エンパイアウォー㉞〜蒼天に虎、吼ゆる
「おれたちがこうして世界を救いだして、かれこれ九ヶ月。今回も、最後の仕事の時間だ」
壥・灰色(ゴーストノート・f00067)が呟いた。その場に集った猟兵らの顔を眺め、敵の詳細情報を空中にホロ投影。厳めしい顔立ちの偉丈夫、その後ろに侍る虎顔の奇人。
「識らないものももはやないだろう。彼は第六天魔王、織田信長。サムライエンパイアに暗躍するオブリビオン・フォーミュラにして、この戦争最後の敵だ。後ろの虎は武田信玄。彼は部下を『憑装』することで、その力を得て闘うようだね。攻撃の詳細については配布資料に纏めてある。……苛烈な規模で攻撃してくることは間違いないだろう。きみ達は、圧倒的な規模で、こちらよりも早く攻撃を繰り出してくる信長から身を守り、攻撃を叩き込んで貰う必要がある」
敵対象、織田信長は先制攻撃を行う。かつての強力なオブリビオン・フォーミュラらと同様だ。敵の反応速度はこちらをはるかに凌駕し、対策なき猟兵を次々と血の海に沈めてきた。
「きみ達には、鍛え抜いた技がある。ユーベルコードがある。智慧がある。それらをフルに活かせば、きっと突破口を見つけられるはずだ。……この戦争を終わらせよう。おれ達で。サムライエンパイアの晴れた空を、きっとみんなで見上げよう」
きっと、初秋の秋晴れが、おれ達を出迎えてくれるはずだから。
灰色はそうして言葉を結ぶと、立体パズル状のグリモアを操作。パズルは六面同色に揃って、空気を切り取りながら膨らみ“門”と化した。
――さあ、覚悟が出来た猟兵から門へ飛び込みたまえ!
エンパイアウォー、ラストエンゲージ!
敵対象、オブリビオン・フォーミュラ『第六天魔王・織田信長』!
グッドラック、イェーガー!
煙
お世話になっております。
煙です。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
『注意』
第六天魔王『織田信長』は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
エンパイアウォーも遂に最終局面となります。
信長も、命を捨てる覚悟で挑んでくるでしょう。厳しい戦いになりますが、ここまで辿り着いた猟兵達なら、彼を倒すことも決して不可能ではないはずです。
全身全霊の闘争を。プレイングをお待ちしております。
『採用人数』
可能な限り書くつもりですが、8/31に合わせるつもりで書いていきますので、やや少なめの採用となる見込みです。
先着順などはありません。各々方の渾身のプレイング、お待ちしております。
『受付開始』
公開後、即受付開始です。ご覧になった段階で受け付けておりますので、いつでもどうぞ。
第1章 ボス戦
『第六天魔王『織田信長』信玄装』
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POW : 風林火山
【渦巻く炎の刀】【黒曜石の全身甲冑】【嵐を呼ぶ樹木の翼】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 甲斐の虎
自身の身長の2倍の【白虎状態に変身した武田信玄】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ : 武田騎馬軍団
レベル×5本の【武田軍】属性の【騎馬武者】を放つ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり――か」
く、と偉丈夫――織田信長は喉を鳴らす。所は、いまや戦闘の余波に所々と燃え上がる魔空安土城の一室。
エンパイアに蔓延る徳川の幕府も、太平に安穏とする者共も、残らず飲み込み、再びこの世に武を布そうという考えは、猟兵達の決死の闘いにより、今ここに彼の夢、魔空安土城諸共に潰えようとしている。
「まさに夢幻よのう。掴もうと手を伸べども、儂の手の内を胡蝶のごとくに抜けていきおる。ここが儂の二度目の本能寺か」
ぐい、と、盃を傾けた。一息に飲み干せば、信長は腰より打刀――その丈二尺三寸、『実休光忠』を抜刀。
「なればここより先も果てるまで刃振るのみよ。或いは案外、死中に活が見えるやも知れん。――いずれにせよ、腹を切るのでは面白くもない。で、あろ? 信玄?」
ずぁっ――
信長の背後に、虎の貌をした鬼人の影あり。――オブリビオン、武田信玄の残骸、『憑装』である。蜻蛉が如くゆらめき、信長の傍に侍るように立つ鬼人は、しかして黙し、何を語ることもない。そこにいるのは、文字通りのただの憑き物に過ぎぬ。
そして信長もまた、返事を期待せぬかのように続ける。
「お主に名乗った通りの名で猟兵どもと対するのだ。最後まで見届けていくがよい。――さあて」
信長は襖を隔て、走ってくる足音を聞いた。幾つもの足音を。
「来るがよい、猟兵ども。無念の炎に焼かれて死ぬは、主らか、儂か」
――ぱあんっ!
襖が開き、広い室内へ猟兵達が雪崩れ込む!
第六天魔王は笑った。燃えさかる炎の目の色で。
「此度の生ではどうなるか、いざや身命賭して確かめようではないか!!」
ルベル・ノウフィル
いざ勝負でございますな
疾如風
早業は全てに活用
魔導式天球儀のスイッチを入れて戦場にぐるりと「彩花を目立たなくさせる」同色花景色を映し出し
徐如林
彩花は念動力で静かに戦場全域に浮く
山を動かしてみせましょう
念動力・トンネル掘りで敵の足元を崩す
難知如陰
オーラ防御を纏い、夕闇マントとその下の亡夜が僕を守る
負傷は望むところ
動如雷霆
痛悼の共鳴鏡刃を投げて反撃の狼煙とし、浮かせていた彩花を全て敵にぶつける
侵掠如火
同時にUC:遊戯
捧げるは僕の亡夜が主に貰ったという記憶
足りなければ主の顔を忘れましょう
滅べ滅べ滅べ
僕が滅ぼしてやりましょう
死を呼びましょう、死を愛でましょう、何もかもを僕が拒絶する
全部消えてしまいなさい
●オブリビオン・フォー・キリング・オブリビオン
猟兵らはほぼ同時に殺到し、そのおのおのが敵の先制攻撃を警戒していた。
しかし敵は総大将、第六天魔王・織田信長! その絶剣、熾烈なり!
「いあァァッ!!!」
裂帛の気勢が空を裂いた。打刀、実休光忠が炎を捲いて唸る。――轟ッ!! 唸り轟く地獄の業火は、嘗て信長の身体を焼いた炎か! 刀に纏った炎は無限遠を裂く刃の如くに、一刀にて多数の猟兵らを薙ぎ払う!
伸びる炎の刃に実体はなく、従って受け止められる由もなし。いずれの猟兵も身を捌いて回避する中、一人、『魔導式天球儀』に灯を点す猟兵がいた。
疾きこと風の如し。既に行動は始まっている。
「いざ勝負、でございますな。第六天魔王――織田信長」
白銀の毛並みした耳を跳ねさせ、密やかなソプラノで謳うのはルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)。彼の背、地に据え廻る天球儀が、周囲ぐるりと花景色を映し出す。鉄火疾る戦場に不似合いな光景に、信長の眉間に皺が寄る。
「うつけが。いくさ場に斯様なものを持ち込んで、それで首が斬れるか、儂を殺せるか!!」
「それは事が済んで、生き残った側が確かめればよろしい」
ルベルは少年らしからぬ落ち着いた語調で言い、間髪入れずに跳ねた。一瞬前まで彼がいた位置を、信長が振るう烈火の剣が裂く。
天球儀より出でて周囲を覆う花光。しかして徐かなること林の如く、ルベルはその影に刃を奔らせている。しかし、未だ放たぬ。未だ。未だ。
「小賢しくもよく逃げる。逃げ場を無くしてやったらどのような顔をするか、拝んでやろうではないか!!」
烈火の剣が尚燃ゆる。なるほど、各所の延焼は信長がこうして放つ炎の天剣によるものでもあったか。一呼吸に数合、全方位に放たれる炎の刃は最早回避すら困難。
猟兵らが必死の防御、或いは退避を繰り広げる中、ルベルはマントに“力”を込め、闇色の障壁を成してその炎を防ぎ止める。……否、防ぎ止めようとした。
天すら焦がす業熱が、夕闇を食らう。光を食えれども熱はどうかと吼え猛るように。
「……!」
ルベルは炎熱の余りに表情を歪めた。闇のオーラが弾ける。突き抜けた熱が一瞬で彼の左半身を焼き焦がした。それでも、足は動く。遮二無二左に逃れた。一瞬で消し炭とならなかったのは、偏に彼の『夕闇』を使った防御行動、そして『亡夜』の性能故だ。
半身は焼け、手も足も顔にも火傷が及ぶというのに、少年は炎に紛れ迷いなく疾る。おお、知りがたきこと陰の如く。――対する信長が動かざること山の如くと決め込むならば、
「山を、動かしてみせましょう」
花光舞う戦場の床に、ルベルはどん、と、杖の石突きを打ち付けた。
「――なんと!?」
信長の驚愕の声。床の骨組みが瓦解し、抜ける。ルベルが一階層分とは言え、念動力により足場を崩して床を抜いたのだ。その場に立っていた全員が自由落下に入った瞬間、ルベルは目を見開き、宙をひらり落ちる畳を蹴って舞い跳んだ。
――動くこと雷霆の如く。
「僕が滅ぼしてやりましょう。死を呼びましょう、死を愛でましょう、何もかもを僕が拒絶する」
焼けて引き攣れた左手に短刀を抜くルベル。決然とした声を彩るようにけたけたけたけた、と短刀が笑う。『痛悼の共鳴鏡刃』と銘打たれた刃。棲んだ死霊がルベルの疵に悦び笑う。ルベルは間髪入れずに、嗤うやいばを投げ放った。
「小癪ッ!!」
信長は一喝。閃光のごとき一閃が短刀を弾く。しかし――
「滅べ、滅べ、滅べ、滅べ滅べ滅べ、――全部、消えてしまいなさい」
それはきざはしに過ぎぬ。
ルベルは呪いめいて言った。天球儀から光が失せる。
刹那、落ちる信長を取り巻くよう現れるのは、呪札『彩花』。――否、それははじめからそこにあった。天球儀を点した時点で、既に張り巡らせていた罠。花光を迷彩として四方八方に浮かべし生奪の刃だ。
信長が目を見開く。今、此所に計、成れり。
――侵掠すること火の如し。
ルベルの中より、己を護った『亡夜』を誰から授かったか、という記憶が蒸発する。
彼の記憶を威力に変え、六合より信長へ、死霊の刃と化した『彩花』が降り注いだ。
「ぐッ、うううう!!」
噴き出し、舞い散る血。荒れる炎。
ルベルは、宙の畳や梁柱を蹴り後退。階下へ舞い落ち――信長を見やりながら、記憶の空隙を悼むような息を、一つだけ零すのだった。
成功
🔵🔵🔴
雲鉢・芽在
魔王を相手に実験だなんて、はしたないですが少し気分が昂ぶっていますの
信長様、少し私に付き合っていただいてもよろしくて?
外傷に強い鎧であっても生物では有れば呼吸が出来る隙間くらいはあるのでしょう?
懐には割れ易い瓶に体内粘膜を焼き焦がす揮発性の毒液を仕込んでありますので、上手く割れるよう隙を作りながら攻撃を甘んじて受け入れますの
神経麻痺毒を口に忍ばせ直前に飲み込みますので、動けはしませんが痛みはマシになるでしょう
ふふ、流石に熱や極度の痛みは気分が悪くなりますわ
しかし髪が焼け焦げようと、身が引き裂かれるようとも、貴様に私の毒が通じるという"実験"が出来るのであれば、喜んでこの身を差し出しましょう
●焼け落ちる毒蛾の見た夢
崩落した地面を蹴り継ぎ、猟兵らは一階層下へ落ちる。最も早く着地した信長が、身体より噴き出た血を紅蓮の炎として燃やし、猟兵らを見上げて吼えた。
「この程度では儂は死なぬぞ、猟兵よ!!」
「――でしたら、ねえ、信長様。少し私に付き合っていただいてもよろしくて?」
とうん、と宙の瓦礫を蹴ってひらり舞う、美しい蝶――否。貴蛾めいた女の姿あり。その手にはタンクとホースでつながった噴霧器。禍々しく錆びた色合いは、とても年頃の少女が持つには似つかわしくなかったが――それこそが彼女の武器だ。
相対距離十五メートル。ひらり降り立ちスカートの裾をつまみ、雲鉢・芽在(毒女・f18550)は誘蛾に――優雅に一礼をする。
「刀も持たずに何かと思えば。――疾く失せろ。女子供を斬るのは好かんが、我が武に対するならば尼とて殺すぞ」
「ご安心くださいまし。端から、こちらも殺す気ですわ」
うっすら笑んだまま芽在は謳う。
「魔王を相手に実験だなんて、はしたないですが少し気分が昂ぶっていますの。加減が出来なかったら、ごめんあそばせ」
薄笑いを崩さぬ芽在に、すう、と信長は表情を消した。酷薄な表情。打刀、実休光忠が信長を捲く轟炎を帯びて、ギラリ煌めいた刹那、
「よかろう。ならば死ね」
ず、ごおぅうっ!!
爆炎を帯びた刀が、唐竹割り、一直線に芽在目掛けて振るわれた。芽在は一打目を斜め前に踏み出すことで避け、接敵を試みる。返す刀に、天地を分かつような真一文字の胴凪一閃。これをすかさず飛び込み前転回避。辛くも避けて信長へ踏み出そうとした正にその瞬間、
芽在の視界を、業火が埋め尽くした。
「――!」
人一人にそこまでの火力は不要であろうと思わせるほどの、火柱めいた炎の斬閃が、連続して芽在に叩きつけられた。小さな身体が瞬く間に炎に飲み込まれる。
「うつけが。力の差すら測れぬか」
圧倒的であった。オブリビオン・フォーミュラ、織田信長。
芽在をたやすく葬ってなお、その実力は未だ一端しか見えぬ。彼は悠々と、他の猟兵に向き直ろうとして――目を見開いた。
――他の猟兵が、その姿をとうに潜めていることに気がついたのだろう。
「……!」
信長は刺激臭を感じたように口元を覆い、咳き込んだ。肺腑に焼けるような痛みがあるだろう。そう仕向けた。彼女が。雲鉢・芽在が。
延焼する炎の斬撃跡から飛び出す影一つ。芽在は襤褸襤褸になって、焼けて皮膚に張り付いた衣服もそのままに駆けた。美しい髪は焼け焦げ見る影もないが、それすら炎の中に焼け落ちる虫の、一瞬の造形美に見えた。噴霧器の中に満たした毒を高圧で撒いて火勢を一瞬だけ弱め、あの猛火を一度だけ掻い潜ったのだ。二度目はあるまい。次こそ消し炭だ。しかして彼女はその狂気の道を潜り抜け、前進したのである。
「ふふ――熱い、熱いですわね、焼けるよう、気分が悪くなりますわ――」
「ッかふ、……! 文字通りの毒婦というわけか、小娘!!」
蒸発する毒が、信長の肺を冒したその一瞬の間に、芽在は力を振り絞り距離を詰める。
噴霧器を突き出すようにして信長の顔面に目掛け毒を放たんとする芽在。しかし、猟兵とはいえただの娘。格闘に長けるわけでも、流派を修めたわけでもなく、突き出す動きは隙だらけ。
故に信長は迷い無く斬った。彼女の身体を袈裟懸けに、ばっさりと。
「う、」
呻き。死に瀕した、漏れるような声。
だがすぐに、それは、
「っぐ、うううおおおッ!!?」
信長の苦鳴に上書きされた。
「っふふ、ふふ、うふふっ……とっておきの毒の味は――いかがかしら? ああ――そんなに悶えるなんて、きっとお気に召していただけたのでしょうねえ――」
ああ、
それは呻きではなく、嗤いだった。芽在は嗤った。周囲の猟兵を巻き込まぬように退避させた上で、自身の痛覚を、斬られる直前に神経麻痺毒でブロック。噴霧器はブラフ。攻撃を食らう前提で――懐の瓶を斬らせ、爆発的に揮発する粘膜浸潤毒で、信長の肺腑と目を焼いたのだ。
正に自殺覚悟。狂を発したとしか思えぬ策。しかしてその狂気は、ここにこうして結実した。信長に持続する感覚器へのダメージを与えた。しかも、単身でである。目覚ましき戦果と言っていい。
目を押さえ、呼び覚ました武田騎馬軍団に身を守らせながら後退する信長の姿が、意識ある芽在が最後に見た光景であった。度を過ぎた失血に――意識が、闇に沈む。
成功
🔵🔵🔴
戎崎・蒼
◎
【宮前·紅(f04970)と行動】
SPD
いよいよ惨憺たる頭目のお出ましという訳か
…とは言え、相手が魔王だろうと何だろうと関係ない
僕達で愚行を正すだけだ
兎に角、紅が白虎を引き受けてくれる代わりに僕は信長の対処を
UCは何を重視するのかは不明だ
だからこそ全てを壊すつもりでSyan-bulletを装填して攻撃をしようか…確実に(スナイパー+援護射撃)
テルミットの反応温度は3000℃程、それで全てを融解する
そうして隙が出来たのなら僕のUCで、相手のUCを封じよう
どちらも無傷の勝利とは行かないだろう
けれど一蓮托生で“いつも通り”に行こうか
…死なば諸共、とも言うしね?
