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エンパイアウォー⑰~死人の主人

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #魔軍将 #安倍晴明

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●鳥取城天守閣
「エンパイアの戦も、佳境の趣でありましょうか」
 呟きは、眺めた曇天に溶けゆく。
 この戦争での『業』の蒐集は興が乗らない。それは滞在する世界があまりにも「似ている」からだろうかと思案して、男は首を傾げた。だが、数刻経たずしてその口許は綻ぶ。
 いや、これは私が既に斯様な存在に成り果てたからだ。危機感を覚えないこの状況のために、私自身が飽いている。
 となれば、次は何を仕掛け、感情を奮起させようか。悪戯をこねくり回す童のように歯を見せて笑った男は、漂う人魂みたく屋内へ引っ込んでいった。
 大量の人々が戦場で生死の境目を駆ける現在、退屈そうな男――『安倍晴明』の笑みは、彼らに対する皮肉のようでもあった。

●グリモアベース
「みなさん、お疲れ様です! 魔軍将の一人、安倍晴明の居場所が判明しました!」
 グリモアベースに飛び込んでくるや否や、木鳩・基(完成途上・f01075)は敵の名を口にした。
 陰陽師『安倍晴明』。これまで水晶屍人という死者の成れの果てを召喚し、進軍の壁となる脅威を引き起こそうと試みた。
 急いで手帳を取ると、基は必須な情報を順番に述べていく。
「晴明は鳥取城にいます。……なんか、やけに趣味の悪い場所に陣取ってますね」
 鳥取城には、『鳥取城餓え殺し』という凄惨な過去がある。この城は兵糧攻めに合い、周辺農民を含む大量の餓死者が発生しているのだ。死者の怨念が募り渦巻く気味の悪い要塞、そう噂されるほどだ。祟りに遭いそうな城を拠点に据えているのは、それこそ呪術者の好む死の香りが漂うからだろうか。
 事実、晴明が用いる術にはどれも呪詛が絡んでいる。
「晴明の攻撃手段は主に……呪いを籠めた得物での両断、水晶屍人の大量召喚、印を示した地形を斬ることによる怨霊の噴出、といった感じです」
 そこまで話し、基は静かに言葉を差し込んだ。
「鳥取城内に直接転移しますが……残念ながら、先手を打つことはできません。みなさんには、晴明の術を耐え切った上で反撃に応じてもらいます」
 予知を以ってしても、これは避けられない。この戦いでは、相手の手の内がわかるからこそ、対抗策を用意した上で戦場に向かう必要がある。
 先の風魔小太郎戦、日野富子戦と同様の状況ではある。だが、敵は他の魔軍将と比べても異様さを放つ安倍晴明。対抗と反撃が両者抜かりのないものでなければ、十分な傷を負わせることは難しいだろう。
 基は一瞬不安そうな顔をしたが、それはすぐ笑顔に噛み殺された。送り出す自分が暗くあってはならないという、彼女なりの配慮かもしれない。
「敵将を討ち取るチャンス、モノにしてきてください。それでは、よろしくお願いします!」
 頭を下げてから、基は転送のために力を籠めた。


堀戸珈琲
 どうも、堀戸珈琲です。

●シナリオフレームについて
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●特殊ルール
 陰陽師『安倍晴明』は、先制攻撃を行います。
 これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
 彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
 対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
 対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。

●場所について
 怨念募る鳥取城が舞台です。霊的な何かがシナリオに影響を与えることはありませんが、フレーバーとしてお考えください。
 また、和風建築の構造を利用することは可能ですが、プレイングボーナスの発生に確実に寄与するわけではありません。

●諸注意
 難易度『やや難』であるため、普段より判定を厳しくします。明確な基準はこちらも定めていませんが、「気持ちとして厳しくする」点だけ留意してください。

●プレイング受付について
 マスターページにて随時お知らせします。基本的にはオープニング公開から制限なく受け付けますが、状況によっては締切を設けます。

 それでは、みなさまのプレイングをお待ちしています。
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第1章 ボス戦 『陰陽師『安倍晴明』』

POW   :    双神殺
【どちらか片方のチェーンソー剣】が命中した対象に対し、高威力高命中の【呪詛を籠めたもう一方のチェーンソー剣】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    水晶屍人の召喚
レベル×1体の、【両肩の水晶】に1と刻印された戦闘用【水晶屍人】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    五芒業蝕符
【五芒符(セーマン印)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を斬り裂き業(カルマ)の怨霊を溢れさせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。

