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エンパイアウォー⑧~生きるために

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●飢えたモノ
 鳥取城付近の農村は、とてものどかな場所だった。
 農作業に精を出す普段と変わらぬ日々が続くはずだった。

 けれども、それは突然現れた。
 農民達は何が起きたのか理解できなかったが、理解などする必要がないとすぐに気づいた。水晶の化け物は人々を襲い、喰らい始めたのだ。
 農民達は逃げた。逃げるしかなかった。

 母は赤ん坊を背負い、子どもの手を引いて必死に走る。
 子どもが転んだ。母と手が離れてしまう。おかあさんと、顔をくちゃくちゃにして泣いている。
 母は慌てて子どもの元に駆け寄り助け起こす。しかし水晶屍人は今まさに母子に襲いかかろうとしている。

 その時、果敢に水晶屍人に体当たりする男がいた。父だ。
「逃げろ!!」
 母と子は泣きながら振り向かずに走った。背中の赤ん坊も泣いていた。父がどうなってしまったのか、考えたくなかった。背後から叫び声や肉が引き裂かれる音が聞こえてきた気がしたが、それを聞くことを耳が拒絶した。ただ助けてもらったこの命を奪われぬように逃げ続けるだった。

 ――其処彼処で同じような光景が繰り広げられていた。農民達は必死に逃げる。何処に逃げればいいのか分からない。考える余裕もない。追ってくる水晶の化け物に捕まらないように、ただ前へと前へと走り続けるだけだ。

 助けて、助けて、助けて。
 一体誰に助けを求めているのか自分自身でも分からない。けれども「何か」にすがるように、農民達は助けを求めながらひた走る。
 その道の先には鳥取城がそびえ立っていた。

●救いの手
「サムライエンパイアでの戦争が激化してます」
 岡森・椛(秋望・f08841)は真剣な表情で猟兵達に話しかけた。

「安倍晴明が造った強化型の水晶屍人十体を撃破して、人々を救ってください」

 鳥取城はかつて餓え殺しが行われた場所で、恨みの念が強く残っている。陰陽師『安倍晴明』はその怨霊を利用して『水晶屍人』を造った。
 その水晶屍人の強化型十体が、近隣の村を襲撃したのだ。目的は、強化型『水晶屍人』量産の為。多くの農民を鳥取城に集め閉じ込め飢え死にさせ、水晶屍人を大量生産しようとしている。

 水晶屍人は凄惨な死に方をした者達だ。仲間の死体を喰って生き延び、自分が死んだあとは仲間に死体を喰われ、そうして水晶屍人となり、自らをこのような姿にした安倍晴明に利用されている。

 この水晶屍人は十体で猟兵と渡り合えるぐらいの超強化を施されているという。既に知性もなく、理性的な行動は取れない。

「水晶屍人は、農民達を鳥取城に連れ去ろうとしています。……もう、食べられてしまった人もいるけれど……そうやって一部の人を食い殺して、恐怖にかられた人間を追い立てるようにして鳥取城に向かわせて……」
 椛の声が僅かに震える。おぞましい光景がそこには広がっているのだ。

「でも、急いで向かえば多くの人を助けられます。農民達には自力で逃げてもらって、皆さんは水晶屍人の撃破に専念してください。逃げる農民と屍人の間に割り込めば大丈夫です。あとは屍人を倒せば農民達は助かります」
 既に失われてしまった命は助けられないけれど――椛は俯く。けれど、もうこれ以上失う訳にはいかないですと、顔を上げる。

「小さな子どもや赤ちゃんもいて、みんな生きる為に必死に頑張っています」
 だからどうかお願いしますと、椛は猟兵達に頭を下げた。


露草
 露草です。
 どうか人々を救う為の力を貸していただけないでしょうか。

●重要
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●補足
 村を襲う水晶屍人を撃破してください。
 村は既に襲撃されていますが、農民達は自力で逃げるので避難誘導は不要です。戦闘に専念なさってください。
 ただし、今まさに襲われようとしている人を身を呈してかばう、鳥取城には向かわないようにと声を掛ける……という程度の内容でしたら極力反映致します。

