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砂上の蛮歌

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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●砂に呑まれた名前
「よーし、そろそろ出発するぜお前ら。荷の準備できてんな?」
 尻尾のように束ねた癖のない黒髪をばさりと跳ね上げて、男が威勢の良い声を上げた。
 アァイ、と揃って返った返事に、商人見習いの少年がわたわた慌て始める。
「ま、待ってくださいよ頭ァ……っいって!」
「カシラって呼ぶのやめろっつってんだろ、何回言わせんだトリ頭かお前」
「いやぁだって頭、ガラ悪ィし商人っつーよりは賊みてェだしとても高貴のでっ……!?」
 もう一発。
「いってぇぇ!?」
「――口が軽いのは商人としてどうかと思うぜシャハド?」
 思いきり脳天に落とされた拳に少年が悶絶するのを、にーっこり、いい笑顔で見下ろす青年。またやってるよと笑う先輩商人らをよそに、少年シャハドは涙目のまま、涼しい顔の男を恨みがましく見上げる。
「……アガラ様。ほんとに行くんですか」
「ん? 行くに決まってんだろ、大事な大事なお得意様だ」
「だって! 化け物が出るっていうんでしょ、そこ!」
「常にって訳じゃねえ、遭った奴らの運が悪かっただけだ。口にすると真になるって言うぜ、知らねぇか?」
「もー! そこまでして行かなきゃいけない相手ですか! 隣のセレンギルに住んでるんでしょ、わざわざ遠出して取引しなくたって――」
 先刻は殴った頭をがしがしと撫でる褐色の掌。外套をはぐった二の腕に、金の腕輪が眩しい。
「……それでも行かなきゃならねえんだよ、どうしても」
 ふと優しい笑みを浮かべたアガラは、けれどすぐにけろりと笑う。
「金になるからな!」
「……ほんとにもー俺イヤですこの頭ー!」
「文句があるなら置いてくぜ。出かけるぞ、野郎共!」
 生命力に満ちた眼差しを輝かせて叫べば、オオオ、と男たちの粗野な歌声が空へ轟く。おや、ウグニヤ商会のお出かけだと、町の人々が笑う。
 駱駝には水と食糧、そして商売道具の輝石の山。今回の取引は彼らの得意、砂漠に産する麗しのデザートローズ。
 屈強な護衛の冒険者たちに守られ、彼らは何事もなく目的の地――カルカラに至る筈だった。

 ――けれど。
 その旅は唐突な終焉を迎える。
 次々と倒れていく護衛たち、逃げろと叫ぶ声。旗印の歌など投げ捨てて、散り散りに駆ける商人たち。
 砂に頬を埋め、背を灼く業火の痛みと重みが遠退くさまに、砂に頬を埋めたアガラは最期を悟った。薄れゆく意識の中、絞り出すように一言――、
「……お前は、死ぬな、よ。――ア、……」
 その名が終いまで紡がれることはない。オアシスの水を思わせる青い瞳が、瞼の奥に消えれば終わり。
 宝石の煌めきも、命の輝きも、砂漠を守護する焔の獣の腹へと消える。

●夏の終わりの盟約
「……ってのがあらましだ。全くねえ、無謀な蛮勇で苦いもんを見せてくれるよ」
 隊商の出としちゃあ一発殴ってやりたいところだけど、と肩を竦めつつ、グレ・オルジャン(赤金の獣・f13457)の顔は言葉ほど苦々しくもなかった。この男の豪放ぶりは、気に染むものであったのかもしれない。
「そういう訳で、仕事は通りすがりを装ってこの無謀な商人サマを助けて、雇われの護衛を含めて十人、カルカラってオアシスまで送り届けることだ。頭領のアガラは、歳はあたしと同じくらいかな。この国じゃあ名の売れた宝石商でね」
 出発地である砂漠の街サラクムでは、彼の率いるウグニヤ商会の名を知らぬものはない。各地より届けられる良質の輝石類の商いで一財を築いたとされている。
 なかでも極上と謳われるのが、『双子の薔薇』と呼ばれるデザートローズだ。花を思わせる二つの石が連なり、神秘と縁を語る石として、砂漠に縁のない地域で特にもてはやされている。
「商人ってのは信用勝負だから、儲けの種もない土地に出向くってのはまあ、珍しいことじゃない。けど、途中に魔物が出るなんて噂があれば話は別だ。死んで儲ける理はないからね」
 焔の虎に砂漠の凶鳥。人々が聞けば震え上がる道程に、大枚をはたき、護衛を雇い、命を賭して行きたがる。年に一度、そこで会う『上客』のために。
 訳ありと見るべきだ、とグレはひっそり笑った。
「その事情についちゃ、暴くのも放っておくのも自由だ。けど知れば、魔物退治の他に手を貸せることもあるかもしれないね。どちらにしても仕事は到着するまでだ、済んだら歓待してもらうといいよ」
 砂漠の片隅に織物を広げ、賑やかな宴席を設けるのが、辿り着いた町での彼らの作法なのだという。
 稀少な酒、珍しい果実、香辛料を効かせた肉やスープ。出向いた町に金貨を惜しみなく落とし、分け隔てなく人々を迎え、商いの旅を語る歌と笑い声で砂漠の夜をあかあかと照らすのだ。
「いい夜が迎えられるように、任せたよ。――行っておいで」
 グレは同志たちを送り出した。まずは灼熱の砂漠を燃え上がらせる、焔の化身のもとへ。


五月町
 五月町です。
 まだ夏を終わる訳にはいきませんでした!
 初夏の盟約に従って、砂漠のリンクシナリオです。
 蛮勇なる商人の訳ありの旅にお付き合いください。お目に留まりましたらよろしくお願いします。

●ご案内
 当シナリオは、中川沙智MS運営の『砂城の晩夏』と物語がリンクしております。
 1章、2章においてはそれぞれの展開は独立したものとなっていますが、同じ時系列の別の場所での事柄を扱っていますので、気分的にはどちらかを選んでご参加いただくことをお勧めします。
 2シナリオの護衛対象NPCが全員無事で3章までリプレイが進行すると、カラカルの町で二つの盛大な宴席が設けられます。こちらは両シナリオに参加いただくことも可能です。
 少なくとも1章と2章においては、中川MSと重複参加やシナリオ間の連携プレイングの確認は行いません。3章についてはマスターページ及びTwitterでのお報せをお待ちください。

●シナリオについて
 1章・2章は護衛の旅(集団戦・ボス戦)を、3章では宴席(日常)を扱います。
 NPCたちの物語に興味を持って参加される方のほうが楽しめるかもしれません。
 心情強めの冒険活劇を予定していますが、皆様のプレイング次第です。

●シナリオ詳細
 プレイング受付のタイミングについては、マスターページ及びTwitterでお報せします。
 3章については、お誘いがあればグレがご一緒します。

●ご参加について
 複数人でご参加いただく場合、迷子防止のため、お連れ様の名前とIDの記載をお願いします。
 また、プレイングの送信日(朝8時半更新)を合わせていただけるよう、ご協力よろしくお願いいたします。

 それでは、砂漠の数奇な約束の物語へ、いってらっしゃいませ。
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第1章 集団戦 『炎の精霊』

POW   :    炎の身体
【燃え盛る身体】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に炎の傷跡が刻まれ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    空駆け
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    火喰い
予め【炎や高熱を吸収する】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。

イラスト:白狼印けい

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●猛火の獣
 世界を包む熱が少しずつ褪せゆく夏の終わりにも、砂漠は不変の灼熱に包まれていた。
 砂烟る中にもほんの僅か、いつもより高く感じられる青い空を、アガラは目を細めて見上げる。
 仲間たちの愉快で勇壮で雄々しい歌が、一行を取り巻いていた。商会の面々をして蛮歌、と呼びならわすそれは、彼らの旗印となっている。出立や到着、そして砂漠の旅のさなかですら、我らここにありと高らかに歌うそれは、各地の人々に喜ばれてきた。
「歌うのはいいけどな、水もちゃんと飲んどけよお前ら。カラカルに着く前にぶっ倒れたら、魔物のエサだからな」
「おうおう、まったく口が悪くていなさる。シャハドの言うのも一理ありますよ、アガラ様」
「でしょ!? 俺間違ってないよね!?」
「新入りが調子に乗んじゃねえよ」
 口ばかりの不平に豪快な笑いが絶えない。
「ったくなぁ、お前らが愉快すぎて、いつまでたっても店ひとつ構えらんねぇよ」
「ははっ、こりゃあどうもすいませんねぇ! 俺らこそ、頭領にはひとつでんと立派な店を持って、日蔭でラクさせて欲しいもんだけどなあ」
「ばーか、働け」
 仲間たちが笑う。口悪い冗句が飛び交うこんな道行きがアガラにはあまりに好ましくて――かつて在った場所とあまりに違う世界が眩しくて、それは十年もの昔からずっと変わらない。水が合うとはこういうことだろうと思う。
 けれど、それでも。かつて在った場所を思わない訳ではない。
「……それにしても暑いっすねえ」
「暑いっつうか――焼かれるみてえだ」
 仲間たちの声に考え事を放棄する。砂漠を知らぬものには感じ得ぬ変化を、その地に生きるものたちは獣の如く敏感に感じ取る。そしてそれは大概の場合、間違ってはいないのだ。
「――頭っ!」
 仲間内では若いシャハドが最も目が良い。日に焼けた頬から血の気が引いたのを見て、アガラは砂塵の向こうに目を凝らした。
 ゆらめく赤が蜃気楼であればよかった。炎を纏う、砂漠の守護獣が一体、二体――それなら何とか対処できる。だが、それどころの数ではなかった。
「十体……!? いや、もっとだと……!?」
「アガラ様!」
「――っ」
 本当に出やがったかと舌打ちをする。これまでにない熱に晒されながら、冷たい汗が背を伝った。
 曲剣を抜けば、仲間も護衛たちもそれに倣う。切り抜けて、カラカルへ辿り着かなければならない。何があっても。――けれど、
「……そっちにゃ出てねえことを願うぜ、アジム」
 口にすれば真になると言ったのは、どの口だったか。けれど男は、そう呟かずにはおれなかった。
ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
――約束を果たす為の無謀な旅路か。
それを大切にしたいという気概は理解できる。

いずれにせよ、本機は職務を全うするのみ。依頼を受諾した。ミッションを開始する。

(ザザッ)
一行が敵と遭遇、接触する直前に敵へと熱線を。(援護射撃)

緊急事態と判断する。連携による討伐を提案する――とでも言って、本機達がいる違和より目先の危機へと目が行く事を期待しよう。

SPDを選択。
"C.C."複製対象:クイックドロウ。

本機の撃つ熱線を複製。
半数の24は牽制。
空中跳躍で討伐対象が回避をしたところ、残りの24射で敵を穿つ。
(フェイント+二回攻撃+スナイパー)

本機の作戦概要は以上、行動に移る。オーヴァ。
(ザザッ)



●旅路に差す光明
 砂丘の上に炎が揺らめいている。
 大気を揺らしその輪郭を歪めるものは、砂漠の熱、それらが放つ熱、そして肌を焦がすほどの、敵意。けれど、機械鎧を通した視界にそれを見据えるジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)は、その姿を正確に捉えていた。天災の如く唐突に現れた脅威に慄くも、武器を取り果敢に備える商人たち一行も。
「――約束を果たす為の無謀な旅路か」
 ノイズの混じる声は存外に幼かった。恐らくは少年であろう、顔まで覆い尽くす機巧の黒豹に身を包んだジャガーノートは、外には知れようのない熱が胸に落ちるのを感じる。
 いかなる約束かは未だ知れないが、それを大切にしたいという気概は理解できる。
「いずれにせよ、本機は職務を全うするのみ。依頼を受諾した――ミッションを開始する」
 ザザッ――砂の如くざらつく声が、己に仕事を落とし込む。ブラスター『Jaguar』は、未だ彼方に在る獣たちの一体を狙い定めた。
「初撃的中。命中率試算、――97%」
 駆け出すと同時、逸れることなく標的を撃ち抜いた赤い熱線は、ぶれることなくその一体へ注がれ続ける。黒光りする肢体で金の砂を滑り落ち、ひといきに商人一行に迫れば、差し迫る危機に尖った商人たちの声が、
「――あれは……!?」
 ジャガーノートをやや険ある響きで貫いた。
「本機は貴殿らに仇なすものではない。緊急事態と判断する。連携による討伐を提案する」
「手を貸してくれるのか……!? アガラ様っ、なんかこいつカッコイーし強そーだぜ! いいよな!?」
 真っ先に声にも顔にも喜色を上らせた、この少年が見習いのシャハドだろう。振り返った若き頭領は、陽光のように朗らかな声を響かせた。
「ああ、申し出有難く受けさせて貰う! よろしく頼むぜ、異邦の傭兵殿!」
 小さな頷きを一つ、ジャガーノートは
「要請を受諾。これより共に作戦行動へ移行する。"C.C."複製対象:クイックドロウ」
 撃ち続けるジャガーノートの左右に、頭上に、複製された48基の『jaguar』。牽制に回したその半数が、刻々と迫り来る獣たちの足を鈍らせる間に、残る半数は先刻狙い定めた一体と少年とを、赤い熱線で繋いでいく。瞬きよりも疾い連射がひとつなぎの糸のように敵を捉えれば、
「すげぇ……!」
 魔物への恐怖すら忘れたか、無邪気なシャハドが歓声を上げる。
 その輝く眼差しは、より高き射線を求め虚空に身を躍らせるジャガーノートを――そして一行のもとへ至ることなく群れの一体を撃ち崩した速射を、はっきりと映し出していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザザ・クライスト
【POW】隊商の保護を最優先

「テメェらは下がれ! 魔物はオレたち"猟兵"が引き受ける!」

ターバンに外套を纏う砂漠スタイル
怒鳴りながらバラライカで【先制攻撃】
隊商連中が狙われないよう派手に弾をばら撒いて【挑発】【おびき寄せ】る

集まってきたら【呪殺弾】にマガジンを替えて銃撃で【なぎ払い】

「一気に畳み掛けろ!」

【鉄血の騎士】を発動
銃が紅く染まり凍りつくような音で哭く

「負傷者は円陣を組んで中央だ! 一人も"脱落"させるつもりはねェ!」

隊商連中を【かばう】
防御は【盾受け】

片片付いたら、

「全員無事か? 間に合ったらしィな」

煙草に火を点ける

「ああいう"連中"を狩る仕事をしてる。安くしとくぜ?」

ニヤリと笑う


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

こんなにわらわら出てくるなんて。よっぽど運が悪いのかしらねぇ、あなたたち。
…それとも、ろくでもないナニカがどっかで起こってるのかしらぁ?
まぁ、現状判断材料もないし。とにかく片っ端から倒してきましょ。

炎熱の化身だし、弱点はわかりやすいわねぇ。
液体窒素封入弾とかルーンを刻んだ弾丸とかで水・氷系統の〇属性攻撃を●鏖殺の〇範囲攻撃で撃ち込むわぁ。
刻むルーンはイサ・ソーン・ニイド。
「氷」の「茨」による「縛め」の○呪殺弾、喰らってブッ潰れなさいな?

一応ラグ(水)とエオロー(結界)のルーンで〇火炎耐性はあるけど、焼け石に水でしょうし。
攻撃の軌道〇見切って一気に短期決戦狙いねぇ。



「ハッ、でけェ獲物がお出ましだ。さァ、派手に行くぜ!」
 砂帯びる風が不敵な声を届けた瞬間、銃撃が駆け来る獣たちを蹂躙した。火を放つ得物は『KBN18 バラライカ』、担い手は灼熱を避けるターバンと外套の中。けれど迫る強敵までも逃れる気は一切なく、ザザ・クライスト(人狼騎士第六席・f07677)は一瞬だけ、ニィ、と苛烈な笑みを隊商へと振り向ける。
「テメェらは下がれ! 魔物はオレたち“猟兵”が引き受ける!」
「っ、アンタら傭兵か……!? こりゃあ天の助けって奴だ!」
 ザザの言葉の後を継ぎ、下がれ下がれと商人たちの声が飛ぶ。
「ハハッ、イイねぇ。弁えた奴は嫌いじゃねェなァ……!」
 下がる男たちをもう見もせずに、前へ前へと駆けるザザ。華やかな音を響かせ撃ち続ける銃弾は、商人らへの接近を許すまいと、獣たちの足許に突き刺さる。対象を絞ることなくばら撒く弾、そのすべての源に立つ男を獣たちは敵と捕捉する。集う敵意に赤い眼をぎらつかせ、ザザは手早くマガジンを替える。――篭める弾は、呪殺。
「そうだ、お前らだって一方的に嬲るだけじゃ面白くねェだろ?」
 ――ガウゥッ!
 熱風を掻く獣爪が問いに応える。砂に刻まれる炎の爪痕、外套の片端を代償に躱したザザが、迫る群れを鮮やかな連射で薙ぎ払う。直後、吹き飛ばされた獣の一体の足許へ、ひとりの女が身軽く踏み込んだ。
「群れなす獣をひとりで、なんて素敵だけど、ごめんなさいねぇ。あたしにも何体か譲ってほしいわぁ」
 得物はリボルバー『オブシディアン』。指先で銃身に描いたルーンに力を得た銃弾が、獣を強かに穿つ。態勢を崩した獣が砂に叩きつけられ、ざらりと消えるのを、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は常に笑っているような目をさらに細めた。
「へェ、やるじゃねェか」
「うふふ、光栄だわぁ。――それにしても、こんなにわらわら出てくるなんて。よっぽど運が悪いのかしらねぇ、あなたたち」
 ぽかんと見つめる隊商の男たちにくすりと微笑みかけ、ティオレンシアは長い三つ編みを背に流した。豊かな肢体を包む黒のカマーベストにロングエプロン。金の砂漠に、異質な筈のその装いは不思議と映えている。
「……だぁから言ったろシャハド、口に出すと真になるって」
「俺のせいかよっ!?」
 緊張感のない喧嘩が後ろで始まったのは、助けを得た安堵ゆえか。そっぽを向き口笛吹かす頭領アガラに、まだ気ィ抜くのは早ェ、とザザの鋭い声が飛ぶ。
(「……それとも、ろくでもないナニカがどっかで起こってるのかしらぁ?」)
 ザザの言葉通り、すかさず飛び込んでくる炎の爪を転がり避けながら、ティオレンシアは次弾を構える。身を裂いた一閃の帯びる炎は、水の『ラグ』、結界の『エオロー』のルーンが幾分か和らげてくれた。
 敵は炎熱の化身――ならばとリボルバーに指先で記すルーンは、氷の『イサ』、茨の『ソーン』、そして縛めの『ニイド』。
「まぁ、現状判断材料もないし――とにかくかたっぱしから倒してきましょ。三つの魔力に満たされた呪殺弾、喰らってブッ潰れなさいな?」
 思考を蕩かすほどの甘い声が、銃声に溶ける。ファニングにより一瞬で消化される六発の弾、けれど神速のリロードが、それを無限の連なりへ変える。
「うふふ、遊びも役に立つものねぇ。極まった技術は魔法と区別がつかないのよ」
 声だけはおっとりと笑うティオレンシアの鋭利な射線に、ザザは愉快げに肩を揺らした。
「負傷者は円陣を組んで中央――と言いたいトコだが、まだ下がる気はなさそうだな?」
「そう簡単に“脱落”なんてしそうに見えるかしらぁ?」
「ハハ、見えねェな。――だがその言葉、最後までキッチリ覚えとけよ!」
 降る爪を腕の盾で受ける。一瞬の拮抗が破れ、外套ごと腕を掻き切った獣を、ザザは暗い笑みで睨め上げた。零れた血がふわりと赤い光に変わり、短機関銃に纏いつく。――封印が解けた。
「あァ、奔れ鉄血の騎士! 一気に畳み掛けるぞ!」
 紅く輝く銃弾が、燃え盛る獣の体躯に風穴を穿つ。
 千切れて消えた熱の気配に、零れたアガラの吐息には感嘆が混じった。
「見事なもんだな、あんた達」
「どうやら間に合ったらしィな。全員無事か?」
「ああ、大事ない。あんた達の怪我は……」
「この程度は怪我のうちに入らないわねぇ」
 うふふと笑うティオレンシア。ザザはニヤリと口角を上げ、まだ大気に散っている獣のひとひらで煙草に火をつけた。
「ああいう“連中”を狩る仕事をしてる。安くしとくぜ?」
「ははっ、俺は示した価値を安売りしない相手が好きだぜ、兄さん。――その腕、高く買わせて貰う」
 伸ばされた手にばしりと手を合わせれば、何かを願うように力強く握り返された。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ファルシェ・ユヴェール
同業者と聞けば親近感も湧こうというものです
商才と人望に溢れ、よき仲間に恵まれた彼の道征き
好ましく
――少しだけ、羨ましくもある

私も宝石商、
通りすがりを装うというよりは
出立したと聞いて追ってきた設定で参りましょう
『双子の薔薇』に大変興味があるのは本当ですし

先ずは熱に怯まぬ戦力を増やしましょうか
懐より勝利と生命力の石
創り出すはガーネットの騎士

この石は硬く熱にも強いですから
特に、炎纏う体当たりは我が騎士が受けるよう
引きつけ、庇う位置に立って貰いましょう
私も切先で誘い込んでは、我が騎士を盾に
隊商の方々が灼かれる事無きように

いえ、戦うのも下心ですよ
名の売れた同業者と懇意にする機会ですからね、と
悪戯に笑って


イア・エエングラ
やあ、やあ、僕もねえ
宝飾の細工を生業にしているの
だから行く先が気になるのよう
興味と好奇で合わせる掌は機嫌よく
お約束があるのだろうけれど
僕にもいくつか見せてくださる
――この場を切り抜けられたなら

そのためにもきちんと辿り着かなくてはね
あなたがたにも石の子にも瑕はつけたくないものな
だからこんなに暑いのに、いっそう燃すのはおやめよう
涼しく、なりましょう
手招いて呼ぶのは彼方の水面
瀲靜で鎮める沈黙の海
水にも消えぬ青い火で、お前の炎も消しましょう
燃えてしまわぬよに、皆々様は下がってらしてね
広がる青い火の帯で熱を遮って
まだまだ行く路はあるのだもの
凌げど歩けぬのでは困るからねえ
盛りの季節も、終わるから



