エンパイアウォー⑩~南海に浮かぶ山賊砦
●瀬戸内海・超巨大鉄甲船
「俺たち、どうしてこんな所に居るんだろうな……」
「なんでだろうなぁ」
男が二人、甲板の上に寝転がって晴れた空を見上げていた。彼らはあからさまに気を抜いた様子で、欠伸をしながら帆柱の先端を眺めやる。そこには『丸に上の字』の旗が風に靡いていた。
「とにかくアレを死んでも守れってことらしいが、まさか船に乗せられるとは思わなかったぜ」
「俺さ、実は泳げないんだよね」
男の一人が溜め息を吐く。
「ついつい金に釣られて、こんな所に来ちまったけど失敗だったかもなぁ」
「早く山に帰りてぇ」
「……だな」
●グリモアベース
「今、南海道に巨大な鉄甲船が山ほど集まってるって話、知ってる?」
上崎・真鶴は、そう言って話を切り出した。
「知ってる人は、この先の話も分かってると思うけど、その鉄甲船って信長軍の船団なんだよね。もっと言うと魔軍将の一人、日野富子が密かに建造してたものなんだって」
更に彼女は、海賊衆として瀬戸内海を支配していた村上水軍の怨霊を呼び起こし、彼らを鉄甲船団の乗組員に据えたのだ。そうやって準備を整えた敵の船団は、南海道に集まって幕府軍を待ち受けている。
「大金を惜しみなく注ぎ込んだ船団と海賊の怨霊って組み合わせだからね、正直言って幕府の船じゃ敵いっこないよ。だから、あたしたちとしては幕府軍が南海道を通る前に、この船団をどうにかしないといけないってわけ」
もしもこの船団と幕府軍が直接戦った場合、その被害は数万にも及ぶという。つまり、まともにやり合えるのは猟兵だけということだ。
「そんなわけで皆には敵の鉄甲船を一つ、担当してもらうよ」
真鶴は手元のメモを見ながら説明を続ける。
「今回の目的を具体的に言うと、その船の帆柱に掲げられている村上水軍の旗を引き摺り降ろすこと」
それこそが唯一、その船を止める方法だという。
「その旗が怨霊たちの憑代みたいになってるんだろうね。村上水軍の怨霊を宿している限り、どれだけ船を傷付けてもすぐに直っちゃうんだ」
仮に船体を真っ二つにしたところで、何事も無く元通りになってしまうのだ。その上、旗を守るための護衛としてオブリビオンたちも乗り込んでいる。主にその二つが、幕府軍の船では勝てない理由だった。
「海上の鉄甲船に乗り込んで、護衛のオブリビオンを倒して、村上水軍の旗を降ろす。皆にお願いしたいのは、この三つだよ。まず最初に、どうにかして船に乗り込むこと」
船は既に海上を航行中で、彼らの寄港を待っている時間的余裕は無い。そもそも補給の必要が無いのだから、恐らくはずっと海上に居るのだろう。よって海を渡る方法などを考えなければならない。
「で、護衛のオブリビオンなんだけど……その船には何故か山賊が乗り込んでるんだよね」
真鶴は不思議そうに首を傾げた。
「数は全部で10人。旗が掲げられている帆柱近くの甲板と、帆柱の上部にある見張台に分散してる。だから下手に近付くと、すぐにバレるよ。……ま、バレたからといってそんなに怖い相手でもないけどさ」
実のところ山賊たちは油断し切っている。こっそりと船に近付き乗り込むことが出来れば、奇襲を掛けることが出来るかもしれない。
「ああ、それともう一つ。村上水軍の旗だけど、これもちゃんと取り外して降ろすまでは船の一部として扱われるみたい。どういうことかっていうと、遠くから旗だけを撃ち抜こうとか、火を点けて燃やそうとかいった方法は通じないんだ。すぐに直っちゃうからね」
だからこそ、まずは旗よりも先にオブリビオンたちを倒す必要があるのだと真鶴は言った。
「ちなみに村上水軍の怨霊って聞くと水上戦が得意そうだけど、そっちは気にしなくていいよ。あくまで彼らは船を動かすだけ。襲ってきたりはしないからさ」
そう言って笑顔を作ると、真鶴はひらひらと手を振った。
「それじゃ後は任せたよ。ここ最近忙しくて申し訳ないけど、よろしくね」