宮前・紅
◎
【戎崎・蒼(f04968)と行動】
POW
強そうな奴がやっと出てきたね、あはは楽しめそうだなあ♪
でもあんまり巫山戯るとアイツに怒られそうだからちゃっちゃと殺っちゃおう。
俺は蒼くんに向かってくるUCを対処するね。
その為に先ず攻撃に備えようか。
人形を巨大化させて、防御をとる(武器改造+拠点防御)
騎乗しているのなら、その足元を狙って糸を張り進行を阻害(時間稼ぎ)
そうしたら、反撃に出よう。
無傷とはきっと行かない、血も流れるよね。
だからそれを有効活用させて貰うよ。
UCを発動して、その流れた血を代償に発生させた引力で意識を俺だけに向けさす。
蒼くんへの攻撃を全部引き受けるよ(かばう)
目を反らすなよ、魔王
●紅き靴、蒼炎に舞う
「いよいよ惨憺たる頭目のお出ましという訳か……とは言え、相手が魔王だろうと何だろうと関係ない。僕達で愚行を正すだけだ」
武田騎馬軍団が、宴会場めいて広い室内を馬蹄でけたたましく踏み荒らす中、静かに呟く声があった。戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)のものである。彼は騎馬武者と猟兵らが相争うのを見ながら、その陣の奥に構える信長の姿を見通している。
「あっは、やっと強そうな奴が出てきたね。今度こそ楽しめそうだなあ……おっと」
静かな声の横合いから場違いに明るい声。蒼の視線を受け、唇に人差し指を当て、塞ぐように続く言葉を止めたのは宮前・紅(三姉妹の人形と案内人・f04970)宮前・紅(三姉妹の人形と案内人・f04970)である。
「巫山戯ちゃいないさ。蒼くん、作戦は打ち合わせた通りでいいね?」
「問題ないよ。始めよう、紅」
「了解。じゃ、ちゃっちゃと殺っちゃおうか」
蒼が抜くのは特殊前装銃『Sigmarion-M01』。対する紅の指には糸が絡む。その糸は彼の名前のような色を、
「おいで、Elsie、Lacie、Tillie」
紅が糸を手繰れば、人形の三姉妹が瞬く間に巨大化し、紅よりも大きくなって地に足をつけた。
「行くよ」
「ああ。――一蓮托生、いつもの通りに」
名前も髪の色も、寡黙さも饒舌さも、何もかもが正反対の二人は、しかし一丸となって走り出した。
「さぁ退いた退いた! 亡霊武者になんて興味はないよ!」
巨大化した人形達の全高は騎馬武者の頭の高さよりもまだ高い。他の猟兵が乱戦に持ち込んだ効果もあったが、紅が操る人形三姉妹は効果的に騎馬武者を蹴散らしていく。それを後ろから、蒼がマスケットの『連射』で援護する。彼のマスケットは、銃弾を銃身底部に召喚する事で連射能力を得た、異形の前装銃だ。
「――まるで車懸りよのう」
次々押し寄せる猟兵らの攻撃を揶揄するように重い声が届く。
弾かれたように紅が首を振り向けたその先には、言うまでもない。第六天魔王・織田信長が仁王立ち。目元は引き攣れ焼け、声も澱んだ嗄声だ。しかして未だその存在感、威圧、健在である!
「ならば信玄、お主の身体を借りようか。車懸りには縁があろ。――くっく、つくづく浮世は分からんものよな!」
がああう、全身が総毛立つような、おそろしい虎の吼声がした。信長が跳躍するなり、それを受け止めるのは巨大化・獣化した憑装・信玄である。――その姿、まさに白虎の化身。甲冑を帯びた巨大な虎である!
巨大化した人形達でとて、決して容易には――否、受け止められるのか? と紅が一瞬自問するほどの威圧感。それも当たり前か――敵は第六天魔王、織田信長。加えて天台座主沙門信玄!
「往けい信玄!! いくさぞ、ここが大一番ぞ!!」
信長が吼えるのに合わせ、白虎――信玄もまた咆えた。弾丸のように突っ込んでくるその巨体に、紅が採る策は――足止め、そして拠点防御だ。
駆け来る白虎の前足に糸を張り巡らせ、時を稼ぐ――つもりが、
「下らぬ!!」
まるで絹糸を千切るように極細ワイヤーが引き千切られる。敵の質量、運動エネルギー、強健さの前ではワイヤーの数本では足止めにすらならぬ。
「やってくれるじゃないか!」
紅は口の端に笑みを引っかけたまま、三体の人形を前進させた。ワイヤーが千切られたとて、彼の仕事は終わらない。人形を前進させ、三位一体にて信玄の突撃に真っ向からぶち当たる!
大音がして、信玄の進攻速が緩む。だが、
「今度は少しは骨があるが――しかし、この木偶共は貴様を亡くしてもまだ動くか?」
信長の背に、樹木の翼がバキバキと音を立てて伸びた。紅が目を見開いたときには翼が一度羽撃き、空を引き裂き、無数の真空波を孕んだ飄風を巻き起こす。
「っぐ、ううっ!」
白虎に化身した信玄の突撃、そしてオブリビオン・フォーミュラたる信長の攻撃。それを一人で受け切ろうとすれば、どれだけ対処が強固だろうが、一人の猟兵が無傷で為し得るわけがない。
一瞬で紅の身体は真空波に切り刻まれ大量出血。愛用のヒールが深紅に染まる。
信玄に押し負け、人形の関節が軋み、砕ける。徐々に圧され出す。巨大な歯車に巻き込まれた砂礫のように、紅は今まさに砕かれ潰されようとしていた。
――だが、それでも、彼は。
「紅っ!」
後ろから、紅を案ずる声がした。
無数の銃声と共に降り注ぐのはSyan bullet。射手の名のごとく蒼く燃える、摂氏三〇〇〇度超の殺意の形。
「猪口才なッ!!」
信長が打刀を振るい、弾丸の群れを真っ向から受けた。叩き落とし、抗する如く紅蓮の炎で焼き、その身に数発を受けつつも、蒼の銃弾の熱を、己を取り巻く地獄の炎で捕り篭めて己が熱に転化する。
効いていないわけがない。無傷なわけがない! だが一向に動きを鈍らせぬ! 無敵ではないのか、と疑う猟兵が出てもおかしくないほどに。
「鉄砲衆か。影に隠れてこそこそと。やる分には愉快だが、やられる側となっては業腹よなあ! そこへ直れ、その首討ってくれる!!」
「いいや。お前は蒼くんの所には行けないよ」
紅は、全身から流れる血に紅のブローチを浸した。ブローチを中心として血がパキパキと固まり伸びて、鍔飾りに紅玉を戴く紅きレイピアに化ける。
満身創痍。既に死に体のはずの紅は、しかし。
前に立ち、蒼への攻撃を全て引き受けると決めたのだ。
「こっちを見ろ。『目を逸らすなよ』、魔王」
紅はその時初めて、ユーベルコードを起動した。彼が用いたのは『万有引力の紅榴魔石』。流した血を代償に、敵の『敵意』を己に引き寄せつつも自己強化を行う、ヘイトコントロールのユーベルコードである!
「なんだと
……!?」
剣や、炎、まして信玄の爪牙で抗しうるものではない。引き寄せ、多量の血を代償として振るう術なればこその束縛力!
信長は紅から視線さえ外せなくなる驚愕から立ち直るなり、
「面妖な! 貴様を斬って捨てれば同じことであろう!」
樹木の翼をもう一度羽撃かんとする。しかしその刹那!
「炎の剣は無理でも――それなら、充分に焼けそうだ」
ど、が、が、がががががががががっ!!
今一度、ガトリングガンめいた連射音!
シューティングスター
銃 弾 流 星 群が走り、信長の背に伸びた樹木の翼を砕き貫きその熱で焼き払う!
「ぐううっ?!」
放とうとした術が不発に終わり、虎上にて蹌踉めく信長。
そこへ、紅を追い越し、蒼が跳躍した。叩き落とそうと虎が伸び上がり、爪を振るう。
しかし、その爪が蒼を裂く前に。その手より雷光めいて放たれるは、『蝶番の手枷』『禁呪の金轡』『継承されし業』。
放った後の蒼が、虎の爪牙を受けて身を裂かれ、弾かれて地面に沈めども。
一度彼の手を離れた三つは、各々が意思を持つかのように信長へ飛び――
「ぐ、ぬうっ
……?!」
その身を、固く戒める!
これぞ、蒼のユーベルコード『沈黙の掟』。その三つに戒められたものは一時、己がユーベルコードを失う。白虎装の信玄が煙の如く消え失せ、戒めのままに虎上より墜ちる信長へ――
ヒールがかかりと地面を打ち、鮮血の影が跳んだ。
「ほら、『お前』は、蒼くんには届かなかったろ?」
紅き剣、疾る!
「っぐ、うおおおオッ!!」
紅が繰り出したブラッド・レイピアの剣先が、信長の黒曜石の鎧の隙間を射貫き、今一度、灼熱の血を飛沫かせる――!!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
境・花世
迫り来る白虎と強大な敵将の前へ立ち
その眼差しと動きの行く末を“視”る
後の先、怯みもせずに踏み込む早業で
敵の攻撃を出来得る限り躱してみせよう
掠ったとしても激痛には耐え慣れてる
止まることなく器たる身から花咲かせ高速移動
虎の脚を花びらで穿ち、その歩みを止めるまで
幾度も幾度も繰り返し立ち向かおう
捨て身でも愚かでもいい
今はなすべきことが、あるんだ
蹴散らされそうになったらこちらのもの
ひそかに傷口へ植え込んでおいた百花王を咲かせ、
体勢を大きく崩させ仲間の機につなげよう
流れ過ぎた血で遠くなる意識のどこかで
灰色の言葉がふと思い出されてちいさく笑う
次の季節へ変わる世界を
――もうすこし、見ていたいと、思うんだ
ロカジ・ミナイ
大抵ね、二度目の結果は都合が悪いもんで
血の巡る音を聞き、纏う気配を嗅ぎ分ける
よく見える人の目で見て、含んだ空気を吟味して
肌を撫でる心地を報る
それらを総合して、賭けるべき可能性を弾き出す
それが僕の第六感
この時の為に磨いて来た技さ
かかって来いよ
虎如き避けられぬ狐じゃなし
尻尾を掴まれずに済んだならものはついで
二倍返しの太刀を叩き込んでやろうじゃないか
剣技を舞うのが戦の華よ
産まれた時からこの世はクソったれだった
華の信長役はいつも兄、僕は巻藁の役
それでも多少は、思い入れも愛着もあるもんで
だからね、愛すべき『今のサムライエンパイア』と決別できるなら
この人生を懸けたってあの子は怒るまい
●求むるは、笑い眠れる優しい季節
「謙信もサルめも、弥助も――そうか、この気勢に敵わなんだか」
噴血しつつ、格闘攻撃を挑んだ猟兵を刀と膂力のみではじき飛ばし、信長は今も血を流す傷口を筋力により塞ぎ、出鱈目な止血を成した。刀から溢れる紅蓮の炎が身を捲いて、猟兵とて不用意には近づけぬ様相だ。
「貴様らを殺せずして天下なしというのなら――なるほどこれは、此度の生も並々ならぬ」
信長は再び白虎装の信玄を実体化させ、その背に跨がる。傷を負えども決して退かぬ。嘗て天下に武を布いた、第六天魔王。未だここに健在である!
「天下統一がお前の夢だったと言うけれど。――もう、その夢の出る幕はないよ」
その魔王に、悼むような声をかける猟兵がいた。ひゅん、と刃、『裁曄』を振るって進み出たのは境・花世(*葬・f11024)。
「季節は終わって、次々に巡っていく。今は他の誰かの夢が咲くころだ。――枯れ落ちた夢が、そこに割り込んじゃいけないんだよ」
「ハッ――抜かしおる。儂以外の夢草子なぞ、焼いて落としてくれようぞ。骸の海に枯れ落ちて尚、こうして返り咲いたからにはな!!」
詩的な花世の例え話に、信長の胴間声が喝破せんばかりに被さった。
相対距離十メートル。すぐさま、どう、と白虎が地面を蹴立てる。
距離は一瞬でゼロとなった。突撃からの前肢の爪撃振り下ろし。辛うじて掻い潜れば、身体を捻っての横薙ぎの爪。喰らってはならない。花世はほとんど転がるようにして爪を回避。一打でも受ければまずい。最悪、転がされ、噛み砕かれて死ぬ未来さえ見える。
花世は怯まず踏み込み右手にした刃を打ち振る。応戦と言うよりは、それは防戦だ。
信長と信玄は当に人虎一体の騎乗戦術にて花世を追い詰めるが、あと一歩、あと一歩のところで花世は致命傷を避け続ける。
敵の眼差し、呼吸、身体の動き、筋肉の撓り、予測される攻撃の形、威力。敵の初動を“視”た瞬間に集められるだけの情報全てを総動員し、攻撃を回避し掻い潜り、虎の腕に顔に刃傷を刻む。
――おお、それはまさに嵐の前に気高く咲く牡丹の様相!
