エンパイアウォー㉛~未来の為の引き上げ
●だって勿体ないじゃん
「やあ、皆。お疲れ様。今回もサムライエンパイアの戦争絡みの話だ。と言っても、火急でなければ、戦いすらない案件なんだけどね」
ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)が、少し気楽そうな様子で猟兵達に話を切り出した。
「エンパイアの瀬戸内海に、村上水軍の怨霊を乗せた超巨大鉄甲船がいたんだけどね」
なお、悉く猟兵によって沈められました。
「沈んだままの鉄甲船の残骸さ。引き上げよう!」
いい笑顔でルシルは告げた。
「だってさ。魔軍将の一人、日野富子が巨万の私財を投じて作った巨大船だよ。そのまま沈めておくのは惜しいじゃないか」
そう。超巨大鉄甲船は、日野富子謹製なのである。
つまりは、日野富子ってば私財を注ぎまくった作戦を猟兵に完膚なきまでに沈められた上に、その残り物を利用されるかもってわけだ。
あれ? これ、富子涙目案件?
「ああ、生きてたら怒ったかもね―」
さてはこのエルフ判ってて言ってるな。
とは言え、巨大鉄甲船の残骸の利用価値が大きいのも事実だ。
全長200m、全幅30m程もあるのだ。沈んだとはいえ、使える部分も多い筈。
再利用候補としては、商船、軍船。はては外洋船を造って冒険の旅へ――と言う事だって出来るかもしれない。
「まあ、引き上げた残骸は主に幕府が協議して決めるって言うことになってるから、実際どうなるかはわからないんだけどね?」
引き上げられた数にもよるだろう。
「という訳で、今回は戦争絡みではあるけれど、戦争自体には影響しない。無事に勝利した後に活きてくる話だから、緊急性もない」
此処までは何だかんだで勝ちが続いているとは言え、まだ戦は佳境が残っている。
「勝って兜の緒を締めよ――なんて言葉もあるみたいだけどね。戦い詰めじゃ気が滅入るって人もいるだろうさ。先に目を向けるのも、悪いことじゃあない」
それにだ。
亡霊が乗っていた時は、何だかんだ凄い機能も付いていたが、沈んだ今となっては巨大な鉄の塊に過ぎない。
引き上げられるのは、猟兵くらいのものである。
「猟兵が動く価値は充分にある仕事ってわけだよ。じゃ、そう言うことで――転移先は瀬戸内海の燧島って島だから。引き上げよろしく!」
ところで、いい笑顔で猟兵を送り出そうとグリモア出したこの猟兵。
実はカナヅチである。
「やだなぁ。私が泳げないから皆を送ってる訳ないじゃないか」
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
沈めるシナリオ出したからにゃあ、引き上げなければなりますまい。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
巨大鉄甲船引き上げ作戦です。
村上怨霊水軍を短期間で制圧した事で発生した、期間限定ボーナスシナリオとなります。
このシナリオの成功数×隻の巨大鉄甲船を引き上げる事が出来ます。
引き上げ船の修復や使い道などは、引き上げる事が出来た隻数に応じて、幕府などが協議して決定するようです。
という訳で、戦争そのものには影響しませんので、気楽に自由に挑んで頂ければと思います。
早ければ8/21か22に執筆開始出来るかと思います。
なお、当シナリオのみ、現地人の物資支援ありとします。
転移先の燧島と言う所の住民達は猟兵に協力的ですので。具体的には、船くらい言えば出てきます。
とは言えエンパイアにありそうなものしか出てきませんので、潜水道具とか欲しい方は自前で持っく感じでどうぞ。持ち込み自由です。素潜りとかで頑張るのも自由です。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 冒険
『巨大鉄甲船引き上げ作戦』
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POW : 重量のある船体部分などを中心に、力任せで引き上げる
SPD : 海底を探索し、飛び散った価値のある破片などを探し出して引き上げる
WIZ : 海底の状況や海流なども計算し、最適な引き上げ計画を立てて実行する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ガーネット・グレイローズ
サルベージ作業か……。宇宙の船を操る技能が
活かせるならいいのだが、如何せん地球の海は初めてだからな……
やるだけやってみよう。
【ブレイカーシップ・ブレイブナイツ】を発動、48隻の
小型自立宇宙船を召喚する。まずは海中に潜行させ、鉄甲船の沈んでいる場所を探索させよう。場所が判明したら、船を合体させて巨大なサルベージ船に改造。
<メカニック>と<操縦>の知識をフル活用し、アンカーとロボットクレーンで引き上げ作業の開始。
200メートルとえば、宇宙でも立派な船だ。これだけの大物、海に沈めておくには勿体ないからな……。
潮の流れに気を付け、機材を失くさないように注意。
現地の協力者には、力仕事全般をお願いしたい。
有栖川・夏介
※アドリブ歓迎
巨大船をそのまま、というのは確かに惜しいかもしれませんね。
それに船をそのままにしておくと、水質も悪くなってしまうかもしれないでしょうし……。
微力ながら、私も船の引き上げに協力します。
船体にロープを括りつけ、そのロープを持って【怪力】で力任せに引き上げます。
「……いきます」
呼吸をひとつ。そのあとは思い切り。
それにしても、海に垂らしたロープを持ち、力に任せて引き上げるこの感覚、何かに似ているような。
……これは【釣り】!
釣りあげるものは魚ではありませんが…、釣りをしていると思うと、少し楽しくなってきました(真顔)
使えそうなものはどんどん引き上げていきましょう。
櫟・陽里
よっ、風早の旦那!調子はどうだ?
ちびっこ達と上手くやってるようで(ぷぷっ)何よりだねぇ
お姫様の御用達って訳だ
良い仕事じゃんかコソコソやるよりさ!
1番重量に耐えられる船を頼む
それなりに大物狙ってみようかなーなんてね
他の人を乗せてもいいけど
折角人手があるなら船の数を増やした方が良いと思う
操船初心者でも安心なユーベルコードを覚えたんだ
きちんと計測観測で裏付けた行く先を見据え念じる
波が変わるぞ、ほら!
目的地まで皆を運んでくれる潮に違いない!
相棒も載せてきた
高性能エンジンの馬力は色々使えるだろ?
船本体を狙うなら皆で協力しようぜ
引く縄の支店の数・位置・重心・タイミング…
情報共有が重要
通信とか声は届くかな?
ベルベナ・ラウンドディー
船と人手を島で調達し、同行を願います
しかし戦のタナボタで他人の物を懐にしまうとは
…セコい考えをするものですね、幕府も
〇破壊工作・衝撃波・吹き飛ばし・念動力
狙いは海中・海底での爆破工作
海中や海底に時限爆弾や機雷を撒き、ユーベルコードを使用
船体に浮力を発生させ、念動力とを併用して海面への浮上を狙うものです
…ただ、この術は味方がいないと上手く使えないので同行を願いました
曳行可能な人出が借りれれば上等ですが
あの(貧乏な)島では少し厳しいでしょうか?