イラスト:草彦

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

依神・零奈
……空虚だね何もかも
清明、キミは……いや、やっぱいいや
現世を護る、私の役目はただそれだけ

……五芒符、もし避けたとしても地の利を取られるか
なら、私はあえて避けないで受ける事を選ぶ
清明の攻撃が呪詛主体であるなら恐らく五芒符は呪いの塊の筈
【破魔】の力でそれを相殺しつつ【呪詛耐性】で耐えてみせる
とはいえ直接受けるのも癪だし【情報収集】【第六感】で
符の軌道を読み【破魔】の力を込めた無銘刀で切りつけてみよう

攻撃に耐えられたら敵に次の攻撃を許す前に一気に距離を詰め
UCを発動するよ、毒を以て毒を制す、呪詛には呪詛だ
禍言を放ち【呪詛】で清明を蝕みつつ【破魔】の無銘刀で
連撃を加えるよ




「……空虚だね、何もかも」
 転移して数歩、依神・零奈(忘れ去られた信仰・f16925)はそう零した。
 畳と襖、吊られた照明具が漏らす朧な光を除いて、空間に物はない。
 安倍晴明は、がらんどうの空間に立っていた。透いた水晶が針の山のように肉体から突き出し、情景の一部を映した。
「空虚、ですか」
 虚ろな笑みを顔に張ったまま、晴明は零奈を見返した。後には何も続かない。自身が空虚であるかすら関心の外にある、と示しているようだった。
「晴明、キミは……」
 何かを問おうとしてから、零奈は俯いた。いや、やっぱいいやと呟き、改めて晴明を正面に見据える。
「現世を護る、私の役目はただそれだけ」
 言葉と同時に引き抜いたのは無銘刀。刃先は揺らぐことなく、討つべき敵を捉える。静寂なる決意を今一度宿し、畳を蹴った。
 得物を手にして接近する零奈を前にしても、晴明の表情は崩れない。機械剣を握る一方の手を持ち上げ、人差し指を動かす。指の軌跡には紅が残り、五芒星が浮かび上がる。
「ご熱心なようで。……しかし、果たしてこの世に護るほどの価値はあるのでしょうか?」
 掌が符を叩くと、符は中空へ撃ち出された。
 視界の端に、零奈はそれを認識する。ここまでは予測通り。しかも、駆け抜けても避け切れない速度ではない。
「もし避けても、地の利を取られるか」
 五芒符は床を斬り裂き、山積する業は晴明の力を向上させる。
 それならば。
 零奈は脚を止め、刀を下段に構えた。迫る五芒符を逃さず直視し、自分までの軌道を計る。
「……このまま、迎え撃つ」
 清明の攻撃が呪詛主体だとすれば、恐らく五芒符も呪いの塊のはずだ。忘れ去られようと、己は守り神。呪術への耐性は少なからず備わっている。
 五芒符は真正面から零奈を押し潰さんと飛来する。目を瞑った。視覚に充てる精神力を魔を穿つ力へ変換し、刀身へと流し込む。
 負の感情を前方に一層強く感知した瞬間、刀は振り上げられた。前方を薄く確認する。五芒星の形をした呪詛は直前まで肉薄していたが、刀身に阻まれていた。
 得物を通じ、とくとくと邪気が自身に侵入する。奥歯を噛み締めながら、それでも離さぬように柄を握った。
 微かに、声が虚無の部屋にこだまする。五芒符は二つに分れ、時間をかけて自壊した。
「キミの番だ」
 狙いは視線の先、僅かに呆気に取られたような顔をする晴明。刀を振るって呪詛を払い、零奈は再び畳を蹴って飛び出した。
「帰依の御霊、倦む惰性を絶て」
 そこに次の攻撃を挟ませる暇はない。
 駆ける最中に守護神霊としての風格を纏い、べろりと舌を垂らす。吐き出された言霊――否、禍言は、晴明が防御姿勢を取るより早く到達する。毒を以て毒を制す、呪詛には呪詛を。呪いは彼の身体を縛り、静止させた。
 晴明の眼前に辿り着くと、零奈は無銘刀を振り上げた。
「この世界に護る価値はあるか、と訊いたね」
 刀が縦に振り抜かれる。通常の近接戦では有り得ぬほどの大振りは、晴明の身を抉り、大きく削り取った。
「価値は知らない。任せられた役目を果たす、それだけだよ」
 零奈が告げる。晴明の身体は揺れ、静かに床へと倒れた。

成功 🔵​🔵​🔴​

煌燥・瑠菜

なんだか嫌な感じがしますね……まあ何にせよ、倒せばいいだけですが!

まず先制攻撃に備えますよ!ダッシュ逃げ足で出来るだけで距離を取り
近づかれたらフェイントスライディングで隙を作り懐に飛び込み股の下をくぐる!
見切り残像早業第六感野生の勘も併用しとにかく時間稼ぎです!
その間に全力魔法高速詠唱でヒュドラを招び出します!今日は空気読んで来てくださいよ!

