エンパイアウォー⑰~阻め、陰陽師の陰謀
●その者、業の深きに限りなく
「エンパイアの戦も、佳境の趣でありましょうか」
まるで他人事のように嘯く姿は、人のカタチをしていながらその大部分が水晶で構築されているという異形でもあり。
織田信長配下、魔軍将が一人。陰陽師『安倍晴明』。
しかしその大仰な肩書にはとても似つかぬ気だるさを纏って、晴明は独り城内を歩む。
「戯れに、山陰を屍人で埋めてみましょうか。それとも、コルテスが崇める神の偽物でもこしらえて、信長の後釜に据えましょうか」
とんでもない所業を、まるで何をして暇を潰そうかと言わんばかりに指折り挙げる。
何故そのようなことを、と問うても恐らく意味はなく。
この男は、戦の趨勢にさほど興味もなく。自分自身にさえ、飽いていたのだから。
●その者、苛烈にして悪を許さず
「皆、ご多忙の中お集まり頂き感謝する。新たなる強大な敵と矛を交える機会が巡って来た故、我こそはという者のお力添えを賜りたく思う」
グリモアベースの一角でそう告げるニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)の手にはいつもの懐中時計が無い。
代わりに、いつでも転送が行えるようにと虹色の星型のグリモアが既に掲げられていた。集合時間がどうのととやかく言っている場合ではなかったのだ。
「準備が整った者から戦場へと転送を行う。場所は『鳥取城』、敵は織田信長の魔軍将が一人『安倍晴明』。……強敵だ、心して挑んで欲しい」
鳥取城。かつて凄惨なまでの兵糧攻めによって無数の餓死者が出た、怨念渦巻く地でもある。安倍晴明は、そこで猟兵たちを待ち受けているという。
「POWの力で以て挑まんとする者にはチェーンソー剣での呪いが、SPDで挑まんとする者には水晶屍人の群れが、WIZで挑まんとする者には五芒符での攻撃が。其々必ず安倍晴明の先制攻撃として放たれる。この攻撃を如何に防いで、其処からどう反撃に繋げるかが重要となる」
此れ位しか伝えられず申し訳無い、とニコは眼鏡の奥の赤瞳をやや曇らせるも、すぐ気を取り直して顔を上げる。
「此奴を捨て置けば、無辜の民が犠牲になるやも知れぬ。其ればかりは避けたい、どうか」
集った頼もしき猟兵たちに必勝の願いを込めて、ニコはグリモアを起動させる。
「……時間厳守で、必ず無事に戻ってくること」
約束してくれ。そう呟くグリモア猟兵の言葉を背に、猟兵たちは邪悪なる陰陽師を討ち果たすべく飛び立った。
かやぬま
●ごあいさつ
はじめまして、お世話になっております。かやぬまです。
皆様の奮戦の結果その所在が明らかになった「陰陽師『安倍晴明』」を相手に、決戦を挑んで頂きたく思います。
ご参加の前にお手数ですが、MSページにも一度お目通し下さいますと幸いです。
●注意事項
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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●特殊ルール
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陰陽師『安倍晴明』は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
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●プレイング受付のご案内
OPが公開され次第、皆様のご都合の良いタイミングで送って頂いて大丈夫です。
ただし今回は早期完結を最優先とし、プレイングが届き次第順次判定・執筆という形を取らせて頂きたく思います。
全てのプレイングを採用できない可能性もございますこと、平にご容赦下さいませ……!
第1章 ボス戦
『陰陽師『安倍晴明』』
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POW : 双神殺
【どちらか片方のチェーンソー剣】が命中した対象に対し、高威力高命中の【呪詛を籠めたもう一方のチェーンソー剣】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 水晶屍人の召喚
レベル×1体の、【両肩の水晶】に1と刻印された戦闘用【水晶屍人】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 五芒業蝕符
【五芒符(セーマン印)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を斬り裂き業(カルマ)の怨霊を溢れさせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:草彦
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
荒谷・ひかる
あいつ、なんでだろう……
ぜったいにここで倒さないといけない、そんな気がする……!
お札ってことは、ひらひらしてるから……強い爆風で凌げないかな。
ということで、ガソリン蒸気と空気の混合気体を封入した袋……簡易爆弾を幾つか用意。
晴明と接触したら、先制でお札を飛ばしてくるのに合わせて火をつけて「自爆する」んだよっ!
普通ならわたしも大火傷しちゃうけど、わたしには精霊さんがいるから平気っ。
炎と風の精霊さんにお願いして、爆風の勢いと向きを制御。
水の精霊さんにも、わたしの全身を濡らして守ってもらうよっ。
凌げたら【氷の精霊さん】発動、一斉発射!
加熱後の急速冷却で、水晶の分子構造に直接ダメージを狙うんだよっ!
●精霊の加護と陰陽の符呪と
鳥取城。
かつて、史上類を見ない凄惨なる兵糧攻めで無数の兵と民とが等しく餓えて死んでいった戦の舞台となった土地。
そこに渦巻く怨念たるや、想像に難くない。
そして斯様な所に平然とひとり佇んでいる存在が、尋常ならざる者であることはまた明白であり。
故に、転送を受けて安倍晴明と対峙した荒谷・ひかる(精霊ふれんず癒し系・f07833)がこう思ったのも当然のことであったろう。
(「あいつ、なんでだろう……。ぜったいにここで倒さないといけない、そんな気がする……!」)
『――おや、此れは愛らしい客人がいらしたものですね』
水晶の陰陽師――晴明が、ひかるの姿を確認して興味深げにその前髪から覗く赤瞳を細める。その両手には「陰陽師」たる肩書とはおおよそかけ離れた、チェーンソー剣という何とも物騒な得物があった。
しかし晴明は片方のチェーンソー剣をおもむろに床に突き立てると、空いたその手で懐から何やら文様が描かれた符を取り出しながら、ひかるに向けてそれをかざして見せた。
『貴女のような幼子が、如何に私を愉しませてくれるのか。実に、興味深くございますれば』
「……っ!」
来た。ひかるが身構える。事前に聞かされていた通り、圧倒的な実力でもって、晴明は必ず自分の先を行く。
ならばどうするか、ひかるが用意した策を今こそ披露する時だ。
ひかるの攻撃に対して、晴明が符術で先手を取ってくる所までは前もって知ることができた。
(「お札ってことは、ひらひらしてるから……強い爆風で防げないかな」)
ユーベルコードで爆発を起こすのは容易い、だが必殺の術式は反撃にこそ取っておきたい。
そこでひかるが用意した手段は意外なものであった。携行していた道具袋に慎重に収めていた袋状のものを取り出す。果たして、この袋は一体何なのだろうか。
その答えは、すぐ明らかとなった。
『私めの五芒符、貴女に耐え凌ぐことが出来ましょうか』
晴明が指に挟んでいた五芒符は間違いなく一枚だった。だがどうだろう、鋭くその手から放たれた瞬間にたちまち五枚に分かれて猛然とひかるを襲ったのだ。
「……やって、みせるっ!」
そこでひかるが用意していた謎の袋を自身の前方にバッとばらまき――。
「精霊さんたち、お願いっ!」
ばぁん、ばぁん!!
