エンパイアウォー㉗~慢心のすえに
「サムライエンパイアでの戦争は、順調に進んでいるようだ」
グリモアベースの片隅で、膝に猫を転がしながらセツ・イサリビ(Chat noir・f16632)は微笑んだ。眼鏡の奥で紫の瞳が興味深げに輝いている。
「幕府軍の士気も高く、順調にいけば数日中に次の展開に状況が進むだろう。だが――」
にゃあん、と猫がペリドットの瞳を猟兵たちに向けた。
「あまり順調すぎると、兵士達の気もゆるむ。辛い所だが、戦いというものは本来、甘いものではない。今回はオブリビオンが関わっているため猟兵が参戦しているが、サムライエンパイアが本来の歴史を作るための戦いであれば、猟兵の関与する所ではない。と思わないか」
セツの膝で喉をなでられた猫が腹を見せる。可愛いで作られたあざといポーズに、猫好きの猟兵の意識が一瞬猫に向く。
「そこでだ。進軍中の兵士達の一部をこっそり借り受けた。訓練のため、という目的は告げていない」
なーん、と猫が鳴く。
蛍石に似たグリモアがふわりと浮き、ぼんやりと見えてきたのは。
だだっ広い平原で小休止中の兵士の一団だった。すべて男性で鎧を着け、刀や槍で武装している歩兵たちだが、正直、その様子は兵というものではなかった。
UDCアース風に言い換えてみれば、イキっている。
ウェーイなパリピを武装させたような、俺たち最強? みたいな。
幕府軍とはいえ、末端の末端まで正規の訓練が行き届いているわけではなかったらしい。
そして運良く実戦らしい実戦にも当たらなかった隊らしく、戦ってもいないのに勝った気でいるのが誠に痛々しくてやりきれない。
「奇襲をかけてくれ」
なんですと。
猟兵たちは事もなげに言い放つセツを見た。眼鏡の奥の瞳は紫色に輝いている。実際、面白がっているのだろう。
「派手に奇襲をかけてくれ。もっとも、猟兵が本気で奇襲をかけると一般人である彼らは、一瞬で文字通り天に召されてしまう。そこは当てないようにするとか、すれすれに掠る程度で」
猟兵たちの技は多岐にわたり、ダメージを与えずとも一般人を惑わせる技を持つ者は多いだろう。
「これは訓練だ。『思わぬ所から奇襲を受け、どう撃退するか』という」
奇襲をかけただけではいけない。蜘蛛の子を散らすように逃げてしまうかも知れないからだ。
奇襲を撃退するまでが兵士としての訓練となる。
幻影で奇襲を起こす傍ら、兵のふりをしてこっそり隊にまぎれ、立ちあがって撃退の戦術を指示してやるのもいい。誰かが起こした奇襲に乗じて、実際に飛びだして刀や槍の手本をみせてやるのもいい。
「悲壮な覚悟を告白しつつ、故郷の家族を思いながら涙ながらに突撃してもかまわない」
なんですと?
猟兵たちに二度見された、セツの視線は膝の上の猫にあった。黒いつやつやの毛並みはセツの自慢だ。
要は、たるんでいい気になった兵に気合いを入れ直す、または活を入れるお仕事だ。基本、彼らはもともと素朴な村に生まれ育ち、都で一花咲かせようと出てきた若者なのだ。
「ああ、一応。安全第一でよろしく」
景色はサムライエンパイアの小高い丘の上。
考えてみれば、こんな敵から丸見えの場所に三々五々散って、小休止ってところからして、そもそもおかしいんじゃないか。
猟兵たちはそれぞれに訓練メニューを考えつつ、サムライエンパイアの風に吹かれ歩きだした。
高遠しゅん
サムライエンパイアの戦争も佳境となってきたようです。ここらでちょっと息抜きなどお届けにまいりました。シリアスでもコミカルでも、どちらでもお受けできるかと。
戦争シナリオの特性上、さくっと終わらせる予定です。
プレイングは先着順ではなく、成功判定のプレイングが執筆時点で一定数あれば受付終了となるかもしれません。全員採用はお約束できません。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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●戦場
・行軍中に見つけたいい感じの平地。昼寝にはもってこいの天気です。
●訓練対象『パリピ侍』
・装備は鎧に刀か槍、近接戦闘を想定した雑兵スタイルです。銃や弓、騎兵はいません。
・年齢は20~25歳程度、全員男性。実戦の経験がないのに「俺たち最強っしょ?」な謎の無敵感に包まれています。若いって怖いですね。
●目的
・肉体面か精神面を幕府軍の侍として鍛え直すこと。どんな手段を使ってもかまいませんが、怪我はかすり傷程度に留めてください。
・基本的に素直なので、説得力とインパクトがあればその気になります。
・雑兵の鎧が必要であればプレイングにお書き添えください。
●プレイングについて
・複数名様でご参加の際は、プレイングの一行目に【お相手様のフルネーム(グループ名)】と【ID】を記入をお願い致します。
では、皆さまの楽しいプレイングをお待ちしております!
