エンパイアウォー㉗~ゆく夏
●訓練依頼
「関ヶ原の戦いを勝利した幕府軍は、太平の世で失なわれていた、侍の力と自信を取り戻しつつあります。この力と自信を確固たるものにすべく、幕府軍に対する訓練を施してくださる方は、いらっしゃいますか」
ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)が依頼をする。
「もちろん、手が空いている方で構いません」
少年はそう付け足しつつ、説明を続けた。
「このたび訓練対象となりますのは、戦いの経験があまり多くない若い兵士達です。後方にて援護射撃を主に担当する部隊ということで、弓矢や種子島を使う人間の兵士さんが主な層となります。妖狐の里から参戦しているお狐さんな陰陽師さんとかもいらっしゃるようです。訓練内容は、皆様が必要と感じたものであれば、なんでも構いません。自由にご指導くださいませ」
充実した訓練は、この先の戦いにおける幕府軍の被害を減らすことに繋がるだろう。少年はそう言って床に手をつき、深々とお辞儀をする。
「皆様のご経験を活かし、どうぞご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願い申し上げます」
少年はそう言ってお弁当を持たせてくれるのだった。
●訓練場
空は青々と晴れ渡り、風は涼やかだ。
整地された訓練場の脇にある緑色の草絨毯の上で兵士達が整然と並んでいる。
武器の扱いに不安げな青年。近くをふわふわ飛ぶ可愛らしい蝶々に気もそぞろな妖狐。式神を折るはずの紙で折り紙を始めている少年、緊張で足を震わせる者、戦いへの恐怖を感じている者――、様々だ。
remo
おはようございます。remoです。
初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
それでは、よろしくお願いいたします。
第1章 冒険
『幕府軍の大特訓』
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POW : 腕立てや腹筋、走り込みなど、基礎体力を向上させる訓練を施します
SPD : 危険を察知する技術や、強敵からの逃走方法などを伝授します
WIZ : 戦場の状況を把握して、自分がやるべきことを見失わない知力を養います
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
加藤・光廣
弁当食わせてくれるなら手伝ってやるか
【SPD】
後方援護が主な奴らだって聞いてるから、敵に近寄られた時の逃げ方を教えてやる
まずは背中を見せるな、正面向いて敵の動きをよく見ろ
背中見せりゃ何されるか見えねーからな
正面向いてりゃ敵も迂闊に動かねーよ
敵が何したいか考えろ
距離があっても刀槍投げてくるかもしれねーし
刀槍は届かないが、弓鉄砲が使えないなら適当な物を投げるんだ
落ちてる石でいい
投げ方は見てろ
目の前に来たら砂をかけろ、出来るだけ目を狙え
間に合わないなら弓鉄砲で受けろ
(弓か鉄砲を借りて)こういう風な
布があれば石を包んでブン殴れ、弓鉄砲でもいい
怯んでる間に逃げろ
さて、手加減してやるから俺の攻撃防いでみな
草野・千秋
エンパイアウォーも佳境になってきましたかね
でも油断は禁物なのです
皆さんに貸す手なら空いていますよ
自信もまた実力のうちなのです
とはいったものの
水泳とかこの季節良さそうと思ったんですが
僕はサイボーグ、泳げないんですよね
ならば剣術の練習に付き合いましょう、模擬戦です
いつも敵と戦ってる時みたいに
心は真面目にしつつも、傷つけないように手加減
……どうですか?少しは剣は冴えてきましたか?
あとは体力作りに走り込みですよね
エンパイアの夏はUDCアースの夏より涼しいと思うので
熱中症にはならない、といいのですが
はいはい皆さん走ってー!
スポーツ部のマネージャーよろしく声かけ
みなさんが疲れてきたらシンフォニックキュア
●訓練、はじまるよー!
訓練場の至るところで名もなき花が風にそよそよと揺れている。
「エンパイアウォーも佳境になってきましたかね。でも油断は禁物なのです」
草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)の眼鏡の奥の瞳がきりりとして兵たちを見る。
「皆さんに貸す手なら空いていますよ。自信もまた実力のうちなのです」
「弁当食わせてくれるなら手伝ってやるか」
加藤・光廣(人狼のグールドライバー・f06416)がぶらりと現れて兵士たちに視線を向ける。兵士たちは緊張の面持ちで視線を集めた。自然な佇まいから普段幕府軍で接する兵卒と異なる猟兵の気配が伝われば憧憬と畏敬が若兵の眼に溢れる。
「ここからここまで、こっち来な」
光廣は自分が受け持てる分の人数を集めて連れていく。
「後方援護が主な奴らだって聞いてるから、敵に近寄られた時の逃げ方を教えてやる」
「はい!」
返事は耳に心地よく揃って返ってきた。兵士たちの背筋がぴんと伸びる。天下に名高き猟兵に直に訓練を付けて貰えるなんて!!――期待と興奮が高まっていく。
「じゃあ、僕の担当はここからここまでですね」
千秋が光廣に倣って受け持ちを決める。
(とはいったものの)
千秋が若干困った様子で眉を下げる。
「水泳とかこの季節良さそうと思ったんですが僕はサイボーグ、泳げないんですよね」
千秋の子供の頃の思い出には、こんな夏の暑気の中泳いだ記憶がある。改造される前の事だ。過ぎ去りし遠い日はなんでもなかったこと、当たり前に出来ていた事。それが出来なくなった自分を意識すると、温かな緑の眸に数瞬哀しい感情が滲む。
「猟兵殿?」
兵士の声にハッとして千秋はゆるく首を振り、憂愁を振り払った。
「剣術の練習に付き合いましょう、模擬戦です」
千秋は兵たちに木刀を持たせ、自身も木刀を構えてみせた。
(いつも敵と戦ってる時みたいに)
これから兵たちが行くのは、本物の戦場だ。ならば、実戦に似た空気を感じさせて慣らすのが良いだろう。
しかし、自然体の構えから滲み出る歴戦の空気はそれだけで兵を圧倒していた。なにせ千秋は猟兵の中でもトップクラスの依頼経験と練度の実力者なのだ。
「どうしました? かかってきてよいのですよ」
千秋が誘うように隙をみせれば、意を決したように兵が駆けだした。ふわりと吹き抜ける風に草地の花が優しく揺れる。
「やああああああっ!」
一人が大声で自らを勢い付かせるようにしながら千秋に立ち向かっていく。千秋はほんの僅か案じる色を瞳に浮かべた。この調子で戦場に立っては、危ない……と。
「闇雲に振り回しても、当たりませんよ」
