エンパイアウォー㊴~大海を見ゆ
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魔軍安土城。引き下ろされたりといえども、その威容は健在であった。
その天守閣に一人の男の姿がある。
漆黒の鎧を纏った武将。彼こそがこの城の主、織田信長である。
「フェーン、フェフェーンフェン!」
「で、あるか」
彼の背後に付き従う巨大な怪猿、豊臣秀吉が吠える。野生の感覚で、猟兵たちの襲来を察知したのだ。
「のう、サルよ。エンパイアを征服せし後はこの大海を喰ろうて見せるという儂の……我らの野望は潰えてしまったか」
「フェンフェーン、フェーン!」
天守閣から千々石灘を見下ろして、その先に広がる大海に想いを馳せる。
悔やむように信長が呟けば、食い気味に秀吉が応じた。
「はは……はっはっは、まっことその通り!お主の言う通りよ!億が一にも勝機があるなら諦めはせぬ!この程度の窮地、儂が幾度乗り越えてきたかというものよ、のう!」
「フェ――――――ン!」
二人がそう叫んだ直後、辿り着いた猟兵たちに向かって男たちは振り返った。
「儂の名は織田信長!そう易々と勝てると思うでないぞ!」
「フェン、フェンフェン、フェーン!」
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「お疲れ様です、皆様。ついに魔軍安土城を墜落せしめることに成功いたしました」
グリモアベースに集った猟兵たちを、アルレクリア・ジャストロウが労う。
「その上喜ばしい事に、家光将軍率いる十万の軍勢も欠ける事なく島原に辿り着いた事により、安土城周辺の信長麾下の武将たちとの決戦は、徳川軍に全て任せて問題がないでしょう」
つまり、狙うはオブリビオンフォーミュラ・織田信長の首一つ。
「織田信長は『魔軍転生』という秘術により、打ち倒された魔軍将の力を宿して戦います」
呼び出した魔軍将によって振るう力も異なるようだが、どの戦い方をする信長であろうと、倒す事で決着に近づくのは間違いない。
「皆様に向かっていただく先で待ち受ける信長が憑装するのは、隠し将・豊臣秀吉のようです」
股肱の臣である秀吉とともに戦う信長は、妖術の如き特異な力は振るわないが、正面戦闘力が非常に高い。
「秀吉と一体化した鎧から繰り出される範囲攻撃や、その粘性を生かした堅牢な防御。秀吉を分裂させることによる撹乱を行ってくることもあるでしょう」
攻防自在に活躍する秀吉に対抗する策を講じない事には、苦戦は免れないであろう。
「ですが、皆様ならば勝利できるものと確信しております」
最後に、戦勝祈願の三献の儀をもって、猟兵たちを送り出すアルレクリアであった。
月光盗夜
皆様お疲れ様です、月光盗夜です。
ついに織田信長との決戦ですね。皆さんに挑んでいただく織田信長は、隠し将・豊臣秀吉の力を宿した織田信長となります。
強大な存在との決戦。力を尽くして挑まれるようお願いいたします。
以下はこの戦場の特殊ルールとなります。ご確認ください。
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第六天魔王『織田信長』は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
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第1章 ボス戦
『第六天魔王『織田信長』秀吉装』
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POW : 黒槍殲撃
【秀吉を融合させた鋼鎧から無数の黒槍】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 黒粘剣戟術
【秀吉の黒粘液で全身から刀まで全てを覆い】、自身や対象の摩擦抵抗を極限まで減らす。
WIZ : シャドウクローニング
レベル×5体の、小型の戦闘用【豊臣秀吉(フェンフェンだけで意思疎通可)】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
イラスト:UMEn人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アリス・イングランギニョル
さて、第六天魔王か
聞きしにも勝る迫力
ボクみたいな引きこもりじゃ思わずちびってしまいそうだぜ
だから、戦うのは彼らに任せるとしようか
出し惜しみはなし、ということで【全力魔法】と【高速詠唱】で狼くんと猟師くんを呼び出すよ
数は多いけれど、その分頑丈さはなさそうだ
狼くんは前衛として片っ端から彼らをディナーに
猟師くんは後衛としてボクの傍で、あの豊臣秀吉……でいいのかな、をばんばん撃ち殺してもらうとしよう
肉食動物に獣を撃ち殺す猟師、猿の相手をするには相性がいい方なんじゃないかな?