第1章 冒険
『幕府軍の大特訓』
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POW : 腕立てや腹筋、走り込みなど、基礎体力を向上させる訓練を施します
SPD : 危険を察知する技術や、強敵からの逃走方法などを伝授します
WIZ : 戦場の状況を把握して、自分がやるべきことを見失わない知力を養います
👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
仇死原・アンナ
アドリブ絡みOK
訓練か…
死なない程度に鍛えれば…え、やり過ぎは駄目?
難しいね…まぁやってみよう
[目立たない]ように一団の背後から[忍び足]で近づこう
そして【とても怖いな仲間達】を召喚して敵のふりをして奇襲を掛けよう
[存在感と殺気]を放って[恐怖を与え]ようかな
「幕府軍とやらの力…見せてもらおうか…」
[呪詛]を纏い鉄塊剣を見せつけて[パフォーマンス]で[精神攻撃]
攻撃は[見切りと武器受け]で防御回避
攻撃はしないで防御回避だけに専念するよ
訓練が済んだら素直に謝ろう
この戦争で彼らが皆無事に生き延びるとは限らない…
全滅もありえるかもしれない…
それでも…彼らの無事を[祈る]としよう…
水心子・真峰
一度腹のくくり方を覚えてしまえば
あとはそれを思い出しなぞるだけよ
君達が相手しているのは常識外れの妖怪変化ばかりだということを
存分に知るが良い
錬成カミヤドリを操り実体のない刀の幽霊を演じさせようか
二振りずつ組ませ
片方には布切れを引っかけて刀を構えた人のようにする
払い退けようともそこには誰も居ないのだよ
私自身は雑兵の鎧と刀で変装
途中から飛び込み打ち払い、見本の対応をしよう
体格筋力に恵まれながらこの私より腰抜けとは、その刀と鎧が泣くわ
戦場において数を減らしたい相手が狙うのは弱い奴だ
武器を構えて腹に力を入れろ
倒すべきものは目の前に見えているはずだ
刃は当たる寸前に返して、峰打ちか平打ちで手加減して殴るぞ
花園・スピカ
正直ああいう系の方々は私少々苦手なんですが…これも互いの訓練と思って…!(内心びくびく)
(柴犬ぬいぐるみを抱き締めた気弱そうな女雑兵がパリピの前にのこのこ現れる)
「あのー…そこのお侍さん?さぼってますよね?明らかにだらけてますよね?そんな体たらくで戦に勝てるとお思いですか?」
弱そうな女子にいきなり悪口(精神攻撃)言われたら相手も黙ってないでしょう
相手が怒って反撃、もしくはナンパ的な流れになったらUC発動
相手に当たらぬギリギリの位置に女神様の輝剣をズドーンします
敵を見た目で判断するのは危険だと身をもって体験していただきましょう
その後オブリビオンの多種多様さを説明し姿形に惑わされぬよう念押しします
●俺たちさいきょー幕府軍
死なない程度に鍛えればいい。
ここから見える丘の頂上まで重石をくくりつけてダッシュさせる、とか。途中、谷や川があるけれど、命を落としはしない。きっと。
それとも、鎧の上に重石をのせて高速で腕立て伏せさせる、とか。潰れる? 重い? そんなの、命を落とすことにくらべたら易いもの。たぶん。
「……え、やり過ぎは駄目?」
猟兵やオブリビオンの力に慣れてしまうと、意外と合わせることが難しい。仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)はそっと口もとに指先を当て考える。程よい加減の訓練(安全第一)とは、どのようなものにすれば。
「正直」
花園・スピカ(あの星を探しに・f01957)は真顔で兵達を見た。そして首を振って両手に顔を埋める。
「苦手なんです」
ああいう輩が。
数名でたむろっては、行軍に大切な兵糧を無駄に食い散らかし、時折『ウェーイ!』みたいな謎の歓声を上げては、がちゃがちゃと大事な装備の槍や刀を合わせたり。
「ああいう系の方々は、私少々苦手なんですが……」
大事なことなので二回言った。精神的にやられるのは猟兵でもきついので。
「難しいね……」
「私たちも訓練と思うことにしましょう……」
二人は割り切った。割り切るしかなかった。
