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エンパイアウォー⑰~戯れに、指をさして

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #魔軍将 #安倍晴明 #シリアス

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●呟きに期待は乗せられているのか
 ――猟兵とやらの怒りは、果たして、どれほど私の心を動かすものやら……。

 およそ陰陽師という言葉からは想像できない姿をした男は、そう呟いた。


「うぅん……うーん……」
 グリモアベースにて、ひとりで何やらうめいている少女がいた。銀の髪を一部編み込み、サークレットと髪飾りをつけた彼女はふう、と深く息をつく。
 次の瞬間、ばさぁっと広がったのは真白き翼。彼女の髪に咲くのは、花弁が多重に重なったタイプの桃の花。
「まずは、来てくれてありがとう」
 少女――グリモア猟兵の神童・雛姫(愛し子たる天の使い・f14514)は、香水瓶型のグリモアを掌の上に浮かべ、集まった猟兵たちへと声をかける。
「行って欲しい戦場があるの」
 その言葉とともに、彼女の背後の景色が変わっていく。
「サムライエンパイアの鳥取城よ。今は戦国時代に鳥取城で餓死した人々の怨念が渦巻いている……そこに、安倍晴明がいるわ」
 怨念は目に見えないと思うけれど――そう告げたものの彼女が否定の言葉を紡がぬのは、見えなくともそれを感じる者がいるかもしれないという配慮ゆえか。
「はっきり言うわ。安倍晴明は強敵よ。私は皆さんを、鳥取城の敷地の中にいる晴明の近くへと転移させることができるわ。けれどもそれでも、晴明は皆さんの先手を取ってくる。だから、対策をしっかり考えておかないと、晴明に傷を負わせることすらできないかもしれない」
 注意してね、と雛姫は告げた。
 そんな雛姫は、再び「うーん」とうなり、小さく首を傾げる。
「なにかしら、こう……あまり強烈な勢いみたいなものは感じられないのよね」
 それでも、彼が強敵であることは揺らがない事実だ。だから。
「皆さんが無事に帰って来るように、祈りの歌を紡いで待っているわね」
 そう告げて、雛姫は微笑んだ。


篁みゆ
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
====================
 陰陽師『安倍晴明』は、先制攻撃を行います。
 これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
 彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
 対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
 対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
====================

 こんにちは、篁みゆ(たかむら・ー)と申します。
 はじめましての方も、すでにお世話になった方も、どうぞよろしくお願いいたします。

 出さねばならぬ、そんな指令を骸の海から受けた気がします。

●難易度について
 強敵相手ですので、高難易度として厳し目に判定いたします。苦戦や失敗でお返しすることが多くなるかもしれません。

●採用について
 通常はできる限り採用を心がけておりますが、戦争シナリオであることも鑑みて、状況次第ではプレイングをお返しさせていただく可能性もございます。

●プレイング再送について
 プレイングを失効でお返ししてしまう場合は、殆どがこちらのスケジュールの都合です。ご再送は大歓迎でございます(マスターページにも記載がございますので、宜しければご覧くださいませ)

●お願い
 単独ではなく一緒に描写をして欲しい相手がいる場合は、お互いにIDやグループ名など識別できるようなものをプレイングの最初にご記入ください(今回に限っては、お相手とプレイング送信時間が大幅にずれた場合、プレイング締切になってしまう場合もあるかもしれません)
 また、ご希望されていない方も、他の方と一緒に描写される場合もございます。

 皆様のプレイングを楽しみにお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『陰陽師『安倍晴明』』

POW   :    双神殺
【どちらか片方のチェーンソー剣】が命中した対象に対し、高威力高命中の【呪詛を籠めたもう一方のチェーンソー剣】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    水晶屍人の召喚
レベル×1体の、【両肩の水晶】に1と刻印された戦闘用【水晶屍人】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    五芒業蝕符
【五芒符(セーマン印)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を斬り裂き業(カルマ)の怨霊を溢れさせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。

イラスト:草彦

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 グリモア猟兵の転移によって到着したのは、鳥取城の一室のようだった。
 日本の城は往々にして欧米の城ほど天井が高いわけではなく、廊下も広いわけではない。部屋の広さも特別な部屋を除けば、それほど広い部屋ばかりでもない。
 と、いうことは――目的とする男との距離はそう、離れていない。
斬断・彩萌
有名な陰陽師だっていうのは知ってるけど、何を為したかまでは知らないのよね
たとえ相手にやる気がなくてもこっちは殺る気満々だから、勢いで勝つわよ!