 よろしければ心情なども書いていただけると、アドリブを加えながら描写致します。アドリブが苦手な方はお手数ですが一言記載をお願いします。

 水晶屍人と知的な会話は行えません。

 OP公開直後からプレイングを受け付けます。
 早めの完結を目指す予定です。よろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『水晶屍人』

POW   :    屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:小日向 マキナ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

薄荷・千夜子
本当に許せないことを淡々と仕掛けてくるのですね
これ以上の被害が出ないよう全力を尽くしましょう

「貴方たちの相手は我々ですよ!」
こちらの言葉は通じないのでしょうね
なので、こちらに気を引くよう【先制攻撃】でUC『干渉術式:護火剣乱』を使用
UCに炎の力だけでなく【破魔】の力も纏わせて
「清浄なる炎を持って、祓いましょう」
水晶屍人目掛けて炎を纏った短刀を一気に放ちます
水晶屍人となった方々を救うことは出来ません……ここで終わらせることしかできない事が歯痒さもありますが
「どうか少しでも苦しまずに行けますように」
だからこそ、全力で迅速に最大火力で浄化しましょう
それぐらいしかできることがないのですから


アウル・トールフォレスト
(※好きにお任せします)

ひどい話だね、お腹を空かせて殺すなんて
かわいそうな人たち…
それじゃあ、殺してあげなきゃね

【ブラッド・ガイスト】を使用
両腕を真っ赤な捕食態に変化させて、爪で引き裂いていくよ(怪力、吸収、生命力吸収)
反撃はあまり気にしないよ。受けた分だけ、回復すればいいのだから。…痛いのは、ちょっとイヤだけど

ごめんね
わたしは怪物だから
こんなことでしか、あなたたちを終わらせられないの
一つたりとも無駄にはしないよ
全部平らげて、わたしの糧にして、正しい場所にかえしてあげる


灰神楽・綾
……俺なんかは端から殺し合いが好きな
どうしようもない奴だけどさ
望まない人にそんなことさせちゃダメだよ
肉の引き裂かれる音なんて
普通の人はそんなもの知らなくていい

ナイフを[念動力]で屍人に当て割って入る
最初のうちはダメージ覚悟で攻撃重視で向かう
生きたくても生きられなかった恨みつらみ
今は全部俺にぶつければいい
斬られようが噛まれようが[激痛耐性]で耐え応戦
頭部、水晶部などを狙い少しでも早く倒せる方法を探る

自身へのダメージが蓄積したら
【レッド・スワロウテイル】発動
ちょっと時間がかかっちゃったけどもう終わりにしようか
増強した戦闘力で一気にケリをつける
先程探った弱点を突くようにEmperorで斬りかかる


風見・ケイ
「鳥取の飢え殺し」……やはりサムライエンパイアでも起こったことなんですね。
私が知っているのは、日本……UDCアースの歴史ですが、到底言葉にできないような凄惨さであった、と。
今回は私(慧)自身が戦います。
……子が、親を。そんなこと、私には許せない。

一般人がある程度逃げ切れるという、いかにもゾンビといった印象。
であれば。
[HEAT SINK]による遠距離射撃で数を減らし、ある程度接近されたら[Trigger Happy]に地獄の炎[属性攻撃]を乗せた弾をばらまき、熾烈なる焔の猟犬で燃やし尽くす。

銃撃を喰わせ、犬に喰わせることになってしまいますが……せめて、荼毘に付すということです。
せめて安らかに。


エーカ・ライスフェルト
陰陽師だかなんだか知らないけど加減を知らない悪党ね

【宇宙バイク】を【運転】して逃げる農民と屍人の間に割り込み、【エレクトロレギオン】で召喚した【機械兵器】に屍人を足止めさせるわ
搭載火器は弱くて効かないでしょうから、10体以上で組み付かせる
1体1体は弱いからあぶれた【機械兵器】もすぐに組み付くことになるでしょうね

「あちらには敵がいないわ。足止めはするから、押さずに駆けずに喋らず戻らず逃げるの。分かった?」(農民に対しての発言)

