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その旅芸人、凄腕につき

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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「そ、それでは参ります。お手玉名人と呼ばれた技の冴え、とくとご覧あれ」
 サムライエンパイアのとある地方の城中で、一人の芸人がお手玉によるジャグリング芸を披露する。
 次から次へとお手玉が投入され、あっという間に十を越えるお手玉が宙を舞った。芸はそれで止まらない。さらなるお手玉が追加され、総数にして二十を越えるお手玉が華麗に宙を舞い踊る。
「おお、これは見事! どうかね相談役殿。これはなかなかの名人芸ではないか?」
 ジャグリングの名人芸にいたく感心した城主が、そばに侍っていた美丈夫の僧侶に声をかける。僧侶はそうですね、と相槌を打ちながら、しかしと言葉をつなげた。
「所詮は数を増やしただけのお手玉に過ぎぬかと。この様な児戯を徳川公にお見せするわけには行きますまい」
「で、あるか。相談役殿がそう申すのであれば、そうなのだろう。いやはや芸事というものはよく分からぬ」
 僧侶が手にした錫杖で床を打ち、しゃらんと錫の音が鳴る。
 すると影のように現れた忍者の群れが芸人の身をさらい、何処かへと連れ去っていく。
「ひっ、お、お助けを! どうか命だけは、命だけはー!」
 命乞いをする芸人を見送る城主の目は伏せられていた。
 次に城主が目を開けたとき、そこにはもう芸人の姿はなく、あれだけ見事に宙を舞っていたお手玉も消えていた。
「……のぅ、相談役殿よ。いくら芸が足りぬとしても、何も命まで取ることはないのではないか?」
 城主は連れ去られた芸人がどんな結末を迎えるか知っている。しかし同時に、そこまでする必要があるのかという疑念も持っていた。
 疑念を持つだけで何もしない城主に対し、僧侶は錫杖をしゃらんと持ち直しながら語る。
「何を弱気な。天下泰平の世において成り上がるには、戦争ではなく徳川公に取り入ることこそが重要なのです。年に一度あるかどうかも分からぬ徳川公との茶会に、命すら賭けられぬ芸者を連れていくなど言語道断」
 それこそ不敬と僧侶に言われ城主は顔を青くした。
「そ、そうであるか。相談役殿の申す通りだ。己の芸に命も賭けられぬ未熟者を、上様にお見せするわけにはいかぬな」
「左様。それに、この程度のことは当然ながら他藩の城主もやっておりまする。命がけの芸者を集め、その芸によって徳川公に取り入るべし。これは形を変えた戦争であり、一介の武芸者を案ずるなど生温いことをしていては他藩に後れを取りますぞ」
 僧侶の弁が真実である証拠はない。だが一国一城を治める城主として他藩の動向を軽視はできない。天下泰平の世であっても権力争いが無くなることはないのだ。
「相分かった。他藩に後れを取らぬよう命がけの芸人を集めるだけでなく、市井の者共にも芸をさせるとしよう」
 城主の決定を僧侶はにこやかに見守っていた。



 世界中から猟兵が集まるグリモアベースに一人の女がやってきた。
 グリモア猟兵のグロリア・グルッグはいつものスペースで足を止め、依頼を受けに集まってくれた猟兵達に頭を下げてから事件の内容を説明する。
「お集まり頂きありがとうございます。私が今回予知した事件はサムライエンパイアで起こる民間人の虐殺です。とある藩の城主が何を血迷ったのか、自分が治める領地の民間人に芸を強要し、それが達人並みでなければ処刑するという残忍な凶行ですね」
 処刑そのものは城内で極秘裏に行われており、表沙汰になりにくい巧妙な手口ですとグロリアは語る。
 城下の民間人は城主の意向に逆らえず、言われるがままに芸の腕を磨いているらしい。そうしているうちに城へと呼び出されると、そのまま行方不明となり帰ってこない。もう何人も犠牲となっていて、凶行を止めない限りまだまだ被害は増えるだろう。
「そこで皆さんには現地へ赴き『芸』を披露してもらいたいのです。場所は城下町の大通りになりますので、注目を集めるには問題ないと思われます。そうすれば皆さんは旅芸人の一座だと認識され、城の中へと侵入することが出来るでしょう」
 そこから先は激しい戦いになると予想されるが、まずは旅芸人の一座として認識されることが重要だ。一人でも多くの猟兵が思い思いの芸を披露すれば、たちまち凄腕の一座だと評判になるだろう。
「どんな芸をするかは皆さんにお任せします。城下町の民間人は芸事に苦心している最中なので、かぶりつくように皆さんの芸を見てくると思いますよ。天下泰平の世で生きる人々が無残に殺されていくのは見過ごせません。どうか皆さんのお力で、人々を救ってください」
 そう締めくくるとグロリアは頭を下げ猟兵達を送り出すのであった。


宝野ありか
 お世話になっております、宝野ありかです。
 作業はもっぱら夜中ですので、リプレイの返却も夜中になると思います。
 技能については【 】なしでも大丈夫です。文字数大事に。

 今回の依頼はサムライエンパイアが舞台。
 一章では自由に芸を披露して頂き、二章と三章ではバトルが繰り広げられます。
 披露して頂くのはあくまでも『芸』なので、過度に攻撃的だったり周囲に被害が及ぶような物は採用が難しいと思われます。
 時間帯はお昼過ぎくらいのスタートなので明るさや人通りには困りません。
 それでは皆さんのご参加をお待ちしております。
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第1章 冒険 『芸は身を助く』

POW   :    居合い抜きや演舞、怪力などの芸。

SPD   :    手妻(手品)や曲独楽、軽業などの芸。

WIZ   :    話芸や動物使い、神通力などの芸。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

キケ・トレグローサ
「芸は、強要されたり、するものじゃ、ない。人を、笑顔にする、感動させる。それで、人を殺すなんて、ゆるせない」
旅芸人として芸によって人々が苦しめられているのは看過できず大通りで演奏します。
「でも、きっと、黒幕も、見てるよね。手の内は、明かさないように」
キケの人格でユーベルコードは使わず猟兵だと気づかれないようにする。
大通りの脇に立ち、目の前にチップ入れを置き愛用のリュートを奏で歌を歌う。人々を慰めるように歌う曲は「歌は難しくない思ったことを素直に語ればいい」という意の詩の曲。歌い終われば。
「お気持ち分のお代と、聴いてくださった皆様の幸せが、私の糧となります」
と口上を語り、場所を移しまた歌う。


稲荷・恋狐
よーし!森の故郷で子供に人気だった恋狐の芸をお見せしちゃいますよー!
子供だましと侮るなかれー!恋狐のとっておきの火を使った芸をその目に焼き付けてください。火、だけにっ!

・まずは10個のフォクスファイアを出します!
・次にその狐火を狐の形に変化させて、10匹の狐を空中で自由自在に走り回らせたり、じゃれ合わせたりします!
・最後は空中で10匹の狐を合体させて大きな狐にしたら、周囲を軽く一周させてポンと消します!
・火を使うので怪我人や、火事を起こさないようにも気をつけますねっ!

恋狐の芸どうだったでしょうかー!
これがほんとの狐火……。なーんてねっ♪


髪塚・鍬丸
「さぁてお立合い。これなるは扇の舞の芸にござい。」

両手にそれぞれ持った扇を広げて、手裏剣の様に投げてみせる。
風閂(見えない糸を使ったテレキネシス)を応用し、自身の周りを旋回させる様に扇を宙に舞わせる。
更に隠し持った扇を手品のように取り出し広げ、次々と投げて無数の扇を螺旋に踊らせてみせる。

「さて、扇を舞わせるだけでは物足りぬかと。ならば、不肖この身も宙を舞わせて頂きましょう」
ジャンプの技能で、風閂で宙に足場にした扇を蹴って、螺旋階段を昇るように、軽業で宙へと舞い昇る。最後は頂上から宙返りし着地。扇は同時に懐に潜りこませてしまい込む。最後に観客に一礼。

…上手くいくように事前に特訓しておこう


アレン・カーディス
ふむ……芸を推すだけならともかく、気に入らないと殺人とはね
旅芸人としては見逃せないのだよ

行動
私はいつも通り人形劇をやろう
「さぁ、さぁ。ご立会い。人形劇の始まりだよ。お代は見てのお帰り、まずはご覧あれ」
「演目は『少女は騎士を夢見る』。さぁ、始まり始まり」

「『いつかあの騎士様のような騎士になりたい』」
幼いころ助けてくれた騎士に憧れる少女が、少年の姿となって騎士学校へ入学したところから始まる
時に正体がバレたり、時に失敗しつつも徐々に仲間を得、成長する物語

「……こうして、少女は初の女騎士になることができたのでした。おしまい」
ポニーテールに軽鎧姿のからくり人形をお辞儀させる

※足りない人形数は魔法具で補う


音羽・浄雲
※【WIZ】で火を使った芸をします。

「いつの時代も一城の主ともなれば横暴になるものなのでしょうか……」
少し怒気を孕ませながら呟くが、それはそれと気持ちを切り替え両腕を左右に大きく広げ態と大げさなそぶりを見せる。

「さあさあ皆様盆には早い狐火の舞!とくとご覧あれ!」
息を大きく吸い込んで言い放つと、浄雲の周りに十数個の狐火が浮かび上がる。
それは浄雲に指揮されるがままに宙を舞い、更には自分自身も舞を始めた彼女の周りでともに舞い踊る。


ロアル・スクード
※アドリブ歓迎

ふむ、そうだな…芸事と言えるかわからないが一つ試してみるか
ユーベルコードで本体の盾を複製し操ってみせよう

はじめは一つだけ複製
ひと撫でしてから軽く空中に浮かせて観衆の注目を集める
「この盾は生きているんだ。今は眠っているが、こうしてやると目を覚まして動き出す」

頃合いを見て複製を最大まで増やし、存在感が出るよう派手に操る
列を成して円を描くように動かしたり、観衆の頭上を飛ばしたり、自分の周りに集めたり…
最後は複製を整列させて一礼

