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ダンピールは産まれなかった

#ダークセイヴァー #同族殺し

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#ダークセイヴァー
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#同族殺し


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●悪因悪果
 どの口で、と言われるかもしれないが。
 自分がしてきた事への報いを受ける覚悟くらいはあったんだ。
 殺してきたし、奪ってきた。
 今を生きる人々から見れば私はまさしく悪鬼だったろうし、私自身それはよく分かっていた。

 これまでの仲間からすれば、私はまさしく恥さらしの裏切り者だ。
 家畜同然に扱っていた人間に絆されて、あろうことか子供まで儲けるなんて!
 私すらも、どこか夢を見ているような落ち着かない心境であった。
 今を生きる命に対する慈しみを知るなど想像だにしていなかったし、それに幸せを感じるなど。
 償う、などという発想が出たのも子供のためだろう。
 顔も見たことが無いくせに、あの子が生きるこの場所くらいは平和で穏やかな場所であってほしかったのだ。

 ──そして、私のもっとも愚かしい点は。
 自分の行いの報いは自分に降りかかるのだと、無根拠に信じていた事に違いない。

●血濡れた愛を
「皆様、お集りいただきありがとうございます。世界コードネーム:ダークセイヴァーにて、オブリビオンの出現が確認されました」
 シスター服に身を包んだグリモア猟兵が、自分の呼びかけに応じてグリモアベースに集った猟兵達へ語りだす。

「今回向かっていただくのはとある領主館。かの世界の多くの地と同様、人々に圧政を強いるオブリビオンの住まいですね」
 潜む悪鬼の名はエルシーク。
 往生集めとも呼ばれる奇怪な骨の怪物は、人々の遺品や遺体を蒐集する悪癖を満たすため、周囲の安寧を脅かし続けている。
「ただまあ、コレは他所から流れてきた所謂『長生き』している個体でして。相応に知恵と力をつけた厄介な標的というわけです」
 防備を固めた屋敷に、配下のオブリビオンを多く住まわせる彼を討つのは、猟兵といえども困難を極める事だろう。

「……ですが、状況が動きました」
 これから起こる予知であるとの前置きの後、グリモアから映し出される館の情景。
 そこに居たのは、一人のヴァンパイアだった。
 血走った眼で剣を振り回すその様はプライドの高いかの種族に似つかわしくないものだが、銀糸の髪に真紅の瞳、蝙蝠の羽根をもった男が、領主館に住まうオブリビオンを次々に蹴散らしていく。
 けれども、最後には満身創痍となり果てた身体を引きずりエルシークを追うも、反撃の剣を身に受けた彼は地に倒れ、二度と動きはしなかった。
「ご存じの方もいるかもしれませんね。ダークセイヴァーのオブリビオン達にもっとも忌み嫌われる存在──『同族殺し』です」
 いかなる狂気に突き動かされるのか。
 オブリビオンを殺すオブリビオンとなった彼の襲撃に便乗すれば、強力な力を持った領主であっても、討伐は十分可能だ。
「よって今回の作戦目標は二つ。同族殺しの襲撃に混乱する領主館に潜入し、エルシークを討つこと。そして……それまでの戦いで消耗するであろう、同族殺しの撃破です」
 理由はわからねど、オブリビオンに深い恨みを持つヴァンパイアは、猟兵には目もくれずにエルシークを追うだろう。
 けれど、それは戦いが終わるまでの話。
 エルシークを骸の海に還したのなら、狂気に身を任せ彷徨う彼を放置するのはあまりに危険だ。

「連戦になるでしょうし、直前まで共闘した相手を討つことに躊躇いを覚える方もいるでしょう」
 それでも、オブリビオンは討たねばなりません。
 目を伏せ、言葉を締めくくったグリモア猟兵が、その手の光をもって異世界への扉を開いていく。
 長い夜の世界から、冷え切った風が流れ込む。
 その彼方へと足を踏み入れる刹那。
 どこかから、男の慟哭が聞こえたような気がした。


北辰
 OPの閲覧ありがとうございます。
 幼い子供の死はまさしく悲劇です。残された者の悲しみはいかほどか、北辰です。

 ダークセイヴァーにて荒れ狂う同族殺しを倒すシナリオです。
 フラグメントはすべて戦闘。
 注意する特殊なギミックは多くありませんが、一応の解説をいたします。

 1章は領主館侵入直後から。
 同族殺しを利用する形で、館に住まうエルシークの下へと急ぎましょう。
 集団戦ですので、個々のオブリビオンは強くありませんが、この段階で同族殺しが消耗しすぎると次章の状況が悪化しますのでご注意ください。
 同族殺しであるヴァンパイアに関しては、オブリビオンを討つ目的がブレることはありませんが、会話を行う程度の知性は残っているようです。
 基本的に、猟兵の存在は無視しながら館の奥へと進んでいきます。
 話しかけて、まともに返事をしてくれるとは限りません。

 2章、領主であるエルシークとの戦いです。
 OP通り長生きしている個体ですので、正面からまともに戦っては苦戦は必至でしょう。
 ヴァンパイアは、集団戦時より更に激しく怒り狂いエルシークを攻撃しますし、エルシークもヴァンパイアを完全に敵と認識し、応戦します。
 上手く状況を利用するプレイングが効果的かと思われます。

 最後は、同族殺しとの戦い。
 オブリビオンが居なくなれば、狂気のままに近くに居る者、すなわち猟兵に襲いかかってくるヴァンパイア。
 此処まで来れば特に注意することもありません。
 骸の海へと還してしまいましょう。
 やはり、話しかけてもまともな返答をするとは限りません。
 しないとも限りません。

 以上、道中で同族殺しを倒さないという点だけ気を付ければ、ひたすら目の前の敵と戦っていれば解決できるシナリオです。
 狂気に落ちたヴァンパイアを終わらせるためのプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『オルトロス』

POW   :    くらいつく
自身の身体部位ひとつを【もうひとつ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    ほえる
【悲痛な咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    なかまをよぶ
自身が戦闘で瀕死になると【影の中から万全な状態の同一個体】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。

イラスト:夏屋

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●開門
 一つ剣を振れば一つ。
 二つ振れば二つの首が飛んでいく。
 暗い夜空の下、正門を文字通り斬り開き、堂々と剣を振り攻め込んでいくのは同族殺し。
 迎え撃つのはオブリビオンの走狗、オルトロス。
 館の守備を任せられた彼らは勇ましく襲い掛かれど、いかなる速度で、いかなる角度で奇襲を仕掛けようとも吸血鬼の剣の錆となり果てる。

「ちい、やはりあの程度では足止め程度にしかならんか……」
 いかなる術か、その様を館の奥深くから覗き見る骨の化生が吐き捨てる。

     ・・・・・・・・・・・・・・
 なにせ、元々この館に住まう暴君だったのは彼の方だ。

 数で囲もうと、暗がりから忍び寄ろうとも、彼相手に地の利を活かすことはできないだろう。
 間違いなく、彼は自分の居所までたどり着く。
 ……だが、それまでだ。同族殺しがオルトロス程度に負けることは無いだろうが、消耗も零ではない筈。
 迎え撃つ自分の優位は、決して揺らがない。

 そうほくそ笑む領主はまだ知らない。
 この地に現れた、猟兵達の存在を。
鈴木・志乃
ああ、いやいや、本当……嫌だね
苦しすぎて涙も出ないよ
それでもこの世界で再起を賭ける人がいるから
私達は戦っているのさ

狂った誰かさんも止めたいしね(【優しさ】)
覚悟、OK
UC発動
ここで消耗しちゃ本懐を遂げられないだろう
本当に必要なら癒しの力を同族殺しに向けることも厭わない
状況を見て判断だね
【オーラ防御】展開
【第六感】で攻撃を【見切り】【鎧砕き】出来る魔改造ピコハンで【早業武器受け】からのそのまま【カウンター】ぶっとばし
速度活かしてそのままホームランかっとばし続けられるといいねえ
ボウリングのピン状態みたいな
いや、やってみせる

ややご殺しのエルシークさん
……今、そっちに行きますからね!!!


セシリア・サヴェージ
後で戦うと分かっていながら共闘するのは、なんとも言えない気持ちになりますが……。
とはいえ、オブリビオンは全て倒す。そこに迷いはありません。

襲い来るオルトロスにUC【闇の魔力】を使って【マヒ攻撃】を行い、動きが止まっている隙に暗黒剣で【なぎ払い】ます。
同族殺しに襲いかかろうとする個体にも同じ方法で妨害を行い、同族殺しをサポートします。
ヴァンパイアを助けるのに抵抗が無いと言えば嘘になりますが、今はまだ彼に倒れてもらっては困りますから。
今は個人の気持ちは抑え、目の前の敵を【蹂躙】することだけを考えます。



●黒、白、紅
 正門を抜けた館の庭。男は狂気に染まった紅い瞳で剣を振るう。
 双頭の猟犬を次々に屠るヴァンパイアの力は圧倒的であれど、その戦いぶりは自暴自棄ともいえるものだ。
 防御も回避も考えず、ただひたすらより多くを殺める事のみを考える彼の進撃を見れば、館の主にたどり着く頃には満身創痍になるだろうと容易に推察できる。
 グリモアベースで受けた予知の説明を思えば、奥に潜むエルシークを討つために同族殺しを助けることは必要不可欠だった。

「後で戦うと分かっていながら共闘するのは、なんとも言えない気持ちになりますが……」
 だからこそ、ヴァンパイアを助けるのは嫌だ、なんて言ってる場合ではない。今は自分の気持ちに蓋をするべきだ。
 ふう、と息を吐くセシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)の美しい顔は少しだけ曇っているものの、彼女は自らの役目をよく理解していた。
 暗黒騎士としての獲物、巨大な黒の大剣を携えた彼女の横で微笑む鈴木・志乃(オレンジ・f12101)もまた同様。
 純白の翼を持つ彼女の身体に宿るのは、神聖なその容貌に相応しい、人々を癒す聖なる光。
 吸血鬼に向けてみれば、僅かにだが刻まれ始めていた彼の傷は確かに癒える。
 ユーベルコードを向けられたヴァンパイアは振り返りもせず突き進む。
 攻撃でないなら用は無い。そう言うように同族殺しには無視されながら、志乃は一瞬だけ笑みを消して、空を見上げる。
「ああ、いやいや、本当……嫌だね」
 それは戦いに対するものか、暗い空に向けたものか、あるいは聖なる光で傷が癒えたあの狂ったオブリビオンの本質へか。
 セシリアも、志乃の言葉を問いただすことは無く。
 二人の女猟兵は、吸血鬼を追って屋敷へと走り始めた。

 オルトロスの脅威の一つは、その双頭の牙であろう。
 敵対者の生命を喰らうその顎は、館の警備という削り役としては非常にやっかいな代物だ。
「逆に言えば、距離を取れれば恐れるものではありませんね」
「ああ、いいねそれは。実に合理的だ」
 だからこそ、猛威を振るうのがセシリアの操る【闇の魔力(ダークフォース)】であった。
 不可視の力で押さえつけられるオルトロス達がガチガチと牙を鳴らそうとも、ユーベルコードで作られた力場に牙が突き刺さることは決してない。
 あとは剣で薙ぎ払うも、そのまま押しつぶすのも自由自在。
 前方を行くヴァンパイアの背後に忍び寄る猟犬をも押しつぶしながら、セシリアは進んでいく。
 一方で、志乃はその身でオルトロスへと向き合っていた。
 身に纏う【閃光(ライトニング)】は鮮烈な光を放ちながらも、それは敵を攻撃するものとはおよそ真逆の性質を有したものだ。
 しかし、それと同様に彼女に漲る意思の力。
 空を舞う彼女にしてみれば、地を這うオルトロスがいかに俊敏であろうとも関係ない。
 ひらりひらりと身をかわし、最適なタイミングで地に近づけば、掲げられるのは玩具の槌だ。
 襲い来るオブリビオンの一体が、ぴこんという音で受け止められた次の瞬間、それは多くの同胞を巻き込みながらも吹き飛んでいく。

「一応、彼を巻き込まないようにお願いしますよ」
「わかってるさ、ちゃんとホームランの方向は考えて……ん?」
 でたらめな志乃へと、ほんの少し目を細めたセシリアの言葉がかけられる。
 とはいえ、彼女も志乃の力量がわからぬような人物ではない。
 ちょっとしたじゃれ合いのようなものなのだ。そう理解する志乃は笑いながらも同胞殺しへと目線をやり。
 それは、こちらを目を見開いて見ていた彼の視線とぶつかり合った。
 いや、正確には彼が見ていたのは志乃ではない。傍に居たセシリアだ。
 ──この常夜に生きる者なら、その美貌の根源が人外の血であると推し量れるであろう彼女の姿だ。

「……なるほど、止めてあげたいね」
「……どちらにせよ、彼を倒すのはまだ先ですから」
 なぜオブリビオンは狂ったのか。
 その理由に微かに触れながら、猟兵達はまた前方を振り返り進み始めたヴァンパイアの後ろを追って行った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

薬師神・悟郎
人間に絆されるとは珍しい存在だ
正直驚いている
俺の父もヴァンパイアだと聞いたが、奴にそのような情はないだろう
…さて、気持ちを切り替えて今日の仕事を始めよう

同族殺しの派手な立ち回りを利用し目立たないよう闇に紛れ、奴が仕留め損ねた敵や移動に邪魔な障害物の排除に動く

UC発動、攻撃力強化
敵が技を発動する前に範囲攻撃、暗殺で急所を狙い素早く仕留める
地形の利用、逃げ足で同族殺しの攻撃に巻き込まれないよう距離を保ち、状況を把握しつつ行動
この程度で同族殺しに負傷してもらっては困る
奴には後に領主と殺しあってもらうのだから

