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焼野の雉

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●子どもしかいない村
「――さあ、私に美しいものを見せよ」
 領主はくつりと喉の奥で笑った。
 自ら殺めたものたちの殺意を外套に纏い、憎きものを己の手でこそ殺めようという彼らの怨念に守られた男の、目の前で。
 呪われ、守られ、翳る世界に飽いた男を愉しませるただ一つの余興。それがいま、幕を上げた。
 狩人は黒薔薇の娘たち。恐慌の中に逃げ惑う子どもばかりを優雅に、悪戯にとらまえて、やわらかな肉を甘く噛む、無垢なる肌に爪を立てる。
 くすくすと笑いさざめかせた娘たちは、本気で追って、喰らってはならぬと分かっている。
 主が望んでいるのは前座なのだ――その後の悲劇をより美しく魅せるための。
「ああ、お止めください領主様……! 逃げて、お前だけでも逃げるのよ……!」
「駄目だ、こっちに来るんじゃない! 父さんのことはいい、早く!」
「領主様、領主様、どうかお慈悲を……! わ、わたしの命でしたらよ……喜んで差し出します! ですから……!」
 どうか、どうか。あるものは震える声を絞り出し、あるものは身を投げ出し、あるものは子を抱え、叫ぶ。
 幼いあの子だけは。可愛いこの子だけは。縋る声に高揚が最も高まるその瞬間を待って、ああ、と領主は口を開く。
「その願い、聞き届けよう」
 首が飛んだ。体が爆ぜた。すべて、すべて、大人ばかり。
 強請る従者たちの眼差しに鷹揚に頷けば、黒薔薇の娘たちは美しい白い頬を赤く汚し、うっとりと血肉を喰らう。
 最後まで母に抱かれ、守られていた子の瞳から、ひとすじの雫が流れ、光が消えていくのを。男は静かに見届けて、口の端を歪めた。
 死した魂の怨嗟を力として取り込んでは、笑う。渇いていた眼はいまや狂気にみずみずと輝き、自らが膳立てをした舞台を照らしていた。
「この美しさも深き絶望故なれば。嗚呼、この世界はなんと」
 ――美に満ちていることか。
 熱を孕んだ溜息が落ちる。そうして村から、大人が消えた。

●焼け残った心
 ――炎巻く野に我が子あれば、雉は我が身を擲ってでも雛を逃がす。親の情けを喩え、語られる美談ではあるけれど。
「その状況は、意図的に作り出されるべきものじゃない。両方が救われるより美しいことはない筈だ」
 それを為す悪辣な領主があるのだと、ヨハ・キガル(夜半の金色・f15893)は仲間に告げる。
 討伐すべきものは、ダークセイヴァーの一角を自領とする、翳った金の髪の男。そして男に傅く、黒薔薇を纏った人喰らいの娘たちだ。
「名は分からない。配下たちも子どもたちもただ、領主様、大領主様と呼んでいる」
 子どもたち――、と察したらしい同志のひとりが息を呑む。ヨハは頷き、躊躇いなく告げた。
「その村にはもう大人はいない。目の前で親を殺された子どもたちだけだ」
 領主は館に最も近い村を殺戮の舞台に選び、幾月かに一度、自領の他の集落から殺した分を補充するのだという。貧しくとも幸せで、愛情に満ちた家族を。
 子どもたちしかいない村を不思議には思えど、子らのため領主館で働かせているのだと告げられれば、民に疑う余地はなく。
 親を奪われた子どもたちもまた、総じて生気に乏しく、新たな住人たちの問いに口を開くこともない。――言えば自分も親と同じ道を辿ることを、分かっているから。
 領主の膝元にあれば少しは豊かな暮らしができるかもしれないと、微かな希望に胸を温めやってきた一家を待っているものは――数か月後の殺戮だ。
「領主の男は、殺した者たちの呪いを自分の力としている。だから殺せば殺すほど、背負った業が深いほどに強くなれる。得てしまった力はどうすることもできないが、得ようとしている力を削ぐことならできる」
 だから、まずは村に向かって欲しいと依頼する。
 笑顔を忘れてしまった子どもたちの中に、それでもまだ、なけなしの心が残っている。悲嘆、絶望、悔恨に満たされたそれすらも、領主は悪辣なる儀式で吸い上げ、力としているのだ。
「子どもたちの心を少しでも正の方向へ向けられたなら、力の供給は止まるだろう。簡単なことではないけれど」
 異変に気づけば、領主は黒薔薇の娘たちを差し向けるだろう。そしてそれを駆逐されれば、自ら乗り出して来る筈だ。
「自分の享楽を邪魔するものを許しはしない。そういう男だ。だから、あなた方も全力で邪魔してやればいい」
 子を想ったものたちの最期の願いを叶えるために、悲劇の幕をもう二度と上げさせないために。――ただ気に食わないからと、それだけでも構わない。
 想う心の美しさなど、ひとの目に触れる必要のないもの。そこにただ、静かに在ればいいものだから。
 道行きに好い風が吹くように。そう密やかに口の端を上げて、ヨハはグリモアの光を喚んだ。


五月町
 五月町です。
 久し振りのダークセイヴァーです。心情にも戦闘にもどうぞ、思いのたけを。
 お目に留まりましたらよろしくお願いします。

●ご参加について
 各章とも冒頭部を追加後、マスターページとTwitter(@satsuki_tw6)にて受付開始、受付締切をお報せします。
 期間外にいただいたプレイングについては不採用となりますので、送信前に一度ご確認をお願いします。
 また、期間内にいただいたプレイングであっても、採用を見送らせていただく場合もございます。予めご了承ください。

●シナリオについて
 時間帯は翳った昼間となります。
 行動や戦闘のみではなく、思いを詰め込んでいただけると採用率が上がると思います。
 技能は確認し、数値を含め判定に加味していますが、技能だけを羅列するプレイングはお勧めしません。
 それをどう生かして戦うか、どんな気持ちで扱うかを込めていただけましたら幸いです。

●第1章:子どもたちの救援
 P/S/Wは参考程度で構いません。思いに従い、子どもたちの為にできることをしてください。
 極限まで追い詰められている子どもたちは、思うような反応を返さないかもしれません。結果として、思いが拒まれることもあり得ます。
 この章の結果を受けて、3章の敵の強さが変化します。

●第2章:黒薔薇の娘たちとの集団戦
 詳細は2章冒頭追加をお待ちください。

●第3章:領主戦
 詳細は3章冒頭追加をお待ちください。
 なお、1章で子どもたちの絶望からの力の供給を絶っていたとしても、強力な敵であることには変わりありません。

 それでは、どなたにも好い道行きを。
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第1章 冒険 『心の病から村人を救え!』

POW   :    近くの森で狩りをしたり、頼れる部分を見せつけたりして情熱的に勇気づける

SPD   :    領主を除く現在の困りごとを聞き出し、スマートに解決し負担を和らげてあげる

WIZ   :    親身になって相談に乗ったり、心の消耗を和らげる薬を作るなどで心を軽くしてあげる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●雛の嘆き
 襲撃が起こったのはほんの数日前のことであるのに、悲劇の痕跡は、意外なほどに少なかった。
 黒薔薇の娘たちは、上手に全てを啜り尽くすことに長けていた。血も、皮も、肉も、なにひとつ余さずに食み、飲み下し、舐め取ることに長けていた。
 けれどそれでも、骨や衣服は残るはず。その通り、ではそれすら残らぬのは何故か。
 子どもたちが片付けたのだ。――最初の襲撃に親を失い、次の襲撃に慄いて、それから幾度もこの襲撃を目の当たりにして。こころが疲れ、枯れ果てて、恐れ以外の感情を忘れてしまった子どもたちが。
 昨日家族を失ったばかりの子どもたちの瞳はまだ、乾いてはいない。けれどそこに、光もない。
 家の前に、ぼんやりと座り込んでいるものもいる。家の奥に籠り、震えて出てこないものもいる。
 母の温もりを求め、枯れた声で泣き続けるものがいる。隣の家のもっと小さな子を抱いて、泣く暇もないものがいる。
 ――そして、それを。熱を失い、乾ききった眼差しでただ見守る、かつてそうであった子らがいる。
 凄惨だった。血を見るよりも寧ろ、酷薄だった。
 そして、彼らの裡にこびりついた絶望という心の残滓さえ。彼方に見ゆる領主館に在るものは、利用しようとしている。

 救えるのかは分からない。何も戻らない。救いなど、どこにも残されていないのかもしれない。
 けれど、何もせずにはいられないから、何かせずにはいられないから、猟兵たちは足を運び、手を伸ばし、声を掛ける。
 受け容れられるかもわからない。拒絶に心が痛むばかりかもしれない。 それでも。
 ――虚ろの底のように揺るぎないこの絶望から見上げたら、やれることだけは星の数だってある筈だから。
雨糸・咲
大切な命が目の前で消えてしまう絶望を知っている
加えて彼らは、抗えない理不尽に奪われたのだと

それでは…
凍って、乾いて、
終いに落ちて行ってしまいます
這い上がれない暗闇へ

領主への怒りなのか
子供たちの境遇が哀しいのか
自分の失ったものを思い出したか
判然とはしないけれど
こみ上げるそれら全部抑え込んで

大きめの鍋と食材を持ち込み
少し開けた場所を探して
作る料理は野菜をコトコト煮込んだ温かいスープ

近くにいる子から順に
食べませんか、と笑顔で声をかけます

まずは身体を温めること
生きようとする身体が心を引き上げてくれることもあると思うから
或いは、嘗て共に食卓を囲んだ大人たちが
彼らに生きてと望んだことを思い出して欲しい


オズ・ケストナー
クロバ(f10471)と

あったかいものにふれるとね
ほっとするんだよ
わたし、しってる
ミルクを用意できたらよかったけど
わたしが持ってるのはこれだけ
だから

クロバ
お湯、わかそうっ

いつもよりそっと声をかけ
しゃがんで目線を合わせ自己紹介
きみはなにいろがすき?
瓶の中の金平糖を見せて

答えがなかったら
瞳の色を選んでぽろぽろカップの中へ
きれいな色だね

手を重ねてカップを預ける
くるくるまぜてみてっ
透明なお湯だから回って溶けるのも見えるね
やさしい甘さになるよ

クロバがやさしく手を取る姿を見たら
あたたかいきもち

わたしは体温はないけど
手のひら通して伝わったらいいな
ひとりじゃないよ
だいじょうぶだよ

他の子にもあったかいを届けるね


華折・黒羽
オズさん(f01136)と

嘗ての記憶
優しくあたたかな育ての父と母
得体の知れない自分を受け入れてくれた
今はもういない“家族”

沈みかけていた意識は
オズさんの声に引き戻される
頷きながら、彼が共に来てくれて良かったと
一人ではきっと押し潰されていたろうから

子供達に手渡す金平糖入りの湯
陽だまりの様な笑みで子に話しかける彼の傍らに
静かに歩み寄り様子を見守る

手を、握ってもいいですか?

問い掛け取った子の手は
痩せこけ傷だらけで冷たくて
知らず熱を持つ目元を見られぬ様
その手を額へとあてる

…─すまなかった

間に合わなくて
助けられなくて

震えた声は隠し様もなく
記憶に重なる子の悲しみ
ただ己の体温が少しでもこの子に伝わればいいと



●あたたかなもの
 客人の訪れにも、反応は返らなかった。
 子どものそれとは到底思われない、不自然に老成した眼差しのいくつかが自分たちを一瞥する。それだけ。帰らないと分かっている筈の家族を客人たちの影に見て、失望にまた顔を伏せる――それだけ。
 何をも期待しない。期待されていない。その有り様に、華折・黒羽(掬折・f10471)は掌を握り込む。
 自分にも家族と呼べるひとたちがいた。血の繋がりはなくとも優しく、あたたかで、得体の知れない自分を受け容れてくれた大切なひとたちが。――そして、今はもういない。
「クロバ」
 はっと顔を上げた。陽だまりのように温もるやわらかな笑顔。オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)はにっこりと、熱のない両手で友人の掌を取る。
「あっちに、共用のかまどがあるみたい。お湯、わかそうっ」
「……ええ」
 素直に頷き、歩みを並べながら、彼が共に来てくれて良かった――と黒羽は思う。彼の手と微笑みが導いてくれなければ、自分はきっと押し潰されていただろうから。
 それなりに整備された水場が近くにあった。往復して水を汲み、湯を沸かしはじめるふたりに微笑んで、雨糸・咲(希旻・f01982)は持ち込んだ鍋へ視線を戻す。
 ことことと歌う鍋を掻き混ぜる。たくさんの野菜がくるくる回る渦に、込み上げる想いが溶けていかないよう、ぎゅっと胸の裡に押し込めた。
 領主への怒りか、それとも子どもたちの境遇が哀しいのか――あるいは、かつての喪失を思い出したか。そうかもしれない、と咲は思う。
(「大切な命が目の前で消えてしまう絶望を……私は、知っています。でも、それ以上に」)
 それにも増して彼らは、抗えない理不尽の内に奪われたのだと。聞き知った事実の重みにさす影を、ふるりと首を振って払う。
(「それでは……凍って、乾いて、終いに落ちて行ってしまいます。這い上がれない暗闇へ」)
 ――そうは、させない。匙持つ手に力が籠った。鼻先にふわりと漂うスープの匂いが、咲を光の方へ引き戻してくれる。
 ふと顔を上げれば、いくつかの幼い瞳と視線が合った。にこっと微笑み返せば、すぐ逸らされてしまうけれど、
「食べませんか」
 呼びかけにまた目が合う。話に聞く惨劇からから一日、美味しそうな匂いと腹充たす誘いに知らん顔ができないほどには、空腹であったのだろう。
 言葉もなく受け取って食べ始める姿に、咲はせつなく目を細めた。
 まずは体を温めること。生きようとする健やかさを取り戻した身体は、沈み込んだ心を引き上げる素地になる。それに、
(「嘗て一緒に食卓を囲んだ大人たちが、あなたたちに生きてと望んだことを……ね、少しでいいから、思い出してくださいね」)
 意識に上らなくていい。言葉にならなくていい。彼らを守って亡くなった人々の言の葉が、心に影を落とすばかりのものでないことを。
 努めて優しく、やわらかな笑みを浮かべて、咲は話しかけた。
「おかわりもありますよ。それとも、甘いものがいいでしょうか?」
 咲とにこっと視線を交わし、身を入れ替えたオズがそっと膝をつく。
「わたしはね、オズ、っていうよ。ねえ、きみはなにいろがすき?」
 まるで内緒話のような優しい囁きに、声は返らなかったけれど、怯えた眼差しが返ることもなかった。にっこりと笑いかけ、
「それじゃあね、きみはこれ。瞳のいろだよ。きれいな色だね」
 選び取った金平糖をぽろぽろとカップに落とし、そっと湯を注ぐ。水底の甘い星がやわらかく角を溶かしていくのを、ほら、みて、と手を添えて一緒に見守って。
「くるくるまぜてみてっ。すっかりとけたら、やさしい甘さになるよ」
 従うことに慣れているのかもしれない。言われるままに、くるくると匙で混ぜる子どもたち。仄かな甘さを口に含んでほんの僅か、無心な瞳に子どもらしいものが燈った気がして、ほっとする。
「――手を、握ってもいいですか?」
 傍らで見守っていた黒羽が、飲み終えた子の前に身を屈めた。やはり言葉は返らない、けれど拒む気配はない。
 脅かさないように、傷つけないように。そっと触れた傷だらけの手のかぼそさに、ふと、瞼が熱くなって。黒羽はそれを悟られまいと、ちいさな手を自身の額に当てた。――祈るように。
「……――すまなかった」
 間に合わなくて、助けられなくて。それは決して黒羽のせいではなかったけれど、彼は詫びる。すまなかったと繰り返し、震える声で。
 ぎゅ、と握られるままになっていた手に力が籠った。痛かっただろうかと見上げた子どもの瞳に、雫が零れていた。
 求めるようにぎゅっと、強く。握り返された手に、やわらかい獣の掌は熱を伝え返す。今度は目を逸らさずに、自分の瞳から零れる熱も隠さずに、優しく、強く。
 オズは微笑んで、あたたかなカップを握ったままの小さな子の手を、自分のそれで包み込んだ。
(「わたし、しってる。あったかいものにふれるとね、ほっとするんだよ、クロバ」)
 それはうっすら甘く温かな飲みものだけではなくて。彼の掌も、想いもきっと、そう感じさせただろう。
 人形のからだに体温はないけれど。自分のそれも伝わるようにと願いをこめて、オズは唱える。
「あのね、きみはひとりじゃないよ。――だいじょうぶだよ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ディアナ・ロドクルーン
この世界は…この世界はいつもこう
かくも無慈悲な――何一つ変わらない

全てを癒す事が不可能だと知っている
知ってるけど少しでも子供達の心を癒すことが出来るのなら


『―ディアナは泣きながら寝ている時があるね』

『子守唄を聞かせると安心したように泣き止む。君の記憶の深いどこかに覚えがあるのかもしれない』

『君もいつか、誰かに歌ってあげると良い―』


そう言ったのは私に手を差し伸べ慈しんでくれた人
そのいつかは、きっと今なのね

泣いている子、小さな子、おいでおいで
抱きしめてあげる、もう、泣かないで
さあ、一時の夢を
安らぎを―

静かな、優しい声音で歌を歌う
これで心の傷が癒える訳でも無いが少しでも支えになれば


セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎

問題は泣けないヤツか
優しい言葉じゃ泣けない
届かない
コイツらと俺とは
諦観と殺意で違うけど
そこにあった絶望は一緒だから
経験として知っている

なら先ずは死んだ心を動かそう
親が死んだのか
それで?
墓の一つもたてられないで
何もせず次のヤツらが同じ目に遭うのを見てたって?
無様だな

怒れ挑発にノってこい
祈るような気持ちで煽る
ノって来たら手を繋いで
半ば無理やりに抱きしめる
わからないわけねぇだろ
俺も一緒だ
弱いからなくした
でも今なら…助けてやれる
だから信じろ
助けるから
何も入っていなくても
せめて墓が建てれる様に

それで泣けたら
アレスの所に連れてって
故郷の子守唄を歌おう
コイツらが少しでも安心して寝れるように


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

…僕も母さんに守られて生き延びた
自分の手で、殺された母さん達の墓を建てた
けれど、彼らは…家族を弔えていないんじゃ…?

森で狩りをして食料を調達
調理器具を借りて炊き出しをする
シチューなら食べられるかな
出来たら配って
拒絶されても、近くに……セリオス?
…強引だが、眩い導きだな

最近襲撃に合った子には料理を渡す前に
おいで、と手を差し出す
此方に来たら
抱きしめて、背中を撫でる
…泣いても大好きな人が戻って来ないのは知っている
でも、今は…重い物が少しでも軽くなるように
寄り添わせて欲しい

もう心が消えてしまわないように
ちゃんと家族を眠らせるようにすると
約束しよう
…約束が力になるように
唄を、微かに歌う



●やすらぎの歌
(「……問題は泣けないヤツか」)
 絶望の果てに待つ、至りたくもないその境地を、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は不愉快なことに知っていた。
 けれど、だから。この子どもたちの身には諦観、かつての自分には殺意――宿った感情は別のものではあるけれど、分かるのだ。
 優しい言葉では泣けない、届かない遠くまで、心が至ってしまったもの。セリオスの前にはいま、まさにその一人がいる。
(「なら、先ずは」)
 不遜な態度。乾いた笑い。この場には、彼らには、最も相応しくないと思われるそれをセリオスは向ける。
「親が死んだのか。それで?」
 それは、弱った者に鞭打つように見えただろう。俯いたままの少年の身体がびくり、揺れる。
「お前は何をした? 墓の一つも建てられないで、何もせず次のヤツらが同じ目に遭うのを見てたって? ハッ――」
 ――無様だな。
 煽り叩きつける言葉の裏で、祈っていた。
(「……頼む、怒れ。挑発にノってこい」)
 どうか、どうか。こんな心ない言葉、謂れない咎めを聞き流せるまでに、心が死んでいないようにと。
 けれど、力なく垂れた拳は握り込まれることはなく、下がった肩が力を取り戻すこともなく。ああ、と拳を握り締めるのは、セリオスの方だった。
(「こいつらは、もう――超えちまったんだ」)
 深い悲しみと恐怖の果てに、怒る気力すら忘れて。責められればその通りと受け容れて、手を振り上げる力すらない。
「……なんでだよ」
 なんでだ、と乱雑に腕を掴む。暴れる感情の気配に身を竦めた少年を、抱き締める。なんでだよ、と繰り返すセリオスの方が、泣き出しそうに顔を歪めていた。
「怒れよ。怒っていいはずだろ、お前らは! わからないわけねぇだろ。俺も一緒だ――弱いからなくした」
 けれど、それはもう過去のことにした。今なら、助けてやれる。助けられる自分になったのだと、小さな身体を掻き抱いて、溢れる涙も厭わずに、噛みつくように叫ぶ。
「だから信じろ。助けるから。墓だって何だって、望んでそうしてるんじゃねえことくらいわかる。何も入っていなくても、せめて建てれる様にしてやる。だから……」
 ――希望を捨てないでくれ。
 掠れた呟きに、ぽとり。セリオスの胸に、一滴の涙が染みを作る。
(「セリオス――、……強引だが、眩い導きだな」)
 それが正しかったのかは分からない。けれど、荒げられた声に顔を上げたアレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)には、そう思えた。
 炊き出しの手は止めなかった。セリオスが経験から為すべきことを果たすなら、自分も道を同じくするまでだ。
 森で狩った鳥を捌き、村で借り受けた鍋でシチューを作る。素直に受け取って貰えたのは幸いだった、と安堵する筈の胸に、苦い思いが去来する。
(「……――拒絶する元気もない、か」)
 受け取ることだけはしたものの、冷えゆく皿も気にせずにただ、地を見つめるだけの子どもがいる。アレクシスはそっと近づき、おいで、と手を差し出した。
 やはり、拒むことなく近づいてはくる。その背にそっと手を回し、抱き締めた。いいんだ、とその虚ろを受け止めて、優しく撫でてやる。
「……泣いても、大好きな人が戻って来ないのは知っている。だから君たちは泣かないんだね。でも、今は……」
 自分たちのために親は死んだ。その薄暗い絶望には、アレクシスも覚えがある。
 母に守られて生き延びた末に、殺された母の墓を自分で建てた。その先に差す光がなければ、自分もそうなっていたかもしれない。――自分が歩いてきたのと同じ道の上に、この子どもも立っているのだ。
 だから、知っている。ひとりだった自分が、何を求めていたのかを。
「……重い物が少しでも軽くなるように、寄り添わせて欲しい。約束するから」
 もう心が消えてしまわないように、ちゃんと家族を眠らせてやれるように。その誓いを果たすことだけが、できることだと。
 座り込んだ少年の肩を、暖かい腕が抱く。こつりと寄せたこめかみに、アレクシスの口遊む歌が響く。
 それは望郷の歌だった。物悲しく寂しく打ち寄せる響きに、もう一つ、彼方から声が歌い重ねる。
 少年は静かに目を閉じた。――ひとすじの涙を零すことはまだ、できなかったけれど。
(「この世界は……この世界は、いつもこう」)
 その様子を傍らに、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)は物憂げな眼差しを辺りへ巡らせる。
 かくも無慈悲で、何ひとつ変わらない。自分たちが訪れなければ、差し伸べられる手すら子どもたちにはなかったのだ。
 そして訪れたところで、全てを癒すことなど不可能だ。失った命は戻らないし、傷ついた心とて容易く癒えるものではない。
(「ええ、知ってるわ。知ってるけど……少しでも」)
 ぎゅっと両の手を握り合わせた。ふたりの青年の歌声が、懐かしい歌を思い出させる。
 ――ディアナは泣きながら寝ている時があるね。
 優しい声。迷うことなく差し出される、しなびた指先。
 ――子守歌を聞かせると、安心したように泣き止む。君の記憶の深いどこかに、覚えがあるのかもしれない。
 そっと髪を梳く指のぬくもり。穏やかな笑顔。
 ――君もいつか、誰かに歌ってあげると良い。
 ああ、と両の手を解く。受け取ったものを誰かへ返す、そのいつかはきっと、今なのだ。
「おいで――こちらにいらっしゃい」
 掠れた声で泣きじゃくる子を、ディアナは呼んだ。言われるまま歩みを進めるその足許が、ぐらりと揺れる。それを受け止め、強く抱き締めた。胸の中でくぐもった嗚咽が、それだけで止むことはない。けれど、
 ――……♪
 懐かしい歌を、ディアナは歌う。ひとときでいい。決して代わりにはなれないけれど、失った母の夢に安らげばいい。優しく静かに、滔々と流れゆく声が、泣き疲れた子を眠りへと連れ出していく。
(「これで心の傷が癒える訳じゃない。目を覚ませば、この子の母親はいないのだもの。……でも」)
 このひとときだけでもいい。悲しみに疲れ切った小さな命の、支えになれるのなら。
 小さな体を抱き上げて揺すってやれば、泣きじゃくる声が少しずつ静まっていく。ディアナは柔らかに歌い続けた。腕の中の温もりが、力尽きて眠ってしまうまで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
WIZ

血肉すらも残らない。まるで、存在そのものを否定されたかのよう。
……辛かったことでしょうね。

具体的に手伝えることは少ないかもしれません。それでも、子供たちの傍にはいてあげたい。
話があれば、聞いてあげたい。
親の代わりには不足でしょうが、ね。

……私も一緒。パパもママも、近くに住んでた皆も、みんなもういない。
そうだね。辛くないって言ったら、嘘だと思う。
けど、さ。私も死んじゃったら、死んでいったみんなの気持ちも無駄になるし、覚えていてあげることもできない。
だから私は、生き抜くことを諦めたくはない。

……私も、頑張るから。
今は無理でも良い。諦めずに生きることを頑張ること……頭の片隅に、覚えておいて。



●願われたこと
 ――血肉すらも残さず、まるで存在そのものがなかったもののように。
 凄惨な悲劇の痕跡も、血の匂いも薄い。見た目ばかりは何事もなかったかのように平穏な村の有り様に、シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は眼差しを翳らせた。
(「……辛かったことでしょうね)」
 具体的に手伝えることは、少ないかもしれない。見れば村自体の損傷はさほど大きくはなく、この世界でこれまで見てきた集落に比べれば、暮らしぶりもそこまで困窮していた訳ではなさそうだ。――恐らくそれも、悲劇への落差を愉しむための領主の思惑であるのだろう。
 家屋の前に丸くなり、身動きしない子どもの傍らに、シャルロットはゆっくりと近づいた。驚かせないよう、さりとて気配は伝わるように。微かな身動ぎをした子どもは、隣に座ることを拒みはしなかった。
「……あのね、私も一緒。パパもママも、近くに住んでた皆も、みんなもういない」
 少しだけ顔を上げ、ちらとシャルロットを見た子どもは、すぐにまた顔を膝に埋めて、呟いた。――なんで、と。
「……なんで笑えるのか、辛くないのか、って?」
 身動ぎが返る。この子にはきっと、今の苦しみが未来まで永劫続く責め苦のように感じられているのだろう。
「そうだね。辛くないって言ったら、嘘だと思う」
 素直に頷き、次の言葉を探す。
 これをすれば癒される――そんな便利なものがないことを知っているからこそ、手伝えることは多くは思いつけなかった。
 ただ、傍にいてあげたいと思った。話があれば聞き、聞きたがるなら話してあげようと思ったのだ。親の代わりにはなれなくとも。
「けど、さ。私も死んじゃったら、死んでいったみんなの気持ちも無駄になるし、覚えていてあげることもできない。だから私は、生き抜くことを諦めたくはない」
 こうして言葉にするだけで、心は固まっていく。声音は少しずつ凛と、確たる意志を宿して響いた。
「……覚えていて、あげる……」
 掠れた独り言に眼差しだけで微笑んで、頭に触れる。
「……私も、頑張るから。今は無理でも良い。諦めずに生きることを頑張ること……頭の片隅に、覚えておいて」
 何も求めずに、シャルロットは立ち上がる。今でなくていい。受け入れられるいつかに思い出してくれたなら、と思ったけれど。
 シャルロットが立ち去って暫くして、子どもは顔を上げることとなる。
 風のような言葉が彼の心に響くのは、そう遠いことではなさそうだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
泣かず喚かず怒りもせずに
指ひとつ動かせない虚ろはかなしいかしら
手伸べる先すら見えないような
夜の底より深いよな
そんでも、きっと、
在ることを望んだ人は、居る筈だから

火の落ちた心に身体まで冷えてはいけないもの
掛け布を用意しよ、眠れずとも休まらずとも
吹き荒ぶ風を僅かでも遮るように
小さな傷なら僕も治せるかしらな
前を向けとは言えなくて
けれどもきっと、きっと
あなたの生きているのを望んだ人が居るのだと
そうっとあなたにお伝えしよう
今はなんにも信じられなくたって
包もうとする僕の手では冷たかろうと
あなたさえ居なくなってしまえば
その虚ろが空いた意味さえ消えるから
夜に添うてそっと、壊さぬようにいまばかりは