さて、上手く行くだろうか
しかしこうして注目されるのはどうも慣れないな
…それでも悪い気はしないのは、
形はどうあれ、人に喜ばれるのが嬉しいからかもしれない



畜生、畜生と。
 町人の男は頭を抱えながら大通りの脇でへたり込んでいた。
 時刻は正午を過ぎた頃。お天道様はこれでもかとばかりに輝いている。
 普段であれば大通りには人がごった返し、喧噪が鳴り響いている所だ。
 しかし実際はそうではなかった。
 大通りの脇にはうなだれた人々が座り込み、生きる気力を無くしたような目で虚空を眺めている。ある者は涙に暮れ、ある者はうわごとを繰り返し、ある者は眠るように倒れていた。
 皆、芸事に精魂尽き果てたのだ。どの芸をし、どれだけ腕を磨けばいいのか分からず、しかし不足があれば殺される。死にたくなければ芸をするしかないが、生き残るための光明がそも見えない。
 まさに終わることのない無間地獄である。
 畜生、畜生と。町人の男は顔をくしゃくしゃにして涙を地に落とした。

「……隣、座る、ね」
 途方に暮れる男に声をかけ、その隣にすっと腰かけたのは羽根つき帽子を被った褐色の青年キケ・トレグローサだ。キケは町人の皆々がそうするように地面に座り込むと、自らの前にチップ受けを添える。
 取り出だしたるは愛用のリュート。弦の調子を指で確かめ、奏で、歌う。
 旅芸人として。
 それは人々に寄り添い魂を癒す歌だ。歌は難しくない、思ったことを素直に語ればいいと、キケは想いを乗せた。
 ――芸とは人を笑顔にするもの。そのためにあるもの。芸が足りぬと人を殺すだなんて、ゆるせない。
 キケは静かな怒りを胸に秘め、今はただ人々のためにと歌を歌う。
 やがて歌が終わると、幾人かの町人が顔を上げてキケを見た。そこへ、ちゃりんとチップが投げ入れられる音がする。キケが隣を見ると、町人の男がうなだれたまま懐に手をやっていた。
「……もう一曲、頼めないか」
 キケはにこりと微笑み返し、リュートに指を走らせる。
「お望みとあれば、いくらでも。お気持ち分のお代と、聴いてくださった皆様の幸せが、私の糧となります」
 リュートの調べが大通りを優しく包み込み、俯いた人々の心に寄り添っていた。

「さぁさぁご立会い。人形劇の始まりだよ。お代は見てのお帰り、まずはとくとご覧あれ。演目は『少女は騎士を夢見る』。さぁ、始まり始まり」
 大通りの脇に人形劇の舞台を構え、観衆を集めるのはシルクハットが似合うケットシーの紳士、アレン・カーディスだ。
 人形遣いであるアレンは魔法具『ククロセアトロ』によって呼び出した自立自動型人形達を、あたかも生きているかのように操って見せる。
 練達の人形遣いが紡ぐ物語は、一人の少女が幼き日に抱いた騎士への憧れから始まった。女が騎士になるなど夢にも思われなかった時代、少女は少年に扮して騎士学校へと入学し、多くの失敗と試練を乗り越えながら成長していく。やがて掛け替えのない仲間をも得た少女は、ついに憧れをその手につかむ。
「……こうして、少女は初の女騎士になることができたのでした。おしまい」
 ポニーテールに軽鎧姿のからくり人形を優雅にお辞儀させると、いつの間にか出来ていた人垣から歓声と拍手が沸き起こった。
 アレンは人々の笑顔に満足する。
 旅芸人として見慣れたこの光景は、何物にも代えがたいものだった。

 冷えた肌に温もりが伝わるように熱を取り戻し始めた大通りに、数名の猟兵達が思い思いの芸を携えやってきた。
「注目されるのはどうも慣れないが、それでも人々の喜びになるのであれば」
 月の意匠を施された古くも美しい盾を構えるのはヤドリガミのパラディン、ロアル・スクード。
 新しい何かが始まる気配を感じ取った町人達が遠巻きに見守る中、ロアルは穏やかながらも堂々と口上を述べる。
「この盾は生きているんだ。今は眠っているが、こうしてやると目を覚まして動き出す」
 ロアルは自分の本体でもある盾をそっとひと撫ですると、それを一つ複製してみせた。
 突然増えた盾にざわめきが生まれるも、その波が引くより早くロアルは盾を空中に浮かばせ念力でもってゆるやかに旋回させ始める。一周するごとに盾が複製され、その数はどんどん増えていくではないか。
 これはいったいどんな神通力のなせる業か。町人達は目の前で披露される芸を食い入るように見つめ感嘆のため息をついた。
 複製できる限界まで盾を増やしたロアルはここが勝負所だと言わんばかりに存在感を強くする。頭上で旋回させていた盾の列がぐんぐんと加速されていき、見事な盾の円環を空に描き出した。
「お見事! ちょっとそのままで頼めるかい!」
 盾の円環を加速させるロアルへと気さくに声をかけたのは人間の化身忍者、髪塚・鍬丸だ。鍬丸はぼさぼさの髪をたなびかせ、ふっと呼気を鋭くすると跳躍。一足飛びで盾の円環に飛び乗ると、その速度に負けじと走り出す。
「さぁさ皆様お立合い。これなるは扇の舞の芸にござい」
 盾の回転と逆向きに駆けながら鍬丸はアクロバティックな体術を披露し、両手から扇を手裏剣のように投擲する。ばばっと広がった扇はまるで意思を持つかのように回転し、鍬丸の後を追いかけながら飛行した。
 目を見張るような忍者の技に度肝を抜かれる町人達。盾の円環は素人でも理解できるほどの高速で回転しており、その上を走るなど常人にできることではない。それを軽やかに鮮やかにやってのける鍬丸の姿に人々は見惚れていた。
 鍬丸は隠し持った扇を次々と投げては風閂の念糸でそれを操り、天を目指すが如き扇の螺旋階段を作り上げる。
「不肖、この身も宙を舞わせて頂きましょう!」
 鍬丸は扇の螺旋階段を駆け上がると、その頂点に着くなり大跳躍。身体を丸めるようにくるくると回転しながら下降し――ずばっと全ての扇を懐にしまい込みながら着地を決めた。
 すっと姿勢を正す鍬丸に続き、ロアルもまた旋回させていた盾を地に下ろして整列させる。
 一礼。
 豪快な大技に魅せられた町人達から拍手喝采が贈られた。

 大通りの町人達はいまが盛りとばかりに盛り上がっていた。
 一寸先すら見えない無明の中、迫り来る死の影から逃げるような日々に束の間の光がもたらされたのだ。
 その空元気とも呼べる賑わいぶりに二人の妖狐が歩み出る。
 おてんば桃色狐の稲荷・恋狐と怨讐の忍狐、音羽・浄雲だ。
「いつの時代も一城の主ともなれば横暴になるものなのでしょうか……」
 わずかな怒気を孕ませながら呟いた浄雲。かつて暴君への反逆に組したがゆえに滅ぼされた傭兵集団『音羽衆』の生き残りである彼女は、城主に虐げられる町人達を他人事のようには思えなかった。
 それはそれとして気持ちを切り替えた様子の浄雲に、恋狐は人懐っこい笑顔でうんうんと相槌を返した。困っている人を放っておけない性格の恋狐は、町の人達を何とかして助けたい一心でいる。
「よーし! 森の故郷で子供に人気だった恋狐の芸をお見せしちゃいますよー! 子供だましと侮るなかれー! 恋狐のとっておきの火を使った芸をその目に焼き付けてください。火、だけにっ!」
 元気いっぱいに声を張り恋狐はフォックスファイアを使い十個の狐火を生み出した。
 浄雲もまた大きく腕を広げ演技がかった調子で狐火を生み出していく。
「さあさあ皆様方、盆には早い狐火の舞! とくとご覧あれ!」
 二人の妖狐が生み出す狐火の美しさに息をのむ町人達。いや、狐火と共に微笑む妖狐の美貌にこそ見惚れたのかもしれない。
 恋狐が狐火を狐の形に変化させ、周囲をぴょんぴょん跳ねさせたり互いにじゃれ合わせたりしてみせる。その愛らしさに町人達は頬をほころばせ、優しい気持ちに包まれた。
 浄雲は狐火を自由自在に操りながら自身も舞い踊り、時折り流し目で人を見ればたちまち虜にしてみせる。どこか死のにおいを漂わせた浄雲は、妖しい魅力でもって人々を魅了していた。
 最後の仕上げにと恋狐が狐火を合体させて一回り大きな狐を作り出す。浄雲もそれにならい、合体させた狐火で狐を作ると二匹の狐を並ばせた。
 二匹の大きな狐は仲良くぴょんぴょんと跳ね回った後、コンと鳴いてポンと消えた。
 妖狐達の操る狐火は飛び火の一つも残すことなく、きれいさっぱり消えたようだ。火の粉の制御にも細心の注意を払っていたため、無事に済んでほっとする。
「はいっ。浄雲さんと恋狐の芸、どうだったでしょうかー!」
 返ってきたのは大きな歓声。真昼の夢のように幻想的なひと時は、町人達の心に強く大きく響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

結城・蓮
ふふっ、こういうのは僕の本業だからね。
世紀のストリートマジシャンRENの本領、見て頂こうかな。

【SPD】
「それでは皆様お立会い。まずはこちらの杖をくるりと回すと、はい綺麗な花束が。これはそちらのご婦人へ」
まずは仕込みマジックで注目を集めて
「こちらの帽子に入れたハンカチが鳩に変わります。3、2、1。はい今日も元気ですね」
仕込みは上々と。

「はい、取り出しましたこの玉、こうして握りこみます。さあどちらに入っているでしょうか?右?残念。実は……ポケットに逃げちゃった。ほらね」
後はボールとコイン、トランプマジックならタネがある限り延々と出来るからね。
【パフォーマンス】なら任せてよ。