『な、何をしたのです……?』
熱風と衝撃波が、晴明の方にまで押し寄せる。ダメージを負うとまでは行かないが、水晶の身体に熱が伝わっていくのが分かった。
思わず晴明も驚愕するその光景は、ひかるが五芒符もろとも「自爆」したというものだった。よもやまさか、わざわざ死にに来るためだけに己の前に現れたとは到底思えないが、これは一体。
もうもうと立ち込める黒煙が徐々に晴れてくるにつれて、ひかるの小さな身体が変わらずそこにあることが知れた。それを見た晴明がほう、と何かを理解したかのような声を漏らす。
『……簡易爆弾、ですか』
「こんなことしたら、普通ならわたしも大火傷しちゃうけど」
そう言うひかるの身体から立ち上がるのは、水が蒸発して発生する水蒸気だ。
そもそももって、何が起きたのか。その正体は、ひかるが用意した謎の袋と、行使する精霊との連携にあった。
ひかるはガソリン蒸気と空気の混合気体を袋の中に封入していた。これを爆発させることで、迫る五芒符を文字通り吹き飛ばそうと目論んだのだ。
ひかる自身も言った通り、ただそれだけを実行したならば自らにも被害が及んでしまう。そこで、常より協力関係にある元素の「精霊さん」たちに助力を願ったのだ。
あらかじめ水の精霊さんに、全身を濡らしてもらって炎と煙から身を守ってもらう。次いで、風の精霊さんに爆風の勢いと向きを制御してもらうようお願いする。
最後に炎の精霊さんに、炎そのものの制御と、直接の着火を任せて――見事、五芒符のことごとくを粉微塵に吹き飛ばしてみせたのだった。
符は躱しても地に落ちればそこを晴明にとって有利な陣地に変えてしまう。しかし、木っ端微塵に吹き飛ばしてしまえばどうか。そこまで計算されたひかるの策に、晴明が端正な顔立ちの口の端を歪めて笑う。
『此れは、此れは。私少々貴女を侮っていたようです』
「わたしには精霊さんがいるから、負けないもんっ!」
水、風、炎。ひかるが従える精霊さんは、これだけにはとどまらない。バッと右手を天井高く突き上げて、ひかるが喚ぶのは大本命の――【氷の精霊さん(アイス・エレメンタル)】!
『……ほう!』
嘆息を漏らす晴明の水晶体を狙って放たれた合計二百十本の氷の矢が、四方八方から襲い掛かる。晴明は敢えてそれを躱しも防ぎもせず、受けてみせた。水晶の身体が、幾つか欠けて床に落ちる。
何故、甘んじてひかるの――いや、氷の精霊さんの攻撃を受けたのか。
『私には判りまする、貴女自身は大した戦闘能力は持ち合わせない。力のほとんどは、貴女が行使する精霊なるものの所業でありますれば』
「ちがう、使ってなんかないよ。精霊さんは、わたしの友だちなんだからっ」
ひかるにとってはとても大切なことだったので、念を押してやる。晴明はくつくつと喉で笑い、続ける。
『それに、その幼さで非常に高度な技術をも駆使するとは。いやはや、お見事にございます』
愉しかった。ほとほと退屈していたところに、丁度良かった。ただそれだけの理由で、甘んじて攻撃を受けたのだ。
『氷の力で攻撃をなさったのも、私の水晶を狙ったのも』
「そう、加熱後の急速冷却で、水晶の分子構造に直接ダメージを狙ったんだよっ」
『――嗚呼、全く聡き子にて!』
晴明は両手を広げて、ひかるへと惜しみない称賛を述べる。しかしそれは、裏返せば余裕の表れでもあり――。
「わたしたちの攻撃は、まだ始まったばかりだよっ!」
そう、ひかるの攻撃を皮切りにして、ここから猟兵たちの波状攻撃が始まるのだ。
出だしは上々、この調子で続いていけば、きっとかの邪悪なる陰陽師をも討ち果たせることだろう。
成功
🔵🔵🔴
有栖川・夏介
※アドリブ歓迎
……敵が誰であれ、それが仕事であればただ殺すのみです。
容赦はしません、油断もしません。
処刑人の剣を構えて【覚悟】
早く動いて【残像】を囮にしつつ、敵の攻撃は【見切り】で回避する。
敵の攻撃をやり過ごすことができたら【ダッシュ】で駆けて、処刑人の剣で斬りつける【2回攻撃】
首あるいは武器持つ腕を狙う。
【野生の勘】で危険を察知したら、敵から距離をとりつつも攻撃の手は休めない。
【何でもない今日に】で懐にしまった針を【投擲】し攻撃。
「お前が倒れるまで、とまるわけにはいかない……」
敵が怯んだら、また距離を詰めて斬りつける。
喜羽・紗羅
アドリブ連携歓迎
絶対先制か……上等だよ呪い師
勇気をもって飛ばされた符を太刀を変形させた薙刀で払い落とす
視力、聴力、脚力……全部使って、耐えきって見せらぁ!
そうして敵の行動パターンを情報収集
以降の攻撃に備えるぜ。手口が分かれば対処も易くなるだろう
(って、何か変なのいっぱい出てきたんですけど!?)
怨霊の類かよ――だったら
巫覡載霊、異形の鎧を纏って衝撃波で薙ぎ払う!
狙うは晴明、テメェの首だ!
足場を崩して盾にしたり、地形を利用して近付いていく
符と霊をひたすら払い落としながら
喉元に迫ったら二つ目――鎧すら無視する必殺の一撃を!
時間厳守なんだよ
(帰って星羽で抹茶ラテ飲むんだから)
テメェはとっとと海へ還れ!
●有栖川くんとバサラちゃん
咎人殺し。処刑人。罪ある者を断ずる者にして猟兵たる有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)にとってしてみれば、眼前の陰陽師こそ正しくその剣を振るうに相応しい存在だったろう。
だが、それはあくまでも事実に過ぎず、夏介が過ぎた感傷めいたものを抱くことは一切なかった。
「……敵が誰であれ、それが仕事であればただ殺すのみです」
――そこに一切の慈悲なく、容赦なく、そして油断なく。夏介はその手に良く馴染む「処刑人の剣」の先を安倍晴明に突きつけて、必殺の覚悟を決める。
『おお、怖い。その剣で、私の首を刎ねるおつもりですか』
口ではそう嘯きながらも、平然とした顔で晴明は両手のチェーンソー剣を起動させた。鋸刃が回り、ガリガリと木の床に擦れる度に嫌な音を立てる。
どう足掻いても、先手は取られる。ならば、己にその攻撃を通さねば良いのではないか。
『その前に一つ、私と「踊って」頂けませぬか?』
嫌らしく歪んだ口元から齎された嬉しくない誘い文句と同時、晴明が両の腕を信じられない程の膂力で一度高々と掲げ、そしてその重量に任せて思い切り振るってきた。
「……お断り、します」
丁重に辞退しながらまずは後方へ飛び退る夏介の胸元を、激しく回る鋸刃が掠めてピッと裂いた。覗いた肌には一筋の赤い線。
大振りな動作は見切るのも容易いかと踏んだのだが、そこは流石の魔軍将と言うべきか、なかなか思うようには行かない。
(「ならば、これなら」)
着地と同時に、夏介は自ら取った間合いを逆に詰めるかのように、グッと足に力を込めて思い切り晴明目がけて駆ける、駆ける――!
