エンパイアウォー⑥~土蜘蛛がごとき槍衾
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「あれだけ見事なファランクスを、まさかサムライエンパイアで見る日が来るとは思わなんだ……」
しみしみと、ガングラン・ガーフィールド(ドワーフのパラディン・f00859)は顎髭を撫でた。
「関ヶ原で弥助・アレキサンダーが畿内全域の農民たちを引き連れ、ファランクスを組みおっての。あの陣形は、ただの兵士ではそうそう切り崩せるものではない」
日野富子から徴収した金銭によって整えられた『長槍』と『大盾』を装備した農民兵達の、陣形は見事なものだ。指揮官のオブリビオンもあって、幕府軍の兵士では歯が立たない。このままでは、幕府軍が撃破されるのみだ。
「256名1部隊、その中心にオブリビオンが指揮官としておる。そいつを倒してもらいたいのじゃがな……ファランクス兵は一般人じゃ、できれば穏便にすませたいところじゃが……」
右手で長槍を構え、左手の盾で自分の左隣の仲間を守る陣形『ファランクス』――これを切り崩すのは猟兵でも創意工夫が必要だろう。
「指揮しておるのはまつろわぬ土蜘蛛『依媛』――討たれた後も朝廷が絡んだ事件、歴史の負の場面や戦乱で暗躍していたとされる怨霊じゃ。部下である土蜘蛛を率いておったあやつにとって、ファランクスを操るのも容易かろう」
だが、そこに付け入る隙がある。依媛を討てば、それだけで彼女が指揮するファランクスは瓦解する。そのためにも一気に依媛へと仕掛け、打ち倒す必要があるのだ。
「どうファランクスを突破して、依媛を討つかはおぬしらに任せる。真っ向勝負をしておっては、こちらももたん。どう突破するか、それが勝敗を分ける要素にもなるじゃろう。もちろん、依媛自身も強敵じゃ。気を抜くことなく、挑んでくれい」
波多野志郎
マケドニア式ファランクスっっすね。どうも、波多野志郎です。
今回は大帝剣『弥助アレキサンダー』によって洗脳された農民ファランクス兵率いるオブリビオンを討っていただきます。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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いかに効率よく、被害を出さずにファランクスを突破できるかが肝となるでしょう。
では、皆々様抜かりなく。関ケ原でお待ちいたしております。
第1章 ボス戦
『まつろわぬ土蜘蛛『依媛』』
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POW : 我はまつろわぬ神、天津神に仇なす荒ぶる神なり
【人としての豪族の媛から神話での土蜘蛛の神】に覚醒して【神話で記された異形のまつろわぬ女神】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 我は鎚曇(つちぐもり)、強き製鉄の一族の媛なり
【この国への憎しみの念】が命中した対象を切断する。
WIZ : この国に恨みもつ者達よ、黄泉より還り望みを果たせ
【朝敵や謀反人など悪と歴史上に記された者達】の霊を召喚する。これは【生前に使用していた武具と鍛え上げた技術】や【生前に従え率いていた配下や軍勢】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:馬路
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「加賀・依」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ファン・ティンタン
【WIZ】兵子ら、地に伏し給え
あーあ、こんなに人集めちゃって
大型突撃陣の威圧感は脅威だけれど、大が常に小を制するとは限らないよ
大将首を講義代として、教えてあげようか
【精霊使役術】
地に根ざす泥田坊に呼びかける
自身に貯め込んでいる魔力の供給を行い、術式準備
突撃陣の正面に立ち【挑発】
来なよ三下共、その軍で私を轢いてみせろ
迫る陣形を引いて、誘って
踏み拉かれる大地を、泥濘の波へと変じる
重装だったね、長得物だったね
動けるかな?
超常の存在たる敵大将はこの程度のぬかるみじゃ止められないだろうね
でも、それでいい
人の城は崩れた
跡に立つは裸の大将ただ独り
護りは居ないよ
魔力ブーストした【怪力】で【天華】を全力【投擲】
ヴィクティム・ウィンターミュート
パンピーどもを傷付けずに、ファランクスをどうにかすりゃいいんだな?
オーケー、そういうことなら任せてくれ
無限の手札がある俺なら、簡単なことださ
ファランクスの規模は理解した…中心に大将がいるんだろ?