厳しい言葉と共に刀を打ち払い手加減しながら兵を地面に転がせば、次がやってくる。
「猟兵殿、お願いしますっ」
ぎゅっと目を瞑り突進する兵。なんと途中で躓いて転びそうになる。どじっ子だ。千秋はさっと支えてあげて、困ったように息を吐いた。
「ええ……、えっと、目は開けましょうか」
至近距離で目を開けた兵は眼前の端正な青年の顔に思わず頬を染めながらも、コクコクと頷くのであった。
◆
「向こうもやってるな」
光廣が千秋たちの訓練のやりとりを聞き、耳をひょこりと動かした。
青空の下、若い兵士たちが真剣な表情で話を聞いている。彼らは、自分が戦場で命を落とすかもしれないと自覚していた。猟兵は特別な存在だ。その彼が時間を割いて直に指導をしてくれている。この時間は彼ら兵士たちの生死を大きく分ける時間となるだろう――兵士たちはそれを理解していたのだ。
光廣もまた、真剣であった。限られた時間で教えたのち、彼らは手を離れて実戦に向かうのだ。
「まずは背中を見せるな、正面向いて敵の動きをよく見ろ。背中見せりゃ何されるか見えねーからな。正面向いてりゃ敵も迂闊に動かねーよ」
「はい!」
風が気まぐれに走り抜け、皆の間に涼気を送った。
「敵が何したいか考えろ。距離があっても刀槍投げてくるかもしれねーし」
「はい!」
「刀槍は届かないが、弓鉄砲が使えないなら適当な物を投げるんだ。落ちてる石でいい。投げ方は見てろ」
若い兵士たちが見つめる中、光廣が手首のスナップを利かせて石を鋭く投げれば弓矢用の的にびしりと烈しい音を打ち命中した。
「わ、痛そうだなぁ」
思わず少年兵が呟く声が響く。
「っと!」
思いがけず大きく響いた声に少年兵が慌てて口を押えた。
「目の前に来たら砂をかけろ、出来るだけ目を狙え。間に合わないなら弓鉄砲で受けろ」
光廣は少年兵を前に呼び、手に持っていた鉄砲を借りた。
「こういう風な」
「は、はい」
「布があれば石を包んでブン殴れ、弓鉄砲でもいい。怯んでる間に逃げろ」
兵士たちがぶんぶんと大きく頷く。
「さて、手加減してやるから俺の攻撃防いでみな」
光廣が少年兵に指示を出して実演する。少年兵はアワアワしながらぎこちなく鉄砲で攻撃を受け、逃げようとし――、
「背を向けるな」
「ひゃあ!」
加減しつつ石が飛ぶ。
「実戦だったらお前は死んでるぞ。痛い、じゃなくて死ぬんだ」
「う、は、はい」
少年兵が必死さを増して砂や石を無我夢中で投げ、正面を向いたまま抵抗しながら距離を取る。
「そうだ、それでいい。そうやって必死になればお前は生き残れるぞ」
「はい!」
他の奴も、と指示を出せば何人かごとに組をつくり、皆が体を動かして訓練を始める。光廣は組の間を縫うようにして見て回り、助言をしてまわった。
稀にその言葉は荒っぽいが、身近で見るその瞳には真剣に兵を想う気持ちが滲んでいる。気持ちは自然と伝わり、兵たちは一層訓練に身を入れるのであった。
◆
「あとは体力作りに走り込みですよね」
「体力作りは合同でやるか」
千秋と光廣が合流し、最終メニューを開始する。
「エンパイアの夏はUDCアースの夏より涼しいと思うので熱中症にはならない、といいのですが」
「水分補給しっかりと、だな」
2人の教官が給水場を用意し、兵たちを走らせ始めた。
「俺についてこい」
光廣が先頭を走る。走るたびふわふわゆらゆらと揺れる尻尾を追いかけ、兵たちが後を懸命に走る。
「はいはい皆さん走ってー!」
千秋は最後尾でスポーツ部のマネージャーよろしく声かけをしている。
「掛け声とかあったらいいですよね、えっと。ば、幕府軍~ふぁい、おーふぁい、おー」
「「幕府軍~ふぁい、おーふぁい、おー」」
「上様~れつごーれつごーれつごーれつごー」
「「上様~れつごーれつごーれつごーれつごー」」
ちょっと気の抜ける掛け声を全員が真面目な顔で唱和しながら兵たちが訓練場を走りこめば、風がくるりくるりと舞って草花を楽しげに揺らした。
――数分後。
「ハア、ハア」
走り込んでいた兵たちがへばっていた。
「どうした、遅れてきてるぞ。戦場でへばっても敵は容赦してくれねーぞ!」
光廣が耳をぴんっとさせて兵を見ている。
「疲れてきましたか? 訓練も実戦も疲れを感じてからが本番ですよ」
厳しい事を言いながら、千秋はそっと歌を口ずさむ。
「♪田んぼに育つ恵みは 皆で育てた緑の恵み 父の代から引き継いだ大切な土地」
歌い手raduの優しく高く暖かく澄み渡る歌声が涼やかな風に乗り、ふわりと人々の耳朶を擽る。なんと心地よい歌声だろう。それに、歌詞が。
「♪隣に並ぶ戦友と共に背に守る 夏景色 これから来る実りの景色 秋の空」
一人、また一人、汗を拭って立ち上がる。優しいraduの歌声が兵たちの生まれ育った村を思い出させ、「守りたい」という想いを、勇気を溢れさせる。
「がんばるぞ」
「守るぞ!」
兵たちの声が蒼穹に爽やかに響き渡った。
「いい歌だな」
光廣も歌に心地よさげに尻尾を揺らし、疲労が消えた様子で張り切って。
「じゃ、ペース上げるか」
「「えええ~~~!?」」
夏の青空に、兵たちの悲鳴が響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月凪・ハルマ
いやあの、今から訓練って遅くない??
……まぁ、今後の事を考えれば、備えは必要ではあるか
それじゃ切り替えて、訓練のお手伝いだ
ふんふん、援護射撃中心の部隊。なるほど。
それならコイツらが丁度良さそうだ
(言いつつ【魔導機兵連隊】発動)
ゴーレム達は一度、訓練兵達と距離を取らせる
で、頭や心臓など、人の急所に当たる箇所や脚部などに
攻撃を受けた場合、そこで停止するように設定
(【ハッキング】)
じゃ、今からこいつらを突っ込ませます。
攻撃を当てて、全機止めてみせて下さい
基本的に訓練兵たちに真っ直ぐ向かわせるが、
時折【操縦】して急所を防御させたり、進路を変えたり
敵が全員、馬鹿正直に突っ込んでくるとは限りませんよ?
栗花落・澪
よーし、おいで分身達!
【指定UC】発動
数人ずつで的を持たせる
この子達が遠近好き勝手飛び回るので
3人くらいずつペアになって協力して
時間内に全ての的を撃ち落としてください
魔法での妨害もあるから対処もしっかりね
弓矢担当の人達メインにキッチリ指導
狙いの付け方は魔法と変わらない筈
軸がブレてるからもっと固定して
折角人数居るんだから同じ的狙うのは勿体無いよ!
常に味方の動きに目を配って!
時折氷や炎の魔法で、構えようとしている矢だけを壊そうとさせつつ
一瞬の動揺が命取りだよ!
壊されたならすぐ次の矢を構えて!
終わったグループにはご褒美に笑顔で★Candy popを配布
甘いものでリラックスして
次のグループいくよー!