少しぐらいなら同族殺しの復讐にだって手を貸してやるさ
その代わりこちらも利用させてもらうぞ


トリテレイア・ゼロナイン
同族殺しの依頼はこれで何度目か
世界に牙剥く以上最終的に討つことは確定事項
ですが共闘する相手でもあります
その狂気の訳を汲み取った上で討つ…それが騎士としての私の選択です

センサーによる●情報収集での索敵で番犬の襲撃地点を●見切り、吸血鬼を●盾受け●武器受けで●かばいつつ●怪力で振るう武器で応戦

この先の「往生集め」
お互い消耗して勝てる相手で無い以上、夜の貴族たる貴方に一時の共闘を提案させて頂きます

(この言動…私がDSでなくSSW出身だから可能なのでしょうね…)

この館の構造にお詳しい様子
訳も含めて教えて頂ければ迎撃の精度も高まることでしょう

(言動、表情、屋敷の様相、拾える情報から狂気の原因を炙り出し)



●変わり者
「失礼、並々ならぬ覚悟でこの地を訪れたとお見受けします。我々も目的は同じく、夜の貴族たる貴方に一時の共闘を提案させて頂きます」
 大きな屋敷を迷いなく進むヴァンパイアの横に走り寄り、その手の盾で猟犬を打ち払いながら語りだしたのはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。
 歴戦の猟兵である彼にとって、同族殺しのオブリビオンに出会うのはこれが初めてではない。
 そんな彼が、最終的には討たねばならない相手との奇妙な共闘に対して出した答え。
 同胞を殺めるほどに狂ったその訳を問うてみよう。いずれ剣を交える相手であっても、その心に向き合ってみよう。
 誇りある騎士であろうとする彼が出したその答えに基づいた語りかけに対して、吸血鬼はちらりと機械騎士を見やる。
「……私は貴族ではない。人間の妻を持った夜の貴族がいるものか」
 返答はトリテレイアの言葉の訂正に留まり、彼はまたすぐ前を向き侵攻を開始する。
 それでも、猟犬に向け盾を構えていたトリテレイアの背中に斬りかからない所を見るに、ひとまず敵と認識されることは避けられたのだろう。
 加えて、あのオブリビオンがどういった存在かも、うすぼんやりと見えてきた。

「妻、ですか……」
「……正直驚いている。人間に絆される吸血鬼とは……」
 短い刀を携え追いついた薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)の耳にもその言葉は届いたのだろう。
 トリテレイアが共に走るダンピールに目を向ければ、フードに隠れた金の瞳は僅かにだが見開かれていた。
 悟郎の父であったヴァンパイアがそうであったように、彼らにとって人間とは家畜同然に見下す対象だ。
 戯れに子を産ませることはあるかもしれないが、そこに男女や親子の情など存在しないのが大多数。
 少なくとも、人間を『妻』と表現するのは十分変わり者だろう。
「……さて、気持ちを切り替えて今日の仕事を始めよう」
 背景にまったく関心がないわけではないが、此処には猟兵として戦う為に来ている。
 思考を打ち切り、武器を構える悟郎の言葉に、トリテレイアも剣を抜きながら頷くのだった。

「吸血鬼殿! 貴方は、この館にお詳しいのではないでしょうか!」
 迫りくる犬の噛みつきを剣で受け止めながら、トリテレイアは再びヴァンパイアへと叫ぶ。
 この常夜の世界の外側から来た彼にとって、ヴァンパイアに対する敵意はあくまでオブリビオンへと向けるものでしかない。
 少なくとも、当人がヴァンパイアである悟郎よりは交渉役に向いてるのではないかと考えた彼の声に対して、ヴァンパイアは振り向きもしない。
「私が建てさせた屋敷だ。横の扉は無視しろ、倉庫や使用人部屋……子供部屋程度しかない」
 それでもどうにか会話は成立する。
 やはり、彼は闇雲にオブリビオンを襲撃したのではなく、明確な意図をもってこの屋敷に現れたのだろう。
 大きな扉に、複数のこじんまりとした部屋。
 洋風の気品ある館には少々不似合いな鮮やかな色合いの扉を通り過ぎながら、トリテレイアは自身の演算機能を強化する。
 人の眼には映らぬ物を見るための【鋼の擬似天眼(マルチセンサー・フルアクティブモード)】。
 大きな扉付近のなにかを引きずった跡は、中に重いものが仕舞われた倉庫だからだろうか。
 細かな擦り傷がそこに住まう者が居たことを示す小さな扉に、使われた形跡がまるでない鮮やかな扉。
 あのヴァンパイアが此処に住んでいたのなら、狂気の理由も此処にある筈。
 また一匹、猟犬の首を斬り落とす機械騎士は、心を読み取らんと電気回路を回し続ける。

 一方で、悟郎は情報収集をするトリテレイアの分まで戦うように、積極的にオルトロスを屠っていく。
 派手に剣を振り回す吸血鬼とは対照的に、暗がりを静かに行く彼の刀は、次々にオブリビオンの喉元を斬り裂き、その命を奪い去る。
 強化【壱】で強化される意志の力の下に、悟郎はただ淡々と敵を減らしていく。
 あくまで作戦は、領主と同族殺しの同士討ちだ。
 此処で眼前のヴァンパイアに消耗されすぎても困る立場であるのだから、彼に近づく敵はより優先的に排除する必要がある。
 斬る、斬る、斬る。
 次々に猟犬を屠るその表情は、あくまで目的のみを見据える怜悧さを纏うものだ。
「少しぐらいなら同族殺しの復讐にだって手を貸してやるさ……その代わり、こちらも利用させてもらうぞ」
 そして、最後にその刃を向けるのは。
 そこまで思考した悟郎は、やはり表情を変えずに敵を斬り裂いていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

梅ヶ枝・喜介
仏さんの物を奪うだけに飽きたらず!
圧政敷くたァなんとも言えぬ恥知らず!

本来こういう輩はお上の沙汰が下るべきだがよ!
だぁくせいばぁ、つったか。民草が頼るべき相手が留守してんなら仕方あるめぇ!
この一件が耳に入ったのも何かの縁!
行き摺りながらに精一杯骨を折らせて貰おうぞ!

手を貸すと決めたからには全霊で深入りするぜ!
同道するのは同族殺しだか知らねえが!
遅れて続くだけ、なんてのは男の恥よ!

むしろおれが誰よりも先に進んでいってやらァ!

それによ
おい!アンタ!テメェとおんなじ"はらから"を殺めるは悪いことなんだぜ!
おれが全部背負っていってやっから!
悪いヤツじゃねえんなら、田舎にでも引っ込んで静かに暮らしてな!


セツナ・クラルス
…ふむ、
あなたは普段の同族殺しと異なり
知性が残っているように見えるよ
狂わずに堕ちるのは辛かろう
あなたが望むなら、あなたに真の安らぎを――
いや、それにはまだ早いみたいだね
一時的にではあるが我々は仲間だ
頼りにしているよ

属性魔法炎+破魔で灯火の火力を底上げ
更にある程度の威力を確保したい為
それなりの大きさの火弾を幾つか自分の周囲に待機させ、突出した敵から屠るとしよう
瀕死なんて中途半端な慈悲は与えないよ
一瞬で楽園に導くから

万が一同族殺しが敵に囲まれることがあったら
灯火でけん制→隙を見て撃破
さあ、長居は無用
我々の目的を果たそうか



●お人好し
「仏さんの物を奪うだけに飽きたらず! 圧政敷くたァなんとも言えぬ恥知らず!」
 まさしく悪鬼羅刹の所業であろう。梅ヶ枝・喜介(武者修行の旅烏・f18497)は真っすぐに憤っていた。
 人々が苦しめられているのなら、偉いお殿様がどうにかしてやるのが世の道理であるのが、彼の知る世界だ。
 だからこそ、民草を苦しめる悪行を裁くお上が不在どころか、そのお上たる領主の席にオブリビオンが居座っているダークセイヴァーの現状を見て、黙っていられる男ではなかった。
「行き摺りながらに、精一杯骨を折らせて貰おうぞ!」
「……ああ」
 そして立ち上がったからには、彼は全霊をここに注ぐ。
 同道する吸血鬼も今は同胞、高らかに助太刀を宣言した彼の威勢に、狂気に満ちた吸血鬼もほんの少し目を見開いて返事をする。
「……ふむ、あなたは普段の同族殺しと異なり、知性が残っているように見えるよ」
 そんな進軍に並走するもう一人、男性としては非常に長い髪を揺らすセツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は、吸血鬼の反応を分析し、呟く。
 オブリビオンに支配された世界で、喜介のような活力に溢れた人間は滅多に出会わない存在だ。その快活な振る舞いに驚くのも、この地で生きる者であれば不自然ではない。
 しかしそれは、この吸血鬼が常識という知性を未だ保持している証拠でもあるのだろう。
 狂っているが、狂いきれていないオブリビオン。それがこのヴァンパイアにセツナが抱いた認識だった。
 あるいは、真の安らぎを今与えてやることも──。
 そんなことも考えるセツナの眼前で、ヴァンパイアの剣がオルトロスの頭を脳天から斬り裂いてみせる。
 派手に舞う血飛沫、負けていられるかと声を張り上げる喜介。
 ……彼の終わりは、少なくとも今この時ではないのだろう。
 そう結論づけるセツナは、ぐんぐんと速度を上げる二人に置いていかれぬよう、走るペースを上げ始めた。

「後方は任せてくれ、今は仲間なのだしね」
 そう言うやいなや、セツナの周りに現れるのは六十を超える破魔の狐火。
 ユーベルコード、【原初の灯火(ハッピーバースデー)】で生み出される炎を数個ずつ纏めていけば、オルトロスを一瞬で焼失させる火弾の完成だ。
 自分の周りに数個残して辺りに放てば、剣を扱う二人の仲間の死角を補う遊撃として機能する。
 作戦を思えば、此処で重要なのはヴァンパイアの負傷を減らすことだ。
 今回の領主、エルシークは知恵と力をつけた強力なオブリビオン。その対抗手段となる同族殺しは、なるべく消耗させずに送り届けるべきだろう。
 だからこそ、もっとも手傷を負いやすいであろう後方を自分が守る。
 吸血鬼と並走する喜介が左右どちらかをカバーすれば、ヴァンパイア本人が警戒すべきは残り二方向だ。
 これなら大丈夫。目的は十分に果たせるはず……。
「しかし、これはいけねぇな! 遅れて続くだけ、なんてのは男の恥よ!」
「え?」
「は?」
 だからこそ、喜介が何やら叫びだした瞬間、どうにも間の抜けた返事をしてしまったのだ。

「むしろおれが誰よりも先に進んでいってやらァ!」
 有言実行、叫びながら更に速く走り始める喜介の背中を、セツナとヴァンパイアが見つめている。
「……あの子は、道がわかっているのか?」
「知らない、と思うよ……」
 怒涛の勢いで木刀を振るい、犬共を蹴散らしながら進む喜介の姿に、思わず同族殺しも口を開く。
 まあ、左右どちらかの担当が前方になるだけだ。何も問題はない。
 そう思考するセツナの目の前では、喜介が此方を振り返る。
「それによ、おい! アンタ! テメェとおんなじ"はらから"を殺めるは悪いことなんだぜ!」
 ──まずい。
 同族殺しの纏う雰囲気が変質するのを感じる。
 善いとか悪いとか、彼にはまるで関係のないことだ。知性を残しているフシはあっても、彼が同族をも殺める狂気に落ちた危険なオブリビオンであることは変わらない。
 最悪、怒った吸血鬼がこの場で猟兵へと襲いかからない。
 叫んで喜介を止めるべきか、セツナが口を開く、それより早く。

「だから、おれが全部背負っていってやっから!」
 言いたいことは言った。
 再び前方のオルトロスへ向きなおる喜介は、【火の構え(ジョウダンノカマエ)】から振り下ろす木刀をもって敵を粉砕する。
 同族殺しは悪いことだから、自分が代わりにやる。
 理屈としては間違っていなくとも、オブリビオンへの対応としては優しすぎると言っていいだろう。
「……行きすぎだ、そのまま進むと井戸に突っ込むことになるぞ」
「それは先に言ってくれよ!?」
 それでも、喜介へ言葉を返すオブリビオンの纏う怒気は。
 ほんの少しだけ和らいだように、セツナには感じられたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。また随分と派手に暴れているわね。
あの吸血鬼が何故、狂ったのか知らないけど、
同士討ちをするというならば、それはそれで利用すべきよ。

…私達ほど吸血鬼の動きを読める者はいないもの。
…散開して、奴に届きうる牙だけを狙い討ちなさい。

第六感が殺気を捉えるまでは吸血鬼に攻撃はせず、
UCで喚んだ者達と共に全身を存在感を消す呪詛のオーラで防御して、
戦闘知識を元に吸血鬼を援護するように闇に紛れ、
【吸血鬼狩りの業】で吸血鬼の未来の残像を暗視して行動を見切り、
吸血鬼を攻撃する魔獣に呪力を溜めた矢弾を放つ早業のカウンターで支援する

…私達は復讐する者ではない。闇を晴らす者だもの。
先に狩るのはお前じゃないわ、吸血鬼。


ジャック・スペード
同族殺し、なかなかに興味深い話だ
ヴァンパイアの動機にも関心はあるが……
先ずは走狗たちを片付けなければな

片腕を機関銃に転じさせて戦闘を
咆哮でヒトを傷つけるのなら、其の声を封じよう
機関銃からマヒの弾丸を広範囲にばら撒いて
オルトロスたちを身動き取れなくしたい

撃ち漏らしはリボルバーで各個撃破
スナイパーの心得活かし、喉を狙って光の弾丸を撃ち込もう
物理的な反撃は怪力でグラップルして防御
もし咆哮が飛んで来たらビームシールドで防ごう
ああ、近くにヴァンパイアが居たら庇おうか
この身を盾にしても良い、作戦の為だからな