●POW
どんな強力な攻撃だって、当たらなければ意味がない
絶対に先制されると分かってるなら、それを【見切り】できるように全力で回避
一発目さえ外せれば……ってのが第一の策。流石にそれだけで強敵に挑んだりしないわよ

躱せそうにない速さなら【武器受け】で迎撃の体勢をとる
多少だけど【激痛耐性】を持ってるし、まぁ気合いで受け止めてやるわ!

先制攻撃を何とかしたら、【クイックドロウ】で素早く敵の急所を狙い、『殺界壱式』を使用
さぁ、死になさい!

※アドリブ歓迎


忠海・雷火
私達は、貴方の暇潰しには付き合わない
速やかにお還り願おう


人型なら、動き自体は人と大差ないと見た
戦闘知識で動作や体捌き等から軌道を予測し、初撃の見切りを図り反撃に転じる
とはいえ力も速度も相当に高い筈、躱せなければ刀の側面で咄嗟に武器受けを試み直撃を避ける
そこから受け流せれば良いが、細かい刃相手では厳しいか

その状態を維持しても恐らく押し負けるか、刀をも命中した対象と見做されたなら二撃目が放たれ諸共叩き斬られるか
故、前者なら一撃貰う覚悟で左手を刀から離して敵を掴み。後者なら刀は完全に捨て、敵の懐に捨て身で飛び込みユーベルコード使用
二撃目が先に来るなら右腕を盾に、呪詛耐性と激痛耐性も併用し一瞬を稼ごう



 現れた猟兵達の姿を見ても、その男は眉ひとつ動かさなかった。ただ、その背の水晶がまるで翼であるかのように猟兵たちとの距離を滑るように詰め――。
(「速い!!」)
 そう感じたのは、別人格のカイラが表面化している忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)だけではなかった。隣に立つ斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)もまた、同じ。
(「どんな強力な攻撃だって、当たらなければ意味がないわ」)
 絶対にあちらが先に仕掛けてくるとわかっているのならば、それを見切ることに全力を注ぐ――チェーンソーの一撃目さえ外せれば――そう考え、迫りくる安倍晴明の動きを注視する彩萌だったが、さすがにその策だけで強敵である晴明へと挑みに来たわけではない。
「っ……!!」
 強敵との戦闘は、一瞬の迷いが明暗を分ける。ひとつの判断を誤れば、そこまで積み上げてきたものやこの後の予測が狂う。
 避けきれない、そう判断した彩萌は『防ぐ』という強い意志と精神力でもって『Oracle』を顕現させた。

 人型ならば、動き自体は人と大差ないだろう――そう考え、晴明の一挙手一投足を見逃すまいと集中する雷火。その手には『銘なき刀』が握られている。
(「さすがの速度だ」)
 躱すのは難しいか。そう判断して刀を持つ手を動かす。

(「横か!」)
(「下からっ!!」)

 近づいてきたチェーンソー剣の駆動音。予備動作を殆ど見せなかった晴明のその動きをギリギリにでも察知できたのは、雷火と彩萌、ふたりが彼の攻撃に対して神経を研ぎ澄ませていたことと、これまで積み重ねてきた戦闘経験のおかげだろう。
 晴明の持つ右のチェーンソーは横薙ぎにするように雷火を、左のチェーンソーは下から上へと彩萌の足を狙って。

 ガギッ……!!

「……ほう」

 だがそれは、ふたりの持つ刃にて受け止められた。チェーンソーの刃が受け止められた部分をなお削り取ろうと回転し、耳障りな音を立てる。だがその嫌な音の中でも、晴明が漏らした声は、ふたりの耳に届いていた。
「っ……有名な陰陽師だっていうのは知ってるけど、何を為したかまでは、知らないのよねっ……」
(「くっ……流石に重い」)
 受け止めたチェーンソーから感じる重みは、チェーンソー自体のものだけではない。そのまま押し切らんとする彼の力は強く。手に走った衝撃による痛みに耐えながら、彩萌は近づいたその男の顔を見上げた。
「……たとえアンタにやる気がなくても、こっちは殺る気満々だからっ……」

「なるほど憎しみに満ちた、愚かにも諦めぬヒトの顔、というところでございましょうか」

「っ……!!」
 どう好意的に解釈しようとしても、明らかに侮蔑と嘲りに満ちたその言葉。煽りなのかただの分析なのか、その冷めた声からは判別できぬけれど。けれどもそれは、彩萌の殺意を燃え上がらせても余りある。
(「何とか、押し返すか、刃を引かせる事ができればっ……」)
 両手を使って『Oracle』を持ち、チェーンソーを受け止めている状態の彩萌。少し、だけでいい。ほんの僅かでいいのだ。機が、あれば――。