「ふふっ、盛り上がってるねぇ。世紀のストリートマジシャンRENの本領、見て頂こうかな」
 沸き立つ大通りにまた一人の旅芸人が現れた。
 左右で異なる色の瞳を持ち、少女にも少年にも見える中性的な少女猟兵の結城・蓮だ。
 旅芸人として大都会を流離ってきた蓮は、温まってきた場の空気を読み損ねることなく、すっと自然に自らの芸へと人目を引きつけた。
「それでは皆様お立会い。まずはこちらの杖をくるりと回すと」
 洗練されたパフォーマンスは、ただ杖を回すという単純な動きであっても人を魅了する。
 くるりと杖が回ると蓮の手元に花束が現れていた。
「はい、綺麗な花束が。これはそちらのご婦人へ」
 蓮は仕込んでいたマジックの手応えを感じつつ、花束を近くにいた町人の女へと手渡す。丁寧にラッピングされた花束を見たことがないのだろう、花束を受け取った女はしどろもどろに礼を述べると頬を赤らめた。
 その反応に微笑みを返し、蓮は帽子を手に取ると中に何もないことを観衆に見せる。
「お次はこちら。帽子に入れたハンカチが鳩に変わります。3、2、1。はい今日も元気ですね」
 ばたばたばたーと大空に羽ばたいていく鳩を見て観衆が驚きの声を上げた。たしかに帽子の中には何もなかったはずなのだ。それなのに、ハンカチを入れたと思ったら鳩が出てきた。自分の目で確認したという段階を踏むことで、マジックはより一層と輝きを放つ。
 仕込みは上々。大都会とはまた違った人々の純朴な反応に、蓮もまた内心で頬をほころばせる。
(後はボールとコイン、トランプマジックならタネがある限り延々と出来るからね。パフォーマンスなら任せてよ)
 パフォーマンスを重視した蓮のステージ構成力は伊達ではない。観衆の反応や興味がありそうなマジックを敏感に感じ取り、手を変え品を変えては披露する。
「はい、取り出しましたこの玉、こうして握りこみます。さあどちらに入っているでしょうか? 右? 残念。実は……ポケットに逃げちゃった。ほらね」
 華麗なる蓮のストリートマジックに魅せられ、その芸を一目見ようと観衆の数はどんどんと増えていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『妖魔忍者』

POW   :    忍法瞬断
【忍者刀】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    忍法鎌鼬
自身に【特殊な気流】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    忍法鬼火
レベル×1個の【鬼火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


猟兵達の目覚ましい活躍は一陣の風のように城下町を駆け巡り、その日のうちに城へと招かれる運びとなった。
 その折、町人達が皆一様に顔を曇らせ、猟兵達の身を案じていたのは特筆すべきだろうか。
 ともあれ旅芸人の一座として城門を越えることに成功した。
 あとはこのまま城へと入り城主の凶行を咎めるのみだ。
 サムライエンパイアでは最高権力者である徳川家によって、猟兵達の行いを治外法権とする天下自在符が与えられている。
 たとえ相手が一国一城の主であろうと遠慮する必要などないということだ。
 これからどうしてくれようか、と城主への対応を考えていた所。
 背後、今しがた通ったばかりの城門が大きな音を立てて閉ざされた。
 するとそれを待っていたかのように妖魔忍者の群れが現れ、猟兵達の前に立ちはだかる。数は二十ほどだろうか。手練れ揃いの猟兵が後れを取る相手ではないだろうが、それはそれとして背後を取られる心配がないのは僥倖だ。
 猟兵達はそれぞれの武器を構え、妖魔忍者の群れと相対する。
結城・蓮
おやおや、これは手荒な歓待ありがとう。
キミたちの上司は随分とボクたちを買ってくれてるみたいだね。
ボクたち猟犬の事をよく知っていらっしゃるようだ。
だからこそ。ここで断たねば禍根が残る。
悪いけど、ここは通してもらうよ!

炎熱の手札を広範囲にまとめてばらまくよ。
数が多い内は纏めて処理しないとね。
「さて、ショウタイムの続きといこうか。さっきと違って見物料を頂くけどね!」
もちろん、お代はキミたちの命だ。耳を揃えて払っていただこう!

数が減ってきたら炎を収束して一気に焼き尽くそう。
城に火が燃え移らないように気を付けて操作しないとね。

さて、謁見と行こうか。
ボクたちや、これまでの皆の芸を正当に評価して貰うために。


稲荷・恋狐
■忍者の群れを見て
こ、これは……。ただの旅芸人として歓迎されたわけではなさそうですね……。
忍者さんの数も結構多いですけど、町の人達が安心して暮らすためにっ!
そして!芸も心から安心して楽しみながら見ることができるようにっ!
まずは忍者さん達を懲らしめるとしましょー!

■戦闘
今度はただの芸じゃないですよっ!
範囲攻撃と合わせたこの子達の動きはお転婆なんですからっ!

芸の時に見せた火の子狐さん達を召喚できるだけ召喚して攻撃しますっ!
あとは、ここぞというタイミングを野生の勘で見つけ出して、そのタイミングで子狐を合体させて大きな狐の姿で強力な一撃を狙いますね!

(アドリブ・他の人との絡み大歓迎ですー♪)


アレン・カーディス
ふむ、うまく行ったようだね

戦闘
仲間と連携し攻撃していくよ
私はただの人形遣いだからね
一人では分が悪いのだよ

「ふむ、では私も忍者で対抗しよう」
私は周囲に気を配り、一撃離脱を基本に着かず離れず足を止めないよう気をつけ
魔法具『ククロセアトロ』から呼び出した忍者人形4体と一緒に攪乱するよ

死角から攻撃
拾った石を投げたり、人形の陰からジャンプして攻撃したり、逆に自分を囮に人形で攻撃させたり
忍者人形はアクロバティックに時間差や空中攻撃したり、隙を見て投擲武器を盗んでそれを投げたり

忍者の攻撃はトンボで避けたり、人形の影やあれば木や岩などに隠れたり
流石本物の忍者。動きの参考になるな
避けつつも劇の参考は忘れない


音羽・浄雲
※アドリブ歓迎です。
他の猟兵の皆さんが先に進む一助となるように動きたいです。

「退路を断ったつもりでしょうか?」
閉ざされた城門に一瞥もくれず、腰帯に差した脇差ーー【謀り長慶】を抜く。

「逃げられないのはどちらの方でしょうね」
抜いた脇差を眼前に構え、片手で印を結ぶと浄雲の足元、地面から骸の兵達が顕れる。

「音羽忍法【餓者髑髏】・・・・・・。音羽衆よ、共に参りましょう」
そう言って脇差を翳すと、浄雲は骸の兵者達と共に妖魔忍者立ちに向けて進軍する。


ロアル・スクード
◆POW
アドリブ歓迎

旅芸人として招かれたはずなのに、随分と手荒な歓迎だな
俺達が用があるのは城主なのだが…
まぁ、それでもあちらがやる気なら仕方がないか
相手になろう

ユーベルコードで防御力を強化
相手の攻撃は無理に避けずあえて接近して盾受けで防ぎ、武器受けでさばく

ただ防ぐだけでは終わらない、攻撃を防ぐことでできた隙をついて反撃しよう
接近する事で攻撃し易くなるのはこちらも同じだからな

相手が様子を見てかかって来ないようなら…
そうだな、少しばかり煽り立ててみようか
現状ではこちらから突っ込むより、向かってきてくれた方が戦いやすい
挑発に乗ってくれれば良いのだが
「どんな強敵かと思えばこの程度とは…期待が外れたな」


髪塚・鍬丸
「さて、もう一芸ご披露させて貰おうかね。」

頼もしい仲間が揃っているとは言え、相手さんの方が数は多い。こちらも連携させて貰おうか。

【求蓋の外法】を使用、戦闘力を底上げしておく。
左手に逆手に構えた忍刀を防御に使用、敵の攻撃を受け流しつつ、右手に構えたクナイで攻撃。敵の注意がクナイに向けられたなら【2回攻撃】で左手の刀で死角から攻撃する。
対峙している敵を倒せたなら、周囲の戦況を確認。苦戦している仲間や、後少しで倒せそうな敵がいれば手裏剣を投擲して援護攻撃。

他の前衛と連携し敵の進攻を阻止、包囲しつつなるべく攻撃を集中させ早期に敵数を減らしていく。


キケ・トレグローサ
エド)「どうやら、俺の芸を見せるのはここで良さそうだ。」
キケの兄で歌い手のエドが主人格。
エド)「さて、特別講演開幕の合図は任せてもらおうか!」
エドが前口上を口にしUC「英雄達の詩」を口ずさむ。猛々しく、力強いエドの歌声と共にエドの周囲に、詩に謳われた戦士達が顕現する。片方はロングソードを振り敵を切り崩す騎士団。もう一方は巨大な盾を携えた重装備の兵共。盾を持つ兵がエド本人や他の猟兵に向けられた攻撃を防ぎつつ騎士団が忍者相手に切り込む
エド)「彼の者らに名はなく、彼の者らに名誉あれ。刃が煌めき、盾は破れぬ。英雄の他に値する名、他になし」
エドが歌い続ける限り、戦士達は猟兵を手助けする

*アドリブ絡め歓迎



●猟兵
 背後には閉ざされた城門。前方には妖魔忍者の群れ。
 一見すると追い込まれたように見える状況でも、チキチータ・マジシャン・RENこと結城・蓮は落ち着いていた。
「おやおや、これは手荒な歓待ありがとう。キミたちの上司は随分とボクたちを買ってくれてるみたいだね。ボクたち猟犬の事をよく知っていらっしゃるようだ」
 マジシャンたるものどんな大舞台であっても動揺してはいけない。焦りは手元を狂わせマジックを失敗させるものであり、ステージに立つ者として真っ先に克服すべきものだ。
 蓮は努めてクールに振る舞い、余裕さえ感じさせるほどの自然体で口上を述べる。
「だからこそ。ここで断たねば禍根が残る。悪いけど、ここは通してもらうよ!」
 猟兵とオブリビオンの関係上、ひとたび戦いとなれば容赦は無用。勝って生き残るか負けて死ぬかの二つに一つだ。
 蓮が両手を広げてカードをばらまくと、たちまちそれは炎熱を宿し宙を舞った。
「さて、ショウタイムの続きといこうか。さっきと違って見物料を頂くけどね! もちろん、お代はキミたちの命だ。耳を揃えて払っていただこう!」

 炎熱のカードを舞わせる蓮の傍ら、元気いっぱいの稲荷・恋狐はあまりの急展開に顔色を曇らせていた。
 これはどう考えても旅芸人の一座をもてなすような歓待とは思えない。もっとこう別な、いかにもお前たちが来るのを待っていたぞと言わんばかりの荒っぽい手口だ。
「こ、これは……。ただの旅芸人として歓迎されたわけではなさそうですね……」
 妖魔忍者はじりじりと距離を詰めてくる。その無言の圧力を跳ね飛ばし、恋狐はぐっと拳を固めて気合を入れた。
「忍者さんの数も結構多いですけど、町の人達が安心して暮らすためにっ! そして、芸も心から安心して楽しみながら見ることができるようにっ! まずは忍者さん達を懲らしめるとしましょー!」
 恋狐は先ほど大通りで見せた狐火の舞を使い、自身の周囲に火の子狐達を生み出していく。その姿は愛らしいものではなく、どこか鋭さを感じさせる獰猛なケモノのそれだった。
「今度はただの芸じゃないですよっ! この子達の動きはお転婆なんですからねっ!」
 火の子狐達は突撃の合図を今か今かと待ち望み、振りまく火の粉を増やしていた。