 淡い凪のような眼差しが、人形のように身を投げ出した子どもらをじっと見つめていた。
(「泣かず喚かず、怒りもせずに――指ひとつ動かせない虚ろは、かなしいかしら」)
 冴えた炎をとる指先に、今日は温かな毛布を携えて、イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)はそっとひとりの子の傍らに歩み寄る。俯いた視界に、近づく自分の足許は映っていることだろうに――その子は動かない。薔薇の娘に悪戯に刻まれた幾つもの傷跡に、痛々しく濁った赤が滲んでいた。
 この命の見る先は、きっと闇に包まれているのだろう。伸ばす手の先さえ見失うような、夜の底よりなお深い闇。
(「そんでも、きっと、生きて在ることを望んだ人は、居る筈だから」)
 死という終わりに至るよりはと闇を歩ませた両親は、いつかは晴れるその闇を信じただろうから。柔らかな毛布の温もりを纏わせて、その背をあやす。
「ああ、怪我をしているよう。どれ、小さな傷なら僕も治せるかしらな」
 触れる手の温もりさえ感じているか覚束ない小さなからだに、治癒の力は持たずとも、傷覆う帯と薬でそれを為す。
 ――前を向け、とは言えない。けれどその代わりにせめて、
「あなたの生きているのを望んだ人が居るのだと、ひとつ、憶えておいてくださるかしら」
 ぴくりと動いた指先に、静かに目を細める。腕を包んだ掌を伝わせ、今度は小さな手を取った。宝石の指先は冷たかろうと思いながらも、やわらかな感触に子どもが震えることはない。
「いいの、今はなんにも信じられなくたって――あなたさえ居なくなってしまえば、その虚ろが空いた意味さえ消えるから」
 今はただ、呼吸をしているだけでいい。悲しみに息を潜め、心を殺していてもいい。いつかきっと――射すひかりに、息吹き返す時が来るからと。
 真昼の闇の中にある子の手を、イアはもう一度そっと握り返した。これ以上、ひとかけらだって壊させまいと。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェレス・エルラーブンダ
ひとがしぬところを何度も見てきた
誰もが見て見ぬふりをして、或いは他者を蹴落として
奪い、啜り、朽ちていく
このせかいはいつだって残酷で
慈悲はない
それを、私はしっている

でも――、
それだけではないことも
私は、もう、しっている

このなかでいちばんおおきい子どもはどれだ
おまえか
……これ、やる

比較的年嵩の子どもらに渡したのは、一振りの刃
このせかいで生きるために、ひつような

いいか
たべものがなければ、みんなしぬ
だから、自分たちでとってこないといけない
狩りをおしえてやる

……私はそうではないけれど
おまえたちは誰かに望まれたからいきている
ひとりぶんのいのちじゃない
だから、繋げ
それを、もっとちいさいやつらにも、見せてやれ


ニヒト・ステュクス
ボクも母さんと『自分』を殺された
妹の体を借りてまだこの世にいるけど

生きてた頃のボクは
大人達の言う事に只従うだけで
やりたい事も何もなかった

キミは何になりたかった?
何をやりたかった?
ボクは…これから見つける所

全てを失った?
違う
まだ何も手に入れてすらいない筈
これから手に入るものすら諦めるの?
まずは生きなきゃ

火の起こし方
狩猟罠の作り方
獲物の裁き方に簡単な調理法
実演と図解で知識を教えよう

それでも子供じゃどうしようもない事もある
そんな時ボクは
師匠(f12038)をこき使う事にしたんだ
子供の特権って奴

…わかってるよ

一度死んで後悔したのは精一杯生きなかった事
自由になる為
大人になりたかった

子供の自分が
悔しかった


レイ・ハウンド
子供は非力だ
力も知識も経験も
何もかも足りなくて
一人じゃ生きてけねぇ

だから足りねぇ分は補ってやろう
俺は威圧感あって怖えーし
重労働を黙々やる

施しを拒む奴や動く気力もない奴は邪魔だ退け
死にたきゃ結構だが生きたい奴の枷にはなるな
気持ち?わかるぞ
俺も戦争で全部奪われたからな


生意気な弟子(f07171)の図太さに感心しつつ
子供の特権はそろそろ卒業する歳だろ

ここの連中もだ
俺達がずっと助けてやれる訳じゃねぇ
自立する力がなきゃ明日は手に入らん
大人とて独りじゃ生きてけねぇがな

人は必ず何かが足りない
だから助け合え
自分が持ってるものを与えろ
誰かを生かす為に自分は必要なんだと気づけ

安心しろ
怖い領主は俺達がぶっ殺してやる



●生きてこそ
 力も知識も経験も、何もかも足りない。
 無力ではないけれど、大人すら抗えぬ理不尽に立ち向かうには、目の前の子どもたちはあまりにも非力だった。
 だから、とレイ・ハウンド(ドグマの狗・f12038)は黙々と重労働に精を出す。裏手の家畜舎の餌箱水箱が空になっているのを見るや、仲間の見つけた水場から水を運び、飼葉を運ぶ。――その胸裏には、轟くような声と威圧的な姿で、今以上の畏怖を与えまいとする優しさがあった。
 往来する大柄な男には構わず、ニヒト・ステュクス(誰が殺した・f07171)はひとりの少年の前に立っていた。
(「ボクも母さんと『自分』を殺された。妹の体を借りて、まだこの世にいるけど」)
 一度『死ぬ』まで、やりたい事もなく生きていた。大人達の言いつけに従うだけで、人形のようにからっぽで――ちょうど目の前の少年のように。
「キミは何になりたかった? 何をやりたかった? ボクは……これから見つける所」
 答えは返らない。肩を下げ、水桶を下げて戻ってきたレイに道を空けようとひょいと下がる。
 けれど、少年は動かなかった。自然、レイが躱すことになる。ばしゃっ、と揺れて零れた水に、レイは足を止め、はあ、と荒い溜息を吐いた。
「……動く気力もない奴は邪魔だ、退け。死にたきゃ結構だが、生きたい奴の枷にはなるな」
 微かな苛立ちに本音が滑り出た自身に、ち、と舌打ちをする。声の圧だけで吹き飛びそうな子どもが、微かに掌を握り込んだ。
「……かるもんか」
 聞き取れずとも分かった。――おれの気持ちなんか、わかるもんか。ハッ、と乾いた笑いが出る。
「わかるもんか? 生憎だな、わかるぞ。俺も戦争で全部奪われたからな」
 握り込まれる拳を目端に捉え、ニヒトはねえ、ともう一度語りかける。
「キミも全てを失った? 違う、まだ何も手に入れてすらいない筈。自分の手で掴むものは、何も」
 そうじゃない? と問うてもやはり答えはないけれど、構わない。
「これから手に入るものすら諦めるの? まずは生きなきゃ」
 教えるよ、と少女の体に宿る少年は告げる。火起こしに狩猟罠の作り方、獲物の捌き方に調理法。ただ日々を生きるために、最低限必要なこと。――子どもが子どもであるうちは、大人が担っただろうこと。
「それでも子どもじゃどうしようもない事もある。そんな時ボクは、師匠をこき使う事にしたんだ。子どもの特権って奴」
「子どもの特権はそろそろ卒業する歳だろ」
「……わかってるよ」
 軽口の応酬に、家族を思い出したのか。ぎゅっと噛み締めた唇をふたりの眼差しが捉え、口を噤む。
「――……お前らもだ。俺達がずっと助けてやれる訳じゃねぇ」
 全てを失ったばかりの子どもには、あまりに厳しい言葉でもあった。だが、それは紛れもない真実。そして、近しい痛みを乗り越えて在るレイの言葉は、それだけの重みを響かせている。
 自立する力がなければ、明日は手に入らない。――それは大人だろうと同じこと。けれど、ただ一人で生きることなど、人間には不可能だ。
「助け合え。人は必ず何かが足りない。自分が持ってるものを与えろ。――誰かを生かす為に、自分は必要なんだと気づけ」
「……好き放題言うね、師匠」
「それが事実だ。安心しろ、怖い領主は俺達がぶっ殺してやる。お前らがそうして生きる下地だけは作って行ってやるよ」
 言い捨てて立ち去るレイを竦めた肩で見送って、口は悪いけどね、とニヒトは笑う。
「ボクも後悔したんだ、精一杯生きなかった事。だから考えて、心が死ぬ前に」
 どこからか聞こえてきた狩りの術を説く声に耳を欹てて、身を翻した。――気が向いたならおいでと言い残して。
「このなかでいちばんおおきい子どもはどれだ」
 その僅かに険を帯びた声は、温かな人の営みに踏み込んでの浅さゆえ。フェレス・エルラーブンダ(夜目・f00338)の問いに、助け合いも支え合いもなく三人三様に座り込んでいた子どもたちが、虚ろな目に互いを映す。
 やがてふたつの眼差しがひとりの少女に集い、ひとりの少女はどろりとした目でフェレスを見つめ返した。
「おまえか。……これ、やる」
 突き出したのは一振りの短剣を、びくりと震えた手に握らせる。
「それは、このせかいで生きるために、ひつようなものだ。いいか、たべものがなければ、みんなしぬ」
 ――死ぬ。その言葉はぐさりと子どもたちを刺した。脅しでないことを知っているからこそ、フェレスは狩りを教えるとそう言うのだ。餌を採り守ってくれる親鳥は、事実、彼らにはもう居ないのだから。
 今更怯えることもないほどに、死を見てきた。見て見ぬ振りをし、或いは蹴落として、奪い、啜った者が今度は朽ちていく。ここはそんな、残酷で慈悲のない世界だ。
(「でも――それだけではないことも、私は、もう、しっている」)
 教えてくれたいくつもの笑顔を、目の前の子らにも教えてやりたい。――お前たちにもそういう存在があったから、
「……私はそうではないけれど、おまえたちは誰かに望まれたからいきている」
 小さな体に抱える命の重みは、既に一人分ではない。運命の非情を知ったばかりの柔い心にそれを説くのは、酷なことであった。それでもフェレスは続ける。
「いのちを、繋げ。それを、もっとちいさいやつらにも、見せてやれ」
 刃を受け取った手はまだ震えていた。ぎゅっと柄を握りしめた意味は、分からないけれど。
「狩りを教えるなら、手伝うよ」
 後ろから響いたニヒトの声に、フェレスは頷く。その後ろからうなだれたまま、けれど確かについてくる少年の姿も見える。
 誰もが前を向ける訳ではない。惨劇のあとのこと、刃を恐れる子どもが殆どだ。
 それでも、閉じ籠ろうとしていた心を敢えて厳しさに拓き、生きようとする意志を見せるなら――差し伸べる手を惜しむものなど、一人としていなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

リヒト・レーゼル
人はとても儚いね。
親、親を失う哀しみに寄り添うことは難しいけど
自分の親みたいな人が目の前でいなくなったら
俺も悲しすぎてなにも考える事が出来なくなるかもしれない。

でもそんな時こそ灯りを見てぼんやりする。
話しかけて警戒とかされないかな。
哀しんでいる子の側に行って灯りを置くよ。
優しい光は見ていると落ち着くから……。
暗いよりも明るい方が良く見えるし
俺も、いるから。

何か思い出話とか聞けたら良いけど
喋りたく無かったら何も話さなくてもいいよ。
辛いのは分かる。

拒まれたら無理矢理はしない。
灯りを置いて近くで様子見する。
話しかけても大丈夫になったら話しかけてみたい。

俺の親はもう随分昔にいなくなってしまったから


ファルシェ・ユヴェール
親の愛というものは
確かに美しく尊いのでしょう
然しその心が結ぶ色の美しさは
感情のいろは、生きた心にあってこそ


私は旅商人、途中に立ち寄った設定で
食糧と毛布等をトランクに詰めて持ち込みましょう

こんにちは、と
旅商人であると名乗り
泣く幼子を抱えた子に接触を
自分より小さな者守る為、自身の涙を押し込めてしまった子
UCを使い手品のように花を咲かせたり、ミルク等を提供したり
幼子をあやしてあげられたなら
食糧等を返礼に、泊めて頂けませんか、と

旅の話でもしつつ手伝い、心身休ませてあげたいですが
受け入れて貰えずとも
持参した物は何かと理由を付け渡したい所
不足無い食糧が
温かな毛布と眠りが
ほんの少しでも痛みを解いてくれるよう


瀬名・カデル
アドリブ・絡み歓迎

子供たちの話を聞いてすごく胸が痛いんだ。
ボクの故郷を滅ぼしたあいつのように酷いことをするやつがいる…これ以上誰も犠牲にしたくない。

この子たちの心が救われるかはわからない。
けれど、ボクはこの子たちを救いたい。

傷ついた子にはまず「生まれながらの光」で怪我の癒やしを。
1人ずつ、1人ずつぎゅって抱きしめて「大丈夫」って語りかけて。
お母さんの代わりにはなれないけれど、人の温もりがどうか君自身を、心をあたためてくれるようにと祈りを込めて。
そしてどうか君たちに希望の光が灯りますように。

大丈夫、ボク達が…ボクが君たちの光になるよ。
それはボクの産まれた時からの役割だったから。
君たちを、護るよ。



●せめて心だけは
(「――すごく、胸が痛いんだ」)
 酷いことをする奴がいる。故郷を滅ぼしたあいつのように――衝動のまま駆け出した瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)を止めるものはいなかった。
(「この子たちの心が救われるかはわからない。けれど、ボクはこの子たちを救いたい……」)
 これ以上、誰も犠牲にしたくない。駆け寄った小さな女の子の肌に刻まれた爪の痕に、きゅっと眉を寄せて――触れた。
 辺りを照らす澄んだ輝きは、カデルが生まれながらに持つひかり。白々とした、けれど暖かな輝きに包まれて、痛々しい傷跡はみるみるうちに癒えていく。
「おねえちゃん、けがが治せるの……? じゃあ、おとうさんも――」
 胸が軋んだ。失われた命は巻き戻せない。ごめんね、と呟いて、ひとりずつぎゅっと腕に抱いた。
「大丈夫。……お母さんやお父さんの代わりにはなれないけど、君たちを、護るよ。これ以上、何も失わせたりしないから」
 見知らぬ自分が、どれほどの癒しを与えられるかはわからない。それでも、この温もりがどうかこの子自身を――冷たく強張ってしまったこの子の心までも、温めてくれるようにと願って。
 痛くはないように、苦しくもないように。抱き締めるカデルの背に、きゅっと、小さな手がささやかな温もりを返す。せつないほど控えめな求め方に、胸が軋んだ。
(「ボク達が……ボクが君たちの光になるよ。どうか君たちに希望の光が灯りますように」)
 ――この子たちの為に、生まれてきたときからの役割を、きっときっと果たせますように。そう願って、カデルはそっと目を閉じた。
(「人は、とても儚いね」)
 カデルの様子に帽子をそっと外して目礼すると、リヒト・レーゼル(まちあかり・f01903)は小さな村の子どもの前にしゃがみ込んだ。夏の昼間であるというのに、昼なお暗いこの世界では、少し俯いただけで、子どもたちの表情が影に沈んでしまう。
 自分の親は、もう随分昔にいなくなってしまった。けれどもし、そんな存在が目の前で唐突に消えてしまったら……いや、消えるだけならまだいい。――殺されてしまったら。
(「俺も、悲しすぎてなにも考える事が出来なくなるかもしれない」)
 自分なら、どうするだろう。話しかけて、警戒はされないだろうか。迷いながら、リヒトはそっと子どもの傍らに灯りを置いた。
「薄暗いより、明るい方が良く見えるし。優しい光は、見ていると落ち着くから……」
 この子にもそうであってほしいと願ったけれど、眼差しは動かない。リヒトは小さく息を零し、いいよ、と呟く。
「辛いのは分かる。喋りたく無かったら、何も話さなくてもいいよ。……ただ、ここにいるから」
 そうしてただ傍らに待つ時は、決して短くはなかったけれど――リヒトは苦痛には感じなかった。待っていたい。待っていてやりたい。そして誰かと話したい、苦しみを打ち明けたいと思ったその時には、いつだって相手になってあげたいと。
 やわらかな灯りのもと、辛抱強く時を待つ少年に目を細め、ファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)はそっとトランクを地に下ろした。
「――こんにちは」
 ぴくりと身を震わせたのは、幼い子を胸に抱いた少女。今もむずかる小さな子とは対照的に、不自然に大人びた少女の目や頬に、涙の痕は見えなかった。痛ましいもの、と僅かに眉を下げたのは一瞬、おやおやと泣く幼子を撫でて、
「お腹が空いているのでしょうか。ミルクなどいかがです? 良かったらあちらで温めてきましょう」
 村の共用竈では、既に仲間によって食事や甘味が提供されていた。けれど、そこに少女の足が向くことはなかったのだ。返らない返事に否定の気配がないのを悟り、ファルシェは小さなカップ二杯の、温かなミルクを手に戻った。
「どうぞ。熱くはないと思いますが」
 傍らに下ろした子が飲み始めたのを見守って、少女はおとなしくカップに口をつける。けれど、そこに感情の動きはなく。聞いているのかもわからない子らを穏やかに見守りながら、ファルシェは話をした。ささやかなる旅のことや、仕事のこと。
「私は旅の商人で――普段は、こういうものを扱っているのです」
 ――ぽん、と。
 差し出した指先に突然、きららかな宝石の花が咲く。ファルシェの心を映し、少しだけ切なげな色に結晶したイミテーションの花。
 小さな子どもたちがきゃあきゃあと喜ぶ筈の手品にも、並んだふたりが笑い声を立てることはなくて。――けれど幼い子の目には、微かにきら、と輝きが動いた。
 ぐずるのを止めた子の手にどうぞとそれを握らせて、ファルシェは少女に向き直る。この村に長く逗留することはできない。大人のいない心細い村に、持ち込んだ食糧を対価として宿を乞おうかとも思ったが、それは負担になるだろうと呑み込んだ。その代わり、
「こちらを受け取ってください、お嬢さん。お腹を満たして、ゆっくり眠って――ほんの少しでも、心と体を休めてください」
 ふたりには充分な食糧と、温かくやわらかな上質の毛布をトランクから引き出し、手渡した。齎す安らぎが僅かでも、ふたりの痛みを解いてくれればいい。
 安堵を誘う微笑みを浮かべてみせ、ファルシェは彼方を見遣った。極限まで心をすり減らされた子どもたちから、今この時も力を奪っているという領主へ、意識を向ける。
 親の愛というものは、確かに美しくも尊いもの。けれど、
(「その心が結ぶ色の美しさは、感情のいろは――子どもたちの生きた心にあってこそ、輝くものなのですよ。オブリビオン」)
 トランクを引き寄せる手には、知らず力が籠っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

鵜飼・章
生きるものを生かし
救えぬものを殺す
僕がやるのはいつもそれだけ
まだ生を諦めてはいないならば
どちらかは決まっているね

まず事件や家族に触れる話は絶対にしない
僕はアニマルセラピーを試してみる
村の家畜やペット達も弱っているだろう
村で生き物を探しケアしていく

十分な餌と水を与え怪我や病気を治療
綺麗に洗ってブラッシングし毛並みも整えてあげよう
その際鴉達にも作業を手伝わせ
子供の純粋な好奇心を刺激してみる

もし興味を持ってくれる子がいたら
手伝ってくれる?と優しく声かけを
元気になった動物達には
【動物と話す】で子供達の悲しみにそっと寄り添うようお願いする

言葉を交わせないからこそ伝わる温もりもある
どうか心へ届きますように


マレーク・グランシャール
俺には記憶がないが、それでも子の一人や二人いただろう
だからつい親の気持ちなってしまう
もし俺が幼い子を残して逝くならば、生活していける環境を残していってやりたい

例えば家だ
家があれば雨風を凌げる
住宅の被害がどれほどのものかは分からないが、一件ずつ見て回り、修繕がいるようなら直してやる
もし家を失っているなら身を寄せ合える新しい家も必要
他にも大人の男の手がいる力仕事を率先して引き受けたい
残された子ども達だけではできないことだから

俺は無骨な武人で優しい言葉をかけるのは得手ではない
その分【竜聲嫋嫋】を発動して歌でも口ずさみながら作業をしようか
優しく穏やかで懐かしいと感じる歌だ
少しでも心が慰められるように


トゥール・ビヨン
【SPD】
パンデュールから降りて行動するよ

親を殺された子どもたち、少しでも彼らの心を救ってあげたい
そのために、先ずはコミュ力を使って彼らに声をかけ何か助けになれることはないか聞いてみるよ
「こんにちは、ボクはトゥール。妖精のトゥール・ビヨンだ。キミ達の力になりたい、何か手伝えることはないかな。」

手先の器用さを活かせることなら大得意だ
鍵開けで開かない鍵を開けたりね
力が必要なことならパンデュールに登場してパワーを活かして物を運んだりして力になれると思う



●敢えての日常
「やあ、こんにちは、ボクはトゥール。妖精のトゥール・ビヨンだ」
 キミ達の力になりたい――と、俯く少年たちの鼻先にふわり近づいて。トゥール・ビヨン(時計職人見習い・f05703)は快活に声をかける。
「何か手伝えることはないかな。手先の器用さを活かせることなら大得意だ。あっ、力が必要なことでも大丈夫。ボクは小さな体だけど、パンデュールがいるからね」
 大人を凌ぐほどの巨体、日頃は何かと小さなトゥールの力になる超常機械鎧『パンデュール』は、必要になるまではと物陰に休ませてある。まずは彼らが何を求めているかを知りたくて飛び回るトゥールは、その難しさを知った。
 まだ十分に庇護される齢と言える子どもたちにとって、愛情という大切なものを目の前で奪われたことは、親がいた頃には簡単に口に出せただろう望みを凍り付かせるほどには重かったのだ。
(「うーん……そうか、そうだよね。それなら何か、ボクに出来ることを探さなきゃ」)
 少しでも彼らの心を救うことに繋がる、何かを。前向きにきょろきょろと辺りを見渡すトゥールに、すまない、と声が掛かる。
「手が空いているのなら、力を貸して貰えるか。――この扉を直してやりたい」
 どこから、と振り返った先には、ひしゃげた家屋の扉を修繕しようとするマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)の姿があった。
 マレークには記憶がない。それでも恐らく子の一人や二人はいただろう――そう思わせる胸裏の何かが、虚ろな姿の子どもたちを前にして、マレークに親の気持ちをなぞらせる。
(「もし俺が幼い子を残して逝くならば、生活していける環境を残していってやりたい。例えば――」)
 そう、家だ。それは雨風を凌ぎ、日々の営みの傘となる。
 襲撃の痕跡は多く残されていないと聞いていたとおり、家屋にも目立つほどの崩壊は見られなかった。ただ、引きずり出される時の抵抗の痕だろうか、窓や扉には多少の破損が見られる。マレークはそれを、一件ずつ見回って直していたのだった。
「! もちろん! パンデュールがいた方がいいかな」
「いや、頼みたいのはここだ。恐らく力任せにやったな、鍵が壊されている」
「ああ、本当だ……うん、でも任せて。細かい作業は得意なんだ!」
「助かる。俺はその間に、隣家の窓を直してこよう」
 翅をはためかせ、たちまち作業に没頭するトゥールにひそやかな笑みを残し、隣の家へ移動する。枠が外れたまま、ぎぃぎぃと軋んだ声で歌っていたそれを力任せに嵌め直しながら、
 ――……♪
 男は代わりの歌を口遊む。耳障りな破壊の痕などではない、嫋やかな竜の歌。昼なお翳り、晴れやかな空を知らないこの世界に、心地好く戦ぐ緑の風、山野の草花の芽生えを思わせる癒しの歌を。
 逞しい身に在るは武のみ、幼い子どもたちにかける優しい言葉は得手ではない。けれど、せめて。懐かしさを呼ぶその旋律が、少しでも幼い心を慰めるようにと。
「なおったー! マレークさん、立て付けるのは任せていい?」
「ああ、ありがとう。それは俺がやろう」
 そんな遣り取りの傍らを、黒いコートを飼葉の屑だらけにしながら鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)が通り抜ける。
「お二人とも、もし手が空いたら、家畜舎の修繕を後で手伝ってくれないかな」
 襲撃に拠るものではなさそうだが、随分と傷んでいるのだと。勿論と頷いた二人に淡い笑みを残し、章は迷いのない足取りで家屋の裏手の家畜舎を目指す。
「待たせたね。さあ、お食べ」
 子どもたちの心を光の方へ向ける。それは易いことではないと言われていた。さもあらんと思う。情に欠けた自分にも、そのくらいは理解ができる。
 けれど、章の基準はそこにはなかった。
「生きるものを生かし、救えぬものを殺す……僕がやるのはいつもそれだけ」
 見るからに生気のないあの子どもたちの心は、虫の息にあるのかもしれない。けれど、生きている。まだ生を諦めている訳ではない。懸命に枯草を食む、痩せた馬や牛たちのように。
「――それなら、僕がやるのがどちらかは決まっているね」
 腹を満たした馬に近づき、丁寧にブラシをかける。水源は十分とは言い難く、洗うことは諦めた。それでも、絡まった鬣を丁寧に解き、褪せた毛並みを幾度も撫でれば、見違えるようになる。
 背に届く虚ろな視線には気が付いていた。振り返っても不躾な眼差しを逸らすこともない子どもたちに、おいでと声をかける。
「手伝ってくれる?」
 子どもたちはただ、言われたからそうするだけだ。そこに今、彼ら自身の好奇心や望み、思いは見えてはこない。
 それでも――触れる手触りや柔らかさが、言葉では伝わらない命の温もりを伝えてくれることをただ願って、章は鴉たちとともに、無心で手入れを続ける。真似る子どもたちも、無心になる。
「少しは元気になったかな。――あの子たちの悲しみに、寄り添って」
 鼻先を撫でると、優しく濡れた馬の眼が僅かに頷いたようだった。
 もっと、と強請るように身を擦り寄せる動物たちに、子どもたちはブラシを持つ手を伸ばす。感情の色はなくとも、自分から。
 それは枯れ果てたと思われた心が、ただ今は奥底に眠っているだけなのだ、と思わせるに足るものだった。
「……どうか心へ届きますように」
 小さな博愛の祈りを胸に落とし、章は穏やかに作業に返っていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

黒金・鈊
スティ(f19491)と

業か。そつの無いことだ。
そのままにしておくのも不快だな。

死んだ者の心はわからんが。
「せめてお前だけでも」という言葉は、ただ一日でも長く、という意味ではないだろう。

スティの近くで話を聴きつつ。
初めて知る話もあるなと真面目に聞き。

は、人生か。司祭殿の話は難しいな。
君達の絶望を解き放つ術は俺達も持っていない。
仇の糧となって死ぬよりは、一矢報いてやる方法を教えてやろう。

――笑うことだ。
次に奴らの顔を見たら、笑ってやれ。
その時になれば面白いものが見られるだろう。

俺はそうしてきた、と笑って告げ。
明日が知れぬだけなら恐ろしくも無いが。
耳にした問いに答えるのは、死人には少し荷が重い。


スティレット・クロワール
鈊君(f19001)と

その業を身に纏う為とはねぇ、とんだ悪食もいたものだね
子を持つ親の気持ちは私には分からない
けれど、己なき後
心まで壊されるのを望みはしないだろう

まずは話をしようか。うんと楽しい旅の話をね
興味を持ってくれれば良いかな

街を出た先にある世界なんて私も昔は知らなかったしねぇ

君ならどう過ごしたいですか?
君の人生なのだから…という言葉もありますが
だからと言ってちゃんとしないといけない訳でもない

鈊君の言葉には、ふ、と笑って
その顔を見ておこう

忘れないことです。
君達は目を閉ざしきっていない。
それは既にひとつの勝利でもあるんだよ

普通に生きていて人は、明日を憂うものなのか。
…いや、何でもないよ。鈊



●ただ在るだけを説いて
「殺したものの業を身に纏う為とはねぇ」
 とんだ悪食もいたものだね、とスティレット・クロワール(ディミオス・f19491)は微笑んだ。絡みつく業の影には覚えがある――けれどそれでさえも、望んで得たものではなかったというのに。
「そつの無いことだ。そのままにしておくのも不快だな」
「そうだねぇ。では、その抜け目の無さに君は何をする、鈊くん?」
 従者たる黒金・鈊(crepuscolo・f19001)へ、にこりと笑みのひとつを残し、問うたスティレットは答えを待たずに子どもたちの肩に触れた。
「さて、まずは話をしようか」
 手近にいた数人を並び掛けられる石段へと促して、語り始めるのは旅の話。穏やかな声は耳に優しく、語り口は軽妙にして釣り込まれるようだ。――にも関わらず、子どもたちは俯いたまま、地に落ちた眼差しは翳ったままで。
 鈊は黙って聴いている。苦笑いも落胆もない主の横顔をじっと見つめ、時にあらわれる初めて聞く話には、熱心な聴衆となって。
「街を出た先にある世界なんて、私も昔は知らなかったしねぇ。君達は他所の集落から訪れたのでしたか。だとしても、世界はもっと広いものです。全てを識るにはとても、人の時では間に合わないほどにね」
 ――君ならどう過ごしたいですか?
 光のように駆け抜ける、命のときを。問いかけにぎゅっと握られたひとりの子の掌をゆっくりと解き、スティレットは穏やかに続けた。
「君の人生なのだから……という言葉もありますが、だからと言ってちゃんとしないといけない訳でもない」
「――は、人生か」
 司祭殿の話は難しいなと、壁に預けていた肩を起こして鈊は呟いた。返る微笑みには知らぬ顔をして、子どもたちの、子どもらしからぬ眼差しの前に進み出る。
 死した親たちの心はわからない。それを真に迫って語る口は、もはやこの世にないのだから。けれど、
(「『せめてお前だけでも』という言葉は、ただ一日でも長く、という意味ではないだろう」)
 スティレットの語る話が遺された願いを叶える呼び水となろうとするのなら、自分は前に立ち、彼らに旗印を示すことができるだろう。――同じ道を辿った者として。
「……君達の絶望を解き放つ術は、俺達も持っていない。仇の糧となって死ぬよりは、一矢報いてやる方法を教えてやろう」
 笑うことだと、青年はにべもなく告げる。
「次に奴らの顔を見たら、笑ってやれ。その時になれば面白いものが見られるだろう。――俺はそうしてきた」
 そう言って、笑う。その強さを受け容れるにはまだ眼前の子らは稚く、そうして笑えるモノになり果てるのが、語ったほど面白いものではなかったことは鈊自身がよりよく知っている。けれどそのとき、ひとたび死した心を動かす力の源には、確かに、なったのだ。
 緩やかに伏せられた眼差しを、スティレットは持ち上げる。
「忘れないことです。君達は目を閉ざしきっていない。それは既にひとつの勝利でもあるんだよ」
 滔々と、確信を持って説諭は続く。絶望の底の美のために調えられた集落に、教えを説くものはこれまでいなかった。むずかしい、と漸く小さく発せられたひとことに、司祭は微笑む。僅かに動き出した心、今はそれだけでいい。
「――普通に生きていて人は、明日を憂うものなのか」
 子どもたちのもとを離れ、ぽつりとスティレットが零した言葉を拾い、鈊が眉を上げて問う。何でもないよと名を呼んで笑う顔は答えを探しているようで、鈊は心の裡に溜息を落とした。
 明日が知れぬだけなら恐ろしくもない。けれど、それに答えるのは。
(「……『死人』には少し、荷が重い」)