 両手で柄を握り、剣先を下方に向けるようにして横から狙い来たチェーンソーを受け止めた雷火。
(「ここから受け流せれば良いが、厳しいか」)
 一般の獲物であれば、力や技術で受け流すことも雷火には容易かろう。さりとて今の相手はチェーンソー剣。小さな刃が回転するごとに、雷火の持つ刃と触れ合う部分で火花が明滅している。受け流そうにも細かい刃が常に回転している状態では難しそうだ。ぎりぎりと、その細身の体躯からは想像し難い力で目の前の男は押し切ろうとしてくる。それも両手に持った獲物で、二人を相手にしながら。
 しかしこのように受け流せぬ状況になることも、雷火は予想していた。ならば、考えていた策をとるのみ。

「崩す」
「……!!」

 その呟きは、彩萌への合図。晴明から視線も意識も離すことはできない。それをすれば押し負けてしまう――そんな状況の彩萌の耳に、ほんの一瞬、音の合間にそれは届いた。
 その直後。
「私達は、貴方の暇潰しには付き合わない」
 柄を握っていた左手を離せば、当然力の均衡が崩れる。晴明のチェーンソーが雷火との距離を詰めるように迫ると同時に、彼の身体もまた、そちらへと傾いて。
「速やかにお還り願おう」
 その近づいてくる身体に自ら距離を詰めた雷火は、彼の腕を掴み、引く。彼を引き寄せたのか己が近づいたのか、それは些末なこと。流れるように晴明の懐に入り込んだ彼女が喚ぶのは、時空の歪み。

「骸の海よ、零れた落とし子を再び抱け」

 時空ごと身体を捩じ切る一撃が、晴明を襲う。だがそれに対抗するように繰り出されたチェーンソー剣が、雷火の横腹から背中にかけてを無慈悲に引き裂いてゆく。
「う……ぐっ……」
 回転する刃が血を吹き飛ばし、肉を穿っていく。激痛と徐々に深まる傷に唇を噛み締め耐える。一撃を覚悟していたとはいえ、二撃目が来るとしたらどこまでいけるか。
 戦いながらも常に先を、あらゆる可能性を考えるのが戦いに身を置く者というもの。
 だが雷火の予測は、いい意味で裏切られた。

 晴明が雷火の身体を捉えたのは、『最初に雷火を狙った方のチェーンソーではない』のだ。

 つまりそれは、彩萌にとって十分すぎるほどの時間だった。
 自身が受け止めた刃にかかる力の均衡が崩れたのは、短い合図ののちに雷火が動いたから。
 その一瞬でこの後の『力の流れ』を読んだ彩萌は、晴明の刃を受け止めていた『Oracle』から手を離した。それは、受け止めることを諦めたから――ではもちろんない。
 彼女が代わりに手にしたのは『Devastator』。読み通りに晴明の意識と力が雷火へと向かっている――否、彼女がそうなるように仕向けてくれた。
 だから、彩萌は。
 素早く狙いをつけて――。

「さぁ、死になさい!」

 的は大きく動きはしない。彼女がそうなるように、留めてくれているから。
 ならば、射撃を得手とする彩萌にとって、殆ど動かない、距離もそう遠くない獲物を狙うのは造作もないこと。
 可能な限り殺傷力を高めた弾丸は、狙い過たずに晴明を貫き。
「っ……」
 被弾の衝撃で力の緩んだ隙を見逃さずに、雷火は晴明との距離をとった。

「……なるほど。猟兵とやらはこのような輩でございますか」

 ボロリ、と僅かに水晶片を零した晴明は、呟く。

「少し期待しても、良いのでございましょうか」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ファン・ティンタン
【SPD】コレが、怒りと言うらしいよ?

…イライラする
敵は際限なく増える、誰ぞはこの期に浴衣祭なぞ企画する
みんな何考えてるのかな否考え無しだね

ふざけるな
ペインとの夜祭、邪魔させないから

とっておき、【夢想剣生】の最大展開
召喚された屍人を片端から【破魔】を宿す刃で地に【串刺し】て縫い止め合体させない
【無銘】で刺し
【砕牙】で打ち
【歓喜の細剣】で穿ち
【星影の魔剣】で貫き
【天華】で突く

今、日野富子の気持ちが分かりかけてる
感情に本来貴賎は無いんだ
心を押すエネルギーでしかない

ねぇ、知りたいんでしょ?
私の怒りの捌け口になれよ

複製残存刃射出で人【物を隠す】【フェイント】、懐に入って【破魔】【属性攻撃】の全力ビンタ



 ……イライラする。
 この感情に名をつけるとするならば――?