俺たちも此処の領主に用がある
お前にも為したいことがあるのなら
鉛玉が当たらぬよう気を付けておくことだ



●先へ
 吸血鬼は進み続ける。
 猟兵の助けにより、ここまでほとんど消耗していない彼が次に踏み込むのは、屋敷の中に設けられた大きな広間だった。
 かつては夜の貴族達を招いて宴を催したのだろうその場所には、今や誰にも見られることのないシャンデリアが寂しく揺れている。
「……チッ」
 それだけでないことを、同族殺しは知っていた。
 彼の舌打ちと同時に現れるのは、やはり先ほどまでと同様、屋敷の守護を任されたオルトロス達。
 ただし、広間に潜んでいたその数は、今までの通路に現れていたものとは比べ物にもならない規模である。
 多少の手傷は覚悟しなくてはならない。そう感じ取った吸血鬼が、その手に握った剣を構えなおして……。

「──キャインッ!」
「……また、あいつ等か?」
「ああ、俺たちも此処の領主に用があるのでな」
 瞬間、同族殺しに飛び掛かろうと低く前傾したオルトロス達を射抜く矢の嵐。
 道中と同じく、猟兵達の仕業だろうかと検討をつけるヴァンパイアに答えながら姿を現したのは、黒づくめのウォーマシン、ジャック・スペード(J♠️・f16475)だった。
 戦闘兵器の大きな身体を見上げながらその言葉を受ける吸血鬼の表情には、一抹の疑念が浮かぶ。
 オルトロス達を排したのは矢の嵐。けれど彼は、弓矢を持っていない。
 勿論、ユーベルコードを扱う猟兵ならば、虚空から矢を放つことすらも可能であろう。
 しかし、目の前の黒い機械戦士の持つ雰囲気には、なにかそれとは違う性質を感じるのだ。
「何を惚けている。まだ敵は残っているだろう」
 しかし、その思考もジャックの忠告とオルトロスの突進で中断される。
 それを真正面から剣で受け止める吸血鬼の思考には、もはや先ほどの疑問は残ってはいないだろう。
 もとより、オブリビオンを殺す事以外のすべては、彼にとっては些事なのだから。

 オルトロスの脅威の一つは、その喉から放たれる咆哮である。
 どこか物悲しさも感じさせるその声は、周囲の全てを巻き込み、破壊を振りまく。
「此処も通過点だ、なりふり構わない自爆で手傷を負ってもいられん」
 それに対抗するのは冷たい機械音声。けれど、そこに確かな意志を込めたジャックの呟きと共に、オルトロス達へ黒い腕が向けられる。
 【我が身総てが引鉄也(トリガーハッピー・クリーチャー)】と語る彼の腕から機械音が響けば、次の瞬間には機関銃への変形を終え、電気を纏った弾幕が展開されていく。
 吸血鬼を守ることを考えれば、一体の敵を確実に仕留めるよりも、多くを麻痺させ無力化してしまう方が確実だ。
 僅かにそれから逃れたものが一矢報いようと咆哮を放とうとも、ジャックの手から展開される黒い盾を穿つには至らない。
 そしてまた、隙を晒したオルトロスに突き刺さる矢。
「…………」
 ここまで来れば、同族殺しも確信する。
 隣に立つ黒い英雄の他にも、この場所には誰かが居ると。
 それがどうしても知覚できないのは煩わしいものがあるが、ひとまずの敵で無いのなら構わないと、彼は改めて広間を進んでいく。

「……ん。その調子よ、みんな」
 それを見つめる、十五の影。
 その中でもひときわ小さな者がフードを取れば、そこから覗くのは紫の瞳が印象的な少女だった。
 吸血鬼狩りの猟兵、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)と彼女に付き従う夜の狩人達。
 【血盟の型(カーライル)】とも呼ばれた彼らの纏う呪詛は、暗いこの世界においてなお黒く存在感を覆い隠す。
 前へ出て、吸血鬼へ向けられる猟犬の牙を盾で殴り飛ばすジャックの視線は時折受けつつも、隣に立つ吸血鬼が彼女達に気付く気配はない。
 元々、吸血鬼を狩る事こそが本領である彼女達にとって、木っ端のオブリビオンであるオルトロスや、最も深く知る敵であるヴァンパイアから姿を隠すのは造作もない事であった。
 無論、単独で隠れ続けていてはヴァンパイアも大いに警戒し、要らぬ衝突を生んだかもしれないが、ジャックが堂々と姿を現し戦う事で、その注意も逸らせていたのだ。
 同族殺しはあくまで領主にぶつける為に利用する相手。
 この世界において吸血鬼が如何に強大な存在かを知っている彼女達は、こちらのみが相手の力を知っている優位を決して投げ捨てない。
 しかし同時に、彼女達は復讐者ではない。

「……先に狩るのはお前じゃないわ」
「……何か言ったか?」
「いや? 『俺』は何も」
 だからこそ、ジャックとて攻撃の矢面に立つような役目を引き受けることを良しとした。
 過去の憎悪ではなく、未来の闇を晴らすため。
 彼らが猟犬を駆逐し、広間を突破するのに、多くの時間はかからなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

凶津・眞
アドリブ・連携歓迎

見学しときたいけどそうはいかねぇよなぁ。
放っておいたら死ぬって言うし。まあ利用できる物は利用するに限る。

銃を抜き【誘導弾】で同族殺しだけでは対応しきれない敵を撃ち抜いて援護。

俺に向かってくる敵に対しては同族殺しに襲い掛かる動きを基に【学習力】で【見切り】開いている右手で抜いた刀の刀身を伸ばして【範囲攻撃】。
範囲攻撃で動きが鈍った相手を【ロープワーク】で捕まえたらUCを発動。捕まえた敵に迦楼羅炎を引火させて敵目掛けて【怪力】で振り回す。


シーザー・ゴールドマン
【POW】
……さてさて、子供の仇かね。
討つと良いとも。それまでは協力を惜しまないよ。

『ソドムの終焉』で射程内のオルトロスを蹂躙。
可能な限り、『同族殺し』をフォローする形で立ち回ります。

敵POWUC対策
もう一つの頭部に変形する瞬間を見切って、変形途上の頭部をオーラセイバーの一振りで粉砕します。
(第六感×見切り→先制攻撃)

シーザーの感想では
同族殺し→守るべき者を守れなかった哀れな存在。特に同情してません。
エルシーク→特に感想無しの普段通りの討伐対象です。古豪という事でその強さに興味はありますが、状況的に楽に勝つ事になると考えています。
(仇討ちくらいはさせてやっても良い、とは考えています)

 



●帰還
「……見学しときたいけど、そうはいかねぇよなぁ」
 屋敷をどれだけ進んだのだろうか。
 依然として荒れ狂いながら暴威を振りまく同族殺しの後方、凶津・眞(半機半妖の悪魔召喚士・f23195)は憮然とした表情で頭を掻く。
 実に凶暴、実に狂気的。先行した猟兵の様子を見るに此方に積極的な危害を加えるそぶりは無いが、それにしたってあまりお近づきになりたい相手じゃあない。
 が、それが屋敷の奥に住まう領主を討つに役立つとなれば話は変わってくる。
 元々、生きる為に人として生まれた身体の殆どを手放した眞だ。利用できるものを利用することに、抵抗など覚えるはずも無く。
「ここで放置して死なれたらまさしく骨折り損。せいぜい援護させてもらおうかね」
 銃を抜き放つその半機の顔には、雄々しい闘志が宿っていたのだった。

「まあ、自分の心配も必要なんだけどな……っと!」
 飛び掛かってくる猟犬を、しっかりと両目で見て躱す。
 獣の俊敏性は驚異的だが、眞とて人域を超えた猟兵である。
 前方のヴァンパイアに引き付けられる分、襲ってくる数も多くはなく、比較的余裕をもって攻撃を回避していると言っていいだろう。
 が、それだけでは足りない。
 この場で猟兵に、眞に求められる役割は、ただ自身を守るだけでなく、同族殺しを援護し少ない損耗でエルシークの下へと送る事。
 避けるだけでは駄目だ、適切な反撃を加え、同族殺しの側にも加勢をしなくては。
 もう一つ。もう一つ、高い次元での動きを今この場で身につけなければ、それが叶うことは無いだろう。
 決して不利な戦況ではない。それでも、猟犬を中々突破できない苛立ちは徐々に眞の中へ降り積もり……。
「──せっかく良い剣を持っているのだ、律儀にすべて躱さなくてもいいだろう?」
「えっ!?」
 それが動きに影響を及ぼす前に、上手く『見本』に合流できた眞は、幸運に恵まれたのだろう。

「君の剣も形を選ばないのなら、こうして」
「そっか、横から受け流せば……!」
 後方から追いついてきたシーザー・ゴールドマン(赤公爵・f00256)。
 後から来たのなら、その分急いで息の一つも切れそうなものだが、そんな素振りはみじんも感じさせないダンピールが、船のオールのように変形した自らの剣でオルトロスを受け流す。
 自身の突進の勢いのまま壁へと叩きつけられるオブリビオンには目もくれず、シーザーとそれを追う眞はヴァンパイアを追い始める。
 どうせなら、自分が動いて回避するよりも、相手をズラして無視してしまう方が動きに無駄が無い。
 シーザーが光の剣でそれを為せば、眞は流体金属の刀でそれを再現してみせる。
 使用する武器の類似性も大いに影響しているが、特筆すべきはシーザーの技術の純度と、眞の吸収力だ。
 シーザーの剣技は洗練された美しいものである。
 無論、その出自に相応しい膂力、魔力を誇る彼は、そんなものに頼らず力任せに戦っても十分強い。
 技、というものを修めるのは、ひとえに彼の享楽であった。
 それゆえに、シーザーの動きは一分の隙も無い完成されたものであり、眞からすればこの上ない勉強材料だ。
 身もふたもない表現になるが、眞も強者の側に立つ者であり、世の中の大多数は彼より弱い。
 世界に選ばれた猟兵である彼が、自身の糧となる動きを見れる機会などそうそうありはしないだろう。
 幸い、参考にしたところでシーザーは気分を害する性質でもないらしい。
 というより、剣技を見せれば見せるだけどんどん学んでいく眞の様子を楽しんでいる節すらある。

「おや、今度は随分と大所帯で来たね。これは困った」
「絶対嘘だろ!!」
 とはいえ、眞は別に彼の弟子でもなんでもない。
 敵に、味方に、一人の猟兵としてこの戦場を戦い抜く力を示す必要もあるだろう。
 オルトロスの顎から放たれる咆哮に対して、素早く刀を盾状にして身を守る。
 次の瞬間には、刀は歪に枝分かれした槍の形状へと変化し、猟犬たちを地に縫い留める。
 すかさず呼び出すのは焔を背負いし神性。
 【神格召喚『不動明王』】。刀を走る神の火はオブリビオンを容赦なく焼き、攻め手を緩めない眞はそのまま火達磨のオルトロスを別の敵へと投げつけていくのだ。
「……うむ、問題は無さそうだ」
 その様子を見やり、楽しそうに頷くシーザーの周りにもまた、倒れ伏すオブリビオンの数々。
 頭を増やすのも許されず粉砕されたもの、【ソドムの終焉(デウス・ラディウス)】の光を受けて、一瞬の内に絶命したもの等、まさしく蹂躙と呼ぶべき戦場の有様。

 それに関心を示さないのは、ただ一人。
「…………」
「どうしたんだい? その扉の先に、君の仇が居るのだろう?」
 じっとたどり着いた扉を見つめる同族殺しへ、シーザーが声をかける。
 それは、ただの確認だ。
 ヴァンパイアの言動から伺える、彼の狂気の源泉。
 ダークセイヴァーにおいて、辿るべくして辿った彼の歩みに対して、シーザーは特に同情はしない。
 ありふれた……というには、彼のようなヴァンパイアが少ないだろうが、それでもこれは幾度も見覚えのある悲劇に過ぎないのだ。
「仇を討つと良いとも。それまでは協力を惜しまないよ」
 それでも、何も守れなかったこの哀れな吸血鬼の背中を押すのも、猟兵として立ち会った自分の役目なのだろう。
 シーザーの声を受け、動き出したヴァンパイアが、大きな扉に手を添えて。

 かつて自分が居た場所へ、舞い戻るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『往生集め『エルシーク』』

POW   :    賢者の双腕
見えない【魔力で作られた一対の腕】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    蒐集の成果
自身が装備する【英雄の使っていた剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    幽暗の虫螻
【虫型使い魔】の霊を召喚する。これは【強靭な顎】や【猛毒の針】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:オペラ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠エルディー・ポラリスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●怨敵
「おやおや……裏切り者に家畜共、また随分と急いで来たものだ……」
 ニタニタと。
 それが嗤っているように見えたのは目の錯覚だろう。骨で出来たその顔に、表情などあるはずもない。
 それでもその声は、逃げもせず猟兵達と同族殺しの到着を待っていたその振る舞いは、来訪者への嘲りに満ちていた。

 ぶぉん、と風が鈍く裂かれる音。
 この館の今の主、エルシークの出迎えへの返答としてヴァンパイアが見舞うのは真紅の剣。
 同族であるはずのオブリビオンへ、容赦のない速度で放たれたそれを受け止めるのは、エルシークの操る複製剣。
「──ああ、この目で見るまで信じられないことだったけど……まだ君のペットを殺したことを怒ってるのかい?」
 羽目を外しすぎた同胞へ、ちょっとした灸をすえただけなのに。
 やはり、その声は目の前の相手を馬鹿にするように。
 自分が殺した女や子が、ヴァンパイアにとっての何であったかを理解した上での挑発だ。
 同族殺しの鬼気迫る表情が一段と強い怒りに染まるのが、心底楽しいというようにエルシークは嗤う。

「ほら、後ろの君達もおいでよ……死んでも骸の海に還るこいつじゃあ、私のコレクションにはならないしね」
 鍔迫り合いを演じながらも、がらんどうの眼窩は猟兵達へも向けられる。
 長く現世に君臨し、積もり積もった力と悪意が、新鮮な獲物を待ち構えていたのだった。
セツナ・クラルス
――っ
挑発に、自前の正義感が目を曇らせ乗せられかけるが
どうにか堪え現状把握に努める
ふ、ふふふ、安い挑発だね
…本当に忌々しい

