エンパイアウォー㊳~孤高たる共闘~
●『魔空安土城』
万に一つも勝ち目はなくとも。
億に一つがあるのなら。
「賭けてみるのも一興よ」
薄く笑った男は呼ぶ。喚ぶ。
忠実なる家臣である魔将軍の一人、弥助アレキサンダーを。
それは秘術『魔軍転生』によるもの。弥助アレキサンダーはそれにより信長に憑依した。
否、それは『憑装』と呼ぶもの。配下たる魔将軍を、そのまま己の力としたもの。
信長様の御為に。ただ一言ですべてを捧げる男を背後に据え、男は――第六天魔王織田信長は、猟兵達との対峙の時を待った。
●落ちた城へ
首塚の一族によって地上へと引きずり降ろされた『魔空安土城』では、既に幕府軍が信長軍の本隊と刃を交えていることだろう。
守り抜いた幕府軍の勢いは凄まじく、彼らの戦いにはもはや猟兵が介入する必要はない。
ならば我らが果たすべきは一つ。
「魔王を討つこと。ただそれだけだ」
それでは手短に話そうかと、エンティ・シェア(欠片・f00526)はメモを捲る。
今回相手にしてもらいたいのは『弥助装』と呼ばれる状態の織田信長。
武人としても優れた力を発揮するだろう信長に、さらに弥助アレキサンダーが持つメガリスの能力が付与された状態だ。
「本人は背後霊のようにそこにいる。言葉を交わすことも出来るが……あくまで、信長は一人だ」
メガリスの力を憑装させることによって彼の刃となることは出来るのだろうけど。それは文字通り、『刃』としての役目だけ。共に戦うわけではない。
「とは言え御存知の通り、弥助の力は強力だったし、信長の能力と合わさることによって弥助の時とは違った対処が必要になってくる」
闘神の独鈷杵の力を振るえば、炎の闘気が放たれ、命中した相手を爆破する。それだけには終わらず、炎の鎖が己と相手を繋ぐのだと言う。
強制的な決闘状態。爆破を凌いだとて、体勢を立て直す間が得られなければ、即座に間合いを詰められて実質連撃を食らうことになるだろう。
逆賊の十字架の力を放てば、信長はその体の一部を悍ましく肥大化した鳥の頭部へと転じ、噛み付いてくる。
強烈な攻撃であると同時に、生命力を吸うことで信長に回復を許してしまう厄介な技である。
「最後に大帝の剣。これは、粉砕することによって大帝の剣型の花弁を戦場に舞わせる」
剣型の花弁だなんて、実に切れ味が良さそうなことだ。軽く笑って、ぱたりとメモを閉じる。
どの力も強力なことは確かで、しかし何よりも脅威なのは、そのすべての技をこちらより先んじて放てるということだ。
「他の魔将軍と同じさ。覆せない先制攻撃。ゆえにこそ、凌ぐ術、耐える術が重要なのは、知っているね」
間違いなく難敵である。けれどいくつもの戦場を乗り越えてきた猟兵達ならば、必ずその刃を届かせてくれるだろう。
信じているよと囁いて。エンティは決戦の場へ、道を繋げるであった。
里音
信長戦です。お供は弥助殿。もはや語ることはありますまい。張り切ってまいりましょう。
●第六天魔王『織田信長』は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
※このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『第六天魔王『織田信長』弥助装』
|
POW : 闘神の独鈷杵による決闘状態
【炎の闘気】が命中した対象を爆破し、更に互いを【炎の鎖】で繋ぐ。
SPD : 逆賊の十字架による肉体変異
自身の身体部位ひとつを【おぞましく肥大化した不気味な鳥】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ : 大帝の剣の粉砕によるメガリス破壊効果
自身の装備武器を無数の【大帝の剣型】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:UMEn人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
杼糸・絡新婦
ようやっとここまでこれたんや、
なんとか届けななあ。
攻撃するように【フェイント】をいれ、
こちらにあえて攻撃を誘う。
【見切り】をするように観察、
どこから攻撃がくるのか出来るだけ
確認しつつ脱力し受け止めることで、
オペラツィオンマカブル発動
賭け事しとるんはあんたさんだけやないで。
排し返せ、サイギョウ。
【かばう】を利用し他の猟兵の
攻撃をもらうける形でUCを発動させ、
カウンターのように攻撃を返す。
他の猟兵に気を取られているなら【忍び足】で
不意打ちの攻撃を狙う。
ヘンペル・トリックボックス
……この窮地にあろうと退かず、迎え撃つその気概。その身果てようと、主に寄り添うその忠義。成程、両人ともに紳士的。実に紳士的……! なれば私も真剣に立ち会う他なし、枯れ果てた老骨ではありますが──いざ!