若林貴生
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
こんにちは。若林貴生です。
鉄甲船の全長は約200m、全幅は約30mとなっています。
プレイングには戦闘だけでなく、海を渡ったり船に乗り込んだりする方法を盛り込むといいかもしれません。
それでは皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『山賊』
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POW : 山賊斬り
【近接斬撃武器】が命中した対象を切断する。
SPD : つぶて投げ
レベル分の1秒で【石つぶて】を発射できる。
WIZ : 下賤の笑い
【下卑た笑い声】を聞いて共感した対象全てを治療する。
イラスト:たがみ千
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
キア・ウィトル
オラトリオであることを生かし空から奇襲します。
太陽を背にして飛行して敵に見つからないように近づき、【全力魔法】の【鈴蘭の嵐】で敵を一網打尽にしようとします。
●太陽からの急襲
瀬戸内海の潮風と陽光を翼に受けて、キア・ウィトルは天高く飛翔していた。太陽を背にしたキアは、山賊たちに見付からぬよう気を配りながら、ゆったりと翼を広げている。
「それにしても……」
目的地である鉄甲船の直上に辿り着くと、キアはそのまま風に乗って滑空しつつ船の様子を確認した。一際太く長い帆柱の先端には、聞いた通りの村上水軍旗が掲げられている。そのすぐ下には見張台が設置され、そこには山賊が3人も見張りに就いていた。
だがその見張りもこちらを見てはいない。まさか真上から襲撃があるとは思っていないのだろう。どうやら周囲の海ばかりを眺めているようだ。
「随分と隙だらけのようですね」
キアは呆れ顔で小さく息を吐いた。だが実のところ見張りの彼らはまだマシな方で、他の山賊たちは呑気にも甲板で昼寝を楽しんでいる。その数は3人ほど。キアの位置からは見えないが、残りの4人も屋形か矢倉の何処かで気を抜いているに違いない。
「行くなら今……でしょうか」
キアは大きく翼をはためかせ、鉄甲船に向かって急降下し始めた。
「……何だありゃ」
甲板の隅に寝転がっていた山賊の一人が呟いた。彼の視線は高く昇った太陽、その中から迫ってくる影に向けられている。山賊は徐々に近付き大きくなる影をぼーっと眺めていたが、それが人影だと気付き、慌てて跳ね起きた。
「やべぇ、何かが来るぞ!」
「何だ?」
「敵襲か!?」
口々に叫びながら、他の山賊たちも急いで起き上がる。しかし彼らが刀を抜くよりも速く、急降下してきたキアが甲板が降り立った。着地と同時に、彼女の手にした髑髏の杖が、はらはらと解けて鈴蘭の花びらへと変わっていく。その花びらは螺旋状の渦を巻いたかと思うと、一気に広がって山賊たちを飲み込んだ。
「ぐわっ!」
「痛えっ! くそっ!」
鈴蘭の花吹雪は鋭い刃と化して彼らを切り刻む。加えて暴風のような衝撃波が山賊たちを打ち据え、彼らは甲板や屋形の壁に叩き付けられた。
「あなたたち、油断し過ぎです」
キアは白い花弁の奔流を巨大な鞭のように操って、立ち上がろうとする山賊たちを更に薙ぎ払い叩きのめす。
「ち、畜生! 敵襲! 敵襲だー!」
倒れ伏した仲間を横目に見ながら、山賊の1人が大声で叫んだ。そして彼は仲間たちを呼び集めようと、そのままキアに背を向け逃げ去っていく。
成功
🔵🔵🔴
アーサー・ツヴァイク
※何でも歓迎、🔵過多なら不採用可
おや、山賊君…帰りたいのか?
まあ、海より山って人も多いよな。わかるよ!
方角どっちか聞いておくか。何でかって? そりゃあお前…どっちに飛ばせばいいかわかんねぇからさ!