掠ったとはいえ、一撃は一撃。確かな手応えであると確信した晴明が舞うようにぐるりとチェーンソー剣をひと振りし、迫る夏介に禍々しい呪詛を纏った追撃を加えんとした、その時だった。
「どうぞ。残像で良ければ、お好きなように」
『! この、速さは……』
――ぶぉんっ!!
処刑人の首が、惨たらしくも刎ね飛ばされるかに思えた。だが実際は違った。晴明のチェーンソー剣が斬ったのは、危険を承知で敢えて晴明の間合いに飛び込みその向こうまで駆け抜けた夏介が残した「残像」に他ならなかったのだ。
あわよくば先制攻撃をやり過ごし、夏介得意のカウンターを取って処刑人の剣でもって斬りつけてやろうと思っていたのだが、そのために使おうと思っていた全力のダッシュを思わぬ所で使ってしまう形となってしまった。
思えば互いに、とんでもない重量の得物を持ってよくも斯様な立ち回りができるものである。結果的に晴明の舞いに付き合わされてしまっているのではないかと、夏介が表には出さぬが内心で苦々しく思いつつ、次の一手を思案する。
初撃は何とか凌いだ、ここからどう出るべきか。
その時、晴明が突然片方のチェーンソー剣の駆動を止めて床に突き立てると、明らかに夏介ではない方向に向けて呪符を構えた。
『……咎人殺しもお人が悪い、ご同輩が居られるならばそう仰って下されば良いものを』
(「まさか」)
夏介が目線で追ったその先には、軍刀拵の太刀――その銘を「奇一文字改」という――を凛々しく構えた、現代的なセーラー服と古式ゆかしい巫女装束が渾然一体となった衣装を身に纏った少女の姿があった。
「絶対先制か……上等だよ呪い(まじない)師」
(「えっ……!?」)
少女――喜羽・紗羅(伐折羅の鬼・f17665)が口を開けば、その愛らしい顔立ちからは想像もつかぬ荒っぽい言葉が飛び出し、夏介が思わず己が目を、そして耳を疑う。
そんな夏介の困惑を知ってか知らずか、紗羅は凛とした姿のまま勇ましく前に進み出て、腰に佩いた朱塗りの鞘に片手を添えながら夏介に向けて少し申し訳なさげに言った。
「悪ぃな、ちっとばかし気配を消してアンタの戦いぶりを見させてもらってた」
「……それは構いませんが、その」
美少女の外見に、明らかに異質な中身。自ら言葉を紡ぎながら、夏介はあるひとつの答えにたどり着く。
「多重、人格……?」
「おうよ、今の俺は「鬼婆娑羅」。別人格の「喜羽・紗羅」には引っ込んでもらってる」
(「ちょ、ちょっと! 私にも挨拶くらい――」)
紗羅――いや、紗羅と同居する別人格たる無頼漢の「鬼婆娑羅」は、主に戦闘時にその腕を遺憾なく発揮するために現出する。内なる紗羅が初対面の相手である夏介にせめて一言と訴えたのを、しかし鬼婆娑羅は半ば強引に抑え込む。
何故なら、晴明の五芒符が放たれたのを察したからだ。戦ならば、それは己が引き受けることだと。
『一つの身体に複数の人格……成程、成程』
興をそそられたのか、愉しげにそう言いながら晴明が放った五芒符が紗羅と鬼婆娑羅に迫る。
(「必ず先手を取るだけじゃねぇ、晴明の動きはとにかく速ぇ」)
夏介と剣を交える様を見ていたのは、ひとえに情報収集のため。彼を知り己を知れば百戦殆うからず、と言うではないか。
実際既に眼前まで迫った呪符を躱すのは実質不可能に近い、ならば――受けるより他にはない。
ばちん、と朱塗りの鞘がベルトから外れた。それを太刀と「合体」させるや、それはたちまち一振りの薙刀と化す。
耳を澄ませば、呪符の風切り音が聴こえた。恐れずに前を向けば、飛来する呪符の動きが辛うじて視えた。そうして一直線に迫りくると思われた呪符はしかし、突如散開して鬼婆娑羅の頭上高くに展開し、一斉に急降下してきたのだ。
「――おらあッ!!」
だが、鬼婆娑羅は臆さなかった。地を蹴って自らも舞い上がると、長いリーチを活かして薙刀を大きく振るい、五芒符を纏めて両断せしめたのだ。
『お見事、それでは次の一手と参りましょう』
はらりと散った呪符が次々と床に落ちると同時に、晴明が不敵に笑んだ。すると、呪符が落ちた先から床に亀裂が走り、明らかに禍々しい怨霊が次から次へと溢れ出てきたではないか。
(「って、何か変なのいっぱい出てきたんですけど!?」)
内なる紗羅が鬼婆娑羅に向けてどうするのコレという風に呼びかける。
「怨霊の類かよ――だったら」
(「ま、待って その術は――」)
(「四の五の言ってる場合か、行くぞ!」)
「――【巫覡載霊の舞】!!」
決然とした鬼婆娑羅の声に合わせて、紗羅の左腕と右足に異形の鎧が顕現する。これこそが紗羅の「神霊体」である。同時に、手にした薙刀が淡い光に包まれた。
『己の生命をも削ってまで、なお戦うと申しますか。それでは私も、相応の心構えで参らねばなりますまい』
ふわりと晴明が怨霊湧き立つ床の亀裂に足を乗せるや、今まで以上の強大な気配が鬼婆娑羅と夏介を襲う。
「狙うは晴明、テメェの首だ!」
紗羅が躊躇の声を上げたのは、術式発動の代償として己の寿命を削るからに他ならなかった。誰だって命は惜しい、できれば大事にしたい。なればこそ、鬼婆娑羅は手早く決着をつけなければならなかった。そう、手っ取り早く、首級を上げて。
『いいでしょう、取れるものならば――』
五芒符を構える晴明に、猛然と突撃する鬼婆娑羅。放たれた符を、薙刀でおもむろに床を打ち――床板を跳ね上げて防ぐ!