エルシークと同族殺しの距離が少しでも離れたときを狙って
属性魔法・氷で敵と彼の間に氷の壁を生成
あなたはここに何をしにきたんだい?
「復讐」?違うだろう?
「討伐」の筈だったよ
それに私はあなたの背中を守ると言ったはずだ
そんな無防備な背中じゃ守れるものも守れなくなるよ

蝙蝠型の観測者を召喚
同族殺しに死角を作らない位置に配置させ
不意打ちを受けさせないように注意していよう
敵の使い魔は武器に仕込んだ破魔+毒を注入し動きの阻害をメインに行おう
露払いは任せてくれ
あなたはあなたの宿願を果たすといい


凶津・眞
成程ね、事情は把握した
余裕がありゃ仇を討たせてやるよ

刀を伸ばして同族殺しに向かう攻撃を範囲攻撃でなぎ払い
その動きを基に敵の攻撃パターンを学習して攻撃を見切って避ける
銃を抜いて同族殺しの邪魔にならないように敵が防ぎやすい銃撃を見舞う
防ぎやすい銃撃を続けてこちらへの注意力が削げたら早業で栓を抜いた対霊閃光発音筒を投擲、誘導弾で敵の近くまで運んでマヒ攻撃
爆発のタイミングに合わせて味方に合図を送って耳と目を閉じて防御
相手に効いているようならその隙に悪魔を召喚
ベルゼビュートの能力で敵もその武器も腐敗させる
殺すな、盗むな、犯すなってな。そんなにコレクションが好きならゴミ山にでも埋まってろ



●応報
「――っ……ふ、ふふふ、安い挑発だね」
 その声の震えを引き起こしたのがセツナの正義感ならば、思わず駆け出しそうになったその足を止めたのも、彼の善性だったのだろう。
 同族殺しの事情は分からないし、オブリビオンである彼を善人と呼ぶのも難しいだろう。
 だが、死した誰かを想い憤るその感情がきっと自分にも理解できるものであり、嗤いながらそれを弄ぶ目の前の悪魔を許してはいけない。
 ──それでも、セツナは赦すことで救われるものがあると知っている。
 領主エルシークではない、同族殺しとなったヴァンパイアの方だ。
 怒りに身を任せ、彼と共にエルシークを屠る事も、不可能ではないだろう。
 その『復讐』の先に待つ結末が善いものだと、セツナには何故か思えなかった。

 同族殺しとエルシークの剣戟が数合続いたその直後、現れるのは氷の壁。
 決して壊せないものではない。だが、その瞬間に生じるであろう隙を警戒する両者の間に戦いの空白が生じる。
「……邪魔をする気か?」
 ヴァンパイアの紅い瞳が、背後のセツナを射抜く。
 殺意すら孕むその視線を向けられるセツナは、しかし首を振りながらも微笑んで鈴蘭の杖を下ろす。
「とんでもない、ただ、頭を冷やしてほしくてね……怒りに任せて暴れられれば、それで満足かい?」
 そんな無防備な背中じゃ、守る方も苦労する。
 語るセツナの言葉を受け、ヴァンパイアの怒気も僅かに沈められる。
 その通り、復讐心に任せ暴れる為に来たのではない。あの忌々しい骨の化生を、確実に仕留める為にやってきたはずなのだ。
 改めてそれを認識した吸血鬼の剣は、一瞬のうちに氷壁を切り刻み、崩壊させる。
 それを待っていたかのように現れるのは虫の姿をした怪物達。エルシークが呼び出した使い魔達は獲物に牙を突き立てんと飛翔する。
「──というわけだ。お前の煽りはすべて不発だな」
 その使い魔をまさしく虫けらのように、眞の剣が薙ぎ払う。
 眞に残されている人間性は多くはない。
 ヴァンパイアの事情を察した今も、余裕があれば仇を討たせてやってもいい程度にしか思わないし、セツナのようにあれだけ世話を焼いてやる気にもならない。
 しかし、だ。
 それでも、眞の中に残っている何かが叫んでいる。
 その声が急かすのだから、攻撃の露払いくらいはしてやるし……。
「ところで、エルシーク。世には、殺すな、盗むな、犯すなってありがたい言葉があるんだがな」
「なんだい? まさか、オブリビオンにカビの生えた説法でもしたいのかな?」
 何かが叫ぶ、コイツは気に喰わないと。
 それでも眞の殆どは冷静で、だから気付けたことがある。
 してはならないタブーの教えは、つまり因果応報を語る。人にされたくない事は、しない方が良い。
 道中せっせと嗾けられた犬畜生、開口一番に発せられた挑発。それが示すものは。

「追い詰められてビビってんなら神妙にしときゃいいものを。無駄に煽るから無様晒すことになるんだ」
「……貴様ァ!!」
 自身の心中を暴かれたオブリビオンの激昂と共に、猟兵も交えた本当の戦いが始まった。

 再び始まるオブリビオン同士の戦い。
 先ほどと違うのは、同族殺しの側には猟兵達が居て、エルシークにも呼び出した使い魔の群れが構えている事だ。
 その条件下で、当然先ほどとは違う応酬が繰り広げられる。
「くっ、鬱陶しい小細工がァ!」
 押されているのは、エルシークの側だ。
 ヴァンパイアの頭上に現れた一匹の蝙蝠。【並走する観測者(ウノメタカノメ)】、セツナによって呼び出されたそれは、吸血鬼の剣に生じる隙を埋め、エルシークの攻め手を失わせる。
 使い魔に援護をさせようにも、眞が撃ちだす銃弾の対処にかかり切りだ。
 ヴァンパイアか、眞か、何か妥協する必要がある。
 当然、目の前の裏切り者を見逃す選択肢などあり得ない。
 大きな口を叩いておいて、単純な銃撃しかできない男は後回しだ、まずは目の前の相手を全力で殺すべき。
 そう思考したオブリビオンは、猟兵達から目を逸らし。
 瞬間、その意識には空白が訪れた。

「……ぁ?」
「目が無いからどうかとも思ったが……杞憂だったな」
 全てが罠。
 冷静さを失っていたエルシークが、眞が投げた対霊閃光発音筒に気付いた時にはもう遅く。
 視覚と聴覚を奪われたオブリビオンは棒立ちになり、主の統率から放り出された使い魔達はパニック状態に陥る。
 それは、致命的な隙だった。
「雑兵は此方で……宿願を果たすといい」
 使い魔の気配が減っていく。
 毒を仕込まれたセツナのからくり人形の仕業だとは分からずとも、エルシークの焦りは募る。
 目の前で何かを振り上げる気配。
 ヴァンパイアだ。見えなくとも防御をしなくては!

「──がっ、何故……?」
 掲げた剣ごと斬り裂かれる、その身体。
 錆びはて、朽ちた剣が主の盾となれるはずもなく。
 エルシークが、眞の神格召喚、【ベルゼビュート】の腐敗の力に気付けたのは、痛みによって取り戻した視覚でそれを見てからの事であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬師神・悟郎
安い挑発ではあるが、同族殺しには有効なんだろうな
復讐に手を貸してやると決めた以上、好機は必ず作ってやる
あの程度の奴にやられたりするなよ

闇に紛れると、弓を使い狙いを定め
同族殺しが距離を取った瞬間を狙いエルシークの頭上から矢の雨を降らせる
麻痺毒に破魔を込めた特製の矢だ

傷口をえぐり、生命力を吸収され、機動力を削ぎ
そして更に同族殺しと猟兵の相手をしなかればならない
これまでのようにはいかないぞ、エルシーク

位置を特定されないよう目立たないようよう逃げ足、忍び足
敵の注意が同族殺しや味方に向き、且つ一番成功率が高い瞬間を見きりUC発動

被害者達の絶望、少しでも無力となったその身で味わうといい



●望みを絶って
「ちっ……調子に乗るんじゃないっ!!」
 ヴァンパイアの剣を受けたエルシークが吠える。
 次の瞬間、ヴァンパイアの身体を吹き飛ばすのは剣の嵐だ。
 急所こそ守り、致命傷を避けたヴァンパイアではあるが、その身体には無数の裂傷が生じていた。
 エルシークの操るユーベルコードの一つ、剣を複製し、操る力。
 圧倒的な手数の優位を作り、近接戦においての制圧力を劇的に高めるその力を受けたヴァンパイアは、しかし焦りとは別の感情をもって怨敵を睨みつけていた。
「そうだ、そうだ。そういう顔をしてればいい……お前が領民に与えたこの剣で、切り刻んでやるからさァ……」
 エルシークの挑発は、同族殺しと猟兵に囲まれた余裕のなさの裏返しだ。
 しかし、語る言葉が事実に基づく点において質が悪い。同族殺しの表情は、再び憤怒の色に染まっていき……。

「ッ!?」
「避けるか、掠るだけでも十分だがな」
 それを中断するように、戦場に変化が訪れる。
 エルシークを突然襲う激しい矢の雨。それを複製剣で弾く彼の腕に生じた変化。
「麻痺毒……! くそっ、破魔の力まで込めているかっ!」
「正解だ。腕には頼っていないようだし、頭を狙ったが……まあいいさ」
 痺れ、いう事を聞かなくなった腕を庇いながら、エルシークが乱入者──悟郎を睨む。
「復讐は終わってないぞ、我を失っている暇があるのか」
「……もっともだ!」
 だからこそ、ヴァンパイアの再起に対する対処が遅れる。
 再び斬りこんでくるヴァンパイアの剣技を、エルシークの複製剣がガードする。
 手数の優位性は変わらないが、魔術の産物でしかないエルシークのそれと、自らの肉体に刻み込まれた経験によって振るわれる吸血鬼の剣。
 悟郎にも警戒をしなければならないエルシークに生じた負荷を加味すれば、両者の剣戟は再び拮抗状態になる。
「畜生! どいつもこいつも、私より弱い奴が我が物顔で!」
 矢の傷が疼く痛み、ヴァンパイアに斬撃を浴びせられない苛立ち、潜伏に長けた悟郎へ警戒を払う為の精神負荷。
 エルシークの声からは、着実に余裕が削り取られ、その動きは精彩を欠いていく。
 あるいは、相手が吸血鬼だけなら、それでも良かったかもしれないが。

「そうだな、お前は強い──被害者達の絶望、少しは味わうと良い」
 飛翔する拘束具が、エルシークの腕へとまとわりつく。
 慌てて最後の一つを叩き落したエルシークの身体から、何かが漏れていく感覚。
 からんと、何かが落ちる音。
 ユーベルコード、【咎力封じ】は不完全な発動に留まり、複製の剣は形を保つ。
 けれど、支配から零れ落ち、ただ床に落ちているだけの剣が何の役に立つのか。
 迫るヴァンパイアの剣。エルシークの思考に、希望など何処にもなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

セシリア・サヴェージ
大切な人を失った時の怒りや悲しみは、人間もヴァンパイアも同じ、か。
私の『父』は……いえ、今はエルシークを倒すことに集中します。

UC【闇の猟人】でエルシークに【二回攻撃】を行います。
一撃目で敵の弱点を分析し、二撃目はその弱点を突いて【部位破壊】します。
エルシークの操る複製剣は【武器受け】で防ぎます。
敵の念力に対抗してこちらの【念動力】で複製剣の動きを阻害するのもいいでしょう。

ヴァンパイアに私と共闘する気があるのかは分かりませんが、彼の死角から迫る攻撃を防いだり、ユーベルコードで判明した弱点の共有は行っていきましょう。



●共闘
「大切な人を失った時の怒りや悲しみは、人間もヴァンパイアも同じ、か」
 誰に聞かせるわけでもない。
 それでも、その呟きはセシリアの唇からぽつりと零れ落ちた。
 道中の様子から、そして、領主エルシークの言葉から垣間見える同族殺しの狂気の源泉。
 今なお激しい剣技でエルシークに襲いかかるその横顔は、セシリアにとって幾度か見たものでもあった。
 弱者を守る騎士として、このダークセイヴァーを歩けば嫌でも出会うその顔。
 親しい者を失くした人々の嘆きと憤りの表情と、それを作る側に立つはずのオブリビオンの顔は、とてもよく似ていたのだった。
 同時にセシリアの胸中に湧いてくるのは、この半魔の血を自身に与えた男についてであり……。
「……何を惚けているっ!!」
「──ッ!? ……失礼、しましたっ!」
 それを断ち切ったのは、同族殺しの叫びとエルシークの放った剣であった。
 短い謝罪を述べながら、セシリアはその手の大剣で攻撃を斬り払う。
 そうだ、この想いは、少なくとも今考えるべきことではない。
 一瞬、その美しい顔に垣間見えた『娘』を再び『騎士』へと戻した彼女の剣が、改めてエルシークへと向けられる。

「(さて、今の叫びといい、同族殺しは此方と協調すると見ていいでしょう)」
 ならば、相応の戦い方というのもある。
 暗黒剣を構えるセシリアが踏み込めば、当然エルシークの剣はそれを受ける為に主を庇う。
 打ち合う金属音。念動力で動いてるとはいえ、その力は同族殺しと拮抗していたものだ。
 正面から力づくでの突破は、少々以上に難しい。
 力づくでは、の話だが。
「ならば、剣を持つ力を叩いてしまえば良いだけですね」
「ぐうっ!?」
 不可視の念により操作される剣ならば、その念の力を同じ力で抑え込んでしまえばいい。
 【闇の猟人(ダークネスイェーガー)】の本領が発揮されるのは二撃目。
 一合でエルシークの剣の弱点を見抜いたセシリアの念動力に干渉された剣は先ほどまでの力を失い、容易く弾き飛ばされてしまう。
 ──そして、セシリアは知った弱点を意味もなく口にするほど、甘くはない。
 ダンピールの剣が複製剣を叩くと同時。セシリアの言葉で彼女が何かを見抜いたと悟った吸血鬼が、既に駆けだしていた。
 当然、その行く手を阻む剣も、弱弱しい力のみを有するものであり。