銘のある宝剣を捧げての斬撃の嵐……生半な策では打ち破られましょうが、しかして花弁は儚きもの。なれば──
【高速詠唱】でUCを発動。【範囲攻撃】化した『業火の竜巻』を自分中心に発生させ、【全力魔法】で活性化し意図的に『暴走』させます。
業火の竜巻はあくまで剣花を焼滅させ、敵の視界を塞ぐ障壁。本命は手持ちの火行符にありったけの【破魔】の気を籠めた火【属性攻撃】の一閃。剣花が晴れた一瞬を見計らって放ちます。
●
幕府軍の長い行軍。その間に幾つも差し向けられた脅威。首塚の一族が決死の覚悟で挑んだ呪詛は成り、魔空安土城は地へ落ちた。
(ようやっとここまでこれたんや、なんとか届けななあ)
杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は小さく息を吐く。
そうして、共にある絡繰人形のサイギョウをそっと撫でた。
さぁ行こう。決戦へ向けての歩みは一人のものではなく。並ぶようにもう一つ、ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)が立つ。
「……この窮地にあろうと退かず、迎え撃つその気概。その身果てようと、主に寄り添うその忠義」
成程、と。ヘンペルは唸るように呟いた。
「両人ともに紳士的。実に紳士的……! なれば私も真剣に立ち会う他なし」
自身も紳士を自称する身であるゆえに、真っ直ぐな武人たる彼らに向けるその刃もまた、真っ直ぐでなければならない。
堂々とした風貌で待ち受ける織田信長その人を見据え、ヘンペルは一度、深々と礼をした。
「枯れ果てた老骨ではありますが──いざ!」
構えるヘンペルに先んじて、信長は弥助のメガリスである大帝の剣を砕く。
その破壊効果は剣の形をした花弁となって舞い散り、猛然とした花吹雪となってヘンペルを襲った。
花弁の数はあまりに膨大。そして、あまりに広範囲に及ぶ。
さすがは銘を持った剣を捧げただけはある。小さく息を呑み、けれどそれが『花弁』であることをしかと確かめて、ヘンペルはならばと紡ぐ。
「状況認識。融合開始。属性選択。事象改竄。霊符連続展開完了───」
素早く唱えた術は、ヘンペルの周囲に炎を起こし、風を巻き上げさせる。
それは瞬く間に強大な業火の竜巻へと転じ、ヘンペルを守る障壁のように立ち上った。
その技は自然現象を操るが故に、制御の難しいもの。だけれどヘンペルは、あえて、制御することをしなかった。
広大な範囲に及ぶ花弁を全て焼き払うためにと選んだ手段。だが、それは同時に、その中心に立った自身への影響も受け入れることとなる。
暴走した竜巻は炎を孕み、空間を丸ごと焼き尽くすように吹き荒れる。
炎に焼かれる。風に刻まれる。それを、耐えて。ヘンペルが放つのは、火行符。
ありったけの破魔の気を込めて、渦巻く業火と同じ勢いに及ぶ炎を膨れ上がらせたヘンペルは、剣花が焼き尽くされたのを見計らい、見据えた信長に真っ直ぐに放った。
「……ふん」
花弁を一掃することは、叶った。
けれど信長の視界を塞ぎ、本命の一撃を放つというには、一つ、手が足りなかった。
暴走するほどの勢いのある業火の竜巻であれば、当然、信長はそれを躱すために距離を置く。
遠ざかればその分、見切るだけの時間は、作れるのだ。
「全て焼き払われるとは思わなんだが……お主、自身の技に溺れたか。いや、それこそがお主の覚悟か」
危険を顧みず、一撃に全力を注ぐことが。
「ならばその覚悟、打ち砕くのみ!」
駆け出せば詰まる距離。竜巻の余波を掻い潜り、ヘンペルへと花弁より強靭な刃を打ち据えようとして――。
するり、身を投げ出すようにして間に割り込んできた男に、ぴくりと眉をひそめた。
ヘンペルの大技に紛れるように足を忍ばせ、機を狙っていた絡新婦。
庇うような彼へ、刃がそのまま振り下ろされることはなく。対の手が、ぼこりと波打つように膨張した。
(刀の一閃なら問題なかったやろうけど……)
流石にそう単純ではないかと、瞬く間に異形の形となった信長の左腕を見上げる絡新婦。
けれど、それでも彼は躱すことはせず、ただ無防備に、それを見つめる。
しっかりと、見据える。逸らすことなく、全てを受け止めるために。
不安がないわけではない。信長の一撃は重く、生半可な対応では蹴散らされてしまう。
数段格上の相手の攻撃を、受け止めきれるのか。悍ましい鳥の頭部が鋭い嘴に細かな牙を覗かせているのを見れば、ぴくりと指先が強張った。
けれど、絡新婦は微動だにしない。
信長の目には、全てを諦めたようにも見えるその態度。だけれど、食らいつく寸前に見た瞳には、覚悟が垣間見えて。
あぁ、と。ひそり、口角を上げていた。
「耐えると言うか」
――良かろう!