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シャルファ・ルイエ
子供たち、親御さんが居なくなってからちゃんとご飯は食べられてるでしょうか。
村に食料があるか分かりませんし、日持ちがするパンなんかを持てるだけ持ち込んでおきます。

着いたら、泣いている子や籠ってしまっている子の意識を惹ける様に、村に響くくらいの声で【手の中に星】を歌います。
この子達だけはって願っていた親御さんにとっては、きっとこの子達自身が希望だったはずです。
それをどうか、覚えていてくれます様に。

聞いて貰えた子達には、領主を倒しに来たんだって伝えますね。
もう二度と同じことはさせませんって。
また絶望するのが怖いなら、今は信じきれなくても良いんです。信じても大丈夫だったって、これから示して来ますから。


アルバ・アルフライラ
果して幾度惨劇を繰り返したのであろうな
…身勝手な美ほど、虫唾が走る物はない

幸せを奪われた童等に、私が出来る事は何か
脳裏を過る、斃れる父母の姿
弟の無慈悲に砕かれる音と断末魔
絶望に打ち拉がれる者に、届く言葉は少なかろう
然れど――それでも
召喚するは【おお、親愛なる隣人達よ】
…先ず私が行くよりも警戒は解けよう
不安を和らげる処方を加えた、温かな飲み物を与え
孤独に咽び泣く童の傍に、ただ寄り添い
もし私を拒まぬならば手を握る
熱のない宝石の身で、彼等を温められるか分らぬが…
代わりに贈るは嘗て従者にも歌った子守唄
喪われたものは戻らぬ
忘れてしまえば心は凍えるばかり
故にこそ、家族のぬくもりを忘れぬよう

*敵以外には敬語



●代われぬものに代えて
「皆さん、ちゃんとご飯は食べられてるでしょうか?」
 家とご飯と友人があれば、大抵のことは何とかなる――それは、シャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)の信条でもあった。
 けれど今、この子どもたちにはそれでは足りない。彼らの虚無を埋めるものを得ることは容易くない。だからこそ、持ち込んだ固焼きのパンを子どもたちの小さな手に預ける。
 今、満たせるものを満たすこと。それがいずれ動き出す心の力になることを、シャルファは実感として知っていた。
 どこからともなく聞こえてくる掠れた泣き声の痛々しさは、健やかな心を持つものをさえ、絶望へ引き込むに足るものだった。そして恐らく、声を上げることもできずに閉じ籠もっている子どももいる。
 すう、と大きく息を吸った。
 ――……♪
 宥めるように、抱くように、届くように。響かせる声はやわらかな旋律に乗り、希望を歌う。手をひらけばそこにある星、絶望の底でも失われぬ星。握り込めた恐れがふと緩んだそのとき、顔を出すひかりのことを。
(「どうか、覚えていてくれます様に。この子達だけはって願っていた親御さんにとっては、きっと――あなた達自身が希望だったはずです」)
 思い出す温かな日々に胸が軋んで、遺された願いに今は思い至れなくても――いつかは。願いを込めて紡ぐ歌声に、地ばかりを見つめていた子どもたちの瞳が、気づけばシャルファを映している。
 柔らかな微笑みを湛え、きっぱりと告げる。
「わたし達は、領主を倒しに来たんです。もう二度と同じことはさせません」
 すぐに俯く眼差しは、繰り返し希望を裏切られてきた諦念のしるし。良いんです、とシャルファは目を細める。また絶望するのが怖いなら、今は信じきれなくても構わない。
「信じても大丈夫だったって、これから示して来ますから」
 娘らしい純真と決意に満ちた言の葉に、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は微笑みで同意を示した。
 膝ほどの高さ、こつん、こつんと宙を叩くように杖を振れば、ぱちん、ぱちんと弾けるように姿を現したのは、愛らしい出で立ちの小人――親愛なる隣人たち。
 一様に首を傾げた彼らの手に、ほんのり甘く温かな茶を満たしたカップを預ける。うっすら白く煙る湯気が抱くのは、不安を和らげる薬草の香り。アルバの処方に拠るものだ。
(「……先ず私が行くよりも、警戒は解けよう」)
 ぴょこぴょこと愛らしく子どもたちのもとへ向かう小人たち。その後にゆっくりと続きながら、アルバはふと、スターサファイアの輝きが宿る眼差しを翳らせた。
 血肉どころか、死する瞬間の強い思念の欠片すら焼き付かない、この地に残ることを許されない。身勝手な美のために惨劇を繰り返し、そこから生まれるすべてを啜り取ろうとする領主の在り様に、アルバの心中は燃えるように耀いていた。――虫唾が走る。
 そして同時に思い出す。斃れる父母の姿、無慈悲に砕かれる弟の体、その音と断末魔。絶望に打ちひしがれるものに、届く言葉は少ないと知っている。――嘗てそれを、身を以て知ったのだ。
 けれど、それが永遠でないことも知っている。今に至ったアルバの胸には、切り拓いた道と救われた言の葉の数々が輝いている。
 素直にカップに口をつけた少年の傍らに、そっと腰を下ろした。拒むも拒まぬもない、心を眠らせたままの少年に苦く微笑んで、そっと手を取った。
(「熱のない宝石の身で、彼等を温められるか分からぬが……」)
 柔く籠める力でせめて思いの熱を伝えようとして、気づく。――腫れた目の下に薄ら差した、疲れを示す影。
 温もりに満ちた歌が、たちまち子どもを包み込んだ。いつかは家族に歌われた、そしてかつては幼い従者にも歌い聞かせた子守歌。
(「喪われたものは戻らぬ。忘れてしまえば、心は凍えるばかり。……だからこそ、忘れてはならぬ。たとえ痛みを伴おうとも」)
 うとうとと微睡む子どもの肩を支え、アルバは歌い続けた。
 家族の温もりを忘れぬように。――自分もこうして憶えていると、吹き寄せる風に伝えるように。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)】と

我が身を犠牲にしても、この子達に生きて欲しいと願ったのか。
だが、これでは生きているだけだ。
それは殺された親達が望むところでは無いだろう。
ならば、やる事は決まったな。

まずは、リリヤの提案する弔いを手伝おう。
心を救い領主への力の供給を止めるという打算的な意味合いもあるが、それ以上に残された子達が不憫でならない。

弔いが終わったなら、耳を傾けてくれる子供達に告げよう。
俺達は この悲しみが終わらせる為、今から領主を討つと。
少しだけで構わないから希望を持ち、今だけは絶望や怨嗟を抑え、今ここにいる俺達を応援して欲しいと。

そしてこの言葉を、他の子達にも伝えて欲しいと。


リリヤ・ベル
【ユーゴさま(f10891)】と

おとなはだれも、この子たちを差し出そうとはしなかった。
胸の裡がわからずとも、それだけは確かなのです。
――はい。手助けをいたしましょう、ユーゴさま。

失われたいのちの、お弔いを。
お墓があれば、それをきちんとしましょう。
まだ傍に居たいのであれば、きれいな箱や布地の中へ。
おはなしは、できますか。
好きだった場所。好きだった花。好きだった食べ物。
思い出を拾い上げて、ちゃんと、おやすみなさいを言えるように。

いのることは、生きているひとにしかできません。
思い出すこと、忘れないこと、生きていくこと。
ぜんぶぜんぶ、ここにいる皆にしか、できないのです。
できることから、はじめましょう。



●弔いのとき
「……我が身を犠牲にしても、この子達に生きて欲しいと願ったのか」
 亡きものたちの選んだ最期はあまりに尊く、あまりに哀しい。凪いだ眼を微かな憤りに歪め、ユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)は進める足が至らしめる全ての光景を焼き付ける。
 俯くもの。泣くもの。力なく座り込んだもの。同じのは一様に、希望の失せた目をしていること。
「……これでは生きているだけだ」
 最期に向けた愛情が、これほど酷な現実しか結ばない。それは殺された親たちの望むところではない。絶対に違う。握り込んだユーゴの拳に触れて、はい、とリリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)は囁いた。
「手助けをいたしましょう、ユーゴさま」
 死したものの胸の裡は、今となっては量るべくもない。けれど、大人は誰も、この子どもたちを差し出そうとはしなかった。
 それだけは確かなことだからと、柔くも毅然とした口調で紡いで、リリヤは子どもたちに問いかけた。
「失われたいのちの、お弔いを。お墓は、どうされているのですか」
 少しの間、リリヤたちを虚ろに見つめ返した子どもたちの数人が歩き出す。後に従えば、辿り着いた光景はいっそう悲惨なものだった。
 村の外れに、無造作に掘られた穴がある。そこに人骨が擲たれていた。個もなく、すべて一緒くたに。
 墓とも言えないそれにユーゴが歯噛みする。リリヤは大きな瞳で瞬いて、もう一度囁いた。
「――まだ、傍に居たいですか」
 埋めていないのは、そういうことだろうか。返る沈黙に頷いて、リリヤはそっと地を掻いた。掘ったままになっている土の山から、はらはらと穴の中へ。ユーゴも無言のまま、それを手伝った。
 底の白が少しずつ、少しずつ見えなくなっていく。零れる汗を拭った拍子に、ふたりは気が付いた。ここまで案内してくれた子どもたちが、同じように土を掻き始めたことに。
「おはなしは、できますか」
 手を止めた彼らを穏やかに見つめ、リリヤは柔らかく問いかける。
 好きだった場所、好きだった花、好きだった食べ物。骨というモノではなく、命あるヒトとして在った大人たちを、形作っていたもの。
 子どもたちはそれを、言葉にすることはなかった。けれど、じっと穴の底を見つめる瞳で、思い馳せていることが分かる。
 ――止めてしまった心で、きっと想い方さえ忘れていたのだろうとユーゴは思う。リリヤの言葉が、彼らに道筋を示したのだ。
「思い出を拾い上げて、ちゃんと、おやすみなさいを言いましょう。おいのりも、ささげましょう。いのることは、生きているひとにしかできません」
 祈りだけではない。思い出すこと、忘れないこと、生きていくこと。そのすべては、
「――ここにいる皆にしか、できないのです」
 気づけば子どもたちの足許の土が、しっとりと黒みを増していた。雨もないのに濡れた土で、子どもたちは骨を――いや、亡骸を埋めていく。音にならない思い出と、悲しみと、祈りとともに。
 救いと呼べるものかは分からない。けれどそうであって欲しいと、涙する子らのためにユーゴも祈った。
 彼らが僅かでも救われること、それは確かに、領主への力の供給を止めるという打算の意味合いも持つかもしれない。だが、断じてそれだけではないのだ。――決して。
「――俺達は……この悲しみを終わらせる為、今から領主を討つ」
 子どもたちは、土を掻き戻す手を止めなかった。揺れる頭が、すんすんと鼻を鳴らす涙のせいであったのか、それとも頷きであったのかは判断がつかない。
「少しだけで構わない。希望を持ってくれ。俺達が領主を倒せると」
 心の制御が叶わない彼らの様子を、ユーゴは見てきた。抑えてくれと告げたところで、自らの意志でそれを為すことは難しいのだろう。ならばせめて、
「今ここにいる俺達を、信じ、応援していて欲しい。……皆にも、伝えてくれるか」
 それが叶ったなら。少しでも望みはあると、思ってくれるのなら、それは『希望』と呼ばれるものに変わるはず。――いいや、きっと変えてみせる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
一番の願いは叶えてやれず渡せるものも持たぬのに
…何故だろう

比較的年嵩の子供に声を
一人か、二人程度
…少し付き合ってくれぬか

【餓竜顕現】竜を喚び
大人しい故、安心してくれ

竜の背に乗せ空へ舞う
村の上空からは離れぬよう
雲を指し
…俺の家族は、仲間は
あの向こうにいると師に聞いた

この風が彼らの声で、手なのだという
俺には未だ解らぬが
偶に、こうして近くに来る
…お前たちも
ことばでなくとも伝えてみるか

ここならば
不在や無力を悲しめば釣られて泣く幼子らへと
気を遣うこともないだろう

…広いな、この世界も
それでも何処からでも見ているのだそうだ
お前たちが何処へでも駆けられるように
必ず、領主を討つ

望むなら飽くまで、涙が乾くまで空を


ノワール・コルネイユ
きっと誰もが何処にでもいる、徒の子供の筈
なのに、家族との別離れに涙を流す暇も無い者までいると云う
そうさせたのは領主か、世界か、それともその子の優しさなのか
何れにしたってそんな理不尽も不幸も、罷り通らせはしないさ

子供をあやすのは得意じゃない
それでも、胸を貸してやるぐらいは、涙を流す遑を与えるぐらいは、きっと
子らが本当に望むものでは無くても、私にも温もりは宿っている筈
少なくとも、私の半身もヒトなのだから

見下ろされるのは心地が悪かろうから
目線を低く合わせ

自分より下の子らの為に我慢していたんだろう
だけど、今はお前も泣いていいんだ
よく…がんばったな

そう労うのが今の私には精一杯
足りない分は、剣で示すまでだ



●あたりまえのことばを、君へ
 子どもが元気であるべきものなどと言う気はない。ただ、心のままに振舞っていい齢ではある筈と、それをしない子どもたちを見てノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)は思う。
 貧しく平凡で、けれどそれだけ幸せな。そんな家族が集められる村だったのだと聞いている。きっと誰もが何処にでもいる、普通の子どもであったのだろう。
(「――なのに、家族との別離れに涙を流す暇も無い者まで……」)
 小さな子を抱いたまるい背中に眉を寄せる。年上だから、と堪える心の優しさは、失われた家族の中で健やかに育ってきたものなのだろう。――けれど、それは今、ここで輝かずとも良かったものだ。
(「そうさせたのは領主か、世界か……何れにしたって、そんな理不尽も不幸も、罷り通らせはしないさ」)
 子どもたちの前に進み出る。見下ろされるのは心地が悪かろうと、ノワールは痩せた地に膝をついた。緩慢に見返す瞳に気力の光はない。けれど、逸らす気配はなかったことに安堵する。
 子どもをあやすのは得意ではなかった。伸ばそうとした手も、言葉を紡ごうとした唇もぎこちなく軋んで、ノワールは少し躊躇う。けれど、
(「……上手くなくていい。胸を貸してやるくらいは、涙を流す遑を与えるくらいは、きっと」)
 彼らが求めてやまないだろう、父や母のそれではなくとも、温もりを分け与えたいと願った。分けられるものが、この身にあってほしいと願った。――少なくとも、自分に流れる血の半分はヒトのものなのだ。
 小さな子を抱く手の力だけは、絶望にも緩んでいない。疲れ切っているだろう腕に労るように触れて、ノワールは少しだけ笑ってみせた。
「自分より下の子らの為に我慢していたんだろう。だけど、今はお前も泣いていいんだ。よく……がんばったな」
 不意に、ぽとり。――ぽとり。
 零れた大粒の雫に、ノワールは目を瞠る。がんばったなと、その労いだけで精一杯だと心細く思った言の葉が、少女の心を押し留めていた堰を切ったのだ。
(「……――ああ」)
 ノワールは立ち上がり、子どもを抱き締めていた。その腕に抱かれたままの小さな子が苦しくないよう、零れる熱い雫に濡れないよう、自らの肩にその瞼を受け止めて。
(「すまないな。……足りない分は、剣で示すまでだ」)
 胸に落とした静かな誓いに、励ますように吹き寄せた風。それを生んだのは、鋼の鱗を持つ巨竜の羽戦きだった。
「大人しい故、安心してくれ。……少し付き合ってくれぬか」
 ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)の伸べた手に、虚ろだった子どもたちの眼が僅かに揺れた。見たこともないほどに大きく、荒々しいすがたかたちに、慄いてはいる。けれどそれは、動く心があることの証左でもあった。
 自らの意志に関わらず、言われるがままに。眼差しに滲む恐れを隠さず近づいてきた二人の子は、見かけた子どもたちの中でも年嵩であるように見受けられた。――恐らく、幾度の襲撃を経てきたものたちだろう。
 ジャハルは大きな手を貸し、子どもたちを竜の背へ上らせた。痩せた手の冷たさと心許なさに微かに眉根を寄せ、けれどその感情はひとときも待たず顔から消える。
 支えるように外套の中へ子どもたちを招き、行け、と小さく告げた。竜はたちまち空へと舞い上がり、体験したことのない浮遊感に、子どもたちがぎゅっとしがみつく。
 村の上空を暫し飛ぶうちに、子どもたちも少しは落ち着いたようだった。あまりの非日常に、この僅かなひとときばかりは、重ね積もった悲哀を忘れたように見えた。近い空を、遠いすみかを、丸くした目で代わる代わる見つめる子らに、ジャハルは雲を指してぽつり、語り始める。
「……俺の家族は、仲間は、あの向こうにいると師に聞いた」
 その意味が、彼らにはすぐに察せられたのだろう。落ち着きなく動いていた頭が止まり、ジャハルを見る。
「この風が彼らの声で、手なのだという。俺には未だ解らぬが、偶に、こうして近くに来る。……お前たちも」
 ――ことばでなくとも伝えてみるか。飾り気なく静かに落ちる言葉に、しがみつく手の力がいっそう強くなったのを見た。
 あの集落ではできなかっただろう。年長の矜持か、沈黙の中で幾度も喪失を重ねたことへの罪悪感か。それは分からない。けれど、不在や無力を悲しめば、つられて泣く幼い子らがいる。
「ここならば、気を遣うこともないだろう。――見ているのは、お前たちの家族だけだ」
 途端に、外套の中に濡れた気配が満ちた。ジャハルは構わず竜を駆る。苦しげな呼吸も嗚咽も、全ては風の手が抱き留めて攫ってくれる。――ここでなら。
「……広いな、この世界も。それでも何処からでも見ているのだそうだ」
 非日常の空を訪れなくとも、その足で地上に道を拓けるように。風と対話し、ひとり涙して、その先へとどこまでも駆けていけるように。
「必ず、領主を討つ」
 ――それに頷くことすら、あの集落では難しかったのかもしれない。
 告げた誓いに、風が頬を撫でてゆく。微かに目を細め、ジャハルはゆっくりと竜を降下の軌道へ向かわせた。地上に降り立つちょうどその時、子どもたちの頬が乾くようにと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『黒い薔薇の娘たち』

POW   :    ジャックの傲り
戦闘中に食べた【血と肉】の量と質に応じて【吸血鬼の闇の力が暴走し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    クイーンの嘆き
自身に【死者の怨念】をまとい、高速移動と【呪いで錬成した黒い槍】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    キングの裁き
対象のユーベルコードを防御すると、それを【書物に記録し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。

イラスト:シャチ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●簒奪の黒薔薇
「……虫が湧いたか」
 力の供給が弱まったことを感じ取ったのだろう。豪奢な椅子に身を預け、眠ったように閉じていた男の眼が開かれる。
「あの至上の美が穢されぬよう、お前たちが跡形もなく喰らいつくしたものを。――絶望の底の澱など、拾って何になるものか」
 親の命と引き換えに、遺されたものたち。その深き絶望がありのまま残されてこそ、あの美しい挺身はいっそう耀こうというのに。
 柔くうねる金の髪を指先に絡め取り、男は低く唸った。
「まあ良いだろう。お前たちを飼うにも血肉は必要なのだから」
 喰らって来るが良い。そして僅かでも希望を抱いた者たちを、再び絶望の中に飼い殺せ――と。
 飽いた眼差しで男は告げた。黒薔薇を髪に挿した白い貌の娘たちは、にこりと微笑んで礼を取り、一室を後にする。

 縺れるように足が急ぐ。くすくすと喉が笑う。舌が唇を濡らす。
 ――待ちきれない、待ち切れない、待ちきれない――嗚呼!
 苛烈なる人喰いの娘達は、跳ぶ獣のように疾く駆けた。うら寂しい森の果て、村を目指して一心に。
 ――ご馳走よ、ご馳走よ、ご馳走よ!
 言葉を発しない娘たちの眼は、溢す笑みよりもっと明瞭に、華奢な身体に渦巻く渇望を語っていた。
華折・黒羽
オズさん(f01136)と

共に待ち構え
子供の泣き顔を思い出し強く柄を握り締める

オズさんの言葉に頷き返せば
見据えた先に捉えた敵の数を確認し
彼の背を追う様に地を蹴る

群がる敵を薙ぎ払い
攻撃は武器で受けカウンターへと繋げ
いつでも届く間合いでオズさんの背を守り立ち回る

彼が腕を狙っている事は汲み取れた
ならばとUCは敵が隙見せるまで使わぬ様に

大切な人が目の前で息絶える姿が
どれ程の嘆きを生むか知っているか
どれ程長い時を苦しみ抜かなくてはいけないのか、知っているか

最後の晩餐など、あなた達には必要ない

オズさんのあたたかく力強い言葉を耳が拾えば
怒りに強張る拳が解けて

─花雨は白姫

降る涙が
全てを洗い流してくれたならと


オズ・ケストナー
クロバ(f10471)と

向かってくることはわかってたもの
村の前で待ち構えるよ
やっと涙を流せたこどもたちに
また会わせるわけにはいかないから

クロバ、あの子たちだね
(こどもたちを傷つけて、大人をたべたのは)
胸を締め付ける感覚にぎゅっと斧を握り

こっちだよ
わたしをたべにおいでよ

駆け出してまずは腕から狙う
うごかせなければ、書けなければ
できることは限られるはずだから

うまく狙えないなら範囲攻撃
巻き込んで薙ぎ払う

攻撃は武器受け
村はもちろん、クロバにだって届かせない

あげない、もうひとかけらだって
あの村からはうばわせないよ

氷の花びらはなみだの結晶みたい
クロバのやさしいきもちがまた力をくれる
さいごまで、全力でいくよっ



●濯がれることなき過去
 森を抜けてくる。村を目指して――否、領主の邪魔立てをするものたちを、目指して。
 だから、彼らは村を出た。
「――向かってくることはわかってたもの」
 殺気の押し寄せて来る方、村に接した森の一端で、オズと黒羽は待ち構えていた。
「……来ました」
「うん。クロバ、あの子たちだね」
 ――こどもたちを傷つけて、大人をたべたのは。
 交わらせずに並べた視線は、信頼の証。隣で頷く黒羽の気配に常と変わらぬ笑みを浮かべながら、オズの心を何かが締め付ける。黒羽に黒剣の柄を握り締めさせた感情と、同じ何かが。
「こっちだよ。――わたしをたべにおいでよ」
 駆け出したオズのやわらかな挑発に、黒薔薇に彩られた娘たちが笑う。左右、そして正面から、娘たちの喰らった怨念がどす黒い槍の群れとなって翔けてくる。それを、
「おどろう、Hermes。ぜったいに、とおしちゃだめ」
 描く軌道に蒸気を連れた戦斧の一閃が、薙ぎ払う。煙る白を突き抜けて飛び込んできた娘を、黒羽の刃が防ぎ止め、力強く突き放した。
「クロバっ」
「合わせます。オズさんの思うように」
「うん!」
 狙うは筆記具を携えたその腕。こちらの切り札を、ひとたびだろうと書き綴らせぬために。
 柔くも力強く、迷いなく、振り下ろしたオズの一閃がギロチンの如く腕を斬り落とす。娘たちの忍び笑いが消えた。下りた斧を再び振り上げるまでの無防備な背を、黒羽の剣戟が庇い、撥ねつける。
「大切な人が目の前で息絶える姿が――どれ程の嘆きを生むか知っているか。どれ程長い時を苦しみ抜かなくてはいけないのか、知っているか」
 瞳から澄んだ雫を零した先刻ほどに、黒羽の表情は動かない。だが、深い青に染まる瞳に、『屠』をとる手に、怒りは滲む。弾いたばかりでは足らずに斬り返す剣の筋に、胸裏に荒れる想いが溢れる。
「……最後の晩餐など、あなた達には必要ない」
 友の血肉を振舞う気など毛頭ない。叩きつけた剣戟の鋭さに、娘のひとりが崩れ落ちる。その影からもう一人、娘が跳びかかってくる。
 今度はオズの取り回す斧の柄が、嫋やかで凶暴なその手を叩き潰した。残るは二体、記すその手はもう使えない。
「あげない、もうひとかけらだって」
 あの村からは奪わせない。やわらかに凛と響く声に、ああ、と荒れる心を宥めた黒羽は知らない。――強い感情の表れにくい、けれど隠しきれない優しさの滲む自分の戦いもまた、オズに力を渡していることを。
「クロバ、もうだいじょうぶっ。行ってっ」
「――ええ」
 その言葉を合図に、黒剣に白が躍る。付した符から生まれた蕾が、咲き誇る。それは純白の氷の華。
「此れなるは冷たき涙。黒抱く白姫が蕾満つらば――天より今、滴らせん。全てを、此処に――」
 惨劇も、悲しみも、すべて、すべてこの涙で濯げたなら。願えど叶わないことを、喪失を痛いほどに知る黒羽は識ってなお、強く願う。
 洗い流せない現を想い、花が散る。花弁が踊る。駆け抜ける氷片に斬り裂かれ、瞠る娘たちの眼前にオズが躍り出る。
(「ああ、クロバのこころは、きれい。――なみだの結晶みたい」)
 友の想いを映した攻撃に微笑んだ唇を、きゅっと結んだ。やっと涙を流せたこどもたちに、また会わせるわけにはいかない。これより先を、一歩だって譲る気はない。
「――さいごまで、全力でいくよっ」
 白く熱い息を奔らせ、『Hermes』がそれに応える。
 駆け抜けた一閃に、黒き華たちが散り落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
......来ましたか。

あらかじめ、建物の物陰などの【地形を利用】した【目立たない】場所に複製した機関銃を配置。
私自身は前線に出て、複製元を手に迎撃に出ます。
フルオート射撃で【薙ぎ払い】減らせるだけ減らしますが、当然抜けてくる相手はいるでしょう。
……私は餌です。射撃ポイントに誘い込むための。

建物の位置も、射線も把握している。【スナイパー】としての【戦闘知識】を総動員した銃の配置、村の建物に流れ弾を出すつもりはない。
銃火の吹雪……降り注ぐのはお前達のみですよ。
いかに速く動こうと、逃れられるとは思わないことです……!