「さて、次のお客様でございますね。おもてなしをいたしましょうか」

 ファン・ティンタン(天津華・f07547)の視線の先――チェーンソー剣を両手に持つ男、安倍晴明が呟けば、そこに生まれいでたのは両肩の水晶に数字を持ったヒト……否。かつてヒトであったであろう者を冒涜した存在。
 そう広くない室内にわらわらと湧きいでた水晶屍人たちは、本能のままにファンへと迫りくる。
(「敵は際限なく増える、誰ぞはこの期に浴衣祭なぞ企画する」)
 ところどころで合体しあう屍人もいる。それでも数字はせいぜい『2』か『3』止まり。接近してくるそれらを数えるかのように、ファンはイライラの正体を挙げ連ねていって。
「みんな何考えてるのかな、否、考え無しだね」
 早口で零し、視線を屍人達の向こうにいる男へと向けた。イライラを増やす要因のひとつであるその男は、いくらファンに睨めつけられようとも表情を変えはしない。
(「ふざけるな」)
 心中で吐き捨てて、ファンは指先を伸ばす。触れた翡翠色の羽型の、その硬質さと鉱物特有の温度に、積もり積もったイライラがひとつに落ち着いていくように感じる。
 落ち着く、といっても鎮まるわけではない。一箇所に集まり、それはむしろ濃度を上げてゆき――。

(「ペインとの夜祭、邪魔させないから」)

 大切な相手と過ごす時間、感じる温もり、同じ時は二度ないからこそ、そのひと時を大切にしたい。
 それを邪魔するというのならば――『この感情』に背中を押されるのを受け入れて、神でも仏でもオブリビオンフォーミュラでもねじ伏せてみせる。

『姿現せ彼(か)の刃。翠(みどり)の夢に刻まれしその記憶(すがた)を想いと成し、我が呼び声に応えよ』

 詠唱とともにファンの周囲に浮かび上がるのは、それぞれ形状も系統も違う刀剣類だ。それはさきほど彼女が指先で触れた翡翠(みどり)色の記憶にて記録。そこに集ったファンの『あの感情』が、その術を増幅させる。

「無銘」
 呼ばれて飛ぶは、小太刀へと鍛え直された名もなき一振り。

「砕牙」
 すべてを噛み砕く牙となる僕。

「歓喜」
 呼応するは雷の魔力を宿す細身の剣。

「星影」
 写しであれども、その煌めきは星のごとく。

「天華」
 命じるまでもなく、ファンの意志を感じ取るように動く白。

 刀剣の名を紡ぐファンの声は落ち着いている。けれども表面に見えるそれが彼女の思いの全貌でないことは、戦場の空気を切り裂いて屍人へと向かった刃達の鋭さが示している。
 魔を払う力を宿された彼らは、刺し、打ち、穿ち、貫き、突くことで、屍人たちを地に縫い止める。
 仰向けに、うつ伏せに。縫い留められた屍人たちは合体を封じられ、醜悪な叫び声を上げることしかできない状態だ。
 屍人たちを縫い止めたあとの視界は、妙に開けて見えた。
 男――安倍晴明の顔を、ファンは確りと捉え。
(「今、日野富子の気持ちが分かりかけてる」)
 あの女は、怒りと欲の塊のようだった。すべてに憤慨し、総てを欲する。
(「感情に本来貴賎は無いんだ。心を押すエネルギーでしかない」)
 それに気づいたファンは、猩々緋色の左目で奴を見、刺すような視線を投げた。

「コレが、怒りと言うらしいよ?」

 そう、この感情に名をつけるとするならば――『怒り』だ。
 富子のように烈火が如きものではない静かなものではあれども、根底としているものは同じ。

「ねぇ、知りたいんでしょ? 私の怒りの捌け口になれよ」

 告げるが早いか、ファンは屍人を縫い止めた残りの刀剣を、一度に射出した。
 真っ直ぐに晴明へと向かう刃達の影に隠れるようにして、ファンもまた晴明へと迫る。
 ひとつ、考え落としていたとするならば、『数』だ。練度が召喚数や複製数に関わるとすれば、晴明がファンを下回ることは考えにくい。
(「私は運が良かったよ」)
 屍人たちを合体させぬように地に縫い止めることを考えていた。だが、実際には召喚されてすぐにいくらかの屍人は合体し、表記の数字は多少上がったが数自体は純粋な召喚数を下回った。
 だからこそ、今こうして複製した刀剣が、数振り残存している。想定していたよりも数的には心もとないが、屍人を縫い止めるに足りなければ作戦が大本から瓦解してしまう。それよりは断然マシだ。

 迫りくる刀剣達を、晴明は軽々と避けた。それでいい。その刀剣たちはフェイント用だ。ファンは刀剣たちの影から飛び出し、身を翻した晴明の懐へと素早く入り込んで床を蹴って跳び――。

 ――バチンッ!!