これでメカニック知識もあり、船体断裂といった事故は無いよう努めますが
爆破の際に船が揺れますので同行者は注意してください
私の空中浮遊で難を逃れてもいいですけど
●燧島にて
「よっ、風早の旦那! 調子はどうだ?」
「今度は貴方ですか……」
顔馴染みの様に片手をあげて声をかける櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)に、声を掛けられた方――燧島唯一の廻船問屋は何やら複雑な表情を浮かべていた。
「聞いたぜ? ちびっこ達と上手くやってたようで」
ぷぷっと含み笑いを浮かべる陽里も、以前にこの燧島で起きた事件に関わった猟兵の一人。その際に、身分を隠し風早屋に雇われる形になったりしたものだ。
「じゃ、俺にも一番重量に耐えられる船を頼む」
故にか遠慮のない陽里の要求に、風早屋は諦めたように肩を竦める。
「……怖さんで下さいよ」
「なぁに。今回は戦いはありませんから」
不承不承と言った様子の風早屋にベルベナ・ラウンドディー(ドラゴニアンのバイク乗り・f07708)が涼しい顔で返す。
「それに姫様からは、手伝う様に指示が出てるのでは?」
「そうそう。お姫様の御用達って訳だろ。良い仕事じゃんかコソコソやるよりさ!」
ベルベナと陽里に畳み掛けられ、風早屋は小さくため息を零した。
「色々と、敵いませんね」
呟いた口元は、しかしすぐにニヤリとした笑みに変わる。
「――まあ、朔八姫にはこの島の海運を取り仕切る許可を頂いていますからね。この戦が終われば復興需要も生まれるでしょうから。精々稼がせてもらいますよ」
「「うわ、悪い顔」」
何とかの皮算用をする風早屋の表情に、陽里とベルベナの声が重なった。
●沈没地点へ
「沈んだ地点までの先導は、任せてくれ」
安宅船の舵を握っていた、陽里が視線を海に向ける。
話に聞いた鉄甲船との開戦位置。積み込んだ愛車の計測観測。データで裏付けた行く先を見据え、念じる。
「――波が変わるぞ、ほら!」
陽里がそう告げた直後。本来、海では絶えず寄せている筈の波が――止まった。
マルチフォームサーキット。
乗り物の為の道を作る陽里のユーベルコードの力で、海の上に道が作られたのだ。
波が堰き止められた事で、海の一部が凪いだ中は潮の流れが道となっていた。この海の道の上に船を乗せれば、操船経験が浅い者でも問題なくたどり着けるだろう。
陽里が海の道を作ったのは、先行する自分たちだけではなく、後続の猟兵達の道標にもなればと思っての事である。
「しかし戦のタナボタで他人の物を懐にしまおうとは……セコい考えをするものですね、幕府も」
緑と白。二色の髪を海風になびかせたベルベナが呟いた声が、海に流れていく。
見渡すこの海に、何席の巨大鉄甲船が沈んだろうか。
「そうは言うがな。200メートルとえば、宇宙でも立派な船だぞ?」
そこに口を開いたガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)は、宇宙を股にかける世界での星間武装組織の一人の顔になっていた。
「それだけの大物、海に沈めておくには勿体ないからな……」
「それはまあ確かに」
ベルベナとて、一時は銀河帝国に身を置いた事もある身だ。ガーネットの言い分には大いに頷けるというものである。
「全長200mの巨大船をそのまま、というのは確かに惜しいかもしれませんね」
二人のやり取りを聞いていた有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)が、そこに口を開いた。
「それにそのサイズの鉄の船をそのままにしておくと、海の水質に悪い影響もあるかもしれないでしょうし……」
顔色一つ変えないままだが、夏介はこの世界の環境も憂いている。
その時だった。
「よーし! 着いたぞ! 何もないけど!」
陽里が言うように、何も見当たらない海の上に船が止まったのは。
●海底探査
「サルベージ作業の前に、まずは船を探す必要があるか……」
波に揺れる船の上で、ガーネットは白波を見下ろし考え込んでいた。
「如何せん地球の海は初めてだからな……」
宇宙空間を星の海、と称する事もある。
そちらの海であれば、ガーネットは今まで何度も操縦してきたのだが。果たして宇宙での操船技術が、エンパイアの海の中でどれほど活かせるのだろうか。
「ま、やるだけやるか――勇敢なる騎士たちよ、今ここに集え!」
ガーネットが掲げた手の上に、幾つもの小型自律スペースシップ『ブレイカーシップ・ブレイブナイツ』が集まってくる。
「海中探索、行って来い!」
ガーネットが掲げていた手を海へと向けるのを合図に、計48の小型宇宙船が海に飛び込んでいった。
Small、Space、Ship――差し詰め、SSS48とでも呼ぼうか。
さておき、鉄甲船が何処に沈んだか確かめるには、数を使うのは有効な手段だろう。
ここに船が沈んでます、と目印が浮かんでいる筈もないのだから。
「ん? 見つかったな……いや、しかし……これは……」
やがて、スペースシップからの連絡を受信したガーネットが、表情を曇らせる。
「思いの外、深いところに沈んでるな」
深かったのだ。
ガーネットの小型艇が鉄甲船を見つけたのは。
考えてみれば、沈んでいるのは全長200mほどの船である。それが海中に消えているとなれば、相応の深さはある場所だろう。
(「この深さ……合体で届くか」)
疑問を抱いたガーネットの隣と背中で、誰かが水に飛び込んだ音が二つした。
飛び込んだのは、夏介とベルベナだった。
夏介は手にロープを持って、ベルベナは危険物を両手に、海の底――横たわる鉄甲船の方へとぐんぐん進んでいく。
次第に明るかった海の中から太陽の光が消えて、海が暗くなっていく。消えたと言うよりも、届かなくなったのだ。
そんな陽の光が届かぬ深さの中で、鉄甲船が二人を待っていた。
夏介は帆柱と舳先に持参したロープを結びつけ、それを手に持って浮上していく。
(「ここと……もう少し下にも……」)
一方、ベルベナは鉄甲船に辿り着いてもすぐに浮上せず、船の周りを泳ぎ周り、ベルベナは船体の下の海底に持っていた物を埋め込んでいく。
(「このくらいですかね」)
数が少なく威力が足りないだろう。かと言って、衝撃が大きすぎては元々壊れかけている船体を更に破壊してしまう事になりかねない。
(「これで、最後にしときましょう――着火!」)
そのギリギリのラインを判断して、ベルベナが胸中で呟いた瞬間。
その姿が消えて、海の中に光が溢れた。
●深海だってなんのその
ざばぁっ!