氷の炎や九つの首でゾンビを足止めしている隙にセイメイを狙います!
ヒュドラの頭の一つを踏み付け首のしなりで勢いよくジャンプ!
その勢いのまま翼を広げ攻撃を掻い潜り力溜め鎧砕き怪力を込めた蹴りをそのスカした面に喰らわせてあげます!

邪魔すんなら、ブッとべやー!!




 転移後、煌燥・瑠菜(続き綴る御噺の欠片・f02583)は周囲を見回して眉をひそめた。
「なんだか嫌な感じがしますね……」
 視線は巡り、正面へ。敵対する彼にしても、胡散臭さが感じられた。
 ぱしんと軽く頬を叩いて気を取り直すと、ぎゅっと固く身構える。
「まあ何にせよ、倒せばいいだけですが!」
 瑠菜の視線の先、対峙する晴明は薄く笑う。彼女の言葉尻を捕らえ、その口を開く。
「おや、この部屋はお気に召しませんか」
 チェーンソーを床につける。先端からはおどろおどろしい紋が伸び、畳に貼り付いた。
「では、早々に御退出された方が宜しいでしょう」
 紋は面積を拡大し、次第に妖しげな光を放つ。すると次々に両肩から水晶が生えた屍体が現れた。屍人は無思考に瑠菜へと手を向け、雪崩のように追い始める。
 屍人とその奥の晴明を鋭く見据えながらも、瑠菜は跳んで後方へ退いた。
「逃げ帰る気はありませんよ! ……まずは逃げますけど!」
 くるり方向転換して、とにかく走る。幸いにも部屋は広く、相手の初速は遅い。
 ざっと距離を稼いでから再度背の方を見やる。余裕の程度を確かめ、瑠菜は頷いた。
「来たれ御伽噺よ、私の元に――」
 詠唱の最中にも屍人は距離を詰める。まだ少しなら退避を考えずとも、といった間合いで、肩の水晶が光を散らした。隣接する者同士が融合し、能力は目に見える程に増強される。
 屍人が畳を蹴る。たった一蹴りで瑠菜との間合いを縮め、幾体もが彼女に飛びかかった。
「母より継ぎし――おっと!?」
 最初の何体かを本能的直感で躱し、屍人の群れへ走る。知性は見られない。攻撃を誘発させるよう小刻みに動き、硬直している隙に瑠菜はその股下を滑り抜けた。
 ある程度は持ち堪えられる。だが、いつまで続くだろう。焦燥が瑠菜の発声に力を含ませる。
「漆黒の蛇竜よ! ……今日は空気読んで来てくださいよ!」
 願いを叫び、畳に手を突く。
 不可思議な発光が足下に広がり、全てを吹き飛ばすような鳴き声が轟いた。
 声の方を見上げた。黒鱗は壁の如く聳え、九頭をもたげている。四つ脚は容赦なく屍人を蹂躙し、空間の様相を地獄へ変えた。
 蛇竜ヒュドラ。垂らした首の一つに乗り、瑠菜はその頭を撫でて笑みを零した。
「来てくれましたね! さぁ、ここから反撃ですよ!」
 それを号令と取ったか、ヒュドラは息を吐く。尖った氷が広がり、屍人へ侵食して燃え移る。首も用いて、近寄る者を薙ぎ倒していく。
「ヒュドラ、ここはお願いします!」
 瑠菜が腰を落として構える。ヒュドラは承知と返事するように、勢いをつけて首を前方へ振った。
 最高点に達した瞬間、瑠菜は頭を蹴り、首のしなりも利用して空へ飛んだ。同時に翼を展開すると、屍人の頭上を越えて飛行する。
 眼下に晴明を捉えるや否や、かくんと角度を変えて急降下。諸々のエネルギーを籠め、頭を狩るような軌道で突撃する。
「邪魔すんなら、ブッとべやー!!」
 ヒュドラと同様の、母譲りの暴力性を伴った蹴りはそのスカした顔面へ。破砕音とともに、晴明の身体は後ろへ吹き飛んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

宇冠・龍
由(f01211)と連携

「業」ですか……同じく呪詛を担う者、死霊術士としては見過ごしては置けませんね

(五芒符……避けられるでしょうか)
まずは私から動きましょう
符の速度は未知数ですが、目標地点が私ということなら回避はしやすい筈
大きく跳んで回避します

「死霊術士に対怨霊用の術がないとお思いですか?」
【竜吟虎嘯】にて植物を敵足元から発現させ、その呪詛と怨霊を養分に成長、その上に立つ安倍晴明を拘束し、動きを止めます
力を増せば増すほど植物もその力を吸い取り再生活性化をする特別性
怨霊死霊を使う限り、この植物の檻から逃れることはできません