【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】
アルエ・ツバキ
極みに至った強者。相性最悪だな。
だが織田信長。人ながらに魔に堕ちた者の行く末は、とても気になる。
私は迷い鬼、人の道から外れて堕ちて、彷徨う悪鬼のなり損ない。
帰る郷すらもはや望めず地獄に向い歩く亡者だ。
だからいっそ果てまで堕ちて見ようと思う。
その為の糧になれ第六天魔王。お前を喰らって私は悪鬼羅刹になろう。
(先制攻撃を全力回避、被弾は覚悟の上。むしろ負傷はこちらの利。
瀕死になれば獲物を横取りされると私の中の鬼が慌てて出てくるからな。【戦場の亡霊】【オウガ・ゴースト】【悪鬼羅刹】【九死殺戮刃】
加減は無しだ。負傷は承知。負けても良い。だが只では済まさない。
一口喰らって、道連れだ。あとは誰か任せた。)
「極みに至った強者。相性最悪だな」
猟兵たちが各々戦いの準備を整えていく中、包帯で雁字搦めにされた体の上をボロボロになったクマの着ぐるみで覆った、異様な風体の、アルエ・ツバキ(リペイントブラッド・f20081)が、真っ先に天守最上階へ足を踏み入れる。
「だが、織田信長。人ながらに魔に堕ちた者の行く末は、とても気になる」
「ほう……。幽鬼が迷い出たか? 儂も幽鬼のようなものだが、な」
愉快そうに笑う信長に、アルエもくつくつと笑い声をあげる。
「幽鬼、幽鬼か。言い得て妙、だな」
この身は迷い鬼。とうに人の道から外れて堕ちて、彷徨う悪鬼のなり損ない。帰る郷すらもはや望めず、地獄に向かい歩むのみ。
故に。
「いっそ、果てまで堕ちてみようと思う。その為の糧になれ第六天魔王。お前を喰らって私は悪鬼羅刹になろう」
「ふ、はははは! 愉快なことを言う幽鬼よ! 面白い、この天魔の心の臓、喰らえるものなら喰ろうて見せよ!」
ゆらり、と体を前に倒しながら、心臓に向かって一直線に折れ潰れたレイピアを突き出すアルエ。だが、呵々大笑する信長の鎧の左胸から黒き槍衾が噴出し、襲い来るアルエに迎撃を叩きこむ。
身をひねり、跳躍し、長身に似合わぬ悪童めいたアクロバティックな動きで槍衾を回避せんとするアルエであるが、全ての攻撃を受けきれるはずもなく、次々に黒槍によってその身を削られていく。だが、それらは全て狙いの上のこと。戦闘不能になるのも織り込み済み。
「やれやれ、せっかちだな」
ぐらり、とその場に崩れ落ちながら言ったのは、果たして敵に対してか、あるいは己の身の内に眠る鬼に呼びかけたのか。
『――――ッ!』
次の瞬間、その瞳に虚ろながらも異様な光を浮かべて、アルエ・ツバキは跳躍した。これこそは、彼女の体に眠る亡霊の為せる業。彼女たちは『己の獲物』を横取りされることを滅法嫌う。その為に、宿主が窮地に陥ったその時、強制的にその身を乗っ取ると、強引に戦いを引き受けるのだ。
「ふはは、いよいよ我らとそう変わらぬ姿になって来たではないか! 天魔に至るより先に、木っ端の鬼にならぬように、のう!秀吉!」
「フェンフェン、フェーン!」
生傷を厭わず苛烈に攻め立てるアルエの猛攻を、黒槍と手に持った刀のコンビネーションで巧みに凌ぐものの攻め手を逸する信長は、腹心に呼びかける。すると、鎧に同化していた秀吉がわさわさと分裂し、アルエを取り囲んだ。
「残念、そうはさせないよ」
だが、分裂体が、無防備なアルエを襲おうかというその瞬間。甲高い遠吠えが聞こえてきたかと思うと、瞬く間に秀吉の群れを蹴散らしてしまったではないか。
「ほう、助っ人は妖術師か」
「流石は第六点魔王、聞きしに勝る迫力だね」
柱の陰を信長が見やれば、そこに隠れていた漆黒の魔女、アリス・イングランギニョル(グランギニョルの書き手・f03145)が現れる。お手上げだ、と両腕を上げるアリスであるが、その傍らには、護衛のように猟銃を構えた猟師が寄り添っていた。たった今小型秀吉を蹴散らした大きな大きな狼と、この猟師こそは、アリスの使役する使い魔であった。
「ボクみたいな引きこもりじゃ、思わずちびってしまいそうなくらいだからね。戦うのは彼らに任せるとするよ」
白き幽鬼の傍に躍り出た大狼が次々に小猿に齧りつき、その使役者の元へ襲いかかる者達は、猟兵の恐るべき狙撃術によって退けられる。
「クク。狼に猟師。いい手勢を従えておる」
「童話魔法【赤ずきん】。猿の相手をするには、相性がいい方だろう?」
そして、アリスの支援に反応するように、アルエが攻め立てる。童話の魔女の魔力を受けたかのように、襤褸布のようなコートの中に無造作に吊り下げられた魔本が輝くと、魔力を帯びた爪による鋭い連撃が信長の胸甲を切り裂いた。
「ふ……!やるではないか!だが、その程度では天魔の臓腑には届かぬ、ぞ!」
だがしかし、亡霊によって体を乗っ取られたアルエは、十全な連携を行えるとはいいがたく、二人の共闘はそう長くは続かない。切り裂かれた鎧から再び黒槍が突き出され、攻撃後の隙を諸に突かれたアルエは、着ぐるみに大穴を開け、その下からは鮮血が溢れ出す。
「これ以上は厳しいな……!」
アリスもまた、二体の使い魔を使役している間は、自身は無防備にならざるを得ない。反撃は許されない。それこそが、自身を赤ずきんに見立てる童話魔法の条件がゆえ。猟師に護られていてなお、絶え間ない攻撃によって、少なくない傷を負っていた。
「狼くん、猟師くん、撤退と行こう! 後は皆に任せる!」
狼がアルエを咥えると、引きずるように駆けだし、アリスも猟師に姫抱きをされて戦場を退くのであった。
「フェン、フェ――ン! フェフェン!」
「捨ておけ、サルよ。手傷は十分。それより今は、後続を防がねばならぬというもの、ぞ」
黒の魔女はともかく、白き幽鬼に他の猟兵たちが動くまでの時間稼ぎになればいい、という狙いがあったのかどうなのか。少なくとも、結果としては彼女たちは確かに陽動の役目を果たしていた。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
安喰・八束
まさか、命がある内に拝むことになるとはなあ……
……てめえら魍魎共のせいでどれだけ、俺達が……
イヤ。
精々、冥土の土産になってくれや。
あの泥の鎧に触れたもの、何もかも滑るってんなら
逸れる隙すら無い程、垂直方向にブチ抜けばいいんだな?