 繰り出したのは、魔を払う力を乗せた全力のビンタ。白い頬に炸裂したその衝撃に、彼はその顔を揺らす。
 ファンは着地と同時に床を蹴り、そのまま後ろへと飛び退こうとした。
 だが。

「猟兵の怒りとは、斯様な痛みを齎すものですございますか」

 視線を戻しながら告げた晴明が振るった腕――否、その手に握られたチェーンソー剣の本体部分が、後退しようとするファンの腹部を捉えるほうが早かった。
「がっ……」
 重い打撃を腹部に受けて、ファンは後方へと吹き飛ばされた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェレス・エルラーブンダ
他人のために戦うなんて
意味はないかもしれない
でも
『いやだ』とおもった気持ちを
無視したくはなかった

初撃は持っている中で一番大ぶりの刃で受ける
折れても代わりはある
一本でだめなら、二本で
攻撃回数を優先した棘檻で応戦
そのでかい得物、振るう暇も与えてやらん
残像交え、駆ける
もっと速く――もっと、疾く!

しかばねたちの臓腑に響く声
あれは、

おまえ、……おまえが、やったのか

いつだってせかいは理不尽で、残酷で
でも、それは、自然に巡るもので――

……するな
…………おもちゃに、するな!

二回攻撃で印を斬り刻み
影縛を用い、四肢に、頸に影を伸ばす
一瞬でも絡め取ることが出来れば
次を撃たせる前に……『なかま』が、奴に刃を届かせる!



 戦場にて聞こえるのは、剣戟の音、チェーンソー剣の駆動音、そして――水晶屍人たちの醜い呻き声。
 戦う意志のある者の響かせる音に混ざるのは、むごたらしく死へと導かれ、死してなお冒涜され、そして己の意志など無く生者を喰むことで同族へと変えていく屍人たち。
 ああ、聞こえる。フェレス・エルラーブンダ(夜目・f00338)がいだいた感情は実にシンプルだった。

 ――『いやだ』。

 この気持を、無視することはできなかった。

 * * *

 すでに猟兵達の攻撃を受けている眼前の男が、その細身の体躯に似合わぬ物騒な獲物を手にこちらとの距離を詰めてくる。
「っ!」
 とっさにフェレスが取り出したのは、身体中に仕込んである刃のうち、最も大ぶりの刃だ。

 ガギッ……キィィィィィィィィィ――!

 一撃目のチェーンソーを受け止めたフェレスの刃。回転する刃の触れる部分から響くのは、耳障りな音。けれどもそれでもなお、戦闘音を超えてフェレスの耳に、臓腑に届くのは、しかばねたちの声。
 ただの醜い呻き声、では片付けられない、片付けたくないそれが、フェレスの怒りを掻き立てる。

「あれは」

 受けた刃が押し負けそうになっている。けれども受け止めることができたおかげで、奴の瞳を正面から捉えることができた。

「おまえ、……おまえが、やったのか」
「そうでございますよ。戯れにしては良い遊興となりましたでしょう?」

 ギリギリと、それは刃の音か、フェレスが怒りに歯を食いしばる音か。
 いつだって『せかい』は理不尽で、残酷だ。
 でも、『それ』は、自然に巡るもので……。
 なのにどうだ。この男は、戯れにその『巡り』を歪めたのだ。

「その様子では、あまり喜んではいただけなかったようでございますね」

 なんの感情もこもっていない声で淡々と告げる目の前の男が――。

「さりとてあなたには、縁もゆかりもない、袖振り合うこともなかった他人に過ぎぬ者たちでございましょう。なぜそのような者たちにも心を傾けるのでございますか」

 他人のために戦うなんて、意味はないかもしれないと思ったのは事実。でも、けれども、強くいだいた『いやだ』という気持ちを、無視したくはなかった。
 だから、フェレスはここに立っているのだ。