召喚される屍人も同様。全ては無理でも粗方排除します
由の邪魔はさせません


宇冠・由
お母様(f00173)と連携

お母様が晴明の動きを止めている隙に動きましょう
とはいえ相手も無抵抗という訳にはいかない筈
きっと水晶屍人を召喚してきます

(一番危惧すべきは、屍人同士が合体することよりも、屍人が晴明に取り込まれてより力を増すこと。両肩に水晶がある者同士、もしかするかもしれませんし)

片方の火炎剣を空中へと投擲
【百火繚乱】の奥義にて百へと分裂させ、召喚された屍人それぞれに突き立て動きを阻害

火炎剣はもう一振りありましてよ
私は空飛ぶヒーローマスクにて全身燃えるブレイズキャリバー

空中を全速力で駆け抜け、火力全てを収束した火炎剣を晴明に突き立てます
相手の力を吸いに吸った植物はよく燃えるでしょう




 虐殺された人々の無念と怨嗟、それらを操り使役する安倍晴明。
 転移して即座に目標を捉えた宇冠・龍(過去に生きる未亡人・f00173)は、共鳴に似た感覚を覚えた。
「お母様、どう仕掛けるのがよろしいでしょうか」
 隣でふわり浮かび、宇冠・由(宙に浮く焔盾・f01211)は尋ねた。愛らしい茶ウサギマスクの外観のまま、奥に控える敵を観察する。
「私が先行します。隙が生じたら、由、あなたが高火力攻撃を叩き込んでください」
「わかりました。……お気を付けくださいませ」
 指示を了解し、由は本体のマスクから炎を噴出させる。不定形な火炎は徐々に具体性を持つ形状を取った。人体が形成されると数刻後には焔一色のドレスを纏い、長い後髪が熱に揺れる。両手には火炎剣が握られ、地獄の炎は煌々と燃えた。
 由が戦闘態勢を構築する間、龍は晴明へ肉薄する。一歩ごとに瘴気のような霧を跡に残し、着実に距離を詰めていく。
「『業』ですか……同じく呪詛を担う者、死霊術士としては見過ごしては置けませんね」
 責務として心に宿し、敵を凝視する。晴明はせせら笑うだけだった。
「同じ生業の御方でしたか。役割を代行していただけるならば、私も大々的に余興へ乗り出せるのですが、いかがでしょう?」
 乗るはずのない誘いを吐き捨てながら、指先で紅い線を引く。やがて五芒星の符は完成し、速度を載せて撃ち出される。
 五芒符を目で追って、龍はその速度と到達地点を算出する。不安ではあるものの、避け切れない術ではない。
 脚に力を籠めた。直撃する寸前で大きく後方へ跳び退くと、五芒符は龍の眼前へ落下して畳に張り付いた。
 だが、そこで終わりではなかった。五芒符は線に沿って床を刻む。傷からは城に蓄積する業が溢れ返り、濁流みたく空間を冒していく。当然、それは晴明の足下にも流れ込む。
「愉快ではありませぬか。ただの切り傷でこうも溢れるとは」
 晴明は前へ歩み出た。同時にチェーンソーが起動し、けたたましい唸り声を散らす。
 モーター音に消されぬよう声を張り、龍が切り返す。
「賛同しかねます。悲痛な魂ほど、鎮めて動かすべきではありませんから。それと――」
