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エンパイアウォー⑥〜壁は乗り越えるもの！

作者：るちる

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「がう、皆ありがとう！　疲れてるところ申し訳ないんだけど、また戦いに出て欲しいんだ」
　アルファ・オメガ（もふもふペット・f03963）は笠の上に飛び出している耳をぺたんとしながら、続ける。
「関ヶ原で幕府軍が遭遇する『ファランクス』を打ち崩して来て欲しい」
　アルファが笠の縁をあげながら、そう告げた。

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　ファランクス。それはこの作戦のコードネームのようなものでもあり、また敵の陣形でもある。
「簡単に言うと、軍隊みたいなものなんだけど。右手に長槍、左手に大盾を持って、隊列を組んで攻撃してくる、陣形」
　その隊列を崩すことなく、左手の盾で左側の仲間を守りながら突撃してくるのがファランクスなのだ。
「まともにぶつかると、幕府軍でも蹴散らされちゃう」
　ゆえにこのまま放置しておくと幕府軍が大打撃を受けてしまう。それを阻止するのが今回のミッションだ。
「そのために、ファランクスの『中枢』を倒して欲しいんだ」

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　ファランクスそのものは世の中にあるものと変わらないが、関ヶ原のファランクスには他ではあり得ない決定的な違いがある。
「それは『洗脳された付近の農民がファランクスを構成している』ってこと」
　つまり、それは。
「ボクたちが真っ正面から戦ったら、サムライエンパイアの人を殺しちゃうことになる」
　それは、ファランクスを止めるという意味なら正解だが、世界を守る猟兵としては限りなく避けなければならない事態だ。
「だからね、このファランクスを崩すなら、洗脳そのものをなんとかする必要があるんだ」
　この大規模な農民への洗脳は、弥助アレキサンダーが持つ『大帝の剣』によるもの。ただ、今回の規模と範囲の広さから、洗脳能力を増幅する必要があり、洗脳の中継機とも言える指揮官オブリビオンが『中枢』として、各ファランクスの中央に配置されている。
「皆が狙うのはこの中枢、今回で言うと『山吹・牡丹』だよ」
　山吹・牡丹を倒すことで農民の洗脳が解け、農民に被害を与えることなく、ファランクスを崩すことができるのだ。

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　とはいえ、簡単に山吹・牡丹を狙えるわけではない。
「ファランクスは指揮官にとっては自分を守る壁でもあるからね」
　策を打たずに真っ正面から突入すれば必ず農民たちとの戦いに発展する。ゆえに、農民たちに被害を与えないよう、何か策を弄する必要がある。
「例えば、なんだけど。農民たちは洗脳によって判断能力が激減してる」
　『敵が現れるまでは隊形を崩さず、何があっても前進せよ』と指示されているから、その通りにしか動かない。
　『敵』で設定されているのは幕府軍。つまり、『武装した』『成人』だ。
「だからね。例えば、ボクみたいに『とっても小さかった』り、あるいは『武器を持ってない』とかなら、視界に入らず、かわせるかもしれない」
　それ以外にも視界に入らない手段があれば、同じ効果が得られるだろう。
　あるいは、壁を乗り越える手段を使う。
「超超遠距離から狙ったり、空を飛んだりってことだね」
　もしくは。農民に無傷なままで、隊形を、壁を崩すことができれば。
　そうやって農民たちをスルーして、山吹・牡丹のみを倒す。
「皆なら色んな手があるはずだよ。それで山吹を倒して来て欲しい」
　山吹・牡丹を倒せば、農民の洗脳が解け、彼らも降伏してくるだろう。そこを保護して欲しい。
「皆、ここが天下の分け目だよ！　よろしくね！」

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　関ヶ原を進むファランクス。その中央にて。
「ふふふー、こうやって自分が直接手を下さなくていい作戦は、わくわくしますねー♪」
　山吹・牡丹は楽しそうに笑う。情報屋にして女間者の彼女にとって、自分の言葉で動く、翻弄される様は愉快の一言に尽きる。
「さてさて、このまま正体すらも伏せたまま、幕府軍と戦ったらどうなるのかー！　めっちゃ楽しみー！」
　小躍りしながら、農民たちの陰に隠れる山吹・牡丹。彼女はまだ自たちの前に、猟兵たちが立ちふさがることを知らない。

第1章 ボス戦 『山吹・牡丹』

POW   :    プリティーテイルスマッシュ 【もふもふしっぽ】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。 SPD   :    ヘヴン＆ヘルクラッシュ 【投げキッス】が命中した対象に対し、高威力高命中の【踵落とし】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。 WIZ   :    あなたの秘密を教えてね♪ 質問と共に【魅惑のウインク】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。 イラスト：ひろしお 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