……やってやらあ。
悪いが、派手に立ち回っている者の陰を利用させて貰いたい。
目立たんように伏せ、十分見定め狙いをつけてから
瞬間的に「狼殺し・九連」全弾叩き込む。
第六天魔王の御前で二の矢があるとは思ってねえよ。通ろうが通るまいが咄嗟の一撃でも使ってその一射で退く。
お迎えでもねえのに逝っちまったら、女房にどやされちまうからな。
黒川・闇慈
「配下は随分と傾いた姿だったというのに、信長本人は正統派な見た目ですねえ。クックック」
【行動】
wizで対抗です。
先制攻撃への対処としてブラックシェードとホワイトカーテンの防御魔術を起動し、激痛耐性、覚悟の技能で最低限の防御を備えましょう。
更なる対処として氷獄槍軍を高速詠唱で迅速に使用。全ての秀吉を迎撃してはいられませんので、五十ほどの氷槍で攻撃完了までの間、最低限の秀吉を迎撃します。
属性攻撃、全力魔法の技能を活用しつつ、氷槍を一点に集中発射。針路上の秀吉を撃ち破りつつ信長を攻撃しましょうか。
「本能寺とは趣向を変えて、氷で攻めさせていただきました。いかがでしょうか?クックック」
【アドリブ歓迎】
非在・究子
の、信長、か。お、思ったよりも、普通な、タイプだ、な。以外だ。
せ、先制攻撃、されるけど、ここは、『距離』を、盾に、する。
天守閣の、上に、出てきてるんだ、ろ?
は、【ハッキング】で、自分の、視力、反射神経を、強化。
しゃ、射程、2.5km以上の、遠隔飽和魔法攻撃で、地上から、狙い撃つ。
つ、使う、魔法は、氷結系最上位魔法。それを50発以上、重複起動。粘液の鎧諸共、カッチコチに、凍りつかせて、やる。
ほ、本能寺で、炎の中で、果てたんだ、ろ? こ、今回は、絶対零度の、氷の牢獄を、プレゼント、だ。
……か、仮に、距離を、詰められたら、ボムと、残機で、立て直して、相打ち、覚悟の近接魔法攻撃に、切り替える、ぞ。
「配下は随分と傾いた姿だったというのに、信長本人は正統派な見た目ですねえ。クックック」
味方が退いた後から現れたのは、黒川・闇慈(魔術の探求者・f00672)である。彼は、己の漆黒のコートの周囲に、純白のカードを浮遊させていた。これこそは、『ブラックシェード』と『ホワイトカーテン』。幾重にも及ぶ防御術式の並列展開によって、堅牢なる防御を可能とする、魔術師にとっての鎧と盾である。
「隙を突いて呪文の詠唱は進めていましたよ。まさか、卑怯とは言わないでしょう? クク」
「ふはははは!この織田信長、そのようなことを言いはせぬ! 正道詭道は敗者の言い訳よ!」
仲間が時間を稼いでいる間に紡ぎあげた、数百本に及ぼうかという氷槍を展開しながら問いかければ、戦国時代の覇者も鷹揚に頷く。
「だが……卑怯と言わぬのと、その手を看過するのは別の話!」
「フェンフェンッ!」
信長がマントをばさりと翻せば、その下から飛び出した秀吉の大群が、闇慈に向かって殺到する。
「……く、いかんせん数が多い……!」
氷の槍の一部を槍衾のように並べて秀吉を迎撃するも、数に任せて面の攻撃を仕掛けてくる秀吉を全て防ぐことは能わない。白と黒の結界を抜けて響く鈍痛に呻き声を上げながらも、この程度のことは予測していたことと、歯を食いしばって大魔術を紡ぎあげる。
「ですが……これにて!」
槍衾に浸かっていた氷槍を除いた残り全ての氷槍を、一点に集中させるように発射する。
貫き穿つことこそ、槍の本懐。殺到した氷槍は、まるで一本の大槍のように輝いていた。
「の、信長、か。お、思ったよりも、普通な、タイプだ、な。意外だ」
闇慈が信長と相対しているまさにその時、非在・究子(非実在少女Q・f14901)は、天守閣から遥か離れた場所にいた。それは、魔空安土城本丸から半里ほど離れた、まさに織田軍と徳川軍が決戦を行っている決戦の地。その中でも、徳川の支配する陣の中にある、物見櫓の上であった。
「ふ、ふひ。狙撃スポットの確保、なかなか大変だった、な」
究子の限界射程は約2.5㎞。そのギリギリの距離で狙撃スポットを探そうとしたのまではよかったが、城外も戦場だというのは失念していた。おかげで織田軍を切り抜けるのに、とっておきのボムまで使う羽目になってしまい、現在の究子はいわば中破絵とでもいわんばかりの様子であった。
「け、けど、その分、安全、だよな」
当然、この距離からでは、こちらからも天守閣を視認するのは難しい。攻撃するにも、UDCアースの対物ライフルでやっとという距離であろうが……非在・究子は、世界を改竄する。ハッキング技術で己の視野を強化すれば、この程度の距離、対面しているのと変わりない。
「さ、さあ。ひょ、氷結系最上位魔法の、重複飽和、攻撃、だ。受けてみろ」
本来であれば、彼女の生まれたゲームの世界でも連発は難しい上位魔法を、リキャストタイムを改竄することで並列詠唱してみせる。
キラリ。闇慈の全力魔法を合図とするかのように、50発を越える氷嵐が、天守閣向かって吹き荒んだ。
「ぐ、ぬおおおおおお!」
闇慈の氷槍だけであれば、防ぐつもりもあったのだろうが、完全に視覚外の究子からの一撃は流石の謀略家も計算外だったのであろうか。二人の全力の魔法を半ば直撃されてしまう。
幾重にも折り重なった氷柱が、信長の体を凍てつかせ、その周囲に氷の牢獄を形成してゆく。
「本能寺とは趣向を変えて、氷で攻めさせていただきました。いかがでしょうか? クックック」