という訳で【ダイナミック・ストライク】を山賊にぶちかまし、田舎の山まで【吹き飛ばし】てやるぜ!
ほら俺…ヒーローだから、困っている人は助けないとな!
もしかしたら山越えて骸の海まで飛んで行っちゃうかも知れないけど…その時は勘弁な☆
船への行き来は【フルスピード・スカイドライブ】でささっと済ませるぜ!
●山賊、故郷に帰る
ライドランに跨ったアーサー・ツヴァイクは、溢れんばかりの蒸気を棚引かせ、波を切り裂きながら海上を疾走していた。目指すはオブリビオンたちが乗り込んでいる超巨大鉄甲船。文字通り海に浮かぶ大きな砦といった様子の船に向けて、アーサーは真っ直ぐに進んでいく。
「……流石に気付かれたか」
アーサーは帆柱の見張台を一瞥した。そこに立っている山賊が、こちらを見て何事か叫んでいる。その内容は考えるまでもない。他の山賊たちに敵襲を告げ、迎撃の準備でもしているのだろう。
そしてその推測が正しかったことを証明するかのように、数人の山賊たちが船の縁に立つと、アーサーに矢を射掛けてきた。しかしオブリビオンが相手とはいえ、ただの弓矢が当たるほどアーサーも甘くはない。
「当たらねぇよ!」
アーサーは山賊たちの矢を余裕で回避しつつ、鉄甲船に向かって突進する。そして立ち塞がる山賊たちをライドランで薙ぎ倒しつつ、勢いのままに甲板へと乗り込んだ。
「くっそぉ……てめぇ、よくもやりやがったな!」
「生きて帰れると思うなよ!」
ライドランから降りたアーサーに、山賊たちが斬り掛かってくる。その斬撃を軽くあしらい、アーサーは彼らの顔面や腹部に拳を叩き込んだ。更に逃げようとした山賊の襟首を掴み、その身体を他の山賊たちに向けて投げ付ける。
「どうした、もう終わりか?」
「ち、畜生め……」
悔しそうに顔を歪めながら、山賊たちが立ち上がった。3人の山賊は刀を構え、アーサーを睨み付けながら間合いを測る。そして3人が同時に襲い掛かってきた。アーサーはそれをバスターホーンで受け止めると、そのまま力任せに彼らを押し返す。
「つ、強ぇ……」
「……やっぱ山に帰りゃよかった」
後ろに倒れ込んだ山賊たちは、尻餅をつきながら舌打ちした。
「おや、山賊君……帰りたいのか?」
アーサーは口元に笑みを湛え、気安い口調で話し掛ける。
「まあ、海より山って人も多いよな。わかるよ! ……ちなみにどっちだ?」
「……どういう意味だ?」
アーサーの真意を測りかねたのか、山賊は訝しげに訊き返した。それに対し、アーサーは笑顔のまま答える。
「あんたらの根城がある山さ。ここから見てどっちの方角だ?」
山賊は不審そうに眉根を寄せたが、実力差を思い知らされた後だからか、素直に口を開いた。
「あっちだ。讃岐の……いや、それより何でそんなことを訊く?」
「何でかって? そりゃあお前……どっちに飛ばせばいいかわかんねぇからさ!」
そう言いながらアーサーは、バスターホーンを巨大なハンマーに変形させる。
「て、てめぇ……まさか!」
「ほら俺……ヒーローだから、困っている人は助けないとな!」
朗らかに言い放ち、アーサーはトリガースキャンで方角や角度の計算をし始めた。
「よし、あっちだな。……おい、そこ動くなよ?」
計算を終えるとアーサーは山賊たちの前に立ち、ハンマーを構える。
「待て! 待て待て止めろ!」
「分かった俺たちの負けだ! 今すぐ船を下りる! それでいいだろ?」
全てを察した山賊たちは、へたり込んだまま怯えた声を上げて後退った。だがアーサーは、彼らの言葉を無視して再び笑い掛ける。
「もしかしたら山越えて骸の海まで飛んで行っちゃうかも知れないけど……その時は勘弁な☆」
そう言ってアーサーは一人ずつ順番にハンマーのフルスイングを叩き付け、山賊たちを彼方の山へと吹き飛ばした。
大成功
🔵🔵🔵
勘解由小路・津雲
ううむ、まだ水軍が残っているか。やりたくはなかったが、この方法で行ってみるか……
【作戦】
【歳刑神招来】を使用。本来は無数の槍や鉾を相手に放つ技だが、今回はその一部につかまって、ミサイルの如く船に突っ込む。陸地から「スナイパー」で狙いをつけ、誤差は「誘導弾」で修正、「念動力」で落ちないよう自分を固定し、着地の衝撃は「オーラ防御」で何とか耐えたいが。
戦闘は残りの槍や鉾を打ち込むことで攻撃! 本人の到着は気づかれるだろうが、超遠距離から降ってくる槍はかわせまい。
下卑た笑いには残念ながら共感できないので、回復はしなさそうだ。可能なら旗をとりたいが。
「この作戦、最大の敵は着地のような気がするぜ……」
落浜・語
海で、山賊…
なんか、色々間違えたんじゃねぇかな…?