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　グリモア猟兵が送り出した先は関ヶ原に至る道中。遠くにうっすらと見える土煙は、おそらく山吹・牡丹を洗脳の中継器とするファランクスのものだ。それらを見つめる視線。

「農民さん達を操るなんて！」
　豊満な胸が目立つくノ一装束姿のミケ・ナーハ（にゃんにゃんシーフ・f08989）が怒りに叫ぶ。
「洗脳して操るなんてとっても酷い、許せないわ！」
　ぷんぷんお怒りのノエル・キャロル（お姫様見習い・f04794）もまた同じ意見でありまして。
（たはは……ファッションの趣味は合致しそうなんですけどねぇ～）
　その二人の、少し後ろをぱたぱたと飛ぶパティ・チャン（月下の妖精騎士・f12424）は、今回の標的であるオブリビオン、山吹・牡丹の華ロリな容姿に共感してたりするのだが、そっと心の中に留めておく。
　そんな3人を、雛月・朔（たんすのおばけ・f01179）はいつも通り、ふわふわ宙を漂いながら幽霊っぽく見守っていたりして。

　しかし、いつまでものんびりと待機しているわけにはいかない。
　持ち込んできた『サプライズ・ボム』にせっせと仕込んでいるリステル・クローズエデン（なんか青いの・f06520）をはじめ、各々が最適と思う手段の仕込みに取り掛かる猟兵たち。

　そして、ファランクスが猟兵たちの射程内に辿り着く。

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　最初に仕掛けたのは、ミケとリステル。奇しくもともに『毒使い』。仕掛けた手段もよく似ていて。
「鎧装変換……」
　左翼から攻めるリステルはユーベルコード『鎧装変換・斬翼断空』を発動する。召喚された『断刃の鎧』に光刃の翼を発生させる能力と迷彩を施して、リステルは空へ浮かび上がる。
　手にした『サプライズ・ボム』は対農民用。持てる技能で改造した、殺傷力を最小に、かつマヒと気絶の効果を持たせたものだ。もちろん効果範囲は極力最大となるようにしてあるが、こればかりはその時の風次第。

「臨兵闘者皆陣列在前！」
　そして右翼から仕掛けるミケもまたユーベルコード『超忍者覚醒』を発動。強化した念動力で自身の体を浮かせる。空なら農民たちの反撃、槍も届かないであろう算段だ。
　そして自身から漂わせるのは眠り薬。

　空という目立つ場所ゆえに異変は察知されやすい。そのため、最初は距離を取らざるを得ない。
　完全に射程内に捉えるまで、リステルは迷彩で隠れ、ミケは風に乗せて、ゆっくりとじっくり流していく。

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　そしてこちらは正面担当。ノエルとパティである。

「小さくて視界に入らないなら……そうだわ！」
　とノエルが思いついたのは、自身のブラックタールの特徴を活かす作戦。お姫様モードというか変身を解いて、タール状に戻った後、体をお団子状にして、伸縮しながらゆっくりと農民たちの足元をすり抜けていく。
　農民たちの視線は常に前。足元を進むノエルに注意が向くはずもなく。
　着実にファランクスの中を進むノエル。

　対して、高機動を選んだのはパティである。
「幸い、体躯も小さいですし」
　とこちらもフェアリーの特徴を活かす作戦。周辺の風景に紛れ込むよう、迷彩を施して。さらには周囲の物に隠れながら、ファランクスの中を縫うように飛び進むパティ。より有利になるよう、低空飛行をキープしつつ。

　パティが山吹・牡丹を視認できる位置にまで接近した時、戦況が動いた。

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　パティがその体躯を活かして、ファランクス内部をすり抜け潜り抜け。ノエルがゆっくりこっそりファランクスの足元を進む。

　そんな折に炸裂したのがリステルのサプライズ・ボム。そしてミケの眠り薬も徐々に効果を発揮してきた。

「な、なんですか！？」
　動揺する声が響き渡る。声の主は、山吹・牡丹。敵の襲撃を予想した山吹・牡丹の視線はまだ彼女自身の目線の高さ。パティとノエルの存在は『気付かれていない』。

「あなたには何もさせないわ！」
　突然、まさしく不意打ちで。ノエルがユーベルコード『イバラ城のお姫様』を放つ。出現した幻影のイバラ城から溢れ出るように生み出される無数無限の茨が山吹・牡丹の四肢に絡みつく。
「猟兵！？　あなたのひみ、むぐっ？！」
　山吹・牡丹がユーベルコードを放とうとした瞬間、茨がさらに伸び、口を塞ぐ。
「お口も一時的にチャックよ！」
　反撃を封じたそこへパティが突撃する。
「捕まえました！」
　パティのユーベルコード『サイコキネシス』。土の属性を以て、素早く2回なぎ払われるサイキックエナジーによって、山吹・牡丹の足が止まる。
「んーっっ！！」
　口を塞がれながらも、山吹・牡丹のもふもふしっぽがパティを叩き落とそうと振るわれるが、ノエルの茨に動きを封じられているせいか、距離を掴むことができず、空を切る。

