エンパイアウォー㉙~邪神転生
●研究施設にて
奥羽地方の戦いが一段落ついた頃、奇妙な施設が発見され内部を調査した猟兵達は驚くべきものを発見することとなった。
魔軍将・陰陽師『安倍晴明』が管理していたであろうそこはまさに外法の玉手箱、もしくは伏魔殿(ふくまでん)と言い換えてもいい。
人の道を外れた者の為す数々の人体実験に調査していた者の中にはしばらくはトラウマが消えない者もでてくる始末だ。
ここで一つの研究が為されていた、それはすでに一定段階までの完成を見その実験体達はすでに奥州の地を散り散りに出立し今頃は全国に散らばっていることだろう。
その研究とは新たなオブリビオンフォーミュラとなるべき『偽神』を降臨させる邪法でありそれを施術された実験体達こそがその寄代なのだ。
わかりやすく言えば『有力なオブリビオンの胎内に、自身も含む魔軍将の力やコルテスが持ち込んだ神の力を宿らせ、その胎内で神を育て出産させる』というまさに悪魔の実験。
『偽神降臨の邪法』は人為的にオブリビオンフォーミュラを産みだそうという、恐るべき実験でありもしもそれが成功したとすれば……。
だがこの邪法にも一つだけ大きな欠点がある。
転生には10月10日の日数が掛かる為、戦争中には間に合わず影響は与えないのだが、問題は戦後のサムライエンパイアに危険の芽を残してしまうことに他ならない。
●鎮守の森にて
「あぁ……なんて甘美なひととき☆」
鎮守の森にある泉で水浴びを済ませた禍津日神は巫女衣装へ袖を通し凜とした表情で天を仰ぎ見る。
奥州よりここまでもかなりの道中を歩いてきた。
絶対に侍などにはこの身に宿した新たな命を害させてはならない。
だからこそ、殺した殺した殺した。
道中声をかけてきた老人を殺した。
食事を恵んでくれた侍を殺した。
一晩の宿を借りた農民を殺した。
「うんうん、しょうがないよね☆」
……だがそれも全ては些細な事にすぎない、至上の御方を現世に生み出すためのそれは気にも留めない細事なのだ。
「あぁ~、十ヶ月先が待ち遠しいな~☆」
彼女は帰ってきた。
彼女が悪へと墜ちる前、封じられていたその懐かしき思い出の地に。
●グリモアベースにて
「なんといいますか次から次へ色々と悪事を考えるものですよね~」
呆れたような表情でグリモア猟兵の村雨・ベルが紙の資料を配る。
「『偽神降臨の邪法』を施されたオブリビオンを発見しそして逃がさず退治してほしいのです」
そう言うと資料に描かれた巫女のような姿をした少女を見えるように前に置いた。
「魔軍将・陰陽師『安倍晴明』の手により悪神へと墜とされそして邪法を施されてしまった元・神様なのですが……」
首を振り彼女を助けるのは不可能だと念を押す。
「オブリビオンは『胎内に宿った神の子』を至上の存在だと認識させらえていますから何としてでも逃げ延びそして身を隠し、無事に『神の子を産む』ために最善を尽くそうとするはずです」
だからこそ隠れ住む場所を特定するのが困難だと思っていたのだが今回はたまたま上手くそれを察知することが出来たらしい。
「この神様が奉られていた神社跡(焼き討ちにあったらしい)がありまして、そこ周辺の鎮守の森の中の何処かにいるはずなのですよ」
深い木々の為に視界は悪く森へと踏み入れば相手の土俵であるというのは理解しておいたほうがいいらしい。
「色々な意味で倒しにくい相手かもしれませんが、よろしくお願いします」
そう言いながら村雨・ベルは皆を転送の準備を始めるのだった。
轟天
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
このオブリビオンは勝利よりも隙を見ては逃げ出そうと考えています。
ご注意ください。
第1章 ボス戦
『善神『禍津日神』』
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POW : 禍津葬砲
【召喚した鳥居から人々の悪意、憎悪、怨恨】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 式神ノ舞
レベル×5体の、小型の戦闘用【式神】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
WIZ : これはアナタが辿る道
【連立する千本鳥居】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:天和
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠宮古・橙華」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
郁芽・瑞莉
過去と成り果てた女性の胎内を利用した、
オブビリオン・フォーミュラの新生なんて悪辣極まりますね……。
子を宿す者を屠るというのは外道なんでしょう。
それでも、サムライエンパイアの未来の為に鬼となりましょう!