「うおおおおおおおッ!!」
薙刀から生じる衝撃波は湧き立つ怨霊と迫る呪符とをことごとく払い落とし、遂にその刃が晴明の喉元に届く位置までたどり着く。
『――ほう』
「獲った……!!」
が、きぃん……!
鈍い音が響いた。護りをも貫くはずの必殺の一閃は、しかし晴明の水晶の首を斬り飛ばすには至らず――。
「首を刎ねる、と言いましたね」
眉根を寄せた鬼婆娑羅のすぐ後ろ、充分に余裕を持って今度こそ間合いを詰めることに成功した夏介が、処刑人の剣をかざしながら言った。
「僕も、賛成です」
そういうことならば任せて欲しいと。まるで楔を打ち込むように、晴明の首にわずかに突き立った鬼婆娑羅の薙刀の上から、夏介は処刑人の剣を思い切り叩きつけた!
『ぐ……っ!』
ばきり。壮絶な追撃は晴明の首の半分近くまで刃を食い込ませることに成功した。これには流石の晴明も呻き声を上げる。
このまま先に首をへし折れば、こちらの勝ちだ。そう思われたが、夏介が鋭い声で注意を促す。
「……鬼婆娑羅さん、離れましょう」
「あぁ!? あと少しだろうがよ――」
鬼婆娑羅が言い返したところで、事態は急変した。晴明が足元の怨霊から、ひときわ強い力を吸い上げたのだ。夏介は野生の勘でもってそれを事前に察知したが故に、警告を発したのだった。
『本当は、手足を順番にもぎながらゆるりと嬲り殺して差し上げたかったのですが』
首に刺さった薙刀をおもむろに引き抜いて鬼婆娑羅の方へ投げ返すと、晴明が手にしたチェーンソー剣は再び唸りを上げ、己に刃を突き立てた猟兵たちを両断すべく振り上げられる。
返された薙刀を素直に受け止めやむなく飛び退る鬼婆娑羅に代わり、最低限の距離を保って退いた夏介がこれでは終わらぬと鋭い視線を晴明に向ける。
処刑という行為に及ぶにあたって、これは夏介なりの礼装のようなものなのだろうか。左右非対称なデザインが目を惹く装いは、ただ己を飾り立てているだけではない。
飾りベルトに手を掛けて、夏介は宣言した。刑の執行の宣言を。
「『お茶会』を始めましょうか」
――【何でもない今日に(デッドエンドアニバーサリー)】。
飾りベルトと思われたそれはとんでもない、お茶会と称されたそれはとんでもない。潜ませていた暗器――無数の黒い針が一斉に晴明に襲いかかり、チェーンソー剣ごと虚空に縫い止めたのだ。
『……ふ、ふふ。次から次へと、本当に飽きませんね』
「お前が倒れるまで、止まるわけにはいかない……」
針山になってなお不敵に嗤う晴明に対し、夏介は油断なく剣を構える。有栖川・夏介が処刑人である限り、対象の首を刎ねるまでその手を休めることがあってはならないのだ。一撃で駄目なら、返す刀で二度叩き込むまで。
「ああ、それに『時間厳守』なんだよ」
ゆらりと体勢を整えた鬼婆娑羅もまた、薙刀を手に再び陰陽師の首を狙う。
「そうよ、帰って星羽で抹茶ラテ飲むんだから!」
「テメェはまだ下がってろっつうの!」
「……星羽? 抹茶ラテ?」
一瞬だけ表に出てきたのは紛れもなく「紗羅」の人格だったろう。声が肉体のそれと一致したのが何よりの証拠だった。言葉の内容に小首を傾げた夏介だったが、それはまたひと段落したら直接紗羅から聞かせてもらえば良いかと気を引き締める。
「さぁ、テメェはとっとと海へ還れ!」
そう、全てに飽いたと嘯くこの陰陽師を、正しく在るべき場所へと還さねばならない。
戦いは、まだまだ続く――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ガルディエ・ワールレイド
飽いたなんて言いつつ、攻撃に対しては先制してきやがる
屍人や偽神の作成と大物ぶるより、前線でチェン剣でも振り回してんのが似合ってんじゃねぇか?
◆対先制攻撃
武装は《怪力/2回攻撃》を活かす魔槍斧ジレイザと魔剣レギアの二刀流
武装に魔力(雷の属性攻撃/破魔/衝撃波)を纏わせ、《殺気》を読みチェン剣を《見切り/武器受け》した状態から負荷を与えて剣筋を反らす方針で行くぜ
具体的には以下
機械部分へ電流を流す
破魔で呪詛に対抗
衝撃波を解放し刃とチェーンへの損傷を狙う
初撃を防ぎ損ねた場合、二撃目は致命傷を避け《気合》で意識だけは保つ
重傷は許容範囲だ
◆反撃
【魔装騎士】を使用
俺自身も余裕があれば《捨て身の一撃》だ
真守・有栖
◎
ふーん?とっっっても飽いているのね???
私はとっっっても空いているわ!いつでもぺこぺこのはらぺこよっ
いいわ。そんな貴方に……
巫狼の心髄、魅せてあげる!
ぎゅいーんでがりがりな刃は月喰でがきーん!よっ
延びた斬光で受け、続く呪いがわっふりなちぇーんそーを――
避けず、防がず。そのまま“喰らう”わ
身を裂く痛みも。流れる血も。蝕む呪詛も。
一身に受け止めて、一心にて“喰らい”尽くす。
“飢餓”の怨念。
此の地に渦巻く呪詛すらも、己が糧とし力と為す。
此処に在るは我狼にて。
呪念をも喰らう餓狼なり。
――月喰
刃に込めるは“餓”の一念
――光刃、絶閃
呪も己が光と為して、迸る極光にて
飽きし外道。その深き業を絶つ。成敗……!