「温い、温いわ! その細腕では掠り傷が精々か、猟兵!」
「ッ――!」
しかしだ。その危うい回避も長くは続かぬ。――ここまで交戦した猟兵のうち、無傷で済んだ者は一人とてない。花世も、また例外ではなかった。
ほんの僅かの読み違い。半歩、踏み込みが足りなかっただけ。ただそれだけで虎の爪が、花世の身体を深く抉った。白い膚が裂けて血が飛沫く。よろめいたところに追撃、回避を試みるも浅からず爪が掠め、またも血飛沫。花世は力を振り絞り、地を蹴った。信長が振るう炎剣を辛うじて回避――
――ああ、止まるものか。
決然と猛将らを睨む花世の、裂けた傷口に、ぱ、と赤い花が咲く。彼女の血を呑み咲く美しき八重牡丹。
失った血の分、間違いなく死に近づいているはずなのに、しかし花世は速度をいや増して駆けた。
「ぬうッ
……?!」
信長も目を瞠る。あまりに、それは美しく、鋭く、儚く、そして危険であった。
ここにきて花世が操るのは右手の刃だけでにあらず。己の血を吸い咲いた花弁を、飛刃の如く投射する。
信長は刀を振り回し、炎にて焼き祓って受けるが、信玄はそうも行かぬ。堅固なはずの毛皮を貫くように花弁が突き刺さり、その血を吸って尚も赤み、いや増す!
「ふん――捨て身には驚かされたが、その程度では信玄は殺せぬぞ、女!」
然り。信長の言の通りだ。花世の攻撃には威力が足らぬ。信長の身長の二倍超の体長を持つ巨獣となった信玄を、花弁だけで止められるわけがない。工夫もない単純に走ってのぶちかましだけで、全速力のトラックに匹敵する威力を持つだろう。――そんなものを、花嵐だけで止められるものか。
花世とてそれは分かっていた。だから、
「捨て身でも、愚かでも、――わたしにはなすべきことが、あるんだ」
血に塗れ、今にも意識が飛びそうでも。
繋ぎ止める。最後の一手まで。
――グリモア猟兵の言葉を不意に思い出す。
『……この戦争を終わらせよう。おれ達で。サムライエンパイアの晴れた空を、きっとみんなで見上げよう。その時にはきっと、初秋の秋晴れが、おれ達を出迎えてくれるはずだから』
ああ、見たいな、そんな穏やかな空を。次の季節に変わる世界を。
境・花世は、その時、確かにそう思ったのだ。
出血が限界を超え、花世の膝が、吸い込まれるように地を衝いた。
遠くなる意識の中、女は目を逸らすことなく、正に止めを刺さんと襲いかかる白虎を見上げ――
ぐ、とその手を握り締めた。
「なんとおッ
……?!」
余りにも突然のことだった。
咲いた。裂いて、裂いて、咲いた。かすり傷かに思われていた信玄の前足、そして顔の傷から萌芽した種が、血を吸い上げ、肉を割り裂き骨に根付き。――時期も外れの八重牡丹が狂い咲いたのだ。
それこそ、花世が狙った起死回生の一手であった。悲痛な虎の吼声が響く。そうなってはコントロールもなにもない。痛みに暴れ回る獣の背から信長も蹴り離れるほかない。
獣のたうつ轟音の間に、
「やあ――やあ、こいつはいいね。満開じゃあないか」
剽げた男の声、一つ。
最早力のほぼ全てを使い果たし頽れる花世が最後に見たものは、彼女を護るように飄々と立つ、長太刀下げた男の背中だった。
「その花さ、綺麗だね。――無駄にゃしないよ、休んでおいで」
できることなら介抱もしてやりたかった。なんたって薬屋だからね。それに綺麗な姉さんだったし。まあでも、今の仕事はそっちじゃない。だから声だけ投げて前を向く。
他の猟兵がフォローに回る気配を背に感じながら、男――ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)は窈窕たる抜き身を下げ、信長をその空色、天眼にて射竦めた。
「知ってるかい、御大将。大抵ね、二度目の結果は都合が悪いもんで」
ロカジは謳うように言いながら、間合いを計る。いまや骸の海の理、超常のことわりの中に生きる第六天魔王の中とても、心の臓は脈打つし血は巡る。でなきゃ掻っ捌いて血が出ることもあるまいよ。
ロカジは鼻をすんと鳴らした。
「何が言いたい、傾き者」
信長が眉を跳ね上げ、厳めしい顔を歪める。ロカジは対照的に目を細め、薄笑み浮かべた。
――怒りの匂いがする。飄々とした調子を崩さぬまま――ただ、その表情の変化と、纏う空気の変化だけは見落とさぬよう刮目しながら、薬屋は言葉を続けた。
「存外頭の巡りが悪いね。金柑頭はここにゃいないが、今度もアンタは一杯喰わされるって言ってるのさ。――一回目より、こっ酷くね!」
おお、良薬と言うには余りにも苦い言葉の羅列よ。ロカジの挑発めいた語りに、第六天魔王が動いた。激情に駆られた剣であろう。怒りに任せた唐竹割の上段一閃、しかし雷霆の如き迅駛の振り下ろし。
ロカジはそれを、引っ提げた刀で流し受けた。信長の刀が畳を拉げさせ轢断し、炎上させる。口笛吹きながら飛び退いた、ロカジが一瞬前までいたそこを、横薙ぎの剣閃が飛び過ぎるッ。掠めでもすれば腕が飛び、こんがり火を通されそうな、渦巻く炎刃を前にして、ロカジは嗤った。
よく見える人の目で見て、含んだ空気を吟味して、肌を撫でる心地を報る。血の巡る音を聞き、纏う気配を嗅ぎ分け、それらを総合して、賭けるべき可能性を弾き出す。
それこそロカジが持つ、第六感的回避能力。恐らくは、この天の魔王に能うべく培った技。
「ええい、ちょこまかとッ!!」
「ッハ、魔王ってより猪だねえ。かかって来いよ。甲斐の虎は生憎そこで花とじゃれてるが、アンタも狩りは得意だろう? 狐一匹、狩れずに天下は語れまいさ」
妖狐は笑って太刀を振る。信長が嵐ならばロカジは柳、刀を軸とし炎渦巻く、渦焔の剣を受け、弾き、流して、剣舞う――
炎がロカジの膚を焼き、避けそびれた剣先が肩を、脇腹を食い裂いても、しかしロカジは笑みを止めぬ。
――そうだよ、産まれた時からこの世はクソったれだった。華の信長役はいつも兄、僕は巻藁の役。
それでも多少は、思い入れも愛着もあるもんでさ。この世界が、骸の海に沈むとしたならさ、僕が薬を処方した、横丁三軒目のおトキちゃんも、古坂屋の若女将も、うどん屋の小夜ちゃんも。おでん屋始めた元飛脚、呉服屋の門番サンだってそうさ。
みぃんなみんな、ご破算で、過去に喰われて沈んじまうんだろ。
剣戟、火花、――っと今入った一発は痛かったな、
右手が挙がらない。まだ左手があるか。
過去と今を生きる者が食い合う、愛すべきクソったれな『今のサムライエンパイア』にさよならを言うときが来たんだ。
――この人生を懸けたって、あの子は怒るまいよ。ねえ、テス?
ロカジは爆ぜた。
否、地が爆ぜるほどに――爆発的に踏み込んだ。
影すら落とさぬような瞬歩を、狩りの名手たる信長さえ、一瞬見落とした。
「さっきのは痛かったな。――二倍返しさ。持って行けよ」
飄々とした調子を崩さずに――その実、軋みを上げ、バラバラになりそうな身体を押して、ロカジは最後の力を振り絞った。隙の匂いのする、最奥へ。
震脚、割れ畳。いぐさぶわりと弾け吹く。
己が血に濡れた窈窕たる抜き身を左手に、ロカジは信長の甲冑の継ぎ目を、金物切りの音立てて、渾身の一閃で斬り裂いた。――ああ、巻藁の剣は、確かに魔王に届いたのだ。
火花と熱い血が迸り、獣のごとき信長の苦鳴が魔空安土城を揺らす……!!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
一人とて、無傷で信長から離脱する猟兵はない。
瀕死の重傷を負う者もいる。
しかして、猟兵達の攻勢は止まぬ。恐れる者もいただろう、すくむ足を無理に動かす者もいただろう。けれど、彼らは戦いを止めようとはしない。
ここが、エンパイアウォーの最終局面だと知るが故。――ここで折れれば、サムライエンパイアが失われてしまうと知るが故!
イサナ・ノーマンズランド
◎
一度終わったゆめは、そのままにしておくから綺麗なんだよ。
思い描いた本人が、どんなに狂おしく望んでも、欲しても。
そのゆめで誰かを踏みつけるなら、やっぱりそのゆめは終わっておくべきなんだ。
でもそうだよね、このまま終わりたくなんかないよね。
だからせめて……最後のひとあばれ、付き合うよ。
風林火山は、段ボールを被って【迷彩】し、手榴弾を投げつける【破壊工作】で攻撃の大ぶりを誘発させ、【ダッシュ】で敵の攻撃をちょこまか動いてやり過ごし、攻めが緩む【時間を稼ぐ】。
猛攻の隙を突き、箱を脱ぎ捨て一気に接近。
伝承殺業:破邪滅法を発動、大鎌で強襲する【クイックドロウ】。
鎧を無視し、信長へと袈裟懸けに斬りかかる。
●再殺の歌が鳴る
「オオオオオオオオッ!!」
信長が吼え、その背中に伸張した樹木の翼が一度羽撃き、嵐を巻き起こした。
真空波を帯びた風がごおおう、と吹き荒れて、そこに信長の刀『実休光忠』より溢れる地獄の炎が乗って、居室を瞬く間に炎の海にする。
信長が焔の刀を振り回し、寄る猟兵をその斬撃で斬り捨てんとする中、どこからともなくいとけない声が響いた。
――一度終わったゆめはね、そのままにしておくから綺麗なんだよ。
「何奴ッ!!」
信長はひときわ強く光忠を振るった。天地を分かつような真一文字の炎閃が、周囲二十メートルを一気に薙ぎ払う。しかし声は揺れることもなく、焦ることもなく続く。
――思い描いた本人が、どんなに狂おしく望んでも、欲しても。そのゆめで誰かを踏みつけるなら、やっぱりそのゆめは終わっておくべきなんだ。
「終わらぬ! 潰えた覇道をもう一度歩めるのだ、今、正にここからよ!!」
信長は諭すような声に首を振る。一矢報いて撤退、または後退した猟兵達を含めて四十名近くの猟兵に囲まれながらに、己の夢を、覇道を諦めることの無いその覇気。
嘗て本能寺でもそうして奮戦したのだろう。今この状況は、正にあのときの焼き直しだ。
――そうだよね。このまま終わりたくなんか、ないよね。
呟く声は、その無念を偲ぶかのようだ。けれど、このままその覇道を――多くの人を死なせる道を、許すわけにはいかない。
――じゃあ、キミはキミが思うままに、あばれたらいい。……せめてそれに、わたしたちが最後まで、付き合うよ。
声に続き、ひゅ、ひゅひゅん、と黒い何かが飛んだ。
「しぃあッ!!」
信長は鋭く息を吐いて刀振るうこと三閃。空中でその黒い何かを斬り払うが――爆轟! 閃光と衝撃波、そして破片が信長の周囲を席巻する!
「ぐ
……!?」
見る者が見れば分かったはずだ。それはピンを抜かれた手榴弾。信長が炎刀で斬り裂くと同時に炸裂し、彼に向け破片をブチ撒けたのだ。
しかし信長はさしたるダメージを受けた様子もない。青筋を浮かべ、跳躍。怒りのままに樹翼を思い切り羽撃く。
「虚仮にしてくれる――姿を現せ、童!!」
樹翼の大嵐に地獄の炎が乗れば、最早それは閃熱の嵐。全方位の猟兵が後退を余儀なくされるほどの威力。
「――っ」
信長の視界の片隅で、厚手の紙箱が燃えて飛ぶ。――その下から、少女が飛び出した。小さな手に手榴弾を握り、前進しながら次々と投げ放つ。
ど、ど、どおん!! 大音がし、信長が吹かせた炎嵐に穴を開ける。手榴弾の爆風で道をこじ開けながら駆ける少女の名は――イサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)。
敵の認識を遮断する段ボール箱で攻撃を一時やり過ごしたが、本気の攻勢を前にしてはやはり紙箱、燃え落ちてしまえばこれ以上隠れることも出来ぬ。最早これまでとの戦術的判断に基づき、前進! 相対距離二十メートル。
「そこかァッ!!」
信長は身を翻し、空中よりイサナ目掛け、今や天を衝かんばかりに燃える炎刀を振り下ろす。イサナはかろうじて回避。あと十二メートル。熱気だけでモッズコートの袖が燃えるほどだが、ためらわず彼女は前に進んだ。
「――わたし一人じゃ、キミの後悔も、怒りも、飲みきれないけど」
ポンプアクション。携えたショットガンからダブル・オー・バックの散弾を連射。
宙より落ちつつ黒曜石の鎧でそれを防ぐ信長。イサナは撃ち尽くしたショットガンを放棄、なおも前進! あと、五メートル――
「小賢しいわッ!!」
信長が下肢を薙ぐような下段一閃を振る。イサナは力の限り跳ぶが、足先を焔に薙がれた。一瞬で両足の膝下の感覚が失せ、灼熱がそれに取って代わる。
――でも、止まらない。止まれない!
イサナは祈るように空中に手を伸ばす。虚空から再殺兵装『カズィクル・ベイ』――棺桶型武装コンテナが迫り出す。ギミック作動、此度飛び出すのは一振りの大鎌。抜く。一度地面に降りてしまえば、もう歩けまい。だから、これが最後の一撃。相対距離三メートル。
「みんなで、きっと飲み干してみせるから」
イサナは鎌の重量で姿勢を制御しながら、大鎌を力の限り振り下ろす。
「この程度ッ!」
死に体からの凡庸な一撃。防げぬわけもない。当然のように受け太刀に回る信長。
その刀を――鎌の刃が、擦り抜けた。
「な、ッ――」
斬。ああ、決して深くは入らなかった。しかし、確かな一撃であった。
望んだ標的以外を透過する鎌――『伝承殺業:破邪滅法』の一撃が、防御を擦り抜け、確かに第六天魔王の身体を裂いたのだ。どう、とイサナが地に落ちる。信長が蹈鞴を踏むように、二歩よろめいて、下がる。甲冑の隙間より、血が飛沫く。
「――だから、ここでキミの夢を、もう一度終わりにしよう」
地に落ち伏したイサナの声に、信長の苦鳴が重なった。
成功
🔵🔵🔴
御形・菘
妾の名は御形・菘! 真なる邪神を名乗っておる!
魔王よ、頂きに在る者同士、手合わせ願おうか!
お主ほどの実力者の攻め、巧みに避ける技量など無い!
痛みは我慢、覚悟を決めて耐えきる!
刀の一撃は軌道を読んで、邪神オーラを纏った左腕で防御
頭や首、心臓が無事であれば問題ない!
嵐は床に拳を打ち込み、爪を立てて身を固定して凌ごう
一気に接近、尻尾の横薙ぎを叩き込む!
はーっはっはっは! 武器持ち相手に格闘が不利なのは百も承知!
だがこのバトル、是非とも一画面に入れて収録したいのでな!
そしてズタボロの左腕はもはや役立たず、ではない!
意識を尾に集め、虚を突いたこれが本命の一撃よ!
全力の左の拳で、鎧などブチ抜いてくれよう!