 キィッ……。チェーンソーの回転刃を受け止めている刃は、もう限界かもしれない。
 そして、フェレスの怒りもまた。

「……するな」

 金属音に紛れてもなお、その声は強く。

「…………おもちゃに、するな!」

 臓腑に響いた屍人たちの声が、フェレスに常ならぬ大音声を上げさせた。ほぼ同時に響いた刃の折れる音が、聞こえぬほどに。

「くっ……!」

 肩に、回転刃が食い込んだ。痛みと鮮血が飛び散る。しかしすぐにそれから意識を強引に引き剥がし、フェレスは身を屈めた。
 そのまま入り込んだ男の懐。そして残像を残すほどの速さで男の周囲を動き回り繰り出すのは、身体中に仕込んだ刃だ。
 何本でも、何本でも、何本でもくれてやる。刺して斬って穿って、そのでかい獲物を振るう暇も与えるまいと。
(「ひとつひとつは大きな傷じゃない」)
 それは、最初から分かっていたこと。
 自分一人でこの男を倒すことが出来るなんて思っていない。
 だから。

「ああ、これは……流石に少々煩く感じますね」

 男の刃が再び自身の体を捉えても、その一瞬が『なかま』のためのものになると、信じているから。

成功 🔵​🔵​🔴​

ステラ・アルゲン
意欲が見えないというべきか
だが目的があって行動しているのは確かか
それに巻き込まれる筋合いもない

先制攻撃を氷【属性攻撃】の壁を張り身を【かばう】
氷の壁には【オーラ防御】も纏わせ【全力魔法】で維持しよう
壁の裏から【希望の星】を発動(瞳孔が白色の白い聖女姿)
さらに【属性攻撃】で白い霧を発生させ相手の視界を塞ぐ
魔法の霧だ、敵以外の者の視界は塞がない

相手が最初に見た姿は騎士の私
地上から行くと見せかけて飛翔し、霧に姿を隠しつつ空から奇襲する
溢れ出た怨霊共々【祈り】を込めた剣で斬り祓おう



「っ……!!」
 視線の先で晴明と交戦している猟兵が、その身で刃を受けた。普段のステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)であるならば、考えるより先に助太刀すべく駆け出しているだろう。
 だが、ステラは動かない。
 この『間』が、彼女が身体を張って作り出してくれたものだと、分かったからだ。
(「意欲が見えないというべき男だが、目的があって行動しているのは確かか」)
 心中で呟きながら、ステラは己を庇う氷の壁を作り出す。
 先程、晴明は自分の姿を捉えた。ならば、すぐにこちらを狙ってくるだろう。彼女が作り出してくれた『間』を、一瞬たりとも無駄にはできない。
 氷の壁にオーラを纏わせて強度を増し、更にそれに魔力を全力で注ぐ。ここまでしておけば割られることはないだろう――そんな慢心はない。
 刃を受けた彼女の身体をそのまま吹き飛ばして、晴明がステラへと投擲したのは、五芒星――晴明桔梗などとも呼ばれる紋の入った符だ。
 しかしその符は、ステラに届くことはなかった。氷の壁が符を拒絶し、床へと落とす。

「ほう……これは」

 あまりにも強固な壁から晴明が感じ取るのは、ステラの強固な意志に満たされた魔力(ちから)。
 彼はこれまで受けた攻撃で、纏うその独特な服から身体から、傷を負っているはず。それでも氷の壁越しに合わせる視線は、なんの感情の色も見えなかった。
 ぞわり。
 背を虫が這うような嫌な感覚がステラを襲う。符が落ちた地が、斬り裂かれてゆくのだ。その隙間から零れ出るのは肌を泡立たせるような嫌な気配。
「くっ……」
 広がる隙間から這いいで来るモノを感じ、ステラは壁の維持に注ぐのとは別の方向へと魔力を向ける。
 時間を掛けている余裕はない。だから、一気に。

 ぶわりっ……!!

 ステラの周囲から発生したのは白。白い濃霧が場を満たし、晴明や業の怨霊たちからステラの姿を隠してくれる。この魔法の霧は、ステラが敵と認識したモノ、こちらへと害をなそうとするモノ以外の視界は塞がない。つまり、ステラやこの場にいる他の猟兵たちには晴明や怨霊達の姿が見えているが、あちらは視界を奪われているのだ。
 それでもなお用心して、ステラは氷の壁の裏で精神を集中させた。

『我は剣にして星。願いを叶え、迷いし者を導く、災厄より生まれし希望の星なり』

 素早くそう唱えたステラの姿は、それまでの騎士然とした彼女の姿とは打って変わったものに変化していく。
 白銀を纏うその姿は、聖女と呼ぶに相応しいもので。聖なる光を纏いし白い聖女は、先程の騎士姿とは対局と言っても良い。
(「あの男が最初に見た姿は、騎士の姿の私」)
 姿の違いで一瞬でも、隙を誘えれば重畳だ。威力の増した『流星剣』を手に、ステラは晴明との距離を詰めていく。そして剣の間合いに入る直前で、変じたことで得た力で飛翔する。
 霧に隠れ、姿をも変えた二段構えの奇襲だ。
 だが。

 ガッ……!!