「私にもどうか手伝いをお許しください、名のある方。発たれたと聞いて追ってきたのです」
 自分を背に庇うように走り出た男に、同じ匂いを感じたものか。アガラの予感を証すのは、男の指先、砂舞う地になお輝く陽光に、秘めた鮮烈な色を曝け出したガーネットの一粒。
「そりゃあ悪かったな、うちの石が要り用だったか?」
「無論『双子の薔薇』にも興味はありますが、どちらかといえば貴方自身が用事です。その名を砂に埋もれさせる訳には参りませんから」
 ――同業者として貴方に学ばぬうちは、とファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)が笑えば、
「やあ、やあ、僕もねえ――宝飾の細工を生業にしているの。だからあなたの、行く先が気になるのよう」
 宝石の瞳を蕩かせたイア・エエングラ(フラクチュア・f01543)も、両のゆびさきを嬉しげに合わせてみせる。
「仕事として出向くからには、お約束があるのだろうけれど――それならきちんと、辿り着かなくてはね」
 もとより必要以上の武は身につけたつもりの商人たちは、砂に麗しく裾を引くイアの装いに瞬くばかり。おやおやとイアは笑って、指先を唇に当ててみせた。
「すがたに騙されてはいけないよう。ひとの目利きは、お得意でない、かしら」
「ああ、悪ぃ、そんなつもりじゃなかった。――石ってのはつくづく魅せるもんだと思ってね、貴石の兄さん」
 にやと笑ったアガラの叩く軽口に、ふふ、と笑み掠め、白い指先を空へ泳がせるイア。波誘うように結んだいくつかの術に惹かれて、
「さ、さーー泅いで、おいで。こんなに暑いのに、いっそう燃すのはおやめよう』
 灼熱の砂のどこから湧いたものか、涼しげな銀の泡がふわり、浮かび、炎を穿つ。その水の気に弱まる直前、砂から吸い上げた熱の魔力に、獣の身はぐらりと一際大きく煮え立った。けれど、強力な一撃も的を外せば脅威にはなり得ない。
「そうよ、涼しく、なりましょう。ああ、けれど――燃えてしまわぬよに、皆々様は下がってらしてね」
 水にも消えぬ、冷ややかな青い炎の波紋を絨毯に、金の砂漠へひたり広げてイアは踊る。跳ねる裳裾に誘われて増える漣が、かぷりかぷりと泡を生み、地上から獣らを射抜いていく。
 まだ先のある旅路のこと、ここを凌いでもこの先を進めなくては困るから。商人たちには触れぬよう、細心の注意を払って広げる沈黙の海に、ならばこちらは、とファルシェの指先から暗紅色がとろりと融け落ちた。商人たちは奇術でも目にしたようにぱちりと瞬く。
「ご存じでしょう? ガーネットは硬く、熱にも強い。故に貴方がたを守る盾にもなり得るのです。――私がそうと信じる限り」
 みるみるうちにかたちを変え、獣たちの敵意を一心に受ける貴石の騎士と化したそれに、宝石を商う商人たちが目を擦ったのは無理もないこと。さあ行きなさい、と命じる主に礼を取り、ガーネットの騎士は狙いを逸らしに駆け出した。
 その蔭から躍り出たファルシェの手の中、杖は一振りで鋒を、ふた振りで怜悧な両刃を露わにする。至った刃が刻んだ一閃に、お返しとばかり振るい返される燃える獣爪。その熱に強かに灼かれずに済んだのは、踏み込んだ騎士の守りあってこそ。
 獣たちには喰らい得ぬ青い炎で敵の強化を阻みながら、イアは二人の騎士の堅守に目を細める。
「あのかたがたにも、石の子にも、瑕はつけたくないものな」
「ええ、そちらはお任せしても良さそうです」
 恐れに暴れる駱駝を御することには、彼ら隊商の方が長けている。ならば石の子――大切な荷の安全も、彼らによって守られるだろう。
 絶え間ない剣戟で爪を受け、隊商を護りながら、ファルシェは彼らの声に耳を澄ました。
 飛び交う声は直截で、言葉選びは粗野ではありながら、窮地を共に切り抜ける絆の糸めいたものに触れた気がした。猟兵たちのような技は持たずとも。
(「……少しだけ、羨ましくもありますね」)
 商才と人望に溢れ、よき仲間に恵まれ彼の道行き。親近感と共感では追いつかぬ感情は、振るう剣に映した。――彼の持つもの、自分の持たぬもの。
 青い炎に抱かれた獣の脚がずるり、溶ける。蹲る獣からイアが流した視線は、低く滑るように駆け抜けるファルシェへ。
 高く跳んだ頂から、切っ先が獣の眉間を貫いた瞬間、魔炎は咆哮とともに掻き消えた。
「しかしアンタ方も相当な物好きだ。道中の危険を知って追って来るかい、普通」
「ええー、アンタがそれを言いますかアガラ様……」
 安堵のためか、緩むアガラの舌に仲間たちの呆れ笑い。二人は顔を見合わせ――くすり、これも下心だと悪戯に告げる。
「名の売れた同業者と懇意にする機会ですからね」
「この場を切り抜けられたなら、僕にもいくつか、見せてくださる?」
 商人たちはひととき瞬いて――ああ、下心に違いねえ、と盛大に笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
荒々しくも強い歌
この地に生きる人の音

商人さんは
判断の基準がさっぱりしていて好きですよ
利や信以外に、懸ける理由
大切な約束でもあるんでしょうか
気がかりではありますが…

話を聞くも何も
彼らの道行きを守ってから

到着次第、先頭へ駆け
敵が味方か場の混乱招かぬよう手短に頭領へ一声

失礼…!助太刀、致します

薙ぎ払い精霊に放ち牽制
距離を取らせ隊に立て直しと猟兵が来た認識得る数瞬を稼ぐ
状況さえ判れば
僕らを利用してくれる筈

炎の身体による攻撃注視
突進避ければ強化されるなら…
持参した水を自身で被り
見切りで攻撃の軌道読み直撃だけは逸らし
牙は鞘で、炎は耐性も活かし受け止める

その隙に受けた手傷の血で瓜江を解き
刃で精霊を断てたなら


ジャハル・アルムリフ
耳を騒がす乾いた風に砂の熱さ
どこかで見たような風景
――思考は捨て置き、隊商と虎の間へ駆ける

加勢しよう
怪我人は退がらせてくれ

敵の数へ、盾と剣を兼ねるべく
【餓竜顕現】にて暴竜を喚ぶ
剣に衝撃波乗せ、広範囲を薙ぎ
隊商へと牙を剥く虎を斬り伏せる

砂を穿ち、炎の跡を破壊するとともに
跳ね上げ目眩ましとしても使い
怯んだ隙を暴竜の一撃で撃つ

歌と曲刀に矜恃を見
隊商へと声を掛けた上で
動きの鈍った個体に限り任せるも良いか
一体、行ったぞ

備えと、かれらの目
危険も承知のようだな
背を守りながら少しばかり声を
…よほど譲れぬ旅と見える

そして好ましい仲間なのだと知れる
何物にも換えられぬ
そうしたものならば俺も知っている
助力は惜しむまい


ニコ・トレンタ
どんな理由があろうと護衛はやらなきゃね。
それにそんな危険も承知で向かうなら
きっと相当な金持ちか或いは物好きか…。
商人もそれなりの対価がないと動かないから
どんな人に会えるのか楽しみ。

暑い暑いって呟きながら向かうよりも
こうやって歌いながら向かう方が気もまぎれない?
私は楽しいと思うけどね。
ほら現れた。

ガジェットショータイム!
変な形のガジェットだけどね
命中率は抜群ってね!後ろに下がってな!
一体一体確実に。
狙いは自分から一番近い敵……そこ!

この数で驚いてたら先が思いやられるね。
まだまだ沢山の獣が現れるかもしれない。
楽しくなりそう!



「ふふ、商人さんはいいですね」
 救いが芽吹いたと見れば悲観せず、豪気にも戦場に笑い声まで響かせる。仲間へ報酬を惜しまないと告げたその言葉といい、商人というものは判断の基準がさっぱりしているところが好ましい。
 その在り方にくすりと笑い、冴島・類(公孫樹・f13398)は隊商のもとへ回り込もうとする炎の精霊の前に踏み込んでいく。
「失礼……! 助太刀、致します」
「っ、ああ! ……全く、商いの神様も随分と粋な計らいをしてくれる!」
 からり笑うアガラへ、笑み含んだ視線を向けたのは一瞬。砂を散らす地面は踏み込み難く、立ち回りには獣に分がありそうだ。しかし易々と譲る気もない類は、熱砂の上に身を転がし、煌々と燃え盛る牙の前へ、恐れもなく飛び込んだ。
 下顎を斬り砕くかのように振り抜かれた横薙ぎの太刀。散らされた炎を吹き飛ばす如く,咆哮が砂風を震わせた。屈んだ前脚――反撃に転じる前触れを、若草色の眸は確と認める。しかし、
(「避ければ強化されるなら……!」)
 竹筒に籠めてきた水をばしゃりと被れば、おい、と商人のひとりが叫ぶ。水は砂漠に於いて命の雫、そんな無茶な使い方があるか、と焦り滲む声に、類は横顔で僅かに微笑んだ。
「なっ……受け止めるってのか!?」
「――ッ!」
 直撃を回避してなお腕を喰らわれる敵の軌道。耐性がどこまで和らげてくれるものか――熱を覚悟し、されど諦め悪く鞘を衝き込み受ける。踏ん張りの効かない砂地に歯を軋らせたその時、傍らに溜息が落ちた。
「――無茶をする」
「! あなたもいらしてましたか、ジャハルさん」
 燃え盛る牙を、同じく牙にて引き受けたものは、半身をヒトとする漆黒の竜。隙あらば荒れ狂わんとするそれを強靭な精神力で制御しながら、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は火傷を案じ、手のひと振りで柔く類を下がらせる。
「この風貌ではあるが、貴方がたに危害は加えない。――加勢しよう」
 一般人には己に害なす竜か否かの見分けはつかないだろう。気にするでもなくそう言い置いて、ジャハルは大剣を手に躍りかかった。
 斬り伏せるちかいの剣の影は、真昼の砂漠には蜃気楼めく揺らぎの中に鋭利なる衝撃を編み、迫る獣をじりじりと押し返していく。濡れて貼り付いた友の前髪に、だがいい覚悟だ、と零したただ一言は、剣戟の音色の中に消えた。
 炎を散らし、砂を散らすジャハルの風の波は、地に描かれた炎の刻印をも掻き壊していく。近づけば蹴り上げる黄金の砂を目潰しに、ギャッと呻き捻った獣の胴体を、暴竜の牙に穿たせて。緩みなく戦況に目を光らせながら、ジャハルはその端に男たちを捉えた。
 突如現れた救いの手――彼らには傭兵と認識されているだろう、その自分たちに戦線を任せてはいても、曲刀を取る手、燃える眼差しに血気衰える様子はない。――ただひとつ、
「ねえ、あなたたち。ご自慢の歌を歌ってみない?」
 軽やかに笑うニコ・トレンタ(ニゴサンレイ・f05888)の声が、足りぬとジャハルが感じたものを率直に求めた。
「歌……? 今、ここで? この戦いの中に?」
 顔を見合わせる商人たちに、ふうんとニコは目を細める。
「その戦いの危険を承知で、向こう見ずにもやってきた豪気な男たちらしくない口ぶりじゃない? 暑いとか熱いとか呟きながら向かうよりも、その方が気も紛れて楽しいと思うけどね」
 そう告げる間にも、艶やかな髪に同じ熱の色を帯びて、がちゃがちゃと変形していくガジェット。眼前の獣たちに抗い得る、今日の得物の姿とは――、
「! ……あはは、なるほどね! 変な形だけど確かにね、これなら炎も一網打尽ってとこかな!」
 跳ねる声が理解を告げる。それは白き蒸気を噴き出し、砂漠に強かな雨を降らせる機械仕掛けの如雨露。
「命中率は抜群ってね! ……そこ!」
 背面に回り込んでくる精霊を、どうと横殴りで放たれる雨が押し流す。男たちの口は揃ってぽかん、と開かれていた。
「…………っはっはっはっは!」
「頭領……?」
「き、気が触れましたかアガラ様」
「だって砂漠でこんな戦い見たことあるか? その如雨露、どっから水が湧いて出るんだ? おいお前ら、砂漠に水だぜ!」
 ばしばしと隣の男の背を容赦なく叩き、どうやらツボに入ったらしいアガラ。光栄ねとにこり笑って、ニコは問う。
「で、どうする? 歌ってくれるの? くれないの?」
「ははっ、いいぜ。あんた方のお楽しみになるんなら――お前ら、歌うぞ! ウグニヤ商会の蛮歌、ここに響かせてやろうじゃねぇか!」
「! そうこなくちゃね。――ほら、邪魔しない!」
 はじまりの声はアガラのひとつ。それにふたつ、みっつと歌い重ねて、オオオと勇壮な歌声が空に湧き上がる。歌に震える大気を厭うように宙を駆け上り、逃れようとする獣たちをしゃわしゃわと――否、じゃわじゃわと放つ水流で弱らせながら、ニコは笑う。
 どんな事情がそこにあろうが、命救うためなら護衛は務めよう。そう思ってはいた。けれど、期待してもいた。
 そんな危険も承知で向かうなら、相当な金持ちか物好きか。商人とは相応の対価がなければ動かないもの――この男たち、いや、頭領であるアガラがこの旅の何に価値を見出したのかは、まだ分からないけれど。
「期待したとおり、楽しい人に会えた。――それに、好い歌にも」
 厳かに振り抜く一閃の背に、ジャハルは密やかに頷いた。あの曲刀と同様、雄々しい歌声にも砂漠に商う者の矜持が見えて、何物にも代えられぬ、好ましい仲間なのだとも知れる。
(「――そうしたものならば、俺も知っている」)
 ひととき声を休めたアガラの背に、低く通る声を向ける。
「危険も承知のようだな。……よほど譲れぬ旅と見える」
「! ああ、そうだ。行かない訳にいかねえんだ」
 横目に少しだけ翳って見えた横顔が、すぐに朗らかに笑う。その様子にふと零した息は笑んで、
「……だが、仲間とて失うつもりは無いのだろう。ならば助力は惜しむまい」
「――、行きがかりに悪いな、兄さん。よろしく頼むぜ……!」
 曲刀を手に躍りかかった一体は、ジャハルたちによって消耗を重ねたものだ。それですら相手にさせまいとする者も、仲間の中にはある。だが、ジャハルは傷ついてでも辿り着こうというひとりの男の意志を買ったのだ。
 商人たちの歌声がその背を押す、後に続く。ああ、と類は目を細めた。
「荒々しくも強い歌……この地に生きる人の音ですね」
 封を解く音は、何処かで零れた涙の音に少し似ていた。ぽたりと血をひとしずく、ただそれだけで、瓜江の裡に秘められたものが呼応する。
 相棒たるヒトガタの艶やかな髪を、装いを、降りた風が悪戯に舞い上げる。それを晴々と見上げ、
「砂嵐は脅威だろうけれど……今は君に許そう、瓜江。――荒れ狂え」
 瓜江の裡に燃え立つ魔力の芯、そこを目指して風が躍る。研がれ練られた風刃の気は、次々と短刀『枯れ尾花』に潜り込んでいく。
 それを束ねるは熟練の一手。馴染んだ柄の感触を掌中に、再びすべらかに身を転がして、切っ先を返す。
 業火を吹き消す一尖に、炎の中に籠められていた精霊の気配が尽きるまで、類は動かなかった。
 そう――利、そして信の為に動くのは、商人の『理』にかなっている。だが、
(「それ以外に、懸ける理由……大切な約束でもあるんでしょうか」)
 短刀が帯びる火の粉を振り払い、鞘に収める。キン、と歌ったその音に、心を定めた。
 眼前の脅威はまだ数を残している。けれど、仲間とともに全てを退けたなら――その時は、訊ねてみてもいいかもしれない。
「ほら、まだまだ来るよ!」
 新たなる一体を、ニコが降らせる流れが撃ち飛ばす。うっすらと生まれた虹が空に揺れる。
「まだまだ沢山の獣が現れるかもしれない」
「ひえ、怖いこと言うなよっ姉ちゃんっ。声にすれば真になるんだってよ!」
 ぎょっとするシャハドにそう? と笑って、ニコはガジェットに添える手に力を込めた。
「後ろに下がってな!」
 ああ、まだまだ――楽しくなりそうだ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユキ・スノーバー
砂漠の砂だけじゃなくて、人まで焼いちゃうのは駄目駄目っ!
熱いと敵の独壇場になっちゃうなら、冷え冷え宅急便参上なんだよーっ
…ぼく、過度に暑過ぎるのは苦手だし
炎で理不尽に奪われるのは、更に嫌な思い出しかないから天敵過ぎるんだけどっ

そんな訳で直ぐに攻撃には移らずに、華吹雪をヒューっと呼んで火傷しないように
灼熱の環境緩和からしていくねっ…本当に蜃気楼作っちゃいそうな気がするけど
不安よりも気が紛れる方向なら結果オーライかなっ?
商人さん達が固まってくれてるなら、自分の身を守るのを優先してもらって敵に近づき過ぎない様に声掛け
敵が突っ込んできそうor護衛さんのピンチなら、その間に入る様にして攻撃に転じるよー!



「ううーんっ、砂漠の砂だけじゃなくて、人まで焼いちゃうのは駄目駄目っ! ……駄目、だめ……だめなんだよー……」
 いつも元気なユキ・スノーバー(しろくま・f06201)の、語尾も思わずだるんと下がってしまうその暑さ。
 砂の上にぺたりと倒れ込み、けれどその暑さに即座に起き上がり、強く拳を握り直す。
 暑さを吸収して強さを増していく敵にとって、ここはまさしく独壇場。ならばユキのすべきことはただ一つ、
「冷え冷え宅急便参上なんだよーっ! ……ぼく、過度に暑過ぎるのは苦手だし!」
 さらに言えば、炎で理不尽に奪われることには嫌な思い出しかないのだ。まさしくユキの天敵ではあるけれど、
「商人さんたちはいい人そうだしっ、がんばるんだよ!」
 炎の獣たちに力を与える、この戦場の『整備』から始めよう。くるくる、おっとっと――と頭上に取り回すアイスピックの喚ぶ風に、金色の砂の代わりに躍る白。ユキを、そしてこの暑さにげんなりする仲間たちの全てを癒すだろう冬の使者が、巻き起こる風を冷やし、地を白銀にひととき染めていく。
「ふふーんっ、これでもう強くなれないんだよ! あ、でも本当に蜃気楼作っちゃうかな?」
 急激な温度変化に視界が歪み、獣たちの姿も仲間の姿も僅かに揺れる。――けれど、後方に守る商人たちはさすが、この砂の地の気象には慣れたもの。動揺も不安も見えないどころか、
「……! うっわぁ、すごい! すごいな、これが雪ってやつ!?」
 はしゃぐシャハドをはじめ、大人たちの中にもうずうずと衝動を隠しきれないものがちらほらと。
「……結果オーライかなっ?」
 少しだけ誇らしい気持ちで、彼らの上にもふんわりと優しい雪を届けながらユキは叫ぶ。
「無理に相手しないで、固まっててねっ。自分の身を守るのが最優先なんだよーっ」
 りょうかいー! と元気なシャハドの声にぶんぶんとアイスピックを振り返したとき――ずん、と暗い影、そして熱がユキへと迫る。
「はっ……!」
 燃え立つ熱の化身。彼らにとっては忌まわしい冬のかけらを、齎すのはお前か――と。
 グルルと唸る声に負けず、ユキは湧き出す華吹雪で敵を押し流し、その真白の中に身を隠す。小さな体を見失った精霊がきょろきょろと辺りを見回す、その背面にぴょんと躍り出る。
「雪の中のかくれんぼなら負けないんだよ! 冷え冷えアイスピックだ、覚悟ーっ!!」
 叩きつけた切っ先から、熱が凍り付いていく。
 氷の彫像と化したそれは、ぱりんと華やかな音を立てて砕け散った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クールナイフ・ギルクルス
すべて敬語

昔を思い出すが
それでも笑顔絶えぬ集まりは懐かしく、見ていて好ましい
それを壊させないために動きましょうか

黄金獅子のラウを召喚し、水とや食料など旅の荷物を背負わせ旅する冒険者に扮する
元々冒険者なので疑われない程度の用心に

ラウ、商人の守りは任せました
荷をふるい落とし身軽になることも忘れないでくださいね

指示して別れ*視力と聞き耳で敵の位置を確認し、砂丘の影を利用して背後へと回り込み
ダガーで*盗み攻撃、2回攻撃

空を駆ける敵にはラウを呼び、背に乗って動線を*見切り跳躍したラウの背から跳び、打ち落とす
商人へ標的を変えるなら、ラウの咆哮でこちらへ*おびき寄せられるよう、周りには常に注意を払いましょう



 熱砂も妖も恐るに足らずと、戦場を染め続ける歌。枯れることなく猟兵たちを鼓舞する響きに、
「……ああ、いい声ですね」
 夜の帳のような外套の中、クールナイフ・ギルクルス(手癖の悪い盗賊・f02662)は鋭い眼差しを和らげた。
 自分もかつては持っていた。笑顔絶えぬ集い、笑う声に繋がれる絆。それを好ましく思うのは自然なこと、けれど懐かしくも思ってしまうのは――今はもう、クールナイフが持たぬものだから。
「兄ちゃん、そりゃ……あんたの旅連れ……なんだよな?」
 恐る恐る問う商人に、ああ失礼、と淡い笑みを浮かべて、金色の毛並みを撫でた。傍らに在る黄金の獅子は、クールナイフが喚んだ相棒。――ではあるが、同じ獣の類を敵とする今、商人たちにはやや恐れも呼び起こす存在であったらしい。
「ええ、ご心配なく。これは私の友、私の言葉なしに暴れることなどあり得ません」
 水や食料を担ってくれているでしょう、と見上げる背を指せば、遥か頭上に負われた荷に、なるほどなあと納得の吐息が落ちる。
「では、ラウ、商人の皆さんの守りは任せました。――あとは解っていますね?」
 グルル、と答えた獅子の鼻先をひと撫でし、クールナイフは砂丘の影に回り込む。炎の獣たちのほとんどが猟兵たちを標的に捉えて交戦する中、回り道で背面へ近づく盗賊の足は速く、静かなもの。そして、
 ……――グオオオオッ!
 突如炎を引き千切ったダガーに、不意打ちを喰らった獣が身を翻す。怒りに身を焦がし、けれど痛みに耐えきれず、空を駆け巡って暴れる体からは炎の欠片が零れ落ちる。
「――ラウ」
 主のひと声に、獅子は巨躯に見合わぬ素早さで地を蹴った。虚空を跳び駆ける精霊は速い、しかしそれに追い縋る獅子も負けてはいない。
 飛び乗る主の重みを空へと跳ね上げる。自ら獅子の背を足掛かりに跳んだクールナイフは、炎の獣の頭上にいた。
 一撃を叩きつけても、倒せなくばその身を燃やされてしまうだろう。だから、
「倒れていただきましょう。この一突きで」
 下方に咆える獅子が気を惹く隙に、獣の脳天目掛けダガーが降る。怒気を孕んだ咆哮は燃え尽きて、余韻を商人たちの歌声が塗り潰す。
 『先走ることなく穏やかであれ』――紡ぐ言葉の物腰にも努めるクールナイフの、紫の眸の奥深く。そこだけに燈った鋭い戦意は、身軽く砂の上に舞い降りるまでにふつとなりを潜めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カタラ・プレケス
アドリブ歓迎

……事情は一つも知らないけれど
義理に約束、もしくは契約
どれにしても商人さんからしたら命をかけるものなんだろうね~
砂漠の薔薇にも興味はあるし
見に行くついでに守ろうか~

とりあえずは商人さんたちの避難を優先だね~
【開くは勇敢なる巨蟹の星空なり】発動
辺り一帯の砂を星空にして商人さんと味方の行動を支援するよ
ある程度星空を広げたら『矛盾宝瓶』から大量の水を召喚し
それを操って敵の炎を食い止めながら確実に刺し殺すよ
さあ、殲滅を始めようか~



 ――金の砂絨毯に真昼の星空が開く。
 砂漠の夜に語られる寝物語のような光景は、現実だ。光を集め繋いだ、細い細い光の糸。それを熱砂の上に広げて、カタラ・プレケス(夜騙る終末の鴉・f07768)は力ある声でそれを呼ぶ。
「開くは星の十二が一つ。勇敢なるはカルキノス、友を守りしその心、描き謳いて我が示そう」
 夜空の上に描かれるのは黄道十二宮、巨蟹宮の星図。立ち上る煌めきは儚い水泡と化して、さわさわと――ぱちりぱちりと、炎の獣を追い詰めていく。
 的中せずとも幻術めいた夜空は走る泡とともに拡大し、足を絡め取る砂をカタラの舞台へ置き換えていく。吸収すべき熱を地上から奪われた獣の呻きに、薄い唇にくすっと笑みを乗せた。
「さあ、殲滅を始めようか~」
 とろり溶ける言葉の端とは裏腹に、媒介たる大甕『矛盾宝瓶・アクエリアス』から迸る水は、憤怒の炎を封じ込めるように荒々しく躍る。指先ひとつで軌道を変え、カタラは視界の端に商人たちを留めた。代わる代わる続く歌声が、守るべき彼らの無事を告げている。
 彼らの――恐らくは頭領たるアガラの、なのだろうか。事情は一つも知らない。グリモア猟兵ですら伝え得なかったことだ。けれど、想像はできる。
(「義理に約束、もしくは契約……どれにしても、商人さんからしたら命をかけるものなんだろうね~」)
 多少無謀に過ぎようと、命懸けで何かを為そうという意気には頬も緩む。
「砂漠の薔薇にも興味はあるし、見に行くついでに守ろうか~」
 迫る精霊の炎を尽きることなく溢れる水で押し返し、術者はにこりと微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
アドリブ◎

『ダッシュ』で勢いをつけ『ジャンプ』
回転で更に勢いを増し
人に襲いかかる虎目掛け
力いっぱい踵を脳天に叩きつける
よぉ、そこの兄さん無事か?
跳んで距離をとりニヤっと笑って
ここいらは今あぶねぇって噂なのに来るなんざ
随分酔狂な商売してんなぁ
それとも、なんか理由でもあんのか?

ま、たま~ったま通りかかったよしみだ助けてやるよ
『歌』で身体強化
靴に送るのと同時剣にも風の『属性』を纏わせて
ハッ…!強力な一撃も当たんなきゃ意味ねぇんだよ!
『見切り』かわして踊るように
ただの風じゃ炎を強めるだけかもしれねぇが…これならどうだ?
砂を抉るように【蒼牙の刃】
下から上に斬り上げて
風の刃に砂を纏わせる
その熱消してやる!