●クライマックス・カット
「お初に目にかかる、第六天魔王殿。妾の名は御形・菘! 真なる邪神を名乗っておる! 頂に在る者同士、手合わせ願おうか!」
波状攻撃。猟兵らは攻撃に互いを巻き込まぬよう、車懸りめいて次々と信長に襲いかかる。此度口上も勇ましく飛び出したのは、御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)。邪神を名乗る女はいかにも、上半身はヒト、鱗に覆われた蛇めいた下肢をした、半人半蛇の姿をしている。
「ふん、儂の前で神を名乗るか、化生が!」
「応さ名乗るとも! 事実故な! 来るがいい、妾は逃げも隠れもせぬぞ!」
唸るような信長の声に歯切れよい返答。打てば返るとは正にこのこと。
「威勢だけは一人前よな――ならばその身でしかと味わえ、我が実休光忠の刃の味を!!」
信長は火炎を纏い、畳を撓ませて爆発的に踏み込んだ。跳ねた畳が元に収まる前に苛烈な上段一閃が菘の左肩から袈裟懸けに振り下ろされる!
菘は左手に『八元八凱門』より発した邪気を纏い、斬撃を潜るように姿勢を低めつつ、刀の横腹を押して辛うじて逸らす。一手目こそそのように避けたが、斬撃が数度重なれば瞬く間に押される。
「どうしたどうした、大口を叩いた割に守る一方ではないか!」
烈火の如く燃え立つ焔を纏った打刀、実休光忠にて苛烈に打ち込みつつ信長は呵々とと大笑。嘲りにもしかし菘は知っているとばかり口元を笑みに歪め返す。
「お主ほどの実力者の攻めを巧みに避ける技量など持ち合わせておらんのでな。徒手が長物に劣るなど百も承知だが、この一戦、是非とも一画面で撮りたい故、致し方在るまい! なに――覚悟としぶとさは一級品よ。試してみるがいい!」
菘は黒きオーラを纏わせた左手で手刀を作り、正面から信長の刀と打ち合う。刀の軌道を読み、邪神のオーラで腕を強化しての至近距離格闘戦だ。
しかして、徒手と刀ではリーチに差がある。劣勢は甚だ明白であった。刀に渦巻く高熱の火炎が菘の浅黒い膚を焼き、鱗を焦がす。面白い、とばかり口端を上げた信長の剣戟は激しさをいや増し、篠突く雨めいて菘に襲いかかる。
肩を斬り裂かれ、脇腹を割かれる。オーラで守っても打ち合うたびに左腕は傷つき、裂け、ボロボロになっていく。打ち返しの右拳はあえなく透かされ、首狙いの一閃を顎を逸らして避ければ、返す刀で袈裟懸けに一閃され、右肩から左腰にまで一直線の刃傷が刻まれる。傷口が焔の熱で引き攣れ焦げて肉の焦げる匂いが上る。
壮絶な痛みが走るも、しかし菘は脂汗を流せど、その目より光と笑みを消さぬ!
「こんなものか、第六天魔王! 妾一人殺せぬのでは、天下など取りうるべくもないぞ!」
「吼えたな化生! ならば受けよ、侵掠如火ッ!!」
信長は一足で数メートルを飛び退きつつ刀を突き出した。ごおおうっ!! 刀が渦巻く焔に燃え上がり、それを、背に伸ばした樹翼で羽撃き起こした飄風で巻き込む――結果生まれるのは、真空波を孕む火炎飄風! 菘を飲み込む、赤い嵐が吹き荒れた!
菘は右拳を地面に叩き込み、爪を立てて目を閉じた。瞬く間に彼女の身体を火炎嵐が飲み込む。為す術もなく、その身体は焔の中に消え――
二秒の後に、血の蒸気を上げながら、業火突っ切って飛び出した。
「何
……!?」
「言ったはずだぞ! 覚悟としぶとさは一級とな!!」
菘は、火炎嵐の初速を、手を地に突き立て堪えた。膚を斬り裂く真空波を、傷口を、身体を焼く業火を耐え忍び、突っ切れる速度まで炎風の速度が落ちた瞬間、ありったけの下肢のバネで嵐を強引に抜けたのだ!!
――頭、首、心臓が無事ならば問題ない。何度でも食らいついてみせよう!
「食らえッ!」
「ぬうっ……!」
菘の長い尻尾が鞭のように撓り、信長を横薙ぎに襲う。刀で受けた信長の身体を撃力で押し滑らせる。思わず信長が唸るほどの威力だ。まともに受ければ骨が砕けよう。菘は再び尾をひらり翻し、信長に狙いを定める――
「――と、思ったであろう!」
「む
……?!」
しかし次撃は尻尾ではない。
菘は下肢のバネを巧みに使い、尾先とは別角度より急接近!
既にズタボロの左腕に、オーラの全てを集め、守りを捨てて近づく!
武器相手の徒手格闘。この一撃のキメの為だけに作った危機的状況。全ては即ち、ユーベルコード『逆境アサルト』への布石――!
「小癪にも儂を謀るか!」
「こうでもせねば貰ってくれまい? ――受け取れ、妾の全力を!!」
とっさの信長の斬り払いを右手で受ける。裂けた右腕より飛沫く血が、地に落ち染みるより速く――菘の拳が、信長の胴を穿った。
「ぐ、うおッ
……!?」
全てを賭けた一撃が、信長の身体を吹き飛ばし、襖を突き破って隣室の壁へ沈めるッ……!
成功
🔵🔵🔴
三咲・織愛
◎
ムーくん(f09868)と
……本当は、囮なんてして欲しくないのですけれど
けれど、……託します。その分、こちらも応えてみせましょう
ノクティス、お願いね
囁きと共に、祈りと願いを込めて、竜槍を彼へ
覚悟は疾うに出来ています。戦場に立つ意味を知らない自分ではありません
成すべきことを成す。そのために。彼に何が起ころうと不動。貫きます
敵の動きを観察。懐に入るため、見切れるように
拳を強く握って、覚悟と力を胸に
機を見て駆けます。捨て身の一撃、喰らわせる――ためではない!
手に馴染む竜の子を、彼からの力も乗せた子を、手に
さあ、かかってきなさい!
その面に、【閃撃】、叩き込んでやりましょう
ムルヘルベル・アーキロギア
◎
同行:織愛/f01585
騎獣化信玄の力と速度は桁違いだろう
本来なら織愛に前衛を任せるべきだが、今回はワガハイが出る
予め槍形態のノクティスを受け取り、全魔力を『胡蝶装』に乗せ身体能力を強化
織愛が必殺の一撃を確実に叩き込むまでの時間を囮として稼ぐ
この体が戦闘不能なほどに破壊されるか、織愛が機を得た瞬間UC発動
ノクティスはただの武器代わりに預っていたわけではない
『魔力結晶』を全て使った渾身の一作だ! 仕留め損なうなよ織愛!
突撃槍型ガジェットを増加装甲装備させた槍を投げ返し、後は織愛に託す
彼奴とてそれに反応して織愛を狙だあろうが、それもこちらの思うツボである
――あの娘は、覚悟した時が最も輝くゆえな!
●夜に虹を架けよ、と賢者は言った
吹き飛び、隣室の壁を突き破って転がっていった信長を、二人の猟兵が追走する。
「では爾後のことは任せるぞ、織愛よ」
先行する少年が気負わず告げた。名をムルヘルベル・アーキロギア(宝石賢者・f09868)という。こくり、と表情も硬く頷くのは供行きの少女、三咲・織愛(綾綴・f01585)。何か言いたげにしている織愛に、ムルヘルベルは緩く笑って言う。
「心配は要らぬ。ワガハイとて何も死にに行くワケではない。――ノクティスもいる故な」
ムルヘルベルはその手にした宵闇の槍――織愛の『noctis』をきゅっと握り、前をきっと向き直る。
「く、くくく、これ程までの強者が群れ成すか、――信玄よ、浮世とは全く恐ろしい物よなあ!」
崩れた壁を抜けたむこう、仰臥していた信長が跳ね起き、今一度甲斐の虎を呼び覚ます。
再度召喚した巨大な白虎に騎乗する信長の威容を遠目に、ムルヘルベルは眦を決した。
「一秒でも長く、彼奴の動きを見よ、織愛。ワガハイが必ず繋ぐ。オヌシを導く。この、虹の賢者がな」
「――はい」
「良い返事だ」
立ち止まる織愛を背に、ムルヘルベルはそのまま白虎従えし第六天魔王目掛け驀進した。
胡蝶装、起動。全魔力を物理的運動能力に転化。ムルヘルベルの紫水晶の瞳が、揺らめくような虹の光を帯びる。――常ならば、前衛は織愛が務める。より格闘に秀でる彼女を前に置き、ムルヘルベルは後方から魔術による支援を行うのが常套策だった。
――しかし此度は、彼自身が前に立つ。打開策を見つける時間を織愛に与える。
そうしなければ――いつも通りにまともに当たったのでは勝ち目がない。ムルヘルベルはそう考えたのだ。
第六天魔王、織田信長とはそれほどまでの強敵なのだ。
「さあ、第六天魔王よ。次はワガハイらが相手よ。いずれ劣らぬ強者揃い、そろそろ疲れて来ていようが、まだまだ終わらぬぞ」
「言うではないか、小僧。――ならば受けてみよ、甲斐の虎の剛肢と爪牙をな!!」
ど、どうんっ!!
畳が軋んで撓み跳ねる。白虎の巨体が波打ち奔った。凄まじい速度だ。巨体ならば動きは鈍いはずだと当て込む猟兵がいたとするなら、その猟兵は一瞬でその爪に引き裂かれ絶命していただろう。
ムルヘルベルの想像通り、白虎装となった信玄の速度は桁違いであった。ムルヘルベルが魔力の全てを身体能力に転化し、防戦を選んでようやくまともに回避が可能になるほどだ。
爪が来る。横薙ぎに、振り下ろし。ムルヘルベルは次々に振るわれる爪の一撃を、潜り抜け、身を捌き、ノクティスを使って払い、飛び退いて躱す。
足を払うような薙ぎ払いを跳び越し躱し、空中のムルヘルベルを叩き落とすように振り下ろされた一打を、BLAMッ! 手元で魔力を爆ぜさせその反動でスライド移動回避!
「ふん、小蠅のようによく粘るものよッ!」
攻撃に合わせるよう、信長が刀に纏う炎を信玄に分け与える。それを受けた信玄は正に侵掠すること火の如く、焔を纏う爪にてムルヘルベルを猛撃する!
「く――!」
恐ろしい速度、そして威力、熱量。ムルヘルベルが応戦するように振るうノクティスの刃先さえ、その燃える毛皮に阻まれて十全に達さぬ。弱点らしい弱点がない――
勝てるのか。こんな化け物に。
(――否! 勝つのだ!!)
虹の賢者は刮目し、なおも振るわれる獣の剛肢を捌き続ける……!
反対だった。
いつも通り、私が前に立つべきだと彼女は言った。しかし、賢者は「それでは勝てぬ」と言った。
分かっている。彼の言う通りだと。けれど、それでも――囮になって前に立つなんて、して欲しくはなかった。危険極まりない事だ。あの宝石の身体が粉々に砕かれることを、織愛は恐れた。
だからせめて、彼を守って欲しいと祈って槍を預けた。夜を翔ける藍色竜、ドラゴンランス・ノクティス。槍を託し、一度決めたことを果たすべく、織愛は前を見続ける。
彼女の視線の先でムルヘルベルはまるで流星の如く奔った。魔力の全てを身体能力に転化した彼の速度は凄まじく、織愛ですら目で追うのに難儀する。しかし驚嘆すべきはその流星を叩き落とさんと振るわれる虎の前肢だ。決して捕まらないかに見えるムルヘルベルを、幾度となく、フェイントを交え、掠め、捉え、打撃を加える。
そのたびにムルヘルベルは弾かれ、地に叩きつけられ、襖を薙ぎ倒し転がり、しかし跳ねるように立ち上がってまた立ち向かう。
織愛は目を背けない。――彼が自分にどんな役割を期待したか、知っている。故に目を逸らさないで見つめ続ける。ムルヘルベルが引き出した敵の攻撃のパターンを、その限界速度を、威力を、目に焼き付け続ける。
一度互いに決めたこと。託し、託された役割に応えねばならない。
視線の先で、ひときわ強い打撃がムルヘルベルを捉えた。
「ぐッ……!」
彼の身体はまるでボールのように天井に叩きつけられ、その口の端から血の泡が散る。
「ッ――」
しかし、織愛は動かない。握り固めた拳、爪の食い込んだ手のひらから血が滴り落ちた。本当はすぐにだって飛び込んでいって彼を守ってあげたい。けれど、――既に、覚悟を固めたのだ。戦場に立てば、弟のように可愛らしいあの宝石賢者も、自分も、ただ一人の戦士に過ぎぬ。それぞれに成すべき事がある。
落ちるムルヘルベルに食いかかる信玄。ムルヘルベルは辛くも、魔力炸裂による高速機動でそれを回避。叩き落とすような蠅叩きめいた一撃を槍を突っ張って受け、またも弾かれて地面にバウンド。ムルヘルベルは転がりながらも受け身を取り、砕けそうな身体に魔力を巡らせ燃やす。
――絶望的な戦い。
だが、その目の光は決して消えぬ!
「織愛よ! 仕掛けるぞ!」
「――はい!」
賢者の一喝とともに、状況が動き出す。
「フン、何を見せてくれる、小童!」
「知れたこと。オヌシが想像もせぬ、燦星の輝きをよ!」
ムルヘルベルの身体は既に砕ける寸前。凄まじい威力を帯びた白虎の打撃、爪撃を幾度となく受け、ホワイトオパールの身体に縦横に走る罅から溢れる血は既に止めどない。
しかし、機は満ちた。綱渡りだったが、全てを託す準備が出来た!
「お、おおッ!」
胡蝶装に注ぐ魔力の一割、二割を断続的に足下で炸裂、ブースターダッシュめいた歩法で駆けて、虎の爪牙を掻い潜り――密かに編んだ術式により、ノクティスの柄に手持ち全ての『魔力結晶』を重ねた! 『ガジェットショータイム』による武器改造!
――刹那、夜の槍に虹が架かる。
突撃槍型追加鎧装が伸張し、ノクティスは絢爛たる機甲槍と化す。
その様、喩えるならば夜の虹――ノクティス・サンクトゥス!
「受け取れ織愛! 仕留め損なうなよ!」
ムルヘルベルが投げ放った槍は各所のブースターにより自律軌道制御、帚星のように織愛の手に参じる。織愛は槍を迷い無く受け止め、低姿勢から敵目掛け疾る!
「はい、ムーくん――さあ、かかってきなさい、織田信長! 夜に翔る虹の閃撃を――その手で捕らえられるものならば!」
「小癪!! そんなに死にたくば、小僧よりも先に十万億土を踏むがいい!」
信長が焔を燃やし、焔虎となった信玄とともに駆ける。当に人虎一体の迅駛の前進! 間合いの外から振るった爪から焔が遊離し、焔の刃めいて織愛を襲う!
だがその速度。振るったときにどこに隙が出来るか。どの動きに派生するのか。
織愛は見ていた。己の代わりに傷ついたムルヘルベルの戦いから、学習していた!
「はああああああああっ!!」
織愛は地面を蹴る。その気勢の高まりに合わせ、ノクティス・サンクトゥスより魔力の推進炎が迸る!
ど、ど、ど、どどっどどどどばァんっ!!! 空中を、まるで見えぬ壁に反射するかのように織愛はジグザグに跳んだ。放たれる焔爪を悉く掻い潜り、遊色の焔迸るたび、織愛は加速、加速、加速!
「馬鹿なッ
……?!」
信長が瞠目した瞬間には、織愛の姿は彼の目の前に迫っていた。
「ッせやあああああああああああっ!!!」
織愛が繰り出した渾身の槍撃が、信長の黒曜石鎧、胸当てを真っ向叩き、虎上より攫った。空中を游ぎながら、全残存魔力の全てに点火。ノクティス・サンクトゥスの柄尻で轟音、遊色の焔が爆ぜ散り――
その推進力、彼女の力の二重を以て、黒曜石を貫き、徹すッ!!!