夏の暑さがゆるんだ午後のひととき。どこかゆるんだ兵達のひとかたまり。五人ほどが寝転んだり座り込んだり、賑やかに談笑している前に、一人の娘が立った。
似たような雑兵の鎧、ならば同じ隊列にいたのだろうと見あげたなら、刀の代わりに愛らしいぬいぐるみを抱えた、まだ少女だった。
「あのっ……あの、さぼってますよね? 明らかにだらけてますよね?」
スピカに五人の雑兵の視線が集まった。かたかたと武具がふれあう音は、娘の体が震えているしるしだ。
「幕府軍のおしごとは、これから一番だいじな所です。気合いを入れなければ、いけないと思うんです!」
明らかに怯えた様子の年下の娘が、ふるふる震える声を上げる様子は、とても健気で可愛らしい。
てなわけで。
「「「気合い入りまくりってやつー?」」」
大笑いされた。
兜の下、スピカの眼鏡にかくれた緑色の瞳に乗った冷たい光を、彼らは見ていない。
その反対側に、アンナがそろりそろりと廻ったことに彼らは気づきもしない。気配を隠したり技能を使うまでもなかった。なにせだらけきった雑兵ピーポーなので。
「『幕府軍とやらの力……見せてもらおうか……』」
どこからか地の底から響くような声が聞こえた、気がした。腹を抱えて笑い転げる雑兵ピーポーを囲むようにして、黒装束の異形の影がじわりと現れた。数は怖くて数えたくない。
雑兵スタイルの鎧なんぞ紙切れの如き。肌にダイレクトに刺さり突き抜けるのは、紛れもない恐怖だ。そして、異形らを従える黒鎧の女。
「あなたたちは運が良かった……それとも、悪かったのかしらね。私に会ってしまったのだもの」
彼らの刀が刀であるならば、彼女の剣はまるで鋼塊。彼女の剣が剣であるならば、兵達の刀など針金だ。片手で振ればごうと風を斬る。黒衣の異形らは増えに増えて、首刈りの不吉な大鎌を掲げ、音もなく陣を狭めてきた。
――殺られる。やばい。ちょうやばい。
兵達は手に手に刀や槍を持って、四方八方にむやみやたらに振り回した。『命を大事に』。故郷の母ちゃんから言われたんだ、そういえば。
「どけよ!」
恐慌に陥った男に押しのけられそうになったスピカは、にっこりと天の女神もかくやという笑みを浮かべて天を指さした。つられて男も空を見あげる。
「あああああ!!??」
彼らは知らない。星のごとく輝く天秤を持つ女神は、正義を司るということを。断罪の剣が男の目の前に深々と突き立った。鉢巻きがはらりと落ちる、しかしかすり傷一つ負わないギリギリにぐっさり突き立った。
「そんな体たらくで、戦に勝てるとお思いですか?」
静かなスピカの言葉だった。
散り散りになってしまいそうな兵の中から、凜とした声がした。
「恐れるな! 日々の鍛錬のとおり相対すれば、恐るるに足らず!」
兜と鎧で顔は見えない。兵達の中で言葉少なにひっそりとしていた、一際背の小さな兵だった。
「我は水心子・真峰(ヤドリガミの剣豪・f05970)、逃がしはせぬ!」
背丈には長い太刀を構え、兵らを追いかけ回すゆらゆらする異形に斬りかかる。地を蹴って横からの一閃、返す刀で上段からの二閃。水の流れの如く自然な、しかし確かな鍛錬の積み重ねを見せつける剣筋。
教科書に載せたいほどの見本の太刀筋だった。
異形は地に落ち、ぼろきれと化す。
「私より体格筋力に恵まれていながら腰抜けとは、その刀と鎧が泣くわ」
真峰は太刀を鞘に収める。兜を捨てたその姿は、兵達が郷に残してきた妹や、隣家の幼馴染みの少女を思わせる細さ幼さだ。実際のところ、百年以上年上とはまあ、思わないし見えない。
兵達は刀を、槍を握り直した。そうだ、幕府軍に志願したのは、少しでも郷に給金を送って、田舎の貧しい家を助けるためだ。そりゃあ出世もしたいし派手な暮らしもしたいけれど(本音)。なんて思い出した。
「いいか。相手をよく見よ。倒すべきものは目の前に見えているはずだ」
多数の黒衣の異形は、落ちついてよく見てみれば、攻撃をしてこないのだ。ただ、歯の根が合わないほど怖い。がたがたと鎧の各所が震えるほど、怖いのだ。
「腹に力を入れろ。戦場において数を減らしたい相手が狙うのは、弱い奴だ」
弱いのか、俺たちは。
いや、弱くはないはずだ。負け無しでここまで進軍してきた、幕府軍だ。弱いはずがない。
「鍛錬を思い出せ。お前達なら、勝てる」
黒衣の異形が鎌を振り上げる。大きく脇に隙が見える。見える!