相手の攻撃を森の観察で情報収集して相手の攻撃を見切り、
また第六感で感じた危険を残像や迷彩で目測を誤らせて。
ダッシュやジャンプ、スライディングで回避しつつ、
苦無を誘導弾の如く投げて消滅させて。
式神の布陣と攻撃という戦闘情報から相手の位置を特定。
見つけたら一気に距離を詰めて先制攻撃のなぎ払いで防御を砕き、
2回攻撃の2回目は早業で砕いた防御を抜いて串刺し、
衝撃波で傷口をえぐるわ。
アドリブ・絡み歓迎です!
相馬・雷光
悪趣味、なんてもんじゃないわね……
【目立たない】ように【忍び足】で近寄るわ
逃げやすそうな方向にあらかじめロープとかを使って罠を仕掛けておくわ(ロープワーク・罠使い)
射程内に捉えたらヴァジュラブラスターで雷撃弾(属性攻撃・暗殺)!
子供を産みたいって気分、分からなくもないわ
でもまぁ、必要なら赤ん坊でも妊婦でも容赦なく殺すわよ
だって忍者だし
逃げようしたら周囲の木々を撃って倒壊させて道を塞ぐ(破壊工作・地形の利用)
すかさず【ダッシュ】で【追跡】!
忍者から逃げられると思ってんの!
呪いをぶっ放してきたら【全力魔法】【破魔】【一斉射撃】【帝釈天降魔砲】!
雑な無差別攻撃……一点集中でブチ抜いてやる!
●
鎮守の森に転送されその荘厳な雰囲気を感じつつそれぞれに猟兵達は行動を開始していた。
森の奥を周回してきた相馬・雷光(雷霆の降魔忍・f14459)は準備は万端とばかりに邪悪な気配を感じる方へと足を向ける。
だが足音や気配は雷光からは感じられない、ここからは忍の戦いの時間なのだ。
すでに戦いは始まっていた、水浴びを終えたばかりの『禍津日神』へと音も無く苦無が放たれたがそれは命中することなく避けられてしまう。
「いきなり武器を投げるとか危っぶなーい☆」
袖で口元を隠しつつコロコロと笑い少女のような元・神様はその投げた相手を睨みつける。
「過去と成り果てた女性の胎内を利用した、オブビリオン・フォーミュラの新生なんて悪辣極まりますね……」
茂みの中から姿を現した郁芽・瑞莉(陽炎の戦巫女・f00305)はそう言いつつも不用意には近づかない。
なぜならば……。
「式神達に、遊んでもらうといいよ☆」
声は軽く笑っているが目はどこまでも冷たく瑞莉を追い続けている、このような相手がただ待っている筈が無く水辺に浮いていた符から次々と式神が生まれ瑞莉を包囲いし迫ってくる。
その爪が瑞莉を切り裂いたかに見えたがそれは残像、そこにいるよう迷彩で見せかけていたのだがそこへ苦無が不可思議な軌道で次々と式神へと突き刺さり消滅する。
「雷霆の降魔忍、参上!」
突如背後から宣言と共に『禍津日神』の背を雷撃が複数襲いかかる。
黒と鋼のヴァジュラブラスターを構えた雷光が容赦なく何発も雷撃弾を放ち続けそれらの半数は式神が間に割り込み相殺されていく。
(悪趣味、なんてもんじゃないわね……)
目の前にいる少女のような神様を見ながらその瞳は悲しさに澱んでしまう。
セイメイの邪悪な研究らしいのだが正直、雷光はどちらの気持ちもわからないではない。
(子供を産みたいって気分、分からなくもないわ……でもね私は忍者。必要なら赤ん坊でも妊婦でも容赦なく殺すわよ!)