「ほ、本能寺で、炎の中で、果てたんだ、ろ?こ、今回は、絶対零度の、氷の牢獄を、プレゼント、だ」
超遠距離、お互いの声が聞こえたわけでもないだろうが、満身創痍の2人は、奇しくも全く同時に似たような台詞を発し、ニヤリと笑うのであった。
「いかんな。サルよ、抜け出すまではどの程度かかりそうだ」
「フェェェェン……」
氷の牢獄にその身を封じられながらも、慌てることなく冷静に信長であったが、その相棒は随分頼りない声であった。
「ふむ、サルが参っておる、か。だが、この牢獄があっては猟兵にとっても万全の攻撃はしにくいはず。早く体勢を……む?」
可及的速やかに氷獄よりの脱出を図る信長であったが、その視界に妖しい輝きが映りこむ。
「ちょいと気づくのが遅かったな、魍魎の親玉!」
信長が気付いたその輝きは、狼憑きの瞳。鈍い銃声が鳴る。その数、折り重なるように九度。
喰らうべき相手を狙い定めた悪食の牙は、ただ真っ直ぐに齧りつく。粘性の護りも、半ば冷え固まった状態で垂直の衝撃を受けては、滑らせて衝撃を逃がすことも能わない。
「ぐっ、貴様……!味方の生み出したこの氷獄に潜り込むとは……!」
「お仲間の派手な攻撃があったんでな。利用しない手はないだろうがよ」
持てる一撃のすべてを叩きこんだ安喰・八束(銃声は遠く・f18885)は、愛銃“古女房”を手に、砕け潰れた黒鎧の武将の前に歩み出た。
「お主、狼憑きだな?よいのか、今の攻撃。お主の寿命を削る一撃であろう」
「御名答。だがな、元より病牙に蝕まれた身だ。てめぇの命を冥途の土産にもらっていけるんなら悪くねぇ」
信長の読み通り、その生命力を大きく削って大技を放った八束は、氷獄に潜んでいた間に失われた体力と合わせて、立っているのがやっとの有様であった。
「ほう、ならば今ここで冥途に送ってやろう――!」
「生憎だが、そうはいかねぇよ!お迎えでもねえのに逝っちまったら、女房にどやされちまうからな!」
氷獄に縛り付けられた身ではあるものの、鎧から突き出た槍で攻撃する信長であったが、八束は愛銃に取り付けた銃剣でもって氷獄に細い通り道をこじ開けると、その隙間から抜け出すのであった。
「手傷は与えた、退くぞ!」
「ええ、この辺りが頃合いという者でしょうねぇ」
「わ、私も流石に、MP切れ、だ」
苦戦
🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
リンタロウ・ホネハミ
トーヤ(f05271)と共闘
生憎手持ちの骨にあの黒粘液の鎧をどうにか出来るものはないっす
けど、だからって首級を諦めちゃ”骨喰”の名が泣くっすね
蝙蝠の骨を食って【〇〇六番之卑怯者】を発動!
トーヤがガジェットの使い方を理解するまでの時間を稼ぐっす!
傭兵の『戦闘知識』を活かして信長の攻撃の予測精度を上げ
自慢の骨剣での防御はもちろん、ワイヤーを張り巡らせての妨害(『罠使い』)も行い
トーヤへの攻撃をすべて『かばう』っす
ハッ、おせーっすよトーヤ!
まあオレっちならこの程度の攻撃、あと何時間でも耐えられたっすけどね!
と強がりを言いつつ、トーヤが攻撃をブチ込むのを見届けるっす
アドリブ大歓迎
久賀・灯夜
リンタロウさん(f00854)と共闘
まさか、授業で習った超大物と戦う事になるとはね……
なんても気後れもしてられないな。行くぞ!
ったく、いかにも物理攻撃は効きませんって感じの鎧しやがって
そんな時は……良い武器出てくれよ、【ガジェットショータイム】!
召喚するのは強力な熱放射器! 更に『属性攻撃』で火力アップだ!
こいつでご自慢の鎧ごと焼いてやるぜ!
ホネハミさんが時間稼いでくれる間に使い方を覚える
焦るなよ俺……
『早業』でどんどん学習して……
よし、お待たせホネハミさん!
へへっ、なんなら倒してくれちゃっても良かったんだぜ?
なんて軽口を叩きながら武器を構えて信長に熱攻撃!
アドリブ歓迎です
法月・フェリス
【法月】
SPD
とうとうラスボスだね。うん、冷静に、作戦通りにいこう。
信長の先制攻撃は動体『視力』に『野生の勘』『見切り』と『空中戦』で回避に専念。服に汚れが付かないようにしっかり回避しよう。さっさと天守閣の外に逃げてしまうのも良いね。
一旦外に出たら【ガジェットショータイム】。空中で足場になる1.5㎡の板状ガジェットを電脳空間から取り出し、『Military uniform』を広げて『迷彩』を施す。
天守閣内の死角で志蓮を回収したら『迷彩』がおかしくならないように気をつけながら狙撃ポイントまでこっそり移動。電脳空間との連結でガジェットを固定し、志蓮が地上で狙撃するのと同じ環境を整えるよ。
法月・志蓮
【法月】
SPD
戦争も大詰めだが……こういう手合は厄介だ。油断せずにやるぞ、フェリ
信長の先制攻撃は動体『視力』に『第六感』や『戦闘知識』を総動員して『見切り』、黒粘液に触れないよう『地形を利用』した『逃げ足』で逃げ回る
その時ついでに『早業』で爆弾を用いる『破壊工作』で、粘液を『吹き飛ばし』がてら後の狙撃の射線を取れるよう城の風通しを良くしてやろう
フェリがガジェットを出したら飛び乗って天守閣から脱出し、狙撃ポイントで愛銃を構える
散々走り回されたが……ここからは『スナイパー』の時間だ。弾が滑らないよう、ド真ん中を正確に撃ち抜いてやる
