
…やっぱり、元の学校とは違うのね
未読の本を片っ端から読んでしまいましょう
休み時間や放課後には、入り浸ることになりそうね
※連携、アドリブOK
●本と鍵
理想の世界に導いてくれるかみさま。
それがこの学園で噂されている存在だ。レイラ・アストン(魔眼・f11422)は噂がどうやって始まったのかを考え、思いを零す。
「……興味深い話ね」
しかし、猟兵である自分はその正体が邪神と分かっている。そのことが残念だと感じると同時に、被害が拡大する前に討伐したいとも思えた。
そして、レイラは高校二年生の女子生徒として編入していた。
普段から通っている学校と比べると校風も含めて、この学園は雰囲気が似ている。
違う点といえば共学であるところ。それから制服だ。
「いつもはブレザーだから、セーラー服は新鮮ね」
胸元のタイを直しながらレイラは今日も学園に登校していく。当初はセーラー服に袖を通すのも不思議な感覚がしたが今は随分と慣れてきていた。
ご機嫌よう。
毎朝、登校と共に生徒達と交わす挨拶も何だか日常になっている気がしてレイラは校内の様子をそっと眺めた。
レイラは特に目立った調査をして回るようなことはしなかった。
何故なら、いつも通りの暮らしが功を奏すると知っているからだ。かみさまという存在は人のエネルギーを求めている。その目的が自身の復活であるのか、それとも別のことであるのかは今は知れない。
レイラは真面目に授業を受けながら窓辺から校庭を見つめていた。外では体育の授業を受けている生徒達が元気な声をあげている。
何気ない平和な光景だ。しかし、その裏には邪神が居る。
ひとつでも均衡が崩れれば、穏やかであるはずの学園生活が壊されてしまうのだろう。そんなことはさせない。悲劇を防ぐために自分は此処にいるのだと感じ、レイラは静かな思いを抱いた。
そして幾日か過ごす中、レイラは密やかな楽しみを見つけていた。
やはり気になるのは図書室のラインナップ。せっかく違う学校に来たのだから、読んだことのない本を探すのが醍醐味だ。
「……やっぱり、元の学校とは違うのね」
レイラは休み時間や放課後になる度に図書室に向かい、未読の本を片っ端から読んでいった。殆ど入り浸るような形だったが、それは或る意味で学園生活を満喫しているということでもある。
そして、或る日の放課後。
「ねえ、あなた。本が好きなの?」
読書をしていたレイラに声を掛けてきた女生徒がいた。顔を上げて彼女を見上げたレイラだったが、その女生徒からは妙な雰囲気がする。伏し目がちに視線を下ろしたレイラはちいさく頷いて答えた。
「ええ。それが何か……?」
「……そう。だったら、あの棚の一番左端の本がお勧めよ」
女生徒はそれだけ言うと何処かに去って行ってしまった。随分と雑な本の紹介だと思ったが、レイラは自分が感じた違和の正体を確かめるために示された書架に向かい、本を取りに行く。
「これって……鍵とメモ?」
すると其処には栞のように挟まれた謎の鍵があった。
そして、同じ頁には『上へ、上へ、遥かな上へ』と記されたメモ。
妙に生気のないあの生徒は件の秘密倶楽部の一員だったのだろうか。あの女生徒もまた、かみさまに操られた者なのかもしれない。
鍵とメモを取り出したレイラは俯く。
彼女の状態は気になるが追って何かを問いかけたとしても、事件を解決するための答えは返ってこないだろう。云うならば彼女はただの使い走りのような存在であり、邪神に利用されているだけ。
今夜、この鍵を持ってかみさまに会いに行こう。そうすることが操られた生徒を救う一歩になるのだと思い、レイラは決意を固めた。
大成功
🔵🔵🔵
天御鏡・百々
●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ連携歓迎
「かみさま」か、おそらくは邪神の類なのであろう
神の眷属として、討滅してくれようぞ!
【潜入】
初等部の制服にランドセルを背負って学園へ通う
普通に学園生活を楽しみます
(ちょうど最近そんなイラストも出来ました)
https://tw6.jp/gallery/?id=60221
元々世界が見たいとヤドリガミになったので
異世界の学園生活を満喫します
普通に授業を受けて、友達を作って楽しみます
本体の鏡はランドセルの中へ
学園生活の描写はお任せします
●これからも、平穏な日常を
「――かみさま、か」
本体の鏡を仕舞ったランドセルを背負い、初等部の制服を身に纏う天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)は校門から学園を振り仰いだ。
一見、其処はごく普通の学校に見える。
しかし百々には分かっていた。この学園の裏には邪悪なるものが蔓延り、じわじわと日常を侵食している。
「おそらくは邪神の類なのであろう。神の眷属として、討滅してくれようぞ!」
決意を込めた思いを抱き、百々は拳を握った。
そんな転校初日から暫く、百々は小学生としての生活を大いに楽しんでいた。
「ご機嫌よう!」
今日も百々は元気に挨拶をして教室に入っていく。
おはよう。ごきげんよう。そんな挨拶がクラスメイトから返ってくるのはとても心地よく、いつも笑顔になってしまう。
今日の時間割を確かめる百々、その毎日は充実していた。
元々世界が見たいとヤドリガミになった彼女は、自分が普段いる場所とは違う文化を持つ異世界の学園生活が新鮮で仕方なかった。
国語、算数、体育に音楽。
ひとつずつの授業はとても興味深く、知らなかったことをぐんぐん吸収していく百々。その知識欲から、はい、と授業中に手を上げることも多くなり次第に百々はクラスの中心的存在になっていた。
「百々ちゃん、昼休みに中庭にいこう!」
「良いぞ。今日は何をしようか」
「うーんとね、鬼ごっこ!」
その年頃の少年少女は無邪気であり、百々も本当の子供になったようだと感じて一緒に遊んだ。中でも仲良くなったのはリリという少女とケイという少年だ。
「百々、ドッジボールするから来いよ!」
「ええー! 百々ちゃんはあたしとお花の水やりにいくのー!」
「こら、喧嘩はいけない。そうだな、順番に行くから待っているといいぞ」
ケイとリリはまるで自分を取り合うようによく喧嘩していたが、百々はいつもそうやって二人を宥めて仲直りさせていた。
年相応に無邪気な彼らを眺めているのはとても楽しかった。
例えるならばそう、きらきらしている。年に一度の儀式の際にしか外を見られなかったあの頃とは違う、耀く日々が此処にはあった。
いつまでもこの穏やかな時間が続けばいい。いつも通りにケイとリリが仲良く喧嘩をしている光景を見ていた百々はそんなことを思っていた。
だが、百々は窓辺に腰掛けながら掌の上のものを見つめる。
「鍵か……」
それは今朝、学校に来た時に机に入れられていたものだ。それは百々が秘密倶楽部に誘われたという意味だろう。ご丁寧にメモまで付いており、其処には『花が咲く隅へ』という暗号めいた文が書かれていた。
今夜にでも真夜中の学園に忍び込み、かみさまとやらに対面しにいくべきだろう。
だが、それはこの学園生活が終わることを意味している。
物悲しくも思えたが百々は思う。守りたいと思えるひとときが出来たからこそ終わりを告げにいかねばならない。
それが神の眷属としての己の役目なのだとして、百々は更なる決意を抱いた。
大成功
🔵🔵🔵
レザリア・アドニス
学校…って、こんな感じなのか…
自分の世界に体験したことないのでとても新鮮な気持ち
翼を隠して制服を着用
髪の福寿草は一輪だけ、髪飾りのように残す
基本は従順で静かで、いつものお淑やかな振る舞いで過ごす
人と付き合うのは少し苦手だから、あまり会話には参加しない
が、他の人の会話に耳を傾げて、日常から有用な情報を収集
遊びに誘われたら参加するけど、だいたい聞き手に
まともに授業を受け、宿題もちゃんとやる
そしてよく図書館に行って、いろんな本を読んで、できるだけこの世界の知識を入手
輝き…ですか
私の中にも、何か、輝くものがあるんですか…?
いや、たぶん、暗闇ばかり、じゃないかな…(灰色の羽根の栞をなぞって、そっと呟く)
●ひとときの友人
――ご機嫌よう。おはよう。ご機嫌いかが?
挨拶が響く朝の登校風景は何度見ても不思議だ。セーラー服に身を包んだレザリア・アドニス(死者の花・f00096)は教室の窓辺から校門を見下ろし、改めて裡に浮かんだ思いをそっと零した。
「学校……って、こんな感じなのか……」
自分が元いた世界にはこういった学園はなかった。学生という身分を体験したこともなかったので、こうして学校に通う日々はとても新鮮だ。
レザリアは通学するにあたって翼を隠していた。しかし髪に咲く福寿草は一輪だけ髪飾りのように残しており、とても愛らしい。
昨日も同じクラスの女生徒に綺麗、可愛い、と褒められたばかりだ。
素直に喜んでいいものかは分からなかったが悪い心地はしない。レザリアはそっと自分の髪に触れ、窓辺から流れてくる風に目を閉じた。
耳に届くのは生徒達の声。
賑やかで、それでいて穏やかな日々。それらが今、かみさまなどという名前の邪神に侵されて始めているのだと思うと複雑だ。
レザリアは裡に宿る思いは表に出さず、ごく普通の日常を送ることを決めた。
従順で静かで、いつものお淑やかな振る舞いで普段通りにしていることこそがきっと、かみさまに会う近道になるはず。
それでもレザリアは元より人と付き合うのは少しばかり苦手だ。
それゆえに自分からはあまり会話には参加せず、他の人の会話に耳を傾げて、日常から有用な情報を収集していくつもりだった。
だが、何処の世界にも好意的に接してくれる――云うなれば、お節介とも言える人はいるようだ。
「レザリアさん、今日の放課後にお勉強会をやるのだけど一緒にいかが?」
「ええと……」
「遠慮しないでいいのよ。図書室に集まっているから良かったら来てね」
その少女はユカリという名のクラスメイトだった。
彼女は優等生であり、何かとレザリアのことを気にかけてくれている。先日、髪の花を褒めてくれたのも彼女だ。
友人。そう呼んでいいのかもしれないと考えたレザリアだが、すぐにそんな思いは振り払う。彼女やクラスメイトとはこの潜入任務が終われば別れてしまう間柄。
あまり感情移入はしてはいけない。
そう自分を律し、レザリアは誘われた勉強会に向かうことにした。
静かな図書室でペンを走らせ、時折聞こえるひそひそ話に耳を傾けるレザリア。宿題をするのが主な活動だったが、それが終わればレザリアは適当な本を手にして、そのページを捲っていく。
いろんな本を読み、できるだけこの世界の知識を入手する。
それは調査を抜きにしてもとても興味深いことであり、ついつい本を読み耽ってしまうこともあった。しかし、そんな中でふと気になる話が聞こえてきた。
「――ユカリさん、その鍵は?」
「ええ、噂の……あれだと思うわ」
(……鍵? 秘密倶楽部のこと……?)
ユカリと別の女生徒が話していることはきっと、かみさま絡みの話だ。
かみさまは輝きを持つ生徒を選ぶという。
それならばユカリに鍵が渡されるのも頷ける。もしかすればレザリア自身も耀くものがあるのかもしれないが、自分よりも彼女の方が相応しいと思った。
(きっと、たぶん、私の中は暗闇ばかり、だろうから……)
そっと胸中で呟いたレザリアは灰色の羽根の栞をなぞる。そして、鍵を受け取ったというユカリの動向を調べることに決めた。
きっとこのままでは夜に彼女はかみさまに会いに行ってしまう。レザリアはユカリが鞄に鍵を仕舞い込んだ姿を確かめると、彼女が席を外した隙に其方に向かった。
「……ごめんなさい」
鞄から鍵を抜き取り、レザリアはそっと届かぬ謝罪の言葉を告げる。
鍵と一緒に『音が響きはじめる場所へ』という謎のメモを見つけたレザリアはそれをポケットに仕舞い込んだ。
親切にしてくれた彼女を悪しき邪神になど会わせはしない。
自分が代わりに対面しに行くのだと決め、レザリアは鍵を握り締めた。
大成功
🔵🔵🔵
花咲・まい
お師様(f19394)と潜入
学園生活だなんて、初めてです。なんだかわくわくしますですね!
いえっ、もちろん真面目にやりますですよ。
私はお師様……じゃなかった、トリス先生といっしょに捜査しますです。
ええと、2学年、花咲・まい!
トリス先生のお手伝いという名目であれば、色んなところを歩いてもおかしくないでしょうから、それとなーく学園内の構造も覚えてしまいましょう。
気になるところがあれば、覚えておくとのちのち役に立つかもしれませんですしね!
むむ、トリス先生にはもう少し私のことを頼りにしてもらわなくては!
私、やればできる子なのですよ!
*使用技能:情報収集、野生の勘、視力など
*アドリブなどお任せ
トリス・ネイサン
まい(f00465)と潜入
神に救いを求める、か。
……いや、信心に救われるものもあるだろう。それが悪いとは言わないさ。
仮初の学園生活に、今は僕も付き合うとしよう。
しばらくの間、僕は教育実習生として過ごすことにする。
何、雑用係のようなものだ。
担任教師から頼まれ事も多い役柄であれば、出歩いてもさほど不自然にはなるまい。それこそゴミ出しから配布物の纏めまで。
精々まいに手伝ってもらいながら、構内を探索させてもらうとしよう。
……浮かれてる奴を1人にするのは、博打が過ぎる。生憎と僕は慎重派なんでね。
ああ、探索はもちろんあくまで学園生活のついでにな。疑われては元も子もない。
※アドリブ歓迎
●師と生徒
神に救いを求める。
そのこと自体は決して悪いものではない。
トリス・ネイサン(紛い物・f19394)は学内に流れる秘密倶楽部とかみさまの噂を思い、廊下を行き交う生徒を見つめる。
「……いや、信心に救われるものもあるだろう」
トリスが緩く頭を振ると、その後ろからひょこりと花咲・まい(紅いちご・f00465)が顔を出す。
「お師様……じゃなかった、トリス先生! 何かお手伝いすることはありますか?」
セーラー服に身を包む彼女は何処からどう見ても学生そのもの。
まいは高校二年生。
そしてトリスは教育実習生。
まいにとっては学園生活は初めてで何でも新鮮でわくわくするものだった。トリスも仮初ではあるが、この日々に悪いものは感じていない。
「ああ、資料を運ぶ役目を貰ってな。一緒に運んで貰えるか」
「はい、任せてくださいです!」
真面目に学生として過ごすまいは、こうして休み時間や放課後にトリスの雑務を手伝いに行くことが多かった。そうしていれば先生と生徒という二人が一緒にいても怪しまれず、自然でいられるからだ。
プリントの束を抱えるまいは上機嫌に廊下を歩く。
自分よりも彼女が持つ書類の方が重そうだったので少し気になったトリスだったが、まいが平気そうなのでそのまま任せておいた。
そして、準備室に明日の授業のプリントを運び終わったトリス達。
外から生徒達が笑いあう声が聞こえてくる中、トリスはまいに問いかけた。
「そういえば、友達は出来たのか?」
「よくぞ聞いてくれました! あのですね、ゆいりーというお友達が出来てとっても仲良くやってもらっているのですよ!」
するとまいは嬉しげに答える。
由比という名字の少女のあだ名がゆいりーらしく、まいはその子によく面倒を見てもらっているのだという。御機嫌ようという挨拶の優雅な挨拶の仕方、勉強のわからないところ、移動教室の際の付き添いなど、まいと由比は仲良しらしい。
「そうか、それは良かった」
ふと過ぎったのはまいが彼女に迷惑をかけていないかということ。
しかし、楽しくやっているのならば詮索しすぎるのも良くないだろう。行くぞ、とまいを誘ったトリスは準備室から出て次の雑用に向かう。
次は体育倉庫の整理を願われている。そう告げるトリスの後を懸命についていくまいは何だかひよこのようだ。
そんな風に感じ、トリスは口許を押さえた。
しかし的外れではないとも思える。学園生活を楽しむまいだが、トリスから見ればまだまだひよっこ。楽しい盛りな時間を邪魔するつもりはないが、師として見守ることもまた大切だろう。
「……浮かれてる奴を一人にするのは、博打が過ぎる。生憎と僕は慎重派なんでね」
トリスが静かに呟くと、まいがきょとんとして首を傾げる。
「お師様、どうかしましたか?」
「先生、だろう」
「あっ、危ないところでした」
周りに誰もいなかったことを確かめ、まいはほっと胸を撫で下ろす。師匠と呼ぶ彼とまいと関係は正しく先生と生徒ではあるが、学園内では極力普通でいた方が良い。
気を付けろ、とそっと釘を差したトリスは体育倉庫の扉をひらいた。
其処に見えたのは散乱しているボールや体育用のマット、そして跳び箱などの数々の器具だった。
「……随分と散らかっているな」
「わあ、でもここに入るのは初めてです!」
少し埃っぽい空気を感じつつもトリスとまいは中に入る。これまで様々なところを巡り、まい達は構内の構造をしっかり覚えていた。
校長室などの入ってはいけないところを除けば、この体育倉庫が最後に確かめた場所になる。これで鍵を手に入れたときの探索時も困ることはないだろう。
そう考えるトリスは、まいに指示してボールを集めさせていく。
「ほら、これはそっちだ」
「サッカーボールとバスケットボールは別々に、ですね。わかりましたです!」
元気よく雑用をこなすまいは本当に楽しそうだ。
だが、実はトリスには片付け以外に行うことがあった。それは内部に隠されているであろう『鍵』を探すことだ。
まいも、実は体育倉庫に例の秘密倶楽部の鍵があるかもしれないと聞いていた。
「でもトリス先生、どうしてここにあるって分かったのです?」
「ああ、怪しい教師がいてな。体育倉庫を片付けてこい。其処にあるものは君が持っていても構わない、なんてことを言われた」
「つまり、その先生が秘密倶楽部の使者ってことでしょうか?」
「……おそらくな」
トリス曰く、例の教師は何だか虚ろな目をしていたという。それは件のかみさまとやらに操られているからに違いない。
そして、トリスは鍵を渡すに相応しい人物だと判断されたらしい。
「ああ、見つかった。これだ」
まいが片付けた倉庫の片隅でトリスは透明なケースに入った鍵を発見した。其処には何やらちいさなメモがついている。
『転がる物の先へ』
其処にはそう書かれていた。
「何処かの教室を示しているのか、それとも……」
トリスが考え込み、この暗号めいたメモは自分が解くと告げる。するとまいは、むむむと軽く頬を膨らませた。
「トリス先生。もう少し私のことを頼りにして貰ってもいいですよ! 私、やればできる子なのですよ!」
「そうだったのか?」
「もちろんです。見ててくださいです!」
かみさまに会いに行く。それを決行するのは真夜中。
そんな遣り取りを交わしながら、まいとトリスは静かに頷きあった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セルマ・エンフィールド
豊かな世界に見えますが、それでも悩む人は尽きないんですね……それにつけこむ者も尽きないようですが。
※行動・描写おまかせ
年齢通り高等部1年生の女生徒として潜入。
部活:射撃部(なければ弓道部)
心情:猟兵としての仕事が最優先、「光る何か」を示すために射撃あるいは弓道で成果を出そうとしています。
一緒におしゃべりをしたり甘いものを食べに行ったりするような仲のいい相手であっても堅い口調は変わりません。
クールなようで絆されやすい性質のため、しばらく学園生活を過ごせば一緒に学園生活を送っている友人を守るという気持ちが強まり、やる気が増します。
●友人との時間
この世界は豊かだ。
セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)がUDCアースに対して感じたのはそういった思いだった。しかし、脅威を知らず平和に過ごしている人々にも其々に悩みがあることも分かっている。
「豊かでも悩む人は尽きないんですね……それにつけこむ者も尽きないようですが」
セルマは教室の窓辺から学内の様子を眺めた。
ご機嫌よう、と挨拶を交わす生徒達の声や、楽しく笑いあう声が響いている。
セーラー服に袖を通している彼女は今、年齢通りに高等部一年生として潜入捜査を行い、ごく普通の女生徒のように振る舞っていた。
「……かみさま、ですか」
そう呼ばれるものがこの学園の裏に巣食っているという。どうやって顕現したかまでは探ることは出来ないが、確かにこの場所には妙な違和感がある。
真面目に授業を受け、日々を過ごしていく度にセルマは小さな軋みのような感覚をおぼえていた。それもきっと、蔓延る邪神の気配が漂っているからだろう。
「セルマちゃん、どうしたの?」
「いえ、何でもありません」
するとセルマの様子に首を傾げたクラスメイトの一人が話しかけてきた。
それならいいけど、とやさしい目を向けてくれる彼女はユウリという名の女生徒だ。セルマが所属している弓道部の部員でもあり、偶然にも席が前と後ろ同士という関係になる。
「ところでセルマちゃん、今日の部活にも出るでしょう?」
「はい、ユウリさん。一緒に行きましょう」
クラスメイトからの問いに答えたセルマは頷く。
猟兵としての仕事が最優先であると考えるセルマは、かみさまが求めるという『光る何か』を示すために弓道で成果を出そうとしていた。
その真面目な態度と確かな技術は部内でも評判になっているほどだ。
「ね、それじゃあ部活が終わったらクレープ屋さんに行こうよ!」
「そうですね、前に言っていた場所ですか?」
「うん、絶対にセルマちゃんに食べて欲しいの。本当においしいから!」
無邪気にセルマに話しかけてくれるユウリの表情は明るい。セルマは当初と変わらぬ硬い口調であるが、彼女は気にせずに気さくに話してくれる。
授業に部活。
休み時間のお喋りや同じ昼食、そして放課後の買い食い。
それはこの世界に住む学生達にとっては当たり前なのかもしれないが、セルマにとってはとても貴重でかけがえのない時間だった。
次第にユウリ以外にもセルマに話しかけてくる生徒も増えてくる。
彼や彼女、一人ずつ違う名前や個性を持つ人々も懸命に生きているのだと思うと、なんとしてもこの学園を守らなければならないという気持ちが湧いてきた。
そうして日々を過ごすこと暫く。
ある時からセルマは妙な違和が強くなっていることに気が付いた。
(それにしても――ユウリさん、近頃沈んでいるような……?)
それは一番の友人が俯きがちになっていることだ。なにか悩み事でもあるのだろうかと考えていた矢先、セルマは彼女から呼び出された。
「あのね、セルマちゃん……秘密倶楽部って話は聞いたことある?」
「はい、噂くらいは」
放課後の廊下の片隅、話されたのは件の噂についてだった。セルマは平静を保ったままどうかしたのかと問うと、ユウリは手を差し出した。
「この鍵ね、最近様子のおかしい先輩から貰ったの。でもね、わたし……得体のしれないかみさまっていうのが怖いの」
曰く、ユウリは仲良くしていた先輩から秘密倶楽部に誘われたのだという。
しかし噂をよく思っていない彼女は鍵を持ったまま何もしなかったらしい。しかし先輩からは妙な視線を感じる。それゆえに不安になっているのだと相談された。
セルマは頷き、それなら、と手を差し伸べる。
「私が預かります。その先輩としてきますから、安心してください」
「本当にいいの?」
そういうつもりじゃなかったのだとユウリは告げたが、セルマは大丈夫だと伝えた。実は先輩と話すというのは嘘なのだが、鍵を預かる切欠にはなる。
そして、この鍵を自分が持っていけばかみさまと対面でき、結果的に先輩も解放することができるはず。そう考えての申し出だ。
「お願いね、セルマちゃん」
「はい、任せてください」
友人からの信頼を抱き、セルマはそっと鍵についていたというメモに目を通す。
『遥かな高みに登る場所へ』
其処に書いてある意味は不可解だ。しかし必ず解いて見ると決め、セルマはかみさまに繋がる鍵をそっとポケットに仕舞った。
大成功
🔵🔵🔵
岡森・椛
【秋鴉】
行動描写の詳細お任せ
中3の女子生徒役
新任の理科教師が現れた日、私の世界は変わった
穏やかな物腰も知的な眼差しも時折見せる憂いに満ちた表情も素敵
教え方も上手くて苦手な理科の時間が楽しくなった
でもすぐに気づく
女生徒達全員が同じ表情で先生を見てると
先生が歩けば女生徒もぞろぞろ大移動
休憩時間には先生に質問したい女生徒が長蛇の列で最後尾札が必要なほど
私は隅っこから見つめるのが精一杯
ある日
掃除当番で理科室を訪れ先生を見かけた
扉の陰からそっと見つめて
その寂しげな瞳にハッとした
哀しみが伝わってきたから
鵜飼先生、私は最初は先生に憧れてました
でも今は理科が好きです…!
覗いた顕微鏡の中はとても美しい世界だった
鵜飼・章
【秋鴉】
行動描写の詳細お任せ
中3担当の理科教師として学園へ
スーツの上に白衣+眼鏡着用
科学や生物の不思議に魅せられた所謂『理系男子』
穏やかな物腰の中に未知への好奇心と
少しの孤独を秘めた青年教師役
理科の面白さを生徒達へ伝えたくて
毎日授業を工夫し楽しく教えているつもりだけど
何か違う
…最後尾札?
ああ
これは理科じゃない
『理科教師の僕』への興味だ
質問責めの毎日がふと厭になり
放課後の理科室で実験器具を磨いて
ひとり顕微鏡を覗く日もある
小さな生き物達の息吹
宝石みたいな結晶の美しさ
誰かに伝わっていないかな
プレパラートに閉じこめられた僕を
そっと覗くきみがいた
…岡森さん?
素直な言葉に少し頬を緩ませ
顕微鏡の中、見てご覧
●顕微鏡に見る世界
新任の理科教師が現れた日、私の世界は変わった。
本当にそうとしか言えぬほど、岡森・椛(秋望・f08841)は彼の人――鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)の佇まいから目が離せなくなっていた。
かっちりと着こなしたスーツ。
その上に白衣を纏い、知的な眼鏡を着用した章はとても魅力的だった。
科学や生物の不思議に魅せられた所謂、理系男子。穏やかな物腰の中に未知への好奇心と少しの孤独を秘めた青年教師。まさにそう表すに相応しい。
「鵜飼先生……」
椛は彼の授業の時間になる度に不思議な気持ちになり、いつしか胸の高鳴りが抑えきれなくなっていることを自覚していた。
「では、今日は過冷却の実験をしてみようか」
理科の面白さを生徒達へ伝えたい。
そう考えているらしい彼の穏やかな物腰に知的な眼差し、そして――時折見せる憂いに満ちた表情。そのどれもが素敵だと感じる椛。
そして章は教え方も上手く、椛も苦手な理科の時間が楽しくなっていった。
特に本日の授業内容であった過冷却は実に興味深かった。先ほどまで普通の水だったものが、あっというまに氷に変わっていく。
それはまるで自分の心が一瞬で変わっていったときのような、不思議な感覚をおぼえさせてくれた。
浮足立つような気持ちで授業を受けていた椛だが、ふと気付く。
章の一挙一動に女生徒が沸いている。時折黄色い声を上げる彼女達もまた、全員が同じ表情で先生を見ていることに――。
現に章が歩けば女生徒もぞろぞろと大移動していく。
休憩時間になれば、章先生に質問という名目で話をしたい女生徒が長蛇の列を作るほどだった。椛とて話したくないわけではなかったが、どうしてもその列には加われないでいた。ただ、廊下の隅から時々見える先生の横顔を見つめるのが精一杯だ。
章は理科準備室まで訪ねてくる女生徒達に気さくに応対していた。
「やあ、君は何が分からなかったのかな」
「ええと、あの……」
何も聞かずに頬を赤らめている女生徒。その後ろに並ぶ他の生徒達。
毎日授業を工夫し楽しく教えているつもりであり、こうして興味を持ってくれるのは嬉しく思えた。だが、何かが違うとも感じる。
そして、不意に章は其処にある物と事実に気付いた。
「……最後尾札?」
ああ、と小さな呟きを落とした章は軽く肩を落とす。目の前にいた女生徒には気付かれぬように努めたが、落胆の気持ちが巡ってしまったのは確かだ。
これは理科じゃない。
理科教師の僕への興味だと分かってしまった。
質問責めの毎日は皆が理科に興味を持っているからだと思っていたからこそ、充実していると感じられた。
だが、気付いてしまった以上、そのことがふと厭になる。
或る日、章は生徒達を敢えて遮断して放課後の理科室に訪れてた。
実験器具を磨き、ひとり顕微鏡を覗く。
其処に見えたのは小さな生き物達の息吹。宝石みたいな結晶の美しさ。
「誰かに伝わっていないかな」
――プレパラートに閉じこめられた僕を。
そっと呟き、裡に秘めたのはそんな思い。その光景と言葉を偶然にも目撃してしまったのは、掃除当番で理科室を訪れた椛だった。
声を掛けるべきか迷い、扉の陰からそっと見つめていた椛ははっとする。
あんなに明るく振る舞っていた章の言葉からは寂しさがひしひしと伝わってきた。息を呑んだ気配を感じた章は振り向き、その名を呼ぶ。
「……岡森さん?」
「先生……」
呼ばれたことで彼に歩み寄った椛は自分の抱く感情を伝えようと決めた。
「鵜飼先生、私は最初は先生に憧れてました。でも今は理科が好きです……!」
「そうか、ありがとう」
章はその言葉に頬を緩ませる。
そっと覗くきみだけが、自分を見つめてくれている。そんな気がした。章はそっと身を引き、先程まで自分が見ていたものを示す。
「顕微鏡の中、見てご覧」
「わあ……!」
覗いた顕微鏡の中はとても、とても美しい世界だった。
顔をあげた椛が章を見上げると彼は穏やかに微笑んでいた。その笑顔が眩しく思え、椛もまた柔らかな笑みを湛えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
氷室・雪
中学二年生として潜入
下手に演技してもぼろが出るだろうから普段通りの生活をしよう
授業は目立たないように真面目に受ける
休み時間や放課後は自己鍛錬
内容は人気のないところで基礎体力向上のトレーニングや、剣の訓練
あとは、使われていない時間にプールを借りての水泳といったところか
一応家では遊んだりしているが学校生活とは関係ないな
周囲とは距離をとっているので一人でいることが多いな
近づこうとする者はいるかも知れないが、人付き合いは苦手なのでそっけない態度をとってしまいそうだ
しかし、監視されている可能性があると思うと気分のいいものではないな
あと見られているのは純粋に恥ずかしい
アドリブ、アレンジ歓迎
●滲むプールサイド
白と黒のコントラストが美しいセーラー服に赤いリボン。
それは氷室・雪(静寂の氷刃・f05740)が普段から纏う服装と同じ。風になびきそうなスカートの裾を押さえ、雪は学園の校門を潜る。
「……ご機嫌よう」
この学園の挨拶を校門前に居た教師と交わし、雪は昇降口に向かった。
下駄箱で上履きに履き替え、階段を登る。
潜入捜査という形でこの学園に編入した雪が入っていくのは中学二年生の教室。其処でもまた、ご機嫌ようという挨拶が聞こえた。
軽くクラスメイトに会釈をして雪は一番後ろにある自分の席につく。
これは転校してきたときから変わらない、いつも同じ流れだ。それは下手に演技をしてもぼろが出るだろうという雪自身の考えからなるもの。
普段から通っている学校でもそうであったように、雪は自分から積極的に友達を作りにはいかなかった。寧ろ授業も目立たないように真面目に受け、物静かな学生として振る舞っている。
「氷室さん、お昼を一緒に食べない?」
「いや、私はいい」
そうやって話しかけてくれるクラスメイトもいたが、雪はそっけなく答えていた。次第に周りも雪が一人でいる方が好きだと察して気遣ってくれたのか、声をかける者も少なくなっていった。
(――これでいいんだ)
時折、雪は集まって楽しげに話す女生徒を見つめて目を細めていた。
しかし、常から自分に課せられた使命に巻き込みたくないという思いがある。それゆえに必要以上に人を近付けたくはなかった。これがたとえ潜入捜査の一環であるとしても、雪の思いは変わらない。
だが、雪とて何もせずに日々を過ごしているわけではない。
休み時間や放課後は自己鍛錬に励む。
人気のないところで行っているのは基礎体力向上のトレーニングや剣の訓練。
「おお、君! なかなか筋が良いな。うちの部に来ないか?」
「残念だが興味はない。他を当たるといい」
素振りをする様を偶然見たという男子生徒に剣道部に誘われたりもしたが、雪はすべて断って鍛錬に専念していた。
そうやって学園生活を行う際に感じていたのは誰かの視線。
最初は自分を物珍しがる生徒のものだと思っていたが、妙に見られている時間が長い気もした。怪しまれぬよう周囲を見渡すようなことはしなかったが、確かに誰かに目をつけられているという感覚がする。
(恥ずかしいな……いや、おそらく例の秘密倶楽部の使者というやつだろうが)
しかし、雪は過剰な反応はしなかった。
自分を対象にしているのならば何れ接触してくるだろうと感じていたからだ。
そして或る日、その機は訪れる。
雪は使われていない時間にプールを借り、其処でひとりで泳いでいた。水が跳ね、雫が水面に落ちて弾ける。
その心地は快く雪は暫し水中を自由に泳いでいた。水の中から見る景色は普段見る世界とは違っていて、水滴で滲む光景もまた不思議で良い。
しかしそんな中、誰かがプールサイドに立った気がして雪は水面に顔を出す。
「……誰だ?」
辺りを見ても誰もいなかった。
だが、プールサイドには先程まではなかったものが置かれていた。透明な防水ケースの中に入った鍵と、ちいさなメモ。いつ置かれたのかは分からなかったが、雪に宛てられたものであることは間違いなかった。
『剣を振るう場所へ』
メモにはそんなことが記されている。
雪は訝しんだが、これこそが例のかみさまに繋がるヒントであるのだろう。
「行くしかないか」
プールから上がった雪は校舎に目を向けて静かに頷く。
そして――髪から滴った雫が水面に落ち、ちいさな波紋を作り出した。
大成功
🔵🔵🔵
木槻・莉奈
シノ(f04537)と高等部の生徒として参加
『演技』力と『コミュ力』でお嬢様らしく
ふふ、そうですね
ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いしますね、グラジオラス先生?
(親しみやすいからか周囲がシノ先生呼びでも苗字呼び、理由を聞かれればこっそり耳打ちを
公私の境ははっきりさせたいですし…2人の時にだけ呼び方を変えるって言うのも、駆け引きとしては悪くないでしょう?
(秘密よ、と悪戯っぽく笑い
真面目に授業も受け優等生を演じつつ
幼馴染の先生に報われない片思いをしている演技を
ほら、そういうの少女漫画でよくあるからやって見るのも面白いかなーって
※あくまで演技
リナからシノへの感情は幼馴染のお兄ちゃんから成長しておらず
シノ・グラジオラス
リナ(f04394)と教師として参加
高校の数学を担当
※リナは幼馴染だが、最近一人の女の子として気になっている
学生経験はあるが、まさか教師までやるとはな
さすがに他の生徒の前で呼び捨てはマズいか。なあ、木槻?
10歳下の妹の面倒も見てるんで、女生徒の扱いはまあまあ心得ているつもりだ
『コミュ力』と『情報収集』で生徒の大まかな性格は把握し、
生徒は大事に、子供扱いし過ぎず出来るだけ対等に接する
学生の気持ちを汲む先生は俺も好ましかったしな
授業も分かりやすくを信条に
リナと幼馴染なのは隠さない
冷やかされたりしても、羨ましいだろと笑って返すし、
その程度が許されるくらいには生徒達と仲良くなっておきたいもんだ
●教師と生徒と淡い恋模様
――ご機嫌よう。
柔らかくお淑やかな声と共に交わされる穏やかな挨拶。その声の主がセーラー服を身に纏う木槻・莉奈(シュバルツ カッツェ・f04394)だと気付き、シノ・グラジオラス(火燼・f04537)は双眸を細める。
シノは数学教師。
莉奈は高等部の生徒として。
其々に赴任し、編入してきた二人は幼馴染だ。しかし人目のあるところではいつもの呼び方は止め、教師と生徒として振る舞っている。
「おはよう、木槻」
「グラジオラス先生、おはようございます」
最初は互いの呼び方にくすぐったさも感じていたが、今は何だか慣れてきていた。
廊下で擦れ違った二人は静かな笑みを交わし、また授業で、と告げて別れる。それはよくある光景ではあったが、彼らが纏う雰囲気は誰よりも親しげだ。
「ねえ、あの二人ってお付き合いしていらっしゃるのかしら?」
「いいえ、確か幼馴染だと聞きましたわ」
「まぁ、それであれほど仲がよろしいのね!」
莉奈が教室に向かう中、シノは通りかかった女生徒達の噂話を耳にする。
やはり女子が多いとなると恋の噂も盛んらしい。幼馴染であるということは特に隠していなかったので変に誤解されることはなかったが、ああいった噂を実際に聞いてしまうと少しばかり落ち着かない気持ちもある。
「お付き合い、なあ」
シノは首を傾げる。確かに近頃、莉奈はとても女性らしくなっている。
幼い頃から共に居るが、最近の彼女は――。
と、其処まで考えたシノははたとする。予鈴の鐘が響いており、もうすぐ授業がはじまることに気が付いたからだ。
急ぎ足で教室の横を通り、職員室へ教材を取りに向かうシノ。すると廊下側の席についていた莉奈が静かに笑み、そっと呼びかけた。
「グラジオラス先生、遅れないように気を付けてくださいね?」
「分かってるぜ。ありがとな」
これじゃどちらが先生か分からない。軽く手を振った莉奈に手を振り返したシノは歩を進めた。そうして、授業の始まりを告げるウェストミンスターの鐘が学内に高らかに鳴り響いていく。
莉奈の授業態度はとても真面目だ。
優等生と表して良いほどに成績もよく、時折クラスメイトに勉強を教えたりもしているので周りの評判も上々。
「木槻さん、お昼をご一緒させてくれないかしら?」
「おーい、木槻。この前はありがとなー!」
「ええ、大丈夫よ。また何かあったら声を掛けてね」
いつしかクラスメイトから頼られるようになり、莉奈は穏やかながらも賑やかな学園生活を送っていた。
他の教師からの評価もいいので、先生として莉奈の話を聞くのもシノとして鼻が高かった。生徒の間では噂になっているが、もちろん教師の間では例の恋愛の噂は流れないようにしている。
シノも教師として優秀であり、生徒にも好かれていた。
「先生! シノ先生!」
「ねえ先生、調理実習でクッキーを作ってきたの。よければどうぞ」
特に女生徒の扱いが上手いシノはよく休み時間にそういった訪問を受けていた。授業も分かりやすくを信条に行っているので純粋な人気も高い。
思い返すのは自分の学生時代。生徒の気持ちを汲む先生は自分も好ましく思っていたゆえに出来ることだ。
そうして暫し学園で過ごしていく二人は日々に充実を感じていた。
或る日、莉奈とシノは偶然にも中庭で出会う。
「ご機嫌よう、グラジオラス先生」
「ああ、木槻か。昼食は終わったのか?」
軽く会釈をしてから頷いた莉奈にシノは微笑みかけた。するとその様子を見た生徒が声をあげる。
「わあ、あれが噂の二人?」
ひゅーひゅー、と冷やかす男子も居たが二人は動じない。
「はは、羨ましいだろ」
動じずに笑って返したシノ。この関係が深刻にならないのは彼や莉奈が不必要に慌てないからであり、更にはその程度のやりとりが許されるくらいに生徒達と仲良くなっているからだ。
そうして二人は中庭のベンチへと向かい、其処に腰を下ろす。
「さすがに他の生徒の前で呼び捨てはマズいから、ああしてるが……別にリナ、いや木槻も皆と同じシノ先生呼びでいいんじゃないか?」
シノがそう問うと、莉奈はちいさく笑んでみせた。
「公私の境ははっきりさせたいですし……二人の時にだけ呼び方を変えるって言うのも、駆け引きとしては悪くないでしょう? ね、シノ先生」
こっそり耳打ちした呼び名は、普段の演技をしている時とは違う親しさを宿していた。そして、秘密よ、と悪戯っぽく笑む莉奈。
彼女は実に魅力的になったと感じながらも、シノは軽く首を傾げる。
現に、莉奈は幼馴染の先生相手に報われない片思いをしている演技を行っている。それゆえにあのような噂も立つのだろう。
「リナはこれで居心地は悪くないのか?」
自分は上手く躱せるが莉奈が一人の時にからかわれたりはしないのだろうかと考え、シノは何とはなしに聞いてみた。すると莉奈は可笑しそうに微笑み、一度やってみたかったの、と話した。
「ほら、そういうの少女漫画でよくあるからやって見るのも面白いかなーって」
「なるほどな。漫画にありがちな話なのか」
「だからもう少しだけ、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いしますね。グラジオラス先生?」
「ああ、頑張らせてもらうぜ」
そうして二人は立ち上がり、互いの学園生活へと戻ってゆく。教師と生徒として、其々の日々を紡ぐことで件の事件に近付くために――。
そして幾日か経った頃。
莉奈は放課後にシノを呼び出し、誰も居ない教室で待ち合わせていた。
「待たせたか。少し職員会議が長引いてな」
「シノったら、すっかり先生が板についてるね」
「……ん?」
そういって夕陽を背にして微笑む莉奈はもう演技をしていない。どうかしたのかとシノが問うと、莉奈は掌を差し出して広げた。
「もう学園生活も終わりかなって。ほら、この鍵……」
「そうか。リナが『かみさま』に選ばれたってことか。……行くのか?」
「勿論よ。そのためにこうやって潜入してきたんだから」
下駄箱に入っていたという件の鍵を見せ、莉奈は同時に入れられていたらしい謎のメモをシノに見せた。
『美しきものが掲げられた場所へ』
そう記されたメモが示す意味は未だ分からないが、何らかのヒントなのだろう。
二人は共にかみさまとやらに会いに行くことを決めて頷きあった。
いざ、真夜中の学園へ。
その先に待つ戦いを思い、彼らは静かな決意を抱いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
教師として潜入します
高等部の古文ならば問題は無いでしょうか
髪はお団子にして、眼鏡をかけて
潜入とは言え生徒達の見本になる装いをしましょう
倫太郎殿も振る舞いには気を付けましょうね?
倫太郎殿とは同じ高等部ですしお昼は学食で情報交換
今日は日替わり定食にしてみました
運動部向けなのか量もあって食べ応えがあります
生徒達には休み時間に話し掛けられる事もありますが
皆個性的で若さに溢れております
放課後に個人指導を受けたいという勉強熱心な方まで
彼等の為にも頑張らなくてはなりませんね
倫太郎殿は「篝先生」と呼び、後輩と言った所でしょうか
私も先生と呼ばれるのは不思議な気持ちです
いえいえ、悪い意味ではありませんよ?
篝・倫太郎
【華禱】
年齢詐称になっけど、まぁ、新米教師として潜入
受け持ちは高等部の日本史辺りで!
真面目にいい先生するぜー?
や、若いからってナメて来られても笑って受け流すしー
それくらい出来ますしー
目指せ、慕われる教師!
夜彦とは受け持ちの教科が違うけども
昼飯食う時くらいは一緒に過ごせるといいなぁ
あ、流石に生徒の目もあっから「あーん」は無しで!
夜彦の喰ってたの美味そうだったから明日にでも頼んでみよ
まぁ、飯喰いつつ情報交換なんだけど
別に探り入れなくてもさ、それっぽい奴の目星は付くだろ
夜彦の事は校内ではちゃんと「月舘先生」って呼ぶぜ
なんか、すげぇ胡散臭くね?俺の「月舘先生」呼び
後、個人指導は止めとけよ、月舘センセ?