クロト・ラトキエ
マントとターバン、夜用上着。
水、食料。履物は安定重視。
そして…行き倒れ!

声を頼りに先回り、拾って貰うのが理想で。
無謀と言われたとして…
行方知れずの弟をカルカラで見たと聞いて、
何としても会わねば、と。
…何て。嘘に少しの真を混ぜて。必死さを醸しつつ。
眼はそれなりに、腕にも多少覚えがあります。
お礼に同行させて貰えたら、等と。

無理なら遠まきに追走して護衛。

普段着で無くとも、この装いなら暗器には十分。
鋼糸に纏わすはUCの水の魔力。
防御を高め、商隊を守るを第一に、向かって来る者から倒したく。
脚、風、視線…見切りの鍵は幾つも。
それでも喰らうなら前進、地形効果を己近辺に留め。

…歌。
まだちゃんと聞けてないんです



「……!? おいお前ら、そこで待っとけ!」
「アガラ様!? ちょっ、何ひとりで飛び出してんですアンタはー!?」
 唐突に駆け出した頭領を追おうとする商人たちを、俺が行く、とちらと遣った視線で制し、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)はひらりと濡羽色の外套を翻した。
(「ああ、くっそ、走り辛ぇ……アイツらなんであんな早く走れんだ!」)
 砂漠に慣れたアガラたちと、固い地面を踏み歩く自分たちでは比較にならない。だが、
「ふふん、こーいう時は跳んだ方が早えってな!」
 それで易々と音を上げるセリオスでもなかった。ブーツの底に魔力が巡る。弾けた風の勢いに力を借りて空を駆け、行く先には、
(「……お?」)
「――アンタ! 大丈夫か!?」
 シャハドほどではなくも、一足早くアガラが駆け寄ったのは、金の砂漠に倒れ伏す人影。
 マントにターバン、寒露落ちる夜に備えた上着に、砂地用の靴。砂漠に似合いの装いを砂に汚して、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は埋もれかけた体をうう、と大袈裟に持ち上げる。
「ああ、これこそ天の助けというものでしょうか……ああ、まさか行き倒れるとは」
「行き倒れって……その備えで行き倒れるなんて、アンタ器用だな。虚弱体質か?」
 労りつつもアガラがぱちりと瞬いたのは無理もなく。負った荷には水に食料、砂漠の旅には充分な備えがある。――そう、無論、演技である。
「あはは、生活力ないってよく言われるんですよねぇ僕!」
 自棄っぱちである。お騒がせしましたー、と乾いた笑いに引きつった顔は一瞬で真摯と必死に転じ、アガラの手をぎゅっと握り締める。
「貴方はどちらまで行かれるんです?」
「お? ああ、カルカラまで――」
「カルカラ! これも何かのご縁でしょう。眼はそれなりに、腕にも多少覚えがあります。――お礼に同行させて貰えませんか?」
 そして目を伏せ、告げるのだ。行方知れずの弟をカルカラで見たと聞いて、何としても会わねばという思いを胸に、ここへ至ったのだと。
(「まあ、全て嘘って訳でもありませんし。……でも、うーん、流石に態とらしかったですかね……?」)
 ちらりと視線を上げてみれば、思いの外真剣な眼差しにぶつかった。青々とした瞳が深く冴えている。
「――そうか、弟を。それなら、出来る限りの助力をさせてもらう。……つっても、現状俺たちも助けて貰ってる側なんだけどな、……!」
 背後にゆらりと炎が揺れた。無論、猟兵たるクロトの把握はアガラより早い。先刻までのだれっぷりが嘘のように素早くアガラを抱え込み、横飛びに転がる。そこへ、
「そら、鬼さんこちら――ってな!」
 見上げる太陽の中に隠れた影が、きりもみしながら落ちてくる。威力を増した脚が獣の脳天を割り、どうと倒れた巨躯が消えたのに満足げに笑って、セリオスは二人を振り返る。
「よぉ、そこの兄さんら無事か?」
「ああ、なんとかな! 感謝する」
「ふ、ここいらは今あぶねぇって噂なのに来るなんざ、随分酔狂な商売してんなぁ」
 それとも何か理由でも、と問いかけた青年の前に、炎の頭を落としてなお、ゆらりと立ち上がる巨躯。上等、と笑みをはいて、セリオスは再び風を蹴った。
「話は後だ! たま~ったま通りかかったよしみだ、助けてやるよ。アンタも戦えんだろ?」
「ええ、少しはいいところも見せませんとねえ」
 帯びる力は水の守り。うっすらと浮かぶ水幕の盾の内から、クロトの鋼の糸が音もなく飛び出していく。指先を隠す袖の深い影から飛び出す銀色は、軌道を敵に読ませない。熱砂に力を借り、獣の身が燃え盛るそばから細やかに斬り削いでいく。
「あなたはそこに居てくださいね」
 翻り来る反撃に、硝子の向こうの瞳が細くなる。アガラを水幕の中に残し、転がり出れば、熱は巧みに追い込んでくる。それを躱し、躱す。砂に深く踏み込む脚、息遣いを示す熱風、そして太陽のように輝く視線。見切る鍵ならいくつでもある。
「すみませんが、お静かに。あの歌は確かに賑やかな方が似合いますが――」
 太腿から指先へ、滑らかに抜き取った毒の刃が獣を縫い留める。どうせ聴くなら、はじまりからおわりまで楽しみたいのだ。
「こんな狂騒の中では、ねえ」
「ああ、違いねぇな。行儀の悪い観客だぜ!」
 後方に響く雄々しい歌を損なわぬよう、セリオスの歌声は囁くようにその身に還り、染みていく。砂地に暴れる精霊の脚を、躍るように躱し、潜り、艶やかな髪のひとふさが焦げるのも気にせずに駆ける。
「ハッ……! 強力な一撃も当たんなきゃ意味ねぇんだよ!」
 獣に力を与える足許の熱を斬り払うように、砂に切っ先を潜らせて――にやり、笑う。
 剣戟の纏うそれがただの風なら、炎を煽り強めるだけかもしれない。けれど、
「――これならどうだ? その熱消してやる!」
 刀身から噴き出る風が、砂地を抉る。吹き飛ばされた金色、まさに局地的な砂嵐。
 奪われた視界に獣が惑う暇すらやらず、純白の『青星』は地から天へ、獣を強かに斬り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
やれ、暑苦しゅうて仕方がない
貴様等が殊に砂漠を灼熱へと変えているならば殺すが――文句はないな?

我が玉体が焼けては事だ
火炎耐性の布を身に纏い、前線へ
多少涼しくなろうと召喚するは【女王の臣僕】
足止め兼ね、複数の獣を巻き込むよう展開
己が立つ戦場は余す事無く観察
熱を集めんとする個体には高速詠唱で呼び寄せた蝶をけしかけ鎮火を図る
其処で頭を冷やしておれ、阿呆め

言わずもがな商人の護衛も忘れておらぬよ
獣が其方へ牙を剥こうものならば
蝶の熱烈な抱擁が待っている事だろう
怪我した者は応急処置も欠かさず
ふふん、宝石商ならば尚更殺すは惜しい故…おっと本音は漏らさぬが
恩を売るに越した事はない、なんてな

*従者、敵以外には敬語



 炎の精霊たちは着々と数を減らしつつある。というのに、昂る戦熱のためか、体感温度は増してゆくばかり。
「――やれ、暑苦しゅうて仕方がない」
 アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は素気無くそう言い捨てた。貴石のからだ故か、言葉ほどの実感はその姿にはない。涼しげな佇まいからちろり、獣の一体へ眼差しを滑らせて、
「……この熱の原因は貴様等か。これ以上、殊に砂漠を灼熱へと変えんとするならば殺すが――文句はないな?」
 答えなど待たない。姿よりは本質を獰猛とする術者の男は、火焔耐性の加護を与えた布を纏い、敵前へと飛び出した。
「さて、これで多少は涼しくなろう。――業火の暴君よ、女王の御前に冱てるがいい」
 砂地に杖の導く光は一線、それが水の如く淡く煌めけば、華やかに魔力の源を発つものたちがある。花、いや、それは蝶だ。きららかな氷の粒子を鱗粉に、宝飾の青を翅として羽戦く、美しい幻想の命。
 ああ涼しい、と澄まし顔でその恩恵を享受するアルバ。対し、冷ややかなものたちに纏いつかれた獣らは、熱砂の上に身を転がし、熱の強化を求めようとする。
「ふ、折角和らいだものを、そう簡単に許すと思うなよ。――其処で頭を冷やしておれ、阿呆め」
 唇に乗せる言葉は疾く、従う蝶たちは獣の転がる金砂の上に霜を下ろして妨害する。強化を妨げる翅を振り払って暴れるたびに、弱る炎がしゅうしゅうと声を上げた。
 商人の護衛は――と窺う眼差しが、ふと笑う。
「ああ、久々の隊商護衛だが、大商いの旅はやっぱ心が躍るな!」
 からり笑うザフェル・エジェデルハ(流離う竜・f10233)。商人たちの傍らを固める護衛たちよりさらに前、より危険な立ち位置にありながら、呵々と笑う。
「乗りかかった船ってやつだな。護衛の兄さん方の手が足りんところを手伝えて良かったよ」
「ああ、こっちこそ有難い! ここの頭領は払いはいいし、俺たちもそれなりの覚悟で引き受けちゃあいるが……あんた方のお蔭で命は落とさずに済みそうだ」
「はは、そいつは何より! ――そら、来るぞ!」
 護衛たちの気風の好さも、手を貸さんと思わせる一因だ。本当は猟兵以外のものは下がらせておきたかったが、雇われの護衛たちの矜持も理解の及ぶところ。
 炎を滾らせた獣の突進に、ザフェルはいち早く飛び出すことで彼らを守る。戦斧『Evren』を叩き付け、突き飛ばし、庇う護衛たちとの距離を巧みに保ちながら、二つの砂瘤の谷間へと敵を招き入れる。
(「まだだ。まだ――三、二、……一!」)
 振り上げた戦斧が熱砂を叩く。その瞬間、谷間へ踏み入れた獣の腹の下――砂の中から、無数の槍が突き上げた。
 貫かれた獣の悲鳴がびりびりと風を揺らす。その風もまた、まだ足りぬと新たな槍の嵐を携えて、獣の上へと降り注いだ。
「ああ、もっと踊ってやれ。――我が槍よ、嵐が如く敵を穿て!」
 護衛たちはこの無謀なる旅路の詳細を聞かされてはいなかったし、ただ、訳があるのだろうと語っていた。そんなものだろう、とザフェルもまたおおらかに頷いた。
 命の危険を冒してなお、約束のために、興味のために、欲のために。進まなければならない旅路を持つものたちを、これまでも見てきた。だから、ザフェルには当然のことなのだ――その願いに手を貸すことは。
 ふと思い立つ。別の隊商護衛を請け負うと言った相棒も、きっと頑張っていることだろう。ならば尚更、
「――負けらんねぇぜ!!」
 貫く魔力の槍を燃やし、その身に引き摺ったまま飛び込んでくる獣。その一撃を戦斧で受け、圧し返す。武器を構えた護衛たちが、助勢に飛び込んでくる――それが届くより早く、冷ややかな蝶の羽戦きが目前を過った。
「抱擁せよ、女王の臣僕。捉え、戒め、冱てる時の果てへと誘い往け」
 ひとひらがふたつへ、みっつへ――そして百、千へと。目も眩むほどの鮮やかな青の裡に囚われて、熱を封じられた獣が斃れる。
「やるなぁ、兄さん!」
「ふふ、お褒めに与り光栄です、雄々しい方」
 ザフェルの晴れやかな賛辞ににこりと笑い――そして、華やかな戦いぶりが頭領の眼差しをも惹き付けたと見るや、アルバは遠くあるアガラへも恭しく一礼する。
(「……ふふん、宝石商ならば尚更殺すは惜しい故。恩を売るに越した事はない、なんてな」)
 ――浮かべた微笑に本心が零れ出る前に、おっとと唇に指先を当てて。代わりにくすり、喉を鳴らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
命を懸けてでもやり遂げたい仕事
あるいは、約束、なんだろうか

「ひと」のそういう強さを知るたびに
ひどく、眩しいな、と思う

隊商達を背に庇うように敵との間を遮って立つ

相手の動きをよく観察し、姿勢や移動経路などから標的を推測
隊商たちを明確に狙っていると判る個体から処理していくよ
跳躍の踏み切る瞬間を【見切り】、脚を狙って墜とすか
狙えるなら一撃で殺せそうな箇所を狙撃する

こちらを脅威と見て排除に来るようならば
隊商達とは距離を取り
離れた場所へ敵を誘導しながら戦闘を続けるよ

「ひとでなし」の自分には、ひとの営みは眩しくて
だからこそ、それを途切れさせたくない、とも思うんだ

……その為にも
お前らには、ここで沈んでもらうよ



 燃え尽きたもの、斬り崩されたもの。仲間たちが相手取る獣たちも弱りは目に見えて、対処に手を貸していた一体の気配が砂に崩れ落ちたのを認めるや、鳴宮・匡(凪の海・f01612)は素早く身を翻した。
 まだ誰も気づいていない。最も遠くある炎の精霊の、前脚がぎゅっと強く砂を踏んだことに。――あれは、跳ぶ一瞬前の。
(「来る」)
 狙いが後方に庇われる商人たちにあると見るや、匡はその目前に滑り込む。驚く商人たちに退がって、と一声置いて、頭上に迫る影に一瞬で照準を合わせる。視覚で、聴覚で、嗅覚で――そして肌で、
(「――視えた。行ける」)
 強靭な発条を持つ獣の脚を、銃弾は正確に貫いた。ギャン、と鋭い声を上げて砂に転がり落ちたそれは、残りの三つ脚に炎を回し、再び空を目指そうとする。
 頭上からの体当たりでも狙ったものか。けれど、銃撃を戦いの術とする匡にはそれも好都合。
「態々人の中から離れてくれるなんてな。どちらにしても、外しはしないけど」
 残る前脚を強かに射抜きながら、牽制の空砲を撃つ。自分へ向かう狙いが、決して隊商へと逸れないように。少しでも離れたところへと誘導しながら、少しずつ遠退く歌声にふと、思う。
 頭領アガラが黙していること。それは命を懸けてでもやり遂げたい仕事、或いは、約束であるのかもしれない。
 心なく見えようと、切り捨てるべきものがあるなら切り捨てる。しがみつくべきものなど持たない。――そう歩んできた匡には、がむしゃらで無謀な『ひと』のこころも営みも、なんて強かなものだろうと感じられる。
(「『ひとでなし』の自分には……ひどく、眩しいな。でも、だからこそ」)
 それを途切れさせたくない。守りたい。その想いが『ひと』の熱に類することを、匡はまだ自覚できない。
 わあっ、と後方で声が湧いた。また一体、炎の獣が倒されたようだ。最低限の首の動きで把握する。
 ――残すは自分が相手取るこの一体。
「……その為にも、お前には、ここで沈んでもらうよ」
 暗い褐色の瞳に光が宿る。引鉄を引く指先に籠もる熱。
 タァン――と澄んだ音が、天を衝いた。懐を射抜かれた獣が落ちてくるのを、避けもせずに匡は見上げている。それで終わりだと、分かっていたから。
 金の砂に還る前に、虚空に炎を散らして獣は溶け消える。
 背後に上がる歓声に、匡は困ったような笑みを浮かべて――軽く上げた手で、ささやかに応えてみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『毒と呪いのコカトリス』

POW   :    魂を捕食
【翼の模様を輝かせ、周囲に撒かれている】【猛毒を活性化。石化されているものを砂に】【変化。凶暴性が増すこと】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    蝕む吐息
【鶏、蛇の口から猛毒ブレス】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    魔眼
【鶏頭の睨みつける視線】から【強力な呪い】を放ち、【瞬時に変化させる石化】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:井渡

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はフィーナ・ステラガーデンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●呪詛の鳥
「改めてアンタ方には礼を。俺はアガラ、サラクムを拠点にしてる宝石商組合の頭領だ。アンタ方のお蔭で、仲間ひとり失うことなく切り抜けられた。――窮地を救って貰った恩には、ウグニヤ商会の名誉にかけて報いよう」
 杯の数が足りず、回し飲んだ水に皆がひと息ついた頃。アガラは猟兵たちの前に立ち、居住いを正し礼を述べた。それまでわやわやと賑わしかった商人たちも即座に倣い、ありがざあっす、と神妙に声を揃える。
「もしアンタ方に不都合がなければ、このまま隊商護衛を頼みたい。腕利きの傭兵たちが力を貸してくれちゃあいるが、あんな御大層な魔物が出たんじゃ、とても足りねえことは俺ら皆が思い知った。アンタ方がいれば、カルカラまで無事に辿り着けるだろう。もちろん、報酬は充分に用意させてもらう」
 それは構わないが、と誰かが言い、けれど何故、と誰かが問う。
 そんな危険を冒してまで、向かわなければならない相手なのか。事情を告げれば、相手とて配慮してくれるのではないか――それとも、それが許されぬほど恐ろしい相手なのか。
 最後の問いにはははっ、と笑いが返った。
「ああ、悪ぃ。そうじゃねえんだ……そうだな、うん。あんな目に遭わせてんだ、言わねえのもフェアじゃねえか」
 仲間のほとんどは知ってることだが、と続く言葉に、意味ありげな顔をする商人たち。それをきょろきょろ見回して、えっ、と少年シャハドはアガラに縋りついた。
「頭! 俺知らないんですけど!」
「~~だからあ、お前は今年見習いに入ったばかりだろうが! カルカラで用が済めばお前にも教えてやる筈だったんだよ!」
 頭を掴んで引っぺがし、悪い、と苦笑いで仕切り直し、心なしか遠く穏やかな目をして、アガラは語り始めた。
「俺たちウグニヤ商会は、毎年、この時期にカルカラを訪ねてる。商い――は勿論理由の一つじゃあるが、まあ本音は、……俺の我が侭だ。こいつらは皆、事情を知って俺に付き合ってくれてるって訳だ」
 大っぴらには会えない相手と密かに会う為に、毎年最上の『双子の薔薇』を選り抜いて。それを渡すほんの一瞬の為に、砂漠を渡るのだという。
 深い関わりが知れたなら、自分は兎も角、相手の利には絶対にならない。それどころか、追い込まれることもあり得る。
「だけど、それでもだ。俺はあいつと――」

 ――キエアアアアア!!!
 大気を劈く声、唐突に巻き起こる強烈な砂風。
 猟兵たちは咄嗟に、隊商を庇うように囲み身を寄せた。ばさばさと落ち着きない羽戦きが、頭上に響く。
 砂含む熱風の中に目を凝らし、猟兵たちは見た。
 妖しげな紋様の刻まれた翼、炎のような鶏冠。鋭い蹴爪に絡みつく二体の大蛇。
 コカトリス、と誰かが呻いた。――視線に囚われればたちまちその身石と化すと、砂漠に伝わる怪鳥。
 羽を休め降り立った巨躯。和らいだ風に敵の姿を捉えんとするシャハドの頭を、誰かが押さえつけた。見るな、目立つな――石になるぞ!
 この戦いを越えたなら、とまた別の誰かが言った。話の続きを聞かせて欲しい、力になれることもあろうからと。
 その言葉にひとたび唇を結んで、アガラは力強く笑った。
「ああ、頼む。――俺たちはここで旅を終える訳にはいかねえんだ!」
 ――キィィアアアアアア!!
 そうはさせるかと叫ぶ怪鳥の首を目指し、猟兵たちは得物を抜き、道拓く一歩を踏み出した。
セリオス・アリス
アドリブ◎

危険をおかしても会いたいヤツ…ね
その気持ちよーくわかるぜ
まあ、状況はずいぶん違うが
ソイツがどういう関係なのかは知らねぇが
会わせてやるよ

【青星の盟約】を歌い攻撃力重視で身体強化
毒の息を吐くなら文字通りその息の根を止めてやんねぇとな
まずはその目から潰してやる!
『挑発』し『存在感』を示して『誘う』ように
近づいて来たところで
剣に雷の『属性』を込めて横一線
深く斬れりゃ最高だが目潰しさえできればこっちのもんだ
ただ暴れるだけの攻撃なんざ怖くねぇんだよ
風の魔力を靴に送り『ジャンプ』して敵の頭上へ
落下の勢いそのままに翼の付け根に剣をたててやる!
そのままもう一本の剣も抜き
ダメ押しの一撃だ
さあ、落ちろよ


ニコ・トレンタ
もう!話の途中に現れるなんて……。
続きが気になって仕方がないじゃない!

これがコカトリス。ただの大きな鳥よ。
さっさと倒して話の続きを聞くよ!
ここは私たちに任せて。
あいつを見ずに逃げるのも戦うのも難しいとなると……。
後ろから狙う!
どこにいるか知らせるから見ないように逃げて!

ほら、そっち!気を付けて!
ヴァリアブル・ウェポン!
両足を機械化!
命中率を重視、敵に接近して思いっきり蹴飛ばす!
バーン。鋭いヒールは結構痛いでしょ?


大きな鳥に負けるようなタマじゃないでしょ。
全員生きて目的の場所に行くよ!


ティオレンシア・シーディア
うっわあ…鬱陶しいわねぇ。
ラグのルーンは「浄化」も意味するから、毒や呪詛にも○耐性はあるけど。そう長々相手したい手合いじゃないわねぇ。

見られちゃ拙いんなら、まずは視線を切りましょうか。
煙幕に閃光手榴弾、手ならいくつかあるわよぉ。
邪魔な呪詛はまとめて祓っちゃいましょ。○鎧無視攻撃の●射殺で○破魔○属性攻撃をブチ込むわぁ。
刻むルーンはシゲル・アンサズ・ユル。「陽光」の「聖言」による「訣別」、喰らってとっとと還りなさいな。

気になること…「どうして大っぴらに会えないのか」ねぇ。
大店の主だもの、ふつーに考えればこそこそしなくてもいいでしょ?
…まぁ、あなたがどこぞのご落胤でしたー、とかじゃなければだけど。


ファルシェ・ユヴェール
我が侭、と
危険を侵しても
事情を知る仲間達が否と言わず付き合う程の
ならば恐らく
生き甲斐、或いは生きる意味、理由、それに類する程の何か――
……だとは、思うのですけれど

其れは恐らく貴方が命を落とせば意味を失う
尚更、誰一人欠けさせる訳には参りませんね
彼自身より、仲間に万一があれば――
背負い過ぎるのは、良い事ではありませんから

触媒にはエメラルドを
生命の象徴、古き時代には解毒作用のある万能薬と言われた石
隊商の方々に毒が及ばぬよう、近付かれる前に仕掛けましょう

毒に備え呼吸は浅く
元々肌を出さぬ衣装に、口元もスカーフで覆い
その上で高速飛翔
呪を齎すコカトリスの翼を主に狙い攻撃
側面より仕掛け、隊商から狙いを逸らす様


冴島・類
命や立場を懸ける約束
アガラさん
良い顔で、お笑いになる
立つ理由などそれで、充分

双子の、薔薇に込めるもの…
会う方がどんな方か
聞かせてください

隊を石化や毒で狙われぬよう
注意を引きに

共に駆ける瓜江先行させ
コカトリスの目を見ぬよう視線合わさず
尾の動きにも注意
残像交えた足運びのフェイントで
実物への狙いをずらし
他の猟兵の攻撃への隙を作りたい

接近させる瓜江はあえて
相手を通り過ぎさせ背後に
隙を見て首に組みつかせ
人のいない方へ顔を捻じ曲げ
石化を防げたら

自身は毒息の予兆感じれば
決して背後に通さぬよう
斜線に立ち糸車
反撃は、薙ぎ払いで

こんな稼業や身をしてると
人の生き様や想いこそ
報酬だったりする
貴方達の出会いと縁の輝きを


ユキ・スノーバー
無事に終わったら、双子の薔薇さん見たい見たーいっ!
頑張って堂々と見せてもらうもんっ!