シャルファ・ルイエ
異変に気付かれれば敵が来るはずですから、その前に子供達にまとまってどこかに隠れて居る様に伝えます。
出来れば村に近づく前に止められればいいんですけど……。
自分達の親を食べた相手を、あまり子供達に見せたくはありません。
辛いことを、また思い出してしまうかもしれませんから。
傷つくのも怖い思いをするのも、もう、これ以上は。

相手が黒い薔薇なら、こちらも花で埋め尽くしてしまいましょう。
空を飛んでなるべく相手の間合いの外にいる様にして、『範囲攻撃』で【鈴蘭の嵐】をぶつけます。
攻撃の対象に指定をするのは『全力魔法』を使った一撃で倒せそうな相手を。

他の人達とも協力して、誰かが怪我を負う様なら【慈雨】で癒しますね。



●花と弾丸
「――まとまってどこかに隠れていてくださいね」
 まだ感情の色薄い子どもたちの目が、微かに不安に揺れた。大丈夫と微笑んで、シャルファはその背をそっと抱き、送り出した。
「村に近づく前に止められれば良かったのですけど……」
 近づいてくる悪しき気配に、空色の瞳が憂いを帯びる。察せられた気配の数と速さであれば、村の片隅への侵入は阻めないだろう。けれどそれ以上はと、ふわり、純白の翼を虚空に広げる。
「ちゃんと隠れたようですね。……これで、自分達の親を食べた相手をあの子たちに見せずに済みます」
 辛いことを思い出して傷つくことも、怖い思いを重ねることも、これ以上はさせたくない。ふるりと首を振り、シャルファは現れる娘たちを空で待つ。
 ――その姿に頷き、物影から飛び出してきた華奢な影がひとつ。食欲に任せて駆け来る黒薔薇の娘たちを睨み据え、道の真ん中に陣取ったシャルロットはぽつりと囁いた。
「……来ましたか」
 構えた機関銃から迸る弾丸が、次々に娘たちを穿っていく。同時に、動かず耐えるシャルロットのその身にも、呪詛を練り上げた黒槍は次々と突き刺さった。
 射たれる度に微かに強張る頬。その程度で済む痛みではない。けれど、いくらでも射てばいい、と少女は目を逸らさずにそのときを待つ。群れなす娘たちの足は止まらない。柔らかなシャルロットの肉を目掛け、舌で唇を濡らし、飛び込んでくる。――それでいい。
「……ええ、私は餌です」
 きっ、と青い眼差しが冴えた。その瞬間、喰らいつこうとした娘たちの頸に、腹に、脚に――降り注ぐ弾丸の雨が集約し、一斉に突き刺さる。
「待っていました、この時を! 銃火の吹雪――降り注ぐのはお前達のみですよ」
 崩れ落ちる娘たちから跳び退き、距離を取ったシャルロットもまだ、弾を吐き出し続ける機関銃を離さない。狙撃を担ったのは、掌中の機関銃の複製たち。少女の身には過酷なほどの狙撃手としての経験、そして知識が、このひとときのための配置、射線、全ての状況を作り出す。
「いかに速く動こうと、逃れられるとは思わないことです……!」
 咆えるシャルロットの上に、白い花が降る。甘く柔らかな香りを纏いながら風に遊ぶ鈴蘭の花弁は、愛らしい見目からは思いもつかない鋭さで戦場を駆け巡り、立ち上がろうとする娘たちを甘からぬ威力で斬り裂いていく。
「あなたたちが黒い薔薇なら、こちらも花で埋め尽くしてしまいましょう。――万が一でも、あの子たちの目には触れずに済むように」
 シャルファの意思を秘め、天高く歌う硝子のベルが、害なす者たちに終焉を告げる。美しい音色を響かせる杖を起点に、降り続く花の雨が弾丸の雨に混ざる。
 仮に隠れた場所から覗く子らがあったとしても、恐ろしい娘たちの姿を捉えるには至らなかっただろう。花は視界を白く埋め、駆け抜ける銃弾は見得ぬままに、邪な気配を地に転がしていく。
「――まあ、大丈夫ですか? 怪我を癒しましょう」
 シャルロットの元へ降り立ったシャルファは、雨を紡ぎ変えた。柔らかく沁みとおるような歌声の雨。
 それは忽ちのうちに傷を癒していく。ここで膝をつく訳にはいきませんものね、と微笑む瞳に、シャルロットは感謝を告げて頷いた。
 そう、戦い継がなければならないのだ。演者が斃れようと、悲劇の担い手はまだ、高みの見物を決め込んでいるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リヒト・レーゼル
沢山の音がする。
俺に出来ること……灯りを点す事。
俺に出来ること……。
出来ることがあまりにも少なすぎる…。

錬成カミヤドリ。一体一体確実に。
無力だけど守りたい。
無力だけど出来ることをしたい。
子供たちは何がなんでも守るよ。

子供たちに攻撃が向いたらオーラ防御を使って
盾になってまもりたい。
俺は痛くないから大丈夫。
生身の人間の方が、亡くした人の方が
何倍も痛いと思うから。
だからこのくらい全然平気。
まだまだ、戦えるよ。

守りながら戦うのは、俺一人だと難しい…。
誰かいないかな。
協力出来そうなら協力したい。


瀬名・カデル
WIZ

村を襲う彼女達から子供たちを護るよ。
これ以上あの子達を傷つけないように、闇に怯えないように。
アーシェ…一緒に頑張ろう。

黒薔薇の少女たち、キミ達は一体誰を狙っているの?
あの子達を傷つけようとするならここは通さないよ。
ボクがキミ達の相手をしてあげる。

【生まれながらの光】を使用しアーシェに自分の光を。
舞ってアーシェ、彼女達から子供への興味をそらせるように。

同じ攻撃をするようならカウンターでこちらの攻撃を逆に当ててみせる。



●望みに適うための手
 数に勝る黒薔薇の娘たちの全てを押し留めるには、村と広い森との接点は広く、また、それに備えた者ばかりではなかった。
(「……ああ、沢山の音がする」)
 戦いの音に焦る心を宥めながら、リヒトは間もなく娘たちが至るだろう道に佇んでいた。
(「俺に出来ること……灯りを点す事。俺に出来ること……」)
 僅かなものと見積もった自身の力でも、出来ることはあった筈だ。だが、思いつかない。思い浮かばない。自分に出来ることは少なすぎる――そう己を低く見積もるリヒトには、心だけが全て。
(「無力だけど守りたい。出来ることをしたい。子供たちは……」)
 その想いだけが、リヒトがここに立つ理由。目の前に現れた娘たちに、手にしたランプ、ヤドリガミたる自分の本体を突きつけ、叫ぶ。
「何がなんでも、守るよ。――盾になって、彼女たちを止めて」
 真昼でも薄暗いこの地に、増えゆく灯りは眩く輝いた。数にして三十、リヒトの意のままに躍る複製のランプが、飛び込んでくる娘たちを押し留める。
 けれど、ただ止めるだけでは時間の問題だ。ひとつ、ふたつ、生成された黒槍に穿たれた複製の灯が消えて、やがてその一尖はリヒトにも至る。
「――っ、あ……」
 貫かれる痛みに眉を寄せながら、それでも決してと膝は折らない。
(「痛くない、大丈夫。生身の人間の方が、亡くした人の方が――何倍も痛いんだ。だから、このくらい全然平気」)
 まだまだ立っていられる。戦える。けれど自身を――『武器』をどう扱うかは、自ら決めなければならないものだ。守るほかにどう戦えばいいのか、それが見つからぬまま、リヒトは歯噛みする。
(「守るだけじゃ、俺一人だと難しい……誰かいないかな。協力できる、誰か――」)
 黒槍を携えた娘が、眼前に笑う。突破される、そう思ったそのとき、
「キミ達は一体誰を狙っているの? ほら、邪魔者はこっちだよ!」
 娘に挑みかかるように前を過ったドールが、リヒトから狙いを逸らした。ふた色の瞳をきっと澄ませ、ドール――『アーシェ』を躍らせるのは、カデル。
「キミ、大丈夫?」
「――、うん、ありがとう」
 それでも盾として立ち続けようとするリヒトに笑みを残して、カデルは娘たちの前へ飛び込んでいく。
「あの子達……村の子ども達を傷つけようとするなら、ここは通さないよ! 僕がキミ達の相手をしてあげる」
 告げたカデルの身体から眩く零れ出た生まれながらの光は、アーシェへと伝いゆく。
「舞ってアーシェ、彼女達の興味をボク達に惹き付けるんだ!」
 呪いの黒槍を躱し、時にその身に受け止めながら――そして放つ光による疲労もその身に溜めゆきながら、カデルは艶やかに跳躍する。自分たちが倒れない限り、また目の前で繰り広げられる戦いが、子どもたちを傷つけることはないのだと信じて。
「……つうっ、……隙あり!」
 胴に突き刺さった黒槍を掴み、痛みに耐えながら聖痕を突きつける。花を思わせる傷が解き放った光が、逃す暇もなく敵を貫く。
「……っ、痛み分け、かな」
 胴の傷口を手で押さえ、カデルは唇を噛む。光に引き寄せられた敵の攻撃を利用しての反撃――敵の一撃を待つばかりでのそれでは、攻め手で大きく上回るには至らない。
(「だけど、……立てる限りは……!」)
 前を見る。目前に迫ろうとする槍を弾くべく、十指を手繰りアーシェを向かわせた――その時、助けが訪れる。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

トゥール・ビヨン
アドリブ歓迎
パンデュールに搭乗し操縦して戦うよ

いくよ、パンデュール!

村に侵入した黒い薔薇の娘たちを迎撃しながら子供達を避難させよう

敵の狙いはボク達のようだから、敵をひきつけながら建物の中に逃げるよう呼び掛けるよ

ここはボク達がひきつける、キミ達は早く安全な建物へ入るんだ!

恐らく恐怖で立てないような子もいるだろうから、その時は抱きかかえるようにしてかばいながら建物まで運ぶよ

敵の攻撃に巻き込まれそうな子がいたら、ワイヤード・マレディクションで敵の動きを封じてその隙に敵を2回攻撃で撃破し子供達を救いだそう

大丈夫、ボク達は絶対に負けない

ボクの勇気が子供達にも伝わるよう語りかけ恐怖を少しでも和らげられたら


マレーク・グランシャール
子どもを残し親を殺せと命じたのは領主だが、実際に子ども達の目の前で殺したのはこの黒薔薇の娘達だ
子らの親の仇を代わって討つ
それは同時に抵抗しても無駄と絶望していた子らに希望や勇気を与えることになりはしないか

だから俺は子らのため、薔薇の娘達を一掃し、領主をも討ち倒すと約束してみせよう

群がる敵に向け【竜骨鉄扇】の衝撃波+範囲攻撃
敵の出鼻を挫いたら体勢を立て直される前に【流星蒼槍】を発動して【碧血竜槍】を槍投げして双頭竜で追撃
さらに【魔槍雷帝】で別個体を串刺して雷撃する

【金月藤門】のフェイントと残像、迷彩、【黒華軍靴】のダッシュで敵の目を欺きながら機敏に立ち回るぞ

敵の攻撃は【泉照焔】で見切って回避する



●希望という名の狼煙
 堅牢なワイヤーが苦戦する猟兵たちの前に割り込み、飛び込んできた黒薔薇の娘たちを捕縛する。
『捕まえた! ふたりとも、大丈夫!?』
 それは人型の機巧の手首から放たれたもの。ぎりぎりと締め付けるそれを巧みに操るのは、胸部のハッチで機械鎧を駆るフェアリーの少年、トゥール。
『ここはボク達がひきつける、キミ達は子どもたちを連れて、早く安全な建物へ入るんだ!』
 頷いて駆け出す二人を横目に、超常機械鎧パンデュールは攻撃の手を休めない。娘たちを戒めるワイヤーが解かれる前に、次のワイヤーが襲い掛かる。
(「敵の狙いはボク達だ。それなら――絶対にここで倒れない。キミと一緒なら大丈夫だよね、パンドゥール」)
 自分たちが戦い続ける限り、子どもたちに娘たちの狙いが向くことはない。羽戦く翅に心を注げば、巨大な機巧の背にもよく似た光の翼が生まれる。
『いくよ、パンドゥール! 大丈夫、ボク達は絶対に負けない!』
 高らかに張り上げた声は、家々の中へ逃れる子どもたちに届くように。――小さな自分の勇気が、あの子どもたちにも伝わるように。
 拘束を逃れた娘たちに、再び放ったワイヤーが弾かれる。さらりと何かを書き取ったペン先が止まると、娘たちは暗く笑った。
『――!』
 自分の、パンドゥールの扱うそれとまるで同じワイヤーが装甲に巻き付いた。力任せに引き千切ろうとするも、その強度はトゥールがよく知っている。
(「……っ、こんな形で性能を確かめることになるなんて! このぉ……!」)
 けれど声に出さないのは、子どもたちに恐怖を抱かせないためだ。必死に振り解くトゥールのもとへ、不意の追い風が訪れる。
「焦らなくともいい。解くまでの一時程度、稼いでみせよう」
 ――機巧を介すれば風、と感じさせたそれは、その場に在る娘たちすべてを射程に捉える衝撃波。『竜骨鉄扇』を巧みに躍らせ撃ち分けながら、マレークは軍靴に付した加護のもと、高々と跳んだ。敵との距離が一瞬で詰まる。
 撃ち飛ばされた娘たちが己の血肉を喰らいにくる前に、
「喰らってやれ。――星を穿て、蒼き稲妻を纏いし碧眼の双頭竜」
 投擲した槍がずぶりと黒薔薇の娘に喰らいつく。途端、細身の槍に輝く碧玉が瞬いて――それは猛々しく輝く竜の眼と化し、刃ならぬ牙を以て娘の身体を噛み裂いた。
 華奢な体躯を引き裂くことに、ひとひらの罪悪感も過りはしなかった。子どもを残し、親を殺せと命じたのは、娘たちの上に立つ領主であろう。しかし、その命のもと、子らの前で蹂躙の限りを尽くしたのは間違いなく、この黒薔薇の娘たちなのだ。
「これは仇討ちだ。それが呼び起こすのが負の感情であろうと、あの子らの希望や勇気になり得るのなら、今はそれでいい」
 抵抗を無駄なことと絶望していたものたちに、燃え立つ怒りを、立ち上がる気概を――こころを。喰らいつく別の一体を雷竜の槍の一閃で払いのけ、聞こえているか、とマレークは叫ぶ。
「俺は薔薇の娘達を一掃し、領主をも討ち倒す。ここに誓おう」
『うん、もう二度とキミ達に怖い思いはさせないから……!』
 拘束を逃れたトゥールが誓い重ねる。現れた増援――いや、彼女たちは個々に己の欲を満たしに動いているのだろう――新たな個体にふたりが臆すことはない。
 トゥールが解き放ったワイヤーの拘束が成るのを待たず、雷撃を連れたマレークの槍の一尖が、居並ぶ娘を貫いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ノワール・コルネイユ
…さあ、お前達は家の中で休んでおいで
私の心配は要らない…だが、もう少しだけ
もう少しだけ、その子を確りと抱き留めておいてやってくれ

きっと、戦う姿は見せられたものではない
子らに温もりを分けられたのは、私の半分
そしてここから先は、もう半分
嘔吐く血の匂いに渇望を掻き立てられる、化け物の側面

獲物は長短一対の銀
踏み込みは速く、鋭く
人喰いの娘――否。獣の群れにも恐れず飛び込む
雁首揃えて、向こうから仕掛けてくるなら都合が良い
血華を乱れ咲かせて、散らしてくれる

斬って、斬って
狩られる側の恐怖と絶望を貴様らにも教えてやる
貴様らが喰らった命と血肉、産み出した痛みと悲しみ
その咎、全てを刻みつけて虚無の海へ還るがいいさ


ファルシェ・ユヴェール
来ましたか
村に入られぬよう迎撃に出ます

狙いが猟兵だとて
子供達に手を出さぬ保証は無く
例えば
強化の為、子供達を喰らおうとする可能性

或いは
子供達を護ろうとする者を、より狙う可能性はあるかと
…絶望を増す為に

だからこそ子供達の守護を第一に
狙いが私に向くなら上等
こう見えて、怒っているのですよ

UCの触媒に取り出す石はブラッドストーン
生きる力高める石
そして勇気と救済の意を持つ
困難に立ち向かい、乗り越える助けとなる護り石
――我が騎士よ、子供達を護って下さい

そして騎士の更に前に立つ
私は攻め手には欠ける分、護身術ならばそれなりに得意なのです
急所を避け、弾き、抑え
攻撃を得手とする猟兵仲間が攻め易いよう立ち回りましょう



●返礼
「来ましたか。――これ以上の侵入を許す訳にはいきませんね」
 ぽつりと呟き、ファルシェは迫り来る娘たちを見据えた。
 翳す指先には暗紅色の煌めき。流し込んだ魔力に融けて、刻々とかたちを変えるそれの前にファルシェは立った。常と変わりなく見える紫の瞳を、僅かな熱が宝石のように煌めかせている。
 生きる力を高める石、勇気と救済の意を持つ石。困難に立ち向かい、乗り越える助けとなる護り石。纏う意味にそのままの祈りを込めて創り出した彼の『鎧』は、雄々しき騎士のかたちをとる。
「さあ我が騎士よ、子ども達を護って下さい」
 己を守護する宝石の騎士に、自身を護れとは告げなかった。自分という盾が盤石の守りにより立ち続けることこそが、背に守る、今は身を潜めた子どもたちを守ることだと知っているから。
 嘲笑うように飛び込んでくる娘の口が、麗しくも大きくひらかれる。喉の肉の一片を喰らい、流れる血を啜りに来たそれを、ファルシェは杖のひと振りで突き放した。
「――この肉を食むのはそう易くはありませんよ」
 だから、と秘めた刀身を露わに、声を張る。
「どうぞ、貴女の攻め易いように」
「感謝する。――私の半分、存分に振わせて貰おう」
 ファルシェの斬り裂いた娘の傍らを、獰猛な気配を纏ったノワールが疾風のように駆け抜ける。
『……さあ、お前達は家の中で休んでおいで。もう少しだけ……もう少しだけ、その子を確りと抱き留めておいてやってくれ』
 数分前には柔らかくそう告げて、少女に温もりを分かつように触れていた、穏やかな横顔。それは確かにノワールの半分だった。けれど今、嘔吐くほどの血の匂いに渇いて、渇いて、駆り立てられて仕方ないのはもう半分――それも確かにノワールのもの。
(「……見せられたものではないな。あの子らには」)
 見れば恐れることだろう。化け物じみたそのたちを晒す理由がたとえ、あの子どもたちを守るためだったとしても。
 黒薔薇纏うものたちは、もはや人ではない。獣たちと見做した群れの中を臆することなく駆け抜けて、生成される黒槍の狙いを自身に集める。それを、
「背は護りましょう。こう見えて、あのやり口には怒っているのですよ」
「ああ、私もだ。雁首揃えて仕掛けてくるなら都合が良い、血華を乱れ咲かせて、散らしてくれる。……巻き込まれてくれるなよ」
「ええ。私は攻め手には欠ける分、護身術ならばそれなりに得意なのです。お気遣いなく」
 黒槍を斬っては落とし、叩いては落とすファルシェと騎士の護り。ひとひらの笑みとともに背を預け、ノワールは銀の剣華を散らす。
 閃きは止まることなく、その場にある全てのいのちを区別なく斬り裂いていく。味方たるファルシェへと至るそれは、言葉通りに騎士の護りが防ぎ止める。ゆえに、手心を加えることなく狩人の本領を発揮することができるのだ。
 これはささやかに過ぎる返礼だ。喰らった命と血肉、そればかりではない。要らぬ痛みと悲しみまでも産み出した、残虐さへの罰だ。
「狩られる側の恐怖と絶望を貴様らにも教えてやる。――その咎、全てを刻み付けて虚無の海へ還るがいいさ」
 銀色の閃きが止まれば、そこに生きているものは二人のみ。けれどまた、前線を抜けてくる者の気配に、ファルシェは目を眇めた。
 狙いが猟兵であろうと、子どもたちに手を出さない保証はない。喰らう血肉で自らを強化するために。或いは、
(「あの子達を護ろうとする者を、より狙う可能性も。……あの子達の絶望を増す為に」)
 それだけは、と紫の瞳が静かにいきり立つ。落ち着かない戦場の気配を、放った声は凛と打った。
「来るならば来なさい。――その牙、幾度でも折って差し上げます」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リリヤ・ベル
【ユーゴさま(f10891)】と

お墓をととのえた後、……そろそろでしょうか。
こどもたちの目に触れないよう、村より手前で迎えましょう。

ユーゴさま。
わたくしは、ここの領主を、ゆるせません。

森のざわめき、跳ねる影。
その姿を見逃さないように。
鐘を鳴らして、呼ぶのはみどり。
草花をつむじ風に、竜巻に。絡めとるよう広げましょう。
ここより先へは、行かせませんから。
その姿をあのこたちに見せないでくださいな。
ユーゴさまを死角から狙うものがいれば、蔦を伸ばして阻むように。
まもられてばかりではなく、ちゃんとお力になるのです。

ゆるさないときめたのですから、ゆるしません。
これ以上、ひとつだって思い通りにはさせませんもの。


ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)】と

あのグリモア猟兵の言う通りなら、そろそろ敵が来るだろう。
分かった、俺達は村より手前に陣取ろう。

ああ、許せないと思うのならば、許す必要は無い。
ここの領主は、どうしようもないほどに悪だ。

リリヤの呼ぶみどりが黒薔薇の娘を絡めたならば、そいつを標的に一閃。
敵が何人だろうと驕らず隙を見せず防戦に徹し、相手に隙が出来れば仕留めにかかる。
リリヤには手を出させない、村にも辿り着かせない。
敵を俺より後ろには通さない。

さぁ、向かってくるなら覚悟しろ。
ここがお前達の行き止まりだ。



●許さじの堰
「――あのグリモア猟兵の言う通りなら、そろそろ来るだろう」
 何が、と子どもたちに問われないように。潜めた声で伝えたユーゴに、リリヤは小さく頷き、立ち上がった。
「はい、ユーゴさま」
 二人の助力と幾人かの子どもたちの手によって、墓らしきかたちを得たその場所は、幸いにも森より最も遠い村の一端にあった。
 無心に墓地に向き合う子どもたちを、このまま残して行っても差し支えはないだろう。万に一つ、戦いの音が彼らの耳に届いたとしても、決して相見えさせはしないと、幼いリリヤの口調には毅然とした感情が混じる。
「ユーゴさま。――わたくしは、ここの領主を、ゆるせません」
 それでいいと、並び急ぐ男は答えた。許せないと思うのならば、許す必要などないのだと。
「ここの領主は、どうしようもないほどに悪だ」
 享楽の為に弑し、残された痛みすら力として絞り取り、僅かな希望の欠片を抱える隙ありと見るや、それすらも潰しにかかる。
 けれど、だから。二人は進む足を早め、しまいには駆け出すのだ。その最後の思惑だけは、自分たちが易々と成らせはしない。
 森に入る。領主館の方角を目指さずとも、肌を灼くような悪意の接近は察することができた。それでも一体たりと見逃すまいと、瞠るリリヤの瞳に、森の影に紛れた黒い姿が届く。
「――ここより先へは、行かせませんから」
 ラルルルラ――鐘が歌う。鮮やかに響き渡るその音が、獲物がここに在ると黒薔薇の娘たちに知らしめる。我先にと集い来る気配は三つ、その影のすべてを視界に捉えた瞬間、鐘に導かれた風が緑のにおいに染まる。
 喚ぶは旋風、大きく育って竜巻。草花の蔓を伸ばしては巻かせ、生みなされた蔦の壁。それは見る間に娘たちを呑み込み、その技を記そうとする指先を絡め取る。
「その姿を、あのこたちに見せないでくださいな」
 許さないと決めたのだから、許さない。これ以上ひとつだって思い通りにはさせないと、リリヤの瞳が光を帯びる。冷静に見える少女の身の裡、押し殺された激情に、ユーゴは応える。奥底で眠る激情を、『灰殻』の銘を持つ剣の底から燃え上がらせて。
 放つ一閃は、絶技。リリヤの戒めに心緩めることなく叩きつけた一薙ぎに、娘たちは白い喉を晒し、その身を赤に染めた。拘束を逃れた手に、記述の隙など与えない。
(「リリヤには手を出させない、村にも辿り着かせない――お前たちを、俺より後ろには通さない」)
 剣の冴えを呼ぶユーゴの決意を、リリヤは知っている。守られている。――だからこそ。
 ラルララ、と響く鐘が、ユーゴの背へと蔦を伸ばす。それは首を掻こうと迫り来た四人目の娘を、草花の檻に巻き込んでいく。
「! 助かった、リリヤ」
「いいえ。まもられてばかりではなく、ちゃんとお力になるのです」
 少しだけ子どもめいた、いつもの意気を覗かせた少女に、充分だと小さく笑って、男は娘たちに向き直る。
 束縛を振り切った手が筆記具の先に魔力を籠める、その前に。
「それ以上は綴らせない。覚悟しろ――ここがお前達の行き止まりだ」
 この場所が悲劇の堰だ。蔦纏う風を足場に馳せる切っ先が、喘ぐ命を斬り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

子供達にとっては奴らも仇だ
此処で討とう
…僕が冷静に見えるなら安心したよ
…奴らは許せない
だが、怒りに囚われては周りも…大事なものさえも見えなくなってしまうからな
(…一度、怒りに囚われた僕は君に庇われ、怪我をさせてしまった
正直の所…このまま抑えきる自信はない)

…ああ、援護しよう!
破魔を込めた光を迸らせるように範囲攻撃
彼に合わせて【天星の剣】を放つ
敵に借用されたら、敵の光剣からセリオスをかばうようにオーラを纏わせた盾で防ごう
今度はセリオスの歌を…子供達に歌った望郷の唄と
約束を【天星の剣】に込めて
…村まで光が届くようにと強く、もう一度放つ
まだ喰い足りないのなら…此の剣、その身で味わえ


セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎
零れた一粒を思えばなおさら
腹が煮えくり返りそうだ
怒りをエネルギーに変え
奮い立たせる歌で魔力を体に巡らせる
アレス、お前は今日はえらく冷静じゃねぇか
ふーん

…コイツまぁたなんか面倒なこと考えてんな
我慢のし過ぎでドツボにハマる前に…

さっさと片付けるか
気のない返事で会話を終わらせ
ダッシュで先制攻撃
横凪ぎに一撃
その勢いで回転して二撃目を
アレスの攻撃のタイミングでバックステップで距離をとり

防がれるんならその力以上を出せばいい
歌うは【赤星の盟約】
子供に聞かせた望郷の歌
あの絶望をよしとするやつらに
この歌に込められた気持ちはわからねぇだろ

これは反撃の狼煙がわりだ
村にいる子供にもこの声が届けばいい



●君との約束、君達との約束
 村の防衛に仲間たちが力を尽くしている頃。
 森を掛け、腑に収めきれない怒りはまだ、セリオスの中を巡っている。零れたひと雫の尊さを、それを枯れてしまったと思わせていた絶望を思えば、感情は綺麗に収まりようもない気がした。
 けれど、ひとたび喉に歌を奏でれば、それは力としてセリオスの身を巡る。やるせない思いを望みに変え、望みを叶えるまじないに代え、帯びた力を攻撃に換える。痛ましい経験をそうして消化し、昇華する術を得た彼には、今回もそうするだけだった。――けれど、
「子ども達にとっては奴らも仇だ。此処で討とう」
 姿を隠す様子もなく向かってくる娘たちに切っ先を向けたアレクシスの平静さは、訝しむに足るものだった。
「アレス、お前は今日はえらく冷静じゃねぇか」
「……僕が冷静に見えるなら安心したよ」
 怒りに囚われた末に、セリオスに庇われ、怪我をさせた。苦い経験を楔としてさえ、身の内に渦巻き溢れ出しそうになる領主らへの怒りを、アレクシスは語る言葉を宥めようとする。
「奴らは許せない。だが、怒りに囚われては周りも……大事なものさえも見えなくなってしまうからな」
「……ふーん。ま、さっさと片付けるか」
 気のない返事と逸らした視線。いち早く娘たちの前へ躍り出たセリオスの意識は、全身で彼の騎士に向かっている。
「はっ、『私だけを見て死んで』なんて今どき流行らないぜ、人喰らいのお嬢さんよ?」
 至近に笑み、喉笛を喰らいにくる娘を横薙ぎに突き放し、その腹を蹴って宙を舞った。身を捻り落下する先は、倒れ込んだ娘の懐だ。駆け込んでくるアレクシスの気配に視線を切り、抉り突く一撃を残して距離を取れば、
「――援護しよう! 星を護りし夜明けの聖光、我が剣に応えよ!」
 入れ替わりに踏み込んだ青年の剣から拡散する破魔の光が、強かに娘たちを斬り裂いていく。思いつめた横顔に、溜息が零れた。
(「……コイツまぁた面倒なこと考えてんな。――ったく、毒ため込むのも程々にしとかねぇとドツボにハマるってのに」)
 美徳とも言える心根が凶と出ないようにと紡がれるのは、ふたり声を合わせ、子どもに歌い聴かせた故郷の歌――赤き星との約束の歌。
 はっと我に返ったアレクシスを、睨み返す青い眼差し。それを叱咤だと知れぬほど、細い絆ではない。望郷の歌声に励起され、暁に染まる剣を握り直し、もう一歩を踏み込む。襲い来る黒槍などものともせずに。
(「セリオスの歌を……君との約束を、君たちにも届けよう」)
 その光輝が村まで、あの子どもたちの許まで届くように。振り下ろす一閃に全てを籠める。
「――ッ、まだ喰い足りないのなら……此の剣、その身で味わえ!」
 血肉に飢えた娘たちを灼き切った暁の色。その輝きは反撃の御旗のように天を衝き、辺りを光に染め抜いていく。
 澄んだ怒りに輝きを増す剣戟が続く限りと、セリオスは歌を響かせた。
(「は、お前らの今際に聞かせる歌としちゃ、上等に過ぎるけどな」)
 あの昏い絶望をよしとするものに、悲しくも愛しき故郷を想うこの歌に込められた気持ちは分かりはすまい。けれど、と前を見る。
(「これは反撃の狼煙がわりだ。村にいる子供にも、届け……――届け」)
 これ以上喪わせはしないと誓いを込め、強く強く歌い続ける。
 あの子どもたちにも――傍らに眩く在り続ける、赤星の騎士にも。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ディアナ・ロドクルーン
*アドリブ、連携歓迎

ああ、力を使うのが怖くてずっと抑えてた
正直これから戦うというのに恐怖がある
―でもそれにも勝る、想いが、願いが、ある

これ以上悲しい思いをする子たちを増やしたくない
なれば恐怖を怒りに。怒りを力に変えて―…参りましょう

黒薔薇の娘たち、人喰いの獣たち
更なる血肉を喰らいたいのかしら?