【機械兵器】が尽きるか、私の近くに農民がいなくなったら攻撃に移るわ
多分その頃には【機械兵器】は1体も残っていないでしょうけど、【念動力】で叩いたり捻ったりしてガンガン攻める


冴木・蜜
この所業、許すわけにはいかない
人々を死なせはしません
私の目の前で、絶対に

限界まで体内毒を濃縮
襲撃を受けている人々がいれば
屍人との間に割って入り
身を挺して庇います

噛みつかれても構いません
どんな生き物も
そのはらわたは柔く脆いもの
喰われた肉体さえも利用し
攻撃力重視で捨て身の『毒血』

私は死に到る毒
故に――触れるだけで良い

彼らも死を…尊厳を踏み躙られた被害者ですから
せめて苦しみは少なくしたい所ですが

まだトドメへと至らないようでしたら
更にその身体に触れて
全て融かし落としましょう

…彼らもこの蘇生は本意ではない筈
ならば跡形も無く
全て還してあげましょう


クラリス・ポー
屍人を兵として増やす為に
毎日を精一杯生きている農民から奪う
命や未来、誰かを大切に想った記憶
沢山の、大切なものを…酷い

安倍晴明、許せないですニャ

ダッシュで急ぎ襲われている農民の元へ駈けつけます
場所が解らなければ
野生の勘と第六感を研ぎ澄まし
家畜に動物と話すで尋ねます

途中水晶屍人と遭遇したり
逃げる農民達を発見次第
ライオンライドで召喚したライオンさんに乗り
農民の間を縫って進み
屍人にタックルして戦います

助けに来ました!と鼓舞
散り散りに為らないで逃げてください
その方が私達も庇い易くなりますと伝えます

屍人の貴方も
大切な人を傷つけるのは望まないでしょう
怖かった、辛かったでしょう
もういいんです
私は貴方を許します




 人々は必死で逃げた。
 息が上がり、足がもつれ、それでも生きる為に走り、追ってくる恐ろしいモノから逃げ続ける。

 けれども走る速度はだんだんと遅くなる。体力のない子どもや老人は尚更だ。すぐ後ろには水晶屍人が迫っている。
 ほんの少し前に誰かが屍人に捕まり、喰われたようだ。助けたかったのに助けられなった。涙がとめどなく溢れて視界が霞む。諦めてはいけない。逃げなくてはいけない。
 なのに、諦めてしまいそうになる。体が限界を迎えているのだ。それでも気力を振り絞って走り続けたが、まるで糸が切れたように足が動かなくなったその時。

 突如、逃げる農民と水晶屍人の間に猛スピードで宇宙バイクが割り込んだ。横滑りしながら急停止し、砂塵が派手に舞い上がる。
「陰陽師だかなんだか知らないけど加減を知らない悪党ね」
 そのバイクに跨った女は言い放つ。エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)だ。
 エーカの宇宙バイクは旧式だ。最初に乗った宇宙バイクを気に入り、以来ずっと使い続けている。それ故に性能はごく平凡だが、エーカの卓越した運転技術によって本来の性能以上の力を発揮する。

 エーカは間髪入れずに【エレクトロレギオン】で機械兵器を召喚した。その数、ざっと200体以上。屍人1人に対して10体以上で組み付き、足止めするように命じた。機械兵器はその命令に従い即座に動き出す。

 ほぼ同時に黒い髪の男も走ってきた。冴木・蜜(天賦の薬・f15222)だ。今まさに襲われそうになっていた少女と水晶屍人の間に割って入り、タールで少々汚れた白衣を翻しながら身を挺して庇う。この所業、許すわけにはいかない。蜜は固く決意していた。
(人々を死なせはしません。私の目の前で、絶対に)

 屍人の鋭い爪の一撃が蜜の肩をえぐる。だが蜜は全く動じず、穏やかな優しい表情で「逃げなさい」と少女に伝えた。少女はありがとうと消え入るような声で言い、よろよろと走り屍人から離れる。

 クラリス・ポー(ケットシーのクレリック・f10090)もまた、襲われている農民の元へダッシュで迅速に駈けつけた。農民達が逃げている場所を特定する為に野生の勘と第六感を研ぎ澄まし、途中で出会った家畜に人々や屍人を見かけなかったかと尋ね、逃げる農民達を素早く発見したのだ。