その覚悟を示せと言わんばかりに、絡新婦に頭だけの鳥が襲いかかる。
痛みはない。まだない。
傍らの人形が軋む。絡新婦の受けるダメージを体現するかのように、カタカタと悲鳴のような音を立てる。
それを見て、聞いて、けれど、信じて。
歪んだ肉が盛り上がった頭の向こう、信長を真っ直ぐに見据えて、囁いた。
「賭け事しとるんはあんたさんだけやないで」
排し返せ、サイギョウ――。
狐人の人形が、主の声に応えて吐き出したのは、大きな力。
信長様、と弥助の声が上がったが、彼には信長を庇う力もなく。その一撃は信長を打ち据えた。
「ぬぅ……!」
やりおる。口角を釣り上げたままそう言って、だが、と薄く笑う。
「二度はない」
そう、二度はない。
絡新婦の技は仕組みを理解したならば、対処が打ちやすいものなのだ。
分かっていて乗せられるほどのうつけではないかと胸中で呟いて、それでも絡新婦は柔らかに笑んでみせる。
「試してみ」
こちらとて、切り札のみで挑んでいるわけではないのだと。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ジャハル・アルムリフ
魔王退治とは、まるで御伽噺の勇者だな
真似てみるのも悪くない
…我が主は、また無茶をと怒るやもしれぬが
…信長とやら、御相手願う
小細工や罠に掛ける頭など持たぬ
最短距離にて信長へ
一撃は避けることは敢えて選ばず
腕一本犠牲にするつもりで
炎へと籠手を翳し
ただ高めた防御と耐性でもって迎える
【封牙】を用い
邪魔な痛みは外へと追いやる
いくつかの感覚が消えたとて構いはせぬ
奴に届くまで動けさえすればいい
炎の鎖で繋がれたなら寧ろ好都合
怪力で一気に引き、信長の図っていた間合いを崩す
懐に入り込んだら無事な腕を使い
黒剣で二度――斬り付け、串刺しに
失った血を生命力吸収で補いながら弱らせる
…ああ、終わりゆく者の、いけ好かぬ味だ
ライラック・エアルオウルズ
此処で賭けに出るとは、
少しばかり感嘆してしまうな
故にこそ、全力を尽くす事で
賞賛の代わりとさせて頂くとしよう
然し。剣型の花弁、か
厄介だけれど、剣も花も脆くもある物だ
僕もひとつ、賭ける《覚悟》を
迅速に対処する為に視線離さず、
《第六感/見切り》で敵の攻撃を見計って
魔導書を手に《高速詠唱》し、
先んじる事は出来ずとも防ぐ試みを
暴走は《全力魔法》で抑え込み、
炎の竜巻で花弁を巻き込み焼き払う
叶わぬ物は《オーラ防御》で耐え、
一時的にでも防げれば隙を突く様に
《属性攻撃》で竜巻に石を加え、
火石として一気に敵へと放つ
――上手く行くかは、賭けだ
戦況に関わる場で僕らしくもないけれど、
貴方の賭けの末もまた 興味深いから
冴島・類
全て託した臣下を背負い刃にし
嗤って賭けるその姿
生前の苛烈な生き様のままなのかも、しれないですね
されど、見果てぬ夢が
エンパイアを滅した先にあるなら
先手、独鈷杵の闘気は直撃すれば継戦が危ういと見て瓜江は遠ざけ
軌道見切り、残像見せる足運びで自身の身体への直撃だけは避け芯を逸らしたい
逸らしても鎖で繋がれるなら…
せめて、繋ぐ先を誘う
火耐性活かし左腕伸ばし、かばうふりして繋がせて
右で相棒を引き寄せ
間合い詰めさせぬよう連撃を庇いで防ぎ
数秒で良い、時間を作り
流れた血で瓜江の封印を解く
二回攻撃
風巻の風の刃で反撃を
繋いだなら
逃げられぬのは、お互い様だ
戦は、好かない
この地で全て懸けて戦う者達の
いのちを、終わらせない
●
焼け焦げた室内を見渡す。何か、嵐でも吹き荒れたような情景は、思い描いていた物を少しだけ早く示された心地。
ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は、対峙したその存在が帯びた幾許かの傷をさらりと確かめて、一歩、歩み寄る。
その存在を気取られれば、織田信長は即座に迎え撃ってくる。
戦場に舞い散るは無数の花びら。その一つごとが大帝の剣を象った、鋭利な花弁。
それが、猟兵という存在を打ち負かし、億に一つの勝利を掴むための賭けの形であることを、ライラックは知っていた。
(少しばかり感嘆してしまうな)
これは、負け戦を認めぬ駄々ではない。信長は本気で、勝ち取るための手段を選ぶ。
故にこそ。
全力で以て、挑むのみ。
それが、ライラックが持ちうる最大限の賞賛だ。
「現想幻実、創るは悪夢――」
ぱらり、魔導書が音を立てて捲れる。
紡ぎ上げられる言の葉は素早く収束し、熱を帯び、風を喚ぶ。
「挑ませてもらおう。僕もひとつ、賭ける覚悟を」
今まさに、ありとあらゆる角度からライラック目掛けて放たれようとした花弁が、ごう、と焼き払われる。