(聞いてふと)…目立てば攻撃誘導出来るって事なんだよね?
鬼さんこちらーっ!ってしつつ華吹雪で猛毒とかの上を薄氷コーティングして
スイーッと移動しつつ、鳥を商人さん達から出来る限り引き離すように誘導するよ
ヤバそうだったら、近くの猟兵さんの所まで転がり込んで
ヘルプーってしつつ、直ぐ溶けるの前提で宝石っぽく雪壁な的作ったり
体勢整えつつ、囮逃げピューッて繰り返し
飛び乗れそうなら攻撃に転じるけど、商人さん達の安全優先したいから
さっき程じゃないけど、蜃気楼っぽい現象で鳥の目を欺けれるように
状況把握に気を配るよー
皆頑張ろーっ!


イア・エエングラ
おや、まあ、お話の途中だのに
困ったせっかちさんがいらした

右へ行く子がいるなら、左
そうでないなら向こうの方
退屈してしまわぬように一緒にお相手いたしましょ
翼はなくとも駆けられるから、滄喪とともに、先へ
この身に毒はすうし鈍いから足を止めることもない
銀の刃で届かぬならば青い焔を刃と成して
牙を吐息を往なしましょう三つが襲っていかぬよに
視線の行く路に気づいたなら裾引くくらいは出来るかしら
砂の海より水の底までお帰りまではきっと僕らが見送ろう

砂の海を渡って、引く手数多の子たちを連れて
わざわざ逢いに、天秤にかけてもゆくのだもの
繰り返し重ねるお約束を
物語になる前に聴けるなら
そんなに楽しい、こともないでしょう


ジャガーノート・ジャック
――この砂漠を乗り越えた先に君が望むものがあるのか。
それをこの目で見る事も。恐らく本機にとって良い経験となるだろう。

(ザザッ)
――故にこそ、邪魔立てはさせない。
討伐対象を視認。
此より攻略を開始する。

(ザザッ)
電脳空間より雷電を召喚。
射出を実行。

討伐対象:回避を確認。
――それでいい、狙い通りだ。

(ザザッ)
地形への命中を確認。
"Thunder-Storm"発動。

乱れ飛ぶ可視化された砂嵐(ノイズ)で敵の視覚・聴覚をジャミング、索敵能力を無力化。
――"見る"事で発動する呪いなら、見せなければ良い。

――雷電チャージ。ロック・オン(力溜め×スナイパー)
此方が視認できないなら格好の的だ。

発射。
(ザザッ)


ジャハル・アルムリフ
無論のこと
同道し、見届けよう

*近い者を補うよう動く

食えそうにもない鳥だ
【怨鎖】用い放つは二本
片方は鳥の足元へ、爆発で砂を巻き上げ視野を狭め
もう片方は<部位破壊>狙い、得に眼あるいは翼を
過剰な接近を避けながら怪力で砂中へと引き倒し
羽ばたきと視線の妨害

毒は耐性で凌ぎ
例え動けなくなろうと鎖は離さない


*家族めいて見える隊商に
砂漠の薔薇について尋ね
…つがいの様な石の花
これは何処で、どのように咲くのだ
高価なのか
珍しいのか
我が主も喜ぶのではないかと

至高の『宝石』に砂漠越え
…大切なのだな
砂の先で待つものが

待ち受ける苦難を越え
一番のものを届けたいと願うのは
一番の相手であろう故

子細については暴かずとも拒まず


クロト・ラトキエ
匡(f01612)と。

生活力ばかりか使い様も無いと思われる訳には、ね。
えぇ。仕事は熟しますとも。

特に視るは三つ首。
向き、吐息の先触れ…
視力の限り見切り、或いは呼吸と視覚だけでも保護し乍、
後は毒耐性を頼みに突っ切り肉迫。
届かぬ、飛び退く…懸念など無い。
初の共闘といえ、背を任すのは最高の射手だと
…疾うに識っているのだから。

鋼糸二つ、縊った蛇の首を捻り、
更に二つ、煩い鶏の翼を括る。
拾式――
斬れずとも動きを阻害出来れば上々。

どうぞお行儀良く。
貴方の命運に風穴開く、その刹那まで。


兵卒は口挟まず、唯耳を傾けるのみ。
…先程ので大凡察せたとも言いますが。

時に、匡。
砂漠の薔薇って、夢を叶える石なのだそうですよ?


鳴宮・匡
◆同行:クロト(f00472)


こんなところで会うとはね
……ま、“同じ側”でよかったかな

砂に紛れるよう外套を羽織り
熱砂の中へ身を躍らせる
猛毒の吐息の届かぬまで離れて
機が訪れるまで身を潜めるよ

目を凝らし、相手の動きを具に観察
勿論、前で立ち回る協働者の動向もな
心配はしちゃいないが
向こうが立ち回るに難があれば
翼の付け根や脚を狙い
機動を阻害する援護射撃を
撃った後は捕捉されないようすぐに移動

あちらの決め手が入ると同時
本命を叩き込む
【千篇万禍】――外さないぜ、さすがに
もう散々視せてもらったからな

……俺にはいまいち察せないんだけど
まあ、同じく口は挟まないけどさ

夢を叶える、か
そりゃ、俺みたいのには眩しいわけだ


アルバ・アルフライラ
命を落す危険に身を晒して尚、その足を止めぬならば
会わねばならぬ者がいるならば、手を貸す理由として十分だ
…ふふん、報酬もたんまり貰わねばならぬでな
本心は胸中に秘め【雷神の瞋恚】を召喚
強い光で目を潰し、魔眼の驚異を削ぐ
魔力で圧倒し、恐怖を与え怯ませる事も忘れず
然りとて魔眼を食らえど呪詛耐性、破魔で無力化若しくは弱化を試みる
私が守護するからには何人たりとも犠牲は出さぬ
敵の意識が商人へ向こうものならば高速詠唱で彼奴を穿ち、我が存在感を以て注意を逸らす
余所見をするとは余裕だな
貴様は私の獲物ぞ?

魔鳥を退けた後はアガラの元へ向かう
我が知識が役立つ事もあろうよ
…大切な者が居るならば尚更だ

*敵、従者以外には敬語


ザザ・クライスト
【POW】隊商連中の保護を最優先

「ったく備えあればなんとやらかよ!」

悪態を吐きながら煙草を吸って【ドーピング】
同時に【破魔】の力を纏ってバラライカで【先制攻撃】

隊商連中が攻撃されたら【かばう】

「バカヤロウ! 顔を出してンじゃねェ!」

【暗い若者】を発動

オレとシャハドを透明化、石化の魔眼から逃れる
シャハドの頭を押さえつけながら、

「イイか小僧、落ち着いて良く聞け」

煙草の箱を握らせて、

「アガラ達に渡せ。一瞬だが石化を防いでくれる」

連中ならそれで十分だろ
オマエにはまだ早ェが、オマエはオレが"見てて"やるから心配すンな
生き残れよ、男と男の約束だぜ

「行け!」

透明化からの銃弾で【時間稼ぎ】
調子に乗ってンなよ!


クールナイフ・ギルクルス
全て敬語

猛毒と石化、厄介ですね
上手くいけばいいですが……

ある物に働きかけ威力を増すことは容易だが
ない物を作り出すことはとても疲れる
傷を治したり元の状態に戻すのは尚の事
独り旅では必要なかった力

疲れてでも癒したいと思う友がいる
らしくない習練をやってしまうくらい
本人には言わないけど

こんなところでへばってないで
まだ行けるでしょう
と商人を守るよう後衛から軽口吐いて
砂を巻き上げぬよう風を起こし
毒や石化した人たちへ癒しの風を向かわせる
出し惜しみせず全力で
ついでに風に魔法で働きかけて砂嵐を起こし
敵にぶつけて視線の妨害を

疲労で膝を突かないのは意地
話すのも億劫なので話には耳を傾けるだけ
ラウの側に居られるなら傍らに


カタラ・プレケス
アドリブ歓迎

そうだね~
それなら聞きたい事は一つだけだよ~
どうして『双子の薔薇』のなのか
殲滅できたら聞かせてください

さて、呪い振りまく悪鳥よ
呪うのならば
ぼくの前に出た不運を呪え

とりあえず呪いは全部貰っていこう
『呪槍蒐監』全力起動
「全ての呪いは我が籠へ」
次いで【病神流布・大鼠】発動
対象限定:悪鳥
病症:神経麻痺及び視界不良
進行速度:最速
こんな感じで全部黒風で感染させて
地に堕とせば問題ないね~
さあ、呪い堕として狩り尽くそうか


ザフェル・エジェデルハ
(アドリブ・他者連携OK)
人の話を途中で遮るなんざ無粋な野郎だぜ
まあ、魔物なんてそんなもんか

商人達と敵との間を位置取り、商人達に敵攻撃が
及ばないよう注意を払いつつ【投擲】技能を活かして
ユーベルコードを放つ

近接攻撃が可能な場合は【力溜め】から戦斧で攻撃
【部位破壊】【鎧砕き】で鶏頭の顔面を狙う
石化はかなり厄介だからな。その視線、封じさせて貰う!

敵の攻撃は【第六感】での回避と
【武器受け】での防御を試みる
防御成功後は【カウンター】攻撃を仕掛ける

アガラは我侭に付き合わせてるというが
命懸けで我侭に付き合う奴はいないだろう
人望や払いが良いという理由だけなのか
興味があるのは確かだな。少し理由を聞いてみたいぜ



●砂上の熱
 ニコの憤慨の溜息が、荒々しく砂風を乱した。
「――もう! 話の途中に現れるなんて……続きが気になって仕方ないじゃない!」
「ああ、全くなぁ。人の話を途中で遮るなんざ、無粋な野郎だぜ」
 まあ魔物なんてそんなもんか――とからり笑い、新たな脅威と隊商の前に滑り込むザフェル。そうねと笑みで応じて一転、並び立ったニコが走って、と背後に叫んだ。朗らかに綻ぶ声が、新たな脅威にざわつく隊商を鎮めていく。
「ここは私たちに任せて。あんなの、ただの大きな鳥よ。怖がるまでもない」
 炎の精霊、砂漠を守る獣たちを束ねていたのだろう凶鳥は、確かにかの獣たちの群れにも匹敵する禍々しい気配を纏っていた。
 けれどそのことが――ただ一羽であることが、隊商を守りやすくもする。猟兵たちという盾が十全に機能すれば、コカトリスの狙いを隊商から逸らすことも可能な筈だ。
(「――あいつを見ずに逃げるのも、戦うのも難しいとなると……」)
 広げた翼の、ねぶる金色の紋様が強く輝く前に。ニコはコカトリスの荒らした砂塵の中に飛び込んだ。口許を袖で覆い、そら、と愉しげな声を上げる。
「……あんたの相手はこっち!」
 威嚇の声を吐く二匹の蛇をすり抜け、頭上から掠め来る鳥の嘴を跳び躱し、砂の上を躍るように駆け抜ける。
「バーン――なんてね!」
 ――キァァァァァッ!!
 影を潜り抜け、背面から蹴爪を蹴り砕かんばかりの一撃。足許を揺るがされた鳥が、けたたましく鳴き喚く。担ったヒールは、砂煙に隠された一瞬のうちに鋭い機械に変じていた。
「どう? 鋭いヒールは結構痛いでしょ? ……ほら、今のうちに逃げて! どこにいるか知らせるから!」
「! 了解だ。――いいかァお前ら、あの鳥が死ぬまでこの隊の指揮は姉さんらが採る! 指示に従え、離脱するぞ!」
「「「オオ!!」」」
 アガラの声が後押しをする。背を向け離れていく隊商に、雇われの護衛たちが――さらに何人かの猟兵も護りに付いた気配。となれば、あとは目の前の敵に専心するのみだ。
「どこ見てやがる? 頭上注意だぜ、鳥さんよ!」
 ザフェルの声が笑う。腕にとまった小竜の鮮やかな紅の躰は、ザフェルが拳突き上げる僅かのうちに槍と化す。長槍に変じた竜の生気に魅せられたように、コカトリスの頭上から容赦なく降り注ぐ槍の雨。
 眼前の翼の妖しい輝きは、思いもよらぬほど遠くまで届きそうだ。蛇たちの頭を踏み、放たれる光を遮るように頭へと近づく。嘴が突きに来れば、持ち替えた戦斧をがちりと噛ませ、不敵に笑ってみせた。
「飛んで火に入るなんとやらってな。その視線、封じさせて貰う! ――行け、イルディルム!」
 鳴き声の代わりに竜槍が走る。ぎらつく鳥の眼を掠めた一突きに、嘴の奥からキィィッ、と怒声が零れた。そうして遥か頭上、ザフェルとその相棒が視線を逸らしてくれているうちに、
「ほら後ろ、そんなんじゃ追いつかれるよ! スピード上げな!」
 暴れる凶爪を躱し、或いはその身に受け止めながら、ニコは始まりと変わりなくよく通る声で、隊商を追い立てる。
 砂の上に振り撒かれた毒はコカトリスの呪紋の効果を帯び、地面に近くあるニコの身体を刻々と蝕んでいく。砂漠の暑さに拠るものではない汗が額を伝う。体が重い。
 それでも不敵に笑い、声を張り上げる。守るべき彼らが聴かせてくれた、あの歌声のように――望みを知らしめる声を。
「……っこんな大きなだけの鳥に負けるようなタマじゃないでしょ。あんたたちも、私たちも――全員生きて、目的の場所に行くよ!」
 だって、聞きたい話はまだ終わっていないのだ。アガラの語りの続きも、この物語の結末も。
 オオッ、と離れゆく背が残した雄々しい声に、ザフェルもニコもふと唇を緩めた。

「ったく備えあればなんとやらかよ! おい小僧てめェもっと本気出せ、死線ナメてんじゃねェぞ!」
 熱風を引き裂き駆ける銃声は、バラライカの銀弾が連れるもの。愛用の煙草をくゆらせたのはわずか一瞬、紫煙から受け取った力と破魔の加護を後方へ撃ち出す弾に込め、ザザは遅れがちなシャハドをどやしつける。まだコカトリスの射程を離れてはいないのだ。
「そ、んなこと言ったって俺兄ちゃん達みたいに戦い慣れてなうわっ!?」
 毒の吐息は思いもつかぬ速さで砂上を這い、シャハドの足を灼――、
「ッバカヤロウ! 言い訳する余力があったら走れッつってんだ!」
 ――く直前、少年の胴を引っ掴んで跳んだザザによって躱される。ごろごろと砂を転がった男の足に、毒の火照りが疼いていた。
「兄ちゃん! ……うぶっ!?」
「イイか小僧、落ち着いて良く聞け」
 砂地に転がったまま、ザザはもがく少年の頭を砂の上に押さえつけた。これなら足に受けた呪いなど見えはしないだろう。
「……? 何これ、タバコ?」
 握らせたしわくちゃの箱には『Imperial』の銘。オマエにはまだ早ェがとにやり笑って、まだふくよかさを残した手を上から握り込む。
「アガラ達に渡せ。一瞬だが石化を防いでくれる。まじないみてェなモンだがな」
「……! 渡す、ありがと兄ちゃん!」
 少年の素直さに、ザザは思わず苦笑いする。信じて貰わなければ困るのだが、この素直さは少々心配だ。
 思わず思うままを告げれば、少年は真顔で言った。
「口にすれば真になるんだろ? 兄ちゃんが言ったから、もう結果は決まってる」
「ハハッ、オマエ案外イイ根性してんじゃねェか」
 深紅の瞳に力を篭め、くしゃりと笑ったザザの顔が――身体が、全てが目の前から突如消え去ったのに、シャハドは目を剥き動揺した。慌てんな、とその手を掴む。そこでようやく、少年は自分の姿も消えていることに気づいた。
「オマエはまだ吸えねェからな、アガラ達に辿り着くまでオレが『見てて』やる。その間、あの鳥にはオマエは見えねェ。わかるな?」
 神妙に頷く気配にどんと背を押し、手荒く送り出す。
「行け! 生き残れよ、男と男の約束だぜ」
「うん! 商人の約束だ!」
 駆ける歩幅で散り躍る金砂を充分な距離まで見送ると、ザザは八重歯をニィと覗かせた。無論、その顔は誰にも見えないけれど。
 彼方で暴れ狂う砂漠の怪鳥に銃口を向け、ハ、と吐き出す。
「……調子に乗ってンなよ!」
 ――共に吐き出された弾丸が、うねる鳥の胴に突き刺さった。

(「……射程を抜けるまで、あと少し」)
 怪鳥に取りつき狙いを逸らす仲間たち、隊商の守りから外れ攻撃に転じる仲間たち。彼らの奮闘に守られて、このままなんとか――と思った瞬間、ぞくりと冷たいものがクールナイフの背を撫で上げた。
「……っ、走ってください。来ます」
 外套を纏った腕は庇うに向いていた。覆い隠すように広げた両腕を、鈍い痛みが掠めていく。
「……!」
 引き裂かれた黒衣の下、じわりと身を苛んでくる感覚。傷口から少しずつ、重たく鈍くクールナイフを冒していく気配は、正しく『呪い』だった。
「猛毒と、石化……厄介ですね」
 それでも、猟兵である自分ならば耐えられる。アガラ様っ、と前方で上がった声にはっと視線を戻せば、幾重もの猟兵たちの盾を掻い潜って駆け抜けた『視線』に倒れた男の姿が見えた。
 仲間を庇い足をやられたものか、動かない腿を拳で叩くアガラを支え、抱き起こそうとする商人たち。追いつくから先へ行けと無茶を言う頭領を、足枷になると知りながら、馬鹿言わないでくださいと支え助ける数多の手。
(「ああ……その気持ちは、よく」)
 疲弊しようとも助けずにはおかない、癒したいと思う友が自分にもいる。らしくないと思いながらも、有事に彼の助けとなるための習練をしてしまうほど大切な――本人には言わないけれど。
 彼らもきっと同じ。ここに投げ置いて行けるような、安く浅い絆ではとうにないのだろう。
 抱くダガーの銘は『Gûl Sigil』、伝う魔力をよく響かせる諸刃の刃。そこに熱風をくるくると絡め取る。まだまだ拙く、途上にある魔法ゆえ、何気ない動作にひどく体は消耗する。
 招いた魔法が腕の痺れを癒しても、クールナイフは巡る魔力を止めない。力が抜けていく脚を懸命に前に出し、アガラに追いついた。背を守るように立ち、声を張る。
「こんなところでへばってないで、まだ行けるでしょう」
「……!」
 やわらかく渦巻く風が、アガラの足を包み込んだ。モノに働きかけ、威力を増すだけならそう難くない。けれど――『異常』を解き、『正常』へと戻すのはひどく疲れる。
「って、アンタこそ大丈夫か? 顔色が……!」
 手向けられる声を静かな笑みひとつで遮って、術に全てを注ぎ込む。アガラの異常をすべて吹き飛ばした風は、大きく逆巻き、彼方の敵と自分たちとを隔てる嵐の障壁を作り出した。
 クールナイフはうっすらと微笑んだ。内に輝く金砂を躍らせたそれは、強敵の眼力とはいえ容易く見通させはしないだろう。そして、
「――歩けるならば、先へ。射程圏外まで、残り二十歩」
「! よし、行くぞ!」
 正確にその距離を見定めたジャガーノートのノイズ混じりの声に、男たちの士気が上がる。もう歩ける、と逃れようとするアガラを引っ立てるようにして先へ急ぐのを、黒豹の機械鎧の下から男――いや、少年は見送り、仲間への目配せをひとつ、逆方向へと駆け出した。
 赤く染まるフレームの内に沈む表情を、外から推し量ることは叶わない。けれどその体に宿った心は、『経験』を強く求めている。
(「この砂漠を乗り越えた先に、君が望むものがあるのか」)
 離れていくアガラの気配を意識しながら、只管に駆ける。金砂の中によく映える黒い機体は、敵の狙いを惹き付けるにも向くことだろう。
(「それをこの目で見る事も。恐らく本機にとって――僕に、とって」)
 誰かの強い望みが、電子の海から生まれた自分がヒトとして在るための、どれほどの良い経験となり得るものか。
「――故にこそ、邪魔立てはさせない。討伐対象を視認。此れより攻略を開始する」
 ノイズ混じりの声はやけに遠く響いた。漆黒の機体に浮かび上がる赤い光、電脳空間より撚り出された雷電が、左腕に集約する。ばちばちと弾ける火花をコカトリスに向け、
「――射出を実行」
 弾き出された雷撃の輝きは、あまりに目立った。巨躯を捉えることなく地に吸い込まれた光に、機械的なジャガーノートの言葉が僅かに笑み含んだように響いたのは、ノイズのせいだっただろうか。いや、
「――それでいい、狙い通りだ。地形への命中を確認。『Thunder-Storm』発動」
 それは色も赴きも異なる『砂嵐』。夜更けの電子世界を埋め尽くすホワイトノイズのテクスチャが、真昼の砂漠、敵の足許を覆っていく。
 見ることで発動する呪いならば、見せなければいい。視覚、聴覚――敵を見定める全ての感覚をジャミングされたコカトリスは、向ける視線の先にさえ迷っているようだ。
 自分を視認できないのなら、ただの的。けれど流れ弾のひとつさえ、
「願いを持つ人へ、届かせる気はない。雷電チャージ。ロック・オン。――発射」
 解き放った雷撃は、雑音を帯びて濁る声とは裏腹の、鮮やかな射線を敵の懐まで描き届けた。

 見るな、目立つな。石になるぞ。――難を逃れた商人たちが残していった言葉が、ユキのまるい目をぱちりと瞬かせる。
「……それって、目立てば攻撃誘導出来るってことなんだよね? それなら僕にもできるんだよっ」
 小さな体ではあるけれど、テレビウムのユキは立派に猟兵だ。多少の武芸の心得はあれど、一般人であるアガラたちよりはずっと、敵の攻撃への耐性も高い。
「よーし、いくぞーっ。鬼さんこちらーっ!」
 熱砂の上に叩きつけたアイスピックの先から、白銀に輝く雪嵐。金色の砂嵐とは対照的なその彩りに、ひとときであれ砂漠から熱を奪う極寒の冷気――それは灼熱に棲むコカトリスの目を惹くに充分に足りるもの。
 眩しいほどの金砂は、今や怪鳥が手当たり次第に撒き散らした毒と呪詛で満ち満ちている。ユキを先導するように駆け抜けた冷気は、毒と呪詛を薄氷の道で塗り籠めて、足許で戦うユキたち猟兵を禍々しい力から守り、敵の強化を阻む。
 苦手な灼熱からも逃れ、気持ちよく滑っていたユキだった――のだが。
「余所見はダメダメーっ、こっちなんだよー! って、ひゃー!?」
 不意に上がった悲鳴は、自ら張った氷の上をついーと滑り、恐ろしい形相で追ってくる二匹の蛇――と、その後ろからばりんばりん、薄氷を砕いて迫り来る巨大な鳥。
「わあっ、ヘルプーっ!」
 誰かだれかーっと、見つけた仲間の蔭に転がり込む。
「……そのまま、其処へ」
 じっとしていろとジャハルの眼差しが告げる。襲い来る三つの頭に怖じることなく伸ばした掌に、握り込んだ刃が血の鎖を滴らせる。
「食えそうにもない鳥だ。――鎖せ」
 ただ、一言。言の葉の魔力にふわりと浮かび上がった鮮紅の雫のつらなり、そのひとつが迫り来る怪鳥の足許に突き刺さり、爆ぜる。
 空まで舞い上がった金色の砂が、敵の視界を奪った。その隙に、ジャハルは敵の軌道からユキを逃し、空へ跳ぶ。翼なくともふわりと空を躍る身体は、流れ落ちる砂の向こうに狙う眼を捉え、そこへ血鎖のもう一端を馳せさせる。
 ――キィィアアアアアア!!
 眼球を掠めた鎖が、コカトリスの首を捉えた。そのまま力任せに引き倒せば、衝撃に再び砂が舞い上がる。
 ――けれど、見えないのはジャハルも同じこと。
「!」
 ぞく、と身を駆け抜けた気配に身構えた男の眼前に、呪詛の強化を得た蛇が飛び掛かった。掌の傷より連なる鎖を咄嗟に前に、牙を防ぎ止めようとしたそのとき、不意の白銀がジャハルの視界を覆い尽くす。
 ただ逃げ込むばかりではなかった。きらきら躍らせる純白の華吹雪で、ユキがジャハルの前に作り出したのは――宝石のように煌めく雪氷の盾。ばちん、と弾かれて跳ね飛ばされた蛇に瞬けば、
「助けてくれてありがとっ、これはお礼なんだよ!」
「……、感謝する」
 ふ、と音にすらならない笑みを微かに浮かべ、ジャハルは再び鎖を駆った。一端は未だ怪鳥の首を捉えている。この身に力残る限り――いや、たとえ動けなくなろうとも離すまいと引き合う青年のため、ユキは敵の足許に凍れる道を敷き、駆け抜ける。
 さも邪魔そうに、頭上から迫り来る鋭い嘴。左右からは蛇たちの毒の牙――けれど、そのただ中に立つユキはふふーんっ、と胸を張って。
「ただ追いかけられてるだけじゃないんだよっ。そっちはニセモノニセモノーっ」
 がちん! と組み合った三つの頭。その頭上にぴょんと跳んだ本物のユキが、アイスピックを振りかぶる。
「覚悟ーっ!」
「助力しよう。――容易く開放されると思うな」
 逃れようと蠢く三つ首をひと括りに絡め取り、氷の上に引き倒すジャハル。戒められるまま逃れることも叶わない三つ首の上に、ユキの凍気降らせる一撃が降り落ちた。