大きな水音を立てて、ロープを片手に夏介が船に上がって来る。
「結んで来ましたよ。準備完了です」
二本のロープの内、片方は夏介自身が持ち、もう1つは陽里が舵を預かっている船の船尾に結びつける。
その準備が終わったそこに、船の上からベルベナが飛び降りて来た。
「これから少し船が揺れますので、何かに掴まっておいて下さい。転覆するほどの波は出ないと思いますけど」
なんて、ベルベナが少し物騒なことを言った直後。
海面がぶわぁっと浮かび上がる。
更に遅れること数秒、ドドンッと大きな爆発音が続いた。
ベルベナが船と海底の間に仕込んだのは――機雷だったのだ。
それらをユーベルコード【微塵隠れ】でそれらを一気に爆発させたのだ。
爆発の衝撃で海底の岩から外し、対流を起こす。
それに寄って生じた浮力が――巨大鉄甲船を、海底からふわりと浮き上がらせた。
「ブレイカーシップ、合体!」
海面に現れた爆発の気配を見て、ガーネットは小型艇を全て合体させていた。
ただ合体させて大きなスペースシップにするのではない。一部の機体でクレーンとアームを形成した、船体に48と描かれたサルベージシップにしたのだ。
「よし、いくぜ皆! 吹かせ相棒!」
陽里も船尾に付けたライに指示を出して。一輪の車輪がスクリューの様に回って、安宅船を進め始める。
「……いきます」
夏介はすぅっと大きく息を吸い込んで――ぐぐっと、ロープを持つ腕に発揮させた怪力を込める。後は思い切り、ロープを引くだけだ。
サルベージ船のクレーンが伸びて、浮上中の鉄甲船の船尾を掴んだ。
二本のロープが違う方向に引っ張る事で、互いにかかる重さを分散する。
一見バラバラに見えて、ロープの数、支点、位置や重心、こちら側の重量など、陽里の提案で計算してタイミングを合わせている。
下から押し上げる力と、上からの引き上げる力。
二つの力が、鉄甲船を浮き上がらせる。
だが――。
「ん? っと!」
夏介の手に伝わる重さが、突如一気に重くなった。
「のわっ!?」
ガーネットのサルベージ船も、クレーンが引っ張られてガクンと大きく揺れる。
下から押し上げていた、爆発の浮力。
それが半ばで――尽きかけてしまっていた。
ベルベナが起こした爆発だが、その衝撃は海中全体へと伝播してしまっていた。爆発の全ての力で、船を押し上げていたのではない。
また、メカニックとしての知識があるが故に、ベルベナは船体にこれ以上傷を付けないようにと考えていた。それ自体は良い配慮である。
だが、船体に負担をかける覚悟で爆発物をつけていれば、今以上に上昇の推力は得られていたかもしれない。
「ライのエンジンは持っても、船体が持たねえか」
「くっ。ブレイカーシップ、耐えろ」
ライの操る安宅船と、ガーネットのサルベージシップは、共にすわ転覆かと言うすれすれまで大きく傾きかけていた。
ベルベナが念動力で安宅船を、ガーネットは自身の念動力で、それぞれ支えている。
こうなったのはどちらも、ひとえに船体の重量差である。
この世界の安宅船は言うまでもない。ガーネットのサルベージシップも、小型艇の一部でクレーンを形成したことで、単純に合体させた時より小さいのは否めない。
そこに鉄甲船と水の重さが加われば、重量負けするのも無理はない。
ズッ、ズズズ………ッ。
夏介の掌から、ロープが滑り出ていく。
再び沈みそうな鉄甲船にロープが持っていかれるのを何とか止めようと、夏介は引っ張る腕に力を込める。
(「海に垂らしたロープを、力に任せて引き上げるこの感覚――」)
夏介は、その感覚が何かに似ていると感じていた。
放っておけば海底に戻っていこうとする、ずしりとした重さ。
海流の影響で、左右にも揺られる。
それらに負けずに、力で引き上げる。
「……これは、まるで釣りですね!」
釣り上げる対象は魚ではない。
生き物ですらない以上、相手が疲れる事もあるまい。
それでも。
「釣りだと思うと、少し楽しくなってきました」
夏介は真顔のまま笑みの一つも浮かべずそう言って、ロープを手繰り寄せ続けた。
二隻と一人がギリギリのところで支えたおかげで、ある程度沈んだところで、鉄甲船は中性浮力の状態になり、それ以上の沈下は止められたのだった。
沈んだ鉄甲船を発見し、半ばまで引き上げる事に成功した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エルト・ドーントレス
連携・アドリブ歓迎
POW
沈没船の引き揚げ作業か…
気密の利いたレッキスなら水中作業もいけるだろう
作業効率を上げるためにスクリューユニットをつけておくかな(防具改造
やることは単純
潜って対象物にアンカーを撃ち込み、陸上で巻き上げる
小物なら一人でも十分対応できるけど、問題なのは原型そのままの大物をどうするか
牽引用のワイヤーロープを複数用意して、接続は俺が、牽引は応援の人員に頼むのが妥当なところかなぁ
牽引役の負担を減らす方法として、対象を空気の膜で覆うことで水の抵抗を軽減させるって案がある
効果の程はわからないけど、UCの流体操作を使えば実行自体は可能だ
兎にも角にも、慌てず焦らず安全作業で行きますか
照宮・篝
私自身は、大した事はできない…
でも、役に立つものを創る事なら、ちょっとは!
【楽園の土】で、足りない道具があればその場で作る(アート)
職人ではないから、複雑な機械は難しいけれど…材質や強度は、問題ないはず
本命は、「魚人」だ
楽園の土で「エラ呼吸をする人型」を作り、【ゴッド・クリエイション】で人並外れた筋力を与える
もちろん、水に強い材質にするぞ
あとは、人並みの能力で大丈夫だろう できればそれを複数創る
さあ、海中の力仕事を手伝ってやれ
道具が必要なら、また造ってやるぞ
真守・有栖
なーるほど???
おにく喰らわばほねまでがぶり、と。そーゆーことね!
えぇ、潜狼たる私にお任せあれっ
まるっと!わおんと!引き上げてあげるわ!
たっくさん回収するもの!
風早屋の千石船で向かうわ
それじゃ、いってくるわね!どぼんっ
(……んんん???)
(とっっってもでっかい残骸じゃない!?ずっしりじゃないの!!?)
(こんなのどうやって……いえ、狼に不可狼はないわ!たぶん!)
(今こそ、ぱわふるうるふでわおーん!よ。いくわよ!!!)
おっきな鉄の塊を抱えて、ふんす!と!
あっぷあっぷでわっふわふになろうとも!!
狼の意地と気合と覚悟と根性と踏ん張りと頑張りで、不可狼を可狼にしてみせるわ!みせるの!!みせてやるわ!!!
木元・杏
【かんさつにっき】
鉄は沈む(こくん
わたしも沈む
ルシルも沈む……(頷く
満潮時でも沈まない浅瀬を燧島の姫さまに教えてもらい
波の穏やかな時刻に開始
UC発動
うさみみメイドさんズ、島で借りた縄、船にかけて?