「!?」
 目を見開いたのはステラの方だった。晴明の視界は霧によって塞がれている。その上、地上から攻めると見せかけて上空から、というフェイントも挟んだ。
 なのに今、ステラの『流星剣』は晴明のチェーンソー剣の本体部分で受け止められていた。

「……なるほど、変化の術にございますか」

 刃を受け止めたことで近づいた距離。晴明は聖女姿をその無気力な瞳で捉えて。

「他の者ならば、その容貌の差異にて、隙を作らせることが出来るやもしれませぬ。ですが」

 晴明は淡々と、言葉を紡いぐ。

「姿かたちを変えても、貴方は貴方でございましょう。変幻自在の魑魅魍魎を相手にしてきた陰陽師が、外面だけの変化に惑わされましょうか。それでは陰陽師の名折れにございます」
「っ……!」

 その言葉に、ステラはチェーンソー剣に振り下ろした自身の剣へと更に力を込める。

「そして、私は視界を奪われておりました。ならば気配に頼るのも、至極当然というものでございましょう。姿が変われども、貴方の気配は変わりませぬ。ならば、それを追うだけのこと」
「くっ……」

 言われてみれば、確かに筋は通る。普通のオブリビオン相手ならば、上々の成果を得られる策であっただろう。だが相手は、強大な力を持ったオブリビオン――。
(「それでもっ……!」)
 ステラはこの策が完全に失敗だったとは思わない。晴明は気がついていないのかもしれないが、常以上の威力を持った『流星剣』は、それを受け止めた彼のチェーンソー剣の本体を――。
(「もう、一息っ……」)
 祈りを籠めて、ありったけの力を剣を握る手へと込める。果たして手応えは――あった。

 ズッ……。

 一度刃が食い込めば、あとはすぐ、だった。晴明が刃を受け止めていたチェーンソー剣の本体部分に、その刃が入り込んで。
 そのまま本体部分を真っ二つに切り捨てるとともに、『流星剣』の先端が晴明の胸部を捉え、重力のままに下へと切り裂いてゆく。

「……っ!!」

 だが、晴明ととてそのままでは終わらない。反対の手のチェーンソー剣をステラの横っ腹に打ち付けるようにしながら切り裂き、そのまま彼女を吹き飛ばした。

「ああ……少し、心を動かされました」

 チェーンソー剣『だったもの』を投げ捨てて、晴明は呟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳳来・澪
【花守】
戯れ――そんな理由で、惆悵や無念を利用したの
許さへん
これまでの所業も、悲劇を重ねる事も…!

避けたら、此処に眠る人々がもっと利用される
仲間にも悪影響が出かねん
それならこの身がどれ程痛もうと、意地でも受け止める覚悟を
――苦しみ果てた人々の魂や心を、更に踏み躙られるより遥かにマシ

僅かでも敵の力に抗えるようにと、破魔の祈りを武具に籠める
急所中心にオーラ防御と呪詛耐性も重ね、致命傷阻止だけに専念
回避捨てる代わり第六感で敵や符の観察に集中
印捉えたら同時なぎ払い

UCは隙あれば即時
音羽ちゃんの衝撃波と同時に駆け、うちは直接刃届けに

あれの身と目論見を砕けるよう
苦しみも悲しみも鎮まるよう
再三、強く祈って


花表・音羽
【花守】
――斯様な身勝手で、重苦や絶望を呼び起こしたと

私も陰陽道を識る身
その頂点との差は、痛い程に感じる
それでも、悲哀満つ此の地の報せと声無き声を耳にしては――黙って座してはおれぬのです

地ごと御霊を裂かれる方が、耐え難き苦痛
胸に懐く覚悟も武具に籠める破魔の祈りも、澪様に同じく
身には呪詛・激痛耐性やオーラ防御も重ね上げ、急所と意識だけは絶たれぬよう注意
第六感と見切りで敵と符を集中警戒
符を目に捉えば同時に印をなぎ払い
五芒はその印が力の源
なれば一角でも崩せぬかと試行
及ばずとも尽くせる手は、全て