「――征け」
応、と兵達は声を上げた。
怖いながらも刀を振るえば、意外とあっさりと断ち切れた。異形は黒い霞となって消え失せる。
一人が斬ったなら二人、三人と続く。影の数が減ってくれば、心も落ちついてくる。恐怖は武器を振るう毎に薄らいでくる。
「威勢のいいこと」
アンナがくすりと微笑んだことを、彼らは知らない。
アンナが召喚したのは、見た目が恐ろしい刑吏の影。もとから戦闘力などないけれど、攪乱にはもってこいの術。あとは【恐怖】を和らげるだけ。
兵士達の顔から焦りと恐怖が消えた。
兵士達が『兵士』の顔になったころ、異形の影は一つもなくなっていた。
落ちついてから、スピカとアンナ、そして真峰は、自分たちが天下自在符をもつ者であり、将軍家光公の直属の命を受けて兵士達に訓練を授けたことを明かした。
敵の姿は多種多様、くれぐれも姿形に惑わされぬように。また、順調な時ほど心を緊張で満たすこと、慢心こそが本当の敵であることを伝えたのだった。
大成功
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エンティ・シェア
餌時で虎の幼体を召喚
まずは様子見がてら「1」のまま数体向かわせて
ちゃんと対処できそうなら倒させてモチベ上げさせてやろうか
その上で、じゃれついても死なない程度のサイズに合体させてけしかける
噛むなよー。引っ掻くなよー。死ぬからなー
吠えるのだけは全力で
死なない程度にビビらせてやれ
あんたらさっき小さいのとは戦えてただろ
サイズが変わっただけだ、よく見て挑め
その武器防具は飾りか?
多少痛いのは覚悟してでも誰かが止めろ
止めて、他の連中が確実に仕留めろ
まぁ、どんだけ不格好でも、逃げ出さなきゃ上出来ってことで
倒せそうなら、ボス戦行ってみるか?(全合体させて
は、冗談だっつの
こんなのも居るっつーのだけは忘れんなよ
●かわいいが脅威
がお。がーお。
よちよちのあんよを大地につけて、くわぁと日ざしにあくびして。ころりところがりまんまるのお腹を出して警戒心もない様子。しましまの体は大地の色だ。
「かわいい……」
おててに『1』とか描いてあるけれど気にならない。わらわらわらと出現した小さな虎の子が、戯れかかってきた。ぷにっと肉球もまだやわらかい。
『『『げきかわ……』』』
お昼寝気分だった侍衆が手を伸ばせば、甘えるようにその牙をむく。あぐあぐあぐ。甘噛みなのにけっこう強い……痛い! 爪のみみず腫れに血がしぶいた。
「がおー、食べちゃうぞー」
エンティ・シェア(欠片・f00526)は笑みをたたえ、のんびり休憩中の侍衆に語りかける。
「抵抗しないと食べられちゃうよ。ほら、刀はどうしたんだい?」
いやーこんなかわいいし倒すとか無理。俺ら心優しいから可哀想(以上パリピ語で翻訳ください)。なんてげらげら笑いながら。やる気などなし。
ああ、可哀想に。見た目に惑わされ、脅威を脅威として認識できないなんて。これではオブリビオンとの戦いでは、あっという間に陥落してしまう。無理もないけれど。彼らは猟兵とは違う、一般の戦いしか知らぬ一般雑兵だ。
各地の異変は言葉として知ってはいても、実際目にしなければ実感できないものだ。
虎の子まみれの雑兵たちに、エンティは指を鳴らしてみせた。