まつりんの命綱しっかり持って
鉄は……浮いたー(間欠泉眺め
綱引きの要領で浅瀬に引っ張り降ろす
鉄甲の裏、金塊とか隠してない?
島の人や村上水軍の亡霊さんに情報収集
ん、船内探索
何かあるかな?
鉄甲船の上で少し休憩で海を眺め
姫さま達も皆も休も?
亡霊さんもいる?
瀬戸内海は多島海…きれい
村上水軍、燧島の人達
この海に生きた、これからも生きてく
その人達と一緒にこの海を見る
とても大切な一時
戦争もあとひとふんばり
この海、守る
城島・冬青
【アヤネさん(f00432)と】
戦争中だけどなんだか宝探しみたいですね
小判とか落ちてないかな?
あ、ネコババはしませんよ!決して
アヤネさんの指示で引き上げ作業を進めていきますよ
水着を着用し
以前教えてもらったダイビングを思い出しながら潜水していきます
しかし戦争中のサムライエンパイアでダイビングすることになるとは…
UCクラーニオ・コルヴォを使い残骸を海上へと引き上げていきます
引き上げに邪魔なら帆柱とかはUCでバッサリ切っちゃいますね
あ!戦ってる時はあまり気付きませんでしたがゴージャスな装飾もされてたんですね
この部分は金…でしょうか?
さすが富子さんの装甲船!見た目にも拘ってますね
色々と活用出来そうです
アヤネ・ラグランジェ
【ソヨゴf00669と】
サルベージに必要と思える品々はUDCアースから持ち込む
直接潜水して作業を行おう
装備はシロイルカに積んである
ダイビングは少し前にソヨゴに教えたからいけるネ?
水深はそれほどないはず
潜って船体を確認する
一度に引き上げるには大き過ぎるかな
帆柱などは不要だから切ってしまってもいいかもしれない
船体の固定だけなら僕のUCで対応できそうだけど
あとは引き揚げるための物理的な力が必要だ
滑車とワイヤーと人力?
燧島から地引網みたいにして
小判とかはあるかもしれないネ
拘りを感じる品が目に付く
価値のありそうな物は予め水上に持って行こう
本体を引き上げる際に落ちてしまうかもしれないから
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
餅は餅屋、船の事なら船乗りに聞けってね
サモニングガイストで先日見た『村上水軍の亡霊達』を召喚
呼び声に応えてくれたら嬉しい
専門家として頼りに出来たら有難いし
彼らの船が再び船として動き出す瞬間を共に祝えたらって思うから
召喚出来たら
引上げの助言と操船を依頼
船の特徴や操船のコツも教えて貰いつつ作業するね
この船の裏話や隠し機能もあったり?
彼らの中に海に生きた者の誇りを感じたら
ひっそりと尊敬の念を抱いたり
水軍さん達の事、燧島の皆にも紹介したい
土わらしも亡霊も物の怪だけど怖くないし
気が合う、かも?
船、大切に使いたいね
作業後は水軍さん達にもお礼を
願いとかあるのかな?聞いてみるよ
※アドリブ歓迎
木元・祭莉
【かんさつにっき】!
燧島のみんな(センターは風早屋さん)にご挨拶!
こないだはありがとねー♪
ところで、沈没船の引き上げ現場、見に行かないー?(にぱー)
このあたりかな?
同行した人に、この前の戦いを尾ヒレ付けて語り!(パフォーマンス)
アンちゃん、これ持っててー!(命綱の端っこ渡してどぼーん)
海底探索!
遠いので、たまこ呼ぼっと♪
わ、すっごい勢いで沈んでいった!(ロボだし)
何か見つけたら、壊す前に持ってきてねー♪(自分は浮き輪で現場監督)
地均しヨロシクっ♪
おー、水柱ー♪
この船、村上水軍の人たちがね……って、あれ?(亡霊さんにぺこり)
姫様、水軍の子孫?
優先使用権とか主張してみる?
ハイ!(○だけ書かれた旗)
シリン・カービン
【かんさつにっき】
・船を海底から浮かせ、人海戦術で引き上げる。
1)牽引準備
小太刀が召喚した村上水軍の亡霊の助言を受け、
牽引用のロープを結んで行きます。
取り付けの手際はさすがですね。
2)海底整備
島へと続く海底の状態をチェック。
岩礁等はメカたまこに壊して貰います。
3)船体離床
海上の小舟から【エレメンタル・ファンタジア】を発動。
船の下に『間欠泉』を発生させて海面まで吹き上げます。
4)牽引
海を割って現れた船をうさみみメイドさんや真琴の祖父母に
ロープで引いて貰います。
間欠泉は位置を変え浅瀬まで船を浮かせます。
引き上げた船の上、山吹色のお菓子を摘まみながら
皆と眺める瀬戸内海は、最高ですね。
アドリブ・連携可
琶咲・真琴
【かんさつにっき】
沈没船をサルベージ!
トレジャーハンターさんみたいですね
姉さんが呼び出した幽霊さんたちに挨拶
お世話になります
ボクは泳げないので
海の中には入れませんが
人手を増やすことはできます(UC発動
増えたお祖父ちゃんたちの3分の1を海に派遣
お祖父ちゃんたちは防水加工されているので、水の中に入ってもへっちゃらなのです(オーラ防御
メカたまこさんと一緒に障害物を取り除いてもらいましょう
わぁ、間欠泉!
間近で見るとすごいですね
陸に引き上げる時はお任せを!
お祖母ちゃんたちと一緒に縄を持って引っ張りますよー(グラップル・怪力・念動力
杏姉さんも船の中を探検です?