「――さて、何処へ逃れるおつもりです?」
 紫水晶の瞳が鈍く輝いた。灼熱を揺るがす冷気と堅固なる戒めに、僅かに傾いだコカトリスの眼がきろりとファルシェへ翻る。
 触媒に選んだ石はエメラルド。生命の象徴にして、旧き時代には毒をも解く万能薬と謳われた貴石。そのひとかけらに、慈しむように目を細め、ファルシェはそっと掌に握り込んだ。
「上質な物が力を持つ――それもひとつの見方に過ぎませんが。少なくとも今、この石は、その毒と呪詛を倒す銀弾たり得る」
 宝石商として。蒐集家として。戦いの中に消費される輝きへの敬意と情を以て、そこに秘められた力を信じる。その想いは、貴石の色を映した光と化してファルシェを包み込み、その足を虚空へ誘っていく。
 幾度にも渡り仲間が書き換えた砂地の毒は、それでもまだ僅かな呪いの念を放っていた。塗り替えられる戦場に苛立ち、さらなる怒気を呪詛に籠め撒き散らすコカトリス。その毒に備えた浅い呼吸に、身体は僅かに鈍るけれど、貴石の魔力はそれを補うに余りある。
(「――彼自身よりも寧ろ、仲間に万一があれば」)
 願いを推し量り、ファルシェは思う。それは彼の足を止めてしまうかもしれない。あるいは止まらず進んだ未来に、重い荷を負わせることになり得ると。
「……背負い過ぎるのは、良い事ではありませんから」
 だからこれ以上、一歩たりとも彼らに近づけはすまい。貴石の精霊の如く飛び回る碧の輝きは、巧みに側面へ潜り込んでは仕込み杖の閃きの中に翼の紋を散らしていく。
 自身と質を近しくするその輝きに、イアはつと瞳の光を強めた。翻弄される鳥の動きはせわしなく、おや、まあ、とのんびりと、
「お話の途中だのに――困ったせっかちさんがいらした」
 ファルシェが右を取るならば、左へ。逆ならばまたその逆へ。蒼く醒めた輝きを纏った身を閃かせ、イアは微笑みすら湛えて敵の足許に踊る。話も聞けない困ったきかんぼうが、退屈してしまわぬように。
 エメラルドの彩を宿した青年よりも寧ろ――と細めたイアの瞳に、剣呑なる鳥が姿を映した。
 重ねた毒は、祈りは、呪いとなる。それを知り、身に宿して往く自分は、この鳥にこそ似ているのかもしれない。
「この身に毒はすうことだし、鈍いから足を止めることもないものな」
 微笑んで、銀の刃を抱く。そこに燈った濡れた焔は、奇声とともに毒を放ちに来る三つ首を、麗しい光の内に迎え撃つ。
 
「砂の海にあの子らを追ってはいかせないよう。おまえたちの知らぬ、水の底を見せてあげような。――お帰りまでは、きっと僕らが見送ろう」
 加減も知らずじゃれつく幼子を慈しむように、かなしみともよろこびともとれぬ微笑を絶やさず、イアは剣戟を重ねていく。揺らぐ焔は傷を伝い、蛇たちの鱗を、鳥の翼を、凍てつく水の碧に染めつけて。
 ただ、今は、
「――ふふ。砂の海を渡って、引く手数多の子たちを連れて、わざわざ逢いに、天秤にかけてもゆくのだもの」
 繰り返し重ねる約束を、物語になる前に聞けるなら――それだけが、イアの胸をざわざわと愉しませていた。

「うっわあ……鬱陶しいわねぇ」
 甘い声で紡ぐあまりに正直な言葉は、ひときわ酷薄に響いた。
 本心を映すかのような苛烈な銃撃は、うんざりするわあ、と笑いながら砂地を駆けるティオレンシアを起点に、花咲くように広がっていた。
 得意のルーン、刻んだ『ラグ』の文字には浄化の意味もある。耐性はそれなりに備えてはいるものの、それでも長々と相手をしたい手合いではない。
「見られちゃ拙いんなら、まずは視線を切りましょうか」
 煙幕に閃光手榴弾――目潰しの手立てなら幾つでも持っている。呪詛というなら魔を破る一手をと、擲つそれらに破魔の属性を宿す。
「いい子は目を瞑ってなさいな、使い物にならなくなるわよぉ?」
 カッ――と白光が砂漠を灼いた。キアアァァッ、と響き渡る声にふるりと長い髪を振り、ティオレンシアは足裏の感覚だけで前へと駆ける。指先は愛用の銃に新たなルーンを刻み付けていた。
 陽光の『シゲル』、聖言の『アンサズ』、訣別の『ユル』。いかなる強化も、それをも貫く銃弾の前には立ってはいられまい。
「あたしの前に立ったんだもの。逃げられるわけないでしょぉ? ほら、喰らってとっとと還りなさいな」
 巨躯の芯を捉えた――と思った一撃を、受け止めたのは足許をいざっていた蛇の一匹だった。コカトリスとは一心同体、命は繋がってはいるものの、ぐにゃりと砂に付したその首が敵意を露わに起き上がることはもう、ない。
「ふふ、お見事だね~」
「やあねぇ、止められたのを褒められたんじゃ立つ瀬がないじゃなぁい?」
 威嚇するコカトリスの巨躯を前にしながら、ゆるりと笑うカタラ。甘い声に揺らぐこともなく、青年は穏やかに過ぎる笑みを湛えて紡ぐ。
「まあ、そう言わないでほしいな。ぼくにも残しておいて欲しかったしね~」
 その呪い、と細めた瞳に剣呑な色が過る。見上げた眼差しに宿る影が、振り撒いて余りある呪詛を宿したオブリビオンを射抜いた。
「さて、呪い振り撒く悪鳥よ。呪うのならば、ぼくの前に出た不運を呪え。全ての呪いは、我が籠へ」
 掲げた鳥籠に篭められた数多の呪詛が起動する。術の生み出す障壁が、カタラの編む呪を限定的なものにしたのは幸いだった。――なにしろ、
「こんなからっとしたところに、呪いなんて似合わないものね。でも、それを振るう奴がいるんだから、仕方ないよね~」
 鐘のように籠を揺らし、くすくすと笑うカタラを病の気が包み込んでいく。
「『西方の風邪、八千滅す黒き死、蛇に喰われし疱瘡神。太陽隠し世界を蔽え。我が身に宿り災禍為せ』――」
 変じた身は悪神。君と似てるねとまた微笑んで、纏う疫病を黒き風に乗せてぶつける。
「大好きな呪いを浴びて、最期まで藻掻けばいいよ。――地に堕として、狩り尽くしてあげる」
 石化の呪いを浴びようとも、カタラの瞳はついに揺らぐことはなかった。――最後まで、笑みのかたちのまま。

「危険を冒しても会いたいヤツ……ね」
 セリオスの胸裏を過るのは、陽光のような眩しい笑顔。会いたくて会えなかったいつかの自分と、会いたい思いのまま会いに行くアガラと――状況は随分違いはするが、
「その気持ちよーくわかるぜ。どういう関係なのかは知らねぇが、会わせてやるよ」
 仲間の招いた黒い風が、コカトリスの周囲から解ける。セリオスは熱い空気で肺を満たした。喉を通りうたごえと化すそれがいつもより熱っぽいのは、砂漠の暑さゆえではない。振り撒かれた毒の気配が身を侵すのを知りながら、構わずに歌う。――自ら紡ぎ出すメロディに、からだを巡る血は湧いて、指先の剣に力を集約させていく。
 砂漠は砂の風を帯びてくすみながらも、晴れ空から注ぐ陽熱はからりとよく乾いた気の良いもの。なればこそ、毒の息などこの地には似合わない。
「いと輝ける星よ、その煌めきを我が元に――全てはかの敵の息遣いを止める為に。……まずはその目から潰してやる、来い!」
 不敵な笑みを餌に誘えば、砂上に撒かれた毒の気配がなお輝いた。未だ翼に残る呪紋が怪鳥に力を与え、突き出す嘴に力を与える。けれど、
「……ハ、格が違うんだよ!」
 刻まれたルーンが光を放つ。『青星』から迸る雷撃を刃に横一線、魔眼を目掛け斬りかかる。キエエエエッ、とけたたましく上がる声に、思わず零れた舌打ちは軽い。
「まぁそう易々と斬らせやしねぇよな。いいさ、何度だって潰しに行ってやるよ!」
 白雷を手中に躍りかかるセリオスに、近しいものの気配はすぐに分かった。肌がびりびりする。――何かでかいのが、来る。
「御明察です。――雷霆に御注意を」
 セリオスが攪乱する間に、コカトリスの足許、砂の上に突き刺さった杖。担い手たるアルバの笑み声を背に、セリオスは怪鳥の懐を蹴ってひらり、跳んだ。ちらりと笑ったさかさまの青い瞳に意を得たと知るや、アルバは笑みを深め、高速の詠唱をその舌に編み上げる。
 青空が割れたようだった。天から地へ、星追いの杖を目掛けて白く鮮烈に駆け抜けた雷霆が、敵を灼く。
 ――キェアアアアアアッ!!
 耳を劈く悲鳴。ひゅう、と零れたセリオスの口笛には恭しい礼をひとつ、敵へ翻るアルバの瞳は冴え冴えと戦意に澄む。
「私が守護するからには、何人たりとも犠牲は出さぬ。余所見をする暇があると思うなよ。――貴様は私の獲物ぞ?」
 命を落とす危険に身を晒し、仲間を晒し、それでもなお止められない足がある、至りたい願いがある。ならばそれは、アルバが手を貸す理由として充分だ。それに、
(「……ふふん、報酬もたんまり貰わねばならぬでな」)
 嘯く心中に眼差しを蕩かせたのは一瞬のこと。光に潰された眼球を剥き、見えぬ視界に気配だけで自分を捉えに来る『魔』の力を、ほうと零した息で笑った。
「中々見所がある。ならば何時まで続くものか、示してみせよ」
 石化の魔眼が僅かに鈍らせた体が、次の雷霆を紡ぐまで――敵の時間になどしてはやらない。熱砂を跳ね上げるように集った風は、セリオスの足を空へと押し上げる。
「注意すんのは雷だけじゃないぜ、鳥頭!」
 足許に巡る魔力を止めたなら、ふつりと風は止む。支えを失ったからだが落ちるまでが、策の内。落下の勢いを青星の剣に乗せ、翼の付け根に突き立てる。
 ――ギアアアアアッ!?
 間近な叫びなど知らない、雑音など耳に入らない。小さく笑って、セリオスは腰に帯びるもう一振りを抜いた。星の瞬きを宿す純白の刃が、今度は下から、かろうじて繋がった翼を斬り落とす。
「さあ、落ちろよ」
 カッ、と空が輝いた。紡ぐ詠唱の間を稼いだ青年の顔に、感謝を湛える男の顔。――突き刺した剣と杖を頼りに降り注ぐ雷霆が、ふたりの笑みをあかあかと照らし出した。

 仲間の猛攻によって眼の持つ呪詛の力を削がれてなお、鋭敏に気配を辿っては、猟兵たちを狙い来る嘴。類は赤い十糸を手繰り、先行する相棒――瓜江を躍らせ、頭上から襲い掛かる嘴をふわり、ひらりと躱していく。
 人形の烏めいた黒装束は、金の砂地にひどく映える。その彩りが視力を失いかけた敵の目を惹くことはなくも、細やかに華やかに繰り広げられる『戦い』という舞の気配が、終焉に近づきつつあるコカトリスの苛立ちを誘っていた。
 彼方へ逃れた隊商への狙いを逸らすのは勿論。真正面を狙うと見せて僅かに逸らす、すり抜けた瓜江に死角から踏み込ませる――そうして悪戯に敵を惑わす立ち回りは、仲間の攻撃の隙を作るため。
 真摯な眼差しがふと一瞬、蘇ったアガラの声に和らいだ。
「――報酬なんて、あの笑顔で充分ですよ。アガラさん」
 良い顔で笑っていた。約束の相手は恐るべきものなどではなく、命や立場を懸けられる相手なのだろう。
 ひとの祈りに生まれ、ひとのために戦う。類の心も在り方も、人の生き様や想いを喜びとするように在る。だからこそ、あの笑顔が、盾として立つ理由に足りない訳もない。
 そんな人らしいヤドリガミの傍ら、それは達観か客観か――風のような涼やかな眼差しを向ける人間の男がふたり。
「えぇ。仕事は熟しますとも」
 安全圏へ退避した筈の雇い主へぽつり、柔い呟きを零してクロトは駆ける。三つ首のひとつは既に落ち、気を払うべき頭がふたつになったのを僥倖と笑いながら、その指先は巧みに二つの鋼の糸を繰る。
 砂上をいざる蛇の気配に視線を切り、投げた糸の先がそれを貫くより早く、駆け抜けた銃弾がそれを捉える。おやと一瞬後方に投げた目礼は、受け取る相手を得なかった。流石、とまた笑い、その隙を逃さず敵へ肉薄する。
 ――そう、戦場をよく識る匡が、狙撃したと知れる場所へ長々と留まる筈もなかった。砂に紛れる外套、その内から解き放たれるアサルトライフルの援護弾は、音もなく蛇を穿ち、砂地に縫い付ける。名の持つ『反響』を齎す水も、ここにはない。
 そして敵が攻撃の起点を見出す頃には、その方角に匡の姿はとうにない。見定めんと視線を動かすうちに、また穿たれ、貫かれる。砂の上を這い、転がり、絶え間なく動き回り、好機と見れば迷わず撃つ。ながらの銃撃は、多くの死線に育まれた技だ。
(「――心配はしちゃいないけど」)
 前線に踏み込んでいく協働者、クロトを、危ういとは思わない。終わることへの恐れを感じさせないさまは匡の知る傭兵の在り方に近く、技量も伴っているものだから危なげなど感じる必要もない。
 けれど、共に戦うのなら――戦力が十全に発揮できるよう援けることは、戦場の常だ。
「……ま、“同じ側”でよかったかな」
 素気無い呟きを胸に落として、また一射。蛇の額を捉えた銃弾が、這いずるものの動きを止める。これで警戒すべき頭は、ひとつ。
「さて、その首もいただきますよ。生活力ばかりか使い様も無いと思われる訳には、ね」
 報酬分くらいは働けるんですよ、と意欲は高く、愉しげに。躍動するクロトの影に連なり、まるで指先のように自在に虚空を躍る二つの糸は、絡み合うこともなくコカトリスの動きを阻んでいく。
 縊った首を望むとは逆へ引き倒し、残された片翼を羽戦く隙なく括り、戒める。十三の業に十を数えるそれが、編みなすものはまるで――檻。容易く破れそうな糸は暴れるほどに肉に喰らいつき、切り刻む。
 ――……キ……アアアアアッ!!
 喉を晒し、コカトリスは高らかに啼いた。吸い込んだ熱が、一瞬にしてその体躯に呪詛と毒を増幅させていくのがわかる。
 ――毒の息が、降る。
 おやと瞬いたクロトの眼前で、剥かれた牙が撃ち砕かれた。振り返らずともわかると、眼鏡の向こうに薄く微笑んだ。共に戦うのは初めてであれ、背を任せたのが最高の射手だと知っているから
 その笑みを消すより早く、忍びが如く高く跳んだ人形の影を見た。人知れず背後からコカトリスに迫った瓜江が、組み付いた首をあらぬ方向へ捻じ曲げる。逸らされた頭の先には、類。
「!」
 投げかけられた視線に大丈夫だと笑って、類は無抵抗にその息を受け止めた。けれど毒も呪詛も、類を蝕むことはない。終わりゆく巨鳥への畏怖も構えもなく受け止めた攻撃は、上面を撫でるようにするりと消えていく。そして、
 ――ギィィィィィッ……!!
 苦しげなコカトリスの叫びこそが、その結果。無効化された攻撃は倍の威力を以て、瓜江を介し跳ね返る。
「今です」
「――では」
 抑えを担ってくれた類、そしてその相棒にも目礼を残し、クロトは敵前へ駆けた。籠手の機巧を作動させた瞬間、しゅる、と持ち主のもとへ還り来ようとする鋼の糸は、絡め取った敵ゆえにそれが叶わず戒めを喰い込ませるだけ。散る羽毛にも呪詛の血にも構わずに、クロトは強く一糸を引いた。ざく、と遠慮のない音を響かせ、残された片翼が落ちる。
「暴れる翼もなければ大人しくできるでしょう? どうぞお行儀良く――あなたの命運に風穴開く、その刹那まで」
 男の舌滑らかな挑発に、匡が言葉を連ねることはなかった。翼がなくとも、大人しくしている敵ではないのは知れている。今や重なる戒めに、思うようには動かせずとも、嘴は最後まで眼前のクロトを狙うだろう。その一撃を彼が躱せば、体勢を整える暇などもう与えない。
 千の戦場の物語を知り、万を数える戦禍を知る。駆け抜ける弾丸は、次の一を蓄積する一射となる。
「――外さないぜ、さすがに。もう散々見せてもらったからな」
 音もなく喉笛を撃ち抜けば、耳障りな悲鳴はもう返らない。
 絶えゆくコカトリスの体から零れゆく呪詛も毒も、砂漠の熱の中に蒸発していく。舞った羽もくずおれた体躯も、金の砂地にかき消えて。
 あとには砂漠の常が――巡る風と砂の音と、遥かな景色が広がるばかりだった。

●一路、カルカラへ
 脅威を退け、逃れた隊商との合流を果たした猟兵たちは、ようやく束の間の休息を得ることとなった。
 投げ出した荷は損なわれることなく回収され、水や食料も毒による汚染を受けたものはごく僅か。残ったものだけでも、一行の腹をひととき満たし、喉を潤すには充分に足りた。
 けれど、仕事はここで終わった訳ではない。魔物の脅威は去ったといえど、砂漠の旅路はまだ続く。オアシスの街カルカラまでの隊商護衛、それを完遂するまでは、仕事は終わらない。
 それがなくとも、これで終わりになる筈もなかった。――尻切れのまま宙に浮いた物語がある。
「ねえ、どうして『双子の薔薇』なのかな」
 再開された旅路の途中、切り出す機を窺う仲間たちに先んじて、カタラはにこりと語り掛けた。ウグニヤ商会の名を上げた、石の花。それがただひとつ気になっているのだと。
「どうして……か、まぁ一目見ればそのままなんだがな。ほら、これが『双子の薔薇』だ」
 駱駝の積み荷を探ったアガラは、小さな箱をひとつ取り出した。蓋を開ければ、薄絹にやわらかく包まれた石が顔を出す。
「……ああ、本当だ。双子だね~」
 砂を圧し固めたような、灰褐色の石だった。芯を抱くように織り重なった薄片は、少し手荒に扱えば壊れてしまいそうに繊細で――彩りこそなくも、確かに小さな花の様相を呈している。誂えたように大きさもかたちも似通ったそれがふたつ合わさり綻ぶさまを、双子と呼んだのだろう。
「わーっ、双子の薔薇さんぼくも見たい見たーいっ!」
「おう、好きなだけ見ろ見ろ。ここじゃあこれしか出せねえけど、カルカラに着いたらもっと上物も見せてやるよ」
 ぴょこぴょこ跳ねるユキの頭をぽんと撫で、笑うアガラ。
「……まるで、つがいの様だな」
「ああ、なるほどな。……もしかして、そう名付けりゃもっと受けたか?」
 覗き込んだジャハルの言葉に、ああ失敗した、と歯を見せるさまには、言葉ほどの後悔は見えない。うちのボスは短絡的だからなあ、うるせえ、などと他愛ないやりとりに笑いが起これば、ジャハルも僅かに唇を緩めた。
「これは何処で、どのように咲くのだ」
 大きな男の深い眼差しには、少年のような純粋な興味が瞬いていた。嬉しいねえと目を細め、アガラは語る。
「かつて水があった場所でしか咲かねえんだ。乾涸びてなくなったオアシスの跡地とか――そういうとこで見つかる。できる仕組みまでは説明できねえが」
 話に曰く、一つの花のような結晶になる、或いは岩のような一枚の塊になるのが普通で、それらはさほど高価な訳でも珍しい訳でもない。
 だが、二つが寄り添った『双子の薔薇』になるのは珍しく、砂漠に縁遠い地域では重宝がられ、値が吊り上がるのだという。
「初めて見つけた時はまだ、独り立ちしたばかりのひよっこだったんだ。俺が双子なせいもあって、なんとなく『双子の薔薇』なんて名前を付けて売りに出したら、思いがけず儲かっちまったんだよなあ」
 何でもないことのように語るアガラの眼差しは、どこか遠くを見るようだ。儲かった、の言葉にぴくりと耳を欹てた師を横目に見遣れば、素知らぬ澄まし顔が返る。――どうやら充分に興味を惹いているらしい。
「……大切なのだな。砂の先で待つものが」
 虚を突かれた顔に、答えを求めるでもなくジャハルは続ける。
「待ち受ける苦難を越えてまで、一番のものを届けたいと願うのは、一番の相手であろう故」
「……一番の相手か。そうだな」
 腑に落ちたように穏やかな微笑みを浮かべるアガラを、商人たちもいつものように茶化しはしなかった。彼の抱える事情を知っているのだろう。知らないシャハドだけが、不満げに眉根を固めている。
 静かに耳を傾けていたザフェルは、ふむ、と数歩歩みを遅らせた。隊商の先頭を担うのはアガラの雇った傭兵たち、猟兵たちに囲まれたアガラたち商人の列が、長くそれに連なっている。
「アガラは我侭に付き合わせてるといったが、ただの我侭に命懸けで付き合う奴はいないだろう。人望とか払いがいいとか、理由は色々あるんだろうが」
 忌憚のない問いかけに、商人たちはからりと笑う。
「あっはは、そうだな! うちの頭領は金持ちだからなあ」
「金だけはあるよな、金だけは」
「うーん、あとはなんだ? 面白いからかな。破天荒っつーか、ついってって飽きねぇっていうか」
「あと美味いもんが食える」
「それはある」
「あるな」
「聞こえてんぞお前ら覚えとけよ」
 振り返るアガラのわざとらしく引きつった笑みに、また豪快な笑い声が巻き起こる。その中に紛れてぽつり、付き合いの長そうな男が呟いた。
「あんなふざけた物言いしてっけど、実際のところ、あの人には投げ出してきたもんの重みがあるんだよ。その分、日々の仕事に真摯で真が置ける。人間が好い、っつーかな」
「まあな。何つーか……裏切られねえだろう、ってのは解る」
 元々言葉で語るを得手とする手合いではないのだろう。不器用な表現に、なるほどな、とザフェルは理解し笑う。――『重み』の何たるかは知らないが、彼らにとってそれは確かに、命を擲ってもとアガラを慕い集まる理由に足りるのだろう。
(「――となれば、それは恐らく」)
 足を早め、アガラに追いついたファルシェは問うた。あの鳥との戦いの前に言いかけたことは、と。
「それは生き甲斐や、生きる意味や理由。……それに類する程の何か、ということでしょうか」
 うーん、とアガラは空を見上げ、暫し考えてから声にする。
「そうだな、そうかもしれねえし、少し違う気もする。――これから会いに行く奴は、俺が投げ出してきた責を負ってくれている奴なんだ。……そいつに、今俺が負ってる責を示したくて行く。抱えてもらった責に足りるものを、俺もちゃんと背負えるようになったってな」
 あとは単に、自分がそいつに会いたいからだと笑う。上客だし金になるし、などと付け足したのは、お飾りの言葉だともう知れる。
「軽々に会う訳にいかねえんだよ。相手にも立場があるからな」
「それがわからないのよねえ」
 いつの間にか並び合っていたティオレンシアが、にこやかに首を傾げてみせる。
「どうして大っぴらに会えないのかしらぁ。立場があるって、貴方も大店の主だもの、ふつーに考えればこそこそしなくてもいいでしょ?」
 ウグニヤ商会の名がこれほど知れているのなら、その頭領たるアガラは、貴人が堂々と客に迎えるに相応しい相手だろう。それが何故、こうも衆目を気にかけるのか。
「……まぁ、あなたがどこぞの御落胤でしたー、とかじゃなければだけど」
 沈黙が落ちた。あ、と零れた商人たちの声に、ちろりとアガラの横目が返る。
「あらあ、核心突いちゃったかしらぁ?」
「んー……まあ、そんな感じだな」
 アガラはへらりと笑い返した。
「これから会う奴と、血が繋がってんのは確かだ。そして、俺が堂々と会いに行って、追い込まれんのは相手の方だから」
 だから今後も隠れて会うのだと、男はきっぱりと言い切ってみせる。穏やかに頷いて、類は自分のもとへ巡ってきた双子の薔薇をアガラへ返す。
「お会いするのが楽しみですね。……その方は、どんな方ですか」
 その相手に渡す『双子の薔薇』に込められるものが、察せられる気がしてそう問えば、そうだな、と再び瞳に空を映して、宝石商は笑った。
「すごく頭がいい奴だ。自分にいいように立ち回る頭があるくせに、自分には厳しくて、自分の損得より相手の望みを考える奴。一つの土地を統べる立場に、あんなに相応しい奴はいな――」
「あー、アガラ様」
 ごほんごほん、と分かり易い咳払いがふたつ、みっつ。口を滑らせたことに気づいたアガラはあ、と口を押さえ、
「……あー。俺もシャハドを怒れねえなあ。今日は随分舌が滑らかだ」
 油でも舐めちまったかと決まり悪そうに笑って、その手でしーっと内緒を形作る。
「アンタ達がいい奴らだからつい零れちまった。――そういうことにしといてくれ」
 勿論と笑ったのは類だけではない。他の猟兵たちも――進み出たアルバもまた、損得を越えて手を貸す価値を、語りの中に見出していた。
「その仰り様では、カルカラでの邂逅も立場を越えたものにはならぬのでしょう?」
「ああ、そうだな。相手は『双子の薔薇』を買う、俺は売る――それだけだ」
 なんとつましいことかと、内心に浮かんだ言葉は口にはしない。伝え聞いた事情は、察せられる関わりは、そんな一瞬で満足のいくものである筈がない。
「――僭越ながら。そのひとときを僅かなり永らえるために、私の知識をお役に立てる場もありましょう」
 その時には是非、と申し出る貴石の男に瞬いて――そして、
「……ありがとな」
 その時は頼むと告げた声は、殺しきれない熱を抱いていた。