●月舘先生と篝先生
高等部の古文教師、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)。
同じく高等部の日本史担当教師、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)。
共に同じ時期に赴任してきた二人の教師は今、一緒に昼食をとっていた。食堂の片隅であっても周囲からの視線を感じるのは、彼らを気にする女生徒が多いからだ。
「なあ、妙に視線感じねぇ?」
「そうですね。我々は少し目立つのでしょうか」
倫太郎が問うと、この時期の新任教師は珍しい故に、と夜彦が答えた。夜彦は今、髪はお団子にして眼鏡をかけている。きっちりとした容姿で纏めているのは、潜入とは言え生徒達の見本になる装いを心がけているためだ。
「倫太郎殿も振る舞いには気を付けましょうね?」
あまり目立ちすぎても潜入の意味がないと話した夜彦。対する倫太郎はそんなこと分かっているというように口許に笑みを浮かべた。
「真面目にいい先生するぜー? や、若いからってナメて来られても笑って受け流すしー、それくらい出来ますしー。目指せ、慕われる教師!」
「それなら心配は不要ですね」
調子よく話す彼に笑みを向け返し、夜彦は目の前の昼食に箸を伸ばす。
近頃は専ら日替わり定食が主だ。
毎日メニューが変わるというのも驚きがあるうえ、運動部向けなのか量もあって食べ応えがあった。
「倫太郎殿……いえ、篝先生。この肉じゃが、とても美味しいですよ」
「へえ、それじゃあ……いや、いやいや」
夜彦がそういうものだから思わず、あーん、と口を開けそうになった倫太郎だったが慌てて首を振る。流石に生徒の目があることも忘れてはいけない。
別段、法を犯すような悪いことではないのだが、あーんでもしようものならば一部の女子生徒達が大いに沸いてしまう。主に夜彦人気が高いと察している倫太郎にもそれくらいのことは分かる。
「ちょっと食いたいけど、明日にでも頼んでみよ」
「篝先生、日替わりのメニューなので残念ながら……」
「あ! マジか……」
肩を落とす倫太郎の姿がおかしく思え、夜彦は口許を押さえて静かに笑った。
そうして二人は話に花を咲かせる。
「ていうかさ、なんかすげぇ胡散臭くね? 俺の月舘先生呼び」
「私も先生と呼ぶのも呼ばれるのも不思議な気持ちです。ですが、悪い意味ではありませんよ?」
普段とは違う学園での生活。
それは何だか不思議で、それでいて居心地の良い時間だと思えた。
そうして昼食を終え、二人は午後の授業に向かう。
教師としての振る舞いはどちらも十分だ。特に夜彦の丁寧な教え方は生徒に好評であり、授業と関係なく休み時間に生徒達に話し掛けられることもあった。
「篝先生、調理実習でケーキを作ったの」
「甘いものがお嫌いでなかったら是非」
甲斐甲斐しく差し入れをしてくれる生徒もおり、夜彦は快く受け取っている。
そうやって生徒と交流していく中、思うことがあった。皆が個性的で若さに溢れており、生き生きとしている。
だが、それゆえにかみさまなどという邪神がそのエネルギーを狙うのだろう。嘆かわしいことだと感じる夜彦はそっと敵への思いを馳せた。
対して、倫太郎は女子ではなく男子生徒に人気のある教師だった。
「倫太郎、さっきの授業わかんなかったんだけど」
「りんたろーが夜彦先生と仲いいのって不思議だよな」
「こら、お前ら。先生をつけろ、先生を」
まるで友達のように接してくる生徒に釘を差しながら、倫太郎はそれもまあ悪くはないかもしれないと感じていた。勿論、一応なりにも教師なので注意はしているが生徒が自分を慕ってくれている証でもある。
「いいか、夜……じゃなくて月舘先生はだな――」
「あ、また倫太郎の惚気が始まった!」
「お前らが聞いたんだろうが! 惚気じゃねぇよ」
「あはは!」
そんな遣り取りも教師としての倫太郎の日常だ。生徒達も分かってからかっているのか、彼の周りでは明るい笑いが絶えなかった。
そうして日々を過ごす中、倫太郎が常駐する社会科準備室に夜彦が訪ねてきた。
「おう、どうした」
「少しお伝えしたいことがあって。本当はもう少し早く来る予定だったのですが、放課後に個人指導を受けたいという勉強熱心な方までいらっしゃるので抜け出してくるのが大変でした」
彼等の為にも頑張らなくてはと語る夜彦だったが、倫太郎は軽く頭を振る。
「個人指導は止めとけよ、月舘センセ?」
「……? 何か悪いことでもあるのでしょうか」
「いや、夜彦が人気すぎて……っと何でもない。それより話って?」
何とか言いかけたことを誤魔化した倫太郎は夜彦の話たいことについて問いかけた。すると彼は妙な生徒を見かけたのだという。
それはかみさまに操られている生徒ではなく、鍵を受け取ったと見られる女子生徒だ。彼女が友人と話しているところを偶然見たという夜彦は語る。
「今夜、裏口が開いている。そこから忍び込んで『かみさま』に逢いに行く――と、彼女は話していたようです」
「その生徒、特徴は?」
「髪の長い女生徒でした。後ろ姿を見ればすぐに分かるかと」
倫太郎は神妙な表情でその話を聞き、拙いことになったと感じた。夜彦も新たな秘密倶楽部の使徒が生まれてしまう懸念を抱いたゆえにこうして訪ねてきたのだ。
「今夜か。……追うしかねぇな」
「はい、生徒の安全の為にも行きましょう」
短期間ではあったが二人はしっかりと生徒を思う教師としての意識を持っていた。
真夜中にかみさまとの密会に向かう学生を追う。それが自分達に課せられた、先生としての最後の役目だと思えた。
そして、頷きを交わした二人は誓う。
得体のしれないかみさまになど誰も奪わせない。この手で学園を護るのだと決め、倫太郎と夜彦は更なる潜入の準備を整えていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
陽向・理玖
高1
学ラン着んの半年ぶり位?
※高校は通信制
師匠がいなくなっちまってから
仕事とはいえ学校通うなんて…皮肉
屋上でスマホの待受画面眺めつつため息
さてっとお仕事お仕事っと
学園案内開いて
怪しまれない為には何かやった方がいいんかな
部活動の項目ガン見
スマホの料理サイトガン見
こ…
ご。ごきげんよう?
えっとここ料理かんけーの部で合ってる?
料理に興味あるんだけど
スマホ見ねーと作れねーし
俺でも入れる?
…つーか
ここほんと女子多っ
頬赤らめ
家庭料理程度なら作れる
盛付が豪快だったり
レシピ見ないと大量に作ったり
菓子?
菓子作んの?
手際いい?
まぁいつも作ってっから…
えっプリン作ってんだけど
でかい?
何かほわほわする
…楽しいのかな俺
●新入部員は男子高生
袖を通した制服の心地は懐かしい。
学ランを着るのも半年ぶりだろうか。陽向・理玖(夏疾風・f22773)は、ご機嫌よう、という朝の挨拶と予鈴が響く学内を歩きながら、手にしていた鞄をもう片方の手に持ち直す。
先ず向かったのは職員室。
編入手続きを終え、配属された高校一年生のクラス担任に会いに行くためだ。指示された相手に挨拶をすれば、簡単な説明を聞かされていく。
そして理玖は教師に連れられ、教室に案内された。
「えー、今日からこのクラスの仲間になる陽向くんだ。仲良くするように」
「……よろしく」
教師に紹介され、軽く挨拶をすればクラスメイト達が笑顔を返してくれた。そしてそのまま理玖は窓辺の傍に用意されていた自分の席に座る。
そうして、転校初日の時間は恙無く流れていった。
どこからきたのか、どんな教科が好きなのかなど、休み時間にクラスメイト達から向けられた質問に答える理玖はこれが普通の日常なのだと感じていた。
慣れぬ授業に見知らぬ生徒達。
それらが嫌なわけではなかったが、少しひとりになりたくなった理玖は昼休みになると同時に屋上に向かった。
通信制の学校に所属していた理玖はふと、学園について思いを巡らせる。
(師匠がいなくなっちまってから、仕事とはいえ学校通うなんて……皮肉)
これまで潜入捜査を行ったことがないわけではなかった。しかし、自分ひとりでこうして学園に入り込むのは何だか落ち着かない気もする。
スマートフォンの待受画面を眺めた理玖は深い溜息をついた。
だが、これも大事な任務だ。
「さてっとお仕事お仕事っと」
学園案内を開いた理玖は怪しまれない為には何かをやった方がいいだろうと考え、部活動の項目を眺める。ついでに料理サイトにも目を通した彼は放課後、これと決めた部活動に入るために調理実習室に向かった。
其処は料理研究部が部室として使っている場所だ。
「こ……ご。ごきげんよう?」
「まあ、ご機嫌よう! 何か御用かしら」
戸惑いがちに扉をひらいた理玖はぎこちない挨拶をする。すると中に居た女生徒が笑顔で迎えてくれた。
「えっとここ料理かんけーの部であってる?」
「入部希望の方ね。ええ、大丈夫よ」
料理に興味あること、しかしスマホを見ないと料理が作れないことを告げた理玖は部長らしき女生徒に問う。
「料理、得意じゃねーけど。俺でも入れる?」
「ふふ、勿論よ。男子の部員はいないからみんなきっと歓迎してくれるわ!」
「じゃあよろしくお願いしま……つーか、男子部員俺だけ?」
いらっしゃい、と手招いた部長に誘われて中に入ると、告げられた通りに女生徒だらけだった。流石は元お嬢様学校。思わず頬を赤らめた理玖に、女生徒達から「かわいい!」「後輩が増えたわ!」とはしゃいでいる。
そうして軽く自己紹介をした理玖は、さっそく料理研究クラブの活動をしていかないかと誘われた。
「今日は卵を使ったスイーツの日なの。あなたは何か作れる?」
「菓子? 菓子作んの? じゃあ……」
断る理由はないとして理玖は用意されていた卵を手に取る。
周りを見ればホットケーキやクッキーを作っている女生徒が多い。そんな中で理玖が作っていくのはプリンだ。
牛乳と卵だけで作れる簡単スイーツといえばこれ。
「まあ、陽向さんお上手ね」
「手際がいいのね。すごいわ!」
「まぁいつも作ってっから……」
新入部員、しかも男子生徒であるゆえに周りの関心も高いのか、いつのまにか理玖は女子達に囲まれていた。間近で女子が自分の手元を覗き込んでいる光景に頬が熱くなるのを感じたが、料理に集中する理玖は次第にこの状況に慣れていく。
「ところでその器なのですけれど……プリン用ではないのではなくて?」
「えっちゃんとプリン作ってんだけど。でかい?」
プリン液をボウルに注いでいく理玖を見て、ある生徒が戸惑いがちに問う。すると理玖は不思議そうに首を傾げた。
流石は男の子。大型新人ね。素敵、などと沸く女生徒達は実に楽しそうだ。
彼女達も、この学園も自分を受け入れてくれている気がした。そう思うと何だか胸の内がほわほわする。
(……楽しいのかな俺)
ぼんやりとそんなことを思い、理玖は冷蔵庫に入れたプリンの完成を待つ。
その後、出来上がったボウル入り巨大プリンを彼が平らげる様に女生徒達が驚きと楽しげな声をあげることになるのだが、それはまた別のお話。
そうして理玖は学園生活を送っていく。
クラスメイトと挨拶を交わし、授業を受け、昼休みや放課後には料理研究部で過ごす。新しいレシピを教えてもらったり、男子ならではの料理の作り方を披露してお嬢様達に驚かれたりと、充実していると言える日々が流れていった。
(皆、こんな生活してるんだな。これが守らないといけねー日常か……)
或る日の放課後、理玖はそんなことを感じていた。
そして理玖は自分の手の中にある鍵を握り締める。これは今日、いつのまにか机に入れられていたものだ。おそらくこれが『かみさま』に会うために必要だという例の鍵なのだろう。そして、鍵と一緒に謎のメモも入っていた。
『時折、甘い香りに満たされる部屋へ』
記されていた内容が何を示しているのかはわからない。
しかしこれが何らかのヒントになるはずだ。理玖は潜入捜査の次の段階に入るべきときが来たと感じ、静かな決意を固めた。
大成功
🔵🔵🔵
ユヴェン・ポシェット
今までアルダワ魔法学園の生徒達と関わることがあったが、この世界での学園生活というのはまた違うのだろうか…これを機に味わってみるのも良いかもしれないな。
…とはいっても、流石に俺が学生…は、無理があるよな。まあ、俺の気持の問題なのかもしれないが。
※できればお嬢様方の学園生活を支える用務員希望です。が、それが無理そうであれば生物担当の教師。
普段は口数少なめで黙々と真面目に仕事していますが、生き物に関する事なら優しくおしえてくれます。力仕事も進んで引き受けてくれます。
(アドリブ等お任せします)
●うさぎのおにいさん
学園の片隅に建てられた兎小屋。
其処で飼われている白いうさぎが跳ね、ぴょこんとユヴェン・ポシェット(Boulder・f01669)の方に近付いた。
「どうした?」
うさぎが傍に来たことを察し、ユヴェンは掃除の手を止める。
するとうさぎ、ユキちゃんと名付けられたその子はじっとユヴェンを見上げた。
「おやつ? もう少ししたら生徒が来るから我慢するといい」
ユキちゃんにそう告げた彼は掃除を再開する。
今、ユヴェンは学内の用務員としてこの学園に潜入していた。教師も悪くはなかったが授業中も自由に動けることを考え、この役割を選んだのだ。
あるとき動物が好きだと他の教師に告げると、ユヴェンにはぜひ生物部周辺の世話をして欲しいという要望が入った。
それゆえにこうして現在、小屋の掃除を担っている。
手際よく小屋内を整えていく中、ユヴェンはこれまでの日々を思い返した。
今までアルダワ魔法学園の生徒達と関わることはあったが、この世界での学園生活はそれとはまた違う。
生徒が着ている制服も独特であり、男子も女子も愛らしいと思えた。
「俺もあの服を着て学生を……いや、流石にそれは怪しいか」
少しばかり想像を巡らせたユヴェンの口許が緩む。自分の気持ちの問題なのかもしれないが、今はこうして用務員として潜入できて良かったと思えた。
何故なら――。
「うさぎのお兄ちゃん、こんにちはー!」
「ユキちゃん元気? 野菜もってきたよー!」
放課後、こうしてうさぎの面倒を見に来る小学生たちに懐かれているからだ。
学内の動物をお世話する活動を行う生き物クラブ。それがこの子達が所属している部活らしい。しかしまだ幼い子供だけではときおり世話に必要になる力仕事はできない。それゆえにユヴェンが補助としてうさぎの細々とした面倒を見ているのだ。
「うさにい、抱っこして! あの棚の道具がとりたいの!」
「ああ、構わないが……うさにい?」
ある女子生徒がユヴェンに駆け寄り、両腕を伸ばす。言われるままに抱き上げて棚まで持ち上げたユヴェンが問うと、少女は得意気に頷いた。
「うさぎのお兄ちゃんだと長いからうさにい。可愛いでしょ?」
「いいな、じゃあおれもうさにいって呼ぶ!」
「……そうか」
少女に続き、少年もユヴェンの呼び名を改めたいようだ。好きに呼ぶといいと告げた彼は女生徒をそっと下ろし、小学生達がうさぎに餌をやるのを見守る。
用務員の仕事は他にもあったが、近頃の和みはこの時間だ。
愛らしいうさぎに無邪気な子供達。
ユヴェンは余計なことを語らぬ性質ゆえに誰にも名前を告げていなかったが、こうしてお兄ちゃんなどのあだ名で呼んで貰えるので困っていない。
口うるさい大人と違って優しく静かに見守ってくれる姿勢が落ち着くのか、子供達もユヴェンをよく慕っていた。
そうして生き物クラブの子供達は今日も立派にうさぎの世話を終える。
「さて、そろそろ日も暮れるぞ」
「はーい。帰る準備しなきゃ!」
「うさにい、ユキちゃんもバイバイ。またあしたねー!」
ユヴェンが帰宅を進めると小学生達がそれぞれに帰路についていく。その後ろ姿を見送り、手を振るユヴェン。こうして日々を過ごしていると、この日常こそが護るべきものだと思えた。
別の仕事に戻ろうとユヴェンが踵を返した時、ふと或る物を見つける。
「これは……?」
不思議に思って拾いあげたのは透明なケースに入った見知らぬ鍵。そして、その中に入っていた謎のメモだ。
『美しきものが掲げられた場所へ』
そう記してあるメモの意味はわからなかった。だが、ユヴェンは直感する。
これは『かみさま』――秘密倶楽部と呼ばれるものに近付くために必要だと言われるものだ。おそらくあの子達の誰かが選ばれ、うっかり落としていったのだろう。
学内ではかみさまは救いの存在だと語られているが、ユヴェン達猟兵はそれが邪神だと知っている。
「……あの子達の誰かには悪いが使わせて貰うか」
これがあれば邪神に会うことが出来る。これで潜入捜査が次の段階に進むと感じたユヴェンは、鍵とメモを懐に仕舞った。
穏やかな日常は何者にも穢させない。そう、心に決めて――。
大成功
🔵🔵🔵
華折・黒羽
エンパイアの世界では立派な成人として扱われる俺の年齢
現代の世界であればまだ学生…勉学を受ける子供なのだと聞く
村の小さな小さな寺子屋で僅かの間しか学んだことはなかったが
こちらの世界ではどういった事を学ぶのだろう、と
気になった為に受けた今回の依頼
決められているという学生服を纏い
“高校三年生”という場に振り分けられた
来てからやっているのもっぱら読書ばかり
図書館という所は色々な情報や事柄
物語の書かれた本が多く揃っていて面白い
授業以外の時間はここで過ごしながらも
異変は無いかと揺で作り出した影猫を放ってはいるが
特にこれといった事は起こらぬまま
今日も休憩時間の賑わいを遠く耳にしながら
目の前の文字を追う日々
●本と少女とちいさな繋がり
放課を告げるチャイム、ウェストミンスターの鐘が鳴り響く。
十七歳。
それは華折・黒羽(掬折・f10471)の故郷では立派な成人として扱われる年齢だ。
しかしこの世界――UDCアースでは十七歳とはまだ勉学に励み、教育を受ける子供だと認識される歳だ。
「……それにしても、こうも文化が違うとは」
高校三年生という場に振り分けられ、一生徒として生活している黒羽は屋上から見下ろせる学園の賑やかな景色を暫し眺めた。編入手続きを終えて学生になってから数日、学ランと呼ばれる制服に身を包んだ黒羽は不思議な心地を覚えていた。
屋上からの光景をぼんやりと瞳に映しながら、黒羽が思い返すのは昔のこと。
村の小さな小さな寺子屋。
勉学というものは其処で僅かの間しか学んだことはなかった。それゆえにこちらの世界で教わる知識はどういったものなのだろうと気になっていたのだ。
幾日か、クラスで同年齢の者達と共に受けた授業はとても新鮮に思えた。
理解できぬことも多々あったが、この国の文学や歴史、新たな計算方法や数式を習うことは実に興味深かった。
眼下に見える渡り廊下から、ご機嫌よう、という挨拶の声が聞こえる。
その声のひとつがクラスメイトのものだと気付いた黒羽は視線を其方に向けた。するとふと頭上を見上げた女生徒も黒羽に気付き、手を振る。
また図書館で。
そう言っているらしき口の動きを読み取り、黒羽も軽く片手を上げた。
彼女はクラス内での隣席にいる女生徒だ。転校してきたばかりの黒羽に授業でわからないところを教えてくれ、軽く学内を案内もしてくれた。
そして、偶然にも彼女も黒羽も図書室が気に入っている。
授業やクラス内以外ではあまり話すことはなかったが、図書室で会う度に会釈や視線を交わす関係だ。
そして今日も図書室に向かうらしい彼女の背を見送り、黒羽も歩き出す。
いつしか黒羽は放課後に本を読むことが日課になっていた。学園に訪れてからはもっぱら読書ばかり。
授業にも興味をひかれていたが、自分のペースで好きな知識を得られることが図書の良いところだ。様々な情報や事柄、物語。それらが記された本が多く揃っている場所はとても面白かった。
無論、潜入捜査であることも忘れておらず、黒羽は授業以外の時間はここで過ごしながらも異変は無いかと揺で作り出した影猫を放っていた。
しかし、これまで特に何も起こらぬまま日々が過ぎていっている。
学園での生活を送り続け、更に幾日か。
黒羽は今日も休憩時間の賑わいを遠く耳にしながら目の前の文字を追う。
それは静かな時間。けれども、何よりも落ち着ける時間だった。しかし、近頃は妙な違和を覚えることが多くなった。
(あの子は――?)
黒羽の面倒をよく見てくれていた女生徒が最近、図書室に現れなくなったのだ。
一日だけなら何も思わなかった。だが、彼女は本を読むこと自体もやめている。それだけではない、授業態度も真面目だった彼女は近頃ずっとぼんやりしていた。黒羽が朝の挨拶をしても、うん、と静かに頷くだけ。
おかしいと感じた黒羽は或る日、放課後に図書室には向かわずに教室で待機した。
黄昏色の夕陽が教室を照らしている。
室内に誰も居なくなったことを確かめた黒羽は隣の席の机をそっと探る。誰かの席を勝手に触ることに抵抗がないわけではなかったが、黒羽は女生徒が帰宅する前にこの中に或る物を仕舞い込んでいる場面を目撃していたのだ。
「……矢張り有ったか」
其処には透明なケースに入った鍵があった。明らかに家の鍵などではない。何故なら薄い魔力のようなものがそれに纏わりついているからだ。
そして、一度折りたたまれたであろうメモも一緒に入れられている。それを開いてみると『文字の波の向こう側へ』という言葉が記されていた。
その意味を考えながら、黒羽は予想する。
おそらく隣の席の女生徒は一度、件のかみさまに会って生気を奪われた。それゆえに様子がおかしくなり、こうして秘密倶楽部の証である鍵を持っているのだろう。
そして黒羽は窓辺から空を見上げる。
暮れなずむ空には夜の帳が降りてきていた。平和にしか見えない学園にも静かな闇が蔓延っている。それをこのままにはしておけない。
悪しき邪神に繋がる鍵を懐に仕舞い、黒羽は静かな決意を抱いた。
大成功
🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
がっこうだっ
さいしょアルダワにいたけど
学校でじゅぎょうはしたことない
じゅぎょうってなにするんだろう
ふふ、たのしみ
学ランで足取り軽く高等部
ごきげんようっ
ディイが見せてくれた服のひとはみんなおなじ学校だよね
あいさつあいさつっ
返ってきたらうれしくてにこにこ
わたしおぼえるのはとくいだから
授業終わって、教室に朝あいさつしてくれた人がいたら話しかけるね
自己紹介して
次はどんなじゅぎょうなの?
みんなしずかにべんきょうしててすごいね
それからすきなものとか
たのしいことのおはなしして、なかよくなりたいな
あとね、図書室にもいってみたい
わたしね、本よむのすきなんだ
たくさんのことがおぼえられるもの
また明日ねって手を振って
●日常と夢の終わり
「ごきげんようっ」
朝の通学路、同じ制服を身に纏った生徒達にかける挨拶も、もう慣れたもの。
今日のじゅぎょうはなにをするんだろう。
オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)はわくわくした気持ちを抱きながら、校門を潜った。登校を見守る教師の前では少し詰め襟や制服の裾を正し、ちょっとだけ礼儀正しくしてぺこりと頭を下げる。
「ケストナーさん、ご機嫌よう」
「オズ、一緒に教室にいこーぜ!」
「うんっ、いこう」
昇降口に向かえば登校時間が同じだったクラスメイトからオズに声が掛けられる。女生徒には明るく手を振って、一番仲の良い男子生徒と並んで高校の教室に向かっていくオズはにこにこと楽しげだ。
学園潜入のミッションを初めて幾日か。
アルダワ魔法学園の内の授業もあまり知らなかったオズにとって、現代日本の学校風景や授業はとても新鮮で不思議なものだった。
編入初日、担任から転校生だと紹介されたオズは元気に挨拶をした。
それからクラスの生徒達は積極的に話しかけてくれ、わからないことや知らないことをたくさん教えてくれた。
生徒達で賑わう廊下を抜け、オズは先程の男子生徒――ユウゴという少年と一緒に教室に入る。其処でもクラスメイトからおはよう、ご機嫌よう、という声が聞こえてまた嬉しくなっていく。
窓際の席に鞄を置いて机から教科書を取り出し、オズは前に座る少年に問う。
「ね、ユウゴ。今日の一限目は、こくごでよかった?」
「だな。確かお前が当てられる日だぞ、今日」
「えっ なんでわかるの?」
「あの先生は出席順に指名していくからな。朗読の準備しとけよ」
オズと少年がそんな遣り取りを交わしていると予鈴が鳴り響きはじめた。ウェストミンスターの鐘という名らしい、チャイムの音は何だか心地よい。
やがて本鈴が鳴り、始まる授業。
起立、礼、着席。
きっちりとした授業始めの挨拶も最初は不思議で仕方なかったが、今のオズにとっては何でも楽しいものだ。
「えー、ではオズ・ケストナーくん。この部分を読みなさい」
「はいっ」
友人の言葉通り、教師がオズを指名する。返事をしたオズは立ち上がり、示された教科書に目を落とす。
夢十夜、第一夜。
「――それから星の破片の落ちたのを拾って来て、かろく土の上へ乗せた。星の破片は丸かった。長い間大空を落ちている間に、角が取れてなめらかになったんだろうと思った。抱き上げて土の上へ置くうちに、自分の胸と手が少し暖くなった」
それは嘗て文豪が書いたという夢の話。
不思議な文章だと思いながらもオズは静かな教室の中で文章を読み上げていく。
「自分が百合から顔を離す拍子に思わず、遠い空を見たら、暁の星がたったひとつまたたいていた。『百年はもう来ていたんだな』とこの時始めて気がついた――」
そして、オズは朗読を終える。
生徒達からささやかな拍手がおくられ、教師もオズによく読めたと言葉をかけてくれた。ふわりと微笑んだオズは着席し、進められていく授業に耳を傾ける。
そうして今日も時間が過ぎていく。
国語に数学、理科や体育、音楽。たくさんの授業を受けたオズの飲み込みは早い。休み時間にはユウゴや、よく自分の面倒を見てくれるクラス委員長の少女と話したりして、昼休みには食堂で男子生徒達と一緒にわいわいと昼食をとる。
それは充実しているといっても過言ではない日々だった。
そして、放課後。
「よ、オズ。いつもみたいに図書室にいくのか?」
「うんっ 今日はね、じゅぎょうで読んだ続きをしらべてみようとおもってるよ」
「へー、勉強熱心だな。俺も調べ物があるから一緒にいっていいか?」
「もちろん。いこっ、ユウゴ」
少年から声を掛けられたオズは笑顔で答え、近頃の日課になっている読書を行うために図書室へと向かう。本から得られることもたくさん。けれど、こうして友人と過ごす時間からもいろんなことを知れた。
みんな、とても優しかった。制服はみんな同じだけれど誰一人として性格も個性も同じではないと感じられる。
図書館の片隅、向かいの席で調べ物をする友人にオズはふと話しかける。
「ねえ、ユウゴ。わたしね――」
「ん、どうした?」
首を傾げる彼をオズは暫し見つめた後、なんでもない、と首を振った。変なやつ、と笑った少年は本を閉じる。どうやら調べ物が終わったらしい。
「さて、それじゃ俺はそろそろ行くよ。またな、オズ」
「…………」
「オズ?」
もう学園には来れないかもしれないということを告げ損ね、少し黙り込んだオズの名を少年が呼ぶ。はっとしたオズはすぐに笑みを浮かべ、友人に手を振る。
「また明日ね」
「おう、また明日!」
そういって二人は別れた。図書室の窓辺には夕暮れの彩が射し込んでいる。
そして、オズは掌の中に握り込んだものを見下ろした。
それは今日、いつの間にか机の中に入れられていた『鍵』だ。それは件のかみさまに見初められた証。秘密倶楽部に迫るための切欠であり、この学園生活と潜入捜査が終わるという印でもある。
一緒に入れられていた『文字の波の奥へ』という謎のメモを読みながら、オズは今夜にでも真夜中の学園に忍び込んでかみさまを探す決意を抱く。
また明日。
友人とそう言いあえる時間に終わりが告げられるとしても、この穏やかで平和な日常を邪神なんかに穢させはしない。
夢のような日々だったと感じたのは、あの物語を読んだからだろうか。
鍵を握り締めたオズは滲む夕焼けを暫し見つめていた。
大成功
🔵🔵🔵
曙・聖
ふむ。学園での潜入調査ですか
潜入調査……私はあまり経験がないのですが
時には非日常を体験しながら、情報を集めるのも、面白いかもしれませんね
それに、作品のネタが思いつくかもしれません
高等部の古典の新任教師という体で潜入しますね
文学は執筆するか研究するかばかりで、教えることは初めてですが……まあ、何事も経験でしょう
【コミュ力】や【世界知識】を活かして、学生たちと適度に関係を築けるように努めましょうか
会話や学校生活のなかで、偶然何か情報を掴めたら御の字、くらいの心持ちでいきましょう
*アドリブ歓迎
行動の詳細お任せします
●かみさまの使徒と秘密の鍵
「曙先生、ごきげんよう!」
「ええ、ご機嫌よう」
生徒と朝の挨拶を交わし曙・聖(面影草・f02659)は穏やかに笑む。
高等部の古典新任教師。
聖は今、幾日か前からそういった肩書で私立新儀学園にて潜入捜査を行っている。このように身分や経歴を偽って潜り込む経験はなかったが、今の所は何も問題なく日々が過ぎていっていた。
廊下を歩けば、自分の名前を覚えてくれた生徒達が手を振ってくれる。
曙先生、ときには聖先生と親しみを込めて読んでくれる女生徒もいた。彼女達に笑みを向けると嬉しげな黄色い声があがることもある。それは落ち着いた大人の雰囲気を持つ聖への憧れや仄かな恋心からくるものなのだろう。
されど本人は慕われているとは思っていても女生徒の機微には気付けていない。
だが、それもまた青春の一頁。
聖は朝の挨拶が飛び交う廊下を進み、職員室に向かっていく。
「おはようございます、曙先生」
「はい、橘先生。今日も宜しくおねがいします」
其処で声を掛けてきたのは新任教師である聖に細々としたことを教えてくれる、橘という名の女性教諭だ。聖より少し年上の教師はよくしてくれる。
授業の進め方、生徒達との接し方や学園の案内。少し身体の弱いところのある聖を気遣ってくれたりもするのでとても助かっていた。
或る日、いつものように授業を終えた休み時間。
次の授業が空き時間だった聖は橘に話しかけ、気になっていたことを問う。
「橘先生、少しお聞きしたいことがあるのですが……」
「どうかしましたか?」
聖が聞きたかったのは教師を目指した者の心情や思い。学園に通うということは聖にとって非日常だ。
もしかすれば普段、作家として活動する時のネタになるかもしれない。もちろん本来の潜入目的も忘れてはいないが、純粋な興味を示してみるのも悪くないだろう。
「先生はどうして教師になろうと思ったのですか?」
「ふふ、それはですね」
すると彼女は快く答えてくれた。
橘曰く、自分が教師を目指したのは学生時代の先生に憧れたからだという。
「私が友人関係に悩んでいた時、ある先生が声を掛けてくれたんです。悩みを聞いてくれただけでしたが、その時の私にはそれが光明になって――」
「なるほど、それで教師に憧れたんですね」
彼女が語る話に耳を傾ける聖はそっと頷く。そして橘は更に話していった。
「はい、あの時の先生もまるでこの学園にいる『かみさま』のように思えて……」
(――かみさま?)
しかしそのとき、不可解な言葉が飛び出した。
そこで聖は察する。件のかみさまという存在の影響は生徒だけではなく教師にも広がって信じられている。普段は平穏な学園に見えるが、此処は徐々に邪神の支配下に置かれ始めているのかもしれない。
聖は敢えてかみさまについて言及せず、自分は授業の準備があるといって教師との話をいいところで切り上げる。
そうして日々を過ごすこと暫く。
すべての授業が終わった或る放課後、資料準備室で片付けを行っていた聖に声を掛けてきた生徒がいた。
「先生、かみさまの噂って聞いたことがある?」
「ええ、少しくらいは知っていますが……どうしました?」
その生徒の名は知らなかったが、妙な雰囲気がする。何だか生気がないような気もしたのだが聖はそれについて何も言わずに様子をうかがう。
「ううん、先生は興味があるのかと思って」
「そうですね、ないと言えば嘘になります」
「……そう、よかった」
すると生徒はそれだけを告げて踵を返し、何処かに去っていった。
胸騒ぎめいた何かを感じた聖は或る予感を覚えていた。そして、少し時間を置いて職員室にある自分の机に向かう。
「やはりありましたか」
予想通り、机の片隅――プリントに隠されるように鍵が置いてあった。おそらくあの少女はかみさまに操られた者であり、こうして鍵を配る役割を担わされているのかもしれない。
聖は鍵と一緒に置かれていたメモを手に取り、それに目を通す。
『高く積まれた器具の裏側へ』
それが意味することは不明瞭だが、そういった場所に向かえば例のかみさまと対面できるということなのだろう。昼間ではきっと都合が悪い。
真夜中の学園で行動を起こそうと決め、聖は鍵をポケットに仕舞い込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
花川・小町
【花守】アドリブ歓迎
新人養護教諭
(一段落した放課後の保健室、見計らった様に開いた扉に肩竦め)
――御機嫌良う、不良センセ達?
今日はなぁに、お悩み相談?
(なぁんてと愉快げに笑いつつ、しげしげと)
珍しく真面目にやってるなんて感心感心――と思ってたのに
もう、仲良くしなきゃダメでしょ?
それじゃ乙女心は遠退くばかりよ(折角見目だけは様になってるのに、ねぇ?とまた呆れ半分に笑い)
貴方達、生徒としてやり直すべきだったんじゃないかしら(甘味はちゃっかり頂き)
その傷というか病は治しようがないわねぇ
(と、生徒の気配察し)
良かったわねぇ、補習のご指名みたいよ
勤勉な彼女達を助けてあげなさいな――ちゃあんと真面目に、ね?
呉羽・伊織
【花守】アドリブ歓迎
新人化学教師
スーツに白衣
序でに眼鏡で姿だけは完璧に
(廊下で出会した男にうげっと眉寄せつつも保健室へ)
おー、御機嫌良う
そーだよ、聞いてよセンセ
(お礼はコレでと購買甘味差入れ)
コイツさー、オレが昼に狙ってたパンを!最後の一個と分かってて!
黄昏ながらお握り食べてたらお嬢様方に可哀想なモン見るよーな視線送られるし!
授業はビシッとやってるのに…!(頭抱え)
いやホント、アオハル謳歌しに行くべきだった――この傷心を癒してくれる可愛い同級生とか健気に弁当作ってくれる後輩とか欲しかった(真顔)
――お、でも成果は意外と?
勿論手取り足取りマジメに指導するし!
今に見てろ、やれば出来るって示すから!
佳月・清宵
【花守】アドリブ歓迎
新米地歴教諭辺りで身成も相応に
(一息がてら馴染の同期が勤める保健室へ――道中出会した別の顔馴染にはくつりと笑って返し)
御機嫌良う
俺は軟派教師の素行監視と見回りに決まってんだろ(適当に飲物淹れつつ)
あぁ?購買はそういう部分も含めて楽しむモンだとか、この前男子に言い聞かせてたのはどこのどいつだ
モテたけりゃ何時何時でも懐の広さと余裕を見せとけよ
(コイツと一緒にすんなと言いつつも、生徒の前では正していた口調はすっかり崩して揶揄う様に)
あぁこりゃ重症だ――まずコイツの生活指導が要るんじゃねぇか
(生徒の気配に色々正し)
さて、半数は小町目当な気もしますが――お手並拝見と参りましょうか?
●教師達の戯れ
ご機嫌よう、と声が響く学園内。
麗らかな陽射しが校門や廊下、中庭を照らす。行き交う生徒達が交わす言葉や会話は穏やかで、時には賑やかな声も聞こえた。
呉羽・伊織(翳・f03578)は化学教師。
佳月・清宵(霞・f14015)は地理と歴史教師。
花川・小町(花遊・f03026)は養護教諭として、其々に赴任している。
新人ではありながらそれぞれに割り当てられた役割をこなし、三人は一教師としての日々を過ごしている。
今日も保健室は怪我をした生徒や小町の顔を見に来た生徒が多かったし、眼鏡にスーツ、その上に白衣を羽織った伊織の授業では女子生徒達がきゃーきゃーと黄色い声を上げることが多く、清宵の歴史授業の後には質問という名の会話に訪れる者が後をたたない。
皆きっと新しい先生がめずらしいのだろう。
同じ制服を着て、同じ授業を受けて、同じ日々を過ごす。
それは平穏とは無縁の世界の者から見れば安定した生活だが、きっとこの世界の生徒達にとっては変わらない、刺激のない時間として認識される。
そうして、そんなときに現れた教師達。
その新しい刺激に反応するものも多く、三人にはそれぞれ密かなファンクラブが出来るほど人気があった。無論、本人達はそれを知らぬことも多いのだが――。
そんなこんなで或る日。
授業やその後片付け等を終えた放課後、伊織と清宵は或る場所に向かっていた。
目指す先は保健室。
そして、途中の廊下で出会した男――清宵の姿に伊織が眉根を寄せる。
「……御機嫌良う」
「おー、御機嫌良う」
しかし教師という立場上、完全に無視するわけにもいかない。不機嫌そうに口をひらいた伊織にくつりと笑い、清宵は同じ挨拶を返した。
そしてどちらともなく保健室の扉をひらく。
すると二人の訪問に気付いた小町が顔を上げ、軽く肩を竦めた。
「――御機嫌良う、不良センセ達?」
二人揃って訪れることになった状況にばつが悪そうな伊織と、その様子を横目で見遣る清宵。そんな彼らを交互に見比べ、小町は首を傾げる。
「今日はなぁに、お悩み相談?」
その口許には愉快げな笑みが宿っていた。しげしげと二人を見つめる小町に対し、清宵は軽く頭を振る。
「俺は軟派教師の素行監視と見回りに決まってんだろ」
こっちはどうだか知らないけれどと伊織を示す清宵。反して伊織は購買で手に入れてきた苺大福を手渡した。
「そーだよ、聞いてよセンセ」
「どうしたの?」
伊織の言葉に首を傾げる小町。その近くで適当に飲物を淹れはじめる清宵。
その堂々とした佇まいに更に眉を顰め、伊織は言葉を続けた。
「コイツさー、オレが昼に狙ってたパンを! 最後の一個と分かっててかっさらっていってだな……!」
話しはじめた伊織に反論するように清宵は顔を上げる。
「あぁ? 購買は弱肉強食だとかそういう部分も含めて楽しむモンだとか、この前男子に言い聞かせてたのはどこのどいつだ」
「それはそれ、これはこれだ。黄昏ながらお握り食べてたらお嬢様方に可哀想なモン見るよーな視線送られるし!」
「モテたけりゃ何時何時でも懐の広さと余裕を見せとけよ」
途端に始まる口論めいた遣り取り。
彼らの言葉に暫し耳を傾けていた小町だが、更に深く肩を落とした。
珍しく真面目にやっていると思って感心していたというのに、二人が顔を合わせるとすぐにこうなってしまう。
「もう、仲良くしなきゃダメでしょ? それじゃ乙女心は遠退くばかりよ。ねぇ?」
「授業はビシッとやってるのに……!」
その言葉に対して頭を抱える伊織。
折角見た目だけは様になってるのに、と白衣姿の伊織を改めて眺める小町。そして小町は清宵に確かめるように視線を向けて口許を緩める。そして呆れ半分に笑いながら感じたままの思いを告げた。
「貴方達、生徒としてやり直すべきだったんじゃないかしら」
苺大福をちゃっかりと頂きつつ、小町は二人をもう一度見比べる。
「コイツと一緒にすんな」
「いやホント、アオハル謳歌しに行くべきだった――この傷心を癒してくれる可愛い同級生とか健気に弁当作ってくれる後輩とか欲しかった」
視線を逸らす清宵に対し、伊織は至極真顔で答えた。
その様子にくつくつと喉を鳴らした清宵は救いようがないと言って、生徒の前では決して見せない口調で揶揄う。
「あぁこりゃ重症だ――まずコイツの生活指導が要るんじゃねぇか」
「その傷というか病は治しようがないわねぇ」
小町も静かに頷き、項垂れてしまった伊織の背をそっと見守った。
そのとき、それまで三人しか居なかった保健室の扉が音を立ててひらく。どうやら生徒が入ってきたようだ。
「あっ、佳月先生!」
「呉羽先生も一緒ですのね。あのう……私達、先生に用事がありまして……」
生徒達は二人が此処に来たという情報を得て訪れたらしい。
彼らの人気を知っていた小町は薄く口許を緩め、清宵が淹れていたお茶を手にしながらひらひらと手を振る。
「良かったわねぇ、補習のご指名みたいよ」
「――お、でも成果は意外と?」
それによって伊織は途端に元気になったようだ。分かりやすい反応だが、それもまた彼の良い所でもある。
お時間を頂けますか、と此方を見上げる女生徒達。
きっと大丈夫よと告げた小町は彼女達に優しく微笑んだ。そして視線を伊織に向け、片目を軽く閉じる。
「勤勉な彼女達を助けてあげなさいな――ちゃあんと真面目に、ね?」
「勿論手取り足取りマジメに指導するし!」
当たり前だと答える伊織の傍ら、清宵は女生徒の向こうに別の男子生徒が集まっていると察した。女子は伊織、そして男子は小町が目的なのだろう。
「さて、半数は小町目当な気もしますが――お手並拝見と参りましょうか?」
「今に見てろ、やれば出来るって示すから!」
清宵からの挑戦的な言葉に伊織は拳を握ってみせた。
それから伊織と清宵は女生徒達に補習を行うために保健室から去り、小町も自分を訪ねてきた男子生徒の対応に追われる。
形は様々ではあるが、生徒達に慕われる日々。
その合間にああして三人で言葉を交わす時間。そのどれもが普段とは違う非日常であり、不思議な感覚が巡っていた。
そうした日常が過ぎること幾日か。
放課後、あの日のように三人は自分達以外には誰も居ない保健室に集っていた。されどその表情は真剣であり、皆一様に掌に或る物を携えている。
「それで、これが例の秘密倶楽部の鍵でいいのかしら?」
「だな、生徒達が言っていたから間違いない」
「本当にやれば出来たってことだよな、これ」
小町が問いかけると、清宵と伊織も自分達が持っている鍵を示した。
清宵は或る男子生徒が持っている場面を見かけたので隙を見て拝借した鍵。伊織は自分の職員机に入っていたという鍵。小町は保健室で休んでいたいずれかの生徒が落としていった鍵を其々に手にしていた。
それは誰かの家や自転車等の鍵ではないと分かる。何故なら、そのどれもに微弱ではあるが妙な魔力が纏わりついていたからだ。
そして、其々にメモも付けられている。
『無数の画面の裏側で』
共通した言葉が示されていることから、これが何らかのヒントであると判断できる。三人はそっと頷きあい、学園生活の終わりが近づいていることを確信した。
「これで第一段階は突破したのね」
「ああ、教師役もこれでお別れってことだな」
「コイツと購買のパン争いするのも今日で最後だったか。終わってみればあれもまた刺激的だったけど……そうだな、もう終わりだ」
後はそう――真夜中の学内に向かい、この鍵が合う場所を探す。
そして学園に蔓延っている噂の元であるかみさまを屠る。そうする為の道がひらけたのだと感じ、彼らは其々に鍵を握り締めた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
隠・イド
【土蜘蛛】
教育実習生
担当教科は社会
女生徒には柔らかな笑顔で接し、気さくに手を振る
悩み事の相談や授業に関係ない雑談にも真摯に応える
言わばお友達のような感覚
教師としての威厳が足りないと、
他の先生方に怒られてしまう事もありますが…
おや、花剣さんに勾月さん
丁度良かった。進路の事で少し、お話したい事があったので
ふふ、別にイドくんでも構いませんよ
私としては授業さえ真面目に受けてくだされば問題ありませんから
妙に近い距離で、にこりと微笑みながら
周囲の黄色い歓声は聞こえぬフリを決め込んで
でしたら社会科準備室でお話しましょう
そこなら邪魔も入らないでしょうから
移動先では情報交換
真っ当な捜査ができないのは歯痒いですね
勾月・ククリ
【土蜘蛛】
高等部の生徒として潜入するよ!
もちろんセーラー服着用!
スカーフはリボン結び!かわいい!
ごきげんよう、よーこちゃん!
普段はよーこちゃんとは別の高校だから、
こうして一緒に学校生活が送れるってなんだかふしぎ!
見て見て、これ授業中に先生の似顔絵描いたの!似てるかな?
お嬢様ってよくわからないけど、
挨拶さえ忘れなければきっとなんとかなるよね
そんな調子でいつも通り元気よく過ごすね
わ、イドく……ンッッンッ!……イド先生!
ああっ周りの女の子たちの視線が……痛い!
進路かぁ、わたしまだまだ遊んでいたいお年頃っていうか
大人になった自分が想像できないっていうか……
……あっ待って待って、わたしも準備室行きます!
花剣・耀子
【土蜘蛛】
高等部の生徒で潜入。
身嗜みは校則を守って、優等生のお嬢様然とした佇まい。
ごきげんよう、ククリちゃん。
そうね。お仕事だけれど、ちょっとだけ楽しいわ。
似顔絵がちゃんと似ていてえらい。花丸をあげる。
勉強はククリちゃんにお任せしたいと、そう思っていた時期もあったのよ。
がんばりましょう。
……多少抜けていた方が、親しみやすくないかしら。
幸いにして運動は出来るから、体育の授業では活躍するよう努めましょう。
クールビューティーというのよ。
あら、イド先生。ごきげんよう。
今日も麗しくてなによりです。
……そうね、よければ相談に乗って頂けますか?