こっちは何かないかな
アドリブ歓迎
●燧島にて・弐
時は少し遡る。
「皆。こないだはありがとねー♪ 特に風早屋さん」
出迎えてくれた燧自慢関係者一同に、木元・祭莉(サムシングライクテンダネスハーフ・f16554)にぱっと笑顔を向ける。
「はいはい。また船ですね」
その中央にいた廻船問屋は、聞かれる前にそう返していた。
既に他の船に乗り込んだバイク乗りと竜人がニヤニヤしながら向ける視線が、風早屋の背中に突き刺さっているのはさておき。
「うん、船はありがと! それで――沈没船の引き上げ現場、見に行かないー?」
「はい?」
にぱっとした笑顔のまま祭莉が告げた言葉に、風早屋は首を傾げた。
「例の船が沈んでいるのは、かなり沖合の深いところじゃ。妾も風早も、行っても何も力になれんと思うぞ?」
「でも島と海のことはくわしいよね?」
同じく首を傾げた朔八姫に、木元・杏(ぷろでゅーさー・あん・f16565)が、じっと目を見て告げる。
「鉄は沈む。わたしも沈む」
「……ボクも、沈みます」
こくんと頷き杏が告げた言葉に、琶咲・真琴(今は幼き力の継承者・f08611)もおずおずと手を上げて同調を示した。
「ふむ。そなたは?」
「琶咲・真琴。私の弟よ」
初めて見る顔に気づいた朔八姫の問いに、鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)が姉として紹介する。
「ふむ。小太刀のしま――おとうとぉ!?」
朔八姫がこれ以上ないくらい目を丸くしたのも、無理はない。
振り袖付きの和風メイド服(膝下15cm)を着た真琴の外見は、どう見ても朔八姫に近い年代の少女なのだから。
「あ、やっぱりそう言う反応になったわね」
思わず呻く小太刀の後ろで、真琴は慣れた様子で黙って微笑んでいる。
「では……まさかそちらも弟?」
「いえ、違います」
弟ショックが抜けずに軽く錯乱してるっぽい朔八姫の言葉を、苦笑を浮かべたシリン・カービン(緑の狩り人・f04146)が手をぱたぱたと否定する。
「それは失礼したのじゃ。髪の色が似てたから、つい」
「私はシリン。親しい仲間ですが、そも種族違いますし」
ぺこりと頭を下げる朔八姫に、シリンは長い耳を示した。
さて。話が大分脱線したが、鉄甲船を海底から引き上げたとして、海の上にそのまま放置は出来ないだろう。
既に沈んだ船だ。また沈むに決まっている。杏の『鉄は沈む』と言う言葉は、そう言う意味であった。決してカナヅチアピールではない。
「満潮でも沈まない浅瀬か、波の穏やかな浜とかあったら教えて欲しい」
「私も考えはあるけど、現在の島を知る人にも来てもらった方が良いと思うの」
「成程。そう言う事なら妾が行くのじゃ」
「では私も行きましょう」
杏と小太刀の言葉に、朔八姫と風早屋が頷く。
こうして、猟兵八名と島民代表二名が二隻の船に乗り込み――そして、現地に付く頃には、冬眠代表二名は、船酔いで死んでいた。
●そして現在
そうして二隻の船と、一台の水上バイクで、新たに猟兵が10名。
引き上げ真っ只中の海に合流した。
「丁度いいところに来てくれた」
先行していた赤髪の猟兵が、見知った顔もいるのに気づいてサルベージ船から降りて状況を告げる。
「というわけで、此処までは何とかなったのだが」
ここまで、と指差す海を見てみれば、半ば引き上げられた鉄甲船の巨大な影が、船からでもうっすらと見えていた。
●レッツ潜水
「沈没船……引き上げ始まってて、まだ影が見える程度か。結構深いな」
巨大な影が見える海を船から見下ろし、エルト・ドーントレス(灰色の雷光・f14009)が半眼で呟く。
その傍らにある愛用の高機動型パワードスーツPSX-03R『レッキス』には、普段と異なるユニットが付けられていた。
「移動中にスクリューユニット、付けといて良かった」
船の甲板に『レッキス』を出して、その足元にしゃがみこんだり背中に回ったりと、改造に勤しむエルトの姿が見られたそうな。
「ま、未だ深いとは言え、気密の利いたレッキスなら水中作業もいけるだろ」
慣れた様子で『レッキス』に乗り込もうとするエルトの横を、黒とオレンジの髪をなびかせた白い機体がすいーっと通り過ぎる。
「さて。シロイルカから機材降ろさないとネ」
「一旦、船に乗せてもらいましょうか」
船の横にふわりと止まった水上バイク『シロイルカ』から、アヤネ・ラグランジェ(颱風・f00432)と城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)が船に乗り込んだ。
「ソヨゴ。少し前に教えたダイビングは覚えてる?」
「大丈夫――だと思います!」
シロイルカの荷台から取り出したのは、UDCアース製のダイビング器材。
酸素の入ったタンク2本。レギュレーターとBCD。ゴーグルにフィンなどウェットスーツ以外の一式である。
(「あちらはダイビングか……」)
レッキスの中からその様子を眺めていたエルトは、ふむと頷く。
深度的に大丈夫かな、とは思うが、猟兵なら大丈夫だろう。
それよりももっと気になるのが――。
「潜狼たる私にお任せあれっ! まるっと! わおんと! 引き上げてあげるわ!」
船の舳先に立った真守・有栖(月喰の巫女・f1517)が、水着姿で銀の尾をもっふもっふと左右に振っているではないか。
おいっちにー、と準備体操らしい動きをしている。
(「素潜り……? いや、まさかな?」)
なんてエルトが見ていると、有栖の準備運動が終わったようだ。
「たっくさん回収するもの! 行ってくるわね!」
言うが早いか、有栖は勢い良く海に飛び込んだ。
(「素潜りだった……!?」)
もっと大丈夫かな。まあ、猟兵なら大丈夫なのかな。大丈夫なんだろう。
(「ま、いいか。俺は死なない程度に慌てず焦らず安全作業で行きますか」)
そう結論づけると、エルトはレッキスを操作して海に飛び込んだ。
「戦争中だけどなんだか宝探しみたいですね。小判とか落ちてないかな?」
「小判とかはあるかもしれないネ」
既に興味が海に向いている冬青に、アヤネは笑って頷き返す。
二人共、水着の上からタンクを背負ってダイビング器材を装着済みだ。だが、海に入る前に互いに相手の器材をチェックするのはダイビングの鉄則。
タンクから空気は出ているか。
先ずレギュレーター。これは水中での呼吸を支えるもの。ちゃんと空気が出て吸い込めるか、確認は必須だ。予備のオクトパスも。
BCDと言うベストは、タンクを固定する他に、中に空気を入れて浮力を調節する役目も持っている。その辺りの機能の確認も忘れてはいけない。
空気の残量も確認し、二人は船の縁に並んだ。
当然だが、海面良し。他に誰もいない。
二人同時に、船の外へ大きく歩くように一歩足を出して――ドボンッ!
