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ゆかりちゃんと消える死体

#UDCアース

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「まず、手元の資料を見て欲しい。ある【不審死】事件についての調査報告書だ」

 草壁行成は猟兵たちに資料が行き渡った事を確認し、事件の概要を説明し始めた。
 資料にはUDCアースのとある【公園】での事件について記されていた。被害者は30代女性、【小学一年生】になる【子供】を持つ【母親】であった。遺体は死亡推定時刻がわからないほどに無残な状況であり、火元もないのに焼け焦げた部分もあるという。しかし、ただの不審死であれば猟兵が出ずとも警察が調査を行うはずである。その疑問が猟兵たちの顔に出ているのを見て取り、行成がグリモアを出現させ、猟兵たちへ見せる。

「この不審死を知る事が出来たのはグリモアが予知したからだ。逆説的に、オブリビオンの仕業だということになる」

 なるほど、と猟兵たちは納得する。

「予知をしてすぐにUDC組織に接触したんだが、この事件、どうやらこれが最初という事ではないらしい」

 不審死が以前にも起きていたという事か、という猟兵の言葉に行成は頷き、言葉を続ける。

「この公園でもそうだが、近隣の公園でも死体の【目撃証言】があり、通報もされていた。だが、一度も死体が見つからず、事件にはならなかったそうだ」

 警察の調査では近隣で【行方不明】となったものもおらず、これまではいたずらや誤認として処理しており、ゴシップ関係の【マスコミ】の方が熱心に情報を集めていたぐらいだという。それら死体なき不審死事件は、【消える死体】と題され、一種の【都市伝説】として話題になっていたらしい。

「消える死体を追えば、そこに元凶がいる事は間違いない。だが、UDCから送られてきた調査報告書を見て欲しい」

 猟兵たちが一斉に手元の資料をめくり、視線を這わす。報告書には消える死体にまつわる様々な調査結果が、事実だけでなく、SNSに流れる不確かな噂なども含め記載されている。その中の一節に、猟兵たちは見覚えのある単語と見慣れない単語が度々出てくる事に気付く。

「【黄昏秘密倶楽部】と【ゆかりちゃんが帰ってきた】。片方は元凶と目される組織、片方は消える死体と同時期に噂され始めた【都市伝説】だ」

 またか、というため息も聞こえる程、黄昏秘密倶楽部はUDCアースで猛威を奮っている組織だ。では都市伝説の方はというと。

「こいつの解明は難航している。UDC組織が現地で情報を集めようとしたらしいが、有用な情報を掴めなかったそうだ」

 インターネットの発達した時代、噂にはいくつものバリエーションが出てくる。SNSだけでなく、現地での聞き込みをUDCが行ったそうだが、何故だか現地での聞き込みは芳しくなかったとの事。だが、案外骨子はそのままである事も多い。ゆかりちゃんが帰ってきたについても、【ゆかりちゃん】という名前すらも違う事こそあるが、『子供たちしかゆかりちゃんを知らない』『【一緒に遊ぶ】と襲われる』『公園に現れる』。これらは必ず共通している事は分かった。

「SNSでの情報収集と調査も、引き続き進める必要があるかもしれない。まあ、この辺りは得意不得意が出てくる分野だ。現状の情報で現場などを調査しても、君たちならたどり着ける、と俺は見ている」

 行成の言葉に苦笑する猟兵もいる。様々な世界から猟兵はやってくる。インターネット経験が少ない猟兵も中にはいるだろう。

「さて、消える死体が黄昏秘密倶楽部の仕業だとして。ではゆかりちゃんが帰ってきたは、どうなのか。俺は、関係がないと断言出来ないと考えている」

 行成は回りくどくなってしまったな、と一呼吸置く。改めて猟兵たちを見渡し、依頼の言葉を口にする。

「二つの都市伝説の調査、そして、背後にいるであろう黄昏秘密倶楽部の計画の妨害。君たちに協力を要請したい」


ゲンジー
 こんにちは。ゲンジーです。UDCアースでは初めまして。都市伝説、いいですよね。好きです。
 さて、今回はギミックを仕込みました。OP中に【】で囲われたキーワードを、プレイング内にうまく組み込む事で謎が解明されます。今回解明するべき謎は二つ。
 一つは消える死体。これを解明する事で、元凶の元にたどり着きます。それにより、居場所を示すキーワードが解放され、後のボス戦が楽になります。*戦闘時にキーワードを入れる必要はありません。
 もう一つはゆかりちゃんが帰ってきたという都市伝説。これの全容を解明する事で、後の戦闘が楽になります。
 そして敢えて補足しますと、特に謎が解明せずともストーリーと成功率に影響はしません。ただ、二章以降、プレイングボーナスに著しいマイナス判定が付きます。その点だけご了承ください。
 そして、キーワードの組み合わせは自由で制限もありませんが、絶対に組み合わせてはいけないキーワードがあります。組み合わさっていると、キーワードと全容の解放が出来ません。お気を付けください。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしています。

 補足……ゲンジーのダイス運はとてつもなく悪いです。
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第1章 冒険 『都市伝説を追え』

POW   :    事件現場を調べる

SPD   :    SNSで情報を収集する

WIZ   :    マスコミに聞き込みを行う

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ルルチェリア・グレイブキーパー
「勝手に死体が消えて貰っては困るわ。亡くなった人はちゃんと弔わないと。」

私はマスコミから【消える死体】について聞き込みを行うわ
私が猟兵で有る事を伝えれば情報を提供してくれるかしら
死体の【目撃証言】が有って通報したが、死体が無い
つまり通報されて警察が駆け付けるまでの間に死体が消えた事になるわね
誰かが死体を移動させた?
それとも実は警察がグルで【行方不明】扱いにしていただけ?

【マスコミ】に聞くなら警察グル説の方が面白い情報が聞けそうね
警察に不審な人物、おかしな言動をする人物は居なかったか?と警察に取材した方に聞きたいわ
警察の一部に黄昏秘密倶楽部の息がかかってないか確認したいの



「きっと警察がグルになって死体をどこかにやってしまったのよ。これはスクープになるわ」

 ルルチェリア・グレイブキーパー(墓守のルル・f09202)は都市伝説、消える死体の特集を組んでいたとある出版社に来ていた。そして、記事の編集を担当していたデスクへ直談判していた。締め切りが近いのか、デスクの机の上には乱雑に書類が積まれて、今にも崩れ落ちそうになっている。

「あのねぇ、お嬢ちゃん。ここまで来た度胸は認めるけど、あれは面白おかしく書いてるだけ。そんな大それたスクープなんかないんだよ」

 年端もいかないルルチェリアへ大人の事情を話すデスクは優しいのか、大人げないのか。少なくとも警察がそのようなことをしていない、という事を暗に語ってはいる。実際、あまりに目撃情報が多かったケースもあり、警察による巡回は強化されている。

「じゃあ、警察に不審な人物や、おかしな言動の人物は」
「いないよ。ああ、警察が友達にいるけど、おかげで夜勤が増えたと愚痴ってはいたね」

 わかったら帰りなさい、とシッシと手を振るデスク。小さな出版社とはいえ、少なくないコネがある。警察に何も問題がないとわかっているからこそ、警察を煽るような記事も書ける。
 だが、ルルチェリアは諦めない。

「勝手に死体が消えて貰っては困るわ。亡くなった人はちゃんと弔わないと。何でもいいわ。知っている事を教えて」
「……お嬢ちゃん、どうしてそんなに必死なんだい」

 さすがに、幼い子供がここまで必死である事を不思議に思ったのか、デスクも少し声色が変わる。

「私が猟兵だからよ。そして、墓守でもあるから」

 それはルルチェリアの管轄外であるとしても。お墓を、人の死を愚弄するような事を、ルルチェリアは許せなかった。そルルチェリアの思いを感じ取ってか、周囲を漂う霊たちがふわふわとルルチェリアの周囲を嬉しそうに舞う。常人には見えないが。
 ルルチェリアの言葉に、デスクはふぅ、とため息をつく。そして、乱雑に積まれた中から束になった資料を取り出し、ルルチェリアへ渡した。

「りょうへい? だか何だか知らないが、ほれ。来週出す予定だった記事だ。嘘くさい内容だが、取材して聞いた事自体は本当だ」
「……いいの?」

 デスクは答えず、シッシと手を振る。猟兵を知らなかったデスクだが、何かを感じたのか、ルルチェリアへと取材した記事を渡したのであった。
 ルルチェリアはぺこりとお辞儀をし、出版社を後にした。

成功 🔵​🔵​🔴​


●消える死体の真実! 黄昏秘密倶楽部とは一体!?

(前略)

――では、4日前にあったという通報ですが、本当に死体はあったのですね

R:あったよ。俺が公園に戻った時はまだ。

――では、なぜ死体がなくなったのでしょうか。Rさんは、何をみたのですか

R:死体がどっかに歩いていったんだよ

――は?

R:ああ、順番に話すか。何か、変な奴らが来たんだ。布被ってたり、被ってなかったリ。で、そいつが布を死体に被せたんだ。そしたら、死体が起き上がって、そいつらとどっか歩いていったんだよ

(中略)

 そして、我々は布を被せるなどの情報から、これが黄昏秘密倶楽部の仕業ではないか、と推論付けた。黄昏秘密倶楽部とは未だ謎の多い組織で――

(後略)

 それは、匿名希望のホームレスに取材をしていた記事であった。悪い事をしてきた訳ではないが、面倒事は避けたい。その為、わざわざ警察に証言をする事もなかったのである。そう、死体が消えていたのは他でもない、『黄昏秘密倶楽部が死体を眷属にしていた』からであった。
彩瑠・姫桜
POW
資料に示された事件現場の【公園】へ行ってみるわね
特に【都市伝説】の遭遇に重きを置くつもり
滞在時間はお昼頃から、日暮れくらいまでね

事件が起こった後の場所で、子供達が普通に遊んでいるとは考えづらいけど
そういう話が出た直後だからこそ、
あえて【ゆかりちゃん】と会うために訪れる子もいるかもしれないもの

公園に着いたら事件現場を直接見て、気になる点がないか注意してみるわ
その後は、日暮れまで公園内の遊具近くのベンチに座って待機するわね

【子供】が居るなら【一緒に遊ぶ】ことにするわ
こういう場合の遊びだと…「鬼ごっこ」か「隠れんぼ」あたりを提案したいところだけど
この辺は現場で、居る子達に選んでもらおうと思うわ


エン・ジャッカル
UDC組織でもお手上げだと私でも情報収集は難航しそうですね。とりあえず現場を見ない限り何とも言えませんので、事件現場の【公園】とその周辺の調査をすることにしましょう。

恐らく焼け焦げた部分を調査しても有用な情報を掴むのは難しそうなので、まずは被害者である【母親】を親戚に持つ青年に成り済まし、事件現場の【公園】やその周辺にいる【子供】たちに【ゆかりちゃん】を見ませんでしたかと尋ねてみましょう。