普段通り淡とした調子。
少しだけ微笑んで、準備室に向かいましょう。
●セーラー服と秘密の鍵
真新しい制服に袖を通し、スカーフはリボン結びに。
曲がっていないかを鏡で確かめてから鞄を手にして、今日も元気に通学路を往く。
「ごきげんよう、よーこちゃん!」
「ごきげんよう、ククリちゃん」
校門を潜ったところで背後から聞こえた勾月・ククリ(Eclipse・f12821)の声に振り向き、花剣・耀子(Tempest・f12822)は穏やかに微笑む。
普段は別の高校に通う二人が今は同じ学園に通っている。
幾日か経ってようやくこの感覚にも慣れてきたと思っていたが、朝の挨拶が出来るということの嬉しさはいつも新鮮だ。
「こうして一緒に学校生活が送れるってなんだかふしぎ!」
「そうね。お仕事だけれど、ちょっとだけ楽しいわ」
二人は他の生徒には聞こえないようにひそやかな言葉を交わした。
行こう、と昇降口を示すククリに頷き、耀子も歩を進める。
下駄箱で上靴に履き替え、同じクラスに向かっていく。そんな二人の姿を向かい側の廊下から見つめているのは教育実習生の隠・イド(Hermit・f14583)だ。
仲睦まじい彼女達を見ていると、何事もないごく普通の日々が流れていっているかのように思える。
だが、これは潜入捜査の一環。
イドは教室に入っていく少女達を密かに見送った後、自分も職員室に向かった。すると学園の教師に声を掛けられる。
「隠先生、今日の授業ですが――」
「はい、確かB組の補助でしたね」
彼の担当教科は社会。今は学園の教師につき、後ろから生徒を見守りながら授業を補佐する役割に付いている。
B組は確かククリと耀子が編入したクラスだった。
今日は彼女達の授業態度や風景が直接見られるかもしれない。それを少しばかり楽しみに感じながら、イドは担当教師の説明を聞いた。
そうしてイドが教師と共に教室に向かう最中、予鈴が鳴る。
ウェストミンスターの鐘が学内に響けば生徒達が慌ててそれぞれのクラスに向かっていく。その際にイドを見つけた女生徒達が手を振ってきた。
「まあ、隠先生だわ」
「ねえねえ、休み時間にまた遊びにいってもいいかしら?」
「構いませんよ。いつでもどうぞ」
女生徒に柔らかな笑顔で接し、気さくに手を振ったイド。彼は悩み相談や授業に関係ない雑談にも真摯に応えており、生徒の人気もそこそこあった。
まるで友達のようなイドの対応が生徒との距離をこれほど近くしているのだが、その遣り取りを見ていた隣を歩く教師がこほんと咳払いをする。
「隠先生、あまり生徒と親しすぎるのもよくありませんよ」
「すみません、気を付けますね」
教師としての威厳が足りないといった旨の言葉が教師の口から出た。イドはそれにも素直に答え、暫し軽い説教に耳を傾けていく。教師という職業も大変なのだと、そんなことを考えながら――。
同じ頃、B組の教室内。
「見て見て、これ授業中に先生の似顔絵描いたの! 似てるかな?」
ククリは耀子にノートを広げて見せていた。
其処には昨日の授業中に記した公式や計算の他に、各学科の教師の顔が描かれている。言葉通り、授業の合間に出来る限り描いていったのだろう。特徴を捉えたその絵を見た耀子は口許を緩める。
「ちゃんと似ていてえらい。花丸をあげる」
「やった、花丸!」
耀子に褒められたククリは上機嫌な笑みを浮かべた。するとその声を聞きつけたクラスメイト達がククリの机とノートを覗き込んでくる。
「まあ勾月さん、絵もお嗜みになられるのね」
「数学の市川先生なんてとてもよく似ていらっしゃるわ」
「これは隠先生? ふふ、あの方は格好いいわね」
それぞれに褒めてくれる生徒達はみんなお淑やかだ。けれども親しみ難いわけではなく、こうして気さくに話しかけてくれる。
挨拶を交わして同じ授業を受け、時には彼女達と昼食をとることもあった。
UDCや邪神のことなど何も知らない。
けれども、それだからこそ幸せに暮らす人々。そんな生徒達の話を聞いたり、話したりするのはとても興味深かった。普段から自分達が守っているものを直接見て、触れあえている気がしたからだ。
そんな中で二人と一番仲が良かったのは館花という女生徒だ。彼女は少し気の強いところもあるが、編入してきたククリと耀子の面倒をよく見てくれる。
「勾月さん、花剣さん、そろそろ学園にも慣れてきた?」
「もう大丈夫。館花さんのおかげだよ!」
「お陰でとても助かっているわ。特に勉強は……ええ、ククリちゃんにお任せしたいと思っていた時期もあったけれど、館花さんが居てくれて良かったもの」
身嗜みも立ち振舞いも優等生でありクールビューティーな耀子だが、体育以外の勉学については非常にアレな感じでアレだった。あんなに真面目なのに、と他のクラスメイトからも心配されるほどだったが、館花が放課後などに教えてくれることで何とか事なきを得ていた。
「じゃあまた何かわからないことがあったら聞いてね」
二人の答えに館花は安心したように微笑み、自分の席に戻っていく。
それから暫く。
授業開始を知らせる本鈴が鳴る直前、教室に教師とイドが入ってきた。
「わ、イドく……ンッッンッ! ……イド先生!」
ククリは思わずいつものようにイドを呼びそうになり、慌てて言い直す。しかし周りの女の子たちの目が一斉に向いたことで視線の痛さを感じた。
対するイドはククリをはじめとした女生徒に軽く手を振り、静かに双眸を細める。
また放課後に。
そう告げている眼差しを受け、耀子はそっと頷きを返した。
やがてチャイムと共に授業が始まり、三人は学内での日常を過ごしていく。
何事もない平穏な学園生活。
編入してからというもの、何もかもが穏やかだった。イド先生は変わらず実習を行いながら女生徒達の相談に乗る生活を行っており、ククリと耀子はクラスメイトとして過ごすごく普通の日々を送っていた。
しかし、イドも二人もときおり耳にすることがあった。
――ねえ、かみさまの秘密倶楽部って知ってる?
そんな風に噂される不可解な話はじわじわと学園内に広がっている。そして多くの生徒がそれを信じてしまっていた。
耀子もククリも、そしてイド。もし三人が猟兵ではなかったのなら――そしてUDC組織に身を置く者ではなかったなら、ただの噂話だと思っているか、それを信じきっていたのだろう。
だが、彼らは真相を知っている。
そのかみさまが屠るべき対象である邪神であることもよく分かっていた。
一見は平和な学園。其処に蔓延る邪悪な存在の影を感じながら、三人は密かに気を張っていた。
そして、或る日の放課後。
「おや、花剣さんに勾月さん」
「あら、イド先生。ごきげんよう。今日も麗しくてなによりです」
「イドくん! ……じゃなかった、イド先生。どうしたの?」
廊下で擦れ違った三人は挨拶と視線を交わし合う。未だ少し呼び方の癖が抜けないククリはイドに手を振って近付き、彼を見上げた。
「丁度良かった。進路の事で少し、お話したい事があったので」
穏やかに、けれども自分達だけに分かる合図を込めてそう告げたイド。すると耀子は自分も話したいことがあるのだと言うようにそっと頷いた。普段通りに淡とした調子で耀子は少しだけ微笑む。
「……そうね、よければ相談に乗って頂けますか?」
「でしたら社会科準備室でお話しましょう。そこなら邪魔も入らないでしょうから」
耀子とイドがそう話している中、ククリは軽く考え込んでいた。
「進路かぁ、わたしまだまだ遊んでいたいお年頃っていうか大人になった自分が想像できないっていうか……」
「では、花剣さんだけが相談に来ますか?」
ほんの少しの冗談交じりにイドが問いかけると、ククリは首を横に振った。既に踵を返したイドと耀子は社会科準備室に向かい始めている。本当に一人だけを置いていくつもりはないのだろうが、ククリは慌てて二人を追った。
「……あっ待って待って、わたしも準備室行きます!」
セーラー服の裾をなびかせてぱたぱたと駆けていくククリ。眼鏡を軽くかけなおした後、友人を手招く耀子。二人を室内に迎えたイドによって、ぴしゃりと締められる準備室の扉。
そして、其処から彼女達の報告会が始まる。
準備室内の椅子に腰掛け、声を潜めた三人は其々に思いを零す。
「さて、と。真っ当な捜査ができないのは歯痒いですね」
「ついイドくんって呼んじゃうから、他のクラスの子にいつも睨まれちゃう……」
「イド先生は人気みたいね。館花さんも先生が気になるって言っていたかしら」
その中で館花という少女達のクラスメイトの話題があがる。
彼女は変わらずククリと耀子と仲良くしてくれていた。だが、近頃は少しばかりそわそわしている様子が見られる。
「ああ、その館花さんなのですが……実は彼女からこれを預かっています」
少女達もそのことが気になっていたのだが、イドの口から彼女の話が出たことで軽く首を傾げた。イドがポケットから取り出したのは妙な魔力を帯びた鍵だった。それが何か悪いものの気であることはひと目で分かる。
「これって……かみさまの『鍵』かしら」
「館花さんが選ばれたってこと?」
曰く、その鍵はメモと共に館花の机に入っていたらしい。
館花も秘密倶楽部のことは知っていたようだ。しかし、元から噂を快く思っていなかった彼女はかみさまに会う気はなかったらしく、鍵をどうするべきか悩んでいたのだという。
「持っていると嫌な気分がする、けれども捨てることは出来なかったということで相談に来て……ええ、そのまま交渉して鍵を預かってしまいました」
「さすがイドくん!」
「館花さんが相談に来てくれて良かった。イド先生の人気のお陰かしら」
鍵を預かるために上手く言いくるめたというイドをククリが褒め、耀子も納得する。潜入生活の中とはいえど彼女は二人のクラスメイトだ。そんな彼女がかみさまに生気を奪われるという事態にならなくて済んだことは喜ばしい。
そして、三人は鍵についていたというメモに目を通す。
『時折、甘い香りに満たされる部屋へ』
そう書かれている言葉の意味は不明瞭だ。しかしこの鍵はこのメモが示す場所をひらくものだということは分かった。
「それでは、今夜にでも決行しましょう」
イドが潜入捜査の次の段階に入ろうと告げると、ククリと耀子も同意する。
「いよいよかみさまと対面だね!」
「もう誰も邪神に喰わせなんてしないわ。行きましょう」
穏やかな学園生活はきっと此処で終わり。
教育実習生であるイドも、普通の女子学生であった二人も、本来の役割――対UDC組織の一員、《土蜘蛛》として動くべき時が来た。
そして――真夜中が訪れる。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『深夜の密会』
|
POW : 現場らしき場所を張りこむ
SPD : 影に隠れ密会者を捕獲する
WIZ : 知識を活用し現場を特定する
イラスト:貝卓
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●真夜中の学園潜入
それぞれの学園生活を過ごし日々が流れていった。
生徒として、教師や教育実習生として、或いは用務員として学内を探っていた猟兵達は現在、真夜中の学園に訪れていた。
誰かが裏口の鍵を開けておいたのか、学内への侵入は容易だった。
非常灯の明かりもあるので視界が暗すぎて困ることはない。だが、普段は入ることのない夜の学校というのは妙に静かで不気味さも感じられた。
また、昼間には感じなかった邪神の気配も薄く漂っている気もする。
学園生活内で手に入れた『鍵』と『メモ』を元にして。
もしくは今夜にかみさまに会うために学内に忍び込んでいる一般生徒の後を追うなどして、猟兵達は学内を探索することになる。
メモを持っている者はそれを頼りに、何処をひらく鍵をなのか推測しながら。
一般生徒を追う者は気付かれぬよう追跡するか、または思いきって生徒本人に声を掛けて言い包めるなりで何らかの接触を行う必要がある。
音楽室、屋上、図書室、書庫、パソコン室に美術室。
職員室や各教科の準備室、体育倉庫、中庭の隅にある用具庫。
放送室、弓道場と剣道場。家庭科室、はては校長室まで。
学内は広く、鍵のかかった部屋もたくさんあるが、いずれかが『鍵』でひらくことのできる場所に違いない。決め打ちして一箇所に向かうのも、数箇所のあたりをつけて巡るのも悪くない。学内すべてを確かめるつもりで総当たりで鍵を当てはめていく方法も有効だろう。
学園内は静まり返っており、普段の賑わいとは真反対の空間に感じられる。
まるで、季節外れの肝試しみたいだと誰かが語った。そう言われると怖い気もする。そんな場所で君達は何を思い、どのように動いていくのか。
鍵が導く先。扉の向こう側で待っているものとは――。
夜の学校を冒険するかのような探索の時間が今、ここから始まってゆく。
レイラ・アストン
都合よく裏口が空いているなんて
少し気味が悪いわね
かみさまは私達をお待ちかね、そういうことかしら?
仲間のメモを拝見しても
内容は様々ね…時には被っているけれど
鍵の配布基準といい、分からないことも多いわ
※wiz
ともあれ、探索を
私の受け取ったメモは
『上へ、上へ、遥かな上へ』
単純に考えて、物理的に上という意味なら屋上
深読みして、序列が遥かに上と取るならば校長室かしら
まずはこの二か所を順に巡ってみましょう
双方とも外れていたら仕方ないわ
『第六感』も頼りに総当たりしていきましょうか
幸い学園生活を楽しむ間に
学内の施設の位置関係は自然と『情報収集』できたし
鍵が付いている部屋も絞り込めるわね
※連携、アドリブOK
ティエル・ティエリエル
「『上へ、上へ、遥かな上へ』って、屋上のこと……かな?」
仲良くなったユウちゃん達を守るためにも邪神なんて復活させないぞとやる気十分
背中の翅で学校の塀を飛び越えて夜の学校に侵入だよ♪
校舎の中には昼間にこっそり開けておいた窓の上部の小窓から忍び込むよ!
放課後にパトロールしていたおかげで校舎内の間取りはばっちり☆
迷うことなく各校舎の屋上目指して飛んでいくね♪
手に入れた鍵が屋上のものじゃなければ屋上からもっと高い建物がないか確認だよ!
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
●明日の為に
真夜中。裏門を潜り、暗い校内に立ち入る。
挨拶や話し声、笑い声が響いていた昼間とは違って夜の学園は静まり返っている。
「都合よく裏口が空いているなんて少し気味が悪いわね……」
レイラは今しがた通ってきた扉を振り返り、誰があけたのだろうかと考えた。きっと例のかみさまの使者となっている教師か生徒がそうしたのだろう。
ということは、つまり――。
「かみさまは私達をお待ちかね、そういうことかしら?」
レイラは非常灯の薄暗い明かりを軽く見上げ、廊下へと踏み出した。
『上へ、上へ、遥かな上へ』
このメモの示す意味は何なのかと考え、レイラは慎重に進んでいく。
それから少し後のこと。
同じ文言が記されたメモを持つティエルも校内に侵入していた。
校門の上をふわふわと飛んで、鍵を開けていた窓から教室へと入る。しんとした学校は何だか不思議で昼の賑やかさも何処かに消えてしまったかのよう。
「ユウちゃん……。絶対に邪神なんて復活させないからね」
ティエルは仲良くなった友人を思い、ぐっと気合を入れた。そして誰も居ない廊下へと出て、改めてメモを見る。
「『上へ、上へ、遥かな上へ』って、屋上のこと……かな?」
すぐに思い当たるのはやはり最上階に当たる場所だ。
ティエルは小学生のクラスがある棟の屋上を目指すことを決め、翅を羽ばたかせた。
メモの謎。鍵の配布基準。
分からないことは多く、レイラはかみさまとは何かを考えながら歩いていった。
彼女もまた、屋上を目指している。
単純に考えて物理的に上という意味なら其処しかないからだ。レイラは裏門から一番近い場所にあった中学生のクラスが配置されている棟の屋上に到着した。
「鍵……合うかしら」
施錠されている扉へと鍵を差し込む。
だが、どうやら合う鍵ではないのかひらくことは出来なかった。ならば次に行くまでだとしてレイラは小学校の棟に向かう。
其処には校長室があったと記憶している。深読みして、序列が遥かに上と取るならばそこである可能性も高いからだ。だが、先ずはこの棟の屋上だろうか。
そして、レイラが小学棟に足を踏み入れて暫く。
「わっ!」
「……!」
レイラはちいさな妖精――ティエルと出くわす。少し驚きはしたが同じ猟兵なのだと察した二人は頷きあった。
「ねえねえ、もしかして屋上に行くの?」
「ええ、中学生の棟は開かなかったから……貴方も?」
ティエルが問いかけるとレイラが答え、それならば一緒に行こうということで話が纏まった。夜の学校は不気味だが、二人ならば少し心強い。
こっちだよ、とティエルが先導する後にレイラがついてゆく。
互いに学校生活をしっかり送っていたからか、迷うことなく屋上の入り口に繋がる階段へと辿り着けた。
「とうちゃーく! ちょっとドキドキするね」
「そうね、鍵はちゃんと合うかしら」
ティエルがくるりと振り返ってレイラに語りかけると、静かな声が返ってくる。そしてお互いに鍵を取り出した二人は互いのものを見比べてみた。
形は同じ。どうやら何方かが合鍵のようだ。
同一の鍵ならどちらが使っても同じだろう。ティエルは横に退き、鍵を回してみて欲しいとレイラに願う。
承諾したレイラは鍵穴にそっと鍵を差し込んだ。すると、かちりと音がした。
「開けられそう?」
「大丈夫みたい。ゆっくり開けていきましょう」
ドアノブに手をかけたレイラの肩に止まり、ティエルはこくこくと頷く。
そして、警戒を抱きながらひらいた扉の向こうには――。
「何あれ! 何だかぐねぐねしてる!」
「あれが『かみさま』自体、というわけではなさそうね」
驚くティエルの傍らでレイラは屋上の中心に現れているものを見つめた。それはまるでワープホールのような、次元の裂け目と表すに相応しいものだ。
ぐるぐると渦巻く暗い極彩色の穴。その奥から怪しい気配が漂っている。
「あの中に入るのかな……?」
「多分、そうね。私達は試されているのだと思うわ」
ティエルが問うとレイラは冷静に判断していく。得体のしれない状況が訪れても、かみさまに会う覚悟はあるのか。そう問われている気がした。
だが、戸惑う理由はない。
其処に学園を脅かす存在がいるというのならば飛び込むだけ。
「よーしっ、いくよー!」
「何処に飛ばされるかわからないわ。ばらばらになるかもしれないけれど――」
「大丈夫だよ、戦うために来たんだからね。学園のみんなを守らなきゃ!」
意気込むティエルにレイラが呼びかけると、そんなことは織り込み済みだと語るような笑顔が返ってきた。そして、視線を交わしあった二人は共に裂け目に向かう。
行きましょう。
その言葉と共に、レイラとティエルは歪む次元の穴に飛び込んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
天御鏡・百々
首尾良く『鍵』を手に入れることが出来たな
学園生活は楽しかったが、そろそろ猟兵の仕事をせねばならぬ
果たしてこの鍵は何処で使うものなのやら……?
深夜の学校に忍び込み、鍵を使う場所を捜索するぞ
『花が咲く隅へ』とのメモだが……
素直に考えれば、花が咲くのは花壇、あとは植え込みか?
隅の方にある花壇を調べていくとしようか
もしくは花壇のある場所の隅、という可能性もあるか?
花壇そのものの側に見つからなければ、そういった場所も調べていくとしよう
この鍵が合う場所を上手く見つけられると良いが
道中で他の猟兵と会ったならば
何か協力出来るといいな
●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、連携歓迎
●花と鍵の先
真夜中の学園への侵入は上々。
百々はあいていた裏口を潜り抜け、ひとまずは校内に足を踏み入れた。
「さて、首尾良く『鍵』を手に入れることが出来た後は……」
しんと静まり返った学内を見渡した百々は鍵を握る。そのとき、ふと思い返したのはこれまでの学園生活だ。
あのまま過ごす日々もまた良いものだった。そう思えた日々こそ守らねばならない時間なのだとわかる。
そして、此処からは猟兵としての仕事を果たさねばならぬ時。
「果たしてこの鍵は何処で使うものなのやら……?」
百々は鍵に添えられていたメモを改めて見返してみる。
記されているのは『花が咲く隅へ』との一言。
素直に考えれば、花が咲くのは中庭などにある花壇。あとは渡り廊下や学園周囲にある植え込みなどだろう。
隅の方にある花壇を調べていくことを決めた百々は先ず中庭に向かった。
だが、花壇や植え込みに鍵を使うところはない。
そうなるとこれを配布された意味がないと感じてしまう。百々は様々な思考を巡らせながら花壇を調べていく。
「やはり、何もないな……」
鍵。もしくは錠前を用いる所。
ならば花壇のある場所の隅という可能性もあるだろうか。
花壇そのものの側にそれらしき場所が見つからなかったので、百々は中庭の端の方に目を向けていく。そこでふと思い立ったのは園芸クラブの存在。
確か学内の隅にクラブの用具が入れられている倉庫があったはずだ。
あの場所ならば花が咲く花壇もあり、鍵を使う扉もある。
「さて、この鍵が合う場所であると良いが」
百々は目的の場所へと向かい、用具倉庫の前に立った。確かに扉には錠前が付いており、鍵を使えば開けられそうだ。
ゆっくりと鍵を差し込み、錠を回す。
かち、という小さな音が鳴って錠前が地面に落ちた。
「この先か……。うん?」
百々は扉を開き、土の匂いがする倉庫内部を覗き込む。其処に何かが見え、百々は首を傾げた。倉庫の中心で渦巻いているのは異次元の穴めいた渦だ。
その奥から禍々しい、けれども妙に静かな気配がする。
「なるほど、これが秘密倶楽部の入り口というわけか」
誘われている。そう感じたが、此処で引き返すわけにもいくまい。
「――行くしかないな」
百々はこの先に『かみさま』が居るのだと確信し、次元の穴へと踏み入った。
大成功
🔵🔵🔵
比良野・靖行
名残惜しいものだね……平穏な学校生活というものは。
ま、仕事は仕事だ。さくさくやっていこうじゃあないか。
さて、僕の手元のメモは『音の交わる場所で』……すなわち、音楽室に違いないだろう!
……たぶん!
ひとまずは音楽室と音楽準備室を調べてみよう。
ここが外れだとしたら……音、音の交わる……放送室かね?
あるいは、音を言葉として捉えれば教室もそうかもしれないな。
しかし……僕はこういうのはあまり得意ではないんだよなあ。
謎解きもそうだが、なにより僕は目立たないということができない!
夜の学校がダンスフロアになってしまう!
いやいや、鍵を自分で手に入れていてよかった。
誰かに出会ったらその人にも協力してもらうとするか!
レザリア・アドニス
手にした鍵とメモを再度確認
『音が響きはじめる場所へ』、だと…
思えば、音に関係ある所は、音楽室、そして…放送室、ですね…
響き始める、って…もしかして、チャイムのこと…なのかな…?
とりあえず、ここで考えるだけでも何も進めないので、
いっそ、現地に行ってみようか…
『暗視』に頼って、音を立てないように気を付けつつ、暗い廊下を歩く
まずは放送室へ
すーっと静かに息を吸い、全身で警戒しながら、鍵を鍵穴に差し込んで、回す
扉の向こうは、何が待っているかしら…?
外れだったら次は音楽室、音楽科の準備室へ
途中にほかの人の気配を感じたら咄嗟と隠れる
猟兵だったら迅速に情報交換
一般人だったら息を潜めて通過を待つ
アドリブ歓迎
●音が交わり、響く場所
名残惜しい。
真夜中の学内を歩く靖行がずっと感じているのはそんな思い。昼間とは全く様相の違う構内だが、此処は確かに暫しの時を過ごした場所だ。
昇降口に廊下、教室。どれも平穏な学校生活が思い出されるところばかり。
靖行は自分を慕ってくれた男子生徒達の顔を思い返した。この探索と、かみさまとやらとの戦いを終えることは彼らとの別れを意味する。
けれど、と顔を上げた靖行は先に進む。
「ま、仕事は仕事だ。さくさくやっていこうじゃあないか」
気を取り直した靖行はメモを見返した。
手元のメモには『音の交わる場所で』という文字が記されている。其処から導き出される答えはひとつ。
「すなわち、音楽室に違いないだろう! ……たぶん!」
最後に思わず余計な一言がついてしまったことはさておき、靖行は目的の場所を目指す。確か音楽室はこっちのはず、と進む先は暗い。
それでも彼は怯まず歩き、非常灯の薄明かりを頼りに音楽室に辿り着いた。
扉に手をかける。
だが、元より此処に鍵穴はない。ならば音楽準備室だろうかと考えて靖行は奥に進んでいった。音楽室の壁にはベートーヴェンやバッハなどの肖像画が飾ってある。
昼間は何とも思わずとも、夜になると人の絵というのは不気味に感じられた。
まるで見つめられているような感覚をおぼえながら、靖行は音楽室の奥に位置している準備室前に来た。
「……鍵穴はない、か」
どうやら此処は外れだったらしい。靖行は他の候補を導き出す為に暫し考え込む。
「……音、音の交わる……放送室かね? あるいは、音を言葉として捉えれば教室もそうかもしれないな」
考えれば考えるほど謎も深まる。しかし元より得意ではないことに注力しすぎるのも良くないだろう。うんうんと頷いた靖行の背に後光が射す。
そして彼は踵を返し、元来た道を戻っていく。
『音が響きはじめる場所へ』
レザリアが手にしているのはそう記されたメモとちいさな鍵。再度、自分が目指すべき場所を確かめたレザリアは薄暗い廊下を歩いていく。
静まり返った廊下に響くのは自分の足音。
昼間は様々な生徒の声やチャイムが鳴っていたので、校内で自分だけの足音を聞くのは初めてかもしれない。最初こそ物音を立てないように気を付けていたが、どうしても廊下に足音が響いてしまう。
「音に関係ある所は、音楽室、そして……放送室、ですね……」
レザリアは静かに響く音に耳を澄ませ、メモの意味する場所を推理していく。
音楽室は大いに可能性があった。
だが、記憶によればあそこの扉には鍵がついていない。音楽準備室かもしれないと考えたが、あそこで音が響くことはきっとないだろう。
それなら、と思い当たったのは放送室。
「響き始める、って……もしかして、チャイムのこと……なのかな……?」
きっとそうに違いない。
とりあえず、ここで考えるだけでも何も進めない。もし間違っていても別の場所に向かえばいいだけだと感じ、レザリアは現地に赴くことにした。
そうして進むこと暫く。もう少しで放送室に辿り着くという直前。
(――誰か、居る)
レザリアは誰かの気配を感じ、即座に物陰に身を潜めた。
(眩しい……光……?)
それは一人分の人影。そして、その背から光が溢れている。
「駄目だな、僕は目立たないということができない! 夜の学校がダンスフロアになってしまう! ……うん? 誰か居るのかな」
男性の声が響いたかと思うとレザリアに向けて声が掛けられた。
一瞬は警戒したが、彼――靖行が同じ猟兵だと分かったレザリアは姿をあらわす。
「あなたも猟兵ですね……。鍵も持っていますか……?」
「その通り。放送室が怪しいと思ってね、鍵が合うか試しにきたんだ」
レザリアが問うと靖行が掌の上の鍵を見せた。互いに目指す場所が同じだと知ったレザリアは共に行こうと申し出、靖行もそれを承諾した。
道すがら鍵を見せあうと、どうやら同じ形をしていることが分かった。
そして、音楽室がやはり外れであることを靖行から聞いたレザリアは自分の推理が当たっていることを確信する。
やがて二人は放送室の扉の前に到着した。
「さて、どうしようか」
「私が開けてみます……。扉の向こうは、何が待っているかしら……?」
靖行からの視線に頷き、レザリアはすーっと静かに息を吸う。この向こうに何があるかは未だ分からない。靖行と共に全身に警戒を巡らせながら、レザリアは鍵を鍵穴に差し込んで回していった。
かちり、と鍵が開く音がする。
そうしてレザリアがゆっくりと扉を開いた、その先には――。
「何だい、これは……渦?」
「次元の……穴……ううん、裂け目」
靖行は思わず口許を押さえ、レザリアは冷静に其処にあるものを見据える。放送室内に現れた異様な次元の穴からは妙な気配がした。
これがかみさまがいる場所に続くの道だと察するのに時間はかからなかった。
「後戻りは出来ないようだね。行くかい?」
「そのために、来たから……平気です」
靖行からの問いかけにレザリアはそう答え、一歩を踏み出す。
この先、一緒に渦を潜ったからといって同じ場所に出られるとは限らない。其々に覚悟を抱き、二人は渦巻く次元の穴の奥へと進んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
砂羽風・きよ
綾華(f01194)と
『転がる物の先へ』か。転がる物って多分ボールのことだと思う。
だから体育倉庫か外の用具庫だと思うんだが、どっちか行ってみるか?
べ、別に怖かねぇよ。
──よし、じゃあ行くぞ。(綾華の後ろにぴったり)
いいじゃねーか!怖くねぇぞ。怖くねぇ。
おいおい、不気味過ぎんだろ。暗くて前、見えねぇじゃねーか!(半ギレ)
くそ、非常灯だけじゃ暗ーし。早く行こうぜ。
ぎゃーー!!おい、今音しなかったか?
やべーやべー、綾華やべーよ。
しょーがねぇじゃん!
さっさと鍵開けられる場所見つけようぜ。
そうだな。力になってやりてぇ。
え、マジか。し、し、仕方ねぇな。
綾華ばかり先頭に行かせるのはワリィから次は俺の番だな。
浮世・綾華
きよ(f21482)と
名探偵じゃん
いーよ
そしたらまずは体育倉庫から行くか
何。びびってんの?
え、何これ
やぁだよ、何が楽しくて男に張り付かれなきゃいけねーんだ
まぁ俺も明るい方が好きだケドさ
このくらいなら何とか歩けるでしょ
あー歩きづれー
うわっ
…お前の声で全然聞こえなかったわ
お前の声しかしない
あー、もう。あはは
マジでうっせーなお前!
(でもおかげで、気がまぎれるから
本当はちょっとだけありがたいんだケドな)
ん、だな
彼奴らと一緒に過ごした時間はなかなか楽しかったし
ちゃんと守ってやろ
で、次はお前が先頭な?
ひょいと背を押し笑う
*真っ暗+極端に狭い場所は少しだけ苦手だが
基本的には余裕ぶって強がっている
アドリブ歓迎
●真夜中と極彩色の渦
普段は通ることのない裏門を抜け、夜の学園へ。
窓越しに見える廊下からは非常灯の薄ぼんやりとした明かりが見える。うわ何か不気味、と思わず零したきよは綾華と共に渡り廊下へと歩を進めた。
手にしているのは鍵とメモ。
「――『転がる物の先へ』か。転がる物って多分ボールのことだと思う」
「名探偵じゃん」
きよが下した判断は、よく授業でも用いていたサッカーボールのこと。綾華も同様のことを思っており、ちいさく頷いた。
「だから体育倉庫か外の用具庫だと思うんだが、どっちか行ってみるか?」
「いーよ。そしたらまずは体育倉庫から行くか」
きよの提案に綾華も同意し、渡り廊下の先にある体育館へと向かうことにした。行くか、と綾華が踏み出す中できよは一瞬だけ戸惑うような表情を見せる。そのことに気が付いた綾華は軽く首を傾げ、問いかけてみた。
「何。びびってんの?」
「べ、別に怖かねぇよ。――よし、じゃあ行くぞ」
慌てて首を横に振ったきよだが、言葉とは裏腹に綾華の後ろにくっついている。もう不自然なほどにぴったりと距離を詰めている状態だ。
「え、何この状況」
「いいじゃねーか! 怖くねぇぞ。怖くねぇ」
「やぁだよ、何が楽しくて男に張り付かれなきゃいけねーんだ」
綾華は先に歩もうとするが、きよは背後から離れようとしない。まるで歳の近い弟か何かだ。そう感じ、仕方ないかと諦めた綾華はそのまま体育倉庫を目指していく。
しかし、此処から目的の場所までは明かりがぐっと減る。
「おいおい、不気味過ぎんだろ。暗くて前、見えねぇじゃねーか!」
「きよし煩い。まぁ俺も明るい方が好きだケドさ」
後ろから半ギレ状態の声が聞こえた。それも耳元で。綾華は片耳を掌で押さえながら、このくらいなら何とか歩けるでしょ、と少し先にある非常灯の明かりを示す。
だが、その薄暗さが更に恐怖を煽る。
「きよしじゃねぇって! くそ、非常灯だけじゃ暗ーし。早く行こうぜ」
「あー歩きづれー」
反論しつつも夜の学校の雰囲気に気圧されているらしいきよ。肩を竦めながら彼を先導していく綾華。
やがて二人は件の体育倉庫前に辿り着いた。
「さて、ここが……ぎゃーー!!」
「うわっ」
きよが扉を見遣った瞬間。耳を劈くような悲鳴が響き、綾華は眉を顰める。何があったのかと綾華が訝しげに見遣ると、きよは助けを求めるように腕を握ってきた。
「おい、変な音しなかったか?」
「……お前の声で全然聞こえなかったわ」
「やべーやべー、綾華やべーよ。またガタって!」
「いや、お前の声しかしない。腕握んな、近い近い」
「しょーがねぇじゃん! あ、また何かぐるぐる言ってね!?」
必死にきよが訴えるが、綾華には本当に彼の声しか聞こえていない。腕にひっつかれて耳元で騒がれていては無理もない。
だが、綾華は不思議と悪い思いは感じていなかった。寧ろ逆に笑えてしまうほどだ。
「あー、もう。あはは。マジでうっせーなお前!」
口閉じろ、と綾華がぺしぺしと頭を叩いたところでやっときよが黙る。
だが、きよのおかげで綾華の気は随分と紛れていた。本当はちょっとだけありがたいのだという事は敢えて言葉にせず、綾華は鍵を手にする。
その動きに気付いたきよは息を吐き、何とか気持ちを落ち着けた。
「さっさと鍵開けられる場所見つけようぜ。この鍵穴、合うか?」
「ん、だな。彼奴らと一緒に過ごした時間はなかなか楽しかったし、ちゃんとあの学園生活を守ってやろ」
「そうだな。力になってやりてぇ」
頷きを交わしあったきよと綾華は、そっと体育倉庫の錠前に鍵を差し込む。
すると、かちり、と音がして鍵が回った。錠が外れた様子を暫し見下ろしていた綾華に、きよが「どうした?」と問いかけた。
顔を上げた綾華は何でもないのだと首を振り、きよの背をひょいと背を押して笑う。
「で、次はお前が先頭な?」
「え、マジか。し、し、仕方ねぇな」
一瞬は躊躇いを見せたきよだが、これまで綾華に頼っていたのだから、それが道理だと感じて一歩を踏み出す。
そして、重い扉をひらけば軋んだ音が暗い倉庫内に響いていった。
「……うわ、狭いな」
「大丈夫か綾、か……――え?」
中を軽く覗き込んだ綾華の言葉に反応したきよが問いかけようとして止まり、不意に呆気に取られたような声を落とす。
何があったのか確かめるべく綾華がきよの視線の先を追った、そのとき。
視界にあるはずのないものが入った。
それは体育倉庫内に現れた次元の裂け目だった。人ひとりが入れる程度の大きさの穴の向こうには極彩色が混ざりあったような空間が渦巻いている。
先程、きよが何か音がすると言っていたのもこれがあったせいなのだろう。
「きよ、これって――」
「異次元への扉って感じだよな。本気かよ……」
綾華が警戒を抱く中、きよも感じたままの思いを言葉にする。二人共、直感的にこの奥に例の『かみさま』が居るのだと理解していた。
顔を見合わせた彼らはこの渦に飛び込むことを心に決める。
そんな中、きよは綾華が狭い空間に僅かな違和を覚えているのかもしれないと感じ、ゆっくり踏み出した。
「俺が先にいく。綾華は後から……」
「いや、同時が良い。何となくだケド、離れるといけない気がするんだよ」
しかし、綾華がきよの腕を引いて止める。もしかすれば別々の場所に飛ばされる可能性だってある。そうならないよう一緒に。そう語った綾華の予感も一理あるとして、同意したきよは覚悟を抱く。
「行くぞ、綾華」
「そんなくっつくなよ……なんて、言ってられねーな」
「しょーがねぇだろ、やっぱ怖いもんは怖ぇんだよ! あ、いや別に怖くねぇけど!」
「はいはい。それじゃ、しっかり掴まってろよ」
そして二人は一気に特殊空間へと繋がるであろう穴に同時に飛び込んだ。
その向こうで巡る戦いを思い、未知なる先を目指して――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
真夜中の学校って、なんだか独特な雰囲気があるものだ
ゴーストでも出そうじゃないか。ハッハッハ
そういうものは不慣れだけど、特別恐れないんだよね
さてさて、探索を始めようか
鍵もメモも、ちゃんと持っているぜ
『薔薇の絵画の裏側へ』
薔薇の絵画、どこにあったかな……
しかし私は幸いにも同じクラスの、えーと誰だったっけ
女生徒に校内を案内してもらっているんだ
その記憶を辿りながら、絵画のある教室を調べていこう
やはりまずは美術室から!
ああ、石膏像があるよ。薄暗い中だと、ぱっと見生首だよねえ
そう思わない?レディ
無ければ、次は音楽室だ
見てみて、暗闇に肖像画がぼうっと浮かんでいるようだ!
……あれ、もしかしてホラーは苦手かい?
●学園オカルトツアー
真夜中の学校はなんだか独特な雰囲気がある。
賑やかさと静けさ。
学内は昼間と比べて正反対の様相で、まるで別の場所のようにも思えた。
「ゴーストでも出そうじゃないか。ハッハッハ」
エドガーは軽く笑い、夜の校内を歩いていく。幽霊などに対しては不慣れだが、エドガーは特別そういったものを恐れたりはしない。
さてさて、と周りを見渡したエドガーは薄暗い廊下の先に目を向ける。
鍵もメモもちゃんとこの手にある。
『薔薇の絵画の裏側へ』
そしてもう一度、鍵についていたメモに記されていた言葉を見返してみた。エドガーは静かな校内を歩きながら思いを巡らせていく。
「薔薇の絵画、どこにあったかな………」
絵画があるところとなると場所も限られてくる。
すぐには思い至らないが、幸いにしてエドガーは同じクラスの――名前は思い出せなかったが、女生徒に案内をして貰っていた。
「えーと誰だったっけ。レディが嫉妬してくれたのは覚えているんだけどね」
左腕をそっと擦りながらエドガーは思い返す。
確か、とあのときの記憶を辿りながら彼は絵画のある教室を調べていく。そうして最初に向かったのは美術室だ。
やはり絵といえば其方からだろう。
誰もいない教室をそっと覗き込み、エドガーは目を凝らす。
「ああ、石膏像があるよ」
最初に見えたのは白磁色の像。胸像の数々を見渡したエドガーは双眸を細め、傍らのレディに語りかける。
「薄暗い中だと、ぱっと見生首だよねえ。そう思わない? レディ」
しかし、反応はない。
其処から暫し薔薇の絵画を探したエドガーだが、美術室内には見当たらなかった。ならば次は音楽室。
双方は比較的、近くにある。
そのまま音楽室に向かったエドガーは壁に並んだ音楽家達の絵を示した。
「見てみて、暗闇に肖像画がぼうっと浮かんでいるようだ!」
すごいね、とレディに語りかける。
だが、またもや反応はない。
「……あれ、もしかしてホラーは苦手かい?」
レディが怖がっているのかと感じてエドガーは首を傾げた。
しかし、調べてみても薔薇の絵画は音楽室にもない。それならばどうするべきか。エドガーが考え始めた時、不意にレディが何らかの反応を示した。
「レディ? ああ、こっちにも部屋があったね」
誘われるように辿り着いたのは美術室の隣にある準備室だ。此処ならば絵が仕舞われているかもしれないと察したエドガーは鍵を差し込んでみる。
すると、鍵は容易に回った。
「なるほど、鍵が合ったということは此処かな。ああ、あれが薔薇の――え?」
準備室に踏み入った矢先、エドガーは異様なものを見て瞼を瞬く。
其処には確かに薔薇の絵画があった。
だが、その奥でワープホールのようなものが渦巻いていたのだ。おそらくそれは『かみさま』のいる場所に続く次元の穴だ。其処を通らなければ邪神であるそれと対面することも叶わないだろう。
「……行こうか、レディ」
エドガーの覚悟は決まっていた。そして、ちいさく頷いた彼は“運命”の名を抱くレイピアを抜き、渦巻く異空間への入り口を潜ってゆく――。
大成功
🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
情報収集で得た鍵を持つ女子生徒を追跡
追跡時は夜でも周囲が見れるよう暗視と視力を駆使
移動は足音が聞こえないよう忍び足で目立たないよう行動
裏口付近で身を潜めて待機
倫太郎殿は女子生徒を知りませんので確認しましたら目配せにて合図
彼女が校内へ入りましたら我々も続きます
倫太郎殿とは普段戦いでのやり取りが多いもので
こうした潜入は初めてですから尚更気は抜けません
女子生徒が部屋で鍵を使用する前に止めに行きます
鍵を貰えれば自分も「かみさま」に選ばれた者と思うのでしょう
貴女達のその高揚を利用しているのならば、それは許し難い行為
学園にて悩み多き時は有れども、「かみさま」が居なくとも貴女達は輝いていましたよ
篝・倫太郎
【華禱】
夜彦と裏口が確認出来て身を潜めておける場所に待機
生憎と俺はその女子生徒目撃してねぇから判別は夜彦に任せる
俺は一応、LoreleiとHolda起動させとく
女子生徒が現れたら校内で見失ったときの保険として
起動させたLoreleiとHoldaで
女子生徒の容姿等のデータを取っておく
件の生徒が校内に入ったら後を追って俺達も校内へ
技能の闇に紛れる事で見つかり難くして
見失わないように注意して追跡
不用意な音で警戒させないよう
暗視も使用して足元にも注意して移動
会話しなくてもある程度は言いたい事判るから良いけど
夜彦の声が聞けないのはちょっとばかり残念
彼女が該当する部屋を見つけたら
鍵を使用する前に声を掛ける
●二人で共に
裏門から死角になる電話ボックスの影。
夜彦と倫太郎は息を潜め、明滅する街灯が映す影を見ていた。一歩ずつ、おずおずと学校の門に向かっていくのは髪の長い女子生徒だ。
女生徒がたったひとりで出歩くのは感心されないような真夜中。
何かを握り締めた少女はひらいている裏門に触れると、恐々とした様子で学内に入っていった。その後ろ姿を確かめ、夜彦達はその後を付ける。
暗視と視力を駆使し、忍び足で学内に入り込む。
しんと静まり返った廊下から響くのは女生徒が立てるゆっくりとした足音だ。
「倫太郎殿、向こうへ」
「ああ、大丈夫だ」
二人の間でしか聞こえぬほどの小声で会話する夜彦と倫太郎は慎重に少女の後を追っていった。どうやら彼女は手に入れた鍵を持ち、メモを元に行動しているらしい。
倫太郎バイザータイプのゴーグルに加え、サイバーアイを用いてその姿をしっかりと捉えている。そして、校内で見失ったときの保険として起動させたそれらに女生徒の容姿などのデータを記録していく。
これで見逃しはしない。万が一に見失ったとしても大丈夫だろうと感じつつ信頼を寄せ、夜彦は彼と共にゆく。
少女は周囲が気になるのか、きょろきょろと辺りを見渡すことが多い。
此方の存在が気付かれているのかとも思って警戒した倫太郎だが、どうやら単純に怖がっているだけなのだと次第に分かった。
倫太郎と夜彦は普段、戦いでのやり取りが多い。それゆえにこうした潜入は初めてで慣れていないのだが、此処までは順調なようだ。
やがて、少女は迷いながらも理科準備室へと向かっていく。
「……夜彦」
「ええ、彼処で立ち止まりましたね」
きっと準備室が彼女に渡されたメモが示す場所だったのだろう。
だが、場所が場所だ。窓越しに人体模型や骸骨の模型が見える場所に一人で入っていくには、勇気が足りないらしい。
されど此方にとってはそれが丁度いい。
元より場所を突き止めてから、鍵を開ける前に止めに行こうと思っていたのだ。頷きあった夜彦と倫太郎は隠れていた場所から姿を表し、女生徒へと歩み寄る。
「きゃっ!」
「待ってください。何をしているんですか?」
「せ、先生……? ええと――」
驚いた少女が悲鳴をあげたが、夜彦が声を掛けたことで教師だと分かりほっとしたらしい。だが、何をしているのかと問われるとしどろもどろになってしまう。
「それ、鍵だろ? 理科準備室の鍵なんて何処で手に入れたんだ?」
倫太郎が問うと女生徒は押し黙る。
かみさまに選ばれた。
そう告げるか否かを迷っているらしい。
きっと、鍵を貰えた自分は崇高なものに選ばれた者だと感じるだろう。だが、邪神が彼女達のその高揚を利用しているのならば、許し難い行為だ。
「夜の学校は危ないですから、それを置いて帰りなさい」
「何だかやばい雰囲気だってことはわかるだろ?」
夜彦が凛とした強い口調で告げ、倫太郎も女生徒を促す。すると彼女は俯き、肩を落としながら鍵を夜彦に渡した。
「……先生達も、こんな時間に何をしてらしたの?」
そして俯きながら問う。
いくら教師といえどタイミングが良すぎるし、真夜中に二人が揃っているのもおかしいと感じたのだろう。すると二人は顔を見合わせ、視線を交わす。
「いやー、実は俺達は学園の平和を守りに来たんだ」
「ええ、悪いものを退治しにきたのです」
「先生達ったら、何を言ってるんですか。……ふふっ」
彼らが告げたことは嘘偽りないのことなのだが、少女には冗談に思えたらしい。されど結果的に場を和ませることになったので良い。
帰りなさい、と告げたことに承諾した少女はやや後ろ髪を引かれながらも踵を返し、元来た道を戻っていく。
「送れなくて悪いな。気を付けてな」
「いえ、ちゃんと帰れるから大丈夫です」
倫太郎が手を振ると、少女は軽く会釈をした。
そして、彼女の背後から夜彦が声をかける。
「それなら安心しました。学園にて悩み多き時は有れども――『かみさま』が居なくとも貴女達は輝いていましたよ」
「……え?」
その声を聞いた少女が振り返った時、もう其処に教師達の姿はなかった。
そして、理科準備室の内部。
「こいつは……まぁ、なかなかに厄介そうなものだな」
「そうですね、こんな物の中に彼女が入ることにならずに済んで良かった……」
倫太郎と夜彦は目の前にあるモノの前で身構えていた。
鍵を使って扉を開けた先。
其処にあったのは次元の裂け目と呼ぶに相応しい穴だった。人ひとりが入り込めるような大きな龜裂の奥からは邪神の気配が漂っている。
おそらく、秘密倶楽部に入ったという生徒も皆一度はこの中に取り込まれたのだろう。二人は渦巻く次元の穴を見つめ、覚悟を抱く。
「このために来たんだからな。引き返すなんて言わないよな?」
「勿論です。倫太郎殿と共に――何処までも進みましょう」
意志を確認しあった彼らは其々の武器に手をかけ、かみさまが待つ特殊空間の入り口へと進んだ。交わす視線。自然に繋ぎ合う手と手。
「行こうぜ」
「行きましょう」
そして――この先に待つ戦いへの思いを強め、二人は渦の中に飛び込んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リィリィット・エニウェア
【狼の巣】で参加
チガねえさん、隊長とそれぞれ呼びます
「チガお姉様?チガねえさんがそっちがいいなら呼ぶよー!」
「隊長も、浮いて見えるところが王子様なカンジなんじゃない?」
【POWで判定】
パソコン室の裏の部屋、とか?