「っぐ、っアアアアアアアアアアア!?」
――おお、第六天魔王が今ひとたび吹き飛び、壁を砕いて床を舐める!
血を散らし転げる信長の姿に、満身創痍のムルヘルベルが笑った。
「――甘く見たな、織愛の『覚悟』を。
言ったであろう、第六天魔王。オヌシが想像もせぬ、燦星の輝きを見せてやる、とな!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
龍ヶ崎・紅音
アドリブ・絡み歓迎
【POW】
「覚悟しなさい!!オブリビオンフォーミュラにして、第六天魔王…織田信長!!」
まず、焔【属性攻撃】としてホムラを焔槍形態にして、【力溜め】からの【槍投げ】で信長を【串刺し】にしようとするけど、これは先に『風林火山』を使われた上での陽動、すぐさま信長との距離を縮めるよ
急接近の際に振り下ろしてきた"渦巻く炎の刀"に対して「黒焔竜剣 壱式」で【武器受け】、その余波を【火炎耐性】で耐え、ホムラとの連携を軸にして【気合い】で刀を弾き返す!!
その時に生まれた隙を突いて『地裂岩断撃』で"黒曜石の甲冑"を破壊!!
その勢いで切り返しが来ることも承知の上で"嵐を呼ぶ樹木の翼"を叩き斬る
●ドラゴンハート
流星めいた一撃を受け、落馬ならぬ落虎した信長へ、すぐさま複数の猟兵が寄せる。
「ぐッう……オオッ!! 武田衆! 蹴散らせいッ!!」
しかして信長、未だ健在。すぐさま信玄の白虎装を解除、武田騎馬軍団を召喚して猟兵らの攻撃に対応する。
多数対多数のぶつかり合いが起きる中、後方より駆ける一人の猟兵の姿あり。
「――覚悟しなさい!! オブリビオンフォーミュラにして、第六天魔王……織田信長!!」
龍ヶ崎・紅音(天真爛漫竜娘・f08944)である!
大音声にて言うなり、少女はその手に燃える槍を構えた。白銀のドラゴンランスだ。名を、『ホムラ』。名が体を表すように燃え上がる槍を、どうと畳を撓ませ跳躍、引き絞った弓の如くに身を撓ませて投げ放つッ!!
ど、ばうっ!!! 槍の穂先が空気摩擦を経て音の壁を突き破り、赤色の衝撃波を発しながら進路上の武田騎馬軍団を焼き、貫き、蹴散らして信長目掛け迫る!
「見えておるわッ!!」
信長は愛刀、実休光忠に焔を漲らせ、驀進する焔槍を打ち払う。返す刀で少女目掛け赫閃を振るう。相対距離四十メートルを経て、振るった刃から焔が迸り遊離。宙を裂く焔の刃となって少女目掛け唸り飛ぶ!!
少女は躊躇わず、止まるどころか加速した。敵の先制攻撃に対し、即座に呪印に魔力を走らせる。黒き焔が迸り、凝り固まるように巨大な剣が現出する。黒焔竜剣――壱式、『禍焔の大剣』!
「せやあぁっ!!」
身の丈ほどもある黒焔竜剣を両手で振るい、唸り飛び来る焔の刃を叩き潰しながらも紅音は駆ける。よどみない動きは敵の先制攻撃に対して用意を怠らずにいた証座だ。
しかし、敵は第六天魔王、織田信長。受ける事を決めていただけで受けきれるわけもない。
「ふんっ!!」
信長の背に樹翼がめきめきと音を立てて伸びる。ひとたびそれが羽ばたくなり、凄まじい勢いで、真空波を孕む風が荒れた。
「くっ――!」
紅音は銀の髪を振り乱しつつ、より姿勢を低めて前進。真空波に対する被弾面積を減らすが、それでも身体の各所を裂かれ血が滴る。烈々たる風の中を、しかしますます加速して、疾る!
「ホムラ! やるよ!!」
紅音が言うなり、信長に弾かれ地に落ちたはずのドラゴンランスが小竜の形をとり、地を蹴って羽撃き、信長へ襲いかかった。はじめから、紅音は一人ではなく、ホムラの援護を受け多角的に戦う算段を立てていたのだ。
「ぬうっ……ええい、猪口才なァッ!!」
対応すべく信長が嵐をホムラに向け吹かせれば、その分紅音に対する攻撃の密度が緩む! 両方に同じ密度で攻撃をすることは、いかな信長とて準備がなければ瞬時には出来ぬ!
「だああああああっ!!」
ホムラが作った一瞬の隙に滑り込むように、全速力を増して襲いかかる紅音!
「温いッ!!」
だが事ここに至っても信長が速い! 襲いかかる紅音の後の先を取り、飛びかかる紅音に向け渦炎剣を轟炎唸らせ振り下ろす!
「く、っう……!」
黒焔竜剣にて打ち下ろしを受け止めるが、紅音の足下にある畳がめこりと音を立てて陥没。つまりはそれほどまでの撃力! 同時に指向性を持って、対人地雷めいて爆ぜる爆炎が紅音を飲み込む!
声もなく焔に捲かれるも、しかし紅音は恐れない。その身に宿す黒龍焔の呪いが、『斯様な焔を恐れることなし』と叫ぶ。
「――っこん、のおおおおっ!!」
裂帛の気合いとともに受け太刀した大剣を圧し、刀を弾き返す。
「むうっ――!?」
打ち払う撃力に信長がたたらを踏んだ瞬間に、
「ホムラッ!!」
紅音は相棒の名を呼ぶ。真空波に裂かれた翼を打ち振って、即座に参じる竜を、紅音はアイコンタクトで焔槍形態に変形。その石突きを大剣の腹で叩き、弾丸めいて信長に射出!
「くあっ?!」
信長が辛うじての斬り払いで槍を払って避けた瞬間には、紅音は大剣を大上段に振り上げていた。
「食、ら、えーーーーーっ!!」
落ちる隕石めいた重厚な剣が、信長の隙を突き、肩口より甲冑へ叩きつけられる。
――是一閃、銘を『地裂岩断撃』!
「っぐ、ううううおおおっ?!」
信長の黒甲冑が爆ぜるように割れ飛び、肉が剣に裂かれ、骨が拉げる!
「オマケよ、持って行きなさい!」
「舐めるでないぞ、娘ェッ!!」
紅音は捨て身でもう一歩を踏み込み、蹌踉めく信長の翼を断たんと黒焔竜剣をフルスイング!
信長もまた前進しつつの実休光忠、迅駛の一閃!!
――交錯ッ!!
「――ック、」
「っあ……!」
両者、呻くが精一杯。弾け合うように後方へ吹き飛ぶ――!
――美事、信長の背で樹木の翼が割れ爆ぜ――紅音の身体にもまた、致命に程近い深い刃傷が刻まれた。
しかし確かに、黒焔竜剣は、かの第六天魔王に届いたのだ……!
成功
🔵🔵🔴
セリオス・アリス
◎
【双星】
アレスに守られるだけは何度目か
多勢に無勢でも
何も、できない
…本当に?
ああ、思い出せ
剣には盾の守りがあるように
盾には、剣の守りがついてることを!
【君との約束】
アレスを、この先の未来を守りたいと願うその力で
周りにいる騎馬隊を光の剣で蹴散らして
歌を口ずさみ躍り出る
さぁ、ここからが反撃だ
アレス!
一声呼ばうと風の魔力を靴に送り大きくジャンプ
はっ、よそ見してる場合かよ
馬や騎馬兵を足場に飛び回り
相手の攻撃は咄嗟の一撃
敵を盾にして
距離を詰めたら
一際大きく跳んで背後へと
こっちの存在に気をとられたら
正面が疎かになるよなぁ?
どっちも防げるもんなら防いでみろ
アレスと同時
全力の炎の斬撃をその首に叩き込んでやる
アレクシス・ミラ
【双星】
◎
セリオスをかばうように前に出て
炎の刀には火炎耐性のオーラ防御を展開した盾で防ぎ
嵐には脚鎧に地属性を込めて踏ん張る
…この戦争で何度、君は僕に護られてくれただろう
僕に庇われたくない気持ちも分かる
…でも、ああ、そうだ
盾には、剣がいる
願うは【君との約束】
未来の為…剣と共に戦う為に呼び起こした力を攻撃力重視に
シールドバッシュで信長ごと攻撃を跳ね返す
征こう、セリオス!
僕に注意が向くように光属性の衝撃波を放ち
嵐を弱ませようと樹木の翼目掛けて二回攻撃
麻痺を乗せた雷を迸らせた範囲攻撃で少しでも反応を遅らせ
隙を突くように
セリオスと同時に全力の光の斬撃を首へ叩き込む
再び骸の海へと還れ
…僕達は、未来を生きる
●『『君との約束』』
オブリビオンとは、骸の海より析出する過去の残骸、星の黒点だ。
彼らは一様に、常世の法則の外側にある高い戦闘力、特殊能力、耐久性を備え、滅びに向かう我欲を抱いている。
況んや、その中でも、世界を踏み躙らんとする頂点、オブリビオン・フォーミュラともなれば。音に聞こえた第六天魔王、織田信長ともなれば。
その力も邪悪さも、並々ならぬものである。
「お、お、オオオオオオおぉ
!!!!」
壁をぶち抜いて地を跳ねた信長、二度目の接地際に拳で地を叩いて跳ね起き、咆哮。黒曜石の鎧を再生成、傷口を骸の海より持ち参じた力により塞ぐ。
すぐさま、猟兵らが駆逐しつつあった武田騎馬軍団が再召喚された。信長の背に、新たに歪な樹の翼が伸び、刀が轟炎に燃え上がる。
決してノーコストで召喚しているわけではないはずだ。あの騎馬軍団も、文字通りの虎となった信玄も、樹の翼も地獄の炎とても。
しかし、いつ尽きるのだ? 無限ではないとて、どこまで削ればよい?
誰も答えを持たぬ。しかしそれでも、後退は許されない。
「あれが第六天魔王――織田、信長」
紅蓮地獄の騎馬合戦の中を、純白の甲冑を纏った騎士が進み出た。アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)である。
「セリオス、僕が前に出る。どこまでやれるかは分からない。――それでも君だけは、絶対に守り抜く」
振り向く事なくアレクシスが紡ぐ言葉に、彼の背後で唇を噛む影が一つ。
夜明けの赤星輝くところに黒歌鳥あり。セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)である。彼の胸中には歯痒さが渦巻いている。
この戦争の渦中――否、それに止まらぬ。何度、自分はアレス――アレクシスに守られた事だろう。アレクシスがその身を挺してセリオスの盾になるとき、セリオスが出来るのは己の根源の魔力を引き出す歌を詠い、彼を背から鼓舞する事だけだった。彼が刃で傷つけども、それを守る事も出来ず、ただ、守られるだけ。
「――心配ないさ、大丈夫。後ろを、任せたよ」
沈黙を保ったセリオスを宥めるように言い、ああ、赤星の騎士は地を蹴って盾を翳し、騎馬入り乱れる混戦の中へ駆けていく。
セリオスは見た。幾体もの騎馬を前に、一歩も譲らずに盾を翳し、槍、大薙刀を受け止めては馬を斬り払い、武者の首を薙ぎ、太刀受けて傷つき、血を流しながら――前へとただ進む盾の騎士の姿を。
それを見て、何も出来ないままここで突っ立っている自分は何だ。いつもこうして守られて――
守られて、
いつか来る強敵のもとに、彼を一人で征かせるのか。
その涯てにアレクシスが死んだとしたら。
彼を一人で死なせた事を、ただその美しい声で、忘れぬようにと詠うのか。
「……ふざけんな」
セリオスは自分の頬を挟むように張った。ヒリヒリとする頬が意識をクリアにしてくれる。
――思い出せ。剣に盾の守りがあるように。盾にもまた、剣の守りが付いているのだ。
剣と盾は、二つで一つだ!
「歌声に応えろ。力を貸せ。もっと、もっと強く――もっと、もっと、もっとだ!!」
アレスを助けられるほどに! アレスに並び立てるくらいに!!
セリオスの長髪が、己の根源より噴き上がる魔力の奔流に煽られてぶわりと散らばる。蒸気魔導ブーツ『エールスーリエ』に魔力を突っ込み、セリオスは疾駆、跳躍。騎馬軍団を相手に奮戦するアレクシスの頭上を舞い、彼に襲いかからんとした騎馬武者を蹴り飛ばしムーンサルト!
「セリオスッ!?」
「前向け、アレスッ!!! 雑魚は俺に任せろ!」
剣は叫ぶ。――俺はお前と共に在る。
盾は目を見開く。
――何度となく君の盾になってきた。それが誇りであり自負だった。
ああ、でも、そうか、セリオス。
僕は君を守りたいけれど。
君も、僕を守りたいとそう思ってくれるのか。
「分かったよ、セリオス」
そうだ。剣だけでは身を守れず、盾だけでは敵を断てぬ。
盾には、剣が必要だ。一対揃って初めて敵を討つ武具だ。
まさにその時、二つの約束が花開く。
アレクシスの目が騎馬の群れの奥に仁王立ちする信長の姿を捉えた瞬間、空中でセリオスが咆えた。
「さぁ、反撃開始だッ!!」
セリオスの声に従い、根源の魔力が光の剣の形を取った。空に析出する、無数の、『赤星』に似た光剣の群れ! それはセリオスが思う、力と約束の形。
「飛べッ!!!」
打ち振るセリオスの手に従い、全方位へ光の剣が嵐となって吹き荒れる! 騎馬武者が次々と貫かれ、断末魔を上げて塵へと還っていく!
光嵐荒ぶその下を、アレクシスが疾る!
セリオスが拓いた道を真っ直ぐに、信長目掛け!
「その目、その光! 気に入らぬなァ!!」
激したように信長が、背の樹翼を大きく羽撃かせた。アレクシスを襲う狂風! 真空波を孕む刃が鎧の隙間を縫い、アレクシスの身体より血を飛沫かせる!
だが、アレクシスは決して止まらない。曙光の脚鎧に魔力を込め、地に愛された如く、吹き飛ばされずに前進する。
「貴様ァッ……!」
消えぬアレクシスの瞳の光に、或いは――信長は、憧憬を抱いたのやも知れぬ。
第六天魔王は猜疑に猜疑を重ね、本能寺で裏切りに遭い、討ち取られた。アレクシスとセリオスの間にあるような絆を――彼は、最後まで持ち得なかった。
だからこそ猛る。その目が気に入らぬと、咆え猛る。
「オオッ!!」
駆け寄せるアレクシス目掛け、信長が猛進した。右手に握る打刀に、紅蓮の炎を纏わせて、アレクシスの攻撃に先んじて迅雷一閃、振り下ろす!
アレクシスは言葉もなく盾を跳ね上げた。光纏う大楯で斬撃を受け止め、横に流し。『赤星』に根源の魔力を宿し、
「はあああっ!!」
裂帛の気合と共に打ち掛かる!
「温いわァッ!!」
信長が返した刃と赤星がぶつかり合い、紅炎と白光爆ぜる! 荒れる炎がアレクシスの肌を焼くが、アレクシスは一瞬たりとて止まらぬ!