 ライオンライドで召喚したライオンに乗り、農民の間を縫って進み、襲いかかろうとしている屍人にタックルしてなぎ倒す。そして、「助けに来ました!」と農民達を鼓舞した。
 金色に光り輝くライオンに乗った修道服のケットシーに命を救われた男は、まるで草双紙のようだと目を丸くする。皆の表情も明るくなった。

 茶色の長い髪と可愛らしい髪飾りを揺らしながら、狩人装束を纏った薄荷・千夜子(鷹匠・f17474)も農民と屍人の間に立ち塞がる。
「貴方たちの相手は我々ですよ!」
 こちらの言葉は通じないのだろうとは分かっている。だが、千夜子は農民達を守る為に少しでも屍人の気を引きたかった。先手を打つ為に素早く【干渉術式:護火剣乱】を使い、炎の力を纏わせた短刀【夜藤】を複製し宙へと舞わせ、破魔の力も纏わせて屍人に向けて一気に放つ。その数は46本。
「清浄なる炎を持って、祓いましょう」

 刃銘「よふじ」。藤棚を思わせる彫金の成された鈨を持つ平造りの懐刀は炎を纏い、屍人に降り注ぐ。
 焼かれた屍人はぎゃああと叫び声をあげた。

 農民達は驚きのあまりに言葉を失って猟兵達を見つめていた。必死で「何か」にすがって助けを求めていたが、本当に救いの手が差し伸べられるとは思わなかった。
「あちらには敵がいないわ。足止めはするから、押さずに駆けずに喋らず戻らず逃げるの。分かった?」
「散り散りに為らないで逃げてください。その方が私達も庇い易くなります」
 エーカとクラリスが農民達に伝える。
 はい、と返事をして彼らは逃げていく。
 大丈夫だ、助かる。あの人達のおかげで化け物から逃げられる――安堵のせいか、農民達の足取りは先ほどよりもずっと軽かった。

 Jackという名の軽くて扱いやすい小型ナイフを念動力で屍人に突き当て割って入り、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)も人々を守った。
「……俺なんかは端から殺し合いが好きな、どうしようもない奴だけどさ……」
 綾に礼を言い急いで逃げていく農民達の背を見送りながら独りごちる。
「望まない人にそんなことさせちゃダメだよ。肉の引き裂かれる音なんて、普通の人はそんなもの知らなくていい」

 糸目で人の良さそうな笑顔の青年は、血なまぐさい殺し合いをこよなく愛している。しかし単なる殺人狂とは異なり、力なき者を一方的に襲うようなことはしない。
 だからこそ、この状況は耐え難かった。逃げていく農民達が二度とそのような絶望の音を聞くことがないようにと願う。

「「鳥取の飢え殺し」……やはりサムライエンパイアでも起こったことなんですね。私が知っているのは、日本……UDCアースの歴史ですが、到底言葉にできないような凄惨さであった、と」
 逃げる人々を背に守りながら、風見・ケイ(ヴァイオレット・フィズ・f14457)は顎に手を当て思いを巡らす。UDC事件により退職した元警察官であるケイは、UDCアースの歴史への造詣が深い。あまりにも凄惨なその籠城戦のこともよく知っていた。

 今回は私自身が戦いますと、意思を固めて顔を上げる。慧、蛍、荊。ケイはその身に三人の人格を宿しており、「慧」こそがケイの「私自身」だ。
「……子が、親を。そんなこと、私には許せない」
 その青い右目と赤い左目で、千夜子が放った炎に包まれている屍人達を見遣り、HEAT SINKを構える。対オブリビオン用の地獄の炎を超高熱の光線として射出する愛用のライフルだ。

「ひどい話だね、お腹を空かせて殺すなんて」
 鳥取の飢え殺しの話を、そして目の前の水晶屍人の造られ方を聞き、アウル・トールフォレスト(高き森の怪物・f16860)は悲しみに満ちた瞳で呟いた。足がもつれて転倒した農民に手を貸し起き上がらせ、わたし達が守るから焦らず逃げてと伝える。
 金と緑のグラデーションの長く豊かな髪に、森を思わせる深い緑の瞳。頭部には一対の極太く長い樹木の様な角が生えており、そこには蔦植物が絡まっている。幼い容姿でありながらも、この場に集った猟兵達の中で最も大きな体躯のアウルは、まるで彼女自身が森そのものであるような印象すら受ける。