「うーん、2対1とか卑怯だぞ君達☆」
困ったような仕草をしているがきっとそれもまた演技、今もまたここからどうするのか考えているに違いないのだ。
不意に駆け出し茂みの中へと姿を消した、間違いなくこの場を逃げそして姿を隠す気なのだ。
「待てっ!」
そう追いかけようとした雷光は目の前の茂みから突如鳥居が真上へ伸びていく不可思議な光景を目撃した。
「何でしょうかあれは!」
「見るからに怪しいよねっと……因陀羅耶 莎訶(インダラヤソバカ)!)
瑞莉が身構える横で雷光が急ぎ印呪を結び謎の鳥居を指差した。
完全に姿を現した鳥居から人々の悪意、憎悪、怨恨などが溢れ二人へと迫り来る。
だがその前に雷光から強烈な雷霆が放たれ鳥居へと襲い掛かった。
「帝釈天降魔砲!!」
雷鳴が轟きこの世のものとは思えない怨恨の声が響き渡り正面でぶつかり合う。
それは徐々に鳥居へと押し込んでいきそして爆音と共に鳥居が砕かれた。
「ぜぇ……ぜぇっ 私はいいから早く追って逃げられるわ!」
「はいっ、ここはお任せです!!」
全力を出し尽くし息を荒げる雷光を残し瑞莉は迷わず茂みへと飛び込んだ。
全力で駆けそして足元を払う式神を飛び越える、そして今度は首を刈るように薙ぐ一撃をスライディングですり抜けるとすれ違いざまに投げた苦無が次々にそれらに刺さり一撃でただの符へと姿を戻す。
(この配置から推測しますと……)
瑞莉の脳内で俯瞰した視点から式神の位置を考えればどちらに敵がいるかは明白だ。
斜め前に突き進み飛び出した少し広い場所を逃げようとするが、事前に雷光が仕掛けたロープで動きが制限され走りきれない『禍津日神』の背中が見えてきた。
(子を宿す者を屠るというのは外道なんでしょう……ですが、それでも、サムライエンパイアの未来の為に鬼となりましょう!)
霊刀「秘幻」で指の腹を少し切り血を刃に吸わせそして呪言を唱える。
「我が盟友である秘幻に願い乞う。我が血を以って封を解き、我と合一し力の全てを与え給え!」
「我が主にして盟友が瑞莉の願い、承知!」
血の盟約に従いそのスピードが急速に高まると一気に広場を駆け抜け薙ぐように刃を振るう。
咄嗟に手で防御しようとしたようだが刃の勢いにそれは弾かれ胴ががら空きになったこの瞬間を逃す事はない。
最速の突きが『禍津日神』の脇腹に突き刺さり血が噴出した。
「きゃあああああ!?」
だが容赦などない瑞莉がさらに衝撃波を放ち傷口をさらにえぐる、苦しみながらよろける所へ瑞莉の背後から追いついてきた雷光の雷撃弾が命中しさすがの『禍津日神』もその場へと片膝をついてしまった。
「コロスコロスコロスコロス、至上の御方の誕生を邪魔する者は皆天罰覿面じゃー!」
鎮守の森に狂気を孕んだ叫びが響き渡った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
加賀・琴
安倍晴明の手により悪神へと墜とされそして邪法を施されてしまった元・神ですか
……祀る神は違えど神職、巫女としては複雑ですね
まぁうちの神社で祀り鎮めているのはそもそも善神ではありませんが
とはいえ、厄災の訪れを見過ごすわけには参りません
御身もまた取り返しのつかない堕ちた身であれば、ただ祓わせていただきます
逃がしは、しません
【神域結界・千本鳥居】で八百万の鳥居による結界を張ります
堕ちたる御身は、この結界に阻まれ惑わされる穢れなのです
私達に対する怨み辛みは甘んじて受けましょう。ですが、それでも御身を此処で討つのは譲れません
せめて御身が少しでも穢れを祓われ逝けるように【神楽舞・荒魂鎮め】を舞います
●
そこは巫女である加賀・琴(羅刹の戦巫女・f02819)にとっては本来は汚すことなど許されない神の聖域鎮守の森。
この地で昔何があったのかは詳細はわからない、だが神社も焼かれてしまえば鎮める者の途絶えてしまい神は祟神へと変貌する。
西洋の神々とは神という概念そのものが違うということは意外と知られていない。
「安倍晴明の手により悪神へと墜とされそして邪法を施されてしまった元・神ですか……」