打ち合う、打ち合う! 剣戟が加速する中、不意に炎に揺らめく影が殺陣の横合いを滑る。ぴくりと信長が目端でそれに反応した瞬間、鉄琴奏でるような澄んだ声が、横から射貫くように響いた。
「はっ、よそ見してる場合かよ?」
セリオスだ。騎馬軍団を光の刃で蹴散らし、密集した敵を足場に蹴って飛び渡り、相棒の元へ参じたのだ。
「はあっ!!」
そして揶揄するようなセリオスの声と同時に、アレクシスが刀と噛み合った盾を、膂力を全開に、殴り飛ばすように突き出す!
「む――?!」
体勢を崩し飛び退く信長へ、セリオスが残った光の剣を信長へ投射、投射、投射!
「ぐぬうッ……! 小癪な!!」
信長が刀でそれを払い、一挙に狂風で二者を薙ごうとした刹那、アレクシスが跳躍!
「させるかっ!!」
剣先より光走り、溢れた衝撃波が樹翼を斬り裂き、吹き飛ばす!!
「ぬぅあああーッ!?」
「もう一つッ――!!」
盾を縮小し、左手のスイングスピードを上げ、アレクシスは反動で吹っ飛ぶ信長目掛け、左手を突き出した。掌から雷撃が迸り、信長の身体を打つ!
「ぐうッ、下らぬ手品が尽きぬことよッ
……!!」
ダメージを負わせるには能わないだろう。だが、ほんの僅かでいい。痺れが、運動機能に影響を及ぼさぬ訳がない。アレクシスは全ての手札を切る。
「往こう! セリオス!」
「ああ――お前となら、どこまでだって!」
セリオスが信長の背に回り込み『青星』を抜剣、アレクシスが『赤星』を構え、正面、正対!
「僕達は未来を生きる。――そうだ、生きる未来を創りに来た!! 再び骸の海へと還れ、第六天魔王!!」
「俺達の全力――防げるもんなら防いでみやがれ!!」
赤星、光猛り、青星、燃え爆ぜる!
「貴様らッ
……!!」
双星、いずれも致命の威力を持つ事疑いなし!
信長がどちらを迎撃するか、僅か一瞬の逡巡を見せた瞬間、アレクシスとセリオスは互いに吸い込まれるように駆け出していた。
「「喰らえええええええええッ
!!!」」
信長は火焔の渦を纏い、黒曜石の鎧の守りを固め――受け太刀をせんとした。しかし、手先に一抹の痺れ、反応、一瞬の遅れ。
――瞠目したときには、目の前にアレクシスが迫っている!
そして赤星が鎧を砕き、青星が火焔を喰らい裂いた。
「ぐうああああああああああああっ
!!!!?」
受け太刀もままならず背と胴に刻まれる斬閃。炸裂する双星の光が、第六天魔王を確かに穿つ――!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
幽世・暗裡
◎サリカ(f01259)と参加
どうしてこうなったんですかぁ……
アタシの顔をみてくださいよぉ
なぁぜ、こんな怖ろしい敵と相対しているのか全く理解できてない顔してるでしょ?
は? 隙ってなんなんですかぁ???
渾身の一撃ってどこからでるんですかぁっ!?
先制攻撃はサリカの誘導も利用して【フェイント】で回避
ガムシャラに逃げ回り回避専念
み、見苦しくて構わない!
こんなの生きててナンボですよぉっ!
須要は卑小で、薄弱で、眇たるアタシだという事実を知らせること
もしその隙があるなら、
弱い自分を信じてくれた友の言葉を杖に、
偶然を必然へ、
確約の時【ウィザード・ミサイル】を撃ちます
情けない自分が、少しだけでも変われると信じて
六波・サリカ
◎
暗裡(f09964)と
悪は只々潰すのみ。
それが巨悪ならば尚のこと。
全力で行きますよ、暗裡!
私が攻撃を引きつけますから、
暗裡は隙を見つけて渾身の一撃を叩き込んでください!
敵の初撃は持ち前の素早さと【残像】と 【ダッシュ】を駆使して回避。
暗裡を守りつつ正当防衛を発動。
「ミゼル・アベンジ、急急如律令!!」
敵の悪意や害意によって強化された戦闘力で敵の攻撃をいなします。
攻撃をかわしたら反撃開始、
黒き雷を纏った格闘術を連打して相手に隙を引き出します。
ここでキツいのお願いしますよ、暗裡
初撃を回避しきれずダメージを受けていたら、敵の生命力を奪って治療します。
●引き絞れ、弱虫の矢
流れ流れて、サムライエンパイア、その上空に浮かぶ城。名前を『魔空安土城』。各所が延焼し、最早滅びに向かっていると言って差し支えない城の中で、幽世・暗裡(ここにはダレも・f09964)は心底から悔いていた。
は? 魔空安土城? なぜ城が空に? というか、オブリビオン・フォーミュラ? それも歴史〇点の子供でも知ってるような名前、織田信長が相手ですって? その辺の畳とかボーボー燃えてますし。生かして帰さんみたいな顔した怖いおじさん(あれ多分信長ですよね?)がこっち睨んでますし。その辺で騎馬武者がパッカラパッカラ走り回ってますし!
「逃すな、殺せ、殺せェい!!!」
戦国騎馬の、むくつけき屈強な益荒男共が胴間声でぎゃいのぎゃいの! 明らかに殺しに掛かってくる騎馬の群れ、刀と槍が唸る鉄火場を、暗裡は転げるように逃げ回る。
「どうしてこうなったんですかぁ、サリカァ!」
べそかく手前の顔で言いつのると、涼しげな顔で併走する銀髪の少女が応えた。
「承知の事でしょう。正義を執行するべく巨悪の元に乗り込んだためです」
「巨悪とは聞いてましたけどぉ! 謙信どころか信長じゃないですか! そっちは聞いてませんよぉ!」
「言っていませんでしたから」
さらりと返しながら、サリカは右腕――『侵攻式』に術式を走らせ、その内より黒き雷を迸らせる。
「落ち着いてください。いいですか? 相手が謙信だろうと信玄だろうと信長だろうとやることは変わりません。全力で征きますよ、暗裡! 私達の成すべき事は――巨悪を潰す事! それだけです!」
「ちょっとこっち見て下さいよアタシの顔をぉ! なぁぜこんなこんな怖ろしい敵と相対しているのか全く理解できてない顔してるでしょぉ?!」
暗裡の泣き言を華麗にスルーし、サリカはユーベルコードを起動、その全身に黒雷を纏う。
「――『ミゼル・アベンジ』、急急如律令!!」
「ひゃああっ?!」
サリカは叫ぶなり跳躍、当に雷が跳ねたかのような勢いに暗裡が身を竦める。
宙に舞ったサリカは雷を纏った蹴り脚で襲いかかってくる武田騎馬武者二体の首を一手に鋭断! 続け様、身体を廻して溜めたバネで、主失った馬の横っ腹に痛烈な掌底を叩き込むッ! 当に雷霆めいた打撃。吹っ飛んだ馬が、数体の騎馬を巻き込んでもんどり打って倒れ込む!
ユーベルコード、『正当防衛』。サリカは敵から向けられる殺意、敵意などのネガティブな感情を黒い雷の形にして身に纏い、それにより戦闘力を増強する術を持つ。武田騎馬軍団、その数膨大! 四方八方より敵意が突き刺さるほどに、サリカの戦闘力は増加するのだ!
降り立ったサリカが暗裡へ振り向く。
「さあ、暗裡。私が攻撃を引きつけますから」
「ますから?」
「暗裡は隙を見つけて渾身の一撃を叩き込んでください!」
「は? 隙ってなんですかぁ??? あのおじさんの? 隙
????」
暗裡は騎馬武者の群れの奥、覇王の風格で立つ織田信長を見た(チラッとね、目が合ったら怖いし)。オブリビオン・フォーミュラたる威圧感を放ち、黒光りする黒曜石の鎧で身を固めたその姿、当に万夫不当の豪傑なり!
「いやいやどう考えたって隙とかないでしょあのおじさんに!! それに渾身の一撃ってどこからでるんですかぁっ!?」
「気合と、根性から、ですッ!!」
サリカは律儀に応えながら黒雷をエネルギーに『斬滅式』を起動、黒きプラズマの刃が周囲を薙ぎ払い、騎馬武者を次々と鋭断、滅却する!
「無理無理無理、無理ですようっ! あんなの相手に隙なんて――それに、アタシなんかの攻撃じゃ、」
――あんな化物には、届かない!
「暗裡」
斬滅式の熱を強制排気しながら、サリカは傍らの暗裡の瞳を、無表情に――しかし、無温ではない、熱のこもった瞳で覗き込んだ。
「っ」
「私は、暗裡なら出来ると思っています。――いえ、私と、暗裡なら、やれます。きっと。確かに、暗裡だけでは無理かも知れない。けど、それは私だって同じ事です。一人では、あの悪を潰せない。――けれど、二人なら出来る。そう思っています」
真っ直ぐな目に、息が詰まった。暗裡は言いつのる口を思わず止め、唇を結び黙す。
サリカの金眼が、密集した騎馬隊の向こう、信長にフォーカスする。
「――先に行きます。待っていますから」
「あっ――」
言葉を残し、疾るサリカの後ろ姿へ、暗裡は手を伸ばす。だが、もう届くべくもない。黒い雷纏う後ろ姿が、騎馬軍団の最中へ紛れた。
どう、どう、ど、っどどどどッ!!!
サリカは黒雷を腕に集束、超高速で騎馬武者に殴打と掌底を叩き込んで蹴散らし、信長の前に至る。
「悪行もこれまでです、織田信長。正義を執行します」
「ハッ、正義と来たか! 儂からすれば貴様らこそが侵略者だというのに!」
「戯言は結構。六波・サリカ、参ります!」
言うなりサリカは飛び込み、格闘を仕掛ける! しかし織田信長、迅駛の前進。後手に回ったにもかかわらず、打ち込みはサリカよりも速い!
「いああァッ!!」
実休光忠による胴一閃! サリカは間一髪、足下で魔力を爆ぜさせて急速後退。しかし避けきれず服が裂かれ、浅く胴に疵が刻まれる。
「そら、そら、そらっ!!」
立て続けの信長の攻撃! 剣勢強烈にして煥発、サリカは防戦に回らざるを得ぬ。黒雷を腕に集め、強烈な斥力を帯びさせて刀を弾く。しかし弾いた剣先が飛燕の如く翻り、また新たにサリカの急所を抉らんと疾るのだ。防戦一方、反撃の糸口が掴めぬ!
「ふん、もう一人は逃げたか。武田衆の勢いに当てられればそうもなろうて」
「――」
サリカは黙して語らぬ。応える必要もない言葉だ。その目はらんらんと光り、劣勢に立たされてなお勝機を引き寄せようと輝いている。絶望の影、片鱗ひとひらすらない。
忌々しげに、信長は舌打ち。
「貴様ら猟兵は忌々しいのう。――その目を泥に沈めてやりとうなるわ!!」
なおも苛烈に打ちかかる第六天魔王とサリカの戦いは、加速する一方だ!
――出来ると思ってるなんて言われたって。どうしていいのか分からないじゃないですか。
暗裡は、ひたすらに騎馬武者から、遮二無二がむしゃらに逃げ回っていた。
命あっての物種という。全くその通りだ。死んでしまったら何にもならない。見苦しかろうと構うまい。笑われようとも。
なんならもう、このまま逃げてしまったっていいと思う。と言うかここにいたら死ぬ、早晩死ぬ、間違いない。逃げた方がいいと、暗裡の本能は言うのに――
「ああ……もうっ
……!!」
――『二人なら出来る』と言った、友達の顔が、まぶたの裏に焼き付いて離れない。
「死んだら化けて出ますからね、サリカッ!!」
暗裡は必死に身をかがめ、騎馬軍団の足下をフェイントを交えて駆け抜けた。サリカが数を減らしていた分、掠り傷を負わされながらもなんとか斬り抜ける。
事ここに至るまで、暗裡は一度として攻撃していない。戦いから逃げるように、逃避行動を取るばかりだった。卑小、薄弱、眇たる少女。
故に。武田衆を抜けきたところで、信長の目には脅威として映らない。
――けれど、彼女とて、また、猟兵だ。
「待ちくたびれましたよ」
サリカが言った。刃傷だらけの身体をしどどに血に濡らし、けれど未だ消えぬ黒雷を身体に纏わせて。
暗裡がその無事を問う前に、信長がせせら笑うように言う。
「臆病者はそこで腰を抜かしておれ! すぐに同じ冥府に送ってくれるわ!!」
踏み込み、サリカに止めを刺さんと大振りの袈裟斬り一閃を繰り出す……!
「サリカッ!!」
暗裡は叫ぶ。――視線の先で、サリカの金眼が確かに、暗裡に向いて瞬いた。
まるで、合図をするように。
「……『制圧式』! 展開!!」
「むうッ?!」
それは全くの突然。サリカが蹴った畳が急激に迫り上がり、その上にあった信長の身体を跳ね上げる!!
――黒雷纏っての格闘戦のみを見せ続け、手札が尽きたと見せかけての――砲台型式神『制圧式』を急展開し、信長の足を取ったのだ! 極めて巧妙な不意打ちに、さしもの信長も対応が追いつかぬ!
「キツいのをお願いしますよ、暗裡」
「気合も、根性も、売り切れですけどねぇ……!」
暗裡は杖を突き出した。
気合いも根性も年中品切れだ。悪いけど、そんなところから渾身の一撃は出ない。
――ただ。弱い自分を信じてくれた、友に報いる為になら――
全霊を込めて、魔弾を放てる気がした。
「い、っけええええええええ!」
宙に析出した火炎の矢、その数一〇〇。
サリカが作り出した値千金の隙に、暗裡が放った矢が一斉に飛び、
「ぐおおおおおっ!?」
炸裂する焔、焔、焔ッ!! 第六天魔王の身体が爆炎に包まれる!!