もし【子供】たちが私に不審を感じていたら、私の親戚である消えた【母親】はもしかしたら【ゆかりちゃん】と遊んでいたかもしれないと噂を聞いて【ゆかりちゃん】に尋ねてみたいのですと誤魔化してみるしかないですね。



●I公園

 不審死の被害者がいた現場である公園の路肩に、一台のバイクが停まった。バイクのセンタースタンドを降ろすと、乗車していた二人がヘルメットを取った。
 運転していたのはエン・ジャッカル(風来の旅人・f04461)、気ままな風来坊である。その後ろに乗っていたのは彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)、ダンピールの少女である。二人とも長い髪の毛を整えながら、バイクを降りた。

「乗せてもらってありがとうございました」
「お安い御用ですよ。乗り心地はいかがでしたか?」
「ま、まあまあね。別に、風が心地よかったなんて思ってないんだからね」
「ふふ。何よりです」

 姫桜がぷい、と顔を逸らすも、エンは気にした風もなく微笑む。

「けれど、普通ね。不審死事件があったのに」
「資料では、UDC怪物関連という事で、秘匿されたようです。つまり、事件は公にはなっていません」

 公園では休日の様子らしく、子供たちが遊び回っている。さすがに事件現場そのものはUDC組織により「工事中」の看板と共に完全に見えないよう、隠されている。

「じゃあ、私は子供たちと一緒に遊びながら、ゆかりちゃんについて聞いてみるわ」
「はい、私は周辺の子供たちに聞いて回ります。ああ、念の為。喋れはしませんが、何かの時に役立つかもしれません」

 エンは【影の追跡者(シャドウチェイサー)】を召喚した。戦闘になる事はないだろうが、怪しい人物がいた際に姫桜単独よりもよいだろう、という考えだ。そして、二人はそれぞれ聞き込みをすべく、別行動を取った。

●I公園周辺

 エンが公園の周囲を歩いてみるが、普通の住宅街であった。少し足を延ばしても、何かが隠れていそうなビルであったりは建っておらず、怪しいものがある雰囲気はない。

(何か痕跡でもと思いましたが、ないようです。やはり、公園内が本命ですか)

 しばらく公園の周囲を探索したところで、エンは結論付ける。公園で姫桜と合流しようかと考えていたところで、道向こうからこちらへ向かって歩いてくる子供たちがいた。小学三年生ほどだろうか、ちょうど帰宅しているところのようだ。

「少しいいでしょうか?」
「なーに?」

 エンがすれ違い様に優しく語り掛けると、子供たちは素直に立ち止まってくれた。

「この辺り、噂が流れているのですが、知っていますか」 
「噂?」
「あ、知ってる! 死体のやつでしょ!」
「俺の友達も死体見たっていってるぜ!」

 どうやら、消える死体の事を言っているようだ。それ以外にも、わいわいと友達が言ってた、友達から聞いた、とあれやこれやを話し出す。だが、ゆかりちゃんについては何も語らない。

「ええと、君たちはゆかりちゃんを見ませんでしたか?」

 ぴたり、と子供たちの会話が止まる。

「知らない」
「知らないよ」
「ねえ、もう行こう」

 明らかに様子がおかしくなり、子供たちはそのままエンの元を去っていった。

「……ゆかりちゃんは子供たちの間では話題にすることすら忌避されている、と?」

 エンは子供たちの背を見送る事しか出来なかった。
 もうすぐ、日が暮れようとしている。

●公園内

 少し時間はさかのぼる。
 姫桜は子供たちと遊んでいた。最初こそ遠慮がちだった子供たちも、時間が経てばすっかり仲良くなり、共に遊び回っている。姫桜はいくら手加減をしているとはいえ、ずっと子供たちにせっつかれ、汗ばむ程度には体を動かしている。

「おねーちゃん、もっと遊ぼうよ!」
「ま、まだ遊ぶの?」
「遊ぶー!」

 子供たちは疲れた様子もなく、姫桜の袖を引っ張っている。かれこれ数時間、そんな様子で鬼ごっこや隠れんぼなど、様々な遊びをしていた。もうすぐ日暮れも近い。

「ちょ、ちょっと休ませて欲しいわ……」
「えー、しょうがないなぁ」

 姫桜がベンチに座ると、子供たちもそれに習ってベンチへ座ったり、あるいはそのまま遊んだりとしている。みんな元気ね、と感慨にふけっていたところで、隣に座った女の子が姫桜へ語り掛ける。

「ねぇねぇ、おねーちゃん。おねーちゃんは一緒に遊んでくれたから、教えてあげる」
「え?」

 姫桜の隣に座った女の子――小学二年生ぐらいだろうか――が、姫桜の耳へと自身の口を近づける。

「あのね、ゆかりちゃんが帰ってきたら、みんな帰らなきゃいけないんだよ」

 姫桜の心臓がどくん、と跳ねる。ごくりと生唾を飲み込む事で、どうにか表情に出す事には耐えた。女の子は続ける。

「ゆかりちゃんと一緒に遊んだらだめなの。話してもだめなの。そうしたらね、『帰れなくなっちゃうの』」

 女の子はこしょこしょと、内緒話のように話続ける。

「それでね、『大人には絶対言っちゃだめ』なの。なんでかわかんないけど。でも、おねーちゃんは特別だよ!」
「……ありがとう」

 だから内緒話なのだろう。どういう理屈、あるいは法則なのかはわからないが、そういう仕組みの、そういう怪異。その事を教えてくれた女の子に、姫桜は感謝する。

(けれど、おかしいわ。子供たちだけの噂の伝播が、早すぎる気がする)

 人の口に、ましてや子供の口に戸は立てられない。だが、それにしても早すぎる。まるで誰かが意図的に――。

「え? どうしたの?」

 姫桜が思考を巡らしていると、女の子が急に一点を見つめ、動かなくなった。周囲を見ると、他の子供たちも同様だ。そして、子供たちは一斉に口ずさんだ。

「ゆかりちゃんが帰ってきた」

 そして、それまでの元気に遊んでいたのが嘘のように、みなが無表情になりずらずらと公園を去っていく。あまりの事に姫桜が呆然としていると、姫桜の腕を女の子が掴んだ。

「おねーちゃん、帰ろう?」

 姫桜は逡巡する。今ここでもう少し情報を得る為に動くか、どうするか。ちらりと近くにいた影の追跡者を見る。五感が共有されている為、今のこの光景もエンは共有されているはずだ。そして影の追跡者は――首を振った。それはエンからの返事でもある。

「……そうね、帰りましょう」

 少なくとも、この子がいる場で戦闘など出来はしない。姫桜はひとまず女の子が無事帰りつくまで、この公園を離れる事にした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

八坂・操
【SPD】

良いねー、操ちゃんも【都市伝説】は大好きだよ!
【ゆかりちゃんが帰ってきた】なんて、新作映画にもありそうだしね☆

という訳で、UDCの方でSNSでお手軽に『情報収集』しよっか♪ 操ちゃんも【ゆかりちゃん】と遊んでみたいしね♪
信用性は低い情報も、共通している情報を繋ぎ合わせると形が見えてくるものだよ☆
今あるのは『子供たちしかゆかりちゃんを知らない』『【一緒に遊ぶ】と襲われる』『公園に現れる』んー? でも予知ノートに書かれたのは【子供】の【母親】……子供を介してゆかりちゃんを認識しちゃった大人が、一緒に遊んだら襲われちゃったとかかな?
憶測が裏付けられるよーな情報があるか調べてみよっか☆


空亡・柚希
(SPD)

被害者にも子供がいて、ゆかりちゃんも子供たちしか知らない。
ゆかりちゃんの表れる場所も、被害者を見つけた所もどちらも【公園】。
……僕も、この二つは無関係じゃないように思えてくるなぁ。

SNSを使い、情報を探ろう
被害者の事も頭の隅に置きつつ、【ゆかりちゃんが帰ってきた】の都市伝説を調べる
子ども達のいる母親や、噂に興味を持ちそうな若い子に焦点を絞って書き込みを見てみる
若い子って、噂から広げて想像しそうなものだけれど……

さて、疑問は大いにある
【ゆかりちゃん】はどんな子か
帰って来た、のは誰の元に。
子どもたちしか知らないのは、ゆかりちゃんがその子達ぐらいの歳だから?
そして、襲われると、どうなるか。



●とあるネットカフェにて

 カチ、カチ、とクリック音が響く。座り心地のよい座椅子に背を預けながら、空亡・柚希(玩具修理者・f02700)はSNSを巡回している。

「けど、わざわざネットカフェじゃなくてもよかったのでは」
「えー、でもほら、ネットカフェ何でもあるしね☆」

 柚希の問いに、隣のブースのソファでくつろいでいる八坂・操(怪異・f04936)がコーラを飲み干しながら答えた。操の近くには、フードの自販機で出したホットドックやポテトが並んでいる。ちなみにネットカフェの店頭には「改装中」の札がかけられ、二人の他に客はいない。UDCに頼んで貸し切りにしてもらったのだ。
 それこそUDCの持つビルか何かにでもいけばいいのでは、と思うものの口には出さない柚希。実際、操の知見を元にした情報収集は滞りなく進んでおり、ゆかりちゃんが帰ってきたという都市伝説の、恐らくは原典と呼べるものまであと少し、というところに来ている。休憩時間にどうくつろぐのかまで、柚希は口を挟むつもりはない。だがそろそろ操が休憩だー☆と見始めた映画が終わりそうである。その映画は二時間近くあったはずだが。

「くー、やっぱりホラーはこの後味悪いのがいいよねー♪」

 背伸びをしながらソファを立ち、操は柚希の操作するPCを覗き込んだ。

「それでそれで、どうだったかな?」
「…………」
「? 操ちゃんの顔に何かついてるのかな?」
「……いや、何でもないよ」

 あっけらかんとしている操に呆れながらも、柚希は集めた情報をPC画面に写す。

「操さんの言うように、ゆかりちゃんについて語っていて、無事じゃないもの。あるいは書き込めているとして、何らかの被害を受けているという書き込みを追っていったよ」
「うんうん♪ 怪異なんだもの。何の代償もなく現れるわけないもんね☆」

 怪異をその身に宿す彼女の言葉だ。とてつもない説得力がある。

「結局のところ、公園だよね。消える死体もそうだけど、キーはやっぱり公園だよ」
「子供たちしか知らないっていうのも不思議☆」
「子供たちしか知らないのは、ゆかりちゃんがその子達ぐらいの歳だから、かな」
「そうなのかも☆ うふふ、ゆかりちゃんと遊ぶの、楽しみだなぁ♪」