 空に火の子狐を生み出した恋狐に応じるかのように音羽・浄雲は腰帯に差した脇差『謀り長慶』を抜く。閉ざされた城門を振り返ることなく、明確な敵意を放つ妖魔忍者の群れを見据えた。
「これで退路を断ったつもりでしょうか? ……逃げられないのは、どちらの方でしょうね」
 たとえ地形的に不利になろうとも浄雲は揺るがない。復讐鬼たる浄雲にとってこれは背水の陣ですらないのだ。優位を得た敵は向こうから攻めてくるもの。ならばこれは狩場に飛び込んでくる獲物を仕留める好機に他ならない。
 浄雲は己の裡から零れ出そうな怒りと殺意を言霊に乗せて呪を紡ぐ。
「音羽が兵者共よ……我らが怒りを此処に示せ!」
 浄雲が脇差を眼前に構え片手で印を結ぶと、その足元から骸の兵達が顕れた。
 甲冑に数字の刻印を持つ骸骨兵達に誰が敵か示すべく、浄雲は脇差を妖魔忍者の方へと翳した。その切っ先を骸骨兵達は目で追い、これから滅ぼす相手が誰かを理解する。
「音羽忍法『餓者髑髏』……音羽衆よ、共に参りましょう」
 復讐鬼に率いられた骸骨兵達が進軍を開始した。

 浄雲と呼び出された骸骨兵達が戦列を組む中、ロアル・スクードもまた自身の本体である美しい盾を構えて前進した。盾のヤドリガミであるロアルにとってこれは勝手知ったる最前線。その身を盾とし仲間を守ることに何の迷いがあろうか。
「旅芸人として招かれたはずなのに随分と手荒な歓迎だな。俺達が用があるのは城主だが、お前たちがやる気でいるなら仕方ない」
 ロアルは盾を鳴らして妖魔忍者の注意を引く。同時にトリニティ・エンハンスで炎と水を風の三属性をまとい自身を強化し、防御力を高めることで前線の維持を担う。
「俺が相手になろう。来いよ。お前達の技を全て受けきってやる」
 他の仲間が狙われるより自分が狙われた方がいい。盾のヤドリガミであるロアルはかつて主人を守ることができず、そのことを今でも悔やんでいた。
 後悔はある。未練もある。だがその喪失がロアルを戦場へと駆り立てた。今度は誰も喪わないように、何者にも傷つけられぬように。
「さあ来いよ。期待外れにはなってくれるなよ?」
 ロアルは再び盾を鳴らし、妖魔忍者を挑発した。

 浄雲やロアルによって構築されていく暫定的な交戦ラインを見極め、ふむと頷いたアレン・カーディス。
 アレンはシルクハットを手で押さえながら油断なく妖魔忍者の布陣を観察する。
 敵はこちらの出方を見ている段階なのか、まだ攻撃はしてこない。兵は拙速を尊ぶとの言葉もあるが、注意深い兵というのもまた厄介なものだ。なし崩し的に乱戦となるよりはマシだが、こうも出方を見られると居心地が悪くて仕方がない。
「ひとまずはうまく行ったようだね。さて、私はただの人形遣いだ。一人ではどうにも分が悪い。だからこうして人形達に手伝ってもらうとしよう。ここはそうだな、忍者風というのはどうかね?」
 アレンは魔法具『ククロセアトロ』から数体の忍者人形を呼び出した。
「猟兵の諸君、連携を意識して行こう。私はこのように人形を遣うことしかできないが、上手く立ち回るのは得意でね」
 アレンが操る忍者人形は素早い動きで移動すると、まるで歴戦の小隊のような見事な陣形を組んだ。
「忍者には忍者で対抗する。本場の本物にどこまで迫れるか、人形遣いの腕が鳴るというものだ」
 アレンは本物の動きを学ぶべく、戦いの場へと踏み出した。

 大勢いる妖魔忍者の群れに対抗するように、猟兵側もまた多くの兵力を召喚した。
 頼もしい仲間達に続くよう、髪塚・鍬丸も『求蓋の外法』を用いて自らの戦闘能力を高めていた。
「臨む兵、闘う者、皆、陣列べて前を行く」
 言の葉を紡ぎ満身の力を込めて一歩を踏み出す。
 地が空が震えた。
 鍬丸の踏鳴が戦場に広がり、その圧に気おされた妖魔忍者がたじろいだ。
 自身が修行を重ねて辿り着く未来の可能性を身に降ろし操らせることで、極限まで高められた戦闘技術で戦うことができる。鍬丸は己が今後何十年と鍛錬を続けていくだろうかと心に問い、その答えを証明すべくクナイを握りしめた。
「――さて、もう一芸ご披露させて貰おうかね」
 そうして鍬丸が戦端を開く。両者が対峙するこの一瞬の間こそが、勝利を引き寄せる絶好の機会なのだと未来の自分が判断したのだ。
「髪塚鍬丸、推して参る!」
 正面は仲間に任せ、鍬丸は側面を囲む妖魔忍者へと飛び込んだ。機先を制された妖魔忍者は後手を取り、辛うじて鍬丸のクナイを防ぐことで手一杯になる。
「あばよ」
 その硬直に鍬丸の二連撃が差し込まれ、翻ったクナイが妖魔忍者の首を跳ね飛ばした。

 仲間達がそれぞれの技を披露していく中、キケ・トレグローサは主人格であるキケから勇猛な兄エドへと切り替わった。
 多重人格者であるキケの中には兄と妹の人格が宿っている。それぞれに適性があり、得意とする場面で交代できることが彼らの強みだ。心優しいキケの人格は戦いに向いておらず、代わりに勇敢な兄エドが出てくるのは当然の生存戦略だろう。
 身体の操作権を任されたエドはにやりと笑い、愛用のリュートに手を添える。
「どうやら俺の芸を見せるのはここで良さそうだな。特別講演開幕の合図は任せてもらおうか!」
 キケの身体に染み付いたリュートの調べと力強いエドの歌声が空へと響く。
「来たれ名も無き英雄達! 幕は切って落とされた、戦いの狼煙を挙げろ!」
 エドの歌声によって召喚されたのは長剣を執った騎士と大盾を構えた重装歩兵からなる騎士団だ。歴史に名は残らず、しかし英雄としての在り方を世界に認められた彼らは、名も無き英雄として妖魔忍者へと戦争を仕掛ける。
「俺の歌が続く限り英雄達は不滅だ! 皆、そこんとこを頼むぜ!」
 エドが一節を歌い上げるたび、新たな騎士と歩兵が召喚されては戦列へと加わった。