「かわいそうな人たち……それじゃあ、殺してあげなきゃね」
 ざわりと風が騒いだ。純粋で残酷な彼女は屍人を見つめて動き出す。樹木の様な角に飾られた『高き森』の主たる証の神秘の冠が、カランと音を立てた。


 この場で全ての屍人を撃破すれば逃げた農民達の命は確実に助かる。猟兵達は総攻撃を開始した。

 割り込んだ直後にエーカが召喚した機械兵器は屍人に組み付き続けている。1体1体は決して強くはないが、なにせ数が多い。屍人が苛立ちながら叩き落とし破壊しても、次から次へと無傷の機械兵器が纏わり付いてくる。屍人はあまりの鬱陶しさに喚き声をあげた。
「頑張っているわね」
 搭載火器は弱くて効かないだろうと予想しており、強度を考えてもここまで保つとは思わなかった。エーカは善戦している機械兵器達をとても誇らしく感じた。

 だが、そろそろ残数もほんの僅かだ。全ての農民達が遠ざかったことを確認したエーカは自らも攻撃を開始する。
 身に纏う夜色のドレスとピンクの艶やかな髪がふわりと揺れ、仄かにその身が輝き始める。鍛え上げたサイキックエナジーで全身を覆ったのだ。長い間宇宙船を渡り歩いてきた電脳ウィザードのエーカの得意技は念動力。独自の修練を重ねたその技はあまりにも強力である。念を自由自在に操り、屍人を叩き、捻る。

 エーカの意思による不可視の力に屍人の肩がぐちゃりと潰れ、膝があらぬ方向に捻じ曲げられた。
「ぎゃああああああ!!!」
 叫びながら屍人は地面に倒れ込む。もしも屍人に知性が残っていたならば、触れられてもいないのに、何も見えないのに何故と、ひどく混乱しただろう。

「もう終わりね」
 エーカは息も絶え絶えな屍人を見つめ、静かに念じた。やはり彼女の念の強さは比べる対象がないほどに突出している。ぶつりと、鈍い音を立てながら屍人の胴はいとも簡単に捻じ切られた。
「ぐあああああああ!!!」
 断末魔をあげる屍人。その叫び声は生に執着する人間の本能を感じさせる。そのまま霧散する屍人をエーカは紫の瞳で見つめていた。


 綾は多大なダメージを覚悟して攻撃重視で屍人へと向かった。
(生きたくても生きられなかった恨みつらみ……今は全部俺にぶつければいい)
 眼鏡越しに屍人を見つめる。彼らの境遇を考えると、単なる憎むべき敵だとは思えなかった。彼らも生きたかったに違いない。綾はその想いを全て受け止めたいと思った。

 斬られようが噛まれようが激痛耐性で耐え、Emperor――愛用のハルバードで応戦する。また、ファー付きコートの内側には小型ナイフなど多数の武器が仕込まれており、時にはその武器を素早く取り出し、念動力で宙に浮かべ射当てた。頭部や水晶部などを集中的に狙い、少しでも早く倒せる方法を探る。
 だが敵の一撃は非常に大きい。痛みへの耐性があるとはいえ、相当なダメージだ。それでも綾は血を流しながら耐え続けた。痛みと共に、屍人の悲しみが伝わってくる気がしたからだ。

 屍人が振り上げた腕で力任せに綾を殴ろうとする。大打撃を覚悟した綾だったが、その瞬間、屍人の腕が何かによって弾かれた。周囲に肉が焼け焦げる臭いが立ち込める。
 後方にいたケイが超高熱の光線に変化させた地獄の炎をHEAT SINKで射出したのだ。そのままケイは冷静に反対側の腕も狙う。
「ぐわああああああ」
 両腕に大きな傷を負った屍人は大声で叫びながら、死にものぐるいで目の前の綾に突進してくる。