●その日は、なんとも微妙な時期であった。
戦争。サムライエンパイアの戦争が始まってどれくらいの日にちが経っただろう。そろそろ終盤戦、信長の「ノッ」ぐらいはもう見えてしまいそうなギリギリの時期であった。
ああ、セミがじりじりと鳴いている――。
「いやあの、今から訓練って遅くない??」
月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)が思わずツッコミを入れていた。若き兵達はそんなツッコミにしみじみと頷いた。
「簡単な訓練はもちろん受けたのですが、猟兵殿から直接に訓練を受けられるとは光栄です」
「すごく、ぎりぎりのタイミングだね。今までそれだけ差し迫った戦況だったってことかな……」
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が頭の上にピンクのハテナマークを浮かべて首をかしげた。
「……まぁ、今後の事を考えれば、備えは必要ではあるか。それじゃ切り替えて、訓練のお手伝いだ」
ハルマが気持ちを切り替えるように帽子を被り直した。
「うん、訓練しておいて損はないよね。この後の犠牲が抑えられるといいな」
澪はそう言って兵達に優しい視線を向ける。戦争はシビアだ。ここにいる全員が生存できる保証は全くない。だから。
「頑張ろうね」
風にさらりと艶髪が揺れる。
愛らしい少女めいた澪がそう言えば、兵達はすっかり澪を美少女だと思って張り切るのであった。
◆
広い訓練場の至るところで猟兵たちが自分の担当する兵たちを連れ、訓練を開始している。
ハルマと澪も兵を連れ、広い空間に移動していた。
「ふんふん、援護射撃中心の部隊。なるほど。それならコイツらが丁度良さそうだ」
ハルマが魔導機兵連隊――戦闘用魔導機械式ゴーレムの一隊を召喚した。
「カラクリ兵だ!」
「おお……壮観だ」
兵達が眼を瞠っていた。
「よーし、おいで分身達!」
澪も小さく無邪気な無邪気なミニ澪をたくさん召喚し、数人ずつで的を持たせる。
「この子達が遠近好き勝手飛び回るので、3人くらいずつペアになって協力して時間内に全ての的を撃ち落としてください。魔法での妨害もあるから対処もしっかりね」
澪が説明する隣でハルマも丁寧に説明をする。
「えー、このゴーレム達は、頭や心臓など、人の急所に当たる箇所や脚部などに攻撃を受けた場合、そこで停止するように設定しています」
兵達は弓を手に実戦同様の射撃陣形を組む。ミニ澪とゴーレム達が兵達と向かい合うようにしてずらりと並んだ。
「今からこいつらを突っ込ませます。攻撃を当てて、全機止めてみせて下さい」
「いっしょに分身達も飛び回りまーす、がんばってね!」
ハルマがいつの間にかゲットしたメガホンを手にアナウンスし、澪が羽をぱたぱたさせて応援する。
合図をすればミニ澪達が一声にふわふわぱたぱたと飛び回る。青空に舞う姿はまさに小さな天使たち。兵達は一瞬目を奪われ、癒されてしまう。
「ほらほら、もう始まってますよ」
「あっ」
ハルマのゴーレム達が動き出していた。ズシンズシンと地を踏み鳴らして鋼の塊のようなゴーレム達が向かってくれば目と耳に訴える迫力がある。兵達は一瞬腰を浮かしかけた。
「逃げるの?」
澪がこてん、と首をかしげる。
単に確認するだけ、といったピュアな響きの呟きは兵達の矜持を奮い立たせ、その場に留まらせて前を向かせた。
「よ、よーし。やるぞ」
兵達は懸命に弓を放っていたが、やがて悲鳴をあげた。
「おい、動きが変わったぞ!」
「防がれた!」
「避けた!」
ゴーレム達がハルマの操縦により時折防御や進路変更をして兵達を翻弄している。
「なあ、小さい澪さんたまに透明になるんだが」
「ちょっ、矢が燃えたぞ」
ミニ澪達も魔法を使って透明になったり矢を燃やしたりしていた。
「一瞬の動揺が命取りだよ! 壊されたならすぐ次の矢を構えて!」
澪がメガホンで声をかけている。声をかけたのち、ハルマにメガホンを返し。
「敵が全員、馬鹿正直に突っ込んでくるとは限りませんよ?」
ハルマがメガホンで声を重ね、神妙な顔で兵達を見た。この兵達は実際の戦いに臨み、生命を賭して戦う者達なのだ。――嘗ては、生死の分け目を戦う者達や倒れていく者を見ているだけで、手を差し出すことができなかった。だが、今は違うのだ。ハルマは一緒に戦場を駆ける事ができる。守ろうと手を伸ばす事ができる。彼らの未来をより安全にするため、アドバイスをする事ができる。
「動きを読む。動きを誘導する――敵も考えて動いています、実際の戦場でもそうでしょう。敵の動きを読んで当てていきましょう」
兵達がしっかりと頷き、動きを目に見えて変えていく。やればできる兵達だ。訓練で慣らした動きは土壇場で必ず活きてくることだろう。何もしなかったら死んでいただろう生命が、きっと助かる。
(だから、手は抜かない)
「誰かを狙っている敵は読みやすいので、当てやすいです。その敵に当てれば敵に狙われている味方を救う事にも繋がります。戦場を広く視て、互いにフォローし合ってください」
ハルマが助言をすれば、澪がもう一度メガホンを貸してと手を差しだした。
「軸がブレてるからもっと固定して。折角人数居るんだから同じ的狙うのは勿体無いよ! 常に味方の動きに目を配って!」
兵達は助言に素直に従い、短時間で驚くほど動きを良くしていった。
◆
「お疲れ様!」
しばし訓練をしたのち、訓練を終えたグループに澪が笑顔でCandy popの小瓶の蓋を開いた。
「ご褒美です!」
陽光にきらきらと宝石のように輝くカラフルキャンディは、夏らしさ溢れる真っ赤なスイカ味にヤシの模様入りパイナップル味。しゅわしゅわヨーグル味に爽やかお祭り風味のラムネソーダ。
「はい、どうぞ」
まだあどけなさを残す兵に綺麗なキャンディを渡せば、兵は観たこともない美しいキャンディをおっかなびっくり受け取って、陽光に透かして目をきらきらさせた。
「きれいだなあ」
口に入れるのがもったいない、と言いながら兵は眩しそうな目をする。
「……おっかあに見せてやりてえ」
里心がついた様子で瞳を揺らした兵はキャンディを口に放り込み、その甘さにびっくりして目をまんまるにし、笑う。
「こんなん、だめだ。美味しすぎて独り占めしたくなっちまう!」
「ははは!」
(お土産に持たせてあげようかな?)