【夜陰の狙撃手】で対物ライフルによる『鎧無視攻撃』を撃つぞ
かくして氷獄に閉じ込められた信長であったが、恐るべきオブリオンフォーミュラを、この程度の拘束で長く縛り付けておくことはできはしない。
「やるな……!だが、この第六点魔王の首を落とすにはまだまだ遠いと心得よ!」
甲高い音で氷が砕けたかと思うと、全周囲に向かって黒槍が放たれる。氷獄に封じられている間、信長もまた力を練っていたのだ。
対する猟兵たちの対応はさまざまであった。
「フェリ!」
「うん、大丈夫!」
法月・志蓮(スナイプ・シューター・f02407)と法月・フェリス(ムーンドロップ・スポッチャー・f02380)は、遠距離狙撃を生業とするがゆえの動体視力を以て黒槍の軌道を分析。攻撃を受けずに済む経路を探して、天守閣内部を逃げ回る。難所があれば時に妻が夫の手を引き、夫が妻を抱きかかえる阿吽の呼吸であった。
「うわ、った、った!逃げようにも逃げ場が……!」
「トーヤ、そこ動くんじゃないっすよ!」
久賀・灯夜(チキンハートリトルブレイバー・f05271)が戸惑ったように身を硬直させたならば、リンタロウ・ホネハミ(Bones Circus・f00854)がその前に躍り出で、骨剣の乱舞によって迫りくる黒槍を切り落とした。
「ほう、一人も直撃を喰らわぬとは、のう。だが、攻め立てる隙は与えぬ、ぞ」
鎧が半ば砕かれつつある今、攻勢に転じた方が勝機が近づくと判断したのか、信長は次々に攻撃を繰り出す。黒槍が通じなかったならば、今度は刀。重厚な鎧を纏い、傷を負っているとは思えぬ鋭い動きで、愛刀による連撃を繰り出す。
「あんたの相手は俺っす。そう簡単には通しはしないっすよ!」
その正面に立ちふさがり、攻撃を受け止めるのはリンタロウだ。己の手持ちの札では、粘性の守りを突破する手段がないがゆえに、友を守るのがこの場での役目。
「よき覚悟だ。しかし、一人で儂を相手どろうとは、付け上がったものよ!」
「おわ、っと、っとぉ!あぶねぇ!こんな時は……こいつっす!」
剣戟を骨剣で受け流すように防ぐものの、受けきれなかった一閃が革鎧を削ぐ。冷や汗を掻いたリンタロウは、一歩後退しながら、懐から取り出した奇怪な塊を喰らう。
直後、リンタロウの動きが、目に見えて効率化された。動きが速くなるわけでも、武器が鋭くなるわけでもない。その秘訣は、敵の行動予測。喰らった蝙蝠の骨から、超音波ソナーの能力を得たことによって、信長の筋肉の動きから、コンマ秒後の攻撃の動きを察知しているのだ。
「かわほりの骨か……。奇怪な術を使う!」
「お褒めに預かり恐悦至極、っす!」
見慣れぬ業に驚く声に、どこか楽し気な響きがあったのは、戦国の革命者の血が騒ぐがゆえか。対するリンタロウも、ニッ、と自慢げに笑って見せた。
だが、信長の武器は刀だけではない。鎧に纏っていた黒粘液を、飛沫と変えて放って見せたのだ。
「おっと、こっちか……!だが、フェリが狙われるよりはマシか」
狙われたのは、ちょこまかと動き回りながら、天守閣内部に細工を施していた志蓮である。飛んできた飛沫を身を捻って躱すと、時に柱を盾に、時に壁や天井を跳躍するように、所狭しと最大限地形を利用して回避し続ける。
「ええい、サルが如き身のこなしよ……!」
「フェンフェン、フェーン!」
「なんとでも、いえ……っ!」
賞賛と焦れの混じったような言葉をかける信長に、端的な言葉で返しながら、攻撃を避け続ける志蓮であった。
「さあさ、頼むっすよ、トーヤ……!」
「こっちは順調。フェリの方は……そろそろか」
気の遠くなるような長い時間、二人の黒騎士は時間を稼ぎ続ける。それは、時間を稼げば、己の相棒が突破口を開いてくれると信頼するがゆえ。
「織田信長……。歴史の授業で聞いたくらいの名前だけど、流石の迫力だぜ」
「ラスボス相手だ。冷静に、作戦通りいかないとね。……ここなら大丈夫そうかな」
それぞれの相棒が時間を稼いでいる間に、灯夜とフェリスは、天守閣の外へ退避していた。
「いい武器、出てくれよ……!」
「さてと、ちゃんと狙い通りに使えるようなものが出てくれるといいんだけれど……」
二人は、仄かな不安を言葉ににじませながら手を掲げる。
「「ガジェットショータイム!」」
奇しくも綺麗に重なるような声で二人が言えば、それぞれの手の中に、ガジェットが生み出される。異能による召喚と、電脳空間からの精製。それぞれ由来は違えど、二人のガジェッティアは、突破口を切り開く望みをガジェットに託した。
「なんだ、これっ?」
「ううん、困ったな」
しかし、召喚されたガジェットを前に、二人は首を傾げる。普段であれば、程度の差こそあれ、時間をかければ使い方が把握できるガジェットが現れるのだが……今日のガジェットは、どうも使い方がピンとこない。
「時間をかければなんとかなるかもしれないけれど、モタモタしていると志蓮が……」
だが、困ったように視線を見回したとき、二人のガジェッティアの頭脳に電流が走った。
「お姉さん!パス!交換ッス!」
「……なるほど!」
灯夜からの呼びかけにフェリスが頷くと、二人は己の手に持つガジェッティアを同時に相手に放り、交換して見せたのだ。
「やっぱりだ!こいつは……熱放射器!」
「……うん。これなら、作戦通りにいける、かな」