 晴明の脚の下に時計版に似た陣が生じる。発現したのは、全体の透けた若い芽だった。
「死霊術士に対怨霊用の術がないとお思いですか?」
 芽は漂う業を吸い上げ、段階を跳ね飛ばして急成長を果たす。恐ろし気な雰囲気で佇み枝葉をしならせるのは、呪詛と怨霊を養分に育つ植物の霊。真上に立つ晴明を巻き込んで絡め取り、動作を封じ込めた。
 回転する刃が枝の一部を斬り落とす。しかし植物霊は晴明自身が纏う邪気を取り込み、新たな枝を茂らせた。
「怨霊死霊を使う限り、この檻から逃れることはできません」
 再生、活性化。晴明が怨念を糧にする程に幹は拡張し、全長を伸ばしていく。
 そしてそれは事実上、晴明の脱出を不可能としていた。
「由、今です」
「畏まりました!」
 合図に応じ、由が宙を舞って晴明へ迫る。彼女の身体となる炎は音を立てて弾け、空気を汲んで燃焼する。
「なるほど、面白い」
 身動きの取れない状態でもなお、晴明は笑みを作った。自身と由たちの間には紋が広がり、植物霊の成長など構わず、妖気に満ちた光を放つ。
「ならば、より手の内を露見させてみたくなりました」
 ぞろぞろと、水晶屍人が紋より出でる。由と龍の二人をばらばらに囲み、晴明へのさらなる接近を阻んだ。
 とはいえ、召喚による抵抗は読めていた。
「ではお望み通り、この場を打開してみせますわ」
 由は一方の火炎剣を高く上へと放り投げた。
 燃える剣は火の粉を炸裂させ、散った火が膨れてまた剣へと変わった。焔は分裂を何十にも繰り返す。パチ、という燃焼音が多重に鳴った。
 今や火炎剣は百に分裂し、空間の全てを照らしていた。
「ごめんあそばせ。通してくださる?」
 礼儀正しい言葉と同時に、鋭利な火炎が屍人の群れに降り注ぐ。無駄なく、精密に屍肉を貫き、焼いては灰に変えていく。炎は尽きず、延々とその嶺を崩すことなく炎上する。
 殆どが場に固定されたと判断し、龍は一帯を撫でるように腕を動かした。あの時計版の陣が屍人の真下に出現し、瞬く間に植物が突き出した。屍人は言うまでもなく、死霊の塊。根は肉体を縛り、養分として活力を奪い取る。
「由の邪魔はさせません。……行きなさい!」
「ありがとうございます!」
 見れば、取り囲んでいた屍人の多くが行動不能となっている。晴明が屍人を吸収するような兆候は見当たらない。最も危惧していた事態は杞憂に終わったらしい。
 さて、火炎剣はもう一振り残っている。そして自分は空飛ぶヒーローマスクにて、全身燃えるブレイズキャリバー。
「こうなってしまえば、話は簡単でしてよ」
 可憐なドレスが火を吹き、火花の渦を巻いて宙に躍り出る。火炎を噴射して推進力に変えれば、一気に空中を突き進む。
 晴明の頭上。有する炎の最高火力を火炎剣に集合させる。
 速度を伴った降下の直前、由は静かに言った。
「その力を吸いに吸った植物はよく燃えるでしょう」
 焔が晴明に突き立てられる。爆発に近い激しい引火が連続して発生し、炎は炎々と燃え盛った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