 行動は同じでも、操の目的は違うようだが、柚希は気にしない事にした。

「襲われるとどうなるのか色々見てみたけど、バリエーションがありすぎるね」
「え! 例えばどんなの!? 血がたくさん出る系!?」

 目をキラキラさせながら操がPC画面を覗き込む。画面半分が操の頭に占領されるが、柚希は苦笑交じりにマウスを操作していく。話好きな彼としても、彼女のハイテンションぶりを嫌いになれない。
 噂の被害状況を丁寧にまとめたテキストを出してやると、操はふんふん☆としばらく堪能した。

「んー? でも、襲われたのは母親なんだよね……子供を介してゆかりちゃんを認識しちゃった大人が、一緒に遊んだら襲われちゃったとかかな?」

 満足したところで、ふと操がつぶやく。

「そういえば、そうだね。子供が襲われるパターンもいくつかあるけど、今起きている事実を元にすると、襲われるのは母親だけという事に……」

 柚希は話の途中、急にマウスを操作し、とあるSNSを開いた。匿名掲示板の、母親同士が体験談を書き込むスレッドである。特段、怖い話を語るような場所でもない。その中に、「これ怖かった」という一文と、別ページへのリンクが貼られているだけの書き込みがある。時間帯も悪かったのか、その書き込みに対するレスもない。丁度、その後に長文の書き込みが何レスにも渡って書き込まれたせいかもしれない。柚希は子供のいる母親が何か知っていないかと、そういったスレッドも見て回っていたのだ。

「これ、どう思う?」

 柚希が書き込まれたリンクを踏み、個人HPの日記を表示させた。そこには、ある母親の体験談が書き込まれていた。

「……これは、『本物』だね☆ 異聞の匂いがするけど、その辺のものよりよっぽど原典に近いよ☆」

 伊達に怪異を名乗っていない。操は書かれた内容が、本当の事であると看破した。

「気にはなっていたんだ。子供たちしか知らない、けれど一緒に遊ぶと襲われるのに、被害者は母親。そこに矛盾があった。でも、これが『本当の話』なら、辻褄が合う」

 そう、襲われるのは母親だ。だが、この都市伝説は、子供も被害者となる。この体験談が本当だとすれば、それは。

「……警察に、いや、UDC組織に連絡を! まだ間に合うかもしれない!」

 柚希が慌てて席を立つ。だが、それに操が首を振る。

「柚希くんはいい人だねぇ。でももう手遅れだよ。残念だけどね☆ ……本当に、残念」

 操の言葉に柚希は力なく椅子に座り、拳を握りしめた。
 それからそう時間も経たない内に、不審死を遂げた母親の子供が行方不明となった事を、二人は知らされる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


●とある母親の日記より、抜粋

 許してほしいとは言いません。でも、どこかで吐き出さないと、たまらないんです。苦しいんです。だから、ここに書かせてください。

(中略)

 ●●ちゃんが言うんです。ゆかりちゃんが帰ってきたって。ああ、この子がゆかりちゃんなんだって思ったんです。わからないんです。どうしてだか、一緒に遊んであげなきゃって思って。ふらふらと近づいてしまったんです。そして、一緒に遊ぼうって、言ってしまって。そしたら、●●ちゃんが叫んだんです。お母さん、一緒に帰ろうって。そこで気付いて、怖くなって、●●ちゃんの手を取って走ったんです。
 そして、しばらく手を繋いで帰ってたんです。そしたら、●●ちゃんが聞いたんです。なんでゆかりちゃんに話しかけたのって。なんでって。なんだか、●●ちゃんの手が取っても冷たくなってきて。そして、こう言ったんです。
 お母さんのせいで、私もゆかりちゃんになっちゃったって。
 私は、●●ちゃんの手を振りほどいて、走って逃げました。振り向きもしませんでした。
 その日から、●●ちゃんは行方不明になりました。
 
 ――それ以降は母親のその後の顛末が書かれているが、語るに忍びない。
メンカル・プルモーサ
……ん、謎が多い・・…解き明かさなきゃ……
…ええと…【ゆかりちゃんが帰ってきた】について……SNSで噂されてるなら…そこからたどってく。【ゆかりちゃん】と言う名前はどこから…?共通項の在る噂が流れはじめた時期とその初期に噂を流したIPを……探る
あと、死体の【目撃証言】があるなら……それと噂される【ゆかりちゃん】の姿を照らし合わせて…関係性をさぐるよ…
近隣で【行方不明】になった人間はいない……逆に、近隣以外で…【公園】で【ゆかりちゃん】に合致する人間の【行方不明】事件がないかも…調査。
どこかになんらかの発端は…あるはず……(ハッキング・世界知識・情報収集・コミュ力)


ブライトネス・フライハイト
にゃ?
今回予知した事件では焼け焦げた死体を警察が発見。
で、UDCはこの事件を以前にも起きた【目撃証言】があるけど死体を発見できなかった事件と同一と見てるにゃ?
警察が発見できた今回と、それまで見つけられなかった死体…これは大きな違いにゃ気がするのにゃ。

【SPD使用】
情報収集スキルで【ゆかりちゃんが帰ってきた】について調べるにゃ。
この都市伝説を調べた後は、もう少しうわさの真相を掘り下げてみるのにゃ。

『帰ってきた』ってことは、この【ゆかりちゃん】とやらは一度解決された【都市伝説】だったのかもしれないにゃ。
ちょっと古めの情報まで調べる必要があるにゃ。



●UDC組織のとあるビル

 薄暗い、閉め切った室内。並び立つ巨大な箱から聞こえる排気音と、それをも上回る冷房の送風音をBGMに、メンカル・プルモーサ(プルモーサ家の魔女・f08301)はPCを操作している。いや、PCだけではない。自身の腕に取り付けられたハンドベルコンピューターをも操作し、多くの情報の閲覧と検索を繰り返している。洪水のようにあふれる情報を、しかしアルゴスの眼でその全てを収集している。もし一般人がそれを見れば、魔法でも使っているのかと思うだろう。だが、それこそが電脳魔術士たる彼女の技能の一端である。
 ふと、部屋の扉が開かれた。入ってきたのはブライトネス・フライハイト(ケットシーのフードファイター・f04096)である。片手に水筒を、片手に多くの資料をまとめた束を持っている。

「精が出るにゃあ」

 メンカルをねぎらいながら、巨大な箱、スーパーコンピューターへ近づき、見上げるブライトネス。自身の身長の六倍の大きさに、思わずため息をついてしまう。

「けれど、わざわざスパコン部屋に籠らなくてもいいんじゃないかにゃあ」

 メンカルの希望で、型落ちではあるものの、UDCに頼みスパコンを利用させてもらっているのだ。だが、スパコンを冷却する必要がある為、部屋の温度はかなり低くなっていた。

「……この方が効率……いい……」

 メンカルはそれだけ答えると、再び情報収集へ没頭する。少しでも電気抵抗を少なくする為、という事なのだろうが、それでも数時間も籠っていては体が冷えるだろう。
 ブライトネスはふーむ、と唸ると、メンカルの隣に用意された椅子へと飛び乗った。

「ま、そろそろ答え合わせといくにゃ。後はいくら調べても、結果に変わりはにゃいと思うにゃ」

 ブライトネスの言葉に、メンカルは手を止める。その考えには既に至っており、止め時を見つけていたのかもしれない。既に、操と柚希の手により異聞と、そして元となった原典もその後見つかっている。さらに、エンと姫桜との話による補強を加え、ルルチェリアのもたらした情報で、答えは導き出せる。

「……わかった。原因となる事件は……見つかった?」

 ブライトネスは頷き、手に持っていた資料をめくる。それはメンカルが洗い出した近隣での行方不明事件を、ブライトネスが古い情報も含め、調査したものである。
 一年前。公園で遊んでいたはずのゆかりちゃんが行方不明になった。小学一年生の子が、まだ夕暮れ時、他にも多くの子供たちが遊んでいた公園での失踪事件という状況だったことからも、世間を大いに騒がせた。多くの捜査員がかり出され、全国に捜索願いが出されるも、その甲斐なく、ゆかりちゃんが見つかる事はなかった。
 そして現在。ゆかりちゃんは帰ってきた。恐らく、いや、状況から十中八九、オブリビオンとなって。

「失踪事件が都市伝説となって、オブリビオンとにゃったのか、あるいは本当にゆかりちゃん自身がオブリビオンとにゃったのか。どちらにしても、もはやそれはゆかりちゃんではにゃい、倒すべき敵にゃ」

 ブライトネスは少し悲しそうな声色で報告をする。もしもそれが、ただの幽霊であったのなら、また違ったのだろう。だが、オブリビオンという存在は、例外なく世界を滅ぼす為に行動をするのだ。猟兵であればやる事は一つとなる。

「……この都市伝説は……まだ出来たばかり……」

 ブライトネスの言葉を受け、メンカルが続ける。
 いくら調べても、一週間かそこらより以前、ゆかりちゃんに関する情報は全く出ていなかった。それでいて、SNSは連日どこかでゆかりちゃんの都市伝説が語られている。

「……矛盾……子供たちは語りたがらないのに……」

 SNSであれば子供なら語るのか、という事も考えられる。だが、公園の様子を伝えてきたエンや姫桜の話を聞くに、そうは思えない。さらにいえば、集めた噂の中に、ゆかりちゃんに会って遊んだ子供はゆかりちゃんになる、という事は柚希が見つけた日記以外には全く出てこなかったのだ。子供たちなら知っている事が、噂には出てこない。この事からも、子供たち発信ではない事がわかる。そして、もう一つ。噂には、その一文がある方がより恐怖を掻き立てるはずなのに、見渡してもその数はないに等しかった。その言葉とは。

「ゆかりちゃんの話を聞いた人の元に、ゆかりちゃんがやってくる……」

 それをあえて入れなかったのは、本当の事だからだ。そして、それが目的であるからこそ、隠した。では、一体誰が噂を流しているのか。答えは、単純であった。

「黄昏秘密倶楽部……死体と……ゆかりちゃんを増やす為……」

 全てはその為に。考えられる可能性として、ゆかりちゃんを何らかの方法で使役でき、活用する為であろうか。そんな理由から、子供たちを危険にさらしているのだ。

「一刻も早く、倒さなければならないにゃ。首尾はどうにゃ?」

 ブライトネスルの問いに、メンカルは頷く。再び画面に目を移し、最後の仕上げとばかりに高速でタイピングしていく。

「……SNSで発見した原典から……IPアドレスを確認……プロバイダへハッキング……住所を確認……」

 その為のスーパーコンピューターである。メンカルの手であれば、時間さえかければ出来る事だが、スパコンを補助にする事で、瞬く間に噂の発信元、つまりは黄昏秘密倶楽部の元にたどり着く。