船から飛び降りた勢いが二人の身体を髪の先まで海の中に沈める。
BCDのインフレーターで中の空気を調節しながら、アヤネが冬青に先行する形で、二人はゆっくりと引き上げ途中の鉄甲船を目指して潜っていった。
●神の力
「皆、どんどん飛び込むものだな」
他の猟兵達が次々と飛び込んだ跡が波紋と残る海を見下ろし、照宮・篝(水鏡写しの泉照・f20484)は赤い瞳を瞬かせる。
「私は海に潜ったりは不得手だけどね」
神の身であれ、得手不得手はあるものだ。
「役に立つものを創る事なら、ちょっとは、ね」
篝がその手に握る、一握の土。
とは言え、この局面で持つそれがただの土である筈がない。それは人でも、霊でも、黄金すらも造り出す力を持つ楽園の土だ。
楽園の土で、篝が創ろうとしているもの。それは――。
「生まれろ――!」
篝の掌の上で楽園の土が光を放つ。
光の中から生まれ出ずる、二体のヒトガタ。
それが人でないのは、背中や手足にあるヒレと、喉元のエラが物語っていた。
そう――魚人のヒトガタである。
「うーん……まだ同時に作れるのは、こんなところか」
もう少し数を作りたかったが、今の篝では二体だった。
もっと数を召喚や創造のユーベルコードからすれば少ないと思えるが、そもそも、篝はまだユーベルコードを使っていないのだ。
「まあ、足りなければ追加で創れば良いか」
そう言うと、篝は常に持っているランタンを、二体の土の魚人に向けて掲げる。
「さあ――動き出すが良い」
篝が告げると、ランタンから光が溢れ、土の魚人達を照らし出す。すると二体の魚人の肌が、青光る魚に似た鱗を持つものへと変わっていった。
ゴッドクリエイション。
創造物に生命と、何か一つ人を超える力を与える神の力。
今回、篝が与えた人を超える力は筋力である。
「よし。海中の力仕事を手伝ってやれ」
篝の指示で海に飛び込むと、魚人達はその筋力で海水を掻き分け、ぐんぐん鉄甲船へ向かっていった。
●村上水軍再び
「お願い――応えて」
祈るように指を組んだ小太刀の前で、海の上から光が立ち昇る。
サモニング・ガイスト。いつもなら小太刀が喚ぶ霊は、お調子者で妙にネットにも詳しくなった謎の鎧武者の『オジサン』なのだが――今回は違った。
鎧武者には違いない。だが霊の姿は軽装で、額に巻いた鉢金には丸に上の字が彫られている。
「村上水軍の人――よね?」
『いかにも。村上通康である』
「姉さんが、お世話になります」
小太刀の問いに霊が返した名前に、ぺこっと頭を下げた真琴以外の何人かの瞳がキランと輝いた気がしたが、それはさておくとして。
「あなたを喚んだのは、相談があるんだけど――』
通康と名乗った村上水軍の霊に、小太刀は状況を説明していく。
「引き上げの助言とか、操船のコツを教えて貰えないかしら。餅は餅屋、船の事なら船乗りに聞けってね」
『鉄の船? 儂が生きてた頃に、そんなもんなかったぞ』
小太刀の頼みに頷いて、通康の霊は船から海を覗き込む。
一つ、小太刀の当てが外れたのは、どうやらこの通康の霊、日野富子に使われた記憶は持っていないようだ。富子に召喚されたのとは別の霊なのか、記憶がないのかは定かではないが。
『あの影、鯨よりもでかいんじゃねえか? さて、どうしたもんかねぇ』
UDCアースでは世界最大とされるシロナガスクジラでさえ、体長は34mほどである。シロナガスクジラの6倍以上といえば、鉄甲船の規格外の大きさがおわかり頂けるのではないだろうか。
海賊の霊すら驚く、鉄甲船の巨大さ。
それに、水中で一人の猟兵が驚いていた。
(「……んんん???」)
素潜りで飛び込んでいた、有栖である。
●縁の下の狼
(「これって、あの時の……とっっってもでっかいおふねの残骸じゃない!? ずっしりじゃないの!!?」)
潜って実物を目にしてようやく、有栖は引き上げようとしているそれが、あの時の巨大鉄甲船だと気づいたようだ。
(「こんなのどうやって……」)
どう見ても、有栖の手足で持ち上げられるとは思えない。
(「いえ、狼に不可狼はないわ! たぶん!」)
だが、有栖はそんな事で諦める性格ではなかった。
(「おにく喰らわばほねまでがぶり!」)
鉄甲船の船底の下に潜り込んで、有栖が船底に両手を付く。
(「今こそ、ぱわふるうるふでわおーん! よ!」)
有栖は船を押し上げようと、足をバタバタ、腕にぐっと力を込める。
ふんす!
(「不可狼を可狼にしてみせるわ! みせるの!! みせてやるわ!!!」)
ふんす!
有栖とて、判ってはいるのだ。これほどの巨大な船、一人では不可能だと。だが、だからどうしたというのだ。
立派な狼であるために、引けない。
狼の意地と気合と覚悟と根性と、何か色々諸々を燃やして。
覚悟と気合だけはかなり高めな有栖は――実は、結構大事なポジションにいた。
何故ならば。
一度沈んだ船は、何処からか空気が漏れていてもおかしくはないのである。ほっておけばジワジワと沈んでもおかしくないのである。
有栖が絞り出した気合は、鉄甲船がそれ以上沈まない為の。そして、他の猟兵が最後の押しの一手を準備する為の時間を作るためのものになっていた。
●下準備
「アンちゃん、これ持っててー!」
「ん」
杏に渡した命綱の端と浮き輪を持って、祭莉が船の甲板を駆ける。
「よっと」
空中で浮き輪を投げると、祭莉はその輪の中にジャボンと飛び込んだ。
(「うーん……まだ遠いなぁ」)
海の中を見てみても、引き上げ中の鉄甲船はまだまだ遠い。
だが、それは祭莉も承知で海に飛び込んでいる。
「よし、たまこ呼ぼっと♪ ――毎日が修業!」
コケーッと言う声が空から聞こえてくる。
空から降ってきた50羽のニワトリ型ロボが、祭莉の周りの海に着水し――ってここ海の上じゃね―か!みたいに鉄の翼をばたつかせるも、虚しく沈んでいくメカたまこ達。
「わ、すっごい勢いで沈んでいく!」
「メカたまこも沈む……」
間近で見ていた祭莉も杏も、思わず一瞬目を丸くする。
そりゃまあ、ロボだし。沈むよ。
だが、それすらも作戦通りである。
「おそうじならメイドさんの出番。いってらっしゃい」
杏の周りには、いつの間にかうさみみメイドさん52体がずらりと並んでいた。
「ボクは泳げないので海の中には入れませんが、人手を増やすことはできます」