じゃあ、巻き込みやすいな
座標──決定 規模──決定
迷宮作成完了、展開──実行
『Quakers』発動を確認
ファランクス全てを爆発迷宮に閉じ込める
ギチギチの陣形じゃ中々出られもしないだろうし…
安心しろ、この爆発物は対オブリビオン専用だ。パンピーは無傷だよ
さて、このまま放置して脱出劇を傍観してやるのも一興ではあるが…
面倒だな、爆破するか
突破する必要も、崩す必要も無い
こうやって制圧しちまえば、終いだ
──起爆
梅ヶ枝・喜介
おれァ合戦なんざ知らん!素人同然!
だから目の前の兵子らを見ても、なぁんかみっしりと集まってんな!くらいにしかわからん!
さらには連中、元々は農民と来た!傷付けたくはねぇよなぁ!
これをどうにか突破せよとはむつかしい事を言うぜ!
む、むむ……!
よし決めた!
アイツらの足元をよ!ばっきばきに砕いちまえば陣も連携も無くなるだろ!
幸いにしておれの剣はそういうことばっかり得意だしな!
木刀を振り上げ!渾身で振り下ろす!
さぁさ退けぃ!道を開けな!
なんだァ?
敵将と聞いてたが、まるきりただの娘っ子じゃねぇか!
おれの剣は女子どもを断つためのモンじゃないぜ!
待っててやるからさっさと変身しな!
そしたら心ゆくまでやり合おうぞ!
有澤・頼
「農民たちの被害を最小限に抑えかつ、オブリビオンを倒すか…どうしようかな…」
ファランクスたちに変装をして身を潜めていようかな。「忍び足」で徐々に近づいて背後から「だまし討ち」をしよう。そして、「咎力封じ」で相手の動きを防いでスパッと斬るよ。
「え?卑怯者?そうだね。でも、力のない人たちを洗脳して兵士にするお前たちの方がもっと卑怯者だと思うよ。」
そんな卑怯なやり方しかできないお前たちに負けるわけにはいかないからね。
御劔・姫子
御狐はん(f00307)とっ♪
わ、えらい槍衾…ただ斬り込むんやったら骨が折れるんやろうけど…今日のうちには心強い味方がおるんよっ♪
さ、御狐はん…行こかっ!
姿を変えた御狐はんの背に【騎乗】して、敵陣突破やっ!
迫る槍を【武器受け】しつつ【なぎ払い】…今回は人を斬るわけにはいかへんから、【部位破壊】【武器落とし】で槍の柄だけを狙って斬るっ!
それに、この人達には何の咎もあらへん…狙うんは操っている大将首だけやっ!
【第六感】も使って居場所を【見切り】…少しでも見えたんやったらこっちのものやっ!
【秘技・不抜乃太刀】、間合いも何も関係あらへん
この【捨て身の一撃】で、うちと御狐はんの力…見せたるっ!
御狐・稲見之守
姫子(f06748)と同行。UC化生顕現、大狐姿となって姫子をその背に乗せ、槍襖に向かって劔狐一体の単騎駆け。さあ征こう…ふふっ目を回す出ないぞ、姫子。
農民のファランクスには【催眠術】で無力化。さあ木っ端共、黄泉路を拝みたくなくば道を開けよ。そのままファランクスに向かって突撃。背に乗せた姫子に代わり、敵からの攻撃は我が引き受けよう。
目指すは依媛ただ一点、彼奴や召喚された霊は狐火で焼き尽くす――或いは【生命力吸収】、我が顎は霊魂をも"喰"らうぞ。依姫や雑魚共の攻撃を引き受けるがゆえ、足しにさせてもらう。
フフ、劔狐無双…我と姫子の行くところ、遮ることができるものなどあるものか。
加賀・琴
ご先祖様、此度は弥助アレキサンダーの配下として、まだ彷徨いこの国を呪っていますか
御身の末裔にして、御身の首塚を祀る巫女として祓い鎮めさせていただきます
農民兵は天女の羽衣の『空中戦、空中浮遊』で空を舞うことでやり過ごして、直接ご先祖様のところを目指します
ご先祖様には『破魔』の『祈り』を込めて『スナイパー』で狙いを定めて【凶祓いの矢】を放ち射貫き、黄泉の門を封じることでご先祖様が呼び出す亡霊達を祓い清めます
亡霊を封じたら『2回攻撃、早業』で素早く次の矢を番えて2射目を放ちます。2射目も同じく【凶祓いの矢】か、あるいは【破魔清浄の矢】か【破魔幻想の矢】か、そこは状況次第で使い分けましょう