塩崎・曲人
ハッ、雑魚は手下任せってか
「今に吠え面かかせてやるぜ」

ゾンビの群れか
合体されるとクソ面倒だな
「じゃー端からぶっ潰しますかね」
奴ら知能ゼロゾンビだから、あえて突っ込んで同士討ちを躊躇わせる作戦はナシだな
呑み込まれないよう動き回って機動力で翻弄、迫ってきた順に各個撃破しかねぇ
逆に【フェイント】にはかかりやすいし
【地形の利用】とかもして、プチプチ潰していこう

(死ぬほど体力使わされた気もするが)ある程度掃討したら
こっちも切り札カマしてやんよ
「めっちゃやりたくない手だが、まぁ背に腹は代えられんよな!」
ゾンビに追っかけられる曲人君をのんきに見物してるあのスカしたツラに
一発ぶち込んでやるよ

【アドリブ歓迎】




 転移直後、塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)は正面に敵の姿を捉えた。
 安倍晴明の身体にはいくつか傷が刻まれていた。猟兵たちから猛攻を受けたらしい。
 鉄パイプを肩に担ぐ。開口一番、喧嘩を売る不良みたく、曲人は吹っかけた。
「陰陽師君よ、調子はどうだい? 随分とボロボロみてぇだけど?」
「……程々。私の心の動きは、まだ満足とはいえませぬ」
「余裕かよ。なら、俺がブッ叩けば上手いこと連動して、心もグラッとと動くかもなぁ」
「そうであれば、どんなに愉快か。しかし、その必要はありませぬ」
 晴明は袖で口許を隠して笑うと、畳に大和式の魔術陣を展開させる。鈍い光が空間を捻じ曲げ、肩に水晶が生えた屍人たちが喚び出された。
「ハッ、雑魚は手下任せってか。今に吠え面かかせてやるぜ」
 舐められた、そう感じ取った。彼の瞳で闘志が燃えるのと、屍人が一斉に襲いかかってくるのはほぼ同時だった。
 後方へ退避し初撃を躱す。相手はゾンビの群れ。合体する特性を持つそうで、そうなったらクソ面倒だ。
「じゃー、端からぶっ潰しますかね」
 気怠く言い捨てる。時間と体力を使う手段だが、致し方ない。
 屍人は縋るが如く寄ってくる。背後に回られないことだけ警戒しつつ、パイプを前に持つ。群れの先頭を横薙ぎにフルスイング。かっ飛ばされ、死者の身体は宙で回転してから落ちた。 
 奴らの知能はゼロ。突っ込んで同士討ちを躊躇わせる作戦はナシだ。機動力が勝るなら、プチプチ地道に潰していくのが確実だろう。
「ホラ、曲人君はここだぜ! その足で追えるなら、取って食らってみやがれ!」
 隙を見せた個体から一体ずつ狩っていく。
 敢えて間のある動きを突然に切り替え、追いつけず固まった隙に頭を潰す。
 あるいは、柱に背を寄せ、角で待って強襲。または、襖や畳を外して上から被せ、連続で殴りつける。
 ぶっ続けで動いたことで汗が噴き出した。息を切らし、膝に手を当てて状況を確認する。
 屍人は半数以下に減っている。
 曲人は口許を緩めて笑みを零すと、懐に手を入れた。
「さーて、反撃開始といきますか。こっちも切り札カマしてやんよ」
 その宣言に、奥に待機する晴明はまた口を隠して笑う。
「おや、強がりは止めておいたほうが宜しいかと――」
「ひっくり返すくらいヤベェから切り札なんだよ!」
 懐から取り出したのは、栓のされたフラスコだった。内部の液体は鮮やかな色が混ざり合い、未だに混沌としている。
「めっちゃやりたくない手だが、まぁ背に腹は代えられんよな!」
 キュポンと栓を外し、液体を口から身体に流し込む。毒を飲んだような表情をした後、吐血。しかし、曲人は震えながらも鋭い歯を見せた。
「ゾンビに追われる曲人君を眺めるのは楽しかったか? ……そこを動くんじゃねぇぞ!」
 畳を蹴る。瞬発力が圧倒的に上昇しており、数の減った屍人の群れのど真ん中へ一気に入り込んだ。鉄パイプを握って大回転。暴れ馬が如く一度に殴り飛ばし、勢いのまま晴明へ迫る。
 大跳躍、そして両手持ちした鉄パイプで狙うは顔面。
「最初の通り、一発ぶち込んでやるよ!」
 とっておきの一撃が炸裂する。体勢を崩して倒れる晴明を見届け、曲人は息を吐いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

空廼・柩
飢え死にした人達を更に酷使するとは恐れ入る
…退屈してるなら少し付き合ってよ

屍人の数は推して測るべし
正攻法だといつまでも晴明に届かなさそう
【咎力封じ】で屍人を拘束後、力任せにぶん回して範囲攻撃
倒すに至らずとも怯ませは出来るんじゃない?
途中まで拷問具を盾にして移動
晴明近くに来たら拘束具を仕掛けた直後に手離す
そうすれば拷問具近くに俺がいると思わせられるんじゃない?
兎に角敵の注意がそっちに向けば良い
後は目立たないよう建物や敵影の死角を縫いつつ
手早く晴明の死角に近付き、だまし討ち、暗殺の一撃
…部位破壊で腕の一本でも奪えたら御の字だけれど
贅沢言わず強めの一撃与える事を与える事第一で
…ねえ、少しは楽しめた?