澪は琥珀色の瞳を優しく細めてにっこりとした。
「甘いものでリラックスして! 次のグループいくよー!」
メガホンで明るい声を放ちつつ、澪はもうすっかり慣れた様子でハルマにメガホンを返し、Candy popの小瓶の蓋をぽこんと叩く。
「あれっ」
「ふふ、増えるんだ!」
なんと小瓶の中の飴が増えていた。
「ハルマ君、甘いの平気? はい、どうぞ!」
そう言ってお菓子を分かち合う2人は兵から見ると仲睦まじい兄妹のようだったが、その実は同じ年齢、同じ性別なのであった。
「そろそろお昼時だし、もうちょっと頑張ったらお弁当も食べよう」
「うんうん」
兵達が猟兵達のやりとりを聞いてほっこりとする。
広い訓練場のあちこちで賑やかで明るい声が満ちていた。それは、苦難と戦う者達の声。未来を己が手で、戦友と共に守ろうという者達の声だ。
「猟兵とは、不思議な方々じゃあ」
訛りのある痩せた兵がそう言って目を擦る。
どこからともなく現れては危機に瀕した人民を助ける英雄達。そんな凄い存在が、すぐ目の前でとても人間らしく、自分達と同じかそれよりも幼い気配を見せてほのぼのとしている。兵には、それが何とも不思議で、胸が温まるような気がするのであった。
大成功
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リヴェンティア・モーヴェマーレ
アドリブ大歓迎
他の方との絡みも全然大ジョブです
一緒に指導したりしたい気持ち
▼SPD
皆さんのお役に立つことが出来ればと思っているのデス
(正座しながらいつも一緒に居る小動物さん達に話しかける)(良いことだと言わんばかりに頷く動物達)
その為には私の持てる知識を他の方々にも伝授できればと思っているのですガ…
(特に人に教えられることなどないかもと思いながらも、ない頭を捻る)
はっ!そうでス!
私、結構防御なんかは得意だったりするのデスよ!
(オーラ防御や拠点防御、時間稼ぎの方法などをお伝えしようとプロジェクターを使って説明。陣形などは小動物さんズが陣形を実際に取ってわかりやすく説明できるように工夫してみます)
ノネ・ェメ
最初のデモンストレーションとして、目隠しで暗視的なパフォーマンスを。わたしは耳で視えるから。
わたしは戦ってません。そゆ人もいる。この中にもそうありたい子がいるかもだしね。そんな人でもどんな人でも必要な事の一つは、把握をする事。
辺りを見て。何がある? 足元の花。その周りを飛ぶ蝶。などなど。
じゃ目を閉じて。あとは何がある? 背後に立つ子が砂利を踏む音。少し先の荷物置き場から皆のお弁当の匂いもする。生い茂る木々の葉が風にさざめく音からは、訓練場の周りを囲む山々といった地形も感じる。案外遠くの事まで判ったんじゃないかな?
使える所全部使わなきゃね。でも使おうとして使ってないと多分使えてないよ。
ジャスパー・ジャンブルジョルト
●団結力の大切さを厳しく説き、楽しく体操する
いいか、よく聞け! 戦場でなによりも重要なのはチームワークだ!
自分一人で戦ってると思うな!
連携なくして勝利なし! たった一人の英雄よりも、息を合わせた百人の兵士!
……つーことで、戦場で息を合わせやすいように皆で体操をしよー。
今日のために『ゆみゆみたねがしま体操』ってのを考えてきたんだ。矢を弓に番える動作や早合の中身を銃身に注いで槊杖でカシャカシャ突く動作を組み入れてっから、戦闘訓練にもなるぞ。
さあ、いくぞ。あ、そーれ♪ いっち、にー、さん、しー♪ にー、にー、さん、しー♪
(後ろでネズミのチア団も体操をしている)
※煮るな焼くなとご自由に扱ってください。
●天下に兵在り
兵たちが緊張に満ちた眼差しで猟兵に注目している。
天下自在符を持ち、エンパイアの各所にて幾多の武勇伝を誇るその存在を。
ひと目見れただけでも僥倖、指導を受けられるとは身に余る幸運――、猟兵たちの姿を目に焼き付けるように、兵たちはじっと目を向けていた。
(視線が集まってマスネ)
うぬぬ、と花菫の瞳が悩ましげな色を浮かべた。
「皆さんのお役に立つことが出来ればと思っているのデス」
リヴェンティア・モーヴェマーレ(ポン子2 Ver.4・f00299)が正座しながら神妙な表情をしていた。近くには、いつも一緒の小動物さんズも揃っている。
響(ひびちゃん)、藍(らんらん)、由希(由希くん)、夾(きょんちゃん)、壱(イチくん)、架羅(カラくん)、リヴェンティアの小動物さんズは今日も全員が勢ぞろい。リヴェンティアの言葉に良いことだと言わんばかりに小さな首を縦に振る――。
「その為には私の持てる知識を他の方々にも伝授できればと思っているのですガ……」
小動物さんズが「一体何を教えるんだろう」とワクワクした顔をして。兵たちもまた「何を教えてくれるんだろう」とドキドキしながら待っている。
「特ニ、人に教えらレルこと、ないかもしれまセン……?」
リヴェンティアが呟けば、小動物さんズは顔を見合わせ、一緒になって頭を捻って考えてくれる。兵たちは戸惑い、困ったように近くの者と顔を見合わせた。
「猟兵殿があんなことを」
「待て。深淵なお考えがあるのだろう」
カラくんが格好良いポーズを決め、由希くんが丸まっている。きょんちゃんはおっとりとお花を愛でていた。
(ウーン。何ができるデショ)
リヴェンティアはのんびりと首をかしげる。ふわふわ、蝶々が飛んできて目の前を彷徨って。
そぉっと人差し指を差しだせば、誘われるように指先に留まって翅を休めた。耳には、朗々とした男性猟兵の声が聞こえてくる。
「いいか、よく聞け! 戦場でなによりも重要なのはチームワークだ! 自分一人で戦ってると思うな! 連携なくして勝利なし! たった一人の英雄よりも、息を合わせた百人の兵士!」
(あの声は)
視線を向けると、灰色の毛をふわふわと風に撫でられながらジャスパー・ジャンブルジョルト(JJ・f08532)が兵たちに演説をしているところだった。
戦いを前に不安に心揺らす者にとってその迷いなき指導者然とした態度がどれだけ頼もしく映ったことだろう。ビシッと断ずる口調に兵たちは縋るような視線を集め、熱心に聞き入っている。
「なんと、一騎当千で知られる猟兵殿が」
「ただ一人の英雄よりも息を合わせた百人の兵士だと」
そばかすをたくさん浮かせた少年兵たちがそっと言葉を交わし、瞳をきらきらさせている。
(最後に「お前らは俺の舎弟だ!」とか言って光と影の中でしめるのもいいな)
天下に名高き猟兵が陽光背負い兵は太清仰ぐ魚に似た。ジャスパーは陽光にオヒゲをピンと張り、ジャスパー組の兵たちを愛情たっぷりに見守り――耳をぴょこりと揺らした。灰色猫のお耳には、他の組の声が届いていた。
「あの猟兵殿、目隠ししているのにまるで見えているみたいな動きだ」
「あれが猟兵殿のお力か」
少し離れた場所で人だかりができ、ざわざわとしている。
「これはユーベルコードちがうよ」
海空のレイヤリングヘアーをさらりと靡かせ、ノネ・ェメ(ο・f15208)がデモンストレーションをしていた。
「特別とちがう、これはあなたたちもできる」
目隠しが解かれ、印象的な瞳が優しく兵たちを見た。
「わたしは戦ってません。そゆ人もいる」
ノネは柔和な表情で自らが普段武器で戦ったりせず、歌で人を癒したり励ましたりする活動をメインにしていることを告げる。そして、兵たちをひとりひとり静かに見た。
「この中にもそうありたい子がいるかもだしね」
ノネは、兵たちの数人にそっと微笑んだ。微笑みを向けられた数人は一瞬泣きそうな顔をした。「本当は――」、そんな想いが湧いて、すぐに呑み込まれる。エンパイアの太陽の下、兵は感謝するような眼をノネに向けた。――面に出せぬ秘かな想いを理解する者がいるというのは、これから死ぬかもしれない、と思っている兵にとって救いであった。
「そんな人でもどんな人でも必要な事の一つは、把握をする事」
「はあく?」
兵たちが不思議そうな顔をする。
ノネは小さく頷いた。長い髪がさらりと動き、陽光に耀いた。声はどこか浮世離れして兵たちをしっとりと惹きつける。決して大きな声ではないのに、心が惹き付けられてしまう。
「辺りを見て。何がある?」
遠くで蝉が鳴いている。
兵たちはゆっくりと首を巡らせた。緑色の草が訓練なんて全く気にせずゆらゆらと風に揺れている。その中に素朴な桃色の花が混ざり、空に向かって花弁を拡げていた。甘い香りに誘われるように蝶々が飛んでいる。
「じゃ目を閉じて。あとは何がある?」
ノネが言葉みじかに指示を出すと、兵たちは夢心地で目を閉じる。誰も、無駄口を叩かなかった。侵しがたい空気があった。神聖な儀式に臨んでいるような気分になっていたのだ。
――何が、ある?