「確かに、これならどうとでもなる」
「ええ、攻め手は任せますよ」
 剣を振り切ったヴァンパイアと、その死角に切っ先を向けた剣を、念で叩き落すダンピール。
「……くそっ」
 深々と腕を斬られた領主は、それを睨み、ただ憎悪を向ける以外に出来ることは無かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。領主館に不似合いな子供部屋に、人間を妻と…。
少なくとも、お前に愛された妻子は幸福だったと思うわ。
…娘を悪神の贄にする親と比べれば…だけどね。

今までの戦闘知識から吸血鬼を援護するよう立ち回り、
第六感が捉えた敵の殺気の残像を暗視して攻撃を紙一重で見切り、
怪力の踏み込みから大鎌を振るう早業のカウンターで迎撃

…道は私達が作ってあげる。往きなさい、同族殺し。
…このまま共倒れを狙うつもりだったけど…少しだけ手を貸してあげる。

吸血鬼化した自身の生命力を吸収し呪力を溜めた大鎌からUCを発動
存在感の無い真紅のオーラで防御を無視し傷口を抉る飛刃を放ち、
ブーメランのように旋回して虫達をなぎ払う2回攻撃を行う


シーザー・ゴールドマン
【WIZ】
基本的には『同族殺し』のフォローに動きます。
同族殺しを襲う、見えない腕や複製の剣の動きを直感(第六感×見切り)で見切って、衝撃波を放って相殺。(カウンター×先制攻撃×衝撃波)
自身に来た場合はオーラセイバーで斬り落とします。

敵WIZUC対策
破邪の炎(属性攻撃:炎×破魔×串刺し×投擲)を放って消し飛ばす。
2回目以降は『オージンの言詞』にて出現も許さずに消滅させる。
「気をつけたまえ、君(エルシーク)には無駄な事をやっている余裕はないはずだよ? ほら、復讐の刃が迫っている」



●善因善果
 少しずつ消耗し、疲労の色を隠せなくなりつつある二人のオブリビオンの衝突。
 幾つにも増え、バラバラに襲いかかる剣の群れや、肉眼では捉えることのできない不可視の腕。
 エルシークが操る力は多様なものであり、その対処は困難を極める事だろう。
「……む」
「ちぃっ……鬱陶しいっ!」
 しかし、この戦場にいるのは彼らだけではない。
 群れなし、鋼の大蛇にでもなったかのような有機的な動きで同族殺しの首を狙った剣群。
 それを叩き落したのは、ヴァンパイアの後方から放たれた衝撃波だった。
「……悪態をついてる暇なんて、お前にあるの?」
 それを為した男を睨むのもなおざりに、エルシークは後方へと素早く飛び退る。
 そのローブの端を掠めていく禍々しく巨大な大鎌は、直撃すればオブリビオンと言えどもただでは済まないだろう。
 大鎌を振るう小さな少女リーヴァルディと、衝撃波を放ちエルシークの手を潰していくシーザー。
 二人の猟兵の存在により、エルシークの消耗はますます加速していたのだった。

「…………」
 そんな状況に、内心で訝しさを覚え始めるのは同族殺しだ。
 エルシークとの戦いが優位に進む現状、僅かに狂気が薄らいでいる彼の思考は状況の違和感を訴える。
 ──何故、この猟兵達は此方に味方するのだろうか。
 エルシークを討つために自分を利用する、それは分かる。自分だって、奴の首を落とせるならと猟兵達の存在を捨て置いてきたのだ。
 だが、この決戦の時にまで自分を守るのはどういう了見だ?
 猟兵達だって、最も望ましいのは自分とエルシークの共倒れであるはずだ。
 それが、何故……。
「なに、そう難しく考える必要はないさ」
 そんな同族殺しの内心を見透かしたように、シーザーの声が明瞭に響く。
 自分に向かう剣を光の一閃で打ち砕きながら、どこか、子供に言い聞かせでもするような穏やかな口調でシーザーはヴァンパイアへと語る。
「たかだかこれだけの数の振りで容易く後れを取る領主と、敵討ちにと奮い立つ復讐者……どちらに味方する方が愉快か、多くの者はそれくらいの考えだ」
「ッ、キサマァ……!」
 明確に貶されたエルシークの怒気も受け流し、シーザーは薄く笑みを作る。
 超然とした態度に隠れがちではあるが、シーザーは人の情というものに不理解な訳ではない。
 子を殺されたのだろうヴァンパイアを哀れに思い、その敵討ちをさせてやろうという程度には慈悲も湧いていた。
 そして、それはもう一人のダンピールも同じく。
「──少なくとも、お前に愛された妻子は幸福だったと思うわ」
「……!」
 リーヴァルディの言葉にヴァンパイアが僅かに動揺したのは、それが思いもしなかった言葉だからか。
 それとも、彼女の中に自分と同じ血を見出したからか。
 少女の表情に滲むのは、憐れみとほんの僅かな自嘲。
 屋敷の様子、本人の言葉。
 少なくともこの吸血鬼は、自分が知る吸血鬼より、よほど真っ当な親に見えた。

 共倒れを狙うだろうという同族殺しの分析は正しい。
 リーヴァルディはそのつもりであったし、その為に同族殺しをここまで守ってきた。
 無論、吸血鬼狩りの猟兵としての彼女は健在だが……その終わりまでの道筋を、少しくらい曲げてやろうという気にはなった。
「くそっくそっくそっ! どいつもこいつも……さっさと死ねぇ!!」
 エルシークが操る剣と腕が停止する。
 それは、彼の敵意が膨れ上がる前触れ。
 次の瞬間には、これまでの比ではない大量の蟲が現れ、主の敵を呑み込まんと黒い壁となって迫りくる。
「……道は私達が作ってあげる。往きなさい、同族殺し」
 その、更に前。
 エルシークの殺意を先んじて見たリーヴァルディは、蟲が雪崩となって迫る直前に、大鎌を振りかぶっていた。
 変質する彼女の存在、一時だけ人を放棄した少女が握る刃には、脈打つような赤い呪力が惜しみなく注がれていく。
 放たれる真紅の飛刃。【限定解放・血の飛刃(リミテッド・ブラッドファング)】は同じユーベルコードであるはずの蟲の群れをやすやすと斬り裂き、その勢いをそぎ落とす。
 ……まだだ。
 驚異的な力を前にしてなお、エルシークは自身の焦燥を押し殺す。
 蟲の利点はその扱いの容易さ。
 寿命を払うわけでも、小難しい儀式を求めるわけでもない彼らは、いくらでも補充が利く。
 倒されるたびに呼び出せば、ただの猟兵とはぐれオブリビオン、容易に押しつぶせる筈なのだ。
 いくらでも、いくらでも……?
「──気をつけたまえ、君には、無駄な事をやっている余裕はないはずだよ?」
 蟲が出てこない事に気付いたのは、シーザーの言葉の直後。
 エルシークの頭部が跳ねるように上がり、その視線を向ければ、シーザーの足元に散らばるのはぶすぶすと煙を立てる灰の山。
 みな、燃やされた。
 当然、シーザーの力を込めた特殊な炎によるものであるが、重要なのは蟲が炎に呑まれたこと。
 この瞬間、エルシークの使い魔は無力な虫けらまで貶められ……シーザーの紡ぐ【オージンの言詞(デウス・ウォカーブルム)】は、価値を失った奇跡を認めない。

「そんな……こ、んな……!」
 二人のダンピールは、ただエルシークを見つめる。
 ここまでやれば、後は自分達が手を貸す必要も無いと知っているから。
 そんな視線を背に受け駆ける吸血鬼の憎悪から、領主を守る盾など残っている筈も無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
其の口振りから察するに
お前は既にヒトを害したらしいな
ならば今此処で、倒さねばなるまい

学習力を活かして同族殺しの動きを観察し
彼の攻撃に合わせながら動いて行こう
同族殺しや仲間が攻め入る隙を作る為
リボルバーからマヒの弾丸放ち援護射撃

操られた剣はシールドか竜の顎門で受け止め防御
仲間が危険な時は、此の身を盾として庇おう
同族殺しは庇わないが……
仇を討ちたいと願うなら、今ばかりは力を貸そう

更なる隙が出来れば片腕を機械竜へ転じさせ肉薄
鎧を砕くような捨て身の一撃を呉れてやろう
さあ、ハインリヒ──
今宵の獲物は奴だ、存分に貪り尽くせ

ああ、本当に残念だ
お前は良い骨格標本に成るだろうに
骸の海に還るしかないなんて、な


トリテレイア・ゼロナイン
…妻子の敵討ち、ご助力いたしましょう
騎士として尚更看過できる存在ではありません

●防具改造で装備した煙幕発生装置起動
うっすらと煙がたちこめれば魔力腕は煙の動きとセンサーでの●情報収集で●見切れます(●地形の利用)

ですが動作精度に膂力は流石に古強者
●怪力での●武器受けと●盾受けでの受け流しから攻勢に出るのは難しいですね

…同族殺しを●かばいつつさり気なく往生集めから視線を遮り脚部スラスターでの●スライディング移動で急速接近し剣による精緻な一閃…

鋼の私すら理解できる親の怒り
それすら見誤った貴方にこの技
(精密攻撃によって特定の回避運動を取らせ、攻撃準備完了済みの同族殺しへの眼前へ導くUC)
見切れますか


梅ヶ枝・喜介
好き勝手しやがって悪党め!覚悟しやがれ!

見えない手に掴まれようが殴られようが、何度倒れようと前に進むのみ!
おれはこれしか知らねえからな!

そうやってじりじり間合いを詰めるおれに両手を使うってんなら!
その分他の誰かが楽できるだろう!
あの復讐の鬼がなんぼか楽になるだろう!

よぉ!"はらから"なんて言って悪かった!
ありゃ既に非道の輩!
他ならぬアンタが応報果たせねば!仏もアンタも浮かばれねえ!

まったくの勘だが!
見えない攻撃はアイツの目の届かない場所なら精細を欠くと見た!
道はつけてやる!息を整えて後ろをついてきな!

悪党!いまからテメェをブッ飛ばす!
これまで奪われた全てを、元ある場所へと取り戻してやらァッ!!



●許されない
 ヴァンパイアの一太刀を受け、崩れる身体をどうにか持ち上げるエルシーク。
 既に言葉を発する余裕も無いのだろうか、無言で揺れる身体の周囲には、数多の刀剣がゆらりと浮かぶ。
「……妻子の敵討ち、ご助力いたしましょう」
 事ここに至っては、ヴァンパイアだけでも勝てるかもしれない。
 オブリビオンを討つ猟兵の使命……同族殺しもいずれは戦う相手なのだから、ある程度の消耗は与えておいた方が良いのは事実だ。
 それでも、トリテレイアは。
 騎士であろうと願う兵器は、怒りに震える父親の側に立つべきなのだと感じていた。

「好き勝手しやがって悪党め! 覚悟しやがれ!」
「家畜にガラクタが、ぎゃあぎゃあと……!」
 まず動きを見せたのは喜介だ。
 許しがたい悪目掛け駆けていくその姿はまさしく勇猛果敢。
 見えざる腕を見切る術など無し、掴みかかられ、殴られてから木刀で打ち払うほかない彼の身体にはみるみる傷が増えていく。
 それで、いい。
 腕は不可視であって、二対も三対もあるわけではないのだ。喜介が一対の腕を相手すれば、他の者が見えざる暴威に晒されずともすむ。
 仲間が、あの鬼が楽になる。
「よぉ! "はらから"なんて言って悪かった!!」
 がむしゃらに突き進む喜介の後方、そこに居るはずのヴァンパイアへと叫ぶのは先の言葉の否定だ。
 同族を殺めるのは悪い事。その言葉自体に偽りはない。
 だが、目の前にした仇とやらは喜介が思った以上に悪辣で、歩むべき道を見失ってしまった鬼以上の悪鬼であった。
「これと同じなんて、ありゃあひでぇ事言っちまった!」
 誰かが討たねばならない悪鬼だ。彼が踏みにじったすべてを慰める為に、誰かが報いを受けさせねばならない相手だ。
 それに相応しいのは、少なくとも異邦人である自分じゃあない。
 ならば自分の役目は盾だ、潰れ役だ。
 腕であるのなら、自分で隠れた視線の通らない後方は殴りにくい、かもしれない。
「道はつけてやる! 息を整えて後ろをついてきな!」

「──意図は分かったが、それではお前が持たないだろう」
「おっと、すまねえな、くろがねの旦那!」
 そんな喜介の猪突猛進に付き合うのは、もう一人。
 彼に迫る複製剣を、大きな腕が阻み、へし折る。
 人の身ではあり得ない金属音を響かせながら、ジャックは壊れた剣を投げ捨て、次の攻撃へ備える。
 黒い機械英雄は、喜介ほどに同族殺しに寄り添うつもりはない。
 あれにどのような背景があったとしても、それがオブリビオンであることは変わりないし、恐らくこの後は戦う相手だ。
 だが、それ以前の話である。
 あれはヒトを殺めた。そこにあった筈の幸福を踏みにじり、嘲笑っていた。
「ならば今此処で、倒さねばなるまい」
 その過程で同族殺しが仇を取りたいと願うのならば、それくらいは手を貸してやろう。
 電子の計算ではない、『スペードのジャック』が出した結論に従い、彼はエルシークへと銃を向ける。
「ちっ……今更こんな小細工が何になる!」
 銀の銃が撃ちだす弾丸が、エルシークの魔力によって打ち払われる。
 込められたのは身体を縛るジャックの力。
 エルシークの言う通り、それは僅かに動きを鈍らせるにとどまり、勝負を決定づけるには至らない。