 自身へのダメージは随分と蓄積された。
 今だ。綾は【レッド・スワロウテイル】を発動させる。
「……おいで」
 綾の言葉に導かれるように何もなかった空間から紅い蝶の群れが突如出現し、彼の全身を覆う。攻撃を肩代わりするその蝶は、負傷の大きさに比例して戦闘力を増強させる。力が漲ってきたことを綾ははっきりと感じた。このまま一気にケリをつけよう。
「ちょっと時間がかかっちゃったけどもう終わりにしようか」

 先程から探っていた弱点――恐らく首筋だ。そこを突くようにEmperorで斬りかかる。斬・打・突全てをこなすハルバードで狙い通りに首を突き、そのまま頭部と胴体を切断する。頭が吹き飛んだ屍人は断末魔をあげ、そのまま地面に倒れて泡のように消えていった。

 ありがとうと、綾はケイに礼を言う。
「お安い御用です」
 ケイは応え、HEAT SINKを構え直す。休む間も無く、次の屍人が襲いかかってきていた。


 ケイは敵から距離を取り、HEAT SINKで撃ち抜き続けた。クールな表情は崩さず、炎による仮初の右腕で引き金を引く。鍛えられた射撃技術故に百発百中だ。

 一般人がある程度は逃げ切れることのできる水晶屍人は、いかにもゾンビといった印象だ。であればと、ケイは遠距離射撃で戦うことを決めた。狙い通りに対オブリビオンライフルでの狙撃はとても効果的だった。

 だが肩を撃ち抜かれても怯むことなく、真っ直ぐにケイに向かって突進してくる屍人がいた。瞬く間に距離を詰められてしまう。
 しかし近接されることも想定内だ。対策は用意してある。

 Trigger Happy――自動詠唱機構を備えた対UDC用の自動拳銃だ。この銃は地獄の炎にも耐えてくれる。
「キミの刑は、犬のエサだ」
 無感情に呟き、仮初の右腕で引き鉄を引けば、地獄の炎を乗せた弾丸がばら撒かれる。地獄の炎は一瞬で獰猛な猟犬の形をなした。
 その猟犬は屍人を喰らい、熾烈なる焔で全てを燃やし尽くす。ほんの僅かな時間で全ては終わり、後には何も残らなかった。

 銃撃し、犬に喰わせることに葛藤もあった。だが彼らは炎で燃やしてやるべきだとケイは考えていた。あまりにも酷い状況で死に、死してなお生かされていた屍人。せめて、荼毘に付したかった。

 黒レザーのシンプルなチョーカーにそっと触れる。何よりも大切な物は、そうするだけで心を落ち着かせてくれる。
 瞼を伏せ、ケイは祈った。
「せめて安らかに」


 角に飾られた神秘の冠が、太陽の光できらりと輝く。アウルは屍人と至近距離で向き合っていた。

「ぐおおおお!!」
 踏み込んできた屍人が鋭い爪でアウルの腕を引き裂いた。
 ん、と小さく声を上げるアウル。血が滴り落ちる。そしてこうなることを最初から想定していたように、ブラッド・ガイストを使用する。アウル自身の血液を代償に、両腕が捕食態に変化する。

 聖痕右腕――スティグマライト――。
 刻印左腕――ドライバーレフト――。

 聖なる傷跡がある右腕と、謎の魔術装置が埋め込まれた左腕は、封印を解かれて真っ赤に染まっていた。捕食態となり殺傷力が増したその両腕の鋭い爪で、今度は逆に屍人を引き裂く。

 屍人は強烈な一撃に大声で呻きつつ、再び自身の爪でアウルを引き裂こうとする。アウルは反撃はあまり気にしなかった。受けた分だけ、回復すればいいのだから。
「……痛いのは、ちょっとイヤだけど」
 ぼそりと呟き、顔をしかめる。屍人が一心不乱に噛み付いてきたのだ。アウルは凄まじい力で屍人の体を両手で掴む。アウルの体軀は屍人よりも数回り大きい為、まるで小さな子どもが母に甘えてしがみ付いているようにも見えた。