「うーむ、情報収集力は我輩ももっているにゃ。けれど、やっぱり本職には敵わにゃいにゃあ」

 ブライトネスが関心している間に、メンカルによるハッキングと解析が終わった。黄昏秘密倶楽部は住宅街からは離れている【雑居ビル】内に拠点を構えているようだ。

「おお! やったにゃ! 早速討ち入りにゃ! ……どうしたにゃ?」

 メンカルがPCの画面を見て固まっていた。ブライトネスが何事かとPCを覗き込むと、そこにはビル内の監視カメラをハッキングした映像が映っていた。

「うにゃあ……」

 そこには、不気味な像があった。そして、その周囲を複数のゆかりちゃんが体育座りで囲んでいた。わずかな照明だけが、その空間を照らしている。それは、あまりに不気味な光景であった。一体、そこにいるゆかりちゃんのどれだけが、元はゆかりちゃんではなかったのだろうか。
 メンカルはその光景を見たからか、あるいはスパコンの熱を抑える為の強力な冷房によってなのか、両腕を抑え震えてしまう。
 コトン、と机の上に何かが置かれた。
 メンカルが視線を送ると、それは水筒の蓋であった。蓋には、暖かな湯気を放つスープが満たされている。

「さっき作っておいたコンソメスープにゃ。これで暖まるといいにゃ」

 ブライトネスがにっこりと微笑みながら、メンカルへ自ら作ったスープを勧める。
 メンカルは断る理由もなく、そっと両手で包み込むように手に取り、口へと運ぶ。

「……おいしい……」

 メンカルは、じんわりと手が、口の中が、お腹が暖かくなるのを感じる。元王宮料理人によるスープだ。簡単なものとはいえ、その味は格別なものである。

「あったまったかにゃ?」
「……ブライトネスの本職には……寒さも敵わない……」

 メンカルからの思わぬ誉め言葉に一瞬きょとんとなるブライトネス。だが、すぐににゃははは、と笑い返すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ゆかりちゃん』

POW   :    「ただいま」「おかあさん、おとうさん」
戦闘用の、自身と同じ強さの【母親の様な物体 】と【父親の様な物体】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
SPD   :    「どうしてそんなへんなかおでわたしをみるの?」
【炎上し始める捜索願いからの飛び火 】が命中した対象を燃やす。放たれた【無慈悲な】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    「ひどいよ、ひどいよ、ひどいよ」
【嗚咽を零した後、劈く様な叫声 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

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※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●雑居ビル内

 情報を集めた猟兵たちは雑居ビル内に一斉に突入した。そして、次々に各部屋を制圧していき、中心となっていた部屋へたどり着く。
 そこには、多くのゆかりちゃんがいた。その中には、ゆかりちゃんにさせられたものもいるかもしれない。だが、元に戻す手段などない。
 猟兵に気付いたゆかりちゃんたちが、ゆっくりと立ち上がっていく。
 猟兵たちは、覚悟を決めなければならない。目の前にいるのは姿形がそうであるとしても、子供ではない。オブリビオンなのだから。
八坂・操
【SPD】

「ゆっかーりちゃーん♪ あっそびーましょー♪」
さてさて、ゆかりちゃんとのご対面だ☆ 映画とかでも都市伝説の核心に触れる時って、ドキドキするよね♪
……だけどそれが人為的に起こしたものなら、話は別だ。赤の他人に犠牲を強いるのは、スクリーンの中だけで十分なんだよ。
っなーんてね☆

大人数で遊ぶならまずは【メリーさんの電話】しよう☆
「もしもし、メリーちゃん? ゆかりちゃんと遊ぶんだけど一緒にどう?」
メリーちゃんと遊んで騒がしくなってきたら、操ちゃんは『忍び足』で『目立たない』よう動くよ! 後は隙だらけの背後から『だまし討ち』だ☆
「はーい、ゆかりちゃんつーかまーえた♪」
……ホント、後味が悪いよ。


ルルチェリア・グレイブキーパー
ーーーゆかりちゃんに変えられたあなた達に何の罪も無いわ。
あなた達がオブリビオン、人の敵になってしまったから。
……私にあなた達を救う手段が無いから……っ。
だからっ、私はあなた達を斃すの。ただそれだけよ!

サモニング・ガイストでゆかりちゃんを攻撃するわ。
出来れば味方と同じ相手を狙って素早く数を減らすわ。
「古の猛き戦士よ、私に力を貸して!あの子達を苦しませず、すぐに終わらせてあげて!」


エン・ジャッカル
あのとき、公園にいたらどうなっていたのでしょうか…。あの被害者たちのように焼き殺されていたのでしょうか。それとも…。
それ以上被害が広がる前に、ゆかりちゃんには行くべきところへ行って頂きましょう。

あの被害者たちは焼き殺されていたことから、相手は炎を使うことが推測できますのでアヌビス号と変形合体して、アヌビス号の装甲で防ぐ方面で行きましょう。

逆に攻撃する手段としては…些か躊躇しますが、やらなければやられる以上ブースターを乱射してジグザグに瞬発移動し相手を翻弄しながら攻撃することにしましょう。

ただ、あの不気味な像は気になりますね。恐らく元凶だと思いますが…迂闊に壊したらどうなるのか想像できませんね。


メンカル・プルモーサ
……ん、倒すしかない…か…やるからには全力…迷うのは無し。
…スチームエンジンを装着してから……ウィザード・ミサイルを斉射。
狙うは……父親・母親(仮)をだしたゆかりちゃん。数が増えるのは危険……だから、先に潰す…
(属性攻撃・高速詠唱・情報収集・援護射撃・オーラ防御)

……気になるのは……カメラ越しに見た、像。ここにあるのか、あるなら……戦闘の間に何か変化が起きるかどうか……

ゆかりちゃんを増やしている…までは判ったけど…「それで何をするのか」
がまだ…(無差別攻撃を見つつ)複数運用には適さないはずだし…あの像は最終目的に絡んでいる…?



●前を向ける者たち

「ゆっかーりちゃーん♪ あっそびーましょー♪」

 八坂・操(怪異・f04936)のハイテンションな声が薄暗い広間へ響き渡る。ビルのワンフロアを使って広間としているそこは、普段は黄昏秘密倶楽部の信者たちが祈りを捧げる場所であった。だが、夕闇深くなった今、そこには奥に鎮座する一つの像と、その周囲に三十を越すゆかりちゃんがいるのみだ。
 ゆかりちゃんたちは突如としてやってきた猟兵たちを不思議そうに見ている。

「んー? 反応がいまいちだね☆」
「……むしろ……操の対応が特殊……」
「あなた、もっと緊張感を持ちなさいよ……」

 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)が無表情に眼鏡の位置を直しながら、ルルチェリア・グレイブキーパー(墓守のルル・f09202)は呆れた表情で操をたしなめる。

「でもさ、映画とかでも都市伝説の核心に触れる時って、ドキドキするよね♪」

 ウキウキという擬音が聞こえそうなほどに、嬉しそうに語る操。ゆかりちゃんとのご対面に、ご満悦のようだ。ルルチェリアが再び苦言を呈そうと操を見る。さぞかし喜色の笑みだろうと見たその表情は、しかし無表情であった。 

「……だけどそれが人為的に起こしたものなら、話は別だ。赤の他人に犠牲を強いるのは、スクリーンの中だけで十分なんだよ」

 麦わら帽子の切れ目から見える漆黒の瞳はどこまでも暗く、ゆかりちゃんを見つめている。

「っなーんてね☆ あっ、みんなで遊ぶならメリーさんも呼ぼうっと☆」

 一転してニコニコと普段の笑顔に戻ると、操は懐から取り出した携帯端末でどこかに電話を始める。

「もしもし、メリーちゃん? ゆかりちゃんと遊ぶんだけど一緒にどう?」

 そうそう、その公園をねー、とメリーさんへ道案内を始める操。今まさに敵陣真っ只中とは思えない調子である。そんな操にルルチェリアとメンカルは顔を見合わせ、やれやれと首を振る。それは、ただの呆れだけではなく、同じ気持ちなのだと理解したからでもある。
 そして、最初こそ操の言葉に混乱していたゆかりちゃんたちだが、ようやく平静を取り戻した。目の前の存在、猟兵達が敵である事を改めて認識していく。

「りょーへーはてき」
「てきとはあそんじゃだめっていわれた」
「てきはたおさないとだめっていわれた」

 オブリビオンは猟兵を倒すべき敵であると認識している。それはゆかりちゃんも、元はゆかりちゃんでなかったものたちも同様だ。ゆかりちゃんたちはその意識を一つにしていく。

「……ん、倒すしかない……か……やるからには全力……迷うのは無し」

 メンカルはスチームエンジンを取り出し、シルバームーンの柄へと取り付けていく。蒸気エンジンにより魔力供給が増大し、魔法の出力が上昇する仕組みだ。メンカルはスチームエンジンのダイヤルを回し、威力を調節していく。

「……強いのね、メンカルさん」

 操はともかく、自身より二歳しか違わないメンカルでも、真っ直ぐゆかりちゃんへと向き合っている。ルルチェリアはその事を少し羨ましく思い、ついつぶやいてしまう。

「……技術が進まないと……人類も前へ進めない……それと同じ……立ち止まっては……いられない.......」

 スチームエンジンを取り付けながら、メンカルは答える。ずいぶんとぶっきらぼうだが、メンカルなりの励ましなのだろう。

「……ええ。その通りね……『サモニング・ガイスト』!」

 そんなメンカルに負けてはいられない、とルルチェリアも気力を振り絞る。ルルチェリアは古代の戦士を傍らに召喚した。身の丈は二メートルにも及び、筋骨隆々とした様を惜しげも無く露わにしたその姿は、随分と頼もしい。

「お、集まって来たね☆ じゃ、始めようか♪」

 操が携帯端末から耳を放すのと同時に、メンカルもガシャン、という音と共にスチームエンジンの取り付けを完了させる。古代の戦士はゆかりちゃんたちの元へゆっくりと足を踏み出していく。
 その様子を見てゆかりちゃんたちは――怯えたように一歩後ずさった。

「や、やだ!」
「こ、こないで!」
「やだー!」

 その表情は見えないものの、悲壮な声をあげるゆかりちゃんたち。それは演技などではない、等身大の、六歳の女の子であった。ゆかりちゃんたちからすれば、古代の戦士は威圧感漂う、恐ろしい敵なのだ。
 だが、もっと恐ろしいものはもうゆかりちゃんたちのすぐそこにいた。
 うふふ、と笑う声がする。
 わたしメリーさん。遊びましょう。
 いつの間にか、ゆかりちゃんの背後に少女がいた。西洋風のドール服に身を包んだ、小さな、人形のような女の子。その手には刃物を持っている。
 ゆかりちゃんがメリーさんの声に振り向こうとするその前に、メリーさんはゆかりちゃんの首を掻き切った。ゆかりちゃんは首から鮮血を噴き出しながらどさりと倒れ伏した。
 うふふふ、うふふふふ。
 メリーさんは楽しそうに笑いながら、次のゆかりちゃんへと刃物を向ける。