ユディト・イェシュア
アドリブ連携歓迎
これがファランクス……見事なものですね。けれど、罪のない農民の方々を傷つけるわけにはいきません。
ファランクスの弱点である最右翼から突破口を開きます。農民兵の方はできるだけ傷つけたくありません。
メイスの【気絶攻撃】で戦線離脱していただきます。陣形が瓦解すれば、指揮官である依媛に素早く近づけるでしょう。仲間と協力し、素早い突破を目指します。
依媛までたどり着けば、【黎明の導き】で弱点を探りながらメイスで攻撃。相手からの攻撃は【激痛耐性】で耐え、攻撃を引き受けている間、仲間が攻撃する機会を作れたらと思います。
ここが踏ん張りどころ。脅威を取り除くためにも、ここで屈するわけにはいきません。
備傘・剱
見事に統率の取れたファランクスを崩すのには並大抵のことじゃないからな…
こいつは気を引き締めて戦わないと、な
人死はだめだが…、吹き飛ばす程度なら、問題あるまい
青龍撃、発動
水弾をマヒ攻撃使用の巨大水弾に変更して連続でぶつけてみよう、少しでも怯んで切り込む隙ができたら高速移動の速度と自身のダッシュの加速を利用したスライディングで内部に突撃して、頭の上にいる生き人形の一足りないのサイコロを気絶攻撃で投げつけて道を作るとするか
その勢いで依媛に呪殺弾、衝撃波、水弾、誘導弾をけしかけ、接近したら二回攻撃と鎧無視攻撃で重い一撃を見舞ってやるよ
女を殴るのは趣味じゃねぇが…
戦場なんで、な
特別に許せ
アドリブ、自由だ
●槍衾の『蜘蛛』
「あーあ、こんなに人集めちゃって」
ファン・ティンタン(天津華・f07547)が片方の赤い瞳で、その光景を見て呟いた。
関ヶ原、その平地にあったのは槍衾の城塞だ。長槍で固めたその集団は、あるいは『蜘蛛』が集まって生み出された巣にも見えたかもしれない。
見る者に圧倒的威圧と恐怖を沸き起こらせるのに十分な光景だ。しかし、ファンはそれを否定する。
「大型突撃陣の威圧感は脅威だけれど、大が常に小を制するとは限らないよ。大将首を講義代として、教えてあげようか」
戦略は絶対でなく、戦術で覆せる――ファンには、その確信があった。
「見事に統率の取れたファランクスを崩すのには並大抵のことじゃないからな……こいつは気を引き締めて戦わないと、な」
備傘・剱(絶路・f01759)の目から見ても、あのファランクスが統制の取れたものだとわかる。ただ真正面から挑めば、猟兵と言えど力負けする――加えて、こちらにはマイナス条件もあるのだ。
「これがファランクス……見事なものですね。けれど、罪のない農民の方々を傷つけるわけにはいきません」
ユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)の言葉の通り、ただ倒していい相手ではないのだ。必要なのは『頭』を潰す事――あの『脚』である兵士達は、洗脳された農民に過ぎないのだ。
「農民たちの被害を最小限に抑えかつ、オブリビオンを倒すか……どうしようかな……」
有澤・頼(面影を探す者・f02198)は、そう思案する。頼に農民を見捨てるという選択肢は、最初から無かった。
「パンピーどもを傷付けずに、ファランクスをどうにかすりゃいいんだな? オーケー、そういうことなら任せてくれ。無限の手札がある俺なら、簡単なことださ」
パチン、と指を鳴らして、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)がニヤリと笑う。俊敏さを武器にしたランニングハックを中心に、妨害、支援、工作を専門としているヴィクティムにとっては、このような困難な状況も初めての事ではない。打てる策は、いくつでも考えられた。
二五十六名のファランクスに、極々少数で猟兵達は挑みかかる――だが、そこに絶望はない。数にも勝る武勇、猟兵達は文字通り一騎当千の兵ばかりなのだから。