まあまずは素直にパソコン室にいくのに異論はないよー
画面……っていうなら美術室かもしれないけど、ダメだったときの候補だね
それにチガねえさんにもパソコン室の方が似合うし?
薄暗い部屋で画面だけ光ってるの、こう、雰囲気あるよね……
普通の学園生活がどうこうに対しては
「だーかーら!あたしは普通の学生なんだってばあ!」
たいちょー、イマイチわかってないな!
ザザ・クライスト
【狼の巣】
煙草に火を点けながら、
「まずはお手柄だな、曹長」
オネーサマは笑いかけるが、王子とかのオレ様のほうが厳しィと思って口を噤む
「パソコン室、アソコが一番怪しィと思うぜ」
無数の画面は他にはねェしなァ
裏側が引っかかるが、電脳空間とかそォいうコトじゃねェか?
【暗い若者】を発動
猟犬レオンハルトも透明化させつつ警戒させる
サイバーアイの【暗視】機能て周辺にも注意しておく
移動は【忍び足】
万一ハズレだったらどォするか、二人にも意見を求める
校内に入り込んでる他の連中を【追跡】してもイイ
「しかしなんだな? フツーの学園生活ってのも悪かねェとは思ったぜ。二人はどうだ?」
それも今夜で終わりだ
派手にカマしてやろうぜ
チガヤ・シフレット
【狼の巣】で参加
さて、鍵は手に入った。
忍び込むとかは得意だから任せておけ。
「お姉さまの何がおかしいのかなぁ? ほーら、女生徒あこがれだぞ。くっくっく」
「リィもお姉さまなんて呼んでくれてもいいんだぞ?」
パソコン室に向かうのに賛成だ。
電源入れると何か起きるのか、それとも裏側覗くのか。
かみさまとやらはどこにいるのかなァ?
もしはずれだったなら……私は用具室が如何わしい匂いがする気が……っと、そうじゃないな。
放送室とかどうだ? そんなに画面はないか?
何はともあれ、潜入捜索だな。敵が出てきたらぶち抜く準備だけはしておこうか
「学園生活、面白くはあるが刺激が足りないな。ドンパチやってる方が性に合っていたよ」
●未知なる渦へ
裏門の塀に背を預け、夜の学園を見上げる。
薄暗い校内は賑やかだった昼間とは違ってしんと静まり返っていた。
ザザは煙草に火を点けながら周囲を見渡す。彼らが暫し此処で留まっているのは一般生徒が忍び込まぬよう見張る目的もあった。
「まずはお手柄だな、曹長」
ザザはチガヤに呼びかけ、その手に握られている鍵を見遣る。
「ああ、鍵は手に入ってる。忍び込むのは得意だから任せておけ」
チガヤも周りの気配を確かめ、此処から生徒が侵入することはないだろうと判断した。鍵はチガヤ達猟兵だけではなく一般生徒にも配られているようで、彼や彼女達を今夜の戦いに巻き込むことだけは避けたい。
うん、と頷いたリィリィットも自分達だけで潜入できる状況を確かめた。
そんな中、ザザはチガヤが学園内で置かれていた状況を思い出す。
「にしても、オネーサマねェ」
「隊長も、浮いて見えるところが王子様なカンジなんじゃない?」
「いや、王子とかのオレ様のほうが――」
厳しい、と感じたザザはリィリィットからの問いかけに口を噤んだ。するとチガヤがくつくつと笑ってみせる。
「お姉さまの何がおかしいのかなぁ? ほーら、女生徒あこがれだ。リィもお姉さまなんて呼んでくれてもいいんだぞ?」
「チガお姉様? チガねえさんがそっちがいいなら呼ぶよー!」
元気で素直なリィリィットをチガヤが褒め、いつものような遣り取りが巡る。そして、準備を整えた三人はいよいよ校内へ向かうことを決めた。
「おっと、その前に」
「隊長、校内は禁煙だよー!」
その際、チガヤとリィリィットが煙草を吸っていたザザに注意する。悪ィ、と告げた彼は煙を吐いてから火を消し、煙草の吸い殻を仕舞い込んだ。
立ち昇る薄い紫煙を見上げれば、夜空に厚い雲が掛かり始めている光景が見えた。
まるでこれから巡る不穏な展開を示唆するかのような、暗い、昏い夜空だった。
そして、一行は目星をつけた教室に向かっていく。
『無数の画面の裏側で』
そう記されたメモを全面的に信じるならば導かれる場所はひとつ。
「パソコン室、アソコが一番怪しィと思うぜ」
「そうだね、パソコン室の裏の部屋、とか?」
ザザとリィリィットは自分達が立てた予想を元にして、パソコン室を目指した。自分達の授業は選択式だったので学校生活内ではあまり使っていなかったが、確か高等部の三階にあるはずだ。
こっちだ、と先導するザザは暗い若者の力を発動させる。
猟犬レオンハルトも透明化させつつ警戒を行わせ、何が起きても良いように備えた。
そして、チガヤ達はその後に続く。
「にしても、電源入れると何か起きるのか、それとも裏側覗くのか」
どうなんだろうかと考える彼女は、かみさまの回りくどいやり方に肩を竦める。謎解きをさせてまで例の秘密倶楽部とやらに入れさせる意味は分からない。
だが、現にこうして鍵は配布されている。
リングに通した鍵をくるくると回したチガヤは廊下の先を見遣った。
薄ぼんやりと光る非常灯は妙に不気味だ。
リィリィットはそれが想像しているパソコンの画面に似ていると感じる。
「画面……っていうなら美術室かもしれないけど、ダメだったときの候補だね。それにチガねえさんにもパソコン室の方が似合うし?」
「そうか? もしはずれだったなら……私は用具室が如何わしい匂いがする気が……っと、そうじゃないな。放送室とかどうだ? そんなに画面はないか?」
二人の会話を聞きながら、ザザも考察を重ねていく。
「無数の画面は他にはねェしなァ。裏側が引っかかるが、電脳空間とかそォいうコトじゃねェか?」
「電脳空間かぁ。薄暗い部屋で画面だけ光ってるの、こう、雰囲気あるよね……」
「そんな所にかみさまとやらが……まったく、どこにいるのかなァ?」
三人はあれやこれやと話しながら階段をのぼる。
そうして、三階まで辿り着いた。
此処から反対側の奥の部屋がパソコン室だと告げ、ザザは歩き出した。辺りは依然として静かであり、自分達の気配しか感じられない。
本当にかみさまなどいるのだろうか。僅かな疑問が浮かんだが、ザザは先ずはパソコンルームに辿り着いてからが本番だと感じる。そして、ふとチガヤとリィリィットの方に振り返った。
「しかしなんだな? フツーの学園生活ってのも悪かねェとは思ったぜ」
二人はどうだ? と問うと彼女達は其々に答える。
「面白くはあるが刺激が足りないな。ドンパチやってる方が性に合っていたよ」
「だーかーら! あたしは普通の学生なんだってばあ! たいちょー、イマイチわかってないな!」
チガヤが女生徒達を思い返す中、リィリィットは普段から普通に過ごしているのだと話して頬を膨らませた。
そんな少女が妙に愛らしく思え、ザザは軽く笑った。
そうして、彼らはパソコン室に到着する。
チガお姉様、曹長、と其々に自分を呼んだ二人に頷き、チガヤは鍵を手にした。パソコンも貴重品ゆえに、部屋は戸締まりされている。
鍵穴に鍵を差し込み、ゆっくりと回せば――かちり、と小さな音が響いた。
「お、開いたな」
「じゃあ場所はここで合ってるのかな?」
「……おい、二人共。アレを見ろ」
チガヤとリィリィットが顔を見合わせる中、先んじて中を覗いたザザが内部を指差す。すると其処には渦巻く次元の裂け目のような穴が空いていた。
何これ、とリィリィットが驚く中でチガヤは冷静にそれを見つめる。
「どうやら、あの奥に『かみさま』がいるらしいな」
実際に入らずとも雰囲気で分かった。何処に続いているかは謎だが、邪神の禍々しい力が其処から漂っているので間違いない。
「何だかすごいね……」
気圧されそうになりながらもリィリィットは次元の渦にゆっくりと近付く。
ザザも警戒を怠らぬまま静かに其方に向かい、二人に呼びかけた。折角此処まで訪れたのだから引き返したり、躊躇などはしない。
「かみさまに秘密倶楽部、か。それも今夜で終わりだ。派手にカマしてやろうぜ」
このまま突っ込むぞ、と告げたザザ。
「うん!」
「さて、手筈通り行こうか」
既に覚悟を決めていたリィリィットとチガヤもしかと頷く。
そして、渦巻く特殊空間への道を潜るべく三人は同時に踏み出した。この先にこそ、かみさまという存在が待っているのだと確信しながら――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ミーユイ・ロッソカステル
リグレット(f02690)と
……昼間の学園は、カーテンを閉めてはくれないから困ったものだわ。
夜になってしまえば関係ないけれど。私には、好都合な時間。
こここそが自分のフィールドだと、笑みを浮かべ
『美しきものが眠る場所へ』
……そのままに考えれば、美術室かしら?
そう、単純な話でもない、か。
……あなた、音楽室が気になるの?
まぁ、いいけれど。
リグレットの呟きを訝しがりながらも、なにか気がかりがあるならとそこへ赴き。
……静かね。
奏者もいないピアノが置かれた、夜の音楽室。
確かに、普段は美しい音色を奏でるピアノも、夜の学校では眠っている、と言えるかもしれないけれど。
この鍵がぴたりと合う穴が、どこかに……?
リグレット・フェロウズ
ミーユイ(f00401)と
夜の学校、ね。
『クラスメイト』なら、不気味にも思うのでしょうけれど……まぁ、そんな可愛げのある女でもないわね、お互い
内心でそう思いつつ、「何でもないわ」と小さく肩を竦めて
「美しきものが眠る場所……」
候補を挙げるミーユイの顔をじっと見て。
「……音楽室」
「ええ、まあ。……ここから近いし、行ってみましょう」
相手の顔を見て、歌声を思い出して連想したのだということは、口にせず
未来ある子供たちが芸術を奏でる、そして今は静まり返った場所。
どこかに、鍵が合えばいいのだけど。ひとまず手当たり次第、差し込んで回ってみましょうか
部屋の扉、準備室の扉……あぁ。ピアノにも、鍵穴が付いているのね
●音の底に落ちる
真夜中の学校への招待。
鍵を持つリグレットはキーリングに通したそれを目の前で軽く揺らし、薄暗い学内を見遣る。共に行動するミーユイと一緒に開いていた裏門から侵入すること暫く、リグレットはゆっくりと廊下を歩いてゆく。
「夜の学校、ね」
「私には、好都合な時間だわ」
リグレットがぽつりと呟くと、ミーユイが双眸を細める。
何せ昼間の学園はカーテンを閉めてはくれないから困ったものだ。しかしこうして夜になってしまえば陽射しなど関係ない。
それに今夜は星も月も分厚い雲に覆われた昏い夜だ。
「そうね、『クラスメイト』なら、不気味にも思うのでしょうけれど……」
お互いにそんな可愛げのある女でもない。そんなことを内心で思いつつ、リグレットは「何でもないわ」と小さく肩を竦めた。
対するミーユイは此処こそが自分のフィールドだと笑みを浮かべ、暗い廊下を進んでいく。辺りはしんとしており、静けさに満ちている。
静寂は心地良い。
昼間の賑やかな学内も悪くはなかったのだが、やはりこの方が落ち着く。
そして、いつもの教室まで辿り着いたリグレットとミーユイは自分達の席についた。まるで二人だけの特別授業のようにも思えるが、まずは情報を整理すべきだ。それにきっと、こうして席につくのもこれが最後になる。
リグレットは鍵についていたメモを取り出し、改めて読んでみる。
『美しきものが眠る場所へ』
リグレットの手元を覗き込んだミーユイは軽く首を傾げた。
「……そのままに考えれば、美術室かしら?」
けれどもそう単純な話でもない気がする。何より美術室には特に鍵はかかっていなかったように記憶していた。
「美しきものが眠る場所……」
リグレットは候補を挙げるミーユイの顔をじっと見て、ふと思いを口にする。
「……音楽室」
「……あなた、音楽室が気になるの?」
「ええ、まあ。……ここから近いし、行ってみましょう」
「まぁ、いいけれど」
立ち上がったリグレットに頷き、ミーユイはほんの少し訝しがりながらも彼女に付いていく。何にせよ、気がかりがあるならとそこへ赴くのが良い。
リグレットは彼女の顔を見て歌声を思い出して連想したのだということは特に口にせず、音楽室に続く廊下を進む。
其処は未来ある子供たちが芸術を奏でる処。
そして、今は静まり返った場所。
「着いたわ」
「……静かね」
音楽室の扉をゆっくりと開き、二人は中を覗いてみる。
静寂の中で音は眠っている。
奏者もいないピアノが置かれた、夜の音楽室。確かに普段は美しい音色を奏でるピアノも夜の学校では眠りについている――と言えるかもしれない。
何故だかそんな風に思え、ミーユイとリグレットは室内を歩いてみた。
「どこかに、鍵が合えばいいのだけど」
「この鍵がぴたりと合う穴が、どこかに……?」
音楽準備室だろうか。
ひとまず手当たり次第、鍵穴がある場所を探す二人。準備室の扉に鍵を差し込んでみたが、どうやら合わないようだ。
どうしましょうか、とピアノの前に置かれた椅子に腰掛けるミーユイ。
すると、リグレットが其処に歩み寄った。
「……あぁ。ピアノにも、鍵穴が付いているのね」
「もしかして……ねえ、この鍵――」
「ええ、私も同じことを思っていたわ」
リグレットの呟きにミーユイがはたとして鍵を翳す。きっとこのピアノの鍵だ。そう直感したリグレットはそっと鍵を回し、ピアノの鍵盤をひらく。
その際に指先が鍵盤に触れ、高い音が一音だけ鳴り響いた。
そして、その瞬間。
「きゃ……!」
「何よ、これ」
その行動こそが鍵だったのか、突如として周囲の景色が渦巻きはじめた。ぐるぐると巡る極彩色。次元が裂けたかのような亀裂が二人の目の前に現れる。
吸い込まれる。
そう感じたときにはもう、彼女達の身体は謎の次元の穴に落ちていた。
「……リグレット!」
「ミーユイ、手を――」
混乱の最中、二人は互いに手を伸ばす。繋いでいなければきっと違う場所に飛ばされてしまう。状況が状況ゆえにそうしなければならないと感じた。そして、手と手を強く握りあった二人はそのまま落下していく。
ああ、この先に『かみさま』のいる場所があるのだろう。
そんな予感を覚えながら、深く、深く――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
榎本・英
文字の狭間、更に奥へ
ふむ。やはりこの図書室かそれか書庫か……。
安直すぎるが、本棚と本棚の間に何か仕掛けがあるか
或いは図書室の奥。
手掛かりがこれだけだと、さすがに骨が折れるね。
嗚呼。やはり本の中の探偵は優秀だよ。
こんなに広い学園を手当たり次第探すなんて事は出来ない
なら、図書室と書庫の二つに絞って探索してみよう。
このメモだけでは流石にね。
もし図書室で誰か仲間に出会う事があれば
メモを見せて協力をしたい。
情報を共有するのも良い。
怪しまれそうなら後程合流しようと告げて
先に行くことを促そうか。
謎解きはつまらなくない。
●文の波に沈む
深夜の学園は静寂に満ちている。
英は廊下に響く自分の足音を聞き、やけに反響するものだと感じていた。
まるで別世界。これまで通っていた学園とは様相までも違うような感覚に陥ってしまうが、此処は間違いなく学園内だ。
英は手元のメモを軽く掲げ、其処に書かれた文字を改めて読む。
『文字の波間、更にその奥へ』
眼鏡の奥の双眸を薄く細め、英は少しばかり考え込んだ。文字の波と表されるほどに文章や言葉が溢れている場所。それも学園内となると限られてくる。
「ふむ。やはりこの図書室かそれか書庫か……」
流石に安直すぎるとは思ったが、かみさまの目的を思うと難しすぎてもいけない。それに怪しいと感じたところは一通り調べてみる必要があるだろう。
「嗚呼。やはり本の中の探偵は優秀だよ」
思わず零れ落ちたのはそんな感想。こんなに広い学園を手当たり次第探すなんてことはできなさそうだ。
本棚と本棚の間に何か仕掛けがあるのか。
或いは図書室の奥か。
手掛かりがこれだけだと、さすがに骨が折れると感じながら英は図書室へ向かった。扉をひらくと、慣れ親しんだ光景が目に入る。
非常灯の薄い明かりが照らし出す書架や机は、やはり昼間の雰囲気とは違う。
英はよく座っていた机の傍を通り抜けて本棚の間へと歩を進めた。
「このメモだけでは流石にね」
更にその奥。
そう記された文字に目を落とした英は、普段は入ることのなかった書庫に向かう。順当に考えれば其処が怪しいだろう。
だが、書庫には特に鍵がかかっていなかった。表の本棚に収納できなかったものが保管してあるだけで、必要ならば図書委員が資料を取りに行く場所なので特に厳重な戸締まりもされていないようだ。
英はゆっくりと書庫に入り、辺りを見渡す。
手の中の鍵を使う場所――と、考えて注意深く辺りを調べれば、床に一冊だけ落ちている本があった。
そして、その本には鍵付きのブックカバーが被せられている。何ともありがちだが、かみさまに選ばれた者として手にさせるにはお誂え向きだ。
「……謎解きはつまらなくない」
そう呟いた英は鍵を取り出して鍵穴に差し込んだ。
硬質な音が響き、本が開いたその瞬間。
「これは、渦……?」
英は突如として周囲に現れた次元の裂け目のような渦に身体を囚われていた。逃れようにも既に体の半分がそれに纏わりつかれている。
だが、同時に直感していた。
この次元の穴の向こうに、『かみさま』が居る。
ならば抗う必要はないとして英は覚悟を決め、抵抗をやめた。そして――。
ぱたん、と本が閉じて床に落ちる。
英は完全に異空間に取り込まれたらしく、薄暗い書庫にはもう誰の姿もなかった。
大成功
🔵🔵🔵
臥待・夏報
【WIZ:情報収集、狂気耐性】
うーん、借り物の『輝き』を手に入れてしまった。
他の誰かにあやかっても、下らない自分が変わるわけじゃないのにね。
……もう、弁えてるよ。
さて、『貴方のことを記録している場所へ』。貴方というのはあの少年で、夏報さんではない。
あの気弱そうな少年は、何をもって輝いていたのかな。
成績であれば、それを記録したもの……通知表や内申がある『職員室』。
あとは、……部活の賞状やトロフィーを飾るスペースって、だいたい職員室の近くにあるよな。そこで彼の名前を探そう。
『部室』がわかれば、なおよし。
反吐が出るな。
鍵を回すのが楽しいや。
何回痛い目を見ても、僕はこういう儀式が『好き』なのか。
●偽りの耀き
ゆらゆらと鍵が揺れる。
キーリングに通したちいさな鍵をくるりと指先で回し、夏報は軽く肩を落とす。
「うーん、借り物の『輝き』を手に入れてしまった」
静まり返った校内には誰の気配もない。忍び込んだ真夜中の学内にて、夏報はこの鍵を預かった少年のことを改めて思い出していた。
いつも居た保健室の横を通ったが、まるで違う場所のような雰囲気もする。
夏報は輝きの証であるという鍵を握り、歩を進めていく。
「他の誰かにあやかっても、下らない自分が変わるわけじゃないのにね」
――もう、弁えてるよ。
静かに呟いた言葉は誰にも聞かれることなく闇の中に消えていった。
とはいえ、いつまでも感傷めいた思いを抱いているわけにもいかない。気を取り直した夏報は鍵を仕舞い込み、代わりにメモを取り出す。
『貴方のことを記録している場所へ』
そう記された文字を目で追い、夏報は推理してゆく。
貴方、というのはあの少年。
夏報自身ではないことはよくわかっている。そうなると生徒である少年の記録が残されている場所ということになる。
「あの気弱そうな少年は、何をもって輝いていたのかな。……確か、」
成績だ。
夏報は保健室に訪れる少年から時折、普段の話を聞いていた。それも勉強の成績ではなくて今時めずらしい珠算の大会成績が良かったのだという。
何気ない会話ではあったが、そういえば聞いたことがあると思い出した夏報はその記録がある場所を思い浮かべた。
成績であれば、それを記録したものとなる。
「……部活の賞状やトロフィーを飾るスペース――となると、だいたい職員室の近くにあるはずだよな」
そこで彼の名前を探そう。
様々な考えを巡らせる夏報は、ひとまず職員室に向かうことにした。
そして、目的のトロフィーが飾られたガラスケースが見えてくる。あったあった、と慎重に其処に近付いた夏報はざっと内部を眺めた。
「此処にはないな。……奥の部屋か?」
職員室奥の小部屋にも、飾りきれないものが保管されていたはずだ。其処でこの鍵を使うのかもれないと予測を立てた夏報は扉の前に向かう。
そうして、夏報は鍵を取り出した。
「……反吐が出るな」
呟いたのは自分への思い。何故ならこうして今、鍵を回すのが楽しい。
――何度痛い目を見ても、僕はこういう儀式が『好き』なのか。
溜息と共に回した鍵はかちりという音を立てて回った。そして夏報は部屋の中を覗き込み、予想が当たっていたことを確信する。
「で、これに飛び込めって?」
なるほどね、と頷いた夏報の目の前には部屋の中心で渦巻くワープホールのような、異次元の穴があった。空間の裂け目とでも表すのが相応しいだろうか。
渦巻く内部からは妙な気配が漂ってきており、かみさまが居るのだと分かる。
「――良いよ、招かれてやろう」
借り物の輝きであっても良いのなら、幾らでも。
そのような言葉を口にした夏報は一歩進み、異空間に続く道へと踏み出した。
大成功
🔵🔵🔵
氷室・雪
手の込んだ迷惑メールみたいだと普段の私なら無視していたな
悩み多き者に特別だと言われれば騙されもするだろう
弱みに付け込むというのはよくあるが許せん
剣を振るう場所か…
普通に考えると剣道場だが…
暗号になっている可能性もあるな
英語に変換やアナグラム…あるいは謎解きの類か
剣道場じゃなかった時に考えればいいか
最悪の場合は総当たりだな
夜の学校の静かな雰囲気は私好みだ
普段ならやらなかったり出来ないことも出来そうな気すらしてくるな
柄にもなくテンションが上がってしまったが、使命を果たすためにも気を引き締めねばな
すでに正体がばれていておびき出す罠の可能性もあるので奇襲には注意しておくぞ
アドリブ、アレンジ歓迎
●かみさまへの道
まるで手の込んだ迷惑メールのようだ。
鍵とメモを渡され、其処に向かえと指示される不可思議な儀式。それにそんな感想を抱く雪は、普段の自分なら無視していただろうと考える。
真夜中の学園。
薄暗い廊下を慎重に歩く雪は、周囲の気配を探った。いつも賑やかだった学園と比べると深夜の学校とは何と寂しく静かなものだろう。
宛ら、人の心の明暗を表しているようだと感じが雪は思う。
(悩み多き者に特別だと言われれば騙されもするだろう。……弱みに付け込むというのはよくあるが、許せん)
――かみさまはわたしたちを救ってくれる。
そんな噂が流れてはいるが、きっと救いなど其処に存在しない。雪は手にした鍵を握り締め、自分が当たりをつけた場所へ向かった。
『剣を振るう場所へ』
手に入れたメモにはそう書かれていた。
学園生活で剣といえば、普通に考えると剣道場となる。だが、もしかすれば暗号になっている可能性だってあった。
「英語に変換やアナグラム……あるいは謎解きの類か。いや……」
深く考え込んでしまいそうになった雪だが、ふと思い立つ。難しい暗号にしてしまうと、そもそも生徒達をかみさまの場所へ到着させることが出来ない。
これはきっと戯れのようなものなのだ。
選ばれし者が謎を解き、崇高なる存在の元に辿り着く。
それもまた特別だと錯覚させるに相応しい仕掛けだろう。それゆえに雪は、暗号云々は目的の場所が剣道場ではなかった時に考えればいいと判断した。
最悪の場合は総当たりだが、雪は自分の予想が当たっていると直感している。
そして、雪は校舎の外れにある剣道場を目指す。
廊下を抜け、渡り廊下へと出る。
夜の学校の静かな雰囲気は、実は雪好みだ。寂しさを感じさせながらも、妙に浮き立つような感覚もおぼえる。
普段ならやらなかったり、出来ないことも出来そうな気すらしてくる。
「……柄にもなくテンションが上がってしまったな」
自分がわくわくしていると自覚した雪は首を横に振った。そして剣道場の扉の前に立った雪は、使命を果たすべく気を引き締める。
そうして、取り出した鍵を鍵穴に差し込めば、軽い音がして扉がひらいた。
何が待ち受けているのか。
奇襲などに備えて身構えた雪は、其処に異様な光景を見ることになる。
「な……異次元への、穴……?」
そうと表す他ないものが剣道場の中央に渦巻いていた。
暗い、けれど極彩色を宿す渦。その奥にかみさまが待ち受けているのだとうことは容易に理解できた。雪は一瞬驚きこそしたが、ゆっくりと一歩を踏み出す。
行くしかない。
此処まで来たのだから後戻りするという選択肢はなかった。
この先でどんな戦いが待っていようとも立ち向かう。強く凛とした覚悟を抱き、雪は異次元への渦に飛び込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
セルマ・エンフィールド
任せて欲しいと言ったからには、本来の仕事を成すとしましょうか。
『遥かな高みに登る場所へ』ですか。高みというのが比喩なのが高い場所という意味なのかは判断がつきませんが……
扉の場所は生徒一人一人違い、この鍵はユウリさんのためのものであることを考えると……まずはあそこから行ってみましょうか。
まずは弓道場へ。高みというのが精神的、あるいは技術的なことを指すのであればユウリさんにとって高みに登るための場所といえばここでしょう。
もし弓道場でなければ次は物理的に高い場所ということで屋上を。そこでもなければ『第六感』を頼りに手当たり次第としましょう。
……これでこの学校ともお別れとなりそうですね。
●決別と覚悟
任せて欲しい。
昼間の学内で自分がユウリに告げた言葉を思い出し、セルマは鍵を握る。
そう言ったからには、本来の仕事を成すしかない。
侵入した真夜中の学園を歩き、セルマは静かな決意を固めた。響く足音は妙に反響しており、昼間と比べると随分と不気味な雰囲気がする。
「……『遥かな高みに登る場所へ』ですか」
セルマは辺りの気配を探りながら、メモに記されていた言葉を改めて確かめた。
高みと示されているのは比喩なのか。
それとも本当に高い場所という意味なのだろうか。
まだどちらであるかは判断がつかないが、扉の場所は生徒一人一人に違うという。
「この鍵はユウリさんのためのものであることを考えると……」
まずはあそこから行ってみようと思い至り、セルマは教室棟を抜けてゆく。そのまま渡り廊下を行き、進んだのはよく歩き慣れた道。
放課後、部活動に赴いた弓道場だ。
高みというのが精神的、あるいは技術的なことを指すのであれば、生徒にとって高みに登るための場所といえばこの場所になるのかもしれない。
弓道場に踏み入り、セルマは周囲を見遣る。
「何だか懐かしいですね」
今夜、学園に忍び込む前の放課後にも部活に励んだというのに、浮かぶのはそんな思いだった。懐かしむということはきっと、もう戻れないと自覚しているからだ。
邪神を倒せば潜入任務は終わり。
穏やかだと呼べる日々に自ら終わりを齎すということになる。
そして、セルマは辺りを調べる。
射場と矢道の構造上、弓道場自体に鍵はかかっていない。一応は弓具が仕舞われている小部屋に鍵はあったが、その鍵穴とは合わないようだ。
そうなると屋上だろうか。
セルマは踵を返し、最後に一度だけ弓道場を振り返った。
そうして校内に向かう。
高みはとはきっと物理的に高い場所だ。屋上には階段を登っていくだけで辿り着ける。歩を進める中、じわじわと妙な気配が色濃くなってきたことがわかった。
やはり屋上が当たりだ。
セルマは鍵のかかった屋上に続く扉の前に立ち、呼吸を整える。
鍵穴はぴったりと合う。ならば後は開けるだけだ。ゆっくりと鍵を回すと、硬質な音と共に扉が開いた。
そして、其処には――。
屋上の中央、渦巻く次元の裂け目のような穴があいていた。ぐるぐると渦巻くワープホールめいたそれがおそらく、かみさまのいる場所に続く道なのだろう。
セルマに戸惑いはなかった。
何故なら邪神と戦うために此処まで来たのだ。引き返す理由などない。
「……これでこの学校ともお別れとなりそうですね」
セルマは屋上から見渡すことの出来る学内の様子を確かめた後、息を吐く。そして、歪んだ次元の渦の向こうを目指し、一歩を踏み出した。
大成功
🔵🔵🔵
陽向・理玖
ま、学校に限らず夜の建物の中ってちょっと不気味だよな
それに…
肌寒ぇ
邪神の気配、か
甘い香り
料理研究部の事が真っ先に浮かぶのは
俺がそこに一時でもいたせいか?
手に入れた鍵玩びつつ
家庭科室の他に香りがしそうな場所
茶道部なんか茶菓子食べたりすんのか?
あと理科室とか?何だっけアロマ的な…
部の姉さんたち
楽しそうでキラキラしてた
他にも誰か…狙われたりすんのか?
…胸クソ悪ぃ
犠牲なんか、出すかよ
もう俺は無力なガキじゃねぇ
…もう…二度と
とりあえず、家庭科室行ってみっか
違けりゃ次だ次
ご同輩がいたら協力したっていいしな
もし、フツーの生徒がいたら保護して諭しとく
通報される前に家帰れ
お嬢様だろ?
俺は…忘れ物だ忘れ物
●甘い日々にさよならを
真夜中の学園に足音が響く。
静まり返った廊下で反響する音は自分のものだと分かっているが、何だか妙に寒々しいものに思えてしまう。
「ま、学校に限らず夜の建物の中ってちょっと不気味だよな」
理玖は非常灯の明かりに照らされた薄暗い廊下を眺め、軽く肩を竦めた。
昼間の賑わう学内と比べると今は随分と寂しい。
それに肌寒い。これも邪神の気配なのかと思うと、早くそれを退治したいという思いが湧いてきた。何故なら、この学園にはあたたかな雰囲気が似合っているからだ。
そう感じるのも穏やかで賑やかな学園生活を送ることが出来たから。
『甘い香りに満たされる部屋へ』
鍵と共にあったメモに記されていた文字を思い、理玖は歩を進める。
甘い香りという言葉を見て、料理研究部のことが真っ先に浮かんだ。その理由は自分がそこに一時でもいたせいだろうか。
手に入れた鍵は持ち運びやすいようにキーリングに通してある。
それを指先でくるくると回して玩びつつ、理玖は通い慣れた廊下を進み、部室でもある家庭科室に向かった。
「他に香りがしそうな場所……茶道部なんか茶菓子食べたりすんのか?」
あとは理科室か。アロマ的な何かがあるかもしれない。
そう考える理玖だが、やはり考えれば考えるほど家庭科室以外の選択はなかった。確かいつもあの部屋には鍵が掛かっていて部長が部活前にあけていた。
火気があり、刃物も保管してあるからだろう。
ならばやはり、この鍵もあの扉をひらくものに違いない。理玖は確信めいた思いを抱きながらゆっくりと廊下を進む。
まだ家庭科室までは少しの距離がある。
その際に思い出すのは部活動の先輩、姉さんと密かに呼んでいた女生徒達だ。
「姉さんたち、楽しそうでキラキラしてたな」
かみさまは輝きを持つ者を選び、その生気を喰らうと聞いていた。
ならば他にも誰かが狙われたりしているのだろうか。あれほど楽しげに青春を謳歌する幸せそうな人々に魔の手が――。
「……胸クソ悪ぃ。犠牲なんか、出すかよ」
そう思うと自然に理玖の口からそんな言葉が零れ落ちた。
平穏に暮らす者が悪しきものによって搾取され、いいように利用される。もしくは立ち向かう者が不当に命を落とす。そんなのはもう御免だ。
「もう俺は無力なガキじゃねぇ。もう……二度と、」
紡ぎかけた言葉は胸の裡に仕舞い込み、理玖は家庭科室の前に立つ。
手にした鍵をゆっくりと差し込むと、かちりという音と共に扉がひらいた。誰か違う者、特に一般生徒が周囲に来てはいないかを確かめ、理玖は一先ず安堵を抱く。
そして理玖は室内に踏み入った。
「何だよ、これ……」
驚愕した理玖が見たものは、部屋の中央に渦巻いている妙な穴だった。
異次元に続く裂け目とでも表すべきだろうか。それは人ひとりが入り込める大きさであり、まるで誘うように蠢いている。
「そっか、この中に入って『かみさま』と会えってことだな」
先程から感じていた寒気のする気配もこの中から漂っていた。理玖は拳を握り、異空間へ続くであろう穴に歩み寄る。
この先に待ち受けるものが何であろうと、立ち向かうと決めた。
強い気概を抱いた理玖は一気に其処に飛び込む。此処から先にはもう甘やかで穏やかな日々は続かない。そう、覚悟しながら――。
大成功
🔵🔵🔵
シノ・グラジオラス
リナ(f04394)と参加
夜中の学校に潜入ってワクワクするな
俺も学生時代は親友と…いや、今のオフレコで。若気の至りだ、気にしないでくれ
(ヒントを見ながら)美しきものを掲げられた場所…ねぇ
掲げるって言う位だから、貼り出したり、普段人目につく場所って事か?
リナ、何か心当たりないか?よく行った場所とか
『情報収集』『追跡』で人の集まる場所や、
美術室や著名人の肖像があるなら音楽室を重点的に探って、
『暗視』『聞き耳』で鍵に合いそうな穴を『失せ物探し』する
可能なら、潜入時の『コミュ力』で培った生徒達の噂話に
該当する場所がなかったかも思い出す
あとは『野生の勘』に頼るかね
リナこそ離れるなよ、盾はデカい方が適任だ
木槻・莉奈
シノ(f04537)と参加
なかなかこうして入る機会ってないものね
あら残念、今度お酒を出しにして聞き出そうかしら
うーん…言葉の通りでいいなら美術室だとは思うけど
あとは肖像とか置いてる音楽室、掲示物が多いって意味では図書室とかもありかな?
可能性高いところから順に回ってみる?
室内は自分達で回るとして…外は任せちゃいましょうか
【Venez m'aider】で猫等学内に入り込んでいてもおかしくない小動物に協力を仰ぐ
おかしな気配がする場所の捜索をお願いしておくわ
周囲の警戒をしつつ、あたりを付けた場所の捜索を
鍵で開く前は、まず周囲や中の様子を多少でも探ってから
シノ、油断しないでね
ちょっと嫌な感じがするから
●二人で一緒に
静寂が満ちる真夜中。
薄暗い廊下を進めば、二人分の足音が静かに響いていく。
「夜中の学校に潜入ってワクワクするな」
「なかなかこうして入る機会ってないものね」
持ち込んだ懐中電灯の明かりを頼りにしてシノと莉奈は学内を歩いていた。自分達には誰もいない校内は不思議な雰囲気に満ちている。シノは昔を懐かしむように目を細め、いつかの思い出を言葉にした。
「俺も学生時代は親友と……いや、今のオフレコで」
若気の至りだから気にしないでくれと口を噤んだ彼の横顔を見上げながら、莉奈はくすくすと笑う。
「あら残念、今度お酒を出しにして聞き出そうかしら」
その話の顛末はまた今度。
気を取り直した二人は手に入れた鍵と、其処に添えられていたメモを見直す。
『美しきものが掲げられた場所へ』
ヒントであるという文字を目で追い、莉奈とシノは考え込む。
「美しきもの……」
「それが掲げられた場所、ねぇ」
掲げるというくらいならば貼り出したり、普段から人目につくような場所だろうか。シノは頭の中で様々な場所を思い浮かべながら傍らの莉奈に問う。
「リナ、何か心当たりないか? よく行った場所とか」
「うーん……言葉の通りでいいなら美術室だとは思うけど」
あとは肖像などが飾られている音楽室。
掲示物が多いという意味では図書室も候補に上がってくるだろう。
しかし音楽室の肖像画は美しいだろうか。掲示物も必要事項が書かれた書類やポスターが多く、美しいものとはやや縁遠い。
「難しいな」
「可能性高いところから順に回ってみる?」
「そうだな、そうしとくか」
シノが首を傾げると、莉奈が頷き、まずは美術室に向かうことになった。そして莉奈は片手を掲げて自分に宿る力を発動させてゆく。
「室内は自分達で回るとして……外は任せちゃいましょうか」
――みんな、力を貸してね。
その言葉と共に護りの魔法が付与された猫達が現れた。彼らに協力を仰いだ莉奈はおかしな気配がする場所の捜索を願い、外へと放つ。
そうして二人は廊下の先を目指した。
音楽室は教室を過ぎて、螺旋状に伸びている階段を上がった先。三階にある。
「生徒達の噂話では、秘密倶楽部への道がどこかってのはなかったよな」
「ええ、本当にかみさまに会った人しか知らないか……どこにでもあって、どこにもない道なのかもしれないわ」
シノが学園生活を思い返す中、莉奈は何となく思ったことを口にした。
何処にもないもの。
それは直感めいた思いだったが、何故だかそんな気がしたのだ。シノも莉奈がそう感じるならばその可能性もあるとして頷きを返す。
やがて二人は目的の場所に辿り着く。
扉には鍵がかかっていた。莉奈がその鍵穴に取り出した鍵を差し込むと、かちりという硬質な音が響く。
ひらいた、と小声で告げた彼女の傍に立ち、シノは扉に手をかけた。彼があけてくれるのだと察した莉奈はそっと身を引く。
「シノ、油断しないでね。ちょっと嫌な感じがするから」
「リナこそ離れるなよ、盾はデカい方が適任だ」
まだ開いてはいないが、中からは妙な気配がした。何が待ち受けていてもおかしくないと判断したシノは莉奈を守るように立ち、ゆっくりと扉を引く。
すると、其処には妙な歪みが見えた。
「何かしら、あれ……」
「……渦。空間の裂け目か?」
二人は息を呑み、室内の中央に渦巻く妙なものを見つめた。その後ろの壁には美しいと表す他ない絵画が飾られている。
なるほど、と口にしたシノは此処がメモの示す場所なのだと確信した。
異様な裂け目の向こう側はぐるぐると渦巻く暗い世界が広がっているようだ。暗いというのに極彩色を宿すその空間は禍々しい。
だが、シノも莉奈もこの奥に『かみさま』が居るのだと理解していた。
「リナ、行けるか?」
「もちろんよ。進まなかったら何のために潜入したか分からないもの」
莉奈に問いかければ勇ましくも感じられる言葉が返ってくる。異空間に続く渦を見据えたシノは一歩を踏み出し、莉奈に告げた。
「それじゃ俺が先に行くからリナは――」
「ううん、一緒に行きましょう。多分、離れちゃいけない気がするから」
先んじて進もうとしたシノの手を引っ張り、莉奈は首を横に振る。これから向かう先は未知の領域だ。もしかすればはなれて入ったが最後、二人が別々の場所に飛ばされる可能性も考えられる。
そうか、と答えたシノは断りを入れてから莉奈の手を握った。
「何かあったら盾になるからな」
「お願いね、シノ。私だって何かあったらすぐに動くから」
互いが離れてしまわぬようにしっかりと手を握りあい、互いに視線を交わす。
そして――渦巻く異界への入口へ、二人は一気に飛び込んでゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と
『遥かな高みから飛び降りる』、じゃったな
なら屋上しかなかろう
夜の学校かぁ…何かでてきても大丈夫じゃ
体育準備室からぱちっ…借りてきたこの竹刀があるからの!
これで何がでてきてもぱしんとやってしまおう(ぶんぶんしつつ)
屋上に向かう階段はここか
……真っ暗じゃの
……せーちゃん先に進むがよい
別にびびっとるわけではない、わしは後ろを警戒しよう(きりっ)
手…? ま、まかせよ……
道中色々あった……せーちゃん、忘れんからな!あんな!びびらせおって!
手!許さんからな!!
くっ、気を取り直しこの先屋上じゃな
何がおるのか…
あ、紐なしばんじーが待っておるとか…ないとも…
まぁその時は、その時じゃ
筧・清史郎
らんらん(f05366)と
『遥かな高みから飛び降りる』
ふむ、思い当たるのは屋上だな
らんらんと向かおう
竹刀振り回すらんらんをにこにこ見守る
それは頼もしい(くすり
やはり夜の学校は暗いな
支障はないが懐中電灯だけでは心許無い
そして先に行けと言うらんらんの目が泳いでいる気が
俺は箱なので何ともないが…
らんらん、生徒が話していたが
屋上へ続く夜の階段を上っていると、後ろから手がスーッと…
ふふ、出てきてもぱしんとやってくれるのだろう?
…少々おどかしてみるのも面白いかもな(微笑み
万が一屋上でなければ片っ端から鍵の合う扉を探す
誰かに遭遇時は当直の見回りと言っておこう
さて、鍵を使ってみよう
この先には何があるのか、だな
●静寂と渦
真夜中に満ちるのは静けさと闇。
非常灯の明かりがぼんやりと照らす薄暗い廊下を進んでいく。
「さて、『遥かな高みから飛び降りる』、じゃったな」
片手に携えた竹刀を肩に軽く乗せ、嵐吾は傍らを歩く清史郎に声をかけた。廊下に響く足音は二つ分。たったひとつならば不気味さを感じてしまったかもしれないが、共に並び歩く彼が居るのならば随分と心強い。
清史郎は廊下の先にある階段を見据え、静かに頷いた。
「ふむ、思い当たるのは屋上だな」
「屋上しかなかろう」
鍵に添えられたメモから導き出されるのはひとつの場所。他の可能性を考えないこともなかったが、元よりこのメモはかみさまの元へ生徒や教師を誘うためのものだ。
あまり難しすぎても本末転倒であるゆえ、二人は素直に考えることにした。
そうして、彼らは夜の学園を往く。
「少々怪しい雰囲気じゃが大丈夫じゃ。体育準備室からぱちっ……借りてきたこの竹刀があるからの!」
竹刀をぶんぶんと振る嵐吾をにこにこと見守り、清史郎はくすりと笑んだ。
「それは頼もしい」
「これで何がでてきてもぱしんとやってしまおう」
そうじゃろう、とやや誇るように彼からの視線を受けた嵐吾は口許を緩める。
学園内は広く、鍵の付いた屋上への扉となると一箇所しかない。もう暫し進むことになるだろうとして清史郎は懐中電灯で足元を照らしていく。
先程まではぽつぽつと非常灯があったが、此処から先は今までよりかなり暗い。
「やはり夜の学校は暗いな。支障はないが、この明かりだけでは心許無いか」
「……真っ暗じゃの」
清史郎が階段を照らすと、少しばかり震えているかのような嵐吾の声が響いた。どうかしたのかと清史郎が振り返る。
「らんらん?」
「……せーちゃん先に進むがよい」
「ああ、そうしよう」
先に行けと言う嵐吾の目が泳いでいる気がしたが、清史郎は言われるがままに踏み出していく。その後ろを妙にぴったり付いてくる嵐吾は弁明していく。
「別にびびっとるわけではない、わしは後ろを警戒しよう」
きりっと告げた心算のようだが、彼が怖がっているらしいことは清史郎にも薄々分かってしまう。ゆっくりと階段を上る中、清史郎がふと口をひらいた。
「らんらん、生徒が話していたんだが……」
「む?」
「屋上へ続く夜の階段を上っていると、後ろから手がスーッと……」
「て、手……?」
急に始まった階段での怪談話にびくっと嵐吾の尻尾が反応する。しかし竹刀をぶんぶんと振って宣言した手前、怖気付いた様子を見せるわけはいかない。
「ふふ、出てきてもぱしんとやってくれるのだろう?」
清史郎が揶揄うように笑いかけ、嵐吾の肩を不意にぽんと叩く。
「うむ。任せ――って、あああああ!?」
頷きかけていた嵐吾はいきなりの接触に思わず声をあげてしまう。それが彼なりの脅かしなのだと気付いた嵐吾は咳払いをして誤魔化した。
そんなこんなで彼らは階段を登りきる。
途中、もう一度スーッと手が伸びてくる事件もあったのだが、それもまた清史郎のちょっとした悪戯だった。
道中は色々あった、と肩を落とした嵐吾の尻尾は不安げにしゅんとしている。
だが、今はもう扉の前。
「……せーちゃん、忘れんからな! あんな! びびらせおって! 手! 許さんからな!! ……くっ、気を取り直して、と」
嵐吾は姿勢を正し、くすくすと笑っていた清史郎も口許を引き結んで頷く。
「さて、鍵を使ってみよう。この先には何があるのか、だな」
「何がおるのか……飛び降りるというのが厄介そうじゃが」
嵐吾は清史郎の手元を覗き込み、鍵が差し込まれていく様を見守った。すると鍵穴は抵抗なく回り、かちっという硬質な音が響く。
開いたのだと察した嵐吾は身を引き、清史郎はゆっくりと扉を開いていった。
吹き抜ける風。
夜のしんとした空気を感じながら二人は屋上に踏み出す。
「何もないようだな」
辺りを見渡した清史郎が屋上内に何も怪しいものがないと判断する中、嵐吾は鉄柵の方へと向かっていた。
「いや、せーちゃん。あそこじゃ」
その下を覗き込むように身を乗り出した嵐吾は眼下を示す。
清史郎が倣って柵から下を見遣ると、其処には――。
「空間の裂け目……?」
「そのようじゃ。飛び降りる、とはあそこに向かうことなのじゃろうな」
見たものをそのまま言葉にした清史郎に頷きを返し、嵐吾も改めて柵の向こうにある存在を確かめていく。
ぐるぐると渦巻く異空間への扉。
次元の穴。異世界へ続く道などとも言い表せるだろうか。明らかに違う何処かに繋がっているらしきその向こう側からは妙な気配が漂ってきている。
かみさまは其処に居る。
二人は確信めいた思いを抱き、その穴に飛び込むことを覚悟した。
「やはり紐なしばんじーが待っておったか……準備はいいか、せーちゃん」
「勿論だ。行こうか、らんらん」
清史郎は笑みを浮かべ、嵐吾に向けて手を伸ばす。
きっと別々に飛び込めばはぐれてしまうだろう。未知の場所に向かうのだから、共に。そう告げているかのような視線を受け、嵐吾は彼の手を取った。
「せーの、で行くからの」
「ああ、それでは……」
柵を越え、眼下を見下ろした二人は一気に地を蹴る。
ふわりと感じたのは一瞬の浮遊感。そして、其処からの落下。
そして――歪んだ裂け目が彼らを飲み込むかのように渦巻いたかと思うと、蠢いていたそれが不意にぱたんと閉じるように消えた。
その後は無音。
まるで最初から何もなかったかのように、夜の学園に静寂が満ちた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻と人魚
アドリブ歓迎
色彩の彼方
ということは美術室だろうか
「ヨルの歌」を歌って沢山のヨル達と一緒に扉を探す
学校生活、楽しかったな
先生の櫻もとてもかっこよくてドキドキ…なんでまだその格好なの
…似合うけど
なっ、ちょ、もう!櫻宵のばか!