視界を闇に閉ざす目蓋の向こうに陽光を感じる。肌があたためられていた。肌が触れている空気がざわりぬるりと動いているのがわかる。自分が動けば、空気も動く。空気は耳に触れ、鼓膜を震わせて。音を感じる。世界が動いて、空気を震わせているのだ。
「背後に立つ子が砂利を踏む音。少し先の荷物置き場から皆のお弁当の匂いもする。生い茂る木々の葉が風にさざめく音からは、訓練場の周りを囲む山々といった地形も感じる。案外遠くの事まで判ったんじゃないかな?」
ノネが言の葉を紡ぐ。声は暑気の中で涼気を感じさせる清らかさ。目を閉じていても、少女の姿が声と共に思い浮かぶ。暗く閉ざした世界の中、兵たちが感じる外界の中心に今、その少女がいた。
「使える所全部使わなきゃね。でも使おうとして使ってないと多分使えてないよ」
兵たちは暗闇の向こうに確かな存在感を放つ少女へと確りと頷いた。
(戦場でなによりも重要なのはチームワーク、使える所ゼンブ、なるほどデス)
ジャスパーとノネの演説を聞いたリヴェンティアはふむふむと花菫の眸を瞬かせ、小動物さんズを見た。
「はっ! そうでス! 私、結構防御なんかは得意だったりするのデスよ!」
リヴェンティアがナイスアイディアとばかりに目を輝かせ、立ち上がる。こうしてリヴェンティア先生の防御講座が始まった。
「皆さんっ、命だいじに、デス!」
プロジェクターを使ってオーラ防御や拠点防御、時間稼ぎの方法などを教えていけば、兵たちが姿勢を正して真面目に話を聞いてくれる。らんらんが兵たちの間をてちてちと巡回し、居眠りしないかをチェックした。
「ソレデハ、陣形をお見セシマス」
リヴェンティアがそう言って合図をすると小動物さんズがちょこまかと動き回り、実際に陣形を見せてくれる。
◆
それぞれが演説や講座にひと段落つけた頃。
ジャスパーがぐるりと訓練場を見渡し、体操を提案した。
「……つーことで、戦場で息を合わせやすいように皆で体操をしよー。今日のために『ゆみゆみたねがしま体操』ってのを考えてきたんだ。矢を弓に番える動作や早合の中身を銃身に注いで槊杖でカシャカシャ突く動作を組み入れてっから、戦闘訓練にもなるぞ」
「ぇ、体操?」
ノネが眼をぱっちりと瞬かせてノネ組の兵たちを合流させる。
「ノネも……わたしも付き添お」
その足元を楽しそうにハムスターやフェレットが駆けていく。リヴェンティアの小動物さんズだ。
「楽しそうデス! レッツ体操な気持ち……♪」
リヴェンティア組が合流した。
「よーし! 応援団、集合!」
合流した兵たちを前にジャスパーが手をあげ、チアガール姿のネズミたちを集合させる。
「さあ、いくぞ。あ、そーれ♪ いっち、にー、さん、しー♪ にー、にー、さん、しー♪」
後ろでネズミのチア団も小さなおててを元気よく振って細いしっぽをゆらゆらさせて体操をしている。
リヴェンティアの小動物さんズも一緒になって楽しそうにぴょんぴょん、ちょこまか。
「ぇ、かわ。 まってむり」
ノネが頬を緩める。だって、小さなフェレットが後ろ足でたって前足をぴょこぴょこ体操しているのだ。小さなハムスターがその後ろでころころ転がるようにして体操しているのだ。
「「いっち、にー、さん、しー♪」」
兵たちが唱和しながら体操をしている。
(ここは、優しい空気がいっぱい)
足元で花が揺れている。ノネの心には、ネットの海を泳ぐようにしてコミュニティをハックし、優しい人達を怖いと思った事がふと思い出されていた。
そっと声は歌を紡ぐ。
「♪ゆみ、ゆみ のび、のび……」
高く澄んだ声は蒼穹に駆け抜ける虹の風のように明るく。
「♪のび、のび、ゆるんで たねがしま」
ゆったり低く音階が降りて音を楽しむように大切に長く音を紡げば、寄せて返す海波のよう。
ジャスパーがお手本を見せている。
「はい、次は矢を弓に番える動作♪」
皆が一声にジャスパーの動きを真似して、すこし不揃いな動きを太陽があたたかに見守っている。
「てきが くるくる、いそいでかまえ♪」
リヴェンティアが一緒に歌い出した。ノネの歌声と寄り添うように、高く、低く、楽しそうに微笑みながら。
ジャスパーは瞳を陽光の下でキラキラさせながらにっこりとした。
「ほい、次は早合の中身を銃身に注いで。槊杖でカシャカシャ突く動作に続けて」
皆がいっしょに動いて影が後ろでゆったり揺れて重なった。灼熱の夏陽に対抗するように濃さを増して、重なる影が強くなる。
「さあ、いくぞ」
花画一緒に揺れている。ノネとリヴェンティアの歌に兵たちも一緒になって歌い出す。ジャスパーも尻尾をゆらゆら猫の爪研ぎを奏で始めた。やわらかな灰色の毛に覆われた猫の指が器用に音を紡いでいく。爪は、引っ込められていた。両の指が繊細かつご機嫌に音を紡げば音の波があたたかな和音を響かせ、人々のこころを嬉しく楽しく躍らせる。嗚呼、なんて美しい調べだろう、なんて洒落た音だろう? 少女2人の歌声に朴訥とした兵たちが楽しそうに心からの声を響かせて、ジャスパーの情熱の名琴が誘えば可憐な蝶々までがお空でくるりと円を描いてダンスを踊る。ネズミのチア団と小動物さんズがぴったり同じ動きを魅せている。兵たちが徐々に身体を慣らして動きを揃えていく。ひとりひとり、顔を見合わせれば笑みが溢れた。笑む顔を汗が流れて――夏だ。
「「あ、そーれ♪ いっち、にー、さん、しー♪ にー、にー、さん、しー♪」」
賑やかで明るい声はしばらく訓練場に響いた。兵たちは隣にいる兵とぴったり揃って体操をして、一緒になって声をあげ。これが仲間というものなのかと肌でじわじわと感じ取り、視線が合えば信頼の色濃く、嗚呼、これから戦場にて背預け命綱握り合う友なるぞ。お前は死ぬか、おれは生きるか、共に生きるか、共に死ぬるか。
「「あ、そーれ♪ いっち、にー、さん、しー♪ にー、にー、さん、しー♪」」
この場に揃いし皆が全く違えず同じ顔を揃えて笑い合う日は今日より後、果たしてあろうか? 猟兵殿の訓練は二度あろうか? 太陽はぎらぎらと輝いて、汗が肌を伝い落ちていく。おお、この一瞬のなんと儚く楽しいことか。兵たちは――猟兵を視る。戎馬はこの道の先に在りて場に揃いし者は皆、故国を守る友であった。
「「あ、そーれ♪ いっち、にー、さん、しー♪ にー、にー、さん、しー♪」」
やわらかに歌い、楽しそうに微笑み、あたたかに兵を見る。
――そんな猟兵たちの姿を、彼らは決して忘れまい。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ歓迎
ジャックさん(f16475)と
ほぼ初対面
私から話しかける
わー!近くで見ると益々かっこいい!