●激闘
 古来より戦争とは弓に始まり槍を交え、剣にて終わるという暗黙のルーチンが存在する。敵よりも多くの矢を放って数を減らし、槍の応酬でさらに優位を取った後、最後の仕上げに剣が執られるのだ。
「行っきますよー! 蓮さん、一緒に頑張りましょー!」
「いいとも! 稀代のマジシャンRENの華麗なるカード捌きをお見せするとしよう!」
 恋狐と蓮は互いに生み出した火の子狐と炎熱のカードを空高く掲げると、妖魔忍群から放たれる鬼火の弾雨を迎え撃つ。降り注ぐ鬼火に子狐とカードをぶつけて相殺しているのだ。
 術理の源流を同じくする飛び火の応酬。それは弓矢による陣地制圧を意味し、撃ち負けた方が大きく不利となる戦の要所だ。何としてでもここは落とせない。そう意気込む恋狐と蓮だが、射手の数は妖魔忍群に分があった。
「むむむ、むー! これはちょっと、厳しいかもー!」
 恋狐が不利を悟って声を上げる。相殺の手が追い付かないのだ。こちらも全力全開で術を繰り出しているが、単純に敵の手数がそれを上回りつつある。
「まだいける! 集中を切らさないで! 守りに徹しよう!」
 蓮もまた不利を知りつつ防戦を選択した。合間を見ては炎熱のカードを敵陣へと差し込もうとするが、その一手の間に敵は三手ほどの鬼火を放り込んでくる。欲を出して反撃しようとすると手痛いしっぺ返しを受けそうだ。
「きゃっ、あっ、しまっ――」
 恋狐の術を越えて鬼火が降りかかる。あわや被弾するかと覚悟したその直後。
 大きな盾を構えた歩兵が恋狐をかばって鬼火を受ける。歩兵はそのまま鬼火に包まれ、声も上げずに消滅した。
「あっ、そんな! 恋狐をかばってくれたのにー!」
 消えた歩兵に駆け寄ろうとした恋狐にエドが力強い檄を飛ばす。
「振り返んな! 戦場では出来るやつが出来ることをやるだけだ! 俺も、そいつも、お前も! 自分に出来ることに集中するんだよ!」
 戦場とは合理的である。弓の名手を守るために歩兵が身体を張るなど当たり前なのだ。名も無き英雄達はそれを知っており、そのように戦うのみ。
「うっ、わ、分かりましたー! 恋狐、歩兵さんの分まで頑張ります!」
「その意気だ! 出来れば早めに復帰してくれるとありがたい!」
「わわっ、ごめんなさいー!」
 恋狐が復帰するまでのわずかな時間、蓮は一人で鬼火の雨を防いでいた。一枚のカードで一つの鬼火を相殺するのではなく、カードで切り裂くようにして鬼火を殺す。速度を上げれば精度が落ちるが、全てのカードを加速させることで広範囲をカバーすることができていた。
 文字通り火の粉を散らして白熱する対空戦の下、前線の中央部を担うロアルに妖魔忍者の忍者刀が振り下ろされる。
「踏み込みが甘い! のろまな剣では俺の盾は崩せんぞ!」
 忍者刀と盾が接触するタイミングを合わせると、ロアルは盾受けで敵の剣をいなした。
 力の軌道をそらされた妖魔忍者が思わずたたらを踏むと、その隙を逃さずロアルが剣を叩き込む。袈裟に切り込まれたロアルの剣は、しかし深手を与える前に妖魔忍者の臓腑より伸び出た異形の骨に阻まれる。
「ちっ、これだから忍者は!」
 妖魔忍者が変則的な攻撃をしてくる前に、ロアルはそいつを蹴飛ばし距離を取る。
 むくりと立ち上がった妖魔忍者の腕からは異形に伸びた骨が飛び出ており、もはや人間とは思えぬ有様だ。
「おいおいそう嫌わないでくれよ。俺も忍者の端くれなんだから、さ!」
 殺し合いの場には似つかわしくないほど軽い声がロアルにかけられ、その背後から鍬丸が飛び出した。
 ロアルに気を取られていた妖魔忍者は鍬丸の速攻に対して後手を取り、その一手損が命取りとなる。
 いともたやすく妖魔忍者の首を切り落とすと、鍬丸は宙返りを打ちながらロアルの背後へと身を隠した。そのあまりに鮮やかな殺し技と、臆面もなく人の後ろに隠れる鍬丸に対してロアルが物申す。
「たしかに俺は盾だが。なんというか、手柄を取られて悔しい気がしないでもない」
「はっはっは! まぁそう言うなって! いー具合に敵が減らせて助かるんだわ! この調子でいこうぜ!」
 調子よく笑う鍬丸とは対照的に、ロアルは渋い顔でこれだから忍者はと愚痴をこぼす。
 まるで協調していないように見えて、その実、巧みに連携が取れている二人組を温かい目で眺めるアレン。紳士的にはちょっと合わない気もするが、それはそれとして頼もしい仲間達だと思う。
「鍬丸さんは素晴らしい忍者だね。私も思わず目を奪われてしまいそうになるよ」
 余所見をしているアレンに妖魔忍者が切りかかる。だがその凶刃がアレンに届く前に、横合いから忍者人形が組み付きそれを阻む。
「このような簡単な罠にかかってはいけないよ君。人形遣いが目だけで物を見ていると思ったかい?」
 アレンほどの人形遣いともなれば、人形が見ている風景を我がことのように知覚するなど造作もない。死角があるようで死角がない。緻密なる絡繰り糸のように妖魔忍者を絡めとり、アレンは敵の数をまた一つ減らした。
「……お見事です。アレン殿の技量のほど、とくと拝見させて頂きました」
 洗練された達人の技とは美しい。傭兵として戦いの技を修めた浄雲であるが、アレンの人形遣いの技術には目を見張るものがある。
 単純な暴力ではなく、敵を誘い込んで絡めとるまでの工程が特に美しいと感じた。その蜘蛛の糸のような策術は、浄雲が欲して止まない復讐のための力となるだろう。
「これはどうも、お褒めに預かり恐悦至極。もっとも、私からすれば浄雲さんの骸骨兵士もなかなかのものですよ」
「これは……音羽衆の、兵者共ですので。私はただ、共に戦うのみです」
 浄雲は戦術として呼び出した骸骨兵をいくつかに分けて合体させていた。個々の戦闘力では妖魔忍者に押し負けると判断し、合体させることで戦力を調整したのだ。
 合体によってサイズが増した骸骨兵の甲冑には強さを示す数字が刻印されている。その読みが正しいと証明するように、巨躯の骸骨兵は妖魔忍者と互角以上に渡り合っていた。
 猟兵とオブリビオン、双方の戦力で見ればむしろオブリビオンが優勢ではあっただろう。だが趨勢は徐々に猟兵へと傾き、いつしか逆転するまでになっていた。何故か。
「よしよし、いいぞ! このまま一気に決めちまおうぜ! 勝てる時に勝っちまうのが一番手っ取り早いしな!」
 リュートを奏で、英雄達の詩を歌い続けるエド。歌い手であり召喚主であるエドが一撃でも攻撃を受けると瓦解してしまう騎士団だが、猟兵達は巧みなチームワークでエドへの射線を通さないでいた。
 その結果、次々に召喚される騎士と歩兵が数の不利を覆し、オブリビオンの邪魔をし、猟兵の身を守ったのだ。名も無き英雄達はその名に恥じない戦いぶりで、猟兵達の戦いを支え抜いた。
 まさに総力戦と呼ぶに相応しい激戦はゆるやかに収束していき、最後まで立っていたのは猟兵達だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『黒幕の助言者』

POW   :    死灰復然(しかいふくねん)
【Lv体の武者】の霊を召喚する。これは【刀】や【弓矢】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    含沙射影(がんしゃせきえい)
【無数の影の刃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    電光雷轟(でんこうらいごう)
【錫杖】を向けた対象に、【激しい雷光】でダメージを与える。命中率が高い。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠犬憑・転助です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

東雲・ゆい
へえ~そう~人の芸にケチつけて殺しちゃったの~?
そっかそっか~そうなんだ~
わたしのこと本気で怒らせちゃったね
もう許さねぇからなぁ、覚悟決めろォ?

★バトルキャラクターズでラスボス級のやべー奴ら召喚してボッコボコにするよ! 合体もさせるよ!
打ち上げ攻撃で浮かせたら追撃しまくってお手玉したる!
んでわたしは隙見てバケツで塗料ぶっかけて【挑発】すんの!
「あれあれー綺麗な錫杖がカラフルになっちゃったねーうけるー」
したら攻撃を惹きつけて仲間やバトルキャラが戦いやすくするよ!
そしたらわたしがピンチになると思うじゃん?
その為の★ヒロイックフォース、その為の★ギリギリフォース
言ったでしょ。ガチでキレてるって


キケ・トレグローサ
主人格をキケに変えUCにてエドとルナを実体化させる。エドは背の高い青年、ルナは活発な少女の姿。
エド)「さて、終幕だが、妹があんたに一言あるらしい」
ルナ)「押し付けられた芸で、見た人が感動できるわけがないじゃない!心の底から誰かを笑顔にしたい気持ちが大切!それを私が、教えてあげる!お兄ちゃん!合わせてよね!」
自分勝手に踊り始めるルナに呆れつつエドとキケが合わせて演奏、歌唱する。それは猟兵を鼓舞する曲。「守りたいものがあるから力が勇気が湧いてくる」歌詞に乗せキケの優しい音色が猟兵を守り、エドの力強い歌声が仲間の傷を癒し、ルナの可憐な舞踏は猟兵に勇気を与える。
ルナ)「騙されてた藩主さんもお説教ね!」


稲荷・恋狐
■真の姿
頭に桃の葉を乗せて宙返りすると、妖艶な大人の女性に変わりますっ!

■黒幕の助言者を見て
ようやく姿を捕らえたか。
さて……。人を笑顔にする芸を使い、町の人々から笑顔や命を奪ったその罪……。余達が裁いてくれようぞ。

■戦闘
とはいえど……。奴の操る雷は少々面倒よのう。
お主が避けるが困難な技で来るならば……。余は力押しで行くとするか。
幻影拒絶……。巨大な狐の神霊体となった余に生半可な攻撃は通じぬぞ?
あとは……。そうじゃな。脚や尻尾での【範囲攻撃】と【なぎ払い】での力押しで攻め立てつつ、【吹き飛ばし】で共に戦う者達の場所へ黒幕を飛ばしてやるのも一興かの。

(アドリブ・他者との絡みは大歓迎じゃ)


ロアル・スクード
◆POW
アドリブ歓迎

オブリビオン…奴が裏で糸を引いていたなら合点がいく
その企み、止めさせてもらう

真の姿を解放
(瞳が金色に変化、本体の盾と全身からも可視化した魔力が金色のオーラのように溢れ出る)

味方への攻撃は盾受け武器受けを駆使してかばう
俺の前で容易く傷付けさせはしない

あの数の武者の霊で術者を守られては面倒だ
ユーベルコードを使って武者の霊に突っ込む
弓矢は構えた盾で防ぎ突進し、多少強引でも攻撃を捻じ込む
敵からの攻撃が集中し盾受けで防ぎきれない分は激痛耐性をもって気合で耐える

味方の助けになるよう敵の目を引き付けたい
手柄は…まぁ、少しだけ気になるが
しかし味方の腕は信用している、連携しない手はないだろう


アレン・カーディス
ただらなぬ雰囲気の御仁だね
より慎重に行こうか

戦闘
私は変わらず仲間と連携しつつ、魔法具『ククロセアトロ』から呼び出した忍者人形4体と攻撃していくよ
基本は足を動かし一撃離脱、つかず離れずを維持

「ふふ。先ほど学んだ動き、とくとご覧あれ」
先ほどの戦闘経験も活かして、よりアクロバティックな動きで人形たちと攪乱していく

相手の攻撃は武器で受け流したり、オペラツィオン・マカブルで回避
もし城主もいるならオペラツィオン・マカブルで庇う

戦後
城主へ
「今まで芸技が一定以上届いていないと言っては無辜の命を奪ってきた訳だが、本当にこれで良いと思うのかい?」
これからは芸人が安全に芸を披露でき、民が安心して暮らせるよう願うよ


髪塚・鍬丸
「さて、最後にもう一仕事といこうか」

牽制も兼ねて手裏剣を一度に複数投擲し攻撃。
当たったらその隙を突いて一気に間合いを詰め、刀で攻撃しようとするが、敵の放つ無数の影に迎撃され後ろに跳躍して一旦間合いを取る俺。喰らったら只じゃすまねぇな。
「もう一度『前借り』すれば潜り抜けて間合いに入れる…か。だが…」
【外蓋の外法】は、未来の成長した自分の力を借りる云わば反則技。だが、使い過ぎると自身が成長しなくなる為効果が激減してしまうのだ(師匠談)

「やるか…」
【降魔化身法】で全身を鎧で包む。血反吐を吐き捨てながら【ダッシュ】で突進。無数の影で鎧を削り取られながら近接の間合いに入り【暗殺】で刀を急所に突き刺すぜ。


音羽・浄雲
※絡み、アドリブ歓迎です。
※UCによる高速移動と【だまし討ち】、【暗殺】での撹乱を狙います。

他の猟兵達との共闘により、決戦を無事に制したことに安堵する。
音羽が滅びて久しく味わっていなかった感覚だったからだろうか、つくづくと仲間と肩を並べて戦えることに感謝する。
しかし安心ばかりもしていられない、黒幕を討たねばこの城下の人々は救われないのだ。

「劫火に焼かれて悔いなさい!」
もう誰も傷つかないように、祈りにも似た思いとともに浄雲は【謀り長慶】と【貫き秀次】を抜く。
そしてその身を焦がす劫火を現世へ顕さんと己が寿命を代償にユーベルコードを起動。敵だけを燃やす劫火ともに手裏剣を投擲し、波状攻撃を仕掛けた。


結城・蓮
やぁ、ようやくお目にかかれたね。
先ほどは熱の入った歓待をありがとう。いい肩慣らしになったよ。
お陰で、最高の演技が出来そうだ。
さぁ、世紀のマジシャンRENの【パフォーマンス】、特等席で楽しんでくれたまえよ!