そんなこと言われると、余計に意識しちゃうじゃないか
荒ぶるヨルを宥めながら美術室のカンバス裏や用具置き場まで探し…石膏像に驚き変な声が出る
こ、怖くない!
でも傍には寄る
絵は
人を描いたり物を描いたり自在だ
絵の中ならどんな自分にもなれるんだ
櫻は櫻のままでいい
…戦狂いで斬首好きで殺すことが愛な性質はとんでもないと思うけど
櫻宵は櫻宵だから
ヨル、高い所気をつけて!
ん、何か言った?
誘名・櫻宵
🌸櫻と人魚
アドリブ歓迎
同じスーツで美術室へ
夜の学校って雰囲気あるわよね
リルがドキマギして可愛いんだもの
薄暗い美術室に2人
うふふ…青春ね
優しく撫でて顎をクイッと…
痛い!ヨル、わかったわよ
しっかり探すわ
色彩の彼方…そうねぇ
描いてある絵も関係あるかしら
理想を描いた絵だとか
飾ってある絵の後ろに扉が!なんてない?
変な声あげるから驚いたわ
怖いんでしょ
手を繋いであげてもいいわよ
理想ね
……あたしはもっと
あなたの横を歩くに相応しい立派な人間だったらと思うわ
こんな…悪龍でも戦狂いの性質じゃなくて
勘当もされてなくて…なれなかった私
褒められてる気がしないわ
…けどそんな理想の私がいたら
リルは…そっちに行っちゃうかしら
●理想の自分とかみさまの導き
夜の静寂。真夜中の学園。
昼間と同じスーツと学生服に身を包み、櫻宵とリルは学内を歩き、游ぐ。
非常灯の明かりに照らされた薄暗い廊下。街灯の光が僅かに差し込む教室。響く足音と、沈んだ冷たい空気。
「夜の学校って雰囲気あるわよね」
「学校生活、楽しかったな」
辺りを見渡した櫻宵が語りかけると、リルはこくりと首肯した。けれどもリルは妙にドキドキしている。何故ならまだ櫻宵がスーツ姿だからだ。
「なんでまだその格好なの。……似合うけど」
「あら、これを着れるのもきっと最後だもの。リルも、ね?」
学園生活も終わりだからと衣装を変えなかった二人は、美術室に向かっていく。その周囲にはヨルの歌で呼び出した相棒の子ペンギン、ヨル(総勢五十数匹)がわらわらといるので賑やかだ。あっちへぴょこぴょこ、こっちにぴょんぴょん跳ねるヨル達と見守りながら、二人は学園の廊下を進む。
『色彩の彼方ヘ』
鍵についていたメモにはそう書かれていた。
ならば色に関係のある美術室に違いないと判断したからだ。そうして二人は目的の教室に辿り着き、周囲を探る。
美術室の扉には鍵がかかっていなかったのですぐに入れた。
イーゼルに胸像、絵画。部屋には更に雰囲気のあるもので溢れている。
「薄暗い美術室。うふふ、青春ね」
「先生の櫻もかっこよくて……」
櫻宵は傍らのリルを優しく撫で、顎をくいっと引き寄せた。予想外の行動にびくっと思わず肩を震わせたリルだったが、抵抗はしない。
そんなことされると余計に意識してしまい、自然に期待だってしてしまう。
「なっ、ちょ、もう! 櫻宵のばか!」
「少しくらい良いじゃない。これで教師と生徒の関係も終わるんだもの」
近付く唇。
重なる視線。櫻宵のチョコレエトのような甘やかな声が紡がれていく途中。
どどどどどーん!
昼間と同じようにヨルが櫻宵に突撃した。しかも今夜は複製されたヨル軍団のお出ましだ。怒涛のぺちぺちあんよキックとヘッドバット改が櫻宵を襲う。
「……痛い! ヨル、痛い、痛いわ。わかったわよ、手を離すから、ね?」
「ヨル、ヨル、とまって」
荒ぶるペンギンズを宥めたリルは両手にヨルを抱き、少しだけほっとした。あのままだったら今の任務を忘れて櫻宵との時間を過ごしてしまいそうだったからだ。
そして、気を取り直した二人は探索を続ける。
美術室のカンバス裏、用具置き場。
描いてある絵も関係あるだろうか。理想を描いた絵だとか、飾ってある絵の後ろに扉が、だとか。櫻宵と手分けをして鍵を使うところはないかと探るリルはくるりと振り向く。そのとき石膏像が目に入ってしまい、驚いて変な声が出てしまった。
「ひゃっ」
「リル? どうしたの、怖かったかしら」
「こ、怖くない!」
その声を聞いた櫻宵が振り返ったところへぶんぶんと首を振るリルだが、その身体は言葉とは裏腹に彼にくっつきに向かっていた。
「手を繋いであげてもいいわよ、ほら」
「じゃあ……うん……」
強がりたい気持ちもあったが、リルは素直にその手を握る。そうして二人は暫しヨル達と共に美術室内を探った。
その中で不意にリルは一枚の絵に目を奪われる。
「これ、きれいだね」
「桜と学校の絵ね。何だかあの日に見た絵画に雰囲気が似ている気もするわ」
リルが示した絵画を見つめ、櫻宵はいつかに一緒に見た展覧会の絵の話をした。そうかも、と答えたリルはあの日を懐かしみながら色彩豊かな桜の絵を眺める。
絵は人を描いたり物を描いたり自在。
「きっと、絵の中ならどんな自分にもなれるんだ」
「描いた理想の自分ね。……あたしはもっと、あなたの横を歩くに相応しい立派な人間だったらと思うわ」
リルが落とした言葉を聞き、櫻宵はふとした思いを零す。
こんな悪龍でも戦狂いの性質でもなく、勘当もされていない。今の自分ではなれなかった、遠い理想の私。
その呟きに首を振り、リルは告げる。
「櫻は櫻のままでいいよ」
戦狂いで斬首好きで殺すことが愛は性質はとんでもないけれど、櫻宵は櫻宵だ。
そう話すリルに櫻宵は静か頷き、「褒められてる気がしないわ」と冗談めかしてそっと笑った。そして、思う。
此度の敵は理想の姿を見せてくれるのだという。だとしたら――。
「……けどそんな理想の私がいたら、リルは……そっちに行っちゃうかしら」
「――ヨル、高い所気をつけて!」
その言葉に重なるようにして、リルが棚の上に登っていたヨルに呼びかける。同時に櫻宵が何かを言っていた気がして、リルは首を傾げて問いかけた。
「ん、何か言った?」
「いいえ、何でもないわ」
櫻宵は思いを聞かれていなくて良かったのかもしれないと感じ、穏やかに笑む。
そんな中でヨルが何かを運んできた。それはちいさな小箱であり、絵画が掛けられていた奥の棚上に置かれていたものだ。鍵穴がついているそれは道具箱だろうか。
「ヨル、これが怪しいの?」
「鍵を合わせてみましょうか。けれど嫌な雰囲気がするから、傍にいるのよ」
リル、とその名を呼んだ櫻宵は鍵を取り出して箱に合わせてみる。言われるままに彼の傍に控えるリルはその鍵がかちりと回っていく様を見守った。
そして、次の瞬間。
開いた箱から妙な渦が生まれ、目の前の空間が突如して裂けた。
それだけではない。まるで二人を飲み込むようにして次元の穴とも呼べるそれがぐるぐると渦巻きはじめたではないか。
宛ら色彩の渦と表すのが相応しい。その中に吸い込まれると思った瞬間にはもう、彼らの身体は異空間に飲み込まれていた。
「わ……」
「リル、掴まって!」
目を見開いたリルは咄嗟にヨルを抱き締める。櫻宵もヨルごとリルを掴まえることでばらばらに飛ばされてしまうことを防いだ。
きっと、この向こうに『かみさま』がいるのだろう。そう感じながらも強く目を瞑り、二人は決して離れぬように互いの腕に力を込めた。
そして、視界が暗転する。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メドラ・メメポルド
ふしぎね
お昼と全然ちがうわ、ぶきみだわ、ぶきみだわ
でもたのしくてどきどきしてるの。探検みたい
……ええ、ちゃんとおしごとするわ。するのよ
メドはサナから鍵をもらったから、メモの場所をさがすわね
『音が響きはじめる場所』……音楽室か、放送室かしら?
音楽室なら、授業で何度も行ったから場所はわかるわ
まずそっちを探しましょう
違ってたら放送室、それでもだめならいろいろと
探検しましょう、そうしましょう
誰か他の子がいたのなら、あなたも選ばれたのねとお声かけ
ゆきましょう、と手をつなぐわ
かみさま、かみさま
きっとこの先にいるでしょう?
どんな風にすくってくれるのかしら
どんなひとになってくれるのかしら
……おいしいかしら?
●水底めいた世界へ
静かな教室。誰もいない廊下。
一歩進むだけで響く足音。しんとした、まるで自分だけしかいないような世界。
「ふしぎね」
メドラは薄暗い廊下を歩きながら、きょろきょろと辺りを見渡した。此処にはいつものクラスメイトも先生も、上級生達もいない。
「お昼と全然ちがうわ、ぶきみだわ、ぶきみだわ。でも、」
たのしくてどきどきしている。
探検みたい、と浮き立つような思いを抱いたメドラはぱたぱたと廊下を駆ける。普段は先生に廊下は走らないと注意されるけれど今夜は特別。
自分が妙にわくわくした気持ちを覚えていることに気付き、立ち止まったメドラは頭をふるふると緩く振った。
「……ええ、ちゃんとおしごとするわ。するのよ」
――メドラだから、とくべつ。
鍵をくれた少女が告げてくれた言葉を思い出し、メドラは気を引き締める。
学園生活や楽しかった時間。
全部がたったひととき。過ぎ去ってしまう一時的なものかもしれない。
けれどもメドラは其処でちいさな特別を手に入れた。大切な友人だと認めてくれたこと。その思いに応えたいと思う気持ち。それはきっと、偽りでも嘘でもないはず。
だいじょうぶ、と言葉にしたメドラは歩き出した。
サナから貰ったメモを確かめ、改めてその文字の意味を考える。
『音が響きはじめる場所』
其処に記されている言葉から考えるに、音楽室か放送室だろうか。そのどちらかに違いないと考えたメドラは、先ず何度も行ったことのある音楽室に向かった。
リコーダーを吹いて、少し間違えて友人達に笑われて、それでも楽しいと思えた時間。そんな思い出があの教室にはある。
そしてメドラは音楽室の扉の前に立った。
「鍵は……ええと、ないのかしら」
しかし教室に鍵穴はない。音楽準備室にも向かってみたが、鍵は合わない。
ならば次は放送室。
「つぎね。探検しましょう、そうしましょう」
予想が外れたことには特に何も思わず、メドラは踵を返す。
学校の音。そう表すのはきっとウェストミンスターの鐘と呼ばれる学校のチャイムに違いない。それが響きはじめる場所といえば其処しかない。
確か放送室はこっち。
少しばかり迷いながらもメドラは目的の場所に辿り着いた。
そうして鍵を取り出し、施錠されているであろう扉の鍵穴にそれを差し込もうとして、メドラは首をこてりと傾げる。
「あいてる……?」
本来なら閉まっているはずの扉がひらいているということは、鍵を掛け忘れたか。もしくは先に誰かが此処に訪れたという意味でもある。
おそらく別の猟兵が鍵を開けて中に入ったのだろう。誰かも選ばれたのね、と感じたメドラはゆっくりと扉を開き、其処にいるであろう先客に挨拶をしようとした。
だが、室内には誰もいない。
なあに、と更に首を傾げたメドラが見たものは中央でぐるぐると渦巻くもの。
次元の穴。裂け目。ワープホール。
そんな名前が相応しい妙な空間の割れ目があった。だが、不思議と怖くはない。何故なら揺らめく異空間の向こう側から、かみさまの気配がしたからだ。
――おいで。
無垢な子供めいた声で、そう呼ばれた気がした。
淡く仄かな緑の眸を細めたメドラは一歩、その異空間の穴へ歩み寄る。
かみさまはずっと一緒にいてくれる。かみさまは決して違えない約束をしてくれる。かみさまは理想の姿できみがすきだと云ってくれる。
学園内で流れる噂が頭の隅に過ぎった。
「かみさま、かみさま。きっとこの先にいるでしょう?」
メドラはその名を呼び、そっと極彩色が渦巻く世界に手を伸ばす。
どんな風にすくってくれるのかしら。
どんなひとになってくれるのかしら。
それから、
「……おいしいかしら?」
ぽつりと落とした言の葉と共にメドラは渦の向こうに落ちていく。
まるで深くて暗い水底に沈むかのように深く、深く。望むものを与えてくれるという、かみさまの御座す世界へと――。
大成功
🔵🔵🔵
新海・真琴
サラ、ごめん。
でも、君をこの事件には巻き込めない。
鍵とメモは確かに回収したよ。
念のため、はなきよらを手にしていこう。
何かあっても、文化祭の練習とか言い訳すればいいかな。
メモは……『新たな物が生み出される場所にて』
生み出す。
何かを作る、とすれば家庭科室か、給食室。
創造の意味でなら美術室か、技術室か。
錬金術的な意味を取るなら理科室。
総当たりはガラじゃないし、この辺りに絞って鍵が合致するか調べていこう。
それにしても、夜の学校か……いや、ちょっとね。
(窓の外の月を眺めて)
それにしても……鍵とメモを配る生徒や教師は多いようだ。
……相当大きな邪神教団、なんだろうね
●月は沈み、渦は歪む
真夜中の校舎内で、教室に佇む。
「……サラ、ごめん」
使い慣れた机に触れながら、真琴はクラスメイトへの謝罪の言葉を口にした。
この手にした鍵は彼女に渡されたものだ。サラ自身が気付く前に回収できたものだが、自分が選ばれた者だと彼女が知ったら喜んだだろう。
それほどにかみさまの噂はこの学園に浸透し、信じられている。
「でも、君をこの事件には巻き込めない」
真琴はそっと呟き、鍵を握った。
きっと最後になるであろう教室の風景を眺めるために真琴は此処に来た。
ごめん。
それから、ありがとう。
誰にも届かない言葉だと分かっていても真琴はそう告げずにはいられなかった。そうして、真琴は学内の探索に向かう。
念のため、はなきよらを手にして進む真琴が目指すのは家庭科室だ。
『新たな物が生み出される場所にて』
メモはにはそう記されていた。
生み出す。つまりは何かを作るということ家庭科室か、給食室。創造の意味でなら美術室か、技術室か。錬金術的な意味を取るなら理科室だと思えた。
だが、サラに渡された鍵ということは彼女にも関連しているはずだ。
「……何かあっても、文化祭の練習とか言い訳すればいいかな」
退魔の刃を備えた長柄の洋斧を握り直し、真琴は目的の場所へと歩を進める。
教室から続く廊下。教科棟への道。
何度も辿ったこの道筋も今となれば懐かしい。つい昼間も通った道であるというのに、別れが近付いているとなるとそのように感じられた。
「それにしても、夜の学校か……いや、ちょっとね」
窓の外の月を眺めた真琴は静かに呟く。
だが、先程まで出ていた月も厚い雲に覆われて見えなくなってしまった。暗く沈むような闇に包まれた夜の雰囲気は、まるでこの先に待つ不穏を示しているかのよう。
それにしても鍵とメモを配る生徒や教師は多い。それは学園がかみさまという存在に支配されかけているということなのだろう。
そうして真琴は家庭科室に辿り着く。
鍵穴を確かめ、鍵を回してみる。すると鍵は抵抗なく回り、かちりという音と共に扉がひらく感触があった。
この先には何があるかわからない。慎重に、ゆっくりと扉を引く。
其処で真琴が見たものは異様な光景だった。
「これは……空間の裂け目?」
部屋の中央で渦巻いている妙な穴はそう表すほかなかった。不自然に揺らめく渦の向こう側には現実ではありえない極彩色の暗い空間が見える。
そして、その向こうから邪神の気配が漂っていることも分かった。つまりあれはかみさまの元へ続く道だ。
「行くしかないか……」
此処まで来て尻込みは出来ず、友人の為を思えば引き下がるわけにもいかない。
真琴は覚悟を決め、空間の亀裂へと近付く。
そして――はなきよらを構えた真琴は一気にその穴に飛び込んでいった。
大成功
🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
クロバ(f10471)と
文字の波、って図書室だよね
たくさん本があるんだもの
あれ、クロバ?
クロバもここのおしごとしてたの?
メモを見せ合い
ちょっとちがうね?
カギのかたちはいっしょ?
文字の波が本だったら
本棚になにかある?
図書室の奥までまず行って
ちょっと本を抜いてみたり本棚の裏をみたり
見つからなければ書庫まで
わあ、こっちにも本がいっぱいだっ
カギってなににつかうのかな
鍵穴があるのかな
ひそひそおしゃべりしながら探して
ね、クロバ
がっこうってたのしいね
こうして夜の学校を探検するのもたのしい
だから、まもらないとね
もしクロバとおなじ学校だったら
きっとこうやって図書室でばったり会って
ともだちになってたねっ
声は弾んで
華折・黒羽
オズさん(f01136)と
文字の波の向こう側
認められ鍵が渡されるなら
あの子に関わりある場所が可能性は高い気がした
故の、この場所
図書室の中へ入れば
動く影に僅か警戒の視線向けるも
届く声に瞬きひとつ
え、オズさん…?
成程彼も忍び込んでいたのか
鍵と紙を見せ合い
やはり本に関連する場所だろうと至り
本棚調べ
棚の後ろを覗き込み
目ぼしいもの見つからなければ次は書庫へと
潜入中の学校生活
確かに新しく知る事ばかりで楽しかった
同輩の皆もあの子も、優しかった
…はい、守ります
必ず
隣歩く姿を見て不意に
─例えばもし、
当たり前のように学校に通っていたとして
俺がオズさんと友人になる事は出来たのだろうか
なんとなく
そんな事を考えながら
●君という友
――『文字の波の奥へ』
手にした鍵とメモを確かめながら、オズは夜の学園内を歩いていく。
「文字の波、って図書室だよね」
其処は自分もよく通った場所。たくさんの本があるのだから示されたのはきっと其処であるはずだ。薄暗い廊下を行く中、オズはふと誰かの気配を感じた。
先に図書室の扉を開け、入っていく人影。
最初は一般生徒かとも思ったが、その影は目的を持って動いているようにみえた。オズはそれが誰であるかを突き止めてみようと思い、後を追う。
そして、その影の主――黒羽もまた、背後から近付く気配を悟っていた。
互いに警戒を抱く中、最初に口をひらいたのはオズだった。
「あれ、クロバ?」
「え、オズさん……?」
届いた声が聞き覚えのあるものだったことで黒羽は瞬く。
彼もまた文字の波という言葉から此処がかみさまに繋がる場所だと推理して訪れた者だ。驚きを隠せぬのはオズも同じで、首を傾げて問う。
「クロバもここのおしごとしてたの?」
「はい、オズさんもだったんですね」
二人は互いのメモを見せ合う。
文言は微妙に違うが、文字の波と書かれている言葉は一緒であるようだ。
「ちょっとちがうね? カギのかたちはいっしょ?」
「殆ど同じのようです。とすれば、やはり同じ場所を示しているのでしょうか」
話し合いながら二人は図書館内を見渡す。
暗くてよく見えない部分もあるが、昼間とはまったく違う様相に映る。怪しい雰囲気が漂っているようにも見えたが、室内に自分達以外の誰かがいるようにも、何かがあるようにも思えない。
ひとまず手分けをすることを決め、オズと黒羽は本棚を探すことにした。
「文字の波が本だったら本棚になにかある?」
オズは図書室の奥まで歩き、其処にある書架から適当な本を引っ張り出す。ぱらぱらと頁をめくってみると少し埃の匂いがした。
そうして本棚の裏をみて、棚の隅々まで調べてみる。
「何もありませんね。特に鍵を使うようなものは……」
黒羽はそう言いながら書庫の方を見遣った。オズも似た感想を抱いていたらしく、其方へと歩を進めていく。
「ここもカギはかかってないね」
「そうなるとこの鍵は何処で使うのでしょうか」
書庫に踏み入りつつ、二人は更に暗い室内を注意深く見つめた。
「わあ、こっちにも本がいっぱいだっ」
オズは軽く駆け出し、普段は見ることのなかった本の数々に手を伸ばす。
一体、この鍵は何に使うのか。もしかすれば何処かに秘密の鍵穴があるのだろうか。ひそひそとそんな予想を立てて話しながら、オズは黒羽を呼ぶ。
「ね、クロバ。がっこうってたのしいね」
「そう、ですね。確かに新しく知る事ばかりで楽しかったです」
潜入中の学校生活を思い返したオズに頷き、黒羽も同輩の皆や鍵を持っていたあの子のことを考えた。
オズにとって学園の日々はとても充実していたし、こうして夜の学校を探検するのも楽しいことのひとつだ。
「だから、まもらないとね」
「……はい、守ります」
必ず、とオズの言葉に答えた黒羽はふと思う。
例えばもし、自分が当たり前のように学校に通っていたとして、オズと友人になる事は出来たのだろうか。そう考えているとオズがにこりと笑った。
「もしクロバとおなじ学校だったら、きっとこうやって図書室でばったり会ってともだちになってたねっ」
偶然にも同じことを思っていたらしい彼の声は弾んでいる。
「……きっと、今のように」
そうに違いないと肯定した黒羽もまた、静かに双眸を細めた。
だが、そのとき。
「見てみてクロバ。これ、カギがついてるっ」
オズは鍵付きのブックカバーがかかっている本を拾い上げる。片隅の床に落ちていたそれは明らかに怪しく、妙な雰囲気を纏っていた。
「貸してください。開けてみましょう」
黒羽は鍵を取り出してそのブックカバーへと差し込んでみる。すると、鍵は抵抗なくかちりと回って錠が外れた。
その瞬間に周囲の視界がぐにゃりと歪む。
「わっ、これって」
「オズさん、掴まってください」
なにがおこってるの、とオズが問う前に異変を察知した黒羽がその腕を引いた。
二人は今、突如として本から現れた空間の裂け目のような渦に身体を囚われていた。逃れようにも動けず、それは見る間に広がっていく。
だが、二人は確信していた。これが『かみさま』に続く道なのだと。
「だいじょうぶだよ、クロバ」
「……行きましょう」
先程、この学園の人々や生活を守ると決めたばかり。
後戻りする気など元からないし怖いとも感じていない。異空間へと共に向かう覚悟を抱き、二人は抵抗をやめる。
そうして渦巻く空間に飲み込まれるようにして彼らの姿は消えた。
ぱたん、と件の本が閉じる。静けさに満ちた書庫にはもう誰の姿もなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花咲・まい
お師様(f19394)と潜入
トリス先生……あっもうお師様でいいんでしたっけ。
お師様はこのなぞなぞみたいなの、何だと思いますです?
私はそうですねえ、犯人は現場に戻る!
ずばり、もう一度体育倉庫に行ってみてはどうでしょーか!
これは名推理の予感がしますですよ!
……むぐぐ(静かにしろと言われたので口を押えている)
体育倉庫に行ったら、転がるものを探しますです。
危険があればお師様はお守りしますですからね。安心してくださいです。
もし此処にないようであれば、紛れ込んでいる一般生徒の後を追うのも良いかもしれませんです。
いざ、いざ!参りますでよ!(小声)
*使用技能:野生の勘、視力、封印を解くなど
*アドリブなどお任せ
トリス・ネイサン
まい(f00465)と潜入
示唆する紙と鍵を手に、深夜の学園に潜入する。
手掛かりは既に手中にあるのだから、気を付けなくてはならないのは誰かに見つかることだ。
学園内の至る所に気配がある以上、どうやら扉はひとつではなさそうだしな。
さしあたっては猪のように進みかねない、まいの手網はしっかりと握っておくことにする。
時には蛇のように狡賢く、しかし辛抱強く待つことも重要だ。
体育倉庫に行きたいなら静かに、人の目につかないように行くこと。もちろん僕も同行するが、約束は守るように。
まいが行きたい方向があれば其方を優先しよう。
どうしても扉が見つからない様であれば、その時が師の出番だな。
※アドリブ歓迎
●錠前が封じる先
しんと静まり返る暗い廊下を駆ける足音。
妙に響き渡る音を耳にしながら、トリスは弟子の名を呼んだ。
「まい、廊下は走るな」
「トリス先生……あっもうお師様でいいんでしたっけ。はーい!」
深夜の学園には自分達以外には誰の姿も見えず、まいは不思議と楽しくなっていたらしい。戯れに駆け出してしまったことをトリスに注意され、ちいさく笑ったまいは素直に返事をする。
昼間は教師と生徒であったが、今は元の呼び方で良い。
まいは先生と呼ぶこともこれで終わりなのだと、やや残念に思いながらも師から預かっていたメモを取り出す。
「お師様はこのなぞなぞみたいなの、何だと思いますです?」
彼女が示したのは『転がる物の先へ』という謎の文字。
トリスは持ち運びやすいようキーリングに通した鍵を持ち、そうだな、と頷く。
その際に周囲の様子を探ることも忘れない。手掛かりは既に手中にあるのだから、気を付けなくてはならないのは誰かに見つかること。
トリスは薄暗い非常灯の明かりを見つめ、軽く首を捻る。
「転がる物、か。学園内の至る所に気配がある以上、どうやら扉はひとつではなさそうだしな。候補は幾つかある」
まいはどう思うのかと逆に問い返すと、彼女はびしりと指先を前方に向けた。
「私はそうですねえ、犯人は現場に戻る! ずばり、もう一度体育倉庫に行ってみてはどうでしょーか!」
「鍵を見つけた場所ということか」
「はい! これは名推理の予感がしますですよ!」
元気よく答えたまいだったが、トリスは頭を振る。推理に反対しているのではなく声が大きいと注意をするためだ。
「体育倉庫に行きたいなら静かに、人の目につかないように行くこと。もちろん僕も同行するが、約束は守るように」
「……むぐぐ」
静かにしろと言われたことで口を押さえたまいはこくこくと首肯する。
それでいいと視線で告げたトリスは歩を進めた。
猪のように進みかねない、まいの手網はしっかりと握っておくのがいい。時には蛇のように狡賢く、しかし辛抱強く待つことも重要だと教えるべくトリスは昼間にも行った体育倉庫へと向かっていく。
「わ、暗いです!」
「だから静かに」
体育倉庫前、思わず声を上げたまい。トリスは口許に人差し指をあててもう一度注意した。はっとしたまいは小声になり、ぐっと両手を握る。
「危険があればお師様はお守りしますですからね。安心してくださいです」
「それは助かるが自分の心配もするといい」
頼もしい弟子の言葉に答え、トリスは体育倉庫の扉を開けるべく鍵を差し込んだ。
だが――。
「開きませんですか?」
「合わないみたいだな。となると、ここは外れか」
「むむ、名探偵になれると思っていたのですが……」
転がる物とはボールであると思ったのだが、読みが外れていたらしい。そもそも体育倉庫で見つけた鍵が体育倉庫を開ける鍵だというのも少し妙だ。
しかし、まるで見当外れではないことをトリスは告げる。
「さて、次に行くか」
「お師様、どこに向かえば良いのかわかったのですか?」
「ああ、こっちだ」
肩を落とすまいを呼び、トリスは外を指差す。転がる物、つまりはボールの先。となると校庭のサッカーゴールの奥にある器具倉庫が思い浮かんだ。あそこには確か錠前が付いていたはずであり、鍵を使える場所だ。
トリスが先導する後にちょこちょこ付いていくまいは、流石はお師様だと感心する。
そして、二人は渡り廊下を抜けて校庭に出た。
予想通り、外の器具倉庫には少し錆びた錠前が掛けられている。
近付く度に妙な気配も色濃くなっており、何かが待ち受けていることも分かった。
「お師様、お願いしますです」
小声のまま、まいは鍵を持つトリスを見上げる。
ああ、と頷きを返した彼は錠前に鍵を差し込み、ゆっくりと回していった。何だか少しどきどきしてしまう瞬間だ。まいが見守る中、かちりという硬質な音が響き、鍵が回る。
開いた、と静かに告げたトリスは錠を外して扉に手をかけた。
「気を付けろ。何が出るかわからない」
慎重に扉を開いていくトリス。
徐々に暗い内部が明らかになる中、土埃の匂いが鼻先をくすぐる。そして、完全に扉が開かれた其処には――。
「これは……何なのでしょう?」
「空間が捻れているのか、裂けているのか。何にせよ異空間への扉だな」
きょとんとしたまいが示したものは器具庫内で渦巻く穴。
空間の龜裂。それはそう表すのが相応しいだろうか。不自然に揺らめく渦の向こう側には極彩色の暗い空間が見える。
そして、その向こうから邪神の気配が漂っていた。つまりこれは件のかみさまの元へ続く道であることは間違いない。
「どうする?」
弟子を試すようにトリスはまいに問いかける。
彼女から返ってきたのは予想した通りの勇ましい言葉だった。
「行くしかありません! いざ、いざ! 参りますですよ!」
「それでこそだ。はぐれるなよ」
掴まれ、と告げたトリスは手を伸ばしながら一歩を踏み出す。かみさまと対面するために訪れたのだから、此処で引き返すような選択はしない。
はい、と頷いたまいは師の手を取り、空間の裂け目を見つめた。
そして――二人は同時に地を蹴り、渦の中に飛び込む。視界が暗転し、周囲の景色がぐにゃりと歪む。それでも怯みなどしない。
この先に巡るであろう戦いへの意志を強く持ち、彼らは其々の覚悟を抱いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
岡森・椛
【秋鴉】
女生徒の情報を鵜飼先生に伝える
鍵を没収されて落ち込むどころか鵜飼先生と沢山話せて嬉しそうな生徒の後ろ姿を見送り校内へ
少し怖いけど精霊アウラも鴉さんも居るからワクワクに変わる
メモを見ながら鵜飼先生と探索
校内見取り図も鴉さん達に見せて意見を聞いてみる
ふむふむ、この数字に秘密が…?
この記号も重要?
アウラは屋上も気になるみたい
先生にはーいと返事してあちこち行ってみます
えっピアノの音!?
慌ててアウラを抱きしめ心を落ち着かせる
アウラもブルブルしてる
中を覗いて音の正体にほっと安心
あれこの部屋、最初から鍵が空いてた…?
もしかして鴉さんは奥の音楽準備室を疑ってるのかも
ピアノの向こう側の扉
神様、いますか?
鵜飼・章
【秋鴉】
岡森さんに鍵を持っていそうな生徒の情報を聞き裏口で待ち伏せ
毎日質問に来ていた子なら【言いくるめ】易そうだ
どうしてこんな夜に学校にいるのかな
『鍵とメモ』持ってるね
それは没収
神様なんて非科学的なものいないよ
だからきみが心配で止めに来た
これ以上関わらない方がいい
気をつけてお帰り
鍵とメモを入手できたら
答えを考えながら校内を探索する
【動物と話す】で鴉達やアウラさんにも相談
皆廊下は走っちゃ駄目だよ
『鵜飼先生』らしく笑って
あれ、音楽室からピアノの音が…
七不思議の一つかな
…鴉が遊んでるだけだった
そういえば数字や記号って音楽っぽいね
音楽か…
昔から苦手なんだよな
うん、きっとここだ
神様は僕を選ばなかったもの
●学内探検と鍵の先
真夜中近く、裏門の片隅。
門の影に身を潜めた椛は今、密やかに響く女生徒と教師の声を聞いていた。
「――どうしてこんな夜に学校にいるのかな」
「……それは、」
「言わなくても分かるよ。鍵とメモ、持ってるね」
「はい……」
「それは没収。神様なんて非科学的なものいないよ」
「そんな! あの噂は本当です!」
声の主は一般生徒と章だ。椛の聞き込みと情報収集によって鍵を持っていそうな生徒を割り出した章は裏門で待ち伏せ、訪れた彼女を止めていた。
だが、彼女は鍵を渡そうとしない。
無理もないだろう。女生徒は自分がかみさまに選ばれたと思って此処に来たのだから素直に従うはずがない。
しかし章はわざと憂いを帯びたように、静かに溜息をついてみせた。
「きみが心配で止めに来たんだ。こんな夜に呼び出す相手がまともだとは思えない。これ以上関わらない方がいい」
「……鵜飼先生」
きみが、と強調することで女生徒がはっとする。そうですよね、と口にした彼女はやっと頷いた。どうやら上手く言いくるめられたようだ。掌を差し出した章へ鍵を渡すついでに女生徒はその手をぎゅっと握る。
その手を握り返すことはしなかった章だが、かわりにやさしい言葉をかけた。
「気をつけてお帰り」
そうして女生徒の帰路を見送った章の傍に、隠れていた椛が姿を現す。
「成功でしょうか……?」
「ああ、メモも一緒に貰えたよ」
鍵を没収されて落ち込むどころか、女生徒は彼とたくさん話すことができて嬉しそうだった。そんな彼女の後ろ姿を見つめた後、椛は章と共に校内へ向かった。
回収したメモには『白と黒が重なる音の向こうへ』と書いてある。
夜の色が沈む学内は少しだけ怖い気もしたが、椛が連れる精霊アウラや、章の鴉達もついていると思うと気持ちはワクワクに変わっていく。
それに何より隣には章もいる。
椛は校内見取り図を鴉達に見せ、彼らに意見を聞いてみた。
「ふむふむ、音となると場所が絞られてくるね。白と黒って何なんだろう……」
アウラは屋上も気になっているようだが、メモの場所とは違うように思える。だが、夜はまだ始まったばかり。急ぎすぎる必要はない。
「皆廊下は走っちゃ駄目だよ」
章は昼間の顔である、鵜飼先生らしく笑って注意を促す。きっとこれで教師として過ごす時間も終わりだ。そう思うと不思議な感覚が巡った。
はーい、と返事をした椛は素直に答え、慎重に学内を回っていく。
通い慣れた教室や理科準備室。真っ直ぐに続く廊下。非常灯の明かりだけが頼りではあるが、夜の学内探検は順調だ。
これまでの日々を懐かしみ、学園での最後の記憶として刻み込むように二人は様々なところを巡った。
そして、音楽室の近くを通ったとき――小さな音が耳に届く。
「あれ、音楽室からピアノの音が……」
「えっピアノの音!?」
章の言葉で、今聞こえた音が幻聴ではないのだと察した椛は慌ててアウラを抱きしめた。だが、肝心のアウラも震えている。
「七不思議の一つかな。見てみよう」
章は臆さず音楽室の扉をひらいて中を覗いてみた。
椛もこわごわとその後に続くと、章はなんてことはないというように室内を示す。
「……鴉が遊んでるだけだったよ」
「良かった……。あれ、でもこの部屋、最初から鍵が空いてた……?」
ほっとした椛はふとそんなことに気付いて首を傾げた。
そういえば、と章もメモの内容を思い返す。白と黒の音。それはおそらく音楽室内にあるピアノの鍵盤と音のことなのだろう。
「音楽か……昔から苦手なんだよな」
「鵜飼先生にも苦手なものがあったんですね」
彼の呟きにちいさく笑む椛。そして、歩き始めた章の後に椛がついていく。
其処はピアノの奥にある準備室だ。
「うん、きっとここだ」
神様は僕を選ばなかったもの、と口にした章は鍵を取り出した。椛が見守る中、慎重に鍵穴を確かめた章はゆっくりと鍵を回す。
かち、と音がして鍵がひらいた。顔を見合わせた二人は頷きあう。
「――神様、いますか?」
椛はそっと問いかけつつ静かに扉を開いた。
章も椛を庇いながら準備室の奥を覗き込む。そして、其処に見えたのは――。
「……ああ、成程」
「えっ? ええっ?」
対照的な反応を示す二人の視界に入ったのは、歪んだ空間の穴だった。
次元の裂け目だとか異空間への扉とでも表すのが相応しいだろうか。ワープホールめいたそれは、室内の中央でぐるぐると渦巻いていた。
最初こそ戸惑った椛だが、章が冷静であることで落ち着きを取り戻す。
「この向こうに、神様が?」
「そのようだね。何だか誘われているみたいだ」
おずおずと椛が空間の穴を指差すと章が一歩そちらに近付く。危ないと言いかけた椛だったが、この先が目的の場所であるのだと思うと言い出せない。
振り返った章は手を差し伸べ、椛を呼ぶ。
「行こうか、岡森さん。はぐれないように手を繋いでおこう」
「は、はい。ここで戻るわけにはいかないですからね。失礼します……」
きっと別々に異空間に踏み入れば違う場所に飛ばされてしまう。章も椛もそう直感していた。離れないよう互いに手を取り合った二人は渦の向こうを見つめる。
この先に待っているのは得体のしれない何かだ。
それでも学園を守ると決めた以上は怖気付いたりしない。自分を選ばなかった神など、この手で屠ってみせよう。
――いざ、かみさまの御座す世界へ。
そうして、其々の思いを抱いた二人は一気に渦に踏み出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
佳月・清宵
【花守】
へぇ、良い空気だ――これぐらいが身に馴染んで丁度良い
さて、やれば出来ると真に示すのは此処からだぜ
分かってんだろうな不良児、童心に返るのも大概にしろよ
……(大袈裟に溜息はいてみせ)一人で人体模型にでも別れの挨拶に行ってこいよ
(生徒と遭遇して面倒にならねぇよう、注意は払いつつも悠々と廊下を進み)
『無数の画面の裏側で』
まぁ、見解が一致しねぇ方が可笑しいか
外れたら外れたで、TVやPCのある部屋を当たるだけだな
しかし悪趣味な“かみさま”だな
救う、導く
約束、一緒にいる
――甘ったるすぎて胸焼けしそうだ
若人らにゃ悪いが、俺はそんな言葉を連ねられると寒気がして――ああ、燃やし尽くしてやりたくなるってな
花川・小町
【花守】
昼間の賑わいも楽しかったけれど、やっぱり私達にはこの空気よねぇ
期待してるわよ、忍と妖の先生方
あらお望みなら肝を試してあげるけど
『きゃあこわぁい』
――なぁんて私が甘ったれた声を上げる方が不気味でしょ?
ちょっと、その顔はなぁに
あぁ、校庭の銅像とも偶に並んでご飯を食べてたわよね
何だか寂しげに見えたわよ?
さ、学生気分もそこそこに
行先は――其処よね
それにしても私達みたいな不信心者まで見初めちゃうなんて、ねぇ
良いご趣味なかみさまだこと
(扉前で鍵揺らして笑い)
ふふ、秘密なんて心踊る――無闇に暴く趣味はないけれど、こういうモノは別
さぁて、どんなかみさまが御座すのかしらね
丁重に焚き上げてやりましょう
呉羽・伊織
【花守】
よし、本業の時間だな
忍び込んでの暗殺、しかも神殺しと来た
言われなくとも分かってるっての
でももーちょっとぐらいガッコを名残惜しんでもイイだろ
あ~、カワイイ後輩と平和に肝試ししてみたかった~
…とか冗談だって
今凄い寒気が!(姐サンから目を背け)
模型や銅像に名残はねーよ!
姐サン主語がないケド、ソレ絶対昼飯食ってるオレがアレだったって意味デスヨネー(遠い目)
で、本題も勿論忘れちゃいねーよ、ホント!