●槍衾を越えて
「……来る、か」
「はい?」
ファランクスの中央で、まつろわぬ土蜘蛛『依媛』が呟く。振り返らずに問い返した兵士に、冷たい声色で告げた。
「正面だ。うつけが来るぞ」
依媛の言う通り、一人の少年がこちらに駆け込んでくる姿が見えた。梅ヶ枝・喜介(武者修行の旅烏・f18497)は、近づく槍衾へ言い放つ。
「おれァ合戦なんざ知らん! 素人同然! だから目の前の兵子らを見ても、なぁんかみっしりと集まってんな!くらいにしかわからん! さらには連中、元々は農民と来た!傷付けたくはねぇよなぁ! これをどうにか突破せよとはむつかしい事を言うぜ!」
む、むむ……! と唸る喜介。考えてもわからなかったので、走り出した。走っている最中に妙案が思いつく『かも』しれない程度の考えだったが……少なくとも、肚は決まった。
「よし決めた! アイツらの足元をよ! ばっきばきに砕いちまえば陣も連携も無くなるだろ! 幸いにしておれの剣はそういうことばっかり得意だしな!」
喜介は、全長3尺程の木刀を振り上げた。槍衾が眼前にある。最前衛が槍を振り下ろす――信長軍も使ったという長槍の運用方法だ。その槍が自分の頭を打ち砕く前に、喜介は木刀を全力で振り下ろした。
「さぁさ退けぃ! 道を開けな!」
ゴォ! と喜介の渾身の一撃が地面を打ち砕く! その勢いに、ファランクスが止まった。むしろ、その止まるタイミングは一糸乱れる完璧なものだった。依媛の指示、その賜物だ。
その動きに、御劔・姫子(はんなり剣客乙女・f06748)は目を丸くする。
「わ、えらい槍衾……ただ斬り込むんやったら骨が折れるんやろうけど…今日のうちには心強い味方がおるんよっ♪ さ、御狐はん……行こかっ!」
「うむ!」
姫子の前に進んだのは、御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)だ。ボウ、と狐火を周囲に浮かべ、稲見之守は高々と唱えた。
「姿形不定なるこそ真なり、夢と現つの狭間に巣食う神にしてモノノ怪来たれり」
化生顕現(ケショウケンゲン)――稲見之守は漆黒の大狐へと姿を変えると、口の端から炎をこぼし笑った。
「さあ征こう……ふふっ目を回す出ないぞ、姫子」
「せやね」
漆黒の大狐は姫子をその背に乗せると、関が原を疾走する。まさに一陣の黒き疾風――劔狐一体の単騎駆けだ。
「さあ木っ端共、黄泉路を拝みたくなくば道を開けよ」
稲見之守の揺らめく狐火による催眠術に、一角が崩れそうになる。しかし、すぐに後ろの槍がそれを埋めようと槍を突き出した。
「させへんよ!」
その槍を弾いたのは、姫子の剛刀『巌太刀』だ。農民は狙えない、だから槍の切っ先を正確に切り払っていった。
「この人達には何の咎もあらへん……狙うんは操っている大将首だけやっ!」
「フフ、劔狐無双……我と姫子の行くところ、遮ることができるものなどあるものか!」
漆黒の大狐が跳ぶ。槍衾を跳び越え、ただ狙うは土蜘蛛の媛のみ――。
「慌てる必要はない。密集せよ」
『ハッ!』
それに依媛は、すぐに指示を飛ばす。農民を気遣うというのなら、それを利用するのみ――依媛はどこまでの冷静であった。
(「とはいえ、ただ真正面からは来るとは思えぬ。これを陽動に――」)
依媛の判断を裏付けたのは、まさにその考えに至った瞬間だ。ファランクスのもっとも有名な急所と言える最右翼から、ユディトがメイスを片手に迫っていた。
「殺しはしません。が、少々痛くなりますよ?」
槍を構えるからこそ、盾の防御がない右側からの強襲。ユディトがメイスを、右翼の農兵が受けて崩れ落ちる――そこへ剱が続いた。
「人死はだめだが……、吹き飛ばす程度なら、問題あるまい」
剱はすかさず、青龍撃(バレットスピーディング)を発動。空気中の水分を凝縮し形成した青龍の爪と牙をまとい、牙から放たれる高圧の水弾を連続で叩き込んでいく!