――ああ、確かに、弱虫の矢は、織田信長の身体に届いたのだ!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
鸙野・灰二
◎【絶刀】夕立/f14904
『先制攻撃』の対策は夕立の『封泉』
耳栓を受け取り相談を少し。
前に出る際『斬丸』を夕立に渡しておく。
……行くか。
閃光から目と耳を守ッたら《早業》、接敵。
抜いた『鸙野』で正面から斬りかかる。
狙うは虎の目。斬ッたらすれ違いざまに『雷花』を預かる。
あの夜以来だな、今日は「見ていろ」とは云わん。俺に揮われて呉れ。
虎の横を抜ければ次は俺が背後を取る形になる。
【壊伐】《だまし討ち》。『雷花』『忘花』の二刀で狙うは魔王。
嬉しいと笑う声は影か真か。双方であれば良いと思う。
愉しいと吼える斬丸の声がよォく聴こえる
嗚呼、その男は良い使い手だろう。
その名が示す通りの切れ味、見せて遣れ。
矢来・夕立
◎【絶刀】ヒバリさん
『UC直後の攻撃』も含めて『先制攻撃』だった場合のために準備しました。
『封泉』のスタングレネード風。はいこれ耳栓。
あとちょっと相談。
…よし。
閃光を利用して《忍び足》で潜伏。背後から接近。
借りた『斬丸』で虎の脚を刈り取る。
腹の下を駆け抜けながら、狙いは四本総取り。
すれ違いざまヒバリさんに『雷花』を預けます。
大先輩に使われれば、きっと笑って喜びますよ。
虎の下を抜けると今度はオレが正面に回る形になりますね。
声は聞こえませんが、考えるコトは大体わかります。
オレに託されたからにはキリキリ働いてもらいますから。
【神業・絶刀】――九重。
三界の主、第六天。
綺麗に九回、斬り殺します。
●カタナ・ウィズ・ニンジャ・キルズ・センゴク・オーヴァーロード
鸙野・灰二(宿り我身・f15821)という猟兵がいる。
一言で言うと、『元』箱入り刀。刀を祖とするヤドリガミにして、己を振るう腕を得て、己の存在意義を立証し続ける修羅である。
矢来・夕立(影・f14904)という猟兵がいる。
一言で言うと、嘘吐き忍者。虚言妄言嘘吐き繰り言、惑わし敵を刺し殺す。暗殺奇襲騙し討ち、ダーティファイトはお手の物の『紙忍』である。
「『アレ』、ちゃんとつけといてくださいよ」
「応さ。――外したときには快哉が聴けるといいなア」
その二人が組む際、彼らは一個の記号で呼ばれた。
タチガタナ
――誰が呼んだか、 絶 刀 。
空中、身体に突き刺さった焔の矢を振り払うように信長が実休光忠を振るい、焔の渦を巻き起こした。
それは生前、彼を焼いた本能寺の焔か。燃え上がる火炎の中で信長は慟哭する。
「未だ――未だ終わらぬ!! ここが終わりであってなるものかァ!!!」
いまや、信長は己が命を蝋として燃やす蝋燭であった。焔は一時の苛烈さを失っている。
しかして彼は決して燃え尽きようとはせず、猟兵らがいかに強い風を吹き付けようとも決して絶えず、それどころか、隙あらばその風を食い大焔に成らんとするかのような構えである。
再三、信長は信玄を白虎として召喚、その背に落ち跨がり、威容を誇示する。
「貴様らを全て滅ぼし、この魔空安土城を幕府に落すッ!! 崩れ焼け落つそこよりこの世をひっくり返してやろう――我が元にない太平など全て、不要よ!!」
激した信長の叫びは苛烈、そしてその内容も聞き落とせぬものだ。
万一実現すれば、死ぬのは千・二千では効かぬ!
「猛れ信玄!! 獲物は山とある、食い殺せィ!!」
信長が今一度振り翳した実休光忠に、地獄の焔が纏い付く。燃えた焔は信玄にまで及び、その玉体を強化、補強! 吼え猛る虎の叫びは熱を帯び、周囲の猟兵を音圧と熱風で威圧する!!
「残念ですけど、家賃ロハでもケモノの胃に棲む趣味はないんで」
獣の唸りと轟く炎の中、一つ、声が涼しげに鳴る。声の出元は信長の後背。同時に空中、ぱん、と音立てて、幾つも紙風船が膨らむ。
――否、それは、式紙・『封泉』!
「むうっ?!」
信長の唸りと同時に、夕立は耳に窄めたウレタン・フォームを押し込んだ。
「爆ぜろ、封泉」
刹那、閃光と轟音が炸裂した。爆発する千代紙風船の式紙、『封泉』――此度の仕立ては、現代風に言うのならスタン・グレネード風。
戦闘に於いて、状況判断に使用する情報リソースは種々ある。嗅覚、聴覚は言うに及ばず、触覚もまた同じ。しかし言うまでも無く、視覚が最も大きい。視覚から得る情報が九割とすら言われる。
――スタン・グレネードは、その原則を利用した非殺傷武器だ。百万カンデラ以上の閃光と耳を聾する爆音を放ち、視覚・聴覚を一時的に麻痺させ、その間に敵を制圧することを目標としたものである。
蘊蓄はさておこう。夕立が放った式紙が、ともすれば本物以上の音と光を上げ、十、二十! 両手で数えきれぬほどの数を以て、同時・盛大に爆裂した!!
「――!!」
感覚器を攻める奇襲。甲斐の虎も、信長とても、それに対する術は持たぬ。虎が一歩、惑うように下がるずしりとした後退の響きが、奏功したことを告げる証であった。
しかして第六天魔王、ただ策を食らうだけに終わらぬ。閃光の中で、自身を中心として、円を描くように禍焔の剣を大回旋ッ!! 熱波、衝撃波が周囲を舐めるように、爆音伴いて広がるッ!!
――円状に広がる熱波が、信長の正面より迫る何かを捉えた。迫り来た何かが停止したのを、信長は感じ取る。――しかし、一時蹈鞴を踏むも、その『何か』は――熱波突き抜け、なお直走る。
ハガネ
未だ白く燃える信長の視界のうちで、刃 金煌めく。
瞳の緑の光が、かすむ視界の中でなお鮮やかだ。火傷まみれなのにそいつは笑って居た。鈍色髪の修羅。右手に一振り刀を抜いて、電瞬迅雷駆け来るのだ!
信長は信玄の脇腹を蹴り、回避を促すが、しかしそれより修羅が速い! 火焔揺らめく熱気を断つ、涼やかな銀閃二条! 信玄の両瞼が縦に裂ける!
余りの苦悶に後ろ足立ちになり、信玄が猛り狂うその後ろより殺気。気づいたのは信長だけだ。しかしてその脅威を信玄に伝えること、侭ならぬ。
腰も高くに後ろ足立ちする信玄の、当にその後ろ足を、黒きよるの形見が一閃した。
――『七代永海』永海・鐵剣、靱の極み。斬魔鉄製打刀、鋭刃『斬丸』。
黒閃四条、ヒトの胴ほどもあろうかという大虎の四肢が、まるで豆腐のように断たれて飛んだ。
事ここに至るまで、多数の猟兵が信長の力を削ぎ削り落とし、奮戦したその甲斐あっての事とは言え――尋常ならざる、超常の切れ味。どうと地面に芋虫の如く伏す白虎の背より、信長が飛び降りる。
最早是非もなし。こうなっては信玄は、型取り直すまで役には立たぬ。
地に降り立つ信長は虎殺しの下手人の、影めいて揺らめく背を見たが、それより先。背後より迫る剣気に反応して振り向いた。
瞬息迫る鈍色の男、その両手にはいつの間に抜いたか!
カガミ
二刀の、禍 神写しの脇指しがある!
――『七代・斬魔鉄筆頭』永海・鉄観、朱の極み。斬魔鉄製脇指。
佳刃『雷花』、その陰打『忘花』!
――ああ、素敵ね! 剣鬼の手の内で、益荒男と対するのは!
――ねえさま、うたいましょう! いっとう綺麗に、ひばりさまに聞こえるように!
鈍色の剣鬼が笑う。彼が聞いたのは刀の声。『雷花』と『忘花』の笑う声。
いいとも。今日は見ていろ等と無粋は云わぬ。此度はおれの手の内で、荒れて乱れて揮うがいいさ!
灰二の緑の瞳の輝きが、ぎんと滾って煌めいた。ユーベルコード、『壊伐』の発露! 寿命を削り、彼と彼の友に、九倍速の剣戟を可能とする絶技!
畳のいぐさが爆ぜ散って、地面を五指で抉りながら灰二は加速。 二刀煌めかせ、信長へと打ちかかる!!
信長が口を開き吼える。耳栓が音を遮断する。なんと言っているかなど些末。口汚い罵声であろうとも、或いはただの戦働きのための鬨の声であろうとも構わぬ。
第六天魔王が、音に聞こえし信長が! 鸙野・灰二を脅威として認めて、相対したという事実が、かれの心を滾らせる!
手先、伝わる鉄火の響き。無数に連なる、絢爛たる刃華楽章! 打ち合うたびに火花が跳ねて、明滅する視界! 信長の実休光忠もまた、靱性堅牢にして鋭気英才! ただの鋼であろうに、魔を絶つ為に生まれた斬魔鉄の極みと、互角真面に響き合う!
雷花が信長の肩口、鎧を縫い、実休光忠が斬、ざ、斬と灰二の両腕を断ち、貫く!
筋を断たれて上がらぬ腕に怯むどころか、灰二は畳に踏ん張って、腰を廻して鞭が如くに己が両手を撓らせて、信長の首を狙うッ!
――いくさ狂いめッ!!
信長の唇が動いたのを見て取り、灰二は笑う。
そうとも。
戦い、自分の価値証明をしないのならば、なんのために生まれてきたのだ?
――これは、当たり前の衝動だろう!!
ひときわ強い、刃と刃の弾け合い! 灰二渾身の鞭めいた一閃が、火花も明るく弾かれたその刹那――
とって返した影が来る。
よるの形見を引っ提げて。
鋭刃『斬丸』と共に駆けるは、当代一の紙忍、矢来・夕立。
緻密に立てられたいくさの筋書きをなぞるように、真っ直ぐに。
夕立は、並のオブリビオンではその姿を捉えられぬほど素早く動く。奇襲暗殺を得手とする、殺人技巧の練達者である。
――その忍者が、灰二の『壊伐』の加護を得ればどうなるか。
どうなるか?
決まってますよ。過労死するくらい、こいつに働いてもらうってんです。
灰二は、『斬丸』が笑う声を聞いた。
正直少し妬けるほど、快活に、声高く、まるで初めて宙を舞った赤子のように。
嫉妬が無いでは無いけれど、灰二はまるで親めいて目を細めた。いつか、自身が夕立の手の内で輝いたその時。感じた高揚を、あの流星のような太刀筋を、彼自身が未だ忘れられずにいるのだ。
――いいぜ、思いっきり、振って呉れよ!! 愉しいな――あア、愉しいなあ!!
斬丸の声。ハ、と息を漏らすように、灰二は笑った。
――嗚呼、その男はいい遣い手だろう? さア、見せてやれよ、斬丸。おまえがその名を負う理由を。その名が示す切れ味を!
信長が後ろを振り向く、その刹那。
それよりも早く忍びは間合いに滑り込み――
「三界の主、第六天。魔王、織田信長。御命、頂戴」
『神業・絶刀』、壊伐・九重。
刹那の一瞬、趨った斬閃は九。
その速度、筆舌に尽くし難し。限界を超えた夕立の腕が、肩が軋み、血管が爆ぜて膚が赤く染まるほど。
――地を摺る夕立の足から陽炎が上り、その速度の余りを謳う。
夕立が完全に静止した瞬間、信長の全身より間欠泉の如く血が噴き出し、その口が声も無き叫びを吐いた。
斬丸より血を払う。斬魔鉄の刃が、悦ぶように焔を照り返し、終わり行く魔王を写している。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最早、第六天魔王はその全身より噴き出る血を止める術を持たず、刻一刻と死に近づいていた。しかして覇王、その覇道を止めること決して認めず、襲いかかる猟兵らを、この段にあってなお強烈な剣にて斬り、払い、退ける。
言葉らしい言葉もなく、ただ狂を発したような叫びを伴って。
真守・有栖
◎
甲斐のたいがー。真守のうるふ。
憑き者同士、雌雄を決する時が来たようね!
此処に至れば、後も先もなく
己を賭して、挑むのみ
真守・有栖。光刃『月喰』。――いざ、参る
勁く、踏み込み
先んじての初撃。延びた斬光。間合いの外で太刀合わせ
追撃も臆さず。白刃で爪牙を防ぎ
腕一つ。足二つ。我が意と輝刃。他は要らぬと
王虎の猛攻。覚たる意と気合にて己で受け、耐えて
劣る。至らぬ。――然に非ず
力に非ず。技に非ず。意念で断つが光刃なれば
無明に月を視て
光明に己を醒せ
――月喰
後先要らず
己と刃の生き様を
斬るか散るかの今生を
刃狼一心
渾身を以て、太刀振る舞う
壱、弐、参、肆、伍、陸、漆
――鐵牙
捌き、裁きて魔を穿ち――月天に吼ゆるは狼なり
●狼虎相対す
信長は白虎装の信玄を再召還。虎も所々がぼやけ薄れ、最初ほどの力も無いように見えた。だが油断など、出来ようはずもない。隙を見せたものから殺してやると、覇王の赤い瞳が光っている。
「甲斐の虎、俊狼・真守。憑き者同士、雌雄を決するときが来たようね」
一人の猟兵が、部屋を埋め尽くす武田騎馬軍団の間で呟き、その間を縫って飛び駆けた。――確かに信長の攻撃は、事ここに至るまで数多の猟兵が成した攻撃にて、その規模を当初より遙かに矮小化している。
だが、未だ強敵。技の冴え、重圧、なおも尖るばかりだ。オブリビオン・フォーミュラとはそうしたものだ。リスアット・スターゲイザーも、ドン・フリーダムもそうだった。最後まで、油断の一片すら許されぬ。
承知の上だ。
――事ここに至り、最早後も先もなし。
身命賭してこの覇王へ挑むのみ。
狼は、右手に刀を抜いた。清冽な響きのする白刃である。『九代永海』永海・鍛座作、烈光鉄製打刀『月喰』。
「真守・有栖。光刃『月喰』。――いざ、参る」
名乗りも朗々と、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)は荒れ狂う覇王目掛け、勁く、真っ直ぐに踏み込んだ。
信長が瞬時にそれに反応。信玄に拍車を当てて回頭、即座に襲いかかってくる。有栖は月喰にて間合いの外から一閃しようとしたが、しかし第六天魔王はそれよりも速い。跳躍した虎が天井と壁を足場にして跳ね、まるで予想外の方向より突撃してくる!
「――!」
爪が唸った。有栖は左手に握った月喰にて、襲いかかる信玄の初手を辛うじて受け流すが、立て続けに横薙ぎが来る。有栖は飛び退くが、獣が瞬息、その距離を後ろ足の撥条で詰めた。
「くッ!」
有栖が歯を食いしばった刹那、振るわれた剛肢が、月喰に添えてなんとか受けんと構えた彼女の右腕を砕いた。何たる撃力。肺の空気が残らず絞り出され、有栖は横合いの騎馬武者を三騎巻き込んで吹っ飛び、壁に叩きつけられる。
「か――は、」
視界は明滅し、身体の各所から危険信号が這い上ってくる。ただの一撃でこの有様。これが覇王。これが第六天魔王。――織田・信長。
即座に追撃が来る。信長が吼えながら、火焔に揺らめく実休光忠を振るい、焔の渦を有栖目掛け投射する。
有栖は遮二無二、唯々強く地面を踏み切って、斜め前へ駆けて焔を避けた。
――速度は、覚えた。あの機動性も。
有栖が未だ動くとみるや、再び信長は信玄を駆り、疾風めいて距離を詰めてくる。その予備動作を見定めつつ、全くの間合いの外から――有栖は利き手、左に握った月喰を振るった。
刹那、剣先より斬光伸び、十五メートルを置いて信玄の頭を割らんと狙う。
「ぬうッ
……!?」
信長も、それには驚嘆の呻き。
烈光鉄製打刀『月喰』は、持ち手の意念を光の刃に換える力を持つ刀。有栖は、敵の超高速移動に合わせ、一度食らった攻撃は二度食らわぬとばかり、月喰より光の刃を放って王虎と打ち合う。信玄もまた、追い詰められてなお煥発となるその爪牙によってそれを受けつつ、間を詰める!