焼かれてしまった神社跡はかつては荘厳であったであろう空間にただただ空しさを教えてくれる場所へと変貌していた。
(……祀る神は違えど神職、巫女としては複雑ですね)
琴は心からこれには心を悲しませていた、鎮める者のいなくなった祟り神がどうなるかなど神職であれば誰でも知っていることだ。
「ですから……」
心静かにと自分自身を落ち着かせつつ大幣をゆっくりと目の前で座り込む『禍津日神』へと向け鈴を鳴らした。
「御身もまた取り返しのつかない堕ちた身であれば、ただ祓わせていただきます」
「あは☆ そこはボクを見逃してくれるんじゃないんだね☆」
傷ついた身体に鞭を打ち立ち上がるとわざとらしくふらついて見せる。
だがこれもまたオブリビオンの策の一つ、どんな手を使ってでも逃げ出し生き延びることこそ彼女らが与えられた指名の一つ。
そう……死んでしまっては意味がないのだ。
「もちろんです、厄災の訪れを見過ごすわけには参りません」
凜とした声でそれに応えると琴は絶対に逃がすつもりはないという意思表示にさらに近づこうとする。
「むぅ~そんな怖い顔して、殺しちゃうぞ☆」
突如地面から何本もの鳥居が姿を現し始める、千本鳥居は次々と琴に向け建立し始めるがこちらも負けてはいない。
「此より先は穢れたる邪悪は立ち入れぬ神域、この境界たる結界で惑い続けなさい!」
琴が使うのは『神域結界・千本鳥居』
奇しくも互いに千本鳥居を呼び出すという光景に神社跡はまさにカオスな光景である。
赤い鳥居と石の鳥居、双方がぶつかり合い砕け合う音がそこら中で響き渡りまさに千日手な状態に陥った。
だが互いの千本鳥居には少しばかり差があった、『禍津日神』の千本鳥居はその物がウェーブのように襲い掛かり傷つけるものであるのに対し琴の千本鳥居は全てを包み込む結界そのもの。
「堕ちたる御身は、この結界に阻まれ惑わされる穢れなのです」
「なんの、神を前に墜ちたるとは何と不敬、そして傲慢!」
神気が増したのか口調におどけた雰囲気が掻き消え少女の姿をした祟り神が黒い憎悪を奮わせる。
「私達に対する怨み辛みは甘んじて受けましょう。ですが、それでも御身を此処で討つのは譲れません」
「言うか小娘ーつ!!」
怒りに震えるがその場から動けないのも事実、どう逃げようかと迷うころには琴がさらなる行動を実行に移していた。
「荒ぶる神に舞い奉ること恐み恐みも白す」
足を踏み込み鈴を鳴らす、神楽舞を舞い始めた琴の周囲に神気が満ち始めそれは『禍津日神』に触れればその内部にまで浸透しそして邪悪な祟りを鎮めようとするのだが……。
「こんなところで至高の御方への献身、阻止させぬわー!」
千本鳥居が全て吹き飛び結界が砕かれた、それが再び静けさを取り戻した時にはもう琴の前から『禍津日神』は逃げ出していた。
「逃がしました……か……っ」
ギリギリまで結界を維持していた琴はその場に座り込み息を整える。
逃げられたとはいえかなりの力を今の荒魂鎮めで封じれたはずだと何故か確信をする。
後は……他にも転送されてきていた猟兵の仲間達へと任せるべきだ。
だがまだ出来ることはあるはずだ、そう気合を入れ直すと身体に鞭を打ち琴はよろよろと前へ進み始めるのだった。
成功
🔵🔵🔴
リリト・オリジシン
神も罪に塗れれば地の底へ堕ちるか
ならば、その罪をすら妾は喰らおう
この森が奴のフィールドだと言うのなら、それを喰い荒らそう
血染めの流星を怪力で持って振るう
樹を折り、石を砕き、禍津日神の世界である鎮守の森に傷を与えてくれようぞ
視界を開き、道を拓き、妾達の進む道を刻んでやろうと言うのだ
それに、この森自体に結界也の仕掛けがあるのなら、破壊する中でそれを乱す一助になるやもであるしな
そして、敵の姿見えれば得物叩きつける対象をそれと変えるのみ
抵抗は勿論あることだろう
だが、何、こう見えて妾は大食らいでな
UCにて汝の放つ悪意も、憎悪も、怨恨も、その全ての呪詛を、宿す罪を、片端から喰らってやろう
●
鎮守の森へと逃げ込んだ『禍津日神』は満身創痍に近かった。