「ふふ、ふふ。好いお話が聞けたよう」
 行く先に紡がれる結末を思い、イアは輝く瞳を和らげる。傍らで獅子のラウと命を繋ぎ、使い過ぎた力を癒しながら耳傾けていたクールナイフを労りながら。
「沈黙は花ということもありますしね。兵卒は口挟まず、唯耳を傾けるのみ――と」
「それは同感だけど……何、その笑顔」
 怪訝そうな匡の眼差しに、クロトは声を潜める。
「まあ、先程ので大凡察せたとも言いますが」
「……俺にはいまいち察せないんだけど」
 それでも口を挟まないのには同感だと、匡は先を見る。延々と砂地の続く風景にも隊商の見る道は確かであったらしい。暮れゆく空の下、彼方にゆらりとゆらめくものが、もし蜃気楼でないのなら、
「――カルカラだ!」
 シャハドの歓声に、やはりと目を伏せる。あの街に辿り着けば、護衛の仕事は完遂だ。
「時に、匡。砂漠の薔薇って、夢を叶える石なのだそうですよ?」
 お喋りの終わらない男の齎した言葉は、存外に興味を惹くものだった。へえ、と瞬いて、沈む軌道に入りながらもなお眩しい空を仰ぐ。
「夢を叶える、か。――そりゃ、俺みたいのには眩しいわけだ」
 途切れていた歌を、誰かが歌いはじめる。街はまだ彼方に見えたばかりだというのに、ひとり、ふたりと連なって、雄々しい響きでウグニヤ商会ここに至れりと謳い上げる。

 オアシスの街、カルカラ。小さくも華やかなその街に辿り着けば、夜には絢爛なる砂上の宴席が待っている。
 ――そしてその影に密やかに、果たされるべき邂逅のときも。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『砂漠の宴席』

POW   :    肉類や魚介類を食べる

SPD   :    穀物・野菜・果物などの農作物をいただく

WIZ   :    ナッツや香辛料を活用した料理を味わう

イラスト:伊原

👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●むかしばなし
 子供心に、危うい国だと思っていた。
 何かにつけて自分と弟とを対立させようとする家臣たちに親類縁者。双子に生まれ、こんなにも仲良く育ったというのにと訝しむ自分達にその理由が見えてきた頃には、セレンギル領主家は完全に二分しかかっていた。
 利権だの覇権だのと、領民の何をも勘定に入れないくだらない貴族たち。それに憤り、現状を憂える程度には、自分も弟も自領を、そこに住まう民を思っていた。それはこの国に生まれ育った自分たちには、別段、特別なことではなかったはずだ。
 同じ日の生まれとはいえ、長子たる自分が家督を継ぐものと教え育てられながら――目利きを自負するアガラには、弟の為政者としての優れた才覚は、火を見るほどに明らかで。
 だから、ある日『商人になる』などと言い出し周囲を仰天させたのも、由なきことではなかったつもりだ。固っ苦しいのは苦手だったしなと清々笑って、外を眺める。セレンギルの街を視界ひとつに納める景色も、これで見納めだ。
『これで俺は自由を手にし、お前は揺るぎない地盤を手に入れる。時間はかかるだろうが、内紛も次第に収まっていく筈だ。ただまあ……会えなくなるな』
 家族であり、友であり。何にも代えようのない片割れ。嘘も吐かず取り繕わず対等に、ありのままに語らい、関われる相手は――これまでお互いしかいなかったのに。
『そうだな。……失念してた』
 それを計画に入れるべきだったと、この企みを共に担った弟が、心底悔やむように言うものだから。自分は言ったのだ。
『――生きてりゃ会えないなんてことはない。会えばいい』
 今回のように、二人、策を弄して。一度はできたのだから、できない筈がない。自分も弟も、それぞれの道でこれからもっと、聡くなっていくのだから――そうならなければならないのだから。
『……できるだろうか』
『弱気になるな。そのくらいできるだろ。お前は俺の弟だぞ』
 できない筈がないと胸を張った自分に、弟はひっそり笑った。
『そうだな。――必ず会おう』
 家を捨てて生きていくことは、双子の顔の知れているセレンギルでは難しい。自分の顔を知らない旅商人に混ざり、この町を離れるつもりだと告げれば、それがいいと答えた弟はもう、澄んだ聡い眼差しに戻っていた。
『見習いのうちは無理だろうけどな」
『そうだろうな。でも、兄さんなら大丈夫だ。きっとすぐ大成する』
『お前が言うんなら約束されたようなもんだ』
 からり笑って握った手の感触は、この先も一生忘れない。
 同じ道の上、ずっと傍らにあった手。これからは互いの道を拓き、かたちの違う責を担う、魂の片割れの温もり。
『――また会おう、アジム』
『ああ。約束だ、アガラ』

 ――再開の日が訪れたのは、それから数年が経った晩夏のことだった。
 領主となった弟へ、出入りの商人を通じて文を届けた。何とはなしに双子と名づけた珍しい石の取引を持ちかけ、カルカラの町で段取りをする。
『お目通り叶い光栄です、領主様』
『此方こそ、名のある商家との取り引きが叶い嬉しく思う』
 アガラは恭しく俯けた顔をひととき、上げる。アジムはその顔を静やかに見下ろす。
 映し鏡の顔を悟られぬよう、密やかな夜の中で一瞬だけ、交わされる視線。同じ目の高さではない、立つ位置も地位も違う。それでも――それが『会う』ことのすべてでも構いはしなかった。
 互いの世界を堂々と生きる姿を――いや、己の半身の健やかな在りようを、ただ一目見られたならば、それだけで。

●宴の夜
 夜の帳に金砂の煌めきが沈み、あれほど苛烈に燃え盛った真昼の熱が去ったころ。
 男たちの勇壮な歌声が、カルカラの星空を震わせている。
 美しい、では言い過ぎだ。ある歌は荒々しく粗野に、ある歌は凛と力強く。歌われるこころは違おうと、人を愉しませんと紡がれるどれもが、生気に満ちた愉快な歌だった。
 陽気な響きに惹かれ、街外れまでやってきたカルカラの街の者たちを、商人たちの笑顔が出迎える。さあさ輪に入れ、遠慮は無用――これはウグニヤ商会の大宴会だ。
「何やってんだ? アンタ方がいなくちゃ始まらねえだろ。この旅の功労者だ」
 あの豪快な笑みを湛えたアガラは、猟兵たちの肩を抱き、強引に宴席へ引き込んでいく。豪勢な宴の気配に元気を取り戻したシャハドも、兄ちゃんたちはこっちな、姉ちゃんはあっち――と手を引くのに忙しい。
 決して安いものではないだろう、手の掛かった美しいキリムを躊躇いなく砂に広げ、松明と色硝子を艶やかに嵌め込んだランプをあちらこちらに灯して。客人たちの席には決して、憂いの影など落ちぬようにもてなそうと男たちは笑う。
 壺で運び込まれる琥珀の酒を柄杓で掬い、ねぶるような輝きを放つ金物の杯へ。空く暇など与えまい。甘い酒が好みなら葡萄酒の準備もあるし、舌に弾ける鉱泉水は、料理の脂を爽やかに洗い流してくれる。
 宴席の為に用意されたのは羊肉。大皿にとろりと甘い脂を滴らせているのは、大蒜や玉葱、秘伝の調合の香辛料とともに長時間蕩かされた煮込み。
 もう一品、料理人ごと借り受けて、炙る火に溢れる脂を落とす巨大な肉塊は、乞えば望むだけ細いナイフで削ぎ切ってくれる。こちらのスパイスは焼き料理に適した香り高い調合で、トマトやパプリカと和えた酸味に勝るソースとともに、人の顔より大きな麵麭に包んで食べるようだ。
 トマトと豆のスープに、鮮やかな緑色のスープの正体は、肌を澄ませると娘たちに人気のモロヘイヤだとか。白胡麻を纏った揚げ麵麭の中身は、胡桃や棗を甘く飴がけしたもの、これも子供や女性に人気の一品だという。
 挽き肉は根菜と葡萄葉包みに、淡い味わいの淡水魚はシンプルに香草で包み焼きに。熱々の大鍋を覆う白い彩りは、ベシャメルソースとチーズ――芋や茄子、トマトの煮込みと層をなしたその竈焼きは、切り分けて蒸し野菜と一緒に饗される。
 籠盛りの稀少な果実は、色鮮やかなプラムやベリー類が多い。酸味に勝る爽やかな果汁は、料理の口直しにもぴったりだ。
 豪奢な食事に勝るほど、ウグニヤ商会の宝飾に興味がおありの方もおられよう。それならすぐにでも商談を、一等美しいキリムの上を、至上の宝石に彩ってさしあげようとアガラは笑う。
「蛮歌彩る絢爛の宴によく訪れてくれた! 払いはこのアガラが引き受ける。今宵は腹が弾けるまで飲み騒ぐといい。砂漠に再び陽が昇るまでな!」
 わあっと上がる歓喜の声は、真昼の熱量。誰もが大いに食べ、大いに飲み、大いに笑い、そして歌い――砂上の蛮歌が絶やされることのないままに、夜は更けていく。

 そうして更けゆく夜の頂――尽きない賑わいの影で。
 眠たげなシャハドと、古株の商人ふたりを引き連れて、アガラはカルカラの古き城の裏手を密やかに訪ねていく。
 遠く砂丘の影を望む四阿に、合図のような小さな灯りがひとつ。従者を伴ってそこに待つ者と交わすのは僅かに一言、それが毎年の倣いだ。遠く故郷を離れようとも、ふたつの盛大なる宴席が街じゅうの人を集めようとも、映し鏡のようなふたりを見咎める賢しらな目が、そこに無いとは言い切れないから。
 ――けれど、もしも。
 ふたりを助く誰かの手があったとしたら――人々の目を逸らす術があったとしたら。
 秘めやかな邂逅に紡がれる言の葉の数を、手を取る時を、稼ぐこともできるかもしれない。
ザザ・クライスト
【POW】宴会、大団円に向けて

「プロージット!」

ジョッキを掲げてまずは一杯開ける
プハーッ、生き返る!
このために生きてるって感じだよなァ

「オマエもこれで一人前だな、良くやったぜ」

シャハドをねぎらう
コイツなりに不安だったろうになァ

「アドバイスだ。オマエは目がイイ、見張り役としては武器になるぜ」

商人としては? オレに聞くなよ

別荘への手引きには【暗い若者】を発動
自分とアガラを透明化させて移動する
商人二人とシャハドに猟犬レオンを先行させて【忍び足】で後に続く

「側からはオマエら三人と一匹にしか見えねェはずだ。あんま振り返ンなよ、特にシャハド」

ゲンコツを入れる
【暗視】で周囲確認と【情報収集】
レオンにも要警戒


ラティファ・サイード
グレと合流いたしましょう
良い夜ですこと
闇色の薄衣を羽織り、黄金の腕輪を身に着けて
そう言えば件の兄弟も揃いの腕輪をしていたそうね

うふふ、賑やかですわね
道中の苦難を乗り越えてこその絢爛かしら
夜の砂漠に沈む空気、奔る風
慕わしいものばかりですわ

琥珀のお酒を喉に落とせば
まろび出る熱帯びた吐息
プラムを口に運び瑞々しさを堪能すれば
思い巡らせるは感傷めいた砂漠の日々

…兄弟の絆
熱風に晒され断絶されても、尚も紡ごうとするもの
どんな香辛料より、宝石より
貴重なものなのかもしれなくてよ

ねえ、わたくしたちも揃いの宝飾品を見繕いません?
そんな可愛らしい年の頃ではなくとも
蛮歌に背を押される今宵なら許される気がいたしますわ


ニコ・トレンタ
お疲れ様!
さ、乾杯乾杯!
飲んで歌って宴会を楽しむよ!

皆かっこよかったよ。海の男にも空の男にも負けない……いや、これ以上さ!
皆のあの顔、忘れられないね。
それにあんた達の歌、かなり気に入った。
あんなに力強い歌は初めてさ。
ちょっと教えてくれない?


ハハッ、仕事の後の宴会はやっぱり楽しいね。
何か勝負でもする?負ける気はしないよ!
追加の酒も食事ももっと沢山もってこーい!

まさかもう潰れたのかい?
夜はまだまだこれからでしょう。
飲め飲め!歌えー!



●砂上の蛮歌
 ――ライラライラ、と上る声。
 夜の頂に向けてつめたく冴えていく空の、温度が和らぐことはないけれど。荒々しく熱っぽく歌われる音に、集う人々の手拍子は馴染み、空気のうねりを作り出していく。
 宴席の片隅には毛布もショールも充分に備わっているけれど、ことさらに寒さを訴えるものはこの席にはなかった。振る舞われる料理の甘い脂も馨しい酒も香辛料も、体の底に沈む熱を体表へと染み出させ、肌はしっとり汗ばむほどだ。だから、
「姉さんたちは体を冷やしちゃダメなんだからな! ホラ、ちゃんとくるまれってば……あああもう、絡むなー!」
 薄着の娘たちの間を飛ぶように駆けながら、毛布を抱えたシャハドは嗜めて回らなければならなかったのだが――、
「――プロージット!」
 この場では最も大きな樽ジョッキに、なみなみと満たした金色の麦酒は零れんばかり。知る者も知らぬ者も昂るまま、高々とかち合わせた泡をおっとと喉へ吸い込んだザザの呑みっぷりにふと、足が止まる。
「プハーッ、生き返る!」
「ははあ、兄さんイケる口だねえ!」
「ったり前だろ、このために生きてるって感じだよなァ」
 熱に乾ききった砂漠の風の中を駆け、躍動し、戦い、旅してザザはこの一杯に辿り着いた。身に沁み渡る苦みも泡も、陽気なムードも、体の隅々までひといきに潤していくかのようだ。
「……ん? なにボーッとしてんだシャハド、こっち来い、こっち!」
「うん!」
 言うが早いか、まだひょろりと細長い少年の体をぐいと片腕に抱え込む。その強引さが厭われないのは、先の戦いの中で少年から勝ち取った信ゆえだろう。
「オマエもこれで一人前だな、良くやったぜ」
「う、わ……!? 兄ちゃんに言われたとおりにしただけだ。兄ちゃんたちのおかげだろ」
 ぐしゃぐしゃと手荒く掻きまぜられる髪の下、くすぐったそうに――そして誇らしげに笑う少年。ザザは目を細めた。心地好い酔いにふらりと漕ぎ出す心の片隅で思う。
(「コイツなりに不安だったろうになァ」)
 尻をまくって逃げていい年の頃だ。百戦錬磨の護衛たちや、旅慣れた目上の商人たちと違って、危険に慣らされてはいなかっただろう。
「それでも懸命に、オマエは目を使い、足を使って、オマエの果たすべき役割を果たした。ソコは素直に誇っとけ」
「……――、うん!」
 褐色の肌に咲く笑顔が眩しい。あっ兄ちゃんこれ美味いんだ食ってみなよ、などと山に盛られた肉を平らげながら、ザザはそうだ、と問いを向ける。
「オマエ、これからもアガラについて歩くんだろ?」
「うん。あの人すげー強引だしバカみたいに前向きだしすぐ手ェ出るし、でもすげー人なんだ。商人としては」
 だからついていく、と迷いなく輝く瞳に笑う。
「なら、危ねえことからは逃げられそうにねえな。アドバイスだ。オマエは目がイイ、見張り役としては武器になるぜ」
 燃え立つ砂漠の獣を逸早く捉えたその目は、万全の備えや先制の一手を生むものだ。大事にしろよと見せた八重歯に、少年はさらに目を輝かせる。
「ホント? じゃあさ、宝石商人としても素質あんのかな? 真贋を見極める目とかさあ」
「バァカ、そりゃオレに聞くなよ。尊敬するカシラに聞いて来い」
「いって……!」
 ばしん! と思いきり背を叩いてやれば、自ら笑い、仲間には笑われながら、シャハドはアガラの許へ流れていく。少年の少年めいた問いかけに、追う背中を見せる男は何と答えるだろう。
 十色の答えを思い描いて呷った一杯は、また格別の味がした。

 自ら案内を果たしたひと仕事、その至った先を見届けて、ラティファ・サイード(まほろば・f12037)は砂上の宴席の片隅に腰を下ろした。
 闇色を帯びた薄衣は、その裡に慎ましく秘める肢体をいっそう魅せる。男たちの明け透けな眼差しを厭うでもなく、広げた扇でふわりと流し、傾ける杯には琥珀色の酒。とろりと喉を流れたあとは、熱を孕んだ吐息に変わる。
「うふふ――賑やかですわね」
 華燭の宴、この絢爛は、道中の苦難を乗り越えてこそ得られた輝きだ。思い思いに楽しむ立役者たちを閑やかな眼差しに映し取り、綻んだ女はああ、と嘆息した。
「良い夜ですこと。ねえ、グレ」
「ああ、全く砂の上ってのはこれだから堪えられないねえ」
「ええ。夜の砂漠に沈む空気、奔る風――慕わしいものばかりですわ」
 纏う布の下に胡坐を隠した女は、同じ杯をかちりと合わせ、全くだと笑った。高貴なる席だろうと与太騒ぎだろうと大らかに、砂のかいなに抱く世界は、呑み交わす二人の愛するもの。
 歌声は轟き、熄むことを知らない。不意を打つ変調に瞬いた金の眼差しは、自らの白い腕に黒の薄絹を留めおく、黄金の腕輪の上に宿った。そこから彼方に座すアガラへと目をくれ、肌蹴た外套の下に輝いた同じ色にふと、目を細める。
「そういえば、件の――兄弟だそうですけれど。揃いの腕輪をしていたそうね」
 プラムを食み、甘酸っぱい滴りを指先で拭う。濡れた手を乾かしに訪れる風の力強さは、不意に遠き過去へとラティファを誘った。
 かつて――いや、今も、と語ることを遮る道理は何処にもない。ラティファと唯一とを繋ぐ縁のごとく、あの兄弟を結び付けた因果。
 この好ましくも決して優しくはない渇きの地に灼かれ、ひとたびはふつりと絶えたかに思われたそれは、頑ななふたりの意思と猟兵たちの手のもとで今、確かに紡ぎ直されようとしている。
「……兄弟の絆。どんな香辛料より、宝石より、貴重なものかもしれなくてよ」
 そうだね、と歌声響く空に目を遣るグレ。それ以上を語らずとも、二人は痛いほど、微笑まずにいられぬほどに知っている。
 いかに愛おしみ慈しもうとも、縁とはときに無情に、無惨に絶えるもの。そのさだめを翻す術は、この世にそう多くない。ゆえに――細くとも続く絆の価値は、計り知れない。
「――ねえ、わたくしたちも揃いの宝飾品を見繕いません?」
 キリムの上、商人たちが無造作に並べゆく輝きを遠目に、誘うラティファは少女のようだ。
「まあ、そんな可愛らしい年の頃ではないと思っていらっしゃる?」
「あはは、睨まないでおくれよラティファ。――だけど、いいね。娘めいた戯れには縁はなかったからさ」
 あんたとなら喜んで、と笑う女に唇を綻ばせ、強い酒にも揺らぎもしない脚は相棒を連れてゆく。
 ――そう、年若い娘のように燥ぐことも。
 朗々と歌い重ねる蛮歌を追い風に得たならば、今宵限りはきっと許されるから。

「さ、乾杯乾杯! あんた達ちっともすすんでないじゃない、ほら、飲んで歌って楽しむよ!」
 客人に杯を乾す間も与えまいと、目を光らせては注ぎに回る男たちの腕を取って、ニコは朗らかな笑みで宴席の中へ引き込んでいく。
「仕事の後の宴会はやっぱり楽しいね。今夜は無礼講なんでしょ? もてなすももてなされるもないってほら、あんた達の杯こそからっぽだ。お疲れ様!」
「いやいや姉さん、労われるべきはあんた方だろ? ここは俺に免じて酌を受けてくれよ」
「別にいいけど、受けるからには注がれる覚悟もあるんだろうね?」
「おー怖い怖い! 呑みます、呑みますよ……っとっと」
 手酌も固辞も互いに許すまい。ちろり、油断ない横目使いで互いの杯を盗み見つつ、酒飲みたちの攻防は楽しげだ。
「皆かっこよかったよ。海の男にも空の男にも負けない……いや、それ以上さ! あんた達の雄姿を讃えてもう一回、かんぱーい!!」
「「「かんぱ――い!!!」」」
 辺りの猟兵たちも、雇われの護衛たちも、歌い騒ぐ商人たちも――大人も子どもも、男も女もなく。威勢の良いニコの声を号令に、笑顔も喜色を帯びた声も、今ぞと次々に咲き綻んでいく。
「……ん? また歌が変わったね」
 端の顔は見えぬほど広々と、設けられた席の連なり。その彼方で歌われながらも、熱を抱く歌声は勇壮に女の胸を湧きたたせる。
 ――砂金に沈みゃ宝か骨か 明日をも知れず往く道に
 ――痕も残らじと笑うがいいさ ヤーハハ ヤーハハイ
「ハハッ、いいね。あんた達の歌、かなり気に入った」
「美人に言われると男冥利に尽きるねえ」
「あれは誰が作ったんだった?」
「やっぱりあんた達たちが作ってるのかい?」
「おうよ、俺達ゃ立派に詩人だぜ?」
 手前で言うかとまた湧く笑いに、ニコもからからと笑みを添わせて――ふと。
「あんな力強い歌は初めてさ。ねえ、ちょっと教えてくれない?」
 強請る声に返る満面の笑み。否が返る訳もない。
 ――砂と同じに吹きゃあ飛ぶ 哀れな身上と笑う奴にゃ
 ――儲けた酒で酔わしてやるさ ヤーハハ ヤーハハイ
 太く細く、高く低く。合わせる声が馴染むまいとも気には留めずに。それこそがウグニヤ商会の蛮歌。
 荒ぶる絢爛は一夜限りに、砂上に痕すら刻まずに。けれどひとの心には、昂りを残す。
「ほらほらあんた達、歌ったら喉を潤さなきゃ。追加の酒も食事ももっと沢山もってこーい!」
 昨日までは知らなかった者の肩を抱き、ニコは歌うように叫ぶ。
「ねえ、あんた達今羽振りいいんでしょ? カードでもやろうか、何か賭けてさ。負ける気はしないよ!」
「……姉さん姉さん、そいつ今はちょっと勘弁してやってくれねえかな」
「え? ……えっ、ちょっと、まさかもう潰れたのかい?」
 酔い潰れたものはごろりと絨毯の上にひとり転がして。それでも輪から弾き出すことはなく。
 飲め飲め歌えと宴は続く。ひとの営みと交わりの燦燦たるひかりで、限りある一夜を照らしながら。