更にリアルうさ耳メイドさんな真琴も動く。
「サイキックエナジー、放出。転写…………現像完了。ステータス、オールグリーン――神羅写成・人形乱舞っ!!」
『familia pupa』――真琴の周囲を大抵漂っている片翼の少年少女の人形が、47組計94体まで一気に増えた。
「何か見つけたら、壊す前に持ってきてねー♪ 地均しヨロシクっ♪」
浮き輪に乗ったままの祭莉は、沈みゆくメカたまこたちに指示を出す。
「防水加工するので、お祖父ちゃん達は海に潜ってメカたまこさんを手伝って下さい」
祖父と呼ぶ少年の人形。その3分の1程にオーラを纏わせて、真琴はお祖父ちゃんと呼ぶ人形の群れをメカたまこを追って海の中へと向かわせた。
「そして、うさみみメイドさんは、お掃除ね」
さらにさらに、メカたまこと片翼少年の群れを追って、杏もうさみみメイドさん達を海底へと向かわせる。
その意図と作戦が明らかになるのは、もう少し後の事である。
●海中探索
ゴォォォォォン。
鉄と鉄がぶつかった様な鈍い音が、ゆっくり大きく海の中に響いて、アヤネと冬青の鼓膜を揺らす。
『『?』』
音と震動に首を傾げる二人の姿は、巨大鉄甲船――その中にあった。
だから、今の音が、降ってきたニワトリロボの一体がちょっと流されて船体にごっつんこした音だとは、気づけていない。
二人が何故、鉄甲船の中にいるのか。
その理由は単純だ。
『これは一度に引き上げるには大き過ぎるネ』
と言うアヤネの判断に、冬青も頷いたからである。
先行していた猟兵たちから聞いた話と、実際に潜って見た状況、そして道中で聞いた他の猟兵達の案も踏まえれば。
引き上げに向けて、二人にしか出来ない事をするべきだろう。
それが、海中での船内捜索だった。
このまま海上まで引き上がれば、船内の水が流れ出る。その際、中にあるものも一緒に流れ出てしまう可能性がある。
その可能性を防止するには、海中で回収してしまうのが一番だ。
潜水機材を持ち、長時間の水中活動が出来る猟兵はアヤネと冬青の他にいない。
パワードスーツを着たエルトも活動可能時間では二人に勝っているが、狭い部分もある船内活動にはやや不向きな部分もある。
船の奥にまで入るのに最も適しているのが、アヤネと冬青だった。
(「戦争中のサムライエンパイアで、沈没船ダイビング出来るなんて」)
一度は同種のものに乗った筈の船。
だが、記憶にあるそれとは全く違う様子に、冬青の瞳はゴーグルの中で輝いていた。
(「沈んで間もない船の中、というのも新鮮なものだネ」)
海中と海上では、陽の光の届き方一つとっても異なる。既に船内に入り込んでいる魚もいて、ダイビングでなければ見えない光景に、アヤネも少なからず目を奪われていた。
とは言え、ふたりとも物見遊山になりはしない。
(「戦ってる時は気付きませんでしたが、ゴージャスな装飾もされてたんですね」)
(「ただの軍艦かと思いきや、富子の拘りが見えるネ」)
調べるべきを忘れはしない。
(「あ! この部分はもしかして……」)
壁に掛けられた軍刀の鞘に黄金の輝きを見つけた冬青がアヤネの肩を指で叩いて、壁を指差しホワイトボードに書き書き。
『金じゃないですか?』
『回収しとくネ』
筆談とハンドサインでアヤネと意思確認をし、冬青は壁から軍刀を外す。
(「カラスくんと遊んで下さい」)
冬青の前の空間が、何かが羽ばたいた様に、ゆらいだ。
クラーニオ・コルヴォ――見えない烏(コルヴォ)を放つユーベルコード。
軍刀を咥えたコルヴォは、一足先に海上へと向かっていく。
殆ど金の延べ棒にしか見えない金の文鎮。
黄金の銛。
黄金の釣り竿。
(「亡霊とオブリビオン意外を乗せる予定でもあったのかな?」)
高価なのは判るが何のために船に積まれたのか良く判らないものが、冬青の烏によってどんどん運び出されるのを眺め、アヤネは胸中で苦笑する。
そうしている内に、酸素の残量が少なくなってきた。
二人は泳いできた順に戻って、船の外へと出ていく。船の中に施されている装飾が、迷わない為の目印を兼ねてくれていた。
船から海に出たところで、アヤネがふわりと振り向く。
(「さて――UDC形式名称【ウロボロス】術式起動」)
胸中で術式起動を呟くと、アヤネの影から蛇に似た複数の黒い触手が放たれ、巨大鉄甲船に絡みついていく。
本来敵を拘束する為の業を『船体を補強する』為に使って、アヤネは冬青と共に浮上していくのだった。
●最後の大仕事
ザバッと海の中から、ロボの頭が顔を出す。
正確にはエルトのレッキスの頭部だ。
「よし、船体の補強出来た。中を探索してた二人も、じき上がってくるぞ」
水中での気密性と、スクリューユニットの運動性が最もあるエルトは、海中と海上との連絡役の位置に収まっていた。
特に水中での運動性、機能性の面で、エルトが最適だったのだ。
「では、次は私の版ですね」
かんさつにっき一行が乗ってきた船の横に浮かべた小舟に乗り移ったシリンが、その報告に頷いて小舟の上で膝をつく。
翳した掌を海面に触れさせて。
属性は『海』。
現象は『間欠泉』。
「精霊よ――!」
シリンが精霊に呼びかけると、海中であり得ない水の流れが生まれた。
海底から噴出した水が、海の水自身の噴き上がるのと混ざって、合わさってはより大きな水柱へと変わっていく。
水柱はくっついたり分かれたりを繰り返しながら、鉄甲船の船底とぶつかって――そのまま一気に押し上げた。
『まずは船を海上まで上げるんだな。船ってのは、沈んだら沈み続けちまうもんだ。中の空気なくなってるからな』
小太刀の喚んだ通康の霊が、猟兵たちに示した指針の一つ。
船が浮くのは、中の空気があるからだ。空気から浮力を得ているから、船は浮く。空気がなくなれば、船は沈む。
ならば先ず、空気に触れさせて空気を入れる必要があるわけだ。
とは言え、先行した4人が、海底から浮上させていなければ。
海底に船が沈んだままだったら、ここまで上手くいかなかったかもしれない。
アヤネが、船底に触手を入れて補強する空間がなかったかもしれない。
シリンの間欠泉だって、押し上げる水の流れを下からぶつけるには、ある程度の空間がなければ難しかっただろう。
ザッパーン!