その身は雷に焼かれ貫かれ、そして荒魂鎮めにて邪悪な神気までもはある程度霧散したかのように力が入らない。
「ぜぇぜぇ……ここまで来れば……」
「ここまで来れば何であるか?」
突如聞こえた声に身を竦めると大木がメキメキと音をたて倒れ始めた。
ヒュンヒュンフンと音をたて鉄球を振り回すリリト・オリジシン(夜陰の娘・f11035)の姿がその樹の後ろに見えると『禍津日神』はギョっとした目でリリトの後ろの景色が目に入った。
そこに広がるのは無残に砕かれ倒れ荒らされた鎮守の森の無残な姿。
これでは森の神気が死に絶えてしまう、それでは回復もそして力を大地より借り受けるにも多大な労力が必要となる。
「な……なんて酷い事をするのー☆」
それでも怒りを抑えお茶らけた余裕を見せようとする『禍津日神』だったがそれを一笑に付すかのようにリリトがニヤリと笑う。
「神も罪に塗れれば地の底へ堕ちるか、ならば、その罪をすら妾は喰らおう……」
「な……なにを!?」
血染めの流星という名のモーニングスターを振り回し、一歩一歩近づくリリトがその小柄な身体でありながら軽々とそれを振るい鉄球部分が不意に解き放つと『禍津日神』の顔の横を通過し後ろにあった樹の幹にめり込んだ。
それを引き抜き戻しながらリリトは愉しむかのように声を張り上げた。
「汝が罪を妾へ捧げよ!」
それが開始のゴング代わりになり戦いはいきなり始まった。
「むぅー、そこをどけーボクに行かなければならない所があるのー☆」
鉄球を避けながらそう叫ぶ『禍津日神』の言葉をリリトはまともに聞こうとしていない。
姿形はどうあれ目の前にいるのはオブリビオン、そしてリリトは猟兵でありやることは一つなのだ。
一度放った鉄球を無理やり怪力任せに軌道を変えそれが足へと当り無様に倒れると恨めしそうにリリトの方を向きそして手をこちらへと差し出す。
「禍津葬砲、出ませい!」
二人の間に割り込むように突如地上から生えた鳥居が連撃を狙った鉄球を弾く。
そして間髪入れずに鳥居から人々の悪意、憎悪、怨恨が溢れ出し木々を大地を水辺を汚しつつ全てを砕きそしてリリトにも襲い掛かった。
(ふむ。さすがは神々の一柱を担っていた者。だが、何、こう見えて妾は大食らいでな)
鉄球を引き戻し手から滲んだ血を吸わせ鎖を伝い赤い鮮血が鉄球へと至った。
「その身に宿した罪咎、妾が喰ろうてやろうぞ」
血染めの流星が血と呪いで形作られた竜へと変じ大上段からまっすぐり振り下ろされた。
途端に響く悲鳴嗚咽絶叫、鳥居より湧き出た邪悪な物とぶつかり合いそして……。
目の前で大爆発が起こった、砕かれた鳥居の破片や土埃が大量に舞い上がりとても前が見える様子は無い。
「逃がしたようだが……遠くへは行ってないはずであるな」
片目を閉じリリトは大樹にもたれながら座り込む、さすがにあれほどの敵と正面からぶつかり合うとタダでは済まないらしい、少々疲れてしまったが少しすれば動けるはずだと自分では思う。
だが確実に『禍津日神』の足は潰した、あれでは素早く動くことはもはや不可能。
猟兵達が捕らえきるのも時間の問題だろう。
(汝の罪咎を貰い受け、魂の穢れを雪いでやるつもりであったのだがな……)
コウメイによって墜とされた元・神様へ、リリトがそれ以上何を思っていたのかは誰にもわからないのだった。
成功
🔵🔵🔴
伊美砂・アクアノート
【SPD】【打縫術・磔展翅】
ーーーこういう仕事は慣れてるヤツがやる方がいい…小さい子供や、優しい大人は知らなくていい仕事なのじゃよ
【スナイパー20、早業18、暗殺13、投擲10、2回攻撃10】銃は使わずに投げナイフ等を投擲。音を立てずに狙っていくよ…。…悪いね、これが仕事なんだ。恨んでも呪っても祟ってもいいから、此処で宜しく死んでくれ。
敵に地の利があるのは覚悟の上、【第六感8、地形の利用5、見切り5、暗視5、視力5、聞き耳5】で不利な地形に持ち込まれないよう周囲警戒。…叶うなら、事の正確な経緯を記録した上で、神社と鎮守森の再興を幕府に掛け合い、母子共に神として祀るよう交渉する。自己満足だけどね