「いえ、細工は大切ですよ。我々は、その積み重ねの果てに生まれるのですから」
 ウォーマシンの言葉の直後。
 しゅどっ、という空気が抜ける音と共に重い何かが撃ちだされる。
 何を、とエルシークが疑問を覚える前に展開されるのは、トリテレイアによる煙幕である。
 その危険性に気づいた時には手遅れだ。
 立ち込める煙は、戦場の視界を閉ざすには至らない。
 それでもその薄靄は、無色の魔力腕の輪郭を鮮明に映し出し、その軌道を顕にする!
「ふむ、これなら……こうだな」
「おお! 確かにこっち相手の方がやりやすい!」
 トリテレイアの援護にいち早く反応するのは猟兵二人。
 喜介と素早く場所を入れ替えたジャックが連射する銃弾は、寸分狂わず魔力腕を捉え、その動きを縛り付ける。
 一方で喜介が向き合うのは複製剣の群れ。
 二つしかない不可視の腕より遥かに多いが……もとより棒振りのみが取り柄と自負する我が身、こちらの相手の方が慣れっこだ。
「こ、これは……こんなことが……!」
 不可視の腕が、複製剣が。
 エルシークの誇るユーベルコードが、ただの煙幕をきっかけに一気に蹴散らされていく。
 その動揺が、あるいはトドメだったのだろう。

「さあ……覚悟っ!」
「く、くそっ!」
 味方がこじ開けた活路。
 姿勢を低くしたまま、スラスターを吹かせ一気に駆けるトリテレイアの剣を、エルシークは慌てて回避していく。
 ──これを持って、トリテレイアのユーベルコード、【機械騎士の傀儡舞(マシンナイツ・パペットダンス)】は完成する。
 現実を捻じ曲げるわけではなく、敵の心を奪うのでもなく。
 三人で作り出した状況下でのただの計算、ただの誘導によって、エルシークはトリテレイアの望む舞台へと引きずり出される。
「……ひっ!?」
 そこは、喜介とジャック、そして同族殺しに挟まれる断頭台だった。

「よぉし悪党! いまからテメェをブッ飛ばす!」
 喜介の振り上げる木刀は【猛火の構え(ジョウダンノタチ)】。
 ただ全霊の一撃を振るうことのみ考えた姿は傷だらけ。
 無理やりにでも押し通れるかもしれないが……周りがそれを許さない。
「さあ、ハインリヒ──今宵の獲物は奴だ、存分に貪り尽くせ」
 ゆらり伸ばされたジャックの腕が変じて現れるは【暴食に狂いし機械竜(グロトネリーア・ハインリヒ)】。
 ガチガチと鳴らされる牙が生む火花は、機械竜が流すはずもないよだれのようで。
 獣であるなら出し抜けようか……周りがそれを許さない。
「………………」
 そして、同族殺しは何も語らず剣を構え。
 ただただ、彼のすべてがエルシークのすべてを許さない。
「あ……ああ……!」
 逃げられない、力づくでは無理だ。
 何か許しを乞うべきだ、何か、何かを言って……。

 三つのユーベルコードが、一つに叩きつけられて。
 己が許されざる行いをしたのだと、エルシークは最後まで理解し得ないまま、躯の海へと消えていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ヴァンパイア』

POW   :    クルーエルオーダー
【血で書いた誓約書】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    マサクゥルブレイド
自身が装備する【豪奢な刀剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    サモンシャドウバット
【影の蝙蝠】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。

イラスト:伊藤あいはち

👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●まだ
 地に崩れ落ちるエルシーク。
 積み重ねた悪意も力もその亡骸にはもはやなく、少しずつ塵となって骸の海へと還っていく。
 ──これで終わりだ。
 これで、妻が生きたこの地に、子が生きるはずだったこの地に巣くう悪鬼は消え去った。
 今更死んだ者は帰らなくとも、敵を討ち、この場所に僅かな安寧がもたらされたならそれで十分ではないか。

 顔を上げれば、大きな姿見が目に入った。
 そうだ。確かあれは、妻に贈ったもの。
 装飾が華美に過ぎると不評だったが、よく捨てられず、よく壊れずにこの戦場に残ってくれていた。
 なんて懐かしい。
 これだけは昔のままで、覗き込めば髪をとかす大きなお腹の彼女を思い出せるようで……。


 まだ鬼がいる。


●後始末
 エルシークが斃れ、どこか憑きものが落ちたかのような表情のヴァンパイアは、ふらふらと部屋の片隅へと歩いていき、静止していた。
 そして、その手の剣は唐突に猟兵達へと向けられる。

 力任せに振るわれる剣を、猟兵達は驚きながらも回避する。
 ある者は、これまでエルシーク達にのみに向けられていた憎悪が未だ残る彼の表情へ。
 またある者は、その剣技のあまりの──拙さに驚きを隠せない。
 今まで此処で戦っていた彼の剣は、このような乱雑なものではなかった。
 エルシークとの戦いの消耗だけではない、より深い部分で何かが変わっている。
 防御も何も考えていない大振りの剣は……まるで殺してくれとでも言うように。

 怒りに満ちた吸血鬼の眼差しには狂気の色が刻々と深く刻まれていく。
 彼の戦いは、既に終わった。
 そして、その終幕に立ち会った猟兵達の戦いが始まろうとしていた。
梅ヶ枝・喜介
応報の果てがこんなでいいのか
どうしたって報われねぇ
ナマス切りで終わり…そんなのはいただけねえよ
ならば、おう!
おれなりに送ろうじゃねえか!

アンタの労で民草もおれたちも助かった!あんがとよ!
アンタは良いヤツで、義を通した仁者だ
そんなへっぴり腰は似合わねえ
全力で来やがれ!

湿気た面してんじゃねえ!笑え!!
―――んな顔してっと、先に逝った家族が心配すらァ!

そして名乗れよ!アンタとアンタの連れと子の名を!
墓の一つも作らねえと寂しかろう!
おれは寂しいぜ!何処に手ぇ合わせりゃいいかわからん!

何より立ち会いの作法だ!

おれは梅ヶ枝喜介!いざ尋常にィ!!

死する男の分まで、泣かぬ男の分まで
泣くように笑い、木刀を振ろう


シーザー・ゴールドマン
……そうだね。此処にはまだ討伐されるべき存在がいる。
もはや心残りもないだろう。最後の戦いを始めようじゃないか。

オド(オーラ防御)を活性化。オーラセイバーを具現化して戦闘態勢へ。
剛柔自在の剣術で戦います。
(先制攻撃×怪力×鎧砕き)(フェイント×2回攻撃×鎧無視攻撃)等
敵の攻撃は見切って回避。
体勢を崩したところにカウンターで『カーリーの鏖殺』の一撃を。

君の体は骸の海に還るだろう。だが、何かが残るかも知れない。
君の妻の墓は何処だね? 一緒に弔ってあげようじゃないか。
などと熾烈に攻めながらも優し気な軽口をたたきながら戦闘を。



●勝負
 真っ直ぐに振り下ろされる剣を、喜介の木刀が横から打ち払う。
 正面から受けたわけでもないのに、腕はジンジンと痺れるように痛む。
 理性のリミッターが外れたからだろうか、オルトロス達をなぎ払った時より、エルシークと戦っていた時よりも、その剣は力強い。
 その上で。
「浮かない顔だね。今までよりも、遥かに御しやすいだろうに」
「そりゃ、そうだろうよ……!」
 力強い。その上で、ヴァンパイアは弱くなっている。
 猟犬の群れを駆け抜けながら振るわれた正確な太刀筋も、エルシークの剣群を捌いた駆け引きも、そこには残ってはいない。
 ただ力まかせに剣を振るう。
 喜介のような、愚直さと共に積み重ねた研鑽があるわけでもない。
「こんなんじゃなかった! さっきまで俺達と戦ってたのは、こんな剣じゃあなかった!」
「……ああ、ここに残っているのは、さっきまでの彼ではない」
 復讐を終え、心残りと共に自らを手放してしまった討たれるべき鬼。
「だからこそ──最後の戦いを始めようじゃないか」
 シーザーの微笑と共に、この地での戦いの終わりは始まるのだった。

 シーザーの光剣とヴァンパイアの剣がぶつかる。
 力の均衡はごく数瞬、手首の僅かな切り返しで力を逸らすシーザーは、容易く敵の刃をすり抜け剣を届かせる。
 負けようがない。
 だからこそ、その剣戟を見た喜介の内には疑問が生じてしまう。
 こんな最後でいいのか? 応報を果たした男は、最後はズンバラリで左様なら?
 ちょっと考えて……すぐに答えは出る。
 この結末が正しくないと思うなら、そうでない道へと自分が後押しするべきなのだ。
 彼の門出を、自分なりに見送るのだ。
「おう、男前の兄サン! ちょっといいかい!」
「勿論。見送り方は決まったかな?」
「当然よ! ──残してやろうぜ、コイツと連れさんと子が生きてた事を!」
 喜介が叫んだその結論。
 それは、死者を弔う当たり前の作法で……すでに命なき、屍も残らぬだろうオブリビオンを送るには困難な選択。
「いいだろう。倒れても、何かは残るかもしれないのだから……そういうわけだ、もう少し付き合ってくれたまえ」
「ウウ……何、ヲ……!!」
 それを、どこか楽し気な声の調子で受け入れたシーザーの剣が、ヴァンパイアを押し返す。
 膂力だけならシーザーに対抗できるやもしれぬその剣も、それ以外の技術や速度が無いのであれば敵ではない。殺そうと思えば、今すぐにでも。
 それでは、駄目だ。
 彼には、まだ聞くべきことと言うべきことが残っているのだから。
「そんなへっぴり腰の剣で勝てるわけねぇだろ! 今度は俺が相手だ!」
 同族殺しが距離を置いた隙に、シーザーと入れ替わるように喜介が踏み込む。
 吹っ切れたように笑う少年の木刀と、嘆きと怒りのみを残したような鬼気迫る吸血鬼の剣が交差する。
「さあ、笑えよ、名乗れ! アンタと、アンタの大切な者の名を!」
 鬼がどうなど関係がない。エルシークを討ち、民草を救い義を通した仁者の。
 共に戦った戦友の名を知らねば、自分はどこへ手を合わせればいいのか分からない。
 そして、何より。
「今更、名ナド……!」
「うるせえ、立ち会いの作法だ! 意地でも教えてもらうぜ、アンタの名を……!」

 瞬間、シーザーは見た。
 吸血鬼が放つ誓約書、多くの猟兵が知るだろうヴァンパイアのユーベルコードを、シーザーはヒラリと余裕をもって躱し……喜介はそのまま受ける。
 途端に、喜介の声が途絶える。
 あれほど叫んでいた彼がどうしたというのか。
 その疑念に応えるように喜介がシーザーの側へ投げるのは、彼が受けた誓約書。
 シーザーが受け取るその紙から響く何かが割れる音は、誓約の魔力が、彼の破壊に負けた証だろうか。
 血の香りが漂うその誓約書を見たシーザーの口元が弓なりに微笑む。
「なるほど、発声を禁止されたのか……だが、大切なのはそこではないね」
「…………」
 コクリと頷く喜介が見つめる先に、肩で息をするヴァンパイア。
 声を封じたのは苛立ちからか、それでも、この手段を選んだという事は。
 同族殺しの魔力で綴られた誓約書の文字、ダークセイヴァーの支配者層が扱う古い文字は、シーザーも知るものだ。
「猟兵、梅ケ枝村の喜介」
 『二人』が望むのならば、その流儀に合わせよう。
 声を出せなくなった喜介が叫んだ作法を、シーザーが引き継ぐ。
 誓約者として刻まれたそのままに読み上げられる名を受けて、喜介がより一層深い笑みを浮かべて上段に木刀を構える。
「同じく、シーザー・ゴールドマン」
 誓約書を投げ捨てる。誓約を受けなかった自分の名は記されていないし、他の文章は既に覚えた。
 剣を取り、破壊の魔力を漲らせるシーザーもまた笑みを浮かべる。
 問おうとしたのは『場所』であるが、刻まれた『名』が分かれば、いくらでも探せる。

 そして、誓約書の最後の名前。夜の貴族、伯爵、吸血鬼。
 長々と書かれた肩書と家名の全てに引かれた一本線。
 残るこの言葉だけが、彼にとっての大切な『彼』なのだろう。
「──ルシールの夫、ナディア、あるいはフェリクスの父……ナタン」
 名を告げられたヴァンパイアの様子は、依然剣を握り締めた敵対的なもの。
 それでも、自分の直前に呼ばれた名が、彼の怒気を僅かに和らげる。
 シーザーが一呼吸の間を置き、喜介の脚がより強く床を踏みしめる。

「いざ、尋常に」
 そこから先に、言葉はいらないのだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

凶津・眞
未練がなくなって本能だけになったか。終わらせてやるよ。
今までの戦闘で学習した同族殺しの動きを見切り、攻撃を回避。
誓約書を投げ付けられればマントでベクトルを操作して同族殺しにカウンター。カウンターが決まれば、斧の封印を解いて発生させた光刃による範囲攻撃。壁を大きく破損させながら攻撃に同族殺しを巻き込んで吹き飛ばす。
トドメに機械人形を召喚し烏枢沙摩明王を憑依させ、同族殺しもその攻撃も全て焼き尽くす。
二度と迷い出てくるなよ、それじゃあな。


セシリア・サヴェージ
本来ならばこれを好機と見て畳みかけるのが正しいのでしょうが……。
戦う意思があるのならば全力で来なさい。そして私もそれに全力で応えましょう。

召喚した刀剣を念力で操作……エルシークが使った技に似ていますね。
ならば対処法は同じく【念動力】で念力の妨害。その隙に仕掛けます。
ですが先ほど同じ手を見ているわけですからこの動きは相手も読めているはず。
なのでそれをさらに読んで【フェイント】で反撃の空振りを誘い、その隙を突いてUC【闇の制裁】で攻撃します。