呼び起こされたのは炎の竜巻。その情景に、信長は「ほう」と短く言葉を漏らす。
「お主もそうきたか」
その口ぶりは、同じ手段を一度見た事を告げている。
その炎を巻き上げる風の渦で花弁を散らして、さぁ、次はどうする。
愉快げに紡ぐ信長は、そこから続く攻撃を警戒し、備えている。そればかりか、ライラックの呼び起こした炎の竜巻が『先程』より大人しいのを見て取り、幾つかの花弁を回避するように迂回させ、術者自身へと差し向けてきた。
「ッ……全てを防ぐことはできないのは、分かっていたとも」
吹き荒れる風と、舞い散る花弁に晒され、切り刻まれて血の滲んだ衣服の一部が巻き上げられていく。
警戒されている。隙なく、身構えられている。竜巻の向こうでそんな信長を観察し、けれど、ライラックはその警戒が『術者自身』へ向けられていることを、気取る。
「僕『も』と言うことは、同じ技を使った猟兵が居たのだろうね」
ならば、問おう。
「その時貴方は、どう対処した?」
竜巻を、炎を、消し去る術をお持ちだろうか。
いいや、違うだろう。この部屋の惨状を見れば、災害じみた現象そのものを打ち消したなんてことはありえない。
そう思ったからこそ、ライラックは文字通り一石を投じる。
炎の竜巻に、石を交えて、全神経を集中させての制御で以て、火の石を打ち出した。
「なっ……」
同じ技が二度通じることはあるまい。けれど誰かが『同じような』技を投じてくれたお陰で、文字通りの不意打ちが叶った。
炎の礫が頑健な鎧をも打ち砕いていくのを舌打ちと共に受け、信長は未だ残る大剣の花弁を全て、ライラックへと差し向ける。
攻撃に集中してしまえば、それを防ぐ事は出来ず。吹き出すほどの血にがくりと膝を折りながら、それでも、ライラックは口元に笑みを残す。
(――上手く行くかは、賭けだったけれど……)
戦況に関わる場で、その選択はあまりに自分らしくなかったと、思う。
それほどに、信長の賭けの末に興味を惹かれたのだ。
そうして、少なからず。ライラックは賭けに勝ったのだ。
ふつりと意識が途切れる間際、信長へと躍りかかるふたつの影を見つけて、そう、感じた。
――倒れる者を振り返っている暇はない。
それだけの暇があるのなら、目の前の敵に、全てをぶつけ、繋げるべきだ。
理解しているからこそ、冴島・類(公孫樹・f13398)はそこにいるのが知った顔であることだけを認識して、信長だけを見据える。
(全て託した臣下を背負い刃にし、嗤って賭けるその姿……生前の苛烈な生き様のままなのかも、しれないですね)
その賭けに、負ける気がしていない辺りも、気質ゆえか。
侮りではない豪気さは、いっそ感嘆すらしてしまいそうだけれど。
「されど、見果てぬ夢が、エンパイアを滅した先にあるなら」
倒さねばならない。絶対にだ。
意気込みとはまた違う、それも一つの苛烈さ。
ぴりと肌に感じながら、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は目の前にある存在が呼ばれる呼称を、ふと思い起こす。
(魔王退治とは、まるで御伽噺の勇者だな)
字面だけならば、心の踊る冒険譚にもなりそうだ。
勇者の剣が魔王を討ち果たし、世界は平和になりました。
そんなめでたしに及ぶまでに、幾つも幾つも犠牲があることを、ジャハルだって知らないわけではないけれど。
真似てみるのも悪くないと、心の端で思う。
(……我が主は、また無茶をと怒るやもしれぬが)
苦笑する思考も、過ったわけだけれど。
いずれにせよ、ジャハルがやるべきことは唯一つ。
「……信長とやら、御相手願う」
小細工や罠を仕掛ける頭など持たぬのだ。類と共に、真っ直ぐに信長との距離を詰める。火の石に打ち据えられて砕け、燻るような匂いを過ぎらせた信長は、そんな彼らに炎の闘気を打ち出した。
爆発を伴うその攻撃は、それだけでも恐るべき威力を発揮することだろう。
分かっていて、けれど、彼らは躱すということをしなかった。
いや、類はその軌道を正確に見切り、それでも全てを回避することは至難と判断し、相棒である絡繰人形、瓜江を素早く遠ざけて、自身の身体への直撃だけは避けた。
対するジャハルは、庇うように掲げた腕にオーラの防御を注ぎ込み、けれどその腕は切り捨てるものと初めから決めて、耐えることを選んだ。
立って、攻撃を繋ぐためには、互いにそれが最善と判断して。
彼らの目論見は概ね果たされた。しかし直撃を避けたとて、爆発の余波は凄まじいものだった。
炎への耐性は持てども、焼け爛れる感覚に伴う痛みは耐え難い。奥歯を噛み締め意識だけは繋ぎ止め、類は傍らの相棒の無事を横目に確かめて、続け様に放たれる鎖の繋ぎ先を誘導すべく、左腕を掲げた。