《泡沫の鏡像》で鏡像を生み出して、連携攻撃を仕掛けるよ。
「「さぁ、ショウタイムだ!」」
持てる手札は全て使わせてもらおう。炎熱の手札で影の刃を落としつつ目眩しをして、気を引いた所に【だまし討ち】を仕掛ける。
「よそ見をしたら」「見逃しちゃうよ?」

芸とは夢を与える事だ。
見る人に笑顔と感動をもたらすこの仕事を、ボクはとても気に入っている。
それを踏みにじるキミのような存在は、決して許してはしないのさ!



 妖魔忍者の群れを退けた猟兵達はそのまま城へと踏み込んだ。城内でも戦闘になるかと思いきや、誰一人として行く手を阻む者はいなかった。
 城に勤めている人々の反応はむしろ同情的で、またぞろ旅芸人が呼び出されたのかと顔をしかめる者までいる始末。彼らにとって城に入り込んできた猟兵は敵ではなく、これから城主に芸を披露しなくてはならない哀れな犠牲者なのだ。
 芸人が芸をしに行くのに、どうして同情などされねばならないのか。そこは興味半分期待半分で楽しみにしてくれるべきだろう。芸とはあまねく人々を笑顔にし、平凡な日常にちょっとしたスパイスを加えるものなのだから。
 猟兵達はそれぞれの想いを胸に秘め、ついに城主の間へと辿り着く。
 見事な絵が描かれた立派なふすまを開けば、事件の元凶である城主との会談が始まるだろう。猟兵は江戸幕府、徳川家光より与えられた天下自在符を取り出した。これさえあれば猟兵は治外法権の身となり、たとえ相手が一国一城の主であっても対等な立場で話ができるのだ。
 言葉なく猟兵達は目を合わせ、城主の間へと手をかけた。

●一国一城の主
 不躾に雪崩れ込んできた猟兵達の一行を見た城主があからさまにため息を吐く。
「どんな凄腕かと思ってみれば、作法も知らぬ田舎者ではないか。常ならば咎めもする所だが……よい、許す。ただし芸を見せよ。それが抜きんでたものであれば褒美も取らせようぞ」
 さあ、と城主は芸を促す。その様子は猟兵達のことを知らぬようで、いまだに旅芸人の一座がやってきたと思っているようだ。
 居ても立ってもいられず飛び出したのは小柄なおてんば桃色狐の稲荷・恋狐だ。
「あなたが城主さんですね! 言いたいことがいっぱい、いーっぱいありますけど、まずは恋狐の芸を見てください!」
 ばしんと言い切った恋狐は桃の葉を頭に乗せて宙返り。ぼふんと煙が上がったかと思えば、そこには妖艶な女が立っていた。真の姿を現した恋狐である。
 着物に織り込まれた誘惑の呪が恋狐の妖艶さを増幅し、しゃなりと一歩を踏み出すだけで城主の目を釘付けにした。
「さて。人を笑顔にする芸を使い、町の人々から笑顔や命を奪ったその罪……余達が裁いてくれようぞ」
「芸人風情が裁くだと? 貴様ら、いったい何を」
 城主の言葉を切り捨てるように恋狐は胸元から天下自在符を取り出した。
「そ、それは……! まさか、まさか、天下自在符であるか……!?」
 ばっと身を乗り出した城主の顔から血の気が引いていく。よりにもよって徳川家とつながりがあるばかりか、恐ろしいほどの裁量権を認められた符が突き付けられているのだ。後ろ暗い罪を抱えた城主にはそれが身の破滅に思えても仕方のないことだろう。
 畳みかけるようにチキチータ・マジシャン・RENこと結城・蓮が、自らのカードと一緒に天下自在符を宙に舞わせてみせる。
「稀代の天才マジシャンにかかればほら、ご覧の通り。カードは自由自在に、家光さんからもらった符は天下自在に。芸とは人に夢を与える事だからね。もちろん、あなたにも素敵な夢を見せてあげるよ」
 しゅっと蓮が一枚のカードを放つと、それは城主に見せつけるかのように畳の上に突き立った。カードの絵柄はジョーカー。おどけた調子で人を笑わせようとする道化師の姿は、しかし城主には破滅をもたらす死神のように思える。
「な、なにを馬鹿なことを……。わ、わしが、徳川様にいったい何をしたと言うのだ。その方らに責められるいわれなど、な、無いではないか!」
 形勢不利と見た城主は事態を飲み込めぬまま、その場しのぎの舌戦を仕掛ける。盗人猛々しいとはこのことであるが、そこは腐っても城主という支配者層。人前で啖呵を切り、己の言い分を通す能力は折り紙付きだった。
 非を認めようとしない城主に鋭い目を向ける蓮。カードを宙に舞わせたまま、天下自在符を指で挟み眼前へと突き付ける。
「見る人に笑顔と感動をもたらすこの仕事を、ボクはとても気に入っている。それを踏みにじるキミのような存在は、決して許してはしないのさ!」
 大見得を切った蓮に、うんうんと可愛らしい相槌を打ちながら、バーチャルキャラクターそれ以外の何かwithグリモアの東雲・ゆいが躍り出た。
「人の芸にケチつけて殺しちゃったんだよね~? 知ってるよ~、みーんな知ってるよ~。町でも掲示板でもウワサになってるからね~」
 ゆいは天下自在符をぴらぴらさせながら城主を追求する。
 かつて電子の海で人間のユーザー達に愛でられていたゆいは人間が好きだった。それはサルベージされた今になっても変わらない。その人間さんが無理筋な理由で殺されたとあっては。
「そっかそっか~そうなんだ~。わたしのこと本気で怒らせちゃったね。もう許さねぇからなぁ、覚悟決めろォ?」
「し、知らぬ! 言いがかりだ! どこにそんな証拠がある! いくら徳川様ゆかりの者であったとしても、これ以上の無礼は許せぬぞ!」
 城主の抗弁を無視し、ゆいはバトルキャラクターズを展開。ずらりと戦闘用のゲームキャラクター(プレイアブルになるのがクリア後くらいのラスボス級)を並べては怒りの大きさを見せつけた。
 驚きのあまり腰を抜かした城主は、ずるずると這いずりながら後ろへと逃れる。だがそれを憐れむ猟兵はいない。
 たった一人の流浪の楽団キケ・トレグローサは主人格をキケに戻しており、流浪の楽団を奏でることで兄のエドと妹のルナを召喚した。背が高く勇敢な兄エドが召喚直後のノドの具合を確かめながら城主に声をかける。
「さてと。ついに終幕だが、妹があんたに一言あるらしい。聞いてやってくれないか」
「あんたね、押し付けられた芸で、見た人が感動できるわけがないじゃない! 心の底から誰かを笑顔にしたい気持ちが大切なの! それを私が! 教えてあげる! お兄ちゃん! 合わせてよね!」
 怒涛の勢いでまくし立て、その場で踊り出したのは活発な妹のルナだ。
「えっ、ちょっと待って、聞いてない、よ。もう、やるの?」
 自由な妹に振り回されるのは主人格であり三兄妹の真ん中であるキケだ。エドは知らんとばかりに自分の歌の調整をしている。真面目な性格であるキケはこういう時に迷いやすい。妹に合わせるべきか、場の空気に合わせるべきか、それとも仲間達の動きに合わせるべきか。
 キケは妹の踊りに合わせつつも場の空気に馴染むよう愛用のリュートを奏でる。それは仲間達を鼓舞し戦うための力を強める音色だった。

●黒幕の助言者
 しゃらんと鳴った錫の音が城主の間に響き渡る。猟兵達がばっと目を向けると、そこには一人の僧侶が立っていた。長身の美丈夫である僧侶は爽やかな笑みを浮かべている。
「いやはや、これは年貢の納め時かもしれませぬなぁ。しかし安心されよ城主殿。ここは拙僧めが穏便に済ませてみせましょうぞ」
 その言葉は窮地に追い詰められた城主が心の底から欲していたものだ。飛びつかないわけがない。城主はぱぁっと満面の笑みを咲かせて僧侶に助けを乞うた。
「お、おお! 相談役殿! そ、そうだ、そなたが居れば百人力よ! し、しかし、相手は徳川様のゆかりの者で……」
「はて、拙僧めには何も見えませぬが。ははぁ、さては国と民を思う心労のあまり、よからぬ邪念に憑かれましたな」
「そ、相談役殿……?」
「ご安心召されよ。いますぐに拙僧がこの錫杖をもって、邪まな邪念共を払ってしんぜましょう」
 黒幕の助言者――オブリビオンから強烈な殺意が放たれ猟兵達と対峙した。