●決死の覚悟、その先に
ばきばき、ばきばき。
罅の入った水晶の首が、およそ人体から発せられるものとは思えぬそれを立てながら徐々に元通りになっていく。
『――いやはや、恐れ入りました。よもや、半ばまで刃を突き立てられようとは思いませなんだ』
片手を首筋に当てながら陰陽師「安倍晴明」が紡ぐ言葉の向こうにあるのは、果たして本当に脅威を脅威を感じているものなのだろうか。その不敵に笑う表情からは、まるで読み取ることができない。
だが、かの邪悪なる陰陽師の思惑なぞ、知る必要もなかったかも知れない。猟兵たちからしてみれば、眼前の晴明はただ骸の海に還すべき存在にして、それ以上でもそれ以下でもなかったのだから。
故にガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)は、その蒼紅の双眼でしかと己の敵を見据えて躊躇なく得物を構える。黒竜の騎士が操るのは長柄のハルバードと両刃の西洋剣、その両方がおよそ常人では片手で持つなど不可能であろう代物だ。
それをガルディエは恐るべき膂力でもって二刀流の構えで晴明に向け、あらかじめ知らされていた先制攻撃に備える。
(「飽いた、なんて言いつつ攻撃に対しては先制してきやがる――」)
己の在りようにもはや頓着しないのであれば、いっそ大人しく殺されてはくれまいか。
無駄に災厄を撒き散らされては迷惑千万、仮にも騎士を名乗る者として看過する訳には行かない。
――複合魔槍斧「ジレイザ」、良し。複合魔剣「レギア」、同じく良し。
「屍人や偽神の作成と大物ぶるより、前線でそのデカブツでも振り回してんのが似合ってんじゃねぇか?」
ガルディエがそう揶揄したのは、晴明が手にした二振りの巨大なチェーンソー剣。己に向けられる攻撃が、それによるものだと分かっているだけでも僥倖だ。
『いえいえ、大物ぶるなどとんでもない。私、一介の陰陽師に過ぎませぬ故』
「ハッ、謙遜も過ぎりゃあ自惚れの元ってな」
互いに浮かべる表情は笑みだが、伴う気迫は凄絶そのもの。晴明のチェーンソー剣が唸りを上げて――その音を耳にした瞬間、ガルディエの視界から晴明が「消えた」。
「……っ!」
分かってはいた。だが、対処できるかはまた、別の話。速い、あまりにも速い。凄まじい殺気に意識より先に身体が反応したのが幸いしたか、咄嗟に交差させた魔槍斧と魔剣が奇跡的に強烈なチェーンソー剣の振り下ろされた一撃を受け止める。
金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く中、初撃を辛うじて防いだ事実を一拍遅れて認識したガルディエが、好機を逃すまいと晴明がチェーンソー剣を引く前に行動を起こした。
(「走れ稲妻、迸りて魔を祓え」)
一つ念じれば、魔槍斧と魔剣とにたちまち雷の魔力が通じて絡みついて相手の得物の駆動部分に伝導する。
『! これは』
「――ぶっ、飛べぇ!!」
引き際を誤ったか、そう晴明が瞠目した所にガルディエが裂帛の気合と共に魔槍斧と魔剣を強く押し出した。同時に放たれた衝撃波は、電撃を受けて動きを止めた晴明のチェーンソー剣の刃とチェーン――殺傷能力の要たる箇所に確実な損傷を与えた。
二振りの鋸刃のうち一つを封じられた晴明が一度後方へと飛び退る。そして、新たな猟兵の気配に向けて振り向きもせず健在な方のチェーンソー剣を突きつけながら声をかけた。
『……不思議な気配を纏ったお方ですね、戦人にしてはまるで緊張感がありませぬ』
平時の晴明からすれば、本来は気にも留めぬことだったろう。だがしかし、新たに姿を見せた猟兵――真守・有栖(月喰の巫女・f15177)の存在は何故か見過ごせぬものであった。
「ふーん? とっっっても飽いているのね???」
『ええ、ええ。ほとほと飽いておりますれば、こうして皆様と刃を交えるのも、多少の気慰みにはなろうというもの』
晴明はあくまでもガルディエから視線を外さず、有栖の方へは鋸刃の切っ先を向けるのみ。しかし有栖は構わず続ける。
「私はとっっっても空いているわ! いつでもぺこぺこのはらぺこよっ」
その豊満な胸を張って言い放つ有栖に、晴明はくつくつと喉を鳴らして笑って返すのみ。有栖は自信満々な笑みでもってその陰で愛刀「月喰」の鯉口を切る。
向けられているチェーンソー剣は脅しではなく、間違いなくいずれ己に振るわれるだろう。ならば――。
「いいわ。そんな貴方に……巫狼の心髄、魅せてあげる!」
『それは――愉しみにございます』
晴明が、有栖の方を向いた。同時に、まだ駆動する方のチェーンソー剣が唸りを上げて有栖を襲う。
(「ぎゅいーんでがりがりな刃は……」)
抜刀。そして、一閃。輝く刀身が描く軌跡は残光となって、鋸刃と激しくぶつかり合う!
「「月喰」でがきーん! よっ!」
『それでは、もう一手如何でしょう』
凌いだか? まだだ。だが、もう片方のチェーンソー剣はガルディエの機転によって潰されたはずでは。
鈍らの刀でも、叩きつけることはできる。凶悪なる刃そのものが失われた訳ではない。晴明が繰る呪詛の念を纏ったもう一方のチェーンソー剣が、有栖の柔肌目がけて振り下ろされるのを、ガルディエは確かに見た。
「おい、避け――」
「……っっっ!!」
避けず、防がず。避けられなかったのではなく、避けなかったのだ。防がなかったのではなく、防がなかったのだ。
袈裟斬りにされてその身を裂かれ、当然だがひどく痛む。鮮血が流れるのを、目の当たりにする。ただ引き裂かれるだけではなく、籠められた呪詛は内側から全身を蝕んでいく。
『……ほう、これは』
「何やってる! 死ぬ気か!」
晴明の嘆息やガルディエの怒号が遠い。だが、それも徐々に研ぎ澄まされた感覚に吸い込まれていく。
ユーベルコード【我狼】。本能のために敢えて自身に不利な行動を行うことにより、身体能力を増大させる秘技。
それが、まさに発動していた。有栖は敢えて「喰らった」のだ。攻撃の全てを一身に受け止めて、一心にて「喰らい」尽くす。受けた傷は浅くなく、しかしそれ故に有栖の力もまた増していく。
そしてこの戦場一帯を覆うのは「飢餓」の怨念、それをも有栖は己が糧とせんと大きく息を吸い込む。傷口が痛むが、知ったことか。
飢えて死ぬとは何たる非業か、ならばそれをも連れて行く。汝らの無念をも、飢えた狼は糧とするのだ。
「此処に在るは「我狼」にて。呪念をも喰らう「餓狼」なり」
最初に有栖を「緊張感がない」と評したのは、果たして何処の誰であったか。晴明の細められた赤瞳に映るのは、引き裂かれ鮮血に塗れながらもなお凛として立ち、輝く打刀を振るう有栖の気迫に満ちた姿であった。
「――月喰」
刃に込めるは、『餓』の一念にて。
「――光刃、絶閃」
呪いも己が光と為して、極光が迸る。全てに飽きし外道、その深き業(カルマ)を絶たんと放たれた光は、晴明の身体を確実に捉えた。
「成敗……!」
それを見届けた有栖が、ぐらりとよろめきその場に倒れ込む。晴明もまた二、三歩後方に下がった隙を見てガルディエが有栖の元へと駆ける。
「大丈夫か!」
「……まだ、」
助け起こされた有栖が、震える手で晴明の方を指差すのを目線で追って、ガルディエがその意を汲む。有栖はよく戦った。ならば己もこの機を逃す訳には行かない。
「魔鎧の呪いよ。今此処に具現化しな! 【魔装騎士(ダークナイト・シャルディス)】!!」
ユーベルコード発動の宣言と共に、ガルディエが身に纏っていた漆黒の甲冑「魔鎧シャルディス」が一気に分解された。一度バラバラになった魔鎧はガルディエと晴明との間に割って入るように、人のカタチを為して再構築される。
さながら「リビングアーマー」とでも呼ぶべきか。魔鎧の名をほしいままにするだけあって、その動力は――呪いである。皮肉にも、呪詛を繰る者同士が相対する形となったのだ。
「頼むぜ、魔装騎士――俺も覚悟は決めてる」
術者の言は果たして届いただろうか、鎧の騎士は瘴気を纏った剣を振りかざして晴明に迫る。
『まだ技を隠し持っておられましたか。全く、愉しいことにございます』
晴明のなお余裕を持って余りある言葉も、今は捨て置くことにした。有栖の捨て身の光刃は、確実に晴明に届いた。ならば己も、続かぬ訳には行かない――!