肉球の数字は『3』。兵にまみれていた虎の子がずしりと重くなる。鎧に甘噛みの牙ががしり食い込んだ。
「さあ、逃げて、回れ右して立ち向かえ。でなければ」
死ぬよ? エンティの唇の端が上がる。
があああ! と吠え声が響き渡る。
噛むなよー。引っ掻くなよー。死ぬからなー。繰り手のエンティは声だけかけて。
急ごしらえの武者隊となって虎討ちに集中する兵は、先程までの腑抜けた様子を脱していた。
サムライエンパイアにも虎はいる。およそ最強に近い動物としてたまに村を襲ったり、名高い武将を虎と称して、強さを讃えることも多いのだ。甲斐とか、越後にいたりする。
それに、気を抜けば本気で死ぬ。やばい。自分たちが。
目に見える脅威がわかりやすすぎる。野生動物に言葉は通じない。
横薙ぎの爪を刀で防ぎ、誰かが孤立したなら駈けよって槍で牽制する。隊列の動き、連携もまあまあ。
「形にはなってきた。どんだけ不格好でも、まぁ、逃げ出さなきゃ上出来ってことで」
じゃあ、仕上げ。
指を三回鳴らせば、数匹の若虎がすっと後退し、一カ所に身を寄せた。
一瞬形を崩し、次に現れたのはしなやかな肢体を持つ獣。若い兵達が見あげる巨体、なめらかな毛艶の虎縞、青白い焔をまとい前足が地を掻けば、豆腐を崩すように大岩が割れた。
――ーーーーー!!!!
音にならない音、音を音として捉えられない耳。恐ろしく美事な虎が、尾の先に焔を灯らせ吼えた。
ああ、駄目だ。これには、勝てない――。
「は、冗談だっつの」
絶望しかけた雑兵達の心が折れる前に、エンティは術を解いた。
ころころと転がる虎の子達。愛らしい姿にも、兵達はもう油断しない。
「こんなのも居るっつーのだけは、忘れんなよ」
大成功
🔵🔵🔵
ニコ・ベルクシュタイン
【榎・うさみっち(f01902)】と
例え実力が伴っていたとしても、其の慢心こそが命取りとなると言うに
ましてや実戦経験が無い者の其れなど、とても見過ごせぬ
なあうさみよ、一つ指南をしてやろうでは無いか
事前に雑兵の鎧を借り受け身に纏い
うさみがせみっちを炸裂させるまで物陰に潜み待機
せみっち効果でパリピ侍達が混乱に陥った所で飛び出して行く
「戦場では何時どのような敵に襲われるかも分からぬ
そう、此のようにだ!舐めて掛かれば痛い目を見るのは必定
一先ずは俺に続け、相手はすばしっこいが良く狙いを定めて」
【時計の針は無慈悲に穿つ】の拳で狙い澄ました一撃を放ち
侍達に手本を見せつつ、せみっちには尊い犠牲となって貰おう
榎・うさみっち
【ニコ・ベルクシュタイン(f00324)】と!
おうおう、いきの良い野郎どもだな!
自信があるのは良いことだけど自信過剰なのは別だ!
こいつらのぬくぬく根性を叩き直してやろうぜ!
パリピ達の前にどーんと立ち塞がり
俺がお前らに稽古をつけてやる!
おっ、今ちっちゃいからってバカにした奴いるな?
【きょうふときょうきのせみっちファイナル】!
攻撃はしないようにせみっちがパリピに突撃
「キャー虫こわーい!」とか言ってんじゃねーぞお前ら!
戦場には強いだけじゃなく色んな見た目の敵がいるのだ!
さぁ、恐れずせみっち達を倒していけ!
でもせみっちも負けじと避けまくる
こうして素早い相手への戦い方を特訓
良い動きをしたら褒めてやろう!