どの道、あなたがオブリビオンである以上遅かれ早かれこうなる運命だったのです。
存分に怒り、憎み、怨むといい。その闇は暗黒騎士たる私が受け止めましょう。



●葬送
「未練がなくなって、本能だけになったか」
「本来ならばこれを好機と見て畳みかけるのが正しいのでしょうが……」
 未だ狂気に身を任せ荒れ狂う同族殺し。
 理性を手放した獲物を屠るのは簡単だ。こうなってしまえば、楽に処分する方法はいくらでも存在する。
 だけど彼は斧を取り、彼女は剣を握り。
 眞とセシリアが選んだのは、真正面からこの吸血鬼を打倒する道であった。

「皮肉ですが……エルシークが使った技に似ていますね」
 ならば同じ対処が通用するはずだ。複製した刀剣を飛翔させるヴァンパイアを見据えるセシリアは、先刻と同じように念動力での妨害を試みる。
「…………!」
「おっと、割り切ってきたな」
「まあ、既に見せた手ですから……想定内です」
 それに対して、ヴァンパイアが取った行動は合理的なものだった。
 セシリアからの力場が干渉してきたことを察知するや否や、半分ほどの刀剣の操作をあえて手放す。
 操る剣を絞ることで力を引き上げ、強引に干渉を振り切る考えなのだろう。
 セシリアとしても言葉のとおり、驚くには値しない動きだ。
 だからこそ。
「ッ、コレハ……!?」
 ヴァンパイアの剣が、高速で飛翔する。
 彼自身にすら追いきれぬ、速すぎる速度で。
 だが、どれだけの速度があったとしても、本人にすら御しきれぬスピードで飛ぶ単調な攻撃で討ち取れるほど猟兵という存在は甘くない。
 ヴァンパイアの対処は予想できた行動だ。
 故に、あえて干渉を断ち切るセシリアは冷静にその身を屈めて、真っすぐに飛んでくる剣を回避してみせる。
 敵の念動力の妨害を前提として操られた刀剣が過剰な力を込められ、空振ってしまう攻撃が同族殺しに隙を与えるだろうこの状況までが、彼女の想定内。
 ヴァンパイアの周囲を守っていた剣が一時的に消えた今、彼女のユーベルコードを阻むものなどありはしない。
 闇に染まる大剣を振るう彼女に対しヴァンパイアが振るえるのは、その手に持った剣の本体のみである。
「グ、ウゥゥ……!」
「──鍔迫り合い……先ほどまでの貴方なら、ここから斬り返す目もあったでしょうが」
 甲高い金属音と共に、吸血鬼と半吸血鬼の視線が交差する。
 理性を手放したヴァンパイアが、膂力で押し切れない相手から逃れる術はすでになく。

「たらればを論じてもしょうがねぇ。コイツが選んだことだ」
 同族殺しの戦闘の癖を見続けていた眞を止める手段も、彼には残されていない。
 先ほどまでのヴァンパイアであれば、眞の学習を踏まえた上での駆け引きも仕掛けられたであろう。
 しかし、真に狂える同族殺しになり果てた彼では、苦し紛れにユーベルコードを飛ばすのが精いっぱい。
「……これも、あまりに単調に過ぎる」
「何……!?」
 それを、眞のマントがはじき返す。
 ユーベルコード、奇跡の力で作られた誓約書がヴァンパイアに突き刺さる。
 しかし、それ以上に。
 奇跡を、ただの道具の力で防がれた衝撃こそが吸血鬼の思考を揺さぶり、そこには一瞬の隙が生じる。
「──畳みかけるぞ、合わせろ!」
「ええっ!」
 それを見逃す二人ではない。
 セシリアがひときわ強い力でヴァンパイアの体勢を崩しながらも後方へ跳ぶ。
 間髪入れずに放たれるのは、眞の斧から飛んでいく光の刃。
 大きな三日月形のそれは、ヴァンパイアに着弾すれば、周囲の刀剣をも巻き込んで彼の身体を吹き飛ばす。

「グゥ……マ、マダダ……マダ、私ハ……!」
「終わってるんだよ、俺らが来る、そのずっと前にな」
 決別の言葉と共に打ち出されるのは神の炎。
 眞に呼び出された巨大な人形に宿った神の火は、同族殺しを、その奇跡ごと焼いていく。
 肉の焦げる異臭、同族殺しはその両足でどうにか立ちながらも、身に受けた負傷はまさしく深手だ。
「…………」
 彼を打ち倒すまで、そう長くはかからないだろう。
 セシリアの見立て通り、ヴァンパイアはボロボロで、今にも倒れそうに。
 自分達が猟兵とオブリビオンである以上、こうなる事は当然であるし、そこに迷いはない。
 なればこそ、その中で自分に為すべきことがあるのなら。
「──存分に怒り、憎み、怨むといい。その闇は暗黒騎士たる私が受け止めましょう」
「そうしたなら、二度と迷い出てくるなよ」
 大剣と斧を構え、言い放つ二人の猟兵。
 骸の海で眠るべき死者を送るためのその有様は、決して揺らぐことは無い。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セツナ・クラルス


ところで
オブリビオンと猟兵の間に友情は成立すると思うかね
…ふふ、私はね?
成立すると思うんだ
だって私は既にきみに友情めいたものを抱いてしまっているもの
友であるきみに頼まれた後始末だ
最後まで引き受けようじゃないか

きみの未来が闇に染まっているのなら
私が光を灯そう
さあ、おいで?
私がきみを楽園に導くから
付かず離れず敵に纏わりつき反撃の機会を伺う
隙が見えたなら鎌で一閃
少しでも掠めることができたらUCの効果で精度は増す筈だ

私はヴァンパイアであるきみを見逃すことができる程の度胸はない
が、誰かを愛したきみの感情を見落とす程の愚か者ではないと己惚れているよ

きみときみの家族を貶めるモノはもういない
安心しておやすみ


薬師神・悟郎
復讐を終えた後の奴は結局、人にはなれず、同族にも戻れなかった
その姿はまるで獣だな
…哀れに、思っているのかもしれない

他の猟兵に注意がいく間に闇に紛れ目立たないよう動く
成功率の高いタイミングを見計らい先制攻撃、暗殺(毒使い+マヒ攻撃)
脚を部位破壊し機動力を削ぎ次に利き腕を狙う
技を使用される前にUCで複製した暗器で同族殺しの体全体に雨を降らせるように破魔の力を込めた属性攻撃+全体攻撃

同族殺しからの攻撃は見切り回避
複数の耐性とオーラ防御でも備え万が一の時は技能を駆使して自身を庇う

…この世界にお前の存在は許されない
俺が、猟兵が、お前を消す
…だが、せめて眠りにつく時は妻子と再開できるよう祈ってやろう



●理由
「ウウウ……私、ハ……!」
「…………」
 同族殺しは剣を振るい続ける。
 猟兵達の言葉で一時の正気を浮かび上がらせることがあっても、それはすぐに狂気に塗りつぶされていく。
 仇であるエルシークが斃れた今、彼の憤怒が向かう先は、他ならぬ彼自身なのだから。
 人になれるわけでもなく、同族を殺してそちら側に戻れるはずも無く。
 ただ激情に身を任せるその姿は、獣と評する他はない。
「なるほど……哀れに、思っているのかもしれない」
 それでも、そんな有様を見て悟郎の口から漏れ出た言葉には、どこか驚きが込められていたのだった。
 そうだ、悟郎はこの吸血鬼に憐れみを覚えていた。
 相手はオブリビオン。その背景に何があろうとも、討たねばならない現実は変わるはずも無いのに。
「……そうだね。私も、ヴァンパイアである彼を見逃すことができる程の度胸はない」
 だけど、ただの獣、ただの怪物として彼を終わらせるのも違うはずだ。
 悟郎の横に立つセツナは、薄い笑みと共にヴァンパイアを真っすぐに見据え語る。
 猟兵とオブリビオンは戦い、どちらかが倒れる。
 悟郎もセツナも、狂気に落ちた同族殺しである彼さえも、初めから理解していた事だ。
 けれど、そこに敵意と憎悪以外があるのであれば。

「──ところで。オブリビオンと猟兵の間に友情は成立すると思うかね?」
 結末に向かう過程も変わるはずなのだと、セツナは信じている。

「何ヲ、世迷言ヲ……!」
「私は本気だよ……だって私は、既にきみに友情めいたものを抱いてしまっているもの」
 狂気の中にも確かな困惑を滲ませ斬りかかるヴァンパイアを大鎌で受け止めながら、セツナは言葉を続ける。
 ──その内容は、まさしく世迷言なのだろう。
 ヴァンパイアの注意が完全にセツナへと向かった隙に身を隠した悟郎は、その内心で敵となった吸血鬼へと同意する。
 猟兵は、オブリビオンを倒すために存在すると言っても過言ではない。
 そのような立場にあるセツナがオブリビオンとの友情を語るなど、心無い者が聞けば侮蔑の対象にすらなるかもしれない宣言だ。
 しかしこの場に限っては、堂々と自分の心を語るセツナに驚愕こそすれ、詰る者は居ない。
 悟郎もまた、同族殺しへの敵意以外の感情を抱いていたのは確かであるし……吸血鬼もまた。
「きみの未来が闇に染まっているのなら……私が光を灯そう」
「黙レ! 未来ナド……私ノ望ム物ハ、ソコニハ無イ!」
 まるで迷い子を導くように手を差し伸べる男へ叫ぶその胸中。
 何かから目を逸らすようなその表情は、仇との戦いで自分の傍に立っていた者達に対する感情の裏返しでもあった。
「そうだな……骸の海から来たお前は過去そのもの。この世界に存在は許されない」
「グゥッ!」
 同族殺しが感情を乱したその刹那、努めて冷静に放たれる言葉と暗器。
 悟郎の放った麻痺毒の刃が、吸血鬼の脚へと突き刺さっていく。
 ヴァンパイアの動きが止まる。間髪入れずにその腕へと苦無を放ち……それは、宙を舞う刀剣に防がれてしまう。
 しかし、本人と剣の動きを同時に止めたのならば成果は十分。悟郎は、一人で戦ってなどいないのだから。
「それでも、友に頼まれた後始末だ。私は最後まで、君をあるべき場所へ導いてみせる」
 追撃として放たれるユーベルコードはセツナのもの。大鎌の一撃が、ヴァンパイアの腕を斬り裂いてみせる。
 瞬間、想いを汲みとるセツナの刃に流れ込んできたのは『熱』だった。
 煮えたぎるような復讐心、身を焦がすほどの憤怒。
 どす黒い感情の奔流の中でなお、もっとも強く優しく輝く、セツナの知らない誰かの笑顔。

「嗚呼、そうだ――度胸はなくとも、君が抱いた愛情を見落とすほどの愚か者には、なれないからね!」
「知ッタ口、ヲ!」
 刃が宿した熱に従い、大鎌を斬り上げるように振るうセツナ。
 それを押しつぶさんと放たれるのは、同族殺しが操る剣の群れだ。
 けれども。
「──お前が思う以上には、知っているさ」
 そのことごとくを、悟郎の操る刃が打ち落としていく。
 彼には、セツナほどに気の利いた力はない。同族殺しがこれまでに歩んできた道のりも、セツナが見たのであろう何かも、うすぼんやりと予測をするのが限界だ。
 しかし、それでいい。
 猟兵たる自分が、オブリビオンである彼を消し去るのに大した理由は要らない。
「……だが、せめて」
 最後の剣を苦無が押しとどめ、宙に残る剣が体勢を立て直す前に、セツナの的確な斬撃が薙ぎ払っていく。
 同族殺しのことなど殆ど分からないけど、彼が何を愛したか程度は、この短い時間でも分かるから。
「眠りにつく時は、妻子と再開できるよう祈ってやろう」
「だから、安心しておやすみ」
 相容れない敵に対するこの言葉の理由は、それで十分なのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。本懐を遂げて、いよいよ正気を保てなくなったか。
このまま何も見えぬまま狩る事もできるし、
去年までの私なら確実にそうしていたけど…。

【吸血鬼狩りの業】で攻撃を避けつつ闇に紛れ、
呪力を溜めた掌打を放ち“調律の呪詛”を付与
吸血鬼の自我の存在感を増幅する精神攻撃で一時的に狂気耐性を与える

…聞こえているか分からないけど、少し静かにしてなさい。
…今、お前が本当に望んだものを探してあげるから。

吸血鬼化してUCを展開し【血の煉獄】を九重発動
圧縮して限界突破した時間の中で祈りを捧げ、
吸血鬼に怨嗟を抱いていない霊魂の残像を暗視して見切り、
彼女を光の精霊化して召喚できないか試みる

……後は貴女に任せるわ、婦人。


ジャック・スペード
成る程――
ヴァンパイアという存在は
斯うもヒトらしい反応をするのか

お前が介錯を求めるのなら、それに応えよう
涙淵と召喚した光の長剣を用いて戦闘
二刀流で二回攻撃を意識して立ち回り
襲い来る刀剣はシールドで弾くか、涙淵で武器受けを

それから、あの鏡
アレは彼にとって大切なモノらしいな
傷つけないように気を付けたいので……
あくまで接近戦を挑むとしよう

ヴァンパイアに俺の声が届くかは分からない
猟兵が全ての命を救えるわけでもないんだが
俺もヒーローの端くれなので、矢張り言わずには居られない

――お前の大事な“ヒト”たちを
助けてやれず、済まなかった
ああ、駈け付けられなかった事と一緒に
知ったような口を聞いたことも詫びよう


トリテレイア・ゼロナイン
その剣筋…いえ、言いますまい

戦う前に、【血の誓約書】を私に頂けますか
ルールは一つ、「偽るな」と
(傷を負わない=真実)

(格納銃器を剥き出しにし)
私は以前、妻を愛し子を為した吸血鬼と出会いました
妻と腹の子以外の人を殺さんとするその男の討伐に参加しました

無辜の人々の為、夫を、父を奪う…
為すべきことだったと断言しましょう

今、貴方が相対しているのはそのような存在です
…「敵」として剣を振るいなさい!