鎧の騎士の瘴気の剣は、物理的な防御を無視する。故に、晴明が受け流そうとかざしたチェーンソー剣を持つ手を狙ってしたたかに打ち据え、弾き飛ばす。
「そのまま真ん中からへし折ってくれりゃ最高だったんだが、な……!」
ちょっぴり注文の多いガルディエは、そう言いながらも守りを失った晴明目がけて猛然と突っ込んでいく。その手には魔槍斧と魔剣が、しっかりと握られていた。
もう一撃、例えもう一振りのチェーンソー剣が残っていようと知ったことか。今攻めずして、いつ攻める!
「俺の一撃も、喰らっていけ……っ!!」
それは、ガルディエの己を顧みぬ捨て身の一撃。交差するハルバードと西洋剣の刃が、晴明の水晶の身体を砕く。確かな手応えを覚えたガルディエは反撃を覚悟するも、晴明にその様子は見られない。
念の為に即座に飛び退り間合いを取って、改めて有栖の様子を窺う。――息はある。良かった。
『――猟兵の覚悟、しかと拝見致しました』
晴明は水晶の破片を舞わせながら、ニィと嗤った。それは、紛れもない晴明なりの賛辞だったのだろう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ユーイ・コスモナッツ
【水晶屍人の召喚】に対抗
先制して召喚されてしまうところまではやむを得ないとしても、
そこから合体するには、一瞬の間が必要なはず
その一瞬を利用して、安倍晴明との距離を詰めようと試みます
水晶屍人が合体せずに攻撃してきた場合も同様
合体前であれば反応も鋭くはないでしょうし、
「ダッシュ」で間を潜り抜けるようにして包囲を突破します
そのまま振り切るのは無理でしょうから
水晶屍人を十分に引き付けたところで、
【オーロラの表面張力】を使います
摩擦力を失った床
そんな場所を走ろうものなら、転倒は免れないはず
そうして水晶屍人を足止めしたら、
反重力シールドに乗って晴明へ一直線
さぁこれで一対一です
安倍晴明! いざ尋常に勝負っ!
●天駆ける騎士の戦い
ここ鳥取城で猟兵たちを迎え撃つ陰陽師『安倍晴明』には、未だ開示されていない手札があった。
チェーンソー剣を振るい、五芒符を投げ、まだ何かを企むというのか。
油断なく愛用の大盾「反重力シールド」を前に出しながら、ユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)がグリモアベースからの転送を受けると同時に晴明の前に降り立ち対峙する。
『ようこそお越し下さいました。中々にこれらを出してやる機会に恵まれず、残念に思っていた所にてございます』
不敵に笑みながら晴明が水晶の右腕を大きく横薙ぎに振るえば、城内に満ちた怨嗟の念が凝り固まるように人のカタチを為し、たちまち晴明同様――水晶の面積こそ然程大きくはないが――腐敗した身体に水晶を生やした生ける屍たちが現れた。
(「やはり、予知の通り『水晶屍人』の召喚で先手を打ってきましたね」)
どうしても攻撃が己の先を行くというのは歯がゆいが、その手口が分かっているだけでも僥倖というもの。何しろ、対策が立てられるのだから。
ユーイは構えた大盾からちらと行く手を阻む大量の水晶屍人たちの群れを見ながら、どう対処したものかと思案する。
(「ここから合体するには、一瞬であっても間が必要なはず」)
水晶屍人たち一体一体を見れば、その両肩の水晶に「1」と刻まれているのが分かった。ユーイは似たような術を猟兵たちが行使するのを見たことがある――故にあれは「合体」するものだと知っていた。
あの見るもおぞましい水晶屍人が、合体し、巨大化し、強くなる。
想像するだけでも怖気がするが、宇宙を駆ける騎士たるもの、このような所で怯む訳には行かない。
さあ、屍人を合体させるならばしてみろ。その一瞬の隙を突いて、一気に距離を詰めてやる。
『――戦いは数と申しますれば、一体一体は弱くとも、この数を相手にどう立ち回りますかな?』
「合体、させない……!?」
大盾から思わずひょこと顔を出してしまうユーイに向けて、水晶屍人の群れが一斉にけしかけられた。しかしひとたび冷静に見れば、一体一体の動きは屍人らしくひどく鈍い。
(「これなら、反応も鋭くはなさそうです。……予定通り、行きます!」)
どちらかというと乗りこなして使っている反重力シールドを、今回は真正面に構えて突撃体勢。ひしめく屍人たちの間隙を縫って――それが叶わないなら、蹴散らしてでも!
シールドバッシュ。盾を強烈に叩きつけて、相手を弾き飛ばしたり一瞬気絶させたりする攻防一体の技巧。
勢い良くぶつかり合ったユーイのシールドと屍人の群れは、一瞬の拮抗の後、屍人たちを左右にワッと蹴散らした。
『オ、オオ、オオオ――』
『オア、ア、アア』
突撃するユーイは勢いを徐々に殺されながらも、決してその進撃を止めることはなかった。少しでも止まれば最後、逆に屍人の群れに包囲されてそこで終わりだと、知っていたから。
吹っ飛ばされて一度は地に伏した水晶屍人たちが、しぶとくもよろよろと立ち上がってくる。振り切れない。どうする。
(「そうです、そのまま、私に追いすがって来て下さい」)
ユーイが目線だけを背後に向ければ、彼らなりに全力なのだろう、屍人たちがユーイに向かって腐りかけた腕を伸ばし迫ってくるのが見えた。
そこでユーイはくるりと身を翻して、盾を横にその身を屍人たちに晒してみせる。それを見て俄然色めき立ったかのように見えた屍人たちを臆することなく見据えながら、腰の剣をすらりと抜き放った。
怨念渦巻く城内を照らすかのような白銀の輝きを持ったその剣には、いななく天馬の紋章――コスモナッツ家の紋章が刻まれていた。誇り高き剣「クレストソード」を手に、迫る水晶屍人と自身との間にユーイはそれを思い切り突き立てた。
「ブレイク――アップ!!」
木の床板が、剣を中心にみるみる青白く光り輝く力場と化して広がっていく。
『オオ……!?』
足元をほの青く照らされた水晶屍人たちが、どうしたことか次々と、つるりつるりと足を滑らせ転倒していく。
『――ほう』
吐息とともに感嘆の声をひとつ上げた晴明目がけ、後顧の憂いを断ったユーイが遂に反重力シールドを光る床に寝せれば、自身も抵抗なくするりと盾の上に乗り上げる。
【オーロラの表面張力(オーロラスプレッド)】、それはユーイの剣を介して発動するユーベルコード。発生した力場は術者自身のみならず、狙いを定めた対象をも巻き込んでその摩擦抵抗を極限まで減らす効果をもたらす。
ふわりと宙に浮き、まるで海で波に乗るかのごとき姿勢で、ユーイは戦乙女の名を冠した白銀の突撃槍を構えて晴明目がけて告げた。
「さぁ、これで一対一です」
『……然様にございますな』
突撃槍「ヴァルキリーランス」の切っ先が晴明に向けられる。反重力シールドはユーイを乗せて一度天井近くまで舞い上がり、勢いをつけて阻むものがなくなった晴明目がけて突っ走る――!