何度か戦場で見かけたことあって気になってたんだー
私はジュジュ
訓練、一緒にやらない?
訓練前に兵士達を鼓舞
大事な人を、民を、世界を守ろうとする気持ち、とっても素敵だね
貴方達が人々を救うんだ
もっと強くなっちゃおう
弓を使い、後衛の戦いを指導
戦場では連携が大事
戦闘経験があまりなくてもやり方次第で大活躍できるよ
敵の注意が前衛に向いている時に射ると避けられにくいよ
と、ジャックさんが的に近接攻撃をした直後に射る
矢が当たらなくても大丈夫
一瞬でも敵の気を引ければそこに隙が生まれる
あとは前衛がバシッと決めてくれるよ
ジャック・スペード
ジュジュ(f01079)と
ああ、俺もあんたを見かけた事がある
俺は見ての通り親しみ難い容貌だ
一緒に訓練して貰えると有り難い
先ずは兵士達を鼓舞しよう
後衛は戦場に欠かせない存在だ
的確な支援をしてくれる者が居るから
前衛は剣や盾として存分に其の力を発揮出来る
この訓練を通してアンタ達が
仲間を支える役割に誇りを持ってくれたら良い
……という訳で、連携の手本を披露しようか
こんな風に、と的へ抜刀してみせて
前衛が敵へ斬り掛かった其の時こそが、攻撃のチャンスだ
どんな敵にも必ず隙は生じる
其の好機を逃さない為にも、仲間と協力する事が大切だと俺は思う
俺みたいな欠陥品だって、何度も生還してるんだ
アンタ達ならきっと大丈夫さ
●戦場の絆
(訓練か、そろそろ戦争も大詰めだな)
ジャック・スペード(J♠️・f16475)が訓練場を見渡した。その背に声がかけられる。
「わー! 近くで見ると益々かっこいい! 何度か戦場で見かけたことあって気になってたんだー」
ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)が白ウサギのメボンゴの手をぶんぶんと振っている。
「ああ、俺もあんたを見かけた事がある」
同じ猟兵同士、互いに依頼を受けていれば自然と顔を覚える事もある。幾多の戦場を駆ける猟兵には稀にある事だ。
「私はジュジュ。訓練、一緒にやらない?」
「俺は見ての通り親しみ難い容貌だ。一緒に訓練して貰えると有り難い」
人懐こく社交的に誘いかけるジュジュへとジャックはゆっくりと頷きを返した。
「じゃあ、みんなこっちに集合~~!!」
『あつまれー!』
うさぎのメボンゴがぴょこぴょこお耳を揺らしながら声を出す。声は、ジュジュが担当していた。
ジュジュは集めた兵士達を前に言葉を選ぶ。路上やショーの前座で人形劇を披露する流れの芸人である少女にとって、たくさんの人の前でパフォーマンスをするのは得意分野だ。
(ちょっとお行儀が良くて真面目すぎるお客さん!)
ジュジュは客層を把握して、心の中で付け足した。
(私を藁だと思ってる、溺れそうな人もいる)
兵たちは日に焼けた肌に黒い瞳をキラキラさせていた。明日への不安を浮かべ、縋るような目を向ける者もいる。
「大事な人を、民を、世界を守ろうとする気持ち、とっても素敵だね。貴方達が人々を救うんだ。もっと強くなっちゃお」
ジュジュはそう言って手に持つメボンゴを愛らしく揺らし、明るく笑顔を作る。訓練場に花の香り含んだ風が吹き真白の雲が夏陽をふと遮る。兵たちは緊張や不安を和らげた。
その様子を見て話しやすい空気を感じながらジャックが声を続ける。
「後衛は戦場に欠かせない存在だ。的確な支援をしてくれる者が居るから前衛は剣や盾として存分に其の力を発揮出来る。この訓練を通してアンタ達が仲間を支える役割に誇りを持ってくれたら良い」
見た目にも頑強なジャックが告げれば、兵たちはぐっと拳を握る。
「おお!」
「やるぞ!」
訓練場に明るく前向きな空気が出来上がっていた。
「……という訳で、連携の手本を披露しようか」
場の準備が整ったのを確認し、こんな風に、と言ってジャックは的へ抜刀してみせる。訓練用の刀はジャックに合わせて特大サイズを用意されていた。だが、兵たちは自分が持つ刀と見比べて「大きさだけじゃなく刀が強靭そうに見える」と呟いて隣の兵と一緒になって刀を見比べた。
「同じ刀でも扱い手が違うと全然違って見えるものだなあ」
「なるほど、お前が持ってると確かに刀がナマクラに見える」
笑い合う兵たちの視線の先でジャックが鮮やかに的を打っている。ビシリと激しい音を立て、余りの怪力に的が後ろへと倒れて土煙を立てた。
「む。少し力を入れ過ぎたか」
ジャックは力の加減を調整するように何度か刀を振り、的を直した。
「……」
兵たちの背に汗が伝う。
「あれが猟兵殿のお力、か」
あれならば確かに、恐ろしい化け物を打ち破り、怨霊の将を撃退することも叶うだろう。彼らが何人束になっても容易く蹴散らされてしまうに違いない。
「修練しても届かぬ壁の高さを感じるぞ」
「我らは後方にて支援をするのだ、勘違いをするな」
ジャックが測るような眼を兵に向ける。数人が眼を逸らし、数人は奥歯を噛みしめるようにして真っ直ぐに見つめ返した。
「届かぬじゃと。わしは届いてみせるぞ」
辺境から参戦した少年がそう言ってキラキラした目をしている。
「見よ、あの背丈。わしはこれからぎょうさん飯食ってあんくらいでかくなる。でかくなって力持ちになって、あんなふうになっちゃるわい」
ジャックの漆黒のボディパーツに刻まれたスペードが幽かに揺れた。どうも、軽く笑ったようだった。
『やり直し~』
メボンゴが明るい声を響かせる。赤、青、黄色。色とりどりの花が楽しげに風に揺れ、暑気が大空へ押し出されて吹き飛んでいくようだった。
「前衛が敵へ斬り掛かった其の時こそが、攻撃のチャンスだ。どんな敵にも必ず隙は生じる。其の好機を逃さない為にも、仲間と協力する事が大切だと俺は思う」
『いまだ~!』
メボンゴが声を挟む。ジュジュが裏声で喋らせているのだ。
「戦場では連携が大事! 戦闘経験があまりなくてもやり方次第で大活躍できるよ」
ジュジュは射た矢がヒュンと飛び、的に深々と刺さった。
「敵の注意が前衛に向いている時に射ると避けられにくいよ」
「おおっ」
兵たちがどよめく。
「矢が当たらなくても大丈夫。一瞬でも敵の気を引ければそこに隙が生まれる、あとは前衛がバシッと決めてくれるよ!」