誓約書を格納銃器で撃ち落とし、剣を怪力による武器受けで武器落とし
大盾による殴打で殴り飛ばし

細君の…ご家族の遺品と希望の場所を教えて頂けますか
貴方がどんな罪を犯したとしても、共に眠ることは許される筈です



●再会
「ヒュー……ひゅー……わ、たし、ハ……!」
「成る程――」
 猟兵との戦いで刻まれた傷は深く。
 広々とした領主の部屋は、その豪奢な造りも無惨に破壊の跡が刻まれていく。
 そうまでして同族殺しが戦い続ける意味など、きっともう残ってはいない。
 無意味に傷つき、無意味に傷つけ、世界を破壊するオブリビオンの使命を果たすわけもなく、ただ無意味に。
 ただただ激情に突き動かされ、その意思すらも希薄なままに戦い続ける姿は不合理極まりない。
 夜の貴族などという栄誉は既になく、されど、コントロールできない感情に振り回されるその様は。
「ヴァンパイアという存在は、斯うもヒトらしい反応をするのか」
 ジャックが知る『ヒト』に、どこか重なる姿であった。

 もはや声にもならない叫びと共に斬りかかるヴァンパイアの刃を、ジャックが抜き放つ刀が受け止める。
 ──狂気の深淵に落ちたとしても、その身は強大な力を持ったオブリビオン。
 愚直な太刀筋は容易に避けられるだろうが、受けるとなると少々以上に難しい。
 刃の腹で滑らせ、鍔で受け止めようやく止まるヴァンパイアの剣の圧力が、ジャックの腕を僅かに軋ませる。
 されども、避ける選択肢など無かったのだ。
「くっ……すまない、誰か、その鏡をもう少し遠ざけてくれないかっ!」
 目の前の敵から目を逸らさず、ジャックが叫ぶのは背後に庇う大きな姿見。
 あれを見て、ヴァンパイアは真に狂った。
 あるいは、あれを割ってしまえば彼は正気に戻るのでは?
 既に、これ以上無いほどに凶暴化してしまったオブリビオンを前にして、とりあえず試す程度の価値はあるかもしれない。
 それでも、ジャックは見たのだ。
 同族殺しが此方に剣を向けるその直前。
 姿見に目を向けた時の彼の顔。
 穏やかに笑っていたあの顔を砕くのは、ヒーローとしてのジャックが許さない。
「……ん。大事そうだものね……あなた達、丁重に運んであげて」
 一方で。
 当然のようにその行いを叫んだジャックに対して、自分の行動に微かな驚きを滲ませつつ、弟子である吸血鬼狩り達に指示を飛ばすのはリーヴァルディだ。
 相手が狂おうが関係ない。ただ淡々と吸血鬼を斃し、その命を摘み取るのが自分だった筈。
 それがなんとも変わったもの。
 何故変わったか、どう変わったのかは分かるけど、存外悪い気分ではない。
 そうだ、どうせなら。
「ちょっと打ち込むわ。左に避けて」
「む、こうか?」
 鍔迫り合いの形になっているジャックの返答も待たないまま、武器を収めたリーヴァルディが真っすぐに右腕を引き、掌打を放つ。
 吸血鬼に突き刺さるそれは、しかし彼には露ほどの負傷にもならず。
 小さく軽いリーヴァルディだ。歴戦の猟兵として、それを補う手段はいくらでも有しているけれど、ただの打撃ではオブリビオンは倒せない。
 元々、これは倒すための『術』ではない。
「グ、がアぁぁああァァァっッ!!?」
「ッ、急に強く、おい何をしたんだっ!?」
 掌打を受けた直後、ヴァンパイアの叫びと共に増した膂力。
 とっさに剣を引いたジャックが盾を展開し、身体全体の力を使って耐える。
 リーヴァルディへと叫ぶその声すらもかき消してしまいそうな吸血鬼の咆哮は、しかし先刻よりも僅かに人らしい声で。
「少し、時間を稼いで……戻ってきてもらうの、彼が、本当に望んだものの為に」
「! それは……!」

「なら、その役は私が。適任だと、自負しましょう」
 黒い英雄は彼の思い出を守り、銀糸の少女はその願いを手繰り寄せる。
 この地の、自分達が来る前から始まった戦いの終わりはすぐそこに。
 なれば、最後の敵が必要だろう。
 名乗りを上げた機械の声──トリテレイアの立ち姿に、迷いの色はあるはずも無かった。

「戦う前に、血の誓約書を私に頂けますか」
 『準備』の為に目を閉じ、無防備になるリーヴァルディにつくジャックと入れ替わりに、前へ進み出るトリテレイア。
 油断などあるはずも無いが、交代際に攻撃を加えること無く見送った吸血鬼の様子。
 本当に『彼』が戻るのなら、決して通じぬ願いではない筈だ。
「…………」
「感謝を」
 投げ渡される、自身と吸血鬼の名を刻んだ誓約書。
 自分で決めろという事か。トリテレイアは確認するまでもなく、自身の騎士道を綴るペンを用いて誓いを立てる。
「見えるでしょうか。この世界の字で書かせていただきました……『偽りを禁ずる』、と」
 数多の物語を集めたトリテレイアによって綴られた誓いが、ヴァンパイアへと掲げられる。
 瞬間、自分に宿った何かの力。彼のユーベルコードは、十全に機能しているのだろう。
「私は以前、妻を愛し子を為した吸血鬼と出会いました……愛する者以外を殺めようとしたその男を、討伐する為です」
「……!」
 トリテレイアの姿が変わる。
 その手に悪を討つ剣はなく、弱きを守る盾はなく。
 肉を裂き、骨を砕き、命を奪う事のみを追求した戦争兵器と化した彼の言葉に、ヴァンパイアの顔色が変わる。
「無辜の人々の為、夫を、父を奪う……為すべきことだったと断言しましょう。貴方が相対しているのは、そのような存在です」
「──『敵』として剣を振るいなさい!」
「……成程」
 トリテレイアの叫びに対する答えは明確だった。
 これまで受けた傷などまるで無いかのように跳躍するヴァンパイアが振るう剣。
 咄嗟に装備した盾で受けるその感触に、トリテレイアの思考が加速する。
 軽い。
 この剣は、先ほどまでの狂気に染まった剛剣ではない。
 見たことのある剣だ。エルシークを屠るまでに彼が振るっていたあの剣だ。
「これは、力任せに対処できる相手ではないですね……!」
「どうした、異界の騎士! これが望みだろう!?」
 人間を大きく上回るトリテレイアの圧倒的なパワーを受け流すように、剣が引かれる。
 フェイントをかけるようにトリテレイアの剛腕を打ち据えたかと思えば、守りの隙間を貫かんとする刺突。
 傷を負ったヴァンパイアに対し、優位に立つのはトリテレイア。
 しかし、その剛柔入り交ざった剣を前にして決め手を欠く状態だ。

「ならば、俺も混ぜてもらおう……!」
「ッ、リーヴァルディ様は!?」
「説明は省くが問題ない!」
 刀と、ユーベルコードで呼び出した奇妙な光の剣、あるべき『反り』も排したそれは、さながら十字架のような形をもってジャックの手に収まる。
 ……何故か、負傷しているようにも見えるが、これで形勢は一気にこちら側へと傾くだろう。
 速度を重視した剣捌きで吸血鬼が襲い来れば、ジャックが二振りの剣で捌き。
 力任せの剛剣を向けるのならば、分厚い盾を構えるトリテレイアが受け止める。
「…………見つけた」
 その激しい剣戟の背後。
 静かに祈り続けていたリーヴァルディが、消耗した様子で目を開く。
 それに呼応するように消えていくのは、彼女の背後に現れ輝いていた血色の光輪だ。
 彼女の真価を引き出し、時すらも操るその力はすさまじい。
 ジャックの協力で──仲間の傷でリスクが減ると気づいた彼は、リーヴァルディだけに負担を押し付けられないと譲らなかった──それなりに負荷は減らせていたものの。
 けれども、その効力そのものが。
 限界までに圧縮された結果、加速する彼女の世界で、怨嗟に塗れた魂の中から正解を見つけなければならないその戦いは過酷を極めた。
 リーヴァルディの手の中に現れた、ぼんやりとした弱々しい二つの光。
 『彼女達』はただの一般人だったようだから、此処に残っていた事だけでも奇跡なのだ。
「……後は貴女に任せるわ、婦人」
 そうして、リーヴァルディは光を優しく放ち。
「この、光は……?」
「やり遂げたか……!」
 二人のウォーマシンが近づいてくる光を見つめる。
 ヴァンパイアの剣を気にするようなそぶりもなく……真っ先に剣を下ろしたのは、彼なのだから。

 吸血鬼は、呆然とそれを見つめる。
 ぐるぐると渦巻く感情、疑念、困惑、歓喜。
 光に触れたいのに、触れられない。
 手に取ったその瞬間に霧散してしまいそうな小さな光が、ゆっくりと彼の下へ近づいていく。
 そして、それは独りになった吸血鬼の胸元へ、優しく溶けていき──。

●感謝
「ッ、身体が……!」
 それに真っ先に気付いたのは、トリテレイアだ。
 吸血鬼の指が白く変色していったかと思えば、灰のようにボロボロと崩れ、無風の筈の室内を漂い、どこかへ消えていく。
 自分達の攻撃ではない。何よりも、身体が崩壊し始めた吸血鬼の表情は、穏やかな微笑を浮かべているのだ。
「……手間を取らせてしまったな」
 猟兵に向けて、申し訳なさそうに言葉を放つヴァンパイアに、狂気の色は見えない。
 ただただ憑きものが落ちたように笑うその在り方に、数瞬前の戦意は何処にも見いだせない。
「──会えた?」
「ああ、怒られてしまった。自分達の方も見ず、何をしているのだと」
 思えば、彼女には怒られてばかりだった。
 リーヴァルディの短い問いに答える彼に、誰と、と確認する者は居ない。
「……すまなかった」
 代わりに、ジャックの口から出たのは謝罪の言葉だった。
 これが、傲慢な言葉であるのは分かっている。
 それでも言わずにはいられない。
 剣を手放し、崩れゆく身体でそれでも笑う吸血鬼の姿。
 彼のカメラアイに映るそれは、戦うべき敵ではなく。
「俺もヒーローの端くれだ……お前の大事な“ヒト”たちを助けてやれず、済まなかった」
 手を差し伸べるべき、ヒーローが救わなければいけない相手の姿だった。

「はは……それを謝られてしまっては、いよいよオブリビオン失格だな」
「ならば、共に眠ることも許されるでしょう……細君の……ご家族の遺品と希望の場所を教えて頂けますか」
 既に、ヴァンパイアの身体は殆どが崩れてしまっている。
 胴から下を失い、それでも空中に留まり続ける彼が苦しんでいる様子は無いが、残された時間は少ないだろう。
 少しでもこの結末を善いものに。トリテレイアは、僅かな焦りと共に問いを投げかける。
「それはいい……領民も、エルシークによって奪われた物は多いだろう」
 屋敷のものは、彼らの為に役立ててやって欲しい。
 一目だけジャック達によって守られた鏡に目をやったヴァンパイアは、いよいよその全てを灰に変え、骸の海へと還っていく。
 寄り添う、小さな二つの光を愛おし気に見つめる彼は、最後に思い立ったように猟兵達へと向き直り。
「しかし、これだけ痛めつけられて素直に帰るのもな……皮肉の一つも言っておくか」
 ぽてんと、光の内、僅かに大きい方から体当たりを受けながらも、吸血鬼は笑う。

「君達……敵役の才能は無いようだぞ」
 ──気遣いが透けて見えて仕方なかった。
 そう言い残したオブリビオンは、遂にその形を崩壊させて。
「ん……あれは……?」
 キラリと光る小さな何かを残して、この世界から消滅した。

●終幕
 老いた墓守がその指輪を受け取ったのは、村中が大騒ぎする喧騒の中だった。
 エルシークが斃れたのだ。奴に支配されていたこの地も、これから大きく変わっていく。
 だが、それを成し遂げた英雄、猟兵達が差し出したそれを無下に扱うわけにも行かない。
 受けとった指輪をしげしげと観察し、何処か見覚えがあると裏を見れば。
 そこに刻まれていたのは、一組の男女が愛を誓う言葉。

 思い出した。彼女の名前を知っている。
 何故か大人しくなっていたヴァンパイア。それを襲撃したエルシークが領主館に根を下ろした数日後。
 この村に届けられたのは無残な死体の数々……この村から、使用人として屋敷に務めていた者達だ。
 英雄ならぬ死体ならば不要だと捨てられた一人。
 哀れな彼女は、子を孕んでいた。
 そうだ、彼女を埋葬する時、不自然に上等な指輪をしていた事を覚えている。
 悲しみのあまり深くは考えなかったが、あれはエンゲージリングだったのか。
 ヴァンパイアは気まぐれだ。機嫌の良いときにでも与えたのだろう。
 男の名に心当たりは無いが、別の村から屋敷に連れて行かれたのか。

 屋敷で見つかったのだろうそれを、妻の墓に入れてやって欲しいという猟兵の頼みを引き受ける。
 助けてやれなかった村の仲間だ。これくらいの事はしてやろう。
 正しい事を正しいと言える子だった。
 ヴァンパイアには殺されなかった辺り、流石にオブリビオンには食ってかからなかったのだろうが……そうしていても不思議じゃない。
 そんな彼女が指輪を嵌め、共に生きようとした男だ。彼もきっと善良な人間だったに違いない。
 墓碑銘も変えよう。
 愛し合ったであろう夫婦がいた事を遺してやるのだ。
 指輪を持った墓守は、老いた脚でゆっくりと墓場へ向かう。

 ルシール その夫ナタン
 子と共に 此処に憩う

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年03月19日


挿絵イラスト