己の生み出したわけではないガジェットが、しかししっかりと使い方を把握できることにどこか不思議な気分を味わいながら、二人のガジェッティアは“研究”を開始した。
「……よし、あっちの準備はできたな。リンタロウ、だったな。任せていいか?」
「へへっ、こちとら元々一人で引き受けるつもりだったんす。お任せあれっすよ」
それぞれの相棒が準備を進めているのを見た志蓮の問いかけに、リンタロウは飄々と頷く。短い時間ながらともに戦った彼に対し、信頼を以て首肯すると、志蓮は軽やかな身のこなしで、天守閣の外に飛び出していった。
「とはいったものの……」
一人で引き受けるには、オブリビオンフォーミュラは随分強大であった。超音波で行動を予測し、骨剣で攻撃を受け流し、ワイヤーを張り巡らせて、幾重にも渡る手段で全霊で防御を行うものの、黒槍と刀と粘液、多岐にわたる手段で攻め立てる信長の前に、じりじりと傷を負わされつつあった。
「そろそろ……!」
半ば意地で、限界だ、という言葉は口にしない。だが、事実として、リンタロウの護りが破られるのは間もなくかと思われた、その時。
「お待たせ、ホネハミさん!」
赤い華が、天守閣の中に咲いた。
いや、灯夜がその武器で熱線を発射したのだ。
「ハッ、おせーっすよトーヤ!まあオレっちならこの程度の攻撃、あと何時間でも耐えられたっすけどね!」
「へへっ、なんなら倒してくれちゃっても良かったんだぜ?……サンキュ」
強がりを言いながらも、限界を迎えてその場に座り込むリンタロウに、灯夜も軽口で返しながらも、静かに礼を告げた。
「ふっ……炎か!全く、儂の人生はつくづく炎と縁があるものよ!」
鎧に纏った黒粘液を焼き溶かされながらも、苦痛を堪えて笑みを浮かべる信長。しかし、直後、轟音を立てて天守閣の天井や壁が爆ぜる。
「あれっ!こ、この火炎放射器、そんな力が……!?」
「いーや、こいつは……あいつの仕業っすね」
爆ぜた天井の木片から、灯夜を庇いながら、先程この場を離れた男の顔を思い浮かべるリンタロウであった。
その爆発物を仕掛けた張本人。志蓮はといえば……空中にいた。いや、正確に言えば、空中に設置された、1.5m四方の板状ガジェットの上に、である。
「姿勢は?」
「問題ない。安定してる」
フェリスは、ガジェットを展開して足場を生み出すと、愛用の軍服に仕込まれた迷彩機能で自身と足場、そして乗り込んだ志蓮を透明化してみせた。そのまま、リンタロウと灯夜が信長と対峙している間に天守閣に向かって狙撃を行うために絶好の位置まで移動させ、電脳空間に接続して位相を固定することで、即席の狙撃スポットを生み出して見せたのである。
「視界、開けたよ」
「OK。いつも通り、タイミングは任せる」
1.5m四方。対角線をなぞるように臥せて銃を構える志蓮と、その横で片膝を立てて敵を観測するフェリスは、完全に密着しているといっていい距離である。そんな距離で、最愛の夫から信頼を告げられることに、くすぐったいような、あたたかいような、そんな気分を味わいながら、フェリスはこくんと頷いた。
信頼に応えるべく、絶好の狙撃タイミングを探して、風を読む。
「5秒後。4、3、2、1。ゼロ!」
「――!」
フェリスのカウントダウンがゼロを告げるのと全く同時。対オブリビオン用にチューンナップされた愛銃から、死告の弾丸が放たれた。
「うん。完璧に、鎧の中心を貫いたのを確認。ふふっ。流石はぼくの旦那さまだ」
戦果の報告と同時に、ごく自然体で惚気る観測手に、静かに笑い返す狙撃手であった。
「ふっ……ははははは!もはやこれまでよ、のう。だが、この儂の命、ただでくれてやると思うな!サルよ!うぬの命、儂にもらうぞ!」
「フェンフェン!フェーン!」
砕かれ、溶け落ち、既に鎧としては役立たなくなった燃える黒鎧に身を包まれながら、覇王は高らかに笑って見せた。
「もう一息……ってところっすか」
「ああ。……やってやるぜ!」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
ヴィクティム・ウィンターミュート
始めようぜ
御大層な夢、大いに結構
清々しいほどの負けん気も結構
──それでも俺が勝つ、猟兵が勝つ
結末に変更は無いのさ
全身から武装に至るまで全ての摩擦抵抗が減るとなると…
まともな物理攻撃は表面を滑って通らねえし、地を滑って高速移動までするだろうな
だが刀まで摩擦抵抗が減るってこたぁ…上手くやりゃ逸らしやすくなるな
【見切り】で攻撃の軌道を読み、【早業】と【武器受け】で"滑るように"逸らす。武人の剛剣なんざ普通はまともに受けられねえが──摩擦抵抗が無いなら話は別ってな
先制攻撃を凌いだらUCを起動
物理攻撃以外で攻めてやればいい
【ハッキング】による遠距離からの脳破壊攻撃だ
天下を思い描くその脳を、ぶっ壊してやる
パーム・アンテルシオ
織田信長…炎の中で最後を遂げた人…だったよね。
ふふふ。さすが、炎が似合うね。皮肉でもなんでもなく、ね。
なんて、おべっか言ってても、仕方ないかな。
今向き合うべきは…その子たちだもんね。
私も、フェンフェン、って言った方がいいのかな?ふふ。
…なんて。
言語の差なんて、意味はない。
私が語りかけるのは、誘惑するのは、その魂。
「待て」
誘惑、って呼ぶには、言葉がキツい気がするけど…
これぐらい、男らしく言っちゃった方が…多分、効くよね?