 敵が錫杖を掲げ何らかの術を使おうとしている。戦士の経験則からその気配を感じ取った盾のヤドリガミのパラディン、ロアル・スクードが気合いを入れて突撃した。
「隙だらけだぞオブリビオン!」
 真の姿を解放し黄金に輝く光の騎士となったロアルは、膨大な魔力で強化した盾を構えて突進する。その踏み込みは重戦車のように重く、しかし放たれた矢のように速かった。
「むっ、なんと素早い……!」
「お前が遅いだけだ! 俺の盾を食らわせてやろう!」
 術を使うまでのわずかな隙を突かれた僧侶が咄嗟に身を守るも、突撃するロアルのぶちかましは止まらない。猛烈な勢いで僧侶に体当たりしたロアルは攻勢防盾にて追撃のシールドバッシュをお見舞いする!
 強打。
 肉を骨を打ち砕かんとする攻撃的な盾の一撃がオブリビオンを殴り飛ばした。
「ぐがあっ! なんという、重さ……!」
 ロアル渾身のシールドバッシュをまともに受け、強く打たれた僧侶は吹き飛びながらも体勢を整える。ロアルは油断なく盾を構えて白兵戦へと持ち込む覚悟を固めた。
「妙な事件だと思っていたが、オブリビオン……貴様が裏で糸を引いていたなら合点がいく。その企み、止めさせてもらおうか」
 先制したロアルの強打によって敵の体勢が崩れているいまこそ好機。
 怨讐の忍狐、音羽・浄雲がこの絶好の機会を逃すはずがない。
 他の猟兵達との共闘により妖魔忍群との決戦を無事に制したことには安堵した。音羽が滅びて久しく味わっていなかった感覚だったからだろうか、つくづくと仲間と肩を並べて戦えることに感謝もした。だが、黒幕を討たねばこの城下の人々は救われないのだ。
 このオブリビオンは必ずや滅さねばならない。それが犠牲となった人々への手向けであり、浄雲にできる仇討ちだった。
「舞え、我が身を焦がす怨嗟の劫火よ」
 妖刀・謀り長慶と音羽手裏剣・貫き秀次を構え、浄雲は寿命を代償に音羽忍法『鬼火』を繰り出した。暴君によって滅ぼされた音羽衆の怨念を一身に纏い、地獄のような劫火に己の生命をくべる。
「人々の命を弄ぶ敵よ――劫火に焼かれて悔いなさい!」
 呼気を止め浄雲が駆けた。
 疾走を超えて飛ぶように距離を殺した浄雲の妖刀がオブリビオンの肩に食い込んだ。その身体は生身のようでいて、その実まったく別物らしい。ならばそれごと切り捨てるまでのこと。
 浄雲は妖刀の振り抜きをさらに加速させ、その場で身を回すと寸分違わぬ軌道で斬撃を放った。
 決死と必殺の剣舞を繰り出す浄雲の攻勢に防戦となったオブリビオン。美丈夫らしい端正な顔立ちに焦りの色を浮かべてはいるが、それを素直に信じてやるほど人間の化身忍者
、髪塚・鍬丸は甘くなかった。
 ――嫌な予感がしやがる。さてはあの野郎、誘ってやがるな?
 外蓋の外法の名残で高まっていた勘がきな臭い敵の思惑をかぎ取ったのか、鍬丸は見に徹するべき状況だと判断した。ためしに当たらない軌道と当たる軌道で手裏剣を投げてみると、敵はどういうわけか当たらない方の手裏剣を目で追った。
 投擲された手裏剣が命中し、その隙に浄雲の攻撃が入ったにも関わらず、依然として焦りの色を浮かべるだけで焦ってはいない。
「……もう一度『前借り』すれば潜り抜けて一気に攻め込める、が」
 敵が何を狙っていようと上回る手を打てばいい。鍬丸は再び外蓋の外法を検討するが、師の忠告がそれを留めた。あの技は使うほどに現在の戦闘経験を奪ってしまう。それは将来的な到達点を縮めることでもあり、多用するほどに弱くなってしまうのだ。
 ならばどうする。
「あれをやるか……」
 鍬丸は意を決して降魔化身法を使い、その身に三種の魔を降ろして鎧を纏う。全ての能力が超強化されるという恐るべき技であるが、その反動もまた激しく大きい。
 鍬丸は逆流してきた血反吐を吐き捨てると歯を食いしばって地を駆けた。
 前衛三名によるオブリビオン包囲戦闘は苛烈を極めた。正面をがっちりとロックしたロアルを抜くことはまず不可能であり、左右からは高速化した浄雲と強化された鍬丸が挟むようにして攻撃を加えているのだ。必然的に後ろにしか逃げ道が無くなるが、ロアルを中心に左右の二名が巧みに位置取りを変え、オブリビオンの後退を許さない。
 その真実変幻自在とも呼べる連携戦闘に、旅の人形遣いアレン・カーディスは感動を抑えきれずにいた。
 極まった武術は美しさすら感じさせるというが、まさかここまで綺麗だとは思いもしなかった。許されるのであればこのままずっと見ていたい。彼らの動きを人形劇に活かしたいという思いより、ただただ純粋に究極の武芸を堪能したかったのだ。
 とはいえ状況がそれを許さない。相手は得体の知れぬオブリビオン。頼もしい仲間達がいるとはいえ、アレンもまた貴重な戦力なのだから。
「ただらなぬ雰囲気の御仁だね。より慎重に行こうか」
 アレンは卓越した人形遣いである。舞台の高みより人形達の動きを俯瞰するように、いまこの場を舞台に見立てて戦場を俯瞰するのは難しいことではない。
 目や耳だけに頼らず、五感で受け取る全ての情報を心の舞台に配置。すると激戦区となっている場所からそう遠くない位置に城主が逃げ込んでいるではないか。
 戦いは白熱の一途を辿っており、このままでは城主が巻き込まれるのは時間の問題だろう。彼のしてきたことを思えばその身を案じるのは間違いかもしれない。だがそれでも、アレンは駆け出す足を止めなかった。
 随伴する忍者人形を盾にしながら城主の元へ駆け寄るアレン。それを見たオブリビオンがしたりと笑みを浮かべて言葉を発した。
「は、ははっ――それを待っていましたよ! おさらばです、含沙射影!」
 オブリビオンは無数の影の刃を放ち、自らの周囲に居た全員を無差別に攻撃した。盾を深く構えたロアルはそれに耐え、浄雲はロアルの後ろに退避し、踏み込みすぎていた鍬丸は傷を負いながらも身を引いた。
「な、なぜわしまで! 相談役殿、相談役殿ー!」
 だがオブリビオンの無差別攻撃は怯えた城主にも牙を剥く。アレンは城主へと駆け寄りながら、嫌な予感ほど当たるものだと内心でため息を吐いた。
 アレンは城主の前に身体を投げ出しながらふうっと息を吐きだし、全身を脱力させる。それは迫り来る影の刃に対して無防備になるということだ。
 無数の影の刃がアレンに直撃した。
 城主をかばい、自慢のスーツもシルクハットも切り裂かれたアレン。影の刃はアレンの身体にも大きなダメージを与えており、至る所から出血している。そんな無残な姿になってなお城主を守るように立ち上がり、やれやれと肩を竦めるケットシーの紳士に城主は震える声で呟いた。
「な、な、なにが……なぜ、わしをかばった……」
 アレンはずれたシルクハットの位置を直しながら答える。
「あなたは今まで、芸技が一定以上届いていないと言っては無辜の命を奪ってきた訳だが。本当にそれで良いと思うのかい? こんな風に、訳も分からず殺されたいかい?」
 その口調はあくまでも紳士的で、むしろ優し気ですらある。城主の罪は到底許されるものではないだろう。だがそれはそれとして、無残に殺されていいとは思わない。過去の亡霊であるオブリビオンの魔の手から、今を生きる人々を守るのも猟兵なのだ。
「わ、わしは……この国の地位と安泰を……」
「……これからは。芸人が安全に芸を披露でき、民が安心して暮らせるよう願うよ」
 言葉を無くしてうなだれた城主を、生き残った忍者人形が抱えて避難させる。アレンもまた危険領域を離れ、敵から目をそらさずダメージの回復に努めた。
 戦いはまだこれからだ。