…ふふ、紅に染まる刃を突き立てて、その喉笛を噛み千切ろうか?
逆に私が貴女たちを喰らいましょう

貴女たちにも恐怖や絶望を覚えると言う事があるのかしらね

敵の攻撃は【第六感】で避けてるよう尽力
こちらからは【人狼咆哮】で攻撃をします

貴女たちが死者の怨念を纏うなら、私は声無き者達の代行者
戦って傷つくのは私だけで充分よ


鵜飼・章
僕の仕事はここから
彼らのようなものとは相容れないんだ
人の命で遊んだからには
自分も弄ばれる覚悟はできてる?

木の上に隠れ気配を消して素早く移動
スナイパーで狙いを定めて針を投擲し
【悪魔の証明】で上から串刺しにする

人は共食いすると獣になるって本当なんだ
こんにちは偏食家のお嬢さん達
お肉ばかり食べていると体に悪いよ
僕はお医者さんじゃないから
手遅れの子には怖いお仕置きを処方します

生きながら食べられる苦痛
確り体験学習していってね

『動くな』
催眠術と恐怖で脚を竦ませ
回避や移動を妨害する事で仲間と連携を
刺せは後は鴉達が食べてくれる
間を置かず次々行こう

僕は骨まで消す派だけど
今回はあえて散らかしておくね
後で使いたいんだ



●共食いの獣
 使うことを怖れ、ずっと身の内に押し込めていた力。握り込んだ掌をほどけば、冷え切った指先にゆうるりと巡っていく気配がある。
 娘たちの気配を手繰り、ディアナは藪を跳ぶように森を駆けていく。敵を探しているのに、恐れてもいる。敵を――ではない、暴走しかねない危うい力のことを。
(「……でも、この想いは……願いは、それにも勝る」)
 これ以上悲しい思いをする子どもたちを増やしたくない。その一点だけを導きの光に据え、ひた走るディアナの前に、娘たちは姿を現した。
「なれば恐怖を怒りに。怒りを力に変えて――……参りましょう」
 強く瞑った瞳が再び敵を映したとき、そこから恐れは消えていた。唇は笑い、くすりと声を立てすらする。
 黒薔薇の娘たち、人喰いの獣たち。ひとひらの血の色も骨に残さぬほどに啜り尽くしてなお、貪欲に血肉を求めるもの。
「……ふふ、紅に染まる刃を突き立てて、その喉笛を噛み千切ろうか」
 次に喰らうのはこちらだと微笑んで、温い血の匂いを吸い込んだ。肺を満たす空気に魔力を帯びた声を纏わせ――咆える。
 ――……アアアアア!!
 衝撃に森がざわりと揺らいだ。敵と味方とを選ばずに放たれる声、強かな衝撃の波が、娘たちを怯ませる。
「これは子どもたちの声。悲鳴を上げることすら許されなかったあの子たちの怒りと、悲しみよ。――貴女たちにも、恐怖や絶望を覚えるという事があるのかしらね」
 ないのなら、この声で教えてあげる――鋭く、猛々しく、森ごと揺さぶる空気の波が、樹上を駆ける章の足許にも届く。好ましげな淡い笑みが唇に零れた。
「僕の仕事はここから。君達のようなものとは相容れないんだ」
 人の命で遊んだからには、己が命をも弄ばれる覚悟を。ディアナの咆哮に大きく揺らいだ枝を跳び、そのざわめきに巧妙に自身を隠し、章は娘たちの頭上を翔ける一瞬に狙いを定める。
 緑覆う大地は、今ばかりは章の標本箱。指先に握り込んだ展翅針は、太く鋭い大針へとかたちを変える。冠する名の通り、少年めいた残酷さで、ひとを留め置こうとするように。いや、
「違うかな。――人は共食いすると獣になるって言うからね」
 その声に気づいた時にはもう遅い。地に縫い留められた娘たちのもとへ、濡羽色の青年はふわりと降り立った。
「こんにちは偏食家のお嬢さん達。お肉ばかり食べていると体に悪いよ」
 留め損ねた娘のひとりが章に微笑んだ。人ならざる跳躍で距離を詰め、薄い肉を喰らいに来る。行儀が悪いねとくすり笑って突き出した拳は、握り込んだ大針の一本で喉を突き、手近な幹に娘を縫い留めた。
「生憎僕はお医者さんじゃないから、手遅れの子には怖いお仕置きを処方します。――生きながら食べられる苦痛、確り体験学習していってね」
 いのちが骸の海へ還る、その前に。ばさりと翻したコートの残像が、鴉たちのかたちをなした。作り出した『標本』にはもう目もくれない章の代わりに、獰猛な嘴が命あるままに血肉を貪り取っていく。
「あなたの止まり木を荒らしてしまったかしら」
「構わないよ。あとは鴉たちに任せて、次々行こう」
「ええ。――私も貴女たちを喰らいましょう」
 爛と輝くディアナの瞳。呼び起こされた獣性のままに放たれる咆哮が、現れる娘たちを打ち倒していく。
 身を震わせ起き上がる者たちは、章が『動くな』の一声で制する。ユーベルコード『模範解答』の加護を得た宣告は、大針に代わり、獣のごとき娘たちさえも膨れ上がる恐怖で竦ませ、その場に縫い留めていく。
「喰らう、か。僕は骨まで消す派だけど……」
 今回は敢えて散らかしておくね、とちらり後方へ視線を遣れば、意を汲んだ鴉たちが宙へ舞い上がる。
 ――残された骨の使い道を知るものはまだ、薄らと微笑んだ主ばかり。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

黒金・鈊
スティ(f19491)と

同族嫌悪か……?
冗談だ、あんたは自ら動くタイプだな。
何にせよ、仕掛けてくれるなら手間が省けていい。

悪食を平らげる悪食か、おもしろい対決だ。
とはいえ、囓らせると減るからな。
悪いが妨害させてもらう。
一応、案じているつもりだが?

あの白いのの前に、俺が相手だ、お嬢さん。
槍の軌道を予知して回避、反撃は剣にて。
大きく立ち回ることで気を引き、攻撃を誘導して、スティに向かう分も巧く庇えればいいが……。

実際の戦力はあんたの獣に期待している。
優雅なダンスとはいかないが、我慢して貰おう。

この一手が嫌がらせになっているならば、愉快だな。
笑いながら、振るおう。
嬉々と、喰らい付いてやるとも。


スティレット・クロワール
鈊君(f19001)と

あちらは気が付いたようだねぇ。
座って踏ん反り返っているだけの相手の邪魔をするのは結構好きなんだよねぇ
鈊くんはどう?

勿論。嫌がらせになったか領主とやらには聞かないとね

さてお嬢さん達が相手か。
ご馳走かー私、多分食べたらお腹壊す方だと思うんだよねぇ?
試してみますか?お嬢さん

えー、鈊君扱いが雑じゃない?

ふふ、任せてもらおうか(瞬き笑って
憂国の調べで攻撃を。
目を覚ましなさい。狩の時間だよ。噛み付くのは獲物だけだ

鈊君を抜けてきた子たちは相手をしようか
死者の怨念じゃぁ私は殺せないよ?
槍は召喚したUDCで受け反撃を

笑ってるねぇ
お前も、笑っていられるなら良かったよ。鈊
笑えずにいるよりはね



●最果てのダンス
「――あちらは気が付いたようだねぇ」
 剣呑な気配に半歩、前に出て鯉口を切った鈊の背に、恐らく薄く笑っているのだろう――視界に入らずともわかるスティレットの声。
「座って踏ん反り返っているだけの相手の邪魔をするのは、結構好きなんだよねぇ」
 鈊くんはどう、などと戯れる声に、同族嫌悪かと冗句を向けて。にこりと返る笑みが本気と取ってなどいないことを知りながら、鈊は呟く。
「あんたは自ら動くタイプだな。――何にせよ、領主とやらが自ら仕掛けてくれるなら、手間が省けていい」
 気配を捕捉して地を蹴った。白き司祭は自らを、食べたら腹を壊すなどと笑う。悪食を平らげる悪食かと、薄い唇が微かに笑みを形作った。――おもしろい対決だ。とはいえ、
「毒見にしろ味見にしろ、齧らせると減るからな。悪いが妨害させてもらう」
「えー、鈊君扱いが雑じゃない?」
 そう評した物言いを男が心底愉しんでいると知って、これでも案じているつもりだと返した低い一言は、受け止められた剣戟の音に紛れる。思いがけない力でずらした刃にじわりとその身を傷つけられても、拮抗する黒薔薇の娘は笑っていた。――ご馳走よと、鈍い輝きにその瞳をぎらつかせて。
「さて、――ご馳走になり得るか試してみますか? お嬢さん達」
「あの白いのの前に、俺が相手だ、お嬢さん」
 ああまた雑に流すー、と子供じみた批難には知らぬ振り。弱めたと見せた黒曜の刀が退いたのは一瞬のこと、呪詛を練り上げた黒槍とかち合う切っ先がちかちかと火花を放つ。キン、キン――と歌う剣戟はスティレットの耳に心地好い。
 樹々の間、大振りの太刀筋で右に左にと娘を翻弄する鈊。絶望の底に彼の得た福音は、自身も森をも巧みに使い、飛ぶ黒槍の軌道からスティレットを隠している。振れる命の遣り取りを、踊るようだねぇと藍色の瞳を細めて笑う司祭に、新たに湧いた気配が迫った。
「おやおや、熱烈なことだ。それでは私も相手をしようか」
「スティ、獣を」
「ああ、分かっているとも。――目を覚ましなさい、狩りの時間だよ」
 両の眼に兆した冥府のひかり。地に走る寒々しい輝きのもと、宵闇のしもべたる蒼白い獣たちが駆け抜ける。喰らっていいのは敵だけだ、と言い含めたそれが除外するただひとりを、彼らはよく知っている。
「安心してそちらにかかっておいで、鈊。死者の怨念じゃぁ私は殺せないからね」
「言われずとも分かっている。実際の戦力は、あんたの獣に期待しているからな」
 思いがけない言葉にぱちりと瞬いて、そうかとスティレットは破顔した。食事を射留めに迫る娘の黒槍を、振る指ひとつで跳んだ獣が叩き落とした。主の喜色を映したように、獣たちは躍動し、喰らいつく。打ち鳴らす踵、叩く掌――気づいたときには、刻むリズムは鈊の剣戟に自然と添っていた。
「ふふ、嬉しいねぇ。――任せてもらおうか」
「ああ。此方はあんたのように優雅なダンスとはいかないが」
 虚空に躍る刃、槍をすり抜け地を踏んでは翻す四肢。自ら評するよりも鮮やかに、鈊は舞う。娘たちを終わりへと近づける命の淵の舞踏を、嬉々として、咲かせる血花で彩りながら。
「この一手が嫌がらせになっているならば、愉快だな」
「そうだねぇ。ちゃんと嫌がらせになったか、領主とやらには聞かないとね」
 口にするほどの興味もなく、獣たちを駆りながらスティレットは口の端を上げた。――ああ、鈊が笑っている。
「お前も、笑っていられるなら良かったよ。……笑えずにいるよりはね」
 囁く声は、娘たちの終わりを包む森のざわめきに溶けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アルバ・アルフライラ
ふん、ようやっと動いたか
私を退屈させおって
然し血肉に集り、牙を向く姿は獣と云うより
よもや蟲の様ではないか

娘の形をした蟲共を駆除するべく
魔方陣より召喚するは【愚者の灯火】
身を守るべく最低限傍らに展開しつつ
逃がさぬよう囲いながら
幾つかは重ね、骨も残さず焼き尽くす

我が炎で身を守るとはいえ周囲への警戒は怠らず
私は勿論、他猟兵の死角を作らぬよう
僅かな隙すら補うよう魔術を展開
我が魔術を容易く模倣されるなぞ癪ではあるが
高速詠唱にて記録しきる前に燃やしてしまうか
属性攻撃――氷の魔術で相殺を試みる
延焼は防ぎつつ容赦なく炎の花咲かせ
疾く、その瞳を恐怖で凍らせよう

――っは、絶望の味は如何程だ?

*敵、従者以外には敬語


ジャハル・アルムリフ
…悪食どもめ
否、似たようなものか
文字通り「食事」に過ぎぬのだろう
然れど、あの子等の目を
風の中で聞いた泣き声を
理などと肯定する筈もなく

領主の狗ども
…貴様らが喰らったのは命そのものだけではない
今も残る冷えきった薄い掌の感触
握り返すよう、黒剣を強く

退け、先を急ぐ
【封牙】用いて駆け
食いつかれても呑み込まれる前に
血を啜られる前に、斬り斃す
なにかが失せる感覚も意識の外へ

斬り付ける度に生命力吸収を以て
なにも取り戻してなどやれぬが
くらわれたもの達の、かけらを掬わんとするように

…親
もしも力なきものであったなら
あの貴石とて、恐らくは
故に、一体たりと残しはせぬ

もう腹は減らぬだろう
過去の骸は骸らしく先の糧となるがいい


雨糸・咲
村に、子供たちに、近付かせるものですか!

黒い裾翻す群に迷わず突っ込んで
コノハナさんと巧みに位置を入れ替えてのフェイントで隙を作り
技を写されないよう、書物を狙い武器落としを試みる

あなたたちは、そんな風にされてしまったの?
――それとも、元から?
どちらにしても、憐れね

歪な食欲を覗かせる娘たちに静かな声を放って
杖先を泳がせるように大きく振りつつ高速詠唱

あの子たちから、
これ以上奪わせるわけにはいかないのです

立ち塞がる壁のように
終演を告げる幕のように
天から降ろす炎のオーロラ

罪無い心を冷たい闇に連れて行こうとするものは
ひとつ残らず焼き尽くして



●決意
「――近づかせるものですか!」
 村に、あの子どもたちに。黒い花弁の如き裾を躍らせ、獣よりも疾く飛び込んでくるものたちの群れに、咲は一切の躊躇いなく吶喊する。
「コノハナさん!」
 頼り呼ぶ声に、シルクハットの蛙の紳士はこくりと頷き、狙いを咲と自身との二手に分かつように跳ぶ。燃えるように輝く胡桃色の瞳と、黒々と煌めくつぶらな瞳、活きのいいものと引き寄せられた娘たちは、唐突に眼前に迫った仲間の姿に思わず身を軋ませる。
 ――己の飢えを満たすことしか思わない獣の性と、互いを傷つけまいと巧みに身を入れ替える相棒同志。視野の広さにどちらが勝るかなど、言わずと知れたことだった。筆記具を持つ手を杖先に絡め取り、叩き落としながら、咲は返らない答えを求めずにはいられない。
「あなたたちは、そんな風にされてしまったの?」
 骸の海より這い上がる前からか――それとも。どちらにしても、と咲は毅然と、純然と、嘲笑も侮蔑もない憐憫の感情を向ける。
「――憐れね」
 静かに放ったことば、その感情に向けられるべき怒りすら、娘たちにはないように思われた。血肉を求める、その一点においてひたすらに無垢な命に、ぞっとする。
(「この飢えた眼があの子たちを捉えるなんて――絶対にさせない。これ以上奪わせるわけにはいかないのです」)
 たとえあの子どもたち自身を喰らおうとはしなくとも、目の前で喰らわれようとする姿は胸の深傷を抉ることだろう。再び瞬き始めたばかりの心の光は、いとも容易く潰えてしまう。
 空に泳がせる杖先が、咲の唇が素早く紡いだ詠唱を拾い、ひかりを編み上げる。繊細でありながら大きく描き出された魔力の帯は、ひとたび空に放たれて――再び木々の合間を縫って降りる頃には、鮮やかな焔熱を纏った極光と化す。
「逃がしません。――罪無い心を冷たい闇に連れて行こうとするものは、ひとつ残らず焼き尽くして!」
 凛と空気を叩いた声に、終焉を告げる光の幕が烈しく揺れる。ふ、と冴えた笑みを咲の背に届け、アルバは星追いの杖を天より地へと振り下ろした。
「熱ならば私にも手伝えましょう。――援護を」
「! ええ、お願いします!」
 耀きは星の如き点から、一帯を覆う魔法陣へ。足許を駆け抜けた魔力の描線が、描かれた紋様の頂点を熱に歪めた。ゆらり、揺らいだ大気の中に燃え上がる幾つもの灯火たちは、アルバを護る幾つかを残し、押し寄せる娘たちへ襲い掛かる。
「――ふん、ようやっと動いたか。私を退屈させおって」
 傍らに奮闘する娘の耳には届かぬよう、ぽつりと零した一言は酷薄の響きを帯びる。
 自らの齎す悲劇の粋。それを毀す輩が気に食わなくば、自ら壊しに来ればいいものを。眇めたスターサファイアの瞳に映る娘たちは、姿ばかりは薔薇を歌えど、その本質は獣――いや、
「あさましくも血肉に集り、牙を剥く。よもや蟲の様ではないか」
 人の肉を容易く食み取る歯の餌食ともなれば、宝石の肌はひとたまりもないだろう。繋ぎ癒せば済む傷を厭う質ではないけれど、蛮勇にそれを求める訳でもない。
 飛び込んでくる娘らを重ねた灯火で迎え撃ちながら、虚空に躍るアルバの杖は緻密に残る熱を奔らせる。咲の焔のヴェールに追い込まれたものたちの逃れる道を塞ぐよう、あるものは分かれたままに、あるものらは大きな火焔へと纏め上げて。
「! アルバさん!」
「――む」
 いかに目を光らせようと、相対する数があれば行き届かぬ一角もやむないこと。かりり、と書物の上を走った筆記具の音に振り返った二人の前へ、巻き上がる模倣の灯火が迫る。娘を庇うように前へ出たアルバのさらに一歩前、
「――……閉じろ」
 人なればこそ感じ得る痛みを代償に、手足を猛々しき黒竜のそれへと変化させたジャハルが躍る。師たるアルバに識る炎熱、その紛い物を恐れる筈もなく、ちかいの黒剣は一振りで娘ごと熱を斬り斃した。
「ふ、早い到着だな我が弟子よ」
「遊ぶ口は首魁の前まで取って置かれるがいい」
 師弟の交わす眼差しは一瞬。思いがけない速さで喰らいつきにくる娘を斬り払い、悪食どもめとぽつり呟いてふと、
(「――否、似たようなものか」)
 同胞喰らいの名を冠された己を思い、黒い眼を眇める。あれらにとっては獣もヒトも変わりなく、文字通り『食事』に過ぎないのだろう。
 されど心あるヒトの身にあれば、風の中、外套の内にくぐもったあの泣き声を、世の習い弱者の理などと容れる筈もない。
「領主の狗ども。……貴様らが喰らったのは命そのものだけではない」
 娘たちが戯れに食もうとも喰いでもなかっただろう、つめたく薄い掌を、黒剣を掴む大きな掌の内に思い出す。歯噛みする代わりに音がしそうなほどに握り込み、威力へと紡ぎ変えたジャハルの一閃が娘をまたひとり、斬り伏せる。
「――退け、先を急ぐ。遣い走りに割く時間など無い」
 竜のかいなに喰い込む強靭な歯が、笑みのもとにその下に流れる熱を啜る前に。剣戟の力の代償を差し出した身体は、痛苦を感じない。失せゆくヒトの感覚には知らぬふりをして叩き切った胴から、吸い上げた生命力――それは喰らわれたものたちのかけらでもあるのだと、ジャハルはその一瞬、慈しむように身に受けた。
(「……この身に得たところで、なにも取り戻してなどやれぬが」)
 首魁の許まで連れていくと誓うそばから、迫る模倣の炎をアルバの灯火がめろりと燃やし尽くす。
「我が魔術を容易く模倣されるなど癪ではあるが。――対価も無く貸してやるほど寛容ではないぞ」
 蒼白い魔術の流星に滴るは氷の気。炎の輪郭を残し、一瞬にして凍り付いたそれを、連ねる焔花がぱりん、と砕く。
 欲望と愉悦に綻ぶ娘たちの瞳が畏れに揺れれば、アルバの冷徹な笑いが森の気を打った。
「――っは、その顔だ。絶望の味は如何程だ? 人の子らにお前達が与えたものだ」
 苛烈なる戦いぶりに余さず剣技を添わせながら、ふと――ジャハルは彼方の空の上、風に想った親という存在を今また胸に浮かべていた。
(「……もしも力なきものであったなら、この貴石とて、恐らくは」)
 傍らの星の輝きは迷わない。そのことが、ジャハルが迷わぬ理由となる。遣い走りの一体たりとも、残しはすまい。
「過去の骸は骸らしく、先の糧となるがいい」
 もう腹は減らないだろう。――手折られた花を見下ろした眼差しを上げれば、共に戦った娘の安堵が、当然のことと目を細めた師の一瞬の笑みが、男を見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
まだ、足らないかしら
そら随分、困った子だこと
そんでももうきっと何一つ、あの子らからは奪わせないの
こわい夢の足音が、もうあの子らへと届かないよに
ここで終いにしましょうな

行っては、だめよ
留めて、くださる
誥紫でもって僕の友を呼びましょう
行く路を阻んで脚を一時止めたなら
銀の刃で花を摘みましょう
祈る代わりに青い火を、纏った刃でお相手しましょう
僕など食べたって、なんにも美味しくないけれど
躍ってあげることはできるよう

ひとつと漏らさず此処でおしまい
そんでも、お前も痛くないように
降る光で育つ花ならばよかったのにねえ
あの子らへと落ちる、影になっては、いけないもの
その足音を、聞かせるわけにはいかないものな


フェレス・エルラーブンダ
慣れたにおいがする
血と、泥と、澱みのにおい
どんなに派手な布や花で飾り立てても
どす黒く固まったそのいろは
ちっとも『きれい』じゃない

わるいな
私に食える部分はほとんどないぞ

ぼろ布を脱ぎ捨て腰に下げた牙を抜く
逃げることにばかり研ぎ澄まされていたこの足は
このせかいのどんな『死』をも遠ざけてきた
でも、――いまは、

駆ける、駆ける
ひとならざるものへ、肉薄するために

シーブズ・ギャンビットを主軸に先制攻撃を仕掛ける
相手が伸ばした槍は仕込んだ刃を投擲して軌道を逸らし
残像交え、更に加速して回避を試みる
負傷度の高い個体を優先して攻撃、各個撃破を目指す

おまえらが食い散らかすから
私は覚えてしまったぞ
……『あらがう』ことを!



●光に育つ花ならば
 現れた娘たちの本質を、フェレスの嗅覚は鋭敏に嗅ぎ分けていた。
「おまえら、慣れたにおいがする」
 それは血と、泥と、澱みのにおい。どれほど派手な布や、美しい花で飾り立てても隠しきれない、どす黒く固まった呪詛の色が放つそれは、
「――ちっとも『きれい』じゃない」
 喰らいつこうとする黒薔薇の娘たちには、肉の代わりに剥ぎ捨てたぼろ布を。それが視界を奪う間に、フェレスは腰の『牙』を抜く。
 同じにおいの影の中を、フェレスは長く彷徨ってきた。敵意、悪意、身に降りかかる恐ろしいものたちから逃げることに研ぎ澄まされてきた少女の足は、それらの末に待つものを――『死』を遠ざけるために使われてきた。けれど、今は。
「わるいな。私に食える部分はほとんどないぞ」
 身を隠してもくれる、けれどその身の動きを阻みもする。そんな外套を脱ぎ捨てて、疾風の如く速度を増したフェレスのナイフが娘に襲い掛かる。
 覆い被せた外套ごと貫きにくる黒槍の軌道を、懐から、裾から、全身のあらゆる場所から滑り出る暗器を擲って逸らす。僅かに足りず、肌を裂こうと構いはしない。
(「……つぎは、よける」)
 森の影の中、獣めいた光を浮かべる薄緑色の眼。ずっと恐れに握り締めずにいられなかった黒い刃には、今は別の想いも籠もる。――ひとならざるもの、心なきものの前に倒れたくはないとか、影の底で差し出された刃を取った幼い手を護りたいとか、
「――ああ、おまえらが食い散らかすから、私は覚えてしまったぞ。……『あらがう』ことを!」
 子どもたちを前に、胸を衝くように湧き出した感情が、それをあの子ら自身にも教えさせたのだ。――自分のこの刃もまた、誰よりも強くそれを示さなければならない。
 擲つ刃により傷を増やしたものから、加速度を増して斬り斃していくフェレス。その傍らにああ、と憂いの吐息を落として、イアは呟いた。――伝え聞いた惨劇、大人たちの血肉をあれほど喰らって尚、
「まだ、足らないかしら。そら随分、困った子だこと」
 それでももう、あの幼子たちからは何ひとつ奪わせないと決めたから。漂う波のようにひらり、ゆらり、揺らした袖から覗いた白いかいなが襲い来る娘たちを抱き留めるように伸びる。――けれどそこへ招くのは、彼女たちではない。
「ゆうらり、おいで、僕の友。――ここへとらえて、留めて、くださる」
 薄暗い昼の森に差す淡い影が、喚ぶ声にいらえて腕を伸ばす。立ち上がることは叶わずに、薄く翳って伸ばした腕が、貪欲な娘たちの足を捉えて離さない。
「そうな、行っては、だめよ。僕など食べたって、なんにも美味しくないけれど。――躍ってあげることはできるよう」
 黒槍を封じられてなお、眼前の肉を逃すまいと腕に食い込む娘たちの細腕。茫洋としたかなしみとよろこびの溶け合った眼差しを緩め、イアはその痛苦を受け容れる。
 宝石の肌を傷つける指先へ、代わりに伝わせるのは青い炎。しゃらりと歌った銀の短剣は、稀少なる薄青のセレンディバイトの揺らめきを娘へと手渡した。
 それは祈りの代わり。――満たされぬまま過去の海へと還るしかない憐れな渇望へ、手向けるこころの淡い熱。
「……おまえのそれ、痛く、ないのか」
 掴まれた娘の腕を斬り落とす切っ先に迷いはなく、けれど声には僅かにかかわりへの恐れを滲ませてフェレスが問う。にこり、やさしい子と笑った男は、断ち切られた腕を振り解いてみせる。
「ひとつと漏らさず、此処でおしまい。お前も、降る光で育つ花ならばよかったのにねえ」
 血に微笑む黒い薔薇。健やかとは言い難いその在り方を少しだけ哀れんで、イアは銀刃をその胸に押し込んだ。決して痛くないように、燃え広がる青い炎の熱も、痛みと思わぬうちに終われるように。
「……そうな。あの子らへと落ちる、影になっては、いけないもの」
 摘まれた黒薔薇が一輪、落ちる。
 ――恐ろしい夢の足音は、もう二度とあの子らの耳に届かせない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニヒト・ステュクス
絶望は美しい?
否、闇の中で輝くものがあってこそでしょ
だからボクは混沌とした娘達の群れへと飛び込んで往く

亡霊の取り憑いたこの躰で
怨念達と踊ろう
…命を、輝かせよう

攻撃は第六感で見切るけど
急所を避け態と傷を負って血を流し
敵をおびき寄せる

好きなんでしょう?血が、肉が
おいでよ
食べさせてあげる

骨と皮どころか
霞でしかないから
飢えは満たしてあげられないけど

ー…生贄に捧げるのは現し身のボク
分身に群がり隙だらけの娘達へ
ヤマアラシの刃を向ける

まぁ、本物のボクも鶏ガラみたいで美味しくないからさ
こっちの方が美味しいよと師匠(f12038)を肉盾にしつつ

何度も殺されといて何だけど
命は惜しいよ

今のボクは
死ぬ気で生きてるから


レイ・ハウンド
ふん、泥の中で咲く花だってある
せっかく種を蒔いてきたんだ
摘み取らせてたまるか

接敵される前に狙撃で2回攻撃し頭と心臓を撃つ
…共食いも撃って阻止する
可愛らしい姿をしちゃいるが正に餓鬼だな
まるで地獄だ

その華奢な躰で防御など無意味
ただただ力任せに肉と骨を断ち
首を刎ねるのみ
ニヒト(f07171)が集めた敵の群れの中で
断頭を横薙ぎにぶん回し、叩き斬る!!