「いたいいいいい!」
「げほ、ごほっ」
「いたいよおおおお!」

 周囲にいたゆかりちゃんたちが泣き叫ぶ。首を斬られたゆかりちゃんは確かに一撃で絶命した。だが、その他のゆかりちゃんたちが喉の辺りを抑えながら、泣き叫んでいる。

「やだ、もうやだよう!」

 限界に達したゆかりちゃんたちの顔――捜索願いが炎上していく。そして、それらが一塊になったかと思うと、向かっていく古代の戦士の横を通り過ぎ、操、メンカル、ルルチェリアの三人の元へと向かってくる。

(……術式展開しても……全員は……)

 ルルチェリアがゆかりちゃんたちの様子に動揺してしまっている。庇いきれるか、ギリギリの状態だ。しかし、その心配は杞憂に終わる。
 轟音と共に三人の手前で天井が崩れ落ち、そこからロボが降ってきた。ロボは一塊になった炎を全身を使って受け止める。

『遅くなりました。皆さん、無事ですか?』

 それは、愛機のアヌビス号と合体した、エン・ジャッカル(風来の旅人・f04461)であった。全長三メートルを超すロボットとなった彼は、そのままでは広間へ入れないと悟り、天井を崩す事で突入したのであった。

「……問題ない……ルルチェリアは……?」
「えほっ、えほっ。だ、大丈夫よ!」

 メンカルは平然と、ルルチェリアは瓦礫の粉塵に咳き込みながら答える。

「それは良かった。お二人は後衛型だったかと。前衛は任せて下さい」

「……わかった」
「お願いするわ!」

 メンカルとルルチェリアはやや後方へと下がっていった。

 「――さて、あれがゆかりちゃん、ですか」

 エンは突然天井が崩れた事に驚いている様子のゆかりちゃん達を見つめる。顔が隠れている事は確かに不気味だ。だが、それ以外に彼女達と公園にいた子供達とを区別する事は難しいのではないか。
 エンは、公園や、すれ違った子供達の姿を思い浮かべる。ゆかりちゃんから逃げるように去っていった子供達。あのまま公園にいたら、一体何が起こっていたのか……。想像もしたくない。

(被害が広がる前に、ゆかりちゃんには行くべきところへ行って頂きましょう)

 エンはシールドガンを分離させ利き手に持つと、ブースターを噴射しながらゆかりちゃん達の元へ突っ込む。メリーさんが次々とゆかりちゃん達へ刃物を突き立てているからか、ゆかりちゃん達の動きは鈍い。エンが目前にまで近付いて、ようやくこちらを見上げる事が出来たぐらいだ。

(くっ……)

 そこに表情がある訳では無い。だが、こちらを見上げてくる様は、公園の子供達とも重なって――。
 エンは奥歯を噛み締めながらも、シールドガンを撃つ。熱線はゆかりちゃんの頭部を貫き、一瞬で絶命させた。

「いやあああああ」
「いたいぃ! いたいよぉおお!」

 ゆかりちゃん達が頭を押さえる。痛みに耐えきれず、しゃがみこむ子もいる。
 だが、もはやそれだけではダメだと学習をしたのか。数人のゆかりちゃん達は痛みに耐えながらも、ユーベルコードを発動させる。

「おかあさん、おとうさん、たすけて!」

 ゆかりちゃんたちが、一斉にナニカを召喚した。それは、確かに二本腕の二本足の見た目をしている。だが、異様に等身が低い。棒のような手足をし、体の何倍もの顔が、ニコニコと笑顔を形作っている。それはまるで、小さな子供がお絵かきをしたときに書いたような、そんな形をしていた。それらは、ゆかりちゃんにとっての母親のようなものであり、父親のようなものである。未だゆかりちゃんたちが数十人といた中で召喚された為、その物体たちは三十体近い数となった。
 母親の様な物体と父親の様な物体はエンの脚へすがりつく。距離が近かった為、エンが動き出す前に掴まれてしまったのだ。そのまま引きずり倒されるかという刹那、エンの周囲を炎が覆った。炎は母親の様な物体と父親の様な物体を燃やし、エンを自由にする。

(これは……ルルチェリアさんですか)

 エンが後ろを振り向くと、すぐそばまで古代の戦士が来ていた。エンはアヌビス号の装甲が炎に強い事もあり、ほぼ無傷の状態である。

「あつい、おかあさん、あついよ!」

 さらに、周囲にいたゆかりちゃんたちに炎が飛び移り、それにより母親の様な物体と父親の様な物体も消滅していく。それを好機と、エンはブーストを噴かし、ジグザグに移動しながらゆかりちゃんたちを翻弄する動きを行う。エンは、数を減らす事を優先する為、囮となる事にしたのだ。
 ちらりと物言わぬ像を見るエン。元凶であると目されるそれは、何かをしようとする気配はない。少なくとも、今はまだ触れるべきではない、とゆかりちゃんたちへ集中する。
 エンの動きに、ルルチェリアも同調する。

「――ゆかりちゃんに替えられたあなた達に何の罪も無いわ。あなた達がオブリビオン、人の敵になってしまったから。……私にあなた達を救う手段が無いから……っ」

 これまでの光景から、ルルチェリアは、いや、ここにいる猟兵たちが理解している。なぜ、ゆかりちゃんたちが、ゆかりちゃんを倒すごとに泣き、嗚咽するのか。だが、ゆかりちゃんであっても、オブリビオンなのだ。手を差し伸べても、その手は振り払われるだろう。

「だからっ、私はあなた達を斃すの。ただそれだけよ!」

 周囲を漂う霊たちが、ルルチェリアへ優しく巻き付く。ルルチェリアは間違っていないよ、とでも言うように。

「古の猛き戦士よ、私に力を貸して! あの子達を苦しませず、すぐに終わらせてあげて!」

 おう、という声こそ聞こえないが、古代の戦士は確かに頷いたように見えた。身の丈ほどもある巨大な槍を構えると、ゆかりちゃんへと躊躇なく投げた。その一撃は軽々とゆかりちゃんを何人も巻き込みながら貫通し、容易く絶命させた。

「いたい、いたいよぉおお!」
「ああああああ!」
「やだああ、やだああ」

 だが、その傍らでは痛みに悶絶しながら、床で這いつくばるゆかりちゃんがいる。痛いと、苦しいと叫ぶ声が広間へ響く。ルルチェリアはその光景を、ぎゅっと服の裾を握りしめながら、しかし目を逸らさずに見つめる。それがやるべきことだとわかっているから。
 苦しみながらもゆかりちゃんたちは負けじと母親や父親を召喚していく。未だ、ゆかりちゃんの数が多い。メリーさんやエン、古代の戦士だけでは、母親、父親たちを抑えきれない。ぞろぞろと走るように、這うように、猟兵たちへ向かってくる。そこへ、無数の矢が降り注いだ。その矢は的確に、母親の様な物体と父親の様な物体を召喚したゆかりちゃんへと刺さっている。どのゆかりちゃんが召喚したのか、マークしていたかのように。

「……命中……次弾装填……」

 メンカルのシルバームーンに接続されたスチームエンジンから、勢いよく蒸気が噴き出した。エンジンが勢いよく回転を始め、シルバームーンに魔力が急速に満ちていく事をメンカルは感じ取る。臨界間近まで圧を高め、アルゴスの眼で対象を選定する。

「……発射」

 シルバームーンの先端付近が赤く光ったかと思うと、魔法の矢が一斉に放たれる。時に弧を描きながら、次々にゆかりちゃんたちへ降り注いだ。命中した矢は、瞬間的に燃え上がり、瞬く間にゆかりちゃんの命を奪い、数を減らしていく。
 そんな中でも、メンカルは思考する。その眼には、他の部屋を制圧している猟兵たちからの映像も収集している。そして得られた情報から答えを導きだしていた。

(……ああ……あの像は……『啓蒙』していた……黄昏の救済を……そういう……事)

 黄昏秘密倶楽部はゆかりちゃんを利用していた。噂を広め、ゆかりちゃんが行く先へ跡をつけていた。そうすれば、母親の死体が手に入る。死体へ布を被せれば信徒が出来上がる。子供はゆかりちゃんという戦力になる。父親は、そんな状況になれば心が壊れる故、洗脳しやすくなる。ああ、だから行方不明者は出ないのだ。そもそも届け出ないのだから。
 メンカルはその知識欲を満たしたが、決して楽しい結果ではなかった事を、少しだけ嘆くのであった。

●ゆかりちゃんとかくれんぼ

 次々と殺されていく自分に、ゆかりちゃんは恐怖した。こんなにも痛いなんて聞いてない。こんなに苦しいなんて聞いていない。私が増えれば助けてくれると言っていたのに。

「にげなきゃ……」

 広間を覗き見ていたゆかりちゃんがその場を去ろうと一歩後ずさる。

「み~つけた☆」

 そんなゆかりちゃんの背後から声がした。

「はーい、ゆかりちゃんつーかまーえた♪」

 操が、ゆかりちゃんを背中から抱きしめた。いつの間にか、操は前線から離れ、一人離れたところにいるゆかりちゃんの背後へと忍び足でたどり着いていたのだ。
 それは、恐怖以外の何物でもない。敵が、自分に抱き着いているのだ。たくさん自分を殺した敵が、すぐそこにいるのだ、あんなにもひどい事をした敵が!
 ゆかりちゃんはあまりの恐怖と悲しみに、嗚咽し、涙し――

「アアアアアアアアアアアアアアア!!」

 劈く様な叫声を上げた。零距離で受けた攻撃だが、操はゆかりちゃんに抱き着いたまま、放さない。いや、その攻撃力自体、そう大した事はないのだ。ゆかりちゃんはオブリビオンだ。だが、ただの子供なのだ。その力は、せいぜい六歳児と同程度の、弱い存在でしかなかった。
 だから、ゆかりちゃんはガタガタと震えている。怖くて仕方がない、と。それに気付いた操は、これ以上は可哀想そうか、と微笑む。操は抱きしめた状態のまま、利き手に持っていた無骨なドスをゆかりちゃんの心臓へ突き刺した。叫声は止み、抱きしめていたゆかりちゃんはぐったりと動かなくなった。

「……元を倒しても、ダメかぁ♪」

 それは、初めからゆかりちゃんであった存在であった。だが、それでも広間で戦うゆかりちゃんたちが消滅するような事はなかった。どういう経緯で、どのように、など操は気にしない。ただ、ここで逃がしてしまっても、楽しい事にはなりそうにないと考えたからだ。
 操は血に濡れたドスを見つめる。本物のゆかりちゃんであっても、血は赤く、なまぬるかった。

「……ホント、後味が悪いよ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

彩瑠・姫桜
対象の動きを観察
隙を見て【咎力封じ】使用
ドラゴンランスで【串刺し】にするわ
できる限り一撃で仕留めるわね



悔しいわ
できるなら子供達をご家族の元に返してあげたかったのに
元には戻せず、倒すしかないなんて

(思い出すは先日の依頼での親友の言葉
「どうしようもなく覆せない終わり」「あまりに救いのない結末」
目の前の光景はまさにそれだ)

でも、立ち止まるわけにはいかない
今私ができる「最良」は、目の前の「ゆかりちゃん」を倒して
この儀式自体を潰す事だから

もし犠牲になった子供達の魂がここにいるなら
「ゆかりちゃん」を倒して儀式を潰して
その呪縛から解き放ってあげたい

ごめんなさい、助けてあげられなくて
今はせめておやすみなさい


空亡・柚希
ゆかりちゃんが感染したとき。噂を流した人の悪意に触れてしまったとき。子ども達はどんなに怖かったのだろうか
ああ、分かっている。あの子たちはもう戻せない。分かっているとも……!