派手な水音と共に、海底から海面への上昇水流に押されて、巨大鉄甲船が浮かび上がってきた。触手にまとわりつかれているけれど。
目を回した有栖も一緒打ち上がってたけれど。
「おー、水柱ー♪」
「鉄が……浮いたー!」
「わぁ……間欠泉! 間近で見るとすごいですね」
海の間欠泉と言う、シリンが行使した精霊の力無しにはあり得ない自然現象に、並んでみていた祭莉と杏と真琴が目を輝かせる。
ついに、ついに此処まで来た。
海底に沈んでいた船を、再び陽の光のもとに出すことが出来た。
後もうひと押しだ。沈まない場所へ運ばなくては。
「しばらくはこのまま、保たせます。皆、お願いします」
エレメンタルファンタジアは、猟兵でも制御が難しい術の一つ。ともすれば暴走しそうな水を押さえながら、シリンが告げる。
ここからは、時間との勝負だ。
「たまこの準備は、いつでもオッケー♪」
浮き輪に嵌ったまま、祭莉がぶんぶん手を振っている。
「よし、うさみみメイドさん。船にロープ、結んできて」
杏の手から離れたうさみみメイドさんが、鉄甲船の船底周辺、あらゆる突起や穴を上手く使ってにロープを結びつけていく。
「そしたら、反対の端を、メカたまこにお届けして」
杏のさらなる指示で、ロープを結び終えたうさみみメイドさん達は、海底でスタンバってるメカたまこ達にロープの反対の端を結んでいく。
「じゃあ、ボクはお祖母ちゃん達と先に浜に行ってますね。引っ張るのはお任せを!」
作戦が順調に進んでいるのを見て、真琴は先行の4人の猟兵達共に、鉄甲船を引っ張る予定の浜へ乗り込んでいった。
「コード実行。パラメータ設定。擬似精霊の生成開始……スルーア、出ろ」
エルトの前に現れたのは、風の疑似精霊、スルーア。
風の、と言うことだがその力の本質は流体操作。
空気の膜を鉄甲船の船体に纏わせる事も出来れば、ここから係留予定の浜までの海流を一時的に操作することも出来る。
――水もまた、流体。
「空気の膜は出来たよ」
「私の魚人も配置に付けた。動き出したら、どんどん押してやれって言い残して」
船の上から顔を出し、篝も告げる。
これで、全員の準備が整った。
「それじゃー……っ……メカたまこ、ごーっ♪」
祭莉が海底に向かって叫ぶと、海底から『コケッコーッ!』と鳴き声が返ってきて――鉄甲船に結ばれたロープが、ピンッと張った。
そのままゆっくりと、船体が動き出していく。
『船で船を引こうってんならやめとけ』
それが、通康の霊が小太刀を通して猟兵たちに告げた、もう1つの言葉。
船で船を引くなら、引く方の船が引かれる船より大きくなければ、それだけで一気に難しくなる。
『この海のど真ん中じゃ難しいだろうし力もいるが、人が引くのが一番確実だ。浮いてるものを引っ張るなら、海の中からも手だぞ。息苦しいが』
嘗ての村上水軍のアドバイスだ。ならばやってみせようではないか。
引っ張る先の浜辺は、朔八姫にも確認して、多少荒れても構わんと許可を得ている。
祭莉がまず沈んだメカたまこにやらせたのは、海底の整備だった。その鋼の嘴で余分な石や凸凹とした地形を削っていく。メカたまこ自身の為に。
そして今やその道の上を、ロープをくくり付けられたメカたまこ達が、猛然と走り出していた。
その力は鉄甲船に伝わって、引かれるままに動き出す。
「精霊よ、もう一度!」
シリンが再び精霊に呼びかけ、再び噴き上がった海水が船を押し出す。
一度勢いが付けば、鉄甲船は少しずつ少しずつ、動く速度を上げていく。エルトの纏わせた風が波との衝突を和らげ、篝の魚人も後ろから船を押していく。
最終的には、鉄甲船は沈んでいたとは思えないほどの速度になっていた。
『コ、コケーッ!』
「出て来たっ!」
波を掻き分け、海の中から出てきた鉄のニワトリ――メカたまこが、真琴の前に飛び出してきた。
「よし。それじゃ――お祖母ちゃんたち! 一緒に引っ張りましょう!」
メカたまこが嘴から離したロープを、真琴の手が掴む。
幼い外見に似合わぬその手に怪力を込めて、真琴は一気引っ張り始めた。片翼の少女の人形もそこに加わり、ぐっ、ぐっと少しずつロープを手繰り寄せていく。
『コケーッ!』
『コケーッ!』
その間にも、メカたまこ達は次々と浜に上陸して来る。
メカたまこが離して引っ張るもののなくなったロープが増えれば、次第に真琴と片翼少女の人形では手が足りなくなる。
だが、薄緑の髪の猟兵や、他の手の空いた猟兵が掴んで引っ張り出した。
そして――最後のメカたまこが上陸した頃には、鉄甲船はついに前にも後ろにも動けない浅瀬に乗り上げられるにまで、運ばれていた。
●名もなき浜にて
「…………――はっ!?」
気を失っていた有栖が目を覚ましたのは、見知らぬ浜辺だった。
ムクリと身を起こせば、周りには他の猟兵と、沈んでいた筈の鉄甲船も同じ浜辺にまで引き上げられていた。
「……も、もしかして?」
何を思ったのか。有栖は自分の両手を、じっと見下ろしていた。
「あ、この山吹色のお菓子、美味しいですね」
「まだまだ改良中」
引き上げた船の上。甲板の縁に腰掛けてシリンは杏持参のお菓子を摘んでいた。
「皆と眺める瀬戸内海は、最高ですね」
「瀬戸内海は多島海……きれい」
シリンと杏の視線が、ついさっきまでいた水平線の方に向けられる。
村上水軍。燧島の人達。
この海に生きた人々も、この海を見たのだろう。
これからも生きてく人々も、この海を見るのだろう。
本来交わらぬ過去と未来が交差した、とても大切な一時。
その意味を、杏は山吹色のお菓子とともに噛みしめる。
「あのー、杏姉さん」
二人と並んで座ってお菓子を食べていた真琴が、おずおずと声を上げた。
「さっきこの船引き上げる時、じっくり見てる余裕なかったんですが……メカたまこさんが、その。最後の数mくらい『海の上を走ってた』様に見えたんですけど」
それはきっと、正面で見た真琴だけが視えていたもの。
一瞬の出来事だったし、錯覚と言う可能性もなくはないが。
「メカたまこなら、そのくらいやりかねない」
こくんと杏は迷いなく頷いた。
何故ならメカたまこだから。
「それより真琴。船の中、探検いかない?」
「探検いいですね! トレジャーハンターさんみたいです」
目を輝かせ船の中に駆けていく杏と真琴を、シリンは笑顔で見送った。
『いやはや。嗚呼は言ったが、本当にこんな鉄の船を引っ張り上げちまうとはな』
「貴方の助言のお陰よ?」
鉄甲船を見上げて感心したように呟く通康の霊に、小太刀が頷く。
『儂はちっと昔を思い出しただけだ。実際にやってみせたのは、現在に生きてるお前達じゃねえか』
だが、それでいいと霊は笑う。
『此処が儂が死んで何年後か何十年後か知らんが、儂は死んでるんだ。今、生きてる若いのを頑張らせねえで、どうするよ』
そして、霊はそれを見れた。故に――。
「残念。燧島の皆にも紹介したかったのに。この島、土わらしって言う怖くない物の怪もいるから、残っても気が合いそうなのに」
『なんだそりゃ。生きてる内に見たかったぜ』
そんな、少しだけ未練を垣間見せる言葉を最後に。
通康と名乗った古代の霊は、小太刀の前から消えていった。
「なんじゃ……霊の御仁は、行ってしまったのか」
そこに、朔八姫がフラフラと歩いて来た。
「姫様って、水軍の子孫?」
船酔いを直す方法を知りたかったんじゃが、と膨れる朔八姫に、祭莉が尋ねる。
「さて。そうであってもおかしくは無いがのう」
「だったら、優先使用権とか主張してみる? ハイ!」
祭莉が朔八姫に差し出したのは、○だけ書かれた旗だった。
大成功
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