●その旅芸人、凄腕につき
 戦場に響くリュートの音色も熱く激しくなっていく。仲間達の勇敢な戦いぶりと敵の非道さがキケの心に火を付けたのだ。あのオブリビオンを許してはならない。戦いは、痛みを負うのは怖いが、それにも負けてはいけないのだ。
「僕は、負けない! 二人とも、力を、貸して! 僕が――僕が、奏でる!」
 あのキケが力強くリュートを弾いている。心優しく、自分に自信がなく、いつだって他人を大事にしていたあのキケが。自らの魂が生み出すメロディを現実に響かせるべく、己を証明しているのだ。
「やるじゃねぇかキケ! これは俺も負けてられねぇな!」
 その姿に心を熱くせずして何が兄か。気弱な奏者がついにその腕を奮って己の音を奏でたのだ。ならばその音色に、全霊の歌を載せずして何が歌い手か――!
 張り裂けんばかりの声量でエドが歌い上げる。その歌声には言霊すら宿り、キケの演奏と合わさることでさらなる高みへと仲間を導いた。
 こうなると負けられないのは天才踊り手こと妹のルナだ。もともと負けん気が強く勝気だったルナは、二人の兄が互いの音楽を高め合っていることに反骨心を得る。
「何よ、二人で盛り上がっちゃって! いいもん、私だってスゴイんだからー!」
 サムライエンパイアには踊りを神に捧げる習慣があった。舞踏とは人の芸術に留まらず神域に通じるものであり、天性のダンサーは真の意味で神と通じることができたのだ。
 神々は芸事に目がないのは多くの世界で共通している。ならばキケの演奏とエドの歌声を伴奏に踊られるダンスが、八百万の神々の目に留まらぬ道理はない!
 キケのユーベルコード『流浪の楽団』が戦場で戦う全ての猟兵達の戦闘力を増強し、また疲労やダメージを回復していく。まばゆい光を放ったその光景は、大いなる神々がその恵みをもたらしかのように見えた。
「むっ、これはいけませぬな。どうやらそちらの楽士が要の様子。早々に立ち去ってもらうとしましょう」
 猟兵達の戦闘力が向上し、ダメージが回復するという状況をみすみす見逃すオブリビオンではない。手にした錫杖をキケへと向け、招雷の呪言を紡ぐ。あまりの高速詠唱に防ぐことはできず、錫杖から激しい雷光が放たれた。
「貴様の動きは遅いと言った。その雷、通すわけにはいかんな!」
 雷光の斜線に割り込んだのは黄金に光り輝くロアルだ。
 ロアルは身を呈して雷光を受け止める。通常であればいかに盾で防ごうとも雷による感電までは防げない。だが覚醒したロアルは膨大な魔力によって盾のみならず自身をも強化しており、ダメージは受けたものの気を失うことはなかった。
「ぐ、さすがにこれは堪えるな……!」
「恐るべきは盾の守。しかし、これで足が止まりましたなぁ!」
 その隙にオブリビオンは術の準備を終え、死灰復然と呼ばれる死霊召喚を用いて数多の武者を蘇らせた。武者集団は刀や弓で武装しており、間近にいたロアルを標的と定める。
 多数の武者から攻撃されたロアルは気合いで身体を動かし盾で受け止めた。全てを止められたわけではない。盾でカバーできなかった部分は切り込まれ、矢も撃ち込まれている。だがそれでも、ロアルの顔に現れたのは勇猛なる笑み。
 歯を剥き出しにして笑い、ロアルは満身の力をこめて盾を打ち鳴らした。
「どうした、かかって来いよ。俺はここにいるぞ!」
 吠え、剣で斬りかかる。痺れる手足に鞭を打ち、身体の奥底から湧き上がる戦いへの高揚を目の前の武者に叩き付けた。
 これこそが我が本懐。これこそが我が戦場。主人を守れなかった盾のヤドリガミに、運命は新たなる戦いを与えてくれた。今度こそ戦い抜き、盾の本分を全うする!
「うおおおお! 我が主よ、天より俺の戦いを見守ってくれ! 俺はもう、誰も失わせはしない!」
 ロアルの盾が武者の剣を弾き、返す刀でロアルの剣が叩き込まれる。数で勝る敵の攻撃を全身で受け止めながら、ロアルは人々を守る盾として獅子奮迅の如く戦った。
 多勢相手に大立ち回りをするロアルを援護するために動いたのは蓮だ。
「先ほどの熱の入った歓待どうもありがとう。おかげでこちらもいい肩慣らしになったよ。だからこれは、ボクからのとっておきのパフォーマンスだ! 特等席で見ていくといい!」
 虚空に幻影を写し出す鏡が出現すると、そこから鏡写しのもう一人の蓮が現れた。泡沫の鏡像によって生み出されたもう一人の蓮は、本体である蓮と動きを合わせて微笑んだ。
「「さぁショウタイムだ!」」
 二人の蓮は愛用のカードに炎熱を纏わせると自由自在に宙を舞わせる。
 マジシャンにとって道具を愛用するということは、戦士が自分の武器を愛するのと同じこと。ステージという真剣勝負の場に持ち込めるカードは、蓮にとって何よりも信じられる相棒だった。
 二人の炎熱のカードが火炎の尾を引き武者の群れに殺到する。着弾したカードは武者の鎧の隙間に食い込むと即座に発火。容易には消えぬ炎が武者を包み、苦悶の叫びを上げさせた。
 火の乱舞は止まらない。蓮はもう一人の蓮と連携し、お互いの隙を埋めるように炎熱のカードを撃ち放つ。間断なく連射されるカードの嵐が武者の剣を弓矢を焼き払い、あたり一面を火の海へと変えた。
「なんと大胆なことを! これでは皆、焼け死ぬではないですか!」
 そう声を上げたオブリビオンはどこか楽しげだ。火の海に焼かれる武者の群れを気にするでもなく、それもまた良しと愉しんでさえいるようだ。
 ならば、と蓮は手を変える。カードの軌道を武者狙いから広範囲に切り替え、かかかっと畳の上にカードの陣を敷いた。
「皆だって? いいや、そんなことはないさ。マジシャンがお客さんに火の粉を飛ばすはずがないじゃないか。だから、炎に焼かれるのはキミだけなのさ!」
 二人の蓮が同時にぱちんと指を鳴らした。するとカードからなる火の海が風向きを変え、オブリビオンを狙う火の蛇と化す。
「なんのこれしき!」
 オブリビオンは錫杖を一振りして火の蛇を打ち払う。大きなうねりを伴った火の蛇は、しかしあっさりと霧散した。その手応えの無さはどういうことか。
 答えはオブリビオンに突き刺さった二枚のカード。
 蓮は火の蛇でオブリビオンの目を眩まし、その隙に本命のカードを差し込んだのだ。
「これは……お見事、と申しましょうか!」
「お褒めに預かり光栄だ!」
 二人の蓮が指を鳴らし、カードから生じた炎が敵を包み込んだ。
 戦には要所というものがある。流れの分岐点とも呼べるポイントがあるとすれば、まさしく今ここだと恋狐は理解した。
 大人の姿となり妖艶さを増した恋狐だが、それは姿形の変化だけを意味するわけではない。恋狐の敵を見る目は冬の厳しさのように冷たく、獲物に死をもたらすまでの道筋を本能的に嗅ぎつけていた。
「ここが勝負所のようじゃな。大人げないと思われてしまうかもしれぬが……余も本気を出すとしようかの。やりすぎても恨んでくれるなよ?」
 恋狐はそっと口元を隠すと足元から魔力の渦を発生させた。巻き上がる魔力の風には恋狐に由縁のある桃の葉が含まれている。風の勢いは加速度的に上昇し、局所的な竜巻を引き起こすと、その中から巨大な霊狐が現れた。
 神霊体へと存在の性質を変えた恋狐だ。恋狐もまた己の寿命と引き換えに巨大な力を降臨させていた。対象のオブリビオンからの攻撃を軽減できる神霊の狐となった恋狐は、その巨体を機敏に運ばせ武者の群れへと突入する。
「その巨体、良い的でございますな!」
 炎に包まれながらオブリビオンは錫杖を恋狐へと定め、眩いばかりの雷光を撃ち出した。阻む盾がいない雷光は恋狐へと抜けて直撃する。
 天に逆らうかのような電撃が巻き起こるが、直撃を食らった恋狐は身じろぎ一つで雷光を振り解いた。
「むぅ、これはちと痺れるのぅ。じゃが……どうやらこれがぬしの限界のようじゃな」
「は、ははっ、直撃して無傷ですか! いやこれは参った参った!」
 炎にその身を焼かれるオブリビオンの顔に本物の焦りが生まれたのを恋狐は見逃さなかった。弱みを見せた獲物は一気に仕留めるもの。恋狐は追撃の手を緩めることなく、武者の群れごとオブリビオンを尻尾の一撃でもって吹き飛ばした。
 宙へと打ち上げられたオブリビオンを追いかけるバトルキャラクターズの群れ。その先頭を駆けるゆいが空中コンボを命じた。
「浮かせて拾ってボッコボコにするよ! これが格ゲー式お手玉じゃい!」
 ラスボス級のやつらがオブリビオンを下から上から殴りまくる。そのコンボは途切れることなく続き、ヒット数を天井知らずに高めていった。
 ゴットペインターであるゆいがバケツから塗料をぶちまけオブリビオンをカラフルに染め上げた。こうなっては美丈夫も台無しである。ペンキ塗れとなった姿を嘲笑うかのように、ゆいが指をさしながらぷぷぷーっと笑顔を咲かせた。
「あれあれー綺麗な錫杖がカラフルになっちゃったねー! うっけるー!」
「このっ、あまり調子に乗らないでもらいましょうか!」
 ゆいの挑発は抜群の効果を発揮し、オブリビオンから怒りの形相を引き出した。空中でお手玉にされるだけでは飽き足らず、ペンキをぶちまけられるという悪鬼の如き所業にいたく腹を立てたようだ。
 オブリビオンは空中で防御しながら体勢を整え、先ほど猛威を振るった無数の影の刃を放とうと予備動作に入った。そんな見え見えな大技モーションを通しては格ゲーマーの名折れ。ゆいは即座にバトルキャラクターズを合体させ、巨大なラスボスを組み上げた。
「あっ、でもここはあえて受けるのもイイかも……」
「細切れとなりなさい! 含沙射影!」
「あっ、やばっ、慢心しちゃったー!」
 一瞬、影の刃を食らうのもイイかなって思ってしまったゆい。自分がずたぼろにされる想像をしてドキドキしたが、この距離で直撃するのはあんまり良くない。ドキドキした分だけゆいの戦闘力が向上し、巨大なラスボスを操るパワーも強まっていた。
「ばっちこーい! ガチギレのマジ殺し、いってみよー!」
 オブリビオンを中心に放たれる無数の影の刃を外から押しつぶすように、巨大なラスボスの合掌攻撃が叩き込まれた。
 全身を包み込まれるような強打を受け、オブリビオンの身体が地に落ちる。
 これぞ勝機。二人の化身忍者が動いた。
 鎧の隙間から血を流した鍬丸が駆け、寿命を削りながら浄雲もまた駆ける。
 奇しくも先ほどと同じように左右からオブリビオンを挟み込む形となった。
 二度目の連携攻撃ともなれば、どのように当てるのがより効果的なのか分かるというもの。鍬丸と浄雲は目を合わせるだけで了解し合い、敵を殺す刃となった。
「髪塚鍬丸、参る!」
「音羽浄雲、参ります!」
 左右からまったく同じ個所を狙った同時攻撃が放たれる。頭を狙えば頭を打ち、胴を狙えば胴を打つ。力任せに滅多切るのではなく、左右同時の滅多切りだ。
 攻撃を当てるタイミングも寸分違わず同時に命中。この連携攻撃にオブリビオンは対応できず、されるがままに宙に打ち付けられる。
 何度目かの攻撃が放たれた時、オブリビオンの守りが破れて血飛沫が上がった。防御力の限界を超えられついに猟兵の牙が届いたのだ。
 ここまで来ればあともう一押し。
 鍬丸と浄雲は攻め方を変化させ、力を溜めながら交互に剣を叩き込んだ。その一撃一撃がオブリビオンの身体を切り裂き、美丈夫の僧侶は見る影もなくなった。
「ぐ、がぁ……おのれ、おのれぇ……!」
 怨嗟の声でうめくオブリビオン。鍬丸のクナイがその心臓を貫いた。ぐりっと手を返すことで心臓を破壊し、完全なる暗殺をしてみせる。
「おのれ、だって? それはてめぇに殺された人たちの台詞だぜ」
「おのれ、猟兵どもめ! この恨み、永遠に忘れぬぞ!」
 往生際に猟兵達を呪い、オブリビオンの僧侶が鬼の形相となった。その最期を見下ろすのは復讐に身を焦がした浄雲だ。
「……恨みは永劫に。お前もまた、恨みを背負って逝きなさい」
 浄雲は手にした妖刀に劫火を纏わせると。
「さようなら」
 劫火一閃。
 浄雲は妖刀を真一文字に振り抜き、オブリビオンの首を跳ね飛ばした。切られた首は宙を舞い、劫火に包まれ消滅した。
 それが終わりだったのか、戦場に居た全てのオブリビオンが消滅していく。
 あとに残されたのは無残な傷跡を残した城主の間。
 ここに戦いは終結した。
 猟兵達の勝利である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月14日


挿絵イラスト