潰れそうな心臓をどうにか落ち着かせようとしつつ、戦闘に臨む

「SPD」を重視。Tinsoldatを錆で覆われた手で取り、
主に使うユーべルコードは、それを原形留めない短銃に組み替えた≪Tinsoldat XXV≫。
しっかり者の一本足、力を貸してくれ

表だった攻撃より〈援護射撃〉〈傷口をえぐる〉等での他猟兵の補助
父母らしき物体には〈誘導弾〉でそれを呼んだゆかりちゃんを狙う
向こうの攻撃は何か予備動作があれば〈第六感〉での察知、回避を



●立ち止まっていた者たち

 空亡・柚希(玩具修理者・f02700)は心臓がどんどん跳ねていく事を自覚しながら、その凄惨な光景を眺めていた。
 ゆかりちゃんが感染したとき。噂を流した人の悪意に触れてしまったとき。子ども達はどんなに怖かったのだろうか。それは考えるだけでも吐き気がしそうなほど、凶悪なものだ。だが、まさか目の前に広がる光景が最悪だとまでは思わなかった。
 ゆかりちゃんたちは、感覚を共有している。
 一撃で倒す事は出来る。ゆかりちゃんは弱い。だからこそ、簡単に倒せる。だが、一人のゆかりちゃんを倒したら、その隣のゆかりちゃんが同じ苦痛を味わう。痛みでは、オブリビオンはそうそう死ねない。どうすればいいというんだ。せめて、何か元に戻す方法を……ああ、分かっている。

「あの子たちはもう戻せない。分かっているとも……!」

 柚希はTinsoldatを錆で覆われた手に取った。一本足の兵隊駒は原形を留めない反頭宇へと組み変わる。柚希のユーベルコード『Tinsoldat XXV』である。
 柚希は銃口をゆかりちゃんたちへ向け、放つ。だが、銃弾はあらぬ方向へ飛んでいき、ゆかりちゃんへと当たらない。思わず、手を心臓にやる。どくん、どくんと、一向に落ち着かない。

「手が震えてるわよ」

 彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)が柚希の隣に立ち、つぶやく。

「姫桜さん……」
「悔しいわ。できるなら子供達をご家族の元に返してあげたかったのに、元には戻せず、倒すしかないなんて」

 姫桜が手にしたドラゴンランスを眺めながら、ぽつりと、いや、柚希へと語り掛ける。

「あおが……私の親友が言ってくれた言葉があるわ。あまりに救いのない結末が目の前にある時、姫ちゃ……あなたならどうするって」

 かつての戦いで、姫桜の背中を押してくれた親友の言葉。ちょうど、今の光景はその時と酷似している。泥人がゆかりちゃんというだけでなく、柚希が姫桜で、姫桜が葵桜で。

「私は『最良』を目指す。目の前のゆかりちゃんを倒して、この儀式を潰す事が、私のやるべきことよ」

 それだけ告げると、姫桜はゆかりちゃんたちの元へ駆けていった。その背中を見ながら、柚希は考える。

「僕ならどうするか――」

 心臓の鼓動は、少しずつ収まってきている。



 姫桜はゆかりちゃんの動きを観察していた。少なくとも、ゆかりちゃん自身の戦闘力がかなり弱いという事はわかった。
 動きを阻害してくれているエンと、ゆかりちゃんを槍と炎でなぎ倒している古代の戦士の動きに紛れながら、拘束ロープを放っていく。ユーベルコードは封じられないが、それだけでゆかりちゃんの動きを封じる事が出来る。ゆかりちゃんは気付かぬ間に体をロープで縛られていく。同時に、手枷をゆかりちゃん同士に付け、密着させていく。

(これで三人……もう少し……もう少し集めて……)

 ここで行われている儀式を、計画を潰す事が、最良の選択。ここを潰す事で、その呪縛から解き放ってあげられる。その為に、ゆかりちゃんを倒さなければならない。そして、残りのゆかりちゃんの数は少ない。ならばせめて……。
 ぐい、と手を引っ張られた。咄嗟に姫桜はドラゴンランスを突き刺そうとして――その手を止めてしまった。

「どうしてそんなにひどいことするの」

 覚悟を決めていなかった訳ではない。けれど、それでも。ほんの少し前まで、姫桜は普通の生活を送っていたのだ。怪物だけでなく、こんな子供と戦う事など、思ってもいなかったのだ。思考が止まってしまった事を、誰が責められよう。
 ゆかりちゃんが無慈悲な炎を姫桜へと飛ばした。その瞬間、銃弾が姫桜の手を取っていたゆかりちゃんの腕を撃ち抜いた。

「……っ!」

 姫桜は炎を避けると同時に、ドラゴンランスでゆかりちゃんを貫く。ゆかりちゃんは声を上げる事もなく、倒れた。同時に、周囲のゆかりちゃんたちは胸を押さえ、苦しみ出す。その光景に少し顔をしかめながらも、姫桜は銃声の方を見た。
 視線の先で、柚希はTinsoldatをしっかりと構え、ぶれる事なく銃口をゆかりちゃんたちへと向けていた。

「僕は……僕は『最善』を尽くす。だから、援護させてくれ、姫桜さん!」
「ええ、もちろん!」

 お人良し――操曰く善い人――である柚希の答えを受け、姫桜は再び動き出す。

「しっかり者の一本足、力を貸してくれ」

 ぎゅっとグリップを握りしめ、視線は真っ直ぐにゆかりちゃんへと。柚希は姫桜の狙いを理解し、援護していく。銃声で視線を集めては、少しだけ銃弾をかすめさせて動きを止める。
 その間にも姫桜はゆかりちゃんを縛り、一塊にしていく。残りは八人となった。ゆかりちゃんたちはぎゅうぎゅうに縛り上げられ、団子状にまとめられている。
 それを目の前にし、姫桜は片腕にschwarzを、片腕にWeißを構えた。

「ごめんなさい、助けてあげられなくて。今はせめておやすみなさい」

 姫桜は両腕のドラゴンランスをもって、八人のゆかりちゃんを一撃で串刺しにした。八人のゆかりちゃんはその一撃だけで絶命した為、それ以上の苦しみを与える事はなかった。
 そして、それによりこの場にいたゆかりちゃんたちは全滅し、その場にあった屍は全てぐずぐずと溶けて、何も残る事はなく、ゆかりちゃんは躯の海へと還された。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『黄昏色の啓蒙』祈谷・希』

POW   :    苦痛を受けよ、精神を死へと返せ。救済の日は近い
自身が装備する【『黄昏の救済』への信仰を喚起させる肉輪 】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
SPD   :    黄昏を讃えよ、救済を待ち侘びよ
【紡ぐ言葉全てが、聴衆に狂気を齎す状態 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    痛みと苦しみが、やがて来る救済の贄となる
【瞳から物体を切断する夕日色の怪光線 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は火奈本・火花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 全てのゆかりちゃんが消えたことで、像の目が赤く輝いた。

『幼きものは潰えた。痛みと苦しみをもって。これは救済である』

 それがゆかりちゃんたちの為であったと言わんばかりに。信徒を増やす為、儀式を成功させる為だけに、黄昏色の啓蒙は信者を、信徒を動かす。それ以外には何もない。

『猟兵よ。貴様たちにも救済を与えよう』
エン・ジャッカル
やはり、あの像が元凶でしたか。私は私と相棒が行く先に如何なる試練が待とうとも歩みを止めないと決めていますので、救済はご遠慮いたします。ということで、すぐにお帰り願いましょう。

ただ、あの像にはどんな攻撃手段を持っているのかは予想できませんので、アヌビス号の防御力を以て様子見するしかなさそうですね。迂闊に近付いて厄介な攻撃を浴びるのは避けたいところです。相手の攻撃の隙を突いてブースターで急接近して攻撃する戦法で行きましょう。

…それにしても、痛みと苦しみをもって死ぬことが救済、ですか。痛みと苦しみとは人生においての試練の一つに過ぎないと私は思ってます。それを救済と考える教団とはやはり相容れませんね。


八坂・操
【WIZ】

『これは救済である』ヒヒヒッ! 流石顔面彫刻、キメ顔が似合うね♪ 血の涙でも流したら、学校の怪談位にはなれるんじゃない?
……気に入らない。都市伝説を利用し、他人に犠牲を強いて自分は高みの見物。本当に救えないのはアンタだろう。
都市伝説は信徒を増やす手段じゃあない。不安の可視化、不幸の寄せ集め、もしもな虚像の産物……人の手が及んで良いものでは決してない。
憂虞し、鬼胎を抱き、恐怖しろ。既知と未知の隙間に潜むものは、アンタに確かな『恐怖を与える』だろう。
「それに手を出したのは啓蒙か暗愚か、今一度問う」
問いを投げかけ、隙を作る。答えなんて最初から決まっている。
【怪異】は人の手に余るものと知れ。


彩瑠・姫桜
【咎力封じ】使用
全ての動きを止められなくとも
動きを鈍らせる事はできるはず

動きを止められない場合は
一歩引いて動きを観察するわ

攻撃は仲間との連携を意識して仕掛けるわ
ドラゴンランスでの【串刺し】は渾身の力で
例え命中しなくとも【傷口をえぐる】勢いで
この一撃に想いを籠めるわね



救済、ね
自分達の都合のいいようにあの子達を苦しめて踏みつけて、それを言うのね
反吐が出るわ
そんな馬鹿げた救済なんてこっちからお断りよ
儀式もあなたもぶっ潰す

ゆかりちゃん達を手に掛けた罪は、私のこの手の中にある
子供達とそのご家族の苦しみ、痛み、悔しさ
それらの想いも全部ひっくるめて
今は目の前の敵にぶつける!

慄け咎人、今宵はお前が串刺しよ!