おいこら、俺を生贄にするんじゃねぇ!
俺を喰っても固くて不味いだけだっつーの!
盾受けした剣を噛ませ、鉛玉を喰らわせつつ
弟子をかばう

ったく
いつも分身で無茶する癖に
こういうとこはちゃっかりしてやがる

…だが言ってる事は解る
俺も死に物狂いであの地獄を生き抜いたからな



●泥濘に守る芽吹き
「好きなんでしょう? 血が、肉が。――おいでよ」
 食べさせてあげる。そう映し身を惜しげもなく贄に差し出し、
「……なんてね、残念、はずれ」
 幻を貫いて歓喜と落胆を共に味わう娘たちを、ニヒトは可笑しそうに見つめていた。
 骨と皮どころか、霞でしかない――のは幻だけではなく、己のものではない身体を己のものとするこの自分も同じこと。肉も血もさぞ空虚な味がして、とても飢えは満たしてやれないだろうと思いながら、ニヒトは森の影に馴染む漆黒のナイフの群れを駆り、ヤマアラシの如き保身の刃に斬り裂いていく。
 キャスケットの下に深く沈んだ眼差しは、娘たちの槍の軌道を思いがけず巧みに読み取っていた。直撃を避けるも、易々と躱すには至らない。けれどそれでいい、とニヒトは笑う。
(「――この匂いで誘き寄せられるなら、それで」)
 不意に首筋にひやりと迫る感覚に振り返った瞬間、今にも細い首筋に喰らいつこうとした顔が、狙いすました銃撃に穿たれて凍り付いていた。こめかみと心臓、的確に二か所を撃ち抜かれた娘が崩れ落ちるのを無感動に眺め、腕利きの狙撃手へと口の端を歪める。
「ありがとう、師匠」
「気づけ、糞餓鬼。――まあ、お前どころじゃねえ餓鬼が蔓延ってるがな」
 まるで地獄だと吐き捨てて、背を合わせたレイ。飢える者には聖職者の救済もまた必要であったかもしれないが、満たされることを知らない餓えたる鬼たちの身に要るものは――ただ一つ。
 それを体現するかのように横薙ぎに振り回す鉄塊剣は、冠する銘そのままに娘たちの首を斬り飛ばしにいく。荒れ狂う剣戟の中、ニヒト『本人』の存在に気づいた娘たちの視線を避けるように、
「まぁ、本物のボクも鶏ガラみたいで美味しくないからさ。こっちの方が美味しいよ」
「!? おいこら、俺を生贄にするんじゃねぇ! 美味い筈があるか!」
 巨躯を盾にすれば、娘たちの歯の向く先はレイへ。
「くそっ、俺を喰っても固くて不味いだけだっつーの! ――ったくてめえは、いつも分身で無茶する癖に」
 こういうとこだけちゃっかりしてやがる――と腐りながらも、迫る娘たちに次々と鉛玉を撃ち込んでいくレイ。その背にすっぽりと隠れ、次々と複製した刃で絶え間ない援護を送り込みながら、ぽつりとニヒトは零す。
「だってさ。何度も殺されといて何だけど、命は惜しいよ」
 生きる意味がある。それを探している。知らぬまま失われたかつての命の代わりに、今のニヒトは死ぬ気でそれを探しながら生きている。
「……まあ、言ってることは解るぜ」
 眉間に刻まれた皺を深めて、熱のない声でレイは応えた。ヤマアラシの刃に方々を射抜かれた娘の顔に、もう笑みはない。
 その首を情け容赦なく刎ね、吹き飛んだ娘の骸を見下ろして、レイは荒々しい溜息を吐いた。
「俺も死に物狂いであの地獄を生き抜いたからな」
 その苦しみを知るからこそ。こうも飢えた獣たちの、満たされることのない渇望の為に、あの子どもたちを苦しみになど落としたくはなかった。
「絶望は美しい? 違うよ。闇の中で輝くものがあってこそでしょ」
 落ちるところまで落ちたなら、這い上がるだけだと言うものもある。けれど真なる暗闇の底では、這い上がるべき上も下も分からない。
 ――ひとは、心に兆す光なしに花を咲かせることはできないのだ。
 殺意が失せ静まりゆく森に、ふん、と男の息が響いた。続く言の葉は、軽く小突いた少女に応えるようにも、独り言のようにも響く。
「泥の中で咲く花だってある。……せっかく種を撒いてきたんだ。摘み取らせてたまるか」
 レイは拳を固く握りしめた。――萌芽すら許さぬ灰色の手は、この先に待ち受けている。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『大領主』

POW   :    驕れる災厄
【自身に纏わりつく死霊の攻撃】が命中した対象を爆破し、更に互いを【それぞれの視界から逃れられない呪い】で繋ぐ。
SPD   :    首狩り
自身の【殺意】が輝く間、【黄金の十字剣】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    生存限界超越
全身を【自身に纏わりつく死霊】で覆い、自身が敵から受けた【あらゆる種類の攻撃】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。

イラスト:すろ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠セシリー・アリッサムです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●怨嗟に守られし領主
 黒薔薇を散らし駆けるうちに、猟兵たちは深い森の中ほどへと至っていた。
 先を逸る足がそこで止まったのは、疲労のためではない。
 肌を粟立たせるもの。その場に満ちる、怖気のする禍々しい気配のためだ。

 痛イ、痛イ、痛イ――
 苦シイ、苦シイ、苦シイ――
 憎イ、憎イ、憎イ――
 悲シイ、悲シイ、悲シイ――

 『そういったもの』の気配に敏くないものですら分かった。それは死霊、殺されたものたちの彷徨える魂の濁り。
 目には見えない。色も望めない。けれど天を衝くほどに膨れ上がったどす黒い苦しみの気配が、見るよりも明らかに胸に迫る。

 領主様ヲ、大領主様ヲ、恨ム、恨ム、恨ム――
 自分ヲ殺シタモノヲ、呪ウ、呪ウ、呪ウ――

 キィィ、ヒィィ、と風の啼くような声。言葉もなく叫ぶ彼らの呪詛に気圧される。
 斃すべきものを斃しに来たものたちを、なぜ拒むのか。阻むのか。
 答えは明瞭だった。

 自分コソガ、殺ス、殺ス、殺ス――
 ダカラ、誰ニモ、殺サセヌ、殺サセヌ、殺サセヌ――

 それこそまさに業というものだった。
 退屈を彩る歪みきった美のために、自ら背負った憎悪と怨嗟とが、その中心で薄笑いを浮かべる男を守っている。
 男――大領主と呼ばれるものが、吐き捨てる。
「よくもその厚顔を見せられたものよ。――私の美を穢した慮外の輩どもが」
 どちらがと叫んだ誰かの気魄に、面白くもなさそうに眉を顰め、そんなものは美ではないと叫ぶものを、薄暗く嗤う。
「万人に喝采を浴びる美などあるまい。我が眼の美と見做したものを、斯様に唾棄される謂れなど皆無」
 だが、と男は口の端を吊り上げた。
「許せぬと申すならば喰らってみるか。忌々しくも愛しき我が災厄、貴様らが穿てるものならば」
 死霊たちがキィィと叫び、領主は笑う。目の前に現れた邪魔者が、彼らの悲哀に心寄せるものと知る故に、煽るのだ。
 なればこそ、猟兵たちに退く理由はない。
 謂れなき怨嗟に晒されようと、呪詛を浴びようと――焼野に身を擲ち、子らを守ったその心の在り方を、悲しくも恣に蹂躙させてはおかない。
 救いなき結末にただひとかけら、尊くも残されたひかりのような小さな命を、彼らは村に残してきたのだから。
鵜飼・章
驚いたな
折角素材を作ったのに手土産をくれて
実験的な試みだけど…この怨念なら
ふふ

絶望が好きなきみへ
とびきりの絶望を僕から

ねえ
きみの手で彼を殺せるよ
僕がいるからこっちへおいで
新しい躰をあげよう

狂気に優る博愛と話術の全てをかけ
死霊達に指定UCを使い僕の味方につける
保険として先の黒薔薇の娘達にも

命なきものから生命は奪えないでしょう
煮るなり焼くなり食べるなり
皆自由にどうぞ

領主が事切れたら彼も消える前にゾンビ化
ひとの殺し方は絶望の数ほどある
何度でも繰り返し壊させたら
最後の絶望を教えてあげる

一人を一度しか殺せないきみは
優しい

虐殺はよくない趣味だよ
死神を呼ぶんだ
何回死ねた?いけない子
罰を受けたらおやすみなさい



●甘き毒の説諭
 ――ふふ、と。
 柔らかな笑みが禍々しい空気を解いた。何が可笑しいかと訝る領主に、驚いたな、と章は静やかに愉しげな眼差しを向ける。
「折角態々素材を作ったのに、手土産をくれて。……この怨念なら……」
 死霊の怨嗟に満ちた場に際して常と変わりない章の微笑は、柔くも狂おしかった。人らしく在らんとする理性はなりを潜め、知性に支えられた博愛の気は誘惑のために費やされる。おいで、と囁く声はあまりに甘美に響いた。
「ねえ、きみの手で彼を、領主を殺せるよ。――僕がいるからこっちへおいで、新しい躰をあげよう」
 ――ヒィィィィ!
 誘いに、迎合とも拒絶ともとれぬ悲鳴が返る。色もかたちもなく、領主に纏いつく彼らはもはや、理性を残した人ではない。強く焼き付いた魂だけが残されたものだ。怨みに偏執する思念には、章が自分たちに利することが分からない。
 く、と領主の喉が揺れた。
「憐れなものであろう。これらは己が弑するという邪念に凝り固まる故、僅かな希望に乗り換えることすら出来ぬ。――切れぬ切り札に絶望する顔を見せてみよ」
「――お生憎様、切り札は仰々しく切るものじゃないんだ」
 死霊を纏い距離を詰める男の眼が何、と歪む。おいで、と三度口にした言葉に森を飛び出してきたものは――麗しき姿を棄てた、黒薔薇の娘たち。
「彼女たちの亡骸を残しておいて良かった。……反抗、なんてきみには経験がないでしょう? 自分に傅いていたものたちの一撃の味は、どうかな」
 娘たちの爪が、歯が、領主に喰い込む。与えた傷が、死霊たちの護りをより堅固なものと化す。
 邪魔ヲスルナ、邪魔ヲスルナ、邪魔ヲスルナ――明確な敵意を涼しく細めた瞳で流し見て、章は領主の渋面にくすり、笑った。
「……ひとの殺し方は絶望の数ほどある。ねえ、僕はきみを易々と殺してあげる気はないんだ」
 絶望の頂をこそ美しいと謳う領主には、より凄惨な死が似合う。こと切れたら屍の生を躍らせよう、何度でも繰り返し壊してやろう。それを体現するかのように、朽ちかけの黒薔薇たちは主だったものへと躍りかかる。死霊たちに阻まれ崩れてゆく肢体が語るものこそ、死に重なる死。
「一人を一度しか殺せないきみは、優しい。それでも、ほら、君が虐殺なんてするから――気まぐれな死神も興味を持ってしまったみたいだ」
 きみのいのちに、と章は幾度でも薄い唇を和らげる。
「罰を受けて眠るまで、何回死なせてあげようか。いけない子」
「ふ――戯言の果てに命を落とせ。心なき獣よ」
 黒薔薇たちを膨れ上がる死霊の殺意で弾き、間隙から剣戟が章を穿つ。それでもなお、濡羽色の青年は微笑みを消さない。
 残虐なる男の結末を見定める死神が、その身に宿ったかのように。

成功 🔵​🔵​🔴​

トゥール・ビヨン
アドリブ歓迎
パンデュールに搭乗し操縦して戦うよ

オマエがあの村を襲った眷属の首魁
あの子達の親を殺し、子供達を苛む元凶!

これ以上、あの子達に悲しみをもたらすわけにはいかないんだ
オマエはここで、ボク達が倒す!

大領主に攻撃を届かせるには、ヤツの纏う死霊をどうにかしないと

彼らは元は村の人達だ
何とか言葉で訴えかけてその怨念をおさめられないかやってみよう

お願いです。恨みを、呪いをおさめてください
今ここで大領主を倒さなければ、再び村に災厄が訪れる
村のあの子達に、これ以上悲しい思いをさせるわけにはいかないんだ!

死霊の怨念が少しでも収まったらその隙に、パンデュールの全力でUCを発動し大領主に一撃をお見舞いする!


シャルロット・クリスティア
いてて……流石に強引が過ぎましたかね。
近くに癒し手がいてくれて助かりました……油断の無いようにせねば。
……さて。

真の姿を解放。その証である戦旗を手に取って。
自らに向けられた憎悪すら心地よく感じますか。……なるほど、ただの寂しがり屋のようで。
このような輩、恨む価値すらも無い。

旗を槍のように振るい、【怪力】にて【なぎ払い】ます。
元より目を逸らすつもりも隠れるつもりもない、呪いの意味は無いですね。
恨むしかないのは、残された子たちが心配だからでもあるでしょう。
……苦難はあるでしょうが、その災厄の元は私達が祓う。だからどうか、安らかに眠ってほしい。

貴方達の時代は終わりました。だから……ここで叩く……!



●寂しがりやの愚か者
『――オマエが、あの村を襲った眷属の首魁……あの子達の親を殺し、子ども達を苛む元凶!』
 降り落ちる巨影に、青年と領主とが同時に飛び退いた。着地を決めた超常機械鎧パンデュールは、まるでそれ自身が意思を持つかのように素早く領主へ迫る。胸部で制御するトゥールの怒りに満ちた声が、澱んだ気を跳ね飛ばした。
「これ以上、あの子達に悲しみをもたらすわけにはいかないんだ。オマエはここで、ボク達が倒す!」
「否みはしていまい。――成してみるがいい」
 出来ると言うのなら。暗にそんな響きを纏った声に、パンデュールの拳を繰り出しながらトゥールは歯噛みする。
(「彼らは元は村の人達だ。何とか言葉で訴えかけて、その怨念をおさめられないか……やってみよう!」)
 気配だけははっきりとわかる、見えざる死霊の一撃を躱しながら、トゥールは拡声を担う内部機構に懸命な声を通す。
『お願いです。恨みを、呪いをおさめてください』
 死したものたちの怨嗟、正当なものである筈のそれらが、斃されるべき領主を堅牢に守っている。その皮肉に痛む胸をぐっと堪え、声に変えた。
『今ここで大領主を倒さなければ、再び村に災厄が訪れる。村のあの子達に、これ以上悲しい思いをさせるわけにはいかないんだ! あなたたちだってそうでしょう?』
 領主を捨て、猟兵に付く利を呼び掛けた先の仲間がいた。そのときは死霊たちの反応は得られなかった――けれど。領主へ齧りつく思念の強さを少し緩めることくらいなら。
「……!」
 トゥールの願いが、僅かな反応を呼んだ。蠢きながらひとつとなり、パンドゥールに襲い掛かろうとしていた死霊たちの気配が、反応が、一瞬――遅れた。今だ、とパンドゥールを駆けさせる。
「! 莫迦な……」
『馬鹿じゃない! 好き好んでオマエに味方してないことは、オマエだって知ってた筈だ!』
 光の翅が背に咲いた。小さな小さなフェアリーの身体から、自身の数十倍もの機械鎧へ巡らせていたエナジーを代償に、パンドゥールは機動力と攻撃力を得る。強張りながらも伸ばされた死霊の腕を翔ぶようにすり抜けて、薙刀型武装を軽々と躍らせる。
『行くぞ――これがパンドゥールの力だ!』
 一閃が領主に届く。ほぼ同時、呪詛に拠る爆発が機械鎧を突き放す。強力な呪いで互いに繋がれた二人の上を、続けてください、と涼しい声が過る。
 頭上に影ならぬ光を落とすのは、小さな掌の中に勇ましく躍る戦旗。増す輝きを身に伝わせて、真の姿を開放したシャルロットが横薙ぎに戦旗をぶつけてゆく。
「そのまま、あなたの声を彼らに聞かせていてください。揺らぐまいという根拠のない不遜、へし折ってやりましょう」
「――ほう」
 頷き呼びかけを続けるトゥールをよそに、領主は唇を歪めた。自らの織り成す美を生み出すものでなければ、少女の姿であろうと邪魔者と見做す。連なる爆発によって戦旗の一撃を吹き払うも、見えざる呪詛の気配がシャルロットと領主とを繋ぐ。――これでもう逃れられない。けれど、
「ええ、お好きに。呪いの意味は無いですね、もとより目を逸らすつもりも隠れるつもりもありませんから」
 流れ込んだ輝きにいとけない眼差しをきりりと輝かせ、シャルロットは果敢に懐に飛び込んでいく。
「寧ろ逃れられなくなったのは、貴方の方では?」
「それこそ些事、脅威にもならぬ」
「言いますね。――自らに向けられた憎悪すら心地好く感じる、ただの寂しがり屋の愚か者の身で」
 澄んだ挑発に、間近に見る眼がぎらりと笑った。次々と爆ぜる呪詛の衝撃を旋回する槍で軽減し、翻す穂先を叩き込みながら言の葉で射る。
「このような輩、恨む価値すらも無い。聞こえていますか、貴方達の恨みは、残された子たちが心配だからでもあるでしょう。その災厄の元は、私達が祓う」
 ヴァンパイアの支配が未だ影を落とすこの世界にあっては、それは苦難の道かもしれない。けれど必ずと、シャルロットは躊躇わず死霊たちへ誓う。レジスタンスとして遺されたこの命は、その為に使ってみせる。だから、
「だからどうか――安らかに眠ってほしい」
 ――子ら。その言葉にまた、堅固なる呪詛が微かな揺らぎを見せる。眉を顰める男の眼前に眩い光を突きつけ、高らかに宣告する。
「貴方達の時代は終わりました、オブリビオン。だから……ここで叩く……!」
 溢れる力のままに薙ぎ払えば、男の長い手足が宙を舞う。
 志は未だ折れず、灯火は未だ消えない。――言の葉を尽くし、浅からぬ傷を負って守った子どもたちの命はまだ、あの村に希望として燈っているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
*アドリブ、連携歓迎
何が美、よ…
決して相容れぬ感性ね
最早互いに語る事は無いでしょう
もう、殺させはしない

死霊>
痛い…心に突き刺さるほどの苦しみが、憎しみが―
憎しみを捨てろとは言わない
でも―、思い出して、大切な思い、願いを

領主の力の元を引き剥がすのに
死霊の妄執を『Kyrie』で治療しようと試みる

【祈り】をこめて、子守唄を歌いましょう
子らに歌い、子らを抱きしめ慈しんだあの歌を

【激痛耐性】で、攻撃を受けても歌い続けるわ

痛み、苦しみ、哀しさ…我が子の成長を見守れぬ悔しさ
さぞや無念だったでしょう

どうか、お願い…愛する命の元へ
―貴方たちを失って悲しんでいる子の元へ、還ってあげて

願わくば安らかなる眠りを


ノワール・コルネイユ
奴が纏う数多の死霊
何れもがこの村の犠牲者だと云うのなら
恐らくは、あの子らの家族も…

子らを想う献身は呪詛に変えられた
皆が悲歎に暮れて、子供らしさすらも失った
優しさ故に、自らの心を押し殺した子もいた
貴様たった一人の為に…多くが歪められ過ぎたんだ

呪詛が貴様を護るのなら
その呪詛ごと斬り、祓うのみ
恨み言なら何れあの世で聞いてやる

赤雷奔らせ、狙うは深く鋭い一太刀
多少の手傷に構いはしない
あの子らに比べれば軽いものだ
肉を断つ、骨を焦がす、血を流す
死ぬほど痛いって云うのはこういう事だ

きっと、貴様が生み出した痛みは永く残るのだろう
だから…それ以外の一切、貴様の生きた証を此の世に残させはしない
ただ独り、地獄に落ちろ



●怨嗟の底の願い
(「ああ――なんて、痛い」)
 死してなお、生者をびりびりと威圧する気魄に、ディアナの胸は強く軋んだ。見えざる思念の訴えるものが、心を穿つ。
(「こんな……突き刺さるほどの苦しみが、憎しみが……。こんな思いをしてまで、自分たちの手でと呪っているの」)
 子らから搾取していたという力の気配は、今の領主には感じられない。ならば残るは、死霊たちの加護――厚い妄執の武装さえその身から引き剥がせたなら、癒し浄化することができたなら。
(「いいえ――駄目だわ。あれはもう、恨むべきものと一つになってしまっている」)
 治癒の子守歌を紡ごうとした唇を、ディアナはきゅっと噛む。
 子どもたちを優しく抱いたあの歌で、彷徨える魂を――捉われたままの親たちを、包み込んで解放してやりたかった。しかし、敵の状態を識るにも長けた猟兵の目には、見えてしまう。領主と死霊たちを繋ぐ狂おしい妄執が縁となって、子守歌の愛撫が領主までもを癒してしまうだろうことを。
「こんな苦しみを抱えさせておいて、何が美、よ……決して相容れぬ感性ね」
「然様、相容れぬのであろう。――なれば精々潰し合うとしようか」
「黙りなさい。最早互いに語る事は無いでしょう」
 もう殺させはしない。罰するもののない傲慢なるヴァンパイアへ、処刑の刃を振り翳した。首を落としにかかる閃きを受け止めては、ヒィィと怖気立つような声を絞り出す死霊たちへ、油断なく剣戟を振いながらディアナは語り掛ける。
 死の痛苦、生を離れる悲嘆。そして、我が子の成長を見守れぬ悔しさは、察するに余りある。どれほど無念だったことかと、慮ることしかできない。
「その憎しみを捨てろとは言いません。でも――ただ、思い出して。貴方たちの大切な思い、願いを。その男から解き放たれたなら、きっと――」
 愛する命のもとへ、親を喪い悲しんでいる子らのもとへ、還ることができるのだと――還ってあげてほしいのだと。
 歌声に換えて、歌うようにディアナは紡ぐ。その声がまた、強大な呪詛の力を堰き止める間に、ノワールの銀剣が領主の心臓を穿ちにゆく。
「ふ、小癪な」
「小癪どころでは済まないな。貴様たった一人の為に……多くが歪められ過ぎたんだ」
 抜かれた金色の十字剣と、鮮紅の雷光迸る銀色の剣。男の眼に燃える殺意が手数を増やさせ、ノワールの剣を捌き、華奢な体に切っ先を届ける。けれど、その程度の手傷に顔色を変えはしない。零れる血に構いもせず、ノワールは打ち合いの中に一瞬を待つ。
(「あの子らに比べれば軽いものだ。――そしてあれに叩きつける痛みは、こんなものでは済まさない」)
 子らを想う親の献身は、全て忌まわしき呪詛に変えられた。子どもたちは悲歎に暮れて、子どもらしささえも失った。――優しさ故に自らの心を押し殺してしまった子を、見た。
「教えてやる。――死ぬほど痛いって云うのは、こういう事だ」
 九度連なる刺突が止まる、その一瞬。捉えた隙を逃しはしない。生命力を映す赤雷がばちりと爆ぜ、銀剣に破邪の力が宿る。拒みに来る死霊の呪詛をも、ノワールは躊躇いなく斬り祓って突き進む。
「恨み言なら何れあの世で聞いてやる。お前たちの腕は、あの子らを抱く時の為に取っておけ。……この男を呪う為ではなくな」
 自分でも思いがけないほどの柔い声だった。領主の纏う膨大なる死霊の全てがこの村の犠牲者であるのなら――あの子らを慈しんだであろう魂も、この哀しき戦列に加わっているのだろうと。
 その腕を掻い潜り、その腕に代えて、慢心のもとに在る男へと浴びせるは深く鋭い一太刀。断ち斬った肉に注ぎ込まれる雷電が、骨を焦がす。血を凝らせる。
 獣のように呻いた男の得た痛みよりなお、鋭い痛苦を心に受け、永く残るであろうそれを抱え生きねばならない子らを知っている。
「だから……それ以外の一切、貴様の生きた証を此の世に残させはしない。あの子らの目を汚すばかりだからな」
 柄に籠めた力とともに、ずぶりと深く沈む刃。九度重なる剣戟に突き放される前に、ノワールは身を捻り後方へ跳ぶ。
 懐に残したものは深傷ひとつと、凍り付く声。
「――ただ独り、地獄に落ちろ」
 強制力のない宣告は、言の葉という形を得て領主に絡みつく。――それが言霊となることを、この場の誰もが信じていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マレーク・グランシャール
命を差し出すより子を守る術がなかった親に立ち向かえる力があったなら
我が子の未来のため、禍根を断とうと一矢報いたに違いない

死んでいった親の想いを背負い、この槍を振るおう

纏わりつく死霊は【山祇神槍】で祓う
敵の攻撃はポケットに忍ばせた【泉照焔】で見切って【白檀手套】でカウンター攻撃
万が一敵の攻撃が当たり呪いにかけられたら【大地晩鐘】で床から敵の真上に槍を突き出し、動けないよう足を縫い止める
視界から逃れられないのならいっそ【山祇神槍】の破魔とランスチャージ、【黒華軍靴】のダッシュで懐へと飛び込む

一瞬を逃さず【金月藤門】のフェイントと残像、迷彩で欺き、惜しみなく竜人としての真の姿を解放
勝機をものにするぞ


リヒト・レーゼル
真の姿開放。
ランプの下がる杖の俺は誰かに扱ってもらわないと動けないから
誰か武器として扱ってほしい。

誰かが傷付くのを見るのも守れないのも
誰かを傷付けてしまうのももう嫌だ。
自分はあまりにもちっぽけであまりにも頼りない光なんだと思い知らされた

でも、小さな光でも誰かにとっては大きな光になるから
そんな灯火を消すお前は許さない
繰り出す攻撃は炎、ブレイズフレイム。

絶対に絶対に消させない。
ここを漂う彼らも静かに眠れるようにお前は討つ。
死霊の叫びはとても苦しくて、この炎が子守唄の代わりになればいいな…。

救いを。



●望み見た未来
(「――誰かが傷つくのを見るのも守れないのも、誰かを傷つけてしまうのももう、嫌だ」)
 自ら思案し、自ら決め、自ら動く。それなくしては、自分の抱く光はあまりにも小さくて、あまりにも頼りないものなのだと。黒薔薇の娘たちとの戦いにそれを知ったリヒトは、悲痛な思いで領主の前に立っていた。
(「――でも、たとえ小さな光でも、誰かにとっては大きな光になる。……暗闇の底にいたあの子たちにはきっと、そうだった筈だ」)
 それを護りたいという思いの輝きの内に、リヒトは真の姿を解き放つ。ランプの提がる杖を本性とする少年は、領主に挑みかかる仲間たちの姿に、それぞれの戦いがあることを知った。それぞれの想いで、それぞれの武器を駆使し、あの子どもたちに報いようとしていることを知った。
(「――俺も、俺の戦いをしなくちゃ」)
 強いその想いに、杖と化したリヒトは誰の手を借りることもなくふわりと虚空に浮かび上がった。揺れるランプに柔らかく灯った光が、心を映して赤々と燃え盛る。硝子を打ち破り溢れ出す炎は、苛烈な熱の中に死霊ごと領主をとらまえる。
『あの子たちの心には、希望の灯りが蘇ったんだ。――それを消すお前は許さない。絶対に、絶対に消させない』
 キィィィィ、と熱にうねる死霊たちの叫びが胸に苦しい。痛苦ごと消し飛ばすかのように爆ぜる呪詛に吹き飛ばされながらも、心持つ灯火の杖は何度でも身を起こし、領主のもとへ熱を飛ばす。
(「きっと今は、熱くて……苦しい。でも、領主から解き放たれたその時には、きっと……」)
 この炎が浄化の光となって、彼らを安らかな眠りへ誘う子守歌になればいい。祈りを託した炎が駆けるかたわら、襲い来る死霊たちの見えざる手を、破魔の力を宿らせた神下りし槍が一薙ぎに祓い飛ばす。
 その一閃を越え来る呪詛のゆびさきを、ポケットの内に熱を明滅させる小さな水晶がマレークに教える。瞬時に見切り突き出した白手袋の左手に、白檀の香気を纏うひかりがたちまち盾を編み、一撃を弾く。防御に動きを止めることなく翻した槍は、残る死霊たちをも打ち払った。
 死霊と化した親たちにとって、終わりはあまりにも唐突であったことだろう。子を想うあまりに口を衝いて出た言葉が、本心から死を望んでいた筈もない。その実は恐怖に震えていた筈だと、猛る一閃で死霊たちの狙いを引き受けながら思案する。
 ――そう、命を差し出すよりほかに子を守る術がなかったから、彼らはそうしたに過ぎないのだ。
「生きて立ち向かえる力があったなら、望み見る我が子の未来のため、禍根を断とうとしたことだろう。違うか」
 応えるのは諾も否もない悲痛な叫び。身を裂く死霊のゆびさきにも心揺らすことなく地を踏みしめ、マレークは槍を頭上に、舞踏の如き型を演じる。
「お前たちになり代わり、一矢報いよう。お前たちが敵に回り続けようとも、この槍にその想いを背負う」
 ――あまねく大地を統べる地竜の王の力を今、ここに。唱う文言が深い地の底から喚び起こした巨大なる霊は、地より突き立つ槍の林で死霊たちの防御を突き破り、虚空に縫い留める。
 偉大なる竜王の霊の力を昂らせるように、槍を躍らせ続けるマレークの頭にはいつしか片角が、その背面には翼と尾が惜しみなく晒されていた。同じ血の証を示し、力を解き放つことで、より強大な力を引き出そうとするかのように。
「新たな亡骸を生むこともなければ、削られるのみだな。――さあ、勝機をものにするぞ」
 低く凪いだ号令に、真っ先に我が身を従わせ敵前へ馳せる。守りを突き崩す槍一閃に倣うリヒトの炎は、穿たれた傷を照らすようにあかあかと燃え立った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎

てめぇの美がどうなんざ知るかよ
俺はただお前を殴りたいだけだ
歌で身体強化
炎の属性を剣に纏わせ斬りかかる

邪魔すんなっつって
叫んでも死霊達には聞こえねぇんだろうな
何よりも腹立たしいのは
子供達の親だったものが
ずっと憎い仇に囚われていることだ
ああ、そうだ
その気持ちも痛いほどわかるが
お前らの第一に思う相手はソイツじゃねぇだろ!
纏わりつく死霊がアイツを守るなら
その全部をひっぺがす
ただひたすらに生きることを求めたあの頃の様に
泣気叫ぶ子供の様に
歌で死霊を誘惑する
恨みも悔しさも全部寄越せ!
死霊がこちらへ向かったら
【君との約束】
世界一優しい俺の光のその剣で送ってやろう

あぁアレス、全部断ち切ってやれ


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

あの頃の僕には何があっても生き延びたい理由が…光があった
…あの子達が、その光を探す為にも
ー貴様を討つ

破魔を宿し、呪詛耐性を付加させた盾で
攻撃も爆発も呪いごと受け止める
僕は、逃げも隠れもしない
距離を詰め、あの子達と交わした約束と…抑え続けた怒りを込めてシールドバッシュ

死霊達が…「貴方達」の在るべき場所は此処ではない
守ったあの子達の傍のはずだ
だから、その「災厄」から断ち切る
…遺した子供達を見るのは辛いかもしれない
それでも、あの子達が生きていく姿を…見守ってくれ
セリオスが死霊の纏いを打ち消すと同時に
…僕達の光で
呪縛を断ち切るが如く【天空一閃】

ー「君達」の道の先に、光があらんことを



●極光の道標
「――てめぇの美がどうなんざ知るかよ」
 薄曇りの空の彼方には燃えているだろう南の大火の耀きを、セリオスは薄暗い森の大地の上に招き、光陣として花開かせる。求むるは今、拓くは明日――歌い上げるとおりに暁のちからは満ち満ちて、絶望の底を照らす魔力を青年へと巡らせる。
 復讐を思えど、叶わぬものたちに代わって。それもある。ない訳がない。けれど、
「俺はただお前を殴りたいだけだ!」
 心に燻らせた熱が叫びに映る。紅い星光を帯び、燃え上がる剣が浅く入った――いや、敢えて浅く領主の眼前を掻き斬ったのは、見えずとも確かにそこに在るもの、身の毛もよだつ呪詛の歌を奏でるものを斬り剥がすため。
 仲間たちの戦いが教えてくれている。邪魔するなと叫ぼうと、絶望と怨嗟に狂わされた死霊たちには聞こえはすまい。苛立ちは募れど、セリオスの視界を最も鮮やかな憤怒に塗り潰すものは、剣戟を跳ね返す死霊たち自身ではなかった。
(「あいつらの親だったんだ。理不尽に過ぎるだろ――なんで、こうしてずっと」)
 ――憎い仇に囚われて、苦しみ続けなければならない!
 猟兵たちの力を吸い上げ威力を増す爪に裂かれて、白い肌に血の赤が走る。それでも、振り乱す刃は止めるものかと歯噛みする。ああ、そうだ。憎悪も嫌悪も手に取るように分かる、呪うことさえあの男を前にすれば真っ当だ。けれど、
「わかるけど、違う……お前らの第一に思う相手は、ソイツじゃねぇだろ! ……――あああああ!」
 ひとつの気配を漸く斬り崩した手応えがもどかしい。歌う、歌う、歌う――喉を嗄らし、この声に惹かれて来いと全力で歌う。
 囚われの身に、ただひとつの星だけを仰いで。生き繋ぎ生き永らえること、それだけを求めた幼いすがたを身に顕して。虚空に張り裂けそうに広げた翼の震えに、アレクシスは冴えた眼差しを歪めた。自分の知らない、知っていたかった――けれど在ってほしくはなかった友の姿だ。
(「でも、こうして……この強さでセリオスは生き延びた。そして僕も……あの頃の僕にはセリオス、君が何があっても生き延びたい理由だった。――光だった」)
 失いゆくだけの旅路に瞬く、あるかなきかの希望。その欠片に、あの村の子どもたちはようやく今、辿り着いたばかりなのだ。
「失わせはしない。その光を探す為にも――貴様を討つ」
 身を覆うばかりの純白の盾を、アレクシスは領主へ叩きつけた。狂った享楽に濁る眼から、友の姿を覆い隠すように。その一方で、盾を介してなお強烈に伝い来る爆発の衝撃を、呪いごと抱き留め、受け容れる。
「アレス――」
「僕は、逃げも隠れもしない! 君との約束も、あの子たちと交わした約束も、此処に果たす!」
 使役されるだけの娘たちの前では、すべて曝け出しはしなかった怒気が、セリオスの歌声とともに騎士の力に転じる。打ち据えては薙ぎ払う盾に剥がされて、還っていくものたちの気配に気を澄ましながら、アレクシスは囁いた。死霊にではなく、かつて尊厳あるひとであった存在へ、敬意を哀悼をその声に込めて。
「――貴方達の在るべき場所は、此処ではない。守ったあの子たちの傍のはずだ」
 失った母も、集落のものたちも――ああ、自分はそう在って欲しかったのだと、自身の語る声の温度に自覚する。だから幾度の傷も、届かないと知る声も、重ねることを厭わない。僅かに守りの緩んだ死霊たちの向こうにあるおぞましい男を、叩き伏せるのだ。
 目に見えて積もる友の痛苦に、引き離されていた互いの時間を見るかのようだとセリオスは思う。――そして、だから、引き受けんとする痛みに割り入る無粋は、今日はしない。
「……あぁ、いいぜアレス! その剣で――送ってやろう。断ち切ってやれ!」
 セリオスの前に兆し続ける、世界一優しいひかりはいつだって、絶望と辛苦に潰されたいのちの先に行くべき場所を指し示す。
 ――……♪
 森に響き渡る声に研がれた光の剣が、アレクシスを絡め取ろうとする死霊たちのかいなを突き放す。青く燃えて澄んだ眼差し、友の誠意と決意にセリオスが吹かせる追い風は、敢えていつもの――勝ち気な笑み声だ。
「そうだ、お前らの恨みも悔しさも、全部寄越せ! 俺たちが光に変えてやる……!」
「……はは! 慮外どもの縁にも見るべきものはあるか……挺身に美しく命を分かて、されば死霊共の列に加えてやろう」
 翳される暗き金色の刃に、怯むことなく突き進む。応えてやる声などない。できるものならと、不敵な心をふたつ重ねて。
「――『君達』の道の先に、光があらんことを!」
 拓かれた道に、天頂を指し示した剣が振り落ちる。
 群れなす昏き魂たちは極光の剣に灼き千切られ、輝く刃は領主の薄い体躯を斬り裂いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

イア・エエングラ
かわいそうにな、眠れずに
辛かろうに何処にも行けず
お前の御託も美の基準も知らないけれど
怨嗟の声は確かに僕にも聴こえたものな
――成したいのなら成しておみせよ
誇るのならば示してご覧、でなくば
小さな指先の熱ほどに、僕の心を揺らしもしない

お前の怨嗟をお借りしよ
どちらのまじないが強いかしら
手札並べるように紡ぐのは黒糸威
干戈の合間にあててみせましょ
他の者と波間を縫うように
息つかせぬよに絶えず踊ろう

全部一緒に、還すから
真ん中を慥かに穿ってね
美しいと呼んだ子らの嘆きに
貫かれておやすみなさい
もう捕らわれることのないように

その灰の上にきっと芽吹くと
あける空を信じて、いるの


雨糸・咲
あなたの美は私には醜く見える
ただそれだけのこと
ですから――答えはひとつ、ですね

※真の姿解放
葡萄色に変じた髪は地に触れそうなほど長く伸び
黎明の耀きを帯びた瞳で敵を確と見据える
全身に蔓を纏った、樹木の精に近しい姿

哀しい憎しみに歪められてしまったひとたち
あなた方には何の罪も無いのに

仇の筈の男を守る霊たちへ、触れようと指先を伸べて
静かに語りかける

思い出して、あなたたちが守ったものを
その誇り高い手を、汚してはいけませんよ

それでももう取返しが付かないのなら

…ごめんなさい

彼らを掃ってでもこの男を倒さなければいけない
子供たちの心を
そこに確かに在る温かいひとの記憶を守るため
音も無く降る白で
醜悪な美を覆い尽くして



●いつか灰の中から
 在り様は確かに美しいと言えるかもしれない。
 誰かを守り、庇い、命を落とす。遺されたものの想いや罪悪感は棚に上げても、自分のすべてを終わらせても生きて欲しいと願った心が、望んだ心が、美しくない筈がなかった。
 ――けれど。その美しさに自身を悦ばせる為に、悲しみしか生まない舞台を作り上げる――その何が美しいものかと、ふるりと振った咲の青髪がふわり、力を纏って浮かび上がる。
 艶やかな葡萄色の髪は地に触れるほど、伸ばす指先にまで慕わしく添うやわらかな蔓。樹木の精を思わせる姿を、ほうと値踏みするような男の目線の前にひたり、暁のひかりに染まる瞳で咲は立った。
「あなたの美は私には醜く見える、ただそれだけのこと。ですから――答えはひとつ、ですね」
「然様。貴様らがあの残り滓共に望みなど見せなくば、或いは別の道も有ったやもしれぬがな」
「――あったとしても、お断りです」
 毅然とした声にヒィィィィ、と死霊たちが啼く。咲はその見えざる気配に手を伸ばした。その腕を、波のように次々と躍りかかる指が裂き、傷つけ、戒める。どうか、と祈るような気持ちで唇を開いた。
「思い出して、あなたたちが守ったものを。その誇り高い手を、汚してはいけませんよ」
 神気すら纏わせる声に、僅かに一瞬、悲鳴が止まった。憎悪は残り、けれど何故憎むのか、死霊と化した彼らの魂は理由を失ってしまったかに見えた。――けれど、もしかしたら。
 拓けたように思えた咲の胸の光に、すぐに影が差す。たとえ絶望と怨嗟の底にあたたかな情が眠っているのだとしても、死霊たちは既に領主とひとつとなっている。浄化でも治癒でもない、引き剥がす術はただひとつ――攻撃することだけなのだ。
 それができまいと嗤う領主など、どうでもよかった。ただ、
(「ああ――あなた方には、何の罪も無いのに」)
 ごめんなさい、とひとこと胸に落として、咲は杖を掲げる。その覚悟もなく訪れた訳ではない。引き裂かれるように心が痛んでも、村に残してきた子どもたちを想っても、この男を倒さなければいけない。次なる悲劇の幕を上げさせない為に。
 けれど、せめてと。振る杖に伝わせる魔力は、優しげなかたちをとった。執着を宥め、怨嗟を鎮め、魂の底に確かに在るはずの温かいひとの記憶を守るために――こんこんと音もなく降る雪白の花は、現世には少し遠い風景の中に吹き乱れ、刃を受けたと思わせぬままに死霊たちを還していく。
「清めの花の香、悪い夢は洗い流して――醜悪な美を覆い尽くして」
 歌うように唱う声は見送りのよう。薫る菊の香に眉を寄せ、切り崩されていく護りを引き寄せようとする男の手。それを、不意の黒槍の雨が穿つ。
「――お前の御託も美の基準も知らないけれど、怨嗟の声は確かに僕にも聴こえたものな」
 頭上を躍ったのは鰭めくイアの夜の裾。漂流するような眼差しに確かに領主を捉えながら、語る言葉は還りゆく魂へと紡がれる。
「嗚呼、貴様らの基準も否みはすまい。斯様な美を使い果たした残り滓に、貴様らは余程惹かれて止まぬと見える」
「そうな、だってこの子らは、自分で示してみせたもの」
 黒薔薇の娘たちの手を汚し、死霊たちに身を護らせて。何ひとつ自分では成せぬ弱虫が何を叫んでもと、紡ぐイアの唇に笑みが上らないのも珍しいことだった。
「成したいのなら成しておみせよ。誇るのならば示してご覧――でなくば、小さな指先の熱ほどに、僕の心を揺らしもしない」
 伸べる掌に、呪詛の気配が触れた。イアを傷つけにきたそれをも恭しく迎え入れ、青年は指先に黒糸の如き槍を紡ぐ。領主から切り離されぬうちに、その力を借りることは叶わない。けれど刻まれた傷に受けた呪詛は、喚び出した愛しい死霊の力を高まらせはする。
「お前の力をお借りしよ。――さあ、干戈の合間にあててみせましょ」
 裾を捌き踊るイアはひらりひらりと、喰らいつく死霊を躱す代わりにかいなの内を譲るよう。身躱しそびれた輝石の身体に罅割れが刻まれようと、その足は止まらない。手札を並べるように鮮やかに紡ぎ出す次の一糸が、死霊たちを貫き還し、その向こうの男を射る。それは咲の招いた白花の嵐と時を埋め合って、息吐く暇も与えない。
「全部一緒に、還すから――真ん中を慥かに穿ってね」
 彼の死霊がふうわりと、微笑みの気配を纏う。魂を塗り潰す怨嗟を見据え、槍糸と化したそれは一息に、連なる気配を撃ち抜いた。
「もう捕らわれずにおやすみなさい。お前たちの仇なら、苦い灰にかえしてあげような」
 ――いつかそこには、苦さを呑んで咲く花が、美しくひらくのだと。
 痴れ者がと吐き捨てた男の前に、イアは漸く微笑みを見せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルファ・ルイエ
相手が何を美しいと感じるかは、この際どうでもいいんです。
ただ、止めに来ました。
子供が悲痛に泣くのも、親が子供の為に亡くなることも、わたしが、あって欲しくないだけです。
このまま領主を守っていれば、親御さんが死霊になる前に守りたかった子達まで、犠牲になってしまいますから。

いつのも攻撃は阻まれてしまいそうですから、援護に回ります。
【白花の海】で、直接攻撃をせずに相手の動きを封じられないか試してみますね。
それも通らない様子なら、歌を【慈雨】に切り替えて他の人達を癒します。

歌うのは、家族や、子供や、大事なひとを想う歌を。

……死霊も、夢を見るでしょうか。
もしも見るならその夢が、優しいものであります様に。



●航りゆくものへ、夢を
 領主を責め立てる訳でもない。死したもの、遺されたものを、憐れむ訳でもない。
 シャルファの勿忘草色の淡い眼差しは嫋やかに、けれどしなやかな強さを湛えてひたり、領主を見据えていた。
「――貴方が何を美しいと感じるかは、この際どうでもいいんです」
 ウィル、と呼ぶ声に杖の頂に宿る精霊が身を震わせる。いらえるのは小竜の鳴き声ではなく、澄み渡る硝子のベルの歌声。
 きろん、かろん、と高く美しく鳴り響く音に、シャルファの鈴のような歌声が並ぶ。こころを語り、想いをかたちに結ぶ歌が吹き過ぎた途端、死霊たちの憎悪に覆われた大地に幾千、幾万もの光が咲き誇った。
 それは慎ましく耀く、白露草の花。仲間たちの瞳をいとけない感動で瞠らせたそれは、領主の頬を歪めさせるばかりで――けれど、
(「ええ、そうかもしれないと思っていました。貴方でなくとも、この花畑が夢魅せるとは限りませんから」)
 シャルファが美しいと感じた真白の絨毯に、共に戦う仲間たちが美しいと目を細めたのは偶然。百の心あればその数だけ、美しさを感じるこころは異なるもの。だから、たとえどんな凄惨なものであれ、領主の見出す美そのものに否を叫ぶ気はシャルファにはない。
「――ただ、止めに来ました。子どもが悲痛に泣くのも、親が子どものために亡くなることも、わたしが――あって欲しくないだけです」
 誰のためにでもない、自分のためにそうするのだと。凛然と告げるシャルファの前に、死霊たちが積み上がる。見えざる気配は止めるべき領主の姿を覆い隠すことはないけれど、髑髏の外套に抱かれた男が僅かに前のめりに身を崩したことでそれが知れる。
「己の望みを以て我が美を潰えさせんとするのだろう。なれば等しく悪辣なる闖入者に過ぎぬ」
「その通りです。止めるために来たと言ったでしょう?」
 キィィィィ、と頭上に渦巻く死霊たちの叫びに目を細めた。気を抜けば呑まれそうな殺意が、刃をなして身を切り裂く。きいてください、とシャルファは声を上げた。――きいて、きいて。振る杖で何度でも、美しい硝子の響きを奏でながら。
 いとけない白花に心揺らすことが叶わなければ、恐れもなく呪詛の中へ舞い込んでいく仲間たちへ届ける奏でを。白い喉に零れた歌声は、翳りの森の梢に澄みきった光の梯子を喚ぶ。きらきらと瞬く光の粒子が傷跡に集えば、荒々しい血の痕はやわやわと癒え、ふたたびの一歩を刻む力となる。
(「このまま領主を守っていれば、親御さんが死霊になる前に守りたかった子達まで、犠牲になってしまいますから――それだけは、私は、させたくない。絶対に」)
 またあの暗闇の中へ引き返させはしない。家族や、子どもや、大事なひとや――愛し慈しんだ彼らの日々を、いつしかシャルファは癒しの歌に紡いでいた。仲間たちの攻撃にひとつ、ふたつ、あまりに呆気なく消えていくものたちの道行きに添える、
(「……死霊も、夢を見るのでしょうか。もしも見るなら、それがきっと……優しいものであります様に」)
 自分のこころに背くことのない、直向きな祈りと共に。

成功 🔵​🔵​🔴​

ファルシェ・ユヴェール
少しだけ、安心しました――

悲嘆の内
絶望の奥底に
彼らは決して折れていた訳ではない
それでもその身を擲って子を生かした彼らに
……もし力が、他の手段があったのならば
きっと立ち向かった事でしょう
唯、子を守る為に己の全てを呑み込んだ

その魂が、我こそはと望むのならば

UCにて呪詛を伝うように触れ
目に見えぬ怨嗟を、色に見えぬ怒りを
さあ――私に教えて下さい
大きく鋭い宝石の如き結晶を
領主を守る筈の呪詛の気配より次々と創り出す

刃の如き結晶の群れで領主を攻撃
弾かれても刃の檻の如くその場に残る
黄金剣の手数は脅威ですが
打ち合う刃もまた無数にある

少しでも
彼らの想いが一矢報いる形を取れれば
そして何より、あの子達を守る力になれば


ジャハル・アルムリフ
…思ったよりも、ずっと
ヒトに近い姿をしているのだな

斯様なモノを美と呼ぶならば
貴様がいては台無しだ

【うつろわぬ焔】にて
猟兵とその周囲以外を灼き広げ
領主や死霊の行動範囲を狭めてゆく

放たれる攻撃は敢えて籠手で受け
逃げはせぬ、逃しもせぬ
ならば好都合
繋ぐ呪いを寧ろ手繰り、引き寄せ距離を詰める
貴様を守るモノは居らぬようだな

此れは預かってきた分だ
脆い手を忘れぬよう解かぬままでいた拳
掴んだ黒剣を以て
焔の中であろうと懐へ飛び込み領主を穿つ
欠片とて残さぬよう生命力も喰らい

貴様らは知らぬだろうが
子とて親を守りたいと望むのだ
叶わなかったあの子らの無念までも刻んで逝け

巻き上がる炎は
風が、あの村へと還れるように



●焼野の遺志、雛の意思
「ああ――少しだけ、安心しました」
 何、と眉を上げた領主に構わず、ファルシェはびりびりと威嚇する呪詛の気配に眼差しを和らげた。ひとを冒す泥のような感情の波は、触れて心安らぐようなものではない。それでも、男は自ら触れにゆく。
 絶望の暗闇に囚われてしまうよりはずっといい。無残にも領主の美の代償として喰らわれた魂たちは、決して心折れていた訳ではないのだとファルシェは思う。
 その手にもし、他の手段があったならば――きっと立ち向かったことだろう。けれどただ、子を守るために己の全てを押し殺し、呑み込んだ。その美しき魂が、我こそが領主の息の根をと望むのならば。
「さあ――私に教えて下さい。溢れ出る貴方がたの怨嗟を、怒りを……その色を」
「は、残滓の如き死霊どもに色などあろう筈も無い。これらは無よ。彩りなど全て搾り尽くしてしまったわ。かの美しき悲劇の許に」
「ッ、いいえ、それは違う。貴方には分からないでしょう、永遠に」
 連なる剣戟に受けた傷の重さは否めず、それでもファルシェは得手の護りには転じない。迫り来る死霊の腕に触れ、そこに燈った感情をひとつ、ひとつ、結晶と化す。
(「ああ、きっとこの色とこの形」)
 刃の如き角は怒り、燃え上がるほど赤い輝きは憤り――と、精巧に作り出されたイミテーションのクラスターに名を与え、次々と虚空に浮かべれば、すべての鋭角が領主へと翻る。金色の剣戟を受けては砕かれ、砕かれてはまた生み出される。そこに付された感情は魂そのものではなくとも、寄り添うものによって描き出された共感には違いなかった。
 彼らの想いが、命を奪ったものに一矢報いられるように。そして、
「――何より、あの子達を守る力になれば」
 言葉なくその想いに並べた心が、ジャハルの喉に熱を兆す。師の手によって描かれた喉奥の魔法陣、そこから紡がれる黄金色の焔が、薄暗い森をひといきに駆け弧を描く。望まざるものは灼くことのない意志持つ火焔は、領主と死霊たちの檻として、刻々とその範囲を狭めていく。
 その灼熱を越え、伸ばされる殺気がある。見えざる手の蹂躙を籠手で受け、齎される呪詛も痛苦も知ったことかと掴み返した。
「逃げはせぬ、逃しもせぬ。――いっそ好都合というものか」
 混沌とした呪いを手繰り寄せ、煽るように黒剣を振えば、怒気に任せてより深くジャハルを侵食しに来る死霊たち。そのさなかも決して領主を離そうとはしない――利用していた筈のその性質が、領主を死霊ごとジャハルの許へ引き寄せることとなる。
「……思ったよりも、ずっとヒトに近い姿をしているのだな。獣ですらあり得ぬ、醜悪な形を取っているかと思ったが」
「戯言を申せ。その身に斯様な血を流しおいて、よくも言えるものよ」
 死霊を掻い潜れるほどの距離に、狂気を孕む領主の眼には微かな焦燥が滲んでいた。軽く突き放し、黄金の焔の炙るに任せ、ジャハルはその熱の中に自ら踏み込んでいく。
 ちかいを宿した黒剣の柄に、今は共に握り込んだ柔い温もりがある。離すまい、忘れまいと指解かずにきたそれを刀身に伝わせ、ジャハルは予備動作もなく領主の肩口へ叩き下ろす。
「ぐ――は、……ッ」
「此れは預かってきた分だ」
 欠片とて残すまいと連ねる一閃に、命を喰らう。共に斬り払われた死霊たちの気配がふうわりと柔く溶ければ、笑みひとつ浮かべることなくその通りを告げる。
「貴様を守るモノが還っていくぞ。――さぞその肩も軽くなったことだろうな」
 けれど、ただ重荷を解かせるままにはしておかない。焔の息吹は、竜たる血を証すかのような額の角をあかあかと照らす。逆巻く焔の創り出す風は、上空のそれよりも熱を孕んでいたけれど、この地に還った魂ならば宿って駆け巡るだろう。――師の語った通り、求める子らの傍らへ。
「焼野に身を捧ぐは、親ばかりの性ではない。――貴様らは知らぬだろうが、子とて親を守りたいと望むのだ」
 だが、いずれにしても。避けられぬ運命の物語ならば美しいとも言えようが、
「斯様なモノを美と呼ぶならば、貴様がいては台無しだ。……叶わなかったあの子らの無念までも刻んで逝け」
 不条理に作り出した野火の悲劇に分かたれるものたちに、美しいと酔うならば――欠片さえも残してはおかない。
 燃え盛る焔は逃れることを許さない。それでもまだ、幾つかの死霊たちの呻きは未だ領主の傍らに残り、仇の命を狂おしく掻き抱いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
オズさん(f01136)と

俺は俺の守りたいものの為に剣を握るだけだ
この村も
目の前の優しい彼だって
傷付けさせはしない

領主を相手取りながら全ての攻撃受けようとする
彼の姿を眸に捉えればその只中に身を滑り込ませ
間合い見計らい腕で死霊の攻撃を受け止める
激痛耐性合わせ重傷にならぬ様

身を裂く程の悔しさは覚えがある
連れて行きますよ、その思い
オズさんに大丈夫ですと目で告げ
滴る血は屠を覚醒させる

烏は魂の導き手と謂われる事もあります
…未熟な烏ですが、託してくれますか

捕食体と化した屠に死霊を喰らわせ刀身に宿す無念
俺が親の思い
オズさんが子らの思いを
共に抱え一撃と成す

─オズさん、一緒に

全ての思い乗せた一撃を、届かせようと


オズ・ケストナー
クロバ(f10471)と

きれいと思うものがひとによってちがったって
そんなの、ひとを傷つけていい理由にはならないよ

呪詛に眉を下げる
うん、自分の手でやっつけたかったんだね
でもごめんね
ここで倒さなきゃいけないから
その願いは聞いてあげられない

駆け出して領主に斬りかかる
相手の攻撃はすべて武器受け
わたしが攻撃を受けることにせいいっぱいになったとしても
クロバがいる

ひとりじゃないからまけない
攻撃はぜったいにクロバには届かせない

って思ってたから
割って入る翼に驚いて
クロバっ

しんぱいだけど
クロバのだいじょうぶ、を
しんじる

わかったっ
合わせて刃を振るい

あの子たちが泣いて笑って
これからもずっといきていけるように、するんだ



●再会する心
「きれいと思うものがひとによってちがったって、そんなの、ひとを傷つけていい理由にはならないよ」
 言葉は領主へと向かうのに、Hermesの一閃を受け止めに来るのは悲しげな呻きを響かせる目には視えない死霊たちで――間近に聞く呪いの声に、オズは優しい眼差しを僅かに翳らせた。
「――うん、自分の手でやっつけたかったんだね。でもごめんね、ここで倒さなきゃいけないから」
 それは聞いてはやれない願いなのだと、毅然と。心寄り添わせながら、オズは為すべきことに迷いはしなかった。
 溢れる蒸気にさえ浮かび上がることのない哀しい気配を左右に斬り払い、前へ。待ち構える金色の剣を捌いて一撃、強かに叩きつけると、反撃が眼前に翻る。
(「だいじょうぶっ、ひとりじゃないからまけない。攻撃はぜったいにクロバには届かせないっ」)
 身に受ける覚悟だって、とうに出来ていた。――それなのに、
「届かせ、ない……っ」
 オズの前に、氷咲く刃と黒羽根が散った。庇い広げた翼の向こう、白く煙った冷ややかな靄に、キィィィと見えざる死霊たちが歌う。襲い掛かった剣戟を、間隙に割り込んだ黒羽は奥歯を噛みしめ、すべて、すべて受け止めた。
「クロバっ」
 翻るオズの眼差しに大丈夫ですと頷きで告げ、不愉快な男の胴を蹴り飛ばす。僅かに傾いだその一瞬に、幾重にも封じ重ねた黒剣でぐい、と自身の血を拭い取った。
 怨嗟のみに囚われたものたちの明確な敵意を、身を引き擦り、傷ついてでも、自分の身ひとつで受け止めたいと黒羽は願った。醒めた眼差しを常とするキマイラの青年は、心の裡に幼いほどに澄んだ望みを飼っている。
(「……、俺は……俺の守りたいものの為に剣を握る、だけだ。――この村も、目の前の優しい彼だって……傷つけさせは、しない」)
 九度重なる斬撃に、痛みこそ加護で退けても、流れた血は少ないとは言い難い。けれど願いに握り直した柄に、目覚めようとするものの気配が馨った。膝に力を得て立ち上がり、眼前に迫る呪詛の気配をその剣で打ち払う。眼に光が宿った。
「啜れ、屠。――腹が満ちるまで飲ませてやる。だから」
 約束のように刀身に触れさせた血が、すうと消える。
(「オズさんの信に応える力を……死霊たちの無念に応える力を、俺に」)
 秘めた願いごと啜り取らせ、切っ先を翻した。覚醒し捕食体と化した刃が触れた途端、死霊の気配はふつ、ふつと消えていく。
 貴様、と呻く領主の声には応えない。優しいこころは男への憎しみよりも、喰らわれるしかない魂の無念を見ている。
「……鳥は、魂の導き手と謂われることもあります。……未熟な鳥ですが、託してくれますか」
 黒羽は親たちの思いを、オズが子らの思いを。担う刃に再会を誘う黒羽の眼差しには疲労も滲んで、けれどそれ以上に強い意志の光があった。傷だらけの黒羽を案じる気持ちは膨れ上がるけれど、
「――オズさん、一緒に」
 静かに、強く誘う声にオズは微笑み、頷いた。クロバはだいじょうぶだ。――言葉にはならない『だいじょうぶ』を、オズは信じられる。
「わかったっ! いこう、あの子たちが泣いて笑って、これからもずっといきていけるように、するんだ」
「ええ。……その営みを、親たちも……どこかできっと見守れるように」
 あのとき頬を伝った熱に似て、願わずとも溢れるものを得物に伝わせ、二人は一斉に振り下ろす。
 憎悪も苦悶も、刃に切り離されて還っていく。空へ――それとも、あの子どもたちの傍へだろうか。
 そうであって欲しいと願いは澄み渡る。薄暗い魂も肉も血も一括りに喰らう『屠』に、手負いの獣めいた領主の呻きが零れ落ちた。斬り払いにかかる金剣の前には、オズが跳ぶ。ぶつける戦斧はしなやかでしたたかな意志を映し、吐き出す蒸気で剣戟を押し込んでいく。
「こんどこそ、させない。もう、クロバにはぜったいに届かせないっ」
 ――やさしいきみが、だれかのために傷だらけにならないように。
 剣戟を捌き切り振り抜いた一閃に、領主の忌々しげな絶叫が迸った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アルバ・アルフライラ
何を美と見做すかは各人各様、か
っは、それは失礼した
ならば非礼に対するささやかな詫びとして
私の信奉する美を貴様に披露してやろう