まぁ、うん。お帰り頂くだけだな。骸の海に。
UC『烏の背中』で上空、なるべく高めの高度を維持して鉄甲船へ。
近づいたら、見張り台を煽るように急降下。多少なりともそこにいるのをよろけさせれれば。
カラスとも連携しつつ自分は奏剣で、カラスにはド突いたりなんかで敵を攻撃。カラスの嘴や爪って案外鋭いからな。どんどんやってくれ。ああ、いっそ海の中に叩き込んでもいいか。泳げそうにないし。
相手からの攻撃は【第六感】にも頼り避け、【フェイント】も入れつつ反撃を。
さて、旗は降ろさせてもらうぞ
アドリブ、連携歓迎
●突貫
五畿七道の一つ、六ヶ国に跨る南海道。その上空で巨大なカラスが大きく翼を広げ、高度を取っていた。流れる風を捉えて悠々と飛ぶ大カラスの背中から、落浜・語は眼下の青い海を見下ろす。そこに見えるのは、海に浮かぶ超巨大鉄甲船だ。
「それにしても、よくあんな大きい船を作ったもんだ」
かなりの高度を取っているはずだが、遠くからでもよく分かるほどに大きい。幕府軍の軍船と比べると、少なく見積もっても3倍はあるだろう。
「頼むぞ、カラス」
そう言って語が大カラスの首元を撫でた、その時。後方からやって来た何かがカラスの真下を通り、猛スピードで語たちを追い抜いていく。一瞬ではあったが、語の目には細い棒状の物が大量に飛んでいたように見えた。
だがそれよりも気になったのは、その中に人影が見えたことだ。
「今のって……津雲さん?」
しかしそれを確認する間もなく、人影はあっという間に小さくなっていく。
無数の槍や鉾が群れを成し、放たれた矢のような勢いで南海の空を飛んでいる。
語が見た通り、勘解由小路・津雲はその中に居た。長い槍を抱え込むようにして腕を絡めた津雲は、更に念動力で自身の身体を固定し、槍と一体化している。本来ならば敵を攻撃するための術なのだが、今回は移動手段としてこのまま鉄甲船に突貫する作戦だった。
「しかしこの作戦、最大の敵は着地のような気がするぜ……」
今更ながら津雲は作戦の危険性に思いを巡らせる。どこに着地するべきか、津雲は眼下に迫る船を見やった。
「……あれを使うか」
津雲の目に入ったのは、風を孕んで大きく膨らんだ白い帆だ。念動力で突入する角度を調整し、津雲は帆に向かって一直線に進む。そして防護のオーラを足に集中させると、その足から白い帆に突っ込んだ。だがそれでも勢いを殺し切ることは出来ず、津雲の身体は帆布を引き裂き、突き破って屋形の屋根に着地する。
「やれやれ、上手く行ったかな」
振り返ると寸寸に裂けたはずの帆は、もう塞がりかけていた。船に掲げられた水軍旗を外さない限り、無限に修復されるというのは本当のようだ。
「おい、そこのお前!」
「降りて来い! ぶっ殺してやる!」
その声に釣られて津雲が甲板に目をやると、彼の着地に気付いた山賊たちが周囲に集まっていた。彼らは抜き身の刀を提げて津雲を取り囲んでいる。だが津雲は余裕の笑みを浮かべ、山賊たちを見下ろした。
「あんたたち、おれのことよりも周りを見た方がいいぜ」
「何だと? てめぇ――」