稼げる隙は、少しだけ。
ユーベルコード…金竜禍。
なんて言っても、お城だからね。
たくさん。それこそ、いくらでも呼び出せる。
さぁ、あなたの家臣と、この子たち。
どっちが強いか…勝負だよ。
「サルよ、これより全霊を振るう!うぬの命、儂にもらうぞ!」
「フェーン!フェン、フェン!フェフェン!」
燃え盛る外套を翻すと、鎧の中に融合していた秀吉が、その身の全てを絞り尽くさんという勢いで分身を生み出し、天守閣を埋め尽くす。圧倒的な黒の奔流は、猟兵たちを飲み込む……かに、思われた。
「織田信長……炎の中で最後を遂げた人……だったよね。ふふふ。さすが、炎が似合うね。皮肉でもなんでもなく、ね」
炎の光を浴びて、蠱惑的に尻尾を輝かせながら、パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)が静かに笑う。尊敬にも畏怖にも似た感心の気持ちは本物だ。だが、今はそんなことを言っていても仕方がない。なぜなら、今向かい合うべきは、恐るべき小猿の奔流なのだから。
「私も、フェンフェン、って言った方がいいのかな?ふぇーん、ふぇん。……ふふ、なんてね」
などと、冗談めかして言ってはみたが、そんな必要は、ありはしない。言語の差など意味を為さない。
なぜならば。彼女が語り掛けるのは、誘惑するのは、魂そのものなのだから。
「待て」
普段の柔らかな口調に反した、端的で、どこか冷徹にさえ聞こえる、静かな命令。
一言に圧縮された、呪いめいた誘惑の力は、黒い獣の本能に触れ、その行動を縛り付けた。
「稼げる時間は、一瞬だけ」
たかが一瞬。されど一瞬。その隙さえあれば、桃色妖狐には十分であった。
「――陰の下、火の下、死の欠片を喚び出そう」
歌うように囁けば、彼女の呼び声に誘われるように、天守閣の瓦が、懸魚が、鉄砲狭間の木枠が、その姿を変じていく。
そうして生み出されたのは、全身を呪詛で形作られた、桃色の九尾狐。パーム・アンテルシオの抱えたねじれの象徴。
「なんて言っても、お城だからね。たくさん。それこそ、いくらでも呼び出せる」
ユーベルコード・金竜禍。無機物を変じさせるその力の射程は、実に半径50mに及ぶ。天守閣丸ごとを包み込んでも遥かに余るほどである。天守閣そのものが崩れないよう、建物として重要そうな部分はそのままにしていてもなお、無限といえる妖狐の軍勢が生み出された。
「さぁ、あなたの家臣と、この子たち。どっちが強いか……勝負だよ」
そんな台詞とともに、桃と黒の奔流が、激突した。
「後は……あなたが主役だよ」
なんてね、と笑って、パームは戦友を送り出した。
「流石にこれ以上、秀吉は分裂できないだろ?やろうぜ、第六天魔王」
「ク……ハッハッハ!よい度胸だ!かかって来るがいい、我が黒粘剣戟術を見せてくれよう!」
主役なんて柄ではないが、と首を振りながら、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)が歩み出る。対する信長も呵々大笑しながら、黒粘液を纏わせた刀を構えて見せた。
「行くぞ、受けて見せよ、猟兵!」
瞬間、信長の姿が消える。恐るべき急加速でヴィクティムへの距離を詰めて見せたのだ。黒鎧を失って身軽になったからだろうか? 否、黒粘液で脚を覆うことで、床との摩擦をなくし、高速移動を可能としたのだ。そして、そのまま、刀を勢いよく振り下ろす。
「御大層な夢、大いに結構。清々しいほどの負けん気も結構」
だが、その一撃は、ヴィクティムが頭上で交差するように構えたサイバーアームによって受け止められた。そう、全身を、刀すらも黒粘液で包み、摩擦を失わせているということは、少し刃を滑らせてやるだけで、攻撃を受け止めることが可能になるということ。
だが、言うほど簡単ではない。受ける場所と、受ける角度を少しでも間違えたならば、逆に己の受ける衝撃を全く減らすことができずに一刀両断されていてもおかしくなかったのだから。
「──それでも俺が勝つ、猟兵が勝つ」
攻撃を受け止めたサイバーアームで、そのまま信長の顔を指さす。
「筋書きに変更は無いのさ」
――Access,complete.
己の脳を焼き尽くすほどに酷使することで、電脳に接続していない者にすらも脳破壊を可能とする、超域のハッキングが此処に完了した。
「お……オォォォォォォォォ!」
こうなっては、最早自力で逃れるすべはない。のた打ち回る信長は間もなく沈黙し、決着が着く――かに、思われた。
だが、その決着に異議を唱える者がいた。
「フェ――――ン!」
「ぐっ……!」
鎧と一体化していた秀吉、その本体が、信長の命もなく鎧から独立すると、弾む体でヴィクティムの頭部に体当たりしたのである。
余りにも原始的な妨害である。だが、ニューロン接続は非常に繊細な作業である。全く無防備な本体に予想外の奇襲を喰らったことで、狙いがぶれてしまった。
「随分ワックド……いや、チルいじゃねえか。流石はトヨトミヒデヨシだ。……けど、無茶が過ぎたな」
しかし、その代償は大きかった。肩で息を切らしながらヴィクティムが言う通り、本体による決死の妨害を行った代わりにに、主人の代わりに脳破壊攻撃の直撃を受けたのだから。
「フェ……ン」
「……秀吉よ。大儀であった」
ここに、隠し将は沈黙した。最早分裂体を生み出すことはできず、粘性による護りも失われた。
だが、信長の眼光未だ衰えず。最後に残された黒槍を手に、傷だらけの身体で仁王立ちするその姿は、それでも覇王の気に満ちている。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鳴宮・匡
◆ニル(ニルズヘッグ/f01811)と
初撃は【見切り】、巧く致命傷を避けるようにやり過ごす
先制を凌いだ直後【水鏡の雫】を発動
反応速度と精確性に重きを置き
槍を「到達の早い順」「致命傷になりそうな部位」から対処
撃ち落としと回避を織り交ぜながら凌ぐ
兄さんへ向かう攻撃を弾き落す【援護射撃】もするよ
特に向こうが浅からぬ傷を負いそうであれば
自分よりそちらを優先
決め手を任せるんだ、そのくらいはな
攻勢が一瞬でも途切れたら
鎧の隙間や露出した顔面・首など
比較的攻撃が通りやすい部位を狙って狙撃
当たって怯めば御の字
そうでなくとも僅かでもこちらへ気を向けられればいい
生憎、本命は向こうでね
決めてくれよ、ニル!
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡/f01612と
さて、ようやくの首魁だな
あらかじめ、蛇竜を黒槍に変えておく
先手は槍を盾に『第六感』と『見切り』で躱す
槍である以上は直線的な軌道のはずだ
こちらも槍使いとして、それなりに予測はしていこう
多少の傷は『覚悟』の上だ
致命傷と右腕の負傷を避けられれば何でも構わない
後は意識を保っておくだけだ
匡の援護もある、どうにでもなるだろうさ
匡が隙を作るまで、攻撃可能な距離で耐え凌ぐ
少しでも隙が出来れば、『呪詛』をありったけ乗せた槍で『串刺し』にしてやれる
【ドラゴニック・エンド】は喚ぶ竜の方が本命だ
槍の方は掠りでもすれば構わない
さァ喰らえ、第六天魔王とやら
こいつが竜というものだ!