崩れた場所から、高速の巨大水弾を叩きつけられ陣形が乱れる。しかし、ファランクスはその崩れをすぐに立て直そうとした。
「森羅万象に宿る精霊達よ、私の声を聞いて頂戴」
ファンが大地へ呼びかけ、ファランクスの前へと仁王立ちした。そして、真っ直ぐに言ってのける。
「来なよ三下共、その軍で私を轢いてみせろ」
「チィ!!」
崩れるのを立て直したファランクスが、槍衾を整えて前へ出る。槍で貫き、蹂躙する――ファランクスの真骨頂が発揮される……はずだった。
「ぐ、あ!?」
「な、んだ!」
しかし、文字通り足場が『沈んだ』。農民にとっては、懐かしい感覚。まさに大地が泥濘の波へと変わった。
「重装だったね、長得物だったね。動けるかな?」
「クソ!!」
ファンの言う通りだ、長槍と盾の重武装でこの泥濘の波をかわすなど出来るはずもない。文字通り手も足も出ずに、飲み込まれるのみだ。
(「この陣形の弱点をよく理解しておる。そうなると……」)
依媛は視線を上へと向ける。そこには読んだ通り、空を飛ぶ者がいた――天女の羽衣で宙を舞う加賀・琴(羅刹の戦巫女・f02819)だ。
「ご先祖様、此度は弥助アレキサンダーの配下として、まだ彷徨いこの国を呪っていますか。御身の末裔にして、御身の首塚を祀る巫女として祓い鎮めさせていただきます」
琴は依媛と視線を交わし、憂いの表情で告げる。過去、朝廷によって討たれた者。土蜘蛛と呼ばれ、蔑まされた先祖の怨霊を見るのは、あまりにも忍びなかった。
「ファランクスの規模は理解した…中心に大将がいるんだろ? じゃあ、巻き込みやすいな」
ヴィクティムは電脳接続型拡張プロセッシングゴーグル『ICE Breaker』を起動させる。ヴン、とグラス越しに、ファランクスを一望した。
「座標──決定 規模──決定」
ヴィクティムが設定した範囲内に、ファランクス全てを収める。かなり広範囲だが、『ICE Breaker』の処理速度なら関係ない。
「迷宮作成完了、展開──実行」
フォログラムが、ファランクスを中心に関が原に巨大迷宮を構築していく。脱出困難な迷宮の構築――ヴィクティムは、それを具現化した。
「――『Quakers』発動を確認」
ガシャン! とそこに生み出されたのは、任意で起爆できる対オブリビオン専用爆発物で出来た迷路だ。ヴィクティムのCreate Program『Quakers』(シニモノグルイデハシリマワレ)の展開と同時に、ファランクスは完全に動きを止めた。
「いい手並みだ――貴様もな」
「あれ、気付いてた?」
何事も無かったように振り返った依媛に、ファランクスに変装し、混乱に乗じてここまで潜り込んでいた頼が言った。
「力のない人たちを洗脳して兵士にする、そんな卑怯なやり方しかできないお前たちに負けるわけにはいかないからね」
「ああ、卑怯とは言うまい。今を生きる者を巻き込み、それでも朝廷への復讐を果たしたいのが私だ」
頼が友斬を手に、斬りかかる。依媛は、この国への憎しみの念によってその斬撃を受け止めた。
●土蜘蛛の媛
戦況は大きく変わった。迷宮において、数の有利は不利へとひっくり返る。その状況を生み出したヴィクティムが、迷宮をさ迷う農民達と戦闘を開始した依媛を確認していた。
「安心しろ、この爆発物は対オブリビオン専用だ。パンピーは無傷だよ。さて、このまま放置して脱出劇を傍観してやるのも一興ではあるが……面倒だな、爆破するか」
ヴィクティムの眼前に、ホログラムで起爆ボタンが現れる。時間をかければ、状況がどう転がるかわからない――工作員であるヴィクティムは、最適な機を逃す愚を犯す事はなかった。
「突破する必要も、崩す必要も無い。こうやって制圧しちまえば、終いだ――後は頼んだぜ、主役達」
――起爆した瞬間、関が原に轟音が轟いた。傷はなくとも、この大音量だけで農民達を昏倒させるのに十分な威力だった。
「む――!」
唯一のオブリビオン、依媛が爆風に煽られる。その右手首に、ガシャン! という鉄枷が嵌まる音がした――頼の咎力封じだ。
「――ッ!」
依媛を、闇が包んでいく。そこに生まれたのは、赤い複眼を持つ巨大で真っ黒な土蜘蛛だ。天津神に仇なす荒ぶる神と成り果てた依媛が、その柱のように巨大な脚で頼を踏み潰そうと振り下ろす!