庇うような類の腕に巻き付いた炎の鎖は、ぎりりと食い込み、類の顔をしかめさせる。
けれど、けれど耐えたのだ。
右腕で引き寄せた相棒が、間合いを詰めてくる信長との間に割り込んで、その一閃を引き受けてくれる。
「お主の人形も砕いてくれる!」
言葉通りに粉々にされてしまいかねない程の威圧を感じたけれど、そうなるよりも、類の声が届く方が、早かった。
「――荒れ狂え、瓜江」
ぼたりと、滴るはずだった血を吸い上げるようにして。
瓜江はその封印を解き、風の刃をその身に纏う。
どこかから聞こえる声は、泣いて、いるのだろう――。
「繋いだなら……逃げられぬのは、お互い様だ」
戦は、好かない。多くの命が散っていくのを、目の当たりにするのだから。
けれど、誰もが散らぬため、散らさぬためにここに居る。
「この地で全て懸けて戦う者達の、いのちを、終わらせない」
風刃が信長へと迫ると同時、ジャハルもまた、その手足を竜のそれへと変化させ、繋がれた鎖をぐいと引いて、信長の姿勢を崩させる。
受けた爆発は腕一本どころか上体の多くを痛めさせた。
炎に対する耐性はさほど強くなく、痛みだって感じないわけではないジャハルだが、一言、紡げば、戦いに邪魔なそれらは全て、遮断される。
――閉じろ。
ぷつりとどこかで神経が途切れたように、感じなくなった痛み。
置き捨てたのは、ヒトとしての当たり前。けれど、それだけ。
無事な腕で掲げた黒剣が、二度閃く。信長を斬りつけ、串刺しにしたジャハルは、その生命力をじわりと奪い取りながら、あぁ、と短く息を吐く。
「終わりゆく者の、いけ好かぬ味だ」
ジャハルの傷は、癒えたわけではない。消えたわけでもない。
邪魔だと切り捨て閉じただけで、吸収した生命力が吸うのと同様じわりと染み入るのは、感じ取っていた。
「儂は、まだ、終わらぬ!!」
苛烈にして豪胆な男は、吠えるように一喝した。
それに応えるように、背後に憑依する形で控えていた弥助の力が、闘神の独鈷杵が生み出す炎の闘気が、再び爆ぜた。
繋ぎ止められた彼らが、既に重傷を追っている彼らが、二度目のそれを躱し、防ぎ切ることは叶わない。
けれど崩れ落ちた猟兵達を見下ろす信長のその身体にも、大きな大きな傷が奔っていた。
「終わらぬ……終わらぬぞ、猟兵ィ!!」
吠える男の声は、敗北に傾こうとする天秤を無理やり引き戻すかのように。
どこか虚しく、響いている。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ステラ・クロセ
この世界の皆の為、共に戦う猟兵の仲間たちの為、
アタシがアンタを止めてみせる。
炎のサイキックエナジーを武器に纏わせ、炎の闘気に対抗する。
二刀を十字に構え、【武器受け】でしっかりと闘気を受けとめる。
UC【真紅と翠緑の誓い】を発動、炎の鎖がきたら片腕で掴んでわざと両者をつながせる。
繋がっているなら、ずっとアタシを気にしないといけないよね?
あとは【勇気】を全開にして打ちかかれ!
フリーな方の腕で【属性攻撃】。斬り合いを挑む。
この斬り合い状態なら他の猟兵にとっては攻撃チャンスのはず。
「アタシの熱情で鎖ごと鎧ごとぶった斬ってやるから!」
※アドリブ・連携など歓迎です!
杼糸・絡新婦
真の姿開放
二度はない、上等。
こちとら魔王に挑んみに来とるんやで。
先の攻撃及び、他の猟兵との戦いから【情報収集】
あえてからくり人形を使ったりかばったりする
【パフォーマンス】で【罠使い】とし敵の攻撃の対象と
タイミングを図ることで、
今度こそ【見切り】による攻撃回避を行う。
狙うはそこ。
鏡返によるカウンター攻撃を行う。
●
獣じみたように荒々しく、けれど慟哭にも似て。
響く声に、ステラ・クロセ(星の光は紅焔となる・f12371)はビリリと肌を震わせながらも、その人の前に立った。
「お主も、儂を殺しに来たか」
「そうよ、この世界の皆の為、共に戦う猟兵の仲間たちの為、アタシがアンタを止めてみせる」
力強く宣言したステラに、信長は小さく笑う。その声は徐々に声量を増し、高らかに、ステラの声を一蹴した。
「させると思うてか!」
勝ちは譲らぬ。その気迫は弥助の力と合わさるようにして炎の闘気を膨らませ、ステラへと差し向けた。
対するステラは、それを真っ直ぐに受け止めるべく、手にした二刀を十字に構えた。
刀に付与された炎のサイキックエナジーが、ほんの一瞬、信長の闘気と競り合って――押し、負ける。
「くぅ……!」
そして、その闘気は爆発する。ステラの至近距離でけたたましいまでの轟音を響かせ、少女の身を吹き飛ばし、焼いた。
だが、熱に掠れる喉をひりつかせ、絞るような息を吐いて。
声を、紡ぐ。
「――アタシは誓ったんだ、弱き者の盾となり、力無き者の命を守る本当の戦士になるって!」