兵たちは数人ごとに組分けし、自分たちもと動きを真似て訓練した。
ジャックはそんな兵たちの間を縫うように見て回り、声をかける。金色の眼光が向けられると兵たちはそれだけで誇らしく背を正し、きりりとした表情になる。一流の猟兵殿が自分を見てくれると言うのが彼らにとって良い発奮材料となっていた。
「俺みたいな欠陥品だって、何度も生還してるんだ。アンタ達ならきっと大丈夫」
兵たちにはその言葉を紡ぐ壮健な武者が欠陥品とはとうてい思えず「猟兵殿のなんと謙虚なることよ」と感動し、声に含まれる励ましの気持ちを大いに感じ取って一層やる気を漲らせるのであった。
「じゃあ、組対組で模擬戦してみようか!」
ジュジュがやがてそう言って紅白の鉢巻きを配り始める。
「やられた人は、やられたーって言ってね」
『言ってねー!』
兵たちの中には、そろそろ「あれ? あのうさぎは猟兵殿が喋っている……?」と気付く者も出始めていた。
「では、俺が白組か。黒い俺が白組というのも不思議だが」
「紅黒合戦にする?」
「それもいいかもしれないな」
なんと白組は黒組になり、紅黒合戦が始まった。
「……やるからには、勝つぞ」
密やかに負けず嫌いを発揮してジャックがそう言えば、ジャックに統率される兵たちは元気いっぱいに「おう!」と応える。
「こっちも、負けないよー!」
『負けないよー♪』
ジュジュとメボンゴが言えば、ジュジュに統率される兵たちも楽しそうに「勝つぞー!」と声を合わせ。
黒と紅は何度か熱い模擬戦を展開し、やがて引き分けで勝負を終えたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
やあ、騎士(ナイト)たる諸君!お揃いだね
や、この世界では武士というのかな。まあいいか
私の名はエドガー!通りすがりの王子様さ
そこの君!不安な瞳で武器と睨めっこをしている、君だよ
その調子では、いずれ負けてしまいそうだね
何が君をそんな瞳にさせるんだい?
青年の傍ら、彼の話を聴こう
戦いが怖いかい 武器の力が怖いかい
君、守りたいひとはいるかな
大きな力を恐れているなら、そのひとのことを考えたまえ
戦場に立つ君の脚は、心を支える柱となり
武器を持つ手は、望む未来を拓く力になろう
武器を上手く扱えるに越したことはないが
気の持ち方というのは、何事にも通じる大事なことさ
……レディ、今のカッコよかったかい?(左手をみつめ)
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
支援射撃隊の指導かぁ。それなら、ちょっとは力になれるかしらねぇ。
それじゃ、弓隊の指導しようかしらぁ。
…あんまり人に教えた経験ないし、結構なスパルタになるかもだけど。
支援射撃で一番重要なのは、「どのくらいの力でどう射ったらどの程度飛ぶのか」を把握すること。
飛ばしすぎて敵の頭越えたら意味ないし、味方の上に降らせたらそれはもうただのバカでしょ?
…というわけで。あなたたちには、これからひたっすら目標に向けて射って射って射ちまくってもらうわぁ。
…え?秘訣?近道?ないわよぉ、そんなの。
こればっかりは個人差と環境の問題だから、ざっくりでも自分で感覚掴んでもらうしかないのよねぇ。
●ゆく夏に
訓練場に集まっていた兵たちの前にエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)が現れた。
「やあ、騎士(ナイト)たる諸君! お揃いだね。や、この世界では武士というのかな。まあいいか」
黄金の太陽光を集めて流したような煌く金の髪が繊細に風に揺れ、宝石のような青い瞳が青空を背に一層鮮やかに耀いた。美しき細身の革命剣を腰に下げ、青年は優美な仕草で名乗る。
「私の名はエドガー! 通りすがりの王子様さ」
「王子様!?」
兵たちが目を丸くする。エンパイアの兵相手でも猟兵の言葉には加護があり、その言葉の意は通じた。
「やんごとなき身分のお方が、我らの訓練をしてくださると」
「うん、そうなんだ」
エドガーはにこにこと微笑んだ。いかにも育ちの良さを窺わせる気品のある微笑みは、角というものが一切なき柔らかさを見せ、どことなく隙がある。その隙が一層魅力を増し、兵たちは不思議と何かをして差し上げたい、とソワソワしてしまう。それは尊き者の中でも一部の者だけが持つ得難く不思議な性質であった。
「あら、賑やかね」
もう一人がそこに現れる。品の良いバーテンダーといった風情の長い黒髪の女性、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は王子様に軽く挨拶をして平然と隣に立つ。Bar『黒曜宮』のマスターにしてバーテンダーの彼女は、『黒曜宮』の日常でも猟兵としての非日常でも色々な者と接する日々を送っている。身分だけで先入観を抱いたり、大仰に距離を取りまくったりすることは決してない。人となりはすぐにわかるものだ。猟兵として同じ作戦に参加する者同士、エドガーという青年は全く身分を笠に着ることなく、むしろ「普通」に接することこそが彼を喜ばすだろう、と。ティオレンシアには直ぐにわかるのだ。
「支援射撃隊の指導かぁ。それなら、ちょっとは力になれるかしらねぇ」
美しきティオレンシアが甘やかな声で呟けば、ただそれだけで兵は頬を染めて魅了されてしまう。それもまた、ティオレンシアにとっては慣れた日常風景であった。
「ああ、ちょうど良いところに。私もこれから指導を始めるところだったのだ。共に指導をしようじゃないか」
エドガーはほわほわにこにこと協力を申し出た。
「やはり、一人より二人。旅は道連れというからね」
「ええ、そうねぇ」
ティオレンシアもぽえぽえと脳が蕩けるような甘ロリスイートボイスで頷いた。
「うーん、なあ、お二人ともふわふわぽえぽえとしていらっしゃるが」
「ああ、只者ではない」
「まさか、油断をするなという擬態であろうか。訓練は既に始まっているのかもしれん」
「なんだと」
兵たちが気を引き締めるようだった。
(なにをしているのかしら)