アルトリウス・セレスタイト
逃げるのであれば追うまで
終わったのなら忘却へ還るものだ
纏う原理――顕理輝光『天光』にて確実に動きを捉え見切り、『励起』『解放』で最大限高めた個体能力で逃さない
破天で掃討
高速詠唱と2回攻撃で限りなく間隔を無とし、全力魔法と鎧無視攻撃で損害を最大化
爆ぜる魔弾の嵐で蹂躙する面制圧飽和攻撃
2回攻撃の一回は常時射出し、残る一回は全て統合した巨大な魔弾として放ち確実に
周囲一帯を纏めて吹き飛ばし回避の余地を与えず、攻撃の密度速度で反撃の機を与えず
無理矢理反撃しても此方の攻撃で飲み込む
『再帰』で一連の手順を循環させ一切の中断無しに攻撃を継続
必要な魔力は『超克』にて“外”から汲み上げ供給
攻撃の物量で全て圧殺する
●
鎮守の森に逃げ込んだ『禍津日神』を追い伊美砂・アクアノート(さいはての水香・f00329)は普段のヒキコモリ生活とは正反対に心静かにただやるべきをやらねばと気合を入れていた。
(ーーーこういう仕事は慣れてるヤツがやる方がいい…小さい子供や、優しい大人は知らなくていい仕事なのじゃよ)
そう心に誓い道を急いでいた、今回の件はあまりにも非道であり許せることではない。
セイメイという奴は相当の悪なのだとアクアノートは心に誓い、犠牲者であるこのオブリビオンにも速やかなる死を与えるべく行動していたのだがどうやら先客がいたようだ。
爆音の響く方を向き目を細めるとあまりにも派手なその光景にやれやれと思ってしまう。
(逃げるのであれば追うまで……)
漂う淡青を全身に纏いアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は鎮守の森へ入ってからというもの導きに従いそして何処へ潜んでいるのかを万象を見通す瞳が恙無く発見した。
そこは小さな滝の裏にあるちょっとした影であり、表からはなかなかに発見しにくい絶好の隠れ家。
足に傷を負った『禍津日神』にはもはや島の外まで辿り着き海へと身を投じるような脱出方法をとるにはあまりにも機動力が損なわれてしまっていた。
「至上の御方を現世に生み出すのにもっとゆっくりしたいのに、ぷんぷん☆」
わざと気を紛らわすようにしていた少女は突如として響く地響きに驚きそして前を見た。
地揺れが続き滝の裏が崩れてしまいそうになる、慌てて外へ飛び出し滝壺へと沈んだ直後後ろで岩が崩れる音が聞こえてきた。
「行き止まりだ……」
アルトリウスの放つ250発にも及ぶ青く輝く魔弾の弾幕が雨のように降り注ぎ洞窟を破壊し、何発かがこの滝壺の中にも撃ち込まれていた。
漂う淡青が魔力すらを周辺から吸収し絶え間ない砲撃を周囲にばら撒いていく。
木々が倒れ岩が砕かれ水がはじけた、その余りにも一方的な破壊に滝壺の中から次々と現れる千本鳥居がアルトリウスへと向かいさすがにそれに対する防御に弾幕を向けた。
さらには森に先だって放たれていた式神達がすぐ至近に現れ襲い掛かってくるとなればそちらに注意を裂かざるをえないのだ。
「想定していないと思ったか?」
そう冷たい視線を送ると弾幕の一部がUターンしアルトリウス周辺に雨のように降り注ぐ。
瓦礫が吹き飛び周囲の視界を奪う結果となるが問題はない、そう彼は確信していた。
「ゼェゼェ……なんて乱暴な、ここは鎮守の森なのに……めっ☆」
滝壺より少し下流に流されようやく陸に上がった『禍津日神』がさらに式神を呼び出すと居場所が掴まれないようにあちこちへとばらけさけわざと音をたてたりとかく乱工作を行っていた。
「きゃっ」
不意にその右腕に投げナイフが突き刺さった。
それはどこから投げられたのかはわからない、だが確実に近くには敵が潜んでいるのだ。
袖からボトボトとこぼれた符が次々と式神へと変じ片っ端から茂みに突撃していった。
音もせず何体かの式神が千切れ倒された事がわかる。
「そこかな☆」
式神が次に襲ったのは大きな樹の影でありその瞬間今度は首筋にチクリという感触があった。
(くっ……まさか毒針?)