振り絞ったのは、声だけではない。持ちうる勇気も共に乗せて、ステラは炎の鎖を左腕に受けた。
焼ける感覚。痛みに知らず震える身体。
けれど、ステラの誓いは、皆を助け、支え、守り続けるという決意は、極めて劣勢なステラの力となる。
繋がれた腕を引き、互いの間合いを知らしめるようにピンと張って、握った刀を振り翳す右腕は、先程闘気を受け止めた時より、ずっと、力強く刃を振るった。
「アタシは、挑み続ける!」
きん、と音を立てて剣戟が弾かれようとも。
信長からの一閃を寸でのところで躱し、決意と勇気に後押しされるように、何度も、何度も、斬りつける。
彼女の一族は、そうやって常に弱者の為に生きてきた。
その矜持に倣う事こそが、ステラに強さを与えてくれる。
「この状態なら、ずっとアタシを気にしないといけないよね?」
炎の闘気の爆発に吹き飛ばされた華奢な少女の身体能力は、目に見えて増大していた。
それが見舞う剣戟は、信長の意識を縛り付けるには十分で。
強制的な決闘上体への持ち込みは、信長も逃げられない事は、既に他の猟兵が証明していた。
――そう、自分より後に挑んだ者らが、証明していた。
「堪忍な」
ほんの少し、そのままで居ておくれ。
囁いたのは、忍のような装束を纏った男。
その目はまるで蜘蛛のように幾つも分かれ、それぞれの緑色が、ぎょろりと信長を見据えていた。
一度は伏した絡新婦が、その真の姿を開放し、好機の刹那に詰め寄ったのだ。
二度はない。そう突きつけられた言葉を噛み締め、噛み砕き、吐き捨てる。
「――上等」
こちとら魔王に挑んみに来とるんやで。静かな声が告げる。切り札が一つであってたまるかと。
変貌した姿に、瞳に、けれど垣間見た覚悟を再び見て、信長はそれが絡新婦であることを気取り、口角を釣り上げた。
「砕けば終いの人形を連れて、性懲りもなく――」
いいや、そうではないのだろう。侮りはない。だからこそ真っ向から対峙するために、信長はステラの剣戟を掴むようにして受け止め、対の腕を肥大化させた。
異形の鳥。悍ましいその造形は、頭だけ。
先程見たもの。同じ手を――そうでなくとも他の猟兵の戦いを見つめてきた上で真の姿を晒した絡新婦には、どの手だって、見極められるはずだ。
けれど、絡新婦は敢えて携えた人形を庇うように抱え込み、信長の攻撃をいなす素振りで腕を掲げた。
駆け引きじみた視線の交錯は一瞬の間に。
本人か、人形か。過った迷いが信長の攻撃からほんの僅かに精細を奪う。
だからこそ、避けられた。……直撃だけは。
抉り取られたのは腕だったか、腹だったか。どちらにせよ、動ける。確かめるより先に、絡新婦は幾つもの瞳に信長を映し、唱えた。
「鏡が如く射ち返す」
サイギョウ。呼ばれた絡繰り人形が、攻撃直後の無防備な信長を打ち据える。
ユーベルコードで持って精度を著しく高めたカウンター。完璧なタイミングでの攻撃を叩き込まれた信長はついに膝を付き――けれど決して崩れ落ちることなく、己の間合いに立ち入った彼らを、斬り裂いた。
そうして、最後に立つのは己だと言わんばかりに、仁王のごとく立ち上がるのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
マックス・アーキボルト
※連携アドリブ歓迎
例え力だけになっても主の為…か…。弥助さんは本望なんだろうな…
この人たちは悪意だけを持った存在じゃない…この世界の歴史に名が残った傑物。それでもこの世界はもう貴方達のいた時代じゃない!ここで戦いを終わらせる!
独鈷杵の炎の闘気は…【火炎・激痛耐性、氷属性攻撃】の技能で防火能力を底上げ、この初撃を損傷覚悟でとことん耐え抜く!
決闘だって望む所だ!反撃としてダッシュで即接近、炎の鎖を【戦闘知識、ジャンプ、クライミング】で刀の防御や相手の拘束に利用、【爆心穿杭】を【零距離射撃】で放つよ!
行いが何だって、貴方達は偉大だったから!貴方達を凌駕することで、この世界に未来を築いてみせる!
クロト・ラトキエ
億に一つがあるならば…ね。
では楽しい賭け、愉しい生を、
始めましょうか。
闘気。気魄、戦意。
向くそれを躱すとなれば至難かと。鎖も同様。
ただ、爆破ならば。
じりり種火の音、膨らむ熱、風…
予兆へ只々意識を注ぎ瞬間を見切り、跳ぶ。
熱ダメージから逃れ、爆風に逆らわず、被害を軽減し推進力と出来る様。
鎖…は。慣れた得物とよく似てる。
利用し手繰り、序でに操る鋼糸で着地点と体勢を定め、
間合い、逆に詰めます。
卿なればこの距離、まさかお逃げなさいますまい?
挑発…否、
城が落ち猶も此処に在る男の、誇りへの確信。
…後、
潔く死ぬとか、僕らしくなさ過ぎなんで?