無数と来たら――PC室が最有力だよな
折角見初めて貰ってなんだケド、どれもこれも正に鳥肌立つ甘言ばっかで参るわ
学生諸君にゃもっと良いモン見付けて貰わねーと、ってコトで
ヨコシマが付くかみさまは消し去ろーか
●呼び声
真夜中。学園内に満ちているのは静寂と深閑。
清宵は自分達以外には誰もいない薄暗い廊下の先を見遣り、静謐さを慥かめる。
「へぇ、良い空気だ――これぐらいが身に馴染んで丁度良い」
「昼間の賑わいも楽しかったけれど、やっぱり私達にはこの空気よねぇ。期待してるわよ、忍と妖の先生方」
その声に小町も同意を示し、清宵と伊織に呼びかけた。
「よし、本業の時間だな。忍び込んでの暗殺、しかも神殺しと来た」
伊織は静まり返った学内を見渡して周囲を探る。そこかしこから昼間とは違う妙な気配がするが、その大元が何処であるかは杳として知れない。
清宵は伊織の方に振り返り、軽く息をつく。
「さて、やれば出来ると真に示すのは此処からだぜ。分かってんだろうな不良児、童心に返るのも大概にしろよ」
「言われなくとも分かってるっての。でも、もーちょっとぐらいガッコを名残惜しんでもイイだろ」
「一人で人体模型にでも別れの挨拶に行ってこいよ」
「校庭の銅像とも偶に並んでご飯を食べてたわよね。何だか寂しげに見えたわよ?」
次は大袈裟に溜息をついた清宵の傍ら、小町も冗談めかして言う。
「模型や銅像に名残はねーよ! 姐サン主語がないケド、ソレ絶対昼飯食ってるオレがアレだったって意味デスヨネー」
遠い目をした伊織に対し、小町はくすりと笑みを向けた。絶対にからかわれてる、と感じた伊織はぽつりとぼやく。
「あ~、カワイイ後輩と平和に肝試ししてみたかった~」
「あらお望みなら肝を試してあげるけど――『きゃあこわぁい』なぁんて、私が甘ったれた声を上げる方が不気味でしょ?」
「今凄い寒気が!」
「……」
思わず小町から目を背ける伊織。黙り込む清宵。二人の反応に対して急に真顔になった小町は伊織達と視線を合わせるように回り込み、問いかける。
「ちょっと、その顔はなぁに」
「いや……」
「別に……」
しかし二人は何も答えられないでいた。
そうして、そんなこんなで三人は本格的な学内探索に入ってゆく。
『無数の画面の裏側で』
自分達が手に入れた鍵についていたメモにはそう記されていた。
これはかみさまが生徒や教師を自分の元に導く為に用意させたもの。それゆえに小難しい謎解きも推理も不要だと思えた。
「で、本題も勿論忘れちゃいねーよ、ホント! 無数と来たら――」
パソコンルームだ。
頭上を指差した伊織の言葉に同意した小町と清宵は上階に目を向けた。
「さ、学生気分もそこそこに。行先は――其処よね」
「まぁ、見解が一致しねぇ方が可笑しいか」
確かパソコン室は四階の隅に位置していたはず。外れたら外れたで、テレビのある視聴覚室や別の部屋を当たるだけだ。
薄暗い廊下を進み、三人は階段を目指す。
その間も生徒と遭遇して面倒な事にならぬよう注意を払う。されど清宵は悠々と廊下を歩き、これが最後に見ることになるであろう学内の景色を眺めた。
その途中、保健室の横を通る。
小町は通い慣れた学内の道筋を少し懐かしく感じつつ、ふと口をひらいた。
「それにしても私達みたいな不信心者まで見初めちゃうなんて、ねぇ。良いご趣味なかみさまだこと」
「輝きがある者として認めて貰ったことも、良いのか悪いのかわかんねーな」
皮肉交じりに小町が言うと、伊織も片目を閉じてそんな感想を零す。
そんな中で清宵も肩を竦めた。
「間違いなく、悪趣味な“かみさま”だな」
救う、導く。
約束、一緒にいる。
学内に流れる噂ではかみさまはそういった存在らしい。
「――甘ったるすぎて胸焼けしそうだ」
「折角見初めて貰ってなんだケド、どれもこれも正に鳥肌立つ甘言ばっかで参るわ」
清宵と珍しく意見が一致したと感じ、伊織も溜息をついた。
そして、彼らは階段を登る。
一段、また一段と歩を進める度にこの学園に巣食うものに近付いている気がした。静けさの中、三人分の足音だけが妙に反響していく。
やがて何事もなく目的の教室についた。
パソコンルームには無数の貴重品、つまりモニタや端末が置いてある。それゆえに扉は確りと施錠されていた。
小町は扉の前で鍵を揺らし、そっと笑む。
「ふふ、秘密なんて心踊る――無闇に暴く趣味はないけれど、こういうモノは別ね」
「どうだろ、開けられそー?」
鍵穴に鍵を差し込んだ小町の手元を覗き込む伊織。黙って見ていろと清宵が声を潜めていうと、小町の持つ鍵がかちりという硬質な音を立てた。
「さぁて、どんなかみさまが御座すのかしらね」
扉に手をかけた小町は二人に目配せをして、ゆっくりと扉を引く。そして、何が待っているのかと身構えた三人の瞳に映ったのはありえない光景だった。
それは渦。
ぐるぐると廻る闇と彩の塊。
「……何だよ、これ。見るからに異空間なんですケド」
「まさかの展開ね」
「あの奥がかみさまとやらの居城だってのか?」
伊織と小町は息を呑み、清宵は部屋の中央で渦巻くそれを見据える。
其処には次元の裂け目のような穴が空いていた。おそらく鍵を開けた瞬間に何かが作用して生まれたのだろう。先程まではまったく感じられなかった禍々しい空気が部屋中に満ち始めている。
異空間への扉。もしくは時空の亀裂。
そう呼ぶに相応しい裂け目の奥には混ざりあった極彩色が滲んでいた。
視線を交わしあった彼らは確信する。
此処を潜り抜けた先で、かみさまとの対面が叶うのだろう。一体今まで何人の生徒や教師がかみさまの元へ向かったのか。
清宵はそんなことを考えながら、それも今日で終わりだと宣言する。
「若人らにゃ悪いが、俺は甘すぎる言葉を連ねられると寒気がして――ああ、燃やし尽くしてやりたくなるってな」
「学生諸君にゃもっと良いモン見付けて貰わねーと、ってコトで。ヨコシマが付くかみさまは消し去ろーか」
「ええ、丁重に焚き上げてやりましょう」
清宵に続き、伊織と小町も異空間への入り口を強く見据えた。
後戻りはできない。するはずがない。
伊織と清宵が一歩を踏み出そうとすると、その間に小町が割り込んだ。そうして彼らの片手ずつを差し出す。
「待って二人共。はい、掴まって」
小町曰く、嫌な予感がするのだという。
この先に飛び込む際に少しでも離れれば分断されてしまう気がする。それゆえに手を繋いで行こうという旨らしい。確かに危険に自ら向かうのだからそういった保険も掛けておくべきだ。断る理由はないとして清宵と伊織は其々に小町の手を握った。
「行くしかねぇか」
「だなー、善は急げとも言うしさくっと踏み込むか」
「それじゃあ覚悟はいいかしら?」
小町の言葉に二人が頷き、そして――三人はひといきに異空間へと飛び込んだ。
🔑
暗転する視界。
まるで深い海の底にでも落ちていくかのような感覚。
――おいで。
無垢な子供のような声で、或いは聞き覚えのある声で、誰かに呼ばれた気がした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『かみさま』
|
POW : ここにいようよ
全身を【対象にとって最も傷つけたくないものの姿】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : やくそくしよう
【指切りげんまん。絡める小指】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
WIZ : きみがだいすきだ
【対象が望む『理想のかみさま』の姿と思想を】【己に投影する。対象が神に望むあらゆる感情】【を受信し、敵愾心を失わせる数多の言葉】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
イラスト:透人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠メドラ・メメポルド」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●かみさまとわるつ
扉や鍵をひらき、渦に飛び込み、或いは巻き込まれて――。
きみは今、異空間に立っている。
かみさまへの場所に向かった者は何人もいる。だが、入り口が違えば出口の空間も違う。つまり猟兵はそれぞれ別々の異空間に飛ばされたようだ。
きみがたったひとりで此処に居るのか、それとも同行者とはぐれずに済んだのかは事前の状況次第。
しかし、どの空間にも共通していることがある。
其処はまるで海の底のような不思議で静かな昏い世界だ。
そして、その空間の中央。きみの目の前にはひとつの影がある。
それはかみさま。きみの望む偶像だ。
そして、それは『此処に居るはずのないもの』の姿をしている。
或る者には最も傷つけたくない対象の姿に。或る者には理想とする誰かや、理想の自分の姿に。もしくはただの黒い人影にも映るかもしれない。
たとえ同じ空間に立っていても、その姿は見る者によって違う。かみさまは一人につき一体現れているようだ。もしきみの傍に並び立つ者がいれば、その人が理想とする何かの姿を垣間見てしまうかもしれない。
そして、かみさまは此方を攻撃してくるようなことはない。
――ここにいようよ。
――やくそくしよう。
――きみがだいすきだ。
もう戦わなくていい。もう何も心配しなくてもいい。救ってあげる。その影はきみが見ている姿に相応しい声と言葉でそう告げ、そっと手を伸ばしてきた。
だが、きみはそれが紛い物だと知っている。
個別の異空間を作り出したかみさまは自らを分裂体とし、それぞれに姿を変えて猟兵を取り込み、力を奪おうとしているようだ。相手の誘いに抗い、目の前の存在を屠れば学園を守ることができるとも分かっている。
されど偽りの理想や仮初の救いを前にして何を思い、どう戦うのか。
さあ――きみはどうする?
セルマ・エンフィールド
※偶像の姿
老若男女や関わりの深さを問わず、これまで見てきた他の猟兵の姿がどんどんと移り変わり、「もう戦わなくていい」「自分たちが戦う」「君が戦わなくても救ってあげる」と告げてくる
……話になりませんね。
あなたが偽物であるから……そういう問題ですらありません。
誰かに守ってもらい、生かされる。それが私には耐えられない。
ゆえに……私の返答はこれだけです。
【氷の狙撃手】で撃ち抜きます。
※補足
猟兵となるより前、吸血鬼に服従することで生かされていた思い出したくない過去から「生かされる」ことを嫌っており、困難や強敵であっても立ち向かうことで道を切り開き「生きる」ことを信念としています。
●生きること
深い、深い海底めいた場所。
音も届かぬような世界を思わせる空間で不穏な影が揺らいだ。
セルマが見つめているその影は、此処に居てはいけないはずの者だった。
何故なら、その姿は移ろい続けているからだ。
髪の長い少女。凛とした佇まいの少年。勇猛な男性に、歳を召した女性。
老若男女、その関わりの深さを問わず、これまで見てきた猟兵の姿がひとつの影の中で揺らめき、移り変わっていく。
『もう戦わなくていいんですよ』
『代わりに俺達が戦ってやるからさ』
『君が戦場に身を置かなくても良い。救ってあげるよ』
違う声色で、違う眼差しで、そして其々の言葉でそれは安寧の道を告げてくる。
セルマはそれを暫し見つめ続け、耳を傾けていた。
『おいで、約束をしよう』
『安らぎに満ちた世界にご案内致しますわ』
『さあ、この手を取れ』
少女の、少年の、男の、女の――声、聲、こえ。
セルマは一歩踏み出す。まるで誘いに乗ったかのようだが、そんなことはない。
「……話になりませんね」
セルマは手を伸ばし返さなかった。代わりに差し向けたのは銃剣アルマスの切っ先と、冷たくも感じられる言葉。
すると邪神が映している影が動きを止めた。
『――どうして?』
無垢な子供の声で問いかけられる中、セルマは敵でしかない影を見据えた。
「あなたが偽物であるから……そういう問題ですらありません」
セルマは語る。
誰かに守ってもらい、生かされる。それが自分には耐えられないのだと。
そう告げた瞬間、刹那の間だけセルマの脳裏に過去の情景が蘇った。
服従させられていたあの日々。自らの意志など尊重されずにただ生かされているだけの存在だった自分。
思い出したくはない記憶は頭を振ることで掻き消し、セルマは身構えた。
自分はこれまで、どんな困難や強敵であっても立ち向かうことで道を切り開いてきた心算だった。生きていいと誰かに許され、生殺与奪を他に託す世界など御免だ。
己の意志と力で、生きる。それが今のセルマが抱く信念。
それゆえに返答はひとつだけ。
「あなたに返せるのは、これだけです」
氷の狙撃手――アイシクル・スナイパー。
神など信じてはいない。殊更、名ばかりの神などを受け入れられるはずがなかった。そして鋭く撃ち放たれた銃弾はかみさまに迫り、その胸元を一瞬で貫く。
分体のひとつとして顕現していた神は力を失って消えた。
刹那、異空間が崩れはじめる。
「……任務は果たしました」
少なくとも己の役目は終わったのだとして、セルマは銃を下ろした。そして、彼女は現実世界――即ち、自分が居るべき場所に繋がる光へと歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵
比良野・靖行
……どうして兄さん(※宿敵イラスト:id=61561)がそこにいるのかね。
いいや、紛い物だがね。
……知っているとも。ああ、影朧としていろんなところで暴れていることもな。
ああ、僕の一番尊敬するとてもすごい文豪のあなたが、どうして……
いや、本人に聞けばいいことだな。うむ。
向かい合う勇気が出たら行こう。
そういうわけだ、君はお呼びでない。
UC「教えて影朧君のコーナー」でご退場願おうか!
質問は、そうだな。
「𠮷行兄さんはどうして僕を嫌うのか?」
知っているとも。僕には文才があった。
兄さんにもあったが、兄さんはそれでは足りなかった。
……「嫉妬」だ。
それで身を滅ぼした。
かみさまたる君には解らないだろうがね……
●兄と弟
――どうして。
此処に居るはずのない人の姿を目にした靖行から、消え入りそうな聲が零れ落ちた。
「……兄さん」
靖行は目の前に立つ彼を呼ぶ。
比良野・𠮷行。
書生服に黒の外套。靖行と同じ黒髪。それは自分の兄だ。
あの学園から繋がる、かみさまの空間になど居るはずのない男。靖行は頭を振り、それが本物の兄などではないと断じる。
「いいや、紛い物だがね。……知っているとも」
『靖行……』
瞳に兄の姿をしたモノを映す靖行。その名を、懐かしい声で呼ばれた。しかし呼びかけに答えることなく靖行は次の言葉を紡ぐ。
「ああ、影朧としていろんなところで暴れていることもな」
全部知っている。
故郷である桜舞う世界で彼が怨念の塊となっていることも靖行には分かっている。
「ああ、僕の一番尊敬するとてもすごい文豪のあなたが、どうして……」
思わず問いかけそうになった。
だが、これは真を問うべき相手ではない。ただかみさまという存在が己の望む偶像を映して投影しているだけ。
何故、どうして。それは本人に聞けばいいことだ。
それでも靖行は眼前に立つそれに近付けなかった。人というものはときに哀しく、姿かたちに意味を見出す。
きっとかみさまに魅入られた者達もこの力や言葉に絆されたのだろう。
『此処に来い、靖行』
「……断らせてもらうよ」
兄の姿をしたモノは片手を上げ、靖行を手招くように呼ぶ。されど靖行はその手から視線を外して首を振った。
『約束をしようか。違えぬ約束だ』
「こんな場所で何を約束するっていうのかい」
『お前を愛している、靖行』
「……甘言も過ぎれば毒とはこのことだ。兄さんは――少なくとも今のあの人はそんなことは言わないだろう」
偽の存在から違和に満ちた言葉が紡がれた時、靖行は向き合う勇気を得た。何もかも分かっているからこそ、理解できる。
あれは屠るべき偽物だ。
「そういうわけだ、君はお呼びでない。ご退場願おうか!」
――𠮷行兄さんはどうして僕を嫌うのか?
そんな質問と共に靖行作者近影の自画像を呼び出した。其処から放たれる後光が海の底のような空間を明るく照らす中、靖行は敵を見据える。
問わずとも知っている。
自分には文才があった。兄にもあったが、彼はそれでは足りなかった。
偽物の兄は答えられない。何故なら、その存在は本物ではないからだ。
「……『嫉妬』だ。兄さんはそれで身を滅ぼした」
自ら答えを導き出した靖行は、光の一閃をひといきに解き放つ。
その瞬間。光に貫かれた𠮷行の影は綻ぶように崩れ落ちた。抗う意志は邪神を穿ち、分体であるその身は一気に霧散していった。
空間が揺らぎ、元の世界に戻されていくような感覚をおぼえながら靖行は俯く。
「かみさまたる君には解らないだろうがね……」
落とされた言の葉と、裡に隠した思い。
それは誰にも聞かれることなく暗い世界に沈んでいった。
大成功
🔵🔵🔵
天御鏡・百々
さて、ようやく潜入できたな
『かみさま』とやらとご対面となるが
果たして如何なる者なのか……
【かみさまの姿】
百々は御神体の鏡であり、神の眷属です
その百々が仕える神の姿にかみさまは変化しています
【戦闘】
この世界に、あの御方が居られるはずは無い
我が神の姿にて惑わそうなどと
なんたる不敬にして卑劣なり!
我が力にてその正体を暴き、討伐してくれようぞ!
敵の姿を我が本体たる神鏡に映し
「真実を映す神鏡」にて敵のユーベルコードを封じ
真の姿を露わにするぞ
そして、破魔78を込めた真朱神楽(武器:薙刀)で一刀両断にしてくれる!
●神鏡のヤドリガミ
●本体の神鏡へのダメージ描写NG
●アドリブ連携歓迎
●神の眷属とかみさま
「さて、ようやく潜入できたか」
揺らぐ異空間に立ち、百々は件の『かみさま』の気配を探る。
すると前方で黒い影が揺らぎ、何かの形を成していく光景が見えた。果たして如何なる者なのかと身構える百々は、軽く目を見開く。
「……ふむ」
思わずそんな声が溢れた理由は、百々のよく知る姿が見えたからだ。
此処に居るはずがない、在るはずのない存在。
御神体の鏡として在った百々。神の眷属として百々が仕える神の姿が、この異空間の中に顕現しているのだ。
よくもこう、己の中の偶像を写し取ったものだと感じる。
偽物でしかないと分かっている百々は怯まず、敵でしかない影を見据えた。
「この世界に、あの御方が居られるはずは無い」
百々は首を横に振る。
そして、指先を邪神に突き付けて強く宣言した。
「我が神の姿にて惑わそうなどと、なんたる不敬にして卑劣なり! 我が力にてその正体を暴き、討伐してくれようぞ!」
次の瞬間、百々の本体たる神鏡が空中に浮かんだ。
敵の姿を一瞬で神鏡に映した百々が双眸を鋭く細める。刹那、真実を映す神鏡の力が邪神の力を封じていった。
化けの皮が剥がれ落ちるようにして、神の姿が崩れ落ちていく。
「それが真の姿か」
露わになっていったのは黒く揺らぐ影。
この空間に訪れて最初に見たものこそが邪神――即ち、このかみさまの姿だったのだろうと感じ、百々は薙刀を構えた。
『たすけてあげるよ』
するとかみさまは幼い子どものような声で、一言だけ告げる。
その声には反応を示さず、真朱神楽の柄を強く握り締めた百々は地を蹴った。
分体として顕現しているかみさまの力は元より弱く、更に今は百々によって力を封じられている。それゆえにきっと勝負は一撃で決まるだろう。
「我に救いなど不要。さあ神の名を騙る者よ……一刀両断にしてくれる!」
そして――破魔の力を宿した一閃がひといきに振るわれた。
崩れ落ちた邪神は霧散するように消え去る。百々は自分以外に何もいなくなった空間を見渡し、刃を下ろした。
「さて、この空間も消えゆく運命か。しかし神とは名ばかりのものだったな……」
周りの景色が現実の世界に戻っていく。
その中で静かに呟く百々はそっと、自らの神の姿を思った。
大成功
🔵🔵🔵
レザリア・アドニス
神など…私には、無意味…
大好きだの、ここにいようだの
所詮嘘だよね
誰も救ってくれなかったから…今さらに、…?
欲しい物は自分でなんとかするから
君に用がないよ
一番傷つけたくないのは自分だけど
そっちのはどう見ても偽物だから遠慮なく戦える
神などに何の望みもなくて信頼もない
ただし、棒立ちして攻撃されるわけにも行けないので
全力で回避しながら炎の矢を織り出して攻撃
矢が届けない場合は鈴蘭の花吹雪で巻き込む
悪いけど…君などと約束はしないよ…
もうこの子たちと、先約があるから…
と、体内の蛇竜を呼び出し、敵を噛ませて、指を絡めるのを阻止
一人で戦うのは慣れているけど
誰かと一緒なら、意思疎通と連携を心がける
●嘘の言葉
昏く深い異空間は物音ひとつしなかった。
暗闇の中、ひとりで佇むレザリアの前に立っているのはかみさまだ。しかし今は、その姿はレザリア本人と同じ見た目と服装をしたものに変わっている。
『貴方が大好きよ……』
そういってかみさまは手を伸ばしてきた。
おそらく、レザリアにとって一番傷つけたくない存在が自分であるからこそ、その姿を取っているのだろう。
だからこそ偽物かなんてすぐに分かる。それゆえに遠慮なく戦えると感じ、レザリアは敵との距離を取った。
「神など……私には、無意味……」
『どうして? 一緒に……ここに、いよう?』
レザリアが首を振ると、偽物は同じ声色で問いかけてくる。
大好き、ここにいよう。そんな言葉は甘い誘いではあるが、所詮は嘘だとしかレザリアには感じられない。
「誰も救ってくれなかったから……今さらに、……?」
『今度は……救ってあげるから――』
レザリアが苦言を呈すると、かみさまは双眸を細めてそんなことを言った。
普通の人間ならばその言葉を信じてしまうのかもしれない。だが、レザリアには逆効果でしかなかった。
「欲しい物は自分でなんとかするから」
君に用は、ない。
レザリアはそう言い切る。神などに何の望みもなく信頼もないのだから当たり前だ。警戒を強めるレザリアだが、相手は攻撃をしてこない。
その代わりにただ此方を誘う言葉を紡ぎ、掌をそっと伸ばしてくる。
『……約束、するから。絶対に守ってあげる』
姿は偽りでも、其処に嘘はないように思えた。本当に守れるか否かはどうであれ、かみさまという存在が語りかける言葉は何処までも優しい。
レザリアは感じる思いを振り払い、己の力を発現させてゆく。
「悪いけど……君などと約束はしないよ……」
――もうこの子たちと、先約があるから。
告げると同時に体内の蛇竜を呼び出したレザリアは、敵へとそれを解き放った。そして深く噛み付かせ、指を絡められてしまうことを阻止する。
そして、偽のレザリアが膝をついた。
戦いの終わりは呆気ないものだった。きっとそれは目の前の存在が本体から分裂したものだったからなのだろう。
だが、影となったかみさまは未だ消えてない。レザリアはこれを屠れば異空間も解除されると読み、周囲に鈴蘭の花吹雪を散らした。
花が舞い、昏い世界が反転する。
「……終わった?」
気付けばレザリアは元いた場所である学園の放送室に戻っていた。
それでも、かみさまの気配は消えていない。きっとまだ誰かが別の異空間の中で分体と戦っているのだろう。すべてが終わるまで待つしかないと感じたレザリアはそっと、部屋の窓辺に目を向けた。
間もなくこの学園にも真の平穏と静謐が訪れる。そう感じながら――。
大成功
🔵🔵🔵
新海・真琴
(目の前に現れる、同じ眼の色をして明るい雰囲気を纏う桜の精の女と、良く似た髪質で剣呑な印象の羅刹の男)
……そうか、写真でしか知らない、会ったこともないけど。
そうだね、傷つけたくないものといえば……父さんと母さんだね。
UDCアースの『かみさま』とやらは、凄い、ね。
でも、これはそのかみさまが変身しただけのものだ。
サラを、学園を、守らないと。
まやかしに負けて、足を止めるわけには……いかないんだっ!
父さんと母さんの姿になったかみさまには、今の私の力量じゃ攻撃が効かないかもしれない。
でも、それ以外の効果なら通じるはず。
はなきよらで繰り出す強制改心刀のそれと、【破魔】
一思いに、やってしまおう。
●過去から未来へ
揺らぐ異空間。
軋む空気。歪み始めた影が交互に違う人影に変化していく。
先ず真琴の目の前に現れたのは、自分と同じ眼の色をして明るい雰囲気を纏う桜の精らしき女性だった。
「……そうか、写真でしか知らない、会ったこともないけど」
母さん。
真琴はその名を呼びそうになり、ぐっと口を噤む。すると桜の精だったはずの影がぐにゃりと揺らぎ、次は別の者へと変わっていった。
次は真琴と良く似た髪質で剣呑な印象の羅刹の男が目の前に立つ。
父さんだ。
そう感じた真琴は、自分の大切だと思う人が映し出されているのだと察した。
「そうだね、傷つけたくないものといえば……父さんと母さんだね」
だが、ひとつの影が交互に切り替わっていくものだから、どうしても父と母が本物だとは思えなかった。もし一人だけだったとしてもこんな場所に居ないとは分かっているので間違えるはずもないのだが――。
「この世界の『かみさま』とやらは、凄い、ね」
感嘆にも似た言葉を落とした僅かに俯いた後、真琴は自分の前に立つ父とも母とも呼べぬ異物に視線を向け直す。
これはそのかみさまが変身しただけのものだ。揺らいでしまいそうになる心に言い聞かせるように真琴は拳を握る。
――サラを、学園を、守らないと。
「まやかしに負けて、足を止めるわけには……いかないんだっ!」
過去よりも今を。
今から、未来へ。
日常を繋ぐために来たのだと決心した真琴は、はなきよらを神に差し向ける。この空間に来たときから携えていた刃の切先は真っ直ぐに敵を捉えていた。
『真琴、もう戦わなくてもいいのよ』
『さあおいで、真琴。ずっと一緒にいよう』
父と母の姿になったかみさまはそれらしい言葉を紡いで真琴をいざなおうとする。だが、そんな誘惑や甘言に惑わされる真琴ではない。
真琴は相手から伸ばされた手をはなきよらで振り払う。
そして刃を振り上げた彼女は退魔の斧に霊力を籠め、ひといきに敵を薙いだ。
「……さよなら」
父さん、母さん。いいや、それにすら成れなかったもの。
体を傷つけぬ改心の刀のそれに破魔の力を込めて。一思いに斬り捨てた影は瞬く間に形をなくし、音もなく消え去った。
それと同時に異空間が揺らぎ、現実の景色が真琴の瞳に映る。
これでかみさまの分体は消えた。
ひとまずは現実世界に戻ろうと決め、真琴はそっと先へと踏み出した。
大成功
🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
手を繋いでいたはずですが倫太郎殿と逸れてしまいましたね
ですが、逸れていて良かったのかもしれません
……年を重ねた姿の己などと
今の私の姿は主の想い人、暁彦様の御姿
その御方の老いた姿とも言えますが、彼は若くして亡くなっている
……私が描いた理想の姿なのでしょう
彼と同じ、人間であったのならばと
白髪混じりの長い髪に、皺のある手
その手には私が持っている物と同じ夜禱
そう、老いたとしても私は戦い続けるのでしょう
刃を交えれば分かる
悲しい事に偶像であれ腕は衰えているのだ
「そう」ならない私に勝てるはずも無い
抜刀術『静風』の一閃にて終わらせる
……叶わぬ理想だ
それでも、人で在る彼と生きると決めた
早く、彼に逢いたい
篝・倫太郎
【華禱】
っと、はぐれた……
もうちょっと、ちゃんと手を繋いどけって話だよな、俺も
戦闘終わって、ちゃんと合流出来りゃ良いけど
ま、そうくるよなぁ……
最も傷付けたくない、なんてこの人しか居ねーもんよ
でもま、違うんだってな判る
戦わなくていい、なんて言わねぇからさ……
……持久戦と行こうぜ?カミサマ
拘束術使用
動けない相手に使うのもどうかと思うけども
射程内なのを確認して鎖で先制攻撃
同時に華焔刀でなぎ払い
刃先返しての2回攻撃
攻撃には衝撃波と鎧無視攻撃を常時乗せてく
悪いな?夜彦を模したって
躊躇はねぇよ
そもそも、動かねぇんじゃニセモノだってバレバレだっての
俺の惚れ込んだ太刀筋の一つも見せてから
月舘夜彦を真似て騙りな
●老いた先も、貴方と
手を繋いでいたはずの倫太郎と逸れ、夜彦はひとりで暗い空間に立っていた。
彼は無事だろうか。
そう考えると不安にも似た気持ちが巡る。だが――。
「逸れていて良かったのかもしれません」
そう呟いた夜彦は薄暗い前方に佇む影を見据える。
年を重ねた姿の己など、倫太郎には見せたくはなかった。厳密に言えば眼前に居るのは嘗ての主の想い人。
暁彦様、と呼ぶ人の御姿。
その御方の老いた姿とも言えるが、彼は若くして亡くなっている。
「貴方は……いえ、私は――自身が描いた理想の姿なのでしょう」
彼と同じ人間であったのならばと願う思いが形となり、それをかみさまの力が写し取った存在。それが、目の前にいる者だ。
夜彦は気付けばその姿をずっと見つめ続けていた。
白髪混じりの長い髪に皺のある手。
その手には自分が持っている物と同じ夜禱の刃。
「――そう、老いたとしても私は戦い続けるのでしょう」
やはり理想だ。
それを的確に形にするかみさまとは、本当に神めいた力を持っているのだろう。
この姿をしている影は攻撃をしてこない。
だが、夜彦が夜禱を構えると相手も夜禱の写しを構えてきた。夜彦が地を蹴れば、それに応えるように相手も地面を蹴り上げる。
そして、真正面から重なる刃。
刃を交えれば分かる。悲しい事に偶像であれ老いた腕は衰えている。
「……貴方は、『そう』ならない私に勝てるはずも無い」
静かに告げた言葉の後、夜彦は一度刀を納めた。
抜刀術――静風。
敵が動くよりも疾く駆けた夜彦の一閃はかみさまの分体を斬り伏せ、散らした。
あれは叶わぬ理想だ。
それでも、人で在る彼と生きると決めたのだから、理想も思いもすべて抱いていこう。ささやかな、それでいて強い決意を抱いた夜彦は異空間の先に目を向けた。
其処には分体を倒したことでひらいた現実世界への穴がある。
早く、彼に逢いたい。
ただそれだけのことを叶える為に、夜彦は歩き出した。
●誰よりも識る人
「っと、はぐれた……」
しっかりと手を繋いでいたはずだというのに倫太郎はたった一人で立っていた。
離さないように、逸れないように。
それはいつも思っていることだったのに、どうして今だけ――。
しかし、戦いが終われば合流できるだろうかと考えた倫太郎は前を見据える。
「ま、そうくるよなぁ……」
目の前にはかみさまが変じたという人影が立っていた。
それは最も傷付けたくない者の姿になるという。ならば、元から想像していた通りに彼しか居ない。そう、夜彦だ。
「でもま、違うんだよな」
『……倫太郎殿。もう戦わなくて良いのですよ』
相手は夜彦にそっくりな、寧ろそのままの声でそう告げてきた。だが、それだからこそ倫太郎には分かる。
「戦わなくていい、なんてあの人は言わねぇからさ……」
それゆえにその手が伸ばされようが絶対に応じないと決めていた。
『倫太郎、約束をしましょう』
「だからさ、夜彦はそんな押し付けがましくなんてねぇんだよ」
拘束術を解き放つ倫太郎は尚も話しかけてくる偽物を軽くあしらう。それがかみさまの分体であるからなのか、相手の力は弱い。
いとも簡単に動きを封じられた夜彦――の、姿をしたもの。
動けない相手に使うのもどうかと思ったが、倫太郎は射程内であることを確認してから鎖で更に敵を縛った。
同時に華焔刀でなぎ払い、刃先を返しての更なる一閃を放つ。
其処に衝撃波と鎧無視攻撃を乗せる戦法は常に夜彦に見せているいつものパターンだ。もし彼が本物であるならすべて見切ってくるだろう。
されど相手は偽物。それゆえに倫太郎は遠慮も迷いもなく、更に一撃を入れる。
「悪いな? 夜彦を模したって躊躇はねぇよ」
そもそも、あの凛とした動きと抜刀術を行わない夜彦など彼ではない。バレバレだっての、と鼻で笑った倫太郎は最後の一太刀を浴びせるべく、華焔刀を振り上げた。
「俺の惚れ込んだ太刀筋の一つも見せてから、月舘夜彦を真似て騙りな」
そして、倫太郎が刃を下ろした刹那。
偽りの夜彦が倒れ、それまで立っていた異空間の景色が砕け散る。気付けば倫太郎は元いた学園に戻っていた。
「――倫太郎殿」
「……夜彦?」
少し離れた所から聞き慣れた声が聞こえ、倫太郎は振り返る。
きっと、いいや絶対に今度は偽物なんかじゃない。本当の彼が呼ぶ声に心が綻んでいくような気がして、倫太郎はその声がする方へと駆け出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レイラ・アストン
随分と殺風景な場所ね
こんなところに招いて
人々を…私を救ってくれるというの
ねえ、かみさま?
かみさまが笑ってる
青い瞳で真っすぐこちらを見つめ
私と全く同じ姿で
いえ、厳密には違うわね
眼鏡を掛けていないもの
奇妙なモノとは無縁の
皆と同じ世界を見ている自分
それが私の理想だと言うの?
…嗚呼、何て下らない
恐ろしいモノを見て怯えたり
他人に不審に思われたりもした
幼い頃から自分の瞳を幾度も呪った
今もけして好きにはなれない
それは確かな事実よ、でもね
私がもし貴方だったら
数多くの世界を見ることはできなかった
大切な友達とも出会えなかった
未だ折り合いが付けられないことはあれど
私が私であることに悔いは無いわ!
※連携、アドリブOK
●拒絶と受諾
随分と殺風景な場所だ。
海の底のような昏い異空間を見渡し、レイラが感じたのはそんな思い。
「こんなところに招いて人々を……私を救ってくれるというの。ねえ、かみさま?」
レイラが見据えた先には『かみさま』が笑っていた。
青い瞳に金の髪。
同じ色の双眸で真っ直ぐにこちらを見つめてくるのは、もうひとりのレイラ。それは自分と全く変わらぬ姿だと思えたが、ひとつだけ違う箇所がある。
「私……いえ、厳密には違うわね。眼鏡を掛けていないもの」
元よりレイラの眼鏡に度は入っていない。
それは見えてはいけないものを視てしまう自分へのささやかな抵抗。
そして、眼鏡を掛けていないレイラ。
それはきっと奇妙なモノとは無縁の、皆と同じ世界を見ている自分だ。これが自分の理想なのかという思いも過ぎったが、レイラは頭を振る。
「……嗚呼、何て下らない」
確かに、恐ろしいモノを見て怯えたり、他人に不審に思われたりもした。
幼い頃から自分の瞳を幾度も呪った。
今だってけして好きにはなれていない力だ。
「何も視えなければ――そう思ったのは確かな事実よ、でもね」
レイラは青い瞳を敵に向ける。
その眼差しを受け止めるように顔を上げ、偽のレイラとして現れているかみさまが言葉を紡いでいく。
『私は、私……貴方が大好きよ』
そんな目をしていても、私は私を守ってあげる。
自分と同じ声で、同じ顔で、違う眼差しを向けてくるかみさまは微笑んでいた。
その誘いの言葉は通常の人間であったならば絆されるものであっただろう。しかし、レイラには受け入れられない。
「私がもし貴方だったら、数多くの世界を見ることはできなかった」
今となれば、力のない自分は何も視えていないのと同じ。
こう在ったからこそ、此処に居られる。
けして好きではない能力も己なのだと、自ら認められている。それに――。
「大切な友達とも出会えなかったわ」
だから、伸ばされたかみさまの手は取らない。
敢えてその手を振り払い、レイラは邪視の力をひといきに解放した。未だ折り合いが付けられないことはあれど、歩いてきた路を否定なんかしない。
「私が私であることに悔いは無いわ!」
宣言と共に青い瞳の眼差しが重なった。その瞬間、廻る呪詛が異空間ごとかみさまを弾き飛ばし、すべて消し去る。
光が瞬いたと思った時にはもう、レイラは屋上に戻ってきていた。
されど、学内に満ちる邪神の気配までは消えていない。きっとまだ異空間で戦っている者がいるのだろうと感じ、レイラはその無事を願った。
大成功
🔵🔵🔵
榎本・英
ここが噂の場所かな。随分と昏い。
その空間にいるのはどうやら私だけではないらしい。
君は一体誰なのだろうね。
一緒に心中した子かな。
それとも、私が自らの筆で別れを告げた被害者Aさんかな。
君は色んな女性に変化して、一貫性のない生き物だな。
嗚呼。その顔。誰も私を救ってはくれなかったよ。
一つ問いかけをしよう。
「一緒に彼岸を見に行くかい?」
誰かは分からないが、また私と心中ごっこをしようではないか。
君が頷いても首を振っても満足はしないさ。
誰だか分からないのだからね。
私はいたって普通の人だから、もう少し生きたいのだよ。
誰かは分からない君がいつかまた帰ってきたら
今度はこう問おう。
彼岸は美しかったかい?
●彼と彼女と彼岸の花
かみさまに見初められた人は、秘密倶楽部に入ることが出来る。
学園内で囁かれていた噂を思い返した英は自分がいま居る空間を見渡した。
「ここが噂の場所かな」
随分と昏い。そして、無音だ。
まるで重圧のない海の底にいるような感覚とでも表せばいいのだろうか。半ば無理矢理に転移された空間。此処にいるのはどうやら自分だけではないらしい。
「君は――」
一体誰なのだろうね、と英は目の前に立っている影に語りかける。
一緒に心中した子か。
それとも、自らの筆で別れを告げた被害者Aか。
先生。
センセイ。
せんせい。
想像と予想を巡らせる度に影は様々な女性に代わり、外見はおろか、自分を呼ぶ声までもころころと変化していく。
「君は色んな女性に変化して、一貫性のない生き物だな」
呆れたようにかみさまを見つめる英は、移り変わる影を見つめる。
そして或る時、英は頭を振った。
『たすけてあげる』
かみさまの名を持つ邪神が不可思議な声でそう紡いだからだ。
「嗚呼。その顔。誰も私を救ってはくれなかったよ」
英が相手の愚かな甘言に惑わされることなどない。それは言葉通りの思いを彼が抱いているゆえ。
そして英は手を伸ばしてくる影にひとつ、問いかけをしようと呼びかける。
「一緒に彼岸を見に行くかい?」
誰かは分からないが、また私と心中ごっこをしよう。そう告げれば影の女性はそっと頷き、よく見えない顔で微笑んだ。
『そうね、いいかも。それならほら、此処に居て』
されど英は手を伸ばし返したりなど決してしなかった。彼女が頷いても首を振っても決して満足はしない。
何故なら、君が誰だか分からないから――。
「私はいたって普通の人だから、もう少し生きたいのだよ」
その言葉と共に情念の獣が現れ、影を貪り喰らうように牙を突き立てた。
そうして神様の分体は消え去る。
倒れ伏すように崩れ落ちた、女性だったものを見下ろした英は最後の言葉を送る。
「君がいつかまた帰ってきたら、今度はこう問おう」
――彼岸は美しかったかい?
もうきっと、二度と形有るものとして会うこともないのだろうけれど。
そう考えて顔を上げた英はいつしか異空間から図書室の書庫に戻ってきていた。つまらないか、つまらなくないか。それを考えるのも今だけは、止めた。
大成功
🔵🔵🔵
砂羽風・きよ
綾華(f01194)と
──ん、何処だここ。
綾華大丈夫、か……あ?なんだありゃ。
黒い人影?ま、まさかお化けか!?
何で俺は黒い人影なんだ?
別にこんなもん楽勝に倒せっけど。
……なるほど。俺の大切な人は『一人』じゃねぇから現れなかったのかもな。
家族や友達、ボランティアで関わった人達。
俺にとっちゃ大切な『人達』だ。だから、此処にいるのは黒い人影なのか。
──それなら納得いくわ。
んじゃ、遠慮なくお前のことをこの改造した愛用の掃除機で吸い込んでやるぜ。
綾華、大丈夫か?
思えばコイツの過去なんて知らねぇけど、どうなんだろうな。
ま、俺は俺の出来ることをやれたらと思ってる。
いつも通りに接しよう。
今、俺に出来ることを。
浮世・綾華
きよ(f21482)と
…黒い影?いや――
眸に映るのは幼き日の小さな彼ではなかった
自分より少しだけ小さな身長
もし彼が壊されず共に成長していたら
――多分、そんな姿だ
晴天の色を髪に宿し太陽の眸を向けて笑う
あの頃みたいに…変わらず無邪気に
手を伸ばされた
自分より一回り小さな手だ
一瞬だけ止まる思考
囁かれる言葉
『――』
嗚呼、お前はそういう奴だった
ちゃんと思い出した俺は知ってる
そうやって俺はお前に縛られる
俺の理想がお前だケド
でも
あいつの姿をしたものを壊すのは心が痛むけれど
――お前が、
あいつみたいな顔で俺に触れるな
握る手から放つ鬼火
大きく息を吐く
…きよ、なに。もう済んでたの?
悪い、待たせた
ん、だいじょーぶだよ
●今に続くみちゆき
「――ん、何処だここ」
世界が暗転し、何処か遠い場所に放り出されたような感覚をおぼえる。
目を開けたきよが目にしたのは深海めいた静かで昏い景色が広がる様相だ。深い海の底になど行ったことはないが、何故だかそんな風に思えた。
「綾華大丈夫、か……あ? なんだありゃ」
「……何とかネ」
きよが傍らに立つ綾華を呼ぶと、応える声が聞こえてくる。良かったと安堵する暇もなく、きよの視界に現れたのは妙な揺らぎと影の輪郭。
「黒い人影? ま、まさかお化けか!?」
驚いて綾華の後ろに隠れそうになったきよだが、ぐっと堪えて其処に踏み留まった。綾華はきよが気付く前からそれを見つめていたようで、今も視線を外そうとしない。
「……黒い影? いや――」
違う。
綾華はそれだけを告げると、目の前の存在を眸に映し続けた。
それは幼き日の小さな『彼』ではなかった。自分より少しだけ小さな身長。もし彼が壊されず共に成長していたら――多分、そんな姿だという姿。
晴天の色を髪に宿し太陽の眸を向けて笑う。あの頃のように、変わらず無邪気な顔を見せる彼が綾華の眼前に居る。
「違う? じゃあ何で俺は黒い人影なんだ?」
どうやら綾華が見ている存在と自分が認識しているものが違うと気付き、きよは首を傾げた。綾華が対峙するものと比べ、自分の見る影は細く弱々しい。
確か、かみさまは最も傷つけたくない者の姿に見えるという。綾華にとってそれがあの子であるならば、自分はどうしてあの形なのか。
「別にこんなもん楽勝に倒せっけど」
きよは得物である掃除機を黒い影を見据えた。そして、ふと気付く。
「……なるほど。俺の大切な人は『一人』じゃねぇから現れなかったのかもな」
家族や友達、ボランティアで関わった人達。
きよにとっては大切な人達だ。きっとそれは多すぎて映しきれなかったのだろう。だから、此処にいるのは黒い人影なのかもしれない。
「それなら納得いくわ」
口の端を軽くあげて笑ったきよは掃除機を掲げた。改造済みのそれからは駆動音が響きはじめている。
「んじゃ、遠慮なくお前のことをこれで吸い込んでやるぜ」
迷いも衒いもなく、きよはひといきに得物を振り下ろした。影が揺らぎ、吸い込まれそうになりながら抵抗する。
そんな中、綾華は『彼』から手を伸ばされていた。
自分より一回り小さな手。違う、と言葉にしたのはこれは彼ではないと断じる意味もあった。けれども、一瞬だけ止まる思考。其処に囁かれる言葉。
『――』
「……!」
その声は記憶そのままの彼のものだった。
嗚呼、お前はそういう奴だった。ちゃんと思い出した俺は知ってる、と綾華は頷く。そうやって俺はお前に縛られる。鍵も、閉じ込めるものであるけれど――。
「俺の理想がお前だケド、でも」
あいつの姿をしたものを壊すのは心が痛む。それでも、と綾華は伸ばされていた彼の腕を取ってその手を強く握った。
「――お前が、あいつみたいな顔で俺に触れるな」
握る手から放つ鬼火が瞬く間に影を燃やしていく。炎は拒絶の意志を示すかのように昏い世界を紅々と照らした。
それとほぼ同時に、きよが自分の相手取るかみさまの分体を掃除機で殴り抜く。吸い取れないならもう殴っちまえの精神だ。
そして、身を翻したきよは得物を構え直した。
次の瞬間、炎に包まれた影と倒れ伏した影がとけるように消え去っていった。
敵の気配が消失したと察し、きよは呼びかける。
「綾華、大丈夫か?」
名を呼び問いかけるきよは、彼は歪められた理想と戦っていたのだと感じる。その過去がどうであれ、今は深く立ち入ることはしない。
自分は自分の出来ることをした。ならば今もいつも通りに接するだけだ。
心配するようなきよからの視線を感じた綾華は大きく息を吐き、普段と同じように軽い笑みを浮かべた。
「……きよ、なに。もう済んでたの? 悪い、待たせたか」
「ついさっき終わったところだ。何ともないか?」
「ヘーキヘーキ、だいじょーぶだよ」
ほんの少しぼうっとしていた様子の綾華を覗き込んだきよは、そうか、と答えて一先ずの安堵を抱いた。
そうして、きよは自分達以外に誰も居なくなった空間を見渡す。これで学園の平和を守れたのだろうかと思い、きよは綾華を見遣った。
「ちゃんと出来たかな。――今、俺達に出来ることを」
「そりゃ勿論。だって、ほら」
すると綾華は後方を示してみせる。
其処には揺らぐ景色が見えた。それは紛れもなく、自分達がひとときを過ごした学園の光景だ。きっとかみさまを倒したことで空間から出られるようになったのだろう。
「行こうぜ」
「……ん」
きよと綾華は元の世界に繋がる路へと踏み出す。
過去からの理想よりも、現在から未来に続く日々に戻るために――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
臥待・夏報
やっぱりそう来るよな。
――春ちゃん。久しぶり。
なあ、お前の言ってた神様も、超文明も、ここじゃないどこかも、全部実在したよ。
あの頃からずっと僕の目は節穴だ。
万一これが本物の彼女だったとしても、見抜けないんだろうな。
動けない君は何も言わないし、攻撃だってしてこない。瞼の裏で君とふたり、臥待月が昇るまで、一方的に話をしようか。
どこにいるの?
何があったの?
なんで泣いてるのさ。
『MILK-DIPPER』を握って、頬袋に『G-anyMED-E』を詰め込んで、耐久戦だ。
攻撃できないし、狂気にも堕としきれないとなれば、かみさまは次の手を出さざるをえないはず。
取るべき次の行動は、――その一瞬を、見逃さないこと。
●春色の涙
目の前に立っているのは、此処に居るはずのない者。
やっぱり、と肩を落とした夏報は其処に立つ人影に軽く声を掛けた。
「――春ちゃん。久しぶり」
彼女は学生時代の親友だ。その姿を見るのはあのとき以来になるのか。春から夏へ、そして秋や冬となり、幾度ひととせが巡っただろうか。
懐かしい。また会えた。
そんな気持ちが巡ってしまうのは人としての性なのかもしれない。
「なあ、お前の言ってた神様も、超文明も、ここじゃないどこかも、全部実在したよ」
夏報はかみさまが模している影に語りかける。
偽物だと分かっている。
けれど人は、姿や形に意味を見出すものだ。形無いものを尊ぶ心だってあるが、手を伸ばせば届く場所にある、形有るものを確かだと錯覚してしまう。
自分だって同じ。
そうでなければ、偽りの存在だと分かっているそれを親しみを込めて呼び、自分の思いを告げたりはしない。
『――』
彼女は、真っ直ぐに眼差しを向けてくる。
その際に何かを言った気もしたし、何も言わなかった気もした。
もう戦わなくていい。もう何も心配しなくてもいい。そんな風に告げているように思えたが、それもまたかみさまがそう感じさせているだけに違いない。
ああ、と頷いた夏報は首を横に振った。
あの頃からずっと自分の目は節穴だ。事前にこれが偽物だと知らされていたから心の奥は何処か冷静でいられる。だが、万一にこれが本物の彼女だったとしても、見抜けないだろうことも分かった。
彼女はひとすじの涙を流したまま動かない。
瞼の裏で君とふたり。
臥待月が昇るまで、話をしよう。けれどもそれは一方的。
――どこにいるの?
――何があったの?
――なんで泣いてるのさ。
問いかけても答えが返ってくることはない。何故ならこれは夏報の心の裡から読み取られただけの偽物。自分が知らぬ彼女の真実が語られるはずがない。
回転式拳銃を構えた夏報は、頬に詰めていた向精神薬を噛み締める。
徐々にかみさまの影が揺らいでいった。『春ちゃん』だったものが消え、ただの黒い人影である『かみさま』の姿に変わっていく。
また、君は消えてしまうのか。
そんな思いが巡ったが、夏報は顔にも口にも出さずに地を蹴った。
瞬刻。
かみさまが次の一手に出ようとしたその瞬間を夏報は見逃さず、南斗六星の名を抱く銃の引鉄をひいた。刹那、撃ち放たれた銃弾が異空間ごとかみさまを穿つ。
砕け散る空間。現実に引き戻されるような感覚。
気付けば周囲は見慣れた学園の景色に戻っており、夏報は銃を下ろす。
「……春ちゃん」
呟いた言葉は何者にも聞かれることなく、誰も居ない学園に沈んでいった。
大成功
🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
絵の裏にこんな空間があるとはね
学校っていうのはつくづく不思議なトコロだ……あ、違う?