 アウルは一度、深呼吸をする。そして屍人に語りかける。
「……ごめんね。わたしは怪物だから、こんなことでしか、あなたたちを終わらせられないの」
 ぽつりぽつりと話す。屍人はアウルに掴まれたまま、その腕から抜け出そうともがき、暴れる。アウルが常に身に纏う大きな純白の布が揺れた。

「一つたりとも無駄にはしないよ。全部平らげて、わたしの糧にして、正しい場所にかえしてあげる」
 真っ赤な両腕に力を込める。そしてそのまま、いとも簡単に屍人を捕食した。頭から、つま先まで、全部丸ごと。

 喰らい尽くした後、両腕は本来の形状に戻った。この世の痛みを引き受け、溢れる光で生命を癒やすアウルの右腕。
 夢見る乙女な性格で、無邪気でありながらも根本が人でない故に残酷で凄惨なバイオモンスターの少女は、確かに屍人の痛みを引き受け、利用されるだけの暗闇から救ったのだ。


 千夜子は再び清浄なる炎を纏う46本の短刀夜藤を複製し、屍人に向けて放った。
 屍人となった人々はもう救うことはできない。彼らも元はごく平凡な人生を歩んでいた人間だ。どれほど辛い目に遭ったのか、想像するだけで胸が苦しくなる。救えるものなら救いたい。でもここで終わらせることしかできない。それがとても歯痒かった。

(本当に許せないことを淡々と仕掛けてくるのですね……)
 悔しさのあまりに下唇を噛む。千夜子はサムライエンパイアの各地を転々と巡る狩人だ。この国を愛している。だからこそ許せなかった。目の前の屍人を造り出した安倍晴明。彼は何故このような恐ろしいことができるのだろう。千夜子には分からなかったし、分かりたくもなった。

 これ以上の被害が出ないよう全力を尽くしたくて、必死にこの場所まで駆けてきた。相手がどのように非情かつ残酷な遣り口で人々を苦しめても、絶対に負けたくない。
 だからこそ、まずは目の前の屍人を全力で迅速に最大火力で浄化しなければ。
(それぐらいしかできることがないのですから――)

「どうか少しでも苦しまずに行けますように」
 もう一度短刀夜藤を複製し、破魔の力と祈りを込めた炎を纏わせて屍人へと放った。今まで以上に熱く激しい炎に包まれた屍人は勢いよく燃え上がる。ぎゃあぎゃあとうるさく喚く間もなく、灰となって消えていった。

 千夜子は屍人の為に祈る。
 己の非力を悔やみつつ、それでもこれからも戦おうと誓った。この国を、たくさんの人々を、救う為に。


 屍人を見つめる蜜の瞳は悲しみに満ちていた。
(彼らも死を……尊厳を踏み躙られた被害者ですから……)

 どんな姿であれ、生きようとしたものは愛おしいと蜜は考えている。だが目の前の彼らは無理矢理生かされている。飢えによる極限状態の中で必死に生き続けた末に、安倍晴明の手により水晶屍人となってしまった彼ら。
「せめて苦しみは少なくしたい所ですが……」
 ぽつりと呟く。それは必ずそうするという決意の言葉でもある。

「蜜さん!」
 クラリスが蜜の隣に並んだ。ふたりは先日、UDCアースの林の中で共に戦っている。
 六角形の魔法青金石に金のベルを誂えた杖形の獣奏器を握りしめ、クラリスも屍人を見つめた。
(屍人を兵として増やす為に毎日を精一杯生きている農民から奪う……命や未来、誰かを大切に想った記憶。沢山の、大切なものを……酷い……)

 涙が溢れそうになる。杖を握る手に力が入り、金のベルが微かに鳴った。
「安倍晴明、許せないですニャ」
 クラリスの言葉に、私もですと蜜は同意した。こうして命を弄ぶモノを許せるはずもない。

「……彼らもこの蘇生は本意ではない筈。ならば跡形も無く全て還してあげましょう」
「はい……」
 とても優しい声で蜜は言った。クラリスはこくりと頷く。

 蜜は向かってきた屍人の攻撃を避けずに受け止めた。既に限界まで体内毒を濃縮させてある。何も知らずに蜜の腕に噛みつき、その肉を強引に食い千切った屍人は突如苦しみ始めた。