 此度の戦争では、奥羽と山陰に死者が溢れたと聞く。この鳥取城も殺戮を経験している以上、グリモアが伝えた水晶屍人の召喚とは、そういうことなのだろう。
 飢え死にした人達を更に酷使するとは恐れ入る。半ば呆れながら、空廼・柩(からのひつぎ・f00796)は安倍晴明を見た。
 傷だらけだが、まだ満足するほど心を揺すられていないらしい。
「……退屈してるなら、少し付き合ってよ」
 棺型拷問具から伸びる鎖を掴む。じゃらりと音が鳴った。
「それでは、手合わせ願いましょうか。血を浴びるのは、私ではありませぬが」
 遊びの誘いを断るような軽さで晴明は返すと、慣れた手つきで畳に陣を開く。数秒経たずして柩の視界は歪み、気が付けば大量の水晶屍人が空間を埋めていた。
 数を推して計る。だが、すぐに首を横に振った。正攻法だと、いつまでも晴明に届かなさそうだ。そう思案している間にも屍人はこちらへと迫っていた。
 被さるように襲いかかった敵一体の腹に肘打ちを入れる。動きを止めた屍人を縄で即座に拘束し、余った縄を拳に巻いた。
「とにかく、進んでいくしかないか……」
 縄が締まったことを確認してから、屍人を力任せにぶん回す。何体かが巻き込まれて床に倒れる。致命傷には至らなかったが、本能的に屍人は後ずさった。そうして生まれた隙間に割り込み、柩は拷問具を構える。
 だが、接近すれば手を掛けようとするのもまた本能。飛びかかってくる個体を棺で防いで前進。棺越しに衝撃を与えて振り払った瞬間に次が来る。反応はこちらが優っているが気は抜けない。
 しかしそれでも、柩はゆっくりと晴明に近づいていく。
 目視で晴明を確認する。感情を希釈して貼ったような表情で、追い詰められる自分を眺めている。
 それでよかった。
「悪いけど、黙って呑まれるほどお人好しじゃないんでね」
 一方向に狙いを定める。拷問具を立てて突っ込むとその扉はがばりと開き、複数体が中へ誘われた。
 機構内部の針が肉を貫き、取り付けられた灯は蒼い光を零す。暴れる屍人を無視して棺の扉は閉じた。なおも抵抗は続いているらしく、未だに拷問具は震えている。
 けれど、処理したのはたった数体。残る何十体もの屍人が柩へ躙り寄る。選択肢は少ない。咄嗟に柩は拷問具の裏へ隠れた。
 しばらくの間、屍人群が場を踏み荒らす。理性なく掻き乱し、彼を象徴する棺が揺れる。
「結局、威勢だけでしたか」
 勝敗は決した。そう思った晴明はため息をつき、顛末を見届けることにした。
 標的を失った屍人が棺から離れていく。完全に静止したその拷問具の後ろには、何もいなかった。
「こっちだよ」
 声は背面から聞こえた。
 素早く振り返った晴明の胸に刃が突き刺さり、下へと切り開く。
 腕狙いだったが僅かにズレた。ナイフを弄び、柩は漫然と問いかける。
「……ねえ、少しは楽しめた?」
 敵の死角、柱や戸の陰。影の薄さによってそこを移動し、背後へ移動した。派手な演舞も役立ったのだろう。
 傷に手を当て、晴明は笑い声を挙げて崩れる。歓喜か、もしくは発狂か。どちらにせよ、一撃加えて清々した柩にとって、そんな狂人の世迷言はどうだってよかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユウナ・フリューアー
ヘクターさん(f10966)と連携。アドリブ歓迎

私の知っている安倍晴明は陰陽師でチェーンソーとか持ってないです......そんなの関係ないですが

相手の先制は【爆破魔法陣】に魔法で更に威力上乗せして召喚されたのを吹き飛ばす。仲間巻き込まないよう爆風に少し指向性持たせつつ敵の撃ち漏らしは普通に魔法付与した剣で斬りに行きます

爆風が消える前に晴明に剣もって斬りかかる。多少のダメージは気にしない方針で。私の剣じゃ通らない?

知ってます。剣で斬りかかるのは囮。オーラ防御しつつ高速詠唱で私の魔力全部使った魔法浴びせてやります。この至近距離じゃ流石に外しませんよ。相討ち上等ですから


ヘクター・ラファーガ
ユウナ・フリューアー(霊集いし氷の竜・f07259)と連携

コルテスとはまた違う雰囲気だな。コイツも何かを探してるのか。まあそれはどうでもいい。
山陰に屍人をまき散らした罪、ここで受けて死ね。

チェンソーの一撃を大剣で防ぐ。その後二撃目が来るはずだ。二撃目が襲い掛かる瞬間にワイヤーを射出させて隙を作り、ジャンパーを素早く脱いでチェンソーに巻き込ませる。繊維が絡まって鎖が動かなくなりゃ、そりゃただのデカいノコギリだ。
上手くチェンソーを無力化できたら『自壊する不死の剣』を発動して乱舞。ヤツの体が木端微塵になるまで暴れよう。