心配するなよレディ、真面目にやるとも
立っている人物に目を凝らせば、驚いたな
父上――私が目指すべき王の姿がある
でも、おかしいな。笑ってしまう
戦わなくていいだとか、救ってやるだとか
父上がそんなことを言うはずがない
国の未来を担う私が、戦いから逃れられるはずもない
自分以外に救われるワケにはいかない
私は平和のために戦い続けるし、私以外のすべての民を救う
それがこの血を継いだものの宿命
……これは父上の教えなんだ
紛い物に迷わず剣を向ける――“Jの勇躍”
ああ、それとね
父上の髭はもっと立派だったよ
物真似するなら、もっと研究したまえ
●矜持は此処に
静謐と不穏が渦巻く異空間。
エドガーは自分が立っている場所を確かめ、絵の裏にこんな空間があったのだと感心するような声を落とした。
「学校っていうのはつくづく不思議なトコロだ……あ、違う?」
すると左腕に宿るレディがそんなわけはないと示すように疼く。
そうかい、と頷いたエドガーは気を引き締め、目の前に現れている影を見据えた。
「心配するなよレディ、真面目にやるとも」
暗い空間に揺らぐ影。
それを捉えるべく目を凝らせば段々と輪郭がはっきりしてきた。
「驚いたな」
素直に驚嘆してしまった理由は、それがエドガーのよく知る者の姿だったからだ。
――父上。
思わず、その名を呼ぶ。
エドガーの眼前には今、己が目指すべき王の姿がある。
そして父のようなものは此方へと掌を伸ばして甘言を口にしはじめた。
これまでよくやってきた。
もう戦わずとも良い。
さあ、救いを与えてやろう。
父の声と姿で、それはそんなことを告げてくる。
対するエドガーは口端が緩んでしまうことを感じながら、口許を押さえた。
「でも、おかしいな。笑ってしまうよ」
エドガーは甘い言葉に惑わされているわけではない。ただ可怪しいのだ。確かに手を伸ばしてくる相手は父そのもののようにも思えた。しかしそれは姿だけ。
「父上がそんなことを言うはずがないんだ」
国の未来を担う自分が、戦いから逃れられるはずもない。
自分以外に救われるワケにはいかない。
己は平和のために戦い続けるし、自分以外のすべての民を救う。
胸に抱いた思いを言葉に変え、エドガーはレイピアの切先を敵に差し向けた。
「民のために戦い、誰かを救い、矜持を剣に。それが、この血を継いだものの宿命。……これは父上の教えなんだ」
ゆえに目の前の存在は紛い物でしかない。
エドガーは迷わず地を蹴り、向けた剣を素早く振るった。勇躍の一閃はまるでダンスにでも誘うような優雅な動きで紛い物を貫く。
刹那、影が崩れ落ちた。
刃を鞘に収めながら、エドガーは消えゆく偽影に告げてゆく。
「ああ、それとね。父上の髭はもっと立派だったよ」
物真似するなら、もっと研究したまえ。
言葉が紡がれ終わったとき、エドガーの周囲の景色は現実世界のそれに戻っていた。
大成功
🔵🔵🔵
チガヤ・シフレット
【狼の巣】で参加
ようやくかみさまとやらのお出ましか
……なんて言うか、よくわからん奴だな
なんだか懐かしい顔が見える気がするが、それはつまりコイツが偽物ってことだなぁ?
ぶっ飛ばして終わりにしようじゃないか
全身の兵装を起動。【先制攻撃】で【一斉発射】! 銃弾砲撃なんでもありで一気にぶっ飛ばしてくれる!
指きりげんまんだ?
小指から撃ち抜いて吹き飛ばしてやろう。
向こうから寄ってくるなら【零距離射撃】で蜂の巣だ。
「優しい優しいまがいもんの神様に笑顔でサヨナラだ」
仲間への【援護射撃】も忘れずに。
「リィは大丈夫か? 妙なのに惑わされずに景気よく爆破だぞ!」
「向こうも派手にやってるなぁ。負けずにド派手にいくかっ」
ザザ・クライスト
【狼の巣】
「よりにもよって、フラウが"かみさま"かよ」
煙草に火を点けて【ドーピング】
紫煙を燻らせて見つめるは"彼女"だ
オレの部下の婚約者
そしてオレが惚れた女
「オレを殺したいンじゃなかったのか?」
オレは部下であるアイツを殺した
真実を知った彼女は組織を裏切り、仇であるオレを殺そうとした
「イイぜ、何度だって殺してやるよ」
だが、アイツを殺した理由まで知ってしまった
オレを憎まずにはいられない
だが、憎み切れないと、笑った顔は泣いていた
組織を裏切った事実は消えない
どうにもならねェ
あの時のように、オレはトリガーを引いた
他の二人はどォなってやがる?
ボサッとしてンな、ぶちカマすぞ
「派手に踊るぜ、ロックンロール!」
リィリィット・エニウェア
狼の巣】で参加
「ば、ばくだんのかみさまだーーーー!」
つまり火をつけてもいいよね?え、ダメか……
と、まあ最初からニセモノとわかってるものに踊らされたりしないんだよ
(目はキラキラしている)
【鼓舞】【援護射撃】で攻撃開始の口火を切ろう
やりにくい人もいるかもしれないし
ちなみに忘れがちだけど私は「実は過去の記憶が無い」からね!
この手の精神攻撃には強いのだ
「にゃんこの手」も総動員して派手に攻撃だ!
目立って囮になっていくよー
【パフォーマンス】に【時間稼ぎ】
とどめはたいちょーさんとチガねえに任せようかな
●決着は三人で
チガヤにザザ、リィリィット。
同じ空間に飛ばされた三人の前には今、三体の影が立っていた。
昏く静かな異空間内。まるで誘うように揺らぐ影はそれぞれ別の様相をしており、三人の心のなかにいるものを映し出しているようだ。
「ば、ばくだんのかみさまだーーーー!」
先ず声をあげたのはリィリィットだった。彼女には影がそう見えているらしく、その瞳は輝いていた。
ザザは肩を竦め、自分の前に立つ人物に向けて溜息をつく。
「よりにもよって、コイツが“かみさま”かよ」
そんな彼らの様子を気に留めながら、チガヤも自分に対応する影を見据えた。
「ようやくかみさまとやらのお出ましか。……なんて言うか、よくわからん奴だな」
対象にとって最も傷つけたくないものの姿。
或いは、望む理想の何か。
このかみさまは、そういったものを写し込むという。
きっと影に対応するのは各個人が良い。そう判断した三人は小さく頷きあい、各々の戦いに集中することを決めた。
「――フラウ」
煙草に火を点けたザザは紫煙を燻らせ、見つめる彼女の名を呼んだ。
己の部下の婚約者。
そして、ザザが惚れていた女。
「オレを殺したいンじゃなかったのか?」
問いかけると彼女は曖昧な表情を浮かべた。ザザは過去、部下である“アイツ”を殺した。真実を知った彼女は組織を裏切り、仇であるザザを殺そうとした。
「イイぜ、何度だって殺してやるよ」
ザザはそれが紛い物であると知りながらも語りかける。すると彼女は思いもしない言葉を投げかけてきた。
『すべて赦す――いえ、貴方を救ってあげる』
彼女と同じ声で、記憶のままの姿で、それはそんなことを告げる。
ザザは頭を振って、違う、と断じた。
彼女はアイツを殺した理由まで知ってしまった。
ザザを憎まずにはいられない。だが、憎み切れないと、笑った顔は泣いていた。
だからきっと、彼女がそんなことを言うはずがない。例え赦しが得られたとしても、それは紛い物から貰うような言葉ではない。
あの悲劇は避けられなかったし、今となれば必然でもあった。
「悪ィな」
組織を裏切った事実は消えない。どうにもならねェ。そう感じたのは昔も今も同じだった。だからこそ、ザザはあの時のようにトリガーを引く。
そして――銃声が響いた瞬間、彼女を騙る影はその場に伏した。
チガヤにとって、懐かしい顔が見える。
しかしそれは彼女を惑わす理由にはならなかった。何故なら――。
「これはつまりコイツが偽物ってことだなぁ?」
此処に居るはずがないと分かるからこそ容赦なく戦える。チガヤは手を伸ばしてきた懐かしい影を一瞥した後、全身の兵装を起動させていく。
かみさまとは名ばかりだ。
懐かしく大切なものを象るならば、もっとやり方もあるだろうに。
――もう戦わなくていい。
チガヤに対する影はそんなことを告げてくる。
しかしその言葉は今のチガヤにとっては逆効果でしかない。戦うしないだろうと首を振り、チガヤは銃弾や砲撃を一斉に発射していく。
「ぶっ飛ばして終わりにしようじゃないか」
しかし敵は僅かに揺らいだのみで、小指を絡める約束をしようと手を伸ばし直す。
されどチガヤはその手を振り払った。
「指きりげんまんだ? 下らない」
相手がそう動くなら、小指から撃ち抜いて吹き飛ばしてやるのみだ。チガヤは一気に距離を詰め、銃口を突きつける。
「優しい優しいまがいもんの神様に笑顔でサヨナラだ」
そして、別れの言葉と共に零距離からの銃弾が撃ち込まれた。蜂の巣になった影は崩れ落ち、やがて消えていった。
ばくだんのかみさま。
それがリィリィットの理想とするものであり、望む偶像であるのだろう。わくわくした様子で笑む少女はぐっと身構える。
「つまり火をつけてもいいよね? え、ダメか……」
一人合点しつつも、リィリィットは武器を構えた。
自分には過去の記憶が無い。それゆえに精神を揺さぶってくるような攻撃には強く、リィリィットは少しも動じていない。
「まあ最初からニセモノとわかってるものだしね。踊らされたりしないんだよ」
それでも、ばくだんのかみさまは興味深い。
リィリィットは目をキラキラさせながらにゃんこの手――腕型デバイスを用いてガジェットによる攻撃を行っていく。
「やっぱり火をつけちゃおうかな? 危ないかな?」
とにかく派手に攻撃をすればいいと感じ、リィリィットは異空間で思いきり暴れまわっていった。
縦横無尽の悪機。その動きはまさにそう称するに相応しい。
そうして、リィリィットが敵を引き付けること暫く。その頃にはチガヤもザザも各自が相対する敵を斃していた。
「たいちょーさん、チガねえ!」
「リィは大丈夫か? 妙なのに惑わされずに景気よく爆破だぞ!」
「ボサッとしてンな、ぶちカマすぞ」
リィリィットが二人に声をかけると、頼もしい返答が聞こえる。
やはり二人は強い。惑わせるような姿をしていた敵を屠っているというのに。彼らはいつも通りに凛として見えた。
「大丈夫! あとはばくだんのかみさまだけだから、二人に任せるね」
お願い、と笑みを向けたリィリィットは後方に下がり、彼らを信頼して最後を託す。頷いたチガヤとザザは敵に銃口を向けた。
「派手にやってたんだなぁ。それじゃ、負けずにド派手にいくかっ」
「だな。派手に踊るぜ、ロックンロール!」
――これで終わりだ。
そう告げるかのような一斉発射と共に独特の射撃音が響き渡る。
その一瞬後、異空間内に現れていた影は消え去り、禍々しい気配が消えた。
同時に周囲の景色が学園のものへと戻っていく。三人は自分達が任務を果たしたのだと感じて、視線を交わしあった。
学内にはまだ幽かな邪神の気配がある。おそらくまだ誰かが異空間で戦っているのだろう。だが、間もなく学園には真の平穏が訪れる。
ザザとチガヤ、そしてリィリィットもまた、そのことを確信していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティエル・ティエリエル
SPDで判定
「うぅぅ、ボクだってユウちゃん達とお別れなんてしたくないよ!」
かみさまはユウちゃんや仲良くなった友達の姿になって「また、明日遊ぼうね」と襲い掛かってくるよ。
かみさまを倒して事件を解決したらここでのお仕事もお終い。
つまり、学校を転校して新しいお仕事が始まって仲良くなった皆とはお別れしなきゃいけない。
けど、だけど!こいつを放っておいたらユウちゃん達にも被害が及ぶかもしれない!
かみさまの誘惑を振り切って【妖精の一刺し】で分裂体を振り払うよ!
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
●大好きだから、お別れを
『ねえ、ずっといっしょにいよう』
幼い少女や少年の声が響く。
異空間に飛ばされたティエルの目の前には今、友人が立っていた。
それは本当は此処に居るはずのない子達だ。否、居てもおかしくはない者――そう、この学園で出来た友人の姿をしていた。
『ティエルちゃん、もうごきげんようって言えあえないの?』
『学校から、いなくなっちゃうの?』
ティエルを呼ぶ人影はぐにゃりと歪み、クラスメイトの姿を次々と映し出していく。
その声も姿も、確かに学園で過ごした人達のものだ。そして影はいつしか、ティエルが一番仲良くなっていたユウという少女の姿になった。
「ユウちゃん……」
『ティエルちゃん、だいすきだよ。行かないで、ここにいて……』
ユウの姿をしたものは手を伸ばす。
それが本人ではないことはティエルにもよく分かっていた。だが、影が語ることに心が揺り動かされてしまう。
「うぅぅ、ボクだってユウちゃん達とお別れなんてしたくないよ!」
かみさまを倒したら学園ともさよなら。
皆を守るということはお別れが待っているということでもある。
かみさまは、おいで、とティエルを誘う。
一緒に居ることを選んだら苦しまなくていい。ティエルはかみさまの使徒になってこの学園に通い続けることができ、仲間だってもっと増やせる。そう告げる少女の姿をしたものは約束を交わさせようと、小指を伸ばしてきた。
『また、明日遊ぼうね』
その手を取って頷けば、ティエルはかみさまを受け入れたことになる。
転校しない未来。
そんな日々もきっと、この先に続いているのかもしれない。
羽ばたいたティエルはユウへと近付く。
ちいさな手を伸ばして、大好きだと言ってくれる友達と共に歩む道を選ぶ。そんな幻想は――要らない。
「そうだね、また遊びたいよ。けど、だけど!」
ティエルは風鳴りのレイピアを抜き放ち、友達の姿をしたものに刃を向ける。
偽物で、紛い物だから。
そう自分に言い聞かせたティエルはかみさまの誘惑を振り切り、勢いよく影へと吶喊していった。
こいつを放っておいたらいつかユウ達にも被害が及ぶ。皆と一緒にいるだけの危険な未来よりも、皆が平和に過ごす日々が続く方がずっとずっと良い。
「――さよなら。ううん、ごきげんよう!」
誰かの未来を穢すなら、それはかみさまなんかじゃない。
別れを告げる妖精の一刺しはただ真っ直ぐに、悪しきものを貫き滅ぼした。
大成功
🔵🔵🔵
陽向・理玖
ここは…
人影に気付き
…師匠?
生きてたのかよ、師匠ッ!!
駆け寄ろうとし
『もう心配いらない』
『これからはお前さんが戦う必要もない』
『一緒にいようー約束だ』
目を見開くと俯き
伸ばされる小指に手を伸ばしかけ
途中で止め握り締め
俺…
本当は、分かってんだ
俺を庇ってあんな怪我して
独りで残って
生きていられるはずがねぇ
あんたに助けられ育てられて
意志を継いだ!!
そのあんたが戦う必要がないなんて言う訳がねぇッ!!
何より俺自身
この学園の姉さん達を守りてぇ
そう思った
だから負けらんねぇッ!
歯食い縛り龍珠弾き握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波放ち
UC使用
ダッシュで間合い詰め残像纏わせグラップル
拳の乱れ撃ち
最後にハイキック
●師の意志
「ここは……」
まるで深くて昏い海の底だ。
そんな風に感じさせる異空間にて、理玖は辺りを見渡す。その前方、滲む影が人の形になっていくことに気付いた理玖は息を呑んだ。
何故なら、その人は――。
「……師匠? 生きてたのかよ、師匠ッ!!」
その名を呼んだ理玖は其方に駆け寄ろうとして、はっとして立ち止まった。
師匠は来いと手招くように腕を伸ばしている。
『もう心配いらない』
影はあの頃のままの声でそう告げた。理玖は何も答えられず、伸ばされている手をじっと見つめることしか出来ずにいた。
『これからはお前さんが戦う必要もない』
師匠の姿をしたそれは理玖の反応を待たず、言葉を続けていく。
『一緒にいよう――約束だ』
その言葉に目を見開いた理玖は俯いた。
約束をしようと伸ばされる小指。其処に手を伸ばしかけてしまったが、思い留まった理玖は途中で腕を止めた。
「師匠、俺……」
本当は、分かっている。師匠が此処に居るはずなんてない。
自分を庇ってあんな怪我をして、独りで残って生きていられるはずなどないのだ。理玖は痛いほどに拳を握り、震えそうになりながらも思いを吐き出していく。
「あんたに助けられ育てられて、意志を継いだ!! そのあんたが、戦う必要がないなんて言う訳がねぇッ!!」
それゆえにこれは偽物でしかない。
あれは師匠の姿を騙った紛い物でしかない。戦わない選択など最初からなかった。たとえ追い求める理想の彼がそう告げたとしても、誘いに乗るはずもない。
「何より俺自身、この学園の姉さん達を守りてぇ。そう思った。だから――」
一拍置き、理玖は敵を見据えた。
「負けらんねぇッ!」
歯を食い縛った理玖は龍珠を弾いて握り締め、龍の横顔を模したドライバーにセットする。師匠から受け継いだ力と志を示すべく、今はただ全力を込めて。
「変身ッ!」
衝撃波を放つと同時に駆け出した理玖は敵との間合いを詰めた。
まだ、誰の為に戦うのかその意味も知らぬままだが、今だけはどうすればいいのかはっきりと分かる。
拳の乱れ撃ちが師匠の姿をした影を穿った。するとその化けの皮が剥がれ落ちていくかのように師匠だったものが黒い影に変わっていく。
正体を現したな、と敵を睨みつけた理玖は次で最後にすると心に決めた。
そして――。
「俺はこの学園と皆を、守りきって見せるッ!」
凛と響かせた宣言と共に地を蹴った理玖はひといきに、トドメのハイキックを見舞った。それによって黒影が大きく揺らぎ、異空間は鏡が割れるかのように崩れ落ちる。
理玖が着地した瞬間、周囲の景色は元の学園に戻っていた。
確かにかみさまの分体を倒せたのだと察し、理玖は再び拳を握り締める。
「……師匠」
静かに変身を解いた理玖。
其処に落とされた言葉は、誰にも届くことなく夜の静謐に沈んでいった。
大成功
🔵🔵🔵
氷室・雪
母さん…
体が弱く、私が幼いころに死んだ母…
写真で見たことしかないが間違いない
母親のいる家庭で普通の生活を送ることに憧れていたからだろうか
事前に聞いていても実際に目にすると動揺はしてしまうな
その姿と声で喋らないでくれ
私の弱い部分が出てきてしまう…
迷いや不安で押しつぶされそうだ
これは乗り越えるべき試練なのだろうが、母の姿を斬ることに抵抗はある
目を閉じ、精神を集中させて斬ろう
私は魔を斬り捨てる刃にならねば
心を乱してしまったこと、偽物とはいえ母の姿をしたものを斬ってしまったことに落ち込んでしまう
己の未熟さが嫌になる
分かっていたことではあるが心を鍛えなおさねばならないな
●その名を呼ぶひと
静寂が満ちる異空間に、雪は立っていた。
その数歩先には自分によく似た影が佇んでいる。息を呑んだ雪はかの姿を自らの青い瞳に確りと映して、その影を呼ぶ。
「母さん……」
優しい微笑み浮かべている影は雪の母親の形を取っていた。
体が弱く、雪が幼いころに死んだ母。
雪自身は写真でしか見たことしかないが間違いなかった。それは紛れもなく、自分の中にある記憶から読み取られたものだ。
『雪……会いたかった』
母の影はとても穏やかな声でそう告げた。
その声は聞き覚えのないものだが、もし母が生きていたらこうだったのだろうと雪が想像する通りの声色だった。
かみさまは、理想の偶像の姿になる。
そうなると自分は母の理想を抱いていたことになるのか。母親のいる家庭で普通の生活を送ることに憧れていたからだろうか。
原理と理由を事前に聞いていたが、実際にこうして目にすると妙な感覚が巡った。
動揺しているのだと自分でも分かっている。
そんな雪に向け、母の姿をしたものは語りかけてきた。
『雪は今までよく頑張ってきたわ。もう、戦わなくていいから……』
「……」
雪は答えない。
だが、此方の返答を待つことなく影は更に言葉を紡ぐ。
『自分から人を遠ざけて、無理にひとりぼっちでいなくても良いのよ』
「……、」
『これからは一緒にいてあげる。あなたを、救ってあげるから――』
影はただひたすらに優しい。
甘言とはこのことなのかと感じた雪は頭を振り、母めいた何かから一歩遠ざかる。
「その姿と声で喋らないでくれ」
私の弱い部分が出てきてしまうのだとは言えず、雪は無意識に残雪の名を抱く刀の柄を握り締めた。
戦わなくていい。それはつまり、この刃を手にする必要もなくなるということだ。
迷いと不安が雪自身を押し潰そうと迫ってくる気がした。
だが、きっとこれは乗り越えるべき試練だ。母の姿を斬ることに抵抗はあるが、いつまでも此処で迷っている暇はないことも解る。
雪は目を閉じる。精神を集中させ、残雪を鞘から抜き放った。
――私は魔を斬り捨てる刃にならねば。
瞼は閉じたまま、相手の気配だけを呼んで刃を薙いだ。その瞬間、慥かな手応えを感じると共に幽かな声が耳に届いた。
『雪……』
「母、さん……」
はっとして目を開けた時、影は消え去り、空間が歪んでいった。
やがて異空間だった場所の景色は現実の学園に戻っていく。これでかみさまの分体は消え去り、力を削ぐことが出来た。
しかし、まだ心は乱れている。偽物とはいえ母の姿をしたものを斬ってしまったことは雪にとって重くのしかかる事実だった。
己の未熟さが嫌になる。
雪は手にしていた残雪の刀身を見つめながら無言で俯いた。
分かっていたことではあるが己は魔を祓う者としてはまだまだ。心を鍛えなおさねばならないと感じながら、雪は刃を鞘に収めた。
大成功
🔵🔵🔵
リグレット・フェロウズ
ミーユイ(f00401)と
……これは……寮?
私たちの暮らす、止まり木
談笑し、付き合いの悪い私を呼ぶ住人たち
赤い瞳の寮の主
気優しい癖に不器用な茶飲み友達の青年
たった今まで隣にいたはずの蝙蝠女
……ああ、そう。そういうこと
私が今「傷つけたくないもの」は、喪った家族でも、特定の誰かでもなく……
この空気そのものだと……そう言うのね
不愉快。とても、不愉快だわ
この脚に、怒りを込めて。――真っ直ぐ、地面に振り下ろす
場に罅を入れ、焼き払うだけなら、容易いことだわ
――得意分野だと、言ってもいいくらい
いるのでしょう?
綻び一つあれば――歌声が響くには、十分よ
その歌を聞けば――少しくらいは、この気分も晴れるかしらね
ミーユイ・ロッソカステル
リグレット(f02690)と
……ここは、家?
私達が、暮らしている。
誰よりも子供のようでいて、その実皆を導く年長者たる青い妖精と
端正な容姿の、瞳を伏せた人形の少女と
そして、ついさっきまで隣にいたはずの、性悪女。
――ずいぶんと、甘い夢を見たものね、私。
生家の思い出ではなく、この光景が浮かんだのは……それだけ、得難いものだと感じていたということ?
ええ、ええ。確かに、そうかもしれないわね。――けれど。
そんな事を、オマエにわざわざ言われる筋合いなどなくてよ。
そんなまがい物の世界は、塗り替えてあげる。
紛れもなく、お前は私の敵なのだから――!
いるんでしょ? そこに。
聞こえるなら、さっさと応えてみせなさいな。
●大切な景色
「……これは……寮?」
「ここは……家?」
殆ど同時にリグレットとミーユイの声が異空間に響いた。
通常であれば海の底のような景色が広がる異空間は二人の魔力を取り込んで変異したのか、本来ならば現れることのない光景を映し出している。
そして二人は同じ場所にいながら、違うものを瞳に映していた。
自分達が暮らす、止まり木。
其処に見えるのは談笑し、付き合いの悪い自分を呼ぶ住人たち。
赤い瞳の寮の主。
気優しい癖に不器用な茶飲み友達の青年。
そして、たった今まで隣にいたはずの蝙蝠女。
リグレットは訝しげな視線を向けていた。何故なら、今の状況で此処にそれが見えるはずがないのだから――。
同様にミーユイも似て非なる幻を見ていた。
誰よりも子供のようでいて、その実皆を導く年長者たる青い妖精。
端正な容姿の、瞳を伏せた人形の少女。
そして、ついさっきまで隣にいたはずの性悪女。
ミーユイもまた、少しばかり呆れたような目を其処に向けている。分かっているのは、今の状況でこれは有り得ないということ。
リグレットは軽く溜息をつく。
「……ああ、そう。そういうこと」
この空間を作るかみさまとやらは、自分が今最も傷つけたくないものを見せる。
だが、喪った家族でも特定の誰かでもなく、この光景が見えるということは――。
「私が、壊したくないものは……」
この空気そのものだと、そう言っているのだろう。
不愉快だ。とても、不愉快だった。
だからこそリグレットはあたたかな光景を壊すことを決めていた。ただこの脚に、怒りを込めて――真っ直ぐ、地面に振り下ろす。
場に罅を入れ、焼き払うだけなら容易いことだ。
破壊は得意分野だと言ってもいいくらい。見る間に幻影空間は綻び、これまで見えていた幸せな世界が崩れ始める。
それと同じくして、ミーユイも状況をしかと理解していた。
「――ずいぶんと、甘い夢を見たものね、私」
かみさまの力はは自分に呼応し、最も傷つけたくないものとして現れた。
生家の思い出ではなく、この光景が浮かんだ理由は、それだけミーユイがあの景色や人々を得難いものだと感じていたということだ。
「ええ、ええ。確かに、そうかもしれないわね」
頷いたミーユイは納得する。同時に、けれど、と首を横に振ってみせる。
「そんな事を、オマエにわざわざ言われる筋合いなどなくてよ」
凛と宣言したミーユイ花唇をひらく。
そんなまがい物の世界は、塗り替えてあげる。
紛れもなく、お前は私の敵なのだから。
途端にミーユイが紡ぐ歌声が異空間内に響き渡り、そして――。
「――いるのでしょう?」
「――いるんでしょ? そこに」
二人の声と意志が重なり、綻びた空間がひとつに混じり合った。視界が暗転した瞬間、ミーユイの瞳にはリグレットが、リグレットの瞳にはミーユイの姿が映る。
「その歌……いえ、何でもないわ」
リグレットはミーユイが響かせる歌によって気分が僅かに晴れていくような感覚をおぼえていた。ミーユイは歌い続け、視線だけをリグレットに向ける。
さっさと応えてみせなさいな、なんて語るような彼女からの眼差しを受けたリグレットは嫋やかに頷き、己の力を更に巡らせていく。
そうして、悪役令嬢の断罪はその空間ごとすべてを破壊し尽くした。
後に残るのは幽かな邪神の気配。
やがて現実世界に戻った二人は静かな意思を交わし、自分達がすべきことは終えたのだと確かめあった。
間もなく、この学園から邪神は完全に消え去るだろう。
そう確信しながら、彼女達は深く巡る夜の色に眸を向けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シノ・グラジオラス
リナ(f04394)と一緒に
一瞬「かみさま」がリナに見えるが、繋いだ掌の感覚に
直ぐに俺を庇って死なせてしまった雪狼の人狼のセス(※参照:宿敵)に代わる
何度も彼女から偽りの赦しを得て、その度に跳ね除けてきたが…
まだ引き摺ってるとは俺も相当だな
彼女を好きだった。けど、告げる間もなく喪う事しかできなかった
今もその赦しに身を委ねて楽になりたくなる
けど、リナも一緒にはダメだ
(自分に似た父親の姿のリナのかみさまを見据え)アンタが本物の親父でもリナは譲れない
攻撃は【襲咲き】に『捨て身の一撃』を乗せて一息に
ダメージは全て『激痛耐性』で耐える
セス、ごめんな
アンタとの約束は、俺に生きてと願った、アレが最後だ
木槻・莉奈
シノ(f04537)と
見えるのはシノの父親で、自分を猟兵として鍛えてくれた師
※呼び名は師匠(せんせい)
…確かに師匠は理想の男性だし理想のパパだけど…理想だからこそ、わかるわよ
師匠はそんな事言わないわ
私が自分で選んだ道を、否定なんてしない
(伸ばされる手はあっさり払いのけつつ
(シノが見た姿に、一瞬だけ視線を伏せ
…お生憎様ね、かみさま
私もシノも、ここには残らない
……これ以上シノを惑わせるような事言わないで、偽物のくせに
『高速詠唱』『全力魔法』に炎の『属性攻撃』をのせた【神様からの贈り物】
※リナとセスに面識はなし、名前だけ知っている。シノにとって大切な人、その人の為に死にかねないのは気付いている状態
●過去と理想
飛ばされた異空間内、目の前に現れた影。
シノと莉奈。二人に対し、一体ずつ対応するようにその影は揺らめく。
一瞬、シノにはその影が莉奈に見えた。
「……!」
「シノ?」
だが、彼女の声がすぐ隣から聞こえ、繋いだ掌の感覚が巡ったことでシノがはっとする。莉奈に見えていた影はそれによってぐにゃりと歪み、違う姿に変わった。
そして、二人の前に立つ影は其々に語る。
『もう戦わなくてもいい』
『おいで、約束をしよう』
シノの前にいる片方の影は雪狼の人狼、セスの姿。
そして莉奈の前に佇む影はシノの父親の姿をしている。
彼らはシノと莉奈を其々に見据えていた。ならば互いの相手は自分で担わねばならぬと感じ、二人は其々に視線を向ける。
シノはセスの姿をしたものを暫し見据えていた。
自分を庇って死なせてしまった雪色の人狼は優しい表情を宿している。それはかみさまが変じたものであるからか、それがシノの理想であるからなのかは不明瞭だ。
これまでも、何度も彼女から偽りの赦しを得て、その度に跳ね除けてきた。
しかし、駄目だな、と呟いたシノは頭を振った。
「まだ引き摺ってるとは俺も相当だな」
彼女を好きだった。
けれど、告げる間もなく喪う事しかできなかった。そう感じる最中、セスの幻影がそっと口をひらいた。
――赦しをあげる。
そんなことを言葉にする相手を見つめ、シノは胸の奥に痛みを感じる。
同様に莉奈も師匠と呼んだ人の影を瞳に映していた。
シノの父親は自分を猟兵として鍛えてくれた師だ。せんせい、と親しみを込めて呼んだ彼との記憶が読み取られ、形になっているのだろう。
「……確かに師匠は理想の男性だし理想のパパだけどね」
理想だからこそ、わかる。
――もう、戦いに身を投じなくてもいい。
そんな風に語りかけてくる師匠なんて、師匠本人であるはずがない。
「師匠はそんな事言わないわ。あの人は私が自分で選んだ道を、否定なんてしない」
戦いを選んだ莉奈に、もういいと云う。
それはかみさまなりの甘言なのだろうが、莉奈にとっては響く言葉ではなかった。師匠の姿をしたものをしたそれが莉奈に手を伸ばす。
その手を取れば、受け入れたことになるのだろう。だが、莉奈は相手の手はあっさりと払いのけた。
そして莉奈はシノが見ている姿に、一瞬だけ視線を伏せる。
「お生憎様ね、かみさま」
絶対に自分もシノもここには残らないことだけは、はっきりと分かっていた。
だからもう何も云わせない。
ただの紛い物の姿で、記憶と同じ声で甘い言葉を語らせたりはしたくない。
「……これ以上シノを惑わせるような事言わないで、偽物のくせに」
凛と告げた莉奈の声を聞き、シノは拳を握った。
今もその赦しに身を委ねて楽になりたくなる。けれども、莉奈も一緒にいる今はそんなことは駄目だ。
シノは自分に似た父親の姿をした莉奈のかみさまを見据えた。
「アンタが本物の親父でもリナは譲れない」
そう宣言したシノはセス達に向けて燎牙を構える。同時に莉奈も師匠へ視線を差し向けた。シノが襲咲きの力を顕現するべく血を喰わせていく中、莉奈が薄花桜を掲げる。
シノは再びセスの姿を見つめていた。
その横顔をちらと見遣った莉奈はセスという人を知らない。それでも彼にとって大切な人であり、その人の為に死にかねないのは気付いていた。されど何も言わず、莉奈は自分の理想を映す影に目を向けた。
「師匠はこんなところには居ないわ」
想う人の形を取り、惑わせるものなど神様などではない。
莉奈は淡い青紫の刀身を掲げ、其処に全魔力を注ぐ。次の瞬間、茉莉花が周囲に舞って戦場に広がった。
花々が紛い物の影を穿つ中、莉奈は彼の名を呼ぶ。
「シノ、お願い」
ああ、と頷いたシノは莉奈が作ってくれた好機を最大限に利用するべく黒剣の力をひといきに解放した。
「セス、ごめんな」
――アンタとの約束は、俺に生きてと願った、アレが最後だ。
思いを胸に秘めたシノは刃を振り下ろした。黒剣でセスの影を貫き、次は父親の姿をした影へ向かう。其処へ更に莉奈が動く。
「過ぎ去りし日は戻らぬ幻想。過去は過去へと、還りなさい」
莉奈が放つ茉莉花が舞い、敵の視界を塞いだ。
その瞬間を狙ったシノが燎牙を一気に薙ぐ。
刹那、影は完全に消え去り、二人が立っている異空間に亀裂が走った。
周囲の景色が歪み、現実の学園の光景が見え始める。きっとかみさまの分体を倒した故に異空間から戻れたのだろう。
シノと莉奈は頷きあい、自分達の戦いが終わったと感じる。
「リナ、大丈夫だったか?」
「シノこそ平気?」
見慣れた学園の中、二人は互いの無事を確かめあった。未だ少し邪神の気配は残っているが、異空間に飛ばされた猟兵がすべて敵を倒せばきっと、完全に終わる。
もうすぐこの学園に平和が戻ってくる。
そう感じた二人は頷き、静けさに満ちた学内をそと見つめた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
筧・清史郎
らんらん(f05366)と
らんらんの前に現れた人物にまず視線を
…前に少し話を聞いた、らんらんの昔の色好い女性か?
彼女には干渉せず、友と虚に任せよう
…さて、と
最近貴方の姿を視るようになったので、粗方予想はしていたが
眼前には書生姿の端正な容姿の人物
ああ、らんらんには話していなかったか
あの人は俺の最後から2番目の所有者だ
桜咲く世界では有名な小説家のようだな
そして…桜の匣に心囚われた、可哀想な人だ(薄く笑み
ああ、とらんらんへ返し、蒼桜綴を抜き
かみさまとやらの創造した紛い物と分かってはいるが
さぁ、この俺の手で解き放ってやろうか、主
つくづく桜から逃れられないのだな、貴方は
(ふっと笑みつつ躊躇なく斬り伏せる
終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と
さて現れた輩は…
やじゃなぁ、その姿は心に僅かに蟠るものを擽る
わしを救うた女は小さくか弱く強い女じゃった
が、わしはもう汝の助けはいらん
死したものに縋るほどやわくはない
汝が色々と教えてくれて、救われた
それでいい
まがいものに用は、ない
まがいものじゃが汝から預かった虚とも会わせ…封を払う程気に食わんようじゃ
虚、虚、まがいものがそんなに…まぁ、ええか
好きにせぇよ
知らぬもう一人はせーちゃんの誰か
問いはせず、心配もせず
友が迷うことないのは知っておるから
せーちゃんと一声かけて
息合わせ虚で絡め砕いてしまおう
わしと汝は恋にはならんかった、けれど――
いや、その先の言葉は飲み込んでおこう
●もうひとつの噂
眼前に現れた影は、懐かしい姿をしていた。
嵐吾は異空間内に見える二つの影のうち、ひとつを見据える。
「やじゃなぁ、かみさまとやらは」
映し出されたその姿は心に僅かに蟠るものを擽った。それは嘗て、嵐吾を救ってくれた小さくか弱くも強い女性だった。
清史郎も嵐吾の前に現れた人物に視線を向け、軽く首を傾げる。
(……前に少し話を聞いた、らんらんの昔の色好い女性か?)
しかし清史郎は彼女には干渉せず、友と虚に任せようと決めた。
「さて、と。最近貴方の姿を視るようになったので、粗方予想はしていたが……」
清史郎は視線を自分の前に向ける。
其処には書生姿の端正な容姿の人物が立っていた。嵐吾も清史郎の前の人影をちらと見遣り、気にしている様子だ。
そのことに気付いた清史郎はそっと口をひらいた。
「らんらんには話していなかったか。あの人は俺の最後から二番目の所有者だ」
彼曰く、彼は桜咲く世界では有名な小説家らしい。
「ふむ、所有者とな」
「ああ。桜の匣に心を囚われた、可哀想な人だ」
薄く笑んだ清史郎は彼を見据えた。
嵐吾も自分の影に瞳を向ける。すると女性と小説家は口々に甘言を向けてきた。
――救ってあげる。
そんな言葉を其々の声と口調で語る影は二人に腕を伸ばしてくる。
その手を取り、受け入れればかみさまの支配下に置かれるのだろう。だが、嵐吾も清史郎も腕を伸ばし返す心算はない。
嵐吾は女性に向けて首を横に振る。
「わしはもう汝の助けはいらん、死したものに縋るほどやわくはないでの。じゃが……」
汝が色々と教えてくれて、救われた。
その思いを抱いていることは確かだ。それでいい、と己を律した嵐吾は言い放つ。
「まがいものに用は、ない」
「方を付けようか」
嵐吾の声に清史郎が頷き、蒼桜綴を抜いた。
それと同時に嵐吾は夜天桜嵐をひらき、虚の主を招いていく。
「まがいものじゃが汝から預かった虚とも会わせよう。うむ、封を払う程気に食わんようじゃ。虚、虚、まがいものがそんなに……まぁ、ええか」
好きにせぇよ、嵐吾が告げれば地を這う影の黒茨が蠢き、影に向かっていった。
されどそれを差し向けるのは女性の方だけ。
清史郎に相対する影には手を出さぬのは、友が迷うことないのは知っているからだ。
「せーちゃん、往くぞ」
「ああ、らんらん」
敵は誘うばかりで明確な攻撃はしてこない。
かみさまとやらの創造した紛い物と分かってはいるが、その姿をしているのならば各々の手で屠るのみ。
「さぁ、この俺の手で解き放ってやろうか、主」
ふっと笑んだ清史郎は躊躇なく、嘗ての所有者の姿をしたものを斬り伏せた。
蒼き刀の斬閃が振り下ろされる中、嵐吾も彼と息合わせ虚で影を絡めとった。砕いてしまおう、と嵐吾が双眸を鋭く細めれば黒茨が標的を覆う。
刹那――虚と刃、其々に貫かれた二つの影が崩れ落ちるように消え去った。
所有者だったもの。
救いを与えてくれた彼女。
「つくづく桜から逃れられないのだな、貴方は」
「わしと汝は恋にはならんかった、けれど――」
清史郎は所有者を思い、嵐吾は紡ぎかけた言葉を飲み込む。すると異空間が大きく揺らぎ、周囲の光景が学園のものへと戻ってゆく。
気付けば二人は屋上に立っていた。
「終わったの、せーちゃん」
「らんらん、何ともないようで良かった」
夜風が彼らの間に吹き抜けていく。これで自分達の役目は果たしたとして、清史郎と嵐吾は頷きあった。間もなくすれば邪神の支配からこの学園も解放される。
色々あったな、と口にした清史郎に嵐吾は首肯する。
「教師としての生活に、学園探索に、様々なことがあったの」
「そうだな、貴重な時間だった」
「そうじゃ、せーちゃん。三度も階段でおどかしおって……」
「うん? 手をスーッとしたのは二度しかないが」
「……二度、しか?」
嵐吾が話した探索時のことに首を傾げる清史郎。思わず唖然とする嵐吾。だが、清史郎はもうからかってはいないようだ。
だったらあの時、何の手が嵐吾に触れたのか――。
その先を考えるのは、止めた。
そうして二人は屋上から学園を見下ろし、間もなく戻るはずの平穏に思いを馳せた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
🐟櫻と人魚
アドリブ歓迎
無事だよ櫻
笑顔に安堵し目をやる先には
綺麗な脚の女性と立派な大人の皇帝ペンギン
あれは僕…ペンギンはヨル?
「人間の女性だったら」そんな空想
人間だったら君と連添うのに何も不自由はない
身分があれば君の家にだって認められる
女性だったら君のこどもだって
なんてやめて
邪な理想を暴かれた様で恥ずかしい
隣の凛々しい陰陽師は櫻?
嗚呼なるほど
君の理想
確かにかっこいい
けど
僕は情けなくてどうしようもなくて目が離せない櫻宵が好き
櫻、女の僕に色目使ったら尾鰭ビンタだからな!
今の君とじゃなきゃこの幸せはない
歌う「春の歌」
理想の夢は僕の胸の内に眠らせて
僕は僕でいいと言ってくれた
だから僕は僕に誇りを持つんだ
誘名・櫻宵
🌸櫻と人魚
アドリブ歓迎
リル、ヨル無事?!
安堵したのもつかの間
目の前に現れたのは―やっぱり
陰陽師として誘七の当主として大成した私
男の姿のまま朗らかに笑って
この人は正しいのだと見ただけでわかる
血に穢れた
人喰いの悪龍とは違う
清らな青龍
見せたくない
あっちの方がいいに決まってる
隣のお嬢さんはリル?
そんな事を…リルはリルよ
そのままのリルがいいの
もう馬鹿ね
全て私が引き受けようだなんて
巫山戯てる
あたしは無様にもがいて恥辱に血に塗れてやっと今の幸せを掴んだの!
そうありたかった
そうなれなかった
だからもうその話は終いよ!
正しさを喰らえば私もそうなれるかもしれないわ?
放つは『絶華』
首を頂戴
撥ねて喰らってあげるわよ!
●今という刻
海の底のような深く暗い世界。
自分がそんな場所に立っていると気付いた櫻宵は咄嗟に愛しい者達の名を呼ぶ。
「リル、ヨル無事?!」
「無事だよ櫻」
リルは笑顔を見せ、何ともないと互いに確かめあった。
安堵したのも束の間。
前方に二つの影が立っていることが分かり、リルと櫻宵は其方に目を向ける。そんな中、ヨルはぴゃっとリルの後ろに隠れて様子をうかがった。
「あれは僕……ペンギンはヨル?」
「――やっぱり」
リルは首を傾げ、櫻宵は予想通りだというようにその影を見据える。
片方は綺麗な脚の女性と立派な大人の皇帝ペンギン。
もう片方は男の姿のまま笑う、誘七の当主として大成したらしき櫻宵。
朗らかに笑う彼はひと目で、この人は正しいのだとわかる。血に穢れた人喰いの悪龍とは違う、清らな青龍。
櫻宵が唇を噛み締める中、リルも自分とヨルの理想が具現化した影に目を奪われていた。それはもし自分が人間の女性だったら、というそんな空想の産物。
「あれはリルなのね?」
「……隣の凛々しい陰陽師は櫻?」
櫻宵が問うと、頷いたリルも女性である自分の隣にいるのが彼の理想なのだろうと感じ取る。すると、リルの影が唇をひらいた。
『人間だったら、君と連添うのに何も不自由はない。確かな身分があれば君の家にだって認められる。女性だったら、君のこどもだって――』
「……やめて」
邪な理想を暴かれたようで恥ずかしくてリルは俯いてしまった。
影の声を聞いた櫻宵は首を横に振る。
「そんな事を……リルはリルよ。でも……あたしだって、あなたにあんな姿は見せたくないわ。だって――あっちの方がいいに決まっているから」
櫻宵は男の影を見据え、僅かに瞳を伏せた。
リルは顔を上げて二人の櫻宵を交互に見比べる。君の理想は確かにかっこいい、けれどあっちの方が良いだなんてリルには感じられなかった。
「違うよ、櫻」
ふるふると首を振ったリルは隣の櫻宵に目を向ける。何が違うのかと瞬く櫻宵にリルは真っ直ぐに告げた。
「僕は情けなくてどうしようもなくて目が離せない櫻宵が好き」
「まあ……あたしだって、そのままのリルがいいの」
もう馬鹿ね、と愛しげに双眸を細めた櫻宵はリル自身にも告げ返す。
そのとき、男の櫻宵が口をひらいた。
『全て私が引き受けよう』
そして櫻宵の影は女性のリルを抱き寄せる。はっとしたリルと櫻宵本人は奇妙な感覚が裡に巡っていくことを感じていた。
違う。きっと、あんなのは違う。
リルは思う。男の彼が女の僕に色目を使っている。そんなのは尾鰭ビンタをくらわせてやりたい程にむかむかする。学園で櫻宵先生と生徒達が話していたときより、比べ物にならないほどの違和感があった。
そんな思いを感じているのは櫻宵も同じらしく、影に言い放つ。
「巫山戯てるわね。あたしは完璧じゃないけど、無様にもがいて恥辱に血に塗れてやっと今の幸せを掴んだの!」
「そうだよ、今の君とじゃなきゃこの幸せはない。だから――」
櫻宵の声に頷き、リルは花唇をひらいた。
歌うのは春の歌。
心に咲く薄紅を風に委ねて、桜を纏う君を想う。理想の夢は己の胸の内に眠らせて、リルはただ櫻への歌を響かせてゆく。
その聲を聞き、櫻宵は屠桜を抜き放った。
そうありたかった。
でも、そうなれなかった。
理想の偶像を映すかみさまの世界なんて、リルも櫻宵も受け入れる気はない。
「ええ、だからもうその話は終いよ! それに、あの正しさを喰らえば私もそうなれるかもしれないわ?」
首を頂戴。
落とされた声と共に櫻宵は在り得なかった姿を模る影へと刃を向けた。
「さあ、撥ねて喰らってあげるわよ!」
リルの歌声が響き渡る中、櫻宵が放つは絶華の一閃。その刃が影を祓ったと同時にリルも歌から花吹雪を散らせていった。
――君は、僕は僕でいいと言ってくれた。だから僕は僕に誇りを持つんだ。
泡と桜が舞い、影を覆う。
その瞬間、邪神の気配が揺らいで消えた。影は跡形もなくなり、異空間に残されたのはリルと櫻宵だけ。
「終わったの、かな……?」
「そうみたいね。さあ、リル。ヨルもいらっしゃい」
辺りを見渡すリルを呼び、櫻宵は自分の背に彼らを招いた。そして櫻宵は屠桜を構えて空間の綻びに目を向ける。刹那、彼の一閃が空間ごとすべてを斬り裂いた。
その向こうには通い慣れた学園の景色が見える。
振り返り、掌を差し出した櫻宵はリル達に向けて優しく微笑んだ。
「帰りましょ、あたし達の世界に」
「そうだね。今の僕と櫻が、出会った世界に――」
その手をしっかりと握り返したリルも淡い笑みを浮かべ、幸せそうに眸を細める。思えば皇帝ペンギンなヨルも良かったけれど、今だって十分に素敵だから。
やっぱり君は、きみのままがいい。
そう告げるように二人は互いの掌を握り、指先を絡めた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メドラ・メメポルド
かみさま
かみさま
……ほんとうに?