こそれこそがアクアノートの恐るべき暗殺術、音も無く忍び寄りそしてチクチクと一枚ずつ花びらを千切り占いをするように相手の動きを少しずつ制限していくのだ。
(…悪いね、これが仕事なんだ。恨んでも呪っても祟ってもいいから、此処で宜しく死んでくれ)
木々の影を移動し続けるその穏行術の前には『禍津日神』は式神で対処するしかない。
鳥居を出すと先ほどの大火力が再び襲ってくるのは間違いないのだから。
突然頭上の枝から誰かが飛び降りてきた、そして手にした棒手裏剣を構え真後ろに降り立つ。
「全てのモノには弱い場所がある。そこを射抜けば、このように」
アクアノートは背中に棒手裏剣を突き立てると印を結ぶ。
ここに『打縫術・磔展翅』は完成し、そして『禍津日神』はそのユーベルコードを全て封じられてしまうのだ。
「うそっ、力が出ない……っ」
驚くオブリビオンを見、アクアノートは急いでその場を離れ脱出をはかる。
それを逃げ出したと勘違いした『禍津日神』は今が逃げ出すチャンスと距離をとったがそれは不注意にすぎた。
アクアノートが追撃をしなかったその理由それは……。
「お前は終わりだ……そして終わったのなら忘却へ還るものだ」
『破天』のエネルギーを全て統合した巨大な魔弾を今か今かと撃ち出す機会をアルトリウスが狙っていたのだ。
アクアノートがいたのでは巻き込んでしまうため撃てはしない、だが距離をとった事でその心配も無く容赦なく影響を受けない青く輝く巨大な魔弾がオブリビオンの全身を包み込みそして……。
「うっ嘘、なんでこんな……出ませい出ませいっ!?」
防御のために呼び出そうとする鳥居は先ほど技を封じられたために出すことが出来ない。
そうなると目の前から襲い掛かるエネルギーの渦の前にはただただ圧殺されるしかなく一面が真っ白に輝いた。
「いやあぁぁ……なんで、なんで……あぁぁぁぁっ!!」
絶叫は爆音にかき消されていく……。
●
「終わったようね」
爆心地の近くにいたアクアノートが折れた大木の影から出てくると目の前の惨状を見、これではオブリビオンは跡形も残らなかったであろうことも容易に想像がついた。
「……興味はない、ただ忘却へ還るべき者に引導を渡しただけだ俺は」
こちらを見ずに片手をひらひらと振りつつアルトリウスがその場を立ち去っていった。
「私にしてあげれることは……」
アクアノートは思う、この後できるとすれば事の顛末を記し幕府へとこの神社と鎮守の森の再建を願い出るということ。
母子共に祟り神と成り果てる前に祀り鎮めるのが巫女として思いつくことだった。
(これもまた自己満足かしら……)
そう思いつつも鎮魂を祈りアクアノートもまた帰路へとついた。
こうしてセイメイの邪悪なる研究のひとつはこの地で潰えた。
だがそこに悲しい物語があったということは忘れてはならないのかもしれない。
大成功
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