早業の昇華、至れ神速。狙うは
――肆式
生きるなら、
勝つ気で賭けなくちゃあ
ユラ・フリードゥルフ
貴方は覚悟を決めているんだね。
なら、俺もやるだけ
負けるつもりなら最初から此処まで来てないしね?
相手が強者なら俺だって勝気に生意気に告げるよ
相手をしてよ、信長のおにーさん?
花びら、か。多少は武器で受けて散らしたい
リンドブルムに風の属性を乗せて吹き飛ばす
全部じゃなくたって良いんだ。立っていられるくらいなら
少しでも散らせたら、信長に暗器を放つよ
繭の辿りを発動
投げたナイフは弾かれたって構わない。向けた事実があれば良い
貴方に届くなら、今日の俺は少し幸運かな。
捕まえたよ、信長のおにーさん?
結界だって絶対じゃない。他のおにーさんやおねーさんが仕掛けるなら
その時まで保たせるよ
だって最後は勝つ気でいるんだから。
●
対峙したその人は、随分と辛そうに見えた。
けれど、威風堂々とはまさにこの様であろうとばかりに、次なる猟兵を迎えるのだ。
「貴方は覚悟を決めているんだね」
死ぬかも知れない。いや、死ぬだろう。今はまだ、骸の海に還るだけだとて、やがてそれも叶わなくなるのだと、理解しているのだろう。
それでも彼は――織田信長は強者の風体で立つのだ。
「なら、俺もやるだけ。負けるつもりなら最初から此処まで来てないしね?」
ユラ・フリードゥルフ(灰の柩・f04657)はちょっと凛々しい翼を持った小型の銀竜を槍に変えて携えると、踏み込むように一歩、進み出た。
勝ち気に生意気に。強者たる貴方の相手は対等なのだと言わんばかりに、ユラは笑んで見せる。
「相手をしてよ、信長のおにーさん?」
そんな彼へと注がれるのは、剣の花弁。
深い傷を幾つも携えた信長よりも、ずっと、背後に控える弥助の方が表情を険しくしているように見えた。
忠臣の思いが交えているのだろうか、鋭利な花弁は尽くがユラを狙いすまし、押し寄せてくる。
「散らすよ、リンドブルム」
全部でなくて良い。ただ、出来る限りのダメージを減らすために。
槍に纏わせた風が、振るう度に花弁を蹴散らしていく。
だが、ユラ自身も理解していたように、全てを防ぐことは叶わなかった。
あまりにも膨大な花弁が、次々とユラを襲い、切り刻み、その足元に血溜まりを広げていく。
晒され続ければ長くは保たないのを、分かっているから。ユラは花を散らして開けた視界に信長を捉えた瞬間を狙って、足のベルトからナイフを抜き払って投げた。
幾つも幾つも投げたナイフは、けれどその殆どが花弁に阻まれ、あるいは信長の刀に叩き落される。
「その程度か!」
怒号によく似た声に、花弁は更に苛烈にユラを攻め立てる。
投げたナイフは一つたりとて当たらなかった。けれど、構わなかった。
『暗器』を信長に向けた事実があれば、それだけで。
「じゃぁ、描こうか。これは俺の檻。俺の操り絲」
貴方に届く幸運には恵まれなかったけれど。
初めから、狙ったのはそちらじゃないんだ。
唇を柔らかに緩めて紡いだ言葉の通り、ユラは信長の周囲に絲の檻を張り巡らせた。
「捕まえたよ、信長のおにーさん?」
それは、目には見えぬ不可視の絲。けれど確かに信長を囲い込み、その身じろぎ一つに対しても、鋭刃となってダメージを与えた。
『信長様、これは――』
「うろたえるでない」
どこにあるかも分からなければ断ち切りようのない絲。
だが、周囲全てを花弁で刻めばどうだろう。あるいはそれを操る術者を倒してしまえば。
いずれにせよ、彼がやることは一つ。花弁の嵐を、吹き荒れさせること。
(分かってる、結界だって絶対じゃない)
花弁が踊れば、指先から鋼糸の張り詰めた感覚が消える。
それが絲の切れたためか、己の感覚が麻痺しているためかは、もう、ユラには判別できなかった。
けれど、足掻くように風を吹かせ、遅いくる花弁を散らして、ユラは立った。
「――勝ってよ、おにーさん達」
花弁の嵐を掻い潜るように仕掛ける影を見つけて、仕掛けるその瞬間までを、見届けて。
ユラは意識の途切れる間際に、もう一度勝ち気な笑みを湛えていた。
絲の結界が、裂帛の気合と共に闘気を放つ信長を斬り裂いて、それきり、途切れた。
炎の打ち出される刹那にそれを確かめて、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)はポツリと呟く。
「億に一つがあるならば……ね」
満身創痍と見えるその様で、それでも貪欲に勝利を掴み取るために、傷を厭わず放ったのだろう。
マックス・アーキボルト("ブラス・ハート"マクスウェル・f10252)もまた、信長の強靭なまでの意志を見、それに付き従う弥助の姿とを見比べる。
(例え力だけになっても主の為……か……)
弥助は、本望なのだろうとマックスは思う。決して折れず、ただ力強く歩み続ける主の姿を見つめ続けるにはこれ以上無い位置だ。