「最早この儂は長くはない。だが、だからといって素直に諦めなどしては、第六天魔王の名が廃るというものよ……のう、秀吉」
既に返事をしない秀吉に語りかけながら、己の身を包むもはや鎧と呼べるかも怪しい鉄屑から、彼の形見ともいえる黒槍を抜いて、織田信長は大音声で名乗りを上げる。
「儂に残るは首級一つ!織田信長の首級欲しくば、命を懸ける必要があると思え!」
「行けるか?にぃ……ル」
「どうかな。手負いの獣は厄介だぞ」
鳴宮・匡(凪の海・f01612)が、つい慣れた呼び名を言いそうになりながら問いかければ、ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は、そんな姿に口元に笑みを浮かべながらも、ううむ、と肩を竦める。
「だが、どっちにしても……」
「ああ、打ち合わせ通りやるしかないな」
頷き合った二人の男は、戦友の一撃によって最早戦闘不能も目前、という信長の前に歩み出る。
「さあ、さあさあ!もはや残されたのはこの槍のみといえど、貴様ら二人を屠るには十分よ!」
両腕で大槍を構え、変幻自在の突きを繰り出してきたかと思えば、その身に纏う鎧の残骸から、突然燃え盛る槍を射出し不意を撃つ。
命を燃やしての猛攻は、その言に恥じない恐るべき脅威であった。
「直撃は避けさせてもらうよ」
「こちらも同じ槍使い。受けて立とう!」
だが、数多の戦場を潜り抜けてきた二人の戦士にとっては、対処できないほどではない。いくら速度が早くとも、いくら不意を撃とうとも、鎧からしか発射できないのであれば、その軌道は当然、直線的なものにならざるを得ないが故。
培った知識と勘で的確に軌道を予測すると、最小限の体捌きで槍の隙間を縫って回避していく。
「如何せん、数が多いな……!」
ニルズヘッグは長身で細身の匡に比べ、上背と筋肉量で勝る。普段であれば文句なしに武器であると言えるそれは、今この瞬間においては、被弾面積が多いという不利につながっていた。
「無事か?ニル!」
「多少の傷は覚悟の上。作戦には支障はない!」
「やれやれ、出鱈目だな、全く」
匡もまた、生傷だらけの身であったが、なんとか猛攻を凌いだならば、僅かな隙を縫ってユーベルコードを発動する。その焦茶色の瞳が一瞬虚ろに揺らいだかと思うと、直後、揺らぎを止め、凪いだ水面のような瞳で、敵を見据える。
「どのような業かは知らぬが……儂の前で隙を見せたな!」
匡に向かって無数の槍が殺到する。
だが、しかし。次の瞬間、槍が爆ぜた。いや、正確に言うならば、己に迫る槍を、匡が次々と撃ち落としていったのだ。瞬時に、どの槍が己に到達するのが早いかを見抜き、最適な判断で迎撃と回避を行う姿は、コマ送りの映像を見ているかのような気分にすらさせられる。いや、あるいは匡自身にとっては、そのような感覚なのかもしれない。
――水鏡の雫。
トランス状態へと自ら移行することで、思考速度を、ひいては戦闘性能を大幅に引き上げる業である。
「神降ろしか……!味な術を!」
限界まで加速した思考は、信長の行動すべてを先読みすることが可能となる。それは或いは、水面が鏡となり、世界を映し出すかのように。
徐々に傷を増やしながらも、繰り出される攻撃を凌ぎ続ければ、いつか限界は来る。当然だ、既に黒槍の本体と言える秀吉はいないのだから。
「――そこだ」
攻撃の手が止んだ瞬間。その瞬間を待っていたというように、鋭く放たれた匡の弾丸が、信長の額に飛来する。
「ぐっ!」
急所と云えど、強靭な生命力を持つオブリビオンを、たかだか拳銃の一発で絶命せしめることはできない。せいぜい、首を仰け反らせた一瞬の隙ができたかどうかというところだろう。
僅か一瞬、されど一瞬。その一瞬こそが、勝負を決した。
「今だ、ニル!」
「任された!」
匡の合図とともに、ニルズヘッグが己の愛用する黒槍を構える。
「呪詛をありったけに乗せた一撃。喰らうがいい!」
竜が姿を変じた大槍が、真っ直ぐ、一直線の軌道でもって、信長の胴を串刺しにした。
「ぐ、ぬおおおおっ!」
「――本命は、ここからだ」
身を捩る信長に、竜騎士は静かに呼びかける。
「さァ喰らえ、第六天魔王とやら。こいつが竜というものだ!」
主人の声を合図としたかのように、黒の蛇竜が天守閣の頭上に召喚される。黒く長い胴体で日光さえ覆い隠さんばかりの姿は、どこか神々しくすらもあった。
「――ッ!」
次の瞬間、竜槍を目印とするかのように、蛇竜が空から信長に向かって飛来した。呪詛を纏ったその体による突進である。
竜槍によって縛り付けられた天魔の王は、回避することすらできず、直撃を喰らい――めりめり、と、天守閣の床に埋め込まれるような形で倒れ伏したところで、突進は止まった。
「ドラゴニック――エンド」
突き刺さったままの黒槍を抜き、労うように軽くその身を撫でるニルズヘッグであった。
「ふ、くはは、はは……。第六天魔王、ここに墜すか」
――人間五十年 下天のうちをくらぶれば 夢幻のごとくなり 一度生を受け 滅せぬもののあるべきか
床に仰向けに転がった状態で、己を象徴するような一節を諳んじると、取り囲むような猟兵たちを睨め上げて。
「是非もなし、よのう、秀吉よ……」
燃え立つように、骸の海へと帰る信長であった。
信長がその姿を消すのを見送って、片や満面の笑みで、片や涼やかな微笑みで、二人は静かにタッチを交わした。
大成功
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