魔方陣より召喚せし【雷神の瞋恚】
我が渾身の全力魔法
玉体に罅入ろうと出し惜しみせず
高速詠唱、2回攻撃にて絶え間なく神の鉄槌を下す
――悪霊諸共、彼の暗君を穿ち尽くせ

齎される怨嗟の声より逃げはしない
自惚れるのも大概にせよ
お前達に彼奴は殺せぬ
お前達の手は、誰かを愛する為にあるのだから

それに、聞くならばオブリビオンの断末魔が良い
全てを意の儘に出来ると慢心した者が
苦痛に呻き、泣いて許しを乞う姿
斯様な愚者が骸の海へ堕ち行く様は斯くも美しい
貴様は我が美を唾棄するか?
まあ知った事ではないが



●相容れぬもの
「何を美と見做すかは各人各様、か。――っは、それは失礼した。ご高説痛み入る」
「――、は……これほどに心無き謝罪もあるまいな。躾のなっておらぬ駄犬共め、鼻ばかり利きおることよ……!」
 噴出する領主の怒気を鼻先で笑い、冷めた眼差しに嗤ったアルバの笑みは一瞬で消えた。あの子どもたちが目にすれば震え上がっただろう酷薄の微笑みは、いっそ女神の如く冴え渡る。
「賛辞と受け取ろう、領主殿? ならば此方の非礼に対するささやかな詫びとして、私の信奉する美を貴様に披露してやろう」
 離れゆく死霊たちの加護に苛立ち、縋りつくように手を伸ばして、男は吼える。囚われた気配は残り僅か、それだけに自身を殺した者への執着の色はどれにも勝り、アルバの紡ぐ挑発に濃厚な殺気を以て襲い掛かる。
 くっ、と笑いが喉にくぐもる。ばさりと広げた外套の裏に閃く紅を背に、地へ突き立てた杖をしらじらと耀かせて。
 種が芽吹き、這い広がるさまを一瞬に繰り見るように。瞬きのうちに展開する魔法円、その中心に細やかに爆ぜるちいさな紫電が親を喚ぶ。それは天から、アルバの杖を標として疾く、猛く、降った。
「閃光よ、愚者の世界を灼き尽くせ。神すら拒めぬ憎悪を以て――悪霊諸共、彼の暗君を穿ち尽くせ」
 そのあまりに苛烈な雷霆は、諸刃の刃。大気を震わす紫電の轟きが繊細なるスターサファイアの身体に罅を入れようとも、アルバは笑う。瞳に宿る星が、歓喜に至上の光を纏う。
 ――これこそが身を擲ってでもと望み欲する、叡智の美。
「……ぐ、ふ……、あ、ア……あああアア――!」
 堪えんとする矜持も、ただ一声零れてしまえばもう意味を成さない。絶叫が雷鳴に引き裂かれる中、閃光の中からまだ手を伸ばす殺意がある。なおも術を紡ぎにゆくアルバの腕を力任せに握り込み、がらがらと崩れ零れる輝石の欠片に還そうとする死霊の呪詛。
 怨嗟の響きから身を背けるそぶりさえなく、少年のようにアルバは笑った。
「自惚れるのも大概にせよ。お前達に彼奴は殺せぬ。――お前達の手は、誰かを愛する為にあるのだから」
 もう一閃。駆け降りた雷撃に穿たれた死霊たちに、声はなかった。聖人めいた微笑みで空へ還した眼差しが、たちまち剣呑な笑みへと翻る。収まりゆこうとする空気の振れに絶え間なく続く叫喚をちらり、意地悪く見遣って。
「泣いて許しを請わぬのは見事と褒めてやろう。だが貴様の言葉を借りるなら、『斯くも美しいものよ』……そう思わぬか?」
 言葉を結ばない怒号が弱り、堕ちゆく先はただひとつ。絶望の底で領主を待つであろう骸の海を思えば、なんと胸のすくことか。
「貴様は我が美を唾棄するか? ――ああ、答えずとも良い」
 知ったことではない。最後ばかりは吐き捨てたアルバの腕を、焼け焦げた腕が掴み取る。振り上げられた金色の十字剣が、空を斬る――。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェレス・エルラーブンダ
おまえがきらいだ
だからやっつける

村に残した子どもたちを瞼の裏に宿す
濁った瞳に宿ったのは、かすかな
けれど確かな、『生きたい』という願い

興味がない、ひとごとだと
見て見ぬ振りをする自分は、もういない
これがいいことなのか
意味があるのか
まだ、わからないけれど

ゆめまとい
それがもたらす負荷、過ぎるちからに
唇の端からあかいろが溢れるけれど
身に宿るすべてをもって、こいつを殴るときめてきたから
抜き放った牙、棘の全てで切り伏せる
手数の多さで負けるものか

たぶん
子どもは、わらっているほうがいいんだとおもう
それがわからないおまえに、その大層な椅子は不要なものだ

私はいそがしいんだ
あいつらに、狩りをおしえないといけないからな



●明日に見る顔は
 躍る短剣が、それを食い止めた。
 瞠る輝石の男の嫋やかな礼を頷きひとつで見送って、フェレスは斬り落とした領主の手首を蹴り飛ばし、濁った眼をぎろりと睨め上げた。
「――貴、様」
「おまえがきらいだ。だからやっつける」
 理由などそれで充分だ。それだけのことをこの男はしたのだと、フェレスは見えざる死霊の手を借り繰り出される金色の剣戟に、狙い定めた切っ先を向ける。
 瞬きの間にも距離は詰まるから、瞼を見るのは一瞬。けれどそのほんのひとときに、震える手で剣を取った子どもの姿が蘇る。その瞳は濁っていた、けれど星のようなかそけき光がひとつ、フェレスの前で確かに宿った。――いや、目覚めただけなのかもしれない。
 『生きたい』と言っていた。偽れる言の葉よりもずっと正直に。
(「興味がなかった。ひとごとだった。だって、構っていたら自分が死んでしまっただろうから」)
 仕方なかったと弁解する気もないけれど、悪かったとも思っていない。だが、そんな自分はもういない。見て見ぬ振りは、もうできない。話を聞いて自ら赴くほどには、己を顧みぬお節介になってしまったのかもしれないとは思う。けれど、
(「これがいいことなのか、意味があるのか、まだ、わからないけれど」)
 心の底から湧き上がる感情がある。生きたい、生きようと願うから嘆く、夢を見るからこそ明日を希む。その一端を掴み直した子どもたちの想いも、手放すしかなかった大人たちの想いも、『夢』のちからに代えてフェレスは前へ出る。振う短剣に乗った負荷はあまりに重く、きつく結んだ唇の端から血の色が溢れ出た。それでも、
「身に宿るすべてをもって、おまえを殴るときめてきた」
 腰の牙も、身体じゅうに忍ばせた棘も、全てを突き立て躍らせる。ひとつを躱したならもうひとつ、逃れる間にまたひとつ――死霊たちの腕をも縫い留められ、護りを失った男の身体に、風の疾さで傷が刻まれていく。
「――……貴様のような、……奪われるばかりの小童に、奪わせるなど……!」
「とめたければ勝手にしろ。私はとまらない。――たぶん、子どもは、わらっているほうがいいんだとおもう。それがわからないおまえに、領主なんて大層な椅子は不要なものだ」
 剣戟を身に受けたまま、フェレスはぐいと前に出る。沈み込む金色の刃に微かに眉を顰めたけれど、それだけだ。
 代わりに喉へ押し込んだ短剣が、煩い喉を潰す。
「か……っ、は」
「私はいそがしいんだ。あいつらに、狩りをおしえないといけないからな」
 ――お前を倒さなければ、それができない。血に塗れながらも揺らがないフェレスの敵意に、背筋を凍らせた男は呪わしい目つきで跳び退いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スティレット・クロワール
鈊君(f19001)と

これはこれは領主殿。ご機嫌如何かな?
勿論、私としては悪い方が良いのだけれどね?どう思う?鈊くん

成る程それは美しいだろうが、君に消費される理由はないさ

私の騎士は勇ましいねぇ
領主が纏うのが死霊であれば我が身には近しいもの
憎悪ばかりを纏う君では、我が騎士の炎からは逃れられまい

冥府の衣を発動。
無駄な怪我はしないようにね。お前は私の騎士なのだから、鈊

領主と革命剣で勝負と行こうか
鈊くんの炎剣が来てればそれも使わせてもらうかな

ーその忠義、受け取った

えー意外と大丈夫かもしれないでしょ?
ーーあぁ、そうだね。我が騎士。我が唯一の剣。

さぁ剣で来るのでしょう領主殿。その美の最後を己で飾りなさい


黒金・鈊
スティ(f19491)と

ご機嫌斜めで八つ当たりも困るが。
否定される謂われはないだろうが美を語るなら暴評も甘んじることだ。

スティを庇いつつ、奴の守りを砕くよう振るう。
纏うが死霊であれど、それが武器であり鎧ならば、斬ってみせよう。

死は恐ろしい。そして美しい。
だがそれを認めては、人は人でいられない。

負傷は躊躇わず、踏み込む。
疵は……善処する。
ああ貴様は恐ろしい。ゆえにこの技が活きる。
我が身を囮に、鋼色の炎剣を差し向け。

莫迦か、触れれば灼けるぞ。
だが主の意に従おう。
俺もそれもあんたの剣なのだから。
スティの動きをなぞるように、ともに斬り込もう。

貴様の信じる美と、何もかも灼き尽くす炎。
勝負といこう。



●暴評に甘んじよ
「これはこれは領主殿。ご機嫌如何かな?」
「――ッ」
 退いたそこに響いた大層機嫌の良い声に、領主は剥いた眼を振り向ける。純白の聖衣の裾にしゃらり、装飾が過ったと見た刹那、残光の剣が獰猛に首を刈りにくる。すんでで逃れた身の上に、今度は黒――傷も死をも恐れずに踏み込んでくる影の手許に、これも闇ひと色の一振りが翻った。
「信仰も神も似合わぬ振舞いをするものよ。――こと、聖職者らしからぬ豪胆よな」
「おやおや、お褒め頂き光栄だ。敵に塩を送るなんて機嫌の良い証拠かな? 勿論、私としては悪い方が良いのだけれどね?」
 食えない笑みで紡いだ挑発の末、司祭たるスティレットの問いは領主にではなく、どう思う鈊くん、と攻め止まぬ騎士へと引き返す。
「ご機嫌斜めで八つ当たりも困るが――否定される謂れはない、というのは理解は出来る」
 だが、と鈊はひっそり笑った。スティレットへ向かう金色の斬撃をその身を以て庇い、希薄になりゆく死霊たちの気配を打ち砕くように峰を叩き付け、払いのけ、刀身を振るう。
「――だが、美を語るなら暴評も甘んじることだ」
 鈊の笑みが熱に消えた。森の影によく馴染む黒の剣戟、その背後に燃え上がる鋼色の焔。とろとろと融け落ちるように燃え盛りながら、それは主を害するものへと確実に狙いを据え、斬り刻んでいく。
「そうだねえ。そして成る程、領主殿の語るそれは美しいだろうが、君に消費される理由はないさ」
 ああ私の騎士は勇ましいねぇ、と緩んだ司祭の眼差しは、どこか深くでつめたく冴えている。子を想う親の情愛とは、個の嗜好で飾られる一枚絵でもなければ本棚を肥やす物語でもない――そう、説諭じみた言葉を連ねて。
「そう憎悪ばかり纏っては、我が騎士の炎からは逃れられまい。ふふ、私がそうであるようにね」
 もの言いたげに翻った鈊の眼差しには口の端を上げて、旧き青の光に身を染めた。集う風を刃と化す冥界の加護を足許に布けば、躍るスティレットの指先に従い、守護の風は鈊を昂らせるように、守るように包み込む。
「無駄な怪我はしないようにね。お前は私の騎士なのだから、鈊」
「――、……善処する」
 彼にしては歯切れの悪い言葉ににっこり笑ってやれば、逸らされた眼差しが領主を射抜く。連なる金色の剣戟はあまりに脅威だ。祈りに喚ばれた冥府の衣の護りをもってしても、全てを和らげるには至らない。しかし、
「ああ、そうだな。貴様は恐ろしい。――ゆえにこの技が活きる」
 己の身が危険と感じてこそ、炎剣たちは獰猛にその脅威を穿ちにかかるのだ。
「さぁ剣で来るのでしょう領主殿。その美の最後を己で飾りなさい」
「ハ……ッ、抜かせ。忌々しい聖職者くずれが……、貴様には死臭しかせぬ」
「おや、好い嗅覚をしているじゃないか」
「――! スティ! 莫迦が、触れれば灼けるぞ」
 掴み取った主の掌を灼く己の炎剣に目を剥いて、けれど主の眼にある色を認めた鈊は声を正す。守るは使命、傷つかせるのは本意ではない。だが、
「主の意に従おう。俺もそれも、あんたの剣なのだから」
「ふふ。――その忠義、受け取った。我が騎士、我が唯一の剣」
 ひとたび刃を並べれば、もう視線は重ならなかった。見据える先はただひとつ、薄暗い存在を際立たせるように炎剣は燃える。躍る二つの剣戟は、競うようにひとならぬものを――その向こうに臆病にも護られたものを斬り裂いていく。鋼色の炎の内に命を抱え込んで。
「貴様の信じる美と、何もかも灼き尽くす炎。勝負といこう」
「勝ちは見えているけれどね? 冥府より来たる手は、死に遊ぶ貴方を決して許さないでしょう、領主殿」
 死は恐ろしいもの。そして美しいもの。
 だが、それを認めては――人はもはや、人ではいられないのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニヒト・ステュクス
悲劇譚は別に嫌いじゃないよ
だけどそれは物語<フィクション>の中だけで十分
悪趣味なノンフィクションは
ハッピーエンドにしなきゃ

…師匠(f12038)って文才ないね
ボクだったら
非道な領主は村人の恨みによって
自業自得で八つ裂きにされました…くらいは盛っちゃうかな

さぁカルマ、悪い奴をやっつけよう
まかせて!悪い奴を殺せば正義の味方になれるんでしょ?
真の姿:躰を妹の人格に譲渡
ボクは現し身姿に

十字剣の攻撃は第六感で見切り
70本のヤマアラシの刃でいなし妨害する
多角からナイフを投入して敵を翻弄し
仲間を援護しよう


…確かに身を擲って子を守った親の愛は美しいよ
だけど人の不幸を悦ぶお前は
この物語の中で最も醜い

だから消えろ


レイ・ハウンド
真の姿=本気出す
ニヒト(f07171)と

ペンは剣より強しと言うが
この剣こそペンだ
てめぇの血をインクに
この悲劇譚を書き換えてやる

悪い領主は倒され
村には平和が訪れました
…ってな

うるせぇ
お前ならどんな結末にするんだ?

攻撃を剣で盾受けし
向かいくる死霊達に
語りかけながら前に進む

よぉ邪魔しようがどうあろうが俺は領主を叩き斬る
復讐を横取りされたくなきゃ
俺よりも領主を攻撃した方が早いぜ
それとも俺の剣にあんたらの分の気持ちを乗せてやろうか

…想い出せ
子供達の事を
子供達の本当の敵は誰だ?

あんたらの最期の意志は
子供を救いたいじゃなかったのか?

逃れられぬ呪いなら共に征くまで
亡霊達の無念と共に
捨て身の一撃を叩きつけてやる



●沈んだ願いを、この剣に
「よぉ、ここまできてもまだその魂に齧りつくか。随分と凄惨な終わりを演じてくれそうだがなあ、そこの領主は」
 叩き斬るに欠ける鉄塊の刃をがむしゃらに虚空に振い、レイは斬り交わす『何か』に語り掛けた。見えざる敵の呪詛が爆ぜるのを、分厚い刃を盾に躱し、なおも散る己が血の雫には構わず前へ突き進む。
 どんな邪魔が入ろうが、自分は領主を叩き斬るためにここへ至った。それは並び立つ仲間たちもまた同じこと。だから、
「復讐を横取りされたくなきゃ、俺より領主を攻撃した方が早いぜえ。――それとも俺の剣に、あんたらの分の気持ちを乗せてやろうか」
 キィィィ、と耳奥を穿った声の諾否は分からない。素直に身を翻しようもない存在と化してしまったことは、幾度となく働きかける仲間たちによって知っていた。だから、レイは受ける一撃一撃を、無骨な剣に蓄積させていく。――そこに消え残る想いがあると胸に信じて。
「……想い出せ、子供達の事を。あんたらのじゃねえ、子供達の本当の敵は誰だ? あんたらの最期の意志は、『子供を救いたい』じゃなかったのか?」
 ヒィィィ――! 声は掻き消すように天を衝く。纏う本気を真の力とするレイの傍ら、コマネズミのように駆け抜けた『ニヒト』の意識が、少女の身体からふわりと抜ける。
『さぁカルマ、悪い奴をやっつけよう』
「まかせて! 悪い奴を殺せば正義の味方になれるんでしょ?」
 両肩に触れた現し身の兄に、その躰の主たる『カルマ』は笑った。身を引き裂く十字剣の痛みすらも生の歓喜に換えて、きらきらと不自然に昂揚する瞳に敵を映し、叫ぶ。
「キミがわたしを正義の味方にしてくれるのね?」
 はじめは一振り。その手にあった影に馴染む漆黒の短剣が、駆け抜けた領主の肋を引き裂く。その直後、華奢な体躯を護るように現れた数多の複製が、零れる呻きすら削ぎ殺していく。
 己の欲に忠実と見えるヤマアラシの刃の吶喊は、その裏にレイの強烈な一撃を導く。手引かれた男は遮る死霊らの手を打ち払い、剣戟を跳ね飛ばし、打撃とも言うべき強かな一閃を叩きつけた。
 ペンは剣より強しと誰かが言った。この剣こそがそれだとレイは断言する。
「てめぇの血をインクに、この悲劇譚を書き換えてやる。『悪い領主は倒され、村には平和が訪れました』……ってな」
『わぁ……師匠って文才ないね』
 妹へ至る剣戟を重ねた複製の刃で受け止めてやりながら、ニヒトははぁと溜息を吐く。うるせぇと返った低い声には僅かに照れが滲んでいた。
「お前ならどんな結末にするんだ?」
『ボク? ボクだったら――そうだね、『非道な領主は村人の恨みによって、自業自得で八つ裂きにされました』……くらいは盛っちゃうかな』
「あら、本当に八つ裂きにしてしまわないの?」
 悪気なくころころと笑う声が、不似合いに戦場に転がっていく。お前らは、と荒い吐息を散らし、レイは領主の懐へ一歩、深く踏み入った。
「……! 貴様、誰の許しを得て――」
「生憎と誰ぞに許しを請う身分じゃないもんでね」
 終わらせちまうぜ、と胸裏に呟き、レイは重厚なる一撃を叩きつける。断頭台の如き実直な一閃が、逃れる領主の頸を刎ねることはない。けれど、躱しきることも許しはしない。
「ハ、逃れられぬ呪いなら共に往くまでだ。――亡霊達の無念、しかとその身で味わえよ、悪徳領主が」
 肉の爆ぜる感覚など、今は遠い。鉄塊剣は骨を砕き、臓腑を圧し潰し、地を震わすような領主の怒声を轟かせる。
 いい声ね、と微笑む妹の意識に、ニヒトは己の想いをも託す。身を擲って子を護った、親の愛は確かに美しい。けれどその物語のかたすみで、野に火を放ち要らぬ死を誘い、人の不幸を喜ぶ登場人物は、対比してあまりに醜い。
『おまえのことだよ、領主。だから――』
 ――消えろ。
 ――消えて。
 駆け巡る刃の嵐の中に、ふたつの声が重なった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リリヤ・ベル
【ユーゴさま(f10891)】と

怨むほど、呪うほど、領主をゆるせないきもちがあったとしても。
こどもを想った果てにあるものが、歪められて良いわけがないのです。

天からひかりをまねいて、死霊を祓い領主を穿ちましょう。
ユーゴさまの剣筋を照らすように。
領主を斃すのは、生者のしごとです。

歪みは、たださなければなりません。
どうして殺したかったのか、なにが恨めしかったのか。
その根源にあったこころをおもいだすことは、できますか。
――あなたたちを想うこころが、ここからはみえませんか。


ユーゴさま。
ユーゴさまは、かってに死んではいけませんよ。
……わたくしはレディですけれど。こどもだって、置いて行かれたくはないのです。


ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)】と

……美だと?
その許しがたい所業を、お前は美しいモノだと言うのか。
悪いが俺はお前の纏う災厄に美しさは感じない。
容赦無く穿たせてもらうぞ。

強力な呪詛か、精霊は狂わされるかもしれないな。
それならば小細工は無しだ、剣一本で戦おう。

俺はリリヤの招く光に合わせ剣を叩きこんでいこう。
呪詛に塗れようが怨嗟に晒されようが、止まらんぞ。
今を生きる者の為、無念の果てに死んだ者の為、俺は必ずお前を斬る。

……死なないと、約束はできない。
だけど、そうだな。努力はする。



●生者のひかり
「……美だと? よく言ったものだな」
 感情の起伏の淡いユーゴの眼差しを、このときばかりは冴え渡る怒りが染め抜いていた。
 いたずらに親と子を引き裂き、愉悦に笑い、涙すら涸らした子を、怨嗟に囚われた魂を、残り滓と呼んでなお搾り取る。奪える限りを尽くしたその暴虐は、まさに災厄だとユーゴは思う。そして、
(「その罪に相応しい姿だな。――いや、まだ足りないか」)
 皮一枚で辛うじて繋がった腕、臓腑が今にもまろび出しそうな胴。焼ける皮膚のにおい。柔らかな領主の椅子に身を沈め、飽いては悲劇を求めた領主の面影はもはや、そこにはない。
「歪みは、たださなければなりません」
 瞳を揺らすことも、軋ませることもなく。自らの遺した想いからかけ離れてしまった死霊たちをひたと見つめて、リリヤは語り掛けた。
「どうして殺したかったのか、なにが恨めしかったのか。その根源にあったこころをおもいだすことは、できますか。――あなたたちを想うこころが、ここからはみえませんか」
 力も心も涙も涸れ果てた筈の絶望の底に、ひとしずく、愛おしさに零す熱が残っていたのをリリヤは見たのだ。
 終わりの先でならばその想いが届くのなら、風となりあの子たちのもとへ巡って、その頬を乾かすことができるのなら――風鈴草のベルを高らかに掲げ、リリヤは力ある光を招く。駆け行くユーゴを死霊たちが阻まぬように、逸らさない眼差しに確りと狙い定めて。
「その許しがたい所業を、お前は美しいモノだと言うのか。――悪いが俺は、お前の纏う災厄に美しさは感じない」
 容赦も憐憫も、向ける理由は初めからなかった。拒むように伸ばされた領主の――死霊から借り受けた見えざる腕を、剣戟で打ち払い体側に流せば、そこに衝撃が走った。反撃の呪詛が爆ぜ、見えない怨嗟に掴まれる心地がする。躱すに足る距離を保てない。だが、
「逃げる気はないようだな。……あったとして逃がす気はないが」
 それは相手もまた同じこと。精霊を喚ばずにおいて良かったと、鳩尾を侵す呪詛の痛苦に過った思考は一瞬。振り切るように穿つ剣は、積んだ時間と鍛錬に培われたもの。小細工なしの一閃に、怨嗟は再び眼前に爆ぜる。けれど、止めない。――どれほど呪詛に塗れようが、怨嗟に晒されようが、剣が止まることはない。
 愛しく慕い慈しんだであろう家族を、真っ当に弔うという思考さえ意識の底へ追い遣らせた罪。彷徨える魂を、この手で殺さねば気が済まぬと拗らせた呪詛のもと、ねじれねじれて仇を護るに至らせた罪。それを思えば柄を握り込む手には力が籠る。
 機を窺うユーゴの前に、リリヤは光を降らせた。見えざる死霊の憎しみも悲しみも照らし灼き尽くす澄明が、男に道を示す。
「怨むほど、呪うほど、領主をゆるせないきもちがあったとしても。――こどもを想った果てにあるものが、歪められて良いわけがないのです」
 だから、生者のしごとをなしましょう。リリヤは毅然とそう告げた。今際に残した本心からは遠いはずのかの魂たちの護りを、審判の輝きのもとに遮った光が、駆け出したユーゴの剣筋を照らす。
「今を生きる者の為、無念の果てに死んだ者の為、お前はこの地に君臨するべきじゃない。――俺は必ず、お前を斬る」
 渾身の一閃が、砕かれた肋骨の奥に鼓動響かせるものを――穿つ。
 もはや呻きも、悲鳴もなかった。ぎらついた眼球が光を失い、斃れゆくさまを前に、ユーゴは片腕に外套を拡げる。
 悪辣を為し、あまりに業深い悲劇を生んだもの。その終焉には相応しい姿だとしても――澄んだ怒りを滔々と満たしていたリリヤには、見せたくはなかったから。
 外套を掴む手を感じた。ユーゴさま、と囁く声に、戦いに臨むものの強さはなりを潜め、小さな子どもの心細さが滲む。
「ユーゴさまは、かってに死んではいけませんよ。……わたくしはレディですけれど、それでも」
 荒れ果てた野に盛る火が、いかに猛ろうとも。共に生きる道が、ひとつとして無いとしても、それでも。
「――こどもだって、置いて行かれたくはないのです」
 その呟きは、かの子どもたちの心を映したかのようだった。
 約束はできないと、いらえる男はあまりに正直だ。だけどと、血を拭った掌の温もりを分かつようにリリヤの頭を撫でて。
「そうだな。――努力はする」
 微かな笑みに染まった瞳がリリヤに安堵を呼んだのを認め、ぽん、と振れる手を軽く弾ませる。
 ――あの子らの痛みを、並び往く少女のものにはすまい。

 放たれた火をなかったことにすることはできない。美徳と謳われた命が還ることは、この世にはあり得ない。
 それでも枯れ野に命はまた芽吹き、残された雛たちは育つ。慈しむ翼があったその時よりは幾分逞しく、悲しい想いを抱きながらも。導いた涙はいつしか、心に肥沃を取り戻させてゆくことだろう。
 ――そのこころさえも奪うものはもう、雛たちのもとにはいないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年09月12日
宿敵 『大領主』 を撃破!


挿絵イラスト