●セミ・ファイナル
「いえええええい!」
「「「おおおおお!!!」」」
「気合い入ってるかあぁー!」
「「「うぇーーーい!!!」」」
「にゅーよーくに行きたいかー!」
「「「うぇーーーい!!??」」」
ノリと勢いだけで雑兵たちを集めテンションを上げるのは、真夏のフェアリー、榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)。
ふう、と額の汗をぬぐい、ノンアルカクテルをくいっと一口。ピンク色したそれは、桃をしぼった洒落たドリンクだ。あまい。すっぱい。うまい。
「いきの良い野郎どもだな! だが、自信過剰とは話が別だ!!」
なんか格好いいポーズでびしっとキメる。決まった。だいたい雑兵ズの視線が若干上向く辺りをふよんふよん飛んでいる。
雑兵ズはその姿が果たして見えていたのか。なにしろ数だけはそこそこ多くわらわらしている。聞こえてきたノリと勢いのセリフだけで、元気にお返事しただけではなかろうか。
出稽古に来てやったぜ! って。うさみっち、かっこいーすてきーって声をちょっと期待した。聞こえてくるはずだった。
「あ……ちっs」
「そこ。言ったな。ちっさいって言ったな?」
(言ってませんのポーズ)
「言ったな!」
(言ってませんってばのポーズ)
ただではすまないのだぞ。って目をしたうさみっち、ちょっと高いところで空っぽにしたグラスを高く掲げた。具体的には頭の上目測で1.5センチほど上がった。
きらーーーんと光るグラス。そして。
「あ、あれはなんだ。みんな、空を見ろ!」
長身の雑兵(仮にニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)と名付けておこう)が、大仰に芝居がかった身振り手振りで空を指さした。つられて空を見る雑兵ズ。
斯くして『それ』は天より降りそそぎ、地上を阿鼻叫喚地獄と化した。
この季節にしては、爽やかな風が吹く午後のことだった。
びびびびびびびび。
じじじ……じじ……じ…………(しーん)。
蝉の寿命は儚いものだ。無事に羽化する確率はおよそ四割ほどという。晴れて成虫となり夏を謳歌するも、だいたい十日から三十日ほどで力尽き地に落ちる(ぐぐる調べ)。遺伝子を残せる者は、もっと数少ないだろう。
動かなくなった黒いそれを、槍の先でちょんとつつこうと下っ端雑兵Aがそろりと腕を伸ばした……その時!
びびびびびびび!!!!
「ヒイィ!」
これぞ必殺、『きょうふときょうきのせみっちファイナル』!! なんておそろしい技だ!!!
天高く何もないところから降りそそいだ無数の黒い雨粒は、ぽかーんと上を向いていた雑兵ズの鎧の首とか兜の隙間から内側に入り込んだり、足の踏み場もないほど地面に落ちては、一斉に痙攣しながら翅を震わせびびびと鳴いたのだ。
「いやああああ!!!」
「とってー! 背中のとってー!!」
「ぐしゃあって足で!!」
やけにリアルな造形のせみっちが、そこらじゅうでびびびびじじじじしているなんて。筆舌に尽くしがたい、絶妙なデフォルメ加減で(詳細を知りたい勇者は『セミ』とか、それらしい単語で画像検索をおすすめします。わたしにはむりでした)。
「此度の戦場では、いつ何時どのような敵に襲われるかも分からぬ。そう、此のようにだ!」
雑兵ズの中に紛れ込んでいた、ニコ・ベルクシュタインが果敢にも立ち上がる。その足の下で何かいやな感触があったが、猟兵なので気にしないことにした。
「たかが蝉一匹と舐めて掛かれば、痛い目を見るのは必定!」
固く握りしめた拳が唸りを上げ、地でびびびびするせみっちを磨り潰す。ユーベルコードの力を乗せた拳は、それだけで埴輪オブリビオンをも穿つ力を持つ。しかし、猟兵であるニコは、せみっち一匹倒すためにも全力を注ぐ。これは訓練でもあるのだから、甘さを見せてはいけないのだ。
(「実力が伴っていたとしても、其の慢心こそが命取りとなると言うに……」)
長い手足を自在に使い、降りつづけ逃げつづけるせみっちを、空中で正確に捉え消滅させる。ニコが見事な演舞を披露している間も、せみっちはばらばらと降り続ける。
うさみっちは優雅にパラソルの下でユーベルコードを展開しながら、今度は八朔のジュースなんて頂いていた。
「そこの赤い鎧、今の逃げはいいステップだった!」
優雅っちに指導。
「――先ずは俺に続け、相手はすばしっこいが良く狙いを定m」
景気よく数匹をまとめて粉微塵にしたニコの首もとに、偶然なんか入った。今日の装いは雑兵の鎧だ。びびびびびと、背中を下がっていくセミファイナル。想像してみよう。雑兵の鎧は、洋服のように簡単に脱げたりしないのだ。
「すみません。うさみっち様」
「うむ」
「背中の、とってくれますか」
うさみっちは高いところからニコを見おろし、ふふんと笑った。
大成功
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