 ――そうして、呑むものも呑まざるものも、愉快な酔いにふわふわと心を浮わつかせた頃。
 客人たちとにこやかに酒を酌み交わしていたアガラは、ごく自然に席を立った。
「! ごめん、俺ちょっと」
「おや、つれねェなあシャハド。連れてけよ、煙草の一服も要り用になると思わねえか?」
 戦場で目眩ましに一役買った煙草の箱を、ザザがかさかさと振る。――何の故あって宴を離れるかなど分かり切ったことと、かぶり直した帽子の下でにやり笑って。
「! 兄ちゃん――」
 咥え煙草にくゆる紫煙がザザを包み込み、姿をかき消す。掴まれた手の熱に見えない存在を確かめ、シャハドはほっと息をついた。
 旅路のさなか、猟兵たちとアガラとの会話はシャハドの頭上で交わされていた。全貌は知れずとも感じるところはあったのだろう少年は、
「……うん、そうだね。アガラ様に力を貸してやってよ、兄ちゃん」
 力強くそう言って、ザザの手を導いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
やあ、うつくしい夜だこと
逸る熱さえ忘れたようで
琥珀の酒にご機嫌で煌めく石も並べたならば
さあさ僕もお返しと、いきましょうな

おいでおいで、夜の娘
踊ってくださる、僕のため
今宵皆様にお見せするのは猟兵の手掛けるゆめまぼろし
どなたか宴の続きの楽の音を、奏でてくださるかしら
一夜の逢瀬を瞬きほどでも二つ交わせるように
すこしでも目を意識を身体をいただきに歌おうか

僕も嘗ては僕らであって、きみはもういないから
お傍に居らずともまだ、そのお声が届くのならば
ねえ、一緒にいたい、ものでしょう
遠く違わずとも、願いの叶うならば

歌い踊る一幕と、夜も更けゆくのなら
砂に消える一夜の夢を
淡く融ける貝の吐息を
頂いた瓊翠でお届けしよう


ファルシェ・ユヴェール
彼の目利きであれば、私が纏う偽物に気付かぬ筈もなく
それで同業者を名乗る私は
有り体に言って胡散臭いものでしょう
にも関わらず
出で立ちではなく信頼して下さったそのお心
少々貰いすぎた気が致します

彼と従者が賑わいを離れる頃
余興など如何でしょうか、と人々の目を引き

砂漠に似合わぬ出で立ちに芝居掛かった振舞いで
UCを使ったすり抜け手品や脱出マジック
派手に、堂々と

宴の場から外れようとする気配あれば
目敏く見止めては次の手品の助手にと引き込み

他に人目を引こうとする者が居れば協力して場を繋ぎ
二人の事は手引きする方に託します

彼等の交わす言葉を、私が知る事はありませんが
――重責と高き志に合わぬ小さな約束
少しでも、その時を



●宴華極盛
 宴の場に残された商人たちが、ことさらに賑わしく華やかな歌曲を歌いはじめる。
 美しく織り上げられたキリムや目映い光を透かす色硝子、賑わいの席を彩る歌声と豪勢な食事。宴の席はきらびやかな舞台と見えて、その実は夜影の底に開かれる一幕の舞台裏であるのだと、訳知るものは察している。
 光の中をするりと抜け出たアガラたちを横目に、ファルシェはさて、と腰を上げる。
「ん? 兄さんどうした、まだ呑めるだろ?」
「ええ、勿論この後も楽しませていただきますが――」
 衆目を集めおくには新たな華も必要でしょう、そう傍らの商人に微笑んで。ファルシェは皆様、と声を張る。
「余興など如何でしょうか」
 この砂の地には異国のものと映るだろう装いのファルシェを、華やかに飾る石の殆どはイミテーション、偽物だ。確かな眼を持つ商人たち――ことに宝石商として大成したアガラに、それが見抜けぬ筈もなかっただろう。
 そんな様で『同業』を名乗る自分は、さぞ胡散臭く思われたことだろう。それでも彼らはファルシェに命を委ねた。出で立ちという表層ではなく、その内側に込められた掛け値なしの思い、差し伸べた手の真実を信じてくれた。
 いいぞやれやれ、と囃す街の人々に微笑みながら、心は行くアガラの背に吹き寄せる。
(「報酬もですが、そのお心――少々貰いすぎた気が致します」)
 アガラもまた同じであったことだろう。自分と失い難い仲間たちを守り、オアシスでの約束に心を砕いてくれた猟兵たちへ、宝飾でも金貨でも尽くせぬ感謝を抱いていた。宴の席に重ねられた言葉にも、青い眼差しにも、滲むだけでは足りずに溢れていた。
 それでも、とファルシェは思うのだ。――信頼というこころは、自分には過ぎた幸いであるのだと。
 この身にひとつでも多く人の目を捉えおく。それで報いられるものならば、
(「……この幸福のひとひらなりと、あなたに分かち返せるものならば」)
 左の腕を夜気に伸べ、右の手には杖を。さあお立ち合い――何が起こるかと食い入るほどに見つめる人々の眼差しを、勿体ぶるように見渡して。振り上げた杖が手加減なく左腕へ振り下ろされれば、女たちはきゃっと声を上げ、男たちはひゅっと息を呑む。
 ――けれど。手首までを覆った長い袖は、杖に打たれたそこからふわりと優雅に垂れ落ちた。
 衝撃に折れた訳でもなければ、刃なき得物に斬られた訳でもなく。はじめから通す腕などなかったかのように。
「す、すげえ」
「どうなってるの……!?」
 きらきらと輝く眼差しを向けて、もう一度、と請う人々へ微笑んで。ひとたび袖を振れば、何事もなかったかのように現れる左腕に観衆がどよめく。
 体の一部を、風孕むエネルギーと化すすべがある。ユーベルコードを知る猟兵にとっては『手品』と呼べるものではないが、惹きつけられた人々の中、同道の仲間たちはみな、楽しげな含み笑いで拍手をくれる。
「では次は、どなたかに助手を務めていただきましょう。――ああ、そちらの貴方、立たれた序でにどうかご協力を」
 我先にと挙がる手の中を泳ぎ、アガラたちの立ち去った方へ歩み出そうとする人の手を取った。驚いた顔に向ける微笑みは強気に優雅に、その男を余興の席へ引き戻す。
 ――そんな遣り取りの向こうに、同じように席を立たんとした一団があった。
「おや、どちらへいらっしゃるんで? まだ酔い足りませんでしょう」
「だってねえ、あなた方の頭目はどちらへ行かれたの? あなた方ではお話になりませんわ」
「ええそうですとも、私たち、あの方の愉快なお話を楽しみに参りましたのに!」
「こりゃ手厳しい。それじゃあ暫し、俺達に語らいの経験を積ませちゃいただけませんかね、皆様」
 毎年この地を訪れるアガラを慕い、訪れるものたちも少なくないようだ。その目を逸らすには少し酔わせ足りなかったかと、苦笑いで引き留めにかかる商人たちのもとへ――ひらり、夜風を泳ぐ淡い鰭が泳ぎ出る。
「やあ、うつくしい夜だこと。逸る熱さえ忘れたようでも、おふたかた、心の熱はゆらり猛っていらっしゃるのねえ」
 くすりと微笑むイアの姿に、女たちは目を瞠る。生の魅力に溢れたアガラの姿とは対極の、それは儚い美しさ。触れるそばから消えゆきそうな淡い水色の輝石の彩に、扇の内に隠す頬に朱が上る。
 ――それはねえ、だってねえ、年に一度しかいらっしゃらないのだもの。
 ひそひそと唇に乗せる不満に柔く眦を緩め、涼やかな風を抱き機嫌よく肩を揺らすイア。
 連戦を越え、休むひとときもない砂の旅路を越え。照り付ける灼熱の余韻を、するりと喉を流れ落ちた琥珀色の酒は高めるけれど――夜気に冷えゆく風はそれ以上に、冴える心と思惟を助けた。
(「――さあさ僕もお返しと、いきましょうな」)
 青く透ける鰭を大きく空に躍らせて、ご婦人方に恭しい一礼をひとつ。虚空に見えざるだれかを迎え入れるように手を伸べる。
「ひととせに一度のものがたりよりきららかなもの、ひとつお目にかけましょうな。――今宵皆様にお見せするのは、猟兵の手掛けるゆめまぼろし」
 おいでおいでと喚ぶ声に、くらくら漂う雨霧の色は透輝石。淡く煙った夜霧はただでさえ、砂の地には珍しいもの。
 それは嫋やかな娘の像を結び、イアの手を取り、女たちにしなだれかかる。惑い魅せる群舞の中に惹きこまれ、歌い手たちも声をひととき手放すけれど、
「どなたかどうか、宴の続きの楽の音を、奏でてくださるかしら」
 風に戦ぐ鰭、しなやかに巡る手足の運び、魅了する声。知らざる世界へ連れゆかれそうなイアの誘いに、男たちは我に返り、艶なる舞に似合いの歌を音高く紡ぎ上げる。
「ふふ、そうな。――どうかひととき、お忘れになってね」
 空震わせる歌は熱を呼び、夜の娘たちの纏う踊りは涼を運ぶ。そのはざまも知れぬ心地にとろりと眼差しを蕩かせて、女たちは現を揺らす夢の中へ踏み出した。
(「いますこしでも目を、意識を、身体をいただこう。かの方たちの一夜の逢瀬を、瞬きほどでもふたつ交わせるように」)
 商人へ目配せをひとつ。ゆらゆらと夢の心地に身を揺らす婦人たちを抱き支え、そっとキリムの上に預けると、イアは再び宴の席に泳ぎ出る。
(「僕も嘗ては僕らであって――きみはもういないから」)
 その事実に宝石の瞳を翳らせるつもりはなくとも、物思うことを止める日は訪れない。ゆえにイアには分かるのだ。
 此岸と彼岸と世を分けた訳でもなく、傍に居らずともまだ声が届くのならば、
(「ねえ、一緒にいたい、ものでしょう。――淡く融ける、貝の吐息を、頂いた瓊翠でお届けしよう。その願い、大事に叶えて差し上げましょうな」)
 今ならば叶うのだから――叶ううちのことなのだから。
 宴に飽いて余所見の眼差しの先を、歌い踊って、舞い潜って。イアは一夜の夢を紡ぎ続ける。
 更けゆく夜の先に、約束を果たしたアガラが戻るそのときまで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
アドリブ◎
うまい料理にうまい酒
それに賑やかな音楽と
いや~最高のもてなしだな
この…いい匂いの草(香辛料)とかなんか色々買って帰れば
こんな感じの料理作ってもらえっかな
ちょっと土産に買って帰るか!


しかし…会うっつっても一言だけか
そりゃ生きてるだけでいい
一目見て、言葉を交わせばそれだけでっつー気持ちもわからなくはねぇけど
…ねぇけど、だから、逆もわかる
会えるなら会いたい
話したいことなんか尽きるはずもない
それは覚えのある気持ちだから
だから…手伝ってやるよ

【鳥籠の反響】
聞いて覚えた賑やかな歌を高らかに響かせて周囲の視線を奪ってやろう
誰も二人を見ないように
二人の声を聞かないように
だからほら、安心して話せばいい


ユキ・スノーバー
(ご飯美味しかったなと思いつつ、自分なりに頭の中くるくる)
どうして、お話気軽に出来ない様に周りがしちゃうのかな?
兄弟仲が良いのなら、尚更もどかしく感じるんだよー…
よーし!もうひと頑張りして、少しでも二人がお話する時間を確保出来たら良いなっ
正直に言うと、無事目的を果たせるかまで見守る所まで…ええと
良い夜を迎えられるまでが依頼だもんっ!

そんな訳で、人手もとい熊の手を確保するべく
しろくまの行進行進で呼び出した皆と手分けして、周辺の人通りとかを確認&連絡(音が出ると不味そうならハンドサインや旗等で合図)
追いかけようとしたり、引き留めようとした人が居たら
お祭りで出たゴミ回収してる的な感じで声をかけるねっ



●声もまなざしも遠くへ
 ユキが抜け出した時分にも、普段は静かな筈の砂地の際で、盛大な宴席は衰えを知らず華やいでいた。
 さほど大きな訳でもない、オアシスの街の中心部でもそれは変わらない。渇いた地に潤いを齎す場所というのはそういうものなのかもしれないし、道行く人々の噂していた、どこかの領主所有の城で催されているという、もうひとつの盛大なる宴のせいかもしれなかった。
(「ご飯美味しかったな。ぼくの知らない味がたくさんだったんだよ」)
 砂漠の熱も渇きも、振る舞われる刺激的な料理も、常冬の地を生まれとするユキには新鮮なもの。舌を刺す辛みにぴゃっ、と飛び上がったりもしたけれど、口直しの甘いものも果物も素敵だったし、賑やかな人の輪の中での食事はとても楽しく、美味しかった。
 ――でも。宴の中心で笑うアガラを見る度に、ユキにはずっと心に掛かることがあったのだ。
(「どうして、お話しできないように周りがしちゃうのかな?」)
 立場だとか、地位だとか。大きな袋を引きずり、ひょいひょいとごみを拾い歩きながら、ユキは難しいなと首を傾げる。
 ふたりとも会いたいのに、会えない――そんな関係も世界にはある。彼らを取り巻く難しい環境が、そうさせているのだ。兄弟仲がいいのなら、尚更それは理不尽で――もどかしく感じてしまう。
「よーし、もうひと頑張りするんだよ! 良い夜を迎えられるまでが依頼だもんっ」
 一分でも、一秒でも。二人が話せる時間を守りたいと思うから。
「皆手伝ってーっ!」
 その道に誰も踏み込まないように、見張るたくさんの目があればいい。だから街に呼び招くのは、
「まあ、何かしらあれ、ぬいぐるみのようでかわいらしいこと!」
「行進……あら、違うのね。お掃除?」
 艶やかながらに好奇心旺盛な女たちの視線を釘付けにする、ユキの分身のようなしろくまたち。
 くるくる巻きのターバンに、色とりどりのチョッキ。砂漠に似合いの姿でぴょこぴょこ、愛嬌たっぷりに道をゆく彼らは、それだけで衆目を惹き付ける。――脇道へ入る商人たちなど、忘れてしまうほどに。
「おそうじおそうじーっ」
「賑やかにしたあとは、街をきれいにするんだよー」
「お姉さんたちも手伝ってーっ」
 しゅばっと差し出す手もお揃いに、誘うしろくまたち。その背後でぐっと握りこぶしをひとつ、ユキは影をゆくアガラたちを守るように、てててっと小走りに駆けていく。
 アガラとその兄弟が無事目的を果たすのを見守るまで、ユキたちの仕事は終わらないのだ。
(「あとはお願いするねっ」)
(「うんっ、まかせてーっ」)
 動かす口で伝えれば、街の人々を明るい方へと誘い出してゆくしろくまたちもぱくぱく答える。こうしてアガラたちは無事、人気のない裏道の影の中へと滑り込んだ。
 ――その先で、機嫌のいい鼻歌がふふん、と小さく流れ、ひんやりと乾いた風が黒く長い髪を楽しげに梳き上げていた。
 街の賑やかな灯も人の気配も希薄になりゆく、心細い道を行くというのに――セリオスの頬を彩る笑みは絶えることを知らない。
(「うまい料理にうまい酒、それに賑やかな音楽――と」)
 とりわけ三つめは、セリオスという存在、その人生にも大きな意味を持つものだ。時に、というよりほぼ常に調子っ外れの、一分の隙なく美しくは重ならない歌でも、あの宴席の空気には心地好く溶けていた。――いい歌だったと思う。
「いや~、最高のもてなしだな」
 けらけらとひとり笑うのも、酔いのせいにしてしまおう。すれ違ったオアシスの娘たちがくすくすと笑ったのも、この鮮やかな気分の中では一向、気にならない。
 宴の席を離れても、通りには家々の食事の匂いが微かに零れていた。取り分けてもらった料理の旨さ、珍しい食味に舌鼓を打ったセリオスに、商人のひとりが教えてくれた香草を思い出す。――ほら、あそこに生えてるあれがそうだと示された草は、確かに見慣れないものではあった。が、あの複雑な味を作り出すにはあまりにありふれても見えた。
「あ、さっきの草。ほんとにどこにでも生えてんだな……んー、いい匂い。……ん?」
 もしかして、と閃いた。
「この……いい匂いの草とかなんか色々買って帰れば、こんな感じの料理作ってもらえっかな」
 そうすれば。この場にいない友や仲間にも、この味を楽しんで貰えるかもしれない。
 ちょっと土産に買って帰ろうと、新しい思いつきに気をよくして。けれど道の真ん中を悠々と歩いていく理由は、気分の所為だけではなかった。
 ――ゆるりと行く自身を追い越していく背中は三つ。二人の商人にシャハドだ。仲間の術に身を隠されたアガラは見えないけれど、時折振り返るシャハドの視線の先に、確かに頭領はいるのだろう。
 酔いの温度はゆるやかに冷めていくのに、セリオスの心は熱度を増していくようだ。
(「……会うっつっても一言だけか」)
 深く心結ばれた相手。その絆が友のそれでも、家族のそれでも同じことだ。一目見て、息災であると確かめて、一言を交わす。ただそれだけが叶わないもどかしさ、ただそれだけをと焦がれる気持ちを知っている。けれど、
(「だからだ。――分からなくはねぇ、だから、逆もわかる」)
 膨れるばかりの人の望み。『それだけ』を願う心の奥に、それだけではおさまらない熱量は必ず隠れている。
 会えるなら会いたい、話したいことなんか尽きるはずもない。それは覚えのある気持ちだった。だからこそ、
(「いいぜ。……最後まで手伝ってやるよ」)
 ――ライラライラ、と。聴き覚えたばかりの蛮歌を、セリオスは唇に乗せる。
 始まりは柔らかに、次第に情感を、熱情を込めて。猛り奮い、砂の地を讃える歌のうねり、あの商人たちの重ねた詩情はそのままに、ほんの少しの技巧と天賦の声を、夜道にしなやかに響かせて。
 閉ざされた窓の向こうにそれを聴く子らは、冒険の夢に誘われ、酔いどれの歌と侮る往来の眼差しは、陶酔の中青年の上へ集う。
(「ああ、そうだ。もっと俺を見て、俺の歌に酔い痴れて、忘れちまえばいい。――訳ありげな商人の一団も面白いかもしれねえが、オレの歌には敵わねえだろ?」)
 セリオスは晴れやかに笑う。その喉に一曲を紡ぎ終えたなら、もう一曲。
 観客の目も耳も、自分のものだ。誰も二人を見ない、誰も二人を聞かない。だからほら――、
(「早く行け。そして安心して話せばいい。来年までもう話すこともねえってくらい」)
 人々の耳から消えた足音の群れは、セリオスの望んだ通り、速やかに閑やかに彼方へと遠のいていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
◆クロト(f00472)と


よ、クロト
手助けするなら、一枚噛ませてもらっていい?

え、祭り?
目的は果たしたし、いいんだよ
大体、ああいうの柄じゃないしさ

「知覚」するのは得意だよ
同じく高所に位置を取って周囲を探る
ランプの灯だとか、衣擦れの音、人の足音
捉えられる限りの徴候から感知

穏便なほうはクロトに任せて
不審なやつらの排除を主に
見咎められないように心掛けながら
可能な限り一撃で意識を奪う
あまり怪我をさせないようには心がけるよ
あとで、本人たちに変な噂が立っても困るだろ

たとえ傍に居られなくても
互いの幸福と無事を願う
家族って、そういうものなんだな

(もしかしたら、俺に命を託したひとも――)
……ん?
なんでも、ないよ


クロト・ラトキエ
匡(f01612)と。

宴はよかったんです?
けれどご助力頂けるならば、有難く。

『弟』に『カルカラで』『何としても会』う…
全てはその想い果たして貰う為。
グレの話に大凡察した時、湧いた些細な好奇心故。

四阿を見通せる高所より。
夜目も察知もそれ也に。
屋内、外問わず。音、光、人影…と害意を探り、情報は共有。
察知したら闇に紛れ接近。
迷い人なら、呑気に声掛け宴席へ。
楽しむで無い不審な輩は、UCで状態異常力補強。
眠りの毒を纏い、数が多いなら風もて広範に。
――宴の夜に物騒は似合わない。
君には、ひと時の夢を。

二人の語らいも、気にはなりますがね。
役目も好奇心も、此処まで。
今はこの解り易い隣人に、笑って頷く時かなぁって


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

さぁて、いいだけ呑んだし歌ったし。もう一仕事、サービスしちゃいましょうか。
折角の兄弟の再会なんだもの。邪魔する無粋な連中はまとめてはっ倒しちゃいましょ。

○目立たないように○闇に紛れて○聞き耳・忍び足・暗視で敵を補足。
○マヒ攻撃や気絶攻撃の●射殺で○暗殺して○お掃除しちゃいましょ。
あたしの得物ってけっこー大きな音するから、こういう時は向かないのよねぇ。
ダガーやルーンストーンの○投擲と〇グラップルメインで立ち回るわぁ。
イサ(停滞)・ソーン(茨)・ニイド(束縛)のルーンも活用して片っ端から○先制攻撃で潰してくわねぇ。