――徐々に間を詰められつつも、有栖の心に恐怖はない。
右腕が折れた? 未だ左腕がある。
キバ
腕一つ、足二つ。我が意と輝刃。それだけあれば事足りる。いくさ舞うために、他に何も要らぬ。
ついに爪の距離まで信玄が攻め寄せた。絢爛な音を立てて打ち合いながら、有栖は谷に吹き溜まる風のような音で息吹。直撃ではなけれど、幾度もその身体を爪が掠め、そのたびに血が飛沫くというのに、覚たる意と気合にて耐え忍ぶ。
劣る。至らぬ。――然に非ず。
この剣が、この腕が届かぬならば届かせよう。
力に非ず。技に非ず。意念で断つが光刃なれば。
有栖は目を閉じる。閉じた無明の闇の中に、浮かぶ月がある。
その光明を浴び、月狼は『断つ』という意思を、一刀強く尖らせた。
「――月喰」
瞳、見開く。
眼前に迫った信玄の爪を、風に吹かれた飛葉の如く舞い避け、有栖は在るだけの心の力を、全て月喰に注ぎ込む。心の月に酔うた餓狼が、獲物を目掛けて驀地に。
後先要らず
己と刃の生き様を
斬るか散るかの今生を
刃狼一心、玲瓏絶佳
渾身絶技の太刀振る舞い
いざや一刀、献上仕る
――月喰、翻り閃く!!
壱、弐、参、肆、伍、陸、漆ッ!! 一瞬にして七の剣閃! 信玄の前肢、その関節部が縫われて斬れ飛び、バランスを崩した信玄の頭が下がる。その苦悶の声が落ちるよりもなお速く、有栖は王虎の顔面を蹴り上り、跳躍ッ!!
またも、奇しくも、捌閃目。よくよく八に縁があるものだ。
瞠目する第六天魔王目掛け、月天に狼、吼ゆる。
遠叫と共に繰り出された捌閃目、『鐵牙』の突き。切っ先より迸る烈光の刃が、光条となり信長の胸を射貫き――その身体を、魔空安土城の壁を破って外へ吹き飛ばす!!
成功
🔵🔵🔴
胸から血が飛沫き、信長は空を游ぐ。
上を仰げば、高い――高い空が見える。
ああ、儂は、天下を手中にせんとしたが。
あの高い蒼穹には、ついぞ届きもせなんだのだな。
最早、織田信長は、貫かれた胸元の鎧を修復する事すらかなわぬ。
しかしその目は今までで、もっとも危険な光をしていた。
ただ、怜悧に――対する敵手を噛み殺すだけの、手負いの獣の目の光。
――よかろう。せめて土産首を二つ、三つ。
このいと高き空に咲かせて散ってやろうぞ。
クロト・ラトキエ
◎
駆け、距離を詰め
炎刀か、嵐か、裏腹に体技か…
視力の限りに
視線、腕、体捌き、踏み込み…戦闘のあらゆる要素を見切り
最速の一手、それだけは回避又はフックで往なし耐久
斬り結ぶは短剣で
UCは防御でなく攻撃に全開
嵐は鋼糸を手繰り踏み越え
黒曜だろうと鎧無視にて穿ち狙い
炎には旋風起こす程の炎で返す
刃が弾かれ飛ぼうと構わず
不敵。絶対。傲岸不遜
あの男は、体現
そう有れかしと思った己の
今そう生きる己の
己はそう在ると証すなら――
届かんわけにはいかんだろ…!
間合内にて
眉間を狙うナイフ…それも
咄嗟の防御…それも
鋼糸引き手元に戻すダガー…それも
全ては偽り、目眩し
逆の手、最後迄封じた長剣で彼の身を貫く
己の証明
妥協などしません
●黒閃
外に吹き飛んだ信長を追走し、いの一番に駆けたのはクロト・ラトキエ(TTX・f00472)であった。空中戦ならば心得がある。万一落ちようとワイヤーをかける突起さえあれば何とでもしてみせる、との自負があった。
信長が破った壁より身を躍らせたクロト目掛け、謀ったかのような一閃。刀より迸る焔が中空よりクロトを射貫かんと唸る!
しかしクロトはそれを予見していた。ただ飛び出すように見せかけて既に張っていたワイヤーにより自分の身体を上方へ引き上げ、焔の剣閃を辛うじて回避。しかし一手で終わりではない。
「燃え落ちよ
……!!」
第六天魔王、織田信長、樹翼を再構成しそれにより揚力を得て天を羽撃く! 上方へ登るクロトを追うように飛翔! 樹木より発する飄嵐めいた、鎌鼬を伴う風に焔を乗せ、クロト目掛けて凄まじい火焔旋風を吹かせる!!
その炎熱と勢いときたら、魔空安土城が小揺るぐほどだ。クロトはワイヤーを全開で巻き上げ、その視力の限りを尽くし、視認できる攻撃全てを認識の上、城の外壁を蹴り上りながら巧みに回避。
炎刀、嵐、放つ炎に鎌鼬、視線、腕、体捌き、翼の動き。あらゆる要素を情報源として見切り、回避行動を取ってさえ、全てを回避とは行かぬ、躱しきれぬ鎌鼬や焔の余波が、徐々にクロトに疵を蓄積していく。しかし技の粋を尽くしての最良の回避だ。ここまでできる猟兵は、そうはいるまい。
――焦るな。落ち着け。
クロトは自身に言い聞かせつつ、己の内側の全ての魔力を集中させ、練り上げる。
近づかなければ、戦闘は出来ぬ。しかしクロトには策がある。――旋風を起こすほどの爆炎。即ち、『トリニティ・エンハンス』。
飛び出した階層より都合三階層を翔け登り、クロトは意を決したように屋根瓦を蹴飛ばし、踏み抜くほどに強く駆け、跳躍した。
――その足下より、炎爆ぜ!
「むうっ!?」
真逆真逆、クロトはそのまま爆炎を踏んで空を飛び駆けた。
ワイヤーによる機動回避を続けても、否応なしに被弾する。それが続けば、先に死ぬのは此方。であれば魔力の限りを尽くし、防御を捨て、接敵し切り結び、断つ……!
「はああっ!!」
爆炎伴い空を趨り登りながら、クロトは抜き出したスローイングナイフを投擲!
驚愕より立ち戻った信長は実休光忠を振るってそれを弾くが、クロトが指を閃かせれば、ナイフは空中で軌道を変じて信長へ再び唸り飛ぶ!
「小賢しい真似を!」
信長は即座にそのからくりを悟ったか、即座により膂力を込め、ナイフに結ばれた鋼糸を断つ。だが、その間にもクロトは足下に爆ぜる炎を踏んで迫り――
「捉えましたよ。織田信長」
片手にナイフ、もう片手にマンゴーシュを構え、空中、常識外れの空中戦を挑む!
「貴様の刃が届くのならば、儂の刃も届こうというものよ!」
歯を剥いて笑う信長に、クロトは真っ向から打ちかかった。刀とナイフが火花と渦巻く炎を散らし、空中にて剣乱なる刃音を奏でる!
片や樹の翼で羽撃き、片や魔力を尽くして空を爆ぜ駆けながら!
響く剣戟、十・二十では効かぬ。
いくさかぜ
刹那の間での打ち合い、正に剣嵐迅駛の 戦 風 !
刃振るいつ、クロトは思う。
不敵、絶対、傲岸不遜。――或いは、その在り方に憧れていたかも知れぬ。
あらゆる障害を乗り越え、覇を掴んだ男。そうあれかしと思い、そう生きんとする己の憧憬。
ああ、ならばこそ、届かぬわけには行くまい。
手を伸ばせ。あと少し。
今この時も信長に斬られ、突かれ、服に染みて失われていく血。とうに傷だらけの身体。
だけど、それでも、まだ動くのだから。
クロトは腕を翻した。斬撃に見せかけ眉間にナイフを投擲。弾く信長。返す刀で首を討ちにくる信長から身を守るように両手を退き首を庇う動作。ブラフ。弾かれたナイフを鋼糸で引き戻し再び首を狙う。信長が瞠目、間一髪でナイフを弾き落とす。斬り下ろしに繋ぐ信長の一撃を、クロトはマンゴーシュで受け太刀。しかし剣勢煥発にして雷霆が如し。余りの剣圧にグリップが緩んだ瞬間、短剣を弾かれてクロトは徒手に。
と
殺った、
吼える信長に、しかしクロトは、殺されてはやれぬと身体を翻す。ごく僅か、僅かだけでいい、身を捌く。懐に手を伸ばす。
クロトの身を、深々と実休光忠の熱き刀身が貫いたその刹那――
じゃ、ぎッ、
クロトの手の内で伸びた黒柄の剣が、信長の黒曜石の鎧、その脆くなった右胸を貫いた。
最後まで抜かなかった――否、最後だからこそ抜いた、変形長剣『Neu Mond』。
最後の一手、騙し討ち。果たして、第六天魔王の胸に、通ず。
「――、」
「が……はッ……、」
――此れが、僕の証明です。
口から溢れる血で声に成らぬ言葉を聞いたように、第六天魔王は呻き、唸り。
「美事、也」
しかして認め、クロトの身体を振り棄てた。
黒剣が抜け、信長の胸より血が迸る。最早、疵も塞がらぬ。
クロトは蒼天に遠ざかる信長を見上げながら、浮遊感の中目を閉じた。
――生きるべく、鋼糸を伸ばす。今は誇ろう。この刃が、確かに届いたことを。
成功
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最早、樹木の翼も限界に至りつつあった。
信長は力強く羽撃き、魔空安土城の最上層へと舞い上がった。
屋根瓦を踏んで着地。同時に、最後の翼がはかなく朽ちて背より崩れ落ちた。もう、再度編むことはできまい。
――なんと峻烈で、恐ろしき者達よ。
事、ここに至るまで、一つの首すら取れぬとは。
大量の血を吐き、信長は噎せ込んだ。
屋根瓦に落とした目。――不意に、背に響く予兆を感じ、信長は視線を上げた。
その先にいる。――最後の死神が立っている。
花剣・耀子
義ではなく。
私情に依って、おまえを討つ。
騎兵が厄介なのは判っていたけれど、これは規格外ね。
アメノハバキリを盾に。
咄嗟に打ち合って即死は防ぐよう努めましょう。
吹き飛ばされても、叩き付けられる迄に間があれば充分よ。
ほつれた封を破って旋体、地面を蹴って再度の肉薄。
厄介なら其れと対等になれば良い。
……大盤振る舞いよ。呪いなさい。
ヒトは死んだら其処までなのよ。
二度目はない。
終わるからこそ受け継がれて道になる。
歩んだ日々を、その先を、過去に塞がれるのは業腹だわ。
何もかもを斬り果たしに征きましょう。
いくさばかりでも、空は青かったことを憶えている。
――あたしは。
あたしのために、この世界を取り戻しに来たのよ。
●テンペスト・ブロウ・イン・ブルー・スカイ、フェイデッド・オーヴァーロード
「義ではなく」
ざ、進み出るは羅刹。黒曜石の角と髪。色取り取りの髪留めで、雑に前髪を留めた娘。眼鏡の下で怜悧な、この蒼天を思わせる瞳が、瞬きもせずただ光る。
「私情に依って、おまえを討つ」
彼女は、かつてエンパイアの戦場を渉り歩いた斬り祓い屋。
戦乱の中、師を喪い、仇を遺し、残骸を抱え、世界を越えた一猟兵。
あの争いも。その争いも。どの争いも。
その怨禍の底に居たのは、オブリビオン・フォーミュラ、織田信長であろう。
なればこの戦、今世最後の弔い合戦。
娘は常に持つ機械剣《クサナギ》ではなく、鞘を纏ったままの刀を手に取った。
銘、《アメノハバキリ》。ひとたびその呪詛溢れれば、術者の寿命を喰らいて敵を断つ魔剣。抜けず、抜かずの残骸剣。
鞘の侭、それを携え少女は名乗った。
「花剣・耀子。 推して参る」
その言葉を最後に。
戦闘機構、花剣・耀子(Tempest・f12822)、爆ぜ駆ける。
屋根瓦が立て続けに爆裂し、砕け吹き上がった。耀子の足跡は、余人から見れば、その瓦の破片でしか追えまい。速過ぎる。
しかし信長、第六天魔王、それに劣らぬ早さで踏み出した。瞬息現れた甲斐の虎が、信長を背に負い疾風となって駆けたのだ。最早その虎、揺らめき、蜃気楼の如し。最早死にかけの残滓に過ぎぬというのに、消える直前の燃え上がるともしびのごとく、苛烈に吼え猛る!
振り下ろされる鋭利なる虎爪! 耀子の速度を以てしても先手を打たれる! だが耀子は本能のみにてアメノハバキリを跳ね上げ防御。弾くたび火花が散り、大音鳴り響く!
「いゃあアッ!!」
裂帛の気勢! 最早刀に纏う炎も些少、しかし虎上より信長が振るう刃は鋭利なる炎波となって耀子を襲う! 死に瀕して、今までのいつよりも苛烈な攻め!
耀子が残骸剣にてそれを弾き散らした瞬間、阿吽の呼吸で信玄が前肢を外薙ぎに打ち払う! 真面に入り、耀子の身体はゴム鞠めいて飛んだ。爆ぜた臓腑の血が迫り上がり、吐血。
打ち払い故、爪は刺さらず。しかし、ただの一打でその威力。肋が砕け、並の猟兵ならば最早継戦は不可能となったやも知れぬ。
――しかし花嵐、未だ絶えぬ。
身を旋し、屋根瓦に足が衝いた瞬間に、先程よりもなお速い前進。
堅く戒められた残骸剣の布を、耀子は引き千切るように解く。
「大盤振る舞いよ。呪いなさい」
アメノハバキリ
――抜刀。残骸剣、極致。天 羽 々 斬。
いまや耀子は、速度という概念を固めた、ヒトの形をした何かであった。
抜かずの妖刀、アメノハバキリより溢れる大蛇の呪詛が耀子の身体に纏い付き、地を縮めたかのような迅駛の前進。信長が瞠目し、甲斐の虎さえそれを恐れたかのように、一瞬鼻先を揺らす。
剣先より迸るは、呪怨の白刃。鋭利なる衝撃波。
斬撃に斬風が付随する。即ち斬撃一閃につき二条の剣閃が疾る。
断じて行えば鬼神も之を避く。猛虎とて、命を捨てる覚悟の白兵を、爪牙で殺すは並々ならぬ!
時を引き延ばしたかのように、一秒の間に何合打ち込んだか! 最早数えることすら不可能だ! 虎の前肢、顔に、虎上の信長に、無数の疵が刻まれる!
「――ヒトは死んだら其処までなのよ」
耀子は謳う。苛烈に、爪を打ち払い、牙を刃で弾き、信長を弾劾するように、朗々と。
「二度目はない。終わるからこそ受け継がれて道になる。――あたしが歩んだ日々を、その先を、過去に塞がれるのは業腹だわ」
「過去――過去か。……儂は」
そんなこと。
分かっていたことだろうに、信長は、虎上にて、己が二度目の夢の終わりを悟った。
「あたしは。あたしのために。――この世界を取り戻しに来たのよ。第六天魔王――おまえという、『過去』から」
アメノハバキリの切っ先に、呪詛が集う。
ソラ
蒼穹をも裂けと、天剣が叫ぶ!!
「――おまえを、『斬り果たす』わ」
アメノハバキリが振り下ろされた。遙か彼方で雲が裂ける。
――いくさばかりでも、見上げたそらが青かったことだけは覚えている。
だからこそ、このそらを濁す星の黒点を捨て置けぬ。
魔性天剣、アメノハバキリの一閃が、第六天魔王の受け太刀を砕いた。
実休光忠爆ぜ割れて、甲斐の虎もろともに唐竹割りに。断たれた魔王がひび割れて、最早断末魔の声も無く――
どう、と光散る。
今、ここに、第六天魔王は――その力の全てを使い果たし、魔空安土城の最上にて、弾けるように散ったのであった。
大成功
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