ティオレンシアはそんな兵たちに多少脱力しつつ、気を取り直した。
「それじゃ、弓隊の指導しようかしらぁ。……あんまり人に教えた経験ないし、結構なスパルタになるかもだけど」
ティオレンシアは口元にいつも通りの笑顔を湛え、頷いた。
「よし、諸君。弓を準備したまえ、女史が教えてくださるそうだよ」
さあ! さあ! と目をキラキラさせて促すエドガーはなんとなく毛並みの良い大型犬を髣髴とさせる。おっとりと微笑む王子様は、自身も兵たちに混ざって一緒になって座り、真面目な学生のような顔でティオレンシアの話を聞いた。
(なんでそっち側に……? まぁ、いいわぁ)
ティオレンシアはエドガーにくすりと笑いを零し、本題に入る。
「支援射撃で一番重要なのは、「どのくらいの力でどう射ったらどの程度飛ぶのか」を把握すること。飛ばしすぎて敵の頭越えたら意味ないし、味方の上に降らせたらそれはもうただのバカでしょ」
エドガーが「然り!」と頷いた。
「なるほど、確かにその通りだね。小さな花を摘む時は優しく摘めばよいのだし、根っこ深く張りしぶとく地にしがみつくオオカブには全力で当たるものだ」
本人にはその意図はないのだが、無視できない存在感から自然と周囲が王子様に注目し、その呟きを聞いている。
「こっちに、来るかしら?」
「え? 何故だい。私はこちらで話を聞くよ」
「そう、わかったわ」
王子様は兵たちの中でポワポワとした空気を纏い、どこまでも広がる青空のような澄んだ瞳をティオレンシアに向けた。
「……というわけで。あなたたちには、これからひたっすら目標に向けて射って射って射ちまくってもらうわぁ」
兵たちが不思議そうな顔をする。
「猟兵殿、秘訣とか近道とかはないのでござるか?」
「……え? 秘訣? 近道? ないわよぉ、そんなの。こればっかりは個人差と環境の問題だから、ざっくりでも自分で感覚掴んでもらうしかないのよねぇ」
ティオレンシアは兵の問いかけにほんの一瞬だけ若干残念そうな気配を見せた。夜色の髪がゆらりと揺れる。「楽して簡単に強くなれる裏技のような、そんな都合の良い訓練だと思ったのか」という言葉が聞こえてくるようでエドガーは肩を竦めた。
「こと武術においては、動作を繰り返して感覚を掴み、体に覚えさせるのは肝要なことだよ。いざという時、地道な修練にて染み付いた動きはキミたちを救うことだろう」
王子さまはすっくと立ちあがる。マントが背でふわりと揺れた。歩む足取りは、しっかりとしたものだ。そこには、誇りがある。
「諸君、地道な遠回りは嫌いかい。私は、そこを歩んでこそ得られるものがあると思うね」
誰も文句を言う者はない。こうして訓練が始まった。
◆
「やー」
「えーい」
兵たちが声を出しながら勇ましく訓練に勤しんでいる。
「やあ、順調なようだ……、おっと。そこの君!」
兵たちの訓練を見守っていたエドガーがふと一人に声をかけた。
「不安な瞳で武器と睨めっこをしている、君だよ」
「えっ、あっ、俺でしょうか」
ひょろりと背の高い痩せた青年がびっくりと目を瞠る。先刻から不安そうに目を揺らしていた青年だ。
「その調子では、いずれ負けてしまいそうだね。何が君をそんな瞳にさせるんだい」
春花を撫でる微風のごときあたたかな声がそう言って、王子様が青年の話を聞こうと近寄ってくる。ふわりとマントを翻し、上品に、しかし身が汚れる事を厭わずに草の上に座って。青い瞳が優しく青年を覗き込む。
「戦いが怖いかい、武器の力が怖いかい」
声には咎める響きは一切、なかった。エンパイアの男子にとって、この戦争の土壇場にて「怖い」などとは恥ずべき言葉。だが、王子様は青年の心の奥を認めてくれるような微笑みを浮かべた。
「君、守りたいひとはいるかな」
「守りたい、ひと。……生まれ育った村の、みんなを」
「そうか、それはとても素晴らしい!」
ぽん、と手を叩いて王子様は眼をキラキラさせた。青空の下、その瞳のなんと美しい事だろう。その輝きを見ると、不思議と青年にも「それがとても素晴らしいのだ」と思えて、思えて。青年は瞳を大きく揺らした。
エドガーはその様子をあたたかく見守り、そっと言葉をかける。
「大きな力を恐れているなら、そのひとのことを考えたまえ。戦場に立つ君の脚は、心を支える柱となり、武器を持つ手は、望む未来を拓く力になろう」
「武器を上手く扱えるに越したことはないが、気の持ち方というのは、何事にも通じる大事なことさ」
頭上の太陽が燦燦と輝き、地上に茂る草をきらきらさせている。なんて鮮やかな緑だろう。今世界は生命溢れる季節の只中にあるのだ。周囲の者は草や花の香混じりに皆の汗を感じながら懸命に体を動かした。耳には、自他の呼吸の音や弓の鳴る音、矢が空気を裂いて跳ぶ音、的に当たる音、そして、仲間の青年が勇気を振り絞り勇敢な声を発して訓練に挑み始めた声が届いていた。
「……レディ、今のカッコよかったかい?」
エドガーは左手を見つめた。左腕に宿る狂気のバラがそこにある。愛しのレディ、あの青年は頑張るみたいだよ。そっと呟くエドガーは自身もまた顔をあげ、前を視る。
――茨道を歩む覚悟は、とうに胸の奥に燈っているのだ。
◆
兵たちが意気揚々と訓練をしていた。
(秘訣、ねぇ)
ティオレンシアは先刻のやりとりを思い出す。そして、ふ、と吐息を幽かに零して微笑んだ。
――魔道など無用、派手さなど不要。銃弾が急所に当たれば、それだけでヒトは死ぬのだ。
(世の中は、甘くない)
訓練を積んでも気を付けていても守ろうとしても人は容易く死ぬ。だが。
「今日は、よいお天気ねぇ」
ティオレンシアはそう言ってぽえぽえと微笑んだ。隠れ家のようなBarでふと呟く、そんな時と同じように。今は、猟兵としてここに居る。そんな自分を少しだけ意識しながら風に揺れる三つ編みを抑え、閉じたままの眸で空を仰ぐ。
――うつりゆく季節の名残色濃く、蒼穹は変わらずの青さを湛えて人々をのんびりと見下ろして。
ゆく夏を白雲が追う中、知らせが齎される。
「そろそろ、時間です――、」
決戦の時が迫っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