首尾よく終わったら、もうひと騒ぎしてこようかしらねぇ。



●ならず者へは鉄槌を
「――やっぱりな、こっちだと思った」
 クロト、と呼ぶ声に顔を上げれば、よ、と手を挙げる馴染みの顔がそこにあった。
 匡、とささやかな一声に笑みを含ませた男の眼下、商人たち一行が通り過ぎていく。彼らにすら気づかれぬよう声を潜め、
「宴はよかったんです?」
「え、宴? 目的は果たしたし、いいんだよ」
 大体、ああいうの柄じゃないしさ――と笑う男の頬には、僅かな酔いの気配さえない。アガラや商人たちの敏い目も誘いも、飄々と逃げ回ってきたのだろうと想像して、クロトはふと笑った。
「実に貴方らしいです。けれどご助力頂けるならば、有難く」
「ああ、『知覚』するのは得意だから。……クロトも気づいたか?」
 明るく賑やかな表通りも、アガラたちの選んだ裏通りも選ぶことなく、第三の通りを選んでここまで至ったものたち。悪気ない街の人々とは違い、明らかな追跡の意志を持って追ってきたその影には、戦場の気に慣らされた匡には身近な――剣呑な気配があった。
「……ええ、なんとも分かり易いことで」
 衣擦れの音、ひたひたと沈む足音。足許だけを照らすようごく抑えたカンテラの灯り。抜き身の曲刀、下卑た笑み、暗がりの中ですら品なく露わにした殺気――明らかな『ならず者』だ。
「宝石狙いか?」
「恐らくは。弱みを握って強請ろうなどと考えるのなら、アガラではなく相手方をつけ狙うでしょう?」
「確かにな」
 先に行きます、とにこり笑って、クロトは屋根を蹴った。閃く黒衣を音なく捌く術も、足音を殺す術も、ならず者たち以上に身に沁みついている。小さな頷きが返ったことは見ずともわかるから、振り返りもしない。
「――今晩は、良い晩ですねえ。どちらにいらっしゃいます?」
「……!」
 一本向こうの通りを横道から伺っていた一団は、その軽快な声にぎくりと身を竦ませた。
「な、んだ、おめえ……酔ってんのか? あっちに行け、用はねえ」
「そうつれないことを仰らず。今宵はあちらでもこちらでも大宴会でしょう? 戻って飲み直しません?」
 肩に腕すら回しそうな腕を邪険に振り払い、ならず者のひとりがちっ、と舌打ちをする。
「お頭、コイツやっちまいましょ」
「くそっ、余計な世話をかけさせやがって……!」
 刃はしゃん、と歌い、一斉にクロトへ襲い掛かる――が、
 ――キュイン!
「っ、何だ!?」
「てめぇ、何しやがった……!」
「えー? 僕じゃあありませんよ?」
 触れることなく逸らされた切っ先にどよめく一団に、にこり。人の悪い笑みを浮かべて、クロトは風の気を纏う。
「――信頼できる腕の為せる技ではありますが♪」
「……よく言うよ」
 自分でなんとか出来る癖に、と匡の口許が微かに笑う。高みからの狙撃に弾いたのは剣。影のように地へ降り立った青年は、自らの気配を悟らせることなく、グリップを首筋に叩きつける。
「うっ!?」
「お見事! さて僕もさぼっていられませんし――貴方がたには優し過ぎる気もしますが」
「う……ぐ……!?」
 転がったカンテラに照らされる顔には愉しげな笑み。喚び招く風の魔力が膨らませるのは、甘く柔らかな毒の夢。ひとたび囚われたなら深く深く、陽が上るまでは目覚めまいという混沌の眠り。
 『弟』に『カルカラで』、『何としても会』う――グレの話に大凡のことの輪郭を察した時、それは自身の裡に根ざすものともどこか重なった。
 そこからは、想いを果たして貰うために在っただけ。今とてそれは変わりない。
「――宴の夜に物騒は似合わない。君には、ひと時の夢を」
 告げる言葉は夢の扉。意識を失いぱたり、ぱたりと地に崩れ落ちていく男たちの中、抗う気骨を見せた頭領の懐に、唐突に影が飛び込む。
「……!?」
「その気概は認めるけど、これで終わりだ」
 叩き込んだ一撃に、とうとう全ての意識が途絶えた。零れた溜息と変わりない笑顔は、頭の高さでぱちり、互いの手を打ち鳴らす。
「目覚めたら全ては夢、ですかね」
「ああ。怪我はさせてないし……これなら兄弟に変な噂が立つこともないだろ」
 アガラたちは無事に行っただろうか――恐らく行ったことだろう。限界を越えて知覚する『六識の針』の効果の範囲からも、彼らの気配は消え失せている。
 見えぬほど遠くへ投げた匡の眼差しに、クロトは口の端を上げた。
「どうかしました?」
「いや……アガラの話を思い出しただけ。たとえ傍に居られなくても、互いの幸福と無事を願う。……家族って、そういうものなんだな」
 心ないと思っていた己が身には、その実感は真新しいもの。そしてそう思うほどにふと、顧みるこれまでの中、腑に落ちるものがあった。
(「もしかしたら、俺に命を託したひとも――」)
 思案する友人を、クロトは穏やかに見守るだけだ。自らをひとでなしと自称する匡の本質は、無垢でわかりやすい、と思う。その姿は、これから育つ余地のある心の種を抱いているようだ。
「二人の語らいも、気にはなりますがね」
「ああ。――俺たちの仕事はここまで、だな」
 役目も好奇心も、ここでお終い。紡がれる物語の先を知るものは、無事に出逢った二人だけでいい。

「……な、なんだありゃあ……!」
「兄貴、やめときましょう! あの連中、二人であの人数をのしちまった! どう考えても分が悪ぃっすよ!」
「う、うるせえ! 情けねえ声上げるんじゃねえッ」
 連なり倒れた男たちの遥か後方。縋りつく子分たちを振り払った大男が、ぎりっと爪を噛む。
「あいつらが逃がした魚を俺たちで頂こうってんだ。さっきの連中だってもういなくなったろうが! 行くぞ、野郎共!」
 豪商として名の売れたアガラのこと、似たような悪さを考えるものは彼方此方にいるらしい。
 しかし、威勢だけは良く物影から飛び出した大男は、気づいていなかった。
「さぁて、いいだけ呑んだし歌ったし。土地柄、ああいう歌も悪くなかったわねぇ」
 砂漠地方の強い酒をいいだけ呑んだと言う割には、確かな歩み。夜影の中、届けば男たちの背骨をたちまち抜き去ってしまいそうな甘い声で笑うティオレンシアの存在に。
「払いも悪くなかったし、もう一仕事、サービスしちゃいましょうか」
 折角の兄弟の再会、邪魔する無粋を許しはすまい。まとめてはっ倒しちゃいましょ、と唇を笑みに歪め、手にするはルーンを刻んだ幾つもの石。
 砂の地に活躍したティオレンシア愛用の銃は、大きな音を伴うもの。人の気配の耐えた裏通りにその音を響かせるのは、人の目を呼び込むことに等しい。それでは本末転倒と指先で弾いたルーンストーンは、目の前を通り過ぎた子分のひとりに的中する。
「ぎゃっ!?」
「! お、おい、しっかりしろ! 兄貴、こりゃあ……!」
「な、なんだ!? 誰だこの野郎ッ、姿を見せやがれ!」
「ふふ、そっちの大きいお兄さんはあんまりおつむが賢くないみたいねぇ?」
「ッ!?」
 次の投擲が首領格の首筋を掠めた隙に、ティオレンシアは振り返った男の正面に回り込む。息を呑む子分たちににっこり笑い、叩き込むのはダガーの柄。
「うぐっ……!」
 先刻の一団を片付けた仲間たちが言っていた。下手に血を流せば、アガラたちに要らぬ噂を立てることになりかねないと。
「うーん、そうねぇ……手加減とか、あんまり得意じゃないのよねぇ。下手に暴れると、うっかり殺しちゃうかもしれないわよぉ」
「こ、このォ……!」
 つまらなそうな物言いながら、得物使いは冴え渡る。束縛の『ニイド』を刻んだ一撃が逃れようとする子分を地に縫い付け、その隙にと剣を振りかぶった大男にはすかさず拳を呉れてやる。
「がはっ……!」
「あ、兄貴!? ――うっ」
 倒れた大男にとりつく子分の脇腹に一撃を入れ、ぱんぱん、としなやかな指先を払う。
「あら、首尾よく終わり過ぎちゃったかしらぁ」
 ――それじゃあもうひと騒ぎしてこようかしらねぇ。
 まだまだ酔い足りない女は踵を返す。砂の上に宴の席が続く限り、琥珀の色をした恵みの雫は、ティオレンシアの杯を満たすのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●再会
 猟兵たちの尽くす手に守られて、アガラたち商人一行は、城の裏に満ちる夜影の中へ、無事に密やかに滑り込んだ。
 目指すは四阿をふうわりと照らす小さな灯。透明化の術を解かれたアガラの顔は、僅かに引き締まる。
 ここで同じ高さの視線を交わすことは叶わない。早くその姿を見たいと急く心とは裏腹に、理性はアガラを俯かせ、薄暗い視界の上端に、照らされたセレンギル領主を――淡い光のような実の弟を、なんとか捉えんとしていた。けれど、
「――アガラ」
 喜色の滲む声の響きに迎えられ、アガラは思わず顔を上げた。見開いた眼を周囲に配る。
 零れる言葉や眼差しに繋がりを感じさせることは、カルカラでの相見では有り得なかったのだ。自分だけならば構わないが、弟には立場があるのだから。
 弟らしからぬ振舞いを地につく膝で窘めようとした途端、いいんだ、と体に手が伸びて押し留める。
「この場に人の目が届かないよう、計らってくれている方々がいるんだ。――だから、今年は」
 立場も振舞いも気にしなくていい、と控えめに笑う同じ色の眼差しが、ひどく懐かしかった。優しくも厳粛で公正なる『領主』という鎧を得る前の、十代の青年に戻ったような。
「お前も? 実はこっちも……」
「兄さんも?」
「ああ。ここまで色々あって――まあ、話せば長くなるんだが」
「こちらもだ。とても一言じゃ語り尽くせない」
 息を呑んでふたり、黙る。
 動揺と、昂揚と。数年越しの筈の『兄弟』の遣り取りは、昨日まで共に在ったようにはいかない。けれど、ふと。
「……いいか、話そう、アジム。どうやら時間はたっぷりあるみたいだしな」
 揺れた肩も、困ったように笑った顔も同じ。頷いた弟の手を掴み、肩を抱き寄せる。
 触れた掌の熱は、別れたあの日と変わりない熱を帯びていた。
ジャハル・アルムリフ
【後】
師父(f00123)と

上機嫌な師に、宴による腹拵えも万全
ならば礼には礼を尽くそう
師へと頷き
上空、または身を隠せる高所へ

師父、ちゃんと残しておくのだぞ
妥協なき眼差しが師らしく
…うむ、同意する

魔法は不得手だが、真似事を
金房踊るキリムを一枚、見えぬ【星の仔】へ預け
ゆらりと広げ城内を遊ばせる
王族に連なる者たちの、或いは哨戒の頭上を掠め
魔法仕掛けの絨毯が如くに
あと少しで乗れそうな、そんな位置を
楽しげに、四阿から遠ざけるように揺蕩い誘う

あとは咲いた光の影で
弾けるそれを見守るだけ

兄弟、家族…片割れ
どこか遠く響く言葉なれど
否、と空に寄り添う星を仰ぐ
なあ師父、この逢瀬は
きっと、あの二人なりの宴なのだな


アルバ・アルフライラ
【後】
ジジ(f00995)と
手中には天上の星も斯くやの煌き
先刻の戦を踏まえても充分過ぎる報酬
…ならば、差分は働かねばなるまい

人目を逸らす術ならば如何様にもあろう
例えば派手な花を咲かせたり――な
ジジ、空へ向うぞ
疾く支度せよ

従者の腕に座し身を隠しつつ
眼前は魔術の触媒たる宝石
…やや悩み、買い付けた宝石からも一粒
折角手に入れた上物を無駄にはせん
…が、どうせ選ぶならば殊に美しい物が良かろう?

空飛ぶ絨毯か
嘗て読み聞かせた物語を思い出せば微笑を堪え
皆が気を取られている内に魔力を充填
打ち上げたならば天に満開の花が咲き誇る事だろう
ふふん、奮発だ
光栄に思うが良い

ああ、ジジ――故に
いつまでも、心に残る夜になれば良い


冴島・類
【後編

宴では、彼らが今まで見聞きした話を
酒の肴に聞かせていただき酌み交わし
歌を教えていただきたいと請う
今夜は共に歌い

また訪れたいと縁交わせたら…
こそり宴抜け

満ちた身体を冷ますには
静かな城の裏手あたりが良い

薔薇の意味
折角会うかたわれ
邂逅をもう少し深めれたら
話の内容聞く気はないので
四阿の見える物陰に潜み
暗視、第六感活かし辺りに不審者がおらぬか見張る
灯環、君も手伝ってね
他猟兵さんいれば協力

不審者あれば、割り込み
自身を怪しませ
騒ぎにならぬよう
鏡で視界だけずらし
決して、覗かせない

絆が途切れぬよう
手を伸ばし合う願いの価値は
何にも代え難い

戻ったアガラさんの顔が満足気なら
良い時間だったのだなと闇に紛れ戻れたら


クールナイフ・ギルクルス
肉類は苦手なのでそれ以外を口にする
茶があるならば好んでそれを

彼らの宴会はとても気持ちがいい
依頼が成功した後の仲間たちとのバカ騒ぎを思い出す
暖かさと楽しい時間
なくなったものは戻らないが
会える人ならば少しでも長く時間を共にしてほしい
会えなくなってからでは、遅い

四阿の周囲を監視できる場所で
近づくものを見張るため闇に紛れ息をひそめる
暗い離れた場所からでも星明りがあればどこまでも見える
獣奏器を人には聞けぬ音色にして砂漠の生き物に語り掛ける
砂漠の梟には監視と伝達役
小動物には人の気を引いて四阿に近づけさせず
荷を引く駱駝の足を止めたり向きを変えさせる
逆効果にならぬようなら
人の行き先を変えるようラウにも願う



●時紡ぎ
 ――なんと気持ちのいい宴だったことだろう。
 城の裏手、手を取り合った兄弟たちをひとたび認めれば、それでよかった。纏う外套は闇に溶けるに適したもの。クールナイフは四阿が視界の端に入る一隅を選び、難なく夜の中に身を隠した。
 響く歌声、酔い騒ぎの一幕が、まだ心を揺らしているようだった。朗らかに立ち回る商人たち、知るも知らぬも巻き込んで笑う客人たち。その輪の中に、クールナイフはかつてを重ね見ていた。
 依頼が成功した後の、かつての仲間たちとの馬鹿騒ぎ。賑やかで、暖かくて、楽しくて――それはもう、振り返るしかないもの。今ここに再び重ねることはできないものだ。
 傍らに静かに添う獅子が、身を擦り寄せる。毛皮の感触と温もりに包まれて、頬を微かに動かしてちいさく笑った。
 星明かりのもとにものを視る術は、身に馴染んだものだ。多くの猟兵たちが、ふたりの再会の為に動いていることを知っている。故に、この城の裏手に至ってまだ誰かの侵入を許すことなど、ないかのように思われた。
 けれど、それを万全と言えるものはない。裏手と言えども城の敷地に違いはなく、かの弟領主に招かれた客人がふらり、酔いに任せて迷い出ないとも限らない。
(「――邪魔はさせたくない」)
 唇に添わせたなめらかな木の肌が、僅かに温かいと感じるほどの夜だった。金の蔓這う縦笛を吹けば、奏でられた音は人の耳には届かない。けれどひくりと耳を立てた傍らのラウや、オアシスの樹々に眠る鳥たち、砂の地に住まう兎や鼠たちには、それは呼び掛けの歌となる。
(「鳥たちは空から監視と伝達を。地を駆け跳ねるお前たちは、鳥たちの報せによく耳を傾けろ。城内の皆の目がこっちに向かわないように」)
 身動ぎをひとつ、散開する動物たちは意を汲んだのだろう。自分にはないのかと押し付ける鼻先で問うラウに、また笑う。
「……お前には、邪魔者が現れたなら役に立って貰う」
 それまで自分の傍らにと乞えば、満足げな吐息が髪を揺らした。クールナイフは鬣を梳いてやりながら、穏やかに紡がれる遣り取りを遠く眺める。
 その会話までは届かないが、話に花が咲いていることは知れた。
「……会える人ならば、少しでも長く、時間を共に」
 会えなくなってからでは、もう、遅いのだと。
 その言葉は、再会を果たしたふたりへのようにも、自分自身へ戒めたもののようにも響いた。

 星宿す瞳に、手にしたばかりの輝きが映り込む。
 掌に載る貴石の数々は、天上の星もかくやの煌めきを放っていた。戦いに注いだ心血に報いて余りあるほどの報酬に、アルバは相好を崩す。
 師の上機嫌を窺い見るジャハルには、すらりと大きな体躯に満ちた力こそが報酬。宴の席で振舞われた食事は、灼熱の砂漠に渇いたすべて、腹も気力も心さえも、潤し満たすに充分に足りるほどだった。
 こうしてふたり礼を尽くされたのだから――と、ジャハルは師の身を抱え、穏やかに始まった語らいの場の片隅を後にする。
 不躾な視線は送るまい。ふたりだけの語らいならば、ふたりのものにするのが正しいだろう。その為に今、自分たちはこの場を訪ねたのだから。
「過ぎたる報酬を受けたままでは礼を欠く故な。差分は働かねばなるまい。なあジジ」
「ああ、礼には礼を尽くそう」
 城の正面はざわざわと、宴を愉しむ人の気配に揺れている。その絢爛の影に、こうして密やかに整えられた会合の席を、敢えて気に掛けるものもそう多くはないだろう。だが、絶対とは言い切れない。
「ふむ、人目を逸らす術か。それならば如何様にもあろう」
 例えば、といくつかを脳裏に並び立て、不意に浮かんだ思いつきの鮮やかさに綻んで、アルバは弟子の名を嬉々として呼んだ。
「ジジ、空へ向かうぞ。疾く支度せよ」
「心得た」
 ジャハルに否がある筈もない。竜翼を夜闇に溶かし、風を打てば、ふたつの体は滑らかに空へと浮かび上がった。片腕を師の椅子としながら、すわ落ちるかと肝冷やす一幕の気配ひとつなく、ジャハルは慣れた風に緩やかに高度を上げていく。その途中で、
「遊んで来い。……ナジュム」
 僅かに眉根を固めたのは、不得手な術ゆえだ。指先で紡いだ魔術のひとひらは、星の仔――薄翅持つ星の蜥蜴と化し、ふわふわと下方を目指して空を翔け下りていく。
「……おや、何時の間に手に入れたのだ?」
 手回しのいいと可笑しげにアルバが笑ったのは、星の仔に預けたキリムのことだ。四方を金房に彩られた華やかなそれは一見して、嘗て師に読み聞かせられた寝物語、空飛ぶ絨毯のよう。ひらひらと愉しげに踊りながら、城の正面へと揺蕩っていく。
 同じ物語と思い出とを浮かべたのだろう、アルバは懐かしげに微笑んだ。
「成程、飽いた貴族らの目を惹くには相応しい余興となろうよ。さて、こちらも華やかに参ろうか」
 眼前にふわり浮かべ並べるのは魔術の触媒たる宝石たち。その中に、先刻アガラから買い付けた数多の色彩のどれに道行きの供をさせるべきか――さしものアルバも僅か、悩みを得る。
「師父、ちゃんと残しておくのだぞ」
「たわけ、分かっておるわ。折角手に入れた上物を無駄にはせん」
 こつりと弟子の頭を小突きつつ、だが、と翻る眼差しには、妥協なき澄んだひかり。
「どうせ選ぶならば、殊に美しい物が良かろう?」
「……うむ、同意する」
 ふふん、と笑って指し示した夜天に、魔法の種は真直ぐに飛んでいく。遥か彼方の頂にぱあん、と弾けたそれは、ひとつぶの宝石の輝きを余さず解き放つ、大輪の光の花と咲く。
「それ――次々行くぞ。ジジ、今度はあちらだ。疾く、もっと疾く翔けよ!」
 少年のように燥ぐアルバの声のまま、ジャハルは彼方を目指す。遠く彼方へと、兄弟の邂逅の場から無粋な眼差しを遠ざけるように。
 奮発だ、と笑う師の指先が咲き誇らせる光の花々を、最も近くで望む。華やぐ空がくっきりと形作った影の中、遠ざかるふたりへ思いは彷徨っていく。
 兄弟、家族、片割れ。――自分にはどこか遠く響く、つながりを謳う言の葉。
「なあ師父」
「うむ?」
「この逢瀬はきっと、あの二人なりの宴なのだな」
 影の中にあろうとも、明るみにできずとも――香り高い食事や絢爛の綾に飾られずとも、何よりも眩い一夜。
「――ああ、ジジ。そうであろうな」
 だからこそ、いつまでも心に残る夜になれば良い。オニキスの如き髪をくしゃりと撫でて、アルバは今宵一番柔らかな微笑みを零した。

 空の花に、身の裡に、綻ぶ熱に類は目を細め、静やかな城の裏手に身を置いていた。
 砂漠の大蠍を仕留めた話――話すうちにその大きさは子ども大から大人ほどへ、いやいやもっと此度の獣ほどもと変容していったのだが――や、商家への師事を装った盗賊を撃退した話、良質の宝石を巡る手に汗握る舌戦の数々に失敗談、などなど。酒で潤した舌は滑らかに、面白可笑しい虚飾を含んでよく回った。
 そんな物語を肴に酌み交わし、歌の調べに声を重ねる。そうして過ごしたひとときは、晩夏の風の涼しさを感じさせることもなく、未だに類の胸裏を温めている。
 アガラや商人たちと次々に握り交わした手に、類はまたの日の約束を刻んだけれど――その前に果たされるべき約束、並び咲く砂漠の薔薇の意味を深めるために、今はただ、影の中に静かに宿っていた。
「折角会うかたわれだからね。灯環、君も手伝っ……、おやおや」
 宴席から持ってきたらしい葡萄の実を頬張るヤマネの子に、思わず笑った口をそっと押える。――大丈夫、兄弟のもとへは届かなかったようだ。
 途切れない会話の声だけは、ひそやかな夜の淵に聴こえてくる。その話までもを知る気はもとよりなく、けれど時折上げる視線に映る四阿は、燈す灯り以上に明るく見えた。朗らかな談笑の空気を見れば、類も微笑まずにはいられない。
 猟兵たちの尽力あってこそ、この地に外から行きがかる者の気配は遠のいていた。華やかな火花も次々と空を染め、珍しいその輝きに城の客人たちの瞳も捉われていることだろう。けれど、
 ――チチッ。
 灯環に襟を引かれはっと目を凝らせば、城の一階に黒い影が見える。仲間が偵察に仕向けたのだろう、夜目のきく砂漠の鳥が気を逸らすように近づくのも見えた。
 ふたりの時を損なわぬよう、類は身を低くして城へ近づいた。この夜更けにはそぐわぬほど快活に、酔客めいた朗らかさを心に置いて、話しかける。
「今晩は。好い夜ですが、宴の眩さにお疲れになりましたか?」
 唐突に語りかけられた男が眉根を寄せる。身分ある者だろうか、怪しむような訝るような眼差しを敢えて受け、類は笑った。
(「――其の両眼、拝借を」)
 闇の中にきらりちかりと浮かび上がる薄片は、魔鏡のかけら。戦場のそれよりは大きく加減した光の煌めきは、相手の目に見せたくないものの像を匿し、見せたいものの像を結ぶ。
 奇妙な違和感に目を擦り、何事か不満を漏らしながら去っていく者を見送って、ふうと小さく息を零した。
「……行ったね」
 ――キュッ。
 そっと肩の相棒に指を差し出せば、小さな両の手で掴み返される。そう、絆が途切れぬようにとこうして手を伸ばし合う願いの価値は、どんな宝石にも、どんな価値にも代え難いものだから。
「もう少し見守ってから戻ろうか」
 類はその場に腰を下ろし、空を見上げた。
 やがて己の道へと戻るアガラの顔が、満ち足りたものであればいい。それを無事に見届けたなら、あの賑やかな宴席へ戻ろう。
 望まれない客人を見つけた相棒へ、新しい果実のひとつぶを贈るために。

●昔話の続きを
 懐かしい語らいに吹き寄せる風は、花の香を纏うかのように華やいでいる。
 この四阿に至るまでの危地、現れた魔物たち。道中の護衛を務めてくれた猟兵たちの活躍の物語も、互いの身に訪れた危険を思えばただ笑っては聞けない話。
 時勢の話に、勿論、互いの話――行商の旅や、領主としての執務に見知った各地の情勢のこと。そして、雑談めいた遠い日の昔話。
 舌に上る話は尽きることを知らない。要するにどれもが、『一個人』ならいつだって許される、そして二人には長らく許されなかった、他愛なく気安い話ばかりだ。
 けれど、それでさえも――いや、だからこそ今、紡がれる話のすべてが二人の心を躍らせている。
「仕事柄内政の話はよく耳にするが、セレンギルについちゃ悪い噂は聞かない。――やっぱりあの時、お前に任せて国を出て正解だった」
「兄さんこそ、もうこの辺りで名を知らぬ者はないほどの豪商だろう? 一代どころか二十年にも満たないのに」
 互いを讃えるそんな話も、会えど口に出すことは叶わなかったこと。互いの無事を確かめ合い、ひとたび視線を交わすのが精々で。
「……夢でも見てるみたいだな。お前の顔を一目見て、声を聞ければそれで充分と思ってたのに」
「そうだな。私ももう、こうしてただの兄弟として、気安く話す日は訪れないものと」
 それがあの日道を分った二人の覚悟だったのに、こうも容易く翻された。猟兵たちにはどれだけ感謝しても足りないと笑って――ふと、ランプの灯に浮かび上がる、よく似た悪戯な横顔。
 城から響く楽の音か、それとも。どこからか流れ来るかそけき竪琴の響きを心地好く聴きながら、アガラは望みを口にする。
「……なあ。来年も、こうしてゆっくり会えるんじゃないか?」
「実は私もそれを考えていた」
 ただ『会おう』と。道を違える覚悟だけを抱き、何の根拠もない言葉を励みに別れたときと、今とはは違う。
 ここまでの道程を助け、立ち塞がる脅威を越えさせてくれた彼らの手を、次の夏の暮れにもふたたび借りることがもしも叶ったなら、その時は。

 ふたりは領主と商人ではなく、双子の兄弟として、再びこの地に笑み咲かせることができるだろう。
 幾年月を経て漸く結ばれる、双子の石の花ではなく。空を並び彩る、瞬きの間に消える、絢爛の火の花でもまた、なく。
 晩夏の季節が巡るたび、あたりまえの顔で並び咲き、風に吹かれる――しなやかな野花のように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年10月13日


挿絵イラスト