「安倍晴明! いざ尋常に勝負っ!」
『その勝負、お受けしとうございましたが――』
「……っ!!」
突撃槍の切っ先が晴明に迫ったその瞬間、文字通り肉の盾として晴明が眼前に召喚した水晶屍人が三体、ユーイの突撃槍の餌食となった。貫いたその先に――晴明の喉元に、槍の切っ先が迫る勢いであった。
「なんて、ことを」
攻撃を邪魔されたことか、その防ぎ方に対してか、ユーイの怒りはどこから来るものであったろう。槍を握る手だけではなく、絞り出した声も震えていたのが、ユーイ自身にもよく分かった。
『屍人もこうして役に立てて光栄にございましょう、何も目くじらを立てることはございませぬ』
平然と言い放つ晴明に、ユーイが突撃槍をぶんと振る。哀れな屍人がどさりどさりと槍から払われ地に落ちる。
「安倍、晴明……!」
ごう、と音を立てて反重力シールドがユーイを乗せて加速した。突撃槍が唸る。今度こそその水晶の身体を穿たんとする。
が、きいぃぃん。
一瞬、手が痺れた。この悪しき陰陽師の身体には、本当に「まるで血が通っていない」……!
晴明の鳩尾付近を突いた槍はその先端を喰い込ませたが、惜しくも致命傷には至らず。しかし後に続く誰かが、必ずやこの身体を砕き、正しく骸の海へと返してくれるだろう。
成功
🔵🔵🔴
アラン・サリュドュロワ
マリークロード(f19286)と
我が主の命によりその不死の身体、骸に戻してやろう外道
―御意に、殿下…ご武運を!
引き離されても命を以って術士に相対する
両手の刃ではなく、全身の体幹・重心移動を見極め
初撃と共に踏み込まれた、その足元の床を斧槍で砕く
体勢崩れればぶれた斬撃を躱すことも出来よう
この国の建物が木造りで幸いだ、石はさすがにそう砕けないからな
身体は不死でも貴様の本分は術士、咄嗟の切り返しは容易くまい
手中で槍を回転、力溜めた一撃で穿つ
あの民らは苦難より解放され、安息の地へ旅立つ者達だ
貴様が徒に弄ぶ玩具ではない!
主の一撃が届く隙に、呼び寄せし氷竜が咆哮する
―ジゼル、好きに暴れろ。一切の加減無しだ!
マリークロード・バトルゥール
アラン(f19285)と
水晶屍人がこんなに――
アラン、首魁はあなたに任せます
手近の屍人を踏み台に上へと跳び退き
敵の攻撃から身捻り躱す
機動の要となる足と利き腕の損傷を逃れる為、片腕は犠牲にする覚悟
…ッ、わたくしが差し出せるのは「これだけ」
天井に欄干に掴まり敵状況を見定め
屍人らの死角探り、柱蹴って水晶部を狙う
どうか最期は人として死ねますよう
跳弾の如く部屋中四方八方へ跳び
咥えたナイフ閃かせ口付けるように
合体前の個体から順に切伏せていく
裂かれた衣服剥ぎ捨て更に疾く
刃に速度をのせ滑らせ威力増した刃で巨体をも切り刻む
此処までは助走
持ち直した愛刀を手にセイメイへ最速の一撃を
民を弄び愚弄した報い、受けなさい!
●おとぎ話の結末は
みしり、と木の床板を踏みしめる音が城内に響いた。二人分か、そう陰陽師『安倍晴明』が判断した時には、既にアラン・サリュドュロワ(王国の鍵・f19285)とマリークロード・バトルゥール(夜啼き鶯・f19286)が凛とした佇まいで構えていた。
西洋の、まるでおとぎ話に描かれるような騎士と姫君。相対するは、陰陽師を名乗るも無骨な鋸刃を手にした歪な化物。
まるで異なる色彩を見せる猟兵とオブリビオンが織り成す物語の筋書きは――どちらかがどちらかを屠って終わる凄絶なものと相場が決まっている。
『皆々様の怒り、存分に愉しませて頂きました。しかし私もあまり遊んでばかりはいられませぬ故、そろそろお終いと致しましょう』
口を嫌味な形に歪めて笑い、身勝手にもそう告げる晴明に、そうは行くかとアランが静かに、しかし気迫の篭もった声で返した。
「ああ、お終いだとも。我が主の命によりその不死の身体、骸に戻してやろう――外道よ」
『外道とは、私も酷い言われようになりましたな!』
言葉とは裏腹に、心底愉快げに晴明が言うと同時。アランとマリークロードを己と隔てるように水晶屍人の群れをわっと喚び出した。
「水晶屍人がこんなに――」
先手を取られる旨はあらかじめ聞かされていたが、これほどの数とは。マリークロードが思わず息を呑むが、即座に決断を下してアランに告げた。
「アラン、首魁はあなたに任せます」
「――御意に、殿下」
交差した視線は一瞬、すぐに敵の方へと向き直った二人の耳に飛び込んできたのは晴明のチェーンソー剣が唸りを上げる音。片方は先の戦いで駆動部分を潰されてただの鈍器と化しているものの、もう片方はいまだ健在であったのだ。
「……ご武運を!」
願いを込めた一言を残し、アランが晴明の凶刃に備える。
(「あなたもよ、アラン」)
まかり間違っても、わたくしの許しなく敗けることなどあってはなりません。
もちろん、わたくしも敗けるつもりはありません。
マリークロードに狙いを定めた屍人の群れが殺到する中、ひときわ功を焦ったのか突出した個体があったのをマリークロードは見逃さなかった。
すかさず地を蹴って舞い上がった姫君は、その粗忽者の屍人の脳天を踏み台としてさらに宙を舞う。一斉に屍人たちが己を見上げる光景は一瞬怖気が走る程に不気味であったが、それで気圧されるようなマリークロードではなかった。
屍人たちが次々と鉤爪のような指を伸ばしてくる。その身を包む上質なるワンピースが引き裂かれるのは惜しくない、だがこの後の反撃に備えて機動の要となる足と、利き腕ばかりは何としても守らねばならなかった。
「ッ……!」
故に、咄嗟に空中で身を捻って両足を屍人たちの魔の手から逃した代わりに、必然下を向いた片腕がずたずたに引き裂かれたのはやむを得ぬことであった。
(「わたくしが差し出せるのは「これだけ」」)
屍人たちはなおもマリークロードが落ちてくるのを心待ちにして禍々しい手を伸ばすが、その期待にはそえぬとマリークロードは無事守りきった利き腕で天井の欄干に掴まり、逆に屍人たちの様子を見極めようとする。