口から泡がこぼれていく
白い花の中にあなたがいる
わたしの、だいすきなひと
ボス、わたしを飼ってくれていたやさしいひと
殺されてしまったかなしいひと
ねえ、ボス
メドの願いを叶えてくれるのなら
あなたのすべてをくださいな
メドのお腹をみたしてください
あなたがしんだあの日のように
弱いあなたを、強いわたしが食べるの
ブラッド・ガイスト
青い月を血で染めて、本当のわたしになる
ひとかけだって残さず食べるから
ちょうだい
……ほんとはね、しってるの
ボスはパパをかみさまだって言ったわ
ママが死んだら泡になって消えちゃったって
あなたがパパだったのかしら?
まあ、どうでもいいわ
……おなかはすいたままだもの
●いただきます
昏い海の底を思わせる不思議な世界。
其処に立っているのはメドラともうひとりの影。
かみさま。
かみさま。
「……ほんとうに?」
メドラが問いかけると、口から泡がこぼれていく。
足元に咲いている白い花の中に、あなたがいる。かみさまの影が形取ったのはメドラが大切だと思っていたひと。
――わたしの、だいすきなひと。
そのひとはボス。メドラを飼ってくれていたやさしいひと。
けれど、殺されてしまったかなしいひと。
組織に観賞用として飼われていた過去を思い返し、メドラは仄かな緑の眸をゆるゆると細めた。そして目の前の影に呼びかける。
「ねえ、ボス」
その声に影は答えた。
嘗てのボスと同じ声と言葉で、助けてやると嘯いていく。
メドラは幾度か瞬き、ボスの姿をしたものに話しかけた。
かみさまは理想を見せてくれるという。きっとそれは自分の抱く願いを叶えてくれるということ。だったら、とメドラはそっと願う。
「メドの願いを叶えてくれるのなら、」
あなたのすべてをくださいな。
メドのお腹をみたしてください、あなたがしんだあの日のように。
弱いあなたを、強いわたしが食べるの。
影に歩み寄ったメドラはゆっくりとそう告げていく。
そして、カトラリーを掲げたメドラは自らの血を滴らせた。青い月を血で染めれば、メドラは本当の自分になれる。
ボスの影へと歩み寄り、ゆっくりと近付いていくメドラは告げていく。
「ひとかけだって残さず食べるから」
――ちょうだい。
その声が昏い世界に響いた刹那、影は喰らわれた。
ぱくりと跡形もなく食べてしまったことで影は消え、懐かしかった声も聞こえなくなってしまった。メドラは自分以外に誰も居ない空間をぼんやりと眺める。
かみさまが映した影を消せば、異空間から脱せるのだと思っていた。けれども、何故かこの空間は消えてはくれない。
「……だあれ?」
メドラはこの空間の何処かに違う何かがいると感じた。
まだ、おわっていない。
そんなことを感じたメドラはそっと、深海めいた世界を見渡した。
大成功
🔵🔵🔵
岡森・椛
【秋鴉】
渦から抜けて…鵜飼先生もアウラも鴉さん達も側にいて安心
大丈夫です!
でも目の前に他の誰かがいる
長いお髭の、優しそうなおじいちゃん
まるで孫を見つめるような穏やかな眼差しでこちらを見ている
「よく頑張ったね」
「疲れているだろう?ゆっくりしていくといいよ」
あなたがかみさま?
…鵜飼先生どうしましょう、こんな人の良さそうなおじいちゃんを攻撃できな…
え、先生には全然違う人に見えてますか…?
とても不思議と、首を傾げて
でもかみさまはこんな場所にいない
きっともっと遠くから見守ってくれてるの
アウラと力を合わせて、鵜飼先生の音色に耳を澄ましながら【常初花】で花を降らせる
秋の花と蝶に包まれて
『かみさま』さようなら
鵜飼・章
【秋鴉】
皆大丈夫だった?
誰もはぐれていなくて良かった
…
うん、そうだね
誰かいる
口には出さないけれど
僕には何も見えないし聞こえない
違うな…『透明な敵がいる』
成程ね
僕は神を信じてないからこうなるのか
ふふ
岡森さんには優しそうなおじいさんの『かみさま』が見えるんだ
それは確かにやりづらいね
彼女の人の善さが滲み出た言葉には思わず微笑んで
そうだね…
僕には違う人が見えるよ
目のつり上がったすごく意地悪そうなおじいさん
岡森さんには優しいかみさまが見えるなら
きっとそっちがほんとうだ
うん、こんな所にはいない
さて、神様からの宿題をしようかな
【無神論】
我ながら全然上達してない
秋の花には秋の蝶を添えて
ごきげんよう『かみさま』
●見えた者、視えぬ物
異空間へと誘う渦から抜けた先。
海の底を思わせる深くて昏い世界に放り出された章と椛。顔を上げた二人は、何よりも先に同行者達の無事を確認した。
「皆大丈夫だった?」
「大丈夫です!」
章の声に椛が答え、互いに安堵する。
アウラと鴉達もすぐ傍に居た為に誰も逸れていないようだ。椛がアウラのちいさな手を握る中、アウラは鴉達の翼に触れていてくれたらしい。
ほっとしたの束の間、椛は自分達の目の前に誰かがいることに気付いた。
「見てください、誰かが……」
「……。うん、そうだね。誰かいる」
椛が前方を指差すと、それよりも先に気配に気付いていたらしき章が頷く。
一歩後ずさりそうになった椛だが、その輪郭がはっきりと見えてきたことでその足を止めた。今、椛の目に映っているのは老人だ。
長い髭の、優しそうなおじいちゃん。
彼はまるで孫を見つめるような穏やかな眼差しで椛を見つめている。
『よく頑張ったね』
「ええと……」
優しい声で告げてくる老人に戸惑い、椛は上手く答えられずにいた。すると老人は更に言葉を続け、おいでと示すように手招く。
『疲れているだろう? ゆっくりしていくといいよ』
「あなたがかみさま?」
問いかけてみても老人はにこにこと笑っているだけだ。其処には穏やかな雰囲気が満ちており、毒気を抜かれてしまいそうになる。
「鵜飼先生どうしましょう、おいでって誘われています」
「そうか、難しい相手だね」
答える章の声を聞きながら椛はとても不思議な状況だと首を傾げてしまう。
そんな中、章は僅かに肩を竦めた。
誰か。
先程はそう答えたのだが、章には何も見えていなかった。口には出さないでいたが椛の言っているような声も聞こえていない。
いないとは感じていない。ただ、透明な敵がいることだけが解る。
(成程ね。僕は神を信じてないからこうなるのか)
椛に心配をさせぬよう、胸中でだけ考えを巡らせた章は神経を集中させた。
「こんな人の良さそうなおじいちゃんを攻撃できません……」
「ふふ、岡森さんには優しそうなおじいさんの『かみさま』が見えるんだ。それは確かにやりづらいね」
それが彼女の人の善さが滲み出た言葉だと感じ、章は思わず微笑む。椛は彼の言葉を聞き、或ることに気が付いた。
「え、先生には全然違う人に見えてますか……?」
「そうだね……僕には目のつり上がったすごく意地悪そうなおじいさんに見えるよ。岡森さんには優しいかみさまが見えるなら、きっとそっちがほんとうだ」
そして、章は何事もないようにさらりと嘘を吐いた。それに気付かぬ椛は別々の物を見ている状況をどうにかしなければならないと決意する。
老人は尚も優しく椛を見つめ続けていた。
『戦わなくてもいいんだよ、ほら』
その手が椛に向けて伸ばされた。たったひとりであったならばその優しさに絆されて、手を伸ばし返していたかもしれない。
だが、今はひとりではない。
ささやかで愛しくも思える学園生活を共に送り、真夜中の校内を一緒に探索し、こんな異空間まで一緒に来てくれた、鵜飼先生が傍にいる。
椛はそっと口をひらいた。
「でもかみさまはこんな場所にいない……」
「うん、こんな所にはいない」
章もその言葉に頷きを返し、かみさまの影を倒すべきときが来たと察する。
「かみさまは、きっともっと遠くから見守ってくれてるの」
椛は自分なりの答えを出したことで章も身構えた。椛がアウラを傍に呼ぶ中、章は虚無の笛を鳴らしていく。
「さて、神様からの宿題をしようかな」
我ながら全然上達してないな、なんてことを思いながらも響かせる音。
椛は杖に変化したアウラと力を合わせ、彼が紡ぐの音色に耳を澄ます。老人と見えない影はただ其処にずっといるだけ。
優しいお爺さんを屠るのは椛にとって心苦しかったが、あれは紛い物だとも知っている。椛は己の力を紡ぎ、秋の花を周囲に顕現させていく。
撫子、桔梗、秋桜。
今を彩るに相応しい花々が音色に合わせて広がった。
そして、章が解き放った秋の蝶が花と共に戦場に舞い上がる。その瞬間、かみさまの影は彩りに覆われていった。
迸る花と蝶は淡い軌跡を残して消えていく。
まるで季節の花々に葬送されるかのように、邪神の姿も消失していった。幻想的にも見える光景を見つめ、椛と章は其々にかみさまへの言葉を送る。
「……さようなら」
「――ごきげんよう」
章の言葉にはたとした椛は気付く。
学園の挨拶であるその言葉もまた、別れの挨拶になるのだということを。
やがて異空間が揺らぎ、その向こうに見慣れた学園の景色が見えはじめた。かみさまの分体を倒したことで戻れるようになったのだろう。
教師と学生である時間も此処で終わり。けれどもせめて学園に戻るまでは、先生と生徒でいよう。そう確かめあうように二人の視線が重なった。
椛は其方へと歩を進め、章をいざなって手を伸ばす。
「帰りましょう、鵜飼先生」
「そうだね。戻ろう、僕達の学園へ」
また逸れないように、とそっと椛の掌を取った章は静かに微笑んだ。
一足先に鴉達が学園に繋がる先へ飛んでいく。その後を追い、二人は歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
クロバ(f10471)と
いっしょにいよう
前に、そう声をかけてくれる人に出会った
ひまわり畑で
その女の子は雪のように白い髪とピンクの目をしていて
やさしく笑ってて
わたしはその子のことをシュネーって呼んだ
でも、最後には
ちゃんとさよならしたんだよ
小さい子供の姿だったわたしもあの子も
全部まぼろしで
わたしの名前を呼んでくれたあの子は倒すべき存在で
だけど、やさしかったんだ
だからもう同じことはさせないで
心の中で願うように呟いて
斧を握りしめ
クロバの声
うん、うんそうだね
まもるって言った
クロバもユウゴも
みんな
傷ついてほしくないから
斧を振り下ろす
わたしはこれから先
いきていく人たちをまもるから
だから
やさしいきみはおやすみ
華折・黒羽
オズさん(f01136)と
幾度となく見てきたあの子の幻がまた現れる
じくり痛む心も何度目だろう
現では全く姿を見せてくれないのに、な…
独り言零しオズさんを振り返る
彼も何かと対面しているようだが
俺にその姿は不確かな影のようにしか見えない
視線を戻し己の『かみさま』を見る
─ここでなら、ずっといっしょにいれるよ、くろ
かみさまの声は忘れるはずのない君の声
けれどゆるり、首を横に振る
守りたいものが、あるんだ
世界が違えど友になると言ってくれた傍らの彼
学校で共に過ごした優しい人達
世界を巡る度増える大切な絆
だから、俺はここにはいられない
守りましょう
─オズさん
掛けた言葉と共に駆けた
その刃先を一閃しかみさまにさようならを
●守りたい世界
渦に巻き込まれて落ちた先は海の底にも似た昏い場所だった。
そんな異空間の中、オズと黒羽に影が呼びかけた。
『――いっしょにいよう』
二人が僅かに息を呑み、各々の目の前に居る影を見つめる。言葉は同じでも其々に声も姿も違う。
黒羽の前に立っているのは、あの子。
オズの前に佇んでいたのは雪のように白い髪をした少女。
「……オズさん」
「うん、クロバ」
互いの名前を呼びあった二人は、自分の目前に見えている影に対応すべきだと感じて頷きを交わす。そして彼らは、自らが最も傷つけたくない相手を体現するという敵へと視線を向けた。
雪色の髪にピンクの瞳。
オズはやさしく笑う少女の姿に、いつかのひまわり畑の景色を重ねた。
「シュネー」
あのとき、オズはその子のことをそう呼んだ。
でも、最後にはちゃんとさよならをした。ちいさな子供の姿だったオズもあの子も、全部がまぼろしだったから。
『オズ、もうたたかわなくてもいいよ』
少女が自分の名を呼びながら優しい声で手を伸ばしてくる。
あのときも、あの子は倒すべき存在だった。だけど今みたいにやさしかった。それでも、とオズは少女を見つめる。
――だからもう同じことはさせないで。
心の中で願うように呟いたオズは手にした斧をきつく握り締めた。
同じように黒羽も相対する影を見据えている。
幾度となく見てきたあの子の幻。
まただ、と感じた思いも、じくりと痛む心も何度目だろうか。黒羽はあの子を見つめたまま呟きを落とした。
「現では全く姿を見せてくれないのに、な……」
独り言ちた黒羽はオズの方に振り返る。彼も何かと対面しているようだが、黒羽にはその姿は不確かな影のようにしか見えないでいた。
視線を戻した黒羽は己の『かみさま』を見る。すると相手は穏やかな声を紡いだ。
『――ここでなら、ずっといっしょにいれるよ、くろ』
かみさまの声は忘れるはずのない君の声だ。
懐かしくて、やさしい。
おいで、と伸ばされた手。其処に腕を伸ばしてしまえばもう苦しむことはないのかもしれない。だが、屠を握った黒羽はゆるりと首を横に振る。
「守りたいものが、あるんだ」
「うん、うんそうだね。まもるって言った」
黒羽から零れ落ちた言葉を耳にしたオズが、はっとした。
二人が思い返したのは学園での日々。
世界が違えど友になると言ってくれた傍らの彼。学校で共に過ごした優しい人達。何の為に此処に立っているのかと問われれば、彼等の為だと胸を張って云える。
世界を巡る度増える大切な絆が、この胸に宿っている。
「だから、俺はここにはいられない」
「クロバもユウゴも、みんな傷ついてほしくないから」
黒羽とオズ、二人の意志は重なっていた。
かみさまの影はゆらゆらと揺らめき、彼等に手を伸ばし続けている。されどその手を取ることなど絶対にない。
たとえ愛しくとも、懐かしくとも、それは紛い物でしかない。
「守りましょう――オズさん」
黒羽は言葉を掛けると同時に、あの子の姿を写すものへと駆けた。
オズも其処に続いて斧を振り上げる。
「わたしはこれから先、いきていく人たちをまもるから――」
やさしいきみはおやすみ。
かみさまに、さようならを。
ひといきに振り下ろされた斧刃と屠の一閃が影を貫き穿った。
その瞬間、空間に罅が入っていく。鏡が割れるように亀裂が走り、向こう側に元いた場所の景色が見えた。
「見て、クロバ。としょかんだっ」
戻れそうだよ、とオズが指差した先を見遣った黒羽も同じことを感じて頷く。
「かみさまを倒したからでしょうか。行きましょう」
「そうみたい。ね、クロバ。いっしょにかえろう」
そして二人は共に歩き出した。
守るべきものが待っている、自分達の世界へ――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花咲・まい
【POW】
あれが、かみさま……?
かみさまが私の望む偶像を映すなら、私の目にはきっとおばあちゃんやおじいちゃんに見えているんだと思いますです。
身寄りのない私を育ててくれた、大切な人たちですから。
それは、確かに傷付けたくありません。この太刀を振るうなんて、ぞっとしますです。
でもーーもし本物なら、きっと今の私を叱咤するに違いありませんです。
だから、ずっと此処にいるなんてできませんです!
私の背中を押してくれた大切なひとの姿を騙るとは笑止千万! この拳でぶっ叩きますですよ!
お師様に攻撃が向かう場合は、なるべく庇いますです。
お師様は前に出すぎないよーに! もやしさんなんですからね!
*アドリブなどはお任せ
トリス・ネイサン
分かっていたことだ。
神様なんてのはろくな物じゃない。
あなたには誰も救えやしないさ。ましてや──紛い物は、本物になんてなれやしない。
敵が理想を語るならば、僕はそれを出来うる限りで否定しよう。
救いなんて端から求めてないんだ。僕には必要ない。
……ただ、今はまいもいるからな。
互いに神を騙る紛い物に飲まれないよう留意しよう。声掛けは忘れずに行うつもりだ。
そして2人とも持ち直したなら、それを攻撃のチャンスとしたい。
どうにも前線においては信用を得られていないらしい。
もやしで悪かったな。余計なお世話だ。
……ひとまずは、僕が敵の動きを封じるから、まいが力いっぱい殴ってくれればいいさ。僕の分もな。
*アドリブ歓迎
●救いは彼方に
「あれが、かみさま……?」
異空間の中、まいは自分達の眼前に現れた影に目を奪われた。
かみさま。それは自分達の望む偶像を映す存在だという。トリスは傍らに立つ弟子の様子を窺いながら、その影を鋭く見据えた。
傷つけたくない者や理想を映して偽りの救いを語る。
あれは碌な物じゃない。分かっていたことだとトリスは頭を振る。その傍でまいは僅かに戸惑いを覚えていた。
「おじいちゃん、おばあちゃん……」
彼女には身寄りのない自分を育ててくれた大切な人が視えている。
しかしそれはひとつの影に入り交じるように交互に、歪んで揺らぎながら姿を変え続けている。老人になったと思えば老婆へ。ゆらゆらと不安定な影は不思議だ。
「まい、惑わされるな」
トリスが呼びかけるが、その声に重なるようにして影がまいに呼びかけた。
『おいで、もう何も心配しなくてもいいよ』
「何も……?」
『戦わなくて良いんだよ。さあ、こっちに』
おばあちゃんの姿になったそれがやさしい声で呼びかけた。まいへと伸ばされた手は、戦いを止めていいのだと誘っている。
まいは思わず後ずさり、手にしていた加々知丸を引いた。
この影は確かに傷付けたくないものだ。おじいちゃんやおばあちゃん相手にこの太刀を振るうなんて、ぞっとする。
まいの隣に立つトリスはその光景を黙って見つめていた。
トリスにも救いを与えようという旨の声が聞こえている。しかし彼はそんな言葉など異にも介さない。
「あなたには誰も救えやしないさ」
淡々と答えを返すトリスは、元より神様など信じていない。ましてやそれが邪神だと分かっている以上、出せる答えはひとつしかなかった。
「――紛い物は、本物になんてなれやしない」
救いなど端から求めていないトリスだからこそ、やさしい言葉は必要ない。
トリスの声を聞いたまいは顔をあげる。
そうです、と加々知丸を握り直したまいは大切な人の姿を模しているかみさまを強く睨みつけた。あれはただ姿を真似ているだけ。
そう思い直せば覚悟も決まる。
「もし二人が本物なら、きっと今の私を叱咤するに違いありませんです!」
首を横に振ったまいに対し、影は呼びかける。
『どうして。ここでなら、ずっと一緒に居られるのに……』
その声は何故か幼い子供のものに聞こえた。
きっとそれこそが、かみさま自身が落とした疑問の声なのだろう。まいは太刀を敵に差し向け、凛と宣言する。
「ずっと此処にいるなんてできませんです! 私の背中を押してくれた大切なひとの姿を騙るとは笑止千万! この拳でぶっ叩きますですよ!」
「それでこそだ、まい」
トリスは彼女が強く身構えたことで、此処が好機だと察した。
偽物だとはっきり認識してしまえば後は簡単だ。まいは地を蹴り、かみさまの影に向けて駆け出した。
「お師様は前に出すぎないよーに! もやしさんなんですからね!」
「もやしで悪かったな。余計なお世話だ」
どうやら前線においては信用を得られていないらしいと感じ、トリスは片目を瞑って答える。そして彼は魔導書を軽く掲げた。
其処から現れたのは狂気の具現。
――目を離してはならない。其れはあなたのすぐ傍に在る。
紡いだ託宣によって、見る間にかみさまの影の動きが縛られていった。
「……ひとまずは、僕が敵の動きを封じたから、まいは力いっぱい殴ってくれればいいさ。僕の分もな」
「はい! ばばばーんと参りますですよ!」
師からの呼びかけに大きく頷いたまいは、いつものように、と刃を振り下ろす。
全力で薙いだ一閃。
それはかみさまの分体である影を貫き、跡形もなく消し去った。
「……消えたか」
「そのようですね。あっ、お師様! 向こうに学園が見えますですよ!」
「ああ、あれが帰り道か」
示された先には、来たときに見たような次元の渦が見えた。きっと敵を斃したから現れたのだろうと判断したトリスは其方に歩き出す。
「お師様、待ってくださいです!」
その後を追って駆け出したまいはすぐに彼の隣に並び立った。そして、学園への道を辿りながらその横顔を見上げる。
「どうした?」
「いえ、お師様の先生としての姿もよく似合ってたと思いまして!」
問いかけに答えたまいに、トリスは「そうか」とだけ答えて歩を進める。
学園生活の終わり。
それは即ち、此処に平穏が訪れるということ。今はきっとこれでいいと感じ、二人は元の世界へと繋がる渦に飛び込んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花川・小町
【朧】
あら――手を取ったのは野暮だったかしら?(眼前の姿に小首傾げ笑い)
徒に秘密を暴いた意趣返しかしら
なんて、今更ね
過ぎた事を悔いても仕方無いわ――そう、全ては過ぎた事
(鏡写しの花貌――アレは、そう、私でない――)
語る必要が無かっただけ
秘め事でも無し
だから一言だけ
アレは鏡の私が最後に写した女
其だけ
(其以上は暗黙の――言わぬが花、知らぬが仏
並ぶ偶像には触れず、唯己の“敵”見据え)
ずっと一緒に
愛してる
其は終ぞ叶わなかった約束
皮肉にも程がある
――その姿で滑稽な台詞を吐かないで頂戴
(重なる言葉にまた笑んで)
私達は不信心者
元より縋る気も無ければ躊躇も無い
指切なんてお断り
差し伸べる手ごと削ぎ落としてあげる
佳月・清宵
【朧】
――此処まで悪趣味たァ、畏れ入る
嫌な予感が珍しく裏目に出たな、小町
(肩竦めるも笑って)
アレが何だろうが、俺はさして何も――ああ、今更だ
胸焼けも通り越していっそ嗤いが込み上げる
(眼前の其は嘗て斬り捨てた女
理想か、傷付けたくなかったか、両方か――)
――何でも構いやしねぇ
(誰にともなく、今一度切り捨てる様に一言――後は暗黙
誰にも敵にも深入り等せず、淡々と眈々と
甘言連ねる喉笛を裂く瞬間を狙うのみ)
茶番はもう良い
――その口から滑稽な台詞を吐くな
形だけ真似た伽藍堂に興味なんざねぇ
それ以前に、救いなんざ求めちゃいねぇんだよ
此処に居る輩は、誰一人
この手の奴にゃ、その場で針千本叩き付けてやるのも一興ってな
呉羽・伊織
【朧】
あーあ――こりゃ傑作だ
(青息とも安堵ともつかぬ溜息溢し)
今回ばかりはある意味この面子で良かったって、前向きに考えとく
(詮索も干渉もしない不文律――隣にいながら素知らぬ顔を出来る似た者同士で)
そんでカミサマとやらも
その姿で助かったわ
(理想でもある、傷付けたくもない、目映い俤――でも)
その人は絶対、俺に向かって軽々しくそんな言葉を掛けやしない
(憧憬懐くは、あの心の在り様―
―其を欠き仮初の皮と言葉だけ使った、空の偶像なんざに今更揺らがない)
だから遠慮なく掻き消せる
――その姿で滑稽な台詞を吐くな
(針代わりに喉元へ暗器飛ばし)
…今回はホント嫌に気が合うな
振り払うべき手はアレこそ――って流石姐サン!
●偶像の貌
現れた影は三者三様。
転移した異空間に顕現したかみさま。その分体は此処に立つ者の心の内にあるもの映し出していた。
「あーあ、こりゃ傑作だ」
「此処まで悪趣味たァ、畏れ入る」
伊織が青息とも安堵ともつかぬ溜息を溢し、清宵は小町の嫌な予感が珍しく裏目に出たと肩竦めながら笑った。
「あら、手を取ったのは野暮だったかしら?」
小町は眼前の姿に小首を傾げ、両隣に立つ清宵と伊織を交互に見遣る。
徒に秘密を暴いた意趣返しだろうか。
そんなことを考えた小町だが、今更だとも感じる。
身構える伊織は、今回ばかりはある意味この面子で良かったと前向きに考えることにした。互いの間には詮索も干渉もしない不文律がある。隣にいながら理想や偶像を映すものに素知らぬ顔を出来る似た者同士だからだ。
「アレが何だろうが、俺はさして何も――ああ、今更だ」
胸焼けも通り越していっそ嗤いが込み上げる。
清宵が乾いた言葉を紡ぐ中、小町も静かに肩を落とした。よくもまあ、このように心を読んだのだと思える。
「過ぎた事を悔いても仕方無いわ。そう、全ては過ぎた事」
そして、三人は各々の前に立つ偶像に目を向けた。伊織も頷き、眼前の影が成す姿を緋色の眸に映す。
「そんでカミサマとやらも、その姿で助かったわ」
それは理想でもある、傷付けたくもない、目映い俤――。
でも、と伊織は否む。
もう二度と戦わなくていい。
そのように告げてくるその人は絶対に、自分に向かって軽々しくそんな言葉を掛けやしないことを知っている。
憧憬を懐くは、あの心の在り様。
其を欠き仮初の皮と言葉だけ使った、空の偶像などに今更揺らぎはしない。
だから遠慮なく掻き消せるのだと伊織は感じていた。
そして、小町の目の前にいるのは鏡写しの花貌。
――アレは、そう、私でない。
小町は自分を映す影を一瞥し、首を横に振った。
是迄は語る必要が無かっただけ。ゆえに秘め続ける事でもなく、小町は囁きにも似た言葉をその場に落とした。
「アレは鏡の私が最後に写した女」
其だけ、と云う小町の言葉を二人は聞いていたが、特に何も答えることはない。
それ以上は暗黙。言わぬが花、知らぬが仏。
小町も彼等の偶像には触れず、ただ己の“敵”である存在を見据えた。
清宵の眼前、其処に佇むのは女。
其は嘗て斬り捨てた女。
(理想か、傷付けたくなかったか、両方か――)
清宵の裡にそんな思いが過ぎったが、考えても詮無いことだ。そう胸中で断じた彼は妖刀を握る。
「――何でも構いやしねぇ」
誰にともなく、今一度切り捨てる様に一言。
後は誰にも敵にも深入り等せず、淡々と、眈々と機を窺う。
敵であるそれらは甘い言葉を紡ぐ。
ずっと一緒に。
愛している。
影達は各々に、そんな言の葉を口々に云う。
それは終ぞ叶わなかった約束であり、皮肉にも程がある。花唇を噛み締めた小町は、此方に手を伸ばしてくる偶像を見つめ続けた。
伊織は地を踏みし締め、清宵もその声を聞く。だが、誰も手を伸ばし返したりなどはしない。その手を取ることは即ち、今の己を否定することだからだ。
甘言を連ねる影。その喉笛を裂く瞬間を狙う清宵が、一歩を踏み出した。
「茶番はもう良い」
冷たく落とした言葉が昏い空間に静かに響く。伊織と小町が彼の隣に並び立つように進み出た、刹那。
約束をしよう。
偶像達は其々の声と言葉で其のように告げた。しかし、伊織も清宵も、そして小町もそのような約定は受け入れられるはずがないとして思いを言の葉に落とす。
「――その姿で滑稽な台詞を吐くな」
「――その口から滑稽な台詞を吐くな」
「――その姿で滑稽な台詞を吐かないで頂戴」
重なる言葉。
そして、同じ思い。
同時に紡がれた言葉に思わず笑んだ小町は左右に目配せを送る。
「私達は不信心者。元より縋る気も無ければ躊躇も無いわ」
「ああ、形だけ真似た伽藍堂に興味なんざねぇ。それ以前に、救いなんざ求めちゃいねぇんだよ。此処に居る輩は、誰一人な」
「くだらねぇ誘いなんざお断りだ。残念だったな」
断言した小町に続き、清宵と伊織が動く。針代わりに喉元へ暗器飛ばせば、妖剣の一閃が影を斬り裂いた。
「この手の奴にゃ、その場で針千本叩き付けてやるのも一興ってな」
「……今回はホント嫌に気が合うな」
清宵の落とした言葉に伊織が薄く笑み、揺らいだ影に更なる一撃を見舞う。小町も鏡写しの花貌へと刃を向け、ひといきに斬り裂いた。
「指切なんてお断り」
――差し伸べる手ごと削ぎ落としてあげる。
艷やかな声と共に宣言通りの一閃が振るわれ、影の腕が斬り落とされた。同時に清宵が女の影を、伊織が己の偶像を貫く。
「振り払うべき手はアレこそ――って流石姐サン!」
序に清宵も、と影を打ち倒した二人に称賛を送った伊織は、消えゆく影を見送った。
やがて空間内から邪神たるかみさまの気配が消え、静けさが満ちる。
「……終わったか」
「だな、これで学園ともさよならだ」
清宵が辺りを見渡し、伊織も自分達の役目を果たしたとして頷く。
小町も伏せていた顔を上げ、向こうを、と前方を指差した。
「あれが元の世界に帰る路じゃないかしら」
行きましょう、と二人を誘う小町は其方に向けて歩き出す。誰も何も、是迄見えていた物への言葉や思いは紡がず、極めて平静に歩を進める。
されどそれで良い。
深く語らずとも切れずに繋がり続ける思いが此処に在るのだと思えた。
このまま非日常から普段通りの日常に還る。今はただ、それだけなのだから――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
隠・イド
【土蜘蛛】
そうですね、あれは
『宙槌・ゆらぎ』の姿ではないでしょうか
故人ゆえに敬称も付けない
かつての同僚
此処に居るはずのない廃棄物
心苦しいようでしたらお休みになられますか?
でしたらご一緒いたしましょう
そこに一切の躊躇はなく
仮に彼女が『本物』だったしても
それは変わりない
いや、そうでもないか
本当に彼女が化けて出てきたなら
それは興味を唆られるかも知れない
せいぜい良い声で鳴いてください
複製し投擲する無数のナイフ
四方八方から彼女を切り裂き嬲るように
戦わなくて良いだなんて、なかなか酷な事を言いますね
生前の彼女であれば
きっとそんな言葉は口にできない
それは私たちに対し、死んでいいと言っているも同義なのだから
花剣・耀子
【土蜘蛛】
……――ねえ。あれは何に見える?
やわらかな茶色の髪。
おだやかな水色の瞳。
かわいらしい目鼻立ちで、きれいな声で、おんなのこらしくて、やさしい、
――大好きだった、もういない、あの子の姿。
……、もういないのよ。
これはまぼろし。まがいもの。
冗談じゃないわ。退くわけがないでしょう。
あんな姿を取られたら、尚更よ。
あたしは、おまえを。おまえのような、過去を歪める存在を赦さない。
甘い夢を見る自分を赦さない。
あの子が、傷を厭うことはなかったのよ。
ねえ、かみさまだって、その覚悟までは模倣できないでしょう?
どんなに似ていてもあの子じゃないなら、あたしだって痛くない。
おまえと踊る気はないの。
首を落とすわ。
勾月・ククリ
【土蜘蛛】
まんまるく目を見開いて
そのなつかしい姿を見つめる
夢かもしれない、いやでも、そうじゃないかも
ゆらぎちゃん?ゆらぎちゃんなの?
嬉しいな。ずっとまた会いたいって思ってたんだよ!
でもここにいるってことは、もしかしてUDCになっちゃったの?
それは大変だね、でも……
大丈夫、ゆらぎちゃんがUDCになっちゃっても
わたしたち、お友達だよ
たしかに倒すのは心苦しいけど
でも安心して、きっとまたわたしが呼び出してあげるから
……あぁでも、よーこちゃんはきっと嫌な顔をするかな
黒い姿のUDCのお友達を召喚
この子もわたしのお友達なんだよ!
お友達同士、仲良くしてくれると嬉しいなあ
●揺らぎ、揺らぐ
海の底を思わせる、昏く歪む異空間。
最初、其処には三つの影が立っていた。しかし三人の前でそれらが大きく揺らぎ、ひとつの影となっていく。
「……――ねえ。あれは何に見える?」
耀子は自らの得物にそっと手を添えながら、隣に立つイドとククリに問いかけた。
見据える先に居るのは少女。
やわらかな茶色の髪。
おだやかな水色の瞳。
かわいらしい目鼻立ちで、きれいな声。そんな子が微笑んでいる。
その姿も声もあの頃と同じ。とてもおんなのこらしくて、やさしい――大好きだった、もういない、あの子。
耀子と同じ影を見つめるイドは冷静に答える。
「そうですね、あれは『宙槌・ゆらぎ』の姿ではないでしょうか」
彼女は故人。
ゆえに敬称も付けず、イドは偶像である少女を瞳に映し続けた。
彼女はかつての同僚。此処に居るはずのない、廃棄物となったもの。
対するククリはまんまるく目を見開き、そのなつかしい姿を確かめていた。
これは夢かもしれない。
いやでも、そうじゃないかも、なんて思いがぐるぐる回る。ククリはあまりの驚きと嬉しさで二人の声もあまり聞こえていなかったらしく、その影に呼びかける。
「ゆらぎちゃん? やっぱり、ゆらぎちゃんなの? 嬉しいな。ずっとまた会いたいって思ってたんだよ!」
笑顔で其処に駆け寄ろうとするククリ。
だが、耀子が彼女の腕を取ってそうすることを引き止めた。
「よーこちゃん? 見て、ゆらぎちゃんだよ。どうしたの?」
「……、もういないのよ」
ククリが首を傾げる中、耀子は瞳を伏せながら頭を振る。
これはまぼろし。まがいもの。
そう自分に言い聞かせるような耀子の様子に気付き、イドは気遣う言葉を向けた。
「心苦しいようでしたらお休みになられますか?」
「冗談じゃないわ。退くわけがないでしょう」
顔を上げた耀子はククリの腕からそっと手を離し、イドへと答えた。
「でしたらご一緒いたしましょう」
「あんな姿を取られたら、尚更よ」
二人のそんな遣り取りを聞いていたククリは、そっか、と頷く。影が本物のゆらぎとしか思えないククリは純粋な眼差しで偶像を見つめた。
「ここにいるってことは、もしかしてUDCになっちゃったの? それは大変だね」
自分なりに納得したのかククリはちいさく頷く。
そして、明るい笑顔を浮かべた。
「でも……大丈夫。ゆらぎちゃんがUDCになっちゃっても、わたしたち、お友達だよ」
「そういう事にしておくのもまた宜いかもしれませんね」
イドはククリの出した結論もまた捉え方のひとつだとして静かに息を吐く。
――みんなはもう、戦わなくていいの。
ゆらぎのかたちをしたものが囁く。
その声色も、やさしい語り方も、三人の記憶にある通りだ。寧ろその姿はこうあってほしいと願う理想であったのかもしれない。何だか目眩がするような違和をおぼえた耀子は偶像を見据えた。
「あたしは、おまえを。おまえのような、過去を歪める存在を赦さない」
そして、甘い夢を見る自分を赦さない。
掌を握り締めた耀子の傍ら、イドは敵の出方を窺った。相手は彼女の声で語るだけで攻撃を行うような仕草は見せない。
相手が理想であれ偶像であれ、一切の躊躇はない。
仮に彼女が本物であり、廃棄された成れの果てだとしてもしてもそれは変わりないだろう。其処まで考え、イドはふと思い直す。
「いや、そうでもないか」
本当に彼女が化けて出てきたなら、それは興味を唆られるかもしれない。
されど相手が動かぬのならば此方から出るのみ。
「せいぜい良い声で鳴いてください」
そう告げてからイドが投擲するのは複製した無数のナイフ。四方八方から彼女を切り裂き嬲るように疾走る刃は容赦なく影を貫く。
しかし、三体のかみさまの分体が合体したらしき影はその程度では散らない。
ククリも自らの傍にUDCの霊を召喚していく。
そして黒い姿のお友達をよく見せるように両手をひらき、ゆらぎに紹介した。
「ゆらぎちゃん、この子もわたしのお友達なんだよ!」
するとゆらぎの姿をしたそれは特に反応を見せぬまま、もう一度唇をひらいた。
――痛いのは、いやでしょう? おいで、みんなを救ってあげる。
甘く優しい言葉と共に掌が差し伸べられた。
それはかみさまとしての、三人への誘いだ。だが、イドは最初から聞く耳を持たずにいた。一言目の言葉からしてそうだ。
戦わなくて良いだなんて、なかなか酷な事を云う。
生前の彼女であれば、きっとそんな言葉は口にできない。口にするはずがないのだと感じていたからこそ心に響いてこない。
「それは私たちに対して――」
死んでいい、と言っているも同義なのだから。
思いを途中まで紡ぎかけたイドは言葉を止め、その手を振り払うようにナイフを投げた。其処に続いて耀子も剣を胸の前に掲げる。
今しがた告げられた言葉は、あの子が語るようなものではない。
「あの子が、傷を厭うことはなかったのよ」
かみさまだって、その覚悟までは模倣できなかった。どんなに似ていても彼女の心までは映せないのだ。
「あの子じゃないなら、あたしだって痛くない」
「たしかに倒すのは心苦しいけど、でも安心して、きっとまたわたしが呼び出してあげるから。ねえ、ゆらぎちゃん」
耀子の宣言に続き、ククリは友達に影を穿つよう願った。
呼び出せるなら、またお友達に。そんな風に思ったが、きっと耀子は嫌な顔をしてしまうだろう。それでも今は目の前の相手を穿ち、屠るだけ。
「方を付けましょう」
イドの呼びかけに耀子とククリが頷き、其々の力を紡いでゆく。
「ゆらぎちゃん、ほら。お友達同士、仲良くしてくれると嬉しいなあ」
ククリの声と共に黒い影の目が月のように鈍く光った。同時に掲げられた友達の爪がゆらぎの姿をしたかみさまに振り下ろされる。
其処へイドがオロチの刃を解き放った。
迸ったナイフは敵をその場へ縫い留めるように突き刺さる。今です、と告げるようなイドの視線を受け、耀子は機械剣を振り上げた。
ゆらぎは――否、かみさまはワルツにでも誘うように手を差し伸べ続けている。
首を横に振り、耀子は敵を断じた。
「おまえと踊る気はないの。首を落とすわ」
そして、刃が振り下ろされる。
花を散らし、草を薙ぎ、命を平らげる。その一閃は深く、偽りの少女を斬り裂く。
遺される声も断末魔すらない。ただの紛い物であった少女の残骸は瞬く間に消え去り、辺りの景色が大きく揺らいだ。
「消えちゃったね。ゆらぎちゃん……ううん、偽物のひと」
「そのようですね。おや、あちらに出口のようなものも出てきましたよ」
ククリがそっと肩を落とす中、イドが異空間の彼方を示した。其処には元居た学園の景色が広がっていた。其方に歩いていけば戻れるのだと察し、耀子は頷く。
その際に手応えのなかった最後の一閃に思いを馳せそうになったが、止めた。
「帰りましょう」
ただそれだけを告げ、耀子は歩き出す。
間もなくすれば邪神が蔓延っていた学園にも真の平穏が戻ってくるはずだ。みんなで戻ろう、と明るく答えたククリは耀子の隣に駆け寄っていく。
その後ろ姿を見守り、自らも歩き始めたイドは最後に一度、振り返った。
何もない、されど何かが渦巻く深くて昏い世界。
死後の世界だとか、地獄だとか、骸の海などと呼ばれる所はもしかしたらこんな場所なのだろうか。そんな思いが過ぎったが、すぐに振り払う。
自分達にはそのような世界など関係ない。
特型異能対策室、《土蜘蛛》
戦い続ける事を宿命付けられた者が集う其処こそ、今の居場所なのだから――。
●うみのそこ
学内から繋がる異空間。
かみさまによって創られた其処は、分体が消えることによって壊れていく。
偶像や理想を屠った者達は現実世界に戻り、異空間も次々と消失していた。
だが、そんな中。
未だたったひとつだけ消滅していない場所があった。
それは、メドラが今も立っている空間だ。
ボスの姿をした偶像はもう食べてしまって、消えたはずだというのに。
メドラの目の前には黒くて背の高い影が佇んでいた。
足元に咲く花は淡く綻び、周囲にはちかちかと光る星のような光が瞬いている。ふわりと浮いた花がひらいては枯れ、また咲いていく。
「あなたは……」
メドラは一歩、その黒い影に歩み寄った。
恐怖はない。おいで、と無垢な声で誘い、黒くて細い腕を伸ばす『かみさま』はとてもやさしかったから。それがかみさまの本体であることも、メドラには何故だかわかっていた。
「……ほんとはね、しってるの」
メドラがゆるゆると口をひらくと、月の白さと蒼さを映したなだらかな髪が揺れる。
何を、とは言葉に出さない。
メドラは伸ばされたその手に自分の掌を重ねた。
ああ、あなたは弱っている。
この学園に集い、まやかしといざないを破った人たちに力を削がれて、今はただ円舞曲を誘うように手を伸ばすことしか出来なくなっている。
かみさま、と呼ばれた者が何を成そうとしていたのかは知らなくていい。
解ろうとも思っていない。
ただ、メドラはこれが“弱いもの”になってしまったものだと感じた。
自分より弱いのなら、食べてもいい。そう教えてもらっていたから。
「おなかすいたの。ねえ、あなたは食べてもいいひと?」
メドラが問いかけると、黒い影がそっと頷いたように見えた。わかったわ、と頷いたメドラは先程そうしたように、青い月を血で染める。
そして――。
泡が宙に零れた。
からん、と音を立ててカトラリーが地面に落ちる。
メドラ以外には何も、誰もいなくなった空間は靄が晴れるように消えていく。足元の花も、煌めく星のようなひかりも、現実世界の景色に滲むように失われていった。
そんな中でメドラは思い返す。
ボスは、パパをかみさまだって言っていた。
ママが死んだら泡になって消えちゃった、とも言っていた。
だったら。
「あなたがパパだったのかしら?」
ぽつりと落とした言葉を聞くものは誰もいない。答えてくれるひともいなければ、自分で答えを探すことだってできない。
「まあ、どうでもいいわ」
メドラは踵を返し、夜色に染まる学園の廊下を歩き出した。
少女は双眸を静かに細めて幽かに呟く。
「……おなかはすいたままだもの」
あの深海のような世界に咲いていた花の名前は何だったのだろう。ぼんやりと考える少女のちいさな足音が、昏い夜の底に響いていった。
●學園秘密倶楽部
鳴り響くのはウェストミンスターの鐘。
通学路には眩い朝の陽射しが降り注いでいる。
道の先に続く校門の向こうには、それぞれの教室に向かう生徒達の姿が見えた。
おはようございます、と教師と生徒の間で交わされる挨拶や言葉。楽しげに微笑みあう少女達や、予鈴のチャイムを聞いて走り出した少年。
その景色は平和そのもの。
本来、在るべきかたちに戻った学園の光景だ。
密やかに蔓延っていた邪神は消え、奇妙な噂が流れることもなくなった。使徒として操られていた者達もその記憶を忘れ去り、元の生活に戻っていくだろう。
こうして秘密倶楽部という存在は猟兵達によって葬られた。
しかし、その活躍を知るものはいない。
アンダーグラウンド・ディフェンス・コープのエージェント達によって、学園生が持つ猟兵達と過ごした記憶や、秘密倶楽部の情報が速やかに消されていったからだ。
だが、それでいい。平穏に勝るものは何もなく、危険に纏わることは秘匿されるべきもの。それがこの世界のルールだ。
この学園で紡いだ絆や思い出、記憶は猟兵自身が覚えていれば良い。
今日も学園にはあの挨拶が穏やかに響き、変わらぬ日々が巡っていくのだろう。
そして、別れの意味も抱くその言葉で、この物語の幕は下ろされる。
――ごきげんよう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2019年10月27日
宿敵
『かみさま』
を撃破!
|