だが同時に歯痒くもあるだろう。自分が真に傍に控えたならば、信長はここまで追い詰められなかったに違いないのだから。
「この人たちは悪意だけを持った存在じゃない……この世界の歴史に名が残った傑物」
それだけは、間違いない。マックスは確信を持って、敬意を浮かべた瞳で彼らを見据える。
それでも、その瞳は揺らがない。
「この世界はもう貴方達のいた時代じゃない! ここで戦いを終わらせる!」
真っ直ぐに感情を、言葉をぶつけるマックスに対し、クロトはゆるりと口角を上げて、信長の選択を肯定するように頷いた。
「では楽しい賭け、愉しい生を、始めましょうか」
正反対の態度を有する彼らに放たれたのは、いずれも同じ、炎の闘気。
向けられたのは炎そのものだけではなく、それを込めた闘気であり、気迫であり、戦意。
そうと理解すれば、躱すのは至難とクロトは判じる。
だからこそ、技そのものを回避することを避けた。
びりりと痺れそうなほどの闘気を身体に受け、それから、意識を研ぎ澄ませて感じたのは、それが伴う、爆発の予兆。
炎の熱が空気をじりりと焼いて、膨らむ。爆ぜる瞬間だけを感じ取れるよう、空気の変化をつぶさに感じ取って――跳んだ。
退避するように、後ろへ。そんなクロトを追うように、爆発の熱は暴風を伴って迫る。
けれど熱よりも先に届くのはそれを運ぶ風の方。とんだ勢いを押すような爆風に身を任せれば、躱す足より早く、遠ざけてくれた。
それでも、全てを躱し切るにはその威力は凄まじかった。そして、逃げることを許さぬというように飛ばされた炎の鎖に、引き止められる。
「――っは、万事うまくとはいきませんか」
それでも、殆ど思惑通り。繋がれた鎖の炎に皮膚が爛れるのも構わずに、掴み、まるで己が操る鋼の糸を手繰るように、引き寄せた。
一方のマックスは、やはりクロトとは対照的に、躱すことはせずに、身構えた。
火炎を、痛みを、耐え抜くために、炎に相反する氷の属性を備わせて。
その初撃を、強烈な爆発を、損傷覚悟で受け止めた。
ばきりとマックスの周囲を凍りつかせた魔法は、瞬く間に溶け、沸騰し、蒸発してしまうけれど、彼を襲った熱を幾らか軽減することには役立ってくれた。
耐えられる。そう、強く言い聞かせて、マックスは締め上げるほどに強く絡んだ炎の鎖をたどるようにして、強い眼差しを信長へとぶつけた。
「決闘だって……望む所だ!」
「く、ははは! どいつもこいつも、良ぅ耐えおるわ!」
信長の上げた哄笑は、最早感嘆すら籠もっていた。
信長から伸びる二本の鎖。それをクロトは手繰り己と彼との間合いを詰める。
マックスもまた、掴んだ鎖を手に駆け、信長の間近へと迫った。
砕けた鎧に、幾つも走る傷。幾つもの血の海を作った信長自身の足元こそが、誰よりも夥しいまで後に染まっているけれど、振り抜く一閃の威力はどこまで行っても変わらない。
――いや、衰えは、あったのだろう。マックスが鎖を掲げてその剣戟をいなすことが出来たくらいなのだから。
けれども信長の気迫が、それを微塵も感じさせなかったのだ。
織田信長という男のその偉大さを噛み締めて、マックスは心の底からの声を叫ぶ。
「行いが何だって、貴方達は偉大だったから!」
だからこそ、超えねばならない。
「貴方達を凌駕することで、この世界に未来を築いてみせる!」
真っ直ぐなその感情を、信長は受け止めることだろう。
城が落ち、猶も此処にある男の誇りに対する確信があったからこそ、クロトは問う。
「卿なればこの距離、まさかお逃げなさいますまい?」
「は……」
挑発のようで、それは同時に賞賛であった。
少なくとも、信長にはそう聞こえた。
聞こえてしまった。
「……後、潔く死ぬとか、僕らしくなさ過ぎなんで?」
へらりと笑ってみせたその顔に、既に己の敗北を確信してしまったことを、知らしめられたかのような、気がした。
「マキナエンジン出力全開! エネルギー充填! 限界・圧縮ッ!!」
「燕舞――肆式」
奇しくも彼らは同じ手段で以て、信長に一太刀を浴びせんとした。
片や極限まで圧縮した魔力エネルギーの塊によって。
片や繰糸、薬、射に刃……急所四点同時多重襲撃によって。
抱きとめて支えてしまえそうなほどの距離まで詰め寄った二人は、信長を打ち据えた。
そうして、屠った。
憑装となった弥助は、その最期を悲嘆しなかった。
付き従うだけなのだ。骸の海の、その果までも。
「生きるなら、勝つ気で賭けなくちゃあ」
崩れ去った亡骸を見据えて小さく呟いたクロトは、その勝利を託すようにして倒れた少年を思い起こし、けれど振り返ることはせずに、消えゆく男の最期を見届けた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