メンカル・プルモーサ
……(一度深呼吸、熱くなってる人が居れば杖のを石突きを地面に強く打ち付けてこっちに注目を向かせ、一度間を置かせる)…
……「あれ」はBotみたいなもの…言い分に耳を傾けるだけ無駄……駆動音程度に思うと良い…

【現実を侵せし狩猟団】でガジェットを召喚……一部は高速挙動させて囮にして……もう一部は肉輪の撃墜に割りふってみんなを極力フリーにさせる……
その間にあれの挙動と行動パターンを解析する……
(かばう・時間稼ぎ・援護射撃・情報収集)

解析が完了したら【崩壊せし邪悪なる符号】で怪光線や自己強化のコードを消す……もう、お前には何もさせない……

(…でも、これがBOTに近い物なら…「大元」は一体…根が深そう…)


ブライトネス・フライハイト
出遅れたにゃけど、メインディッシュには間に合った様子にゃぁ。
我輩、その救済は遠慮しておくにゃ。
どう味わっても不味そうにゃしにゃぁ。

とはいえ、我輩は戦いは苦手にゃ。
【シーズニングガン】と【援護射撃】【クイックドロウ】で他の猟兵のサポートにまわるにゃ。
特にあの肉輪は、面倒くさいにょに焼いても揚げても食べられそうにないから困ったものだにゃぁ。
…いや、お肉にゃら味付けすればいけるのかにゃ…?


ルルチェリア・グレイブキーパー
『救済』されるのはアンタだけよ!
あの子達の何倍もの痛みと苦しみを与えてあげるわ!
何が救済よ、自分の目的の為に無関係な人達を犠牲にしているだけじゃない。
そんなものは救済とは呼ばない、私は絶対に認めないわ!

リザレクト・オブリビオンで攻撃
「死して尚戦場を求める騎士よ、死して尚獲物を欲する竜よ……滅茶苦茶にしてやりなさい!」
呼び出した死霊騎士と死霊蛇竜の連携攻撃、技能の【2回攻撃】でボコボコの顔面福笑いにしてやるわ
攻撃中は私は動けないから、敵の怪光線を受けない位置まで下がるわ
それでも私が狙われたら、死霊騎士の攻撃を中断させ私の守護に専念してもらうわ


空亡・柚希
空恐ろしいほどあの子達について何も感じていない
あろうことか、救済だと。あの子達の為、だと
 
何処が
……こんなことの、何処が救いだというんだ
 
*
判定には引き続きSPDを使用
駒を再び短銃に変化させ、しっかり構え直して(Tinsoldat XXV)

他猟兵との連携、彼らの援護を重視
主に<誘導弾2>、<援護射撃3>等使用

<傷口をえぐる><鎧無視攻撃>で他が与えていくダメージを更に上乗せ

敵が行う、理性を代償にした強化や夕日色の光線の時など強力な広範囲攻撃には、
<第六感>にも似た危機感で伝達や回避を試み



 一見像に見えるそれは、とある邪神の眷属である。啓蒙という名の通り、信徒を得る為の啓蒙を行う事に特化している。その眷属の無機質な声は広間に響き渡り、その場にいる猟兵達にさらなる火を付ける。

「『救済』されるのはアンタだけよ! あの子達の何倍もの痛みと苦しみを与えてあげるわ!」

 ルルチェリア・グレイブキーパー(墓守のルル・f09202)が声を張り上げる。ゆかりちゃんもオブリビオンであり、加害者である。だが、同時に被害者でもある。今ここにいる眷属がいなければ、起きる被害もなかったかもしれない。
 そんな風に叫んでいたルルチェリアを、眷属の瞳が視界におさめた。

「……! いけない、ルルチェリアさん!」

 空亡・柚希(玩具修理者・f02700)が叫ぶ。卓越した第六感が眷属からの攻撃の気配を察知したが、ルルチェリアが動くには間に合わない。眷属の瞳から光線が発射され、ルルチェリアに迫る。が、光線がルルチェリアに届く事はなかった。光線の軌道上では、ロボが立ち塞がっていた。
 それは、エン・ジャッカル(風来の旅人・f04461)の、アヌビス号と合体変形したロボであった。

『矮小な。救済を拒むか、猟兵達よ』
「私は私と相棒が行く先に如何なる試練が待とうとも歩みを止めないと決めていますので、救済はご遠慮いたします」

 エンの纏う黒い装甲から光線の熱による煙が立ち上る。光線もまた熱線である。熱の耐久力が非常に高いアヌビス号の装甲には、傷一つない。

「ということで、すぐにお帰り願いましょう」

 エンがシールドガンを眷属へ向け放つ。しかし、それは眷属の体をまるで土星のリングのように回る肉輪により防がれた。

『愚かなり。苦痛を受けよ、精神を死へと返せ』

 肉輪が眷属の体から離れ、空中へ浮いていく。そして、ずるり、と音を立てながら複製されていった。その数は倍々に膨れ上がり、眷属の頭上には数えきれないほどの肉輪が浮かび上がっている。肉輪からは得体の知れない汁が滴り落ながら、ぐるぐると回転している。

「何が救済よ、自分の目的の為に無関係な人達を犠牲にしているだけじゃない。そんなものは救済とは呼ばない、私は絶対に認めないわ!」

 ルルチェリアの両隣に、光が集まる。光は、一方は蛇のような、一方は鎧のような輪郭を形どる。そして、光が晴れたそこには死霊騎士と死霊蛇竜が召喚されていた。騎士は正眼に剣を構え、蛇竜はその長大な体をくねらせる。

「痛みと苦しみをもって死ぬことが救済、ですか。痛みと苦しみとは人生においての試練の一つに過ぎないと私は思ってます。それを救済と考える教団とはやはり相容れませんね」

 エンは後部のブースターへエネルギーを送り込む。ブースターがいつでもいけると唸りを上げる。

「救済、ね。自分達の都合のいいようにあの子達を苦しめて踏みつけて、それを言うのね。反吐が出るわ。そんな馬鹿げた救済なんてこっちからお断りよ。だから――」

 姫桜がランスを構える。いつでも駆け出せるようにと、体を低く沈ませる。

「儀式もあなたもぶっ潰す」

 姫桜が駆け出したのを合図に、エンが、死霊の二体が、眷属へと向かっていく。

『浅慮。苦痛を得る事こそ最高の救済であると知れ』

 眷属が念力により肉輪を姫桜達へと向かわせる。それらはただ避けるには難しい密度をもって、姫桜達に襲い掛かる。
 姫桜達が槍や機動性をもって避けていくが、それでも避けきれない肉輪が迫りくる。禍々しい色のそれが当たって、果たして無傷でいられるとは思えない。しかし、その肉輪は銃弾と塩弾により撃ち落とされた。柚希とブライトネス・フライハイト(ケットシーのフードファイター・f04096)による援護射撃だ。

(空恐ろしいほどあの子達について何も感じていない。あろうことか、救済だと。あの子達の為、だと何処が……こんなことの、何処が救いだというんだ)

 柚希の心は熱く、だが視線は逸らさず。今はもう、構えた「Tinsoldat XXV」の銃口がぶれる事はない。前へ進む猟兵達を援護し、的確に肉輪を撃ち貫いている。その隣では、ブライトネスもシーズニングガンで的確に肉輪に味付け……ではなく、撃ち抜いていく。

「我輩も、その救済は遠慮しておくにゃ。どう味わっても不味そうにゃしにゃぁ」

 軽口を叩きながらも片腕で銃を、片腕で素早く撃鉄を起こしていくクイックドロウによる銃撃は瞬く間に肉輪の一つを半壊させていく。
 柚希とブライトネスの援護射撃により、姫桜たちは少しずつ距離を詰めていく。
 眷属と言えど、そこには意識がある。念力を多重に操作する事による意識の疲労は例外ではない。ブーストによる高機動を行っていたエンが、いち早く眷属の背後へと回った。そして、距離を取りながらシールドガンを構えた。

(後ろさえ取れば……っ!?)

 ヘルムにアラートが鳴り響き、エンは咄嗟にシールドを全力展開する。眷属の首が、ぐるりと一回転し真後ろ――エンの方角を向いたのだ。その瞬間、両目からの光線がシールドを直撃する。

(そんな動きも出来たのですね……!)

 シールドによりガード出来たものの、その威力は装甲だけでは抑えきれない事をエンは理解した。
 眷属はただの像ではなかった。身動きこそあまり出来ないが、その首は自在に可動する。油断なくあらかじめ距離を取っていた事と、Aマシンヘルムによる危機察知機能によりエンは難を逃れたのだ。

『唖然。ここまで愚かとは。説いてやろう。黄昏を』

 眷属の口が大きく裂けるように開いた。そして言葉を紡いでいく。

『痛みこそ安らぎ。苦しみこそ癒し。その先に至る精神の死が、全てを救済する。それすなわち黄昏の救済』

 瞳もこれまでの二倍、三倍以上に開いていく。それはオレンジ色の、黄昏色に染まっていた。

『泣け、喚け、悲鳴を上げよ。その声を天に地に響かせよ。幼き少女がそうしたように』

 その言葉は猟兵たちを刺激した。今しがた、泣きながら、嗚咽しながら骸の海へ帰っていった少女、ゆかりちゃんを想起させる。

「まだそんな事を……!」
「黙らせる……!」

 姫桜や柚希たちの手に力が入る。猟兵である彼らだが、その身はそう特別なものばかりではない。眷属によるユーベルコードが彼らを苛み、感情を揺すぶる。眷属は猟兵達へ狂気を齎そうと言葉を投げかけていく。
 だん、と強く床を叩きつける音が広間に響いた。
 はっ、と猟兵達がその音のした方を見ると、メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)が杖を地面へと打ち付けていた。

「……「あれ」はBotみたいなもの……言い分に耳を傾けるだけ無駄……駆動音程度に思うと良い……」

 その声が届いたかはわからない。しかし、確実に猟兵達の意識を落ち着かせる事に成功した。
 姫桜と死霊二体は一旦体勢を整えるために少し距離を取る。実際は自由に首を動かせるとなれば、光線はどんな角度にも打てるという事になる。作戦の練り直しだ。

「あの肉輪は、面倒くさいにょに焼いても揚げても食べられそうにないから困ったものだにゃぁ」
「……ブライトネスさん、まずは肉輪の数を減らそう。エンさん、こっちへ!」

 柚希の声を受け、エンが柚希とブライトネスの元へ肉輪をかいくぐりながら近づいていく。そして、近づいてきたエンの背中側、左肩付近に柚希が素早く掴まる。ブライトネスもにゃるほど、と右肩付近へと掴まった。