「っと!」
それを紙一重でかわし、頼は後退する。入れ替わり迫ったのは、漆黒の大狐――姫子を背に乗せた稲見之守だ。
「参れ! 我が同胞よ!」
依媛の命を受けて姿を現したのは、朝敵や謀反人など悪と歴史上に記された者達の霊だ。彼等は依媛を守る壁となり、稲見之守の眼前に立ち塞がった。
「我が顎は霊魂をも"喰"らうぞ!」
稲見之守の牙が、霊達を喰い破る。だが、その僅かな時間を利用して土蜘蛛は、後方へ跳ぶ――それを、稲見之守の背に乗った姫子が許さない。
「秘技・不抜乃太刀――間合いも何も関係あらへん!」
まさに捨て身の一撃、巨大な土蜘蛛に姫子の不抜乃太刀による不可視の一撃が傷跡を刻んだ。闇が、解けていく――その綻びを、ユディトは見逃さない。
「俺には視えます……あなたの強さも弱さも」
ソヅ黒い土蜘蛛に紛れた憂いを帯びたオーラを読み取り、ユディトがメイスを振り下ろした。黎明の導きによる一撃は、土蜘蛛の中にいた依媛の姿を露出させる。
「わかった風な口を――!」
怒りと憎悪に燃えた瞳で、依媛が憎しみの念をユディトへ放とうとする。だが、その一撃は頼の拘束具によって封じられていた。
「人の城は崩れた。跡に立つは裸の大将ただ独り――護りは居ないよ」
ファンは自らの魔力で筋力を増強、渾身の力を込めて天華を投擲した。純白の一閃となった天華は依媛を貫き、土蜘蛛の闇から強引に吹き飛ばす!
「お、のれ! 朝廷に与する者どもめ!」
依媛の怒りに呼応するように、怒りを同じくする霊達がその姿を再び現していく。だが、それを防ぐ者がいた。
「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え」
上空から放たれた琴の凶祓いの矢が、怨霊達を浄化していく! それに依媛が視線を向け、声を張り上げた。
「何故、貴様がそこにいる!」
その問いは、まさに血を吐くような悲痛なものだった。見ればわかる、自らの末裔なのだと――ならば、何故、朝廷の側に立っているのか! その魂の底からあげられた問いに、琴は応える。
依媛の首塚を祀り鎮める隠れ里の神社、その巫女として――依媛を鎮めんために、破魔清浄の矢が依媛を貫いた。
「カ、ハ……あった、と……言うのか? そんな、未来、が……?」
矢を受けてよろけた依媛の前に、真正面から馬鹿正直に走ってきた喜介がようやくたどり着いた。
「なんだァ? 敵将と聞いてたが、まるきりただの娘っ子じゃねぇか! おれの剣は女子どもを断つためのモンじゃないぜ! 待っててやるからさっさと変身しな!」
喜介の言葉は、皮肉な事に依媛の救いとなる。依媛はかすれた笑みをこぼすと、しっかりと大地に立った。
「私は、土蜘蛛、で良い……朝廷、討つべし! あの恨み、忘れてなるものぞ!!」
闇をまとい、再び土蜘蛛へと依媛はその姿を変える。もはや同胞は呼べず、国への恨みは断ち切る力はない――それでも、この身を燃やす憎悪は決して忘れない。
――忘れてしまえば、同胞との思い出も消えてしまうのだから。
「おう、それでいい。心ゆくまでやり合おうぞ!」
「オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
木刀を振り上げた喜介へ、土蜘蛛が駆ける。迫る巨躯に、喜介が出来るのは唯一木刀を振り下ろすだけだった。
「俺はこれしか出来ねぇ! だからこれだけは誰にも負けたくねぇ!!」
ゴォ! と喜介の火の構え(ジョウダンノカマエ)から放たれた一撃が、土蜘蛛の闇を破壊した。地面がめくれ、瓦礫を撒き散らす――その中で宙を舞った依媛へ、剱は青龍の爪と牙をまとって迫った。
「女を殴るのは趣味じゃねぇが……戦場なんで、な。特別に許せ」
衝撃波が、水弾が、剱の渾身の二連撃が依媛を打ち砕く。それが止めとなった……いや、あるいはもう遥か昔に終わっていたのかもしれない。
「――――」
宙を舞い、砕け散りながら依媛の口が動く。視線を交わした琴への最期の言葉が、どんなものであったのか――それを知る唯一の者が、ここに消え去った……。
大成功
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