(「可哀相だけれど、これ以上は――何一つ差し上げる訳には参りませんの」)
アランと見た、とある村での凄惨な光景が蘇る。水晶屍人を相手取るのは、これが初めてではない。その動きは愚鈍にして、合体さえ許さず各個撃破さえすれば、勝機はある。
ほとんど使い物にならなくなりだらりと下がった片腕から滴る鮮血に、水晶屍人が人肉の気配を察して群がっている。そこに隙が生じているのを見極めると、マリークロードは驚くべき身軽さと柔軟性でもって振り子の原理で両足を振り上げ欄干につける。
狙うは群れの外周部で届かぬ血の滴りに夢中になっているこれまた粗忽者の水晶屍人、その肩口の水晶部位。欄干を思い切り蹴りつけ跳んだマリークロードの口には、鷲翼の意匠が刻まれた豪奢な装飾の懐剣が咥えられていた。
『ガ、グアアアア……!』
ばりん、という甲高い音と共に、狙い違わず屍人の水晶が砕かれる。歯に伝わる鈍い衝撃に耐えながら、マリークロードは瞑目する。
(「どうか最期は、人として死ねますよう」)
この屍人たちをますますもって異形たらしめているものは、この忌まわしき水晶体に他ならない。マリークロードがその気になれば首を刎ねることさえ容易かったろうが、それでは駄目なのだ。晴明はまだしも、屍人らには慈悲があっても良いだろう。
姫君――の影たる者の攻撃は、当然これだけには留まらず。水晶を砕かれぐらりと倒れ込む屍人の身体を蹴って、また別の屍人の水晶を砕く。
その様はまるで、慈悲深く口付けをもって葬送を為すもののように。無数の水晶の破片が煌めく中を、マリークロードは縦横無尽に跳ね回る。途中途中で鉤爪の指でもって服を裂かれ傷を負わされたが、お構いなしだ。
次第に劣勢を察し始めた水晶屍人たちが、歪な形に「合体」を始めた。一つの個体が単純に大きくなるのならばまだ良い、だがこれはどうだ――屍人同士が中途半端に融合している様は、あまりにも見るに耐えない。
もはや衣服としての役割を果たさぬほどに引き裂かれたワンピースを引き剥がすようにかなぐり捨てたマリークロードは、いよいよナイフを温存してきた利き腕で逆手に構える。
『グオ、オオ、オ――』
おぞましい声で吠える水晶屍人の巨体に向き直ったマリークロードは――。
『主を露払いに使いますか、おお、恐ろしい』
「何とでも言うが良い、我々の在りようは、我々のみが知っていれば良いのだから」
唸りを上げるチェーンソー剣の初撃は、駆動している右手側からであることはまず間違いないだろう。だが、刃に気を取られていては、咄嗟の不意打ちに対応できない。もしかすると、左手側の鋸刃を力任せに叩きつけてくる可能性だってあるのだから。
そう判断したアランは――晴明の身体そのものの動きを注視した。外道とはいえ人の身体をしている以上、自分が良く知るそれと同じく重心を移動させることは明白であり、いかな晴明とて逃れられぬ道理であったろう。
(「来る――」)
かくして晴明は、その左足を一歩前に踏み込んだ。やはり右手のチェーンソー剣か、ならば。
ば、きぃん!!
晴明の視界が、飛び散り跳ね上がる床板の破片で遮られた。同時に、足元が急に不安定になりぐらりと傾ぐ。
『これ、は』
チェーンソー剣を柄で受け止める程度ならば容易く予想ができたろう。だが、まさか踏み込んだその足元に得物を叩きつけて体勢そのものを崩しにかかってくるとは思わなかった。
当然、斬撃の軌道も修正が間に合わず、アランの身体の横を素通りして鋸刃が床に嫌な音を立てながら喰い込んだ。
「この国の建物が木造りで幸いだ、石はさすがにそう砕けないからな」
『やりますねぇ……!』
せめて一太刀とばかりに振るわれた左の鈍ら刃も、不自然な体勢から強引に振るったものなれば命中するはずもなく。最低限の動きで躱してみせたアランが、斧槍を引き抜きその柄をひとつ回す。
氷の結晶をきらきらと撒いていよいよ構えられたドラゴンランスの名を「ジゼル・ド・グレイス」と言う。良く手に馴染む小型竜の化身たるそれを突きつけ、アランが怒気を孕んだ声で一喝する。
その背後には、巨大化していく水晶屍人と、それに対峙する主の姿。
「あの民らは苦難より解放され、安息の地へ旅立つ者達だ。貴様が徒に弄ぶ玩具ではない!」
『――いやはや、何と』
アランの斧槍こそが放たれると思うや、晴明への攻撃は、アランの背後にいた水晶屍人の合体した巨体を切り刻んだ一撃の勢いをも助走とした、マリークロードの最速の、渾身の一撃であった。
「民を弄び愚弄した報い――受けなさい!」
完全に不意打ちであった。ほとんど捨て身に近い愛刀の一撃は、確実に晴明の胸元に深々と突き刺さった。
「アラン!」
「御意――」
全力を出し切ったマリークロードが最後の力で飛び退るのと入れ替わるように、アランが後を引き受け、今度こそ鋭く斧槍の先端を突き出せば、晴明の胸に空いた短剣で刺された箇所を的確に穿った。
「――ジゼル、好きに暴れろ。一切の加減無しだ!」
ごう、と斧槍であったドラゴンランスが、その真の姿を明らかにする時が来た。氷花を散らせながら羽ばたく氷の竜が咆哮し、愛する主人が命じるままにその顎で晴明の喉元に喰らいつく。
ばきばき、ばきばき。
水晶が――割れていく。幾度となく攻撃に晒され、その都度小癪にも塞がれてきた傷が、とうとう致命的なものとなったのだ。
『猟兵の怒り、確かに見届けましてございます』
瓦解していく身体でなお、晴明は不敵に笑っていた。
『ああ、愉しゅうございました。此度はこれにて、失礼致します――』
そこまで言ったところで、遂に晴明の身体全てが消滅した。
「……殿下、急ぎお召し物を用意致します」
「……構いません、それと」
――傷の心配も不要です、わたくし、子どもではございませんことよ?
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