 どんな生き物も、そのはらわたは柔く脆いものだと蜜はよく知っていた。そして自らの毒が、その脆いはらわたにどう作用するかも熟知している。蜜は喰われた肉体さえも利用し、攻撃力重視で捨て身の『毒血』――ギフトを贈ったのだ。

 私は死に到る毒。故に――触れるだけで良い。

 致死性の毒蜜は屍人の体内を瞬く間に駆け巡り、内側から溶かしていった。
「ぐおおおお……!!!」
 屍人は口から泡を吹き、地面に転がりのたうち回る。安倍晴明によってはらわたも多少は強化されているのだろうか。まだトドメには至らないようだ。

 蜜はそっと屍人の体に触れる。指が触れた場所から、蜜の毒により全てが溶けていく。痛みも、そして苦しみすらも溶かし、屍人は消えてなくなった。最後は眠るように逝ってくれたはずだ。蜜は瞼を伏せる。

 その様子を見つめていたクラリスは、消えた屍人を想い必死で祈った。
 その時、後方でがさりと物音がした。はっとして振り返ると、そこにはもう一体、屍人がいた。

 クラリスは驚愕した。明らかに自分よりも年下の、小さな女の子の屍人だったのだ。他の屍人よりも弱々しく、あまり戦闘力も高くないようだ。こんな女の子が飢えで苦しみ、屍人に変えられてしまったなんて。きっとこの子の親や兄弟も同じように――胸が締め付けられ、涙がこみ上げてくる。

 既にかなり弱っているようだが、それでも腕を振り上げクラリスを爪で切り裂こうとする。蒼さを帯びた暗色の紫布で仕立てた修道服の袖と、クラリスの腕が少し裂けた。
 ――この子も還さなくては。
 決して助けることはできないと分かっている。クラリスは意を決した。

「屍人のあなたも、大切な人を傷つけるのは望まないでしょう。怖かった、辛かったでしょう……」
 もういいんです。もう……。

「私はあなたを許します」
 苦しませないようにと、クラリスは空中に魔方陣を描き、全力の魔法を発動させる。屍人は砕けるように散り散りになり、跡形もなく消えた。消え去る瞬間、ほんの少しだけ、その子は笑っているように見えた。

 どうして、どうして、どうして。
 あまりにも理不尽だ。そして同時に思う。クラリスはオブリビオンに家族を奪われている。もしかしたら、あの女の子のような人生を歩んだ可能性もあるのだ、と。それは全ての人に等しく存在する可能性だが、妙に身近に感じられてしまった。

 大きく息を吐く。大丈夫。私は大丈夫。クラリスは自分に言い聞かせる。
 蜜はクラリスの様子に気づき、声をかける。とても優しく、穏やかな声だ。
「……必ず安倍晴明を倒しましょう」
 クラリスは強く頷く。そして小さな女の子の為に祈った。


 残る屍人はあと僅かだ。残りも千夜子の清浄なる炎で焼き、エーカの念動力で捻じ切り、全てを撃破した。皆で周辺を捜索したが、撃ち漏らしもない。

 エーカとクラリスの指示に従って農民達は安全な場所に逃げているはずだ。あの鳥取城へ向かうことを阻止できてよかったと、遠くにそびえる城を眺めて蜜は思う。
 綾とアウルも鳥取城を見つめていた。あの場所で今もまた新たなる屍人が造られている。安倍晴明は凄惨なやり方で山陰を屍人で埋め尽くそうとしているのだ。ケイはやはり許せないと思った。普段は滅多に表情を変えない彼女だが、今ばかりは微かに苦い表情をしていた。

 逃げた農民達にもう大丈夫ですと伝えにいきませんかとクラリスが皆に提案した。そうしようと、猟兵達は歩き出す。

 千夜子は空を見上げる。サムライエンパイアの空は高く、青い。彼女が生まれ育った大切な国の、大好きな空だ。
 ――必ず守ろう。千夜子は決意を新たにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月15日


挿絵イラスト