　そして山吹・牡丹の動きが完全に止まる。
「今なら多分攻撃が当たりやすくてチャンスだと思うわ！」
　ノエルが叫ぶが、しかし周辺には倒れているとはいえ、農民たちがいる。
「ファランクス外まで投げ飛ばせられれば……！」
　パティが思わず声に出すが、彼女のサイコキネシスだけではそこまでの力は無さそうで。
　しかし。
「私が手伝いますよ」
　不意に降ってきた声は朔のものであった。

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　正面、そして右翼左翼に分かれるノエルたちを見ながら、朔はすいーっとファランクスを迂回する手段を取っていた。
（農民の集団の中から金毛の狐さんを見つけるには容易ですね）
　と空から捜索するつもりだったのだが、リステルの迷彩のような、あるいはミケのように遠距離から仕掛けられる手段がない。接近を要するなら、敵の背後から近づくのがベストだと判断したのだ。
（あ、あれですねー）
　後方の上空から見れば、盾に隠れることも無く。異彩を放つ山吹・牡丹を発見するのは簡単で。
　仲間の行動開始に合わせてタイミングを見計らっていた朔は、ノエルのイバラ城を見て仕掛けたのである。

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「私が手伝いますよ」
　と。朔の念動力が山吹・牡丹を掴む。具体的なイメージとしては、こう、巨大な手ががしっと頭を鷲掴みにする感じ。
「ちょ、乙女にその扱いはどうなんですか！？」
「しりません」
　山吹・牡丹の抗議には耳を貸さずに。
「いきますよ」
「はい」
　朔が引っこ抜き、パティが下から掬い上げるイメージ。それらで以て、山吹・牡丹を空中へ放り投げる。
「っのぉぉぉ！」
　その最中、山吹・牡丹と朔の視線がぶつかる。朔に対して質問を投げかけようとする山吹・牡丹。しかし。
「あにゃたのひみゅ……はれ、なんか動きが、にぶ……」
「やっと効いてきましたか？」
　山吹・牡丹に対して、言葉を放つのはミケ。農民たちを無力化した眠り薬。その後に、対山吹・牡丹用に風に混ぜて媚薬を撒いていたのだ。
「体中が気持ち良過ぎて、動きが鈍ってますよ♪」
「戦場にそんなもの持ち込むなー！」
　ミケの言葉に、怒りで一時元に戻るも。投げキッスの瞬間にミケに接近されて。
「んんっ……♪」
「んーっ？！」
　唇で唇を塞がれる山吹・牡丹。動きを封じて、ミケが次の行動に移ろうとした瞬間。
「はっ？！」
「え……きゃー？！」
　身の危険を感じて飛び退るミケと、動けなかったがゆえに直撃を受ける山吹・牡丹。何の直撃かというと、リステルのサプライズ・ボム。ただし、こちらは山吹・牡丹用にカスタマイズした、マヒと目潰しと伴う、おもいっきり爆弾だ。
「結構えぐいので農民はまきこみたくはないですね、これ」
　投擲して離脱するリステル。確かに農民が巻き込まれると危ない。

　そんなわけで地面に向けて落下していく山吹・牡丹。
「くっ、こんな、いきなり前線に立たされて、やられるなんて……私のポリシーどうしてくれるんですか……！」
　山吹・牡丹がよろよろと立ち上る。そもそも、自分は直接戦うためにいるのではないのだから。そんな想いが山吹・牡丹を逃走に走らせようとするが。
「いたずら狐さん、おしおきの時間ですよ♪」
　立ち塞がったのは朔。唐突に、そして目の前に現れた朔の視線を山吹・牡丹はかわすことができない。
　直後、視線を媒介にして、朔のユーベルコード『背天ノ呪詛・『春雷』』が発動する。空より降る、呪詛による雷が、トドメとばかりに、山吹・牡丹を捉えた。

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「んー、残念」
　骸の海に還っていく山吹・牡丹を、ミケは側で見送りながらそう呟いて。
　しかし猟兵の本分は達成できた。

「終わりましたか」
　洗脳が解かれ、次々と投降してくる農民たちを見て朔が呟く。
「彼らを保護しないといけませんね」
　断刃の鎧を解除してリステルがそう言うと。
「こっちよ」
「私も手伝います」
　とノエルとパティが先導して農民たちを避難させる。

　この後、無事農民たちを戦場から離脱させて。
　猟兵たちはファランクスの一角を突き崩すことに成功したのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月17日