「……なるほど」

 その意を察したブライトネスはシールドを全面に展開しながら、再び眷属の元へと向かっていった。
 それらの様子を見て、メンカルは息を吐く。眷属の紡ぐ言葉は聞くものを狂気を齎す。事前に収集していた情報を元に仮説を立てていたが、それが役にたった形だ。だが、メンカル自身にも激情がなかった訳ではない。杖を打ち付ける前に、一度大きく深呼吸していた姿をルルチェリアが見ていたのだ。

「……何、ルルチェリア……」
「何でもないわ」

 その事に少し頬を緩ませながら、ルルチェリアは死霊を繋ぎとめる為に再び意識を集中する。メンカルは首を傾げながらも、眷属へと意識を向ける。
 眷属の意識はエンへと移っていた。といっても、眷属は理性を失っており、今現在は速く動く物を無差別に攻撃している状態だ。それでも念力による操作は続けており、だがランダムに操作されている為、近づく事が難しくなっている。

(……それなら……)

 メンカルは詠唱を始める。同時に、ハンドヘルドコンピュータを付けた右腕を前へ突き出す。

「『我が軍勢よ、集え、出でよ。汝は電霊、汝は猟団。魔女が望むは現を狩り取る百鬼夜行』」

 ハンドヘルドコンピュータから淡い光が立ち昇り、無数のプログラムが飛び出てきた。それらは少しずつ実体化していき、小型の戦闘用ガジェットとなった。

「……『現実を侵せし狩猟団(エレクトロ・ファンタズム・ワイルドハント)』、実行……」

 ガジェットたちの目が緑色に光る。総数九十五体にも及ぶガジェットは迅速に行動を開始した。一部はエンたちの動きを補佐するように高速挙動を、一部は肉輪の撃墜へと回る。数には数を、と召喚したが、肉輪の耐久力も眷属と合わせて増強されている。ガジェットたちだけでも、肉輪は防ぎきれないだろう。だが、それらは次の作戦の為の布石に過ぎない。今もメンカルのレンズには情報が濁流のように走っている。
 その間、エンは柚希とブライトネスを肩に乗せながら、眷属の周囲を走り回っている。目から発射される光線を引き付けているのだ。いくら無差別とはいえ、動けないルルチェリアやメンカルの位置に光線の軌道がいかないようにする為だ。時折まずい軌道の光線をシールドで弾くように受け止め、軌道を変えさせている。メンカルのガジェットがそれを助けてもくれる。だが、それに集中すると肉輪の動きまでは読めなくなってしまう。その為に、柚希とブライトネスが肩に掴まりながら、肉輪を撃ち落としているのだ。のだが。

「キリがないにゃ」
「増殖は止んでるみたいだけど、眷属がああなってから動きが読みづらくなったね」
「まったくにゃ。弾もタダではにゃいというのに。ところで、あれは肉でいいのかにゃ?」
「え、肉輪というからには、肉だろうけど」
「……ならいけるにゃ」
「いやいやいや、何が。何をもっていけると思ったのかな?」
「ちゃんと臭みを消す為のハーブ弾も交えてるにゃ」
「この合間にそれはそれで凄いけど、だめだよ!? 食べちゃだめだよ!?」

 ブライトネスが肉輪を食べようとしている為、柚希が必死に止めていた。言い合いながらもきちんと肉輪を撃ち落とし、片方が弾を込めてる時はカバーしたりと、やる事はきちんとやっている。

(……肉輪へのアラートが鳴らないのですから、大したものです)

 やや苦笑気味ながらも、二人の仕事ぶりを心の中で感嘆する。ブライトネスの料理なら、あの気味の悪い肉輪も美味しい料理になるでしょうか、とも思いながら。
 攻防は、どれぐらい続いただろうか。
 エンが何度となく眷属の周囲を立ち回り、肉輪もその数は残りわずかとなっている。だが、それでも光線の威力は変わらず、肉輪も周辺を縦横無尽に飛び回っている。
 しかし、隙間は確実に出来ていた。死霊騎士が肉輪を切り落とした瞬間、それを死角に近くにまで迫っていた死霊蛇竜が地を這う速度を急速に上げた。反応が遅れた眷属の首元へと、蛇竜が噛みつく。ようやく、一撃が眷属に届いたのだ。だが、以前眷属は超耐久力を経ており、それは大きなダメージとならない。それでもそれは隙となる。眷属は視線を蛇竜へと向けた。蛇竜へ光線を発射しようと目が光る。

(……今!)

 エンとメンカルの思考が重なる。
 エンはブーストを最大出力にし、これまでの比ではない速度で眷属へと近づく。同時に、メンカルは詠唱を開始した。

「邪なる力よ、解れ、壊れよ。汝は雲散、汝は霧消――」

 メンカルはこれまでに蓄積した情報を分析し、解析し終えた。短時間であれば、相殺出来る魔術を組み立て上げたのだ。残るは、発動のキーとなる詠唱を終えるのみ。そのはずだった。

「肉輪が!」

 ルルチェリアが叫んだ。視線の先では、肉輪がメンカルの元へと向かって来ていた。それだけであれば、ルルチェリアが庇えたかもしれない。ルルチェリアの元へもまた、肉輪が迫っていた。

(……分析していたのは怪光線と自己強化……肉輪は……)

 この短時間では三つのユーベルコードの相殺を成し得る魔術を組み立てる事は出来ない。その為に絞っていたのだが、運悪く、ランダムな軌道を描いていた肉輪が二人の元へと迫っていた。肉輪に触れれば、どうなるか。それを想像するより先に、二人のすぐ隣で銃弾が響いた。

「それで、結論は出たかい?」
「うーん、やめとくにゃ。熟成肉の扱いは難しいからにゃ」

 柚希とブライトネスがルルチェリアとメンカルを守るべく銃口を肉輪へ向けていた。最高の護衛を得た今、ルルチェリアとメンカルを邪魔できるものはいない。

「――魔女が望むは乱れ散じて潰えし理。『崩壊せし邪悪なる符号(ユーベルコード・ディスインテグレイト)』……もう、お前には何もさせない……」

 メンカルの言葉通り、シルバームーンの先端、月より放射された魔術は眷属へと届き、強化のユーベルコードが相殺される。同時に、目からの光線もしばらくの間放つ事は出来ないだろう。

「死して尚戦場を求める騎士よ、死して尚獲物を欲する竜よ……滅茶苦茶にしてやりなさい!」

 ルルチェリが死霊を鼓舞する。噛みついていたは蛇竜は耐久力を落した眷属の首元をより深く牙を突き立て、騎士は大上段に構えた剣を眷属の顔面へと振り下ろす。その威力により、顔面がべこりとへこみ、さながら失敗した福笑いのように、顔面が中心へと集まってしまった。そして、それではもちろん終わらない。
 エンが近づくと同時に、柚希とブライトネスと交代で掴まっていた姫桜が飛び降り、拘束ロープを眷属へと放つ。ロープはぐるぐると眷属に巻き付き、その首を固定した。
 そして、姫桜は槍を構えた。その槍は、ゆかりちゃんを貫いた槍。その手に残る感触は、罪の自覚と共にある。ゆかりちゃんとなってしまった、子供達と、その家族が味わったであろう苦しみ、痛み、悔しさ。それら全てを込めて。

「慄け咎人、今宵はお前が串刺しよ!」

 風切り音と共に深く突き刺さった槍は、眷属の首へ大穴を開ける。そこへ向け、エンが、柚希が、ブライトネスが、傷口をえぐるように銃撃を浴びせていく。
 耐久力を無くした眷属はその猛攻に耐えられるはずもなく、その身がそう時を置かずに朽ちる事を理解した。故に、「それを救済である」と理解した。

『なるほど、確かに猟兵侮りがたし。しかし、この身に与えられた苦痛、これは救済である』

 botであると言ったメンカルの言葉は、正しいのであろう。例え今際であろうとも、啓蒙の化身である『黄昏色の啓蒙』祈谷・希は受けた苦痛を救済として認識してしまえる。痛みを受けようが、それこそが望む所であるのだ。死へと向かう精神が、救済であるのだ。であるならば。何をもって、眷属を敗北させたと断じれるのか。その答えは、エンから今しがた降りた姫桜の反対側の肩に掴まっていた彼女が教えてくれるだろう。

「『これは救済である』……ヒヒヒッ! 流石顔面彫刻、キメ顔が似合うね♪ 血の涙でも流したら、学校の怪談位にはなれるんじゃない?」

 ――そこに立ちふさがるは怪異、八坂・操(怪異・f04936)であった。
 笑みを浮かべたのは一瞬。すぐに無表情となり、暗く、深い闇を思わせるような瞳で眷属と目を合わせる。

「……気に入らない。都市伝説を利用し、他人に犠牲を強いて自分は高みの見物。本当に救えないのはアンタだろう」 

 不安の可視化、不幸の寄せ集め、もしもな虚像の産物……それらから生まれた都市伝説、怪異は自然発生し、いつの間にかそこにあり、いるものだ。それは、人の手が及んでいいものでは決してない。それが例え、オブリビオンであろうとも。オブリビオンの起こしているものであろうとも。

「憂虞し、鬼胎を抱き、恐怖しろ」

 眷属はこれまでも骸の海に還される事はあった。それらは猟兵に倒されたものだ。だが、「これ」は知らない。恐怖など、知るはずがない。だが、そんな事こそ操の知った事ではない。先に侵したのは、そちらなのだから。侵すべきでない、こちらとあちらの境界線。既知と未知との隙間に潜むもの。

「それに手を出したのは啓蒙か暗愚か、今一度問う」

 操が問いかける。眷属の体は今にも崩れそうであるが、目的は果たしていたはずであった。苦しみながら死ぬ事こそ、救済であるのだから。だが、これはなんだ。目を逸らせない。身動きが出来ない。無くしたはずの背筋が震えるようなこれは、ああ、恐怖なのか。
 操の体から黒く塗り潰された自分、操が飛び出し、眷属へと入り込む。それは、一度や二度ではない。操の身に宿る怪異が、次々に怪人の中へと入っていく。それは俗には、憑り付いていると言うのだろうか。崩れゆく体と精神の中、救済へと至るはずであった眷属の精神は、操により恐怖へと塗り潰された。苦痛を感じる暇もなく、眷属の体は砂となり、消えていった。

「【怪異】は人の手に余るものと知れ」

 猟兵たちは操のその言葉をもって、依頼を完遂させた事を確信した。



 その後、巷に広まっていた、「ゆかりちゃんが帰ってきた」と「消える死体」は、すぐに風化し、誰も語らなくなった。だが、それでも知ってる者は知っている。拡大感染していく、少女の噂があった事を。死体が消えるという出来事があった事を。最早それらの噂が広まろうと既に倒された為に害はなく、自由に語っても問題はない。だが、ゆかりちゃんをめぐる噂話は今後も絶えないだろう。
 これは今しがた友達の友達から聞いたゆかりちゃんにまつわる話なのだが――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月17日


挿絵イラスト