後は即UCで最速飛翔と武器強化
敵死角回りつつ澪様援護するよう衝撃波

どうか――私達の手が、祈りが、届きますよう



 嗚呼、嗚呼――ここに満ちるのは、血を流し、水晶にヒビを現しながらもまだ二本の足で立つ彼の求める『猟兵の怒り』だ。

(「戯れ――そんな理由で、惆悵や無念を利用したの」)
 徐々に薄れゆく霧の中、かの男へと鳳来・澪(鳳蝶・f10175)が向ける視線は、明るい朱殷色。しかしそこには、いつも乗せられている『笑み』は欠片もない。
「許さへん」
 呟いたのは、怒りに彩られた強い意志。
(「これまでの所業も、悲劇を重ねる事も……!」)
 嗚呼、意識せずとも薙刀を持つ手に力が入る。

「――斯様な身勝手で、重苦や絶望を呼び起こしたと」
 この声は、男にまで届いていないかもしれない。それでも藤紫の瞳に宿る意思(おもい)に、揺らぎはない。
 花表・音羽(夢現・f15192)とて陰陽道を識る身だ。その頂点とも言える稀代の陰陽師、安倍晴明との力の差は、こうして同じ場に立っているだけで痛いほどに感じている。
 それでも、それでも。
(「悲哀満つ此の地の報せと声無き声を耳にしては――黙って座してはおれぬのです」)
 その手に握られた『花護』が、思いを力に変えてくれると信じて。

「嗚呼、これがあなたがた猟兵の怒りでございますか。なんと――滑稽なものでしょうか」

 晴明の言葉は明らかに猟兵たちを、ヒトの心を馬鹿にしている。けれども今更このくらいでは揺らがないほどに、澪と音羽は怒りを宿していた。
 だが、彼女たちが宿しているのは怒りのみではなく、そして怒りに我を忘れているわけでもない。素早く武具に纏わせるのは、晴明の攻撃に『耐える』ための力。
 彼が符を取り出すのが見える。一枚、二枚――否、両の手の指に挟めるだけ挟んだその量は恐らく――余裕の無さから現れたもの。
 余裕綽々に見える彼だが、これまで受けた傷は飄々としていられるものではないはず。符の量は、こちらの攻撃を受けずに済ませたいという本心ではないか。
 ならば――いや、ふたりの心は最初から決まっていた。
 晴明の符を避ければ、先程のように無数の怨霊が呼び出される。そう――避ければ、この地に眠る人々がもっと利用されるのだ。仲間にも悪影響が出かねない。
(「それならこの身がどれほど痛もうと――苦しみ果てた人々の魂や心を、更に踏み躙られるより遥かにマシ」)
 意地でも受け止めてみせる。致命傷さえ避けられればそれでいい。澪は晴明の動きを観察すべく、精神を集中させる。
(「地ごと御霊を裂かれる方が、私には耐え難き苦痛でございます」)
 音羽も思いは澪と同じ。急所を守り、意識を絶たれねば反撃の目はあるはず。彼の動きを捉えるべく、目を凝らす。

「っ……!!」
「あっ……!!」

 最初に放たれた符。その予備動作を捉えることはできなかった。だが、続けざまに複数の符を投擲するならば、その動きは捉えやすい。
「がっ……ぐっ……」
「うっ……あっ……」
 ふたりがその身に受けた符の威力は想像以上で。防護に徹していなければ、簡単に意識を持っていかれたことだろう。けれどもふたりは痛みに侵食されながらも、彼から視線を外さない。
「音羽ちゃん」
「澪様」
 多くの言葉はいらない。ふたりはほぼ同時に神霊体へと変じ、迫りくる残りの符の五芒星を薙刀で切り裂いて。
 五芒を切り裂かれた符が地に落ちるより早く、音羽は床を蹴り宙へと舞い上がり、澪は駆け出した。
 晴明のチェーンソー剣は片手のみとなった。それでも近づけば、その刃は容赦なく襲い来るだろう。だから。

「はっ!!」

 薄紫の羽衣を纏った音羽は、晴明の後方へと飛び入ってすぐに衝撃波を放つ。彼の意識が一瞬、音羽の方を向いた。
 澪がそれを、見逃すことはなかった。
 祈り、祈り、祈るのは、目の前の男の目論見を砕けるように。そして、苦しみも悲しみも鎮まるように。
(「もう一度でございますっ……」)
 音羽は自身に晴明の意識を向けさせ続けるべく、宙を移動しながら衝撃波を放ち続ける。

 どうか――私達の手が、祈りが、届きますよう――。

 接敵した音羽の刃が、深く、深くその男を斬りつけて。

「……ああ、終わりでございますか」

 纏う水晶に広がるヒビ、傷から漏れ出す力に、彼は冷静にそう呟いて。

「少しばかり、退屈は遠のいたようでございます――」

 割れるようにして、その姿を消した。

 祈りが力となり――そして届いた瞬間だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月31日


挿絵イラスト