山賊たちが何か言い掛けた時だった。風切り音と共に200を超える槍と鉾が飛来し、山賊たちに降り注ぐ。予想だにしなかった攻撃に彼らは為す術もなく貫かれ、甲板に縫い付けられていった。
●済度
語は大カラスに乗ったまま、鉄甲船に向かって急降下する。見張台を掠めるように突っ込むと、激しい風を受けて山賊たちがよろめいた。その拍子に1人が甲板に落下する。カラスは再び空に浮き上がると、見張台に立っている2人の山賊を煽るかのように、帆柱の周囲を旋回し始めた。
「ちいっ! この化けガラスめ!」
「撃ち殺せ!」
山賊たちは煽られていると分かったのか、怒りで顔を真っ赤にしながら石礫を飛ばしてくる。だが敏捷性では明らかにカラスの方が上だった。石礫はカラスの羽根を僅かに掠める程度で、ほとんどが空しく宙に消える。
「いいぞ、次は近くに寄せてくれ」
語の言葉に応えたカラスが石礫を掻い潜りながら見張台に接近すると、語は短剣を抜き放って見張台に飛び下りた。そして山賊たちが刀を抜くよりも速く、彼らに斬り付ける。
「やってくれたな畜生!」
「てめぇも叩き落としてやる!」
腕を斬られた山賊が刀を抜き、その切っ先と敵意を語に向けた。しかし彼が語に飛び掛かろうとしたところで、背後に回り込んでいたカラスがガァガァと鳴きながら山賊の後頭部を啄む。
「いってぇ! くそっ!」
驚いて振り返ろうとした山賊の両肩に、カラスが爪を食い込ませた。
「な、何だっ!? 放せっ!」
山賊は刀を振り回して抵抗したが、その腕を語に斬り付けられて刀を取り落とす。その隙に乗じてカラスは山賊を持ち上げて飛び立ち、暴れる彼を無視して海に放り出した。
カラスの活躍を横目に見ながら、語は見張台に残った山賊と斬り結んでいた。突くと見せ掛けては引き、引くと見せ掛けては突く。そして傷付き焦れた相手が体勢を崩した瞬間を狙い、語は一気に踏み込んで敵の胸を穿ち貫いた。
「がはっ!」
語が剣を引き抜くと、山賊の身体がどさりと倒れる。それを一瞥し、語は戻ってきた大カラスの背に再び飛び乗った。
「さて、下に1人落ちたはずだが……」
宙を旋回するカラスと共に、語は敵の姿を求めて甲板を覗き込む。すると、ちょうど下からこちらを狙っていた山賊と目が合った。
だが同時に、彼の背後へと回り込んでいた津雲の姿も目に入る。そして津雲の放った鉾が山賊の背を貫くと、彼の手から大量の石礫が零れ落ちて甲板に広がった。
見張台に立った津雲は、帆柱の先端に登っている語を見上げる。
「どうだ、語。外れそうか?」
「ああ、何とか……しかし、また随分と頑丈に括り付けてあるな」
語は慎重に手を伸ばし、結わえてあった『丸に上の字』の村上水軍旗を解いた。そして取り外した旗を、下で待っていた津雲に渡す。
「それじゃ、これで終わりだな」
津雲は神妙な顔で旗を床に広げ、歳刑神の鉾を突き立てた。鉾に込められた破魔の力が、旗の持つ憑代としての力を打ち消す。ぼろぼろに朽ちていく旗と時を同じくして、船に留め置かれた怨霊たちもゆっくりと姿形を失い、成仏するかのように潮風に溶け消えていった。
大成功
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