【アドリブ・絡み歓迎】




「私の知っている安倍晴明は陰陽師で、チェーンソーとか持ってないです......」
 敵を見据え、ユウナ・フリューアー(霊集いし氷の竜・f07259)は思わず零した。翼みたく生えた水晶に機械剣。首を傾げたまま、違和感は飲み込めないでいた。
 その脇に立ち、ヘクター・ラファーガ(風切りの剣・f10966)も観察に徹する。そのうちに、予兆を回想した。
「コルテスとはまた違う雰囲気だな。コイツも何かを探してるのか」
 無礼さはかの渡来人と同一だが、根本的に毛色が異なっている。その目的も甚だ不明瞭だ。
 まあ、それはどうでもいい。何にしろ、倒すべき相手なのには間違いない。
 一度目を閉じてから標的を睨む。その場で大剣を展開すると一振りして、四角い刀身を肩に担いだ。
 ユウナも同様に身構える。結局違和感をどこかへ吹っ飛ばしてから、彼女はヘクターに囁いた。
「予知が正しいなら、私を狙って屍人が来ます。何とかしますから、後に続いてください」
「了解だ。後ろは警戒しなくていいぞ」
 その返答に頷き、ユウナは前だけを見て走り出した。
 距離を詰める猟兵二人を眺め、晴明は口を結んだ。猟兵の怒りを心身で感じ、情感は満たされつつある。だが、あと欠片ほど足りない。
「一体何故にそう奮起して踊れるのか……一つ、私に見せてください」
 全身に負った傷を指でなぞってから、指先は床へ。呪いの紋章が畳へ広がり、空気は淀んで曲がる。何十体もの水晶屍人が二人の前に立ち塞がった。
 先行していたユウナを獲物に定め、屍人は手を伸ばす。
 しかしその手が届くより早く、魔法陣が群れの足下に開いた。
「来ましたね。でも残念、あなたたちに構ってる時間はありません」
 十分引き付けたかなと思考し、バックステップを踏む。着地と同時に更に陣へと魔力を流し込み、威力の向上と指向性付与を図る。瞬間、屍人の下方で光が生じた。
「危ないですよ? そんなところにいると」
 円形の爆炎が敵を呑み、火炎の内へと包む。爆発は魔法陣の図形を遥かに超えて安全圏を侵食し、光と熱で焼いていく。
 黒の短剣を握り締め、爆風が止まぬうちに駆ける。刃に魔力を宿し、撃ち漏らした屍人を斬り捨てながら晴明の元へ。
 ユウナは火炎を突っ切り、凶刃を思い切り振りかざした。肌や服の一部が焦げたが、関係ない。
 だが、決死の攻撃もチェーンソーに防がれる。刃同士が押し合い、鋭利な音がした。
「魔術を利用した突入、非常に愉悦的でありました。しかし、刃の筋は半端。そのような剣が届くはずはありませぬ」
「半端、ね」
 その単語に眉が動く。しかしそれとは逆に、ユウナはニィッと口の端を緩めた。
「知ってます」
 剣を持たぬ手をかざして高速詠唱。残存魔力をありったけ注ぎ込んだ一発を至近距離から放つ。相討ち上等、この距離なら外さない。
 轟音が響いた。反動で吹き飛ばされながらも、防御結界を張って一大事を回避する。
 床を転がってから、霞む視界で晴明を捉える。立ってはいたがふらつき、身体の前面が削れていた。
「ヘクターさん、後は任せました!」
「言われなくても分かってる!」
 爆破の煙が舞う空間を突っ切り、ヘクターが大剣を振りかぶった。剣を先に振れると思った矢先、やはり先手を取ったのは晴明。即座にチェーンソーを起動すると、一方を刺すように振りかざした。
 姿勢を崩し、防御に専念する。大剣の側面で回転刃を凌げば、もう一方の刃が振られるのを察知した。
「勢いで打ち壊そうとしたようですが、甘さがあります。故に、斬られるのです」
 刃には呪詛が絡み、回転により怨嗟が重ねて巻かれている。一方を耐えるヘクターに差し込むようにして、チェーンソーは下された。
「あながちその甘さは、何かのブラフだったりするかもな」
 言葉とともに射出されたのは武器回収用のワイヤーだった。晴明の顔目がけて飛び、反射的に顔を背けさせる。隙を突いて大剣を蹴って均衡を壊し、防戦一方の状況から脱する。同時に素早くジャンパーを脱ぐと、迫っていた二撃目の刃に巻き込ませた。
 布を噛んで繊維が絡み、鎖はまともに動作しない。チェーンソーの一本は不良品に陥った。
「そりゃ何だ? ただのデカいノコギリじゃないか」
 乱雑に言い捨て、改めて無骨な大剣を構える。
 得物に異能の力を流し込んで、まずは一発。晴明は片手の機械剣で受け止めようとするが、質量が違う。正面から成す術もなく叩き潰される。
 元より秘めていた殺意が放出される。鋭く睨み、冷酷に告げる。
「テメェが壊れるまで、俺は砕き続ける」
 大剣は連続で振り下ろされた。緩急を付けるなど拷問めいた所業はなく、破壊を指示された機械のように淡々と打ち下ろす。殴り続けるうちに剣が砕けることもあった。その度に剣は再生して完全体に戻る。破砕は永続的だった。
 攻撃を受け続けながら、晴明は思う。何故不死でもない猟兵たちの怒りが我が身を上回るのか。何故無間で攻撃を加えるうちに勝機を掴めると信じ、何度も挑みかかるのか。それで勝利が約束されているなら良いが、そんなことはないだろう。実に不可解だ。
 不可解だが、趣深くもあった。
「山陰に屍人をまき散らした罪、ここで受けて死ね」
 重い斬撃が、晴明を屠った。

 果たして、彼の鬱屈が晴らされたのかは分からない。
 ただこの勝利は、彼を骸の海へ完全に還すことに繋がっている。それは確かだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月18日


挿絵イラスト